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    二人の令和Days136~23日13時30分、どんな薬よりも

    効果抜群。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    永禄は、もうすぐ昼ごはんタイム。若君の居室に、唯と若君。

    唯「いらっしゃーい!」

    成之「これは、賑やかな出迎えじゃの」

    阿湖「唯~」

    若君「ようこそ、おいでくださった」

    成「これが、千羽鶴。ほほぅ」

    阿「色合いがとても綺麗ね」

    唯「でしょ~。後で作ってみようね!」

    二組のカップルが集結。程なく、四人分の膳が運ばれて来た。

    唯「あ、トヨだ」

    軽く会釈をするトヨ。唯は立ち上がり、膳を置いて部屋を出るトヨを捕まえた。

    唯「ねっねっ、デートどうだった?」

    トヨ「フフフ」

    唯「えー、気になる!」

    ト「何もございませぬ」

    唯「ホントに~?聞きたいけど、またねっ。じゃ!」

    唯が座り、食事スタート。

    阿「唯は、女中とも仲がよろしいのね」

    唯「トヨには、世話になってるから」

    阿「まぁ。懇意にしているにしても、唯って誰に対しても分け隔てなく、優しいわね」

    唯「いろいろ助けてもらってるからさ」

    成「何でもやってのけそうな唯殿でも?」

    唯「阿湖みたいにさー、いかにも儚げだとみんな守ってくれるけど」

    阿「それは…例えるなら、風を知らぬ姫、かしら?」

    成之に目をやる阿湖。何かに気付き、ギョっとした顔をした成之。

    若「兄上の顔色が変わっておる」

    唯「あー、さては兄上さん、阿湖にまたひどいコト言ったんじゃない?」

    成「その…」

    阿「初めて成之様にお会いした時、ちょうど忠清様が行方知れずの頃で」

    唯「そんな頃かー」

    阿「風を知らぬ姫は、さっさと親元に戻れと」

    成「風を知らぬ愛らしい姫、と申した」

    唯「そんなん言い訳だよね。兄上さん、そんな前から意地悪してたんだ。ひっどーい」

    成「なっ」

    唯「その頃は、ただのひねくれ者だったもんね。まっ、今じゃ二人超ラブラブだけどさー」

    阿「なあさまが動揺するのが可愛らしくて、つい昔話を蒸し返して意地悪しちゃうの」

    唯「はいはい。またのろけだよ。ヒューヒュー!」

    若「ハハハ」

    食事が終わり、いよいよ鶴の折り方の説明。

    成「この小さく薄い紙で作ると」

    若「一つ一つは小さき鶴なれど」

    唯「戦なき世を願いながら、折るのでありまーす」

    阿「強い思いの集まりなのね。素晴らしいわ」

    成「それにしても、実に彩り豊かじゃ」

    一枚取ろうとした成之。サッと指を滑らせた所、

    成「痛っ」

    阿「えっ、いかがなされました?」

    成「指が少し切れた。されど刃物などないが」

    若「それは、紙で切れたのでありましょう」

    唯「あー、ありがちなんだよね。でもって割と痛いし」

    成「油断ならぬ物であるのう」

    阿「でも、血が滲んで。どうしましょう!」

    成「大事ない」

    若「今、手当てを」

    唯「はいはーい、もう用意してまーす」

    唯の手には、消毒液と絆創膏。

    唯「ちょっとしみるけど、我慢してね」

    成「確かにこの、水か?しみるのう」

    唯「すぐ終わるから。痛いの痛いの飛んでけー!はい、これで良し」

    絆創膏をくるりと指に巻き、手当て終了。

    成「忝ない、唯殿」

    唯「いーえー」

    成「この貼り付いておるのはなんじゃ?布か?ふむ…。あと今、何か叫んでおったの。まじないか?」

    唯「うん、そうだね。傷が治るおまじないだよ。もう痛くないっしょ?」

    成「まぁ、そうじゃな」

    阿「なんか、母が子をあやすみたいだったわ。微笑ましかった」

    唯「えー?兄上さんがせがれ?それは、お断りしまーす」

    成「それは、こちらからも願い下げじゃ」

    阿「あら。ふふっ。そこまで二人して嫌がらなくても良いのに」

    このやり取りを眺めながら、若君は令和に居た頃を思い出していた。

    ┅┅回想。8月13日7時15分、キッチン┅┅

    両親がそろそろ朝ごはんの支度を始める。若君も一緒だ。尊が、ラジオ体操を録音し終わり、プレイヤーを持って実験室から戻った所。

    覚「えーっと、両手鍋どこに入れたっけかな」

    美香子「上の棚じゃない?」

    覚「上か…」

    若「お父さん、取りましょう」

    覚「おー、済まないね」

    頭上の棚の扉を開け、鍋を取り出す若君。しかし、竹ザルが引っ掛かっているのに気付かず、鍋が出たと同時に、ザルが降ってきた。

    美「あっ、危ない!」

    若「あっ」

    ザルは、若君の頭をかすめて、床に落ちた。

    覚「大丈夫か?!」

    若「はい、軽い物ゆえ、大事ないです」

    美「それにしたって…」

    尊「ケガはない?」

    美「一応、当たった所見せて。しゃがんでくれる?」

    当たった位置を確かめる美香子。

    美「大丈夫そうね。まだ竹ザルで良かったわ~」

    覚「そうだな」

    その箇所に、美香子がそっと手を当てた。

    美「痛いの痛いの飛んでけー!」

    若「…えっ?」

    尊「お母さん、兄さんはそんな小さい子供じゃないよ~」

    美「可愛いい息子の一大事だから、おまじないよ。あらっ」

    若君が、赤くなっている。

    尊「あーあ」

    覚「無闇に触るからだろ」

    美「あら、ごめんあそばせ」

    若「いえ…よう効くまじないでした」

    ┅┅回想終わり┅┅

    唯「たーくん?なにボーっとしてんの」

    若「あ、あぁ。では始めるとするかの」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days135~23日11時、美しさそのままに

    どーんと配れる程、出来上がりそうな勢い。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    令和。リビングに尊と覚。

    尊「さてと、上手く出来てるかな~」

    シリカゲルが詰まった大量のタッパーが目の前に。蓋に、色々な花の名前が書いてある。

    覚「中には失敗したのもあるかもな。その為の保険で、この量なんだろ?」

    尊「うん。全滅だけは避けたいけど」

    タッパーを開けた。そっと粉を払う。

    尊「あ、バラはいい感じかも」

    覚「へー」

    一つ一つ開けて確かめていく。

    尊「うわ、花びら取れちゃった!」

    覚「それだけしっかり乾燥したんだよ。色はみんな綺麗に残ってるな」

    粗方取り出したところ、食卓が花で一杯に。

    覚「綺麗だけどさ、これどうするんだ?」

    尊「それが、考えてないんだよ」

    覚「はあ?」

    尊「こんなに成功すると思ってなくって」

    覚「んー、どっちにしろそろそろ昼ごはんだ。一旦タッパーに戻して床に並べとけ」

    尊「うん」

    12時30分、美香子が昼休憩にやって来た。

    美香子「あら、こんなに沢山!すごいわね~。私達が貰った方も、こうすれば良かったかしら」

    尊「色は綺麗なんだけど、薄い花びらのは取れてたりするんだ」

    美「あらま。せっかくだから何とか生かしたいわよね。で、どうすんの?」

    尊「どうしようかと。ご飯食べたら調べようかなって」

    美「ふーん。あ!それなら今、手仕事のお師匠さん達に聞いてみるわ」

    尊「師匠?」

    リビングを出て行った美香子。

    覚「なるほど、エリさん達だな」

    尊「あ、そっか」

    すぐに戻ってきた。

    美「二人共、食事終わったらこっちに顔出してくれるって」

    覚「わかった。コーヒーの準備もしておくよ」

    1時過ぎ、エリと芳江が登場。

    美「ごめんなさいね、貴重な休憩時間に」

    エリ「いえいえ。あら、綺麗~」

    芳江「まぁ~。思った以上に大量ですね」

    エ「頑張ったわね、尊くん」

    尊「お父さんと二人でやったんで、そんなには大変じゃなかったです」

    覚「なかなか楽しかったですよ。はい、コーヒーどうぞ」

    芳「ありがとうございます。こんなに沢山あったら、アレンジは無限大ですよ」

    尊「そうなんですか!僕、色が褪せない内に何とかしようとばかり考えて、後始末をどうするとかすっかり抜けてて」

    芳「大きいのは、箱に詰めてギフトボックスみたいにしたり」

    尊「メモります。ギフトボックス、と」

    エ「ガラスの瓶に詰めて、飾るってのもいいわね」

    尊「あのう」

    芳「はい?」

    尊「お姉ちゃん達が、永禄で使えるようなグッズって、作れそうですか?」

    美「え、いつ渡すのよ」

    尊「それは未定。今後の展望としてだよ」

    覚「まあ、忠清くんから唯へのプレゼントだから、手元で使ってもらえる物の方がいいよな」

    エ「小さいお花もあるんですね。なら、まとめて固めたらいかがかしら」

    芳「そうね、レジンとかで」

    尊「レジン。樹脂ですか」

    美「あ、なんか光で固めて、アクセサリー作れるとかってヤツ?」

    尊「中に花を閉じ込めるって事ですか。へー」

    覚「実験みたいだな」

    芳「尊くん得意そう」

    尊「知らなかった」

    エ「あら、そうなの?」

    尊「手芸の世界に、科学が入り込んでいたなんて。ふーん。お父さん、早速昼から材料買いに行きたいから、車で乗せてってくれない?」

    覚「大量買いか?ま、いいだろう」

    美「でも、具体的に何作るつもり?」

    尊「えーっと…」

    エ「トンボ玉とかはどうかしら?」

    美「あら、それいいわねぇ」

    尊「トンボ玉って何?」

    美「基本は、柄の入ったガラスの小さい玉を言うけど。それを、レジンでお花入れて作るって事ね?」

    エ「ええ。ある程度形作ったら…そうね、帯留めにしたり」

    尊「へー」

    芳「かんざしの先に付けたりしたら、可愛いいわよね」

    覚「さすが師匠、アイデアが湯水の如くだな」

    尊「なんか、見えてきました。エリさん、芳江さん、ありがとうございました」

    エ「出来上がり、楽しみにしてますね」

    芳「これで尊くんも、手芸男子の仲間入りかもね」

    全員「ハハハ~」

    ランチ後のコーヒータイムは和やかでした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。が、

    次回は永禄に戻ります。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days134~23日10時30分、出生の陰に

    生まれて来てくれて、ありがとう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    大殿「おぬしの母は」

    若君「はい」

    大「公家の出であるが、それは美しいおなごであった。また品も教養もあり、気立ても良く申し分なかった。あれ程のおなごには、もう出逢わぬと思う」

    唯 心の声(大殿も、若い頃はかなりイケてただろうし、お母さんがそんなに美人だったから、たーくんが超イケメンなんだな)

    若「そうですか」

    大「是非にと正室に迎えたが、生来体が弱く、子は難しかろうと思うておった。側室はその前から居ったしのう」

    若「久殿ですか」

    大「あぁ」

    唯 心(兄上さんのお母さんか)

    大「だが次第に、たとえ我が命に代えてでも、わしの子を産みたいと申し始めてのう」

    若「…」

    大「それはならぬ、と一旦は諌めた。忠清に申すのも何だが、世継ぎは側室との子で良い。愛する妻を危険に晒しとうなかった」

    若「それは…わかります。もし、唯がそのような体であったならば、わしも止めます」

    大「少しでも体力をつけ、備えれば産んでも良いかと詰め寄られた。今にして思えば、産む産まずに拘わらず、自分は長くは生きられぬと思うておったのやもしれぬ」

    唯「…」

    大「食が細かったのだが、よう食べるよう努め始めると、辛そうな顔は見せぬようになった。わしも安堵し、程なく身籠った。忠清だ」

    唯「良かった…」

    大「だが、時を同じゅうして久も身籠っておったのだ。成之だ。わしは、忠清が無事産まれるまで、その事を妻には知られとうなかった」

    唯 心(そっか。兄と弟なんだけど、実は何日か違いなだけで、タメだって話だったな)

    若「それは、何かと競べかねず、重荷に感じぬよう案じたが故ですか」

    大「そうじゃ。周りの者に口止めはしたのだが、やがて妻の耳に入ってしまい、そこからは…まるで人が変わってしもうて」

    唯 心(マタニティーブルーかな…)

    大「必ずや丈夫な子を産むと躍起になったかと思えば、久が男子で自分が女子を産んでしもうたらと泣かれたり。母になる者がそのような心持ちではならぬ、正室はそなたである、気を大きく持てと言い続けた。それだけ決死の覚悟であったのだろうと今ならわかるが、若造のわしはそれ以上どうしてやる事も出来なんだ。穏やかな時もあったが、どうしても波があり…成之が産まれたのは伝えてはおらぬ。だが、心も体も無理が祟ったのであろう」

    唯&若「…」

    大「忠清を無事産み落とすと、程なく天に旅立った。無念であった」

    唯が、泣きそうになっている。

    大「あれほど心労がかさんでおった割には、玉のような男子が産まれておる。忠清は、幼き頃から病一つなかった。まさしく命に代えて産んだのであろう」

    唯「これが、母の愛なんだな…」

    若君も、涙ぐんでいる。

    若「その後も妻を娶らなかったのは、そのような所以があったのですね」

    大「妻は生涯、お前の母一人じゃ」

    若「父上…。兄上は、城から出された後、何者かに毒を盛られたと聞きました。わしは、家臣の内の誰かが仕組んだと思うておりましたが」

    大「そうじゃな。逆恨みした、妻側の者の仕業であったやも知れぬ。今となっては分からぬが。だが、城から追ったのはわしじゃ。様々な訳はあったが、母子揃った姿を見るのが辛かったのは、否めぬ」

    唯「うっ、うっ…」

    大「泣き出してしもうたか」

    若君は少し下がり、そっと唯に寄り添った。

    若「いかがした?」

    唯「だって、どっかから違っちゃったって言うか、みんながみんな、幸せになれる方法があったはずなのに」

    若「わしは今、幸せに感じておるぞ?」

    大「唯。それはわしもじゃ。悲しい別れではあったが、母の面影そのままの忠清を残してくれた。今は何も憂いてはおらぬ」

    唯「はい…」

    大「子の、話だが」

    若「はっ」

    大「わし自身が、努めて子を成そうとはせなんだ。いきさつはわかったであろう」

    若「はい」

    大「世継ぎは居るに越した事はない。だが成之も居る。そもそも相賀に囚われていた折に、腹は括っておった」

    若「その言葉、有り難く頂きます」

    大「唯」

    唯「はい」

    大「色々申す者も居ろうが」

    唯「え、なんでそれを」

    大「奥の院を出た後、わしの居室の近くでべそをかいておったではないか」

    唯「うわっ、バレてたか」

    若「まだ敵が居るのか…」

    大「息災であるのが一番。いずれは、位に思うておれば良い。思い悩む姿は、そなたらしくない」

    首を傾げる唯。

    大「どうした?」

    唯「大殿は、味方なんですか?」

    大「味方。そうじゃ。子の事で思い煩う姿は、誰であれ見とうはない」

    唯「そうなんだ…」

    大「わしは何も指図はしておらぬが、しばしば恨まれて矢面に立っておるようじゃが」

    唯「ごめんなさい、ちょっと疑ってましたっ」

    大「ハハハ、やはり。まぁ良い。いつもの唯に戻った様であるし」

    唯「はい!」

    大「今日は此処までに致す。長居した」

    若「父上の存念がようわかりました」

    大「うむ。では」

    唯「ありがとうございました!」

    大殿を見送った二人。

    若「唯」

    唯「はい」

    若「わしはあと、どれだけ敵陣に切り込めば良いのじゃ」

    唯「だいぶ減ってきてるから大丈夫だよ」

    若「奥は、何とかする。が、身に付けるべき読み書きや所作は、此迄よりもしかと学ぶように。唯を思うての進言もあろう。耳を塞ぐばかりではならぬぞ」

    唯「嫌がってばっかじゃダメって?」

    若「そうじゃ」

    唯「はい。わかりました」

    若「周りは味方ばかりじゃ。じきに参る者達もな」

    唯「うん、もうちょっとしたら、阿湖と兄上さん来るもんね。楽しみ!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。が、

    次回は令和からスタートします。

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    二人の令和Days133~23日10時、鶴翼を語る

    戦を避けたい気持ち、わかってもらえたかな。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    自室へ向かう若君。大殿も一緒だ。

    若君 心の声(唯が居るやもしれぬな…)

    案の定、予感は当たった。既に机に折り紙を広げ、歌を口ずさみながら鶴を折っている。

    唯「こーの香~る風~に開け~よ。あー、こっちで聴く歌はこれくらいだから、頭ん中鬼リピだよぉ」

    人の気配に気付いた唯。

    唯「あっ、お疲れ様…えぇっ!」

    大殿「何をしておる」

    唯「うそっ、わわ、すぐ片付けます!」

    若君「待て、唯」

    唯「え」

    若「隠さずとも良い」

    唯「いいの?」

    若「そのままにせよ」

    唯「はい…」

    机の横にちょこんと座った唯。それを気にも留めず、大殿は飾られた千羽鶴を見ていた。

    大「幾分派手派手しいが」

    若「はっ」

    大「美しい」

    唯「良かった。褒められた」

    若「忝のう存じます」

    大「一度、此処の前を通った折に目に入り」

    若「左様でございましたか」

    大「よう見てみたいと思うておった。実に細かい作りじゃ」

    若「千羽鶴と申します。鶴を模した物が、千羽おります」

    大「それは大仰な。幾人もの手による物か」

    若「はい。これは」

    若君が、意を決した様子で続ける。

    若「戦なき世を願い、皆で作り上げた品にございます」

    大「手掛けた者達の、総意と申すか」

    若「然り。…父上」

    大「何じゃ」

    若「現からの逃げではございませぬ」

    大「ほぅ」

    若「何時でも、戦となれば務めを果たす所存です」

    大「それは…わかっておる」

    大殿が腰を下ろした。若君も前に座る。若君の少し後ろで、ハラハラしながらも、じっとしている唯。

    大「戦は、好んでするつもりはない。だが、攻め入られ、負ければ一家滅亡にも繋がる」

    若「はい。羽木も危機はございました」

    大「いつの時分の話をしておる」

    若「高山に攻め入られましたが、立木山を目前に敵は退散しました」

    大「あぁ。唯之助が、迫る高山を蹴散らしたと評判になった、あれか」

    唯 心の声(21世紀の科学の力ですけど)

    大殿が、唯に微笑みかける。

    唯「?」

    大「こうしてみると、唯はまことに、守り神かもしれぬのう」

    若「守り神、ですか」

    大「じいが申しておった」

    唯 心(じい、たまにはイイ事言うじゃん!)

    若「頷けます」

    大「健脚で、なにより体が丈夫であるし」

    唯 心(もっと、違うトコ褒めてくんないかなー)

    机の上を見る大殿。

    大「唯は、新しい千羽鶴を作っておったのか?」

    唯「はい」

    大「良き妻女じゃ」

    唯「わぁ、嬉しい!だって、願いって、叶うんですよ」

    若「唯…」

    大「言い切ったのう」

    唯「だって、強く強く願えば叶うもん」

    大「おぬしがそう申すと、そうやも知れぬと思えてくる」

    唯「願ったモン勝ちです」

    大「ハッハッハ。忠清の代は安泰になりそうじゃな」

    唯「え?えへへ」

    同じく飾ってある、翼が繋がった連鶴に気付いた大殿。

    大「これはまた見事な…連なっておるのか」

    若「はい。手に手を取り、進む姿です」

    大「成程」

    大殿が、若君に向き直った。

    大「忠清」

    若「はい」

    大「おぬしの母の話をしようと思う」

    若「えっ」

    唯「え、初めて聞くかも」

    大「初めて話す。忠清にもな」

    唯「そうなんだ…」

    若「…」

    姿勢を正した、唯と若君だった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days132~23日9時、推して知るべし

    こじらせ男子だけど、根が真面目だから。
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    トヨの足の爪に、丁寧にネイルカラーを塗った唯。

    唯「でーきたっ。乾くまでじっとしてた方がいいから、そのまま動かないで待っててね」

    トヨ「とても艶々で綺麗…何と礼を申したら良いのでしょう」

    部屋の外に、人の気配がした。唯が気付く。

    唯「いいよぉ~、入って入って」

    源三郎「宜しいのでしょうか」

    ト「あ。源ちゃん」

    源三郎が、申し訳なさそうな顔をしながら入って来た。

    源「奥方様、昨夜は楽しい時を過ごさせて頂きました」

    唯「いーえー。これからトヨにデートのお誘い?」

    源「いや…謝りに参りました」

    ト「フン」

    唯「まだ、ご機嫌ナナメっぽいよ?」

    源「至極ごもっともです」

    唯「源三郎も、ありがとう」

    源「いえ、わしは物を運んだまでで、礼には及びませぬ」

    唯「あ、えっと、ゆうべの話じゃなくて。たーくんに頼まれてたでしょ?」

    源「…そちらですか。奥方様、存じ上げなかった話とはいえ、今までお力になれず申し訳なく思うております」

    唯「いいのいいの。ホント、助かったよぉ」

    源「それはようございました」

    トヨの姿に、源三郎が眉をひそめている。

    源「トヨ、何だそのなりは。奥方様の前で寛ぎ過ぎだろ」

    ト「動いちゃダメって言われてるからよ」

    唯「まあまあ。女中達をシメてくれたお礼にね、ごほうびあげたの。見て見て!」

    源三郎がペディキュアに気付いた。

    源「お、これは。綺麗だな、トヨ」

    ト「えっ」

    唯「お?」

    源「姫君と同じにして頂けるとは、幸せ者だ」

    ト「う、うん…」

    唯「ねぇねぇ、似合ってるよね?」

    源「よう似合うております。トヨは働き者ゆえ、このような褒美を賜って然るべきでありますし」

    唯「めっちゃ褒めてるぅ。あのさぁ源三郎、それ、もう一回ギュギュっとまとめて言ってみない?」

    源「まとめて、でございますか?良かったな、トヨ。綺麗だよ」

    ト「…」

    源「?」

    唯 心の声(源三郎、爪だけ見て言ってんだろうけど)

    ト「綺麗、綺麗って言ってくれた…」

    ずっと反芻して、頬を赤らめているトヨ。それに気付かない源三郎。

    唯 心(トヨかわいい!源三郎も、まんま答えてて超かわいいし。これは、私が一肌脱がないとってヤツ?ん~。よしっ)

    唯「ねぇ、源三郎」

    源「はい、奥方様」

    唯「ちょっとこっち来て~」

    唯が手招きをして、部屋の奥、飾り棚の前に源三郎を呼んだ。

    源「何でございましょうか」

    唯「これ見て。それ以上は、言わな~い」

    指差す先にあったのは、芳江が折った連鶴の、クチバシで繋がっているバージョンの方。コソコソ話す唯と源三郎。

    源「これは…その…」

    唯「私、邪魔はしないから」

    源「奥方様…そのお言葉は心がえぐられます」

    唯「なんなら、この部屋貸してあげるよ?」

    源「いやいやいや!」

    トヨが、体をねじっている。

    ト「後ろで話してると見えない…」

    唯「あ、そろそろ動いていいよ」

    ト「もう良いのですか?わかりました」

    立ち上がったトヨ。

    唯「うん、ばっちりぃ。あまり目立たないトコがいい感じ」

    ト「ありがとうございました!」

    唯「機嫌も直ったね」

    ト「はい!ねぇ源ちゃん」

    源「何だ?」

    ト「せっかくおめかししたから、どこかに出かけたいわ~」

    源「そうか。じゃあ、行くか」

    唯「ふふっ。行ってらっしゃーい」

    唯に深々と礼をして、源トヨは部屋を出た。

    ト「あたしさぁ」

    源「ん?」

    ト「あの棚、何が飾られてるか知ってるから」

    源「ま、まぁそうだよな」

    ト「ムフフフ。あー楽しみだわー」

    源「試練は続く、か…」

    その頃の若君。定例の軍議、と言うよりは申し合わせの最中だった。

    若君「仇や疎かには出来ませぬ」

    成之「裏でどう動いておるかは」

    小平太パパ「間者を増やすか…」

    若君は、尊との会話を思い出しながら、場に臨んでいた。

    ┅┅回想。8月7日10時30分、車中┅┅

    家族全員で城ツアーの日。そろそろ駐車場に入る頃。

    尊「兄さん。今から行く城、永禄8年に信長が侵攻します」

    若「随分と車を走らせておったが」

    尊「元々、拠点はこの辺りなんですよ」

    若「そうなのか…」

    尊「最終的にかなり勢力を伸ばしますが。特に西の方は」

    若「西、か。帰ったら、詳しく教えてくれぬか?」

    尊「了解です」

    ┅┅回想終わり┅┅

    大殿「織田の動きは、引き続き目を光らせよ」

    全員「はっ」

    解散。

    大「忠清」

    若「はっ」

    大「この後、所用はあるか?」

    若「いえ、すぐには有りませぬ」

    大「今からおぬしの居室へ参りたい」

    若「…ははっ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days131~23日8時30分、心も彩ります

    アゲアゲで行こう!
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トヨ「奥方様、お待たせを致しました」

    唯「お疲れさまー。さっ、座って」

    唯の居室。一仕事終えたトヨと、唯が向かい合って座った。

    唯「トヨ~」

    ト「はい?」

    唯「超超超、嬉しーい!私のために、いろいろありがとう!すっごく助かったよ、マジ感謝してる~!」

    床に手をつき、頭を目一杯下げた唯。

    ト「奥方様、今、ゴンって音しましたけど!大事ございませぬか?」

    唯「ちょいと勢いついちゃった。えへへ」

    額を擦りながら顔を上げた。

    ト「で、何の事でしょうか?」

    唯「女中達を吊し上げたんでしょ」

    ト「あー。あんまり勝手な事言ってたんで、ちょくちょく軽くシメてただけです」

    唯「カッコいいっ」

    ト「いえ、今までわたくし気付いてなくて。まさか奥方様の悪口があんなに蔓延っていたなんて、知らなかったんです。天野から来ていない連中が、あらぬ事をベラベラしゃべりやがり」

    唯「地が出てる?」

    ト「あら失礼をば。源ちゃんに、よく見といてくれって言われるまで野放しにしてたなんて、こちらこそ、申し訳が立ちません!」

    頭を、床に擦る程下げたトヨ。

    唯「顔上げて。トヨががんばってくれたお陰で、だいぶ楽になったの。ありがとう」

    ト「源ちゃんが、若君様が大層気にされておられるから、と。お気遣いが素晴らしくていらっしゃる。素敵過ぎます」

    唯「ありがと。それ聞いたら、たーくんも喜ぶよ」

    ト「周りがね、わかってないんですよ。お二人、釣り合ってないとか思ってる」

    唯「あー、たーくんが超イケメンだから?じゃない、違う言い方…えーっと、び、び」

    ト「眉目秀麗ですか?」

    唯「そう、それ」

    ト「奥方様もこんなに麗しくていらっしゃるのに」

    唯が、トヨの額に手を当てた。

    ト「な、何ですか?」

    唯「いや、妙なコト言ってるから、熱でもあるのかと」

    ト「何をおっしゃってるんですか」

    唯「阿湖は、見ててマジかわいいな~と思うけど、私はそこまではさぁ」

    ト「醸し出す雰囲気は違いますが、お二人共お美しいですよ」

    唯「ホントに?!やーん、褒められちゃった!嬉しい!」

    ト「あまり言われた事、ないんですか?」

    唯「なんせむじな呼ばわりだし」

    ト「はあ」

    唯「ちょっと前まで男子だったし」

    ト「まあ、それはあるでしょうが」

    唯「たーくんは言ってくれるけど」

    ト「あらん。充分、いや十二分ですね。それは若君様を見てればわかります。奥方様を見つめる眼差しがもう、愛情がダダ漏れで」

    唯「そうなの?」

    ト「ご飯三杯はイケます」

    唯「ははは、トヨって面白ーい。あ、それでね、なんでトヨのがんばりを知ったかと言うと」

    ト「はい」

    唯「ちょうど説教してるのを、悪丸が見たんだって」

    ト「そうでしたか。そういえば、疾風を引いていたのを見かけたような」

    唯「悪丸が、私に謝ってきたの」

    ト「何故ですか?」

    唯「悪丸は、陰でコソコソ言ってんのを何回か聞いてたんだって。で、違うと言いたかったけど、それを止める勇気がなくて、ここまできてしまった。で、説教を見て、それができなかった自分は弱かったって。トヨは偉いって言ってた」

    ト「偉くはないです。わたくしは気付いていなかったんですから。そうですか。悪丸は、ずっと心を痛めていたのですね」

    唯「そうだね。もう気にしないでとは言っといたよ」

    ト「奥方様の悪口言うなんて、若君様に楯突いてるのと一緒って、気付かない連中がどうかしてるんですよ」

    唯「カッコいい~」

    ト「いえ、それはもういいですから」

    唯「でね、私からごほうびあげる」

    ト「そのような。いただく筋合いはございません」

    唯「いいからいいから」

    戸棚を開け、マニキュアのセットを出す唯。

    唯「どの色がいい?手だといろいろ問題あるだろうから、足の爪に好きなの塗ってあげる」

    ト「えっ、そんな!でも、お咎めを受けませんか?」

    唯「ごほうびに塗ってあげなさいって言ったのは、たーくんなんだよ」

    ト「ええっ!」

    唯「だから問題なーし」

    ト「若君様、なんて男前なの…」

    唯「なんか言われた時、たーくんの名前出すのはちょっとと思うなら、奥方がふざけてやったって言えばいいよ」

    ト「そんな、わざわざ悪者になる必要はありません」

    唯「じゃあ、仲良しの印で!」

    ト「仲良し…畏れ多いですが、嬉しいです」

    少し紫がかった、あまりキラキラしないピンク色を選んだトヨ。

    唯「大人だね~」

    ト「少し染まるだけでも、心浮き立ちますから」

    唯「アガるよね~」

    ト「あがる…はい!」

    唯「じゃあ、足を前に投げ出して。そうそう。では行きまーす」

    一本一本、塗り上げていく唯。

    ト「お上手ですね」

    唯「たーくんの方が上手だよ」

    ト「え?もしかして」

    唯「うん、手も足も、たーくんがいつも塗ってくれるの」

    ト「まあ…もう何者も、入り込む余地はないですね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days130~23日金曜7時、優秀な家臣達

    アミューズメントパークに変わりつつある?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君が、唯を起こそうと懸命になっている。

    若君「唯、唯」

    唯「ん…」

    若「早く起きねばならぬと、申しておったではないか」

    唯「眠いぃ」

    若「ブランコの取り付けがそろそろ終わるぞ」

    唯「取り、付け…はっ!」

    飛び起きた唯。

    唯「うそっ!もうそんな時間?やだぁ、たーくんなんで起こしてくれなかったの~」

    若「何度も起こそうと試みるも」

    唯「え?そうだった?」

    若「嫌がる奥方に蹴られる始末」

    唯「うげっ」

    若「手強い総大将であった」

    唯「ご、ごめん。すぐ着替えて行きますっ!」

    慌てて若君の居室前に飛んで行った唯。千吉と悪丸が見守る中、若君がブランコの具合を確かめていた。

    若「ぐらつきもない。ようやってくれたの」

    悪丸「はっ」

    千吉「忝のう存じます」

    若「木々の間に隠れておるゆえ、物思いにふけるには丁度良さそうじゃ」

    千「そうでございますか。おや、奥方様」

    唯「ごめんね、遅くなって。あーいい感じだね。表のと違って枝の位置が低いから、うーんと」

    若「何じゃ?」

    唯「大人のための、揺りかご?」

    千「おぉ」

    若「ほぅ。朝から弁が立つのう」

    唯「へへっ」

    若「よう寝たゆえ、冴えておる」

    唯「しれっと反撃したな?」

    千「表の方は、すっかり童達の溜まり場になっておりますな。中々若君様も使えぬのでは?」

    若「構わぬ。賑やかなのは良い。ただ、取り合って喧嘩になどならぬであろうか」

    千「なんとお優しい。それでしたら、城の周りにどんどん取り付け致しましょうか?」

    若「ほぅ。良いのか?」

    千「はい。お任せくだされ。今日も二人で充分作業出来ましたゆえ。なあ、悪丸」

    悪「はっ。すぐ、丈夫な枝をお探し申す」

    唯「すごーい。楽しそう」

    若「それはまた、難儀をかける。時々は、此処も使うてくれ」

    千「あっ、いや、それは」

    若「ハハハ。大儀であった。千吉、悪丸」

    千「はっ。では、これにて」

    悪丸が、なぜか残っている。

    唯「どしたの?悪丸」

    悪「奥方様に、伝えたき話が、ある」

    唯「そうなの?なにかな」

    若「わしは居らぬ方が良いか?」

    悪「いえ」

    悪丸が話し始めた。唯は驚きながら、若君は頷きながら聞いている。

    悪「わしは、何もできなんだ。弱かった」

    悪丸が頭を深く下げる。

    唯「わー、やめてやめて!」

    若「謝らずとも良い。心を痛めておったおぬしも、辛かったであろう?」

    唯「教えてくれてありがとう。よくわかったからさ、もう気にしないでね」

    悪丸は、二人に再び深く礼をして、去って行った。

    唯「たーくんが…仕向けた?」

    若「わしは、源三郎に言付けを頼んだまでじゃ」

    唯「ありがとうたーくん!どおりでここんトコ、あんまり言われないなと思った」

    若「唯を守れたようじゃの。わしの手柄ではない」

    唯「どうしよう…お礼言わなくちゃ。なにかごほうびもあげたいよ」

    若「褒美か」

    唯「身に付ける物とか…でも仕事の邪魔になっちゃダメだよね」

    若「ならばあれはいかがじゃ。物ではないが」

    若君が、身振り手振りで伝える。

    唯「いいの?誰かに咎められても、たーくんのお墨付きだよって?」

    若「働きぶりには、相応しかろう」

    唯「ありがとう!もうすぐ私の部屋に来ると思うから、早速そうするね!」

    そして朝食後。唯の居室。トヨが片付けに来た。

    唯「トヨ、昨日はいろいろありがとう。ごめんね、遅くまで付き合わせちゃって」

    トヨ「いえ、とても楽しゅうございました」

    唯「で…どうだった?その後」

    ト「えっ」

    唯「源三郎は?」

    ト「源ちゃん…源ちゃんは」

    唯「顔、恐いよ?ヤな予感がするなー」

    ト「あいつ、逃げたんです」

    唯「逃げた。えー、私の知ってる源三郎じゃなーい!」

    ト「月が綺麗だななんて、殊勝な事言ってたのにですよ?」

    唯「それ、私も聞いたな。男子の間で流行ってんのかな」

    ト「だから、ちょっと怒ってるんです」

    唯「そっか~。愚痴も聞いてあげたいけど。あのさ、実は話があるんだ。この後時間いいかな」

    ト「はい。お話ですか。わかりました」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days129~22日19時、勇気をください

    見てるのは月だけなのに。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    もんじゃ焼き、完食。源三郎が、若君に頭を下げている。

    源三郎「今宵は、このような宴にお招きいただき」

    若君「良い」

    源「はっ?」

    若「礼は、要らぬ。まだ此処の後始末も頼まねばならぬゆえ」

    源「それは…」

    トヨ「片付けなど当然でございます」

    唯「ううん、こっちがお礼言わなくちゃだから。ありがとね」

    若「源三郎、トヨ、礼を申す」

    源「そのような。恐悦至極に存じます」

    ト「身に余る光栄でございます」

    若「各々のハガシであるが」

    源&ト「はい」

    若「持ち帰るが良い」

    源「はっ」

    ト「まぁ…宝物にいたします!」

    唯「今日の記念にプレゼント?」

    若「そうじゃな」

    唯「優しーい。いーなー」

    若「その手にある物は何じゃ」

    唯「あ、そっか」

    全員で笑って、お開き。

    若「では、済まぬが」

    ト「かしこまりました」

    源「心得ました」

    唯「じゃーねー、ありがと~」

    客間を去る唯と若君。見送った源トヨ。

    ト「さてと、ササッと洗っちゃおっかな。若君様とても手際がよろしくて、洗い物ほとんどないし」

    源「鉄板は俺が持つ」

    ト「ありがと」

    台所までの道すがら、空を見上げた源三郎。

    源三郎 心の声(月か…)

    明日で半月だが、存在感たっぷりに、宵の空に明るく輝いている。

    源 心(何もかも見透かされておるような…)

    洗い物の後、囲炉裏の火の始末をするトヨ。

    ト「粗方片付いたから、明日の朝、周りを拭き上げるわ」

    源「お疲れさん」

    客間を出る二人。

    ト「んん~」

    庭に向かい、大きく伸びをしたトヨ。

    ト「ふう」

    源「…」

    源 心(今、か!)

    源「月が…」

    ト「え?」

    源「月が、綺麗じゃな」

    ト「あ、そうね。とっても綺麗で手が届きそう」

    源 心(手が届く。届く…それは、俺達はそれほど近い間柄と言う意味合いか?!)

    源三郎、考えを巡らせ過ぎて黙り込んでいる。

    源「…」

    ト「どうしたの?」

    ふと二人、目が合った。そのまま見つめ合う。

    ト「源ちゃん…」

    源「う、うわ~!!」

    ト「え」

    突然、叫びながら頭を抱え、しゃがみこんだ源三郎。

    源「無理だ無理だ無理だ…」

    源 心(どうにも踏み出せない俺は、腰抜けだ…)

    ト「えぇ?」

    トヨ 心の声(なんでよ~!すっごくイイ感じだったのに!)

    すっくと源三郎が立ち上がった。だが、視線はあさっての方向のまま。

    源「こ、これにて」

    ト「へ?!」

    逃げるように走り去ってしまった源三郎。残されて、しばらく呆然とするトヨ。

    ト「…わかった。はいはい。そういう事ね。よーく、わかったわ。この、この意気地なし!」

    トヨの心の内を示すように、ヒュルルと風が吹き抜けていった。

    唯「あー、いい風。涼しーい」

    その頃の唯。寝間着姿で寝所前の縁に座り、足をぶらぶらさせていた。

    唯「夏に囲炉裏は、ちょーっと暑かったなぁ」

    寝間着姿の若君登場。

    若「蚊に刺されるぞ」

    唯「大丈夫。蚊取り線香ついてる」

    夜空を見上げながら返事をする唯。若君も月を見る。

    若君 心の声(そうじゃ)

    若「唯」

    唯「なぁに?」

    若「月が、綺麗じゃの」

    唯「ん?そうだね。でも、たーくんと一緒なら月はいつでもキレイだよ」

    若「…そうか」

    唯「え、なにー?」

    若「何程でもない」

    唯「ふーん。ちょっと早いけど、そろそろ寝た方がいいかなー。明日早起きしなくちゃだから」

    若「何かあるのか?」

    唯「例のブランコ、たーくんの部屋の前に、明日の朝一で付けてくれるって千吉さんが言ってたの」

    若「ほぅ、それは見届けねばの。ならば、起こしてやろう」

    唯「うん。お願いしまーす」

    若「中に入るぞ」

    唯「はーい。もう休む?」

    若「休むかどうかは」

    唯「なんかニヤケてるし」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    22日のお話は、ここまでです。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days128~22日18時、先手必勝です

    待ってるだけじゃないおなごがここにも。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トヨが、鉄板を囲炉裏にセットしている。

    若君「まるで、今宵の為に誂えたかのような…これで拵えられるとは有り難い。鍋だけが懸念であったゆえ」

    唯「確かに。フツーの鍋だと作りにくいしヤケドしそうだし」

    若「トヨ、よう支度してくれた」

    トヨ「いえ、わたくしは何も。若君様ご所望の品が丁度ございましたので、お出ししたまでです。こちらの先代のお屋形様が、狩りがお好きでいらして、猪や鹿やむじなを焼くために特別に作らせたと聞いております」

    唯「むじな?今むじなって言った?食べられるの?!」

    ト「食べられます。前に、信茂様が珍しく手に入ったと持ち帰られ、天野のお屋敷で一度お出ししております」

    唯「へー、びっくりー。たーくんは食べた事ある?」

    若「わしは、食した事はない。源三郎はあるか?」

    源三郎「いえ、ありませぬ」

    唯「じい、私をむじなむじなって。あっぶなーい、とって食われるところだった?」

    若「それはなかろうが」

    唯「とんだ食わせもんだよ~」

    若「ほぅ。上手いの」

    油を薄くひき、よく混ぜた具だけを先に鉄板に乗せ、丸く囲むように土手を作る。

    源三郎&トヨ 心の声(これは、儀式?)

    その中に生地を流し込む。

    源&ト 心(やっぱり儀式?)

    唯「二人とも、すっごい不思議そうな顔して見てる」

    若「初めて見る者はそうなる。わしもそうであった」

    唯「ちゃんと食べる物作ってるから、心配しないで」

    源&ト「わかりました」

    よく混ぜ、一面に広げた。

    唯「今日はお箸で食べる?ヘラないから」

    若「唯。あれはヘラとは申さぬ。ハガシという名だそうじゃ。た…師匠によると」

    唯「あ、調べたんだね。へー。たーくん、ホント作る気満々だったんだね」

    若「で、ハガシなら、ある」

    若君の懐から、小さいハガシが四つ登場。

    ト「まぁ、お小さいこと」

    源「竹でございますか」

    唯「え?もしかして」

    若「わしが今日の為に、削って作った」

    唯「えー!たーくんやっぱりヒ…」

    若「暇ではない」

    唯「そぉ?」

    ハガシをさっと水にくぐらせ、全員に渡した。

    若「そろそろ良かろう」

    唯「そうだね」

    源「え。出来上がり、ですか」

    ト「これは、どのようにいただくのでしょう」

    若「このように端から」

    手ほどきをする若君。

    若「掬い取ったこれを…ん?」

    隣で、唯が口を開けている。

    唯「ちょーだーい!フーフーもして欲しいぃ」

    若「ハハッ。このように掬ってすぐはまだ熱いからの」

    少し冷ましてから、唯の口に。

    若「どうじゃ?」

    唯「美味しい!」

    若「そうか。良かった。という案配じゃが」

    源トヨが、かなり戸惑っている。

    源「あの…恐れながら若君様」

    若「なんじゃ?」

    源「相手の口に入れるまでが、いただき方でございますか?」

    若「あ、いや。各々で食すが良い」

    源「良かった…」

    ト「残念…」

    源「は?」

    ト「あら、つい心の声が」

    唯「食レポ…もとい、食べた感想よろしくね」

    源「それでは、頂戴いたします。緊張する…」

    源三郎が口に運ぶ。

    源「美味い。この、香ばしさで風味が増しておるような。梅も効いております」

    若「そうか」

    ト「いただきます…うん、美味しい。野草はシャキっと、芋や米はトロっとがまたよろしくて」

    唯「二人とも食レポ上手だなぁ」

    若「皆に振る舞えそうかのう」

    ト「これは、皆喜ぶと思います」

    唯「やったぁ。良かったね!」

    若「あぁ」

    唯「たーくんまだ食べてないじゃん。はい、あーんして」

    若「ん…うむ、我ながら会心の出来じゃ」

    ト「いいな。仲睦まじくて羨ましい…」

    唯と若君の様子をじっと見ているトヨ。見て見ぬふりをしている源三郎。

    源「これは、大勢で囲みながらいただけそうで、宜しゅうございますな」

    唯「今、ちゃんと見てた?」

    源「え」

    唯「もー。ねぇ、たーくん」

    若「ハハハ。いつか、城の皆で囲みたいものじゃのう」

    唯「外でとか?」

    若「あぁ。バーベキューの様にの」

    唯「いいねー。って、二人はバーベキューじゃわかんないよ。おっとぉ?」

    トヨが、とうとう仕掛けていた。

    ト「源ちゃん、はい、あーんして」

    源「あーん、ってお前!」

    ト「遠慮するのは、損な気がしてきてさ。攻めてく」

    源「ええっ」

    ト「ちゃんとフーフーしたわよ?」

    源「いや、そういう事でなく…うわっ」

    早く早く、と唯と若君が目で訴えている。

    ト「そろそろ腹決めたら?」

    唯&若「お」

    源「あ、あぁ」

    パクリ。

    唯「かわいい~。ありゃ」

    攻められた方も、攻めた方も、顔がみるみる内に真っ赤になった。

    若「微笑ましいの」

    唯「うん。ふふっ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days127~22日17時、探り合いです

    あの手この手で。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君の料理スタート。トントントンと、湯通しした野草をリズム良く包丁で刻んでいく若君。

    源三郎「手慣れておられる」

    トヨ「見とれちゃう…」

    唯「たーくん、カッコいいってさ」

    若君「そうか?」

    源「たー…?」

    ト「あら」

    唯「いいでしょ~」

    ト「はい。仲睦まじさがようわかります。良いのですか?わたくし共の前で、そのような」

    唯「うん、いい。トヨと源ちゃん、だから」

    源「えっ」

    唯「合ってるよね?」

    ト「はい。フフフ」

    若「ほぅ。源三郎は、そう呼ばれておるのか」

    源「は、はい。幼い頃から変わらず」

    若「良いの」

    源「か、忝のう存じます」

    ト「源ちゃん、カッチカチじゃない」

    源「俺はトヨほど図太くない」

    ト「言ったわねー」

    蒲鉾も里芋も刻まれていく。

    唯「このお芋、昼ごはんの残り?」

    ト「いい感じに火を入れた後、煮崩れしたフリをして、よけておきました」

    唯「さすがトヨ~」

    源「上手いな。いつも横流し、やってるんじゃないか?」

    ト「やってません」

    源「怪しいな~」

    若「源三郎」

    源「はっ」

    若「そこは、褒める所であるぞ」

    源「す、済みませぬ」

    若「わしが頼んだ以上の振る舞いじゃ。トヨ、礼を申す」

    ト「そのような。畏れ多い事でございます…」

    トヨは、隣の源三郎をベシベシ叩き始めた。

    ト「ねぇ聞いた、聞いた?嬉し~い!」

    源「痛い、痛いって!照れ隠しに俺を叩くんじゃない!」

    若「…おなごは、皆こうなのか。わしも、唯によう叩かれる」

    唯「それはー、たーくんが嬉しいコト言ってくれるからだよぉ」

    若「嬉しいのに叩くとは、些か解せぬが」

    唯「愛情表現の一つでござるぅ」

    若「ふむ。そうなのか。わかった」

    ト「納得されてる。素直に耳を傾けられるお姿が素敵…さすが若君様だわ」

    源「なあ、俺にもその表現…なのか?」

    ト「え!何を言わせたいの?それはどうかしらね~」

    源「守りが固いな」

    唯「ふふっ、楽しーい。夫婦漫才みたい」

    ト「め、おと…ヤダ、恥ずかしい!」

    源「だから、痛いって!」

    唯「あはは、かわいい~」

    若「ハハハ」

    下ごしらえ完了。

    若「あとは、混ぜるだけじゃ」

    ト「はい、こちらをお使いください」

    かなり大きい木の器が出てきた。材料をどんどん入れていく。

    唯「まずは粉だね。なんか黒っぽいのと茶色っぽいのとあるよ?」

    若「蕎麦粉と、少しの鰹節粉じゃ」

    唯「へー。で、水だね。こんなモンかな」

    若「良かろう。あとは蒲鉾、里芋。米もあったか?」

    ト「はい。櫃の残りで良いとお聞きしましたので、冷や飯で固うございますが、よろしいのでしょうか」

    若「構わぬ」

    唯「野草も入れるよ。味ってどうするの?」

    若「そうじゃな…味噌か梅かで考えておったが」

    ト「どちらも用意してございます」

    唯「梅干しで良くない?梅もんじゃで」

    若「わかった」

    梅干しを細かく叩き始めた若君。

    ト「あの…」

    唯「なに?」

    ト「今、なんと?梅、の後」

    唯「もんじゃの事?今日はね、もんじゃ焼き作るんだよ」

    ト「初めて聞くわ。源ちゃん知ってる?」

    源「いや」

    若「この、粉を溶いた生地を焼きながら文字を書いて学んだり遊んだりし、文字焼きと呼んでおったのが名の由来だそうじゃ」

    唯「え、そうなんだ!」

    若「知らなんだのか。わしは師匠に聞いた」

    唯「ふーん。美味しけりゃ名前なんか何でもいいし」

    若「唯なら、そうであろうの。ハハハ」

    トヨが、源三郎をつつく。

    ト「若君様って、奥方様が何言われても、ウンウンって嬉しそうに聞いてみえる」

    源「そうだな」

    ト「愛情の深さよねー」

    源「そうだな」

    ト「源ちゃんも、深い?」

    源「は?な、何の話だ」

    ト「守りが固いわね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    カマアイナ様!

    呼びかけに応えていただき、ありがとうございました!お元気そうで何よりです。

    すっかりそちらは日常モードですよね。私の正月は…実家に顔を出し、地元の神社に詣で、おせちを食べ、今は箱根駅伝がテレビで流れております。

    DVDを堪能されてるんですね。ここで皆さんが話される内容や私の創作話にも、たまーにドラマ本編やSPのエピソードやセリフが出てきます。これか~と答え合わせができるのも楽しいと思います。

    カマアイナさんには、ご自身が初投稿なさった時から創作話への熱い思いを語っていただいており、感謝しております。いつもお読みいただきありがとうございます。朝ドラですか?畏れ多いです(*^_^*)

    私としては、新聞の連載小説を書いている感覚なんです。この「アシカフェむじなランド」にはいろんな板がありますので、アシガール掲示板からご覧になる方もみえれば、他の板や創作倶楽部から入る方もみえるかと。新聞の1面から順番に読むも良し、小説やコラムが心待ちな方はそこから読まれるでしょうし。投稿を一日おき、また時間もできるだけ(日本時間ですが)夜19時から23時くらいにしているのは、そんな理由も加味しております。

    ハワイとの時差が19時間ですので、朝お目覚めになると私の創作話が投稿されている計算ですから、朝ドラは正解かもですね。時間的に、そろそろそちらは日の入りの時間では。綺麗なんだろうなぁ~。

    これからも、ちょくちょくお顔を出してくださいね。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人のもしもDays5、祝いましょう正月篇

    新春を寿ぎ、謹んでご祝詞を申し上げます。

    お正月にはお正月のお話。で、もしもDaysをお送りします。
    「若君に、現代の家族水入らずのお正月を味あわせてあげる」カマアイナさんのご意見に、一年越しで応えた形になりました。変わらずお過ごしでしょうか。

    話はゆるゆると進みます。遠くから様子を眺めるというよりは、隣に一緒に居る感じでご覧いただければと思います。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日は大晦日。夕方のリビングで、家具の移動が始まっている。

    覚「ちゃんと敷けてるな?」

    尊「うん」

    食卓を玄関側にずらし、空いた床に敷きパッド。その上にこたつ登場。

    唯「出た出たっ」

    若君「座卓に、布団?」

    覚「忠清くんは初めて見るよな。大晦日にしか出さないから」

    若「何か儀式でも?」

    覚「あー。ははは」

    尊「ある意味、儀式だよ」

    唯「たーくん、ウチね、年越しの時だけ、このこたつが出てくるの」

    若「こたつ。聞き覚えはあるような…見るのは初めてじゃ」

    尊「兄さんの屋敷にはなかったんですね。永禄にあるとしたら、床下に炭とか熱源がある掘りごたつ的な物だったはず」

    美香子「はいはい、天板拭くわよ。はいOK!どうぞ忠清くん、入って」

    若「入る?」

    唯「座って布団に足入れるんだよ。中暖かいから」

    若「ほぅ」

    早速、唯と若君と尊がこたつに陣取る。

    若「おぉ、暖かい」

    唯「ねっ」

    若「何ゆえ、年越しだけ使われる?」

    美「あのね、毎年、大晦日の夜に放送されるテレビの歌番組があってね」

    若「テレビ?」

    覚「毎年、その時だけは、こたつでミカン食べながら観るって決めてて」

    若「ほぅ。一年の締めくくりが、このこたつ」

    唯「変でしょー。小さい頃からずっと、こうなんだよね」

    覚「基本的にウチは、食事しながらテレビは観ないからな。大晦日だけ特別だ」

    一度入ると抜けられないのが、こたつ。

    唯「あ~ぬくい。あんまりあったかいと外に出らんないけど、どうしよう」

    尊「何を」

    唯「初詣行きたい。でも人混みにたーくん連れてくと、さらわれそうで危ない」

    尊「有名な神社に行くとなると、まぁね。さらわれはしないだろうけど、はぐれやすい」

    美「遠くは止めて、年が明けたらすぐ、夜中の内に近くの神社に行きましょうよ。みんなで」

    唯「近くね。まっ、それがいいよね」

    覚「初詣はな、近くの氏神様にまず参るモンだしな」

    唯「わかった~」

    若「神社に、新しい年を迎えて初めて詣でるゆえ、初詣か?」

    尊「そうですね」

    若「それは、儀式で合うておるな?」

    尊「ははは。はい、これは間違いなく」

    夜。7時を過ぎた。

    覚「そろそろ蕎麦ゆでるぞ~」

    若「手伝います。晩に、蕎麦ですか」

    覚「いつもありがとね。これは、年越し蕎麦って言うんだよ」

    若「飯にも儀式が?」

    覚「そうだね。蕎麦のように、細く長く生きられますように、って願掛けかな」

    若「そうですか」

    晩ごはん兼、年越し蕎麦出来上がり。こたつに運ぶ。

    唯「たーくん、隣に入るね」

    尊「あー、四人用こたつに五人だからか」

    美「あら、私とお父さんで隣り合って座るからいいのに」

    覚「これだと、一面空くぞ?」

    ソファーに近い所から時計回りで尊、覚と美香子、唯と若君、と落ち着き、食事スタート。

    尊「なんやかんやで、くっつきたいんでしょ」

    唯「そゆこと。たーくんごめんね、狭いけど」

    若「構わぬ」

    紅白歌合戦が始まった。

    美「あら尊、もう横になるの?」

    尊「体の中も外もぬくぬくだからさ、眠い」

    覚「寝るのはいいが、そこの毛布かけろよ」

    尊「うん。ミカン、僕の分残しといてよ」

    ソファーの上に、毛布が何枚か用意されていた。一枚ズルッと引っ張り、早速寝始めた尊。

    若君 心の声(いつもなら、すぐ実験室や自室に籠るであろうに。余程居心地が良いとみえる)

    唯が、ミカンの筋を丁寧に取っている。

    美「珍しいわね」

    唯「たーくんにむいてあげてるから。はい、あーんして」

    若「お?あぁ。…甘い」

    唯「だよねー、うん甘っ」

    覚「自分用のは、筋そのままで、秒で口に入るよな」

    唯「当然でしょ。あれっ、お母さ~ん」

    美「なに」

    唯「ちゃんと尊にもミカン残しとかないと!」

    美香子の手元には、ミカンの皮の山。

    美「わかってるわよ。ちゃんと尊の分はよけてある」

    覚「それにしても、もう四つ目だ」

    唯「たーくん、お母さん前にね、家にあるミカン全部食べちゃって、尊が僕も食べたかったのに!って怒ったの」

    美「反省してますって」

    若「なるほど。それで先程念押しをしたと。ハハハ」

    覚「また手が黄色くなるぞ」

    10時を回った。尊が起きる。

    美「はい、尊様、ミカンどうぞ」

    尊「うん。食べる」

    唯「尊、そこの毛布取って」

    尊「あいよ」

    ソファーから一枚取り、こたつの一つ空いている席に置いた。

    唯「眠い、寝る。年明ける直前に起こして」

    覚「わかった」

    若「部屋でなくて、良いのか?」

    唯「うん、いいんだよ。私その毛布置いたトコに移るから、たーくんここ広く使ってね」

    席を移動し、毛布でみの虫状態になった唯が眠りについた。

    覚「忠清くん、お茶飲む?」

    若「はい、頂戴します」

    お茶を飲みながら、若君は考えていた。

    若 心(そうか…!今ここでこの時を、家族膝を突き合わせ共に過ごす、それが肝要であると。親の思いに子達が寄り添うておるのじゃな)

    唯の寝顔を覗き込む若君。

    若 心(今年は、この時を与えてやれた)

    11時45分。紅白が終わった。

    唯「たーくん、もうすぐ年が明けるよぉ」

    若「お…?いつの間にやら眠っておったか。これはしたり」

    肩に毛布がかけられていた。

    美「すごく姿勢良く寝てたから、最初気付かなくてね」

    若「そうでしたか」

    唯がテレビのチャンネルを替えた。賑やかにカウントダウンが始まっている。

    唯「もうすぐ、もうすぐぅ」

    全員こたつに入り待っていると、年が明けた。

    唯「ヒャッホー!明けましておめでとっ、たーくん!」

    若「え、あっ」

    いきなり唯に飛びつかれ、若君はバランスを崩し、二人、仰向けに倒れ込んだ。

    尊「危ないよ!」

    美「大丈夫?!こたつに膝ぶつけたりしてない?」

    若「大事ない…です」

    唯「ダメじゃ~んたーくん、ちゃんとどっしり構えてないとー」

    覚「勝手にやっといて、何だその言い草は」

    美「困った子ねー。さてと、じゃあ早速初詣に出掛けますか」

    尊「そうだね。着込まないと。はい、そこの二人、イチャイチャは帰ってからして」

    唯「はいはい」

    家族五人、静かな夜道を進む。子供達の声だけが響いている。

    尊「さみーよー」

    唯「マフラーぐるぐるで帽子も耳あてもして、出てるトコほとんどないクセに、なによそれ」

    若「確かに、尊かどうかもわからぬよのう」

    後ろから眺める両親。

    美「なんか、なんかね」

    覚「言わなくていいぞ。わかるから」

    美「…うん」

    氏神様に詣でる。人の姿はまばらだ。

    美「ふう。あらっ」

    若「…」

    若君が、格段に長く手を合わせている。

    覚「信仰心に、差が出てるな。偉いよ」

    帰り道。

    覚「さすがにシンシンと冷えてくるな」

    美「この、冬独特の空気感もいいわよ」

    尊「帰ったら、何か温かい飲み物欲しい」

    覚「わかった」

    若「唯、寒うないか?」

    唯「ん、ちょっと」

    それを聞いた若君、繋いだ手をほどき、唯の肩を抱いて引き寄せた。

    唯 心の声(きゃあ!)

    若「まだ寒いか?」

    唯「えっと…」

    唯 心(たーくんカッコいいっ。ぽーっとしちゃうぅ)

    唯の曖昧な返事で、若君が考えている。

    若「そうか…ならば」

    唯「え?」

    若君は、着ているコートのボタンを外し、前を開けた。

    唯「え、どしたの?」

    若「入れ」

    唯「えぇっ!」

    若「冷えては辛かろう。さあ」

    唯「…」

    尊「お姉ちゃん、開けてる方が寒いに決まってるでしょ、さっさと入ってあげなよ」

    唯「う、うん。ありがと、たーくん」

    若君のコートに、一緒にくるまった唯。

    若「寒くはないな?」

    唯「うん!超あったかいよ」

    若「うむ」

    覚「…何て言うかさ」

    美「うん」

    覚「あぁいう事が、スマートにできるのがさすが忠清くんだな」

    美「同感です」

    帰宅。こたつに直行する唯と尊。

    覚「はい、生姜湯にしたぞ」

    美「あら、いいわね」

    唯「甘いヤツ?」

    覚「そうだ」

    尊「あったまりそう。いただきます」

    若「いただきます」

    寛ぐ五人。

    覚「明日の朝ごはんだが、雑煮だ。忠清くん、雑煮はわかるよね?」

    若「はい」

    覚「餅は、遅くとも9時頃には焼き始めるから、ちゃんとその頃にはみんな起きろよ」

    唯「はぁい、がんばります」

    尊「はーい」

    若「心得ました」

    家族全員、小休止後、程なく床についた。そして…

    覚「心も体もキリっとするな。いい朝だ」

    元旦を迎えた。

    若「お父さん、おはようございます」

    覚「おっ、さすが忠清くん、早いな」

    リビングに二人だけ。時計は6時過ぎを指している。

    覚「あのさ」

    若「はい?何でしょうか」

    覚「稽古とか全部終わってからでいいからさ、一緒に初日の出、見に行かないか?」

    若「初日の出。はい。それは、いかにも霊験あらたかですね」

    覚「そうだね。太陽は毎日昇るとはいえ、やっぱり特別だから」

    6時50分。覚の運転で、見晴らしの良い場所に来た二人。

    覚「ここは、東の空が開けてるから。黒羽城公園よりね」

    若「そうですね」

    人が集まって来ている。覚が、カメラを取り出した。

    覚「よし」

    日が昇った。歓声が上がる。

    覚「なかなか上手く撮れたと思うな」

    若「それは何よりです」

    覚「忠清くん、こっち向いてくれる?」

    若「え?はい」

    パチリ。

    覚 心の声(初日の出と色男。うん、絵になる)

    7時30分、帰宅。唯と尊はまだ起きてこない。

    美「初日の出、私も起き抜けにベランダから拝めたわ」

    覚「そうか、済まんな。ふと思い付いてササッと出掛けたからさ」

    美「いい。起こされても、すぐに支度は無理だったし」

    覚「さてと。あいつら、当分起きてこないよなぁ。今日は朝ごはんが遅いから、忠清くん手持ち無沙汰だよね。ちょっと待ってな」

    若「はい?」

    覚が、箱を持ってきた。

    美「あら、お正月っぽい」

    若「かるた…小倉百人一首、ですか?」

    覚「あ、やっぱりわかるんだ!買ってきた甲斐があったよ~」

    若「この先の世にも、残っておるとは」

    覚「知ってるならさ、絶対僕らは太刀打ちできないと思うんだよな」

    美「昔、暗記したわ~」

    覚「僕、読み上げてあげるからさ、二人勝負してみたら?まだ時間あるし」

    美「そうね。忠清くんの一人勝ちでいいし」

    覚「一応やってみたら。いい?忠清くん」

    若「はい。お頼み申します」

    百人一首スタート。半分位進んだ所に、尊が下りてきた。

    尊「おはよう。なに、雅な遊びしてるじゃん」

    覚「忠清くんは雅なんだがな」

    美「え~?私が違うみたいじゃない」

    覚「見てればわかる」

    尊「ふーん。じゃあお手並み拝見します」

    終了。若君優勢だが、美香子もかなり取っていた。

    尊「なるほど。上の句を聞いてすぐ動き出して、ゆったりと取るのは兄さん。わかった段階でサッとかすめ取るのが母さんなんだ」

    覚「見ててさ、忠清くんが断然先に理解してるのに、母さんが大人げなく取ってくんだよ」

    美「あら、ごめんあそばせ。案外覚えてて、つい力が入っちゃって」

    若「ハハハ。いえ、楽しませていただきました」

    尊「そう考えるとさ、ジェンガって時間制限基本ないし、兄さん向けで優雅な遊びだったかもね」

    覚「確かに。外国発祥なのにな」

    朝ごはんの用意をしている。もうすぐ9時。唯はまだ下りてこない。

    若「起こして参ります」

    美「お願いね」

    尊「兄さん」

    若「なんじゃ?」

    尊「僕の読みなんですけど、何かグズってたら、初夢は今夜見る夢、って言ってください」

    若「ほぅ。そうか、わかった」

    唯の部屋。

    若「唯、そろそろ朝飯じゃ。腹も減っておろう?」

    唯「ん、んん~」

    若「なんじゃ?」

    唯「もっと、たーくんとラブラブな初夢見たいぃ」

    若 心(なるほど。さすが尊、ようわかっておる)

    若「唯。初夢は、今夜見る夢を指すのじゃ」

    唯「そうなの?知らなかった。んー、じゃあ起きる…いや、起きない」

    若「え?」

    唯「眠り姫はぁ、王子様のキスで、目覚める」

    若「それは…姫君も様々居るのだな。ハハハ」

    顔を近付け、軽くチョン、と唇を合わせた若君。

    若「姫、起きて賜れ」

    唯「え~、もうちょい時間かけてよぅ」

    若「餅は待ってはくれぬぞ。ほれ」

    唯「はぁい」

    二人が下りてくると、既に雑煮が完成していた。

    美「唯、また忠清くんに駄々こねたのね」

    唯「一応、間に合ったでしょっ。私、餅三つ入れて」

    覚「数は読み通りだが。忠清くんも、同じでいい?」

    若「はい。随分と華やかなあしらいの料理が並んでおりますが、これは?」

    覚「おせちだよ。おせち料理。食材の一つ一つに意味が込められてるんだ。例えば黒豆は、マメに働けるように、とか」

    若「ほぅ…縁起物であると。全ての由来を知りとうなるのう」

    尊「後で、教えますよ」

    覚「では」

    全員「いただきます」

    年賀状が届いた。両親が、追加で書き始めている。その頃、唯達は…

    若「わしが読み上げてやろう」

    尊「わー、こんな贅沢ないよ」

    唯「下の句が並べてあるんだよね。上の句だけじゃ全然わかんないから、下の句が読まれたら急いで探せばいいね?」

    尊「僕も、百人一首はあまり頭に入ってないから」

    若「好きなように楽しむが良い」

    再び百人一首スタート。だが、優雅とは決して言えない大騒ぎになっている。

    尊「痛っ!置いた手の上から叩くなよ!」

    唯「私も見つけたのに先を越されたもん」

    尊「毎回そうじゃん」

    唯「なんか、わかってる風でラクラク取ってんのもあるしさ」

    尊「有名な歌は、上の句でもわかるから。お姉ちゃんが知らなさ過ぎなんだよ」

    唯「えー、ハンデつけてよっ」

    なんやかや言いながらも、素早さは唯が勝り、若干だが唯の勝利だった。

    尊「文句言う割にはさー」

    唯「まっ、このくらいで許してやる」

    若「ハハハ」

    美「今から、追加の年賀状投函してくるわね」

    唯「行ってらっしゃーい」

    尊「ついでに、受け取ってくる?」

    美「えぇ。昼前には戻れると思う」

    覚「よろしくな」

    若「受け取り?」

    美「ショッピングモールまで行って来るわね」

    若「そうですか。お気を付けて」

    正午近くで、母が帰宅した。

    美「ただいまー」

    唯「おかえり~!わぁ」

    尊「やった~」

    若「何を持ち帰られた?この箱の形、見覚えがあるが」

    覚「おー、よしよし。どうする?昼から始めるか?」

    唯「そーするー!早くお祝いしたいし」

    覚「じゃあササッと支度するよ。あ、忠清くんは、手伝わなくていいから」

    若「それは、何ゆえ…」

    唯「まーまー。座ってて」

    こたつは既に片付けられている。食卓に、おせちも並んだが、皿やフォークやナイフも並ぶ。

    覚「よーし、では、昼ごはん兼誕生日パーティーを、始める」

    若君以外の四人、パチパチと拍手。

    若「誕生日。今日は誰が生を享けた日なのですか?」

    覚「あのさ、忠清くん」

    若「はい」

    覚「永禄では皆さん、1月1日、今日一つ歳を重ねるだろ?」

    若「はい…もしや」

    覚「君にとっては、毎日が大切な日々だし、生まれた日を祝う習慣はないのはわかってる。でも僕達は、君が生まれ、唯と出逢い、ここに来てくれた事に感謝したい。だから、今日を君の誕生日として、祝わせて欲しいんだ」

    美香子が、シャンパン代わりのソーダを全員のグラスに注いだ。箱の中身はバースデーケーキ。忠清くんお誕生日おめでとう、と描いてある。

    美「生まれて来てくれて、ありがとう。これはね、あなたのお母様がお元気でいらしたとしても、同じ事をおっしゃると思うの」

    尊「兄さんに出逢えて、心の底から嬉しい。兄さんを兄さんと呼べるのも嬉しい。ありがとう、忠清兄さん」

    唯「えっとぉ。たーくん、おめでとう」

    尊「…え、それだけ?」

    唯「いろいろセリフ考えてたけど、お祝いできるのが嬉しすぎて、全部すっ飛んじゃった」

    尊「感無量ね」

    覚「さ、みんなグラス持って。忠清くん、面食らってるみたいだけど」

    若「少々、面映ゆい、です」

    覚「喜んではくれてるんだね?」

    若「はい!」

    覚「では、忠清くんの誕生を祝して、乾杯!」

    唯&尊&美「かんぱーい!」

    若「乾、杯!」

    誕生日パーティー、スタート。

    尊「兄さん、こっち見てください」

    若「おぉ」

    唯「はい、笑って~」

    スマホを構える尊。パチリ。

    尊「あはは、おせち越しのケーキはちょっとシュールかも」

    唯「いいんだよ。ダブルでめでたいんだから」

    覚「でな、忠清くん」

    若「はい」

    覚「誕生日には、プレゼントを贈るんだが」

    若「プレゼント。クリスマス、だけではないのですね」

    覚「あー。まぁ時期が重なったから、しょっちゅう何か渡してるみたいになるね。で、君にもプレゼントをね」

    唯「わぁ、結局何にしたの?」

    美「お父さんが家族全員を代表して、とびきりのを選ぶって張り切ってたのよねー」

    若「そうでしたか。気を遣わせて済みませぬ」

    覚「現代的な物にしようか、永禄でも使える物か悩んだんだけどね」

    小さな箱が現れた。

    覚「僕はこういうジャンルはてんで不案内なんだけど、忠清くんには相応しいかなと思って」

    若「拝見します」

    中身は黒い棒状をしている。

    若「これは…上等な」

    覚「あ、嬉しいな~。わかってもらえたんだ」

    尊「墨?」

    唯「墨。字書く時の?」

    美「産地も近いしね。取り寄せとかじゃなく、買いに行ったのよね」

    若「それは難儀をかけました」

    覚「いつかさ、歴史的資料として、これで忠清くんが書いた文なんて出てきたら、感動しちゃうな~」

    尊「壮大だけど、有り得るね」

    唯「すごーい。時代をまたぐ文、的な?」

    覚「いやどうせなら、時をかける書状、はどうだ?ははは」

    美「上手い事言った気になってるわね」

    若「ありがとうございます。大切に、使わせていただきます」

    ケーキは、なんとか完食した。

    美「忠清くん、おせちは無理して食べなくていいわよ。三日は持つように作ってあるから」

    若「そうですか。それはありがたい」

    覚「ありがたい?」

    若「時間をかけ、それぞれの由来が学べますゆえ」

    尊「ダジャレっぽいのも多いけどね。昆布が喜コンブとか」

    若「ほぅ。喜昆布。洒落ておるの」

    覚「ダジャレが洒落るに変換か。なんかカッコいいな。言う人の違いか」

    美「そうね」

    覚「やっぱり」

    唯「ふー。満足満足」

    尊「そりゃそうでしょ。兄さんの分までケーキ横取りしてたじゃん」

    唯「ちょこっともらった」

    覚「ちょこっとのレベルじゃなかったがな」

    唯「ごちそうさま!あのさ、たーくん、ちょっと部屋まで来て欲しいんだけど」

    若「部屋。では食卓を片付けてから」

    美「あらいいわよ~行って。忠清くんはいつもよくやってくれてるから。はい、ごちそうさまね」

    若「済みませぬ。御馳走様でした」

    唯「行こっ」

    二人は二階へ上がって行った。

    尊「あのー」

    美「何?」

    尊「そろそろ例の物を」

    覚「例って何だ」

    尊「お年玉。兄さんの誕生日祝いが終わったら、くれるって言ってたじゃん」

    覚「ちゃんと用意してある。唯達が下りてきたら、三人に渡すから」

    尊「三人なんだ」

    美「結婚した娘とお婿さんには普通は渡さないけど、正月に帰省なんてそうそうないだろうから、特別にね」

    尊「なるほど」

    唯の部屋。

    唯「あのね」

    若「うむ」

    唯「私も、たーくんにプレゼント…用意したんだけど」

    若「先程とは別でか?それは忝ない」

    唯「理想としては、どーんと手編みのセーターとかマフラーとかさ」

    若「ふむ。大きく出たのう」

    唯「でも作った事ないから、何年かかるかわかんないし」

    若「理想は、高かったと」

    唯「永禄でも使える物で考えてね、巾着袋とかがいいのかなって」

    若「巾着袋?」

    唯「えーっと、金のけむり玉が入ってた、上を紐でキュッとしめる」

    若「あの形か。使い勝手は良さそうじゃの」

    唯「巾着袋くらい、たいていの女子は手作りするんだけど」

    若「ほぅ。されど、そこらのおなごとは違うておるゆえ」

    唯「大きく違ってすんません!買ってきちゃいました!でもねでもね、手作り感出したくて」

    若「いかがしたのじゃ」

    唯「ワッペンつけようと思って。あ、布でできた飾り的な?でも、周りをぐるっと縫うとかが」

    若「何年もかかるのか」

    唯「うぅ…ツッコミがうまくてグサっと刺さる。そんなにはかかんないけど、アイロンでくっつくのがあるから、それでくっつけた」

    若「アイロン。熱くして布の皺を伸ばす機械じゃな」

    唯「という訳で」

    若「言い訳が長かったのう」

    唯「もらって!たーくん、誕生日おめでとう!気持ちだけはギュっと入ってるから!」

    差し出された紙袋の中を確認する若君。

    若「ほほぅ」

    紺と黒の細かい縦縞。色使いがシックな袋の真ん中に…

    若「何の印じゃ?」

    唯「唯はたーくんが好き、って意味ですぅ」

    左からアルファベットのY、ハートマーク、アルファベットのTの形のワッペンが、ドンと貼り付けられている。三文字とも赤でかなり大きい。

    唯「あ~、色とか組み合わせがちょっとヤバかったかなぁ。ダメ?」

    若「使う折に皆に見せつけよう」

    唯「えっ、使ってくれるの?」

    若「何を申す。至極当然ではないか」

    唯「良かったぁ」

    若「ありがとう、唯」

    唯「嬉しいっ」

    若「唯に何か貰うなど初めてじゃの」

    唯「あ、そうかな、そうかも。たーくんには落雁やチョコボールもらったけど」

    若「菓子しか渡しておらぬようじゃの」

    唯「だってそうじゃん?あ、そんなコトないな。ヤな事思い出した」

    若「なんじゃ?」

    唯「中身が超ショックなメール、渡された。あれはカウントしたくない」

    若「あぁ、あれか」

    唯「お別れのメールは、これからもいりませんから!」

    若「案ずるな。それはもう、ない」

    若君の手が、唯の肩に。近付こうとして、体の向きを変えると、巾着袋が若君の膝から滑り落ちた。

    若「ん?」

    唯「え?なに」

    若「取れよった」

    ハートマークのワッペンが、接着が甘かったらしくポロっと取れている。

    唯「え…ギャー!」

    若「おわっ」

    唯に耳元で大声を出され、のけぞる若君。

    唯「やだもー!なんでぇ、あれっ、他のもなんかグラグラしてない?えーショック~!すぐアイロンかけてつけ直さなくちゃ!」

    若「すぐ、か」

    唯「下行く!あーん、もう~」

    若「そこまで急がずとも」

    もう立ち上がっている唯。呆気に取られながら見上げる若君。

    唯「たーくんどうする?ここに居る?」

    若「あ、いや。わしも行く」

    若君も立ち上がった。

    若「…フッ、フフッ」

    唯「やだ、笑わないでっ」

    若「まこと唯は、面白い」

    唯「それ…こっちでの意味でしょ」

    若「どうじゃろ」

    部屋を出る二人。

    若「ハハハハ」

    唯「もー、笑い過ぎだって!」

    家族の元へ下りて行きました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    いい年でありますように。

    次回は、令和Daysに戻ります。

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    二人の令和Days126~22日16時、そっち?

    進まないのがミソ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    野草を摘み終え、城に戻った唯と若君。

    唯「あ、伊四郎さん!ただいま~」

    若君に聞こえないよう、唯に近寄り小さい声で話し始める伊四郎。

    伊四郎「無事で、何よりじゃ」

    唯「え?」

    伊「さっき若君様が、血相を変えて飛び出して行かれたからな。多分奥方様の一大事なんだろうと思ってたんだ」

    唯「そうだったの。ありがとう、教えてくれて」

    若君が前を歩く。

    唯「え、こっち、おふくろさまの部屋じゃない?」

    若「先程、唯が外に出たのを三之助と孫四郎に聞いたゆえ、取り急ぎ礼を申しに参る」

    唯「そうなんだ」

    吉乃の居室。

    吉乃「よう、ご無事で」

    唯「心配かけてごめんなさい」

    若「三之助達は、まだ屋敷を駆け回っておりますか」

    吉「折角お越し頂いたのに済みませぬ。唯の無事は、伝えておきます」

    若「お頼み申します」

    二人の後ろ姿を見送る吉乃。

    吉乃 心の声(無事は何より。若君も落ち着きを取り戻され。されど…今や唯が若君を想うより、その逆が勝っておるように思えてならぬのは、気のせいか?)

    若君の居室に戻って来た。

    唯「ねえ」

    若「ん?」

    唯「今日、こっそり客間使うじゃん。なになに?ってみんな集まって来たら、困るよね」

    若「囲炉裏は使うが、襖障子は閉めるがのう。不審には思われるやも知れぬな」

    唯「あけるな、忠清。って書いて貼っとく?」

    若「ハハハ。そうか、よし、わかった」

    唯「え、半分冗談だったんだけど」

    すぐ用意をし、サラサラ書き出す若君。

    若「皆に知れてしもうては」

    唯「うん」

    若「今後、サプライズ、にはならぬであろう?」

    唯「あ。そうだね!」

    その頃、客間。源三郎とトヨが、若君の料理のために支度をしている。

    源三郎「水汲んできたぞ」

    トヨ「ありがと」

    囲炉裏に火を入れるトヨ。

    ト「ふう、これで良しと」

    源「お疲れさん」

    源三郎&トヨ 心の声(ちょっとちょっと!ふと気づけばこの状況、ヤバ過ぎるって!)

    襖障子は既に閉めてある。よって、周りにわからない状態の部屋に、二人だけ。

    源 心(若君様達に、早く来ていただきたいような、ずっと来て欲しくないような。困った、妙な汗が)

    ト 心(どうしよう、心臓バクバク!いや、ダメよ、火扱ってるんだから集中しなきゃ)

    しかし、動揺が押さえきれず、うっかり火種に指を近付けてしまったトヨ。

    ト「熱っ!」

    源「どうした!ヤケドしたのか?この指か?」

    ト「あ、ううん、大した事ない…え!」

    トヨが熱がった指を、咄嗟に自分の口に含んだ源三郎。

    ト「げ、源ちゃん!」

    源「いいから」

    源 心(ここまでは、反射的に動くんだ。あと少し、グッと体ごと引き寄せれば腕の中に…いやいや。そんなん、出来るならとっくにやってる。それができないのが、俺だ)

    ト「はい…」

    ト 心(源ちゃん何~!ときめいちゃうじゃない!あのー、指もいいけど唇…いやいや。このまま腕の中に飛び込む勇気もないクセに、私ったら)

    ところで、唯と若君は既に客間の外でスタンバイしていた。そっと隙間から覗き、小声で話している。

    唯「やーん、源三郎グッジョブ!まだ入んない方がいいよねぇ」

    若「あと三分程待つか」

    唯「3分?」

    若「三分あれば、永禄と令和の行き帰りも出来る位じゃ、二人の仲も一段進むのではないか?」

    唯「たーくん、面白がってない?」

    若「滑稽とは、思うておらぬ。行く末を見守るのみ」

    源三郎が、トヨの指の様子を見ている。

    源「大丈夫か?急に済まなかったな」

    ト「ありがと、源ちゃん」

    手を離した源三郎。黙り込む源トヨ。

    ト「お返し…」

    下を向いていたトヨが顔を上げた。

    ト「あたしから、お返しを」

    源「お返し?」

    源三郎に、にじり寄るトヨ。

    源「な、何の真似だ」

    焦る源三郎。固唾を呑んで見守る唯と若君。

    源「えっ?!」

    唯&若「え」

    トヨは、源三郎の手を掴み、自分がヤケドした同じ箇所の指を、パクリと口に入れていた。

    唯「ありゃ」

    若「これはまた」

    トヨの目が泳いでいる。源三郎も、すぐに言葉が出ない。

    源「…トヨ」

    ト「は、はい」

    源「落ち着けって」

    ト「や、やっぱり?言ったはいいけど、なんか一杯一杯で」

    源「いや、いいんだ。ふぅ…落ち着け、俺」

    ト「ごめんね、驚かせて。源ちゃん…なんか、らしくないわ。声が震えてる」

    源「あ?いや。これこそ俺、俺なんだよ。俺はさ…意気地無しだから」

    ト「え?何で。今のはあたしが血迷ったからでしょ、どこが意気地なしなの?さっきの源ちゃん、すっごくカッコ良かったし、好…あわわ」

    源「何だ?」

    ト「ふう、危なかった…な、何でもない。そんな気にするような事ないと思うわよ?」

    源「これがまた俺の厄介な所でさ。でも、ありがとな」

    ト「よくわからないけど。どういたしまして」

    源「そういえば話変わるけどさ、女中達が、トヨ怖~いって口々に話してたぞ」

    ト「あっそう。少し怖い位でいいのよ。軽くシメはしたけどね」

    源「軽く、な」

    ト「よく見張っといてくれって言ったのは、源ちゃんじゃない~」

    源「言ったは言ったが。やっぱ女中頭のシメ方は違うなー」

    ト「何よそれ、手練れみたいな言い方しないで~!」

    笑い出した源トヨ。それを合図のように、唯と若君は顔を見合わせた後、声をかけた。

    唯「お待たせぇ」

    若「待たせたの」

    源トヨが、笑いながら振り向いた。

    源「お待ちしておりました」

    ト「どうぞ、いらっしゃいませ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

    今年も皆様にはお世話になりました。ありがとうございました。
    年が明けましても、しばらく創作倶楽部にお邪魔いたします。拙い文章で恐縮ですが、よろしければ、今後もお付き合いください。

    新年一番ですが、一回お休みして、もしもDaysをお送りします。長文になりましたので、ちゃんと送信できるか心配…祈っときます(-人-;)

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    二人の令和Days125~22日木曜15時、自覚が足りぬ!

    そう、起こってからでは遅いから。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君が、城内を歩き回っている。吉乃が声をかけた。

    吉乃「若君様、いかがなされました」

    若君「唯の姿がなく…ご存じありませぬか?」

    吉「唯ですか。そこらに居らねば、阿湖姫と会われておるのでは?」

    若「今、阿湖姫に尋ねましたが、寄ってはおらぬと」

    吉「何か唯に御用でも?」

    若「わしが城に戻り次第、共に出掛ける約束をしておりました」

    吉「そうでございますか。ならば居らぬのは解せぬ話」

    孫四郎「きゃー!」

    三之助「待てぇ!」

    はしゃぎながら、三之助と孫四郎が走って来た。

    吉「これ、若君様の前で走り回るでない!…そうじゃ、そなた達、唯を見かけなんだか?」

    孫「唯之助ならば、城から出て行きましたあ」

    若「何だと。まことか?」

    三「籠を抱えて、手を振っておりました」

    吉「供の者は居ったか?」

    三「ううん。一人じゃった」

    吉「はああ。何とした事か。あっ、若君様!」

    聞くや否や、若君は走って行ってしまった。

    吉 心(いたく狼狽されて…唯は何をしでかしておるのじゃ!)

    疾風に急いで乗り、城を出る若君。疾風の世話をしていた伊四郎が見送る。

    伊四郎「先程はあんなに、何やら楽しみなご様子で戻られたのに。どうされたのじゃ…」

    その頃の唯。

    唯「うん、写真と一緒。よし、と」

    城近くの小高い丘。野草の本を片手に、草とにらめっこしている。

    唯「ふぅ。ずっとしゃがんでると腰痛いな」

    立ち上がって伸びをした。すると、遠くで馬の嘶きが聞こえる。

    唯「馬?もしかして…」

    人の声も聞こえる。

    若「唯~!唯~!」

    唯「あ、たーくんだー」

    声のする方に、大きく手を振る唯。

    唯「若君さまぁー!ここー!」

    若「おぉ、唯!」

    若君が到着。駆け寄る唯。

    唯「お帰りー」

    若「唯…」

    疾風から下りるや否や、唯の両肩をガッチリ掴んだ若君。

    若「無事であったか?どこも怪我などしてはおらぬか?酷い目に遭うては…おらぬか?」

    唯「だ、大丈夫だよ。えっ、なに」

    若君が、鋭い目つきに変わった。

    若「この、大たわけ!!」

    唯「きゃっ!」

    若「唯は最早、足軽小僧ではない。身なりも違うておる」

    唯「はい…」

    若「山中を一人でなど、決して歩いてはならぬ!どこぞの間者が、城の姫と知って、拐っておったやもしれぬ。また、おなごと見れば寄って来る輩もあるだろう…取り返しのつかぬ事になってしまってからでは、遅いのじゃ!」

    唯「あ…」

    ようやく、身の危険があった事に気付き、血の気が引いた様子の唯。

    唯「ごめんなさい、ごめんなさい!」

    若「何事もなかったのだな?」

    唯「はい」

    若「そうか」

    そのまま、強く抱き締められた。

    唯 心の声(たーくん、汗びっしょりだ…ごめんなさい、ごめんなさい)

    眼差しが優しく戻った若君。

    若「待ちきれず、先に食べられる野草を探してくれておったのじゃな」

    唯「うん。帰る予定が遅くなってるんだなって思って」

    若「どうしても城を出たければ、必ず供の者を二人は付けよ」

    唯「はい。これからはそうします」

    若「唯にもし何かあったら、わしは…」

    唯「あっ、涙目…ごめんなさい、ホントにごめんなさい!」

    若「無事ならば、良い」

    唯「うん…」

    若君が笑顔に変わった。

    若「ところで、大分、摘めたのか?」

    唯「あ、えっとね、このくらい。今日のメニューには、まだまだだよね」

    籠の中を見せる。

    若「そうじゃな。お父さんが作られるような、滋養のある料理は、此処では難しいゆえ、野草でかさ増しじゃ」

    唯「ふふっ。さっきね、トヨを見かけたんだけど、遠くて。でも、腕で大きく丸!って出してたよ」

    若「そうか。準備は万端のようじゃな。源三郎にも、先程念押ししておいた」

    唯「じゃ、今夜の料理に向けて、あとちょっと頑張ろうね」

    若「あぁ」

    二人、本を見ながら、仲良く草を摘み始めた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    なぜ「悪丸」か?私の考察

    緑合板のざわめきは承知しております。
    このような折に、少し心苦しくはあるのですが、創作は粛々と進めさせていただきます。すみません。

    随分と前…2月5日に投稿していましたが、創作倶楽部no.503で、「悪丸となったのはこれが語源かな?と思っていた別の名前がありました」と書きました。

    裏付けばっちりとまではいきませんでしたが、辻褄はまあ合うかなと、今回令和Days124のお話に落とし込みました。一部抽象的な表現になりますが、こうなった経緯を追記します。

    こくしねるさんがおっしゃっていた通り、名前の悪の意味合いは、悪いではなく超強い。強い男になるんだぞと、日本名を名付けた方の親心だと思います。ただ、名付けるにはきっかけがある筈、それは何かと考えた時、彼の本名にヒントがあるのでは?と思いました。

    人は聞き慣れない言葉を耳にすると、頭の中で知った言葉に変換しがちです。

    「おぬし、名は?」
    「〇〇〇、アクバル、〇〇〇〇〇」
    「あく?今あくまると申したか?ならば以後悪丸と名乗れ」

    こんな感じかと。悪丸を演じたMAXさんは、アフリカのセネガルご出身です。そこに寄せて話を進めますと、16世紀のアフリカは、三角貿易(詳しくはここでは書きません。NGワードが含まれそうですので)の頃です。だから、悪丸も巡り巡って日本に辿り着いたと思われます。

    前のシリーズ、平成Days47で唯が「悪丸にどこの国から来たの?って聞いた事あるんだけど、すっかり忘れちゃった」と話しましたが、今とは国名が違いますし、唯でなくても覚えられなくてごもっともです。悪丸がまだ居たであろう頃のセネガルの辺りは、国の分裂が盛んに行われていた時期で、国名は特定できませんでした。

    で、アクバルさんってお名前あったよなぁ…と調べてみたんですが、夕月調べでは中東や東南アジア出身が多く、アフリカとはちょっと遠い。アラビア語でアクバルは偉大、という意味だけど、その国々ではアラビア語は話されていない。MAXさんは、プロフィールによるとアラビア語もOKだそうですが。

    でもその国々、宗教は同じです。セネガルは、公用語は植民地だったこともありフランス語ですが、お国の方のお名前の表記でいくと、フランス寄りではなくアラビア寄りと感じます。

    結果、名前にアクバルって入ってても有り得るかなと思いまして、入れ込んだ次第です。

    ちょっと無理無理だったかもしれませんが、なにせ創作ですので…大目に見てやってくださいませ。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days124~21日17時、最強の味方

    尊に教えてあげたい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯と若君と悪丸。

    若君「おぬし、この国に参った折に、名を新しく付けられたであろう」

    悪丸「名。はい」

    若「生まれ育った地での、名であるが」

    悪「はい…」

    若「もしや、アクバル、と入ってはおらぬか?」

    悪「あ、え?」

    若君の言葉を聞いた悪丸が、動揺している。

    悪「…その通りでござる。何故その名を」

    唯「へー、やっぱそうなんだ。尊すごーい」

    若「そうか、合うておったか。わしではない、師匠の了見じゃ。このように書くのか?」

    メモの、尊が書いた部分を見せる。

    悪「…然り」

    メモを指で一文字ずつ追っている。

    若「済まぬの。かえって、参った折の辛さなど思い起こさせたやも知れぬが」

    悪「いえ」

    若「良い名じゃ」

    悪「痛み入り、ます」

    若「大きく、立派という意味合いであろう?」

    悪「なんと。若君様は何でもご存じじゃ…」

    唯「偉大、だよね」

    若「これからも、悪丸は悪丸じゃが」

    悪「はっ」

    若「うむ」

    疾風の手綱を取る若君。悪丸が前に出た。

    悪「わしが」

    若「そうか。頼む」

    悪丸は、深く一礼し、疾風を城内へ連れて行った。

    唯「合ってたね」

    若「そうじゃな。尊に伝えられぬのは残念じゃが」

    唯「いつか言えるよ」

    若「うむ。その日を楽しみに待つとしよう」

    二人は、手を繋いで城へ戻って行った。

    女中1「あ、若君様よ!今日も一段と、麗しくていらっしゃるわ~」

    女中2「素敵~」

    女中3「ホントよね~」

    通って行く若君と唯を、城内の女中達が遠巻きに見ている。

    女2「そういえば知ってた?阿湖姫様の指先。このところ、とても美しく輝いていらっしゃるの」

    女3「チラリと拝見したわ。素敵でいらした」

    女2「でも、奥方も同じような指先なのよ」

    女1「阿湖姫様が、揃いにして差し上げたのではないかしら」

    女3「有り得るわね。なんと慈悲深いお方」

    女1「生粋のお姫様は、違うわね~。確か、海道一の手弱女と謳われていらっしゃったのでしょう?」

    女2「それにひきかえ」

    女1「あー。比べるのは阿湖姫様に失礼よ」

    女3「そうそう」

    女1「あーあ、若君様には、もっと楚々とした姫君と夫婦になっていただきたかったわ」

    女2「そうそう、もっとたおやかな姫ね」

    女3「海道一とは言わないけど、いくらなんでも」

    女1&2&3「ねぇ~」

    トヨ「ここにも居ったか…ちょいとお待ち!」

    トヨが、眉間に皺を寄せながら、三人の前に立ちはだかった。

    女3「な、何ですか?」

    ト「阿湖姫様は、勿論とても麗しいお方よ。でもその後、結構な言い草よね」

    女2「え?」

    女1「怒ってる?」

    ト「アンタ達に何がわかるの」

    女2「どういう事?」

    ト「いいわ」

    女1「何!」

    女3「怖い~」

    ト「そこへ、直れ」

    女1&2&3「え、え~?!」

    その場に正座させられる三人。

    ト「どれだけ奥方様が素敵な姫か、とことん教えてあげる。反省の色が見えるまで、そのままじゃ!」

    その頃、若君の居室に若君と唯。

    若「唯に見せたき物がある」

    唯「なになに!」

    棚から紙を取り出した。何か絵が描いてある。

    唯「絵?誰か描いてくれたの?」

    若「わしが描いた」

    唯「えぇっ!たーくんそんな才能あったの?!びっくり~」

    若「よう描けておろう」

    唯「ぷっ。それ、まんま自画自賛てヤツじゃん。これって、じい?」

    若「そうじゃ」

    唯「着物じゃないね。なんか、きてれつなカッコしてる」

    若「わからぬか?」

    唯「うぇっ、もしかして…トランプのジョーカー、じいの姿で描いてみた?」

    若「そうじゃ、良かろう?いつか厚く上質な紙が手に入ったら、トランプを一式作ってみたいと思うての」

    唯「へー、すごーい!いつかできるといいね!それにしてもさぁ」

    若「ん?」

    唯「たーくん…ヒマなの?」

    若「平和な時を満喫、と申せ」

    唯「そうだね。あはは~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    21日のお話は、ここまでです。

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    二人のもしもDays4、戦国のクリスマスプレゼント篇

    超久々に、もしもDaysをお送りします。
    もしもDaysのシリーズは、本来唯と若君が現代に居ない筈の時季に、季節のイベントを楽しんでもらうコンセプトなんですが…今回は、永禄の二人でお送りします。

    もしも、か、今まさに、か。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    永禄。日が落ちて大分時間が経っている。

    唯「いよいよ明日かぁ。気分だけでも盛り上げよーっと」

    寝所で、何やら書いてある紙を見ている唯。すると、襖が開いた。

    若君「待たせたの、唯。ん?何か読んでおるのか?珍しい」

    唯「あ、たーくん。お疲れ様ですぅ。でもって、珍しいは余分ですぅ」

    若「ハハハ、ご無礼いたした。されど、蝋燭でも暗かろう。何じゃ?碁盤の目のような」

    唯「なんとなーく、見覚えない?」

    若「あるのう。もしや、カレンダー、か?」

    唯「当たり!」

    若「拵えたのか」

    唯「うん。カウントダウンしてるの」

    若「んー、それは、指折り数えておるという意味合いか?」

    唯「そうそう。わかってるぅ。明日ね、クリスマスイブなんだよ」

    若「あぁ、クリスマス、か。以前平成、に参った折に、頻りに申しておったの」

    唯「うん。こっちではなんにもできないけどさ、考えるだけでウキウキなんだぁ」

    若「そうか」

    表情をコロコロ変えながら楽しげに話す唯に、慈しむように微笑みかける若君。

    唯「明日の晩、雪降んないかな」

    若「雪?しばらくはなかろう」

    唯「降らないかー。え、たーくんいつから天気予報できるようになった?」

    若「予報、はできぬ」

    唯「じゃあなに」

    若「朝晩はかなり冷えるが、この時季にしては暖かい」

    唯「そっか」

    若「何ゆえ、雪が良いのじゃ」

    唯「景色が真っ白でキレイなホワイトクリスマスになるから。ロマンチックでしょ?」

    若「ロマンチック…それもよう聞いた気が。そういう物なのか」

    唯「そういうモンなの」

    若「ハハッ」

    唯「なんでそこで笑う~?」

    若「いや。このような、とりとめのない話をしておる時間、も楽しゅうての」

    唯「そぉ?えへへ」

    二人、床についた。向かい合い見つめ合う。

    若「雪は降らずとも、そこそこ冷えてはおる。寒くはないか?」

    唯「そんなに寒くないよ。って…やだ、微妙に離れてってない?」

    若「暑かろうと思うて」

    唯「暑いなんて言ってないぃ。わざとでしょ」

    若「からこうてみた」

    唯「意地悪!はい、戻ってっ」

    若「ハハハ」

    唯「もー、油断も隙もないんだから。ちゃんとくっついててねっ。おやすみたーくん」

    若「おやすみ、唯」

    翌朝。領内の見回りに出ている若君と小平太。

    小平太「今朝も厳しい冷え込みでしたが、漸く暖まって参りましたな」

    若「そうじゃな」

    小「若君様も、お身体を冷やされたりなどなさいませぬ様」

    山に入って行く。川の上流、岩場の多い所に出た。

    若「充分な水量じゃ」

    小「はい」

    水しぶきを上げる程、岩肌を勢いよく流れる川。辺りは、当たるしぶきが凍り、うっすら白くなっている。

    若君 心の声(そうじゃ…!)

    夜になった。寝所で唯が空を見上げている。

    唯「てるてる坊主、逆さに吊るすと雨降るんだっけ。でもまんま雨だと困るしなぁ」

    若君が来た。

    若「唯、中に入れ。冷えてしまう」

    唯「雪、無理っぽいね。ざんねーん」

    若「そのようじゃな」

    褥の中。

    若「クリスマス、にはプレゼント、であったな。あの、中で雪が舞う」

    唯「スノードームだね。ごめんね、なにも用意できなくて」

    若「わしは、唯が笑うてさえいてくれれば良い」

    唯「私もね、こうしてたーくんと一緒に居るだけで超幸せだから」

    若「おやすみ、唯」

    唯「おやすみたーくん」

    深夜。若君がそっと褥から抜けた。向かったのは、自身の居室の前庭。

    若「上手くいくと良いが」

    手には柄杓。目の前には松などの木々や灯籠。手桶から水を掬い、弧を描くように水を放った。

    若「もっと全体に…」

    何度も、木々に水をかける若君。

    若「ふう…」

    ガサッ、と物音。男が現れた。

    若「何奴じゃ!」

    小「おぬしこそ何奴!…え?若君様ではございませぬか」

    若「小平太か。今宵は警固であったか」

    小「はい。バシャバシャと音が聞こえましたゆえ、馳せ参じました。こんな夜更けに、何をされておるのですか?」

    若「唯を、喜ばせてやりとうての」

    小「は?水かけが、でございますか?」

    若「雪が見たい、と申すのじゃ」

    小「また突拍子もない事を…あ、口が過ぎました」

    若「望みを叶えてやりとうて。こうすれば水が凍り、朝少しは葉が白く化粧しておるかと思い」

    小「此処で、ですか。寝所前ではなく」

    若「音で起こしとうない」

    小「それは…ならば、わたくしがやっておきます」

    若「いや、小平太には関係のない話じゃ」

    小「何回か回る度に、かけておきましょう。若君様、体を冷やしてはなりませぬ。調子を崩されては、奥方様に見せる事も叶わなくなります」

    若「そうか…そうじゃな。済まぬ。では頼む」

    小「早うお戻りください」

    若「忝ない」

    回ってくる度に、庭木に水をまんべんなくかける小平太。

    小平太 心の声(若君は、何事も懸命にされる。特に、唯之助が関わると目の色が変わる程…おなごを好きになるとは、ここまで熱くなれるものなのであろうか)

    クリスマスの朝。早々に起き出し、居室に向かった若君。

    小「いかがでございましょう」

    若「これは…小平太、大儀であった。日が高くなってしもうては間に合わぬ。すぐに唯を呼んで参る」

    寝所に戻り、唯に優しく声をかける。

    若「唯、起きてくれ。プレゼント、がある」

    唯「んっ…ん、おはよたーくん。プレゼント?!え、ないよ?」

    枕元を探る唯。

    若「済まぬ。ここにはないのじゃ」

    唯「そうなんだ。サンタさんは枕元にプレゼント置いてくからてっきり」

    若「一緒に来てくれぬか?時間との勝負での」

    唯「へ?そうなんだ。わかったぁ」

    若君の居室に近付く。前庭が見えてきた。

    唯「え、あっ!」

    松や灯籠が、うっすら粉をふいたように白くなっている。小平太の姿はない。

    唯「すごーい!ここだけホワイトクリスマスだぁ。キレイ…」

    若「わしが作ったのではない。小平太が水をかけ続けてくれた賜物じゃ。小平太、居るか?」

    小「はっ」

    サッと現れた小平太。

    唯「ありがとう~小平太~!夜やってくれたんだよね。ごめんね、冷たかったでしょ」

    小「然程でもなかった。礼は若君様に。わしは、若君様の奥方様への思いに心を打たれたゆえ」

    小 心(若君様の、その優しい眼差しが全てを物語っておる)

    小「では、これにて」

    若「世話をかけた。痛み入る」

    唯「ゆっくり寝てね」

    少しずつ、小さな氷たちがとけて、雫があちらこちらで光を弾いている。縁に腰をかけ、眺める二人。

    唯「小平太が来なかったら、たーくん朝まで水かけてたんじゃない?ダメだよ、無理しちゃ」

    若「唯の喜ぶ顔が見られるなら、屋敷ごとでも撒く」

    唯「優しーい。あ、ますます私からのプレゼントがないのがヤバい…」

    若「プレゼントなら、とうの昔に貰うておるがのう」

    唯「え?あぁ」

    若「触れても良いか?」

    唯「もっちろん」

    少し大きくなっている唯のお腹に、優しく手を添える若君。

    若「あっ、今」

    唯「蹴ったね。パパに朝のごあいさつだね」

    若「そうかそうか」

    唯「デレデレだしぃ」

    庭はすっかり元の姿に。唯の居室まで戻ってきた二人。

    唯「今日がここでしょ、でね、予定日はこの辺りらしいの」

    若「ほぅ。カウントダウン、はクリスマスだけではなかったのだな」

    唯の作ったカレンダーには、出産予定の大まかな日付も入っていた。

    唯「うふふ」

    若「ハハハ」

    二人が眺めるカレンダーを、朝の光が眩しく照らしていました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    Merry Christmas。

    次回は、令和Daysに戻ります。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days123~21日16時、所以が知りたい

    板が違いますが、てんころりん様、誕生日リスト完成おめでとうございます。唯なみの健脚で駆け抜けましたね!お疲れ様でした。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    城の周りで子供達が遊ぶなんて、いい環境。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯達の元に、疾風に乗って若君登場。

    唯「あ、若君お帰りぃ」

    足軽達は、全員一礼している。

    若君「出来上がったのじゃな」

    疾風を近くに繋ぎ、ブランコを見上げる若君。

    若「千吉、伊四郎、悪丸。大儀であった」

    三人「ははっ」

    若「唯、済まんかったの」

    唯「どういたしまして。ねっねっ、乗ってみて」

    ブランコをこぎ出す。

    千吉「あんなに高く上がるのか」

    悪丸「驚いた」

    伊四郎「若君様、さすが乗り方がお上手じゃ」

    ブランコを降りた。

    若「ありがとう、唯」

    唯「付ける場所ね、ここと、若君の部屋の前と、迷ったの」

    若「ほぅ。決め手はなんじゃ?」

    唯「ここなら、みんな遠慮なく使ってくれるじゃない?ほら見て」

    いつの間にか子供達が集まって来ていた。キラキラした目で、なになに?と見ている。

    唯「ふふっ、人気スポット決定だね。若君なら、一人占めじゃなくて絶対こっちって言うと思ったから」

    若「唯。何という…」

    思わず唯を引き寄せ、ギュっと抱き締めた若君。

    唯「えーっ!あの、あの、恥ずかしいよ、みんなが見てる…」

    若「あ?す、済まぬ。思わず」

    パッと離れた二人。微笑ましく見守っていたギャラリー。

    千「若君様、それではまた早々に材料を手に入れまして、若君様の居室前の木の丈夫な枝に取り付け致します」

    若「それは、痛み入る」

    唯「ありがと、千吉さん。伊四郎も悪丸も、ありがとう!」

    若「では、童達に献上しよう」

    全員、そこから離れた。早速子供達がブランコに群がっている。

    唯「かわいいね」

    若「そうじゃな」

    唯が若君に耳打ちした。

    唯の囁き「たーくん、メモ持ってきといたよ」

    若君の囁き「よう気が付いたの。わかった」

    足軽達に向き直る若君。

    若「世話をかけたのう、千吉、伊四郎。で、悪丸」

    悪「はっ」

    若「悪丸には話があるゆえ、しばし付き合え」

    悪「話。心得ました」

    疾風を繋いだ場所まで戻って来た、唯と若君と悪丸。

    唯「はい、メモ」

    若「おぉ。よし」

    メモを開いた。

    ┅┅回想。8月5日14時、リビング┅┅

    午前中に、吉田君が訪れ若君に人生相談した日。昼食後のリビングに、唯と若君と尊。

    唯「ジェンガさあ、永禄のみんなが読めるように、にょんにょん字で作り変える?」

    尊「自分読めるの?そういう話はさ、その字を全部書けたり読めたりできてからしたら?」

    唯「うっ」

    若「尊の申す通りじゃな」

    尊「心掛けはいいと思うけどね。でも作ってて、皆さんの名前、戦国時代っぽくて楽しかったよ。悪丸さんの悪とか」

    唯「え、それって戦国っぽいの?」

    若「この先の世では、使わぬのか?」

    尊「そうですね。どうしても、善の反対、の意味に今ではとりますから」

    唯「どういう事?良い悪いの悪じゃないの?」

    尊「力強いって意味。ですよね、兄さん」

    若「そうじゃ」

    唯「へー。日本に来てから誰かが付けてあげただろうから、強くなれーって願ったのかな」

    尊「悪丸さんって外国の人だよね。僕思ったんだけどさぁ」

    唯「うん」

    尊「もしかして、お国の名前はこうなんじゃないか?ってのが一つ思い浮かぶんだけど。多分だけど、悪丸って名前、本名と読みが似てるんじゃないかな」

    唯「どんなの?」

    尊「聞いたって忘れるでしょ」

    若「わかった。ならば、紙に書き持ち帰ろう」

    唯「ふーん。じゃあ、半紙と筆ペン持ってきてあげる」

    書き始めた若君。

    尊「お国の名前は、〇〇〇〇ではないか」

    若「ふむ。…ないか、と」

    尊「名の綴りは、隣に僕が書きますね。で、意味は〇〇〇」

    唯「〇〇〇なんだぁ、へー。いい名前だね」

    若「よし、書けた」

    尊「持ち帰るのを忘れないようにしないとですね。そうだな、今回も写真集作りますから、最初のページに挟んどきますよ」

    若「済まぬの」

    尊「いえいえ。いつか、答え合わせしたいですね」

    ┅┅回想終わり┅┅

    若「悪丸よ」

    悪「はっ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。が、

    次回は、令和Daysはお休みして、久々にもしもDaysをお送りします。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days122~21日15時、セット完了です

    いい仕事、します。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    厩の隅にやって来た唯と千吉。板と縄が置いてある。

    唯「あっ、なかなかいいねぇ」

    千吉「そうじゃろう」

    唯「でね、これをこうしたいの」

    土の上に、絵を描いて説明する。

    千「ほぅ、これは変わった代物じゃな」

    唯「ここに乗ってね、ぶらーんぶらーんなの。若君お気に入りなんだよ」

    千「回られた先でお乗りになったと」

    唯「そっ」

    千「で、どこに付ける?」

    唯「表門出たちょっと先に、大きい木あるじゃない?あの枝になら、ボキッとはいかないかなって」

    千「あー、あれな。よう童が登っておる」

    唯「それも踏まえてね」

    千「踏まえて?そうなのか。でな、人手が要ると思い、呼んでおいた。おーい、出番だぞー」

    ワラワラと集まって来た。

    唯「あ、伊四郎さん、悪丸!」

    伊四郎「おー、唯之…いや、奥方様」

    悪丸「久々じゃ。えーと、奥方様」

    唯「なーにー、二人して呼び方があやしい」

    千「人足が少なかったかのう」

    唯「全然!なんなら私、木に登るし」

    千&伊&悪「それはならぬ」

    唯「うわっ。はぁい、おとなしくしてます…」

    千「では、一仕事するか」

    唯「ごめん、ちょっと取ってきたい物あるから、先行ってて。あとさ、若君はまた見回り中?」

    伊「先程、出て行かれたぞ」

    悪「小平太殿と」

    唯「小平太かぁ、あいつちょいちょい邪魔なんだよなぁ」

    千「おいおい」

    唯「失礼しました。じゃあ、すぐ行くから!」

    千「わかった」

    自分の部屋に戻った唯。

    唯「えっと、箱はここに置いといて、で、例のメモは…と」

    ゴソゴソ探す。今回持ち帰った写真集を出した。

    唯「最初のページにはさんどいたから…あったあった」

    メモを取り出して懐に仕舞い、部屋を出た。

    唯「そうそう、まず板に穴開けて、で縄通してギューっと縛りつけてね」

    門の近く、森を少し入った奥で作業する四人。

    伊「よし、固い。こんなもんじゃろ」

    千「そうそう取れぬぞ」

    伊四郎と悪丸が枝に登った。いよいよブランコを取り付ける。

    千「男二人乗ってもビクともせぬ。いい木を見つけたのう」

    唯「でしょ~」

    千「若君様は、気の利く奥方様を迎えられた」

    唯「やーん、嬉しいコト言ってくれるぅ」

    千「ただし、木登りは他に任せるようにな」

    唯「はーい」

    かなり頑丈に、太い枝に結び付けられた。

    唯「ん、大丈夫そう…だね。わぁ、やったー」

    ブランコ、完成。

    千「良かったのう」

    悪「奇妙な品じゃ」

    伊「乗る、物か?」

    唯「うー、ありがとねっ。じゃあ早速、千吉さん乗ってみて」

    千「え!それはならぬ、若君様のお帰りを待とう」

    唯「えー、だって若君が座ってさ、すぐブチッ、ドシンと尻もちとかついたらどうすんの」

    千「それもそうじゃな」

    伊「この中で、一番体が重そうな奴が乗りゃいいだろ」

    千「…わしか。承知致した」

    恐る恐るブランコに腰掛ける千吉。

    唯「大丈夫…かな。千吉さん、両手でしっかり縄つかんで」

    千「うむ」

    唯「行くよぉ、それー」

    背中を押す唯。ぶらーんぶらーんと前後に揺れる。

    千「ややっ!おーっ、何やら、楽しいぞ」

    唯「でしょ。試運転、大成功~」

    若君と小平太が、見回りから戻って来た。

    小平太「何やら賑やかでございますな」

    若君「そうじゃの。ん?唯か?」

    道から少し入った所に、唯達の姿が見えた。

    若「先に戻っておれ。様子を見て参る」

    小「承知致しました」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    メモって何?は、次回。

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    てんころりん様

    私何かやらかしたかしらと、ちょっと身構えてしまいました(;^_^A

    説明もなく話を進めているので、分かりにくい部分が多々あると思います。他の、お読みいただいている皆様もそうですよね。迷わせてしまいすみません(>_<)

    題名に永禄の日付を表示するパターンも考えていたので、一応満月がいつかは調べました。でも閏月もある時代だし、合っているのかは…どうでしょう。あえて当てはめるならという程度に捉えております。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days121~21日水曜14時30分、秘めておきます

    武家の出身だから、きっと口は堅い。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    吉乃の居室に現れた唯。

    吉乃「これで、良かったのかえ?」

    唯「わぁー、ありがとう!やっぱおふくろさまに頼んで正解だったぁ」

    手には、使い古しではあるが大きな紙。

    唯「私が小平太パパに言っても、何に使うんだ、あーだこーだで絶対すんなりもらえなかったと思ったから。もー、おふくろさまがちょうだいって言えば、すぐこのとおり」

    吉「出来た千羽鶴を入れると聞いたゆえ、これがどうしても要ると頼みました。新しい物をねだらぬ心掛けがよろしい。されど、三枚とは何ゆえ?」

    唯「一枚は、鶴入れる箱にします」

    パタパタ箱を折り始める。すぐ出来上がった。

    吉「ほぅ…手際が良い」

    唯「へへっ、でね、あと二枚は」

    外から、元気な声がやって来た。

    孫四郎「かかさまぁ~!」

    三之助「あっ、唯之助が居る!」

    唯「あ、ちょうどいい時に帰ってきたね。少々お待ちを…えーっと」

    さっきとは、折り方が違う。

    唯「でーきたっ」

    三「あっ、兜じゃ!兜が紙でできておる!」

    吉「なんと、これはまた…見事じゃ」

    孫「欲しい、欲しい!」

    三「わしも欲しい!」

    唯「ケンカはダメだよ、もう一個すぐ作るからさ、待ってて」

    兜が二つ完成。

    孫「わぁ!」

    三「わー、兜じゃあ!」

    大はしゃぎの二人。すぐ被り、また外へ出ていった。静寂が戻る。

    吉「どなたかに、教わったのかい?」

    唯「はい、小さい頃、お母さんに。…あっ」

    吉「ふふふ、そう。お国の母上に」

    唯「あ、箱は、お父さんが教えてくれました」

    吉「お父上が。…隠れ屋で?」

    唯「えっ」

    吉「若君様が、隠れ屋との行き帰りで随分と日に焼けておられました」

    唯「あぁ…この前、鶴折ってた時に聞いたんですか?」

    吉「えぇ」

    唯「あの、ごめんなさい、詳しい事は話せないんです」

    吉「良い。若君様のお話と、今日の唯を見て、ようわかりました」

    唯「なにが、ですか?」

    吉「隠れ屋には、唯のまことの父上母上が居られるのでは?」

    唯「…はい、そうです。一つ下の弟も居ます」

    吉「弟君が!それは心強い」

    唯「はい!若君が矢傷を負い、吉田城から逃がした時も、手助けしてくれました」

    吉「それはそれは。その地で、粒の揃った米を買うたと聞きましたが」

    唯「そうです。自分で買いました。あ、でも元々は親にもらったおこづかいだからなぁ」

    吉「あの時は、盗んだと思うてしまい、済まなんだの」

    唯「いえ、当然そう思いますよね」

    吉「唯は、わからない事ばかりでしたが…その地では、何不自由なく暮らしておったのであろう?」

    唯「まあ、そうですね。でも若君はここにしか居ないし」

    吉「その暮らしを捨て、梅谷村でひもじい思いをしながら若君を追いかけたと」

    唯「はい。いろいろありましたけど、私、今すっごく幸せですから」

    吉「それは、何より」

    唯「若君は、きちんと両親に結婚の許しをもらってます。で、唯を幸せにしてやってください、と言って送り出してくれました」

    吉乃が涙ぐんでいる。

    唯「おふくろさま…」

    吉「ご両親の心中、お察しするに余りあります」

    唯「あの…この事は…」

    吉「誰にも申しませぬ」

    唯「小平太パパにも?」

    吉「勿論。若君様もこれまで隠し通しておられたし、また隠れ屋に参る折に、差し障りがあってはなりませぬゆえ」

    唯「ありがとうございます、おふくろさま。あのっ、私にとって、おふくろさまはおふくろさまだけですから!」

    吉「えぇ。これからも宜しゅう頼みますよ」

    三之助達が戻って来た。

    三「ほら、あそこに。唯之助ぇ」

    唯「なぁに?」

    千吉「おぉ、奥方様、ここに居られたか」

    唯「あ、千吉さんだ。え、奥方?」

    思わず吉乃を見る唯。吉乃はにこやかに首を振っている。

    唯「え、私?!唯之助じゃないの?」

    千「大切な足軽仲間であったのは間違いないが、最早、そうは見えぬからのう」

    唯「そうなんだー。びっくりしたぁ」

    千「若君ご所望の品、揃ったが、どうすれば良いのじゃ?」

    唯「ホント?!ありがとう~。あ、おふくろさま、用ができたので、行きます」

    吉「わかりました。唯はまこと、若君様の為に人一倍動くのう」

    唯「えへ。痛み入ります。じゃっ」

    ペコっと頭を下げると、箱を手に取り、千吉と共にその場を去った。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    日付のご説明

    妖怪千年おばば様、てんころりん様、私の拙い作品の感想をいつもありがとうございます。

    令和Daysで唯と若君が令和に飛んだ日付は、永禄4年7月26日です。

    で、令和元年7月17日に到着。令和元年8月15日に帰っていきますが、尊が3分後に設定したため、

    また永禄4年7月26日に到着しています。

    この後お送りする、令和元年8月21日のお話は、永禄では4年8月1日となります。

    永禄に戻った後のお話に入った時、日付表示も永禄仕様に変えようかなとは思ったんですが、時系列が分かりにくくなるし、速川家もちょくちょく出るし、とそのままにしました。

    速川家の五人は、同じ時間を過ごしている。だからこその、二元中継としました。

    いつまで続くんだよ、のご説明も。令和Days110で尊が「一週間後に出してみるね」と言っているので、それを見届けます。これは令和元年8月16日のお話なので、一週間後の23日のお話までの予定です。

    伏線的なモノの処理など、ちゃんとまとめて終われるかが心配でございます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days120~20日6時30分、喜びに胸を開け

    おーおぞーら、仰げ~。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    永禄。中庭に唯と若君とじい。唯がプレイヤーをじいにわからないよう、そっと再生する。

    唯「はい、そろそろだよ~」

    じい「何じゃ、今日はむじなが音頭をとるのか?」

    唯「そうだよ。はい、シャンと立って!」

    ┅┅┅

    令和。そろそろテレビも体操が始まる。

    覚「よし、じゃあ五人一緒だと思って」

    尊「向こうはもっと大勢かもね」

    美香子「そうかもね。張り切って行こう!」

    ┅┅┅

    二元中継スタート。

    唯「いっちにー、さんし!」

    美「ふんふんふ、ふん、ふん」

    覚「タンタンタ、タンタンタ」

    若君「五、六、七、八」

    唯「じい、もっと腕挙げて!」

    じ「これ以上、挙がらぬのじゃあ」

    若「唯。熱が入るのはわかるがのう」

    覚「ヤバい、腕、挙がりにくいかも」

    美「やめて~、聞きたくない」

    若「無理はさせぬように」

    尊「兄さんが、無理はしないでって言ってるよ。きっと」

    美「うん、聞こえる気がする」

    覚「わかった、気を付けるよ」

    唯「筋肉は、裏切らない!」

    若「その言葉、何処ぞで聞いた覚えがあるような?」

    尊「体育会系のお姉ちゃんが指導すると、受ける側は大変そう。ラジオ体操じゃなくて違う体操になるんじゃない?」

    覚「戦国時代の方々は、相当鍛えてそうだけどな。と言っても、忠清くんはムキムキではなかったが」

    美「しなやかで、綺麗な体だったわよね~」

    尊「武士を褒めてるとは思えない言い方だけど、認めます」

    唯「ほら、若君をよく見て。しなやかで、動きがキレイでしょ?」

    じ「わしも、若い頃はなあ」

    唯「今を生きて」

    じ「はぃ…」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅

    二元中継、終わり。令和。

    尊「気のせいだと思うんだけど、隣に居るみたいに感じたよ」

    美「うん。なんかとっても清々しいし」

    覚「また、降臨したら、教えてくれ」

    尊「一心同体だしね」

    三人「ハハハ~」

    ┅┅┅

    永禄。

    唯「すんません、運動系はつい、熱くなっちゃって」

    じ「ふう。くたびれたわい。では」

    唯「え、もう行くの?疲れてるでしょ」

    じ「厠がわしを呼んでおるのじゃあ」

    唯「あぁそう。やっぱジジイだわ」

    若「これ、唯」

    じいは、そそくさと行ってしまった。

    唯「なんだったの?体操だけやりたかったの?」

    若「隠居の身ゆえ、何でも目新しい事はやってみたいのじゃろ。まぁ、付き合おうと思うておる」

    唯「優しいねぇ。で、やりながら思い出したんだけど」

    若「ん?」

    唯「テレビ版に、座ったままやる体操があった。じいにはそっちの方がいいよね」

    若「そういえば、あったのう。されど、撮った物を見せる訳にはゆかぬ」

    唯「そりゃ、たーくんが完コピするっきゃないでしょ」

    若「かん…?」

    唯「完璧に覚えて、再現してあげるの」

    若「そうか、わかった」

    唯「え、わかった、なの?!私も手伝うよ」

    若「早速、今宵観るとしよう」

    唯「今晩観るなら、明日はこんなに早く起きらんないよ、たぶん」

    若「毎朝とは申さぬゆえ、時々は共に頼む」

    唯「はぁい。あ、ゆうべさぁ、ここに居ない時あったでしょ?」

    若「よう気付いたの。源三郎と話しておった」

    唯「手を伸ばしても居なくって、ちょっと淋しかった」

    若「眠る唯には何も出来ぬからの」

    唯「起きてたら何かするんだ?」

    若「そうじゃ」

    唯「うわっ、肉食系」

    若「ん?それは…あの、Tシャツに書かれておった文字か?」

    唯「あっ、わかっちゃった?意味を教えてあげよう。一言で言うと、たーくんみたいなエロ侍~」

    若「…」

    唯「ん?どした?」

    若「お父さんお母さんに、わしはそう思われておったのであろうか」

    唯「え、だから着なさいって?まさかぁ、ないなーい。あれ元々、ウケ狙いで私が尊にあげたTシャツだから。たまたまあったからじゃない?」

    若「そうかのう」

    唯「でもー、最初着せた時は全く思ってなかったと思うけど、帰る頃には納得だったんじゃなぁい?ふっふっふ」

    若「ふむ」

    唯「あれ?すんなり受け入れた?」

    若「では此の先も、その様に」

    唯「なんか、うまいコト威厳で通された気が。…あーっ」

    若「お?ハハッ、腹の雀が餌をねだってさえずっておるのう」

    唯の腹が、キュルル~と鳴いている。

    唯「やだっ、も~」

    若「ハッハッハ~」

    庭や腹の、鳥のさえずりに負けない程、高らかに笑った若君でした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    20日のお話は、ここまでです。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days119~20日火曜6時、希望の朝だ

    朝から皆元気。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    書き物をしている若君。鳥のさえずりに耳を傾けていた。

    若君 心の声(今日も、穏やかに朝を迎えた。有り難い)

    書き終えた物を仕舞う。

    若 心(そうじゃ)

    立ち上がり、居室を出る。向かったのは唯の寝所。

    若 心(まだ寝ておるであろう。起こさずに取り出せるかのう)

    寝所の襖が開いている。

    若 心(ん?起きておるのか?)

    中の様子を窺おうと覗き込んだ瞬間、

    唯「キャッ!ぁ痛っ」

    若君「なんと」

    唯が急に飛び出し、若君に激突。よろけた唯の腕を、咄嗟に掴んだ若君。

    若「唯!大事ないか?」

    唯「ご、ごめーん、ありがとう。ていうか、おはようたーくん」

    若「起きておったのだな」

    唯「うん、パチッと目が覚めたから」

    若「珍しい。まぁ昨夜あれだけ早う眠れば、そうであろうが」

    唯「でね、朝早くなら、たーくんまだ部屋に居るかなーと思って」

    若「で、走る気満々であったと」

    相変わらず、着物の両裾をめくり上げ帯に挟み、脚が丸見えになっている。

    唯「え!走るなんてぇ、オホホ」

    若「ではそのなりは何じゃ」

    唯「ス、スキップかな~」

    その場でやって見せる唯。

    唯「ラジオ体操にも、似たような動きあるじゃん?へへっ」

    若「おぉ、体操。そう、わしはその音の出る小さき物を取りに来たのじゃ」

    唯「ラジオを録音したヤツ?」

    若「それじゃ。今日は久々に、音と拍子を確かめながら体操しようと思うたゆえ」

    唯「ふーん。どうぞ~」

    プレイヤーを取り出し、音を確認する若君。

    若「ふむ。良い、良い」

    唯「その顔、まさかラジオ体操聴いてるなんて今でも思えないし」

    その時、外で声がした。

    じい「若君は、居られるかぁ~」

    唯「うわっ、出た!やっぱジジイは早起きだよ」

    若「ハハハ」

    若君は、プレイヤーとイヤホンを唯に渡した。

    若「唯が聴いて、拍子を教えてくれ。わしが着けていると目立つゆえ」

    唯「え、いいけど、じいは?」

    若「どうせ共にやると言って聞かぬ」

    唯「えぇ!もう一緒に体操したの?ははーん、さては、朝からブラブラしてるじいに捕まったね?」

    中庭に、じい登場。

    じ「おっ、やはり此方に居られましたなぁ。若君、今日も体操、体操を」

    唯から離れ、若君はじいに近付きながら話しかける。

    若「もう、具合は良いのか」

    じ「ご案じ召さるな。なんの、これしき」

    若「一昨日は、腰から妙な音がしたと、もがいておったではないか」

    唯「うわぁ、何が起こったか超わかる」

    じ「このように、ピンピンじゃあ。ハッハッハァ~」

    若「無理をしてはならぬぞ」

    ┅┅┅

    さて、その頃、令和の速川家。リビングに尊が下りてきた。

    美香子「あら、早いわね。どしたの」

    尊「なんとなく予感がして、目が覚めたんだ」

    覚「予感?」

    尊「今日の体操、お姉ちゃんや兄さんと、一緒にできるような気がして」

    美「あらそう。忠清くんは出来る時は毎朝ちゃんとやってるだろうけど、唯も起きてると踏んだ訳ね」

    尊「うん」

    覚「今朝は永禄と令和の二元中継でーす、ってか?」

    尊「ありえないよね」

    覚「いや、その予感、案外当たってるぞ」

    尊「なんでそう思えるの?」

    覚「だって三人は、三位一体なんだろ?」

    尊「あ。うん、そう!」

    美「そうだったわね。じゃあ、そろそろテレビの前に集合~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、二元中継。

    続きます。

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    返信先: 連絡掲示板
    なるほど

    わかりました。確かに今は、機能していない模様です。
    ありがとうございました。

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    返信先: 連絡掲示板
    今さらのお話とは思いますが

    各掲示板の右上の欄ですが、

    「購読」は、ポチっとするとその板に投稿があった時にメールが届くとの事。

    「お気に入り」には、どのような機能があるのでしょうか?ポチっとしてみましたが変化がなく。ご説明されている所が見つけられず、すみません。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days118~19日20時、月に酔う

    あと一歩、のアドバイス。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君が、自室前の縁に座り、酒を飲みながら月を眺めている。

    源三郎「若君様」

    若君「お、源三郎。今、帰りか」

    源「はい。お姿をお見かけしましたので、取り急ぎ伺いました」

    若「日が決まったか?」

    源「はい。三日後、は如何でしょうか」

    若「良かろう。ではトヨ共々、よろしく頼む」

    源「心得ました。今宵はこちらにおいでとは思わず。明日早朝に伺うつもりでおりました」

    若「唯なら、もう寝ておる」

    源「え!」

    若「え、よのう。ハハハ。時折、驚く程早く、すとんと眠ってしまうのじゃ。相手にされなんだゆえ、久々に酒を嗜んでおる」

    源「そう…でございましたか」

    若「おぬし、急ぎ帰る用はあるか?」

    源「いえ、ございませぬ」

    若「ならば、しばしわしに付き合え」

    源「は、はっ」

    盃に酒を注ぐ若君。

    源三郎 心の声(盃が二つある…誰かを待っていたのではないんだろうか)

    源「頂戴します」

    若「うむ」

    虫の声は控え目だ。二人の声だけが響く。

    若「わしにはの、師匠が居る」

    源「お師匠、ですか」

    若「料理を教わった」

    源「そうですか。料理をなさるとは初耳でしたので、驚きました」

    若「その師匠に、料理の他に教わった事があっての」

    源「はい」

    若「好きなおなごには、はっきりと好きと伝えねばならぬ」

    源「えっ」

    若「それとなくでは通じぬ。言わなくてもわかるなど、ないと」

    源「あっ、あの…何故そのような話をわたくしになさるのですか」

    若「声がうわずっておるぞ」

    源「あの、トヨ、でしたら、幼き頃より仲良うはしておりましたが」

    若「誰が相手でも良いがの。師匠の言葉、わしは胸にしみたゆえ、話した」

    源「は、はい」

    再び、酒が注がれた。

    若「唯とは、幾度も離ればなれになっておる」

    源「確かに…見かけない時期はありました」

    若「その折々で、別れは致し方なかったのじゃが、身が千切れる思いであった」

    源「そのようにお辛かったとは、全く存じ上げませんでした」

    若「互いに大切に思うておっても、離れねばならぬ時もあった」

    源「小垣で密かに逃がした時…ですね」

    若「そうじゃ。だが、もう二度と離しはせぬと心に誓った」

    源「そうですか…若君様が、このような話をなさるとは、少々驚いております」

    若「小平太よりは、通じると思うての」

    源「え、それは…どうお答えすれば良いのか」

    若「ハハハ…で、源三郎」

    源「はっ」

    若「好きなおなごが、自分の存念を伝えられないまま離れていったら、どうする」

    源「…」

    若「相手に、いつの間にやら縁談が持ち上がるやも知れぬぞ」

    源「え!そんな話、来てるんですか?!」

    若「誰の事かのう」

    源「うっ…若君様、お戯れが過ぎませぬか?」

    若「フフッ、酔うたかのう。酒の仕業か、月の仕業か」

    月を見上げる若君。

    若「さる者の言い伝えらしいのじゃが」

    源「はい」

    若「そなたを愛しておる、と、とても面と向かい口に出来ぬのならば」

    源「ならば!」

    若「身を乗り出したな?そこは、月が綺麗じゃな、と申せと」

    源「月が綺麗だね…」

    若「どう返されると良いかは、わからぬが。どれだけ近しいかにもよるやもしれぬ」

    源「わかりました」

    若「ご武運を、祈る」

    源「は、はあ」

    若「今宵は此処までにするかのう」

    源「お休みになられますか」

    若「唯の元へ参る。寝顔が見とうなった」

    源「ハハ。そうですか」

    若「そうじゃ、源三郎からトヨに伝えて欲しい話があるのじゃが、頼めるか?」

    源「それは、何なりとお申し付けください」

    若「うむ」

    若君が、耳打ちする。源三郎は最初かなり驚きながら聞いていたが、

    源「承知致しました。あと、これからは気に留め、よう見ておきます」

    若「頼んだぞ」

    源「はい。では、これにて」

    若「おやすみなさい」

    源「え?!お、おやすみなさいませ」

    立ち上がり、その場を去る源三郎。

    源 心(ふぅ。今日は驚きの連続だった。しかし、待たれていたのは…俺だったんだな。ハッパかけられたかー)

    見上げた月が、明るく輝いていた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    19日のお話は、ここまでです。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days117~19日16時、聞こえないフリ

    エプロンも持ち帰れば良かったね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    源三郎とトヨが、屋敷内を連れ立って歩いている。

    トヨ「ねえ」

    源三郎「何だ」

    ト「何しでかしたのよ」

    源「俺達二人だったら、お前の方が怪しいだろ」

    ト「じゃあ何で、源ちゃんも呼ばれたの?」

    源「わからん。若君様が、伴って参れと」

    ト「二度と密会禁止?」

    源「密会…間者と思われたか?うーん」

    ト「それか、いよいよお前達、共に歩めとか?キャー!」

    源「静かに!もう着くぞ」

    ト「反応してくれてもいいのにさ」

    源「行くぞ」

    ト「はい」

    深呼吸する源トヨ。若君の居室の前に座り、声をかけた。

    源「若君様、トヨを連れて参りました」

    若君「入れ」

    源「はっ」

    中には、若君と唯。唯が、トヨに小さく手を振る。

    トヨ 心の声(なんて、のんきな…それどころじゃないですって!)

    若「よう来てくれた、トヨ」

    ト「直々にお目にかかるのは、お初にございます」

    下げた頭が上がらない。

    若「面を上げよ。実は、折り入ってトヨ殿に頼みがあってのう」

    源「トヨに?」

    慌てて顔を上げるトヨ。

    ト「私めに、でございますか?」

    若「実は、料理がしとうての」

    源&ト「えっ!」

    ト「し、しかし、若君様に、台所に入って頂く訳にはゆきませぬ」

    若「わかっておる。わしの望みだけ今から申すゆえ、出来そうなものか教えて欲しい」

    ト「は、はい」

    若「火を使いたいが、竈は台所にしかない。火鉢では心許ないゆえ、囲炉裏を使おうと思うておる」

    ト「客間にある囲炉裏でございますか」

    若「そうじゃ。幸い、しばらく客人はない。ここぞという日に、わしが夕刻から他で使わぬようにしておく」

    ト「日が決まれば、火は起こしておきます」

    若「次に。これだけの材料や鍋などは、揃うか?」

    食材等が書いてあると思われる紙を出す若君。

    唯 心の声(うわっ、また読めないっ)

    渡されたトヨが目を通す。

    ト「はい、これだけで宜しければ、明日にでも支度できます」

    若「そうか。最後、これが一番肝心なのじゃが、源三郎」

    源「はっ」

    若「この日は、二人で参れ。よっておぬしらが時間を取れる日が、決行日じゃ」

    源「トヨと、でございますか。手伝いが要るのですね」

    若「それもあるが、味見をして欲しくての」

    ト「若君様のお作りになるお料理をですか?!」

    若「上手く出来たならば、今後城の皆に振る舞いとうての。毒味まではいかぬと思うが」

    源「えっ、ではその日集うのは…」

    唯「四人だけだよ。ダブルデート!…あっ、ごめん。違う言い方だと…ん?」

    源トヨ、顔がみるみる真っ赤になる。

    唯「意味わかったっぽいな」

    若「出来る日が分かり次第、教えてくれぬか?」

    源&ト「承知致しました」

    唯「よろしく~」

    部屋を後にした源トヨ。

    ト「なんか、色々びっくりしたと言うか発見したと言うか」

    源「俺は、気が気でなかった」

    ト「若君が料理をなさるなんて」

    源「長く仕えているが、初耳で。しかし何で俺とトヨなんだ?どうしよう、味見など緊張で出来そうにない」

    ト「また正直に答えないと、若君様に悪いもんねぇ。あーそれにしても!見た?奥方様を見ていた時の若君様のお顔!」

    源「見た。愛しくて仕方がないご様子だった」

    ト「ホント深~く愛していらっしゃるのね。あー羨ましい」

    源「は?」

    ト「聞こえなかった?あー、羨ましいっ!」

    源「声がデカい!静かに歩け」

    ト「つれないわねぇ」

    源「日付を、一刻も早くお伝えしないと」

    ト「台所でこっそり仕込みができそうな日がいいわよね。すぐ確認する。どうやって伝えよう…いつもの裏門の横の木に、紙に書いて小さく畳んで縛っておこうか?」

    源「そうだな。頼んだぞ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days116~19日9時30分、待て!

    駆け引きも、上手くなっている。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君の居室に到着した唯。

    唯「たーくん!お待たせぇ」

    若君「唯」

    唯「あっ、ごめん。まだ早かった?」

    若「いや。もう終わる」

    書き物を終え、片付けた。

    唯「出来た鶴、入れ物作んないとね。新聞紙はないしー」

    若「大きい紙なら、使い古しがあると思うがのう。触書など」

    唯「触書…おたずね者とか?」

    若「手配書か。それもある」

    唯「思い出したっ。あの似顔絵描いたヤツ、許さん」

    若「唯之助の手配書か」

    唯「実物はこーんなにかわゆいのにさっ」

    若「愛らしゅう描いてあれば、すぐに捕らえられておったであろう?似ておらぬのが幸いであった」

    唯「それって、褒めてくれてるの?」

    若「褒めるも何も、そうじゃろ」

    唯「やーん!嬉しいっ」

    後ろから、ムギュ~。

    若「うっ、ゴホッ、…技をかけるでない」

    唯「ごめぇん」

    腕は緩めたが、抱きついたまま話をしている。

    唯「千羽鶴作り、みんなを巻き込む?」

    若「志に応えて貰えるならば」

    唯「誰も戦はしたくないよ」

    若「だと良いがの」

    唯「緑合には、居ない」

    若「そうじゃな。兄上には、阿湖姫と共に来られよと声はかけた」

    唯「じいなんかはさぁ、めっちゃ食い付いて来るだろうけど、老眼で無理だろねー」

    若「小平太や源三郎は、家臣として無理をして折りそうじゃしのう」

    唯「仕事だと思われなければいいんじゃない?例えばさぁ、源三郎ならトヨと一緒に来てもらうとか」

    若「トヨ?源三郎にそのような仲睦まじいおなごが居るのか?!」

    唯「えっ、知らないの?」

    若「知らなんだ。何処の姫君じゃ?」

    唯「えー、城の中に居るよぉ、女中だもん。今朝は、私の部屋掃除してたよ」

    若「ほぅ…それはまた」

    唯「もともと幼なじみらしいよ。たまたま職場が一緒、的な?よく裏門出た先の草むらで、話してるよ」

    若「それで合点がいった。一昨日、兄上を訪ねたところ不在だったのじゃが、何故か兄上が城外に出られたのを源三郎は知っておった」

    唯「でね、あの二人、なんでか知らないけど、しゃべり方が現代風なの」

    若「ほぅ。くだけた物言いだと。それだけ、心を許しておるという事か」

    唯「そうかもだけど、永禄のみんなに話が聞こえても、全部は意味わかんないだろお前たち、かもよ」

    若「カムフラージュ、か」

    唯「わっ、よく覚えたね」

    若「いずれは…と考えておるのであろうか」

    唯「さあ。でもさ、源三郎に縁談は、かわいそうだから止めてね」

    若「わかった」

    唯「トヨとはね、仲いいんだ。ちょっと言い方はキツいけど、しっかりしてるし、人の悪口も言わないし」

    若「信用できる人物じゃの」

    唯「天野から来た女中さん達は、みんな優しいよ」

    若「そうか。それはきっと、唯が捕らえられた母親を身を挺して助けたのを、間近で見ておったからであろう」

    唯「あーそっか。そうかもね。トヨはね、女中頭やってるんだよ」

    若「頭なのか」

    唯「うん。天野の家でも女中頭だった。きっと良く働くから出世して、ここでも頭になったんじゃないかな」

    若君が考え込んでいる。唯は手を離し、横に座った。

    若「頭ならば、屋敷や台所をある程度自由に使えそうじゃの…」

    唯「台所?ご飯作って欲しいの?」

    若「いや、実は考えておった件が有り」

    唯「ふぅん?」

    若「尋ねてみる。では唯」

    唯「はぁい」

    若「遠乗りへ、参ろう」

    唯「やったー」

    唯が、少し近付いた。

    唯「ねぇねぇ、ここ、公共の場じゃない」

    若「わかっておる」

    唯「で?」

    若「したら最後、歯止めが利かぬぞ」

    唯「は?」

    若「遠乗りへは参らず、襖障子を全て閉め」

    唯「うわぁ…エロ侍」

    若「何とでも申すが良い」

    唯「わかったぁ」

    若「ん?」

    唯「このまま出かけまーす。寸止め状態、がんばってねっ」

    若「それは、喜ぶべきか悲しむべきか」

    唯「たーくんを泳がせて、楽しむのじゃあ」

    若「なんと罪作りな」

    唯「へへーん」

    鼻を広げて得意気な唯。

    若「ハッハッハ、唯が一枚上手であったの。御見それ致した。では出掛けよう」

    唯「はーい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 連絡掲示板
    マスターお疲れ様でした

    驚異の復旧速度に脱帽です。ご尽力いただきありがとうございました。

    何が起こったかわからず、戸惑われた方も多かったと思いますが、これで一安心(#^.^#)またコツコツ投稿させていただきます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days115~19日月曜9時、じゃれ合います

    オロオロする男子達を想像しましょう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯が若君の居室に向かっていると、成之にバッタリ出くわした。

    唯「あ、兄上さんだ。おはよっ」

    成之「おぉ、唯…殿」

    唯「あれっ、唯之助じゃないんだ?」

    成「阿湖に咎められての。もう足軽小僧ではないのだからと」

    唯「へー」

    成「丁度良い。そなたに話がある」

    唯「私に?いいよ、ちょっとなら。なに?」

    成「唯殿…おぬし、阿湖に何を吹き込んだ」

    唯「なにその、持ち上げといて落とす的な言い方~」

    成「阿湖が…阿湖が昨晩…」

    唯「あ?さては、かわいく名前を呼ばれた?」

    成「うっ」

    唯「へー、ほー、フフン」

    成「また鼻を広げて」

    唯「ん?」

    成「おぬし、ようそうなっておるが。気付いておらぬのか?」

    唯「そうなの?!よく見てるねー。はっ!若君の前でも出ちゃってるかも?!いやーん」

    成「話を逸らしてしもうたな」

    唯「じゃあ戻す。で、かーわいかったでしょ?阿湖。ぐっふっふ」

    成「なっ」

    唯「ういヤツよのぅって?いや~ん、このこのー」

    成之にツンツン攻撃でからかう唯。

    成「や、止めよ」

    唯「いーなー。阿湖はかわいいから、なんでもハマってうらやましい」

    成「おぬしが謀ったのは、ようわかった」

    唯「ますます、阿湖を好きになったでしょ?」

    成「あ、あぁ」

    唯「よろしい!」

    成「してやられたのう」

    唯「なに言ってんの、このくらい大した事ないでしょ?なあさまの、数々の悪行に比べればぁ」

    成「うっ!そ、それは…済まぬ」

    唯「いーよ。じゃっ、たーくん待ってるんで!さらばじゃ~」

    成「た、たー?」

    成之が呼び止める間もなく、走り去った唯。この様子を、少し離れた所で見ていた小平太。

    小平太 心の声(あの二人、あんなに仲が良かったか?唯之助は、わからぬ)

    その頃、唯の居室。掃除をしている女中のトヨが、不審な動きをしている。

    トヨ「なんで、なんで?」

    背後から、男が近付いて来た。

    男「何をしておる」

    ト「ヒイッ!怪しい者ではございませぬ…って、もう何!源ちゃんじゃない!肝を潰したわ~」

    立っていたのは、源三郎。

    源三郎「この時間、ここに来れば会えると思って来てみたら…床を見ながら何ブツブツ言ってたんだ?」

    ト「怪奇現象が起きてるのよ」

    源「は?」

    ト「奥方様の部屋、やたらと周りに蚊が落ちてるの」

    源「へえ」

    ト「あたしはね、最近お目見えした、あの香炉が怪しいと思ってるんだ」

    源「若君様が、良い香でも手に入れられたんじゃないか?」

    ト「匂いがちょっと変わった感じだし」

    源「蚊除けの香なら、奥方様を思っての事だろ。もっとも、若君様はほぼ毎日こちらでお休みになられるが」

    ト「毎晩愛する方と…いいわねぇ」

    源「もう掃除は終わったか?」

    ト「あっさり流したわね」

    源「少しなら時間がある。外を歩かないか?と言っても、森や林ばかりだが」

    ト「え、いいの?」

    源「それこそ、蚊に刺されるかもだがな」

    ト「え!森の中だから?!いよいよ、初キ…」

    源「な、何を呆けておる。あまりおかしな事を言うと、連れて行かんぞ」

    ト「すぐ、すぐ片付けるから!」

    源「少しの時間、と言っているのに」

    ト「え、じゃあ時間があれば…」

    源「だーかーらー!」

    言いながら、真っ赤になっている源三郎。

    源「時間は刻々と経ってるぞ」

    ト「しばしお待ちを~」

    ササッと片付けが終わり、出て行った源トヨ。ようやく静かになった所へ、また小平太登場。

    小平太「行く先々で、何なんだ。今日はこういう日なのか?」

    空を見上げる。

    小 心(平和な証ではあるがのう…なんじゃこの、ひたひたと襲う虚無感は)

    小「稽古でもするか」

    そうつぶやいて、その場を後にした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    小平太に幸あれ。令和Daysではそう願うだけですが。

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days114~18日日曜15時、怒らないでください

    タイミングを見計らっていた模様。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君の居室に、唯と三之助と孫四郎と吉乃が来ている。

    若君「折り目をしかとつけると、形が決まるのじゃ」

    三之助&孫四郎「はいっ」

    近くに、ジェンガが置きっぱなしになっている。

    吉乃「若君様は、まことに手ほどきが上手くあらせられますな」

    唯「うん。すっごく丁寧。出来上がりもキレイだし」

    吉「唯も、先程見事に折りあげておったではないか」

    唯「年季が違うもん」

    吉「年季。唯からそのような言葉を聞くとは。ふふふ」

    ジェンガ目当てに訪れたが、若君に折り紙を出され、すっかり折り鶴に夢中になっている三之助と孫四郎。

    孫「うんしょ…うんしょ」

    若「孫四郎にはまだ難しかったかの。ゆるりといたせ」

    机に二人並び、懸命に折り進めている。若君が前に座り、優しく教えながら様子を見守る。

    三「出来ましたぁ。若君様ぁ」

    若「何じゃ?」

    三「この鶴は、広げるとあのような姿になるのでございますか?」

    千羽鶴の下に、芳江の折った連鶴が飾ってある。

    若「そうじゃな。繋がってはおらぬが」

    三「あ、羽根が結ばれておる。どうなっておるのじゃ…」

    若「これは熟練の技を持つ御方からの賜り物ゆえ、わしにも作れぬ。あぁ、唯なら出来るかもしれぬがのう」

    吉「えぇ?!」

    唯「おふくろさま、そこ驚き過ぎ。どうすればいいかは勉強したから。一応」

    吉「ではいずれ、披露と」

    唯「練習しときますから、しばしお待ちを」

    吉「手習いも、その位熱心にして欲しいところでございますな」

    唯「うっ、にょんにょん字はまだ無理~」

    孫「出来ましたぁ!」

    若「おぅ、上手く折れたのう」

    唯「がんばったね!二人とも、もう一回大きい紙で折る?小さいので折ってみる?」

    三「小さき方だと、この千羽、鶴、と同じ品になるか?」

    唯「なるよ」

    三「ならば小さき紙で折る!」

    孫「折るぅ!」

    唯「じゃあ、今度は私が見ててあげる。若君、代わるね」

    唯が座った。若君は立ち上がり、千羽鶴を近くで眺める吉乃の元へ。

    吉「このような、鮮やかで張りのある、良き紙があるのでございますね」

    若「はい」

    吉「唯が、持って参りましたか?」

    若「いや…わしも共に居ったが。何故そのように申される?」

    吉「随分と前の話でございますが、唯が真っ白に粒の揃うた米を持ち帰りました」

    若「ほほぅ」

    吉「その折に、盗みを働いたのかときつく叱りまして」

    若「白米…それは多分、折り紙と同じスーパーで買うておるな」

    吉「は?」

    若「あ、いや。決して盗みなど働いておりませぬゆえ。双方、出所は同じじゃと」

    吉「隠れ屋、でございますか。若君様が矢傷を癒された」

    若「そう…じゃな。あぁ、その折は、吉乃殿にも城の者が辛く当たり、まことに済まなかったのう」

    吉「そのような。若君様が居られぬ間の事であり、皆が案じたがゆえでございます」

    若「信近は、大層喜んだであろうがの」

    吉「それは…ほほほ」

    吉乃が、若君の顔をしげしげと見つめている。

    若「何、か?」

    吉「隠れ屋は、随分と遠き処に有るのですね」

    若「そうじゃの…。それが何か?」

    吉「行き帰りに難儀をされたのでは?随分と日に焼けておられます」

    若「ハハハ、そうか。然程ではござらぬ」

    吉「そうでございますか」

    ここで、若君が意を決したように口を開いた。

    若「お気遣い、痛み入ります…母上」

    吉「え?」

    若「…」

    吉「若君様、こちらにおいで頂けますか」

    若「…はい」

    吉乃は、若君を促して部屋の外に出た。子供達は、こちらを気にも留めず、折り鶴に夢中ではしゃいでいる。

    若「不躾、でございましたな」

    吉「若君」

    若「はっ」

    吉「大切な名を、そのように無闇に口にしてはなりませぬ」

    若「…済みませぬ」

    吉「と、三之助に窘めるが如く申しましたが」

    にこやかに話す吉乃。バツが悪そうにしていた若君の顔が、パッと明るくなった。

    吉「三之助や孫四郎が聞くと驚きますゆえ、これからは内々に」

    若「心得ました」

    そこへ、孫四郎が走って来た。

    孫「かかさまぁ!」

    吉「ほぅ、出来たのかえ」

    若「上手く出来ておる」

    吉「戦なき世を願う品とあらば、唯に教えを乞うて、私も折りましょう」

    若「わしも共に」

    吉「まぁ。子と共に過ごせるなど、有り難き幸せでございますな」

    五人で、賑やかに鶴を折った午後でした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    18日のお話は、ここまでです。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days113~17日土曜10時、ズバリ正解です

    令和の花の名は、カタカナばかりで一から覚えるのは大変だと思う。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君が、自身の居室で書き物をしている。

    若君「よし」

    したため終わると、丁寧に棚に仕舞った。立ち上がり、どこかへ向かう。

    若「兄上、居られますか」

    成之の居室の前に来た。声をかけたが、返事はなく姿も見えない。

    若君 心の声(何処かへ出掛けられたか)

    そこへ、源三郎が現れた。

    源三郎「若君様。成之様ならば先程、城外へお出になりました」

    若「そうか。花でも摘みに行かれたかの。よう知っておったな?」

    源「側を通られましたゆえ」

    若「おぬし、門の近くに居ったのか」

    源「はい」

    若「ふむ。そうか」

    若君は、その場を後にした。

    若 心(そろそろ、戻られたかのう)

    未の初刻、現代での昼1時頃になっていた。城の近くを見回り、帰って来た若君。早速、成之の居室に向かう。

    若「居られるの」

    居室の前で、成之は花器の手入れをしていた。

    若「兄上」

    成之「おぉ、これは忠清殿」

    若「今日は、生けてはおられぬのですね」

    成「既に、別の部屋に置いて参ったゆえ」

    若「左様で」

    成「して、用件は?」

    若「はい。つい先だって、花の名がとんと分からず、困り果て」

    成「ほぅ」

    若「とり混ぜて、としか申せず」

    成「ほぅ。唯…奥方に贈られたと?」

    若「はい」

    成「成程。それは、粋ではありませぬの」

    若「兄上なら、そう思われるでしょうな。唯は喜んでおりましたが」

    成「そなたの奥方ならば、そうであろうが」

    若「それで、また花のある時分にあしらい方など、是非兄上に教えを乞うてみたいと思うておるのですが」

    成「私が教えるなど、おこがましいが」

    若「もし、そのような時間を取って頂けるならば、で結構」

    成「承知致した」

    若「忝のう存じます」

    若君が、成之の顔を見ながら微笑む。

    若「実は朝方もこちらに参りましたが、お姿が見えず」

    成「それは済まなかったの。良い野花はないかと摘みに出ておったゆえ」

    若「摘まれた後は、阿湖姫の居室にいらしたのですね」

    成「何じゃ、その当たり前のような物言いは。あぁ、先程花を置いてきたと申したゆえ、そのように思うたのじゃな」

    若「摘んだ花をすぐ生けて差し上げる。さすが兄上ですな」

    成「そうだとは一言も申しておらぬが。何故阿湖と共に居たと、話を進める」

    若「顔に描いてありますゆえ」

    成「なっ…まぁ、その通りであるがの」

    若「ハハハ」

    成「そう言えば、忠清殿の居室が、大変賑やかに飾られておると、漏れ聞きました」

    若「もうお耳に。鶴を紙で模した物が千羽おります」

    成「千羽とはたまげる。どなたかからの賜り物で?」

    若「賜り物…あぁ、そうですな」

    若 心(紛う方なく。幾人もの力添えのお陰のプレゼント、じゃ)

    成「ん?」

    若「いえ。また、宜しければご覧に入れますゆえ、阿湖姫と共においでくだされ」

    成「また是非に。もしやそれも、奥方が絡んでおるのでは?」

    若「然り。唯とその周りの者達には、世話になるばかりでして」

    成「周り?」

    若「隠れ屋にて」

    成「隠れ…。忠清殿、その節は」

    若「何か?」

    成「その…忝ない」

    若「ハハハ」

    成「ハハ…」

    若「では、また参ります」

    成「良き花が手に入ったら声をかけましょう」

    若「お頼み申します」

    成之が、口元に光を集めながら軽く微笑んで、若君を見送る。

    若 心(平穏な日々は、良い)

    木漏れ日に目を細めつつ、若君はゆっくりと去って行った。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    17日のお話は、ここまでです。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days112~16日12時、ミッション遂行中

    そりゃ、恐縮しちゃうよね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今度は、厩の辺りをウロウロしている唯。

    唯「あ、居た居た。千吉さぁん!」

    見覚えのある後ろ姿に声をかけた。振り向く千吉。

    千吉「おぅ、その声は、唯之助。ん?」

    唯「久しぶりぃ」

    千「なにやら…随分と、おなごに見えるな」

    唯「え?ずっとかわいいおなごだけど」

    千「小僧には、見えん。奥方が板に付いてきたんだな」

    唯「みんな似たようなコト言うなぁ」

    千「で、今日は何の用だ?」

    唯「うん、あのね、人が腰掛けられるくらいの丈夫な板と、人がぶらさがってもビクともしないくらいの長い縄二本、手に入んないかな」

    千「板と縄。ふむ」

    唯「千吉さん、顔広いから。屋敷の備品を流してもらってもいいんだけどなー」

    千「屋敷の品を、勝手には使えぬぞ」

    唯「でも、使うのは若君なんだよ?」

    千「若君様がか。…それは、まことか?」

    唯「うえっ、信じてもらえないの?」

    千「何にお使いになられるのじゃ?」

    唯「若君の、心の安定のために」

    千「何じゃそれは。怪しいのう」

    唯「えー」

    千「お、ちょうど若君様が見回りから戻られたぞ」

    唯「あ」

    若君と小平太が、馬から降りている。駆け寄る唯。

    唯「おかえりー、若君ぃ」

    若君「お、唯。わざわざ出迎えてくれたのか?いかがしたのじゃ」

    唯「千吉さんに、頼み事してたの。ねっ、千吉さん」

    少し下がっていた、千吉を呼んだ。近付き、一礼する千吉。

    若「頼み事?」

    千「はっ、奥方様に、板と縄を手配するように、と」

    若「板と、縄…」

    千「若君様がご所望と」

    唯「作ってあげようと思ったんだけど」

    若「…ブランコ、か?」

    唯「うん!」

    若「そうか。千吉」

    千「はっ!」

    若「板の幅は一尺も要らぬが、長さは二尺から三尺の間。縄は十尺程が二本。是非手に入れたい。城内で使わぬ物があればで良いのじゃが」

    千「心得ました。なるべく早うお持ちいたします」

    若「いや、気長に待つゆえ」

    千「いえ、私めにお声掛け頂くなど、畏れ多い事でございますので、直ちに」

    若「そうか。では、頼んだぞ」

    千「ははっ」

    唯「よろしくっ」

    唯に向かって済まなさそうな顔をすると、千吉は去って行った。

    若「唯、ありがとう」

    唯「こっそり作る計画だったんだけどね~」

    若「心優しき妻女を持って、わしは幸せじゃ」

    唯「うふふ」

    小平太「若君、そろそろ参りましょう」

    唯「わぁっ!」

    若「小平太、まだ居ったのか」

    小「居てはなりませぬか」

    若「このまましばらく、唯と過ごそうかと思うておったゆえ。この後、何か用件があったか?」

    小「しばらく有りませぬ」

    若「ならば、もう下がって良い」

    小「はっ」

    小平太 心の声(なんか調子狂うなー。昨夜から、若君がちょいちょい冷たいし)

    小平太も、去って行った。唯と若君も、手を繋いでゆっくり歩き出した。

    唯「朝早くから、仕事だったんだね」

    若「夜明けすぐに一か所、朝飯後もう一か所領内を回る予定であった。忘れておったが」

    唯「あー。一月前に聞いた計算だもん、忘れても仕方ないよ。で、間に合ったの?」

    若「勿論じゃ。ただし、体操の時間は取れず、出来なんだ」

    唯「そこ、大事なんだ」

    若「日課になっておったゆえ。そう言えば」

    唯「ん?」

    若「今日からまた、一日二食じゃが?」

    唯「うわっ、お気遣い痛み入りますぅ。ここ来る前に、阿湖の部屋でお菓子食べたから大丈夫」

    若「土産を渡したのか」

    唯「うん、すっごく喜んでくれたよ」

    若「そうか、それは楽しみじゃな」

    唯「え?何が?」

    若「兄上の口元が、いつ輝くか」

    唯「またぁ、たーくんのエッチ!」

    若「それは、意味合いはどのような」

    唯「えっ?エッチの意味?!えー、わかんない、説明できないよぉ。昨日までに聞いてくんないとー」

    若「ハハハ。大体は分かるがの」

    唯「そうなの?」

    若「よく夜に、唯が申して、というか叫んでおったゆえ」

    唯「やだぁ…どエッチ」

    若「ん?」

    令和に比べ、暑過ぎない夏の平和な昼下がりでした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    16日のお話は、ここまでです。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days111~16日10時、応えて欲しい

    デレデレしてる成之も見てみたい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    阿湖の居室。グロスをようやく取り出した。

    唯「で、これが贈り物!どーぞ」

    阿湖「何?」

    唯「キラキラする紅、かな?」

    阿「紅にしては、淡い色ね」

    唯「私、自分の持って来たから、どんなんか塗って見せてあげる。鏡借りるね」

    ササッと塗って、振り向いた。

    阿「まあ!なんて素敵なの!私もつけてみたい!」

    唯「フタはこうやって取るの。で、筆が中にあるから…そうそう、ん、やっぱ阿湖、超似合うわ」

    輝く唇を、首をあちこち向けて鏡で確認する阿湖。

    阿「艶めいて綺麗…貰っていいの?」

    唯「どーぞ」

    阿「嬉しい!これは、どこのお品?南蛮渡来?」

    唯「ん、まぁそんなトコかな。それはメイドインジャパンだけど」

    阿「冥土…」

    唯「あ、なんでもないっす。きっと、兄上さんにもウケがいいはず」

    阿「成之様、喜んでくださるかしら?」

    唯「弟は喜んでたから、きっと同じだよ」

    阿「若君様が?」

    唯「うん、若君は喜んでた」

    阿「そういえば、唯は、忠清様とは呼ばないのね」

    唯「あー。若君で慣れてるからね」

    阿「でも、夫婦となったのに」

    唯「ただきよ、って言いにくくない?」

    阿「えっ、何て事言うの」

    唯「なりゆき、は言いやすいよね」

    阿「言いにくいって、そんな」

    唯「いいんだよ。実は、ここだけの話だけど」

    阿「なぁに!聞きたい!」

    唯「ぐふふ。二人きりの時は、違う呼び名なんだぁ。あ、若君はそのまま唯だけど」

    阿「秘密の名前があるの?」

    唯「うん。内緒だけど。だからさ、阿湖も兄上さんと二人きりの時は、違う名前付けて呼んだら?」

    阿「そんな…今でも、成之様とお声かけるだけで精一杯なのに」

    唯「より、ラブラブ…もとい、親密になれるよぉ?もーっといっぱい、優しくしてくれるかも」

    阿「唯は、そうなのね?」

    唯「うん!」

    阿「あぁ、どうしよう。だったらやってみたい。どう呼ぼうかしら」

    唯「えーっと、なーくん、とか?」

    阿「な、しか合ってないじゃない。…あ!もしかして若君様を、たーくん、って呼んでる?」

    唯「はっ!バレちまったな」

    阿「ふふふ。唯ってわかりやすい」

    唯「で、どうなの。名前はさ、短い方が呼びやすいでしょ」

    阿「そこまでくだけては呼べない…唯は、どうやって名付けたの?」

    唯「ひらめいた」

    阿「えぇっ、同じように出来るかしら」

    唯「目の前に、兄上さんが居ると思って」

    阿「えっ、困っちゃう!」

    唯「かわいいな~。はい、深呼吸!」

    阿「すぅー、はぁ。あっ」

    唯「どう?」

    阿「なんか、降りてきたわ…なあさま。きゃー!」

    唯「あ、いい!なんか、阿湖っぽいし」

    阿「なあさま、どんな反応されるかしら」

    唯「照れはするだろうけど、怒りはしないと思うよ」

    阿「試してみる…あぁ、でも恥ずかしい」

    唯「実行あるのみ!」

    阿「頑張るわ。そういえばね、唯」

    唯「うん?」

    阿「私、心から、若君様とあのまま夫婦にならなくて良かったと思ってるの」

    唯「え?だって、私が現れなかったら…」

    唯 心の声(しまった、私が来なかったら、阿湖はたーくんに会えてもいないよね。高山との戦で羽木家は…)

    阿「唯が居ないままで例え一緒になったとしても、ずっと眼差しは私をすり抜けて、心に宿る唯しか見てなかったと思うから」

    唯「阿湖を見ないって?そんな事ないよ。たーくんちゃんと優しくしてくれたと思う」

    阿「もちろん、とても良くしてくださったわよ。ただ、許嫁として共に過ごしていた時を思い起こすと、想い人を胸に秘めたまま、私にあのように接してくださっていたのねって」

    唯「なんか、ごめん」

    阿「唯は何も悪くないから謝らなくていい。あのね、唯が行方知れずになった折の若君様の顔、まるで般若の様だったのよ」

    唯「はんにゃ?片方が小平太に似てる芸人さん?」

    阿「え?」

    唯「あ、ごめん。現代とごっちゃになっちゃった。なんでもないー」

    阿「さっぱり話がわからないけれど。うーん…鬼の様、ならわかる?」

    唯「わかる!そんなに恐い顔してたんだ!やーん嬉しい!でもさ、たーくんホント優しいよ?そんなに冷たい目、してた?」

    阿「ううん。冷たいとかじゃなくて。想うおなごだけに向ける微笑みは違うと言うか」

    唯「そう?」

    阿「今、なあさまに同じように見つめられていると、深い愛情を感じられるので違いがわかるの」

    唯「チッ。結果、のろけかーい!」

    阿「うふふ。唯、すっかり、たーくんって呼んでる」

    唯「えへっ。ここんトコずっとそうだったから、つい出ちゃった」

    阿「いいなぁ。きっと、優しく微笑み返してくださるのよね」

    唯「うん!」

    阿「羨ましい。私もそうなりたいな。ところでこのお品、名は?」

    唯「グロスだよ」

    阿「グ、ロ、ス。大事に使うね」

    唯「じゃ、そろそろ行くね!なあさま呼び、がんばって」

    阿「はぁ…出来るかな」

    唯「言っちゃえばこっちのモンだよ」

    阿「唯を見倣って、勇気を出して言ってみる」

    唯「じゃーねー!」

    阿「じゃあね」

    阿湖に見送られ、唯は走って出て行った。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days110~16日金曜9時、どの花見ても綺麗だな

    唯と若君が留守番してた時に、材料を買い込んだ模様。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    令和の朝。速川家リビング。

    覚「科学実験でも始めるのか?」

    尊「あながち間違いじゃないね」

    食卓の上に、大きいタッパーやハサミや何やら粉状の物が並んでいる。

    尊「さてと、始めますか」

    唯が受け取った方の花瓶を持ってきた。花を何本か選んで抜いていく。

    覚「何を手伝えばいい?」

    尊「花の部分だけ切って欲しい」

    覚「茎を落とすのか。なんか勿体ない気はするがな」

    尊「綺麗なまま残すためだから」

    タッパーに粉状の物を敷き詰める。

    覚「シリカゲルなんだな。乾燥剤」

    尊「うん、ドライフラワー用のね」

    花を等間隔に詰め、行き渡るようにシリカゲルを花びらの隙間に入れていく。

    尊「ムラなくきっちり入れれば、色が変わらず残せるらしいんだ」

    上も全て乾燥剤で隠れるようにパンパンに入れて、蓋をした。

    覚「これの繰り返しだな」

    尊「うん。でも全部じゃないからそんなには」

    覚「僕らが受け取った方は、そのままドライフラワーにするしな」

    尊「丸ごと乾かして、壁に飾るんだよね」

    もう一つの花瓶は、美香子が仕事に行く前に処理をして、乾かし始めていた。

    覚「いつか帰って来た時に、花がそのままだったら驚くよな」

    尊「うん。どうしよう、兄さんが買った花ってわからなかったら」

    覚「写真撮っただろ。残してあるデータと照合だよ」

    尊「ますます実験っぽいね」

    終了。

    尊「一週間後に出してみるね」

    覚「よし、なら涼しくて湿気が少ない所に保管な」

    ┅┅┅

    変わって、永禄の朝。

    唯「阿湖姫~!居る~?」

    阿湖姫の居室に、バタバタ走って現れた唯。

    阿湖「あら、唯」

    阿湖姫は、床の間の花を眺めていた。

    唯「あ、もしかして兄上さんが生けた花?キレイだね~」

    阿「ええ。とても可憐なお花でしょ?」

    唯「それ、阿湖姫に合わせたんだよ。憎いな~兄上さん」

    阿「そうなの?」

    唯「聞いてみればいいじゃん」

    阿「う~ん」

    唯「なにうなってるの」

    阿「明日にはまた替えてくださるそうなんだけれど…そんな、聞くなんて恥ずかしくて無理」

    唯「奥ゆかしいってこういう事なんだな」

    阿「あ、ちょうどお菓子があるわ。はい、召し上がれ」

    唯「ラッキー!ありがと阿湖姫、いただきまーす」

    阿「唯、前から思っていたけど」

    唯「ん?」

    阿「姫なんて付けず、阿湖、って呼んでくれないかしら?」

    唯「いいの?!うわぁ、なんかすっごく仲良くなったっぽい!嬉しい!わかった~そうするね!」

    パクパク菓子を食べる様子を見ている阿湖。

    阿「唯…あの、なんか顔つきが変わった?気のせい?」

    唯「えー?そぉ?」

    阿「食べる姿は変わらないけど」

    唯「あ、そーすか」

    阿「なんというか、とても足軽小僧だったとは思えない」

    唯「太ったかな」

    阿「うーん…そうなの?」

    唯「触れないでおきたいトコだけど。それか、かわいくなった?なんちってー」

    阿「うん」

    唯「えー!マジで!やーん、た…若君を悩殺しなくちゃ!」

    阿「とうに夢中にさせていると思うけれど。ところで、今日は何の御用?」

    唯「あ、お菓子に目が眩んで忘れてた。あのね、阿湖にも~っとかわいくなって欲しくて、プレゼント…もとい、贈り物持って来たの」

    グロスを懐から出そうとしたが、阿湖の目線は、先に違う場所に釘付けになった。

    阿「あっ、その指、何?とっても綺麗!」

    唯「あ、見つかっちゃった。いいでしょ~」

    阿「光に煌めいて、素敵…」

    唯「阿湖も塗る?」

    阿「いいの?!」

    唯「侍女のかめとか、怒りそうだけど」

    阿「良いの。私がそうしたいのだから」

    唯「強ぇ」

    阿「唯には、敵わない」

    唯「えー?じゃあさ、また今度持って来てあげるね。なんとか…塗れると思うから」

    阿「唯は、お付きの者にしてもらったの?」

    唯「ううん、若君にやってもらったんで」

    阿「ええっ?若君様が!あぁ、何か、暑い」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    女子会、続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days109~15日23時30分、納得できぬ

    義父と義兄が、ちょっと失礼です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    永禄に戻った二人の居る閨に、誰かが来た。唯から離れ、襖に近付いた若君。

    小平太「若君様、奥方様、ご無事でございますか」

    若君「その声は、小平太か。夜更けに何じゃ」

    小「いえ…先程、屋敷がかなり揺れましたゆえ、大事なかったか、伺いに参りました次第」

    若「おぉ、そうであったか。わしも唯も、大事ない」

    唯「揺れた?地震があったって事?」

    若「いや、わしらが戻る折に、屋敷や城が揺れるらしいのじゃ」

    唯「そうなの?!知らなかった~」

    若「永季が申しておった。ひどく揺れた後、わしが現れたと」

    唯「あー、吉田城でね」

    若「そうじゃ…唯、襖を開けても良いか?」

    唯「え?うん、いいよぉ」

    若君が、襖をサッと開けた。

    小「えっ、開く?!中など見てはならぬのでは!」

    とっさに目を背け、後ずさる小平太。

    若「小平太」

    小「はっ」

    若「久しぶりじゃの」

    小「は…はあ?」

    若「息災であったか?」

    小「若君様、お戯れを…朝方、共に弓の稽古をしたではありませぬか」

    それを聞いた若君が唯の方を向き、軽く微笑みながら、頷いた。

    唯「うん、カンペキに3分後だね。さっすがたー…若君っ」

    小平太が、不思議そうな顔をして若君を見上げている。

    若「何じゃ?その妙な顔付きは」

    小「あっ、いや、その…日が高い内は、くまなく領内を回っておられたのかと」

    若「何ゆえ、そのように思うた」

    小「随分と、日に焼けておられます」

    若「そうか?気のせいじゃ」

    小「…はあ?」

    唯「ぷっ、くくく」

    笑いをこらえきれない唯。唯を一瞥し、一瞬ムッとした顔になった後、若君の方に向き直り、困り顔になった小平太。

    若「おぬしの気のせいであろう」

    小「左様…にございますか」

    若「下がれ」

    小「は、はっ」

    小平太は、腑に落ちない顔をしながら、一礼し襖を閉め、去って行った。

    唯「ふ、ふっ、あはは~」

    小平太の気配が消えた頃、唯が笑い出した。

    唯「もー、たーくん、超ウケる~!小平太、めっちゃ変な顔してたよぉ」

    若「良いのじゃ。誰にどう聞かれても、あのように答えるつもりであったからの」

    唯「カッコ良かった」

    若「そうか?」

    唯「最後、ちょっと冷たかったね」

    若「唯との時間が持てると思うた矢先に、現れるからじゃ」

    唯「え、怒った腹いせ?やだぁ、かーわいーい!って、うわっ、速い速い!」

    天野の屋敷。

    小平太パパ「お、戻ったな。お怪我などなかった様か?」

    小「ご無事でした。お二人共々」

    小パ「そうか、それは良かった。ひどく揺れたゆえ、案じておったが」

    小「はい…」

    小パ「何じゃ?何を目をしょぼつかせておる。眠いのか?」

    小「若君にからかわれました」

    小パ「どのように?」

    小「今朝方稽古にお供したのに、久しぶりと言われたり、随分と肌が焼けておられるのに、違うておる、気のせいじゃと」

    小パ「闇でよう見えなかったのではないのか?それに、若君様だって、その位のお戯れはなさるであろう?」

    小「それはさておき」

    小パ「さておき?」

    小「唯之助が…」

    小パ「奥方、な」

    小「完全におなごの姿に見え」

    小パ「そ、そうなのか」

    小「何と申すか…随分と麗しく」

    小パ「ほ、ほお。…もう休んだらどうだ」

    小「…そう致します。では父上、これにて」

    小パ「ああ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    15日のお話は、ここまでです。

    次回は、令和の速川家からスタートします。

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    返信先: 雑談掲示板
    アシガール繋がりなら

    月食、綺麗でした。こちらも是非。岐阜城の上の月。合成じゃないそうです。
    https://news.yahoo.co.jp/articles/45acc610514968cf3f92b9cb4e13eafbae564f25
    永禄10年に織田信長が居城としました。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days108~15日23時、旅立ちです

    妖怪千年おばば様、私のペースはお気になさらず、じゃんじゃん投稿してくださいね。

    昨夜の月食、赤銅色もしっかり目視できて感動しました。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    二度と会えない訳ではないので。きっと。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに唯と若君が戻って来た。

    唯「お待たせ」

    覚「おー」

    美香子「あら、ヘアスタイル、そのままでいいの?」

    唯「え、このヘアゴム持ってっちゃダメだった?」

    美「別にいいわよ」

    唯「お揃いにできるからさぁ」

    美「なるほどね」

    若君「千羽鶴は、風呂敷に包んでくださったのですね」

    美「ええ。中に、芳江さんに頂いた連鶴も入ってるからね」

    唯「ありがとう~」

    若「では、鞄、はわしが持ちます」

    唯「移動しよっか」

    実験室。尊が先に来ていた。

    尊「兄さん、重そうだね」

    若「いや、何程でもない」

    準備、完了。

    美「じゃあね、元気でね」

    覚「体に、気を付けろよ」

    唯「うん」

    尊「兄さん」

    若「ん?」

    尊が、右手を挙げた。

    若「おぉ」

    若君も、同じ形に。

    尊「イェーイ!」

    若「イェーイ!」

    パシッと、ハイタッチ。

    尊「また、会いましょう」

    若「あぁ」

    覚「若いな~」

    美「イイ事よ」

    若「お父さん、お母さん。此度も世話をかけました。心より礼を申します」

    美「いえいえ」

    覚「楽しかったよ」

    若「必ずや、唯を守り抜きます」

    覚「ありがとう。生き生きした唯が見られるのは、忠清くんのお陰だからさ。全て託すよ」

    美「よろしくお願いします」

    唯「お父さん、お母さん、いろいろありがとね。…じゃあ」

    起動スイッチを抜いた。

    唯「いつか、孫の顔を見せられるよう、がんばるから!それなりに」

    覚「それなりに、でいいぞ」

    美「無理しちゃダメよ」

    唯「ありがと。だからさ尊、三人用の新しいタイムマシン、早めによろしくね!」

    若「これ、急いてはならぬと申したじゃろ」

    唯「えー…」

    しゃべりながら、消えていった。

    覚「毎回、こんな風だな」

    美「ちゃんと、3分後に帰れたかしら?」

    尊が、パソコンを見ている。

    尊「あー、大丈夫だよ」

    美「なんでそう言えるの」

    尊「これ、見て」

    画面に、設定した日付と時間が出ており、大きくOKと表示されている。

    覚「なんだ?こんな機能、あったか?」

    尊「増えたみたい」

    美「みたい、って何?」

    尊「だって、2号作ったのは未来の僕だから、今の僕はわからないよ」

    覚「そうか」

    尊「多分さ、ニーズに応えたんだよ。無事帰れたかしら、心配だわ~の声に、未来の僕が」

    美「なるほどね」

    尊「まあ、安心して、って事で」

    三人、実験室を後にした。

    ┅┅┅

    その頃、永禄。辺りは暗い。

    唯「ん…」

    若「無事、着いたか?」

    飛ぶ前に居た、閨に到着。

    唯「二人とも無事だね、良かったぁ」

    若「尊のお陰じゃの」

    唯「でもさぁ、ホントに3分後なのかなぁ。もしかして一月後かもだけど、区別つかないよね」

    若「尊の事じゃ、恙なく終えておろう」

    唯「うん。たぶんね」

    荷物を、部屋の隅に寄せて置いた。

    若「夜が明けたら、仕舞おう」

    唯「うん」

    若「…静かじゃな」

    唯「そうだね」

    褥の上に腰を下ろした若君。唯も前に座る。

    唯「ふふっ、行く前と一緒だ」

    若「そうじゃな」

    唯「でも、もう不安じゃないから」

    若「そうか。唯の傍で、支えるからの」

    唯「ありがとう」

    若君の手が伸び、唯の髪を優しく撫でる。

    若「唯…」

    唯「たーくん…」

    その時、部屋の外に、人の気配がした。

    唯「えっ、誰か来たっ」

    若「何奴じゃ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days107~15日22時45分、打ち明けます

    若君の好みにケチをつけるのか、って話。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    真剣な顔で、ゆっくりと話し出した若君。

    若君「…この先の世には、早う子を成せと申す者は居らぬ」

    唯「…」

    若「もしや永禄では、詰め寄られたり、陰で言われる心無い言葉に傷付いていたのではあるまいか?」

    唯「…」

    若「お母さんと先日、改めて話をした」

    ┅┅回想。8月12日21時30分、リビング┅┅

    唯はもう寝ている。月が綺麗だ話を、尊としていた後。

    若「お母さん」

    美香子「唯が居ないと静かね~。お茶飲む?冷たいのと温かいのとどっちがいい?」

    若「温かい茶を、お願いします。あの…」

    美「ん?ははーん、もしかして、訊ねたき儀がある?」

    若「仰せの通りです」

    美「わかった。じっくり聞いてあげよう」

    食卓に四人。

    覚「はい、お茶。僕らも居て、いいかな?」

    若「構いませぬ」

    尊「ありがとう、兄さん」

    美「さっ、何でも聞くわよ~」

    若「はい。お母さんにお尋ねしたい。唯がああも子を急いておったのは、何ゆえと思われますか?」

    美「なるほどね」

    若「此度、一番の拠り所であるお母さんと話が出来、唯も安心した様子でした。その後は話を切り出される事もなく、今に至っております」

    美「それは良かったわね。最初話聞いた時、どうかな?と思ったけど、その後はずっと私達の知ってる元気な唯だったわよ」

    若「はい。されど帰った後、またぶり返すのではと案じております。辛い思いはさせとうありませぬ。どうすべきか…どう支えれば良いのでしょうか」

    美「周りから期待されているのは当然よね。でもいくら何でも、たった七か月…ずっと離れてて再会してからその位でしょう。それで焦るのは早過ぎると私も思ったわ」

    若「はい」

    美「子供はすぐ出来るものだー、とたかをくくってたかもしれないけどね」

    覚「唯なら有り得るな」

    美「んー。あくまでも推測だけどね」

    若「何でしょうか?」

    美「もしかしたら、唯自身に対する中傷や陰口とかがあったかもしれない」

    若「えっ」

    覚「あー、それは悔しいが有り得るな」

    尊「ひでぇ…」

    若「それは…わしが総領だから、でしょうか」

    美「うん。人並み以上に、期待を背負ってるから、それは言える」

    若「…」

    美「違う理由かもよ?」

    若「いや、頷ける話です。唯が何も申さないゆえ、尚更」

    覚「人の口に、戸は立てられないからな」

    尊「でも言われっぱなしじゃ、かわいそうだよ」

    美「忠清くんはそういう地位の人だから、それなりの覚悟がいる、って自覚が足りなかったとも言える」

    覚「僕らが、もっと口酸っぱく言わなきゃいけなかったか」

    美「そうよね…ごめんね忠清くん。私達にも責任があるわ」

    若「何を申される。わしが、辛さがわからず寄り添うてやれなかったからです」

    美「忠清くんなら、丸く治められると思うな」

    若「折を見て、尋ねます」

    ┅┅回想終わり┅┅

    若「頼む、有り体に申してくれぬか?」

    唯「うん…そう…だね。さっさと産まないと、奥方として認めてもらえない。たーくんにふさわしくない」

    若「やはりそうであったか。何という…守ってやれず、済まなかった。この通り」

    深く頭を下げる若君。

    唯「やめて、たーくんは何も悪くない」

    若「されど」

    唯「ありがとう。でも大事なつとめでしょ…お母さんは大丈夫って言ったけど、私このまま妊娠しなかったらどうしようって、怖い」

    若「子など、なくても良い」

    唯「そんな…総領なのに、ダメだよ」

    若「兄上と阿湖姫も居る。わしは、笑顔のない唯を見る方が辛い」

    唯「でも」

    若「随分と前にの、わしは唯に誓いを立てたのじゃが、全くもって遂げておらぬと気付いた」

    唯「誓い?」

    若「これからは、わしが唯を守る、と」

    唯「あぁ、うん。すっごく嬉しくて、たーくんにダイブした時ね」

    若「色々申す者達には、耳を貸すな。二人で考えれば良い話じゃ」

    唯「…」

    若「わしが、全力で唯を守る。支える」

    唯「ありがとう。嬉しい」

    若「この先の世では、楽にしておれたようで、良かった」

    唯「うん。超リラックスしてたよ。それはなぜかと申しますとねぇ」

    若「なんじゃ?」

    唯「ちゃーんと、忘れている時間、にしてたからだよ」

    若「そうか。唯自身が、忘れている時間を大切にしておったのだな」

    若君が微笑みながら、唯の頬を撫でる。

    若「…今でも、初めて結ばれた日を思い出す」

    唯「うん」

    若「一つになりたいと申したあの時の思い、変わってはおらぬ。純粋に、今もそう思う。子は、あくまでもその次の話」

    唯「ありがとう」

    若「わしは、未来永劫、唯の味方じゃ」

    唯「嬉しい!」

    唯がギュっと抱きつく。優しく髪を撫でる若君。

    若「では、そろそろ参るか」

    唯「はいっ!」

    部屋の電気を消し、扉を閉めた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    いよいよその時が。ですが、令和Daysはまだまだ終わりません。ご心配なく(?)

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days106~15日22時、ときめき全開です

    唯にも尊にも、絶対的に心優しき王子様。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯「なにかけよっかなぁ、悩むー。あれ、キウイのシロップなんてあるの?」

    覚「煮詰めて作ったんだ」

    唯「へー、すごーい。じゃあそれにするー」

    覚「忠清くん、どれにする?」

    若君「いかが致しましょう。この、朱よりも赤い」

    美香子「イチゴ?」

    若「前に参った折に、揃いで着たセーターの色味によう似ております」

    尊「あー、かなり近いかも」

    覚「これも渾身の作だから嬉しいよ。かけていい?」

    若「はい」

    美「また、いつか冬に来る時があったら、セーター着て見せてちょうだいね」

    若「はい!」

    みんなでかき氷タイム。

    唯「ん~美味しい!たーくんにも一口あげるね。はい、あーんして」

    若「うん、うまい」

    覚「良かった。どれも甘くなり過ぎないようにしたから、口に合ったかな」

    若「お気遣い、忝のう存じます」

    唯「尊のも美味しそう。これも作った?」

    覚「かなり難しかったけどな、旬の先取りで」

    尊「梨、なかなか良いよ。食べる?」

    唯「一口もらうねー。ん、いい!」

    尊「でしょ。兄さんも一口どうですか?」

    唯「ストップ!」

    尊「は?」

    唯「尊~、それは違うておるぞ」

    尊「だからなんで戦国言葉なんだよ」

    唯「あーんして、でしょ」

    尊「えーっ!!」

    若「おぉ、そうか」

    若君が、尊に近づくように、食卓に身を乗り出した。

    唯「ほら、たーくん待ってるじゃない、早く!」

    尊「う、うん。じゃあ…兄さん、あーんしてください」

    一口掬い、口元に滑らせた。

    若「これもうまい。お父さんはまことに、手練の技を持っておられる」

    覚「へへ、褒められちゃった。ありがとね忠清くん」

    唯「尊~?おーい」

    尊「はぁ…」

    美「目がハートになるって、ホントにあるのね」

    若「尊、どうした?なにやら呆けた顔をしておるが」

    尊「あ、いえ」

    若「あぁ、そうか。済まない、気付かなんだ」

    自分の、イチゴの氷を一口掬った。

    若「あーん、して」

    尊「ヒッ!」

    唯「わー、贅沢ぅ」

    美「優しいわね~」

    尊が、若君に釘付けになったままつぶやく。

    尊「お姉ちゃん…」

    唯「え、私?なに?」

    尊は、慌ててスマホを取り出した。

    尊「撮って」

    唯「うわっ、超贅沢!」

    スプーンをくわえた所を、パチリ。

    尊「お、美味しいです…」

    若「そうか。それは良かった」

    覚「おいおい、まんま恋する乙女の顔じゃないか」

    美「ふふっ、尊の気持ちがわからなくもない」

    覚「わからなくもない…僕の氷、食べる?」

    美「えー、貰うなら忠清くんからがいいわ」

    覚「やっぱりな」

    若「わかりました」

    美「…って、待って忠清くん、冗談だから!」

    若君は、掬った氷を美香子に差し出そうとしていた。

    若「良いのですか?」

    尊「兄さん、こぼれそうだよ」

    若「おぉ、これはしたり」

    唯「なら、それちょーだい!あ」

    スプーンは若君自身の口に吸い込まれた。

    唯「早いぃ」

    若「垂らすより良かろう」

    尊「残念でした~」

    全員「ハハハ~」

    会話が弾んでいたが、

    唯「んー、そろそろ…かな。早い?」

    覚「いや、キリがないからさ」

    美「そうね」

    唯「じゃあたーくん、着替えよっか」

    若「そうじゃな。では、行って参ります」

    三人「行ってらっしゃい」

    唯の部屋。着替え完了。

    唯「さてと、たーくんの布団も畳んだし」

    若「あぁ」

    唯「忘れ物、ないよねー」

    若「良かろう」

    唯「たーくん、ホントにありがとう」

    若「ん?」

    唯「一か月、すっごく楽しかった」

    若「わしもじゃ」

    唯「ふふっ」

    若「ところで、唯」

    唯「はい?」

    若君が唯の正面に立った。

    若「折り入って、話がある。聞いてくれるか?」

    唯「え、怖っ」

    若「帰ってからとも思うたが…」

    唯「なに?今言いたいんでしょ?どーぞ」

    若君は、ふぅ、と一呼吸した。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days105~15日21時、盛り上がってます

    興が乗ったまでの事。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    五人で、神経衰弱の真っ最中。

    覚「おーっ、取れた!初めてだ~」

    唯「やっと?」

    尊「ここへ来てようやく?」

    若君「さすがお父さんじゃ」

    覚「いや~。ありがとう、忠清くん」

    若「え?」

    覚「ヒント、出してくれて」

    尊「お父さん、ヒントじゃわからないよ。んーと兄さん、それとなく教えたりしました?」

    若「いや、何もしてはおらぬ」

    覚「またまた~」

    美香子「お父さん、せっかくこっそりと教えてくれたんだから、あんまり言っちゃダメよ」

    覚「そうか、そうだな」

    唯「たーくん、孝行息子だ」

    若「いや…」

    美「ふふっ、照れて可愛らしい。はぁ~。トランプ、楽しいわねぇ」

    尊「うん、間違いない」

    美「もっと色んな遊び、したかったわねぇ」

    唯「遊び~?例えば?」

    美「んー、みんなでカラオケとか」

    覚「うわっ、今この時間になってから言うか~?」

    唯「え~それ、たーくん聞いてるだけになっちゃうもん。すっごく音大きいしびっくりしちゃうよ」

    若「桶が空?」

    唯「言うと思った」

    尊「えーとですね、カラオケは…歌を歌う設備?場所?歌会?」

    若「歌会。ほぅ」

    唯「尊ダメだよ、永禄では歌はそれじゃないから、話がややこしくなる」

    尊「あ、詠じる方か。雅だね」

    覚「君が~、望むなら~」

    美「ヒデキ~!」

    若「?!」

    唯「もーなに!急に歌わないでっ」

    尊「すげぇ息ぴったりだし」

    覚「カラオケと聞いてつい。素晴らしき昭和歌謡を披露だ」

    美「思わずノッちゃったわ~」

    覚「さすが母さん~」

    唯「はぁ。たーくんごめんねぇ」

    尊「話が見えませんよね」

    若「大層楽しんでおられる、のはわかった」

    ひとしきり遊んだ後。

    美「お風呂、沸いたわよ。行ってらっしゃい」

    唯「わかったー。着替え取ってくる」

    美「後で慌てないように、お着物も出しておきなさいね」

    若「わかりました」

    唯の部屋。

    若「この先の世での、歌、は」

    唯「うん?」

    若「皆、きてれつな声をあげるのじゃな」

    唯「あっちゃー。私と親のしか知らないもんねぇ。ごもっともでございます」

    若「この話、内密に頼む」

    唯「承知いたしたっ」

    二人がお風呂タイム中、かき氷の準備をする三人。

    尊「お父さん」

    覚「ん?」

    尊「兄さんって、ホント周りをよく見てるし、何より優しいよね」

    覚「あぁ。さっきさ、僕の方がヒントに中々気付かなくて、忠清くんヤキモキしてただろうなぁ」

    美「さりげなくやってくれてるものね。父を立てるいい息子ね~」

    覚「忠清くんのお陰で、尊も成長してるしな」

    尊「僕?」

    覚「聖人君子のような彼が傍に居て、人としての在り方も学べただろ?」

    尊「うん…。えっ、兄さんと同じは無理だよ?努力目標にはするけど…道は険し過ぎる」

    美「いつか…ね、随分成長したな尊、って言ってもらえるように」

    尊「わぁ、そりゃ頑張らないと!」

    風呂上がりの洗面所。二人で交互に、髪にドライヤーをかけている。

    唯「真夏、お風呂出てすぐドライヤーって、厳し過ぎる~、暑いー」

    若「雫が垂れる程ではならぬゆえ、我慢じゃ」

    唯「たーくんはもうほとんど乾いたよ。まだ暑いでしょ、髷にしとく?」

    赤いリボンのヘアゴム登場。

    若「おぉ、これか。では頼む」

    唯「え、私が結んでいいの?」

    若「出来栄えは不問とするゆえ」

    唯「ん?なーんか引っかかるけど、まぁ良しとする。はい、できたよ」

    若「ありがとう唯。代わろう。うむ…粗方乾いたの。唯も、結ぶか?」

    唯「うん。やってくれる?」

    若「うむ。されどこの輪、実によく伸び縮みし、結わえ易いのう」

    唯「持ってく?てか、このまま結んどけば良くない?」

    若「そうか。そうじゃの。よし、出来たぞ。では戻ろう」

    唯達がリビングに戻ると、すっかり用意が出来ていた。

    唯「わー、キレイ~」

    若「色鮮やかな…これは何じゃ?」

    尊「シロップですよ。そっか、以前食べた時はもう氷にかけてあったかも」

    覚「外でも食べてはいるだろ?」

    唯「うん。プールででっかいのを三人で分けっこしたよ」

    美「お店で出る程、きめ細やかには削れないけど」

    唯「いいよ。私ちょっとガリガリしてんのも好きだから」

    氷を削り始めました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days104~15日20時、準備はスローに

    月が沈む前に帰ればいいんだから、まだまだ時間あります。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊「あれ?荷物が増えてる」

    唯「これ、すごいんだよぉ!ほらっ」

    尊「うわっ、繋がってる?」

    覚「連鶴か。芳江さんだな」

    若君「ご存じでしたか」

    覚「以前、患者さんへの快気祝いとして折ってみえたんだ」

    尊「へー。芳江さんもエリさんも、手仕事上手なんだね」

    覚「母さんが一番何にもできない」

    若「そのような」

    覚「ハハハ。三人とも医療のプロには違いないから。じゃあ、続きをしようか」

    若「はい!」

    はさみ揚げにまぶす粉の入ったバットが、二つ並んでいる。

    覚「こちらがいつもの。こちらが」

    若「カレー、ですか?」

    覚「そう、忠清ブレンド」

    尊「今日は二種類作るの?しかも兄さんお手製の。やったー!」

    覚「たまにはいいだろ?」

    若「ありがとうございます!」

    覚「あれ?唯が反応しないな。どうした?」

    尊「鋭意学習中だから」

    タブレットを凝視している唯。

    尊「連鶴の折り方をね」

    若「そうなのか」

    覚「ん、いい心掛けだ」

    いよいよ揚げ始める。

    美香子「ふう」

    尊「あ、おかえりー」

    唯「お疲れ様ぁ」

    若「一日お疲れ様でした」

    美「ただいま。あら?カレーの匂いがしてる」

    覚「お疲れ。忠清ブレンドで、はさみ揚げのアレンジだ」

    美「まぁ!食べる前から、美味しいって決定じゃない」

    覚「だろ?」

    美「ん~男子二人のエプロン姿が並ぶ、やっぱいいわ。よーく見とこ」

    覚「見納めって言わないのがいいな」

    美「当然でしょ~」

    唯「ねぇお母さん、これ持ってってもいい?」

    マニキュアセットを見せる。

    美「あらそう。いいわよ。忠清くんもいいって言ってくれてる?」

    唯「うん。これからも、塗ってもらうんだぁ」

    美「あらま。贅沢ねぇ」

    尊「ホントだよ」

    覚「まあまあ。美香子さんには、僕が塗ってあげるからさ~」

    美「いや、そういう意味ではないんだけど」

    覚「えぇっ!そ、そう…」

    美「は?もう、何拗ねてるの~」

    若「ハハハ、実に仲が良い」

    晩ごはん、出来ました。

    全員「いただきまーす!」

    若「うまい」

    唯「カレー味、いい!」

    美「うん、いいわ~」

    覚「だろ?」

    尊「おいしい!親子でコラボ、大成功だね」

    若「コ、コラ?」

    尊「あっ、ごめんなさい。コラボは…共同作業とか合作、かな」

    若「そうか。お父さんと手を携えて出来たと」

    美「手を携える。いい言葉ね~」

    覚「忠清くんと居ると、美しい日本語の勉強になるよな」

    尊「ずっと一緒でも、そう身に付いてないヒトも居るけど」

    唯「あぁおいしいっ。え、日本語がなにって?」

    尊「なんでもない」

    覚「まぁある意味、確固たる自己が出来上がっているんだが」

    唯「かっこ?カッコいいのはたーくんでしょ」

    尊「いい耳してるよ」

    若「ハハハ」

    晩ごはんも終わりかけ。

    覚「この後の話をする」

    四人「はい」

    覚「唯達、今回、寝間着姿で来たじゃないか」

    唯「うん」

    若「そうですね。寝所から参りましたゆえ」

    覚「だから、風呂上がりにそのまま、その寝間着を着ればいいっちゃいいんだが」

    唯「ちょっと暑いよ」

    美「確かに、あの白いお着物はそうよね」

    覚「そう。だからまず、少ししたら二人で風呂に入りなさい。で、一旦Tシャツジャージとか涼める格好に着替える」

    尊「それで?」

    覚「風呂上がりに、かき氷作ってやろう」

    唯「わぁ、あの手動でガリガリやるヤツ?」

    覚「そうだ。シロップは沢山用意したから。氷は向こうでは贅沢品だろ?腹を壊さない程度に食べて行きなさい」

    尊「やったー。かき氷機使うの久々。前に兄さんが一人で来た時以来じゃない?」

    若「おぉ、そうか」

    美「まだゆっくり寛ぎましょうね。じゃあ、ごはん終わったらまず」

    唯「なに?」

    美「トランプしない?神経衰弱、全員で一回もやってないもの」

    覚「うわっ」

    美「え?」

    覚「まだ、記憶力鍛えてない。でもやりたい」

    美「えぇ?」

    全員「ハハハ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    夜はまだまだ続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days103~15日18時、繋がります

    上手くやれば、冠みたいに輪っか状にもできるみたいです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに戻ってきた唯。

    覚「おーお帰り」

    唯「うん。ちょっと待ってね」

    実験室にBlu-rayディスクを持っていった。

    唯「ただいま」

    覚「慌ただしいな」

    唯「時間ないから」

    覚「そうだな」

    花瓶の花は今日も綺麗に咲いている。

    唯「お父さん」

    覚「ん?」

    唯「たーくんに、お小遣いあげてくれてありがとう」

    覚「フフフ」

    唯「こんなにキレイなお花に変わったよ」

    覚「使い方が、さすがだなと思った」

    唯「うん」

    覚「彼は戻ればまた、プレッシャーだらけの日常だろ。一緒に居られる時間は、ゆっくりさせてやるんだぞ」

    唯「うん。あのさ、やる事も責任もいっぱいあるのに、私の事も考えて、ってダメかなぁ」

    覚「それはない」

    唯「なんで言い切れるの」

    覚「唯が居るから、より頑張れるさ。帰れる家があるのはな」

    唯「家…城じゃなくて?」

    覚「家とは、唯自身の事だから」

    唯「そっかぁ」

    覚「支えてやるんだぞ」

    唯「うん!」

    晩ごはんの、蓮根のはさみ揚げの準備中。

    覚「まだ実験室、時間かかりそうか?」

    唯「んー、たーくんはそろそろ戻ると思うんだけど。あ、来たよ」

    若君が戻ってきた。

    若君「お父さん、お待たせしました」

    覚「全然大丈夫だよ~って、あれ?なんか目や鼻、赤くない?」

    若「感涙に咽びまして」

    覚「そうか。うん、いい事だ」

    唯「なんか約束してたの?」

    若「はさみ揚げの作り方を見せて頂きたい、と願い出ておきながら、遅くなり」

    唯「へー」

    覚「じゃあ始めるよ。ここに並べた材料の説明からね」

    若「はい!」

    19時になった。そろそろクリニックの診療時間が終わる。

    覚「あ、忠清くん、一旦手洗ってさ、エリさん達に最後の挨拶しておいで」

    若「わかりました」

    唯「千羽鶴持ってね」

    診察終了後、クリニックへ入る二人。

    美香子「いらっしゃい」

    芳江「まぁー、これが完成品ですか」

    エリ「綺麗なグラデーションですね」

    若「お二方のお陰です」

    芳「いえいえ。あら、この辺はウチの孫が折ったわね」

    エ「皆さんの個性が出てますね」

    美「芳江さん、例のお品をどうぞ」

    芳「あ、そうそう。実は今朝、渡しそびれた物がありまして」

    唯「鶴以外で?」

    芳「これも鶴なんですけれど」

    違う箱が登場。

    唯「なにー?」

    芳「予定の折り鶴があっけなく完成したので、僭越ながらお屋敷で飾っていただけたらと思いまして」

    一つ取り出す芳江。千代紙で折られた柄入りの鶴だが、

    唯「あっ、え!」

    若「何羽も繋がっております!」

    唯「糊でくっつけたの?」

    芳「一枚の紙なんですよ」

    唯「えーっ」

    若「なんと」

    エ「素敵ね~」

    美「素晴らしいわよねぇ」

    芳「私の実家辺りの地域が発祥なんですけど、連鶴と言いましてね。一枚の長方形の紙を、端を5ミリ位残して、正方形が繋がるように切って、それぞれ折っていくんです」

    唯「すっごい器用だね、芳江さん」

    芳「伝統工芸ですから、小さい頃から親しんでましたので。何とか五羽は繋いでみました」

    唯「五羽…あ」

    若「家族の人数でお作りいただいたのですね」

    芳「はい。これは翼同士が繋がってますけど、唯ちゃん達にはこちらの方がいいかしら」

    唯「やーん!くちばし同士くっついて、チューしてるぅ。こんな風にもできるんだー」

    若「今朝方、大きい折り紙を買うたのですが」

    美「あら、そうだったの」

    芳「ちょうどいいですね。裏を中にして縦半分に折って、5ミリ残して横半分に切り込み入れれば作れますよ。そうするとより丈夫に折れますから」

    唯「たーくん、やる気満々でしょ」

    若「あぁ」

    唯「目、キラキラさせちゃって。かわいいんだから」

    美「ところで、お別れのご挨拶しに来たんじゃないの?」

    唯「そうだった。芳江さん、エリさん、一緒に過ごせて、すっごく楽しかった!ありがとう~」

    若「エリさん、芳江さん。この忠清、受けたご恩は生涯忘れませぬ。ありがとう、ございました」

    芳「どうかお元気で」

    エ「遠い未来から、祈ってますね」

    若「ありがとうございます」

    唯「バイバーイ」

    手を振りながら、クリニックを後にした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    源トヨ!

    やっぱ源トヨは可愛いですね。ほっこりします。私のお話令和Daysでも活躍してもらうつもりですが、出番はまだまだ先です。来月上旬には登場予定です。

    じゃあ、最終話はいつ頃って話ですが…年は跨ぎます。まだダラダラ続きます…(-人-;)長くてすみません。よろしければ、お付き合いください。

    今までの二人の令和Days、番号とあらすじ、37から85まで

    no.699の続きです。今回は、8月13日のお話までです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    37no.641、8/3、旅行スタート。若君初めての買い物

    38no.642、8/3、古式泳法の授業

    39no.643、8/3、ボンキュッボンとは。浜辺で昼ごはん

    40no.644、8/3、美香子到着。寝顔をパチリ

    41no.645、8/3、浮き輪を奪われる尊

    42no.646、8/3、温泉へ。綺麗な夕日

    43no.647、8/3、飲み過ぎの覚を寝かせる

    44no.648、8/3、永禄でのジェンガの回想

    45no.649、8/3、トランプで盛り上がる

    46no.650、8/4、朝の海。願いは砂の中に

    47no.651、8/4、若君考え込み唯怒る。午後は二手に分かれる

    48no.652、8/4、男子城ツアー。天守で風を感じる

    49no.653、8/4、女子買い物ツアー。寝顔の写真で大騒ぎ

    50no.654、8/4、男子恋愛マスターの講義

    51no.655、8/4、女子買い物後にパンケーキ

    52no.656、8/4、帰宅。次回城ツアー決まる。覚がタジタジに

    53no.657、8/5、悩める吉田君がやって来た

    54no.658、8/5、若君の訓話でスッキリな吉田君

    55no.659、8/6、デートでずぶ濡れの唯

    56no.660、8/6、ボート競争は若君の勝利

    57no.661、8/7、髪を結い合う二人

    58no.662、8/7、ぷらぷら城ツアーで若君の考察

    59no.663、8/7、城からかつての黒羽城を思う。神社に参拝

    60no.664、8/7、若君が千羽鶴を作る宣言

    61no.667、8/8、昼は鶴を折り夜は花火大会。美香子は折り紙見てやる気アップ

    62no.668、8/8、唯の危機に駆け出す若君

    63no.669、8/8、花火を堪能

    64no.671、8/8、美香子の作る晩ごはん。大殿に理解してもらうには

    65no.672、8/9、旅行初日は自由行動らしい。カレーは忠清ブレンドで

    66no.674、8/9、昼はハーブをブレンド。体固まる程頑張って鶴を折る

    67no.679、8/9、キーマカレー完成。尊の理想のデートで恩返し

    68no.681、8/10、草むしりを隅々までキッチリと

    69no.686、8/10、コーチ親子の様子に若君妄想でデレデレ

    70no.688、8/10、若君を都会の女子から守るには

    71no.689、8/11、千羽鶴半分完成。二回目の旅行スタート

    72no.693、8/11、美香子と若君が着物の話

    73no.694、8/11、三人でパンケーキ両親へのプレゼント購入

    74no.695、8/11、唯が薬局で四苦八苦

    75no.696、8/11、全員合流して鰻を食べる。尊の様子がおかしい

    76no.697、8/11、美香子子作りを全力否定

    77no.698、8/11、夜景が煌めく中若君の仮定話を唯が諭す

    78no.700、8/12、大音量でさすがに起きた

    79no.701、8/12、永禄の食糧事情を考える若君

    80no.702、8/12、家族写真。溢れる思いも写る

    81no.703、8/12、月が綺麗は愛してる

    82no.704、8/13、ラジオ体操を愛聴する若君

    83no.705、8/13、お祝いの準備で子供達はスーパーに

    84no.706、8/13、結婚20周年パーティーは和やかに

    85no.707、8/13、それぞれの矢じり考

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days102~15日17時、一途です

    違うタイプの美形に育つ、かな。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    実験室に三人。

    尊「呼んだ用事は二つあってさ、一つ目。花火大会から一週間経ってるのに、まだ録画編集してないの、って思ってなかった?」

    唯「思ってた」

    若君「少しは思うたが、尊のことじゃ、頃合いを見計らっておるのであろうと」

    尊「さすが、いい読みです。あの、兄さんってラジオ体操好きじゃないですか」

    唯「うん、マニアだと思う」

    若「マニア、とは?」

    唯「超好きで夢中でしょ」

    若「ほぅ…ならば、わしは唯マニアでもあるのじゃな」

    唯「えっ?!あ、そうなる?やーん、もう、もう!」

    若「い、痛い」

    尊「はいそこー、叩かない、じゃれない!なんかとっ散らかってるなー。話戻すけど」

    唯&若「どうぞ」

    尊「花火だけより、もっとディスクの容量使おうと思って。体操さ、カセットテープだけじゃなく、毎朝テレビでやってるのを何日か録画しといたんだ」

    唯「へー」

    尊「兄さんがこれがいいって回をいくつか、ディスクに落とそうと。だからギリギリ今日まで溜めといたんだよ」

    若「それは…痛み入る。世話をかけたのう」

    尊「いえいえ。だからこの作業は、お姉ちゃんは関係ないっちゃ関係ない」

    唯「まぁそうかも。もう一つは?」

    尊「うん。さっきの花火のBlu-ray、もう一枚あってさ。こちらで保管する」

    若「先程そう申しておったのう」

    尊「前回は最後に、両親からのメッセージ入れたから、今回は二人にしゃべってもらおうと思って」

    若「そうか。存念…気持ちを伝えるのじゃな」

    唯「わかったー」

    尊「どっちからにする?」

    唯「メッセージからで」

    尊「その心は?」

    唯「お父さんずっとひとりぼっちじゃかわいそうだから、番組の確認になったら私、リビングに戻るよ」

    若「娘の鑑じゃな」

    唯「えへへ」

    メッセージの録画が始まった。

    尊「自然な感じにしたいから、基本流しっぱなしにするし、僕の声も入ると思う。じゃあ、スタート」

    唯「了解~。ん?たーくん、なんか緊張してる?」

    若「あ、あぁ。此処に居らぬ両親に話すとは、些か不得手じゃ」

    唯「いいんだよ、たーくんらしくで」

    若「ならば…此度も、お父さん、お母さんの深い愛情に包まれ、大層幸せな時を過ごしました。心より、礼を申します」

    唯「ん、良かろ。お父さんお母さん、今回も楽しかったよ。ありがとー」

    若「…」

    尊「兄さんまだ固まってる。んー、質問になら答えられます?」

    若「あぁ。済まぬ」

    尊「そうだな…えーっと、もし生まれ変わったとします。永禄がいいですか、令和がいいですか?」

    若「戦を知らずに、末永う幸せに生きる、のは良い」

    尊「でもそれも、戦国時代を生き抜いているからこそわかる喜びですよね」

    若「それもそうじゃの」

    尊「ぬくぬく生きててすみません」

    若「ハハッ、尊が選んでこの先の世に居る訳ではない」

    尊「まぁそうですけど」

    若「穏やかな里で穏やかに暮らせ」

    尊「はい!」

    唯「生まれ変わったらか~」

    尊「あー、そういえば前にさ、生まれ変わりの話で、お父さんにつっかかってたね」

    唯「ん~あったね」

    若「なんと。父に歯向かうなどと」

    唯「いいんだよ、結果オーライだったから」

    若「正解、であったと」

    尊「お姉ちゃんならどっち?」

    唯「たーくんが居る方」

    尊「だよね」

    唯「私さ、もし生まれ変わるなら、たーくんのお母さんになりたい」

    尊「え?妻じゃなくて?」

    唯「うん。でもね、私はずっと生きるよ。たーくんの成長を見守るの。淋しくないように、これでもかーってくらいに、愛情たーっぷりで、守り続けるの」

    尊「へぇ…」

    若「…」

    唯「妻は万が一別れちゃうかもしんないけど、母はずっと母だから、そこは安心だよね」

    尊「いつか別の女性と結婚しちゃうよ?」

    唯「今、この瞬間は私が妻だもん。いっぱい愛して、いっぱい愛してもらって、二人でラブラブのまま長生きするから」

    尊「添い遂げてからの次の世界ね」

    唯「うん」

    尊「えっ!兄さんまた」

    唯「へ?あっ」

    尊「静かだからわからなかったよ、ティッシュティッシュ!」

    若君が、うつむいたまま話す。

    若「尊よ」

    尊「あ、はい」

    若「この顛末を撮っておるじゃろ」

    尊「はい、逐一。嫌ですか?消しますか?」

    若「いや、わしらが持ち帰る方にも、入れてくれぬか」

    尊「なるほど。わかりました」

    唯「たーくん。なんか、ごめん。そんな風になるとは思わなくって」

    若「…末永う、寄り添うてくれるのじゃな」

    尊「鼻声なのが、なんかグッと来るなぁ」

    唯「あったり前でしょ。たーくんを守るんだもん!」

    若「…」

    尊「うわっ!ますます大変な事に!どうしよう~」

    唯「うーん。そろそろ録画、シメちゃおか?」

    尊「そうだね…」

    唯「よーし。はい、たーくん、拭いてね。良い?じゃあ一緒にカメラ見て。お父さーん、お母さーん、じゃあねっ。はい、手振って」

    目元が真っ赤な若君と、笑顔の唯が、ひらひらと手を振った。

    尊「かいがいしい所が母っぽいな。…はい、終了しました。兄さん、大丈夫ですか?」

    若「あぁ。色々済まない」

    尊「感動のるつぼの中、すみませんが…のんびりしてる時間があまりなくって」

    若「そうじゃな。では二つ目の用件に」

    唯「じゃあ、私戻るよ。ディスクだけ持ってきておくね」

    尊「お願いします」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days101~15日16時、心に響く声

    若君は、爆睡なんて一生しないかもしれない。
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    唯が目覚めた。

    唯 心の声(なんか重い…ありゃ、たーくんがもたれかかってるんだ)

    唯に体を委ねたまま、まだスヤスヤ眠っている若君。

    唯 心(安心して眠ってる。私が守ってるから?なーんて。かーわいい)

    尊が様子を覗きに来た。が、口元に指を当て、シーと言うような仕草をして、そっと離れていった。

    唯 心(サンキュ、尊)

    16時30分過ぎ、ようやく若君が目覚めた。

    若君「ん…」

    唯「起きた?おはよっ、たーくん」

    若「何時じゃ?…なんと、そんなに眠っておったのか」

    唯「ぐっすりだったよ」

    若「幾日も眠ったように感ずる」

    唯「良かった。スッキリしたんだね。私と一緒だったから~?」

    若「違いない」

    唯「嬉しっ。寝れる時は寝ればいいんだよ。できない時もあるでしょ」

    若「そうじゃな…戦場では眠りが浅いからの」

    唯「…」

    若「あぁ、今は忘れておくのであったな」

    唯「うん」

    尊「お目覚めですね」

    覚「おー起きたな。麦茶飲むか?それかアイスクリームでも食うか?」

    唯「麦茶がいいー」

    尊「珍しい」

    唯「なんか、口カラカラで」

    尊「あー、口開けて爆睡してたからね。兄さんもお茶でいいですか?」

    若「頂く。喉はそう渇いてはおらぬが」

    尊「あー、兄さんは熟睡してましたからね」

    唯「ん?言い方、微妙に差つけてない?」

    尊「口開けてたヒトに言われても」

    唯「なにそれー」

    お茶タイム。

    尊「でさ、ごめんお待たせ。花火大会のラスト、今Blu-rayディスクに入れたよ。観る?」

    唯「待ってたよぅ。観たーい!」

    尊「了解~」

    テレビで再生し始めた。

    覚「荷物は、まとめ終わったのか?」

    唯「まだ。今朝買ってきたのもあるし」

    覚「なんだ。これ観たらすぐ始めるんだぞ」

    唯「うん」

    若「わかりました」

    花火が、画面いっぱいにひろがる。

    唯「すごーい、テレビでも大迫力ぅ。良かった観といて。おもナビくんだと画面ちっちゃいから」

    若「声が聞こえてはおらぬか?」

    唯「声?」

    花火観賞中の、唯や若君が驚いたり笑ったりした声も録音されていた。

    覚「…」

    尊「お父さん」

    覚「ん、ん?」

    尊「これ、もう一枚作ったから」

    覚「おー、そうなのか」

    尊「楽しそうな声、いつでも聞けるよ」

    覚「そうか…そうか、ありがとな」

    荷物の準備スタート。リビングの隅にずらっと並べた。

    唯「プレイヤー、イヤホン、カセットテープ、Blu-rayディスク、折り紙、蚊取り線香と線香入れ、写真集、絆創膏、消毒液、とグロス。千羽鶴は別で持ってくから、なんとか入るかな」

    覚「野草の本はいいのか?」

    唯「え、持ってっていいの?」

    覚「唯の本だろ。あるに越した事ないんじゃないか?」

    唯「わかったー」

    若「ありがとうございます」

    覚「その代わりと言っちゃなんだが、今回は戻るのが3分後だから、蓮根のはさみ揚げはないからな」

    唯「いいよー。晩ごはんにいっぱい食べとく」

    美香子が買ってくれたバッグに、荷物を詰め込む。

    唯「入ったー!ひぇ~重いっ」

    若「わしが持つゆえ」

    唯「お願いしまぁす」

    尊「キリがついたよね?あのさ、二人ともちょっと、実験室に来てくれないかな」

    唯「あっそう」

    若「わかった」

    尊「ごめんねお父さん。そんなにかからないから」

    覚「構わんぞ」

    実験室に三人向かいました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days100~15日14時、手に手を取って

    リラックス、存分にしといて欲しい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯と若君は、ソファーに移動した。

    若君「見終えたら、爪を塗り直してやろう」

    唯「やーん、至れり尽くせりぃ」

    並んで座り、写真集を見始める二人。

    唯「プールだぁ、なんかすっごく前な気がするけど」

    若「随分と、色が違うのう」

    自分の腕の色と、写真を見比べる若君。

    唯「ホントだー、こうして見ると、だいぶ日焼けしたってわかるね」

    若「日焼け止めを、塗り過ぎておったからまだ白いのか?」

    唯「んー、そればっかりでもない感じ」

    若「これは」

    唯「あ、オムレツ登場。撮っといてくれたんだ、サービスいいなあ。ん、もしかして」

    ページをめくると、若君の作ったメニューの写真がちょいちょい出てくる。

    唯「お腹空いてる時に見ちゃうと、目の毒になるかも」

    若「皆が食うのに困る事のないよう、励まねばのう」

    唯「これ見て、気持ちを奮い立たせる訳ね。あ、次はバーベキューパーティーだ。これも、楽しかったね」

    若「エリ殿芳江殿と、賑やかに過ごせたの」

    唯「あっ、旅行スタートだぁ、海、海!砂浜キレイ~」

    若「海で泳げたのは貴重な経験じゃった」

    唯「そうだね。あれ?これって」

    若「城じゃな」

    唯「あー、男子城ツアーね。こんな風だったんだー。次が…一緒に行った方のお城かぁ」

    若「おっ、花火じゃの」

    唯「すごーい、キレイに撮れてる!」

    若「写真、とはまことにたまげた物よのう」

    唯「そのまんま写ってるから?」

    若「まるで、その一時の空を切り取ったかの如く、咲き乱れておる」

    唯「観てた時の雰囲気も思い出すよね。花火は、動画も撮ってたけど…あれ、そういえばまだもらってない。尊~!」

    覚「実験室だ」

    唯「あっそう。まぁいいや、行くまでにはくれるでしょ」

    若「おぉ、これは」

    唯「わぁ、ホテルで見た夜景!やっぱキレイ~。色々思い出して…うふふ」

    若「フフッ。ここからは写真館じゃな」

    唯「たーくん、超かわいい!」

    若「…」

    唯「片腹痛い?」

    若「そうじゃな」

    唯「最後は、結婚20年パーティーだぁ」

    若「皆、良い顔をしておる」

    唯「ふー。いっぱい思い出持って帰れるね」

    唯をソファーに座らせたまま、マニキュアとペディキュアを塗り直し始めた若君。

    覚「あい変わらず、いい身分だな」

    唯「たーくんがいいよって言うから」

    若「良いのです。永禄で、もしこのような姿を見られたら、咎められるのはわしの方です」

    尊「そっか、なるほど。兄さんにとっての方が、より貴重なんだね」

    若「然り」

    唯「やっぱしこのセット、持って行こっかなぁ。お母さんに後で聞こっと」

    覚「まだやらせる気か?」

    唯「こっそりと」

    若「ハハハ」

    塗り直し終了。隣に座る若君。

    唯「乾くまでじっとしてると、このまま寝ちゃいそう~」

    若「眠れば良い。肩を貸そう」

    唯「わぁい、ありがと」

    若君にもたれる唯。程なく、寝息が聞こえてきた。

    若君 心の声(あと、少しか…)

    その体勢のまま、天井を見上げたり、飾り棚を眺める若君。

    若 心(極楽浄土、が有るのであれば、まさしく此の地に違いないのじゃが)

    唯の様子を覗く。スヤスヤと安心した顔で眠っている。

    若 心(唯と共にならば、何処へ参ってもその地が幸せに満ちた極楽、と思える)

    若「ありがとう、唯」

    小さく呟くと、ゆっくりと目を閉じた。

    覚「…二人とも、眠ったか?」

    尊「うん」

    覚「ところで、何コソコソとカメラ構えてるんだ」

    尊がデジカメを持ちながら、アングルをあちこち変えている。

    尊「幸せそうに寝てるからさ、ベストショットを、写真集の最後に足しといてあげようと思って」

    覚「そうか。くれぐれも起こさないようにな」

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    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days99~15日12時、気持ちも入ってます

    今まで、生物は運ばなかった筈。
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    唯と若君、帰宅。

    唯「ただいまぁ!ごめーん、昼になっちゃってたね」

    覚「いや、大丈夫だ」

    唯「え?なにが始まるの?」

    キッチンの作業台に、ボウルやら海苔やらが用意されている。

    尊「お母さん、とても一緒に昼ごはんは無理なんだって」

    唯「そんなに患者さん、来てるんだ」

    覚「で、サッと食べられるように、おにぎり握ってやろうと思ってな」

    若君「握り飯。お母さんは、里の者に頼りにされておるのですね」

    覚「忠清くん、作ってみる?」

    若「え?」

    覚「僕が握るより、喜びそうだ」

    唯「私もやろっかなー」

    尊「おっ、珍しい」

    唯「令和の思い出に」

    覚「おーいそれは、涙腺が危険になるから言わないでくれよ~」

    唯「いっぱい作ってさ、全員の昼ごはんそれで良くない?ピクニック気分で」

    若「楽しく、という事か?」

    唯「そっ」

    尊「僕もやるよ」

    覚「わかった。じゃあ、手、洗ってきなさい」

    三人「はーい」

    おにぎり作りスタート。

    唯「たーくん、手が大きいのに、いやにおにぎり小さくない?」

    若「大きいと、お母さんが食べにくかろうと思うての」

    覚「さすが。気持ちが行き届いてるな」

    若「唯が食すなら、大きく作るがの」

    唯「どういうコトよ」

    若「そういう事じゃ」

    尊「夫婦漫才?」

    覚「じゃ、この叩いてある梅を、ぐっと中に入れて」

    若「はい」

    唯「この昆布や、おかかも入れていいの?」

    覚「いいぞ。海苔巻くから、どれが当たるかは食べてのお楽しみだな」

    おにぎり完成。ずらりと並んだ。

    覚「お疲れさん。お母さんの所に持ってってくれるか?」

    若「行って参ります」

    クリニック。

    若君の囁き「お母さん、ここに置きますゆえ」

    美香子の囁き「まぁ、ありがとう!もしかして…」

    若 囁き「わしが握りました」

    美 囁き「そうなの!嬉しいわ~」

    若君 心の声(繁盛、と申すべきではないが、多くの民に慕われ、忙しくされておるのじゃな)

    昼ごはんスタート。皆でおにぎりを頬張る。

    唯「1個くらいさ、ハズレ作っときゃ良かった?」

    尊「ロシアンルーレット?怖ぇ。お姉ちゃん、とんでもない物入れそう」

    唯「ちゃんと食べられるモン入れるよ。んー、チョコレートとか?種の入った」

    尊「げっ!やめてくれー」

    若「それは…」

    唯「たーくん、好物でしょ」

    若「いや、さすがに別でいただきたい」

    尊「そういう妙な事言ってると、自分に当たるんだよ」

    唯「えー、やだぁ」

    尊「おいおい!」

    若「困った姫君よのう。ハハハ」

    昼ごはん終了。皆で片付け中。

    尊「あ、持って帰る写真さ、さっきプリントアウトしたから確認してね」

    唯「ありがとう~。花瓶のお花、いっぱい撮ってくれた?」

    尊「もちろん」

    若「さすがに持っては行けぬか」

    尊「生態系を乱す恐れがあるんで」

    若「何じゃ?それは」

    尊「種が落ちたりとか、既存の草花と受粉したりしてはいけないんです。永禄にあってはならない植物ができてしまうので。そういうのは、繁殖力も強いですから」

    若「なるほど」

    尊「兄さんの愛溢れるプレゼント、たくさん撮って残しましたから。じゃあ、持ってきますね」

    若「ありがとう、尊」

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    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    二人の令和Days98~15日11時、他人のそら似

    唯のクラスメートだった美沙ちゃんの先祖が、相賀の志津姫だったら、それはそれで一悶着ありそう。
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    スーパーに移動。

    唯「この大きさだよね」

    若君「然り」

    大きめの折り紙を、幾つかカゴに入れた。

    唯「あとは、いい?」

    若「そうじゃな」

    買い物はすぐ終了。店を出ると、駐車場にキッチンカーが何台か並んでいた。

    若「寄らずで良いのか?」

    唯「え、なんで?」

    若「唯が飛び付きそうな品揃えに思えるが」

    タコスやクレープ、タピオカドリンクもある。

    唯「タピオカ…ううん、いい」

    若「そうか?わしの、おごり、でもか?」

    唯「うん。あれはいらない。たーくんには、超絶カッコよく居て欲しいから」

    若「ようわからぬが」

    唯「なら、自販機でいいからジュースおごってくれる?」

    若「うむ」

    日陰に入り、ジュースを飲み始める二人。

    若「格好良く、と申したが」

    唯「うん」

    若「唯には、情けない姿も晒しておるように思えるが」

    唯「そんな事ないよ。たーくんってカンペキだもん」

    若「いや、そうは思わぬ」

    唯「どんなトコが?」

    若「涙したり」

    唯「いいじゃない。お父さんも、泣くのは恥ずかしくないって言ってたしさ」

    若「そうであろうか」

    唯「永禄で人前で、はちょっとヤバいよねぇ。令和に居るあいだに、わーっと泣いとく?」

    若「今日の内にか?ハハハ」

    唯「涙は、たーくんが優しい証拠だよ」

    若「唯の方が優しかろう」

    唯「えー?」

    若「わしを守る、と出会うた頃から申しておった」

    唯「それは、優しいって言うのかわかんないけど。ううん、やっぱたーくんの方だよ、だって民や兵を守るために、敵に下ったり…敵方の姫と結婚しようとするような総領だもん」

    若「無用な戦は、避けねばならぬゆえ」

    唯「そうではあるけど。あー、あの結婚式さぁ…なんかムカムカしてきたっ」

    若「思い出してしもうたか」

    唯「ぶち壊せて良かったけどさぁ。それにしても、あの相賀の姫、どっかで見たような顔してたんだよね~、今にして思えば。まぁいいけど」

    若「あの婚儀においては、唯の怒りは頷ける。済まなかったの」

    唯「ん、まぁいいよ。そんなに自分を犠牲にしてさ、なかなかできないよ?」

    若「羽木に手出しはさせとうなかった。相賀に与すれば、皆の暮らしを守れたからの。当然の事をしたまでじゃ」

    唯「偉いっ」

    若「褒めてくれるのか」

    唯「ちょっと頑固でわからんちんなトコあるけど」

    若「…」

    唯「あれ?怒った?」

    若「ディスっておるのだな」

    唯「うわっ!使いこなしてるっ」

    若「ハハハ。そろそろ帰るか」

    唯「はーい」

    自転車置き場まで戻って来た。

    唯「また後ろに乗っていい?」

    若「勿論じゃ」

    唯「ありがと」

    若「これからは、疾風に乗せるゆえ」

    唯「うん!」

    唯は荷台に腰をかけ、腕をギュっと若君の体に絡ませた。

    唯「うふふ、たーくんの背中~」

    頬をスリスリ。その様子を、振り向いて見ていた若君。

    唯「わっ、びっくりした!なぁに?」

    若「唯が居る、と思うての」

    唯「え?ちゃんと居るよぉ。消えたりしませんから~」

    若「それは、良かった」

    唯「なぁに?ヘンなの」

    若君 心の声(今宵は満月。わしは…一人ではない)

    唯の温もりと、そこに居る幸せを背中に感じながら、若君はペダルをこぎ始めた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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