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    続現代Days尊の進む道57~7月24日21時

    母の寛ぎ方が実家感満載。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕と入れ替わりで父が風呂へ。母はテレビをBGMにしてソファーで新聞を読んでいる。瑠奈は一人食卓でスマホを操作していた。

    僕「お待たせ」

    瑠奈「おかえり。ねぇ見て、みつきからめっちゃ写真来てて」

    僕「へぇ」

    今日、ミッキーさん達が出かけている観光地の風景写真だった。

    瑠「ちょっと助かる」

    僕「うん」

    瑠「でね、彼氏さんの出勤予定が決まったんだって。8月の7か8に海どう?って」

    僕「そうなんだ。多分その辺りだって聞いてたから、どちらでも大丈夫だよ」

    瑠「んー。なら、7日にしとく?土曜日」

    僕「了解しました」

    瑠「すぐLINEしとくね」

    ササッと入力。すると即返事が来たんだが、

    瑠「あ」

    僕「ん?」

    瑠「明日、お土産受け取るじゃない。その時彼氏さんを紹介してくれるって」

    僕「へぇ」

    瑠「新幹線で行ってるから一緒に小垣駅で降りるし、海行く前に一度は会わせときたいからって」

    僕「確かに。正解」

    瑠「私も話すのは初めてだから、源三郎さんやトヨさんと共通項あるかじっくり見ちゃいそう。楽しみだね」

    僕「うん」

    瑠「…まばたき、多くない?」

    僕「充分予測できた話なのに、何か緊張してきてさ」

    瑠「えー、今から~?」

    無論、楽しみですよ。

    僕「そういえば、明日の午前中に近場を散策したいって言ってたよね」

    瑠「うん」

    午後は両親と四人で出かける予定でして。

    僕「近所に神社があるんだ」

    瑠「神社?行く行く」

    僕「長ーい階段もあるんだけど」

    瑠「全然大丈夫だよ。旅行モードだからスニーカー履いてきたし」

    僕「そこ、実は足腰鍛えようと、時々上り下りしてた場所でさ」

    瑠「そうなの!すごーい。考えて行動してる」

    僕「戦国の道は平坦に非ず、適応できる体を作るべし」

    瑠「は?標語かなにか?」

    僕「お姉ちゃんが以前、兄さんを守るためには体力づくり!って、そこで走り込んでたんだ。真似しただけだよ」

    瑠「真似でも実践したんでしょ。お姫様抱っこの大成功の陰にそんな地道な努力があったんだね。たけるん偉ーい!」

    ずっとニコニコしていた瑠奈。突然フッと真顔になり体を寄せてきた。え、何?

    僕「どしたの」

    瑠奈の囁き「たけるん」

    僕の囁き「はい」

    瑠 囁き「今夜、一緒の部屋で寝ちゃダメなのかな」

    僕「…ええーっ!!」

    母が顔を上げ、チラッと僕を見る。

    美香子「尊~、急に大声出さない」

    僕「ごめんなさい」

    瑠奈さん!!

    瑠 囁き「だってね」

    僕 囁き「は、はい」

    瑠 囁き「泊めさせてもらうお部屋、お布団二組置いてあるんだよ」

    僕 囁き「うっそマジで?」

    そういえば今日、予備室には全く立ち入ってない。これは確かめねば。

    僕「ちょっと見させて」

    瑠「うん」

    二人、席を立った。

    美「もう寝る~?」

    僕「あ、いや、すぐ戻る」

    ヨロヨロしながら階段を上り、予備室のドアを開けた。

    僕「これは…どう捉えればいいんだ」

    瑠奈が使う布団は部屋の中央に置いてあるが、もう一組は隅に重ねてある。

    瑠「もしかして、お布団の置き場がないからこうしてある?」

    僕「いや、普段はちゃんと押し入れに入れてあるから外には出てない」

    瑠「じゃあわざわざ出したんじゃない。奥のは尊用じゃないの?」

    僕「ええぇ。聞いてないよ…。そうだ、これは、これはきっと親が仕組んだ罠に違いない。ダメだよ、こんなんハメられたらろくなコトないよ?」

    瑠「…」

    僕「瑠奈?」

    瑠「…私は、家族同然に扱ってもらえたんだ、って嬉しかったの」

    僕「…」

    明らかにガッカリしてる。不憫だ。そりゃあ僕だって一緒がいいよ。でもここで二人で一晩?それはやっぱり気が引けるし。どうしよう…

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、翌朝の様子からです。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道56~7月24日16時30分

    疑問の答え合わせもできて良かった。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    作業を終えて実験室を出る。

    瑠奈「眩しい!まだこんなに明るいなんてびっくり」

    僕「そうだね」

    リビングに戻り、瑠奈とアイスクリームを食べている。満月の日に甘味。思い出すなあ。

    僕「お姉ちゃんが2回目に飛んだ時さ」

    瑠「うん?」

    僕「行って戻る3分を、プリン食べながら待ってたんだ」

    ┅┅回想。平成29年6月9日夜。実験室に僕と、永禄に向かわんとする姉┅┅

    唯「じゃ、ちょっくら行ってくる」

    起動スイッチを軽い感じで引き抜く姉。

    僕「あっそんな無造作に」

    唯「そうだ、冷蔵庫にあるプリン食べないでね!3分後には戻るんだから!」

    消えていった。

    僕「わかってない。何にもわかってない」

    さて。あれだけ強く言い含めたから必ず次の満月で戻る…はず。プリン、取ってくるか。リビングでは両親がお茶を飲んでいた。

    美香子「あら尊」

    覚「唯、見なかったか?」

    僕「実験室に来てる」

    美「え?いつの間に」

    基本的に実験室にはリビングから出入りする。両親が姿を見ていないなら、玄関からそっと出たんだろうな。あんな大荷物、よく気付かれずに運べたモンだよ。

    覚「そこで何してるんだ?」

    僕「こっちが聞きたいよ」

    実の所は、愛しの若君様を助けに。だな。

    僕「プリン2つもらってくよ」

    覚「何だ、パシリやらされてるのか」

    僕「じゃんけんで負けてさ」

    ってコトにしといてください。実験室に戻るとすぐ、姉は無事戻ってきた。出世して。

    ┅┅回想終わり┅┅

    覚「あの頃はまだ、まさか戦国時代と行き来してるなんて露知らずで」

    瑠「そうだったんですね」

    美「3回目ね、なんか怪しいわと思って現場を押さえようとしたら、すんでのところで行かれちゃって」

    覚「尊がドアを開けてくれなくてな」

    僕「まぁ、あん時は」

    美「で、3分後に代わりに現れたのが、瀕死の忠清くんだったのよ!も~びっくりよ~」

    僕「丸投げにも程があるって話」

    瑠「おばさまの腕なら、必ず回復すると思われたからですよね」

    覚「そこまで熟慮はしてないな。治療できて勿論正解だったが」

    美「唯のする事だからね。まぁ、訳がわからなくても、目の前に患者が現れたから何とかしたわよ」

    その後も会話は弾んだ。

    僕「日記の解読の手伝いしてるって言ったら、兄さんすごく喜んでくれた」

    覚「尊がやらなくて誰がやる、ってモンだしな」

    僕「でさ、前来た時に作って渡した忠清シールだけど。日記に貼ってあって木村先生が怒ってた」

    美「はいはい。忠清くん、なんて言ってた?」

    僕「せっかくもらったから少し貼ってみようと思ったんだって。でもその頃から和紙とは相性悪くて、すぐ剥がれてきたから数回で止めたらしいよ」

    美「そうなの~」

    僕「木村先生を怒らせてしもうたのは済まなんだ、って」

    覚「結果そうなったが悪気はなかったんだ、仕方ない」

    美「ねぇ、赤井家の末裔がって話はできた?」

    瑠「はい。友人の彼なんですって伝えました。いろいろ詳しく聞かれたんですけど、今度は画面越しでもわかるような大きい写真用意しないといけませんね。できれば、撮らせてくださいってお願いして」

    美「会う予定はあるの?」

    瑠「四人で海に行きたいってずっと言われてるんですけど、彼氏さんの予定が未確定で」

    美「そうなの~」

    僕「トヨさんのマタニティダイアリーが残ってますよってのも伝えたよ。恥ずかしがってた」

    晩ごはんの時間になっても、その後もずっと話題が尽きない。隠し事なく共通の話題に溢れた四人の食卓、楽しい!はさみ揚げも一段と美味く感じたよ。

    美「瑠奈ちゃん。そろそろお風呂使って。案内するわ」

    母が瑠奈を促し、浴室に連れていく。

    瑠「湯船が大きい!洗い場も広いですね」

    美「男衆三人で入った事もあるのよ」

    瑠「すごーい」

    美「シャンプー、どれ使ってもらってもいいわよ」

    用途別とかで何本か並んでいた。その中に。

    瑠「あ、これ。お土産にも入ってましたね」

    美「唯専用でもないけど、かなり気に入ってたから。前に来た時使ったきりで、あと少し残ってるのよね。良かったら使っちゃって」

    瑠「え、でも」

    美「いいのよ~、消耗品だから。ね」

    風呂上がりの瑠奈は、ふんわりフルーティーなフローラルの香りに包まれていた。どことなく、懐かしかった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道55~7月24日16時3分

    例えるなら、水墨画で描かれたような。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    実験室が光る。

    覚「おっ」

    美香子「あらん」

    親の前ではやっぱ恥ずかしい。くっついて飛ぶ必要があるが故のお姫様抱っこなんだよ!と言い訳したいところ。

    美「忠清くんと唯が一緒だった時と同じ。尊、やるわね」

    覚「絵になってるぞ」

    僕「そうかな。ただいま」

    瑠奈「ただいま戻りました」

    覚「行って、画面越しにしゃべって、帰ってもこっちでは3分だからな。あっという間だ」

    美「瑠奈ちゃん、大丈夫だった?」

    瑠「大丈夫…でした」

    美「言い澱んでるわね」

    覚「何かあったのか?尊」

    僕「ちょっとびっくりしただけだよね」

    瑠「うん」

    覚「そうか。ん?」

    美「何の匂い?」

    両親が鼻をクンクンさせている。

    美「お香かしら」

    僕「長居したからさすがに匂いがついたかも。そうそう、蚊取り線香入っててすごく喜んでたよ」

    覚「そうかそうか」

    僕「で、6回おきに繋ぐ事になった。大方の予想通り」

    美「時間は?」

    僕「夜9時。兄さんが、8時ではお母さんにゆとりがないからって」

    美「その気遣いが有難いわ」

    覚「となると次回は」

    瑠奈が作った早見表を取り出した両親。

    美「来年の1月18日ね。鬼が笑う話だけど、火曜なら休み前日だし、芳江さんとエリさんに同席してもらえるよう伝えておくわ」

    僕「お願いします。画面って、ちゃんと見えてた?」

    美「バッチリよ」

    覚「さすがの高感度カメラだな」

    僕「良かった。ちょっと手こずったけど取り換えて正解だった」

    録画の状態を確認する。

    僕「いい感じ。じゃあ、決めた日にちと時間で動くよう設定するよ」

    美「今から?」

    僕「うん。やっとく。すぐだし」

    覚「瑠奈ちゃんはどうする?」

    瑠「ここで手伝います」

    覚「そうか。じゃあ、終わったら皆でアイスクリーム食べような」

    僕「さっきもアイス推してなかった?」

    美「今日のためにって、お父さんがいっぱい買い込んでるのよ~」

    覚「瑠奈ちゃんのお好みで選んで貰おうと思ってな」

    瑠「そんな、すみません」

    僕「ははは」

    笑いながら両親を見送る。さて、作業しますか。

    瑠「たけるん」

    僕「ん?」

    瑠「さっきはごめんね。大声出しちゃって」

    僕「謝らなくていいよ。僕こそごめんなさいだし」

    瑠「どうして?」

    僕「結果、兄さんとお姉ちゃんに助けられたから僕は何もしてない」

    瑠「ちゃんと守ってたよ?」

    僕「ううん。必ず、とか威勢よく宣言したのにさ。情けないよ」

    瑠「そんなコトない。とっさに肩を抱かれて伏せた時、たけるん頼れるぅってドキドキしてたんだよ」

    僕「それは…怖がる瑠奈をなんとかしないとって思ったから」

    瑠「いつでも抱き寄せてくれていいからね」

    僕「うっ。今後の検討課題とします…」

    瑠「ふふっ。あの時のお兄さんね」

    僕「うん?」

    瑠「怖かった。目の前に居たおじさまおばさまが消えてすぐ現れたのがあの姿だったから」

    僕「夜とは言え、あそこまで暗いのは想定外だったんだよ。ごめんね」

    瑠「ううん。怖いプラス、この世のものとは思えないほど凄みがある美しさだった。荘厳美麗と言うか」

    僕「あー。兄さんにはぴったりな言い回し」

    瑠「端整な顔立ちに、黒髪と白いお着物が映えて。でも刀がキラッと光ったから驚いて、思わず叫んじゃったの」

    僕「変な姉ですいません」

    瑠「変って。でもたけるんもある意味変人だよね。タイムマシンをひょいひょい造っちゃう思考回路とか」

    僕「それって褒められてるのかな。似てると思った?」

    瑠「顔はそこまで似てないかも」

    僕「あそこまでの行動力もないし。でも兄さんには、お前は唯にそっくりじゃって言われた。初めて一人で飛んできた時に」

    瑠「ふーん」

    僕「そういえば、どの辺が似てるかとは聞き返してないな」

    瑠「お兄さん、その頃にはお姉さんにかなり惹かれてたんだ」

    僕「それは言ってた。客観的に見てもそう思う?」

    瑠「だってお姉さん、出会った当初は足軽としてずっと追いかけてばかりだったんでしょ。一緒に居た時間なんて短かったはず。すごく印象に残ってたからこそじゃない?」

    僕「そうだね。赤い糸は、時空を超えて結ばれていたと」

    瑠「え。 急にロマンチックモード?」

    あのセリフは、今だな。

    僕「タイムマシン造るくらいだから超ロマンチストだよ、知らないの?」

    瑠「あはは。うん、知ってた」

    彼女と秘密を共有できるってこんなに幸せなんだ。笑って話せる日、ようやく訪れました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道54~7月24日16時その6

    そこは褒めてあげようよ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    兄さんが口を開いた。

    若君「その願い、叶えてしんぜよう」

    瑠奈「えっ」

    僕「いいんですか?小平太さんとか見回りしてますよね?」

    若「わしも、夜空を見ながら話がしとうての。唯」

    唯「はい」

    若「庭へ出るぞ」

    唯「はーい」

    外に出て、辺りの様子を窺う二人。

    唯「今んトコ、人影はナシっす」

    若「わしと唯が目を光らせる。尊、瑠奈殿。出られよ」

    促されるまま縁側に出て、二人並んで座った。見上げた空は…

    僕「す、すごい」

    瑠「…」

    やや低い位置に浮かぶ満月。永禄でも美しかった。でもそれより!星の数ったらない!漆黒の空を覆う、強く弱く瞬く光。吸い込まれそうな美しさに目を奪われ心が震える。

    唯「尊、口開いてる」

    僕「失礼しました。あまりの光景につい」

    瑠奈は感極まっている。

    瑠「想像してた以上にすごく、すごく綺麗…。見せてくださって、ありがとうございます」

    若「礼には及ばぬ」

    僕「見られて良かった。提案してくれてありがとう、瑠奈」

    瑠「うん、うん」

    若「尊」

    僕「はい」

    若「永禄の夜空は月、星、雲、鳥」

    僕「いいじゃないですか」

    若「今も時折、令和の夜空を思い出しての」

    僕「星はこんなに見えないし…特にコレ、ってありましたっけ」

    若「つい、飛行機やあの船が浮かんでおらぬか探してしまうのじゃ」

    僕「あー」

    ┅┅回想。2019年8月8日19時40分。姉と兄さんの三人で花火大会観覧中┅┅

    19時30分に花火がスタート。上空に打ち上がってからの地上での仕掛け花火だったりで、時々空に花がなく暗闇になる瞬間があるのだが、

    若「尊。動く星があるのか?」

    僕「動く?飛行機じゃないですかね」

    唯「たーくんどれのコト言ってるの」

    若「月を舐めるように、あの」

    兄さんが指差すがよく見えない。気を付けて観察していたら、西から南に抜けてゆっくりと動きながら光る物体が確認できた。

    僕「兄さんよく気付きましたね」

    若「フフ」

    唯「もしかしてUFO~?」

    僕「いや、違う。飛行機でもない。多分…」

    若「空港、で見た巨大な鳥ではない、別の鳥なのか?」

    僕「はい。後で軌道を調べますけど、あれは鳥と言うよりは船ですね」

    若「船?」

    ┅┅回想終わり┅┅

    僕「兄さんが以前、ISS見つけてさ」

    瑠「国際宇宙ステーション?夜だと見えるって聞くもんね。そうなんだ」

    若「人を乗せた鳥や船が、空や宇宙なる場に行き交う。永禄では夢物語じゃが令和では日常であった。思い起こすだけで心が踊る」

    唯「今、なんか飛んでたらウケるよね」

    僕「何が飛ぶんだよ。癇癪起こしたお姉ちゃんが投げる枕くらいでしょ」

    唯「なんだとー」

    皆で笑う。部屋の中の源三郎さん達も。そしてしばらくすると、フッ、と静寂に包まれた。

    僕「そろそろ、帰り、ます」

    若「うむ」

    名残惜しいのは僕らも同じだけど。実は旅立つ時に自分の中でもう一つミッションがあったんだ。いよいよ実行だ。兄さん達、喜んでくれるかな…。

    僕「工具、ライト、よし」

    持ち帰る物を指差し確認。手提げ袋に入れる。

    僕「こんな深夜まで付き合わせてすいませんでした」

    瑠「とてもいい経験になりました。ありがとうございました」

    若「再び参られるのを心待ちに致す」

    唯「まずは半年後ねー」

    里芳「あー、あー」

    トヨ「あら、機嫌が宜しくて」

    里芳ちゃんが手足をバタバタさせている。

    瑠「またね、里芳ちゃん」

    源三郎「どうぞ、手を取ってやってください」

    瑠奈が小さい手をキュッと握ると、

    瑠「握りかえしてくれた」

    僕「かわいいね。いつもこんな感じなんですか?」

    ト「いえ、合わない御仁はいらっしゃいます」

    僕「じゃあ、気に入られたんだ」

    お別れの挨拶も終わった。手提げ袋を瑠奈が抱える。

    唯「アンタなに女子に持たせてんの…あっ」

    そして彼女をひょいと抱き上げた僕。そう!

    唯「お姫様抱っこ!」

    源「おぉ」

    ト「まぁ」

    兄さんが微笑みながら頷いている。あぁ、その表情を見られただけで、練習した甲斐有り!

    僕「それでは失礼します」

    瑠奈がネオ1号を抜き、僕らは消えていった。

    唯「…」

    若「いかがした。感慨にふけっておるのか?」

    唯「尊がさ、いちいちカッコ良かった」

    若「一々。…何ゆえ褒めてやらなんだ」

    唯「つけあがるから」

    ト「んまっ」

    源「フフ…あ、いや、とんだご無礼を」

    若「言動が変わってなさ過ぎ、か」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    空港の話は平成Days47no.522にて。花火大会は令和Days63no.669です。

    永禄の面々は一旦ここまで。24日のお話は続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道53~7月24日16時その5

    フリータイムが後回しになりました。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕「実は今後のために、二つ決めるべき儀がありまして」

    若君「申してみよ」

    僕「一つはどの位の日にちの間隔で繋ぐか。話すには双方同時に機械の前に居ないといけませんから、いつ動かすか、こちらの機械にもあらかじめ設定が必要なんです」

    唯「動いても満月の日でしょ?毎月でいいじゃん」

    僕「満月毎だと充電が追いつかないよ。そうだな、話せて…20秒?」

    唯「秒!」

    僕「3か月か半年が妥当。実際には3回後と6回後の満月の日だけど。期間の長さが話せる長さなんで、3か月だと最長1分で半年だと2分。でも一年空いても2分。その理由はさっき言った通りです」

    若「そうか。あとは?」

    僕「今日は特別仕様なんで令和とここの時間帯が違ってても通信できるようにしましたが、今後は同じ時間に起動させるんで、その点も擦り合わせしたいです」

    顎に手を当て、考えている兄さん。

    若「時間であるが、亥の初刻はいかがじゃ。令和で申すと…午後九時」

    唯「へー。その心は?」

    若「お母さんの院は戌の初刻迄じゃが延びる日もある。戌の正刻では気も急くであろう」

    僕の囁き「7時と8時」

    瑠奈の囁き「ありがとう」

    唯「確かにねー」

    若「日の空きはいかが致す」

    唯「半年じゃなーい?だって1分は短過ぎるしさあ」

    若「うむ。半年毎の午後九時。源三郎とトヨも良いか?その折には、今宵程遅うはないが居て貰いたいゆえ。できれば娘御も」

    源三郎「はっ。心得ました」

    トヨ「はい。仰せのままに」

    僕「わかりました。今から設定しますね。瑠奈、悪いけど」

    瑠奈「うん」

    里芳ちゃんをトヨさんに返した瑠奈。ダンボール箱から封筒を取り出すと、中を確認して書類を差し出した。

    瑠「令和と永禄の満月の日がわかる、暦と言いますか表を作りました。どうぞ」

    若「それは忝ない」

    唯「へー、日付がいっぱい。1、2…6回目が黄色くなってる」

    若「次に話せる日に色がついておると。有り難く頂戴致す」

    唯「え、6回目って予言してた?」

    瑠「3回毎のも持ってきたんですけど、こちらに決まったので」

    唯「そっか。これ、るなちゃんが作ったよね」

    瑠「はい」

    唯「やっぱり。月の絵とか入っててかわゆいもん。すごいね、10年分くらいありそう」

    瑠「次にこちらに来るのはそんなに先ではないんですけど、パズルみたいで楽しくて、いっぱい作っちゃいました」

    僕「うぇっ」

    若「ほう」

    唯「ん?」

    若「わからぬか。瑠奈殿の存念」

    唯「わからぬ」

    若「先ではない、と。ないと思う、ではなく」

    僕「ちょ、ちょっと、ダメだよ瑠奈、まだ3号は完成までほど遠いのに断定しちゃ」

    瑠「5人以上乗れて、且つ今日みたいにすぐ行き帰りができる物を造ります」

    僕「ハードル上げた!!」

    瑠「尊は不可能を可能にできるもん」

    僕「買いかぶり過ぎだって」

    瑠「自信ないの?」

    僕「自信…」

    そうだ。過去の自分とオサラバしたんだ。

    僕「なくない。ある。大いにある」

    瑠「でしょ」

    若「尊」

    僕「はい」

    若「よくぞ申した。武士じゃの」

    もののふだって!やったー!

    唯「ねーねー、実は目の前に居るのって、尊に似た別人じゃない?」

    ト「また訳のわからぬ」

    厳しめな口調と、里芳ちゃんの背中をトントンしてる姿の対比がトヨさんらしい。

    唯「ちょいとごめんよ」

    僕「ひゃあ!」

    急にペタペタ体を触られてびっくり。

    唯「えー」

    僕「何だよ」

    唯「ヒョロヒョロしてない尊は尊じゃない」

    僕「どんな言い草?」

    源「尊殿。鍛錬なされたのですね」

    ト「とても逞しくなられて」

    僕「そうですか?」

    若「ようやった」

    僕「へへっ」

    その後はようやく全員で歓談。と言いつつ僕の近況に皆興味津々で質問攻めにあっている。大学、車の購入、アルバイト、そして日記の解読と枚挙に暇がないのは確かなんだけど。こうして考えてみると、この一年半、中身が濃い充実した生活を送れていたんだな。…時間を忘れて楽しく話し込んでいたけど、どこかで区切りをつけなければならなくて。

    僕「あの。皆さん明日も早いですよね。お姉ちゃんはともかく」

    唯「ともかくは余分」

    源「早いは早いですが」

    若「苦にはならぬ。だがいつまでも引き留めてもおけぬしの」

    唯「そろそろ帰る?」

    僕「そうだね」

    ト「お名残惜しい」

    瑠奈が何か言いたそうにしている。

    僕「どうしたの」

    瑠「ううん、何でもない」

    僕「遠慮なんて要らないよ?」

    瑠「でも」

    唯「言っときなよ。後悔しないように」

    若「瑠奈殿。なんなりと」

    瑠「はい。あの…夜空、永禄の満月が見られたらいいな、って…」

    唯「あー」

    若「空、か」

    僕「でも外にはフラフラ出られないよ」

    瑠「だよね。ごめんなさい」

    若「…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道52~7月24日16時その4

    瑠奈ちゃん、甥っ子居るし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    4号withおもナビくんを、運んできたダンボール箱に乗せてセッティング完了。

    僕「あと一つだけ重要な事言わせてください。話せる時間は2分間です。画面右上にタイマーが出ますから、それが0になったら自動で切れますので」

    唯「ほぇー。短くない?」

    僕「言うと思ったけどさ」

    若君「良い。手を尽くして尚、であろう?」

    僕「そうです。ありがとう兄さん。では、皆さんお待たせしました。どなたかボタンを押してください」

    誰も動かない。

    僕「珍しい。てっきりお姉ちゃんがしゃしゃり出てくると思ってた」

    唯「私は遠慮を知っている」

    僕「小さい頃、路線バスの降車ボタンを降りるバス停じゃなくても押したがって、止めるのが大変で迷惑だったのに」

    唯「アンタさっきから一言多いよ」

    僕「はいはい。では兄さん、お願いします」

    若「うむ。いつまでもお父さんお母さんを待たせてはならぬゆえ」

    僕「それは心配ご無用で、全然待ってないんですよ。いつこちらで押されても、僕達が飛んだ30秒後に繋がる設定なんで」

    若「そうか。よう考えられておるのう」

    源三郎「最早何が何やら…おっ」

    トヨ「起きたわね」

    唯「グッドタイミング。なんていい子なの~」

    若君がスイッチをONにした。そして…

    美香子『もしもし?』

    覚『何か見えてきたぞ?』

    唯「すごい!映った映った!」

    よっしゃ!

    唯「お父さーん、お母さーん、久しぶり~!」

    若「久方振りでございます」

    覚『おー、唯!忠清くん!』

    美『元気そうね~』

    若「はい。お父さんお母さんもお変わりなく」

    源三郎さんとトヨさん。二人とも会釈はしているが、言葉が出ない様子。

    僕「大丈夫ですか。時間はあっという間ですよ」

    源「感無量でございまして」

    ト「胸が一杯です」

    美『ちょっとちょっと源三郎くん!抱えてるのはもしかして』

    里芳ちゃんの顔がよく見えるように、体を傾けた源三郎さん。

    源「お父さんお母さんに披露出来るなど最上の喜びにございます。長女、里芳と申します」

    覚『そうかそうか…うんうん、良かったな』

    源三郎&トヨ「はい」

    美『りほうちゃん、なんて可愛らしいの!涼しげな目元が親譲りね~』

    画面越しに里芳ちゃんをあやそうとしてる両親に、源三郎さんトヨさんも笑顔になった。…あ。そういえばお姉ちゃん達にはまだ…なんだよね?聞いてもいないし僕が振るような話題でもないし。実は来る前に両親も、もしまだだったとしてもあえて聞かずにおくって言ってたんだ。催促されるのは辛いだろうからってね。

    唯「あのさ、私、言いたいコトがある」

    何?その声に、サッと下がった源三郎さん達。身を乗り出す姉。兄さんも少し前に出た。

    覚『何だ唯』

    美『どうしたの』

    唯「たぶん、なんだけど…お腹に赤ちゃんが来てくれた気がするの。やっと」

    美『そうなの?!』

    唯「なんとなくだけど…」

    美『今までとは違う感じ?』

    唯「うん。まだわかんないけど、せっかく今日しゃべれるから、伝えとこうって思って」

    覚『そうか。うん、また、教えてくれ』

    兄さんがコクリと頷いている。そうなんだ…イカン、感慨に浸ってる場合じゃない。もう残り10秒!

    僕「全員見えてる?」

    覚『見えてるぞ。よく見える』

    美『今日は遅い時間にありがとう。また会いましょうね』

    唯「バイバーイ!はい、みんな手振って!」

    僕も瑠奈も手を振る中、最後兄さんが深く一礼して、通信はプツッと切れた。

    僕「お疲れ様でした」

    安堵の空気が流れる中、

    唯「あー!言い忘れた!」

    僕「びっくりした!何…さっきの話?」

    唯「ううん、里芳ちゃんの誕生日の話。時間なかったからー」

    僕「仕方ないんだよ。話せる時間は、今後も長くて2分間なんだ」

    若「以後は短うなると」

    唯「そーなの!次はどのくらいしゃべれる?」

    僕「充電状況によりけり。今日は4号フル充電してあるけど、今後はここで太陽電池使って充電してもらわないといけないから」

    唯「どうして2分なのよ。今まで、なんでも3分だったのに」

    僕「長く繋げとくのも考え物でさ。人が動く訳じゃないけど、安全に使えるのも2分までなんだよ。だから堪忍して」

    唯「ふーん」

    若「あいわかった」

    ト「尊様。里芳の話はわたくしからさせていただきます」

    僕「そうですね。それが正解」

    ト「ですがその前に。源ちゃん、瑠奈様に里芳を抱いていただいたら?」

    源「そうだな。是非お願いします」

    瑠奈「え、いいんですか?わぁ、嬉しい!」

    ト「先程からずっとあやしてくださって」

    確かに。僕が説明してる間、兄さんの肩越しにその様子は見えていた。抱っこ紐を外した源三郎さん。里芳ちゃんは瑠奈の胸元に。

    瑠「かわいい…」

    瑠奈の未来の姿みたい?僕との…なーんて!

    唯「私が抱っこした時よりもるなちゃん上手だな。里芳ちゃんも気持ちよさそう。これは…もしやバストの大きさの違い?!大丈夫か私!」

    ト「言えなくもないですが」

    唯「ガーン!」

    ト「些細な事。心配なさらずとも、唯様は良き母親になられます」

    唯「そお?」

    若「トヨの申す通りじゃ。案ずるな」

    唯「はぁい」

    ト「では尊様。尊様?」

    妄想で顔がだらーんとニヤケていた僕。お恥ずかしい所をお見せしました。

    僕「はい、すみません。どうぞ」

    ト「里芳は、昨年十一月二十二日に生まれております」

    僕「あれ?その日って」

    ト「そうです。わたくし共が令和に伺い、帰って参った日の丁度一年後でした」

    僕「なんか、縁ですね」

    ト「はい」

    源「まことに」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道51~7月24日16時その3

    一針一針丁寧に仕上げてありそう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    泣き声?が近付いてきていた。

    瑠奈「赤ちゃんが居るのかな」

    僕「…って事、は!」

    思わず手を止め顔を上げた。兄さんが障子を開け、ササッと客人を招き入れる。現れたのは、源三郎さん、トヨさん、そしてグズっている赤ちゃん!

    源三郎「やはり尊殿でしたか」

    トヨ「まぁ!瑠奈様も共に」

    僕「お久しぶりです。お元気そうで。源三郎さん、よくお似合いです。戦国時代では絶対見ないであろういでたちだけど」

    源「両手が空きつつも子の顔が見られ、気に入っております」

    僕「もしかして、お手製?」

    ト「はい。わたくしが拵えました」

    トヨさんは身軽な状態。赤ちゃんは源三郎さんが…なんだけど、なんと抱っこ紐を使ってるんだ!袴姿との取り合わせが斬新!

    源「三人で馬に乗るとなれば、この形が最良でしたので」

    ト「令和に居ります頃によう見かけ、使い勝手が良さそうと常々思うておりましたので、見よう見まねで作りました。普段はわたくしが使っておりますが」

    僕「さすがトヨさん、何でも吸収してる」

    赤ちゃんは眠ったようだ。

    若君「源三郎。子の名と、その由来も語るが良い」

    源「はっ」

    僕「聞きたい!お願いします」

    源「尊殿瑠奈殿にお目にかかれ、光栄にございます。赤井家長女、りほう、と申します」

    僕「りほう。どんな字を書くんですか?」

    源三郎さんとトヨさんが顔を見合わせた。

    ト「それは、わたくしからお話し致します」

    僕「はい」

    ト「令和では、勿論、速川のお父さんとお母さんにも大変お世話になりましたが、エリさん芳江さんのお二方にもとても良くしていただきまして」

    僕「令和の母達ですね」

    ト「はい。朝のコーヒータイムにお会いできるのが楽しみで。そこで、いつか子を成し、おなごであったならば、お二方の名から是非拝借したいと望んでおりました」

    僕「あー、だから一文字ずつ?…あれ、違う。エリさん名前カタカナだ」

    ト「黒羽の里は住み心地もようございました。ですのでエリさんのリは里を当てさせていただき、芳江さんの芳をいただいて」

    僕「里芳、なんですね。素敵な名前!二人とも絶対喜ぶと思う!今日は話せませんけど、次回は参加してもらえるといいなと思います。じゃあごめんなさい、作業続けますね」

    唯「はいはい」

    源「話す?」

    ト「参加?」

    若「子細は聞いてはおらぬのじゃ」

    夜の作業だから手元がどうしても暗くなり、シミュレーション程はかどらず、慎重を期している。

    源「これはまた手捌きも細やかな」

    若「うむ」

    傍で見ていた兄さんも興味がありそうな源三郎さんもそんな状況を察し、少し離れてくれていた。時間かかって申し訳ないな。来てすぐトラブっちゃったのもあり、よもやま話でさえ全然できてないし。でも集中!頑張れ尊!

    唯の囁き「言っといた方がいいと思う?」

    若君の囁き「はっきりとわかってはおらぬが」

    唯 囁き「でも直接話せるならさ」

    若 囁き「そうじゃな…」

    よし、通信状態もOK!

    僕「お待たせしました」

    その声に、四人がわらわらと集まってきた。

    僕「では仕組みを説明します」

    唯「えー、いらなーい」

    僕「は?」

    唯「今から何が始まるかだけ教えてよ」

    僕「それでいいの?」

    唯「どうせ難しい用語とかばっかだもん」

    僕「どうせって何だよ」

    唯「言われてもわかんないしー」

    僕「それ、わからないのはお姉ちゃんだけじゃないの?他の皆さんは理解できると思う。賢いから」

    唯「言ったな?」

    僕「なんつーか言動がさ、変わってなさ過ぎなんだよな。少しは成長したらどうなの?」

    唯「あーうるさいうるさい」

    僕「兄さん、どう思います?…兄さん?」

    若「ん?あぁ」

    唯「たーくんなに笑ってんのよ」

    若「ハハ、二人の話しぶり、懐かしいと思うての」

    周りを見ると、源三郎さんもトヨさんも瑠奈さえも、微笑ましいな~と言いたげな表情をしていた。

    僕「速川劇場でしたか。失礼しました」

    若「尊。この4号、は仕組みがわからぬと扱えぬか?」

    僕「いえ、それは大丈夫です」

    若「ならば、何が起こるかのみで良い」

    僕「わかりました。今、令和では両親がパソコンの前で待ち構えています。このボタンを押すと通信…繋がって、画面に画像が出ます。向こうにも、こちらの様子が映し出されるんです。同時にです」

    若「姿が見られるだけでのうて、お父さんお母さんと話が出来ると」

    僕「はい。目の前に居るかのようにです」

    源三郎さんとトヨさんがしきりに頷いている。

    唯「びっくりじゃなーい?どう、源三郎」

    源「尊殿には感心しきりでございます」

    唯「トヨは?」

    ト「そこまでは驚きません」

    唯「へぇ」

    ト「尊様に出来ぬ事などございませんので」

    僕「いや、それは褒め過…」

    瑠「ですよね、トヨさん!私も同感です!」

    僕「突如参入してるし」

    ようやく緊張がほぐれたんだ。一安心。

    ト「瑠奈様も間近でご覧になり、そうお感じになられているのですね」

    瑠「はい。尊は天才ですから」

    唯「なんか女子二人で盛り上がってる」

    若「フフ。瑠奈殿が笑うてくれて何よりじゃ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道50~7月24日16時その2

    今回のタッパーは密閉度がかなり高い。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君「ところで小平太。丁度良い」

    小平太「はっ?」

    若「赤井の屋敷に使いを出せ」

    これぞ渡りに船!災い転じて福となす。

    小「急ぎ、でございますか?」

    若「左様。そしてこう伝えよ。明晩は満月、とな」

    小「口伝えのみ…?は、はっ。直ちに」

    かなり困惑してるのが声色でわかる。小平太さんの足音が消えてもしばらく伏せたままで待っていると、布団がめくられた。

    僕「明るくなってる」

    燭台が灯っていた。ここでようやく僕達は立ち上がった。

    僕「改めまして。二人で参りました」

    瑠奈「こんばんは…あの、叫んでしまってすみませんでした」

    若「いや、怖がらせてしもうたのはわしの落ち度じゃ。済まなんだの」

    唯「まっ、なんとか済んだし」

    僕「兄さんもお姉ちゃんもありがとう」

    姉がじーっと僕の頭を見ている。

    唯「あんた、パーマかけてんの?」

    僕「前髪だけね」

    唯「校則違反!」

    僕「いつまで高校生やらせる気だよ」

    唯「あ、そっか。あとなーんか違うような」

    若「眼鏡ではなかろうか」

    唯「ホントだ。じゃあさ!実はもう25歳とかになってたりすんの?」

    僕「どんな理屈でそうなる。なってないよ。僕達は令和3年7月24日から来た。そして今日は永禄六年七月五日でしょ?」

    若「互いに一年と半年近く経っておると」

    僕「はい。同じだけ時間が進んでます」

    若「そうか。時空の歪みとやらは?」

    僕「以前程心配しなくても大丈夫です」

    置いてある木刀が気になって仕方がない。チラチラ見ていたら、兄さんが気付いて持たせてくれた。

    僕「何か光ると思ったら。これ、銀紙?」

    唯「前に折り紙いっぱい持ってったじゃない。でさ、金紙と銀紙は鶴折るだけだとなーんかつまんなくって。で、ペタペタっと」

    僕「貼ったの?…兄さん、いいんですか」

    若「気付いた折には既にこの姿」

    僕「ゲ」

    唯「本物っぽくなーい?」

    僕「子供じゃあるまいし…」

    唯「金紙は何に使おっかなー」

    こんなズレた会話も懐かしいけど、あい変わらず過ぎてかえってどうかと思う。

    僕「お二人、暗号みたいな呼び出しに気付いてくれますかね」

    唯「大丈夫じゃなーい?」

    若「尊は夜更けに参ると知っておるしの」

    僕「確かに」

    若「しばし待たれよ。今宵も、日を跨いだら直ちに戻るのか?」

    僕「先の世は本日土曜日でして。だから前に来た時ほど、急いで帰らなくて大丈夫です」

    若「明日は日曜か。良きタイミング、じゃ」

    僕「あはは。はい」

    唯「ねぇ、このデカいダンボール、なに入ってんのー?」

    僕「ちょっと待って。見せる前に、今日来た理由を説明させて欲しいんだけど」

    唯「えー、気になるー」

    若「申せ」

    僕「はい。まず大前提の質問から。おもナビくんって、まだちゃんと動いてます?」

    若「しばしば、使っておるぞ」

    唯「マメに充電してるし」

    僕「良かった。すぐ出せる所にあるかな」

    唯「うん。定期点検のサービス?」

    棚の扉が開いた。幸いな事にGは飛び出ず、おもナビくんが登場。持参したライトを瑠奈に当ててもらい、簡単に動作確認。

    僕「よし、問題なし。兄さん」

    若「ん?」

    僕「約束した五人乗りのタイムマシンではないけれど、一つ完成したので運んできました。通称4号です」

    若「ほう…」

    僕「この元々あるおもナビくんに接続して、永禄と令和を繋ぎます」

    若「繋ぐ、とは如何に」

    僕「通話します。画像を見ながら話ができるんです」

    唯「マジでぇ?!」

    若「まことか」

    僕「約束した方…3号って呼んでますが、そっちはまだ出来てなくて。許してください」

    若「何を申す。許すも許さぬもない」

    僕「3号も平行して考えてはいたんですが、4号を優先したので」

    若「尊の意のままで良い」

    僕「すみません。約束した手前、兄さんには直接謝りたいと思ってたんです」

    若「気に病まんで良い。これからも無理はせぬよう」

    僕「ありがとう。では、4号を今から組み立てます」

    若「うむ」

    ダンボール箱から土産を出しつつ、機械や工具を準備。さぁ、やるぞ。

    唯「あ、はさみ揚げ!やっぱりあったんだ。全然匂わないからわかんなかった」

    若「赤井の家とで二包みか」

    唯「アツアツだよ!食べたーい!…フタが開かないよぅ」

    若「タッパー、がまだ食すでないと申しておるのであろう」

    唯「申してない!たーくんだって食べたいでしょっ。ねぇ、開けてぇ」

    若「どれ。ほれ」

    唯「やったー。うわ、一気に揚げ物臭」

    二人を横目に、黙々と作業を進める僕達。

    若「実に手際が良いの」

    僕「練習してきたんで」

    若「瑠奈殿も共にか」

    瑠「はい」

    唯「あ!シャンプーが入ってる!しかもポンプ式!在庫もうなくってさ~助かるぅ。見て見てたーくん!」

    若「ん」

    唯「って見てないし」

    兄さんは僕達の手元に釘付けになっている。

    唯「こういうトコ、男子だよねぇ」

    外が何やら騒がしい。

    若「連れて参ったようじゃな」

    唯「だろうとは思った」

    僕「?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    シャンプー。商品名はBiloral、天然アミノ酸系美容液配合、ふんわりフルーティーなフローラルの香り。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道49~7月24日16時(永禄六年七月五日子の初刻)

    カマアイナ様。いつもご声援ありがとうございます。
    お話がスタートして半年。ようやくここまで辿り着きました。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    格好のエサ場と化していたとは。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ここは永禄、お姉ちゃんの居室で夫婦が眠っている。すると、建具がカタカタ言い出した。

    若君「…ん?」

    目覚める兄さん。続いて屋敷がガタガタと揺れ出した。

    若「これは。満月…は明日。尊か!唯、起きよ、唯!」

    唯「すー。くか~」

    若「びくともせぬ」

    思ったより揺れが長く大きい。

    若「これは危なかろう」

    急いで立ち上がり、燭台のロウソクの火を消した兄さん。すると暗闇の中、部屋の隅に何やら黒っぽくて大きな塊が見えてきた。

    若「高さがない。尊に非ずと?」

    用心のために置いてあった木刀を手にした。この木刀、なぜか変な加工がしてあり、それがこの後の騒動の元にもなるんだけど…。身構える兄さんの前に、僕と瑠奈が現れた。

    若「おぉ、屈んでおったのか」

    僕「うわ、暗っ」

    瑠奈「…」

    実験室自体あまり光が入らない造りだけど、それでも日が高い時間から飛んできたから、目が慣れてこない。

    若「尊。瑠奈殿も。よう、参られた」

    僕「兄さん!」

    僅かな月明かりのみでほぼ真っ暗な居室。目の前の兄さんの着物は真っ白。そして手には木刀…なんだけど、少し光っているように見える。

    僕「無事着いて良かったね、瑠奈。…瑠奈?」

    その様子に、真っ先に気遣ってあげなければならなかったと後悔した。声も出ない程怯えていたんだ。

    僕「大丈夫、大丈夫だよ瑠奈」

    若「瑠奈殿。いかがした?」

    兄さんが一歩こちらに踏み出した。すると、

    瑠「キャアアアアァ!!」

    唯「ひゃあ!」

    大声で叫んでしまったのだ!その声に、寝ていた姉もさすがに飛び起きた。わわわ、どうしよう!警固の人が来ちゃう!

    唯「真夜中になに…え、誰?うーわ、尊じゃん!来たんだ!と、えっとぉ」

    若「瑠奈殿じゃ」

    唯「そーそー、るなちゃん。どしたの?騒いでなかった?何が起きた?」

    暗闇で白装束の人が刀持って近付いてきたら、そりゃ普通に怖いよ。そんな事も予測できないなんて、僕はなんてたわけ者なんだ!

    若「済まぬ。ひどく怯えさせてしもうた」

    兄さんは木刀を置き少し下がったのだが、瑠奈は僕の腕にしがみついたまま震えている。

    僕「周りに聞こえてますよね?」

    若「うむ…」

    瑠「ごめんなさい、ごめんなさい…」

    不可抗力だから仕方ないけど、マズい状況をすぐに察し、瑠奈は泣きそうな顔をしている。

    唯「今日って見回り当番誰?」

    若「小平太じゃ」

    唯「ケッ、めんどくさい方。源三郎なら良かったのに!」

    若「尊」

    僕「はい」

    若「伏せよ」

    僕「はいっ!」

    ダンボール箱がデカくて正解だった。瑠奈の肩を抱き、陰に隠れるようにその場で顔が床につく程伏せる。するとすぐに、掛け布団がバサッと上から被せられた。

    若「音を立てぬ様」

    瑠奈をしっかり抱えながら、心の中でコクコクと頷いた。すると、外に人が来た気配が。

    小平太「若君様」

    若「小平太か」

    小「ひどく揺れておりましたが、ご無事でございますか」

    若「あぁ。何ほどでもない」

    小「灯が消えておるようですが」

    若「己で消したゆえ」

    小「賢明でございます。甲高い叫び声も聞こえておりましたが」

    ひー!障子越しに話してるみたいだけど、存在を悟られて二人に迷惑がかからないように、できるだけ気配を消していた。

    唯「あー、それ私。ごめんごめん」

    お姉ちゃん!上手くいくかな…

    小「唯之…奥方様が?」

    唯「なによ。疑ってんの?」

    小「聞き慣れぬ声でしたので。おなごの」

    容赦ないな。普段からこんな関係性なんだろうけど、結局のところ、奥方様に相当手を焼いてるからに違いない。

    唯「言ったな!私だってかわいい声出るよ!きゃあ~きゃあ~、ほらね」

    若「ハハッ」

    小「何事が起きそのような」

    唯「へ?んっと…そう、そう!アレが出たんだよ、アレが!」

    小「あれとは」

    唯「Gだよ!G!」

    小「はあ?」

    若「じい?」

    唯「んもう、名前言いたくないからGって言ってんのに!」

    若「信茂…」

    小「子細がわかりませぬが」

    唯「だから!ゴキブリだって!もー!」

    それさ、この時代には呼び名違うんじゃない?

    若「あれか」

    あ、通じた。さすが現代語とのバイリンガル!

    若「小平太よ」

    小「はっ」

    若「芥虫が出よったのじゃ」

    小「芥虫、ですか」

    唯「ごみむし?」

    小「前にも此処で出たと聞いておりますが。女中達が騒いでおりました。棚の中から飛び出てきたと」

    若「そうなのか?唯」

    唯「お菓子食べた後の袋、つっこんどいたからかなー」

    前回持ち帰った駄菓子の?!雑だろ!女中さんが気の毒過ぎる。

    小「世話をする者が手を煩わせずに済む様、お頼み申します。奥方様」

    唯「はいはい」

    イヤミも言いたくなるよね。激しく同意しますよ小平太さん。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道48~7月24日土曜10時

    両親の計画的犯行。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    本日、永禄へ行く。黒羽駅まで瑠奈を迎えに来た。車を停めて待っているが、夏休み入ってすぐの土曜だからか、子供の姿が目立つな…あ、来た来た。キャリーケースをガラガラ引きながら登場。

    瑠奈「おはよぉ、尊」

    僕「おはよう。大荷物だね」

    瑠「旅行っぽくしたの。中はスカスカだよ」

    僕「そっか」

    あー。このまま二人でリゾート地に連泊なんかできたらなぁ。…イカンイカン、真夏の眩しい日差しが僕を惑わせる。

    瑠「みつきにね、私の家の分もお土産頼んでおいたの」

    僕「ここに行ってきたよ、って親に渡すため用の?」

    瑠「うん。明日の夕方5時に小垣駅で受け取る約束した」

    僕「了解。その時間に合わせて車で送るね」

    父は今日もゴキゲンだ。

    覚「おー瑠奈ちゃん!よく来たね!冷たい麦茶飲むか?それともアイスクリームにするか?」

    僕「テンション高っ」

    瑠「ふふっ。麦茶をいただけますか」

    覚「よしよし、今出すよ。一服してからでいいが、二階の尊の部屋の隣に予備室があるんだ。そこに布団用意したから。大きい荷物はそちらに置いときな」

    瑠「ありがとうございます」

    母の仕事終わりに合わせて、昼ごはんは1時近くになった。

    美香子「エリさんと芳江さん、録画楽しみにしてますって」

    永禄からの画像と音声、こちらの音声といったやり取りの一部始終は、そのままパソコンに自動録画されるようシステムを構築済み。

    僕「できれば今日見届けて欲しかったけど、何時に飛ぶか未定だから、お二人をその時間まで付き合わせられないもんね」

    美「それもだけど、機会はいくらでもあるんでしょ?いつかはご一緒したいですって」

    そう!これからも通話はできる予定なんだ。詳しくは、向こうに着いてから説明します。

    美「お父さん、用意した服もう見せた?」

    覚「まだだ。ご飯済んだらお披露目する」

    僕「服?」

    食後。片付いた食卓にデパートの紙袋が登場。中から出てきたのは…

    僕「着物?でも上下に分かれてる」

    瑠「これ、作務衣ですか?」

    覚「当たり。今日行く時に着て貰おうと思ってな。二人にプレゼントだ」

    僕「そうなの!」

    瑠「いいんですか?」

    美「戦国時代でも違和感なく、作業がしやすくてしかもペアルックがいいわね、って私達なりに考えてみたの。どうかしら」

    瑠「藍色がとても素敵です。ありがとうございます!」

    僕「闇に紛れていい感じかも。ありがとう」

    昼を挟んで、設置のシミュレーションも何回か行い着々と準備中…なんだけど。

    僕「はぁ~、やられた」

    作業に使う工具や手元を照らすライトなど向こうで必要な荷物。とりあえずダンボール箱にまとめて入れておいたのだが、

    僕「気持ちはわかるけどさー、無尽蔵には運べないよ?」

    美「これでも吟味したのよ」

    僕「そうは思えませんが」

    その中に、両親が手土産らしき品を山盛りに詰めこんでいた。

    覚「こんな機会中々ないしな」

    僕「アーモンドチョコは外せないけどさ、大根アメ…これ傷んだりしない?冷蔵庫なんてないよ?」

    美「すぐに食べてもらいなさい」

    僕「大根アメってそんな用途だった?うわ、重いと思ったらカイロが大量!」

    覚「次の冬に備えてな」

    瑠「この時期に冬の生活まで気にかけていらっしゃるんだ」

    覚「これにはさみ揚げもプラスだからな。リュックで運ぼうとせず、箱使って持ってけばいい」

    僕「えぇ?持ちにくそう…」

    美「無理して持ち上げようとせずに、しゃがんで行けばいいじゃない」

    僕「はいはい。そうさせていただきます」

    出発は4時頃と決めた。3時30分になったので二階に着替えに行ったのだが、瑠奈が返事はすれど予備室からなかなか出てこない。まぁ急がないし、と部屋の前で待っていたら、

    瑠「ごめんねー、遅くなって」

    僕「構わないよ。時間厳守じゃないし」

    瑠「写真いっぱい飾ってあるじゃない。着替えながらつい見入っちゃって」

    予備室に置かれたテーブルには、四人との想い出の写真がところ狭しと並べてある。

    瑠「お会いできるのを楽しみにしてます、って挨拶しておいたよ」

    僕「はは、ありがとう」

    二人でリビングに下りると、両親が揚げたてのはさみ揚げをタッパーに詰めていたのだが、

    僕「デカくない?タッパー。しかも二つ」

    美「サービスよ」

    覚「二家族分だしな」

    瑠奈がクスクス笑っている。

    僕「どした?」

    瑠「持ってく箱のサイズが大きくなってる」

    僕「ホントだ!いつの間に!」

    美「はみ出てたから、収まる大きさの箱に換えておいたの」

    僕「はみ出るように入れたからでしょ?」

    覚「でな、これこのまま向こうに置いてけ。紙製で軽いし使いようもあるだろ。工具とか持ち帰る荷物用には手提げ袋用意したから」

    僕「最初からそのつもりだったな?」

    瑠「あはは」

    あと10分。まだ日差しはサンサンと降り注いでいる。4人で実験室に入った。両親にパソコンの操作方法を再確認してもらう。

    美「音量はこれね」

    僕「ちょっと遅れて聞こえると思うから、あまり先走ってしゃべんないでね」

    覚「了解」

    準備完了。

    僕「それでは」

    瑠「行って参ります」

    覚「気を付けてな」

    美「3分後に無事帰るのを待ってるわ」

    僕「その前に向こうから通話するから」

    瑠奈としっかり腕を組んでしゃがみ、足元に置いたダンボール箱を掴む。そして、ネオ1号を引き抜いた。

    僕「行ってきます」

    二人、出発した。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、お待たせしました!永禄の若君からスタートします。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道47~6月6日16時

    ちなみに8月の満月は、22日の日曜です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「続きは口を潤してからな」

    瑠奈「ありがとうございます」

    二杯目のレモネードが出された。

    瑠「今電話したみつきって子に、あるお願いをされてたんです」

    僕「ミッキーさんの説明はしたよ」

    瑠「ありがとう。彼と泊まりで旅行に行くの、親には内緒なんだ。だから、私と行くって話にしといていい?って内容で」

    美香子「アリバイ工作ね」

    覚「あるある話だな。ははは」

    瑠「その時は、当日特に予定もなかったので、はいはいと聞き流してたんです」

    僕「で、今日僕の話を聞いて」

    瑠「あれ、確か?って思って。ごめんなさい、日付が曖昧でメモもしてなかったので、急いで確認しました」

    僕「へぇ。それがどうかしたの?」

    するとすかさず、隣の母に肘で小突かれた。

    僕「痛い、何!」

    美「ちょっと、気づきなさいよ!」

    僕「へ?」

    覚「尊もまだまだだな」

    瑠奈が恥ずかしそうにしている。ん?

    覚「考えてみろ。瑠奈ちゃんはみつきちゃんと旅行に行く体だろ。それをそのまま親御さんに伝えればだ」

    瑠「その日は家に帰らなくてもいいの、だから一晩一緒に居たいって言ってるのよ?もう、こういう所は鈍感なんだから!」

    僕「ほえ?!」

    美「私も来月に一票。二人が発つ時は必ず見送りたいって思ってたのよね。でも私の仕事終わりを遅くまで待っててもらうのも悪いなとも思ってて。土曜日なら昼には仕事が終わるから、夕方に出発でもイケそうだから。どう?」

    覚「その考え方だと日曜でもいいが、土曜の方がベターだよな。翌日も休みだから少しは気が楽だろ」

    瑠「そうですね」

    覚「帰る時間を気にしながらよりは、余裕を持って動いた方がいいに決まってる。当日は、ウチに泊まればいいんじゃないか?」

    瑠「はい。ありがとうございます」

    僕「うぇっ」

    美「賛成!それに満月の日と言えば!」

    覚「はさみ揚げだな。ドーンと振る舞っちゃうぞ~」

    瑠「わぁ、またいただけるんですね、楽しみです!」

    僕「ちょ、ちょっと待ってよ」

    美「何」

    僕「なんで泊まる予定で進んでんの」

    美「何か都合悪い?」

    覚「晩飯だって一度は共にしたかったしな」

    僕「色々とオープン過ぎる。親に嘘ついて彼氏の家に泊まれなんてすげぇ話してるし」

    美「寝る部屋は分けるわよ」

    僕「だろうけど。それに最重要課題はそっちのけな気が」

    覚「だったら聞くが、実際どうなんだ?向こうの様子は。忠清くんの日記、チェックしてるんだろ?」

    兄さんの日記はかなり解読が進んでいる。満月の前日分に到達する度、永禄は平穏かどうかは確認していた。

    僕「それは、7月でも大丈夫」

    覚「なら」

    美「決まりね」

    僕「瑠奈、ホントにいい?やたら親だけはしゃいでるけど」

    瑠「うん。よくわかったし」

    僕「何が?」

    瑠「速川のおウチでは、タイムマシンが日常生活に溶けこんでる。ホントに息子を信じて安心してるんだってわかった」

    僕「調子がいいだけじゃ…」

    美「何よ」

    覚「なんだ、来月では自信がないのか?」

    僕「なくない。ある。大いにある」

    瑠「カッコいい」

    僕「へへっ…あっ、もうこんな時間」

    覚「おー、5時回ったか」

    美「瑠奈ちゃん、あと何かある?」

    瑠「えっと。でしたら、もう一度実験室が見たいです」

    僕「わかった。じゃあ行こう」

    リビングを後にした僕と瑠奈。

    覚「ふう」

    美「はぁ。これで少しは不安を感じずにいてもらえるかしら」

    覚「あとは尊がフォローするさ」

    再びの実験室。ぐるりと見渡している瑠奈。

    瑠「詳しく聞いてからだと、見方が変わるよ」

    僕「だろうね」

    瑠「あのね。思ったんだけど、尊っていつも一緒に出かける時、私の希望ばかり聞いてくれるじゃない」

    僕「それは当然でしょ」

    瑠「まさか、初めて誘われた先が戦国時代とはね」

    僕「すみません」

    瑠「謝らないの。タイムマシンで移動なんて、尊にしかできない芸当だもん」

    僕「しかも行くだけでなく役割分担ありだし」

    瑠「そんなコト気にしない。ねぇ、この椅子で作業してるの?」

    僕「うん」

    瑠「いつもどうしてるか見たい。座ってみてくれる?」

    僕「わかりました」

    腰かけた僕。すると、瑠奈の腕が首元にスゥっと伸びてきて、背中から優しく抱きしめられた。

    僕「…」

    瑠「すごーく頑張ったんだね。お姉さんやご両親のために」

    僕「元々は僕がまいた種でもあるし」

    瑠「ちゃんと花が咲いてるからいいんだよ。お疲れ様。そして来月よろしくね」

    僕「うん。任せて」

    瑠「ますます尊敬しちゃう!」

    僕「照れるよ」

    瑠「たけるん、大好きー!」

    僕「はは…んぐっ」

    そこ、首、首!

    僕「苦しいっ」

    瑠「あ、ごめぇん、つい」

    僕「ふう。怪力なんだから」

    瑠「違うもん!ホントの怪力は、こう」

    僕「え。痛たたた!」

    こうしてじゃれあいながらも、その日に向け、僕は身が引き締まる思いだった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、出発。飛ぶ瞬間までお送りします。

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    続現代Days尊の進む道46~6月6日15時

    姉に遅れること4年。とうとうあのセリフを放ちます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    両親がそわそわしている。僕は、意を決して口を開いた。

    僕「できるだけ早い満月の日に、ネオ1号で永禄に飛んで設置したい。そして、その時は瑠奈と一緒に行きたいと思ってた」

    瑠奈「…」

    僕「希望を述べたまで、です」

    瑠「ねぇ」

    僕「はい?」

    瑠「私、邪魔にならない?」

    僕「ううん。むしろ居て欲しいんだ。向こうの機械に細工が要るからその手伝いをお願いできれば。逆に物見遊山は無理だよ。深夜に到着するのもあるし」

    瑠「ふぅん」

    僕「そんなで良ければなんだけど…」

    固唾を呑んで見守る僕と両親。するとすぐに、

    瑠「わかりました。一緒に行きます」

    僕「え。いい、の?」

    瑠「何をするのか、また教えてね」

    僕「は、はい、勿論。ありがとう!嬉しいよ。本当にありがとう」

    安堵する僕。しかし、ここでなぜか両親が…

    美香子「え、え?瑠奈ちゃん、もっとよく考えた方が良くないかしら」

    覚「即答しなくてもゆっくりでいいんだぞ」

    僕「えぇっ、この期に及んで何…」

    意外な展開に焦る僕。すると瑠奈は、両親の方に体をくるりと向けて話し始めた。

    瑠「おじさま、おばさま。何を心配なさってみえるんですか?」

    覚「あ、あぁ。尊に瑠奈ちゃんを連れて行きたいと打ち明けられた後、少し悩んだんだよ」

    美「よそ様の大切な娘さんをね、尊や私達の勝手な言い分で巻き込んでいいのかしらって。もし飛んだ後、何かあったら取り返しがつかないもの」

    瑠「そうですか。…お言葉ですが」

    何!両親と僕、思わず背筋がピンと伸びる。

    瑠「尊くん自身への心配はされてませんよね。過去の実績もありますから信頼なさっていて、息子は安全に飛ぶと確信している。なら同伴する私も当然、安全じゃないですか?」

    覚「まあ、確かにその通りなんだけれど」

    美「はい行ってらっしゃい、と軽々しく送り出すのもどうか、とふと思っちゃったのよ」

    瑠「気にかけてくださって、ありがとうございます」

    そう言うと、ニコッと微笑んだ。

    瑠「私も、尊敬する尊くんを心から信頼してます。だから、迷いなんて全くありませんから」

    覚「そうか。なんか、清々しいな」

    美「まるで愛の告白ね。尊~、ちゃんと聞いてた?」

    僕「うん…」

    凛とした彼女の言葉。心が震えた。僕こそ、迷っていてはいけないんだ。その気持ちに応えなければ!

    僕「…瑠奈」

    瑠「はい」

    僕「確実に、安全に行き来しますから、僕に全て任せてください」

    瑠「うん」

    僕「そして、何が起きても必ず」

    瑠「必ず?」

    僕「必ず守りますから」

    瑠「…」

    両親は、大きく頷いていた。

    瑠「嬉しい。ありがとう。私こそよろしくね」

    もう、自信がないなんて言ってた過去の自分にオサラバする。命運を握るのは僕。全幅の信頼を寄せてくれる瑠奈を…守るのは僕だから。

    覚「もう3時か。よし」

    美「冷えたレモネード出すわね」

    僕「レモネード。珍しくない?」

    美「もお~、一足、早い夏。よ」

    僕「なんか歌ってるし」

    覚「じゃあすぐ用意するから」

    場を和ませてくれたのかな。そして出されたレモネード。

    覚「お手製だから、お好みに合うかどうか」

    僕「ちょっと酸味強めじゃない?」

    瑠「私はちょうどいいです」

    美「良かった」

    瑠奈が窓の外の実験室を眺めている。

    瑠「それで。いつ行くのかな」

    僕「今月だと、満月は25日の金曜日なんだけどさ」

    瑠「うん?」

    僕「さっき、できるだけ早い日にとは言ったけど、もっとプログラムの調整を万全にしたい。それに瑠奈も今日話聞いたばかりじゃない。もう少し理解を深めてもらってからの方がいい気がするんだよ」

    美「同感」

    覚「だな。長くしゃべってはいたけど、あれでもかなりのダイジェスト版なんだよ」

    瑠「そうなんですね」

    美「じゃあ、来月?」

    僕「それか再来月かな、って」

    覚「ふむ。他に懸念してる事はあるか?」

    僕「できれば当日も時間に余裕が欲しい。向こうでスムーズに設置できるように、段取りを直前まで確認したいんだ」

    瑠「来月…あれっ」

    僕「どうかした?」

    瑠「7月だといつになるのかな」

    覚「そこのカレンダー見てみな」

    美「満月の日にシール貼ってあるわよ」

    席を立ち、カレンダーを見に行く瑠奈。

    瑠「やっぱり。24日、土曜日!」

    僕「何かあるの?」

    瑠「ちょっとごめんなさい」

    僕「うん?」

    席に戻り、バッグからスマホを取り出した。頻りに画面をスクロールしているが、

    瑠「出てこない…聞いただけだったかな。あの、すみません。今から友達に電話したいんですけどいいですか?」

    覚「構わないよ」

    美「どうぞ」

    瑠「ありがとうございます」

    僕「友達?」

    瑠「みつきに…あ、もしもし、みつき?今しゃべっててもいい?…デート中?ごめん、すぐ終わるから」

    よくわからないけど、今知りたい内容なんだろうな。通話の邪魔にならないよう小声で話す。

    僕の囁き「例の、赤井家の子孫が彼氏さんの子だよ。一緒にプールに行った」

    覚の囁き「あー」

    美香子の囁き「はいはい」

    瑠「頼まれてたアレって、来月のいつだっけ。24日だった?…やっぱり?!わかった、ありがと。うん、ごめんその確認だけ…え?そんなの言わなくてもわかるでしょ?ふふっ。うん、じゃあねー」

    僕「何か頼まれてたんだ?」

    瑠「うん、ちょっとね。バタバタしてごめんなさい。一つ提案と言うか、聞いていただけますか?」

    覚&美香子「はい」

    僕「何なりと」

    瑠「来月でしたら、私、時間がたっぷり取れるんです」

    覚「ほぉ」

    美「まぁ」

    僕「そうなの?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道45~6月6日13時

    どうか同意してくれますように。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    沈黙が続いた。

    僕「嘘でも絵空事でもないよ」

    瑠奈「…」

    ここで、両親が口を開いた。

    美香子「尊、実験室見せてあげなさい」

    僕「あ…そうだね」

    覚「瑠奈ちゃん」

    瑠「は、はい」

    覚「この前、僕が尊に用事を頼んだってのは嘘だったんだ。ごめんな。あの時はそうするしかなくて」

    瑠「そ、うなんですか」

    覚「尊は、今から行く部屋に居た。よく見ておいで」

    僕「行こうか」

    瑠「うん…」

    狐につままれたような表情の瑠奈。当たり前だよな。リビングを出て、雨上がりの庭を進み実験室の前へ。

    僕「どうぞ」

    瑠「はい…」

    とうとう、家族以外の人を初めて招き入れた。配線の多さに面食らっている様子で、しきりにキョロキョロしている。

    僕「嘘みたいだよね。でも本当にこれは、僕が造ったタイムマシンなんだ」

    瑠「信じられない…でも、おじさまもおばさまも何の違和感もなく話されるし…えー、でも!」

    僕「満月の日にだけ動く仕様なんだよ。月の公転数で時間を設定した関係というか」

    瑠「満月…」

    僕「そう。瑠奈にとって特別な日。だから瑠奈との出会いは、運命だと思ったんだ」

    瑠「…」

    僕「混乱しっぱなしだよね。一旦戻ろうか?」

    瑠「…そうする」

    リビングに戻り、タイムマシンの原理の説明を始めた。真剣に聞き入る瑠奈。両親はキッチンに居る。

    覚の囁き「ワームホールって何だ?」

    美香子の囁き「地平面とか反粒子とか。一度尊にレクチャーされたような気はする」

    覚 囁き「話についていってるのが凄い。さすが瑠奈ちゃん」

    美 囁き「同じ高校のクラスメートだったお嬢さんだもの~。私達と一緒にしては失礼よ」

    僕「と、いった感じ」

    瑠「何となくわかった」

    僕「でね。これからが本題なんだけど」

    瑠「これからなの?!」

    お姉ちゃんの話に入った。永禄時代に飛び、羽木家の若君だった兄さんと出会って恋をし、何度も行き来をし、兄さんだけを送り込んできた時もあり…と結婚に至るまでどんどん話していると、両親が戻ってきた。

    美「尊~、そんなに一気に話さない~」

    僕「あ、そっか。ごめん」

    瑠「いいよ。びっくりの連続だけど」

    美「瑠奈ちゃんの頭がそろそろ甘味を欲しがってるだろうから。はい、水ようかんどうぞ」

    覚「温かいお茶にしたよ。ちょっと休憩しな」

    僕「わかった」

    瑠「ありがとうございます」

    はあ。和む。甘味は僕にも必要だったよ。

    美「では、この間に私が少しだけ補足説明」

    僕「説明。はい」

    美「忠清くんが一人で来た時ね、傷を負っていたのもあってしばらくウチのクリニックの看護師さん二人がお世話をしていたの。だからね、現代でこの一連の秘密を知っているのは、ここに居る私達とその二人だけなのよ」

    瑠「そうなんですか」

    覚「尊、あの写真見せるか?四人で来てすぐ撮った」

    僕「あー、うん。って全然休憩になってない気がする。瑠奈、大丈夫?」

    瑠「ふふっ。大丈夫だよ」

    父が、リビングの奥からゴソゴソと取り出した一枚。

    覚「瑠奈ちゃんが来る時は、いつも隠してあったんだ」

    家族プラス、兄さん源三郎さんトヨさん。永禄仕様、着物姿を収めた貴重な集合写真だ。

    僕「ふう。では小休憩も終わったんで、次にこちらの二人の話をするね。上の姉とその旦那さんって言ってたけど…」

    瑠奈がパンクしちゃわないか少し心配ではあるけど、頭の回転が速い子だからまず大丈夫だとは思う。これまで黙っていた分、どうにも口にブレーキがかからないんだな。僕も両親も。

    瑠「そっか…その二人の末裔がみつきの彼なんだね。だから、どんな人か根掘り葉掘り聞いてたんだ」

    僕「うん」

    瑠「450年前の人達と、ここで一緒にご飯食べてたなんて。私、お鍋取り分けてもらっちゃったよ」

    僕「兄さんはその点、偉ぶったりしないから」

    覚「何でも進んでやってくれた。永禄では、周りが動いてくれる身分なのにな」

    美「三人ともすごく努力してたの。現代に馴染んでたでしょ」

    瑠「はい。とても」

    僕「姉だけが一人我が道を行く」

    瑠「あー」

    僕「何となくわからない?視力はいいか、なんて変な質問してたし」

    瑠「まぁ…。おおらかな感じで」

    僕「もっと率直に言ってもらって構わないよ」

    瑠「えっと…天衣無縫?」

    美「かなり言葉を選んでくれたわね」

    覚「気を遣わせて悪いな」

    そして、4号ができた日の話に辿り着いた。

    僕「隠し事は大いにありました。今までごめんなさい」

    瑠「ううん。こんな秘密を抱えてたんだね。よくわかったよ。話してくれてすっごく嬉しい。ありがとう。おじさまおばさまも、ありがとうございます」

    覚&美香子「いえいえ」

    僕「話はこれで一通り…かな。質問あるよね。何でも答えるからどんどん言って」

    瑠「とりあえず、一つ教えて欲しい」

    僕「何でしょう」

    瑠「通話システム、4号?早く使いたいんでしょ。今後どうする予定なの?」

    僕と両親は顔を見合わせた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道44~6月6日日曜9時30分

    ここで話題にするのも何ですが、アシガールSP公式HPの掲示板を久々に見ました。教えてくださった、悟れないさとり様に御礼申し上げます。
    この掲示板が閉鎖された後にアシガールにはまった皆様には、ぜひご覧いただきたいですね。私は、発電できそうな熱量に感動しました。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    不登校でろくでなしと言われた、過去の自分。
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    4号完成後十日あまり。

    覚「どうだ?」

    美香子「うん、ちゃんと風味出てる。合格」

    今日、瑠奈を家に呼ぶ。永禄との繋がりなど、諸々の話をいよいよ打ち明けるんだ。両親は揃って昼ごはんの支度中。僕は、説明する内容のメモを何度も読み返していた。

    美「ふう。一段落」

    覚「一休みするか。尊、まだ迎えに行かなくていいのか?」

    僕「もう少ししたら出かけるよ」

    母がカレンダーを見ている。

    美「今日は大安ね~。きっと上手くいくわ。でも日付的には微妙ね」

    僕「微妙ってなに」

    覚「ダミアンか」

    美「そうそう。ん?それ題名だっけ?」

    覚「違ったか?どっちにしろ、今年は6年じゃないからセーフだろ」

    僕「何を言ってるのかわからない。ちなみに今飛ぶと、向こうは永禄六年だよ」

    美「あら。そっか、そうなるか」

    覚「同じく時が進んでるからな。まぁ、それはそれで」

    僕「6が三つ並ぶって話?ヨハネの黙示録?」

    美「まぁいいわ。聞かなかった事にして」

    僕「何なんだよ~。あまり混乱させないでくれる?」

    覚「いや、いい感じだ」

    僕「どこが」

    覚「総じていつも通りの速川家だろ」

    僕「フッ」

    覚「よしよし」

    美「やっと笑った」

    僕「え?」

    覚「顔は強張ってるし、もっと肩の力抜いた方がいい。そんな顔つきで迎えに行ったら、瑠奈ちゃん怖がるぞ」

    僕「そんなに固まってた?だからあまり関係ない話振って気持ちをほぐしてくれたの?」

    美「ダミアンがわからないのは残念だわ」

    覚「世代の差だろ」

    僕「励ましてるのかお気楽なのかが微妙。じゃあそろそろ迎えに行ってくるよ」

    車を走らせる。瑠奈はマンションのエントランスで待っていてくれた。

    瑠奈「おはよぉ」

    僕「おはよう」

    さぁ、行こう。緊張が顔に出ないよう気を付けないと。

    瑠「親に、尊の家に行くって言ってないよ。それで良かった?」

    僕「うん。ありがとう」

    招待されたと伝えておくと、例えば帰ってきた瑠奈の様子が普段と違った場合、速川家で何かあったのか?と双方の親を巻き込みかねない。それは避けたくて、僕の独断で内緒にしてもらったんだ。

    瑠「今日、白シャツなんだね」

    僕「うん。制服じゃないよ」

    瑠「わかってるよぉ。ボタンダウンだから違うし。なんか…なんかね、一段と素敵」

    僕「それは、お褒めに預かり恐悦至極です」

    瑠「あはは」

    なんとなくビシッとさせたくて、気合いを服装にこめてみました。そうこうする内に到着。

    瑠「こんにちは」

    美「いらっしゃい瑠奈ちゃん。あら~、今日はワンピース?よく似合うわ~」

    覚「いらっしゃい。おー、まるで花が咲いたみたいだ。さ、あがって」

    会うだけで両親をこんなに上機嫌にさせるなんて、瑠奈だからこそなせるわざだと感心する。そしてまずは食事がスタートした。

    瑠「ビシソワーズですか?美味しい!」

    美「良かったわ~気に入ってくれたみたいで」

    覚「予報では、雨も昼には止むって言ってたから、夏を先取りしてみたんだ」

    そして、昼ごはん終了。

    瑠「洗い物手伝おうとしたら、いいからって断られちゃった」

    僕「手は足りてるからね」

    着けていたエプロンを畳みながら、キッチンから戻ってきた瑠奈。僕の正面が食卓のいつもの指定席だ。元々はお姉ちゃんの席。永禄から兄さんが一人で来た時もここだった。

    僕「まぁ座ってて」

    後片付けが終わった模様。まず母が戻ってきた。

    瑠「おばさま、すみません」

    美「気にしないで。瑠奈ちゃんはホントにいい子ね~」

    ふう。いよいよ話すか。落ち着け落ち着け…よし。腹は決まった!

    僕「あのさ」

    瑠「うん?」

    僕「瑠奈は僕にとって、とても大切な、かけがえのない存在で」

    瑠「やだ、急にどうしたの」

    父も戻ってきた。話が始まったのを察し、静かに席につく。

    僕「だから、どうしても話しておきたいんだ」

    瑠「?」

    僕「僕と、僕の家族の過去と現在を」

    キョトンとする瑠奈。そりゃそうだよね。

    僕「聞いて欲しい。いい?」

    瑠「はい。わかりました」

    僕「昔、僕はいじめられっ子だった。去年浴衣デートした時少し話したよね」

    瑠「うん…」

    できれば話したくない過去ではある。でも、いきなりタイムマシンの話ではなく、なぜそれを造るに至ったかその経緯も話す必要があると思ったから。両親が心配そうに見守る中、瑠奈は黙って聞いてくれている。

    僕「そして、執念深さを武器にして造り上げたのが…過去と現在を繋ぐタイムマシン」

    瑠「え?」

    僕「…」

    瑠「が、できたらいいのに、って夢?」

    僕「違うよ。本当に造ったんだ」

    瑠「え…何言ってるの?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道43~5月26日22時30分

    どうか嫌いにならないで。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    電話を切ってすぐ。変わってここは瑠奈の家。リビングで両親が寛いでいる。

    瑠奈の母「あら瑠奈、起きてたの。部屋から出てこないからもう寝たかと思ってたわ」

    瑠奈「あったかいお茶が欲しい」

    瑠奈の父「なら座れ。俺が淹れてやろう。ん?何か様子が」

    瑠母「顔見せて。もしかして…泣いた?」

    瑠父「泣いた。どうしたんだ」

    瑠「尊が」

    瑠父「尊くんと何かあったのか」

    瑠母「ケンカでもしたの?」

    瑠「ケンカ…じゃない」

    事の顛末を両親に説明する瑠奈。

    瑠父「…結局は、瑠奈の一人相撲だったと」

    瑠「だって電話」

    瑠父「だってじゃない。神経を尖らせて取り組む案件だったんだろ。そこまで瑠奈にそしられるいわれはない」

    瑠「見たことない部屋に居たんだもん」

    瑠母「そんな文句ばっかり言って」

    瑠父「お父さんの部屋じゃないのか。だったら知らなくて当然だ。瑠奈の剣幕に押されてしまってすぐに答えられなかったんじゃないのか?どうしてそういう考えに及ばないんだ」

    瑠「…」

    瑠父「瑠奈。いい機会だから言っておく。今までに付き合った男の子達にもそうだったが、尊くんをもっと信じてあげなさい」

    瑠母「そうね…。癇癪起こしてばかりではね」

    瑠父「俺はかなり信頼してるぞ?彼にはブレがないからな。確固たる信念に基づいて動いてる印象だ」

    瑠母「仕事ぶりが見てとれるわね」

    瑠父「何事もコツコツやるから、いつも感心してる」

    瑠「…」

    瑠父「尊くんに嫌われたくないだろ?」

    瑠「そんなの絶対嫌」

    瑠父「だったら自分を変えていかないと」

    瑠「すぐ疑ったりするなって?」

    瑠父「そうだ。今後、尊くんの言動が瑠奈的には有り得ないなんて事態が起こったとする。そんな時は感情にまかせてすぐ反論したりせず、まず彼の話をよく聞くんだ。そして質問は彼の話をよく噛み砕き心を落ち着かせてからする。そうすればきっと整然と分かりやすく教えてくれる筈だから。わかったか?」

    瑠「…わかった」

    この時のおじさまの言葉に、僕は救われていく事となる。

    美香子「ご飯まだだったのね」

    その頃の僕。手付かずのおにぎりを実験室から持ってきた。

    美「おにぎり温める?」

    僕「そうする」

    覚「なら、味噌汁作ってやろう」

    ようやく晩ごはんとなった。

    美「食べながらでいい。順番に聞くわ。まず、タイムマシンはどうなった?」

    僕「通話システムは完成した」

    美「そう。にしては晴れやかな顔をしてないわね。瑠奈ちゃんの機嫌を損ねたのがよほどショックと見えるわ」

    僕「完全に僕の落ち度だったから」

    覚「まぁな。今日はすぐに連絡取れないよなんて、幾らでも根回しできた筈だ」

    僕「お父さん、ありがとう。悪者になってくれて」

    覚「何となく事の次第がわかったからな。ってそれも大事だが、本当は今、もっと喜ぶべきじゃないのか?だってこれで唯達と会話ができるんだろ?しかもさっきみたいにお互いの顔見ながら。凄い話だよ~」

    僕「満月に導かれました」

    覚「お疲れさん」

    美「頑張ったわね。で、今後はどうなるの?」

    僕「向こうに一つ機械あるじゃない。おもナビくん。それに今回造ったシステムを接続する」

    美「ふんふん」

    覚「あれだと、画面がやや小さくないか?」

    僕「大きくするのは簡単なんだけど、電気をかなり食うし。あと、ほぼ夜に使うじゃない。画面大きいとその分明るく光るから、光源が少ない永禄では目立ち過ぎてかえって迷惑だと思うからさ」

    覚「そうか。いつ設置しに行くつもりだ?」

    僕「早ければ来月にでも。ネオ1号で」

    美「そっか。楽しみね」

    父が口を真一文字に結び、腕を組んでいる。怒ってるようではないけど…すると、咳払いをし姿勢を正した。僕と母は顔を見合わせ、倣ってきちんと座り直した。

    覚「僕から、提案なんだが」

    美香子&僕「はい」

    覚「機が熟したというか、今がその時じゃないかと思うんだ。この機会に決断して、瑠奈ちゃんに全てを話すのはどうだろう」

    僕「…」

    美「そうね。もし彼女がお嫁さんで来てくれるなら…来てくれるならよ?いずれは話さないといけないものね、我が家の秘密」

    覚「尊はその点どう考えてるんだ」

    僕「いつか話すつもりでいたよ」

    美「そう」

    僕「瑠奈は、モノクロだった僕の世界を鮮やかに彩ってくれた。すごく感謝してる。だから、どんな未来が待っていても…お別れ、とかさ。僕は打ち明けたいと思ってた」

    覚「そうか。別れも視野に入れてたか。こればっかりはわからないしな」

    美「尊敬から始まった恋でしょ。嫌われるよりはもっと好かれる可能性が高いと思うけど」

    覚「僕もそうは思うが」

    美「で、いつか、は今だと」

    覚「そうだ」

    僕「…」

    覚「悩ましいよな」

    美「一世一代の告白だものね」

    僕「いや、きっと今なんだよ。知ってくれた上で、永禄に飛ぶ機会があれば一緒がいいと思ってた。実際問題として今回、設置のサポートをしてもらえるとすごく助かるんだ」

    美「二人で!そう…」

    覚「理解してくれたとしても、同行するかは彼女次第だ。押し付けはできんぞ。かなり勇気もいるだろうしな」

    僕「わかってる」

    美「いつどこで話す?デート中?」

    僕「うーん」

    覚「ここでが良くないか?実験室も見てもらえるし、僕と母さんがフォローできる」

    僕「いつもの食事ご招待としておいて?」

    覚「だな」

    美「じゃあ、一度瑠奈ちゃんの都合を聞いておきなさい。お昼の方がいいかしらね」

    覚「話が長くなって帰すのが遅くなってもいけないから昼がいいだろう。な?尊」

    僕「うん…」

    覚「不安なのか」

    僕「どう捉えられるかわからないから、少しだけ」

    美「でも話すなら、瑠奈ちゃん以外考えられないでしょう」

    僕「うん。瑠奈には本当の僕をわかって欲しいと思ってるから、包み隠さず説明するよ」

    覚「それがいい。トヨちゃんの話とか、今まで嘘をついていたのも事実だからな」

    僕「そうだね…。ごちそうさまでした」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    一世一代。読み方は「いっせいちだい」が正しくて、「いっせいいちだい」は間違いだそうですね。私は今回初めて知りました。

    次回、ご招待です。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道42~5月26日水曜12時

    姫がご懐妊!めでたいですね~。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
    この日、皆既食の始まりは20:09。皆既食の終わりは20:28で、部分食の終わりは21:52でした。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    家で両親と昼ごはん中。

    覚「目力がハンパないな」

    美香子「気力が漲ってる感じね」

    僕「わかる?今日、正念場だと思ってるから」

    お待たせしました。努力の甲斐あって本日4号が完成しそう。つーか、させます!なんてったって今宵はスーパームーン、地球に最も近い満月!おまけに皆既月食!この特別感満載な日にフィニッシュはふさわしい。頭も冴え渡り絶好調だ。

    僕「晩ごはんさ、その時間に作業が佳境に入ってたら終わってから食べるよ。何時になるかわからないけど」

    美「中座する時間も惜しいの?そこまで根詰めなくても。でも集中したいのね」

    覚「だったら晩飯、おにぎり握ってやろうか?作業しながら片手で食える。実験室のドアの前に置いとくから邪魔はしないぞ。どうだ?」

    僕「わかった。それでお願いします」

    大学は必修科目が午前の早い時間にあったのでそれだけ出て、昼には帰宅した。バイトと解読手伝いも今日は入れてない。

    僕「じゃ、頑張ってくる」

    覚「無理はするなよ」

    美「行ってらっしゃい」

    雑念を断ち切るため、スマホは音もバイブも消し視界に入らない場所に置いた。瑠奈から連絡来ても即レスできないのは唯一の懸念事項だけど…ごめん、と呟き作業に取りかかった。そこまでの並々ならぬ決意でスタート。

    僕「…」

    時間を忘れて没頭する。

    僕「時空の歪みは…発生しないな。よし」

    トントン拍子。これはいける!

    僕「あとは基板を」

    あと少し!

    僕「調整…どうだ?」

    …そして。とうとうその瞬間がやってきた。

    僕「でき、た。…できた!やったー!!」

    永禄と令和をリアルタイムで繋ぐ画像付き通話システム、通称4号、完成しましたー!

    僕「んあぁ、今何時…10時回ったところか」

    もうこんな時間だったのか。同じ姿勢が続いていたからちょっと体にキテるな。

    僕「はぁ。気が抜けたらお腹空いてきた」

    ドアを開けると、足元に置かれたダンボール箱の中に風呂敷包み。おにぎりも、一緒に包んであったおしぼりも、まだ温かかった。父に感謝だ。早速口に運ぼうとしたが、

    僕「あ、スマホ見とこう」

    着信あったかな。でも今日は何を差し置いても4号完成を優先させたかったからなー。…なんて、悠長でいられたのはここまでだった。

    僕「ゲ!」

    鬼電の嵐に見舞われていた!びっくりし過ぎておにぎりをお手玉しそうになる。履歴を確認すると…瑠奈、瑠奈、全部瑠奈だ!

    僕「どうして今日に限って…」

    何も約束はしていない。でも電話は8時前から盛んにかかってきていた。えぇ?これって久々にメンドくせぇバージョン発動なの?!焦っていると、また瑠奈からの着信。

    僕「とるのが怖いよ…」

    意を決して電話に出る。

    瑠奈『もしもし?!尊?!』

    うぇっ、めっちゃ怒ってる!

    瑠『どうして電話に出てくれないの!』

    僕「ごめんなさ…」

    瑠『LINEも全然既読になんないし!』

    僕「ごめん、何か急ぎの用だった?」

    瑠『皆既月食あんまり見えないねって話したかったのに!』

    外をしっかり見てないから天気がわからない。予報は曇りだったような。連絡を放置したのは悪かったよ。けどそんな些細な事?なんて言うと火に油を注ぐしな。

    僕「どうしても手が離せない用があってさ」

    瑠『…ちょっと尊』

    僕「はい?」

    瑠『そこ、どこなの』

    僕「えっ?…あ!」

    ここで僕は、重大な過失に気がついた。無意識にビデオ通話をしていたのだ!何が重大かと言うと、瑠奈には実験室の存在を隠し続けてきたから、ここが何の部屋か伝えられない。なのに僕の背後にバッチリ映ってしまっている!今まではこうならないよう細心の注意を払っていたのに!ど、どうしよう!僕はひどくテンパってしまい、

    僕「あっ」

    電話を切ってしまっていた。

    僕「やっちまった、余計に怒られる!」

    慌てて実験室を飛び出す。リビングには両親揃っていた。僕の終了報告を心待ちにしてくれていたに違いない。

    覚「おー。無事済んだのか?」

    美「どうなの?って、尊?」

    僕「ちょっと今それどころじゃなくて…」

    手元の物体が、また静かに光り出した。怖い!スマホをこんなに脅威に感じるなんて!出ると画面に瑠奈。凄い形相…

    僕「もし、もし」

    美「なんて悲痛な顔してるのよ」

    瑠『尊ひどい!勝手に切るなんて、私に隠し事があるんでしょ!!』

    覚「瑠奈ちゃんどうしたんだ?ここまで声が聞こえるぞ」

    僕「隠し事なんかないです…」

    大ありだけど…

    僕「電話とれなくてごめん。ほら見て、どこにも行ってないし。ここウチのリビングだよ」

    瑠『何よ!はぐらかして!!…うっ、うっ』

    うわー、泣き出してる!困り果てる僕。するとこのやり取りを見ていた母が、

    美「尊、貸しなさい」

    僕「え」

    スマホをサッと取り上げた。そして画面の瑠奈に語りかけ始める。

    美「瑠奈ちゃん。尊が失礼な事しでかしたみたいでごめんね。落ち着いて」

    瑠『おば、さま…』

    父も体を伸ばし覗きこむ。そして機転を利かせてくれた。

    覚「瑠奈ちゃん、ごめんな。僕が尊に用を頼んでいたんだよ」

    瑠『そう、なんですか…』

    恩に着ます!

    覚「泣かせて済まなかったね。この通り」

    美「ね。父親も頭を下げてるんで、今日のところは許してもらえないかしら」

    瑠『…はい。おじさまおばさま、私こそごめんなさい。事情がわからなくて』

    月食って確か8時頃からだった。要は、僕がそれまでに作業を終えていれば何事もなかった話。無茶したツケだな。立ち上がり、両親の後ろに回って僕もスマホを覗きこんだ。

    僕「作業に時間がかかってしまって心配かけました。許してください」

    瑠『…はい』

    美「瑠奈ちゃんは笑顔が一番。だからもう泣かないで。ねぇ、これに懲りずまたウチに遊びに来てくれない?」

    瑠『はい。ぜひお願いします』

    覚「楽しみにしてるよ」

    僕「今度ケーキおごりますから」

    美「そこは食事とケーキでしょ。うーんと高いのおごってもらいなさいね!」

    瑠『ふふっ、はい』

    覚「おっ、笑ってくれた。良かった良かった」

    美「もう大丈夫ね」

    瑠『あの…、大騒ぎしてすみませんでした』

    美「いえいえ。諸悪の根源は尊だから」

    覚「気にしないでくれな」

    瑠『ありがとうございます。それでは…失礼します。おやすみなさい』

    覚&美香子「おやすみ~」

    僕「おやすみ、瑠奈」

    手を振る両親に会釈をした瑠奈。電話は無事終了した。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道41~2月27日20時

    行かなくても顔さえ見せてあげられれば、という選択。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    実は、今日は満月。夕食後、実験室に居る。

    僕「恐ろしく順調」

    初詣でしっかり神様にお願いしたのが効いたのか?今年に入ってから、不思議と満月の日が近づくとタイムマシンの作業がすこぶる捗る。当日は特にそうだからこれを逃す手はないんだけれど、今日は土曜だから日中は瑠奈とデートして、夜に本腰を入れようとしていた。

    僕「ん?」

    スマホは置いてあるが、基本的に放ってある。さっき鳴ってすぐ切れたが、瑠奈の呼び出し音ではなかった。見てみると、ミッキーさんからの着信。何だろ。長く話されると厳しいけど…まぁ、かけてみるか。

    僕「もしもし?」

    みつき『あ、ごめーんセンセ!忙しかった?』

    僕「いいよ。何だったかな」

    み『瑠奈から、ひろくんの話題で盛り上がったって聞いて』

    僕「ひろくん…あー、彼氏さん?」

    み『そっ。センセにもいつか紹介したいと思ってるよ』

    僕「あ、ありがとう。楽しみにしてるんでその節はよろしくお願いします」

    み『そこでだ。私は考えたのさ』

    僕「続きあり…考えた、って?」

    み『今年は海に行こう!プラスひろくんで四人で!』

    僕「まだ寒いのに夏の話ですか」

    み『いいじゃん。日程は社会人のひろくんに合わせると思うけど良い?』

    僕「勿論。もう彼氏さんには了解とったの?」

    み『まだ』

    僕「僕の周りはどうしてこうアバウトな人ばかりなのか」

    み『センセとは気が合うと思うよ。二人とも、多くを語らない系だけど』

    僕「ミッキーさんがそう言うならそうなんだろうね」

    み『間違いない。あ、じゃなくて』

    僕「へ?」

    み『こんな話は置いといて』

    僕「何それ…話の展開が読めない」

    み『私がわざわざ電話したのは、違う話、つーか言付けを預かりまして』

    僕「言付け。誰からでしょう」

    み『ひろくんの親から』

    僕「えぇ?!」

    み『ひろくんに、今古文書の解読してる友達の義理のお兄さんが赤井さんって言ったら、その流れで親に話がいって』

    僕「一つ訂正。解読の手伝いね」

    み『はいはい。で、大変でしょうけど期待してますって伝えて欲しいって言われたんだ。絶対に、御月家関係の位が高い人物が書いたと思うからって』

    僕「へー」

    やっぱりそう考えるのが普通だよね。でも今のところ、兄さんが書いたって確証は文面上は出てきてない。あい変わらず署名はないし、跡だけ残った忠清シールも、木村先生が怒ってたあの時以来貼られた形跡はないんだ。

    僕「承りました」

    み『さて。ここで、地元の歴史に詳しいセンセに新情報を教えてあげよう』

    僕「続く。何かな」

    み『赤井家にも、初代が書いたと伝わる古文書があるんだって』

    僕「…え?うっそ、マジで?そりゃすごいや!是非教えてください!」

    み『ちょっとー、急に前のめりじゃね?』

    源三郎さんが、兄さんの日記を参考にして書いたのかな?

    み『でもセンセが携わってるのとはちょーっと違うんだな。さてどこが違うでしょうか!』

    僕「いきなりのクイズ。えーと」

    み『答えは』

    僕「はやっ」

    み『女性が書いてる。多分妻』

    僕「へー!」

    トヨさんか!

    僕「どうして女性ってわかったんだろ」

    み『マタニティダイアリーだったんだってさ』

    僕「妊娠、日記?」

    み『そう。日々の体調とかが細かく書いてあったらしい。先進的だよねー、だって戦国時代だよ?』

    僕「うーん」

    トヨさんなら頷ける。令和に居る間にどこかで知ったんだろうな。勉強熱心だったし。

    み『秘蔵の品で、公開はしてないらしい』

    僕「ふーん。勿体ないような。でも先進的過ぎて、これで戦国時代の生活を知る、までいかないからかな」

    み『って話でした。知識が増えて、また一つ賢くなったねぇ』

    僕「忝のう存じます」

    み『ははは。ではまたー』

    僕「はい。失礼します」

    ミッキーさんには、パワーをもらえてるのか逆に吸い取られてるのかわからないな。でもイイ話聞けて良かった。作業に戻ろう。

    僕「やっぱ一つに集中して進めるべきかな」

    タイムマシンは2種類の完成を目指している。一つは、一度に5人以上運べる起動スイッチの3号。できあがったらそれで僕から永禄に迎えに行きます、と兄さんと約束した物だ。もう一つは、永禄と令和をリアルタイムで繋ぐ画像付きの通話システム、通称4号。まず3号についてだが、

    僕「ほぼ理想形の2号が届けられたからといって、甘んじていてはいけない」

    その後永禄にあった起動スイッチ2号の機能を未来の僕がバージョンアップしたため、前回冬に四人で来れてはいる。

    僕「あの時はそうするべきだと未来の僕が考えてした事だから、別物」

    現在2号の燃料は空っぽの状態だし、第一迎えに行くという約束はまだ果たせていない訳で、スイッチ3号を完成させる意欲は依然満々である。ただ…

    僕「だけど、全然進み方が異なる。こっちは月の周期と相性が良いとか?」

    なぜだか、4号の方が作業効率もすこぶる良いし、恐ろしく順調なんだ。そこで悩んでいる。

    僕「同時に完成を狙ってたけど、こちら一本に切り替えるか」

    同時進行でいつまで経っても二つとも完成しないより、先に出来上がりそうな通話システムのみに絞って進めた方が良いのでは?

    僕「…よし、決めた。4号に集中する」

    この決断は、結果大正解だった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、月日が経って5月のお話です。となると?

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    返信先: 出演者情報板
    少し考えればわかるのに

    50ボイスですが、てんころりんさんのご指摘で即、NHKプラスを確認しました。

    おっしゃる通り、中島由貴さんもお話しされていました!「ゆゆゆトリオ」揃い踏みだったんですね…気付かなかった私の浅はかな事といったらありません。大反省でございます。

    お三方の内、字幕にお名前が出たのは冬野ユミさんだけです。その字幕↓

    音楽・冬野ユミ
    連続テレビ小説「スカーレット」
    「アシガール」など

    よしよし(笑)

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道40~2月27日土曜12時

    幼なじみに一途な所も同じ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈と、昼ごはんを食べに行こうと車を走らせていた時だった。

    瑠奈「あれ、電話…みつきからだ。なんだろ。出てもいい?」

    僕「どうぞ」

    瑠「もしもし?…おはよ。今?尊の車で移動中。大丈夫だよ。どしたの。…え?うん、うん。そう!良かったね!めっちゃ心配してたもんね!ひとまず一安心?ひとまずって言うな?ごめんごめーん。うん、じゃあねー、はーい」

    僕「賑やかだったね。店に着いたよ」

    席につき、注文し終わったところで瑠奈が話し始めた。

    瑠「みつきの彼の話だったんだよ」

    僕「へぇ」

    瑠「彼氏さん、この4月から新社会人なの。でも、就職する会社は全国に支店があるから、配属先がすっごく遠くだったらどうしよう!離れたくなーい!ってみつきずっと騒いでて」

    僕「3つ年上だったね。新卒で入社か」

    瑠「で、無事自宅から通勤可能なエリアに勤務になったって報告でした」

    僕「そうなんだ。だから一安心なんだね。でもひとまずって言ってなかった?」

    瑠「配置替えはちょくちょくあるらしいから、今後はわからないんだって。今から言うな縁起悪い、やめて~!って怒られた」

    僕「なるほど」

    瑠「みつきの気持ちはわかる。私も遠距離なんて嫌、考えられない。たけるん、急にどっか行っちゃったりしないよね?」

    僕「その予定はありませんが」

    もし、永禄に飛ぶとしたら一緒に行けるといいな、なーんて呑気なコトは思ってるけど。

    僕「たださ。配属先なんて、ミッキーさんがどう叫んでも思い通りにはいかないよね」

    瑠「まぁね。でも、みつきが大学卒業したら、すぐ結婚するのはもう決まってて」

    僕「え!そうなの?!」

    急に大きな声を出したので、ランチを運んできた店員さんを驚かせてしまった。すみません。

    瑠「ある意味当然だと思わない?だってもう、今年で9年とか付き合ってるんだよ」

    僕「確かに」

    瑠「結婚できる年齢になったらすぐにでもって気持ちはずっとあったんだって。みつきも彼もね。だけど、みつきの親に大学だけは出てくれって懇願されちゃって、仕方なくあと3年お預けな状態なんだよ。だからそれまでに離ればなれはキツい」

    僕「今はまだついて行けないからか。でもその…なんか大変そうだね」

    瑠「何が?」

    僕「ミッキーさん家、デカかった。お嬢様なんでしょ?お相手はそれなりの家柄でないと許しませんとか、当人には関係ない所で揉めたりしなかったのかな」

    瑠「あー、その点は大丈夫。由緒正しいかどうかって話なら、彼氏さんの家の方が上」

    僕「へー」

    瑠「みつきの家、ルーツを辿ると、江戸時代に呉服店を営んでいたらしいよ」

    僕「充分歴史あるじゃない。それ以上って」

    瑠「彼氏さんの家は、戦国時代まで遡る」

    僕「戦国、時代ですか」

    瑠「ご先祖は、たけるんが今解読のお手伝いに行ってるじゃない。その辺りを昔治めてた」

    …は?

    瑠「御月家だっけ?」

    え?ちょ、ちょっと!

    瑠「の、家臣らしいよ」

    そっちか!いや、それにしても!!

    僕「え、そんな事今まで一度も…それに家は小垣でしょ?ミッキーさんの幼なじみだ、って」

    瑠「聞かれもしないのに友達の彼氏の話をペラペラしゃべってたらおかしいでしょ。木村先生もそうだけど、武士の末裔って割と居るよねって思ってたし。おウチは、ひいおじいさんの代くらいに移り住んできたって言ってたかな」

    家臣って誰だろ。天野?木村、は御月家に居たのを隠してたから違うし。まさか…

    僕「彼氏さんって、なんて苗字?」

    瑠「赤井、だよ。結婚すると赤井みつきになるの」

    な、なんと!!衝撃の事実!!

    瑠「どうしたの?黙っちゃって」

    僕「ん?ううん」

    瑠「インスタントラーメンにはなんないから!ってみつきはよくネタにしてる」

    僕「…いやそれ、きつねだし」

    ホントに源三郎さんとトヨさんの末裔?確認する方法あるかな。

    僕「写真って持ってたりする?」

    瑠「興味あるの?珍しいね。強制的に見せつけられたのはある。ちょっと待ってね」

    スマホで動画を見せてくれた。遊園地かな、はしゃぐミッキーさんの後ろで静かに微笑んでる男性あり。うーん、雰囲気は似てなくもない。さすがに見た目までそっくりとは…あ!

    僕「眉間に皺を寄せる癖があるのかな」

    瑠「え?どこ?…ホントだ。よく気付いたね」

    僕「どんな人なんだろ」

    瑠「んー。車で迎えに来た、なんて時にしか会った事はないけど、実直な人ってイメージ」

    僕「ふーん…」

    瑠「ねぇ、どうしてそんなに気になるの?もしかして知り合いだったとか?」

    僕「いや…」

    この話しても影響ないよな、多分。瑠奈は本人に会ってるから自然な流れだし。

    僕「上の姉、赤井さんと結婚したから」

    瑠「え、そうなの!私会った人だよね?」

    僕「うん。一緒に鍋囲んだでしょ」

    瑠「かすかに覚えてる。そちらのお兄さんは口数少なかったような。へー、実は親戚だったりして?」

    ほぼ間違いなく、源三郎さんとトヨさんが始祖です。

    僕「だったら世間は狭いよね。だから共通点あるかなって思ったんだ」

    瑠「ふーん。私がわかる範囲だと…夏に三人でプール行ったじゃない。みつきすっごくはしゃいでたでしょ」

    僕「かなりね」

    瑠「彼氏さん、海やプールがあまり好きじゃないみたいで」

    ややっ、共通点発見!源三郎さん、水が苦手って言ってた!

    瑠「優しい人だから一緒には行ってくれるけど、乗り気じゃないヒトとは楽しめないから今日は最高!って喜んでたの」

    僕「だからトロピカルだったんだ」

    瑠「それは関係なくない?あ、もう一つ思い出した。ボーリングがすっごい上手らしいよ」

    あー。永禄に帰る当日にみんなで行ったなぁ。源三郎さん、確かに上手かったし心の底から楽しんでる感じだった。はい、このエピソードをもちまして、子孫であると確定しました!

    僕「先祖代々、上手なんだろな」

    瑠「そこで先祖に話戻るの?たけるんの思考回路って謎~」

    期せずして、すごい話聞いちゃったよ。帰ったら両親に報告報告。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    水が苦手、は現代Days140no.1043に。

    ボーリング、は同じく134no.1031と135no.1032で楽しんでます。

    続きます。

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    返信先: 出演者情報板
    50ボイス

    創作倶楽部以外にもたまに現れます。

    表題の番組、6日の夕方に放送してまして。大河ドラマ「光る君へ」の関係者等50人にインタビューしていたので、アシガール関係者さん出てこないかしらとチャンネルを合わせました。

    他に漏れてたらごめんなさい、

    内田ゆきさん
    冬野ユミさん
    信川清順さん

    が出演されましたが、その中で信川さんのお話がとても楽しかったです。ベビーシッターを10年なさってる(過去形では話されていない)そうですよ。

    収録現場で子役達を束ねてた(←ご本人がこう表現)ら共演者に褒められて、えー本当ですか~?と喜んでいた。だけど、次にスタッフが子供を連れてきた時に、かわいいですね代わりますよ~って抱っこしたらギャン泣きされて。アハハ~、すごく面目なかった、と大笑いされていました。

    長沢城の侍女以外で拝見する機会もなく、こんなに気さくな方だったんだと新発見でした。

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    続現代Days尊の進む道39~1月5日火曜から11日月曜

    今年もよろしくお願いいたします。
    この度の災害、地域の皆様に一日でも早く平穏な日常が訪れるよう、切に願っております。

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    圧をかける若君は、現代Days131no.1028にて。
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    芳江「渡してそれで?」

    エリ「彼女さんは何て答えたの?」

    僕「えっと…」

    朝のコーヒーを運べと言われてクリニックに来たんだけど、看護師さん達に質問攻めに遭っている。

    エ「愛は色褪せないよなんて、いいわね~」

    芳「言われてみたいものだわ~」

    僕「あ、だったらフルサイズで言いましょうか?セリフくらい構わないんで」

    美香子「珍しく随分と気前のいいサービス」

    芳「尊くん、嬉しい事言ってくれますね。でもダメですよ」

    僕「ダメ。ですか」

    エ「そうですよ。愛しい彼女さんにだけ囁いてこそ、言葉の価値がありますからね」

    美「尊~。そうやって時間稼いで、質問の答えをはぐらかそうとしてるんでしょ」

    僕「チッ、バレたか。だってさあ」

    美「だって何」

    僕「お二人程、瑠奈は純粋に喜んでくれなかったんだよ」

    芳「あららら」

    エ「それはまたどうしてでしょう」

    僕「一瞬笑顔にはなったんですけど、すぐに疑いの目で見られたんです。私が初めての彼女なんて、嘘ついてたでしょって」

    美「へー。あまりにも流暢に言うから怪しまれたのかしら」

    僕「反復練習が仇になった模様」

    美「モテ男の悩みね~」

    僕「イヤミかよ」

    美「ん、よくわかった。だから昨日同じ質問しても答えなかったのね」

    僕「やっぱり!ハメたな?エリさん達に聞かれたらさすがに答えるだろうと踏んで、ダシに使ったんでしょ?」

    美「どうかしら~」

    エ「尊くん。先生に昨日記念日デートだったと伺って、気になって聞いてみたかったのは本当ですよ」

    僕「そうですか?」

    芳「多少頼まれはしましたけど」

    僕「でしょうね」

    美「今度瑠奈ちゃんに会ったら、間違いなく尊の初めての彼女よって太鼓判押してあげるわ。さっ、そろそろ時間時間」

    僕「調子いいコトばっかり言ってさー。はいはい、片付けますよ。…ん?」

    マグカップを集めていると、母が使っているデスクに写真が一枚置いてあるのを見つけた。あれ、いつもここにこんなんあったっけ?まぁいいや、今は聞く時間ないし。撤収が終わり廊下に出たら、

    僕「わ!」

    壁にへばりつくように父が立っていて驚いた。全然隠れてないし!

    僕「何してんだよ」

    覚「ん?ん、今回は災難だったな。余程言い方がさりげなかったんだろう」

    僕「ゲ、わざわざ聞き耳立てに来たの?何なんだよウチの親!」

    今日はバイトと解読手伝いの二本立てだったので、その後すぐ家を出た僕。帰宅したらすぐ晩ごはんだった。

    覚&美香子&僕「いただきます」

    僕「…ねぇお母さん、今朝さ」

    美「何。まだ怒ってるの?」

    僕「違う。お姉ちゃんの写真置いてあったね」

    覚「あー」

    美「はいはい」

    僕「前からあった?」

    美「ううん、年明けから」

    僕「昨日から。なんであれなの?」

    去年写真館で撮影した、コスプレというか袴姿のお姉ちゃん一人の写真。

    美「お父さんの提案でね。あれじゃなきゃいけない理由があって」

    覚「クリニックも地元で長くやらせてもらってるからな。ありそうな質問には、口ごもらずに答えねばならん」

    僕「どういう意味?」

    美「説明してあげよう。来週月曜、成人式じゃない。唯が居れば出席したはずの」

    あ。見た。見たよ、市から届いたお姉ちゃん宛の成人式の案内。

    覚「唯を小さい頃からご存じの方は大勢いらっしゃる。ご高齢の方などはかなり可愛がってくださっていた」

    美「そんな方が患者でみえたりすると、唯ちゃん元気?ってちょくちょく聞かれるのよ。結婚しましたとは言ってあってもね。で、成人式。今地元を離れてる子達も、この日位は戻ってきたりするじゃない。でも唯は不可能」

    僕「ごめん。タイムマシン間に合わなくて」

    覚「唯が決めた人生だから、尊は関係ない」

    僕「…」

    美「そんな皆さんにね、晴着姿は見せてあげたいなって思って。実は前撮りしててほらこれですよ、って言えば喜んでもらえるし安心してもらえるから。結婚したから振袖ではないですけどなんて、話も弾む。今日もね、唯ちゃんって新成人よねって言われたのよ」

    覚「用意しておいて正解だったな。思った以上に、今も気にかけてくださっていて嬉しい限りだ」

    美「ホントね」

    そんな意味があったんだ。お姉ちゃん、良かったね。今でも地域の皆さんに愛されてるよ!

    ┅┅

    成人の日当日。朝から心なしか両親の元気がない。主役が居ないのに、テレビや新聞でバンバン報道してるからな。

    僕「今日位、もっと写真並べて眺めたら?」

    美「うん。そうしよっか。じゃあまず奥の棚のを食卓に運ぼうかしら」

    覚「よし。なら予備室のも取ってくるか」

    僕「あとは、お姉ちゃんの部屋?」

    美「そうね。例のお花の写真立てに飾りたいって、忠清くんが写真集めてたから」

    僕「へぇ。僕それ取ってくるよ」

    実は、姉の部屋に入るのは超久し振りだ。

    僕「失礼しまーす。あー、これね」

    花の写真立て三つ。一つは、母の膝で眠る幼い姉。あれ?後ろに写ってんの僕じゃない?もう一つは、例の大正時代を描いた漫画のコスプレで兄さんと二人で写っている。

    僕「この小さい頃の写真、初めて見るな。いやそんな事より。三つ目に写真入ってないのって、やっぱり」

    空けておくとは聞いてたよ?薄々気付いてたけど、これには次に来た時に入れるぞって兄さんからのプレッシャーだよね?じわじわと圧がかかってるよなー。

    僕「持ってきたよ」

    美「ありがと。これ、尊も写ってるのよ」

    僕「見た。まさしく秘蔵写真だね」

    写真はある。きっと元気で暮らしているとも思う。でも居ない事実は変わらず、今日みたいな日には実感してしまう。だから僕にできる最良の親孝行は、一緒に居てあげる事だって思うんだよな。

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    次回は、2月も下旬です。

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    続現代Days尊の進む道38~12月31日木曜から2021年1月3日日曜

    本年も皆様に温かく見守っていただき大変感謝しております。来年もゆるゆるで参ります。ご愛顧いただければ幸いでございます。
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    初詣で神様に願うのだ。
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    大晦日の深夜。去年とは打って変わって、家でテレビを観ながらまったりと過ごしている。

    僕「お母さんまたみかん食べてる」

    覚「あまり食べると手が黄色くなるぞ?」

    美香子「大丈夫よ~。多分」

    僕「多分。大雑把だ」

    美「いいじゃないの。はぁ、令和2年ももうすぐ終わるわね~」

    僕「この一年、僕は怒涛の展開だったよ」

    覚「あー。大学入って車の免許もとって。アルバイトも始めて」

    美「何より、可愛い彼女ができちゃって」

    瑠奈だが、この年末は家族で母方の祖父母の家に帰省している。だからデートはしばらくお預け。次に会うのは四日だ。

    美「で、どうなのよ?来年こそは」

    僕「来年こそ何」

    美「進捗状況」

    僕「瑠奈との?」

    美「ぷっ」

    僕「へ?」

    覚「母さん、その流れで聞くと答えはそうなるぞ」

    美「ごめんごめん。そちらも気にはなるけど。作業の方よ~」

    僕「あー。失礼しました」

    美「飛べそう?」

    僕「何とも。っつーか、飛べそうかって質問には、いつでも飛べるよって回答になるけど」

    美「あ、そっか」

    覚「ネオ1号があるからな」

    機能が強化された起動スイッチ1号。父曰く、ネオ1号。実は、未来の僕が燃料もフルに入れており、まだ何回か移動可能な状態なんだ。

    覚「前の1号では五往復したが、一往復は追加で燃料足した分だから四往復分入るんだな。去年尊が一往復使っただろ。んー、このままだとあと三往復は可能な計算か?」

    僕「残量見ると、もっと行けそうではある」

    美「あらそうなの。そちらもエコ仕様に変わってる?ねぇ、だったら2号みたいに一度に何人も飛べたりするんじゃない?」

    僕「かもね。ネオ1号で皆で行きたい?」

    美「行かない」

    僕「あれ、そうなんだ」

    美「お邪魔してもいいか、お伺いを立ててからなら行きたいわ。いきなり大勢で押しかけたらご迷惑だもの」

    僕「はあ」

    覚「言ってみればお宅訪問だからか。実際、アポイントメントも取らず勝手にお屋敷に上がりこんでたりするから失礼な話だよな」

    僕「その点は、返答に窮するところで」

    美「第一、尊と私とお父さんで行ったらさすがに目立つでしょ。曲者じゃ!ってなっちゃった時、隠れたり逃げたりするのに足手まといになっては、忠清くんもそうそう対処できないと思うのよ」

    僕「そういった危険は、僕一人でもあるんだけど?」

    美「そこは何とかしてくれるでしょ。忠清くんが」

    僕「何それ。所々、雑だよなぁ」

    そして、2021年を迎えた。

    覚「明けましておめでとう」

    美香子&僕「おめでとうございます」

    覚「よし!氏神様に詣るか。三人で歩いて」

    僕「は?今から?」

    覚「そうだ」

    美「いいわね~、行きましょ行きましょ」

    僕「寒いよー。せめて日が昇ってからで」

    覚「去年なんて深夜ずっと外に居ただろ」

    美「はいはい、支度する!」

    僕「せっかく暖かい部屋に居るのに」

    美「今年は三人揃ってるし。今後はわからないでしょ?瑠奈ちゃんと年越しとか、それより家を出て独立してたりして」

    僕「年跨ぎの瞬間に外出中ってケースは有り得るけど、家は出ないよ。ずっと居るって」

    美「え~、そうかしら?」

    僕「わかった。もう少し着込んでくるから、使い捨てカイロ出しといて」

    覚「ん」

    防寒バッチリにして外に出る。そして両親の後ろを歩きながら考えていた。さっきの母の話。家を出る時が来るでしょうと言うけど、現実問題としてその予定はないんだ。一番の理由は実験室のメンテナンス関係。タイムマシンの燃料だって放っておいてできる物ではないし、起動スイッチを作り直した未来の僕が、その頃家を出ていたとは到底考えられないんだよ。

    美「この、キリッとした空気が新しい年を迎えたってより感じられる」

    覚「雪が降りそうだな。静かな年明けだ」

    未来の僕が一体いつの僕なのかはわからない。でも将来、瑠奈が僕と結婚してくれるなんて夢が叶って、その時まだ新型起動スイッチが完成していないとするならさ、義理の両親とガッツリ同居が決まってるなんて状況、嫌じゃない?普通。瑠奈だったらそんな事思わないかもしれないけど、なぜ家を出られないんだと聞かれた時、納得してもらえるような説明を、特に瑠奈の両親にできるのか自分?って思うんだ。今からそんな事悩むなんて、時期尚早もいいところなんだろうけど…

    僕「ふう。うっ、寒っ」

    つい口をついて出たため息は白かった。作業はコツコツ頑張るけどさ、どうなるコトやら。成果はある程度出て欲しいなぁ。実りある一年になるのを願うよ。

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    3日の午後。僕は食卓で作業をしていた。

    美「シリカゲルって、何度も使えるのね」

    僕「レンチンすればね」

    覚「花、いい感じに仕上がってるな」

    僕「うん」

    久しぶりにプリザーブドフラワーを作ろうと、年末から仕込んでいたんだ。

    僕「一週間経てば取り出してOKらしいから」

    覚「だからクリスマス後すぐに始めてたのか。明日に間に合うよう逆算して」

    美「これに入れるの?可愛らしいじゃな~い。お付き合い一周年記念のプレゼントがこれなんて、尊、やるわね!」

    あらかじめ装飾を施しておいた木箱の中に、花を彩り良く並べて接着。そして無事完成した。おっ、我ながらいい出来じゃない?

    美「蓋を開けると…あら~、まるで宝石箱!」

    覚「こりゃ完成度高いな。いいぞ」

    美「ねぇ、君への愛も決して色褪せないよ、なーんてセリフと共に渡すの?」

    僕「えぇ?それかなり恥ずかしいよ」

    覚「いや、言うべきだな」

    僕「マジか」

    覚「そんな、歯の浮くようなセリフに負けずとも劣らない品だぞ、これは。自信持て」

    僕「そ、そう?」

    ひぇ~、割と軽い気持ちで作ったんだけどな。セリフ、すらすら言えたら確かにカッコいいかも。つっかえないよう練習しようかな。

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    次回は、お付き合い一周年記念デート…はどうなったか?

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    続現代Days尊の進む道37~12月30日水曜

    カウンセラー忠清は令和Days54no.658に登場してます。
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    朝9時。速川クリニックは、週休日と重なったのもあり今日から年末休みに入っている。

    美香子「お掃除、張り切っていくわよ~」

    僕「ゆうべも遅くまで色々やってたんじゃないの?バイタリティーがすげぇ」

    美「去年の半分以下の人数だもの、気合い入れないといつまでも終わらないからよ~。明日からはかなり冷え込むって予報が出てたし、今日中に終わらせるつもりよ」

    覚「尊、家の中か外回りか、やるならどっちがいい」

    僕「外」

    美「あら珍しい。寒がりなのに」

    先程まで雨が降っていたが、もう晴れ間が覗いていた。

    僕「雨上がりプラス高圧洗浄機なら、あっという間にピカピカになるんじゃない?」

    覚「なんだ、楽が出来るって寸法か」

    僕「違うよ。僕の方が高い所まで手が届くからだよ」

    覚「確かにな。じゃあ頼んだぞ」

    一年ぶりに使うけど、高圧洗浄機って素晴らしい。クリニックの大きいガラス窓の汚れもすぐ取れて順調に終了、気分良し。次は表の看板やりますか。機械を運んでいると、

    僕「あれっ」

    門の外で自転車に乗った男性がこちらを見ている。あ、今日まで開いてると思ったのかな?それはごめんなさい。近づくと、

    僕「あ?あ!もしかして」

    男「おはようございます。弟くんだね」

    僕「吉田さんだ!お久しぶりです。確か…そう、留学って、行かれたんですよね?」

    吉田「うん。無事終了して、ちょっと前に帰国したんだ」

    僕「それはお帰りなさい、ですね。いいなあ、僕はパスポートさえ持ってないんで」

    パスポート要らずの時空の旅なら、一度だけありますが。

    吉「いきなり現れてごめんね。今日から休診は知ってるんだけど」

    僕「いえ。母、呼んできますね」

    こっちこそ姉を呼ぶと言えずごめんなさい。でも吉田さん、母のファンだから多分合ってる。

    吉「ちょっと待って」

    僕「はい?」

    吉「あの、美香子先生にも勿論会いたいんだけど、義理のお兄さんの忠清さんって、もう速川と帰省してる?」

    僕「え!」

    まさかのそっち?!

    僕「えっと…すみません、今年は兄の地元の方に居まして、こちらには帰らないんです」

    嘘は、言ってない!

    吉「そうかー、それは残念。年末なら会えるかも、と思って来てみたんだ」

    僕「兄に何か用…あ、ひとまず親に声かけてきます」

    慌てて呼びに行く。両親ともかなり本気モードで掃除していたので、マスクやらゴム手袋やら重装備状態で外に出てきた。

    美「吉田くん!あら~、久しぶりね~」

    覚「おー、元気そうだね」

    吉「お久しぶりです。すみません、大掃除されてる最中に。留学終えて無事帰りました。これ、お土産です」

    美「まぁ!イギリスの?ありがとう。せっかく来てくれたから立ち話もなんだしお茶位…あ、今台所使えないわ」

    吉「いえ、すぐ帰りますんで。気になさらないでください」

    美「そうなの?」

    僕「吉田さんね、兄さんに会いたかったんだって」

    覚&美香子「え」

    僕「居ないのはもう説明したよ」

    美「そ、そう?ごめんなさいね吉田くん、尊の言った通りなの。でもどうして忠清くん?」

    吉「直接お礼を言いたかったんです」

    覚「あぁ」

    吉「留学前にしてくださったアドバイスが的確で、そのお礼を」

    美「あー。あの日ね。後から顛末は聞いたわ」

    吉「忠清さんのおかげで、現地で充実した日々を過ごせたので」

    美「そうなの~。うん、有意義な時間だったってわかる。そんな顔してるわよ。いい」

    吉「マジっすか!よっしゃあ、美香子先生に褒められた!」

    去年の夏を思い出している。兄さんあの時何しゃべってたっけ…

    吉「心構えが漠然としていた僕に、何事も前向きで行けと諭してくださいました。英語が微妙だった問題も、こちらから積極的に声をかけたらスムーズにいったんです。話す相手の懐に入り、頑張りました」

    武士の心構え、伝わってるよ!兄さん。

    美「吉田くんなら出来る、と助言してくれたのよ。忠清くんは人を見る目があるから」

    覚「だな。でも偉いぞ吉田くん、中々人のアドバイスって耳に入らないモンだ。ちゃんと出来た君が素晴らしい」

    美「その通り。じゃあ、吉田くんがとても感謝してたって忠清くんに伝えておくわね。尊が」

    僕「へ!僕?」

    吉「あ、彼とLINEとかしてたりする?だったらよろしく伝えてください。お願いします」

    僕「はい…」

    兄さんとLINE!それはタイムマシンよりハードル高し。実現…はしないけど、もし可能だとしたら、通知音は縦笛で決まり。

    吉「ではそろそろ帰ります。お邪魔しました」

    美「元気でね。患者として来ないように!」

    吉「アハハ、はい!」

    覚「よいお年を~」

    僕「よい、お年を」

    吉田さんは、手を振りながら颯爽と去って行った。

    僕「…ねぇ」

    美「何」

    僕「なんで僕なの」

    美「ここは若い者同士で」

    僕「意味わかんねーし」

    美「タイムマシンと平行して造ってる、ビデオ通話的な機械。最終的に作動させるには、一度は永禄へ飛んで調整しないとって言ってたじゃない。だから尊が一番早く会えるからよ」

    僕「まぁそうだけど。でもそうしないと無理って事だけわかってる状態で、まだいつ完成するか予想もできないよ?」

    覚「いつかは完成させるんだろ」

    僕「うん」

    覚「だったら今日の話を覚えとけばいい。唯や忠清くんに会えたらこれ話すってリスト、作っとくか?手伝うぞ?」

    僕「はあ」

    美「またゆっくり作りましょうよ。さっ、持ち場に戻って掃除の続きするわよ~」

    予定は全くもって未定なんだけど…なんとか来年、どちらかは完成できないかなあ。

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    次回は大晦日です。

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    続現代Days尊の進む道36~12月24日15時

    昨年の一連の様子は、現代Days57no.914から59no.916で展開しています。
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    クリスマスムード満載のテーマパークに到着。メインイベントまでまだ時間があるので、駐車場はそこまで混んではいない。

    瑠奈「マフラー出すね!」

    しかし、やはり長さに手こずるのか、首にくるくる巻きつけながら取り出している。

    僕「手伝おうか?」

    瑠「大丈夫。尊には私が巻いてあげるね。ちょっとだけ屈んでくれる?」

    僕「はい。お願いします」

    赤い糸ならぬ白いマフラーで、ふんわりと繋がった二人。う~ん、なんかこの、高揚感?ムズムズする!…ん?

    僕「どうしたの、足元ばかり見て。何か落としちゃった?」

    瑠「ううん。ちゃんと地面の上に立ってるのかなぁって」

    僕「あー。ははっ、はいはい」

    瑠「笑ったなー。妙なコト言ってるって思ってるんでしょ」

    僕「全然?よく見るとちょっと浮いてるし」

    瑠「え!」

    僕「僕も」

    瑠「え?」

    僕「瑠奈とここに来れてるなんて夢心地でさ。だから一緒にふわふわしてると思うよ」

    瑠「そうなの?尊も?嬉しい!」

    イルミネーションの点灯まで、ぐるりと散策している。

    僕「去年も明るい内に来てたよね?ここの入口の写真がそんな感じだった」

    瑠「うん。後から考えたらね、まだ受験頑張ってる子がいっぱい居たのに、おでかけ~なんて浮かれた投稿しちゃったなって、少し反省したの」

    僕「誰も悪くなんて言ってなかったよ」

    瑠「その後もっと浮かれた投稿したしね」

    僕「確かに」

    瑠「この時尊と撮った写真、今でも見返してにんまりしちゃう」

    僕「恥ずかしいよ」

    僕は去年、暗くなりつつある頃にここに着いたので施設の全貌がわかっていなかったが、思ったよりそこかしこに花畑がある。

    瑠「寒空の下なのに元気に咲いてるよね」

    僕「そうだね」

    花か。花…そういえばシリカゲル、あれから使わずずっと放置状態だな。

    瑠「尊?」

    んー、ん。そうだ!

    瑠「どうかした?」

    僕「ん?ううん、何も」

    瑠「百面相、かわいい」

    僕「そんなにコロコロ変わってましたか」

    しかし、冬は日が落ちるのが早い。辺りは徐々に暗く沈み輪郭をなくしていっているが、人は増えてきてるのでザワザワしてる。そうこうする内に5時になった。景色が一変!一面光の海に。盛り上がってきたぞ~!

    瑠「綺麗~」

    僕「いつ見てもすごいな」

    瑠「ね、たけるん。お願いがある」

    僕「何?」

    瑠「光のトンネルでの出逢い、もう一度再現したい!」

    僕「あー、はい」

    瑠「去年と同じ時間で」

    僕「同じ…」

    瑠「忘れちゃった?」

    僕「えーと」

    瑠「5時50分だったんだよぉ」

    僕「すごい。そんなにキッチリ覚えてるんだ」

    瑠「当たり前でしょ。尊が電話くれた時、焦っちゃってスマホ落としそうになったし。舞い上がってはいたけど、全部覚えてる」

    去年。ここに向かう途中で、LINEを確認した。それで瑠奈も来ているのを知り、結果無事会えた訳で。僕としては困惑しながらあれよあれよと進んだけれど、裏でこんなに喜んでくれていたなんてな。電話をかけたのはお姉ちゃんの策略だったけど、はめられるのもたまには悪くない、と思った一件だった。

    瑠「じゃあ行ってくるね」

    僕「うん」

    楽しい時間ってあっという間。もう5時45分だ。僕に向かって走ってくるところから再現すると言うので、一旦離れた瑠奈。ほどかれたマフラーの片端、包む相手が居ないと心許なくて余計に長く感じる。地面に引きずらないよう注意を払う。

    僕「ふう」

    道の隅にふと目をやる。去年、四人が見守っていてくれた場所には…誰も居ない。そりゃそうなんだけどさ、わかってはいてもさ、つい。

    僕「あ」

    瑠奈が走ってくるのが見えた。わー、どうして猛ダッシュ?!到着した彼女、膝に手をつき、肩で大きく息をしている。

    瑠「はあ、はあ、はあ。ケホッ、速、川、」

    僕「大丈夫?!そんなに走らなくても…無理にしゃべらなくていいから!」

    瑠「えっ、と…やだ、セリフ飛んじゃった!」

    僕「完全再現目指してたんだ」

    瑠「何度も復唱したのに~、もう一回戻って」

    僕「え!待って!充分だよ!気持ちも伝わったから!ね、行かなくていい、ここに居てよ」

    瑠「そう?うーん。わかった、尊がそう言ってくれるならここまでにするね」

    僕「ありがとう。こんなに懸命にしてくれるなんて、逆に申し訳ない気分」

    瑠「ううん。こうしたくてしてるだけだから、いいの」

    僕「恐縮しちゃうよ。でもありがとう」

    瑠「つい力入っちゃうのは、言わば尊マニア?だからかな」

    僕「…」

    確か去年兄さんが言ってた。マニアとは超好きで夢中の意味か、ならばわしは唯マニアじゃ、って。なるほど、こんな形で愛を語るのは悪くないな。

    僕「それなら、僕も完全に瑠奈マニアだよ」

    瑠「…」

    僕「あれ、違った?そういう意味じゃない?」

    瑠「ドラキュラ城で有名な」

    僕「へ?」

    瑠「首都がブカレストの」

    僕「あー。いや、それルーマニアだし」

    瑠「正解~」

    僕「まさかそう返されるとは。ははは」

    マフラーの端を手に取った。瑠奈の顔がパッと明るくなり、瞳を輝かせながら待ってるんだけど…

    瑠「…あれ?巻いてくれないの?」

    僕「うん。そうしようと思ったんだけどさ、全速力で走ってきたでしょ。まだ暑いかなと思って止めた」

    瑠「えー!全然暑くない~」

    目を丸くして、首をふるふると横に振る。愛らしい!あまり焦らしても何だから巻いてあげると、最上級にうっとりとした表情で見つめられた。これ、マジで僕に向けられてる?足元ふわふわどころの騒ぎじゃない!

    僕「このまま空飛べそうな気がする…」

    瑠「え?もー、たけるんロマンチストなんだから。でも、私も同じコト考えてた!」

    手を取り歩きだす。タイムマシン造るくらいだから超ロマンチストだよ、知らないの?なーんて、いつか笑って話せる日、来るだろうか。

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    唯マニアの若君、の話は令和Days102no.724に。

    イブのお話はここまでです。次回は、年末恒例の大掃除。

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    続現代Days尊の進む道35~12月24日12時

    君にくびったけ。
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    車まで戻って来た。

    瑠奈「プレゼント、気になってるでしょ」

    僕「そりゃそうだよ」

    瑠「テーマパークに着いてからのつもりだったんだけど、海を背景になんてとっても素敵だよね。今交換しよっか」

    僕「うん。ぜひ」

    瑠「でも、まずは尊からね」

    僕「引っ張るなぁ」

    鞄から美しく包まれた箱を取り出した。

    僕「えーと。メリークリスマス」

    瑠「ありがとう。中身が何かわかっててもすっごく嬉しい。ときめいちゃう~」

    包みをほどき、指輪ケースの蓋を開ける。より笑顔が輝く。可愛いいな。

    瑠「はい」

    蓋を開けたまま、僕に向けた。そして左手を差し出す。

    僕「え、もしかして」

    小首を傾げ、ニコッと微笑んでいる。そ、そんなの、反則だって!予習?練習?どうしよう、上手くできるのか自分!指輪もどきは今まで四人分も作ってきたけど、これ本物だし!いや、ウダウダ考えてる場合じゃない。ケースから指輪をそっとつまみ上げる。瑠奈の手を取り、薬指になんとか滑りこませた。

    瑠「よくできましたぁ。ありがとたけるん」

    僕「いえ。じゃ、じゃあ」

    心臓バクバクのまま、プレゼントボックスを車から出した。

    瑠「メリークリスマス。箱持っててあげるから開けてみて。引かれないといいけど」

    僕「引くって何。どんな品物でも嬉しいよ。楽しみ」

    リボンをほどいて蓋を開ける。ん?色は白っぽくて、フリンジ?が見えている。暖かそうなこれは…

    僕「マフラー?」

    瑠「うん。頑張って編んだの」

    僕「え!手編みなの?!」

    そんな…感動で叫びたい気分だ!

    僕「ありがとう。箱から出していい?」

    瑠「うん。びっくりさせちゃうと思うけど」

    僕「既に相当驚いてるよ?これ以上は…」

    出してみる。出してみる。出して…え?めっちゃ長いんですけど!

    瑠「ごめんね。測ったら3メートルあったの」

    僕「へ?」

    瑠「あのね。どうしてこうなったか話してもいいかな」

    僕「うん」

    ようやく現れたもう片方の端を持ち、くるくると僕の首に二巻きしてくれた。その様子が、なんか真剣に聞いてあげなきゃいけない雰囲気だったので、空箱を受け取り、汚さないようにマフラーの残りを詰めて瑠奈と向き合った。

    瑠「今まで、付き合った人は何人も居た。聞き飽きてると思うけど。でもね、こうして彼とクリスマスを迎えるのは…生まれて初めてなの」

    僕「そう、なんだ」

    瑠「冬に差し掛かる頃には居ても、どうしても続かなくて」

    僕「…」

    瑠「軽い女だよね」

    僕「まさか。そんな事全然思ってないよ」

    瑠「クリスマスが近づくとね、張り切って彼にマフラー贈ろう!って編み始めるの。でも出来上がる前にお別れしちゃうから、渡した経験がないんだよ。笑えるでしょ」

    僕「笑えない」

    瑠「嘘だぁ」

    僕「瑠奈はとても魅力的だから、男が放っておかないのはよくわかる。だから付き合った人が多いのもわかる」

    瑠「…」

    僕「付き合った人がたくさん居たイコール、お別れした人がたくさん居たってことでしょ。いろんな別れ方はあっただろうけど、辛い時だってあったんじゃないかって思ってたんだ」

    瑠「…」

    僕「今日をすごく楽しみにしてるなとは感じてたんだよ。もしかして、また未遂になるかもって心配してた?」

    瑠「ちょっと…だけ。ちょっとだけだよ」

    僕「そっか。ごめんね、安心させてあげられなくて」

    瑠「ううん、尊を疑うなんて私が悪いの」

    僕「だって、トラウマになってたんでしょ?それは仕方ないと思うよ」

    瑠「ありがとう。尊はホントに優しい。それでね、先月、今年こそはって準備始めようと思って、毛糸買いに行ったの。そしたら一緒に居たお母さんが、尊くんは瑠奈にとって特別でしょ、もっと手触りのいいのを選びなさいって。安い毛糸ばかり買ってたからダメだったのよ、もっともそれで尊くんと巡り逢えたとは思うわって」

    僕「はは、そうなんだ」

    おばさまは、僕を認めてくれたのかな。

    瑠「尊ともダメだったらどうしようって頭の片隅にあったんだけど、編み進めてクリスマスが近づくにつれて、大丈夫、絶対尊は応えてくれるって思えて。一針一針がすごく幸せで、どんどん編んじゃって」

    僕「それで長くなっちゃったと」

    瑠「つい。でもね、でもね!」

    箱からマフラーを取り出し、もう片方の端をくるっと自分の首に巻いた。

    瑠「ねっ、こうしたら二人で使えるの…」

    僕「本当だ。これは便利だね。えっ」

    いつの間にか、大粒の涙を流している。

    僕「嘘っ!ハンカチハンカチ!」

    ハンカチ二枚持ちが功を奏す。

    瑠「ありがとう」

    僕「どうして泣くの」

    瑠「尊が私を否定しないから。過去の私もいたわってくれるし受け入れてくれるなんて、ホントに素敵で尊敬できるなって。感動して泣いてるんだよ」

    僕「僕はそこまで立派な人間じゃないよ」

    瑠「謙遜なんてしなくていいのに」

    僕「瑠奈には否定すべき要素がないからだよ」

    瑠「…あはっ」

    僕「え?」

    瑠「分析してる言い方が、尊だなって」

    僕「そうだった?でもいいや、そんなでも泣き止んで笑ってくれたなら御の字です」

    瑠「ふふっ。うん、もう大丈夫」

    僕「そろそろ、出発しようか」

    瑠「はい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道34~12月24日木曜10時

    ドラマSPのラストシーンの、あれです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕「えぇ?!」

    朝。瑠奈を迎えに来たら、マンションのエントランスでもう待っててくれたんだけど…慌てて車を降りた。

    瑠奈「おはよう!」

    僕「おはよう。このデカい箱…」

    瑠「たけるんへのプレゼントだよぉ」

    瑠奈が抱えていた真四角のボックス。大きくリボンがかけてあり、これぞプレゼント!ってアピールしまくりの見た目。ツリーの脇に置いてあったら映えそうだ。

    僕「あ、ありがとう。良かった、迎えに来て。電車ではかなり目立ったと思うよ」

    瑠「そう?ギリ風呂敷で包めるサイズだけどね」

    箱を受け取り、後部座席にそっと乗せた。

    瑠「これ、後で使うからね」

    僕「使う?へぇ…」

    頭に疑問符を浮かべたまま、我が家に戻って来た。玄関を開けようとしたら、待ってと瑠奈が止める。ふーん?ならばと黙って後ろから様子を窺う事にした。

    瑠「おはようございます、おじさま」

    覚「おー、瑠奈ちゃん!どうした?ウチもデートコースに入ってたのかい?呼び鈴なんか押さなくても、尊に開けさせれば良かったのに」

    持っていた小さい包みを差し出す瑠奈。

    瑠「プレゼントのお渡しだけしたかったんです。おじさまおばさまが、素敵なクリスマスを過ごせますように」

    覚「えっ!ちょ、ちょっと何、何~」

    驚いて僕の顔を見る。だよね。

    僕「僕の差し金でも何でもないから。良かったね、お父さん」

    目が泳ぎまくっている。だよね~。

    覚「えーと、母さん!母さんは…いやこの時間は無理だ、いいのかい?瑠奈ちゃん」

    瑠「はい。おじさまおばさまに使っていただけたら嬉しいです」

    僕「今開けてみたら?」

    覚「いや、この感動を独り占めは母さんに悪い。昼に開けるよ。瑠奈ちゃんごめんな、僕ら何も用意してない。せいぜい尊をこき使ってくれな」

    瑠「ふふっ。はい」

    僕「言われなくても尽くすって。じゃ、行ってくるね」

    家の前の道路まで見送りに出てくれた父。プレゼントを大事そうに胸に抱えた姿は、バックミラーの中に消え入るまでずっと映っていた。

    僕「ありがとう瑠奈。何かさ、親孝行したな~って感じる」

    瑠「尊が?あはは。プレゼント気に入ってもらえるといいな。中身はね、オルゴールなの」

    僕「そうなんだ。絶対喜ぶよ」

    僕へのプレゼントは何?とは聞いちゃいけないんだろうな。我慢我慢。

    僕「次は」

    瑠「次は…海!よろしくね!」

    僕「お任せください」

    海までドライブ、のリクエストいただいてます。デートっぽいぞ~!ワクワクしながら車を走らせる。道路はそこそこ混んでいたが、渋滞を抜けてしばらく行った先にある海岸は、人気もなく静かだった。

    瑠「わぁ」

    僕「降りる?」

    瑠「うん!」

    車を停めて外へ出る。風がなく日差しも暖かいから上着なしでいいな。砂浜に下り、並んで波打ち際を歩く。冬の海はとても穏やかだ。

    瑠「ねぇ」

    僕「はい」

    瑠「今私が何考えてるか、わかる?」

    僕「えーと、そうだな…来年の夏は海に遊びに行きたいな、かな」

    その節は、冷たく断ってすみませんでした。

    瑠「ふーん。じゃあ、約束だよぉ。絶対一緒に行こうね」

    僕「はい。ん?もしかして…カマかけた?」

    瑠「ふふっ」

    僕「やったなー」

    瑠「キャハハ!」

    はしゃぐように駆け出した瑠奈。追いかけようとしたその時、

    瑠「きゃあっ!」

    僕「わっ、危ない!!」

    何かに足をとられ、転びそうになった瑠奈。すぐさま後ろから抱きかかえ、事なきを得る。

    僕「良かった、間に合った。足、挫いたりしてない?」

    瑠「うん…大丈夫。ありがとう」

    僕「海藻を引っ掛けたみたいだね」

    足元の安全を確認して瑠奈を立たせる。どうしたんだろ?何か考えてるようだ。すると、僕から数歩離れてこちらに振り向いた。ん?

    瑠「たけるん。試したい」

    僕「試す。何を?えっ」

    僕に向かって走ってくる。嘘、まさか!無理、無理じゃない?!案の定、ピョン!と僕の首に腕をからめるように飛びついた!うわー!

    僕「おっ、とっ、とっと」

    少しフラついたけど、抱きかかえたまま何とか留まった。倒れてない…倒れてない!ちゃんと支えられる位体力ついたんだ!やったー!!喜びに浮かれて姫君を落とさないよう、ギュっと抱きしめる。

    僕「どうしたの。びっくりしたよ」

    瑠「…時は満ちた、って思ったから」

    僕に体を預けたまま、ゆっくりと話す。まるで心に直接語りかけてくれているようだ。

    僕「もう、飛びついても倒れなさそうって?」

    瑠「うん。やっぱり全然大丈夫だった。嬉しい、いつかこんな風に甘えられますように、って夢見てたの」

    あぁ。また気を遣わせてしまったダメな僕だ。

    僕「そうだったんだ。すごく待たせちゃったよね」

    瑠「ううん」

    抱き上げる腕に力をこめる。兄さんのように全くびくともしない状態ではない。でも共倒れにはならない自信がある。そうか、僕は少しは成長できたんだ。

    僕「ごめん。一年越しで」

    転んでしまった瑠奈と、一緒に崩れ落ちてしまった初デートからもうすぐ一年。

    瑠「ふふっ、たけるん頼れるぅ」

    僕「そう思い続けてもらえるよう、より精進します」

    海辺の二人。例えるなら、僕は大地に根を下ろす樹、君はその樹に華やかに咲く花。僕の腕の中で永遠に咲き誇っていて欲しい。ずっと一緒に居られますように。支え続けられますようにと願った。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道33~12月23日水曜

    よくできたお嬢さんで。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    夕方。両親が二人で食事の準備をしている。僕がリビングに下りてきたのを見て、母が手を止め、ダンボール箱を抱えてきた。

    美香子「はい、飾り付けグッズよろしく。私も手伝うから」

    僕「え~、三人だけだから普通の晩ごはんと変わりないのに?」

    美「いいじゃな~い、気分よ気分!全部飾れとは言わないわよ」

    やるけどさ。一応今日は、クリスマスパーティーらしい。

    美「そりゃあね、瑠奈ちゃんも呼びたかったけど。明日も尊とデートで二日連続になっちゃうから、ご両親に遠慮したのよ~。でもね」

    僕「何」

    美「いつかお嫁さんに来てくれたら、毎年一緒に楽しめるから」

    僕「あー、まぁ」

    美「否定しないのね。満更でもない顔して~。このこのこの!」

    僕「くすぐったい!ツンツン攻撃は止めて」

    覚「おーい、お互いイチャつく相手が違うだろ。ここに置くぞ」

    僕「あ、ローストチキンだ!…なんか小っちゃくない?」

    覚「去年に比べればな。家のオーブンだし、三人だけだし。飾れたか?そろそろ始めるぞ」

    パーティースタート。まずは景気付けに例のブツから。

    覚「メリー!」

    僕&美香子「クリスマス!」

    パンパン、パパパパン!

    僕「1人で2つクラッカー引くと、まあまあ華やかだね」

    覚「いい考えだろ?頭数の不足はこうして補うんだ」

    去年は7人だったからな。一昨年は5人。今年はささやかに3人。

    美「唯が居ないクリスマスパーティーは初めてね」

    覚「そうだな。去年も一昨年も、なんやかやでここに居たからな」

    お姉ちゃん、兄さん、源三郎さん、トヨさん。みんな元気かな…。両親も同じく思いを馳せているようだ。

    美「はい!しんみりするのはここまで!冷めない内にいただきましょ」

    覚「三人だけとは言え、腕によりをかけたからな」

    僕「うん」

    いただきます。

    僕「このスープ、クリスマスカラーだね。トマトの赤に、葉っぱが乗ってる」

    覚「これはバジルだ。中々、いいだろ?」

    僕「味も美味しいよ」

    覚「そう言えば、明日の晩ごはんはどうするんだ。やっぱりテーマパーク内で済ませるのか?」

    僕「そうなるね」

    覚「今年はまぁそれでいいとして、来年あたりクリスマスディナーなんて洒落こんだらどうだ。瑠奈ちゃん喜ぶぞ~」

    僕「柄じゃないよ。それにすんげぇ緊張しそう」

    覚「気分上々、ロマンチックの極みだぞ」

    僕「確かに喜んでくれそうではある」

    覚「二人でクリスマスの雰囲気を空間ごと味わい、浸るのがまた良し」

    僕「恋愛マスターは言う事が違うな」

    美「明日のデートの前にもう来年の話?まずはクリスマスシーズンまで相手にしてもらえるかじゃない?」

    僕「ゲゲ、さっきは持ち上げたクセにもうそんな不吉な話を」

    美「だって。結局は尊次第でしょ」

    覚「だな。瑠奈ちゃんに尽くせよ。タイムマシン作成と平行して」

    僕「足枷が多過ぎる」

    パーティー終了。はぁ。満腹だ。部屋に戻り、パソコンを開いて瑠奈を待った。

    瑠奈『たけるん!お待たせぇ』

    僕「いえいえ。そちらも今日はパーティーだったの?」

    瑠『パーティーとまではいかないけど、出前のお寿司食べたよ』

    僕「お寿司!へぇ」

    瑠『ウチのお母さん、料理は洋食が得意でよく食卓に上るから、何かイベントの時のごちそうは、どっちかというと和食なんだよね』

    僕「なるほど」

    そうだった。あの瑠奈ん家の食卓思い出したよ。洋食は目新しくないよな。来年の参考にしよう。

    瑠『あー、明日がもう楽しみ過ぎて!今夜眠れるかなぁ』

    僕「そこまで?」

    瑠『だって…』

    僕「うん?」

    瑠『今は言わないでおく。秘密~』

    僕「はは、そうなんだ。明日のお迎えは10時で良かった?」

    瑠『うん。あ、でもどうしよう』

    僕「何?」

    瑠『私、おじさまとおばさまにもクリスマスプレゼント用意したの』

    えーーっ!!

    僕「そうなの?!どうしよう、僕でさえ親には用意しなかったのに、それより、瑠奈の両親にも何も」

    瑠『気にしないで。ウチの親には内緒で持ってくし尊は何もしなくていい。おじさまおばさまにはとってもお世話になってるもん。ささやかな品物だし、お二人で一つだけだよ?』

    僕「それにしたって。ありがとう。じゃあ、ぜひ手渡ししてやって欲しい。母親はまず無理だけど父に。だから…よし、その時間に迎えには行くから、一度ウチに寄ってから行こうか。それでいい?」

    瑠『いいの?私が黒羽駅まで出よっか?』

    僕「ううん。ちゃんとお迎えにあがりますから」

    瑠『ありがと』

    こちらこそありがとう。瑠奈を娘同然に思ってる両親の、大喜びする姿が目に浮かぶよ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、恋人達のクリスマスイブ。

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    今までの続現代Days尊の進む道、番号とあらすじ、32まで

    投稿間隔が長くなっていますので、最初の方のお話なんて朧気ですよね。
    通し番号、投稿番号、描いている日付(これは毎回の副題と同じ)、大まかな内容の順です。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    1no.1092、2020年1月16日木曜から2月初旬、四人の余韻に浸りつつ新生活の準備へ

    2no.1095、2月14日金曜から15日土曜、高校生活最後のハッピーバレンタイン

    3no.1096、2月15日から27日木曜、芳江とエリの手助けがしたい

    4no.1099、2月29日土曜朝から昼、岩盤浴デートで超接近

    5no.1100、2月29日昼から3月2日月曜、小垣城資料館は近日開館。卒業の重みを噛みしめる

    6no.1101、3月6日金曜から11日水曜昼、大学合格。タイムマシンを二つ造る計画に着手

    7no.1102、3月11日昼から夕方、瑠奈を昼食に招待。両親は感心しきり

    8no.1103、3月14日土曜、イメチェン完了

    9no.1104、3月中旬から下旬、業務用システム改修を耳にした瑠奈の父にスカウトされる

    10no.1105、3月下旬から4月中旬、若君が不良を成敗した話をするも瑠奈にとって主役は尊

    11no.1106、4月26日日曜、小垣城資料館見学からの木村先生の講演

    12no.1107、6月上旬、車の免許取得。システムの売上好調でこの人材は逃さんぞと会社総出で動く

    13no.1108、6月27日土曜、納車。初運転は家族で吉田城跡

    14no.1109、6月28日日曜9時、瑠奈と初ドライブは小垣城資料館から。講演の効果はここでも絶大

    15no.1110、6月28日11時、服買いまくり

    16no.1111、6月28日14時、浴衣を選び合う。うかつな発言に注意

    17no.1112、6月28日夕方から29日月曜、迫られた真意に気づけなかった

    18no.1113、6月30日火曜、みつきには勝つ術なし。三人でプールへ行く約束した

    19no.1114、7月25日土曜夕方、地元の祭で浴衣デート。こんな形で恨みを晴らすとは

    20no.1115、7月25日夜、瑠奈のごもっともな指摘に詰めが甘い速川家

    21no.1116、8月4日火曜9時、プールへGO。瑠奈のビキニ姿を直視できない

    22no.1117、8月4日11時、危険もお腹もゴロゴロと。瑠奈の決意表明

    23no.1118、8月4日13時、来たからには知識も総動員して満喫すべし

    24no.1119、8月4日17時、罠じゃないよ愛と尊敬と感動だよ

    25no.1120、8月上旬、若君の日記の解読を手伝える運びに

    26no.1121、8月中旬、温泉旅行に行こうよ

    27no.1122、9月3日木曜朝、瑠奈誕生日。周りの大人達に見守られ温泉宿に出発

    28no.1123、9月3日昼、いろんなケーキでお祝いします

    29no.1124、10月上旬から中旬、瑠奈の家に招待される

    30no.1125、10月中旬、不穏な風向きになったが助けられ回避。だが思い悩む

    31no.1126、11月下旬、主語は違えど会話成立

    32no.1127、12月上旬、デパートでも薬局でもいつでも君を想ってる

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    続現代Days尊の進む道32~12月上旬

    あれから四か月も経ってるしな。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    一段とクリスマス仕様の飾りつけが映える、都会の大きいデパートに二人で訪れた。

    僕「約束通り、誕生日のプレゼント代をここで上乗せするからさ。自由に選んでいいよ」

    瑠奈「ありがとう。でも予算はあるでしょ」

    僕「まぁ、それは」

    瑠「大丈夫。常識の範囲内にするからね」

    アクセサリー売場があるフロアに到着。

    僕「あー緊張する」

    瑠「そうなの?」

    母が言ってたように、ちょっとオロオロしてる男性の姿がちらほら見受けられる。二人で来て良かった。一人で来てたら僕も絶対挙動不審人物だったよ。

    瑠「わぁ、キラキラ~」

    大喜びでショーケースを眺め始めた瑠奈。まずは自由に見てもらおう。少しだけ離れてラインナップをちらっと覗いてみるか。…ん?うぇっ、もしかして眼鏡の調子が悪い?違うな、ちょっと、ちょっとどころでなくあの、お値段ってこんなに張る物なの?!

    瑠「たけるん?どしたの」

    僕「いえ何も、何もです」

    瑠「それを吟味してくれるのはすっごく嬉しいけどぉ、今日はまだいいよ」

    僕「まだ。って?」

    瑠「ここエンゲージリングのコーナーだから」

    僕「あっ、そ、そうなんだ」

    だから数字が6桁なんだ。ビビった~。え、まだ、まだといつかはセットですか?妄想しそうになったが、瑠奈はどんどん先に行っている。待って、置いてかないでー。

    瑠「たけるん、これどう思う?」

    候補が決まったみたいだ。どうしよう~と言いながらもササッと売場見てたし、決断が早いんだな。感心する。気に入ったならそれでいいんだけど、ここはちゃんと答えないとな。

    僕「すごく華奢な指輪だね。似合いそう」

    瑠「ホント?はめてみようかな。7号サイズありましたよね?」

    店員「ございます。お出ししますね」

    ピンクがかったゴールドで幅はとても細く、小粒のダイヤモンドが三つ並び煌めいている。

    瑠「うふふ。かわいい」

    店「お客様の細い指にとても映えますね」

    薬指の7号サイズってやっぱり細いんだ。しかも思ったより手頃な価格。婚約指輪見ちゃった後だから余計にかもだけど。

    僕「すごく似合ってるけど、いいの?それで。もっと宝石がガツンと付いてるのもあるよ」

    瑠「だって二人ともまだ学生だし。豪華なのはもっと大人になってからでいいもん」

    僕「そっか。また気を遣わせちゃったかな」

    瑠「ううん。尊にはこれからいっぱいプレゼントしてもらうから。今回はこれでお願いしまーす」

    僕「ははは。わかりました」

    購入し、プレゼント用に包んでもらった。無事完了だ。ふぅ。一休みしようと、そのままデパート内の喫茶コーナーに入る。街並みが臨める窓際の席についた。

    瑠「私からのプレゼントもちゃんと用意してるからね。喜んでくれるといいな」

    僕「それは楽しみ。24日に交換だね」

    瑠「ねぇ、今年は一緒に行けるんだよね?」

    クリスマスイブは、去年偶然出逢えたテーマパークへ、イルミネーションを観に行く予定。

    僕「勿論。行くのはイブで良かった?もしかして25日かなと思ってたんだよ。と言いつつそっちはバイトが入ってるんだけどさ」

    瑠「尊に逢えた記念日は25日だけどぉ、デートするならイブが良かったから」

    僕「なるほどね。ん?何やら手配したニオイがするような」

    瑠「え~?お父さんに、二日間の内どちらかは尊くんに出勤して欲しいんだがどっちがいいんだ、って聞かれただけ」

    僕「連携プレーでしたか」

    瑠「勝手に日付決めるなよ、って?」

    僕「ううん。瑠奈の行きたい方で全然OK」

    瑠「間違いなく行けるよね?」

    僕「そうだよ?え、ちょっと距離があるから運転が心配とかかな」

    瑠「そういうんじゃないの。イブを一緒に過ごせるんだねって」

    僕「うん?」

    何か含みがありそうな気もするけど、すごく待ち遠しそうなのは見ててわかったからまぁいいかな。安堵の表情で景色を眺めていた瑠奈が、何かに気づいた様子で窓の外を指差した。

    瑠「薬局見っけた」

    僕「うん、あるね。寄りたい?」

    瑠「この前、在庫残り僅かだったじゃない」

    僕「あー」

    瑠「だから」

    あの品ですね。

    僕「それならもう買い足したから大丈夫だよ」

    瑠「え、一人で買ったの?」

    僕「そうだよ。何か疑ってる?」

    瑠「ううん。以前一緒に売場見てた時、すごく人目を気にして恥ずかしそうにしてたから。ちょっとびっくりしただけ」

    だよね。でも考えを改めたんだよ。

    僕「それ、逆だなって思ってさ」

    瑠「逆。どういう意味かな」

    僕「他人の目なんか気にしなくていい。大切な瑠奈を守る為の物なんだから、恥ずかしいと思う方が間違ってる」

    瑠「…」

    僕「だから堂々と、レジにも普通に出したよ。ごめんね、この前はあんな風で」

    瑠「尊…」

    僕「あと僕、一つ心配になって。答えにくい質問だとは思うけど、この機会に聞きたい。いい?」

    瑠「どうぞ。話して」

    僕「もしかして、今までにナシでとか酷い目にあったりしてない?」

    瑠「…嫌々着けてる男は居たよ」

    僕「ひでぇ、下郎だ」

    瑠「断固拒否したからナシではしてない。それは安心して」

    僕「良かった」

    瑠「尊って…ホントに優しいね」

    僕「僕は、こちらの考え方が正解だと思ってるから」

    瑠「いやん、ジェントルマン。素敵~」

    僕「然程でもございませぬ」

    瑠「あはは。じゃあ決まり!行こっ」

    僕「今からですか」

    瑠「そのつもりじゃなかったの?準備ばっちしだし」

    僕「まぁ、まぁ」

    瑠「たけるんはいつも、お願いしないと拐ってくれないね」

    僕「すいません」

    グイグイ迫るなんて、未熟者の僕には450年早いんで。

    瑠「でもそんなトコも、大好き」

    僕「あ、ありがとう。…引率お願いします」

    瑠「ふふっ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回はクリスマスイブイブです。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道31~11月下旬

    結果オーライで。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ネット注文は時間も選ばないし楽だけど、これをクリック一つで済ませるのはなんか味気ないんだよな。

    覚「鍋、どうだ。そろそろ火も通っただろ」

    と言いつつ、あぁいった店に一人で行くなんて敷居が高過ぎる。

    美香子「春菊も豆腐もいいわよ」

    でもプレゼントが何かわからない方が、サプライズな感じでいいのかな。

    美「尊~。聞いてる?」

    僕「え?あ、ごめん」

    美「早く取んなさい。次が入らないでしょ」

    晩ごはん。寄せ鍋から上がる湯気の揺らめきをぼんやり眺めながら、ずっと考えていた。

    覚「何だ。悩める青年か?」

    美「瑠奈ちゃん関係じゃない?だってクリスマスが近いもの」

    図星です。

    覚「お父さんの会社からいただいた給料は娘さんにどんどん還元すればいい。プレゼントはアクセサリーが定番だよな」

    美「今の時期、いかにもって男の子達が店頭に増えるのよね~」

    覚「場慣れしてない感じのな」

    美「微笑ましいのよね」

    息子の悩みを見透かすような話しぶりだな。

    覚「ブレスレットかネックレスが無難だろ。サイズを気にしなくていいし」

    美「昔流行ったわね。ハート型のペンダントトップの」

    覚「あったな。ん?それ、欲しかった?」

    美「ううん?お父さんが選んでくれたのは何でも嬉しいから」

    覚「おほー。そうかそうか」

    何なんだ。当てつけか?

    覚「瑠奈ちゃんには何をプレゼントする予定なんだ?」

    僕「指輪だよ」

    あ、会話に参加してるつもりでしゃべってしまった。まあいいか。

    美「サイズはわかってるんだ?」

    僕「うん」

    覚「あれか、唯の時みたいに指に糸巻いたりしたとかか?」

    僕「そんな面倒な事はしてない」

    美「どんな手を使ったのよ」

    僕「え?まぁいいじゃない」

    つい適当にあしらってしまった。この後両親がヒソヒソ話を始めたが、気にせず僕は指輪の購入方法をずっと逡巡していた。

    覚の囁き「詳しく話したがらないのは、言えない理由があるからか?」

    美香子の囁き「何。特殊なシチュエーションって事?」

    覚 囁き「例えば、外した指輪を見つけてこっそり測ったとか」

    美 囁き「なるほど。だったらやましい思いはあるわね。でもどこで指輪外す必要がある?」

    覚 囁き「確かに。風呂とか寝る前位か」

    美 囁き「お風呂…寝る…」

    覚 囁き「え。まさか」

    美 囁き「まさか。一緒に出かけた先で?」

    覚 囁き「ホテル…とか?」

    美 囁き「あえて言わずにいたのに」

    覚 囁き「もうそんな仲なのか?!」

    美 囁き「有り得なくはないでしょ」

    覚 囁き「うーん」

    美 囁き「行為自体は反対しないわ。瑠奈ちゃんの同意があれば」

    覚 囁き「まあな」

    美 囁き「けど、避妊は必須」

    覚 囁き「当然だ」

    美 囁き「私達の取り越し苦労でまだそんな仲でなかったとしても、この際きちんと指導しておいた方がいいわよね」

    覚 囁き「そうだな」

    美 囁き「お父様よろしく」

    覚 囁き「僕かー」

    鍋のグツグツ煮える音で、両親が何をしゃべっているかは聞こえていなかった。やっぱ指輪なんて、実物見ながら一緒に選ぶべきじゃない?気に入った物をあげたいし。ここは恋愛マスターに教えを乞おう。

    覚「尊」

    僕「お父さん」

    声がかぶってしまった。

    僕「ごめん、いいよ先にどうぞ」

    覚「あ、あぁ」

    咳払いをする父。あー、そうか。僕が何で悩んでるかわかったんだな。さすがマスター。

    覚「瑠奈ちゃんは、大切に扱わねばならん」

    僕「はい。重々承知しております」

    覚「コン…は、購入してるか?」

    美 囁き「そんなアプローチの仕方なの!過程を飛ばし過ぎじゃない?まぁいいわ、主語が言えてないけどわかるかしら」

    今回、指輪はもう買ったのか聞いてるんだな。

    僕「わかってる。それなんだよ、どうしようかと。やっぱり一緒に買いに行くべき?」

    覚「え!用意してない!まさか、ナシで済まそうなんて思ってないだろうな?」

    僕「まだ買ってないだけだよ。瑠奈はお母さんからもらった物を持ってて」

    美 囁き「えっ。教育的見地かしら。女子の嗜みとして?それにしても素晴らしい」

    僕「色々あり過ぎて、どんなのがいいか僕はわからないから。ずっと悩んでて」

    覚「あ、あぁ確かに種類は豊富だが。最近の若い子はこんな風なのか」

    美 囁き「普通に売場の棚に陳列してるしね。カップルで選ぶのは悪くないと思うわ」

    僕「一緒に決めた品物なら、僕が買った方を使ってくれるかなって期待もあり」

    美 囁き「それって今使ってるのは使い心地がイマイチとか?そういう物なの?お父さん」

    覚 囁き「気持ちの問題だろ。それか実はサイズが合わないとか」

    美「サイズ!」

    僕「へ?!」

    ボソボソ何やら密談をしていた両親だったが、急に母が声を張り上げたのでびっくり。

    覚「サイズが合わんのは問題だな…」

    僕「サイズ?それは瑠奈の方から言ってきたんだよ」

    美「えっ、誰かと比べて?」

    僕「比べる?比べるか。瑠奈は僕なんかと違って何人もの男性と付き合ってきたから、ショボいヤツと思われても仕方ないと思ってる」

    覚「えぇぇ、その…尊はショボいってはっきり言われちゃったのか?」

    僕「ううん。いつも、僕が一番だよってすごく褒めてくれる」

    美 囁き「あらー。そんなになの」

    覚「それは自信持てるな」

    僕「で?どうしよう」

    また咳払いをする父。

    覚「瑠奈ちゃんが持っている物はそれはそれ。お前が一人で買うのを躊躇するのなら、一緒に行くべきだ。彼女の好みもわかるし」

    僕「そっか。やっぱそうだよね。一緒に店に行こうって誘ってみるよ。ありがとう」

    何かホッとしたら、お腹が空いてきたぞ。さあ食うか~。

    美「駆け足で大人になっていくのね」

    覚「ん。あー冷や汗かいた」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、ショッピングデート。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道30~10月中旬

    疑問に思うのは頷けますが。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    食卓が華やかで少しビビってる。洋食のコース料理を一度に並べたみたいな?

    全員「いただきます」

    良かった。こんな事もあろうかと、テーブルマナーは復習してきたんだ。

    僕「とても美味しいです」

    聞かれる前に言えよ、との父のアドバイスに従う。

    瑠奈「ホント?これ、これね、私が味付け手伝ったの!」

    瑠奈の父「尊くんの口に合ったみたいだな」

    瑠奈の母「良かったわ。お父様がプロ並の腕と聞いていたから、ヒヤヒヤだったのよ」

    つつがなく進んでいた。ここまでは。

    瑠母「ところで、尊くん」

    僕「はい?」

    瑠母「あなたには、ビジョンってあったりするのかしら?」

    僕「ビジョン、ですか」

    瑠母「夢とか今後どうありたいとか。聞かせてもらえないかしら」

    僕「夢。はい…」

    瑠母「医師を目指さなかったのはなぜ?」

    えっ。

    瑠「え、ちょっと」

    瑠母「ご両親はそれを了承してみえるの?」

    瑠父「おい、待て。不躾過ぎるだろ」

    瑠母「質問してるだけよ」

    瑠父「聞き方にトゲがある。驚いてるじゃないか。それに、どうありたいかなんて俺が尊くんの歳でも考えてなかったぞ」

    瑠「お母さん!尊にはね、やりたい事や究めたい事がいっぱいあるの。そんないじめるような言い方しないで!」

    瑠母「いじめてなんかいないわよ。尊くんはお婿さん候補の筆頭でしょう?瑠奈の人生に関わるもの、気にして当然じゃない」

    僕「…」

    タイムマシンの話まではしないとしても、発明家になりたいなんて言っておばさまに納得してもらえるとは思えない。なら特にありませんと答えればいいんだろうが、迫力に押されてしまい、体が硬直して思うように口が動かない。

    瑠父「この話は止めだ。そんなに矢継ぎ早に聞いたら言いたい事も言えない。ごめんな、尊くん」

    僕「あの…」

    瑠「尊しゃべっちゃダメ!すっごく汗かいてるもん。お母さんもういいでしょ!」

    瑠母「…わかったわ。ごめんなさいね、尊くん」

    その後は、おじさまが違う話題を振ってくれ、強張っていた顔も少し弛緩したのだが…情けない奴と思われただろうな。

    瑠「ごちそうさま。ねっ、デザートタイムはもう少し後にしようよ。先に尊に私の部屋を見せてあげたい」

    瑠父「あぁ。それがいいだろう。いいな?」

    瑠母「ええ」

    瑠「じゃあ30分後に戻るね。尊、行こっ」

    僕「あ、うん。ごちそうさまでした」

    気まずい雰囲気が続かないよう助け船を出してくれたんだな。ごめん。おじさまおばさまに会釈をして、席を立った。

    瑠「どうぞ」

    僕「失礼します…」

    廊下を少し進んだ先に瑠奈の部屋はあった。女の子の部屋なんて、姉の以外入るのは初めてでまた緊張してしまう。

    僕「へぇ」

    所々の調度品は可愛らしいが、さっぱりとした印象だ。ビデオ通話で背景にチラリと見えていたから、雰囲気は掴んではいたけど。

    僕「こんな感じなんだ」

    瑠「あはは。ぬいぐるみドーンと並んでたり、推しのポスター貼ってあったりするかと思ってた?お姉さん達がそうだったとか?」

    僕「あぁ、まぁ」

    そういう事にしておく。お姉ちゃんの部屋は部活関係グッズが多かったし、壁には妙なタスキがぶら下がってたりしたけど。

    瑠「なら、推しの尊の写真、いっぱい貼っちゃおうかな」

    僕「えぇ?それは恥ずかしいからご勘弁を」

    瑠奈はクスっと笑った後、真顔になった。

    瑠「尊。もう大丈夫?」

    僕「うん。ごめんね。ダサかったよね」

    瑠「全然ダサくなんかないよ。ごめんなさい、お母さんがまさかあんな事言い出すなんて。お父さんも知らなかったみたい」

    僕「即答できなかった僕が悪いんだよ」

    瑠「せっかく秘密にしてるのにね」

    僕「秘密…」

    瑠「だって。夢を語りたいならとっくに話してるでしょ?だから私も聞かなかった」

    僕「…」

    目下の夢。タイムマシンを二つ完成させたい。無理だ、まだ言えない。将来の淡い夢。君と共に人生を歩みたい…これは、今日で少し遠のいてしまったんじゃないかな。

    瑠「たけるん」

    虚ろな表情の僕に、瑠奈が抱きついてきた。でも下を向いたままだ。

    瑠「お願い。嫌いにならないで」

    僕「そんな、ならないよ。娘の心配してるんだもの。おばさまの気持ちはわかるよ」

    瑠「お母さんじゃない。私を」

    僕「私?どうして」

    瑠「お母さんが暴走しないように、いくらでも手は打てたはずだもん…」

    血の気がサーッと引いた。ごめん、本当にごめん。何も言わないのは罪なんだ。

    僕「瑠奈を嫌いになんてなりっこない」

    瑠「ホント?」

    顔を上げた瑠奈と、真っ直ぐ見つめ合った。

    僕「庇ってくれてありがとう。あの、ね」

    瑠「うん」

    僕「両親は僕の夢を知ってる。そして応援してくれていて、クリニックを継がないのも了承してるんだ」

    瑠「そうなんだね」

    僕「この位しか言えなくて。ごめんなさい」

    瑠「いいよぉ。話してくれてありがとう。親がOK出してるのを、他人がとやかく言っちゃ失礼だよね」

    僕「瑠奈は他人じゃないけど」

    瑠「うふふ。ありがと。もうしゃべらなくていい…」

    唇がそっと近づき僕の口を塞いだ。こんなに愛おしい彼女から惜しみなく注がれる愛情に、僕は応えられているのだろうか。このまま口をつぐみ何も語らないのは正しいのだろうか。苦悩の日々は続くのだろう。

    瑠父「おぅ、お帰り」

    瑠母「メロン切ったわよ」

    瑠「わぁ、柔らかそう!」

    僕「いただきます」

    最後は和やかな雰囲気で会食は無事終了した。そして。瑠奈が上手く両親に説明してくれたらしく、その後一切、同じ質問を受ける事はなかった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、11月も終わりの頃です。

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    続現代Days尊の進む道29~10月上旬から中旬

    律儀な息子。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    親に立て替えてもらっていた愛車の代金、完済しました!

    美香子「こんなに早く支払いが終わるなんてびっくりねー。もっとお値段の張る車でも良かったんじゃない?」

    僕「別に。気に入ったから買ったんだし」

    覚「これも、コンスタントに収入が得られてるからこそだな」

    シニア向けの業務システムが売れ行き好調で、そちらの収入がかなり比重を占めていた。

    僕「思った以上にね」

    美「瑠奈ちゃんとお父様に感謝しなさいよ」

    僕「うん」

    ┅┅

    翌日。バイト先に出勤。すると、

    瑠奈の父「速川君、ちょっといいかい」

    僕「はい」

    社内では当然こう呼ばれる。でも人が居ない場所でサシで話すとなると少し変わってくる。

    瑠父「尊くん、聞いたよ。車代を親御さんに返し終わったんだって?」

    僕「はい、払い終わりました。ここで働かせてもらっているお陰です。部長に感謝です」

    瑠父「いやいや。君のスキルの高さに他ならないよ。でね、ここからは瑠奈の父として話すけれど」

    僕「はい?」

    瑠父「一度我が家にご招待したいんだ。瑠奈がお呼ばれするばかりではね。返済のお祝い、でもないけれど」

    僕「いいんですか」

    瑠父「上司の家なんてあまり気乗りしないだろうけど、是非来て欲しい」

    僕「そんな事ないです…。ありがとうございます、部長」

    瑠父「ハハハ、そこで部長は違うよ。瑠奈に言われてたろ?」

    僕「あ、はい…おじさま、ですね。すみません」

    違和感ありありですが。瑠奈に、ウチの両親もそう呼んで!と強制…って言うと怒られる、アドバイスされてて。恥ずかしいけど、お父さんでは馴れ馴れしいし、妥協した訳で。

    瑠父「日にちはまた擦り合わせしよう」

    僕「わかりました」

    ┅┅

    来訪日に決まった日曜日。両親は大騒ぎだ。

    美「服装良ーし。あ、靴下は新品にした?」

    僕「したよ」

    覚「手土産は、風呂敷から出して正面向けてお渡しするんだぞ」

    僕「わかった」

    美「大丈夫かしら~」

    覚「粗相のないようにな」

    僕「頑張るよ。行ってきます」

    電車で行こうかとも思ったけど、近くのコインパーキングに停めてマンションに向かった。

    瑠奈「尊おはよぉ!いらっしゃいませ」

    僕「おはよう。お出迎えありがとう」

    到着時間に合わせ、エントランスまで降りてきてくれていた。ふーん。これがオートロックマンションか。高層階まで上がる。

    僕「マンションって、何かスゲぇ」

    瑠「全然すごくないよ。尊のお家、庭があるじゃない。そっちの方がいい」

    僕「そう?」

    瑠「緑に囲まれてて羨ましいよ。草いきれとか好きだもん」

    エレベーターを降り、玄関前に立った。緊張MAX!

    瑠奈の母「尊くん。いらっしゃい」

    瑠父「よく来てくれたね。さ、上がって」

    挨拶とか、手土産をちゃんと渡せたとか覚えていない。気が付くと、リビングのソファーに座っていた感じ。大丈夫だったかな…。

    瑠父「電車?車?」

    僕「車で来ました」

    瑠母「車でもまだまだ暑いわよね。冷たい飲み物用意したわ。どうぞ」

    僕「ありがとうございます」

    お茶のキリッとした冷たさに、少し感覚を取り戻せた。

    瑠母「ふふふ、思い出すわ。お正月のあの瑠奈の姿」

    瑠「やだ、お母さん黙ってて」

    瑠母「尊くんにデートの約束取り付けるまで、もう大騒ぎだったのよ」

    瑠父「その後も騒いでたぞ。元日の電話の時には俺は居なかったけれど、デート前日もかなりだった」

    僕「そうだったんですか」

    瑠母「あんなにキャーキャー言って、どんな男の子なのかしらと思っていたわ。でもこんなに良い子で」

    瑠父「子、は失礼だろ」

    瑠母「あらごめんなさい、こんなに素敵な男性で。今は瑠奈がぐずってたこのソファーに座っているなんてね。良かったわね、瑠奈」

    瑠「うん!」

    両親の前でも構わずくっついてくる瑠奈。恋愛にオープンだから?かなり恥ずかしい。

    瑠「さてと。じゃあ、ご飯の支度、手伝ってくるね」

    僕「行ってらっしゃい」

    ソファーに男二人残った。何を話すべき?共通の話題は仕事関係だけど、今はそぐわない気がする。どうしようかと少し視線を外すと、飾り棚の風景写真が目に入った。

    僕「山と湖と。いい景色ですね」

    瑠父「盆休みに出かけた先で撮ったんだ」

    聞きました。瑠奈のお兄さん家族も一緒だったって。僕はその間、実験室で連日作業に集中し、こう言っては何だけど随分と捗りました。

    瑠父「スマホだよ?カメラ機能を駆使してね」

    僕「すごく綺麗ですね。僕の父もカメラが趣味なんです」

    瑠父「そうなのかい?さぞかし腕が立つんだろうね。旅行先はね、当初はもう少し遠方も候補だったんだ。でも瑠奈の義理の姉に二人目が出来たのがわかったんで、安全策で近場に変更したんだよ」

    はい、それも聞いてます。

    瑠父「また孫に会えると思うとね、楽しみで仕方ないんだ」

    瑠「尊~、お待たせぇ」

    瑠母「準備できました。どうぞいらしてください」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道28~9月3日昼

    どのケーキも美味しそう。いや、唯のはそうでもない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    12時になり、和の風情満載の料理が続々と運ばれてきている。

    旅館の仲居「お飲み物はいかがなさいますか?」

    瑠奈「どうする?」

    僕「乾杯したくない?祝杯的な」

    瑠「あー。うん、そうする!」

    ソフトドリンクですけど。料理も第一段が出揃ったようだ。

    旅仲「どうぞお始めになってください。次のお品は出来次第お持ちします」

    瑠「はーい」

    僕「それでは。誕生日おめでとう」

    瑠「ありがとう~!」

    乾杯している僕らを横目に、仲居さんがニコニコしながら出ていった。

    瑠「美味しそう~」

    上機嫌なのが何より嬉しい。その後も天ぷらなどできたての料理が続々と運ばれてきて、僕も充分堪能した。あとはデザート、となったんだけど…

    瑠「あっ」

    僕「あれっ」

    運ばれてきた大皿。ケーキやフルーツが可愛らしく盛り付けてあり、

    瑠「わぁ!ハッピーバースデーって描いてある!え、尊のサプライズ?」

    僕「ううん、僕何も伝えてないけど…」

    旅仲「僭越ながら、記念日に当館をお選びいただいた感謝を込めまして、ご用意させていただきました」

    僕「えっ、なんで知って…あ、そっか、さっき乾杯してたからですか?」

    旅仲「はい。先程のお客様のご様子を厨房に伝えましたところ、パティシエ経験者の料理人が俄然やる気を出しまして。久々に腕をふるえたと喜んでおりました」

    僕「そうだったんですか。ありがとうございます。良かったね、瑠奈」

    瑠「嬉しい~!これも写真撮らなきゃ」

    旅仲「宜しければご一緒にお撮りしますよ」

    瑠「いいんですか?お願いします!尊、もっと寄って寄って」

    僕「うん」

    二人で写真に収まっている頃、速川家も昼ごはんが終わろうとしていた。

    美香子「あら~、買ってきたの?」

    覚「まぁな」

    食後に、苺のショートケーキが二つ現れた。

    覚「尊達は二人でそれなりの祝い方をしてるだろうからな。主役は不在だけど、僕らもささやかにと思ってさ」

    美「そう。うん、いい。ねぇ、ロウソクってなかったっけ?」

    覚「去年のクリスマス、ケーキ二つ買った時に付いてたヤツとかをどこかにまとめておいた筈だが。って、オイ」

    既に席を立ち、ゴソゴソ探し始めていた母。

    美「見つけたわ。いつの分からとってある?思ったより大量。2本あれば充分だったけど」

    覚「大量のロウソク…そう言えば昔、あったな。ロウソクホラー事件」

    美「あったわね~。唯が中学生の頃?」

    覚「だな。誕生日ケーキ、最初吹き消す時に立てた歳の数のロウソク、切り分けた後の自分のケーキに全部立て直してまた火をつけると言い出して」

    美「上に刺す場所がなくなって横のスポンジ部分にも突き刺すから見た目は怖いし、溶けた鮮やかな色のロウがお皿や苺の上に点々と落ちてたりしてシュールで。祝ってるんだか呪ってるんだかわかんない有り様だったわね」

    覚「尊は物凄く冷たい目で見てたしな」

    美「懐かしいわ~」

    1本ずつ立てたロウソクに火を点ける。

    覚「僕らと出逢ってくれた事に感謝を込めて」

    美「大感謝よ~」

    15時になった。こちらは瑠奈の家。

    瑠奈の母「あら、こんな時間にLINE?何かしら」

    瑠奈の父の投稿『ケーキってどの店に取りに行くんだった?』

    瑠母「え。今頃何言ってるの」

    瑠父 投稿『今朝あっという間に追い出されたからうろ覚えで』

    瑠母「それはあなたが悪いんでしょう。んもう」

    ササッと店名を入力すると、フゥと一息。

    瑠母「仕込みの続きしましょ」

    その頃の僕達。

    僕「お世話になりました」

    チェックアウト中。

    瑠「デザートのケーキプレート、ありがとうございました」

    旅館フロント「お気に召していただけたなら、私共も嬉しい限りでございます」

    旅館を後にした。

    僕「どうだった?」

    瑠「また来たいな」

    僕「いい旅館だったね」

    瑠「うん!尊とラブラブできたしぃ」

    僕「はは。はい」

    瑠「旅行!って感じが良かった」

    僕「そうだね。帰ったら家では豪勢なパーティー?」

    瑠「かな。お母さんがゆうべから何か煮込んでた」

    僕「すげぇ。手かかってる」

    瑠「尊もいつかウチに食事しに来てね」

    僕「あ、はい」

    100点満点中何点だったんだろう。そんなん気にしなくて済むよう、もっと自信持てるといいんだけどな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は10月に入ります。

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    続現代Days尊の進む道27~9月3日木曜朝

    腹は決まってるんだよね?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝8時過ぎ。

    美香子「あら、今日は早いわね」

    覚「おはようございます」

    芳江&エリ「おはようございまーす」

    クリニックでコーヒータイム。

    美「尊は?」

    覚「さっき出かけた」

    美「そう。今日ね、彼女のお誕生日なんですって。ゆうべからソワソワしてたのよ~」

    芳江「あらぁ」

    エリ「初々しいですね」

    覚「どこ行くんだって聞いてはみたんだがな、内緒だって断られた」

    美「そんな野暮な事して~。何とかランドでも何とかパークでも、どこでも楽しいに違いないんだから」

    芳「でも尊くんすっかり、少年から青年に大変身していますよね」

    覚「まぁ、見た目は。中身も追いついているといいんですが」

    エ「あの、ちょっと失礼な事を申し上げてしまうんですが」

    美「あら、いいわよ。何かしら」

    エ「尊くん、猫背と言いますか首がヒョコっと前に出てるような歩き方でしたけど、最近はそうでもなくなったような気がします」

    美「エリさん、よく見てくれてる。正解!それはね~。お二人は彼女、瑠奈ちゃんにまだ会ってないわよね。写真は見せたっけ?」

    エ「はい。尊くんと二人、微笑ましい浴衣姿のお写真は拝見しました」

    芳「エリさんと、朗らかな笑顔の娘さんねって話してたんですよ」

    美「とっても可愛らしいお嬢さんじゃない。実際一緒に居るとすごく注目されるらしいの。だからね、何とか彼女と釣り合うよう、背筋を伸ばして歩くのを心がけてるらしいのよ~」

    芳「あら素敵。努力の賜物なんて」

    エ「いいお話ですね。尊くんにとってそのお嬢さんは、自分を高めてくれる存在でもあると」

    美「ホントありがたいのよね」

    その頃、瑠奈と落ち合っていた僕。

    瑠奈「おはよう!」

    僕「おはよう。そして誕生日おめでとう」

    瑠「ありがとう。お父さんがね、どこに連れてってもらえるんだって朝からうるさくって。もー早く仕事行って!ってさっさと家から追い出したんだよ」

    僕「ははは。いずこも同じだね。ウチも父親に聞かれたよ」

    よし、出発。その頃、バイト先では…

    瑠奈の父「おはよう」

    部下1「おはようございます!」

    部下2「おはようございます。部長、今朝は随分とお早いですね」

    瑠父「娘をからかっていたら、邪険にされてしまってね。早く会社に行けとさ」

    部2「あら、娘さんがいらっしゃるなんて初耳です」

    瑠父「そうだね。職場で家庭の話はほぼしないから。娘は今日で19になるんだよ」

    部1「へー!それはおめでとうございます。部長の娘さんなら、さぞかしお美しいんでしょうねぇ」

    部2「狙ってるのかしら?」

    瑠父「娘は今日、彼とデートだよ。だけどね、我が家の晩飯時には帰してくれるらしいんだ。いい男だろ?」

    部2「本当ですね。はい、出る幕なし」

    部1「ですよね~」

    瑠父「さて、折角早出したからメールチェックでもするよ」

    彼氏はほら、君達も知ってるアルバイトの、とは話されないんですね。ありがとうございます。

    旅館フロント「お食事は12時からで宜しかったでしょうか」

    僕「はい」

    11時。無事到着しチェックイン中。良かった、以前親がやってるのを見ていたから、初めてにしてはきっと上出来。

    旅フ「お時間になりましたら、お部屋まで運ばせていただきます」

    僕「わかりました」

    旅館の仲居「それでは速川様、お部屋にご案内いたします。古い建物で所々段差がございますので、足元にお気を付けください」

    廊下を歩く。所々でミシッと音がする。築何年位なんだろ?全体的にこじんまりとしてて、10部屋もない感じだ。

    瑠奈の囁き「速川様って。ふふっ」

    僕の囁き「そりゃそうでしょ。おかしい?」

    瑠 囁き「私も速川になったみたいで嬉しい」

    僕 囁き「あっ、そういう事…」

    旅仲「こちらです。どうぞ」

    部屋に一歩入ると、ほんのりと木の香り。

    瑠「わぁ、明るい~」

    旅仲「このお部屋改装したばかりなんですよ。喜んでいただけて光栄です。どうぞごゆっくり」

    お茶を淹れてくれると、仲居さんは部屋を後にした。ふう。一段落だ。

    瑠「お部屋も、温かいお茶も、和む~」

    長距離運転した甲斐あり。君が喜んでくれれば、疲れも何のその。

    瑠「ねぇ、ご飯前にお風呂にしようよ。やっぱり旅館の食事は、お風呂上がりに浴衣でいただきたいもん」

    絶対この旅館穴場だと思う。部屋の外には見事な植栽の中に溶け込みそうな小さな露天風呂。う~ん渋い!十代の僕らよりは両親世代が喜びそうではある。

    瑠「お茶飲んだら入ろうね」

    僕「うん」

    何だその、当たり前のような返事は!とお思いでしょうが。恥ずかしいよ?刺激強過ぎでクラクラする。でも予約が取れた時にもう、絶対お風呂は一緒って言われてたし…。

    瑠「あ。ごめんたけるん」

    僕「へ?」

    瑠「先にあっちでイチャイチャしたかった?」

    僕「え!」

    指差す先には布団が敷いてあった。生々しいから、視界に入らないようにしてたのに!

    僕「ななななんのコトやら」

    瑠「え~、わかってるクセに。今更?」

    僕「い、いまさらって言った…!」

    瑠「たけるんかわいい!あっちは後でたっぷりと、ね」

    僕「たっ、たっぷり!」

    もうタジタジです。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道26~8月中旬

    無類の風呂好き?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今は夏休みですが、大学はちゃんと通っています。お話に出てこないので、尊行ってんのか?と思われていたかもしれません。これはひとえに、サークル活動などもせず人との交流を最小限にとどめて、タイムマシン作りや前回から始まった解読のお手伝いの時間を捻出しているからなんですが、この友人も作らないスタンスが頭を悩ませる場合もありまして。

    瑠奈「たけるーん」

    僕「お帰り。戻ってきたばかりなのに大丈夫?疲れてない?」

    瑠「だって早く会いたかったんだもん。はい、これは尊に、こっちは家族皆さんでどうぞ」

    僕「ありがとう」

    家族で数日旅行に行っていた瑠奈。お土産をすぐにでも渡したいとLINEが来たので、夕方、小垣駅近くのカフェで待ち合わせた。

    僕「お盆だからどこも混んでたでしょ」

    瑠「それは仕方ないって。でもうんざりする程ではなかったよ。でね、例の話!」

    僕「あ、うん」

    瑠「提案ありです。だからすぐにでも会って話がしたかったの」

    僕「旅行中も考えてくれてたんだ。ありがとう。どうすればいいかな」

    来月3日に、瑠奈が誕生日を迎える。どこに出かけるとかプレゼントは何がいいかとか、かなり悩んだ。けどやっぱり彼女の希望に沿うのが一番だと思い、どうしたいか考えてもらっていたんだ。そりゃさ、全くのシークレット、サプライズでとか憧れるけど、まだそこまでの経験も度量もないから腰が引ける。初めて祝う彼女の誕生日、失敗したくないし。

    瑠「家族6人の旅行は楽しかった。甥っ子ともいっぱい遊べたし。でもね、想像したの。ずらっと並ぶ会席料理とか、眺めのいい露天風呂とかね、尊と二人きりでこんな過ごし方できたら最高だなぁって」

    僕「うん…」

    瑠「だから、行ったばかりではあるけれどー、尊とも温泉旅行に行きたい!」

    僕「なる、ほど」

    遊園地とかアミューズメント系だろうと勝手に踏んでいたので、予想外の渋い答えに少し面食らっている。でもお任せにしたのはこちらなんだから、勿論仰せの通りに致します。と言いつつ、温泉旅行、ですか?!プールの日から、一言一句、一挙手一投足にハラハラドキドキなんですけど…

    瑠「言っとくけど泊まりじゃないよ、日帰り」

    僕「あ、そうなんだ」

    瑠「旅行サイト見てたらね、豪華な昼食付きのプランが割とあって」

    僕「へぇ」

    瑠「尊と泊まりで旅行、行きたいよ?誕生日の前日はちょうど満月だし。でもね、二人で行きまーすなんてまだ親に言えないでしょ。アリバイ工作しないと」

    僕「あー。泊まりなら、同性の友達と行くってしとかないとね。そうか…僕友達居ないから、誰と行くとか、つける嘘がないや」

    サークルのメンバーと旅行、なんて理由ならあっさり済むんだろうな。でも今まで話題にのぼらなくていきなりでは、嘘ってバレバレだし。あ~友達作っておけば良かった。そうではない?

    僕「ごめんなさい。希望どおりじゃなくて」

    瑠「希望どおりだよ?日帰りで行きたいって提案なんだから」

    僕「だって、瑠奈はミッキーさんや大学の友達と泊まるって言えば済む話なのに」

    瑠「それがね。そうは問屋が卸さないの」

    僕「どうして?」

    瑠「だってなんでもない日ならともかく、誕生日を絡めた日程で旅行なんて、ウッソでーす、ラブラブの尊と行きまーす!って言ってるようなモノじゃない?」

    僕「わざわざその日を選んで行くのは怪しいってか。平日だしね」

    瑠「第一、尊がバイトに来ない時点でお父さんにバレるのは必至」

    僕「そっか」

    瑠「だから気にしないで。でね!良さげな旅館あったから見てくれるかな」

    僕「もう探してくれたの?ありがとう」

    言われるままにスマホで検索。

    僕「山あいの旅館か。趣があるね」

    瑠「すごく寂れた感じの旅館だけど、露天風呂付きの部屋が選べるプランがあって!あとね、料理が美味しいって口コミが多いの」

    僕「ホントだ」

    今のところ、空きはあるから予約はできそうだな。え、部屋に露天風呂って事は…ヤバい、心臓が乱れ打ちしてる!何とか平静を保つ。

    瑠「距離がちょっとあるのだけが気がかりで。一日で行き帰りだと大変かな」

    僕「高速道路使えばそうでもないと思うよ」

    ナビを検索、と。

    瑠「どう?難しい?」

    僕「片道2時間位か。慣れない道だから余裕を持たせたいんで、朝早く出発して夕方も早めに現地を出れば多分大丈夫だよ。夜は家でご飯の方がいいでしょ?」

    瑠「誕生日は毎年、お母さんが張り切って豪華なディナーを作ってはくれる」

    僕「だったら尚更その方がいいよ。じゃあ、ここにしようか」

    瑠「うん!」

    僕「あと、プレゼント決めてよ」

    瑠「ううん。要らない」

    僕「へ?」

    瑠「旅行だけで充分だよ。だって車代、まだ完済してないでしょ。私にいっぱいお金使うよりそちらを優先して」

    僕「そんな。これは僕自身の事情で、瑠奈は関係ないのに」

    瑠「いくら親相手とは言え、借金は早めにスッキリさせようよ。ね」

    僕「はぁ~。ホント、いつも気を遣わせてごめん。どこかで何とか補填しないと…」

    瑠「あはは、そんなのいいのに」

    僕「あ、イイ事思いついた!多分だけど、クリスマスの頃には支払い終わってるだろうから、そっちのプレゼント代に上乗せするよ」

    瑠「えっ…クリスマス?」

    僕「遅いかな」

    瑠「ううん、全然!わぁ、どうしよどうしよ!えっとぉ、薬指のサイズは7号です」

    僕「ははは、そう来たか。おねだりが上手だ」

    瑠「ダメ?」

    僕「ううん。指輪だね。はっきり示してもらえるとこちらも助かる。わかりました」

    瑠「ホント?ホントに?!嬉しい!ちゃんと私にもクリスマス来るかなぁ」

    僕「えぇ?それは来るでしょ」

    瑠「ありがとうたけるん!どうしよう、誕生日もクリスマスもすっごく楽しみ~」

    こんなに喜んでくれるなんて、僕こそありがとうだよ。急いで予約…旅館の予約だなんて!浮き足立ってるのは僕も同じだな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、瑠奈の誕生日です。

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    続現代Days尊の進む道25~8月上旬

    その冊数は、生き永らえた証拠。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    先月末に、木村先生からメールが届いていた。

    覚「欠員が出たのか」

    僕「一人、旦那さんの転勤で急遽、らしいよ」

    その打診された内容がもう、飛び上がる程嬉しくて!二つ返事で引き受けたんだ。

    美香子「声をかけてくださった先生に感謝しなくちゃね」

    僕「うん。この為の時間はタイムマシン作るのに充ててた所から捻出するけど、いい?」

    覚「いいぞ。当然そうなるだろ。瑠奈ちゃんとのデートの時間を削る訳にはイカンし。彼女には何て説明したんだ?」

    僕「木村先生の手伝いとだけ。ちょっと遠くない?とは言われたけど、信頼されてて腕も見込まれたんだね、すごいねって褒めてくれた」

    美「俄然やる気になるわね」

    僕「もう、楽しみで仕方ないよ」

    覚「こんな貴重な体験、またとないしな」

    美「それに、忠清くんも絶対喜ぶ」

    覚「間違いない」

    今日ようやく先生と都合がついたので、まず簡単に説明を受けた後、現地へ一緒に向かう。待ち合わせ場所はいつものCafeMARGARET。

    木村「おー、尊くん。待たせたね」

    僕「先生!こんにちは。出校日お疲れ様です」

    木「まぁ夏休み中は毎日ではないから。あ、僕もアイスコーヒーで」

    店員「かしこまりました」

    木「ふう、いや~しかし暑いな。どう?元気でやってるかい?」

    僕「はい」

    木「そうかそうか」

    まずは涼をとってもらった。その後テーブルの上に出されたのは、地図などの印刷物数枚と、首から下げる名札らしき物。

    木「メールでも伝えた通り、主に頼むのは解読した資料の清書。他にも細かな作業をお願いするかもしれないが。そんなんでいいかい?」

    僕「はい。あの」

    木「ん、何でも質問してくれ」

    僕「僕みたいなズブの素人で、本当にいいんですか?」

    木「勿論だよ。こういう類いの作業はな、興味が全くない人間には苦痛なだけだから。君が快諾してくれてこちらは万々歳だよ」

    僕「お礼を言うのは僕の方です。両親も喜んでるんですよ」

    木「親御さんまで!ほ~、それはまた」

    先生がずっと携わっている、御月家ゆかりの物と推測される古文書の解読。そう、兄さんが書いた日記だ。何とこの度、そのお手伝いをさせて貰える事になりました!やったー!!

    木「念を押すけど、ほぼボランティアだぞ?いいのかい?」

    僕「はい!関われるだけで充分なんで」

    木「そう言って貰えると実に有難いよ。これが作業の日程表。大体土日や平日の夕方だ。無理せず来れる時だけでいい。皆さんそうしてるから気にせずにな」

    僕「はい」

    木「車は地図のこの丸付けた所に停めてくれ。で、この名札が入館証も兼ねるから」

    僕「はい!」

    いよいよ、僕の車で移動する。御月家ゆかりの地にある、大きい会館の一室で作業しているとの事。

    木「この辺りは来た事はあるかい?」

    僕「いえ、初めてです」

    羽木家の皆さんが逃げおおせた地。興味はあったけど、兄さんの本当のお墓とか、あとお姉ちゃんのそれとか…見ちゃったら絶対大ダメージ受けるから、逆にずっと避けてきたんだ。まさかこんな機会を与えられて訪れるとはね。

    僕「街並みとか、思った程田舎じゃない印象です」

    木「御月家が幾度もの戦乱をかいくぐって民を守り、末永く繁栄したからこそだ。だが」

    僕「何かあるんですか?」

    木「先見の明があるというか、いつどこでどんな戦が起きるかとか、わかっていて動いていた印象なんだよ。まさかとは思うがな」

    それは、兄さんが現代に居る間に後世の勉強をしっかりしていたからなんですよ先生。とは、言いたくても言えない。

    僕「治めていた人物が、革新的な考えの持ち主だったんじゃないですか?」

    木「なるほどな。良い読みだ」

    到着し、作業場所の会議室に入る。緊張!

    僕「こんにちは…」

    中には3人居た。日によってまちまちらしい。一通り挨拶を済ませると、先生が実物を見せてくれると言う。いよいよ兄さんの直筆とご対面!

    僕「わぁ…」

    僕も手袋をはめて触らせてもらった。

    僕「かなり保存状態が良いですね」

    木「だろ?この辺りは読み易くて助かる」

    一枚めくってみる。あぁ。読めはしないけど、兄さんの字なんだろうな、ってのはなんとなくわかる。変な言い方だけど、懐かしいような、親近感がわくような。

    僕「古文書は、ここに並べてある冊数で全てなんですか?」

    木「そうだな」

    何冊あるんだろ。生涯書き続けた感じの量だ。

    木「マメというか律儀というか」

    僕「そうですね。きっと素敵な人ですよ」

    お姉ちゃんの話がチラっとでも出てくるといいな。あと、子供や源三郎さん達の話題も。

    木「パソコンはこれを使ってくれ」

    開くと、解読済みの日記が現れた。でもただつらつらと書いてあるだけ。これは読みにくい。何とかしたいなぁ。

    僕「文章のレイアウトって、変えてもいいですか?」

    木「あー、君のやり易いようにしてくれていいよ」

    僕「見やすいよう一日毎に番号をふって、その時歴史上何があったとか、最終的に年表と照らし合わせできるようにしましょうか?」

    木「いいのかい?それは助かる。ゆくゆくは広く一般公開するかもしれないしな。いや~、我ながら、適任をスカウトした」

    僕「あはは」

    兄さん。生きた証、残してくれてありがとう。教科書には載らないかもしれない。でもきっちり伝えていきます。直接会えるのはちょっと延びてしまうかもしれないけど、僕、頑張るよ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、盆明けの頃です。

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    続現代Days尊の進む道24~8月4日17時

    四の五の言わず!
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    プールを大満喫し、ミッキーさんを家まで送ってきた。

    僕「はい。お疲れ様でした」

    みつき「センセありがとー!楽しかった!」

    瑠奈「みつき、今日はありがとね」

    み「どういたしまして。じゃあ瑠奈」

    瑠「うん?」

    み「グッドラック!」

    瑠「うん!」

    僕「?」

    み「またねー」

    僕「ではまた。さよなら」

    瑠「バイバーイ」

    僕「さてと。じゃあ次は瑠奈の家に」

    再び出発しようとしていると、

    瑠「ねぇたけるん」

    僕「ん?」

    瑠「家まで、ちょっとの間だけど運転代わってあげる」

    僕「そんな。大丈夫だよ。疲れてないから」

    瑠「この車運転してみたいの。ね、お願い」

    僕「へぇ、そう。わかりました」

    お望み通り、運転席と助手席を交代した。

    僕「ではお願いします」

    瑠「うん…」

    車が走り出した。

    僕「あの」

    瑠「はい」

    僕「方角って…」

    瑠「いいの。わざと遠回りしてるの」

    僕「はは、練習?」

    景色が、随分と華やかになってきた。ラブホテルが林立している。この道通らなきゃダメなのかな…。

    僕「へ?」

    ウインカーを出した瑠奈。その中の一箇所に…入ろうとしていた!

    僕「え、嘘!ちょっ、ちょっと待って!!」

    入る直前で、路肩に寄せて車が止まった。ハザードランプが点滅している。

    僕「ふう。落ち着け、落ち着くんだ…」

    瑠「…」

    僕「あ。あーなんだそうか、僕をからかってみたんだ。ね?」

    瑠「からかってません」

    僕「えぇぇ」

    瑠「大好きな尊と、もっと一緒に居たい。もっと近くで尊を感じたいと思ったから」

    僕「あ、ありがとう。嬉しいよ。でもそれにしたって…」

    瑠「嫌なの?」

    僕「一緒には居たいよ」

    瑠「一つ教えてください」

    僕「え?は、はい」

    瑠「私を欲しいって思ってくれた事、ある?」

    僕「それは…」

    瑠「…」

    僕「…はい。僕も一応男性の機能はあるから」

    瑠「一応って。そっか、良かったぁ。私に興味ないのかと思ってた」

    僕「興味はすごくあるよ」

    瑠「ホント?」

    僕「でも僕、何もわからないし…その…きっと幻滅させると思うんだ」

    瑠「そんなの、してみなきゃわからない」

    僕「してみないと。して、みないと?!」

    瑠「たけるん。懺悔します」

    僕「懺悔?」

    瑠「私、尊が初めてじゃない」

    僕「でしょうね」

    瑠「あのね。今まで彼氏はそれなりに居たけど、尊が誰より一番なの。今も尊敬してるし大好きだよ」

    僕「いつも褒めてくれてありがとう。光栄です」

    瑠「だから、初めても尊とが良かったなって思ったりするんだよね」

    僕「…」

    瑠「尊?」

    僕「あの、さ」

    瑠「はい?」

    僕「答えたくなかったら答えなくていいんだけど」

    瑠「何かな」

    僕「その、初めての時とかって、辛かったり、思い出したくないとかなの?」

    瑠「え。そんな事はないよ。当時一番好きな人とだったし嫌な思いはしてない」

    僕「そう。良かった」

    瑠「心配してくれたの?」

    僕「うん」

    瑠「嬉しい。ありがとう」

    僕「それもあるんだけど、嫌じゃなかったんなら、思い出を上書き保存なんてしなくてもいいんじゃないかな。きっと、元彼さんもいい思い出になってるだろうし」

    瑠「…尊って」

    僕「ん?」

    瑠「人間として完成してる。素敵」

    僕「そんなんじゃないよ。僕は瑠奈が初めての彼女で経験値が全くないから、口ばっかり達者でさ。ごめんなさい」

    瑠「やだ。謝んないで」

    僕「ならお礼を」

    瑠「お礼?」

    僕「こんな未熟な僕を選んでくれて、ありがとう。感謝してるよ」

    瑠「尊…」

    僕「本当に」

    瑠「感謝、感謝なんて…感動!」

    車を動かし始める瑠奈。

    僕「えっ!マジ?!もう?!」

    瑠「だって早く尊とイチャイチャしたい」

    僕「まだ、心の準備が」

    瑠「体の準備はできてるもんね」

    僕「ギク」

    瑠「ジーンズだったら目立たなかっただろうけど」

    僕「あぁっ、いや、その…」

    瑠「出発しまーす!」

    僕「うわー!」

    車は、ホテルの中に吸い込まれていった。やはり満月の日には、何かが起こる。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は。もうすぐお盆、の頃です。

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    続現代Days尊の進む道23~8月4日13時

    その滑りは見ものだ。
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    ここのプール、遊具とかの数は多いけれど、去年来た時はあれもこれもとは遊んでいない。海へ行く前の慣らし運転みたいなものだったし、お姉ちゃんなりに兄さんをあまり連れ回しちゃいけないって気遣ったんだろうな。そのお陰で僕は体力的に楽だった。でも今日は、様相がまるで違う訳で。

    みつき「ねぇねぇ、流れるプールそろそろ出ない~?くっついてるトコ悪いけど」

    瑠奈「えー。ウソウソ、出よっか」

    僕「うん」

    プールから上がった。

    瑠「次、どれにする?」

    み「んー。片っ端から行く」

    僕「片っ端!パワフルだなぁ。僕待ってるよ、二人で色々回ってきたら?」

    み「何その発言。遠慮してんの?」

    瑠「尊も一緒に行こうよぉ」

    僕「だってほら、浮き輪2つもあるし」

    み「は?センセ自分で言ってたじゃない。ここの充填機、一瞬で空気入るんでしょ?だったら一度抜いて畳んで、また使う時エアー注入でいいでしょうが」

    僕「ゲゲ」

    み「言うんじゃなかったって顔しない!」

    瑠「尊~、行けば絶対楽しいって」

    嫌ではないんだ。ペースの速さについていけるか心配なのと、あと一つ。

    僕「うん…でも、あの超高い直滑降のだけは勘弁して欲しい」

    み「あーあれね、はいはい。いいよ、了解」

    瑠「私もそれは苦手だから。あとは大丈夫?」

    僕「はい」

    み「決定!行くよ~」

    行くぞと腹を決めればそりゃ楽しい。そこそこ混んでいるのでどれも待ち時間があり、その間に休憩できてありがたいし。多少の罠は潜んでいるけれど。

    僕「ゲホッ、ゴホッ、あ゛ー」

    瑠「やだ!尊、大丈夫?」

    僕「あーびっくりした。鼻から水入った」

    み「傾斜ゆるいしって余裕かましてると、危ないよ~」

    僕「気を付けます」

    遊び方も学習しないとな。次に、ずらっとレーンが横一列に並んでいる滑り台にやってきた。何人も同時に滑れるんだな。

    瑠「せーのでスタートできるね。三人で競争する?」

    み「賛成~」

    先に滑ってる人を観察。途中平らになる所で止まりがちなんだな。ふむ。滑降スピードを上げるには、空気抵抗をできるだけ少なくする。接地面を少なくして摩擦を少なくする。これは理論より実践だな。よし、試してみよう。

    み「用意、スタート!」

    瑠「キャー!」

    み「ヒュ~!え、センセ速っ!」

    ゴール地点のプールに、猛スピードでダイブした。周りから歓声が起こっている。注目集めちゃった?

    み「ちょっとー、やるな!センセ」

    瑠「すごーい。リュージュの選手みたいだったよ」

    僕「力学的に考えた結果です」

    み「学習の成果を遊びで生かすとはね~」

    瑠「ねぇ、見て!後ろで待ってた子達、みんな尊の真似して下りてくる!」

    僕「へ?」

    み「あはは、ホントだ~」

    子供達が滑り台をわらわらと下りてきた。と思ったら、僕の周りに集まってきたぞ?わわっ、何!

    子供1「お兄ちゃん!お兄ちゃんみたいにしたらぼくもはやくすべれた!」

    子供2「とちゅうで止まんなかった!」

    子供3「すごーい!ありがとうお兄ちゃん!」

    僕「そうなんだ。役に立てて良かったよ」

    子供達は歓声を上げながら、再び順番待ちの列に走っていった。

    瑠「かーわいい」

    み「さすがセンセ、瑠奈だけでなくキッズまで虜にしてさ」

    僕「いやいや」

    昼ごはんの後も、次!はい次!と精力的に行動するお嬢さん方だ。でもついて行くのがそんなに苦じゃない。体力、備わってきている模様。

    み「ちょっと待たせちゃうけどごめん」

    僕「どうぞ。行ってる間に、浮き輪復活させとくよ」

    み「悪いね、よろしく~」

    瑠「行ってらっしゃーい」

    例の、高層ビル並みの高さから直滑降する大きい滑り台にトライすべく、一人喜び勇んで走っていったミッキーさん。

    瑠「尊、ちょっと顔が赤いかも」

    僕「あー。日焼け止めの効果以上に外に居たから仕方ないかな。瑠奈も少し赤くなってるような気がするよ」

    瑠「そっか。焼けちゃったかな。…後で尊に全身じーっくり見てもらお」

    僕「え?ごめん、聞こえなかった」

    瑠「何でもなーい」

    僕「?」

    ラストは、特大プールで波に揺られている。こっち使ってと小さい方の浮き輪を渡されたので、真ん中部分にお尻をスポンと入れ、空を見上げ一人プカプカと浮いていた。

    瑠「尊~」

    み「イェーイ!」

    バシャバシャと、超楽しそうに僕の前を横切っていくのを眺めている。こんな、夏を堪能してる風景の中に自分が居るなんてさ。なーんてぼんやりしていたら…

    僕「痛っ!」

    大きい浮き輪が飛んできた。そして、

    み「捕獲完了。時計回りでよろしく!」

    瑠「了解でーす」

    僕「へ?わー!」

    無防備に浮かぶ僕を、二人がかりでぐるぐると回転させ始めた!ひぇ~!

    み「センセ今、ほぼ意識飛んでたっしょ~」

    瑠「寛ぎ過ぎだってぇ。起きた?」

    僕「起きた起きた!目が回る!酔うって!」

    文句を垂れつつも楽しさが勝る。真夏の午後の気だるさを吹き飛ばすように、思い切りはしゃぐひとときだった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    そろそろ帰る、かな?

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    続現代Days尊の進む道22~8月4日11時

    ヘソ出しだったからか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    流れるプールのプールサイド。

    みつき「では私がこのシングル用の浮き輪でゆったりと。君達はカップル用でべったりと」

    僕「女性同士で使ってもらってもいいよ?」

    み「何遠慮してるの。はいはい、二人とも輪っかに入る!センセは後ろから瑠奈を支えるように!」

    瑠奈「はーい」

    僕「頑張ります…」

    流れに身を任せる。

    瑠「キャハハ~」

    み「あははは!たーのしーい!」

    僕「おっとっと、ははは~」

    最初は、僕達二人とも進行方向に体を向けていたのだが、

    瑠「あれ、いつの間に。みつきがあんな遠くに行ってる」

    僕「もうすぐ流れが急な箇所に差し掛かるんだよ。ほら」

    瑠「え、怖い!キャー!」

    僕「えっ」

    流れの速さに驚いた瑠奈。振り向いたと思ったら…わー!正面から抱きつかれた!

    瑠「…」

    僕「瑠奈、もう通り過ぎたよ。大丈夫」

    瑠「うん」

    僕「どうしたの?」

    瑠「このままがいい」

    僕「…」

    胸、めっちゃ当たってるし!!

    瑠「たけるん」

    顔を上げた瑠奈。唇が触れそうな程近い。誰も周りに居なければ、嬉しいシチュエーションなんだけど…どうにも恥ずかしい。

    僕「はい」

    瑠「一面の青空だね」

    空を仰ぐ。眩しい。

    僕「そうだね」

    目の前はもっと眩しいよ。

    瑠「夏のバカンス、最高!」

    再び僕の胸元に顔を埋めた。背中に回された両腕が、より一層キュ~っと締まる。ヤベぇ、平常心ではいられない!夏のバカンス、危険極まりないよ!

    み「お取り込み中ごめーん」

    急にミッキーさんが、流れに逆らいながら浮き輪を手に近寄ってきた。

    み「ちょっと上がる、浮き輪よろしく!」

    僕「どうしたの?」

    み「お腹の調子が。お手洗い行かせて」

    瑠「大変!すぐ行って!」

    そのまま三人ともプールから上がり、僕と瑠奈はトイレの前で待っていた。

    み「ごめんねー、お待たせ」

    瑠「大丈夫?」

    み「うん、もう大丈夫」

    僕「良かった」

    み「二人も今行っとく?」

    瑠「そうしようかな」

    僕「どうぞお先に」

    み「いいよセンセも。一人で待つから」

    僕「浮き輪、かさばるんで」

    み「確かに…私一人では持ちにくいかも」

    ミッキーさんと二人になった。

    み「ねぇねぇ、ちょうど瑠奈も居ないし、ぶっちゃけるけど」

    僕「何でしょう」

    み「プールサイドを歩いてた時の、瑠奈とセンセを見る、周りの男衆の視線の動きが一様に同じでさ」

    僕「あー、それ…僕もちょっと気づいてた」

    み「まず瑠奈を見て、抜群のスタイルと可愛いさにデレっとなる。でも瑠奈はセンセにベタ惚れでぴったりくっついてるから、次にセンセの顔見て」

    僕「何でオマエが相手?って顔するよね。ごもっともです」

    み「失敬な!って言ってやりな。で、そいつらは視線を下げて、股間で止まる」

    僕「うっ」

    み「どんなモノを持ってるんだと」

    僕「わー、モノ、ってそんな」

    み「もっとはっきり言った方がいい?」

    僕「いえ!結構です。そうなんだよ、やたらと見られてる。何にも持ってません。瑠奈と釣り合わなくてごめんなさい」

    み「思い出したんだよ。卒業間近の頃にさ」

    僕「はい?」

    み「センター試験直前に二人付き合いだしたじゃない。まさかこの時期!って、瑠奈を狙ってた男子達が後から悔しがっててさ。そいつらが似たような事言ってたんだよね」

    僕「え、どんな?」

    み「まさか速川に持っていかれるとは。絶対、すんげぇテクニックと立派なブツをお持ちに違いない」

    僕「そ、そんな」

    み「失礼だよねー。若造はそんな事しか考えないから」

    僕「は、はは…」

    み「あ、超絶テクとすんごいブツをお持ちではない、って言ってるんじゃないよ?そこは瑠奈の判断」

    僕「いやいやいや!判断も何も…」

    そこへ瑠奈が戻って来た。

    瑠「尊、お待たせ」

    僕「お帰り。では僕も急いで行ってきます」

    み「ごゆっくりー」

    瑠「行ってらっしゃーい」

    み「…瑠奈、さっきはマジごめん!いい雰囲気だったのに私のお腹のせいで」

    瑠「ううん、気にしないで。でね、みつき。私決めたの」

    み「決めた?」

    瑠「今日、尊との距離をゼロにする」

    み「…とうとう仕掛けちゃう?」

    瑠「うん」

    み「そっかー」

    みつきの囁き「さっきはタイムリーな話題だったか」

    瑠「え?」

    み「ううん、なんでもない」

    瑠「今日満月なんだよ。それもあって」

    み「満月、か。瑠奈にとっては特別な日だもんね。あ、帰ってきた。そんなに急がなくてもいいのに」

    僕「お待たせしました」

    瑠「お帰りぃ。じゃあ、流れるプールに戻ろうよ。行こっ、たけるん!」

    僕「うわぁ」

    み「入る前から抱きついてるし。果敢に攻めてんな~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道21~8月4日火曜9時

    速川家も中々の資産家だと思いますが。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    いよいよ、プールの日。

    美香子「尊と瑠奈ちゃんと、もう一人女の子の三人なの?」

    僕「うん。瑠奈の親友で、元旦に彼氏と合流するまで神社前で一緒に待ってた子と」

    覚「あのお嬢さんか。安全運転でお二人をエスコートするんだぞ」

    僕「頑張るよ」

    美「その子はどんな子なの?」

    僕「潔いって形容詞がぴったり。僕にとってはお目付け役かな。今日は彼氏さんに快諾された上で参加。瑠奈に寄ってくる悪い虫を私が追い払う!って意気込んでる」

    覚「へぇ。姉御肌なんだな。尊にも色々ビシっと言ってくれるのか?」

    僕「うん。スパッと斬られてる」

    美「そうなの~。有難いわねぇ。そんな友人は貴重よ。大切にしなさい」

    僕「はい」

    覚「はさみ揚げは明日でいいんだよな?」

    僕「うん、ごめん。二人が今日都合良かったんで。約束してから満月の日って気付いて」

    覚「晩飯もいらないなら連絡くれ。お嬢さん達に合わせればいいぞ」

    僕「わかった」

    まずは瑠奈のマンションに車を走らせた。到着すると、エントランスから…天使が現れた!

    瑠奈「おはよっ!たけるん」

    僕「おはよう…」

    真っ白でボリュームのあるブラウスに、足元も真っ白なスニーカー。で、脚、脚が短パン、違う?ショートパンツって言うの?太ももから足首まで、全部丸出し…否、あらわで眩しい!

    瑠「脚が気になる?」

    僕「え」

    瑠「出かける前にもね、お母さんに脚出し過ぎじゃない?って言われたの。でも尊が車で送り迎えしてくれるしみつきも一緒って言ったら、ならいいわよって」

    僕「そうなんだ」

    脚だけじゃなく全身が輝いてる感じだよ。背中に天使の翼、隠してない?

    瑠「そのパンツ、今日デビュー?」

    僕「うん。ジーンズと違ってゴワゴワしてなくて、着てて涼しいね」

    瑠「でしょ~。でも着方が尊!だね」

    僕「すいません」

    前に一緒に買い物した時に購入した薄手のチノパン。何か、足首を出すようにロールアップしてなんて店員にも瑠奈にも言われたけど、長いまんま穿いてきました。オシャレじゃなくて、ごめんなさい。

    瑠「運転、辛くなったら代わってあげるね」

    僕「ありがとう。多分大丈夫だよ」

    次にミッキーさんの家に。車で数分の距離だった。瑠奈もミッキーさんも、かなり裕福な家庭のお嬢様なんだよな。到着した家の門、お城の入り口ってこんな感じかと思う程のデカさ!怖じ気づいていると、脇の通用口が開いた。

    僕「純和風の扉からトロピカルな人出てきた」

    瑠「ぷっ。みつきね、今日をすっごく楽しみにしてたんだよ」

    僕「わかりやすいな」

    みつき「ハ~イ!お待たせ~」

    麦わら帽子をかぶって登場。後で聞いたらカンカン帽って言うらしい。派手めの柄のシャツを前でギュっと結んで…ヘソ出しってヤツですか!で、ショートパンツにサンダル履き。

    み「センセ、お迎えありがとう」

    僕「どういたしまして」

    み「お、瑠奈はそうきたか。いいよん」

    瑠「みつきもリゾートな感じでいいよ。あのね尊、今日はショートパンツだけ揃えようねって決めてて」

    僕「そうだったんだ」

    ふーん…女子ってよくわからない。

    み「ドレスコードはショーパンっす。では、後部座席を占領させていただきまーす。センセ、運転よろしくぅ」

    僕「了解しました」

    プールに到着した。着替えを済ませ、浮き輪2つに空気を入れる。更衣室を出た所で待ち合わせなので戻ってくると、なぜかミッキーさんだけが外に立っていた。

    み「あ、浮き輪もう空気入れてくれたんだ。ありがとう~」

    僕「いえいえ。ここのエアー充填機、一瞬で入るから」

    ミッキーさんの水着は、黒地にロゴなど入っているビキニだった。ビーチバレーの選手みたいな?キャラに合っていてカッコいい。

    み「水着、モノトーンのグラデなんだ。似合ってるよ」

    僕「光栄です」

    み「あ、日焼け止め全身に塗ってる?」

    僕「当然だよ。後でヒリヒリしたら嫌だから」

    み「めっちゃ美容男子!」

    僕「そうかな」

    み「体もさ、言う程じゃないよ?ちゃんと鍛えた成果出てる。自信持っていい」

    僕「ありがとう」

    み「瑠奈まだかな。ちょっと見てくるよ」

    僕「支度に時間かかってるの?」

    み「髪結んでたからさ。あ、来た来た」

    思わず息を呑む僕。先に聞いてたよ?ビキニでしょ?白地に水彩画みたいな花柄でしょ?想像するとどうかなりそうだったよ。だからある程度心の準備はしてたんだ。髪がポニーテールになってる。それは聞いてない!色白の肌、うなじにかかる後れ毛が清楚でいて色っぽくて。

    瑠「尊、どう?」

    僕「とても、いいと思います」

    瑠「ホントに?やったぁ」

    動くと揺れる髪が、ますます金魚っぽいと言うか。その姿に心揺さぶられてます。

    み「センセ、眼鏡外してるけど見えてるんだよね?」

    僕「見えてるよ。まあまあ」

    瑠「いいの。今日は私が尊の眼になってあげるから」

    早速腕を絡ませてきた瑠奈。そ、そんなに近いとですね、魅力的な胸元を上から見下ろすような角度でですね、その…。

    み「心ゆくまでくっついててちょーだい。どこから行く~?」

    暑い、いや熱い一日になりそうだ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道20~7月25日夜

    辻褄合わせは綻びも出てくる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    二人揃って帰宅した。

    僕「ただいま」

    瑠奈「こんばんは~」

    覚「いらっしゃい瑠奈ちゃん。おっ!いいねいいね~。よーく、似合ってる」

    美香子「う~ん、いい!可愛らしいわ色っぽいわで、尊には勿体ない」

    僕「はいはい」

    瑠奈が来ると、テンション爆上がりの両親だ。

    覚「少しは何か口にしたのか?」

    僕「飲み物だけは」

    美「だったらお腹空いてるでしょう。買った物温め直す?」

    僕「お好み焼きだけチンするよ」

    美「いいわよ、座ってて。食べ始めなさい」

    覚「冷たい麦茶出そう」

    瑠「ありがとうございます」

    花火の箱は、もう窓際に置いてある。

    僕「準備万端だなあ。お楽しみの前にさ、子供神輿の写真、瑠奈に見せたい」

    美「あら、そうなのね。ならアルバム出しておくわ」

    僕はこの後、激しく後悔の念に駆られる。いくらでも理由は考えられたのに、すっぽりと頭から抜けてたんだ…。

    瑠「わぁ、ちっちゃーい!こんな頃から眼鏡かけてたんだね」

    僕「そうだね。年季、入ってます」

    食事後、アルバムを見せている。

    瑠「かわゆーい。でもどうしてこんなに苦々しい顔してるの?」

    僕「カメラ近寄り過ぎでさ。恥ずかしかったんだよ。望遠で撮ればいいのに」

    瑠「そんな理由?あはは。あれ、めくれない」

    僕「ん?くっついてる?」

    ペリペリと音を立ててページを開くと、何かでシミになっている。

    美「んもう!唯の仕業ね。あの子、そこに焼きそば落としたでしょ。きちんと拭いてなかったのよ。ホント、いい加減だわ~」

    覚「全く唯ときたら困ったモンだ。ほれ、布巾濡らしてきたぞ」

    僕「はい。ちょっと失礼…よし取れた。これでOK。残ってない」

    最後まで見終わり、アルバムを閉じた瑠奈。なぜか戸惑っているように見える。

    僕「どうかした?」

    瑠「ん…うん。上のお姉さんがどこにも写ってなかったなって思って」

    しまった!と思ったのは、まさしく後の祭り。

    僕「トヨ姉さん。えーっと」

    美「トヨちゃん!そ、そうね、夏休みに入ってたからお友達のお宅に泊まりに行ってたかしら?」

    覚「それか、親戚の家か。うん、トヨちゃんはたまたま写ってないんだよ」

    慌て方がかえって怪しいよ…。

    瑠「ですよね。ごめんなさい、変な事言って」

    覚&美香子「いえいえ」

    両親の顔の固まり方が尋常でなかった。

    僕「さて!じゃあ、プチ花火大会としますか」

    瑠「うん!」

    上手く流せたかな?四人で庭に出る。

    僕「もしかして、草刈りした?」

    覚「おー。草ボーボーでは防火上も見た目も良くないだろ?」

    僕「こっちも準備万端だったか」

    花火スタート。シューっと音を立て手元が明るくなる度に、家族の顔も照らされる。瑠奈の笑顔も浮かび上がる。綺麗だ。僕は花火よりそちらばかり眺めていた。

    瑠「線香花火はね、点火すると火の玉がふるふる震えて丸くなってくでしょ。その過程が好きなの」

    僕「火花が出てからじゃなくて?」

    瑠「弾ける準備頑張ってます、って感じが健気だと思わない?」

    浴衣と線香花火。情緒があるなあ。何より絵になる。イイ物見せてもらいました。

    覚「帰りは僕が乗せてくよ」

    僕「お願いします」

    瑠「ありがとうございます」

    覚「ちょっとだけ待っててくれるかい?」

    瑠「はい」

    二人で座って待つ。母は花火後のバケツを片付けに行っていた。

    瑠奈の囁き「さっき、お姉さんの話してごめんね。おじさまおばさまに悪い事しちゃった」

    あちゃー。その話、続きますか!

    僕の囁き「いいよ、気にしないで」

    瑠 囁き「お二人とも上のお姉さんに気を遣ってるよね。前に家族の事情は聞かないって言っておきながら蒸し返しちゃって、反省してる」

    僕 囁き「気を遣う?どの辺りが?」

    瑠 囁き「だって下のお姉さんも尊も名前は呼び捨てなのに、上のお姉さんはちゃん付けって呼んでるから」

    うへー!やっちまったー。

    僕 囁き「あ、ま、それは…」

    瑠 囁き「ごめんね、もう聞かないから」

    覚「お待たせ」

    僕「あ、うん。行こうか」

    瑠「はい。よろしくお願いします」

    瑠奈を無事送り届け、帰宅した。即三人で反省会だ。

    僕「トヨさんの立ち位置を怪しむというより、家族の内情を知ってしまってごめんなさいって感じだった。あー、僕は何てバカなんだ」

    覚「唯達はあの日、ちゃんと名前の呼び方まで決めてたのに僕らは手付かずのままでなあ。かえって気を煩わせて申し訳なかった」

    美「瑠奈ちゃん、いつも深入りはせず一歩引いてくれるのね…」

    ずっと秘密にし続けるか、いつか告白するかはわからない。なぜ?と問わない瑠奈の優しさに心が痛むよ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回はみつきと三人でプールへGO。

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    続現代Days尊の進む道19~7月25日土曜夕方

    飛ばす予定だった一人か。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今夜は地元のお祭りだ。浴衣姿で瑠奈を駅まで歩いて迎えに行った。

    瑠奈「尊、お待たせ~!わぁ、カッコいい!似合ってる!」

    僕「瑠奈もよく似合ってるよ」

    髪型が普段と違って、うなじが見えるようにまとめてある!いい!

    瑠「尊、何か着こなしがこなれてない?」

    僕「父親の持ってる帯と下駄を借りたんだ。この下駄全然足痛くならなくてさ。だからじゃないかな」

    瑠「素敵~!」

    会場になっている商店街までゆっくり歩く。浴衣の人は多いけど、瑠奈はやはり目を引く。そんな彼女と手を繋ぐ僕。一緒に居ると目立って当然なんだと、最近ようやく割り切れるようになった。幾分虚勢は張っているが、堂々と歩くよう心掛けている。

    瑠「お神輿、子供用もあるんだね」

    僕「この辺りの子供は一度は担ぐよ」

    瑠「尊もそうだった?」

    僕「うん」

    瑠「見たーい!写真残ってる?」

    僕「残ってるよ。あ、そうそう。晩ごはんだけどさ、ここで食べるか屋台で買って持ち帰って僕の家で食べるって選択肢があるんだけど、どうしたい?」

    瑠「ここで食べてて、うっかり浴衣汚したらショックだし…いいの?急にお邪魔しても」

    僕「急じゃないよ。両親が手ぐすね引いて待ってる」

    瑠「手ぐすねって。そうなの?」

    僕「実はさ、去年大量に通販で購入した花火がまだ残ってて。瑠奈も呼んでプチ花火大会やりたいって言ってるんだ」

    瑠「ホントに?!嬉しい、浴衣で花火ができるんだぁ」

    僕「写真もその時公開します。でね、最後父か母が家まで送るから」

    瑠「すごーい。至れり尽くせり~」

    何基もの神輿が、目の前を躍動感たっぷりに通り過ぎていく。

    瑠「お祭りっていいな。わくわくする」

    僕「だよね。この後神社に入って行くんだ。移動しようか?」

    瑠「うん、見たい」

    並ぶ提灯の明かり。時折吹き抜ける涼風。屋台から漂う香ばしい匂い。神輿の担ぎ手のかけ声に、僕達の下駄のカランコロンと鳴る音…去年は家族5人、今年は2人だけ。でもなぜか感覚が研ぎ澄まされて、もっと全身でお祭りを感じられる。瑠奈と一緒だからなのかな。

    瑠「オムそば、買ってもいい?」

    僕「いいよ」

    瑠「もうすぐ焼き上がるらしいの」

    僕「お好み焼きは買ったしオムそば買うし。じゃああと、あっちの屋台でたこ焼き調達してくるよ」

    そろそろ帰るし、すぐ近くだから少し油断してたんだ。だって目を離したのは2分もないよ?戻ると、いつの間にか男が三人も現れ、やたらと瑠奈に話しかけている。ゲゲ!ナンパ?!

    屋台のおじさん「もうすぐ焼けるよ~」

    瑠「はーい、待ってまーす」

    そこまで心配には及ばないようだ。察するに、瑠奈にとってナンパなんて日常茶飯事なんだろう。男達を軽くあしらっている。でもこのままではいけない!前髪をガッとかきあげ、胸を張る。よし、行くぞ!

    瑠「あ~、たけるんお帰りぃ。買えた?」

    ここが踏んばりどころだ。男達を一瞥し、歩み寄る。

    僕「ただいま。うん、この通り」

    瑠奈はニッコリ笑い、僕に体を寄せた。男達がチッと舌打ちするのが聞こえたが、フン、ざまあみろだ。ん?

    男1「アッ」

    男2「何だよ」

    男3「知り合いか?」

    僕「…」

    男1は見覚えのある顔だった。オメェかよ!僕は思い切り睨みつけてやった。相手は怯んでいる。いい気味だ。

    屋「お嬢ちゃん、待たせたね」

    瑠「あ、ありがとう。わぁアツアツ~」

    男1は何か言いたげだったが、男2と3を促してその場から去っていった。僕達も歩き出す。

    僕「大丈夫だった?」

    瑠「うん、全然大丈夫。屋台のおじさんも気にしてくれてたし」

    僕「そっか。でもごめんね、一人にして」

    瑠「いいよぉ。尊すごく睨んでたね。あんなに怒ってる顔を初めて見たからびっくり」

    僕「あいつに積年の恨みがあったから」

    瑠「え?えっ、それってどういう…」

    僕「あの男、僕をバカにしてた奴らの内の一人だったんだ」

    瑠「…」

    僕「昔の話だからさ」

    瑠「そ…う?」

    僕「瑠奈が居てくれて良かったよ」

    瑠「良かった。私何もしてないのに?」

    僕「はい残念でした、とっとと失せな、って鼻を明かしてやれたから。完全勝利した気分」

    瑠「そうだったんだ…。尊すごくカッコ良かったよ!うん、無言の勝利!」

    今夜はよく眠れそうだ。

    僕「ありがとう。あと、ちょっとでも瑠奈と離れたら危ないってよくわかったよ」

    瑠「ずっと離れない?」

    僕「うん」

    瑠「一生?」

    僕「え!あ、あの…」

    試されてる?!

    瑠「…」

    僕「はい。希望としては」

    瑠「ふふっ」

    とびきりの笑顔で僕を見上げると、肩にもたれてきた。はぁ。ドキドキが止まらない。抜き打ちテスト、多くない?やっぱり今夜は眠れないかも。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    大量に購入した花火のお話は、現代Days65no.922にて。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道18~6月30日火曜

    体がどのようにできあがったら完成なんだ?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    夜。自分の部屋に居ると、珍しくミッキーさんからLINEが届いた。

    みつきの投稿『センセ、時間ある時に話したいんだよね』

    何?今でもいいよと送ると、すぐに電話がかかってきた。

    みつき『センセ久しぶりー』

    僕「お久しぶりです、ミッキーさん」

    み『ねぇ、早速本題だけどさ、一緒にプール行こうよ!瑠奈と三人で!』

    僕「え?いきなり!しかも三人、ですか」

    み『海も捨てがたいけどまずはプール!瑠奈と二人だけはNGで、私と行ってきなって話なら、間を取って三人で』

    僕「それ、間かな」

    み『まーまー。行こうよ。絶対楽しいよ』

    僕「ちょっと待って。彼氏さんは?」

    み『ちゃんと話はしたよ。三人で行っておいでって言ってくれた』

    僕「嘘っ」

    み『理解ある彼氏なんで』

    僕「俄には信じ難いけど、信頼関係の賜物なんだろうな」

    み『いつにする?』

    僕「既に決定事項ですか」

    み『何が嫌なの』

    僕「嫌なんじゃなくて…何と言うか…」

    み『モゴモゴしない!はっきり言う!』

    僕「すいません。その、自分の体に自信がないんだよ」

    み『どこが』

    僕「貧弱だから。最近ようやく、あばら骨が見えなくなってきたんだ」

    み『だったら問題ない』

    僕「そう思う?」

    み『向こうが透けて見えなければいい』

    僕「さすがにそれは。はは…ありがとう。あと、ずっと不安に感じてる事があって。ちょうどいい機会だからミッキーさんには言うけど」

    み『ご指名ありがとう。何でしょう』

    僕「僕はまだまだひ弱で強い男ではない。いざとなった時、瑠奈を守れるかどうかっていつも悩むんだ」

    み『ふーん…へ?ちょっと待った、それおかしくない?だって今回さ、私と瑠奈二人で行ってこいって話だったでしょ。女子二人が安全だって言うの?』

    僕「ミッキーさんは無敵だから」

    み『まぁね。って違うだろ!いいけど。あのさ、そういう気持ちは正義感に溢れてて素晴らしいと思う。だけど誰しもヒーローじゃない。そこまで心配しなくても。何か起こってしまった時、即座にSOS出すのも守る内に入るよ』

    僕「そうかな」

    み『すっごく瑠奈を大切にしてるのは、よくわかった』

    僕「大切だよ!とても」

    み『即答で断言。いいねぇ。瑠奈もねー、センセに関してはどこか自信なさげだから、同じ穴のむじなだとは思うんだよね』

    僕「むじな!久々に聞いた。自信ないの?どうしてだろ」

    み『すぐ、他の女が居るんじゃないかって疑うし。めっちゃ愛されてるって、端から見てても丸わかりなのにさー』

    僕「僕が悪いのかな」

    み『悪くはない。でもさ、一歩進んでみない?まっ、二歩でも三歩でも最後まででもいいけど』

    僕「はあ?」

    み『プール平日の方が空いてるよね、いつならいい?ちなみに、瑠奈の都合いい日はもう聞いてあるよ』

    僕「働くなぁ」

    み『本人たってのご希望なんで。かわゆい彼女のお願い断るなんて、相当だったんだね』

    僕「すいません」

    み『センセってさ』

    僕「はい?」

    み『瑠奈よりももっと守りたい物があって、それに合わせて行動してるようにも見受けられるんだよねー』

    僕「え」

    み『別に女隠してるとは思ってないから』

    僕「瑠奈しか居ないし他には考えられないよ。大切にしてるのは…家族だよ」

    み『なるほどね。お姉さんが二人、遠くで暮らしてるんだったよね?』

    僕「うん」

    み『瑠奈はあい変わらずメンドくせぇけどさ、何とか安心させてあげて』

    僕「はい」

    み『で、いつ?』

    僕「えーと」

    大学はもうすぐ夏休みだから、バイトの予定表を確認。何日か提示した。

    み『えーと、この日は私が周期的にヤバいし…じゃあ、ちょっと先だけど8月4日でどう?』

    僕「8月4日。わかりました。よく考えたら贅沢な取り合わせだよね。男1に女性2なんて。僕、大丈夫かな…」

    み『二人の邪魔はしないから。と言うより、邪魔者を撃退するために私が居る』

    僕「どういう意味?」

    み『瑠奈のビキニ姿を想像してみよ』

    僕「ビ、ビキニなんだ」

    み『今時珍しくないでしょ。白地に水彩画みたいな花柄でね。売場で一目惚れで購入したの』

    僕「一緒に買い物したんだったね」

    み『想像できた?超魅力的でしょ。いいよ、ヨダレ垂れてても見えないから』

    僕「ズッ。は、はい」

    み『で、そんな瑠奈に有象無象な輩が寄ってくるのよ、どうしても』

    僕「有象無象って。でも大変だ、どうしよう」

    み『私が阻止してあげるから』

    僕「どこかで聞いたような話だ」

    み『瑠奈の事だから、センセにくっついて離れないだろうし、まず大丈夫だけどねー』

    僕「それは…ますますどうしよう」

    み『あ、プール後に瑠奈を拐うなら、先に愛車で私を家に送ってからにしてね』

    僕「拐うって。僕の車で行くのも決定してると」

    み『世の中は上手いコトできているのだ』

    僕「ははは。いいよ。浮き輪ってある?」

    み『ない。持ってる?』

    僕「一人用のと、真ん中の穴が大きい二人用のが家にあるから、積んでくよ」

    み『カップル用?!センセにそんな甘い思い出が』

    僕「姉のだって」

    み『そうすか』

    僕「そうです」

    み『ふーん。じゃ、また連絡するね!バイバーイ』

    僕「はい。ではまた。失礼します」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、まずは浴衣デートです。

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    続現代Days尊の進む道17~6月28日夕方から29日月曜

    まだそんなには回数を重ねていない模様。
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    ショッピングモール内を一回りし終えたところで、コーヒーショップに入った。二人分購入して席に持っていくと、瑠奈はスマホを凝視している。

    瑠奈「ありがとう」

    僕「どういたしまして」

    さっきの失言、怒ってるんじゃない?おずおずとドリンクを差し出す。

    瑠「浴衣デートどこ行こう。花火大会とかいいなとは思うけど、浴衣着て車の運転はダメだよね。調べてもやっぱりNG」

    僕「うん。それで運転は危ないよ。どうしても花火大会に行きたい?」

    瑠「ううん。すっごい人出だし、そういう大会は動画もすぐにあがるからこだわらないよ。近場でなにかイベントないかなぁ」

    僕「だったら、確か…」

    今度は僕のスマホで検索。

    僕「毎年7月の終わりの土日に、地元の祭があるんだ。駅からも割と近くて、神輿とか出るんだよ」

    瑠「え、そうなの?じゃあ今年は」

    僕「25日土曜の夜。良かったらその日に、一緒に浴衣着て見に行こうよ」

    瑠「わぁ。行く行く!嬉しい!楽しみ~」

    少しは起死回生できたかな…。

    瑠「思ったより、周りの車居なくなってる」

    僕「そうだね」

    立体駐車場に戻ってきた。帰りも安全運転で行きますよ。車に乗り込みドアを閉めた。

    瑠「待って。まだシートベルトしないで」

    僕「え?」

    じっと僕を見ている。じーっと見ている。も、もしや、アレですか?!そうか、車だとこんな事ができるんだ。この場所特にほの暗いし。車の外に人の姿がないのを確認し、ゆっくり顔を近づけると、彼女は目を閉じた。

    瑠「…たけるん」

    僕「は、はい」

    瑠「いつでも奪ってね」

    いつでも!奪って!ど、動揺が。超超慎重運転で帰ります…。

    ┅┅

    翌日。小垣駅近くのカフェに女子二人。

    瑠「みつきー、ここー!」

    みつき「居た居た~。わざとこんな隅っこの席選んだ?急に会いたいって言うからびっくりしたよ。今日はどうしたの」

    瑠「うん。みつきに相談したくて」

    み「相談。ヤバい話?まさかセンセと何かあったとか」

    瑠「尊とは何の波風も立ってないよ」

    み「ずっとラブラブ。平和で結構じゃない。それで?」

    瑠「もうすっかり夏じゃない。尊に海とかプールに行きたいなって言ったの。そしたら、ミッキーさんと行ってきたらって」

    み「そうなの?私の彼も渋々一緒に行ってくれる系だけど。苦手なんかな」

    瑠「ううん。だって見たもん!尊の家のリビングに、家族で海行った時の水着写真飾ってあるんだよ?楽しそうだった」

    み「へー。何でかな」

    瑠「他の女と…」

    み「ないない」

    瑠「理由は見当つくんだよ。尊ね、自分の体に自信がないみたいで隠したがるの。昨日一緒にお買い物して確信した」

    み「そんなに変か~?センセの思うレベルが高過ぎるんじゃない?」

    瑠「私、全然気にならないんだけどな」

    み「よしわかった!私が聞いてあげる、つーか誘ってみるよ、一緒にプール行かない?って」

    瑠「ホント?でも、みつきの彼にもお伺いを立てないと」

    み「話すけど、多分行っておいでって言うよ。大丈夫、そんなんゴタゴタ言う人じゃない」

    瑠「信頼関係が羨ましい。他にも誘う?」

    み「んー。三人で良くない?」

    瑠「三人。いいね、楽しそう!」

    み「高2ん時さ、二人でビキニ新調したじゃない。去年はさすがに海もプールも我慢したからさ、今年は着ようよ。で、センセを囲むと」

    瑠「そうだね。行けるといいな」

    み「任せといて!」

    瑠「ありがと。…あとね」

    み「何、急にヒソヒソ話?」

    瑠「尊とはラブラブだけど、どうしてその先がないんだろ、って…。どう思う?」

    み「先?って」

    瑠「尊はすっごく優しい」

    み「それはよくわかる」

    瑠「優しくハグしてくれる」

    み「うん」

    瑠「優しくキスしてくれる」

    み「うん」

    瑠「でもその先がない」

    み「それかー。兆しもない?それっぽい雰囲気になるとか」

    瑠「全然。昨日もね、車だし、踏み込んでくれるかななんて、ちょっと迫ってみたけど」

    み「マジか!で?どうだったの」

    瑠「キスまでだったし家まで真っ直ぐ送ってくれた」

    み「棒読みが過ぎる。まぁそこはさすがセンセというか」

    瑠「私に興味ないのかな…」

    み「ンなワケない。大事にされてるんだよ」

    瑠「でも今までの彼は、いつもその先、最後までだったよ?」

    み「エッチまでセットじゃないのかって話?」

    瑠「うん」

    み「はぁ。そういうモンだと思ってるなら否定まではしない。ただ言い方悪いけどさ、そもそも今までの奴らは初めから体狙いだっただろうし。どいつもこいつも、ホントさっさと別れて良かったよ」

    瑠「尊、他の女と…」

    み「断言する。センセに限ってそれはない」

    瑠「そう…だよね」

    み「疑うなんてセンセに同情するけど。心配なら、なんとなーくそうなってもOKだよ的な感じにもう少し持ってってみたら?」

    瑠「そうしようかな…」

    み「焦んなくてもいいんじゃない?」

    瑠「嫌がられるかな」

    み「よっぽど大丈夫だとは思うけど」

    瑠「大好きな尊との距離をゼロにしたい。それだけなんだけどな」

    み「なるほど。純粋な気持ちからだと」

    瑠「おかしいかな」

    み「ううん。恋に全力、いいと思う。だったら応援する。気持ちが伝わるといいね」

    瑠「ありがとう」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、久々に尊とみつきの舌戦です。

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    続現代Days尊の進む道16~6月28日14時

    一口ちょうだいイベントはあったんだろうか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕「何食べよう」

    瑠奈「悩む~」

    一気に買い物をしたので、もう時計は昼をとっくに回っていた。飲食店一覧を見ている。

    瑠「トンカツいいかも」

    僕「へぇ。珍しい」

    瑠「ガッツリ系過ぎる?」

    僕「そんな事ないよ。かなり歩いたし僕もお腹空いてる」

    所望のメニューがある店で食事。

    瑠「尊の家の近所のラーメン屋さんも、また行きたいな」

    僕「気に入ってくれたんだ。美味しいよね」

    瑠「うん。油少なめにできるし」

    僕「少なめ、ね」

    瑠「あー、カツ食べてる口が何言う?って思ってるんでしょ」

    僕「ちょっと」

    瑠「もー。それはそれ、これはこれなの!」

    僕「ははは」

    くるくる変わる表情が愛らしい。肉でパワーチャージできたし、さぁ店を出るか。しかし、我ながら景気良く買ったなー。

    瑠「買い物袋、半分持ってあげる」

    僕「え?いいよ、僕の荷物ばかりだし」

    瑠「でもぉ」

    僕「?」

    瑠「尊の両手が塞がってると、くっついて歩けないもん…」

    僕「…」

    か、か、可愛い過ぎるぞ!

    僕「あ…あ、じゃあさ、一度荷物を車に積んでこようかな」

    瑠「うん!行くー」

    荷台に積み終えて歩き出すと、すぐに腕を絡ませ肩にもたれてきた。神様仏様、僕はこんなに幸せでいいんでしょうか?甘さにノックアウトされそうになりながら、まだ見ていないエリアを散策し始めた。

    瑠「うわぁ、日本の夏だね~」

    僕「ホントだ」

    特設会場に、浴衣がずらりと並んでいる。割と手頃な値段で一式揃うんだ。へー。

    瑠「尊は浴衣持ってる?」

    僕「一応」

    お姉ちゃんに、いかにも旅館の備品って言われたのがあるよ。浴衣を着たあの日が、全ての始まり。

    瑠「そっか。私も持ってはいるんだけど」

    僕「うん?」

    瑠「お互いに選び合った浴衣着て、デートできたらいいなって想像しちゃった」

    僕「浴衣デート、ですか」

    しぇ~!そんなん実現したら、舞い上がり過ぎて僕、宙に浮いてるかもよ?

    僕「はは。新しく選んでもらうのは全然構わないよ」

    瑠「ホント?」

    僕「でも僕が瑠奈のを選ぶのは…」

    瑠「えー、尊が決めてくれたのが着たい」

    僕「そっか。わかりました。自信ないけど期待に沿えるよう頑張るよ」

    瑠「やったぁ。私も尊にぴったりなのを探すね!」

    とは言いつつ、女性用浴衣の圧倒的な量ったらない。気合い入れないと。しゃっ、だな。

    僕「さてと。あれ、もう居ない」

    もう男性用浴衣のコーナーに移っていた。順番に見てたかと思いきや急に切り返したりして、時々動きが小動物。動く度にスカートがふわりと揺れてこれもまた良し。まるで…

    瑠「これに決めたよ~」

    僕「もう?絶対数が少ないから当然か」

    茶系の淡色の縞模様。派手過ぎず地味過ぎない所がいい感じ。さすが。

    僕「あと少し時間ください」

    瑠「ゆっくりでいいよ。手に持ってるのが候補?全部金魚の柄なんだね」

    君が金魚のようで。なーんて言って微妙な顔されてもなんだから黙っておく。スカートが水中で広がる尾びれ。人懐っこく駆け寄り、僕の周りでひらひらと舞い踊る姿。そしてつやつやでぷるんとした唇。

    僕「決めたよ。こちらでいかがでしょう」

    瑠「かーわいい!」

    水面に見立てた薄い水色の地に、様々な色柄の金魚が自由に泳ぐ様があしらわれている。良かった、喜んでくれて。肩の荷が下りたよ。そして二人ともお買い上げ完了した。

    僕「持つよ。二袋持っても片手は空くから」

    瑠「ありがと。優しーい」

    カツの効果もあって、活力漲ってますから。

    瑠「あ、こっちも夏~」

    少し歩いたら、今度は水着が売っていた。そういえば、去年もここが売場だった気がする。

    瑠「おととしね、みつきと水着買いに行ったんだよ。ここではないけど」

    僕「そうなんだ…」

    水着姿。想像すると鼻血が出そうだ。いやそれより僕の水着姿はどうなんだ?去年は…体はもっと貧弱だったけど、お姉ちゃんや兄さんを楽しませる為に海もプールも行った。でも家族とだしそんなに恥ずかしいとは思わなかった。今は…まだまだ鍛えないと、とても彼女にお見せできるような段階じゃないんだよな。

    瑠「尊?聞いてる?」

    僕「え?あ、ごめんなさい」

    瑠「海やプールに行きたいなぁ」

    出た!やっぱそうなるよね。でも…

    僕「えーっと」

    瑠「何?」

    僕「ミッキーさんと行けば」

    しまった、すげぇ冷たい言い方しちゃった!ヤバい!

    瑠「ふーん…。あ、あそこのペットショップ見たい!行こっ」

    瑠奈はそれ以上何も言わなかった。機嫌を損ねたかと思ったけど、その後の態度はなんら変わらず。でもあんな言い方はないよな。ごめんなさい!

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    旅館の備品、は令和Days22no.624にて。そして、前年の唯達の水着購入の様子は、同じく8no.597から11no.604にて。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道15~6月28日11時

    尊の遺伝子なら、お目目ぱっちりでしょ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    小垣城資料館を出て、次の目的地に向かっている。

    瑠奈「よく行くの?」

    僕「ううん、全然」

    水着買いに行った時以来じゃないか?

    瑠「私は3か月に一度位かな。親が連れてってくれないと、車でしか行けないじゃない」

    そう。どちらの家からもまあまあ距離がある。でも兄さんは、クリスマスイブにお姉ちゃん乗せて自転車漕いで行った。それは基礎体力の違いだな。

    僕「店はいっぱいあるよね。だからそこでいいかなって」

    瑠「服にこだわりとかないの?」

    僕「あるように見える?」

    瑠「えーとぉ」

    僕「ごめん、言葉を選ばせて。お任せします」

    瑠「はい。頑張りまーす」

    到着したのは、ショッピングモール。

    瑠「まあまあの混み具合だね」

    僕「うん。平面駐車場はほぼ満車だし」

    話を整理します。僕もいよいよお給料を貰える身になり、今後は車の購入費諸々を親に払っていくんだけれど、服も自費で購入していこうと決めて。でも自分で選ぶと似たような物ばかりになる。だから瑠奈に見立てて貰おうと思ったんだ。そんな話を両親にしたら、今朝家を出る時なんかもう…。

    美香子「買い物デートか~。尊、やるわね」

    僕「そう?」

    美「彼氏の服を選ぶなんて、瑠奈ちゃんノリノリでしょ」

    僕「うん。すごく楽しみにしてる」

    覚「ここでクイズだ。ジャージャン!」

    僕「は?」

    覚「流れで彼女の服も選んでいると、これどう思う?と目の前に提示された。さて、どう答える?チッ、チッ、チッ」

    僕「それは…懸命に僕なりの答えを出す」

    覚「おっ」

    僕「女性のファッションなんて全くわからないけど、求められてるならできるだけ応えてあげたい」

    覚「ほほー。どれでもいいとは言わんのだな」

    僕「うん。よくお姉ちゃんが困ってたの見てたから」

    美「あ、思い出したわ。それおととしの話でしょ。忠清くんにアドバイスしたのよね」

    覚「へー。それは初耳だ」

    僕「そう?あ、確かお父さん、その時お姉ちゃん達がクリスマスイブイブイブデートに持ってくお弁当作ってたよ」

    覚「はいはい。あん時か」

    僕「で、どう?僕の回答は」

    覚「合格だな。でもその答えの理由、聞かれたとしても簡潔に。くどくど言うのは禁物」

    僕「わかった」

    美「車に積めるだけ積んできたら~?」

    僕「どんだけ買わせる気だよ。行ってきます」

    さて。無事駐車し、モール内を散策し始めた。

    瑠「風船配ってるんだ」

    イベントスペースが子供達で賑やかだ。こういう場所は家族連れにうってつけなんだろうな。子供か。僕に似たら微妙だけど瑠奈に似たら可愛いいだろうなー…なんて妄想が止まらない。

    瑠「ね、この店見てみよっ」

    僕「あ、はい」

    繋いだ手をグッと引っ張られ、我に帰った。妄想は、一緒に居ない時限定にしないとな。

    瑠「私、尊のTシャツ姿って見た事ないかも。綿シャツとか今日みたいなフーディーとか多いよね。嫌いなの?」

    僕「うーん。生地が薄いのはちょっと」

    瑠「そっか。こだわりはやっぱりあるんだね。いいよ、厚めで探してあげる」

    Tシャツはね、笑っちゃう程似合わないんだ。例の肉食系Tシャツも然り。薄手だと体のラインが如実に出るから、貧弱なのがバレバレで外に出るのが恥ずかしいんだよ。この呟きは聞かせられないけど、瑠奈ならきっと上手く欠点を隠せる品を選んでくれる筈だ。

    瑠「ねぇねぇ、これとこれ試着してみない?」

    僕「はい」

    いくらでも着せ替え人形になりますよ。

    僕「いいよ、カーテン開けて」

    瑠「失礼しまーす。あ、こっちも似合ってる。どう?さっき着たのと比べて」

    僕「どっちもいい感じだよ」

    瑠「両方ともやや大きめで、体の線を拾わないもんね」

    やっぱりな。気にしてる所、バレてました。

    瑠「どうする?」

    僕「2枚とも買うよ。値段も含めて瑠奈の見立て完璧だし」

    瑠「いいの?!たけるん太っ腹~」

    ショップの袋はどんどん増えていく。見て、着て、検討して、また戻ったりして。こんなに歩いてても疲れを感じないのは、瑠奈が上機嫌でずっと笑顔を見ていられるからだな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    両親との会話中、「困ってた」は平成Days37no.489、「アドバイス」は同じく45no.516に出てきます。

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道14~6月28日日曜9時

    ドラマ1話で小垣城に攻め入った高山の軍勢は2,000人。資料館の甲冑がのべ2,000人の来場者を迎えるのはいつ頃かと考えると、決して少なくはない数。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    車での初デート。瑠奈の住むマンションに到着した。豪華なエントランスの少し手前で停車すると、瑠奈がすぐ現れて僕の車に駆け寄って来た。

    瑠奈「わぁ!」

    車をくまなく見てはしゃいでいる。そんなに喜んでくれると買った甲斐があるよ。スカートがふんわりしてて、ドレスを纏ったお姫様みたいだな。あ、だったら…

    僕「おはよう瑠奈」

    瑠「おはよぉ、尊」

    急いで車を降りた僕。助手席のドアを開けた。

    僕「お待たせしました、姫。どうぞ」

    瑠「あはは。どしたの、サービスいい~。そのフーディー、カッコいいね」

    僕「フーディー?」

    瑠「パーカの事。紺色がいい感じだよ」

    僕「そうなんだ、ありがとう。ファッション用語はてんで不案内で」

    瑠「うふふ。では運転お願いしまーす」

    よし、出発。まずは小垣城資料館に向かう。一度は行っておいて欲しいと伝えたら、じゃあ今日一緒に行きたい、となったんだ。間もなく到着した。

    瑠「ここ、発掘調査の前は公園だったんだよ。小さい頃はよく来たの」

    僕「へぇ」

    開館してすぐの時間なので、駐車場に車はほとんどなかった。家の敷地以外で駐車するのは初だから、申し分ないシチュエーションでラッキーだ。

    瑠「すごーい、一回ですんなり枠内にとめた。上手~」

    練習の成果あり!心でガッツポーズ。機嫌良く入口に向かっていると、入れ違いで人が出てきたのだが、

    僕「あっ、木村先生!」

    木村「お?おー!尊くんか!」

    僕「おはようございます」

    木「おはよう。随分と風貌が大学生っぽくなったな。最初誰かわからなかったよ」

    僕「へへ、そうですか」

    木「用が済んで帰るところでな。あれ、君って確か、ここには講演会当日に来てたんじゃなかったか?」

    僕「はい。二度目です。今日は案内しようと思って」

    木「彼女をか」

    僕「はい」

    僕らに遠慮して少し離れていた瑠奈を呼んだ。

    瑠「おはようございます、先生。私小垣に住んでるんです。今日はしっかりお勉強したいと思います」

    木「そうかそうか、ありがとな。尊くん、二度目の君に朗報だ。実はさっき展示を一部変えたところなんだよ」

    僕「え、変更!まだ開館間もないのにですか」

    木「僕が話をした中でさ、聴衆の反応が良かった話題があったの、覚えてるかい?」

    それって…

    僕「もしかして、羽木の若君の祝言ですか」

    木「そう!手記に記されているんだが、それは今まで展示してなかったから、問い合わせも多かったらしくてな。そんなに盛り上がるならって、町が動いてさ。2か月で変更だよ。今日から公開の運びで、今最終確認してきたんだ。実にグッドタイミングだったな」

    僕「本当ですね。今日で良かった」

    木「じゃ、これで。デート楽しんでくれ」

    僕「ありがとうございます。新しい展示の感想も、またメールします」

    手を上げ去っていく先生の後ろ姿に、二人でお辞儀をした。

    瑠「あの先生が、武将の末裔なんだね」

    僕「そう。木村先生はお知り合いになれてマジで良かったと思ってるよ」

    展示室へ入る。仄かな灯りに照らされた、厳かな雰囲気がいい。

    瑠「こういう場所のね、凛とした空気感って好きなの」

    僕「あ、それ僕も。落ち着くよね」

    瑠「わかるー!あ、声響いちゃった、ごめんなさぁい」

    ゆっくりと進み、じっくり見学している瑠奈。好感が持てるなぁ。

    僕「これか」

    新しい展示。手記のその箇所が開かれ、大きい解説パネルが設置してあった。力入れたなー。全体的にもレイアウトがかなり変わった印象だ。吉田城跡の工事完了も楽しみだし、講演がきっかけになって、色々羽木家寄りの方向に変わっていくのは嬉しい。先生に感謝。

    瑠「満月の日だったんだ」

    僕「え?どうしてわかるの」

    瑠「ほらここに」

    解説には書かれていないが、古文書中の満月の文字は僕でも何とか読み取れた。

    瑠「私も満月の日にしてもらおうかな。参列者のために休日と重なる時を選んで。ねっ、尊」

    僕「へっ?…あ、あの、はい、いい提案だと思います…」

    そんな話をサラっと無邪気に言う?はぁ。そうしようね、なーんて返せると男っぷりも上がるんだろうけど、未熟者なんでまだ無理…。

    瑠「ねぇ尊」

    僕「うん?」

    瑠「鎧兜が飾ってあるけど、手が届く位置でショーケースにも入ってない。いいのかな」

    僕「これ長い間、先生の勤める高校に置いてあったんだって。カバーも何もなく、はたきでパタパタやってたらしいよ。だから触るのを禁止にしなかったって先生言ってた」

    瑠「生徒にも触らせてたんだ。いい話だね。感触からも当時に思いを馳せられるもの」

    触り放題でも、姉はずっとスルーだったらしいけどさ。一般的な高校生に比べれば、特に珍しくもない見慣れた品ではあるとは言え。さて、これにて見学終了。

    僕「お疲れ様。わー、外は暑いな」

    瑠「来て良かった~。すっごく勉強になった。今度親連れて来る!ありがとう尊」

    僕「どういたしまして。じゃあ移動しますか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊が着ているフーディーは、青DVD&Blu-rayに収録されている「アシガール番外編Episode2平成の馬平成の小姓」内で、若君の自転車を追いかけている場面に出てきます。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道13~6月27日土曜

    ナンパとしては昔ながらのやり方。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    本日、納車しました。販売店に行ったのは僕と父と瑠奈の三人だけだったので、母は初めて実物と対面する。

    美香子「思ってた以上にピカピカだったわ」

    覚「走行距離が短かったからな」

    僕「うん。ほとんど新車」

    中古の軽自動車。

    僕「お母さん、黄色好きでしょ」

    美「確かに黄色系。クリーム色。違うわね」

    僕「は?」

    美「そんな理由で買ったんじゃないわよね~。瑠奈ちゃんの評価は?」

    僕「初デートの時の」

    美「お正月の?」

    僕「僕が着てたセーターの色だねって…」

    美「あー、似てる。それが購入の決め手ね」

    僕「は、はは」

    覚「そんな彼女が、今日都合つかなかったのは残念だったな」

    僕「だって日柄を優先だったでしょ、今日が大安だからって。瑠奈は明日会うから」

    美「初運転は明日のデートで?」

    僕「いきなりだとまごつきそうだから、今から少し走らせようと思ってる」

    美「ふうん」

    僕「乗る?」

    美「あらん。若い男の子に誘われるなんて、何十年ぶりかしら~」

    僕「何それ」

    覚「僕が誘った以来だといいが」

    美「残念ながら、そうなのよ~」

    覚「残念は余分だぞ」

    僕「はいはい。で、どうすんの」

    覚「僕も乗せてくれよ。いきなり三人だとヘビーか?」

    僕「いいよ。土曜の午後だからそうなると思ってたし」

    美「息子の運転でドライブなんて嬉しいわー。どこに乗せてってくれる?」

    僕「どこって…どうしよう」

    覚「プランなしか。目的地は決めた方が」

    美「じゃ、あそこ。小垣駅前というか吉田城跡というか。距離的に良くない?」

    覚「あー、そうだな」

    僕「二人ともまだ行ってなかった?いつでも行けると思うとつい後回しだよね」

    美「では、吉田城跡までよろしく~」

    僕「はい。心得ました」

    覚「頼むよ。じゃないな、お頼み申す。お、キーホルダーはそれにしたのか。いい感じだ」

    クリスマスプレゼントとして兄さんが作ってくれた、レジンで様々なパーツを閉じこめたキーホルダー。花はあえて入れてもらわなかったので、割とシンプルでクールな仕上がりだ。

    僕「使うのがもったいないと思いながらも、使わないともったいないなって」

    美「わかるわ~」

    両親とドライブに出発した。

    美「いつの日か、唯達も乗せてあげられるといいわね」

    僕「うん…予定は全くの未定」

    覚「実際今、かなり忙しいだろ。タイムマシンの作業もそんなに進んでないよな」

    僕「でもアルバイトがさ、場所は定期券の範囲内だし得意分野でやらせてもらってるし」

    瑠奈のお父さんの会社には、週に2~3日、大学終わりで行けるようにシフトを組んでもらっていた。

    美「ありがたいわよね。待遇がすごく良くて」

    覚「部長の娘さんの彼氏、ってのは皆さん知ってるのか?」

    僕「全然。あの進学校出てるんだ、とは社員さんに声かけられたけど。娘の存在自体を隠してるみたいだよ。瑠奈も、バイト上がりの僕を会社の前で待ち伏せなんてするなよ、って釘刺されてるらしい」

    美「彼女なら喜んで待ってそうだもんね。良かったじゃない。勿論照れもあるでしょうけど、そこの社員さんは若い男性が多いんでしょ?下手に娘さんが顔出したら、面倒な事になるってわかってみえるのよ」

    僕「それこそナンパ?ひぇー」

    覚「そりゃ父親としては心配だ」

    僕「頷ける?」

    覚「うん。僕にはそんな機会ないまま、行っちまったけどな…」

    美「あー…」

    愛車初運転の僕に助手席や後部座席を窺う余裕はなかった。だけど、きっとこの時両親は切ない表情をしてたと思う。しんみりとした空気が流れそうになった頃、小垣駅前に到着した。

    僕「ここで待ってるから見てきなよ」

    ロータリーから少し離れた隅に停めた。両親は一周見た後、なぜか駅に入っていく。ん?

    僕「お帰り。さっきはどうしたの」

    美「立看板あるじゃない。その周りに柵がしてあったから、工事でもするんですかって駅員さんに聞きに行ったのよ」

    僕「え、わざわざ?」

    覚「もしや撤去されるのかって心配になってさ。そうしたら、もうすぐ看板が大きくなるって話で」

    僕「へー!」

    美「木村先生の講演でも、ここの話題されてたじゃない。それで見学者が増えたみたいなの。で、町としてももう少し吉田城跡をアピールしようとなったんだって。ロータリーの周りにぐるりと歩道っぽく色を付けて、安全に渡れるように小さい横断歩道もできるらしいわ」

    僕「すごい。先生には、これからどんどん情報を発信してもらいたいね」

    美「そうね。今まで遠慮されてた分」

    覚「地元を見直せるからな」

    注目されつつあって良かったね、源三郎さん、兄さん。さぁ、安全運転で帰るとするか~。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君がプレゼントを作るくだりは、現代Days13no.859にて。

    次回、初ドライブデート。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道12~6月上旬

    青田買い的な?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ここは、瑠奈の家。

    瑠奈の父「また呼んでいただいたって?」

    瑠奈「うん。日曜のお昼に尊の家に行く。楽しみ!」

    瑠奈の母「運転免許証取得おめでとう、のランチですってよ」

    はい。二人とも、無事取れたんで。

    瑠父「こちらも、尊くんを招かないといけないなあ」

    瑠「気にしないでって言われたよ。おじさまが料理のレパートリーを披露したいんだって。だから何度でも来ればいいんだよって」

    その通り。もっと言うと、この会食、両親が恒例行事にしようと目論んでいる。

    瑠母「甘えさせて貰うばかりで申し訳ないわ。せめて手土産を奮発しましょうか」

    瑠父「だな。あと…折角伺うんなら、俺ちょっと資料作るわ」

    瑠「資料?あ、尊の仕事関係の?」

    瑠父「そう。当日持って行けるよう用意しておくよ」

    ┅┅

    そのランチ会食当日。瑠奈には黒羽駅まで来てもらったのだが、

    瑠「尊が運転してきたの?」

    僕「うん。口うるさい教官も居てごめん」

    美香子「うるさいって何よ。的確な指示と言いなさい~」

    駅まで車で迎えに行ってみました。母の車、助手席に監視付きだけど。

    美「運転はまあまあの出来。でもね、クリニックの駐車場で夜に練習してるから、駐車のテクニックは上達してるのよ」

    僕「お母さんの車をぶつけたり擦ったりしないよう、毎回ヒヤヒヤでさ」

    瑠「ふふっ。お出かけの準備ばっちりだね」

    美「はい、じゃあ私は後部座席に移るから、瑠奈ちゃんは尊の隣に」

    瑠「わぁ、ありがとうございます。嬉しい!」

    僕「ほんの少しの距離だけど。どうぞ」

    美「ランデブーね~いいわね~」

    僕「外野がやかましいな」

    安全運転で帰宅。出迎えた父の姿に、瑠奈が仰天している。

    瑠「おじさま…」

    着物をまとい、たすき掛けまでしていて。張り切り方がわかりやすい。

    覚「へへ。腕を振るうのにちょっと気合い入れたくてね」

    瑠「素敵。お似合いです!ちょうど良かった、今日は和菓子をお持ちしたんです。おじさまにぴったり!」

    覚「そうなの?いやぁ、瑠奈ちゃんはおじさんを転がすのが上手だな~。ささ、上がって」

    一番転がされてるのは僕ですが。まぁ、そんなこんなでランチは和やかに進んだ。

    覚「いただいた和菓子は、すっかり夏の風情だなー」

    僕「透き通ってる!」

    瑠「今朝父が買ってきました。我が家の夏の定番なんです」

    美「老舗の品ね。これ、お高いのよ~」

    僕「マジ?こんなに綺麗だから当たり前か」

    夏到来かー。今年は何が起こるんだろうな。

    瑠「免許証、私のはこれです。どうぞ」

    覚「見せてくれるの?お、いいね~」

    美「可愛いい子って、座っていきなり撮られても可愛いいのね。尊なんか、ぽやーんとした顔で写ってるのに」

    僕「免許証あるあるじゃないの」

    瑠「あと私、父の会社の資料を預かってきたんです」

    覚「資料?」

    瑠「尊くんのご両親にご覧いただくようにって、システム改修とか、尊が新規で作ったアプリなどの売り上げ推移を」

    美「あらご丁寧に。それ、社外秘じゃないのかしら?」

    瑠「OKな物だけみたいです」

    美「尊はもう聞いてるの?」

    僕「詳しい数字とかは知らない」

    覚「そうか。じゃあ食卓に広げてくれる?」

    その資料には、グラフや数字が細かく記載されていた。

    美「こんなに詳しく書いていただいて。わかりやすい」

    覚「売り上げが右肩上がりじゃないか。やるなぁ尊。違うか、会社の皆さんや周りの支えがあってこそだな」

    僕「うん」

    瑠「父が驚いていました。こういうシステム系って、大体は営業マンが個別に回って売り込むかメールが来るケースが多いらしいんですけど、今回は電話や手紙がくるって」

    美「手紙ねー。画面が見づらい方々で年齢層も高いからそうなるかしら」

    覚「うむ」

    美「知り合いの眼科医の奥様に、息子が関わった物があるんで良かったらってオススメしたの。その方、パソコンどころかずっとそろばんを使ってみえて」

    覚「そりゃまたレトロだな。でも慣れてる道具がいいんだろうな」

    美「苦手なパソコンシステムの導入は避けてみえたらしいけれど、私の言葉に心動いたみたいで。もう会社に連絡はされてると思うわ。もしかして手紙の方かも。芳江さんもエリさんも、吹聴しまくってるって言ってたし」

    瑠「すごーい。ネットの口コミなんかじゃなくて、本当の口伝えで広がってるんですね。あ、尊」

    僕「ん?」

    瑠「もう1つ書類預かってる。はい」

    僕「え?」

    速川尊様と書いてある、会社名の入った封筒を渡された。

    瑠「手紙らしいよ」

    僕「は?」

    覚「何だ」

    美「何て?」

    中を読み進める。

    僕「社長さんの名前で、多大なる貢献に心より感謝致します、ってお礼が書いてある」

    覚「そんな大ごとに!」

    僕「ご卒業後は弊社も選択肢としてご検討いただければ幸いでございます」

    美「入学したばかりよ」

    僕「もう1枚入ってる。こっちは瑠奈のお父さんの名前だ」

    瑠「うん。言ってた」

    覚「そちらは何だって?」

    僕「システム開発の契約とは別に、アルバイトで来て貰えませんか。週に1日2日でも構いません。君のような優秀な人材を会社一丸で求めています」

    美「あらー。びっくりし過ぎて、口が塞がらないわ」

    瑠「尊、天才なのがすぐにバレちゃったね」

    なんだか生活がどんどん変わっていきそうだ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、いよいよ車がやってきます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道11~4月26日日曜

    大学生男子で一日両親と一緒に過ごすなんて、孝行息子。
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    木村先生の講演日。早めに昼ごはんを済ませ、先に小垣城資料館にやって来た。19日に来たかったけど、混んでて資料がよく見えないと嫌だから今日まで我慢してたんだ。

    美香子「この中のどれかに、忠清くんや唯について書かれてあったりしないかしら」

    僕「だといいよね」

    ショーケースの中に並ぶ古文書。毎度の事ながら、読めない。

    覚「へー、ほほぅ」

    父が、小垣城の備品とされる燭台にやたらと興味を示している。

    覚「これは灯明皿でもいいし蝋燭でも使えるのか。2WAYなんだな。こっちは白い燭台か。珍しくないか?」

    美「お父さん。まさかこんなの家に欲しいとか言い出さないわよね」

    覚「ん?へへ~」

    美「すぐにハンガーが掛かるわよ。ここで見せていただくだけにして」

    覚「やっぱり?」

    僕「却下早ぇ」

    展示をじっくり見ているが、

    美香子の囁き「御月の名はどこにも出てこないわね」

    覚の囁き「だな」

    年表も、一部ぽっかり空いている。ちょうど木村政秀氏が御月家に仕えているだろう頃。

    僕の囁き「完全秘匿事項だったんだよ、きっと。兄さん達が追われる身にならないように」

    覚 囁き「そんなに上手くいくか?」

    美 囁き「でも木村先生もご存知なかったじゃない。羽木家にだけ仕えてきたように資料が残してあるなら、忠義ってそういうものじゃないの」

    奥まで進むと、ひっそりと甲冑が佇んでいた。

    覚「確か、唯が永禄で初めて出会った武将だったよな」

    僕「うん」

    美「感慨深いわ。この甲冑が、戦国時代も現代も唯に関わってるなんて」

    僕「450年以上の時を超えてね」

    ついつい興味深く見てしまい、小垣町民体育館に到着したのは開演時間ギリギリだった。何とか三人並べる場所を見つけ、着席した。

    美「普段から教壇に立ってみえるから、まんま歴史の授業な感じね」

    覚「だな」

    壇上の先生は、水を得た魚のようだ。興味深く聴かせてもらってたけど、そろそろ話もまとめに入る頃かな。

    木村「断腸の思いで小垣城を去る事となった政秀ですが、城代最後の夜を羽木の若君の祝言で飾れたと、後日手記に残しています」

    出た~!あったんだ!

    聴衆「おぉ…」

    どよめきがあり、拍手をする人も居た。この地域でも、羽木家は小学校で習うと瑠奈に聞いてはいたけど、反応が良くてちょっと嬉しいな。

    木「俄仕立てではあったが、微笑ましい婚儀で、この上ないはなむけになったと」

    微笑ましい、ねー。この辺は兄さんにも詳しくは聞いてないけど、

    僕「お姉ちゃんが色々やらかしたに違いないよね?あ、ごめん」

    両親は、一言一句聴き逃すまいと耳をそばだてていた。話しかけてすみません。

    木「夜明け前には若君が妻女を安全な場所へ逃がした、と記されておりますが、詳細はわかりかねます」

    だよね。会場の雰囲気的には、上手く逃がせて良かったね、さすが羽木の若君だといった感じに捉えられているみたい。

    覚「あの時は大変だったな」

    美「ホント」

    でも僕達は、その後お姉ちゃんが現代に帰されて起こる、人が変わったように落ち込んでいた半年に渡るあの顛末を思い出してしまう。その頃…木村先生、お姉ちゃんに会ってるな。随分と羽木家に執着する奴だと思ってただろうな。

    木「ご静聴ありがとうございました」

    終わりました。拍手。貴重な講演というか講義、聴けて良かった。

    美「もう先生にメールした?」

    僕「うん、今送った。ちゃんとお父さんお母さんの感想も書いといたよ」

    帰宅しお茶タイム中。母は資料館の小さいパンフレットを眺めている。父が、なぜかタブレットを取り出した。

    覚「ところで車、どうするつもりだ?」

    僕「いきなり?どうするって何」

    覚「こんなのが好み、とかないのか。探してやるぞ」

    僕「ないね。4人は乗れて荷物運べればいい」

    覚「ざっくりだな」

    僕「維持費や税金がかからない方がいいから、軽自動車かな」

    覚「軽かー。悪くはないが」

    美「いいんじゃない?家で3台目だもの」

    覚「なんつーかさ、今の若い兄ちゃん達ってあまり車に興味ない傾向なんだよな。瑠奈ちゃんはどうするって?」

    僕「ほぼ用途は身分証のみで、すぐには買わないみたいだよ」

    美「あら。お母さん、免許持ってらっしゃらないんじゃなかった?」

    僕「うん。それでも、家族で出かける時お父さんと運転代われればいい位に思ってるみたい。元々急いで取ろうとしてなかったし」

    覚「なるほどね」

    僕「僕としては、中古の軽でもいいよ」

    覚「欲がないなー。あ、まさか色々カスタムしたいとかか?」

    僕「しないよ。ちゃんと走りさえすればいい。それにさ、僕にカスタム許したら、もはや車じゃなくなると思うよ」

    覚&美香子「言える」

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    小垣城の燭台ですが。ドラマSP内にて、2WAYは「持っていたのじゃ~!」、白いのは「唯様お入りになられまする」から「腹も決まった。よし!」辺りで確認できます。

    次回は、6月に入ります。

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