若君から唯への手紙(第8話)の現代語訳と考察
この若君から唯への手紙はアシガール第8話の最後で、タイムマシンはあと二度使えると嘘をついて唯を平成に帰した若君がタイムスリップ直前に手渡したものです。
この時若君は、手紙は平成に着いたら見るようにと唯に言い含めており、唯は言われたとおり、第9話で平成に着いた後にこの手紙を読んでいます。
第8話最後のせつない別れのシーンを好きなシーンにあげるファンも多いと思いますが、この手紙の内容について、アシガールドラマ内では詳しく触れられていません。
この手紙にどんなことが書かれているのか、ファンなら誰しも気になるところです。
とっかえひっかえ様よりこの若君から唯への手紙についての現代語訳と考察を寄せていただきました。
サブタイトルに少し手を加えた他はそのまま掲載させていただいています。
手紙の現代語訳はもとより、考察からもアシガールに対する思いが伝わってきます。
若君からの唯への手紙
ドラマで若君が唯に宛てた手紙を読みたい!と思った方がいらしたでしょう。同じものがDVDとBlu-rayのブックレットで紹介されました。
既にNHKのアシガール感想掲示板にNo.9105 2018/06/03 で紹介したものに、書き加えた所がありますので、改めてよろしくお願いします。
句読点と濁点を書き加えて手紙を読み易くしたい
若君の手紙は現代の手紙とは違うところがありますね。
漢字は行書と草書が混ざっていました。仮名の中には、読めないものがあると思います。平仮名だけではなく、変体仮名も使われていました。
『句読点と仮名の濁点』が無いことも読みにくいと思うので、読んだ釈文に『句読点と仮名の濁点』だけを書き加えて御紹介してみます。
『 一筆まいらせ候。きょ言仕り候事、申謝がたく候。御許容あるべく候。
そもじ様 御事 御父母ならびに弟殿 御あんしんなされ、事なき御帰り 御待ち入り候事、勿論に候哉。
いくさなき世にて御暮らし候様、切々念願までに候。
ことに我等がため、懸命の御働、深く々感じ入り候。
そもじ様 御心がけにむくいるべく我等においても、此世にて生き抜く所存に候。
後の世にて御照覧あるべく候。 かしこ
羽木九八郎忠清
唯様
まいる 』
現代の私達が若君の手紙をスラスラと読めないのは、『句読点と仮名の濁点』が無いことだけが理由ではないようです。
それでも戦国時代に若君が、男性宛に書いた漢字だらけの手紙よりは、唯のために簡単にしたつもり…だと思います(^▽^;)
手紙の現代語訳
「お手紙を差し上げます。嘘を言った事は、お詫びが難しいことです。許して下さい。
あなたの事を御両親と弟殿は御安心なさたでしょう、無事の御帰りを待っていらしたのは、もちろんでしょう。
戦の無い世に暮らされるようにと、強く願っています。
特に私達のために、懸命に働いてくださった事は、深く感じ入っています。
あなたの心掛けに報いるために私達も、こちらの世で生き抜くつもりです。
後の世で見ていてください。 謹んで申し上げます。
羽木九八郎忠清
唯様
まいる(差し上げます)」
手紙に込められた若君の気持ち
まずは若君の気持ちについて考えてみたいです。
若君は「嘘を許してほしい…戦の無い世に暮らしてほしい…唯の働きにとても感じ入る…後の世で見ていて欲しい」と書きました。
若君の手紙には、唯に対する本当の気持ちが書いてないのではないだろうか?書いてほしかった…というご意見が、きっとあるだろうと思います。
若君は戦の無い世に生きることが、一番の幸せだということを身に染みて感じて、唯を戦の無い平成に帰したかったのでしょう。
もしも自分が若君の立場だったら…唯の立場だったら…どうなさるでしょうか?
手紙に見られる言葉使い 『そもじ様』
若君の手紙には唯を大切に思う気持ちを感じさせます。
それは言葉使いや敬称にも、表現されていると思います。
まずは唯に呼び掛けた『そもじ様』について、これは「そなた」+「様」なんですが…
『そもじ』は【もじことば】という上品な言葉使いで、宮中に仕える女性が、語尾を「もじ」に変えて言ったことから広まりました。
女性が使用すると共に、男声から女性に対しても使用されました。単語の「最初の1~2音」+「もじ」という使い方をします。
例えばこんな感じです。あんもじ、はもじ、さもじ…何を言いたいのか分からん~(>_<)
はっきり言わないのが上品だったみたいですよ。
次に「様」についてです。
当時「様」を使うことはかなりの敬意を表現しています。当時の手紙の敬称の「高→低」は、「様→殿→どの」でした。「様」は自分よりもずっと偉い人に使ったんです。
ちなみに『様』と『殿』には、さらに書体による「高→低」があり、「楷書→行書→草書」でした。
この時の唯の地位は若君の警護役でしたから、適当な敬称は平仮名で「どの」だったと思います。
どうして若君は唯に「様」を使ったのでしょうか…
唯が後の(身分差の無い平等な)世に生きる人だから、後の世に合わせたのでしょうか?
若君の命を救った唯の勇気に感謝した、最高の敬意の表現だったのでしょうか?
若君に聞いてみたい疑問です。
手紙に見られる言葉使い 『かしこ』『まいる』『様と殿』
「御」がたくさんありますね。『御許容』『御事』『御父母弟殿』…(あれっ!父母と弟は「殿」なんだね~(^O^)
本文の最後に書かれた『かしこ』は、【結語】という手紙の最後に書く挨拶です。
『かしこ』は現代では女性が使うとされますが、昔の男性が女性に書いた手紙にも、「かしこ」が使われました。
女性宛には一般的に使われた【結語】なので、『かしこ』には「様」にみられるような特別な敬意はないでしょう。
手紙の宛名『唯様』の左下に書かれた、『まいる』は【脇付け】です。
【脇付け】は手紙を書いた人が、自分を謙遜して宛名の人物に礼を表現するもので、これも敬意の表現です。
当時の男性が妻や恋人に宛てた手紙では、『まいる』という【脇付け】を見ることは珍しくありません。
尊敬する女性の名に添える【脇付け】として、『まいる』は最適だと思います。
松丸家が羽木家に書いた『人々御中』という【脇付け】に比べると、最上級の敬意とは言えないでしょう。
若君の謙遜による敬意は、手紙の一行目【書き出し】の『一筆まいらせ候』にも、表現されています。
「お手紙を差し上げます」と手紙を書く自分の行為を、謙遜して相手を敬っています。
手紙に書かれた宛名
最後に手紙の本文の左に書かれた宛名は『唯様』ですね。
手紙の中身の唯の敬称は「様」で統一されています。
ところが手紙を包んだ封紙(懸紙)の宛名は、『唯殿』と書いてあります。
手紙の外と中の宛名の敬称が、違っていたのは何故なのか?残念ながら私には理由が分かりません。
手紙の外の敬称は、永禄時代に見るので戦国式で『殿』、中を読む時は平成だから現代式で『様』にした?…という考え方もありますでしょうか?
どう考えるのかを、見る人に委ねる…これもアシガールの最大の魅力ですね(^O^)
第8話の若君から唯への手紙にある二通りの敬称について・・・【管理人】
若君から唯への手紙に書かれた二通りの敬称について管理人の見解を書いておきます。
これが今生の別れと信じていた若君は、手紙の本紙では「様」を使って唯への礼をつくしたのだと思います。
でも、配下の唯への手紙の封紙に「唯様」と書くのはやはり不自然だし、もしかしたらそれを見た唯に本心(真実)を悟られるかもしれないと考えたのではないでしょうか。
気づいたが最後、唯はもう平成には帰らない…
(実際、唯は道中で「若君、なんか変。」と少々不審げな様子…)
手紙を見て唯が気づく可能性は低いかもしれませんが、平成の両親に必ず帰すと約束したので、ここは念を入れて手紙の封紙には自然に見える「唯殿」と書いたのではないかと思います。
あくまで一つの考え方ですが…
これをご覧のアシガールファンの方々の考えはいかがでしょうか。