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    四人の現代Days63~26日21時、ルーティンです

    さすが、扱いが慣れていらっしゃる。
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    居酒屋。

    源三郎「わたくしが、お父さんを疲れさせてしもうたのでしょうか」

    若君「にしては、寝顔が笑うておる。充分語らえて満足していただけたのならば良いが」

    源「いかが致しましょう」

    若「うむ…」

    覚は、心地よさそうに眠っていた。

    若「目を覚まされるまで、わしらは飯を残さずいただいておくとしよう」

    源「はい」

    その時、

    源「何事?この真冬に虫か?!」

    近くで、ブーンブーンと音がする。

    若「ん…もしや。お父さん、御免」

    覚のポケットを探る若君。音は、スマホからだった。

    若「うーん」

    バイブがずっと作動している。画面には、美香子と出ており、電話がかかってきていた。

    若「どうすれば良いか、わからぬ」

    源「よく、尊殿や唯様が、板の上で指を滑らせておりますが」

    若「一向に止まぬ…」

    スマホに慣れていない若君は、うまくスワイプができていなかった。

    源「あ」

    若「止まった。お母さんの名も消えた」

    テーブルにスマホを置いた。悩める若武者二人。その時、店の電話が鳴った。

    おかみ「はーい。はい?あーこんばんは。ええ、ご主人寝てらっしゃいますね。お兄さん達が困ってます。はい、はい、伝えますね。お気を付けて」

    電話を切ったおかみが、若君と源三郎の元にやってきた。

    お「お兄さん達、安心してね。もうすぐ美香子先生が迎えに来ますからね」

    若「えっ?そうですか。わかりました。ご心配をおかけして済みませぬ」

    お「いつもの事ですんでね」

    若「いつも、ですか」

    程なくして、店の戸が開いた。

    美香子「こんばんはー。もう、すいません、いつもいつも」

    店主とおかみに会釈しながら、入ってきた美香子。

    美「お待たせ。ごめんねー」

    源「お母さん」

    若「お母さん。わざわざご足労頂き、忝のう存じます」

    美「お酒飲むとすぐ寝ちゃうんだから」

    若「思い起こせば、そうでした」

    美「ちゃんと話はできた?」

    若「はい、それは十二分に」

    美「そう。良かった。それだけが心配だったの。もうごちそうさまでいい?帰ろっか」

    若君&源三郎「はい」

    美「私、お会計してくるから。悪いけど、お父さんを運んでくれない?」

    源「わかりました。ならばわたくしが」

    源三郎が覚を背負い、若君が覚の靴とスマホを持った。

    美「お世話かけました~」

    若&源「ありがとうございました」

    店を出て、近くに停めた車の助手席に覚を乗せ、出発した。

    若「お母さん」

    美「なぁに?」

    若「大晦日、出掛けた先で、決着致しますので」

    源「ええっ」

    若「宣言しておかねばのう」

    源「励み、ます」

    美「それは楽しみね~。トヨちゃんの喜ぶ顔は、もっと楽しみよ」

    帰宅。若君と源三郎で、覚をソファーに寝かせた。

    源「これで、よろしいでしょうか」

    トヨ「源ちゃん、お疲れ様」

    美「ありがとね」

    唯「たーくんお疲れぇ。うわっ、酒くさっ」

    若「飲めば少しは臭うじゃろ」

    唯「少しじゃないよ」

    若「そうか?」

    唯「嫌だ、近寄んないで!」

    ムッとした顔で、若君を押しのけた唯。

    尊「兄さんがわかりやすく落ち込んでる」

    美「唯~。あんまり冷たくすると、ビールは敵だ!になっちゃうから。せっかく楽しんできたのに」

    唯「わかったよぅ。たーくん、はいお水。どーぞ」

    若「うむ」

    唯「でも接近禁止だから。って、聞いてる?なんで寄っかかってくるの!ちょっとたーくん、重い、重たいってばー!」

    尊「兄さんがわかりやすく酔ったフリしてる」

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    26日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days62~26日19時、説法!

    集中攻撃も致し方なく。
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    さて。変わってこちらは速川家。キッチンに、唯と尊とトヨ。

    トヨ「鍋に湯を沸かすのはわかりますが、こんなにも要るのですか?」

    コンロが鍋で埋め尽くされていて、どれも中は沸き始めたお湯。

    尊「要るんですよ」

    唯「ねー、そろそろ出しちゃダメ?どんなのがあるか見てみたい」

    尊「一度全部並べよっか」

    ト「並べる?」

    尊が大きなダンボール箱を持ってきた。中身を、食卓にドサっと出す。

    唯「こんなにあったんだ!すごっ」

    尊「妻への愛情が、この量にあらわれてるというコトで」

    覚が捻挫をした時に、美香子の炊事が楽になるよう大量に購入してあったレトルト食品が、まだわんさか残っていた。

    ト「食べられる物なのですか?」

    尊「そのまま開けて、ではなくて、お湯で温めるんですよ」

    ト「それでお鍋があんなに」

    唯「この写真、そそられるぅ!ビーフ、ストロノ?」

    尊「ビーフストロガノフ。何でちゃんとカタカナで書いてあるのに読めないの」

    唯「おいしけりゃなんでもいい」

    尊「はいはい。トヨさん、今日は四人でいろんなのを分け合って食べようと思ってます。もし気に入った献立があったら、帰る日までに再注文しますから、持ち帰ってくださいね」

    ト「まあ」

    唯「やったー!私の分も!」

    尊「それはいいけどさぁ。お姉ちゃん、頼むから、トヨさんの分まで永禄で横取りしたりしないでよ」

    唯「しないよ」

    尊「ホントかよ」

    唯「なぜなら、トヨの分は二人の愛の巣へ持ってってもらうから~」

    ト「愛の、巣?!」

    尊「あー。赤井家の備蓄として?」

    唯「そっ」

    ト「ええっ、それは選ぶのが大変!お品、よく見せていただいても良いですか?」

    唯「なんかすっかりその気だし。あー今ごろ、侍たちは何話してんのかなー」

    尊「お姉ちゃん、ちょっと」

    唯「なに」

    少しトヨから離れた二人。

    尊の囁き「今聞かなくてもいいっちゃいいんだけど、兄さんは、エロ侍じゃない」

    唯「ホントだよ」

    尊 囁き「はあ。それ、源三郎さんだと、どう表現する?」

    唯「あー。間違いなく」

    尊「間違いなく」

    唯「ヘタレ侍」

    尊「うわ。ヒドっと思うけど、否定できない僕が居る」

    戻って、居酒屋の三人。ますます熱が入っている。

    覚「あれだな。源三郎くんがある意味、のほほんとしてたのは、ライバル…恋敵が居なかったからじゃないか?いつでも俺の女に出来るぞなんて、思ってなかった?」

    源三郎「トヨはそんな一筋縄では…されど、恋敵は確かに居りませんでした」

    若君「ふむ…。例えばじゃ、もし小平太が、トヨを連れ込んでいる所に出くわしたらどうする」

    源「何ゆえそこで小平太殿なのですか」

    若「身近で、対等の立場の者じゃからの」

    覚「なるほどね。で、見ちゃったとして。さぁどうする!」

    源「それは、それは…うわぁっ!」

    覚「おいおい、パンクしてるな。大丈夫か?」

    若「早う答えよ」

    源「その後数日、様子を見ます…」

    覚「平和的だけど消極的だな。忠清くん、源三郎くんっていつもこんな風なの?」

    若「いえ全く。実に勇ましく優秀な家臣なのですが」

    覚「わかった。もうさ、結婚できないなんてなさそうじゃない。トヨちゃんのためにも、こちらに居る内に、愛してるよって伝える。そんでもって、プロポーズもする。あ、プロポーズは結婚してくださいって申し込みね」

    若「お父さん。これは、期日をはっきり決めた方が良いのでは」

    覚「それ賛成。じゃあ…年内!」

    源「年内!」

    覚「あと今日入れて6日ね。あ、今夜だと飲んだ勢いみたくなってトヨちゃんに失礼だから、あと5日だな」

    源「五日…一気に酔いが回ってきたような」

    若「散々放っておかれたトヨを思えば、五日でもかかり過ぎじゃ」

    覚「どう言うかとか、よく考えて。でさ、何なら大晦日にそうしたらどうかな。そしたらゆっくり言葉も選べるだろ?」

    若「大晦日は確か、夜に出掛けるのでは?」

    覚「行くのは遊園地だからさ。昨日のイルミネーション、良かっただろ?あそこまでキラキラじゃないけどさ、遊具とか光の装飾で、愛の言葉を囁くにはいい感じの場所だよ」

    若「三日三晩考えても、まだ余裕があるのう。精々、励め」

    源「はぁ…」

    覚「あのな、源三郎くん。親の立場として言うけどさ」

    源「はい」

    覚「親鳥はね、ヒナを孵す為に温めはする。だがヒナは、生まれる時は自力で殻を割って出てくるんだよ」

    若「なるほど。どうお膳立てしても、最後は己の存念一つ、であると」

    覚「そうだ」

    若「お父さん。わしの心にも響きました。わかったな、源三郎」

    源「…はい」

    場所変わって、またまた速川家。

    美香子「スープも惣菜も山ほどだけど、白いご飯あるから、丼もどう?」

    尊「豚丼と、あと麻婆茄子丼があるよ」

    唯「トヨ、どっちがいい?」

    ト「あの…両方でも良いですか」

    尊「了解しました。鍋に投入します」

    美「えーっと、何時になった?8時半か…」

    唯「宴会、きっと盛り上がってるよね」

    美「でもそろそろ、危ないのよねぇ」

    唯「そうだった」

    尊「あー、確かに」

    ト「?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    そろそろ?もう少し続きます。

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    四人の現代Days61~26日18時、全て泡とならぬよう

    罪作りな千原じい。
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    覚「泡をよけながらというか。そうそう」

    若君と源三郎が、上唇に泡をつけながらビールを飲んでいる。

    源三郎「これは美味い」

    若君「この苦味がまた良いですね。何杯でも、は頷けます」

    覚「気に入ってくれたかー。良かった。じゃあさ、お品書き見て、食べたい物あったら注文して。話はそれからだ」

    テーブルの上が注文した料理で一杯になり、ビールが三人とも中から大に変わった所で、覚が話を切り出した。

    覚「源三郎くん。まずさ、君が躊躇している一番大きな理由を、忠清くんに話しな」

    源「はい。あれは忠清様と唯様の祝言の日取りが決まり間もない頃。わたくしは、元次様に呼ばれ、屋敷まで参じました」

    若「うむ」

    源「酒の席が用意されておりました。人払いをされ、二人きりとなった時に切り出された話が、千原を名乗らないか、と」

    若「なんと」

    源「赤井氏に拘りがなければ、忠清様の祝言が済んだら如何かと仰せられ」

    若「それは、今初めて耳にしたが」

    源「あくまでも祝言の後とのお話でしたので、一切他言されておられなかったようです。わたくしは謹んでお受けすると答えまして、大層喜んで頂きましたが、元次様が旅立たれましたので、話も立ち消えとなった次第」

    若「そうであったか。それで?」

    源「酒が進むにつれて饒舌になられました。その内、元次様からふと口をついて出た言葉が」

    若「うん」

    源「くれぐれも、天野由来の妻は娶るな、と」

    若「え?」

    源「トヨを名指ししてはおらぬと思います」

    若「で、あろうの。二人の仲を知る者は極僅かであるし」

    源「今となっては、本意はわかりません。かなり酒が入っておりましたし、笑いながら話されましたし」

    若「若かりし頃ならともかく、そこまで目の敵にする程、いがみ合ってはおらなんだと心得ておるが」

    源「はい。わたくしも、天野様側から聞いた覚えはありません。ただ、それが元次様と話した最後となりまして」

    覚「それで、呪縛のように今でものしかかっているんだね」

    若「おぬしはどう思うておるのじゃ。元次の意に従うのか?」

    源「いえ、トヨを妻として迎えたいと願うております」

    覚「でも、その言葉が引っ掛かって」

    源「はい…。忠清様」

    若「何じゃ」

    源「そこで、折り入ってお願いしたき儀がございます」

    若「申せ」

    源「両家、と申しますか、元次様と信茂様の確執がどこまで根深いかはわかりませぬ。ただ、元次様がどのようなお考えであったにせよ、信茂様にお許しを頂けるのであれば、トヨと夫婦になれるのではと思うておるのですが。甘い考えでしょうか」

    若「じいが許さぬとは思えぬがのう。そのように拘っておっては、小平太に縁談があっても進まぬやもしれぬゆえ。わかった。わしが上手く話を運び、許すとなれば良いのじゃな」

    源「はい!永禄に戻りました折には、どうか、どうか宜しくお願い申し上げます」

    横に居る若君に向かって、深々と頭を下げた源三郎。

    若「それでか。じいの絵を土産にしようと。機嫌を取ろうという算段であったか」

    源「はい」

    若「ハハハ。おぬしの焦りはようわかった。何ゆえ、もっと早うわしに話さなんだのじゃ」

    源「縁組みを持ちかけられようとは、露とも思うておりませんでしたので」

    若「トヨを待たせてしもうておる。縁組み云々の前に、動くべきじゃった」

    源「悔いております。また、髪を切らせてしもうた事も」

    覚「え?それ、関係ある?」

    源「トヨが、女中だから、髪は短くても構わぬのだと申しました。早々に妻として迎え、城から下がり女中でなかったならば、あの美しい黒髪を切る謂われもございませんでした」

    覚「源三郎くん。それは違うと思うな」

    源「そうでしょうか。わたくしめが逡巡しなければ、早う娶っておればと」

    覚「だからか。髪切った日さ、源三郎くん、有り得ない程ヨレヨレだったじゃない」

    源「トヨに顔向けできぬと思うておりました」

    覚「でも彼女、誰かに指図されたんじゃないしさ」

    若「切ると決めたのはトヨじゃ」

    源「…」

    覚「令和に来たから、トヨちゃんがヘアドネーションを知ったじゃない。来ない方が良かった?」

    源「いえ、それは微塵も思うてはおりませぬ」

    覚「だからね、なるべくしてなったんだよ」

    若「源三郎は、気に病まんでも良い」

    覚「そうだよ。でさ、逆にここに来なかったとする。永禄で、忠清くんの力を借りたとして、いつ、トヨちゃんに結婚の申し込みをしたかな?」

    源「それは…」

    覚「一向に進まなかったんじゃないか?あれよあれよと、どこかのお姫様がやって来て」

    源「…仰せの通りだと思います」

    覚「話を整理するよ。源三郎くんとトヨちゃんは愛し合ってる。源三郎は結婚したいと思ってるが、思わぬ壁が立ちはだかった。でもこの件は、忠清くんの力で何とかなりそう」

    若「はい。壁は直ちに消え去りましょう」

    覚「さすがだね。で、問題はその後だ。あのさ、まさかと思って、前回相談受けた時に聞かなかったんだけど」

    源「はい」

    覚「好きだよ、とも言ってないんじゃない?」

    源「…はい」

    覚「やっぱり」

    若「お父さん」

    覚「ん?」

    若「それならば、わしも夫婦となる前には申しておりませぬ」

    覚「君達は、ずっと離ればなれでその機会がなかっただけだろ?それに、事が落ち着いてすぐ、結婚しようって伝えたんだろ?思わせ振りな態度を続けた訳じゃない」

    若「そうですね。どうじゃ、源三郎」

    源「お言葉が、胸に刺さります」

    覚「何も言わないなんて、僕にしたら考えられない。でもなー、出来ないモノは仕方ないのかなー」

    若「お父さんの金言は、この忠清も、しかと心に刻んでおります」

    覚「そうかい。ありがとう。じゃあそれ、源三郎くんに教えてあげてよ」

    若「言わなくてもわかるなどない。愛するおなごには愛しておると、気負わずに伝え続ける」

    源「…その壁、越えられそうにありません」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days60~26日木曜13時45分、とりあえず

    冬にこんな冷たい飲み物を?とも思うよね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    そろそろ、クリニックが午後の診療に入る。

    覚「夕方には出かけるつもりだ」

    美香子「あの店だったら5時には開くから、早めに出ればいいんじゃない?」

    覚「そうするよ」

    美「じゃ、忠清くん源三郎くん。今夜の外呑み、楽しんできてね」

    源三郎「はい」

    若君「ありがとうございます」

    美香子がリビングから出ていった。

    若「お父さん。今宵向かう店は、しばしば行かれておるのですか?」

    覚「そうなんだよ」

    唯「あのね、うまいビールが飲みたい!って、お父さんたまに叫ぶんだよ。そーゆー時、晩ごはんは家族全員でそこに行ってたの」

    尊「その居酒屋、料理も美味しいんです。あと、僕達もその日はジュース飲み放題になるんで、わりと楽しみにしてました」

    若「そうであったか」

    そうこうする内に、16時30分になった。

    唯「外、もう暗いよ」

    覚「そろそろ出るか。忠清くん、源三郎くん、行けそうかい?」

    源「はい」

    若「お父さん」

    覚「ん?何かあった?」

    若「残る皆の晩飯は、支度せずとも良かったのですか?サラダ、は冷やしてありますが、仕事を終わられてから始めては、遅うなります」

    覚「これが、大丈夫なんだよ。ほぼ支度要らずなんだ」

    若「そうなんですか」

    尊「そうなんですよ」

    唯「どーぞ気にせずぅ」

    若「?」

    覚「じゃあ、行ってくるよ」

    尊「行ってらっしゃい」

    トヨ「行ってらっしゃいませ」

    唯「えーと…そう、ご武運を、祈る!」

    若「ハハハ」

    源「行って参ります」

    三人連れ立って歩き出した。出て行く様子が、クリニックから見える。

    芳江「あら。ご主人、息子さん達とお出かけですか」

    美「そうなの。三人で飲みに行くって。主人ね、源三郎くんの悩み相談だって言ってるのに、ずっと楽しみにしてたのよ」

    エリ「後姿は、お二人とも実の息子さんみたいですよ。ご主人も上背がおありですから」

    美「ホントね。綺麗に階段状」

    若君、覚、源三郎と身長順に並んでいる。

    美「尊の背だと、主人と忠清くんの間ね」

    エ「四人ともスラッとされてみえるから」

    美「三人とも、私が産んだみたい?」

    芳「ふふ。自慢のご子息ですね」

    店に到着した三人。そこは、駅前の道から少し入った所にあった。

    覚「夫婦二人だけでやってるんだ。入ろう」

    ガラガラと引き戸を開ける。中に入ると、カウンターと座敷があるが、こじんまりとしていた。

    店主「いらっしゃい」

    覚「こんばんは。座敷、いい?」

    おかみ「どうぞ」

    四人席に、一方に覚、若君と源三郎は並んで座った。

    覚「あぐらでいいよ。家だとさ、椅子ばっかりだもんな。こっちの方が楽だろ?」

    若「そうですね」

    源「ありがとうございます」

    周りを見渡す若君と源三郎。店内は、年季の入った壁や柱が、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している。

    若「何と申しますか、永禄に通ずるような」

    源「心落ち着きます」

    覚「そう?そりゃ良かったよ。おかみさん、まずは生中3つと、串の盛り合わせと、そのカウンターにある筑前煮とポテトサラダ、頼むよ」

    お「速川さん、生中でいいんですか?いつもは生大なのに」

    覚「え?!ひとまずは。おかみには敵わないなー」

    お「フフ、今お持ちします」

    早速、キンキンに冷えたジョッキに、ビールが注がれていくのが見える。

    若「お父さん、わしらに遠慮なさらずとも」

    覚「いやいや、君達ビール初めてだからさ、万が一、口に合わないといけないから、まずは合わせて普通サイズからね。ははは、おかみにあぁ言われるとは思ってなかったな」

    若「気心が知れておるのですね」

    お通しの揚げ出し豆腐、ビール、筑前煮と運ばれてきた。

    若「これが、ビールですか。並々と入っております」

    源「量が随分と」

    覚「日本酒と比べるとびっくりする量だよね。でもね、これが何杯でもいけるんだよ~」

    若「俄には信じ難いですが」

    覚「だよね。じゃあジョッキ持って。この持ち手を握るんだよ」

    若君&源三郎「はい」

    覚「では、乾杯!」

    若&源「乾杯!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    男性陣の身長は、若君179cm、尊176cm、覚174cm、源三郎172cm、となっております。

    続きます。

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    四人の現代Days59~25日18時、春遠からじ

    様子見ですな。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈が走り去ったのを確認して、合流した五人。

    唯「髪の毛サラッサラでさぁ、かわゆい女の子だったじゃなーい!」

    尊「んー、よくわからないけど」

    唯「これでも気ぃ使ったんだよ?たーくんと源三郎見て、あっちのお兄さん達の方がいい!ってならないように隠してさぁ」

    尊「自分が困るからでしょ。あ、四人の説明はね、二人の姉とその旦那さん、になってるからよろしく」

    唯「お。じゃあなんかあれば、話を合わせろって話かー。この後またバッタリ会うかもしんないしね」

    若君「心得た」

    源三郎「わ、わかりました」

    トヨ「はい!」

    唯「では、いよいよ一回りしますか」

    尊「うん。待たせてごめんなさい」

    歩き出した五人。前に唯と若君。腕を絡ませている。後ろに、尊、源三郎、トヨと並ぶ。

    尊「あのですね」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「ここではぐれたりしたら、大変なんです」

    源「確かに」

    ト「そうですね」

    尊「手を繋ぐとか、前の二人みたいにくっついててくれませんか?」

    源「尊殿とですか?」

    尊「うわぁ、マジで答えてるからツッコミができない。いや、僕はいくらでも両親と連絡が取れますから、一人で大丈夫なんで」

    源「と、なれば」

    ト「え」

    尊「そうしてもらえると、僕は助かるんです。離れて歩かれるより、あぁやってひとかたまりになってくれてた方が目が届きやすいんで。もうすっかり辺りも暗いですし」

    源「…心得ました。そのような訳ならば」

    源三郎が、サッと手を出した。

    源「ほれ」

    ト「…」

    手を繋いだ源トヨ。

    尊「これで安心。僕も引率の任務を全うできそうです」

    源「尊殿、あの」

    尊「はい?」

    源「ありがとう、ございます」

    ト「あ、あの、ありがとうございます」

    尊「礼を言われる程ではないでござる。あれ、上手く戦国言葉に変換できてないや」

    源「ハハハ」

    ト「ふふふ」

    広い場所に出た。見渡す限り無数の電球で、全体が動画のように、景色が変わっていく。

    唯「すごーい!」

    若「桜が咲いたかと思えば、鳥が羽ばたき、紅葉が散り。見事じゃのう」

    唯「ロマンチックぅ」

    若「その言葉、聞き覚えがあるような」

    唯「こんな場所で告白なんてされたら、イチコロだよぉ」

    若「イチコロ…立てなくなるのか?」

    唯「へ?うん、まぁだいたい合ってる」

    若「そうか…」

    唯「ふふっ。たーくんが今何考えてるか、当ててしんぜよう」

    若「申してみよ」

    唯「作戦会議がもっと早かったら良かったんじゃないか、そしたら今日、源三郎が告白する手はずを整えられたのに」

    若「さよう。合うておる」

    唯「やっぱしね。まっ、お父さんに相談するからさ、なんとかなるんじゃない?」

    若「わしもそう願う」

    源トヨは、隣には居るが二人の世界になっていた。

    源「いつまでも見ていられるな」

    ト「うん」

    源「麗しい」

    ト「なんで私見て言うの。あちらでしょ」

    源「…」

    ト「え?」

    そんな姿を、ウンウンと頷きながら見ていた尊。

    尊 心の声(平和っていい。あ、忘れてた)

    スマホを取り出した。グループLINEをチェックするが、

    尊 心(うわっ)

    二人ピースサインの写真をあげてすぐ、グループ全員から矢継ぎ早に投稿されていた。

    瑠奈の投稿『ばったり会ったのー!』

    尊の投稿『ほんの偶然です』

    投稿1『めっちゃお似合い!』

    投稿2『速川、この時期に余裕じゃね?そうか、お前ら実は付き合ってたってオチな』

    投稿3『春だね~』

    投稿4『二人いつもと感じ違わないか?』

    投稿5『淋しい受験生に見せつけかよ。あ~羨ましいったら』

    投稿6『もー、早く受験終わって欲しい、彼氏作りたーい!』

    瑠 投稿『運命かもー!なぁんて(*^^*)』

    尊 心(どう返すといいんだろ。無下に違うって書くと、総攻撃に遭いそうだし)

    唯「尊~?なにつっ立ってスマホ見てんのよ。あ、グループLINEどうなった?」

    尊「こうなってる」

    唯「どれ、お姉様が見てあげる。ん?」

    尊「騒がしいよね」

    唯「あんた、この写真すっごいイイ顔してる」

    尊「そう?加工が上手いからじゃないの」

    唯「そういうコトじゃなくて。たーくん、この写真見て。で感想言って」

    若「どれ。おぉ、なんと柔和な」

    尊「そんなに違いますか?」

    若「このおなごには、心を許せるとみえる」

    尊「意識ないですけど」

    唯「恋が始まる5秒前、って感じ?へへっ」

    尊「なに上手いコト言った気になってんの」

    時間を追う毎に、イルミネーションは輝きを増していきました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    25日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days58~25日17時30分、甘酸っぱい

    駆け寄ってくる姿なんて、ときめかないか?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    イルミネーションそっちのけで、尊を囲んでいる四人。

    若君「尊、責めておるのではない。聞かせてくれぬか?」

    尊「わかりました。実は、この前クラスメートとLINEを交換したんです」

    若「共に学んでおる仲間と」

    唯「連絡先を交換ね。二人、ここまでわかる?大丈夫?」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「グループLINEにも入って」

    唯「えっとね、1対1じゃなくて、一度に何人も同じ画面見られるって言うか。つーか、すごい進歩じゃん!グループLINEまでなんてさ」

    尊「口車に乗せられて」

    唯「なにそれ。イヤならすぐ、グループ抜ければいいのに」

    尊「嫌ではない。みんな色々しゃべってるのを眺めてるだけだし」

    唯「あっそ。で?」

    尊「で、さっき、グループにこんなのが投稿されて」

    スマホを出した尊。LINEの画面が表示されている。

    唯「見ていいの?どれどれ。…大学推薦通ったご褒美兼ねて、家族でイルミネーション観にきてまーす!あれっ」

    若「これは、この地の入口の写真では?」

    尊「そうなんです」

    唯「じゃあこの子、近くに居るんだ!へー。女の子だよね?」

    尊「そうだね」

    唯「いやん、運命?!」

    尊「違うと思う」

    唯「僕も来てる!って送ったら?」

    尊「嫌だよ、グループになんて」

    唯「なんでよぅ」

    若「此処で会えたとなれば、相手のおなごも喜ぶのではないか?」

    尊「そうは思いますけど」

    唯「んー、その子さ、友だち追加はしてる?」

    尊「してるよ。その子がLINE聞いてきて、グループに入ったから」

    唯「じゃあ、グループ通さずに話せるじゃない」

    尊「そうだけど、恥ずかしいよ、急に個別にLINEなんて」

    唯「そんな事言ってるとさー、この広ーいテーマパークの中でなんて、絶対会えないよ?」

    若「尊よ」

    尊「はい」

    若「一歩踏み出す勇気は、必要じゃ。のう、源三郎」

    源三郎「はっ!はい…」

    唯「わかったでしょ。たーくんの言う事は聞くよね~」

    尊「…」

    唯「どの子?画面出して」

    渋々、女の子とのトーク画面を開いた尊。

    唯「LUNA。って名前?」

    尊「アルファベットで書いてるんだよ。名前が瑠奈だから」

    唯「へー。るなちゃん。かわいい名前だね」

    ちょいちょいと操作した唯。

    尊「うわっ!何すんだよ!呼び出してる!」

    唯「電話した方が早いって」

    尊「勝手に触んなよ!あっ、もしもし…」

    唯「おっ、つながった」

    尊「ごめんなさい、急に電話して。うん、LINE見た。実はさ、僕も同じ所に来てるんだ。うん、うん、そうなんだ、マジで。え?ここは…光のトンネルの前。近くに居るの?家族と一緒なんでしょ、…いいの?じゃあ、待ってるね、はい、はい、じゃ。…ふぅ」

    唯「ほらー。電話して正解だったでしょ」

    尊「うん…」

    若「会えそうで良かったのう」

    源「今、尊殿の違う一面を拝見しました」

    トヨ「口調がとてもお優しくて」

    唯「やっぱし?私も思った!ねぇねぇ、気になる子?」

    尊「そんなんじゃないよ。ヒトとの距離の取り方がよくわからないから、強く言わないだけ」

    唯「そーかなー」

    若「唯、我々が共に居ると話もしづらかろう。しばし離れるとしよう」

    唯「あ、そうだね。では、さらばじゃ。健闘を祈る!」

    尊「大袈裟だし」

    唯達が遠巻きに見ていると、道の向こうから女の子が一人、走って来た。

    瑠奈「速川~!わぉ、本物だ!」

    尊「こんばんは」

    瑠「え?一人?」

    尊「ううん」

    チラっと唯達の方を見る尊。若君と源三郎は向こうを向き、唯とトヨだけが、こちらに手を振ったり会釈したりしている。

    尊「姉夫婦が帰省してるんで」

    瑠「ふぅん。前も家族でカラオケに来てなかった?仲いいね。お姉さん二人と、旦那さん達と来てるんだ?」

    尊「あ。うん、そう」

    尊 心の声(良かった。都合良く勘違いしてくれて)

    瑠「一緒に写真撮ろうよ、で、グループに載せる。みんな驚くよ!」

    尊「いいの?色々勘ぐられたりして、困らない?」

    瑠「別に、困らないけど」

    尊「そう?」

    瑠「あ、速川的にマズい?彼女にバレたら大変とか」

    尊「彼女なんて居ないし」

    瑠「そう、なんだ」

    尊「ん?」

    瑠「え?はーい、撮るよー!」

    自撮りモードで、顔を寄せてピースサインをし、写真に収まった二人。

    瑠「サンキュ。すぐあげとくねー。コメントもしてよ?激似の他人と思われないように」

    尊「うん」

    瑠「じゃ、これで。ごめん、親に何も言わずに来ちゃったの」

    尊「あー、だから走ってたんだ。ごめんね、急がせちゃって」

    瑠「え…速川、優しい!」

    尊「そんな事ないけど」

    瑠「やっぱりジェントルマンだよ」

    尊「ははは。それ、前にも言ってたね」

    瑠「ありがとう、電話してくれて。また学校でね!…学校じゃなくても、いいけど」

    尊「え?ごめん、何?最後声小さくて聞こえなかった」

    瑠「ううん、何にも。じゃあね、バイバーイ!」

    尊「さよならー」

    瑠奈は、手を振りながら走っていった。

    尊 心(何を呟いてたんだろ?)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈ちゃんは、17話no.863に出てくる女子高生2の子です。

    続きます。

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    四人の現代Days57~25日17時、説明せよ

    むやみに騒ぐは愚かな事、だから?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    イルミネーションを観に、7人全員で車2台に分乗して移動中。なぜか男性車と女性車になっていた。

    美香子「珍しい。てっきり唯は忠清くんと同乗だと思ってたわ」

    唯「トヨと話がしたかったから。ねぇ!トヨ!源三郎さ、愛し合う二人って言った時、否定しなかったね!」

    トヨ「驚き過ぎて、声が出なかっただけではないですか?」

    美「でもその後すぐ、尊とは話してたわよ」

    唯「イイ線いってると思うなー」

    美「明日の晩、お父さんと忠清くんと源三郎くんで呑むって話じゃない。それ、作戦会議だと思うのよねー」

    唯「トヨを射止めるには?いや、もう恋に落ちてるし」

    美「お嫁さんになってください、じゃない?」

    ト「えっ」

    唯「そっか」

    ト「いえ、違うかもしれませんし」

    美「うーん。心で願ってる分、そう思われてなかったら、って考えちゃうと、怖いわよね」

    ト「はい…」

    唯「なにがいけないんだろ」

    美「源三郎くんに、何かしら踏み込めない理由があるのかもね」

    唯「それが何だよって話でさ」

    ト「わかりません…」

    美「こちらに居る内に、いい知らせが聞けるといいわね」

    唯「ホントだよ」

    男性車。

    覚「忠清くんは、すっかり車はお手のモンだね」

    若君「この助手席、は見晴らしもよく気に入っております」

    尊「お姉ちゃんが居ると、絶対並んで後部座席ですもんね。今日は珍しく、女子こっち~って言って別々だけど」

    もうすぐイルミネーション開催中のテーマパークに到着。

    覚「5時の点灯式には間に合うな。忠清くん、去年他の場所で見たみたいにさ、暗がりからパッと明るくなるよ」

    若「それは楽しみです。のう、源三郎」

    源三郎「このように遠方までお連れ頂き、見聞を広められ、お父さんお母さんには感謝ばかりでございます」

    尊「…」

    尊は、スマホを見ていた。

    覚「尊、もう着くけど、スマホは連絡しやすいようにしといてくれな」

    尊「あ…うん」

    覚「聞いてるか?」

    尊「聞いてる聞いてる」

    覚「はいはい、スマホは仕舞え。着いたぞ」

    車を停め、入場した。日が落ち薄暗い中、かなりの人が集まっている。

    唯「もうすぐっ」

    若「うむ」

    若君の腕にしがみつく唯。その隣に尊、そのまた隣に源三郎とトヨ。

    尊「あの」

    源「はい」

    尊「僕らに遠慮しなくていいですよ、もっと二人寄り添ってもらって」

    源「あ、いやいや!」

    ト「そのような!」

    美「あ、私達がお邪魔かしら」

    覚「ちょっとよけるか」

    源トヨの後ろに居た両親が、その場を離れようとしている。

    源「いえ、あの」

    ト「ここにいらしてください!何も、ありませんから」

    源「…」

    美「あらま」

    覚「そうかい?」

    もうすぐ17時。カウントダウンが始まった。

    尊「この声が、3、2、1、0で、0になったら光りますよ」

    源「声を合わせておるのですね」

    ト「皆、わかっていらっしゃると」

    点灯。一気に、全方向の景色が光で浮かび上がった。

    唯「わぁ!」

    若「おぉ。美しいのう」

    源「これは、なんともはや」

    ト「見とれちゃう…」

    唯「さてと。じゃっ、ラブラブカップルは自由に行動してね」

    覚「ラブラブって?僕らの事言ってるのか?」

    美「あなた達はどうするの」

    唯「うちらは尊にくっついて歩くからさ」

    美「連絡できるのは尊だけだからね。じゃあお父さん、せっかくなんでちょっとの間、お言葉に甘えますか」

    覚「わかった。じゃあ晩飯で合流するか。6時半にまたここでどうだ?」

    唯「了解~」

    若「お父さん、お母さん。クリスマスデート、楽しんできてくだされ」

    美「まぁ、気を遣ってくれたの。嬉しいわ」

    覚「じゃ、後でな」

    尊「またね」

    両親は並んで歩いていった。

    若「尊、世話をかけるが」

    尊「いえ…」

    唯「ねぇ尊」

    尊「…は?」

    唯「あんた、さっきからなんかおかしいよ?」

    尊「何が、だよ」

    唯「ソワソワしてさ」

    ト「どなたか、探しておられるのですか?」

    尊「え」

    源「車の中でも、少し虚ろであらせられました。何かあったのですか?」

    若「そういえば話しぶりが緩慢であったな。いかがした?」

    尊「いえ、何でもないんで」

    唯「尊~。有り体に申せ!」

    尊「嫌だよ」

    若「尊。有り体に、申せ」

    尊「…はい」

    唯「ちょっと、その態度なに」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days56~25日14時、さりげなく

    揺れる度に、心は弾む。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    昼ごはん後。7人全員でトランプをしている。

    唯「ババ抜きだとさ、スタートが一人7枚とか8枚で、少なっと思うけど」

    尊「なかなか揃わないからいいでしょ」

    唯「まーねー」

    若君のカードを覚が引く。

    覚「うわっ」

    美香子「ちょっとお父さん、また~?分かりやすく反応しないでくれない?」

    覚「忠清くんは、ジョーカーをサラっと流してくる」

    若君「フフ、お父さんに導かれておるのでしょう」

    尊「わざと取るよう、仕向けてるようには全く見えないのがミソだね」

    覚「いいんだ、こうした処世術に長けていれば、戦国の世でも役に立つしな」

    唯「そんな大きな話?」

    美「負け惜しみに聞こえなくもないけど」

    覚「はいはい、じゃあ母さん引いて」

    覚のカードを美香子が引く。

    美「私は引き当てないわよ?どれにしようかな、これだ!はい、揃った、上がり~」

    覚「やられた~!」

    尊のカードを源三郎が引く。

    尊「なんかすいません、両親ばっかり騒がしくて」

    源三郎「いえ、仲睦まじくていらっしゃる」

    源三郎のカードをトヨが引く。

    トヨ「そうね。あら、揃ったわ。手持ちがなくなった」

    源「お前も引き当てるの上手くないか?」

    美香子が大きく伸びをした。

    美「んん~。さてと、唯」

    唯「なにー」

    美「この後着替えるでしょう。あの赤いセーター、ちゃんと用意してある?」

    唯「うん」

    尊「へー、珍しい」

    唯「たーくんが出してくれた」

    尊「は?」

    若「昨夜の内に在処を確かめ、セーター二枚と、足を覆う品を」

    美「タイツも?」

    若「はい。共に」

    美「まぁ。さすが忠清くんね」

    覚「わかった。あれだろ、直前でないないって騒ぐのが目に見えてるから、早めに動いてくれたんだな」

    唯「なによ、失礼なー」

    若「フフッ」

    唯「…失礼な」

    15時40分。出かける準備中。唯と若君が着替えて部屋から下りてきた。

    ト「まぁ、なんて、なんて」

    お揃いの赤いセーターを着た二人を、うっとりと見つめているトヨ。

    唯「ペアルックってかなりベタだとは思うけどー、やっぱ気分はアガる。ぐふふ」

    ト「愛し合うお二人が揃いの御召し物。すごくいいと思います!」

    若「揃い、か」

    唯「お揃いがいい。お揃い…」

    源三郎とトヨは、当然ながらバラバラの服装。

    唯「あ、ひらめいた!取ってくる!」

    何かに気づき、二階に駆け上がっていった唯。

    美「そろそろ支度出来た?あれ、唯が居ない」

    尊「部屋に何か取りに行ったみたいだよ」

    美「忘れ物かしら」

    若「いえ、多分、揃いの品を見繕うております」

    美「お揃いって?」

    唯が戻って来た。

    唯「お待たせー。はい、これトヨに。こっちは源三郎に」

    ト「え、これは」

    源「あの、花の入った」

    唯が出したのは、ほぼ同じ形に作られたレジンアクセサリー二つ。両方とも、短いチェーンが付いている。

    尊「それ、僕が作ったヤツだ。根付っぽく使ってもらえるといいなって」

    唯「これならお揃いだし、ちょうどジーンズにさぁ」

    輪になったチェーンの留め具を外し、トヨのジーンズのベルト通しに引っ掛けて留め、ぶら下げた唯。それを見て、源三郎のジーンズの同じ位置に付けてあげた尊。

    尊「完成ですね」

    唯「ペアルックじゃないけど、愛し合う二人にぴったし~」

    ト「ええっ!」

    唯「自分で言ってたクセに」

    ト「いえ、それは唯様と忠清様のお話でっ」

    源三郎は、真っ赤になったまま動かなかったが、

    源「尊殿…」

    尊「はい?」

    源「こちらの品は、尊殿が唯様と忠清様に差し上げるべく、お作りになったのでは」

    尊「そればっかりじゃないですから。いつか来た時に土産に渡そうと思って、大量に作ったんで。こちらに居る内に使ってもらえて、僕は嬉しいですよ」

    源「そうおっしゃられるならば、身に付けさせて頂きます」

    尊「よく見るとお揃い、っていいですよ」

    源「痛み入ります」

    美「さて、みんな、準備万端ねー?」

    覚「そろそろ出かけるぞ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days55~25日10時30分、サービス!

    この絵、使徒、じゃない使途は未定。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯「服はさ、これまんま写せばいいから楽だよね」

    若君「うむ」

    何枚かの試作の後、じいのコスプレ画を描き上げた若君。

    トヨ「まぁ、とても似ていらっしゃる」

    源三郎「忠清様、お見事でございます」

    覚「今にも動き出しそうだ。いや~凄いな」

    唯「たーくん、天才!」

    若「天才?」

    尊「天賦の才って意味です、兄さん」

    尊登場。

    覚「もうそんな時間か。…お?」

    スマホを取り出す覚。

    覚「母さんからLINEが来たぞ。えーと、まだちょっとかかる、申し訳ないけど先始めててってさ」

    尊「了解。兄さんすごいね。絵まで描けるなんて」

    若「然程でもないがの」

    唯「ねー尊、これに色つけてプリントアウトして欲しい。お土産にするから」

    尊「そうなんだ。じゃ、実験室に行きますか。お母さんも忙しそうだし」

    唯「では、移動~」

    源三郎&トヨ「わかりました」

    若「お父さん、行って参ります」

    覚「行ってらっしゃい。母さんには、ゆっくり用事済ませなって伝えとくよ」

    実験室。パソコンの画面に、じいの絵が表示された。

    源「この箱で、色を付けるのですか?」

    尊「はい、そうです。また後で紙にして出しますね。兄さん、まず髪の色はどうしますか」

    若「髷は、灰がかかっておる」

    尊「全体に白髪ではないんですね」

    唯「そのあたりさぁ、カラーで印刷する意味なくない?もう、赤とかにしといたら」

    尊「何でだよ。そんなエキセントリックな」

    ト「鎧でしたら、赤備えでも良いのではないでしょうか」

    唯「あー。天野のね」

    若「そうじゃな。ならばこの装束を朱にするか」

    尊「…汎用ヒト型決戦兵器っぽいな」

    唯「なにそれ」

    尊「何にも。ただの一人言」

    唯「じいと鎧かぁ。黒羽城で夜中にね、廊下でガシャンガシャン音がするから何かと思って外に出たの。そしたら、じいと千原じいが夜討ちじゃ~って、鎧着て小突きあいながら出てくトコだったなぁ」

    源「元次様の最期の日、ですか」

    唯「あ、思い出させちゃってごめんね」

    尊「その千原じい、って、もう居ない…人?」

    唯「うん」

    若「源三郎は、千原の筋じゃからの」

    尊「そうなんですね。何というか、そちらは戦が日常で、壮絶じゃないですか。やっぱり僕は永禄では生きてゆけないな」

    若「そうか?尊は切れ者ゆえ、充分渡り合えると思うが」

    尊「兄さん、そういう勧誘はちょっと…」

    唯「ダメだよ~。こいつまた、モコモコの靴下はいてくるよ?」

    若「あぁ、あの洒落た」

    ト「ぷっ」

    源「フフッ」

    尊「はは…このネタ、引きずるなぁ」

    ワイワイ言いつつ、色つけ終了。プリンターから音がし始めた。

    ト「え?この箱から、床の下を通ってあちらに出るのですか?」

    尊「えーと、床下は通らないですが」

    じいのコスプレ画完成。

    源「おぉっ」

    ト「まぁ、鮮やかですね」

    若「ハハ、良いの」

    尊「でもこれ、本人に渡す時に何て説明するの?」

    唯「縁起モンですって言っとけばいいんだよ。たーくんが描いたってだけで、超ゴキゲンになると思うし」

    尊「見た目は魔除けに近いけど」

    ト「御利益ありそうですよ。ふふふ」

    源「はい、喜ばれるかと」

    尊「キャラ的にはアリですか」

    実験室のドアがノックされている。

    尊「はーい」

    開けると、美香子が顔を出した。

    尊「あ、お母さん。お疲れ様」

    美香子「ごめんね、遅くなって。ちょっと早いけど、お父さんがお昼にするって言ってるの。もう終わりそう?」

    尊「ちょうど終わった所。もういいよね?」

    唯「今何時?11時15分か。わかったー」

    若「尊、難儀をかけたのう」

    尊「いえいえ」

    ぞろぞろと、全員実験室を後にした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days54~25日水曜6時20分、画伯!

    いずれは永禄でお披露目しただろうけど。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君と源三郎の朝稽古が終わり、リビングに戻ると、ちょうど美香子が二階から下りてきたところだった。

    源三郎「おはようございます!」

    美香子「おはよう。朝から元気ね~。見てるとこちらもやる気出てくるわ」

    若君「お母さん、おはようございます。ちょうど良かった。ちとお願いしたき儀がございまして」

    美「あら、何かしら。じっくり聞く話?」

    若「いえ、そうではございませぬので、手短に話します。唯の幼き頃の写真を、一枚で良いので分けていただけませぬか。先日作りました写真立てに入れたいのですが」

    美「幼いって、あの位?」

    リビング奥の写真コーナーの、赤ちゃんの写真が飾ってある場所を指差す母。

    若「それは、お任せ致します。できれば、今まで飾っておらぬ物であると幸いですが」

    美「んー。そうね。私達の寝室にしまってある写真もちらほらあるから…それ、急ぐ?」

    若「いえ、急ぎませぬ」

    美「わかったわ。見繕っておくわね」

    朝ごはん後。

    尊「お母さん」

    美「なに?」

    尊「この後、諸々用事あるだろうけどさ、何時頃終わりそう?」

    美「そうねぇ。10時半には終われるといいかなって所。どうして?」

    尊「みんなでトランプやりたい。どうせなら7人全員で」

    唯「ほー」

    トヨ「それは嬉しいですね」

    美「ははーん。カラオケ行った日、出かけるまで勉強しろって隔離されたのがよっぽど嫌だったのね?」

    尊「今は受験勉強が最優先なのはわかってるから、それはいい。今日はさ、お母さんが空くまではキッチリ籠って勉強しようと思って」

    覚「時間制限付きか。中々いい進め方だ」

    美「わかった。じゃあ私と尊は、その時間にここに集合にしましょう」

    尊「うん」

    尊と美香子がリビングを出ていった。

    唯「10時半まで待機?」

    覚「別に、それこそトランプしてりゃいいじゃないか」

    唯「夕方って何時に家出る予定?」

    覚「イルミネーションの点灯が5時だから、そこから観たいんだったら…出発は4時だな」

    唯「じゃあ、午前中も午後も、尊の望みを叶えてトランプな感じかな」

    源トヨが、不思議そうな顔をしている。

    源「あの、畏れながら」

    若「何じゃ。源三郎」

    源「そのイルミネーション、と申す物ですが、どのような」

    ト「光が灯るのですか?」

    唯「あー、そういえば全然説明してなかったかも」

    覚「そうか。これだよ、って画像見せるとネタバレになっちゃうからなあ」

    若「うむ。無数の灯りで、風景が輝くと申すか」

    源「それは…壮麗でございますな」

    覚「今日行く所はね、何もない所に絵が出てきたり、その絵が動いたりするんだよ」

    ト「光の絵が動く?」

    唯「感動すると思うー。私もそこのは、テレビでしか見たコトないけど」

    ト「まぁ…」

    源「益々楽しみでございます」

    トランプを出してきた唯。カードの一番上が、ジョーカーだ。

    唯「…」

    ト「唯様、どうされました?」

    唯「思い出した。たーくん、あの絵ってさ、実は持って来てたりする?」

    若「あの絵?」

    唯「じいの」

    若「あ…あれか。持ち帰ってはおらぬ」

    ト「天野様の、絵?」

    唯「たーくんがね、じいにこのジョーカーの服着せた絵、描いてたの。それがね、すっごく上手だったのー!」

    覚「忠清くん、そんな才能まであるんだ。イケメンが何でも出来るなんてズルい…いや、最強だよ」

    唯「こっちで、もう一度描いてよ」

    若「なんと」

    源「絵を嗜まれるなど初耳でございます。是非拝見しとう存じます」

    ト「わたくしも是非」

    唯「はい、決まりー!」

    若「唯…そのように、事を大きゅうせずとも」

    唯「またまたぁ。照れちゃってぇ」

    覚「よし。僕も見たいから、筆ペンと半紙取ってくるよ」

    若「お父さん、それは」

    唯「困ってるぅ。かわいいっ」

    描く準備が出来上がった。

    若「うむ…」

    唯「たーくん、がんばってぇ」

    覚「忠清くん、折角だからさ、出来たらその絵をパソコンに読み込んで、色を付けたりしてもいいんじゃないか?それを持って帰ってもいいし」

    若「おぉ、それは土産にうってつけですね」

    唯「じいに?それは喜ぶ…」

    源「信茂殿に?!それは良い手土産でございます!是非、是非に!」

    ト「源ちゃん、何よ?そんな声張り上げて」

    唯「びっくりしたー。なに身を乗り出してんの?源三郎に関係ある?」

    源「は、いや、その」

    若「何ぞ思うところがあるのか」

    源「は、はぁ…」

    若「まあ良い。では、描くと致すか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days53~24日19時45分、忖度します

    無言の圧が凄い。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    母の仕事が終わった。

    美香子「お待たせしちゃったわね、始めてくださいな」

    覚「はい、じゃあ皆、クラッカー持って~」

    若君「これはの、先を上に向け、紐を引かねばならぬ」

    源三郎「大きな音が出るばかりでなく、そのように気を遣い、使う品だと」

    トヨ「小さいお品ですのに」

    覚「さあ、用意はいいか~?じゃあ源三郎くんトヨちゃん、さっきも言ったけどさ、僕がメリークリスマスって言ったら、メリークリスマスって言って引っ張ってくれ」

    源「心得ました」

    ト「はい!」

    覚「行くぞー、メリークリスマス!」

    六人「メリー、クリスマス!!」

    パパパパ、パン、パン!

    ト「何、何が出てきたの?舞ってる!」

    源「大蛇か?!」

    唯「大きい音出るって教えといて良かったね。充分びっくりしてる」

    パーティーが賑やかにスタート。

    唯「ローストチキン、分けて分けて~」

    美「はいはい」

    手早くチキンを捌く母。

    美「はい、召し上がれ」

    源「ありがとう、ございます…」

    ト「源ちゃん?どうしたの」

    源「幼き頃、このように母に飯を取り分けてもらったのを、思い出した」

    ト「そう。いい思い出ね」

    美「あら、実のお母様と重ねてもらえるなんて嬉しいわ~。そんな可愛いい息子に、ミニトマトとレタスも付けてあげよう」

    源「はっ、忝のう存じます」

    唯「源三郎~、それは違うておるぞ」

    尊「何でそこだけ戦国言葉?」

    源「え、違うとは」

    唯「ママありがとう!だよ」

    源「ママ…」

    尊「ムチャ振りが甚だしい」

    源「ママ様、ありがとうございます!」

    唯「なんでそうなる?」

    尊「だからー」

    美「うふふ、源三郎くんはホント、真面目でいい子ね~」

    覚「おーい、ピザ焼きたてだぞ~、テーブルどこか空けてくれ~」

    食卓が、カロリー高めな皿で埋め尽くされている。

    唯「そういえば、何にも聞かないんだね、今日のデートの話」

    覚「そんな野暮な事はしない。聞かれたいなら別だが」

    美「あ、でもそのはめてる指輪、とっても華奢で綺麗ね。もしかしてもしかする?」

    若「わしが贈りました」

    ト「まあっ!」

    源三郎の囁き「トヨ、声が大きい!」

    トヨの囁き「ご、ごめん、つい」

    唯「もういいかな…あ、たーくん、ほら!」

    今度はすんなり指輪が抜けた。

    若「それは何より」

    覚「そんな事やってると、落っことすぞ?」

    ト「わぁ…見せていただいても良いですか?」

    唯「どーぞー」

    ト「蝶と花ですか。素敵…」

    美「良かったわね~唯。宝物ね」

    唯「うん!」

    食卓の上が片づいてきた。

    覚「そろそろケーキいくか?」

    唯「待ってましたっ」

    尊「デートで食べたんじゃないの?よく入るよな」

    唯「あれはパンケーキ、これはクリスマスケーキ。モノが違う。え、なに!二つもあるの?!ヒャッホー!」

    覚「どこから声出してるんだ」

    美「定番の生クリームにイチゴのと、もう一つはチョコレートケーキなのね」

    源「どちらも甘味でございますか?」

    尊「味は少し違いますけどね」

    覚が切り分けている。

    唯「あ、ケーキ入刀忘れてた」

    覚「あ?そりゃ済まんかったな」

    ト「入刀?」

    唯「ホントは、結婚式、えーと祝言の時にやるんだけどね。二人で一つのナイフ持って、初めての共同作業!って」

    ト「祝言ですか。いいですね…」

    少しうつむいたトヨ。速川家五人が、一斉に源三郎を見た。その視線におののく源三郎。

    源「いや、あの」

    覚「…さぁ、切り終わったぞ」

    若「…お父さん、ありがとうございました。いただきます」

    唯「…いただきます」

    尊「静かに事が進んでる」

    美「はいはい黙らない。ねぇトヨちゃん、ケーキはどう?」

    ト「はい。この漆黒のケーキ、風味が良いですね」

    覚「お、気に入ったかい?そりゃ良かった。ビターチョコだからね。大人な味だ」

    唯「ねぇ、たーくん」

    若「何じゃ」

    唯「パンケーキもこの位甘さ控えめなら良かったのにー、って思ってない?」

    若「少しは」

    唯「だよね~」

    尊「お姉ちゃん、また兄さんに無理させたの?」

    唯「してないよー、してない…はず」

    若「ハハハ」

    尊「笑ってるからいいけどさー」

    話は尽きず、夜更けまで仲良く集いました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    24日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days52~24日18時45分、星だけが見ていた

    寒さをものともせず。むしろ暖がとれそう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    立てないと甘える唯を抱え、ようやく自転車の荷台に乗せた若君。

    唯「あ、宵の明星見っけ」

    唯が、空を指差した。若君も見上げる。

    若君「夕星か」

    唯「ゆう…なに?」

    若「ゆうづつじゃ。同じ星を指しておると思うが」

    唯「へー。そういう名前もあったんだ」

    若「どんな呼び名であれ、永禄も令和も、空は変わらぬじゃろ」

    唯「そうだね。こっちでは、なかなかこんなには見えないけど」

    若「こんな?あぁ」

    穿いているラメ入りのタイツを撫でる唯。

    唯「あの星いっぱいの夜ね、たーくんと両想いってわかって、すっごく嬉しかった。私、一生忘れない」

    若「わしも、あの夜は生涯忘れぬ」

    唯「あ」

    若「あ?」

    唯「よーく考えたら、お前を思うって告られた後、次に二人っきりになった時には、結婚しようって言われた」

    若「まぁそうだが」

    唯「たーくん、手が早くな~い?」

    若「早いとは何じゃ。聞き捨てならぬの」

    唯「怒った?キャー!」

    若「これ!」

    自転車をぴょんと降り、逃げようとした唯だったが、

    唯「わ、わっ」

    若「危ない!」

    バランスを崩し転びそうになった唯を、すんでの所で後ろから抱きかかえた。

    若「先程まで、立てぬと申しておったではないか」

    唯「そうでした」

    唯を支えながら立たせ、自分の方に向かせた若君。

    若「立てるか?」

    唯「うん。ありがと。もう…帰る時間だね」

    若「うむ。7時には戻らねばならぬ」

    唯「約束してたもんね」

    若「甘味の店で申したが」

    唯「うん?」

    若「時が進むにつれ、尻すぼみになってはおらなんだか?」

    唯「なってない、全然なってないよ」

    若「そうか」

    唯「デート、どうするかとかいっぱい考えてくれてありがとう。…あのぅ」

    若「何じゃ?」

    唯「もう一回、だけ」

    若「もう一回。壁ドンか?」

    唯「違う」

    若「ならば追いかけっこか」

    唯「違うぅ、たーくんの意地悪っ」

    若「ハハ、わかっておる」

    若君が、辺りをぐるりと見渡す。

    若「姫、誰も居りませぬ」

    唯「ふふっ、よろしい。あ」

    脇を抱えられ、再び荷台に乗せられた唯。

    唯「これ正解。またたーくんに骨抜きにされても安全」

    若「何も特別な事はしてはおらぬがのう」

    サドルに手をつき、体をかがめて優しくキスをした若君。

    若「帰るぞ」

    唯「はい!」

    走り出した自転車。

    唯 心の声(たーくんが、特別なんだってば!今日のデートも、一生忘れない、忘れないから)

    さて。その頃の速川家。

    トヨ「はは、あははは!痛い、お腹の皮がよじれる、もー源ちゃんったら!」

    源三郎「笑い過ぎだろ」

    尊「めっちゃツボに入ってるなぁ」

    源三郎がかけた変装道具の鼻メガネに、トヨが馬鹿ウケしている。

    尊「去年は僕がかけたんですよ。源三郎さん、貸してもらえますか」

    源「ははっ」

    尊がかけてみる。

    ト「まぁ」

    源「おぉ、そうなるのですね」

    ト「尊様にはとてもお似合いですね」

    尊「なんか複雑だな」

    玄関で物音がする。

    覚「お、ラブラブカップルのご帰還か」

    唯「ただいまぁ」

    若「只今戻りました」

    源三郎&トヨ「おかえりなさいませ」

    尊「お帰り、お疲れ~」

    唯「なに、もうそのメガネかけてんの?盛り上がってるねぇ」

    尊「お姉ちゃん達もね」

    唯「なにが」

    尊「口の周りがキラキラしてる」

    唯「あっ…もぅ、それはいいから!上着と荷物置いてくる、行こったーくん」

    二階に上がっていった二人。

    ト「尊様」

    尊「はい」

    ト「口元が、どうかしたんですか?」

    尊「あー。今僕から聞くより、後で姉にこっそり聞いた方がいいですよ」

    ト「そうですか。わかりました」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days51~24日18時30分、溶ける~

    策士あらわる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    速川家リビング。テーブルセッティング中の覚とトヨ。

    トヨ「こちらのお品、美味しそうに焼けていますね」

    覚「ローストチキンって言うんだ。張り切って作ろうかなとも思ったけどさ、今回は市販品でごめんな」

    尊「今回…」

    覚「あ、早かったな、もう戻ってたのか。プレッシャーかけたつもりはないぞ~」

    尊が、ダンボール箱を持っている。

    源三郎「尊殿、わたくしが持ちます」

    尊「いえいえ、軽いし今から開けるんで。中身を一緒に出してもらえますか?」

    源「心得ました」

    ト「あら、随分と煌びやか」

    クリスマスの飾り付け用グッズが、わらわらと出てきた。

    尊「去年の使いまわしですけどね」

    ト「尊様。わたくし、この紙の輪に見覚えがあります」

    尊「あー、レイですね。お姉ちゃん達持ち帰ってますから」

    ト「唯様が大切に仕舞われておりました。このように丸かったのですね。形が崩れてでも残したかったと伺いました」

    覚「そうかー。去年唯達が帰ってから、皆さんに会えたまでの話は聞いてはいないが」

    尊「きっと、言わないだけで、色々大変だったんだろうな」

    変わって、デート中の二人。何度も通りを行き来していたが、

    若君「そろそろ戻らねばの」

    唯「うん」

    若「心残りはないか?」

    唯「うん!」

    再び、自転車で走り出した。若君にギュっと掴まる唯。

    唯 心の声(この後はクリスマスパーティー!楽しみっ)

    自転車が、黒羽城公園に入って行く。

    唯 心(ん?どこ行くの)

    どんどん奥へ進む。

    唯 心(公園突っ切って帰りは近道?そんな技まで身につけちゃったか~。やるぅ)

    建物が見えてきた。減速する若君。

    唯 心(へ?)

    自転車を降りた二人。きょとんとする唯。

    唯「この建物に用なの?もう閉まってる時間だけど」

    若君は微笑むばかりで、何も説明しない。

    唯「なに?…あっ」

    そこは…

    唯 心(ここ、壁ドンおねだりした所!)

    一年前と同じ場所。すっかり夜の帳が下りているので、周りには所々電灯があるが、その辺りはほの暗い。

    若「姫、此処へ」

    唯「…」

    促され、壁に背中をつける唯。

    唯「はは…こんなオプション、聞いてないんですけどっ」

    若君が右の掌で壁にもたれ、壁ドンの体勢に。

    唯 心(わぁ。なんか、くすぐったい)

    しばらく見つめ合っていたが、ゆっくりと顔が近づいてきた。

    唯「えっ」

    思わずうつむいた唯。横目でチラリと右を見る。

    唯 心(えっと、右、誰もいない)

    次に左方向をチラリ。

    唯 心(左も、よし。これで安心。って、なんで私が確認しなきゃいけないのー!)

    若「唯」

    呼ばれて反射的に顔を上げる。

    唯 心(キャー!近いよ!ちかいちかいち…)

    唇が重なった。

    唯 心(…)

    静寂に包まれている。

    唯 心(頭ぐるぐるする、甘い、甘すぎる、溶けちゃいそう)

    熱い時間が続く。若君の右腕は、肘まで壁についた。

    唯 心(攻めすぎだよぉ、濃いぃよぉ。あ、もうダメ、限界。溶けた)

    唯「はぁ…」

    若「唯?」

    膝から崩れるように、ズルッと下がり、へなへなとへたり込んだ唯。さすがの若君も、その様子に慌てている。

    若「どうした!具合が悪いのか?!」

    唯「イチコロですぅ」

    若「イチコロ?」

    唯「ノックアウトっす」

    若「ますますわからぬ」

    唯「わかってよぅ。具合は悪くない。力が抜けて立てないの」

    若「それは、一大事じゃな」

    唯「…なに気づいてニヤケてんの」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    デート終わりまであと少し。

    続きます。

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    四人の現代Days50~24日17時30分、狙ってる

    肖像権はどうなってるんだ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君「そろそろ、この地を出ようと思うておるが、良いか?」

    唯「うん。良いよん。自転車、私がこいであげよっか?」

    若「いや」

    唯「遠慮しなくってもー」

    若「ならぬ。そのような短い丈の…」

    唯「そうでした」

    出口に向かっていると、吹き抜けのある広いスペースに出た。随分と賑わっている。

    呼び込みの店員「ただいま福引をやっておりまーす!お買い上げレシートをご確認くださ~い!」

    唯「なになに?」

    近くの立看板を見る。どうやらモール内の全店舗対象で、合計購入金額が多い程、何回も引けるらしい。

    唯「パンケーキと指輪、金額足すと一回引けるなぁ」

    若「ならば行って参れ」

    唯「もう帰るからこれ以上増えないもんね。ではちょっくら」

    若君を置いてその場を離れようとした唯だが、ふと周りの様子に気がついた。

    唯 心の声(うわ、マジか!)

    唯「ねぇ」

    若「何じゃ、戻りおって」

    唯「たーくんも行こっ。ていうか、来てっ」

    若「一人では引けぬのか?ハハハ」

    若君の手を引っ張る唯。すると、周りに居た女子達の何台かのスマホが、スーッと引っ込んだ。

    唯 心(一体なに?一緒に写真撮ってくださいなの?!ううん、写真だけで済まなかったかも。怖っ、油断も隙もないっ。たーくんを守らないと!)

    ようやく抽選会場に並び、一回引いた唯。

    店「おめでとうございまーす、4等です!この中からお一つお選びください」

    唯「たーくん4等だって!5等のティッシュよりはいいかな?あっ、かわいい!これもらいまーす」

    会場を後にし、歩き出す。

    若「それは?」

    唯「サンタクロースのお人形~」

    赤い帽子赤い服、白髭のサンタクロースが、手のひらサイズで可愛らしく作ってある。

    若「サンタ、クロース?」

    唯「サンタさんの事だよ」

    若「サンタ、はサンタクロースが生来の名か」

    唯「うん。ごめん、私ずっとサンタさんって言ってたかも」

    若「忠清が、九八郎忠清のようにか?」

    唯「えっ?!それは、たぶん違う…」

    建物の外へ出た。

    唯「いよいよ?」

    若「駅前の通り、じゃな」

    唯「うん!この前木村先生と会った喫茶店から、ずっと行った所ね。楽しみっ」

    自転車をこぐ若君。通りが見えてきた。

    若君 心の声(おぉ…木々が輝いておる)

    唯「到着~。ねっ、キレイでしょ?」

    若「うむ」

    真っ直ぐ伸びる道の両側、街路樹がライトで装飾され、光の道になっている。

    若「この道を連れ立って歩くのが、夢じゃったと?」

    唯「うん!」

    照らされた歩道を、手を繋いで歩きだした。

    唯「一人で毎年見てた景色。たーくんと一緒に見たかったの。やっと、やっと~」

    若「来れて良かった」

    唯「えへっ」

    若「明かりが枝一本一本に、巻き付けてあるのう」

    唯「そうだね」

    若「細工が大変そうじゃ」

    唯「裏方の気持ち?」

    しばらくそぞろ歩いた。

    若「少し風が出てきたか」

    唯「ホントだ。でも寒くないよ」

    若「…そうか」

    唯「ん?ねぇ、それって寒いって言うとイイ事ある?」

    若「寒くはないのであろう」

    唯「えー。寒い寒いぃ。あっためてくれないと、こごえちゃうよ」

    若「フフッ」

    立ち止まる若君。唯の方を向く。

    唯「…え!」

    急に、強く抱き締められた。

    唯 心(キャーー!不意討ち!!街のみなさん、バカップルでごめんなさいっ。今、今だけだから許して)

    少し腕を緩めた若君。唯が見上げると、優しく微笑んでいる。

    若「冷えてはおらぬか?」

    唯「うん…」

    若「よし」

    再び、歩き出した。

    唯 心(はぁ~びっくりした。ドキドキだよぅ。このままキスされるのかと思った…ちょっと期待しちゃったけど、イカンイカン、ここは公共の場ですからっ)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days49~24日16時45分、贈ります

    優しい旦那様。たまにツッコミが入る。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    変わって、速川家リビング。ケーキその他を受け取り帰宅した、覚と尊と源トヨ。

    覚「ここに置いてくれる?ん、ありがとな」

    源三郎「お父さん、あとは何をお手伝いすれば」

    トヨ「何なりとお申し付けください」

    覚「まだ時間あるからゆっくりやるよ。尊、例の話、しといてくれ」

    尊「はーい」

    尊が、部屋の隅に置いたビニール袋から、クラッカーを取り出した。

    尊「えーとですね。パーティー始める時に、これをこう引っ張るんですけど、大きい音がしますから、そのつもりでいてくださいね」

    源「そうなんですか」

    ト「それは、ご親切にありがとうございます」

    尊「兄さんが、驚かないよう説明しておいて欲しいって言ってたんで」

    覚「さすがにポップコーンで驚かせ過ぎたと思ったか?わからんが」

    尊「どんな風になるかは、後のお楽しみにしますね。今やると、掃除が大変なんで」

    ト「掃除!」

    源「掃除。わかりました」

    戻って、唯と若君。ウィンドウショッピング継続中。

    唯「アクセサリー屋さん、見てもいい?」

    若君「あぁ」

    店に入っていく唯。鏡がそこかしこにあり、映る唯が二人三人と増えていく。

    若君 心の声(唯が三人か。…手強い)

    唯「かわいいなー」

    一つ一つ顔を近付けて眺める唯。ライトに照らされ、表情も輝く。

    若 心(麗しい)

    唯「わぁ、この指輪、超かわいい!」

    手に取り、左手の薬指にはめてみる。

    唯「ねー、かわいくない?」

    若「これは、蝶が花にとまる様を模しておるのじゃな」

    唯「そーそー」

    一通り楽しんだ後、外そうとするが…

    唯「ヤ、ヤバい」

    若「いかがした?」

    唯「取れないの」

    ぐるぐると回してみるが、一向に関節を通過しない。ギューギュー引っ張る唯。

    唯「指むくんじゃったのかなあ。あとちょっとなのに!」

    若「これ、無茶はならぬ。指先の色が変わってきておるではないか」

    唯の手を取り、指輪を指の付け根に戻しつつ、優しくさする若君。

    若「痛々しい」

    唯「でも、どうしよう」

    若「そうじゃな…」

    若君が値札を確認する。

    若「うむ。これも何かの縁。買うてやろう。ならばこのまま身に付けておれるであろう?」

    唯「えっ、そんな!いいよ、だったら自分のおこづかいで買う」

    若「手持ちで足りるゆえ」

    唯「えぇぇ、悪いよぉ」

    若「一度、プレゼントなる物を買うてみたかった。この品を気に入ったならばそうしたい」

    唯「そりゃあ、もらえたらすっごく嬉しいけど…」

    若「ならば決まりじゃ」

    唯「なんか、ごめんなさい」

    若「謝らんで良い。よう似合うておるしの」

    唯「ホント?ありがとう」

    レジに向かった。若君が支払う。

    唯「あの、このままはめて帰っても…」

    店員「どうぞ。今日はそんなお客様多いです。気に入ったからこのままでって」

    唯「そうなんですか」

    唯 心の声(そんなラブラブな気持ちオンリーで、買って欲しかったなぁ)

    店「こちらお釣りとレシートです」

    若「はい」

    店「そのイヤリング素敵ですね。ついアクセサリーには目がいっちゃいます」

    唯「え、これですか!手作りで」

    店「まあ。とても器用でいらっしゃるんですね」

    唯「は、はは…」

    若「ありがとう。それでは」

    店「ありがとうございました~」

    無事購入完了。

    唯「ごめん。固まっちゃって、ちゃんとたーくんが作ってくれたって言えなかった」

    若「良い。細かい説明など要らぬ」

    左手をしげしげと見る唯。

    唯「プレゼントありがとう!大切にする!永禄にも持って帰るね」

    若「良い土産ができたのう」

    唯「もうちょっとがんばれば抜けそうなんだけど。パンケーキ、たーくんの分まで食べたからむくんだかなぁ」

    若「それはわからぬ」

    唯「もう人の分まで食べない、と」

    若「フッ」

    唯「鼻で笑ったな?」

    若「できぬ話をするからじゃ」

    唯「うっ」

    若「違うたか?」

    唯「違わない」

    若「であろうの」

    唯「ちぇー」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days48~24日16時15分、呼んだ?

    日常会話のように愛を囁く。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    パンケーキ店を出た。

    唯「この後はなに~?」

    若君「プラプラと、歩く」

    唯「ぷらぷら?」

    若「ここぞと思う店に、好きな様に立ち寄れば良い」

    唯「ウィンドウショッピングだね。わかったー」

    ゆっくり歩き出した二人。やはり若君はここでも目を惹く。

    女性1「見て、あの人超イケメン!」

    女性2「イブにあんな素敵な男性とデートなんて、羨まし過ぎる~」

    それを聞き、繋いでいた手をほどいて若君の腕にしがみつく唯。

    若「いかがした?」

    唯「たーくんが他の女に捕られないように」

    若「ハハ、有り得ぬ。愛する妻は、生涯唯ただ一人」

    唯「サラっとすごいコト言った!」

    一方、若君には違う会話が耳に入ってきていた。

    男性1「あの、腕組んでる子さ、すんげぇ可愛いいな」

    男性2「イブまでに、あんな綺麗な子、ゲットしときたかったなあ」

    傍らの唯に目をやる若君。

    唯「なぁに?」

    若「わしは、幸せ者じゃな」

    唯「やーん。そんなに口説いてどうすんの?」

    若「ハハハ」

    じゃれ合いながら歩いていると、

    唯「あれ?こんな店あったっけ。新しく入ったのかな。キャー!かーわいい!」

    ショーウィンドウに釘付けになる唯。そこは、ペットショップだった。

    若「随分と高価じゃのう」

    唯「目の前のかわいい猫じゃなくて、そっち先見る?」

    若「命の値段か」

    唯「…学校の授業みたい」

    ずっと動物達を眺めていたが、唯が壁のポスターに気付いた。

    唯「ねぇ」

    若「ん?」

    唯「これ、おかしいと思わない?ワンちゃんネコちゃん大集合って」

    若「それは、どのように」

    唯「だって、ワンは鳴き声でネコは種類。バラバラだよ。イヌちゃんネコちゃんか、ワンちゃんニャンちゃんが正しくない?」

    若「ほぅ。鳴き声」

    唯「そう思うなー」

    若「…ならば唯ならさしずめ」

    唯「え、私?」

    若「シャッちゃん、じゃな」

    唯「やだ、なにそれー、嬉しくなーい!」

    店を出た。唯が、あ!という顔をする。

    唯「ねぇねぇ、たーくぅん」

    若「何じゃ」

    唯「唯ちゃん、って呼んでみて」

    若「なんと」

    唯「ねー、一回くらいいいでしょ~、言って欲しいなぁ~」

    立ち止まる。

    若「ならば」

    咳払いする若君。

    若「…唯、ちゃん」

    唯「えー?」

    若「唯ちゃん」

    唯「ん、ごめん、やっぱ違うな。ありがと」

    若「何じゃ、頼んでおきながらその言い草は」

    唯「だから、ごめんって~」

    若「まあ良かろう。ところで」

    唯「なに?」

    若「牛は、ウッシッシちゃん、なのか?」

    唯「え!急になんの話?」

    若「バーベキューで聞いたが。肉を見て唯が申した」

    唯「…お願いだから忘れてくんないかな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days47~24日14時45分、戦うあなたが

    甘くて上等。だって念願のデートだもん。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ショッピングモールに到着。自転車を降りる。

    唯「ふう。たーくんお疲れさま。やっぱ家から直で来るとちょっと遠いね。学校帰りだったらそこまでじゃなかったけど」

    歩き出した二人。

    若君「一番に、参りたい店がある。良いか?」

    唯「もっちろん。おまかせデートだもーん」

    手を繋ぎながらも、地図を確認しながら歩く若君。ある店に着いた。

    唯「えっ」

    若「やはり混みあっておるのう。尊の申した通りじゃ」

    唯「あ、あのたーくん」

    若「何処ぞに、名を書いて待つと聞いたが」

    唯「ホントに…いいの?」

    若「前は、残念な思いをさせ、済まなんだの」

    唯「それは…あ、名前、書いてくる」

    店頭にあるボードに、速川2名と書いた唯。そこは、以前若君が嫌がり入らなかった、パンケーキの店だった。

    唯「3組目だから、そんなに待たないと思う」

    若「そうか」

    唯「ここ、尊と行った店に比べて、かなり甘々だと思うけど…」

    若「構わぬ」

    店の前に並ぶ椅子に座った二人。

    唯「あ、たーくんは食べずに見てるだけとか?」

    若「いや。共有が、デートの醍醐味。わしもいただく。リベンジじゃ」

    唯「新しい言葉仕入れてるし」

    次々と呼ばれ、順番がもうすぐ来る。唯が座ったまま、列の後ろを見渡す。

    唯 心の声(イブだから、こういう店は混むよね。だいぶ後ろに増えてる)

    カップルばかりだ。

    唯 心(みんな、スマホ見てるなぁ)

    二人で一つのスマホを覗きこんでいたり、別々に指をやたらと動かしていたり。

    唯 心(右手にはスマホ、か)

    唯の左に座る若君。右手が、膝の上で軽く握られている。

    唯 心(キレイな手。床でも椅子でも、手はいつもこうだよね)

    そのまま、じっと見つめ続ける。

    唯 心(そこらのカップル男子と違って、たーくんの右手はスマホは持たない。でもこの手は…刀を持つんだ。で、人を斬る。戦は嫌だけど、きっとこれからもそう)

    若「唯?何を手ばかり見ておる」

    そう言うと、唯の左手を取り、自分の右手があった位置に乗せ、上からそっと包んだ。

    唯「あ」

    見上げると、目が合った。

    若「いかがした?」

    唯「ん、いろいろ」

    若「色々、か」

    唯「でもね、嬉しいな、が一番かな。たーくんをひとり占めしてるから」

    若「ハハ、それは今だけではなかろう」

    唯 心(忘れてなきゃいけないのに、急に戦を思い出すなんて、ダメじゃん私。幸せボケするなってか。刀も槍も持つけど、今はひとり占めできる私だけのたーくんだから!)

    店員「二名様でお待ちの、速川様~」

    唯「あ、はーい。行こっ」

    若「うむ」

    席に通され、注文する。しばらくすると、いかにも甘々なパンケーキが二皿運ばれてきた。

    若「いただこう」

    唯「うん」

    若君が食べる様子を心配そうに見ている唯。

    唯「たーくん…大丈夫?」

    若「大丈夫とは何じゃ」

    唯「無理してない?」

    若「こちらの世の甘味にも慣れた」

    唯「ホントに?」

    若「前に踵を返し立ち去った折に、相当嫌そうな顔をしておったからじゃな。まこと申し訳が立たぬ」

    唯「嫌なモノはしかたないもん。もう謝んないでね」

    若「心得た。ほれ、あーん、して」

    唯「え、あ」

    一口もらった唯。

    唯「じゃあ私もー。はい、あーん」

    若「ん、ん」

    唯「ねぇ、やっぱまだ苦手なんでしょ」

    若「気のせいじゃろ」

    唯「ホントかなー。でもね、がんばってくれてるたーくんは、超優しくて超カッコいいよぉ。ありがとね。うふふ」

    若「わしはの」

    唯「うん?」

    若「唯が笑うておれば、それで良いのじゃ」

    唯「ニコニコしてれば、がんばれちゃう?」

    若「然り」

    唯「もー。そんなん聞いたら、ニコニコよりニヤニヤだよぅ。どうしよう、一軒目からこんなんで、幸せすぎるー」

    若「ハハハ。尻すぼみにならぬと良いがの」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days46~24日14時、以心伝心

    今朝のあさイチ、推し名書きの中に、アシガールもアシガールSPも載ってましたね(^o^)
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    楽しみにしてたわりには、準備万端ではない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    着替えて二階から下りてきた唯。

    唯「あれ、お母さん居ない。え、もうすぐ2時!そんな時間だったかぁ」

    尊「遅いんだよ。兄さんだって、色々計画があるだろうに」

    唯「ねー、見て、これ似合う~?」

    尊「人の話聞いてる?」

    唯の耳元で揺れていたのは、小花をレジンで閉じ込めたイヤリング。

    若君「おぉ」

    トヨ「可愛いいですね。ゆらりと揺れて」

    覚「似合ってるぞ。何より忠清くんが作ったアクセサリーだしな」

    唯「ありがと。気づいて良かった~」

    尊「気づく?」

    唯「部屋にさ、作ったアクセサリー入れた箱置いてあるじゃない。これだけ、箱の上に出てたの」

    尊「って事は」

    唯「たーくん、着けて欲しいならちゃんと言わないと~」

    若「ん?唯の好きにするが良いと思うて」

    覚「そんな、頼んだっていいのに。奥ゆかしいというか」

    唯「ちゃーんとラブラブ電波、キャッチしたからね!」

    源三郎の囁き「尊殿」

    尊の囁き「え?はい」

    源 囁き「電波、とは、例のWi-Fi、でございますか?」

    尊 囁き「えーと…違います」

    玄関でまだバタバタしている。

    唯「靴どうしよう~、あ。そうだ」

    下駄箱を探る唯。

    唯「あったあった。まだ履けるよねー」

    覚「通学で履いてたローファーか。うん、スッキリしてて悪くないぞ」

    唯「これなら慣れてて走りやすいし」

    若「走る場はない筈じゃが」

    唯「さてと。じゃ、行ってきまーす!」

    若「行って参ります。お父さん」

    覚「ん?」

    若「クリスマスパーティー、の支度が手伝えず、申し訳なく思うております」

    覚「何言ってるんだい。今日のデートの為に帰って来たようなモンだろ?そんなの気にせずに、十二分に楽しんでおいで」

    若「はい!」

    尊「行ってらっしゃーい」

    源三郎&トヨ「行ってらっしゃいませ」

    ようやく出ていった。

    尊「やっとだよ」

    覚「ははは。もうちょっとしたら、注文しといたケーキ取りに行くぞ」

    尊「じゃあ、源三郎さんとトヨさん連れて行ってあげてよ。せっかくだから、イブの街の様子も堪能してもらってさ」

    ト「尊様はどうなさるんですか?」

    尊「留守番してますよ」

    ト「そのような…ご一緒は難しいですか?」

    源三郎「本日からしばらくは、長く共に過ごせると楽しみにしておりましたが」

    尊「またまた~。僕と居て楽しいですか?」

    源&ト「楽しいです」

    尊「わぁ、即答…」

    覚「尊、モテ期到来だな。四人で行くぞ。ケーキな、奮発して大きめのを二つ頼んであるから。あと諸々あるし」

    尊「二つ!そりゃすごいや」

    ト「ケーキ?」

    尊「甘くて柔らかいんですよ」

    源「この令和の世は、甘味が多くございますね」

    尊「そうですね。居る間くらい、お腹いっぱい食べちゃってください」

    源&ト「はい!」

    その頃、まだ自転車置場の唯と若君。

    唯「たーくん、待たせてごめんね。もしかして、何時にココ、とか決まってた?」

    若「いや、それはない」

    唯「今日は、よろしくお願いします」

    若「うむ。よろしゅう頼む」

    少し顔を近づける若君。

    唯「え、なに」

    若「綺麗だよ」

    唯「やーん!そんなラブ大盛りでスタート?あの、あのね、さっきお母さんがね、好きな人を思ってお化粧するって、極上の時間よねって言ってた」

    若「ハハ、そうか。では、極上の姫と共に」

    唯「褒め…られてる?」

    ひょいと唯を持ち上げ、自転車の荷台に乗せたのだが、

    若「思うたより短いのう」

    唯「あ。スカートか!おしとやか~に乗りますんで、ご勘弁を」

    若「では、参るぞ」

    唯「参りまーす」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、ようやくデートスタート。

    続きます。

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    四人の現代Days45~24日8時45分、選択せよ

    ちょっと待ちくたびれた?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに戻ってきた唯と若君。食卓で覚と源トヨと、冬休みに入った尊が寛いでいる。

    唯「ただいまぁ」

    覚「おー。喜んでもらえたか?」

    若君「はい!」

    覚「良かったな~」

    尊「しかし」

    唯「ん?」

    尊「お姉ちゃん、何かイベントがあると、やたら早起き。お子様のルーティンだよな」

    唯「悪い?だって今日は、今日は!」

    尊「はいはい」

    若「尊」

    尊「はい?」

    若「少し、良いか?」

    若君に促されて席を立った尊。

    唯「なに!秘密会議?」

    覚「はいはい、唯は今から洗い物だ。カップをそのまま流しに運んでくれ」

    唯「えー気になるぅ」

    トヨ「お父さん、洗い物なら致します」

    源三郎「いえわたくしが」

    覚「いや、いいよ。君達は座ってて」

    ソファーに移動した若君と尊。若君がジーンズのポケットから、尊が印刷したショッピングモールのフロアマップを取り出した。

    若「この店じゃが」

    尊「あー。ここ。リベンジですか?うわっ」

    若「リベンジ、とは?」

    尊「ごめんなさい、ついわからない言葉使っちゃった。えーと、再挑戦?改めて挑む?」

    若「挑む、か。そうなるのう」

    尊「今日なんか特に混みそうだし。頑張ってください。で、質問は何ですか?」

    若「支払いは二人で如何程になるか、わかるか?前に尊と三人で他の地の店には参ったが、とんと見当がつかぬ」

    尊「あ、じゃあお店のホームページ見てみましょうか」

    スマホで検索。

    若「おぉ」

    尊「飲み物込みで、4000円あれば大丈夫ですね。って、あれ?兄さん、手持ちのお金って…」

    若「今朝方、お母さんに渡されてのう」

    尊「それは良かった。あ、だからこの店も行っちゃおうって?」

    若「うむ」

    尊「急遽予定変更は大変そうだなぁ。そのお金、兄さんずっとマッサージ代受け取ってなかったからその分ですよね」

    若「いや、かなり上乗せされておる。そこまではいただけぬと一旦は断ったのじゃが」

    尊「いいんじゃないですか?」

    若「されど」

    尊「それか、母はそんなつもりないでしょうけど、マッサージ代先払いしたって考えても」

    若「…そうか、そうじゃな。後々の分は受け取らねば済む話か。ありがとう、尊。これで気兼ねなく使える」

    尊「兄さんはホント律儀だなぁ」

    昼になった。ご飯も済み、唯は美香子に軽く化粧もしてもらったのだが…

    美香子「唯~。悩むにも程があるわよ?」

    唯「お母さんが、ただの黒タイツじゃイベント感がないって言うからでしょっ」

    ト「どれも選んでも素敵だとは思いますが」

    昨年美香子が唯の為に購入した、色や柄の入ったタイツの数々を床に並べ、唸っている。

    尊「今日はてっきり、真っ赤なセーターのペアルックだと」

    唯「それは明日着る」

    尊「ふーん」

    唯「あの赤いの、すっごく気に入ってるけど、地元をうろつくには目立ちすぎて」

    尊「あっそう。だからここにセーターとスカートが置いてあるんだ」

    唯「たーくんが、白いパーカーにジーンズでしょ。だから私は白いセーターに、買ってもらったミニスカートのつもりで」

    尊「そこまでは色合わせも順調だったけど、か。この服に合わせるタイツは、コーディネートの腕が試されると」

    覚「コーディネートはこうでねぇと、ってのはないだろ」

    唯「はあ?」

    覚「すいません…」

    美「デートの時間が減ってくばかりよ?」

    唯「そうだけど~。たーくん、助けてぇ」

    若「うむ」

    じっとタイツの山を見て、一つ取り上げた。

    若「この品が良かろう」

    唯「これ?ありがと、じゃあそうする」

    美「今回は割とシンプルなのを選んだわね」

    濃紺の地に、銀のラメが光っている。

    尊「兄さん、また何かに見立てて選んだんじゃないですか?」

    美「あ、そうね。前は確か、雪が朝日に光る様子?これは何になるのかしら」

    若「夜更けに山寺で仰いだ空は、見渡す限り瞬く光の粒が散りばめられ、こぼれ落ちんとせんばかりでした」

    源三郎の囁き「…小垣近くのか?」

    トヨの囁き「え?」

    尊「満天の星空、ですか」

    覚「そりゃ絶景だな」

    美「そう言われるとそう見えてくるわ。あい変わらず、想像力が豊かね~」

    唯「山寺、星。…やーん!たーくんったら!」

    唯が若君の手を両手でガッツリ掴んでブンブンと振り、ウンウンと大きく頷いている。

    尊「何か思い出に繋がるっぽい反応だな」

    唯「超感動~!」

    若「…早う着替えて参れ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days44~24日火曜8時30分、プライスレス

    長くて楽しい一日が始まりました。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    クリニックに、唯と若君と源トヨが現れた。

    四人「おはようございます!」

    芳江「おはようございます。あらお揃いで」

    エリ「おはようございます。朝から元気ね~」

    コーヒーを配り終えた源トヨ。

    源三郎「では、此れにて」

    トヨ「失礼します」

    唯と若君が残った。二人が並ぶ。何?という顔の芳江とエリ。美香子はニコニコしながら様子を見ている。

    唯「んとね」

    エリ&芳江「はい?」

    唯「サンタさんは明日の朝、枕元にプレゼント置いてくけどね、明日はクリニック休みで二人に会えないから」

    若君「一日早うございますが」

    持っていた紙袋から、綺麗な包装紙にくるまれリボンが結ばれたプレゼントを取り出す若君。慌てて立ち上がる看護師さん二人。

    芳「あららら」

    エ「まぁっ、いいんですか?」

    若「はい。日頃の感謝を込めました」

    唯「メリークリスマス!」

    贈呈。

    美香子「開けてみて」

    エ「は、はい」

    芳「まぁーどうしましょう」

    美「ウチの家族は朝一番に受け取り済みよ」

    エ「そうなんですか」

    包装紙を開くと、中身が和紙にくるまれている。

    芳「あら急に和風。でも奥ゆかしさが感じられて、いいですね」

    唯「たーくんのアイデアなんだよ~」

    エ「懐紙のように使われてるんですね」

    中から出てきたのは…

    芳「あらっ、なんて綺麗なんでしょう!」

    エ「素敵。お花のペンダントなんですね」

    小花をレジンに閉じ込めてある。

    若「花の生かし方をお二方に教わったと、尊に聞きました。ささやかではございますが」

    唯「お礼だよ。幸せの、おすそ分け~」

    エ「ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」

    芳「家宝にします」

    若「ハハハ」

    唯「時間取ってごめんね。さっ、コーヒー飲んで飲んで~」

    しばしの休息。

    美「芳江さん、さっき家宝って言われてましたけど」

    芳「はい」

    美「この中で家宝級の品は、実はこの包んであった和紙なのよ」

    芳「え、そう…なんですか?」

    エ「こちらが?」

    美「忠清くん、話してあげて」

    若「家宝など畏れ多いですが、この紙は、わしが永禄から持ち帰っております」

    芳「えーっ!」

    エ「戦国時代の和紙なんですか!」

    若「こちらの世に飛ぶ折に、何か役に立てばと思い、懐に忍ばせて参りました」

    唯「かなりのレア物っす」

    芳「それは貴重ですよ~」

    エ「驚きました。大切にとっておきますね」

    美「さて、話は弾むけどそろそろ」

    唯「ホントだ、もう行かなきゃ。カップもらいまーす。撤収~」

    若「お邪魔致しました」

    美「ありがとね」

    一気に静かになった。

    芳「こちらこそ、お礼を用意しないといけませんね」

    美「あ、それは止められてるから。要らないわよ」

    エ「止められた?」

    美「そもそも花を乾燥させて残したのはお父さんと尊だし、アクセサリーの材料も尊が揃えた物ばかりで、唯も言ってたけど幸せのお裾分けだから、お返しを受け取る筋合いはないってね」

    エ「本当にいいんですか?」

    美「えぇ。私達も用意しなかったから」

    芳「こんなに心がこもってるのに、何か悪いですが」

    美「いいのよ。ありがとうって受け取ってくださいな」

    エ「わかりました」

    芳「はい。でも和紙に包むなんて、粋ですね」

    美「でしょ。実は、私や家族がもらったプレゼントは、忠清くんがリクエストに応えながら作ってくれたんで、中身が何かはわかってたの。でもこんなワンクッションおいてくれるなんて、武士の嗜みって感じでさすが!と唸ったわ」

    エ「そうですね。ではそろそろ、最初の患者さん呼びますね」

    美香子&芳江「はい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    今までの四人の現代Days、番号とあらすじ、22から43まで

    no.868の続きです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    22no.869、12/17、子供達を救う活動に心動くトヨ

    23no.870、12/17、覚と唯で昼ごはんの支度。煙は上がっても戦ではない

    24no.871、12/17、髪の寄付につき源トヨと母で意志疎通を図る

    25no.872、12/17、引き続き三人で思い出話

    26no.873、12/18、尊の成長に感涙

    27no.874、12/18、回転寿司にGO

    28no.875、12/19、盛り沢山の予定にウキウキ

    29no.881、12/19、Wi-Fiとは。木村先生と再会の日付決まる

    30no.884、12/20、女性の意見に耳を傾ける若君

    31no.886、12/20、料理の日。今夜のツマミは辛さ控えめ

    32no.887、12/20、永禄仕様の麻婆豆腐

    33no.888、12/21、トヨにご褒美ネイル

    34no.889、12/21、母達の前でだけ泣いたトヨ

    35no.891、12/21、源三郎を咎める若君

    36no.892、12/21、気持ちが整った源三郎。唯と若君の関係性の考察

    37no.893、12/22、男三人で外呑み決定。バーベキュースタート

    38no.894、12/22、バーベキューおやつタイム

    39no.895、12/22、唯とトヨお揃いの髪型でお風呂へ

    40no.896、12/22、悟りが開けそうな源トヨ。かたやイチャつく唯と若君

    41no.897、12/23、宅配便の受け取り方を学ぶ若君

    42no.898、12/23、木村先生と再会。語りが熱い

    43no.899、12/23、タブレットを見ながら引き続き歓談

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    四人の現代Days43~23日16時30分、根回しばっちり

    気が利く弟。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    タブレットに、日記の画像が出た。

    木村「これだ」

    唯「わぁ」

    若君「おぉ…」

    唯「たーくん、寄りすぎだよ~」

    木「そんなに興味があるのかね」

    ところどころ拡大して、若君に見せる唯。

    若「…」

    唯「すごいよねー。残ってるんだもんね」

    木「一部破れた箇所もあるが、保存状態はまあまあいいんだ」

    唯「大切にとってあったんだねぇ。これ、誰にあずけたの?」

    若「どう巡ったかは、わからぬ」

    木「何の話だ?」

    唯「ん、こっちの話。これさー、もっと、かわゆい妻とのラブラブが書いてあるかと思ったー。ねぇたーくん」

    若「ん…」

    唯「聞いてる?」

    木「日記の中には妻女の話は一切出てきてないぞ。しかも何だ、可愛いが前提か?見たのか?ははは~」

    唯「マジなんだってぇ」

    木「また夢でも見たのか。まぁ、あのラブレターかのような熱い走り書きからは、相当愛情を注いでいるのはわかるが」

    唯「でしょ。うふふ~」

    若「唯。少し黙っておれ」

    唯「あ、ごめんなさーい」

    若「450年を経ても、ここまで読める形で残ったとは。感動、しました」

    木「君さ、もしかしたらこれに限らず、古文書読めたりするのかい?」

    若「はい」

    唯 心の声(つーか、書くヒトだし)

    木「そうか。だから食い入るように見てたんだな。是非解読チームにスカウトしたいところだ。ははは」

    若「ハハ…」

    唯「今はどこまで見終わってるの?」

    木「さっきのラブレターの日付辺りで止まってる」

    唯「そうなんだ」

    木「これだけに専念できないから。年末で皆忙しいしな。年始に再開する」

    唯「ふーん」

    木「あとな、書いた人物がわからないままだから、せめてヒントが出てくるといいんだが」

    若「名、ですか」

    木「希望的観測としてな。ところで、いつ頃まで帰省してるんだ」

    唯「えーと、年あけて、ちょっとしたら戻る」

    木「そうか。今の内に、しっかり親孝行しとくんだぞ」

    唯「はーい」

    木「旦那さんは、本当に速川とは正反対だが、それが上手くいく秘訣なのかもな」

    その言葉に、はたと気付く若君。

    若「先生。もしや尊から、色々聞いておられましたか?」

    木「あぁ。寡黙だが勉強熱心だとね。それにプラスして、人を惹きつける力があるともね」

    若「それは…」

    唯「尊はたーくん大好きだから」

    木「わかるよ。話を聞こうという気持ちになるというか、何だろう、人の上に立つ人間が持つ威厳や品格まで感じるんだよな」

    唯 心(たーくんのオーラ、わかる?わかる?)

    若「褒めていただけるなど、畏れ入ります」

    若君 心の声(そうか。わしの出自など、探られなんだ所以はこれか。尊に礼を申さねば)

    その後も会話は弾んだが、時間はあっという間に過ぎていく。

    木「さて、じゃあそろそろお開きにするか」

    唯&若君「はい」

    喫茶店を出た三人。

    木「元気でな」

    唯「先生も元気でね!」

    若「ありがとうございました」

    先生の姿が見えなくなるまで見送った。

    若「お会い出来、良かった」

    唯「そうだね」

    若「帰るか」

    唯「うん。今夜は、まだやる事あるもんね」

    若「クリスマスプレゼントを、包まねばならぬ」

    唯「いそがしい~、でも楽しい!」

    若「そうじゃな」

    手を繋ぎ、自転車置場まで歩いていたが、

    唯「たーくん、寒い」

    若「なんと。それはならぬ」

    唯「寒いなー。もっと近くであっためて欲しいなー」

    若「あ、あぁ。心得た」

    唯の肩に手を回し、そっと抱く若君。

    若「姫、いかがじゃ」

    唯「えー、まだ寒いぃ」

    若「フフ、それはただならぬのう」

    グッと引き寄せた。

    唯「えへへ。あったかーい。このまま家まで歩いて帰ろっかな」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    23日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days42~23日15時、宣言します

    なんやかやで、理解してくれてる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    お花の写真立てが、出来上がった。

    唯「出かける前に終わって良かった」

    若君「源三郎、トヨ、難儀をかけたの」

    源三郎「難儀などございませぬ」

    トヨ「とても楽しかったです」

    唯「写真、なに入れるの?今度撮りに行く時の?」

    若「考えておく」

    唯「あっそう。決まってないんだ」

    若「約束の時間が近づいておる。早う片付けてそろそろ出る支度をせねば」

    唯「あー、そうだね。木村先生もね、最後のあいさつしてなかったんだー」

    若「それは、非礼を詫びねばのう」

    ササッと片付けを終え、唯と若君は、木村先生との待ち合わせに向かった。

    ト「あの、お父さん」

    覚「何だい?」

    ト「最後の挨拶、とは何でしょうか。木村先生は、唯様の通われていた学校に今もおいでになる方なんですよね?」

    源「わしもそこは、少し引っ掛かりました」

    覚「あー。君達はホントよく話を聞いてるよね。うん、じゃあ唯のその、学校最後の日の話をしよう」

    ト「よろしいのですか?」

    覚「どちらかと言うと、君達には話しておきたい」

    源「わかりました。心して、お聞き致します」

    二人が公園に到着した。乗ってきた自転車をとめ、喫茶店まで歩き始めたのだが、若君が腕組みしながら、なにやら小声で唱え続けている。

    若「わしは、僕…」

    唯「たーくーん、なに言ってるの?お経?」

    若「言葉を間違えぬようにと」

    唯「あ、現代語に変換ね。大丈夫でしょ」

    若「すっかりお父さんお母さんに甘えてしまい、使っておらなんだゆえ」

    唯「ヤバいと思ったら助けてあげるよ。…じゃないな」

    若「ん?」

    唯「唯之助が、お守りいたしまーす」

    若「そうか…済まぬ。あ、いや。ありがとう」

    組んでいた腕を下ろし、唯の手を取った若君。唯が微笑んだ。

    唯「もー。手つないでくれなくて、さみしかったんだからー。待ってたよぉ!」

    若「ハハッ。おっと、持っていかれそうじゃ」

    繋いだ手をぶんぶん振り回し、ご機嫌な唯。ほどなくCafeMARGARETに着いた。

    唯「えーと、3時45分か。いい時間」

    席で待つ事10分。木村先生が到着。

    唯「あ、来た来た」

    若「うむ」

    サッと席を立ち、お辞儀をしながら先生を出迎える若君。唯も慌てて立ち上がった。

    木村「おー」

    唯「先生~!久しぶりぃ」

    木「速川、元気にしてるか~」

    若「こんにちは、先生。どうぞ奥へ」

    木「いいよ、席なんてどこでも」

    若「上座はこちらですので」

    木「え!こんな美男子で、かつ常識も兼ね備えてるなんて。天は人を選んで、二物も三物も与えるんだなあ」

    ようやく座った三人。四人掛けの席に、奥に先生、手前に唯と若君が並んだ。

    木「まずは注文しよう。何でも頼んでくれ。再会を祝して僕が出す」

    唯「え~、じゃあパフェ?」

    若「これ、唯」

    唯「ウソウソ。先生、私ミルクティーがいい。たーくんは?」

    若「わ…僕は、コーヒーをお願いします」

    木「ん。すんませーん、コーヒー二つとミルクティーね」

    若「先生、初めて名乗らせていただきます。速川忠清と申します」

    木「速川!お婿さんなんだね」

    若「はい」

    唯 心の声(しれっと受け流す。プロだねぇ)

    木「あの、不良の輩に囲まれた時は、本当に助かったよ。ありがとう」

    若「いえ、当然の事をしたまでです」

    木「まさか助けてくれた二人が、尊君と、旦那さんだったとはなあ。縁は異なもの味なものだ」

    唯「なにそれ」

    木「お前は相変わらずだな」

    唯「あのね先生」

    木「どうした」

    唯「学校やめる時、私、結局誰にもあいさつしなくて、というかできなくて。ごめんなさい。今言います。お世話になりました」

    木「後から聞いてかなり驚いたが、何か事情があったんだろ?」

    唯「うん…まぁ。でも私、今もこれからも、すっごく幸せなの。たーくん、旦那さんと一緒に生きるって決めたから」

    若「唯…」

    木「より大切なモノが見つかったなら、それでいいさ。実際、顔に出てるしな」

    唯「え、顔?」

    木「幸せ一杯の顔だ。旦那さん、君もね」

    若「そうですか。ならば先生に誓います」

    木「え」

    若「命全うするまで、唯と添い遂げると」

    木「熱いな~。娘を嫁にやる父親になった気分だよ。良かったな、速川」

    唯「うん。私とたーくんは、結ばれる運命だったんだよ。羨ましいでしょ?」

    木「その情熱は、羨ましいよ。あーそれでな、例の日記に興味があるって、尊君に聞いてるけれど」

    若「はい!」

    唯「いろいろ教えて欲しいな、先生~」

    注文の品が運ばれてきた。先生がタブレットを取り出す。

    木「画像出すから、温かい内に飲みなさい」

    唯&若君「はい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days41~23日月曜9時、ハンコください

    努力を怠らぬ人。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    食卓に四人。乾燥させた花を木箱に接着している。

    トヨ「色とりどりですね」

    唯「お花畑みたーい」

    若君「どう並べ咲かせるかは、センスの見せ所じゃ」

    源三郎「扇子、でございますか?」

    若「フフフ」

    順調に作業を進めていると、玄関の呼鈴が鳴った。

    覚「唯」

    唯「なにー」

    覚「ちょっと手が離せない。荷物が届いたから、受け取ってくれないか」

    唯「ん、わかったー」

    すぐ走っていった唯。ほどなく戻ってきたが、重そうに何かを抱えている。

    唯「われもの注意ってシールついてるけど、これなに?」

    覚「全国各地の銘酒をな、取り揃えようと思って」

    唯「そろえる。まだ来るの?」

    覚「今日は、もう一便届く予定だ」

    唯「ふーん。そうなんだ」

    若「唯。その、荷物の受け取りじゃが」

    唯「ん?」

    若「わしも手伝いたい。教えてくれぬか。酒ならば唯は口にせぬし」

    唯「そんなん気にしなくていいけど。いいよ、簡単だし教えてあげる」

    作業を少しの間源トヨに任せ、席を立った若君。唯が、今届いた箱の宛名部分を見せた。

    唯「間違って他人の家あての荷物を受け取らないように、来たらここを確認するんだよ」

    若「黒羽市東町3ー45、速川覚様」

    覚「お、よくスラスラ読めたね。とくに住所」

    若「葉書、に書いてありましたゆえ」

    唯「葉書…あ、あー。記念に持ってった、写真館から届いたヤツね」

    覚「連名のだな。速川忠清様唯様あての」

    若「はい。時折見返しており、覚えました」

    唯「でね、OKなら、下駄箱の上にハンコが置いてあるから、ここに押してくださいって言われた紙にポンと押すの。押したら紙と引き換えに荷物受け取って、おしまいだよ」

    若「わかった。では次を待とう」

    席に戻り、作業を続ける。

    源「忠清様」

    若「ん?」

    源「先程、黒羽、と聞こえましたが」

    若「そうじゃ。この地には、城の名がそこかしこに残っておる」

    唯「私が通ってた学校もね、黒羽東高校って名前なんだよ」

    源「ほほぅ」

    ト「まぁ」

    若「城跡しかのうなっても、民に親しまれておったようで、まこと喜ばしゅう思う」

    源「幾年も受け継がれ、残ったと」

    ト「ありがたいですね」

    しばらくすると、また呼鈴が鳴った。

    覚「来たね。忠清くん、頼むよ」

    若「心得ました」

    唯「後ろで見ててあげるよ」

    玄関に向かった若君と唯。超イケメンの登場に、宅配業者のお兄さんが少し驚いている。

    唯「たーくん、あて先見て」

    若「うむ、うむ。合うておる」

    業者「ここにお願いします」

    唯「あー、フタ取って。ギュっと押してね」

    なんとか受け取り完了した。

    唯「よくできました~」

    若「そうか?」

    唯「たーくん、聞いてもいい?」

    若「いかがした」

    唯「なんで急に、こういう荷物受け取ろうと思ったの?」

    若「これも、現代、の生活であろう」

    唯「まぁ、そうだけど」

    若「わしでも出来得る事柄を、増やしていきとうての」

    唯「…ずっと居るわけじゃないのに?」

    若「長い短いの話ではない」

    唯「勉強熱心なんだね」

    若「この令和の世では、客人ではなく、日々暮らしを営むように過ごしたいのじゃ」

    唯「そっか。たーくん、偉ーい!」

    若君の頭を撫でようとした唯だが、

    若「早うお父さんに荷物をお渡しせねば」

    かわされた。

    唯「ちょっとぉ、なんでいつも、ナデナデしようとすると逃げるのー!」

    若「ん~?ハハハ」

    二人じゃれ合いながら、荷物を抱えリビングに戻っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days40~22日16時30分、迫る!

    目、二人して見開いてたらちょっと怖い。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    岩盤浴用の服に着替え、子供達五人が合流した。

    唯「たーくん、見て見て!トヨと髪型がお揃いなのぉ」

    若君「ふむ」

    唯の、頬や首にかかるほつれ毛をそっと撫でつける若君。

    唯「ん?ありがとう」

    若「このような、艶かしい姿で歩かれてはのう」

    唯「え?なまなましい?」

    トヨ 心の声(やだ、こんな色っぽい姿を俺以外の男に見せるんじゃないって仰るのね。これは、ご飯二杯イケるわ)

    尊「じゃあ僕、源三郎さんとトヨさんに説明するんで」

    唯「わかったー。じゃーねー」

    若「済まぬの。よろしく頼む」

    三人で歩いている。

    トヨ「源ちゃん、どう?この髪型」

    源三郎「うん。悪くないぞ」

    ト「艶かしい?」

    源「えっ」

    尊「あのー、すいません。僕、邪魔者で。お二人だけになりたいでしょうけど」

    源「いえそのような!不案内な地ですので、心強く思うております」

    ト「こちらこそ、尊様にお手間をかけさせてしまい、すみません」

    尊「慣れたら、自由に動いてもらっていいですからね。とりあえず、入ってみますか」

    いよいよ岩盤浴デビュー。三人並びで空いていた場所に、タオルを敷く。

    ト「あ、思った程石が熱くない」

    源「でも体は熱くなる、のですね?」

    尊「物は試しですよ。少し横になってみましょう」

    源「はい」

    ト「そういたします」

    尊「ではごゆっくり。おやすみなさい」

    一眠りしていた尊が目覚めた。

    尊「暑い…あ、お二人はどうかな。うぇっ」

    源トヨは、天井を見上げながらピクリとも動かず、汗びっしょりになりながらもそのまま横になっていた。

    尊「あの、大丈夫ですか?!」

    源「あぁ、尊殿。しばし無になっておりました」

    ト「なんと申しますか、体の中から洗われていくようで」

    尊「心頭滅却ってこういう事かも。一度出ましょうか」

    岩盤浴の部屋を出て水分補給をしていると、美香子が通りがかった。

    美香子「いい汗かいてる?」

    源三郎&トヨ「はい!」

    尊「あれ、お父さんは一緒じゃないの?」

    美「さっき、休憩所のベッドで爆睡してたわ。一番満喫してると思うな。じゃ、後でね」

    尊「うん」

    もう一度岩盤浴をした後、休憩エリアにやってきた三人。トヨが、飲み物を買い足しつつ、歩いて探検している。

    ト 心(へぇ。いろんな椅子や寝転がれる場所があるのね)

    ベンチに座っていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

    唯「キャハハ!」

    若「ハハハ」

    ト 心(あら、唯様と忠清様。この裏にいらっしゃるのかしら)

    そこは、いい感じに隠れた、カップルシートだった。思わず耳をそばだててしまうトヨ。

    唯「お肌スベスベだよ~。ねぇ、さわってぇ」

    若「これ、服をめくり上げるでない」

    唯「いいの、外からは見えないもん。たーくんの好きにして、いいよぉ?」

    若「…からかっておるのか」

    唯「えー?聞こえませーん」

    ト 心(好きにしてなんて!言ってみたい。めくり上げたのって、上着?前を?!そ、それは…キャー!)

    唯「脚くらい、いいじゃなーい」

    ト 心(なんだ、脚か)

    源「トヨ、怪しいぞ。何やってんだ」

    ト「わ!びっくりした!」

    飛び上がるトヨの様子に訝しげな源三郎。尊が後ろから歩いてくる。

    唯「え、トヨ?」

    声に気付き、シートから出てきた唯。若君も立ち上がった。

    唯「楽しんでる?」

    ト「はい、お陰様で」

    尊「あー、兄さん達ここに居たんだ」

    若「そろそろ時間か?」

    尊「ぼちぼち、ですね」

    若「そうか。では、参るか」

    尊&源三郎&トヨ「はい」

    唯「ごはん、ごはん!」

    尊 心の声(兄さん、口調は普段通りだけど、顔が赤いな)

    この後は、家族団欒で過ごしました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    22日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days39~22日15時、浮っき浮き

    安全のために、バーは両手で持ちましょう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    バーベキューの片付けもスムーズに終わり、いよいよスーパー銭湯へ出発。車に乗り込んだ。

    唯「お風呂もいろんな種類があるんだよ」

    トヨ「楽しみです」

    美香子「私、サウナならミストサウナが好きなのよねぇ」

    唯「私もー。だってフツーのサウナだとマジ熱くて地獄だもん」

    ト「やはり地獄はあるのですね」

    現地に到着。

    覚「えー。では6時に晩ごはんにするから、それまで自由に過ごしてくれ。解散!」

    唯「了解~。お風呂もいいけど、岩盤浴も行きたいし」

    尊「時間決めて待ち合わせにする?」

    唯「そうだね。えーと今3時半だから、4時半くらい?」

    尊「わかった。じゃあ源三郎さん、行きましょう。こちらです」

    源三郎「はっ、お供致します」

    唯「たーくん、後でねっ」

    若君「あぁ」

    女風呂の更衣室。

    美「髪だけど、二人ともお団子にまとめてあげる。岩盤浴で寝そべっても邪魔にならないようにね」

    唯「やったー」

    ト「お団子…?」

    美「じゃあトヨちゃんから。座って」

    ト「はいっ」

    頭のほぼてっぺんで、ポニーテールがキュッと結ばれた。

    美「毛先はヘアクリップで留めるの。ピンだと小さくて、うっかり落としてどなたか踏んだりしたらケガの元だから」

    鞄からいくつかクリップを出す母。

    唯「ガバっととまるヤツだ。買ったの?」

    美「うん。女の子のこういうグッズって、選ぶのも楽しいのよね~」

    トヨの髪をゆるく三つ編みにし、くるくると結んだ根元に巻きつけ、毛先を大きめのクリップで留めた。

    唯「超かわいい!まぁるいお団子だぁ」

    ト「えっ、見たい」

    姿見に走っていったトヨ。鏡の前で満面の笑みになった。笑顔のまま戻ってくる。

    ト「お母さん、ありがとうございます!このような愛らしい形にしていただけるなんて」

    美「髪の量がちょうど良いのよ」

    唯「カットして正解だね~」

    ト「本当に嬉しい…」

    美「はい次。唯はそこまでの長さがないから、小さめのお団子ね。…ん、できた。良さげ」

    ト「お似合いです」

    唯「わぁい!では、お風呂へGO~」

    様々な湯船が並んでいる。

    唯「女子っぽい!バラの花が浮いてる!」

    ト「いい香り…」

    唯「トヨ、それもいいけど、こっちのお風呂に入ろっ」

    ト「はい」

    並んで肩までつかる唯トヨ。

    唯「ふー。ふふっ。髪型おソロでうれしいな。仲良し姉妹、って感じ」

    ト「まぁ…姉君なんておこがましい」

    唯「もしトヨがお姉ちゃんなら、源三郎は義理のお兄ちゃんか~」

    ト「…ええっ!」

    唯「おっ、体がシュワシュワしてきたよ~」

    ト「はぁ…え、あ?まぁ、いつの間にこんな」

    唯「これ炭酸風呂って言ってね、入ると体に細かい泡がつくの。このシュワシュワがお肌にいいんだってさ。美肌になって、たーくんをイチコロにするのじゃあ。ぐふふ」

    ト「ふふっ。効能が色々あるんですね」

    唯「あれ、そういえばお母さんどこ行った?って、いつの間にかあんなトコに居る」

    ト「あら」

    ジェット水流風呂で、恍惚の表情の母。

    美「あ゛~、極楽極楽」

    ト「お母さん!大丈夫ですか?!」

    美「ん?どした~?」

    ト「湯船の中が嵐の如くうねっております」

    美「これがねー、凝った体に効くのよ~。トヨちゃんもいらっしゃい」

    ト「効く。そう…なんですか?」

    唯「入ればわかるよ。そんな怖くないからさぁ、ねっ」

    ト「わかりました。頑張ります」

    入ってはみたが…

    ト「あーれー!」

    美「あらま」

    唯「水の勢いに流されてるよ。もー、トヨかわいいんだからぁ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days38~22日11時、トロットロ

    なんでもやってみる。結果は度外視で。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚が鉄板で焼きそばを焼いている。丸型のバーベキューコンロから、ゴロンと大きい塊肉がこんがりと焼けて出てきた。

    美香子「じゃあ、切り分けましょうね」

    トヨ「はい、お手伝いします」

    唯「ウッシッシ~」

    尊「牛。まさかのダジャレ?!」

    覚「コンロ空いたな。ポップコーンの素、買ってあるけど」

    若君「ならばわしが、炙ります」

    肉を焼き終わったコンロで、例の手鍋型の容器を揺らしている若君。

    源三郎「こちらは?」

    若「楽しみにしておれ。あと」

    ト「あと?」

    若「肝を潰さぬ用意、ものう」

    源「肝?」

    ト「何が始まるのでしょう」

    若「戦は、始まらぬ」

    源三郎&トヨ「戦?」

    軽く微笑みながらも、源トヨに詳しく説明しない若君。その内、音がし始めた。

    ト「キャッ」

    源「銃か?!」

    やがてババババ、と連続で破裂音が続くが、ギャラリーはいたって静か。

    源三郎 心の声(皆、この銃声の中、悠然と構えておられる…)

    トヨは、不安そうに唯の腕を掴んでいる。

    唯「だいじょぶだいじょぶ。おいしいからさ」

    ト「美味しい?騒がしい料理なのですね」

    鉄板の上が片付く頃、ポップコーンができあがった。開いて源トヨに中を見せる。

    源「この者達が暴れておったのですか」

    ト「匂いが香ばしいですね」

    唯「お疲れさまぁ。これ焼きそばとお肉、たーくんの分ね」

    若「済まぬの」

    尊「びっくりしましたよね。僕達も初めて見た時はそうでした」

    美「お二人は、そこまでうろたえてはなかったわね」

    源「いえ、一時はどうなるかと」

    ト「唯様が大丈夫と仰ったので」

    唯「たーくんは驚かそうとしてたけど。おぬしもワルよのぅ」

    若「ん?」

    覚「あー、そうそう」

    美「何?」

    覚「甘い菓子もあるんだ」

    家の中から何やら色々持ってきた覚。

    尊「なに?ビスケットと板チョコと、これはマシュマロ?」

    美「あらぁお父さん、もしかしてスモア?」

    覚「そうそう。じゃ、焼くかー」

    唯「すもう?はっけよい?」

    尊「それは明らかに違うと思う」

    即スマホで検索する尊。

    尊「えーと、スモアとは、2枚のビスケットにチョコレートと焼いたマシュマロをはさんだ…うわっ、超美味そう!」

    唯「え~、なんで今まで隠してた?」

    覚「知らなかったんだよ」

    美「たまたまテレビで観たのよね」

    串に刺したマシュマロが焼かれる。

    尊「加減が難しそうだね」

    唯「どんなん?想像できないー」

    美香子が手際良くビスケット、チョコ、焼いたマシュマロ、上からビスケットとはさんだ。

    美「はいできた。唯、取ってみんなに回して」

    唯「はーい。トヨ、どうぞ」

    ト「私からなど、おこがましいです」

    美「気にしないで。どんどんできるから」

    ト「はい。では…まぁ、甘くて柔らかい」

    若「うまい」

    唯「すごーい、プニプニ~」

    美「源三郎くんも尊もあるわね」

    尊「わー伸びる、チョコが垂れてきた!でも新食感で楽しいね」

    源「美味しいです」

    唯「おいしかった!ねぇねぇ、私も焼いてみたい!」

    覚「おー、じゃあ僕と母さんの分作って」

    唯が張り切って、焼き係を交代したが…

    尊「燃えてるよ!」

    唯「うそー!じゃあ次っ」

    尊「焦げたのどうすんだよ」

    覚「あー、いいよ焦げは取って食べるから。っておい、焦げた上から乗せるのか!」

    唯「マシュマロ増量でーす」

    美「もう~。ちゃんとはさめる?」

    覚「なんとか」

    唯「はい、お母さんのはうまく焼けたよ」

    尊「焼けてないでしょ。あー、無理にぎゅうぎゅう潰さない!はみ出てる!」

    唯「えへ?」

    静かに速川家のワチャワチャを見ていた三人。

    源「賑やかですね」

    若「愉快じゃ」

    ト「とっても微笑ましくて」

    若「うむ。家族とはなんと温かい。いつの日かこのような賑わいを、と願う」

    源「唯様と共にならば叶いましょう」

    若「そうじゃな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days37~22日日曜6時、熱が入るよ

    待ち遠しい予定が増えて、ご機嫌な父。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝のリビング。若君と源三郎が話をしている。

    若君「やはり、お父さんも交えて話をした方が良かろう」

    源三郎「忙しくされておるのに、お時間を頂戴しても宜しいものでしょうか」

    若「まずは伺いを立てねば。来られるのを待とう」

    覚が二階から降りてきた。

    覚「おはようおはよう。あれ、朝稽古もう終わったのかい?」

    若「お父さん、おはようございます」

    源「おはようございます!」

    若「稽古はこれからですが」

    若武者が二人並んで、丁寧に頭を下げている。

    覚「おいおい、どうした?面食らっちゃうよ」

    源「あの」

    覚「何だい?」

    源「お父さんに相談をしとう存じます。お時間を頂戴できないでしょうか」

    覚「例の話?」

    源「はい」

    覚「今回は、忠清くんも一緒に?」

    若「わしには、頼みがあると申しております。されど、よう悩みを聞いてくださったお父さんも、共に話をすべきと思いまして」

    覚「そうか。源三郎くん、いよいよ忠清くんに進言して解決の糸口をたどるんだ」

    源「はい」

    覚「で、話をしたいんだね。三人だけで?」

    源「出来得るならばですが」

    覚「急ぐ?今日明日とか」

    源「いえ!滅相もない事でございます。時間をとっていただけるなら、いつでも仰せのままに」

    覚「ん~」

    若「不躾なお願いとは存じますが」

    また二人で頭を下げた。

    覚「いやいや、そこまでしなくていいから。うーんと…あ!イイ事思いついちゃったぞ」

    ん?と顔を上げる二人。

    覚「それってさ、夜お酒呑みながらでも、いい?」

    若「それは…良いですね。いかがじゃ、源三郎」

    源「はい。お父さんさえ宜しければ是非に」

    覚「じゃあ、三人だけで呑みに出かけようよ。家でトヨちゃん達に聞こえないよう、コソコソ喋ってるよりはさ」

    カレンダーの前に移動した覚。若君達も続く。

    覚「いつがいいかな~。えーと…26日の夜はどうだい?」

    若君&源三郎「心得ました」

    覚「決まりだね。早速カレンダーに書いちゃおう。夜、覚忠源外呑みへ、と。へへー、楽しみだな。あ、いやごめん、大事な相談なのに不謹慎だね」

    若「いえ。腹を割った話ができそうで、わしも楽しみです」

    源「ありがとうございます」

    10時。バーベキューの準備で、庭にタープを設置している。

    源「この屋根、陣にあると良いですね」

    若「そうじゃろ。使わず済むに越した事はないが」

    覚「え!タープもう張れたの!」

    尊「兄さんと源三郎さんは、さすがの手際の良さだから。僕は出る幕なし」

    覚「出来る男達だもんな。こっちのコンロの火起こしも順調だぞ」

    美香子「野菜も肉も準備OKよ~、どんな感じ?あら、もう始められそうね」

    覚「じゃあスタートするか」

    美「そうね。唯~トヨちゃ~ん、食材運ぶわよー」

    唯「え、もう始めるの?だから朝ごはん、ちょい少なめだったんだ」

    美「今日はねー。色々前倒しで進めるわよ」

    唯「前倒し。なんで?」

    バーベキューコンロの網に、串に刺した野菜やソーセージが並べられた。

    尊「それもしかして、夕方か夜にまた別のイベントが増えた?」

    美「当たり~」

    唯「えー!なになに!」

    美「近場の温泉に行くわよ」

    尊「あ、スーパー銭湯?」

    唯「わぉ!トヨ~、でっかいお風呂と岩盤浴だよぉ」

    トヨ「石で、体が熱せられる地ですね」

    美「お肌ピカピカになるわよ~。ますます美人になっちゃうわね。髪もまとめやすい長さになったしね」

    ト「まぁ…そこまでお考えいただき、ありがとうございます」

    尊「僕も今回は、岩盤浴に挑戦しようかな」

    覚「お?乗り気じゃないか」

    尊「この際、一皮むけてみようかと」

    唯「へー」

    源「…あの、忠清様」

    若「ん?」

    源「やはり地獄なのですか?皮が剥けるなど」

    若「ハハッ、何を怖じ気づいておる。言葉の綾ではないか」

    源「もしやこの令和の世では、地獄は楽しげに過ごす地なのかと」

    若「楽しげな地は極楽と申すが」

    源「熱くて極楽ですか。考えが及びませぬ」

    唯「そこの男子~!なにぐちゃぐちゃ話してんの、焼けたよ、取らないとなくなるよ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days36~21日17時、滲み出る

    だから月は美しい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    庭で素振りを続ける源三郎。食卓で工作をしながら、その様子を見ている若君と尊。

    尊「すごく熱が入ってる」

    若君「心の迷いをどう落とし込むか、決断すべきは今か、などと考えておるのじゃろう」

    尊「兄さんもそんな経験あるとか?」

    若「かつて」

    尊「そうなんだ。その時はどうなったんですか?」

    若「戦がいつ始まってもおかしゅうない、睨み合いが続いたが、和議となり治まった」

    尊「え!かなりおおごとだったんですね」

    最後の一箱に蝶番を取り付けていると、源三郎が汗を流し紅潮した顔で戻ってきた。

    覚「おー、頑張ったね。冷たいおしぼり用意してあるよ」

    源三郎「忝のう存じます。今、車の音がしました故、戻りました」

    尊「え!もう帰ってきた?!早っ」

    覚「今日はさすがに、寄り道はしなかったんだろうな」

    玄関から声がする。

    唯「ただいまぁ~」

    尊「あ、迎えに行かなきゃ。先行ってますね」

    源「はい。直ちに参ります」

    若「源三郎」

    源「はい」

    若「良い顔付きになった」

    源「さようでございますか。ひとえに、忠清様のお力添えの賜物です」

    覚「ささ、汗拭けたかい?行こう行こう」

    玄関に、唯と美香子だけ。

    覚「お疲れ。お?主役は満を持して登場か~」

    美香子「揃ったわね。では、トヨちゃんの、御成ーりー」

    ドアが開いて、トヨが恥ずかしそうに入ってきた。

    尊「わぁ」

    若「おぉ」

    覚「いいね~!」

    唯「トヨ、その場で回ってみて」

    トヨ「はい」

    後ろを向くトヨ。デニムのマーメイドスカートの裾がひらりと揺れ、髪はくるんと巻きが入り、わきの下辺りで揺れている。

    唯「この髪型、すっごく良くなーい?」

    美「せっかくだから、仕上げに毛先を巻いてもらったの」

    覚「うん、いい。可愛いいよ~」

    ト「ありがとうございます」

    尊「すっかり、現代のお姉さんですね」

    美「源三郎くん?なんでそんな後ろに居るの~」

    若君の後ろから顔を覗かせている源三郎。

    源「トヨ、おかえり」

    ト「ただいま戻りました、源ちゃん」

    源「…」

    唯「だからー。そこでもう一声、ないの?」

    源「あまりに目映く…」

    唯「は?」

    尊「なるほど。眩し過ぎて直視できないんですね」

    唯「はあ?」

    若「そうじゃな」

    唯「たーくんまで乗っかったよ!」

    若「事を成し遂げ、誇りに満ち溢れたトヨの姿は、光を纏ったようじゃからのう」

    唯「光…」

    美「内側から輝いてるのがわかるのね。ウチの息子達は、感性が豊かね~」

    ト「忠清様にそのようなお言葉をかけていただけるなんて、この上ない喜びです」

    唯「いーなートヨ、たーくんに褒めてもらえてー」

    若「妬いておるのか」

    唯「ん、ちょっとだけ。でもトヨがすごく立派なのは間違いないから」

    若「それを申すならば、唯は常に輝き、わしをあまねく照らしておるぞ」

    唯「え」

    美「あら素敵。愛の告白みたい」

    唯「マジすか?!やーん、たーくんったら」

    尊「なるほど。わかった!」

    唯「ちょっとなによぅ、せっかく告白にひたってんのにー」

    尊「お姉ちゃんは、兄さんにとって太陽なんだ」

    ト「太陽?」

    尊「あ、ごめんなさい。えーとお日さま?おてんとさま?」

    ト「あ、はい」

    源「わかります」

    尊「良かった。で、兄さんは月なんです」

    覚「ほー」

    美「解説して」

    尊「月って、自身で発光しない。あ、兄さんは別格なんで光ってますけど。でも、月が明るく輝いて見えるのは、太陽の光を反射してるからなんです」

    唯「そうなの?!へー」

    若「唯が居らねば光を失い暗闇の中…そうじゃな。わしは唯に照らされ、生命輝き、その月を見上げ、綺麗じゃの、とも囁けると」

    尊「そうですね」

    源「なるほど…」

    唯「なんか前に」

    ト「聞いた覚えがあるような」

    美「夏目漱石?深いわね」

    覚「科学的で文学的だよ」

    唯「ていうかさー。話すの、玄関じゃなくても良くない?」

    美「それもそうよね。では移動~」

    覚「尊、そろそろテーブル片付けてくれよな」

    尊「あ、かなり広げてある」

    若「急ぎ、片付け致します」

    バタバタと動く。

    源三郎の囁き「トヨ」

    トヨの囁き「うん」

    源 囁き「似合ってるぞ」

    ト 囁き「…ありがとう」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    21日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days35~21日14時30分、竹刀を持て!

    まさかやー!こそ、創作倶楽部の醍醐味でございます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    平常心なら、隙を突かれるなんてない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ホームセンターに到着。

    覚「源三郎くん、大丈夫かい?うっかりして酔い止め薬渡し忘れたけど」

    源三郎「はい。すっかり車も慣れました」

    覚「なら良かったよ。さてと、どこに行けばいいかな~」

    案内図の前で、売り場を探す覚。

    若君「尊」

    尊「はい?」

    若「何処であれ、このような地図はあるのかのう」

    尊「案内図、フロアマップですか。ある所もない所もありますけど、どこか知りたい場所があるんですか?」

    若「あの、ショッピングモールの地じゃが」

    尊「あー、ありますよ。ちょっと待ってください…これですね」

    スマホにはフロアマップが表示されている。

    若「おぉ」

    尊「要るなら、帰ったら印刷しましょうか?」

    若「頼む」

    尊「クリスマスデートですか」

    若「あぁ」

    尊「聞いてもいないのに、クリスマスはたーくんにおまかせぇ~!って吹聴されました」

    若「ハハ、そうか」

    尊「お姉ちゃん、兄さんがこんなに苦労してるって、わかってんのかなぁ」

    若「乞われれば、全うするのみ」

    尊「それにしたって」

    尊 心の声(そんないろいろ迷ってる兄さんは、かなり可愛いいけどさ)

    覚「材料、それぞれ個数合ってるか?」

    尊「うん、OKだよ。ねぇ兄さん」

    若「何じゃ?」

    尊「お花の量的に四つは作れますけど、一つくらい持ち帰りたいとかありますか?」

    若「いや」

    尊「いいんですか?」

    若「この先の世に全て残す。花の写真は既に受け取っておるしの」

    尊「わかりました」

    男性陣帰宅。時計は16時を指している。

    尊「作業するなら、実験室の方がいいよね」

    覚「いや、食卓でやりな」

    尊「いいの?」

    覚「実験室や二階だと、トヨちゃんが帰ってきた時、すぐに出迎えに行けないだろ?」

    尊「そっか。そうだね。じゃあ、工具だけ取ってくるよ」

    若「尊」

    尊「なに?兄さん」

    若「作り始めるのが、少々遅うなっても構わぬか?」

    尊「はい?いいですよ。なんかやりたい事あったら、先にどうぞ」

    若「済まぬの」

    尊「いえいえ」

    若「源三郎」

    源「はっ」

    若「庭へ出よ」

    源「え?」

    若「しばし、わしの相手を致せ」

    源「は、はい」

    尊&覚「?」

    庭で竹刀を構える二人。打ち合いが始まったが、若君の気迫にやや源三郎が押されている。

    覚「なんか…朝稽古よりも凄味が増してるな」

    尊「兄さんどうしたんだろ」

    一瞬の隙を突いて、源三郎の竹刀が叩き落とされた。

    尊&覚「あ!」

    慌ててウッドデッキに出た尊と覚。唖然とする源三郎に、剣先を向ける若君。

    尊「源三郎さん、大丈夫かな」

    覚「まさか、令和が穏やか過ぎて、体が鈍っちゃったとか…」

    若「お父さん。そうではございませぬ」

    覚「そうなの?」

    源「…」

    若「心此処にあらず、が所以であろう」

    尊「え」

    源「…済みませぬ」

    若「新しく変わろうとしておるトヨを、案ずるのはわからんでもない。されど、お母さんも唯も傍におり支えておる。おぬしだけ、いつまでもそのような心持ちではならぬ」

    源「…はい」

    尊「確かにずっと、どこか虚ろな感じだった」

    若「迷いを断ち切るのじゃ。そんな不安が表に出た顔付きのまま、戻ったトヨを出迎えるつもりか」

    源「顔、でございますか」

    覚「そうだな、源三郎くん。トヨちゃん、きっととびきりの笑顔で帰ってくるからさ、眉間にシワ寄せててはダメだよ」

    源「はい」

    竹刀を拾い上げ、尊の前に進み出た源三郎。

    尊「えっ、なんで僕なの…」

    源「尊殿」

    尊「はいっ」

    源「しばらく箱を作る手伝いが出来ませぬが、宜しいでしょうか」

    尊「え!それは、構わないですよ」

    源「畏れ入ります。忠清様」

    若「うむ」

    源「己と向き合うべく、このまま鍛練を続けとう存じます。忠清様はどうぞお戻りください」

    若「わかった」

    源三郎を一人残し、三人はリビングに戻っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅―┅┅

    続きます。

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    アキサミヨー

    下地先生「暢子さん」

    暢子「休憩中でーす。アベベの世話ならニーニーに言っちゃってくださーい」

    下地先生「寝ぼけているのね。歌子はどこ?」

    暢子「歌?(せき払い)♪おお牧場~は~み~ど~り~♪」

    オーナー「暢子さん。あなた、“奇天烈”って言われなかった?」

    暢子、夢から覚める。

    暢子「アキサミヨー。今日のまかないはレンコンの挟み揚げで決まり!」

    ☆すみません、ざっと見ただけですが…
    源トヨがタイムスリップしてる?!
    坂口殿が恋?!(「唯が恋?!」的な。)
    ありえん。まさかやー。
    さすが創作倶楽部。
    “部にして返す”ニーニーは
    ぽってかす部
    または
    伝統芸能部。であるね。

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    四人の現代Days34~21日14時、ほろほろと

    一人で気張ってるから、包んであげて欲しい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美容院に出かける準備中。

    美香子「あとちょっと時間あるわね。トヨちゃん、唯、洗面所へ来て」

    唯「洗面所?」

    トヨ「はい」

    美「軽くお化粧しましょ」

    唯「やったー」

    ト「それは…ありがとうございます」

    唯が先に出てきた。

    唯「どう?かわいい?」

    若君「可愛い、よ」

    尊「言わせてないか?誘導尋問じゃないのか?」

    唯「せっかくお化粧したなら、たーくんとデートが良かったなぁ」

    若「ハハハ。トヨの新しく変わりゆく姿を、余すところなく撮ってやるのだぞ」

    トヨが出てきた。

    唯「超キレイ!まつ毛もくるんくるんだぁ」

    若「ほぅ。良いのう」

    尊「綺麗なお姉さんだ。あ、一段と、って意味です」

    ト「そんな、褒めていただけるなんて」

    源三郎「…」

    唯「源三郎~」

    源「…はっ」

    唯「尊でさえサラッと褒めてんのに。トヨに言う事ないの?」

    源「あの、えー…感無量です」

    唯「うまく逃げてない?」

    美「さて、そろそろ行くわね、お父さん」

    覚「ん…」

    美「何、どしたの」

    覚「トヨちゃん、化粧以上に目力が強いというか。朝方より、肝が据わった顔になったような」

    美香子の囁き「さっきひとしきり泣いたから。気持ちの切り替えができたんじゃない?」

    覚の囁き「それでか」

    美 囁き「エリさんと芳江さんが、うまく心の内を引き出してくれてね」

    ┅┅回想。12時45分のクリニック┅┅

    ト「エリさん、芳江さん。この後、行って参ります」

    エリ「まあ、わざわざ伝えに来てくれたの」

    芳江「ありがとうねぇ」

    エリが、トヨの前に歩み寄り、頭を撫でる。芳江は、トヨの後ろからそっと、長い髪を撫でた。

    ト「あ、あの…」

    エ「トヨちゃんはいい子。本当にいい子」

    芳「この美しい髪、憶えておきますね」

    ト「…うっ、うっ」

    その場で泣き出したトヨ。エリと芳江がそっと支える。その様子を見守る美香子。

    ト「ごめんなさい、私、嫌なんじゃなくて」

    美「今朝から、なんか張り詰めてたのよねぇ」

    ト「…」

    美「髪をバッサリ切るなんて、大事件だもの。直前に緊張するのは当然よ。どこかで吐き出せればいいなと思ってたけど、さすがの母二人だったわ」

    エ「辛くはないのね?」

    ト「はい」

    芳「心から、行きたいと思ってるのよね」

    ト「はい!」

    美「ふふっ。少しは気が楽になったかな。良かった。さ、涙を拭いて。そのまま戻ったらみんな心配するわ」

    ト「泣いてしまうなんて、お恥ずかしい…」

    美「全然。よく忠清くんも泣いてたし」

    ト「そうなんですか?!」

    芳「ここで泣きそうになって」

    エ「慌てて出て行った時もありましたね」

    ト「そんな事が…」

    美「笑顔になったわね」

    エ「じゃあ、行ってらっしゃい」

    芳「月曜、楽しみにしてますね」

    ト「はい!ありがとうございました!」

    ┅┅回想終わり┅┅

    唯「ちょっと源三郎~、褒めるまで出かけないよ?」

    源「そ、そんな」

    若「身構えるからであろう。見たまま感じたままを申せば良い」

    源「はい…トヨ」

    ト「うん」

    源「息を呑む程、美しい」

    ト「…」

    唯「この部屋、暑くない?」

    尊「暑いね」

    若「ハハハ」

    ト「ありがとう、源ちゃん。すごく嬉しい」

    源「お、おぅ。頑張って行ってこいよ」

    ト「うん!」

    美「じゃ、行ってきます」

    女性陣が出発した。

    覚「じゃあ僕らもそろそろ出るか。ホームセンターでいいんだよな?」

    尊「うん」

    若「源三郎」

    源「はっ」

    若「大儀であった」

    源「いえ…」

    尊「すごくカッコ良かったですよ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days33~21日土曜8時、羽を休めて

    何でも、率先して動いてたんだろうなぁ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝。身支度を終えた美香子が、小瓶の入った箱を持ってきた。

    美香子「唯」

    唯「なに?あ、マニキュアだ。また買い足したの?」

    美「午前中に、トヨちゃんに塗ってあげてくれない?」

    唯「あーお出かけ前にね。わかったー」

    トヨ「えっ!私になど」

    唯「だってこっちに居る間くらい、指をキレイにしてたっていいもんね」

    美「来た当初は荒れた手で痛々しかったけど、だいぶ治ってきたから」

    ト「それは、お恥ずかしい…」

    美「あとね、爪用のいろんなシールやパーツも買ったからこれも使って。貼った上からトップコートを塗って、剥がれないようにするの」

    爪に貼る、花やハート型のシールや、立体的なパールの飾りなどがある。

    唯「わぁ、おしゃれなおねーさんがやってるヤツだぁ」

    ト「可愛らしいですね」

    尊「へー。爪のおしゃれの世界って今こんな風なんだ。作業するのにピンセットが要るよね?」

    美「そうね。出しといてくれる?」

    尊「了解~」

    唯「上に乗せて貼る感じ?」

    美「唯の爪は、既に綺麗に塗ってあるしね」

    唯「だってぇ。病気で部屋に閉じこめられてた時、マニキュアぐらいしかするコトなかったんだもん」

    美「まぁそうよね。もうすぐクリスマスだし、こんなのを足したらどうかなって」

    唯「嬉しい!ありがとうお母さん、がんばってみるー」

    食卓に、まず瓶を並べた。

    唯「色はなんとなく、トヨに似合いそうなのを選んだっぽい」

    ト「そうですか?嬉しい。並んでるだけで心が踊ります」

    若君「色鮮やかじゃな」

    唯「だよねぇ。ねぇ源三郎」

    源三郎「はい」

    唯「どれがいい?」

    源「は?」

    唯「選んで」

    ト「えっ」

    源「え!いや、その、このような類いは不慣れでございまして」

    唯「えー」

    若「これ、唯。トヨ、唯が勝手に進めてしもうておるが、良いか?」

    ト「はい。お母さんが買い求めてくださったお色はどれも素敵ですし、私も選べません」

    若「ならば良いが」

    ト「源ちゃん、決めて欲しい」

    源「そうか。ならば…うーん」

    源三郎が悩みながら取り上げたのは、やや赤みの強いオレンジ色のマニキュア。

    唯「おっ、いいね」

    若「ほほぅ。夕映えの色じゃの」

    ト「まぁ…素敵…」

    唯「夕映え!たーくん、なんてカッコいいコト言うのぉ」

    若「見たまま申しただけであるが」

    唯「もー。好きっ」

    若「ハハハ」

    源「トヨ、これでいいか?」

    ト「うん!」

    唯「決まりだね。じゃあ塗り始めまーす。パーツ、何貼るかも決めてね」

    ト「いえ、こちらは私には。唯様だけで」

    唯「なんで~?いいじゃない」

    ト「あの…炊事が、しにくくはなりませんか?」

    唯「そんな心配?」

    尊「お姉ちゃんの口からは、決して出ない質問だな」

    唯「なによ。確かに働いてませんけど」

    若「実に奥ゆかしいのう」

    源「…」

    覚「トヨちゃん、それは僕が答えよう」

    キッチンから覚登場。

    ト「お父さん」

    覚「たった一月だけどさ、そういうのから解放されて、自分の身を労るのも大切だよ」

    ト「労る…」

    覚「僕もね、最初トヨちゃんの手を見た時、水仕事を頑張る女性の手だなって思った。今の内くらいさ、美しい指先で気分も上々になって欲しい」

    ト「…」

    覚「どうしてもやりたければ、炊事用の手袋とかあるしさ。まぁでも、無理にしなくていいしさせるつもりもないよ。今は養生して」

    ト「そんな…お気遣いありがとうございます」

    源三郎が、前に進み出た。

    源「お父さん、わたくしがその分お手伝い致します」

    唯「お」

    若「ほぅ」

    尊「男前だ」

    ト「源ちゃん…」

    覚「ははは。充分やってもらってるけどね。じゃあトヨちゃんの分も、よろしく頼むよ」

    トヨの手を取る唯。

    唯「ごめんね。今までいっぱい働いてくれて」

    ト「いえ!唯様のお世話だけで、手が荒れたのではございません」

    唯「ピッカピカの爪にしてあげるね」

    ト「楽しみです、お願いします!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days32~20日18時、思ってたんと違う

    プチパーティー仕様。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    二階から下りてきた尊。

    尊「え?今おやつタイムなの?」

    覚「唯が勝手に配ってさ。休憩とは言ったが」

    覚以外、皆でシュークリームを頬張っていた。

    唯「シュークリームが呼んでたからさ~」

    覚「空耳だろ。今から酒呑むのに甘い物って」

    唯「関係あるの?」

    覚「出された食べ物を断らないと知ってて、わざとやってるだろ。まぁまだ食事まで時間はあるが」

    トヨ「この先の世の甘味は、どれもとても柔らかいのですね」

    若君「それもそうよのう」

    源三郎「見た目はかなりゴツゴツとしておりますが、持つと何ともまあ柔らかく」

    シュークリーム片手に、スマホを操作する尊。

    尊「兄さん、いろいろ考えたんですけど、こんなのがいいかなって」

    若「どれ。おぉ、これは美しい」

    木箱に、こぼれそうな程花が詰めてある画像を見せる。

    尊「入れた箱を立てられるように、モリモリと隙間なく貼り付けるんです」

    若「壁に咲いておるように見立てるのか」

    尊「あ、そうですね。で、これ見えます?写真立てなんですけど、木箱の脇に金具で繋いで、本を開いて立てたみたいにするんです」

    若「ほぅ。良いの。ではこのように致そう」

    唯「お花の箱作るの?」

    若「うむ。咲き誇る花々を、いつまでも粉の中に埋めておくのは忍びないゆえ」

    ト「まぁ綺麗」

    源「雅やかでございますな」

    覚「材料仕入れたいだろ?明日乗せてってやるぞ」

    尊「いいの?」

    若「よろしいのですか?」

    覚「トヨちゃん達が美容院行ってる間にさ」

    尊「あー、なるほど」

    若「ありがとうございます」

    19時30分。美香子が仕事を終え戻って来たが、

    尊「麻婆豆腐なんだよね?」

    覚「そうだ」

    唯「なんでホットプレート?」

    覚「これで作るからだ」

    尊「えー!」

    唯「聞いたコトない」

    美香子「これも永禄仕様なのね。 向こうで似たようなメニュー作れるように」

    唯「そうなんだ~。お父さん天才!」

    覚「へへ、そうか?じゃあ忠清くん、ここで豆腐以外の具材を炒め始めて」

    若「はい!」

    肉にトロミがついてきたところで、覚が熱燗を運んできた。

    美「まだできてないのに。豆腐も水切りしっぱなしだし。順番逆じゃない?」

    覚「もうできあがるんだよ。忠清くん、手ぬぐい外して、豆腐入れて」

    美「え、大きいまま?」

    若「このままですか?」

    覚「そのままドーンと入れていいよ。中で崩しながら食べるんだよ」

    美「あらま」

    唯「へぇ」

    尊「いろいろ斬新だ」

    覚「少し火を弱めて完成だ。忠清くん、お疲れ様。さーさー」

    酒を盃に注ぐ。美香子や源トヨにも同様に。

    全員「いただきます!」

    晩ごはん兼酒宴が始まった。

    唯「このマーボー、いいね」

    尊「ちょうどいい辛さ。美味しいです兄さん」

    若「そうか。良かった」

    覚「ささ、呑んで」

    若「お父さんこそ。つがせてください」

    覚「いいのかい。嬉しいねぇ」

    若「お母さんもどうぞ」

    美「まぁ嬉しい。じゃあ私はトヨちゃんに」

    ト「ありがとうございます。はい、じゃあ源ちゃんどうぞ」

    源「お、おぅ」

    唯「みんなゴキゲンだなぁ。まぁ、お酒関係なくても楽しいけどねー」

    尊「あ、なにお姉ちゃん、麻婆丼にしてる!」

    唯「いいでしょ~」

    若「唯の飯、美味そうじゃの」

    唯「たーくんにもあげよう。はい、あーん」

    若「うん、美味い」

    尊「僕も丼にしよっと」

    食卓を感慨深く眺める覚。

    覚「いや~。うんうん」

    美「何お父さん、しみじみと」

    覚「いい夜だ」

    美「ホントね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    20日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days31~20日15時、きってきって

    戦国時代の肉は、もう少し固そう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    スーパーに買い物に来た五人。

    覚「全員で並ぶと、何とか戦隊みたいだな~」

    唯「はあ?何戦隊なの」

    覚「うーん…戦国戦隊、シュツジンジャー!どう?どう?」

    唯「ダサっ」

    覚「だよな。もうちょっと考えさせてくれ」

    唯「もういい」

    覚「バッサリだな」

    カートの中がどんどん埋まっていく。

    唯「お肉、大きいのと小さいのがあるね」

    覚「大きいのはバーベキュー用、小さいのは今晩のメニュー用だ」

    若君「今宵は肉料理ですか」

    覚「うん。僕も色々考えてさ、せっかく覚えるんだから、金曜は今後応用できるといいなってメニューにする予定だよ」

    唯「今後?永禄でも作れるメニューって事?」

    覚「材料に制限あるから、再現は無理だと思うけどな。でも、例えば」

    カートの中の豆腐パックを指差す覚。

    覚「トヨちゃん、こんな形ではないだろうけど、永禄にも豆腐はあるよね?」

    トヨ「はい。ございます」

    覚「て事は、豆腐料理はできるだろ?ならさ、現代のメニューをそっちに寄せた風に作れば、戻ってからも楽しめるんじゃないかな~ってね」

    若「お父さん…そこまでお気遣いいただいたとは」

    覚「金曜だけだから。気にしなくていいよ」

    唯「じゃあ、今日の晩ごはんは何?」

    覚「麻婆豆腐だ」

    唯「マーボー!ん?」

    覚「何だ」

    唯「麻婆豆腐ってお肉こんなだっけ?」

    覚「普通ひき肉だよな」

    唯「これ、違うコトない?」

    覚「永禄にひき肉は売ってないだろ。これを細かく刻むんだよ」

    若「なるほど…よう考えておられる」

    唯「へー」

    覚「今日は、そんなに辛くはしないぞ」

    唯「そうなの?」

    覚「日本酒に合わせたいからな」

    若「酒…」

    唯「あ、いよいよお酒デビューすか!良かったね、たーくん。源三郎もトヨもだけど」

    覚「念願のな」

    若「それは楽しみです。なぁ、源三郎、トヨ」

    源三郎「はい」

    ト「よろしいのですか?ご相伴にあずかっても」

    覚「気兼ねしてるのかい?普段は支度する側の身だから」

    ト「酒席を共になど、おこがましくて」

    覚「永禄では主従関係があるからそうだろうけどさ、僕にとってはみんな平等で可愛い子供達だからね」

    ト「なんてお優しい…」

    源「ありがとうございます」

    覚「さてと、これで揃ったかな。…おい、唯」

    唯「はーい?」

    覚「何だこの、シュークリームがワサワサ入った袋は」

    唯「賞味期限が近いからって、まとめ売りしてたんだもん。ほら!半額のシール!」

    覚「そういう安売りは目ざといな」

    唯「ダメ?」

    覚「もう一袋取ってきな」

    唯「え、やったぁ、しゃっ!」

    帰宅後、早速料理に取りかかった。

    覚「豆腐は水切りしないとな。忠清くん、パックから出したら、その手ぬぐいで包んで、ザルにあげといて」

    若「はい。何故このようになさるのですか?」

    覚「味を染み込みやすくする為だよ」

    ト「ふむふむ~」

    源「トヨ、前に出過ぎだ」

    ト「あっ、すみません!つい」

    若「ハハハ。熱心に学んでおるのう」

    葱を刻み、いよいよ肉を細かくする。

    若「柔らかい…包丁が滑り、思う様に動かぬ」

    唯「たーくんがんばって~」

    覚「刻む作業はこれで最後だから、ゆっくりでいいよ」

    唯「あ、尊おかえりぃ」

    尊「ただいまー。早っ、もうごはんの支度始まってたんだ」

    源三郎&トヨ「おかえりなさいませ」

    覚「お帰り尊。支度だけな。仕上げは母さんの仕事が終わってからだ」

    尊「ふーん」

    覚「あ、そのくらいでいいよ、忠清くん」

    若「これでよろしいですか。おかえり、尊」

    尊「兄さんただいま。なんか、まな板の上がすごい事になってるね」

    覚「忠清くん、ずっと包丁握りっぱなしだったから疲れただろ?手順も一段落だし、少し休憩しな」

    若「ありがとうございます」

    尊「あ、兄さん例の質問ですけど、後で画像見せますね。着替えてきます」

    若「おぉ、そうか。済まぬの」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    ぷくぷくさん

    心からほっこりしてしまう4部作を書き上げて、お疲れでしょうに、続きをお願いしたようになってしまい、ごめんなさい。
    ぷくぷくさんの作品を読ませて頂くと、頭の中にパッと映像が浮かんで、今は幻の続編を見ている満足感に浸れるのです。本当にありがとうございました。

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    四人の現代Days30~20日金曜8時、丸投げですか?!

    純粋に母を想う心、になんとか応えたい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    クリニック。若君が、源トヨを従え現れた。

    若君「おはよう、ございます」

    源三郎&トヨ「おはようございます」

    芳江「おはようございます。あら」

    エリ「まぁ。おはようございます」

    美香子「お殿様の御成りって感じね」

    若君の後ろに控えていた源トヨが、コーヒーを配る。配り終えたところで、

    若「ご苦労であった。下がって良い」

    一礼し、二人は部屋を出ていった。

    芳「一段と凛々しいですね」

    エ「見惚れちゃいました」

    美「本領発揮って感じね。今朝はどうしたの?」

    若「お三方にお訊ねしたき儀がありましたゆえ、今朝はわしが運ぶと申したのですが、朝の挨拶はせねば、行きは私共がと譲らず、このようになった次第でして」

    美「そうだったの。唯がついてきてないって事は、内緒の相談かな。なぁに?」

    若「はい…」

    次の句が中々出ない。

    若「あの、クリスマスデート、とは、何を致せば良いかお伺いしたく」

    美「なるほど」

    芳「まぁ。先程とはうってかわって、なんて初々しい」

    エ「そうですか。それを私達に聞こうと?」

    若「はい。お父さんに今朝方お訊ねしました所、まずはおなごの諸先輩、に聞くが良いと」

    美「唯は、何ができればいいって言ってた?」

    若「駅前の通りが飾り付けてあるので、そこを日が落ちてから歩きたいと。他はと聞いても、その日に共に居られれば何でも良い、と申しておりまして」

    美「あらま。行きたいって騒いでたわりには、ザックリした答えね。唯らしいと言えばらしいわ」

    若「恥じらいながら申しておりましたゆえ、本意ではあると思いますが」

    美「何も考えてないとも言える」

    芳「まあまあ。可愛らしいじゃないですか」

    エ「それで、かえって困っちゃったんですね。何とか喜ばせる方法はないかと」

    若「はい…」

    芳「でも、大好きな旦那様となら、何してても楽しいのは間違いないですね。スイーツ食べたりとか」

    エ「お洋服やアクセサリーのお店で、これなんてどう?似合うよ、なんて」

    芳「エリさん、何か思い出しながらしゃべってます?」

    エ「あら、うふふ。つい」

    若「ありがとうございます。そのような話を、引き合いに出して頂けるのは助かります」

    美「昼過ぎに家を出て、確か7時には帰るって言ってたわね。あー?もしかして、どこで何するかとか、全部任されちゃってる?」

    若「おぉ…さすがお母さん。その通りです」

    美「どうせ、たーくんが決めてぇ~とか、甘えながら言ったんでしょ」

    若「ハハ…」

    エ「図星みたいですね」

    若「ショッピングモール、に参ろうかとは思うております。寒空の下よりは過ごしやすいかと」

    美「あー。いいんじゃない?」

    芳「そうですね。今の時季、建物の中も周りもクリスマス仕様ですし」

    美「広い施設だから、プラプラ歩いたら?エリさんの思い出話みたいに、店を覗いたりしてね」

    若「覗くだけ、でも良いのですか?」

    美「勿論よ」

    若「そうですか。わかりました」

    美「いい案あったら、またこっそり教えてあげるわね」

    若「痛み入ります。お話を伺え、大変助かりました。では、そろそろ引き上げます。ありがとうございました」

    お盆を手に、深々と礼をして去っていった若君。

    エ「困り顔が、こう言っては何ですが、可愛らしかったです」

    芳「懸命な姿が素敵でした」

    美「うん…」

    エ「先生、何か?」

    美「やっぱり、お金受け取ってもらおうと思って」

    エ「お金?」

    芳「前回、何とかしてお小遣いを渡そうとしたアレですか?」

    美「マッサージ代と称して一回500円だったんだけどね。今回、お父さんが捻挫して私が家事のほとんどをやってると知り、手伝いたかったのも帰って来た理由の一つって言ってくれてね」

    エ「あい変わらず優しい子ですね」

    芳「親思いな」

    美「でね、来て間もなく、仕事と家事でお疲れでしょうって気を遣ってくれて、一日に二回とか揉んでくれてたんだけど、源三郎くんやトヨちゃんも家の手伝いを率先してやる子達なんで、自分だけ受け取る訳にはいかない、お金は要りませんの一点張りで」

    芳「そうだったんですか」

    美「仕方ないとは思いつつ、その分は貯めておいたの」

    エ「あ、それでさっき彼、お店は覗くだけでも大丈夫か聞いたんですね。先立つ資金がないから」

    芳「今までの小遣いは、唯ちゃんへの花束でほとんど使い切ったってお話でしたよね」

    美「お金はないのが前提で、使わずに過ごす方法を、彼なりに模索してたんだとは思う。でも決めた。デート代にどうぞって、無理矢理にでも渡すわ」

    エ「軍資金ですね。まさしく」

    芳「これで娘をよろしくね、でもいいんじゃないですか?」

    美「そうね。何とかするわ。じゃ、今日も一日お願いします」

    エ&芳「はい!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    創作意欲

    皆様に喜んでいただいていると思い嬉しく存じます。
    坂口殿の事はてんころりんさんの言葉をヒントに創作いたしました。
    私は沼にどっぷりはまっていて、頭の中に浮かぶ映像はあの頃のままで止まっています。
    人物もあの頃のままです。
    例えるならサザエさんんみたいな感じです。変わってほしくはないと思っています。
    それはどうかなと思われるかもしれませんね(^-^)
    ヒントを頂いての作成も楽しいです。
    以前、千絵ちゃんさんからのお題で書かせていただいたこともあります。
    勝手に解釈ですが、カマアイナさんのコメントで何か考えてみたいなぁと思いました。
    いつもの通りめちゃくちゃな設定にはなりますが。
    いつかまた此処に書かせていただきます。
    では(^-^)

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    ぷくぷくさん

    ぷくぷくさんは、誰も彼も幸せにしてしまう天才ですね。唯と同じオーラが、、、。

    先の世への集団疎開が、こんな風に永禄で花開くとは、楽しくて頬が緩みっぱなしです。あの坂口までが、ぷくぷくさんの手にかかると憎めないいいおっさんに変身〜。

    続編を、本当にありがとうございました。
    ひょっとしたら次回は天才尊が、永禄の生活をより豊かにする発明品満載でご降臨遊ばすとか、、、。 いつか唯のご両親が大殿とのゴタイメーンを果たせることも祈っていますが、殿は何も知らされていないからどうでしょうかね?

    私の頭の中ではイメージつきの続編に変換されていて、天下のNHKにも皆様の力作の存在を教えてあげたいです。Mahalo!

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    四人の現代Days29~19日15時、アポ取ります

    ぷくぷくさん、久々に楽しませていただきました。

    投稿番号が、再び私のお話だけでカウントアップされていくのは寂しいので、妄想作家の皆様、勿論ご新規の作家様も、来訪をお待ちしています。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    生き字引になんて、そうそうなれないよ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    昨日に引き続き、若君と源トヨは読書大会になっていた。

    覚「いい仕事与えられたな」

    唯「唯先生なんで」

    覚「そこまでは言ってない」

    源三郎「唯様、この言葉はどのような意味合いでしょうか」

    図鑑のページを開いて、指し示す源三郎。

    唯「了解っ、おまかせあれ~」

    手元のスマホで、聞かれた言葉を検索し始める唯。

    覚「スマホ、ちゃんと役に立ってるしな」

    唯「源三郎、意味は…コレ。見える?」

    源「はい。ほぅ。そのような」

    トヨ「唯様のその板も、お父さんや尊様がお持ちの板と同じような物でございますか?」

    唯「うん、だいたいは。私のは、出かけてる時はあんまり使えないけどね」

    ト「使えない?」

    唯「Wi-Fiがないとネット検索は無理」

    ト「わ、わい?」

    源「ふぁい?」

    若君「わしが話してしんぜよう」

    覚「おぉ、意外な人物が手を上げたぞ?」

    若「この先の世にはの、電波、と申す目には見えぬ物が、あちらこちらに飛び交っておる」

    源三郎&トヨ「えっ!」

    顔を上げ、キョロキョロしだす二人。

    唯「だからー、見えないんだってば」

    若「されど唯の板は、幾らでも飛び交うその電波は使えぬ」

    源「それは何故でございますか」

    若「使う為の契りを取り止めたからじゃ。唯が永禄で生きると決めた折に、両親がそうなさった。使うには金も要る故」

    ト「見えぬ品にお金が要るんですね」

    源「今此処では、使えておる様ですが?」

    若「この屋敷内には、此処でのみ飛び交う別の電波がある。それを唯の板が受け取ると、差し障りなく使えるのじゃ」

    唯「たーくんすごーい。拍手~パチパチ」

    覚「いやー、偉いね。尊に教わったかい?」

    若「はい。わしなりに、噛み砕きは致しましたが」

    源「うむ…わかったようなわからぬような」

    ト「やっぱりわからないような」

    若「こういう物と理解せよ、と唯なら申すが」

    唯「そんなセリフ言ったっけ?」

    若「昨年こちらに参った折にの」

    覚「あー。最後の方、あんまり説明してあげてなかったもんな」

    唯「そうだったかも」

    覚「源三郎くん、トヨちゃん。どんどんわからない言葉聞いて、唯をこき使ってくれな」

    源「こき使うなど」

    ト「おこがましいです」

    覚「いいんだよ。唯、良かったな~」

    唯「なにが」

    覚「スマホのお陰でたちどころに答えられるからさ、ウォーキングディクショナリーみたいになれるぞ」

    唯「なにそれ」

    覚「わからんか。わからなければ検索だ」

    唯「は?そんな言葉あるの?ウォーキン、グ、で?」

    覚「眉間にシワ寄ってるぞ」

    唯「えーやだー、お父さんが変なコト言うから!そんで?」

    覚「ディクショナリー。英語の授業でも、かなり早い段階で習ったはずだぞ」

    唯「うそだー、知らない」

    覚「知らない?うそだー」

    若「ハハハ。仲が良い」

    源「微笑ましいな」

    ト「うん」

    夕方。尊が帰宅。

    尊「ただいまー」

    覚「おー、今日は早かったな」

    尊「急いで返事しなくちゃと思って」

    若「おかえりなさい、尊」

    源&ト「おかえりなさいませ」

    唯「おかえりぃ。返事って、なんの?」

    尊「木村先生に、お姉ちゃん達今帰省してますって、昨日メールしといたんだ」

    唯「木村先生!そんで?」

    尊「さっき返信あってさ、もし都合が合えば会いたいって。兄さんにもね」

    唯「そうなの?!会いたい~!たーくんの日記の話も聞けるし」

    若「そうじゃな。わしも是非、お目通り願いたい」

    尊「年内なら、25日までは学校に出勤するって書いてあったけど、こちらが24も25も埋まってるもんね。23日位が妥当だと思ってたけど、どう?」

    唯「うん、その日は出かける予定もないし、いいよ」

    尊「わかった。早速、23日はいかがですかってメールするよ」

    もうすぐ晩ごはん。尊が二階から下りてきた。

    尊「お姉ちゃーん」

    唯「あ、先生から返事来た?」

    尊「うん。23日の夕方4時に、黒羽城公園近くのCafeMARGARETで待ち合わせにしたよ」

    唯「カフェ…あー、駅から公園行く通りの、角にある店ね。へー。なんでそこ?」

    尊「先生と会えた日、話をしたのがそこだったから。先生も通勤経路の途中だしさ。別に悪くないでしょう?」

    唯「うん、全然OK。いろいろありがとね、尊」

    尊「どういたしまして」

    若「先生をお待たせせぬよう、当日は早目に向かうとしよう」

    唯「そうだね。楽しみ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    19日のお話は、ここまでです。

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    失礼いたしました

    お邪魔致しました。
    また浮かびましたら書かせていただきます。

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    やさしさの風景4

    ナレ:坂口の中に抱いていた淡い恋心が蘇ったが、自分がこれまでにしてきた事の罪は消えないので、心根の優しいきよに会うことは出来ないと思っていた。
    母:「寿久、どうしました?」
    坂:「いえ」
    ナレ:自分の思いを遮るように首を振った。
    母:「あなたのその顔は、しばらく前に帰られたころとは違い、穏やかに見えますね」
    坂:「そうかもしれません。なにせ、守り神を見ましたから」
    母:「守り神とな?」
    坂:「さようです。ですが、もう会うことは無いかと」
    母:「さようですか」
    ナレ:久し振りに見た息子の表情が幼い頃、この家で過ごしていた時のように見えた母は、心の中でその守り神に感謝した。すると母親が立ち上がったので、
    坂:「母上?」
    母:「湯の支度をの」
    坂:「私が」
    母:「良いのですよ。誰かのために湯を沸かすことが嬉しいのです」
    坂:「母上」
    ナレ:母親は微笑み、風呂の支度の為に部屋を出て行った。その後姿を見ていて申し訳ない思いで胸が苦しくなった。風呂から上がり、仕立てたばかりの寝巻に袖を通し母の元へ。
    坂:「これは?」
    母:「あなたが、いつ戻られてもいいようにと用意をしておいたのです。ですが、袖も少し短いようですね」
    坂:「大丈夫です」
    母:「新たに仕立てましょうね」
    ナレ:母親の優しさに涙がこぼれ、袖で拭くと、
    母:「そのように袖で拭くとは、幼き子のようですね。ふふっ」
    坂:「母上」
    ナレ:坂口も子供のころを思い出し嬉しく思った。

    ナレ:坂口を見送り戻った如古坊が奥の部屋に行くと、みんなで白い布を襖に貼り付けているところだった。
    如:「何をしておるのだ?」
    唯:「楽しい事・・・でも、如古坊は驚くかな」
    ナレ:唯とじいが悪戯をする子のように笑った。
    如:「二人して何を企んでおるのだ」
    信:「まぁまぁ。如古坊も此処に」
    ナレ:信近が如古坊を座らせ、唯がまぼ兵くんのスイッチを入れた。光がスクリーンに見立てた布に当たり、集合写真が映し出され、如古坊は驚いてのけ反った。
    如:「な・・な・・な」
    ナレ:驚きで言葉が出ない。そのあとは水族館や家でのパーティー風景や日常の写真が映し出されていた。みんなはその時の感想を言いながら和気あいあいの中、目の前に起こる現実を飲み込むことも出来ずに如古坊は放心状態。スライドが終わったようで暗くなった。終わりかと思ったら今度は映像が。そこには覚、美香子、尊の姿。
    覚:『皆さんがこの映像を見ているということは、無事に戦国に戻られたのですね』
    美:『大丈夫よ、きっと皆さんで楽しんで見ていてくれてるわよ』
    覚:『そうだな。きっと、唯は若君の隣で見てるんだろうな』
    美:『そうね、若君、鬱陶しいと思ったら、はっきり言ってやってくださいね』
    尊:『若君は優しいから、それはしないんじゃない』
    覚:『そうだな』
    美:『短い間でしたが、とても楽しかったですよ。もっと色んな事を教えてあげたかったけれどね。残念ですが。でも、皆さんが喜んでくれていたと思っています』
    尊:『お姉ちゃんが、戦国で暮らせていけるのは若君をはじめ皆さんが居てくれるからだと思っています』
    覚:『そうだな、唯を皆さんに会わせてくれたこと神様に感謝しています』
    美:『それに、私たちに会わせてくれたこともね』
    覚:『神様もそうだけど、尊、お前にも感謝しているんだよ』
    美:『そうよ、楽しい時間を過ごさせてもらえたから』
    尊:『うん、厳密には未来の僕だけどね』
    ナレ:三人は三つ指を付き、
    覚:『どうかこれからも、唯の事をよろしくお願いします』
    ナレ:三人が頭を下げた。見ていた若君たちも同じように。何故かつられて如古坊も。そして映像が消えた。
    若:「まこと父上、母上、尊は唯を大切に思うておるのだな」
    吉:「さようですね。わたくしたちは唯を守らねばなりません」
    唯:「おふくろ様・・・でもさ、反論できないからって、鬱陶しいなんて、若君は思わないよね」
    若:「・・・さよう」
    唯:「何その間は・・・まっ、良いけど。でも、この映像は嬉しかった。私もみんなに会わせてくれた神様にも尊にも、みんなにも感謝してるわよ」
    ナレ:唯はみんなの前で三つ指を付き、
    唯:「これからもよろしくお願いします」
    ナレ:みんなも同じようにお辞儀をした。
    如:「のぉ、何が何やら」
    若:「そうじゃの」
    ナレ:若君は不思議体験を話し聞かせた。
    如:「はぁ・・・その様なことが・・・四百五十年後とな・・・まだ信じられぬが、唯が、この世の者ではないと申される事には合点がいくことも。忠清の傷も・・・そうか、そうか」
    ナレ:完全に納得はしていないが、見せられた写真は見たこともない姿だった。
    如:「先の世の者はあのような形(なり)でおるのか?」
    じい:「そうじゃよ。動きやすい、それに機械と申す便利な物がた~んとあるのじゃよ」
    ナレ:じいはテレビや餅つき機や車、電車の話を聞かせた。聞いている如古坊の表情が唯には頭に〔?〕マークが沢山浮かんでいるのだろうと想像して笑ってしまった。
    若:「唯?」
    唯:「何でもないです・・・フフッ」
    成:「阿湖にも見せてあげたい」
    唯:「大丈夫ですよ、何度も見ることが出来ますから」
    成:「さようか」
    ナレ:成之は嬉しそうに返事をした。いつの間にかその場から居なくなっていたじいがシャチのぬいぐるみを持ってきて如古坊に説明。その姿に、
    如:「楽しそうじゃの」
    じい:「あぁ、楽しいのでの。だがこれはやらんぞ、あはは」
    如:「わしもその場に居りたかったがの、あのような形や機械とやらを見てみたかったの」
    ナレ:如古坊の言葉に、
    じい:「如古坊、ちと」
    ナレ:じいは如古坊の腕を取り連れて行った。如古坊もみんなも、じいの行動が不思議だった。しばらくして戻って来た。じいの後ろから部屋に入ってきた如古坊を見て、唯は腹を抱え大笑い。若君たちも初めはこらえていたが笑い出した。
    如:「笑うでない!」
    ナレ:マジ怒りではなく困惑。如古坊はピンクのスウェットに金髪のカツラ姿。
    如:「信茂殿に無理矢理」
    若:「すまぬ。だが、よう似合うておるぞ、ふふっ」
    唯:「そうよ、その格好でコンビニ行っても違和感無いわよ。アハハ!」
    如:「笑うでない・・・ん、こんびに、なんじゃそれは?」
    唯:「お店よ、何でも売っている、便利な所よ・・・でも、じい、そのカツラ有ったっけ?」
    じい:「父上にの、ぱそこんとやらで買うてもろうたのだ」
    唯:「いつの間に・・・そうだったんだ・・・ちょっと良い?」
    ナレ:唯はカツラを取り、
    唯:「被せて良い?」
    ナレ:そう聞いていながら返事を待たず、若君に被せた。
    唯:「めっちゃ似合ってる。これ被った若君とのデートも良かったかも」
    若:「唯」
    ナレ:若君がカツラを取ると、
    唯:「迷惑だった?」
    若:「そうではない」
    ナレ:若君はそのカツラを成之に被せた。
    若:「兄上の方が似合うております」
    成:「忠清」
    唯:「ほんと、兄上さんも似合うね。こんな時カメラが有ったら、写して阿湖姫にも見せられたのに。残念」
    ナレ:その様子にじいがチョイ焼きもち。自分で被り、
    じい:「わしが一番、似合うておるぞ」
    唯:「はいはい」
    ナレ:そのみんなの和やかな姿を見て若君は、
    若(心の声):(父上、母上、尊、私はどの様な事になろうとも唯を守り通します)
    唯:「若君?」
    若:「ん」
    ナレ:若君はじいの楽しそうに話す姿をニコニコしながら、隣に座る唯の肩に優しく腕を回した。
    夕餉の後、若君が如古坊の側に。
    若:「唯の事もそうだが」
    如:「案ずるな。申したところで、信じるとは思えんがの」
    若:「そうじゃな。だが如古坊は」
    如:「まぁ、そうだな。だが、わしも、平成とやらに行ってみたかったのぉ」
    若:「如古坊」
    如:「だが、あの道具は大したものじゃのぉ。尊と申すその者が戦国の世に来ておったならばどうしたのだろうかと思うたがの」
    若:「尊は申しておった。たいむましんをこしらえたのも、己の思いを果たすためにと。だが、己が戦国時代に行くことは出来ないだろうとな」
    如:「唯が来た」
    若:「わしは唯で良かったと思うておる」
    如:「出会うてからか、ふふっ」
    若:「それもあるが、唯ほどのがっつは無いと思うと尊も申しておった。だが、わしは、尊も戦国で生きていけるほど強い者であると共に暮らしそう思うた」
    如:「がっつ?」
    若:「頑張るということだそうだ」
    如:「そうじゃの、唯にはがっつがあるからの」
    唯:「なになに二人してぇ」
    若:「なにも」
    唯:「ふ~ん。男同士の話ね。で、じいが花火やろうって」
    若:「花火?」
    唯:「二人で平成に行ったとき、ちょっとやったでしょ。で、じいの荷物がやたら大きかったでしょ。その中に残ってた花火と、またやろうと買っておいた花火を、掃除のときに見つけて、それを持って来たんだって」
    若:「冬の花火もきれいだと申しておったな。そうであったか」
    ナレ:唯が説明がてら最初に蝋燭の火に点けて見せた。あまりにも鮮やかな火花に皆が驚いた。それぞれに引火し楽しんでいた。終わりそうな頃に唯が桶に水を入れ持ってきた。
    源:「唯様?」
    唯:「花火の後片付けは、水の中に終わった花火を入れるのがルールよ。そのままにして火がちょっとでも残ってたら、それで火事になる場合もあるんだよ」
    吉:「その様な事になってはいけませんね」
    ナレ:みんなで後片付け。じいは名残惜しそうに見ていた。
    唯:「じい、もしかして、もっとあったらって思ってるの」
    じい:「そうじゃ、これほど美しいものだとは、この写真とやらでは計り知れないのだなと」
    ナレ:パッケージの写真を唯に見せた。
    唯:「そっか」
    ナレ:こればっかりはどうにもならないと、慰めるようにじいの肩に腕を回しみんなの後から部屋に入って行った。

    ナレ:翌朝、坂口は朝餉を母と仲良く食べた後に、
    坂:「では、私は、庭の手入れを致します」
    母:「無理はせぬとも」
    坂:「大事ございません。まだまだ、身体は鈍っておりません」
    ナレ:坂口は手入れを始め、それを縁側で母親が嬉しそうに見ていた。
    母:「父上もその様にしていましたね。あなたはそれを側で見ておりました」
    坂:「そうでした」
    ナレ:娘が野菜を入れた籠を抱え、庭に回って来た。
    き:「お邪魔致します」
    母:「まぁまぁ、おきよさん」
    坂:「えっ?」
    ナレ:坂口は驚いて低い台から落ちてしまった。
    き:「大事ございませんか?」
    坂:「だ・・・大事ございません。お主は、あのきよか?」
    き:「はい」
    ナレ:立ち上がった坂口の着衣についた泥を自分の手拭いで払っていた。
    坂:「かたじけない」
    き:「いいえ。お怪我は?」
    坂:「あぁ」

    ナレ:その光景を母親はニコニコ顔で見ていた。

    この先は皆様のご想像通りでありましょう

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    やさしさの風景3

    ナレ:翌朝、坂口と如古坊は黒羽を後にした。
    坂:「わしは何をしていおったのだろうか」
    如:「ん?」
    坂:「羽木を恨み高山を恨み、己の思いを果たすことだけが務めと思っておった。成之の誘いにも乗った。それも己の思惑のためにの。だが、今となっては、己は何をしたかったのだろうかと」
    如:「坂口殿の申したいことを成之も申しておった。わしを引き込んだことを詫びてくれた」
    坂:「そうであったか」
    如:「わしは、わしの石で成之の手助けをしておっただけだ、詫びることは無いとな」
    坂:「そうか・・・ふっ」
    如:「坂口殿?」
    坂:「悪巧みばかりで主とこうして穏やかに話すことは無かったと思うての」
    如:「そうだったの。ははは。坂口殿は気づいておろうか?」
    坂:「ん?」
    如:「唯之助は、唯と申して、おなごなのだ」
    坂:「えっ?」
    如:「気づいておらなんだか」
    坂:「あのように威勢の良い者がおなごとな」
    如:「信じられんがの、ははは」
    ナレ:坂口も笑った。その頃、疾風の世話をしながら唯が派手なクシャミ。
    若:「風邪か?」
    唯:「いいえ、どうせ、あの二人が悪口でも言ってるんでしょうよ」
    若:「さようか?」
    ナレ:悪口かどうかは分からないが若君も二人が唯の事を話しているのだろうと思っていた。すると疾風もひと鳴き。まるで笑っているように。
    唯:「もしかして、あんたも、そう思ってんのねぇ。もぉ」
    ナレ:若君は声をあげて笑った。唯は頬を膨らませ一人と一頭を睨んだ。しばらく行くと坂口が足を止めた。
    坂:「如古坊、此処でよい」
    如:「だが」
    坂:「お主も達者での」
    如:「そうか・・・お主も達者での」
    ナレ:坂口は如古坊に深々とい頭を下げ、そして振り返り歩いて行った。如古坊はしばらく後姿を見送り、
    如:「戻るとするか・・・忠清らに話を聞かねばの」
    ナレ:如古坊も坂口に背を向け黒羽へ向かい歩いて行った。

    ナレ:坂口はこの地に足を踏み入れるのは何年振りかも覚えていないほど経っていることに後悔の気持ちが。坂口家の門を抜けると庭は草で鬱蒼としていた。養父坂口又左衛門が生きていたころは庭の手入れをし、いつも整えられた庭だった。
    坂:「わしが、父上の代わりにせねばの」
    ナレ:木戸を抜け中へ入ると静まり返っていた。
    坂:「まさか!・・・母上!」
    ナレ:部屋を見て回ったが姿が見えない。
    坂:「母上」
    ナレ:肩を落とし、仏間に行くと仏壇の前で母親が横になっていた。
    坂:「母上!」
    ナレ:坂口は鼓動が早くなるのを感じた。母親のもとに駆け寄り、落胆でペタリと座った。すると横たわる母親の体がピクッと動いた。
    坂:「母上」
    ナレ:その声に母親は目を覚まし起き上がった。
    母:「寿久?」
    坂:「母上」
    ナレ:坂口はほっとして息を吐いた。母親は坂口の前で三つ指を付き、
    母:「おかえりなさいませ」
    坂:「はい」
    母:「腹は空いていませんか?」
    ナレ:思いがけない言葉に、坂口は嬉しさがこみ上げ涙を流した。
    母:「どうしたのですか? やはり腹が空いているのですね、今支度を」
    坂:「はい、空いております」
    ナレ:坂口は否定るのではなくそう言い、涙をぬぐっていた。

    ナレ:母は膳の支度をし坂口の前に置いた。
    母:「急のことゆえ、このような物で申し訳ない事です」
    坂:「いえ」
    ナレ:坂口は何年振りかの母の手料理を一口一口大事に口に運んだ。母は嬉しそうにその姿を見ていた。
    母:「寿久は父上に似てきましたね」
    坂:「ですが」
    母:「その食し方はあの方に似ております」
    坂:「さようですか・・・母上」
    母:「おかわりですね」
    坂:「いいえ、私が前触れもなく何故戻って来たのか。これまで何をしてきたのかをもお聞きにならないのですか?」
    母:「えぇ・・・こうして無事におる事、それだけで良いのです。寿久が何をしていたかなど、わたくしには無用の長物にすぎません」
    坂:「母上」
    母:「あなたが詫びなければならなぬ事があると申すなら、その思いを生涯忘れずにおる事では」
    坂:「母上・・・はい」
    ナレ:戻って良かったと思った。そして、床に伏せっていた姿を覚えていた坂口は、
    坂:「母上、お加減は?」
    母:「あなたの顔を見ましたら、病の事な忘れておりました」
    坂:「母上」
    母:「いつまで此処に?」
    坂:「もう、ここにこのまま・・・私は父上の大切にしていた庭を整える役目がございます」
    母:「さようですか」
    ナレ:母は微笑んだ。坂口は急に戻ってきたにもかかわらず、膳の品数の多さを不思議に思い尋ねた。
    母:「一昨年の春から、時々、野菜や魚を届けてくれる方がおるのです」
    坂:「さようですか。その方とは?」
    母:「覚えておられますか?川谷村のおきよさん」
    坂:「あっ、はい。覚えております」
    母:「村で我が家の仔細を聞いたそうです。そして案じて此処へ。それから何かとお世話をして下さるのですよ」
    坂:「さようですか」
    ナレ:きよは数年前に三下り半を出され戻っていた。そして、昔よく遊んだ男の子の事を思い出し訪ねてきたと。独りで暮らす母を心配して訪ねてくれるようになったと。
    坂:「さようでしたか」

    4へつづく

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    やさしさの風景2

    ナレ:坂口の周りを囲み、
    じい:「如古坊、何が遭ったのじゃ?」
    如:「阿湖姫が唯に渡したい品が有ると申されて、近道にと山へ入り、坂口殿を見つけての。そこへ唯が転げ落ちてきた」
    唯:「転げって、失礼な」
    若:「唯」
    唯:「は~い・・・で、如古坊」
    如:「そうであった」
    ナレ:如古坊が箱笈の中から手紙と巾着袋を出して唯に渡した。唯は先に手紙を手にしたが、
    唯:「若君お願い」
    ナレ:要は読めないのである。
    若:「ん・・・では」
    ナレ:若君は側に如古坊が居るがそのまま読んだ。
    若:「唯が足軽の支度をしている折に、尊殿に唯に渡してくれるようにと渡されたのです。尊殿に何故直に渡せはせぬのかと尋ねましたら、お姉ちゃんじゃ、どっかに落としそうだと申されて」
    唯:「別にそれは書かなくてもいいじゃん・・・阿湖姫ったらぁ、まぁ、そうだろうけど」
    若:「唯」
    唯:「ごめん」
    若:「尊殿は戦国の世でも使えるようにと。尊殿はまこと姉思いの良き殿方です」
    唯:「はいはい・・・で、なに?」
    ナレ:巾着袋を開け中身を出すと、便箋と形はまぼ兵くんと同じだが一回り小さい物とケーブルとUSBが入っていた。便箋を開いた。
    唯:「まぼ兵くんジュニアみたいで可愛い。で、何だろ・・・若君様、お姉ちゃん・・・若君が先」
    小:「唯、進まぬではないか」
    唯:「うん。僕の力でもタイムマシーンがこの先に使えるようになるかは分からない。でも、戦はこれからも続く。でも、まぼ兵くんもでんでん丸も電池切れになったらお姉ちゃんたちの力になれない。だから充電器をと考えた・・・へぇ、これが充電器ね。でも、コンセントは無いから、後ろのハンドルを回して手動式の充電器を作った。ケーブルを接続して充電できるようにした。まぼ兵くんのお尻の所と、でんでん丸の柄(つか)・・・ふり仮名ふってある。踏ん、それくらい読めるわよ、失礼ね。で、柄の所に差し込み口を作ってある。小平太さん」
    小:「あいわかった」
    ナレ:小平太はまぼ兵くんとでんでん丸を取りに行った。戻ってみんなの前に置いた。
    唯:「気づかなかったなぁ。尊はやっぱり天才だね。で、このまぼ兵くんに、このUSBを差し込むと・・・へぇ」
    じい:「唯、どうしたのじゃ?」
    唯:「これにね、ほら、みんなで撮った写真がスライドで見られるんだって」
    ナレ:USBを持った若君が、
    若:「このように小さき物の中に写真がとな」
    唯:「そうなんです。と、白い布を広げたところに映るように・・・テレビみたいに」
    ナレ:その言葉に皆は感心していた。ただ一人、話の内容が全く分からない如古坊を除いて。
    如:「のぉ、先ほどから、わしの分からぬ言葉ばかりで、頭が痛うなってきた」
    若:「すまぬ。そうであったな・・・如古坊には信じがたいことを私らは。どう申してよいかわからぬが、ゆるりと話すことにいたす。まずは、坂口殿の事じゃ」
    吉:「さようですね」
    ナレ:吉乃は唯が出した品物をひとまず巾着袋に仕舞い、でんでん丸の柄に結んだ。
    じい:「このようにすれば失くすことはあるまい」
    ナレ:じいは唯の顔を見てほくそ笑んだ。
    唯:「言いたいことは分かってるわよ。もぉ」
    ナレ:若君は頬を膨らます唯の肩に優しく手を掛けた。すると坂口がうめき声をあげ目を開け飛び起きた。
    坂:「あっ!痛っ!」
    若:「起き上がらなくとも」
    坂:「あっ」
    唯:「あっじゃなくて、かたじけないとか、助けてあげたんだから礼を言うのが道理じゃないのぉ」
    若:「唯、坂口殿は」
    唯:「もぉ、ほんと、若君は優しいんだから、自分の命を狙った奴なんだよ、こいつは」
    若:「であろうが」
    唯:「それに,熊も狙ってさ・・・あっ、分かった、あの時も、私を撃つように言ったのも、おっさんでしょ」
    ナレ:その言葉に坂口は黙った。
    唯:「やっぱり・・・痛かったんだからねぇ」
    小:「かすり傷程度であったぞ」
    唯:「そうだけど・・・そう言う事じゃなくて、こんな奴、山に置いてきてよかったんじゃないの」
    若:「唯!」
    ナレ:若君は怖い顔を見せた。
    唯:「わ~か~ぎ~みさまぁ」
    若:「そのようなことを申してはならぬ。唯がそのように申しては父上、母上が悲しむのだ」
    唯:「若君・・・ふ~」
    若:「わしや宗熊殿を案じてくれるその心はまことに嬉しく思うぞ。だが、その様に申しては」
    唯:「ごめん。でも、ほんと、許せないってことは分かってよね」
    若:「わかっておる。それにの、わしも宗熊殿も生きておるのだからの」
    唯:「そうだけど」
    ナレ:そう言いながら唯は坂口を睨みつけた。坂口は黙って頭を下げた。するとグゥと音が聞こえてきた。一斉に坂口を見た。
    吉:「では、支度を致します…唯、手伝いを」
    ナレ:嫌々席を立つ唯。若君が話を聞くと、唯が言っていた通りだった。若君は宗熊が怪我をしなかった理由を話した。それを聞いて坂口も如古坊も驚いた。
    坂:「さようか。高山宗熊殿は天に味方されておったのだな・・・それに引き換えわしは」
    ナレ:坂口がため息交じりに言った。吉乃が手際よく作り坂口の前に置いた。何日食べずにいたのかと思うくらいの勢いでペロリと平らげた。
    じい:「のぉ、ちと尋ねるが」
    坂:「何を?」
    じい:「主は何故、羽木を陥れようとしたのだ?」
    唯:「そうよ、ずっと不思議だったんだよね・・・先生は高山との戦いは話してたけど、熊の説明で理由が分かって、羽木のお殿様と高山の親熊の仲を裂いたその根源がおっさんだったんだってさ」
    坂:「お前」
    唯:「おまえ~」
    坂:「いや、そなたの申しておる事は分からぬが、わしの事をそこまで知っておったとは」
    唯:「まっ、いいじゃん。で、理由を話してよ」
    ナレ:坂口は目を閉じた。皆は黙って待っていた。そして、
    坂:「わしの生まれ在所は暮らし振りに難儀するような谷間であった。田畑もままならぬ所での、だが木を伐りくらしておった。幼き頃にいずれ夫婦にと誓っておった娘が居った」
    唯:「おませさん」
    吉:「唯」
    坂:「だが、わしが五つになった折に、村の長の口利きで子の居らぬ坂口家に引き取られたのだ」
    唯:「ふ~ん、そうなんだ」
    信:「唯」
    唯:「ごめん、続けて」
    坂:「その娘も奉公に出たと聞いた。羽木家への」
    若:「当家?」
    坂:「そうだ」
    じい:「もしや、川谷村の、おきよと申したおなご?」
    坂:「さよう」
    若:「じい?」
    ナレ:じいの説明では、若君の母が亡くなり小平太が側付になる前に、一時ばかり娘に若君の世話を頼んだ。じいがお気に入りの場所に連れて行き、遊んでいるときに三歳の若君が足を滑らせ水の中へ。娘が助けて難を逃れたが、娘が風邪を引いてしまいしばらく寝込んでいたが、娘は迷惑が掛かると村に戻った。
    若:「遠い記憶にあるような。だが、思い出せんの」
    唯:「しょうがないですよ。小さかったんだから・・・で、その娘さんは?」
    坂:「ん」
    唯:「まさか、その娘さんが・・・それが原因で。だから、おっさん、羽木を恨んで」
    ナレ:唯の言葉でみんなは娘が亡くなったのではと思った。
    坂:「お・・・お主、思い違いをしておるようだが」
    唯:「思い違い?」
    坂:「風の便りで聞いたのだが、きよは村で所帯を持ち、暮らしておる」
    唯:「んって紛らわしいよ」
    坂:「わしが申すまえにお主が」
    唯:「そうだけど・・・じゃぁ、恨む理由はないんじゃないの」
    坂:「坂口の父上も母上もわしを優しく迎え入れてくれての。わしも穏やかに暮らしておったが、近隣で戦が起こり、その戦で父上が亡くなったのだが、羽木勢に加勢していた父上が裏切られ命を落としたと聞いたのだ」
    小:「羽木に」
    坂:「あぁ・・・母上は悲しみのあまり病となり床に伏せってしまった。今も尚、無理は出来ずにおるのだ。そして、共に戦っておった羽木と高山に裏切られたと聞いたのだ」
    信:「誰がそのように申したのだ」
    坂:「誰でもよいではないか。話を聞こうにも行方が分からぬ。だが、父上が亡くなったのは紛れもない事実なのだ・・・あのお優しい父上を蔑ろにしたことが許せなくての」
    唯:「復讐って事ね・・・私はその場にいなかったから分からないけど、もしかして、おっさんはその告げ口した人に騙されてたんじゃないの」
    坂:「わしが?」
    唯:「そうよ。話を鵜呑みにして・・・私は、羽木も高山もそこまで悪い人たちじゃないと思うわよ。まぁ確かに戦はやっちゃいけないことだけど。授業で戦争の事を習っても、何そんな無駄なことしてんだろうっていつも思ってた。こっちに来て戦に出たことはあるけど、それはただ若君様をお守りするって事だけだった。その場にいたけど今でも、正直よくわかんない。でも、やっぱ戦争は駄目だよなぁって思う」
    坂:「わしはおま・・・そなたの申しておる事はやはり分からん」
    唯:「いいよ、分からなくても」
    若:「先の世も先の世で様々なことがあるのだとわしも存じておる」
    唯:「若君様」
    若:「だがの、わしは、ならばこの世でも戦の無い穏やかな暮らしが出来るのであればと」
    じい:「そうじゃの、あんなに便利で、様々な楽しいことがこの世でも出来るのであればとわしも思うぞ」
    ナレ:じいの言葉に皆は納得していたが、坂口と如古坊は顔を見合わせ首を傾げた。
    じい:「坂口殿はこれよりはどうなさる?」
    坂:「わしの居る場は無いからの」
    じい:「では、里にお戻られてはどうかの?」
    坂:「里?」
    じい:「そうじゃ。母御が居るであろう」
    坂:「あぁ」
    若:「私はそなたの母御に会うたことは無いが心根の優しいお方ではないかと思うのだが」
    唯:「若君、会ったこともない人だよ」
    若:「そうじゃの。そなたの母上が申しておった、子供がやんちゃをしてもどんな時も母は味方でおるとな」
    唯:「ふ~ん。でも、このおっさんとお母さんは」
    若:「であろうが、共に過ごした日々が母と子にしていると思うのだが」
    ナレ:じいが坂口の手を取り、
    じい:「そうじゃよ、顔を見せておあげなさい。さぷらいずで驚かせての。母御はお主が戻ったことを喜ぶであろうからの」
    坂:「さふ?」
    じい:「気にする出ない。ははは」
    唯:「じいったら。まっ、じいの言う通りよ。きっとお母さんも若君が言ったように思ってるわよ。若君も言ってたけど、出来の悪い子ほど可愛いっていうしね」
    ナレ:一斉に唯を見た。見られた唯は、
    唯:「私の事じゃないわよ。たとえ話よ・・・失礼な。で、おっさん、お母さんに会いに行きなよ」
    坂:「そ・・・そうじゃの」
    唯:「そうそう」
    坂:「なぜであろうか、お主らと早う会うておったならばと思うたが」
    唯:「私は無理よ、生まれてないし」
    ナレ:みんなはそうだろうなと思っていた。坂口と如古坊が考えていることとは違うが。
    成:「その気持ちよう分かります。ことにこの唯と早う出会うておったならばと思うことが」
    唯:「そんな褒めないでよ、照れるわよ」
    小:「褒めておるのはなかろうて、ははは」
    唯:「小平太さんの意地悪ぅ、若君様何か言ってぇ」
    ナレ:若君はニコニコしているだけ。
    じい:「むじな・・・唯はのぉ、わしらの守り神じゃよ」
    坂:「守り神?」
    じい:「そうじゃ」
    唯:「じい?」
    じい:「主もこの守り神に会うたことで良きことが起こるであろうの」
    唯:「買い被りよ」
    坂:「いいや、わしもその様に思うぞ」
    唯:「おっさん」
    坂:「お主らと話しておったら、わしも、母上に会いとうなった」
    ナレ:坂口は直ぐにでも発つと言ったが、もうすぐ日も暮れるから明朝にト吉乃の言葉で、
    坂:「かたじけない」
    若:「如古坊、頼みがある」
    如:「は?」
    若:「途中まで坂口殿を送ってはくれまいか?」
    如:「わかった」
    ナレ:如古坊は若君の頼みを聞き入れた。

    3につづく

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    やさしさの風景1

    ナレ:平成から戻った唯たち。永禄に戻るとすぐに相賀たちが若君を連れ戻しに来たが、うまい具合に退散させた。退散した相賀は宗鶴に援軍を頼みに行き、羽木を襲う前に宗熊に阻止された。その頃、援軍を呼びに成之たちは急ぎ戻り、忠高に報告し、速やかに支度をし黒羽へ向かった。宗熊はこのままではいけないと宗鶴と忠高を会わせることを考え文を託した。唯の説得で緑合に戻った阿湖姫は成之たちを見送った後、疲れが出たのか寝込んでしまった。緑合にそのまま残った如古坊が三之助と孫四郎の剣の稽古をしているところへ阿湖姫がやって来た。如古坊にも元気がないことが見て取れた。

    如:「阿湖殿、お加減はもうよろしいのですか?」
    阿:「はい、それは、もう・・・はぁ」
    如:「阿湖殿?」
    阿:「わたくしとしたことが、どう致しましょうか?」
    如:「わしに尋ねられてものぉ。どうされたのです?」
    阿:「唯の預かり品を忘れており、成之様に託すことも忘れてしまいました」
    如:「唯の?」
    阿:「さようです・・・どう致しましょうか?」
    如:「ん~」
    阿:「・・・はぁ」
    ナレ:その落ち込み様に同情した如古坊は、
    如:「承知しました。わし・・・私が唯に届けます」
    阿:「まことか?」
    如:「はい」
    阿:「良いのですか、そのような頼みごとを」
    如:「構いません・・・で、その品とは?」
    阿:「ただいまここへ」
    如:「では支度をし、待っております。三之助、孫四郎」
    ナレ:二人の前に立ち、
    如:「わしは阿湖殿の使いで黒羽に参る。阿湖殿や母上様の事は頼んだぞ」
    ナレ:二人は揃って大きな声で返事をした。
    如:「頼もしいのぉ」
    ナレ:二人の頭を優しく撫でた。阿湖姫がスパンコールの付いた巾着袋を渡した。
    如:「これは何ですか?見たこともない飾りですな」
    阿:「すぱんこおると申す品です」
    如:「すぱ?・・・何処ぞでこのような?」
    阿:「まぁ、良いではないか」
    如:「はぁ?」
    阿:「この文とこの袋を渡してください」
    如:「承知しました」
    阿:「頼みます」
    ナレ:如古坊は預かった巾着袋と手紙を箱笈に入れて黒羽へ。

    ナレ:若君は、宗熊の文に書いたある父親同士の待ち合わせ場所を確認しに行こうと支度をしていた。
    唯:「若君、出掛けるんですか?」
    若:「ん。その場を見ておこうと思うての」
    ナレ:唯は空に黒い雲が立ち込めているのを見て、
    唯:「でも、天気悪くなりそうですよ。雨でも降るんじゃないですか」
    ナレ:若君も見上げ、
    若:「その様じゃの・・・明日にするか」
    唯:「そうですよ。明日お供します」
    若:「唯?」
    唯:「いつ、あののっぺり顔のあいつが攻めてくるか分からないから、身体が鈍らないように」
    若:「そうか」
    ナレ:奥から、小平太が呼んだので二人は中へ。

    ナレ:翌日の昼過ぎに、雨の心配はないようだからと、若君は疾風にまたがり、唯はいつものように後ろをついて走り出した。しばらく走り、唯は足を滑らせ脇から滑り落ちてしまった。唯の叫び声に振り向いたが姿が見えない。
    若:「唯!」
    ナレ:戻って辺りを見回した。
    若:「何処ぞに?」
    ナレ:草が生い茂っているので姿が見えない。唯は滑り落ち、
    唯:「いた~・・・ん?」
    ナレ:目の前に見覚えある男。
    唯:「如古坊!・・・なんで」
    如:「お前こそ」
    唯:「えっ?・・・まさか!」
    ナレ:横たわる男を見て驚きの声を上げた。
    如:「わしではない・・・いや、生きておる!」
    唯:「あっそっ」
    如:「信じておらぬのか」
    唯:「信じてますってぇ」
    ナレ:男がうめき声をあげ向けた顔を見て唯はまた驚いた。
    唯:「あっ、こいつぅ」
    如:「そうじゃ」
    唯:「なんで?」
    如:「わしにも分らぬ」
    ナレ:上にいる若君にも話し声が聞こえたので、草をかき分け下りてきた。
    若:「唯、大事ないか・・・如古坊?」
    ナレ:如古坊は頷いた。
    若:「唯、怪我は?」
    唯:「大丈夫です」
    若:「そうか。して、この者はどうしたのじゃ?」
    唯:「この男、坂口のおっさんだよ」
    若:「坂口・・・あぁ」
    唯:「ってか、若君このおっさんの顔知らなかったの?」
    若:「ん」
    唯:「どうして?・・・吉田上に居ましたよ」
    若:「その折は、別の者に会うたのでな」
    唯:「そうなんだ。顔を見られないようにしてたのかなぁ」
    若:「わしには分らぬ…して、何故このような所に」
    唯:「ねぇ、若君、ほらっ、熊が襲われたでしょ」
    若:「ん」
    唯:「で、その場から逃げてて、こんな目に遭ったんじゃないの?」
    若:「であろうの」
    ナレ:二人の会話が分からない如古坊は、
    如:「何が遭ったというのだ?」
    若:「後程の・・・しかし何故、如古坊が此処におるのだ?」
    唯:「そうよ」
    如:「わしは阿湖姫に、お主、唯に渡す品が有ったと申されての、届に来たのだ」
    唯:「そうだったんだありがと。で、何を?」
    若:「唯、戻ってからでよいではないか。この者を連れて戻るぞ」
    唯:「え~!・・・若君の命を狙った奴をなんでぇ」
    若:「唯、そのようなことをも申してはならぬぞ」
    唯:「え~・・・ん」
    ナレ:その言葉に如古坊がうな垂れたのが見えた唯は、
    唯:「あっ、いや、そう言う事じゃないから・・・気にしないで」
    如:「まぁ、しかたない事であるからな」
    若:「そうじゃ、気にするでないぞ。如古坊、手を貸してくれ」
    如:「わかった。唯、これを頼む」
    唯:「はぁい」
    ナレ:唯は腑に落ちない顔をしながら荷物を預かり、若君は脇を抱え、如古坊と上まで上がり疾風に乗せ落ちないように支えながら黒羽城へ戻った。宇やはり唯は納得できないでいた。

    ナレ:城へ戻ると唯がひとを呼びに。じいはぐったりしている坂口を見て驚いた。
    じい:「えっ、坂口殿、如何した?」
    若:「話は後じゃ」
    吉:「では、床の支度を。唯、手伝っておくれ」
    唯:「はぁい」
    ナレ:渋々、吉乃と部屋を戻り布団の用意を。
    吉:「唯?」
    唯:「まぁ、罰が当たったんでしょうよ」
    吉:「罰?」
    唯:「熊が襲われたって、で、あいつは逃げてる途中で転んで気を失ったって事じゃないかな」
    吉:「さようか」
    唯:「それをほっときゃいいってのに、若君はひとがいいんだから」
    吉:「唯、唯はそのように優しくできる若君様にらぶなのであろう」
    唯:「えっ、ラブって」
    吉:「母上様に教えてもらいました」
    唯:「お母さんは、おふくろ様に何教えてんだか。はぁ」
    ナレ:そこへ小平太が背負い部屋に来て寝かせ、足の傷に薬草を塗り手当をした。それを不機嫌な顔で唯が見ていた。

    2へつづく

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    四人の現代Days28~19日木曜7時、てんこ盛りです

    年末年始くらい、ねぇ。甘いかな?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝ごはん。

    覚「ここで、これからの予定を発表しておく」

    美香子「今既に決まってるのをね」

    唯「予定?」

    尊「どこか行ったりするの?」

    覚「明日も含めて、金曜は忠清くんの料理の日にしたい。忠清くん、それでいい?」

    若君「勿論です。またご指南をお願いいたします」

    覚「明日は、日曜の分の買い出しもするから」

    唯「わかったー」

    美「明後日21日土曜は、午後私とトヨちゃんと唯で美容院ね」

    トヨ「はい。よろしくお願いいたします」

    覚「で、22日日曜の昼はバーベキュー」

    唯「楽しみぃ」

    覚「唯、クリスマスデートだが、24日なんだろ?晩ごはんには間に合うように帰ってくるんだよな?」

    唯「たーくん、帰りはそのくらいだよね?」

    若「はい。戌の初刻、7時には戻るように致します」

    尊「思ったより早いね。いいの?」

    唯「5時でももう暗いから、イルミネーションはキレイに見えるからいいの」

    覚「よし。その日の夜は、クリスマスパーティーやるからな」

    唯&尊「やったー!」

    若「それは楽しみじゃ」

    唯「え、でも、25日だったら水曜でお母さん休みなのに、イブでいいの?」

    美「25日はね~、夜みんなでテーマパークに、本格的なイルミネーション観に行こうと思ってるのよ」

    唯「うわぁ、マジで?!ゴージャスぅ~」

    尊「すげぇ。二日間、がっつりクリスマスだ」

    若「昨年参った地と同じですか?」

    美「違うのよ。だから楽しみにしててね」

    若「それはまた。源三郎、トヨ」

    源三郎&トヨ「はい」

    若「話がさっぱり見えぬであろうが」

    源三郎「いえ。唯様が楽しみにされておる所以は、朧気ながらわかりました」

    ト「クリスマス、が待ち遠しくなりました」

    覚「で、28日土曜の昼は、芳江さんエリさんを囲んで忘年会な」

    尊「あ、僕も言っとく。冬休みは、24日から6日までだよ」

    ト「お休み。学校、がですか?」

    尊「そうなんですよ」

    源「共に過ごせると。それは大変喜ばしい」

    ト「嬉しいです。また楽しみが増えました」

    尊「わー、感激。その時期はお二人と過ごせるよう、勉強も休み休みにしようかな?」

    美「まぁ、ほどほどにね」

    覚「後悔しない程度にな」

    尊「あ、いいんだ。やったっ」

    覚「まだまだ続くぞ。29日日曜にまず家の大掃除、クリニックは31日から5日まで休診だから、大晦日に外回りを大掃除だ」

    ト「掃除ですね。腕が鳴ります」

    美「それで、大晦日の夜は」

    唯「初詣に行く?」

    美「その前に」

    尊「前?」

    美「カウントダウンイベントに行くわよ。花火上がるアレ。初めてだから、楽しみだわ~」

    若「花火ですか。あの夜空を彩る美麗さを、再び観られるとは」

    唯&尊「…」

    若「二人とも、いかがした?」

    尊「あまりにも画期的な年越しで」

    唯「びっくりした。え、あのテレビで宣伝してる、遊園地でやるヤツだよね。入るのにチケット要るんじゃないの?」

    覚「7枚ゲット済みだ」

    唯「すごーい!やるぅ!」

    美「でね」

    唯「あとはなに?」

    美「5日日曜は、恒例の場所に」

    尊「恒例…わかった、写真館じゃない?」

    美「当たり~」

    尊「よく予約取れたね?だって成人式間近で日曜なのに」

    美「そこは、お得意様だから」

    唯「お得意様。確かに、冬、夏、冬、こんなにしょっちゅう行く家族は他にないよね」

    美「源三郎くん、トヨちゃん、一緒に家族写真、撮りましょうね」

    源「家族…」

    ト「まぁ…」

    尊「予定、今のところそれだけ?」

    覚「そうだな」

    尊「僕そろそろ支度しないと。ごちそうさま。歯磨きしてくる」

    美「ホントはね~、温泉旅行とか行きたかったけど、尊が大事な時期だから」

    唯「いいよ、また今度行けばさー。尊、よろしくっ」

    尊「今度って簡単に言うなよ。でもさ、今温泉に入りたいなら、近場のあそこ行けばいいじゃない」

    美「どこよ」

    尊「スーパー銭湯。前みんなで行った、岩盤浴ができる。あそこ、掘ってみたら温泉出たって所だよ」

    唯「えー、そうなの?!」

    美「そうだったっけ?ってもう居ない」

    覚「じゃあまた、皆で行くか」

    ト「スーパーですか?」

    若「買い物をするスーパーとは違うて、広い風呂があり、石に横たわると体の芯から熱うなる」

    源「風呂があり、石が熱いのですか?」

    ト「まさか、湯でなく血の池とか」

    唯「だから地獄じゃないってば」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days27~18日17時、時速何キロ?

    どう生きてるかなんて、長さじゃないでしょ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    引き続きリビング。

    美香子「ふう。あ、じゃあ熱心に読書中悪いけど、そろそろ片付けて、出かける準備してくれる?」

    唯「出かける?」

    若君「わかりました」

    源三郎&トヨ「はい」

    覚「この後車2台で移動するから。途中で、学校帰りの尊を拾う」

    唯「ってコトは、晩ごはんはどっか食べに行くの?」

    覚「回転寿司に行くぞ」

    唯「おーっ、やったぁ」

    若「良いですね」

    源&ト「回転、寿司…」

    唯「たーくんの時とおんなじ反応してる」

    若「知らねばそうもなろう」

    源三郎「あの、回転寿司とはどのような」

    若「酢入りの飯に魚の切り身が乗った皿が、早う食せと自らぐるりと練り歩く」

    源「練り歩く…」

    若「これぞと注文した皿は、早馬で駆けて参る」

    唯「わかりにくいと思うけど、説明は合ってるんだよ」

    トヨ「早馬…そうですか」

    覚「刺身もまだ食事に出してなかったし、想像つかないよな」

    美「大丈夫よ。行けばわかるからね」

    源&ト「はい」

    全員でお出かけ。途中、尊を拾った。

    覚「お帰り」

    唯「おかえりー」

    若「おかえりなさい」

    尊「お迎えありがとう」

    唯「ねっねっ、クラスメートって、女子?それとも、女子?」

    尊「なんで女子を二回言う。女子も男子も居たよ」

    唯「へー、何しゃべってたの」

    尊「大学決まったら何がしたいかとか。まずはみんな遊びたいって言ってたな」

    唯「尊は?」

    尊「僕?」

    唯「え、一緒に遊ぶんじゃないの?」

    尊「あー、そうだね。色々誘われた」

    覚「おおっ!そうかそうか」

    尊「いつまでも殻に閉じこもってちゃいけないかなって。昔ほどヒトが怖くなくなったし」

    唯「昔って~。大して生きてないのにさ」

    尊「大して生きてないのはお姉ちゃんも同じじゃない。なんだよ」

    唯「なによー」

    覚「はいはい、そこまでだ。店に着いたぞ」

    全部で7人の為、テーブルが2席に分かれた。

    美「4人と3人ね」

    尊「食い意地女王がもう座ってるし」

    唯「トヨ~こっちこっち!隣に来て」

    ト「良いのですか?私で」

    唯「いろいろ教えたげるよ」

    ト「ありがとうございます」

    尊「あ、僕大きいリュックあるから、3人の方で」

    若「ならば源三郎、尊に教えを乞うとしよう」

    源「はっ」

    覚「って事は」

    美「お父さん、美女に囲まれてハーレム状態ね。おめでとう」

    覚「おほー」

    唯テーブル。タッチパネル操作中。

    唯「では注文~」

    ト「確かに皿が練り歩いております。こんなに沢山の食事が、あれもこれも」

    美「そうね」

    ト「なんて、なんてありがたいのでしょう」

    レーンに向かい、手を合わせて拝んだトヨ。

    美「この現代の生活に、私達も感謝しなくちゃね」

    覚「あぁ」

    尊テーブル。注文した皿がやってきた。

    源「ヒッ」

    若「早馬が参ったのう」

    源「いつの間にやら目の前に。唯様並みの速さでございました」

    尊「姉は速さの基準なんだ。取りますね」

    若「ハハハ」

    源「いただきます。ん、これは美味い」

    若「ところで尊」

    尊「はい?」

    若「ちと知恵を拝借しとうての」

    尊「えー何ですか?」

    若「細工をせず、残った花なのじゃが」

    尊「あー、レジンアクセサリーのですか。大きい花は全部残ってますね」

    若「折角、元の美しさそのままであるし、どう生かすのが良いかと」

    尊「ん~。そうですね。考えますね。あ、お姉ちゃんには内緒にしたいとか?」

    若「いや。知れても構わぬ」

    尊「わかりました」

    唯テーブル。

    覚「トヨちゃん、遠慮せず食べてな」

    ト「はい!」

    美「唯~あなたは少しペースを落としなさい」

    唯「えー」

    ト「ふふっ」

    それぞれのテーブルで、食事は和やかに進みました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    18日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days26~18日水曜10時、ステップアップ

    残り少ない高校生活が、彩られていく。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝ごはん中にトヨから、髪を切る決意表明がなされていた。

    覚「こんな風に、切る前に少しずつ束にして結んでおくんだな。切った時落ちてバラけないように」

    若君「ふむ」

    唯「へー」

    覚「見える?写真、大きくするよ」

    トヨ「まあっ!」

    源三郎「指を開くだけで伸びるとは!」

    ヘアドネーションの勉強中。覚のタブレットに、四人が群がっている。美香子がリビングに戻って来た。

    美香子「あらま。お父さん、大人気ね」

    覚「へへ、いいだろ?美容院の予約、取れたか?」

    美「うん。トヨちゃん、土曜の3時になったわ。三日後よ。私の車で乗せてくわね」

    ト「お母さん、ありがとうございます」

    美「唯」

    唯「ん~?」

    美「当日、あなたもついてきて」

    唯「いいの?」

    美「切ってる様子を、写真撮ってあげて欲しいの。お店には、三人でお邪魔させてくださいって伝えてある」

    唯「わかったー。トヨ、私にまかせてねっ」

    ト「まぁ…見届けていただけるなんて、嬉しい」

    午後。食卓に、尊から借りた図鑑の類が堆く積まれ、若君と源トヨは読書大会となっている。

    唯「静かすぎる。しかも、たーくんに根っこが生えて動かない」

    美「思った通り、放って置かれてるわね」

    唯「本にたーくんを取られた~!」

    若「唯も共に読めば良いではないか」

    唯「勉強なんて、しなくて済むならしたくないもん」

    美「それは、ある程度やってる子のセリフだけど」

    源「忠清様は、これまで尊殿に書物を借りるなどされていなかったのですか?」

    若「こちらの世に参った当初は、尊と寝所を共にしておったゆえ、尊が明かりを点けておる時分は、わしもよう読んでおった」

    美「寝にくかった?ごめんなさいね」

    覚「その頃の予備室は、とても客を招けない程、物置状態だったからなぁ」

    若「いえ。尊が、わからぬ言葉があれば、すぐに声をかけるようにと申しておりましたし」

    唯「意外と優しいな」

    美「質問に答えれば、自分でも復習したのと同じだもの」

    若「読み始めた頃は、矢継ぎ早に問うておりましたが」

    美「いいのよ。頭の中のいろんな引き出し開けるお手伝いで、結果尊の為になってたわよ」

    若「ならば良いのですが。あの、尊と共に過ごした夜は、全てが新しく大変満ち足りておりました」

    唯が、急にしかめっ面になっている。

    唯「あー。ってコトはー、今の部屋割はご不満なんだ?あっそう、ふーん」

    若「何をふくれておる」

    唯「だってぇ。尊と一緒の方がいいんじゃないの?戻りますかぁ?」

    美「唯~、そんな言い掛かりつけたりしないの」

    若「…良いか、唯」

    隣に座る唯の側に、向き直る若君。

    若「傍らの、唯が眠る姿を見ずして一日は終わらぬ」

    唯「ホント?ホントにそう思ってる?」

    若「まことじゃ」

    唯「…えへっ」

    笑顔になり、椅子を寄せて若君に体をくっつけた唯。

    唯「ならば許すぅ」

    若「ハハハ」

    覚「そうか」

    美「何?」

    覚「だからあの古文書さ、あんな情熱的な文章になったんだな」

    美「なるほどね。唯は、忠清くんのパワーの源なのね」

    騒ぎをよそに、静かに読み耽っている源トヨ。

    美「あんまりしゃべってると迷惑ね」

    ページをめくるトヨの手元を、じっと見ていた美香子。

    美「…あ」

    覚「何だ?」

    美「ちょっと薬局で買い物してくる」

    覚「おー、そうか。じゃあさ、ボディーソープの詰め替えも買っといてくれないか」

    美「了解。行ってきます」

    ほどなく帰宅した美香子。

    美「はい、これ詰め替えね」

    覚「早かったな」

    美「出たついでに、尊が帰ってくる時間に合わせて駅で拾ってあげようと思って、LINEしといたのよ。そしたら、まだ学校に居るから今から出るって返事が来たから、一旦帰って来たんだけど…お父さん、あの子、放課後何してたと思う?」

    覚「んー、先生に質問してたとか?」

    美「クラスメートとおしゃべりしてたらしいの」

    覚「クラスメートと、おしゃべり!」

    唯「え?マジで?!」

    美「もう私、嬉しくって」

    覚「そうか、そうか…」

    源トヨが、両親の反応に驚いている。

    ト「え、どうなさったのですか?!」

    源「お二人共、涙ぐんでおられる…」

    美「ごめんね、何でもないのよ」

    覚「びっくりさせちゃったね」

    唯「友達ができただけで、こんなに感動されるのはヤツくらいだよ~」

    若「そう申す唯も目が潤んでおる。得も言われぬ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days25~17日22時、懐が深い

    カマアイナ様。心待ちにしてくださり、いつもありがとうございます。

    毎日投稿ではなく一日おきですと、倍の日数かけて楽しめますよ?ふっふっふ(^ω-)

    それは半分冗談で、投稿直前まで推敲を繰り返すもんですから、お話のストックはありますが、読み返し再考する時間はやはり要りまして。ゆるーいお話なので、ゆるりとお待ちいただけると幸いです。今後もよろしくお付き合いくださいませ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    速川クリニックを訪れる患者が多い理由。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    引き続き、おしゃべり中の三人。

    美香子「ずっと代々、近習を務めてきたの?」

    源三郎「千原家の筋としてです。赤井家としては、父の代から務めております」

    美「そうなのね。じゃあいずれ、誰かに継いでもらわなきゃね」

    源「は、はい…」

    美「まぁ、それも含めてだけど、ゆっくりじっくり考えればいいんじゃない?あなたの人生だもの」

    源「自分の中では、 大分考えがまとまって参りました」

    トヨ「…」

    美「あら、そうなの!それって、お父さんに相談したから?」

    ト「えっ、お父さんとお話を?」

    源「あぁ。じっくりと様々な話を聞いていただいた。お陰で、随分と気が楽になりました」

    美「それは良かったわ。ウチのお父さん、人の話聞くの上手だから」

    源「何を話したかは、ご存じないのですか?てっきり聞かれておられるかと」

    美「うん、知らない。妻にも口外なんてしないわよ。それがお父さんのイイ所なの」

    ト「素敵ですね」

    源「それは、とんだご無礼を働いてしまいました…お父さんに詫びねば」

    美「そんなの気にしなくていいわよ。それでね、たまには忠清くんにも話をしてあげて欲しいの。さっき、あなたの顔をすごく心配そうに見てたから。仕える身としては難しいかもしれないけれど」

    源「そうでしたか。全く気づいておりませんでした。機会を見て、話をさせていただきます」

    美「そうしてね。トヨちゃん」

    ト「はい」

    美「目の前が、明るくなった感じ?」

    ト「えっ。…だと良いのですが」

    源「…」

    ト「あの、お母さん、尊敬致します。勿論お父さんも尊敬しております」

    源「わたくしも、心からそう思うております」

    ト「お母さんは、体だけでなく、心も診ていらっしゃるのでは?お話してて、とても安心できます」

    美「あら、嬉しい事言ってくれるわね」

    ト「お話してるだけで、薬は要らないのでは」

    美「うふふ。そう言えば唯のお友達でね、ちょくちょくお腹こわしては診察に来てた男の子が居たんだけど」

    ト「友で男の子。はい」

    美「病は気からよ!って背中叩いて送り出したら、ピタっと来なくなってね」

    ト「まさか…他の院に行ったとか」

    美「そこは、頭のいい子だったから、ちゃんと気持ちを切り替えたらしいの。下す事もなくなったらしく、後日ばったり会った時に感謝されたわ」

    ト「さすがお母さん。人を見てそうされたのですね」

    美「でね、そのばったり会った時、唯も忠清くんも一緒に居たんだけど、唯がその子とあまりにも親しくしゃべるもんだから、忠清くんが嫉妬しちゃってね」

    ト「まあ」

    源「なんと」

    美「あの時の忠清くん、もう可愛くて仕方なかったわ。これ、内緒にしといてね」

    源「それはそれは。貴重なお話を、ありがとうございました」

    ト「私も見たかった…」

    源「おいおい」

    話が弾んでいたが、

    美「大分遅くなったわね。みんな心配してるかも。そろそろ戻りましょうか」

    源「あの」

    美「なぁに?」

    源「わたくしも、こちらの世に居る内に、出来る限り学びたいと思うのですが」

    美「例えば?」

    源「トヨのように、書物を読むなど」

    美「んー。ウチで一番本があるのは、尊の部屋ね」

    源「そうですか」

    美「図鑑…えーと、写真や絵で説明する本なんか、かなりある。言えば何でも快く貸すと思うわよ」

    源「わたくしがお借りして、使いたい時分に手元にない、と困られませんでしょうか?」

    美「大丈夫。ほとんど頭に入ってるんじゃないかな」

    ト「えっ、凄い」

    源「なるほど。それが故の、タイムマシン、なのですね」

    美「そうね。じゃ、行きましょ」

    リビングに戻った三人。

    覚「おー、お帰り」

    美「ただいま。あれ、唯は?」

    若君「眠いと申すので、先に寝かせました」

    美「あらそう」

    源「尊殿」

    尊「はい?」

    源「尊殿の居室には、蔵書が多数あると伺いました。お借りする事は出来るでしょうか?」

    尊「あ、そうなんだ。いいですよ、なら今から見てみますか?」

    源「良いのですか?折角お寛ぎになられているのに」

    尊「全然。大歓迎ですよ」

    ト「あ、あの、私もお供させてください」

    尊「どーぞどーぞ。じゃ、行きましょう」

    二階に上がって行った三人。

    美「お兄ちゃんもお姉ちゃんももう一人増えて、嬉しいのね」

    若「そうですね。お母さん、どのような術をお使いになられたのですか?」

    美「え?術?」

    若「源三郎の顔つきが、何か吹っ切れたような晴れやかさでございました」

    覚「おっ、いよいよ一歩進むのか?!」

    美「そんな感じはしたわね。私は何もしてないわよ?」

    若「さすがお母さんじゃ」

    美「だから違うってば~」

    覚「まあまあ、温かいお茶でも飲みな」

    若「ハハハ」

    夜はゆっくり更けてゆきました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    嫉妬する若君は、この板no.597、598にて。

    17日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days24~17日21時、郷に入っては

    トヨ達でもわかる言葉に置き換えるのは、中々難しい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    晩ごはん後。

    美香子「じゃ、トヨちゃん」

    トヨ「はい」

    美「向こうで、資料見せながら話すわね」

    ト「はい!よろしくお願い致します」

    覚「コーヒー淹れたよ。持ってきな」

    美「ありがとう。じゃあ三人分ください」

    覚「了解~」

    美「源三郎くん、あなたも一緒にいらっしゃい」

    源三郎「はっ、はい。わかりました」

    ト「源ちゃんもですか」

    美「嫌?」

    ト「いえ」

    唯「秘密会議?」

    美「今はまだ内緒にしとくわ」

    唯「ふーん」

    尊「ふーん。行ってらっしゃい」

    リビングを出ていった三人。

    唯「なんだろね」

    覚「さあ」

    尊「源三郎さんの様子がおかしかったよね」

    若君「うむ。トヨが楽しげに話す横で、暗い顔をしておった」

    唯「悩みを聞く感じ?」

    尊「誰のだよ。お母さん、トヨさんとメインで話すみたいだったよ?」

    若「じきに、つまびらかになるのであろうが」

    クリニックの事務室。

    美「さて。ではトヨちゃんが見てた、ヘアドネーションの活動について説明します」

    ト「そのような名なのですね。所々読めなくて」

    美「髪が生まれつき生えなかったり、病気などで失ってしまう子供達がいます」

    源三郎&トヨ「はい」

    美「でも、髪はあるのが当たり前、ないのは不自然だという考え方が主流。髪がないというだけで、負い目を感じたり生活しづらいなんてあってはならないけれど、見た目がほんの少し違うだけでそれも個性なのに、そんな子供達をすんなり受け入れる時代には、この令和でも、残念ながらまだなってない。その姿にどうしても身構えてしまうし、そんな反応を敏感に感じ取り、心傷つく子達も多い」

    源&ト「…」

    美「ならばそんな子達が辛くならないように、寄付…皆が切った髪を集めて、かつら…頭にかぶせて髪があるように見せる物ね。人毛だから、より感触も自然だし。それを作り、贈るという活動です」

    源&ト「はい」

    美「切った髪ならどんな長さでもいい訳じゃなくて、最低31センチ以上、あなた達がわかる単位だと、一尺とちょっと、必ず要るの」

    源「一尺…」

    ト「もっと長くても良いのですね?」

    美「そうではあるけれど。あなたがやろうと思ってくれてるなら、バッサリ長く切るのではなく、できるだけ最低限にしておきたいわ」

    ト「それはどうしてですか?」

    美「私の居るこの令和の時代とは違って、永禄では長く豊かな黒髪こそが女性の美しさを示すでしょう?」

    ト「それはそうですが、私は姫君ではありませんので、いつもある程度の長さで留めております」

    美「でも、急に短くなったら周りが驚くでしょう」

    ト「誰も女中の髪など、気には致しません」

    美「そうなの?源三郎くん」

    源「…あの」

    美「はい」

    源「その、最低限の長さで切り落とすと、トヨの髪はどれ程の長さが残るのでしょうか」

    美「いい質問ね。じゃあ、測ってみましょ」

    用意しておいたメジャーをトヨの髪に当てる。

    美「例えば35センチ切ると、このくらいね」

    背中のその位置に、水平に手を置いた美香子。

    ト「あぁ、ちょうどこの下着の辺りですね」

    美「そうね。ブラの線くらい」

    源「?」

    美「どう?源三郎くん」

    源「…その位であれば、周りもそこまでは驚かぬと思います」

    美「そう。貴重な意見ありがとう」

    ト「お母さん。私が何故そうしたいか、聞いていただけますか?」

    美「勿論よ。先にそうすべきだったけど、内容を理解してからと思って。順番が逆でごめんなさいね」

    ト「いえ、謝っていただくなど畏れ多いです。まず、私めの髪で苦しんでいる子供達を救えるなんて、とても光栄です」

    美「め、は余分だけど。こんなに綺麗な髪の持ち主なのに。まず、って事は、他に理由があるのね?」

    ト「はい。この令和に参ってから、幾度かこの世の人々を見ておりますが、私程の長い髪のお方には未だお会いしておりません」

    美「そうね、主流ではないわ。もし居るとしたら、この寄付に向けて髪を伸ばされている方かもしれない。勿論全員がそうではないわよ」

    ト「私、忠清様唯様が呼んでくださったこの令和の世を、心ゆくまで楽しみたいんです。居る間は、できるだけ溶け込みたくて」

    美「そうなの。髪が短めの方が、馴染むと思った?」

    ト「はい。戦に怯える事なく過ごせる世。北風さえもどことなく軽やかなこの世では、軽やかな私で居たいなとも思いまして」

    美「確かに、サラサラと髪をなびかせるなんて、永禄ではないわよね」

    ト「はい。自分も軽やかになり、髪は子供達の為に使われ、この世に残せるなんて、これ程の喜びはありません。ですので、是非やらせてください」

    美「わかったわ。でもあと一晩だけ考えて。もう気持ちは決まってるでしょうけど、この活動に理解のある美容院…髪を整える所、に、予約を取りたいけど明日にしか連絡できないから」

    ト「はい。わかりました」

    美「源三郎くん」

    源「はい」

    美「あまりにも悲愴な顔してたから一緒に来てもらったけど、納得できたかしら?」

    源「はい。トヨの存念がわかりましたので」

    ト「そのような意図だったのですね」

    美「二人の間で、意志疎通してないみたいだったから。源三郎くんの意見も聞きたかったしね」

    源「ありがとうございます」

    ト「そこまでお気遣いいただき、ありがとうございました」

    美「せっかくの機会だから、もう少しお話しましょうか。コーヒー、冷めちゃうから飲んで飲んで~」

    源&ト「はい!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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