アシガールの舞台となった黒羽城とはどんな城だったのでしょうか。

1559年(永禄2年)頃の戦国時代は有力戦国大名の戦力は拮抗し、しのぎを削っていたため、中小の戦国大名も領地の場所によっては有力戦国大名に明確に帰順することなく自立することができた時代でした。
そんな時代に居城を築く際、城の一番重要な機能は防御ということになり、攻められにくい山に城を築くことが必須で、山全体を要塞化した城も少なくなかったようです。
従って、羽木家の黒羽城も高山家の長沢城も山城だったはずです。

山城の構成
通常の山城は、山上に城郭があり、山麓に居住用のスペースとしての館があります。
山上に住むとなると、いろいろと不便だからですね。
見晴らしはいいけど、狭いし、登城がたいへんだし…
戦時に緊急で足軽を集めるにしても時間がかかってしまうかもしれません。
黒羽城としてドラマの舞台になっているのはこの居住用の館部分です。
重臣を集めた会合の場も、軍議の場も、5話で唯が勤務していた馬屋も、12話で唯が押し込められた奥御殿も、全てここにあります。

山上の城郭はドラマには1回も登場していないけれど…あるはずです。
城周辺まで攻め込まれた時の最終的な防御の拠点として必要なので。
山麓の平地にある館はいくら堅固に作っても、いろいろなところから攻められのであまり長くは持ちこたえられません。
山上の城郭は普段は使われず、非常時の武具や食料の倉庫を装備しているのが一般的です。
小領主の城では城郭のほとんどが倉庫という例も少なくなかったようです。

原作とドラマの黒羽城の違い
原作では、黒羽城は石垣で周囲を固めたりっぱな城として描かれています。
このタイプの城だと居住用の館も石垣に囲まれた内にあることになりますが、実は永禄2年頃の城としてはあまり一般的ではありません。
中小領主にとっては築城の財政的な負担も大きいですし、城を築いているうち(あるいは改築しているうち)に他国から攻められる恐れもあるので、築けるとしたら有力戦国大名に限られると思います。

戦国時代に石垣を完成させた城としては観音寺城(滋賀県近江八幡市安土町)が有名です。
有力な戦国大名六角氏の居城で、1532年頃には室町幕府の12代将軍足利義治を迎えるため、城郭内にりっぱな居住スペースがあったとされています。
1550年前後、当時の寺社建築の石垣築造技術を城に用いて土塁を石垣に改築したとのことですが、1000以上の曲輪(城郭の区画)を持ち、山城としては国内最大級のスケールを誇っていました。

ドラマから感じ取れる羽木家の実情からして、黒羽城は城郭の周囲を土塁で固め、山麓に居住用の館があった山城であったと思われます。
ここではドラマの設定がより歴史に則しているということになりますか。

黒羽城の遠景からの考察
第2話で唯が「あそこに若君がいるんだよな~」と言って山から城を臨む場面がありますが、館の左側に山らしきものが見えるので、この山のどこかに城郭があるんではないかと思います。(見えませんが…)
ただ、厳密にいうと、これでは純粋な山城とはいえず、平山城(平地にある山や丘陵地に作られた城)ということになりそうです。
平山城は防御という点から少々問題があるように思えるので、比較的防御し易い山城がこの時代の主流だったと思います。
ただ、近くに山間地の無い交通の要衝地などでは、平地にある丘陵地に城を築く場合もあったと思います。

また、平山城は様々な事情から山城が発展してできる場合もあります。
戦国大名が淘汰された結果、戦が次第に大規模になり、通常の山城では増大する兵力の収容にに不具合が生じたとか。
山麓にあった主要施設が拡張された結果、平地にまで施設が達して平山城の形態になったとか。

この時代の城としては平山城は主流ではなく、もう少し後の戦国末期に多く築かれたといわれています。
ただ、城はニーズに合わせて改修を重ね、生き物のように姿を変えていくので、様々な形態が現れる可能性があり、必ずしもドラマの設定がおかしいということではありません。

この後、戦国大名の淘汰が進み、信長や秀吉の時代になると、城は権威や象徴としての意味を持つようになっていき、山城ではなく、周囲に石垣が積まれた大きな平山城や平城が築かれるようになります。
現在の我々が目にすることができる、いわゆる「城」ですね。