フォーラムへの返信
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[no.1169] 2024年5月11日 21:24 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部
続現代Days尊の進む道71~3月上旬
筆遣いが巧みなので。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅今度の連休に、両親が旅行に行く。
僕「夫婦水入らずでゆっくり骨休めしてきて」
21日月曜が春分の日で祝日だから、日月でって話。土曜から行けばと思うけど、仕事終わりすぐではせわしないからこの日程らしい。
覚「20日が、永禄だと3月の頭だ。そろそろだな」
美香子「そうねぇ」
壁のカレンダーを確認する両親。実は満月の日毎に、永禄ではいつに当たるか書き入れるようにしたんだ。だから他の日も、指折り数えればその日が向こうで何月何日に当たるかわかるって訳で。これ、対応する日をネットで調べたとかではない。
美「木村先生は何かおっしゃってた?」
僕「気付いてないみたい。兄さんの書き方がさりげないしね」
この前永禄に飛んだ際兄さんに、日記、満月の日には何かしるしを付けてくれるとわかりやすいんだけどってお願いしたら、それからは日付の隅に点が打たれるようになったんだ。
覚「そりゃまさか、元の資料が変化してるとは思わんわな」
解読はもっと先まで進んでいるので、先々まで向こうのリアルな満月の日がわかる案配となっている。
美「忠清くんは後世に記録を残すつもりで始めたのに、そのやりとり聞くと、尊と忠清くんの時空を超えた交換日記みたいよね」
覚「交換日記か…甘酸っぱいな」
美「へー、誰としてたのかしら~?」
覚「中学生の時だよ。時空を超えた思い出だ」
僕「昭和も永禄も時空の彼方ですか。そろそろ出かけるよ」
その日はデートだった。
瑠奈「旅行はお二人でよく行かれるの?」
僕「ううん。お母さんも何やかやで忙しいし」
瑠「そうなの。了解しました。しばらくお待ちください」
僕「お待ち、ください?」
そして夜。
瑠『報告です。20日ね』
僕「うん?」
瑠『大学の友達の家に泊まりに行く』
僕「そうなんだ」
瑠『コトにしておきました』
僕「は?」
瑠『たけるん、夜一人じゃ淋しいでしょ』
僕「まさか」
瑠『当日、私達も旅行しない?』
僕「…」
そんな展開はさ、チラッとは妄想したよ?
瑠『ダメ?』
僕「いや…どうしよう、21日の午前中に解読の手伝いに行く約束してて」
瑠『えー』
僕「でも、何時でもいいしちょっとの時間でもいいはいいんだよ」
瑠『ホント?』
僕「最近木村先生になかなか会えなくて、その時は来れるって話だったから、じゃあ僕も合わせますって返事しちゃったんだ。だから」
瑠『そうだったの』
僕「ごめんなさい」
瑠『なら、行ってる間待っててあげる』
僕「え、そこまでしてくれるの?」
瑠『そこまでしても、たけるんと一緒に居たいんだもん』
僕「でも悪いよ。あまり遠くへ遊びにも行けないし、今から宿泊予約とか間に合うかわからないし」
瑠『…たけるんは私と居たくないんだ』
僕「違うよ、それこそ瑠奈と水入らずで一晩過ごせたらこの上ない幸せだよ」
瑠『だったら…あ』
僕「ほえ?」
瑠『またたけるん家に泊めさせてもらうってのはどう?』
僕「えぇっ!」
瑠『旅行にはこだわらないし』
僕「それは…」
瑠『厚かましいかな。ダメ?』
上目遣いでお願いしないでー!冷静になれないよ!落ち着け尊!…ふう。でもそれは…いいかも。客用布団とか使わなければバレないよね?使わない…使わない!ひ、一つのベッドで?!うわ、シーツや枕カバーを洗いたてにしないと!へ、へへっ。
瑠『OKみたいだね』
僕「…え?」
瑠『顔がゆるんでますよぉ。でろーんって』
僕「あうっ。…失礼しました。はい。仰せの通りです。ぜひ来てください」
瑠『やったぁ』
僕「よろしくお願いします」
瑠『ねぇ、その日、晩ごはん作ってあげよっか?』
僕「あ、あぁ。うーん」
瑠『あれ、反応がイマイチ』
僕「すごく嬉しいんだけど、お前普段料理やらないのに台所使ってあるな、一人じゃなかったのか?ってすぐバレそうだから、気持ちだけいただきます」
瑠『そっか。わかりました』
あ。そうだ!
僕「あのさ。黒羽駅近くに、居酒屋なんだけど料理がすごく美味しいお店があるんだ。良かったらそこに行かない?」
瑠『へー。え?たけるんの行きつけ?』
僕「速川家の行きつけ」
瑠『あはは、そうなの。行く行くー』
予約しとこうかな。まだ早過ぎるか。かつての約束、ようやく果たせそうだ。おやじさんとおかみさん、きっと喜んでくれる。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は、その当日のお話です。
[no.1168] 2024年5月7日 23:51 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道70~1月18日21時その2
教育論。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅若君「源三郎と比べるに、祐也殿は腕や肩がより屈強と見受けられる」
トヨ「重い荷物をサッと運ばれていた、と瑠奈様が仰られていましたね」
源三郎「見習わねばなりませぬ」
若「フフ、そうじゃの。…唯?」
録画を二回観終えた三人。後ろを振り向くと、姉が何やら里芳ちゃんに…仕込んでいた。
唯「ちちうえは、パパ。パーパ。ははうえは、ママ。マーマ!」
床にペタンとお座りしている里芳ちゃん。当然ながら、キョトンとしている。
若「何をしておる」
唯「言葉を教えてるー」
若「それは、現代語ではなかろうか」
唯「いいじゃん」
トヨの囁き「クリニックにあったポスターによく出てきたわ。パパとママ」
源三郎の囁き「コーヒーを運んだ後トヨがよく見ていた、大きな紙の案内にか」
若「唯。ならぬ。幼な子に無理に強いるなど」
すると、
里芳「んまま、ぱっぱ」
若「おぉ」
ト「まあ!」
源「何と!」
慌てて立ち上がり、娘の前に座った源三郎さんとトヨさん。
唯「ぷぷ。盛り上がってきたねぇ」
ト「ママ、ママよ~」
源「パ、パパじゃ」
若「おぬしらまで…」
里「…」
唯「どう出る!」
パパとママを交互に見比べた里芳ちゃん。まず源三郎さんを見て、
里「ぱ」
源「おぉ」
次にトヨさんを見て、
里「ま」
ト「あら」
若「違いはわかっておるのじゃな。里芳は賢しい童よのう」
唯「もう一声!」
小さい手がトヨさんに向かって伸びる。
里「ま、ま」
ト「…里芳~!」
抱き上げて娘に頬ずりをしたトヨさん。ちょっと残念そうな源三郎さん。しかし里芳ちゃんはこれで終わらなかった。次に源三郎さんを指差しながら笑って、
里「ぱ、ぱ」
源「おぉぉ!」
パパとママは大喜びだ。
唯「大成功っす」
若「うむ…」
唯「りほうちゃんならできると思ったんだー」
若「幼いながら忖度が働いておった様な」
源三郎さん達は、上機嫌で帰っていった。
唯「ふう。急に静かになったなぁ」
若「じゃな。唯も観るか?」
唯「ううん。今日はもういいや。チラチラ見えてたし、声は聞こえてたし」
若「…疲れたか」
唯「んー。子供って最強だね。すっごくパワーを吸いとられるけど、同時にパワーをくれる。あ、ごめん、パワーは力ね。大丈夫かな私ー、もうすぐ自分もなのに」
若「…幼き子らは、お母さんの院にもよう来ておった」
唯「小児科もやってるからね」
若「傍らで見守るのは乳母や世話する者でなくまことの親と聞き、驚いた覚えがある」
唯「あー。そりゃ親が子供の面倒見るのは当たり前だし…ってごめん、たーくんは違ったか。身分の高いヒトだし」
若「大丈夫か、という問いは、己にも向けられておる様じゃ」
唯「たーくんは、そんなに育児に参加しなくていいんじゃ…」
若「院には父らしき者も付き添っておった」
唯「らしきって。そこはホントのパパでないとコワいけど」
若「父に可愛がられた記憶はない。何事にも厳しかった。それは当然でもあるのだが」
唯「ふーん…じゃあ令和風でやってみる?」
若「令和風。そうじゃな。考えておく」
唯「うわ、楽しみ!だったらさ、アレ作ってもらおうよ」
若「何をじゃ」
唯「抱っこ紐!たーくんも似合うと思うな~」
若「…形から入ると申すか。フフ」
唯「なによぅ」
若「悩んでおったと思いきや、何ら変わりないのが有難い」
唯「それ、褒めてる?」
若「勿論じゃ。ではそろそろ休むか。ゆ…ではのうて」
唯「ん?」
若「ママ」
唯「えっ…は、はーい!パパ!」
さて。令和の僕達に戻りまして。
美香子「半年前に、それっぽい話聞いといて良かったわ」
覚「だな。今日初耳だったらそれに終始してしまって、トヨちゃん達と話す時間も取れなかっただろう」
美「ねぇ、出産祝い、何がいいかしら~」
僕「ゲ。持って行けって言うの?」
美「言わない。空想して楽しむのよ~」
僕「はあ」
覚「おー、だったら、抱っこ紐はどうだ?」
美「あら。すぐには使わないけど実用的でいいかも」
僕「兄さんも似合いそうだけどそれさー、絶対お姉ちゃん、トヨさんにねだってるって」
覚&美香子「言える」
全員「ハハハ~」
半年後、今まで以上に待ち遠しくなった。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は3月のお話になります。ちなみに、永禄の様子は出てきません。あしからずご了承ください。
[no.1167] 2024年5月3日 23:34 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道69~1月18日21時
おもナビくんの操作は、お手の物なんで。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅トヨさんが前に出る。画面いっぱいに里芳ちゃんの姿が映った。へー、赤ちゃんって半年でこんなに成長するんだ。お、笑ってる!手をぶんぶんと振る様子も愛らしい。
里芳『キャッ、キャッ』
芳江「あらら~」
エリ「ゴキゲンね~」
トヨ『お会いできる時間が近づくと、何故か泣き止むんですよ』
美香子「そうなの!」
覚「よくできたお嬢ちゃんだな~」
こちらのじいちゃんばあちゃん達の騒ぎっぷりが何とも微笑ましい。
源三郎『歩き始めてもおりまして』
美「順調ね」
エ「私達の名を入れてくれたなんて、二人で感激してたんですよ」
芳「本当にありがとう」
源『お礼を申し上げるのは、わたくし共の方でございます』
ト『嬉しいです。このように娘の元気な姿をお見せできる日が来るなんて』
うわ、あと20秒!
若君『皆の者。時間が迫っておる』
美「あら大変!唯、出産予定日はいつ頃?」
唯『3月くらいだって話』
覚「次回は会えるな」
唯『だね』
美「体に気をつけて。皆さんもね」
唯『りほうちゃん、はい、バイバイ、バイバーイやって!』
お姉ちゃんが手を振ると、真似して?里芳ちゃんが手を上げた…所で通話が終わった。
美「はぁ。終わっちゃったわ~」
エ「楽しい時間はあっという間ですね」
芳「それにしても、里芳ちゃんの可愛らしさといったら」
すぐに録画を再生してあげた。皆大喜びで観ているので、結果三回再生。たった2分だもんね。違うな、1分45秒だ。
美「最初の15秒くらい、時間勿体なかったわね。唯の着物しか映ってなくて」
覚「4号って、触らなくても自動で動き出すんだよな?」
僕「うん。この前はこっちと向こうの時間帯がずれてたからスイッチ入れる方式にしたけど、今回からは勝手に録画も始まるようにしといたんだよ」
美「それ、説明したのよね?」
僕「したよ。お姉ちゃんだと怪しいから兄さんに」
覚「正解だな」
芳江さんとエリさん、苦笑してる。
僕「思うにさ。さっき見えてた感じだと、おもナビくんは部屋の中央辺りに据えられてた。きっと兄さんが、距離を微調整しやすいようにそうしたんだよ」
美「それを唯があちこち触ったのね、きっと。しかも動かせって忠清くんに命令して」
覚「バック!って言ってたぞ、唯の奴」
美「言ってた。まんま現代語だった」
覚「忠清くんは意味がわかったようだが」
僕「わかったとは思うけど、多分ジェスチャーもしたんじゃない?それも雑な」
美「あー。想像できる。手をシッシッ、と追いやるように振る姿が」
覚「お腹が大きくなって、さすがに唯も機微には動けんのだろう。忠清くんに、あれやこれやと指図ばかりしてそうだ」
美「それも想像できるわ」
エリ&芳江「あの…」
美「あらごめんなさい、つい盛り上がっちゃって」
芳「そろそろおいとまさせていただきますね」
エ「ありがとうございました」
美「こちらこそありがとう、遅くまで付き合ってくださって」
エ「尊くん、とても楽しいひとときでした」
僕「まあまあ上手くいって良かったです」
芳「はさみ揚げも、トライしてみますね」
覚「すぐにモノにできますよ」
お二人は帰っていった。…さて。その頃、永禄では。
若「直ちに屋敷に戻るか?夜も更けておる。里芳も寝かしつけねばならぬし」
源「いえ。急ぎませぬ。このような機会は半年に一度しかございませんし」
ト「娘は、夜に備えて昼寝をたんとさせましたので」
若「そうか。折角じゃ、二度三度と観たかろうと思うての」
源「それはもう」
ト「はい」
若「よし、ならば」
唯「ねぇ、じゃあさ、集中してみれるように私が子守りしててあげるよ」
ト「でもそれでは唯様が」
唯「私はいつでもみようと思えばみれるしさ」
ト「わかりました。でしたらお頼み申します」
唯「まかせて!はーい、りほうちゃん、遊ぼうね~」
源「若君様、操作はわたくしが」
若「構わぬ。下がっておれ。このボタン、を押すと。よし始まった。…ん?」
若君&源三郎&トヨ「…」
若「皆、覗き込んでおったのか」
源「しかも、一様に訝しげな顔をなされて」
ト「何が起こっているか、わからなかったのでしょう」
若「うむ。まさか唯の腹から始まるとは思わぬよのう。ハハハ」
唯「はいはい、だからごめんってぇ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回ももう少し、永禄の様子をお送りします。
[no.1166] 2024年4月29日 22:06 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道68~1月18日火曜20時
夫使いの荒い妻。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅本日、永禄との通話二回目にトライする。
エリ「蓮根のサクッとした食感と、中の具のジューシーさが絶妙ですね」
覚「ありがとうございます。そこはこだわってる所なんですよ」
芳江「レシピを教えていただきたいわ~。でも同じようには作れないかしら」
接続は夜9時のため、先にお二人のゲストを交え晩ごはん中。
美香子「彼女何て言ってた?」
僕「里芳ちゃんの成長が楽しみ。いっぱい映ってるといいなって」
瑠奈は今日は不参加だ。他に用ができた体になっているが、実は…
┅┅回想。数日前の夜、ビデオ通話中┅┅
瑠奈『あのね、提案なんだけど』
僕「うん」
瑠『18日、私行くの止めとくよ』
僕「え!どうして」
瑠『看護師さん達、お仕事終わりにそのまま残って参加されるでしょ。帰宅されるのがすごく遅くなるから今後も毎回とはいかないだろうって言ってたじゃない。特に今日は初参加でマゴマゴしちゃうかもしれない。だから、参加人数一人でも少ない方が顔も大きく映せるし話もしやすいと思って』
僕「そんな。確かにその通りではあるけれど。だって、里芳ちゃんに会いたいって」
瑠『録画を鬼リピするよ。次回また呼んで。ねっ』
僕「わかった。なら今回は、お言葉に甘えさせていただきます」
┅┅回想終わり┅┅
僕「本日分の兄さんの日記に大きな動きは書かれてなかったから、繋がったら4号の前に誰も居ませんでしたにはならないと思う。充電状況で2分フルに話せるかはわからないけど」
あと10分となった。全員で実験室へ移動。お二人は初めて入室するので、感心しきりであちこちキョロキョロしている。
芳「ここで数々の発明品が生み出されてきたんですねぇ」
エ「まさしく秘密基地ですね」
あと3分。お二人にパソコンの前に並んで座ってもらった。後ろに僕達家族三人が立つ。
覚「写真、デカくしたな~」
僕「この位大きくしとかないと、画面で判別できないからさ」
エ「やはりどことなく源三郎さんと雰囲気が似ていらっしゃいます。贔屓目でしょうか」
芳「トヨちゃんにも似てないかしら」
11月にウチで祐也さんと一緒に撮った写真。それをA4版に拡大した物を用意したんだ。4号が接続してあるおもナビくんにデータ送信すれば?と突っ込まれそうだが、永禄の機械をできるだけエコに使いたいので、ここは超アナログな方法を採用した次第。
美「あと30秒!」
芳「ドキドキしちゃうわ」
覚「我々もまだ二回目なんでハラハラですよ」
エ「どんな映像が観られるでしょうね」
僕「充電満タンになってますように!」
9時!自動で電源が入った!…ん?
覚「何だ?」
画面が…なんか暗い。
芳「何やらゴソゴソ聞こえますね」
エ「見えてるのは、お着物かしら?」
美「みたいね。こんなにどアップで?」
画面の向こうで騒いでいるようだ。不具合があったのかな?残り時間が刻々と迫っているが、しっかり2分、フル充電はされていた。
唯『だからおもナビくんをもっとバックだって!』
若君『こうか?』
唯『あ、見えた見えた』
美「唯!」
覚「おぉ」
さっきズームアップされていたのはお姉ちゃんの着物だったらしい。おもナビくん自体を下げたらしく、ようやく全体が映し出された頃には15秒のロスだった。
若『忝のう存じます。唯があちらこちら触っておりましたら、おもむろに電源が入り』
僕「またお姉ちゃんが余計なコトしたんですね。映ってますか?こちらにお二人みえてますよ」
唯『見えてるー。エリさーん、芳江さーん、元気~?』
看護師さん達は頷きながら涙ぐんでいた。それは何故かと言うと…こちらに映し出されている映像には、兄さん、源三郎さん、トヨさんの膝に里芳ちゃん、そして…
唯『見て!赤ちゃん、来てくれましたー!』
大きなお腹をさする姉の姿。これはビッグニュースだ!
覚「そうか、そうか」
美「良かったわ…良かったわね、忠清くん」
若『はい。長らくご心配をおかけ致しました』
僕「そっか…いけね、時間ない!源三郎さん、トヨさん!末裔の写真用意できました、見てください!」
唯『何これデカくない?あ、バーベキューしてんじゃん。いーなー』
源三郎『おぉ、こちらの御仁が』
トヨ『尊様、ありがとうございます』
若『源三郎の面影が有る様に思えるが』
源『左様にございますか』
あ。エリさんも芳江さんもまだ一言も発してないのに、ついシャシャリ出てしまった!
僕「すみません、お二人を差し置いて。どうぞ声かけてあげてください」
芳「いいのよ尊くん。お嬢さんがとても愛くるしくてね、ずっと見てたの」
エ「ホントに可愛らしい。ねぇトヨちゃん、もっと里芳ちゃんを近くで見たいわ」
ト『はいっ、ただいま』
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1165] 2024年4月26日 20:42 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道67~1月10日月曜
昔も今も、見守ってくれる人が居る。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅本日成人式が開催される黒羽市市民会館は、家から少し距離がある。
美香子「車で行くの?」
僕「案内に、公共交通機関でお越しくださいとは書いてなかったし」
覚「子供の数が減ってるからな。駐車場の収容台数の範囲内なんだろ」
美「お天気が悪くなくて何よりね」
覚「そろそろ出かけるだろ?玄関で撮るぞ」
三人で写真に収まった。
美「こんなに背が高かったかしら」
感慨深く僕を見上げる母。
僕「猫背にならないよう頑張ってるから」
覚「いい傾向だ。今日久々に会う同級生も居るだろ、今の尊を堂々と見せてやれ」
僕「わざわざ見せはしないけど」
美「彼、誰?えーっ速川くん!って女子の間で話題になるかもよ~」
僕「ならないと思う。じゃ、行ってきます」
僕の車を見送ってくれた両親。
覚「喜んでくれるジジババも居ないしな」
美「そうね…」
僕の祖父母は全員この世を去っている。父には兄が居るが、国際結婚して海外に住んでいるので連絡もほぼ皆無。母は一人っ子だ。だから僕は物心ついた頃から、親戚の集まりという行事を経験していない。だがこの状況は、お姉ちゃんの話をしなくて済むという点で、僕達家族にとってありがたい話ではあった。
僕「朝早く仕入れして…この時間、まだ準備してるといいけど」
そんな僕にも一箇所、立ち寄っておきたい場所があるんだ。できれば今日の僕の姿を見せたい人達が。ダメ元で訪れてみようと、近くのコインパーキングに停め、歩き出した。
僕「店先にいっぱい箱が積んであるな…あ、居た!おかみさーん!」
おかみ「あら!尊くんじゃない!まあ~」
家族でよく来ていた、そして永禄の面々とも訪れた居酒屋だ。
僕「もしかしたら会えるかなって思って」
お「わざわざ?ありがとうねー。散らかってるけど入って入って。ちょっとお父さん!尊くんよ!今日成人式の」
僕「おはようございます」
店主「おう」
僕「すみません、忙しい時間に」
店「式は午前中か」
お「お父さん~もっと言い方あるでしょう、そんなぶっきらぼうに。折角来てくれたんだから褒めてあげなさいよ。尊くん、紺のスーツがビシッとしてとても似合ってる。立派になって。おばちゃん嬉しいわ~」
僕「ありがとうございます」
おやじさん、口数少ないのは知ってるし。目は笑ってるから喜んでくれてるってわかる。
お「ご家族皆さん変わりなく?前に大所帯で来てくれたわよね」
僕「全員元気です。その後中々来れなくて、ごめんなさい」
お「いいのいいの。また元気な顔見せて」
僕「はい!ではそろそろ、失礼します」
深々とお辞儀をし、その場を後にした。この店、引きこもりだった頃にも両親に連れられて来てたんだ。幼い頃から通っているここなら、僕がイヤな顔をしなかったから。当時…速川クリニックの息子不登校らしいぞ、って噂は立ってたと思う。実際店で食事していると、僕を見てヒソヒソ話をする人は居たから。おやじさんもおかみさんも知っていただろう。
僕「少しだけ恩返しができたかな」
でも腫れ物に触るような扱いもせず、普通に接してくれたのは今でも感謝している。もっともウチの母は、僕が生まれる前、まだこの店が駅近くになかった頃からの付き合いらしいからそのよしみもあっただろうけどね。その詳しい経緯は、またいずれ話します。
僕「人だらけだ」
市民会館に到着。受付が済んでも皆そこかしこで立ち話をしてるから、ロビーはごった返していた。その脇をすり抜けて中に入る。自由席だったので、隅の方に座った。
男1「速川!元気だったかー?」
女1「ウッソ、マジで速川?」
意外だったが、何人かに声をかけられた。案外見つかっちゃうモノだな。差し障りのない会話で何とか凌ぐ。そして式典がスタート、粛々と進んだ。人生の一区切りか。ちゃんと大人に成りきれるかな。
男2「お?オマエ、速川じゃん!」
式典が終わり、帰ろうとしていたら、一人の男に呼び止められた。…誰?
男2「俺のクラスのマドンナの瑠奈ッチと、いつの間にか付き合ってたんだよコイツー」
男3「マドンナ?そんなに可愛かったんか」
男2「おー、かわゆいしナイスバディだし!」
瑠奈ッチって。アイドル並みに人気があると、ファンにあだ名を付けられるってヤツ?てコトはこの男は同じクラスだったのか。もう一人は違う高校みたいだな。
男2「なーなー、瑠奈ッチともう別れた?」
何だよそれ。そういえば以前、ミッキーさんが言ってたな。瑠奈を狙ってる連中は山ほど居たって。
僕「別れてない。今も付き合ってる。ラブラブで。じゃ」
勝利宣言をしてサッサと逃げた。もらい事故みたいだったな。早々に帰宅すると、両親は少しガッカリしていた。すみません、友人関係を再構築もできず。晩ごはんはそれはそれは豪華だった。そして、
瑠奈『んー、そんな名前で呼ばれたコトあったようななかったような』
ビデオ通話。
瑠『で?同じクラスの男子なんでしょ?』
僕「わからない。思い出せない」
瑠『…たけるんってさぁ、ホント興味ないコトは一切覚えないよね』
僕「記憶の引き出しに余力を残してるんで」
瑠『それ。合理的って言うのかなぁ』
僕「でも成人式も済んだし。ここで考え方を変えようと」
瑠『どんな風に?』
僕「今後は覚えるようにします。コイツ誰だろってずっとモヤモヤしてると、脳ミソ使うし時間がもったいないし」
瑠『…変わります宣言、してるようなしてないような』
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
さて。そろそろ二回目の通話、繋ぎます。
[no.1164] 2024年4月21日 19:15 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道66~2022年1月1日土曜
レコードで聴いてそうなイメージ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅神社の駐車場。入口が混み合っていたので思いの外停めるのに時間がかかり、車を降りる頃には年明けまであと3分と迫っていた。
瑠奈「鳥居くぐる前に新年かな」
参道に向かっていると、前を行く20代後半くらい?の男性グループが、
グループ全員「残り60秒!59、58」
歩きながらカウントダウンをし始めた。
僕「数え始めるの早くない?」
瑠「でもそんなに大声で騒いでないし。なんかかわいい」
近くを歩いていたカップルや親子連れを巻き込んで、カウントダウンの輪がどんどん大きくなってきている。へぇ。こういうの、やりたい人はやりたいんだろうな。
瑠「たけるん、私たちも入れてもらお!」
僕「え?!」
マジか!知らない人ばかりの輪に?
瑠「だって、ニューイヤーカウントダウンなんて一年に一回だけだし」
僕「そんな、若い奴みたいな真似」
瑠「なんですと?」
僕「行きます、行きます」
残り10秒で輪に飛び込んだ。
輪の全員「9、8、7、」
みんな笑顔だ。
輪「3、2、1、0ー!ハッピーニューイヤー!イェー!」
皆でハイタッチした。初めて会った人同士とは思えないほど大盛り上がりで。最後は拍手でお開きとなった。
瑠「お疲れ様。たけるんはこういうの苦手、ってのはわかってたんだけど」
僕「ううん。楽しかったよ」
瑠「良かった。一皮剥けて、ますますイイ男だね」
僕「褒め殺しですか?」
いよいよ境内へ。鳥居に一礼すると、すぐに腕を絡ませてきた瑠奈。
瑠「やっぱり人出、多いね」
僕「うん」
先程の話ですが。実はその場に居たほとんどの男達が、瑠奈とハイタッチしたくて順番待ちになっていたんだ。ちょっとモヤっとしたけど、終われば即僕に駆け寄ってきたんでそれ以上何もなく、事なきを得ていた。
僕「離れちゃダメだよ」
瑠「はぁい」
いや。待てよ?瑠奈にとって誰が一番の男かは彼女が決めるんだし。いくら僕自身が頑張ったところで。もっと素敵な男性なんて五万と居るじゃないか。タイムマシンの秘密を共有してしまったのが、面倒見させてるみたいでかえって足枷になってはいないか?
僕「…」
瑠「たーけるん、どしたの」
僕「…もっとぴったりな男性が居るかもしれないって出会いを、僕が妨げているんではないだろうか」
キョトンとする瑠奈。そして、
瑠「聞こえないなぁ」
雑踏の中に居るから聞こえにくいか。
僕「僕以外の男…」
瑠「なんにも聞こえませーん!」
僕「え」
瑠「ずっとたけるんとラブラブでいられますように、って神様にお願いする」
怒ってる!
僕「ごめんなさい」
瑠「もぉ。この話はこれでおしまい、ね」
僕を見上げてニッコリ笑ってくれた。ごめん、こんなフラフラした奴で本当にごめん。今日もそうだけど、人と擦れ違う度に二度見ばかりされてると、どんどん弱気になってしまうんだ。自信がまるでなかった過去の自分とは、オサラバしたよ?でも自信持った上での行動が最良かはわからないじゃないか。特に瑠奈に対しては。あー、きっとこれからも、時折ぶり返して悩んでしまうんだろう。
瑠「賽銭箱に永遠に辿り着けないかと思っちゃったぁ」
僕「人垣がずっと続いてたもんね。では次の目的地へ出発しますか」
僕が瑠奈を幸せにできますように。神様にも、主語がポイントです!お願いします!と手を合わせた令和4年のスタートだった。
瑠「周り一面、オレンジ色~」
僕「最近できたトンネルだと照明は白色が主流になってきてるけど、ここは違うね」
瑠「オレンジのトンネルの中は、横顔がネガのようだわ」
僕「何?小説のワンフレーズ?」
初日の出を海越しに拝もうと、車は高速道路を走行中。
瑠「歌詞。お母さんが好きでよく聴いてて、覚えちゃった」
僕「へぇ。ウチの母親もしょっちゅう昭和歌謡を口ずさんでるけど」
瑠「親はカラオケ行かない派なの。曲はオリジナルが一番だからって」
寝たりせずちゃんと会話をしてくれるからとても助かる。瑠奈のサポートのお陰で車は無事に初日の出スポットに到着した。そして…
瑠「わぁ、眩しい」
同じく見に来ていた人達からも歓声があがる。雲は多かったが、切れ間から顔を覗かせた姿はどこか神々しく。遠方まで来て良かったよ。
瑠「そろそろ、お弁当食べない?」
僕「いただきます。ちょうど朝ごはんだね」
ようやくお腹も準備万端だし。蓋が開いた。おっ、美味そう!
瑠「食べさせてあげるね」
瑠奈の箸が鶏の唐揚げをつまむ。あーんして、ですか?!ドキドキ!すると、それを自分の口に運んだ瑠奈。ん?
僕「えぇぇ」
唐揚げをくわえたまま顔が近づく。く、口移しなの?!
瑠「お味はどうかなぁ」
僕「とろけそうです…」
もう、いくらでも翻弄しちゃってください。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は、成人式当日の様子をお送りします。
[no.1163] 2024年4月21日 19:08 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部今までの続現代Days尊の進む道、番号とあらすじ、33から65まで
通し番号、投稿番号、描いている日付(これは毎回の副題と同じ)、大まかな内容の順です。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅33no.1129、12月23日水曜、クリスマスパーティー今年は三人で
34no.1130、12月24日木曜10時、父はプレゼントに息子は鍛えた成果に感激
35no.1131、12月24日12時、クリスマスを共に過ごす初めての彼になった
36no.1132、12月24日15時、夢見心地のテーマパーク
37no.1133、12月30日水曜、若君に会いたかった吉田くん
38no.1134、12月31日木曜から2021年1月3日日曜、家族三人の平穏な年越し
39no.1135、1月5日火曜から11日月曜、練習バッチリも考えもの。成人式に姉を想う
40no.1136、2月27日土曜12時、みつきの彼は実は
41no.1137、2月27日20時、赤井家の新情報
42no.1138、5月26日水曜12時、4号完成したが一悶着
43no.1139、5月26日22時30分、瑠奈父の後押しなるか。真実を話す時が近付いている
44no.1140、6月6日日曜9時30分、告白の瞬間が訪れる
45no.1141、6月6日13時、説明し終えた。さあ今後は
46no.1142、6月6日15時、瑠奈も一緒に行くと決まる
47no.1143、6月6日16時、いつ飛ぶかは制作者でなく周りに決定権
48no.1144、7月24日土曜10時、両親の期待と大荷物を手に出発した二人
49no.1146、7月24日16時(永禄六年七月五日子の初刻)、無事着いたが瑠奈の様子が。唯節全開
50no.1147、7月24日16時その2、説明しつつ4号組み立て開始
51no.1148、7月24日16時その3、赤井家長女の名は。姉弟の口ゲンカも微笑ましく
52no.1149、7月24日16時その4、令和と永禄が2分だけ繋がった
53no.1150、7月24日16時その5、今後の日程は要相談。楽しい時間はあっという間
54no.1151、7月24日16時その6、夜空の思い出を語るもそろそろ帰る頃合い
55no.1152、7月24日16時3分、無事帰還。早速設定します
56no.1153、7月24日16時30分、色々と振り返る。懐かしい香りを纏う瑠奈
57no.1154、7月24日21時、みつきの彼と会う事に。瑠奈に迫られどうしよう
58no.1155、7月25日日曜、速川家のルーティン。祐也は気さくな男性
59no.1156、8月2日月曜から6日金曜、結婚への展望はまだと言いつつほぼ確定
60no.1157、8月7日土曜、四人で海に。曇りと言えど日焼けには注意
61no.1158、9月4日土曜、瑠奈の告白に驚く美香子
62no.1159、11月3日水曜、BBQしながら聞く天野家子孫の話
63no.1160、11月下旬、二人で成人式の前撮りに
64no.1161、12月24日金曜、子供達に大人気の折り紙の先生
65no.1162、12月31日金曜、3号未完成の訳。年越しデートは満腹でスタート
[no.1162] 2024年4月18日 20:39 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道65~12月31日金曜
日中よく働いたとは言え、許容量ってあるし。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅覚「お前、自分の部屋は?」
僕「まだ掃除してない」
覚「だったら今からやっとけ。台所もあとは片付けするだけだし」
僕「わかった」
美香子「窓も開けるのよ~」
大掃除中、そう言われて自室に戻ってきた。ドアにストッパーをかけ、窓を開け放つ。
僕「あー、涼しい」
サーッと風が抜ける。軽く汗をかいていたのでクールダウンにちょうど良かった。窓枠に肘をのせ、外をぼんやりと眺めていたら、
僕「!」
見慣れた風景がスクリーンに変わり、今年の出来事が一気に映し出された。ここんトコ毎年、怒涛の一年だったって感想言ってる気がするけど、それでも大晦日には振り返りなさいってか?
僕「来年は3号完成するかな…」
未だ完成に至らない。それには色々と理由がありまして。一つは、永禄で瑠奈が、
瑠奈「5人以上乗れて、且つ今日みたいにすぐ行き帰りができる物を造ります」
と宣言しちゃってるので、頑張って機能アップを図っているから。もう一つの理由が…海に遊びに行く少し前だったかな、親に言われて。
┅┅回想。8月の頭。リビングにて┅┅
覚「空き時間は全てタイムマシンの作業という生活は、望ましくない」
僕「もうそこまでする必要はない?4号で話ができるようになったしね」
覚「休息時間も確保しつつ、今後はどんどん外へ出る方向に力を入れるべし。それで完成が遅くなるならそれはそれ。忠清くんも、無理はするなって言ってくれたんだろ?」
僕「うん」
覚「瑠奈ちゃんと出かけたりして見聞を広めるのもいい。地域の行事にも機会があれば参加させたい。籠るばかりでなく人との繋がりも大切にして欲しいと思っているんだ」
美「頭がいいのはよーくわかってる。でもそれだけの人間にはなって欲しくないのよね」
僕「お姉ちゃんほど、逞しく世渡りはできそうにないよ?」
美「唯ほど突っ走らなくていい。ただ、人として薄っぺらにはならないで、と願ってるわ」
┅┅回想終わり┅┅
だから、この前のクリスマス会で折り紙の先生になったのも、いい傾向だとすごく褒められた訳で。
僕「睡眠時間が増えたから、体調はすこぶる良い。やっぱ無理してたかなー」
ただですね。タイムマシン、組み立てにかける時間はセーブしてるけど、飛ぶための燃料はコツコツと貯めているのでご安心ください。
僕「今年は、祐也さんと知り合えたのも大きかったな」
大学では未だに友人と言える人物は居ない。同い年の男は…いや、女子ならイイって訳でもないんだけど、いじめられた経験がどうしても頭を過り心から打ち解けられない。
僕「浴衣デートでリベンジしたし、そんな人間じゃない方が大多数ってわかっていてもさ」
今でも躊躇する。こんな僕にいつも柔らかい口調で接してくれる祐也さんに感謝だ。ん、その前にミッキーさんに大感謝だな。でも。これから社会に出ていくとなれば、ウダウダ弱気な発言ばかりしていてはいけないとも自覚している。
僕「身近な師匠、唯大明神に手を合わせるか。ははは」
姉を見習い、自分の人生は自分で切り開かないとな。…っといけね、そろそろ掃除スタートしないと。
僕「自分の部屋は自分で、誰も代わりにキレイにしてはくれない、と」
掃除を終えてリビングに下りてきたら、鏡餅も飾られ、すっかり新年の準備が整っていた。
美「お疲れ様。夜は何時頃出てく?」
僕「10時かな。瑠奈を拾って年が明けるまでには神社に行きたいから」
覚「じゃあ、年越しそばは食べられるな」
二年前、家族7人で訪れ、ミッキーさんと祐也さんにも出会った、大きい神社。今年は瑠奈と二人でお詣りするんだ。
美「去年は瑠奈ちゃん帰省してたもんね。楽しみね~」
覚「あそこは特に参拝客が多いからな。はぐれるなよ」
そうこうする間に、夜10時。瑠奈を迎えに行くべく車に乗り込んだんだけど、
僕「晩ごはんプラス、そば二人前は多過ぎるって…」
夜中に腹が鳴ったら恥ずかしいだろ?と言いくるめられ、何とか食べ切ってきたんだ。
僕「とんだ試練だった」
マンションに到着すると、瑠奈はエントランスの外で待っていてくれた。
瑠「たけるーん、お迎えありがとう」
僕「寒かったでしょ。お待たせしました」
瑠「全然大丈夫ー。もう、居ても立ってもいられなくって!」
僕「僕も待ち遠しかったよ」
瑠「ホント?でね、実はぁ」
僕「何?」
よく見たらバッグ二個持ち。ん?
瑠「たけるんが朝までにお腹空くといけないから、頑張ってたーくさん作ってきたの!」
僕「何、を?」
瑠「お弁当!」
うぷっ。
僕「あ…そう、それは嬉しいな」
瑠「後で食べてね!」
僕「うん。後でね」
かなり後からでお願いします…
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1161] 2024年4月13日 21:07 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道64~12月24日金曜
飲み食いばかりがパーティーじゃない。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅ホールの外から、扉が開くのを待ちわびる子供達の賑やかな声が聞こえてくる。
木村「その箱空いたら、こっちな」
僕「わかりました」
椅子を整える人あり、誘導用のコーンを並べる人あり。大勢の人達があちらこちらで準備をしている。
女性1「このイベントは初めて?」
僕「初めてです」
女1「毎年楽しみにしてる子、結構居るのよ。頑張ってね」
僕「はい」
御月家ゆかりの地に建つ会館。解読作業で会議室を一部屋無償で借り続けているのもあり、何かイベントがある時には協力している。今日はホールで毎年恒例の行事、クリスマス会が開催されるので、木村先生を筆頭にサポートスタッフとして参加中。去年は、瑠奈とのクリスマスイブデートを優先してしまって…実はちょっと肩身が狭かったんだ。今年は、倍働く所存でございます。
女性2「速川君、本屋の店員っぽい」
僕「そうですか?」
スタッフは全員、揃いのエプロンを着用している。
木「だな。普段は黙々と棚を整理している。だが欲しい本の在処を尋ねられるや否や、脳内の全データを検索。たちどころに案内可能、といった風情だ」
僕「見たんですか?書店かー。好きですけど、最近どんどん減ってきてますよね」
木「時代の流れだろう。なぁ、俺のエプロン姿はどう見える?」
僕「えーっと。そうですね…近所のスーパーに新しく配属された、雇われ店長?的な」
女2「ウマイ!見える見える!」
木「あくまでもサラリーマン、だと」
もうすぐメインの行事が始まる。サンタクロースがバルーンアートをするらしい。このイベント、入場に年齢制限はないみたいだけど、小学生以下の子達がほとんどだな。冬休み入ってすぐだし無料だし。そりゃ集まるよなあ。
僕「ふーん」
次の仕事まで時間があるので、会場をプラプラしてみた。細々とブースが配置されていて、輪投げのコーナーでは歓声が上がっている。
僕「工作してるな」
動もあれば静もある。壁飾りを作りましょうのコーナーだ。画用紙や柄の入った包装紙、モールとかも置いてあって、なるほど、ここでクリスマス用のタペストリーを作って持ち帰り、夜のおウチでのパーティーを彩るんだな。
僕「折り紙がある。懐かしいな、千羽鶴」
あの時は兄さんと永禄の平和のために頑張ったよ。この前行ったお姉ちゃんの部屋にもまだ飾ってあったな…そう感慨に耽っていると、
僕「ん?」
誰かにエプロンを引っ張られた。見ると、小さい女の子が手に折り紙を持って、僕を見上げている。え?
女の子1「おにいちゃん」
何?!お子様は正直あまり得意じゃないんだけど…落ち着け尊!深呼吸!
僕「はい」
女子1「サンタさんつくって」
僕「サンタ…サンタクロースを?」
なぜ僕を指名?でも無下には断れない。だけど折り方わからないしなと困っていたら、ここの担当の人が、
女性3「折り紙の本、ありますよ」
と渡してくれた。女の子はじーっと僕を見上げたまま。よっしゃ、任せて!本を開いて挑戦する。
僕「できた。どう?」
女子1「わぁ、ありがとうおにいちゃん!」
女の子は大喜びで自分の席に戻っていった。ふう。役に立てて一安心。すると今度は、
男の子1「ペンギンが作れないよ」
違うヘルプが舞い込んだ。その子はちゃんと本を見ながら作ってたんだけど、立体的なデザインでちょっと難易度高めだったようだ。ならばと一緒に一折りずつやってみたら無事完成。
男子1「やったあ!できた、できた!」
僕「良かったね」
成功体験って大切だからな。だけどこのペンギン、自立するんだ!かわいい!つい、頼まれてもいないのに、次から次へと何羽も折ってしまう僕。
女3「もうそんなに作った!手早いですね。折角だから、ペンギンのコロニーにしちゃいましょうか?」
青い色紙の上に丸く切った白い画用紙を貼ってくれた。氷の島を表現してくれたんだ。そこにペンギンをワサワサと乗せて…おぉ、いい!悦に入っていると、いつの間にか周りに子供達が増えていた。バルーンアートのステージが終わったんだな。
男子1「すごい!すいぞくかんみたい!」
男の子2「ぼくも作りたい!先生おしえて!」
僕「先生って…」
女3「すっかり人気者ですね」
そろそろ次の仕事に行かなくちゃいけないんじゃ?顔を上げると、子供達の輪の向こうで、木村先生が笑いながらいいよいいよと手を振っていた。すみません。書店員から新米保育士に成り代わり、ここで任務を全うします…
美香子「このサンタ帽、風船で出来てるの?」
僕「そう。パフォーマーさんが練習で作って、残ってたのを被らされた」
帰宅しました。ペンギンのコロニーと、大勢の子供達と撮った笑顔の写真と共に。
美「帽子はどうしたの。割れちゃった?」
僕「最初にナンパしてきた女の子にあげた」
美「なるほどね。尊よ」
僕「何」
美「成長した姿に母は喜んでいます」
僕「お陰様で」
覚「チキン焼けたぞ~。そろそろ始めよう」
今日出会った全ての子供達の笑顔を思い出しながら、メリークリスマス!とクラッカーを引いた夜だった。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は大晦日。ようやくの年越しデートです。
[no.1160] 2024年4月10日 01:03 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道63~11月下旬
はたちの集い、などに式典名が変更されるのはこの翌年から。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅ここは写真館。成人式の前撮りに来ている。まずは、バーベキュー前日の会話を遡ります。
┅┅回想。11月2日金曜夜、ビデオ通話中┅┅
瑠奈『明日、楽しみー』
僕「買い出しよろしくお願いします。あと、日焼け対策は万全にだよ。屋根はあるけど基本ずっと庭に居るし」
瑠『うん。成人式までまだ日数あるって油断しちゃダメだよね。わかった』
僕「そういえば聞いたよ。かなり早い時期に、当日の写真撮影の予約したって」
瑠『たけるんにまでしゃべった?お父さん、張り切ってて。プロの知り合いに頼んだ、家族三人で撮りに行くぞって言ってた』
僕「気合い入ってるなぁ。自慢の娘だもんね」
瑠『たけるんは撮りに行ったりしないの?』
僕「予定はないよ。当日玄関先で、くらいはするかもしれないけど。男はそんなモンだよ。晴れ着じゃないし」
瑠『ふーん…』
僕「何?どしたの」
瑠『…たけるんとも、一緒に撮影できたらいいなぁって』
僕「え?だって日程が違うじゃない」
実は成人式、黒羽市は1月10日月曜、成人の日当日に開催するけど、小垣町は前日の9日日曜に開催なんです。これは毎年同じ流れみたいで。
瑠『いいコト思いついちゃった』
僕「はい?何でしょう」
瑠『先に一回、たけるんと一緒に撮りに行く!良くない?』
僕「…マジで言ってる?」
瑠『言ってる』
僕「それ、僕はスーツだから割と気軽にOKって言えるけど、振袖って着付けとかに時間もお金もかかるんじゃないの?」
瑠『当日までに一度着ておけば、立ち居振舞いの練習になるし。帯の結び方とか髪型を変えれば二倍楽しめるもん!』
僕「簡単に言うけど。大変じゃない?」
瑠『嫌なの?』
僕「嫌なワケない。瑠奈さえ良ければ一緒に撮りたいよ。うーん…ならさ、家族でよく行く写真館があって、確か案内が届いてた気がするから親に聞いてみるよ」
┅┅回想終わり┅┅
で、その後父が手配してくれて、七五三のピークが終わったこの時期に、滑り込みで無事予約が取れたという顛末でした。
僕「まあまあ見られるかな」
待合室の姿見に映る僕。両親が、スーツも流行りがあるから、と式典のために新調してくれたんだ。本当は、体に筋肉がついてパツパツだから買い替えしなきゃ、なーんて理由が良かったけど。
僕「時間かかってるな…」
肝心の瑠奈さんですが。着付けもヘアセットも済んだ状態でこちらに来たんだけど、僕の車から降りる時に髪を引っかけたらしく、かんざしはポロっと落ちるし、ちょっとセットも崩れちゃって。どうしよう!と慌てて受付の人に伝えたら、直しますよと館内の美容室に連れて行ってくれたんだ。…あ、来たかな?
瑠「ごめんたけるん、お待たせしました」
僕「お帰り。大丈夫だった?」
瑠「うん。完璧に直してもらえたよ。もー、焦ったぁ」
つい、まじまじと見てしまう。ミッキーさんの家は今も呉服店を営んでいるので、そこで振袖は反物選びからオーダーしたらしい。黒地に煌びやかな絵柄が施され、素人の僕でも高額なのがわかる代物。でも、そんな豪華な着物を纏っていても全く見劣りしない、一段と美しい瑠奈にも見惚れていた。…と、ここで、
店員「速川様。撮影室にご移動をお願い致します」
僕「わかりました。行こうか」
瑠「うん」
えーと、ここで確か兄さんが…
僕「…」
瑠「え?やだ、そんなサービス?」
僕「いいから!」
瑠奈の手を取り、姫を導くように歩き出す。兄さんのようにスマートにはできない。転んだら大変だからなんだと自分に言い聞かせ、顔から火が出そうになりながら撮影室に入った。中にはカメラマンが既にスタンバイ。あれ?この人って?
カメラマン「速川さん。お久しぶりですね」
僕「あ!覚えててくださったんですか?」
カ「あんなに着物姿の佇まいが素晴らしい方には、未だお目にかかっていませんので」
お姉ちゃん達の婚礼写真を撮ってくれたカメラマンさんだった。盛り上げ方が上手だったんでよく覚えてる。兄さんのコト絶賛してたんだよなー、本物の武士みたいだって。そりゃそうですよ?産地直送ですから。
僕「姉夫婦は、変わらず仲良いです」
カ「そうですか。ここでは節目節目にお客様とお会いできるので、家族の変遷を間近に拝見できるのが醍醐味で」
僕「変遷ですか。あの」
カ「はい?」
僕「あれから3年経ってるんですが、僕、少しは変わってますか?」
カ「そんなご質問を受けるとは。変わってますよ」
僕「ホントですか!」
カ「はい。少年から、お相手をエスコートなさる素敵な青年に」
僕「ありがとうございます!」
瑠「ふふっ。たけるん、ニヤケ過ぎ~」
後から考えれば、これは撮影中の笑顔を引き出すリップサービスだったかもしれない。いいんだ、例え泳がされたとしても、できあがった写真は大満足の仕上がりで、互いの両親にも大好評だったから。
美香子「はぁ~。瑠奈ちゃん、なんて綺麗なの。待受にしたいわ」
僕「ダメ。眺めるだけにして」
美「えー」
覚「ははは」
二人の記念写真が、飾り棚に仲間入りしました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
このカメラマンは、平成Days12no.368と13no.371に登場しています。
次回、クリスマスパーティー。どこで誰と?
[no.1159] 2024年4月6日 00:48 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道62~11月3日水曜
そりゃ調子に乗る子孫だって居るだろ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅美香子「この澄んだ青空~。絶好のバーベキュー日和よね~」
今日は、祐也さんと約束していたバーベキューの日。祝日なので、両親も揃っており万全の態勢で臨んでいる。
美「タープ張るのは、皆さんみえてからでいいのね?」
僕「うん。やってみたいから残しといてって言われた」
覚「確認だが、みつきちゃんも20歳になってるんだよな?」
僕「うん。全員お酒飲める年齢。そろそろ迎えに行ってくるよ」
だから今日は三人とも電車に乗ってくるんだ。参加する6人全員、飲む気満々ってワケ。片道くらいは楽をしてもらおうと黒羽駅で車を停め待っていると、手に手にエコバッグを持った、瑠奈、ミッキーさん、祐也さんが現れた。
僕「おはようございます…何かすげぇ量」
瑠奈「奮発しちゃったぁ」
みつき「残ったらセンセん家に寄贈しまーす。帰りは手ぶらで歩きたいんで」
僕「モリモリ消費してくださいよ。じゃあ、積んで。うわ、これまた重そうな袋」
祐也「ビールとかチューハイとか、取り混ぜて選んできたよ」
買い出しは自分達でしてくると言うので、三人にお任せしてたんだ。でもウチの親も、足りないといけないからってかなり食材用意してるんで、とんでもないコトになるんじゃ?腹ペコ小僧の姉は居ませんよ?
覚「いらっしゃい」
美「どうぞ~」
こうして、賑やかにバーベキューが始まったのだった…さて。実は今、自分の部屋に居てもう夜なんです。まぁ、楽しかったのはご想像通りですよ。一部をかいつまんでお送りします…
覚「手際がいい。ご自宅でもやったりするのかい?」
祐「家ではしませんが、友人によく誘われますので」
美「いい体格していらっしゃるけど、何かスポーツなさってるの?」
祐「学生の頃はハンドボール部でしたが、今は時々走る程度です」
美「そうなの~」
み「ご両親にモテモテじゃん」
瑠「ふふっ」
祐也さんに興味津々過ぎる。源三郎さんやトヨさんに通じる所がないか、探りたい気持ちはわかるけどさ。
み「ひろくん、例の話!今したら?」
祐「だね」
覚「お、何かな」
祐「先週、中学の頃からの友人と久しぶりに飲んだんですよ」
美「あらー。それはさぞかし、話に花が咲いたでしょ」
祐「はい。そいつが最近、大学時代の友人に頼まれて合コンに行ったらしいんです。彼女は今居ないけど他は知らない奴ばかりだし、そこまで乗り気でもなかったようで」
美「ふんふん」
祐「そうしたら当日参加者の中に、俺の先祖を辿ると戦国時代に名を馳せた御月家に当たるんだぞ、と豪語するかなりウザい男が居たそうなんです」
僕「え」
祐「でもよくよく聞いたら、名前が天野で」
覚&美香子「あー」
僕「はいはい」
祐「さすが。オチがわかるんですね。地元の連中は、僕の影響もあるかもしれませんが、御月家には詳しくて」
み「確か中学校でも習うよね」
小垣町では、羽木家は小学校で、御月家は中学校で教わるんだ。へー。瑠奈も頷いている。
祐「なのでシレッと言ってやったと。素晴らしいご先祖だね、天野家は代々それはそれは優秀な家臣だったと伝わってるからって。そいつ、サッと顔色が変わって急に黙ったそうで」
覚「お殿様が全てじゃない。家臣だって立派な職務だ。その天野くんは、どうしてそう大きく出たんだろうな」
美「そんな話をするとちやほやされる。少しはいい目にもあっていたんじゃない?」
僕「ハッタリにも聞こえはするけど、あながち嘘ではないよ。ほら、天野家の養女が嫁入りしてるじゃない。養女だから…連れ子?血筋的には天野の本筋ではないけど」
み「ねー。センセ、マジで歴史強くね?」
祐「知識の豊富さに感服するよ」
現代に残る歴史的資料では、お姉ちゃんじゃなく本当の天野の姫が、その後御月家に輿入れしたなどという形跡はないからな。だから祐也さんのお友達の勝ちではある。
祐「余談ですが、そのやりとりを聞いてた中で一人、歴史通って素敵!って話が弾んで、満更でもないからちょっと進展しそうな女性が居るって言ってました」
み「ひひ、どっかで聞いた話に似てるねぇ」
瑠「ふふっ、似てる。だってホントにカッコいいんだもん、当然だよ」
一斉に皆が僕を見る。恥ずかしかったよ…思い出してたら喉が渇いたんで、リビングに下りてきた。母は風呂かな?父だけが居る。
僕「お茶欲しい」
覚「ん。温かいのでいいのか?」
僕「うん」
あ、そういえば。
僕「バーベキューいつにするか相談した時さ、絶対に11月3日がいいぞって言ってたじゃない。それで話進んだから良かったけど、どうしてそんなに推してたの?」
覚「皆さんの都合もあるから、雨で延期になりにくい日がいいだろうと思ってな」
僕「へ?どんな理屈?」
覚「文化の日ってな、晴れの特異日で有名なんだ。正解だったろ?」
僕「知らなかった。あ、あとさ、さっき瑠奈から伝言受けた。写真館の予約ありがとうございましたって両親が言ってましたって」
覚「はは。なんてったってウチはお得意様だからな。楽しみにしてるよ」
そう。近々、成人式の前撮りを二人でしてくるんだ。振袖姿の瑠奈が見られると思うと、今から楽しみで仕方がないんだよ!
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は、その前撮りの日です。
[no.1158] 2024年4月1日 20:14 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道61~9月4日土曜
今回は美香子さんが語ります。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅午前11時を回りました。今日も外はかなり暑そうです。クリニックの受付には芳江さん。すると、女性が一人入ってきました。
芳江「こんにちは」
女性「こんにちは…」
芳「今日はどうされました?」
女「…」
若いその女性はずっと下を向いています。でもここは体調がすぐれない方がみえる場所ですから、珍しくはありません。
芳「こちらには初めていらっしゃた?」
女「はい」
芳「では問診票を書いてください。保険証は持ってみえる?」
女「あります」
問診票と交換で保険証を受け取った芳江さん。その名前を見てアラ?となり、事業所名称で確信すると、私の所へ飛んできました。
芳「先生」
美香子「どうしました?」
芳「お顔は、一度お写真拝見しただけでうろ覚えなんですが」
芳江さんの説明を受け、驚いた私はそっと待合室を覗きます。
美「ホントに瑠奈ちゃんだわ。来ちゃいけないとは言わないけど」
芳「どこが調子悪いかも答えてくださらなかったので、もしかしたら先生と直接お話がしたいのかもしれません。尊くんは一緒ではなさそうです」
美「彼女、昨日誕生日で」
芳「あらら、そこまでは気付きませんでした」
美「尊がお祝いデートするんだって張り切ってたのよ。晩ごはんの時間には帰宅してたけど、すごく喜んでくれたって言ってたの。んー、どうしたのかしら。尊、解読の手伝いで今日は夕方遅くにしか帰らない。居ないの知ってて来てるのよね」
芳「内緒でわざわざこちらに?それはますます何かありそうですね」
美「ちょっと聞いてくるわ」
待合室に出た私。そっと声をかけるとビクッと反応した彼女。隅に呼びました。
美「どしたの急に。具合が悪い?」
瑠奈「…」
顔色は特に問題なさそう。いつもの朗らかさがないのが気になるわ。
美「ウチはね、外科と内科と小児科。あなたの受けたい科はどれかしら」
瑠「…その中には、ありません」
美「そっか。今日は医師としての私に用?それとも、尊の母としての私に用?」
瑠「…両方です」
美「母であるのを踏まえて医師の見解も聞きたいのね。わかった」
彼女が手にしたままだった問診票を引き上げ、預かっていた保険証を返し、
美「このまま待てる?診療時間が終わってからゆっくり聞いてあげる。それでいい?時間大丈夫?」
瑠「はい」
美「お父さんに言っとくわ。三人で昼ごはんよって」
瑠「すみません…わかりました」
何か精神的な物なのかしら。そして昼過ぎ。クリニックを閉めた後一緒に自宅に戻りました。
美「ただいま」
覚「お帰り。瑠奈ちゃん、よく来たね」
瑠「おじさま、こんにちは。お邪魔します」
あ、笑った。少しは落ち着いたかしら。
覚「瑠奈ちゃんと昼飯なんて、急にプレゼント貰えたみたいだったよ~」
美「棚ボタ的なね。さぁ、まずはお昼にしましょうね」
瑠「はい」
覚「座って座って」
食事中はそれほど変わった様子は見受けられませんでした。食後、温かいお茶を淹れ直したところで、
覚「ちょっと出かけてくる」
お父さんがその場を離れます。私は瑠奈ちゃんの正面に座り直しました。よし、聞くわよ。
美「昨日は楽しく過ごせた?」
瑠「はい」
美「今日は、うってかわって何かお悩み?」
瑠「あの、あまりにも遅くて…どうしちゃったのかなって…生理、が来ないんです」
美「…そうなの。心配ね。どの位遅れてる?」
瑠「一週間から十日くらいです」
美「今までも遅れる時はあった?」
瑠「私、初潮の頃から周期は比較的きちんとしてたので、初めての経験なんです」
美「心当たりは、ある?」
瑠「…」
まさか。もしかして、もしかするの?!これはもう、聞くしかない。
美「…尊が、失敗した?」
瑠「それはないと思うんですけど…」
美「ある、かもしれないのね」
瑠「でもいつもすごく慎重なので」
ふーん、慎重。前から思っていたけど、瑠奈ちゃんって素直というか何も隠さないのよね。
美「周期としては、25日から38日なら正常な範囲なの。それはどう?前回始まった日から数えて。カレンダーで確認する?」
立ち上がり、壁に掛けたカレンダーを一緒に指差しながら数えたら、まだ範囲内でした。ひとまず安心して席に戻ります。
美「もう少しだけ様子みましょうね」
瑠「はい。おばさまにお願いがあります」
美「何?」
瑠「LINE、交換したいです」
美「あら!いいの~?」
瑠「無事始まったらすぐお伝えしたくて」
早速交換しました。嬉しいわ~。
美「でも瑠奈ちゃん。この程度の知識ならスマホでもわかるわよね。私にわざわざ会いに来たのはどうして?」
瑠「それは…唯さんがどうだったか知りたかったからなんです」
美「え?ここで唯が出てくる?」
瑠「調べたら、周期の乱れはホルモンバランスの崩れやストレスが原因とありました。そこで考えたんです。ここ最近で私に起こった大きな出来事と言えば、タイムマシン」
美「あー」
瑠「唯さんって、何度か永禄と現代を行き来されてますよね。もし生理の問題で悩まれてたのなら、私もそれが理由かもしれないって思ったんです」
美「そっか。有り得る話だわ。でもごめんなさいね、唯に関しては一概に言えないのよ」
瑠「そうなんですか」
美「あの子、元々生理不順でね。それに加えて中学生から陸上始めて。かなり食べるんだけどしっかり練習もしてるから体脂肪率が低い。だから変わらずそのままで…今となってはちゃんと手を打たなかったのを後悔してるのよ。中々妊娠に結びつかなかったから」
瑠「でも、ようやくって」
美「あと四か月半後にははっきりしてるだろうから、会えるのを楽しみにしてるわ」
瑠「そうですね。あの通話の後、お兄さんが唯さんのお腹を優しくさすってたんですよ」
美「あらん。いい話」
このタイミングで、お父さんが帰宅。
覚「ただいまー。ケーキ買ってきたぞ。一日遅れだけど」
箱の中から、るなちゃん20歳おめでとうと描かれた誕生日ケーキが登場しました。
瑠「わぁ…嬉しい!ありがとうございます!」
美「予約した?」
覚「午前中、来るって聞いてすぐにな」
お祝い会が終わる頃にはいつもの瑠奈ちゃんに戻ってくれて、まずは一安心。帰りは黒羽駅まで車で送りました。家まで行くって言ったのに聞かなくて。そして、夜になり…
瑠奈の投稿『先ほど始まりました』
瑠 投稿『お騒がせしてすみませんでした』
良かったわ~。でもね、孫の顔も見たかった、なーんてちょっと思ったのも事実です。スマホを閉じると、尊がお風呂から出てきました。
尊「何、ジロジロ見て」
美「いろんな意味で、罪な男よね」
尊「は?」
アンタも愛妻のお腹をさすってあげる優しい旦那になんなさいよ、と心でハッパをかけた夜でした。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は、11月のお話です。
[no.1157] 2024年3月28日 19:48 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道60~8月7日土曜
ムキムキまではいかない位のイメージでお願いします。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅瑠奈「グミ食べない?好きなの選んで」
みつき「サンキュ。ひろくんの分ももらうね」
瑠「はい、たけるんも」
僕「ありがとう」
祐也さんの車で海水浴場に向かっている。
み「空ちょっと曇ってるけど、日に焼けないから逆にいいかもね~」
僕「甘い…」
瑠「ごめん、好みの味じゃなかったかな」
僕「あ?いや、違うんだ。グミじゃなくてミッキーさんの今の話」
み「私?」
僕「曇りの日でも、紫外線は晴れの日の6割から8割は降り注ぐ」
み「そんなにー?!」
僕「紫外線には3種類あるんだ。一番危険なUVーCはオゾン層と空気中の酸素に吸収されて地表には届かないから今のところはカウントしなくていい。日焼けをもたらすUVーBは地表には届くけど雲に吸収されやすいから、今日みたいな日はジリジリと焼けはしないとは思う。ただし、雲も窓ガラスも通過するUVーAは肌の奥深くにダメージを与えるから、結果紫外線対策は怠るべからず」
み「さすがセンセ。1言ったら10返ってきた」
祐也「尊くん凄いね」
僕「いえ」
バックミラー越しに祐也さんの笑顔が覗く。一歩引いた感じとか雰囲気は、やっぱり源三郎さんに似ていると思う。
┅┅回想。2019年12月下旬のとある夜┅┅
僕「整然としてますね。服も綺麗に畳んであって、武士の居室って感じです」
源三郎「使わせていただいておる身ですし」
一度じっくり話がしたくて、源三郎さんにお願いし、一人で寝起きしている予備室を訪れた。現代についての質問も数多く受けたけど、永禄での話を興味深く聞いていた。
源「成之様に続き、足軽を二人従えておりました。成之様が不穏な動きに気が付かれてすぐ、後ろを歩いていた足軽が撃たれました。高山の伏兵の仕業です。十人程に囲まれ、もう一人の足軽が槍に倒れ」
僕「四人居たのに、あっという間に二人になったんだ。怖いな…」
源「応戦は致しましたが数では敵わず最早と思うたところに、忠清様、供の悪丸、成之様懇意の僧であった如古坊が現れ、無事全て討ち取る事ができました」
僕「兄さんは鎧もなくですよね」
源「左様にございます」
僕「やっぱり強いんだ」
源「兄君は強い御仁ですよ。戦も、心根も」
┅┅回想終わり┅┅
瑠「たけるん、たけるん?」
僕「…え?あぁ、忝ない」
み「また武士になってるよ」
僕「失礼しました。でもミッキーさんもさ、たまに武士言葉使ってない?」
み「まーねー」
僕「祐也さんの影響なの?」
み「違うよ。ひろくんは逆に全然」
僕「そうなんだ」
祐「みつきが面白がって使ってるんだよ」
み「でもー、ひろくんが家臣の方の末裔で良かったよ。殿の方だと面倒だもん、名前が」
僕「確かに。フルネーム書いてもフリガナふってるみたいになるよね」
み「でしょ。速川瑠奈、っていいよね」
瑠「でしょ!」
僕はこの場合どんな顔をしてれば…と思う間もなく会話は進む。
瑠「でも、苗字が御月になったとしても、結婚ヤダなんて絶対に言わなくない?」
み「その通り!わかってるね~」
浜辺はまあまあの混み具合だった。僕が家から持参した、パラソル、シート、浮き輪2つと…
僕「ジュースもお茶もありますよ」
祐「こんなに用意してくれたの?ありがとう」
クーラーボックスが大活躍している。女子達は水際ではしゃいでいた。その姿をぼんやりと見ている男子達。
僕「徹底して海には入らないんですね」
祐「今日はね。みつきと二人の時はこんなに避けはしないけれど」
僕「水着似合ってますよ。ガッチリした体格、憧れます」
祐「大したことないよ。あとパラソルもシートもありがとう。僕が一番使わせてもらってる。おウチには何でも揃ってるんだね」
僕「父がこういう事に凝るタイプで。レジャーグッズは一通りありますね」
祐也さんとは不思議と会話が弾む。素直に心を開ける感じなんだ…あ。いいコト思いついてしまった。
僕「あの、良かったらなんですが、今度僕の家で一緒にバーベキューしませんか?ご招待しますよ」
こんな話を自分から持ちかけているなんて数年前には考えられなかった。でも、絶対楽しいって想像できたんだ。瑠奈とミッキーさんと祐也さん。親もきっと喜ぶ。
僕「バーベキューコンロも2つあるんですよ」
祐「へぇ、大人数に対応してるんだ。ありがとう。みつきと相談するよ。二つ返事だとは思うけれど」
僕「はい。また日にちは擦り合わせましょう」
瑠「たけるーん、ここ空いてるよぉ。来て」
二人用の浮き輪の中に体を入れ、手招きしている。祐也さんに会釈をして、瑠奈の元に向かった。海に入ると案の定…
み「よっ!ヒューヒュー!」
瑠「キャー!」
僕「ゲホッ、うわ、塩辛っ!」
ミッキーさんからバシャバシャ攻撃を受けた。でも楽しい!若さを満喫しているってヤツ?さっき日焼けがどうのと忠告はしたけど、そんな事も気にならなくなる程、夕方までたっぷり遊んだ一日だった。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は9月のお話。なんですが、語り部は特別バージョンで美香子さんがお送りします。
[no.1156] 2024年3月24日 20:59 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道59~8月2日月曜から6日金曜
よっ、モテ男!
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅今日は昼からバイトに来ている。昨日日曜は、瑠奈にお揃いのビーチサンダルが欲しいと言われて買い物デートだった。今週末は海か。楽しみだ。最近の瑠奈だが、これまで以上に僕に甘えてくる感じだ。頼られてる?永禄に連れて行ったから、株が少し上がったのかな。
僕「?」
部長…瑠奈の父の席はまあまあ離れているのだが、先程からずっとこちらを見ているような気がしてならない。実際、顔を上げた際に目が合った。何か用かな。仕事の話?だったらすぐに声かけられるしな。
社員「午後の会議は、2時から2時半に変更となりました」
瑠奈の父「そう。わかりました」
あれ?もしかして、瑠奈関係?えっ、まさか、ミッキーさんと旅行は嘘でウチに泊まったのがバレちゃったとか?!どうして?瑠奈が話す訳ないし、どこかで見て…神社?それはないか。あ、カラオケ?!いや、いくら小垣町内とはいえ、そんなに近所じゃないぞ。でも誰かに目撃されて?有り得なくはない。何かすげぇ不安になってきた…。
僕「ふう」
頭を冷やそうと、自販機コーナーでアイスコーヒーを購入。その場でプルタブを引き、一気に喉に流し込んだ。今後どう転ぶかはわからないが、まずは仕事に集中しないと。
瑠父「尊くん」
僕「えっ…ひゃあ!」
部長!いや、名前で呼ばれてる、おじさま!
瑠父「そんなに驚かれるとは」
僕「す、すみません。おじさまこそ、どうされたんですか」
瑠父「会議のスタートが延びたんで先に休憩しようと思ったら、君がフロアを出るのが見えてね」
僕「そう、ですか」
瑠父「あのね」
僕「は、はいっ」
瑠父「率直に君に聞きたいんだが」
来たっ!こ、怖い!
瑠父「もしかして、瑠奈にプロポーズしてくれたのかい?」
僕「…え?」
想定外の質問に言葉が出ない。なんか、目が輝いてるし!
瑠父「違ったか。ったく、瑠奈の奴」
僕「ごめんなさい…」
瑠父「謝る必要はないよ。最近の瑠奈が事ある毎に宣言しててね」
僕「宣言?」
瑠父「尊の妻に、私はなる!って。海賊王にでもなりそうな勢いなんだよ。だから言ってくれたのかと思ったんだ」
僕「…」
初耳です…
僕「すみません。僕はまだ、未熟者なんで」
瑠父「まだ。なら、いつかはと思ってくれてるのかな?」
僕「…はい。それは。良ければですが」
瑠父「勿論大歓迎だよ。良かった、今日はその言葉が聞けただけで満足だよ。妻も喜ぶ」
僕「本当ですか」
瑠父「以前あんな事があったから心配するのも無理はない。もう何のしがらみもないよ。安心してくれ」
僕「ありがとうございます」
大きく一礼して、その場を後にした。そんな展開になってたなんて。こんな男とは思わなかったなんて幻滅されないよう、甘んじる事なく、これからも日々精進せねばと心が引き締まった一件だった。
┅┅
木曜日。朝から解読の手伝いだ。今日は木村先生も来ている。
木村「何の暗号だ?」
解読済みの資料を見返していた先生。
僕「どれがですか」
木「この、丸いの」
日付の脇に小さく丸がうってある。永禄六年七月五日?これ、この前訪れた日だ。
僕「その日の天候とかじゃないですか?」
木「他の日についてないのは謎だが」
前に見た時はそんなマークついてなかった。僕らの訪問を受けて兄さんが書き足したから、現代で浮かび上がってきたんだ!すごい!
僕「それか月の満ち欠けとか」
木「おー、月か。なるほどな。ヒントありがとう。調べてみるよ」
その日は満月の一日前だから、調べても混乱するだけかも。ごめんなさい先生、ヒントになってません。しかしこれも、兄さんのお茶目な面が垣間見える。楽しい!
┅┅
明日はいよいよ海に遊びに行く。夜、瑠奈とビデオ通話中。
僕「祐也さんの車で、ミッキーさん、瑠奈と拾って最後が僕?」
瑠奈『うん。それが一番スムーズだからって』
僕「そっか。せっかくのお休みに負担かけて申し訳ないな。どこかで運転替わらないと」
瑠『私は嬉しい。だってたけるんが運転しないから、後部座席でくっついて座れるもん』
僕「くっつく?ダメだよ、後部座席もシートベルトは義務」
瑠『たけるんの意地悪』
僕「だって義務は義務でしょ」
瑠『それでもできるだけそばがいいの!わかってよぉ』
僕「あはは。はい」
プリプリ怒る姿も愛らしい。瑠奈にとってずっと魅力的な男と感じてもらうために、まだまだ心も体も鍛えないとな。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は海へGO。
- この返信は7ヶ月、 3週前に夕月かかりて(愛知)が編集しました。
[no.3648] 2024年3月20日 20:01 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 雑談掲示板似てますね
あら、確かに。
ぴよりん、店頭販売の時間が近づくと行列ができるんです。でも最近、並ばなくても予約して無人販売機で受け取れるサービスが始まったと地元のニュースでやってました。
https://market.jr-central.co.jp/shop/e/epiyoyaku/
観光で訪れる方にぴったりでは。
かくいう私は、実は食した経験がありません。今ほど人気になる前、待ち時間0で買えた頃を知っているので今更…なんて思ってしまいます。へー、今はチョコ味かー、とずっと素通りで。
JR名古屋駅から電車で20分程の場所に新たなショップがオープンしていて、そこは関連グッズが豊富みたいなんで、いつか皆様とお会いできる日が来ましたら、手土産はそこで買い求めようかしら、なんて思ってます。
- この返信は8ヶ月前に夕月かかりて(愛知)が編集しました。
[no.1155] 2024年3月20日 19:26 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道58~7月25日日曜
あなた達も出演してます。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅朝6時のリビングに、父登場。
瑠奈「おじさま、おはようございます」
覚「おっ、もう起きてたか。ちゃんと落ち着いて寝られたかい?」
瑠「はい!」
僕「シーツって剥がして洗濯機でいい?」
覚「手前のカゴに入れといてくれ」
僕「了解。布団、すぐ干す?」
覚「もう少し日が高くなったらな」
僕「だったら予備室に戻しとくよ」
覚「頼む」
瑠「私も運ぶね」
そう。ゆうべはここリビングに二人並んで休みました。あの後すぐに布団を運んで。一緒の部屋で寝る、には違いないんで、瑠奈も喜んでくれたから良かった。ちなみに。二組用意してあったのは、なんとなく、だったらしい。なんだよその曖昧な理由!人騒がせな…。
瑠「おばさま、おはようございます」
美香子「おはよう瑠奈ちゃん。クーラーつけてなかったけど暑くなかった?」
瑠「とても快適でした。この扇風機すごくいいですね。まるでうちわであおいでもらってるみたいで」
僕「そういうコンセプトで売ってたからね」
美「NHKに出演した事もあるのよ」
瑠「え?」
僕「出演って。これじゃないし」
美「三年前位かしら。主人公が扇風機作るって話の朝ドラでね。出来上がった品物が大きく映ったら、あらウチのと一緒!って」
瑠「市販品をモチーフにしたんですね。だったらまだ売ってるかな…」
僕「あるんじゃない?」
瑠「家のが一つ壊れかけてて。ちょうど良かった。親に薦めてみるね」
6時24分。食卓のセッティングを手伝っていた瑠奈。
瑠「きゃっ!」
背後のテレビが突然映り、かなりの音量でリビングに響き渡る。
美「ごめんね~びっくりさせちゃったわね。毎日この時間に体操してるからなのよ」
瑠「タイマーかけてあったんですね」
僕「音デカくない?寄る年波ってヤツか」
美「失礼な。部屋が広いと言いなさい」
覚「おーい、始まるぞ。尊も瑠奈ちゃんもやるぞ、ほれ」
朝のルーティンに巻き込まれるのもまぁ、親孝行?朝ごはんの後、神社デートに行った。真夏に長い階段はちょっとキツかったけど、二人でワイワイ言いながらだったし、達成感も多いにあったから満足。ぷらぷらと散策して、家に戻ると11時を回った頃だった。
僕「もうお昼の支度?」
両親がキッチンに立っている。できたら運べと言われたので、食卓で瑠奈と待機。
瑠「5時には小垣駅に行かなくちゃだから、早めに動かれてるのかな」
僕「違うよ。自分達がたっぷり歌う時間とりたいからだって」
午後、四人でカラオケに行くんだってさ。
瑠「尊の十八番は?」
僕「ないない。普段からオブザーバーに徹しております」
瑠「オーディエンスじゃなくて?観客でもなくてただの傍観者?えー」
居るだけでも居ないよりは良かろうと思ってもらわないと。昼ごはん後すぐ、父の車でカラオケ店に向かった。高校生の頃、瑠奈と遭遇した思い出の場所でもある。
瑠「ここで出会ったから、相当歌い込んでると思ってた。ホントに居るだけなんだ」
僕「まぁね。瑠奈さえ楽しければいいよ」
美「あとあなたに~、会えれば~、もぉ~、一足、早い夏~」
覚「イェーイ!」
両親はいつも通り盛り上がっている。瑠奈も臆せず流行りのJーPOP?を歌う。互いの曲調が全く違って相容れない気もするけど、仲良くやってるからいいか。そんな三人を眺めつつ、この後に控える本日のメインイベントに今からそわそわしている。ミッキーさんの彼はどんな男性なんだろう。お見込みの通り、僕は人見知りが激しい方なんで、ちゃんと話せるかも心配している。
覚「4時半だな」
美「そろそろ出ましょうか」
瑠「はい」
もうそんな時間か。いよいよだ!店を後にし、小垣駅で車を降りた。
瑠「緊張してるの?」
僕「うん」
瑠奈の手が伸び、僕の髪を整えてくれた。そしてニコっと微笑む。
瑠「イイ男だよ」
僕「ありがとう」
みつき「はーい、ラブラブなトコ悪いねー!お邪魔するよー」
こちらもキャリーバッグをゴロゴロさせて、ミッキーさん達が登場。
瑠「みつきお帰りー」
僕「お久しぶりです」
み「センセ久しぶり。では早速紹介するね。私のダーリン、ひろくんです!」
祐也「初めまして。赤井祐也と申します」
ひろやさん。だからひろくんか。
み「はいお土産」
瑠「ありがとう~!どうだった?旅行」
み「めっちゃ楽しかった!瑠奈は?」
瑠「尊と一晩一緒に居れて超幸せだった」
み「いいじゃーん!」
女子の会話が始まってしまった。困った、初対面の彼氏さんと置き去りにされている。どうしよう、何話したらいいんだ!
祐「女の子の会話って、始まると長いよね」
あ、同じ事思ってた!ちょっと親近感。
僕「そうですね」
祐「みつきって、高校の時もあんな感じだった?」
僕「はい」
祐「騒がしかったんじゃない?」
僕「そんな事ないですよ」
ウチにもっと騒がしいのが居ましたから。
僕「姉御肌で、いつも引っ張ってってもらってます」
祐「暴走してたら止めてね」
そんな、姉に比べれば全然大人しいですよ。
祐「来月よろしくお願いします、尊くん。で、合ってるよね?」
僕「はい。覚えてくださったんですね」
祐「僕が君をセンセと呼ぶとちょっとおかしいでしょう。だから聞き出しておいたんだ」
僕「ありがとうございます」
祐「僕も名前で呼んでくれていいから。あと敬語もなしね。三つしか違わないし」
すごく落ち着いていて、話しやすい!僕の周りって兄さんといい祐也さんといい、年齢以上に出来上がってるな。やっぱ武士の血筋?
み「もう仲良くなってる」
瑠「良かったね、尊」
僕「うん」
祐「じゃ、僕は知り合いに会わない内に先に行くよ。みつきはゆっくりしゃべってて」
み「夜電話するね」
祐「うん。尊くん、瑠奈ちゃん、来月楽しみにしてます。それでは」
会釈をし、彼は去っていった。素敵な人だな。姿が見えなくなったのを確認すると…
僕「ちょっと!何してんだよ!」
美「どんな方か見たくって」
覚「車はちゃんと駐車場に入れたぞ」
二人立ってるのが視線の先にずっと見えていたんだ。もうどうリアクションすればいいかと。瑠奈もずっと笑いをこらえていたようで、
瑠「もう、おっかしくって~」
み「センセのご両親なんだ。こんにちはー」
覚&美香子「こんにちは~」
み「ユーモア溢れる親御さんですなぁ」
僕「痛み入ります」
こんなオチとはね。してやられたよ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
扇風機の話ですが。
朝の連続テレビ小説「半分、青い」は、アシガール本編の半年後の放送でしたが、モチーフとなった市販品は既に販売されていたため、小道具として元々保管してあったのでしょう。
私この話題、この掲示板で見て知ったと思ってたんですが、どう検索しても出てこないので本家の掲示板で見たのかもしれません。いや、私が元ネタ!と仰る方いらしたら是非手を挙げてくださいませ。次回は、海行きの前週の様子をお送りします。
[no.1154] 2024年3月16日 21:32 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道57~7月24日21時
母の寛ぎ方が実家感満載。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅僕と入れ替わりで父が風呂へ。母はテレビをBGMにしてソファーで新聞を読んでいる。瑠奈は一人食卓でスマホを操作していた。
僕「お待たせ」
瑠奈「おかえり。ねぇ見て、みつきからめっちゃ写真来てて」
僕「へぇ」
今日、ミッキーさん達が出かけている観光地の風景写真だった。
瑠「ちょっと助かる」
僕「うん」
瑠「でね、彼氏さんの出勤予定が決まったんだって。8月の7か8に海どう?って」
僕「そうなんだ。多分その辺りだって聞いてたから、どちらでも大丈夫だよ」
瑠「んー。なら、7日にしとく?土曜日」
僕「了解しました」
瑠「すぐLINEしとくね」
ササッと入力。すると即返事が来たんだが、
瑠「あ」
僕「ん?」
瑠「明日、お土産受け取るじゃない。その時彼氏さんを紹介してくれるって」
僕「へぇ」
瑠「新幹線で行ってるから一緒に小垣駅で降りるし、海行く前に一度は会わせときたいからって」
僕「確かに。正解」
瑠「私も話すのは初めてだから、源三郎さんやトヨさんと共通項あるかじっくり見ちゃいそう。楽しみだね」
僕「うん」
瑠「…まばたき、多くない?」
僕「充分予測できた話なのに、何か緊張してきてさ」
瑠「えー、今から~?」
無論、楽しみですよ。
僕「そういえば、明日の午前中に近場を散策したいって言ってたよね」
瑠「うん」
午後は両親と四人で出かける予定でして。
僕「近所に神社があるんだ」
瑠「神社?行く行く」
僕「長ーい階段もあるんだけど」
瑠「全然大丈夫だよ。旅行モードだからスニーカー履いてきたし」
僕「そこ、実は足腰鍛えようと、時々上り下りしてた場所でさ」
瑠「そうなの!すごーい。考えて行動してる」
僕「戦国の道は平坦に非ず、適応できる体を作るべし」
瑠「は?標語かなにか?」
僕「お姉ちゃんが以前、兄さんを守るためには体力づくり!って、そこで走り込んでたんだ。真似しただけだよ」
瑠「真似でも実践したんでしょ。お姫様抱っこの大成功の陰にそんな地道な努力があったんだね。たけるん偉ーい!」
ずっとニコニコしていた瑠奈。突然フッと真顔になり体を寄せてきた。え、何?
僕「どしたの」
瑠奈の囁き「たけるん」
僕の囁き「はい」
瑠 囁き「今夜、一緒の部屋で寝ちゃダメなのかな」
僕「…ええーっ!!」
母が顔を上げ、チラッと僕を見る。
美香子「尊~、急に大声出さない」
僕「ごめんなさい」
瑠奈さん!!
瑠 囁き「だってね」
僕 囁き「は、はい」
瑠 囁き「泊めさせてもらうお部屋、お布団二組置いてあるんだよ」
僕 囁き「うっそマジで?」
そういえば今日、予備室には全く立ち入ってない。これは確かめねば。
僕「ちょっと見させて」
瑠「うん」
二人、席を立った。
美「もう寝る~?」
僕「あ、いや、すぐ戻る」
ヨロヨロしながら階段を上り、予備室のドアを開けた。
僕「これは…どう捉えればいいんだ」
瑠奈が使う布団は部屋の中央に置いてあるが、もう一組は隅に重ねてある。
瑠「もしかして、お布団の置き場がないからこうしてある?」
僕「いや、普段はちゃんと押し入れに入れてあるから外には出てない」
瑠「じゃあわざわざ出したんじゃない。奥のは尊用じゃないの?」
僕「ええぇ。聞いてないよ…。そうだ、これは、これはきっと親が仕組んだ罠に違いない。ダメだよ、こんなんハメられたらろくなコトないよ?」
瑠「…」
僕「瑠奈?」
瑠「…私は、家族同然に扱ってもらえたんだ、って嬉しかったの」
僕「…」
明らかにガッカリしてる。不憫だ。そりゃあ僕だって一緒がいいよ。でもここで二人で一晩?それはやっぱり気が引けるし。どうしよう…
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は、翌朝の様子からです。
[no.1153] 2024年3月12日 23:58 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道56~7月24日16時30分
疑問の答え合わせもできて良かった。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅作業を終えて実験室を出る。
瑠奈「眩しい!まだこんなに明るいなんてびっくり」
僕「そうだね」
リビングに戻り、瑠奈とアイスクリームを食べている。満月の日に甘味。思い出すなあ。
僕「お姉ちゃんが2回目に飛んだ時さ」
瑠「うん?」
僕「行って戻る3分を、プリン食べながら待ってたんだ」
┅┅回想。平成29年6月9日夜。実験室に僕と、永禄に向かわんとする姉┅┅
唯「じゃ、ちょっくら行ってくる」
起動スイッチを軽い感じで引き抜く姉。
僕「あっそんな無造作に」
唯「そうだ、冷蔵庫にあるプリン食べないでね!3分後には戻るんだから!」
消えていった。
僕「わかってない。何にもわかってない」
さて。あれだけ強く言い含めたから必ず次の満月で戻る…はず。プリン、取ってくるか。リビングでは両親がお茶を飲んでいた。
美香子「あら尊」
覚「唯、見なかったか?」
僕「実験室に来てる」
美「え?いつの間に」
基本的に実験室にはリビングから出入りする。両親が姿を見ていないなら、玄関からそっと出たんだろうな。あんな大荷物、よく気付かれずに運べたモンだよ。
覚「そこで何してるんだ?」
僕「こっちが聞きたいよ」
実の所は、愛しの若君様を助けに。だな。
僕「プリン2つもらってくよ」
覚「何だ、パシリやらされてるのか」
僕「じゃんけんで負けてさ」
ってコトにしといてください。実験室に戻るとすぐ、姉は無事戻ってきた。出世して。
┅┅回想終わり┅┅
覚「あの頃はまだ、まさか戦国時代と行き来してるなんて露知らずで」
瑠「そうだったんですね」
美「3回目ね、なんか怪しいわと思って現場を押さえようとしたら、すんでのところで行かれちゃって」
覚「尊がドアを開けてくれなくてな」
僕「まぁ、あん時は」
美「で、3分後に代わりに現れたのが、瀕死の忠清くんだったのよ!も~びっくりよ~」
僕「丸投げにも程があるって話」
瑠「おばさまの腕なら、必ず回復すると思われたからですよね」
覚「そこまで熟慮はしてないな。治療できて勿論正解だったが」
美「唯のする事だからね。まぁ、訳がわからなくても、目の前に患者が現れたから何とかしたわよ」
その後も会話は弾んだ。
僕「日記の解読の手伝いしてるって言ったら、兄さんすごく喜んでくれた」
覚「尊がやらなくて誰がやる、ってモンだしな」
僕「でさ、前来た時に作って渡した忠清シールだけど。日記に貼ってあって木村先生が怒ってた」
美「はいはい。忠清くん、なんて言ってた?」
僕「せっかくもらったから少し貼ってみようと思ったんだって。でもその頃から和紙とは相性悪くて、すぐ剥がれてきたから数回で止めたらしいよ」
美「そうなの~」
僕「木村先生を怒らせてしもうたのは済まなんだ、って」
覚「結果そうなったが悪気はなかったんだ、仕方ない」
美「ねぇ、赤井家の末裔がって話はできた?」
瑠「はい。友人の彼なんですって伝えました。いろいろ詳しく聞かれたんですけど、今度は画面越しでもわかるような大きい写真用意しないといけませんね。できれば、撮らせてくださいってお願いして」
美「会う予定はあるの?」
瑠「四人で海に行きたいってずっと言われてるんですけど、彼氏さんの予定が未確定で」
美「そうなの~」
僕「トヨさんのマタニティダイアリーが残ってますよってのも伝えたよ。恥ずかしがってた」
晩ごはんの時間になっても、その後もずっと話題が尽きない。隠し事なく共通の話題に溢れた四人の食卓、楽しい!はさみ揚げも一段と美味く感じたよ。
美「瑠奈ちゃん。そろそろお風呂使って。案内するわ」
母が瑠奈を促し、浴室に連れていく。
瑠「湯船が大きい!洗い場も広いですね」
美「男衆三人で入った事もあるのよ」
瑠「すごーい」
美「シャンプー、どれ使ってもらってもいいわよ」
用途別とかで何本か並んでいた。その中に。
瑠「あ、これ。お土産にも入ってましたね」
美「唯専用でもないけど、かなり気に入ってたから。前に来た時使ったきりで、あと少し残ってるのよね。良かったら使っちゃって」
瑠「え、でも」
美「いいのよ~、消耗品だから。ね」
風呂上がりの瑠奈は、ふんわりフルーティーなフローラルの香りに包まれていた。どことなく、懐かしかった。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
- この返信は8ヶ月、 2週前に夕月かかりて(愛知)が編集しました。理由: 勘違いしてた部分を書き換えました
[no.1152] 2024年3月8日 22:25 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道55~7月24日16時3分
例えるなら、水墨画で描かれたような。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅実験室が光る。
覚「おっ」
美香子「あらん」
親の前ではやっぱ恥ずかしい。くっついて飛ぶ必要があるが故のお姫様抱っこなんだよ!と言い訳したいところ。
美「忠清くんと唯が一緒だった時と同じ。尊、やるわね」
覚「絵になってるぞ」
僕「そうかな。ただいま」
瑠奈「ただいま戻りました」
覚「行って、画面越しにしゃべって、帰ってもこっちでは3分だからな。あっという間だ」
美「瑠奈ちゃん、大丈夫だった?」
瑠「大丈夫…でした」
美「言い澱んでるわね」
覚「何かあったのか?尊」
僕「ちょっとびっくりしただけだよね」
瑠「うん」
覚「そうか。ん?」
美「何の匂い?」
両親が鼻をクンクンさせている。
美「お香かしら」
僕「長居したからさすがに匂いがついたかも。そうそう、蚊取り線香入っててすごく喜んでたよ」
覚「そうかそうか」
僕「で、6回おきに繋ぐ事になった。大方の予想通り」
美「時間は?」
僕「夜9時。兄さんが、8時ではお母さんにゆとりがないからって」
美「その気遣いが有難いわ」
覚「となると次回は」
瑠奈が作った早見表を取り出した両親。
美「来年の1月18日ね。鬼が笑う話だけど、火曜なら休み前日だし、芳江さんとエリさんに同席してもらえるよう伝えておくわ」
僕「お願いします。画面って、ちゃんと見えてた?」
美「バッチリよ」
覚「さすがの高感度カメラだな」
僕「良かった。ちょっと手こずったけど取り換えて正解だった」
録画の状態を確認する。
僕「いい感じ。じゃあ、決めた日にちと時間で動くよう設定するよ」
美「今から?」
僕「うん。やっとく。すぐだし」
覚「瑠奈ちゃんはどうする?」
瑠「ここで手伝います」
覚「そうか。じゃあ、終わったら皆でアイスクリーム食べような」
僕「さっきもアイス推してなかった?」
美「今日のためにって、お父さんがいっぱい買い込んでるのよ~」
覚「瑠奈ちゃんのお好みで選んで貰おうと思ってな」
瑠「そんな、すみません」
僕「ははは」
笑いながら両親を見送る。さて、作業しますか。
瑠「たけるん」
僕「ん?」
瑠「さっきはごめんね。大声出しちゃって」
僕「謝らなくていいよ。僕こそごめんなさいだし」
瑠「どうして?」
僕「結果、兄さんとお姉ちゃんに助けられたから僕は何もしてない」
瑠「ちゃんと守ってたよ?」
僕「ううん。必ず、とか威勢よく宣言したのにさ。情けないよ」
瑠「そんなコトない。とっさに肩を抱かれて伏せた時、たけるん頼れるぅってドキドキしてたんだよ」
僕「それは…怖がる瑠奈をなんとかしないとって思ったから」
瑠「いつでも抱き寄せてくれていいからね」
僕「うっ。今後の検討課題とします…」
瑠「ふふっ。あの時のお兄さんね」
僕「うん?」
瑠「怖かった。目の前に居たおじさまおばさまが消えてすぐ現れたのがあの姿だったから」
僕「夜とは言え、あそこまで暗いのは想定外だったんだよ。ごめんね」
瑠「ううん。怖いプラス、この世のものとは思えないほど凄みがある美しさだった。荘厳美麗と言うか」
僕「あー。兄さんにはぴったりな言い回し」
瑠「端整な顔立ちに、黒髪と白いお着物が映えて。でも刀がキラッと光ったから驚いて、思わず叫んじゃったの」
僕「変な姉ですいません」
瑠「変って。でもたけるんもある意味変人だよね。タイムマシンをひょいひょい造っちゃう思考回路とか」
僕「それって褒められてるのかな。似てると思った?」
瑠「顔はそこまで似てないかも」
僕「あそこまでの行動力もないし。でも兄さんには、お前は唯にそっくりじゃって言われた。初めて一人で飛んできた時に」
瑠「ふーん」
僕「そういえば、どの辺が似てるかとは聞き返してないな」
瑠「お兄さん、その頃にはお姉さんにかなり惹かれてたんだ」
僕「それは言ってた。客観的に見てもそう思う?」
瑠「だってお姉さん、出会った当初は足軽としてずっと追いかけてばかりだったんでしょ。一緒に居た時間なんて短かったはず。すごく印象に残ってたからこそじゃない?」
僕「そうだね。赤い糸は、時空を超えて結ばれていたと」
瑠「え。 急にロマンチックモード?」
あのセリフは、今だな。
僕「タイムマシン造るくらいだから超ロマンチストだよ、知らないの?」
瑠「あはは。うん、知ってた」
彼女と秘密を共有できるってこんなに幸せなんだ。笑って話せる日、ようやく訪れました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1151] 2024年3月4日 19:34 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道54~7月24日16時その6
そこは褒めてあげようよ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅兄さんが口を開いた。
若君「その願い、叶えてしんぜよう」
瑠奈「えっ」
僕「いいんですか?小平太さんとか見回りしてますよね?」
若「わしも、夜空を見ながら話がしとうての。唯」
唯「はい」
若「庭へ出るぞ」
唯「はーい」
外に出て、辺りの様子を窺う二人。
唯「今んトコ、人影はナシっす」
若「わしと唯が目を光らせる。尊、瑠奈殿。出られよ」
促されるまま縁側に出て、二人並んで座った。見上げた空は…
僕「す、すごい」
瑠「…」
やや低い位置に浮かぶ満月。永禄でも美しかった。でもそれより!星の数ったらない!漆黒の空を覆う、強く弱く瞬く光。吸い込まれそうな美しさに目を奪われ心が震える。
唯「尊、口開いてる」
僕「失礼しました。あまりの光景につい」
瑠奈は感極まっている。
瑠「想像してた以上にすごく、すごく綺麗…。見せてくださって、ありがとうございます」
若「礼には及ばぬ」
僕「見られて良かった。提案してくれてありがとう、瑠奈」
瑠「うん、うん」
若「尊」
僕「はい」
若「永禄の夜空は月、星、雲、鳥」
僕「いいじゃないですか」
若「今も時折、令和の夜空を思い出しての」
僕「星はこんなに見えないし…特にコレ、ってありましたっけ」
若「つい、飛行機やあの船が浮かんでおらぬか探してしまうのじゃ」
僕「あー」
┅┅回想。2019年8月8日19時40分。姉と兄さんの三人で花火大会観覧中┅┅
19時30分に花火がスタート。上空に打ち上がってからの地上での仕掛け花火だったりで、時々空に花がなく暗闇になる瞬間があるのだが、
若「尊。動く星があるのか?」
僕「動く?飛行機じゃないですかね」
唯「たーくんどれのコト言ってるの」
若「月を舐めるように、あの」
兄さんが指差すがよく見えない。気を付けて観察していたら、西から南に抜けてゆっくりと動きながら光る物体が確認できた。
僕「兄さんよく気付きましたね」
若「フフ」
唯「もしかしてUFO~?」
僕「いや、違う。飛行機でもない。多分…」
若「空港、で見た巨大な鳥ではない、別の鳥なのか?」
僕「はい。後で軌道を調べますけど、あれは鳥と言うよりは船ですね」
若「船?」
┅┅回想終わり┅┅
僕「兄さんが以前、ISS見つけてさ」
瑠「国際宇宙ステーション?夜だと見えるって聞くもんね。そうなんだ」
若「人を乗せた鳥や船が、空や宇宙なる場に行き交う。永禄では夢物語じゃが令和では日常であった。思い起こすだけで心が踊る」
唯「今、なんか飛んでたらウケるよね」
僕「何が飛ぶんだよ。癇癪起こしたお姉ちゃんが投げる枕くらいでしょ」
唯「なんだとー」
皆で笑う。部屋の中の源三郎さん達も。そしてしばらくすると、フッ、と静寂に包まれた。
僕「そろそろ、帰り、ます」
若「うむ」
名残惜しいのは僕らも同じだけど。実は旅立つ時に自分の中でもう一つミッションがあったんだ。いよいよ実行だ。兄さん達、喜んでくれるかな…。
僕「工具、ライト、よし」
持ち帰る物を指差し確認。手提げ袋に入れる。
僕「こんな深夜まで付き合わせてすいませんでした」
瑠「とてもいい経験になりました。ありがとうございました」
若「再び参られるのを心待ちに致す」
唯「まずは半年後ねー」
里芳「あー、あー」
トヨ「あら、機嫌が宜しくて」
里芳ちゃんが手足をバタバタさせている。
瑠「またね、里芳ちゃん」
源三郎「どうぞ、手を取ってやってください」
瑠奈が小さい手をキュッと握ると、
瑠「握りかえしてくれた」
僕「かわいいね。いつもこんな感じなんですか?」
ト「いえ、合わない御仁はいらっしゃいます」
僕「じゃあ、気に入られたんだ」
お別れの挨拶も終わった。手提げ袋を瑠奈が抱える。
唯「アンタなに女子に持たせてんの…あっ」
そして彼女をひょいと抱き上げた僕。そう!
唯「お姫様抱っこ!」
源「おぉ」
ト「まぁ」
兄さんが微笑みながら頷いている。あぁ、その表情を見られただけで、練習した甲斐有り!
僕「それでは失礼します」
瑠奈がネオ1号を抜き、僕らは消えていった。
唯「…」
若「いかがした。感慨にふけっておるのか?」
唯「尊がさ、いちいちカッコ良かった」
若「一々。…何ゆえ褒めてやらなんだ」
唯「つけあがるから」
ト「んまっ」
源「フフ…あ、いや、とんだご無礼を」
若「言動が変わってなさ過ぎ、か」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
空港の話は平成Days47no.522にて。花火大会は令和Days63no.669です。
永禄の面々は一旦ここまで。24日のお話は続きます。
[no.1150] 2024年2月29日 21:37 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道53~7月24日16時その5
フリータイムが後回しになりました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅僕「実は今後のために、二つ決めるべき儀がありまして」
若君「申してみよ」
僕「一つはどの位の日にちの間隔で繋ぐか。話すには双方同時に機械の前に居ないといけませんから、いつ動かすか、こちらの機械にもあらかじめ設定が必要なんです」
唯「動いても満月の日でしょ?毎月でいいじゃん」
僕「満月毎だと充電が追いつかないよ。そうだな、話せて…20秒?」
唯「秒!」
僕「3か月か半年が妥当。実際には3回後と6回後の満月の日だけど。期間の長さが話せる長さなんで、3か月だと最長1分で半年だと2分。でも一年空いても2分。その理由はさっき言った通りです」
若「そうか。あとは?」
僕「今日は特別仕様なんで令和とここの時間帯が違ってても通信できるようにしましたが、今後は同じ時間に起動させるんで、その点も擦り合わせしたいです」
顎に手を当て、考えている兄さん。
若「時間であるが、亥の初刻はいかがじゃ。令和で申すと…午後九時」
唯「へー。その心は?」
若「お母さんの院は戌の初刻迄じゃが延びる日もある。戌の正刻では気も急くであろう」
僕の囁き「7時と8時」
瑠奈の囁き「ありがとう」
唯「確かにねー」
若「日の空きはいかが致す」
唯「半年じゃなーい?だって1分は短過ぎるしさあ」
若「うむ。半年毎の午後九時。源三郎とトヨも良いか?その折には、今宵程遅うはないが居て貰いたいゆえ。できれば娘御も」
源三郎「はっ。心得ました」
トヨ「はい。仰せのままに」
僕「わかりました。今から設定しますね。瑠奈、悪いけど」
瑠奈「うん」
里芳ちゃんをトヨさんに返した瑠奈。ダンボール箱から封筒を取り出すと、中を確認して書類を差し出した。
瑠「令和と永禄の満月の日がわかる、暦と言いますか表を作りました。どうぞ」
若「それは忝ない」
唯「へー、日付がいっぱい。1、2…6回目が黄色くなってる」
若「次に話せる日に色がついておると。有り難く頂戴致す」
唯「え、6回目って予言してた?」
瑠「3回毎のも持ってきたんですけど、こちらに決まったので」
唯「そっか。これ、るなちゃんが作ったよね」
瑠「はい」
唯「やっぱり。月の絵とか入っててかわゆいもん。すごいね、10年分くらいありそう」
瑠「次にこちらに来るのはそんなに先ではないんですけど、パズルみたいで楽しくて、いっぱい作っちゃいました」
僕「うぇっ」
若「ほう」
唯「ん?」
若「わからぬか。瑠奈殿の存念」
唯「わからぬ」
若「先ではない、と。ないと思う、ではなく」
僕「ちょ、ちょっと、ダメだよ瑠奈、まだ3号は完成までほど遠いのに断定しちゃ」
瑠「5人以上乗れて、且つ今日みたいにすぐ行き帰りができる物を造ります」
僕「ハードル上げた!!」
瑠「尊は不可能を可能にできるもん」
僕「買いかぶり過ぎだって」
瑠「自信ないの?」
僕「自信…」
そうだ。過去の自分とオサラバしたんだ。
僕「なくない。ある。大いにある」
瑠「でしょ」
若「尊」
僕「はい」
若「よくぞ申した。武士じゃの」
もののふだって!やったー!
唯「ねーねー、実は目の前に居るのって、尊に似た別人じゃない?」
ト「また訳のわからぬ」
厳しめな口調と、里芳ちゃんの背中をトントンしてる姿の対比がトヨさんらしい。
唯「ちょいとごめんよ」
僕「ひゃあ!」
急にペタペタ体を触られてびっくり。
唯「えー」
僕「何だよ」
唯「ヒョロヒョロしてない尊は尊じゃない」
僕「どんな言い草?」
源「尊殿。鍛錬なされたのですね」
ト「とても逞しくなられて」
僕「そうですか?」
若「ようやった」
僕「へへっ」
その後はようやく全員で歓談。と言いつつ僕の近況に皆興味津々で質問攻めにあっている。大学、車の購入、アルバイト、そして日記の解読と枚挙に暇がないのは確かなんだけど。こうして考えてみると、この一年半、中身が濃い充実した生活を送れていたんだな。…時間を忘れて楽しく話し込んでいたけど、どこかで区切りをつけなければならなくて。
僕「あの。皆さん明日も早いですよね。お姉ちゃんはともかく」
唯「ともかくは余分」
源「早いは早いですが」
若「苦にはならぬ。だがいつまでも引き留めてもおけぬしの」
唯「そろそろ帰る?」
僕「そうだね」
ト「お名残惜しい」
瑠奈が何か言いたそうにしている。
僕「どうしたの」
瑠「ううん、何でもない」
僕「遠慮なんて要らないよ?」
瑠「でも」
唯「言っときなよ。後悔しないように」
若「瑠奈殿。なんなりと」
瑠「はい。あの…夜空、永禄の満月が見られたらいいな、って…」
唯「あー」
若「空、か」
僕「でも外にはフラフラ出られないよ」
瑠「だよね。ごめんなさい」
若「…」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1149] 2024年2月25日 19:22 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道52~7月24日16時その4
瑠奈ちゃん、甥っ子居るし。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅4号withおもナビくんを、運んできたダンボール箱に乗せてセッティング完了。
僕「あと一つだけ重要な事言わせてください。話せる時間は2分間です。画面右上にタイマーが出ますから、それが0になったら自動で切れますので」
唯「ほぇー。短くない?」
僕「言うと思ったけどさ」
若君「良い。手を尽くして尚、であろう?」
僕「そうです。ありがとう兄さん。では、皆さんお待たせしました。どなたかボタンを押してください」
誰も動かない。
僕「珍しい。てっきりお姉ちゃんがしゃしゃり出てくると思ってた」
唯「私は遠慮を知っている」
僕「小さい頃、路線バスの降車ボタンを降りるバス停じゃなくても押したがって、止めるのが大変で迷惑だったのに」
唯「アンタさっきから一言多いよ」
僕「はいはい。では兄さん、お願いします」
若「うむ。いつまでもお父さんお母さんを待たせてはならぬゆえ」
僕「それは心配ご無用で、全然待ってないんですよ。いつこちらで押されても、僕達が飛んだ30秒後に繋がる設定なんで」
若「そうか。よう考えられておるのう」
源三郎「最早何が何やら…おっ」
トヨ「起きたわね」
唯「グッドタイミング。なんていい子なの~」
若君がスイッチをONにした。そして…
美香子『もしもし?』
覚『何か見えてきたぞ?』
唯「すごい!映った映った!」
よっしゃ!
唯「お父さーん、お母さーん、久しぶり~!」
若「久方振りでございます」
覚『おー、唯!忠清くん!』
美『元気そうね~』
若「はい。お父さんお母さんもお変わりなく」
源三郎さんとトヨさん。二人とも会釈はしているが、言葉が出ない様子。
僕「大丈夫ですか。時間はあっという間ですよ」
源「感無量でございまして」
ト「胸が一杯です」
美『ちょっとちょっと源三郎くん!抱えてるのはもしかして』
里芳ちゃんの顔がよく見えるように、体を傾けた源三郎さん。
源「お父さんお母さんに披露出来るなど最上の喜びにございます。長女、里芳と申します」
覚『そうかそうか…うんうん、良かったな』
源三郎&トヨ「はい」
美『りほうちゃん、なんて可愛らしいの!涼しげな目元が親譲りね~』
画面越しに里芳ちゃんをあやそうとしてる両親に、源三郎さんトヨさんも笑顔になった。…あ。そういえばお姉ちゃん達にはまだ…なんだよね?聞いてもいないし僕が振るような話題でもないし。実は来る前に両親も、もしまだだったとしてもあえて聞かずにおくって言ってたんだ。催促されるのは辛いだろうからってね。
唯「あのさ、私、言いたいコトがある」
何?その声に、サッと下がった源三郎さん達。身を乗り出す姉。兄さんも少し前に出た。
覚『何だ唯』
美『どうしたの』
唯「たぶん、なんだけど…お腹に赤ちゃんが来てくれた気がするの。やっと」
美『そうなの?!』
唯「なんとなくだけど…」
美『今までとは違う感じ?』
唯「うん。まだわかんないけど、せっかく今日しゃべれるから、伝えとこうって思って」
覚『そうか。うん、また、教えてくれ』
兄さんがコクリと頷いている。そうなんだ…イカン、感慨に浸ってる場合じゃない。もう残り10秒!
僕「全員見えてる?」
覚『見えてるぞ。よく見える』
美『今日は遅い時間にありがとう。また会いましょうね』
唯「バイバーイ!はい、みんな手振って!」
僕も瑠奈も手を振る中、最後兄さんが深く一礼して、通信はプツッと切れた。
僕「お疲れ様でした」
安堵の空気が流れる中、
唯「あー!言い忘れた!」
僕「びっくりした!何…さっきの話?」
唯「ううん、里芳ちゃんの誕生日の話。時間なかったからー」
僕「仕方ないんだよ。話せる時間は、今後も長くて2分間なんだ」
若「以後は短うなると」
唯「そーなの!次はどのくらいしゃべれる?」
僕「充電状況によりけり。今日は4号フル充電してあるけど、今後はここで太陽電池使って充電してもらわないといけないから」
唯「どうして2分なのよ。今まで、なんでも3分だったのに」
僕「長く繋げとくのも考え物でさ。人が動く訳じゃないけど、安全に使えるのも2分までなんだよ。だから堪忍して」
唯「ふーん」
若「あいわかった」
ト「尊様。里芳の話はわたくしからさせていただきます」
僕「そうですね。それが正解」
ト「ですがその前に。源ちゃん、瑠奈様に里芳を抱いていただいたら?」
源「そうだな。是非お願いします」
瑠奈「え、いいんですか?わぁ、嬉しい!」
ト「先程からずっとあやしてくださって」
確かに。僕が説明してる間、兄さんの肩越しにその様子は見えていた。抱っこ紐を外した源三郎さん。里芳ちゃんは瑠奈の胸元に。
瑠「かわいい…」
瑠奈の未来の姿みたい?僕との…なーんて!
唯「私が抱っこした時よりもるなちゃん上手だな。里芳ちゃんも気持ちよさそう。これは…もしやバストの大きさの違い?!大丈夫か私!」
ト「言えなくもないですが」
唯「ガーン!」
ト「些細な事。心配なさらずとも、唯様は良き母親になられます」
唯「そお?」
若「トヨの申す通りじゃ。案ずるな」
唯「はぁい」
ト「では尊様。尊様?」
妄想で顔がだらーんとニヤケていた僕。お恥ずかしい所をお見せしました。
僕「はい、すみません。どうぞ」
ト「里芳は、昨年十一月二十二日に生まれております」
僕「あれ?その日って」
ト「そうです。わたくし共が令和に伺い、帰って参った日の丁度一年後でした」
僕「なんか、縁ですね」
ト「はい」
源「まことに」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1148] 2024年2月21日 23:17 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道51~7月24日16時その3
一針一針丁寧に仕上げてありそう。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅泣き声?が近付いてきていた。
瑠奈「赤ちゃんが居るのかな」
僕「…って事、は!」
思わず手を止め顔を上げた。兄さんが障子を開け、ササッと客人を招き入れる。現れたのは、源三郎さん、トヨさん、そしてグズっている赤ちゃん!
源三郎「やはり尊殿でしたか」
トヨ「まぁ!瑠奈様も共に」
僕「お久しぶりです。お元気そうで。源三郎さん、よくお似合いです。戦国時代では絶対見ないであろういでたちだけど」
源「両手が空きつつも子の顔が見られ、気に入っております」
僕「もしかして、お手製?」
ト「はい。わたくしが拵えました」
トヨさんは身軽な状態。赤ちゃんは源三郎さんが…なんだけど、なんと抱っこ紐を使ってるんだ!袴姿との取り合わせが斬新!
源「三人で馬に乗るとなれば、この形が最良でしたので」
ト「令和に居ります頃によう見かけ、使い勝手が良さそうと常々思うておりましたので、見よう見まねで作りました。普段はわたくしが使っておりますが」
僕「さすがトヨさん、何でも吸収してる」
赤ちゃんは眠ったようだ。
若君「源三郎。子の名と、その由来も語るが良い」
源「はっ」
僕「聞きたい!お願いします」
源「尊殿瑠奈殿にお目にかかれ、光栄にございます。赤井家長女、りほう、と申します」
僕「りほう。どんな字を書くんですか?」
源三郎さんとトヨさんが顔を見合わせた。
ト「それは、わたくしからお話し致します」
僕「はい」
ト「令和では、勿論、速川のお父さんとお母さんにも大変お世話になりましたが、エリさん芳江さんのお二方にもとても良くしていただきまして」
僕「令和の母達ですね」
ト「はい。朝のコーヒータイムにお会いできるのが楽しみで。そこで、いつか子を成し、おなごであったならば、お二方の名から是非拝借したいと望んでおりました」
僕「あー、だから一文字ずつ?…あれ、違う。エリさん名前カタカナだ」
ト「黒羽の里は住み心地もようございました。ですのでエリさんのリは里を当てさせていただき、芳江さんの芳をいただいて」
僕「里芳、なんですね。素敵な名前!二人とも絶対喜ぶと思う!今日は話せませんけど、次回は参加してもらえるといいなと思います。じゃあごめんなさい、作業続けますね」
唯「はいはい」
源「話す?」
ト「参加?」
若「子細は聞いてはおらぬのじゃ」
夜の作業だから手元がどうしても暗くなり、シミュレーション程はかどらず、慎重を期している。
源「これはまた手捌きも細やかな」
若「うむ」
傍で見ていた兄さんも興味がありそうな源三郎さんもそんな状況を察し、少し離れてくれていた。時間かかって申し訳ないな。来てすぐトラブっちゃったのもあり、よもやま話でさえ全然できてないし。でも集中!頑張れ尊!
唯の囁き「言っといた方がいいと思う?」
若君の囁き「はっきりとわかってはおらぬが」
唯 囁き「でも直接話せるならさ」
若 囁き「そうじゃな…」
よし、通信状態もOK!
僕「お待たせしました」
その声に、四人がわらわらと集まってきた。
僕「では仕組みを説明します」
唯「えー、いらなーい」
僕「は?」
唯「今から何が始まるかだけ教えてよ」
僕「それでいいの?」
唯「どうせ難しい用語とかばっかだもん」
僕「どうせって何だよ」
唯「言われてもわかんないしー」
僕「それ、わからないのはお姉ちゃんだけじゃないの?他の皆さんは理解できると思う。賢いから」
唯「言ったな?」
僕「なんつーか言動がさ、変わってなさ過ぎなんだよな。少しは成長したらどうなの?」
唯「あーうるさいうるさい」
僕「兄さん、どう思います?…兄さん?」
若「ん?あぁ」
唯「たーくんなに笑ってんのよ」
若「ハハ、二人の話しぶり、懐かしいと思うての」
周りを見ると、源三郎さんもトヨさんも瑠奈さえも、微笑ましいな~と言いたげな表情をしていた。
僕「速川劇場でしたか。失礼しました」
若「尊。この4号、は仕組みがわからぬと扱えぬか?」
僕「いえ、それは大丈夫です」
若「ならば、何が起こるかのみで良い」
僕「わかりました。今、令和では両親がパソコンの前で待ち構えています。このボタンを押すと通信…繋がって、画面に画像が出ます。向こうにも、こちらの様子が映し出されるんです。同時にです」
若「姿が見られるだけでのうて、お父さんお母さんと話が出来ると」
僕「はい。目の前に居るかのようにです」
源三郎さんとトヨさんがしきりに頷いている。
唯「びっくりじゃなーい?どう、源三郎」
源「尊殿には感心しきりでございます」
唯「トヨは?」
ト「そこまでは驚きません」
唯「へぇ」
ト「尊様に出来ぬ事などございませんので」
僕「いや、それは褒め過…」
瑠「ですよね、トヨさん!私も同感です!」
僕「突如参入してるし」
ようやく緊張がほぐれたんだ。一安心。
ト「瑠奈様も間近でご覧になり、そうお感じになられているのですね」
瑠「はい。尊は天才ですから」
唯「なんか女子二人で盛り上がってる」
若「フフ。瑠奈殿が笑うてくれて何よりじゃ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1147] 2024年2月17日 19:23 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道50~7月24日16時その2
今回のタッパーは密閉度がかなり高い。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅若君「ところで小平太。丁度良い」
小平太「はっ?」
若「赤井の屋敷に使いを出せ」
これぞ渡りに船!災い転じて福となす。
小「急ぎ、でございますか?」
若「左様。そしてこう伝えよ。明晩は満月、とな」
小「口伝えのみ…?は、はっ。直ちに」
かなり困惑してるのが声色でわかる。小平太さんの足音が消えてもしばらく伏せたままで待っていると、布団がめくられた。
僕「明るくなってる」
燭台が灯っていた。ここでようやく僕達は立ち上がった。
僕「改めまして。二人で参りました」
瑠奈「こんばんは…あの、叫んでしまってすみませんでした」
若「いや、怖がらせてしもうたのはわしの落ち度じゃ。済まなんだの」
唯「まっ、なんとか済んだし」
僕「兄さんもお姉ちゃんもありがとう」
姉がじーっと僕の頭を見ている。
唯「あんた、パーマかけてんの?」
僕「前髪だけね」
唯「校則違反!」
僕「いつまで高校生やらせる気だよ」
唯「あ、そっか。あとなーんか違うような」
若「眼鏡ではなかろうか」
唯「ホントだ。じゃあさ!実はもう25歳とかになってたりすんの?」
僕「どんな理屈でそうなる。なってないよ。僕達は令和3年7月24日から来た。そして今日は永禄六年七月五日でしょ?」
若「互いに一年と半年近く経っておると」
僕「はい。同じだけ時間が進んでます」
若「そうか。時空の歪みとやらは?」
僕「以前程心配しなくても大丈夫です」
置いてある木刀が気になって仕方がない。チラチラ見ていたら、兄さんが気付いて持たせてくれた。
僕「何か光ると思ったら。これ、銀紙?」
唯「前に折り紙いっぱい持ってったじゃない。でさ、金紙と銀紙は鶴折るだけだとなーんかつまんなくって。で、ペタペタっと」
僕「貼ったの?…兄さん、いいんですか」
若「気付いた折には既にこの姿」
僕「ゲ」
唯「本物っぽくなーい?」
僕「子供じゃあるまいし…」
唯「金紙は何に使おっかなー」
こんなズレた会話も懐かしいけど、あい変わらず過ぎてかえってどうかと思う。
僕「お二人、暗号みたいな呼び出しに気付いてくれますかね」
唯「大丈夫じゃなーい?」
若「尊は夜更けに参ると知っておるしの」
僕「確かに」
若「しばし待たれよ。今宵も、日を跨いだら直ちに戻るのか?」
僕「先の世は本日土曜日でして。だから前に来た時ほど、急いで帰らなくて大丈夫です」
若「明日は日曜か。良きタイミング、じゃ」
僕「あはは。はい」
唯「ねぇ、このデカいダンボール、なに入ってんのー?」
僕「ちょっと待って。見せる前に、今日来た理由を説明させて欲しいんだけど」
唯「えー、気になるー」
若「申せ」
僕「はい。まず大前提の質問から。おもナビくんって、まだちゃんと動いてます?」
若「しばしば、使っておるぞ」
唯「マメに充電してるし」
僕「良かった。すぐ出せる所にあるかな」
唯「うん。定期点検のサービス?」
棚の扉が開いた。幸いな事にGは飛び出ず、おもナビくんが登場。持参したライトを瑠奈に当ててもらい、簡単に動作確認。
僕「よし、問題なし。兄さん」
若「ん?」
僕「約束した五人乗りのタイムマシンではないけれど、一つ完成したので運んできました。通称4号です」
若「ほう…」
僕「この元々あるおもナビくんに接続して、永禄と令和を繋ぎます」
若「繋ぐ、とは如何に」
僕「通話します。画像を見ながら話ができるんです」
唯「マジでぇ?!」
若「まことか」
僕「約束した方…3号って呼んでますが、そっちはまだ出来てなくて。許してください」
若「何を申す。許すも許さぬもない」
僕「3号も平行して考えてはいたんですが、4号を優先したので」
若「尊の意のままで良い」
僕「すみません。約束した手前、兄さんには直接謝りたいと思ってたんです」
若「気に病まんで良い。これからも無理はせぬよう」
僕「ありがとう。では、4号を今から組み立てます」
若「うむ」
ダンボール箱から土産を出しつつ、機械や工具を準備。さぁ、やるぞ。
唯「あ、はさみ揚げ!やっぱりあったんだ。全然匂わないからわかんなかった」
若「赤井の家とで二包みか」
唯「アツアツだよ!食べたーい!…フタが開かないよぅ」
若「タッパー、がまだ食すでないと申しておるのであろう」
唯「申してない!たーくんだって食べたいでしょっ。ねぇ、開けてぇ」
若「どれ。ほれ」
唯「やったー。うわ、一気に揚げ物臭」
二人を横目に、黙々と作業を進める僕達。
若「実に手際が良いの」
僕「練習してきたんで」
若「瑠奈殿も共にか」
瑠「はい」
唯「あ!シャンプーが入ってる!しかもポンプ式!在庫もうなくってさ~助かるぅ。見て見てたーくん!」
若「ん」
唯「って見てないし」
兄さんは僕達の手元に釘付けになっている。
唯「こういうトコ、男子だよねぇ」
外が何やら騒がしい。
若「連れて参ったようじゃな」
唯「だろうとは思った」
僕「?」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
シャンプー。商品名はBiloral、天然アミノ酸系美容液配合、ふんわりフルーティーなフローラルの香り。
続きます。
[no.1146] 2024年2月13日 21:11 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道49~7月24日16時(永禄六年七月五日子の初刻)
カマアイナ様。いつもご声援ありがとうございます。
お話がスタートして半年。ようやくここまで辿り着きました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅格好のエサ場と化していたとは。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅ここは永禄、お姉ちゃんの居室で夫婦が眠っている。すると、建具がカタカタ言い出した。
若君「…ん?」
目覚める兄さん。続いて屋敷がガタガタと揺れ出した。
若「これは。満月…は明日。尊か!唯、起きよ、唯!」
唯「すー。くか~」
若「びくともせぬ」
思ったより揺れが長く大きい。
若「これは危なかろう」
急いで立ち上がり、燭台のロウソクの火を消した兄さん。すると暗闇の中、部屋の隅に何やら黒っぽくて大きな塊が見えてきた。
若「高さがない。尊に非ずと?」
用心のために置いてあった木刀を手にした。この木刀、なぜか変な加工がしてあり、それがこの後の騒動の元にもなるんだけど…。身構える兄さんの前に、僕と瑠奈が現れた。
若「おぉ、屈んでおったのか」
僕「うわ、暗っ」
瑠奈「…」
実験室自体あまり光が入らない造りだけど、それでも日が高い時間から飛んできたから、目が慣れてこない。
若「尊。瑠奈殿も。よう、参られた」
僕「兄さん!」
僅かな月明かりのみでほぼ真っ暗な居室。目の前の兄さんの着物は真っ白。そして手には木刀…なんだけど、少し光っているように見える。
僕「無事着いて良かったね、瑠奈。…瑠奈?」
その様子に、真っ先に気遣ってあげなければならなかったと後悔した。声も出ない程怯えていたんだ。
僕「大丈夫、大丈夫だよ瑠奈」
若「瑠奈殿。いかがした?」
兄さんが一歩こちらに踏み出した。すると、
瑠「キャアアアアァ!!」
唯「ひゃあ!」
大声で叫んでしまったのだ!その声に、寝ていた姉もさすがに飛び起きた。わわわ、どうしよう!警固の人が来ちゃう!
唯「真夜中になに…え、誰?うーわ、尊じゃん!来たんだ!と、えっとぉ」
若「瑠奈殿じゃ」
唯「そーそー、るなちゃん。どしたの?騒いでなかった?何が起きた?」
暗闇で白装束の人が刀持って近付いてきたら、そりゃ普通に怖いよ。そんな事も予測できないなんて、僕はなんてたわけ者なんだ!
若「済まぬ。ひどく怯えさせてしもうた」
兄さんは木刀を置き少し下がったのだが、瑠奈は僕の腕にしがみついたまま震えている。
僕「周りに聞こえてますよね?」
若「うむ…」
瑠「ごめんなさい、ごめんなさい…」
不可抗力だから仕方ないけど、マズい状況をすぐに察し、瑠奈は泣きそうな顔をしている。
唯「今日って見回り当番誰?」
若「小平太じゃ」
唯「ケッ、めんどくさい方。源三郎なら良かったのに!」
若「尊」
僕「はい」
若「伏せよ」
僕「はいっ!」
ダンボール箱がデカくて正解だった。瑠奈の肩を抱き、陰に隠れるようにその場で顔が床につく程伏せる。するとすぐに、掛け布団がバサッと上から被せられた。
若「音を立てぬ様」
瑠奈をしっかり抱えながら、心の中でコクコクと頷いた。すると、外に人が来た気配が。
小平太「若君様」
若「小平太か」
小「ひどく揺れておりましたが、ご無事でございますか」
若「あぁ。何ほどでもない」
小「灯が消えておるようですが」
若「己で消したゆえ」
小「賢明でございます。甲高い叫び声も聞こえておりましたが」
ひー!障子越しに話してるみたいだけど、存在を悟られて二人に迷惑がかからないように、できるだけ気配を消していた。
唯「あー、それ私。ごめんごめん」
お姉ちゃん!上手くいくかな…
小「唯之…奥方様が?」
唯「なによ。疑ってんの?」
小「聞き慣れぬ声でしたので。おなごの」
容赦ないな。普段からこんな関係性なんだろうけど、結局のところ、奥方様に相当手を焼いてるからに違いない。
唯「言ったな!私だってかわいい声出るよ!きゃあ~きゃあ~、ほらね」
若「ハハッ」
小「何事が起きそのような」
唯「へ?んっと…そう、そう!アレが出たんだよ、アレが!」
小「あれとは」
唯「Gだよ!G!」
小「はあ?」
若「じい?」
唯「んもう、名前言いたくないからGって言ってんのに!」
若「信茂…」
小「子細がわかりませぬが」
唯「だから!ゴキブリだって!もー!」
それさ、この時代には呼び名違うんじゃない?
若「あれか」
あ、通じた。さすが現代語とのバイリンガル!
若「小平太よ」
小「はっ」
若「芥虫が出よったのじゃ」
小「芥虫、ですか」
唯「ごみむし?」
小「前にも此処で出たと聞いておりますが。女中達が騒いでおりました。棚の中から飛び出てきたと」
若「そうなのか?唯」
唯「お菓子食べた後の袋、つっこんどいたからかなー」
前回持ち帰った駄菓子の?!雑だろ!女中さんが気の毒過ぎる。
小「世話をする者が手を煩わせずに済む様、お頼み申します。奥方様」
唯「はいはい」
イヤミも言いたくなるよね。激しく同意しますよ小平太さん。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1144] 2024年2月9日 19:30 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道48~7月24日土曜10時
両親の計画的犯行。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅本日、永禄へ行く。黒羽駅まで瑠奈を迎えに来た。車を停めて待っているが、夏休み入ってすぐの土曜だからか、子供の姿が目立つな…あ、来た来た。キャリーケースをガラガラ引きながら登場。
瑠奈「おはよぉ、尊」
僕「おはよう。大荷物だね」
瑠「旅行っぽくしたの。中はスカスカだよ」
僕「そっか」
あー。このまま二人でリゾート地に連泊なんかできたらなぁ。…イカンイカン、真夏の眩しい日差しが僕を惑わせる。
瑠「みつきにね、私の家の分もお土産頼んでおいたの」
僕「ここに行ってきたよ、って親に渡すため用の?」
瑠「うん。明日の夕方5時に小垣駅で受け取る約束した」
僕「了解。その時間に合わせて車で送るね」
父は今日もゴキゲンだ。
覚「おー瑠奈ちゃん!よく来たね!冷たい麦茶飲むか?それともアイスクリームにするか?」
僕「テンション高っ」
瑠「ふふっ。麦茶をいただけますか」
覚「よしよし、今出すよ。一服してからでいいが、二階の尊の部屋の隣に予備室があるんだ。そこに布団用意したから。大きい荷物はそちらに置いときな」
瑠「ありがとうございます」
母の仕事終わりに合わせて、昼ごはんは1時近くになった。
美香子「エリさんと芳江さん、録画楽しみにしてますって」
永禄からの画像と音声、こちらの音声といったやり取りの一部始終は、そのままパソコンに自動録画されるようシステムを構築済み。
僕「できれば今日見届けて欲しかったけど、何時に飛ぶか未定だから、お二人をその時間まで付き合わせられないもんね」
美「それもだけど、機会はいくらでもあるんでしょ?いつかはご一緒したいですって」
そう!これからも通話はできる予定なんだ。詳しくは、向こうに着いてから説明します。
美「お父さん、用意した服もう見せた?」
覚「まだだ。ご飯済んだらお披露目する」
僕「服?」
食後。片付いた食卓にデパートの紙袋が登場。中から出てきたのは…
僕「着物?でも上下に分かれてる」
瑠「これ、作務衣ですか?」
覚「当たり。今日行く時に着て貰おうと思ってな。二人にプレゼントだ」
僕「そうなの!」
瑠「いいんですか?」
美「戦国時代でも違和感なく、作業がしやすくてしかもペアルックがいいわね、って私達なりに考えてみたの。どうかしら」
瑠「藍色がとても素敵です。ありがとうございます!」
僕「闇に紛れていい感じかも。ありがとう」
昼を挟んで、設置のシミュレーションも何回か行い着々と準備中…なんだけど。
僕「はぁ~、やられた」
作業に使う工具や手元を照らすライトなど向こうで必要な荷物。とりあえずダンボール箱にまとめて入れておいたのだが、
僕「気持ちはわかるけどさー、無尽蔵には運べないよ?」
美「これでも吟味したのよ」
僕「そうは思えませんが」
その中に、両親が手土産らしき品を山盛りに詰めこんでいた。
覚「こんな機会中々ないしな」
僕「アーモンドチョコは外せないけどさ、大根アメ…これ傷んだりしない?冷蔵庫なんてないよ?」
美「すぐに食べてもらいなさい」
僕「大根アメってそんな用途だった?うわ、重いと思ったらカイロが大量!」
覚「次の冬に備えてな」
瑠「この時期に冬の生活まで気にかけていらっしゃるんだ」
覚「これにはさみ揚げもプラスだからな。リュックで運ぼうとせず、箱使って持ってけばいい」
僕「えぇ?持ちにくそう…」
美「無理して持ち上げようとせずに、しゃがんで行けばいいじゃない」
僕「はいはい。そうさせていただきます」
出発は4時頃と決めた。3時30分になったので二階に着替えに行ったのだが、瑠奈が返事はすれど予備室からなかなか出てこない。まぁ急がないし、と部屋の前で待っていたら、
瑠「ごめんねー、遅くなって」
僕「構わないよ。時間厳守じゃないし」
瑠「写真いっぱい飾ってあるじゃない。着替えながらつい見入っちゃって」
予備室に置かれたテーブルには、四人との想い出の写真がところ狭しと並べてある。
瑠「お会いできるのを楽しみにしてます、って挨拶しておいたよ」
僕「はは、ありがとう」
二人でリビングに下りると、両親が揚げたてのはさみ揚げをタッパーに詰めていたのだが、
僕「デカくない?タッパー。しかも二つ」
美「サービスよ」
覚「二家族分だしな」
瑠奈がクスクス笑っている。
僕「どした?」
瑠「持ってく箱のサイズが大きくなってる」
僕「ホントだ!いつの間に!」
美「はみ出てたから、収まる大きさの箱に換えておいたの」
僕「はみ出るように入れたからでしょ?」
覚「でな、これこのまま向こうに置いてけ。紙製で軽いし使いようもあるだろ。工具とか持ち帰る荷物用には手提げ袋用意したから」
僕「最初からそのつもりだったな?」
瑠「あはは」
あと10分。まだ日差しはサンサンと降り注いでいる。4人で実験室に入った。両親にパソコンの操作方法を再確認してもらう。
美「音量はこれね」
僕「ちょっと遅れて聞こえると思うから、あまり先走ってしゃべんないでね」
覚「了解」
準備完了。
僕「それでは」
瑠「行って参ります」
覚「気を付けてな」
美「3分後に無事帰るのを待ってるわ」
僕「その前に向こうから通話するから」
瑠奈としっかり腕を組んでしゃがみ、足元に置いたダンボール箱を掴む。そして、ネオ1号を引き抜いた。
僕「行ってきます」
二人、出発した。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回、お待たせしました!永禄の若君からスタートします。
[no.1143] 2024年2月5日 22:30 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道47~6月6日16時
ちなみに8月の満月は、22日の日曜です。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅覚「続きは口を潤してからな」
瑠奈「ありがとうございます」
二杯目のレモネードが出された。
瑠「今電話したみつきって子に、あるお願いをされてたんです」
僕「ミッキーさんの説明はしたよ」
瑠「ありがとう。彼と泊まりで旅行に行くの、親には内緒なんだ。だから、私と行くって話にしといていい?って内容で」
美香子「アリバイ工作ね」
覚「あるある話だな。ははは」
瑠「その時は、当日特に予定もなかったので、はいはいと聞き流してたんです」
僕「で、今日僕の話を聞いて」
瑠「あれ、確か?って思って。ごめんなさい、日付が曖昧でメモもしてなかったので、急いで確認しました」
僕「へぇ。それがどうかしたの?」
するとすかさず、隣の母に肘で小突かれた。
僕「痛い、何!」
美「ちょっと、気づきなさいよ!」
僕「へ?」
覚「尊もまだまだだな」
瑠奈が恥ずかしそうにしている。ん?
覚「考えてみろ。瑠奈ちゃんはみつきちゃんと旅行に行く体だろ。それをそのまま親御さんに伝えればだ」
瑠「その日は家に帰らなくてもいいの、だから一晩一緒に居たいって言ってるのよ?もう、こういう所は鈍感なんだから!」
僕「ほえ?!」
美「私も来月に一票。二人が発つ時は必ず見送りたいって思ってたのよね。でも私の仕事終わりを遅くまで待っててもらうのも悪いなとも思ってて。土曜日なら昼には仕事が終わるから、夕方に出発でもイケそうだから。どう?」
覚「その考え方だと日曜でもいいが、土曜の方がベターだよな。翌日も休みだから少しは気が楽だろ」
瑠「そうですね」
覚「帰る時間を気にしながらよりは、余裕を持って動いた方がいいに決まってる。当日は、ウチに泊まればいいんじゃないか?」
瑠「はい。ありがとうございます」
僕「うぇっ」
美「賛成!それに満月の日と言えば!」
覚「はさみ揚げだな。ドーンと振る舞っちゃうぞ~」
瑠「わぁ、またいただけるんですね、楽しみです!」
僕「ちょ、ちょっと待ってよ」
美「何」
僕「なんで泊まる予定で進んでんの」
美「何か都合悪い?」
覚「晩飯だって一度は共にしたかったしな」
僕「色々とオープン過ぎる。親に嘘ついて彼氏の家に泊まれなんてすげぇ話してるし」
美「寝る部屋は分けるわよ」
僕「だろうけど。それに最重要課題はそっちのけな気が」
覚「だったら聞くが、実際どうなんだ?向こうの様子は。忠清くんの日記、チェックしてるんだろ?」
兄さんの日記はかなり解読が進んでいる。満月の前日分に到達する度、永禄は平穏かどうかは確認していた。
僕「それは、7月でも大丈夫」
覚「なら」
美「決まりね」
僕「瑠奈、ホントにいい?やたら親だけはしゃいでるけど」
瑠「うん。よくわかったし」
僕「何が?」
瑠「速川のおウチでは、タイムマシンが日常生活に溶けこんでる。ホントに息子を信じて安心してるんだってわかった」
僕「調子がいいだけじゃ…」
美「何よ」
覚「なんだ、来月では自信がないのか?」
僕「なくない。ある。大いにある」
瑠「カッコいい」
僕「へへっ…あっ、もうこんな時間」
覚「おー、5時回ったか」
美「瑠奈ちゃん、あと何かある?」
瑠「えっと。でしたら、もう一度実験室が見たいです」
僕「わかった。じゃあ行こう」
リビングを後にした僕と瑠奈。
覚「ふう」
美「はぁ。これで少しは不安を感じずにいてもらえるかしら」
覚「あとは尊がフォローするさ」
再びの実験室。ぐるりと見渡している瑠奈。
瑠「詳しく聞いてからだと、見方が変わるよ」
僕「だろうね」
瑠「あのね。思ったんだけど、尊っていつも一緒に出かける時、私の希望ばかり聞いてくれるじゃない」
僕「それは当然でしょ」
瑠「まさか、初めて誘われた先が戦国時代とはね」
僕「すみません」
瑠「謝らないの。タイムマシンで移動なんて、尊にしかできない芸当だもん」
僕「しかも行くだけでなく役割分担ありだし」
瑠「そんなコト気にしない。ねぇ、この椅子で作業してるの?」
僕「うん」
瑠「いつもどうしてるか見たい。座ってみてくれる?」
僕「わかりました」
腰かけた僕。すると、瑠奈の腕が首元にスゥっと伸びてきて、背中から優しく抱きしめられた。
僕「…」
瑠「すごーく頑張ったんだね。お姉さんやご両親のために」
僕「元々は僕がまいた種でもあるし」
瑠「ちゃんと花が咲いてるからいいんだよ。お疲れ様。そして来月よろしくね」
僕「うん。任せて」
瑠「ますます尊敬しちゃう!」
僕「照れるよ」
瑠「たけるん、大好きー!」
僕「はは…んぐっ」
そこ、首、首!
僕「苦しいっ」
瑠「あ、ごめぇん、つい」
僕「ふう。怪力なんだから」
瑠「違うもん!ホントの怪力は、こう」
僕「え。痛たたた!」
こうしてじゃれあいながらも、その日に向け、僕は身が引き締まる思いだった。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回、出発。飛ぶ瞬間までお送りします。
[no.1142] 2024年2月1日 19:38 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道46~6月6日15時
姉に遅れること4年。とうとうあのセリフを放ちます。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅両親がそわそわしている。僕は、意を決して口を開いた。
僕「できるだけ早い満月の日に、ネオ1号で永禄に飛んで設置したい。そして、その時は瑠奈と一緒に行きたいと思ってた」
瑠奈「…」
僕「希望を述べたまで、です」
瑠「ねぇ」
僕「はい?」
瑠「私、邪魔にならない?」
僕「ううん。むしろ居て欲しいんだ。向こうの機械に細工が要るからその手伝いをお願いできれば。逆に物見遊山は無理だよ。深夜に到着するのもあるし」
瑠「ふぅん」
僕「そんなで良ければなんだけど…」
固唾を呑んで見守る僕と両親。するとすぐに、
瑠「わかりました。一緒に行きます」
僕「え。いい、の?」
瑠「何をするのか、また教えてね」
僕「は、はい、勿論。ありがとう!嬉しいよ。本当にありがとう」
安堵する僕。しかし、ここでなぜか両親が…
美香子「え、え?瑠奈ちゃん、もっとよく考えた方が良くないかしら」
覚「即答しなくてもゆっくりでいいんだぞ」
僕「えぇっ、この期に及んで何…」
意外な展開に焦る僕。すると瑠奈は、両親の方に体をくるりと向けて話し始めた。
瑠「おじさま、おばさま。何を心配なさってみえるんですか?」
覚「あ、あぁ。尊に瑠奈ちゃんを連れて行きたいと打ち明けられた後、少し悩んだんだよ」
美「よそ様の大切な娘さんをね、尊や私達の勝手な言い分で巻き込んでいいのかしらって。もし飛んだ後、何かあったら取り返しがつかないもの」
瑠「そうですか。…お言葉ですが」
何!両親と僕、思わず背筋がピンと伸びる。
瑠「尊くん自身への心配はされてませんよね。過去の実績もありますから信頼なさっていて、息子は安全に飛ぶと確信している。なら同伴する私も当然、安全じゃないですか?」
覚「まあ、確かにその通りなんだけれど」
美「はい行ってらっしゃい、と軽々しく送り出すのもどうか、とふと思っちゃったのよ」
瑠「気にかけてくださって、ありがとうございます」
そう言うと、ニコッと微笑んだ。
瑠「私も、尊敬する尊くんを心から信頼してます。だから、迷いなんて全くありませんから」
覚「そうか。なんか、清々しいな」
美「まるで愛の告白ね。尊~、ちゃんと聞いてた?」
僕「うん…」
凛とした彼女の言葉。心が震えた。僕こそ、迷っていてはいけないんだ。その気持ちに応えなければ!
僕「…瑠奈」
瑠「はい」
僕「確実に、安全に行き来しますから、僕に全て任せてください」
瑠「うん」
僕「そして、何が起きても必ず」
瑠「必ず?」
僕「必ず守りますから」
瑠「…」
両親は、大きく頷いていた。
瑠「嬉しい。ありがとう。私こそよろしくね」
もう、自信がないなんて言ってた過去の自分にオサラバする。命運を握るのは僕。全幅の信頼を寄せてくれる瑠奈を…守るのは僕だから。
覚「もう3時か。よし」
美「冷えたレモネード出すわね」
僕「レモネード。珍しくない?」
美「もお~、一足、早い夏。よ」
僕「なんか歌ってるし」
覚「じゃあすぐ用意するから」
場を和ませてくれたのかな。そして出されたレモネード。
覚「お手製だから、お好みに合うかどうか」
僕「ちょっと酸味強めじゃない?」
瑠「私はちょうどいいです」
美「良かった」
瑠奈が窓の外の実験室を眺めている。
瑠「それで。いつ行くのかな」
僕「今月だと、満月は25日の金曜日なんだけどさ」
瑠「うん?」
僕「さっき、できるだけ早い日にとは言ったけど、もっとプログラムの調整を万全にしたい。それに瑠奈も今日話聞いたばかりじゃない。もう少し理解を深めてもらってからの方がいい気がするんだよ」
美「同感」
覚「だな。長くしゃべってはいたけど、あれでもかなりのダイジェスト版なんだよ」
瑠「そうなんですね」
美「じゃあ、来月?」
僕「それか再来月かな、って」
覚「ふむ。他に懸念してる事はあるか?」
僕「できれば当日も時間に余裕が欲しい。向こうでスムーズに設置できるように、段取りを直前まで確認したいんだ」
瑠「来月…あれっ」
僕「どうかした?」
瑠「7月だといつになるのかな」
覚「そこのカレンダー見てみな」
美「満月の日にシール貼ってあるわよ」
席を立ち、カレンダーを見に行く瑠奈。
瑠「やっぱり。24日、土曜日!」
僕「何かあるの?」
瑠「ちょっとごめんなさい」
僕「うん?」
席に戻り、バッグからスマホを取り出した。頻りに画面をスクロールしているが、
瑠「出てこない…聞いただけだったかな。あの、すみません。今から友達に電話したいんですけどいいですか?」
覚「構わないよ」
美「どうぞ」
瑠「ありがとうございます」
僕「友達?」
瑠「みつきに…あ、もしもし、みつき?今しゃべっててもいい?…デート中?ごめん、すぐ終わるから」
よくわからないけど、今知りたい内容なんだろうな。通話の邪魔にならないよう小声で話す。
僕の囁き「例の、赤井家の子孫が彼氏さんの子だよ。一緒にプールに行った」
覚の囁き「あー」
美香子の囁き「はいはい」
瑠「頼まれてたアレって、来月のいつだっけ。24日だった?…やっぱり?!わかった、ありがと。うん、ごめんその確認だけ…え?そんなの言わなくてもわかるでしょ?ふふっ。うん、じゃあねー」
僕「何か頼まれてたんだ?」
瑠「うん、ちょっとね。バタバタしてごめんなさい。一つ提案と言うか、聞いていただけますか?」
覚&美香子「はい」
僕「何なりと」
瑠「来月でしたら、私、時間がたっぷり取れるんです」
覚「ほぉ」
美「まぁ」
僕「そうなの?」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1141] 2024年1月28日 20:20 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道45~6月6日13時
どうか同意してくれますように。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅沈黙が続いた。
僕「嘘でも絵空事でもないよ」
瑠奈「…」
ここで、両親が口を開いた。
美香子「尊、実験室見せてあげなさい」
僕「あ…そうだね」
覚「瑠奈ちゃん」
瑠「は、はい」
覚「この前、僕が尊に用事を頼んだってのは嘘だったんだ。ごめんな。あの時はそうするしかなくて」
瑠「そ、うなんですか」
覚「尊は、今から行く部屋に居た。よく見ておいで」
僕「行こうか」
瑠「うん…」
狐につままれたような表情の瑠奈。当たり前だよな。リビングを出て、雨上がりの庭を進み実験室の前へ。
僕「どうぞ」
瑠「はい…」
とうとう、家族以外の人を初めて招き入れた。配線の多さに面食らっている様子で、しきりにキョロキョロしている。
僕「嘘みたいだよね。でも本当にこれは、僕が造ったタイムマシンなんだ」
瑠「信じられない…でも、おじさまもおばさまも何の違和感もなく話されるし…えー、でも!」
僕「満月の日にだけ動く仕様なんだよ。月の公転数で時間を設定した関係というか」
瑠「満月…」
僕「そう。瑠奈にとって特別な日。だから瑠奈との出会いは、運命だと思ったんだ」
瑠「…」
僕「混乱しっぱなしだよね。一旦戻ろうか?」
瑠「…そうする」
リビングに戻り、タイムマシンの原理の説明を始めた。真剣に聞き入る瑠奈。両親はキッチンに居る。
覚の囁き「ワームホールって何だ?」
美香子の囁き「地平面とか反粒子とか。一度尊にレクチャーされたような気はする」
覚 囁き「話についていってるのが凄い。さすが瑠奈ちゃん」
美 囁き「同じ高校のクラスメートだったお嬢さんだもの~。私達と一緒にしては失礼よ」
僕「と、いった感じ」
瑠「何となくわかった」
僕「でね。これからが本題なんだけど」
瑠「これからなの?!」
お姉ちゃんの話に入った。永禄時代に飛び、羽木家の若君だった兄さんと出会って恋をし、何度も行き来をし、兄さんだけを送り込んできた時もあり…と結婚に至るまでどんどん話していると、両親が戻ってきた。
美「尊~、そんなに一気に話さない~」
僕「あ、そっか。ごめん」
瑠「いいよ。びっくりの連続だけど」
美「瑠奈ちゃんの頭がそろそろ甘味を欲しがってるだろうから。はい、水ようかんどうぞ」
覚「温かいお茶にしたよ。ちょっと休憩しな」
僕「わかった」
瑠「ありがとうございます」
はあ。和む。甘味は僕にも必要だったよ。
美「では、この間に私が少しだけ補足説明」
僕「説明。はい」
美「忠清くんが一人で来た時ね、傷を負っていたのもあってしばらくウチのクリニックの看護師さん二人がお世話をしていたの。だからね、現代でこの一連の秘密を知っているのは、ここに居る私達とその二人だけなのよ」
瑠「そうなんですか」
覚「尊、あの写真見せるか?四人で来てすぐ撮った」
僕「あー、うん。って全然休憩になってない気がする。瑠奈、大丈夫?」
瑠「ふふっ。大丈夫だよ」
父が、リビングの奥からゴソゴソと取り出した一枚。
覚「瑠奈ちゃんが来る時は、いつも隠してあったんだ」
家族プラス、兄さん源三郎さんトヨさん。永禄仕様、着物姿を収めた貴重な集合写真だ。
僕「ふう。では小休憩も終わったんで、次にこちらの二人の話をするね。上の姉とその旦那さんって言ってたけど…」
瑠奈がパンクしちゃわないか少し心配ではあるけど、頭の回転が速い子だからまず大丈夫だとは思う。これまで黙っていた分、どうにも口にブレーキがかからないんだな。僕も両親も。
瑠「そっか…その二人の末裔がみつきの彼なんだね。だから、どんな人か根掘り葉掘り聞いてたんだ」
僕「うん」
瑠「450年前の人達と、ここで一緒にご飯食べてたなんて。私、お鍋取り分けてもらっちゃったよ」
僕「兄さんはその点、偉ぶったりしないから」
覚「何でも進んでやってくれた。永禄では、周りが動いてくれる身分なのにな」
美「三人ともすごく努力してたの。現代に馴染んでたでしょ」
瑠「はい。とても」
僕「姉だけが一人我が道を行く」
瑠「あー」
僕「何となくわからない?視力はいいか、なんて変な質問してたし」
瑠「まぁ…。おおらかな感じで」
僕「もっと率直に言ってもらって構わないよ」
瑠「えっと…天衣無縫?」
美「かなり言葉を選んでくれたわね」
覚「気を遣わせて悪いな」
そして、4号ができた日の話に辿り着いた。
僕「隠し事は大いにありました。今までごめんなさい」
瑠「ううん。こんな秘密を抱えてたんだね。よくわかったよ。話してくれてすっごく嬉しい。ありがとう。おじさまおばさまも、ありがとうございます」
覚&美香子「いえいえ」
僕「話はこれで一通り…かな。質問あるよね。何でも答えるからどんどん言って」
瑠「とりあえず、一つ教えて欲しい」
僕「何でしょう」
瑠「通話システム、4号?早く使いたいんでしょ。今後どうする予定なの?」
僕と両親は顔を見合わせた。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1140] 2024年1月24日 20:28 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道44~6月6日日曜9時30分
ここで話題にするのも何ですが、アシガールSP公式HPの掲示板を久々に見ました。教えてくださった、悟れないさとり様に御礼申し上げます。
この掲示板が閉鎖された後にアシガールにはまった皆様には、ぜひご覧いただきたいですね。私は、発電できそうな熱量に感動しました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅不登校でろくでなしと言われた、過去の自分。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅4号完成後十日あまり。
覚「どうだ?」
美香子「うん、ちゃんと風味出てる。合格」
今日、瑠奈を家に呼ぶ。永禄との繋がりなど、諸々の話をいよいよ打ち明けるんだ。両親は揃って昼ごはんの支度中。僕は、説明する内容のメモを何度も読み返していた。
美「ふう。一段落」
覚「一休みするか。尊、まだ迎えに行かなくていいのか?」
僕「もう少ししたら出かけるよ」
母がカレンダーを見ている。
美「今日は大安ね~。きっと上手くいくわ。でも日付的には微妙ね」
僕「微妙ってなに」
覚「ダミアンか」
美「そうそう。ん?それ題名だっけ?」
覚「違ったか?どっちにしろ、今年は6年じゃないからセーフだろ」
僕「何を言ってるのかわからない。ちなみに今飛ぶと、向こうは永禄六年だよ」
美「あら。そっか、そうなるか」
覚「同じく時が進んでるからな。まぁ、それはそれで」
僕「6が三つ並ぶって話?ヨハネの黙示録?」
美「まぁいいわ。聞かなかった事にして」
僕「何なんだよ~。あまり混乱させないでくれる?」
覚「いや、いい感じだ」
僕「どこが」
覚「総じていつも通りの速川家だろ」
僕「フッ」
覚「よしよし」
美「やっと笑った」
僕「え?」
覚「顔は強張ってるし、もっと肩の力抜いた方がいい。そんな顔つきで迎えに行ったら、瑠奈ちゃん怖がるぞ」
僕「そんなに固まってた?だからあまり関係ない話振って気持ちをほぐしてくれたの?」
美「ダミアンがわからないのは残念だわ」
覚「世代の差だろ」
僕「励ましてるのかお気楽なのかが微妙。じゃあそろそろ迎えに行ってくるよ」
車を走らせる。瑠奈はマンションのエントランスで待っていてくれた。
瑠奈「おはよぉ」
僕「おはよう」
さぁ、行こう。緊張が顔に出ないよう気を付けないと。
瑠「親に、尊の家に行くって言ってないよ。それで良かった?」
僕「うん。ありがとう」
招待されたと伝えておくと、例えば帰ってきた瑠奈の様子が普段と違った場合、速川家で何かあったのか?と双方の親を巻き込みかねない。それは避けたくて、僕の独断で内緒にしてもらったんだ。
瑠「今日、白シャツなんだね」
僕「うん。制服じゃないよ」
瑠「わかってるよぉ。ボタンダウンだから違うし。なんか…なんかね、一段と素敵」
僕「それは、お褒めに預かり恐悦至極です」
瑠「あはは」
なんとなくビシッとさせたくて、気合いを服装にこめてみました。そうこうする内に到着。
瑠「こんにちは」
美「いらっしゃい瑠奈ちゃん。あら~、今日はワンピース?よく似合うわ~」
覚「いらっしゃい。おー、まるで花が咲いたみたいだ。さ、あがって」
会うだけで両親をこんなに上機嫌にさせるなんて、瑠奈だからこそなせるわざだと感心する。そしてまずは食事がスタートした。
瑠「ビシソワーズですか?美味しい!」
美「良かったわ~気に入ってくれたみたいで」
覚「予報では、雨も昼には止むって言ってたから、夏を先取りしてみたんだ」
そして、昼ごはん終了。
瑠「洗い物手伝おうとしたら、いいからって断られちゃった」
僕「手は足りてるからね」
着けていたエプロンを畳みながら、キッチンから戻ってきた瑠奈。僕の正面が食卓のいつもの指定席だ。元々はお姉ちゃんの席。永禄から兄さんが一人で来た時もここだった。
僕「まぁ座ってて」
後片付けが終わった模様。まず母が戻ってきた。
瑠「おばさま、すみません」
美「気にしないで。瑠奈ちゃんはホントにいい子ね~」
ふう。いよいよ話すか。落ち着け落ち着け…よし。腹は決まった!
僕「あのさ」
瑠「うん?」
僕「瑠奈は僕にとって、とても大切な、かけがえのない存在で」
瑠「やだ、急にどうしたの」
父も戻ってきた。話が始まったのを察し、静かに席につく。
僕「だから、どうしても話しておきたいんだ」
瑠「?」
僕「僕と、僕の家族の過去と現在を」
キョトンとする瑠奈。そりゃそうだよね。
僕「聞いて欲しい。いい?」
瑠「はい。わかりました」
僕「昔、僕はいじめられっ子だった。去年浴衣デートした時少し話したよね」
瑠「うん…」
できれば話したくない過去ではある。でも、いきなりタイムマシンの話ではなく、なぜそれを造るに至ったかその経緯も話す必要があると思ったから。両親が心配そうに見守る中、瑠奈は黙って聞いてくれている。
僕「そして、執念深さを武器にして造り上げたのが…過去と現在を繋ぐタイムマシン」
瑠「え?」
僕「…」
瑠「が、できたらいいのに、って夢?」
僕「違うよ。本当に造ったんだ」
瑠「え…何言ってるの?」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1139] 2024年1月20日 20:17 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道43~5月26日22時30分
どうか嫌いにならないで。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅電話を切ってすぐ。変わってここは瑠奈の家。リビングで両親が寛いでいる。
瑠奈の母「あら瑠奈、起きてたの。部屋から出てこないからもう寝たかと思ってたわ」
瑠奈「あったかいお茶が欲しい」
瑠奈の父「なら座れ。俺が淹れてやろう。ん?何か様子が」
瑠母「顔見せて。もしかして…泣いた?」
瑠父「泣いた。どうしたんだ」
瑠「尊が」
瑠父「尊くんと何かあったのか」
瑠母「ケンカでもしたの?」
瑠「ケンカ…じゃない」
事の顛末を両親に説明する瑠奈。
瑠父「…結局は、瑠奈の一人相撲だったと」
瑠「だって電話」
瑠父「だってじゃない。神経を尖らせて取り組む案件だったんだろ。そこまで瑠奈にそしられるいわれはない」
瑠「見たことない部屋に居たんだもん」
瑠母「そんな文句ばっかり言って」
瑠父「お父さんの部屋じゃないのか。だったら知らなくて当然だ。瑠奈の剣幕に押されてしまってすぐに答えられなかったんじゃないのか?どうしてそういう考えに及ばないんだ」
瑠「…」
瑠父「瑠奈。いい機会だから言っておく。今までに付き合った男の子達にもそうだったが、尊くんをもっと信じてあげなさい」
瑠母「そうね…。癇癪起こしてばかりではね」
瑠父「俺はかなり信頼してるぞ?彼にはブレがないからな。確固たる信念に基づいて動いてる印象だ」
瑠母「仕事ぶりが見てとれるわね」
瑠父「何事もコツコツやるから、いつも感心してる」
瑠「…」
瑠父「尊くんに嫌われたくないだろ?」
瑠「そんなの絶対嫌」
瑠父「だったら自分を変えていかないと」
瑠「すぐ疑ったりするなって?」
瑠父「そうだ。今後、尊くんの言動が瑠奈的には有り得ないなんて事態が起こったとする。そんな時は感情にまかせてすぐ反論したりせず、まず彼の話をよく聞くんだ。そして質問は彼の話をよく噛み砕き心を落ち着かせてからする。そうすればきっと整然と分かりやすく教えてくれる筈だから。わかったか?」
瑠「…わかった」
この時のおじさまの言葉に、僕は救われていく事となる。
美香子「ご飯まだだったのね」
その頃の僕。手付かずのおにぎりを実験室から持ってきた。
美「おにぎり温める?」
僕「そうする」
覚「なら、味噌汁作ってやろう」
ようやく晩ごはんとなった。
美「食べながらでいい。順番に聞くわ。まず、タイムマシンはどうなった?」
僕「通話システムは完成した」
美「そう。にしては晴れやかな顔をしてないわね。瑠奈ちゃんの機嫌を損ねたのがよほどショックと見えるわ」
僕「完全に僕の落ち度だったから」
覚「まぁな。今日はすぐに連絡取れないよなんて、幾らでも根回しできた筈だ」
僕「お父さん、ありがとう。悪者になってくれて」
覚「何となく事の次第がわかったからな。ってそれも大事だが、本当は今、もっと喜ぶべきじゃないのか?だってこれで唯達と会話ができるんだろ?しかもさっきみたいにお互いの顔見ながら。凄い話だよ~」
僕「満月に導かれました」
覚「お疲れさん」
美「頑張ったわね。で、今後はどうなるの?」
僕「向こうに一つ機械あるじゃない。おもナビくん。それに今回造ったシステムを接続する」
美「ふんふん」
覚「あれだと、画面がやや小さくないか?」
僕「大きくするのは簡単なんだけど、電気をかなり食うし。あと、ほぼ夜に使うじゃない。画面大きいとその分明るく光るから、光源が少ない永禄では目立ち過ぎてかえって迷惑だと思うからさ」
覚「そうか。いつ設置しに行くつもりだ?」
僕「早ければ来月にでも。ネオ1号で」
美「そっか。楽しみね」
父が口を真一文字に結び、腕を組んでいる。怒ってるようではないけど…すると、咳払いをし姿勢を正した。僕と母は顔を見合わせ、倣ってきちんと座り直した。
覚「僕から、提案なんだが」
美香子&僕「はい」
覚「機が熟したというか、今がその時じゃないかと思うんだ。この機会に決断して、瑠奈ちゃんに全てを話すのはどうだろう」
僕「…」
美「そうね。もし彼女がお嫁さんで来てくれるなら…来てくれるならよ?いずれは話さないといけないものね、我が家の秘密」
覚「尊はその点どう考えてるんだ」
僕「いつか話すつもりでいたよ」
美「そう」
僕「瑠奈は、モノクロだった僕の世界を鮮やかに彩ってくれた。すごく感謝してる。だから、どんな未来が待っていても…お別れ、とかさ。僕は打ち明けたいと思ってた」
覚「そうか。別れも視野に入れてたか。こればっかりはわからないしな」
美「尊敬から始まった恋でしょ。嫌われるよりはもっと好かれる可能性が高いと思うけど」
覚「僕もそうは思うが」
美「で、いつか、は今だと」
覚「そうだ」
僕「…」
覚「悩ましいよな」
美「一世一代の告白だものね」
僕「いや、きっと今なんだよ。知ってくれた上で、永禄に飛ぶ機会があれば一緒がいいと思ってた。実際問題として今回、設置のサポートをしてもらえるとすごく助かるんだ」
美「二人で!そう…」
覚「理解してくれたとしても、同行するかは彼女次第だ。押し付けはできんぞ。かなり勇気もいるだろうしな」
僕「わかってる」
美「いつどこで話す?デート中?」
僕「うーん」
覚「ここでが良くないか?実験室も見てもらえるし、僕と母さんがフォローできる」
僕「いつもの食事ご招待としておいて?」
覚「だな」
美「じゃあ、一度瑠奈ちゃんの都合を聞いておきなさい。お昼の方がいいかしらね」
覚「話が長くなって帰すのが遅くなってもいけないから昼がいいだろう。な?尊」
僕「うん…」
覚「不安なのか」
僕「どう捉えられるかわからないから、少しだけ」
美「でも話すなら、瑠奈ちゃん以外考えられないでしょう」
僕「うん。瑠奈には本当の僕をわかって欲しいと思ってるから、包み隠さず説明するよ」
覚「それがいい。トヨちゃんの話とか、今まで嘘をついていたのも事実だからな」
僕「そうだね…。ごちそうさまでした」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
一世一代。読み方は「いっせいちだい」が正しくて、「いっせいいちだい」は間違いだそうですね。私は今回初めて知りました。
次回、ご招待です。
[no.1138] 2024年1月16日 21:43 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道42~5月26日水曜12時
姫がご懐妊!めでたいですね~。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
この日、皆既食の始まりは20:09。皆既食の終わりは20:28で、部分食の終わりは21:52でした。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅家で両親と昼ごはん中。
覚「目力がハンパないな」
美香子「気力が漲ってる感じね」
僕「わかる?今日、正念場だと思ってるから」
お待たせしました。努力の甲斐あって本日4号が完成しそう。つーか、させます!なんてったって今宵はスーパームーン、地球に最も近い満月!おまけに皆既月食!この特別感満載な日にフィニッシュはふさわしい。頭も冴え渡り絶好調だ。
僕「晩ごはんさ、その時間に作業が佳境に入ってたら終わってから食べるよ。何時になるかわからないけど」
美「中座する時間も惜しいの?そこまで根詰めなくても。でも集中したいのね」
覚「だったら晩飯、おにぎり握ってやろうか?作業しながら片手で食える。実験室のドアの前に置いとくから邪魔はしないぞ。どうだ?」
僕「わかった。それでお願いします」
大学は必修科目が午前の早い時間にあったのでそれだけ出て、昼には帰宅した。バイトと解読手伝いも今日は入れてない。
僕「じゃ、頑張ってくる」
覚「無理はするなよ」
美「行ってらっしゃい」
雑念を断ち切るため、スマホは音もバイブも消し視界に入らない場所に置いた。瑠奈から連絡来ても即レスできないのは唯一の懸念事項だけど…ごめん、と呟き作業に取りかかった。そこまでの並々ならぬ決意でスタート。
僕「…」
時間を忘れて没頭する。
僕「時空の歪みは…発生しないな。よし」
トントン拍子。これはいける!
僕「あとは基板を」
あと少し!
僕「調整…どうだ?」
…そして。とうとうその瞬間がやってきた。
僕「でき、た。…できた!やったー!!」
永禄と令和をリアルタイムで繋ぐ画像付き通話システム、通称4号、完成しましたー!
僕「んあぁ、今何時…10時回ったところか」
もうこんな時間だったのか。同じ姿勢が続いていたからちょっと体にキテるな。
僕「はぁ。気が抜けたらお腹空いてきた」
ドアを開けると、足元に置かれたダンボール箱の中に風呂敷包み。おにぎりも、一緒に包んであったおしぼりも、まだ温かかった。父に感謝だ。早速口に運ぼうとしたが、
僕「あ、スマホ見とこう」
着信あったかな。でも今日は何を差し置いても4号完成を優先させたかったからなー。…なんて、悠長でいられたのはここまでだった。
僕「ゲ!」
鬼電の嵐に見舞われていた!びっくりし過ぎておにぎりをお手玉しそうになる。履歴を確認すると…瑠奈、瑠奈、全部瑠奈だ!
僕「どうして今日に限って…」
何も約束はしていない。でも電話は8時前から盛んにかかってきていた。えぇ?これって久々にメンドくせぇバージョン発動なの?!焦っていると、また瑠奈からの着信。
僕「とるのが怖いよ…」
意を決して電話に出る。
瑠奈『もしもし?!尊?!』
うぇっ、めっちゃ怒ってる!
瑠『どうして電話に出てくれないの!』
僕「ごめんなさ…」
瑠『LINEも全然既読になんないし!』
僕「ごめん、何か急ぎの用だった?」
瑠『皆既月食あんまり見えないねって話したかったのに!』
外をしっかり見てないから天気がわからない。予報は曇りだったような。連絡を放置したのは悪かったよ。けどそんな些細な事?なんて言うと火に油を注ぐしな。
僕「どうしても手が離せない用があってさ」
瑠『…ちょっと尊』
僕「はい?」
瑠『そこ、どこなの』
僕「えっ?…あ!」
ここで僕は、重大な過失に気がついた。無意識にビデオ通話をしていたのだ!何が重大かと言うと、瑠奈には実験室の存在を隠し続けてきたから、ここが何の部屋か伝えられない。なのに僕の背後にバッチリ映ってしまっている!今まではこうならないよう細心の注意を払っていたのに!ど、どうしよう!僕はひどくテンパってしまい、
僕「あっ」
電話を切ってしまっていた。
僕「やっちまった、余計に怒られる!」
慌てて実験室を飛び出す。リビングには両親揃っていた。僕の終了報告を心待ちにしてくれていたに違いない。
覚「おー。無事済んだのか?」
美「どうなの?って、尊?」
僕「ちょっと今それどころじゃなくて…」
手元の物体が、また静かに光り出した。怖い!スマホをこんなに脅威に感じるなんて!出ると画面に瑠奈。凄い形相…
僕「もし、もし」
美「なんて悲痛な顔してるのよ」
瑠『尊ひどい!勝手に切るなんて、私に隠し事があるんでしょ!!』
覚「瑠奈ちゃんどうしたんだ?ここまで声が聞こえるぞ」
僕「隠し事なんかないです…」
大ありだけど…
僕「電話とれなくてごめん。ほら見て、どこにも行ってないし。ここウチのリビングだよ」
瑠『何よ!はぐらかして!!…うっ、うっ』
うわー、泣き出してる!困り果てる僕。するとこのやり取りを見ていた母が、
美「尊、貸しなさい」
僕「え」
スマホをサッと取り上げた。そして画面の瑠奈に語りかけ始める。
美「瑠奈ちゃん。尊が失礼な事しでかしたみたいでごめんね。落ち着いて」
瑠『おば、さま…』
父も体を伸ばし覗きこむ。そして機転を利かせてくれた。
覚「瑠奈ちゃん、ごめんな。僕が尊に用を頼んでいたんだよ」
瑠『そう、なんですか…』
恩に着ます!
覚「泣かせて済まなかったね。この通り」
美「ね。父親も頭を下げてるんで、今日のところは許してもらえないかしら」
瑠『…はい。おじさまおばさま、私こそごめんなさい。事情がわからなくて』
月食って確か8時頃からだった。要は、僕がそれまでに作業を終えていれば何事もなかった話。無茶したツケだな。立ち上がり、両親の後ろに回って僕もスマホを覗きこんだ。
僕「作業に時間がかかってしまって心配かけました。許してください」
瑠『…はい』
美「瑠奈ちゃんは笑顔が一番。だからもう泣かないで。ねぇ、これに懲りずまたウチに遊びに来てくれない?」
瑠『はい。ぜひお願いします』
覚「楽しみにしてるよ」
僕「今度ケーキおごりますから」
美「そこは食事とケーキでしょ。うーんと高いのおごってもらいなさいね!」
瑠『ふふっ、はい』
覚「おっ、笑ってくれた。良かった良かった」
美「もう大丈夫ね」
瑠『あの…、大騒ぎしてすみませんでした』
美「いえいえ。諸悪の根源は尊だから」
覚「気にしないでくれな」
瑠『ありがとうございます。それでは…失礼します。おやすみなさい』
覚&美香子「おやすみ~」
僕「おやすみ、瑠奈」
手を振る両親に会釈をした瑠奈。電話は無事終了した。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1137] 2024年1月12日 20:01 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道41~2月27日20時
行かなくても顔さえ見せてあげられれば、という選択。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅実は、今日は満月。夕食後、実験室に居る。
僕「恐ろしく順調」
初詣でしっかり神様にお願いしたのが効いたのか?今年に入ってから、不思議と満月の日が近づくとタイムマシンの作業がすこぶる捗る。当日は特にそうだからこれを逃す手はないんだけれど、今日は土曜だから日中は瑠奈とデートして、夜に本腰を入れようとしていた。
僕「ん?」
スマホは置いてあるが、基本的に放ってある。さっき鳴ってすぐ切れたが、瑠奈の呼び出し音ではなかった。見てみると、ミッキーさんからの着信。何だろ。長く話されると厳しいけど…まぁ、かけてみるか。
僕「もしもし?」
みつき『あ、ごめーんセンセ!忙しかった?』
僕「いいよ。何だったかな」
み『瑠奈から、ひろくんの話題で盛り上がったって聞いて』
僕「ひろくん…あー、彼氏さん?」
み『そっ。センセにもいつか紹介したいと思ってるよ』
僕「あ、ありがとう。楽しみにしてるんでその節はよろしくお願いします」
み『そこでだ。私は考えたのさ』
僕「続きあり…考えた、って?」
み『今年は海に行こう!プラスひろくんで四人で!』
僕「まだ寒いのに夏の話ですか」
み『いいじゃん。日程は社会人のひろくんに合わせると思うけど良い?』
僕「勿論。もう彼氏さんには了解とったの?」
み『まだ』
僕「僕の周りはどうしてこうアバウトな人ばかりなのか」
み『センセとは気が合うと思うよ。二人とも、多くを語らない系だけど』
僕「ミッキーさんがそう言うならそうなんだろうね」
み『間違いない。あ、じゃなくて』
僕「へ?」
み『こんな話は置いといて』
僕「何それ…話の展開が読めない」
み『私がわざわざ電話したのは、違う話、つーか言付けを預かりまして』
僕「言付け。誰からでしょう」
み『ひろくんの親から』
僕「えぇ?!」
み『ひろくんに、今古文書の解読してる友達の義理のお兄さんが赤井さんって言ったら、その流れで親に話がいって』
僕「一つ訂正。解読の手伝いね」
み『はいはい。で、大変でしょうけど期待してますって伝えて欲しいって言われたんだ。絶対に、御月家関係の位が高い人物が書いたと思うからって』
僕「へー」
やっぱりそう考えるのが普通だよね。でも今のところ、兄さんが書いたって確証は文面上は出てきてない。あい変わらず署名はないし、跡だけ残った忠清シールも、木村先生が怒ってたあの時以来貼られた形跡はないんだ。
僕「承りました」
み『さて。ここで、地元の歴史に詳しいセンセに新情報を教えてあげよう』
僕「続く。何かな」
み『赤井家にも、初代が書いたと伝わる古文書があるんだって』
僕「…え?うっそ、マジで?そりゃすごいや!是非教えてください!」
み『ちょっとー、急に前のめりじゃね?』
源三郎さんが、兄さんの日記を参考にして書いたのかな?
み『でもセンセが携わってるのとはちょーっと違うんだな。さてどこが違うでしょうか!』
僕「いきなりのクイズ。えーと」
み『答えは』
僕「はやっ」
み『女性が書いてる。多分妻』
僕「へー!」
トヨさんか!
僕「どうして女性ってわかったんだろ」
み『マタニティダイアリーだったんだってさ』
僕「妊娠、日記?」
み『そう。日々の体調とかが細かく書いてあったらしい。先進的だよねー、だって戦国時代だよ?』
僕「うーん」
トヨさんなら頷ける。令和に居る間にどこかで知ったんだろうな。勉強熱心だったし。
み『秘蔵の品で、公開はしてないらしい』
僕「ふーん。勿体ないような。でも先進的過ぎて、これで戦国時代の生活を知る、までいかないからかな」
み『って話でした。知識が増えて、また一つ賢くなったねぇ』
僕「忝のう存じます」
み『ははは。ではまたー』
僕「はい。失礼します」
ミッキーさんには、パワーをもらえてるのか逆に吸い取られてるのかわからないな。でもイイ話聞けて良かった。作業に戻ろう。
僕「やっぱ一つに集中して進めるべきかな」
タイムマシンは2種類の完成を目指している。一つは、一度に5人以上運べる起動スイッチの3号。できあがったらそれで僕から永禄に迎えに行きます、と兄さんと約束した物だ。もう一つは、永禄と令和をリアルタイムで繋ぐ画像付きの通話システム、通称4号。まず3号についてだが、
僕「ほぼ理想形の2号が届けられたからといって、甘んじていてはいけない」
その後永禄にあった起動スイッチ2号の機能を未来の僕がバージョンアップしたため、前回冬に四人で来れてはいる。
僕「あの時はそうするべきだと未来の僕が考えてした事だから、別物」
現在2号の燃料は空っぽの状態だし、第一迎えに行くという約束はまだ果たせていない訳で、スイッチ3号を完成させる意欲は依然満々である。ただ…
僕「だけど、全然進み方が異なる。こっちは月の周期と相性が良いとか?」
なぜだか、4号の方が作業効率もすこぶる良いし、恐ろしく順調なんだ。そこで悩んでいる。
僕「同時に完成を狙ってたけど、こちら一本に切り替えるか」
同時進行でいつまで経っても二つとも完成しないより、先に出来上がりそうな通話システムのみに絞って進めた方が良いのでは?
僕「…よし、決めた。4号に集中する」
この決断は、結果大正解だった。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は、月日が経って5月のお話です。となると?
[no.2201] 2024年1月10日 19:37 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 出演者情報板少し考えればわかるのに
50ボイスですが、てんころりんさんのご指摘で即、NHKプラスを確認しました。
おっしゃる通り、中島由貴さんもお話しされていました!「ゆゆゆトリオ」揃い踏みだったんですね…気付かなかった私の浅はかな事といったらありません。大反省でございます。
お三方の内、字幕にお名前が出たのは冬野ユミさんだけです。その字幕↓
音楽・冬野ユミ
連続テレビ小説「スカーレット」
「アシガール」などよしよし(笑)
[no.1136] 2024年1月8日 19:18 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道40~2月27日土曜12時
幼なじみに一途な所も同じ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅瑠奈と、昼ごはんを食べに行こうと車を走らせていた時だった。
瑠奈「あれ、電話…みつきからだ。なんだろ。出てもいい?」
僕「どうぞ」
瑠「もしもし?…おはよ。今?尊の車で移動中。大丈夫だよ。どしたの。…え?うん、うん。そう!良かったね!めっちゃ心配してたもんね!ひとまず一安心?ひとまずって言うな?ごめんごめーん。うん、じゃあねー、はーい」
僕「賑やかだったね。店に着いたよ」
席につき、注文し終わったところで瑠奈が話し始めた。
瑠「みつきの彼の話だったんだよ」
僕「へぇ」
瑠「彼氏さん、この4月から新社会人なの。でも、就職する会社は全国に支店があるから、配属先がすっごく遠くだったらどうしよう!離れたくなーい!ってみつきずっと騒いでて」
僕「3つ年上だったね。新卒で入社か」
瑠「で、無事自宅から通勤可能なエリアに勤務になったって報告でした」
僕「そうなんだ。だから一安心なんだね。でもひとまずって言ってなかった?」
瑠「配置替えはちょくちょくあるらしいから、今後はわからないんだって。今から言うな縁起悪い、やめて~!って怒られた」
僕「なるほど」
瑠「みつきの気持ちはわかる。私も遠距離なんて嫌、考えられない。たけるん、急にどっか行っちゃったりしないよね?」
僕「その予定はありませんが」
もし、永禄に飛ぶとしたら一緒に行けるといいな、なーんて呑気なコトは思ってるけど。
僕「たださ。配属先なんて、ミッキーさんがどう叫んでも思い通りにはいかないよね」
瑠「まぁね。でも、みつきが大学卒業したら、すぐ結婚するのはもう決まってて」
僕「え!そうなの?!」
急に大きな声を出したので、ランチを運んできた店員さんを驚かせてしまった。すみません。
瑠「ある意味当然だと思わない?だってもう、今年で9年とか付き合ってるんだよ」
僕「確かに」
瑠「結婚できる年齢になったらすぐにでもって気持ちはずっとあったんだって。みつきも彼もね。だけど、みつきの親に大学だけは出てくれって懇願されちゃって、仕方なくあと3年お預けな状態なんだよ。だからそれまでに離ればなれはキツい」
僕「今はまだついて行けないからか。でもその…なんか大変そうだね」
瑠「何が?」
僕「ミッキーさん家、デカかった。お嬢様なんでしょ?お相手はそれなりの家柄でないと許しませんとか、当人には関係ない所で揉めたりしなかったのかな」
瑠「あー、その点は大丈夫。由緒正しいかどうかって話なら、彼氏さんの家の方が上」
僕「へー」
瑠「みつきの家、ルーツを辿ると、江戸時代に呉服店を営んでいたらしいよ」
僕「充分歴史あるじゃない。それ以上って」
瑠「彼氏さんの家は、戦国時代まで遡る」
僕「戦国、時代ですか」
瑠「ご先祖は、たけるんが今解読のお手伝いに行ってるじゃない。その辺りを昔治めてた」
…は?
瑠「御月家だっけ?」
え?ちょ、ちょっと!
瑠「の、家臣らしいよ」
そっちか!いや、それにしても!!
僕「え、そんな事今まで一度も…それに家は小垣でしょ?ミッキーさんの幼なじみだ、って」
瑠「聞かれもしないのに友達の彼氏の話をペラペラしゃべってたらおかしいでしょ。木村先生もそうだけど、武士の末裔って割と居るよねって思ってたし。おウチは、ひいおじいさんの代くらいに移り住んできたって言ってたかな」
家臣って誰だろ。天野?木村、は御月家に居たのを隠してたから違うし。まさか…
僕「彼氏さんって、なんて苗字?」
瑠「赤井、だよ。結婚すると赤井みつきになるの」
な、なんと!!衝撃の事実!!
瑠「どうしたの?黙っちゃって」
僕「ん?ううん」
瑠「インスタントラーメンにはなんないから!ってみつきはよくネタにしてる」
僕「…いやそれ、きつねだし」
ホントに源三郎さんとトヨさんの末裔?確認する方法あるかな。
僕「写真って持ってたりする?」
瑠「興味あるの?珍しいね。強制的に見せつけられたのはある。ちょっと待ってね」
スマホで動画を見せてくれた。遊園地かな、はしゃぐミッキーさんの後ろで静かに微笑んでる男性あり。うーん、雰囲気は似てなくもない。さすがに見た目までそっくりとは…あ!
僕「眉間に皺を寄せる癖があるのかな」
瑠「え?どこ?…ホントだ。よく気付いたね」
僕「どんな人なんだろ」
瑠「んー。車で迎えに来た、なんて時にしか会った事はないけど、実直な人ってイメージ」
僕「ふーん…」
瑠「ねぇ、どうしてそんなに気になるの?もしかして知り合いだったとか?」
僕「いや…」
この話しても影響ないよな、多分。瑠奈は本人に会ってるから自然な流れだし。
僕「上の姉、赤井さんと結婚したから」
瑠「え、そうなの!私会った人だよね?」
僕「うん。一緒に鍋囲んだでしょ」
瑠「かすかに覚えてる。そちらのお兄さんは口数少なかったような。へー、実は親戚だったりして?」
ほぼ間違いなく、源三郎さんとトヨさんが始祖です。
僕「だったら世間は狭いよね。だから共通点あるかなって思ったんだ」
瑠「ふーん。私がわかる範囲だと…夏に三人でプール行ったじゃない。みつきすっごくはしゃいでたでしょ」
僕「かなりね」
瑠「彼氏さん、海やプールがあまり好きじゃないみたいで」
ややっ、共通点発見!源三郎さん、水が苦手って言ってた!
瑠「優しい人だから一緒には行ってくれるけど、乗り気じゃないヒトとは楽しめないから今日は最高!って喜んでたの」
僕「だからトロピカルだったんだ」
瑠「それは関係なくない?あ、もう一つ思い出した。ボーリングがすっごい上手らしいよ」
あー。永禄に帰る当日にみんなで行ったなぁ。源三郎さん、確かに上手かったし心の底から楽しんでる感じだった。はい、このエピソードをもちまして、子孫であると確定しました!
僕「先祖代々、上手なんだろな」
瑠「そこで先祖に話戻るの?たけるんの思考回路って謎~」
期せずして、すごい話聞いちゃったよ。帰ったら両親に報告報告。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
水が苦手、は現代Days140no.1043に。
ボーリング、は同じく134no.1031と135no.1032で楽しんでます。
続きます。
[no.2198] 2024年1月7日 17:36 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 出演者情報板50ボイス
創作倶楽部以外にもたまに現れます。
表題の番組、6日の夕方に放送してまして。大河ドラマ「光る君へ」の関係者等50人にインタビューしていたので、アシガール関係者さん出てこないかしらとチャンネルを合わせました。
他に漏れてたらごめんなさい、
内田ゆきさん
冬野ユミさん
信川清順さんが出演されましたが、その中で信川さんのお話がとても楽しかったです。ベビーシッターを10年なさってる(過去形では話されていない)そうですよ。
収録現場で子役達を束ねてた(←ご本人がこう表現)ら共演者に褒められて、えー本当ですか~?と喜んでいた。だけど、次にスタッフが子供を連れてきた時に、かわいいですね代わりますよ~って抱っこしたらギャン泣きされて。アハハ~、すごく面目なかった、と大笑いされていました。
長沢城の侍女以外で拝見する機会もなく、こんなに気さくな方だったんだと新発見でした。
[no.1135] 2024年1月4日 19:37 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道39~1月5日火曜から11日月曜
今年もよろしくお願いいたします。
この度の災害、地域の皆様に一日でも早く平穏な日常が訪れるよう、切に願っております。┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
圧をかける若君は、現代Days131no.1028にて。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅芳江「渡してそれで?」
エリ「彼女さんは何て答えたの?」
僕「えっと…」
朝のコーヒーを運べと言われてクリニックに来たんだけど、看護師さん達に質問攻めに遭っている。
エ「愛は色褪せないよなんて、いいわね~」
芳「言われてみたいものだわ~」
僕「あ、だったらフルサイズで言いましょうか?セリフくらい構わないんで」
美香子「珍しく随分と気前のいいサービス」
芳「尊くん、嬉しい事言ってくれますね。でもダメですよ」
僕「ダメ。ですか」
エ「そうですよ。愛しい彼女さんにだけ囁いてこそ、言葉の価値がありますからね」
美「尊~。そうやって時間稼いで、質問の答えをはぐらかそうとしてるんでしょ」
僕「チッ、バレたか。だってさあ」
美「だって何」
僕「お二人程、瑠奈は純粋に喜んでくれなかったんだよ」
芳「あららら」
エ「それはまたどうしてでしょう」
僕「一瞬笑顔にはなったんですけど、すぐに疑いの目で見られたんです。私が初めての彼女なんて、嘘ついてたでしょって」
美「へー。あまりにも流暢に言うから怪しまれたのかしら」
僕「反復練習が仇になった模様」
美「モテ男の悩みね~」
僕「イヤミかよ」
美「ん、よくわかった。だから昨日同じ質問しても答えなかったのね」
僕「やっぱり!ハメたな?エリさん達に聞かれたらさすがに答えるだろうと踏んで、ダシに使ったんでしょ?」
美「どうかしら~」
エ「尊くん。先生に昨日記念日デートだったと伺って、気になって聞いてみたかったのは本当ですよ」
僕「そうですか?」
芳「多少頼まれはしましたけど」
僕「でしょうね」
美「今度瑠奈ちゃんに会ったら、間違いなく尊の初めての彼女よって太鼓判押してあげるわ。さっ、そろそろ時間時間」
僕「調子いいコトばっかり言ってさー。はいはい、片付けますよ。…ん?」
マグカップを集めていると、母が使っているデスクに写真が一枚置いてあるのを見つけた。あれ、いつもここにこんなんあったっけ?まぁいいや、今は聞く時間ないし。撤収が終わり廊下に出たら、
僕「わ!」
壁にへばりつくように父が立っていて驚いた。全然隠れてないし!
僕「何してんだよ」
覚「ん?ん、今回は災難だったな。余程言い方がさりげなかったんだろう」
僕「ゲ、わざわざ聞き耳立てに来たの?何なんだよウチの親!」
今日はバイトと解読手伝いの二本立てだったので、その後すぐ家を出た僕。帰宅したらすぐ晩ごはんだった。
覚&美香子&僕「いただきます」
僕「…ねぇお母さん、今朝さ」
美「何。まだ怒ってるの?」
僕「違う。お姉ちゃんの写真置いてあったね」
覚「あー」
美「はいはい」
僕「前からあった?」
美「ううん、年明けから」
僕「昨日から。なんであれなの?」
去年写真館で撮影した、コスプレというか袴姿のお姉ちゃん一人の写真。
美「お父さんの提案でね。あれじゃなきゃいけない理由があって」
覚「クリニックも地元で長くやらせてもらってるからな。ありそうな質問には、口ごもらずに答えねばならん」
僕「どういう意味?」
美「説明してあげよう。来週月曜、成人式じゃない。唯が居れば出席したはずの」
あ。見た。見たよ、市から届いたお姉ちゃん宛の成人式の案内。
覚「唯を小さい頃からご存じの方は大勢いらっしゃる。ご高齢の方などはかなり可愛がってくださっていた」
美「そんな方が患者でみえたりすると、唯ちゃん元気?ってちょくちょく聞かれるのよ。結婚しましたとは言ってあってもね。で、成人式。今地元を離れてる子達も、この日位は戻ってきたりするじゃない。でも唯は不可能」
僕「ごめん。タイムマシン間に合わなくて」
覚「唯が決めた人生だから、尊は関係ない」
僕「…」
美「そんな皆さんにね、晴着姿は見せてあげたいなって思って。実は前撮りしててほらこれですよ、って言えば喜んでもらえるし安心してもらえるから。結婚したから振袖ではないですけどなんて、話も弾む。今日もね、唯ちゃんって新成人よねって言われたのよ」
覚「用意しておいて正解だったな。思った以上に、今も気にかけてくださっていて嬉しい限りだ」
美「ホントね」
そんな意味があったんだ。お姉ちゃん、良かったね。今でも地域の皆さんに愛されてるよ!
┅┅
成人の日当日。朝から心なしか両親の元気がない。主役が居ないのに、テレビや新聞でバンバン報道してるからな。
僕「今日位、もっと写真並べて眺めたら?」
美「うん。そうしよっか。じゃあまず奥の棚のを食卓に運ぼうかしら」
覚「よし。なら予備室のも取ってくるか」
僕「あとは、お姉ちゃんの部屋?」
美「そうね。例のお花の写真立てに飾りたいって、忠清くんが写真集めてたから」
僕「へぇ。僕それ取ってくるよ」
実は、姉の部屋に入るのは超久し振りだ。
僕「失礼しまーす。あー、これね」
花の写真立て三つ。一つは、母の膝で眠る幼い姉。あれ?後ろに写ってんの僕じゃない?もう一つは、例の大正時代を描いた漫画のコスプレで兄さんと二人で写っている。
僕「この小さい頃の写真、初めて見るな。いやそんな事より。三つ目に写真入ってないのって、やっぱり」
空けておくとは聞いてたよ?薄々気付いてたけど、これには次に来た時に入れるぞって兄さんからのプレッシャーだよね?じわじわと圧がかかってるよなー。
僕「持ってきたよ」
美「ありがと。これ、尊も写ってるのよ」
僕「見た。まさしく秘蔵写真だね」
写真はある。きっと元気で暮らしているとも思う。でも居ない事実は変わらず、今日みたいな日には実感してしまう。だから僕にできる最良の親孝行は、一緒に居てあげる事だって思うんだよな。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は、2月も下旬です。
- この返信は10ヶ月、 3週前に夕月かかりて(愛知)が編集しました。
[no.1134] 2023年12月31日 19:17 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道38~12月31日木曜から2021年1月3日日曜
本年も皆様に温かく見守っていただき大変感謝しております。来年もゆるゆるで参ります。ご愛顧いただければ幸いでございます。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅初詣で神様に願うのだ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅大晦日の深夜。去年とは打って変わって、家でテレビを観ながらまったりと過ごしている。
僕「お母さんまたみかん食べてる」
覚「あまり食べると手が黄色くなるぞ?」
美香子「大丈夫よ~。多分」
僕「多分。大雑把だ」
美「いいじゃないの。はぁ、令和2年ももうすぐ終わるわね~」
僕「この一年、僕は怒涛の展開だったよ」
覚「あー。大学入って車の免許もとって。アルバイトも始めて」
美「何より、可愛い彼女ができちゃって」
瑠奈だが、この年末は家族で母方の祖父母の家に帰省している。だからデートはしばらくお預け。次に会うのは四日だ。
美「で、どうなのよ?来年こそは」
僕「来年こそ何」
美「進捗状況」
僕「瑠奈との?」
美「ぷっ」
僕「へ?」
覚「母さん、その流れで聞くと答えはそうなるぞ」
美「ごめんごめん。そちらも気にはなるけど。作業の方よ~」
僕「あー。失礼しました」
美「飛べそう?」
僕「何とも。っつーか、飛べそうかって質問には、いつでも飛べるよって回答になるけど」
美「あ、そっか」
覚「ネオ1号があるからな」
機能が強化された起動スイッチ1号。父曰く、ネオ1号。実は、未来の僕が燃料もフルに入れており、まだ何回か移動可能な状態なんだ。
覚「前の1号では五往復したが、一往復は追加で燃料足した分だから四往復分入るんだな。去年尊が一往復使っただろ。んー、このままだとあと三往復は可能な計算か?」
僕「残量見ると、もっと行けそうではある」
美「あらそうなの。そちらもエコ仕様に変わってる?ねぇ、だったら2号みたいに一度に何人も飛べたりするんじゃない?」
僕「かもね。ネオ1号で皆で行きたい?」
美「行かない」
僕「あれ、そうなんだ」
美「お邪魔してもいいか、お伺いを立ててからなら行きたいわ。いきなり大勢で押しかけたらご迷惑だもの」
僕「はあ」
覚「言ってみればお宅訪問だからか。実際、アポイントメントも取らず勝手にお屋敷に上がりこんでたりするから失礼な話だよな」
僕「その点は、返答に窮するところで」
美「第一、尊と私とお父さんで行ったらさすがに目立つでしょ。曲者じゃ!ってなっちゃった時、隠れたり逃げたりするのに足手まといになっては、忠清くんもそうそう対処できないと思うのよ」
僕「そういった危険は、僕一人でもあるんだけど?」
美「そこは何とかしてくれるでしょ。忠清くんが」
僕「何それ。所々、雑だよなぁ」
そして、2021年を迎えた。
覚「明けましておめでとう」
美香子&僕「おめでとうございます」
覚「よし!氏神様に詣るか。三人で歩いて」
僕「は?今から?」
覚「そうだ」
美「いいわね~、行きましょ行きましょ」
僕「寒いよー。せめて日が昇ってからで」
覚「去年なんて深夜ずっと外に居ただろ」
美「はいはい、支度する!」
僕「せっかく暖かい部屋に居るのに」
美「今年は三人揃ってるし。今後はわからないでしょ?瑠奈ちゃんと年越しとか、それより家を出て独立してたりして」
僕「年跨ぎの瞬間に外出中ってケースは有り得るけど、家は出ないよ。ずっと居るって」
美「え~、そうかしら?」
僕「わかった。もう少し着込んでくるから、使い捨てカイロ出しといて」
覚「ん」
防寒バッチリにして外に出る。そして両親の後ろを歩きながら考えていた。さっきの母の話。家を出る時が来るでしょうと言うけど、現実問題としてその予定はないんだ。一番の理由は実験室のメンテナンス関係。タイムマシンの燃料だって放っておいてできる物ではないし、起動スイッチを作り直した未来の僕が、その頃家を出ていたとは到底考えられないんだよ。
美「この、キリッとした空気が新しい年を迎えたってより感じられる」
覚「雪が降りそうだな。静かな年明けだ」
未来の僕が一体いつの僕なのかはわからない。でも将来、瑠奈が僕と結婚してくれるなんて夢が叶って、その時まだ新型起動スイッチが完成していないとするならさ、義理の両親とガッツリ同居が決まってるなんて状況、嫌じゃない?普通。瑠奈だったらそんな事思わないかもしれないけど、なぜ家を出られないんだと聞かれた時、納得してもらえるような説明を、特に瑠奈の両親にできるのか自分?って思うんだ。今からそんな事悩むなんて、時期尚早もいいところなんだろうけど…
僕「ふう。うっ、寒っ」
つい口をついて出たため息は白かった。作業はコツコツ頑張るけどさ、どうなるコトやら。成果はある程度出て欲しいなぁ。実りある一年になるのを願うよ。
┅┅
3日の午後。僕は食卓で作業をしていた。
美「シリカゲルって、何度も使えるのね」
僕「レンチンすればね」
覚「花、いい感じに仕上がってるな」
僕「うん」
久しぶりにプリザーブドフラワーを作ろうと、年末から仕込んでいたんだ。
僕「一週間経てば取り出してOKらしいから」
覚「だからクリスマス後すぐに始めてたのか。明日に間に合うよう逆算して」
美「これに入れるの?可愛らしいじゃな~い。お付き合い一周年記念のプレゼントがこれなんて、尊、やるわね!」
あらかじめ装飾を施しておいた木箱の中に、花を彩り良く並べて接着。そして無事完成した。おっ、我ながらいい出来じゃない?
美「蓋を開けると…あら~、まるで宝石箱!」
覚「こりゃ完成度高いな。いいぞ」
美「ねぇ、君への愛も決して色褪せないよ、なーんてセリフと共に渡すの?」
僕「えぇ?それかなり恥ずかしいよ」
覚「いや、言うべきだな」
僕「マジか」
覚「そんな、歯の浮くようなセリフに負けずとも劣らない品だぞ、これは。自信持て」
僕「そ、そう?」
ひぇ~、割と軽い気持ちで作ったんだけどな。セリフ、すらすら言えたら確かにカッコいいかも。つっかえないよう練習しようかな。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は、お付き合い一周年記念デート…はどうなったか?
[no.1133] 2023年12月27日 19:51 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道37~12月30日水曜
カウンセラー忠清は令和Days54no.658に登場してます。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅朝9時。速川クリニックは、週休日と重なったのもあり今日から年末休みに入っている。
美香子「お掃除、張り切っていくわよ~」
僕「ゆうべも遅くまで色々やってたんじゃないの?バイタリティーがすげぇ」
美「去年の半分以下の人数だもの、気合い入れないといつまでも終わらないからよ~。明日からはかなり冷え込むって予報が出てたし、今日中に終わらせるつもりよ」
覚「尊、家の中か外回りか、やるならどっちがいい」
僕「外」
美「あら珍しい。寒がりなのに」
先程まで雨が降っていたが、もう晴れ間が覗いていた。
僕「雨上がりプラス高圧洗浄機なら、あっという間にピカピカになるんじゃない?」
覚「なんだ、楽が出来るって寸法か」
僕「違うよ。僕の方が高い所まで手が届くからだよ」
覚「確かにな。じゃあ頼んだぞ」
一年ぶりに使うけど、高圧洗浄機って素晴らしい。クリニックの大きいガラス窓の汚れもすぐ取れて順調に終了、気分良し。次は表の看板やりますか。機械を運んでいると、
僕「あれっ」
門の外で自転車に乗った男性がこちらを見ている。あ、今日まで開いてると思ったのかな?それはごめんなさい。近づくと、
僕「あ?あ!もしかして」
男「おはようございます。弟くんだね」
僕「吉田さんだ!お久しぶりです。確か…そう、留学って、行かれたんですよね?」
吉田「うん。無事終了して、ちょっと前に帰国したんだ」
僕「それはお帰りなさい、ですね。いいなあ、僕はパスポートさえ持ってないんで」
パスポート要らずの時空の旅なら、一度だけありますが。
吉「いきなり現れてごめんね。今日から休診は知ってるんだけど」
僕「いえ。母、呼んできますね」
こっちこそ姉を呼ぶと言えずごめんなさい。でも吉田さん、母のファンだから多分合ってる。
吉「ちょっと待って」
僕「はい?」
吉「あの、美香子先生にも勿論会いたいんだけど、義理のお兄さんの忠清さんって、もう速川と帰省してる?」
僕「え!」
まさかのそっち?!
僕「えっと…すみません、今年は兄の地元の方に居まして、こちらには帰らないんです」
嘘は、言ってない!
吉「そうかー、それは残念。年末なら会えるかも、と思って来てみたんだ」
僕「兄に何か用…あ、ひとまず親に声かけてきます」
慌てて呼びに行く。両親ともかなり本気モードで掃除していたので、マスクやらゴム手袋やら重装備状態で外に出てきた。
美「吉田くん!あら~、久しぶりね~」
覚「おー、元気そうだね」
吉「お久しぶりです。すみません、大掃除されてる最中に。留学終えて無事帰りました。これ、お土産です」
美「まぁ!イギリスの?ありがとう。せっかく来てくれたから立ち話もなんだしお茶位…あ、今台所使えないわ」
吉「いえ、すぐ帰りますんで。気になさらないでください」
美「そうなの?」
僕「吉田さんね、兄さんに会いたかったんだって」
覚&美香子「え」
僕「居ないのはもう説明したよ」
美「そ、そう?ごめんなさいね吉田くん、尊の言った通りなの。でもどうして忠清くん?」
吉「直接お礼を言いたかったんです」
覚「あぁ」
吉「留学前にしてくださったアドバイスが的確で、そのお礼を」
美「あー。あの日ね。後から顛末は聞いたわ」
吉「忠清さんのおかげで、現地で充実した日々を過ごせたので」
美「そうなの~。うん、有意義な時間だったってわかる。そんな顔してるわよ。いい」
吉「マジっすか!よっしゃあ、美香子先生に褒められた!」
去年の夏を思い出している。兄さんあの時何しゃべってたっけ…
吉「心構えが漠然としていた僕に、何事も前向きで行けと諭してくださいました。英語が微妙だった問題も、こちらから積極的に声をかけたらスムーズにいったんです。話す相手の懐に入り、頑張りました」
武士の心構え、伝わってるよ!兄さん。
美「吉田くんなら出来る、と助言してくれたのよ。忠清くんは人を見る目があるから」
覚「だな。でも偉いぞ吉田くん、中々人のアドバイスって耳に入らないモンだ。ちゃんと出来た君が素晴らしい」
美「その通り。じゃあ、吉田くんがとても感謝してたって忠清くんに伝えておくわね。尊が」
僕「へ!僕?」
吉「あ、彼とLINEとかしてたりする?だったらよろしく伝えてください。お願いします」
僕「はい…」
兄さんとLINE!それはタイムマシンよりハードル高し。実現…はしないけど、もし可能だとしたら、通知音は縦笛で決まり。
吉「ではそろそろ帰ります。お邪魔しました」
美「元気でね。患者として来ないように!」
吉「アハハ、はい!」
覚「よいお年を~」
僕「よい、お年を」
吉田さんは、手を振りながら颯爽と去って行った。
僕「…ねぇ」
美「何」
僕「なんで僕なの」
美「ここは若い者同士で」
僕「意味わかんねーし」
美「タイムマシンと平行して造ってる、ビデオ通話的な機械。最終的に作動させるには、一度は永禄へ飛んで調整しないとって言ってたじゃない。だから尊が一番早く会えるからよ」
僕「まぁそうだけど。でもそうしないと無理って事だけわかってる状態で、まだいつ完成するか予想もできないよ?」
覚「いつかは完成させるんだろ」
僕「うん」
覚「だったら今日の話を覚えとけばいい。唯や忠清くんに会えたらこれ話すってリスト、作っとくか?手伝うぞ?」
僕「はあ」
美「またゆっくり作りましょうよ。さっ、持ち場に戻って掃除の続きするわよ~」
予定は全くもって未定なんだけど…なんとか来年、どちらかは完成できないかなあ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は大晦日です。
[no.1132] 2023年12月23日 19:36 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道36~12月24日15時
昨年の一連の様子は、現代Days57no.914から59no.916で展開しています。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅クリスマスムード満載のテーマパークに到着。メインイベントまでまだ時間があるので、駐車場はそこまで混んではいない。
瑠奈「マフラー出すね!」
しかし、やはり長さに手こずるのか、首にくるくる巻きつけながら取り出している。
僕「手伝おうか?」
瑠「大丈夫。尊には私が巻いてあげるね。ちょっとだけ屈んでくれる?」
僕「はい。お願いします」
赤い糸ならぬ白いマフラーで、ふんわりと繋がった二人。う~ん、なんかこの、高揚感?ムズムズする!…ん?
僕「どうしたの、足元ばかり見て。何か落としちゃった?」
瑠「ううん。ちゃんと地面の上に立ってるのかなぁって」
僕「あー。ははっ、はいはい」
瑠「笑ったなー。妙なコト言ってるって思ってるんでしょ」
僕「全然?よく見るとちょっと浮いてるし」
瑠「え!」
僕「僕も」
瑠「え?」
僕「瑠奈とここに来れてるなんて夢心地でさ。だから一緒にふわふわしてると思うよ」
瑠「そうなの?尊も?嬉しい!」
イルミネーションの点灯まで、ぐるりと散策している。
僕「去年も明るい内に来てたよね?ここの入口の写真がそんな感じだった」
瑠「うん。後から考えたらね、まだ受験頑張ってる子がいっぱい居たのに、おでかけ~なんて浮かれた投稿しちゃったなって、少し反省したの」
僕「誰も悪くなんて言ってなかったよ」
瑠「その後もっと浮かれた投稿したしね」
僕「確かに」
瑠「この時尊と撮った写真、今でも見返してにんまりしちゃう」
僕「恥ずかしいよ」
僕は去年、暗くなりつつある頃にここに着いたので施設の全貌がわかっていなかったが、思ったよりそこかしこに花畑がある。
瑠「寒空の下なのに元気に咲いてるよね」
僕「そうだね」
花か。花…そういえばシリカゲル、あれから使わずずっと放置状態だな。
瑠「尊?」
んー、ん。そうだ!
瑠「どうかした?」
僕「ん?ううん、何も」
瑠「百面相、かわいい」
僕「そんなにコロコロ変わってましたか」
しかし、冬は日が落ちるのが早い。辺りは徐々に暗く沈み輪郭をなくしていっているが、人は増えてきてるのでザワザワしてる。そうこうする内に5時になった。景色が一変!一面光の海に。盛り上がってきたぞ~!
瑠「綺麗~」
僕「いつ見てもすごいな」
瑠「ね、たけるん。お願いがある」
僕「何?」
瑠「光のトンネルでの出逢い、もう一度再現したい!」
僕「あー、はい」
瑠「去年と同じ時間で」
僕「同じ…」
瑠「忘れちゃった?」
僕「えーと」
瑠「5時50分だったんだよぉ」
僕「すごい。そんなにキッチリ覚えてるんだ」
瑠「当たり前でしょ。尊が電話くれた時、焦っちゃってスマホ落としそうになったし。舞い上がってはいたけど、全部覚えてる」
去年。ここに向かう途中で、LINEを確認した。それで瑠奈も来ているのを知り、結果無事会えた訳で。僕としては困惑しながらあれよあれよと進んだけれど、裏でこんなに喜んでくれていたなんてな。電話をかけたのはお姉ちゃんの策略だったけど、はめられるのもたまには悪くない、と思った一件だった。
瑠「じゃあ行ってくるね」
僕「うん」
楽しい時間ってあっという間。もう5時45分だ。僕に向かって走ってくるところから再現すると言うので、一旦離れた瑠奈。ほどかれたマフラーの片端、包む相手が居ないと心許なくて余計に長く感じる。地面に引きずらないよう注意を払う。
僕「ふう」
道の隅にふと目をやる。去年、四人が見守っていてくれた場所には…誰も居ない。そりゃそうなんだけどさ、わかってはいてもさ、つい。
僕「あ」
瑠奈が走ってくるのが見えた。わー、どうして猛ダッシュ?!到着した彼女、膝に手をつき、肩で大きく息をしている。
瑠「はあ、はあ、はあ。ケホッ、速、川、」
僕「大丈夫?!そんなに走らなくても…無理にしゃべらなくていいから!」
瑠「えっ、と…やだ、セリフ飛んじゃった!」
僕「完全再現目指してたんだ」
瑠「何度も復唱したのに~、もう一回戻って」
僕「え!待って!充分だよ!気持ちも伝わったから!ね、行かなくていい、ここに居てよ」
瑠「そう?うーん。わかった、尊がそう言ってくれるならここまでにするね」
僕「ありがとう。こんなに懸命にしてくれるなんて、逆に申し訳ない気分」
瑠「ううん。こうしたくてしてるだけだから、いいの」
僕「恐縮しちゃうよ。でもありがとう」
瑠「つい力入っちゃうのは、言わば尊マニア?だからかな」
僕「…」
確か去年兄さんが言ってた。マニアとは超好きで夢中の意味か、ならばわしは唯マニアじゃ、って。なるほど、こんな形で愛を語るのは悪くないな。
僕「それなら、僕も完全に瑠奈マニアだよ」
瑠「…」
僕「あれ、違った?そういう意味じゃない?」
瑠「ドラキュラ城で有名な」
僕「へ?」
瑠「首都がブカレストの」
僕「あー。いや、それルーマニアだし」
瑠「正解~」
僕「まさかそう返されるとは。ははは」
マフラーの端を手に取った。瑠奈の顔がパッと明るくなり、瞳を輝かせながら待ってるんだけど…
瑠「…あれ?巻いてくれないの?」
僕「うん。そうしようと思ったんだけどさ、全速力で走ってきたでしょ。まだ暑いかなと思って止めた」
瑠「えー!全然暑くない~」
目を丸くして、首をふるふると横に振る。愛らしい!あまり焦らしても何だから巻いてあげると、最上級にうっとりとした表情で見つめられた。これ、マジで僕に向けられてる?足元ふわふわどころの騒ぎじゃない!
僕「このまま空飛べそうな気がする…」
瑠「え?もー、たけるんロマンチストなんだから。でも、私も同じコト考えてた!」
手を取り歩きだす。タイムマシン造るくらいだから超ロマンチストだよ、知らないの?なーんて、いつか笑って話せる日、来るだろうか。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
唯マニアの若君、の話は令和Days102no.724に。
イブのお話はここまでです。次回は、年末恒例の大掃除。
[no.1131] 2023年12月19日 19:04 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道35~12月24日12時
君にくびったけ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅車まで戻って来た。
瑠奈「プレゼント、気になってるでしょ」
僕「そりゃそうだよ」
瑠「テーマパークに着いてからのつもりだったんだけど、海を背景になんてとっても素敵だよね。今交換しよっか」
僕「うん。ぜひ」
瑠「でも、まずは尊からね」
僕「引っ張るなぁ」
鞄から美しく包まれた箱を取り出した。
僕「えーと。メリークリスマス」
瑠「ありがとう。中身が何かわかっててもすっごく嬉しい。ときめいちゃう~」
包みをほどき、指輪ケースの蓋を開ける。より笑顔が輝く。可愛いいな。
瑠「はい」
蓋を開けたまま、僕に向けた。そして左手を差し出す。
僕「え、もしかして」
小首を傾げ、ニコッと微笑んでいる。そ、そんなの、反則だって!予習?練習?どうしよう、上手くできるのか自分!指輪もどきは今まで四人分も作ってきたけど、これ本物だし!いや、ウダウダ考えてる場合じゃない。ケースから指輪をそっとつまみ上げる。瑠奈の手を取り、薬指になんとか滑りこませた。
瑠「よくできましたぁ。ありがとたけるん」
僕「いえ。じゃ、じゃあ」
心臓バクバクのまま、プレゼントボックスを車から出した。
瑠「メリークリスマス。箱持っててあげるから開けてみて。引かれないといいけど」
僕「引くって何。どんな品物でも嬉しいよ。楽しみ」
リボンをほどいて蓋を開ける。ん?色は白っぽくて、フリンジ?が見えている。暖かそうなこれは…
僕「マフラー?」
瑠「うん。頑張って編んだの」
僕「え!手編みなの?!」
そんな…感動で叫びたい気分だ!
僕「ありがとう。箱から出していい?」
瑠「うん。びっくりさせちゃうと思うけど」
僕「既に相当驚いてるよ?これ以上は…」
出してみる。出してみる。出して…え?めっちゃ長いんですけど!
瑠「ごめんね。測ったら3メートルあったの」
僕「へ?」
瑠「あのね。どうしてこうなったか話してもいいかな」
僕「うん」
ようやく現れたもう片方の端を持ち、くるくると僕の首に二巻きしてくれた。その様子が、なんか真剣に聞いてあげなきゃいけない雰囲気だったので、空箱を受け取り、汚さないようにマフラーの残りを詰めて瑠奈と向き合った。
瑠「今まで、付き合った人は何人も居た。聞き飽きてると思うけど。でもね、こうして彼とクリスマスを迎えるのは…生まれて初めてなの」
僕「そう、なんだ」
瑠「冬に差し掛かる頃には居ても、どうしても続かなくて」
僕「…」
瑠「軽い女だよね」
僕「まさか。そんな事全然思ってないよ」
瑠「クリスマスが近づくとね、張り切って彼にマフラー贈ろう!って編み始めるの。でも出来上がる前にお別れしちゃうから、渡した経験がないんだよ。笑えるでしょ」
僕「笑えない」
瑠「嘘だぁ」
僕「瑠奈はとても魅力的だから、男が放っておかないのはよくわかる。だから付き合った人が多いのもわかる」
瑠「…」
僕「付き合った人がたくさん居たイコール、お別れした人がたくさん居たってことでしょ。いろんな別れ方はあっただろうけど、辛い時だってあったんじゃないかって思ってたんだ」
瑠「…」
僕「今日をすごく楽しみにしてるなとは感じてたんだよ。もしかして、また未遂になるかもって心配してた?」
瑠「ちょっと…だけ。ちょっとだけだよ」
僕「そっか。ごめんね、安心させてあげられなくて」
瑠「ううん、尊を疑うなんて私が悪いの」
僕「だって、トラウマになってたんでしょ?それは仕方ないと思うよ」
瑠「ありがとう。尊はホントに優しい。それでね、先月、今年こそはって準備始めようと思って、毛糸買いに行ったの。そしたら一緒に居たお母さんが、尊くんは瑠奈にとって特別でしょ、もっと手触りのいいのを選びなさいって。安い毛糸ばかり買ってたからダメだったのよ、もっともそれで尊くんと巡り逢えたとは思うわって」
僕「はは、そうなんだ」
おばさまは、僕を認めてくれたのかな。
瑠「尊ともダメだったらどうしようって頭の片隅にあったんだけど、編み進めてクリスマスが近づくにつれて、大丈夫、絶対尊は応えてくれるって思えて。一針一針がすごく幸せで、どんどん編んじゃって」
僕「それで長くなっちゃったと」
瑠「つい。でもね、でもね!」
箱からマフラーを取り出し、もう片方の端をくるっと自分の首に巻いた。
瑠「ねっ、こうしたら二人で使えるの…」
僕「本当だ。これは便利だね。えっ」
いつの間にか、大粒の涙を流している。
僕「嘘っ!ハンカチハンカチ!」
ハンカチ二枚持ちが功を奏す。
瑠「ありがとう」
僕「どうして泣くの」
瑠「尊が私を否定しないから。過去の私もいたわってくれるし受け入れてくれるなんて、ホントに素敵で尊敬できるなって。感動して泣いてるんだよ」
僕「僕はそこまで立派な人間じゃないよ」
瑠「謙遜なんてしなくていいのに」
僕「瑠奈には否定すべき要素がないからだよ」
瑠「…あはっ」
僕「え?」
瑠「分析してる言い方が、尊だなって」
僕「そうだった?でもいいや、そんなでも泣き止んで笑ってくれたなら御の字です」
瑠「ふふっ。うん、もう大丈夫」
僕「そろそろ、出発しようか」
瑠「はい」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1130] 2023年12月15日 20:21 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道34~12月24日木曜10時
ドラマSPのラストシーンの、あれです。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅僕「えぇ?!」
朝。瑠奈を迎えに来たら、マンションのエントランスでもう待っててくれたんだけど…慌てて車を降りた。
瑠奈「おはよう!」
僕「おはよう。このデカい箱…」
瑠「たけるんへのプレゼントだよぉ」
瑠奈が抱えていた真四角のボックス。大きくリボンがかけてあり、これぞプレゼント!ってアピールしまくりの見た目。ツリーの脇に置いてあったら映えそうだ。
僕「あ、ありがとう。良かった、迎えに来て。電車ではかなり目立ったと思うよ」
瑠「そう?ギリ風呂敷で包めるサイズだけどね」
箱を受け取り、後部座席にそっと乗せた。
瑠「これ、後で使うからね」
僕「使う?へぇ…」
頭に疑問符を浮かべたまま、我が家に戻って来た。玄関を開けようとしたら、待ってと瑠奈が止める。ふーん?ならばと黙って後ろから様子を窺う事にした。
瑠「おはようございます、おじさま」
覚「おー、瑠奈ちゃん!どうした?ウチもデートコースに入ってたのかい?呼び鈴なんか押さなくても、尊に開けさせれば良かったのに」
持っていた小さい包みを差し出す瑠奈。
瑠「プレゼントのお渡しだけしたかったんです。おじさまおばさまが、素敵なクリスマスを過ごせますように」
覚「えっ!ちょ、ちょっと何、何~」
驚いて僕の顔を見る。だよね。
僕「僕の差し金でも何でもないから。良かったね、お父さん」
目が泳ぎまくっている。だよね~。
覚「えーと、母さん!母さんは…いやこの時間は無理だ、いいのかい?瑠奈ちゃん」
瑠「はい。おじさまおばさまに使っていただけたら嬉しいです」
僕「今開けてみたら?」
覚「いや、この感動を独り占めは母さんに悪い。昼に開けるよ。瑠奈ちゃんごめんな、僕ら何も用意してない。せいぜい尊をこき使ってくれな」
瑠「ふふっ。はい」
僕「言われなくても尽くすって。じゃ、行ってくるね」
家の前の道路まで見送りに出てくれた父。プレゼントを大事そうに胸に抱えた姿は、バックミラーの中に消え入るまでずっと映っていた。
僕「ありがとう瑠奈。何かさ、親孝行したな~って感じる」
瑠「尊が?あはは。プレゼント気に入ってもらえるといいな。中身はね、オルゴールなの」
僕「そうなんだ。絶対喜ぶよ」
僕へのプレゼントは何?とは聞いちゃいけないんだろうな。我慢我慢。
僕「次は」
瑠「次は…海!よろしくね!」
僕「お任せください」
海までドライブ、のリクエストいただいてます。デートっぽいぞ~!ワクワクしながら車を走らせる。道路はそこそこ混んでいたが、渋滞を抜けてしばらく行った先にある海岸は、人気もなく静かだった。
瑠「わぁ」
僕「降りる?」
瑠「うん!」
車を停めて外へ出る。風がなく日差しも暖かいから上着なしでいいな。砂浜に下り、並んで波打ち際を歩く。冬の海はとても穏やかだ。
瑠「ねぇ」
僕「はい」
瑠「今私が何考えてるか、わかる?」
僕「えーと、そうだな…来年の夏は海に遊びに行きたいな、かな」
その節は、冷たく断ってすみませんでした。
瑠「ふーん。じゃあ、約束だよぉ。絶対一緒に行こうね」
僕「はい。ん?もしかして…カマかけた?」
瑠「ふふっ」
僕「やったなー」
瑠「キャハハ!」
はしゃぐように駆け出した瑠奈。追いかけようとしたその時、
瑠「きゃあっ!」
僕「わっ、危ない!!」
何かに足をとられ、転びそうになった瑠奈。すぐさま後ろから抱きかかえ、事なきを得る。
僕「良かった、間に合った。足、挫いたりしてない?」
瑠「うん…大丈夫。ありがとう」
僕「海藻を引っ掛けたみたいだね」
足元の安全を確認して瑠奈を立たせる。どうしたんだろ?何か考えてるようだ。すると、僕から数歩離れてこちらに振り向いた。ん?
瑠「たけるん。試したい」
僕「試す。何を?えっ」
僕に向かって走ってくる。嘘、まさか!無理、無理じゃない?!案の定、ピョン!と僕の首に腕をからめるように飛びついた!うわー!
僕「おっ、とっ、とっと」
少しフラついたけど、抱きかかえたまま何とか留まった。倒れてない…倒れてない!ちゃんと支えられる位体力ついたんだ!やったー!!喜びに浮かれて姫君を落とさないよう、ギュっと抱きしめる。
僕「どうしたの。びっくりしたよ」
瑠「…時は満ちた、って思ったから」
僕に体を預けたまま、ゆっくりと話す。まるで心に直接語りかけてくれているようだ。
僕「もう、飛びついても倒れなさそうって?」
瑠「うん。やっぱり全然大丈夫だった。嬉しい、いつかこんな風に甘えられますように、って夢見てたの」
あぁ。また気を遣わせてしまったダメな僕だ。
僕「そうだったんだ。すごく待たせちゃったよね」
瑠「ううん」
抱き上げる腕に力をこめる。兄さんのように全くびくともしない状態ではない。でも共倒れにはならない自信がある。そうか、僕は少しは成長できたんだ。
僕「ごめん。一年越しで」
転んでしまった瑠奈と、一緒に崩れ落ちてしまった初デートからもうすぐ一年。
瑠「ふふっ、たけるん頼れるぅ」
僕「そう思い続けてもらえるよう、より精進します」
海辺の二人。例えるなら、僕は大地に根を下ろす樹、君はその樹に華やかに咲く花。僕の腕の中で永遠に咲き誇っていて欲しい。ずっと一緒に居られますように。支え続けられますようにと願った。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1129] 2023年12月11日 21:04 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道33~12月23日水曜
よくできたお嬢さんで。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅夕方。両親が二人で食事の準備をしている。僕がリビングに下りてきたのを見て、母が手を止め、ダンボール箱を抱えてきた。
美香子「はい、飾り付けグッズよろしく。私も手伝うから」
僕「え~、三人だけだから普通の晩ごはんと変わりないのに?」
美「いいじゃな~い、気分よ気分!全部飾れとは言わないわよ」
やるけどさ。一応今日は、クリスマスパーティーらしい。
美「そりゃあね、瑠奈ちゃんも呼びたかったけど。明日も尊とデートで二日連続になっちゃうから、ご両親に遠慮したのよ~。でもね」
僕「何」
美「いつかお嫁さんに来てくれたら、毎年一緒に楽しめるから」
僕「あー、まぁ」
美「否定しないのね。満更でもない顔して~。このこのこの!」
僕「くすぐったい!ツンツン攻撃は止めて」
覚「おーい、お互いイチャつく相手が違うだろ。ここに置くぞ」
僕「あ、ローストチキンだ!…なんか小っちゃくない?」
覚「去年に比べればな。家のオーブンだし、三人だけだし。飾れたか?そろそろ始めるぞ」
パーティースタート。まずは景気付けに例のブツから。
覚「メリー!」
僕&美香子「クリスマス!」
パンパン、パパパパン!
僕「1人で2つクラッカー引くと、まあまあ華やかだね」
覚「いい考えだろ?頭数の不足はこうして補うんだ」
去年は7人だったからな。一昨年は5人。今年はささやかに3人。
美「唯が居ないクリスマスパーティーは初めてね」
覚「そうだな。去年も一昨年も、なんやかやでここに居たからな」
お姉ちゃん、兄さん、源三郎さん、トヨさん。みんな元気かな…。両親も同じく思いを馳せているようだ。
美「はい!しんみりするのはここまで!冷めない内にいただきましょ」
覚「三人だけとは言え、腕によりをかけたからな」
僕「うん」
いただきます。
僕「このスープ、クリスマスカラーだね。トマトの赤に、葉っぱが乗ってる」
覚「これはバジルだ。中々、いいだろ?」
僕「味も美味しいよ」
覚「そう言えば、明日の晩ごはんはどうするんだ。やっぱりテーマパーク内で済ませるのか?」
僕「そうなるね」
覚「今年はまぁそれでいいとして、来年あたりクリスマスディナーなんて洒落こんだらどうだ。瑠奈ちゃん喜ぶぞ~」
僕「柄じゃないよ。それにすんげぇ緊張しそう」
覚「気分上々、ロマンチックの極みだぞ」
僕「確かに喜んでくれそうではある」
覚「二人でクリスマスの雰囲気を空間ごと味わい、浸るのがまた良し」
僕「恋愛マスターは言う事が違うな」
美「明日のデートの前にもう来年の話?まずはクリスマスシーズンまで相手にしてもらえるかじゃない?」
僕「ゲゲ、さっきは持ち上げたクセにもうそんな不吉な話を」
美「だって。結局は尊次第でしょ」
覚「だな。瑠奈ちゃんに尽くせよ。タイムマシン作成と平行して」
僕「足枷が多過ぎる」
パーティー終了。はぁ。満腹だ。部屋に戻り、パソコンを開いて瑠奈を待った。
瑠奈『たけるん!お待たせぇ』
僕「いえいえ。そちらも今日はパーティーだったの?」
瑠『パーティーとまではいかないけど、出前のお寿司食べたよ』
僕「お寿司!へぇ」
瑠『ウチのお母さん、料理は洋食が得意でよく食卓に上るから、何かイベントの時のごちそうは、どっちかというと和食なんだよね』
僕「なるほど」
そうだった。あの瑠奈ん家の食卓思い出したよ。洋食は目新しくないよな。来年の参考にしよう。
瑠『あー、明日がもう楽しみ過ぎて!今夜眠れるかなぁ』
僕「そこまで?」
瑠『だって…』
僕「うん?」
瑠『今は言わないでおく。秘密~』
僕「はは、そうなんだ。明日のお迎えは10時で良かった?」
瑠『うん。あ、でもどうしよう』
僕「何?」
瑠『私、おじさまとおばさまにもクリスマスプレゼント用意したの』
えーーっ!!
僕「そうなの?!どうしよう、僕でさえ親には用意しなかったのに、それより、瑠奈の両親にも何も」
瑠『気にしないで。ウチの親には内緒で持ってくし尊は何もしなくていい。おじさまおばさまにはとってもお世話になってるもん。ささやかな品物だし、お二人で一つだけだよ?』
僕「それにしたって。ありがとう。じゃあ、ぜひ手渡ししてやって欲しい。母親はまず無理だけど父に。だから…よし、その時間に迎えには行くから、一度ウチに寄ってから行こうか。それでいい?」
瑠『いいの?私が黒羽駅まで出よっか?』
僕「ううん。ちゃんとお迎えにあがりますから」
瑠『ありがと』
こちらこそありがとう。瑠奈を娘同然に思ってる両親の、大喜びする姿が目に浮かぶよ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回、恋人達のクリスマスイブ。
[no.1128] 2023年12月11日 20:59 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部今までの続現代Days尊の進む道、番号とあらすじ、32まで
投稿間隔が長くなっていますので、最初の方のお話なんて朧気ですよね。
通し番号、投稿番号、描いている日付(これは毎回の副題と同じ)、大まかな内容の順です。┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
1no.1092、2020年1月16日木曜から2月初旬、四人の余韻に浸りつつ新生活の準備へ
2no.1095、2月14日金曜から15日土曜、高校生活最後のハッピーバレンタイン
3no.1096、2月15日から27日木曜、芳江とエリの手助けがしたい
4no.1099、2月29日土曜朝から昼、岩盤浴デートで超接近
5no.1100、2月29日昼から3月2日月曜、小垣城資料館は近日開館。卒業の重みを噛みしめる
6no.1101、3月6日金曜から11日水曜昼、大学合格。タイムマシンを二つ造る計画に着手
7no.1102、3月11日昼から夕方、瑠奈を昼食に招待。両親は感心しきり
8no.1103、3月14日土曜、イメチェン完了
9no.1104、3月中旬から下旬、業務用システム改修を耳にした瑠奈の父にスカウトされる
10no.1105、3月下旬から4月中旬、若君が不良を成敗した話をするも瑠奈にとって主役は尊
11no.1106、4月26日日曜、小垣城資料館見学からの木村先生の講演
12no.1107、6月上旬、車の免許取得。システムの売上好調でこの人材は逃さんぞと会社総出で動く
13no.1108、6月27日土曜、納車。初運転は家族で吉田城跡
14no.1109、6月28日日曜9時、瑠奈と初ドライブは小垣城資料館から。講演の効果はここでも絶大
15no.1110、6月28日11時、服買いまくり
16no.1111、6月28日14時、浴衣を選び合う。うかつな発言に注意
17no.1112、6月28日夕方から29日月曜、迫られた真意に気づけなかった
18no.1113、6月30日火曜、みつきには勝つ術なし。三人でプールへ行く約束した
19no.1114、7月25日土曜夕方、地元の祭で浴衣デート。こんな形で恨みを晴らすとは
20no.1115、7月25日夜、瑠奈のごもっともな指摘に詰めが甘い速川家
21no.1116、8月4日火曜9時、プールへGO。瑠奈のビキニ姿を直視できない
22no.1117、8月4日11時、危険もお腹もゴロゴロと。瑠奈の決意表明
23no.1118、8月4日13時、来たからには知識も総動員して満喫すべし
24no.1119、8月4日17時、罠じゃないよ愛と尊敬と感動だよ
25no.1120、8月上旬、若君の日記の解読を手伝える運びに
26no.1121、8月中旬、温泉旅行に行こうよ
27no.1122、9月3日木曜朝、瑠奈誕生日。周りの大人達に見守られ温泉宿に出発
28no.1123、9月3日昼、いろんなケーキでお祝いします
29no.1124、10月上旬から中旬、瑠奈の家に招待される
30no.1125、10月中旬、不穏な風向きになったが助けられ回避。だが思い悩む
31no.1126、11月下旬、主語は違えど会話成立
32no.1127、12月上旬、デパートでも薬局でもいつでも君を想ってる
[no.1127] 2023年12月7日 22:21 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道32~12月上旬
あれから四か月も経ってるしな。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅一段とクリスマス仕様の飾りつけが映える、都会の大きいデパートに二人で訪れた。
僕「約束通り、誕生日のプレゼント代をここで上乗せするからさ。自由に選んでいいよ」
瑠奈「ありがとう。でも予算はあるでしょ」
僕「まぁ、それは」
瑠「大丈夫。常識の範囲内にするからね」
アクセサリー売場があるフロアに到着。
僕「あー緊張する」
瑠「そうなの?」
母が言ってたように、ちょっとオロオロしてる男性の姿がちらほら見受けられる。二人で来て良かった。一人で来てたら僕も絶対挙動不審人物だったよ。
瑠「わぁ、キラキラ~」
大喜びでショーケースを眺め始めた瑠奈。まずは自由に見てもらおう。少しだけ離れてラインナップをちらっと覗いてみるか。…ん?うぇっ、もしかして眼鏡の調子が悪い?違うな、ちょっと、ちょっとどころでなくあの、お値段ってこんなに張る物なの?!
瑠「たけるん?どしたの」
僕「いえ何も、何もです」
瑠「それを吟味してくれるのはすっごく嬉しいけどぉ、今日はまだいいよ」
僕「まだ。って?」
瑠「ここエンゲージリングのコーナーだから」
僕「あっ、そ、そうなんだ」
だから数字が6桁なんだ。ビビった~。え、まだ、まだといつかはセットですか?妄想しそうになったが、瑠奈はどんどん先に行っている。待って、置いてかないでー。
瑠「たけるん、これどう思う?」
候補が決まったみたいだ。どうしよう~と言いながらもササッと売場見てたし、決断が早いんだな。感心する。気に入ったならそれでいいんだけど、ここはちゃんと答えないとな。
僕「すごく華奢な指輪だね。似合いそう」
瑠「ホント?はめてみようかな。7号サイズありましたよね?」
店員「ございます。お出ししますね」
ピンクがかったゴールドで幅はとても細く、小粒のダイヤモンドが三つ並び煌めいている。
瑠「うふふ。かわいい」
店「お客様の細い指にとても映えますね」
薬指の7号サイズってやっぱり細いんだ。しかも思ったより手頃な価格。婚約指輪見ちゃった後だから余計にかもだけど。
僕「すごく似合ってるけど、いいの?それで。もっと宝石がガツンと付いてるのもあるよ」
瑠「だって二人ともまだ学生だし。豪華なのはもっと大人になってからでいいもん」
僕「そっか。また気を遣わせちゃったかな」
瑠「ううん。尊にはこれからいっぱいプレゼントしてもらうから。今回はこれでお願いしまーす」
僕「ははは。わかりました」
購入し、プレゼント用に包んでもらった。無事完了だ。ふぅ。一休みしようと、そのままデパート内の喫茶コーナーに入る。街並みが臨める窓際の席についた。
瑠「私からのプレゼントもちゃんと用意してるからね。喜んでくれるといいな」
僕「それは楽しみ。24日に交換だね」
瑠「ねぇ、今年は一緒に行けるんだよね?」
クリスマスイブは、去年偶然出逢えたテーマパークへ、イルミネーションを観に行く予定。
僕「勿論。行くのはイブで良かった?もしかして25日かなと思ってたんだよ。と言いつつそっちはバイトが入ってるんだけどさ」
瑠「尊に逢えた記念日は25日だけどぉ、デートするならイブが良かったから」
僕「なるほどね。ん?何やら手配したニオイがするような」
瑠「え~?お父さんに、二日間の内どちらかは尊くんに出勤して欲しいんだがどっちがいいんだ、って聞かれただけ」
僕「連携プレーでしたか」
瑠「勝手に日付決めるなよ、って?」
僕「ううん。瑠奈の行きたい方で全然OK」
瑠「間違いなく行けるよね?」
僕「そうだよ?え、ちょっと距離があるから運転が心配とかかな」
瑠「そういうんじゃないの。イブを一緒に過ごせるんだねって」
僕「うん?」
何か含みがありそうな気もするけど、すごく待ち遠しそうなのは見ててわかったからまぁいいかな。安堵の表情で景色を眺めていた瑠奈が、何かに気づいた様子で窓の外を指差した。
瑠「薬局見っけた」
僕「うん、あるね。寄りたい?」
瑠「この前、在庫残り僅かだったじゃない」
僕「あー」
瑠「だから」
あの品ですね。
僕「それならもう買い足したから大丈夫だよ」
瑠「え、一人で買ったの?」
僕「そうだよ。何か疑ってる?」
瑠「ううん。以前一緒に売場見てた時、すごく人目を気にして恥ずかしそうにしてたから。ちょっとびっくりしただけ」
だよね。でも考えを改めたんだよ。
僕「それ、逆だなって思ってさ」
瑠「逆。どういう意味かな」
僕「他人の目なんか気にしなくていい。大切な瑠奈を守る為の物なんだから、恥ずかしいと思う方が間違ってる」
瑠「…」
僕「だから堂々と、レジにも普通に出したよ。ごめんね、この前はあんな風で」
瑠「尊…」
僕「あと僕、一つ心配になって。答えにくい質問だとは思うけど、この機会に聞きたい。いい?」
瑠「どうぞ。話して」
僕「もしかして、今までにナシでとか酷い目にあったりしてない?」
瑠「…嫌々着けてる男は居たよ」
僕「ひでぇ、下郎だ」
瑠「断固拒否したからナシではしてない。それは安心して」
僕「良かった」
瑠「尊って…ホントに優しいね」
僕「僕は、こちらの考え方が正解だと思ってるから」
瑠「いやん、ジェントルマン。素敵~」
僕「然程でもございませぬ」
瑠「あはは。じゃあ決まり!行こっ」
僕「今からですか」
瑠「そのつもりじゃなかったの?準備ばっちしだし」
僕「まぁ、まぁ」
瑠「たけるんはいつも、お願いしないと拐ってくれないね」
僕「すいません」
グイグイ迫るなんて、未熟者の僕には450年早いんで。
瑠「でもそんなトコも、大好き」
僕「あ、ありがとう。…引率お願いします」
瑠「ふふっ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回はクリスマスイブイブです。
[no.1126] 2023年12月3日 19:06 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道31~11月下旬
結果オーライで。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅ネット注文は時間も選ばないし楽だけど、これをクリック一つで済ませるのはなんか味気ないんだよな。
覚「鍋、どうだ。そろそろ火も通っただろ」
と言いつつ、あぁいった店に一人で行くなんて敷居が高過ぎる。
美香子「春菊も豆腐もいいわよ」
でもプレゼントが何かわからない方が、サプライズな感じでいいのかな。
美「尊~。聞いてる?」
僕「え?あ、ごめん」
美「早く取んなさい。次が入らないでしょ」
晩ごはん。寄せ鍋から上がる湯気の揺らめきをぼんやり眺めながら、ずっと考えていた。
覚「何だ。悩める青年か?」
美「瑠奈ちゃん関係じゃない?だってクリスマスが近いもの」
図星です。
覚「お父さんの会社からいただいた給料は娘さんにどんどん還元すればいい。プレゼントはアクセサリーが定番だよな」
美「今の時期、いかにもって男の子達が店頭に増えるのよね~」
覚「場慣れしてない感じのな」
美「微笑ましいのよね」
息子の悩みを見透かすような話しぶりだな。
覚「ブレスレットかネックレスが無難だろ。サイズを気にしなくていいし」
美「昔流行ったわね。ハート型のペンダントトップの」
覚「あったな。ん?それ、欲しかった?」
美「ううん?お父さんが選んでくれたのは何でも嬉しいから」
覚「おほー。そうかそうか」
何なんだ。当てつけか?
覚「瑠奈ちゃんには何をプレゼントする予定なんだ?」
僕「指輪だよ」
あ、会話に参加してるつもりでしゃべってしまった。まあいいか。
美「サイズはわかってるんだ?」
僕「うん」
覚「あれか、唯の時みたいに指に糸巻いたりしたとかか?」
僕「そんな面倒な事はしてない」
美「どんな手を使ったのよ」
僕「え?まぁいいじゃない」
つい適当にあしらってしまった。この後両親がヒソヒソ話を始めたが、気にせず僕は指輪の購入方法をずっと逡巡していた。
覚の囁き「詳しく話したがらないのは、言えない理由があるからか?」
美香子の囁き「何。特殊なシチュエーションって事?」
覚 囁き「例えば、外した指輪を見つけてこっそり測ったとか」
美 囁き「なるほど。だったらやましい思いはあるわね。でもどこで指輪外す必要がある?」
覚 囁き「確かに。風呂とか寝る前位か」
美 囁き「お風呂…寝る…」
覚 囁き「え。まさか」
美 囁き「まさか。一緒に出かけた先で?」
覚 囁き「ホテル…とか?」
美 囁き「あえて言わずにいたのに」
覚 囁き「もうそんな仲なのか?!」
美 囁き「有り得なくはないでしょ」
覚 囁き「うーん」
美 囁き「行為自体は反対しないわ。瑠奈ちゃんの同意があれば」
覚 囁き「まあな」
美 囁き「けど、避妊は必須」
覚 囁き「当然だ」
美 囁き「私達の取り越し苦労でまだそんな仲でなかったとしても、この際きちんと指導しておいた方がいいわよね」
覚 囁き「そうだな」
美 囁き「お父様よろしく」
覚 囁き「僕かー」
鍋のグツグツ煮える音で、両親が何をしゃべっているかは聞こえていなかった。やっぱ指輪なんて、実物見ながら一緒に選ぶべきじゃない?気に入った物をあげたいし。ここは恋愛マスターに教えを乞おう。
覚「尊」
僕「お父さん」
声がかぶってしまった。
僕「ごめん、いいよ先にどうぞ」
覚「あ、あぁ」
咳払いをする父。あー、そうか。僕が何で悩んでるかわかったんだな。さすがマスター。
覚「瑠奈ちゃんは、大切に扱わねばならん」
僕「はい。重々承知しております」
覚「コン…は、購入してるか?」
美 囁き「そんなアプローチの仕方なの!過程を飛ばし過ぎじゃない?まぁいいわ、主語が言えてないけどわかるかしら」
今回、指輪はもう買ったのか聞いてるんだな。
僕「わかってる。それなんだよ、どうしようかと。やっぱり一緒に買いに行くべき?」
覚「え!用意してない!まさか、ナシで済まそうなんて思ってないだろうな?」
僕「まだ買ってないだけだよ。瑠奈はお母さんからもらった物を持ってて」
美 囁き「えっ。教育的見地かしら。女子の嗜みとして?それにしても素晴らしい」
僕「色々あり過ぎて、どんなのがいいか僕はわからないから。ずっと悩んでて」
覚「あ、あぁ確かに種類は豊富だが。最近の若い子はこんな風なのか」
美 囁き「普通に売場の棚に陳列してるしね。カップルで選ぶのは悪くないと思うわ」
僕「一緒に決めた品物なら、僕が買った方を使ってくれるかなって期待もあり」
美 囁き「それって今使ってるのは使い心地がイマイチとか?そういう物なの?お父さん」
覚 囁き「気持ちの問題だろ。それか実はサイズが合わないとか」
美「サイズ!」
僕「へ?!」
ボソボソ何やら密談をしていた両親だったが、急に母が声を張り上げたのでびっくり。
覚「サイズが合わんのは問題だな…」
僕「サイズ?それは瑠奈の方から言ってきたんだよ」
美「えっ、誰かと比べて?」
僕「比べる?比べるか。瑠奈は僕なんかと違って何人もの男性と付き合ってきたから、ショボいヤツと思われても仕方ないと思ってる」
覚「えぇぇ、その…尊はショボいってはっきり言われちゃったのか?」
僕「ううん。いつも、僕が一番だよってすごく褒めてくれる」
美 囁き「あらー。そんなになの」
覚「それは自信持てるな」
僕「で?どうしよう」
また咳払いをする父。
覚「瑠奈ちゃんが持っている物はそれはそれ。お前が一人で買うのを躊躇するのなら、一緒に行くべきだ。彼女の好みもわかるし」
僕「そっか。やっぱそうだよね。一緒に店に行こうって誘ってみるよ。ありがとう」
何かホッとしたら、お腹が空いてきたぞ。さあ食うか~。
美「駆け足で大人になっていくのね」
覚「ん。あー冷や汗かいた」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回、ショッピングデート。
[no.1125] 2023年11月29日 19:49 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道30~10月中旬
疑問に思うのは頷けますが。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅食卓が華やかで少しビビってる。洋食のコース料理を一度に並べたみたいな?
全員「いただきます」
良かった。こんな事もあろうかと、テーブルマナーは復習してきたんだ。
僕「とても美味しいです」
聞かれる前に言えよ、との父のアドバイスに従う。
瑠奈「ホント?これ、これね、私が味付け手伝ったの!」
瑠奈の父「尊くんの口に合ったみたいだな」
瑠奈の母「良かったわ。お父様がプロ並の腕と聞いていたから、ヒヤヒヤだったのよ」
つつがなく進んでいた。ここまでは。
瑠母「ところで、尊くん」
僕「はい?」
瑠母「あなたには、ビジョンってあったりするのかしら?」
僕「ビジョン、ですか」
瑠母「夢とか今後どうありたいとか。聞かせてもらえないかしら」
僕「夢。はい…」
瑠母「医師を目指さなかったのはなぜ?」
えっ。
瑠「え、ちょっと」
瑠母「ご両親はそれを了承してみえるの?」
瑠父「おい、待て。不躾過ぎるだろ」
瑠母「質問してるだけよ」
瑠父「聞き方にトゲがある。驚いてるじゃないか。それに、どうありたいかなんて俺が尊くんの歳でも考えてなかったぞ」
瑠「お母さん!尊にはね、やりたい事や究めたい事がいっぱいあるの。そんないじめるような言い方しないで!」
瑠母「いじめてなんかいないわよ。尊くんはお婿さん候補の筆頭でしょう?瑠奈の人生に関わるもの、気にして当然じゃない」
僕「…」
タイムマシンの話まではしないとしても、発明家になりたいなんて言っておばさまに納得してもらえるとは思えない。なら特にありませんと答えればいいんだろうが、迫力に押されてしまい、体が硬直して思うように口が動かない。
瑠父「この話は止めだ。そんなに矢継ぎ早に聞いたら言いたい事も言えない。ごめんな、尊くん」
僕「あの…」
瑠「尊しゃべっちゃダメ!すっごく汗かいてるもん。お母さんもういいでしょ!」
瑠母「…わかったわ。ごめんなさいね、尊くん」
その後は、おじさまが違う話題を振ってくれ、強張っていた顔も少し弛緩したのだが…情けない奴と思われただろうな。
瑠「ごちそうさま。ねっ、デザートタイムはもう少し後にしようよ。先に尊に私の部屋を見せてあげたい」
瑠父「あぁ。それがいいだろう。いいな?」
瑠母「ええ」
瑠「じゃあ30分後に戻るね。尊、行こっ」
僕「あ、うん。ごちそうさまでした」
気まずい雰囲気が続かないよう助け船を出してくれたんだな。ごめん。おじさまおばさまに会釈をして、席を立った。
瑠「どうぞ」
僕「失礼します…」
廊下を少し進んだ先に瑠奈の部屋はあった。女の子の部屋なんて、姉の以外入るのは初めてでまた緊張してしまう。
僕「へぇ」
所々の調度品は可愛らしいが、さっぱりとした印象だ。ビデオ通話で背景にチラリと見えていたから、雰囲気は掴んではいたけど。
僕「こんな感じなんだ」
瑠「あはは。ぬいぐるみドーンと並んでたり、推しのポスター貼ってあったりするかと思ってた?お姉さん達がそうだったとか?」
僕「あぁ、まぁ」
そういう事にしておく。お姉ちゃんの部屋は部活関係グッズが多かったし、壁には妙なタスキがぶら下がってたりしたけど。
瑠「なら、推しの尊の写真、いっぱい貼っちゃおうかな」
僕「えぇ?それは恥ずかしいからご勘弁を」
瑠奈はクスっと笑った後、真顔になった。
瑠「尊。もう大丈夫?」
僕「うん。ごめんね。ダサかったよね」
瑠「全然ダサくなんかないよ。ごめんなさい、お母さんがまさかあんな事言い出すなんて。お父さんも知らなかったみたい」
僕「即答できなかった僕が悪いんだよ」
瑠「せっかく秘密にしてるのにね」
僕「秘密…」
瑠「だって。夢を語りたいならとっくに話してるでしょ?だから私も聞かなかった」
僕「…」
目下の夢。タイムマシンを二つ完成させたい。無理だ、まだ言えない。将来の淡い夢。君と共に人生を歩みたい…これは、今日で少し遠のいてしまったんじゃないかな。
瑠「たけるん」
虚ろな表情の僕に、瑠奈が抱きついてきた。でも下を向いたままだ。
瑠「お願い。嫌いにならないで」
僕「そんな、ならないよ。娘の心配してるんだもの。おばさまの気持ちはわかるよ」
瑠「お母さんじゃない。私を」
僕「私?どうして」
瑠「お母さんが暴走しないように、いくらでも手は打てたはずだもん…」
血の気がサーッと引いた。ごめん、本当にごめん。何も言わないのは罪なんだ。
僕「瑠奈を嫌いになんてなりっこない」
瑠「ホント?」
顔を上げた瑠奈と、真っ直ぐ見つめ合った。
僕「庇ってくれてありがとう。あの、ね」
瑠「うん」
僕「両親は僕の夢を知ってる。そして応援してくれていて、クリニックを継がないのも了承してるんだ」
瑠「そうなんだね」
僕「この位しか言えなくて。ごめんなさい」
瑠「いいよぉ。話してくれてありがとう。親がOK出してるのを、他人がとやかく言っちゃ失礼だよね」
僕「瑠奈は他人じゃないけど」
瑠「うふふ。ありがと。もうしゃべらなくていい…」
唇がそっと近づき僕の口を塞いだ。こんなに愛おしい彼女から惜しみなく注がれる愛情に、僕は応えられているのだろうか。このまま口をつぐみ何も語らないのは正しいのだろうか。苦悩の日々は続くのだろう。
瑠父「おぅ、お帰り」
瑠母「メロン切ったわよ」
瑠「わぁ、柔らかそう!」
僕「いただきます」
最後は和やかな雰囲気で会食は無事終了した。そして。瑠奈が上手く両親に説明してくれたらしく、その後一切、同じ質問を受ける事はなかった。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は、11月も終わりの頃です。
[no.1124] 2023年11月25日 19:27 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道29~10月上旬から中旬
律儀な息子。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅親に立て替えてもらっていた愛車の代金、完済しました!
美香子「こんなに早く支払いが終わるなんてびっくりねー。もっとお値段の張る車でも良かったんじゃない?」
僕「別に。気に入ったから買ったんだし」
覚「これも、コンスタントに収入が得られてるからこそだな」
シニア向けの業務システムが売れ行き好調で、そちらの収入がかなり比重を占めていた。
僕「思った以上にね」
美「瑠奈ちゃんとお父様に感謝しなさいよ」
僕「うん」
┅┅
翌日。バイト先に出勤。すると、
瑠奈の父「速川君、ちょっといいかい」
僕「はい」
社内では当然こう呼ばれる。でも人が居ない場所でサシで話すとなると少し変わってくる。
瑠父「尊くん、聞いたよ。車代を親御さんに返し終わったんだって?」
僕「はい、払い終わりました。ここで働かせてもらっているお陰です。部長に感謝です」
瑠父「いやいや。君のスキルの高さに他ならないよ。でね、ここからは瑠奈の父として話すけれど」
僕「はい?」
瑠父「一度我が家にご招待したいんだ。瑠奈がお呼ばれするばかりではね。返済のお祝い、でもないけれど」
僕「いいんですか」
瑠父「上司の家なんてあまり気乗りしないだろうけど、是非来て欲しい」
僕「そんな事ないです…。ありがとうございます、部長」
瑠父「ハハハ、そこで部長は違うよ。瑠奈に言われてたろ?」
僕「あ、はい…おじさま、ですね。すみません」
違和感ありありですが。瑠奈に、ウチの両親もそう呼んで!と強制…って言うと怒られる、アドバイスされてて。恥ずかしいけど、お父さんでは馴れ馴れしいし、妥協した訳で。
瑠父「日にちはまた擦り合わせしよう」
僕「わかりました」
┅┅
来訪日に決まった日曜日。両親は大騒ぎだ。
美「服装良ーし。あ、靴下は新品にした?」
僕「したよ」
覚「手土産は、風呂敷から出して正面向けてお渡しするんだぞ」
僕「わかった」
美「大丈夫かしら~」
覚「粗相のないようにな」
僕「頑張るよ。行ってきます」
電車で行こうかとも思ったけど、近くのコインパーキングに停めてマンションに向かった。
瑠奈「尊おはよぉ!いらっしゃいませ」
僕「おはよう。お出迎えありがとう」
到着時間に合わせ、エントランスまで降りてきてくれていた。ふーん。これがオートロックマンションか。高層階まで上がる。
僕「マンションって、何かスゲぇ」
瑠「全然すごくないよ。尊のお家、庭があるじゃない。そっちの方がいい」
僕「そう?」
瑠「緑に囲まれてて羨ましいよ。草いきれとか好きだもん」
エレベーターを降り、玄関前に立った。緊張MAX!
瑠奈の母「尊くん。いらっしゃい」
瑠父「よく来てくれたね。さ、上がって」
挨拶とか、手土産をちゃんと渡せたとか覚えていない。気が付くと、リビングのソファーに座っていた感じ。大丈夫だったかな…。
瑠父「電車?車?」
僕「車で来ました」
瑠母「車でもまだまだ暑いわよね。冷たい飲み物用意したわ。どうぞ」
僕「ありがとうございます」
お茶のキリッとした冷たさに、少し感覚を取り戻せた。
瑠母「ふふふ、思い出すわ。お正月のあの瑠奈の姿」
瑠「やだ、お母さん黙ってて」
瑠母「尊くんにデートの約束取り付けるまで、もう大騒ぎだったのよ」
瑠父「その後も騒いでたぞ。元日の電話の時には俺は居なかったけれど、デート前日もかなりだった」
僕「そうだったんですか」
瑠母「あんなにキャーキャー言って、どんな男の子なのかしらと思っていたわ。でもこんなに良い子で」
瑠父「子、は失礼だろ」
瑠母「あらごめんなさい、こんなに素敵な男性で。今は瑠奈がぐずってたこのソファーに座っているなんてね。良かったわね、瑠奈」
瑠「うん!」
両親の前でも構わずくっついてくる瑠奈。恋愛にオープンだから?かなり恥ずかしい。
瑠「さてと。じゃあ、ご飯の支度、手伝ってくるね」
僕「行ってらっしゃい」
ソファーに男二人残った。何を話すべき?共通の話題は仕事関係だけど、今はそぐわない気がする。どうしようかと少し視線を外すと、飾り棚の風景写真が目に入った。
僕「山と湖と。いい景色ですね」
瑠父「盆休みに出かけた先で撮ったんだ」
聞きました。瑠奈のお兄さん家族も一緒だったって。僕はその間、実験室で連日作業に集中し、こう言っては何だけど随分と捗りました。
瑠父「スマホだよ?カメラ機能を駆使してね」
僕「すごく綺麗ですね。僕の父もカメラが趣味なんです」
瑠父「そうなのかい?さぞかし腕が立つんだろうね。旅行先はね、当初はもう少し遠方も候補だったんだ。でも瑠奈の義理の姉に二人目が出来たのがわかったんで、安全策で近場に変更したんだよ」
はい、それも聞いてます。
瑠父「また孫に会えると思うとね、楽しみで仕方ないんだ」
瑠「尊~、お待たせぇ」
瑠母「準備できました。どうぞいらしてください」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.1123] 2023年11月21日 19:03 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道28~9月3日昼
どのケーキも美味しそう。いや、唯のはそうでもない。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅12時になり、和の風情満載の料理が続々と運ばれてきている。
旅館の仲居「お飲み物はいかがなさいますか?」
瑠奈「どうする?」
僕「乾杯したくない?祝杯的な」
瑠「あー。うん、そうする!」
ソフトドリンクですけど。料理も第一段が出揃ったようだ。
旅仲「どうぞお始めになってください。次のお品は出来次第お持ちします」
瑠「はーい」
僕「それでは。誕生日おめでとう」
瑠「ありがとう~!」
乾杯している僕らを横目に、仲居さんがニコニコしながら出ていった。
瑠「美味しそう~」
上機嫌なのが何より嬉しい。その後も天ぷらなどできたての料理が続々と運ばれてきて、僕も充分堪能した。あとはデザート、となったんだけど…
瑠「あっ」
僕「あれっ」
運ばれてきた大皿。ケーキやフルーツが可愛らしく盛り付けてあり、
瑠「わぁ!ハッピーバースデーって描いてある!え、尊のサプライズ?」
僕「ううん、僕何も伝えてないけど…」
旅仲「僭越ながら、記念日に当館をお選びいただいた感謝を込めまして、ご用意させていただきました」
僕「えっ、なんで知って…あ、そっか、さっき乾杯してたからですか?」
旅仲「はい。先程のお客様のご様子を厨房に伝えましたところ、パティシエ経験者の料理人が俄然やる気を出しまして。久々に腕をふるえたと喜んでおりました」
僕「そうだったんですか。ありがとうございます。良かったね、瑠奈」
瑠「嬉しい~!これも写真撮らなきゃ」
旅仲「宜しければご一緒にお撮りしますよ」
瑠「いいんですか?お願いします!尊、もっと寄って寄って」
僕「うん」
二人で写真に収まっている頃、速川家も昼ごはんが終わろうとしていた。
美香子「あら~、買ってきたの?」
覚「まぁな」
食後に、苺のショートケーキが二つ現れた。
覚「尊達は二人でそれなりの祝い方をしてるだろうからな。主役は不在だけど、僕らもささやかにと思ってさ」
美「そう。うん、いい。ねぇ、ロウソクってなかったっけ?」
覚「去年のクリスマス、ケーキ二つ買った時に付いてたヤツとかをどこかにまとめておいた筈だが。って、オイ」
既に席を立ち、ゴソゴソ探し始めていた母。
美「見つけたわ。いつの分からとってある?思ったより大量。2本あれば充分だったけど」
覚「大量のロウソク…そう言えば昔、あったな。ロウソクホラー事件」
美「あったわね~。唯が中学生の頃?」
覚「だな。誕生日ケーキ、最初吹き消す時に立てた歳の数のロウソク、切り分けた後の自分のケーキに全部立て直してまた火をつけると言い出して」
美「上に刺す場所がなくなって横のスポンジ部分にも突き刺すから見た目は怖いし、溶けた鮮やかな色のロウがお皿や苺の上に点々と落ちてたりしてシュールで。祝ってるんだか呪ってるんだかわかんない有り様だったわね」
覚「尊は物凄く冷たい目で見てたしな」
美「懐かしいわ~」
1本ずつ立てたロウソクに火を点ける。
覚「僕らと出逢ってくれた事に感謝を込めて」
美「大感謝よ~」
15時になった。こちらは瑠奈の家。
瑠奈の母「あら、こんな時間にLINE?何かしら」
瑠奈の父の投稿『ケーキってどの店に取りに行くんだった?』
瑠母「え。今頃何言ってるの」
瑠父 投稿『今朝あっという間に追い出されたからうろ覚えで』
瑠母「それはあなたが悪いんでしょう。んもう」
ササッと店名を入力すると、フゥと一息。
瑠母「仕込みの続きしましょ」
その頃の僕達。
僕「お世話になりました」
チェックアウト中。
瑠「デザートのケーキプレート、ありがとうございました」
旅館フロント「お気に召していただけたなら、私共も嬉しい限りでございます」
旅館を後にした。
僕「どうだった?」
瑠「また来たいな」
僕「いい旅館だったね」
瑠「うん!尊とラブラブできたしぃ」
僕「はは。はい」
瑠「旅行!って感じが良かった」
僕「そうだね。帰ったら家では豪勢なパーティー?」
瑠「かな。お母さんがゆうべから何か煮込んでた」
僕「すげぇ。手かかってる」
瑠「尊もいつかウチに食事しに来てね」
僕「あ、はい」
100点満点中何点だったんだろう。そんなん気にしなくて済むよう、もっと自信持てるといいんだけどな。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回は10月に入ります。
[no.1122] 2023年11月17日 19:40 夕月かかりて(愛知)さん 返信先: 創作倶楽部続現代Days尊の進む道27~9月3日木曜朝
腹は決まってるんだよね?
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅朝8時過ぎ。
美香子「あら、今日は早いわね」
覚「おはようございます」
芳江&エリ「おはようございまーす」
クリニックでコーヒータイム。
美「尊は?」
覚「さっき出かけた」
美「そう。今日ね、彼女のお誕生日なんですって。ゆうべからソワソワしてたのよ~」
芳江「あらぁ」
エリ「初々しいですね」
覚「どこ行くんだって聞いてはみたんだがな、内緒だって断られた」
美「そんな野暮な事して~。何とかランドでも何とかパークでも、どこでも楽しいに違いないんだから」
芳「でも尊くんすっかり、少年から青年に大変身していますよね」
覚「まぁ、見た目は。中身も追いついているといいんですが」
エ「あの、ちょっと失礼な事を申し上げてしまうんですが」
美「あら、いいわよ。何かしら」
エ「尊くん、猫背と言いますか首がヒョコっと前に出てるような歩き方でしたけど、最近はそうでもなくなったような気がします」
美「エリさん、よく見てくれてる。正解!それはね~。お二人は彼女、瑠奈ちゃんにまだ会ってないわよね。写真は見せたっけ?」
エ「はい。尊くんと二人、微笑ましい浴衣姿のお写真は拝見しました」
芳「エリさんと、朗らかな笑顔の娘さんねって話してたんですよ」
美「とっても可愛らしいお嬢さんじゃない。実際一緒に居るとすごく注目されるらしいの。だからね、何とか彼女と釣り合うよう、背筋を伸ばして歩くのを心がけてるらしいのよ~」
芳「あら素敵。努力の賜物なんて」
エ「いいお話ですね。尊くんにとってそのお嬢さんは、自分を高めてくれる存在でもあると」
美「ホントありがたいのよね」
その頃、瑠奈と落ち合っていた僕。
瑠奈「おはよう!」
僕「おはよう。そして誕生日おめでとう」
瑠「ありがとう。お父さんがね、どこに連れてってもらえるんだって朝からうるさくって。もー早く仕事行って!ってさっさと家から追い出したんだよ」
僕「ははは。いずこも同じだね。ウチも父親に聞かれたよ」
よし、出発。その頃、バイト先では…
瑠奈の父「おはよう」
部下1「おはようございます!」
部下2「おはようございます。部長、今朝は随分とお早いですね」
瑠父「娘をからかっていたら、邪険にされてしまってね。早く会社に行けとさ」
部2「あら、娘さんがいらっしゃるなんて初耳です」
瑠父「そうだね。職場で家庭の話はほぼしないから。娘は今日で19になるんだよ」
部1「へー!それはおめでとうございます。部長の娘さんなら、さぞかしお美しいんでしょうねぇ」
部2「狙ってるのかしら?」
瑠父「娘は今日、彼とデートだよ。だけどね、我が家の晩飯時には帰してくれるらしいんだ。いい男だろ?」
部2「本当ですね。はい、出る幕なし」
部1「ですよね~」
瑠父「さて、折角早出したからメールチェックでもするよ」
彼氏はほら、君達も知ってるアルバイトの、とは話されないんですね。ありがとうございます。
旅館フロント「お食事は12時からで宜しかったでしょうか」
僕「はい」
11時。無事到着しチェックイン中。良かった、以前親がやってるのを見ていたから、初めてにしてはきっと上出来。
旅フ「お時間になりましたら、お部屋まで運ばせていただきます」
僕「わかりました」
旅館の仲居「それでは速川様、お部屋にご案内いたします。古い建物で所々段差がございますので、足元にお気を付けください」
廊下を歩く。所々でミシッと音がする。築何年位なんだろ?全体的にこじんまりとしてて、10部屋もない感じだ。
瑠奈の囁き「速川様って。ふふっ」
僕の囁き「そりゃそうでしょ。おかしい?」
瑠 囁き「私も速川になったみたいで嬉しい」
僕 囁き「あっ、そういう事…」
旅仲「こちらです。どうぞ」
部屋に一歩入ると、ほんのりと木の香り。
瑠「わぁ、明るい~」
旅仲「このお部屋改装したばかりなんですよ。喜んでいただけて光栄です。どうぞごゆっくり」
お茶を淹れてくれると、仲居さんは部屋を後にした。ふう。一段落だ。
瑠「お部屋も、温かいお茶も、和む~」
長距離運転した甲斐あり。君が喜んでくれれば、疲れも何のその。
瑠「ねぇ、ご飯前にお風呂にしようよ。やっぱり旅館の食事は、お風呂上がりに浴衣でいただきたいもん」
絶対この旅館穴場だと思う。部屋の外には見事な植栽の中に溶け込みそうな小さな露天風呂。う~ん渋い!十代の僕らよりは両親世代が喜びそうではある。
瑠「お茶飲んだら入ろうね」
僕「うん」
何だその、当たり前のような返事は!とお思いでしょうが。恥ずかしいよ?刺激強過ぎでクラクラする。でも予約が取れた時にもう、絶対お風呂は一緒って言われてたし…。
瑠「あ。ごめんたけるん」
僕「へ?」
瑠「先にあっちでイチャイチャしたかった?」
僕「え!」
指差す先には布団が敷いてあった。生々しいから、視界に入らないようにしてたのに!
僕「ななななんのコトやら」
瑠「え~、わかってるクセに。今更?」
僕「い、いまさらって言った…!」
瑠「たけるんかわいい!あっちは後でたっぷりと、ね」
僕「たっ、たっぷり!」
もうタジタジです。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。