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    ~手紙~

      ピンポーン

    玄関のチャイムが鳴った。

     “ん?誰だ?”

    妻の美香子は、診察中。
    娘の唯は自室に籠っている。
    息子の尊が帰宅するには、まだ早い。
    おまけに、チャイムは鳴らさない。

    覚は、手に付いた粉をはらうと、
    インターフォンの画面をのぞき込む。
    立っていたのは、郵便局の配達員だ、

     「書留でーす。」

    「あ、どうも。今、開けます、」

    配達員は、覚のエプロン姿に、
    一瞬、目を見開いたが、
    手早く、控えにサインを貰うと、
    口元に、含み笑いを浮かべたまま、
    立ち去った。

    妻の祖父の身の廻りの世話を
    引き受けた頃、
    玄関先に出る時には、
    必ずエプロンを外していた。
    だが、その祖父に痴呆の症状が
    現れ始めてからは、
    外す手間すら惜しくなった。
    祖父が亡くなってずいぶん経つが、
    エプロンはすっかり定着して、
    今でもほぼ1日中、着けたままだ。

    受け取った大きな封筒を手に、
    キッチンに戻りながら、
    心の中でつぶやく。

    “今どき、専業主夫なんか、
    珍しくもなかろうに。“

    そう。
    バブルとITバブル、
    二つの泡がはじけ、
    吹き荒れたのはリストラの嵐。

    病み上がりの自分にとって、
    要介護の祖父は、
    救いの神だったとも言える。

    “震災後の数年は、新卒採用すら
    無かったしな。“

    ため息つきつつ、
    食卓の椅子に腰を下ろし、
    覚は封筒を裏返した。

    そこに書かれていたのは、
    大学時代の恩師の名だ。
    留学、就職、転職。
    人生の大きな節目の相談役は、
    いつも、この教授だった。
    懐かしさがこみ上げて来る。
    年賀状だけのやり取りになって、
    何年経つだろう。

    封筒の角をハサミで切ると、
    ペーパーナイフを差し込み、
    静かに滑らせる。
    厚みのある茶色の角封筒の中には、
    さらに封書が二つ入っていた。
    しかも、一通の表書きは
    アルファベットだ。

     “ん?
      大学の研究室宛てだが。“

    覚は恩師の名前が書かれている方の
    白い封筒を手に取る。
    手紙は、思いがけず長文だった。
    今回、この郵便が自分に届くまでの
    いきさつが書かれていたのだが、
    結びの一文に、胸が熱くなった。

    ・・・同封した封書が、
       もっと早く届いていたら、
       君を大学に呼び戻して
       いただろう。・・・

    覚は、もう一つの封筒を、
    じっと見つめる。

    それは、一度開封され、
    改めて閉じられていた。
    震える指先で、そっと開ける。

    中には、いくつかの論文のコピーと
    その考察の他、資料の目録などが
    入っていた。
    綺麗にタイピングされている。
    添えられたカードは、流れた年月を
    物語るように、変色していたが、
    手書きのメッセージとサインは、
    読み取れた。

    ・・・親愛なる覚へ
        これからの君と、
        君の仲間や後輩たちに、
        これが少しでも役立つなら、
        嬉しい。
            鬼塚 承次より・・・

    差出人は、
    エリソン・ショージ・オニヅカ氏。
    高名な日系三世の宇宙飛行士は、
    覚へ和名でメッセージを残したのだ。

    カードの日付をみて、驚いた。
    それは、オニズカ氏の命日の10日前。

    その頃、覚は留学先のアメリカで、
    帰国準備に追われていた。
    日本での就職先が決まり、
    一旦、その会社の研修所に
    入る事になっていた。
    研修後、配属が正式に決まってから、
    社宅に移ることになっていたが、
    住所は、まだ知らされていなかった。

    スペースシャトルへの
    二度目の搭乗前、オニヅカ氏は
    電話をかけてきてくれたのだが、
    その時、覚は帰国後の住所を
    伝えられなかったのだ。

    駆け付けた打ち上げ現場。
    瞬きもせずにロケットを追う。
    その視線の先で起きた大爆発。

    覚の脳裏を鋭い閃光が走る。
    突然のフラッシュバックに、
    ぐらりと体が傾いた。
    固く目をつぶった覚の耳に、
    オニズカさんの声がよみがえる。

     「Satoru!」

    巻き舌気味に“る”を発音するので、
    遠くから呼ばれると、
    「さとー!」に聞こえた。

    差し出されなかった覚宛ての封書は、
    事故後、他の遺品とともに、
    遺族に渡された。
    そして最近になって、
    たまたま発見され、
    覚の母校宛てに送付されたのだ。

    コロラド大学留学中に一度、
    夕食に招待された事があったが、
    それを、オニズカ氏の娘さんが、
    覚えていてくれたらしい。
    もっとも、覚えていたのは、
    お土産に持参した、
    キャンパスグッズの猫のぬいぐるみ
    の方だったかもしれない。
    ぬいぐるみのチャームには、
    日本の母校の名が刻印されていた。

    恩師は、現役を退いた今でも、
    名誉教授として職員名簿に
    登録されている。
    今日、こうして覚のもとに
    大切な人からの贈り物が届いたのは、
    大学の事務長が、直ぐに恩師に連絡
    してくれたおかげでもあった。

    しばらくの間、
    覚は硬直したように座っていたが、
    やがて、腕をさすりながら
    立ち上がり、夕食の準備を再開した。
    そろそろ、尊が帰宅する時刻だった。

      ~~~~~~~~~~~

       「なんか、これ、
        いつもより、分厚くない?」

    レンコンのはさみ揚げを
    頬ばりながら、尊が言う。

     「食べ応えがあって良いじゃない。
      ねえ、唯?」

    妙に明るい声で、
    妻の美香子が娘に向かって言う。
    戦国から戻って以来、
    ずっと部屋に引きこもっていた唯が、
    やっと今夜、食卓に姿をみせたのだ。

    「すまん。
     今日は、仕込みの途中で
     ちょっとな。」

    覚の言葉が途切れる。
    美香子がすかさず言葉をつなぐ。

     「玉手箱が届いたのよ。
      竜宮城から。
      お父さんに。」

    覚の目が、一瞬、遠くなる。

       「で、それをこれから
        開けるってわけ?」

     「ううん、
      もうとっくに開けたって。」

       「でも、どこも変わって
        ないじゃん。
        いつものまんま。」

     「確かに、見た目はね。  
      でも、心は、今、大学生。
      ね?お父さん。」

    「え?ああ。
     まあ、そんなところだ。」

      「玉手箱って、
       開けるとおじいさんに
       なるはずだよね?」

    初めて唯が口を開いた。
    美香子が覚に目配せをする。

    「そうだな。
     お父さんが貰ったのは、
     逆玉だ。
     若返るんだよ。」

      「逆玉って、意味違うし。
       おまけに古いし。」

    覚が笑う。
    そして、じっと娘を見つめ、
    言葉を続けた。

    「なあ、唯。
     実はお父さんも経験がある。
     大切な人との、
     思いもしなかった
     突然の別れをね。」

    唯は黙って父を見つめ返す。
    覚は小さく頷くと、語り始めた。
    憧れの人との大切な思い出と、
    胸に抱いていた宇宙への夢を。

      「辛かったね、お父さん。」

    「辛いって言うより、
     呆然としてた。
     何も手につかなくて。
     今のお前みたいに。」

      「今の、私。」

    「父さんはお前が羨ましいよ。
     大切な人からの手紙を
     その手で受け取れたんだから。」

      「そうだけど。でも。」

    「でも?」

      「貰った時は嬉しかった。
       さよならなんて、
       思ってなかったから。
       今は、読むのが怖い。
       というか、読みたくない。
       読んだら、
       認めなきゃならないし。
       もう、会えないって。」

     「と言う事は、まだ
      読んでないの?」

    大きなはさみ揚げに
    食らいついていた尊が、
    そこで一言漏らした。

       「と言うか、
        読めないんじゃない?」

    覚と美香子が口をそろえる。

    「読めない?」
     「読めないの?」

    唯はうなだれながら頷く。
    そして、上目使いのまま
    両親の反応を窺う。

    「ええー!?」
     「ありゃま!!」

    唯は、持っていた箸を置き、
    肩を落として二階の自室に戻った。
    それを見送り、三人は額を寄せ合う。

     「もともと、足が速いのだけが
      取柄なんだし。」

    「海外駐在したって、
     語学力が上がる保証は無い。」

       「数か月、戦国にいたからって、
        読み書きできるように
        なるとは、」

    「限らんな。」

    はああああ・・・。

    揃ってついたのは、
    大きなため息だ。

    「でも、このままじゃ、」

     「若君の気持ちが、」

       「まあったく、」

    「伝わらん!」
     「伝わらない!」
       「分かんない!」

    “ん???
    尊、そこは合わせようか。“

    尊への一言をぐっと飲みこみ、
    覚が話の舵を取る。

    「まあ、唯ばかりは責められない。
     我々だって、読めないだろうし。
     でも、若君の手紙を
     そのままにするのも、良くない。
     唯にとっても、
     若君にとっても。
     で、どうしたらいいと思う?」

     「唯の学校の、歴史の先生に、
      相談したら?
      ええっと、そう。木村先生。」

       「でも、手紙には、
        お姉ちゃんや若君の
        名前も書いてあるはず。
        それを、今見せるのは、
        ちょっと。」

     「コピーして、
      そこだけ消すとか?」

    「出所をきかれたらどうする?
     何しろ、郷土史の研究家だ。
     下手なごまかしは通用しない。」

     「じゃあ、古典の先生は?」

    「唯の学校の先生は、
     やめとこう。」

     「そうねえ。」

    両親の視線がなぜか自分に向かう。
    二人に見つめられて、尊は焦った。

        “え?これって、いつもの
         丸投げパターン?“

    尊は、めずらしく強い口調で言う、

       「放っとけば?お姉ちゃん、
        読みたくないって
        言ってるし!」

    覚は腕組みをして、目を瞑る。
    しばらくして、ゆっくりと
    目を開けると、こう言った。

    「なあ、尊。
     若君の手紙の解読は、
     お前の為にも
     なるんじゃないか?」

       「え?僕の?」

    「そう。
     お前も、いつか発表したいだろ?
     タイムマシーンを開発した事。」

       「うん。」

    「それには、開発した事実を
     証明する必要がある。」

       「そうだよ。
        お姉ちゃんが
        生きた証さ。」

    「でも、お前たちは姉と弟だ。
     信じて貰えると思うか?」

       「じゃあ、
        芳江さんたちにも頼む。
        若君が戦国から来た事、
        証言してって。」

    「その事なんだが、
     芳江さんたちにとって、若君は、
     身元不明の患者さんなんだ。」

     「怪我のショックで、自分を
      戦国武将だと
      思い込んでるって
      言ってあるの。」

       「それで、“若君”にしたの?
        病室の名札。」

     「そう。
      唯の走り書きが“わかぎみ”
      だった事もあるけど。」

       「でも、証拠品がある。
        矢じりと若君の着物。
        そうだ、DNA鑑定は?
        探せば、家の中に
        髪の毛の一本位、
        残ってるかも。」

    「矢じりと着物は、若君に
     持たせた。
     命を狙われた証拠品だからな。」

     「それに、DNA鑑定は、
      比較するものが必要でしょ?
      若君のお骨が発掘されない限り
      まず無理。」

    「しかも、保存状態が良くないと
     採取できない。」

     「もう、分かったでしょ?
      若君の手紙の方が、
      客観的な物証になる可能性が
      高いのよ。」

    「紙や墨の成分を分析すれば、
     年代も判明するはずだし。
     それに、今後、
     羽木家の資料が発見されれば、
     若君の筆跡や、
     花押が本物だって
     証明されるかもしれない。」

       「でも、古文の解読なんて、
        僕の研究の対象外すぎる。」

    「なあ、こうは考えられないか?
     手紙は、タイムマシーン
     だって。」

       「え?」

    覚はオニズカ氏の手書きのカードを、
    尊に差し出す。

    「父さんは、これを読むと
     あの頃に戻る。
     忘れていた記憶も蘇る。
     どうだ?
     やってみないか?
     心のタイムマシーンの開発。」

      ~~~~~~~~~~~

    数日後の日曜日、遅めの朝。
    速川家のキッチンには
    甘い香りが漂っている。

    その香りに誘われて、
    尊がやってきた。

    テーブルの上にはパンケーキの
    皿が四枚並んでいる。
    添えられているのは、
    生クリームとパイナップルと
    マンゴー、そしてミントの葉。

    「仕上げはナッツ&
     チョコソースだ。」

    覚は鼻歌交じりに言うと、
    砕いたマカダミアナッツを、
    パラリと振りかけた。
    また部屋に籠ってしまった唯の為に
    皿の1枚を盆に移す。
    運びかけた所へ、唯が姿を見せた。

    「おお?おっはー!」

    昔、子供たちに大人気だった、
    “慎吾ママ”のおはようの挨拶が、
    覚の口から突いて出た。
    今思えば、“慎吾ママ”が
    数年後のメイドブームの
    火つけ役だったかもしれない。
    いかん、話が逸れた。

      「私も・・・食べて良い?」

    「ああ、当たり前だろ?
     さあさあ、座って。」

    覚はいそいそと唯の席に皿を戻す。

    4人がテーブルに着いた所で、
    美香子が口火を切った。

     「今日は、お父さんが、
      ビッグニュースを
      お伝えします。」

    覚は、軽く咳払いをする。

    「実はさ。
     ちょっと気の早い話なんだが、
     今度の新年のカウントダウンは、
     ハワイでしたいと思う。」

      「え?ハワイ?」

    目を丸くしている唯に、
    尊が冷めた声で言う。

       「お姉ちゃん。
        真に受けない方が良いよ。
        いつものおやじギャグに
        決まってる。
        で、どっちなの?
        鳥取の羽合温泉?
        それとも、
        福島の常磐ハワイアン?」

     「あらら~。
      尊はよっぽど温泉に
      行きたいのね。
      でも、残念でした。
      今回は、ほんとのハワイなの。
      太平洋の常夏の島。」

        「え?マジで?」

    「マジだ。」

        「どうして急に?」

    「いや、前から考えてはいたんだ。
     いつか必ずって。
     実は、この前話した
     オニズカさんは、ハワイ出身でね。
     ご実家は、コーヒー農園なんだ。」

     「お父さんの大好きな、
      コナ・コーヒーの。」

    「そう。
     オニズカさんが
     淹れてくれたコーヒーの味は、
     一生忘れない。
     ブルーマウンテンや、
     キリマンジャロにも劣らない
     あの香りと風味。」

      “Satoru、ミルクを入れると、
      味が変わるよ。
      コナは一杯で二度美味しい。“

    オニズカさんは、そう言って笑った。
    1回目のシャトル搭乗の際には、
    搭乗員にも、
    ふるまっていたらしい。

       「へええ、そのコーヒー、
        宇宙にまで行ったんだ。」

    「父さんの学生時代には、
     なかなか手に入らない
     貴重品だった。」

    覚の目が輝いている。
    美香子はそんな覚を優しく見つめる。
    妻の微笑みを見て、覚が続けた。

    「それに、母さんとの新婚旅行も
     まだだしな。」

       「え?そうなの?」

    「お前たちも、もうすぐ受験だ。
     そしたら、家族旅行どころじゃ
     なくなるだろ?」

      「だから、今のうちに、
       どう?」

    唯と尊が目を合わせる。
    二人の首が、コクンと縦に動いた。

    「よし、決まりだな。
     唯、ホノルルには
     大食いチャレンジのできる店が
     あるらしいぞ。
     巨大パンケーキの。」

      「それで、今朝はこれ?」

    唯がテーブルの上の皿を指さす。
     
    「そ。今から練習だ!
     さあ、食べよう。」

     「ねえ、お父さん。
      私、会いたい人がいるの。
      ハワイの医療センターの
      ドクター。
      いわゆる、“時差ボケ”に
      ついての第一人者なんだけど。」

    覚が、呆れた声を出す。

    「おいおい、
     “新婚旅行”でも仕事かい?
     というか、何で“時差ボケ”?」

     「ちょっとね。
      久しぶりに論文書いて
      みようかと思って。
      新しいテーマで。
      ケーススタディも出来るしね。
      しかも、被験者は4人。
      これを逃す手はないでしょ。」

    「はあ?」
       「え、私たち、実験台?」
        「僕、実験台より、
         天文台のほうが良い。」

    “尊。それ、ギャグのつもりか?”

    覚は、またしても、言葉を飲み込む。

    こうして、久しぶりに早川家4人の
    ちょっとトロピカルな
    ブランチタイムが、
    和やかに過ぎて行った。

     ~~~~~~~~~~~

      「ありがとう、尊。」

    自室に向かう尊に、
    唯が二階の廊下で声をかける。

       「え?」

      「差し入れ。おとといの。」

       「ああ、あれ。
        悪かったなって思って。
        僕のよけいな一言で、
        食欲無くさせて。」

      「ん。でもホントの事だし。」

    両親から若君の手紙の解読を
    迫られたあの夜、
    尊はもやもやした気分を晴らそうと、
    深夜のコンビニに出かけた。
    自分用の夜食を買うつもりが、
    気が付けば、姉の好物の
    チョコボールを手にしていた。
    そして家に戻り、レジ袋ごと
    ぶら下げたのだ。
    唯の部屋のドアノブに。

    背を向けた弟を、唯が引き留める。

      「頼みがあるんだけど。」

       「何?」

      「読みたいの。
       若君の手紙。
       手伝ってくれない」

       「どうしたの?急に。」

      「やっぱり、このままじゃ、
       いけないと思って。」

    尊は、姉に背を向けて、
    しばらく考え込んでいたが、
    やがて振り返ると、こう言った。

       「わかった。
        じゃあ、見せて。
        若君の手紙。」

    尊は唯に続いて部屋に入る。
    一瞬、ベッドの上に寝転んで、
    漫画を眺めている若君が、
    見えたような気がした。

    唯は枕の下に手を入れると、
    手紙を取り出し、尊に差し出す。

     “唯殿”

    宛名の“殿”の払いの部分が、
    うっすらと滲んでいた。
    唯の涙の跡だ。

       「お姉ちゃんが、
        開けた方が良い。」

    唯はしばらく、手紙の宛名の
    文字を見つめていた。
    書かれているのは、確かに
    自分の名前だ。
    何度見直しただろう。
    何度思っただろう。

    “別れの手紙が
     自分宛のはずが無い。“

    指先が震える。
    そっと裏返す。
    そして、ゆっくりと手紙を開いた。

    尊は、見る見る内に姉の瞳に
    涙が溢れるのを見て取ると、
    慌てて、手紙に手を伸ばした。

       「貸して。」

    手紙を受け取り、
    丁寧に広げて眺める。
    やはり、意味は分からない。
    でも、流れるような文字は
    とても綺麗だった。

       「スキャンしてくる。」

    尊は、自室に戻ると、
    手紙をセットし、スキャナーで
    パソコンに取り込んだ。

    姉の部屋に戻り、手紙を渡す。
    姉の目は真っ赤だった。
    必死で泣くのを堪えている。

       「とにかく、永禄時代の
        古文書を検索してみるよ。
        博物館の公開資料とか。
        似た書体を探せば、
        なんとかなるさ。」

      「ミサなら、読めるかも。」

       「ミサ?」

      「友達。
       尊も小さい頃、一緒に遊んだ。
       覚えてない?」

       「ああ、あの、保育園から
        ずっと一緒の?」

      「うん。ミサの叔母さんの家、
       書道教室なの。
       ミサも小学生の頃から
       習ってて、
       今では手伝ってる。
       小さい子のクラス。」

       「凄い!
        でも、何て言って頼む?
        聞かれるだろ?色々。」

      「正直に、話す。良い?」

       「信じて・・・貰えるかな。」

      「分かんない。
       でも、ミサなら、
       もしかして。」

       「じゃあ、相談しよう。
        家に来てもらって。」

      「うん。連絡してみる。」

    尊は、姉の心の急な変化に
    戸惑ったが、とにかく、
    協力する事にした。

    父親が言った、紙の年代測定は、
    確かに有効だろう。
    手紙文が解読できれば、
    紙の端をサンプルとして
    姉から貰えるかもしれない。

    尊は自室のパソコンに向かい、
    永禄文書の検索にかかった。

    実はあの夜。
    尊の差し入れの中には、
    “どん兵衛きつねうどん”も
    入っていた。
    それを見つけたとたん、
    唯のお腹が盛大に鳴り始めた。
    今にも、鰹出汁の良い匂いが
    漂ってきそうだ。

    唯はお腹を押さえながら
    キッチンに行き、
    ポットの湯の量を確かめる。
    カップうどん一杯なら、足りそうだ。
    湯を入れたどんカップを、
    そおっと部屋に運び、
    割り箸を握ったまま、手を合わせた。

    “ん?なんか、
    前にも同じ事あった気が。。。”

    そう思った瞬間、湯気の向こうに
    ピョコピョコ動く耳が見えた。

     「ゆいさん、お久しぶりです!」

      「ど、どんぎつね!
       どうしてここに?」

     「会いに来ました。
      お礼が言いたくて。」

      「お礼?何の?」

     「実は、源三郎さんが、
      約束してくれて。
      今は、待ってるんです。
      人間の娘として
      生まれ変わる日を。
      闇払いの修行をしながら。」

      「ちょ、ちょっと待って。
       ぜっんぜん、飲み込めない。」

     「え、熱すぎました?
      それとも、麺が太すぎたとか?」

      「違うってば。
       どんぎつねの話の方。」

     「あ、そっち。ですよね~。」

    それから、
    どんぎつねの話は、延々と続き、
    延々と麺も伸び続けた。
    カップの中の出汁は無くなり、
    膨れ上がった麺が今にも
    はみ出しそうだ。
    それを見たどんぎつねが
    慌てて言った。

     「あ、伸びますよ。
      早く食べないと。」

        “あのね。。。”

    唯は、呆れながら尋ねる。

      「で、吹っ切れたの?
       源さんの事。」

     「はい。きっぱり。
      こんな感じでお別れを。」
    https://www.youtube.com/watch?v=c3rUBNl6hrA

    “えー―――!
    極寒の雪原に置き去り?!
    怖い!怖すぎる!“

     「もし、本当に、
      生まれ変われたら、
      報告しますね。」

      「でも、どうやって?」

     「伏見稲荷の白狐に
      頼んでおきます。
      ゆいさんに伝えてって。」

    どんぎつねは輝く笑顔で
    唯に手を振ると、朝日の中に
    消えていった。

      “綺麗になったな、
      どんぎつね。
      それに、強くなった。”

    唯は素直にそう思った。

    朝日と笑顔は、力をくれる。
    唯は、若君の手紙を取り出すと、
    こうつぶやいた。

     「若君。
      このままじゃ駄目だよね。
      私。。。」

    そうして唯は、
    手紙を読む決心をしたのだ。
    窓から差し込む光が、
    手紙に反射して、唯の顔を
    優しく照らしていた。

       ~~~~~~~~~~

    窓ぎわの席に座り、
    携帯電話を取り出す。
    電話もメールも着信はない。
    待合せの時間は過ぎている。

    覚は、テーブルの上に
    携帯電話を置き、
    店の入口に目をやった。
    すると、扉に着いている
    小さめのカウベルが、
    コロン、コロリンと音を立てた。

    入ってきたのは、
    三歳位の女の子を連れた
    若い母親だ。
    予約していたバースデーケーキを
    受け取りに来たらしい。

    トシさんの奥さんが笑顔で迎える。
    ケーキを渡し、料金を受けとると、
    奥さんは、レジの横で揺れている
    風船を一つ取り、女の子に渡した。

    女の子は、恥ずかしそうに
    母親の後ろに隠れていたが、
    おずおずと手を伸ばす。
    トシさんの奥さんは、
    すかさず女の子の手首に
    風船の糸をくるりと巻き付けた。

     「ほら。こうすれば、
     飛ばないから。」

    女の子は、コクリと頷くと、
    笑顔を見せる。
    ドアの外に出てからも、
    何度も振り返り、手を振りながら、
    帰っていった。

     「可愛いわねえ。」

    トシさんの奥さんが
    銀色のトレーにコップを
    載せてやって来た。

     「ああ。あの頃が一番だな。
     手はかかるけど。」

    覚は、懐かしげな顔で答えた。
    子供達が小さかった頃、
    誕生日を祝うのは、
    この店と決まっていた。

    店主のトシさんが、裏メニューの
    焼きリンゴを作ってくれたり、
    奥さんが、コーンスープや
    ナポリタンを出してくれた。

      「昭和の味だよな~。」

    思わずこぼれた独り言に、
    奥さんが笑う。

     「今、作ってるから。
      かつての定番品。」

      「え?」

     「唯ちゃんが元気に
      なるならって。
      朝から妙に
      張り切ってるの。
      ウチの旦那。」

    奥さんが、ショーケースの
    内側に戻った頃、
    覚の席に面した窓が
    コンコンと叩かれた。

    振り向くと、
    窓ガラスの向こうで、
    尊が右手を上げている。

    手招きをする覚に、
    尊は一瞬、ためらう。
    覚は、早く来いと言うように、
    顎をしゃくった。

    間もなく、尊が入ってきた。

     「ああら、尊君。
     また、背が伸びたわね。」

    奥さんの明るい声が、店内に響く。
    その声を追うように、厨房から
    トシさんがやって来た。
    そして、生真面目な顔で言う。

    「久しぶりだったからさ。
     緊張したよ。」

    磨きこまれたバットの中には、
    動物型のケーキが
    ずらりと並んでいた。
    猫、犬、熊、パンダ、タヌキ・・・

      「おー。
       大人気だったよな。これ。
       唯は、特にこの
       スワンシューが
       お気に入りでさ。
       きっと大喜びする。
       ありがとう。トシさん。」

    「味見してみる?」

      「そうだな。コーヒーも頼むよ。
       尊は?」

       「あ、僕はアップルパイで。」

      ”あのな、尊。ここはだな。。“

    またしても、覚は言葉を飲み込む。

      「で、どうだった?」

    尊は、返事の代わりに右手の指を
    二本立てて見せた。

       「ミサさんの叔母さんは、
        とっても親切だった。
        余計な詮索はしないし、
        文章の意味だけ、きちんと
        説明してくれたよ。
        後は、家で。」

      「ああ、そうだな。」

    覚と尊は、ケーキとコーヒーを
    流し込むように平らげると、
    トシさんからケーキの大きな箱を
    受け取り、自宅へと急いだ。

    今日は午後から、唯の友達が家に
    来ることになっている。
    美紗が唯に会った事を学校で
    話したらしく、仲良しグループが
    全員で訪ねて来る事になったのだ。

       「これで、学校に行く気に
        なってくれれば良いね。
        お姉ちゃん。」

      「それ、お前が言うか?」

        「え?あ、ごめん。」

    覚は笑って、尊の背中をポンと叩く。

    不登校だった尊は、若君のおかげで
    通学できる様になった。
    こうして息子と肩を並べて
    歩くのは、本当に久しぶりだ。

      「尊。必ず行こうな。天文台。
       マウナケアの星空は、
       凄いらしいぞ。」

    “オニズカさんの記念碑もあるし。“

    振り仰いだ空には、
    うっすらと飛行機雲が残っていた。

      ~~~~~~~~~~~~

    実は、唯の幼馴染の美紗は、
    一人で4日前の水曜日に
    来てくれていた。

    唯を見るなり両腕を大きく広げて
    ぎゅっと抱きしめ、
    なかなか離さなかった。

    「ゆ~い!ヤッハロー♪」

      「ハロハロ~♪
       サンキュ。来てくれて。」

    その後、尊の実験室で話をした。
    美紗は、パソコンの画面を
    スクロールしながら、食い入る様に
    手紙を読んでいたが、やがて、
    こう言った。

    「ここと、ここ。
     あ、ここもコピーして。
     別ファイルに保存してね。
     漢字のとこ、叔母さんに確認して
     貰うから。
     意味も説明してって、
     頼んどく。
     言葉のニュアンスとか、
     きちんと知りたいでしょ?」

       「うん。」

    「早い方が良いとは思うけど、
     平日の夜は、
     大人のクラスがあるし、
     土曜日は、
     子供のクラスで手一杯。
     時間貰えるとすれば、
     日曜の午前中かな。」

      「信じて・・・くれるの?」

    探る様な唯と尊の視線に、
    美紗は半ば困り顔で言った。

    「うー――ん。
     ホント言うとね、
     無理っぽい。」

    唯と尊が、同時に下を向く。

    “やっぱり、無理か・・・”

    それを見た美紗は、こう続けた。

    「でもね。
     今の話が、唯の妄想だとしても、
     唯にとっては、
     “本当に起こった事”なんだよね?
     だったら、手伝う。」

    尊と唯が、同時に顔を上げた。
    唯が美紗にダイブする。

      「ありがとう~!!!
       ミサ!!」

    実験室を出て、
    家の前に止めたチャリにまたがり、
    美紗が振り返った。

    「唯に会った事、
     学校で話しても大丈夫?
     皆、心配してるし。
     もちろん、
     手紙の事は言わない。」

      「うん、いいよ。」

    「了解。じゃあね。」

      「あ、待って。送ってく。」

    言いながら、唯は自分の
    自転車めがけてダッシュする。
    二人を見送りながら、
    尊はしみじみ思った。

        “友達って良いな。”

    ふと、若君の横顔が胸をよぎる。
    尊にとっては、家族以外で初めて
    心を許せた人だ。
    出来ることなら、また会いたい。
    いつか、自分も永禄に・・・。

    こみ上げる想いを払うように、
    尊はぶんぶんと頭を振ると、
    実験室に戻り、パソコンを
    再起動させた。

      ~~~~~~~~~~~~

    そして、迎えた日曜の午後。
    速川家は、笑い声で溢れていた。
    懐かしの“動物ケーキ”の争奪戦で、
    ジャンケン大会が始まったらしい。

    「いいよな~。
     若い女の子の声って。
     こっちも元気になる。」

     「ああら、じゃあ、
      オバさんの声だと
      どうなるの?」

    美香子に睨まれ、覚は慌てた。

    「え?そ、それはだな。
     アレだ。」

    覚は救いを求める様に息子を見る。
    が、尊はスマホに夢中で気づかない。

     「アレって?」

    「お?
     お・お・お、落ち着く。
     特に君の声は、安心する。
     さすが、名医だ。」

     「うまく逃げたわね~。」

    「あはは。
     そうだ!
     ケーキだけじゃ、なんだから、
     タコ焼きでもするか?
     食べ盛りだろ。コギャルは。」

       「そこは、“JK”。
        コギャルは死語。」

    「死語?そうだな~。」

    珍しく、覚は尊への一言を
    飲み込まず、逆に軽く受け流すと、
    いそいそとスーパーに向かう。

    そして、夕方。
    帰りかけたJK達を引き留め、
    覚はリビングに案内した。
    部屋の真ん中に置かれた座卓には、
    B級グルメがずらりと並んでいる。
    リビングに大歓声が響く。

       「わお!」
         「すご~い!」
          「ヤダー。これ、
           見ちゃったら、
           帰れないよね~!」

    皆、携帯を取り出す。
    そして、セリフを合わせた様に
    話し出した。

        「あ、ママ?
         今夜、夕食いらない。
         唯ん家でゴチになる~♪」

    覚が、嬉しそうに声をかける。

    「さあさあ、遠慮なくどうぞ。
     今日のたこ焼きは、
     ちょっと仕掛けがあってね。」

        「え、なになに?」

    「味見するかい?」

    覚が差し出したたこ焼きを、
    美紗がパクリと口に入れた。

          「んんん?何これ?
           もしかして、
           モッツアレラ?!
           美味でござり
           まする~♪」

    美紗の声につられて、
    他のJKも次々に手を伸ばす。

           「あ、これ、エビ!」
            「私のは・・・
             チョコ
             ボール?!」
             「えっ?
              うっそー?
              ほんとに?」

    ぽん酢、タルタル、それに、
    ソースとケチャップを
    混ぜたオーロラ。
    用意した、ディップも色とりどりだ。

         「いいなあ~、唯は。
          こういうの、
          毎日食べられて。」
          「羨ましすぎ~。」
           「唯パパ、
            サイコー!」

    大絶賛を浴び、覚が照れる。
    赤くなった顔を見られない様に
    キッチンに戻り、
    覚は焼きそば用の
    キャベツを刻み始めた。

    JK達は、タコ焼きを口に運ぶ毎に
    携帯を向け、お互いを
    写メに収める。

    その夜のインスタグラムが
    速川家のB級グルメで溢れたのは、
    言うまでもなかった。

      ~~~~~~~~~~~~

    咄嗟に思いついて、
    用意したたこ焼きが、
    唯の友人たちに大ウケし、
    大満足の覚だったが、
    それ以上に嬉しかったのは、
    唯が見せた、穏やかな顔だ。

    尊の実験室で、永禄時代の
    小袖姿を見た時には、
    正直、戸惑った。

       「かわいかろ?」

    “嬉しそうに言うこの子は、誰だ?
    確かに声は、娘の唯だが・・・。“

    覚は得体のしれない
    違和感を隠したまま、
    数日を過ごした。

    唯が戻った次の夜、
    寝返りを打った拍子に、
    美香子が目を覚まし、こう言った。

     「お父さん、
      眠れないんじゃない?」

    「そんなことは、ない。
     あのさ、、、」

     「なあに?」

    「いや、何でもない。」

    言いかけて、覚はやめた。
    自分でも説明のつかない感覚を
    上手く妻に伝えられるはずもない。

    覚は、自分が抱えていた違和感が、
    唯の表情の変化で、今夜、
    少し消えた気がした。

    友達に囲まれると、唯は
    確実に、元の唯に戻っていく。
    そう、自分の娘は、この唯だ。

    覚はたこ焼きのプレートを
    丁寧に洗う。
    多めに出した蛇口の水が、
    自分の心の迷いも、
    流して行く様な気がした。

     「お茶が入ったわよ~。」

    美香子が唯と尊を呼ぶ。
    いよいよ、これから、
    若君の手紙を“読む”のだ。

    “唯宛ての玉手箱が、
     唯をどんな姿に変えても、
     自分は唯の父親だ。“

    覚は、エプロンを締めなおす。
    そして、三人が待つダイニング
    テーブルに向かう。
    椅子に深く座り、
    深呼吸を一つすると、
    尊に言った。

    「尊、パソコン、起動させてくれ。」

    速川家の屋根の上で、
    小さな星が続けて二つ、
    きらりと流れて消えて行った。

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    返信
    久々に投稿させて頂きます♪

    昨夜の満月に力を借りて、
    投稿させていただきますね。

    夕月かかりて様
    連載途中に、すみません。
    お話の流れを止めてしまうのは申し訳なく、
    ずっと、タイミングを計っていたのですが、
    まだまだ続くとの事ですので、
    入らせて頂きますね。m(__)m

    ぷくぷく様
    大長編の投稿前にすみません。
    ご準備中かと存じます。
    タイミングが重なりましたら、
    お許し下され~。m(__)m

    皆さま
    漫画版では”若君の手紙”を
    読んでくれたのは、
    お隣の元大学教授だったかと。
    では、ドラマ版は?

    唯は
    ”にょんにょんした文字”を
    読み解けたのか?

    そんな疑問がきっかけで、
    書き始めました。

    お楽しみいただけましたら、
    幸いです。

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    返信
    四人の現代Days71~31日火曜10時、Xデー到来

    すぐに買っておいて、良かったね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    クリニックは今日から休み。全員で、外回りの大掃除中。唯とトヨは、枯れ葉を掃いて集めている。

    唯「ふんふーん」

    トヨ「ご機嫌ですね」

    唯「今日もイベント盛りだくさんだから、掃除してても楽しみでしかたないよ。遊園地ってさ、いっぱい乗り物あるんだよ!」

    ト「スワンボート、のような?」

    唯「もっと速く動くジェットコースターとか、もっとゆっくり動く観覧車とか」

    ト「まあ。初めて聞く名ばかりですね。心踊ります」

    唯「あー楽しみ。ん?」

    家の前に宅配業者の車が停まった。

    唯「あ、何か届いた。たーくんに知らせなきゃ!」

    慌てて若君に声をかけにいった唯。

    唯「ねぇたーくん、仕事来たっぽいよ」

    若君「ん?」

    草むしりをしていた若君が顔を上げる。

    若「おぉ、受け取らねば」

    急いで家の玄関に向かった若君。ハンコを押し、荷物を受け取ると、覚がすぐにやって来た。

    覚「忠清くん、受け取りありがとな」

    若「礼には及びませぬが、これは?」

    覚「おせち料理のお重だよ」

    若「料理?この中に?」

    ダンボールをキッチンに運ぶと、中のお重の蓋を開けた覚。

    覚「どうだい?」

    若「これは…絢爛豪華ですね」

    覚「正月用だから、あと一日我慢な」

    若「心得ました」

    また外に出た若君。すると、黒いロープのような物体が、駐車場を這い、表まで伸びているのに気付いた。

    若君 心の声(これは何じゃ、大蛇か?!)

    ロープの先をたどってみると、尊と源三郎が、見慣れない機械を持って何やら準備している。

    尊「あ、兄さん。呼びに行く前に来てくれたんだ」

    源三郎「間もなく、支度が出来ます」

    若「支度?」

    そこは、クリニックの看板の前だった。

    尊「夏にこの看板、兄さんが懸命に掃除してくれたじゃないですか。あの後すぐ、この高圧洗浄機を買ったんですよ」

    若「これで掃除を。地を這う蛇のような物は?」

    尊「屋外用延長コードです。コンセントがない所でも電気が使えるように」

    若「ほぅ」

    源「楽に掃除が出来るので、是非忠清様にと、お父さんが仰せられ」

    若「わしの為に?ならば始めから手伝うたのに」

    尊「いいんですよ。まだこの後、他の場所で使いますから」

    若「そうであったか。色々済まぬの」

    準備完了。

    尊「そうです、そうするとこのブラシの部分から熱い蒸気が出てきます。で、擦ると」

    若「湯をかけながら磨けるようなものだと。随分と首が長いのう」

    尊「脚立使わなくても、上まで届きますよね」

    若「ほほぅ。では、いざ」

    スイッチオン。シュー、と音がし始めた。

    源「暖が取れそうな勢いですな」

    尊「かなり熱いですからね、油断は禁物です」

    若「おぉ、ほぅ、これは楽じゃ」

    みるみる内に汚れが取れ、あっという間に看板はピカピカになった。

    若「新たな術を見たのう」

    尊「兄さんお疲れ様。この後、クリニックの入口のガラス扉をこれで磨くんで、兄さんは草むしりに戻ってもらってもいいですか?」

    若「わかった。ならばこのコード、をそこまで運ぼう」

    掃除は順調に進み、12時を回った頃に終了した。昼ごはん中。

    覚「みんなお疲れさん。これで昼寝もしてな」

    尊「昼寝まで予定に組み込まれてるの?」

    覚「カウントダウンイベントに、初詣。体力の温存は必要だ。特に僕が」

    美香子「私も。車運転するしね」

    尊「そういう事か。それは必須だね」

    若「いつも済みませぬ」

    美「いいのよ。お出かけは楽しいし」

    唯「夜遅くなるもんね。私も寝とくー」

    覚「で、7時には出発する予定だ。晩飯は現地でな」

    唯「わかったー」

    美「トヨちゃんと唯は、お出かけ前にお化粧してあげるわ」

    唯「わーい!お母さん、トヨにたっぷり時間かけてあげてね」

    美「そのつもりよ」

    ト「そんな、あまりお手を煩わせるようでは」

    覚「まぁ、いいじゃないか。盛り上がってきたな~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    それこそ色んな板で

    いつもの投稿の時間になりましたが、まずここで、昨日今日のむじなランドの盛り上がりについてお話させてください。

    まずは妄想あさイチ。月文字さん、喜んでいただき光栄です。朝ドラヒロインが9月中に出演されるのは当然予想される話なので、もっと早く出しておいても良かったよな、と少し反省しております。彼のテレビ出演復活のシナリオとしては、そんなに悪くないと思ったんですが。どこかで、なんとか、と願っております。

    この金土、あちらこちらで皆さんに私の名前をあげていただきまして、大変恐縮しております。

    二日に一度投稿している私ですが、ここ最近は全体的にすごく静かで、話題がなければこんな感じかな、ちょっと寂しいなと思っておりました。

    良かった、皆さんお元気だったわと一安心いたしました。結菜さん効果は、当たり前ですが絶大でした(^_^;)ゞ

    カマアイナ様。お墓の刀の絵ですが、私も他の方に解説していただいて理解を深めました。形や方角が、公式掲示板の話題に上がっていたかはわかりません。

    墓の形、五輪塔の墓石は上から、空・風・火・水・地を表しているそうです。調べていて勉強になりました。

    そして、現代Daysはまだまだ終わりません。今後のお話が意に添うかはわかりませんが、どうか、今を楽しんでください。

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    返信
    夕月かかりてさん

    いつも楽しい創作をありがとうございます。途中でお邪魔しないで、コメントは完結したらと思っていたのですが、あの若君のお墓の裏話には、本当にびっくりしました。お墓の方向すら注意した事のない、歴史無知で宗教無知ですが、その分析の鋭さ、信ぴょう性の高さに、な〜る程と一人納得してしまいました。
    今晩は久しぶりに早速DVDを見返してみます。お墓の模様などもまるで無頓着でした。 アシガールはどこまでいっても、深いんですね。
    いつか完結してしまうのは残念ですが、それまで毎回心待ちにして、楽しませて頂きます。

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    返信
    四人の現代Days70~30日10時、想像するに

    後程、一部解説します。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    墓の裏に刻まれた文字を見る源トヨ。

    源三郎「生害?」

    トヨ「え?誰が?同じ名の違う御方ですか?」

    尊「何なんだとは思いますよね。建てた側に、兄さんはこうなった、と刻まなければならない事情があったんじゃないかと」

    ト「この、脇に描かれているのは何かしら」

    源「これは…刀じゃないか?」

    尊「僕もそう思います。後で見解を話しますが、まずは日付」

    スマホを取り出し、画像を二人に見せる。

    尊「これは寺に残されていた資料です」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「永禄三年十一月、黒羽城ニテ生害ス。この頃、兄さんの身の上に起こっていたのは?」

    源「…相賀一成が娘との婚儀、ですか」

    尊「はい。相賀側ではない人物で立ち合ったのは、天野のじい、と高山宗熊の二人だったそうですが、兄さんは助けに行った姉と、その場からまんまと抜け出すも追い詰められ、色々あったけど櫓の上で二人一緒に消えた、と」

    ト「それで昨年末に、こちらの世にお二人で現れたんですね」

    尊「はい。兄さんの話では、じいも宗熊さんも、消えた様子は見ていません。婚儀の場から二人が逃げてすぐ、守り神が迎えに来たから大丈夫、とすぐに馬に飛び乗り、宗熊さんと共に城を後にした、とじいに聞いたそうです」

    源「そのまま留まれば、事の次第によっては命が危のうございました」

    尊「消えた時、櫓の下には相賀の者しか居なかった。で、相賀にとっては面目丸つぶれ」

    源「取り逃がしたのではない、目の前で腹を切ったから婿に出来なかった、としたかった」

    ト「なるほど」

    尊「この墓の形。永禄以降、長い間主流です」

    源「五輪塔ですね」

    尊「あの織田信長の墓と伝えられているのもこの形。もっとも、そう言われてる墓は一つじゃなくて、幾つもあるんですけどね。だから建てた時期の特定もちょっと難しい。で、誰が建てたんだという話で」

    源「相賀一成か、家臣か、でしょうか」

    ト「資料が昨年解読されたばかりですが、寺の住職が、とも考えられますが」

    尊「現代に残る資料には限界があるんですが、兄さん自身が、誰でもよいって気にしてないんです。だから、いつかわかればいいかな位にとどめようかと。ところでこの墓、ずっとここにあったと思います?」

    ト「え?誰かが移したんですか?」

    源「何ゆえそのように、お考えになられる?」

    尊「これはあくまでも僕の見解ですけどね。ここで二人に質問です」

    源&ト「はい」

    尊「この墓はどちらの方角を向いているでしょうか。手がかりは、太陽の位置と、あそこに見える寺の本堂です」

    遠くに、資料が見つかった寺が見える。

    ト「わかりました。えーと、おてんと様が今あそこにあって」

    源「寺があちらを向いている」

    尊「わかりましたよね、では答えをどうぞ」

    源「西に向いております」

    ト「はい、私も西だと思います」

    尊「正解です。お墓の向きって、これで合ってます?」

    源「向き?西を向く墓は珍しいですが、なくはないと思います。それに、この五輪塔は、どの側から手を合わせても構いませぬ」

    ト「四方が正面、とされております」

    尊「さすが。答えが出るのが早い。それは僕も調べて、理解しました。隣に居る小さいお地蔵さんは、二体とも西を向いててこれは一般的な向きですし。でも、二体って少なくないですか?普通六体じゃないですか?」

    源「六地蔵ではないかと?うーん」

    ト「それで、移し忘れがないかと仰る?」

    尊「昔話のかさじぞうでも、お地蔵さんは六体としたもので」

    ト「かさじぞう?」

    源「そのような言い伝えがあるのですか?」

    尊「あ、お二人にとっては、未来の話だったかも。すいません、聞かなかった事にしてください」

    ト「ふふっ、その昔話はまた詳しくお聞かせくださいね」

    尊「はい。位置については、兄さんも、どっちの説も頷けるって言ってました。で、最後この絵ですが」

    源「はい」

    ト「いよいよですね」

    尊「兄さんは、飛ぶ時に姉を抱き上げました。手にしていた刀ですが、その直前に、月にめがけて真上に放り投げたそうです」

    源「投げた。すると…」

    ト「いずれは落ちて参ります」

    尊「刃先を下にして落ちてくるとどうなりますか」

    源「刺さりますね。櫓は木で組んでありますゆえ」

    ト「ではこれは、残された者達が、消えてすぐ見た景色…」

    尊「だと思ってます。すごく目に焼き付きますよね」

    源「そうですか。良くわかりました。尊殿、お話いただきありがとうございました」

    ト「私、もう一つ気付いたわ」

    源「何をだ?」

    ト「尊様と木村先生の、忠清様の日記についてのやりとりを伺った時、なぜ木村先生は御月家…ひいては、羽木の誰かと考えたのか、羽木なら当然忠清様の名が真っ先に出るでしょうと思っていたんです」

    尊「理由がわかりましたか」

    ト「木村先生は、昨年この墓の存在を知った。その時、永禄三年十一月に生害とあったのを信じているので、永禄三年の終わりから始まる日記や、永禄四年に書かれた熱き文は、無事逃げのびた別の人物が書いたと思われたんですね」

    尊「ご名答です」

    公園を出た三人。

    尊「この後は、姉に目一杯、綺麗にしてもらってくださいね」

    ト「はい。楽しみです。この後も、明日も」

    尊「だ、そうです」

    源「はい」

    ト「…」

    ┅┅

    ここで、墓の方角について、私夕月の見解をお話します。

    ドラマSPでのお墓のシーン。2018年(平成30年)と字幕が出た時ですが、唯と木村先生の後方、竹やぶのすぐ上から太陽の光が射しています。その次、唯が墓の裏に回りしゃがんだ時、後ろに見える竹の影も左に伸びています。

    先生と落ち合ったのは、まず平日の夕方だろうと考えます。よって最初の画面は、東から西方向を映している。生害の文字は東側に書かれている、チラリと見える二つの石は、裏から見た小さなお地蔵様と考えました。

    お寺は、ほとんどが東向きに建てられているそうですね。唯達の後ろに見える鳥居は、さっきの見解でいくと南に向かって伸びているので、途中で90度曲げないといけませんが、周りの景色からすると表の参道ではありませんので、そこは目をつぶりました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    30日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days69~30日月曜9時、衝撃的!

    その反応は、やはり。
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    朝ごはん後、美香子は年内最後の仕事へ。6人でコーヒータイム中。

    覚「唯はまだ眠いのか」

    尊「まだじゃないよ。まただよ」

    ぽや~んとしている唯。

    覚「昨日久しぶりに働いたからか」

    唯「ん~。そりゃ昼間はあーだったけどさぁ」

    覚「何の話だ?」

    若君が一人、なぜか動揺している。

    覚「まあ、明日は盛り沢山だから、今日はダラダラしててもいいけどな」

    尊「ダラダラはいつもだけど」

    唯「うるさいなー。あ、思い出した。トヨ、手見せて」

    トヨ「はい?」

    唯「やっぱり爪、だいぶ割れてるね。ゆうべたーくんの言った通り」

    ト「え?」

    若君「手袋も着けず水仕事をしておった。そろそろ塗り直しが要るであろうと思い」

    ト「そのような。お気遣い、痛み入ります」

    唯「よしっ、じゃあ私がマニキュア塗り直してあげる」

    尊「さっきまで寝ぼけてたクセに。そんなすぐに細かい作業なんて大丈夫なの?ちゃんと出来ないなら、逆にトヨさんに失礼だよ?」

    唯「ちょっとヤバいか」

    ト「あの、唯様もお掃除頑張っていらっしゃいましたので、爪は似たような様子かと」

    唯「私?まぁピカピカではないけどさ」

    ト「先にお直しください」

    唯「えー。私がやるって言い出したのに、悪いよ」

    ト「いいんですよ。また忠清様がほどこされますよね?」

    若「あ?まぁそうじゃな」

    ト「どうぞ、仲睦まじくなさってください」

    尊「その様子を周りでじっと見てるってのも、ちょっと恥ずかしいけどね」

    ここで若君が、あ、という顔をした。

    若「そうじゃ、尊よ」

    尊「何?兄さん」

    若「待つ間、源三郎とトヨと三人で公園へ参るのは、いかがじゃ?」

    尊「あ、お散歩。いいですね、今日そんなに寒くないし。どうですか?源三郎さん、トヨさん」

    源三郎「はい!それは、是非とも」

    ト「ご一緒に。嬉しい、お願いいたします」

    若「尊、それでの」

    若君が部屋の隅へ尊を呼ぶと、小さく耳打ちした。

    尊「え、そこ、まだ行ってなかったんですか?」

    若「四人で参った折はまだ日も浅かったゆえ、城跡のみでとどめておいたのじゃ」

    尊「そうだったんですね」

    若「そこでその、尊の存念と申すか」

    尊「あ、僕の見解ですね。それも話していいんですか?」

    若「ほぼほぼ合うておると、わしは思うておる」

    尊「わかりました」

    席に戻った二人。

    尊「じゃ、出かけるとするか」

    唯「ちょうど良かった感じ?」

    尊「結果ね。まっ、お姉ちゃん達は、手に手を取ってイチャイチャしてて」

    唯「わかったー。わかったってのもヘンだな」

    若「尊、よろしく頼む」

    尊「お父さん、昼前には戻るよ」

    覚「了解」

    9時30分。家を出た尊と源トヨ。

    尊「なんか」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「明日、いい事があるみたいですね」

    源「え」

    ト「あの、どのようないい事なのでしょうか」

    尊「いい事は、いい事じゃないんですか?楽しみにしてますね」

    ト「どなたも、肝心な事は仰らないんですよね」

    尊「僕もよくは知らないんで」

    源「…」

    黒羽城公園に到着。遊具のない、奥の方へ入っていく尊。

    ト「尊様、どちらへ」

    源「この先は、竹やぶですが」

    周りが囲ってあるが、中央に石が積まれている場所に着いた。

    源「これは…墓、ですね」

    ト「どなたの?」

    尊「羽木九八郎忠清の墓です」

    源&ト「え、ええっ!!」

    状況が全く飲み込めていない源トヨ。話し始める尊。

    尊「僕の話の中には、推測の域を出ない部分があります。わかりにくい部分もあると思いますが、この墓について話して良いですか」

    源「お願い致します」

    ト「お聞かせくださいませ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    妄想「あさ〇チ」プレミアムトーク、9時から9時5分まで

    えー、お間違いなく。ここは創作倶楽部。

    想像したって、いいじゃない。問題作かもしれないけれど、ちょっとだけだから許してください。伏せ字多いし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    金曜日。テレビ放送中。ニュース明け、ゲストのアップからスタート。

    H多D吉「改めまして、今日のゲストは朝ドラちむどんどんヒロインの、K島Y菜さんです」

    K島「お願いします」

    S木アナ「9時台は、ちむどんどん以外での、ご活躍のお話をしたいんですが、まず、こちらのフリップをご覧ください」

    フリップが出された。

    S「弊社のドラマなど映像作品や、あとグッズ、チ〇ちゃんのぬいぐるみとか、を販売している〇HKスクエアが、ツイッターで先々月、好きな〇HKドラマを三つ呟いてくださいと募集しまして」

    H多H丸「ほう」

    S「こちら募集当日の順位なんですが、1位は正〇不動産」

    H「はー。Yピーはやっぱり人気ですね。私も、一人夜ドラ受けしてました」

    D「朝ドラ受けにとどまらず?」

    H「録画を観た後、こっそりと」

    S「聞きたかったです。2位はわげ〇ん、3位は女子的生〇で」

    H「りょーちんとボクテだ」

    D「それ朝ドラの時の役でしょう。視聴者を惑わせないでください。あと、ここで話を引っ張らない」

    K「あ、でも4位は、お母ちゃんですから」

    D「K島さん優しいですね。いいんですよ、お調子者のおじさんなんか庇わなくても」

    S「美女と男〇。観てましたー。で、5位は青天を〇けです」

    H「10位がカムカ〇。で、6位が二つある?隠れてますけど」

    S「はい、で、これをめくりますと」

    隠してあった部分が現れた。

    H「あぁなるほど。アシガールとスカーレット」

    D「主演なさった大人気ドラマと、三津、ですね」

    K「すごくありがたいです。嬉しい」

    S「それでですね、今回K島さんのプレミアムトークご出演にあたり、お一人、VTRでコメントを頂きました。両方のドラマに出演なさった方です」

    H「それは、もしや。まさかやー!」

    D「H丸さん、よくご本家の前で言えましたね」

    K「あはは」

    S「それでは、VTR、どうぞ!」

    画面が変わる。足元からカメラが徐々に上に移動し、はにかんだ笑顔の男性が映った。

    I藤「あさ〇チをご覧の皆様、おはようございます。H丸さんD吉さん、お久しぶりです。K島さん、長丁場、お疲れ様でした。I藤K太郎です」

    ┅┅┅┅

    順位については、報道で知りましたがそのまま使わせていただきました。

    ここから先はどうぞ、ご自身の御眼にてお見極めのほどを。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、現代Daysに戻ります。

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    四人の現代Days68~29日日曜12時、本領発揮

    昼間じゃなきゃいいのか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日は朝から家族総出で大掃除。前半戦が終わり、昼ごはん中。

    唯「半分以上終わった感じ?」

    食卓の隅に、掃除をする場所リストが置いてあり、上から順番に、済んだらチェックするようになっている。

    美香子「二階は終わってるし、一階は窓拭き済み、電灯のカサも済みと。こういう高い所は、身長がある子にやってもらうとホント助かるわ~。両方とも忠清くんよね?」

    若君「はい。全く苦ではありませんでした。どの薬も、一拭きでたちどころに汚れが取れましたゆえ」

    美「現代は、その辺も用途毎に揃ってて便利よね」

    若「それより、先程尊が、炊事場で首を突っ込み大変そうにしておりましたが」

    尊「あー、換気扇外してたんですよ。でも、浸け置きしておいたらみるみる油が浮き上がってきて、実験みたいで楽しかった。源三郎さんも、釘付けになってましたよね」

    源三郎「あまりの術に、感服いたしました」

    覚「壁は拭いた。あとはレンジ周りだけだが、一旦棚から出した調味料や調理器具を戻さないとな」

    唯「この表さ、お風呂とトイレはもう終わってるけど、あとリビング、廊下、玄関ときて、なんで最後が洗面所なの?風呂掃除のついででよくない?」

    覚「鏡は先でもいいが、洗面台は、掃除に使ったブラシや雑巾を洗った後、掃除した方が二度手間にならんからだ」

    唯「へー!考えてるぅ」

    トヨ「なるほど…」

    尊「理にかなってる」

    覚「さ、じゃあ後半戦、頑張ろう」

    ト「はいっ」

    トヨが手拭いで、ササッとほっかむりをした。

    美「さすが堂に入ってる」

    ト「お掃除、好きなんです」

    美「うん。目が輝いてるもの。では手分けしてスタート~」

    キッチンは覚と尊と源三郎。リビングは美香子と若君。唯とトヨは廊下で…

    ト「もっと固く絞る!」

    唯「えぇー」

    ト「なりません!そんなゆるゆるでは、雑巾ではなくただの濡れた布です!」

    美「ふふっ、どんどんトヨちゃんには絞って欲しいわ、唯を」

    若「ハハハ」

    掃除はどんどん進み、廊下がまず終了。

    美「そのまま玄関をお願いします」

    ト「わかりました」

    玄関で唯とトヨが靴を全部外に出していると、若君がやって来た。

    唯「そっち、もう終わったの?」

    若「あぁ。お母さんにこちらを手伝えとな」

    三人で玄関周りを掃いたり、棚を一つ一つ拭いたりしていたが、トヨが三和土のシミと格闘し始めた。

    唯「トヨ、あんまりやると手が荒れちゃうよ。ほら、ゴム手袋もう一つあるから使って」

    ト「いえ、素手の方がざらつきとかがわかりますので」

    若「…」

    ブラシや雑巾で、シミは跡形も無くなった。

    唯「すごーい!がんばったね!」

    ト「ふぅ。綺麗になりました。あ、お母さん」

    美香子が現れた。

    美「みんなありがとう。あのね、頑張ってるところ悪いけど、キッチンがさっき終わって、お父さん達が汗だくだったものだから、先に三人でお風呂に入ってもらったのよ」

    唯「いいよー。油ギトギトで大変そうだったもん。それよりココ見て!トヨががんばってくれたの!」

    美「まぁ!シミが取れてる!さすがトヨちゃんね。そんな心がけが良い子には、近々きっといい事があるわよ。ね、忠清くん」

    若「はい。働き者のトヨに、年内には」

    ト「年内、ですか」

    美「あとね、洗面所、鏡周りは掃除したから、あと洗面台を残すのみになってるからね」

    唯「そうなんだー」

    廊下の奥から声がする。

    覚「おーい、先にいただいたよー」

    美「あ、出たわね。じゃあ、後は私も手伝うから…唯、忠清くんとお風呂行ってらっしゃい」

    唯「え、トヨが先でいいよ」

    美「ちょうど全部靴が出てるから、私がちょっと入れ替えをしたいのよ。トヨちゃん、唯達が先でいいかしら?」

    ト「勿論です」

    美「はい、決まり。さっさと行く!」

    唯「え~、たーくんが昼間っから悪さしそうだし」

    ト「悪さ…」

    若「悪さとは何じゃ」

    唯「あ、入ってる時さ、遠慮なく洗面所に雑巾とか洗いに来てね」

    美「保険かけてるのかしら。ねぇ、忠清くん」

    若「ハ、ハハ」

    唯と若君が入浴中。トヨが、そっと洗面所のドアを開ける。

    トヨ 心の声(本当に入っていいのかしら?!お母さんも気にしなくていいと仰ったけれど)

    浴室の方を見ないようにして、掃除に使ったブラシや雑巾を洗い始めた。かすかに、話し声とお湯を流す音が聞こえてくる。

    ト 心(はぁ。一緒にお風呂か…羨ましいな)

    洗い終わり、洗面台も綺麗に拭き上げたトヨ。

    ト 心(永遠に、そんな時は来ないかもね)

    下を向き、ぼんやりしていると、浴室のドアが少しだけ開き、声がした。

    唯「トヨ~、ごめん、もう終わったかな。そろそろ出たいんだけど」

    ト「はっ!あっ、すみません!終わってます!すぐ出ます!」

    慌てて洗面所を出ていったトヨだった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    29日のお話は、ここまでです。

    次回ですが、現代Daysは一回お休みします。

    ご出演はもう一週か二週後だとふんで準備をしておりましたが、思ったより早かったので、一足お先に?「妄想あさ〇チ、少しだけ」をお送りします。

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    四人の現代Days67~28日13時、翼を広げて

    洋食をいただきながら、和の話。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トヨが話し出した。

    トヨ「その、初めて忠清様がこちらの世に来られた際、お一人で突然現れたんですよね」

    尊「そうなんです。お姉ちゃんが書き置きだけして。兄さんが、羽木の若君様だ、しかも大変な状態、としかわかりませんでした」

    唯「なんとか通じたでしょ」

    ト「随分と戸惑われたのでは?」

    美香子「んー、そうね。でも目の前に大怪我をした青年が居れば、まずは助けるのが第一で」

    覚「顛末は後で尊に聞いたけど、忠清くんが実直な人物というのはすぐわかったから」

    若君「その節は、感謝してもしきれませぬ」

    ト「エリさんや芳江さんも、かなり驚かれたのではないですか?その、450年前の人物と聞かされて、すぐに信じられましたか?」

    エリと芳江が顔を見合わせる。

    芳江「信じましたね」

    エリ「そうですね。先生が、この男性は若君だからと仰ってましたし」

    美「有無を言わさず、若君ってベッドネームに書いちゃったしね」

    ト「信頼されていらっしゃるからですね」

    芳「あと、戦国武士と言われて納得したところもありました」

    尊「どの辺がですか?」

    芳「若君が到着されて翌朝、先生に、清拭を頼まれまして」

    唯「せいしき、って?」

    美「体を拭く事」

    エ「まだその時は、お着物をお召しで」

    唯「飛んだ状態のままだったんだ」

    美「当日は処置だけしたから。あとはその道のプロに任せようと思って」

    芳「で、そのお着物やお体から…ね、エリさん」

    エ「えぇ。そこはかとなくいい香りがして」

    若「あぁ。和議と聞いておりましたので、普段より香を焚きしめておった筈です」

    芳「現代の男性ではまずない感じが」

    エ「納得でした」

    ト「そうだったのですね。お話いただきありがとうございました」

    唯「ちょっと待った」

    尊「なんだよ姉ちゃん」

    唯「拭いたのって、全身だよね」

    芳「はい、勿論」

    唯「すっぽんぽん?!」

    美「そりゃそうよ」

    唯「いやん」

    尊「粛々とお仕事されてるだけじゃない。前にも言ったでしょ、慣れてるって」

    若「ハハハ」

    覚「そろそろメイン料理出すよー」

    若「はっ、只今参ります」

    その後も話が弾み、デザートまでたどり着いた。

    美「お父さん、お疲れ様でした。忠清くんと源三郎くんも、お手伝いありがとう」

    若「いえ」

    源「こちらこそ勉強になりました」

    覚「初の試みだったが、やった感があったよ」

    唯「ねぇねぇ、まだ時間大丈夫なら、芳江さんに頼みたいコトがあるんだけど、いい?」

    芳「何でしょう?」

    唯が何かを持ってきた。

    ト「あ、前に買っていただいた」

    唯「そう、千代紙。例の連鶴、芳江さんがどうやって折ってるか見てみたくて。どうせなら柄入りので」

    芳「あら、お安い御用ですよ」

    渡された千代紙を半分に折り、ハサミで深く切り込みを入れた芳江。

    芳「エリさん、こちらの半分で鶴折ってくださらない?」

    エ「あら、共同作業?責任重大ですね。頑張ります」

    エリが一羽折った続きで芳江が折り始めた。

    唯「下に置いたりしないんだね」

    芳「そうですね、持ち上げたままというか」

    全員の視線が、芳江の手元に集中している。

    芳「そんな、見られてますとお恥ずかしい」

    唯「そうだよね。じゃあさ、みんなで鶴折ろうよ。一枚ずつあげる」

    美「あら、全部柄が違うのね。なら一枚ずつ配りましょ。トヨちゃんや源三郎くんも鶴、折れるの?」

    ト「はい」

    源三郎「千羽鶴、の手伝いはさせていただきましたので」

    美「永禄でも総動員してたのね」

    芳「はい、出来ました~」

    翼で繋がった二羽の連鶴完成。

    唯「ありがとー、芳江さんエリさん」

    そして、全部で9羽の折り鶴が出来上がった。

    尊「これ、どうする?」

    唯「飾っておこっか」

    テレビ台の上に並べられた。

    美「いいわね」

    尊「そうだね」

    覚「うん。エリさん芳江さん、お茶もう一杯いかがですか」

    エ「いただけますか?」

    芳「お願いします」

    冬の午後の柔らかな日差しが、食卓と鶴の翼に降り注いでいました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    28日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days66~28日土曜11時、満席でございます

    マダムの皆様をもてなします。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    忘年会パーティーの準備が進んでいる。

    尊「お父さん、これ、もしかして今日のメニュー?」

    作業台に手書きのメモを発見。

    覚「そうだ」

    尊「コース料理みたいだね」

    覚「実は、そうしようと思ってる」

    唯「なになに!一皿ずつ出てくる、アレ?」

    覚「そうだな」

    尊「全部で9人だよ?お父さん一人で、給仕もするの?」

    覚「ちょっと考えがあってな。…あ、もうこんな時間か。じゃあ支度するかー」

    唯「支度?今してるじゃない」

    覚「料理じゃない。身支度をな。忠清くん源三郎くん、そろそろ着替えるよ」

    若君「はい」

    源三郎「わかりました」

    覚「トヨちゃん、ちょっと席外すからさ、鍋の火加減だけ見ててもらえる?」

    トヨ「かしこまりました」

    唯「着替えって?」

    尊「何が始まる?」

    程なくして、二階から下りてきた三人。

    唯「やーん、なに!カッコいいっ」

    尊「ウェイターさん風?新型のコスプレになってる。でも良く似合ってますよ、兄さん、源三郎さん」

    若「そうか?」

    源「忝のう存じます」

    三人は、揃って白のワイシャツに、首には蝶ネクタイをしていた。若君の髪はいつものハーフアップではなく、源三郎のように襟足の辺りで一つに結ばれている。

    覚「下はジーパンだけどな。変身だ。いいだろ?」

    尊「こんな店員さんが居たら、レストランに女性が殺到しそうだね」

    唯「たーくんがモテちゃう、困るー」

    ト「お召しかえをされたのは、何かなさるためなのですか?」

    覚「僕が作った料理を二人が運ぶんだ」

    ト「え?私は何をお手伝いすれば」

    覚「料理が来るのを、席で待っててもらえばいい」

    ト「そのような!運んでいただくのを待つなど、私には分不相応でございます」

    覚「まあまあ。こちらでは男性が給仕するのはよく見る風景なんで。たまには、いいんじゃない?」

    ト「そうでございますか…」

    覚「さて、料理の続きをするか。あ、尊、仲間に入れてやれなくて悪かったな」

    尊「別にいいけど。兄さん達ほどカッコ良く着こなせそうにないし」

    唯「尊だとさー、七五三みたいになりそう」

    尊「言ったな。でも否めない」

    覚「深い意味はないんだ。蝶ネクタイが三つしかなくてなー」

    唯「そんな理由?!」

    尊「三つも持ってたんだ」

    テーブルセッティングも進んでいる。

    覚「それ、各席に敷いてくれ」

    唯「わー、かわいい!」

    尊「ランチョンマット?」

    覚「レストランみたいに白い布をドーンと全体にとも考えたんだが、こっちの方がカラフルだからさ」

    色々な柄のランチョンマットが食卓に並べられた。

    唯「テーブルが全部埋まったね」

    覚「いい眺めだ」

    13時。美香子達三人がクリニックを終え、リビングに入って来た。

    美香子「お待たせしました。あー、二人、いい感じね」

    エリ「本日は、お招きいただきありがとうございます」

    芳江「こちら、皆さんでどうぞ」

    覚「いやー、手土産なんかいいのに。さ、どうぞどうぞ」

    前菜に当たる皿が並んだところで、全員席についた。覚が立ち上がる。

    覚「う~ん、壮観だ。皆様、少し早いですが、一年間お疲れ様でした。ではグラスをお持ちください。お酒でなくてすいませんね。気分だけでもシャンパン風にしようと思って、炭酸水ですが」

    唯「これ、お水なんだ。へー」

    覚「それでは、乾杯!」

    全員「乾杯~!」

    キッチンからの覚の合図で、若君と源三郎が席を立ち、スープが運ばれていく。

    若「芳江さん、どうぞ」

    芳「あらら感激!ドレスとか着てくれば良かったかしら」

    源「どうぞ、エリさん」

    エ「ありがとうございます。本当そうですね。シェフの美味しい料理にハンサムなボーイさん達のいらっしゃる、素敵なレストランですもの」

    美「食べたり運んだり、ちょっと二人せわしいわよね。お父さんのアイデアは悪くないけど」

    若「構いませぬ。日頃の感謝も込めて運んでおりますゆえ。気になさらず、ゆるりと歓談を」

    芳江が、ニコニコしながら若君を見つめている。視線に気付く若君。

    若「芳江さん、いかがなされた?」

    芳「感慨深いです。ここまで、現代の生活に溶け込まれて」

    若「さほどではございませぬが」

    エ「そうですねぇ。思い出しますね。初めて若君にお会いした時の事を」

    ト「…あの」

    美「どしたの、トヨちゃん」

    ト「私、ずっと気になっていた事があるんですが、お尋ねしてもよろしいでしょうか」

    唯「いいよ、どんどんしゃべって。なに?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    今までの四人の現代Days、番号とあらすじ、44から65まで

    no.900の続きです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    44no.901、12/24、クリスマスプレゼント贈呈。実は貴重な紙

    45no.902、12/24、予算はOK。タイツ選びで大騒ぎ

    46no.903、12/24、アクセサリーも靴も決まりようやく出発

    47no.904、12/24、握るのは刀でなく手。パンケーキリベンジ成功

    48no.905、12/24、歩くだけで注目の的。初めてちゃん付けで

    49no.906、12/24、ひょんな事で指輪をプレゼント

    50no.907、12/24、若君を魔の手からガード。いよいよ行きたかった場所へ

    51no.908、12/24、デート終盤。甘い策略にはまる

    52no.909、12/24、金星に見守られながらまだ戯れる

    53no.910、12/24、クリスマスパーティー。いつかケーキ入刀しよう

    54no.911、12/25、いきなり絵を描かされる若君

    55no.912、12/25、エ〇〇〇ゲリオンに登場しそうな姿のじいの絵完成

    56no.913、12/25、全員でトランプ。実はお揃いってのがミソ

    57no.914、12/25、イルミネーションを観に来た。尊に隠し事あり

    58no.915、12/25、何かが始まる予感か

    59no.916、12/25、光に包まれながら寄り添って親密度アップ

    60no.917、12/26、覚&若君&源三郎居酒屋へ

    61no.918、12/26、千原じいに翻弄されていた源三郎

    62no.919、12/26、耳が痛い源三郎。家ではレトルト三昧

    63no.920、12/26、酒飲んで寝る人と戯れたい人

    64no.921、12/27、ぷにぷにの唯と尊。若君鮮魚店へ

    65no.922、12/27、今夜はアクアパッツァ。寒さを感じない程楽しい花火

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    四人の現代Days65~27日17時、蛍が飛ぶように

    庭に居たのは、5人の童でした。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    スーパーから帰ってきた、覚と唯と若君と源トヨ。留守番していた尊が出迎える。

    唯「ただいまぁ」

    尊「お帰りー。わ、すごい量だね。って、なんでお姉ちゃん、大根1本だけ持ってんの」

    唯「エコバッグを車から降ろす時に、源三郎が落っことしたんだよ」

    源三郎「忝ない…」

    トヨ「尊様、ただいま戻りました」

    若君「尊、留守の番、ご苦労であった」

    尊「いえいえ」

    覚「ただいま、尊。これで年内もたせるつもりで、ちょっと多目に買い物してきた」

    尊「なるほどね。あ、さっき、通販の荷物一つ届いたよ」

    覚「おー、そうか。ありがとな」

    唯「え、もう来たの?レトルト食品」

    覚「それはさすがに来ない。この時期には珍しいグッズだ」

    唯「へー」

    覚「また話すよ」

    晩ごはんの支度が始まった。

    覚「まず、鯛に両面焼き色をつける」

    若「はい」

    源「一尾をそのまま。これは豪快ですね」

    ト「ふむふむ」

    覚「魚が丸ごと手に入ればだけど、永禄で作るなら、切り身でもいいよ」

    若「お父さん。いつも先々まで考えていただきありがとうございます」

    唯「はい、質問!」

    尊「え?お姉ちゃんが料理に質問なんて、どういう風の吹き回し」

    唯「丸ごとって、鯉でもいいの?」

    ト「唯様、それはいかがなものでしょう」

    覚「鯉は…あまりオススメはしないな」

    唯「じゃあ、鴨は?」

    覚「何なんだそのラインナップは。あ、忠清くん、そろそろその缶詰の中身入れて。そうそう。でしばらく煮込むよ」

    若「わかりました。この料理は、何と申すのですか?」

    覚「アクアパッツァだよ」

    若「アクア、パ…」

    唯「また難しい名前だし」

    覚「またって何だ」

    唯「昨日ビーフなんとかって」

    尊「だからビーフストロガノフだって」

    覚「あー、ロシア料理な。アクアパッツァはイタリア料理だ」

    ト「様々な異国のお料理なのですか?」

    覚「そうだね」

    ト「とても勉強になります」

    アサリをフライパンに入れた頃、美香子が仕事を終え戻ってきた。

    美香子「忠清くん、順調?」

    若「はい。今宵はあまり手をかけておりませぬゆえ」

    美「腕がいいからよ~。ところでお父さん」

    覚「何だ?」

    美「明日だけど、お二人とも日が落ちる前には帰りたいってお話だから」

    覚「ん、わかった。そういう事なら、グッズは今夜楽しむか」

    尊「あ。何となく、今日届いた荷物の中身がわかった気がする」

    覚「お?」

    尊「大きさのわりにはすごく軽かったから、夏がシーズンの紙製品じゃない?」

    覚「さすがだな」

    唯「なになに!」

    覚「はいはい、まずは晩飯な」

    アクアパッツァが美しく皿に盛られている。

    唯「豪華!たーくんお疲れ様っ」

    若「見栄えよく出来、良かった」

    源「さすが忠清様」

    ト「大勢で囲むにはうってつけですね」

    尊「明日のパーティーも、こんな感じのメニューになるの?」

    覚「いや、また違う趣向を考えてる」

    唯「そーなんだー」

    覚「では、忠清くんお疲れさんでした」

    若「いえ」

    全員「いただきます!」

    食後。片付いた食卓に、ダンボール箱。

    唯「ホントだ。めっちゃ軽いね」

    若「どれ、中身は」

    唯「なにかな?あ、なるほどね!」

    若「おぉ」

    入っていたのは、大量の花火だった。

    尊「当たったね。でもこれ、何回分?ってくらいあるけど」

    覚「エリさん達もご一緒できたら、と思ったもんだから。無理して今日やりきらなくていいからな」

    唯「じゃあ、早速!バケツに水汲んでくるー」

    若「唯、わしが運ぼう」

    覚「あー、バケツは2つにしてくれー、ってもう居ない」

    尊「わかった、僕行ってくるよ」

    源三郎とトヨが、不思議そうに箱を覗きこんでいる。

    美「ごめんねー。説明もせず勝手に盛り上がっちゃって」

    源「こよりの巻きついた、棒ですか?」

    ト「お水が要ると?」

    美「外で遊ぶ物なんだけどね、この先に火を点けるの。すると火花が散るんだけど、それがとても綺麗なのよ」

    ト「この品々が。まぁ」

    源「火の手があがるのですか?」

    覚「火の手までいかないけど、多少の煙はあがるね。火薬の匂いもするかな」

    源「…」

    美「あ、源三郎くんが何考えてるかわかった。大丈夫。戦の始まりの合図じゃありません」

    源「結び付きはしないとわかっていても、つい。すみません」

    覚「逆に、平和の象徴みたいなモンだ」

    ト「そうなんですね」

    唯「お待たせー!ではお外に参りましょー!」

    賑やかに花火大会が始まった。

    源「おわっ!」

    若「何じゃ、火花の勢いに負けておるのか?」

    唯「ビビり過ぎだって~」

    尊「これ、夏の夜の風物詩なんですよ」

    ト「それをわざわざ、冬のこの時期に?」

    尊「源三郎さんやトヨさんに、見せてあげたかったんじゃないかな」

    ト「それは…お父さん、心より御礼申し上げます」

    覚「はははー。花火が嫌いな人は居ないだろうから。童心に帰れるだろ?さ、どんどん遊んで」

    ト「はい!」

    美「ホント、小さい子供みたい。上着も着ずに。寒くなーい?」

    尊「寒くないよー!」

    唯「大丈夫ぅ!キャハハー」

    若「ハハハー」

    ト「キャー!」

    源「なんだよトヨ、ハハハ」

    美「…いい景色ね」

    覚「…だな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    27日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days64~27日金曜6時45分、一枚から三枚

    奥の奥まで確認。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    キッチン。覚が朝ごはんの準備を始めた。ラジオ体操後の、若君と源トヨが手伝いに入る。

    若君「お父さん、具合はいかがでしょうか」

    覚「いやぁ、ホント悪かったね。話が弾んで、ビールもクイクイいっちゃって。二日酔いはないから。で、今日の予定だけどさ」

    若「金曜、料理の日ですね。楽しみにしております」

    覚「明日の忘年会用の食材も買っておくから、スーパーにはそうだな、3時過ぎ位には行く。源三郎くんもトヨちゃんも、買い物のお手伝い頼むね」

    源三郎「お任せください。何でも運びます」

    トヨ「何なりとお申し付けくださいませ」

    覚「で、朝の内にね、僕と忠清くん二人だけで、違う店に食材受け取りに行くから」

    若「お父さんとわしとで、ですか」

    覚「あまり大勢で行くと邪魔になるし、よく手元が見えないと思うからさ。10時には行くって伝えてあるから。よろしくな」

    若「手元。はい、わかりました」

    美香子が二階から下りてきた。

    美香子「おはよう~」

    若君&源三郎&トヨ「おはようございます」

    美「忠清くん、ちょっといいかな」

    若「はい?」

    コンロ前から離れ、美香子の傍に来た若君。

    美「写真、こんなのがあったんだけど。どうかしら?」

    若「おぉ、それは。探していただきありがとうございました」

    写真を一枚受け取った若君。

    若「膝の上で眠る、幼い唯ですか。残念ながらお母さんのお顔が写っておりませんが」

    美「私は二の次なんで」

    若「これは愛らしい」

    美「今回、先に尊が永禄に飛んだじゃない」

    若「はい」

    美「大根アメ、持たせたわよね」

    若「はい。わしは見てはおりませぬが、たちどころに喉が治ったと、話には聞いております」

    美「唯に初めて大根アメ舐めさせた時の写真なの。喉が痛いって泣いてぐずってね」

    若「泣き疲れて眠ったと。ん?」

    美「あ、気付いた?」

    若「この、後ろに転がっておるのは…」

    美「転がってる!ホントその通りよね、尊よ。唯が泣こうが我関せずで、いつの間にかすやすや寝てたの」

    若「これまた実に愛らしい」

    美「でもね、この時のお父さんなんだけど、唯が眠った途端、おっカメラカメラ!って浮かれてて」

    若「フフフ。はい」

    美「で、私の斜め後ろに尊が寝てるじゃない。唯も尊も入るように色々角度を変えて構えてるんだけど、その前に、尊にタオルケットの一つも掛けてやってよって話で。私は動けないんだし」

    若「ハハハ」

    覚「それな、ベストショットを狙ってたんだよ~」

    美「一刻を争う訳じゃなかったでしょう。もう」

    ト「私も拝見してもよろしいですか?まぁ!なんて可愛らしい」

    源「おぉ」

    一段落した覚と、源トヨも覗き込む。

    美「で、こんなので良かったのかしら」

    若「はい!ありがとうございました」

    9時30分になった。覚が、車の荷台に発泡スチロールの空箱を何個も積み込んでいる。若君と源三郎も手伝い、最後に大きい台車を積んだ。

    覚「箱は、この位あれば御の字だろ」

    若「お父さん。察するところ、今から買い求めに参るのは、魚介ですか?」

    覚「正解!去年旅行行った帰りも、海鮮市場で大量買いしたもんね。今日も沢山買うよ~」

    若「スーパーではなく、ですか」

    覚「スーパーだとね、手順が見られないから」

    若「手順。ですか」

    覚「じゃあ源三郎くん、行ってくるよ。戻ったら、また荷物降ろすの手伝ってくれな」

    源「はい。行ってらっしゃいませ」

    車は駅近くの駐車場に停めた。台車に発泡スチロールのトロ箱を乗せ、ガラガラと押していく。

    覚「行くのはね、駅前の商店街の魚屋だよ」

    若「そうなんですか」

    店に到着。

    覚「おはようございまーす」

    若「おはようございます」

    店主「お、速川さん!随分な色男がお供だね」

    覚「娘婿連れて来たよ」

    店「そうかい。仕入れはバッチリだよ!ほら、いい鯛だろ?」

    若「鯛…」

    覚「早速、捌くのを見せてもらっていいかな。尾頭付きから」

    店「あいよ~」

    覚「さ、忠清くん前に出て。よく見える位置に」

    若「良いのですか?」

    覚「見せてもらえるよう、事前に頼んでおいたからね」

    若「それは…ありがとうございます!」

    鱗を取り、エラを外し、内臓が出され、中を水洗いし、拭き取った。

    若「ほぅ…」

    覚「家では鱗取りが大変でさ。少しは勉強になったかな」

    若「はい!」

    店「料理、好きなのかい。なら、三枚おろしも見てくかい?」

    覚「おっ、いいね」

    若「はい!是非お願いいたします!」

    プロの手際の良さに、ずっと釘付けになりながら唸っていた若君だった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days63~26日21時、ルーティンです

    さすが、扱いが慣れていらっしゃる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    居酒屋。

    源三郎「わたくしが、お父さんを疲れさせてしもうたのでしょうか」

    若君「にしては、寝顔が笑うておる。充分語らえて満足していただけたのならば良いが」

    源「いかが致しましょう」

    若「うむ…」

    覚は、心地よさそうに眠っていた。

    若「目を覚まされるまで、わしらは飯を残さずいただいておくとしよう」

    源「はい」

    その時、

    源「何事?この真冬に虫か?!」

    近くで、ブーンブーンと音がする。

    若「ん…もしや。お父さん、御免」

    覚のポケットを探る若君。音は、スマホからだった。

    若「うーん」

    バイブがずっと作動している。画面には、美香子と出ており、電話がかかってきていた。

    若「どうすれば良いか、わからぬ」

    源「よく、尊殿や唯様が、板の上で指を滑らせておりますが」

    若「一向に止まぬ…」

    スマホに慣れていない若君は、うまくスワイプができていなかった。

    源「あ」

    若「止まった。お母さんの名も消えた」

    テーブルにスマホを置いた。悩める若武者二人。その時、店の電話が鳴った。

    おかみ「はーい。はい?あーこんばんは。ええ、ご主人寝てらっしゃいますね。お兄さん達が困ってます。はい、はい、伝えますね。お気を付けて」

    電話を切ったおかみが、若君と源三郎の元にやってきた。

    お「お兄さん達、安心してね。もうすぐ美香子先生が迎えに来ますからね」

    若「えっ?そうですか。わかりました。ご心配をおかけして済みませぬ」

    お「いつもの事ですんでね」

    若「いつも、ですか」

    程なくして、店の戸が開いた。

    美香子「こんばんはー。もう、すいません、いつもいつも」

    店主とおかみに会釈しながら、入ってきた美香子。

    美「お待たせ。ごめんねー」

    源「お母さん」

    若「お母さん。わざわざご足労頂き、忝のう存じます」

    美「お酒飲むとすぐ寝ちゃうんだから」

    若「思い起こせば、そうでした」

    美「ちゃんと話はできた?」

    若「はい、それは十二分に」

    美「そう。良かった。それだけが心配だったの。もうごちそうさまでいい?帰ろっか」

    若君&源三郎「はい」

    美「私、お会計してくるから。悪いけど、お父さんを運んでくれない?」

    源「わかりました。ならばわたくしが」

    源三郎が覚を背負い、若君が覚の靴とスマホを持った。

    美「お世話かけました~」

    若&源「ありがとうございました」

    店を出て、近くに停めた車の助手席に覚を乗せ、出発した。

    若「お母さん」

    美「なぁに?」

    若「大晦日、出掛けた先で、決着致しますので」

    源「ええっ」

    若「宣言しておかねばのう」

    源「励み、ます」

    美「それは楽しみね~。トヨちゃんの喜ぶ顔は、もっと楽しみよ」

    帰宅。若君と源三郎で、覚をソファーに寝かせた。

    源「これで、よろしいでしょうか」

    トヨ「源ちゃん、お疲れ様」

    美「ありがとね」

    唯「たーくんお疲れぇ。うわっ、酒くさっ」

    若「飲めば少しは臭うじゃろ」

    唯「少しじゃないよ」

    若「そうか?」

    唯「嫌だ、近寄んないで!」

    ムッとした顔で、若君を押しのけた唯。

    尊「兄さんがわかりやすく落ち込んでる」

    美「唯~。あんまり冷たくすると、ビールは敵だ!になっちゃうから。せっかく楽しんできたのに」

    唯「わかったよぅ。たーくん、はいお水。どーぞ」

    若「うむ」

    唯「でも接近禁止だから。って、聞いてる?なんで寄っかかってくるの!ちょっとたーくん、重い、重たいってばー!」

    尊「兄さんがわかりやすく酔ったフリしてる」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    26日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days62~26日19時、説法!

    集中攻撃も致し方なく。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    さて。変わってこちらは速川家。キッチンに、唯と尊とトヨ。

    トヨ「鍋に湯を沸かすのはわかりますが、こんなにも要るのですか?」

    コンロが鍋で埋め尽くされていて、どれも中は沸き始めたお湯。

    尊「要るんですよ」

    唯「ねー、そろそろ出しちゃダメ?どんなのがあるか見てみたい」

    尊「一度全部並べよっか」

    ト「並べる?」

    尊が大きなダンボール箱を持ってきた。中身を、食卓にドサっと出す。

    唯「こんなにあったんだ!すごっ」

    尊「妻への愛情が、この量にあらわれてるというコトで」

    覚が捻挫をした時に、美香子の炊事が楽になるよう大量に購入してあったレトルト食品が、まだわんさか残っていた。

    ト「食べられる物なのですか?」

    尊「そのまま開けて、ではなくて、お湯で温めるんですよ」

    ト「それでお鍋があんなに」

    唯「この写真、そそられるぅ!ビーフ、ストロノ?」

    尊「ビーフストロガノフ。何でちゃんとカタカナで書いてあるのに読めないの」

    唯「おいしけりゃなんでもいい」

    尊「はいはい。トヨさん、今日は四人でいろんなのを分け合って食べようと思ってます。もし気に入った献立があったら、帰る日までに再注文しますから、持ち帰ってくださいね」

    ト「まあ」

    唯「やったー!私の分も!」

    尊「それはいいけどさぁ。お姉ちゃん、頼むから、トヨさんの分まで永禄で横取りしたりしないでよ」

    唯「しないよ」

    尊「ホントかよ」

    唯「なぜなら、トヨの分は二人の愛の巣へ持ってってもらうから~」

    ト「愛の、巣?!」

    尊「あー。赤井家の備蓄として?」

    唯「そっ」

    ト「ええっ、それは選ぶのが大変!お品、よく見せていただいても良いですか?」

    唯「なんかすっかりその気だし。あー今ごろ、侍たちは何話してんのかなー」

    尊「お姉ちゃん、ちょっと」

    唯「なに」

    少しトヨから離れた二人。

    尊の囁き「今聞かなくてもいいっちゃいいんだけど、兄さんは、エロ侍じゃない」

    唯「ホントだよ」

    尊 囁き「はあ。それ、源三郎さんだと、どう表現する?」

    唯「あー。間違いなく」

    尊「間違いなく」

    唯「ヘタレ侍」

    尊「うわ。ヒドっと思うけど、否定できない僕が居る」

    戻って、居酒屋の三人。ますます熱が入っている。

    覚「あれだな。源三郎くんがある意味、のほほんとしてたのは、ライバル…恋敵が居なかったからじゃないか?いつでも俺の女に出来るぞなんて、思ってなかった?」

    源三郎「トヨはそんな一筋縄では…されど、恋敵は確かに居りませんでした」

    若君「ふむ…。例えばじゃ、もし小平太が、トヨを連れ込んでいる所に出くわしたらどうする」

    源「何ゆえそこで小平太殿なのですか」

    若「身近で、対等の立場の者じゃからの」

    覚「なるほどね。で、見ちゃったとして。さぁどうする!」

    源「それは、それは…うわぁっ!」

    覚「おいおい、パンクしてるな。大丈夫か?」

    若「早う答えよ」

    源「その後数日、様子を見ます…」

    覚「平和的だけど消極的だな。忠清くん、源三郎くんっていつもこんな風なの?」

    若「いえ全く。実に勇ましく優秀な家臣なのですが」

    覚「わかった。もうさ、結婚できないなんてなさそうじゃない。トヨちゃんのためにも、こちらに居る内に、愛してるよって伝える。そんでもって、プロポーズもする。あ、プロポーズは結婚してくださいって申し込みね」

    若「お父さん。これは、期日をはっきり決めた方が良いのでは」

    覚「それ賛成。じゃあ…年内!」

    源「年内!」

    覚「あと今日入れて6日ね。あ、今夜だと飲んだ勢いみたくなってトヨちゃんに失礼だから、あと5日だな」

    源「五日…一気に酔いが回ってきたような」

    若「散々放っておかれたトヨを思えば、五日でもかかり過ぎじゃ」

    覚「どう言うかとか、よく考えて。でさ、何なら大晦日にそうしたらどうかな。そしたらゆっくり言葉も選べるだろ?」

    若「大晦日は確か、夜に出掛けるのでは?」

    覚「行くのは遊園地だからさ。昨日のイルミネーション、良かっただろ?あそこまでキラキラじゃないけどさ、遊具とか光の装飾で、愛の言葉を囁くにはいい感じの場所だよ」

    若「三日三晩考えても、まだ余裕があるのう。精々、励め」

    源「はぁ…」

    覚「あのな、源三郎くん。親の立場として言うけどさ」

    源「はい」

    覚「親鳥はね、ヒナを孵す為に温めはする。だがヒナは、生まれる時は自力で殻を割って出てくるんだよ」

    若「なるほど。どうお膳立てしても、最後は己の存念一つ、であると」

    覚「そうだ」

    若「お父さん。わしの心にも響きました。わかったな、源三郎」

    源「…はい」

    場所変わって、またまた速川家。

    美香子「スープも惣菜も山ほどだけど、白いご飯あるから、丼もどう?」

    尊「豚丼と、あと麻婆茄子丼があるよ」

    唯「トヨ、どっちがいい?」

    ト「あの…両方でも良いですか」

    尊「了解しました。鍋に投入します」

    美「えーっと、何時になった?8時半か…」

    唯「宴会、きっと盛り上がってるよね」

    美「でもそろそろ、危ないのよねぇ」

    唯「そうだった」

    尊「あー、確かに」

    ト「?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    そろそろ?もう少し続きます。

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    四人の現代Days61~26日18時、全て泡とならぬよう

    罪作りな千原じい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「泡をよけながらというか。そうそう」

    若君と源三郎が、上唇に泡をつけながらビールを飲んでいる。

    源三郎「これは美味い」

    若君「この苦味がまた良いですね。何杯でも、は頷けます」

    覚「気に入ってくれたかー。良かった。じゃあさ、お品書き見て、食べたい物あったら注文して。話はそれからだ」

    テーブルの上が注文した料理で一杯になり、ビールが三人とも中から大に変わった所で、覚が話を切り出した。

    覚「源三郎くん。まずさ、君が躊躇している一番大きな理由を、忠清くんに話しな」

    源「はい。あれは忠清様と唯様の祝言の日取りが決まり間もない頃。わたくしは、元次様に呼ばれ、屋敷まで参じました」

    若「うむ」

    源「酒の席が用意されておりました。人払いをされ、二人きりとなった時に切り出された話が、千原を名乗らないか、と」

    若「なんと」

    源「赤井氏に拘りがなければ、忠清様の祝言が済んだら如何かと仰せられ」

    若「それは、今初めて耳にしたが」

    源「あくまでも祝言の後とのお話でしたので、一切他言されておられなかったようです。わたくしは謹んでお受けすると答えまして、大層喜んで頂きましたが、元次様が旅立たれましたので、話も立ち消えとなった次第」

    若「そうであったか。それで?」

    源「酒が進むにつれて饒舌になられました。その内、元次様からふと口をついて出た言葉が」

    若「うん」

    源「くれぐれも、天野由来の妻は娶るな、と」

    若「え?」

    源「トヨを名指ししてはおらぬと思います」

    若「で、あろうの。二人の仲を知る者は極僅かであるし」

    源「今となっては、本意はわかりません。かなり酒が入っておりましたし、笑いながら話されましたし」

    若「若かりし頃ならともかく、そこまで目の敵にする程、いがみ合ってはおらなんだと心得ておるが」

    源「はい。わたくしも、天野様側から聞いた覚えはありません。ただ、それが元次様と話した最後となりまして」

    覚「それで、呪縛のように今でものしかかっているんだね」

    若「おぬしはどう思うておるのじゃ。元次の意に従うのか?」

    源「いえ、トヨを妻として迎えたいと願うております」

    覚「でも、その言葉が引っ掛かって」

    源「はい…。忠清様」

    若「何じゃ」

    源「そこで、折り入ってお願いしたき儀がございます」

    若「申せ」

    源「両家、と申しますか、元次様と信茂様の確執がどこまで根深いかはわかりませぬ。ただ、元次様がどのようなお考えであったにせよ、信茂様にお許しを頂けるのであれば、トヨと夫婦になれるのではと思うておるのですが。甘い考えでしょうか」

    若「じいが許さぬとは思えぬがのう。そのように拘っておっては、小平太に縁談があっても進まぬやもしれぬゆえ。わかった。わしが上手く話を運び、許すとなれば良いのじゃな」

    源「はい!永禄に戻りました折には、どうか、どうか宜しくお願い申し上げます」

    横に居る若君に向かって、深々と頭を下げた源三郎。

    若「それでか。じいの絵を土産にしようと。機嫌を取ろうという算段であったか」

    源「はい」

    若「ハハハ。おぬしの焦りはようわかった。何ゆえ、もっと早うわしに話さなんだのじゃ」

    源「縁組みを持ちかけられようとは、露とも思うておりませんでしたので」

    若「トヨを待たせてしもうておる。縁組み云々の前に、動くべきじゃった」

    源「悔いております。また、髪を切らせてしもうた事も」

    覚「え?それ、関係ある?」

    源「トヨが、女中だから、髪は短くても構わぬのだと申しました。早々に妻として迎え、城から下がり女中でなかったならば、あの美しい黒髪を切る謂われもございませんでした」

    覚「源三郎くん。それは違うと思うな」

    源「そうでしょうか。わたくしめが逡巡しなければ、早う娶っておればと」

    覚「だからか。髪切った日さ、源三郎くん、有り得ない程ヨレヨレだったじゃない」

    源「トヨに顔向けできぬと思うておりました」

    覚「でも彼女、誰かに指図されたんじゃないしさ」

    若「切ると決めたのはトヨじゃ」

    源「…」

    覚「令和に来たから、トヨちゃんがヘアドネーションを知ったじゃない。来ない方が良かった?」

    源「いえ、それは微塵も思うてはおりませぬ」

    覚「だからね、なるべくしてなったんだよ」

    若「源三郎は、気に病まんでも良い」

    覚「そうだよ。でさ、逆にここに来なかったとする。永禄で、忠清くんの力を借りたとして、いつ、トヨちゃんに結婚の申し込みをしたかな?」

    源「それは…」

    覚「一向に進まなかったんじゃないか?あれよあれよと、どこかのお姫様がやって来て」

    源「…仰せの通りだと思います」

    覚「話を整理するよ。源三郎くんとトヨちゃんは愛し合ってる。源三郎は結婚したいと思ってるが、思わぬ壁が立ちはだかった。でもこの件は、忠清くんの力で何とかなりそう」

    若「はい。壁は直ちに消え去りましょう」

    覚「さすがだね。で、問題はその後だ。あのさ、まさかと思って、前回相談受けた時に聞かなかったんだけど」

    源「はい」

    覚「好きだよ、とも言ってないんじゃない?」

    源「…はい」

    覚「やっぱり」

    若「お父さん」

    覚「ん?」

    若「それならば、わしも夫婦となる前には申しておりませぬ」

    覚「君達は、ずっと離ればなれでその機会がなかっただけだろ?それに、事が落ち着いてすぐ、結婚しようって伝えたんだろ?思わせ振りな態度を続けた訳じゃない」

    若「そうですね。どうじゃ、源三郎」

    源「お言葉が、胸に刺さります」

    覚「何も言わないなんて、僕にしたら考えられない。でもなー、出来ないモノは仕方ないのかなー」

    若「お父さんの金言は、この忠清も、しかと心に刻んでおります」

    覚「そうかい。ありがとう。じゃあそれ、源三郎くんに教えてあげてよ」

    若「言わなくてもわかるなどない。愛するおなごには愛しておると、気負わずに伝え続ける」

    源「…その壁、越えられそうにありません」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days60~26日木曜13時45分、とりあえず

    冬にこんな冷たい飲み物を?とも思うよね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    そろそろ、クリニックが午後の診療に入る。

    覚「夕方には出かけるつもりだ」

    美香子「あの店だったら5時には開くから、早めに出ればいいんじゃない?」

    覚「そうするよ」

    美「じゃ、忠清くん源三郎くん。今夜の外呑み、楽しんできてね」

    源三郎「はい」

    若君「ありがとうございます」

    美香子がリビングから出ていった。

    若「お父さん。今宵向かう店は、しばしば行かれておるのですか?」

    覚「そうなんだよ」

    唯「あのね、うまいビールが飲みたい!って、お父さんたまに叫ぶんだよ。そーゆー時、晩ごはんは家族全員でそこに行ってたの」

    尊「その居酒屋、料理も美味しいんです。あと、僕達もその日はジュース飲み放題になるんで、わりと楽しみにしてました」

    若「そうであったか」

    そうこうする内に、16時30分になった。

    唯「外、もう暗いよ」

    覚「そろそろ出るか。忠清くん、源三郎くん、行けそうかい?」

    源「はい」

    若「お父さん」

    覚「ん?何かあった?」

    若「残る皆の晩飯は、支度せずとも良かったのですか?サラダ、は冷やしてありますが、仕事を終わられてから始めては、遅うなります」

    覚「これが、大丈夫なんだよ。ほぼ支度要らずなんだ」

    若「そうなんですか」

    尊「そうなんですよ」

    唯「どーぞ気にせずぅ」

    若「?」

    覚「じゃあ、行ってくるよ」

    尊「行ってらっしゃい」

    トヨ「行ってらっしゃいませ」

    唯「えーと…そう、ご武運を、祈る!」

    若「ハハハ」

    源「行って参ります」

    三人連れ立って歩き出した。出て行く様子が、クリニックから見える。

    芳江「あら。ご主人、息子さん達とお出かけですか」

    美「そうなの。三人で飲みに行くって。主人ね、源三郎くんの悩み相談だって言ってるのに、ずっと楽しみにしてたのよ」

    エリ「後姿は、お二人とも実の息子さんみたいですよ。ご主人も上背がおありですから」

    美「ホントね。綺麗に階段状」

    若君、覚、源三郎と身長順に並んでいる。

    美「尊の背だと、主人と忠清くんの間ね」

    エ「四人ともスラッとされてみえるから」

    美「三人とも、私が産んだみたい?」

    芳「ふふ。自慢のご子息ですね」

    店に到着した三人。そこは、駅前の道から少し入った所にあった。

    覚「夫婦二人だけでやってるんだ。入ろう」

    ガラガラと引き戸を開ける。中に入ると、カウンターと座敷があるが、こじんまりとしていた。

    店主「いらっしゃい」

    覚「こんばんは。座敷、いい?」

    おかみ「どうぞ」

    四人席に、一方に覚、若君と源三郎は並んで座った。

    覚「あぐらでいいよ。家だとさ、椅子ばっかりだもんな。こっちの方が楽だろ?」

    若「そうですね」

    源「ありがとうございます」

    周りを見渡す若君と源三郎。店内は、年季の入った壁や柱が、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している。

    若「何と申しますか、永禄に通ずるような」

    源「心落ち着きます」

    覚「そう?そりゃ良かったよ。おかみさん、まずは生中3つと、串の盛り合わせと、そのカウンターにある筑前煮とポテトサラダ、頼むよ」

    お「速川さん、生中でいいんですか?いつもは生大なのに」

    覚「え?!ひとまずは。おかみには敵わないなー」

    お「フフ、今お持ちします」

    早速、キンキンに冷えたジョッキに、ビールが注がれていくのが見える。

    若「お父さん、わしらに遠慮なさらずとも」

    覚「いやいや、君達ビール初めてだからさ、万が一、口に合わないといけないから、まずは合わせて普通サイズからね。ははは、おかみにあぁ言われるとは思ってなかったな」

    若「気心が知れておるのですね」

    お通しの揚げ出し豆腐、ビール、筑前煮と運ばれてきた。

    若「これが、ビールですか。並々と入っております」

    源「量が随分と」

    覚「日本酒と比べるとびっくりする量だよね。でもね、これが何杯でもいけるんだよ~」

    若「俄には信じ難いですが」

    覚「だよね。じゃあジョッキ持って。この持ち手を握るんだよ」

    若君&源三郎「はい」

    覚「では、乾杯!」

    若&源「乾杯!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    男性陣の身長は、若君179cm、尊176cm、覚174cm、源三郎172cm、となっております。

    続きます。

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    四人の現代Days59~25日18時、春遠からじ

    様子見ですな。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈が走り去ったのを確認して、合流した五人。

    唯「髪の毛サラッサラでさぁ、かわゆい女の子だったじゃなーい!」

    尊「んー、よくわからないけど」

    唯「これでも気ぃ使ったんだよ?たーくんと源三郎見て、あっちのお兄さん達の方がいい!ってならないように隠してさぁ」

    尊「自分が困るからでしょ。あ、四人の説明はね、二人の姉とその旦那さん、になってるからよろしく」

    唯「お。じゃあなんかあれば、話を合わせろって話かー。この後またバッタリ会うかもしんないしね」

    若君「心得た」

    源三郎「わ、わかりました」

    トヨ「はい!」

    唯「では、いよいよ一回りしますか」

    尊「うん。待たせてごめんなさい」

    歩き出した五人。前に唯と若君。腕を絡ませている。後ろに、尊、源三郎、トヨと並ぶ。

    尊「あのですね」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「ここではぐれたりしたら、大変なんです」

    源「確かに」

    ト「そうですね」

    尊「手を繋ぐとか、前の二人みたいにくっついててくれませんか?」

    源「尊殿とですか?」

    尊「うわぁ、マジで答えてるからツッコミができない。いや、僕はいくらでも両親と連絡が取れますから、一人で大丈夫なんで」

    源「と、なれば」

    ト「え」

    尊「そうしてもらえると、僕は助かるんです。離れて歩かれるより、あぁやってひとかたまりになってくれてた方が目が届きやすいんで。もうすっかり辺りも暗いですし」

    源「…心得ました。そのような訳ならば」

    源三郎が、サッと手を出した。

    源「ほれ」

    ト「…」

    手を繋いだ源トヨ。

    尊「これで安心。僕も引率の任務を全うできそうです」

    源「尊殿、あの」

    尊「はい?」

    源「ありがとう、ございます」

    ト「あ、あの、ありがとうございます」

    尊「礼を言われる程ではないでござる。あれ、上手く戦国言葉に変換できてないや」

    源「ハハハ」

    ト「ふふふ」

    広い場所に出た。見渡す限り無数の電球で、全体が動画のように、景色が変わっていく。

    唯「すごーい!」

    若「桜が咲いたかと思えば、鳥が羽ばたき、紅葉が散り。見事じゃのう」

    唯「ロマンチックぅ」

    若「その言葉、聞き覚えがあるような」

    唯「こんな場所で告白なんてされたら、イチコロだよぉ」

    若「イチコロ…立てなくなるのか?」

    唯「へ?うん、まぁだいたい合ってる」

    若「そうか…」

    唯「ふふっ。たーくんが今何考えてるか、当ててしんぜよう」

    若「申してみよ」

    唯「作戦会議がもっと早かったら良かったんじゃないか、そしたら今日、源三郎が告白する手はずを整えられたのに」

    若「さよう。合うておる」

    唯「やっぱしね。まっ、お父さんに相談するからさ、なんとかなるんじゃない?」

    若「わしもそう願う」

    源トヨは、隣には居るが二人の世界になっていた。

    源「いつまでも見ていられるな」

    ト「うん」

    源「麗しい」

    ト「なんで私見て言うの。あちらでしょ」

    源「…」

    ト「え?」

    そんな姿を、ウンウンと頷きながら見ていた尊。

    尊 心の声(平和っていい。あ、忘れてた)

    スマホを取り出した。グループLINEをチェックするが、

    尊 心(うわっ)

    二人ピースサインの写真をあげてすぐ、グループ全員から矢継ぎ早に投稿されていた。

    瑠奈の投稿『ばったり会ったのー!』

    尊の投稿『ほんの偶然です』

    投稿1『めっちゃお似合い!』

    投稿2『速川、この時期に余裕じゃね?そうか、お前ら実は付き合ってたってオチな』

    投稿3『春だね~』

    投稿4『二人いつもと感じ違わないか?』

    投稿5『淋しい受験生に見せつけかよ。あ~羨ましいったら』

    投稿6『もー、早く受験終わって欲しい、彼氏作りたーい!』

    瑠 投稿『運命かもー!なぁんて(*^^*)』

    尊 心(どう返すといいんだろ。無下に違うって書くと、総攻撃に遭いそうだし)

    唯「尊~?なにつっ立ってスマホ見てんのよ。あ、グループLINEどうなった?」

    尊「こうなってる」

    唯「どれ、お姉様が見てあげる。ん?」

    尊「騒がしいよね」

    唯「あんた、この写真すっごいイイ顔してる」

    尊「そう?加工が上手いからじゃないの」

    唯「そういうコトじゃなくて。たーくん、この写真見て。で感想言って」

    若「どれ。おぉ、なんと柔和な」

    尊「そんなに違いますか?」

    若「このおなごには、心を許せるとみえる」

    尊「意識ないですけど」

    唯「恋が始まる5秒前、って感じ?へへっ」

    尊「なに上手いコト言った気になってんの」

    時間を追う毎に、イルミネーションは輝きを増していきました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    25日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days58~25日17時30分、甘酸っぱい

    駆け寄ってくる姿なんて、ときめかないか?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    イルミネーションそっちのけで、尊を囲んでいる四人。

    若君「尊、責めておるのではない。聞かせてくれぬか?」

    尊「わかりました。実は、この前クラスメートとLINEを交換したんです」

    若「共に学んでおる仲間と」

    唯「連絡先を交換ね。二人、ここまでわかる?大丈夫?」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「グループLINEにも入って」

    唯「えっとね、1対1じゃなくて、一度に何人も同じ画面見られるって言うか。つーか、すごい進歩じゃん!グループLINEまでなんてさ」

    尊「口車に乗せられて」

    唯「なにそれ。イヤならすぐ、グループ抜ければいいのに」

    尊「嫌ではない。みんな色々しゃべってるのを眺めてるだけだし」

    唯「あっそ。で?」

    尊「で、さっき、グループにこんなのが投稿されて」

    スマホを出した尊。LINEの画面が表示されている。

    唯「見ていいの?どれどれ。…大学推薦通ったご褒美兼ねて、家族でイルミネーション観にきてまーす!あれっ」

    若「これは、この地の入口の写真では?」

    尊「そうなんです」

    唯「じゃあこの子、近くに居るんだ!へー。女の子だよね?」

    尊「そうだね」

    唯「いやん、運命?!」

    尊「違うと思う」

    唯「僕も来てる!って送ったら?」

    尊「嫌だよ、グループになんて」

    唯「なんでよぅ」

    若「此処で会えたとなれば、相手のおなごも喜ぶのではないか?」

    尊「そうは思いますけど」

    唯「んー、その子さ、友だち追加はしてる?」

    尊「してるよ。その子がLINE聞いてきて、グループに入ったから」

    唯「じゃあ、グループ通さずに話せるじゃない」

    尊「そうだけど、恥ずかしいよ、急に個別にLINEなんて」

    唯「そんな事言ってるとさー、この広ーいテーマパークの中でなんて、絶対会えないよ?」

    若「尊よ」

    尊「はい」

    若「一歩踏み出す勇気は、必要じゃ。のう、源三郎」

    源三郎「はっ!はい…」

    唯「わかったでしょ。たーくんの言う事は聞くよね~」

    尊「…」

    唯「どの子?画面出して」

    渋々、女の子とのトーク画面を開いた尊。

    唯「LUNA。って名前?」

    尊「アルファベットで書いてるんだよ。名前が瑠奈だから」

    唯「へー。るなちゃん。かわいい名前だね」

    ちょいちょいと操作した唯。

    尊「うわっ!何すんだよ!呼び出してる!」

    唯「電話した方が早いって」

    尊「勝手に触んなよ!あっ、もしもし…」

    唯「おっ、つながった」

    尊「ごめんなさい、急に電話して。うん、LINE見た。実はさ、僕も同じ所に来てるんだ。うん、うん、そうなんだ、マジで。え?ここは…光のトンネルの前。近くに居るの?家族と一緒なんでしょ、…いいの?じゃあ、待ってるね、はい、はい、じゃ。…ふぅ」

    唯「ほらー。電話して正解だったでしょ」

    尊「うん…」

    若「会えそうで良かったのう」

    源「今、尊殿の違う一面を拝見しました」

    トヨ「口調がとてもお優しくて」

    唯「やっぱし?私も思った!ねぇねぇ、気になる子?」

    尊「そんなんじゃないよ。ヒトとの距離の取り方がよくわからないから、強く言わないだけ」

    唯「そーかなー」

    若「唯、我々が共に居ると話もしづらかろう。しばし離れるとしよう」

    唯「あ、そうだね。では、さらばじゃ。健闘を祈る!」

    尊「大袈裟だし」

    唯達が遠巻きに見ていると、道の向こうから女の子が一人、走って来た。

    瑠奈「速川~!わぉ、本物だ!」

    尊「こんばんは」

    瑠「え?一人?」

    尊「ううん」

    チラっと唯達の方を見る尊。若君と源三郎は向こうを向き、唯とトヨだけが、こちらに手を振ったり会釈したりしている。

    尊「姉夫婦が帰省してるんで」

    瑠「ふぅん。前も家族でカラオケに来てなかった?仲いいね。お姉さん二人と、旦那さん達と来てるんだ?」

    尊「あ。うん、そう」

    尊 心の声(良かった。都合良く勘違いしてくれて)

    瑠「一緒に写真撮ろうよ、で、グループに載せる。みんな驚くよ!」

    尊「いいの?色々勘ぐられたりして、困らない?」

    瑠「別に、困らないけど」

    尊「そう?」

    瑠「あ、速川的にマズい?彼女にバレたら大変とか」

    尊「彼女なんて居ないし」

    瑠「そう、なんだ」

    尊「ん?」

    瑠「え?はーい、撮るよー!」

    自撮りモードで、顔を寄せてピースサインをし、写真に収まった二人。

    瑠「サンキュ。すぐあげとくねー。コメントもしてよ?激似の他人と思われないように」

    尊「うん」

    瑠「じゃ、これで。ごめん、親に何も言わずに来ちゃったの」

    尊「あー、だから走ってたんだ。ごめんね、急がせちゃって」

    瑠「え…速川、優しい!」

    尊「そんな事ないけど」

    瑠「やっぱりジェントルマンだよ」

    尊「ははは。それ、前にも言ってたね」

    瑠「ありがとう、電話してくれて。また学校でね!…学校じゃなくても、いいけど」

    尊「え?ごめん、何?最後声小さくて聞こえなかった」

    瑠「ううん、何にも。じゃあね、バイバーイ!」

    尊「さよならー」

    瑠奈は、手を振りながら走っていった。

    尊 心(何を呟いてたんだろ?)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈ちゃんは、17話no.863に出てくる女子高生2の子です。

    続きます。

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    四人の現代Days57~25日17時、説明せよ

    むやみに騒ぐは愚かな事、だから?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    イルミネーションを観に、7人全員で車2台に分乗して移動中。なぜか男性車と女性車になっていた。

    美香子「珍しい。てっきり唯は忠清くんと同乗だと思ってたわ」

    唯「トヨと話がしたかったから。ねぇ!トヨ!源三郎さ、愛し合う二人って言った時、否定しなかったね!」

    トヨ「驚き過ぎて、声が出なかっただけではないですか?」

    美「でもその後すぐ、尊とは話してたわよ」

    唯「イイ線いってると思うなー」

    美「明日の晩、お父さんと忠清くんと源三郎くんで呑むって話じゃない。それ、作戦会議だと思うのよねー」

    唯「トヨを射止めるには?いや、もう恋に落ちてるし」

    美「お嫁さんになってください、じゃない?」

    ト「えっ」

    唯「そっか」

    ト「いえ、違うかもしれませんし」

    美「うーん。心で願ってる分、そう思われてなかったら、って考えちゃうと、怖いわよね」

    ト「はい…」

    唯「なにがいけないんだろ」

    美「源三郎くんに、何かしら踏み込めない理由があるのかもね」

    唯「それが何だよって話でさ」

    ト「わかりません…」

    美「こちらに居る内に、いい知らせが聞けるといいわね」

    唯「ホントだよ」

    男性車。

    覚「忠清くんは、すっかり車はお手のモンだね」

    若君「この助手席、は見晴らしもよく気に入っております」

    尊「お姉ちゃんが居ると、絶対並んで後部座席ですもんね。今日は珍しく、女子こっち~って言って別々だけど」

    もうすぐイルミネーション開催中のテーマパークに到着。

    覚「5時の点灯式には間に合うな。忠清くん、去年他の場所で見たみたいにさ、暗がりからパッと明るくなるよ」

    若「それは楽しみです。のう、源三郎」

    源三郎「このように遠方までお連れ頂き、見聞を広められ、お父さんお母さんには感謝ばかりでございます」

    尊「…」

    尊は、スマホを見ていた。

    覚「尊、もう着くけど、スマホは連絡しやすいようにしといてくれな」

    尊「あ…うん」

    覚「聞いてるか?」

    尊「聞いてる聞いてる」

    覚「はいはい、スマホは仕舞え。着いたぞ」

    車を停め、入場した。日が落ち薄暗い中、かなりの人が集まっている。

    唯「もうすぐっ」

    若「うむ」

    若君の腕にしがみつく唯。その隣に尊、そのまた隣に源三郎とトヨ。

    尊「あの」

    源「はい」

    尊「僕らに遠慮しなくていいですよ、もっと二人寄り添ってもらって」

    源「あ、いやいや!」

    ト「そのような!」

    美「あ、私達がお邪魔かしら」

    覚「ちょっとよけるか」

    源トヨの後ろに居た両親が、その場を離れようとしている。

    源「いえ、あの」

    ト「ここにいらしてください!何も、ありませんから」

    源「…」

    美「あらま」

    覚「そうかい?」

    もうすぐ17時。カウントダウンが始まった。

    尊「この声が、3、2、1、0で、0になったら光りますよ」

    源「声を合わせておるのですね」

    ト「皆、わかっていらっしゃると」

    点灯。一気に、全方向の景色が光で浮かび上がった。

    唯「わぁ!」

    若「おぉ。美しいのう」

    源「これは、なんともはや」

    ト「見とれちゃう…」

    唯「さてと。じゃっ、ラブラブカップルは自由に行動してね」

    覚「ラブラブって?僕らの事言ってるのか?」

    美「あなた達はどうするの」

    唯「うちらは尊にくっついて歩くからさ」

    美「連絡できるのは尊だけだからね。じゃあお父さん、せっかくなんでちょっとの間、お言葉に甘えますか」

    覚「わかった。じゃあ晩飯で合流するか。6時半にまたここでどうだ?」

    唯「了解~」

    若「お父さん、お母さん。クリスマスデート、楽しんできてくだされ」

    美「まぁ、気を遣ってくれたの。嬉しいわ」

    覚「じゃ、後でな」

    尊「またね」

    両親は並んで歩いていった。

    若「尊、世話をかけるが」

    尊「いえ…」

    唯「ねぇ尊」

    尊「…は?」

    唯「あんた、さっきからなんかおかしいよ?」

    尊「何が、だよ」

    唯「ソワソワしてさ」

    ト「どなたか、探しておられるのですか?」

    尊「え」

    源「車の中でも、少し虚ろであらせられました。何かあったのですか?」

    若「そういえば話しぶりが緩慢であったな。いかがした?」

    尊「いえ、何でもないんで」

    唯「尊~。有り体に申せ!」

    尊「嫌だよ」

    若「尊。有り体に、申せ」

    尊「…はい」

    唯「ちょっと、その態度なに」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days56~25日14時、さりげなく

    揺れる度に、心は弾む。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    昼ごはん後。7人全員でトランプをしている。

    唯「ババ抜きだとさ、スタートが一人7枚とか8枚で、少なっと思うけど」

    尊「なかなか揃わないからいいでしょ」

    唯「まーねー」

    若君のカードを覚が引く。

    覚「うわっ」

    美香子「ちょっとお父さん、また~?分かりやすく反応しないでくれない?」

    覚「忠清くんは、ジョーカーをサラっと流してくる」

    若君「フフ、お父さんに導かれておるのでしょう」

    尊「わざと取るよう、仕向けてるようには全く見えないのがミソだね」

    覚「いいんだ、こうした処世術に長けていれば、戦国の世でも役に立つしな」

    唯「そんな大きな話?」

    美「負け惜しみに聞こえなくもないけど」

    覚「はいはい、じゃあ母さん引いて」

    覚のカードを美香子が引く。

    美「私は引き当てないわよ?どれにしようかな、これだ!はい、揃った、上がり~」

    覚「やられた~!」

    尊のカードを源三郎が引く。

    尊「なんかすいません、両親ばっかり騒がしくて」

    源三郎「いえ、仲睦まじくていらっしゃる」

    源三郎のカードをトヨが引く。

    トヨ「そうね。あら、揃ったわ。手持ちがなくなった」

    源「お前も引き当てるの上手くないか?」

    美香子が大きく伸びをした。

    美「んん~。さてと、唯」

    唯「なにー」

    美「この後着替えるでしょう。あの赤いセーター、ちゃんと用意してある?」

    唯「うん」

    尊「へー、珍しい」

    唯「たーくんが出してくれた」

    尊「は?」

    若「昨夜の内に在処を確かめ、セーター二枚と、足を覆う品を」

    美「タイツも?」

    若「はい。共に」

    美「まぁ。さすが忠清くんね」

    覚「わかった。あれだろ、直前でないないって騒ぐのが目に見えてるから、早めに動いてくれたんだな」

    唯「なによ、失礼なー」

    若「フフッ」

    唯「…失礼な」

    15時40分。出かける準備中。唯と若君が着替えて部屋から下りてきた。

    ト「まぁ、なんて、なんて」

    お揃いの赤いセーターを着た二人を、うっとりと見つめているトヨ。

    唯「ペアルックってかなりベタだとは思うけどー、やっぱ気分はアガる。ぐふふ」

    ト「愛し合うお二人が揃いの御召し物。すごくいいと思います!」

    若「揃い、か」

    唯「お揃いがいい。お揃い…」

    源三郎とトヨは、当然ながらバラバラの服装。

    唯「あ、ひらめいた!取ってくる!」

    何かに気づき、二階に駆け上がっていった唯。

    美「そろそろ支度出来た?あれ、唯が居ない」

    尊「部屋に何か取りに行ったみたいだよ」

    美「忘れ物かしら」

    若「いえ、多分、揃いの品を見繕うております」

    美「お揃いって?」

    唯が戻って来た。

    唯「お待たせー。はい、これトヨに。こっちは源三郎に」

    ト「え、これは」

    源「あの、花の入った」

    唯が出したのは、ほぼ同じ形に作られたレジンアクセサリー二つ。両方とも、短いチェーンが付いている。

    尊「それ、僕が作ったヤツだ。根付っぽく使ってもらえるといいなって」

    唯「これならお揃いだし、ちょうどジーンズにさぁ」

    輪になったチェーンの留め具を外し、トヨのジーンズのベルト通しに引っ掛けて留め、ぶら下げた唯。それを見て、源三郎のジーンズの同じ位置に付けてあげた尊。

    尊「完成ですね」

    唯「ペアルックじゃないけど、愛し合う二人にぴったし~」

    ト「ええっ!」

    唯「自分で言ってたクセに」

    ト「いえ、それは唯様と忠清様のお話でっ」

    源三郎は、真っ赤になったまま動かなかったが、

    源「尊殿…」

    尊「はい?」

    源「こちらの品は、尊殿が唯様と忠清様に差し上げるべく、お作りになったのでは」

    尊「そればっかりじゃないですから。いつか来た時に土産に渡そうと思って、大量に作ったんで。こちらに居る内に使ってもらえて、僕は嬉しいですよ」

    源「そうおっしゃられるならば、身に付けさせて頂きます」

    尊「よく見るとお揃い、っていいですよ」

    源「痛み入ります」

    美「さて、みんな、準備万端ねー?」

    覚「そろそろ出かけるぞ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days55~25日10時30分、サービス!

    この絵、使徒、じゃない使途は未定。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯「服はさ、これまんま写せばいいから楽だよね」

    若君「うむ」

    何枚かの試作の後、じいのコスプレ画を描き上げた若君。

    トヨ「まぁ、とても似ていらっしゃる」

    源三郎「忠清様、お見事でございます」

    覚「今にも動き出しそうだ。いや~凄いな」

    唯「たーくん、天才!」

    若「天才?」

    尊「天賦の才って意味です、兄さん」

    尊登場。

    覚「もうそんな時間か。…お?」

    スマホを取り出す覚。

    覚「母さんからLINEが来たぞ。えーと、まだちょっとかかる、申し訳ないけど先始めててってさ」

    尊「了解。兄さんすごいね。絵まで描けるなんて」

    若「然程でもないがの」

    唯「ねー尊、これに色つけてプリントアウトして欲しい。お土産にするから」

    尊「そうなんだ。じゃ、実験室に行きますか。お母さんも忙しそうだし」

    唯「では、移動~」

    源三郎&トヨ「わかりました」

    若「お父さん、行って参ります」

    覚「行ってらっしゃい。母さんには、ゆっくり用事済ませなって伝えとくよ」

    実験室。パソコンの画面に、じいの絵が表示された。

    源「この箱で、色を付けるのですか?」

    尊「はい、そうです。また後で紙にして出しますね。兄さん、まず髪の色はどうしますか」

    若「髷は、灰がかかっておる」

    尊「全体に白髪ではないんですね」

    唯「そのあたりさぁ、カラーで印刷する意味なくない?もう、赤とかにしといたら」

    尊「何でだよ。そんなエキセントリックな」

    ト「鎧でしたら、赤備えでも良いのではないでしょうか」

    唯「あー。天野のね」

    若「そうじゃな。ならばこの装束を朱にするか」

    尊「…汎用ヒト型決戦兵器っぽいな」

    唯「なにそれ」

    尊「何にも。ただの一人言」

    唯「じいと鎧かぁ。黒羽城で夜中にね、廊下でガシャンガシャン音がするから何かと思って外に出たの。そしたら、じいと千原じいが夜討ちじゃ~って、鎧着て小突きあいながら出てくトコだったなぁ」

    源「元次様の最期の日、ですか」

    唯「あ、思い出させちゃってごめんね」

    尊「その千原じい、って、もう居ない…人?」

    唯「うん」

    若「源三郎は、千原の筋じゃからの」

    尊「そうなんですね。何というか、そちらは戦が日常で、壮絶じゃないですか。やっぱり僕は永禄では生きてゆけないな」

    若「そうか?尊は切れ者ゆえ、充分渡り合えると思うが」

    尊「兄さん、そういう勧誘はちょっと…」

    唯「ダメだよ~。こいつまた、モコモコの靴下はいてくるよ?」

    若「あぁ、あの洒落た」

    ト「ぷっ」

    源「フフッ」

    尊「はは…このネタ、引きずるなぁ」

    ワイワイ言いつつ、色つけ終了。プリンターから音がし始めた。

    ト「え?この箱から、床の下を通ってあちらに出るのですか?」

    尊「えーと、床下は通らないですが」

    じいのコスプレ画完成。

    源「おぉっ」

    ト「まぁ、鮮やかですね」

    若「ハハ、良いの」

    尊「でもこれ、本人に渡す時に何て説明するの?」

    唯「縁起モンですって言っとけばいいんだよ。たーくんが描いたってだけで、超ゴキゲンになると思うし」

    尊「見た目は魔除けに近いけど」

    ト「御利益ありそうですよ。ふふふ」

    源「はい、喜ばれるかと」

    尊「キャラ的にはアリですか」

    実験室のドアがノックされている。

    尊「はーい」

    開けると、美香子が顔を出した。

    尊「あ、お母さん。お疲れ様」

    美香子「ごめんね、遅くなって。ちょっと早いけど、お父さんがお昼にするって言ってるの。もう終わりそう?」

    尊「ちょうど終わった所。もういいよね?」

    唯「今何時?11時15分か。わかったー」

    若「尊、難儀をかけたのう」

    尊「いえいえ」

    ぞろぞろと、全員実験室を後にした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days54~25日水曜6時20分、画伯!

    いずれは永禄でお披露目しただろうけど。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君と源三郎の朝稽古が終わり、リビングに戻ると、ちょうど美香子が二階から下りてきたところだった。

    源三郎「おはようございます!」

    美香子「おはよう。朝から元気ね~。見てるとこちらもやる気出てくるわ」

    若君「お母さん、おはようございます。ちょうど良かった。ちとお願いしたき儀がございまして」

    美「あら、何かしら。じっくり聞く話?」

    若「いえ、そうではございませぬので、手短に話します。唯の幼き頃の写真を、一枚で良いので分けていただけませぬか。先日作りました写真立てに入れたいのですが」

    美「幼いって、あの位?」

    リビング奥の写真コーナーの、赤ちゃんの写真が飾ってある場所を指差す母。

    若「それは、お任せ致します。できれば、今まで飾っておらぬ物であると幸いですが」

    美「んー。そうね。私達の寝室にしまってある写真もちらほらあるから…それ、急ぐ?」

    若「いえ、急ぎませぬ」

    美「わかったわ。見繕っておくわね」

    朝ごはん後。

    尊「お母さん」

    美「なに?」

    尊「この後、諸々用事あるだろうけどさ、何時頃終わりそう?」

    美「そうねぇ。10時半には終われるといいかなって所。どうして?」

    尊「みんなでトランプやりたい。どうせなら7人全員で」

    唯「ほー」

    トヨ「それは嬉しいですね」

    美「ははーん。カラオケ行った日、出かけるまで勉強しろって隔離されたのがよっぽど嫌だったのね?」

    尊「今は受験勉強が最優先なのはわかってるから、それはいい。今日はさ、お母さんが空くまではキッチリ籠って勉強しようと思って」

    覚「時間制限付きか。中々いい進め方だ」

    美「わかった。じゃあ私と尊は、その時間にここに集合にしましょう」

    尊「うん」

    尊と美香子がリビングを出ていった。

    唯「10時半まで待機?」

    覚「別に、それこそトランプしてりゃいいじゃないか」

    唯「夕方って何時に家出る予定?」

    覚「イルミネーションの点灯が5時だから、そこから観たいんだったら…出発は4時だな」

    唯「じゃあ、午前中も午後も、尊の望みを叶えてトランプな感じかな」

    源トヨが、不思議そうな顔をしている。

    源「あの、畏れながら」

    若「何じゃ。源三郎」

    源「そのイルミネーション、と申す物ですが、どのような」

    ト「光が灯るのですか?」

    唯「あー、そういえば全然説明してなかったかも」

    覚「そうか。これだよ、って画像見せるとネタバレになっちゃうからなあ」

    若「うむ。無数の灯りで、風景が輝くと申すか」

    源「それは…壮麗でございますな」

    覚「今日行く所はね、何もない所に絵が出てきたり、その絵が動いたりするんだよ」

    ト「光の絵が動く?」

    唯「感動すると思うー。私もそこのは、テレビでしか見たコトないけど」

    ト「まぁ…」

    源「益々楽しみでございます」

    トランプを出してきた唯。カードの一番上が、ジョーカーだ。

    唯「…」

    ト「唯様、どうされました?」

    唯「思い出した。たーくん、あの絵ってさ、実は持って来てたりする?」

    若「あの絵?」

    唯「じいの」

    若「あ…あれか。持ち帰ってはおらぬ」

    ト「天野様の、絵?」

    唯「たーくんがね、じいにこのジョーカーの服着せた絵、描いてたの。それがね、すっごく上手だったのー!」

    覚「忠清くん、そんな才能まであるんだ。イケメンが何でも出来るなんてズルい…いや、最強だよ」

    唯「こっちで、もう一度描いてよ」

    若「なんと」

    源「絵を嗜まれるなど初耳でございます。是非拝見しとう存じます」

    ト「わたくしも是非」

    唯「はい、決まりー!」

    若「唯…そのように、事を大きゅうせずとも」

    唯「またまたぁ。照れちゃってぇ」

    覚「よし。僕も見たいから、筆ペンと半紙取ってくるよ」

    若「お父さん、それは」

    唯「困ってるぅ。かわいいっ」

    描く準備が出来上がった。

    若「うむ…」

    唯「たーくん、がんばってぇ」

    覚「忠清くん、折角だからさ、出来たらその絵をパソコンに読み込んで、色を付けたりしてもいいんじゃないか?それを持って帰ってもいいし」

    若「おぉ、それは土産にうってつけですね」

    唯「じいに?それは喜ぶ…」

    源「信茂殿に?!それは良い手土産でございます!是非、是非に!」

    ト「源ちゃん、何よ?そんな声張り上げて」

    唯「びっくりしたー。なに身を乗り出してんの?源三郎に関係ある?」

    源「は、いや、その」

    若「何ぞ思うところがあるのか」

    源「は、はぁ…」

    若「まあ良い。では、描くと致すか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days53~24日19時45分、忖度します

    無言の圧が凄い。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    母の仕事が終わった。

    美香子「お待たせしちゃったわね、始めてくださいな」

    覚「はい、じゃあ皆、クラッカー持って~」

    若君「これはの、先を上に向け、紐を引かねばならぬ」

    源三郎「大きな音が出るばかりでなく、そのように気を遣い、使う品だと」

    トヨ「小さいお品ですのに」

    覚「さあ、用意はいいか~?じゃあ源三郎くんトヨちゃん、さっきも言ったけどさ、僕がメリークリスマスって言ったら、メリークリスマスって言って引っ張ってくれ」

    源「心得ました」

    ト「はい!」

    覚「行くぞー、メリークリスマス!」

    六人「メリー、クリスマス!!」

    パパパパ、パン、パン!

    ト「何、何が出てきたの?舞ってる!」

    源「大蛇か?!」

    唯「大きい音出るって教えといて良かったね。充分びっくりしてる」

    パーティーが賑やかにスタート。

    唯「ローストチキン、分けて分けて~」

    美「はいはい」

    手早くチキンを捌く母。

    美「はい、召し上がれ」

    源「ありがとう、ございます…」

    ト「源ちゃん?どうしたの」

    源「幼き頃、このように母に飯を取り分けてもらったのを、思い出した」

    ト「そう。いい思い出ね」

    美「あら、実のお母様と重ねてもらえるなんて嬉しいわ~。そんな可愛いい息子に、ミニトマトとレタスも付けてあげよう」

    源「はっ、忝のう存じます」

    唯「源三郎~、それは違うておるぞ」

    尊「何でそこだけ戦国言葉?」

    源「え、違うとは」

    唯「ママありがとう!だよ」

    源「ママ…」

    尊「ムチャ振りが甚だしい」

    源「ママ様、ありがとうございます!」

    唯「なんでそうなる?」

    尊「だからー」

    美「うふふ、源三郎くんはホント、真面目でいい子ね~」

    覚「おーい、ピザ焼きたてだぞ~、テーブルどこか空けてくれ~」

    食卓が、カロリー高めな皿で埋め尽くされている。

    唯「そういえば、何にも聞かないんだね、今日のデートの話」

    覚「そんな野暮な事はしない。聞かれたいなら別だが」

    美「あ、でもそのはめてる指輪、とっても華奢で綺麗ね。もしかしてもしかする?」

    若「わしが贈りました」

    ト「まあっ!」

    源三郎の囁き「トヨ、声が大きい!」

    トヨの囁き「ご、ごめん、つい」

    唯「もういいかな…あ、たーくん、ほら!」

    今度はすんなり指輪が抜けた。

    若「それは何より」

    覚「そんな事やってると、落っことすぞ?」

    ト「わぁ…見せていただいても良いですか?」

    唯「どーぞー」

    ト「蝶と花ですか。素敵…」

    美「良かったわね~唯。宝物ね」

    唯「うん!」

    食卓の上が片づいてきた。

    覚「そろそろケーキいくか?」

    唯「待ってましたっ」

    尊「デートで食べたんじゃないの?よく入るよな」

    唯「あれはパンケーキ、これはクリスマスケーキ。モノが違う。え、なに!二つもあるの?!ヒャッホー!」

    覚「どこから声出してるんだ」

    美「定番の生クリームにイチゴのと、もう一つはチョコレートケーキなのね」

    源「どちらも甘味でございますか?」

    尊「味は少し違いますけどね」

    覚が切り分けている。

    唯「あ、ケーキ入刀忘れてた」

    覚「あ?そりゃ済まんかったな」

    ト「入刀?」

    唯「ホントは、結婚式、えーと祝言の時にやるんだけどね。二人で一つのナイフ持って、初めての共同作業!って」

    ト「祝言ですか。いいですね…」

    少しうつむいたトヨ。速川家五人が、一斉に源三郎を見た。その視線におののく源三郎。

    源「いや、あの」

    覚「…さぁ、切り終わったぞ」

    若「…お父さん、ありがとうございました。いただきます」

    唯「…いただきます」

    尊「静かに事が進んでる」

    美「はいはい黙らない。ねぇトヨちゃん、ケーキはどう?」

    ト「はい。この漆黒のケーキ、風味が良いですね」

    覚「お、気に入ったかい?そりゃ良かった。ビターチョコだからね。大人な味だ」

    唯「ねぇ、たーくん」

    若「何じゃ」

    唯「パンケーキもこの位甘さ控えめなら良かったのにー、って思ってない?」

    若「少しは」

    唯「だよね~」

    尊「お姉ちゃん、また兄さんに無理させたの?」

    唯「してないよー、してない…はず」

    若「ハハハ」

    尊「笑ってるからいいけどさー」

    話は尽きず、夜更けまで仲良く集いました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    24日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days52~24日18時45分、星だけが見ていた

    寒さをものともせず。むしろ暖がとれそう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    立てないと甘える唯を抱え、ようやく自転車の荷台に乗せた若君。

    唯「あ、宵の明星見っけ」

    唯が、空を指差した。若君も見上げる。

    若君「夕星か」

    唯「ゆう…なに?」

    若「ゆうづつじゃ。同じ星を指しておると思うが」

    唯「へー。そういう名前もあったんだ」

    若「どんな呼び名であれ、永禄も令和も、空は変わらぬじゃろ」

    唯「そうだね。こっちでは、なかなかこんなには見えないけど」

    若「こんな?あぁ」

    穿いているラメ入りのタイツを撫でる唯。

    唯「あの星いっぱいの夜ね、たーくんと両想いってわかって、すっごく嬉しかった。私、一生忘れない」

    若「わしも、あの夜は生涯忘れぬ」

    唯「あ」

    若「あ?」

    唯「よーく考えたら、お前を思うって告られた後、次に二人っきりになった時には、結婚しようって言われた」

    若「まぁそうだが」

    唯「たーくん、手が早くな~い?」

    若「早いとは何じゃ。聞き捨てならぬの」

    唯「怒った?キャー!」

    若「これ!」

    自転車をぴょんと降り、逃げようとした唯だったが、

    唯「わ、わっ」

    若「危ない!」

    バランスを崩し転びそうになった唯を、すんでの所で後ろから抱きかかえた。

    若「先程まで、立てぬと申しておったではないか」

    唯「そうでした」

    唯を支えながら立たせ、自分の方に向かせた若君。

    若「立てるか?」

    唯「うん。ありがと。もう…帰る時間だね」

    若「うむ。7時には戻らねばならぬ」

    唯「約束してたもんね」

    若「甘味の店で申したが」

    唯「うん?」

    若「時が進むにつれ、尻すぼみになってはおらなんだか?」

    唯「なってない、全然なってないよ」

    若「そうか」

    唯「デート、どうするかとかいっぱい考えてくれてありがとう。…あのぅ」

    若「何じゃ?」

    唯「もう一回、だけ」

    若「もう一回。壁ドンか?」

    唯「違う」

    若「ならば追いかけっこか」

    唯「違うぅ、たーくんの意地悪っ」

    若「ハハ、わかっておる」

    若君が、辺りをぐるりと見渡す。

    若「姫、誰も居りませぬ」

    唯「ふふっ、よろしい。あ」

    脇を抱えられ、再び荷台に乗せられた唯。

    唯「これ正解。またたーくんに骨抜きにされても安全」

    若「何も特別な事はしてはおらぬがのう」

    サドルに手をつき、体をかがめて優しくキスをした若君。

    若「帰るぞ」

    唯「はい!」

    走り出した自転車。

    唯 心の声(たーくんが、特別なんだってば!今日のデートも、一生忘れない、忘れないから)

    さて。その頃の速川家。

    トヨ「はは、あははは!痛い、お腹の皮がよじれる、もー源ちゃんったら!」

    源三郎「笑い過ぎだろ」

    尊「めっちゃツボに入ってるなぁ」

    源三郎がかけた変装道具の鼻メガネに、トヨが馬鹿ウケしている。

    尊「去年は僕がかけたんですよ。源三郎さん、貸してもらえますか」

    源「ははっ」

    尊がかけてみる。

    ト「まぁ」

    源「おぉ、そうなるのですね」

    ト「尊様にはとてもお似合いですね」

    尊「なんか複雑だな」

    玄関で物音がする。

    覚「お、ラブラブカップルのご帰還か」

    唯「ただいまぁ」

    若「只今戻りました」

    源三郎&トヨ「おかえりなさいませ」

    尊「お帰り、お疲れ~」

    唯「なに、もうそのメガネかけてんの?盛り上がってるねぇ」

    尊「お姉ちゃん達もね」

    唯「なにが」

    尊「口の周りがキラキラしてる」

    唯「あっ…もぅ、それはいいから!上着と荷物置いてくる、行こったーくん」

    二階に上がっていった二人。

    ト「尊様」

    尊「はい」

    ト「口元が、どうかしたんですか?」

    尊「あー。今僕から聞くより、後で姉にこっそり聞いた方がいいですよ」

    ト「そうですか。わかりました」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days51~24日18時30分、溶ける~

    策士あらわる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    速川家リビング。テーブルセッティング中の覚とトヨ。

    トヨ「こちらのお品、美味しそうに焼けていますね」

    覚「ローストチキンって言うんだ。張り切って作ろうかなとも思ったけどさ、今回は市販品でごめんな」

    尊「今回…」

    覚「あ、早かったな、もう戻ってたのか。プレッシャーかけたつもりはないぞ~」

    尊が、ダンボール箱を持っている。

    源三郎「尊殿、わたくしが持ちます」

    尊「いえいえ、軽いし今から開けるんで。中身を一緒に出してもらえますか?」

    源「心得ました」

    ト「あら、随分と煌びやか」

    クリスマスの飾り付け用グッズが、わらわらと出てきた。

    尊「去年の使いまわしですけどね」

    ト「尊様。わたくし、この紙の輪に見覚えがあります」

    尊「あー、レイですね。お姉ちゃん達持ち帰ってますから」

    ト「唯様が大切に仕舞われておりました。このように丸かったのですね。形が崩れてでも残したかったと伺いました」

    覚「そうかー。去年唯達が帰ってから、皆さんに会えたまでの話は聞いてはいないが」

    尊「きっと、言わないだけで、色々大変だったんだろうな」

    変わって、デート中の二人。何度も通りを行き来していたが、

    若君「そろそろ戻らねばの」

    唯「うん」

    若「心残りはないか?」

    唯「うん!」

    再び、自転車で走り出した。若君にギュっと掴まる唯。

    唯 心の声(この後はクリスマスパーティー!楽しみっ)

    自転車が、黒羽城公園に入って行く。

    唯 心(ん?どこ行くの)

    どんどん奥へ進む。

    唯 心(公園突っ切って帰りは近道?そんな技まで身につけちゃったか~。やるぅ)

    建物が見えてきた。減速する若君。

    唯 心(へ?)

    自転車を降りた二人。きょとんとする唯。

    唯「この建物に用なの?もう閉まってる時間だけど」

    若君は微笑むばかりで、何も説明しない。

    唯「なに?…あっ」

    そこは…

    唯 心(ここ、壁ドンおねだりした所!)

    一年前と同じ場所。すっかり夜の帳が下りているので、周りには所々電灯があるが、その辺りはほの暗い。

    若「姫、此処へ」

    唯「…」

    促され、壁に背中をつける唯。

    唯「はは…こんなオプション、聞いてないんですけどっ」

    若君が右の掌で壁にもたれ、壁ドンの体勢に。

    唯 心(わぁ。なんか、くすぐったい)

    しばらく見つめ合っていたが、ゆっくりと顔が近づいてきた。

    唯「えっ」

    思わずうつむいた唯。横目でチラリと右を見る。

    唯 心(えっと、右、誰もいない)

    次に左方向をチラリ。

    唯 心(左も、よし。これで安心。って、なんで私が確認しなきゃいけないのー!)

    若「唯」

    呼ばれて反射的に顔を上げる。

    唯 心(キャー!近いよ!ちかいちかいち…)

    唇が重なった。

    唯 心(…)

    静寂に包まれている。

    唯 心(頭ぐるぐるする、甘い、甘すぎる、溶けちゃいそう)

    熱い時間が続く。若君の右腕は、肘まで壁についた。

    唯 心(攻めすぎだよぉ、濃いぃよぉ。あ、もうダメ、限界。溶けた)

    唯「はぁ…」

    若「唯?」

    膝から崩れるように、ズルッと下がり、へなへなとへたり込んだ唯。さすがの若君も、その様子に慌てている。

    若「どうした!具合が悪いのか?!」

    唯「イチコロですぅ」

    若「イチコロ?」

    唯「ノックアウトっす」

    若「ますますわからぬ」

    唯「わかってよぅ。具合は悪くない。力が抜けて立てないの」

    若「それは、一大事じゃな」

    唯「…なに気づいてニヤケてんの」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    デート終わりまであと少し。

    続きます。

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    四人の現代Days50~24日17時30分、狙ってる

    肖像権はどうなってるんだ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君「そろそろ、この地を出ようと思うておるが、良いか?」

    唯「うん。良いよん。自転車、私がこいであげよっか?」

    若「いや」

    唯「遠慮しなくってもー」

    若「ならぬ。そのような短い丈の…」

    唯「そうでした」

    出口に向かっていると、吹き抜けのある広いスペースに出た。随分と賑わっている。

    呼び込みの店員「ただいま福引をやっておりまーす!お買い上げレシートをご確認くださ~い!」

    唯「なになに?」

    近くの立看板を見る。どうやらモール内の全店舗対象で、合計購入金額が多い程、何回も引けるらしい。

    唯「パンケーキと指輪、金額足すと一回引けるなぁ」

    若「ならば行って参れ」

    唯「もう帰るからこれ以上増えないもんね。ではちょっくら」

    若君を置いてその場を離れようとした唯だが、ふと周りの様子に気がついた。

    唯 心の声(うわ、マジか!)

    唯「ねぇ」

    若「何じゃ、戻りおって」

    唯「たーくんも行こっ。ていうか、来てっ」

    若「一人では引けぬのか?ハハハ」

    若君の手を引っ張る唯。すると、周りに居た女子達の何台かのスマホが、スーッと引っ込んだ。

    唯 心(一体なに?一緒に写真撮ってくださいなの?!ううん、写真だけで済まなかったかも。怖っ、油断も隙もないっ。たーくんを守らないと!)

    ようやく抽選会場に並び、一回引いた唯。

    店「おめでとうございまーす、4等です!この中からお一つお選びください」

    唯「たーくん4等だって!5等のティッシュよりはいいかな?あっ、かわいい!これもらいまーす」

    会場を後にし、歩き出す。

    若「それは?」

    唯「サンタクロースのお人形~」

    赤い帽子赤い服、白髭のサンタクロースが、手のひらサイズで可愛らしく作ってある。

    若「サンタ、クロース?」

    唯「サンタさんの事だよ」

    若「サンタ、はサンタクロースが生来の名か」

    唯「うん。ごめん、私ずっとサンタさんって言ってたかも」

    若「忠清が、九八郎忠清のようにか?」

    唯「えっ?!それは、たぶん違う…」

    建物の外へ出た。

    唯「いよいよ?」

    若「駅前の通り、じゃな」

    唯「うん!この前木村先生と会った喫茶店から、ずっと行った所ね。楽しみっ」

    自転車をこぐ若君。通りが見えてきた。

    若君 心の声(おぉ…木々が輝いておる)

    唯「到着~。ねっ、キレイでしょ?」

    若「うむ」

    真っ直ぐ伸びる道の両側、街路樹がライトで装飾され、光の道になっている。

    若「この道を連れ立って歩くのが、夢じゃったと?」

    唯「うん!」

    照らされた歩道を、手を繋いで歩きだした。

    唯「一人で毎年見てた景色。たーくんと一緒に見たかったの。やっと、やっと~」

    若「来れて良かった」

    唯「えへっ」

    若「明かりが枝一本一本に、巻き付けてあるのう」

    唯「そうだね」

    若「細工が大変そうじゃ」

    唯「裏方の気持ち?」

    しばらくそぞろ歩いた。

    若「少し風が出てきたか」

    唯「ホントだ。でも寒くないよ」

    若「…そうか」

    唯「ん?ねぇ、それって寒いって言うとイイ事ある?」

    若「寒くはないのであろう」

    唯「えー。寒い寒いぃ。あっためてくれないと、こごえちゃうよ」

    若「フフッ」

    立ち止まる若君。唯の方を向く。

    唯「…え!」

    急に、強く抱き締められた。

    唯 心(キャーー!不意討ち!!街のみなさん、バカップルでごめんなさいっ。今、今だけだから許して)

    少し腕を緩めた若君。唯が見上げると、優しく微笑んでいる。

    若「冷えてはおらぬか?」

    唯「うん…」

    若「よし」

    再び、歩き出した。

    唯 心(はぁ~びっくりした。ドキドキだよぅ。このままキスされるのかと思った…ちょっと期待しちゃったけど、イカンイカン、ここは公共の場ですからっ)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days49~24日16時45分、贈ります

    優しい旦那様。たまにツッコミが入る。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    変わって、速川家リビング。ケーキその他を受け取り帰宅した、覚と尊と源トヨ。

    覚「ここに置いてくれる?ん、ありがとな」

    源三郎「お父さん、あとは何をお手伝いすれば」

    トヨ「何なりとお申し付けください」

    覚「まだ時間あるからゆっくりやるよ。尊、例の話、しといてくれ」

    尊「はーい」

    尊が、部屋の隅に置いたビニール袋から、クラッカーを取り出した。

    尊「えーとですね。パーティー始める時に、これをこう引っ張るんですけど、大きい音がしますから、そのつもりでいてくださいね」

    源「そうなんですか」

    ト「それは、ご親切にありがとうございます」

    尊「兄さんが、驚かないよう説明しておいて欲しいって言ってたんで」

    覚「さすがにポップコーンで驚かせ過ぎたと思ったか?わからんが」

    尊「どんな風になるかは、後のお楽しみにしますね。今やると、掃除が大変なんで」

    ト「掃除!」

    源「掃除。わかりました」

    戻って、唯と若君。ウィンドウショッピング継続中。

    唯「アクセサリー屋さん、見てもいい?」

    若君「あぁ」

    店に入っていく唯。鏡がそこかしこにあり、映る唯が二人三人と増えていく。

    若君 心の声(唯が三人か。…手強い)

    唯「かわいいなー」

    一つ一つ顔を近付けて眺める唯。ライトに照らされ、表情も輝く。

    若 心(麗しい)

    唯「わぁ、この指輪、超かわいい!」

    手に取り、左手の薬指にはめてみる。

    唯「ねー、かわいくない?」

    若「これは、蝶が花にとまる様を模しておるのじゃな」

    唯「そーそー」

    一通り楽しんだ後、外そうとするが…

    唯「ヤ、ヤバい」

    若「いかがした?」

    唯「取れないの」

    ぐるぐると回してみるが、一向に関節を通過しない。ギューギュー引っ張る唯。

    唯「指むくんじゃったのかなあ。あとちょっとなのに!」

    若「これ、無茶はならぬ。指先の色が変わってきておるではないか」

    唯の手を取り、指輪を指の付け根に戻しつつ、優しくさする若君。

    若「痛々しい」

    唯「でも、どうしよう」

    若「そうじゃな…」

    若君が値札を確認する。

    若「うむ。これも何かの縁。買うてやろう。ならばこのまま身に付けておれるであろう?」

    唯「えっ、そんな!いいよ、だったら自分のおこづかいで買う」

    若「手持ちで足りるゆえ」

    唯「えぇぇ、悪いよぉ」

    若「一度、プレゼントなる物を買うてみたかった。この品を気に入ったならばそうしたい」

    唯「そりゃあ、もらえたらすっごく嬉しいけど…」

    若「ならば決まりじゃ」

    唯「なんか、ごめんなさい」

    若「謝らんで良い。よう似合うておるしの」

    唯「ホント?ありがとう」

    レジに向かった。若君が支払う。

    唯「あの、このままはめて帰っても…」

    店員「どうぞ。今日はそんなお客様多いです。気に入ったからこのままでって」

    唯「そうなんですか」

    唯 心の声(そんなラブラブな気持ちオンリーで、買って欲しかったなぁ)

    店「こちらお釣りとレシートです」

    若「はい」

    店「そのイヤリング素敵ですね。ついアクセサリーには目がいっちゃいます」

    唯「え、これですか!手作りで」

    店「まあ。とても器用でいらっしゃるんですね」

    唯「は、はは…」

    若「ありがとう。それでは」

    店「ありがとうございました~」

    無事購入完了。

    唯「ごめん。固まっちゃって、ちゃんとたーくんが作ってくれたって言えなかった」

    若「良い。細かい説明など要らぬ」

    左手をしげしげと見る唯。

    唯「プレゼントありがとう!大切にする!永禄にも持って帰るね」

    若「良い土産ができたのう」

    唯「もうちょっとがんばれば抜けそうなんだけど。パンケーキ、たーくんの分まで食べたからむくんだかなぁ」

    若「それはわからぬ」

    唯「もう人の分まで食べない、と」

    若「フッ」

    唯「鼻で笑ったな?」

    若「できぬ話をするからじゃ」

    唯「うっ」

    若「違うたか?」

    唯「違わない」

    若「であろうの」

    唯「ちぇー」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days48~24日16時15分、呼んだ?

    日常会話のように愛を囁く。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    パンケーキ店を出た。

    唯「この後はなに~?」

    若君「プラプラと、歩く」

    唯「ぷらぷら?」

    若「ここぞと思う店に、好きな様に立ち寄れば良い」

    唯「ウィンドウショッピングだね。わかったー」

    ゆっくり歩き出した二人。やはり若君はここでも目を惹く。

    女性1「見て、あの人超イケメン!」

    女性2「イブにあんな素敵な男性とデートなんて、羨まし過ぎる~」

    それを聞き、繋いでいた手をほどいて若君の腕にしがみつく唯。

    若「いかがした?」

    唯「たーくんが他の女に捕られないように」

    若「ハハ、有り得ぬ。愛する妻は、生涯唯ただ一人」

    唯「サラっとすごいコト言った!」

    一方、若君には違う会話が耳に入ってきていた。

    男性1「あの、腕組んでる子さ、すんげぇ可愛いいな」

    男性2「イブまでに、あんな綺麗な子、ゲットしときたかったなあ」

    傍らの唯に目をやる若君。

    唯「なぁに?」

    若「わしは、幸せ者じゃな」

    唯「やーん。そんなに口説いてどうすんの?」

    若「ハハハ」

    じゃれ合いながら歩いていると、

    唯「あれ?こんな店あったっけ。新しく入ったのかな。キャー!かーわいい!」

    ショーウィンドウに釘付けになる唯。そこは、ペットショップだった。

    若「随分と高価じゃのう」

    唯「目の前のかわいい猫じゃなくて、そっち先見る?」

    若「命の値段か」

    唯「…学校の授業みたい」

    ずっと動物達を眺めていたが、唯が壁のポスターに気付いた。

    唯「ねぇ」

    若「ん?」

    唯「これ、おかしいと思わない?ワンちゃんネコちゃん大集合って」

    若「それは、どのように」

    唯「だって、ワンは鳴き声でネコは種類。バラバラだよ。イヌちゃんネコちゃんか、ワンちゃんニャンちゃんが正しくない?」

    若「ほぅ。鳴き声」

    唯「そう思うなー」

    若「…ならば唯ならさしずめ」

    唯「え、私?」

    若「シャッちゃん、じゃな」

    唯「やだ、なにそれー、嬉しくなーい!」

    店を出た。唯が、あ!という顔をする。

    唯「ねぇねぇ、たーくぅん」

    若「何じゃ」

    唯「唯ちゃん、って呼んでみて」

    若「なんと」

    唯「ねー、一回くらいいいでしょ~、言って欲しいなぁ~」

    立ち止まる。

    若「ならば」

    咳払いする若君。

    若「…唯、ちゃん」

    唯「えー?」

    若「唯ちゃん」

    唯「ん、ごめん、やっぱ違うな。ありがと」

    若「何じゃ、頼んでおきながらその言い草は」

    唯「だから、ごめんって~」

    若「まあ良かろう。ところで」

    唯「なに?」

    若「牛は、ウッシッシちゃん、なのか?」

    唯「え!急になんの話?」

    若「バーベキューで聞いたが。肉を見て唯が申した」

    唯「…お願いだから忘れてくんないかな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days47~24日14時45分、戦うあなたが

    甘くて上等。だって念願のデートだもん。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ショッピングモールに到着。自転車を降りる。

    唯「ふう。たーくんお疲れさま。やっぱ家から直で来るとちょっと遠いね。学校帰りだったらそこまでじゃなかったけど」

    歩き出した二人。

    若君「一番に、参りたい店がある。良いか?」

    唯「もっちろん。おまかせデートだもーん」

    手を繋ぎながらも、地図を確認しながら歩く若君。ある店に着いた。

    唯「えっ」

    若「やはり混みあっておるのう。尊の申した通りじゃ」

    唯「あ、あのたーくん」

    若「何処ぞに、名を書いて待つと聞いたが」

    唯「ホントに…いいの?」

    若「前は、残念な思いをさせ、済まなんだの」

    唯「それは…あ、名前、書いてくる」

    店頭にあるボードに、速川2名と書いた唯。そこは、以前若君が嫌がり入らなかった、パンケーキの店だった。

    唯「3組目だから、そんなに待たないと思う」

    若「そうか」

    唯「ここ、尊と行った店に比べて、かなり甘々だと思うけど…」

    若「構わぬ」

    店の前に並ぶ椅子に座った二人。

    唯「あ、たーくんは食べずに見てるだけとか?」

    若「いや。共有が、デートの醍醐味。わしもいただく。リベンジじゃ」

    唯「新しい言葉仕入れてるし」

    次々と呼ばれ、順番がもうすぐ来る。唯が座ったまま、列の後ろを見渡す。

    唯 心の声(イブだから、こういう店は混むよね。だいぶ後ろに増えてる)

    カップルばかりだ。

    唯 心(みんな、スマホ見てるなぁ)

    二人で一つのスマホを覗きこんでいたり、別々に指をやたらと動かしていたり。

    唯 心(右手にはスマホ、か)

    唯の左に座る若君。右手が、膝の上で軽く握られている。

    唯 心(キレイな手。床でも椅子でも、手はいつもこうだよね)

    そのまま、じっと見つめ続ける。

    唯 心(そこらのカップル男子と違って、たーくんの右手はスマホは持たない。でもこの手は…刀を持つんだ。で、人を斬る。戦は嫌だけど、きっとこれからもそう)

    若「唯?何を手ばかり見ておる」

    そう言うと、唯の左手を取り、自分の右手があった位置に乗せ、上からそっと包んだ。

    唯「あ」

    見上げると、目が合った。

    若「いかがした?」

    唯「ん、いろいろ」

    若「色々、か」

    唯「でもね、嬉しいな、が一番かな。たーくんをひとり占めしてるから」

    若「ハハ、それは今だけではなかろう」

    唯 心(忘れてなきゃいけないのに、急に戦を思い出すなんて、ダメじゃん私。幸せボケするなってか。刀も槍も持つけど、今はひとり占めできる私だけのたーくんだから!)

    店員「二名様でお待ちの、速川様~」

    唯「あ、はーい。行こっ」

    若「うむ」

    席に通され、注文する。しばらくすると、いかにも甘々なパンケーキが二皿運ばれてきた。

    若「いただこう」

    唯「うん」

    若君が食べる様子を心配そうに見ている唯。

    唯「たーくん…大丈夫?」

    若「大丈夫とは何じゃ」

    唯「無理してない?」

    若「こちらの世の甘味にも慣れた」

    唯「ホントに?」

    若「前に踵を返し立ち去った折に、相当嫌そうな顔をしておったからじゃな。まこと申し訳が立たぬ」

    唯「嫌なモノはしかたないもん。もう謝んないでね」

    若「心得た。ほれ、あーん、して」

    唯「え、あ」

    一口もらった唯。

    唯「じゃあ私もー。はい、あーん」

    若「ん、ん」

    唯「ねぇ、やっぱまだ苦手なんでしょ」

    若「気のせいじゃろ」

    唯「ホントかなー。でもね、がんばってくれてるたーくんは、超優しくて超カッコいいよぉ。ありがとね。うふふ」

    若「わしはの」

    唯「うん?」

    若「唯が笑うておれば、それで良いのじゃ」

    唯「ニコニコしてれば、がんばれちゃう?」

    若「然り」

    唯「もー。そんなん聞いたら、ニコニコよりニヤニヤだよぅ。どうしよう、一軒目からこんなんで、幸せすぎるー」

    若「ハハハ。尻すぼみにならぬと良いがの」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days46~24日14時、以心伝心

    今朝のあさイチ、推し名書きの中に、アシガールもアシガールSPも載ってましたね(^o^)
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    楽しみにしてたわりには、準備万端ではない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    着替えて二階から下りてきた唯。

    唯「あれ、お母さん居ない。え、もうすぐ2時!そんな時間だったかぁ」

    尊「遅いんだよ。兄さんだって、色々計画があるだろうに」

    唯「ねー、見て、これ似合う~?」

    尊「人の話聞いてる?」

    唯の耳元で揺れていたのは、小花をレジンで閉じ込めたイヤリング。

    若君「おぉ」

    トヨ「可愛いいですね。ゆらりと揺れて」

    覚「似合ってるぞ。何より忠清くんが作ったアクセサリーだしな」

    唯「ありがと。気づいて良かった~」

    尊「気づく?」

    唯「部屋にさ、作ったアクセサリー入れた箱置いてあるじゃない。これだけ、箱の上に出てたの」

    尊「って事は」

    唯「たーくん、着けて欲しいならちゃんと言わないと~」

    若「ん?唯の好きにするが良いと思うて」

    覚「そんな、頼んだっていいのに。奥ゆかしいというか」

    唯「ちゃーんとラブラブ電波、キャッチしたからね!」

    源三郎の囁き「尊殿」

    尊の囁き「え?はい」

    源 囁き「電波、とは、例のWi-Fi、でございますか?」

    尊 囁き「えーと…違います」

    玄関でまだバタバタしている。

    唯「靴どうしよう~、あ。そうだ」

    下駄箱を探る唯。

    唯「あったあった。まだ履けるよねー」

    覚「通学で履いてたローファーか。うん、スッキリしてて悪くないぞ」

    唯「これなら慣れてて走りやすいし」

    若「走る場はない筈じゃが」

    唯「さてと。じゃ、行ってきまーす!」

    若「行って参ります。お父さん」

    覚「ん?」

    若「クリスマスパーティー、の支度が手伝えず、申し訳なく思うております」

    覚「何言ってるんだい。今日のデートの為に帰って来たようなモンだろ?そんなの気にせずに、十二分に楽しんでおいで」

    若「はい!」

    尊「行ってらっしゃーい」

    源三郎&トヨ「行ってらっしゃいませ」

    ようやく出ていった。

    尊「やっとだよ」

    覚「ははは。もうちょっとしたら、注文しといたケーキ取りに行くぞ」

    尊「じゃあ、源三郎さんとトヨさん連れて行ってあげてよ。せっかくだから、イブの街の様子も堪能してもらってさ」

    ト「尊様はどうなさるんですか?」

    尊「留守番してますよ」

    ト「そのような…ご一緒は難しいですか?」

    源三郎「本日からしばらくは、長く共に過ごせると楽しみにしておりましたが」

    尊「またまた~。僕と居て楽しいですか?」

    源&ト「楽しいです」

    尊「わぁ、即答…」

    覚「尊、モテ期到来だな。四人で行くぞ。ケーキな、奮発して大きめのを二つ頼んであるから。あと諸々あるし」

    尊「二つ!そりゃすごいや」

    ト「ケーキ?」

    尊「甘くて柔らかいんですよ」

    源「この令和の世は、甘味が多くございますね」

    尊「そうですね。居る間くらい、お腹いっぱい食べちゃってください」

    源&ト「はい!」

    その頃、まだ自転車置場の唯と若君。

    唯「たーくん、待たせてごめんね。もしかして、何時にココ、とか決まってた?」

    若「いや、それはない」

    唯「今日は、よろしくお願いします」

    若「うむ。よろしゅう頼む」

    少し顔を近づける若君。

    唯「え、なに」

    若「綺麗だよ」

    唯「やーん!そんなラブ大盛りでスタート?あの、あのね、さっきお母さんがね、好きな人を思ってお化粧するって、極上の時間よねって言ってた」

    若「ハハ、そうか。では、極上の姫と共に」

    唯「褒め…られてる?」

    ひょいと唯を持ち上げ、自転車の荷台に乗せたのだが、

    若「思うたより短いのう」

    唯「あ。スカートか!おしとやか~に乗りますんで、ご勘弁を」

    若「では、参るぞ」

    唯「参りまーす」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、ようやくデートスタート。

    続きます。

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    四人の現代Days45~24日8時45分、選択せよ

    ちょっと待ちくたびれた?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに戻ってきた唯と若君。食卓で覚と源トヨと、冬休みに入った尊が寛いでいる。

    唯「ただいまぁ」

    覚「おー。喜んでもらえたか?」

    若君「はい!」

    覚「良かったな~」

    尊「しかし」

    唯「ん?」

    尊「お姉ちゃん、何かイベントがあると、やたら早起き。お子様のルーティンだよな」

    唯「悪い?だって今日は、今日は!」

    尊「はいはい」

    若「尊」

    尊「はい?」

    若「少し、良いか?」

    若君に促されて席を立った尊。

    唯「なに!秘密会議?」

    覚「はいはい、唯は今から洗い物だ。カップをそのまま流しに運んでくれ」

    唯「えー気になるぅ」

    トヨ「お父さん、洗い物なら致します」

    源三郎「いえわたくしが」

    覚「いや、いいよ。君達は座ってて」

    ソファーに移動した若君と尊。若君がジーンズのポケットから、尊が印刷したショッピングモールのフロアマップを取り出した。

    若「この店じゃが」

    尊「あー。ここ。リベンジですか?うわっ」

    若「リベンジ、とは?」

    尊「ごめんなさい、ついわからない言葉使っちゃった。えーと、再挑戦?改めて挑む?」

    若「挑む、か。そうなるのう」

    尊「今日なんか特に混みそうだし。頑張ってください。で、質問は何ですか?」

    若「支払いは二人で如何程になるか、わかるか?前に尊と三人で他の地の店には参ったが、とんと見当がつかぬ」

    尊「あ、じゃあお店のホームページ見てみましょうか」

    スマホで検索。

    若「おぉ」

    尊「飲み物込みで、4000円あれば大丈夫ですね。って、あれ?兄さん、手持ちのお金って…」

    若「今朝方、お母さんに渡されてのう」

    尊「それは良かった。あ、だからこの店も行っちゃおうって?」

    若「うむ」

    尊「急遽予定変更は大変そうだなぁ。そのお金、兄さんずっとマッサージ代受け取ってなかったからその分ですよね」

    若「いや、かなり上乗せされておる。そこまではいただけぬと一旦は断ったのじゃが」

    尊「いいんじゃないですか?」

    若「されど」

    尊「それか、母はそんなつもりないでしょうけど、マッサージ代先払いしたって考えても」

    若「…そうか、そうじゃな。後々の分は受け取らねば済む話か。ありがとう、尊。これで気兼ねなく使える」

    尊「兄さんはホント律儀だなぁ」

    昼になった。ご飯も済み、唯は美香子に軽く化粧もしてもらったのだが…

    美香子「唯~。悩むにも程があるわよ?」

    唯「お母さんが、ただの黒タイツじゃイベント感がないって言うからでしょっ」

    ト「どれも選んでも素敵だとは思いますが」

    昨年美香子が唯の為に購入した、色や柄の入ったタイツの数々を床に並べ、唸っている。

    尊「今日はてっきり、真っ赤なセーターのペアルックだと」

    唯「それは明日着る」

    尊「ふーん」

    唯「あの赤いの、すっごく気に入ってるけど、地元をうろつくには目立ちすぎて」

    尊「あっそう。だからここにセーターとスカートが置いてあるんだ」

    唯「たーくんが、白いパーカーにジーンズでしょ。だから私は白いセーターに、買ってもらったミニスカートのつもりで」

    尊「そこまでは色合わせも順調だったけど、か。この服に合わせるタイツは、コーディネートの腕が試されると」

    覚「コーディネートはこうでねぇと、ってのはないだろ」

    唯「はあ?」

    覚「すいません…」

    美「デートの時間が減ってくばかりよ?」

    唯「そうだけど~。たーくん、助けてぇ」

    若「うむ」

    じっとタイツの山を見て、一つ取り上げた。

    若「この品が良かろう」

    唯「これ?ありがと、じゃあそうする」

    美「今回は割とシンプルなのを選んだわね」

    濃紺の地に、銀のラメが光っている。

    尊「兄さん、また何かに見立てて選んだんじゃないですか?」

    美「あ、そうね。前は確か、雪が朝日に光る様子?これは何になるのかしら」

    若「夜更けに山寺で仰いだ空は、見渡す限り瞬く光の粒が散りばめられ、こぼれ落ちんとせんばかりでした」

    源三郎の囁き「…小垣近くのか?」

    トヨの囁き「え?」

    尊「満天の星空、ですか」

    覚「そりゃ絶景だな」

    美「そう言われるとそう見えてくるわ。あい変わらず、想像力が豊かね~」

    唯「山寺、星。…やーん!たーくんったら!」

    唯が若君の手を両手でガッツリ掴んでブンブンと振り、ウンウンと大きく頷いている。

    尊「何か思い出に繋がるっぽい反応だな」

    唯「超感動~!」

    若「…早う着替えて参れ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days44~24日火曜8時30分、プライスレス

    長くて楽しい一日が始まりました。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    クリニックに、唯と若君と源トヨが現れた。

    四人「おはようございます!」

    芳江「おはようございます。あらお揃いで」

    エリ「おはようございます。朝から元気ね~」

    コーヒーを配り終えた源トヨ。

    源三郎「では、此れにて」

    トヨ「失礼します」

    唯と若君が残った。二人が並ぶ。何?という顔の芳江とエリ。美香子はニコニコしながら様子を見ている。

    唯「んとね」

    エリ&芳江「はい?」

    唯「サンタさんは明日の朝、枕元にプレゼント置いてくけどね、明日はクリニック休みで二人に会えないから」

    若君「一日早うございますが」

    持っていた紙袋から、綺麗な包装紙にくるまれリボンが結ばれたプレゼントを取り出す若君。慌てて立ち上がる看護師さん二人。

    芳「あららら」

    エ「まぁっ、いいんですか?」

    若「はい。日頃の感謝を込めました」

    唯「メリークリスマス!」

    贈呈。

    美香子「開けてみて」

    エ「は、はい」

    芳「まぁーどうしましょう」

    美「ウチの家族は朝一番に受け取り済みよ」

    エ「そうなんですか」

    包装紙を開くと、中身が和紙にくるまれている。

    芳「あら急に和風。でも奥ゆかしさが感じられて、いいですね」

    唯「たーくんのアイデアなんだよ~」

    エ「懐紙のように使われてるんですね」

    中から出てきたのは…

    芳「あらっ、なんて綺麗なんでしょう!」

    エ「素敵。お花のペンダントなんですね」

    小花をレジンに閉じ込めてある。

    若「花の生かし方をお二方に教わったと、尊に聞きました。ささやかではございますが」

    唯「お礼だよ。幸せの、おすそ分け~」

    エ「ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」

    芳「家宝にします」

    若「ハハハ」

    唯「時間取ってごめんね。さっ、コーヒー飲んで飲んで~」

    しばしの休息。

    美「芳江さん、さっき家宝って言われてましたけど」

    芳「はい」

    美「この中で家宝級の品は、実はこの包んであった和紙なのよ」

    芳「え、そう…なんですか?」

    エ「こちらが?」

    美「忠清くん、話してあげて」

    若「家宝など畏れ多いですが、この紙は、わしが永禄から持ち帰っております」

    芳「えーっ!」

    エ「戦国時代の和紙なんですか!」

    若「こちらの世に飛ぶ折に、何か役に立てばと思い、懐に忍ばせて参りました」

    唯「かなりのレア物っす」

    芳「それは貴重ですよ~」

    エ「驚きました。大切にとっておきますね」

    美「さて、話は弾むけどそろそろ」

    唯「ホントだ、もう行かなきゃ。カップもらいまーす。撤収~」

    若「お邪魔致しました」

    美「ありがとね」

    一気に静かになった。

    芳「こちらこそ、お礼を用意しないといけませんね」

    美「あ、それは止められてるから。要らないわよ」

    エ「止められた?」

    美「そもそも花を乾燥させて残したのはお父さんと尊だし、アクセサリーの材料も尊が揃えた物ばかりで、唯も言ってたけど幸せのお裾分けだから、お返しを受け取る筋合いはないってね」

    エ「本当にいいんですか?」

    美「えぇ。私達も用意しなかったから」

    芳「こんなに心がこもってるのに、何か悪いですが」

    美「いいのよ。ありがとうって受け取ってくださいな」

    エ「わかりました」

    芳「はい。でも和紙に包むなんて、粋ですね」

    美「でしょ。実は、私や家族がもらったプレゼントは、忠清くんがリクエストに応えながら作ってくれたんで、中身が何かはわかってたの。でもこんなワンクッションおいてくれるなんて、武士の嗜みって感じでさすが!と唸ったわ」

    エ「そうですね。ではそろそろ、最初の患者さん呼びますね」

    美香子&芳江「はい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    今までの四人の現代Days、番号とあらすじ、22から43まで

    no.868の続きです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    22no.869、12/17、子供達を救う活動に心動くトヨ

    23no.870、12/17、覚と唯で昼ごはんの支度。煙は上がっても戦ではない

    24no.871、12/17、髪の寄付につき源トヨと母で意志疎通を図る

    25no.872、12/17、引き続き三人で思い出話

    26no.873、12/18、尊の成長に感涙

    27no.874、12/18、回転寿司にGO

    28no.875、12/19、盛り沢山の予定にウキウキ

    29no.881、12/19、Wi-Fiとは。木村先生と再会の日付決まる

    30no.884、12/20、女性の意見に耳を傾ける若君

    31no.886、12/20、料理の日。今夜のツマミは辛さ控えめ

    32no.887、12/20、永禄仕様の麻婆豆腐

    33no.888、12/21、トヨにご褒美ネイル

    34no.889、12/21、母達の前でだけ泣いたトヨ

    35no.891、12/21、源三郎を咎める若君

    36no.892、12/21、気持ちが整った源三郎。唯と若君の関係性の考察

    37no.893、12/22、男三人で外呑み決定。バーベキュースタート

    38no.894、12/22、バーベキューおやつタイム

    39no.895、12/22、唯とトヨお揃いの髪型でお風呂へ

    40no.896、12/22、悟りが開けそうな源トヨ。かたやイチャつく唯と若君

    41no.897、12/23、宅配便の受け取り方を学ぶ若君

    42no.898、12/23、木村先生と再会。語りが熱い

    43no.899、12/23、タブレットを見ながら引き続き歓談

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    四人の現代Days43~23日16時30分、根回しばっちり

    気が利く弟。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    タブレットに、日記の画像が出た。

    木村「これだ」

    唯「わぁ」

    若君「おぉ…」

    唯「たーくん、寄りすぎだよ~」

    木「そんなに興味があるのかね」

    ところどころ拡大して、若君に見せる唯。

    若「…」

    唯「すごいよねー。残ってるんだもんね」

    木「一部破れた箇所もあるが、保存状態はまあまあいいんだ」

    唯「大切にとってあったんだねぇ。これ、誰にあずけたの?」

    若「どう巡ったかは、わからぬ」

    木「何の話だ?」

    唯「ん、こっちの話。これさー、もっと、かわゆい妻とのラブラブが書いてあるかと思ったー。ねぇたーくん」

    若「ん…」

    唯「聞いてる?」

    木「日記の中には妻女の話は一切出てきてないぞ。しかも何だ、可愛いが前提か?見たのか?ははは~」

    唯「マジなんだってぇ」

    木「また夢でも見たのか。まぁ、あのラブレターかのような熱い走り書きからは、相当愛情を注いでいるのはわかるが」

    唯「でしょ。うふふ~」

    若「唯。少し黙っておれ」

    唯「あ、ごめんなさーい」

    若「450年を経ても、ここまで読める形で残ったとは。感動、しました」

    木「君さ、もしかしたらこれに限らず、古文書読めたりするのかい?」

    若「はい」

    唯 心の声(つーか、書くヒトだし)

    木「そうか。だから食い入るように見てたんだな。是非解読チームにスカウトしたいところだ。ははは」

    若「ハハ…」

    唯「今はどこまで見終わってるの?」

    木「さっきのラブレターの日付辺りで止まってる」

    唯「そうなんだ」

    木「これだけに専念できないから。年末で皆忙しいしな。年始に再開する」

    唯「ふーん」

    木「あとな、書いた人物がわからないままだから、せめてヒントが出てくるといいんだが」

    若「名、ですか」

    木「希望的観測としてな。ところで、いつ頃まで帰省してるんだ」

    唯「えーと、年あけて、ちょっとしたら戻る」

    木「そうか。今の内に、しっかり親孝行しとくんだぞ」

    唯「はーい」

    木「旦那さんは、本当に速川とは正反対だが、それが上手くいく秘訣なのかもな」

    その言葉に、はたと気付く若君。

    若「先生。もしや尊から、色々聞いておられましたか?」

    木「あぁ。寡黙だが勉強熱心だとね。それにプラスして、人を惹きつける力があるともね」

    若「それは…」

    唯「尊はたーくん大好きだから」

    木「わかるよ。話を聞こうという気持ちになるというか、何だろう、人の上に立つ人間が持つ威厳や品格まで感じるんだよな」

    唯 心(たーくんのオーラ、わかる?わかる?)

    若「褒めていただけるなど、畏れ入ります」

    若君 心の声(そうか。わしの出自など、探られなんだ所以はこれか。尊に礼を申さねば)

    その後も会話は弾んだが、時間はあっという間に過ぎていく。

    木「さて、じゃあそろそろお開きにするか」

    唯&若君「はい」

    喫茶店を出た三人。

    木「元気でな」

    唯「先生も元気でね!」

    若「ありがとうございました」

    先生の姿が見えなくなるまで見送った。

    若「お会い出来、良かった」

    唯「そうだね」

    若「帰るか」

    唯「うん。今夜は、まだやる事あるもんね」

    若「クリスマスプレゼントを、包まねばならぬ」

    唯「いそがしい~、でも楽しい!」

    若「そうじゃな」

    手を繋ぎ、自転車置場まで歩いていたが、

    唯「たーくん、寒い」

    若「なんと。それはならぬ」

    唯「寒いなー。もっと近くであっためて欲しいなー」

    若「あ、あぁ。心得た」

    唯の肩に手を回し、そっと抱く若君。

    若「姫、いかがじゃ」

    唯「えー、まだ寒いぃ」

    若「フフ、それはただならぬのう」

    グッと引き寄せた。

    唯「えへへ。あったかーい。このまま家まで歩いて帰ろっかな」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    23日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days42~23日15時、宣言します

    なんやかやで、理解してくれてる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    お花の写真立てが、出来上がった。

    唯「出かける前に終わって良かった」

    若君「源三郎、トヨ、難儀をかけたの」

    源三郎「難儀などございませぬ」

    トヨ「とても楽しかったです」

    唯「写真、なに入れるの?今度撮りに行く時の?」

    若「考えておく」

    唯「あっそう。決まってないんだ」

    若「約束の時間が近づいておる。早う片付けてそろそろ出る支度をせねば」

    唯「あー、そうだね。木村先生もね、最後のあいさつしてなかったんだー」

    若「それは、非礼を詫びねばのう」

    ササッと片付けを終え、唯と若君は、木村先生との待ち合わせに向かった。

    ト「あの、お父さん」

    覚「何だい?」

    ト「最後の挨拶、とは何でしょうか。木村先生は、唯様の通われていた学校に今もおいでになる方なんですよね?」

    源「わしもそこは、少し引っ掛かりました」

    覚「あー。君達はホントよく話を聞いてるよね。うん、じゃあ唯のその、学校最後の日の話をしよう」

    ト「よろしいのですか?」

    覚「どちらかと言うと、君達には話しておきたい」

    源「わかりました。心して、お聞き致します」

    二人が公園に到着した。乗ってきた自転車をとめ、喫茶店まで歩き始めたのだが、若君が腕組みしながら、なにやら小声で唱え続けている。

    若「わしは、僕…」

    唯「たーくーん、なに言ってるの?お経?」

    若「言葉を間違えぬようにと」

    唯「あ、現代語に変換ね。大丈夫でしょ」

    若「すっかりお父さんお母さんに甘えてしまい、使っておらなんだゆえ」

    唯「ヤバいと思ったら助けてあげるよ。…じゃないな」

    若「ん?」

    唯「唯之助が、お守りいたしまーす」

    若「そうか…済まぬ。あ、いや。ありがとう」

    組んでいた腕を下ろし、唯の手を取った若君。唯が微笑んだ。

    唯「もー。手つないでくれなくて、さみしかったんだからー。待ってたよぉ!」

    若「ハハッ。おっと、持っていかれそうじゃ」

    繋いだ手をぶんぶん振り回し、ご機嫌な唯。ほどなくCafeMARGARETに着いた。

    唯「えーと、3時45分か。いい時間」

    席で待つ事10分。木村先生が到着。

    唯「あ、来た来た」

    若「うむ」

    サッと席を立ち、お辞儀をしながら先生を出迎える若君。唯も慌てて立ち上がった。

    木村「おー」

    唯「先生~!久しぶりぃ」

    木「速川、元気にしてるか~」

    若「こんにちは、先生。どうぞ奥へ」

    木「いいよ、席なんてどこでも」

    若「上座はこちらですので」

    木「え!こんな美男子で、かつ常識も兼ね備えてるなんて。天は人を選んで、二物も三物も与えるんだなあ」

    ようやく座った三人。四人掛けの席に、奥に先生、手前に唯と若君が並んだ。

    木「まずは注文しよう。何でも頼んでくれ。再会を祝して僕が出す」

    唯「え~、じゃあパフェ?」

    若「これ、唯」

    唯「ウソウソ。先生、私ミルクティーがいい。たーくんは?」

    若「わ…僕は、コーヒーをお願いします」

    木「ん。すんませーん、コーヒー二つとミルクティーね」

    若「先生、初めて名乗らせていただきます。速川忠清と申します」

    木「速川!お婿さんなんだね」

    若「はい」

    唯 心の声(しれっと受け流す。プロだねぇ)

    木「あの、不良の輩に囲まれた時は、本当に助かったよ。ありがとう」

    若「いえ、当然の事をしたまでです」

    木「まさか助けてくれた二人が、尊君と、旦那さんだったとはなあ。縁は異なもの味なものだ」

    唯「なにそれ」

    木「お前は相変わらずだな」

    唯「あのね先生」

    木「どうした」

    唯「学校やめる時、私、結局誰にもあいさつしなくて、というかできなくて。ごめんなさい。今言います。お世話になりました」

    木「後から聞いてかなり驚いたが、何か事情があったんだろ?」

    唯「うん…まぁ。でも私、今もこれからも、すっごく幸せなの。たーくん、旦那さんと一緒に生きるって決めたから」

    若「唯…」

    木「より大切なモノが見つかったなら、それでいいさ。実際、顔に出てるしな」

    唯「え、顔?」

    木「幸せ一杯の顔だ。旦那さん、君もね」

    若「そうですか。ならば先生に誓います」

    木「え」

    若「命全うするまで、唯と添い遂げると」

    木「熱いな~。娘を嫁にやる父親になった気分だよ。良かったな、速川」

    唯「うん。私とたーくんは、結ばれる運命だったんだよ。羨ましいでしょ?」

    木「その情熱は、羨ましいよ。あーそれでな、例の日記に興味があるって、尊君に聞いてるけれど」

    若「はい!」

    唯「いろいろ教えて欲しいな、先生~」

    注文の品が運ばれてきた。先生がタブレットを取り出す。

    木「画像出すから、温かい内に飲みなさい」

    唯&若君「はい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days41~23日月曜9時、ハンコください

    努力を怠らぬ人。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    食卓に四人。乾燥させた花を木箱に接着している。

    トヨ「色とりどりですね」

    唯「お花畑みたーい」

    若君「どう並べ咲かせるかは、センスの見せ所じゃ」

    源三郎「扇子、でございますか?」

    若「フフフ」

    順調に作業を進めていると、玄関の呼鈴が鳴った。

    覚「唯」

    唯「なにー」

    覚「ちょっと手が離せない。荷物が届いたから、受け取ってくれないか」

    唯「ん、わかったー」

    すぐ走っていった唯。ほどなく戻ってきたが、重そうに何かを抱えている。

    唯「われもの注意ってシールついてるけど、これなに?」

    覚「全国各地の銘酒をな、取り揃えようと思って」

    唯「そろえる。まだ来るの?」

    覚「今日は、もう一便届く予定だ」

    唯「ふーん。そうなんだ」

    若「唯。その、荷物の受け取りじゃが」

    唯「ん?」

    若「わしも手伝いたい。教えてくれぬか。酒ならば唯は口にせぬし」

    唯「そんなん気にしなくていいけど。いいよ、簡単だし教えてあげる」

    作業を少しの間源トヨに任せ、席を立った若君。唯が、今届いた箱の宛名部分を見せた。

    唯「間違って他人の家あての荷物を受け取らないように、来たらここを確認するんだよ」

    若「黒羽市東町3ー45、速川覚様」

    覚「お、よくスラスラ読めたね。とくに住所」

    若「葉書、に書いてありましたゆえ」

    唯「葉書…あ、あー。記念に持ってった、写真館から届いたヤツね」

    覚「連名のだな。速川忠清様唯様あての」

    若「はい。時折見返しており、覚えました」

    唯「でね、OKなら、下駄箱の上にハンコが置いてあるから、ここに押してくださいって言われた紙にポンと押すの。押したら紙と引き換えに荷物受け取って、おしまいだよ」

    若「わかった。では次を待とう」

    席に戻り、作業を続ける。

    源「忠清様」

    若「ん?」

    源「先程、黒羽、と聞こえましたが」

    若「そうじゃ。この地には、城の名がそこかしこに残っておる」

    唯「私が通ってた学校もね、黒羽東高校って名前なんだよ」

    源「ほほぅ」

    ト「まぁ」

    若「城跡しかのうなっても、民に親しまれておったようで、まこと喜ばしゅう思う」

    源「幾年も受け継がれ、残ったと」

    ト「ありがたいですね」

    しばらくすると、また呼鈴が鳴った。

    覚「来たね。忠清くん、頼むよ」

    若「心得ました」

    唯「後ろで見ててあげるよ」

    玄関に向かった若君と唯。超イケメンの登場に、宅配業者のお兄さんが少し驚いている。

    唯「たーくん、あて先見て」

    若「うむ、うむ。合うておる」

    業者「ここにお願いします」

    唯「あー、フタ取って。ギュっと押してね」

    なんとか受け取り完了した。

    唯「よくできました~」

    若「そうか?」

    唯「たーくん、聞いてもいい?」

    若「いかがした」

    唯「なんで急に、こういう荷物受け取ろうと思ったの?」

    若「これも、現代、の生活であろう」

    唯「まぁ、そうだけど」

    若「わしでも出来得る事柄を、増やしていきとうての」

    唯「…ずっと居るわけじゃないのに?」

    若「長い短いの話ではない」

    唯「勉強熱心なんだね」

    若「この令和の世では、客人ではなく、日々暮らしを営むように過ごしたいのじゃ」

    唯「そっか。たーくん、偉ーい!」

    若君の頭を撫でようとした唯だが、

    若「早うお父さんに荷物をお渡しせねば」

    かわされた。

    唯「ちょっとぉ、なんでいつも、ナデナデしようとすると逃げるのー!」

    若「ん~?ハハハ」

    二人じゃれ合いながら、荷物を抱えリビングに戻っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days40~22日16時30分、迫る!

    目、二人して見開いてたらちょっと怖い。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    岩盤浴用の服に着替え、子供達五人が合流した。

    唯「たーくん、見て見て!トヨと髪型がお揃いなのぉ」

    若君「ふむ」

    唯の、頬や首にかかるほつれ毛をそっと撫でつける若君。

    唯「ん?ありがとう」

    若「このような、艶かしい姿で歩かれてはのう」

    唯「え?なまなましい?」

    トヨ 心の声(やだ、こんな色っぽい姿を俺以外の男に見せるんじゃないって仰るのね。これは、ご飯二杯イケるわ)

    尊「じゃあ僕、源三郎さんとトヨさんに説明するんで」

    唯「わかったー。じゃーねー」

    若「済まぬの。よろしく頼む」

    三人で歩いている。

    トヨ「源ちゃん、どう?この髪型」

    源三郎「うん。悪くないぞ」

    ト「艶かしい?」

    源「えっ」

    尊「あのー、すいません。僕、邪魔者で。お二人だけになりたいでしょうけど」

    源「いえそのような!不案内な地ですので、心強く思うております」

    ト「こちらこそ、尊様にお手間をかけさせてしまい、すみません」

    尊「慣れたら、自由に動いてもらっていいですからね。とりあえず、入ってみますか」

    いよいよ岩盤浴デビュー。三人並びで空いていた場所に、タオルを敷く。

    ト「あ、思った程石が熱くない」

    源「でも体は熱くなる、のですね?」

    尊「物は試しですよ。少し横になってみましょう」

    源「はい」

    ト「そういたします」

    尊「ではごゆっくり。おやすみなさい」

    一眠りしていた尊が目覚めた。

    尊「暑い…あ、お二人はどうかな。うぇっ」

    源トヨは、天井を見上げながらピクリとも動かず、汗びっしょりになりながらもそのまま横になっていた。

    尊「あの、大丈夫ですか?!」

    源「あぁ、尊殿。しばし無になっておりました」

    ト「なんと申しますか、体の中から洗われていくようで」

    尊「心頭滅却ってこういう事かも。一度出ましょうか」

    岩盤浴の部屋を出て水分補給をしていると、美香子が通りがかった。

    美香子「いい汗かいてる?」

    源三郎&トヨ「はい!」

    尊「あれ、お父さんは一緒じゃないの?」

    美「さっき、休憩所のベッドで爆睡してたわ。一番満喫してると思うな。じゃ、後でね」

    尊「うん」

    もう一度岩盤浴をした後、休憩エリアにやってきた三人。トヨが、飲み物を買い足しつつ、歩いて探検している。

    ト 心(へぇ。いろんな椅子や寝転がれる場所があるのね)

    ベンチに座っていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

    唯「キャハハ!」

    若「ハハハ」

    ト 心(あら、唯様と忠清様。この裏にいらっしゃるのかしら)

    そこは、いい感じに隠れた、カップルシートだった。思わず耳をそばだててしまうトヨ。

    唯「お肌スベスベだよ~。ねぇ、さわってぇ」

    若「これ、服をめくり上げるでない」

    唯「いいの、外からは見えないもん。たーくんの好きにして、いいよぉ?」

    若「…からかっておるのか」

    唯「えー?聞こえませーん」

    ト 心(好きにしてなんて!言ってみたい。めくり上げたのって、上着?前を?!そ、それは…キャー!)

    唯「脚くらい、いいじゃなーい」

    ト 心(なんだ、脚か)

    源「トヨ、怪しいぞ。何やってんだ」

    ト「わ!びっくりした!」

    飛び上がるトヨの様子に訝しげな源三郎。尊が後ろから歩いてくる。

    唯「え、トヨ?」

    声に気付き、シートから出てきた唯。若君も立ち上がった。

    唯「楽しんでる?」

    ト「はい、お陰様で」

    尊「あー、兄さん達ここに居たんだ」

    若「そろそろ時間か?」

    尊「ぼちぼち、ですね」

    若「そうか。では、参るか」

    尊&源三郎&トヨ「はい」

    唯「ごはん、ごはん!」

    尊 心の声(兄さん、口調は普段通りだけど、顔が赤いな)

    この後は、家族団欒で過ごしました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    22日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days39~22日15時、浮っき浮き

    安全のために、バーは両手で持ちましょう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    バーベキューの片付けもスムーズに終わり、いよいよスーパー銭湯へ出発。車に乗り込んだ。

    唯「お風呂もいろんな種類があるんだよ」

    トヨ「楽しみです」

    美香子「私、サウナならミストサウナが好きなのよねぇ」

    唯「私もー。だってフツーのサウナだとマジ熱くて地獄だもん」

    ト「やはり地獄はあるのですね」

    現地に到着。

    覚「えー。では6時に晩ごはんにするから、それまで自由に過ごしてくれ。解散!」

    唯「了解~。お風呂もいいけど、岩盤浴も行きたいし」

    尊「時間決めて待ち合わせにする?」

    唯「そうだね。えーと今3時半だから、4時半くらい?」

    尊「わかった。じゃあ源三郎さん、行きましょう。こちらです」

    源三郎「はっ、お供致します」

    唯「たーくん、後でねっ」

    若君「あぁ」

    女風呂の更衣室。

    美「髪だけど、二人ともお団子にまとめてあげる。岩盤浴で寝そべっても邪魔にならないようにね」

    唯「やったー」

    ト「お団子…?」

    美「じゃあトヨちゃんから。座って」

    ト「はいっ」

    頭のほぼてっぺんで、ポニーテールがキュッと結ばれた。

    美「毛先はヘアクリップで留めるの。ピンだと小さくて、うっかり落としてどなたか踏んだりしたらケガの元だから」

    鞄からいくつかクリップを出す母。

    唯「ガバっととまるヤツだ。買ったの?」

    美「うん。女の子のこういうグッズって、選ぶのも楽しいのよね~」

    トヨの髪をゆるく三つ編みにし、くるくると結んだ根元に巻きつけ、毛先を大きめのクリップで留めた。

    唯「超かわいい!まぁるいお団子だぁ」

    ト「えっ、見たい」

    姿見に走っていったトヨ。鏡の前で満面の笑みになった。笑顔のまま戻ってくる。

    ト「お母さん、ありがとうございます!このような愛らしい形にしていただけるなんて」

    美「髪の量がちょうど良いのよ」

    唯「カットして正解だね~」

    ト「本当に嬉しい…」

    美「はい次。唯はそこまでの長さがないから、小さめのお団子ね。…ん、できた。良さげ」

    ト「お似合いです」

    唯「わぁい!では、お風呂へGO~」

    様々な湯船が並んでいる。

    唯「女子っぽい!バラの花が浮いてる!」

    ト「いい香り…」

    唯「トヨ、それもいいけど、こっちのお風呂に入ろっ」

    ト「はい」

    並んで肩までつかる唯トヨ。

    唯「ふー。ふふっ。髪型おソロでうれしいな。仲良し姉妹、って感じ」

    ト「まぁ…姉君なんておこがましい」

    唯「もしトヨがお姉ちゃんなら、源三郎は義理のお兄ちゃんか~」

    ト「…ええっ!」

    唯「おっ、体がシュワシュワしてきたよ~」

    ト「はぁ…え、あ?まぁ、いつの間にこんな」

    唯「これ炭酸風呂って言ってね、入ると体に細かい泡がつくの。このシュワシュワがお肌にいいんだってさ。美肌になって、たーくんをイチコロにするのじゃあ。ぐふふ」

    ト「ふふっ。効能が色々あるんですね」

    唯「あれ、そういえばお母さんどこ行った?って、いつの間にかあんなトコに居る」

    ト「あら」

    ジェット水流風呂で、恍惚の表情の母。

    美「あ゛~、極楽極楽」

    ト「お母さん!大丈夫ですか?!」

    美「ん?どした~?」

    ト「湯船の中が嵐の如くうねっております」

    美「これがねー、凝った体に効くのよ~。トヨちゃんもいらっしゃい」

    ト「効く。そう…なんですか?」

    唯「入ればわかるよ。そんな怖くないからさぁ、ねっ」

    ト「わかりました。頑張ります」

    入ってはみたが…

    ト「あーれー!」

    美「あらま」

    唯「水の勢いに流されてるよ。もー、トヨかわいいんだからぁ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days38~22日11時、トロットロ

    なんでもやってみる。結果は度外視で。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚が鉄板で焼きそばを焼いている。丸型のバーベキューコンロから、ゴロンと大きい塊肉がこんがりと焼けて出てきた。

    美香子「じゃあ、切り分けましょうね」

    トヨ「はい、お手伝いします」

    唯「ウッシッシ~」

    尊「牛。まさかのダジャレ?!」

    覚「コンロ空いたな。ポップコーンの素、買ってあるけど」

    若君「ならばわしが、炙ります」

    肉を焼き終わったコンロで、例の手鍋型の容器を揺らしている若君。

    源三郎「こちらは?」

    若「楽しみにしておれ。あと」

    ト「あと?」

    若「肝を潰さぬ用意、ものう」

    源「肝?」

    ト「何が始まるのでしょう」

    若「戦は、始まらぬ」

    源三郎&トヨ「戦?」

    軽く微笑みながらも、源トヨに詳しく説明しない若君。その内、音がし始めた。

    ト「キャッ」

    源「銃か?!」

    やがてババババ、と連続で破裂音が続くが、ギャラリーはいたって静か。

    源三郎 心の声(皆、この銃声の中、悠然と構えておられる…)

    トヨは、不安そうに唯の腕を掴んでいる。

    唯「だいじょぶだいじょぶ。おいしいからさ」

    ト「美味しい?騒がしい料理なのですね」

    鉄板の上が片付く頃、ポップコーンができあがった。開いて源トヨに中を見せる。

    源「この者達が暴れておったのですか」

    ト「匂いが香ばしいですね」

    唯「お疲れさまぁ。これ焼きそばとお肉、たーくんの分ね」

    若「済まぬの」

    尊「びっくりしましたよね。僕達も初めて見た時はそうでした」

    美「お二人は、そこまでうろたえてはなかったわね」

    源「いえ、一時はどうなるかと」

    ト「唯様が大丈夫と仰ったので」

    唯「たーくんは驚かそうとしてたけど。おぬしもワルよのぅ」

    若「ん?」

    覚「あー、そうそう」

    美「何?」

    覚「甘い菓子もあるんだ」

    家の中から何やら色々持ってきた覚。

    尊「なに?ビスケットと板チョコと、これはマシュマロ?」

    美「あらぁお父さん、もしかしてスモア?」

    覚「そうそう。じゃ、焼くかー」

    唯「すもう?はっけよい?」

    尊「それは明らかに違うと思う」

    即スマホで検索する尊。

    尊「えーと、スモアとは、2枚のビスケットにチョコレートと焼いたマシュマロをはさんだ…うわっ、超美味そう!」

    唯「え~、なんで今まで隠してた?」

    覚「知らなかったんだよ」

    美「たまたまテレビで観たのよね」

    串に刺したマシュマロが焼かれる。

    尊「加減が難しそうだね」

    唯「どんなん?想像できないー」

    美香子が手際良くビスケット、チョコ、焼いたマシュマロ、上からビスケットとはさんだ。

    美「はいできた。唯、取ってみんなに回して」

    唯「はーい。トヨ、どうぞ」

    ト「私からなど、おこがましいです」

    美「気にしないで。どんどんできるから」

    ト「はい。では…まぁ、甘くて柔らかい」

    若「うまい」

    唯「すごーい、プニプニ~」

    美「源三郎くんも尊もあるわね」

    尊「わー伸びる、チョコが垂れてきた!でも新食感で楽しいね」

    源「美味しいです」

    唯「おいしかった!ねぇねぇ、私も焼いてみたい!」

    覚「おー、じゃあ僕と母さんの分作って」

    唯が張り切って、焼き係を交代したが…

    尊「燃えてるよ!」

    唯「うそー!じゃあ次っ」

    尊「焦げたのどうすんだよ」

    覚「あー、いいよ焦げは取って食べるから。っておい、焦げた上から乗せるのか!」

    唯「マシュマロ増量でーす」

    美「もう~。ちゃんとはさめる?」

    覚「なんとか」

    唯「はい、お母さんのはうまく焼けたよ」

    尊「焼けてないでしょ。あー、無理にぎゅうぎゅう潰さない!はみ出てる!」

    唯「えへ?」

    静かに速川家のワチャワチャを見ていた三人。

    源「賑やかですね」

    若「愉快じゃ」

    ト「とっても微笑ましくて」

    若「うむ。家族とはなんと温かい。いつの日かこのような賑わいを、と願う」

    源「唯様と共にならば叶いましょう」

    若「そうじゃな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days37~22日日曜6時、熱が入るよ

    待ち遠しい予定が増えて、ご機嫌な父。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝のリビング。若君と源三郎が話をしている。

    若君「やはり、お父さんも交えて話をした方が良かろう」

    源三郎「忙しくされておるのに、お時間を頂戴しても宜しいものでしょうか」

    若「まずは伺いを立てねば。来られるのを待とう」

    覚が二階から降りてきた。

    覚「おはようおはよう。あれ、朝稽古もう終わったのかい?」

    若「お父さん、おはようございます」

    源「おはようございます!」

    若「稽古はこれからですが」

    若武者が二人並んで、丁寧に頭を下げている。

    覚「おいおい、どうした?面食らっちゃうよ」

    源「あの」

    覚「何だい?」

    源「お父さんに相談をしとう存じます。お時間を頂戴できないでしょうか」

    覚「例の話?」

    源「はい」

    覚「今回は、忠清くんも一緒に?」

    若「わしには、頼みがあると申しております。されど、よう悩みを聞いてくださったお父さんも、共に話をすべきと思いまして」

    覚「そうか。源三郎くん、いよいよ忠清くんに進言して解決の糸口をたどるんだ」

    源「はい」

    覚「で、話をしたいんだね。三人だけで?」

    源「出来得るならばですが」

    覚「急ぐ?今日明日とか」

    源「いえ!滅相もない事でございます。時間をとっていただけるなら、いつでも仰せのままに」

    覚「ん~」

    若「不躾なお願いとは存じますが」

    また二人で頭を下げた。

    覚「いやいや、そこまでしなくていいから。うーんと…あ!イイ事思いついちゃったぞ」

    ん?と顔を上げる二人。

    覚「それってさ、夜お酒呑みながらでも、いい?」

    若「それは…良いですね。いかがじゃ、源三郎」

    源「はい。お父さんさえ宜しければ是非に」

    覚「じゃあ、三人だけで呑みに出かけようよ。家でトヨちゃん達に聞こえないよう、コソコソ喋ってるよりはさ」

    カレンダーの前に移動した覚。若君達も続く。

    覚「いつがいいかな~。えーと…26日の夜はどうだい?」

    若君&源三郎「心得ました」

    覚「決まりだね。早速カレンダーに書いちゃおう。夜、覚忠源外呑みへ、と。へへー、楽しみだな。あ、いやごめん、大事な相談なのに不謹慎だね」

    若「いえ。腹を割った話ができそうで、わしも楽しみです」

    源「ありがとうございます」

    10時。バーベキューの準備で、庭にタープを設置している。

    源「この屋根、陣にあると良いですね」

    若「そうじゃろ。使わず済むに越した事はないが」

    覚「え!タープもう張れたの!」

    尊「兄さんと源三郎さんは、さすがの手際の良さだから。僕は出る幕なし」

    覚「出来る男達だもんな。こっちのコンロの火起こしも順調だぞ」

    美香子「野菜も肉も準備OKよ~、どんな感じ?あら、もう始められそうね」

    覚「じゃあスタートするか」

    美「そうね。唯~トヨちゃ~ん、食材運ぶわよー」

    唯「え、もう始めるの?だから朝ごはん、ちょい少なめだったんだ」

    美「今日はねー。色々前倒しで進めるわよ」

    唯「前倒し。なんで?」

    バーベキューコンロの網に、串に刺した野菜やソーセージが並べられた。

    尊「それもしかして、夕方か夜にまた別のイベントが増えた?」

    美「当たり~」

    唯「えー!なになに!」

    美「近場の温泉に行くわよ」

    尊「あ、スーパー銭湯?」

    唯「わぉ!トヨ~、でっかいお風呂と岩盤浴だよぉ」

    トヨ「石で、体が熱せられる地ですね」

    美「お肌ピカピカになるわよ~。ますます美人になっちゃうわね。髪もまとめやすい長さになったしね」

    ト「まぁ…そこまでお考えいただき、ありがとうございます」

    尊「僕も今回は、岩盤浴に挑戦しようかな」

    覚「お?乗り気じゃないか」

    尊「この際、一皮むけてみようかと」

    唯「へー」

    源「…あの、忠清様」

    若「ん?」

    源「やはり地獄なのですか?皮が剥けるなど」

    若「ハハッ、何を怖じ気づいておる。言葉の綾ではないか」

    源「もしやこの令和の世では、地獄は楽しげに過ごす地なのかと」

    若「楽しげな地は極楽と申すが」

    源「熱くて極楽ですか。考えが及びませぬ」

    唯「そこの男子~!なにぐちゃぐちゃ話してんの、焼けたよ、取らないとなくなるよ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days36~21日17時、滲み出る

    だから月は美しい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    庭で素振りを続ける源三郎。食卓で工作をしながら、その様子を見ている若君と尊。

    尊「すごく熱が入ってる」

    若君「心の迷いをどう落とし込むか、決断すべきは今か、などと考えておるのじゃろう」

    尊「兄さんもそんな経験あるとか?」

    若「かつて」

    尊「そうなんだ。その時はどうなったんですか?」

    若「戦がいつ始まってもおかしゅうない、睨み合いが続いたが、和議となり治まった」

    尊「え!かなりおおごとだったんですね」

    最後の一箱に蝶番を取り付けていると、源三郎が汗を流し紅潮した顔で戻ってきた。

    覚「おー、頑張ったね。冷たいおしぼり用意してあるよ」

    源三郎「忝のう存じます。今、車の音がしました故、戻りました」

    尊「え!もう帰ってきた?!早っ」

    覚「今日はさすがに、寄り道はしなかったんだろうな」

    玄関から声がする。

    唯「ただいまぁ~」

    尊「あ、迎えに行かなきゃ。先行ってますね」

    源「はい。直ちに参ります」

    若「源三郎」

    源「はい」

    若「良い顔付きになった」

    源「さようでございますか。ひとえに、忠清様のお力添えの賜物です」

    覚「ささ、汗拭けたかい?行こう行こう」

    玄関に、唯と美香子だけ。

    覚「お疲れ。お?主役は満を持して登場か~」

    美香子「揃ったわね。では、トヨちゃんの、御成ーりー」

    ドアが開いて、トヨが恥ずかしそうに入ってきた。

    尊「わぁ」

    若「おぉ」

    覚「いいね~!」

    唯「トヨ、その場で回ってみて」

    トヨ「はい」

    後ろを向くトヨ。デニムのマーメイドスカートの裾がひらりと揺れ、髪はくるんと巻きが入り、わきの下辺りで揺れている。

    唯「この髪型、すっごく良くなーい?」

    美「せっかくだから、仕上げに毛先を巻いてもらったの」

    覚「うん、いい。可愛いいよ~」

    ト「ありがとうございます」

    尊「すっかり、現代のお姉さんですね」

    美「源三郎くん?なんでそんな後ろに居るの~」

    若君の後ろから顔を覗かせている源三郎。

    源「トヨ、おかえり」

    ト「ただいま戻りました、源ちゃん」

    源「…」

    唯「だからー。そこでもう一声、ないの?」

    源「あまりに目映く…」

    唯「は?」

    尊「なるほど。眩し過ぎて直視できないんですね」

    唯「はあ?」

    若「そうじゃな」

    唯「たーくんまで乗っかったよ!」

    若「事を成し遂げ、誇りに満ち溢れたトヨの姿は、光を纏ったようじゃからのう」

    唯「光…」

    美「内側から輝いてるのがわかるのね。ウチの息子達は、感性が豊かね~」

    ト「忠清様にそのようなお言葉をかけていただけるなんて、この上ない喜びです」

    唯「いーなートヨ、たーくんに褒めてもらえてー」

    若「妬いておるのか」

    唯「ん、ちょっとだけ。でもトヨがすごく立派なのは間違いないから」

    若「それを申すならば、唯は常に輝き、わしをあまねく照らしておるぞ」

    唯「え」

    美「あら素敵。愛の告白みたい」

    唯「マジすか?!やーん、たーくんったら」

    尊「なるほど。わかった!」

    唯「ちょっとなによぅ、せっかく告白にひたってんのにー」

    尊「お姉ちゃんは、兄さんにとって太陽なんだ」

    ト「太陽?」

    尊「あ、ごめんなさい。えーとお日さま?おてんとさま?」

    ト「あ、はい」

    源「わかります」

    尊「良かった。で、兄さんは月なんです」

    覚「ほー」

    美「解説して」

    尊「月って、自身で発光しない。あ、兄さんは別格なんで光ってますけど。でも、月が明るく輝いて見えるのは、太陽の光を反射してるからなんです」

    唯「そうなの?!へー」

    若「唯が居らねば光を失い暗闇の中…そうじゃな。わしは唯に照らされ、生命輝き、その月を見上げ、綺麗じゃの、とも囁けると」

    尊「そうですね」

    源「なるほど…」

    唯「なんか前に」

    ト「聞いた覚えがあるような」

    美「夏目漱石?深いわね」

    覚「科学的で文学的だよ」

    唯「ていうかさー。話すの、玄関じゃなくても良くない?」

    美「それもそうよね。では移動~」

    覚「尊、そろそろテーブル片付けてくれよな」

    尊「あ、かなり広げてある」

    若「急ぎ、片付け致します」

    バタバタと動く。

    源三郎の囁き「トヨ」

    トヨの囁き「うん」

    源 囁き「似合ってるぞ」

    ト 囁き「…ありがとう」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    21日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days35~21日14時30分、竹刀を持て!

    まさかやー!こそ、創作倶楽部の醍醐味でございます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    平常心なら、隙を突かれるなんてない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ホームセンターに到着。

    覚「源三郎くん、大丈夫かい?うっかりして酔い止め薬渡し忘れたけど」

    源三郎「はい。すっかり車も慣れました」

    覚「なら良かったよ。さてと、どこに行けばいいかな~」

    案内図の前で、売り場を探す覚。

    若君「尊」

    尊「はい?」

    若「何処であれ、このような地図はあるのかのう」

    尊「案内図、フロアマップですか。ある所もない所もありますけど、どこか知りたい場所があるんですか?」

    若「あの、ショッピングモールの地じゃが」

    尊「あー、ありますよ。ちょっと待ってください…これですね」

    スマホにはフロアマップが表示されている。

    若「おぉ」

    尊「要るなら、帰ったら印刷しましょうか?」

    若「頼む」

    尊「クリスマスデートですか」

    若「あぁ」

    尊「聞いてもいないのに、クリスマスはたーくんにおまかせぇ~!って吹聴されました」

    若「ハハ、そうか」

    尊「お姉ちゃん、兄さんがこんなに苦労してるって、わかってんのかなぁ」

    若「乞われれば、全うするのみ」

    尊「それにしたって」

    尊 心の声(そんないろいろ迷ってる兄さんは、かなり可愛いいけどさ)

    覚「材料、それぞれ個数合ってるか?」

    尊「うん、OKだよ。ねぇ兄さん」

    若「何じゃ?」

    尊「お花の量的に四つは作れますけど、一つくらい持ち帰りたいとかありますか?」

    若「いや」

    尊「いいんですか?」

    若「この先の世に全て残す。花の写真は既に受け取っておるしの」

    尊「わかりました」

    男性陣帰宅。時計は16時を指している。

    尊「作業するなら、実験室の方がいいよね」

    覚「いや、食卓でやりな」

    尊「いいの?」

    覚「実験室や二階だと、トヨちゃんが帰ってきた時、すぐに出迎えに行けないだろ?」

    尊「そっか。そうだね。じゃあ、工具だけ取ってくるよ」

    若「尊」

    尊「なに?兄さん」

    若「作り始めるのが、少々遅うなっても構わぬか?」

    尊「はい?いいですよ。なんかやりたい事あったら、先にどうぞ」

    若「済まぬの」

    尊「いえいえ」

    若「源三郎」

    源「はっ」

    若「庭へ出よ」

    源「え?」

    若「しばし、わしの相手を致せ」

    源「は、はい」

    尊&覚「?」

    庭で竹刀を構える二人。打ち合いが始まったが、若君の気迫にやや源三郎が押されている。

    覚「なんか…朝稽古よりも凄味が増してるな」

    尊「兄さんどうしたんだろ」

    一瞬の隙を突いて、源三郎の竹刀が叩き落とされた。

    尊&覚「あ!」

    慌ててウッドデッキに出た尊と覚。唖然とする源三郎に、剣先を向ける若君。

    尊「源三郎さん、大丈夫かな」

    覚「まさか、令和が穏やか過ぎて、体が鈍っちゃったとか…」

    若「お父さん。そうではございませぬ」

    覚「そうなの?」

    源「…」

    若「心此処にあらず、が所以であろう」

    尊「え」

    源「…済みませぬ」

    若「新しく変わろうとしておるトヨを、案ずるのはわからんでもない。されど、お母さんも唯も傍におり支えておる。おぬしだけ、いつまでもそのような心持ちではならぬ」

    源「…はい」

    尊「確かにずっと、どこか虚ろな感じだった」

    若「迷いを断ち切るのじゃ。そんな不安が表に出た顔付きのまま、戻ったトヨを出迎えるつもりか」

    源「顔、でございますか」

    覚「そうだな、源三郎くん。トヨちゃん、きっととびきりの笑顔で帰ってくるからさ、眉間にシワ寄せててはダメだよ」

    源「はい」

    竹刀を拾い上げ、尊の前に進み出た源三郎。

    尊「えっ、なんで僕なの…」

    源「尊殿」

    尊「はいっ」

    源「しばらく箱を作る手伝いが出来ませぬが、宜しいでしょうか」

    尊「え!それは、構わないですよ」

    源「畏れ入ります。忠清様」

    若「うむ」

    源「己と向き合うべく、このまま鍛練を続けとう存じます。忠清様はどうぞお戻りください」

    若「わかった」

    源三郎を一人残し、三人はリビングに戻っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅―┅┅

    続きます。

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    アキサミヨー

    下地先生「暢子さん」

    暢子「休憩中でーす。アベベの世話ならニーニーに言っちゃってくださーい」

    下地先生「寝ぼけているのね。歌子はどこ?」

    暢子「歌?(せき払い)♪おお牧場~は~み~ど~り~♪」

    オーナー「暢子さん。あなた、“奇天烈”って言われなかった?」

    暢子、夢から覚める。

    暢子「アキサミヨー。今日のまかないはレンコンの挟み揚げで決まり!」

    ☆すみません、ざっと見ただけですが…
    源トヨがタイムスリップしてる?!
    坂口殿が恋?!(「唯が恋?!」的な。)
    ありえん。まさかやー。
    さすが創作倶楽部。
    “部にして返す”ニーニーは
    ぽってかす部
    または
    伝統芸能部。であるね。

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    四人の現代Days34~21日14時、ほろほろと

    一人で気張ってるから、包んであげて欲しい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美容院に出かける準備中。

    美香子「あとちょっと時間あるわね。トヨちゃん、唯、洗面所へ来て」

    唯「洗面所?」

    トヨ「はい」

    美「軽くお化粧しましょ」

    唯「やったー」

    ト「それは…ありがとうございます」

    唯が先に出てきた。

    唯「どう?かわいい?」

    若君「可愛い、よ」

    尊「言わせてないか?誘導尋問じゃないのか?」

    唯「せっかくお化粧したなら、たーくんとデートが良かったなぁ」

    若「ハハハ。トヨの新しく変わりゆく姿を、余すところなく撮ってやるのだぞ」

    トヨが出てきた。

    唯「超キレイ!まつ毛もくるんくるんだぁ」

    若「ほぅ。良いのう」

    尊「綺麗なお姉さんだ。あ、一段と、って意味です」

    ト「そんな、褒めていただけるなんて」

    源三郎「…」

    唯「源三郎~」

    源「…はっ」

    唯「尊でさえサラッと褒めてんのに。トヨに言う事ないの?」

    源「あの、えー…感無量です」

    唯「うまく逃げてない?」

    美「さて、そろそろ行くわね、お父さん」

    覚「ん…」

    美「何、どしたの」

    覚「トヨちゃん、化粧以上に目力が強いというか。朝方より、肝が据わった顔になったような」

    美香子の囁き「さっきひとしきり泣いたから。気持ちの切り替えができたんじゃない?」

    覚の囁き「それでか」

    美 囁き「エリさんと芳江さんが、うまく心の内を引き出してくれてね」

    ┅┅回想。12時45分のクリニック┅┅

    ト「エリさん、芳江さん。この後、行って参ります」

    エリ「まあ、わざわざ伝えに来てくれたの」

    芳江「ありがとうねぇ」

    エリが、トヨの前に歩み寄り、頭を撫でる。芳江は、トヨの後ろからそっと、長い髪を撫でた。

    ト「あ、あの…」

    エ「トヨちゃんはいい子。本当にいい子」

    芳「この美しい髪、憶えておきますね」

    ト「…うっ、うっ」

    その場で泣き出したトヨ。エリと芳江がそっと支える。その様子を見守る美香子。

    ト「ごめんなさい、私、嫌なんじゃなくて」

    美「今朝から、なんか張り詰めてたのよねぇ」

    ト「…」

    美「髪をバッサリ切るなんて、大事件だもの。直前に緊張するのは当然よ。どこかで吐き出せればいいなと思ってたけど、さすがの母二人だったわ」

    エ「辛くはないのね?」

    ト「はい」

    芳「心から、行きたいと思ってるのよね」

    ト「はい!」

    美「ふふっ。少しは気が楽になったかな。良かった。さ、涙を拭いて。そのまま戻ったらみんな心配するわ」

    ト「泣いてしまうなんて、お恥ずかしい…」

    美「全然。よく忠清くんも泣いてたし」

    ト「そうなんですか?!」

    芳「ここで泣きそうになって」

    エ「慌てて出て行った時もありましたね」

    ト「そんな事が…」

    美「笑顔になったわね」

    エ「じゃあ、行ってらっしゃい」

    芳「月曜、楽しみにしてますね」

    ト「はい!ありがとうございました!」

    ┅┅回想終わり┅┅

    唯「ちょっと源三郎~、褒めるまで出かけないよ?」

    源「そ、そんな」

    若「身構えるからであろう。見たまま感じたままを申せば良い」

    源「はい…トヨ」

    ト「うん」

    源「息を呑む程、美しい」

    ト「…」

    唯「この部屋、暑くない?」

    尊「暑いね」

    若「ハハハ」

    ト「ありがとう、源ちゃん。すごく嬉しい」

    源「お、おぅ。頑張って行ってこいよ」

    ト「うん!」

    美「じゃ、行ってきます」

    女性陣が出発した。

    覚「じゃあ僕らもそろそろ出るか。ホームセンターでいいんだよな?」

    尊「うん」

    若「源三郎」

    源「はっ」

    若「大儀であった」

    源「いえ…」

    尊「すごくカッコ良かったですよ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days33~21日土曜8時、羽を休めて

    何でも、率先して動いてたんだろうなぁ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝。身支度を終えた美香子が、小瓶の入った箱を持ってきた。

    美香子「唯」

    唯「なに?あ、マニキュアだ。また買い足したの?」

    美「午前中に、トヨちゃんに塗ってあげてくれない?」

    唯「あーお出かけ前にね。わかったー」

    トヨ「えっ!私になど」

    唯「だってこっちに居る間くらい、指をキレイにしてたっていいもんね」

    美「来た当初は荒れた手で痛々しかったけど、だいぶ治ってきたから」

    ト「それは、お恥ずかしい…」

    美「あとね、爪用のいろんなシールやパーツも買ったからこれも使って。貼った上からトップコートを塗って、剥がれないようにするの」

    爪に貼る、花やハート型のシールや、立体的なパールの飾りなどがある。

    唯「わぁ、おしゃれなおねーさんがやってるヤツだぁ」

    ト「可愛らしいですね」

    尊「へー。爪のおしゃれの世界って今こんな風なんだ。作業するのにピンセットが要るよね?」

    美「そうね。出しといてくれる?」

    尊「了解~」

    唯「上に乗せて貼る感じ?」

    美「唯の爪は、既に綺麗に塗ってあるしね」

    唯「だってぇ。病気で部屋に閉じこめられてた時、マニキュアぐらいしかするコトなかったんだもん」

    美「まぁそうよね。もうすぐクリスマスだし、こんなのを足したらどうかなって」

    唯「嬉しい!ありがとうお母さん、がんばってみるー」

    食卓に、まず瓶を並べた。

    唯「色はなんとなく、トヨに似合いそうなのを選んだっぽい」

    ト「そうですか?嬉しい。並んでるだけで心が踊ります」

    若君「色鮮やかじゃな」

    唯「だよねぇ。ねぇ源三郎」

    源三郎「はい」

    唯「どれがいい?」

    源「は?」

    唯「選んで」

    ト「えっ」

    源「え!いや、その、このような類いは不慣れでございまして」

    唯「えー」

    若「これ、唯。トヨ、唯が勝手に進めてしもうておるが、良いか?」

    ト「はい。お母さんが買い求めてくださったお色はどれも素敵ですし、私も選べません」

    若「ならば良いが」

    ト「源ちゃん、決めて欲しい」

    源「そうか。ならば…うーん」

    源三郎が悩みながら取り上げたのは、やや赤みの強いオレンジ色のマニキュア。

    唯「おっ、いいね」

    若「ほほぅ。夕映えの色じゃの」

    ト「まぁ…素敵…」

    唯「夕映え!たーくん、なんてカッコいいコト言うのぉ」

    若「見たまま申しただけであるが」

    唯「もー。好きっ」

    若「ハハハ」

    源「トヨ、これでいいか?」

    ト「うん!」

    唯「決まりだね。じゃあ塗り始めまーす。パーツ、何貼るかも決めてね」

    ト「いえ、こちらは私には。唯様だけで」

    唯「なんで~?いいじゃない」

    ト「あの…炊事が、しにくくはなりませんか?」

    唯「そんな心配?」

    尊「お姉ちゃんの口からは、決して出ない質問だな」

    唯「なによ。確かに働いてませんけど」

    若「実に奥ゆかしいのう」

    源「…」

    覚「トヨちゃん、それは僕が答えよう」

    キッチンから覚登場。

    ト「お父さん」

    覚「たった一月だけどさ、そういうのから解放されて、自分の身を労るのも大切だよ」

    ト「労る…」

    覚「僕もね、最初トヨちゃんの手を見た時、水仕事を頑張る女性の手だなって思った。今の内くらいさ、美しい指先で気分も上々になって欲しい」

    ト「…」

    覚「どうしてもやりたければ、炊事用の手袋とかあるしさ。まぁでも、無理にしなくていいしさせるつもりもないよ。今は養生して」

    ト「そんな…お気遣いありがとうございます」

    源三郎が、前に進み出た。

    源「お父さん、わたくしがその分お手伝い致します」

    唯「お」

    若「ほぅ」

    尊「男前だ」

    ト「源ちゃん…」

    覚「ははは。充分やってもらってるけどね。じゃあトヨちゃんの分も、よろしく頼むよ」

    トヨの手を取る唯。

    唯「ごめんね。今までいっぱい働いてくれて」

    ト「いえ!唯様のお世話だけで、手が荒れたのではございません」

    唯「ピッカピカの爪にしてあげるね」

    ト「楽しみです、お願いします!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days32~20日18時、思ってたんと違う

    プチパーティー仕様。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    二階から下りてきた尊。

    尊「え?今おやつタイムなの?」

    覚「唯が勝手に配ってさ。休憩とは言ったが」

    覚以外、皆でシュークリームを頬張っていた。

    唯「シュークリームが呼んでたからさ~」

    覚「空耳だろ。今から酒呑むのに甘い物って」

    唯「関係あるの?」

    覚「出された食べ物を断らないと知ってて、わざとやってるだろ。まぁまだ食事まで時間はあるが」

    トヨ「この先の世の甘味は、どれもとても柔らかいのですね」

    若君「それもそうよのう」

    源三郎「見た目はかなりゴツゴツとしておりますが、持つと何ともまあ柔らかく」

    シュークリーム片手に、スマホを操作する尊。

    尊「兄さん、いろいろ考えたんですけど、こんなのがいいかなって」

    若「どれ。おぉ、これは美しい」

    木箱に、こぼれそうな程花が詰めてある画像を見せる。

    尊「入れた箱を立てられるように、モリモリと隙間なく貼り付けるんです」

    若「壁に咲いておるように見立てるのか」

    尊「あ、そうですね。で、これ見えます?写真立てなんですけど、木箱の脇に金具で繋いで、本を開いて立てたみたいにするんです」

    若「ほぅ。良いの。ではこのように致そう」

    唯「お花の箱作るの?」

    若「うむ。咲き誇る花々を、いつまでも粉の中に埋めておくのは忍びないゆえ」

    ト「まぁ綺麗」

    源「雅やかでございますな」

    覚「材料仕入れたいだろ?明日乗せてってやるぞ」

    尊「いいの?」

    若「よろしいのですか?」

    覚「トヨちゃん達が美容院行ってる間にさ」

    尊「あー、なるほど」

    若「ありがとうございます」

    19時30分。美香子が仕事を終え戻って来たが、

    尊「麻婆豆腐なんだよね?」

    覚「そうだ」

    唯「なんでホットプレート?」

    覚「これで作るからだ」

    尊「えー!」

    唯「聞いたコトない」

    美香子「これも永禄仕様なのね。 向こうで似たようなメニュー作れるように」

    唯「そうなんだ~。お父さん天才!」

    覚「へへ、そうか?じゃあ忠清くん、ここで豆腐以外の具材を炒め始めて」

    若「はい!」

    肉にトロミがついてきたところで、覚が熱燗を運んできた。

    美「まだできてないのに。豆腐も水切りしっぱなしだし。順番逆じゃない?」

    覚「もうできあがるんだよ。忠清くん、手ぬぐい外して、豆腐入れて」

    美「え、大きいまま?」

    若「このままですか?」

    覚「そのままドーンと入れていいよ。中で崩しながら食べるんだよ」

    美「あらま」

    唯「へぇ」

    尊「いろいろ斬新だ」

    覚「少し火を弱めて完成だ。忠清くん、お疲れ様。さーさー」

    酒を盃に注ぐ。美香子や源トヨにも同様に。

    全員「いただきます!」

    晩ごはん兼酒宴が始まった。

    唯「このマーボー、いいね」

    尊「ちょうどいい辛さ。美味しいです兄さん」

    若「そうか。良かった」

    覚「ささ、呑んで」

    若「お父さんこそ。つがせてください」

    覚「いいのかい。嬉しいねぇ」

    若「お母さんもどうぞ」

    美「まぁ嬉しい。じゃあ私はトヨちゃんに」

    ト「ありがとうございます。はい、じゃあ源ちゃんどうぞ」

    源「お、おぅ」

    唯「みんなゴキゲンだなぁ。まぁ、お酒関係なくても楽しいけどねー」

    尊「あ、なにお姉ちゃん、麻婆丼にしてる!」

    唯「いいでしょ~」

    若「唯の飯、美味そうじゃの」

    唯「たーくんにもあげよう。はい、あーん」

    若「うん、美味い」

    尊「僕も丼にしよっと」

    食卓を感慨深く眺める覚。

    覚「いや~。うんうん」

    美「何お父さん、しみじみと」

    覚「いい夜だ」

    美「ホントね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    20日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days31~20日15時、きってきって

    戦国時代の肉は、もう少し固そう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    スーパーに買い物に来た五人。

    覚「全員で並ぶと、何とか戦隊みたいだな~」

    唯「はあ?何戦隊なの」

    覚「うーん…戦国戦隊、シュツジンジャー!どう?どう?」

    唯「ダサっ」

    覚「だよな。もうちょっと考えさせてくれ」

    唯「もういい」

    覚「バッサリだな」

    カートの中がどんどん埋まっていく。

    唯「お肉、大きいのと小さいのがあるね」

    覚「大きいのはバーベキュー用、小さいのは今晩のメニュー用だ」

    若君「今宵は肉料理ですか」

    覚「うん。僕も色々考えてさ、せっかく覚えるんだから、金曜は今後応用できるといいなってメニューにする予定だよ」

    唯「今後?永禄でも作れるメニューって事?」

    覚「材料に制限あるから、再現は無理だと思うけどな。でも、例えば」

    カートの中の豆腐パックを指差す覚。

    覚「トヨちゃん、こんな形ではないだろうけど、永禄にも豆腐はあるよね?」

    トヨ「はい。ございます」

    覚「て事は、豆腐料理はできるだろ?ならさ、現代のメニューをそっちに寄せた風に作れば、戻ってからも楽しめるんじゃないかな~ってね」

    若「お父さん…そこまでお気遣いいただいたとは」

    覚「金曜だけだから。気にしなくていいよ」

    唯「じゃあ、今日の晩ごはんは何?」

    覚「麻婆豆腐だ」

    唯「マーボー!ん?」

    覚「何だ」

    唯「麻婆豆腐ってお肉こんなだっけ?」

    覚「普通ひき肉だよな」

    唯「これ、違うコトない?」

    覚「永禄にひき肉は売ってないだろ。これを細かく刻むんだよ」

    若「なるほど…よう考えておられる」

    唯「へー」

    覚「今日は、そんなに辛くはしないぞ」

    唯「そうなの?」

    覚「日本酒に合わせたいからな」

    若「酒…」

    唯「あ、いよいよお酒デビューすか!良かったね、たーくん。源三郎もトヨもだけど」

    覚「念願のな」

    若「それは楽しみです。なぁ、源三郎、トヨ」

    源三郎「はい」

    ト「よろしいのですか?ご相伴にあずかっても」

    覚「気兼ねしてるのかい?普段は支度する側の身だから」

    ト「酒席を共になど、おこがましくて」

    覚「永禄では主従関係があるからそうだろうけどさ、僕にとってはみんな平等で可愛い子供達だからね」

    ト「なんてお優しい…」

    源「ありがとうございます」

    覚「さてと、これで揃ったかな。…おい、唯」

    唯「はーい?」

    覚「何だこの、シュークリームがワサワサ入った袋は」

    唯「賞味期限が近いからって、まとめ売りしてたんだもん。ほら!半額のシール!」

    覚「そういう安売りは目ざといな」

    唯「ダメ?」

    覚「もう一袋取ってきな」

    唯「え、やったぁ、しゃっ!」

    帰宅後、早速料理に取りかかった。

    覚「豆腐は水切りしないとな。忠清くん、パックから出したら、その手ぬぐいで包んで、ザルにあげといて」

    若「はい。何故このようになさるのですか?」

    覚「味を染み込みやすくする為だよ」

    ト「ふむふむ~」

    源「トヨ、前に出過ぎだ」

    ト「あっ、すみません!つい」

    若「ハハハ。熱心に学んでおるのう」

    葱を刻み、いよいよ肉を細かくする。

    若「柔らかい…包丁が滑り、思う様に動かぬ」

    唯「たーくんがんばって~」

    覚「刻む作業はこれで最後だから、ゆっくりでいいよ」

    唯「あ、尊おかえりぃ」

    尊「ただいまー。早っ、もうごはんの支度始まってたんだ」

    源三郎&トヨ「おかえりなさいませ」

    覚「お帰り尊。支度だけな。仕上げは母さんの仕事が終わってからだ」

    尊「ふーん」

    覚「あ、そのくらいでいいよ、忠清くん」

    若「これでよろしいですか。おかえり、尊」

    尊「兄さんただいま。なんか、まな板の上がすごい事になってるね」

    覚「忠清くん、ずっと包丁握りっぱなしだったから疲れただろ?手順も一段落だし、少し休憩しな」

    若「ありがとうございます」

    尊「あ、兄さん例の質問ですけど、後で画像見せますね。着替えてきます」

    若「おぉ、そうか。済まぬの」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    ぷくぷくさん

    心からほっこりしてしまう4部作を書き上げて、お疲れでしょうに、続きをお願いしたようになってしまい、ごめんなさい。
    ぷくぷくさんの作品を読ませて頂くと、頭の中にパッと映像が浮かんで、今は幻の続編を見ている満足感に浸れるのです。本当にありがとうございました。

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