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  • 返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days123~10日15時30分、挑戦と再挑戦

    願いを叶えたいからこそ、直接言葉にしないの。
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    喫茶店の四人。

    若君「すっかり遅うなってしもうた」

    唯「たーくんの話が長いから~」

    トヨ「唯様」

    唯「すんません」

    若「日が落ちる迄に家に戻れると良いが。ひとまず此処を出よう」

    若君が会計をした後、外に出た。

    若「急ぎ買い物に参ろう」

    唯「んー、あのさたーくん」

    若「何じゃ」

    唯「帰るのが遅くなるって、お父さんに言っとこうよ」

    若「それが出来得るならば、一先ず安心ではあるが。されどどう伝える?」

    唯「電話、かけてみない?」

    若「電話。されど唯の持つその板は、使えぬのであろう?」

    唯「うん、もう契約してないからかけるのはできない。でもね、一回だけスマホ家に忘れちゃった時にやったコトあるんだけど、公衆電話使えばいいんだよ」

    若「他にも電話があると。ならば使いたいが、何処にある?」

    唯「これから探す」

    若「探す?」

    唯「公園ならどっかにありそうだけど、駅の方が間違いないから、行ってみようよ」

    若「そうか。わかった」

    変わって、ここは尊と瑠奈の通う高校の教室。

    みつき「バイバーイ!瑠奈、センセ」

    瑠奈「バイバイ、みつきー」

    尊「また来週」

    下校時刻になり、皆帰っていく。

    尊 心の声(今日は比較的、はけるのが早いな。試験も近付いてきたからか)

    あと、尊と瑠奈と、男子生徒数人を残すのみになっている。

    瑠「そろそろ帰ろっか」

    尊「うん」

    教室を出て廊下を歩いていると、さっきまで残っていた男子達が、相次いで二人を追い抜いていった。

    尊 心(あ。…教室が空になった)

    急に立ち止まる尊。下を向き、考え込んでいる。

    瑠「尊?」

    尊「…」

    瑠「どうしたの?」

    尊「あの…」

    瑠「なに?」

    尊「教室に、戻ろうかな…いや、まだ早過ぎる。しかもこんな時期に」

    瑠「え?戻るのに早い遅いが関係あるの?何か忘れ物?」

    尊「忘れ物というか…何と言うか…誰も居なさそうだし…」

    瑠「歯切れが悪いね。忘れ物なら、私ここで待ってようか?」

    その返事に、尊の表情が一瞬曇った。

    瑠「あ」

    それを見逃さなかった瑠奈。何かを察した。

    瑠「…ねぇ、たけるん」

    尊「はい」

    瑠「それ、私もついて行くと、イイ事が起こるかな」

    尊「イイ事…」

    瑠「…」

    尊「イイ事と思ってもらえると、嬉しい」

    瑠「そう。じゃあ、少しだけ遠回しに聞くよ」

    尊「珍しい」

    瑠「もー。言うと思った。昨日のあれ、気にしてた?」

    尊「…うん」

    瑠「尊のタイミングが、今?」

    尊「…はい。いや、でも早過ぎる。僕はどうかしてるんだ、ごめんなさい、帰ろう」

    瑠「…」

    瑠奈が、尊のブレザーの袖口をそっとつまみ、うつむく。

    瑠「早くない、よ」

    尊「そう、かな」

    瑠「連れてって、ください」

    尊「…いいの?」

    瑠「だって、来てくれるんでしょ」

    尊「はい」

    瑠奈が顔を上げると、そこには尊の真剣な眼差しが。

    尊「…」

    瑠「…」

    そのまま二人、廊下を戻っていった。

    唯「見ーっけ」

    若「これが、電話?」

    源三郎「随分と大きい」

    ト「色も鮮やかで」

    戻って、黒羽駅の四人。公衆電話を発見。

    唯「お父さんの番号は、私のスマホに入ってるからそれ見てかけよう。ちなみにー」

    電話の下にある棚から、分厚い電話帳を取り出した唯。ページをパラパラとめくる。

    唯「えーと、あった!ほら、速川クリニックの広告!」

    若「これは…大きく書かれておる」

    源「おぉ」

    ト「まぁ」

    唯「いいでしょ。前やっちまった時は、これ見てクリニックの方にかけたの。エリさんがびっくりしてたな」

    若「ほほぅ」

    唯「では、がんばってみよう!えーと、10円玉はと」

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    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days122~10日15時、陳述します

    姉も線を引いていました。
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    唯「お弁当一緒に食べてただけだし」

    若君「それを、仲が良いと申すのでは」

    唯「美沙とマユとれいなは、いつも三人一緒なんだよ。そこに私が入った感じ」

    トヨ「ご一緒されるようになられた、きっかけは何だったのですか?」

    唯「同じクラスになってすぐの、体育の授業で走ったの。軽くだったけど。そしたら、足速いねって声かけられて」

    ト「そこからですか。お話も沢山されたのでしょう?」

    唯「さっきの授業で先生が~とかはしゃべってたけど、恋バナなんかされても、前は興味もなかったしわかんなかったし、そんなに参加してない。お弁当の時間は超超楽しみで、食べるのに集中してたから」

    ト「それにしても」

    唯「私自転車通学だったから、朝も一人だし、三人は部活もしてなかったから、帰りの時間も違ったし。つーか、部活やってる方が珍しかったかも。吉田も帰宅部だったもん」

    若「吉田殿、か。帰宅、部?」

    唯「あ、ごめん。ただ帰ってくだけのヒトをそう言うの」

    若「…源三郎」

    源三郎「は、はい」

    若「眉間に皺が寄っておるぞ」

    ト「源ちゃん、どうしたの」

    源「唯様は、陸上部、で励んでおられたと伺いました」

    唯「うん」

    源「ならば帰宅部、とは、粛々と滞りなくそれぞれの屋敷に戻れるよう、身を正し足並みを揃え、全力を尽くす者達が集う場…であるのかと思うてしまいました」

    若「そうなのか?唯」

    唯「違う」

    源「済みませぬ、差し出口を致しました」

    若「構わぬ。先の世の言葉は奥が深い」

    唯「マジで言ってるトコが、源三郎っぽくていい。でもちょっとウケる~。全力で帰宅部がんばってます!って、みんなが整列しながら帰ってくの想像しちゃった。今月の活動目標、寄り道は1か所まで!なーんて」

    若「唯。そろそろ話を戻そうか」

    唯「ちぇー。はいはい」

    若「昼飯のみであれ、共に過ごしておったのであれば、細かく話せぬとはいえ、別れの挨拶はしておくべきではなかったか。最低限の嗜みとして」

    唯「なんかさ」

    若「何じゃ」

    唯「どーでもいいって思ったというか。わー!怒らないで!」

    若「続けよ」

    唯「明日から美沙達に会わなくなっても、淋しくないなって思ったんだよ。なんでって言われても困るけど、私がね、そんなに大事に思ってなかったんだな。つーか、私に友達って居たんかなって。クラスでもそんなんだし、部活の子達とも、タイムが上がったとかで盛り上がりはしたけど、部活終わりでどっか行くとかもあんまりなかった。友達とキャーキャーとかも覚えがない。なんとなーく毎日過ごしてた感じ。それなりに楽しかったけど。でもね!いきなり戦国時代に飛ばされて、たーくんに会えて、そっからはもー、毎日ドキドキでワクワクで、もちろん危険な時もあったけど、もー絶対たーくんを守る!って、それこそ目標ができたっていうか、人生これっきゃないって」

    若「俄に、饒舌になっておるの」

    唯「え?そーかな~」

    若「余程、友の話に触れて欲しくはなかったと見える」

    唯「気のせい気のせい」

    若「話の本質が見えにくくなりそうじゃ。もっとも、それが狙いであろうが」

    唯「ギク」

    若「ならばこうしよう。これから、わしの問いに答えよ」

    唯「…はぁい」

    若「順を追って尋ねる。昨年、此処を発った折は、そのように、美沙殿らに対しおざなりな態度であったと。ならば夏に、お父さんに二人の来訪を聞いて、どう思うた?」

    唯「わざわざ来てくれたんだ、悪かったな、でも美沙は来てないんだ」

    若「…続ける。先程の美沙殿に対しては、どう思うた?」

    唯「心配してないから来なかったんじゃないんだ」

    若「そうか。源三郎」

    源「はっ」

    若「美沙殿は大層憤慨されておったが、その様子や話しぶりを見て、どう思うた」

    源「…ご立腹も当然である、と感じました。至極真っ当なお話をされておられましたので」

    若「トヨはいかがじゃ?」

    ト「ご自分の仰りたい事は、きちんと話されていたと感じました。煮え切らない唯様の態度に怒ってみえたのが気の毒で、何度尻をひっぱたきしゃべらせようと思ったか」

    唯「私ばっか悪いみたいじゃない」

    若「さよう」

    唯「わー、味方ゼロ?!」

    若「わしは、美沙殿にハッとさせられたのじゃ。蓋し名言であった」

    唯「えぇ?」

    若「自分勝手に去っておきながら、家に様子を見に来なんだと拗ねるとは何事じゃ。この期に及び、構って欲しいなど言語道断」

    唯「うぅ、痛いトコ突かれた」

    若「構って欲しかったのじゃろ?だが美沙殿にとっては、何も事の次第がわからぬ。つい怒りを含めた口調になってしまったのは否めぬ。それを逆に責めるなど以ての外」

    唯「確かに、もっと心配して欲しかった、のかも。でもなにも説明なしで行っちゃったから、申し訳ないと言うか…あー、すっごくワガママでお子さまだったんだよ、ごめんなさい!」

    若「思うに」

    唯「なによ、まだあんの?」

    若「とどのつまり、そのような我が儘で無礼で甘えた態度が通ると思うてしまう程、美沙殿らに心を許していたのじゃ」

    唯「え」

    若「気づいてはおらぬ様だが」

    唯「…」

    若「先程駅では、別れの挨拶は出来たのじゃろ?」

    唯「うん」

    若「なら良い。誰しも、人として、完璧ではない」

    唯「たーくんはカンペキだと思うけど」

    若「いや。完璧であれば、こう拗れる前にどうすべきか、話が出来よう」

    唯「そうかな」

    若「未だお子様だ、と申しておったが、それはわしも、同じ」

    唯「ウソだ~」

    若「人の痛みがわかる者になれるよう、共に精進して参ろう」

    唯「あのぅ」

    若「ん?」

    唯「このお裁き、お咎めは、なし?」

    若「充分、心に刻んだじゃろ。もう良い」

    唯「ありがと…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days121~10日14時30分、ここはお白洲

    何でそうなった?
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    再び走って、道端で待つ、若君達の元に戻ってきた唯。

    唯「ただいまっ」

    若君「無事、話せたようじゃの」

    唯「うん!」

    若「うむ。では参るか」

    来た道を戻り始める若君。

    唯「たーくん?どこ行くの」

    若「公園に戻る」

    唯「は?」

    若「正しくは、公園の脇の店じゃ。この近くでは、そこしか知らぬゆえ」

    唯「脇。って喫茶店?」

    若「さよう」

    唯「はあ?」

    若「唯の腹の内を探りとうての」

    唯「げげ!お裁きが始まるの?!つるし上げっすか?!」

    若「やましい思いがあるのであれば、そうもなろう」

    唯「ヤバっ、墓穴掘った」

    CafeMARGARETにやって来た四人。

    唯「たーくんがお茶しようなんて言うの、意外すぎる。あ、お金って」

    若「案ずるな。手持ちはある。わしのおごり、じゃ」

    唯「マジでぇ~!」

    店に入り、席についた。

    トヨ「いい香りがするわ」

    源三郎「コーヒー、ですか?」

    若「そうじゃ。この店では、お父さんが淹れるコーヒーとはまた違った、風味でいただけるであろう」

    源「それはまた」

    ト「楽しみです」

    店員「いらっしゃいませ」

    若「温かいコーヒーを四杯、頼みます」

    唯「ミルクと砂糖、いっぱい持ってきて!」

    店「かしこまりました」

    運ばれてきたコーヒーをいただく。

    若「いかがじゃ?」

    源「同じコーヒーでも、香りや味が随分と違いますね。これもまた良しです」

    ト「落ち着くわ~。って、いつもの如く、唯様だけまるで別の飲み物だわ」

    唯「ミルク砂糖たっぷりバージョン。飲んでみる?」

    ト「はあ。では、一口…ん、んー。まぁ、これもまた良し」

    唯「どーせお子ちゃまですよぅ」

    若君が切り出した。

    若「ならば、聞かせて貰おうか」

    唯「来たっ」

    若「何ゆえ、美沙殿を避けた?わしらの身の上を明かせぬのはわかる。されど挨拶もままならぬとは、到底見過ごせぬ」

    唯「うん…まあ、いろいろ」

    若「訳はあるのじゃな」

    唯「あのさ、話が下手っぴで、あっちこっち飛ぶかもしんないけど、いい?」

    若「良かろう」

    唯「去年学校やめた時さ。あ、えっと、どこから説明しなきゃいけないんだっけ」

    若「学校については、わしは夏に参った折に、お父さんに子細を伺った」

    ト「私共も存じ上げております」

    唯「そーなの?」

    源「はい。尊殿に。学校とは何か、唯様も通っておられたのかなど尋ねたところ、お辞めになった話まで一通り教えてくださいました」

    唯「いつの間にー」

    ト「こちらに参り間もなくでした。朝方、唯様が起きられる前に、時間をかけ」

    唯「ふーん。私の朝寝坊も役に立つねぇ」

    若「偶々じゃ」

    唯「なら、知ってる体で話す。でね、そん時、永禄でたーくんをこれからも守っていくんだ!って気持ちでいっぱいで、あいさつしとこうとか、ぜーんぜん考えてなくて」

    ト「それはまた…」

    唯「コーチだけ、退学の手続きした後、荷物を部室から出してたらばったり会っちゃって。しかたないから、ちょっとだけしゃべった」

    若「仕方ないなどと…コーチ殿は、学校にて唯の走りを指南されていたお方じゃ」

    ト「部活、ですね?」

    源「そこで、唯様の走る力が培われたと」

    唯「話、早っ。それも尊から?」

    源「はい」

    唯「便利だなアイツ」

    若「木村殿にも、会わず仕舞いであったと」

    唯「まあね。だってさ、ホントの事はなにも言えないじゃない。聞かれても答えらんないし、どうウソつくか考えてもさー、いつかボロがでるよ?」

    若「うむ…。美沙殿や仲睦まじくしておった者達にも、旅立つ前に話さなんだのは、それが所以か?」

    唯「そう、そう」

    唯の目がかすかに泳いだ。それを見逃さなかった若君。

    若「違うておると」

    唯「うへぇ、一緒だって~」

    若「ならぬ。つまびらかにせよ」

    唯「やだ、絶対怒られるもん。お裁きが下るってヤツ」

    若「まずは聞く。裁く裁かぬは後回しじゃ。何ゆえ美沙殿に、あのような無礼を働いたのか」

    唯「うぅ」

    ト「やはり後ろめたさがあったのですね」

    唯「ひぃ」

    若「申せ」

    唯「だって、だってそう思っちゃったんだもん…友達なんか居ない、って」

    ト「え?」

    源「先程は、てっきり言葉の綾だと」

    若「なんと…」

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    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days120~10日14時15分、後悔先に立たず

    今出来る事は今、ただやる。
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    口元をへの字に曲げ、押し黙っている唯。

    美沙「いやんなっちゃう。久しぶり~ってなって、熱いハグとかする流れでもいいのに」

    唯「…」

    美「あと二人は誰なの?」

    唯「…家族だよ」

    美「旦那さんの?」

    唯「うん」

    美「そう」

    大きく溜め息をつく美沙。

    美「あのさぁ。私もちょっと言い過ぎたけど、何が嫌なの?黙ってちゃわかんない」

    唯「…ごめん」

    美「それじゃ堂々巡りでしょ」

    唯「私が悪いんだよ」

    美「だから何って話よ?」

    唯「…」

    美「ふう。らち明かないし。もういい!電車の時間あるから、行く」

    キャリーバッグを引いて去っていく美沙。唯に駆け寄る若君と源トヨ。

    若君「唯」

    唯「ごめん。ザワザワして」

    若「唯らしからぬ。どうしたのじゃ。久方ぶりに会うた友ではないか」

    唯「…」

    若「旅立つまで仲睦まじゅうしておった三人の内の、残りの一人であろう?」

    唯「…よく覚えてるね」

    若「わしらが此処に居たが為に、本来蟠りなく終わった逢瀬を妨げたのじゃな」

    唯「違うよ、違う」

    若「されど、喧嘩別れの様になってしもうた」

    唯「いいんだよ、友達じゃないから」

    若「唯…」

    トヨ「唯様。そのような事を申してはなりません。大切な友でしょう?今からでも、追いかけて」

    唯「いいの」

    源三郎「唯様」

    ここで、源三郎が前に出た。唯の正面に立ち、頭を下げる。

    唯「え」

    源「畏れながら申し上げます。喧嘩別れは悲しゅうございますゆえ、電車に乗られてしまう前に和解を」

    唯「なんで?」

    源「どうかこの通り」

    唯「源三郎には関係ないじゃない」

    源「相手が居れば、仲直りのすべもあります。向き合える内にどうか」

    若「…そうか。喧嘩をし、その後二度と会えなくなった友もおったと」

    トヨ「戦、で?」

    源「あぁ。何故もっと歩み寄れなかったのかと、悔いばかりが残っておる」

    唯「…」

    若「唯」

    唯「はい」

    若「わかったであろう。走れ。そなたの脚なら間に合う」

    唯「なによ、普段は走るなって言うクセに」

    若「許す」

    唯「だって、うまく言えるか自信ない」

    若「言わずに後悔するより良かろう。行け」

    唯「…はい」

    唯は、駅に向かって走って行った。

    若「源三郎。よう申してくれたの」

    源「いえ」

    ト「忠清様。お尋ねしたいのですが」

    若「申せ」

    ト「唯様は身を隠すように歩いておいででした。あえてお声をかけられたのは、何ゆえでございますか?」

    源「それはわたくしも知りとう存じます。随分と嫌がられておられましたし」

    若「…幾度もこちらの世に参っておるが、唯のおなごの知り合いに初めて会うた」

    ト「まぁ!それは驚きです」

    若「これまで、会おうする素振りもなく、気に掛かっておったのじゃが、居たか、ようやく会えたかと。それで、安堵したのもあり」

    ト「そうでございましたか…」

    源「なるほど」

    若「されど、何ゆえあぁも拗れてしもうたのか…解せぬ」

    源「確かに」

    ト「唯様らしからぬ振る舞いでございました」

    若「うむ…。戻ったら、腹の内を問うか…」

    黒羽駅。美沙が改札を抜けようとした時、

    唯「美沙!」

    美「え」

    無事追いついた。

    唯「電車の時間、まだいい?」

    美「えぇ?…大丈夫だけど」

    唯「あのね、謝ってばっかだけどさ」

    美「うん…」

    唯「たーくんの話は、うまく説明できなくて」

    美「たーくん。旦那さん?」

    唯「あ、うん」

    美「言えないのは、旦那さん側の事情?」

    唯「…うん。だから」

    美「そっか。色々あるんだ?」

    唯「ごめん」

    美「はあ、そういう事。わかったようなわかんないような。ふふっ」

    唯「笑える?」

    美「訳わかんないところが唯だなって。うん、まあいいや。走ってきてくれてありがと。さすが、脚力は健在」

    唯「今の方が速いよ」

    美「えー、そうなの?」

    腕を広げる唯。

    美「何?」

    唯「ご希望の、ハグを」

    美「はは」

    ギュっと抱き締めあった二人。

    美「なんか唯、前ほど体カリカリじゃない」

    唯「太ったかな」

    美「そこまで言わないけど。じゃ、そろそろ行くよ」

    唯「うん」

    改札を抜け、振り向いた美沙。

    美「じゃあね、唯!」

    唯「バイバイ!美沙!」

    手をぶんぶん振った唯。美沙も、手を振りながら去っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days119~10日14時、一触即発

    まさか、根に持っていたとか?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    駅前の通りで、立ち話をしている。

    唯「これからどっか行くの?…美沙は」

    美沙「週末、三連休だから旅行行く」

    唯「三連休。あー、そうだったっけ」

    美「はい?今頃何言ってんの」

    唯「カレンダー、使わないんで」

    美「は?変わんないな、チョコチョコ訳分かんない。それより!急に学校やめて忽然と消えて、いったい、どこ行ってたの?!」

    唯「ごめん」

    美「ごめん、って」

    唯「だからごめんなさい」

    美「ごめん、だけじゃわからないけど?」

    押し問答のように話が進まない。源三郎とトヨが心配そうに見ているが、若君はどっしり構えて動かない。

    源三郎の囁き「助け舟は要りませぬか?」

    若君の囁き「要らぬ。唯がこちらの世の者に、何も語らず去ったのはまことの話ゆえ、責めるのは頷ける」

    唯「いいでしょ、今こうして元気でいるんだから」

    美「みんな、心配してたんだよ?」

    唯「みんな、ね」

    美「何その言い方」

    唯「美沙も入ってる?」

    美「えぇ?」

    唯「家に、見に来なかったでしょ」

    美「…」

    はたと、何かに気付いた若君。

    若君 心の声(あの話、此処に繋がるのか)

    ┅┅回想。昨年夏、令和に来て間もなく┅┅

    速川家リビング。仕事中の美香子以外、揃ってお茶を飲んでいる。

    覚「前回、クリスマス前に帰ってさ。退学も手続きして」

    唯「うん」

    覚「結局、先生や友達に何も説明しなかったみたいだな」

    唯「まあ、ね」

    覚「急に居なくなった形だっただろ。三学期が始まってすぐ、女の子が二人、様子を見に家に訪ねて来てくれたんだよ」

    唯「二人?」

    覚「同じクラスって言ってたぞ」

    唯「…三人じゃなくて?」

    覚「うん。せっかく心配して来てくれたけど、説明は曖昧にした。ごめんね、って謝っておくのが精一杯だったな」

    唯「どんな感じの子だった?」

    覚「背が高くてショートカットの子と、ロングヘアの子」

    唯「ロングヘア…前髪は?」

    覚「前髪?おでこは出てたな。名前聞いてあるから、えーとメモメモ」

    奥の棚をゴソゴソ探す覚。

    尊「気になるよね。誰が心配してくれてたか。でもさ、もしかして」

    唯「なによ」

    尊「思ってたメンバーというか、仲良くしてた友達とは、違うの?」

    唯「違わないけど…」

    覚「あったあった。うーんと、マユちゃんと、れいなちゃんだ」

    唯「…そうなんだ。それっきり?誰も?」

    覚「そうだな」

    唯「ふーん…」

    覚「わざわざ来てくれたんだぞ?もっと喜ばないと」

    唯「うん…」

    若君「唯」

    唯「んー?」

    若「礼を欠いて旅立ったのにも拘わらず、身を案じ訪ねてくれたなど、有り難いばかりではないか」

    唯「ん、そうだね」

    若「腑に落ちぬ顔をしておるの。どうした」

    唯「なんでもない」

    答えながら、席を立つ唯。

    若「唯、何処へ行く」

    唯「トイレ!」

    若「…」

    言葉通り、トイレに入っていった。

    尊「思うに」

    若「ん?」

    尊「さっきお姉ちゃん、三人じゃないのかって言ってましたよね」

    若「申したな」

    尊「仲良くしてた人が、一人入ってないのかもしれません」

    若「そうか…」

    尊「お姉ちゃんは、女同士のドロドロした人間関係とかなさそうですけど、ちょっと繊細な問題なんで、あまり細かく聞かない方がいいと思います」

    若「わかった」

    ┅┅回想終わり┅┅

    美「ねぇ、噂で、結婚したって聞いたんだけど」

    それを聞き、若君が歩み寄る。え?と驚く美沙。

    若「こんにちは。妻が、世話になっております」

    美「あ、どうも…うっそ、マジで?!」

    唯「マジだよ」

    美「いつの間に…あれ?何か旦那さんに初めて会った気がしない。もしや、前世で結ばれなかった、とか~?」

    唯「その辺で見ただけじゃないの?それよりさ、話、そらしたね」

    嫌そうな顔をした美沙。

    美「はいはい、確かに、マユ達と一緒には行かなかった!」

    唯「…」

    美「心配してなかったんじゃない、怒れただけ。何も言わずに学校やめたら、あっそ、相談もなし、そういう事?ってなる。冷たいって言いたいの?冷たいのは唯の方でしょ!」

    唯「言い方、きっつ」

    美「勝手に逃げといて、かまって欲しいなんて、おかしくない?」

    唯「う…。違う、逃げたんじゃない!」

    美「ウソばっかり。今だって、隠れてたじゃない!」

    源三郎「どうすべきか…」

    トヨ「唯様…」

    止めに入りそうなトヨと源三郎を、後ろ手で制止している若君。

    若「まぁ待て」

    ト「でも」

    若「唯が、怒りの種を蒔いたのじゃ。片は己でつけねばならぬ」

    源三郎&トヨ「…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days118~10日金曜7時30分、再会

    冬の朝なのに、ホットスポット。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    いつもより、かなり早く家を出た尊。

    尊 心の声(御触書の説明、小さいよ)

    小垣駅で一旦下車し、ロータリーにある立看板を見ていた。

    尊 心(もっと吉田城跡を前面に出して、大きく作って欲しいな。これは見逃すよ)

    ロータリーから離れ、駅の入口に立った。

    尊 心(時間的にはそろそろだけど…あ、来た)

    駅に向かって、瑠奈とみつきが歩いてくる。

    みつき「あー?ちょっと、瑠奈!」

    瑠奈「声が大きいよ。どうしたの」

    み「約束してたんなら、そう言ってよ~」

    瑠「約束?あっ、尊!どうして?」

    み「え?してないの?」

    三人が合流した。

    尊「おはよう、ミッキーさん、瑠奈」

    瑠「おはよう…」

    み「おはよセンセ。あのさ、思うんだけど、みつきよりミッキーさんの方が名前長くなってるじゃない。呼びにくくないの?」

    尊「キャラに合ってると思うから」

    み「いいけどさ。それより何、今朝はサプライズっすか?昨日、事件勃発したから?」

    尊「それは、丸く収まったからいいんだよ」

    み「まぁいいや。王子様のお出ましとなれば、私は去るべしなんで。じゃ!お先に~」

    瑠「ごめんねー」

    尊「また教室で」

    みつきは、改札を駆け抜けていった。

    瑠「どうしたの?わざわざ、早く家出てくれたの?」

    尊「うん、まあ。ミッキーさんと、しゃべっていたかった?」

    瑠「ううん、みつきとはいつでも、お弁当食べながらでも話せるもん」

    尊「何となくさ」

    瑠「うん?」

    尊「周りを刺激してみたくなったというか」

    瑠「…」

    尊 心(立看板を確認しておきたかった、のもあるけど。それは内緒で)

    瑠「ラブラブを見せつけちゃうの?」

    尊「ははは」

    瑠「悪いコだ」

    尊「悪いコは、困りますか?」

    瑠「困りませーん。ふふっ」

    変わって、昼前の速川家リビング。

    唯「買い物、要る?」

    覚「ちょっと食材が心細い。実は、忠清くんの料理用の分も鍋に使ってさ」

    唯「そりゃヤバい。明日の昼までに行かないと!」

    若君「ならば、今日の内に済まそうではないか。お父さん、四人で行って参ります」

    覚「頼もうかな。もう今日明日だけだし、ついでにプラプラしてきたらどうだ。黒羽城公園とかさ」

    唯「そうしよっか~」

    昼過ぎ。買い物メモを渡された唯。

    唯「散歩してからスーパーに行くよ。帰るのゆっくりめでもいい?」

    覚「いいぞ」

    まずは公園に到着。城跡の姿を目に焼きつけた後、若君の墓を訪れた。

    トヨ「忠清様の名のお墓に、手を合わせるのもいかがかとは思うのですが」

    源三郎「つい、拝んでしまいます」

    若「いや、それはわしも同じじゃ。合掌しとうなる」

    唯「なんかヘンだけどさ。私も拝んどこー」

    公園を抜け、駅前の通りを臨む。

    唯「夜行く店、ここをずっと行ったトコにあるんだよ」

    ト「そうなんですね」

    唯「では、スーパーに向かいますか~」

    駅を背に歩き出した。すると前方から、ガラガラとキャリーバッグを引きながら、女性が一人こちらに向かって来る。

    源「何やら音がいたします」

    若「あのおなごが引く荷車であろう。空港と申す、羽ばたかぬ大きな鳥が空を行き交う為の巣に、唯と参った折によう見掛けた」

    なぜか、唯の様子がおかしい。

    唯「うわ…会わずに済むと思ってたのに」

    他の三人の陰に隠れるように歩いていたが、その女性が、唯に気付いた。

    女性「…もしかして、唯?」

    唯「うっ」

    女「ちょっと!マジで唯なの?!」

    唯「…」

    明らかに避けている唯に、若君が声をかける。

    若「唯。呼ばれておるぞ」

    唯「わー!なんで!そこは拾わないで!スルーしてよ~!」

    女「やっぱ唯じゃん。びっくり!イメージ変わってて、一瞬わかんなかったけど」

    唯「…」

    トヨの囁き「出来れば会いたくなかった方みたいだけど」

    源三郎の囁き「いかがされたのであろう」

    若「…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    今までの四人の現代Days、番号とあらすじ、92から117まで

    no.977の続きです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    92no.978、1/5、若君が尊をお姫様抱っこ

    93no.980、1/5、トヨのドレスに覚感涙

    94no.982、1/5、撮影開始。唯と若君はコスプレ

    95no.984、1/5、衣装の深淵な意図

    96no.986、1/6、エリお手製の結婚式グッズ

    97no.991、1/6、尊が見たのは白昼夢か予知夢か

    98no.993、1/6、源トヨの結婚式を粛々と

    99no.994、1/6、トヨの決心と吉田城の謎解き

    100no.995、1/6、木村先生は苦悩していた

    101no.996、1/7、みつきとの舌戦はいつも完敗

    102no.997、1/7、小垣駅へGO

    103no.998、1/7、カフェで満腹。待った者には褒美を取らす

    104no.999、1/8、覚は修行僧になれるか

    105no.1000、1/8、美香子と源トヨで買い物へ。今が最良の寛ぎ時間

    106no.1002、1/8、サウナで賑やかに

    107no.1003、1/8、仙人だって腹は減る。最終日はどこに遊びに行こう

    108no.1004、1/9、レトルトを活用しよう。尊のSOS

    109no.1005、1/9、瑠奈がこじれている

    110no.1006、1/9、バタつきながらも招く準備

    111no.1007、1/9、家族形態も色々ある

    112no.1008、1/9、父が瑠奈母の説得を試みる

    113no.1009、1/9、瑠奈をすぐ帰さずに済んだ

    114no.1010、1/9、未遂に終わる

    115no.1011、1/9、唯がズバリと斬り込む

    116no.1012、1/9、羽木家のお陰でカップル誕生

    117no.1013、1/9、声も惚れられている尊

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days117~9日21時、奏でていてね

    お疲れ様。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    父に呼ばれた。

    覚「おーい、尊、瑠奈ちゃん。おいで」

    尊「行こう」

    瑠奈「うん」

    唯「じゃあね、るなちゃん」

    瑠「ありがとうございました」

    瑠奈は唯達四人に会釈をし、尊と玄関に向かっていった。

    トヨ「ふう、一件落着かしら。って、唯様何してるんですか」

    唯「どうなってるか気になるー」

    廊下をチラチラと覗いている唯。

    唯「はいはいなるほど!わかり申した!ねぇ、こっちこっち」

    ト「何ですか?」

    トヨの手を引っ張り、部屋の隅へ連れて行く唯。

    唯の囁き「なんで、るなちゃんがたーくんにキャーキャー言わなかったか、わかったよ」

    トヨの囁き「それはまたどうして?」

    唯 囁き「るなちゃんのお父さん、超イケオジなんだよ!あんなカッコいいパパが家に居たら、たーくんにはそんなに驚かないのかもって。お母さんも、超キレイなの!」

    ト 囁き「へぇ、気になる…」

    唯 囁き「トヨもチラっと見てみたら?」

    ト 囁き「少しだけ、拝顔させていただこうかしら」

    二人で再び廊下を覗く。

    唯「ねっ!」

    ト「確かに。お母様も、とてもお美しい方でいらっしゃるわ~」

    小声ではしゃぐ姿に、若君と源三郎がキョトンとしている。

    若君「何を騒いでおるのか」

    源三郎「さあ…」

    瑠奈と両親は、帰っていった。リビングに戻ってきた三人。

    美香子「はーい、お疲れお疲れ~」

    覚「まあ、良かった良かった」

    美「でもびっくりしたわ~。ご両親が、俳優さんと女優さんかしらと思う程、美形で」

    覚「彼女の両親だからな。頷ける」

    尊「お兄さんもそうだよ。前に写真見せてもらったけど」

    美「そうなの~。美男美女一家なのね」

    ト「お茶いかがですか」

    覚「ありがとう」

    美「今、お菓子いただいたのよ。早速開けましょうか」

    再び、お茶の時間となった。

    覚「そういえば尊、制服のままだったな」

    尊「うん。まぁ、お風呂までこのままでいいよ」

    立ち上がった尊。

    美「何?」

    尊「今日は、いろいろごめんなさい」

    一礼する。

    覚「こんな事もあるさ」

    尊「兄さん達も、言葉を選んで話をしてくれて」

    若「まずまずの出来と思うたが、いかがじゃ」

    尊「バッチリでしたよ。それに良かった、居酒屋さんに明日は行けそうで」

    覚「また、瑠奈ちゃんの機嫌を損ねなければな」

    尊「うへぇ。頑張ります」

    美「そうそう!提案、というかほぼ決めちゃったんだけどね」

    唯「なんすか」

    美「明日の予定だった、忠清くんの料理の機会が今浮いてるじゃない。それ、土曜の昼にしましょうよ。ていうか、して」

    覚「いいんじゃないか。どう?忠清くん」

    若「はい。それは是非ともお願いしとう存じます」

    美「土曜の昼が、芳江さんとエリさん、会うの最後じゃない」

    覚「そうだな」

    美「昼ごはん、ご一緒しませんかって誘ってたんだけど、それが忠清くんの料理だったらもっと喜んでくれるから」

    若「おぉ」

    唯「いいねー」

    覚「お二人は何て?」

    美「最初は、家族水入らずがいいんじゃないですかって二人とも遠慮されてたの。夜もあるからいいのよって言ってたんだけど、さっき、シェフが忠清くんになるかもって話したら、ちょっと目の色が変わって」

    覚「ははは。僕の料理はいつでも振る舞えるからな」

    美「おウチと相談はするけど、多分参加できる、って。二人とも」

    唯「やったね」

    さて。その頃の瑠奈と両親。帰りの車内。

    瑠奈の父「彼、尊くんさ」

    瑠「うん」

    瑠父「前に、声が聞きたいって電話してたじゃないか。確かに、魅力的ないい声してる」

    瑠奈の母「それは私も思ったわ。どちらかというと高い声だけど、響くような」

    瑠「いいでしょ。私は、聞いてて気持ちいい。ゾクゾクしちゃう」

    瑠父「そうだな、マリンバを奏でるような」

    瑠「マリンバ?」

    すぐに演奏する動画を探す瑠奈。

    瑠「うん、うん!わかる~」

    瑠母「あまり彼を困らせると、話をして貰えなくなって、声が聞けなくなるわよ」

    瑠「はぁい。気を付けます」

    戻って、速川家。

    尊「トヨさんも、すっかり姉になってましたね」

    ト「そうですか?上手く事が運んだなら、何よりです」

    尊 心の声(瑠奈は、トヨさんを両親どっちの娘だと思ったんだろうな。聞くのも変だし。あーでも、無事に済んで良かった)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    9日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days116~9日20時45分、恐縮です

    彼女をゲットできたのは、尊の実力。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈の発言を待っている。

    瑠奈「私」

    唯「うんうん」

    瑠「尊くんを、すごく尊敬してるんです」

    唯「尊敬。そんなにコイツ、立派だっけ?」

    美香子「唯~。いい話じゃないの。尊敬から憧れ、そして恋に発展したパターンかな」

    瑠「地元の歴史への造詣の深さに、とても感動して」

    覚「地元?」

    瑠「立て板に水だったんです」

    美「何か説明でもしたのかしら?」

    瑠「え、聞かれた事ないんですか?」

    尊「うわ」

    美「その反応は何」

    瑠「えー、絶対聞くべきだと思います!すごかったんですよ、羽木一族の存亡についての話」

    唯「え」

    一瞬、周りが静まりかえる。その様子には気付かない瑠奈。話を続ける。

    瑠「流暢で分かりやすい説明で、とっても素敵だったんです」

    美「いつ、どこで聞いたの?」

    瑠「学校のホームルームで、えーっと…先月の18日です。ほれぼれするほど、かっこ良かったんですよ!先生の話に、それは間違いです!って、すっくと立って発言して」

    美「あら」

    覚「それはまた」

    瑠「それで、続きが知りたい人だけ、放課後残って話を聞きました」

    美「18日。回転寿司に行った日ね」

    覚「その日確か、クラスメートとおしゃべりしてて、帰りが遅かったんじゃないか?」

    唯「あー、あの日」

    覚「大学の話だけしてたと思いきや。ははは、やるなぁ、尊」

    尊「…どうも」

    唯「尊さぁ」

    尊「なんだよ」

    唯「アンタ、なにげにいろいろやってたんだ。それで、るなちゃんをゲットしてさ。これは、羽木家に感謝しないとねー」

    尊「うん。それは、その通り」

    源三郎とトヨが、顔を見合わせて微笑んでいる。

    若君「尊」

    離れて静観していた若君が、ゆっくりと近づいてきた。唯の隣、尊の正面に当たる位置に座る。

    尊「兄さん…あの」

    若「その存亡話、興味がある」

    尊「ですよね」

    若「また、じっくりと聞かせてくれないか。感銘を受ける程であれば尚更、知りたい」

    尊「かしこまりましたっ」

    瑠「ふふふ。殿と家臣みたいだね」

    唯 心の声(家臣までいかない。小姓)

    瑠「尊、本が書けると思う。話すだけじゃもったいないよ。残しとくべき」

    美「うん。なんやかやで、話を一番まとめられるのは、尊よね。書いちゃう?」

    尊「はあ」

    若「手伝おうか?」

    唯「うわ、ぜーたく」

    尊「いやいや!畏れ多いです」

    覚「ははは。宴もたけなわだが、そろそろご両親、おみえにならないか?」

    美「あらホントだ」

    トヨが、瑠奈のブレザーを持ってスタンバイしている。

    トヨ「はい瑠奈さん、上着どうぞ」

    瑠「ありがとうございます。お姉さん」

    いつの間にか庭に出ていた、源三郎が戻ってきた。

    源三郎「お父さん、今、車が入られました」

    覚「寒いのに見に行ってくれてありがとう。いやぁ、この目の配り方には感心だなー」

    美「忘れ物はない?」

    瑠「はい」

    そして、玄関の呼鈴が鳴った。

    覚「まずは僕と母さんで行ってくるから」

    尊「うん」

    リビングの出口に立って、呼ばれるのを待つ尊と瑠奈。玄関から、両親同士が話す声が聞こえてくる。

    瑠奈の父「この度は、娘が大変ご迷惑をおかけ致しました」

    覚「いえいえ~。楽しい時間を過ごさせていただきましたよ」

    瑠奈の母「こちら、皆さんでお召し上がりください」

    美「そんな、気にしていただかなくても。わざわざすみません」

    緊張している瑠奈。尊の腕を掴んでいる。

    ト「大丈夫ですよ。頭ごなしに怒られるなんてありません。お父さんお母さんが間に入ってますからね」

    瑠「はい」

    尊「ありがとう、トヨ姉さん」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days115~9日20時、慌てます

    スペシャル鍋、イケメンの給仕付き。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに下りてきた尊と瑠奈。

    美香子「初めまして、瑠奈ちゃん。尊の母です」

    瑠奈「こんばんは。初めまして、おばさま。お邪魔しています」

    美「あらん。おばさま。いいわ~。いつ、お母さんに変わるかしらね」

    瑠「えっ」

    尊「お母さん、何言ってるの!」

    美「こんなに可愛らしくて、話のきちんと出来るお嬢さんが、娘ならいいわねぇって」

    尊「時々暴走するけどね」

    美「少しはフォローしなさいよ。あら!真っ赤になっちゃって」

    瑠「…」

    尊「ごめんね。母が調子に乗って」

    瑠「ううん。…そうなったら、いいな」

    尊「えっ」

    唯が、ニヤニヤしながら近づいてきた。尊の顔をジロジロ見ている。

    尊「な、何だよ姉ちゃん」

    唯「あれ~?キラキラじゃなーい」

    尊「はあ?」

    唯「くちびるが」

    尊「…うるさいよ」

    唯「えー、してないのぅ?」

    尊「ほっといて」

    唯「つまんなーい!」

    尊「もういいから、あっち行って!」

    鍋は、二つ用意されていた。

    尊「味違い?」

    覚「8人なら鍋二つ要るから、どうせならって豆乳鍋とチゲにした。じゃあ、始めるか」

    晩ごはんが始まった。

    尊「もう一個の鍋、遠いよね。取ってきてあげるよ」

    瑠「ありがとう。あ」

    若君「尊、瑠奈さん。器を。取りましょう」

    尊「すいません、兄さん」

    瑠「ありがとうございます、お兄さん」

    手際良く盛り付け、二人に渡す若君。

    若「どうぞ。熱いので、気を付けて」

    瑠「はい」

    尊「ありがとう」

    その受け渡しの様子を、じっと見ていた唯。

    唯の囁き「やっぱありえない。たーくんこんなにカッコいいのに反応なし。なんで?」

    トヨの囁き「そんなにキャーキャー言って欲しいの?人それぞれでいいのに」

    唯 囁き「謎過ぎるんだってば」

    晩ごはん終了。

    瑠「私、運びます」

    美「あら、いいのに。って行っちゃったわ」

    瑠「こちらを…」

    トヨ「あら、ありがとう瑠奈さん」

    唯「置くトコないからもらっとくー」

    瑠「お兄さん達が、片付けてる…」

    若君と源三郎が、洗い物をしていた。

    唯「だって土鍋って重いし」

    若「重くなくてもやる」

    唯「まーねー。るなちゃん、ありがと」

    瑠「はい」

    ペコリとお辞儀をして、瑠奈は戻っていった。

    唯「はー」

    ト「今度は何」

    唯「一つしか歳違わないのに。あの胸、うらやましい」

    ト「はあ」

    食卓が綺麗に片付いた。

    覚「紅茶にするか」

    ティーカップに注いでいると、瑠奈のスマホが鳴った。

    瑠「もしもし。はい。わかった。伝えるね」

    尊「何時頃着くって?」

    瑠「今から出るから、あと15分くらいだそうです」

    美「そう。ならお茶する時間はあるわね」

    唯「あと15分?ヤバいヤバい」

    美「何よ唯」

    唯「私、るなちゃんに聞きたい事あってさ。どいてどいて」

    瑠「はい?」

    座っていた母を押しのけ、瑠奈の前の席に陣取る唯。

    尊「ヤな予感」

    唯「ねぇ、いったい、尊のドコがいいワケ?」

    瑠「どこ…」

    尊「わー!」

    唯「なによ、照れてんの?」

    尊「いや、理由で一部…」

    若君の方をチラっと見る尊。

    若「?」

    尊「その…」

    唯「なによウダウダして。ねっ、るなちゃん、教えて~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days114~9日19時30分、間一髪?

    はいどうぞ!って言われても、焦る。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊の部屋に尊と瑠奈。

    尊「どうして謝るの?」

    瑠奈「なんとなく、他に彼女居ないってわかったし、家族とすごく仲良しなのもわかった」

    尊「それは、疑いが晴れて良かったよ」

    瑠「ごめんね。私…邪魔なんだね」

    尊「は?」

    尊 心の声(一難去ってまた一難?!今度は何!)

    瑠「尊には、やりたい事や究めたい事が多くって、きっと時間があればそれに没頭したいよね」

    尊「…」

    瑠「私が、付き合ってってワガママ言ったから、その時間を割いてくれてるんでしょ」

    尊「それは…」

    瑠「そうじゃない?」

    尊「…」

    尊 心(鋭いな。よく見てる。でも、気を遣わせてしまってはいけないんだ。タイムマシンの話は…ずっと出来ないかもしれないけれど、気持ちは隠さず正直に伝えたい)

    尊「一度も思わなかったかと言われると…」

    瑠「やっぱり。ごめんね、一緒に居ちゃ」

    尊「でも今は違う」

    瑠「違うの?」

    尊「没頭している時間は、それなりに楽しかった。でもそれは、いわばモノトーンの世界」

    瑠「…」

    尊「そんな僕に、瑠奈が嵐を起こしながら現れて。最初は、なるようになればいいって感じだったけど」

    瑠「強引だったよね」

    尊「自分の世界が、徐々に色付いていくのがわかったんだ。とても華やかな、経験のない」

    瑠「…」

    尊「こんな世界があったんだ、なんて心地よいんだって思った」

    瑠「嫌じゃない?」

    尊「うん」

    瑠「じゃあ、好き?あっ」

    尊「ん?」

    瑠「面倒な女だと思ってるよね」

    尊「あれ、気付いてるんだ」

    瑠「ひどーい。頭の片隅にはあるんだよ、一歩手前で止めとけって。でもつい、つい動いちゃうの」

    尊「で、ジタバタしてるんだ」

    瑠「ごめんなさい」

    尊「あはは」

    瑠「笑っちゃヤだ」

    尊「いいよ」

    瑠「いいよ、って?」

    尊「…ジタバタしてる月の女神、好きだよ」

    瑠「…」

    尊 心(うわ、渾身の告白、玉砕ですか?!)

    瑠「尊って、どうしてそんなに優しいの?」

    尊「え、どうして?それは…僕、尊敬する人が居てさ」

    尊 心(兄さんに追いつくのは一生無理だけど)

    尊「その人なら、こんな時どうするかな、って考えてから行動するようには心掛けてる」

    瑠「そっか。とっても素敵な人なんだね。だから、落ち着いて一歩引いて動けるんだ」

    尊 心(思考回路、最大限に使ってますから)

    尊「だから、ワガママなんかじゃないし、邪魔なんてこれっぽっちも思ってない。何も気にしなくていいよ」

    瑠「すっごく嬉しい。ありがとう」

    尊「わかってもらえて安心したよ」

    瑠「うん、うん」

    尊「僕の方こそ、ありがとう」

    瑠「え?」

    尊「今日は家まで来てくれて」

    瑠「…え!たけるん、素敵過ぎる!」

    笑顔の瑠奈が、尊に近づく。

    尊 心(わー、何?!あれ、止まった)

    かなりの至近距離に立っているが、それ以上近寄っては来ない。

    瑠「たけるん。私がおととい言った言葉、覚えてる?」

    尊「え…何だっけ」

    瑠「私、来てもらう方がいいの」

    尊「あ、あー」

    尊 心(それはまさしくアレ、アレですね?!あー、瞳に吸い込まれそうだ。このまま…はっ!待て、落ち着いて考えろ!だってまだ何日も経ってないよ?ここまで早過ぎない?!いいの?って、わー、めっちゃ待ってるよー!行くしかないって?!え、えーっと)

    おずおずと、両手で瑠奈の肩を包んだ尊。

    尊 心(わーっ!!女の子って、なんでこんなに柔らかいんだ!どうしよう、動けないよ!)

    その時、部屋の外で声がした。

    美香子「尊~、瑠奈ちゃーん、ご飯用意出来たから、下りてらっしゃいね」

    母の気配はすぐに消えた。

    尊「…はっ!ご飯、できたって」

    瑠「今の、お母さん?お仕事終わったんだね」

    尊「じゃ、じゃあ行きますか」

    尊 心(お約束のオチってホントにあるんだ。何というか…)

    ゆっくりと、瑠奈の肩から手を離した尊。瑠奈が、上目遣いで微笑む。

    瑠「奪っちゃえば、良かったかな」

    尊「ええっ!」

    瑠「ウソウソ。尊のタイミングでいいよ」

    尊「すいません…」

    瑠「待ってるからねー、たーけるん」

    尊「は、はい…」

    二人、階段を下りていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days113~9日19時、一息ついて

    お父さん、大活躍。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚と、瑠奈の母との電話が続いている。

    覚「こんな不安定な状態のお嬢さんを、このまま帰らせるのは僕も気が引けますし」

    尊 心の声(お父さん、頑張って)

    覚「これは提案なんですが、よろしければ、お嬢さんに晩ごはん召し上がってって貰えればと思いますが。母親の仕事終わりを待ちますんで、もう少し後の時間のスタートなんですがね…いやいや、お気になさらず。賑やかな方が楽しいですし、我が家は7人家族なんで、人数増えても全く問題ありません」

    唯「…どしたの、二人とも」

    源三郎とトヨが、涙ぐんでいる。

    トヨ「七人家族、なんて。嬉しいわ」

    源三郎「しかも、何の躊躇もなくさらりと話された。欣快の至りでございます」

    唯「きんかいの…それ、武士言葉?」

    若君「それはわからないが、言いかえるならば」

    唯「うん」

    若「超嬉しい、だ」

    唯「へー。ならそう言ってよぅ」

    源「ちょ、超嬉しい、です」

    若「フフフ」

    しばらく電話が続いたが、

    尊「え、終わり?」

    覚「はい、ありがとうね」

    スマホを瑠奈に返した覚。

    覚「私の一存では決められないからと、ご主人に相談してから、またかけてきてくださるそうだ」

    瑠奈「はい。わかりました。ありがとうございました」

    覚「どういたしまして」

    尊「じゃあ待つしかないね」

    ト「待つ間、お茶もう一杯入れようかしら」

    唯「今度は全員分にして」

    ト「そうね」

    覚「おーい、立ったままも何だから、こっちで座って飲みな」

    全員、静かにお茶をすすっていると、瑠奈のスマホが着信した。

    瑠「出ます」

    覚「うん」

    瑠「もしもし。…うん、うん。いいの?」

    尊「いい感触みたい」

    瑠「うん。…あの、母が代わってくださいって」

    覚「はい、代わりました。…あー、そうですか?こちらから行きますのに…ご主人もお疲れのところ帰ってすぐでは大変ですんで、晩ごはんはゆっくり済ませてからにしてくださいね。えぇ、いいんですよ。ウチ、分かりますか?はい、速川クリニックでナビを入力していただければ。門を開けておきますので、そこからお入りください。はい、でしたら、またご連絡お待ちしています。いえいえ。お嬢さんに代わります」

    瑠「うん…うん。わかった。はい」

    電話終了。

    瑠「父の帰宅後、母と一緒に車で迎えに来るそうです。9時頃になりそうだけど、家を出る時連絡するって言ってました」

    覚「良かった良かった。ちゃんと晩ごはん、食べてきてくださるかなー。慌てて来て貰ってもね」

    瑠「食べてくると思います。先生のお仕事に合わせてるのなら、あまり早く行ってお食事中でもいけないからって言ってました」

    覚「そうかそうか。その分尊と長く一緒に居られる訳だ。良かったな、尊」

    尊「あ、うん」

    瑠「おじさま」

    覚「おじさま?!」

    席を立ち上がる瑠奈。

    瑠「ありがとうございました」

    深々とお辞儀をした。

    覚「いやいや、えへへ。おじさまなんて、言われたことないから照れるよ」

    ト「では、支度の続きを始めましょうか」

    唯「ラジャ!」

    ぞろぞろとキッチンへ向かう唯達。

    瑠「あの、私もお手伝いします」

    覚「いいんだよ。四人も居て手は足りてるからさ。座ってて」

    瑠「はい…」

    覚「座ってて、も何だな。尊」

    尊「なに」

    覚「部屋を案内したら。支度できたら、呼んでやるから」

    尊「え」

    覚「何だ?見られて困る物でもあるのか?」

    尊「ないよ。ないない」

    覚「じゃあ、行ってきな。瑠奈ちゃん、また後でね」

    瑠「はい!」

    覚「元気になって良かったよ」

    二人、階段を上がっていった。

    覚「ふう。やれやれ」

    唯「お父さん、いいの?二人きりなんかにしちゃってさ」

    覚「忠清くん達の緊張がピークに達してたから、ちょっと舞台からはけて貰ったよ」

    唯「あー。確かに。ボロが出ないように、みんながんばってたもんね。ひとまずお疲れ~かな」

    変わって、尊と瑠奈。部屋のドアを開ける。

    尊「どうぞ」

    瑠「うん。失礼します…」

    尊 心(うわ。この見慣れた風景に瑠奈が居るなんて)

    瑠「わぁ、本がたくさんある」

    尊「うん」

    瑠「歴史の本が見当たらない…え?もしかしてあの話、全部頭に入ってるの?!」

    尊「そうなるね」

    瑠「尊、すごい!ますます尊敬しちゃう!」

    尊「褒めてくれてありがとう。それほどでもないよ」

    瑠「天文学の本とか、力学の本が多いね。学者さんみたい」

    尊「たまたまね」

    尊 心(何を造ってるかまでは、想像できないはず)

    瑠「あ!私のあげた御守!机の真ん中に置いてくれてるの?嬉しい!」

    尊「当然でしょ」

    瑠「ありがとう」

    ぐるっと部屋の隅々まで見渡した瑠奈。急に下を向き、黙りこくった。

    瑠「…」

    尊「どうしたの?」

    瑠「ごめんなさい」

    尊「電話、何とかなったじゃない。気にしないで」

    瑠「違うの」

    尊「え?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days112~9日18時、出番が来た

    頼れるぅ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    何度も、瑠奈のスマホがブルブルと振動しては止まるを繰り返している。

    尊「電話、出ない?」

    瑠奈「…」

    覚「うーん。ちょっと話を整理しようか。相手はお母さん?自宅にいらっしゃるのかな」

    瑠「はい」

    覚「親子の仲って…」

    尊「それは、かなりいい方だと思うよ」

    覚「だったら、怒ってみえるのは、連絡せずに遅くなってるからか。どう?」

    瑠「それも少しはありますけど…」

    覚「じゃあ、何に一番怒ってみえる?」

    瑠「大事な試験の前なのに、家に遊びに行くなんて何考えてるのって…」

    尊「…」

    鍋の準備をしながら、離れて様子を窺う唯達四人。

    唯の囁き「だよねー。センター試験来週だから、フツーはこんな時に来ないかも」

    若君の囁き「唯」

    唯 囁き「なに」

    若 囁き「尊の学びを最も妨げているのは、僕らに他ならないと思うぞ」

    唯 囁き「言われてみれば」

    若 囁き「瑠奈さんを、悪くは言えない」

    唯 囁き「たーくん」

    若 囁き「ん?」

    唯 囁き「現代語、がんばってるぅ」

    若 囁き「当然だ」

    戻って、瑠奈と覚。

    覚「で、何て仰ってるの?」

    瑠「さっさと電車乗って帰って来なさい、って…」

    瑠奈の目が、みるみる潤んできた。

    尊「わー、ハンカチ!えっと二枚目どこに入れたっけ?あった!はい瑠奈、使って」

    瑠「ごめんなさい」

    覚「そうか…。お母さんのお気持ちはわかる。でも、まだ尊の傍に居たいんだよね」

    コクリと頷く瑠奈。

    唯 囁き「尊、めっちゃ愛されてない?」

    トヨの囁き「一途ね。すがるような目で尊さんを見てるところなんか」

    唯 囁き「いったい尊のどこ…」

    ト 囁き「静粛に」

    瑠奈が、ハンカチを尊に返す。

    瑠「ありがとう」

    尊「ううん」

    覚「お母さんも、厳しいね。帰る時は、ちゃんと車で送ってあげるから、心配しなくていいよ」

    瑠「あの、母は車の免許持ってないんです」

    覚「そうなんだ。だから自力で帰ってこい、なんだな。お父さんは、いつも何時頃帰宅されるの?」

    瑠「8時とかです」

    覚「晩ごはんは、お父さんが帰られてからなのかな?」

    瑠「はい。あまり遅くならない限り」

    覚「そうか。んー」

    尊&瑠奈「…」

    覚「よし」

    尊「よし?」

    また、瑠奈のスマホが鳴り出した。

    覚「瑠奈ちゃん、電話に出て。でもって、僕に代わってくれる?」

    瑠「…はい。わかりました」

    唯 囁き「説得するんかな」

    若 囁き「母君は随分と気が立っておられるようだが、お父さんなら上手く事を運ばれるであろう」

    瑠「…もしもし。もー、説教はいいから!尊のお父さんが、電話代わって欲しいって。ホントだって!代わるよ」

    スマホをキュキュッと拭いて、覚に差し出した。

    瑠「お願いします」

    覚「はい」

    皆で固唾をのんで見守る。

    覚「もしもし。初めまして、尊の父です…いえいえ!いいんですよお母さん、そんなに謝っていただかなくても」

    不安そうにしている瑠奈に、話しかける尊。

    尊「きっとお父さんが、上手く話をしてくれるよ」

    瑠「うん」

    瑠奈が、尊の腕をギュっと掴む。

    尊 心の声(わぁ、家族の前なんでちょっと…めっちゃギャラリーに見られてるし!)

    そのまま、尊の顔を見上げた瑠奈。

    瑠「もう帰んなきゃ、ダメかなぁ」

    尊「多分大丈夫だよ。あ、そうか」

    瑠「?」

    尊「確認したいんだもんね。僕の素行調査」

    瑠「…意地悪」

    尊「えぇ?また悪者扱い?」

    瑠「それもあるけど、まだ尊と離れたくない。もっと一緒に居たいの。いつも、駅で別れるのがすごく淋しかった。尊は、違うの?」

    尊「違わないよ」

    瑠「ホントに?嬉しい」

    笑顔を見せ、尊に体を寄せた瑠奈。

    尊 心(可愛いいな。いや、浮かれている場合じゃない。周りの空気が明らかにおかしいんだよ…やっぱり!)

    唯とトヨが、口元を押さえ、体をよじりながら悶絶している。若君と源三郎も、何ともいえない顔をしながら視線を合わせようとしない。

    尊 心(は、はは…ちょっといたたまれないかも。恋愛モード全開で、何かすみません。もうあちこち気になって、電話の顛末が耳に入ってこないよ~)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days111~9日17時30分、その線でいこう

    だったら尚更、幸せ家族に見える。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    緊張の面持ちで、尊と瑠奈が入ってくるのを待つ四人。

    唯「がんばろっ」

    無言で頷く、若君と源三郎とトヨ。

    覚「はい、どうぞ入って」

    瑠奈「こんばんは。お邪魔します…」

    尊「ただいま。わぁ、整列してるし」

    四人の前に進む尊と瑠奈。瑠奈が、少し戸惑っている。

    尊「こんな風に並んでたら、びっくりしちゃうよね。僕の家族だよ」

    瑠「あの、初めまして、瑠奈です」

    尊「紹介するね。右から、下の姉の唯、下の姉の旦那さんの忠清さん、上の姉の旦那さんの源三郎さん、上の姉のトヨだよ」

    唯「こんばんは!」

    若君「こんばんは」

    源三郎「こんばんは」

    トヨ「こんばんは。お会いできて嬉しいわ。寒かったでしょう?お茶入れますから、座ってくださいね」

    尊「ありがとう。トヨ姉さん」

    覚「ささ、どうぞ。あ、その前に上着預かろうか」

    尊「うん」

    二人がブレザーを脱ぐ。覚が受け取り、ハンガーに掛けた。食卓に並んで座った二人。唯達四人は、キッチンに移動した。

    唯の囁き「ねぇねぇ」

    トヨの囁き「何?」

    唯 囁き「るなちゃんって、目悪いのかな」

    ト 囁き「えぇ?どうしてそう思うの」

    唯 囁き「だって、超美形のたーくん見ても、反応が薄いから」

    ト 囁き「もっと騒ぐ筈、って?」

    唯 囁き「だから見えてないんかと」

    ト 囁き「そんな、見えにくそうな感じは窺えなかったけれど」

    唯 囁き「じゃあ源三郎タイプが好みかと思いきや、そっちも反応なしだし。尊にコクるくらいだから、好みが変わってるのかもな」

    ト 囁き「口が過ぎるわね」

    唯 囁き「だってぇ。たーくんにキャーキャー言わない女子が居るなんて、ある意味ありえなくない?って、ト…お姉ちゃん、お菓子、これ出すの?」

    ト 囁き「お茶に合わせて、甘味を」

    唯 囁き「女子高生、きんつば食べるかな」

    ト 囁き「え?駄目?」

    その頃の尊と瑠奈。

    瑠「上のお姉さんとは、だいぶ歳が離れてるみたいだね」

    尊「あ、うん…」

    瑠「すごく大人の女性って感じで、素敵」

    尊「ありがとう。姉も喜ぶよ」

    瑠「そんなに顔は似てないね」

    尊「え。そ、そう?」

    瑠「いろんな家族の形や事情があるもんね」

    尊「事情?」

    瑠「ステップファミリーとかさ。尊の家がそうだとは言ってないよ。これ以上詳しくは聞かないから、心配しないでね」

    尊「えっと…ありがとう」

    尊 心の声(そうか!トヨさんと歳が離れてるのは、両親が再婚したからだと思ったんだ!だったら、僕やお姉ちゃんと顔が似てなくてもそんなにおかしくはないし。いい方向に勘違いしてくれて、辻褄が合って結果オーライというか。ちょっと気が楽になったかな)

    唯「お待たせぇ」

    ト「お茶どうぞ。お菓子も召し上がってね」

    瑠「わぁ、きんつば!和菓子大好きなんです、嬉しい」

    ト「喜んで貰えて良かったわ」

    唯「正解だったか。あ、ねぇ、るなちゃん」

    瑠「はい」

    唯「視力って、いい?」

    瑠「視力ですか。裸眼で左右とも1.5あります」

    唯「えー、そうなんだー」

    尊「なんだよ姉ちゃん、その質問」

    唯「初対面のヒトには聞くコトにしてるから」

    尊「はあ?また訳のわからない事を…ごめんね、変な姉で」

    瑠「ふふっ。ううん」

    笑顔を見せ、お茶とお菓子で落ち着いてきた風情の瑠奈。話しかけるタイミングを図る覚。

    覚「あのさ、瑠奈ちゃん」

    瑠「はい」

    覚「おウチには、ここに来てるって連絡したかい?」

    瑠「して…ません」

    覚「そうか。帰りが遅いと心配されるよ。電話しておいたら?」

    瑠「…はい」

    尊「電話、しづらいの?」

    瑠「めっちゃ怒られるのが目に見えてるから」

    尊「でも、しなきゃ」

    瑠「うん…」

    瑠奈が電話をかける。

    瑠「もしもし。…だから連絡遅くなってごめんって…今、尊の家に来てる…は?時期?それはそうだけど…はあ?もー、ギャンギャンうるさい!もういい!」

    尊「え」

    切ってしまった。

    尊「お母さんだった?ケンカしちゃったの?」

    瑠「…」

    覚「おやおや。困ったね」

    唯「なんか大変そう」

    ト「大丈夫かしら」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days110~9日17時10分、臨機応変です

    技量が試される。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    概略を唯達に説明した覚。

    覚「といった訳だ」

    唯「なにそれ!」

    若君「唯」

    唯「超迷惑!」

    若「口を慎め」

    唯「…」

    覚「あと15分位で瑠奈ちゃんが来る。落ち着かせてから家まで車で送って、それから店へ出発、となると…」

    若「お父さん。今日は止めと致すが良かろうと存じます」

    源三郎「畏れながら、わたくしもそうなさるがよろしいかと」

    トヨ「私もそう思います」

    唯「えー」

    覚「それがいいな。時計ばかり見て気もそぞろな状態で迎えるのは良くない。店はまだ金曜も、何なら土曜もチャンスはあるし」

    唯「明日はたーくんの料理じゃないの?土曜はいつものはさみ揚げでしょ。いつ行くの」

    若「唯。わしらにも関わる一大事じゃ」

    唯「だって、みんな楽しみにしてたのに」

    覚「その辺はまた考えよう。ひとまず、お店にキャンセルの連絡と、あと母さんに言わないとな。今の時間話せるかなー」

    ト「お父さん、私共に何か出来る事はございませんか?」

    覚「ん。じゃあさ、お茶と菓子の準備してくれる?」

    ト「はいっ」

    源「直ちに」

    覚「よろしく」

    覚は、クリニックに走っていった。

    若「唯」

    唯「ん?んー」

    若「予定、とは、得てして変わったり無くなったりするものじゃ」

    唯「はあ。まぁなんていうかさ、るなちゃんの気持ちもちょっとはわかるなって思うのよ」

    若「それはあれか」

    唯「なに?」

    若「乙女心と申す」

    唯「そうだね。はいっ!もうね、気持ちは切りかえたよ。今、何をしとくべきか考えてる」

    若「それでこその唯じゃの」

    唯「ん、よーし」

    若「いかが致す?」

    唯「呼び方決めよう!」

    若「呼び方、とは?」

    唯「名前の。だって、私のお姉ちゃんがトヨで、旦那さん二人でしょ。言い方で怪しまれたら、ヤバくない?」

    それを聞き、トヨと源三郎がキッチンから戻ってきた。

    ト「どうさせていただくのが良いでしょう」

    唯「今、紙に書くよ。お姉ちゃんさ」

    ト「え?は、はい」

    唯「妹には、敬語は使わないでね」

    ト「わかったわ」

    源「飲み込みが早い…」

    ト「だって、これで瑠奈様…瑠奈さんの前で完璧にこなせたら、尊、さん、にご恩が返せるでしょう?」

    源「それもそうだ」

    唯「たーくんや源三郎…さんは、あんまりしゃべんなくていいとは思うけど」

    若「いや、念には念を入れよう」

    唯「えーっと、呼び方変えるのが、私がお姉ちゃん源三郎さん、たーくんがトヨさん源三郎さん、源三郎が唯さん尊さん忠清さん、トヨが尊さん忠清さん、唯って感じかな。はい、書いたから」

    若「これは、各々読み上げて覚えねば」

    唯の書いたメモを覗き込み、ブツブツと復唱し始めた三人。そこへ、覚が戻ってきた。

    覚「何だ、どうした?」

    唯「準備してる。名前の呼び方の」

    覚「あー。主従関係が露呈しないようにか」

    唯「お母さん、なんて言ってた?」

    覚「そんな事もあるわよ、ってな。明日にずらせそうなら、店にそうお願いしてと」

    唯「なんかあっさりしてるな」

    覚「ちょっと考えてた風ではあったぞ」

    唯「へぇ。なんかいいコト思いついたのかな。明日、席空いてるといいね」

    覚「急いで電話してくる…ん?尊からLINEだ」

    唯「なにって?」

    覚「30分頃到着予定です、か。これは助かる。今何時だ?20分か。よし、まずは電話」

    リビングの隅で、何度もお辞儀をしながら電話する覚。

    唯「あ、たーくん。もうカンペキ?」

    若「任せてくれ。話し言葉も、使いこなしてみせる」

    唯「おっ。なにげに現代風になってる」

    覚の電話が終わった。

    覚「ふう。ギリギリに電話したのに、明日の晩に快く変更してくださったよ」

    唯「良かったぁ」

    覚「唯ちゃんと尊くんに会えるのを楽しみにしてます、っておかみさんが」

    唯「ホント?わぁ、ますます楽しみ!ねぇ、それはいいけど」

    覚「何だ」

    唯「結局、晩ごはんはどうすんの?」

    覚「思ったんだけどさ、瑠奈ちゃんに晩ごはん食べてって貰ってもいいんじゃないか。勿論、親御さんと話をしてからだが」

    唯「なるほどね。って、それだと急に人数増えるじゃない。困んない?」

    覚「だからさ、もしそうなってもいいように、鍋にしようかと思う」

    唯「ほー」

    若「名案ですね」

    ト「でしたら、ある程度、入れる食材を見繕っておきましょうか」

    覚「そうだね」

    唯「お姉ちゃん」

    ト「なに?唯」

    唯「私も手伝うよ」

    ト「じゃあ、いらっしゃい」

    覚「いい、いい感じだ~。あ、尊に居酒屋明日になったってLINEしとかないと」

    数分後。玄関で物音がした。

    尊「ただいまー」

    瑠奈「こんばんは…」

    唯「来たっ!」

    覚「じゃあ、僕が迎えに行ってくる」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days109~9日17時、事件発生!

    あーあ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚と尊、電話中。

    覚「で、どうしたんだ」

    尊の電話『さっきなんだけど…』

    ┅┅回想。高校の最寄り駅のホーム┅┅

    尊と瑠奈が、帰りの電車を待っている。

    尊「で、昨日で三回行ったけど、二度目の岩盤浴だったんだ」

    瑠奈「いいなぁ。私も尊と岩盤浴行きたいな」

    尊「そうだね。試験終わったら、行こうよ」

    瑠「すぐじゃないんだね」

    尊「それはそうでしょ」

    瑠「わかってる、それはわかってるんだけど…」

    尊「じゃあ何?」

    瑠「…ホントに家族と行ったの?」

    尊「へ?そうだよ。姉夫婦が帰省してるって言ったでしょ」

    瑠「帰省、長くない?」

    尊「え。そうかな?」

    瑠「怪しい」

    尊「怪しい…って、何が?」

    尊 心の声(マズい、あまりお姉ちゃん達の話は深掘りしないでおきたいけど)

    瑠「百歩譲って、クリスマスにばったり会った時はそうだったかもしれない」

    尊「譲らなくてもそうだって」

    瑠「女でしょ」

    尊「は?」

    瑠「他に彼女が居て、隠してるんだね」

    尊「はあ?」

    瑠「私だけじゃないんだ。悲しい…」

    尊「えぇ?!なんでそんな展開になるの?」

    瑠「だって、めちゃめちゃ楽しそうに話すじゃない。家族と出掛けてるヒトの話し方には思えない」

    尊「それは…」

    瑠「その女じゃなくて、私と居る時も、いっぱい笑って欲しいのに」

    尊 心(そっか、ごめん。気がついてなかったけど、これは僕が悪いよな)

    尊「他に女性なんて居ないけど、あまり笑ってないように見えてたならごめんなさい。瑠奈と一緒に居て、すごく楽しいと思ってるよ」

    瑠「…そうは思えない」

    尊「本当に楽しいよ。嘘なんかついてないから、安心してください」

    尊 心(隠し通さなきゃいけない事情は、山ほどあるけど)

    瑠「…」

    尊「え!なんで」

    瑠「…」

    尊「そんな、泣かないで」

    尊 心(わー!メンドくせぇバージョン、発動してる!困った、周りの視線が痛いよ)

    尊「電車、来たよ」

    瑠「…」

    車内で、扉の脇に立つ二人。瑠奈は、尊の腕にしがみついたまま、ずっと黙って下を向いている。

    尊 心(あーどうしよう、焦る。これは、何か言ってあげないとダメなんだろうな。こっ恥ずかしいけど、頑張るしかないか…)

    尊「あの、さ」

    瑠奈が顔を上げた。瞳は涙で潤み、濡れた睫毛の一本一本が光を弾いている。その艶めいた姿に、目を奪われる尊。

    尊 心(……はっ!思わず見とれてしまった)

    尊「えぇっと、聞いてくれる?」

    瑠「うん」

    尊「他に彼女なんて有り得ないから。僕はそんな器用じゃない。瑠奈しか居ないから」

    尊 心(ひゃー、我ながらなんてセリフ。でも、僕を思ってくれて泣いてるんだし)

    瑠「…ホントに?」

    尊「ホントだよ。ね、だからもう泣かないで」

    瑠「でも」

    尊「信じてください。ほら、もう着くよ。降りなきゃ」

    小垣駅に着いた。電車のドアが開くが、瑠奈は離れようとしない。小さく溜め息をつく尊。

    尊「じゃあ、僕もここで一緒に降りるね」

    瑠「いい」

    尊の腕を引っ張り、動こうとしない瑠奈。

    瑠「降りない」

    尊「え?」

    瑠「降りないったら降りない」

    尊「なんで…あっ」

    ドアは閉まり、電車は動き出した。

    瑠「確かめるまで帰らない」

    尊「確かめるって、何を」

    瑠「だって、私が電車降りた後、尊がどうしてるかわからないもん」

    尊「ついて来るって、事?」

    瑠「ちゃんと家族と一緒だった、他に彼女なんて居ないって証拠が見たい」

    尊「…」

    尊 心(マジかよー!!)

    ┅┅回想終わり┅┅

    尊 電話『と、いう経緯です』

    覚「今は、やむなく黒羽駅のホームに居るんだな。彼女はどこに?」

    尊 電話『家に電話するからってなだめて、少し離れたベンチに座らせてる』

    覚「そうか…」

    尊 電話『お父さん、どうするといいと思う?』

    覚「うーん」

    尊 電話『…』

    覚「よしわかった。ひとまず、瑠奈ちゃん連れて、帰って来い」

    尊 電話『いいの?』

    覚「このまま駅に居ても、彼女は納得しないだろ。この後の話はしたのか?」

    尊 電話『してない』

    覚「そうか。いいか尊、嫌そうな顔は絶対にするなよ。予定があったなんて悟られないようにな」

    尊 電話『はい。迷惑かけてごめんなさい。でも、お姉ちゃんはともかく兄さん達はどうするの?』

    覚「考える。あまり待たせるとまた疑われるぞ。こっちは何とかするから、ゆっくりめに歩いて来てくれ」

    尊 電話『わかった。連れて帰るよ』

    電話を切った覚。隣で聞いていた、唯の目が点になっている。

    唯「え?尊が彼女連れて帰ってくるの?なんで?」

    覚「忠清くん、源三郎くん、トヨちゃんも集まってくれ。今から、緊急家族会議だ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days108~9日木曜11時、環境問題

    資源回収もないし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    玄関の呼鈴が鳴る。

    若君「行って参ります」

    覚「よろしくな」

    朝から頻繁に荷物が届き、リビングと玄関の往復ばかりしている若君。

    若「これまた、ずしりと重い」

    また何か届いた。

    唯「お父さーん、嫌がらせみたいにピンポンピンポン鳴ってるけど?」

    覚「全部今日の午前中指定にしたからな。宅配業者が同じなら一度に届くと思うが、業者が違うとどうしてもな」

    唯「まだ来る?」

    覚「いや、これで終わりだ。別に通販の受け取りは忠清くん専属の仕事ではないんだが、ありがとな。お疲れさん」

    若「いえ」

    唯「中身はみんなおいしそうだけどさ」

    若「全て、湯で温めれば食せると」

    レトルト食品のオンパレードになっていた。

    源三郎「まるで山のように」

    唯「ねっ、分けよっ。どれ持ってく?」

    トヨ「私共の為に、ここまで揃えていただいたのですか」

    覚「手軽に買えるもんだから、ちょっと買い過ぎたかなー。無理に全部持って行かなくてもいいけどな」

    唯「えー、欲しいよ」

    覚「それは勿論構わんが。ところでこれ、いつ食うつもりなんだ?」

    唯「お腹すいた時」

    若「それは…」

    覚「毎日だろ、って言いたげだな」

    唯「わかった!戦に持ってって、陣で食べる。どう?ナイスアイデア!」

    覚「自分達だけ食べる訳にはいかないだろ。足軽の皆さんは、細々とした食事でしのぐだろうに」

    若「仰せの通りですね」

    唯「すんません」

    若「穀物が不作の年や、何かしらの天変地異の折に、民に分け与えられると良いのじゃが」

    覚「話が大きくなってきたな」

    ト「炊き出しが必要となった時、例えば大鍋に、カレーを調味料として足すなどいかがでしょう」

    唯「超うっすい、カレーっぽい汁ってコト?おいしいかなー」

    源「油が入っておりますので、多少腹持ちも良くなります。良い考えかと」

    覚「でも賞味期限はあるから。じゃあさ、有事の際に取っておいて、期限が近づいたら君達で食べな」

    若君&源三郎&トヨ「はい」

    唯「えー」

    若「唯。全てそうせよとは申しておらぬ」

    唯「ちょっとは先に食べる?」

    若「良かろう」

    唯「わーい。いっぱい持って帰ろ!」

    若「赤井家もじゃ。時折食し、こちらの世に思いを馳せるも良し」

    源「心得ました」

    ト「はい」

    覚「あと、思ったんだけどさ。このパウチの袋のゴミ、そっちではどうするんだ?」

    唯「そっか」

    ト「確かに」

    若「これは、埋めたら土に還りますか?」

    覚「還らないんだ」

    源「燃やせるのでしょうか?」

    覚「うーん。やった事はないけど、熔けるんじゃないか。その時代にない物は、処分に困るよな」

    若「考えます」

    唯「あ」

    覚「何だ?」

    唯「前に持ってったお菓子の袋、どうしたっけか」

    覚「菓子?」

    唯「三之助たちにあげたら、毒って言って食べてくれなかったの」

    若「それは知らなんだ」

    覚「いつの話だ?」

    唯「梅谷村に居た頃だから。そのまんま残ってるかも」

    覚「後世に、こりゃ何だ?ってなるパターンだな」

    夕方になった。

    唯「何時出発?」

    覚「6時位に出るか。母さんの仕事終わりは待たないから。後から来てもらう」

    唯「わかったー」

    その時、覚のスマホが鳴り出した。

    覚「おっとっと。ん?尊じゃないか。はい、もしもし」

    尊の電話『もしもし?お父さん?』

    覚「随分と騒がしいな。駅のホームか?」

    尊 電話『ねぇ、どうしよう!』

    覚「何だ、どうした?」

    尊 電話『瑠奈が』

    覚「瑠奈ちゃん?瑠奈ちゃんに何かあったのか?!」

    尊 電話『離してくれない』

    覚「…」

    尊 電話『もしもし、聞こえてる?』

    覚「お前、凄いセリフ吐いてるって自覚はあるか?」

    尊 電話『は?』

    覚「よもや尊の口から、そんな官能的にもとれるセリフを聞く日がこようとは」

    尊 電話『お父さん!こっちは真剣に話してるのに!』

    覚「すまんすまん」

    尊 電話『今日、出かけられないかも…』

    覚「そんなおおごとなのか?」

    唯「?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days107~8日19時、触れてごらん

    いよいよ、カウントダウン。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    全員で岩盤浴エリアに移動してきた。

    美香子「頑張っちゃった?」

    尊「何事も、一歩進まないとって思って」

    自動販売機の前の椅子に座り、スポーツドリンクを飲みながら、ぼんやりしている尊。

    美「連れて来てる私達も私達だけど、この時期無理しちゃうと」

    尊「そこまでだるいとかないから」

    美「そう」

    尊「大丈夫だよ。僕は、強くなれるなら頑張れる」

    美「強く、か。ふふ」

    尊「おかしい?」

    美「ううん、立派」

    尊「じゃあ何で笑うの」

    美「瑠奈ちゃんとの交際が、順調のようだから」

    尊「え。あ、まぁ」

    唯と若君。沢山ある岩盤浴のブースの前で思案中。

    唯「どこに入ろっかな。もう、全身つるんつるんなんだけどね~」

    若君「ほぅ」

    唯「確かめる?触っていいよぉ、はいどーぞ」

    腕を若君の前に出した唯。

    若「どれ」

    すると、若君は唯の正面に立った。

    唯「ほぇっ?」

    唯の両頬を掴み、むにーと引っ張り、手を離す若君。

    若「ふむ」

    唯「そんな確認のしかた?」

    若「ようわからぬ」

    唯「ひどっ」

    源トヨは、並んで横になり、岩盤浴を楽しんでいた。

    源三郎「熱風渦巻く中、お父さんは微動だにせず」

    トヨ「そうなの。修業を積まれておいでなのね」

    源「忠清様も、此度は業を為し遂げた」

    ト「源ちゃんもでしょう。良かったわね」

    源「あぁ。これで大抵の苦難は乗り越えられる自信がついた。尊殿が、少し辛そうにされていたのが気にかかったが」

    ト「さっきお母さんが、様子を尋ねてみえたわよ」

    源「そうだな。お任せしよう。お前も、違うサウナの間に入ったんだよな」

    ト「うん。そんなに熱くは感じなくて。塩が山盛りに置いてあり、汗をかいた肌に乗せると効能が色々あるって教えていただいたわ」

    源「塩か。痛くはなかったか?」

    ト「全然」

    源「体ではないぞ、手だぞ。こちらの世に参る前、そこらじゅう切れておっただろ」

    ト「あ、そう言えば。あら」

    トヨの手を取り、しげしげと見た源三郎。

    源「…傷が治る程、日が経ったんだな」

    ト「そうね…。得難い経験を、こんなにさせていただいて」

    源「そうだな。有難い」

    ト「あ、あのね。お塩でお肌がつるんつるんになるって伺ったの」

    源「へぇ」

    ト「撫でてみない?腕」

    源「な、何言ってる」

    ト「源ちゃんから手を握ってきたんじゃない。試しに、ね」

    源「ま、そうだが…う、うん。心なしか、よう滑るような」

    ト「そんなにそうっとじゃ、くすぐったいわよ~」

    20時。7人、フードコートにある、晩ごはんメニューの写真パネルの前に集まっている。

    唯「ごはん、ごはん。なにこれ!お肉がモリモリ!」

    覚「ステーキ丼か。うん、スタミナ回復には効きそうだ。僕それにしようかな」

    美「サウナで無の境地に入ったんでしょ。仙人って、確か霞しか食べなかったんじゃないかしら?」

    覚「からかってるだろ。覚仙人は、俗世間に戻って来たから腹が減っている」

    美「ただの寝起きの人ね」

    全員メニューも決まり、食事がスタートした。

    美「あー楽しい。こういう、イベントっぽい、遊びに来てる感じはいいわね」

    覚「皆で出掛けるのは、あと明日の晩だけか」

    美「そうよねー。…ねぇ、もう一回位、全員でどこかにお出かけしない?」

    若「おぉ」

    唯「大賛成!」

    覚「僕も賛成だが、いつだ。あと時間が取れるって言ったら…帰る当日、土曜の午後か」

    尊「今までに行った所へ、もう一度?」

    美「うーん。この期に及んでではあるけれど、初体験のイベントもいいかも」

    覚「クリニック終わってからだから、幾ら日付変わるまでに帰ればいいって言っても、そんなに遠くへは行けんぞ?」

    美「ちょっと考えさせて。折角だから、思い出は多い方がいいもの。ね?」

    唯「やったっ」

    源「痛み入ります」

    ト「お気を遣わせるばかりで、すみません」

    美「気にしなくていいのよ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    8日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days106~8日17時、ととのう?

    妖怪千年おばば様、新作お待ちしています。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今回、首から上しか映像化できない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    スーパー銭湯に向かうべく車2台で出発した。途中、尊を駅で拾う覚。

    尊「ただいまー。急な話でびっくりした」

    覚「今日は学校の用事は良かったんだな?」

    尊「うん。それは昨日だけ」

    唯「ねぇ、昨日遅かったのはさー、るなちゃんとラブラブしてたからじゃないのぉ?」

    尊「違うよ。…違う」

    全員で、まずは湯を楽しんでいる。男湯の中にあるサウナ室の前に、若武者が二人。

    若君「…」

    源三郎「…」

    尊「二人ともどうしたんですか?悩む位なら入らない方がいいんじゃ」

    若「参るぞ」

    源「はっ」

    扉の小窓から中を覗くと、覚がピースサインをして座っている。

    尊「止めた方が良くないですか?だってここに、もうすぐロウリュウタイムって書いてありますよ?えーと、ロウリュウはですね」

    若「老いた龍か?」

    源「龍?」

    尊「そう来たか…」

    方々に鋭い視線を送り始める、若君と源三郎。

    尊「あの、龍は出ません。それに危機管理して目を配る様子はさすがですけど、その…丸腰にも程があるし」

    若「では、何が始まるのじゃ?」

    尊「中で熱してる石に水をかけて蒸気を発生させます。その状態で人が来て、大きいタオルや団扇であおいで、熱風を体に直撃させます」

    若「ほぅ…それは、何ともはや」

    源「手厳しい」

    尊「多分お父さんは、この時間を狙って入ってますけどね」

    若「そうか。ならば、倣って挑むより他無し」

    源「お供致します」

    尊「サウナに入る前のやりとりとは思えない。あ、準備が始まった。もうすぐですね。行ってらっしゃい」

    若「尊」

    尊「はい。…ヤな予感」

    若「おぬしは?」

    尊「来たっ」

    若「尊も、もののふならば…」

    尊「わー、その台詞には弱い。はい、では僕も強い男になるべく、兄さん達に倣って、頑張ります…」

    代わって、女湯。

    トヨ「雪、ですか?」

    唯「ううん。塩」

    ト「塩?!」

    ミストサウナルーム。三人が座っている目の前に、こんもりと塩の山が築かれている。

    美香子「食用じゃないからね。汗が出てきたら体に乗せていって」

    唯「お肌つるんつるんになるよ!」

    ト「つるんつるん。良いですね」

    美「ちょっと唯、顔にはつけない!」

    唯「全身ピッカピカにしたいもーん」

    美「ダメよ!刺激が強過ぎるから」

    唯「大丈夫だっ…痛っ!目に入った!」

    美「はぁ~。当たり前でしょ、手で触らない!ホント世話の焼ける…」

    美香子が唯の顔を覗きこんでいると、

    ト「お母さん、離れてください」

    美「え?はい」

    ト「参ります」

    バッシャーン!

    美「あらお見事」

    唯「ケホ、ケホッ」

    ト「どうですか、目の痛みは」

    唯「うひゃ~、びっくりした。でも今の一撃で取れたよ。ありがとトヨ」

    手桶に汲んだ湯を、唯の顔にぶっかけていたトヨ。

    美「さすがトヨちゃん。目元に狙い撃ちもお手の物」

    ト「塩まみれの手で擦るよりかは良いかと。幸い、端に座っておられたので、多少手荒でも他の方のご迷惑にはならないと思いまして」

    美「ちょっと驚いたけど、正解よ。ありがとうトヨちゃん」

    ト「いえ。すみません」

    美「何で謝るの」

    ト「咄嗟とはいえ、出過ぎた真似をいたしました」

    美「ううん。永禄での二人の関係が垣間見えた感じで良かったわよ。これからもビシビシとよろしくね…って、違う違う」

    ト「ふふふ」

    唯「これじゃお世話係をいつまでも卒業できないわねぇ。トヨちゃん、今度からは唯が何かしでかしても、見て見ぬ振りしてね」

    ト「はい。では出来得る限りそういたします」

    唯「えー、塩対応っすか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days105~8日14時、健やかなる時を

    心と体に、芯から、じんわりと。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美香子の車に、源三郎とトヨ。とある店に着いた。

    トヨ「紐…ですか?」

    美香子「ここね、組紐の専門店なの」

    源三郎「よくお越しになられるのですか?」

    美「たまーに。お父さん以外の人と来たのは初めてよ」

    源「忠清様も唯様も、ですか?」

    美「そうね。たまたま機会がなくて」

    既に、商品に釘付けになっているトヨ。

    源「おい、お母さんの話聞いてるか?」

    ト「あっ、すみません!」

    美「いいのよ~」

    運んできたバッグを広げる美香子。中には着物と帯が入っていた。

    美「これに合わせる帯締めが欲しくてね。あなた達の時代にはまだなかった物だから、わかりにくいかもしれないけれど。どれがいいかしらね」

    ト「えーと…。え!いえ、私が決めては」

    美「トヨちゃんの見立てでいいから。可愛いい娘に選んで貰ったわって。唯はね、こういう類いは全くダメなのよ。お城でもあまり興味なさそうでしょう?」

    ト「それは…そのようにはお見受けいたしますが」

    美「ね、だから是非お願いしたいわ」

    ト「そうですか。唯様の代わりは、到底務まりませんが」

    トヨが、棚を丹念に見始める。源三郎が、近くに並ぶ商品に気がついた。

    源「お母さん、これはもしや」

    美「ブローチね。紐を編んで作った」

    源「ブローチ。安全ピン、で留まるのですか?」

    美「その通り!よく覚えたわね、偉いわ~。って、あらごめんなさい、子供をあやすみたいな言い方になっちゃった」

    源「いえ…」

    源三郎が、はにかみながらブローチをじっと見ている。

    美「気に入ったなら買ってあげるわ」

    源「えっ?いやいや!」

    美「いいじゃない、小さくてお値段も張らないし。トヨちゃんと色違いでどう?」

    源「滅相もない事でございます!」

    美「いいのいいの、忠清くんと唯には内緒よ。あ、トヨちゃん、決めてくれた?」

    ト「こちらのお品が、色味も合ってよろしいかと存じます。いかがでしょうか」

    美「あ、いいわね~ありがとう。ではそれと、はい、こっちも色選んでね」

    ト「え?いえ、お気持ちだけで結構でございます!」

    源「お母さん、いただけませぬ」

    美「そう言わずに~」

    源三郎達がすったもんだをやっている、その頃の速川家。

    覚「ふう。しかし」

    食卓で覚と若君がお茶を飲んでいる。唯はというと、

    覚「よくあんなに寝られるもんだ」

    ソファーで、くるまった毛布から首だけを出し、スヤスヤと眠っている。

    若君「フフッ」

    覚「忠清くんさ」

    若「はい」

    覚「君こそ、どこか行きたい所とかなかったかい?」

    若「こちらの世も四度参っておりますゆえ、充分に楽しんでおります」

    覚「だからこそ、ってのもあるだろ」

    若「広い風呂も、酒と料理が美味い店も、丁度行きたかった地です」

    覚「そう?遠慮しなくてもいいんだぞ?」

    若「お父さん。何処かへ参るのは、無論楽しゅうございます。されど、今此のひととき全てが最良に他ならないのです」

    覚「今?」

    若「唯と穏やかに過ごせる此の時が」

    覚「こっちの生活全部か。いろんな重圧から解き放たれてるもんな」

    若「だからと言って、戦場に身を置くやも知れぬ永禄に、戻りたくないと申しておるのではなく」

    覚「わかるよ。心のデトックスだろ」

    若「デト?」

    覚「あーごめんごめん。どう言えばいいだろう。ん~、浄化、かな」

    若「浄められると。それは、腑に落ちます」

    覚「唯みたいに、ダラダラ過ごすのも悪くない訳だ。ははは。どうだい、君も唯と一緒に一寝入りしたら?」

    若「それは…もう、お手伝いする事はございませぬか?」

    覚「大丈夫だよ」

    若「わかりました」

    席を立ち、使った湯飲み茶碗などを洗って片付けた若君。そのままソファーに向かう。

    若「唯」

    唯「…ん。え、もう出かける~?」

    若「いや、まだ良い。わしも混ぜてくれ」

    唯「混ぜる?」

    横になっていた唯の体を抱き起こし、隣に座った。

    唯「一緒にお昼寝?」

    若「嫌か」

    唯「いいに決まってるでしょ。はい、半分こ」

    毛布を二人で分け合うようにかけ直し、若君にもたれた唯。すぐに寝息が聞こえ始めた。

    若君 心の声(心地好い…)

    窓の外に広がる冬の庭を眺め、温もりを感じながら、まどろむ若君だった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days104~8日水曜6時40分、気遣いの人

    座禅でも組んでいたのか?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ラジオ体操が終わったところで、覚が源三郎に声をかけた。

    覚「ちょっと、いいかな」

    源三郎「はい」

    部屋の隅に移動する。

    源「いかがなされました。言い付けでしたら、何なりとお受け致します」

    覚「いやいや、そんなんじゃないんだ。あのさ」

    覚が、メモ用紙とボールペンを取り出す。

    覚「あと今日入れて、残り四日だ」

    源「はい…お名残惜しゅうございます」

    覚「今まで色々こちらで体験してきてさ、これはもう一度やりたいな、行きたいなってのないかい?」

    源「それは、無きにしも非ずですが」

    覚「望み全部は難しいかもしれないけど、聞かせてくれないか?第一希望と、第二希望位教えて」

    メモを取ろうとしている覚。少し戸惑う様子の源三郎。

    源「あの、忠清様や唯様にはもうお尋ねになられたのでしょうか」

    覚「いや?そもそも、君とトヨちゃんにしか聞くつもりはないよ」

    源「それは、何ゆえでございますか」

    覚「仕える身である君達の、意見を優先する場があってもいいだろ。まあまあ、そう固く考えずに。な?」

    源「はい…ならば、風呂が幾つもあった地の」

    覚「スーパー銭湯か。ふんふん」

    源「お父さんが悠々とこなされていた、地獄の板敷の間に、今一度挑めたらと」

    覚「板の間?それって、サウナの事か?」

    源「灼熱を物ともせず座しておられたお父さんのお姿は、正にもののふでありました」

    覚「こんな事で褒められるとは思わなかったな。ちょっと気分いいぞ」

    源「早々に音を上げた不甲斐ないわたくしではございましたが、もし次があるのならと思うておりました」

    覚「なるほど。よしよし。もう一つ、聞こうか」

    源「お父さん忠清様と三人で、腹を割って話したあの店に、今一度参れるのであれば」

    覚「居酒屋だね。わかった。考えとくよ、ありがとな。おーいトヨちゃん、ちょっといい?」

    昼過ぎになった。

    覚「それでは、今後の大まかな予定を発表する」

    唯「あーい」

    覚「今日の夜は、スーパー銭湯に行くぞ」

    唯「おっ、岩盤浴!良かったね、トヨ」

    トヨ「良いのですか?お父さん」

    覚「君も源三郎くんも、一番行きたいって言ってたからさ。夕方尊を駅で拾う。晩飯もそこで済ませるよ」

    唯「たーくんもリベンジできるね。サウナ、お父さんみたいに長く入れたらって言ってたじゃない」

    覚「へぇ、そうだったのかい」

    源「忠清様も、でございましたか」

    若君「修行を終えサウナの間を出た後の、悟りを開いたかのようなお父さんのお顔が、今でも目に焼き付いております」

    覚「二人ともよく見てるなぁ」

    美香子「その後は、休憩室でグースカ寝てたけどね」

    覚「今日は、グダグダにならないよう、修行僧並に頑張るよ」

    美「無理はしないでよ~?帰りの運転に支障がないようにね」

    覚「大丈夫。酒は呑まないし。美味い酒は、翌日のお楽しみにとっとくから」

    美「嫌よ、また潰れちゃ」

    唯「てコトは?」

    美「明日の夜は、今度は家族全員で、例の居酒屋に行きましょうね。歩いて」

    若「おぉ。それは、わしも楽しみじゃ」

    源「お気遣いいただき、済みませぬ」

    ト「良かったわね、源ちゃん」

    唯「おかみさんとおやじさんに会うの、めっちゃ久しぶりだー」

    覚「明後日は、金曜だからまた忠清くん、料理頑張ろうな」

    若「はい!」

    美「で、金曜が最後の夜になるから、恒例の」

    唯「恒例。わかった!え、布団全部並ぶ?」

    覚「多分、イケるだろ」

    源「布団、ですか?」

    若「左様。発つ前の晩は、このリビングに布団を並べ、皆一同に休むとしておっての」

    ト「まぁ…心温まる習わしだこと」

    唯「今回さー、旅行行ってないから、雑魚寝なんて最初で最…ん、言わないでおこ」

    美「楽しみね。でね、今日この後だけど、トヨちゃんと源三郎くんに、私の買い物に付き合って欲しいのよ。いい?」

    ト「はい!お供いたします」

    源「喜んで」

    美「トヨちゃんが、私との買い物が忘れられなくて是非って聞いて」

    ト「えっ、それでわざわざお時間を」

    美「ううん。ちょうど、着物関係のグッズで欲しい物があるのよ。トヨちゃんに一緒に見立てて貰えると私も嬉しいわ」

    ト「なんて有り難きお言葉…」

    美「あなた達さえ良ければ、もう出掛けてもいいけど。そのお店、ちょっと距離あるのよ」

    ト「わかりました」

    源「では、上着を取って参ります」

    二階に上がっていった二人。

    若「お父さん、お母さん。色々と気を回していただき、ありがとうございます」

    覚「いやいや~、元は君の発案だし」

    美「彼らの望みを叶えてやって欲しいって言う忠清くんの気持ちが素晴らしくて。私達はそれに乗っただけ」

    唯「たーくん、神だわ」

    若「神?」

    唯「え。えーっと、神様仏様的な?」

    若「仏?崇められる程ではないが」

    唯「あがめるってなに?」

    美「あー、話が続かないったら」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    8日のお話は、続きます。

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    四人の現代Days103~7日12時、初めての

    よく噛み、時間をかけ食せば、少しの量でも腹は満たされるのじゃ。という心の声。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    カフェでランチ中の四人。唯の食い意地が勝るかと思いきや、

    唯「カフェっぽい!めっちゃ映える!」

    やたらと写真を撮っている。

    若君「精が出るのう」

    唯「だって、撮っとかないとどんな料理かわかんないもん。帰ったら親に聞こうと思って」

    若「運ばれてくる度に、店の者が料理名を申すではないか」

    唯「カタカナいっぱいだからよくわかんない」

    若「カタカナ、であるのはわかると」

    食事終了。デザートも出され、寛ぐ四人。

    唯「どうだった?源三郎、トヨ」

    源三郎「美味しくいただきました」

    トヨ「どのお料理もお色味がとても鮮やかで、食が進みました」

    唯「映え映えだったよね~。来て良かったぁ」

    若「美しく盛られ見栄えのする料理の数々であったが、唯の腹には足りたか?」

    唯「足りたー。写真撮りながら休み休み食べてたのに、なんでかな。お腹いっぱい」

    若「フッ」

    唯「なんでそこで笑うの」

    若「それは、尚更来た甲斐があった」

    唯「んん?なーんか引っかかるような。ま、いっか。そろそろ帰る?」

    店を出た四人。もう一度、吉田城跡のロータリー前に佇む。

    唯「残してくれた人に感謝しなくちゃね」

    若「あぁ」

    さて。夕方になった。変わってここは、尊の高校。

    尊「西日がようやく眩しくなくなったな」

    放課後、教室に尊が一人自習している。すると扉がガラリと開き、瑠奈が入ってきた。

    瑠奈「はぁ。えっ、尊!」

    尊「お疲れ。先生の呼び出し、何だったの?」

    尊に駆け寄る瑠奈。座ったまま見上げる尊。

    瑠「冬休み前に提出した書類に、訂正が必要な箇所があるって…ねぇ、それより、待っててくれたの?!」

    尊「約束したじゃない。帰りは一緒って」

    瑠「そうだけど、急に呼ばれて行ったし、すごく待たせちゃった。ごめんね、ホントにごめんなさい」

    尊「そんなに謝らなくても」

    瑠「だって、試験前の尊の貴重な時間が」

    尊「ここで勉強してたから。気にしなくていいよ」

    瑠「ありがとう。いつも優しいね。私感動しちゃった。絶対、帰ったって思ってたの。もぅ、すっごい嬉しい!」

    尊「喜んでくれて僕も嬉しいよ。じゃあ、帰りますか」

    瑠「うん…」

    机の上の参考書や文房具を片付け始めた尊。その様子を、隣に立ったままじっと見つめている瑠奈。

    尊「どうしたの。鞄取ってきたら?」

    瑠「私、尊にお礼がしたい」

    尊「お礼?いいよそんなの」

    荷物を入れるため、リュックを取ろうと尊が横を向いたその時、

    尊「ん?」

    頬に柔らかな感触が。

    瑠「さぁ、帰りましょうね~」

    尊「え?」

    瑠奈が鞄を取りに行く。訳がわからない尊が、頬を指で触ってみると…

    尊「えええー!」

    指先に付いたリップグロスが、キラキラしている。瑠奈が鞄を持ち戻ってきた。

    瑠「あ、ごめん。ついちゃったね」

    尊「いやいやいや!」

    瑠「こんなの礼にはなんねぇよ、って?」

    尊「そうじゃなくて!あの、ふ、不意討ちは、卑怯なり」

    瑠「ふーん?そう。なら、名乗りを上げればいいんだ」

    尊「え」

    瑠奈がサッと手を挙げた。

    瑠「瑠奈、チューしまーす!はい、もう一回」

    尊「わー!」

    瑠「ねぇ、今度はどこにして欲しい?」

    尊「え!」

    瑠「くちびる?」

    尊「ひっ」

    瑠「あー。でもくちびるなら、自分からしに行くより来てもらう方がいいな」

    尊「ええっ」

    瑠「来てもらう方が、いい」

    尊「あの、近い、近いです…」

    瑠「えー。仕方ないな、だったら今日はほっぺまでにしといてあげる」

    尊「は、はぁ」

    瑠「あはは。たけるん、かわいいね」

    尊「たけるん?!」

    尊 心の声(手のひらの上で転がされた!口から心臓が出そうだよ。手練れJK、恐るべし…)

    尊「じゃあ、帰りますか…」

    席を立つ尊。教室を出ようとするのだが、

    瑠「たーけるんっ」

    尊「わー!」

    尊の腕に、べったりと絡みつく瑠奈。

    尊「そ、そんなにくっつかないで!」

    瑠「えー、これでも遠慮してるのに。腕くらいいいでしょ」

    尊「随分と豪快な遠慮…」

    尊 心(僕は、押しの強い女性に翻弄される運命なんだ…)

    瑠「何か言った?」

    尊「いえ、何も…わー、だから!」

    大騒ぎしながら、教室を出て行った。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    7日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days102~7日10時、プチ旅行です

    面影は多少あるみたい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    キッチンに居る覚に、唯が話しかけている。

    唯「お昼、外食してきてもいい?いい感じのカフェがあるって尊が言ってたから、行ってみたい」

    覚「いいぞー。カフェでランチなんて現代ならではだろ。これも経験だ。皆で行ってこい」

    唯「わーい」

    唯達四人、小垣駅に向かう準備が整った。

    覚「はい、昼飯代と電車代。楽しんできな」

    唯「ありがとー」

    若君「忝のう存じます」

    源三郎&トヨ「行って参ります」

    歩いて黒羽駅にやってきた。

    唯「たーくん、切符の券売機はお初だね」

    トヨ「電車には、既にお乗りになられてるんですよね?」

    若「前に乗った折には、小さき板をお母さんにいただいた。入口に当てるだけで、あの門が開いたのじゃ」

    源三郎「妖力…でございますか?」

    唯「どうして動くかは、尊に聞いて」

    若「その板には、月が微笑んでおっての。そう、これじゃ」

    券売機の画面に、ICカードのデザインが表示されている。グレーの地に黄色くて丸いキャラクターがついているのだが、

    唯「あ、たーくん、指さすだけにして。タッチパネルだから、画面に触るとどんどん動いてっちゃうの」

    若「済まぬ」

    源「お父さんがお持ちの、大きい板のような物ですか」

    唯「うん。そうだね」

    切符を買い、いよいよ自動改札を通る。

    唯「この切符を、この細く開いてる口に入れると、門が開くの。切符は向こう側にピョコって出てるから、忘れず取るんだよ。失くすと大変だから、ちゃんと持っててね。ではお手本行きます」

    唯が切符を投入する。即座に改札の扉が開き、一瞬の内に切符が頭を出して、通過しながら抜くと扉がまた閉まった。

    源「おぉ」

    ト「一人ずつ通るようになってるんですね」

    若「切符を取らねばならぬのが、昨年との違いか」

    唯「では、行ってみよう!」

    改札一箇所をほぼ占領する形で一人一人ゆっくり進み、無事全員通過。

    唯「あ、もうすぐ電車来る。急ごっ」

    ホームに着くと、すぐに電車が入ってきた。興味津々で乗り込む源トヨ。

    源「景色が飛んでいく」

    ト「速いですね」

    唯「各駅停車の電車だから、そこまで速くはないんだけどね」

    黙って外を眺めている若君。

    唯「あんなに木があったのに、って?」

    若「あぁ。開墾は、さぞや苦労したであろう」

    線路沿いは、すっかり住宅地になっている。

    若「時の流れを感ずる」

    唯「ここは、人が住みやすい、いい場所なんだよ」

    若「そうじゃな」

    小垣駅に到着。早速ロータリーに向かう。

    唯「あれかな?確かにいきなり和、だ」

    若「ふむ」

    ロータリーといっても、バス停もタクシー乗り場もなく、停車する車もなかったため、目の前まで安全に近付けた。

    ト「ここに何か書いてあります」

    唯「どこ?あ、あるね」

    御触書のような形の小さな立看板がある。かつてここには武家屋敷があり、その前は吉田城があった旨も書かれていた。

    源「見つかった」

    ト「良かったわ」

    若君は、ロータリーをぐるっと一周していた。

    若「唯」

    唯「はーい?」

    若「此処へ」

    唯「なになに?」

    ぞろぞろと移動。

    若「正面は此処じゃ」

    唯「あ、そうなんだ。松、大きいね」

    江戸時代に植えられたと思われる松が、見事な枝ぶりをしていた。若君が右上の方向を指差す。

    若「矢は、あの辺りから放たれた」

    唯「やだぁ、痛い痛い!思い出すの、嫌じゃないの?」

    若「射られねば速川の家族に会えなんだであろう?」

    唯「そうだけどね。たーくん、強いわ」

    若「唯程ではない」

    唯「言うねー」

    11時30分になった。尊が瑠奈に告白されたカフェにやってきた四人。通された席で、メニューの写真に釘付けになっている唯。

    唯「どれもおいしそう!どうするどうする?」

    ト「これは…迷いますね」

    唯「たーくんどうする?」

    若「任せる。ようわからぬゆえ」

    唯「源三郎は?」

    源「それはもう、お任せいたします」

    唯「困ったな。あ、これなんかどう?」

    シェフのおまかせランチ、2名様より注文可とある。

    ト「大きい器に盛られて、銘々で取り分けるようですね。良いと思います」

    唯「決まり!」

    注文完了。

    唯「あー、一気にお腹空いてきた」

    ト「四人分で足りますかしら?」

    唯「うーん、微妙」

    若「フフッ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    交通系ICカードは、manacaをイメージしてください。この板no.526にも若干説明があります。

    続きます。

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    四人の現代Days101~7日火曜8時30分、尊い!

    元旦にあれだけしゃべってるのに、今更?って思われてるよ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日から高校は三学期。尊が教室に向かっていると、廊下に女子が二名。

    みつき「おはよ、センセ」

    瑠奈「おはよぉ、尊」

    尊「おはようございます。こんな所で立ち話してるの?」

    み「センセを待ってた」

    尊「え、僕を?まさか説教…」

    み「なんでよ。という訳で、はい、瑠奈は教室に入って」

    瑠「えー、もう?なんかね、みつきがどうしてもサシで話したいんだって。じゃあね尊」

    尊「うん」

    瑠奈は手を振って教室に入っていった。

    尊「話って?瑠奈に聞かれたくはないんだ?」

    み「あのね」

    みつきが深々とお辞儀をした。

    尊「いきなり何!困る、恥ずかしいよ」

    み「センセありがとう。瑠奈の彼氏になってくれて」

    尊「は、はあ。それはどうも」

    み「まずはお礼が言いたくって」

    尊「いつから保護者に」

    み「それでね、ここからは瑠奈情報を話しとこうと」

    尊「そうなんだ。では伺います」

    み「あの子、モテるのよ」

    尊「だろうね。わかります」

    み「あんなにかわいいのに、お高くとまってなくて」

    尊「そうだね」

    み「巨乳だし」

    尊「うっ」

    み「何よ。見ればわかるでしょ」

    尊「えーと」

    み「あ、もう触って確かめた?」

    尊「えええ何言ってるの!!」

    み「まだなの?彼氏の特権でしょ」

    尊「そんな」

    み「まだなの?」

    尊「だって」

    み「まだなの?」

    尊「まだだよ」

    み「ふーん。楽しみだね」

    尊「うわっ、口車に乗せられて、まだとか言ってしまった…予定があるみたいじゃないか。断じて違うから」

    み「でさ」

    尊「怖ぇ。弁解も聞いてもらえない」

    み「そんなだから、付き合う時は男から言われてってパターンばっかなのよ、いつも。瑠奈は最初、相手を何とも思ってないところからスタート」

    尊「なるほど」

    み「で、瑠奈ってメンドくせぇじゃない」

    尊「はい」

    み「もう実感しちゃったか。言い寄られて、いいかもって思った頃に嫌がられる。だから恋愛は、始まるのも早いけど終わるのも早いんだよね。続かない」

    尊「なんか気の毒な話だな。僕はそうならないでって、お願いですか?」

    み「私は、瑠奈とセンセは長く続くと確信してるから、お願いはしない」

    尊「その自信はどこから…」

    み「センセさ、今までなんとなく流されてきてるでしょ。瑠奈の猛烈なアプローチに」

    尊「それは否めませんが」

    み「私は喜んでる。なぜならほとんど初めてに近いくらい、瑠奈が自分から好き!って行動してるから」

    尊「よく見てるんだね」

    み「でもセンセは、好き好き攻撃をちゃんと受けとめてくれる器がある」

    尊「褒め過ぎじゃないの」

    み「うっとーしくても、嫌じゃないでしょ。どう?」

    尊「まぁ、そうだね」

    み「瑠奈の見た目だけじゃなく、中身をちゃんと見てくれてるからだよね」

    尊「あ、うん。それはその通りだよ。僕に足りない所を補ってくれると思う」

    み「さっすが~。瑠奈がね、尊の名の漢字はソンケイのソン!ぴったり!って言ってた。事実マジ尊敬してるし。もちろん私もだよ」

    尊「恐縮しちゃうよ」

    み「見込んだ通りのセンセで良かった。ありがとう」

    尊「へ?」

    み「これからもよろしくね。センセにお任せしとけば間違いない」

    尊「すごいな。友達思いなんだね。羨ましい」

    み「羨ましいって何。私は瑠奈の味方だけど、センセの味方でもある。二人は相性がいいってピンとはきたけど、センセが嫌がるなら勧めなかった」

    尊「そうなの?」

    み「友達の嫌がる事はしたくない」

    尊「友達。僕が?」

    み「他に誰が居るの。当たり前でしょ」

    尊「…ありがとう」

    み「って長くなっちゃったけど、今朝は直接お礼と、瑠奈の恋愛もろもろを話しときたかったの。ご静聴ありがとうございました」

    尊「いえいえ」

    み「そろそろチャイム鳴るから」

    尊「うん」

    尊 心の声(やっぱり僕は、自分から線を引いていたんだな)

    二人、教室に入っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days100~6日21時、霧が晴れた

    律儀な一族。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊が、メールの続きを読み上げる。

    尊「城は、火災の影響もあり取り壊されたが、庭は、武家屋敷があった頃もあしらいはそのままだった」

    若君「…」

    尊「戦国時代の植栽は残っていないが、時代時代で趣を残しながら植え替えられ、今は小垣駅前のロータリーの中に一部が残る」

    唯「ロータリー!」

    若「ロータリー、とは?」

    尊「車やバスをぐるっと一方通行させるように丸く道が作ってある所というか。戦国時代の人に説明するのは難しいな。あの、僕この前これ、小垣駅前で見たんだよ」

    美香子「瑠奈ちゃんと一緒の時に?」

    尊「うん。そこだけいきなり和風で、なんでだろうと思ってたんだ」

    唯「ねぇ、明日行ってみようよ!それこそさ、電車乗って」

    覚「源三郎くんとトヨちゃんは、電車初体験だよな。いいんじゃないか?」

    尊「行ってらっしゃい。僕明日から学校だから」

    唯「そうだった。じゃあ四人でね!源三郎、トヨ」

    源三郎「電車は、図鑑、で見ました。一度に多くの物や人を運び、車より速う動くと」

    トヨ「楽しみです」

    若「明日は、外をよう見ておかねばのう」

    美「それにしても、先生よくご存じね」

    尊「この後、どうして詳しいかわかるよ」

    美「そうなんだ」

    尊「では、続きを。もう一つの質問、木村政秀の末裔ではないかとの指摘だが、よくわかったね?相当調べないと出てはこない名なんだが。答えは、その通りだ」

    若「やはりそうであったか」

    唯「早く言ってよ~」

    尊「この質問、もう少し前にされていたら、答えられなかった。返事に窮するというかな」

    唯「え?なんで?」

    尊「最近まで、羽木家は永禄2年に滅亡していたと伝えられていた。木村政秀は羽木家の家臣。戦に敗れれば、例え生き延びていたとしても切腹は免れない筈。なぜ末裔が存在するのか。主を裏切り、逃げたとも考えられる」

    若「木村は、せがれは戦で討たれておるが、嫁に出した娘が居た。唯が現れずそのままわしらが滅亡していたとしても、案ずるまでではないと思うが」

    覚「でも、もしかしてを考えたんじゃないか?先生は」

    尊「羽木家は黒羽の地で長く親しみを持たれ愛されている。ここで木村の末裔と語るのは憚られた。なので今まで口を閉ざしてきたんだ」

    美「勿体ない感じね」

    尊「だが、調査が進み、滅亡の時期及び滅亡したのかも曖昧になっている。僕はね、それを知って、心からありがたいと思った。木村も生きながらえていて当然だったなら、肩の荷が下りる」

    覚「歴代の末裔の皆さんが、悩んでたみたいだな」

    尊「小垣城の発掘がほぼ終わり、近々資料館が竣工する。そこで僕は、腹を決めた」

    唯「腹を決めた、って流行ってんの?」

    尊「代々受け継がれてきた、小垣地域の歴史が書かれた書物。吉田城の顛末も含む。と、高校の自分の控え室にある、木村政秀の甲冑一式を、寄贈する」

    若「残されておるのか!」

    美「だからこんなに詳しいのね。唯、先生に色々教えてもらった時に、甲冑は見てたんじゃないの?」

    唯「あったかな。あったかもしんない」

    尊「いい加減だな。いくら歴史の先生で、そこにあって不思議じゃなくてもさ、見れば驚かない?」

    唯「だっていつも先生には用があったけど、鎧には用がなかったから」

    覚「唯らしいな」

    尊「最後まで読むよ。今僕は、実に晴れやかな気分なんだ。木村政秀は、きっと穏やかな余生を送ったに違いない。そう信じられる。といったところだ。答えになったかい?ではまたいずれ」

    美「こうしてみると、唯は木村先生にも影響を与えてたのね。ちょっと唯、聞いてる?」

    唯「今さ、鎧の顔んトコに先生の写真はりつければ良くない?って思ってたー。チョビヒゲ描いてさぁ。ぐふふ」

    尊「少しは先生の告白に感動しろよ。それに現代の人にはわかんないよ?こんな感じなんかな~位で」

    唯「そっくりですby羽木九八郎忠清って、たーくんがサインしとくとか」

    若「許されるものなのか?」

    美「忠清くん、まともに聞いちゃダメよ」

    そうこうする内に、夜も更けてきた。唯とトヨが、風呂を済ませ、階段を上がってくる。

    唯「明日はね、切符買うトコから教えるね。たーくんも、それは初めてなんだよ」

    ト「そうなんですね」

    唯「じゃーねー、おやすみ」

    ト「おやすみなさいませ」

    唯が自室に入った。トヨが一人、廊下を進む。

    ト「ふぅ」

    源三郎の部屋、今夜からは二人の部屋の前で立ち止まるトヨ。すると、扉が中から開いた。

    源「…風呂、最後だったのか」

    ト「うん。唯様と一緒にね」

    二組並ぶ布団が見える。

    トヨ 心の声(ちょっと、生々しいんですけど…あら?)

    布団の横に、少し大きめの本が置いてある。

    ト「尊様にお借りしたの?」

    源「電車をもう少し学ぼうと思い。尊殿が幼き頃に、よう読んでいたそうだ」

    子供向けの図鑑だった。微笑むトヨ。

    ト「一緒に読みたいわ」

    源「じゃあ、入れ」

    ト「うん」

    静かに扉が閉まった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    6日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days99~6日20時30分、昔も今も

    何駅か分、走って向かったんだよね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    帰る芳江とエリを見送る、美香子と源トヨ。

    美香子「遅くまで付き合ってくださって、ありがとう」

    源三郎「ありがとうございます」

    トヨ「お気をつけて、お帰りくださいませ」

    芳江「いいお式でしたよ」

    エリ「立ち会えて良かったです」

    三人がリビングに戻ると、食卓はケーキや写真が片付き、晩ごはんの支度が始まっていた。

    ト「お手伝いしなくては。お父さん、何をいたしましょう」

    覚「おっ、ピッカピカの若奥様の初仕事だな」

    美「なりたてだもんね。あー眩しいわ」

    トヨの手が止まった。

    美「あら、言い方が悪かったかしら」

    覚「気に障っちゃった?」

    ト「いえ!滅相もないです。心から感謝するばかりでございます。あの」

    その場に正座し、手を揃えて床についたトヨ。いきなりの動きに戸惑う両親。何事かと皆もやってきた。

    美「どうしたの。そんなにかしこまって」

    ト「私」

    覚&美香子「はい」

    ト「お母さんが勧めてくださいました時は、躊躇するばかりでしたが、腹を決めました」

    若君「腹を」

    唯「決めた?」

    ト「今夜から寝所を移します」

    美「…源三郎くんと同じ部屋で休む?」

    ト「はい」

    源「え」

    美「いいの?あなたの意に反するなら、無理はしないで欲しい」

    ト「いえ。本意です。私、前に自ら申し上げました。忠清様が唯様と寝所を同じくされた時に、やはり夫婦は共にがよろしいですので、と」

    美「そっか」

    覚「源三郎くん。トヨちゃんはこう言ってるけど」

    源「はい。畏れながら…より早い日でとお気遣いいただいた、エリさん芳江さんのお気持ちを汲みたいと存じます」

    唯「おっ」

    若「うむ」

    覚「じゃあ今から、布団とか移動してきな。晩ごはんの支度の手は足りてるからさ」

    美「行きましょ。源三郎くんも」

    源「わかりました」

    ト「はい」

    三人は二階に上がっていった。

    若「唯、この碗を」

    唯「あーい。運びまーす」

    覚「尊も手伝ってくれ」

    尊「あ、うん」

    唯「あんた、さっきからスマホばっか見てるじゃない。さては、るなちゃんとラブラブしてんな?」

    尊「違うんだ、木村先生からメールが来たんだよ。質問の返事」

    唯「そうなの!」

    若「おぉ。何と?」

    尊「思わず読みふけっちゃって。じっくり皆に聞いて欲しいから、ご飯の後で発表するよ」

    そして、晩ごはん後。

    尊「では、木村先生からの返信メールを読み上げます」

    若「頼む」

    尊「返事が遅くなり済まなかった。質問は二つだったね。まずは、かつてあった筈の吉田城はどうなったかだが、城主有山永季が城を明け渡した後すぐ、半焼したらしい。失火か、戦によるものかはわからない」

    若「…」

    尊「城はやがて取り壊されたが、敷地は転々と持ち主が代わり、江戸時代には武家屋敷があった。そして最終的に土地を手に入れたのは、鉄道会社」

    唯「鉄道?」

    尊「鉄道を引く計画が持ち上がったからだ。開通の際、黒羽駅は黒羽城跡に近いのでその名が付けられる。そこから東に伸びる道沿いに線路が敷かれ、そして旧吉田城跡地に駅が出来た。駅名だが、吉田城があった事を知る者はほとんどなく、地名も小垣が広く使われていた為、小垣駅となった」

    覚「それは知らなかったな~」

    唯「ねぇ、ちょっとストップ!地図見せて」

    タブレットで近隣の地図を表示。

    唯「ここが黒羽城公園。でこれが駅で線路。東にまっすぐ伸びてる」

    若「永禄から通じておる道沿いに、線路はあるのう」

    唯「やっぱり?!私、たーくんが吉田城に和議に行ったって知って、危ない!すぐ行かなくちゃ!って行き方聞いたら、伊四郎さんが、門を出て東へまっすぐじゃ!って教えてくれて一目散に向かったの。その道だったんだ!」

    若「わしが輿に乗り、通ったのもこの道じゃ」

    尊「へぇ。兄さんもお姉ちゃんも通ったその道に、今は電車が走ってるんだね」

    覚「そんなに由緒ある場所だったんだ」

    美「歴史は繋がってる、って実感するわね」

    尊「続き、読むよ。地図見ながらでいいからさ」

    唯「うん」

    尊「実は、今でも吉田城を偲べる場所が小垣駅にあるんだ。ほとんど知られてはいないがな」

    若「何と」

    覚「えぇ?僕随分探したのに見つからなかったけど、見落としてた?」

    唯「どこ?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days98~6日20時、祝福します

    心配ご無用。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    食卓には、昨日撮った源三郎とトヨの晴れ姿の写真が、コラージュのようにしてあり何枚か飾ってある。

    覚「手作り感がいいな」

    唯「でしょっ。イイ仕事したー」

    尊「ほとんど兄さんが貼り付けてたけど」

    そこへ、美香子とエリと芳江が登場。

    美香子「ただいま~」

    エリ「本日は、おめでとうございます」

    芳江「この佳き日にお招きいただき、ありがとうございます」

    源三郎とトヨが二人に駆け寄る。

    源三郎「お疲れのところ、恐縮至極でございます」

    トヨ「エリさん、このような美しいお品を…」

    エ「とてもよく似合ってるわ~。私が勝手に作ったんだから、お礼なんていいんですよ」

    芳「あらら、泣くのはお式始まってからじゃないと」

    唯「はいはい、トヨこれで拭いて」

    尊「ハンカチと思いきや、ティッシュ…」

    覚「トヨちゃん、大丈夫かい?」

    ト「はい。すみません」

    覚「じゃあ、時間制限有りだからそろそろ始めような」

    源トヨはリビングの外へ。残りの全員は花道を作るように並び、尊はカメラをスタンバイ。

    覚「それでは、新郎新婦の入場です」

    源三郎がトヨの手を取り、リビングに入って来る。参列者が各々手に握っていた何かが、花道にひらひらと舞い始めた。

    唯「おめでとー!わーい!」

    尊「おめでとう!」

    芳「華やかね~」

    エ「コンフェッティシャワーですね」

    唯「コン?」

    エ「結婚式で紙吹雪を撒く演出ですよ」

    折り紙を小さく刻んだお手製の紙吹雪が舞う中、写真を飾った食卓の手前まで進み、振り返って一礼する二人。

    覚「はい、拍手~」

    若君「拍手?」

    若君だけ、拍手のテンポが違う。

    尊「あー。そうか、そうなるんだ」

    美「はくしゅというか、かしわで、なのね」

    拍手が止み、静かになった。

    美「お父さん、お父さん?」

    覚「…あ」

    美「次は何」

    覚「すまん、感無量で段取り忘れた」

    美「あらま」

    覚「えーと、何か僕しゃべるんだったかな。まぁいいや。では、指輪の交換に入ります」

    美「え、指輪?いつの間に」

    尊「昼から急遽。3Dプリンターで作ったから樹脂だけど」

    美「話がバタバタ決まったから、用意できないと思ってた」

    尊「こんなんで良ければ是非いかがですかって伝えたら、僕の時間も労力も費用もかからないならばって、二人に言われたから早速サイズ測ってさ」

    美「良かったわ~」

    指輪の交換スタート。

    芳「何度見てもいいわ~」

    エ「緊張して入らないと、結果自分で押し込むんですよね」

    芳「あら綺麗に入った」

    尊「素材が素材なんで、その点は柔らかくて正解だったかも」

    再び拍手に包まれる。

    覚「では、夫婦初めての共同作業、ウェディングケーキ入刀です」

    美「二段で正解ね」

    食卓に鎮座したケーキに、ナイフを入れた。尊が盛んにカメラのシャッターを切っている。再び一礼した二人に拍手。

    覚「ふう」

    美「ここまで?」

    覚「途中手順があやしかったけど、ここまでだな。あとは、お二人から今後の抱負を聞こうか。まずはトヨちゃん、どうだい?」

    ト「はい。本日は、私共の為にこのようにお集まりいただき、まことにありがとうございました。赤井の家に入りましたらば、源ちゃん…殿を生涯支えて参る所存でございます」

    唯「かたいなー」

    尊「お姉ちゃんがダラダラしてるだけでしょ」

    覚「では源三郎くん」

    源「はっ。己一人では、この佳き日を迎えられませんでした。皆々様に、心より御礼を申し上げます」

    美「うんうん」

    源「トヨのこの短うなった髪が」

    エリ&芳江「あら」

    源「背丈を越え床を擦り白髪となるまで、共に生き抜いて参ります」

    芳「生き抜く。現代に生きる私達には到底考えられない、厳しい世界ですよね…」

    エ「お二人とも、勿論唯ちゃんと若君にも、辛いばかりの未来になりませんように。幸多かれと強く願います」

    覚「皆さん、お疲れ様でした。早速、ケーキ切り分けますから」

    食卓の席が全て埋まる。

    美「いい眺めね」

    エ「このお写真のドレス、とても似合ってるわ。源三郎くんも一段と素敵」

    ト「ありがとうございます」

    源「痛み入ります」

    芳「あの、質問なんですが、トヨちゃんは戻ってもすぐにはお城から下がれないんですよね?重要なお仕事についているから」

    尊「そもそも結婚するって誰も知らないし」

    ト「もし、もしですね、無事祝言をあげられたとしても、しばらくは今まで通りのつもりです」

    源「ゆくゆくは、とは思うておりますが」

    美「まずは結婚のお許しからよね」

    源&ト「はい…」

    唯「それって、たーくんの腕次第?」

    若「ん?」

    唯「どう?いけそう?」

    若「フフフ」

    覚「お!策有りかい」

    若「考えております」

    芳「なら、絶対大丈夫ですね。大船に乗った気持ちで」

    エ「本当、頼もしいわ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days97~6日19時、ハレの日

    最近は、登場人物が皆、着飾っている。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    年明け初日だけあって、クリニックはまだ終わっていない。

    覚「いつでも始められるように、支度はしとこうな」

    唯「ベール、着けてあげるね」

    トヨ「お願いします」

    昨日と同じくお団子ヘアのトヨ。唯が、ベールの花部分に付いた櫛をお団子に差し込む。

    唯「ふわふわ~。いい!はい、手鏡どーぞ」

    ト「ありがとうございます。まぁ…」

    唯「昨日はシンプルに、ティアラだけだったもんね」

    尊が、源三郎の着ているパーカーの胸元にブローチを付けている。

    尊「こうやってですね」

    若君「布に刺した針が隠れる、と」

    尊「はい。危なくないんで、安全ピンって名前なんですよ」

    若「ほほぅ」

    源三郎「これで花が落ちぬのですね」

    尊が顔を上げると、トヨと唯が楽しげに話している。

    尊 心の声(花嫁の完成だね。ん…ん?!)

    その瞬間、尊の目の前の景色が全て消えた。

    尊 心(は?!)

    そして、何やら別の世界が広がっている。

    尊 心(あれ?何がどうなった!)

    なぜか、グレーのタキシードに衣装チェンジしている尊。

    尊 心(なんでタキシード…白昼夢?え、ここどこ!)

    ステンドグラスから太陽光が降り注ぐ、チャペルの中に立っていた。そして、バージンロードの先に居たのは…

    瑠奈「尊」

    尊「え」

    ウェディングドレス姿の瑠奈が微笑んでいる。戸惑いながらもゆっくりと近付いていく尊。

    尊「…」

    レース仕立てのベールが、軽く巻かれた髪を覆う。少し肩が出たオフショルダーの襟元は、純白の花で埋め尽くされており、花畑から生まれ出でたかの風情。キュッとくびれたウエストは、豊かな胸元との対比でより細く見える。スカート部分はふんわりと丸く膨らんでおり、ブーケを持つ姿はおとぎ話に出てくる妖精のようだ。

    瑠「この日を、ずっと待ってた」

    尊「とても綺麗だよ、瑠奈」

    尊 心(セリフが勝手に出てくるー!勿論ものすごく綺麗だけど、いきなり結婚式は、飛躍し過ぎじゃない?!)

    白昼夢の中で考える。

    尊 心(そうか。そうだな。要は、僕は浮かれてるんだ。あれよあれよと瑠奈が彼女になって。だからこんな想像しちゃうんだな)

    分析しながらも、瑠奈の美しさにデレデレしている尊。

    瑠「尊…」

    尊「瑠奈…」

    その時、誰かが尊の肩をバシバシ叩いた。

    唯「おーい!起きろー!」

    若「尊、いかがした?」

    尊「…はっ!」

    映像が全て消え、現実に戻ってきた尊。

    尊「あ、終わっちゃった」

    唯「なに立ったままヘラヘラしてんのよ」

    尊「はあ。失礼しました」

    若「うーむ」

    唯「どしたのたーくん」

    若「どこぞで、今の尊のような顔付きを見たのじゃが…何処であったか…あぁ、思い出した」

    唯「なに?」

    若「山中で、唯が食うてはならぬ茸に手を出したゆえ、抜いて即座に捨てたが、同じ顔をしておった」

    唯「あー、それ?!それねー、ちょいとばかり思い出しまして。…わかったぁ!!」

    尊「何だよ、うるせーなー」

    唯「今、るなちゃんとの結婚式を想像してたんでしょ!このこの~」

    尊「あぁ」

    唯「あー?冗談で言ったんだけど…マジでそうなの?」

    尊「もっと見ていたかったな」

    唯「ゲゲっ。やだ、やめてよ、調子狂う!」

    廊下から足音がする。

    美香子「ごめーん、あら、トヨちゃんよく似合ってるわよ」

    ト「ありがとうございます」

    覚「おー、お疲れ」

    美「あと10分位で三人とも来れると思う。もうちょっとだけ待っててね」

    源三郎&トヨ「はい」

    またバタバタと戻っていった母。

    覚「さてと。なら、ケーキを箱から出すか。手伝ってくれ」

    唯「はーい。崩さないようカンペキに運んだよ~」

    尊「お姉ちゃんは持ってないけど」

    唯「たーくんと尊が運んだ、血と汗と涙の結晶ってヤツね」

    尊「スポ根じゃねぇし」

    若「…」

    尊「兄さん?どうかしました?」

    若「この、苺、が血を模して…」

    尊「違います」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days96~6日月曜13時、そーっとね

    備えをしとくに越した事はない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    昼ごはん中。

    美香子「もう読破した?」

    唯「まだ。私はあとちょっとだけど、たーくん、トヨ、源三郎の順で回してるから」

    源三郎「わたくしが2冊目に入った所です」

    母に、昨日話題となった漫画の単行本を借り、全巻をリレー方式で読んでいた四人。

    美「そっか。なら夜までには全員読み終えるかな」

    覚「じゃあそろそろ」

    美「今晩の予定を発表~」

    唯「待ってました!」

    若君「いよいよじゃな」

    トヨ「何かあるんですね。では読書の手を止めお手伝いしないと」

    美「源三郎くんとトヨちゃんは、何もしなくていいの」

    源三郎&トヨ「え?」

    尊「では、発表をお願いします」

    覚「うん。今夜、源三郎くんとトヨちゃんの結婚式を執り行う」

    源&ト「え!」

    美「参列者は、私達に加えエリさんと芳江さん。だから、仕事終わった後になるんで時間はちょっと未定」

    ト「そんな、今日は朝から忙しくされていらっしゃるのに」

    美「お二人のご意向で今日に決まったのよ。早い方がいいし、夜だけど一応、日柄が良い日だし、とも話しててね」

    唯「今日、そうなの?」

    美「大安よ。大安吉日」

    唯「へー」

    尊「さすがにお姉ちゃんでもわかるか」

    唯「いろんな物使い始める時、大安だ仏滅だってよく言ってたじゃない」

    覚「で、芳江さんエリさんはお食事はされないが、ケーキだけは召し上がっていただく」

    唯「入刀するヤツだよね!」

    覚「そうだ」

    唯「今日はドレスではないけど」

    美「まぁ、そのままの格好よね。でもね~」

    美香子が足元から紙袋を出した。中から…

    美「見て!素敵でしょう。エリさんが、この話を聞いてすぐ、サプライズで作ってくださってたの」

    唯「かーわいい!花嫁さんのベール?」

    たっぷりとしたチュール生地で出来ており、髪に装着する部分には造花があしらわれている。

    美「花婿さん用に、お揃いのお花のブローチもあるのよ」

    唯「このお花、布で出来てるんだ。リアル~」

    美「プラスチックよりは布よねって、市販品を探されたらしいわ」

    尊「エリさんすごいな。だって話してからそんなに日が経ってないよね?」

    唯「ほぼ一日とかじゃない?すごーい」

    美「それがね、もうワクワクで、探すのも作るのも、楽しくて仕方なかったからあっという間だったって。着けている二人を想像してね」

    源「言葉が…ありません」

    ト「貴重なお休みの日をお使いいただき…」

    美「勝手に作っちゃいましたとは仰ってたけど、嬉しいわよね。今夜お礼言ってあげて」

    夕方。

    覚「そろそろ、ケーキ受け取りの時間だな」

    尊「今日はどこに頼んだの?」

    覚「駅前商店街の店」

    若「ならば歩いてゆけますゆえ、受け取りに行って参ります」

    覚「おー。ならお願いしようかな」

    唯「私も行くー!」

    覚「じゃあ、何かあった時の為に尊もついてってくれ」

    尊「三人でね。わかった」

    源「痛み入ります」

    尊「二人とも、漫画あとちょっとですよね。ゆっくり読み進めててください」

    ト「はい」

    覚「あー、風呂敷持ってけ」

    尊「エコバッグじゃないんだ?」

    唯と若君と尊で、ぼちぼちと歩き出した。

    若「尊」

    尊「はい」

    若「あの漫画、に、館も激しく揺るがす程の大きな災いが描かれておった」

    尊「地震ですか?大正時代の話だから…関東大震災かな。そう?お姉ちゃん」

    唯「うん、確かそんな名前」

    若「戦もいつ始まるともわからぬが、そのような天変地異にも備えが要ると思うての」

    尊「さすが兄さん。永禄時代に天災がいつあったか、難しいとは思いますけど調べときましょうか?」

    若「頼めるならば」

    尊「わかりました」

    洋菓子店に着いた。すぐに注文したケーキが出てきたのだが、

    唯「デカっ!」

    尊「わー、奮発したんだ」

    ウェディングケーキは、二段重ねだった。箱を風呂敷に包み、ゆっくりと歩き始める。

    尊「車で取りに来てたら、揺れ過ぎて崩れてたかもね」

    唯「だから風呂敷なワケ?」

    尊「袋だと、サイズが合わないと中で動いちゃうからね」

    若「理にかなっておる」

    唯「さすが風呂敷!」

    尊「お父さんじゃなくて、そっちかーい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days95~5日12時、大人への階段

    ぷくぷくさん、お疲れ様でした。私だったら、「切ない」かな。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
    もうそんな年齢になるのです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    源三郎とトヨは、覚と美香子にアドバイスを受けながら、様々なポーズをとっていた。それを横目に見ながら、隅に寄り小声で話し始めた唯と若君と尊。

    尊「お姉ちゃん達が来るちょっと前にさ。晩ごはんの時に」

    唯「うん」

    尊「お母さんがボソっと呟いたんだ。広告とか増えてきたから気付いたのかな」

    唯「なんて?」

    尊「来年の今頃、唯に市から、成人式の案内が来るわねって」

    唯「あ…」

    尊「兄さんに説明すると」

    若君「いや、話を進めよ。後で詳しく聞く」

    尊「わかりました。で、今回来た時さ、綺麗な打掛着てたじゃない。あれ、両親すごく喜んでたんだよ。振袖姿並に華やかだったから」

    唯「知らなかった。あれ、なら今日なんで振袖じゃないの?」

    尊「結婚してるでしょ」

    唯「あ、結婚してたら振袖NGだったっけ」

    尊「一般的には」

    唯「袴なのはなんで?」

    尊「これはその時にお父さんが言ってたんだけど、お姉ちゃんさ、兄さんに出会ってなかったら、短大くらい行ってたんじゃない?」

    唯「進路とか全然考えてなかったけど、それもアリだったかも」

    尊「で、来年は短大に進学してたら卒業の時期」

    唯「あー」

    尊「卒業式とか謝恩会でさ、女子の皆さん、袴姿になってるじゃない。その時期は電車内がやたら華やかだよ」

    唯「そうだったね」

    尊「袴もいいな、って二人とも言ってた」

    唯「そっか…」

    尊「だから、袴姿は親孝行なんだよ」

    唯「わかった」

    尊「あのさ、都合良く成人式の時期に来られないか、とか思ってない?」

    唯「ちょっと」

    若「唯、それは」

    尊「そもそも今はタイムマシンの作業してないから。一応受験生なんで。だからごめん、無理」

    唯「すんません」

    若「今の唯を、よう見て貰え」

    唯「うん」

    尊「ところで、兄さんのその衣装ですけど」

    若「ん?」

    尊「その登場人物は兄さんに通ずる所があるって、母は言ってました。だからお仕着せではありますけど、ある意味兄さんにピッタリみたいですよ」

    若「そうなのか」

    尊「漫画に描かれた時代の軍服なんで。ざっくり言えば、国を守る人が着る服です」

    若「なるほど」

    美香子が駆け寄ってきた。源トヨが会釈をしている。

    美香子「ごめんねー、お待たせ~」

    源三郎「お待たせを致しました」

    トヨ「すみません」

    唯「おっ、順番が来たね。じゃあ撮りますかー。たーくん、言い忘れてたけど」

    若「何じゃ」

    唯「超カッコいいよ」

    若「ハハ。唯も実に麗しい」

    唯と若君の撮影が始まった。

    美「漫画から抜け出たみたいね~」

    カメラマン「この衣装、よく撮りますよ」

    美「そうなんですか!」

    カ「一定以上の年齢の方に人気ですね。っと、これは失礼しました」

    美「いえいえ、昔の作品ですから当然です」

    カ「この衣装で、こんなにお若い方を撮るのは久々です」

    美「え、って事は」

    カ「私は、ご夫婦でお召しになるのを撮る機会が多いですね」

    美「ご夫婦…私達位の?」

    カ「それもありますね」

    覚の顔を見る美香子。

    美「…」

    覚「ん?」

    美「ううん、やっぱり忠清くんの方が断然いいわ」

    覚「断然。だよな」

    美「だってお父さんだと、捕虜っぽい」

    覚「おいおい」

    最後は、家族7人全員で。

    カ「弟さん、もう少しお姉さんの方に。ドレスの裾に乗らない程度に寄りましょうか」

    唯の囁き「トヨの弟が尊。うんうん」

    若君の囁き「良いの」

    撮影完了。

    唯「お疲れ~。トヨ、着替えに行こっ」

    着替え中。

    ト「こんなに良くしていただくなど、畏れ多くて」

    唯「たぶんさ、尊が永禄に持って帰れるように写真集作ってくれると思うよ。いつでも見れるように」

    ト「至れり尽くせりですね。…どうかしましたか?」

    唯が、着替えの手を止め、何か考えている。

    唯「私、たーくんと永禄で生きてくって決心した時にね、両親に、今まで育ててくれてありがとうって言ったの」

    ト「…はい」

    唯「それからもう2回も戻ってきてるけどね、ちゃんと娘の成長を見守ってくれてるんだなって」

    ト「それは当然です。今回も、唯様の溌剌とした笑顔が見られて、大変喜んでらっしゃいますよ」

    唯「いつか、私も親になる時が来たら、もっとわかるかな」

    ト「はい。そして、必ず、授かれると思います」

    唯「夢で見たしね。トヨも私もね」

    ト「心待ちにいたしましょう」

    唯「そうだね。楽しみは後からやって来る!」

    ト「ふふっ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    5日のお話は、ここまでです。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days94~5日11時30分、母の思い

    二つの作品を、コラボレーションしました…勝手ながら。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    源三郎の前に進んだトヨ。

    トヨ「源ちゃん」

    源三郎「…」

    美香子「あまりの美しさに声も出ない?はい、唯と忠清くんは移動開始よ」

    唯「えー」

    若君「行って参ります」

    カメラの準備も整い、源三郎とトヨのウェディングフォトを何枚か撮り始めた。

    尊の囁き「うーん。二人とも戦国時代の人とは思えない」

    美「しっかり源三郎くんの背筋も伸びてるし」

    覚「いい、いいよ~」

    自分のスマホでもバシャバシャ撮る覚。しばらくすると、カメラマンが振り向いた。

    カメラマン「ご両親も、ご一緒にいかがですか?」

    美「両親!あら~。撮ってもらう?」

    覚「おほー。それはお願いしようかな」

    美「尊は?」

    尊「僕は後でいいよ。まずはトヨ姉さん達と、4人で撮れば?」

    美「そうしよっか」

    トヨの囁き「トヨ姉さん…」

    源三郎の囁き「有難いな」

    ト 囁き「うん…」

    その後、尊も入れて5人で撮影。一段落した所に、唯と若君が衣装に着替えて戻ってきた。

    尊「へぇ」

    美「あらん、いい!いいわ~」

    唯「お母さん、これかわいいんだけど、なんのコスプレ?」

    美「ほれぼれしちゃうわ~。二人ともよく似合ってる」

    唯「だからこれなにって」

    美「忍さんと紅緒ちゃん」

    唯「は?」

    美「はいからさんよ~。唯の前髪が眉辺りでパツンと切ってあって、後ろ髪が長くなってたから、これだ!って思って。忠清くんの髪、ちょっと長めだけど、少尉もそんなに短髪ではなかったから」

    唯は、紫に白の矢絣柄の着物に海老茶色の袴。若君は榛色の軍服。帽子も靴も揃っており、サーベルまで持っている。

    覚「確か、大正時代を描いた少女漫画だったよな?まさしく大正浪漫って感じだ」

    唯「マンガのコスプレ?」

    美「家に全冊あるんだけど。読んでないの?あー、少女漫画全然興味なかったものね」

    尊「ちょっと!話は後にしなよ、待たせてるよ!」

    尊の後ろで、源三郎とトヨが立ったまま待っていた。

    美「あらごめんなさい。どうする?もう少し二人で撮る?今回ね、急遽だったからチャペルとかには移動できないのよね」

    唯「そうなんだ。じゃあ、もっといろんなポーズで撮ったら?」

    尊「なら、あれはどう?」

    美「何?」

    尊「源三郎さんなら、お姫様抱っこも軽々とできるんじゃないかな」

    覚「おっ!」

    美「あらん。見たいわ~。出来そう?って聞くのも失礼かしら」

    唯「見たいー」

    若「どうじゃ源三郎」

    源「…はい。では仰せの通りに」

    ト「え、きゃっ」

    ふわりと、トヨの体が持ち上がった。

    美「トヨちゃん、カッチカチになってる」

    撮影小物で手にしているブーケを両手で握ったまま、固まっている。

    ト「源ちゃん…恥ずかしい」

    源「俺もだから。暫く辛抱しろ」

    美「トヨちゃん。源三郎くんの首に両腕を回すと、抱える側が少し楽になると思う。ブーケ持っててあげるわ」

    ト「え!それは近付き過ぎではないですか」

    覚「まあまあ」

    そんな様子を眺めている、唯と若君と尊。

    唯「キレイだな、トヨ」

    尊「お姉ちゃんも、女学生って感じで悪くないよ」

    唯「ほめてくれるの?珍しい」

    尊「お母さんのリクエストに応えるってのは、いい」

    唯「えー?ムチャ振りじゃないの」

    なぜかここで、尊が溜め息をついた。

    若「どうした、尊」

    尊「お姉ちゃんが、やっぱりいつも通りだなって」

    唯「は?」

    若「それはつまり、この装束には深淵な意図があると?」

    尊「少なくともその袴姿には、込められた意味があります」

    唯「そうなの?んー、それって、今聞いてもいい?」

    若「口止めは、されておらぬか?」

    尊「されてません。お姉ちゃんは知っておくべきだと思うし」

    唯「じゃあ教えて。あっちが盛り上がってる内に」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days93~5日11時、父の思い

    血が繋がっていても、いなくても。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    写真館へ、車二台で出発。

    唯「お母さん、ワンピースなんだ」

    美香子「車運転するしね。トヨちゃんの衣装を一緒に選びたいから、着替える時間が惜しくて着物はやめたわ」

    到着後、女性陣が早速、ドレスの衣装部屋に入る。

    トヨ「目が眩む程の…」

    美「悩むわよね~」

    唯「急に言われて決めろって困るよね。壁にいっぱい写真が貼ってあるから見てみたら?」

    ト「はい」

    モデルが着用する写真を見ていくトヨ。

    ト「あら、これは」

    唯「いいのあった?あー、なるほど!」

    美「トヨちゃん、そのスカート気に入ってくれてるものね。その形なら、あっちにコーナーあるわよ」

    何着か見繕っていたが、

    ト「このお衣装が気になります」

    唯「だったら着てみよう!」

    早速試着するトヨ。

    美「あらぁ。すごくいい!自分に何が似合うかを、よくわかってるのね~」

    唯「なんか、トヨ!って感じ」

    ト「お恥ずかしい」

    美「他を試す?」

    ト「いえ。こちらをとても気に入りましたので」

    美「そうね。ホントによく似合ってるわよ。何て言うか、こう表現するとトヨちゃんは嫌がるかもしれないけれど、充分大人の女性が着るからこそ、しっくりくるドレス」

    唯「うん、わかるぅ~」

    ト「今のわたくしだから良いのですね。嬉しい」

    その頃、男性陣はタキシードを選んでいた。

    覚「忠清くんの時みたいに白とか、あとグレーとか色あるけどな」

    源三郎「このように煌びやかないでたちなど…」

    尊「じゃあ黒?」

    源「まだそれでしたら…」

    覚「遠慮がちだね。照れてるのかい?君も主役だよ?」

    若君「何事も経験じゃ」

    覚「その通り。じゃ、着てみような」

    覚と尊で選んだ、黒のタキシードを試着した源三郎。

    若「なかなか良いぞ」

    源「お恥ずかしい限りでございます」

    覚「どうした、背筋が伸びてないぞ?隣に立つトヨちゃんは、きっと目を見張る程美しいと思うから、ちゃんとエスコートしないと」

    源「エスコート、ですか?」

    尊「えーと、付き添うとか、守るとかかな」

    若「それは、源三郎が最も得意とする所ではないか」

    覚&尊「確かに」

    そこに、美香子が様子を見にやってきた。

    美「あら、いいわね。こちらもよく似合ってる」

    覚「トヨちゃんの方はどうだ?」

    美「決めたわよ。今アクセサリー選んでる」

    尊「え、もう?」

    若「やはりトヨは仕事が早い」

    美「なーんか、背中が丸いわね」

    源「華やいでおるのは、分不相応でございますゆえ」

    美「まぁ、ドレス姿のトヨちゃん見れば、背筋もピーンと伸びる筈よ」

    覚「おー、そんなにか」

    美「楽しみにしてて。支度完了なら撮影室に来てね」

    いよいよ源トヨの撮影に入る。源三郎は既に待機しており、トヨの支度待ち。

    唯「源三郎、ネクタイもベストもすっごくいい感じ。王子様みたい!カッコいい!」

    源「褒めていただくなど…」

    美「いいわねぇ。あ、二人揃ったら、唯と忠清くんは着替えに行くわよ」

    唯「えー、撮る所見れないの?」

    美「全員の写真も後で撮るから。あ、来たかな?」

    店員「花嫁様、入られます」

    覚「おー」

    尊「わぁ」

    若「うむ」

    源「…」

    ゆっくり入ってきたトヨ。ドレスの襟元は少し立ち上がったスタンドカラー。袖も長くほとんど肌が出ていない。細身に作られてはいるが、全体に豪華な刺繍が施されている。そのスカート部分が…

    尊「今日穿いてたスカートに似てるね」

    覚「大人の女性、だな」

    美「いいでしょ、このマーメイドライン」

    太もも辺りからくびれて細くなり、膝下からは潤沢に布地が使われ、裾まわりは波打つ程になっている。

    覚「綺麗だ。うんうん…」

    美「え、お父さん、泣いてる?!」

    覚「娘をもう一人嫁に出すかと思ったら、こみ上げるものが」

    ト「お父さん…」

    覚「わー、そんな風に声かけられたら、涙が止まらないよ」

    尊「源三郎さんを差し置いて感動しまくってる。いい話だけどさ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days92~5日日曜5時45分、野望?

    尊は、もう少し体重があってもいいんじゃないか?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに下りてきた若君。

    若君「ん?おぉ、尊。早いの」

    尊「兄さん、おはよう」

    源三郎&トヨ「おはようございます」

    食卓に、尊と源三郎とトヨが座っていた。

    若「いかがした?」

    尊「僕、体を鍛えたいんです。源三郎さんとトヨさんに、兄さんが来るまで相談にのっててもらいました」

    若「ほぅ。瑠奈殿に関わる話か?」

    尊「わかっちゃいますよね。はい。実は昨日、彼女が転んだ時に支えきれず、一緒に倒れてしまって」

    若「それはならぬの。大事なかったか?」

    尊「はい、大丈夫でした。そこで、特に体幹、体の芯を鍛えるにはどうすればいいかなって」

    若「源三郎は、どう答えた?」

    源三郎「何事も満遍なくなさるが良かろう、と進言させて頂きました」

    若「わしも同感じゃな」

    尊「そうですか。わかりました」

    若「さては」

    尊「へ?」

    若「いずれは瑠奈殿を」

    そう言いながら、両手で下から抱え上げるような仕草をする若君。

    尊「えっ、お姫様抱っこですか?!」

    若「何処へ拐おうと?」

    尊「いえいえ!そんな予定はありません!」

    若「フフフ」

    源トヨが、キョトンとしている。

    源「瑠奈様が姫で?」

    トヨ「抱っこ?」

    尊「あ、そっか。説明が要りますね。と、言いつつ僕はまだできないし…兄さん、やって見せてもらえませんか?」

    若「良かろう。ならば尊、立て」

    尊「やっぱり僕?そうですよね、ではお願いします」

    若君が、尊をひょいとお姫様抱っこした。

    源「あぁ、あの。公園でくるりと回った折の」

    ト「くるくる、と仰っていたので、てっきりそう呼ぶと思っておりました。…いいですね」

    尊「兄さん、さすが。全然芯がブレてない」

    そこに、覚が下りてきた。

    覚「ん、ん?朝っぱらから何だ?!」

    尊「今後の展望についての話し合い」

    覚「抱えられながら答えるなよ。今朝の稽古は終わったのかい?」

    若「今からいたします。この尊姫と共に」

    尊「あ。はぁい、頑張りまぁす」

    覚「だから何の真似なんだ」

    朝ごはん後。写真館へ出かける為、それぞれ支度をしているのだが、なぜか美香子だけがバタバタと忙しそうに動いていた。

    唯「着てく服って、これでいいの?」

    美香子「あ、うん、いい。トヨちゃんも前開きのを着てるわよね」

    ト「はい」

    唯「お父さんも尊もスーツなのに?」

    唯と若君と源トヨは、ほぼ普段着に近い。

    美「トヨちゃん、髪まとめるから座って。その次は唯ね」

    唯「もしかして、なにか衣装着るの?」

    美「そうよ」

    唯「見に行ってないけど」

    美「唯と忠清くんのは、私があらかじめ決めといた。もうサイズもわかるしね」

    唯「へー?」

    美「源三郎くんとトヨちゃんのは、向こう行ってから決めるの。急遽お願いしたら、予約時間より早く行けば選ばせてくれるって話でね」

    話している間に、トヨの髪形が完成。

    唯「お団子になってる。小さく作ったね」

    ト「お母さん、ありがとうございます」

    美「はい、唯座って」

    唯「はいはい。あー?なんか見えてきた、見えてきたぞっ」

    ト「見える?」

    唯「ねぇお母さん、トヨの衣装って、ウェディングドレスじゃない?」

    美「当たり」

    唯「わーぉ!」

    美「明日の話が決まった時、そうだちょうどいい機会だわって思いついてね。はい、唯も出来た」

    唯の髪は、後ろ上半分を結び、頭頂部に少し高さを作ったハーフアップだった。

    唯「あ、たーくんとおソロだ」

    美「はい、次はお化粧するから、洗面所へ移動!」

    唯「忙しいな」

    洗面所に三人。お化粧スタート。

    ト「あの、伺ってもよろしいでしょうか。わたくしは、何を着せていただけるのですか?」

    美「あー、ウェディングドレスの説明が要るわね」

    唯「結婚式に花嫁さんが着る、キレイな衣装だよ!」

    ト「えっ…唯様の、あの飾られたお写真のような?」

    美「そうね」

    ト「まあ!」

    美「時間はあまりないけど、気に入ったドレスがあるといいわね。勿論、源三郎くんもタキシードよ」

    ト「それは…それなりにお代がかかるのではないですか?」

    美「もう、つつましいと言うか。家族写真だからみんなひっくるめてよ。唯達も衣装は着るし、トヨちゃんと源三郎くんの晴れ姿を是非見たくて。だから気にしない!」

    ト「わかりました。お気持ち、ありがたくいただきます」

    唯「二人とも、絶対似合うー。ところで、私とたーくんは何着るの?」

    美「現地でのお楽しみ」

    唯「へぇ?ま、いいや。トヨのドレス姿超楽しみだし」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    今までの四人の現代Days、番号とあらすじ、66から91まで

    no.923の続きです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
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    66no.924、12/28、忘年会は素敵な自宅レストランで

    67no.925、12/28、忘年会終盤。納得の理由と折り鶴

    68no.926、12/29、大掃除。ラブラブカップルが羨ましいトヨ

    69no.928、12/30、若君の墓に驚く源トヨ

    70no.929、12/30、墓についての見解

    71no.932、12/31、文明の利器で外回りの大掃除も捗る

    72no.937、12/31、両親の想い出話で後押しできるか

    73no.940、12/31、見守り隊は三人

    74no.941、12/31、プロポーズ完了。尊に新展開

    75no.943、12/31深夜、みつきは瑠奈推し

    76no.946、1/1、トヨの雑煮は時を超える

    77no.952、1/1、一歩踏み出してみた尊

    78no.953、1/1、尊の初デートの日程決まる

    79no.954、1/1、瑠奈のジタバタを観察

    80no.957、1/1、令和でもぜひ結婚式を

    81no.959、1/2、何人目でもいい唯が息災ならば

    82no.960、1/2、永禄と現代の匂い考

    83no.962、1/3、おせちもいいけどパンケーキもね

    84no.964、1/3、駅名は城が由来

    85no.966、1/4、準備がはかどり過ぎ。近隣の城の今は

    86no.967、1/4、心動かされながらデートスタート

    87no.969、1/4、城跡巡り。瑠奈の兄はイケメン

    88no.971、1/4、尊と唯の優しさがかいま見えた

    89no.972、1/4、やっぱり尊の女神なのかも

    90no. 974、1/4、リスペクトからのカップル誕生

    91no.976、1/4、木村と吉田の謎は解けるか

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days91~4日16時、振り返りは大切

    学校行ってる内に聞いとけよ、って話。
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    カフェのたけるな。ドリンクは、それぞれもう三杯目になっていた。

    瑠奈「はぁ。そろそろ帰んないといけないなぁ。名残惜しい~」

    尊「そうだね」

    瑠「同じ気持ち?」

    尊「うん」

    瑠「ふふっ。良かった」

    尊「あのさ、家にパソコンってある?」

    瑠「パソコン?私の部屋にあるよ」

    尊「比較的新しい?」

    瑠「お兄ちゃんのお古を、去年買い替えたばっかりだけど全然使ってない。どうして?」

    尊「ビデオ通話ができるんじゃないかな」

    瑠「え、それって、尊と大きい画面で顔見ながら話せるの?!」

    尊「うん。詳しいやり方は教えるよ」

    瑠「わぁ。尊って、パソコンにも強いんだ。どうしよう、知れば知る程好きになる」

    尊「照れるよ。大した事じゃないのに」

    瑠「お願いがあるの」

    尊「何?」

    瑠「通学時間、朝は急行乗ってもらっていいけど、帰りだけは一緒がいいな」

    尊「あー。いいよ」

    瑠「大事な時期だから、あまり尊の時間を取り上げたくない。帰り、ちょっとだけゆっくりになるけど」

    尊「気遣ってくれてありがとう。まぁ何と言うかさ、今は周りを刺激しない方がいいんじゃないかな」

    瑠「こっちは勉強で頭一杯なのに、お前ら朝からベタベタくっつきやがって、みたいな?」

    尊「ははは、そうだね」

    瑠「じゃあ、日中も我慢する」

    尊「それがいいと思う。ではそろそろ。暗くなる前には家に着いて欲しいし」

    小垣駅のホーム。電車がやって来た。

    尊「見送ってくれてありがとう」

    瑠「当然でしょ。今日は超幸せだった。あー、電車のドアが二人を分かつのね」

    尊「今生の別れじゃないからさ」

    ドアが閉まった。尊が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた瑠奈。

    尊 心の声(三日後にはまた会えるってわかってても、こんなに切なく感じるんだ。…二度と会えないってわかってて、お姉ちゃんを現代に送り出した時の兄さん、どれだけ辛かったか。今なら痛い程わかる)

    ぼんやりと、流れる景色を眺める。

    尊 心(恋愛は超初心者でからきしだけど、こうやって学んでいけるんだな…)

    尊「ただいまー。うぇっ」

    帰宅した尊に、一斉に視線が集中。皆、何か言いたそうな顔をしている。

    唯「どうだったどうだったどうだった!」

    尊「当たりが強いな。楽しかったよ」

    唯「るなちゃんとはこれからどうすんの?」

    尊「あー、付き合う事になった」

    一瞬、全ての音が静まった。

    唯「なにぃ~!尊のクセにあんなかわゆい子が彼女なんて、ありえない!」

    尊「クセにって。はいはい、そうですね」

    美香子「よ、良かったじゃない。ジェットコースター的な展開でちょっとびっくりだけど」

    唯「ねー、自分からコクったの?」

    尊「いや、向こうから」

    唯「うっそぉ!ますますありえない!」

    尊「ひでぇな。少しは肯定しろよ」

    唯「で、OKしたんだ。ヒューヒュー!ねぇ、なにが決め手だったの?」

    尊「決め手というか、兄さんが…」

    唯「は?なんでたーくんが出てくんの」

    それを聞き、騒ぎを遠巻きに見ていた若君が近付く。

    若君「わしが、いかがした?」

    尊「来た波には乗れば良い、って言ってたのを思い出したから」

    若「…吉田殿か」

    尊「そうです。ありがたい訓話の中で」

    覚「あの時か。そうかそうか。そうやって自分の身に置き換えられるのは、それだけ尊が成長した証拠だ。いやぁ、良かった良かった」

    唯「話が見えない。吉田?」

    尊「お父さんか兄さんに聞いて。鞄置いてくる」

    唯「あ、ねぇねぇ!頼みがあるんだけど」

    尊「何だよ」

    唯「違う吉田の話」

    尊「へ?」

    吉田城跡の話をする唯。

    唯「木村先生に、メールで聞いて欲しい」

    尊「わかった」

    若「尊、もう一つ、木村殿に尋ねて欲しいのじゃが」

    尊「何でしょう」

    若「語られてはおらぬが、木村政秀の末裔ではござらぬか、と」

    尊「あー。そっくりだって言ってましたね。わかりました。早速連絡しますね」

    美「あ、尊、あとね」

    6日の式の話を耳打ちした。

    尊「了解~」

    尊は二階に上がっていった。

    源三郎「写真を拝見した限りではございますが、お二方は瓜二つ」

    トヨ「私も驚きました」

    美「もし先生が武将の末裔だったなら、歴史を教えていらっしゃるみたいだし、アピールすればいいのにね」

    唯「なーんにも言ってなかったんだよね。聞いてもいないけど」

    若「語られぬ由があるのやも知れぬ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ありがたい訓話は、令和Days54no.658にて。

    4日のお話は、ここまでです。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days90~4日14時、ゴールいやスタート

    相当、騒がしかっただろうな。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    こちら、速川家のリビング。

    美香子「唯、ちょっと」

    唯「なに?」

    隅に呼び、小声で話す母。

    美香子の囁き「源三郎くんとトヨちゃんの結婚式、6日の夜にするから」

    唯の囁き「ラジャ。芳江さんもエリさんも、それでいいの?」

    美 囁き「さっき連絡したらね、是非参列したいし、そういう理由なら一日でも早い方がいいって、お二人とも言ってくださったの」

    唯 囁き「そうなんだ。年明け初日で疲れてるのに悪いね。その分、パーっとやろうよ」

    美 囁き「忠清くんにこっそり言っておいて。尊には帰ったら伝えるわ」

    戻って、たけるなの二人。電車に乗っている。

    瑠奈「小垣で降りてくれるの?」

    尊「うん、どこかいい所ある?」

    瑠「みつきとかとよく溜まってるカフェがあるの。そこでいいかな」

    尊「わかりました」

    小垣駅。改札を抜け、歩き始めた。

    尊「ここだけ、和、だね」

    駅前に、立派な生け垣がある。

    瑠「うん。代々小垣に住んでる父親が言ってたけど、これは由緒正しいお庭なんだって」

    尊「へー」

    カフェは、駅から3分程の距離にあった。

    尊「お洒落なお店だね」

    瑠「でしょ。この辺りにしては」

    外を眺められる、窓際の横並びの席についた。

    瑠「向かい合わせより、こっちの方が尊には良さそう」

    尊「お気遣いありがとう」

    ドリンクで少し落ち着いた後、尊が話を切り出した。

    尊「あのさ。どうして、僕、なのかなって」

    瑠「質問というより、疑問?」

    尊「どこがそんなに気に入ってもらえたのか、わからなくて」

    瑠「そうなの?ふーん。では、時系列に沿って説明します」

    尊「お願いします」

    瑠「クラスメートの一人という認識だった尊の存在が気になり出したのは、12月15日。カラオケでばったり会った時ね。その時にも言ったけど、気遣いができるジェントルマンだなーって。話しやすくてびっくりしたし」

    尊「うん」

    瑠「決定的になったのが、18日のホームルーム」

    尊「あぁ、あの。あれは先生が悪いんだよ。羽木一族が滅びたのは、備えが足りなかったんだ、お前らはそうなるな、なんて、根も葉もない話を軽くするから、つい手を挙げて」

    ┅┅回想。その時の尊┅┅

    尊「先生、それは違います。近年継続中の調査で、滅びた時期も、滅びたかどうかも未確定に変わっています。なので、備えが足る足らないは引き合いに出せなくないですか?当時は皆、波乱の時代を一所懸命に生きていたんです。羽木一族に謝ってください。羽木家は…」

    ┅┅回想終わり┅┅

    瑠「まるで身内を庇うみたいだったよ。そこで、尊が黒羽市に住んでるって知って、地元愛が素晴らしいなって」

    尊 心の声(身内は庇うよ。つい、でしゃばっちゃったけど)

    瑠「その後の、尊のよどみなく出てくる知識がすごかったから、先生オロオロしながら謝ってたね。尊すっごく輝いてた。で、続きを聞きたいメンツだけ、放課後残って話聞いたじゃない。聞いててもう、尊敬の一言しかなくて、そのままキューンって、心をわしづかみにされたの」

    尊「尊敬なんて、おこがましいよ」

    瑠「地元の歴史ってさ、受験に関係ないじゃない。なのに尊、あんなに詳しくて、それでもって熱く語って…もぅ、たまらなくかっこ良かったよ」

    尊「なんか、恥ずかしいな」

    瑠「日を追う毎に、私の中で尊の存在が大きくなっていったの。クリスマスは、会えて超超嬉しかったんだけど、突然、本物が目の前に居る!って、訳わかんなくなっちゃって、平静を装うのが精一杯だった」

    尊「そうだったんだ。気付いてなかった」

    瑠「で、元日はバタバタしちゃったけど、ちゃんと気持ちを汲み取ってくれて、感動しっぱなしだったよ。そして今日一緒に居て、いっぱい尊を知れて、楽しくて仕方ないの」

    尊「僕はそんな立派な人間じゃないよ。瑠奈を支えられる体力もないし」

    瑠「ムキムキとか貧弱とか、関係ないレベルの話だよ。もう、私の頭の中では、このヒトだ!って鐘が鳴ってる」

    尊「鐘?ゴーン、って、お寺の?」

    瑠「…ぷっ」

    尊「え?違った?」

    瑠「違うー、教会で鳴らす、リンゴーンって方!もー、尊ったらぁ」

    尊「そっか、失礼しました」

    瑠「あは、あはは」

    尊「そんなに笑わないで」

    瑠「やだもう、じわじわ来る。あははは!尊、面白ーい!」

    尊「面白い…」

    笑い転げる瑠奈を見つめる尊。

    尊 心(はっ!兄さん、僕…)

    笑顔の瑠奈が、外の光にも照らされ、輝いている。

    尊 心(兄さんが言ってた面白いの意味、わかったような気がします)

    瑠「ふう。笑い過ぎちゃってごめんなさい。あのね」

    体ごと、尊の方に向いた瑠奈。尊も、瑠奈の方に体を向けた。

    瑠「わかってくれたかな。尊をすっごく尊敬してて…もう、散々言ってるからわかるよね?すっごく好きなの」

    尊「ありがとう。まだ信じられないけど、嬉しい」

    瑠「大事な時期だし、黙っていようと思ったけど、無理だった。私の恋愛の師匠はみつきだしさ」

    尊「あぁ。はい」

    瑠「私の事、嫌じゃなかったら、付き合ってください」

    尊「…」

    瑠「…嫌、かな」

    尊「嫌じゃないよ。なんで僕?って未だに思うだけ」

    瑠「じゃあ…」

    尊「僕で良ければ、よろしくお願いします」

    瑠「ホントに?!…うっ、うっ」

    尊「えっ」

    瑠「うわーん!嬉しいよー!」

    尊「わー、そんな豪快に泣かないで!えーと」

    鞄からハンカチを出し、瑠奈に渡した。

    瑠「これ、は?」

    尊「お母さんが、ハンカチは二枚持ってけって…だから、使って」

    瑠「尊、かっこ良過ぎる~、うえーん!」

    尊「三枚必要だったかな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    もう少し続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    四人の現代Days89~4日11時30分、二歩進んだ

    たけるなペア、三歩目に進むか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    参道を歩いている、尊と瑠奈。

    尊「砂利って、歩きにくいよね」

    瑠奈「ヒールの靴よりは、ブーツで正解だったけど。参道、長いよ」

    尊「気をつけて」

    瑠「うん。きゃあ!」

    尊「え、わー!」

    石に足をとられ、ずるっと滑ってしまった瑠奈。尊の方によろけてきたのだが、

    尊「痛っ…」

    瑠「ごめんなさい!大丈夫?!」

    尊は支えきれず一緒に倒れてしまい、尻もちをついていた。

    尊「大丈夫。手袋もしてるし。瑠奈こそケガとかしてない?」

    瑠「うん。どこもなんともない」

    尊「ごめんね。支えられなくて」

    瑠「謝んないで。とっさの事だもん、仕方ないよ」

    尊 心の声(僕はなんて非力なんだ。兄さんなんか、お姉ちゃんがぴょんと飛びついてもびくともしない。体幹を鍛えないと…)

    神社を後にした。

    瑠「お昼って…」

    尊「一緒に食べるつもりだったけど。軍資金も貰ってるし」

    瑠「わぁ、ホントに?嬉しい!どこに行こうかな…あっ」

    前方に、ファーストフード店を発見。

    尊「あ、ちょうどいいところに。知らないお店だとよくわからないから、あそこでもいい?」

    瑠「ジャンクフード的な物だけど、いいの?」

    尊「ファーストフードは食べるよ」

    瑠「そうなんだ、じゃあ行きまーす」

    注文した品をトレイで運び、席についた。二人ともコートを脱ぐ。

    尊 心(中はそんな感じだったんだ)

    瑠奈は、鮮やかなサーモンピンク色の、Vネックのセーターを着ていた。

    尊 心(シャケの切り身ってこんな色だよな)

    瑠「どうしたの?服、派手かな」

    尊「あ、いや、美味しそうだなって」

    瑠「…」

    尊「え?」

    瑠奈が、悪戯っぽく微笑む。

    瑠「私を、食べたい?」

    尊「…わぁ!そうか、そう聞こえるよね、ごめんなさい!失言です」

    瑠「失言なの?えー私、尊なら…いいのに」

    尊「いい。…いい?!えっ、あっ、その」

    瑠「焦ってるぅ。かーわいい!」

    向かい合って座り、食事を始めたのだが、

    尊 心(あー、まだ心臓バクバクする。それに、目のやり場に困るよ。顔を見ると恥ずかしいし、かといって視線を落とすと…)

    瑠奈は、かなり豊かな胸の持ち主だった。

    尊 心(もっと恥ずかしい)

    瑠「尊~、どうしてこっち見てくれないの?」

    尊「ごめんなさい、距離の取り方がわからなくて」

    瑠「そんな理由?」

    尊「僕、友達も居ないから、こういうの慣れてないんだよね」

    瑠「えぇ?言ってる意味がわからない。友達?クラスの子は、みんな友達じゃない」

    尊「それは、瑠奈はそうかもしれないけど」

    瑠「友達か、そうじゃないかの線引きって要るの?それってさ、尊が自分から周りに線引いてるんでしょ」

    尊「…瑠奈にはわからないよ」

    瑠「ほら!そうやって、私にも線引いてる」

    尊「…あっ」

    瑠「気付いてなかったんだね」

    尊「ごめんなさい」

    瑠「尊がそうしなければならない程、かつてどう辛かったかは、私はわからない。それはこちらもごめんなさいだよ。でも今の尊には友達、仲間がたくさん居る。ちゃんと周りを見て欲しい」

    尊「…」

    瑠「一人ぼっちじゃない。自分から、わざわざ孤立しなくてもいいでしょ」

    尊「はい」

    瑠「ねっ。でもね、尊は、私に言わせれば孤立や孤独というよりは、孤高って感じだけどね。かっこいい」

    尊「はは、ありがとう」

    瑠「ふふっ。どういたしまして」

    尊 心(瑠奈は…こんな僕を変えてくれるのかもしれないな)

    尊「あの、実は」

    瑠「なぁに?」

    尊「質問が二つあって」

    瑠「私に?えー、なにかな」

    尊「一つ目。名前ってさ、やっぱり月が由来なの?」

    瑠「あー。うん。私ね、満月の夜に産まれたんだって」

    尊「えっ、満月?!」

    尊 心(やはりこれは、運命なのか?!)

    瑠「そんなに驚く?でね、空に浮かぶ丸い月があまりに美しくて、他の候補だった名前を全部なしにして、月の女神の名前からとったんだって。漢字は両親が考えてね」

    尊「そうなんだ…」

    瑠「だからね、満月の夜は、必ず空見ちゃう」

    尊「僕も、満月の日は気になって見上げるよ」

    尊 心(空だったり、実験室の天井だったりするけれど)

    瑠「そうなの?!わぁ、またお揃い、嬉しいな。で、二つ目は?」

    尊「二つ目は…もう少し後で聞くよ」

    瑠「やだ、嬉し過ぎる。まだ一緒に居られるんだね」

    尊「あ、うん。そうだね」

    瑠「わぁ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    まだまだ続きます。

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    四人の現代Days88~4日11時、はなむけの

    みつき大明神、と呼ぼう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    神社は、賑わっていた。

    瑠奈「はい、合格祈願の御守、プレゼント!」

    尊「もらっちゃっていいの?」

    瑠「約束したもん」

    尊「ありがとう」

    瑠「恋愛成就のも買おうか悩んだけど、混んでて。尊を待たせちゃ悪いと思って、やめた」

    尊「そ、そう」

    瑠「御守なんかなくても、願いが叶うといいなー」

    尊「…」

    尊 心の声(あ、そうか。相手が誰かはわからない。自分だと思うなんて、自惚れもいいトコだ)

    瑠「ねっ、尊」

    尊「あ、はい」

    尊 心(えー、これはわからない…)

    瑠「でもね、下手に恋愛成就の御守持つより、みつきを拝んでた方が御利益ありそうなんだよねー」

    尊「そうなの?」

    参道を歩きながら話し出す瑠奈。

    瑠「みつきと彼ね、幼なじみなの。彼が三つ上。みつきとは中学校から一緒だけど、その時にはもう彼氏彼女になっててね」

    尊「へぇ、中一の時に高一の彼か」

    瑠「みつき、小さい頃から彼が好きだったんだって。それでね、ずっと心に秘めていたんだけど、彼が中学校に上がる年に考えたらしいの。小学校と中学校に分かれてしまうから、目が行き届きにくくなる」

    尊「他の小学校からも来るしね」

    瑠「よくさ、好きな人が知らない女と仲良くしてるのを物陰から見て、悶々としてるシチュエーションとかあるじゃない。主にドラマだけど」

    尊「うん」

    瑠「みつきはそんな子じゃないのは、なんとなくわからない?」

    尊「わかる」

    瑠「だからね、断られたらどうしようとか、今後気まずくなったらどうしようとかは杞憂だ!って、彼が中学校上がる春休みに、付き合ってくださいって告白したんだって」

    尊「え、って事は、小四になる年に?!それはミッキーさん、すごいや」

    瑠「で、やっぱり杞憂は杞憂で正式にお付き合いが始まったと。だから長いよー。もうね、みつきっていつもは強気なのに、彼氏にはメロメロなんだよ。かわいいでしょ」

    尊「わかるよ。元旦の初詣の時、ミッキーさんの彼が来るまで一緒に待ってたんだけど、会えた途端、顔つきがガラッと変わったからさ」

    瑠「え…?ちょっと待って、みつきの彼が来るまで?」

    尊「うん。一人にしとくと危ないじゃない」

    瑠「尊、家族と来てたんじゃないの?」

    尊「家族に、一緒に居てあげなさいって言われたし、僕もその方がいいと思ったし。確かに優しそうな彼氏さんだった。無事見届けてから、家族とはすぐに合流したよ」

    瑠「えっ。ちょっと、こっち来てくれる?」

    瑠奈が、かなり驚いた顔をしながら、参道の脇に尊を呼ぶ。

    尊「どうしたの」

    瑠「そんな話、今初めて聞いたからじっくり聞きたくて」

    尊「ミッキーさん、言ってなかった?」

    瑠「言ってたかな…あっ、そうか。私あの時、動画観て頭に血がのぼり過ぎて、言い訳はいらない!ってLINEした…」

    尊「それは…ミッキーさんに同情するなぁ」

    瑠「わー、後でみつきに平謝りしとく。っていうか!尊!」

    尊「矛先が変わったぞ」

    瑠「なんで黙ってたの!」

    尊「えぇっ、僕が怒られるの?!」

    瑠「もー、かっこ良過ぎるでしょ!ますます、惚れ直しちゃったぁ」

    尊「あの、心の声的なモノが、丸々聞こえてますが…」

    尊 心(ミッキーさんも瑠奈も、なんでこうもストレートに正面からぶつかってくるんだろう。心臓がもたないよ)

    さて。変わって速川家。城跡巡りから帰ってきた。

    源三郎「つくづく、車とはなんと速い乗り物、でしょうか」

    若君「山越えをせなんだとはいえ、あぁも速く、小垣に着くとはのう」

    覚「まぁ、道路も整備されてるしね。さて、昼ごはん作るか」

    トヨ「お手伝いいたします」

    美香子「あ、しまった!」

    若「お母さん、どうされた」

    美「尊に、二人分の昼ごはん代、お小遣いで渡そうと思ってて忘れてたわ」

    唯「あー。それならゆうべ、はい軍資金!って渡しといたよ」

    覚&美香子「え?!」

    唯「ちょっとぉ、それ驚き過ぎじゃない?」

    若「確かに、渡しておりました」

    美「そうなの?」

    唯「だってさー、一生に一度、最初で最後かもしんないから」

    美「そんな縁起でもない事言わない~。でも、ありがとね、唯。さすがお姉ちゃん!」

    唯「えっへん」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days87~4日10時、辿ります

    石碑さえなく歴史から消え去った城も、あるのかもしれない。
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    尊と瑠奈は、乗り換え駅に到着。神社方面の電車の到着を待っている。

    瑠奈「尊ってさぁ」

    尊「はい」

    瑠「むきたてのゆで卵みたい」

    尊「え~、なんだよそれ」

    瑠「お肌もつるんとしてて」

    尊「それさ、僕の顔が青白くて、セーターがゆで卵の黄身みたいな色だから、そう見えるんじゃないの?」

    瑠「違うってば。なんというか、そこはかとない清潔感?鞄も靴もすごくキレイだし」

    尊「そう?」

    尊 心の声(お母さん、グズグズ言ってごめん。ありがとう!)

    瑠「家に居た頃のお兄ちゃんなんかさー、もー顔はニキビでブツブツだし、なんか脂クサイし、すっごく嫌だったのに」

    尊「帰省してたお兄さん?」

    瑠「うん。結婚してて、転勤族っていうの?今は遠くに住んでる。でね、去年赤ちゃんが産まれたの、かわいいよぉ。昨日撮ったの見せてあげる!」

    スマホの、お兄さん家族の写真を見た尊。

    尊「お兄さん…すげぇイケメン」

    瑠「そっち?」

    尊 心(兄さんとは違うタイプの、甘い感じのイケメンだ。瑠奈のお兄さんだから想像はできたけど)

    瑠「尊の顔、青白くはないよ。色白だけど。お肌にいいモノ食べてる?」

    尊「それはわからないけど、いわゆるジャンクフードはあまり食べないかな。ご飯は三食父親が作るし」

    瑠「お父さんがご飯作ってるの?すごーい」

    尊「ウチは、母が医者で生計を支えてて、父が主夫なんだ」

    瑠「あ。もしかしてお母さん、速川クリニックの先生?」

    尊「うん」

    瑠「やっぱり!家でそうじゃないかって話になって。ネットの口コミ、すごく良かったよ」

    尊「見てくれたの」

    瑠「尊は、継がない…んだね?」

    尊「うん、まぁ」

    瑠「他にやりたい事があるんだ」

    尊「まぁ、そうだね。内緒だけど」

    瑠「内緒ね。そっか。じゃあ、聞かない」

    尊「ありがとう」

    尊 心(何をやりたいかは…ごめんなさい、告白できないと思う)

    変わって、速川家の皆さん。小垣城跡に着いた。

    美香子「初めて来たけど、見える景色が鳥の目線、って感じがいいわね~」

    覚「標高が高過ぎないのがな」

    発掘作業はほぼ終了していた。柵で仕切られた外側から、中を覗き込んで話す四人。

    源三郎「ここが内門だ」

    トヨ「ふむふむ」

    唯「ねぇたーくん、あそこがあの部屋?」

    若君「あぁ。祝言を挙げた」

    美「発掘されてた学者さん達、呼びに行きたいわね」

    覚「この会話聞いたら驚くだろうけど、資料作りの助けにはなる」

    美「なるかしら?そのまま信じてはもらえないわよね」

    覚「周りから一人言みたいに呟くか?ハハハ」

    城跡の脇に、資料館の建設が始まっていた。

    唯「なにが入るのかな。いつか見学したいね」

    若「そうじゃな」

    その後、松丸城跡の石碑を確認し、長澤城跡に移動して、同じくひっそりと佇む石碑を確認している。

    覚「つわものどもが夢の跡、か」

    美「そうね。でもそれ、松尾芭蕉だから忠清くん達の時代よりずっと後よ」

    唯「全っ然、わかんなーい!」

    唯達四人は、なにかしら形跡がないか周りを探索していた。

    若「広い城であったのじゃが」

    源「こうしてみると、黒羽や小垣は、恵まれておりますな」

    ト「あとは、吉田城…」

    若「うむ」

    覚「おーい、そろそろ帰ろうかと思うけど」

    唯「ん。わかんないモノはしょーがない。帰ろ」

    若「…お父さん」

    覚「何だい、お願いしたき儀か?」

    若「ハハ、はい。ここは長澤城。かつて、捕らわれた唯を助け出し、小垣城を目指し山中を駆けました」

    唯「あん時は、お腹が空き過ぎて大変だったー」

    美「そっちの大変?ホント、顔に傷が残らなくて良かったわ」

    若「此の地から、小垣に向かっては貰えませぬか。この令和の世なら、どれほどで着けるか、知りとうて。麓までで構いませぬ」

    覚「そうか。呆気ない程あっという間だと思うけど。かえって、嫌にならないかい?」

    若「このような世がいつか参るのだと、心に焼き付けとう存じます」

    美「偉いわね。どんな事も吸収しようとして」

    覚「わかった。じゃあ小垣城の下経由で帰ろうな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days86~4日9時30分、幕開きです

    今回はときめいたらしい。前回は58話no.915です。
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    尊「30分も早く着いちゃったよ…」

    小垣駅に到着した尊。ホームに降り立った。

    尊 心の声(待たせるよりいいとはいえ、どこかで時間潰さないとな)

    ホームの端まで歩いていると、

    尊 心(え。ウソ?!もう来てる!)

    遠くのベンチに、瑠奈が座っていた。

    尊 心(びっくり。いつから居るんだろ)

    瑠奈はこちらに気付いていない。思わず身を隠す尊。

    尊 心(電話してるな)

    キャメル色のコートに、デニムのロングタイトスカート。モコっとした、足首が隠れる丈のムートンブーツを履いている。

    瑠奈「もー、待ち遠しくって!どうせ浮かれてますよーだ」

    かなり楽しそうに、誰かと話している。

    尊「…」

    尊 心(僕を待って、こんな早くから、あんなに喜んでる?信じられない。でもくすぐったいような。嬉しい)

    瑠「もー、いいでしょー。うん、うん、また報告するー、あはは!じゃーねー」

    尊 心(動きが、小動物っぽくて…かわいい)

    電話を切り、座ったまま伸びをした瑠奈。様子を見計らってそっと近づく尊。

    瑠「あ」

    気がついた。

    瑠「わぁ!」

    尊「えっ」

    ベンチから立ち上がり、満面の笑顔で頬を赤く染めながら、駆け寄ってくる。

    尊 心(こ、これは…)

    瑠「おはよう!尊。早かったね」

    尊「おはようございます。いつから居たの?」

    瑠「ちょっと前から」

    尊「寒かったでしょ」

    瑠「平気」

    尊「でも冷えたりしたら…あ、これ」

    持っていたカイロを差し出す。

    尊「わ、違う、新品あるからそっちを」

    瑠「ううん、これがいい。尊が握ってた方で」

    尊「え。ま、まぁ出したばかりではあるんで」

    瑠「ふふっ。尊は今日も、優しさ全開だね」

    尊「いや、優しいヒトは新品渡すでしょ。は、はは」

    瑠「今ね、みつきとしゃべってたの。センセによろしくって言ってたよ」

    尊「そうだったんだ」

    来た電車に乗り込んだ二人。

    瑠「コートがお揃で嬉しい!」

    尊「そうだね。偶然」

    瑠奈も、ダッフルコートだった。

    瑠「スカートも、デニムにしといて良かったぁ。お母さんがね、女子高生ならミニスカートが定番じゃないのって言ってて」

    尊「ははは。制服はそんな感じが多いかな」

    瑠「猫も杓子もミニスカートはなんだから、あえてのロングスカート!って言い返したら、笑ってた」

    尊「仲良いね。もしかして、電話する時いつも近くに居ない?」

    瑠「居る。理由は、内緒」

    尊「内緒ですか。ウチも、家族仲いいよ」

    瑠「カラオケもイルミネーションも、家族とだったんだもんね」

    尊「うん。他に一緒に行く人も居ないし」

    瑠奈が、自分を指差している。

    瑠「立候補する」

    尊「それはどうも…ありがとうございます」

    尊 心(なぜ、僕なんだろう?帰りまでには教えてもらおう)

    さて。その頃の速川家。覚がタブレットで城の情報を調べている。

    覚「松丸城も長澤城も、今は跡地に石碑が残るだけみたいだな。でもどうしても、吉田城跡が見つからない」

    美香子「なぜかしらねぇ」

    唯「すっごく大変だったけど、たーくんが初めてこっちに飛んだ場所なのに」

    源三郎「見つからない。そうですか…」

    トヨ「源ちゃん、大丈夫よ。きっとどこかにあるわ」

    若君「有山が守っておったからのう。気に病むのも無理はない」

    美「なぜこうも、黒羽城や小垣城と扱いが違うのかしらね。地元の熱意の違い?」

    唯「たとえばさ、高山が民に嫌われていたとか?」

    若「それはわからぬが、少なくとも松丸家はそれには当てはまらぬ」

    源「財もある家柄ですし」

    ト「私達が知らないところで、何かあったのでしょうか」

    覚「今は知る由もないが、ただ資料がないだけかもしれないぞ」

    若「なるほど」

    唯「そうだ!」

    美「もう何~、大きい声出して」

    唯「木村先生なら知ってるかも。尊が帰ったら、先生にメールさせよう!」

    美「デート中に今すぐやれって言わないだけ、少しは成長してるわね」

    覚「ひとまず、小垣、松丸、長澤の三箇所巡ってみるか。じゃ、分乗して出発~。いや、出立~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days85~4日土曜6時30分、未踏の地へ

    遠足の日の朝みたいな高揚感?
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    尊が目を覚ました。

    尊 心の声(あー。お風呂にも入らないといけないし、もう起きるか)

    パジャマのまま、階段を下りる尊。

    尊「あっ、そっか。この時間は」

    若君「尊、お早う」

    源三郎&トヨ「おはようございます」

    三人は、テレビを観ながらラジオ体操中。

    覚「おっ、やっぱり早く起きたなー。風呂、沸いてるぞ」

    尊「ウソ!もう?」

    美香子「デートが楽しみで、絶対早起きする、って読んでたのよ~」

    覚「僕は、緊張して早く起きちゃうって読んでた。なんせ女の子とだしな」

    尊「誰かと出かけるなんて、家族以外男同士でも行った事ないから、男女差はないよ」

    覚「で、緊張はしてるのか?」

    尊「こうやって追い立てられるから、そうじゃなくてもそうなりそう」

    覚「そうか?ははは」

    美「まぁ、まずはお風呂にね」

    尊が風呂から出ると、食卓で唯が不機嫌そうに座っていた。

    唯「なんで、尊のデートに合わせて、早起きしなきゃいけないのー。眠いよー」

    尊「僕のせいばかりじゃないでしょ」

    美「そんなに早くはないわよ?ホント、文句が多いわねぇ」

    朝ごはん後。

    美「さぁ、服選ぶわよ」

    尊「はいはい」

    母と息子が二階に上がり、尊の部屋に入る。

    美「ちなみに、自分ではどうコーディネートしようと思ってた?」

    尊「自分では…」

    タンスの中から服を取り出す。

    尊「セーターはこれ」

    薄いクリーム色のタートルネック。

    美「いいわね」

    尊「OK?下はこのジーンズで」

    美「ん、その辺に転がってるのじゃなくタンスから出てきたから良し。上着は、ダウンジャケットのつもりだった?」

    尊「うーん。でもこれこそ出かける時はずっと着てるし、どうしようかとは思ってた」

    美「クリーニング済みのを着ればいいのよ。ちょっと待ってて」

    手にコートを持って戻ってきた。

    尊「あー、それか」

    美「去年クリーニング出した後、私達の部屋のタンスに一緒に入ってて。こっちの方が断然、デート仕様よ」

    紺色のダッフルコート。大きいフードが付いており、前を留めるトグルは白で、爽やかな印象。

    尊「いいかも」

    美「決まりね。楽しみだわ~」

    尊「お母さんがでしょ」

    美「誰かとどこかに行こうという気持ちになってくれただけで嬉しいの。瑠奈ちゃんに感謝しなくちゃね」

    尊「うん…」

    美「じゃ、着替えて忘れ物ないか確認したら、下りてらっしゃい」

    しばらくすると、身支度を整えた尊がリビングに下りてきた。

    唯「ちょっとー、いやに爽やかじゃなーい」

    尊「悪い?あ、ねぇ、使い捨てカイロが欲しいんだけど」

    覚「いくつ要る?また二つか?」

    尊「うん。一つ使ってもう一つは予備で」

    カイロを袋から出し、シャカシャカ振る尊。

    若君「これか。源三郎もトヨも、見覚えがあろう」

    源三郎「はい。あの日の警固は、頂戴したこの品のお陰で寒さを感じずにおれました」

    トヨ「元々、振るだけで温かくなるのですね。驚きました」

    覚「なんならこれも、今回持って帰るかい?買い込んであるからさ」

    源「それは…有難いです」

    若「よろしければ、お願いしとう存じます」

    そこに美香子が、上着を羽織って登場。

    美「もう支度バッチリ?」

    尊「うん、まあ」

    美「駅まで送ってあげる。さ、行くわよ」

    尊「え、まだ待ち合わせに時間あるし、歩いてくよ」

    美「待たせるよりはいいじゃない。早めに行って待ってなさい」

    尊「それにしたって、相当早く着くよ」

    若「尊、早いに越した事はない」

    尊「このままだと、30分位早く…」

    若「行って参れ」

    尊「はい。わかりました」

    唯「えーと、ご武運を祈る?行ってらっしゃーい」

    源&ト「行ってらっしゃいませ」

    覚「楽しんできな」

    尊「うん。行ってきます」

    出かけていった。

    若「お父さん」

    覚「ん?」

    若「折り入ってお願いしたき儀がございます」

    覚「ほほぅ。何だい?」

    若「昨日、小垣城跡の話を聞きました。是非、今の姿を見とう存じます」

    覚「なるほどね」

    若「あと、もしよろしければですが」

    覚「うん」

    若「近隣に、吉田城や松丸城や長澤城もあるのですが、同じく見る事は叶いますでしょうか」

    覚「んー。その三つの城はあまり聞いた事ないから、どれも今はないんじゃないかな。よし、場所を調べて行ってみるか」

    若「忝のう存じます」

    唯「わーい!お出かけだぁ」

    覚「母さんが帰るまでに、身支度しておいて」

    唯&若君&源三郎&トヨ「はい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days84~3日16時、着々と準備

    冬に二回も入ったら、いくら若くてもお肌カッサカサになりそう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    コツコツと、自分の部屋で勉強していた尊。

    尊 心の声(そろそろ明日の打ち合わせの電話するか。4時頃ってLINEしておいたし。でも、なんで電話なんだろ)

    ところ変わって、こちらは瑠奈の家。あい変わらず、自分の部屋ではなく家のリビングに居た。

    瑠奈の母「またここでしゃべるの?」

    瑠奈の父「俺も居ていいのか?」

    瑠奈「いいよ。はしゃぎ過ぎて、おかしくなってたら止めて欲しいから」

    瑠母「あらまあ。今からそんな風で、明日尊くんとちゃんと話せるの?」

    瑠奈のスマホに電話がかかってきた。

    瑠「わぁ!深呼吸しなきゃ、すー、はー。…もしもしぃ」

    尊の電話『もしもし、お待たせしました』

    瑠「待ってた」

    尊 電話『え、遅かった?』

    瑠「ううん、大丈夫。あのね、どこに行こうか迷ったんだけど、遊びに行くんじゃないし、あまり遠くはダメって親に言われて」

    瑠父「俺達が悪者みたいだな」

    瑠「だから、電車の乗り換え一回で済む神社に行こうと思うの」

    尊 電話『うん。あそこだね。多分そうだろうと思ってた』

    瑠「もう行ってた?御守とか持ってる?」

    尊 電話『行ってないし持ってないよ』

    瑠「じゃあ、私がプレゼントしてあげる!」

    尊 電話『ははは。ありがとうございます』

    瑠「何時にどこで待ち合わせする?」

    尊 電話『駅で良くない?家からの最寄りは、何駅になる?』

    瑠「私は小垣駅。尊は、黒羽駅?」

    尊 電話『うん、そう。…それなら、10時に小垣駅のホームでどう?小垣なら通学経路の途中だから、そこまで行くよ』

    瑠「それでいい?小垣駅で降りた事ある?」

    尊 電話『ないね。そこ、急行電車停まらないから』

    瑠「黒羽駅は急行停まるもんね。そのままピューっと、学校の駅まで行けるから。…あれ?」

    尊 電話『どうかした?』

    瑠「前にカラオケ、来てたよね。小垣の」

    尊 電話『うん』

    瑠「なんでわざわざこっちまで来たの?黒羽市にもカラオケ屋さんあるよね?」

    尊 電話『小さい頃から、親に車に乗せられて半強制的に行ってたからなぁ。よくわからないけど、親がそこに慣れてるからかも』

    瑠「ふーん」

    尊 電話『あの、さ』

    瑠「はい!なに?」

    尊 電話『なんで、電話だったの?LINEなら時間気にせずに連絡できるのに』

    瑠「嫌だった?ごめん、忙しかったかな」

    尊 電話『それはないけど。ただ疑問に思っただけ』

    瑠「尊の声が聞きたかったの」

    瑠父「熱いな」

    瑠母「熱いわね」

    尊 電話『え。はは…そ、そうなんだ。では、明日よろしくお願いします』

    瑠「うん!楽しみにしてるね!」

    尊 電話『じゃあね』

    瑠「バイバーイ!…はぁ」

    電話を切っても、まだそわそわしている瑠奈。

    瑠「明日10時に、小垣駅のホームで待ち合わせになったぁ」

    瑠母「楽しみね。最初はどうなるかと思ったけど、そこまで暴走はしてなかった」

    瑠父「確か、速川君、だったな。で、黒羽市の子か」

    瑠「うん。なにかある?」

    瑠父「親御さん、速川クリニックを営まれてないか?」

    瑠母「速川クリニック…あー、聞いた事あるわね」

    瑠「有名なの?」

    瑠父「黒羽市、速川で検索したらすぐ出ると思うぞ。口コミ人気でも上位に入る筈」

    瑠「見てみる!え、でもウチのクラス、医学部志望は一人も居ないよ?」

    瑠父「そこの息子さんと決まった訳じゃないし、本人に聞けばわかる話だろ。ただ」

    瑠「ん?」

    瑠父「好きだと騒ぐ割には、リサーチが甘い」

    瑠「違う、尊は謎が多いの!」

    変わって、速川家。尊がリビングに下りてきた。

    唯「もう夕方だけど、連絡した?」

    尊「うん。明日の10時に、小垣駅のホームで待ち合わせになった」

    唯「おっ!」

    美香子「あ、もしかして、彼女の家がその近く?」

    尊「そう言ってた」

    その会話に、若君と源トヨが反応した。

    若君「今、小垣と申したな」

    尊「はい。小垣城跡からは少し離れてますけど、そういう名前の駅があるんです。兄さん、去年電車に乗ってますけど、気づきませんでしたか?」

    若「唯ばかり見ておった」

    尊「サラッとのろけたなぁ」

    源三郎「尊殿。その、駅、はどの辺りにあるのですか?」

    トヨ「小垣城の近くなんでしょうか」

    尊「なら、地図で説明しますね。お父さん、タブレット貸して」

    覚「ん」

    画面に地図を表示させた。若君と源トヨが尊の周りを囲む。

    尊「ここが黒羽城公園。すぐ近くに黒羽駅。小垣城跡はここから北東の位置にあり、今でも小高い山の上にあります」

    若「山城じゃからのう」

    尊「城下町は、当時も山の下にあったんじゃないですか?いや、違う。戻れば今でも山の下にありませんか?」

    若「民は、そうじゃな。城の南に」

    この辺り、と地図を指差す若君。

    尊「ですね。だから鉄道はその平地の部分を走っています。お城からは少し距離があるけど、駅名は小垣。ちなみに僕の通学経路ですが、黒羽駅から小垣駅を経由して行ってます」

    美「電車一本で通学できるから、楽は楽よね」

    尊「うん」

    美「あ、そうそう、先に言っとく。尊はお風呂、明日の朝入んなさい」

    尊「え!そこまで徹底?!」

    美「全ては君の為。なんなら、今夜入って朝も入る?」

    尊「いや、朝だけにします…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    3日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days83~3日金曜11時、ムクムクと

    炒めると、粉の中のグルテンの働きが弱まり、膨らみやすくなるらしいです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    速川家キッチン。覚がメモを取り出す。横で、若君が控えている。

    覚「忠清くん、金曜だ」

    若君「はい」

    覚「今回は、昼ごはんで頑張って貰おうと思ってる」

    若「心得ました。今日は昼も家族揃うておりますゆえ。されど」

    覚「何?」

    若「もう午の初刻ですが」

    覚「間に合うかって事?大丈夫だよ」

    フライパンを出した。

    覚「手始めに、小麦粉を炒めるよ。フライパンの中に、そのボウルの粉を3分の1位入れて。大体でいいよ」

    若「まだ火が点いておりませんが、良いのですか」

    覚「いい質問だね。点けてから入れると、粉がはねるかもしれないからさ」

    若「ほぅ。考えておられる」

    小麦粉をから炒りしていると、すぐにいい香りがし始めた。

    覚「あ、そんなモンでいいよ。火を止めて、このバットに広げるように入れて」

    若「はい。これを、あと二度するのですね」

    覚「お見込みの通り」

    全部炒め終わった。

    覚「ちょっとこのまま冷ましておく」

    若「はい」

    覚「ほほっ、何してんだろって顔してるな」

    若「見当がつきませぬゆえ」

    覚「今日のメニューはね、君はクリスマスイブのデートの時に食べてるよ」

    若「…パンケーキですか?」

    覚「うん。この前来た時も尊と三人で行ってたね。僕はさ、流行り物で気にはなってたけど、食べに行くまでじゃないと思ってて」

    若「はい」

    覚「でも、君達が戻ってってすぐ、テレビで作り方やってたんだよ。これはと思ったんで、再放送したのを録画しといて、あれからたまに家で作ってるんだ」

    若「そうでしたか」

    覚「帰って来てくれたんで、よし作ってあげようか、でもどうせなら金曜がいいか、と思ってたら、ちょうどイブに唯と行けたって聞いて」

    若「出鼻を挫いたようで済みませぬ」

    覚「いやいや、謝らなくていい。それはそれ、これはこれ。で、行ってすぐもなんだったから今日にしたんだ。おせちや雑煮に飽きる頃だしな」

    若「源三郎もトヨも喜ぶと思います」

    覚「なんてったって、家で作れば甘さの調節ができる」

    若「それは良…あ、いや」

    覚「まあ、無理せずにな。じゃあ続きをしようか。その粉、ふるいにかけて。二回ね」

    若君が作業する中、覚は食卓にメープルシロップや生クリーム、フルーツなどを運び出した。唯や美香子、源トヨは覚に促され既に着席している。

    唯「え?なに、おやつ?」

    美香子「いよいよパンケーキね」

    トヨ「パンケーキ」

    源三郎「あの、噂に聞く」

    唯「へー!意外なメニュー。でもさ、家で作るとお店みたいにふわっとならなくて、いつもぺしゃんこじゃない」

    美「そうでもないのよ。さて、そろそろ尊呼んでくるわ」

    源「ならばわたくしが」

    源三郎がサッと席を立ち、二階へ上がっていった。

    美「さすが近習のプロ」

    材料が混ぜ合わせられ、いよいよ調理スタート。

    美「人数が多いから、フライパン二つ使って焼いてくのね」

    ト「お手伝いしなくて良いのでしょうか」

    美「なら、焼けたら運んであげて。フライパン一つに一枚ずつしか焼けないから、できた物から片っ端に」

    尊が呼ばれて下りてきた。

    尊「甘い匂いがする。そっか、例のブツをいよいよ今日やるんだ」

    美「ちゃんと勉強してた?」

    尊「してたよ。遊んでばかりでもいけないし」

    唯「瑠奈ちゃんと、ラブラブで電話してたとかじゃないのぅ?」

    尊「してない」

    唯「え~?」

    尊「明日の打ち合わせは夕方にするから」

    唯「あっそ。ヒューヒュー!」

    尊「うるさいよ」

    キッチンでは、若君が頻りに感心していた。

    若「おぉ…立ち上がっておる」

    ふわりと、少し高さのある仕上がりになっている。

    覚「いいねぇ。はい、まず二人分出来た」

    ト「お運びいたします」

    覚「おっ、さすが女中のプロ。ではよろしく」

    二皿運んできたトヨ。一皿目はスッと美香子の前に置いたのだが、二皿目をどこに置こうか迷っている。

    唯「トヨ、私たーくんと同じタイミングで食べたいから、まだいい」

    ト「そうですか。わかりました」

    美「私も後でいいのよ」

    ト「いえ、それは譲れません。では尊様」

    尊「僕も後でいいですよ。源三郎さんからどうぞ」

    源「いえ、滅相もない」

    美「早くしないと冷めてく一方だから、尊、先にいただいちゃいなさい」

    尊「そう?」

    美「源三郎くんとトヨちゃんを同時にすれば、ほら」

    尊「あ、あれも同時にやれるね。わかった」

    ト「何ができるのですか?」

    唯「あーんしてぇ、でしょ」

    源「え!」

    唯「なによいまさら」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    パンケーキの作り方の出典ですが、2019年8月21日放送の「ガッテン!」です。まるでこのお話を見据えたのかのように?家に録画が残っておりました。

    https://www9.nhk.or.jp/gatten/articles/20190821/index.html

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days82~2日9時、匂わせません

    サッカー観戦も、不良にビンタした時もそれだったからね。
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    結局、朝稽古後源トヨと四人で、近くの氏神様にやって来た。

    唯「…という夢だったの!」

    源三郎「正月から縁起が良いですね」

    唯「どうする?一番上の子が女の子だとさぁ、かわいくて嫁に出さんとか言わない?」

    源「それは…」

    唯「たーくんは、そう言ってた」

    若君「まあ、それはの」

    トヨ「唯様、実は」

    唯「なに?」

    ト「源ちゃんと、二人で決めたんです。昨日」

    若「決めた?」

    唯「なにを?」

    源「もし、子宝に恵まれたら、男子ならば忠清様そして御子様の近習となるべく、幼少より鍛えます」

    若「それは頼もしい」

    源「もしおなごが産まれたら、唯様と御子様にお仕えできるよう、女中の心得を叩き込みます」

    唯「え、親子でお世話してくれるの?お姫様なのに」

    ト「いいんです。ね、源ちゃん」

    源「どのような形であれ、我々は忠清様唯様にお仕えさせていただくのが喜びでございます」

    若「無理強いはしとうないが」

    源「心から思うておりますゆえ」

    若「そうか」

    唯「嬉しいな」

    ト「その、夢でございますが、音が聞こえなかったのは幸いです」

    唯「え、なんで?」

    ト「子の名など呼んでおるかもしれません。今それを知ってしまったら、名付けの楽しみがなくなりそうで」

    唯「なるほどねー」

    そのまま、唯がトヨにぐっと近づいた。

    唯「子供、産まれるから。夢じゃないよ、絶対」

    ト「はい。ありがとうございます」

    帰宅すると、食卓に尊が一人座っていた。

    尊「お帰りなさい。下りてきたら誰も居なくてびっくりした」

    唯「あんたも神社行ってきたら?」

    尊「後で散歩がてら行ってこようかな」

    美香子「散歩もいいけど、尊はね、朝ごはんの後やってもらう事があるわよ」

    尊「え、何」

    そして、朝ごはんが済んだ。覚がコーヒーを淹れている。

    美「あさってはデート」

    尊「うん。まだ2日後だけど」

    美「何着てくかはまた考えてあげるけど、その前に」

    尊「何」

    美「鞄、どうせいつもの肩掛けのでしょ」

    尊「それはそうだけど」

    美「洗います。中身出して持ってらっしゃい」

    尊「はあ?」

    美「通学以外はどこ行くのもそれじゃない。清潔感が大事!」

    尊「そんなに汚いかな」

    美「つべこべ言わない。洗濯は洗濯機がやるんだから。あと、履いてくスニーカーは、お茶タイムと散歩が済んだら自分で洗う事」

    尊「ええっ、そこまで…」

    美「明日洗って乾かないと大変だから、今日の内にやっておくの。これも瑠奈ちゃんの為。はい、鞄取ってらっしゃい!」

    尊「えー」

    渋々二階に上がっていった尊。

    美「あ、忠清くん源三郎くん、清潔感云々は、あくまでも現代の話ね」

    若「そうですか」

    源「…」

    若「源三郎、いかがした」

    源三郎の囁き「薄々思うていたのですが、ここに参った際、体が相当臭っていたのではないかと」

    若君の囁き「それは、わしも思うた。初めて参った折にの。後になり気づいた」

    源 囁き「随分と無礼を働いたのでは」

    若 囁き「致し方ないとはいえ、不快にさせておったのは忍びない」

    唯「たーくん、源三郎、なんかゴソゴソ言ってるけどさ。それはしょうがないんだよ。永禄って、いろいろクサいから」

    覚「はい、コーヒーお待たせ。そういえば唯が初めて永禄に飛んで帰って来た時も、相当臭かったぞ」

    唯「そういえばなんか言ってたな」

    美「ごめんなさいね、あなた達を悪く言ってるつもりはないの。今と昔では価値観が大分違うし。尊のデートが成功して欲しいって思ってるだけなのよ」

    源「そうでございますか」

    若「親心ゆえ、と」

    尊が、くたくたの鞄を持って下りてきた。

    尊「はい、鞄。やっぱ洗った方が…いいかも」

    美「でしょう。はい貸して、洗濯機回してくる。コーヒー飲んでていいわよ」

    ト「何かお手伝いする事はありますか?」

    尊「いえ、大丈夫ですよ」

    覚「デートが上手くいきますように、って祈っててやってくれな」

    ト「祈る」

    トヨが考え込んでいる。

    尊「どうしたんですか?」

    ト「でしたら、氏神様にお百度参りをいたしましょうか」

    尊「えっ!いや、それは…お願いだから止めてください」

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    2日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days81~2日木曜5時、幸せな初夢

    今後も続々、の予定だから、きっとすぐ回復してる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯は、夢を見ていた。

    唯 心の声(ん?)

    自分の姿を俯瞰で眺めているような形になっているが、音は聞こえていない。

    唯 心(マナーモード?ま、いいや。ここ、永禄だ)

    夢の中の唯は、自室で布団に横になっている。

    唯 心(なんだろ。なんかグターっとしてる。私また、風邪でも引いちゃったのかな)

    すると、襖が開いた。女性が座して一礼し、もう一人、幼い女の子が真似をしてちょこんと座り、お辞儀をして入ってきた。

    唯 心(トヨだ。あれ、なんか様子が違うコトない?…あっ!)

    トヨのお腹が大きい。

    唯 心(わぁ、お腹に赤ちゃん?!でもって、この女の子、娘ちゃん?なんとなく源三郎に似てる!良かったぁ。トヨ、歳を気にして子供産めるかって心配してたけど、全然OKって話だよね!)

    あい変わらず話し声は聞こえないが、トヨが横になったままの唯に、色々話しかけているようだ。

    唯 心(具合が悪いから、様子を見に来てくれたのかな)

    また、襖が開いた。

    唯 心(あ、たーくん。いやん、なんか、カッコ良さバージョンアップしてない?!)

    若君は、トヨ達に語りかけた後、唯の傍らに座り、髪を撫でながら話しかけている。

    唯 心(そっちの私、いーなー)

    すると、反対側の襖が開いた。侍女らしき女性が何人か居る。

    唯 心(真ん中の人だけ見た事ないな。それにしても、なんか騒がしくない?)

    若君もトヨも、歓喜している。その、真ん中の人物が大事そうに何かを抱えていたが、唯の隣にそっと寝かせた。

    唯 心(えっ)

    産まれたばかりと思われる赤ちゃんだ。

    唯 心(キャー!私の子供?産んだの?!やったー!そっか、さっきの知らない人は産婆さんだったんだな、きっと。わぁ、こんなにちっちゃいんだ…男の子かな、女の子かな、ちょっとわかんないけど、どっちでも超嬉しい!!良かったぁ~)

    すると、トヨが何かに気づいた様子で、後ろの襖を開けた。

    唯 心(ん?トヨの知ってる子たちかな。兄弟?)

    幼いながらも凛々しい顔立ちの男の子が二人、そぉっと中を覗いている。はじめは入るのをためらっていたが、若君に促され、唯に向かって駆け寄ってきた。

    唯 心(へ?ちょっと待って、えーとどっちの子もたーくんを小さくしたような美男子。なんとなく私にも似てるような?)

    唯の布団の周りを大小三人のイケメンが固め、トヨと娘が少し下がって見ている構図。

    唯 心(え、この赤ちゃん…何人目?!)

    ここで、目が覚めた。

    唯「…」

    若君「今朝は早いの」

    自分の部屋の布団で、若君の腕の中に居る。

    唯「なんか暗い…朝になってる?」

    若「朝じゃ。そろそろ稽古にと思うたら、唯がごそごそ動き出した」

    唯「そっか。夢見てたの。ううん、きっとね、夢じゃないの!」

    若「いかがした?」

    唯は今見た夢の説明をした。

    若「そうか」

    フッ、と微笑む若君。

    唯「これから起こる未来というか。時代としては過去だけど、現実だよね?そう思わない?」

    若「そうじゃな」

    唯「嬉しい、もっと見ていたかったな」

    若「うむ…」

    唯「どしたの?あんまり喜んでないよね」

    若「唯が、自室で横になっていたのが気にかかり」

    唯「え?そこで産んだからじゃないの?」

    若「いや。子を身籠ったとわかると、産殿を建て、そちらで産むべく手筈を整えるのじゃ。唯の自室ではない」

    唯「え、産むためだけにわざわざ?!初めて聞いた」

    若「産んだ後具合が悪うなり、子より先に下がったのではないかと」

    唯「そうなんだ。確かにかなりグターっとしてて、起き上がってなかった」

    若「男子二人の後の子の産まれる折には構えておれ、との、天からの知らせやもしれぬの」

    唯「そっか」

    若「唯の体が何より大事ゆえ」

    唯「嬉しいっ」

    若「フフ。では、わしはそろそろ」

    唯「私も起きるー」

    若「珍しい」

    唯「なによ、たまにはいいでしょ。気分がとってもいいからさぁ」

    若「ならば、稽古ではなく、共に近くの神社に詣でるのはいかがじゃ?」

    唯「あ。行く行く!でも朝稽古終わってからでいいよ。たーくんのカッコいい姿見たい」

    若「ハハ」

    唯「ねぇ、この夢の話、トヨや源三郎にもしゃべりたいけど、どう思う?」

    若「良かろう」

    唯「喜んでくれるよね!」

    若「あぁ。喜び、安堵する姿が目に浮かぶ」

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    続きます。

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    四人の現代Days80~1日13時、密談です

    人前式ですね。
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    速川家の食卓。おせち料理をいただきながらの、小宴会が終わろうとしている。

    美香子「お父さんはいつもの事だけど、二人は珍しいわね」

    覚が食卓の席で酔っぱらって寝ているのだが、若君と源三郎も、気持ち良さそうにスヤスヤと寝ている。

    唯「お母さんもトヨも、そんなにお酒飲んでないの?」

    美「そんな事ないわよ。ねぇ、トヨちゃん」

    トヨ「はい。充分いただきました」

    尊「察するところ」

    唯「なに」

    尊「お酒の強さでいうとさ、お母さんとトヨさんが同率一位で、次が兄さんと源三郎さん、断トツ最下位がお父さんなんじゃない?」

    唯「それはなんとなくわかる。たーくんと源三郎は、今日なんでつぶれてるんだろ」

    尊「睡眠時間が短かったでしょ。だっていつも通り朝稽古してたんだよね?」

    美「源三郎くんはもっと早かったわよ。私達がビデオ用意してたら下りてきてね、気分はどう?って聞いたら、あまり眠れなかったって言ってた」

    ト「そうだったんですか」

    尊「トヨさんは?」

    ト「なんかお恥ずかしいのですが、私はぐっすりと眠れたんです」

    美「安心したからよね。恥ずかしくなんかないわよ」

    ト「はい。ありがとうございます」

    尊「よく眠れたトヨさんと、眠れなかった源三郎さんか」

    美「だから、いいペアなんじゃない?」

    唯「うん。そうだね」

    ト「そうですか?嬉しい」

    美「じゃ、昼ごはん終了。男性三人はさすがに運べないから、このままそっとしときましょ。起こさないように片付けるわよ」

    唯と尊が、少し残ったおせちを一つにまとめている。食器を洗い始めた美香子。隣で手伝うトヨ。

    美「トヨちゃん。これは私の提案なんだけどね」

    ト「はい。どのような」

    美「お布団、源三郎くんの部屋に移さない?」

    ト「えっ、それは」

    美「嫌?まだ早い?」

    ト「お母さん方の隣のお部屋をお借りして休ませていただいておりますが、空けよと仰るのでしたら…」

    美「邪険にしてるんじゃないのよ。私達は全然構わないんだけどね、結婚しても、源三郎くんはお仕事で夜居ない時が多いんでしょ?」

    ト「はい。城の警固がありますので」

    美「あまり考えたくはないけど、戦になれば一緒も無理じゃない。ここで安全に夜を過ごせる内に、どうかなと思ったの」

    ト「お気持ちは大変ありがたいのですが、祝言もあげておりませんのに…」

    美「そっか。ごめんね、無茶言って」

    唯&尊「…」

    美香子の洗い物が終わった。トヨは食器を一つ一つ拭いている。

    美「ふぁあ。さすがに私も眠たくなってきたわ。一眠りしちゃおうかしら」

    ここで、唯が動いた。

    唯「お母さん、ちょっと」

    美「え、何?」

    母の背中を押して、ずんずんと廊下の方に連れていっている。

    唯「尊」

    尊「うん」

    察知した尊もついてきた。玄関近くまで来た三人。

    唯「トヨはついて来てないよね?」

    尊「うん、大丈夫」

    美「なぁに、鼎談?」

    唯「かなえだん、ってなに」

    尊「三人で話し合うって意味」

    唯「あー、うん、そう」

    コソコソ話し始めた三人。

    唯「お母さん、さっきの話、すごくいいと思った」

    尊「僕も」

    美「ちょっと言い方良くなかったかな。婚前交渉を勧めたみたいに聞こえたのよね、きっと」

    唯「婚前、交渉…」

    尊「お母さん、続けて」

    美「実は、今回お着物が四人分じゃない。唯の打掛もあるし、忠清くんや源三郎くんの袴もあるし。直前まで畳んでおくよりは、ちょっと広げておきたいってのはあるのよね。大した理由じゃないけどね」

    唯「それ、大した理由だよ」

    尊「でもそれを伝えると、嫌なのに無理強い、みたいになるよね」

    美「祝言がまだってのはその通りだし」

    唯「だったらさ、ここで結婚式しちゃえばいいんじゃない?」

    美「正式な祝言は戻ってからするとして?」

    尊「それ賛成。だってさ、今なら僕もお父さんもお母さんも、何だったらエリさんや芳江さんも参列できるじゃない」

    美「それもそうよね。いいアイデアだわ」

    唯「家でみんなでお祝い、いいと思う」

    美「そうね。でもちょっと時間ちょうだい。エリさんや芳江さんのご都合を聞きたいけど、さすがに三が日に連絡するのは避けたいから」

    尊「そうだね。もしOKしてもらえるのなら、お二人の都合を優先すればいいんじゃないかな」

    美「わかった。唯は忠清くんに話しておいて。私はお父さんに言っておく」

    唯「了解~」

    尊「楽しみが一つ増えそうだね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    1日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days79~1日10時、天にも昇る心地

    四人と言いつつ、四人が誰も出ない回も多々あります。あしからず。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ここは、瑠奈の家。大きいクッションに顔を埋め、スマホを握ったままリビングのソファーに寝転がる瑠奈。

    瑠奈の母「ちょっと瑠奈~。ようやく起きてきたと思ったらまた寝て。場所取らないでちょうだい、邪魔!」

    瑠奈「うぅぅ」

    瑠母「もう、何なの」

    瑠「自爆した」

    瑠母「えぇ?」

    瑠「もっと、いい感じにお近づきになりたかったのに~」

    瑠母「ははーん。さては、男の子がらみね。あなたはともかく、周りの同級生の子達は今大変な時期でしょうに。呑気よね」

    瑠「うっとーしい女、って尊にガン無視されるんだ」

    瑠母「その子、尊くんって名前なのね。クラスの子?」

    瑠「うん」

    瑠母「そう。卒業間近に盛り上がるってパターンかしら。その子も推薦入学?」

    瑠「ううん、尊はセンター試験受ける」

    瑠母「え!この時期に、そんな子の勉強の邪魔しちゃダメじゃない!」

    瑠「でも、初詣行ってたもん。しかもみつきと会ってる」

    瑠母「みつきちゃん?あら、彼女って彼氏くん居なかったっけ」

    瑠「居るよ。でも仲良さそうだったもん!」

    瑠母「よくわからないわね。一体何がどうだったの?」

    みつきと尊の動画を見せた。

    瑠母「楽しそうね」

    瑠「信じらんない、だってみつきさ、私が尊の事気になってるって知ってるのに」

    瑠母「偶然会ったんでしょう」

    瑠「わかんないよ?みつきズルい!」

    瑠母「そんな勝手に悪者にして。みつきちゃんには聞いたの?」

    瑠「さっきLINEした」

    瑠母「恨み節を並べたりしてないわよね?」

    瑠「…」

    瑠母「もう、呆れた子ね。それで、尊くんには何て伝えたの」

    尊に送った内容を見せた。

    瑠母「…」

    瑠「勢いで送っちゃった。既読になったけどまだ返事来ない。ふぇーん」

    瑠母「溜め息しか出ないわね。こんなにくどくどと畳み掛けちゃ、進むものも進まないわ。確か去年付き合ってた子、余計な事言い過ぎて嫌われて別れちゃったでしょ」

    瑠「言わないでっ」

    瑠母「その前の子は…」

    瑠「もういい」

    瑠母「瑠奈って、そこそこ頭のイイ子に育ってくれたけれど、何というか」

    瑠「なんですかっ」

    瑠母「恋愛偏差値は、ずっと低いままよね」

    瑠「うわーん」

    スマホに、LINEの通知あり。

    瑠「…みつきだ」

    瑠母「そう。みつきちゃんは懐が深いから、怒ったりしてないとは思うけど。何て?」

    瑠「私は彼とラブラブなんだから、妬いてる時間なんてムダ」

    瑠母「みつきちゃんいいわ~。清々しい」

    瑠「センセはね、マジで神だから!絶対逃しちゃだめだよ!…だって」

    瑠母「手遅れかもね」

    瑠「うわーん!」

    ここで、スマホがポロンと鳴った。

    瑠「あっ!尊から返事来た!でも見るの怖い」

    瑠母「良かったじゃない。返事くれただけでも。既読スルーもできるのに、誠実で」

    瑠「うん…」

    尊の返信を見た瑠奈。

    瑠「キャー!」

    瑠母「彼、なんて?」

    瑠「どうしよ!お母さん、これ見て!」

    瑠母「あらー、余裕な対応。確認するけど、同い年よね?」

    瑠「たぶん」

    瑠母「たぶん、って…」

    瑠「すっごく大人だし、後光が差しててもうキラッキラ。ホームルームにね、地元の歴史しゃべってた時なんて、もうたまらなかった」

    瑠母「ときめきポイントはまた後で聞くから、早く返事しなさい。どう出るつもり?」

    瑠「声聞きたい!電話してもいいかなぁ。まずはかけていいか聞こっと」

    瑠母「落ち着いて話さなきゃだめよ」

    瑠「かけていいって!お母さん、静かにしててね」

    瑠母「ここでかけるの?!何と言うか、いつもオープンな」

    瑠「また暴走したら、止めて欲しいから」

    瑠母「そうなの。恋は徐行運転の方が良くないかしら。瑠奈に限っては」

    瑠奈がシーッ!とジェスチャーした。見守る母。

    瑠「あ!あの、明けましておめでとう…しゃべってても大丈夫?…そうなんだ。私も家のリビングに居るの。帰り遅かったでしょ、眠くないの?」

    瑠母「まぁ、通常運転かな」

    瑠「あのぅ…さっきの返事、本気にしてもいいのかな」

    瑠母「リップサービスだけならかなりのやり手だけど」

    瑠「ホント?ホントに?!キャー!ねぇ、じゃあ学問の神様にお詣りしようよ、いつ?いつが都合いい?」

    瑠母「順調ね。彼が合わせてくれてるのね」

    瑠「瑠奈さんじゃなくて、瑠奈、って呼んで欲しいな…私も尊って呼ぶから」

    瑠母「え、勝手に名前で呼んでたの?」

    瑠「はは…そうだよね。ごめんなさい。動画観てショックで、気持ちが高ぶり過ぎちゃってつい。心の中でずっと名前で呼んでたから」

    瑠母「とっくに暴走してたのね。…あ、瑠奈、ちょっと待って!2日3日は、ほら」

    瑠「あ!ごめんね、明日明後日でお兄ちゃんが家族連れて帰省するの忘れてたの。4日5日とかでどうかな…うん、うん待ってる…4日、4日ね!キャー!!嬉しい!ありがとう!うん、私もいろいろ調べとくね。バイバーイ!…ふぅ」

    瑠母「良かったわね」

    瑠「嬉し過ぎる、デートしてくれるなんて」

    瑠母「優しい彼ね」

    瑠「うん…どうしよう、ドキドキが止まらないよぉ」

    瑠母「あらら、泣いちゃって」

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    次回は速川家に戻ります。

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    四人の現代Days78~1日11時、一歩進む

    あっさりと決まるもんだな。
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    ビデオを観終わった両親と、若君、源トヨが、食卓でミカンを食べている。

    美香子「ん、甘ーい」

    若君「実に美味そうに召し上がる」

    覚「母さんは、ミカンさえあれば上機嫌だからな」

    階段から足音が。

    美「あ、尊、起きたのね。ミカン食べる?」

    スマホを耳に当てながら、ちょっと待ってと片手を前に出し、カレンダーの前に向かった尊。

    覚「電話中か。え?電話?!」

    美「こんな元日から、誰と?」

    尊「4日はね、うん、何もないけど聞いてみるね」

    スマホを少し外して、両親に話しかける尊。

    尊「4日って、何も予定なかったよね?」

    覚「ないな」

    美「翌日は写真館だけど」

    尊「了解。もしもし、うん、4日なら大丈夫だよ。うん、あはは、そんなに喜んでくれて嬉しいよ。じゃあ、近付いたらまた連絡するね。うん。じゃあね」

    電話を切った。

    美「誰かと約束したの?」

    尊「うん。瑠奈と出かける」

    覚「へ?誰?」

    尊「クラスの女子」

    覚「へ?女の子と、デート?」

    尊「デート。あ、そっか、そうなるんだ」

    美「はあ?!」

    美香子が、手に持っていたミカンを落とした。コロコロ転がり、床に落ちたのを慌てて源三郎が拾う。

    源三郎「お母さん」

    美「あ、ありがとね源三郎くん。ちょっと何が起こったのか理解できなくて」

    トヨが、お茶を出す。

    トヨ「尊様、どうぞ」

    尊「ありがとうございます」

    若「わしが見込んだ通りになっておるの」

    尊「そうですね。兄さんに、一歩踏み出せって言われたんで、従ってみました」

    若「そうか」

    美「で、クリスマスにばったり会ったお嬢さんなのね」

    尊「うん。詳しくは、お姉ちゃんが起きてきたら話すよ。今ここで説明しても、一からまた言わなきゃならないだろうから」

    若「ならばわしが起こして参る。もう昼も近いゆえ」

    唯の部屋。

    若「唯。そろそろ昼じゃ。腹も空いておろう?」

    唯「ん…まだ眠いぃ」

    若「今は食い気より眠気か」

    唯「んー」

    若「早う起きぬと、瑠奈殿の話が聞けぬぞ」

    唯「るな…ん?なにっ!」

    若「痛っ!」

    急に飛び起きた唯の額が、覗き込んでいた若君の額と激突。

    唯「痛ぁい。たーくん、ごめぇん」

    若「いや、わしこそ済まなんだ」

    唯「それよりなに!新展開なの?!」

    若「近々、連れ立って遠乗りへ参るとの話じゃ」

    唯「うっそー!起きる起きる!あ、一気にお腹空いてきた」

    若「ハハッ」

    ようやく食卓に全員揃った。覚がおせち料理のお重を並べている中、尊が顛末を説明する。

    尊「まぁ、そんなところです」

    唯「ねぇねぇ、るなちゃんのコト、実は好きなんじゃないのぅ?」

    尊「嫌ではない。話しやすいし」

    唯「またまたー」

    尊「僕に興味を持ってくれている、という事柄に興味はあるけど」

    唯「なにそれ。わかりにくっ」

    尊「お姉ちゃんはわからなくてもいい」

    唯「なんだとー。るなちゃん、こんなヤツのドコがいいんだろ」

    若「これ、唯」

    尊「いいんですよ、兄さん。僕もそれが知りたいと思ってます。彼女に何が響いたのか」

    覚「惹かれ合うモノがあるんだろ。名は体を表すしな。ちょっと違うか?」

    美「名前が瑠奈ちゃんだもんねぇ」

    唯「名前?なんか関係あるの?」

    美「確か、月の女神よね」

    尊「そう。LUNAは、ローマ神話に出てくる月の女神だよ。ラテン語」

    唯「そうなの?!知らなかったぁ」

    ト「月に慕われる。尊様ならではと申しますか」

    源「それは必定ではございませぬか」

    若「出逢うべくして出逢うたようじゃの」

    尊「去年の4月からクラスは一緒ですけどね。何がどう転んだかわかりません」

    覚「そうかそうか。じゃあ、そろそろ昼飯にするか。尊の初デートを祝して」

    覚が、熱燗をいそいそと運んできた。

    美「どっちにしろ、飲むつもりだったんでしょ」

    覚「おせちって、いい塩梅にツマミになるしな。え、みんな飲まない?」

    若「いただきます」

    源「頂戴いたします」

    ト「わたくしもいただきます。唯様、尊様。よろしければ、雑煮をお作りしますが」

    唯「食べるー!」

    尊「僕も欲しいです。なんか急に、お腹空いてきました」

    ト「ふふっ。畏まりました」

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    次回ですが、少し時間を戻して、瑠奈はこの時どうしていたか?をお送りします。

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    四人の現代Days77~1日10時30分、誘惑わくわく

    寝ぼけて生返事、ではないと思う。
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    ここは尊の部屋。ようやく目覚めた尊が、パジャマのままベッドでゴロゴロしている。

    尊 心の声(あーやっぱり。ずっとブルブルしてたんだな)

    スマホを手にした。案の定、LINEをいくつか受信している。

    尊 心(グループの方は、新年の挨拶とかだな。あ、ミッキーさんから来てる)

    みつきの投稿『センセが神過ぎて瑠奈には勿体ないかもしれない。けど!瑠奈をなにとぞ、なにとぞよろしく~』

    尊 心(選挙の街宣?本人に頼まれてる訳じゃないよなぁ。きっとミッキーさんが、情に厚いヒトなんだろうな)

    グループLINEは、まだ寝ている者も多いようで、そこまで活発に投稿はされていない。

    尊 心(さて…)

    瑠奈からも届いているのだが、

    尊 心(怖っ、なんか大量に来てるんだけど)

    恐る恐る、中を開いてみると…

    尊「うわ、これか!メンドくせぇって」

    瑠奈の投稿『初詣に行ってたんだ』

    瑠 投稿『みつきだけズルい』

    瑠 投稿『私も神社に行けば良かった!そしたら尊に会えて超ハッピーだったのに』

    瑠 投稿『あんなに楽しそうな動画』

    瑠 投稿『私も撮りたかった(T_T。。)』

    瑠 投稿『あー尊と初詣いいなぁ』

    瑠 投稿『やっぱりみつきみたいにリーダーシップ発揮できる子の方がいいのかな遠慮してちゃダメかな』

    尊「速川って呼ばれてなかったっけ?いつの間にか名前に変わってるし」

    じっとスマホの画面を見つめる。

    尊 心(僕はからかわれてるのか?うーん。ちょっと…違いそうだな)

    さらに画面を見つめる。

    尊「わー!ダメだ、どう考えても、好意を持たれてるとしか読み取れない」

    尊 心(どうしよう)

    尊「恋愛マスターに聞くべきか。いや」

    尊 心(僕は、どうしたい?)

    尊「…」

    尊 心(ちょっと鬱陶しい感じもあるけど、そこまで…嫌じゃない)

    尊「…」

    尊 心(彼女がなぜ、僕にこんなに興味を持ってくれてるのか、という点はすごく気になる。知りたいと思う)

    尊「兄さんも、一歩踏み出す勇気は必要、って言ってたしな」

    尊 心(よし。思い切って行ってみるか)

    返事を書き始めた。

    尊 心(ちょっと、惑わす感じ?なんか、なんか楽しいぞ)

    完成。

    尊の投稿『そんなに言うのなら、どこかに連れてってください』

    尊 心(攻め過ぎかな。いいや、なるようになれ!)

    送信。

    尊「ふう。着替えよ」

    着替えて、またベッドに腰掛けた。

    尊 心(今年はどんな一年になるのやら)

    すると、返信あり。

    尊「さぁどう出た。ん?」

    瑠 投稿『今って電話してもいいかな』

    尊「あ、そういう事ね。いいよ、と」

    電話がかかってきた。

    尊「もしもし」

    瑠奈の電話『あ!あの、明けまして、おめでとう』

    尊「明けましておめでとうございます」

    瑠 電話『しゃべってても大丈夫?』

    尊「大丈夫です。自分の部屋に居るし」

    瑠 電話『そうなんだ。私も家のリビングに居るの。帰り、遅かったでしょ、眠くないの?』

    尊 心(なんとなく、家族が近くに居るっぽいけどいいのかな)

    尊「帰ってきたのは3時回ってたけど、一眠りしたから平気だよ」

    瑠 電話『あのぅ』

    尊「はい」

    瑠 電話『さっきの返事、本気にしてもいいのかな』

    尊「いいですよ」

    尊 心(なぜだろう、すんなりOKしてしまう自分にびっくり)

    瑠 電話『ホント?ホントに?!キャー!ねぇ、じゃあ学問の神様にお詣りしようよ』

    尊「ははは。いいですね」

    瑠 電話『いつ?いつが都合いい?』

    尊「瑠奈さんの都合のいい時で」

    瑠 電話『瑠奈さんじゃなくて…瑠奈、って呼んで欲しいな』

    尊「え?あ、そうなんだ」

    瑠 電話『私も尊って呼ぶから』

    尊「もう呼ばれてたけど」

    瑠 電話『はは…そうだよね。ごめんなさい。動画観てショックで、気持ちが高ぶり過ぎちゃってつい。心の中でずっと名前で呼んでたから』

    尊 心(ずっと。心の中で。えー!自分の事とはいえ、何でそんなに?もしかして僕、モテてる?!)

    少しぽーっとしていると、電話の向こうで話し声が聞こえた。

    瑠 電話『ごめんね。明日明後日でお兄ちゃんが家族連れて帰省するの忘れてたの。4日5日とかでどうかな』

    尊「なるほど。5日は僕も家族で出かけるから、4日ならいいかも。ちょっと親に予定確かめてくるから、待っててくれる?」

    急いで部屋を出て、階段を駆け下りていった。

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    続きます。

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    四人の現代Days76~1日7時、引き継ぎます

    ぷくぷくさん、始まりましたね。どんどん被せてください(^o^)
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    源トヨの案件が無事解決したからか、今日の若君はよく笑う。
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    遅く帰宅したにも関わらず、今朝も普段通りにリビングに下りてきた若君。

    若君「なんと。ここまで遅れをとっておったとは」

    キッチンにトヨが一人。庭では、既に源三郎が額に汗しながら朝稽古をしている。そして、

    覚「おはよう」

    美香子「おはよう、忠清くん」

    若「お早うございます。テレビ、ですか」

    ソファーに両親が並んで座っている。

    覚「テレビじゃないんだ。番組を録画しておいたのを、今観てる」

    美「なんでこんな時間からって思うわよね。実はゆうべ放送された歌番組でね、全部で四時間以上あるし、何よりすぐに観たかったの」

    若「四時間は…二刻。それは長い」

    画面には、紅白歌合戦。

    美「それでね、嬉しいことに、今朝はトヨちゃんがお雑煮作ってくれるって」

    若「ほぅ」

    覚「ありがたくお言葉に甘えさせてもらって、観てるんだよ」

    若「そうですか。では、番組、を存分に楽しんでくだされ」

    その場を離れた若君は、キッチンへ。

    トヨ「おはようございます。忠清様」

    若「お早うトヨ。昨夜はよう眠れたか?」

    ト「はい!」

    若「わしも支度を手伝おう」

    ト「痛み入ります。ですが、あとは餅を煮るのみでございますので」

    若「そうか。源三郎はずっと外に?」

    ト「わたくしが下りて参りましたら、既に庭に居りました」

    若「ハハ、それは精が出るのう」

    稽古を終えた若君と源三郎が戻ってくると、ちょうど雑煮が食卓に運ばれてきていた。

    覚「いやぁトヨちゃん、済まなかったね」

    美「まあ、いい香り!」

    ト「ここでお召し上がりになりますか?そのままご覧になれるよう、そちらまでお運びしますのに」

    覚「いいのいいの。こんな美味そうな雑煮、ビデオ観ながらなんて失礼だ」

    ト「青菜しか入っておりませんのに」

    すまし汁に、焼かない角餅とほうれん草のみの、いたってシンプルな雑煮。

    美「ただお願いしただけなのに、今の時代と、作り方や中身が変わらなくてびっくり」

    ト「そうなんですか?」

    覚「うん。雑煮って地域性があるからね。本当に、450年前にこの辺りに住んでいたんだなってわかるよ」

    ト「それは…受け継がれているんですね」

    若「トヨ、ご苦労であった」

    源三郎「おぉ、雑煮」

    美「あ、源三郎くんのだけ、お餅が1個多いの発見!」

    源「え?」

    ト「あっ!いえ、誰よりも早うから稽古に勤しんでいたので、さぞかし腹を空かせているかと、小さい餅をもう一つ…すみません!」

    美「当然よね」

    覚「そうだ。いくらでも差をつけてもらって」

    美「ラブラブはわかる形でいいのよ」

    ト「贔屓したつもりでは…」

    若「ハハハ」

    覚「さ、ではいただこうか」

    全員「いただきます!」

    美「…ん、ん~。かつお節のお出汁がとても効いてて美味しい!」

    若「美味い」

    美「どう?源三郎くん。もうすぐ妻、の手料理は」

    源「はっ、とても美味い、です」

    美「こんな腕利きのトヨちゃんが居なくなると、お城も大変ね、忠清くん」

    若「ハハ、かと言って、いつまでも城を下がれぬのも」

    ト「そのような。わたくしはいつになろうとも構いません」

    美「結婚するのは間違いないものね」

    源「はい」

    美「忠清くん、色々決めてあげてね」

    若「はい。祝言をいつにするかなども、勘案致します。良いな、源三郎、トヨ」

    源三郎&トヨ「はい」

    美「そうよね。唯のお世話係も代わるものね」

    覚「そうか。ひゃー、トヨちゃんの後任は大変だろうな」

    美「父がそれ言うか~」

    若「お母さん、わしもそう思うております」

    美「やっぱり?」

    ト「あの、でしたらそのお役目はずっとわたくしが」

    美「あらま。いいのよ、放っておいて。いかに世話が焼けるかわかるわ。不束な娘でごめんなさいね」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    三重県北勢地域のお雑煮を参考にしました。

    続きます。

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