高山家から松丸家への手紙(第10話)の現代語訳と考察

高山家から松丸家への手紙アシガール手紙シリーズの第3弾です。
木村先生の歴史書には、松丸家が高山家についたことによって羽木家が窮地に陥ったとの記述がありました。
もし唯がいなかったら、阿湖姫誘拐計画は成功し、高山と松丸の縁組が成り、歴史書のとおりに事が進んでいたかもしれません。
そういう意味ではこれは羽木家の運命を左右する重要な手紙であったといえると思います。

高山家から松丸家への手紙

寄稿者:とっかえひっかえ様

ドラマの10話で松丸義次(阿湖姫の兄上)が、黒羽城に持って来て若君と父上に見せた手紙です。
阿湖姫は羽木家にいましたが、高山宗熊殿は「高山家に阿湖姫がいるので、と宗熊殿を縁組させようと書いている…」
この時、唯は阿湖姫の着物を着て、追っ手をまいた後に行方不明となっていました。
もしや唯は…若君のこわばった表情が印象的だったのでは…
本家の掲示板に釈文などを書きました。
少々訂正がありましたm(__)m。
更に新たに気がついたこと(仮名書きが不統一の件)があり、進化しています。
よろしくお願いします。

【仮名書き】が不統一

高山家の手紙手紙の釈文を紹介する前に、ちょっと気になる事が…
【仮名書き】の部分です…下記の釈文3行目3字(TV画面の本文では3行目の8字)までは「片仮名」を使用、それよりも後は「平仮名」を使用しています。
普通はどちらか一方に統一するもので…(そういう意味では、書の知識に優れる右筆に書かせたのではなくて、高山宗鶴殿自らが書いたのでしょうね)
【仮名書き】が「片仮名」か「平仮名」のどちらか一方に統一されない手紙は、遠慮のいらない人に宛てた手紙に見られるという印象があります。
友人や弟子や家族に宛てた、つまり下書きをする必要のない相手…書き直さずに出しても失礼が無い…という場合のような気がします。
高山家が松丸家に縁組の相談をする手紙としては、似つかわしくないような気がします。
高山宗鶴殿は、この手紙を読み直さずに出したのか?
それとも読んで【仮名書き】の不統一に気付くが、「いいよ、これで」と思ったのか?
【仮名書き】を見て想像してみた、高山宗鶴殿の人柄は…
ちょっと雑で、ちょっと横柄かなぁ?(^_^;)

高山家の手紙 釈文

子細有之候付 姫君様當城ニ而御預申居候。
御息災ニ候間 可御心安候。
扨是ヲ機縁にて愚息宗熊と姫君いっそ縁組仕度存候得共御存念如何候哉。
両家千秋萬歳と相成候。者ゝ慶賀至極と愚考仕候。
何卒御思案被下度候。委細追而可申上候。恐惶謹言
                     高山宗鶴【花押】
松丸義秀 殿

高山家の手紙 現代語訳

訳あって、姫君様は當城にお預かりしています。
お元気ですので、ご安心ください。
さて、この事を良い御縁として宗熊と姫君を結婚させてはと思います、いかがでしょうか。
両家にとって大変おめでたいことでしょう。いろいろと喜ばしいと考えています。
どうか考えてください。詳しいことは追って申し上げます。

高山宗鶴殿は偉いのか

高山家の手紙ここから『高山家から松丸家の手紙』の「差出書き」と「宛名書き」を考えたいのですが、まずは『松丸家から羽木家への手紙』を思い出してください。
松丸義秀殿は【宛先】の羽木忠高殿を「御屋形様」と書き、その右下に【脇付け】の「人々御中」を書いています。
また松丸義秀殿は、自分が誰かを3回も書いています。
日付の前に「松丸治部少輔」日付の下に「義秀」その下に「花押」を書いていました。
手紙に【脇付け】があり、書き手が誰であるかを3回も書くことは、丁寧で相手に敬意を示す態度とされていました。

さて次は『高山家から松丸家の手紙』です。
「松丸義秀殿」で、【脇付け】がありませんね。
ここで手紙の書き手が誰であるかを書いたのは、「高山宗鶴」「花押」の2回です。
『松丸家から羽木家への手紙』に比べると1回少ないですね。

高山宗鶴殿について 予想

最後に高山宗鶴殿という人について考えてみたいと思います。
高山宗鶴殿が松丸義秀殿に書いた手紙が、『松丸家から羽木家への手紙』に比べて、敬意の払い方に差があるのは何故でしょうか。
予想
①高山家は松丸家よりも偉い(だから…様ではなく殿を使い【脇付け】もなく差し出しの名は2回で良い)
②高山宗鶴は凄く失礼な人
どっちでしょうか?(^▽^;)

松丸家から高山家、羽木家から高山家、羽木家から松丸家への手紙があれば、三家の上下関係がはっきりして、①と②のどちらが正しいのか分かるのですが…
この2つの手紙だけでは決定することはできません。
本当のことは、分からないけれど…釈文を書く前に気になった、【仮名書き】が統一されてないところから考えますと…
やっぱり高山宗鶴殿は、雑で、横柄で、凄く失礼な人なのかもしれませんね…(>_<)

 


 

高山家は松丸家より偉いのか?・・・【管理人より】

高山から松丸への手紙本当に偉い場合、高山宗鶴がそれなりの官職か、あるいは室町幕府の要職に就いているなどが考えられます。
松丸の殿の官職は治部少輔とのことですが、高山宗鶴はどうだったんでしょうか。
ただ、官職など有名無実の戦国なので、松丸が高山に対して礼をつくすのはわかりますが、高山が松丸を下に見るというのはいただけません。

この手紙の後、松丸義次(実は若君)との面会の場で、父の宗鶴だけでなく宗熊までもが並んで上座で対面していることから、高山には明らかに松丸を下に置こうとする意図があるように感じられます。
宗熊にとっては正室の兄ですから、少なくとも宗熊は上座ではなく下座に近い位置で迎えるべきでしょう。

これは宗鶴の考えで、意図的に宗熊に上座で迎えさせて相手の出方をうかがっているのかもしれません。
相手が異議を申し立てれば同格の同盟関係とし、何も言わなければここで相手を下に置く前例を作ってしまおうとか…
この場面の上座下座の位置関係で後の高山と松丸の関係が暗黙のうちに決まってしまう可能性もあります。
これが謀ではなく本当の面会なら松丸は高山の無礼を怒るべきなのかもしれません。