時間SFとパラレルワールド

パラレルワールドアシガールでは、本編で9回、続編SPで4回のタイムスリップがあります。
タイムスリップ、タイムトラベルといえば、古典的な時間SFが基本となる場合が多いのですが、パラレルワールドという考え方も知っておくと面白いと思います。
アシガールはこれらをあまり意識させずに描かれており、唯一、尊が「時空の歪み」という言葉を発しています。

続編SPで、平成で若君の墓を見た唯は、未来の尊が開発した新型起動スイッチを使って永禄に跳び、若君を平成に連れ帰ります。
もし、この時、唯が永禄に行かなかったらどういうことになるんでしょうか。
この問題を古典的時間SFパラレルワールドの両面から考えてみます。

もし、続編SPで唯が永禄に行かなかったら…

続編SPで唯が永禄に行かなかったら、若君はそのまま相賀の姫と結婚することになります。
すると、櫓の上で月に消えることはないので死んだことにする必要もなく…
若君の墓も存在しないことになります。

でも、平成で唯は若君の墓を見ている…

ん?

ストーリーでは、若君の墓を見たことが原因で唯は永禄に跳ぶ、という流れなんですが、
唯が跳ばないと若君の墓も存在しないことになり、どっちが先?という問題が生じます。

普通に(常識的に)考えると…
若君の墓を見た唯は永禄に跳ぶ運命で、跳ばないという選択肢は無かった、ということになりそうです。

このことをSF脳?で考えてみたいと思うのですが、
その前に古典的な時間SFのことがよくわかる作品を紹介しておきます。

古典的時間SF「過去は変えられない」

時間SFタイムトラベルを扱った小説では、H・G・ウェルズの「タイムマシン」が有名です。
時間SFの古典で1895年の作品です。

実はこの小説では未来へのタイムトラベルだけで、過去へのタイムトラベルは描かれていません。
でも、この小説の2回目の映画化作品(2002年)では、過去へのタイムトラベルをする映画オリジナルのエピソードが追加されています。
追加というより、過去へのタイムトラベルがストーリーの核となっています。
なかなか面白いので、前半だけざっと紹介します。

若く天才的な科学者である主人公は、ある日事件で恋人を失います。
彼は4年の歳月をかけてタイムマシンを完成させ、彼女を救うべく過去へと旅立ちます。
事件に遭遇しないように誘導すれば、きっと助けることができる。
そう信じた彼は過去の世界で孤軍奮闘します。

そして、彼女の身に起こる事件を未然に防ぐことに成功します。
ところが…
ほっとしたのもつかの間…
同じ時刻、今度は事故に巻き込まれ、彼女はまた彼の目の前で死んでしまいます。

過去は変えられないのか…

その答えを求めて、彼は未来へと旅立ちます。

古典的時間SFで若君の墓を考える

ここで、若君の墓は実際に平成で唯が目撃しているので動かし難い過去の事実です。
一方、木村先生の歴史書にある羽木家滅亡の記事はあくまで歴史家の推測で、事実であるという確証はありません。

さて、上記のタイムマシンの話から若君の墓について導き出した結論は…

若君の実際の生死には関係なく、若君の墓の存在自体は変えることができない過去の事実ということになります。
つまり、唯が永禄に行っても行かなくても若君の墓は存在するということになります。

唯がもし永禄に行かなかったら…
あの婚礼の日に何かが起こり、若君は本当に命を落とすことになったかもしれません。
墓は黒羽城内に相賀殿が建てたので、もちろんこのケースでも命を落とした理由はなんとでもできます。
だから、若君の墓を見てしまった以上、唯はどうしても永禄に行く必要があったわけですね。

以上は、過去は変えられないという古典的な時間SFに基づいた考え方でしたが、もう一つのSF的な考え方で若君の墓問題を探ってみます。

パラレルワールド「別の世界の存在」

パラレルワールドパラレルワールドとは、ある時点から無数の世界が分岐して並行的に存在するとする考え方です。
この「ある時点」自体が無数に存在するので、まともに考えると頭が痛くなりますが…(^^;

この中には人類が滅んでしまった世界や存在すらしなかった世界もあるわけですが、
我々の世界と似ているんだけど少しだけ違う世界ももちろんあります。
アシガールの世界もどこかに存在している…はずです。きっと…

パラレルワールドで若君の墓を考える

パラレルワールドでは、若君の墓がある世界と無い世界が同時に並行的に存在します。

若君の墓がある世界では…
その中の一つに、「唯が過去に跳んで若君を救う」という世界があります。
その世界では、墓を見た時点で唯は過去に跳ぶことが必須となります。
必ず跳びます。
そういう世界なので…

この世界と並行して、「唯が過去に跳ばない」という世界もあります。
墓を見ているにもかかわらず過去に跳ばない場合、上で書いた古典的な時間SFと同じように若君の命は危うくなると思います。

若君の墓が無い世界では…
その中に、唯は行動を起こさないという世界があります。
この場合、婚礼の日に黒羽城で何かが起こることはなく、若君もその日は生き抜くことができたでしょう。

そして、もちろん、若君の墓を見なくても唯が過去へ飛ぶ世界もあります。
ただ、墓を見ないということになると、墓はあるかもしれないし…無いかもしれない…
ということで、墓の有無は不明です。
この場合、ストーリーとしては、唯が過去に跳ぶための強い動機が別に必要になるかもしれませんね。
若君の墓を見たからこそ、唯は行動を起こすことになったので…

ここまで読み進んできた方はパラレルワールドの考え方に慣れてきたと思いますので…(^^;
おまけに?タイムパラドックスの問題に触れてみたいと思います。

タイムパラドックスの問題をどう考える?

タイムパラドックス時間SFではタイムパラドックスの問題と常に背中合わせです。
最も有名なのは、
「過去に行って自分の親を死なせたらどうなる?」
という問題です。

古典的な時間SFにおけるタイムパラドックス

その瞬間に自分の存在も無になる?
無になるってどういうこと?
生まれてこなかった自分とはどういう存在?

この問題もまともに考えていると頭が痛くなります。
だからこそ、古典的な時間SFに基づいたストーリーでは「過去は変えられない」というルールがあるのだと思います。
つまり、どうやっても自分の親を死なせることはできない…
もちろん、親だけでなく過去の人はいっさい死なせることはできません。

このルールを逆に利用して面白いストーリーに仕立てている時間SFドラマもありますね。
また、ルールを破って世界を変えてしまったために自分の存在が無になってしまう、というそのものズバリのドラマ(アウターリミッツ 6話:生まれてこなかった男)もあります。

パラレルワールドにおけるタイムパラドックス

一方、パラレルワールド的思考ではこのタイムパラドックスの問題をあっさりと解決することができます。

過去にタイムトラベルした場合、過去に着いた時点ですでにパラレルワールドに移行しています。
つまり、正確には自分の世界の過去に戻ったのではなく、その過去自体がパラレルワールドということになります。
そこは自分が存在していたのとは別の世界で、自分の世界とは因果関係がないので、そこでやることは自分の世界に何の影響も与えません。

その世界で自分の親が自分を産む前に死ねば、その世界の自分は生まれてきません。
でも今ある自分は、その事象とは関係なく存在し続けます。
自分の世界ではちゃんと親は生きていて自分は生まれてきているわけですから。

ただ、この場合でも、自分の世界の過去は変えられないことには変わりはありません。
自分の世界の過去に似たパラレルワールドに行くだけで、自分の世界の過去には行けないわけですから。

戦国での唯の活躍をどう考える?

パラレルワールド本編第2話に出てくる木村先生の歴史書には永禄2年に羽木家滅亡という記載がありました。
しかし、本編第9話で羽木家は永禄3年を迎え、歴史書の記述とは違う方向に進んでいます。
これをどう考えたらいいでしょうか。

唯は滅亡するはずの羽木家を歴史を変えて救ったと考えるか…
滅亡したという歴史が誤りであることを明らかにしたと考えるか…

ストーリーが進むにつれ、羽木家滅亡は正しい歴史ではない可能性が大きくなってきました。
後から永禄3年に松丸から羽木に宛てた手紙が出てきたりしていますが、いずれ緑合に関する史料も出てくるものと思われます。

戦国での唯の活躍について、もう一つの考え方は…
唯は羽木家が滅亡しない別の世界の過去に跳んでしまった…

先に紹介したパラレルワールド的な考え方ですが、これなら唯は我々の世界の教科書に載っている史実を気にすることなく自由に行動することができます。
まあ、唯は元々何も考えていないとは思いますが…(^^;