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    続現代Days尊の進む道117~8月上旬

    切磋琢磨。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ゆうべ。自分の部屋で通話中。

    瑠奈『明日、大丈夫?』

    僕「大丈夫だよ」

    瑠『ホントに?だって人前に出てしゃべるの苦手でしょ』

    僕「得意ではないけど」

    瑠『心配。ついて行こうかな』

    僕「入れない入れない」

    今朝。朝食中の食卓。

    美香子「今日、大丈夫?」

    僕「へ?大丈夫だよ」

    美「ホントに?だって人前に出てしゃべるの苦手でしょう」

    僕「得意ではないけど…何だこの既視感」

    美「心配。ついて行きたいわ~」

    僕「入れねぇし」

    今日、例の通称見守りシステムを商品化するかについて、バイト先でプレゼンをするんだ。あんまり過保護にされると、かえって緊張するんですけど!

    司会「では最初の方どうぞ」

    そして今、ここは会議室。今回プレゼンするのは三人。僕は最後だ。

    司「ありがとうございました。では次の方」

    最近、優秀なアイディアには個人で契約する、会社の歯車の一つとして給料に少し上乗せ位ではモチベーションも下がるから、と三か月に一度位こういった機会が与えられるようになったんだ。僕以外の二人は正社員さん。やる気に満ち溢れてるのがよくわかるし、皆さんまずまずの評価を得ている。

    司「では最後の方」

    僕「はいっ」

    席を立ち前に出た。ズラッと並ぶ面々。その中には部長である瑠奈の父も居る。娘と僕の交際の事実は職場に明かしてはいない。でも公平な目で判断して欲しい、とは瑠奈から伝えてもらっていた。

    僕「あらかじめ親機の方で設定を済ませ、子機の方はコンセントに差すだけ、または乾電池でも動かせます」

    以前、改善した業務系システムをヒットさせたからと言って、全てノープロブレムである訳もなく。訝しげな、もっと言うと冷たい視線が突き刺さる。部長の表情はあえて見ないようにした。助けを求めてるように感じられてはいけないと思って。

    社員1「時間になったら自動的に電源をオンオフ、ね~」

    僕「顔を見ながら話す事だけに特化しまして」

    社員2「そんなにニーズあるかね?」

    僕「未だに通信機器が苦手な高齢者は多々いらっしゃいます。より簡単に、操作自体を不要にしました」

    どんな質問が飛んでくるかは想定内。でも前の二人に比べて、なんかザワザワしてるのが気になるところ。

    社員3「部長はどう思われますか」

    え、意見聞いちゃう?

    瑠奈の父「そうだね…」

    そりゃ、話は振るよな。

    瑠父「速川くん」

    僕「はい」

    瑠父「このシステムにキャッチフレーズを付けるとしたら、何」

    僕「え」

    マジか!そんな質問は想定外!焦るな焦るな、考えろ考えろ…

    僕「笑顔も届く糸電話、です」

    瑠父「糸電話。懐かしいね」

    好感触?

    瑠父「でも無理矢理絞り出した感がある。違うパターンは?」

    うえぇ!えっと…

    僕「毎日、会おうね」

    どうですか?ありきたり?

    瑠父「うん、その方がコンセプトがはっきりしてていい。わかりました。席に戻って」

    僕「はい。ありがとうございました」

    ドッと汗が噴き出した。

    司「結果は追って連絡します。皆さんお疲れ様でした」

    厳しいかもな。…そして、数日後。

    瑠奈「決め手に欠けたって言ってた」

    僕「だろうね」

    商品化まで漕ぎ着けず。

    瑠「他のお二人は通ったって?」

    僕「うん。次の段階に進んで、商品モニターさんの評価待ち」

    瑠「悔しい、よね」

    僕「勝ち負けじゃないし。そうトントン拍子とはいかないよ」

    瑠「次回はどうするの?」

    僕「基本は今回のシステム推しで、新たに思い付いた仕様があるからそれをプラスして、再トライするよ」

    瑠「そっか。頑張ってね」

    三か月後、リベンジするぞ。

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    次回は、三か月後…ではなく二か月後、10月のお話です。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道116~7月4日その5

    山の神じゃないよ、守り神ですぅ。
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    小平太「何からお伝えすれば良いのやら」

    若君「そう固くなるな。ほれ、一服せよ」

    コップを手に取り、麦茶をコクコクッと喉に流しこんだ小平太さん。

    小「母…が」

    若「吉乃殿か」

    小「はい。奥方様のまことの母ではない旨は、父にもおじじにも伏せておきます。そうであろうとなかろうと、最早」

    美香子「そうねぇ。関係ないものね。唯の出自がどうであれ、ご両親が幸せな結婚生活をされていれば」

    覚「縁は異なもの味なものだ」

    小「実の母を送り、早十年となります」

    美「ご病気で?」

    小「はい」

    美「そう…」

    小「永禄三年をとうに越え、永らえた我が命」

    若「うむ」

    小「それにも増して、母上を新たにお二方も迎えられたなど、この上なき幸せに存じます」

    僕「二人。吉乃様と」

    美「私、私?あら~、忠清くんだけじゃなく、小平太くんもそう思ってくれる?」

    小「時には厳しくもあり、されど大きな愛情で包んでくださっている。亡き母に重なります」

    美「お母様と。嬉しいわ~」

    小「お父さんも」

    覚「おっ?」

    小「朝餉は、お父さんが支度されたと伺い」

    覚「あさげもひるげもゆうげも、作ってはいるな」

    小「いやはや驚きました。家長であらせられる身でありながら」

    覚「大した事ないよ」

    小「感服つかまつります」

    覚「照れるなー。ありがとう。気張ってやってはいないからさ。妻が働き夫が家を守るみたいな家庭は、今の時代でもまだ少数派だがな」

    小「このような家で伸び伸びと育った奥方様であるからこそ今がある、とつくづく感じ入りました」

    僕「伸び伸びね」

    覚「伸び伸びな」

    美「言葉を選んでくれたわね」

    小「はは…。時折、ようわからぬ言葉を話しておられますが、こちらの世でも聞き及び、頷けました」

    美「ごめんなさいね~、妙な事ばかり言ってるでしょ」

    言葉遣いは平成JKのまんまで、大人にシフトしてないもんなあ。

    覚「例えばどんな言葉だい?」

    小「ウケる、と」

    若「確かによう申す」

    美「意味、わかった?」

    小「大方は。瑠奈様も口にされておりましたゆえ」

    僕「あ。うん、ゆうべの会話に出てきたかも」

    小「ははあ、これが先の世の言い回しか、とようわかりました」

    美「少しは謎が解けたのね」

    小「はい」

    若「フフ。これで唯と、眉を顰めずおおらかな心持ちで相対する事ができるかのう?」

    小「は、はい」

    みんなで大笑いした。

    美「さて。お先に失礼するわね。着替えが済んだ頃に、クリニックにちょっと顔出してくれるとありがたいわ。その頃には看護師さん達出勤してるから」

    若「心得ました」

    覚「小平太くん、麦茶好きみたいだね。もう一杯どう」

    小「はっ、頂戴します。永禄でも麦は煎じますが、この茶の風味はまた格別で」

    僕「気に入ったなら、麦茶パック持ち帰ってもらえば?」

    覚「そうだな。水出しOKで未開封のが一つあるから、レンコンと一緒にしとくよ」

    キッチンの作業台には、詰められるのを待つはさみ揚げがズラリと並んでいた。

    小「そのような、畏れ多く」

    覚「いいのいいの。遠慮は無用だよ」

    若「折角のご好意じゃ。いただいておけ」

    小「はっ」

    もうすぐ8時。いよいよお別れか。二人には着替えに行ってもらい、僕は父とお土産の準備をした。

    芳江「お名残惜しいわ」

    エリ「またお会いできる日を、楽しみにしてます」

    美「じゃあね。元気でね」

    小「ありがとうございました」

    若「では、また」

    クリニックでの挨拶を済ませ、実験室へ移動。土産は三家族分でどっさりあるし、二人とも腰に差したおもちゃの刀が絶妙な違和感だし。ちょっと、ウケる。

    覚「8時半か。そろそろだな」

    若「毎度の事ながら、矢庭に訪れたにも関わらず手厚いもてなし、感謝致します」

    覚「なんのなんの。元気な姿が見られて嬉しかったよ」

    若「次は、唯を伴います」

    覚「うん。楽しみにしてるよ」

    僕「小平太さん、勉強お疲れ様でした。会えて嬉しかったです」

    小「得難い経験ばかりでございました。心より御礼申し上げます」

    僕「兄さん、これ」

    メンテナンスと燃料補給を終えた、起動スイッチ2号を渡した。

    若「確と受け取った」

    おもちゃの刀と一緒に腰に差す兄さん。手には起動スイッチ3号。そして…

    覚「行ったな」

    僕「うん。さてと、寝よ」

    怒涛の半日だったよ。その後、永禄では…

    唯「おかえりたーくん!あれ、小平太は?」

    若「帰した」

    唯「ふーん。二人で行ったよね?」

    若「勿論じゃ。ほれ」

    唯「やったー、はっさみっ揚げ~!」

    源三郎「私共にもでございますか?」

    トヨ「まぁ…」

    若「トヨには、無理をせず体をいとわれよ、と言付かった」

    ト「そのような。勿体のうございます」

    唯「私には?私にはないの?ことづけ」

    若「そうじゃな…無茶をせず体をいとわれよ」

    唯「なんか差つけられてない?つーか、たった今、たーくんが思いついたんでしょ!」

    若「ははは」

    ずっと立ったままだった兄さんが、みんなの前に腰を下ろした。おもちゃの刀は源三郎さん達の手前、自分の部屋に置いてきた模様。そしてゆっくり話し出す。

    若「皆の者。小平太には全て話した。これからは、良きに計らう様」

    唯「ん、わかった」

    源「はっ」

    ト「はい」

    晴忠「あー!」

    唯「返事した?」

    若「フフ」

    晴忠ちゃんや里芳ちゃん、これから生まれる子供達は、現代との繋がりをどう理解していくんだろうな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、見守りシステムのプレゼンです。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道115~7月4日その4

    小平太グッジョブ!だったのを当時の彼が知る由もなく。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「お疲れ。ささ、座って。朝飯くらいゆったりと過ごそうな」

    ラジオ体操が終わった。テレビの説明もロクにしないまま、画面の中で人は踊ってるし、同じ動きを僕達全員、兄さんまで揃ってやってるし。そりゃワケわかんなくて当然で、ずっと目をしばたたかせていた小平太さん。

    美香子「さっきまで勉強三昧だったんでしょ」

    僕「だね」

    美「短い時間であれもこれも教えたかった気持ちはわかるけど、ちょっと無茶したんじゃないかしら?」

    だね。僕もそう思う。今回は、姉のバックグラウンドなどを小平太さんに知ってもらうために連れて来たらしい。兄さんの懸命さはよくわかったし、小平太さんも応えられる人ではあったけどさ。

    若君「そうやもしれませぬ」

    美「でしょう。ダメよ、いくら忠清くんの近習とはいえ、自分の意のままにしてはね」

    小平太「…」

    若「仰せの通り、些か焦りはございました。済まなんだな、小平太」

    小「いえ!そのような」

    美「小平太くん、ウチに居られるのもあと少しだけど、ゆっくりしてってね」

    小「ありがとうございます。…おぉ」

    食卓に並ぶはさみ揚げにロックオン。

    覚「どっさり揚げたから、遠慮なく食べな」

    若君&小平太「はい!」

    はさみ揚げって最強。若武者二人、大喜びでほおばっている。

    覚「三年前に一度、天野のじい様用に持っていってもらったんだが、その時小平太くんは食べてはいないかい?」

    小「少し口にしました」

    覚「少し。一つって事?」

    小「わしのレンコンじゃ、と器を抱え一向に離す気配がなく」

    覚「ははは。まぁ間違いではないが。喉に詰まらせないよう隠し包丁もしたしな」

    小「ようやく一つ渡されましたゆえ、其が半分、父上と母上で残り半分を二つに分け頂きました」

    美「あらま」

    僕「ドケチ…」

    覚「何だ。そんななら、もっと持たせてやれば良かったな」

    小「いえいえ。欠片さえも大層美味しゅうございました」

    美「じゃあ、これが三回目のはさみ揚げね。一回目は、唯が配って歩いてたでしょ」

    小「…はい。思い出します。食した後、若君にお声掛けしましたところ、何やら匂いがすると仰せられ」

    若「フフ。嗅いだ覚えのある、かぐわしい香りを口元から漂わせておりました」

    覚「揚げ物だからな。スパイスも入ってるし、独特だ」

    小「遠来の客が携えてきたレンコンを食しましたと申し上げると、客とはどのような!と」

    ┅┅回想。永禄三年、実験室の爆発後唯が飛んできてすぐの黒羽城┅┅

    小「ど、どのようなとは」

    若「何を口ごもっておる」

    小「その、生きておったとは思わず、驚きまして」

    若「ほぅ。里に帰ったとは、吉乃殿に伝えたのみであったな」

    小「は?はあ」

    若「して、その者は天野の屋敷に居るのか」

    小「居らぬかと」

    若「居らぬ?」

    小「母上と話したのち、肩を落とし座り込んでおりましたが、すぐに走り去りまして」

    若「走り去り、か。うむ。わかった、ならば領内の見回りに参る」

    小「はっ。お供致します」

    若「要らぬ」

    小「えっ」

    若「客人とは、唯之助であろう?」

    小「な、何と…」

    若「お前は城に残れ。行って参る」

    ┅┅回想終わり┅┅

    僕「なんでわかった?ですよね」

    小「はい。母上から、唯之助が戻った事を決して若君に言うてはならぬ、阿湖姫様との婚礼が終わるまではと口止めされており。その節は申し訳ございませぬ」

    若「構わぬ。すぐ気付いたしの」

    小「城でお帰りを待っておりましたら、戻られた若君が…ずぶ濡れでいらしてまた驚き」

    はいはい。

    覚「起動スイッチの回収か」

    美「唯が池に捨てたけど、忠清くんが拾ってくれてたって話ね。まだ冷え込む日もあった頃でしょ。大丈夫?風邪引いたりしなかった?」

    若「はい。まだ日の高い内でしたので」

    ごちそうさまでした。率先して使い終えた食器をキッチンに運ぶ兄さんを見て、また目を丸くする小平太さん。慌てて後に続いていた。

    美「まだ時間あるわね。座って」

    時計は7時20分を指している。母は8時前にはクリニックの開院準備を始めるので、そんなにはのんびりしていられない。父も、冷えた麦茶のポットを手に、すぐ戻ってきた。

    美「小平太くん。半日大変だったわね」

    小「いえ」

    美「あのね。この状況をどう感じたかとか、あなたの言葉で聞かせてもらえると嬉しいわ。このままでは、ほとんど話もできず帰る事になるもの」

    覚「そうだな。尊」

    僕「ん?」

    覚「8時39分がリミットだろ。それを逃したらどうなる?」

    僕「来月の、望の瞬間の前後12時間の内に帰ればいいけど、向こうでも一月経っちゃうよ」

    覚「だよな。じゃあやっぱり早速聞こう」

    若「小平太。忌憚なく話すが良い。わしが居っては困るなら離れるが」

    小「いえ!どうかお側に」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 出演者情報板
    源三郎!

    今日はこちらの板に参りました。

    光る君へ。時々NHKオンデマンドやNHK+で視聴するんですが、昨日の第42回を流し見していましたら、

    「あれ?今源三郎映らなかった?」

    源三郎役の篠田諒さん。藤原実資の養子、資平として登場してるじゃないの。これで、若君、小平太、如古坊、源三郎が同じ回に。なんて胸熱なんでしょう。

    もっとも、資平登場シーンのほとんどが当然ながら実資と一緒で。ロバート秋山さんの顔芸の圧の前では、存在が霞んでしまいます。頑張れ源三郎。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道114~7月4日その3

    盛り込み過ぎだってば。
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    黒羽城公園に到着。真っ先に城跡へ向かった。城はもはや存在しないと聞かされていても、石垣のみ残る姿を見れば、やはりショックは大きいに違いない。

    小平太「…」

    兄さんも、あえて声もかけずそっとしてあげている。

    小「戦…でございますか?」

    若君「わからぬらしい」

    小「後々の世まで残り、小垣城の様に取り壊されたとも考えられますか」

    僕「同じ時代までは残ってなかったみたいです。その時に廃城の憂き目にあった訳ではない、まではわかってるんですけど、なんせ資料が全然なくって」

    わかるかもしれないチャンスはある。それは、兄さんが書くであろう日記。緑合からそんなに遠くない黒羽城の様子は、きっと今後耳に入ると思うんだ。兄さんが書き続けている間限定ではあるけれど、まだ解読が進んでいないあの膨大な量の日記の中から、少しでもその後の顛末が出てきてくれればいいなと願っている。

    小「無念にございます」

    若「じゃが、此処も、民が集うておる」

    最近の猛暑で、早朝にジョギングや犬の散歩をする人が増えているみたい。思ってたより人が多くてびっくり。

    若「黒羽の名も残っておるし」

    小「はい…」

    若「鬱いだ顔つきをしておるの。そうじゃ、いい物を見せてやろう」

    僕「いい物?」

    遊具のある場所に移動してきた。

    若「ほれ」

    小「ほぅ…これはもしや」

    僕「ブランコですか。兄さんの部屋の前や、あと城門の前にあるんですよね」

    若「童がよう集まる。それゆえ、縄が緩んではおらぬか、板が外れそうになっておらぬかは、常々確かめておる」

    僕「安全に遊んで欲しいですもんね」

    小「これはまた、頑丈に鎖で繋がれておりますな」

    若「緑合ではこうはゆかぬ。これなら小平太でも充分乗れるぞ」

    小「気には、なっておりました」

    僕「だったらどうぞどうぞ」

    二十代男性三人でブランコに群がるの図。端から見るとどうなのって感じだけど、いいよね、ちっちゃい子の姿は見かけないから取り上げたんじゃないし。

    若「さして変わってはおらぬのう」

    僕「まだ謎に包まれたままなんで」

    公園の隅に移動してきた。

    小「どなたかの墓でございますか?随分と小さく拵えてありますが」

    若「羽木九八郎忠清じゃ」

    小「は、はぁ?!」

    かなりうろたえながら墓に駆け寄り、目を凝らして観察する小平太さん。源三郎さんとトヨさんにしたのと同じ説明と僕の見解を一通りさせてもらうと、ようやく落ち着いてくれた。

    小「子細を教えてくださり、ありがとう、ございます」

    僕「想像の域を出ない部分も大いにあるんですけどね」

    小「これで腑に落ちました」

    僕「へぇ。どの辺りがですか」

    小「相賀一成が、若君様を捜さなんだ訳がわかりまして。月に消えては追えませぬ」

    若「フフ」

    公園入口まで戻ってきた。さて、帰りますか…ん?

    若「これを読め」

    あ。立看板というか案内板。羽木家に触れている内容のだ。これがまだあったか。

    小「羽木家は滅亡…したと考えられていたが、近年の発掘調査により通説が覆りつつあり、現在も調査が続いている」

    若「永禄ニ年には、羽木はのうなっておった。唯が現れねば」

    小「そ、そのような!まことにございますか、尊殿」

    僕「はい。あの、姉が永禄に飛ぶ前は、地元の歴史はこう学んでたってのがあって。ちょっと待ってくださいね」

    当時のテキストを、写真でスマホに残しておいたんだ。読み上げる。

    僕「永禄2年、黒羽城城主羽木忠高は、隣国高山に攻め込まれ城ごと炎上、滅亡した」

    小「その時分、幾度も高山に攻められてはおりましたが…」

    ちゃんと話をしたいのは山々なんですが、スマホに表示された時間が気になりましてでございます~。

    僕「兄さん、もう6時過ぎてます。もう帰らないと、体操が」

    若「おぉ、それはならぬ!戻るぞ」

    小「ならぬ?何がならぬのですか」

    帰りは小走りになってしまい。道中もできるだけ、質問に答えたつもり。聞きたい事は山程あるわ、何で急がされてるかがわからないわで、小平太さんの顔がずっと、?になってたのが気の毒だった。

    僕「ただいま」

    美香子「おかえり~」

    若「只今戻りました」

    美「おかえりなさい!小平太くん」

    小「は、はい。お母さん」

    玄関で明るく出迎えた母の姿に、ホッとした表情を見せていたのが印象的だった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    お墓の説明と見解は、現代Days70no.929で致しております。

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道113~7月4日その2

    スパルタ式教育?
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    小平太「まさしく瓜二つ」

    若君「そうじゃろ」

    木村先生の写真を小平太さんに見せている。

    小「ここまで似る者が居るのかと」

    僕「そんなに似てるんだ。わかった!実は同じ人だったりして。あはは」

    若「ハハハ」

    兄さんがセレクトした図鑑や資料集が、食卓にドサッと積み上げられた。小平太さんにこの量を読ませる?ひえぇ。

    若「この書物から読め」

    日本史の教科書を手渡された小平太さん。これは、兄さんが姉の部屋で読んだ物ではなく僕が使ってた物。

    小「よう読まれた跡があります」

    僕「僕の教科書はだいたいこんな感じです。姉のとは違って」

    小「頷けます」

    若「フフ」

    僕は二人を残し、リビングを出て実験室に。小平太さんが腰に差して持ってきた起動スイッチ2号の、メンテナンスと燃料補給をするためだ。傷みもそれほどなく、比較的短時間で作業を終えて戻ってきた。

    若「もう済んだのか」

    僕「はい。綺麗に使ってもらってて、有り難かったです」

    若「またひと月、来れるようになると」

    僕「そうですね。でも来年からは僕、就職…えっと、働き始めるんで、家に居る時間が今より短くなるんですよ」

    若「働く。今も働いて銭を稼いでおるではないか。どう違うのじゃ?」

    僕「正式にというか。アルバイトから、正社員って身分に変わります。んー、わかりやすく言えば、出世かな」

    大学四年。周りでは内々定が始まっているが、僕の場合内定どころかほぼ決定になっている。バイト先である、瑠奈の父が働く会社。当然の運びではある。

    若「それは喜ばしいの。また新たに一品発明したと、先程瑠奈殿が申しておったな」

    僕「まだ造ってる途中ですけどね」

    4号おもナビくんを応用した見守りシステム。商品としての素案は3月中に提出した。空いた時間に実験室でコツコツと作業を進めている。もうすぐ大学も夏休みに入るし、

    僕「来月には完成させて、会社にプレゼン…提示する予定です」

    若「精が出るのう」

    僕「世の為人の為になりそうな機械なら、寸暇を惜しんで働きますよ」

    若「無理はせぬ様」

    夏は夜明けが早い。

    若「空が白んで参ったな」

    僕「今日の日の出は、と。4時42分か。あと30分位ですね」

    あんなに積まれていた本の山も、小平太さんの手元にある一冊のみとなっていた。家臣の力量を完全に把握してるからこその、冊数だったんだな。凄っ。

    小「ふう」

    僕「読み終わりましたね。お疲れ様でした」

    若「よし。運ぶぞ」

    小「はっ!」

    僕「えっ」

    大量の本をすぐに片付けて僕の部屋に戻そうとしてるので、そんな、後で自分でやります!って止めたんだけど。一気呵成が得意な二人に敵うワケがない。第一、階段を駆け上がるのが速い速い。あっという間に終了。

    若「ならばこれより、城跡へ参る」

    ゆうべ小垣山に行った時、黒羽城公園にも寄ろうとしたら、明るくなってからで良いと言われてて。

    僕「車出しましょうか」

    若「いや、徒で構わぬゆえ」

    僕「はい。なら歩いて行きましょう」

    若「そう言えば、唯の馬は息災か?久しく乗ってはおらぬが」

    僕「自転車ですか?ずっと放置してあるから動くかなぁ。使うなら兄さん一人だけ乗って、僕と小平太さんは歩きですね。自転車の二人乗りは、市の条例…えっと、御触書で禁止になったんで」

    三人で外に出た。自転車は、父がメンテナンスしててくれたみたいで問題なく乗れた。けど、今年から努力義務になったヘルメットも用意はしてないし、兄さんにも納得してもらって、明るくなってきた駐車場で少しだけ乗ってもらう事にした。

    小「これが奥方様の馬」

    目の前で兄さんが乗り回す物体。なぜか頻りに頷いている小平太さん。

    小「カリカリと細っこく、くるりくるりと走り回る姿は、主に似て」

    僕「なるほど」

    若「小平太も乗るか?」

    小「い、いえ、又の機会に」

    もう5時だよ。そろそろ出かけましょう。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道112~7月4日火曜その1

    先妻との間に、小平太以下二男一女をもうけてござる。
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    家に帰ると、両親はまだ起きていた。

    覚「外暑かっただろ。風呂、入んな」

    僕「あー。うん」

    美香子「もう夜遅いし、三人一緒に入っちゃいなさい」

    僕「わかった。最後栓抜いとけばいい?」

    覚「ああ」

    美「忠清くんと小平太くんには、ジャージ出しといたわ。ゆったり寛いでちょうだい」

    若君「忝のう存じます」

    美「さてと。私はそろそろ休ませてもらうわね~」

    若「お母さん。我々の帰りをお待ち頂いたのですか」

    美「かわいい息子三人の帰宅は待つわよ~」

    小平太「…」

    美「明日も仕事なんでここでごめんなさいね。じゃあおやすみなさい」

    若「おやすみなさい。お母さん」

    小「おやすみ、なさい、お母、さん」

    浴室では、意外な展開に。

    小「難しい。上手くゆきませぬ」

    若「何じゃ。蛙の卵を拵えたのか」

    僕「カワズのタマゴ!うわ、見える。粗めの泡加減がそっくり。小平太さん、もうひと頑張りですよ」

    若「わしのはいかがじゃ」

    僕「おっ、モコモコじゃないですか。生クリームみた…うぷっ」

    小「尊殿!」

    僕「ケホッ。もー、兄さん!顔に不意討ちはナシですよ!」

    若「ハッハッハ」

    小平太さんがシャンプーやボディーソープの泡に興味津々だったので、誰が一番泡立てられるか遊んでしまった。あちこち飛び散ってて後が大変だったけど、超楽しかった~。童心にかえった後は、ちゃんと湯船に浸かって。

    僕「ふう。夏でもやっぱ風呂はいい」

    若「尊よ」

    僕「はい?」

    若「尊ももう眠らねばならぬのではないか?」

    僕「だって兄さん達ずっと起きてるんでしょ。付き合いますよ」

    若「大学、は?休みか?」

    僕「明日は休みます」

    若「本来は行く日なのじゃな。済まぬ」

    僕「気にしないでください」

    小「大学?」

    若「尊は毎日、大学と申す学び舎に通うておるのじゃ」

    小「まだ学びを続けられておると!はぁー。まことに血を分け…」

    僕「分けてるんですよ」

    若「そう思うのも無理はない」

    僕「兄さんまで乗っかってる」

    小「…あの、若君様」

    若「ん?」

    小「今まで申し上げずにおりましたが」

    若「何じゃ」

    小「かつて、奥方様と風呂を同じゅうしそうになりまして」

    僕「え」

    若「天野の屋敷に居った頃か」

    小「はい。某が屋敷に戻るのが遅うなった日でした。先に入っておるのはわかっていたのですが、父上が、お前の方が年長だ、唯之助に背中でも擦らせれば良いと言い出し、入れと」

    僕「うーわ。でも起こり得る話だよなぁ」

    若「して、どうなった」

    小「ならばと支度を始めたところで母上に用を頼まれ、事なきを得ました」

    若「吉乃殿が助け舟を出したと」

    小「今となれば、危のうございました」

    若「まあ、信近にとっては、紛れもなき天野家の三男じゃからな」

    小「次女ではなく?」

    若「ハハハ」

    何かを思い出しながらしゃべってるっぽい。いいや、兄さん楽しそうだし。でも僕は、違う観点で話を聞いていて。

    僕「お姉ちゃんは、兄さんを守り抜くために永禄で生き抜く決意をしましたが、ちゃんとおふくろさまに守られてもいたんですね」

    若「うむ。そうじゃな」

    小「何ゆえ」

    僕「え?」

    小「我々の暮らす永禄は、いつ戦になるとも知れず明日の身もわかりませぬ。奥方様は、何ゆえこのように平和な里を去ってまでと」

    僕「それは。愛ですよ、愛」

    小「尊殿もそう思われますか」

    若「いや、唯は何も考えてはおらぬ。ただやる。それだけじゃ」

    小「はあ」

    僕「兄さん。今日はいやに、妻に厳しくないですか」

    若「フフン」

    小「尊殿。照れでございましょう」

    僕「そっか!」

    若「それ以上申すな」

    三人の笑い声が浴室にこだました。風呂を出ると、はさみ揚げの仕込みが終わった父が、淹れたてのコーヒーを出してくれた。

    覚「小平太くん、どうだい?口に合うかな」

    小「苦味はあれど、美味でございます」

    覚「そうか。良かった。じゃあ僕もそろそろ寝るよ。おやすみ」

    若「おやすみなさい。お父さん」

    小「おやすみなさい。お父、さん」

    僕「徐々に挨拶も慣れてきてる」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道111~7月3日その6

    昼間も心地好い風が吹いていそう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    車まで戻ってきた。令和の夜の明るさに、感心しっぱなしの小平太さん。

    小平太「そこかしこ、昼と見紛う程照らされ」

    若君「これこそが先の世じゃ」

    小「まばらに見える光も、蛍の如く美しく」

    どれが?と思ったら、遠くの家々からぽつぽつと漏れる明かりを指していた。表現が素敵。

    若「…そう言えば尊」

    僕「はい?」

    若「天を突く程高さのある、宿に泊まったのを思い出す」

    僕「えーと、四年前か。ホテルの高層階だったから特にいい眺めでしたよね」

    若「夜に臨む窓の下は一面、光輝いておった」

    小「それは…一帯が全てで?」

    若「あぁ。じゃが、彼方にまばらに瞬く光も良き風情であった」

    僕「都会の夜景を気に入ってくれてさ」

    瑠奈「そうなんだ」

    さて、瑠奈姫の屋敷まで参りますか。

    瑠「ねぇ、たけるん」

    僕「何?」

    瑠「今日も見せてあげたら」

    僕「見せる。夜景を?」

    瑠「うん。せっかく来てるんだもん」

    僕「それは…いい提案だけど、この辺りで見られる所なんかあったっけ」

    瑠「あるよぉ。絶好の場所」

    僕「どこ?」

    瑠「小垣山」

    僕「あー!」

    忘れてた!

    若「おぉ」

    小「小垣!城でございますか?」

    色めき立つ車内。

    若「小垣城も最早、のうなっておる」

    小「左様で…」

    若「別の館が建立されたと聞いたな」

    僕「資料館ですね。去年1日だけ来た時、そこまで時間がなくて行けずじまいでしたね」

    若「今、入れるのか?」

    僕「いえ。この時間はさすがに無理です。でも頂上の公園には行けるかも。ひとまず向かってみましょう」

    車を走らせ、小垣山の頂上までやってきた。

    僕「あちゃー」

    駐車場は閉鎖されていた。車を降りて案内板をよく見ると、資料館閉館30分後には閉まると書いてある。

    瑠「ごめんなさい。調べておけば良かった」

    僕「いいよ、気にしないで。さて、どうしようかな…」

    兄さん達は、変な言い方だけど土地勘があるから暗くても大丈夫じゃないか?既にあちこち気になってるみたいだし。でもここに車は停めておけない。それにどっちにせよ瑠奈はそろそろ帰さないといけない。となると…

    僕「兄さん、小平太さん。しばらくここに居てもらっていいですか?瑠奈を家まで送ったら戻ってきます」

    若武者二人はほっとした表情に。

    若「それで良いのか?」

    僕「はい。どのくらいで戻れるかな…」

    瑠「たけるん、公園の屋根のある所、あそこに時計あるよ」

    僕「ホントだ。えーっと。そしたら、あの時計で0時までには戻ります。あ」

    若「子の正刻じゃ、小平太」

    小「子の正刻。もう日を跨ぎますか」

    僕「さすが兄さん。では行ってきます」

    瑠「失礼します」

    若「待たれよ」

    兄さんが瑠奈の前にスッと立った。慌てて小平太さんも後ろにつく。ん?

    若「瑠奈殿」

    瑠「はい?」

    若「遅うまで付き合わせ、済まなんだの」

    瑠「いえいえ。時間いっぱいまで令和を楽しんでくださいね」

    若「うむ」

    瑠「小平太さんも」

    小「はっ!」

    若「礼を申す。ありがとう」

    瑠「ふふっ。こちらこそありがとうございました」

    若「ほれ、小平太も」

    小「え?あり、ありが、とう」

    若「何じゃ。まだまだ学ばねばのう」

    恐縮する小平太さん。兄さんの口調がまたツボに入った瑠奈。最後は四人で大笑いした。そして車で去った僕達。残った兄さん達は歩き始める。

    小「城は、戦で焼かれた…のですか?」

    若「いや。戦ではのうて、取り壊しが進められた時期があったらしい。政としてな。幾つもの城が」

    小垣城は、戦乱をかいくぐり近代まで残っていたにも関わらず、明治6年に発布されたいわゆる廃城令により、姿を消してしまった数多くの城の一つだった。

    小「それは勿体ない…」

    若「されど、令和ではこうして民の集まる場となっておる。そこに見える館には、武具も飾ってあるそうじゃ」

    小「ほぅ…木村殿も城代冥利に尽きましょう」

    若「そう言えば、木村の末裔に会うたぞ」

    小「末裔!それを聞きますと、まことに先の世に参ったのだと感じ入ります」

    若「驚く程瓜二つでのう。尊が写真を持っておる筈。後で見せて貰え」

    小「写真。はい」

    公園内の展望デッキに着いた。並んで眼下を臨む二人。

    小「美しい…」

    若「…戦などない、これが和平の世」

    小「いずれ、このような時代が参るのですね」

    僕が迎えに来るまで、小垣城跡を堪能してもらった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道110~7月3日その5

    ハニーハントするあのキャラが鎮座してた。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    この深夜までやってるスーパーには滅多に来ないので、どこに何があるかちょっと勝手がわからない。そんな状態で兄さん達について来てもらうのは申し訳ないな。小平太さん、ずっとキョロキョロしっぱなしだし。

    僕「兄さん。買い物はしとくので、興味がある場所に行っててください」

    若君「良いのか?」

    瑠奈「はい。どうぞ」

    僕「ここ二階もあるんで、散策し甲斐がありますよ。終わったら捜しに行きますから」

    若「そうか。ならば見回りと参るか?小平太」

    小平太「はっ!」

    二手に分かれ歩き出した。

    僕「さてと。お肉のコーナーは」

    瑠「あっちにmeatって書いてあったよぉ」

    瑠奈に腕を引っ張られた。と思ったらそのままぴったり体を寄せてきて…うぇっ、まだ二人近くに居るし!おずおずと振り向くと、軽く頷きながら微笑む兄さん。すみません…。かたや小平太さんは、棚に豊富に並ぶ品々に目を奪われていた。

    若「お父さんが、永禄に持ち帰りたい物あれば買うても良いと仰られ、銭も頂いておる。銭と言うても紙じゃが」

    小「紙の銭!これはまた」

    財布から覗く紙幣にも興味津々。

    若「折角のご厚意であるからの」

    小「いや、これは…選べませぬ」

    二階へ上がるエスカレーターを発見。

    若「おぉ。久方振りじゃ」

    小「階段が…動いております!」

    若「乗るぞ」

    小「乗る?!」

    恐る恐る、昇り口に足をかける小平太さん。

    小「なっ!体が持っていかれます!」

    若「フフフ。流れに委ねよ」

    したり顔の兄さん。反応で遊んでるな?

    若「また一段と鮮やかな」

    上がるとそこは、おもちゃ売場だった。

    小「いやに毛むくじゃらの品が」

    若「これは…あれじゃ、ぬいぐるみ、と申す」

    小「何かを模しておるのですか?」

    若「熊、じゃな」

    小「熊!未だ山にて出くわしてはおりませぬが、このようななりでございますか。山吹色の毛並み、頭は大きく足は短く、赤い羽織を纏い」

    若「いや。ほぼほぼ、違うておろう」

    漫才みたいなやり取りをしながら歩いていると、あるおもちゃに二人同時に目が釘付けになった。

    小「唯之助の脇差のような」

    若「これは軽い」

    棚から何本もぶら下がっていたのは、カラフルなプラスチック製の刀。チャンバラごっこ用だな。じっと見続ける小平太さん。

    若「一太へ土産にするか?」

    小「え」

    あー。小平太さんの長男だから一太ちゃんか。兄さんが値札を確認している。

    若「二振買うても銭は足る。揃いにするか」

    小「揃い、とは」

    若「晴忠と」

    小「えっ!そ、そのような、畏れ多く」

    若「詫びの品と申すか」

    小「詫び?」

    若「小平太」

    真正面で向き合った二人。

    若「わしは、おぬしを蔑ろにするつもりは微塵もなかった」

    小「…」

    若「この先の世から参った唯の事情を知る者が欲しかったゆえ」

    小「…はい」

    若「それがおぬしではなく源三郎になったのはほんの巡り合わせ」

    小「はい」

    若「源三郎とトヨが一月過ごした此の地。令和の家族と少しでも会うて話が出来るならば、身重の体をおしてでも会わせてやりたい。幼子にも会わせたい。それが此度や半年毎の屋敷の往来となった」

    しっかりと兄さんを見据えていた目線が徐々に下がり、そのまま頭を垂れた小平太さん。

    小「申し訳ございませぬ。なじるような態度をとり」

    若「事の次第がわからぬままでは疑うのも無理はない。わしこそ、済まなんだの」

    小「いえ!滅相もない!」

    若「これからも、せがれ共々よろしゅう頼む。この品は、源三郎には内密に」

    小「ははっ!」

    兄さんが刀を二本選ぶ。すぐさま跪いて受け取った小平太さん。

    若「せがれ達が大きゅうなっての」

    小「はい」

    若「刀と言えばこの色鮮やかな品しか使うた覚えがない、となるのが、夢」

    小「…戦に寄らぬ和平の道でございますね」

    若「そうじゃ」

    瑠「あ、居た居た。たけるーん」

    僕「ここでしたか」

    無事発見。合流完了。

    僕「へー、刀。買います?」

    若「あぁ」

    僕「他にはいいですか?」

    若「良い」

    小「はい」

    僕「じゃ、レジあっちなんで」

    まあまあ嵩張るので包んでもらわず、そのままジーンズのベルトループに二人とも差して歩き出した。その姿が…

    瑠「やっぱり似合いますね。カッコいい。俳優さんみたい!」

    小「はい、ゆう?」

    若「見栄えが良いと褒められておるのじゃ」

    小「それは…いやはや」

    僕「赤くなってる」

    珍道中?はまだ途中。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道109~7月3日その4

    この人達の言う事なら信用できると思える働きぶり。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    どだい無茶な話ではある。初めて現代に飛んだ時、兄さんは2か月居てその後も複数回来ているし、源三郎さんとトヨさんも初めは1か月居た。いくら兄さんが一緒とはいえ、半日未満で全て理解しろってのは気の毒過ぎる。でも兄さんは実行しようとしてるんだよな。

    僕「布団は要らないってさ」

    覚「一睡もせずに説明するのか!そりゃまた」

    僕「明日の朝戻ると向こうは夜だし」

    覚「そうか。すぐに寝られるか」

    美香子「でもね、小平太くん、とっても理解が早いのよ。私が唯の実の母って打ち明けたら、吉乃様と似ていない訳がわかり申したって言ってね」

    僕「へー。順応性高っ」

    美「基本とーっても真面目な青年ね。エリさんや芳江さんがキビキビ動くのを、すごく感心しながら見てたわ。それで信頼度もアップ。パニックになる事もなく」

    覚「で、こんな俄には信じられない状況も飲み込めたと。でも明日の朝には帰るもんなー。ゆっくりしてって欲しかったが、短い」

    美「それは私も思うけど。また息子が増えたと思ったのに~って」

    僕「兄さんから全然説明ないまま、飛んで来たって?」

    美「みたいね。忠清くん、なるようになる、って唯の考え方が感染したかしら」

    捻挫の具合を診ている間に、だいぶ打ち解けたっぽい。エリさんも芳江さんも、ベテランの看護師だから話の持っていき方とか上手いしな。最初に話したのがその三人で大正解だったと。程なくして、着替えが終わり二階から下りてきた兄さん達。Tシャツにジーンズ姿、初めてとは思えない程よく似合ってる小平太さん。

    僕「髪、髷のままにしたんだ。蒸し暑いですもんね」

    若「あぁ。今宵は一際暑うないか?」

    僕「最近はずっとこんな感じなんです」

    外はまだ28度もある。実験室出た時、かなり戸惑ったんじゃないかな。

    美「梅雨明けもしてないのに、夜でもこの暑さよ~。小平太くん、びっくりしたでしょ」

    小平太「は、い」

    僕「じゃ、行きますか。買い物」

    若「うむ。小平太、車じゃ。心して挑め」

    小「心して…」

    心して挑まなきゃならないのは、何もかもなんじゃね?酔ってしまわないか心配しながら、僕の車で四人で出発した。

    小「若君様」

    若「ん?」

    小「腕が軽うなっております」

    結局、骨に異常はなく湿布で何とかなったみたい。ちょっと拍子抜けしたけど症状が軽くて良かったわ~、と母は言っていた。

    若「であろうの。お母さんの手にかかれば容易い事」

    小「至極合点がいきました。あの吉田城を思い起こすに」

    若「あぁ…」

    小「体の中にかなりの血だまり、脈も弱く、もはや手の施しようもないと言われた若君の矢傷も、母君の手により快復に至ったのですね」

    若「然り。良き隠れ屋じゃろ」

    小「隠れ屋にしては、大層明るうございますが」

    若「フフッ。令和にも慣れてきたとみえる」

    軽い冗談も言えてるし、車酔いしてる感じはない。一安心。

    小「されど」

    若「何じゃ。申してみよ」

    小「時空とやらを行き来出来、羽木を救った数多の品々を造り、馬とは比べ物にならぬ速さのこの車、を操る尊殿は」

    僕「え?いきなり僕?」

    小「まことに、唯之助と血を分けた弟君でございましょうか」

    すごく神妙な顔つきと声色で話すので、助手席の瑠奈が笑いを堪えきれず吹き出した。

    瑠奈「あはっ。あ、ごめんなさい」

    小「やはり」

    僕「やはり?」

    小「尊殿の許嫁である瑠奈殿も、某と同じお考えであらせられると」

    僕「い!」

    瑠「い、許嫁…」

    若「わしがそう申した。違うておるか?尊」

    僕「ち、違いません」

    若「じゃろう。ははは」

    彼女って言ってもわからないもんな。隣で小さくガッツポーズをする瑠奈が可愛かった。

    小「夜更けに随分と眩しく…此処がその」

    若「スーパーじゃ」

    小「ほぅ…」

    僕「行きましょう」

    入口にカート。兄さんが感慨深く眺めている。

    若「じいをの」

    小「おじじ様ですか?はい」

    若「足腰が悪うなってきておるゆえ、この荷車に乗せとうての」

    懐かしい!初めてスーパーに来た時、言ってた言ってた。でもすごく訝しげな顔をする小平太さん。あれ?高齢者を労る美談には聞こえないかな?

    小「このように、でございますか?」

    しゃがんで、両手を前に出し掴むような仕草をしている。あ!チャイルドシートの説明が抜けてるからだ!荷台にそのまま乗る体勢!

    瑠「ここに?!ちょこんと座る?キャハハ、やだー、かーわいい!」

    確かに想像すると笑える。小平太さんは真面目に考えてくれてるからあまり笑ってはと思いつつ、瑠奈はツボにはまってしまい、ずっと笑い転げている。

    小「若君様」

    若「ん?」

    小「先の世のおなごは皆、感情が豊かでございますな」

    若「そうじゃろ。ハハハ」

    瑠奈はまだ大人しい方じゃないですか?戦国時代の人から見たら姉も瑠奈も一緒か~。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    カートのくだりは、平成Days2no.333にて展開しました。投稿日は2020年11月24日。初期も初期、これこそ懐かしい!

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道108~7月3日その3

    問診もそこそこに。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    実験室の天井が光った。皆、一斉に振り向く。

    覚「おぉ」

    美香子「まあっ」

    芳江「到着する瞬間って、こんな」

    エリ「じわじわと現れるんですね」

    瑠奈「何度見ても感動します」

    向かい合い、小平太さんが兄さんの両肩をガッチリと掴んだ状態で登場。みんなの顔をくまなく確認し、微笑む兄さん。一方、目は点になってるし口は開いたまんまだしの小平太さん。

    若君「お父さん、お母さん、芳江殿、エリ殿、瑠奈殿、尊。世話になり申す」

    覚「よく来たね」

    美「いらっしゃい」

    若「此度はもう一人の近習、小平太を連れて参りました」

    小平太「そ、某、天野小平太にございます」

    驚きMAXながらも、そこはすぐに対応。基本的には、冷静に動ける人なんだろう。

    美「あら、やっぱり!腕を痛めてるでしょ!」

    若「やっぱり?」

    美「さらしが巻いてあるじゃない、左腕。どうなさったの?」

    小「これは…せがれが、縁先から落ちそうになったのをすんでのところで止めた折に、捻り」

    若「昨年令和に参ってすぐの頃、嫡男が産まれておりまして」

    覚「そうか。今はつたい歩きし始める頃か?ちょっと目を離すとな~」

    美「うーん。ちょっと失礼」

    小平太さんの手を取る母。驚く小平太さん。そりゃそうだ、何奴!だよね。

    若「案ずるな。お母さんは、おなごの身でありながら金創医であらせられる」

    小「何、と」

    美「一度レントゲン撮ろっかな」

    エ「でしたら、戻って用意いたします」

    芳「お手伝いします」

    美「そんな、悪いわ。帰りが遅くなっちゃう」

    エ「いいんですよ」

    芳「乗りかかった船です」

    美「ありがとう。じゃ、行きましょ!はい小平太くん、サンダルね、これ履いて」

    熟女三人に引っ張られていく小平太さん。

    小「わ、若君様」

    若「任せれば良い。行け」

    小「あの、この御仁は…」

    僕「あ。自己紹介がまだだった」

    若「すぐに向かう。院で話す」

    小「院?」

    そして、一気に静かになった実験室。

    覚「忠清くん。はさみ揚げ食べたいよね。明日の朝にでも」

    若「それは…できれば、ではございますが。小平太も、唯が持ち帰った折に食し、大層美味であったと申しておりましたゆえ」

    僕「材料残ってるの?」

    覚「残ってないんだ」

    満月の日の晩ごはんははさみ揚げと決まってるから、さっき食べたばかりではある。

    覚「今から、深夜までやってるスーパーに走るか」

    僕「僕行ってくるよ。瑠奈を送って、その帰りにでも」

    覚「頼めるか?」

    瑠「だったら私も付き合う。一緒に買い物してその後家まで送ってくれる?」

    兄さんが動いた。何か思いついた?

    若「瑠奈殿」

    瑠「え?はい」

    若「わしらも共に参りたいのじゃが」

    僕「へ?」

    覚「ほぅ」

    瑠「構いませんけど、どうして私に聞くんですか」

    若「支度もせねばならぬ、出立までまだかかるであろう。屋敷への帰りが遅うなるゆえ、父上母上が案じはせぬかと思い」

    瑠「そうなんですね。心配してくださってありがとうございます。いつ頃帰るか家に連絡しておけば大丈夫ですから」

    若「済まぬ。では尊、頼む」

    僕「はい。ら、って言いましたね。小平太さんもって意味ですよね?」

    若「うむ。スーパーや車は小平太の向学の為もあるが、説明、をするのに尊が共に居った方が良いと思うての」

    僕「わかりました」

    瑠「楽しいドライブになりそう」

    小平太さん、車大丈夫かな。酔い止めも持っていこう。

    覚「よしわかった!じゃあこうしよう。まず忠清くんは、今すぐ小平太くんの傍に行ってあげな。お姉様方や見知らぬ機械に囲まれて、きっと心細くしてるよ」

    若「はっ」

    覚「僕は買い物リストを作る。尊と瑠奈ちゃんは二人の着る服を用意してくれ。予備室のタンスの中にあるから」

    僕「了解~」

    父が兄さんの肩をポンポンと叩く。

    覚「良かったな、忠清くん。小平太くんの怪我も治療できて予定通り」

    若「予定、通り…」

    覚「あれ?そのために来たんじゃないの?」

    若「あ…はい。では行って参ります」

    なぜか実験室をそそくさと出ていった兄さん。

    僕「違ったんかーい」

    まぁ、どんな理由でも来てくれれば嬉しい。起動スイッチ2号も持ってきてくれたんで、メンテナンスも燃料補給もできる運びとなったし。

    瑠「小平太さんって、たけるんより背高かった感じだよね」

    僕「兄さんと同じ位じゃないかな。ジーンズは、兄さんが穿いてたのを二組用意しよう」

    こんな作業も楽し。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    おさらいも入りますが、今回の登場人物の身長は、小平太178cm、尊176cm、若君179cm、覚174cm、美香子161cm、エリ160cm、芳江153cm。瑠奈については158cmで設定してます。

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道107~7月3日その2

    朝、復習しといたから。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯「小平太の気持ちもわからなくはないのよ」

    若君「そうじゃな…」

    緊張感が続く中、トヨさんがさりげなくおもナビくんが隠れるよう座り直してくれた。跪く源三郎さん、立ち尽くす兄さんと小平太さん。

    唯「もうさ、連れてったら?今ならちょうど動けるコトない?」

    若「…令和にか」

    唯「うん。大切な家臣でしょ。わかってもらって損はないよ」

    小平太「連れて行く、とは?」

    じっと考える兄さん。もう2分切ってます!

    源三郎「若君様。畏れながら、わたくしもそれが最良かと」

    訳がわからず、目が泳いでいる小平太さん。

    若「今から参ると…明朝八時三十九分までは居れるか」

    唯「ササッと行って戻って来なよ。その方が説明しやすいでしょ」

    源三郎さんもトヨさんも頷く。

    若「うむ。ならば小平太、ついて参れ」

    小「は、はっ!」

    唯「みんなには言っとくよ」

    さて。そんなおおごとになっているとは露知らずの、令和の僕達。

    美香子「これも残業みたいよね」

    芳江「ご褒美ですよ」

    エリ「どうしてもこのお時間まで居られない時もありますから。楽しみです」

    僕「瑠奈、もう少し右に寄って」

    瑠奈「はい」

    覚「よし、ちゃんと全員映るな」

    今日は月曜なんでクリニックが混み、かなり遅くまで看護師さん達が残っていたんだ。お陰でお二人とも参加してもらえたというか。瑠奈も来てるから、実験室には6人も居る。

    僕「3、2、1、スタート!」

    姉達がパッと映った。源三郎さんとトヨさんが会釈をしている。

    唯『ヤッホー!うわ、今日はフルメンバー揃ってるぅ』

    僕「あれ、兄さんは?」

    唯『ちょっと急用で』

    覚「そうか。忙しい身だもんな」

    美「あら?唯もトヨちゃんも、もしかして!」

    唯『そう!今日は話すコトがモリモリで!たぶんね、9月に産まれる』

    ト『あの、わたくしは11月頃にはと』

    歓喜!フルメンバーで聞けて良かった。

    美「そう。良かったわね、源三郎くん」

    源『はい!』

    エ「晴忠ちゃん、一段と、若君に似てきましたね~」

    芳「里芳ちゃん、きちんと正座してるの。お利口さんね~」

    瑠「ねーねーだよ~。あ、笑った!」

    そんな中。戻りまして永禄の兄さんと小平太さんは、兄さんの居室に移動していた。緊張した面持ちの小平太さん。

    若「そこへ直れ」

    小「はっ」

    向かい合って座った二人。

    若「気を揉ませてしもうたの」

    小「いえ…」

    小平太さんの乱入がなければ、今頃令和の僕達と賑やかに過ごしていただろうが、永禄の夜はどこまでも静寂だ。

    若「少しは落ち着いたか?」

    小「…忝のうございます」

    脇差を腰から引き抜き、床に置く兄さん。いつもありがとうございます。持ったまま来られると、銃刀法違反になるんで。

    若「おぬしも置け」

    小「は、はっ」

    そして立ち上がり、棚の中から紫の脇差、そう、起動スイッチ3号を取り出す兄さん。

    小「…」

    若「そうじゃ」

    再び棚から何かを取り出した。おっ、中身が空っぽの青の脇差、起動スイッチ2号だ!

    若「おぬしはこれを持て。丸腰では些か不安じゃろ」

    小「は、はぁ」

    怪訝そうな顔で受け取り、腰に収めた小平太さん。姉は天野の家に居たから、起動スイッチ1号赤の脇差は見た事あるからだろう。また唯之助の脇差か、って思ってるに違いない。

    若「…そろそろ良かろう」

    小「そろそろ?」

    また変わりまして、令和の僕達。

    源『芳江殿、エリ殿もお変わりなく』

    エ「はい、元気にしてますよ」

    芳「殿、なんて呼ばれると照れちゃいますね」

    覚「おーい、あと10秒だ」

    美「言い残した事はない?」

    唯『ある!』

    僕「何、早く言って」

    唯『たーくんと小平太をよろしく!』

    源三郎さんとトヨさんが、より深くお辞儀をしている。

    瑠「え」

    美「どういう意味?」

    唯『そういう意味!バイバ~イ!』

    ブチッ、と通話が終了。

    覚「何だ?」

    美「小平太さんって確か、もう一人の近習さんよね」

    瑠「今日って…」

    僕「あれか。ファイル、どこにあったっけ」

    別のパソコンでフォルダを探す。

    瑠「月齢って書いてある。そう、それ」

    僕「ありがとう。今日は…望は20時39分か。あと11時間半はあるな」

    美「え!来る、の?」

    覚「そんな短い時間でか?」

    僕「わからないけど」

    美「もしかして、大怪我とかされたのかしら。その小平太さんが」

    覚「あれか、忠清くんの初お目見えの時みたいにか。母さんに診て欲しくて」

    僕「兄さんが急用で不在。でお姉ちゃんのあのセリフ。有り得そう」

    いつもならすぐに録画した通話を何度も再生するところ、来るの?ホントに?と皆ザワザワしている。すると…

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道106~7月3日月曜その1

    尊坊やの寝姿は、現代Days(仮)への道13no.836と、四人の現代Days64no.921に出てきます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日は満月。令和では5年7月3日の朝を迎える頃。こちらは、永禄八年六月十四日の御月家。

    唯「また見てるしぃ」

    兄さんが、手元の紙を眺めている。あれだな。

    若君「令和は、夜八時三十九分に望になると」

    唯「ふーん。しゃべる頃は超まんまるなんだ」

    いつ、4号おもナビくんが作動するか書かれた表だ。そう、今日は通話できる日。

    若「永禄の今宵の月は、いつ望になるのであろうの」

    唯「調べればわかるんじゃな~い?」

    若「資料、が末代まで残っておるのか?」

    唯「さあ」

    若「フフ。さあ、か」

    唯「こっちの満月の表もくれって言えば作ってくれるっしょ」

    若「瑠奈殿が拵えた品じゃ。手数をかける」

    唯「そんなん尊にやらせればいいんだよ」

    作るのは構わないけど、いつ受け取るつもり?さて。変わって、同じ頃の天野家。

    小平太「父上!何処へ?」

    あれ?小平太さん、左手首に包帯してる。包帯とは言わないか。怪我でもしたのかな。

    小平太パパ「何処へとは?おぬしの代わりに城の警固に参るが」

    小「代わり?」

    小パ「そうじゃ」

    小「…」

    小パ「何じゃその面は」

    小「…腕を捻ってしもうたのは某の非ではございますが、今日の警固は源三郎に頼んだ筈」

    捻挫かあ。刀を持たない方の腕とは言え、完全な警固はできないと判断したんだな。

    小パ「若君様が、源三郎の代わりを頼むとな」

    小「何、と」

    小パ「元々はおぬしの番であった役回り。それに、若君様直々に声をかけられた。断る所以はない。では、行って参る」

    苦虫を噛み潰したような表情で、お父さんを見送る小平太さん。

    小「これは…」

    今日源三郎さんが警固をするとなると、夜9時はまだ仕事中。僕達と会話はできないだろう。

    小「やはり…」

    小平太さんに頼まれた時は、源三郎さんならきっと快く代役を引き受けたに違いない。それを知った兄さんが、自らシフトチェンジに動いたと思うんだけどな。贔屓ではないかと不信感がつのっているのかもしれない。う~ん。

    唯「これやっぱ便利~」

    トヨ「とても分かりやすうなりましたね」

    夜8時30分を回った。ここは姉の居室。前回の会話中、おもナビくん、9時にいきなり電源ONじゃなく、カウントダウン的な表示できない?時間もわかるしさぁと言われ、プログラムを改良したんだ。順調に動いてるみたい。スタート30分前から1分毎に、残り何分か画面右上に小さく表示させてみた。

    ト「さすが尊様」

    唯「さすがじゃないよ。最初からつけとけ、っつーの」

    すみませんね、気付くのが遅くて。

    晴忠&里芳「キャッ、キャッ」

    母二人の隣では、晴忠ちゃんと里芳ちゃんがカラフルな積み木で遊んでいる。前回令和に来た時にお土産に持たせた物だ。積み木なんて永禄でも木を削って作れるけど、母が、子供のおもちゃだもの、安全基準を満たして彩り豊かな物を買っていらっしゃいと、僕と瑠奈に託したんだ。気に入ってくれたなら、叔父貴冥利に尽きます。

    ト「こう申し上げるのもおこがましいですが」

    唯「なにが?」

    ト「幼い頃の唯様と尊様も、このような風情ではなかったかと存じます」

    なるほど。晴忠ちゃんは永禄7年3月生まれ、里芳ちゃんは永禄5年11月生まれ。戦国時代は数え年だから2歳違いの扱いだけど、現代なら学年で1歳違いになるから、ウチと同じになる。

    唯「よく一緒に遊んだよ」

    ト「様子が目に浮かびます」

    唯「尊も小さい頃はかわゆかったし」

    ト「またそのような」

    唯「あいつ、よく積み木持ったまんま寝ちゃってたんだよ。急にスイッチオフ!な感じで」

    ト「うふふ、微笑ましい。わたくし、そのお姿の写真を拝見した覚えがございます」

    唯「そうなの?それにしても、たーくん達、おっそいなー」

    通話スタートまであと15分。兄さんと源三郎さんは、城の厩に居た。

    千吉「幾人も居りながら、目が行き届かず!」

    若「もう良い。面を上げよ」

    いっぱい人が居る。馬も居る。

    小「それで?むじなは」

    伊四郎「はっ、捕らえまして」

    悪丸「ここに」

    これが本物のむじなか。タヌキに似てるけど、イタチの仲間らしい。初夏の頃が繁殖期らしいから、うろついていたのかな。

    若「此処は山城ゆえ、致し方ないが。疾風ももう若駒ではないがのう。かなり面食らったとみえる」

    この馬が疾風号か。愛馬を撫でる兄さん。闇夜に突然現れたむじなに疾風号が驚いて暴れた、といった顛末の模様。

    若「後は頼んだ」

    千吉&伊四郎&悪丸「ははっ」

    若「源三郎、参るぞ。早うせぬと」

    源三郎「はっ」

    小「…」

    姉達のもとへ急いだ兄さんと源三郎さん。あと5分のところで到着。襖を開けようとすると…

    小「若君様!」

    源「えっ」

    若「…小平太」

    小平太さんが後ろから追って来ていたんだ。

    唯「たーくん、待ってたよ…うげっ!」

    ト「まぁっ」

    絶妙なタイミングで、襖が中から開いてしまった。大変だ!おもナビくんを見られてしまう!でも、室内を見た小平太さんの関心はそこにはなかった。

    小「密談、にございますか」

    若「いや」

    唯「何もないって」

    小「身重の妻女や幼子までも、このような夜更けに交えねばならぬのですか」

    そう。未確認だったから言わなかったけど、姉もトヨさんも、お腹が少し大きくなっていたんだ。でもめでたいなんて喜んでる場合じゃない雰囲気…

    小「某にも、じきに二人目の子が…暮れには生まれます。源三郎と何が違うておるのでしょう」

    若「…」

    通話スタートまであと3分。まさかの事態に、兄さんも戸惑ってしまっている。重苦しい空気の中、姉が口火を切った。

    唯「たーくん、あのさ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道105~2月11日夜から2月中旬

    サラッと愛を語れる所は、先祖譲りではない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    夕食は、鉄板焼ディナーが予約されていた。シェフが目の前のカウンターで一品ずつ焼いてくれるヤツ。炎が高くあがる度に皆で大盛り上がりだったな。そして、

    瑠奈「出たら先に部屋に戻っててね」

    みつき「女子は色々時間かかるから」

    祐也「わかった。ゆっくりしてくれていいからね。行こうか、尊くん」

    僕「はい」

    ホテル最上階の大浴場に。風呂ばっかり入ってる?まあ、これはこれ。

    僕「ふう」

    水着で入るのとはやっぱり違う。体も髪も洗いサッパリした。完全リラックスモードだ。

    祐「外も行ってみる?」

    僕「行きます!」

    展望風呂へ移動。おー、眼鏡ナシでもかすかに星が見える!祐也さんと並んで、湯船に肩まで浸かった。

    祐「旅、満喫してる?」

    僕「はい!昼の海鮮も良かったし、さっき食べたサイコロステーキも美味しかったですね。って、食べ物の話ばかりだ」

    祐「それも旅の醍醐味だよ」

    僕「五感がどんどん満たされてます」

    祐「良かった。ところで、見守りシステム、早速手掛ける感じ?」

    僕「そうですね。今年度中に、素案だけでも出そうかと思ってます」

    祐「さすがだね。不在の間さ」

    僕「お待たせしてた時ですね」

    祐「初めのうちは、瑠奈ちゃんも僕らと一緒に居たんだよ」

    僕「そうですか。いつから傍で見てたのか全然気づいてなくて」

    祐「集中力が凄いね。様子見に行かなくていいの?って聞いたら、アイディアが溢れてきてるだろうからしばらくは邪魔したくないって」

    僕「そうでしたか」

    祐「深く理解してるんだなって感心した」

    僕「はは」

    祐「その時に、尊くんがどれだけ素敵かって話もたっぷり聞いたよ」

    僕「恥ずかしい。居なくて良かった…。祐也さんは、割とハイハイと聞いてましたね。ミッキーさんの熱の入ったラブコール」

    祐「普段からあんな風だからね」

    僕「うわ。想像に難くない。慣れちゃいましたか?」

    祐「いつも有難いと思うし、愛おしいとも思ってるよ」

    僕「この風呂急に熱くなったぞ…」

    祐「ははは。でも今日は尊くんと瑠奈ちゃんを巻き込んでしまった。ごめんね」

    僕「いえいえ」

    祐也さんが夜空を仰いだ。僕も見上げる。

    祐「一つ聞いていい?」

    僕「どうぞ」

    祐「僕とみつき、どう思う?」

    僕「どう。ずっとラブラブで凄いなって」

    祐「自分達も同じじゃない」

    僕「お陰様でそうではありますが。年数が格段に違いますから」

    祐「彼女と付き合ってどの位経つか、って聞かれて答えると、大抵驚かれるね」

    僕「12年とかだからですか。僕はすごく素敵だと思いますよ」

    祐「他の女性と付き合った経験がないのか、って特に男共は言うね。純愛というより真面目過ぎと思われてる節がある」

    僕「でもそれは…僕もです。瑠奈が初めての彼女で」

    いや?ちょっと待て。それを言うなら…

    僕「最初で最後、瑠奈は最後の彼女です」

    祐「おっ。僕だけが聞いてるのは勿体ないな。ちょっとしたプロポーズだね」

    僕「当人が居ないからカッコつけてみました」

    祐「ははは。僕で良ければいつでも練習台になるよ。それでね」

    僕「すいません、論点がズレましたね」

    祐「僕とみつきって、まるでおとぎ話みたいじゃない?」

    僕「どの辺りがですか」

    祐「幼なじみで、しかもお互い初めて付き合った相手と結婚する予定」

    僕「あまり有り得ないって意味ですか」

    祐「うん」

    僕「…あの」

    墓穴を掘るかもしれない。

    僕「上の姉なんですが」

    なのに、なぜか躊躇なく言葉が出てくる!

    僕「幼なじみと結婚しました。今もとても仲が良いです」

    祐「そうなんだ。珍しいね、尊くんの口からお姉さんの話題が出るのは」

    僕「機会がなかっただけです。だから全然現実にありますよ」

    祐「ありがとう。身近にそんなカップルがいると心強いね」

    ご先祖ですが。歴史は繰り返す模様。

    僕「あと下の姉は、ずっと恋愛なんか興味がなかったクセに兄さんに一目惚れし、熱烈に追いかけ続け、心を拐うに至り、プロポーズされるまでこぎつけました。結果として、互いに初恋の相手と結ばれてます」

    あれこそ猛アタックってヤツだよ。時空まで跨いでさ。

    祐「何か」

    僕「はい?」

    祐「登場する四人の中で、下のお姉さんだけ扱いが少し違わない?」

    僕「いいんです。下の姉はそんなんで」

    祐「何でも言い合える仲なんだ」

    僕「口ゲンカはしょっちゅうでした。でもそれも…傍に居たからできたんだ、と今にして思います」

    祐「優しい弟さんだよ」

    その後、結局深夜まで四人でトランプなどして楽しんだ。瑠奈と二人で迎えた朝は極上の幸せだったし、翌日も快晴の空の下のドライブだったし、こんなに楽しくていいんだろうか、と思ってしまう程、最高の旅行だった。

    ┅┅

    僕「新幹線でも乗り継ぎが必要な距離か…」

    その数日後。僕らとしては残念な、でも祐也さんにとってはステップアップとなる、遠方への転勤が決まってしまった。

    祐「来月の最終週に引っ越すよ。寮に入れるからその点は楽だよ」

    春には大学四年目となる。どんな一年になっていくのだろうか。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は7月のお話です。

    4号おもナビくんでの通話も五回目となりますが、何やら動きが…。

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    続現代Days尊の進む道104~2月11日夕方

    偉人並みの働きだから。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    みつき「孝行息子じゃーん」

    僕「どうも」

    み「だからか。何度か自宅バーベキューに呼んでくれてるもんね。家族仲いいんだなーって思ってたよ。パパママもすっごい気さくに話しかけてくれるから、連携とれてるーって感じ」

    祐也「いつもお世話になってます。尊くんは末っ子だから、ご両親も特に可愛がってるんじゃないかな」

    僕「そんなもんですか?」

    トヨさんを姉とカウントしてもしなくても、末っ子か。そんな認識今までなかったな。自由にさせてくれているイコール、可愛がられている?うわぁ、言われて気付く親心…

    み「通いやすい大学がいい、までは聞いてたけど。そんな心温まる裏事情があったワケね」

    瑠奈「そーなのー。でね、遠方に住んでてなかなか会えない、お姉様やご家族と対面で会話できるように」

    刺客の存在を忘れていた!何を言い出す?!

    瑠「機械まで発明して」

    え!!まさか4号おもナビくんの話をするの?!ちょ、ちょっとそれはマズいんじゃ!

    祐「通話のシステムを特別に構築したの?」

    瑠「操作しなくても時間が来ると、自動でスイッチONになりビデオ通話ができるんです。機械自体コンパクトで持ち運びも便利」

    わ、わ、わ、ドッと冷や汗が…ジャグジーで紛れているのがこれ幸い。

    み「別に自動じゃなくても良くない?パソコン使えない人ばっかじゃないでしょ」

    瑠「そこはー。できるだけ手がかからないようにだよ。お子さんもまだ小さいし」

    み「一々かしこまらずに、時間になったら集まれ~ってか」

    祐「ライブカメラみたいな感じ?」

    瑠「目の前に居るかのように、リアルタイムでやり取りできます。画質も、画素数高くて見やすいんですよ」

    み「ふーん。性能は瑠奈のお墨付きなんだ」

    言い回しは巧み。でも大丈夫?それ以上は…

    祐「お姉さん達にね…。それさ、尊くん」

    ひー!な、なんでしょう!ピンチ到来?!

    祐「売り出したら?バイト先というか瑠奈ちゃんのお父さんの会社で」

    へ?

    僕「商品として、ですか?」

    祐「うん。よくさ、遠隔で見守る系のシステムあるよね。離れて暮らす年老いた親にとか」

    僕「はい…」

    祐「尊くんの考えたシステム、設置した相手先は、何も操作しなくても動くんでしょ」

    み「あー。ネット系の機械は何が何だかわからないからとにかく嫌だ、触りたくないって高齢者は居るよね。タッチパネルの前で困ってるおばあちゃんとかも見かける。スマホ持ってても機能のほとんどを使ってないとか」

    祐「勿論、パソコンなんかお手の物で自由に操れる高齢者も増えてるだろうけど、扱いづらいから機械は苦手と嫌がる、でもリアルな近況は知りたい。連絡がなくなってから動いては、手遅れなんて最悪の事態も否めない」

    み「一人暮らしの親が居ると、色々心配あるよね。顔が見られるのがポイント高いよ」

    祐「ずっと見張りっばなしではないから、プライバシーにも配慮してる。コンパクトなサイズなら家に備えてても違和感少ないだろうし。逆に成長期の孫の姿なんかも見せてあげられる。ニーズはあると思うよ」

    み「売っちゃえー、エジソン!」

    僕「エジソンねぇ」

    瑠「たけるん、とってもいい提案だと思う。私も賛成だよ」

    僕「…」

    現代版おもナビくんか。だとしたら汎用性を高くするにはどう構造を変えるべき?

    僕「うん…」

    瑠「ね。また個人で契約したら?」

    わー、何だか、数式がどんどん湧いてきてる!

    僕「そう、だね」

    脳からはみ出そう!どうしよう!!

    僕「あの、ごめんなさい」

    祐「え?」

    み「センセ?」

    瑠「…」

    ザバッと立ち上がり、心地好いジャグジーから飛び出て、体を拭き取るのもそこそこに室内に戻った。

    僕「すぐにメモらないと!スマホ…いやそれより、あっ」

    テレビの横の机にボールペンと便箋を発見。

    僕「レターセットだ!拝借します!」

    バスタオルを体に巻いたまま椅子に座り、思いついた図面や数式を書き出す。すごい、自分でも驚く程スラスラ出てくる!

    瑠「…たけるん」

    僕「あ。ごめん」

    しばらく没頭してたみたいだ。瑠奈が様子を見に来ていたのも気づいていなかった。

    瑠「アウトプット完了?」

    僕「うん。概略は書けた」

    瑠「体冷えちゃってない?」

    僕「大丈夫。集中して体温上がってたし」

    瑠「ふふっ。もうね、日が落ちてきてるよ」

    窓の外、空も海も赤みを帯びつつあった。

    瑠「みつきと祐也さん、ジャグジーで待っててくれてる」

    僕「わー、悪いコトした」

    戻ると、

    み「お帰りー、アルキメデス」

    僕「アルキメデス。納得。すみません、勝手に出てってしまって」

    祐「才能が爆発する瞬間だったね」

    み「一段落ついたところで!ねー、次は私のひろくん自慢聞いて!この夕暮れ迫るイイ感じにぴったりな、甘ーい話してあげよう!」

    こちらが恥ずかしくなる程、彼氏としても人となりも、祐也さんを褒めちぎっているミッキーさん。そんな称賛に値する人だと僕も思う。4月から、ホントに遠くへ行ってしまうのかな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道103~2月11日土曜朝から夕方

    しれっとやってのけるから、天才。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    待望の旅行に出発する。今回も祐也さんが車を出し、ミッキーさん、瑠奈ときて最後僕を拾ってくれる。

    僕「この小さくてカラフルなの何?」

    美香子「凍らせた一口ゼリーよ。保冷剤の代わりになるし食べられるし」

    僕「へー、賢い。ありがとう」

    覚「残ってもいいから、隙間に詰めるだけ詰めてけ」

    僕「はい。…おー、みっちり入った」

    飲み物担当なので、大きいクーラーボックスにビールとかパンパンに入れといたんだけど、これこそ詰めが甘かったってヤツだな。

    僕「あ、LINE。あと5分位で着くって。もう外に出とくよ。門閉まってるでしょ?」

    美「うん。悪いわね」

    家の前の道路で待機。前に海水浴に行った時も迎えに来てもらったけど、今日は同じ土曜日でも祝日、クリニックは休みだから駐車場は閉鎖してるんで。

    みつき「お待たせ~!」

    瑠奈「たけるん、おはよう!」

    祐也「クーラーボックスありがとう。重そうだね。積んで」

    友人達と一泊旅行なんて経験のない僕。道中もとても楽しくて、かなり浮かれている。傍目にはクールに見えるかもしれないけど。あ、海が見えてきた!

    祐「昼は海の幸なんてどう?この先の道の駅で食べられるらしいよ」

    み「行く行く!」

    瑠「食べたいです!」

    祐「尊くんもそれでいい?」

    僕「はい」

    充分喜んでます、女子の勢いに気圧されてるだけです…皆でわいわい言いながら食べた海鮮丼は、極上の美味しさだった!

    み「プールまである!残念、水入ってない」

    祐「入りたかったの?」

    ホテルに到着。エントランスもエレベーターも豪華!いよいよ部屋に入る。

    祐「はい、どうぞ」

    僕「おおっ」

    み「リビング広ーい!」

    瑠「すごい、窓の外は水平線!」

    荷物をそこら辺に置き去りにして、部屋の探索が始まった。ベッドルームが二部屋。大きいソファがゆったりと配置されたリビング。テレビこれ何インチ?デカっ。お、冷蔵庫が思ったより大きい!後で飲み物移しとこう。洗面台が二台並んでる。これは便利じゃない?特に女子。風呂場は…シャワールームだ。最上階に展望風呂があるらしいからそれを楽しみにしてる。そしてバルコニーには、

    み「ヤッホー!ジャグジー!」

    祐「湯加減もいい感じだね。晩ごはんまで時間あるし、もう少ししたらゆっくりと夕日見ながら入ろうか?」

    み「賛成ー!」

    瑠「はい!」

    僕「すげぇゴージャス」

    部屋割りですが。同性同士もアリかなと思いつつも、そんなんしたらミッキーさんに一生恨まれるんで、当然の如くカップルで一部屋に。

    瑠「たけるん。ずっと一緒、嬉しい」

    僕「うん。僕も」

    いくらジャグジーは温かいとは言え、季節は真冬。日が高い内に入ります。全員水着着用にて集合。GO!

    祐「うぁぁ」

    僕「あ゛ー」

    瑠「きゃはは」

    み「ちょっと~オッサン二人かよ」

    ずっと泡がボコボコ出てる。冬の野外だから熱めの設定、これが快適で。夕闇が近づいているので、ひんやりと吹く風がのぼせ防止になり、いくらでも入っていられそう。

    瑠「涼しくて気持ちいい」

    僕「うん」

    急にミッキーさんが立ち上がった。

    祐「もう出るの?」

    み「はい!ではここで!」

    僕「へ?」

    瑠「なに?」

    み「彼氏を自慢しようのコーナー!!はい、拍手~」

    なんだなんだ?思わずつられて拍手。

    み「私も瑠奈も、センセとひろくんにはとても世話になっております」

    僕「そうでもないんじゃ」

    瑠「なってるなってる」

    祐「ハハハ」

    み「日暮れまで時間もたっぷりあるコトだし、互いの彼氏を褒めちぎり、いい気分になってもらいます」

    僕「なんだそれ」

    み「照れてんの?」

    僕「僕に褒めるところなんかないよ。一言二言で終わるんじゃない?」

    み「そんなコト言ってー。瑠奈怒ってるよ?」

    僕「げ」

    瑠奈の眉間に皺が。

    瑠「いっぱいあるもん。いい機会だから、みつきや祐也さんにも聞いて欲しい。たけるんの素晴らしいところ」

    僕「えぇぇ」

    祐「聞かせて欲しいな」

    僕「えぇ…」

    み「では先攻でどーぞ」

    マジか。

    瑠「たけるんは天才」

    み「知ってる」

    瑠「あ、でも祐也さんはわからないですよね」

    祐「聞いてるよ。高校の時、模試で全国1位になったんだよね?」

    僕「あ、はい」

    瑠「一度じゃないです」

    み「よく貼り出されてたよねー」

    僕「まぁ、何度か」

    祐「凄いね。僕さ、その時の受け答えをみつきに聞いて、いたく感心したんだよ」

    僕「感心?ですか」

    み「あれね。センセの一言。つーか、一撃」

    僕「何言ったっけか」

    祐「そりゃ誰かは1位になるよ、って。尊くんにとっては通過点というか特別でなく、ひけらかす物でもないんだ、ってね」

    み「ホント、確率の問題じゃないっつーの」

    僕「2位を狙う方が大変だよ」

    み「うへー。やりかねないし」

    祐「ハハハ。それさえも余裕だね」

    瑠「そんなたけるんは進学の際、あえて自宅から通える大学を選びました」

    み「もっと難関校でも行けたのにもったいなーいって、当時学校で話題になってたな」

    僕「へー」

    み「まるで他人事だよねぇ。センセらしい」

    瑠「学歴にこだわりないのもあるけれど、一番の理由は、すっごく家族思いだからなの!早々にお姉様達が結婚で家を離れたから、ご両親に淋しい思いをさせないように、って」

    お姉様、達。辻褄が合わないとか、アラが出たりしないかな。瑠奈だから大丈夫だとは思うけど…。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道102~1月中旬

    気心知れた仲間だから積極的に参加。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕「あれ、珍しい」

    夜。部屋でビデオ通話の準備中に、祐也さんからLINEが届いた。

    祐也の投稿『こんばんは』

    こんばんは、と送信。なんだろ。

    祐 投稿『急な話で悪いんだけど』

    祐 投稿『来月の11日12日ってもう予定立ってる?』

    祐 投稿『良かったらみつきと瑠奈ちゃんと四人で旅行に行かない?』

    え!なになに!即レス!

    僕の投稿『用事なんて解読の手伝いくらいで』

    僕 投稿『全然空いてます』

    僕 投稿『ぜひ行きたいです!』

    絶対楽しい!

    祐 投稿『今って電話しても大丈夫?』

    おっと。大丈夫だけど、まずは瑠奈に通話スタート時間を遅らせる連絡をしなきゃ。…ん?

    瑠奈の投稿『ちょっとみつきとしゃべりたい』

    瑠 投稿『スタートは15分後でお願いします』

    さては女子側でも同じ話題が進行中?よし、祐也さんにOKの返事をしてと。

    僕「かかってきた…もしもし、こんばんは」

    祐也『こんばんは、尊くん。いきなりな話でごめんね』

    僕「全然大丈夫ですよ」

    祐『僕の勤め先、福利厚生の一環で高級な宿もリーズナブルに泊まれたりするんだけど』

    僕「いいですね」

    祐『今は旅行のオフシーズンで、もっと安く利用できてね。この機会にどうかなって思ったんだ。大学は春休み中なのに、平日でなくて悪いけど』

    僕「いえそんな。いいんですか?ミッキーさんと二人じゃなくて」

    祐『二人で利用した事もあるよ。みつき曰く、スイートルームばりの広い部屋に泊まってみたい、だったら人数多い方がいいってね』

    僕「へー」

    祐『実は君達の返事を聞いてすぐ、ホテルのネット予約は完了させたんだ』

    僕「早っ。女子側でも話してたんですね」

    祐『いくら閑散期でも、ぼやぼやしてると埋まっちゃうからね』

    なぜか祐也さん、普段にも増して落ち着き払っているように感じる。

    僕「あのう、なんか…あります?」

    祐『ん?急に言い出すから?』

    僕「気のせいならいいんですけど、心なしか、淋しそうで」

    祐『ハハ。さすが尊くん。図星』

    僕「え」

    祐『まだ決定ではないんだけど、いよいよ四月から遠方へ転勤になりそうで』

    僕「マジっすか!」

    うわー。

    祐『悪い話ではないんだ。ただ…』

    僕「ミッキーさんですか。大学卒業が結婚の条件みたいになってましたよね。それで言うとあと一年残ってる」

    祐『うん。既に大騒ぎしてるよ。正式に決まったらどうなることやら。でもまだ赴任先で一緒に住む訳にもいかないし、転勤を一年延ばしてくれとも言えないし』

    僕「悩ましいところですね」

    祐『地元を離れる不安も多少はあるけど、いずれはこうなるってわかってて入った会社だから、その辺は腹を括ってるよ』

    僕「全国に事業所があるんですよね。人事異動の発表はいつごろなんですか?」

    祐『大体は二月の中旬。ちょうど旅行から帰ったあたりだね』

    そっか…

    僕「旅行は想い出作りもありますか」

    祐『そうだね。君や瑠奈ちゃんにも、今まで程会えなくなるから』

    電話を切った後、少し放心状態になっていた。パソコンから瑠奈に呼び掛けられ、我に返る。

    瑠奈『たけるん、お待たせぇ』

    僕「あ、うん」

    瑠『旅行の話、祐也さんに聞いたよね?私、みつきから聞いて思わず飛び上がっちゃった。すっごく楽しみ~』

    僕「うん。僕も楽しみだよ」

    瑠『来年度もしかして、の話も聞いた?』

    僕「聞いた。ミッキーさん、大丈夫だった?」

    瑠『大丈夫じゃない』

    僕「やっぱりな」

    瑠『仕事にケチはつけられない。でも傍に居ない生活なんて考えられない!って半泣き。正式に決まったら一波乱ありそう。でも気持ちはすごーくわかる!』

    僕「うん」

    瑠『たけるん。ずっと傍に居てね』

    僕「はい。そのつもりだから安心して」

    ビデオ通話が終わってスマホを確認すると、今度はミッキーさんからLINEが来ていた。

    みつきの投稿『バルコニーにあるジャグジーからの眺めが最高らしいよ!アガる~』

    僕に対しては何ら変わらない態度なところが、かえって健気だなと思った。

    僕「あ、今度は祐也さんから」

    宿泊予定のホテルのWebページのURLが貼り付けてあった。どのタイプの部屋かも書いてくれている。

    僕「良かったら予習しておいて、か。了解しました」

    よし、公式ホームページの画像で確認、と…

    僕「オーシャンビューの部屋だ!やったー!なになに、ジャグジーは水着着用でご利用ください?へー…デカっ!四人でも余裕じゃね?水着は納得。バルコニーもすげぇ広くて、夏なら外でパーティーもできそうだもんな。これは確かにアガる!真冬なんで穴場だったんだ」

    離れてしまうかも云々は少し隅に置いといて、折角与えてもらった機会、まずは大いに楽しむべきだな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、旅行記です。

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    続現代Days尊の進む道101~2023年1月7日土曜

    お父さんの丁寧な仕事は、ドラマ1話にて。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈「はさみ揚げ、家でトライしてみたんですけど、出来映えがこちらでいただくのと比べて何か違うんです」

    覚「見た目の話?」

    瑠「はい。だからコツがあれば教えていただきたくて」

    覚「そうだなー。衣って、どうやって付けてるんだい?」

    瑠「粉を敷いたバットの上で転がして、軽くトントンとふるってます」

    覚「で、そのまま揚げる?」

    瑠「はい」

    覚「それだ。僕はね、粉が均等に薄く付くよう一つ一つ細かく指で払い落として、くっつかないように並べてから揚げてるんだ」

    瑠「一つずつ?!そうなんですか!丁寧なお仕事だからこその仕上がりなんですね」

    覚「今日は工程を全部見せるから、良かったら参考にしてくれな。ははは」

    瑠「はい!」

    美香子「もうお父さん、張り切っちゃって~」

    今日は満月。ちょうど土曜なので、正月の挨拶という体で夕食に瑠奈を招いている。で、永禄との通話まで突入するといった案配。

    覚「母さん、ご飯のおかわりは?」

    美「ください。ねぇ尊」

    僕「何」

    美「今日って、ネオ1号と、2号も改めて飛ばすのよね?」

    僕「ううん。2号のバージョンアップはデータで更新するから、飛ばすのはネオ1号だけ」

    令和元年12月7日に、起動スイッチ1号はネオ1号に切り替わり、同時に、永禄にある2号の機能もアップしていた事が判明。

    覚「瑠奈ちゃんはお茶だね。はい、どうぞ」

    瑠「ありがとうございます」

    覚「しかし、未来って案外近いモンだなー」

    美「ホントよねー。こんなに早く出来上がるなんて」

    ネオ1号と、2号の新プログラムを無事完成させた僕です!

    瑠「あの、私思うんですが」

    ん?

    美「なぁに?瑠奈ちゃん」

    瑠「天才は時空を操れるじゃないですか」

    美「そうね」

    覚「だな」

    僕「何その、どこか普通じゃない会話」

    瑠「なので、遠くにあった未来も、グッとその神の手でたぐり寄せたんだと思いますよ」

    美「そっか」

    覚「納得」

    僕「すんなり受け入れてるし」

    永禄との通話前に、今回は三人立ち合いの下、この2つを送り出す。てな訳で、20時45分の実験室。

    美「まだ時間いいわよね。尊に質問あり」

    僕「どうぞ」

    美「ここにネオ1号の新品がある。でも棚の上にも同じネオ1号が存在する。これってアリなの?」

    覚「あー」

    僕「同じ空間にどうして二つ存在するかって?それは、今日送り出すネオ1号は、ネオ1号に見えてネオ1号ではないからだよ」

    顔を見合わせる両親。瑠奈は、仕組みをわかっているのもあり黙って動向を見守っている。

    美「…今のわかった?」

    覚「説明して。できれば日本語で」

    僕「はは。簡単なんだよ。これは、令和元年の実験室に飛んだと同時に、既存の1号と融合する。あくまでもパーツの一部。だって、でないと飛んだ先で二つになっちゃうじゃない」

    覚「まぁそうだな」

    美「ふーん。なら、飛んだ時に棚の1号を凝視していたら、合体する様子が見られた訳ね」

    僕「そうだね。あの時は絶賛落胆中だったから棚なんて目に入っていなかったし、その瞬間は電気消えてたし。じゃ、そろそろやるよ」

    パソコンの前に座る。三人が取り囲む。

    僕「では、カウントダウンお願いします」

    覚&美香子&瑠奈「3!2!1!」

    僕「GO!」

    Enterキー押下。ゆっくりとネオ1号…になる部品は消えていった。そして、

    覚「…ん?何だ、今データが飛んだってか?」

    美「画面に花火が上がってる!」

    僕「ビジュアル的にわかりやすい方がいいでしょ。2号は更新完了したら画面展開するようにしておいたんだ」

    美「へぇー」

    覚「余裕だな」

    瑠「ふふっ。お疲れ様」

    そして9時、永禄と繋がった。晴忠ちゃんの歯が生えたよ!って話題で盛り上がったのだが、

    覚「唯があい変わらずだったな」

    美「無茶してたわね~」

    僕「乳歯を見せたいからって、我が子の口に指突っ込むか?あの後きっと大泣きだよ」

    本日の行事は全て無事終了。さぁ、瑠奈を家まで送ってくるか。…その頃、永禄では。

    トヨ「晴忠様が早く泣き止まれて良かったわ。もう、一時はどうなるかと」

    源三郎「若君様も、咄嗟の事で止めようもないご様子じゃったな」

    通話後、屋敷を出た赤井家の三人。すると、

    源「これは小平太殿」

    見回り中の小平太さんと遭遇。

    小平太「…」

    源「何でござろうか」

    小「このような夜更けに、子を連れ歩くとは如何なものか」

    源「満月に導かれまして」

    小「…若君様の命か」

    源「左様」

    腑に落ちぬと顔に書いたまま、小平太さんは去っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、久々に祐也氏登場。

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    返信先: 創作倶楽部
    今までの続現代Days尊の進む道、番号とあらすじ、66から100まで

    通し番号、投稿番号、描いている日付(これは毎回の副題と同じ)、大まかな内容の順です。
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    66no.1164、2022年1月1日土曜、一期一会のカウントダウン。瑠奈に怒られるわ翻弄されるわ

    67no.1165、1月10日月曜、成人式。姿を見せたかった人達とそうでもなかった相手

    68no.1166、1月18日火曜20時、エリさん芳江さんと共に通話スタート

    69no.1167、1月18日21時、通話の感想。唯がすぐそこに居るように話す両親

    70no.1168、1月18日21時その2、里芳ちゃんの言葉に歓喜。若君も子育ての今後を考える

    71no.1169、3月上旬、両親の不在にかこつけ内緒のお泊まりしよう

    72no.1170、3月20日日曜6時、3号動かす最良の時間帯は。お泊まりバレてた模様

    73no.1171、3月20日19時、二人で居酒屋に

    74no.1172、3月20日21時から21日月曜10時、公園でいちゃつく。瑠奈が向かった先は

    75no.1173、3月21日10時30分、御月忠清の墓で出会ったのは

    76no.1174、7月14日木曜、クーハンですやすや眠る晴忠ちゃん

    77no.1175、8月12日金曜、3号完成

    78no.1176、9月10日土曜6時、3号を手に旅立つ尊

    79no.1177、9月10日6時25分、着いたのは赤井の屋敷。亡くなったのは誰

    80no.1178、9月10日6時25分その2、源トヨの長男が旅立った

    81no.1179、9月10日6時25分その3、ジェンガの名に思いを馳せる

    82no.1180、9月10日6時25分その4、唯達合流。熟慮し令和に向かうと決めた若君

    83no.1181、9月10日6時28分、もう皆が来るからと急かす尊

    84no.1182、9月10日6時50分、バタバタしながらも3号起動

    85no.1183、9月10日6時58分、小平太の憂い。唯達令和に到着

    86no.1184、9月10日7時5分、トイレ問題は重要。10人着席はいい眺め

    87no.1185、9月10日7時40分、寿司事情の違い

    88no.1186、9月10日8時30分、公園を一番楽しんでるのは

    89no.1187、9月10日9時30分、瑠奈とホームセンターへ。自己肯定感が高くならない尊

    90no.1188、9月10日11時、高齢者に人気の唯

    91no.1189、9月10日13時、唯に買い物を任せるな

    92no.1190、9月10日13時30分、大量のファーストフード。かつての自分に思いを馳せる

    93no.1191、9月10日16時、庭遊びに興じる

    94no.1192、9月10日19時、彼女は独占したい。電話の主は

    95no.1193、9月10日22時、若君が飲みに誘う

    96no.1194、9月10日22時30分、相思相愛の瑠奈と里芳

    97no.1195、9月10日23時、小さいわ中途半端だわと失礼が過ぎる唯

    98no.1196、9月10日23時30分、尊は令和で輝いて欲しい

    99no.1197、9月11日日曜0時、寝ていたのは昔と何ら変わらない姉

    100no.1199、9月11日7時から11月23日水曜、未来に向け唯の部屋を整理。2号完成し平成30年に飛ばした

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    返信先: 創作倶楽部
    ご心配おかけしております

    てんころりん様。いつも励ましのお言葉ありがとうございます。

    投稿間隔は3~5日、投稿時間は19時~22時頃といった理想は掲げているんですが、最近はなかなか時間を割けません。できる時に、時間に囚われずアップしておりますので深夜だったりもしますが、もうすぐ投稿時間のタイムリミット、急がなきゃ!と焦らなくなった今が、無理のない状態でございます。

    でもある程度期限を決めないとダラダラと遅くなるばかりで、これまた理想と程遠くなるばかり。頑張り過ぎないよう、頑張ります。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道100~9月11日7時から11月23日水曜

    小さな事から…のネタにピンとこない、平成生まれの尊。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに戻ってきた。

    美香子「また静かになっちゃって」

    広く空いた食卓が、淋しさを増幅させている。

    覚「まあ座れ」

    並んで腰かけた両親。その正面に座った。

    美「唯と話したのよ。速川家のこれからについて、どうしていくか」

    僕「デカい話だね」

    覚「そうでもないぞ。小さな事からコツコツとって言うだろ」

    僕「ふうん?」

    美「でね、手始めとして、そろそろ部屋の片付けをしようと思って。唯の」

    僕「片付け…」

    覚「部屋数も限られているから、結婚して家を出た娘の部屋を、ずっとそのまま手付かずにしてはおけない」

    僕「一般的な話ではあるかな」

    覚「これから家族の形や人数も変わっていくだろ。な?」

    それは…叶えていきたい未来。

    僕「そのつもりは、ある」

    覚「よしよし。それが前提だからな」

    美「ゆくゆくは空けるわよって伝えたら、快諾してくれて。で昨夜、処分して構わない物を一緒に見てもらったの」

    僕「へえ」

    なんか…完全に、娘が旅立った状況を受け入れたって感じる。

    美「メンバーが変われば使い方も変わるわ。あの部屋、結婚前は私が使ってたのよ」

    僕「だろうね。南向きで日当たり良いし、一人娘にあてがう部屋として妥当」

    覚「女の子の部屋は、風水的に東南が良いって言うからな。男の子は北とか東。だから尊の部屋は北東の角なんだ。窓は北側しかないが」

    美「もしかして、部屋が南向きじゃないから損してると思ってたとか」

    僕「別に?北向きの窓は一定の柔らかい光が入るから落ち着くし、本棚の本も日に焼けにくいし、自分の部屋は気に入ってるよ」

    美「そっか。良かった。今更だけど」

    僕「その片付けって、一気にやる感じなの?」

    美「仕分けから始めなきゃだから、ぼちぼちとね。大切に保管する物もあるし、里帰りした時にあった方がいい物だってあるし」

    覚「家具の移動だったり、できる時に少しずつやっていこうと思ってるから、その時は手伝ってくれ」

    僕「わかった」

    ┅┅

    姉の部屋の片付けは、ゆっくりと進んでいた。母が主導だからできる時も限られてるし、色々なグッズ、例えば図工の時間に描いた絵とかが出てくると、手を止めて見入っているんだ。

    僕「全部とっておくつもり?」

    美「どうしよう。唯は捨てちゃえばぁって言ってたけど」

    覚「いざとなると、あれもこれも惜しくてな」

    僕「気持ちはわかるけど、キリがないよ?写真に撮ってデータで残したら?」

    覚「なるほどな」

    美「それがいいわね」

    撮影時も、アングルはこうだとか、騒がしくも楽しそうな両親だった。

    ┅┅

    さて。例の起動スイッチですが、作業が粛々と進み、本日勤労感謝の日を迎えました。実験室に三人。

    覚「粋だな」

    僕「どうせなら、日付合わせようと思って」

    まずは2号。未来の尊、である今日の僕が、見事完成させました!

    僕「では、おさらいします」

    平成30年11月23日に僕が赤ペンで書きこんだ、両親のメモが登場。

    美「出た出た。懐かしい。と言ってもまだたったの四年前なのね」

    僕「読み上げます。一、二人同時に移動可能」

    覚「うんうん」

    僕「ニ、いちばん最初の到着日時は満月の一日前」

    美「だったわね。どのスイッチも動きが違うからこんがらがるけど」

    僕「三、時空への影響は最上限に。四、省エネで性能もアップ」

    覚「いいだろう。内容は実証済みだし」

    僕「では、この通りのタイムマシンが完成したら平成30年11月23日の僕に送る、到着時間13時15分、実行します」

    あの日と同じ風景になるように、作業台に2号を乗せる。両親が見守る中、パソコンを操作。

    覚「おおぉ」

    美「消えていく…」

    今頃、四年前の僕達と姉は歓喜に沸いている事だろう。完全に消えたのを確認し、拍手。

    覚「お疲れ」

    美「頑張ったわね」

    僕「どうも。それでさ、ネオ1号もあと少しで完成なんだけど、どうしようかと思ってて」

    美「どうしようって?」

    僕「2号を今飛ばしたけどさ、結局今は、回り回って永禄で燃料がカラの状態。ネオ1号はいつでも未来の僕が飛ばせるんだから、先に今兄さんが持ってる2号に燃料を入れた方がいいんじゃないかと思って」

    覚「ネオ1号はそれこそ一年後でも数年後でも飛ばせるが、また使うかもしれない2号に燃料を優先させるってか」

    美「燃料だけ飛ばせたりはしないの?」

    僕「それはちょっと難しいし、一旦メンテナンスもしたいから」

    覚「あー。たった今新品だった物が、永禄7年には、それなりにガタがきてるかもしれないからか」

    僕「うん。どっちがいいと思う?」

    話し合う両親。そして、父が口を開いた。

    覚「順番通りにやってく方に賛成だ。だからまずはネオ1号を完成させて、令和元年12月7日の尊に送る。で今に至るように」

    ネオ1号は、目の前の棚の上にある。送る作業をしても、見た目は全く変わらない。燃料だってエコ仕様だからほとんど減っていないし。

    美「時空を行ったり来たりでも、そこは時系列に沿った方がいいと思うわ」

    覚「こちらに来るとしても、今や3号があるからな。24時間限定でも充分だろ」

    僕「わかった。じゃあネオ1号、完成させて燃料もそっちに先に入れるよ」

    2号を使って1か月来なければならない事情なんて、今のところ思い当たらない。でもいつかのために、燃料は継続的にプールしていこう。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、年が明けていよいよ2023年、永禄は8年となります。

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    速川家の間取り

    ドラマと、私の創作話が混ざりますので、ここでお話します。

    ┅┅

    速川家の一階LDKと庭、外観はロケ地で実際の建物ですね。アシガール掲示板no.3072で、てんころりんさんが聖地巡礼なさっています。

    お話したいのは、階段及び二階についてです。

    ドラマ2話で、お風呂上がりの唯が自室に入っていきます。その階段②部分からドアと、唯の部屋はスタジオ撮影と思われます。

    一方、DVDとBlu-ray(青)の特典映像Episode3「戦国を遠く離れて」で、唯が一階に駈け下りる際の階段①は、ロケ地のものです。

    ①は直線型で二階の突き当たりはガラスの扉
    ②は上りきる間際で90度曲がり窓もない

    見た目が全く違いますが、きっと同じ建物内に①②とも存在するのでしょう。となると、速川家は

    階段①を上がった突き当たりは実はまだ途中で、折り返してまだ上がる。上がり切ると階段②になる

    …と無理無理に考え、私が展開しているDaysシリーズでの二階の間取りを考えました。

    一階に個室がない分、二階に部屋は数要るだろうと思い、

    ・廊下は二階の中心を東西に貫いている。階段は東端

    ・階段を上がって右に飾り棚。左、南側が唯の部屋。窓は東と南にある

    ・唯の部屋の向かい、北側に尊の部屋

    ・廊下を進んで尊の部屋のすぐ西側が予備室

    ・予備室の隣も和室、廊下の突き当たりが両親の部屋。襖を開けると二間続きになる

    ・廊下の奥左手から両親の部屋の南側に向けて広いバルコニー。唯の部屋からは出られない

    といった感じで…想像できますかね?お気づきでしょうがかなりの広さです。ドラマ6話で二階の外観が映りますが、植栽で所々隠れていてもだいぶ違う…大目に見てやってください。

    ┅┅

    これに至る前、映像から唯の部屋はどの方角に面しているかも迷っていました。

    若君が初めて平成に来た時。城跡を散策した帰りに女子高生達に後をつけられ、門の外で群がっていました。尊がベッドの脇にある窓を開けますが、その時いかにも西日といった太陽に照らされます。

    その角度から推測すると、唯の部屋は北西の角になります。窓を開けて門が見えるなら、リビングが南に面しているとして、クリニックは母屋の北東方向にあるから有り得なくはない。

    でも、北に向いてるにしてはかなり明るい。夕方を感じさせるための赤みがかった光を強調したくて、方角は曖昧にした?

    それに他方で、平成30年の元旦に同じ場所から唯が朝日に手を合わせます。だったら北東の角?

    悩みましたが、もうこの際は!と、この後のお話にも出てくる風水からの観点と明るさから、東南の角として進める事にし、間取りを考えた次第です。

    ┅┅

    一度説明をせねばと思っていましたが、読みにくくて長い文章になってしまいました。

    最近投稿のテンポがスローですみませんが、続現代Days尊の進む道、まだまだ続きます。よろしければこれからもお付き合いください。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道99~9月11日日曜0時

    便所サンダル履いて草むらに転がってた時と同じ寝姿。あの運命の日からこのお話の日まで、5年と4か月経ってます。
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    僕「いつからこの状態?」

    帰宅しました。飲みに出かける前には既に、リビングに人数分の布団を並べてあったんだけどさ。晴忠ちゃんと里芳ちゃんがかわいい寝姿でスヤスヤ眠ってるのは良しとして…

    覚「朝早かったんだってば!ってな」

    美香子「尊達が出かけてしばらくは起きてたのよ」

    布団に大の字になり、爆睡していた姉。丸二日間眠らないで、小垣城まで山道を走ったヒトと同一人物か?

    僕「うへぇ。ピクリともしないし」

    若君「まぁ良かろう。主の帰りを起きて待つ筋合いもない」

    さすがに兄さんも苦笑している。

    僕「だって、せっかく親娘の時間を作るべく、気を回してもらったのに」

    美「重要な話もしたわよ。それなりに」

    僕「そう?だったらいいけど」

    美「お風呂行ってらっしゃい。あと尊だけだから」

    僕「わかった」

    風呂上がりの僕が、戦国時代の皆さんから注目されている。

    トヨ「御髪が」

    源三郎「これは摩訶不思議な」

    パーマをかけてある前髪が濡れて、巻きが強くなりくるんくるんしてるのに興味津々。

    若「洗う度に形が変わるのか?」

    僕「濡らすと本来の姿に戻るんです」

    若「真っ直ぐ伸びるのが元来の姿であろう?」

    僕「薬を二種類使って、巻いた形を留めるようにしてあるんです」

    若「ほう…未だ知らぬ技は多々あるのう」

    パーマしてるのは家でも僕だけだしな。で、それからも明かりを消したリビングで、姉を除きずっとみんなで静かに話し込んだ。晴忠ちゃんと里芳ちゃんはホント手がかからないわ~と母が言ってたな。ようやく眠りについたのは2時頃だった。

    里芳「かつん、かつん!」

    僕「あー、木刀を打ち鳴らす音か。そうだね、カツンカツン言ってるね」

    朝5時30分。6時59分がタイムリミットだから、色々前倒しで進んでいる。両親に似て早起きな里芳ちゃんを膝に乗せながら、庭で朝稽古する兄さんと源三郎さんに見入っていた。

    僕「爽やかな朝だ。いい眺め」

    両親とトヨさんは、朝ごはんの支度中。そして姉は、珍しく起きてはいるのだが、兄さんに似て早起きな晴忠ちゃんをあやして…いると思いきや、

    唯「…」

    僕「座ったまま寝てるし」

    あ、稽古終わった。

    僕「お疲れ様でした」

    若「尊」

    僕「はい?」

    若「子守りが堂に入っておる」

    僕「えー、そうですか?」

    覚「二人ともお疲れ。これ、冷たいおしぼり」

    源「忝のうございます」

    美「ごはんできたわよ、みんな座って。唯~、はい、起きる!」

    唯「んあ?…ごはん。ごはーん!」

    僕「お子様の反応だよ」

    それからは忙しかった。朝ごはん後は、片や着物に着替え、片や持たせる手土産の確認をし、あっという間に6時25分。

    僕「これはリアタイしたいんだ。ホント好きだよなぁ」

    テレビの前に集合。しっかり体操の時間は確保されていた。

    唯「ねー尊、紙おむつ、定期的に送ってくんない?」

    僕「何だよそれ」

    唯「だって布よりこっちの方が絶対楽だもん。令和は紙っしょ」

    美「何グチグチ言ってるの。今でも布おむつ使われるお母さんは居るわよ」

    と言いつつ、ダンボール箱一つ分持たせる優しい親だ。しかも運びやすいよう持ち手までつけてさ。

    若「お父さん。お母さん。尊。此度も世話になり申した」

    6時50分の実験室。もうお別れの時間だ。

    覚「また、たまには顔見せてくれ」

    若「はい。孫の成長した姿もお見せしとう存じます」

    美「元気でね」

    唯「うん」

    晴忠「キャッ、キャッ」

    晴忠ちゃんはパパに抱っこされてゴキゲンな様子。

    源「ありがとうございました」

    僕「またね、里芳ちゃん。バイバイ」

    ト「里芳、ご挨拶して」

    里「…にーにー、ばいばい!」

    にーにーと呼ばれてる僕です。次回は、もっとお子様達とも意思疎通できるんだろう。その頃には人数も増えてるかな?

    若「では、またいずれ」

    ちょっとかさ張る手土産と共に、6人は消えていった。

    覚「一抹の淋しさはあるな。どうしても」

    美「またおもナビくんで話せるわよ」

    覚「まぁな」

    美「尊」

    僕「ん?」

    美「何時に出発するの」

    僕「8時過ぎに出られればいいけど」

    今日は夕方まで解読の手伝いに行くんだ。

    覚「ならまだ話せるな。じゃ、続きはリビングで」

    何?

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    あと少し続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道98~9月10日23時30分

    親になって、痛い程わかる親の気持ち。
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    酒に強いとは言え、少しは普段より饒舌になってるっぽい。

    若君「じいは、あの歳にしては勘もよう働く。凝り固まった考えも持ち合わせてはおらぬ」

    源三郎「そうですね、受け入れるのも早かろうと存じます」

    永禄の皆さんの誰が令和でも馴染むか、って話をしてる。

    僕「前に似顔絵描いた人ですよね」

    若「うむ。その絵じゃが」

    僕「はい」

    若「相当気に入ったとみえて、掛軸に仕立てよった」

    僕「マジっすか!」

    若「フフフ」

    和紙でもないしプリントだし。すぐに褪せてこないかな。ちょっと心配。

    トヨ「天野の家ですと、信近様と小平太様ですが」

    若「トヨはどう考える」

    ト「信近様は難しいのではないかと。理屈に合わぬとすぐ頭に血が上るお方ですし…」

    僕「そんなに怒りっぽいんだ。小平太パパって姉が呼んでる人ですよね」

    ト「そうです。唯様にもしばしば強く当たられております」

    パワハラが激しいって言ってたな。昔気質な感じだと令和ではちょっとね。

    源「小平太殿は…うーん」

    僕「微妙な感じですか」

    源「信近様をよう諫めておられますが」

    僕「親子揃って怒りっぽくはないんだ。制止してくれるなんていいじゃないですか。あ、でも僕と瑠奈が永禄に飛んだ時、障子越しに話してるのを聞きましたけど、姉には随分辛辣な態度を取ってましたね」

    若「唯には半ば呆れておるゆえ」

    僕「その気持ちはよーくわかります」

    若「ハハハ。小平太は中々の堅物でのう」

    僕「へえ」

    若「妻を娶り、じきに子も生まれるゆえ、変わってもゆくであろうが」

    僕「そうなんですね」

    家臣にも目を配る。気にしなきゃならない事が多くて大変そう。でもそれができるからこそ、人の上に立てるんだろう。

    僕「逆に、この人なら永禄でも余裕でやっていけるな、と思うのは誰になります?」

    若「そうじゃな。まずは、おぬし」

    僕「僕?!いや、それは」

    若「尊の作った様々の品で、幾度となく救われてきた」

    僕「それは、現代で材料も揃っているからで」

    若「機知に富む尊ならば、永禄でもその才覚を発揮するであろう」

    僕「えー!」

    若「難があるとすれば」

    僕「はいっ」

    若「今一つ踏ん切りがつかず、二の足を踏む所じゃな」

    僕「はあぁ。仰せのとおりでございます」

    若「その点において、尊よりも優っておるのが瑠奈殿」

    僕「あー」

    源三郎さんもトヨさんも、顔で然りと言っている。そんなにすぐわかりましたか。

    僕「確かに、無茶はしないが思い切りがいい。決断するのも早いです」

    若「誰が筆頭か、となると、瑠奈殿じゃな」

    僕「なるほど」

    ト「あの」

    トヨさんがそっと手を挙げた。

    若「トヨ。此処は令和。遠慮は要らぬ」

    ト「畏れ入ります。瑠奈様ですが、私共の知る四人、を足したような姫様であると考えます」

    若「ほう。申してみよ」

    ト「決断力及び行動力の高さは、唯様」

    僕「似過ぎても困りますけど」

    ト「とても賢しくていらっしゃる所は、尊様」

    僕「恐縮です。瑠奈は頭の回転はホント早いです」

    ト「朗らかで、母性愛に溢れていて、それでいて子に手をかけ過ぎない所は、お母さん」

    僕「へえ…」

    分析の鋭さに感心した。母は、僕がかつて不登校だった頃も、どうしましょうなんて鬱々ともせず、放任し過ぎでもなく口うるさくもなく、明るく変わらない態度で自由にさせてくれたから。

    ト「ね、源ちゃん。子守りがとてもお上手でいらっしゃるから助かったわよね」

    源「うん。子が居らぬとは俄に信じ難いほど手練れであらせられたし、里芳もよう懐いておった」

    若「フフ。良き母になろうぞ」

    僕「そうですか」

    ト「残る一人は、尊様はご存じない姫で申し訳ないのですが」

    僕「構わないですよ」

    ト「三国一の手弱女に挙げられる美貌でいらっしゃいます。また醸し出す柔らかい雰囲気が、阿湖姫と重なるのです」

    僕「阿湖姫。兄上の成之さんの妻になった方ですね」

    若「それはそれは仲が睦まじゅうての。今は子も二人」

    僕「そっか。阿湖姫さんも、姉に運命を翻弄された内の一人ですね」

    若「…羽木が滅びておったら、別の生きる道があったであろう姫じゃな」

    僕「今幸せに暮らしてるんなら、結果オーライですよ」

    若「うむ。唯が運命をと申したが、ひいては尊の手柄。唯尊共に居らなんだら、我々はとうに消え去っておるゆえ」

    源三郎さんとトヨさん。静かに耳を傾け何度も頷いている。

    僕「いえいえ、戦国用グッズをちゃんと使いこなした姉の手柄ですよ。…あれっ」

    若「いかがした?」

    僕「もしかして、僕も戦国に来させようとしてます?なーんて」

    若「…」

    酔った勢いで、冗談っぽく聞いてしまった。でも兄さん真顔…ヤバい事言った?!

    若「それは決して、ない」

    僕「そうなんですか?」

    若「居ってくれれば頼もしい。有り難い。じゃが、お父さんお母さんから大切な家族を引き離し、淋しい思いをさせとうない。これ以上」

    僕「…」

    引き離す形にはなったよ?でもそれは姉自身の意志でもあるし…

    源「ありがとうございます」

    え?

    源「速川の皆様には感謝しかありませぬ。大切なご家族である唯様には、これからも全力でお仕え致します」

    ト「わたくしも、尊様にはこの令和でのご活躍を祈念申しあげます」

    僕「ありがとう、ございます…」

    若「フフ。さて、そろそろ帰るか」

    僕「あ、はい」

    若「二人ももう良いか?」

    ト「はい」

    源「充分堪能致しました」

    僕「なら、会計してきますね」

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    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道97~9月10日23時

    総領の妻たる者、世間を知らねばならぬ。
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    若君「お父さんお母さんと飲んだビール、も無論美味かったが、此方の店のビールはまた格別に美味い」

    源三郎「まことに」

    トヨ「はい」

    母から軍資金を受け取った時に聞いた。帰宅する僕を待って再び酒宴をするのなら、この店に行けばいいと父が提案したと。お金の問題を気にしたのもあったらしいけど、三人して床に手をついてお礼を言うもんだからやめてやめてって慌てて止めたのよ~って言ってたな。

    若「尊、減りが遅いの」

    僕「いやぁ…」

    三人とも、酒強いんだよな。晩ごはんの時もかなりの量いってたけど、全然ケロッとしてたしさ。

    僕「永禄では、飲める時は毎晩とかなんですよね?」

    若「まぁ、そうじゃな」

    僕「僕が対等に渡り合うなんて、到底無理な話ですって」

    若「フフフ。そうか?酒が入るとすぐ寝てしまうのか?」

    僕「いや、それはないですけれど」

    若「尊はそこそこ飲めると教わっておるが」

    僕「えー。ヤな事前情報」

    源「忠清様」

    若「ん?」

    源「忠清様がかつて、和睦に尽くしてくださった、野上家の元丞殿」

    野上。聞いたコトある。確か…

    若「うむ。随分と古い話に感ずるのう」

    ト「四年前にございますね」

    若「もうそんなに経ったか」

    源「その折に、宴で相当飲まれたと聞いております」

    若「あぁ」

    源「如古坊が、ご両所倒れるまで杯を交わしたと申しておりました」

    僕「倒れる!」

    若「宴とは申せど、その先どうなるかは、かの時点ではわからなんだ」

    源「はい」

    若「浴びる程飲みはしたが」

    僕「ほえー」

    若「何を話したかは全て覚えておる」

    僕「スゲぇ。酒宴に対する心構えがそもそも違うんだな」

    若「和睦が間に合うて、何よりであった」

    源三郎&トヨ「はい」

    話の内容もあり、いかにも総領、の顔になっていた兄さんだったが、すぐによく知る優しい忠清兄さんの顔付きに変わった。

    若「尊」

    僕「はい」

    若「わからぬ話で済まなんだの」

    僕「いえいえ。僕その顛末、チラっと聞いてますんで」

    若「そうか?」

    僕「兄さんは小垣城、羽木の皆さんは黒羽城で高山と相賀に立ち向かっていた時ですよね」

    若「じゃな」

    僕「実は、ちょっと気になってた事があって。兄さんと源三郎さんに聞いてもいいですか」

    若「ほう」

    源「何でございましょう」

    僕「城からどう退却するか云々とかじゃない、何じゃそれって内容なんですけど…あまりにも姉の説明の仕方が妙だったんで」

    若「申してみよ」

    源「伺います」

    僕「軍議の最中に、源三郎さんがその如古坊さん?ともう一人、野上の総領を連れてきたそうですね」

    源「はい。野上元良殿ですな。見張りを立てておらぬ城の北門外にて目を光らせておったところ、前方より如古坊が現れ、野上の総領をお連れしたと申し」

    僕「あの、その人…小柄、体が小さかったって聞いて」

    そこ?って顔の二人。ですよねー。

    源「わたくしも上背がある方ではございませぬが、そうですね、わたくしよりも若干背は低かったかと」

    若「元良殿にも会うてはおるが。うむ…如古坊と共に参ったとなれば、小そう見えても致し方あるまい。如古坊はわしとほぼ変わらぬ背丈ゆえ」

    僕「そのお坊さんは背が高いんだ。だからですよね…」

    源「唯様は何と、仰っていたのですか?」

    僕「小さくて色白で、ヒゲが顔を一周してる男が来てぇ」

    源「…」

    ト「一周?」

    若「フフッ。それで?」

    僕「中途半端でさぁ、偉いヒトには全っ然見えなかったけど、総領だって言うのー。総領ってフツーは小さい男がなる?くまも小さかったしさぁ」

    ちょっとだけモノマネ入れてみました。

    ト「似ていらっしゃいます」

    僕「恐縮です」

    若「宗熊殿は…トヨ程の背丈じゃな」

    ト「私でございますか」

    僕「それは小柄な男性ですね」

    若「わかった。ならば」

    僕「へ?」

    若「唯がこの先勘違いをせぬように致そう」

    僕「勘違い…それはどんな風にですか」

    若「城に総領が訪ねて来るような折あらば、同席は難しいが、どのような人物か見られるように致す」

    僕「なるほど。わかりました。ちゃんと学習させて、失礼な発言をしないようにですね」

    若「ハハハ」

    おかみ「はい、生中ね~」

    ト「ありがとうございます」

    前にジョッキが置かれてびっくり。

    僕「え、頼んでない…」

    ト「そろそろ空くと思いまして」

    気を遣わせてしまった。少し残っていたぬるいビールをグッと飲み干し、冷え冷えのジョッキを手に取る。

    僕「では、乾杯!」

    若「尊。乾杯は、幾度でも良いのか?」

    僕「え?あ、はい」

    若「ならば、乾杯」

    源&ト「乾杯!」

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    今回登場する人物の身長ですが。尊176cm、若君179cm、源三郎172cm、トヨと宗熊160cm、如古坊178cm、野上元良170cm、唯162cm。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道96~9月10日22時30分

    大物だもの。
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    こちら速川家。

    美香子「そうそう、そこ!効くぅ~」

    母の肩を揉む姉。

    唯「お客さん、コってますねぇ」

    美「働き者だからね~」

    唯「はいはい、ごもっともっす」

    美「あー、ありがとう。ほぐれたわ。次、お父さんにもやってあげて」

    唯「ラジャ」

    覚「うほほ、いいのかい?ではお言葉に甘えて」

    お子様二人はすやすやお眠り中。

    美「ホント、手のかからない子達よね」

    唯「りほうちゃん、補助便座気に入ったらしいじゃん」

    覚「上手に使ってるって、瑠奈ちゃんが言ってたな」

    美「持ち帰ってもらってもいいけどね」

    唯「え?買ったの?クリニックのトイレの備品を横流ししたんじゃなくて?」

    美「そんな訳ないでしょ、人聞きの悪い事言わない。新品よ」

    唯「そりゃ失礼をば」

    子供達のタオルケットをかけ直す姉。おっ、母っぽい!

    唯「しかしぱるるもよく寝てるなぁ」

    美「赤ちゃんなら当然でしょう」

    唯「だったらいいけど」

    美「だったらって?」

    唯「たーくんが昔、戦場では眠りが浅くてすぐ目が覚めるって言ってたの。ぱるるもそうなっちゃうのかな、って」

    覚「それは…戦ありきの発言だな」

    美「そう。忠清くんも源三郎くんも、ぐっすり眠れる世であり続けて欲しいわ」

    覚「だな。あ」

    唯「りほうちゃんが」

    目を覚ました。パパもママも居ないけど、泣き出したりしない?

    覚「源三郎くんは夜の警固で居ない機会も多いからまだいいと思うが」

    美「一人で寝かせる時もある、とはトヨちゃん言ってたけれど」

    ゴロンとうつ伏せの体勢になった里芳ちゃん。頭をもたげ、キョロキョロしている。ママか!それかパパか?!

    里芳「ねーねー」

    覚「うわっ」

    美「あらら」

    里「ねーねー、どこ?」

    唯「そう来たか!」

    ねーねー。里芳ちゃんは瑠奈をこう呼んでいるんだ。姉上、がまだ話せないから…

    里「どこ?どこ?ねーねー…うわーん!」

    唯「あちゃー。泣き出しちゃった。ほら、ねーねーだよ~って、私ではなぁ」

    覚「帰ってった時はちょうど眠ってたしな。困ったぞ。どうする?」

    美「どうしましょ…よし、こんな夜更けに申し訳ないけれど、瑠奈ちゃんにLINEしてみるわ」

    すぐに返信が来た。

    美「良かったら電話しましょうかって言ってくれてる」

    唯「ビデオ通話で頼んで!」

    母のスマホに、瑠奈の顔が映し出された。

    美「瑠奈ちゃん、ごめんなさいね。しゃべってて大丈夫?」

    瑠奈『はい。母はお風呂で、父はヘッドホン着けて音楽鑑賞中なんで、グッドタイミングなんです。里芳ちゃん、泣いてるんですか?』

    美「そうなのよ~。上手くいくかはわからないけど、そちらから呼び掛けてくれる?」

    スマホを、泣きじゃくる里芳ちゃんに見せる。ちょっとびっくりしてるけど、戦国時代の子供とは言え、おもナビくんを何回か観てるのが功を奏し、反応が早い。目をパチクリさせながら覗きこんでいる。

    瑠『里芳ちゃーん』

    里「…」

    瑠『お別れの挨拶ができなくってごめんねー』

    里「ねーねー、ねーねー!」

    泣き止んだ。まずは一安心。画面の向こうで、瑠奈が何とかあやそうと頑張っている。

    里「おは」

    瑠『はーい?』

    里「おはよお、ごじゃい、ます!」

    おおぉ。

    瑠『わぁ!もう挨拶できるんだ!お利口さんだねー!』

    覚「ちゃんと文章を話せてるのが凄いな」

    美「優秀ね。持って生まれた資質もあると思うけど、躾が行き届いてるんだわ」

    唯「今朝も言ってたけどさ、これって、寝て起きたからおはようなんかな」

    美「それもあるとは思うけど、これを言うと褒めてもらえるって理解してるのよ。きっと」

    唯「ほえー」

    すっかりご機嫌が直り、手を伸ばして画面をペタペタと触っている。あまりの可愛らしさに、慌ててタブレットを取り出し、動画撮影を始めた父。

    覚「こりゃいい」

    瑠『また一緒に遊ぼうね!』

    コクコクと首を縦に揺らす里芳ちゃん。理解力の高さが素晴らしい。

    瑠『じゃあね、バイバーイ!』

    里「ばい!ばい!」

    唯「教えたバイバイをモノにしてる!」

    瑠奈が手を振る、里芳ちゃんも振るまではいかないけど、手をぶんぶんさせている。可愛いにも程があります!

    美「瑠奈ちゃん、ありがとう。助かったわ」

    瑠『いつでも呼んでください』

    覚「ありがとなー」

    瑠『では失礼します。おやすみなさい』

    この一連の騒ぎの最中も、晴忠ちゃんはすやすやと眠っていた。この辺りは、姉譲りに違いないな。

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    次回は、居酒屋チームの様子です。

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    続現代Days尊の進む道95~9月10日22時

    それも令和のお楽しみ。
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    僕「兄さんと電話で話せるなんて!」

    あれ?返事がない。遠くで話し声が聞こえるので、傍に父が居るんだろう。アドバイスを受けながら操作してるようだ。

    若君「尊よ」

    僕「はい、聞こえてますよ」

    若「瑠奈殿はいかがした?」

    僕「今送り届けたところです」

    若「そうか」

    僕「急にどうしたんですか?」

    若「わしに策があっての」

    僕「はい?」

    若「皆に話したところ、それは是が非でも行くべきと。お父さんが手配もしてくださり」

    僕「手配が要る話なんだ。何だろ」

    若「戻り次第、わしと飲みに行かぬか?」

    僕「え!」

    うっそ、マジで?!

    僕「行く行く、行きます!」

    若「件の店。ビール、と飯が美味い」

    僕「はいはい、駅前のですね」

    若「お父さんが、今から行くと伝えてくれておる」

    僕「予約まで!そうなんだ!」

    ん?スマホがゴソゴソ言っている。

    覚「尊、電話代わった。僕だ」

    僕「あー、お父さん」

    覚「思ったより早かったな」

    僕「どういう意味だよ。速やかに確実に完了しました」

    覚「帰ってきたらすぐ出発な」

    僕「え?先に出かけてもらえばいいよ。後から追っかけるから」

    覚「いや、全員一度に出た方が安全なんだ」

    僕「そうなの?どうして?」

    覚「行くメンバー、現代人はお前だけだから」

    は?

    僕「兄さんと…」

    覚「まぁいい、早く帰ってこい」

    切られた。少なくとも、両親も姉も行かないって意味だよな。お子様達は連れて行かないから、お世話する人間が要るからか。とにもかくにも、急いで家路に着いた。

    僕「ただいま」

    美香子「お帰り、尊。ちょっと来なさい」

    僕「何?」

    リビングから廊下に逆戻りすると、そっと封筒を渡された。中身を確認する。

    僕の囁き「会計担当ね。わかった」

    美香子の囁き「楽しんできて。四人で」

    僕 囁き「四人。て事は」

    僕の引率を待っていたのは、兄さん源三郎さんトヨさんの三人だった。

    僕「お待たせしました」

    若「急かせて悪かったの。では参ろう」

    源三郎「はっ」

    トヨ「お願いいたします」

    唯「行ってらっしゃーい」

    四人で夜道を歩き出す。

    ト「すみません、尊様。何ゆえわたくしまでとお思いでしょうが」

    僕「いえ。ちょっとだけ意外でしたけど、トヨさんもイケる口ですもんね」

    若「わしが是非来られよと申したのじゃ」

    僕「へぇ。えっと、まずお姉ちゃんが居ないのは、晴忠ちゃんが居るし、完全に乳離れするまではお酒はダメだからでしたよね」

    若「そもそも、酒はあまり好かんようじゃ」

    僕「里芳ちゃんも居るけど…」

    源「お父さんお母さんが、任せなさいと仰られまして」

    僕「パパママの姿が見えなくて大泣き、ってのは里芳ちゃんにはなさそうではある」

    ト「そう仰っていただいても尻込みしていたのですが、はたと気付きまして」

    僕「何でしょう」

    ト「わたくしがこちらに参りますと、幼な子は二人居りますが、親娘三人で過ごす時間を差し上げられるんです」

    僕「なるほど」

    若「左様。だからじゃ」

    僕「そうだったんだ。ありがとうございます、両親もすごく喜んでると思います」

    店に到着。

    僕「こんばんは」

    店主「いらっしゃい」

    おかみ「まあ~、皆さんお揃いで。席、用意してありますよ」

    僕「遅い時間にすいません」

    お「いいのよ~。帰省中って聞きましたよ。唯ちゃんは元気?」

    僕「はい、とても。えっと」

    兄さん達は先に座ってもらって、カウンター越しに、スマホで姉と晴忠ちゃんの写真をお二人に見せる。

    お「あら~、唯ちゃんと言うより唯さんって呼びたくなるわ。すっかり大人の女性ね~。赤ちゃんも可愛らしいわ~。ほらお父さん、よく見て!」

    店「ん。フフ」

    喜んでくれてる。洋服姿で撮っといて良かったー。

    僕「では皆様ジョッキを掲げてもらって。乾杯の発声は兄さん、お願いします」

    若「うむ。乾、杯!」

    僕「はやっ」

    全員「乾杯ー!」

    美味しそうに生ビールを飲むの図。今頃家では何してるかな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    居酒屋で何が話されるか。は置いといて、次回はまず速川家の様子からお送りします。

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    続現代Days尊の進む道94~9月10日19時

    たっぷりと。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    晩ごはんは手巻き寿司。

    唯「うまーい!」

    覚「そんなにガツガツ食うんじゃない。誰も盗らん」

    美香子「源三郎くん!缶ビール、いくらでもあるから。遠慮しないでね」

    源三郎「はっ、はい」

    覚「それ、中身もう空だろ?何本か持ってきてやろう」

    源「いえ、そのように手数をかけるなど」

    覚「いいから。座って待ってな」

    サッと席を立ったが、申し訳なさそうに戻った源三郎さん。かわってこちらでは、兄さんが不思議そうに僕を見ていた。

    若君「尊」

    僕「はい?」

    若「酒は好まんのか。飲んでおらんようじゃが」

    僕「あー、普段は飲みますよ。今日はこの後、瑠奈を家まで送っていくので」

    若「瑠奈殿は今宵は此処に泊まらぬと」

    瑠奈「はい。ごめんなさい」

    若「謝らずとも良い。屋敷まで送り届けるのと、酒とどう繋がるのじゃ?」

    僕「お酒を飲んだら、しばらく車を運転してはいけないんですよ」

    若「なんと」

    僕「だから今はお預けなんです」

    若「そうであったか…。ようやく尊とも盃を交わせると思うておったが」

    そんな会話に、瑠奈が僕の顔を覗きこむ。

    瑠「私、電車で帰ってもいいよ?」

    僕「ダメダメ。ちゃんと家まで乗せてくから。朝早くから支度して来てくれたんだもの、それくらいさせてよ」

    瑠「でもせっかくの機会なのに」

    若「瑠奈殿。済まぬ」

    瑠「え?」

    若「事の次第がわからず口を挟み、気を揉ませてしもうた」

    瑠「そんな。いいんです」

    若「尊がしかと屋敷まで送り届けるゆえ、時間の許す限りゆるりと過ごされよ」

    瑠「はい」

    まぁ、僕も兄さん達と一緒にお酒飲めたらなとは思ったけど、今後いくらでもチャンスはあるだろうし。そして食事は和やかに進み、

    覚「8時半か。そろそろやっとくか?花火」

    唯「やるやる!」

    先に、蚊取り線香に火が点けられた。

    唯「うずまきが大量」

    美「小さい子は特に刺されやすいからよ」

    唯「そっか」

    そして、プチ花火大会スタート。弾ける火花に驚く里芳ちゃんに、トヨさんが優しく手ほどきをしている。

    トヨ「これはね、花火。は、な、び」

    里芳「は、な。おはな?」

    ト「そうね。お花の花ね」

    里「おはな、しゅーしゅー!」

    僕「シューシュー。確かに言ってる」

    辺りに漂う火薬と線香の香り。夏の夕暮れはこれでしょと郷愁を感じさせる。

    美「寝ちゃったわ」

    覚「周りはまあまあ騒がしいがな。さすがに大物だ。布団に寝かせてやるか」

    眠る晴忠ちゃんを連れて、リビングに戻っていった両親。何て事ない光景だけど、幸せ溢れる感じが、いい。永禄の皆さんが花火に大喜びしてるのも、いい。

    瑠「これで失礼します」

    唯「いっぱいお手伝いしてくれて、ありがとねー」

    瑠奈とお別れの時間になった。

    僕「ちゃんとお礼言った。成長してる」

    唯「うるさいよ。素直にホメたらどーなの」

    美「朝早くからホントありがとね」

    覚「今夜はゆっくり休んで、明日の用事に備えてくれな」

    唯「はい」

    ト「ずっと里芳の世話をしてくださり、大変助かりました。ありがとうございました」

    瑠「いえいえ。私こそとっても楽しい時間が過ごせました」

    僕「じゃ、送ってくるよ」

    兄さんとトヨさん、そして遊び疲れてすやすやと眠る里芳ちゃんを抱いた源三郎さんは、揃って大きく会釈をし、見送ってくれた。では、出発。

    僕「次回には、腹決めますんで」

    瑠「ふふっ。大袈裟だなぁ」

    皆残念がっていたけど、瑠奈のお泊まりについては、瑠奈側の理由で今夜は無理って話にしといたんだ。でも実は違って、なんつーか、僕のわがままというか…。だってさ、今夜も恒例行事として全員でリビングに布団並べて寝るって親が言うからさ、

    瑠「前に公式で泊まった時に同じ事してるじゃない。おじさまは既に見てるんじゃ?」

    僕「公式!笑える。そうかもしれないけど」

    瑠「たけるんがそんなに独占欲強かったなんて意外だった」

    瑠奈の寝顔を他の男性陣に見せたくなくて。

    瑠「大切にされてる?」

    僕「当たり前でしょ」

    瑠「嬉しい!もぅ、たけるんったらかわゆいんだからぁ」

    僕「何とでも言ってください」

    あっという間にマンションに到着。シートベルトを外すと、僕に近づき目を閉じた彼女。可愛いおねだりにドギマギしていると、

    僕「あ。電話」

    画面には父の表示。いいや、そのまま鳴らしておく。

    瑠「出なくていいの?」

    僕「運転中ってコトで」

    おねだりにたっぷりと応え、最後はエントランスに入って行く所まで見送った。

    僕「さて。今の内にかけとくか」

    と思ったら再び呼び出し音が。

    僕「そんなに急ぎ?はいはい…もしもし」

    若「尊」

    僕「…へ?!その声は、兄さん!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道93~9月10日16時

    適材適所。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈「里芳ちゃーん、行くよぉ、それぇ!」

    里芳「…!」

    源三郎「おぉ」

    トヨ「まぁ」

    里「キャーー!」

    日はまだまだ高いけど、子供達も起きたので庭遊びを始めた。シャボン玉が舞う。里芳ちゃんも戸惑ったのは最初だけで、すぐに大はしゃぎしている。

    覚「おー」

    美香子「捕まえられそうだもん、追っかけるわよね~」

    ト「七色に輝くとは…」

    源「何ともはや美しく」

    瑠「交代しましょうか?」

    源「瑠奈様。宜しいのですか」

    瑠「どうぞぉ。ここを持って…そう、で、これを引くんです。ほら」

    源「ほぅ…おぉ!」

    美「ねぇ瑠奈ちゃん、このバトンというかスティック、これもシャボン玉ができるの?」

    瑠「はい。振ると出てきますよ」

    美「そうなの?…あらま!」

    スティックの先端から泡が。

    美「魔法使いになった気分だわ~」

    覚「母さん、トヨちゃんが興味津々だ。渡してやりな」

    ト「いえ、そんな」

    美「いいのよ~。はいどうぞ」

    ト「ありがとうございます。わぁ、綺麗…」

    源三郎さんとトヨさんが堪能してくれている。前回来た時はこんな遊び、しなかったからな。

    晴忠「あー、あー」

    若君「フフ。手を伸ばしよる」

    兄さんに抱っこされた晴忠ちゃんも、光を集めてキラキラの大きな泡に身を乗り出している。そんな平和な光景の中…

    唯「勝負じゃ!」

    僕「ふっ。ここで会ったが100年目」

    唯「なにそれ、意味わかんない」

    僕「違うな、今年でもう463年目だ」

    唯「ちょっとー、計算速っ。腹立つ~」

    姉と僕、武器を携え対峙した。ミニサイズの水鉄砲だけど。

    唯「えーい、これでもくらえ~!」

    僕「それはこっちのセリフだ!」

    水の撃ち合いがスタート。

    唯「キャー、冷たい!」

    僕「うわ、見えねっ、顔は反則だって!」

    覚「いい歳して何やってんだ」

    若「ハハハ。おっと」

    姉の飛ばした水が兄さんをかすめた。

    唯「ごめんたーくん!」

    僕「隙有り!」

    唯「ギャー!くっそ、私の方が戦慣れしてるのに!」

    若「物騒な自慢じゃな」

    つい本気出してしまった。お互い水を出し切ったので終了。

    美「もう何してるの。子供用でしょ?こんなにびしょ濡れになって」

    僕「すいません」

    唯「では私が勝ちってコトで」

    僕「何言ってんの。僕よりビショビショのクセして」

    妙な勝利宣言を残し、さっさと姉は里芳ちゃんと遊び始めている。僕はウッドデッキに座っていた瑠奈の隣に腰を下ろした。

    瑠「お疲れさま。めっちゃ濡れてる~」

    僕「暑いからすぐ乾くよ」

    一息ついていると、晴忠ちゃんを両親に託した兄さんが、僕達に近づいてきた。

    若「尊。ようやってくれた。礼を申す」

    僕「いえいえ」

    それだけ言うと軽く会釈をしてその場を去り、里芳ちゃんを見守る源三郎さん達の輪に入っていった兄さん。

    僕「兄さんにさ」

    瑠「うん?」

    僕「お姉ちゃんの相手をしてやってくれと。ストレス解消かな。仰せつかったんだ」

    瑠「そうだったの!」

    僕「今お姉ちゃん、さすがに城で暴れたりはしないんだってさ。昔は屋敷の中を走り回ったりしてたらしいんだけど」

    瑠「屋内を?まあまあの衝撃…」

    僕「元源ちゃんの事もあって、最近はちょっとおとなしかったと」

    瑠「おとなしいと心配されるんだね」

    僕「そこで対等に渡り合える僕に白羽の矢が。源三郎さんやトヨさんにその役目は可哀想じゃない。彼らは遠慮が先に立つから」

    瑠「なるほどね。そう言えば買い物中、絶対僕が標的になるって言ってたね」

    僕「うん。おもちゃのエサをちらつかせたらやっぱり挑んできた」

    瑠「エサって言わない!お見込みの通りではあったと。それで小さい水鉄砲。納得」

    僕「そっ。なんせ僕には遠慮なんてしないからね」

    瑠「あはは。お兄さんにすごく信頼されてるんだね」

    僕「それは誇らしいと思ってる」

    瑠「それに、嫌々には見えなかった。たけるんも楽しそうだったよ?」

    僕「楽しかった。うん、すごく楽しかった」

    姉弟で過ごす時間も与えてくれた兄さんに感謝だ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道92~9月10日13時30分

    賢いだけでは越えられない壁。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「揃ったな。うん、皆いい笑顔だ。では始めよう」

    全員「いただきます」

    運動部の差し入れみたいな昼ごはん。晴忠ちゃんには勿論、並んでるメニューとは全然違う食事が用意されていたけど、里芳ちゃんにはどうするのかな。

    里芳「もっと、食べりゅ」

    源三郎「気に入ったようじゃ」

    トヨ「お肉が柔らかいからかしらね」

    チキンナゲットの衣を外して細かくほぐし、食べさせている。なるほど、幼児に与えても大丈夫な部分を取り分けているんだ。

    瑠奈「バンズも小さく切りましょうか?」

    ト「ありがとうございます。手慣れていらっしゃるのですね」

    瑠「甥っ子が里芳ちゃんくらいの頃に、食事を手伝った経験があるんです」

    もう一方のテーブル。

    晴忠「んま、んまん」

    美香子「ゴキゲンねぇ」

    覚「そうかそうか~。じいちゃんが作ったごはんはそんなに美味いか~」

    唯「そんな意味か?」

    若君「お父さんの作る飯は紛う方なく美味い」

    結婚した娘達が、子供を連れて実家を訪れるの図。これが帰省ってヤツか。一番ゴキゲンなのは、紛う方なく両親だ。

    覚「おほー、嬉しい事言ってくれるねぇ」

    かつての自分を思い出す。タイムマシンを初めて完成させた頃。僕は実にひねくれ者で親不孝な息子だった。でも、不登校をガミガミ言うでもなく、心底明るく寄り添ってくれた両親。

    晴「ぶぶぶぶ」

    唯「うわ、よだれスゴっ」

    姉とケンカしたあの日。

    ┅┅回想。平成29年5月。もう一度タイムマシンで永禄に飛び、若君を助けたいと懇願された実験室┅┅

    僕「戦国に戻ってその先どうするつもり?その人を助けたいって言うけどさ、素性の知れない人間の言う事お城の若君が聞くと思う?」

    唯「やってみなくちゃわからないじゃない」

    僕「どうやって近づくの?どうやって仲良くなるの?そのためのビジョンあるワケ?」

    唯「だったらあんたは未来のビジョンつうのが見えてるワケ?ちゃんとそのとおりに生きてるワケ?じゃないから不登校かましてんだろうが~!」

    自分に批判的な人間は排除。姉を突き飛ばし、実験室から追い出した。図星なのがくやしかった。

    ┅┅回想終わり┅┅

    姉の意見は行き当たりばったりで無謀そのものだったけど、あの時、あのくらいそしられる必要があったと今は思う。正論が正解とは限らないから。

    若「ハハハ。どれ、少し拭いてやろう」

    唯「たーくんありがと」

    姉が赴いたから、兄さんも源三郎さんもトヨさんもこうして生きて幸せを掴んでいる。

    美「もうすぐ歯が生えるのね~」

    唯「そーなの?!さっすが小児科のプロ」

    美「それ言うなら母親のプロよ。なーんてね」

    タイムマシンやまぼ兵くんやでんでん丸は造ったよ?でも使いこなしたのは姉だ。おまけに、未だ未来へのビジョンは…怪しい。

    若「尊。いかがした」

    僕「…はい?あ、あー。親孝行ができて良かったね」

    若「尊のおかげじゃ。なぁ唯」

    唯「そだね。ありがとうねぇ、尊く~ん」

    僕「いやに素直。気色悪っ」

    唯「なんだとー」

    姉には一生敵わないんだろう。

    美「はぁ~。天使の寝顔ね~」

    覚「ずっと見ていられるな」

    食後、お子ちゃま達はお昼寝タイムに突入。

    覚「ちょっと早いが、晩飯の支度始めるか。酢飯も用意せなならんからな」

    瑠「おじさま、お手伝いします」

    ト「わたくしも」

    覚「ありがとう。もう少ししたらお願いするから、まだゆっくりしててくれな。おい、唯」

    唯「あ~?」

    覚「手伝え」

    唯「えー?実家に遊びに来た娘って、フツーはこき使わないんじゃないの?」

    覚「普段何でもやっている人ならそうだ。唯は違うだろ?ここでは働け」

    唯「マジかー」

    若「ハハハ」

    僕「親孝行できて良かったね。を再び贈る」

    唯「ちぇっ」

    ブツブツ文句を垂れながらも、仲良くキッチンに立っていた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道91~9月10日13時

    あんたの金でもないし、は平成Days3no.338で展開してます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    草むしり後の片付けをしている間に、先に姉が戻ってきていた。のだが。

    僕「晴忠ちゃんはまだ向こう?」

    唯「うん。エリさんと芳江さんが交代しながら抱っこしてくれてるんで、まかせちゃった」

    僕「喜んでたでしょ」

    唯「うん。すごーく」

    僕「で、健康体のお墨付きが出たと」

    唯「日頃の行いがイイんで」

    僕「行いねー。お付きの皆さんの管理がイイんでしょ。で、こっちでしか食べられないモノをと?」

    唯「そっ」

    お昼ごはんの用意、どうやら姉が好き勝手放題やったらしく…

    僕「だからと言って、こんなに注文するか~?人の金だと思って」

    唯「あんたの金でもないし。いいじゃん」

    食卓の上が、ファーストフードで埋めつくされていた。

    僕「前にも似たような会話をした気がする。洋食で宅配って言うから、てっきりピザだと思ってた」

    唯「今は何でもデリバリーできる時代なのだ。遅れてるねー」

    僕「永禄から来たヒトに言われるとは」

    覚「さすがにちょっと多くないか?」

    唯「大丈夫っしょ。たーくんも源三郎もあんまり言わないけどさ、実はかなりお好みだったりするんだよ」

    僕「そうなんだ。だったらまぁ…」

    並ぶのは、初デートの日に昼ごはんを食べた店のメニューだった。あれから一緒に何回も口にしてるけど、なんかやっぱ特別感がある。瑠奈とアイコンタクトすると、にっこり笑ってくれた。

    唯「へへー。あっついうちにー」

    そんな僕達の様子には全く気付かず、フライドポテトをつまみ食いする姉。

    僕「ちょっと!ったく、子供じゃあるまいし」

    覚「皆が揃うまで待てんのか」

    唯「ん~、この細めのポテトがイイ!」

    瑠奈「私も好きです。ここのポテト」

    唯「やっぱそーだよね!どーぞおひとつ」

    瑠「ありがとうございます。後でいただきますね」

    唯「そお?」

    僕「悪の道に引きずりこもうとしないでよ」

    唯「ちぇっ」

    瑠「ふふっ。あ、おばさま」

    白衣姿の母登場。

    美香子「唯、芳江さん達そろそろ帰られるからもう一度顔出しなさい」

    唯「ん、わかったー」

    母と娘はクリニックに戻って行った。

    覚「お二人にな」

    僕「うん?」

    覚「昼ごはんも一緒にいかがですかとお誘いしたんだが、丁重に断られたんだと」

    僕「それは残念。忙しいんだろうね」

    覚「いや」

    僕「違うの?」

    覚「今回、唯達がこちらに居るのは24時間だけじゃないか」

    僕「うん。ひと月、ではない」

    覚「だったら貴重な食事時間、家族水入らずでどうぞって遠慮なさったらしい」

    僕「それは…でも今後は、こういう訪れ方が増えると思うよ?」

    覚「あらかじめ、今日来るかもしれないと伝えておいた上でお二人がそう決めたんだ。強くは言えん。次回があってご都合が合えば、参加していただくさ」

    僕「そうだね」

    瑠「あの…」

    僕「どうしたの」

    瑠「ご家族でとのお気遣いで遠慮なさってるのに、私が参加は」

    覚「ん?昼も夜もよろしく頼むよ」

    瑠「いいんですか」

    覚「家族水入らずだから。な?瑠奈ちゃん」

    瑠「…」

    当然だ、といった振る舞いの父の言葉に、瑠奈は感極まっていた。

    唯「たっだいま~!お腹空いたー」

    僕「うるさいのが帰って来た」

    若君「おぉ」

    源三郎「これは」

    トヨ「あらまぁ」

    ザ・現代食の山に、かなり驚いている。

    唯「ほらたーくん、ハンバーガーだよ~」

    若「うむ…」

    戸惑う兄さん。さてはさっきの姉の話はガセネタか?

    僕「お好みってのは間違ってたんですね」

    若「いや、それは合うておるが。些か、面食らった」

    僕「ですよね」

    母も戻って来た。

    美「お待たせ~。あらま何、すごい量。始めましょうか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道90~9月10日11時

    そんな物言いもファンにとっては喜び。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕「ただいま」

    瑠奈「ただいま戻りました」

    覚「おー、お疲れ」

    若君「尊。瑠奈殿。手数をかけたの」

    兄さん達は居たが、姉と晴忠ちゃんの姿はなかった。

    僕「お姉ちゃん達、もう待合室に移動した?」

    覚「あぁ。なんかな、アイドルかの如く周りに人垣が出来てるらしいぞ」

    僕「晴忠ちゃんに?」

    覚「いや、唯にだ」

    僕「え」

    へー。様子を確認しようと、その足でクリニックに向かい、待合室をそっと覗いてみた。すると、

    女性1「唯ちゃん、髪伸びたわね~。ツヤツヤでとっても綺麗」

    唯「なんかよくわかんない油つけられてるからかなー」

    わかんないって…椿油とかじゃないの?

    女性2「あい変わらず細くってねぇ」

    唯「でも最近は全然走ってないよー」

    そりゃそうだろ。放っておくと、晴忠ちゃんを抱っこしていようが走り出しそうだもんな。兄さんも禁止令を出してるに違いない。

    唯「お菓子ほとんど食べてなくてー。だからヤセてるのかな」

    さっきの買い物リスト、お菓子の名前がずらっと並んでた。せっかくだから土産に持たせたい親心はわからんでもなかったから購入してきたけどさ…ヤバくね?永禄に戻ったらしこたま食べて、ブクブク太り出すんじゃなかろうか。

    唯「つーかさぁ、ウチが土曜開いてるのは、働いてて平日来れない人用なんだよ?なんで毎日家に居てヒマしてる、ジジイババアが今日来てんのよ」

    なんつー乱暴な言い方!開院日のいつが誰向けとかはさ、一概には言えないんじゃない?

    男性1「畑もやっとるしよぉ」

    唯「そんなん理由になるか~?」

    女1「アッハッハ」

    女2「唯ちゃんらしいわねぇ」

    男1「お母ちゃんになっても、あい変わらず元気じゃの~」

    受け入れられてる。

    僕「そう言えば」

    去年、姉の成人式の頃、袴姿の写真を診察に来たご近所さんに披露してたって聞いた。ずっと姉の成長を見守っていてくれたんだ。

    女2「可愛いわねぇ」

    女1「ホントにそう」

    孫みたいなモノなんだろう。ジジイババアとか言わず感謝しろよ、と呟きながらそっとその場を後にした。リビングに戻ってくると、

    僕「あれ、みんなどこ行った?」

    キッチンに立つ父と、床にペタンと座る里芳ちゃんと、その隣に瑠奈、の三人しか居ない。

    瑠奈「お帰り。さっき、いっぱい花火買ってきたじゃない」

    僕「うん」

    瑠「それを見せたら皆さん喜んだんだけど、忠清さんがチラッと庭を見て、ならば草取りをいたす、って出て行かれたの」

    僕「庭?あー」

    外に目をやると、兄さん源三郎さんトヨさんの三人が、タオルほっかむり姿で雑草と戦っていた。

    覚「先週刈っておいたんだがな、まだ今の時期成長が早くて。里芳ちゃんが思ったより動ける子だったから気にはなったんだが、もう少し整えます、って」

    瑠「私もやりますって言ったら止められて、里芳ちゃんを見ててくれってお願いされたの」

    僕「そうだったんだ」

    覚「尊。わかってるよな」

    父が僕の肩を叩く。手にはタオルと軍手。出たっ。

    僕「暑そう…行ってきます」

    覚「ん」

    瑠「頑張って。行ってらっしゃい」

    四人がかりだったので、数分もするとさっぱりとした風景に。我が家ながら芝生が美しい。

    若「皆の者、大義であった」

    僕「お疲れ様でした」

    若「尊。巻き込んでしまい、済まんかったの」

    源三郎「買い物をしていただいた上に」

    トヨ「済みません」

    僕「いえいえ、自分の家ですから。こちらこそありがとうございました」

    リビングのサッシが開く。

    覚「お~いみんな、そろそろ診察できるらしいぞ」

    若「もうそのような時間でしたか」

    覚「今、先に里芳ちゃんを連れて行ってもらったよ。瑠奈ちゃんに」

    ト「まぁ、でしたら直ちに代わって差し上げないと…あ、でも」

    若「トヨは先に出よ。後は抜いた草を集めるのみゆえ」

    源「やっておくから」

    ト「はい。では」

    覚「いいからいいから、三人とも戻ってきな。残りと後片付けは尊がやる」

    ここで嫌な顔はできません。

    僕「どうぞ、行ってください。後は任せて」

    若「良いのか?尊」

    僕「はい。芳江さんとエリさんも待っててくれてると思うんで」

    若「そうであったな。ならば、御免」

    三人はリビングに戻って行った。さてと、もうひと頑張りするか~。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道89~9月10日9時30分

    聞こえてたとしても、空耳と見なされそう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    買い物をすべく、家を出た僕と瑠奈。車を走らせている。

    瑠奈「ホームセンターで揃うよ。3歳とかになってればともかく、5ヶ月と1歳9ヶ月ではまだそんなに複雑な遊びはできないし、凝った物じゃなくていいと思う」

    赤ちゃんグッズならその道の専門店の方がいいんだろうなとは思ったんだ。でもそんなお店の敷居を跨ぐのがちょっと恥ずかしくて行こうと言い出せずにいたら、車に乗りこむ時に瑠奈がこう言ってくれたんだ。

    僕「そう?」

    瑠「うん。お姉ちゃんも言ってた」

    ここでのお姉ちゃんですが、瑠奈のお兄さんの奥さんを指します。お子さんは上が男の子、下が女の子で、姪っ子ちゃんは里芳ちゃんのひと月後に誕生してます。

    僕「聞いておいてくれたんだ。どうしてそんな事を今って言われなかった?」

    瑠「小さな子の居るお宅にホームパーティーに呼ばれて。みんなで手土産に外遊び用のおもちゃ買おうと思うんだけどどうかな、って話にしておいたの」

    僕「そっか。ありがとう。助かるよ」

    瑠「いーえー。後学のためにもなるし」

    僕「後学…」

    瑠「うん。後々私達の時に役に立つじゃない」

    僕「わ!わたっ」

    瑠「違うとでも?」

    僕「ち、違わない、と思います…」

    外堀を埋められている?!いや、互いに他の相手と仮定しているかもしれないし、とこの期に及んで邪推してしまう。心拍数がグッと上がったに違いない、発車前の出来事だった。ほどなくホームセンターに到着。

    瑠「水鉄砲なんかいいと思うな」

    僕「そうだね。小さいサイズで」

    瑠「大きい、ウォーターガンみたいな物もあるよ?大人が遊ぶのも悪くなくない?」

    僕「一人節操のないヤツが居るから、そんなんに渡したら大変なんで」

    瑠「あぁ。はは…」

    僕「あとは、と」

    その時、若い女性が瑠奈に駆け寄ってきた。

    女性「瑠奈~!」

    瑠「あれ?おはよう~!こんな所で会う~?」

    同い年くらい?女性が来た方向に、山盛りのカートを押す男性の姿があった。僕も彼女達の邪魔にならないよう、少し離れて待機する。

    瑠「どしたの?買い出し?」

    女「うん。聞いて、私ね、彼氏ともうすぐ同棲するんだ」

    瑠「えー!そうなの!」

    女「お金はまだそんなにかけられないから、棚とか自分達で組み立てようと思って、材料買いに来た」

    瑠「へぇー。いいなぁ同棲、羨ましい」

    羨ましい…ごめんなさい。すると、女性が瑠奈に耳打ちした。

    女性の囁き「彼氏、カッコいいね」

    瑠「でしょ!もぅ最高の彼なの!」

    瑠奈がすごくニコニコしてたけど、館内放送に紛れて、女性の小声は聞こえていなかった。

    女「瑠奈こそここで何してるの、彼とキャンプでも行く?違うか、グランピング?」

    瑠「あはは。ここ、外遊びグッズのコーナーだもんね。彼氏の家に今、お姉さん達家族が帰省してるの。ちっちゃい子も居るから、喜んでもらえそうなおもちゃ探してて」

    女「え!彼氏の家族なんだよね?自分じゃなくて。家にはフツーに行ってたりするの?」

    瑠「うん、何回か。でも甥っ子姪っ子は初めてで」

    女「スゴっ。仲良いんだね。すっかり瑠奈も彼氏の家族の一員になってるんだ~」

    そうですね。

    女「じゃ、もう行くね。バイバーイ」

    瑠「うん、また学校でー。…お待たせ、たけるん」

    僕「全然。同じ大学の人?」

    瑠「うん。ゼミが一緒なの」

    僕「ふーん」

    瑠「今の聞こえた?」

    僕「何が?」

    瑠「たけるんカッコいいって言ってたよ」

    えぇ?

    僕「またまたー。聞こえてないのをいいコトにガセネタ言われても」

    瑠「嘘じゃないよぉ」

    僕「はいはい」

    瑠「もー!」

    プリプリ怒ってたけど、そんなセリフ有り得ないし、無理やり盛り立ててもらうのも何だからスルーした。

    瑠「あ、ねぇ!シャボン玉作るのなんてどうかな」

    僕「いいね。へー。電動で大量に放出するのも思ったより種類豊富。どれにする?」

    瑠「どうしよう。あれ?」

    僕「ん?」

    瑠「ウォーターガンはアウトで、バブルガンはセーフなんだ」

    僕「当たっても痛くないから」

    瑠「えー、わざと当てたりするかな」

    僕「うん」

    瑠「ぷっ。それ、特定のヒトへの危険人物扱いが甚だしくない?」

    僕「実際危険だから。絶対、僕が標的になる。なんとなくわかるでしょ?」

    瑠「…想像できてしまう自分がコワい」

    こうして安全な玩具を仕入れ、次にスーパーへ移動した。父に託されたメモを見ながらとは言え、一緒に食材を選ぶなんてさ、もう照れちゃって照れちゃって何とか任務完了。

    僕「10時半を回ったか」

    瑠「そろそろ公園から戻ってみえるかな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道88~9月10日8時30分

    令和に居れば行うであろう事柄を一つずつ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    お子ちゃま達、急激な環境の変化に対応できたかなって少し心配だったけど、

    晴忠「んば、ば、ぶー」

    覚「ジイジとは言ってくれんかなー」

    唯「まだっしょ。ゴギゲンなのは助かるけど、わー、よだれが止まんない」

    瑠奈「タオル変えましょうか、どうぞ」

    若君「済まぬの。瑠奈殿はよう気が利く」

    里芳「キャッ、キャッ」

    僕「走り回ってる。楽しそう」

    源三郎「敷物で床が柔らかでございますゆえ」

    僕「あー、カーペットが。お屋敷は基本、板の間ですもんね」

    源「足への当たりが優しく、気に入っておるのではなかろうかと」

    お出かけ準備中。

    瑠「うわぁ、ちっちゃーい」

    トヨ「外を歩かせるやもと思い、持って参りました」

    覚「靴はな、悩んだんだけど実際に履かせてみないとなって止めておいたんだ。さすがトヨちゃんだ」

    里芳ちゃん用ミニサイズのわらじが登場。

    覚「君達は前来た時に使ってたスニーカーがあるから良いが、令和の道は硬過ぎてわらじ向きではない。道中は抱っこして、公園着いたら好きに遊ばせなさい」

    ト「はい。そのつもりでございます」

    覚「麦わら帽子かぶってくか?っと言っても人数分ないな。子供用もないし」

    唯「いらない。かわりにタオル貸して」

    覚「そんなんでいいのか?」

    唯「首に巻いてく」

    パパママ達は全員、Tシャツにジーンズ姿だから、まぁ似合わなくはないな。

    唯「汗も拭けるし、頭熱いってなったら、ほっかむりできるし」

    髪型は、兄さんが上半分だけ結んだハーフアップ、源三郎さんは襟足の辺りで一つ結び、姉とトヨさんは長い前髪も全てまとめたポニーテールになっている。ほっかむり姿を想像…

    僕「おかしくはないけど妙な団体様だ」

    なぜか兄さんが、含み笑いをしている。

    若「唯」

    唯「なに?」

    若「頬被り。人目を忍ぶ頼み事があるのか?」

    唯「人目…あっ、やっだぁもう!たーくんったら!」

    若「い、痛い」

    バシバシ叩かれている兄さん。なんか二人だけのいい想い出でもあるんだろうな。かくして、団体様6人、出かけていった。

    覚「…そうだ、尊」

    僕「ん?」

    覚「スーパー行く前に、ホームセンター寄ってきてくれんか」

    僕「ホームセンター?」

    覚「子供が庭遊びできるグッズ、色々見繕ってきてくれ」

    僕「グッズ。何でもいいの?」

    覚「あぁ。二人に任せる」

    瑠「楽しそうですね!わかりました」

    覚「未来の予行練習、な」

    僕「えぇ?」

    なーに言ってんだよー!またニヤケそうになったのを何とか押さえた。でも瑠奈を見たら、頬を赤らめていたのでその様子に結局ニヤニヤしてしまった。さて、ところ変わって…

    唯「みんなでぞろぞろ歩くのさぁ、久しぶりだねー」

    公園に向かっている姉達。お子ちゃまは二人ともパパの腕の中。

    若「甘い魚を食した帰り道じゃな」

    唯「たい焼きね」

    後ろを振り向き、源三郎さん家族を見る姉。

    唯「あの頃は、なーんか二人してぎこちない感じでさ」

    源三郎&トヨ「すみません」

    唯「ふふっ」

    公園に到着。まずは城跡から。

    若「変わらぬの」

    源「はい」

    若「有り難い。歴史、は繋がっておると肌で感じられるゆえ」

    その後、ブランコなど遊具がある場所に移動。土曜日だがまだ朝早いので、子供達の姿はなかった。源三郎さんが里芳ちゃんを下ろす。土の感触を確かめるように立つやいなや…

    里「キャー!」

    大喜びで走り出した。緑合って山あいだし、永禄ではこんなに広くて安全な所はまずないんだろうな。

    唯「りほうちゃーん、こっちおいでー」

    滑り台の前で姉が呼ぶ。これ、赤青黄に塗り分けられていてとてもカラフルなんだ。傾斜が緩やかなので、支えてあげれば里芳ちゃんでも遊べそう。

    源「里芳、ほれ、唯様が」

    現代の子供と違い、年齢の割に足腰がしっかりしてるんだろうな。中々捕まらない。

    若「そうそう動きは止まらんじゃろ」

    唯「来ないか。じゃあ私がためしに」

    ト「え?」

    ササッと滑り台の頂上に駆け上がり、

    唯「ヒュー!」

    だからー、どうしてアンタが滑る!

    若「ハハハ。幼子が三人じゃな」

    一人で占領しないでよ?

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    帰り道、は現代Days21no.867にて。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道87~9月10日7時40分

    永禄とは比べ物にならない残暑。それでも朝方ならまだまし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    さっきの実験室よりずっと、ドラマチックな再会のシーンだった。

    唯「まだ泣いてるー」

    トヨ「胸が一杯で」

    美香子「じゃあそろそろ行くわ。唯」

    唯「ん?」

    美「あなたは、晴忠ちゃん連れて11時頃には待合室に来なさい」

    唯「早めに待ってろって?」

    芳江「あ、確かその時間は」

    エリ「ご近所の皆さんがちらほら、いらっしゃいますね」

    唯「ふーん」

    美「いい機会だから、元気な姿と晴忠ちゃんをみせてさしあげるのよ」

    唯「わかったー」

    母と看護師さん達はお仕事へ。

    覚「さて。昼と夜は何が食べたい?」

    唯「用意してないの?」

    覚「今日来るのがさっき確定したからな」

    唯「みんな、何がいい?」

    若君「令和は何を食しても上手いからのう」

    兄さんがそんなだから、源三郎さんトヨさんも何も言わない。

    唯「私さー、まともなお寿司が食べたい」

    僕「は?何その、まともなって」

    若「あー」

    覚「思い当たる節があるみたいだな」

    若「永禄では、活きのいい魚はまず口にしませぬ。唯がまともでないと申すは、鮒寿司を指しておろう?」

    唯「それそれ!もー、絶対ムリ~」

    覚&瑠奈「あー」

    僕「え、知らない。瑠奈は食べた事あるの?」

    瑠奈「頂き物を一口だけ。唯さん達の時代の物よりうんと食べやすくなってるんだろうけど、ちょっと私はダメだった」

    覚「かなり発酵させてるからな。郷土料理は、万人受けはしない物もある」

    唯「マグロとかイカとか、パリッとした海苔で食べたーい!」

    覚「だったら、手巻き寿司にするか。夜に」

    若「手巻き寿司か。良いの。初めて食したのは確か…四年近く前じゃ」

    覚「赤井家の皆さんもそれでいい?」

    源三郎&トヨ「はい」

    覚「里芳ちゃんには魚介類はまだ早いから、ちゃんと別メニュー作るからな」

    ト「手間をかけてしまい、すみません」

    覚「何言ってるんだい。ちっちゃい子が居る家庭なら当たり前の話。晴忠ちゃんの離乳食と里芳ちゃんの幼児食。久々に腕が鳴るよ~」

    瑠奈がサッと手を挙げた。何?

    瑠「おじさま、でしたら私と尊くんで買い出し行ってきます」

    僕「ほぇ?」

    覚「あー、そうだね。頼むよ」

    源三郎「そのような。急に押しかけた身、恐縮でございます。わたくしとトヨで」

    瑠「私達空いてるし。ねっ、尊。いいよね?」

    僕「そうだね」

    覚「じゃ、そんな手筈で。で、昼はどうする」

    唯「夜が和食だから昼は洋食で、アレがいい。宅配してくれる」

    僕「宅配か」

    唯「ねー、それでさあ。買い物頼んどいて何なんだけどぉ、私やってみたいコトがあって、お出かけしたいんだよねー」

    覚「お出かけ。何時頃だ」

    唯「なんなら今から」

    僕「今から?!どこ行くの、11時には帰って来れる所なの?」

    唯「子供連れて、公園デビューってヤツを」

    覚「へえ」

    僕「今から黒羽城公園なら、余裕で行き帰りできるか」

    唯「たーくんも忙しくてさ、一緒にプラプラお散歩もできなくて」

    僕「令和の平和を満喫したいと」

    唯「アンタ、ちょっと上手いコト言ったって思ってるでしょ」

    若「そうじゃな。久々に城跡など見たい。源三郎達もいかがじゃ」

    唯「滑り台なんか、りほうちゃん大喜びじゃなーい?」

    ト「どうする源ちゃん。行く?」

    源「うん。ではお言葉に甘えまして、わたくし共も公園まで参ります」

    覚「だな。せっかく来たんだ。ささやかではあるが、貴重な一日を充分楽しんできな」

    予定がトントン拍子に埋まってく。有意義に使って欲しいからな。悪くない。…ここで、ふと我に返った。ん?瑠奈と買い出し?なんか、新婚さんみたいじゃない?へ、でへへ。

    唯「尊ぅ」

    僕「へへ…あ、呼んだ?」

    唯「変な笑い方。キモっ」

    僕「なんだとー」

    と言いつつやっぱニヤケてしまうのであった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    手巻き寿司パーティーは、平成Days4no.346の辺りで展開。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道86~9月10日7時5分

    お子様ファーストで動いております。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美香子「おむつ替える時間が惜しい程、一刻も早く、って急いでくれたの?」

    若君「はい」

    美「しっかり抱えてきたのね。忠清くんのお着物、ちょっと湿っちゃってる。濡れるまではいってないけど」

    兄さんってつくづく出来た人だと思う。唯が起動スイッチを抜いてしまい、なんて一言も口にしないからな。

    覚「すぐ洗濯してやろう」

    若「あい済み…すみません」

    覚「着替えは唯の部屋に置いてあるから。源三郎くん達の着替えも、前使ってた予備室に用意してあるからなー」

    僕「晴忠ちゃんや里芳ちゃんの分もあるの?」

    美「勿論よ~」

    唯「サンキュー!助かるぅ」

    若「ありがとう、ございます」

    覚「気に入ってもらえるかはわからんがな」

    源三郎「わざわざお支度いただいたのですか」

    トヨ「何とお礼を申せば良いのやら」

    覚「選ぶのが、これまた楽しくてなー」

    そんなセリフを言いつつも、父は大喜びでずっと里芳ちゃんを抱っこしている。

    僕「ねぇ、着替えてもらうんじゃないの?」

    覚「もう少し抱っこさせてー」

    僕「着替えた後でもできるでしょ?」

    瑠奈「おじさまかわいい」

    晴忠ちゃんのおむつを手際よく交換した母。

    美「はい、終了」

    唯「おーっ。ぱるるー、すっきりしたねぇ」

    美「紙おむつは用意しておいたけど、ちゃんと替えを持参してたのは偉いわ」

    唯「まーねー。紙おむつだと楽なのになーってあっちでもずっと言ってんだけどさー。洗わなくていいし」

    美「唯が洗う時ある?お世話される方々に任せきりじゃない?おむつ交換もちゃんと自分でやってるの?」

    唯「やらないコトはない」

    美「ホントかしら」

    僕「侍女の皆さんが居る身分で良かった」

    里芳ちゃんがぐずり始めた。

    覚「うわ、じいちゃんは嫌かい?」

    ト「それはなかろうかと。これは…厠ですね」

    美「もうおむつしてないものね」

    ト「はい」

    覚「この前の録画を見直しててさ、早いなもう取れてるって話してたんだよ。里芳ちゃんは、よくできた子でちゅねー」

    僕「語尾!」

    ようやくトヨさんにバトンタッチした父。ママが娘の手を引く。

    ト「おトイレを使わせていただけますか」

    美「どーぞー、遠慮なんかしないでどんどん使って。ちゃんと里芳ちゃん用に用意しておいたから、補助便座」

    僕「あー、トイレに置いてあるあれ」

    ト「補助、便座?」

    瑠「トヨさん、私使い方わかります。一緒に行きましょうか」

    ト「宜しいのですか?すみません、お手間をかけます」

    トイレ問題解決。着替えも終わり、ようやく全員が落ち着いたのは、到着してから30分も経った頃だった。

    僕「席、埋まったね」

    再び、テーブルを二つ繋げた食卓。やっぱ、いい。キッチンに一番近い席に父、その隣に兄さん、瑠奈、端にトヨさん。父の向かいに母、隣に姉、僕、源三郎さんと並び、晴忠ちゃんは姉が抱っこしてるけど、

    源「よう考えられた椅子でございますな」

    ト「子の世話がしやすくて」

    一番奥の真ん中、通称誕生日席。里芳ちゃん用に、ベビーチェアっていうの?テーブルに引っ掛けて使う椅子も用意してあったんだ。

    覚「はい、コーヒーお待たせ。淹れたてをアイスコーヒーにしたからな。里芳ちゃんにはこっち」

    源「これは?」

    覚「子供用の麦茶だよ」

    美「コーヒーは勿論ダメだし、ジュースでもいけなくはないんだけど、ここで甘ーい味を覚えちゃうと、戻ってからねだられてもかえって困るでしょ。だからこれで堪忍ね」

    源「それは…助かります」

    ト「お気遣いを有り難く頂戴します」

    晴忠ちゃんは、水色の、ロンパースっていうらしいつなぎの服を、里芳ちゃんは、袖と裾にフリルの付いたピンクのワンピースを着こなしている。

    唯「サイズぴったりでびっくりしたー」

    美「だてに母親と小児科医やってないわよ」

    唯「言うね~」

    小児科医、のセリフに兄さんが動いた。

    若「お母さん。参ってすぐは些か取り乱しており、申し遅れてしまいましたが」

    覚「取り乱してるようには見えなかったが」

    美「聞いてるわよ忠清くん。晴忠ちゃんと里芳ちゃんを診察するんでしょ?」

    若「はい。願わくばと思うた次第ですが、お頼み申しても宜しいでしょうか」

    美「いいわよ。でも条件あり」

    唯「受けるのにハードルあんの?」

    若「条件。何なりとお申し付けくだされ」

    美「あなた達も診察します。6人全員ね」

    若「えっ」

    唯「マジすか」

    源三郎さんトヨさんも驚いてるけど、それすごくいい提案だよ。

    美「一番最後ね。来院された方々が終わってからよ」

    若「それは、お母さんの手を煩わせるばかりでは」

    美「いいのよー。エリさんと芳江さんにはもう伝えてあってね。二人とも快諾されてるの」

    兄さんが席を立った。

    美「あ、最敬礼はいらないから」

    戸惑っている兄さん。図星だったみたい。その時、玄関の呼鈴が鳴った。

    美「お二人、みえたんじゃないかな。出勤したらウチに一度顔出してって連絡しといたから。忠清くん、そのまま迎えに行ってくれない?」

    若「わかりました」

    やがて、玄関から、お二人の歓声が聞こえてきた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道85~9月10日6時58分

    小、の字が多くて読みづらいかもしれません。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    赤井邸でドタバタが繰り広げられている頃、城では。

    小平太パパ「ん?」

    小平太さんが心なしか、フラフラと歩いている。

    小パ「何をぼんやりとしておる」

    小平太「…」

    小パ「小平太」

    小「は?はっ、これは父上」

    小パ「若君様と唯の方と晴忠様なら、元源殿の墓に参りに行かれたぞ」

    小「先程お見かけしました」

    小パ「そうか。よう見たら何じゃ、辛気臭い顔をして」

    小「元よりこの顔立ちでございます。父上に似た」

    小パ「一言も二言も多い」

    小「ふう。若君様は何ゆえ」

    小パ「若君様がどうした?直々に言付けなさらずにお出かけになられたからか」

    小「そうではありませぬ」

    小パ「なら何が気に食わぬ。まあ座れ」

    近くの縁に腰掛けた父子。

    小「源三郎とは」

    小パ「源三郎?」

    小「幼き頃から、同じ近習として若君様にお仕えし」

    小パ「あぁ。思い起こすに、かつて殿が御月家のあるこの地緑合へ発つと仰せられた折に、黒羽城で屈辱に耐える若君様を置き去りにする位なら自刃する、と共に申しておったのう。志も同じ、同士じゃ」

    小「何が違うのか」

    小パ「違うとは?」

    小「よう、互いの屋敷を行き交う姿を見かけ」

    小パ「行き交う。少なくとも若君様は遊びに行っているのではあるまい。まさか、若君様が小平太より源三郎を贔屓、などと申すか?」

    小「…」

    小パ「たわけた事を。決してそのような御方ではあらせられぬのは、おぬし自身がようわかっておろうに。考えが浅ましいぞ!」

    小「…申し訳ありませぬ」

    小パ「小平太らしくない。若君様は、此度の不幸に、いたく心を痛められておられるのであろう。今まであの唯の方でさえ大人しく訪れずにおった。妻同士も仲が良いからのう。止められておった分、今になり足繁く通い始められたのでは」

    小「ならば某の妻も身の上は同じ」

    小平太さん、結婚してるんだ。同じって?

    小パ「唯の方の世話をしていた、つゆを見初めておるからか。つゆも、唯の方の扱いは上手かった。トヨの方ほど厳しく当たるでもなく、柔よく剛を制すと申すか。唯の方とつゆが仲良う話しておるのもよう見かけたな」

    つゆさんって名前なんだ。二人とも、姉のお世話係出身。あの姉に音を上げず相手してたんなら、相当出来た女性なんだろうなー。

    小パ「憂うほどでもない。考え過ぎておる。選り好みなどなく広き心で接してくださるのが若君様。それに、じき子が産まれた折には、里芳姫と同じく、大層喜んでくださるであろう。顔を見に、天野の屋敷に訪れていただけるやもしれぬぞ」

    もうすぐ家族が増えるんだ。おめでとうございます。今回は真夜中とか早朝とか、あまりに移動も頻繁で怪訝に思うのも無理ないとは思いますが、タイムマシンに乗るっていう特殊事情なだけなんです。心配ご無用ですから。

    小「楽しみじゃな、とはお声かけくださいました」

    小パ「そうじゃろ。ただ、元源殿の事もある。我々も目を配らねばのう。産殿を整える位しか出来る事はないが」

    小「毎日、拭き上げ清めております」

    小パ「そうか。ん?まさかおぬしがか?」

    小「妻と産まれ来る子を、疫病など罹らぬ様、守らねばなりませぬ。当然の事」

    小パ「ハハ」

    小「何か?」

    小パ「澄ました顔で愛を語りおってからに」

    元気な赤ちゃんが産まれますように。さて、お待たせしました。ところかわって、こちらは令和。4人で実験室に入ってはみたものの…

    僕「二人はお子ちゃまとはいえ、全部で10人か。すげぇ人口密度」

    里芳ちゃんがつまずいたりしないように、足元の配線とかをできるだけ隅によけたら、立ち位置がかなり狭くなりまして。

    美香子「もう来るんでしょ?だったらここで出迎えてあげたいもの」

    瑠奈「あの、人で溢れて大変なら私、外で待ちましょうか」

    覚「いや、朝から残暑とは言えんくらい厳しい暑さだ。外は止めなさい」

    美「瑠奈ちゃんもここに居なさいね。ねぇ、ホントにすぐ唯達、現れるのよね?」

    僕「来るって」

    その時、天井が光った。

    覚「おっ」

    美「まあっ」

    瑠「すごい」

    僕「ほらね」

    かくして6人、現れました。兄さんが一歩前へ出て、一人一人に挨拶をする。

    若君「お父さん。お母さん。瑠奈殿。尊。一日ではござるが、世話になり申す」

    全員でお辞儀をするが、やっぱ狭いな。

    美「嬉しいわー。晴忠ちゃんも里芳ちゃんも、よく来てくれたわねー。ん?」

    覚「ん?何か臭うな」

    唯「バレた?」

    美「あ、もしかして」

    晴忠ちゃんを抱く兄さんに近づき、鼻をクンクンさせる母。

    美「やっぱり!漏れてきてるじゃない!この時代おむつカバーなんてないから!忠清くん、急いで行きましょ!」

    若「忝のうございます…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    無事?到着。続きます。

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    続現代Days尊の進む道84~9月10日6時50分

    姪っ子にメロメロの尊叔父さん。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    永禄では、順調に出発準備が進められていた。

    唯「じいもゴキゲンで帰ってったコトだし。行こっかぁ、ぱるる」

    晴忠ちゃんを抱き上げた姉。

    唯「はぁ~。向こうはアッツいだろうなぁ」

    若君「暑い。うむ。九月も十日となれば暦では白露であるが」

    唯「なにそれ」

    二十四節気だよ。

    若「秋も真っ只中という意味じゃ」

    唯「そーなの!」

    若「初めて先の世に参った折、永禄に戻る頃には九月になっておったが、随分と暑く感じたのは覚えておる。あれから…早五年か」

    唯「5年も前になるかぁ」

    若「そうじゃな」

    唯「永禄の夏ってさー、そんなにアツくないから楽なんだよ。現代って鬼アツじゃん、ありえなくない?」

    若「フフ」

    唯「なに?笑うトコあった?」

    若「唯の話には、よう鬼が出よる」

    唯「は?だって鬼ヤバいし」

    若「ハハハ。どれ、晴忠はわしが」

    唯「あ、抱っこしてくれる?よろしくー」

    三人で城門を出る。すると背後から声がした。

    小平太「若君様!」

    唯「うげ、見つかった」

    立ち止まり、振り向く兄さん。

    若「何じゃ小平太」

    小「言付けもなく、どちらにお出ましでございますか」

    この人が小平太さんか。実直そうな人だな。姉との相性はイマイチみたいだけど。

    若「信近には伝えたがのう。源三郎の子の墓に参る」

    小「…」

    若「どうした」

    小「昨晩も赤井の屋敷に出向かれ」

    若「墓参りは夜更けより朝方が良かろう」

    小「御子も再びお連れになってですか」

    唯「なによ。文句ある?」

    若「辰の正刻には、警固の引き継ぎであろう?源三郎と」

    小「はい」

    若「すぐ戻る」

    小「…はっ」

    何か言いたげではあったが、小平太さんはそのまま城内に戻っていった。そうか、源三郎さんは8時には出勤しなきゃいけないんだ。だから兄さん、今の時間なら動けると思ったんだな。よく考えられてるよ。

    唯「こんなに早くぱるるを連れて行けるなんてさ。ナイス尊!だよ」

    若「労わねばならぬ」

    痛み入ります。赤井邸は、徒歩で…いや、徒でも5分かからない距離だった。

    唯「おっはよー!」

    トヨ「お早うございます」

    源三郎「ようこそお越しくださりました」

    若「娘御も起きておるのう」

    唯「りほうちゃん、おはよっ」

    里芳ちゃん、朝から何事かと思ってるのかな。ママにつかまって、つぶらな瞳をパチパチさせている。

    ト「ほれ、挨拶は」

    一瞬、キョトンとした後、姉達の方を向いた里芳ちゃん。

    里芳「おはよお、ごじゃい、ます!」

    おおぉ、かーわいーい!しかし、ここまで挨拶できるなんてすごいな。躾の賜物と、里芳ちゃんのポテンシャルの高さだな。

    唯「もうスタート時間になるかなあ」

    かくして、真夜中に僕が現れた部屋に、大人4人と子供2人の計6人が集まった。

    若「丁度良い時分であろう」

    唯「じゃっ、行きますかー」

    起動スイッチを握るのは姉。いざ、行かん!

    若「…んっ」

    なぜか兄さんが戸惑っている。

    唯「どしたのたーくん」

    若「晴忠のむつきが重うなった。もしや」

    唯「げっ」

    ト「若君様、失礼致します」

    晴忠ちゃんのお尻の辺りを触るトヨさん。

    ト「そうですね。お見込みの通りでございます」

    唯「えー、このタイミングでぇ」

    出ちゃいましたか。

    ト「むつきを換えましょう」

    源「ならばお寝かせする敷物を」

    晴忠ちゃんがぐずり始めた。

    唯「いや、いい!このまま行く!」

    若君&源三郎&トヨ「ええっ」

    マジか!ほら、泣きそうだよ?

    唯「着くのは現代だし。向こうでなんとでもなるから」

    若「そうではあるが」

    唯「はい、みんなくっついて!行きまーす!」

    三人が呆気にとられる中、姉は半ば強引に3号を起動したのであった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道83~9月10日6時28分

    守役がお守りされる方に。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    実験室。戻ってきた僕の目の前に居たのは…

    瑠奈「たけるん!」

    僕「あー。ただいま」

    顔の前で手を組み、祈るように待っていてくれた瑠奈。

    瑠「お帰りなさい!」

    そう言うと、ぴょん!と僕に抱きついてきた。ちょ、ちょっと親の前でそれは…って、よく見ると瑠奈しか居ない。

    瑠「お二人は、朝の支度の続きをする、って戻られたんだよ」

    僕「そう?怪しいけど」

    瑠「今回、お香の匂いあまりしないね」

    僕「源三郎さん家に飛んだからかな。そこまで長居もしてないし。でさ、このまま抱きしめていたいのは山々なんだけど、この後皆が来る予定なんだよ。だから詳しい話はリビングでしたいから、行こうか」

    瑠「今日来るの決定なの?わぁ」

    実験室を出たのは6時30分だった。外からリビングの様子が見えるが、ほら、やっぱり。

    僕「ラジオ体操してるし」

    瑠「あ。ホントだ」

    僕「信頼されてるのかただ呑気なのか」

    家の中へ。

    覚「おー」

    美香子「お帰りー」

    僕「瑠奈一人放置して。朝のルーティンがしたかっただけじゃん」

    美「28分に実験室が光らなかったら、慌てて見に行ったわよ。どうだった?みんな元気だった?」

    僕「んー」

    覚「何だ、何かあったのか」

    僕「あのさ、話す事がたんまりあるんだよ。何にも支度してないんならほら、体操はいつでもできる、テレビ消す、時間ないから座って!」

    美「口調が唯に似てきたわね」

    体操をストップさせ、食卓に集合した。

    覚「そこまで急ぐのか」

    美「もうすぐ唯達、来るからなの?」

    僕「一つずつ簡潔に話すよ。まずは」

    元源ちゃん誕生とその後。一旦は三人とも歓喜の声をあげたが、話していくうちに、父はうなだれ、母は沈痛な表情、瑠奈は涙ぐんだ。

    僕「で、それもあって、今日この後6人で現れる予定」

    三人とも、手放しで喜べない複雑な心境と見てとれる。

    僕「満面の笑顔で迎えてよ?親子三人で行けるのが楽しみだって、兄さんも源三郎さんも言ってたんだから」

    覚「ん…。だな。素直に喜ばないとな」

    美「初めて孫も抱っこできるしね。よし!気持ち切り替えるわ」

    覚「それもあって、って言ったな」

    僕「うん。関連して、兄さんがお母さんに頼みがあるんだって。今回来るのは、久しぶりに直接会いたいのは勿論だけど、そっちをメインに考えてるみたいだよ」

    覚「へえ」

    美「何かしら」

    僕「晴忠ちゃんと里芳ちゃんを診察して欲しいって。二人ともスクスクと育ってるけど、重大な疾患とかないか、令和の医療を受けたいからぜひお願いしたいと」

    美「そうなの。元源ちゃんの事があったからよね。お安い御用よ」

    僕「慌ただしくても今日に決めたのは、来月だと日曜祝日に当たるのも大きかったみたい。クリニックが休みで令和の母達も居ないし」

    美「私は休みであろうが診てあげるけど、エリさん芳江さんには会いたいものね」

    僕「といった流れ。何時になった?45分か。今の内にササッと着替えてくるよ。永禄仕様の作務衣のままだと、お姉ちゃんに普段着か!って言われそうだし」

    覚「おいおい、尊」

    美「ねぇ、どうしてそんなに急ぐの?ぴったり6時59分に到着はしないでしょ。分単位がわかる時計がない時代から来るのに」

    僕「それが存外、今の時間だと割と正確にわかるらしいんだよ」

    覚「そんな事あるのか?」

    美「ははーん。唯が、時間が来るまで何度も起動スイッチを抜き差しするんだ?」

    僕「それ、僕も思ったし、お姉ちゃんならやりがちだけど違うんだな。じゃあ着替えてくる」

    瑠「行ってらっしゃい」

    覚「仕組みがわからんが、もう到着するなら、皆のために早めにコーヒー淹れるか」

    美「私もお化粧始めるわ」

    なぜ正確な時間がわかるのかは、永禄での作戦会議に遡ります。

    ┅┅回想┅┅

    若君「明朝、晴忠を伴い三人で此処に参る。良いな、唯」

    唯「はぁい」

    源三郎「なんと!いや、私共が参じます」

    トヨ「ご足労いただくなど、畏れ多く」

    唯「いいんだよ。だって、たーくんがそっちの方がいいと思ったんでしょ?」

    若「然り」

    源「左様で、ございますか」

    若「辰の初刻迄にはと考えておる」

    唯「たつのしょこく。早っ。まっ、そーなるよね」

    源「心得ました」

    ト「里芳共々身支度を済ませ、お待ち申し上げます」

    僕「辰の初刻って…」

    若「朝の7時、じゃな」

    僕「え!そこまで時間厳守じゃなくても。いいんですか?そんなに早くて」

    若「早朝ならば所用もない」

    僕「あ、そっか。朝っぱらから家臣が主君の屋敷に子連れで行くなんて、非常識だって源三郎さんを咎める人も出てきそうですけど、逆ならさすがに誰も文句言いませんものね」

    若「フフ。尊とは話が早う進む」

    唯「たーくんあれでしょ、6時半のヤツが居る内にトヨ達が来ちゃうとさ、説明すんのがめんどくさい。片づけてから家出ればちょうどいい時間になるし」

    若「片付けとは申さぬが」

    僕「へ?会話の中に現代語がスルッと入ってない?何その、6時半のヤツって」

    唯「じいが来やがるのよ」

    僕「言い方!」

    唯「毎日そんくらいの時間に。たーくんと体操がしたくてさぁ」

    僕「体操。もしやラジオ体操ですか」

    若「そうじゃ。未だ、令和でテレビを観ておった時間は身に付いておっての。その時分に庭へ出ると姿を見せるのじゃ。わしも、と」

    僕「なんかかわいい」

    唯「じじいは朝が早いから」

    僕「言い方!6時半を早いと思うのは永禄ではお姉ちゃんくらいでしょうが」

    若「じいの体力に合わせ、ゆるりと、第一、第二とやっておる」

    僕「二種類とも毎朝。しかも邪魔されてる感がありあり。時間かかりません?」

    唯「10分くらいだよね」

    若「終えてから支度し、徒にて参れば丁度良い時分になろう」

    僕「ちゃんと相手してからなんて。優しい」

    ┅┅回想終わり┅┅

    そろそろ源三郎さん達と合流したかな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    体操&じいは現代Days144no.1047にて。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道82~9月10日6時25分その4

    若君の存念や如何に。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    現れたのは姉夫婦のみで、晴忠ちゃんの姿はなかった。

    唯「さっき来た時は一緒だったんだけど、すやすや寝てるのを起こすのはかわいそーだったから、頼んできた」

    若君「取り急ぎ出て参ったゆえ。済まぬ、尊。会わせてやれず」

    僕「いいんですいいんです」

    唯「それでそれで?できたんだよね!おニューのタイムマシン!だから来たんでしょ?」

    僕「うん、3号完成した。じゃあ早速」

    資料資料、と手提げ袋をゴソゴソしていると、

    若「尊」

    僕「はい?」

    若「何ゆえ急くのじゃ。日を跨ぎ次第、急ぎ戻らねばならぬ用でもあるのか?」

    僕「なぜかは、話の中でわかりますから」

    すぐに説明をスタートした。大人四人を前に講義っぽく。学校の先生になった気分だ。黄経差180度が満月なんて話はわかりにくいと思ったから、あらかじめ図面まで作って持参したし。そして最後、

    僕「これが、望の瞬間と、その日は何時から何時まで行き来できるかの表です」

    若「ほう…」

    唯「るなちゃんにもらったのに似てる」

    僕「うん。前に渡した満月の表に書き足す形で作り直してくれた」

    唯「ひょえー。アンタ、人使い荒くね?」

    僕「3号完成は瑠奈との共同作業だったし」

    兄さんが、笑みを湛えて頷く。よっしゃ!

    僕「永禄では分まで刻める時計がないから、ここまで細かく書く必要はなかったけど、参考にはなるでしょ」

    若「この時間の内であれば使えると」

    僕「はい。もう動ける範囲に入ったな、と思ったら鞘から引き抜いてくれればいいです。そもそもその時間以外は作動しないプログラムにしてあるし」

    源三郎「いやはや」

    トヨ「言葉もございませぬ」

    若「尊、ようやった」

    僕「へへっ」

    時間の表をじっと見続けている兄さん。姉が話しかけてもピクリともしないので、皆で何だろうと固唾を呑んで待っていた。しばらくすると顔を上げ、

    若「尊。この後、おぬしが令和に戻るのはいつの時分になる?」

    僕「9月10日の朝6時28分、です」

    若「6時28分…ここに、明日の始まりの時刻が6時59分とある。動いても構わぬのか?間を空けずとも良いのか?」

    僕「動けます。大丈夫なんです」

    場がどよめく。

    僕「今日って、八月二十一日ですよね。明日二十二日が満月」

    若「うむ」

    僕「今回だと、八月二十二日の朝、例えば朝7時30分にこちらを出ると令和に着くのは9月10日の朝7時30分です。帰りは明日11日の朝6時59分までに令和を出てもらうんですが、朝6時に出たとしても、永禄に着くのは八月二十二日の朝7時33分、出発した時刻の3分後です」

    唯「そこは3分ルールのまんまなんだ」

    若「そうか。今日は土曜か…。日曜の朝まで居れるのじゃな」

    瑠奈の作った表には曜日も表示されている。何曜日に来るかわかった方がいいでしょ?と彼女は言っていた。瑠奈!グッジョブ!

    若「ふむ…。次の機は」

    僕「10月の望の時刻は10日月曜の朝5時55分なので、来れる範囲は9日日曜夕方5時55分から10日夕方5時55分までですね」

    若「日曜から月曜。ん?祝とあるな」

    僕「はい。10日は祝日なんです」

    唯「わかった!」

    僕「びっくりした、何だよ」

    唯「体育の日だ!」

    僕「惜しい」

    唯「惜しいってなによ。ちゃんと覚えてたでしょ?」

    僕「2年前から名称が、スポーツの日に変わったんだ」

    唯「そーなの?!知らんし」

    僕「知らなくて当たり前だから正解だよ」

    唯「へっへー」

    ト「あの」

    僕「はい、どうぞトヨさん」

    ト「その日ですと、休診日なのでエリさんと芳江にはお会いできないんですね」

    僕「そうなります」

    兄さんはまだ熟慮している様子だ。

    僕「人数なら、心配いりません。6人でも」

    若「うむ。尊よ」

    僕「はい」

    若「急いておったのは、尊の気遣いであったのじゃな。遅ければ遅い程、わしらが床についておる時間が少のうなるゆえ」

    僕「まぁ、そうですね」

    それ、この後令和に来ようと考えてます?

    若「お父さんお母さんは何と?」

    僕「すぐ来てもいいよう、準備はできてます。クリニックは普通に昼までありますから、母はそっちに行きますが。あと看護師さん達には、僕が今日永禄に飛ぶ話はしてあります」

    若「あいわかった」

    兄さんが居ずまいを正す。僕らもきちんと座り直した。

    若「明朝、出立いたす」

    唯「ははーっ」

    なんだよそのノリ。足軽に戻ってないか?源三郎さんと、里芳ちゃんを抱っこしたままのトヨさんは深く頭を下げていた。

    若「そこで尊」

    僕「はい!」

    若「お母さんに頼みたき儀があっての。おぬしの存念を聞かせてくれぬか」

    僕「何でしょう」

    兄さんが話す。僕は、大きく頷きながら聞いていた。

    若「いかがじゃ」

    僕「すごくいい考えで、母も快く引き受けると思いますよ。来るまでに言っておきますね」

    若「改めて、直々にお頼み申すと伝えてくれ」

    その後。どこで集まるかなど作戦会議が始まった。僕も参加。いつここを出ても、同じ6時28分に令和に到着するしね。

    僕「それでは。お待ちしてます」

    若「うむ。後程」

    唯「のちほどー」

    粗方決まったところで、僕は令和に帰っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道81~9月10日6時25分その3

    心にも刻んだ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    目の前の箱を、恭しく、そっと開けさせてもらう。

    僕「あ、ジェンガのブロック」

    木片が一つ。何か書いてある。名前だな多分。

    トヨ「若君様が、お父さんと作られたとお聞きしました」

    僕「そうなんですよ。父は今でも、二人で木片を磨いたあの作業はいい思い出だ、って嬉しそうに言います」

    ト「尊様も手伝われたと」

    僕「はい。兄さんの、縁の人々の名前を入れたいって要望に応えました」

    じゃあ、この名は…

    ト「若君様が、嫡男もとよし、の名を入れてくださいました。どうぞお手に取って」

    僕「いいんですか」

    しげしげと見る。

    僕「あい変わらずの達筆だ」

    ト「令和では、このような書き方は致しませんからわかりづらいでしょうね」

    僕「もとよし。嫡男だから、二文字目は源三郎さんの源だな、うん。一文字目は偉い人とか主君からいただいてるはず。この字は何だろう。ひらがなの、え、にしか見えない。でも、もとと読む。そうか、元気の元か!…あ」

    トヨさんが笑っている。

    僕「失礼しました」

    ト「いえいえ」

    知識の引き出しを開けまくり、つい熱が入ってしまいベラベラとしゃべってしまった。

    ト「その文字で合うておりますよ」

    僕「当たりですか。いや!ごめんなさい!大切な息子さんの名前で遊んでるみたいで」

    ト「お気になさらず。やはり尊様は何でもお出来になる。名付けの流儀まで精通されて」

    僕「元、は誰の由縁なんですか」

    ト「千原元次様でございます」

    僕「なるほど」

    ト「お許しを得る事はもはや叶いませんが、有山様とも話をし、いただくに至ったと聞きました」

    僕「そうなんですね」

    ト「頂戴したいきさつをお話しします」

    僕「はい。お願いします」

    ト「元源が産まれてすぐ、この品に若君様が名を刻まれ、しばらく他のお品と共に仕舞われていたそうです」

    僕「兄さん、喜んで書いてただろうな。様子が目に浮かぶ」

    ト「天に召された後ですが、しばらくはお目通り叶いませんでした。若君様も唯様にも」

    僕「兄さんが忙しいのはわかります。でも姉ならすっ飛んできそうなのに。どうしてだろ」

    ト「赤井の屋敷に疫病が蔓延しているやもしれぬ、みだりに出かけてはなりませぬ、子を持つ母なのだから、と周りのお付きの者達が止めまして」

    僕「えっ。ホントに疫病だったんですか?」

    ト「違いますが、言葉を遮る程強くは申せません。私が今も唯様のお世話をしていたら、やはり同じように案じますので」

    僕「よく姉が黙ってましたよね」

    ト「そこは若君様が」

    僕「それでも来ちゃうのが姉ですけど」

    ト「ふふふ。唯様は、わしと共に参ろうって言うから待ってた、と」

    僕「兄さんの操り方が上手くなってる」

    ト「若君様は、夫には声をかけてくださっていました」

    僕「忙しくても、源三郎さんには会いますもんね」

    ト「その折に、産まれて間もない別れゆえ形見と言える物がなく、と呟くように口にしたらしいんですが」

    僕「あ、わかった。だからですね」

    ト「はい。生きた証じゃ、と私共に」

    僕「兄さんらしいなぁ」

    ト「今宵の来訪に合わせこのような美しい箱まで誂えていただき、若君様には感謝してもしきれません。大切にしたいと存じます」

    僕「良かったですね」

    ブロックを箱に戻し、蓋を閉める。そして、合掌した。

    僕「安らかにお眠りください、元源ちゃん」

    こんな事しかできなくてごめんね、と心で呟きながら、箱を棚に戻した。

    ト「元源ですが」

    僕「はい」

    ト「唯様は、げんげん、とお呼びでした」

    僕「はあ…いかにも姉が考えそうな」

    ト「ご自身のお子様にも、違う名を付けてお呼びになっていますよ」

    僕「え、晴忠ちゃんにまで!なんて?」

    ト「ぱるる、と」

    僕「ぶっ!ゴホッゴホッ、はあぁ?!」

    ト「可愛いでしょ、と仰せで」

    僕「ふざけてる」

    ト「どうやら、忠、が読みにくいようでして」

    僕「うーん。確かに、忠清様ぁ!なんて姉の口から聞いたコトないです」

    ト「私もです」

    二人して笑った。

    僕「あ、忘れてました。お土産です。いつものはさみ揚げ」

    まだ温かいタッパーを二つとも袋から出す。

    僕「えーっと、こっちのタッパーが赤井家用です」

    ト「違いがあるのですか?」

    僕「里芳ちゃんは生まれて初めてのはさみ揚げだろうから、小さく揚げた物も入れたって言ってました」

    ト「まぁ。その通りです。なんと細やかなお心遣いでしょう」

    その時、外から話し声が聞こえてきた。到着したな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ジェンガのくだりは、平成Days28no.456に。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道80~9月10日6時25分その2

    欲は出て当然。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トヨさんと二人残された。どうしよう、僕から話を切り出すのもおかしいし…すると、どこからか子供の泣き声が聞こえてきた。

    トヨ「すみません尊様、少し失礼します」

    立ち上がり、声のする方へ向かったトヨさん。すぐに戻ってきたが、

    僕「あ、里芳ちゃん!」

    ママに手を引かれて登場した。二人目の無事を確認!

    僕「起きちゃったんですね」

    ト「一旦は寝付きましたが」

    僕「げ、もしかして…さっき屋敷が大きく揺れませんでしたか?」

    ト「揺れておりましたね」

    僕「わー、起きたのって僕のせいじゃないですか!ごめんね、里芳ちゃん」

    そのまま母子は部屋に入り、トヨさんは里芳ちゃんを抱っこして僕の前に座った。て事は?まさか!亡くなったのって…

    ト「先月。息子が産まれました。ですが」

    聞くのが怖い!

    ト「程なくして、天に召されました」

    やっぱりか…。新生児の死亡率がとても高かった時代なのはわかってても、こう目の当たりにすると、身近過ぎて辛いよ。

    ト「丈夫な体に産んでやれず」

    僕「…」

    何て声をかけてあげるのが正解なんだろう。でも絶対トヨさんのせいじゃない!と思い、首をぶんぶんと横に振った。そんな姿が滑稽だったのかな、微笑んでくれたトヨさん。そしてゆっくりと話し出す。

    ト「…泣き続けた夜もありましたが、今は気を持ち直しております。里芳も育て上げねばなりませぬし」

    僕「乗り越えたんですね。そんなところ、トヨさんらしいです」

    ト「そうお感じになられますか」

    僕「はい」

    ト「ありがとうございます。でしたら尚更、前を向いていかねば」

    ここまでの心境に至るのに、どのくらいの時間がかかったのかな。

    ト「此度の別れは、致し方なかったとは思うのです。でも命の火が消える寸前に、もし叶うならばと願ったのが」

    何だろ。

    ト「美香子お母さんに診察していただきたかった。令和の優れた医療を受けさせてやりたかった、と」

    僕「そっか…」

    戦国時代でしか暮らしていなければ、悲しみに暮れながらもこれも運命と受け止めるんだろう。後の世の進んだ医療体制を知った以上、令和なら助かる命だったかもしれないと思うと、悔やまれるよな。でもこれって僕が…

    僕「ごめんなさい」

    ト「何を仰います。尊様が謝るなど筋違い」

    僕「今日訪れたのは、念願の新しいタイムマシンが完成したからなんです。もっと早く持って来ていれば」

    黙って首を振るトヨさん。

    ト「先程、夫婦で飛び起きました。揺れに驚いたのではありません。すぐに、尊様!何と早いお出まし!と」

    僕「…」

    ト「尊様は義理堅いお方。次にお越しになる折には、必ず若君様に約束された品を携えておられる筈。ですので今宵お目にかかれる、もう出来上がったのか!と、あまりの早さに度肝を抜かれました。決して遅くなどございません」

    僕「ホントですか」

    ト「はい。ですので、我が家にお越しなら若君様唯様をお通ししたこの部屋に違いないと、直ちに夫が参りました次第です」

    僕「曲者と疑わず、僕の到着一択だったんだ。だからか、刀を構えていなかった」

    ト「ふふ、仰せの通りです。尊様」

    僕「はい?」

    ト「学業やお勤めもされる中、日々ご苦労なさり完成にこぎつけたと存じます。心よりお祝い申し上げます」

    僕「ありがとうございます」

    ト「若君様唯様が来られましたら、詳しくお聞かせください」

    僕「わかりました。あの」

    ト「はい」

    僕「さっきの話ですけど、僕は…どう弔えばいいですか」

    おずおずと尋ねた僕。トヨさんの表情は、とても穏やかだった。

    ト「墓にお連れできると良いのですが、難しかろうと思います」

    そして、ようやく眠った里芳ちゃんを抱えながら立ち上がろうとしているので、

    僕「待ってください、起きちゃいますって。僕にできる事なら代わりにやりますから」

    ト「お気遣い、痛み入ります。ならば、その上の棚を開けてくださいますか」

    僕「棚。左のですか?」

    ト「はい。漆塗りの箱がございますので、そのまま出してください」

    僕「了解です」

    棚の引き戸を開ける。片手に乗るくらいの小さめな、蓋付のツヤツヤと美しい箱が鎮座していた。取り出してトヨさんの前に差し出す。

    ト「先程、若君様から頂戴したばかりでございまして」

    僕「へぇ。綺麗な箱ですね」

    ト「開けてみてください」

    僕「触っちゃっていいんですか?」

    ト「ええ。中に入っているお品は、尊様もよくご存じですよ」

    僕「ご存じ?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    返信先: 創作倶楽部
    続現代Days尊の進む道79~9月10日6時25分

    慣れが出始める頃。高を括ってはなりませぬ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    永禄に無事到着した僕。いや、無事なのか?

    僕「暗っ」

    人の気配がない部屋。襖がキッチリ閉まっており外の様子が全くわからない。そこそこの広さはあるみたいだけど…

    僕「想定外だ。どうしよう」

    てっきりお姉ちゃんか兄さんの居場所に飛ぶと思っていた。万が一に備えて懐中電灯は持ってきたんだけど、焦りもあり、手提げ袋の中でタッパーに引っ掛かってなかなか出せない。モタモタしていると、

    僕「うっ」

    外に人の気配を感じた。そして、迫ってくる。え、ここもしかして他人の屋敷だったりする?かなりヤバい状況?プログラムの処理、ミスった?!

    僕「!」

    襖の前で人が止まったようだ。マズい、だけど緊張で体が硬直してしまい動けない!うわ、襖が開く!ひゃー!神様仏様!

    男「御免」

    ば、万事休す!!!

    源三郎「おぉ、やはり」

    僕「え?あっ!は、はあぁぁぁ」

    源「尊殿でございましたか」

    僕「源三郎さぁん!」

    ロウソクを手に立つ源三郎さん。ううう、良かった、助かったー!

    源「ここまで暗くては心細うもなります。しばしお待ちを」

    なんとも腑抜けな声をあげてしまった僕を優しくフォローしてくれた。燭台に火が移され、周りが照らされていく。同時に、心も照らされるような。点け終わると、源三郎さんは僕の前に腰を下ろした。

    源「よくぞおいでくださいました」

    僕「こんばんは…あの、ココって」

    源「赤井の屋敷にございます」

    僕「あ、あー」

    源「尊殿の驚き様ですと、こちらに降り立つおつもりではなかった?」

    僕「機械が最良な場所を自動的に探すプログラムにしたんです。だからどこに着くかわからなくて。あ、プログラムは」

    源「わかります。仕組みですね」

    僕「さすが源三郎さん。何でも意欲的に勉強してたから」

    源「いやいや。さすが、は尊殿こそでございます。造られたタイムマシンまで、細やかな配慮がお出来になる」

    僕「それは褒め過ぎですよ。だったら、ここに飛んできたのはどうしてって話で」

    源「わたくしには頷けますが」

    僕「えー。何ゆえに、ですか?」

    源「先程まで、こちらに若君様と奥方様がおいででした」

    僕「うっそ、マジっすか!」

    源「マジ、でございます」

    僕「あ」

    源「フフ、まこと尊殿は、奥方様とよう似ていらっしゃる」

    僕「なんかすいません。用事があって来てたんですか?」

    源「そう、ですね。前々から気にしていただいておったのですが、若君様もお忙しく、本日ようやくといったところでした」

    僕「へえ」

    源「それで。尊殿」

    僕「はい?」

    源「若君様が、明日は満月じゃ、尊が参るやもしれぬと仰せになり、間に合うようお二方は帰られまして」

    僕「うわ、そうなんですね」

    源「こちらにお越しになったと、急ぎ伝えて参ります」

    僕「ごめんなさい、御月の屋敷に最初から飛べば済んだのに」

    源「いえ」

    体勢を改め、跪く形になった源三郎さん。何事でしょう?!

    源「頷けると申しましたが」

    僕「はい」

    源「あえて我が屋敷を選んでいただいたのだ、タイムマシンには血が通っておるのだと、感服するばかりです」

    僕「なぜそう思うんですか?」

    源「此度、尊殿に弔っていただけるなど、至極光栄に存じ」

    弔、う?

    僕「お墓参りですか」

    源「…いえ」

    僕「だったら、誰か、亡くなったんですか。最近」

    源「…」

    えっ?そういえば、トヨさんにも里芳ちゃんにもまだ会えてない!源三郎さんの沈黙が怖くて頭の中がパニクっていると、再び襖が開いた。

    トヨ「尊様。こんばんは」

    僕「こん、ばんは」

    まず一人、無事を確認!

    ト「こちらにお越しいただけるなんて。嬉しい限りでございます。源ちゃん、早くお伝えにあがらないと」

    源「そ、そうだな」

    ト「尊様には私からお話しするわ」

    源「良いのか?」

    ト「ええ。行って」

    源「…わかった」

    僕「…」

    一礼し、源三郎さんは部屋を出ていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道78~9月10日土曜6時

    乗り物が違うだけで見送りには違いない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日は満月。早朝から忙しくしている。僕は永禄に飛ぶべく実験室で最終確認中。父は土産のはさみ揚げを準備。母が駅まで瑠奈を迎えに行った…なぜこんなに慌ただしいのか?説明の代わりに、前回の続きをお送りします。

    ┅┅回想。8月12日の夜。母の仕事終わりを待って、再び4人で会議スタート┅┅

    僕「瑠奈と考えてたんだけどさ、やっぱり来月に3号を届けようと思う」

    覚「わかった」

    美香子「うん」

    僕「ネックがちょっとだけあって。来月行くとなると、僕が出発する時間、相当早くしないといけないんだ」

    覚「ほう。来月の満月は?10日か」

    美「ちなみにその日だと、向こうに着くのはいつになるの?」

    僕「永禄七年八月二十一日の23時。二十二日が満月だから」

    美「もう永禄も七年まで来たのね。10日の望は?」

    瑠奈「18時59分です」

    美「だと…3号で動けるのは、当日の6時59分から11日の6時59分。合ってる?」

    僕「ご名答。永禄側からすると、二十一日の子の初刻、23時に僕がやって来て、二十二日の多分深夜の内には帰っていく。同じ日の6時59分から3号で現代に来れるんだ。だからさ、じゃあすぐにでも現代に来たいなんて話になる可能性なくない?」

    美「そんなに急いで来るかしら?」

    覚「どうだろうな~。向こうの細かい状況はわからんだろ。忠清くんがどう決断するかにかかるんじゃないか」

    美「でも、一日だけなら割と気楽だから、赤ちゃんを連れて来てくれるかもしれないわね!人数的にはどうなの?」

    僕「10人くらいまでは大丈夫。抱っこしてきてくれれば、今までと同じでもっと燃料もエコにできる」

    覚「会える人数が多いのは嬉しいな」

    僕「そうなると、僕がこちらを出発するのが6時55分より前である必要があるんだ」

    覚「ネオ1号、こちらは満月の日の何時に出発してもいいが、戻ってくるのは出発時間の3分後だったな。戻るのが6時58分でギリギリだからか」

    美「え?その24時間内に動けるってだけで、例えば二十二日の朝10時に唯達が出発してもいいのよね?」

    僕「そうだけどね。でも来るなら、早い時間からな気はする。永禄の皆さんはみんな朝に強いから。お姉ちゃん以外」

    美「言えるわね」

    僕「あと、再来月にしないのは、時間がちょっと勿体ないからなんだ。10月の満月は10日で、望は5時55分。3号の動ける範囲は9日の17時55分から10日の17時55分だから、僕が9日23時に飛ぶとさ」

    覚「残り時間のカウントダウン真っ最中だからか。確かに、すぐこちらに来たいという気持ちがあっても少し勿体ないな」

    美「それで?総合的に言うと?」

    僕「9月10日決行。出発は遅くとも6時半くらいにはと」

    覚「もっと早くてもいいんじゃないのか」

    美「えぇ?起きられないからとかなの?」

    僕「違うよ。これには理由があって」

    瑠奈がそっと手を挙げた。

    美「はい?瑠奈ちゃんどうぞ」

    瑠「あの、私も尊くんを見送りたくて」

    覚&美香子「あー」

    瑠「10日は土曜日なので、両親には、空港に友達を見送りに行くなんて理由にしておいて、黒羽駅まで来ようと思ったんです」

    僕「当日は、家まで迎えに行くほど僕も余裕はないから」

    瑠「始発が朝5時台にあるのでそれに乗って、駅から歩いてこちらには6時10分くらいには着けると思います」

    美「だったら前日に泊まる?ウチに」

    僕「そこまでしなくていいって僕が言ったんだよ。時間的に朝でも大丈夫だろうから」

    覚「そうか。二人で話がついてるなら。じゃあ黒羽駅までは迎えに行こう」

    美「私が行く。そんな時間なら開院準備に支障ないし。だってお父さんはほら、いつものアレ作らないと」

    覚「あ、はさみ揚げが。そうだな、アツアツを持たせたいしな」

    僕「決まりだね」

    ┅┅回想終わり┅┅

    瑠「おじさま、おはようございます」

    覚「おー、瑠奈ちゃんおはよう。尊は実験室だが一旦は戻ってくるからさ、ここで待っててくれな」

    瑠「お手伝いします」

    覚「いいよいいよ。あとタッパーに詰めるだけだから」

    6時20分になった。4人で実験室に移動。いよいよだ。

    僕「手提げ袋で持っていける量で良かった」

    覚「はさみ揚げのタッパー2つだけだからな」

    僕「まぁ、早ければ今日中にここに皆さん現れるしね」

    美「曲者じゃ!ってならないのを祈るわ」

    僕「それだけどさ、プログラムに学習させて、安全で最良の場所に飛ぶようにしておいた」

    覚「そりゃ心強い」

    美「もしかして、AI搭載しちゃった?」

    僕「そんなモンだね。お父さん自分で言ってたじゃない」

    覚「へ?」

    僕「僕覚えてるよ」

    覚「何言った?いつの話だ?」

    僕「大丈夫だ!未来の尊を信じろ。唯を一番安全な場所へ送ってくれるはずだ!って」

    覚「それは…未来の尊、否、今の尊が2号を平成30年に送ってくれた時か」

    僕「今までいつどの場所で1号が作動したか、おもナビくんもどこで電源が入ったかを全て入力したよ」

    美「だから唯が初めて2号を使った時も、山の中ではあったけど、夜営している皆さんの前に降り立つ事ができたのね。感心するわ~」

    瑠「たけるん」

    僕「ん?」

    瑠「ご武運を、祈ります」

    僕「はは、ありがとう。では行ってきます」

    6時25分。出発しました。僕が消えた後。

    瑠「…」

    美「瑠奈ちゃん」

    瑠「…あ、ごめんなさい、はい」

    美「いつも尊をあぁやって呼んでるのね」

    瑠「え?…あっ!やだ、恥ずかしい」

    美「私達よりも心配してくれて。気が気じゃないからつい出たのよね。可愛い」

    覚「いい関係性だ、ってよくわかったよ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、永禄で何が起こった?!

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    続現代Days尊の進む道77~8月12日金曜

    若君の予言は、現代Days130no.1027にて。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    その瞬間がやって来た。

    瑠奈「こっちのパソコンも、画面切り替わったよ。確認お願い」

    僕「了解」

    ここは実験室。3号の作業、地道にコツコツと進めた結果、ようやくゴールが見えてきたんだ。そして今日は満月。一気に終わりそうな予感がしたので、瑠奈とも相談し、デート返上で朝から一緒に作業をしてもらっている。

    僕「ふう。よし」

    瑠「完了な感じ?」

    僕「うん。できた。できたよ3号」

    瑠「ホントに?やったぁ、おめでとう!」

    以前兄さんに、新型タイムマシンを完成させた僕の傍らには瑠奈が居る、と言われた。まさかそんな夢みたいな話と思ってたけど…つーか、やっぱ兄さん、先見の明がある。すげぇや。

    僕「10時38分か…」

    瑠「あれ、もしかして今日の望の時刻って」

    僕「10時36分」

    瑠「そうなの!やっぱり関連してるんだね」

    僕「月の女神様のお陰だよ」

    瑠「え~?」

    すぐに父に伝えたが、詳しくは母の昼休憩時に話す事にした。そして。昼ごはん後、食卓に4人。

    美香子「1号と2号を足して2で割ったようなデザインね」

    3号起動スイッチ。柄の色は紫。黄色のニコちゃんマーク、今回はウインクしてます。

    僕「まず、満月とは何かを説明します」

    美「そこからスタート?」

    覚「まあ聞こうか」

    僕「月と太陽の黄経差が180度の時に、地球から見える月」

    覚「コウケイ。初めて聞いたな」

    僕「もっと簡単に言うと、地球を挟んで、月と太陽が真逆の方向にある時。月、地球、太陽と並ぶ感じ」

    美「一列に並ぶのね」

    僕「おおよそ一列ね。地球だけちょっとズレてるから。それは後で説明する。で、月って太陽に照らされて輝くじゃない。自身では発光しない天体だから」

    美「うん」

    僕「180度の位置、つまり真正面から光が当たると、全体が輝く。それを地球から見るから真ん丸の月、満月」

    覚「うむ」

    僕「逆に、太陽、月、地球と並ぶと黄経差0度なんだけど、太陽に照らされてるのは月の裏側で、地球に向いている側は暗いから見えない。よって新月となる」

    美「わかった、90度の位置にある時は、半分しか照らさないから半月なのね」

    僕「そう。で、さっきの話、ピタッと一列には滅多に並ばない。月の公転軌道は地球の公転軌道に対して5度位傾いてるから。だってさ、毎回重なるように並んだら」

    覚「そうか、太陽が照らす地球の影に月が隠れるから、月食が起こるんだな」

    僕「正解。そもそも満月の状態にならない」

    美「たまには重なる時があるから、月食や日食が起こるのね」

    僕「そういうコト。で3号なんだけど」

    覚「ようやく本題か」

    僕「一日で行き帰り可能にするため、今までのとはちょっと動かし方を変えたんだよ」

    覚&美香子「へー」

    僕「太陽ってすごくデカい天体。直径は月の400倍」

    美「そんなに大きいの!」

    僕「でも、地球と月との距離を1とすると、地球と太陽の距離は400だから、ほぼ同じ大きさに見えてるんだ」

    覚「同じ400」

    僕「偶然だけどね。そんなデカい天体だから、タイムマシンの作動に少なからず影響してるかもしれないとふと考えたんだ。そこで、一番影響しないであろう瞬間、イコール一番太陽から遠ざかっている瞬間はいつかと言うと、179度でも181度でもなく180度の距離の瞬間じゃない。それは月が一番丸く見える瞬間でもあって。用語としては望って言うんだ」

    覚「ボウ?それも初めて聞いたな」

    僕「希望の望って書くんだよ」

    美「わかったわ!そう、そうなの~。だから満月を望月って言ったりするのね」

    覚「なるほど。今日は色々勉強になるな」

    僕「1号も2号も満月の日の0時00分から23時59分に動く設定だった。と言いつつ、実際には日が跨いでも満月が空に確認できる時間帯なら動けたけど。ネオ1号も基準の時間は一緒。3号はより安全に動かすため、望の瞬間を中心に前後12時間で動くようにした。望が正午ぴったりにならない限り、必ず日を跨ぐ」

    覚「ほー」

    僕「例えば今日だと、望は10時36分。昨日の22時36分から今日の22時36分までが動かせる時間。その時間内に行って戻れる」

    美「瑠奈ちゃん」

    瑠「はい?」

    美「どう?こんな彼氏」

    僕「いきなり何…」

    瑠「素敵過ぎます」

    覚「だな。ウルウルの目で尊を見てるもんな」

    僕「恥ずかしいよ」

    瑠「少しでもお手伝いしようと、この先の望の時刻を表にしてました。3号を運ぶ時に、永禄の皆さんに渡してもらおうと思ってます」

    覚「て事は、今回は尊一人で行くつもりか」

    僕「うん」

    美「いつ?まさか、今日?」

    僕「そこまでは。微調整もしたいし。早くて来月かな」

    覚「そうか」

    瑠奈が僕の顔を覗きこむ。

    瑠「ねぇ、あの話はしない?ネオ1号とかの」

    僕「あー。話しとこうか」

    美「何?」

    僕「ある意味、こっちの方が重大発表かもしれない」

    覚「何だ何だ?」

    僕「3号を造るべく、パソコンにいろんなアプローチをしたからかな。なんと」

    覚&美「なんと?」

    僕「ネオ1号も、2号も、もう造れると判明したんだ。燃料さえ貯まればだけど」

    美「え!じゃあ未来の尊って」

    僕「平成30年11月23日に2号を送ったのも、令和元年12月7日にネオ1号を送ったのも、今のこの僕」

    覚「おほー。すごい進化だな…」

    美「何十年も後の尊じゃなかったのね。でも機能は?望の時刻しばりとかはしない?」

    僕「しない。その時点でのニーズに応えた物にする」

    覚「もっと進化したタイムマシンを造れてるけど、送るのはこのレベルです、って?」

    僕「意地悪してるんじゃないよ。そこで機能を変えたら、未来がまた変わるでしょ」

    美「なるほどねー」

    覚「それさえも余裕な発言だな」

    瑠「カッコいい」

    僕「照れるって」

    浮かれてばかりもいられない。もうひと頑張りするぞ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、永禄へお届け物です。

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    続現代Days尊の進む道76~7月14日木曜

    ドラマには出てきませんので、子の幼名、なしで進めます。ご容赦ください。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ここは永禄。勢揃いして、令和と繋がる時間を待っている。

    トヨ「この籠、良いですね」

    唯「でしょでしょでしょー!」

    ト「誂えなさったのですか」

    唯「あつらえ、ってなに」

    ト「どなたかにお願いして作らせましたか?」

    唯「うん。千吉さんに」

    ト「そうでしたか。仕上げも美しくて丁寧」

    唯「最初頼んだ時はヘンな顔されてー。こうやって使うモノなんだけどって説明したら、なんとありがたきお役目を!って大喜びしちゃってさー、張り切って作ってくれたの。悪丸や伊四郞も手伝ってくれたみたい」

    ト「ふふ。微笑ましいですね」

    唯「次貸してあげる」

    ト「宜しいのですか?」

    唯「もっちろん」

    若君「ほれ、そろそろじゃ」

    今回も無事にスタート。

    美香子『元気~?』

    若「はい。変わらず平穏に暮らしております」

    唯「あ、るなちゃんも居る」

    瑠奈『こんばんは』

    覚『おほー、里芳ちゃん、大きくなったなー』

    源三郎パパの横に立って袖につかまり、こちらを不思議そうに見ている里芳ちゃん。

    源三郎「お陰様でこのように」

    美『じっとしていられるなんて、お利口さんねー。さすが源三郎くんとトヨちゃんの娘』

    覚『そうかそうか。ところ、で?』

    美『で?』

    唯「わかってますって」

    立ち上がった姉がおもナビくんに近づく。手に取ったらしく、画面がグラリと動いた。

    僕「うわ、酔う」

    目の前にあった籠にカメラが迫る。中には…

    唯「ジャジャーン!」

    覚『おー!』

    美『まあ!』

    唯「予定どおり、3月に産まれましたー」

    すやすやと眠る赤ちゃんが!可愛い!

    若「嫡男、晴忠にございます」

    唯「天気の晴れに、たーくんの忠だよ」

    覚『そうかそうか』

    僕の妄想家系図でも長男は晴忠なんだけど、さすがに御月家の嫡男の名は資料が残ってるからわかるので、そこまで驚きはない訳で。

    美『あ!忠清くん、いい、いいから!』

    兄さんが赤ちゃんを抱き上げようとしていたのを、母が止めた。

    若「顔がよう見えぬのでは。先程までは起きておったのですが」

    美『寝顔も可愛いわよ』

    覚『これで充分だから、そのままにしといてやりな』

    若「忝のう存じます」

    美『クーハンに寝かせてるのね』

    唯「くーはん。そうそう!それ!全然名前思い出せなくって!誰も教えてくんないし」

    僕『そりゃそうだろ』

    美『もう四か月くらいよね。クーハンはそろそろ卒業かな。次はトヨちゃんが使うのよね?』

    唯「え、さっきの話聞いてた?うん、使ってもらうー」

    美『ちゃんと貸す約束してるならいいけど。トヨちゃん』

    ト「はい」

    美『予定はいつ頃?』

    アップで映ったトヨさん。お腹が大きくなっていた。わぁ、おめでた!

    ト「来月には産まれます」

    美『そう~。楽しみね。あら大変、時間が』

    覚『あと5秒だぞ』

    唯「うっそぉ!みんなで映れない?寄って寄って!はい、ピース!」

    スマホの自撮りじゃないんだから…最後、画面の半分は姉の顔状態で通話は終了した。母親になってもバタバタさ加減は変わらずと。さて、その後の様子、まずは令和から。

    美「美男子だったわね~」

    覚「性格も、忠清くんのDNAが優位だといいがな」

    僕「親がそれ言うか」

    瑠「トヨさんが臨月で、晴忠ちゃんをクーハンで運んだんでしょ。今日は赤井家のお屋敷からの中継だったんじゃないかな」

    僕「あ。かもしれないね」

    ビデオを再生。

    美「確かに、お部屋のしつらいとかがやや質素な感じ」

    覚「ん?今何かチラッと後ろに見えたぞ。ちょっと巻き戻してくれ」

    僕「巻き戻しとは言わないんだけど。早戻し」

    覚「まあそう言うな。ほら!今!」

    美「あー、連鶴!」

    瑠「折鶴ですか?」

    僕「エリさんと芳江さんの合作なんだ。全部で5羽永禄に持ち帰ったのはお姉ちゃんの発案なんだけど、他の鶴が近くに飾ってない事を考えると、この2羽だけ赤井家にあってもおかしくない。令和の母二人だから」

    瑠「大切に飾られてるんだ」

    僕「それは間違いないね」

    美「尊、どんどん遅くなっちゃうから」

    僕「だね。じゃあそろそろ瑠奈を送ってくる。行こうか」

    瑠「うん」

    次に、永禄の様子を。

    源「奥方様。輿の支度が整いました」

    唯「ありがと」

    若「うむ。では帰ると致す」

    ト「申し訳ありません。本来はわたくし共が伺うべきところ」

    唯「いいってコトよ~。ごめんねー、りほうちゃん、帰るねぇ」

    里芳ちゃんは、じっとクーハンの中を興味深く覗いていた。源三郎さんが抱き上げると、イヤイヤとグズり始めてしまったのだが、

    若「済まぬのう。里芳」

    兄さんがあやすとすぐに泣き止んだ。すげぇ、ちっちゃい子も、この人の言う事は聞かなくちゃって感じるのかな。そして姉と晴忠ちゃんは輿に、兄さんは疾風に乗り、帰っていった。

    源「具合はどうだ?」

    ト「うん。今は楽。大丈夫」

    夜は静かに更けていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、とうとう3号が。

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    続現代Days尊の進む道75~3月21日10時30分

    空に手を伸ばすが如く佇んでいます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    階段を上がりきると、そこには高さのある木がほとんどなく、とても開けていました。

    瑠奈「あとちょっと」

    道の先には頂上。石垣が組んでありその上にお墓が建っているので高さがあり、しかも塔みたいな造りです。下からチラッと見えてたのは、塔からスッと伸びた、相輪と呼ばれる部分でした。先程のお父様のお墓とは打って変わって、シュッとしてるというか。

    瑠「背の高いお兄さんとイメージが重なる」

    没後も領地を見渡せるよう、この場所が選ばれたのかな。現代に何度か訪れているから、もしかしたら墓の造りなど、存命中に家臣に指示されていたかもしれません。

    瑠「不思議な感覚」

    知っている人、会って話したことのある人のお墓という点では、史跡探訪よりお墓参りに近い気はします。でも半年毎に現代と繋がるからそれもなんか違って、今を生きている人のお墓がここに?って思っちゃうんですよね。

    瑠「お掃除されてる」

    女性が一人、竹箒で周りを掃いていました。

    瑠「入ってもいいかな」

    歩いていくと、その方は私に気付き、顔を上げたんですが…

    瑠「!」

    えっ、えっ?!

    女性「お越しいただきありがとうございます」

    その女性は、親よりも年上に見えたので60代位でしょうか。サラサラのグレイヘアーが素敵な方なんですが、

    女「どうかなさいました?」

    おばさまに、瓜二つだったんです!!こんなに似てる人、居る?!

    瑠「あ…ごめんなさい、友達のお母さんによく似ていたのでびっくりして」

    女「あら、そうなんですか。自分に似ている人は三人居るっていいますものね。学生さんかしら?」

    瑠「はい」

    女「そう。こんなにお若い方に来ていただけるなんて、ご先祖様も喜んでいますよ」

    先祖…?

    瑠「あの、御月家末裔の方でいらっしゃるんですか?」

    女「えぇ。結婚して出てるので、御月は名乗っていないんですけれど」

    えーっ!てコトはつまり、唯さんの子孫、だからおばさまの子孫。だから似てるの?!

    女「今日は春分の日で、お彼岸の中日でしょ。実家と婚家の墓はもうお掃除済ませたので、ならご先祖のお墓をと思って来てみたの」

    瑠「そうなんですか」

    女「このお墓、すっくと立って素敵でしょう。気に入ってるんです。十三重塔って様式なんですよ」

    じゅうさんじゅうのとう。後で調べてみよう。

    女「お父上の墓はもう行かれました?」

    瑠「はい、さっき」

    女「どうぞゆっくりご覧になってくださいね」

    瑠「ありがとうございます」

    その女性はニコッと微笑むと、また別の場所を掃き始めました。はぁ。妙に緊張しちゃった。気を取り直して。ここにも案内板があったので読もうと近づくと、カバンの中のスマホがブルッと震えました。たけるんからだ。

    尊の投稿『11時には出ます』

    あと15分かぁ。ちょっと急ごう。えーっと。

    瑠「御月忠清。生年、あっ」

    思わず、案内板の一部を手で隠してしまいました。没年が書いてあったんです。さすがに見たくなくて。調べればすぐわかるとは言え、知らずに済むならその方がいいじゃないですか。隠したまま読み進めます。すると、最後に…

    瑠「最愛の妻も共に眠る」

    複雑な気持ちにはなります。でも嬉しさが勝るかな。文面には戦で命を落としたとは書いてないので、きっと、お二人共長生きされたんでしょう。さてと、戻らなきゃ。先程の女性はどこかな…あ、見っけ。

    瑠「帰ります。ありがとうございました」

    女「お気を付けて」

    今日の史跡探訪、たけるんには内緒にしておきます。見たい知りたいと思えた時に、私からの伝聞でなく自分の目で確かめて欲しいので。女性に会ったのは偶然の産物ですけどね。

    瑠「お疲れ様ぁ」

    語り部、たけるんに戻ります。

    僕「色々回ったの?」

    瑠「プラプラお散歩してただけー」

    尊です。瑠奈は多くを語らず。僕に遠慮してるんだろな。気遣ってくれた気持ちを汲んで、それ以上は聞きませんでした。その後はデートを楽しみ…夕方帰宅すると、もう両親の姿あり。

    僕「ただいま、つーかお帰り」

    美香子「ただいま~。どうだった?」

    僕「どうって何が」

    美「またまた~」

    僕「何だよ」

    口を割ろうとしてるな?

    覚「おー、どうだった?」

    僕「また同じ質問」

    覚「ピザトースト、気に入ってたか?」

    僕「気に…」

    危ねっ。

    僕「美味しかったよ」

    覚「そうか、また振る舞わないとな」

    僕「何にも言ってないでしょうが」

    超ハッピーな二日間でした。言わないけど。

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    次回、通話三回目です。永禄はどうなっているでしょう。

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    続現代Days尊の進む道74~3月20日21時から21日月曜10時

    今回、語り部が途中で交代します。
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    店主「また来な」

    おかみ「ありがとね~。気を付けて帰って」

    いい感じの酔い具合で満腹。店を後にし、歩き出した。

    瑠奈「すっごく美味しかったぁ。また一緒に来ようね」

    僕「うん」

    明日はもう春分の日とは言え、夜はまだまだ冷える。の、はずなんだけど。

    瑠「暑ーい」

    僕「暑い?」

    瑠「コート着れない、脱ぐ」

    僕「そんなに?!」

    黒羽城公園まで戻って来た。前を行く瑠奈は夜風で涼んでいる。代謝がいいんだな。あー、こんな時例えばさ、瑠奈が寒いなんて呟いたら、そっと肩を抱く…なーんて出来るんだけど。今なら誰も見てないし。

    瑠「たけるん、寒い?」

    僕「あ?あー、ちょっとだけ」

    瑠「あっためてあげる!」

    僕「へ?」

    駆け寄る瑠奈。正面から、ギューっと抱きついてきた!

    瑠「誰も見てないしぃ」

    僕「はは」

    今夜の月は低い位置で輝いている。さっきまで建物の陰だったが、公園まで来て空が広くなりようやく顔を出した様子は、見てますよ、と覗かれているみたいだ。

    瑠「夜はこれから」

    僕「これからなんだ」

    瑠「違うの?」

    僕「違わない」

    今頃尊と瑠奈ちゃんは、なんて、両親に想像されてるであろう後ろめたさも多少はある。でもいい。それに勝る、甘々なひとときにどっぷりと浸からせてもらう。…そして。濃くて長ーい夜を過ごし、少しの睡眠で目覚めた翌朝。

    瑠「トースターに二枚並ぶね。二人同時に食べ始められるよう、わざわざ小さめの食パン用意されたんじゃない?」

    僕「そこまで計画的だったか…」

    今後ピザトーストを食べる度、色々思い出してニヤニヤしてしまいそう。

    瑠「美味しーい」

    僕「うん」

    柔らかな光が差し込む食卓。揃いのパジャマ姿でいただく朝ごはん。

    僕「こういう朝、いいな」

    瑠「…」

    あれ、黙っちゃった。同意が得られない?マズいコト言った?

    瑠「それ、プロポーズだったりする?」

    僕「え!」

    そ、そんなつもりは!いや、そのつもりはあります、いずれは!うーわ、不意討ち過ぎて!

    瑠「まだだったかぁ」

    僕「あ、あの…言う時は、ちゃんとはっきり言いますので」

    瑠「ふふっ、うん。待ってるね」

    ここで、そうだよと言える程の度量は僕にはありません。焦った…。さて。用事は早めに済ませようと、食後すぐに家を出た。

    僕「ホントにいいの?木村先生に色々頼まれちゃったりして、すぐには出てこれないかもしれないよ?」

    瑠「うん」

    車を走らせ、会館に向かっている。

    瑠「ゆっくりで大丈夫だよ。この辺り、史跡が多いみたいだから散策してるね」

    そう。御月家ゆかりの地なので、会館の周りには、お墓とかが点在している…らしい。

    瑠「たけるんは、見に行ったコトないんだよね?」

    僕「うん」

    屋敷跡なんかはともかく、兄さんやお姉ちゃんの実際のお墓を目の当たりにするのはやっぱり精神的にキツいので、未だにどの史跡も訪れていない。

    瑠「私が行くのは構わない?」

    僕「構わないよ。時間潰してもらわないといけないし。出られるメドついたらLINEするね」

    会館の前で車を降りた瑠奈。そのまま目的地へ歩き出した。

    瑠「この先にあるのが御月忠髙の墓。唯さんの義理のお父さん、お兄さんのお父さん」

    すみません、ここからは語り部を瑠奈にチェンジします。

    瑠「ふうん」

    瑠奈です。その墓は会館から目と鼻の先にありました。重厚な趣の、ゴツいーって感じのお墓です。案内板があったので一読しました。

    瑠「ここにも、御月晴永の姪孫とは書いてないなぁ。実子の扱いで通したんだ」

    次に向かったのは。

    瑠「御月忠清。お兄さんのお墓…」

    ネットでこの地域の史跡を検索すると、ちゃんと出てくるんです。たけるんはそれさえ見てないみたい。でもその気持ちはわかるので、さっきもどこに行くとかあえて伝えませんでした。

    瑠「ここかな」

    数分程歩くと、小高い丘が現れました。

    瑠「上にあるみたい」

    緩やかな階段を上ります。少しずつ形が見えてきました。

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    続きます。

    語り部は、瑠奈のままで始まります。

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    続現代Days尊の進む道73~3月20日19時

    約束、は現代Days126no.1023にて。
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    とっぷりと日も暮れた。歩いて居酒屋に向かっている。

    瑠奈「おじさまは、お酒は好きだけどちょっと弱め。逆におばさまは嗜む程度だけどかなり強いよね。自分はどっち似だと思う?」

    僕「んー。ちょうど中和されて平均値なんじゃないかな。嫌だよ?瑠奈は強い方だからさ、飲み比べなんかしないからね?」

    店に到着。少し緊張しながら引き戸を開けた。

    僕「こんばんは…」

    店主「おう」

    おかみ「いらっしゃい尊くん!座敷用意してありますよ」

    瑠「こんばんは」

    お「まあ~。どうぞ、入って入って」

    瑠奈と向かい合って座る。

    お「よく来てくれたわね~。何にしましょうね」

    僕「ここで、ジョッキの生ビールを飲むのが夢だったんです」

    お「あら、嬉しい事言ってくれるわ~。中でいい?二つ?」

    瑠「はい。お願いします」

    僕「あと、好きなの頼んでくれていいよ。カウンターの上のお惣菜も、どれも間違いなく美味しいから」

    悩む~と言いつつもササッと注文を済ませた瑠奈。僕の周りの女性陣、姉もしかり、決断が早い人が多いんだよな。おー、お通しの切り干し大根、いい色してる。ビールが運ばれるのをじっと待つ。

    瑠「さっき、夢だったって言ってたね」

    僕「うん。前にさ、兄さんや源三郎さんがここですっごく美味しそうにビールを飲んでて。その姿がカッコ良くて、いつか僕もって思ってたんだよ」

    瑠「20歳になってすぐにでも来れたでしょ。今まで延ばしてたのはどうして?」

    僕「そんなにすぐでは、まだ美味さとかわからないと思ったから。それに」

    お「はい、お待たせね~」

    目の前に待望のジョッキが!

    瑠「それに、なに?」

    僕「…酒が飲める年齢になったら、瑠奈を連れて来るって約束したんだ。おかみさんと」

    瑠「そうだったの!」

    お「はい、里芋とイカの煮物。そうですよ。おばちゃん首を長~くして待ってたわ~」

    僕「覚えててくれて嬉しいです」

    瑠「良かったぁ、一緒に来れて!ねぇ、乾杯しよっ」

    ジョッキをカチンと合わせ、プチ宴会がスタートした。

    瑠「壁とか趣あって素敵」

    僕「だね。でも最初からここで店開いてた訳じゃないんだよ」

    瑠「移転してきたの?」

    僕「お店は、ウチの近所でスタートしたって聞いてる」

    瑠「そうなの?えーっとぉ」

    僕「何が言いたいかはわかる。ウチの周り田んぼや畑が多いもんね。その当時はもっと何もなかったんじゃないかな。最初は、農作業終わりの農家さん達とか近所の人相手に、ご自宅の離れで始めたらしいよ。ゆくゆくは駅前に店舗を出したくて、資金をお二人懸命に貯めてたのよってお母さんが言ってた」

    瑠「どのくらい前の話なの?」

    僕「どのくらいだろ…」

    お「店として始めてから、そうね」

    僕「おっと、いいタイミングでフレームイン」

    お「かれこれ25年になるわねえ。串盛りどうぞ。ここに移ってからは21年ね。そうそう、その頃尊くん、お母さんのお腹の中で」

    瑠「そうなんですか!」

    お「この子が生まれたらしばらく無理だからって、開店してすぐ、美香子先生大きなお腹を抱えてわざわざ来てくださったの。ご主人がまだ0歳の唯ちゃんをおんぶしてね。あの頃は大先生もまだお元気で。懐かしいわ~」

    瑠「おお先生?」

    僕「僕のおばあちゃん。母の母。速川クリニックの創業者だよ」

    瑠「え、初耳」

    僕「だね。わざと黙ってた訳じゃないけど」

    瑠「いいよ。彼氏とはいえ、ヒトの家の話を根掘り葉掘りはしないし。教えてくれてありがとう」

    僕「こちらこそありがとう。1962年開業だから、今年で60年なんだ」

    瑠「すごく老舗じゃない!あれ、でもおばあさまって?」

    僕「亡くなって10年かな。祖父はもっと前に既に」

    瑠「そっか…」

    僕「母は、祖母が40歳の時にようやく生まれた一粒種の娘」

    瑠「そうなんだ。今日は初めて知る事がいっぱいだよ」

    僕「祖父は普通にサラリーマンだった。祖母は30歳の時に開院して、バリバリ働き、でも子宝には恵まれず。諦めかけた頃母を出産。そして母が一人前の医師になったのを見届けて旅立った、って感じの歴史です」

    黙って頷く瑠奈。

    僕「看護師のお二人、エリさんと芳江さんて方がみえるんだけど、在籍は母より古いんだ。祖母がメインの頃から来ていただいてる」

    瑠「ベテラン中のベテランさんだね」

    僕「いつか紹介するよ。背が高い方がエリさんで小柄な方が芳江さん」

    瑠奈の囁き「あの日応対してくださったのは、芳江さんの方なんだ」

    僕「え?何?」

    瑠「ううん、なんにも」

    僕「実は祖母の部屋、一階にあったんだ。今はリビングと繋げちゃったけど。一部、壁が不自然だと思わない?」

    瑠「え?…あ、ソファーの後ろの壁?確かに飛び出てる感じはあるね」

    僕「そう。以前はその端から窓に向かってもう一枚壁があってさ。仕切ると6畳の部屋だったんだよ。名残、よく見るとわかるよ」

    瑠「ふーん。帰ったら探してみるね」

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    続きます。

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    続現代Days尊の進む道72~3月20日日曜6時

    おっさんではないので、酒の前に甘い物はちょっと、とは言わない。
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    覚「明日の朝飯用にピザトーストを作っておいた。あとトースターで焼くだけにしてある」

    僕「はい。ありがとう」

    覚「小さめの食パンなんで、二枚で一人前な。チルド室に入れておくから」

    僕「わかった」

    お泊まりが悟られないかヒヤヒヤしてるから、父がニヤニヤしてるように見えて仕方がない。気持ちの高ぶりをおさえて、何とかクールにやり過ごしたつもり。

    美香子「行ってきます」

    覚「留守番頼んだぞ」

    僕「任せて。行ってらっしゃい」

    早朝に家を出た両親。

    僕「さてと」

    いい天気に恵まれた。濃密な二日間を予想させる。瑠奈は昼近くに駅で拾う予定なので、それまでは身を入れて作業に打ち込むべく実験室に籠る。

    僕「やっぱり、望の瞬間を中心に考えるべきだな」

    3号。5人以上乗せるという条件はスムーズにクリアできた。帰還を一か月待たずにすぐとなると、やはり満月の日一日の内に移動させたい。なんだけど、

    僕「0時00分から23時59分の枠で動かすより、そっちの前後12時間の方が安全そう」

    説明のために例を出します。今月は18日が満月で、一番月が丸く見える望の時刻は16時18分でした。その時刻を中心に、永禄との行き来を18日の朝4時18分から19日の4時18分の間にした方がベターという意味です。来月だと満月は17日で望の時刻は3時55分なので、16日の15時55分から17日の15時55分の間に動く形になります。正午ぴったりに望にならない限り、必ず日をまたぐ訳です。

    僕「この線で進めよう」

    動ける範囲を最大24時間にしたい、でも安全第一だからより良い方法を選ばないと。あ、もうこんな時間!慌てて部屋に戻り、着替えて家を出た。

    瑠奈「お待たせー」

    僕「いえいえ。今日はさすがにキャリーバッグじゃないか」

    瑠「うん。友達の家仕様だから逆に大袈裟にはできないよ。ねぇ、お昼何食べたい?」

    昼ごはん後はショッピングだ。何を買いに行くかというと、

    瑠「いかにも寝間着って物と、部屋着にもできる物とどっちがいい?」

    僕「どうしよう」

    二人きりで過ごす夜にはお揃いのパジャマでしょ、とのコメント。

    僕「ジャージっぽい方かな」

    瑠「だったらー。こんなのどう?」

    僕「へー、着やすそう。ってさっきから、僕の意見ばかり聞いてるじゃない」

    瑠「一緒に寛ぐ時間に着るんだもん。旦那様には聞くよぉ」

    僕「だ、だっ、だんな?!」

    瑠「赤くなってる。かわいいー」

    またしても翻弄されながら買い物終了。

    瑠「この後どうする?」

    僕「あの…」

    瑠「なに?」

    僕「布団って、3時くらいには取り込まないといけないんだよね?」

    瑠「うん。そうだね。干してきたんだ?」

    僕「瑠奈が来るしと思って…」

    瑠「そうなの!わざわざ?ふふっ」

    僕「な、何」

    瑠「たけるんったら、肉食なんだから」

    僕「どうしてそうなる」

    瑠「だったらもう帰ろっか。おウチでゆっくりおやつにしない?ケーキ買おうよ」

    僕「わかりました。ごめんね、急がせて」

    程なく帰宅。まずはふかふかの布団を取り込んで、二人でシーツをかけた。こんな共同作業、照れる。そのまま使ってしまいそうな衝動を何とか抑え、リビングに戻った。

    瑠「お皿とフォーク出していい?」

    僕「お願いします。飲み物さ、アイスコーヒーならすぐ出るんだけど。昨夜淹れた残りを冷やしてあって」

    瑠「それでいいよ。早く飲まないと風味が落ちちゃうでしょ」

    冷蔵庫からコーヒーのボトルを出した。あ、そういえば明日の朝ごはんが入ってるって言ってたな。チルド室見てみるか…え、えーっ!

    僕「うーわ…」

    瑠「たけるん?ダメだよ、冷蔵庫開けたままにしてちゃ」

    僕「…」

    瑠「だからー」

    茫然とする僕の代わりに、ドアを閉めてくれた瑠奈。

    瑠「どしたの」

    僕「あの、どうやら…バレてたみたい」

    瑠「バレてた?」

    僕「見透かされてたというか。見ればわかるよ」

    チルド室から皿を二皿出す。

    瑠「あ」

    一皿にピザトーストが二枚のせてあり、それぞれラップがかけられていた。そして、

    瑠「楽しい週末を、ってフセンが付いてる」

    僕「でしょう。確か、二枚で一人前って言ってて。で二皿だから二人前」

    瑠「明日の朝と昼の、たけるん一人分じゃないの?」

    僕「朝飯用とも言ってたんだよ」

    瑠「ふーん」

    僕「そうか、父親がニヤニヤしてるように見えたのは、本当にニヤついてたんだ。やられた~」

    瑠「そろそろケーキ食べよっか」

    僕「え?この話スルーなの?!」

    瑠「ホントにお泊まりなんだもん。気付いてみえたとしても、頭ごなしにダメだと言われてないでしょ。許してくださってるなら、コソコソしなくていいんだってわかったし」

    僕「あ、いや、これも罠だ、罠なんだきっと。からかわれてるだけかもしれない」

    瑠「くよくよしないの。ご両親は、たけるんに楽しい週末を過ごして欲しいと願ってるよ」

    僕「…そうだね」

    瑠「満喫しよっ。ね。いただきまーす」

    僕「うん、わかった、そうするよ。ではいただきます」

    真意は謎だけど、謎のままでいいや。

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    続きます。

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