御触書と手配書と習字の手本の現代語訳と考察

御触書、手配書、にょんにょん文字アシガール本編3話に出てきた黒羽城からの御触書、6話に出てきた唯之介の手配書、12話で唯が苦闘していた習字の手本(にょんにょん文字)の現代語訳と考察です。
御触書と手配書については内容ももちろん重要ですが、永禄における日付はこうした文書によってしか知る術がないので、どれもアシガール的には非常に貴重な史料です。

城からの御触書に懸かれた日付によってドキドキの夜の日付(6月25日)を特定することができました。
また、唯の手配書の日付によって若君が平成から戻って吉田城に着いた永禄の日付(9月15日)が確認できたんですね。

ドラマの手紙以外の文書

寄稿者:とっかえひっかえ様

ドラマの3話と6話と12話には、昔の文書が出てきます。
3話は【羽木家が梅谷村に出た御触書】
6話は【唯之助の手配書】
12話は【唯がお袋様に習っていた書の手本】…(唯は「にょんにょんした字…」と申しました)

3話と6話の釈文はNHKの掲示板に投稿しましたところ、問題なく掲載されましたが、12話のお手本は3度投稿をチャレンジするも…とうとう掲載して頂けませんでした。
1度目が没になった後に、2度目3度目は形を変える努力をしてみましたが…どうしてもお許しが出ませんでした。

今回は「にょんにょん字」と言われた和歌の釈文と現代語訳、この釈文が掲載されずに没になった理由、お袋様の謎についても書いてみたいと思いますので、よろしくお願いします。

3話 【羽木家が梅谷村で出た御触書】

御触書、手配書唯が梅谷村の暮らしに馴染み始めた頃に、お役人が村に来て徴兵のために村の人々を呼び出します。
若君のお側で働きたい唯は、戦に出る気満々なのに、お役人に名前を呼ばれません。
「私の名前が呼ばれてないんですけど、貸して」と言って見せてもらった御触書は「読めない…ミミズで一杯」でしたね(^_^;)

【羽木家が梅谷村で出た御触書】釈文

条 々
一、六月二十五日 巳刻 迄 人数 七人計
  至城門 可罷越事
一、 浅吉、権太、茂助 儀兵、六助
梅八  松兵衛
此者共 必可罷越事
右於有相違者可為曲事候 以上
六月二十二日 信世【花押】
梅谷村 名主 百姓 中

【羽木家が梅谷村で出た御触書】現代語訳

一つ一つの条項を厳守せよ
一、6月25日 巳の刻 までに 人数合計 7人
城門に来ること
一、浅吉、権太、茂助 儀兵、六助
梅八  松兵衛
これらの者は、必ず来ること
右に従わない者は、けしからぬ事である 以上
6月22日 信世【花押】
梅谷村の名主 百姓へ

6話 【唯之助の手配書】

吉田城で傷を負い平成へ行った若君は戦国で行方不明となります。
6話 【唯之助の手配書】釈文(ニ、ハ…片仮名の送り仮名です)

  手 配 書

梅谷村足軽 唯之助
〈唯之助の似顔絵〉
右者 高山方ニ 内通之疑 有之候故 取締
方 目下探索ニ 及候也 見附候者ハ 即刻
届可申事 應分之褒美被取候者也
八月三十日
      奉行

6話 【唯之助の手配書】現代語訳

梅谷村足軽 唯之助
〈唯之助の似顔絵〉
右の者は高山に通じている疑いがあるので、取締
方が現在探索中である 見つけた者は、直に
届け出よ、相応の褒美を取らせる
8月30日
奉行

12話 【唯がお袋様に習っていた書の手本】

【唯がお袋様に習っていた書の手本】の釈文

、にょんにょん文字古今和歌集第一
春哥上

年の内に 春はきにけり ひとゝせを こそとやいはむ
ことしとやいはむ

袖ひちて むすひし水のこほれるを
春立けふの 風やとくらむ

春霞 たてるやいつこ みよしのゝ よしのゝ
山に雪はふりつゝ

雪のうちに 春はきにけり
うくひすの
こほれる涙 今やとくらむ

梅かえに
きゐるうくいす 春かけて なけともいまた
雪はふりつゝ

『濁点』と『変体仮名』

釈文はスラスラと読めたでしょうか?
当時は仮名に濁点がありませんので、和歌には濁点がありません。
濁点を付けて読んでみて下さい。
「こそ」→「こぞ」、「袖ひちて」→「袖ひぢて」、「いつこ」→「いづこ」、「うくいす」→「うぐいす」、「梅かえ」→「梅がえ」、「なけとも」→「なけども」、「いまた」→「いまだ」となります。
それからドラマの映像と比較すると、お分かりだと思いますが、仮名は平仮名だけではありませんでした。
昔は仮名が現代の50音以外にもあって、今では使用しないので読めなくなった仮名は変体仮名と言います。
1番目の和歌の2字め「年」の次は「の」は、「能」を草書に崩してできた変体仮名です。
「能」の変体仮名は、2番目の和歌の10字目と3番目の和歌の13字目と4番目の和歌の2字目にも使われています。
次に1番目の和歌の4字目「内」の次の「に」は、「尓」を草書に崩してできた変体仮名で「筆記体のY」に似ています。
「尓」の変体仮名は、同じ和歌の8字目と3番目の和歌の2行目の2字目と、4番目の和歌の5字目9字目と、5番目の和歌の1行目の4字目(最後)に使われています。
その他にも変体仮名は、「者を草書に崩したもの(は、と読む)」、「介を…(け、と読む)」、「越を…(を、と読む)」などがありますが、全部を御紹介するには紙面が足りず、説明はこの辺りでおしまいにさせて下さいm(__)m
ヤレヤレ…唯の正室修業は大変だね、ということが分って頂けたことと思います(^_^;)

【唯がお袋様に習っていた書の手本】の現代語訳

古今和歌集第一
春の歌の上
暦の都合で年内に立春があった、春が来たので昨日までの日々はすでに去年になってしまうのだろうか(在原元方)
袖が濡れて、すくって飲んだ水が凍っていたのを、立春の今日の風は解かしているだろうか。(紀貫之)
春霞はどこで立っているのだろう、吉野の山では雪が降り続いているが(読み人知らず)
雪の降る中に春が来た、鶯の凍っていた涙はとけたでしょうか(二条后)
梅の枝に来ている鶯は春を思って鳴くけれど、まだ雪は降り続いている(読み人知らず)

これは一般的な現代語訳です。
現代語訳にはいろいろと違った解釈があるようで…たとえば、1番目の和歌の「ひととせ」は人と瀬(男女の逢瀬)の意味だとして、「逢瀬が来るなと言おうか、早く来いと言おうか」と複雑な心境を表した現代語訳をする場合もあるようですが…これでは、唯には似合わない和歌になってしまいますね(^▽^;)

【唯がお袋様に習っていた書の手本】の釈文が没になった理由を想像

「にょんにょん した字」が読んで見たい…とおっしゃる方がありましたが…
この釈文の投稿だけが、NHKの掲示板に掲載して頂けないのには、何か理由があるのではないだろうか?
想像してみました。

アシガールには、いくつもの文書が出てきます。その中でこのお手本は、他の文書や手紙とは筆跡が、明らかに違うと思います。
芸術的価値が高いと思うのです。
1つ1つの文字が美しいのは、言うまでもありません。
文字が連続せずに離れていても、見えない糸でつながっているかのように(筆脈がつながる)、文字同士の気持ちが切れずに書かれています。
文字が連綿(連続して書く)になったところの流れには、柔らかさと共に躍動感もあるのです。
おおらかな動きと細やかな動きを自在に操り、しかも気品があると思います。
1つの和歌が、まるで1連のネックレスのように美しいと思います。
そして5つのネックレスは同じではなく、少しずつ違っています。
5つの和歌は、2行に、3行に、4行にと散らし方が変えてあり、それぞれに自己主張し合うのではなく、お互いを引き立て合い、5つで1つの作品としての美しさを作り上げていると思います。
お互いを引き立て合う作品は、和歌と和歌の間にある白い部分の美しさも、抜きにしては語れないと思います。
余白までも美しいと思います。

さて、このお手本を書いた方は、どなたでしょうか?
きっと名も実力もあるお方なのでしょう。
お名前を出されることを希望されていないので、掲示板で取り上げられて話題になる事を望まれなかったのでしょう。
よくお分かりの方が御見立てされたならば…「あの方の作品でしょう」と直にお分かりになるような…有名な方なのではないでしょうか?
そんな気がします。

【唯がお袋様に習っていた書の手本】についての謎

さて「妻になれ」と若君が言ったのは、何月だったのかを知りたくて考えていた時に、和歌がその直前の季節を表すのではないかと思って読んでみましたが…和歌は年の始の1月の歌なのでヒントにはなりませんでした。

それから気になるのは、このお手本のことを「この程度の読み書きも出来ず…」とおっしゃったお袋様のことですが…梅谷村の粗末な家に住んでいらっしゃいましたものの足軽大将の娘とか…しかし当時これが読めてご指導もなさるとは…お城にお住いのお姫様レベルではございませんか?一体どこで誰から学ばれたのでしょうか?
これもアシガールの謎の1つですね~。
想像すると楽しくなりますね (^o^)/

 


 

NHK掲示板に掲載されなかった理由を探る・・・【管理人より】

御触書、手配書理由として、もう一つ考えられるのは著作権の問題でしょうか。
あくまでも可能性です。
もちろん、原文の著作権は切れていると思いますが…(^^;
現代語訳の出典が明らかではないため、著作権の有無も明らかではないということになるでしょうか。
「これは自分のオリジナルだ!」と主張する人が現れる可能性が絶対無いとはいえません。
また、このご時世だと著作権者本人ではなく第三者(善意の?)からのクレームの方が可能性は高いかも…
自分で訳した場合は、厳密にいえば参考文献を明らかにした上でそれなりの表記をする必要があるもしれませんね。

なお、ドラマに登場した数々の手紙については著作権は制作者にあると思われるし、訳文は投稿者のオリジナルであることが明らかなので、掲示板に掲載しても問題ないとの判断だと思います。
そういう意味では、ここにドラマ中の手紙の原文を載せることにも著作権上問題があるかもしれませんが、まあそこはアシガールへの愛ということで大目に見てほしいですね…(^^;

おふくろ様の教育レベルについて・・・【管理人より】

足軽大将といえば、有事には数十人かそれ以上の足軽を統率するりっぱな武士。
平時には何らかの職務(勘定方とか)に就いていたと思われるので、子息への教育は熱心だったと思われます。
また、女子も嫁ぐ時のことを考え、唯にそうしたようにきちんと読み書きを教えていたと思います。
戦国時代は庶民が力を持ち、文化が広く庶民レベルまで行き渡るようになり始めた時代…
もちろん教科書などは無い時代なので、昔から伝わる和歌とかが教材になったのでしょうね。

ところで、おふくろ様のだんなさんの孫兵衛さんとはどんな人だったのでしょうか。
当初の暮らしぶりからするとそれほど身分の高いお方ではなかったようですが…
それなりの家柄でしっかりとした教育を受けたと思われるおふくろ様の嫁ぎ先としては少々?なのですが、何か事情があったのでしょうか。
ひょっとして、当時としては珍しく、親の勧める相手ではなく自分で選んだ…とか?