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    四人の現代Days79~1日10時、天にも昇る心地

    四人と言いつつ、四人が誰も出ない回も多々あります。あしからず。
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    ここは、瑠奈の家。大きいクッションに顔を埋め、スマホを握ったままリビングのソファーに寝転がる瑠奈。

    瑠奈の母「ちょっと瑠奈~。ようやく起きてきたと思ったらまた寝て。場所取らないでちょうだい、邪魔!」

    瑠奈「うぅぅ」

    瑠母「もう、何なの」

    瑠「自爆した」

    瑠母「えぇ?」

    瑠「もっと、いい感じにお近づきになりたかったのに~」

    瑠母「ははーん。さては、男の子がらみね。あなたはともかく、周りの同級生の子達は今大変な時期でしょうに。呑気よね」

    瑠「うっとーしい女、って尊にガン無視されるんだ」

    瑠母「その子、尊くんって名前なのね。クラスの子?」

    瑠「うん」

    瑠母「そう。卒業間近に盛り上がるってパターンかしら。その子も推薦入学?」

    瑠「ううん、尊はセンター試験受ける」

    瑠母「え!この時期に、そんな子の勉強の邪魔しちゃダメじゃない!」

    瑠「でも、初詣行ってたもん。しかもみつきと会ってる」

    瑠母「みつきちゃん?あら、彼女って彼氏くん居なかったっけ」

    瑠「居るよ。でも仲良さそうだったもん!」

    瑠母「よくわからないわね。一体何がどうだったの?」

    みつきと尊の動画を見せた。

    瑠母「楽しそうね」

    瑠「信じらんない、だってみつきさ、私が尊の事気になってるって知ってるのに」

    瑠母「偶然会ったんでしょう」

    瑠「わかんないよ?みつきズルい!」

    瑠母「そんな勝手に悪者にして。みつきちゃんには聞いたの?」

    瑠「さっきLINEした」

    瑠母「恨み節を並べたりしてないわよね?」

    瑠「…」

    瑠母「もう、呆れた子ね。それで、尊くんには何て伝えたの」

    尊に送った内容を見せた。

    瑠母「…」

    瑠「勢いで送っちゃった。既読になったけどまだ返事来ない。ふぇーん」

    瑠母「溜め息しか出ないわね。こんなにくどくどと畳み掛けちゃ、進むものも進まないわ。確か去年付き合ってた子、余計な事言い過ぎて嫌われて別れちゃったでしょ」

    瑠「言わないでっ」

    瑠母「その前の子は…」

    瑠「もういい」

    瑠母「瑠奈って、そこそこ頭のイイ子に育ってくれたけれど、何というか」

    瑠「なんですかっ」

    瑠母「恋愛偏差値は、ずっと低いままよね」

    瑠「うわーん」

    スマホに、LINEの通知あり。

    瑠「…みつきだ」

    瑠母「そう。みつきちゃんは懐が深いから、怒ったりしてないとは思うけど。何て?」

    瑠「私は彼とラブラブなんだから、妬いてる時間なんてムダ」

    瑠母「みつきちゃんいいわ~。清々しい」

    瑠「センセはね、マジで神だから!絶対逃しちゃだめだよ!…だって」

    瑠母「手遅れかもね」

    瑠「うわーん!」

    ここで、スマホがポロンと鳴った。

    瑠「あっ!尊から返事来た!でも見るの怖い」

    瑠母「良かったじゃない。返事くれただけでも。既読スルーもできるのに、誠実で」

    瑠「うん…」

    尊の返信を見た瑠奈。

    瑠「キャー!」

    瑠母「彼、なんて?」

    瑠「どうしよ!お母さん、これ見て!」

    瑠母「あらー、余裕な対応。確認するけど、同い年よね?」

    瑠「たぶん」

    瑠母「たぶん、って…」

    瑠「すっごく大人だし、後光が差しててもうキラッキラ。ホームルームにね、地元の歴史しゃべってた時なんて、もうたまらなかった」

    瑠母「ときめきポイントはまた後で聞くから、早く返事しなさい。どう出るつもり?」

    瑠「声聞きたい!電話してもいいかなぁ。まずはかけていいか聞こっと」

    瑠母「落ち着いて話さなきゃだめよ」

    瑠「かけていいって!お母さん、静かにしててね」

    瑠母「ここでかけるの?!何と言うか、いつもオープンな」

    瑠「また暴走したら、止めて欲しいから」

    瑠母「そうなの。恋は徐行運転の方が良くないかしら。瑠奈に限っては」

    瑠奈がシーッ!とジェスチャーした。見守る母。

    瑠「あ!あの、明けましておめでとう…しゃべってても大丈夫?…そうなんだ。私も家のリビングに居るの。帰り遅かったでしょ、眠くないの?」

    瑠母「まぁ、通常運転かな」

    瑠「あのぅ…さっきの返事、本気にしてもいいのかな」

    瑠母「リップサービスだけならかなりのやり手だけど」

    瑠「ホント?ホントに?!キャー!ねぇ、じゃあ学問の神様にお詣りしようよ、いつ?いつが都合いい?」

    瑠母「順調ね。彼が合わせてくれてるのね」

    瑠「瑠奈さんじゃなくて、瑠奈、って呼んで欲しいな…私も尊って呼ぶから」

    瑠母「え、勝手に名前で呼んでたの?」

    瑠「はは…そうだよね。ごめんなさい。動画観てショックで、気持ちが高ぶり過ぎちゃってつい。心の中でずっと名前で呼んでたから」

    瑠母「とっくに暴走してたのね。…あ、瑠奈、ちょっと待って!2日3日は、ほら」

    瑠「あ!ごめんね、明日明後日でお兄ちゃんが家族連れて帰省するの忘れてたの。4日5日とかでどうかな…うん、うん待ってる…4日、4日ね!キャー!!嬉しい!ありがとう!うん、私もいろいろ調べとくね。バイバーイ!…ふぅ」

    瑠母「良かったわね」

    瑠「嬉し過ぎる、デートしてくれるなんて」

    瑠母「優しい彼ね」

    瑠「うん…どうしよう、ドキドキが止まらないよぉ」

    瑠母「あらら、泣いちゃって」

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    次回は速川家に戻ります。

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    四人の現代Days78~1日11時、一歩進む

    あっさりと決まるもんだな。
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    ビデオを観終わった両親と、若君、源トヨが、食卓でミカンを食べている。

    美香子「ん、甘ーい」

    若君「実に美味そうに召し上がる」

    覚「母さんは、ミカンさえあれば上機嫌だからな」

    階段から足音が。

    美「あ、尊、起きたのね。ミカン食べる?」

    スマホを耳に当てながら、ちょっと待ってと片手を前に出し、カレンダーの前に向かった尊。

    覚「電話中か。え?電話?!」

    美「こんな元日から、誰と?」

    尊「4日はね、うん、何もないけど聞いてみるね」

    スマホを少し外して、両親に話しかける尊。

    尊「4日って、何も予定なかったよね?」

    覚「ないな」

    美「翌日は写真館だけど」

    尊「了解。もしもし、うん、4日なら大丈夫だよ。うん、あはは、そんなに喜んでくれて嬉しいよ。じゃあ、近付いたらまた連絡するね。うん。じゃあね」

    電話を切った。

    美「誰かと約束したの?」

    尊「うん。瑠奈と出かける」

    覚「へ?誰?」

    尊「クラスの女子」

    覚「へ?女の子と、デート?」

    尊「デート。あ、そっか、そうなるんだ」

    美「はあ?!」

    美香子が、手に持っていたミカンを落とした。コロコロ転がり、床に落ちたのを慌てて源三郎が拾う。

    源三郎「お母さん」

    美「あ、ありがとね源三郎くん。ちょっと何が起こったのか理解できなくて」

    トヨが、お茶を出す。

    トヨ「尊様、どうぞ」

    尊「ありがとうございます」

    若「わしが見込んだ通りになっておるの」

    尊「そうですね。兄さんに、一歩踏み出せって言われたんで、従ってみました」

    若「そうか」

    美「で、クリスマスにばったり会ったお嬢さんなのね」

    尊「うん。詳しくは、お姉ちゃんが起きてきたら話すよ。今ここで説明しても、一からまた言わなきゃならないだろうから」

    若「ならばわしが起こして参る。もう昼も近いゆえ」

    唯の部屋。

    若「唯。そろそろ昼じゃ。腹も空いておろう?」

    唯「ん…まだ眠いぃ」

    若「今は食い気より眠気か」

    唯「んー」

    若「早う起きぬと、瑠奈殿の話が聞けぬぞ」

    唯「るな…ん?なにっ!」

    若「痛っ!」

    急に飛び起きた唯の額が、覗き込んでいた若君の額と激突。

    唯「痛ぁい。たーくん、ごめぇん」

    若「いや、わしこそ済まなんだ」

    唯「それよりなに!新展開なの?!」

    若「近々、連れ立って遠乗りへ参るとの話じゃ」

    唯「うっそー!起きる起きる!あ、一気にお腹空いてきた」

    若「ハハッ」

    ようやく食卓に全員揃った。覚がおせち料理のお重を並べている中、尊が顛末を説明する。

    尊「まぁ、そんなところです」

    唯「ねぇねぇ、るなちゃんのコト、実は好きなんじゃないのぅ?」

    尊「嫌ではない。話しやすいし」

    唯「またまたー」

    尊「僕に興味を持ってくれている、という事柄に興味はあるけど」

    唯「なにそれ。わかりにくっ」

    尊「お姉ちゃんはわからなくてもいい」

    唯「なんだとー。るなちゃん、こんなヤツのドコがいいんだろ」

    若「これ、唯」

    尊「いいんですよ、兄さん。僕もそれが知りたいと思ってます。彼女に何が響いたのか」

    覚「惹かれ合うモノがあるんだろ。名は体を表すしな。ちょっと違うか?」

    美「名前が瑠奈ちゃんだもんねぇ」

    唯「名前?なんか関係あるの?」

    美「確か、月の女神よね」

    尊「そう。LUNAは、ローマ神話に出てくる月の女神だよ。ラテン語」

    唯「そうなの?!知らなかったぁ」

    ト「月に慕われる。尊様ならではと申しますか」

    源「それは必定ではございませぬか」

    若「出逢うべくして出逢うたようじゃの」

    尊「去年の4月からクラスは一緒ですけどね。何がどう転んだかわかりません」

    覚「そうかそうか。じゃあ、そろそろ昼飯にするか。尊の初デートを祝して」

    覚が、熱燗をいそいそと運んできた。

    美「どっちにしろ、飲むつもりだったんでしょ」

    覚「おせちって、いい塩梅にツマミになるしな。え、みんな飲まない?」

    若「いただきます」

    源「頂戴いたします」

    ト「わたくしもいただきます。唯様、尊様。よろしければ、雑煮をお作りしますが」

    唯「食べるー!」

    尊「僕も欲しいです。なんか急に、お腹空いてきました」

    ト「ふふっ。畏まりました」

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    次回ですが、少し時間を戻して、瑠奈はこの時どうしていたか?をお送りします。

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    四人の現代Days77~1日10時30分、誘惑わくわく

    寝ぼけて生返事、ではないと思う。
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    ここは尊の部屋。ようやく目覚めた尊が、パジャマのままベッドでゴロゴロしている。

    尊 心の声(あーやっぱり。ずっとブルブルしてたんだな)

    スマホを手にした。案の定、LINEをいくつか受信している。

    尊 心(グループの方は、新年の挨拶とかだな。あ、ミッキーさんから来てる)

    みつきの投稿『センセが神過ぎて瑠奈には勿体ないかもしれない。けど!瑠奈をなにとぞ、なにとぞよろしく~』

    尊 心(選挙の街宣?本人に頼まれてる訳じゃないよなぁ。きっとミッキーさんが、情に厚いヒトなんだろうな)

    グループLINEは、まだ寝ている者も多いようで、そこまで活発に投稿はされていない。

    尊 心(さて…)

    瑠奈からも届いているのだが、

    尊 心(怖っ、なんか大量に来てるんだけど)

    恐る恐る、中を開いてみると…

    尊「うわ、これか!メンドくせぇって」

    瑠奈の投稿『初詣に行ってたんだ』

    瑠 投稿『みつきだけズルい』

    瑠 投稿『私も神社に行けば良かった!そしたら尊に会えて超ハッピーだったのに』

    瑠 投稿『あんなに楽しそうな動画』

    瑠 投稿『私も撮りたかった(T_T。。)』

    瑠 投稿『あー尊と初詣いいなぁ』

    瑠 投稿『やっぱりみつきみたいにリーダーシップ発揮できる子の方がいいのかな遠慮してちゃダメかな』

    尊「速川って呼ばれてなかったっけ?いつの間にか名前に変わってるし」

    じっとスマホの画面を見つめる。

    尊 心(僕はからかわれてるのか?うーん。ちょっと…違いそうだな)

    さらに画面を見つめる。

    尊「わー!ダメだ、どう考えても、好意を持たれてるとしか読み取れない」

    尊 心(どうしよう)

    尊「恋愛マスターに聞くべきか。いや」

    尊 心(僕は、どうしたい?)

    尊「…」

    尊 心(ちょっと鬱陶しい感じもあるけど、そこまで…嫌じゃない)

    尊「…」

    尊 心(彼女がなぜ、僕にこんなに興味を持ってくれてるのか、という点はすごく気になる。知りたいと思う)

    尊「兄さんも、一歩踏み出す勇気は必要、って言ってたしな」

    尊 心(よし。思い切って行ってみるか)

    返事を書き始めた。

    尊 心(ちょっと、惑わす感じ?なんか、なんか楽しいぞ)

    完成。

    尊の投稿『そんなに言うのなら、どこかに連れてってください』

    尊 心(攻め過ぎかな。いいや、なるようになれ!)

    送信。

    尊「ふう。着替えよ」

    着替えて、またベッドに腰掛けた。

    尊 心(今年はどんな一年になるのやら)

    すると、返信あり。

    尊「さぁどう出た。ん?」

    瑠 投稿『今って電話してもいいかな』

    尊「あ、そういう事ね。いいよ、と」

    電話がかかってきた。

    尊「もしもし」

    瑠奈の電話『あ!あの、明けまして、おめでとう』

    尊「明けましておめでとうございます」

    瑠 電話『しゃべってても大丈夫?』

    尊「大丈夫です。自分の部屋に居るし」

    瑠 電話『そうなんだ。私も家のリビングに居るの。帰り、遅かったでしょ、眠くないの?』

    尊 心(なんとなく、家族が近くに居るっぽいけどいいのかな)

    尊「帰ってきたのは3時回ってたけど、一眠りしたから平気だよ」

    瑠 電話『あのぅ』

    尊「はい」

    瑠 電話『さっきの返事、本気にしてもいいのかな』

    尊「いいですよ」

    尊 心(なぜだろう、すんなりOKしてしまう自分にびっくり)

    瑠 電話『ホント?ホントに?!キャー!ねぇ、じゃあ学問の神様にお詣りしようよ』

    尊「ははは。いいですね」

    瑠 電話『いつ?いつが都合いい?』

    尊「瑠奈さんの都合のいい時で」

    瑠 電話『瑠奈さんじゃなくて…瑠奈、って呼んで欲しいな』

    尊「え?あ、そうなんだ」

    瑠 電話『私も尊って呼ぶから』

    尊「もう呼ばれてたけど」

    瑠 電話『はは…そうだよね。ごめんなさい。動画観てショックで、気持ちが高ぶり過ぎちゃってつい。心の中でずっと名前で呼んでたから』

    尊 心(ずっと。心の中で。えー!自分の事とはいえ、何でそんなに?もしかして僕、モテてる?!)

    少しぽーっとしていると、電話の向こうで話し声が聞こえた。

    瑠 電話『ごめんね。明日明後日でお兄ちゃんが家族連れて帰省するの忘れてたの。4日5日とかでどうかな』

    尊「なるほど。5日は僕も家族で出かけるから、4日ならいいかも。ちょっと親に予定確かめてくるから、待っててくれる?」

    急いで部屋を出て、階段を駆け下りていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    如古坊の楽しくも○○○思い出=3

    ナレ:連休も終わり、尊が学校へ行く支度をして、食事をしている時に、
    美:「如古坊さん、大丈夫よ、きっと戻れるわよ」
    如:「そうじゃの」
    美:「でね、戻れるまでの間、如古坊って名前も素敵なんだけど、声を掛ける事も無いとも限らないので、違う名前で呼んだ方が良いかなって考えたんだけど」
    覚:「それもそうだな。如古坊さんは出家する前の名前とか」
    如:「名か」
    覚:「はい」
    如:「・・・わしの名は三吉と申す」
    覚:「さんきちさん?」
    ナレ:尊がボールペンと紙を渡した。〔三吉〕と書いた。
    美:「三吉さん。じゃ、嫌じゃなかったら、みつよしさんって呼ぶのはどうかな?違和感はないと思うんだけど」
    如:「みつよしとな?」
    美:「駄目ですか?」
    如:「そのような事は無い。構わぬ」
    覚:「まぁ、この家に居る間は如古坊さんって呼ぶし。まっ、仮の名前って事で」
    如:「わかった」
    ナレ:如古坊は同意した。尊は学校へ。何も手立てが無い状態で毎日通っても大変だろうからと如古坊の提案で日を空けて行く事にした。翌月に行ってみたが変わりは無かった。その翌月も戻る事は出来なかった。その翌日、
    美:「ねぇ、如古坊さん、気分転換にさっぱりしてみたら?」
    尊:「お母さん、何?」
    美:「髪も整えて、髭も剃ってとか」
    覚:「如古坊さんがそのままでいいのなら、別に剃らなくても」
    ナレ:覚は自分の髭を触りながら言った。如古坊は少し考え、
    如:「そうじゃの・・・それも良かろう」
    美:「じゃ、彼女の理容室に連れて行って」
    尊:「誰が?」
    美:「尊で良いんじゃないの?」
    覚:「そうだな。話しかけられたら尊が答えれば良いし」
    尊:「本当に良いんですか?」
    如:「構わぬ」
    ナレ:如古坊が承諾した。如古坊の寸法に合う服が無かったので、スウェットの姿で土曜日に尊と共に、覚の運転で。訪れた理容室は、美香子の同級生の店で今は息子の祥(しょう)が切り盛りしていた。速川家御用達の店。尊も引き籠りの時に髪を切りに来ていた。祥は尊が引き籠りであることも知っていたがその事には触れず対応をしていた。だから、学校へ行くようになった事を聞いた時は喜んだ。店内に入ると、速川家でも見た事も無い物ばかりでキョロキョロしていた。工程は家で予習をしてきたので、示される通りに動くだけ。痒い所はと聞かれたら有っても無いですと答えるように等。
    祥:「いらっしゃい。で、この人」
    尊:「そうです」
    祥:「唯の知り合いだって、おばさんが言っていたけど」
    尊:「そうなんです。お願いします」
    祥:「こちらへどうぞ。そう言えば、お袋に聞いたけど、唯、学校を辞めて海外にって、彼とか」
    尊:「あっ、うん、そうなんだ」
    祥:「詳しい事とか聞いてないけど。それにこの前、唯がカットしに来たけど、そんな事、全然言ってなかったなぁ。まぁ、やけにニヤついていたけど。痒い所はありますか?」
    如:「無いです」
    祥:「此処に来ていたって陸上の話はするけど、勉強とか恋愛の話題も出なかったし」
    ナレ:唯が小垣城から戻り、墓を見て落ち込んでいた時に別れた場所と日にちの違いに気づき、そして未来の尊の力で永禄に戻る事が出来ると分かった時に、いつもの足軽の姿になる為に伸びていた髪を切りに来た。祥はシャンプーの手を動かしながら話していた。
    尊:「そうだね。その人が海外に住んでいて・・・で、一緒に」
    祥:「そうだったんだ。まぁ、結婚出来る年齢だけど。よく、おばさんたち許したね」
    尊:「うん。彼が凄く良い人で。だからお父さんもお母さんも送り出したって事」
    祥:「そうなんだ。こちらへ。で、どうします?」
    尊:「お任せします」
    ナレ:カットの前に祥が雑誌を如古坊に渡した。渡されたがどうしようかと考えながらページをめくっていくと、
    如:「えっ」
    尊:「如・・・三吉さん、どうしたんですか?」
    ナレ:尊に見せたページに男性モデル。
    尊:「えっ?」
    ナレ:尊も驚いた。そこに写っていたモデルが忠清に良く似ていた。
    祥:「二人して、どうしたの?」
    尊:「知り合いに良く似ていたので」
    祥:「そう」
    如:「尊、これを」
    ナレ:尊はこの本が欲しいのだと察した。
    尊:「じゃ、同じ物を取り寄せて」
    祥:「良かったら、それ持って行っていいよ」
    尊:「えっ?」
    祥:「もう時期、切り替えだから」
    尊:「いいんですか?」
    祥:「構わないよ」
    ナレ:如古坊は雑誌を尊に渡した。髭剃りの時に泡を付け、専用カミソリを使用するから驚かないように話していた。如古坊はジョリジョリと髭を剃る一定のリズムに心地良さを感じ眠りに落ちた。スースーと寝息が聞こえてきた。尊と祥は顔を見合わせ微笑んだ。そして剃り終わると温かいタオルが顔に巻かれて如古坊は起きた。
    如:「眠ってお・・・」
    ナレ:おったのかと言いそうになり言葉を止めた。
    祥:「どうしました?」
    如:「いえ」
    ナレ:その後、肩や頭をマッサージして終了。
    祥:「はい、終了です」
    ナレ:大きな鏡で顔を見た。
    如:「さっぱりした」
    祥:「お客さんも、モデルさんみたいですよ。冒険家なって感じがしましたけど」
    尊:「どうして?」
    祥:「なんとなくそんな感じがしたんでさ。でも、今更だけど、唯とどんな関係かなって」
    尊:「・・・そう、厳密に言えば、お姉ちゃんの彼の知り合いなんだ。で、彼が、自分が世話になったのでお礼に行ってくれって頼まれて、それでうちに来る事になったって事。色んな所に旅しているんだ」
    ナレ:尊は自分でも良くそんな出鱈目がペラペラ出たものだと驚いていた。如古坊は祥にそうなんだねと声を掛けられたが返答の使用も無いのでただ頷いた。
    尊:「彼、シャイな冒険家なんで。じゃ、お父さんに」
    ナレ:尊は慌てて電話を掛け迎えを頼んだ。家に戻ると美香子が、
    美:「やっぱり」
    尊:「やっぱりって?」
    美:「若君の周りの男性ってみんな素敵だから、如古坊さんもそうかなって思っていたのよ。若君達とは違ってワイルドって感じね」
    覚:「そうだな」
    如:「それは褒めておるのか?」
    美:「勿論、褒めているんですよ」
    如:「そうか。だが、心地良うて眠ってしまったのだ」
    覚:「それ、僕も経験あるから分かりますよ。ははっ」
    尊:「そうだ、これ見て」
    ナレ:貰ってきた雑誌を見せた。
    美:「若君にそっくりね。似た人は3人は居るとは聞いてるけど、時代を超えてもあるのね」
    如:「それは木村殿や高山親子の事であろうか」
    覚:「そうです。戻った時、これを見せてあげたら、一番唯が興奮するだろうな」
    美:「そうね」
    ナレ:如古坊が雑誌を手にして黙っていたことで、みんなも戻れる確証がない事は言えずにいた。そして祥に話したことを聞かせると覚も美香子も笑い出した。
    覚:「尊、小説家になれるぞ」
    尊:「僕だって誤魔化すのに必死だったんだよ、笑わないでよ」
    美:「ごめん、ごめん」
    如:「尊、すまぬ」
    覚:「如古坊さんが謝る事は無いですよ。そうだ、折角だから、洋服買って出かけないか?」
    如:「吉乃殿が申しておった、父上、母上に金の工面で難儀させたとな」
    覚:「遠慮しないで下さい」
    美:「そうよ、私達だって楽しめるんだから。私たちの楽しみ奪わないでね。如古坊さんにも現代のお洒落をしてもらいたいんだから、私たちの行為を素直に受け取って頂戴」
    如:「さようか・・・では・・・だが、ちと頼みがある」
    覚:「何ですか?」
    如:「信茂殿が気におうておった桃色は」
    覚:「大丈夫ですよ。ははは」
    ナレ:早速洋服を注文した。パソコンを操作する様子を話には聞いていたが目の前で起こる事に驚いていた。
    如:「まこと、便利な物じゃ」
    ナレ:服が届いた週の日曜日に出かける事にした。
    覚:「どんな所に行きたいですか?・・・場所って事ではなくても、そんな物が見たいかとかで場所を決めようかと」
    如:「難儀を掛けると申しておきながら・・・すまぬ事だが」
    覚:「遠慮なく言って下さい」
    如:「なれば、信茂殿が申しておったすいぞくかんとやらに」
    覚:「分かりました。水族館に行きましょう」
    ナレ:そして日曜日。希望した水族館に着いたが、家とは違う大きさの箱のような建物に驚いていた。
    如:「此処が水族館?」
    尊:「そうですよ。建物は頑丈に出来ています。中へ入ると分かりますが、中も頑丈な作りになっていますよ」
    如:「この様な物であったならば、敵方が攻め入っても」
    美:「そうね」
    如:関心仕切りで中へ入り、見た事も無い海洋生物に初めこそ驚いていたが、シャチのショーは大いに楽しんでいた。唯が言っていた信茂にそっくりのペンギンが一番気に入り、信茂と同じようにペンギンのぬいぐるみを買ってもらった。後部座席に座り、如古坊は袋に入ったぬいぐるみを見ながら、
    如:「これを信茂殿に見せたいのぉ」
    尊:「見せられますよ。でも、こっちの方が良いと言い出したらどうします?」
    如:「そうじゃのぉ・・・戦になろう。ははは」
    美:「なんか、その様子が目に浮かぶわ」
    覚:「そうだな。それを信近様と小平太様で止めるんだろうな」
    如:「そうじゃの」
    ナレ:如古坊が笑顔になったが直ぐに寂しそうな表情に。
    覚:「じゃぁ、帰りますか」
    如:「そうじゃの・・・まこと、楽しゅう過ごす事が出来た。名はどうするかの」
    尊:「帰ってから変えればいいから、今はお姉ちゃんが信茂様の事を呼ぶようにじいなんでどうですか?」
    如:「そうじゃの。わしは信茂殿をじいと呼ぶことは無いからの。それも良かろう。じい、じい」
    ナレ:運転する覚がミラー越しに如古坊の楽しそうな姿を見て、もし次に戻れなかったら、もっと思い出を作ってあげようと思っていた。

    如古坊の楽しくも○○○思い出=4へ続く

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    かたじけのう存じます

    皆様に楽しんでいただけていると信じて(それも妄想)おります。
    カマアイナさん提案の道具についてはもう少しお待ちください。でも「えっ?」こんな物かと思われるかも。私の頭脳ではその程度ですが(-_-;)
    今日も一つ書かせていただきます。その続きは来週となります(^-^)
    では失礼いたします。

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    ぷくぷくさんヘ

    初っ端から余りにも奇想天外で、ひえ〜〜〜〜、まさかやの展開ですね。
    読み応えがあって、楽しくて、既にルンルン🎶です。

    今までも大変な貢献をしてくれた木村先生も、とうとう秘密クラブの仲間入りができて、本当に良かったです。これで、彼の推理通り羽木家が縁合で生き延びているのも伝わるし、ホッです。

    如古坊の楽しくもに続くOOOが何なのかも、今は想像もできませんが、後々合点がゆくのでしょうね。
    今回も長編との事、楽しみにしています。ありがとうございます。

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    如古坊の楽しくも○○○思い出=2

    ナレ:コーヒーを飲み干した。
    如:「美味だ」
    覚:「おかわりは?」
    如:「今は良い・・・わしがこうしてお主らと共に居る事が、夢の中ではないかと思うが、こおひいとやらを確かに飲んでおる。わしはこのへいせいと申す世の事を忠清らに聞いておるから、少しばかりだが心穏やかに此処に居る事が出来た。唯らがしゃしんとやらを見るその場にわしが居らぬでも見る事は出来たのだが、わしが使いで戻った折に、お主らをわしは見た。わしがこの場に来る事が分かっておったかのようにの」
    覚:「もしかして、そうだったのかも知れませんね。そういう運命だったから」
    如:「うんめい?」
    木:「さだめです」
    如:「そうなのかも知れんな」
    木:「速川が、唯さんが私の所に羽木家の事を聞きに来始めた頃は資料はあまり残っていなくて、羽木家が忽然と消え、資料は残っていないと説明した事がありました。ですが、資料が出てくるようになりまして、松丸から羽木へ宛てた手紙や、速川に似た女の子の写真が古戦場で発見されたり、先祖の手記は見つかったり・・・あっ、ボロボロの衣服が出て来た事も。速川が欲しい・・・もしや」
    尊:「それは若君が戻る時に着て行った服でした」
    木:「そうだったのか」
    尊:「先生の説明では、それは、姉が行った事で歴史が変わってきたという事ですか?」
    木:「そうなのかも知れないと」
    尊:「姉が戻ってきた時、ひとめぼれした若君様をどうしても助けたいって、僕に協力を求めてきた事があったんです。でも、僕は歴史が変わるからダメだって。でも姉が若君を想う気持ち、みんなを助けたいと思う気持ちが分かって協力して」
    覚:「その事で、歴史が変わったのかもしれないな」
    ナレ:その言葉に感慨深げに手記を見ていた。
    如:「なれば、わしはたいむましんとやらでこの世に?」
    尊:「それは違います。姉たちが戦国に戻って、それが使えるとは考え難いです」
    如:「さようか。では、わしは何故?」
    覚:「どんな状況だったんですか?」
    如:「敵方に見つかり追いかけられ倒れた・・・いや、その前に闇の中だったが一光がの」
    尊:「光?」
    如:「さよう」
    尊:「何だろう?・・・彗星?・・・分からないな」
    美:「その光が原因かは分からないけど、タイムスリップしてこの世界に来たのだろうけど、でも、此処で良かったわよね」
    尊:「お母さん?」
    美:「だって、別の時代とか、この時代でも別の場所に如古坊さんが現れたとしたらどうなっていたか」
    覚:「そうだな。此処だったから、木村先生の前に現れたから、関わりを知っている僕たちの所へ来ることが出来た。それは神様がそうしてくれたんだと思うよ」
    尊:「本当に此処で良かったよね」
    木:「本当ですね。導いてくれたのだと私も思います。これからどうしますか?」
    尊:「もしかして、直ぐに戻れるかもしれませんから、明日その場所に行ってみます」
    木:「では、私も明日・・・で、今夜は?」
    覚:「うちに・・・如古坊さん」
    如:「お世話になり申す」
    木:「では、私は」
    覚:「ご迷惑でなければ、夕飯を」
    木:「ありがとうございます。娘夫婦が来ることになっていますので」
    覚:「そうですか」
    ナレ:木村先生を表で見送る時に箱を渡した。
    木:「これは?」
    覚:「以前勤めていた看護師さんの嫁ぎ先のメロンです。沢山送ってくれたのでお裾分けで。お嫌いでなければ」
    木:「好きです。ありがたく頂戴します。では、明日」
    ナレ:木村先生が帰った後、覚は夕飯の支度をする前に風呂の用意をした。
    覚:「食事の前に風呂に入られて、さっぱりしてはどうですか?」
    ナレ:その言葉に如古坊は身体の臭いを嗅ぎ、
    如:「すまぬ、やはり、におうか」
    覚:「そうですね」
    ナレ:覚が遠慮せずに言ってくれた事が嬉しかった。素直に好意を受け取る事にした。
    覚:「でも、足が」
    如:「しぷとやらを貼ってもろうて痛みも薄れておるから大事ない」
    覚:「出てきたらまた貼って。様子を見てきますから待っていて下さい」
    ナレ:湯船に湯が溜まった頃、尊が一通り説明した。如古坊は現代の風呂についても信茂から説明を受けていたので、何となく要領は掴め、一人で入る事が出来た。
    覚:「如古坊さんはどうだ?」
    尊:「信茂様が色々話してくれた中に、お風呂の事もシャワーの事もあったって」
    覚:「信茂様の話している姿が想像できるよ」
    尊:「そうだね。楽しんでくれたんだろうね」
    美:「そうね。尊、着替えはこれを」
    ナレ:信茂達の為の着替え用に用意をしていたスウェットとランニングとパンツを渡した。
    尊:「如古坊さん、着替え置いておきますね。下着とスウェットです」
    如:「もしや桃色の?」
    尊:「えっ?」
    如:「いや、こちらの事じゃ、かたじけない」
    ナレ:如古坊は信茂に無理矢理着せられたピンクだと思った。
    尊:「着る時は声を掛けて下さい」
    如:「それには及ばぬ、信茂殿に聞いたのでな、わし一人でも大事ない」
    尊:「そうですか。では、ごゆっくり」
    ナレ:如古坊は世話になっているのに言い方が悪かったかなと反省していた。夕飯が出来た頃、如古坊が風呂場から出てきた。信茂はスウェットを着せる時に、持ち帰った下着を見せながら、現代ではこの様な布を身に付けるのだと説明した。『絞めつける物じゃがの』と言っていた。
    如:「長湯をしてしまった」
    覚:「ゆっくり出来て良かったです」
    如:「まことにすまぬが、しゃわぁとやらで流しはしたのだが。洗ってから入ったのだがの」
    ナレ:申し訳なさそうに言ったので覚は状況が分かった。
    覚:「大丈夫ですよ。チャチャッと掃除できますから」
    ナレ:尊と美香子に配膳を頼み風呂場へ。洗濯籠の中に着物が畳まれ入っていた。
    覚:「縮むかな・・・まっ、その時は替えを用意すればいいか」
    ナレ:洗濯機に入れスイッチを押した。湯船の中には如古坊が恐縮していたように垢が少し浮いていた。
    覚:「しょうがないですよ、これくらい」
    ナレ:栓を抜き、ダイニングに戻った。
    如:「すまぬ・・・それにの、お主らを何と呼べば」
    覚:「そうですね。まぁ、皆さんは父上と呼んでくださいましたが、お父さんでも父上でもどちらでもいいですよ」
    如:「では、父上」
    美:「私は、美香ちゃんって呼んでもいいわよ」
    ナレ:如古坊は困り顔。
    美:「もう、そんな困った顔しないでよ。母上でもお母さんでもいいわよ」
    如:「ならば、母上・・・たける・・・どの?」
    尊:「尊だけでいいですよ」
    如:「さようか」
    覚:「じゃ、食べましょう」
    ナレ:覚は得意料理のレンコンのはさみ揚げを。
    如:「これは美味いの」
    覚:「ありがとうございます。若君も皆さんも喜んで食べてくれてね」
    如:「さようか、まこと、美味い」
    ナレ:三人は如古坊の様子を目を細め見ていた。
    美:「皆さんが戦国に戻って、また三人の食事で、ちょっと寂しかったのね。でも、こうして如古坊さんが居て四人で楽しく食事が出来て嬉しいのよ」
    如:「母上」
    美:「でも、直ぐに戻れた方が良いって分かってるのよ」
    覚:「そうだな」
    ナレ:それからは信茂の話で盛り上がった。食後のデザートにメロンを出した。
    如:「これは?」
    覚:「メロンと言って甘くて美味しいですよ。切れ目を入れていますからこれで」
    ナレ:フォークを渡した。如古坊は初めて見る物を恐る恐る口に運び直ぐに、
    如:「甘くて、美味い。これを買うてくれたのか?」
    覚:「いいえ、貰い物です。以前勤めていた看護師さん、芳江さんって言うんですが、若君が唯と一緒に来て、そして戻った後、芳江さんも仕事を辞めて」
    ナレ:芳江の叔母が世話を焼き見合いをした。相手は茨城のメロン農家の長男。見合いの席でも人柄が良い事は分かったが、看護師の仕事も好き。それに農作業の経験も無いから躊躇していた。
    美:「芳江さんも明るくていい子でね、先方も気に入ってくれたから、私達も応援していたんだけど、踏ん切りがつかなくて返事を待ってもらっていた時にね、若君が芳江さんに言ってくれたのよ」
    如:「忠清が」
    美:「そう。芳江殿はその者の事は嫌いなのかって。初めにね、畑仕事も手伝ってほしいって正直に言ってくれた事で好感は持てたって、良い人だと思うって言ったら、若君がそう思える者が現れる事は唯が申しておったが奇跡、運命だと。自分も唯と出会えた事で良かったと思っているって、その相手が芳江殿の運命の人だとは思えないかって聞いてね、芳江さんは、運命の人かどうかは分からないって。でも自分で考えて答えを出したの。で、唯と若君が戻った後、芳江さんお嫁に行ってね、で、メロンを送ってきてくれたのよ」
    尊:「お礼の電話を掛けたら、毎年送りますよって言ってくれて。その時、お姉ちゃんと若君にも食べさせたかったって言ってたよ」
    覚:「如古坊さん、その事を二人にも話して下さいね。まだ有るので、明日持って行って」
    美:「そうね」
    如:「だが」
    覚:「大丈夫ですよ」
    美:「でも、唯、メロン好物だから、独り占めしないように言って下さいね」
    如:「あい分かった」
    ナレ:メロンが食べ終わり、お茶を飲んでいる時に、
    尊:「今夜、如古坊さんは?」
    覚:「ここじゃなぁ」
    美:「尊の部屋で良いんじゃない」
    尊:「別に構わないけど・・・でも、なんで、若君の時はお姉ちゃんの部屋だったの?今更だけどどうして」
    美:「あらっ、そうね、なんでだろう・・・忘れちゃった」
    尊:「まぁいいけど。じゃ、如古坊さん、今夜は僕の部屋で休みますから」
    如:「よいのか?」
    尊:「勿論。若君も成之様も僕の部屋で休んだんですよ」
    如:「成之も」
    尊:「じゃ、案内しますね」
    ナレ:部屋に案内して、成之の時のようにベッドで寝るように話すと、
    如:「この様に高いと、落ちてしまうのではないか?」
    尊:「寝相は悪いですか?」
    如:「悪うはないと思うが」
    ナレ:そう返事をしたことで尊はクスッと笑ってしまった。
    如:「たける?」
    尊:「すみません。成之様の時と同じ会話をしたので」
    如:「そうか、成之も」
    尊:「じゃ、僕、お風呂に入ってきますから先に休んでいて下さい」
    如:「かたじけない」
    ナレ:部屋の明かりを少し暗くして下へ降りた。覚が風呂掃除を終えて出てきた。
    覚:「今、お湯入れてるから」
    尊:「そう」
    ナレ:ダイニングで湯が溜まるのを待つ事にした。
    覚:「そう言えば、あの時とか、どうしたんだ?」
    美:「何が?」
    覚:「こう言っちゃ皆さんに失礼だろうが、皆さんが入った後は続けて入っていたけど」
    尊:「知らなかったんだ」
    覚:「ん?」
    尊:「若君も現代のように毎日風呂に入らないから、湯船が汚れるだろうと最初に察して、初めて入る時は毎回シャワーだけにしていたんだって、それを皆さんにも話して」
    覚:「そうだったのか。気を使ってくれていたんだな」
    美:「本当、皆さん優しいわよね・・・二度と会えない事が残念だけど」
    覚:「そうだな。もし、明日戻れないような事になったら、此処に居る間は皆さんと同じように、此処の暮らしを楽しんでもらいたいね」
    美:「そうね」
    ナレ:尊は風呂に入り、部屋に戻ると如古坊はまだ起きていた。だがソワソワしている。
    尊:「如古坊さん?」
    如:「すまぬが、厠は?」
    尊:「かわや・・・トイレね。ごめんねさい、我慢していたんですね。こっちです」
    ナレ:尊はトイレを案内して一通り方法を急いで教えた。風呂から上がった美香子に尋ねられ、
    尊:「言い出せなかったみたい」
    美:「そうだったのね。初めに説明してあげればよかったわね。気が回らなかったわ」
    尊:「うん」
    ナレ:トイレから出てきた如古坊は、
    如:「すまなかった・・・頼みがあるのだが」
    尊:「なんですか?」
    如:「水をの」
    ナレ:シンクの前に連れて行き、コップに注いだ。蛇口を見ていた如古坊は、
    如:「この様に容易に水が飲める事も教えてもろうた。まこと現代とやらは便利な物じゃ」
    尊:「便利ですよね・・・だから僕が戦国に行っていたら、お姉ちゃんみたいに生き抜くことは出来なかったと思うんです」
    如:「そのような事は無かろうて、忠清も申しておった、尊は強いとな」
    尊:「ありがとうございます・・・じゃ、戻りますか」
    ナレ:美香子と覚に挨拶して部屋に戻り眠りについた。

    ナレ:翌朝、覚が朝食の支度でダイニングに来るとサッシの前で如古坊が外を向き座っていた。
    覚:「如古坊さん、お早いですね。眠れませんでした?」
    如:「そのような事は無いのだが・・・目覚めて、尊の顔を見たならば、夢ではなかったのだと思うての」
    覚:「そう言えば、源三郎様もそこで不安がっていましたね」
    如:「ふあん?」
    覚:「戻れる方法は分からないし、このまま便利な事を覚えてしまって、戦国に戻れたとして、暮らせていけるかとか」
    如:「そうか」
    覚:「若君は必ず戻る事は出来るし、この世に居る間だけ便利を楽しめばいいとかって言ってましたね」
    如:「そうか、忠清が」
    ナレ:そこへ、美香子と尊が起きてきた。朝食を食べている時に、
    尊:「お父さん、乗せていって」
    覚:「分かってる。召し物は洗っておきましたから」
    如:「かたじけない・・・して、唯に聞いたのだが、尊はがっこうとやらに参らなくとも良いのか?」
    尊:「色々聞いていたんですね。心配しなくても大丈夫ですよ。ゴールデンウィークと言って続けて休める日なので。しばらく休みですから」
    如:「さようか。休みであるか」
    ナレ:朝食、昼食と現代の料理を堪能した。そして出発して、木村先生と合流した。現れた場所に立ち、離れた場所で三人が見守っていたが、1時間経っても何も起こらない。
    尊:「きっかけは何?」
    木:「光の理由は考えてみたが、彗星の周期だと如古坊さんが遭遇した時代には彗星は無かったようなんだ。彗星でもないのか?・・・火球?・・・それとも時間が違うのか?」
    ナレ:三人が腕組して考えている姿を見て、
    如:「わしの事ですまぬ」
    覚:「いいんですよ。明日また挑戦してみましょう」
    尊:「そうだね。ひょっこり戻れるかもしれないし」
    ナレ:その日は退散した。だが、毎日その場に行ったが、何も変わることなく如古坊の姿は消えなかった。

    如古坊の楽しくも○○○思い出=3へ続く

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    今日も

    失礼ながら今日も(^-^)
    続きを書かせていただきます。

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    四人の現代Days76~1日7時、引き継ぎます

    ぷくぷくさん、始まりましたね。どんどん被せてください(^o^)
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    源トヨの案件が無事解決したからか、今日の若君はよく笑う。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    遅く帰宅したにも関わらず、今朝も普段通りにリビングに下りてきた若君。

    若君「なんと。ここまで遅れをとっておったとは」

    キッチンにトヨが一人。庭では、既に源三郎が額に汗しながら朝稽古をしている。そして、

    覚「おはよう」

    美香子「おはよう、忠清くん」

    若「お早うございます。テレビ、ですか」

    ソファーに両親が並んで座っている。

    覚「テレビじゃないんだ。番組を録画しておいたのを、今観てる」

    美「なんでこんな時間からって思うわよね。実はゆうべ放送された歌番組でね、全部で四時間以上あるし、何よりすぐに観たかったの」

    若「四時間は…二刻。それは長い」

    画面には、紅白歌合戦。

    美「それでね、嬉しいことに、今朝はトヨちゃんがお雑煮作ってくれるって」

    若「ほぅ」

    覚「ありがたくお言葉に甘えさせてもらって、観てるんだよ」

    若「そうですか。では、番組、を存分に楽しんでくだされ」

    その場を離れた若君は、キッチンへ。

    トヨ「おはようございます。忠清様」

    若「お早うトヨ。昨夜はよう眠れたか?」

    ト「はい!」

    若「わしも支度を手伝おう」

    ト「痛み入ります。ですが、あとは餅を煮るのみでございますので」

    若「そうか。源三郎はずっと外に?」

    ト「わたくしが下りて参りましたら、既に庭に居りました」

    若「ハハ、それは精が出るのう」

    稽古を終えた若君と源三郎が戻ってくると、ちょうど雑煮が食卓に運ばれてきていた。

    覚「いやぁトヨちゃん、済まなかったね」

    美「まあ、いい香り!」

    ト「ここでお召し上がりになりますか?そのままご覧になれるよう、そちらまでお運びしますのに」

    覚「いいのいいの。こんな美味そうな雑煮、ビデオ観ながらなんて失礼だ」

    ト「青菜しか入っておりませんのに」

    すまし汁に、焼かない角餅とほうれん草のみの、いたってシンプルな雑煮。

    美「ただお願いしただけなのに、今の時代と、作り方や中身が変わらなくてびっくり」

    ト「そうなんですか?」

    覚「うん。雑煮って地域性があるからね。本当に、450年前にこの辺りに住んでいたんだなってわかるよ」

    ト「それは…受け継がれているんですね」

    若「トヨ、ご苦労であった」

    源三郎「おぉ、雑煮」

    美「あ、源三郎くんのだけ、お餅が1個多いの発見!」

    源「え?」

    ト「あっ!いえ、誰よりも早うから稽古に勤しんでいたので、さぞかし腹を空かせているかと、小さい餅をもう一つ…すみません!」

    美「当然よね」

    覚「そうだ。いくらでも差をつけてもらって」

    美「ラブラブはわかる形でいいのよ」

    ト「贔屓したつもりでは…」

    若「ハハハ」

    覚「さ、ではいただこうか」

    全員「いただきます!」

    美「…ん、ん~。かつお節のお出汁がとても効いてて美味しい!」

    若「美味い」

    美「どう?源三郎くん。もうすぐ妻、の手料理は」

    源「はっ、とても美味い、です」

    美「こんな腕利きのトヨちゃんが居なくなると、お城も大変ね、忠清くん」

    若「ハハ、かと言って、いつまでも城を下がれぬのも」

    ト「そのような。わたくしはいつになろうとも構いません」

    美「結婚するのは間違いないものね」

    源「はい」

    美「忠清くん、色々決めてあげてね」

    若「はい。祝言をいつにするかなども、勘案致します。良いな、源三郎、トヨ」

    源三郎&トヨ「はい」

    美「そうよね。唯のお世話係も代わるものね」

    覚「そうか。ひゃー、トヨちゃんの後任は大変だろうな」

    美「父がそれ言うか~」

    若「お母さん、わしもそう思うております」

    美「やっぱり?」

    ト「あの、でしたらそのお役目はずっとわたくしが」

    美「あらま。いいのよ、放っておいて。いかに世話が焼けるかわかるわ。不束な娘でごめんなさいね」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    三重県北勢地域のお雑煮を参考にしました。

    続きます。

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    如古坊の楽しくも○○○思い出=1

    ナレ:坂口と穏やかな時間を過ごし、お互いに二度と会う事は無いだろうと笑顔で別れ、黒羽城に戻った如古坊は不思議な光景を見た。此処に居るみんなが自分の知らない世界に行っていた事。見た事も無い衣類や品物。信茂等の話を不思議な面持ちで聞いていた。その後、忠高が黒羽に来た。そして、宗熊の計らいで忠高と宗鶴が対面し、二人の蟠りも消え、忠高、成之達は緑合に戻った。
    数日経ち、唯は夕餉の支度の手伝いをしていた。

    唯:「このマッチもあと僅か。もっといっぱい持ってくれば良かったなぁ。ふぅ」
    ナレ:唯は五本のマッチを名残惜しそうに見ていた。
    吉:「良いではないか。そなたも、まっちとやらが無くとも火を熾せるようになったではないか」
    唯:「まぁ、そうだけど。前よりかは早く・・・あっ、そうだ、花火の時に如古坊が何故、木に突然火が点くんだって驚いてましたね」
    吉:「そうであったの。まこと便利な品です」
    唯:「ライターの方が便利だけど中身が無くなったら使えないし、だからマッチにしたけど、もう無くなる。なんだかマッチ売りの少女の気分よ」
    吉:「何ですそれは?」
    唯:「いつ頃出来た物語かは忘れちゃったけど、貧しい少女がマッチを売っていてね、でも売れなくて、冬で雪も降って来て、寒いから売り物のマッチを擦って火を灯したら、火の向こうに楽しい事が映って、それで何度も擦って、マッチが無くなって・・・あれっ、最後どうだったか忘れちゃった」
    吉:「さようか。その少女とやらが幸せになっておったならば良いの」
    唯:「そうだね・・・で、そう言えば、如古坊の姿が朝から見えないけど」
    ナレ:成之達とは戻らず此処に残った如古坊の姿が見えない事に改めて気づいた。
    吉:「織田の出方も気になるとお殿様が申されての、探りに参ったのです。まだ暗いうちにの」
    唯:「そうだったんだ」
    ナレ:唯は残りのマッチを箱に戻した。
    吉:「汁の支度もあるが、使わぬのか?」
    唯:「如古坊が戻って来て、火を直ぐに点けなくっちゃならなかったら。その為に残しておこうかなって」
    吉:「さようか。優しいの」
    唯:「お袋様も私にラブ」
    吉:「そうじゃの。唯にらぶです」
    ナレ:吉乃は唯に抱き着いた。そこへ信茂が、
    じい:「何をしておる。腹が減ってのぉ」
    吉:「今しばらくお待ちください」
    じい:「わしも」
    ナレ:じいが二人に抱き着こうと手を伸ばしたが、
    唯:「間に合っております。ふっ」
    じい:「残念じゃのぉ。では、わしは小平太をぎゅっとしてこよう」
    唯:「ギュッなんて誰が教えたのよ。あぁ」
    ナレ:唯はお母さんだろうなぁと思っていると奥から、
    小:「おじい様、何をなさるのですか、お放し下さい!」
    ナレ:小平太の困惑する声が聞こえてきた。吉乃と唯は呆れていた。そこへ若君が来て、
    若:「小平太がじいに抱き着かれておるが」
    ナレ:唯が状況を説明した。
    若:「そうであったか。じいは平成で楽しい事を覚えておるのだな」
    唯:「で、若君こそどうしたんですか?」
    若:「ん・・・腹が減っての」
    唯:「えっ、もぉ、じいとおんなじこと言わないで。あははは」
    若:「じいもか。ははっ」
    ナレ:二人の様子をニコニコ顔で吉乃が見ていた。

    ナレ:如古坊は織田の陣に近づき探っていたが怪しい動きは見られない。一先ず黒羽へ戻ろうとその場を離れる時に後ろから声を掛けられた。
    男:「何奴!」
    ナレ:如古坊はその場から走り出した。
    男:「何者じゃ!待て!」
    ナレ:必死に逃げた。追いかける男も意外と足が速い。如古坊は覚悟を考えた。そして、追いつかれそうになった時に闇の中に光が。追いかけてきた男の足が止まった。その隙にと走り出したが足元をすくわれたかのように如古坊は倒れそうになった。

    =現代=
    ナレ:木村先生は羽木忠清の墓の前にしゃがんで、
    木:「速川、元気にやってるか?仲良くやってるか?・・・まぁ、大丈夫だろうな」
    ナレ:木村先生がそろそろ帰ろうかと立ち上がると後ろで気配を感じ振り向くと、不思議な格好をした男が倒れていた。
    木:「なっ・・・なに?」
    ナレ:如古坊はゆっくり目を開けた。
    如:「逃げおうせたか・・・ん?・・・夜が明けておったのか・・・ん?」
    ナレ:木村先生は驚きながら少しづづ近づいて行くと、如古坊が木村先生を見た。
    如:「あっ!・・・き・・・きむら・・・どの?」
    木:「殿?・・・いやぁ・・・いやぁ、そんなことが・・・まさか」
    ナレ:木村先生は羽木に関係する人物ではないかと考えた。だが何故、此処に居るのか理解出来ないが、そのままにしておくわけにはいかないと、如古坊を立ち上がらせようとした。
    如:「痛い!・・・何をする!」
    木:「怪我をしているんだね・・・あの、君」
    如:「何じゃ?」
    木:「つかぬ事をお聞きしますが、君は羽木忠清様、唯を知っているかね?」
    ナレ:目の前の男が忠清、唯の名を言った事に驚いたが、あの日に見た写真と同じ様な恰好をした木村に良く似た人物を目の前にして、
    如:「もしや、お主は唯が名を・・・その者を先生と申しておったが」
    木:「そうですよ。では、やはり」
    如:「わしが見た者と同じような形(なり)をしておる・・・では此処はへいせいとやら?」
    木:「そうです。厳密に言えば、あと三日で令和になります」
    如:「ならば、此処は平成ではないのか?」
    木:「今は平成ですよ」
    如:「ん?」
    ナレ:此処で話していてもしょうがないし、怪我をしているようだから速川家に連れて行く事にした。
    木:「あなたの知る唯、速川唯の家に連れて行きますから。私の腕に摑まってください」
    ナレ:如古坊はこの人物を信用した。この場所が永禄ではない事は分かった。拒絶したところで自分が何処へも行けない事も分かっていたから。如古坊自身あのスライドを見ていた事で、少しばかり状況を飲み込むことが出来ていた。
    木:「これに乗って」
    ナレ:自動車のドアを開け中へ促した。素直に乗ったので、
    木:「驚かないのですか?」
    如:「信茂殿に聞いたのじゃ。紙にのこの様な物を描き、馬より早いと教えてもろうての」
    木:「馬・・・そ・・・そうですか。では」
    ナレ:シートベルトをしようと腕を伸ばす木村先生の手を払った。
    木:「この乗り物に乗る時はシートベルトをしなくてはいけないので」
    如:「唯が申しておった、るうるであるか?」
    木:「速川が・・・そうですルールです」
    ナレ:木村先生は平成に来ていたのは忠清と唯だけだと思っていたので、逆にどう言う事と思っていた。如古坊は流れる景色を見ていた。
    如(心の声):(信茂殿が申しておった。まこと速い。目が回りそうじゃ)
    ナレ:分かっている様子でもじっとしていた如古坊が心配になり声を掛けた。
    如:「大事ない」
    ナレ:速川家の敷地に入り車を停めた。
    木:「待っていて下さいな」
    如:「あぁ」
    ナレ:インターホンを鳴らすと尊が出てきた。
    尊:「木村先生、どうしたんですか?」
    木:「いやなぁ、速川の知り合いを連れてきたんだが」
    尊:「知り合い?」
    木:「君の姉さんの」
    尊:「姉の・・・ですか?」
    ナレ:尊は木村先生と共に助手席に回ると見た事も無い恰好の男に、
    尊:「先生・・・もしかして」
    木:「そうだと思って」
    ナレ:尊はドアを開けてシートベルトを外し、
    尊:「僕は唯の弟です」
    如:「なれば、お主がたいむましんとやらをこさえたたけるか?」
    木:「えっ!」
    ナレ:タイムマシーンと聞いて尊の顔を見て声を上げた。
    尊:「先生、説明します。中へ」
    ナレ:今は日曜日の午後。みんな揃ってテレビを見ていた。リビングに通され、
    木:「お寛ぎの所すみません」
    覚:「木村先生どうしたんですか?・・・後ろの方は?」
    木:「羽木家の関係者の様でして」
    ナレ:その言葉で覚と美香子は驚き過ぎて言葉が出なかった。
    尊:「どうぞ座ってください」
    ナレ:座った木村先生の真似をして如古坊も座った。
    木:「私が羽木忠清様の墓に居ましたら現れまして。聞きましたらお嬢さんの事も知っているので。それでこちらへ。それに足も怪我している様なので」
    ナレ:怪我と聞いて美香子が、
    美:「失礼しますね」
    如:「お主は唯の母御」
    美:「ご存じなのですか?」
    如:「あぁ・・・しゃしんとやらを見せてもろうての」
    ナレ:木村先生は話が分からないので黙って聞いていた。
    覚:「そうですか。皆さん無事に着いたんですね。良かったな尊」
    尊:「うん」
    美:「捻挫のようね」
    ナレ:美香子は薬箱からシップを摂り如古坊の足首に貼った。
    如:「冷たい!」
    美:「大丈夫ですか?」
    如:「驚いただけじゃ。すまぬ」
    ナレ:覚が何も出していないと席を立った時、如古坊が、
    如:「すまぬが・・・無理であるなら良いのだが」
    覚:「どうしました?・・・遠慮なく言って下さい。唯がお世話になっているんですから」
    如:「わしが世話になっておる」
    美:「嘘でも、嬉しいですね」
    如:「いや、そのような」
    覚:「それで何ですか?」
    如:「信茂殿が申しておった、こおひいとやらは、苦いものじゃが、美味だと。ならばわしも飲んでみたいと思うての」
    覚:「分かりました。でも初めは少し甘くした物を飲んでもらった方が」
    如:「さようか。では」
    ナレ:その様子を尊がじっと見ていて、
    尊:「若君をはじめ皆さんもそうだったけど、直ぐにこの状況を飲み込んで凄いなぁと思いますよ」
    如:「さようか・・・皆もそうであろうが、あがいてもどうにもならぬ事が分かっておるからであろう」
    木:「すみませんが、私にもわかるように説明していただけませんか?」
    尊:「すみません。事情をお話ししますね」
    ナレ:尊はタイムマシーンを作り、予想外に唯が戦国へ行ってしまった事。忠清が矢傷を負いこの時代に唯が飛ばし傷の手当てをした事。唯と忠清が共にこの時代に来た事。そして羽木のみんながこの時代に逃れて来た事を話した。
    木:「そうだったのか。だが、君は優秀だから、私はその話を信じるよ。君がうちの学校に入学した頃、他の教員もあの速川の弟・・・あっ」
    覚:「構いませんよ、分かっていますから」
    木:「はぁ・・・ですが、速川が学校を辞める前の期末テストでは全科目今までとは違い点が良くて、私も先生方も驚いていました」
    尊:「その時は、若君のおかげなんです」
    木:「おかげ?」
    美:「唯のやる気を与えてくれて、私たちも結果も嬉しいですが、努力してくれた事が嬉しかったので」
    木:「そうですか」
    覚:「もっと前から、やる気出してくれてたら良かったんですが。ははは」
    ナレ:覚は笑っていたが、木村先生は自分迄笑うのは失礼だと思い話を変えた。
    木:「将来は科学者になるのかね」
    尊:「そんな事も考えたことありましたけど、今回の経験をして、返ってどうしたいのか迷い始めています。今はタイムマシーンは使えませんが、今後使えるようにする為には、今の僕には難しい課題です」
    木:「だが凄い事だよ・・・君と忠清様と出会ったあの日、私に向かって木村と言った事が不思議だったし、速川が私に木村殿と言った事も、スルーしたけど今思えば会っていたからなんだと」
    尊:「会って?」
    木:「木村政秀は私のご先祖様なんですよ。まぁ、それもはっきりしたのは最近ですが」
    如:「さようか」
    覚:「先生がご子孫と言う事は分かりましたし、彼が唯を知っているからって事も分かりますし、
    迷わず此処に連れて来た事がちょっと・・・僕は今何を言っているのか、話しながら分からなくなりまりました。ははっ」
    木:「分かります。そうでしたね。説明が・・・実は」
    ナレ:木村先生はカバンから古文書を出し、テーブルの上に。
    木:「これは政秀の手記です。忠清様と出会った後に発見されて」
    ナレ:優しくページをめくり絵の描いてある箇所を見せた。それは小垣城での若君と唯の婚礼の様子。一目で二人と分かる繊細且つ丁寧に描かれてあった。
    木:「祖父に代々木村家は絵の才能があると言われていまして。まぁ、私は駄目でしたけど。この絵を見た時にあの日出会った青年と速川だと分かり、不思議だった事がはっきりしました。速川が羽木家の事を頻繁に聞きに来ていた事の理由も」
    ナレ:だが裏のページに書かれていた文章については説明をしなかった。この婚礼が唯に最後の願いであり、明日は家臣として共に命を絶つ覚悟である事は。
    美:「もぉ、花嫁の格好をさせてもらっているのに、ピースは無いでしょうに。唯ったら」
    木:「奇態な事をしていると書かれてありますよ」
    覚:「ほんとですね・・・あれっ、あなたの名前を聞いていませんでしたね」
    如:「すまなんだ。わしは、如古坊と申す」
    覚:「にょこぼうさん・・・格好からしたら修験者かな?」
    如:「出家をしておる」
    尊:「そう言えば成之様が、仲の良い友が居るって言ってました。あなたの事ですか?」
    如:「成之とは幼い頃に出会うての、わしは成之に世話になったのだ」
    ナレ:唯は平成に戻ってきた時、高山と対峙している事を話したが、忠清が狙われた理由や高山の家臣との悪巧みのメンバーの如古坊の名は出していなかった。だから覚達は如古坊の事は知らなかった。
    覚:「そうだったんですか・・・はい、どうぞ。佐藤とミルクを入れておきましたから」
    ナレ:木村先生と如古坊の前に置いた。如古坊は頼んでみたもののどんな物か恐る恐る一口。
    如:「不思議な味じゃ・・・だが、わしの好みだ」
    美:「にょこぼうさんは大人なのね。どんな文字を書くんですか?」
    ナレ:ボールペンと紙を如古坊の前に置いた。尊がボールペンを持ちノックして書いて見せた。
    如:「墨も付けず書けるとは摩訶不思議じゃ」
    ナレ:先端を見てから文字を書いた〔如古坊〕と。もし唯がこの場に居たら言っただろう『読めない』と。みんなは理解した。
    美:「カッコイイ名前ですね」
    如:「ん?」
    美:「素敵だと言う事ですよ」
    如:「その様に言われたことは無かった」
    覚:「自信をもっていいのでは」
    如:「そのようなものか?」
    覚:「はい」
    ナレ:如古坊がボールペンを見ていたので、覚は持ち帰れるように用意をしますと話と嬉しそうに頷いた。此処に来て初めて笑顔を見せた。

    如古坊の楽しくも○○○思い出=2へつづく

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    如古坊の楽しくも○○○思い出=開始

    すみませんが始めさせていただきます。
    前回の報告より文字数が増えております(全14回)
    過去の創作の事などちらほら出ています。
    どのくらいの期間になるかは分かりませんが、これより数日かけて物語を書かせていただきます。
    作家の皆さんのように読み手に優しい書式が前々から苦手なため、そのページの切の悪い終わり方等の
    読み難さを感じられるでしょうがお許し下さい。そしてスマホを活用されての場合は、横向きにして頂くと少しばかりは読みやすくなるかと思います。
    読まれて皆様が「思ってたのと違~う」と思われるかも。その上で、楽しんでいただけたらと存じます。

    宜しくお願い申し上げます。

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    四人の現代Days75~2020年1月1日水曜2時、月推しです

    ざわざわしちゃう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    動画撮影スタート。

    みつき「あけおめ~!初詣に来てまーす!着物着せてもらったのー、ねっ、良くなーい?速川センセ、どうですか?」

    尊「皆さん明けましておめでとうございます。はい、よく似合ってるんで、彼氏さん喜ぶと思いますよ」

    み「ありがと。今は、夜中の2時でーす。鳥居の前で彼氏と待ち合わせしてたら、いきなりセンセが現れました~。デートですか?」

    尊「家族で来てます」

    み「本当かなー。どこかに彼女隠してない?」

    尊「本当ですよ。神出鬼没で、すいません」

    み「神社だけに?」

    尊「あ、上手いですね」

    み「アハハ~。というワケで、みんな、今年もよろしくね~」

    尊「よろしく~」

    終了。

    み「センセ上手だった!すぐグループLINEに投稿…いや待てよ」

    尊「ん?」

    み「瑠奈にシバかれるかなー。ま、いいや。送信、と」

    尊「なんで瑠奈さんにシバかれるの?」

    み「瑠奈、でいいから。だって瑠奈、センセのコトお気に入りだもん。かなりだよ?その歴史の話の時なんか、目がハートになってた」

    尊「は、はあ?」

    み「嫌?センセ彼女居ないんでしょ?」

    尊「そこまでご存知で」

    み「中学校から一緒だからさ、よく話す。あの子恋愛系やたらとオープンだし」

    尊「はあ」

    み「で、どう?」

    尊「どう、って…男女関係にはとんと無頓着で」

    み「で?」

    尊「食い下がるね」

    み「合うと思うんだよね。センセ、ジェントルマンだし」

    尊「ははは。それ、カラオケの時言われたヤツだね」

    み「うん。その時女子三人居たじゃない。今、彼氏居ないの瑠奈だけなんだよね」

    尊「へぇ」

    み「センセは、瑠奈の歴代の彼氏には居ないタイプ」

    尊「そうですか」

    み「で、今まで長く続いた試しがないから、今度はいい感じだと思った」

    尊「分析してるんだ」

    み「顔もかわいいじゃない」

    尊「そういう、何をどう感じるかは、主観が人それぞれ違うと思うけど」

    み「一般論はいらない」

    尊「強いな」

    み「私は、センセがどう感じてるか聞いてる」

    尊「はい。…うん、かわいらしい、と思います」

    み「でしょ!性格もかわいいんだよ。まあ、難があるとすれば、これが誰とも長続きしなかった原因でもあるけど」

    尊「何でしょう」

    み「恋愛は、一言で言うと、メンドくせぇ奴」

    尊「はあ」

    み「センセは大人だから大丈夫だと思うけど…あ、後ろに」

    尊「え?あ、兄さん」

    若君が近付いて来ていた。両親が合流したようだ。

    尊「ちょっとごめんね」

    み「うん」

    みつきから離れた尊。

    尊「呼びに来てくれたんですか?兄さん。お父さん達、ようやく車停められたんだね」

    若君「尊、あのおなごは、誰ぞを待っておるのか?」

    尊「彼氏…えっと、恋仲の男性を待ってるそうです」

    若「幾らこのように明るく人出があるとはいえ、夜更けにおなご一人にさせてはおけぬ。待ち人が参るまで、しかとおまもりせよ」

    尊「あ、そういう事ですね。実は僕もちょっと心配してました。じゃあ、彼女が無事彼氏と会えるまで。守れるかは自信ないですけど」

    若「おなご一人より弱くはなかろう」

    尊「そうありたいです。じゃ、ここを立ち去る時に、父か母に連絡するって伝えてください」

    若「うむ。では此れにて」

    若君は戻って行った。尊はみつきの元へ。

    み「え、ご家族の皆さん、行っちゃったよ?」

    尊「彼氏さんと会えるまで、一緒に居るね」

    み「え!センセ優しい!やっぱ超優良物件!」

    尊「物件って」

    ふと空を見上げた尊。周りがだいぶ明るいので、星はほとんど見えない。

    尊「何か、僕の周りの女性さ」

    み「うん?」

    尊「月に関係ある名前が多いなって」

    み「うん、瑠奈はまさしくそうだね。月の女神の名前。私は、月関係ないよ?」

    尊「え、そうなの?」

    み「瑠奈の名前の由来は本人に聞いてもらうとして、私のはさー、これ鉄板ネタなんだけど知らなかった?」

    尊「ごめんなさい、知らないです」

    み「では教えてあげよう。ウチね、両親二人とも、ディズニー好きで」

    尊「まさか」

    み「気付いた?子供が生まれたら、男でも女でも、絶対ミッキー、ではなんだから、ミツキって名前にするって決めてたらしい」

    尊「はあ」

    み「で、女の子だったから、ひらがなでみつきにしたと」

    尊「あれ、でもミッキーって男だよ」

    み「センセ、勘がいい、話が早い!そうなのよ。でもさ、ここでミニーとかだったら、ちょっと嫌じゃない?」

    尊「ちょっと暮らしづらいかもね」

    み「だから、みつきで良かったって。で、LINEの名前はミッキーにしてあると」

    尊「なるほど。聞いてみるもんだね」

    み「月、好きなんだ」

    尊「そうだね、気になるというか」

    み「月の女神は?」

    尊「推しますね」

    み「人助けをしてるの。あ、来た」

    遠くから走って来る若い男性が。

    尊「ちょっと離れるね。ちゃんと合流できるまでは見届けるんで」

    み「センセ、神だよ。ありがとう!」

    みつきから少し離れ、様子をさりげなく窺う尊。やがて、手を繋いだ二人が前を通っていった。

    尊「よし、任務完了」

    電話をかけながら、二人を追い抜き走っていった尊だった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    みつきちゃんは、17話no.863に出てくる女子高生1の子です。

    31日付のお話は、ここまでです。

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    妖怪千年おばばさんへ

    この追伸に気づくのが遅れてごめんなさい。
    日本はお雑煮でも各地方で違うらしいし、当然インスタント物でも地域差があるのでしょうね。京都は是非ゆっくり滞在したいと思っているので、両方試せたらいいですね。

    新垣結衣さんも、吉岡里帆さんも清楚で可愛らしくて大好きな俳優です。里帆さんはこちらでも放映されたいくつかのドラマに出演されていて、とても親しみを感じます。
    星野源さんは有名な歌手としてお名前だけは知っていましたが、暫く前にこちらで放送された、引越し奉行の映画を観て以来、すっかりファンになってしまいました。

    日本の動画専門サイトに登録しようかとも思ったのですが、ヴァーチャルネットワークでアクセスしないと登録できないみたいですね。インターネットだからこそ、世界中に繋がっているのに、なんでわざわざこんなディジタル国境を設けるんでしょうか。ネットは老人には色々と優しくないなあと思うことが多々あります。

    今後も妖怪千年おばばさんの、読み応えある創作を楽しみにしております。
    ありがとうございました。

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    四人の現代Days74~31日23時55分、ドキドキ!

    無事に年を越せた先には、また何かが。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トヨは、ほぼ仁王立ちになって、源三郎を見おろしている。

    トヨ「そなた」

    源三郎「はっ」

    ト「このトヨを娶ろうとお思いか」

    覚&美香子&尊「…」

    源「…はい、左様に思うております」

    ト「ならば、しゃんとせえ!もののふであろう!」

    尊「うわぁ。めっちゃ怒られてる」

    美香子「怒ってるんじゃないわ。勇気を振り絞って、励ましてる」

    覚「震えてるしな」

    尊「え?あっ」

    離れていてもわかる程に、トヨの手は小刻みに震えていた。美香子が涙ぐんでいる。

    美「トヨちゃん…」

    尊「…源三郎さん!頑張って!」

    時計は、間もなく0時。源三郎が立ち上がった。そして、震えるトヨの手を両手で包む。

    源「トヨ、済まない。俺は、まこと意気地無しだ」

    ト「…」

    源「聞いてくれるか」

    ト「はい」

    源「俺は、ぬるま湯に浸かってのほほんとしていたんだ。心の中は決まっていたのに」

    ト「…」

    源「待たせて済まなかった」

    ト「…」

    源「共に、命を全うするまで、傍に居て欲しい。その髪が」

    ト「髪?」

    ジェットコースター三昧でだいぶ取れてしまっているが、今日のトヨの髪は、美香子の手で毛先がふわりと巻かれていた。

    源「その短うなった髪が、元の長さに戻り、背丈を越え、床につく様をそしてその先を、見届けたいんだ。共に白髪となるまで」

    ト「源ちゃん…」

    源「この赤井源三郎の、妻になって欲しい。この通り」

    頭を下げる源三郎。トヨの表情が、ぱぁっと明るくなった。

    ト「はい。喜んでお受け致します」

    ドーン!バラバラバラバラ!!

    尊「明けた…」

    覚「無事、明けたな」

    美「はぁ。良かったわぁ」

    空を埋め尽くす花火。一気に辺りが明るくなる。唯が走って来た。

    唯「あけおめ!トヨ…泣いてる。って事は!」

    後ろからやって来た若君も、軽く頷いている。

    唯「わあ!おめでとう!良かった、ホントに良かった!」

    ト「ありがとう、ございます…」

    源三郎は、放心状態になっていた。覚が背中をポンポンと叩く。

    覚「いやぁ、終わり良ければ全て良し」

    源「はい…」

    覚「じゃあ、年も明けた事だし、今後の抱負を聞こうか。なっ」

    尊「新年早々ムチャ振り?」

    源「…わかりました。畏れながら申し上げます。必ずや、必ずやトヨを幸せにいたします」

    ト「…」

    源「この、大輪の花火に誓って」

    全員で空を見上げる。まだまだ咲き誇り続けている花火。

    若君「うむ」

    唯「それ、絶対だからね!約束だよ!」

    2020年1月1日午前1時。プロポーズの余韻に浸りながら花火を充分堪能した後、遊園地を出てまた車に分乗し、初詣に向かっていた。

    美「あ、電話鳴ってる。唯、代わりに出て」

    唯「はーい。あ、尊か。もしもし?」

    尊 電話『お父さんがね、神社の駐車場混んでるかもって。だから先に僕達を降ろすって言ってる』

    唯「そうなんだ。わかったー、言っとく」

    神社の近くまで来た。前を走る覚車が停車。美香子車も停車し、ぞろぞろと5人が車から降りた。

    尊「鳥居で待機ね」

    唯「了解~。思ったより、人多いね」

    鳥居の横で、両親を待つ五人。道行く女性達が、若君に見とれながら続々と境内に入っていく。

    若「尊」

    尊「はい」

    若「こちらをずっと見ておるおなごが居るが」

    尊「ははぁ。兄さんも大変ですね」

    若「尊の知り合いではないのか」

    尊「え!まさかの僕?どこですか」

    若「あの、絣柄を召した」

    鳥居のもう一方の足元で、絣の着物と羽織姿の、ショートヘアの女の子がこちらを見ている。

    尊「あ」

    若「どうじゃ?」

    尊「はい、クラスメートでした。ちょっと行ってきますね」

    女の子の元へ向かった尊。

    女の子「やっぱ、速川センセ?」

    尊「こんばんは。じゃなかった、明けましておめでとうございます、ミッキーさん。今日は着物なんですね」

    みつき「おめでと。っつーかそれ、LINEの名前だし。センセさ、クラスメートの名前あんまり覚えてないでしょ。私はみつき。覚えてよね」

    尊「はい。ごめんなさい」

    み「今ね、彼氏待ってるの。彼大学生なんだけど、年またぎでバイトでさ。で、サプライズで着物着せてもらって、ここでちょうど会える時間に合わせて親に送ってもらったのに、肝心の彼氏がちょっと遅れてる」

    尊「なるほど。説明よくわかりました」

    み「センセは誰と来てるの?美男美女の団体に居てちょっと驚いたけど。あ、もちろんセンセも美男子だよ」

    尊「ついでに褒めてくれてありがとう。家族だよ。姉二人とその旦那さん。今は車停めに行った両親待ってるところ」

    み「そーなんだー」

    尊「で、あの、みつきさんこそ、僕の事センセって呼ぶじゃない。何で?」

    み「さん、要らないから。私ね、センセは下手な先生よりずっと尊敬してるからさ。あの歴史の話題以来」

    尊「そんな、恐縮至極です」

    み「センセはすごいよ。あ、ねー、一緒に撮ろうよ」

    尊「写真ですか」

    み「動画撮るよ~」

    尊「動画?!」

    み「いい感じで、フレームインしてきてねー、行きまーす」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    歴史の話題は、またいずれ。

    続きます。

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    四人の現代Days73~31日23時30分、ハラハラ!

    マズい、はしたないと思われてる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    観覧車を降り、全員ぞろぞろと、花火があがる会場に移動している。

    美香子「遊園地で一番装飾が煌びやかなのは、メリーゴーラウンドね」

    前を通過中。乗っている子供達が、カメラを構える親達に楽しそうに手を振っている。

    唯「かわいい~」

    尊「今乗りたいとか、言わないでよ?」

    唯「うーん」

    尊「なぜ悩む!」

    美「はい、さっさと歩いて~」

    花火会場の隅にやって来た。先に進めば、人がより多く集まっているが、この辺りはそこまでではない。

    覚「ここでいいか。周りにあんまり人居ない方がいいし。少し遠くても、花火は頭上にあがるからよく見えるしな。0時になったら、ドーンと」

    尊「タイムリミットが、打ち上げ花火か…」

    つい、黙る7人。時刻は、23時40分。

    美「嫌だ、緊張してきちゃった。自分の話でもないのに」

    源三郎とトヨは、どこに視線を合わせたらいいのかわからない様子だ。

    若君「…唯」

    唯「なぁに?」

    若「わしらは、少し離れようではないか」

    唯「え、離れるの?それだと決定的瞬間が見れなくない?」

    若「あまりに晒し者では、気の毒じゃろ」

    唯「えー、見たいよぅ」

    若君が唯に囁く。

    若君の囁き「二人きりで、年を越そうではないか」

    唯「いやん、そんな理由?!もー、たーくんったらぁ。わっかりましたー」

    安堵の表情になった若君。

    若「お父さん、お母さん、尊。あとはよろしゅうお頼み申します」

    覚「わかった」

    美「はい」

    尊「うん」

    赤のペアルックの二人が離れていった。

    覚「気の遣い方がさすがだな…」

    美「ねぇ、どういうフォーメーションにする?」

    覚「はあ?」

    尊「並び方?」

    美「どうしようかな~」

    美香子が、5人の立ち位置を決めている。緊張のあまり、顔が青ざめかけていた源トヨも、その滑稽な様子に、少し笑顔を見せた。

    美「どう?」

    覚「これ以外に何があるかって感じだが」

    尊「まんま、かぶり付きの位置だし」

    向かい合って立つ源トヨ。二人を正面に臨む位置で、3m程離れて並ぶ三人。

    美「さて、と。あと10分か…」

    その頃の、唯と若君。

    唯「冬ってさ」

    若「ん?」

    唯「なんか、遠いよね」

    若「遠い、とは?」

    唯「夏だとさー、着てる服も薄いし、水着着ちゃったりもするから、くっついててもピタっとするなぁって思うけど、冬はセーターもコートも着てるから、なんか遠い」

    それを聞き、若君は手繋ぎから体勢を変え、唯の後ろからそっと抱き締めた。

    唯「きゃっ」

    そのまま耳元に顔を近づけ、囁く。

    若「肌を合わせたいのか」

    唯「ひゃあ!やだたーくん、なんかエロ侍出てる」

    若「ハハハ」

    唯「あっちのヘタレ侍はどうなったかな。あー、まだ変化なしかー」

    離れてはいるが、5人の姿が確認できる場所には居る二人だった。

    若「屁垂れとは、何じゃ?」

    唯「ヘタレはヘタレ。今日でヘタレじゃなくなるといいけど」

    若「そのような…幾度も口にするでない」

    戻って、プロポーズ会場。源三郎が、小さい声でセリフを反芻していた。

    覚「伝えたい言葉がすっ飛んではなあ」

    美「時間はギリギリだけど、急かしてもね」

    尊「そもそも、こんな時間になっちゃったのは、お姉ちゃんのせいだし」

    源三郎が顔を上げる。身構えるトヨ。だが、すぐまた下を向く源三郎。これが、何回か続いている。

    源三郎「あっ…ふぅ。済まない、トヨ」

    トヨ「…」

    尊「あと5分」

    ここで、ずっと不安そうにしていたトヨの表情が、意を決したかの様にガラリと変わった。

    ト「赤井殿」

    源「え?は、はっ!」

    覚&美香子&尊「へ?」

    その言葉に思わず体が反応し、その場に跪いた源三郎。

    尊「時代劇みたいだ」

    美「お父さん、何言ってるの!」

    覚「すいません…」

    尊「何か不穏な空気。大丈夫かな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    追伸です。

    カマアイナ様
    どん兵衛きつねうどんは、
    W鰹だしと、鰹と昆布だし。
    2種類のお味があります。
    どちらがお好みですか?
    ただし、地域で分かれているんです。
    関東と、関西で。
    来日される際には、
    両方の地域を旅行されて、
    スーパーの棚を
    覗いてみて下さいね~、

    実は、どんぎつね役の
    吉岡里帆ちゃんは、
    CM契約満了になったそうです。
    ”~手紙~”でご紹介した動画が
    最後の様で。

    星野源さんと新垣結衣さんの
    結婚発表は、里帆ちゃん
    の契約満了時期を考慮した上
    での事だったかも。

    かわいいどんぎつねが、
    もう見られないのは
    さみしいですが、
    おばばの妄想小説の中では、
    これからも登場させたいと
    思います。

    これからも、よろしく
    お願いします~。m(__)m

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    ありがとうございます!

    カマアイナ様
    褒め上手の姫君。
    感想をいただき、感激しました!
    とても、励みになります。
    いつか、ハワイでの速川家も
    描けると良いなと思います。

    夕月かかりて様
    お邪魔なんてとんでもないです。
    いつも楽しく読ませて頂いてます。
    次はどうなるのかなと空想すると、
    つい、投稿を忘れるんです。
    私の言葉に語弊があったのなら、
    ごめんなさいね。
    また、次の作品が書けたら、
    遠慮なく、投稿させて
    いただきます~。
    これからも、楽しい連載を
    お願いします~(*^^)v

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    四人の現代Days72~31日22時、想い出の場所

    一番空に近いところで。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    夜の遊園地に来ている。

    尊「お姉ちゃん、物事には程度とか、限度ってモンがあるんだよ!」

    唯「だからごめんって」

    尊「トヨさんなら断らないってわかってて…」

    唯「だって、こんなにいっぱいジェットコースターに乗れるの超久しぶりなんだもん!」

    尊「わざと連れ回したんだろ」

    唯「楽しそうにしてたから、いいと思ったんだよぅ」

    トヨ「あの、わたくしなら大事ございませんので、どうか姉弟で喧嘩なさらないでください」

    尊「だって、辛そうですよ?」

    トヨがベンチに座っている。唯が隣で顔を覗きこんでいる。周りを、若君、尊、源三郎が囲む。

    若君「トヨ、済まぬ。わしが唯を止めねばならなんだ」

    ト「いえ!どの乗り物もとても楽しくて。少しだけ体が追いつかなかったみたいです。不徳の致すところでございます」

    覚「おー、どうした?」

    美香子「トヨちゃん、具合が悪いの?」

    カウントダウンイベントの、野外コンサートを楽しんでいた両親が合流した。

    尊「ご飯食べた後、お父さん達と別れたじゃない。その後、お姉ちゃんが無茶して、トヨさんを絶叫マシンにばかり連続で乗せて」

    覚「二人でずっと乗ってたのか。男衆は一緒じゃなかったのか?」

    尊「最初のジェットコースターだけ5人で乗った。後は、はい次~!って姉ちゃんがすぐトヨさんの手を引いて走ってっちゃって、追いつくのがやっとで。元々僕達三人とも絶叫マシンそんなに得意ではないし…でもはぐれるといけないから、ずっと降り口の近くで待ってた」

    美「忠清くんとではなかったのね」

    若「はい」

    唯「イヤイヤ乗ってくれなくてもいいもん。トヨは一緒にキャーキャー言ってくれるから」

    ト「あの、充分休めました。もう平気ですので」

    覚の囁き「尊、もしかして源三郎くんのプロポーズ…」

    尊の囁き「まだだよ。二人きりにもなってない。全部姉ちゃんが悪いんだよ」

    覚 囁き「あちゃー。今年もあと二時間切ってるぞ」

    唯「ねぇ、観覧車も乗りたーい!」

    尊「は?どの口が言ってる?!」

    ト「大丈夫です。あの大きく丸い乗り物ですよね」

    美「無理しちゃダメよ?」

    ト「好奇心と申しますか、そちらの方が強くって。参りましょう」

    美「じゃ、ゆっくりとね」

    もう少し休憩してから、観覧車乗り場にやって来た7人。

    美「ホントは二人きりにしてあげたいから、2対5がいいけど」

    源三郎の顔色をうかがう美香子。

    源三郎「あ、あの…」

    美「これでは、トヨちゃんの体調を気遣って一周終わりそうだから」

    覚「4対3か。わかった」

    乗車口前。

    覚「はい、唯と忠清くんと尊、先に乗れ」

    唯「そーゆー組み合わせ?」

    尊「妥当だよ」

    三人、先に来たゴンドラに乗り込んでいった。

    美「私達もご一緒させてね」

    源「はい!」

    ト「喜んで」

    次のゴンドラに四人で乗る。ゆっくりと、夜空に吸い込まれていくようだ。

    源三郎の囁き「体、辛くないか?」

    トヨの囁き「うん。ありがとう」

    にこやかに、二人の様子を眺める両親。

    美「あのね。私、観覧車にはとってもいい想い出があるの」

    ト「どのような?」

    美「お父さんが、プロポーズ…結婚の申し込みしてくれたのが、この中でなのよ」

    源「えっ」

    ト「まぁ!」

    覚「僕はその日ずっとそのつもりでさ。二人で遊びに来て、夕方ちょうど日が落ちる頃に観覧車に乗ろうと決めてて」

    美「まだ後で、って中々乗ろうとしなくって。そんなの知らないから」

    ト「ふふっ」

    覚「ゴンドラが頂上に着く頃、ちょうど空が真っ赤に染まって。その時、僕と結婚してくださいって、指輪を出して申し込んだんだ」

    美「嬉しかった…はい、って即答しちゃった」

    ト「はぁ~、いい。とてもいいお話ですね」

    覚「ハハハ。参考までに、なんてな」

    源「お聞かせいただき、ありがとうございました」

    ト「…」

    その頃の唯達。

    唯「ねー、例の女の子、るなちゃんだっけ?とはどうなった?」

    尊「どうなったって…何にもないよ」

    唯「連絡してないの?」

    尊「何でするんだよ。用がある訳でもないのに」

    唯「向こうからもないの?」

    尊「ないよ」

    唯「えー。つまんない」

    尊「勝手に盛り上がんないでよ。クラスメートの一人だよ」

    若「仲を深めようとは、思わぬか」

    尊「兄さんまで。僕の事はいいですから。今日は、源三郎さんとトヨさんさえ上手くいってくれれば」

    唯「ホント~」

    尊「散々邪魔してたクセに。ミッション聞いてないのかと思ってた」

    唯「だって年内にプロポーズでしょ?まだ時間ある」

    尊「呑気だな。あと今年も一時間しかないよ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    どうかお気になさらず

    妖怪千年おばばさん。久々のお出ましに、心が踊りました。

    いつも、投稿されるタイミングを私が邪魔しておりまして、大変恐縮でございます。

    私の創作話には、連続して番号がふってありますので、間に他の投稿話がどれだけ入っても、行方不明にもなりませんし、何ら問題はございません。

    今後は、どうぞご自身のタイミングで投稿なさってくださいね。

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    返信
    妖怪千年おばばさんへ

    妖怪千年おばばさん、すっかりご無沙汰しておりました。

    あまりに素晴らしいサプライズに、何度も読ませていただきました。
    才気溢れる創作って、こういう作品の事を謂うのでしょうね。
    一見繋がりがなさそうな場面が、次から次へと紡がれていって、その先が楽しみで仕方なくなります。
    妖怪千年おばばさんの創作の引き出しって、それこそマウナケアの山頂で見る満天の星の数ほどありそう。それを自在に繋げて、夢の星座を見せてくれているようです。
    ただただ感嘆するばかりです。妖怪千年おばばさん以外に誰がアシガールとコナコーヒーとをいとも自然に組み合わせることができるでしょう。誰が速川家のハワイ旅行を想像したでしょう。それが又アシガールに繋がるなんて嬉しすぎますね。

    同時代を平行移動すると、確かに時差ボケに苦しみますが、時空の穴を抜けると、そこは尽きない楽しさに満ちていて、時差ゴチの世界。尊に感謝です。

    一家揃って、パソコンをあけたら、??? その先が待ちきれないです。
    でも、こんな大作を出されたすぐ後に期待するのは虫が良すぎますね。
    お疲れ様でした。本当にありがとうございました。

    オババでも安心して又日本に行けるようになったら、食べた事のないどん兵衛、絶対買ってみます。

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    ~手紙~

      ピンポーン

    玄関のチャイムが鳴った。

     “ん?誰だ?”

    妻の美香子は、診察中。
    娘の唯は自室に籠っている。
    息子の尊が帰宅するには、まだ早い。
    おまけに、チャイムは鳴らさない。

    覚は、手に付いた粉をはらうと、
    インターフォンの画面をのぞき込む。
    立っていたのは、郵便局の配達員だ、

     「書留でーす。」

    「あ、どうも。今、開けます、」

    配達員は、覚のエプロン姿に、
    一瞬、目を見開いたが、
    手早く、控えにサインを貰うと、
    口元に、含み笑いを浮かべたまま、
    立ち去った。

    妻の祖父の身の廻りの世話を
    引き受けた頃、
    玄関先に出る時には、
    必ずエプロンを外していた。
    だが、その祖父に痴呆の症状が
    現れ始めてからは、
    外す手間すら惜しくなった。
    祖父が亡くなってずいぶん経つが、
    エプロンはすっかり定着して、
    今でもほぼ1日中、着けたままだ。

    受け取った大きな封筒を手に、
    キッチンに戻りながら、
    心の中でつぶやく。

    “今どき、専業主夫なんか、
    珍しくもなかろうに。“

    そう。
    バブルとITバブル、
    二つの泡がはじけ、
    吹き荒れたのはリストラの嵐。

    病み上がりの自分にとって、
    要介護の祖父は、
    救いの神だったとも言える。

    “震災後の数年は、新卒採用すら
    無かったしな。“

    ため息つきつつ、
    食卓の椅子に腰を下ろし、
    覚は封筒を裏返した。

    そこに書かれていたのは、
    大学時代の恩師の名だ。
    留学、就職、転職。
    人生の大きな節目の相談役は、
    いつも、この教授だった。
    懐かしさがこみ上げて来る。
    年賀状だけのやり取りになって、
    何年経つだろう。

    封筒の角をハサミで切ると、
    ペーパーナイフを差し込み、
    静かに滑らせる。
    厚みのある茶色の角封筒の中には、
    さらに封書が二つ入っていた。
    しかも、一通の表書きは
    アルファベットだ。

     “ん?
      大学の研究室宛てだが。“

    覚は恩師の名前が書かれている方の
    白い封筒を手に取る。
    手紙は、思いがけず長文だった。
    今回、この郵便が自分に届くまでの
    いきさつが書かれていたのだが、
    結びの一文に、胸が熱くなった。

    ・・・同封した封書が、
       もっと早く届いていたら、
       君を大学に呼び戻して
       いただろう。・・・

    覚は、もう一つの封筒を、
    じっと見つめる。

    それは、一度開封され、
    改めて閉じられていた。
    震える指先で、そっと開ける。

    中には、いくつかの論文のコピーと
    その考察の他、資料の目録などが
    入っていた。
    綺麗にタイピングされている。
    添えられたカードは、流れた年月を
    物語るように、変色していたが、
    手書きのメッセージとサインは、
    読み取れた。

    ・・・親愛なる覚へ
        これからの君と、
        君の仲間や後輩たちに、
        これが少しでも役立つなら、
        嬉しい。
            鬼塚 承次より・・・

    差出人は、
    エリソン・ショージ・オニヅカ氏。
    高名な日系三世の宇宙飛行士は、
    覚へ和名でメッセージを残したのだ。

    カードの日付をみて、驚いた。
    それは、オニズカ氏の命日の10日前。

    その頃、覚は留学先のアメリカで、
    帰国準備に追われていた。
    日本での就職先が決まり、
    一旦、その会社の研修所に
    入る事になっていた。
    研修後、配属が正式に決まってから、
    社宅に移ることになっていたが、
    住所は、まだ知らされていなかった。

    スペースシャトルへの
    二度目の搭乗前、オニヅカ氏は
    電話をかけてきてくれたのだが、
    その時、覚は帰国後の住所を
    伝えられなかったのだ。

    駆け付けた打ち上げ現場。
    瞬きもせずにロケットを追う。
    その視線の先で起きた大爆発。

    覚の脳裏を鋭い閃光が走る。
    突然のフラッシュバックに、
    ぐらりと体が傾いた。
    固く目をつぶった覚の耳に、
    オニズカさんの声がよみがえる。

     「Satoru!」

    巻き舌気味に“る”を発音するので、
    遠くから呼ばれると、
    「さとー!」に聞こえた。

    差し出されなかった覚宛ての封書は、
    事故後、他の遺品とともに、
    遺族に渡された。
    そして最近になって、
    たまたま発見され、
    覚の母校宛てに送付されたのだ。

    コロラド大学留学中に一度、
    夕食に招待された事があったが、
    それを、オニズカ氏の娘さんが、
    覚えていてくれたらしい。
    もっとも、覚えていたのは、
    お土産に持参した、
    キャンパスグッズの猫のぬいぐるみ
    の方だったかもしれない。
    ぬいぐるみのチャームには、
    日本の母校の名が刻印されていた。

    恩師は、現役を退いた今でも、
    名誉教授として職員名簿に
    登録されている。
    今日、こうして覚のもとに
    大切な人からの贈り物が届いたのは、
    大学の事務長が、直ぐに恩師に連絡
    してくれたおかげでもあった。

    しばらくの間、
    覚は硬直したように座っていたが、
    やがて、腕をさすりながら
    立ち上がり、夕食の準備を再開した。
    そろそろ、尊が帰宅する時刻だった。

      ~~~~~~~~~~~

       「なんか、これ、
        いつもより、分厚くない?」

    レンコンのはさみ揚げを
    頬ばりながら、尊が言う。

     「食べ応えがあって良いじゃない。
      ねえ、唯?」

    妙に明るい声で、
    妻の美香子が娘に向かって言う。
    戦国から戻って以来、
    ずっと部屋に引きこもっていた唯が、
    やっと今夜、食卓に姿をみせたのだ。

    「すまん。
     今日は、仕込みの途中で
     ちょっとな。」

    覚の言葉が途切れる。
    美香子がすかさず言葉をつなぐ。

     「玉手箱が届いたのよ。
      竜宮城から。
      お父さんに。」

    覚の目が、一瞬、遠くなる。

       「で、それをこれから
        開けるってわけ?」

     「ううん、
      もうとっくに開けたって。」

       「でも、どこも変わって
        ないじゃん。
        いつものまんま。」

     「確かに、見た目はね。  
      でも、心は、今、大学生。
      ね?お父さん。」

    「え?ああ。
     まあ、そんなところだ。」

      「玉手箱って、
       開けるとおじいさんに
       なるはずだよね?」

    初めて唯が口を開いた。
    美香子が覚に目配せをする。

    「そうだな。
     お父さんが貰ったのは、
     逆玉だ。
     若返るんだよ。」

      「逆玉って、意味違うし。
       おまけに古いし。」

    覚が笑う。
    そして、じっと娘を見つめ、
    言葉を続けた。

    「なあ、唯。
     実はお父さんも経験がある。
     大切な人との、
     思いもしなかった
     突然の別れをね。」

    唯は黙って父を見つめ返す。
    覚は小さく頷くと、語り始めた。
    憧れの人との大切な思い出と、
    胸に抱いていた宇宙への夢を。

      「辛かったね、お父さん。」

    「辛いって言うより、
     呆然としてた。
     何も手につかなくて。
     今のお前みたいに。」

      「今の、私。」

    「父さんはお前が羨ましいよ。
     大切な人からの手紙を
     その手で受け取れたんだから。」

      「そうだけど。でも。」

    「でも?」

      「貰った時は嬉しかった。
       さよならなんて、
       思ってなかったから。
       今は、読むのが怖い。
       というか、読みたくない。
       読んだら、
       認めなきゃならないし。
       もう、会えないって。」

     「と言う事は、まだ
      読んでないの?」

    大きなはさみ揚げに
    食らいついていた尊が、
    そこで一言漏らした。

       「と言うか、
        読めないんじゃない?」

    覚と美香子が口をそろえる。

    「読めない?」
     「読めないの?」

    唯はうなだれながら頷く。
    そして、上目使いのまま
    両親の反応を窺う。

    「ええー!?」
     「ありゃま!!」

    唯は、持っていた箸を置き、
    肩を落として二階の自室に戻った。
    それを見送り、三人は額を寄せ合う。

     「もともと、足が速いのだけが
      取柄なんだし。」

    「海外駐在したって、
     語学力が上がる保証は無い。」

       「数か月、戦国にいたからって、
        読み書きできるように
        なるとは、」

    「限らんな。」

    はああああ・・・。

    揃ってついたのは、
    大きなため息だ。

    「でも、このままじゃ、」

     「若君の気持ちが、」

       「まあったく、」

    「伝わらん!」
     「伝わらない!」
       「分かんない!」

    “ん???
    尊、そこは合わせようか。“

    尊への一言をぐっと飲みこみ、
    覚が話の舵を取る。

    「まあ、唯ばかりは責められない。
     我々だって、読めないだろうし。
     でも、若君の手紙を
     そのままにするのも、良くない。
     唯にとっても、
     若君にとっても。
     で、どうしたらいいと思う?」

     「唯の学校の、歴史の先生に、
      相談したら?
      ええっと、そう。木村先生。」

       「でも、手紙には、
        お姉ちゃんや若君の
        名前も書いてあるはず。
        それを、今見せるのは、
        ちょっと。」

     「コピーして、
      そこだけ消すとか?」

    「出所をきかれたらどうする?
     何しろ、郷土史の研究家だ。
     下手なごまかしは通用しない。」

     「じゃあ、古典の先生は?」

    「唯の学校の先生は、
     やめとこう。」

     「そうねえ。」

    両親の視線がなぜか自分に向かう。
    二人に見つめられて、尊は焦った。

        “え?これって、いつもの
         丸投げパターン?“

    尊は、めずらしく強い口調で言う、

       「放っとけば?お姉ちゃん、
        読みたくないって
        言ってるし!」

    覚は腕組みをして、目を瞑る。
    しばらくして、ゆっくりと
    目を開けると、こう言った。

    「なあ、尊。
     若君の手紙の解読は、
     お前の為にも
     なるんじゃないか?」

       「え?僕の?」

    「そう。
     お前も、いつか発表したいだろ?
     タイムマシーンを開発した事。」

       「うん。」

    「それには、開発した事実を
     証明する必要がある。」

       「そうだよ。
        お姉ちゃんが
        生きた証さ。」

    「でも、お前たちは姉と弟だ。
     信じて貰えると思うか?」

       「じゃあ、
        芳江さんたちにも頼む。
        若君が戦国から来た事、
        証言してって。」

    「その事なんだが、
     芳江さんたちにとって、若君は、
     身元不明の患者さんなんだ。」

     「怪我のショックで、自分を
      戦国武将だと
      思い込んでるって
      言ってあるの。」

       「それで、“若君”にしたの?
        病室の名札。」

     「そう。
      唯の走り書きが“わかぎみ”
      だった事もあるけど。」

       「でも、証拠品がある。
        矢じりと若君の着物。
        そうだ、DNA鑑定は?
        探せば、家の中に
        髪の毛の一本位、
        残ってるかも。」

    「矢じりと着物は、若君に
     持たせた。
     命を狙われた証拠品だからな。」

     「それに、DNA鑑定は、
      比較するものが必要でしょ?
      若君のお骨が発掘されない限り
      まず無理。」

    「しかも、保存状態が良くないと
     採取できない。」

     「もう、分かったでしょ?
      若君の手紙の方が、
      客観的な物証になる可能性が
      高いのよ。」

    「紙や墨の成分を分析すれば、
     年代も判明するはずだし。
     それに、今後、
     羽木家の資料が発見されれば、
     若君の筆跡や、
     花押が本物だって
     証明されるかもしれない。」

       「でも、古文の解読なんて、
        僕の研究の対象外すぎる。」

    「なあ、こうは考えられないか?
     手紙は、タイムマシーン
     だって。」

       「え?」

    覚はオニズカ氏の手書きのカードを、
    尊に差し出す。

    「父さんは、これを読むと
     あの頃に戻る。
     忘れていた記憶も蘇る。
     どうだ?
     やってみないか?
     心のタイムマシーンの開発。」

      ~~~~~~~~~~~

    数日後の日曜日、遅めの朝。
    速川家のキッチンには
    甘い香りが漂っている。

    その香りに誘われて、
    尊がやってきた。

    テーブルの上にはパンケーキの
    皿が四枚並んでいる。
    添えられているのは、
    生クリームとパイナップルと
    マンゴー、そしてミントの葉。

    「仕上げはナッツ&
     チョコソースだ。」

    覚は鼻歌交じりに言うと、
    砕いたマカダミアナッツを、
    パラリと振りかけた。
    また部屋に籠ってしまった唯の為に
    皿の1枚を盆に移す。
    運びかけた所へ、唯が姿を見せた。

    「おお?おっはー!」

    昔、子供たちに大人気だった、
    “慎吾ママ”のおはようの挨拶が、
    覚の口から突いて出た。
    今思えば、“慎吾ママ”が
    数年後のメイドブームの
    火つけ役だったかもしれない。
    いかん、話が逸れた。

      「私も・・・食べて良い?」

    「ああ、当たり前だろ?
     さあさあ、座って。」

    覚はいそいそと唯の席に皿を戻す。

    4人がテーブルに着いた所で、
    美香子が口火を切った。

     「今日は、お父さんが、
      ビッグニュースを
      お伝えします。」

    覚は、軽く咳払いをする。

    「実はさ。
     ちょっと気の早い話なんだが、
     今度の新年のカウントダウンは、
     ハワイでしたいと思う。」

      「え?ハワイ?」

    目を丸くしている唯に、
    尊が冷めた声で言う。

       「お姉ちゃん。
        真に受けない方が良いよ。
        いつものおやじギャグに
        決まってる。
        で、どっちなの?
        鳥取の羽合温泉?
        それとも、
        福島の常磐ハワイアン?」

     「あらら~。
      尊はよっぽど温泉に
      行きたいのね。
      でも、残念でした。
      今回は、ほんとのハワイなの。
      太平洋の常夏の島。」

        「え?マジで?」

    「マジだ。」

        「どうして急に?」

    「いや、前から考えてはいたんだ。
     いつか必ずって。
     実は、この前話した
     オニズカさんは、ハワイ出身でね。
     ご実家は、コーヒー農園なんだ。」

     「お父さんの大好きな、
      コナ・コーヒーの。」

    「そう。
     オニズカさんが
     淹れてくれたコーヒーの味は、
     一生忘れない。
     ブルーマウンテンや、
     キリマンジャロにも劣らない
     あの香りと風味。」

      “Satoru、ミルクを入れると、
      味が変わるよ。
      コナは一杯で二度美味しい。“

    オニズカさんは、そう言って笑った。
    1回目のシャトル搭乗の際には、
    搭乗員にも、
    ふるまっていたらしい。

       「へええ、そのコーヒー、
        宇宙にまで行ったんだ。」

    「父さんの学生時代には、
     なかなか手に入らない
     貴重品だった。」

    覚の目が輝いている。
    美香子はそんな覚を優しく見つめる。
    妻の微笑みを見て、覚が続けた。

    「それに、母さんとの新婚旅行も
     まだだしな。」

       「え?そうなの?」

    「お前たちも、もうすぐ受験だ。
     そしたら、家族旅行どころじゃ
     なくなるだろ?」

      「だから、今のうちに、
       どう?」

    唯と尊が目を合わせる。
    二人の首が、コクンと縦に動いた。

    「よし、決まりだな。
     唯、ホノルルには
     大食いチャレンジのできる店が
     あるらしいぞ。
     巨大パンケーキの。」

      「それで、今朝はこれ?」

    唯がテーブルの上の皿を指さす。
     
    「そ。今から練習だ!
     さあ、食べよう。」

     「ねえ、お父さん。
      私、会いたい人がいるの。
      ハワイの医療センターの
      ドクター。
      いわゆる、“時差ボケ”に
      ついての第一人者なんだけど。」

    覚が、呆れた声を出す。

    「おいおい、
     “新婚旅行”でも仕事かい?
     というか、何で“時差ボケ”?」

     「ちょっとね。
      久しぶりに論文書いて
      みようかと思って。
      新しいテーマで。
      ケーススタディも出来るしね。
      しかも、被験者は4人。
      これを逃す手はないでしょ。」

    「はあ?」
       「え、私たち、実験台?」
        「僕、実験台より、
         天文台のほうが良い。」

    “尊。それ、ギャグのつもりか?”

    覚は、またしても、言葉を飲み込む。

    こうして、久しぶりに早川家4人の
    ちょっとトロピカルな
    ブランチタイムが、
    和やかに過ぎて行った。

     ~~~~~~~~~~~

      「ありがとう、尊。」

    自室に向かう尊に、
    唯が二階の廊下で声をかける。

       「え?」

      「差し入れ。おとといの。」

       「ああ、あれ。
        悪かったなって思って。
        僕のよけいな一言で、
        食欲無くさせて。」

      「ん。でもホントの事だし。」

    両親から若君の手紙の解読を
    迫られたあの夜、
    尊はもやもやした気分を晴らそうと、
    深夜のコンビニに出かけた。
    自分用の夜食を買うつもりが、
    気が付けば、姉の好物の
    チョコボールを手にしていた。
    そして家に戻り、レジ袋ごと
    ぶら下げたのだ。
    唯の部屋のドアノブに。

    背を向けた弟を、唯が引き留める。

      「頼みがあるんだけど。」

       「何?」

      「読みたいの。
       若君の手紙。
       手伝ってくれない」

       「どうしたの?急に。」

      「やっぱり、このままじゃ、
       いけないと思って。」

    尊は、姉に背を向けて、
    しばらく考え込んでいたが、
    やがて振り返ると、こう言った。

       「わかった。
        じゃあ、見せて。
        若君の手紙。」

    尊は唯に続いて部屋に入る。
    一瞬、ベッドの上に寝転んで、
    漫画を眺めている若君が、
    見えたような気がした。

    唯は枕の下に手を入れると、
    手紙を取り出し、尊に差し出す。

     “唯殿”

    宛名の“殿”の払いの部分が、
    うっすらと滲んでいた。
    唯の涙の跡だ。

       「お姉ちゃんが、
        開けた方が良い。」

    唯はしばらく、手紙の宛名の
    文字を見つめていた。
    書かれているのは、確かに
    自分の名前だ。
    何度見直しただろう。
    何度思っただろう。

    “別れの手紙が
     自分宛のはずが無い。“

    指先が震える。
    そっと裏返す。
    そして、ゆっくりと手紙を開いた。

    尊は、見る見る内に姉の瞳に
    涙が溢れるのを見て取ると、
    慌てて、手紙に手を伸ばした。

       「貸して。」

    手紙を受け取り、
    丁寧に広げて眺める。
    やはり、意味は分からない。
    でも、流れるような文字は
    とても綺麗だった。

       「スキャンしてくる。」

    尊は、自室に戻ると、
    手紙をセットし、スキャナーで
    パソコンに取り込んだ。

    姉の部屋に戻り、手紙を渡す。
    姉の目は真っ赤だった。
    必死で泣くのを堪えている。

       「とにかく、永禄時代の
        古文書を検索してみるよ。
        博物館の公開資料とか。
        似た書体を探せば、
        なんとかなるさ。」

      「ミサなら、読めるかも。」

       「ミサ?」

      「友達。
       尊も小さい頃、一緒に遊んだ。
       覚えてない?」

       「ああ、あの、保育園から
        ずっと一緒の?」

      「うん。ミサの叔母さんの家、
       書道教室なの。
       ミサも小学生の頃から
       習ってて、
       今では手伝ってる。
       小さい子のクラス。」

       「凄い!
        でも、何て言って頼む?
        聞かれるだろ?色々。」

      「正直に、話す。良い?」

       「信じて・・・貰えるかな。」

      「分かんない。
       でも、ミサなら、
       もしかして。」

       「じゃあ、相談しよう。
        家に来てもらって。」

      「うん。連絡してみる。」

    尊は、姉の心の急な変化に
    戸惑ったが、とにかく、
    協力する事にした。

    父親が言った、紙の年代測定は、
    確かに有効だろう。
    手紙文が解読できれば、
    紙の端をサンプルとして
    姉から貰えるかもしれない。

    尊は自室のパソコンに向かい、
    永禄文書の検索にかかった。

    実はあの夜。
    尊の差し入れの中には、
    “どん兵衛きつねうどん”も
    入っていた。
    それを見つけたとたん、
    唯のお腹が盛大に鳴り始めた。
    今にも、鰹出汁の良い匂いが
    漂ってきそうだ。

    唯はお腹を押さえながら
    キッチンに行き、
    ポットの湯の量を確かめる。
    カップうどん一杯なら、足りそうだ。
    湯を入れたどんカップを、
    そおっと部屋に運び、
    割り箸を握ったまま、手を合わせた。

    “ん?なんか、
    前にも同じ事あった気が。。。”

    そう思った瞬間、湯気の向こうに
    ピョコピョコ動く耳が見えた。

     「ゆいさん、お久しぶりです!」

      「ど、どんぎつね!
       どうしてここに?」

     「会いに来ました。
      お礼が言いたくて。」

      「お礼?何の?」

     「実は、源三郎さんが、
      約束してくれて。
      今は、待ってるんです。
      人間の娘として
      生まれ変わる日を。
      闇払いの修行をしながら。」

      「ちょ、ちょっと待って。
       ぜっんぜん、飲み込めない。」

     「え、熱すぎました?
      それとも、麺が太すぎたとか?」

      「違うってば。
       どんぎつねの話の方。」

     「あ、そっち。ですよね~。」

    それから、
    どんぎつねの話は、延々と続き、
    延々と麺も伸び続けた。
    カップの中の出汁は無くなり、
    膨れ上がった麺が今にも
    はみ出しそうだ。
    それを見たどんぎつねが
    慌てて言った。

     「あ、伸びますよ。
      早く食べないと。」

        “あのね。。。”

    唯は、呆れながら尋ねる。

      「で、吹っ切れたの?
       源さんの事。」

     「はい。きっぱり。
      こんな感じでお別れを。」
    https://www.youtube.com/watch?v=c3rUBNl6hrA

    “えー―――!
    極寒の雪原に置き去り?!
    怖い!怖すぎる!“

     「もし、本当に、
      生まれ変われたら、
      報告しますね。」

      「でも、どうやって?」

     「伏見稲荷の白狐に
      頼んでおきます。
      ゆいさんに伝えてって。」

    どんぎつねは輝く笑顔で
    唯に手を振ると、朝日の中に
    消えていった。

      “綺麗になったな、
      どんぎつね。
      それに、強くなった。”

    唯は素直にそう思った。

    朝日と笑顔は、力をくれる。
    唯は、若君の手紙を取り出すと、
    こうつぶやいた。

     「若君。
      このままじゃ駄目だよね。
      私。。。」

    そうして唯は、
    手紙を読む決心をしたのだ。
    窓から差し込む光が、
    手紙に反射して、唯の顔を
    優しく照らしていた。

       ~~~~~~~~~~

    窓ぎわの席に座り、
    携帯電話を取り出す。
    電話もメールも着信はない。
    待合せの時間は過ぎている。

    覚は、テーブルの上に
    携帯電話を置き、
    店の入口に目をやった。
    すると、扉に着いている
    小さめのカウベルが、
    コロン、コロリンと音を立てた。

    入ってきたのは、
    三歳位の女の子を連れた
    若い母親だ。
    予約していたバースデーケーキを
    受け取りに来たらしい。

    トシさんの奥さんが笑顔で迎える。
    ケーキを渡し、料金を受けとると、
    奥さんは、レジの横で揺れている
    風船を一つ取り、女の子に渡した。

    女の子は、恥ずかしそうに
    母親の後ろに隠れていたが、
    おずおずと手を伸ばす。
    トシさんの奥さんは、
    すかさず女の子の手首に
    風船の糸をくるりと巻き付けた。

     「ほら。こうすれば、
     飛ばないから。」

    女の子は、コクリと頷くと、
    笑顔を見せる。
    ドアの外に出てからも、
    何度も振り返り、手を振りながら、
    帰っていった。

     「可愛いわねえ。」

    トシさんの奥さんが
    銀色のトレーにコップを
    載せてやって来た。

     「ああ。あの頃が一番だな。
     手はかかるけど。」

    覚は、懐かしげな顔で答えた。
    子供達が小さかった頃、
    誕生日を祝うのは、
    この店と決まっていた。

    店主のトシさんが、裏メニューの
    焼きリンゴを作ってくれたり、
    奥さんが、コーンスープや
    ナポリタンを出してくれた。

      「昭和の味だよな~。」

    思わずこぼれた独り言に、
    奥さんが笑う。

     「今、作ってるから。
      かつての定番品。」

      「え?」

     「唯ちゃんが元気に
      なるならって。
      朝から妙に
      張り切ってるの。
      ウチの旦那。」

    奥さんが、ショーケースの
    内側に戻った頃、
    覚の席に面した窓が
    コンコンと叩かれた。

    振り向くと、
    窓ガラスの向こうで、
    尊が右手を上げている。

    手招きをする覚に、
    尊は一瞬、ためらう。
    覚は、早く来いと言うように、
    顎をしゃくった。

    間もなく、尊が入ってきた。

     「ああら、尊君。
     また、背が伸びたわね。」

    奥さんの明るい声が、店内に響く。
    その声を追うように、厨房から
    トシさんがやって来た。
    そして、生真面目な顔で言う。

    「久しぶりだったからさ。
     緊張したよ。」

    磨きこまれたバットの中には、
    動物型のケーキが
    ずらりと並んでいた。
    猫、犬、熊、パンダ、タヌキ・・・

      「おー。
       大人気だったよな。これ。
       唯は、特にこの
       スワンシューが
       お気に入りでさ。
       きっと大喜びする。
       ありがとう。トシさん。」

    「味見してみる?」

      「そうだな。コーヒーも頼むよ。
       尊は?」

       「あ、僕はアップルパイで。」

      ”あのな、尊。ここはだな。。“

    またしても、覚は言葉を飲み込む。

      「で、どうだった?」

    尊は、返事の代わりに右手の指を
    二本立てて見せた。

       「ミサさんの叔母さんは、
        とっても親切だった。
        余計な詮索はしないし、
        文章の意味だけ、きちんと
        説明してくれたよ。
        後は、家で。」

      「ああ、そうだな。」

    覚と尊は、ケーキとコーヒーを
    流し込むように平らげると、
    トシさんからケーキの大きな箱を
    受け取り、自宅へと急いだ。

    今日は午後から、唯の友達が家に
    来ることになっている。
    美紗が唯に会った事を学校で
    話したらしく、仲良しグループが
    全員で訪ねて来る事になったのだ。

       「これで、学校に行く気に
        なってくれれば良いね。
        お姉ちゃん。」

      「それ、お前が言うか?」

        「え?あ、ごめん。」

    覚は笑って、尊の背中をポンと叩く。

    不登校だった尊は、若君のおかげで
    通学できる様になった。
    こうして息子と肩を並べて
    歩くのは、本当に久しぶりだ。

      「尊。必ず行こうな。天文台。
       マウナケアの星空は、
       凄いらしいぞ。」

    “オニズカさんの記念碑もあるし。“

    振り仰いだ空には、
    うっすらと飛行機雲が残っていた。

      ~~~~~~~~~~~~

    実は、唯の幼馴染の美紗は、
    一人で4日前の水曜日に
    来てくれていた。

    唯を見るなり両腕を大きく広げて
    ぎゅっと抱きしめ、
    なかなか離さなかった。

    「ゆ~い!ヤッハロー♪」

      「ハロハロ~♪
       サンキュ。来てくれて。」

    その後、尊の実験室で話をした。
    美紗は、パソコンの画面を
    スクロールしながら、食い入る様に
    手紙を読んでいたが、やがて、
    こう言った。

    「ここと、ここ。
     あ、ここもコピーして。
     別ファイルに保存してね。
     漢字のとこ、叔母さんに確認して
     貰うから。
     意味も説明してって、
     頼んどく。
     言葉のニュアンスとか、
     きちんと知りたいでしょ?」

       「うん。」

    「早い方が良いとは思うけど、
     平日の夜は、
     大人のクラスがあるし、
     土曜日は、
     子供のクラスで手一杯。
     時間貰えるとすれば、
     日曜の午前中かな。」

      「信じて・・・くれるの?」

    探る様な唯と尊の視線に、
    美紗は半ば困り顔で言った。

    「うー――ん。
     ホント言うとね、
     無理っぽい。」

    唯と尊が、同時に下を向く。

    “やっぱり、無理か・・・”

    それを見た美紗は、こう続けた。

    「でもね。
     今の話が、唯の妄想だとしても、
     唯にとっては、
     “本当に起こった事”なんだよね?
     だったら、手伝う。」

    尊と唯が、同時に顔を上げた。
    唯が美紗にダイブする。

      「ありがとう~!!!
       ミサ!!」

    実験室を出て、
    家の前に止めたチャリにまたがり、
    美紗が振り返った。

    「唯に会った事、
     学校で話しても大丈夫?
     皆、心配してるし。
     もちろん、
     手紙の事は言わない。」

      「うん、いいよ。」

    「了解。じゃあね。」

      「あ、待って。送ってく。」

    言いながら、唯は自分の
    自転車めがけてダッシュする。
    二人を見送りながら、
    尊はしみじみ思った。

        “友達って良いな。”

    ふと、若君の横顔が胸をよぎる。
    尊にとっては、家族以外で初めて
    心を許せた人だ。
    出来ることなら、また会いたい。
    いつか、自分も永禄に・・・。

    こみ上げる想いを払うように、
    尊はぶんぶんと頭を振ると、
    実験室に戻り、パソコンを
    再起動させた。

      ~~~~~~~~~~~~

    そして、迎えた日曜の午後。
    速川家は、笑い声で溢れていた。
    懐かしの“動物ケーキ”の争奪戦で、
    ジャンケン大会が始まったらしい。

    「いいよな~。
     若い女の子の声って。
     こっちも元気になる。」

     「ああら、じゃあ、
      オバさんの声だと
      どうなるの?」

    美香子に睨まれ、覚は慌てた。

    「え?そ、それはだな。
     アレだ。」

    覚は救いを求める様に息子を見る。
    が、尊はスマホに夢中で気づかない。

     「アレって?」

    「お?
     お・お・お、落ち着く。
     特に君の声は、安心する。
     さすが、名医だ。」

     「うまく逃げたわね~。」

    「あはは。
     そうだ!
     ケーキだけじゃ、なんだから、
     タコ焼きでもするか?
     食べ盛りだろ。コギャルは。」

       「そこは、“JK”。
        コギャルは死語。」

    「死語?そうだな~。」

    珍しく、覚は尊への一言を
    飲み込まず、逆に軽く受け流すと、
    いそいそとスーパーに向かう。

    そして、夕方。
    帰りかけたJK達を引き留め、
    覚はリビングに案内した。
    部屋の真ん中に置かれた座卓には、
    B級グルメがずらりと並んでいる。
    リビングに大歓声が響く。

       「わお!」
         「すご~い!」
          「ヤダー。これ、
           見ちゃったら、
           帰れないよね~!」

    皆、携帯を取り出す。
    そして、セリフを合わせた様に
    話し出した。

        「あ、ママ?
         今夜、夕食いらない。
         唯ん家でゴチになる~♪」

    覚が、嬉しそうに声をかける。

    「さあさあ、遠慮なくどうぞ。
     今日のたこ焼きは、
     ちょっと仕掛けがあってね。」

        「え、なになに?」

    「味見するかい?」

    覚が差し出したたこ焼きを、
    美紗がパクリと口に入れた。

          「んんん?何これ?
           もしかして、
           モッツアレラ?!
           美味でござり
           まする~♪」

    美紗の声につられて、
    他のJKも次々に手を伸ばす。

           「あ、これ、エビ!」
            「私のは・・・
             チョコ
             ボール?!」
             「えっ?
              うっそー?
              ほんとに?」

    ぽん酢、タルタル、それに、
    ソースとケチャップを
    混ぜたオーロラ。
    用意した、ディップも色とりどりだ。

         「いいなあ~、唯は。
          こういうの、
          毎日食べられて。」
          「羨ましすぎ~。」
           「唯パパ、
            サイコー!」

    大絶賛を浴び、覚が照れる。
    赤くなった顔を見られない様に
    キッチンに戻り、
    覚は焼きそば用の
    キャベツを刻み始めた。

    JK達は、タコ焼きを口に運ぶ毎に
    携帯を向け、お互いを
    写メに収める。

    その夜のインスタグラムが
    速川家のB級グルメで溢れたのは、
    言うまでもなかった。

      ~~~~~~~~~~~~

    咄嗟に思いついて、
    用意したたこ焼きが、
    唯の友人たちに大ウケし、
    大満足の覚だったが、
    それ以上に嬉しかったのは、
    唯が見せた、穏やかな顔だ。

    尊の実験室で、永禄時代の
    小袖姿を見た時には、
    正直、戸惑った。

       「かわいかろ?」

    “嬉しそうに言うこの子は、誰だ?
    確かに声は、娘の唯だが・・・。“

    覚は得体のしれない
    違和感を隠したまま、
    数日を過ごした。

    唯が戻った次の夜、
    寝返りを打った拍子に、
    美香子が目を覚まし、こう言った。

     「お父さん、
      眠れないんじゃない?」

    「そんなことは、ない。
     あのさ、、、」

     「なあに?」

    「いや、何でもない。」

    言いかけて、覚はやめた。
    自分でも説明のつかない感覚を
    上手く妻に伝えられるはずもない。

    覚は、自分が抱えていた違和感が、
    唯の表情の変化で、今夜、
    少し消えた気がした。

    友達に囲まれると、唯は
    確実に、元の唯に戻っていく。
    そう、自分の娘は、この唯だ。

    覚はたこ焼きのプレートを
    丁寧に洗う。
    多めに出した蛇口の水が、
    自分の心の迷いも、
    流して行く様な気がした。

     「お茶が入ったわよ~。」

    美香子が唯と尊を呼ぶ。
    いよいよ、これから、
    若君の手紙を“読む”のだ。

    “唯宛ての玉手箱が、
     唯をどんな姿に変えても、
     自分は唯の父親だ。“

    覚は、エプロンを締めなおす。
    そして、三人が待つダイニング
    テーブルに向かう。
    椅子に深く座り、
    深呼吸を一つすると、
    尊に言った。

    「尊、パソコン、起動させてくれ。」

    速川家の屋根の上で、
    小さな星が続けて二つ、
    きらりと流れて消えて行った。

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    久々に投稿させて頂きます♪

    昨夜の満月に力を借りて、
    投稿させていただきますね。

    夕月かかりて様
    連載途中に、すみません。
    お話の流れを止めてしまうのは申し訳なく、
    ずっと、タイミングを計っていたのですが、
    まだまだ続くとの事ですので、
    入らせて頂きますね。m(__)m

    ぷくぷく様
    大長編の投稿前にすみません。
    ご準備中かと存じます。
    タイミングが重なりましたら、
    お許し下され~。m(__)m

    皆さま
    漫画版では”若君の手紙”を
    読んでくれたのは、
    お隣の元大学教授だったかと。
    では、ドラマ版は?

    唯は
    ”にょんにょんした文字”を
    読み解けたのか?

    そんな疑問がきっかけで、
    書き始めました。

    お楽しみいただけましたら、
    幸いです。

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    返信
    四人の現代Days71~31日火曜10時、Xデー到来

    すぐに買っておいて、良かったね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    クリニックは今日から休み。全員で、外回りの大掃除中。唯とトヨは、枯れ葉を掃いて集めている。

    唯「ふんふーん」

    トヨ「ご機嫌ですね」

    唯「今日もイベント盛りだくさんだから、掃除してても楽しみでしかたないよ。遊園地ってさ、いっぱい乗り物あるんだよ!」

    ト「スワンボート、のような?」

    唯「もっと速く動くジェットコースターとか、もっとゆっくり動く観覧車とか」

    ト「まあ。初めて聞く名ばかりですね。心踊ります」

    唯「あー楽しみ。ん?」

    家の前に宅配業者の車が停まった。

    唯「あ、何か届いた。たーくんに知らせなきゃ!」

    慌てて若君に声をかけにいった唯。

    唯「ねぇたーくん、仕事来たっぽいよ」

    若君「ん?」

    草むしりをしていた若君が顔を上げる。

    若「おぉ、受け取らねば」

    急いで家の玄関に向かった若君。ハンコを押し、荷物を受け取ると、覚がすぐにやって来た。

    覚「忠清くん、受け取りありがとな」

    若「礼には及びませぬが、これは?」

    覚「おせち料理のお重だよ」

    若「料理?この中に?」

    ダンボールをキッチンに運ぶと、中のお重の蓋を開けた覚。

    覚「どうだい?」

    若「これは…絢爛豪華ですね」

    覚「正月用だから、あと一日我慢な」

    若「心得ました」

    また外に出た若君。すると、黒いロープのような物体が、駐車場を這い、表まで伸びているのに気付いた。

    若君 心の声(これは何じゃ、大蛇か?!)

    ロープの先をたどってみると、尊と源三郎が、見慣れない機械を持って何やら準備している。

    尊「あ、兄さん。呼びに行く前に来てくれたんだ」

    源三郎「間もなく、支度が出来ます」

    若「支度?」

    そこは、クリニックの看板の前だった。

    尊「夏にこの看板、兄さんが懸命に掃除してくれたじゃないですか。あの後すぐ、この高圧洗浄機を買ったんですよ」

    若「これで掃除を。地を這う蛇のような物は?」

    尊「屋外用延長コードです。コンセントがない所でも電気が使えるように」

    若「ほぅ」

    源「楽に掃除が出来るので、是非忠清様にと、お父さんが仰せられ」

    若「わしの為に?ならば始めから手伝うたのに」

    尊「いいんですよ。まだこの後、他の場所で使いますから」

    若「そうであったか。色々済まぬの」

    準備完了。

    尊「そうです、そうするとこのブラシの部分から熱い蒸気が出てきます。で、擦ると」

    若「湯をかけながら磨けるようなものだと。随分と首が長いのう」

    尊「脚立使わなくても、上まで届きますよね」

    若「ほほぅ。では、いざ」

    スイッチオン。シュー、と音がし始めた。

    源「暖が取れそうな勢いですな」

    尊「かなり熱いですからね、油断は禁物です」

    若「おぉ、ほぅ、これは楽じゃ」

    みるみる内に汚れが取れ、あっという間に看板はピカピカになった。

    若「新たな術を見たのう」

    尊「兄さんお疲れ様。この後、クリニックの入口のガラス扉をこれで磨くんで、兄さんは草むしりに戻ってもらってもいいですか?」

    若「わかった。ならばこのコード、をそこまで運ぼう」

    掃除は順調に進み、12時を回った頃に終了した。昼ごはん中。

    覚「みんなお疲れさん。これで昼寝もしてな」

    尊「昼寝まで予定に組み込まれてるの?」

    覚「カウントダウンイベントに、初詣。体力の温存は必要だ。特に僕が」

    美香子「私も。車運転するしね」

    尊「そういう事か。それは必須だね」

    若「いつも済みませぬ」

    美「いいのよ。お出かけは楽しいし」

    唯「夜遅くなるもんね。私も寝とくー」

    覚「で、7時には出発する予定だ。晩飯は現地でな」

    唯「わかったー」

    美「トヨちゃんと唯は、お出かけ前にお化粧してあげるわ」

    唯「わーい!お母さん、トヨにたっぷり時間かけてあげてね」

    美「そのつもりよ」

    ト「そんな、あまりお手を煩わせるようでは」

    覚「まぁ、いいじゃないか。盛り上がってきたな~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    それこそ色んな板で

    いつもの投稿の時間になりましたが、まずここで、昨日今日のむじなランドの盛り上がりについてお話させてください。

    まずは妄想あさイチ。月文字さん、喜んでいただき光栄です。朝ドラヒロインが9月中に出演されるのは当然予想される話なので、もっと早く出しておいても良かったよな、と少し反省しております。彼のテレビ出演復活のシナリオとしては、そんなに悪くないと思ったんですが。どこかで、なんとか、と願っております。

    この金土、あちらこちらで皆さんに私の名前をあげていただきまして、大変恐縮しております。

    二日に一度投稿している私ですが、ここ最近は全体的にすごく静かで、話題がなければこんな感じかな、ちょっと寂しいなと思っておりました。

    良かった、皆さんお元気だったわと一安心いたしました。結菜さん効果は、当たり前ですが絶大でした(^_^;)ゞ

    カマアイナ様。お墓の刀の絵ですが、私も他の方に解説していただいて理解を深めました。形や方角が、公式掲示板の話題に上がっていたかはわかりません。

    墓の形、五輪塔の墓石は上から、空・風・火・水・地を表しているそうです。調べていて勉強になりました。

    そして、現代Daysはまだまだ終わりません。今後のお話が意に添うかはわかりませんが、どうか、今を楽しんでください。

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    夕月かかりてさん

    いつも楽しい創作をありがとうございます。途中でお邪魔しないで、コメントは完結したらと思っていたのですが、あの若君のお墓の裏話には、本当にびっくりしました。お墓の方向すら注意した事のない、歴史無知で宗教無知ですが、その分析の鋭さ、信ぴょう性の高さに、な〜る程と一人納得してしまいました。
    今晩は久しぶりに早速DVDを見返してみます。お墓の模様などもまるで無頓着でした。 アシガールはどこまでいっても、深いんですね。
    いつか完結してしまうのは残念ですが、それまで毎回心待ちにして、楽しませて頂きます。

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    四人の現代Days70~30日10時、想像するに

    後程、一部解説します。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    墓の裏に刻まれた文字を見る源トヨ。

    源三郎「生害?」

    トヨ「え?誰が?同じ名の違う御方ですか?」

    尊「何なんだとは思いますよね。建てた側に、兄さんはこうなった、と刻まなければならない事情があったんじゃないかと」

    ト「この、脇に描かれているのは何かしら」

    源「これは…刀じゃないか?」

    尊「僕もそう思います。後で見解を話しますが、まずは日付」

    スマホを取り出し、画像を二人に見せる。

    尊「これは寺に残されていた資料です」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「永禄三年十一月、黒羽城ニテ生害ス。この頃、兄さんの身の上に起こっていたのは?」

    源「…相賀一成が娘との婚儀、ですか」

    尊「はい。相賀側ではない人物で立ち合ったのは、天野のじい、と高山宗熊の二人だったそうですが、兄さんは助けに行った姉と、その場からまんまと抜け出すも追い詰められ、色々あったけど櫓の上で二人一緒に消えた、と」

    ト「それで昨年末に、こちらの世にお二人で現れたんですね」

    尊「はい。兄さんの話では、じいも宗熊さんも、消えた様子は見ていません。婚儀の場から二人が逃げてすぐ、守り神が迎えに来たから大丈夫、とすぐに馬に飛び乗り、宗熊さんと共に城を後にした、とじいに聞いたそうです」

    源「そのまま留まれば、事の次第によっては命が危のうございました」

    尊「消えた時、櫓の下には相賀の者しか居なかった。で、相賀にとっては面目丸つぶれ」

    源「取り逃がしたのではない、目の前で腹を切ったから婿に出来なかった、としたかった」

    ト「なるほど」

    尊「この墓の形。永禄以降、長い間主流です」

    源「五輪塔ですね」

    尊「あの織田信長の墓と伝えられているのもこの形。もっとも、そう言われてる墓は一つじゃなくて、幾つもあるんですけどね。だから建てた時期の特定もちょっと難しい。で、誰が建てたんだという話で」

    源「相賀一成か、家臣か、でしょうか」

    ト「資料が昨年解読されたばかりですが、寺の住職が、とも考えられますが」

    尊「現代に残る資料には限界があるんですが、兄さん自身が、誰でもよいって気にしてないんです。だから、いつかわかればいいかな位にとどめようかと。ところでこの墓、ずっとここにあったと思います?」

    ト「え?誰かが移したんですか?」

    源「何ゆえそのように、お考えになられる?」

    尊「これはあくまでも僕の見解ですけどね。ここで二人に質問です」

    源&ト「はい」

    尊「この墓はどちらの方角を向いているでしょうか。手がかりは、太陽の位置と、あそこに見える寺の本堂です」

    遠くに、資料が見つかった寺が見える。

    ト「わかりました。えーと、おてんと様が今あそこにあって」

    源「寺があちらを向いている」

    尊「わかりましたよね、では答えをどうぞ」

    源「西に向いております」

    ト「はい、私も西だと思います」

    尊「正解です。お墓の向きって、これで合ってます?」

    源「向き?西を向く墓は珍しいですが、なくはないと思います。それに、この五輪塔は、どの側から手を合わせても構いませぬ」

    ト「四方が正面、とされております」

    尊「さすが。答えが出るのが早い。それは僕も調べて、理解しました。隣に居る小さいお地蔵さんは、二体とも西を向いててこれは一般的な向きですし。でも、二体って少なくないですか?普通六体じゃないですか?」

    源「六地蔵ではないかと?うーん」

    ト「それで、移し忘れがないかと仰る?」

    尊「昔話のかさじぞうでも、お地蔵さんは六体としたもので」

    ト「かさじぞう?」

    源「そのような言い伝えがあるのですか?」

    尊「あ、お二人にとっては、未来の話だったかも。すいません、聞かなかった事にしてください」

    ト「ふふっ、その昔話はまた詳しくお聞かせくださいね」

    尊「はい。位置については、兄さんも、どっちの説も頷けるって言ってました。で、最後この絵ですが」

    源「はい」

    ト「いよいよですね」

    尊「兄さんは、飛ぶ時に姉を抱き上げました。手にしていた刀ですが、その直前に、月にめがけて真上に放り投げたそうです」

    源「投げた。すると…」

    ト「いずれは落ちて参ります」

    尊「刃先を下にして落ちてくるとどうなりますか」

    源「刺さりますね。櫓は木で組んでありますゆえ」

    ト「ではこれは、残された者達が、消えてすぐ見た景色…」

    尊「だと思ってます。すごく目に焼き付きますよね」

    源「そうですか。良くわかりました。尊殿、お話いただきありがとうございました」

    ト「私、もう一つ気付いたわ」

    源「何をだ?」

    ト「尊様と木村先生の、忠清様の日記についてのやりとりを伺った時、なぜ木村先生は御月家…ひいては、羽木の誰かと考えたのか、羽木なら当然忠清様の名が真っ先に出るでしょうと思っていたんです」

    尊「理由がわかりましたか」

    ト「木村先生は、昨年この墓の存在を知った。その時、永禄三年十一月に生害とあったのを信じているので、永禄三年の終わりから始まる日記や、永禄四年に書かれた熱き文は、無事逃げのびた別の人物が書いたと思われたんですね」

    尊「ご名答です」

    公園を出た三人。

    尊「この後は、姉に目一杯、綺麗にしてもらってくださいね」

    ト「はい。楽しみです。この後も、明日も」

    尊「だ、そうです」

    源「はい」

    ト「…」

    ┅┅

    ここで、墓の方角について、私夕月の見解をお話します。

    ドラマSPでのお墓のシーン。2018年(平成30年)と字幕が出た時ですが、唯と木村先生の後方、竹やぶのすぐ上から太陽の光が射しています。その次、唯が墓の裏に回りしゃがんだ時、後ろに見える竹の影も左に伸びています。

    先生と落ち合ったのは、まず平日の夕方だろうと考えます。よって最初の画面は、東から西方向を映している。生害の文字は東側に書かれている、チラリと見える二つの石は、裏から見た小さなお地蔵様と考えました。

    お寺は、ほとんどが東向きに建てられているそうですね。唯達の後ろに見える鳥居は、さっきの見解でいくと南に向かって伸びているので、途中で90度曲げないといけませんが、周りの景色からすると表の参道ではありませんので、そこは目をつぶりました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    30日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days69~30日月曜9時、衝撃的!

    その反応は、やはり。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝ごはん後、美香子は年内最後の仕事へ。6人でコーヒータイム中。

    覚「唯はまだ眠いのか」

    尊「まだじゃないよ。まただよ」

    ぽや~んとしている唯。

    覚「昨日久しぶりに働いたからか」

    唯「ん~。そりゃ昼間はあーだったけどさぁ」

    覚「何の話だ?」

    若君が一人、なぜか動揺している。

    覚「まあ、明日は盛り沢山だから、今日はダラダラしててもいいけどな」

    尊「ダラダラはいつもだけど」

    唯「うるさいなー。あ、思い出した。トヨ、手見せて」

    トヨ「はい?」

    唯「やっぱり爪、だいぶ割れてるね。ゆうべたーくんの言った通り」

    ト「え?」

    若君「手袋も着けず水仕事をしておった。そろそろ塗り直しが要るであろうと思い」

    ト「そのような。お気遣い、痛み入ります」

    唯「よしっ、じゃあ私がマニキュア塗り直してあげる」

    尊「さっきまで寝ぼけてたクセに。そんなすぐに細かい作業なんて大丈夫なの?ちゃんと出来ないなら、逆にトヨさんに失礼だよ?」

    唯「ちょっとヤバいか」

    ト「あの、唯様もお掃除頑張っていらっしゃいましたので、爪は似たような様子かと」

    唯「私?まぁピカピカではないけどさ」

    ト「先にお直しください」

    唯「えー。私がやるって言い出したのに、悪いよ」

    ト「いいんですよ。また忠清様がほどこされますよね?」

    若「あ?まぁそうじゃな」

    ト「どうぞ、仲睦まじくなさってください」

    尊「その様子を周りでじっと見てるってのも、ちょっと恥ずかしいけどね」

    ここで若君が、あ、という顔をした。

    若「そうじゃ、尊よ」

    尊「何?兄さん」

    若「待つ間、源三郎とトヨと三人で公園へ参るのは、いかがじゃ?」

    尊「あ、お散歩。いいですね、今日そんなに寒くないし。どうですか?源三郎さん、トヨさん」

    源三郎「はい!それは、是非とも」

    ト「ご一緒に。嬉しい、お願いいたします」

    若「尊、それでの」

    若君が部屋の隅へ尊を呼ぶと、小さく耳打ちした。

    尊「え、そこ、まだ行ってなかったんですか?」

    若「四人で参った折はまだ日も浅かったゆえ、城跡のみでとどめておいたのじゃ」

    尊「そうだったんですね」

    若「そこでその、尊の存念と申すか」

    尊「あ、僕の見解ですね。それも話していいんですか?」

    若「ほぼほぼ合うておると、わしは思うておる」

    尊「わかりました」

    席に戻った二人。

    尊「じゃ、出かけるとするか」

    唯「ちょうど良かった感じ?」

    尊「結果ね。まっ、お姉ちゃん達は、手に手を取ってイチャイチャしてて」

    唯「わかったー。わかったってのもヘンだな」

    若「尊、よろしく頼む」

    尊「お父さん、昼前には戻るよ」

    覚「了解」

    9時30分。家を出た尊と源トヨ。

    尊「なんか」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「明日、いい事があるみたいですね」

    源「え」

    ト「あの、どのようないい事なのでしょうか」

    尊「いい事は、いい事じゃないんですか?楽しみにしてますね」

    ト「どなたも、肝心な事は仰らないんですよね」

    尊「僕もよくは知らないんで」

    源「…」

    黒羽城公園に到着。遊具のない、奥の方へ入っていく尊。

    ト「尊様、どちらへ」

    源「この先は、竹やぶですが」

    周りが囲ってあるが、中央に石が積まれている場所に着いた。

    源「これは…墓、ですね」

    ト「どなたの?」

    尊「羽木九八郎忠清の墓です」

    源&ト「え、ええっ!!」

    状況が全く飲み込めていない源トヨ。話し始める尊。

    尊「僕の話の中には、推測の域を出ない部分があります。わかりにくい部分もあると思いますが、この墓について話して良いですか」

    源「お願い致します」

    ト「お聞かせくださいませ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    妄想「あさ〇チ」プレミアムトーク、9時から9時5分まで

    えー、お間違いなく。ここは創作倶楽部。

    想像したって、いいじゃない。問題作かもしれないけれど、ちょっとだけだから許してください。伏せ字多いし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    金曜日。テレビ放送中。ニュース明け、ゲストのアップからスタート。

    H多D吉「改めまして、今日のゲストは朝ドラちむどんどんヒロインの、K島Y菜さんです」

    K島「お願いします」

    S木アナ「9時台は、ちむどんどん以外での、ご活躍のお話をしたいんですが、まず、こちらのフリップをご覧ください」

    フリップが出された。

    S「弊社のドラマなど映像作品や、あとグッズ、チ〇ちゃんのぬいぐるみとか、を販売している〇HKスクエアが、ツイッターで先々月、好きな〇HKドラマを三つ呟いてくださいと募集しまして」

    H多H丸「ほう」

    S「こちら募集当日の順位なんですが、1位は正〇不動産」

    H「はー。Yピーはやっぱり人気ですね。私も、一人夜ドラ受けしてました」

    D「朝ドラ受けにとどまらず?」

    H「録画を観た後、こっそりと」

    S「聞きたかったです。2位はわげ〇ん、3位は女子的生〇で」

    H「りょーちんとボクテだ」

    D「それ朝ドラの時の役でしょう。視聴者を惑わせないでください。あと、ここで話を引っ張らない」

    K「あ、でも4位は、お母ちゃんですから」

    D「K島さん優しいですね。いいんですよ、お調子者のおじさんなんか庇わなくても」

    S「美女と男〇。観てましたー。で、5位は青天を〇けです」

    H「10位がカムカ〇。で、6位が二つある?隠れてますけど」

    S「はい、で、これをめくりますと」

    隠してあった部分が現れた。

    H「あぁなるほど。アシガールとスカーレット」

    D「主演なさった大人気ドラマと、三津、ですね」

    K「すごくありがたいです。嬉しい」

    S「それでですね、今回K島さんのプレミアムトークご出演にあたり、お一人、VTRでコメントを頂きました。両方のドラマに出演なさった方です」

    H「それは、もしや。まさかやー!」

    D「H丸さん、よくご本家の前で言えましたね」

    K「あはは」

    S「それでは、VTR、どうぞ!」

    画面が変わる。足元からカメラが徐々に上に移動し、はにかんだ笑顔の男性が映った。

    I藤「あさ〇チをご覧の皆様、おはようございます。H丸さんD吉さん、お久しぶりです。K島さん、長丁場、お疲れ様でした。I藤K太郎です」

    ┅┅┅┅

    順位については、報道で知りましたがそのまま使わせていただきました。

    ここから先はどうぞ、ご自身の御眼にてお見極めのほどを。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、現代Daysに戻ります。

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    四人の現代Days68~29日日曜12時、本領発揮

    昼間じゃなきゃいいのか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日は朝から家族総出で大掃除。前半戦が終わり、昼ごはん中。

    唯「半分以上終わった感じ?」

    食卓の隅に、掃除をする場所リストが置いてあり、上から順番に、済んだらチェックするようになっている。

    美香子「二階は終わってるし、一階は窓拭き済み、電灯のカサも済みと。こういう高い所は、身長がある子にやってもらうとホント助かるわ~。両方とも忠清くんよね?」

    若君「はい。全く苦ではありませんでした。どの薬も、一拭きでたちどころに汚れが取れましたゆえ」

    美「現代は、その辺も用途毎に揃ってて便利よね」

    若「それより、先程尊が、炊事場で首を突っ込み大変そうにしておりましたが」

    尊「あー、換気扇外してたんですよ。でも、浸け置きしておいたらみるみる油が浮き上がってきて、実験みたいで楽しかった。源三郎さんも、釘付けになってましたよね」

    源三郎「あまりの術に、感服いたしました」

    覚「壁は拭いた。あとはレンジ周りだけだが、一旦棚から出した調味料や調理器具を戻さないとな」

    唯「この表さ、お風呂とトイレはもう終わってるけど、あとリビング、廊下、玄関ときて、なんで最後が洗面所なの?風呂掃除のついででよくない?」

    覚「鏡は先でもいいが、洗面台は、掃除に使ったブラシや雑巾を洗った後、掃除した方が二度手間にならんからだ」

    唯「へー!考えてるぅ」

    トヨ「なるほど…」

    尊「理にかなってる」

    覚「さ、じゃあ後半戦、頑張ろう」

    ト「はいっ」

    トヨが手拭いで、ササッとほっかむりをした。

    美「さすが堂に入ってる」

    ト「お掃除、好きなんです」

    美「うん。目が輝いてるもの。では手分けしてスタート~」

    キッチンは覚と尊と源三郎。リビングは美香子と若君。唯とトヨは廊下で…

    ト「もっと固く絞る!」

    唯「えぇー」

    ト「なりません!そんなゆるゆるでは、雑巾ではなくただの濡れた布です!」

    美「ふふっ、どんどんトヨちゃんには絞って欲しいわ、唯を」

    若「ハハハ」

    掃除はどんどん進み、廊下がまず終了。

    美「そのまま玄関をお願いします」

    ト「わかりました」

    玄関で唯とトヨが靴を全部外に出していると、若君がやって来た。

    唯「そっち、もう終わったの?」

    若「あぁ。お母さんにこちらを手伝えとな」

    三人で玄関周りを掃いたり、棚を一つ一つ拭いたりしていたが、トヨが三和土のシミと格闘し始めた。

    唯「トヨ、あんまりやると手が荒れちゃうよ。ほら、ゴム手袋もう一つあるから使って」

    ト「いえ、素手の方がざらつきとかがわかりますので」

    若「…」

    ブラシや雑巾で、シミは跡形も無くなった。

    唯「すごーい!がんばったね!」

    ト「ふぅ。綺麗になりました。あ、お母さん」

    美香子が現れた。

    美「みんなありがとう。あのね、頑張ってるところ悪いけど、キッチンがさっき終わって、お父さん達が汗だくだったものだから、先に三人でお風呂に入ってもらったのよ」

    唯「いいよー。油ギトギトで大変そうだったもん。それよりココ見て!トヨががんばってくれたの!」

    美「まぁ!シミが取れてる!さすがトヨちゃんね。そんな心がけが良い子には、近々きっといい事があるわよ。ね、忠清くん」

    若「はい。働き者のトヨに、年内には」

    ト「年内、ですか」

    美「あとね、洗面所、鏡周りは掃除したから、あと洗面台を残すのみになってるからね」

    唯「そうなんだー」

    廊下の奥から声がする。

    覚「おーい、先にいただいたよー」

    美「あ、出たわね。じゃあ、後は私も手伝うから…唯、忠清くんとお風呂行ってらっしゃい」

    唯「え、トヨが先でいいよ」

    美「ちょうど全部靴が出てるから、私がちょっと入れ替えをしたいのよ。トヨちゃん、唯達が先でいいかしら?」

    ト「勿論です」

    美「はい、決まり。さっさと行く!」

    唯「え~、たーくんが昼間っから悪さしそうだし」

    ト「悪さ…」

    若「悪さとは何じゃ」

    唯「あ、入ってる時さ、遠慮なく洗面所に雑巾とか洗いに来てね」

    美「保険かけてるのかしら。ねぇ、忠清くん」

    若「ハ、ハハ」

    唯と若君が入浴中。トヨが、そっと洗面所のドアを開ける。

    トヨ 心の声(本当に入っていいのかしら?!お母さんも気にしなくていいと仰ったけれど)

    浴室の方を見ないようにして、掃除に使ったブラシや雑巾を洗い始めた。かすかに、話し声とお湯を流す音が聞こえてくる。

    ト 心(はぁ。一緒にお風呂か…羨ましいな)

    洗い終わり、洗面台も綺麗に拭き上げたトヨ。

    ト 心(永遠に、そんな時は来ないかもね)

    下を向き、ぼんやりしていると、浴室のドアが少しだけ開き、声がした。

    唯「トヨ~、ごめん、もう終わったかな。そろそろ出たいんだけど」

    ト「はっ!あっ、すみません!終わってます!すぐ出ます!」

    慌てて洗面所を出ていったトヨだった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    29日のお話は、ここまでです。

    次回ですが、現代Daysは一回お休みします。

    ご出演はもう一週か二週後だとふんで準備をしておりましたが、思ったより早かったので、一足お先に?「妄想あさ〇チ、少しだけ」をお送りします。

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    四人の現代Days67~28日13時、翼を広げて

    洋食をいただきながら、和の話。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トヨが話し出した。

    トヨ「その、初めて忠清様がこちらの世に来られた際、お一人で突然現れたんですよね」

    尊「そうなんです。お姉ちゃんが書き置きだけして。兄さんが、羽木の若君様だ、しかも大変な状態、としかわかりませんでした」

    唯「なんとか通じたでしょ」

    ト「随分と戸惑われたのでは?」

    美香子「んー、そうね。でも目の前に大怪我をした青年が居れば、まずは助けるのが第一で」

    覚「顛末は後で尊に聞いたけど、忠清くんが実直な人物というのはすぐわかったから」

    若君「その節は、感謝してもしきれませぬ」

    ト「エリさんや芳江さんも、かなり驚かれたのではないですか?その、450年前の人物と聞かされて、すぐに信じられましたか?」

    エリと芳江が顔を見合わせる。

    芳江「信じましたね」

    エリ「そうですね。先生が、この男性は若君だからと仰ってましたし」

    美「有無を言わさず、若君ってベッドネームに書いちゃったしね」

    ト「信頼されていらっしゃるからですね」

    芳「あと、戦国武士と言われて納得したところもありました」

    尊「どの辺がですか?」

    芳「若君が到着されて翌朝、先生に、清拭を頼まれまして」

    唯「せいしき、って?」

    美「体を拭く事」

    エ「まだその時は、お着物をお召しで」

    唯「飛んだ状態のままだったんだ」

    美「当日は処置だけしたから。あとはその道のプロに任せようと思って」

    芳「で、そのお着物やお体から…ね、エリさん」

    エ「えぇ。そこはかとなくいい香りがして」

    若「あぁ。和議と聞いておりましたので、普段より香を焚きしめておった筈です」

    芳「現代の男性ではまずない感じが」

    エ「納得でした」

    ト「そうだったのですね。お話いただきありがとうございました」

    唯「ちょっと待った」

    尊「なんだよ姉ちゃん」

    唯「拭いたのって、全身だよね」

    芳「はい、勿論」

    唯「すっぽんぽん?!」

    美「そりゃそうよ」

    唯「いやん」

    尊「粛々とお仕事されてるだけじゃない。前にも言ったでしょ、慣れてるって」

    若「ハハハ」

    覚「そろそろメイン料理出すよー」

    若「はっ、只今参ります」

    その後も話が弾み、デザートまでたどり着いた。

    美「お父さん、お疲れ様でした。忠清くんと源三郎くんも、お手伝いありがとう」

    若「いえ」

    源「こちらこそ勉強になりました」

    覚「初の試みだったが、やった感があったよ」

    唯「ねぇねぇ、まだ時間大丈夫なら、芳江さんに頼みたいコトがあるんだけど、いい?」

    芳「何でしょう?」

    唯が何かを持ってきた。

    ト「あ、前に買っていただいた」

    唯「そう、千代紙。例の連鶴、芳江さんがどうやって折ってるか見てみたくて。どうせなら柄入りので」

    芳「あら、お安い御用ですよ」

    渡された千代紙を半分に折り、ハサミで深く切り込みを入れた芳江。

    芳「エリさん、こちらの半分で鶴折ってくださらない?」

    エ「あら、共同作業?責任重大ですね。頑張ります」

    エリが一羽折った続きで芳江が折り始めた。

    唯「下に置いたりしないんだね」

    芳「そうですね、持ち上げたままというか」

    全員の視線が、芳江の手元に集中している。

    芳「そんな、見られてますとお恥ずかしい」

    唯「そうだよね。じゃあさ、みんなで鶴折ろうよ。一枚ずつあげる」

    美「あら、全部柄が違うのね。なら一枚ずつ配りましょ。トヨちゃんや源三郎くんも鶴、折れるの?」

    ト「はい」

    源三郎「千羽鶴、の手伝いはさせていただきましたので」

    美「永禄でも総動員してたのね」

    芳「はい、出来ました~」

    翼で繋がった二羽の連鶴完成。

    唯「ありがとー、芳江さんエリさん」

    そして、全部で9羽の折り鶴が出来上がった。

    尊「これ、どうする?」

    唯「飾っておこっか」

    テレビ台の上に並べられた。

    美「いいわね」

    尊「そうだね」

    覚「うん。エリさん芳江さん、お茶もう一杯いかがですか」

    エ「いただけますか?」

    芳「お願いします」

    冬の午後の柔らかな日差しが、食卓と鶴の翼に降り注いでいました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    28日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days66~28日土曜11時、満席でございます

    マダムの皆様をもてなします。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    忘年会パーティーの準備が進んでいる。

    尊「お父さん、これ、もしかして今日のメニュー?」

    作業台に手書きのメモを発見。

    覚「そうだ」

    尊「コース料理みたいだね」

    覚「実は、そうしようと思ってる」

    唯「なになに!一皿ずつ出てくる、アレ?」

    覚「そうだな」

    尊「全部で9人だよ?お父さん一人で、給仕もするの?」

    覚「ちょっと考えがあってな。…あ、もうこんな時間か。じゃあ支度するかー」

    唯「支度?今してるじゃない」

    覚「料理じゃない。身支度をな。忠清くん源三郎くん、そろそろ着替えるよ」

    若君「はい」

    源三郎「わかりました」

    覚「トヨちゃん、ちょっと席外すからさ、鍋の火加減だけ見ててもらえる?」

    トヨ「かしこまりました」

    唯「着替えって?」

    尊「何が始まる?」

    程なくして、二階から下りてきた三人。

    唯「やーん、なに!カッコいいっ」

    尊「ウェイターさん風?新型のコスプレになってる。でも良く似合ってますよ、兄さん、源三郎さん」

    若「そうか?」

    源「忝のう存じます」

    三人は、揃って白のワイシャツに、首には蝶ネクタイをしていた。若君の髪はいつものハーフアップではなく、源三郎のように襟足の辺りで一つに結ばれている。

    覚「下はジーパンだけどな。変身だ。いいだろ?」

    尊「こんな店員さんが居たら、レストランに女性が殺到しそうだね」

    唯「たーくんがモテちゃう、困るー」

    ト「お召しかえをされたのは、何かなさるためなのですか?」

    覚「僕が作った料理を二人が運ぶんだ」

    ト「え?私は何をお手伝いすれば」

    覚「料理が来るのを、席で待っててもらえばいい」

    ト「そのような!運んでいただくのを待つなど、私には分不相応でございます」

    覚「まあまあ。こちらでは男性が給仕するのはよく見る風景なんで。たまには、いいんじゃない?」

    ト「そうでございますか…」

    覚「さて、料理の続きをするか。あ、尊、仲間に入れてやれなくて悪かったな」

    尊「別にいいけど。兄さん達ほどカッコ良く着こなせそうにないし」

    唯「尊だとさー、七五三みたいになりそう」

    尊「言ったな。でも否めない」

    覚「深い意味はないんだ。蝶ネクタイが三つしかなくてなー」

    唯「そんな理由?!」

    尊「三つも持ってたんだ」

    テーブルセッティングも進んでいる。

    覚「それ、各席に敷いてくれ」

    唯「わー、かわいい!」

    尊「ランチョンマット?」

    覚「レストランみたいに白い布をドーンと全体にとも考えたんだが、こっちの方がカラフルだからさ」

    色々な柄のランチョンマットが食卓に並べられた。

    唯「テーブルが全部埋まったね」

    覚「いい眺めだ」

    13時。美香子達三人がクリニックを終え、リビングに入って来た。

    美香子「お待たせしました。あー、二人、いい感じね」

    エリ「本日は、お招きいただきありがとうございます」

    芳江「こちら、皆さんでどうぞ」

    覚「いやー、手土産なんかいいのに。さ、どうぞどうぞ」

    前菜に当たる皿が並んだところで、全員席についた。覚が立ち上がる。

    覚「う~ん、壮観だ。皆様、少し早いですが、一年間お疲れ様でした。ではグラスをお持ちください。お酒でなくてすいませんね。気分だけでもシャンパン風にしようと思って、炭酸水ですが」

    唯「これ、お水なんだ。へー」

    覚「それでは、乾杯!」

    全員「乾杯~!」

    キッチンからの覚の合図で、若君と源三郎が席を立ち、スープが運ばれていく。

    若「芳江さん、どうぞ」

    芳「あらら感激!ドレスとか着てくれば良かったかしら」

    源「どうぞ、エリさん」

    エ「ありがとうございます。本当そうですね。シェフの美味しい料理にハンサムなボーイさん達のいらっしゃる、素敵なレストランですもの」

    美「食べたり運んだり、ちょっと二人せわしいわよね。お父さんのアイデアは悪くないけど」

    若「構いませぬ。日頃の感謝も込めて運んでおりますゆえ。気になさらず、ゆるりと歓談を」

    芳江が、ニコニコしながら若君を見つめている。視線に気付く若君。

    若「芳江さん、いかがなされた?」

    芳「感慨深いです。ここまで、現代の生活に溶け込まれて」

    若「さほどではございませぬが」

    エ「そうですねぇ。思い出しますね。初めて若君にお会いした時の事を」

    ト「…あの」

    美「どしたの、トヨちゃん」

    ト「私、ずっと気になっていた事があるんですが、お尋ねしてもよろしいでしょうか」

    唯「いいよ、どんどんしゃべって。なに?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    今までの四人の現代Days、番号とあらすじ、44から65まで

    no.900の続きです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    44no.901、12/24、クリスマスプレゼント贈呈。実は貴重な紙

    45no.902、12/24、予算はOK。タイツ選びで大騒ぎ

    46no.903、12/24、アクセサリーも靴も決まりようやく出発

    47no.904、12/24、握るのは刀でなく手。パンケーキリベンジ成功

    48no.905、12/24、歩くだけで注目の的。初めてちゃん付けで

    49no.906、12/24、ひょんな事で指輪をプレゼント

    50no.907、12/24、若君を魔の手からガード。いよいよ行きたかった場所へ

    51no.908、12/24、デート終盤。甘い策略にはまる

    52no.909、12/24、金星に見守られながらまだ戯れる

    53no.910、12/24、クリスマスパーティー。いつかケーキ入刀しよう

    54no.911、12/25、いきなり絵を描かされる若君

    55no.912、12/25、エ〇〇〇ゲリオンに登場しそうな姿のじいの絵完成

    56no.913、12/25、全員でトランプ。実はお揃いってのがミソ

    57no.914、12/25、イルミネーションを観に来た。尊に隠し事あり

    58no.915、12/25、何かが始まる予感か

    59no.916、12/25、光に包まれながら寄り添って親密度アップ

    60no.917、12/26、覚&若君&源三郎居酒屋へ

    61no.918、12/26、千原じいに翻弄されていた源三郎

    62no.919、12/26、耳が痛い源三郎。家ではレトルト三昧

    63no.920、12/26、酒飲んで寝る人と戯れたい人

    64no.921、12/27、ぷにぷにの唯と尊。若君鮮魚店へ

    65no.922、12/27、今夜はアクアパッツァ。寒さを感じない程楽しい花火

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    四人の現代Days65~27日17時、蛍が飛ぶように

    庭に居たのは、5人の童でした。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    スーパーから帰ってきた、覚と唯と若君と源トヨ。留守番していた尊が出迎える。

    唯「ただいまぁ」

    尊「お帰りー。わ、すごい量だね。って、なんでお姉ちゃん、大根1本だけ持ってんの」

    唯「エコバッグを車から降ろす時に、源三郎が落っことしたんだよ」

    源三郎「忝ない…」

    トヨ「尊様、ただいま戻りました」

    若君「尊、留守の番、ご苦労であった」

    尊「いえいえ」

    覚「ただいま、尊。これで年内もたせるつもりで、ちょっと多目に買い物してきた」

    尊「なるほどね。あ、さっき、通販の荷物一つ届いたよ」

    覚「おー、そうか。ありがとな」

    唯「え、もう来たの?レトルト食品」

    覚「それはさすがに来ない。この時期には珍しいグッズだ」

    唯「へー」

    覚「また話すよ」

    晩ごはんの支度が始まった。

    覚「まず、鯛に両面焼き色をつける」

    若「はい」

    源「一尾をそのまま。これは豪快ですね」

    ト「ふむふむ」

    覚「魚が丸ごと手に入ればだけど、永禄で作るなら、切り身でもいいよ」

    若「お父さん。いつも先々まで考えていただきありがとうございます」

    唯「はい、質問!」

    尊「え?お姉ちゃんが料理に質問なんて、どういう風の吹き回し」

    唯「丸ごとって、鯉でもいいの?」

    ト「唯様、それはいかがなものでしょう」

    覚「鯉は…あまりオススメはしないな」

    唯「じゃあ、鴨は?」

    覚「何なんだそのラインナップは。あ、忠清くん、そろそろその缶詰の中身入れて。そうそう。でしばらく煮込むよ」

    若「わかりました。この料理は、何と申すのですか?」

    覚「アクアパッツァだよ」

    若「アクア、パ…」

    唯「また難しい名前だし」

    覚「またって何だ」

    唯「昨日ビーフなんとかって」

    尊「だからビーフストロガノフだって」

    覚「あー、ロシア料理な。アクアパッツァはイタリア料理だ」

    ト「様々な異国のお料理なのですか?」

    覚「そうだね」

    ト「とても勉強になります」

    アサリをフライパンに入れた頃、美香子が仕事を終え戻ってきた。

    美香子「忠清くん、順調?」

    若「はい。今宵はあまり手をかけておりませぬゆえ」

    美「腕がいいからよ~。ところでお父さん」

    覚「何だ?」

    美「明日だけど、お二人とも日が落ちる前には帰りたいってお話だから」

    覚「ん、わかった。そういう事なら、グッズは今夜楽しむか」

    尊「あ。何となく、今日届いた荷物の中身がわかった気がする」

    覚「お?」

    尊「大きさのわりにはすごく軽かったから、夏がシーズンの紙製品じゃない?」

    覚「さすがだな」

    唯「なになに!」

    覚「はいはい、まずは晩飯な」

    アクアパッツァが美しく皿に盛られている。

    唯「豪華!たーくんお疲れ様っ」

    若「見栄えよく出来、良かった」

    源「さすが忠清様」

    ト「大勢で囲むにはうってつけですね」

    尊「明日のパーティーも、こんな感じのメニューになるの?」

    覚「いや、また違う趣向を考えてる」

    唯「そーなんだー」

    覚「では、忠清くんお疲れさんでした」

    若「いえ」

    全員「いただきます!」

    食後。片付いた食卓に、ダンボール箱。

    唯「ホントだ。めっちゃ軽いね」

    若「どれ、中身は」

    唯「なにかな?あ、なるほどね!」

    若「おぉ」

    入っていたのは、大量の花火だった。

    尊「当たったね。でもこれ、何回分?ってくらいあるけど」

    覚「エリさん達もご一緒できたら、と思ったもんだから。無理して今日やりきらなくていいからな」

    唯「じゃあ、早速!バケツに水汲んでくるー」

    若「唯、わしが運ぼう」

    覚「あー、バケツは2つにしてくれー、ってもう居ない」

    尊「わかった、僕行ってくるよ」

    源三郎とトヨが、不思議そうに箱を覗きこんでいる。

    美「ごめんねー。説明もせず勝手に盛り上がっちゃって」

    源「こよりの巻きついた、棒ですか?」

    ト「お水が要ると?」

    美「外で遊ぶ物なんだけどね、この先に火を点けるの。すると火花が散るんだけど、それがとても綺麗なのよ」

    ト「この品々が。まぁ」

    源「火の手があがるのですか?」

    覚「火の手までいかないけど、多少の煙はあがるね。火薬の匂いもするかな」

    源「…」

    美「あ、源三郎くんが何考えてるかわかった。大丈夫。戦の始まりの合図じゃありません」

    源「結び付きはしないとわかっていても、つい。すみません」

    覚「逆に、平和の象徴みたいなモンだ」

    ト「そうなんですね」

    唯「お待たせー!ではお外に参りましょー!」

    賑やかに花火大会が始まった。

    源「おわっ!」

    若「何じゃ、火花の勢いに負けておるのか?」

    唯「ビビり過ぎだって~」

    尊「これ、夏の夜の風物詩なんですよ」

    ト「それをわざわざ、冬のこの時期に?」

    尊「源三郎さんやトヨさんに、見せてあげたかったんじゃないかな」

    ト「それは…お父さん、心より御礼申し上げます」

    覚「はははー。花火が嫌いな人は居ないだろうから。童心に帰れるだろ?さ、どんどん遊んで」

    ト「はい!」

    美「ホント、小さい子供みたい。上着も着ずに。寒くなーい?」

    尊「寒くないよー!」

    唯「大丈夫ぅ!キャハハー」

    若「ハハハー」

    ト「キャー!」

    源「なんだよトヨ、ハハハ」

    美「…いい景色ね」

    覚「…だな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    27日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days64~27日金曜6時45分、一枚から三枚

    奥の奥まで確認。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    キッチン。覚が朝ごはんの準備を始めた。ラジオ体操後の、若君と源トヨが手伝いに入る。

    若君「お父さん、具合はいかがでしょうか」

    覚「いやぁ、ホント悪かったね。話が弾んで、ビールもクイクイいっちゃって。二日酔いはないから。で、今日の予定だけどさ」

    若「金曜、料理の日ですね。楽しみにしております」

    覚「明日の忘年会用の食材も買っておくから、スーパーにはそうだな、3時過ぎ位には行く。源三郎くんもトヨちゃんも、買い物のお手伝い頼むね」

    源三郎「お任せください。何でも運びます」

    トヨ「何なりとお申し付けくださいませ」

    覚「で、朝の内にね、僕と忠清くん二人だけで、違う店に食材受け取りに行くから」

    若「お父さんとわしとで、ですか」

    覚「あまり大勢で行くと邪魔になるし、よく手元が見えないと思うからさ。10時には行くって伝えてあるから。よろしくな」

    若「手元。はい、わかりました」

    美香子が二階から下りてきた。

    美香子「おはよう~」

    若君&源三郎&トヨ「おはようございます」

    美「忠清くん、ちょっといいかな」

    若「はい?」

    コンロ前から離れ、美香子の傍に来た若君。

    美「写真、こんなのがあったんだけど。どうかしら?」

    若「おぉ、それは。探していただきありがとうございました」

    写真を一枚受け取った若君。

    若「膝の上で眠る、幼い唯ですか。残念ながらお母さんのお顔が写っておりませんが」

    美「私は二の次なんで」

    若「これは愛らしい」

    美「今回、先に尊が永禄に飛んだじゃない」

    若「はい」

    美「大根アメ、持たせたわよね」

    若「はい。わしは見てはおりませぬが、たちどころに喉が治ったと、話には聞いております」

    美「唯に初めて大根アメ舐めさせた時の写真なの。喉が痛いって泣いてぐずってね」

    若「泣き疲れて眠ったと。ん?」

    美「あ、気付いた?」

    若「この、後ろに転がっておるのは…」

    美「転がってる!ホントその通りよね、尊よ。唯が泣こうが我関せずで、いつの間にかすやすや寝てたの」

    若「これまた実に愛らしい」

    美「でもね、この時のお父さんなんだけど、唯が眠った途端、おっカメラカメラ!って浮かれてて」

    若「フフフ。はい」

    美「で、私の斜め後ろに尊が寝てるじゃない。唯も尊も入るように色々角度を変えて構えてるんだけど、その前に、尊にタオルケットの一つも掛けてやってよって話で。私は動けないんだし」

    若「ハハハ」

    覚「それな、ベストショットを狙ってたんだよ~」

    美「一刻を争う訳じゃなかったでしょう。もう」

    ト「私も拝見してもよろしいですか?まぁ!なんて可愛らしい」

    源「おぉ」

    一段落した覚と、源トヨも覗き込む。

    美「で、こんなので良かったのかしら」

    若「はい!ありがとうございました」

    9時30分になった。覚が、車の荷台に発泡スチロールの空箱を何個も積み込んでいる。若君と源三郎も手伝い、最後に大きい台車を積んだ。

    覚「箱は、この位あれば御の字だろ」

    若「お父さん。察するところ、今から買い求めに参るのは、魚介ですか?」

    覚「正解!去年旅行行った帰りも、海鮮市場で大量買いしたもんね。今日も沢山買うよ~」

    若「スーパーではなく、ですか」

    覚「スーパーだとね、手順が見られないから」

    若「手順。ですか」

    覚「じゃあ源三郎くん、行ってくるよ。戻ったら、また荷物降ろすの手伝ってくれな」

    源「はい。行ってらっしゃいませ」

    車は駅近くの駐車場に停めた。台車に発泡スチロールのトロ箱を乗せ、ガラガラと押していく。

    覚「行くのはね、駅前の商店街の魚屋だよ」

    若「そうなんですか」

    店に到着。

    覚「おはようございまーす」

    若「おはようございます」

    店主「お、速川さん!随分な色男がお供だね」

    覚「娘婿連れて来たよ」

    店「そうかい。仕入れはバッチリだよ!ほら、いい鯛だろ?」

    若「鯛…」

    覚「早速、捌くのを見せてもらっていいかな。尾頭付きから」

    店「あいよ~」

    覚「さ、忠清くん前に出て。よく見える位置に」

    若「良いのですか?」

    覚「見せてもらえるよう、事前に頼んでおいたからね」

    若「それは…ありがとうございます!」

    鱗を取り、エラを外し、内臓が出され、中を水洗いし、拭き取った。

    若「ほぅ…」

    覚「家では鱗取りが大変でさ。少しは勉強になったかな」

    若「はい!」

    店「料理、好きなのかい。なら、三枚おろしも見てくかい?」

    覚「おっ、いいね」

    若「はい!是非お願いいたします!」

    プロの手際の良さに、ずっと釘付けになりながら唸っていた若君だった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days63~26日21時、ルーティンです

    さすが、扱いが慣れていらっしゃる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    居酒屋。

    源三郎「わたくしが、お父さんを疲れさせてしもうたのでしょうか」

    若君「にしては、寝顔が笑うておる。充分語らえて満足していただけたのならば良いが」

    源「いかが致しましょう」

    若「うむ…」

    覚は、心地よさそうに眠っていた。

    若「目を覚まされるまで、わしらは飯を残さずいただいておくとしよう」

    源「はい」

    その時、

    源「何事?この真冬に虫か?!」

    近くで、ブーンブーンと音がする。

    若「ん…もしや。お父さん、御免」

    覚のポケットを探る若君。音は、スマホからだった。

    若「うーん」

    バイブがずっと作動している。画面には、美香子と出ており、電話がかかってきていた。

    若「どうすれば良いか、わからぬ」

    源「よく、尊殿や唯様が、板の上で指を滑らせておりますが」

    若「一向に止まぬ…」

    スマホに慣れていない若君は、うまくスワイプができていなかった。

    源「あ」

    若「止まった。お母さんの名も消えた」

    テーブルにスマホを置いた。悩める若武者二人。その時、店の電話が鳴った。

    おかみ「はーい。はい?あーこんばんは。ええ、ご主人寝てらっしゃいますね。お兄さん達が困ってます。はい、はい、伝えますね。お気を付けて」

    電話を切ったおかみが、若君と源三郎の元にやってきた。

    お「お兄さん達、安心してね。もうすぐ美香子先生が迎えに来ますからね」

    若「えっ?そうですか。わかりました。ご心配をおかけして済みませぬ」

    お「いつもの事ですんでね」

    若「いつも、ですか」

    程なくして、店の戸が開いた。

    美香子「こんばんはー。もう、すいません、いつもいつも」

    店主とおかみに会釈しながら、入ってきた美香子。

    美「お待たせ。ごめんねー」

    源「お母さん」

    若「お母さん。わざわざご足労頂き、忝のう存じます」

    美「お酒飲むとすぐ寝ちゃうんだから」

    若「思い起こせば、そうでした」

    美「ちゃんと話はできた?」

    若「はい、それは十二分に」

    美「そう。良かった。それだけが心配だったの。もうごちそうさまでいい?帰ろっか」

    若君&源三郎「はい」

    美「私、お会計してくるから。悪いけど、お父さんを運んでくれない?」

    源「わかりました。ならばわたくしが」

    源三郎が覚を背負い、若君が覚の靴とスマホを持った。

    美「お世話かけました~」

    若&源「ありがとうございました」

    店を出て、近くに停めた車の助手席に覚を乗せ、出発した。

    若「お母さん」

    美「なぁに?」

    若「大晦日、出掛けた先で、決着致しますので」

    源「ええっ」

    若「宣言しておかねばのう」

    源「励み、ます」

    美「それは楽しみね~。トヨちゃんの喜ぶ顔は、もっと楽しみよ」

    帰宅。若君と源三郎で、覚をソファーに寝かせた。

    源「これで、よろしいでしょうか」

    トヨ「源ちゃん、お疲れ様」

    美「ありがとね」

    唯「たーくんお疲れぇ。うわっ、酒くさっ」

    若「飲めば少しは臭うじゃろ」

    唯「少しじゃないよ」

    若「そうか?」

    唯「嫌だ、近寄んないで!」

    ムッとした顔で、若君を押しのけた唯。

    尊「兄さんがわかりやすく落ち込んでる」

    美「唯~。あんまり冷たくすると、ビールは敵だ!になっちゃうから。せっかく楽しんできたのに」

    唯「わかったよぅ。たーくん、はいお水。どーぞ」

    若「うむ」

    唯「でも接近禁止だから。って、聞いてる?なんで寄っかかってくるの!ちょっとたーくん、重い、重たいってばー!」

    尊「兄さんがわかりやすく酔ったフリしてる」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    26日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days62~26日19時、説法!

    集中攻撃も致し方なく。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    さて。変わってこちらは速川家。キッチンに、唯と尊とトヨ。

    トヨ「鍋に湯を沸かすのはわかりますが、こんなにも要るのですか?」

    コンロが鍋で埋め尽くされていて、どれも中は沸き始めたお湯。

    尊「要るんですよ」

    唯「ねー、そろそろ出しちゃダメ?どんなのがあるか見てみたい」

    尊「一度全部並べよっか」

    ト「並べる?」

    尊が大きなダンボール箱を持ってきた。中身を、食卓にドサっと出す。

    唯「こんなにあったんだ!すごっ」

    尊「妻への愛情が、この量にあらわれてるというコトで」

    覚が捻挫をした時に、美香子の炊事が楽になるよう大量に購入してあったレトルト食品が、まだわんさか残っていた。

    ト「食べられる物なのですか?」

    尊「そのまま開けて、ではなくて、お湯で温めるんですよ」

    ト「それでお鍋があんなに」

    唯「この写真、そそられるぅ!ビーフ、ストロノ?」

    尊「ビーフストロガノフ。何でちゃんとカタカナで書いてあるのに読めないの」

    唯「おいしけりゃなんでもいい」

    尊「はいはい。トヨさん、今日は四人でいろんなのを分け合って食べようと思ってます。もし気に入った献立があったら、帰る日までに再注文しますから、持ち帰ってくださいね」

    ト「まあ」

    唯「やったー!私の分も!」

    尊「それはいいけどさぁ。お姉ちゃん、頼むから、トヨさんの分まで永禄で横取りしたりしないでよ」

    唯「しないよ」

    尊「ホントかよ」

    唯「なぜなら、トヨの分は二人の愛の巣へ持ってってもらうから~」

    ト「愛の、巣?!」

    尊「あー。赤井家の備蓄として?」

    唯「そっ」

    ト「ええっ、それは選ぶのが大変!お品、よく見せていただいても良いですか?」

    唯「なんかすっかりその気だし。あー今ごろ、侍たちは何話してんのかなー」

    尊「お姉ちゃん、ちょっと」

    唯「なに」

    少しトヨから離れた二人。

    尊の囁き「今聞かなくてもいいっちゃいいんだけど、兄さんは、エロ侍じゃない」

    唯「ホントだよ」

    尊 囁き「はあ。それ、源三郎さんだと、どう表現する?」

    唯「あー。間違いなく」

    尊「間違いなく」

    唯「ヘタレ侍」

    尊「うわ。ヒドっと思うけど、否定できない僕が居る」

    戻って、居酒屋の三人。ますます熱が入っている。

    覚「あれだな。源三郎くんがある意味、のほほんとしてたのは、ライバル…恋敵が居なかったからじゃないか?いつでも俺の女に出来るぞなんて、思ってなかった?」

    源三郎「トヨはそんな一筋縄では…されど、恋敵は確かに居りませんでした」

    若君「ふむ…。例えばじゃ、もし小平太が、トヨを連れ込んでいる所に出くわしたらどうする」

    源「何ゆえそこで小平太殿なのですか」

    若「身近で、対等の立場の者じゃからの」

    覚「なるほどね。で、見ちゃったとして。さぁどうする!」

    源「それは、それは…うわぁっ!」

    覚「おいおい、パンクしてるな。大丈夫か?」

    若「早う答えよ」

    源「その後数日、様子を見ます…」

    覚「平和的だけど消極的だな。忠清くん、源三郎くんっていつもこんな風なの?」

    若「いえ全く。実に勇ましく優秀な家臣なのですが」

    覚「わかった。もうさ、結婚できないなんてなさそうじゃない。トヨちゃんのためにも、こちらに居る内に、愛してるよって伝える。そんでもって、プロポーズもする。あ、プロポーズは結婚してくださいって申し込みね」

    若「お父さん。これは、期日をはっきり決めた方が良いのでは」

    覚「それ賛成。じゃあ…年内!」

    源「年内!」

    覚「あと今日入れて6日ね。あ、今夜だと飲んだ勢いみたくなってトヨちゃんに失礼だから、あと5日だな」

    源「五日…一気に酔いが回ってきたような」

    若「散々放っておかれたトヨを思えば、五日でもかかり過ぎじゃ」

    覚「どう言うかとか、よく考えて。でさ、何なら大晦日にそうしたらどうかな。そしたらゆっくり言葉も選べるだろ?」

    若「大晦日は確か、夜に出掛けるのでは?」

    覚「行くのは遊園地だからさ。昨日のイルミネーション、良かっただろ?あそこまでキラキラじゃないけどさ、遊具とか光の装飾で、愛の言葉を囁くにはいい感じの場所だよ」

    若「三日三晩考えても、まだ余裕があるのう。精々、励め」

    源「はぁ…」

    覚「あのな、源三郎くん。親の立場として言うけどさ」

    源「はい」

    覚「親鳥はね、ヒナを孵す為に温めはする。だがヒナは、生まれる時は自力で殻を割って出てくるんだよ」

    若「なるほど。どうお膳立てしても、最後は己の存念一つ、であると」

    覚「そうだ」

    若「お父さん。わしの心にも響きました。わかったな、源三郎」

    源「…はい」

    場所変わって、またまた速川家。

    美香子「スープも惣菜も山ほどだけど、白いご飯あるから、丼もどう?」

    尊「豚丼と、あと麻婆茄子丼があるよ」

    唯「トヨ、どっちがいい?」

    ト「あの…両方でも良いですか」

    尊「了解しました。鍋に投入します」

    美「えーっと、何時になった?8時半か…」

    唯「宴会、きっと盛り上がってるよね」

    美「でもそろそろ、危ないのよねぇ」

    唯「そうだった」

    尊「あー、確かに」

    ト「?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    そろそろ?もう少し続きます。

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    四人の現代Days61~26日18時、全て泡とならぬよう

    罪作りな千原じい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「泡をよけながらというか。そうそう」

    若君と源三郎が、上唇に泡をつけながらビールを飲んでいる。

    源三郎「これは美味い」

    若君「この苦味がまた良いですね。何杯でも、は頷けます」

    覚「気に入ってくれたかー。良かった。じゃあさ、お品書き見て、食べたい物あったら注文して。話はそれからだ」

    テーブルの上が注文した料理で一杯になり、ビールが三人とも中から大に変わった所で、覚が話を切り出した。

    覚「源三郎くん。まずさ、君が躊躇している一番大きな理由を、忠清くんに話しな」

    源「はい。あれは忠清様と唯様の祝言の日取りが決まり間もない頃。わたくしは、元次様に呼ばれ、屋敷まで参じました」

    若「うむ」

    源「酒の席が用意されておりました。人払いをされ、二人きりとなった時に切り出された話が、千原を名乗らないか、と」

    若「なんと」

    源「赤井氏に拘りがなければ、忠清様の祝言が済んだら如何かと仰せられ」

    若「それは、今初めて耳にしたが」

    源「あくまでも祝言の後とのお話でしたので、一切他言されておられなかったようです。わたくしは謹んでお受けすると答えまして、大層喜んで頂きましたが、元次様が旅立たれましたので、話も立ち消えとなった次第」

    若「そうであったか。それで?」

    源「酒が進むにつれて饒舌になられました。その内、元次様からふと口をついて出た言葉が」

    若「うん」

    源「くれぐれも、天野由来の妻は娶るな、と」

    若「え?」

    源「トヨを名指ししてはおらぬと思います」

    若「で、あろうの。二人の仲を知る者は極僅かであるし」

    源「今となっては、本意はわかりません。かなり酒が入っておりましたし、笑いながら話されましたし」

    若「若かりし頃ならともかく、そこまで目の敵にする程、いがみ合ってはおらなんだと心得ておるが」

    源「はい。わたくしも、天野様側から聞いた覚えはありません。ただ、それが元次様と話した最後となりまして」

    覚「それで、呪縛のように今でものしかかっているんだね」

    若「おぬしはどう思うておるのじゃ。元次の意に従うのか?」

    源「いえ、トヨを妻として迎えたいと願うております」

    覚「でも、その言葉が引っ掛かって」

    源「はい…。忠清様」

    若「何じゃ」

    源「そこで、折り入ってお願いしたき儀がございます」

    若「申せ」

    源「両家、と申しますか、元次様と信茂様の確執がどこまで根深いかはわかりませぬ。ただ、元次様がどのようなお考えであったにせよ、信茂様にお許しを頂けるのであれば、トヨと夫婦になれるのではと思うておるのですが。甘い考えでしょうか」

    若「じいが許さぬとは思えぬがのう。そのように拘っておっては、小平太に縁談があっても進まぬやもしれぬゆえ。わかった。わしが上手く話を運び、許すとなれば良いのじゃな」

    源「はい!永禄に戻りました折には、どうか、どうか宜しくお願い申し上げます」

    横に居る若君に向かって、深々と頭を下げた源三郎。

    若「それでか。じいの絵を土産にしようと。機嫌を取ろうという算段であったか」

    源「はい」

    若「ハハハ。おぬしの焦りはようわかった。何ゆえ、もっと早うわしに話さなんだのじゃ」

    源「縁組みを持ちかけられようとは、露とも思うておりませんでしたので」

    若「トヨを待たせてしもうておる。縁組み云々の前に、動くべきじゃった」

    源「悔いております。また、髪を切らせてしもうた事も」

    覚「え?それ、関係ある?」

    源「トヨが、女中だから、髪は短くても構わぬのだと申しました。早々に妻として迎え、城から下がり女中でなかったならば、あの美しい黒髪を切る謂われもございませんでした」

    覚「源三郎くん。それは違うと思うな」

    源「そうでしょうか。わたくしめが逡巡しなければ、早う娶っておればと」

    覚「だからか。髪切った日さ、源三郎くん、有り得ない程ヨレヨレだったじゃない」

    源「トヨに顔向けできぬと思うておりました」

    覚「でも彼女、誰かに指図されたんじゃないしさ」

    若「切ると決めたのはトヨじゃ」

    源「…」

    覚「令和に来たから、トヨちゃんがヘアドネーションを知ったじゃない。来ない方が良かった?」

    源「いえ、それは微塵も思うてはおりませぬ」

    覚「だからね、なるべくしてなったんだよ」

    若「源三郎は、気に病まんでも良い」

    覚「そうだよ。でさ、逆にここに来なかったとする。永禄で、忠清くんの力を借りたとして、いつ、トヨちゃんに結婚の申し込みをしたかな?」

    源「それは…」

    覚「一向に進まなかったんじゃないか?あれよあれよと、どこかのお姫様がやって来て」

    源「…仰せの通りだと思います」

    覚「話を整理するよ。源三郎くんとトヨちゃんは愛し合ってる。源三郎は結婚したいと思ってるが、思わぬ壁が立ちはだかった。でもこの件は、忠清くんの力で何とかなりそう」

    若「はい。壁は直ちに消え去りましょう」

    覚「さすがだね。で、問題はその後だ。あのさ、まさかと思って、前回相談受けた時に聞かなかったんだけど」

    源「はい」

    覚「好きだよ、とも言ってないんじゃない?」

    源「…はい」

    覚「やっぱり」

    若「お父さん」

    覚「ん?」

    若「それならば、わしも夫婦となる前には申しておりませぬ」

    覚「君達は、ずっと離ればなれでその機会がなかっただけだろ?それに、事が落ち着いてすぐ、結婚しようって伝えたんだろ?思わせ振りな態度を続けた訳じゃない」

    若「そうですね。どうじゃ、源三郎」

    源「お言葉が、胸に刺さります」

    覚「何も言わないなんて、僕にしたら考えられない。でもなー、出来ないモノは仕方ないのかなー」

    若「お父さんの金言は、この忠清も、しかと心に刻んでおります」

    覚「そうかい。ありがとう。じゃあそれ、源三郎くんに教えてあげてよ」

    若「言わなくてもわかるなどない。愛するおなごには愛しておると、気負わずに伝え続ける」

    源「…その壁、越えられそうにありません」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days60~26日木曜13時45分、とりあえず

    冬にこんな冷たい飲み物を?とも思うよね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    そろそろ、クリニックが午後の診療に入る。

    覚「夕方には出かけるつもりだ」

    美香子「あの店だったら5時には開くから、早めに出ればいいんじゃない?」

    覚「そうするよ」

    美「じゃ、忠清くん源三郎くん。今夜の外呑み、楽しんできてね」

    源三郎「はい」

    若君「ありがとうございます」

    美香子がリビングから出ていった。

    若「お父さん。今宵向かう店は、しばしば行かれておるのですか?」

    覚「そうなんだよ」

    唯「あのね、うまいビールが飲みたい!って、お父さんたまに叫ぶんだよ。そーゆー時、晩ごはんは家族全員でそこに行ってたの」

    尊「その居酒屋、料理も美味しいんです。あと、僕達もその日はジュース飲み放題になるんで、わりと楽しみにしてました」

    若「そうであったか」

    そうこうする内に、16時30分になった。

    唯「外、もう暗いよ」

    覚「そろそろ出るか。忠清くん、源三郎くん、行けそうかい?」

    源「はい」

    若「お父さん」

    覚「ん?何かあった?」

    若「残る皆の晩飯は、支度せずとも良かったのですか?サラダ、は冷やしてありますが、仕事を終わられてから始めては、遅うなります」

    覚「これが、大丈夫なんだよ。ほぼ支度要らずなんだ」

    若「そうなんですか」

    尊「そうなんですよ」

    唯「どーぞ気にせずぅ」

    若「?」

    覚「じゃあ、行ってくるよ」

    尊「行ってらっしゃい」

    トヨ「行ってらっしゃいませ」

    唯「えーと…そう、ご武運を、祈る!」

    若「ハハハ」

    源「行って参ります」

    三人連れ立って歩き出した。出て行く様子が、クリニックから見える。

    芳江「あら。ご主人、息子さん達とお出かけですか」

    美「そうなの。三人で飲みに行くって。主人ね、源三郎くんの悩み相談だって言ってるのに、ずっと楽しみにしてたのよ」

    エリ「後姿は、お二人とも実の息子さんみたいですよ。ご主人も上背がおありですから」

    美「ホントね。綺麗に階段状」

    若君、覚、源三郎と身長順に並んでいる。

    美「尊の背だと、主人と忠清くんの間ね」

    エ「四人ともスラッとされてみえるから」

    美「三人とも、私が産んだみたい?」

    芳「ふふ。自慢のご子息ですね」

    店に到着した三人。そこは、駅前の道から少し入った所にあった。

    覚「夫婦二人だけでやってるんだ。入ろう」

    ガラガラと引き戸を開ける。中に入ると、カウンターと座敷があるが、こじんまりとしていた。

    店主「いらっしゃい」

    覚「こんばんは。座敷、いい?」

    おかみ「どうぞ」

    四人席に、一方に覚、若君と源三郎は並んで座った。

    覚「あぐらでいいよ。家だとさ、椅子ばっかりだもんな。こっちの方が楽だろ?」

    若「そうですね」

    源「ありがとうございます」

    周りを見渡す若君と源三郎。店内は、年季の入った壁や柱が、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している。

    若「何と申しますか、永禄に通ずるような」

    源「心落ち着きます」

    覚「そう?そりゃ良かったよ。おかみさん、まずは生中3つと、串の盛り合わせと、そのカウンターにある筑前煮とポテトサラダ、頼むよ」

    お「速川さん、生中でいいんですか?いつもは生大なのに」

    覚「え?!ひとまずは。おかみには敵わないなー」

    お「フフ、今お持ちします」

    早速、キンキンに冷えたジョッキに、ビールが注がれていくのが見える。

    若「お父さん、わしらに遠慮なさらずとも」

    覚「いやいや、君達ビール初めてだからさ、万が一、口に合わないといけないから、まずは合わせて普通サイズからね。ははは、おかみにあぁ言われるとは思ってなかったな」

    若「気心が知れておるのですね」

    お通しの揚げ出し豆腐、ビール、筑前煮と運ばれてきた。

    若「これが、ビールですか。並々と入っております」

    源「量が随分と」

    覚「日本酒と比べるとびっくりする量だよね。でもね、これが何杯でもいけるんだよ~」

    若「俄には信じ難いですが」

    覚「だよね。じゃあジョッキ持って。この持ち手を握るんだよ」

    若君&源三郎「はい」

    覚「では、乾杯!」

    若&源「乾杯!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    男性陣の身長は、若君179cm、尊176cm、覚174cm、源三郎172cm、となっております。

    続きます。

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    四人の現代Days59~25日18時、春遠からじ

    様子見ですな。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈が走り去ったのを確認して、合流した五人。

    唯「髪の毛サラッサラでさぁ、かわゆい女の子だったじゃなーい!」

    尊「んー、よくわからないけど」

    唯「これでも気ぃ使ったんだよ?たーくんと源三郎見て、あっちのお兄さん達の方がいい!ってならないように隠してさぁ」

    尊「自分が困るからでしょ。あ、四人の説明はね、二人の姉とその旦那さん、になってるからよろしく」

    唯「お。じゃあなんかあれば、話を合わせろって話かー。この後またバッタリ会うかもしんないしね」

    若君「心得た」

    源三郎「わ、わかりました」

    トヨ「はい!」

    唯「では、いよいよ一回りしますか」

    尊「うん。待たせてごめんなさい」

    歩き出した五人。前に唯と若君。腕を絡ませている。後ろに、尊、源三郎、トヨと並ぶ。

    尊「あのですね」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「ここではぐれたりしたら、大変なんです」

    源「確かに」

    ト「そうですね」

    尊「手を繋ぐとか、前の二人みたいにくっついててくれませんか?」

    源「尊殿とですか?」

    尊「うわぁ、マジで答えてるからツッコミができない。いや、僕はいくらでも両親と連絡が取れますから、一人で大丈夫なんで」

    源「と、なれば」

    ト「え」

    尊「そうしてもらえると、僕は助かるんです。離れて歩かれるより、あぁやってひとかたまりになってくれてた方が目が届きやすいんで。もうすっかり辺りも暗いですし」

    源「…心得ました。そのような訳ならば」

    源三郎が、サッと手を出した。

    源「ほれ」

    ト「…」

    手を繋いだ源トヨ。

    尊「これで安心。僕も引率の任務を全うできそうです」

    源「尊殿、あの」

    尊「はい?」

    源「ありがとう、ございます」

    ト「あ、あの、ありがとうございます」

    尊「礼を言われる程ではないでござる。あれ、上手く戦国言葉に変換できてないや」

    源「ハハハ」

    ト「ふふふ」

    広い場所に出た。見渡す限り無数の電球で、全体が動画のように、景色が変わっていく。

    唯「すごーい!」

    若「桜が咲いたかと思えば、鳥が羽ばたき、紅葉が散り。見事じゃのう」

    唯「ロマンチックぅ」

    若「その言葉、聞き覚えがあるような」

    唯「こんな場所で告白なんてされたら、イチコロだよぉ」

    若「イチコロ…立てなくなるのか?」

    唯「へ?うん、まぁだいたい合ってる」

    若「そうか…」

    唯「ふふっ。たーくんが今何考えてるか、当ててしんぜよう」

    若「申してみよ」

    唯「作戦会議がもっと早かったら良かったんじゃないか、そしたら今日、源三郎が告白する手はずを整えられたのに」

    若「さよう。合うておる」

    唯「やっぱしね。まっ、お父さんに相談するからさ、なんとかなるんじゃない?」

    若「わしもそう願う」

    源トヨは、隣には居るが二人の世界になっていた。

    源「いつまでも見ていられるな」

    ト「うん」

    源「麗しい」

    ト「なんで私見て言うの。あちらでしょ」

    源「…」

    ト「え?」

    そんな姿を、ウンウンと頷きながら見ていた尊。

    尊 心の声(平和っていい。あ、忘れてた)

    スマホを取り出した。グループLINEをチェックするが、

    尊 心(うわっ)

    二人ピースサインの写真をあげてすぐ、グループ全員から矢継ぎ早に投稿されていた。

    瑠奈の投稿『ばったり会ったのー!』

    尊の投稿『ほんの偶然です』

    投稿1『めっちゃお似合い!』

    投稿2『速川、この時期に余裕じゃね?そうか、お前ら実は付き合ってたってオチな』

    投稿3『春だね~』

    投稿4『二人いつもと感じ違わないか?』

    投稿5『淋しい受験生に見せつけかよ。あ~羨ましいったら』

    投稿6『もー、早く受験終わって欲しい、彼氏作りたーい!』

    瑠 投稿『運命かもー!なぁんて(*^^*)』

    尊 心(どう返すといいんだろ。無下に違うって書くと、総攻撃に遭いそうだし)

    唯「尊~?なにつっ立ってスマホ見てんのよ。あ、グループLINEどうなった?」

    尊「こうなってる」

    唯「どれ、お姉様が見てあげる。ん?」

    尊「騒がしいよね」

    唯「あんた、この写真すっごいイイ顔してる」

    尊「そう?加工が上手いからじゃないの」

    唯「そういうコトじゃなくて。たーくん、この写真見て。で感想言って」

    若「どれ。おぉ、なんと柔和な」

    尊「そんなに違いますか?」

    若「このおなごには、心を許せるとみえる」

    尊「意識ないですけど」

    唯「恋が始まる5秒前、って感じ?へへっ」

    尊「なに上手いコト言った気になってんの」

    時間を追う毎に、イルミネーションは輝きを増していきました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    25日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days58~25日17時30分、甘酸っぱい

    駆け寄ってくる姿なんて、ときめかないか?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    イルミネーションそっちのけで、尊を囲んでいる四人。

    若君「尊、責めておるのではない。聞かせてくれぬか?」

    尊「わかりました。実は、この前クラスメートとLINEを交換したんです」

    若「共に学んでおる仲間と」

    唯「連絡先を交換ね。二人、ここまでわかる?大丈夫?」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「グループLINEにも入って」

    唯「えっとね、1対1じゃなくて、一度に何人も同じ画面見られるって言うか。つーか、すごい進歩じゃん!グループLINEまでなんてさ」

    尊「口車に乗せられて」

    唯「なにそれ。イヤならすぐ、グループ抜ければいいのに」

    尊「嫌ではない。みんな色々しゃべってるのを眺めてるだけだし」

    唯「あっそ。で?」

    尊「で、さっき、グループにこんなのが投稿されて」

    スマホを出した尊。LINEの画面が表示されている。

    唯「見ていいの?どれどれ。…大学推薦通ったご褒美兼ねて、家族でイルミネーション観にきてまーす!あれっ」

    若「これは、この地の入口の写真では?」

    尊「そうなんです」

    唯「じゃあこの子、近くに居るんだ!へー。女の子だよね?」

    尊「そうだね」

    唯「いやん、運命?!」

    尊「違うと思う」

    唯「僕も来てる!って送ったら?」

    尊「嫌だよ、グループになんて」

    唯「なんでよぅ」

    若「此処で会えたとなれば、相手のおなごも喜ぶのではないか?」

    尊「そうは思いますけど」

    唯「んー、その子さ、友だち追加はしてる?」

    尊「してるよ。その子がLINE聞いてきて、グループに入ったから」

    唯「じゃあ、グループ通さずに話せるじゃない」

    尊「そうだけど、恥ずかしいよ、急に個別にLINEなんて」

    唯「そんな事言ってるとさー、この広ーいテーマパークの中でなんて、絶対会えないよ?」

    若「尊よ」

    尊「はい」

    若「一歩踏み出す勇気は、必要じゃ。のう、源三郎」

    源三郎「はっ!はい…」

    唯「わかったでしょ。たーくんの言う事は聞くよね~」

    尊「…」

    唯「どの子?画面出して」

    渋々、女の子とのトーク画面を開いた尊。

    唯「LUNA。って名前?」

    尊「アルファベットで書いてるんだよ。名前が瑠奈だから」

    唯「へー。るなちゃん。かわいい名前だね」

    ちょいちょいと操作した唯。

    尊「うわっ!何すんだよ!呼び出してる!」

    唯「電話した方が早いって」

    尊「勝手に触んなよ!あっ、もしもし…」

    唯「おっ、つながった」

    尊「ごめんなさい、急に電話して。うん、LINE見た。実はさ、僕も同じ所に来てるんだ。うん、うん、そうなんだ、マジで。え?ここは…光のトンネルの前。近くに居るの?家族と一緒なんでしょ、…いいの?じゃあ、待ってるね、はい、はい、じゃ。…ふぅ」

    唯「ほらー。電話して正解だったでしょ」

    尊「うん…」

    若「会えそうで良かったのう」

    源「今、尊殿の違う一面を拝見しました」

    トヨ「口調がとてもお優しくて」

    唯「やっぱし?私も思った!ねぇねぇ、気になる子?」

    尊「そんなんじゃないよ。ヒトとの距離の取り方がよくわからないから、強く言わないだけ」

    唯「そーかなー」

    若「唯、我々が共に居ると話もしづらかろう。しばし離れるとしよう」

    唯「あ、そうだね。では、さらばじゃ。健闘を祈る!」

    尊「大袈裟だし」

    唯達が遠巻きに見ていると、道の向こうから女の子が一人、走って来た。

    瑠奈「速川~!わぉ、本物だ!」

    尊「こんばんは」

    瑠「え?一人?」

    尊「ううん」

    チラっと唯達の方を見る尊。若君と源三郎は向こうを向き、唯とトヨだけが、こちらに手を振ったり会釈したりしている。

    尊「姉夫婦が帰省してるんで」

    瑠「ふぅん。前も家族でカラオケに来てなかった?仲いいね。お姉さん二人と、旦那さん達と来てるんだ?」

    尊「あ。うん、そう」

    尊 心の声(良かった。都合良く勘違いしてくれて)

    瑠「一緒に写真撮ろうよ、で、グループに載せる。みんな驚くよ!」

    尊「いいの?色々勘ぐられたりして、困らない?」

    瑠「別に、困らないけど」

    尊「そう?」

    瑠「あ、速川的にマズい?彼女にバレたら大変とか」

    尊「彼女なんて居ないし」

    瑠「そう、なんだ」

    尊「ん?」

    瑠「え?はーい、撮るよー!」

    自撮りモードで、顔を寄せてピースサインをし、写真に収まった二人。

    瑠「サンキュ。すぐあげとくねー。コメントもしてよ?激似の他人と思われないように」

    尊「うん」

    瑠「じゃ、これで。ごめん、親に何も言わずに来ちゃったの」

    尊「あー、だから走ってたんだ。ごめんね、急がせちゃって」

    瑠「え…速川、優しい!」

    尊「そんな事ないけど」

    瑠「やっぱりジェントルマンだよ」

    尊「ははは。それ、前にも言ってたね」

    瑠「ありがとう、電話してくれて。また学校でね!…学校じゃなくても、いいけど」

    尊「え?ごめん、何?最後声小さくて聞こえなかった」

    瑠「ううん、何にも。じゃあね、バイバーイ!」

    尊「さよならー」

    瑠奈は、手を振りながら走っていった。

    尊 心(何を呟いてたんだろ?)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈ちゃんは、17話no.863に出てくる女子高生2の子です。

    続きます。

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    四人の現代Days57~25日17時、説明せよ

    むやみに騒ぐは愚かな事、だから?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    イルミネーションを観に、7人全員で車2台に分乗して移動中。なぜか男性車と女性車になっていた。

    美香子「珍しい。てっきり唯は忠清くんと同乗だと思ってたわ」

    唯「トヨと話がしたかったから。ねぇ!トヨ!源三郎さ、愛し合う二人って言った時、否定しなかったね!」

    トヨ「驚き過ぎて、声が出なかっただけではないですか?」

    美「でもその後すぐ、尊とは話してたわよ」

    唯「イイ線いってると思うなー」

    美「明日の晩、お父さんと忠清くんと源三郎くんで呑むって話じゃない。それ、作戦会議だと思うのよねー」

    唯「トヨを射止めるには?いや、もう恋に落ちてるし」

    美「お嫁さんになってください、じゃない?」

    ト「えっ」

    唯「そっか」

    ト「いえ、違うかもしれませんし」

    美「うーん。心で願ってる分、そう思われてなかったら、って考えちゃうと、怖いわよね」

    ト「はい…」

    唯「なにがいけないんだろ」

    美「源三郎くんに、何かしら踏み込めない理由があるのかもね」

    唯「それが何だよって話でさ」

    ト「わかりません…」

    美「こちらに居る内に、いい知らせが聞けるといいわね」

    唯「ホントだよ」

    男性車。

    覚「忠清くんは、すっかり車はお手のモンだね」

    若君「この助手席、は見晴らしもよく気に入っております」

    尊「お姉ちゃんが居ると、絶対並んで後部座席ですもんね。今日は珍しく、女子こっち~って言って別々だけど」

    もうすぐイルミネーション開催中のテーマパークに到着。

    覚「5時の点灯式には間に合うな。忠清くん、去年他の場所で見たみたいにさ、暗がりからパッと明るくなるよ」

    若「それは楽しみです。のう、源三郎」

    源三郎「このように遠方までお連れ頂き、見聞を広められ、お父さんお母さんには感謝ばかりでございます」

    尊「…」

    尊は、スマホを見ていた。

    覚「尊、もう着くけど、スマホは連絡しやすいようにしといてくれな」

    尊「あ…うん」

    覚「聞いてるか?」

    尊「聞いてる聞いてる」

    覚「はいはい、スマホは仕舞え。着いたぞ」

    車を停め、入場した。日が落ち薄暗い中、かなりの人が集まっている。

    唯「もうすぐっ」

    若「うむ」

    若君の腕にしがみつく唯。その隣に尊、そのまた隣に源三郎とトヨ。

    尊「あの」

    源「はい」

    尊「僕らに遠慮しなくていいですよ、もっと二人寄り添ってもらって」

    源「あ、いやいや!」

    ト「そのような!」

    美「あ、私達がお邪魔かしら」

    覚「ちょっとよけるか」

    源トヨの後ろに居た両親が、その場を離れようとしている。

    源「いえ、あの」

    ト「ここにいらしてください!何も、ありませんから」

    源「…」

    美「あらま」

    覚「そうかい?」

    もうすぐ17時。カウントダウンが始まった。

    尊「この声が、3、2、1、0で、0になったら光りますよ」

    源「声を合わせておるのですね」

    ト「皆、わかっていらっしゃると」

    点灯。一気に、全方向の景色が光で浮かび上がった。

    唯「わぁ!」

    若「おぉ。美しいのう」

    源「これは、なんともはや」

    ト「見とれちゃう…」

    唯「さてと。じゃっ、ラブラブカップルは自由に行動してね」

    覚「ラブラブって?僕らの事言ってるのか?」

    美「あなた達はどうするの」

    唯「うちらは尊にくっついて歩くからさ」

    美「連絡できるのは尊だけだからね。じゃあお父さん、せっかくなんでちょっとの間、お言葉に甘えますか」

    覚「わかった。じゃあ晩飯で合流するか。6時半にまたここでどうだ?」

    唯「了解~」

    若「お父さん、お母さん。クリスマスデート、楽しんできてくだされ」

    美「まぁ、気を遣ってくれたの。嬉しいわ」

    覚「じゃ、後でな」

    尊「またね」

    両親は並んで歩いていった。

    若「尊、世話をかけるが」

    尊「いえ…」

    唯「ねぇ尊」

    尊「…は?」

    唯「あんた、さっきからなんかおかしいよ?」

    尊「何が、だよ」

    唯「ソワソワしてさ」

    ト「どなたか、探しておられるのですか?」

    尊「え」

    源「車の中でも、少し虚ろであらせられました。何かあったのですか?」

    若「そういえば話しぶりが緩慢であったな。いかがした?」

    尊「いえ、何でもないんで」

    唯「尊~。有り体に申せ!」

    尊「嫌だよ」

    若「尊。有り体に、申せ」

    尊「…はい」

    唯「ちょっと、その態度なに」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days56~25日14時、さりげなく

    揺れる度に、心は弾む。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    昼ごはん後。7人全員でトランプをしている。

    唯「ババ抜きだとさ、スタートが一人7枚とか8枚で、少なっと思うけど」

    尊「なかなか揃わないからいいでしょ」

    唯「まーねー」

    若君のカードを覚が引く。

    覚「うわっ」

    美香子「ちょっとお父さん、また~?分かりやすく反応しないでくれない?」

    覚「忠清くんは、ジョーカーをサラっと流してくる」

    若君「フフ、お父さんに導かれておるのでしょう」

    尊「わざと取るよう、仕向けてるようには全く見えないのがミソだね」

    覚「いいんだ、こうした処世術に長けていれば、戦国の世でも役に立つしな」

    唯「そんな大きな話?」

    美「負け惜しみに聞こえなくもないけど」

    覚「はいはい、じゃあ母さん引いて」

    覚のカードを美香子が引く。

    美「私は引き当てないわよ?どれにしようかな、これだ!はい、揃った、上がり~」

    覚「やられた~!」

    尊のカードを源三郎が引く。

    尊「なんかすいません、両親ばっかり騒がしくて」

    源三郎「いえ、仲睦まじくていらっしゃる」

    源三郎のカードをトヨが引く。

    トヨ「そうね。あら、揃ったわ。手持ちがなくなった」

    源「お前も引き当てるの上手くないか?」

    美香子が大きく伸びをした。

    美「んん~。さてと、唯」

    唯「なにー」

    美「この後着替えるでしょう。あの赤いセーター、ちゃんと用意してある?」

    唯「うん」

    尊「へー、珍しい」

    唯「たーくんが出してくれた」

    尊「は?」

    若「昨夜の内に在処を確かめ、セーター二枚と、足を覆う品を」

    美「タイツも?」

    若「はい。共に」

    美「まぁ。さすが忠清くんね」

    覚「わかった。あれだろ、直前でないないって騒ぐのが目に見えてるから、早めに動いてくれたんだな」

    唯「なによ、失礼なー」

    若「フフッ」

    唯「…失礼な」

    15時40分。出かける準備中。唯と若君が着替えて部屋から下りてきた。

    ト「まぁ、なんて、なんて」

    お揃いの赤いセーターを着た二人を、うっとりと見つめているトヨ。

    唯「ペアルックってかなりベタだとは思うけどー、やっぱ気分はアガる。ぐふふ」

    ト「愛し合うお二人が揃いの御召し物。すごくいいと思います!」

    若「揃い、か」

    唯「お揃いがいい。お揃い…」

    源三郎とトヨは、当然ながらバラバラの服装。

    唯「あ、ひらめいた!取ってくる!」

    何かに気づき、二階に駆け上がっていった唯。

    美「そろそろ支度出来た?あれ、唯が居ない」

    尊「部屋に何か取りに行ったみたいだよ」

    美「忘れ物かしら」

    若「いえ、多分、揃いの品を見繕うております」

    美「お揃いって?」

    唯が戻って来た。

    唯「お待たせー。はい、これトヨに。こっちは源三郎に」

    ト「え、これは」

    源「あの、花の入った」

    唯が出したのは、ほぼ同じ形に作られたレジンアクセサリー二つ。両方とも、短いチェーンが付いている。

    尊「それ、僕が作ったヤツだ。根付っぽく使ってもらえるといいなって」

    唯「これならお揃いだし、ちょうどジーンズにさぁ」

    輪になったチェーンの留め具を外し、トヨのジーンズのベルト通しに引っ掛けて留め、ぶら下げた唯。それを見て、源三郎のジーンズの同じ位置に付けてあげた尊。

    尊「完成ですね」

    唯「ペアルックじゃないけど、愛し合う二人にぴったし~」

    ト「ええっ!」

    唯「自分で言ってたクセに」

    ト「いえ、それは唯様と忠清様のお話でっ」

    源三郎は、真っ赤になったまま動かなかったが、

    源「尊殿…」

    尊「はい?」

    源「こちらの品は、尊殿が唯様と忠清様に差し上げるべく、お作りになったのでは」

    尊「そればっかりじゃないですから。いつか来た時に土産に渡そうと思って、大量に作ったんで。こちらに居る内に使ってもらえて、僕は嬉しいですよ」

    源「そうおっしゃられるならば、身に付けさせて頂きます」

    尊「よく見るとお揃い、っていいですよ」

    源「痛み入ります」

    美「さて、みんな、準備万端ねー?」

    覚「そろそろ出かけるぞ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days55~25日10時30分、サービス!

    この絵、使徒、じゃない使途は未定。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯「服はさ、これまんま写せばいいから楽だよね」

    若君「うむ」

    何枚かの試作の後、じいのコスプレ画を描き上げた若君。

    トヨ「まぁ、とても似ていらっしゃる」

    源三郎「忠清様、お見事でございます」

    覚「今にも動き出しそうだ。いや~凄いな」

    唯「たーくん、天才!」

    若「天才?」

    尊「天賦の才って意味です、兄さん」

    尊登場。

    覚「もうそんな時間か。…お?」

    スマホを取り出す覚。

    覚「母さんからLINEが来たぞ。えーと、まだちょっとかかる、申し訳ないけど先始めててってさ」

    尊「了解。兄さんすごいね。絵まで描けるなんて」

    若「然程でもないがの」

    唯「ねー尊、これに色つけてプリントアウトして欲しい。お土産にするから」

    尊「そうなんだ。じゃ、実験室に行きますか。お母さんも忙しそうだし」

    唯「では、移動~」

    源三郎&トヨ「わかりました」

    若「お父さん、行って参ります」

    覚「行ってらっしゃい。母さんには、ゆっくり用事済ませなって伝えとくよ」

    実験室。パソコンの画面に、じいの絵が表示された。

    源「この箱で、色を付けるのですか?」

    尊「はい、そうです。また後で紙にして出しますね。兄さん、まず髪の色はどうしますか」

    若「髷は、灰がかかっておる」

    尊「全体に白髪ではないんですね」

    唯「そのあたりさぁ、カラーで印刷する意味なくない?もう、赤とかにしといたら」

    尊「何でだよ。そんなエキセントリックな」

    ト「鎧でしたら、赤備えでも良いのではないでしょうか」

    唯「あー。天野のね」

    若「そうじゃな。ならばこの装束を朱にするか」

    尊「…汎用ヒト型決戦兵器っぽいな」

    唯「なにそれ」

    尊「何にも。ただの一人言」

    唯「じいと鎧かぁ。黒羽城で夜中にね、廊下でガシャンガシャン音がするから何かと思って外に出たの。そしたら、じいと千原じいが夜討ちじゃ~って、鎧着て小突きあいながら出てくトコだったなぁ」

    源「元次様の最期の日、ですか」

    唯「あ、思い出させちゃってごめんね」

    尊「その千原じい、って、もう居ない…人?」

    唯「うん」

    若「源三郎は、千原の筋じゃからの」

    尊「そうなんですね。何というか、そちらは戦が日常で、壮絶じゃないですか。やっぱり僕は永禄では生きてゆけないな」

    若「そうか?尊は切れ者ゆえ、充分渡り合えると思うが」

    尊「兄さん、そういう勧誘はちょっと…」

    唯「ダメだよ~。こいつまた、モコモコの靴下はいてくるよ?」

    若「あぁ、あの洒落た」

    ト「ぷっ」

    源「フフッ」

    尊「はは…このネタ、引きずるなぁ」

    ワイワイ言いつつ、色つけ終了。プリンターから音がし始めた。

    ト「え?この箱から、床の下を通ってあちらに出るのですか?」

    尊「えーと、床下は通らないですが」

    じいのコスプレ画完成。

    源「おぉっ」

    ト「まぁ、鮮やかですね」

    若「ハハ、良いの」

    尊「でもこれ、本人に渡す時に何て説明するの?」

    唯「縁起モンですって言っとけばいいんだよ。たーくんが描いたってだけで、超ゴキゲンになると思うし」

    尊「見た目は魔除けに近いけど」

    ト「御利益ありそうですよ。ふふふ」

    源「はい、喜ばれるかと」

    尊「キャラ的にはアリですか」

    実験室のドアがノックされている。

    尊「はーい」

    開けると、美香子が顔を出した。

    尊「あ、お母さん。お疲れ様」

    美香子「ごめんね、遅くなって。ちょっと早いけど、お父さんがお昼にするって言ってるの。もう終わりそう?」

    尊「ちょうど終わった所。もういいよね?」

    唯「今何時?11時15分か。わかったー」

    若「尊、難儀をかけたのう」

    尊「いえいえ」

    ぞろぞろと、全員実験室を後にした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days54~25日水曜6時20分、画伯!

    いずれは永禄でお披露目しただろうけど。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君と源三郎の朝稽古が終わり、リビングに戻ると、ちょうど美香子が二階から下りてきたところだった。

    源三郎「おはようございます!」

    美香子「おはよう。朝から元気ね~。見てるとこちらもやる気出てくるわ」

    若君「お母さん、おはようございます。ちょうど良かった。ちとお願いしたき儀がございまして」

    美「あら、何かしら。じっくり聞く話?」

    若「いえ、そうではございませぬので、手短に話します。唯の幼き頃の写真を、一枚で良いので分けていただけませぬか。先日作りました写真立てに入れたいのですが」

    美「幼いって、あの位?」

    リビング奥の写真コーナーの、赤ちゃんの写真が飾ってある場所を指差す母。

    若「それは、お任せ致します。できれば、今まで飾っておらぬ物であると幸いですが」

    美「んー。そうね。私達の寝室にしまってある写真もちらほらあるから…それ、急ぐ?」

    若「いえ、急ぎませぬ」

    美「わかったわ。見繕っておくわね」

    朝ごはん後。

    尊「お母さん」

    美「なに?」

    尊「この後、諸々用事あるだろうけどさ、何時頃終わりそう?」

    美「そうねぇ。10時半には終われるといいかなって所。どうして?」

    尊「みんなでトランプやりたい。どうせなら7人全員で」

    唯「ほー」

    トヨ「それは嬉しいですね」

    美「ははーん。カラオケ行った日、出かけるまで勉強しろって隔離されたのがよっぽど嫌だったのね?」

    尊「今は受験勉強が最優先なのはわかってるから、それはいい。今日はさ、お母さんが空くまではキッチリ籠って勉強しようと思って」

    覚「時間制限付きか。中々いい進め方だ」

    美「わかった。じゃあ私と尊は、その時間にここに集合にしましょう」

    尊「うん」

    尊と美香子がリビングを出ていった。

    唯「10時半まで待機?」

    覚「別に、それこそトランプしてりゃいいじゃないか」

    唯「夕方って何時に家出る予定?」

    覚「イルミネーションの点灯が5時だから、そこから観たいんだったら…出発は4時だな」

    唯「じゃあ、午前中も午後も、尊の望みを叶えてトランプな感じかな」

    源トヨが、不思議そうな顔をしている。

    源「あの、畏れながら」

    若「何じゃ。源三郎」

    源「そのイルミネーション、と申す物ですが、どのような」

    ト「光が灯るのですか?」

    唯「あー、そういえば全然説明してなかったかも」

    覚「そうか。これだよ、って画像見せるとネタバレになっちゃうからなあ」

    若「うむ。無数の灯りで、風景が輝くと申すか」

    源「それは…壮麗でございますな」

    覚「今日行く所はね、何もない所に絵が出てきたり、その絵が動いたりするんだよ」

    ト「光の絵が動く?」

    唯「感動すると思うー。私もそこのは、テレビでしか見たコトないけど」

    ト「まぁ…」

    源「益々楽しみでございます」

    トランプを出してきた唯。カードの一番上が、ジョーカーだ。

    唯「…」

    ト「唯様、どうされました?」

    唯「思い出した。たーくん、あの絵ってさ、実は持って来てたりする?」

    若「あの絵?」

    唯「じいの」

    若「あ…あれか。持ち帰ってはおらぬ」

    ト「天野様の、絵?」

    唯「たーくんがね、じいにこのジョーカーの服着せた絵、描いてたの。それがね、すっごく上手だったのー!」

    覚「忠清くん、そんな才能まであるんだ。イケメンが何でも出来るなんてズルい…いや、最強だよ」

    唯「こっちで、もう一度描いてよ」

    若「なんと」

    源「絵を嗜まれるなど初耳でございます。是非拝見しとう存じます」

    ト「わたくしも是非」

    唯「はい、決まりー!」

    若「唯…そのように、事を大きゅうせずとも」

    唯「またまたぁ。照れちゃってぇ」

    覚「よし。僕も見たいから、筆ペンと半紙取ってくるよ」

    若「お父さん、それは」

    唯「困ってるぅ。かわいいっ」

    描く準備が出来上がった。

    若「うむ…」

    唯「たーくん、がんばってぇ」

    覚「忠清くん、折角だからさ、出来たらその絵をパソコンに読み込んで、色を付けたりしてもいいんじゃないか?それを持って帰ってもいいし」

    若「おぉ、それは土産にうってつけですね」

    唯「じいに?それは喜ぶ…」

    源「信茂殿に?!それは良い手土産でございます!是非、是非に!」

    ト「源ちゃん、何よ?そんな声張り上げて」

    唯「びっくりしたー。なに身を乗り出してんの?源三郎に関係ある?」

    源「は、いや、その」

    若「何ぞ思うところがあるのか」

    源「は、はぁ…」

    若「まあ良い。では、描くと致すか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days53~24日19時45分、忖度します

    無言の圧が凄い。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    母の仕事が終わった。

    美香子「お待たせしちゃったわね、始めてくださいな」

    覚「はい、じゃあ皆、クラッカー持って~」

    若君「これはの、先を上に向け、紐を引かねばならぬ」

    源三郎「大きな音が出るばかりでなく、そのように気を遣い、使う品だと」

    トヨ「小さいお品ですのに」

    覚「さあ、用意はいいか~?じゃあ源三郎くんトヨちゃん、さっきも言ったけどさ、僕がメリークリスマスって言ったら、メリークリスマスって言って引っ張ってくれ」

    源「心得ました」

    ト「はい!」

    覚「行くぞー、メリークリスマス!」

    六人「メリー、クリスマス!!」

    パパパパ、パン、パン!

    ト「何、何が出てきたの?舞ってる!」

    源「大蛇か?!」

    唯「大きい音出るって教えといて良かったね。充分びっくりしてる」

    パーティーが賑やかにスタート。

    唯「ローストチキン、分けて分けて~」

    美「はいはい」

    手早くチキンを捌く母。

    美「はい、召し上がれ」

    源「ありがとう、ございます…」

    ト「源ちゃん?どうしたの」

    源「幼き頃、このように母に飯を取り分けてもらったのを、思い出した」

    ト「そう。いい思い出ね」

    美「あら、実のお母様と重ねてもらえるなんて嬉しいわ~。そんな可愛いい息子に、ミニトマトとレタスも付けてあげよう」

    源「はっ、忝のう存じます」

    唯「源三郎~、それは違うておるぞ」

    尊「何でそこだけ戦国言葉?」

    源「え、違うとは」

    唯「ママありがとう!だよ」

    源「ママ…」

    尊「ムチャ振りが甚だしい」

    源「ママ様、ありがとうございます!」

    唯「なんでそうなる?」

    尊「だからー」

    美「うふふ、源三郎くんはホント、真面目でいい子ね~」

    覚「おーい、ピザ焼きたてだぞ~、テーブルどこか空けてくれ~」

    食卓が、カロリー高めな皿で埋め尽くされている。

    唯「そういえば、何にも聞かないんだね、今日のデートの話」

    覚「そんな野暮な事はしない。聞かれたいなら別だが」

    美「あ、でもそのはめてる指輪、とっても華奢で綺麗ね。もしかしてもしかする?」

    若「わしが贈りました」

    ト「まあっ!」

    源三郎の囁き「トヨ、声が大きい!」

    トヨの囁き「ご、ごめん、つい」

    唯「もういいかな…あ、たーくん、ほら!」

    今度はすんなり指輪が抜けた。

    若「それは何より」

    覚「そんな事やってると、落っことすぞ?」

    ト「わぁ…見せていただいても良いですか?」

    唯「どーぞー」

    ト「蝶と花ですか。素敵…」

    美「良かったわね~唯。宝物ね」

    唯「うん!」

    食卓の上が片づいてきた。

    覚「そろそろケーキいくか?」

    唯「待ってましたっ」

    尊「デートで食べたんじゃないの?よく入るよな」

    唯「あれはパンケーキ、これはクリスマスケーキ。モノが違う。え、なに!二つもあるの?!ヒャッホー!」

    覚「どこから声出してるんだ」

    美「定番の生クリームにイチゴのと、もう一つはチョコレートケーキなのね」

    源「どちらも甘味でございますか?」

    尊「味は少し違いますけどね」

    覚が切り分けている。

    唯「あ、ケーキ入刀忘れてた」

    覚「あ?そりゃ済まんかったな」

    ト「入刀?」

    唯「ホントは、結婚式、えーと祝言の時にやるんだけどね。二人で一つのナイフ持って、初めての共同作業!って」

    ト「祝言ですか。いいですね…」

    少しうつむいたトヨ。速川家五人が、一斉に源三郎を見た。その視線におののく源三郎。

    源「いや、あの」

    覚「…さぁ、切り終わったぞ」

    若「…お父さん、ありがとうございました。いただきます」

    唯「…いただきます」

    尊「静かに事が進んでる」

    美「はいはい黙らない。ねぇトヨちゃん、ケーキはどう?」

    ト「はい。この漆黒のケーキ、風味が良いですね」

    覚「お、気に入ったかい?そりゃ良かった。ビターチョコだからね。大人な味だ」

    唯「ねぇ、たーくん」

    若「何じゃ」

    唯「パンケーキもこの位甘さ控えめなら良かったのにー、って思ってない?」

    若「少しは」

    唯「だよね~」

    尊「お姉ちゃん、また兄さんに無理させたの?」

    唯「してないよー、してない…はず」

    若「ハハハ」

    尊「笑ってるからいいけどさー」

    話は尽きず、夜更けまで仲良く集いました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    24日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days52~24日18時45分、星だけが見ていた

    寒さをものともせず。むしろ暖がとれそう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    立てないと甘える唯を抱え、ようやく自転車の荷台に乗せた若君。

    唯「あ、宵の明星見っけ」

    唯が、空を指差した。若君も見上げる。

    若君「夕星か」

    唯「ゆう…なに?」

    若「ゆうづつじゃ。同じ星を指しておると思うが」

    唯「へー。そういう名前もあったんだ」

    若「どんな呼び名であれ、永禄も令和も、空は変わらぬじゃろ」

    唯「そうだね。こっちでは、なかなかこんなには見えないけど」

    若「こんな?あぁ」

    穿いているラメ入りのタイツを撫でる唯。

    唯「あの星いっぱいの夜ね、たーくんと両想いってわかって、すっごく嬉しかった。私、一生忘れない」

    若「わしも、あの夜は生涯忘れぬ」

    唯「あ」

    若「あ?」

    唯「よーく考えたら、お前を思うって告られた後、次に二人っきりになった時には、結婚しようって言われた」

    若「まぁそうだが」

    唯「たーくん、手が早くな~い?」

    若「早いとは何じゃ。聞き捨てならぬの」

    唯「怒った?キャー!」

    若「これ!」

    自転車をぴょんと降り、逃げようとした唯だったが、

    唯「わ、わっ」

    若「危ない!」

    バランスを崩し転びそうになった唯を、すんでの所で後ろから抱きかかえた。

    若「先程まで、立てぬと申しておったではないか」

    唯「そうでした」

    唯を支えながら立たせ、自分の方に向かせた若君。

    若「立てるか?」

    唯「うん。ありがと。もう…帰る時間だね」

    若「うむ。7時には戻らねばならぬ」

    唯「約束してたもんね」

    若「甘味の店で申したが」

    唯「うん?」

    若「時が進むにつれ、尻すぼみになってはおらなんだか?」

    唯「なってない、全然なってないよ」

    若「そうか」

    唯「デート、どうするかとかいっぱい考えてくれてありがとう。…あのぅ」

    若「何じゃ?」

    唯「もう一回、だけ」

    若「もう一回。壁ドンか?」

    唯「違う」

    若「ならば追いかけっこか」

    唯「違うぅ、たーくんの意地悪っ」

    若「ハハ、わかっておる」

    若君が、辺りをぐるりと見渡す。

    若「姫、誰も居りませぬ」

    唯「ふふっ、よろしい。あ」

    脇を抱えられ、再び荷台に乗せられた唯。

    唯「これ正解。またたーくんに骨抜きにされても安全」

    若「何も特別な事はしてはおらぬがのう」

    サドルに手をつき、体をかがめて優しくキスをした若君。

    若「帰るぞ」

    唯「はい!」

    走り出した自転車。

    唯 心の声(たーくんが、特別なんだってば!今日のデートも、一生忘れない、忘れないから)

    さて。その頃の速川家。

    トヨ「はは、あははは!痛い、お腹の皮がよじれる、もー源ちゃんったら!」

    源三郎「笑い過ぎだろ」

    尊「めっちゃツボに入ってるなぁ」

    源三郎がかけた変装道具の鼻メガネに、トヨが馬鹿ウケしている。

    尊「去年は僕がかけたんですよ。源三郎さん、貸してもらえますか」

    源「ははっ」

    尊がかけてみる。

    ト「まぁ」

    源「おぉ、そうなるのですね」

    ト「尊様にはとてもお似合いですね」

    尊「なんか複雑だな」

    玄関で物音がする。

    覚「お、ラブラブカップルのご帰還か」

    唯「ただいまぁ」

    若「只今戻りました」

    源三郎&トヨ「おかえりなさいませ」

    尊「お帰り、お疲れ~」

    唯「なに、もうそのメガネかけてんの?盛り上がってるねぇ」

    尊「お姉ちゃん達もね」

    唯「なにが」

    尊「口の周りがキラキラしてる」

    唯「あっ…もぅ、それはいいから!上着と荷物置いてくる、行こったーくん」

    二階に上がっていった二人。

    ト「尊様」

    尊「はい」

    ト「口元が、どうかしたんですか?」

    尊「あー。今僕から聞くより、後で姉にこっそり聞いた方がいいですよ」

    ト「そうですか。わかりました」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days51~24日18時30分、溶ける~

    策士あらわる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    速川家リビング。テーブルセッティング中の覚とトヨ。

    トヨ「こちらのお品、美味しそうに焼けていますね」

    覚「ローストチキンって言うんだ。張り切って作ろうかなとも思ったけどさ、今回は市販品でごめんな」

    尊「今回…」

    覚「あ、早かったな、もう戻ってたのか。プレッシャーかけたつもりはないぞ~」

    尊が、ダンボール箱を持っている。

    源三郎「尊殿、わたくしが持ちます」

    尊「いえいえ、軽いし今から開けるんで。中身を一緒に出してもらえますか?」

    源「心得ました」

    ト「あら、随分と煌びやか」

    クリスマスの飾り付け用グッズが、わらわらと出てきた。

    尊「去年の使いまわしですけどね」

    ト「尊様。わたくし、この紙の輪に見覚えがあります」

    尊「あー、レイですね。お姉ちゃん達持ち帰ってますから」

    ト「唯様が大切に仕舞われておりました。このように丸かったのですね。形が崩れてでも残したかったと伺いました」

    覚「そうかー。去年唯達が帰ってから、皆さんに会えたまでの話は聞いてはいないが」

    尊「きっと、言わないだけで、色々大変だったんだろうな」

    変わって、デート中の二人。何度も通りを行き来していたが、

    若君「そろそろ戻らねばの」

    唯「うん」

    若「心残りはないか?」

    唯「うん!」

    再び、自転車で走り出した。若君にギュっと掴まる唯。

    唯 心の声(この後はクリスマスパーティー!楽しみっ)

    自転車が、黒羽城公園に入って行く。

    唯 心(ん?どこ行くの)

    どんどん奥へ進む。

    唯 心(公園突っ切って帰りは近道?そんな技まで身につけちゃったか~。やるぅ)

    建物が見えてきた。減速する若君。

    唯 心(へ?)

    自転車を降りた二人。きょとんとする唯。

    唯「この建物に用なの?もう閉まってる時間だけど」

    若君は微笑むばかりで、何も説明しない。

    唯「なに?…あっ」

    そこは…

    唯 心(ここ、壁ドンおねだりした所!)

    一年前と同じ場所。すっかり夜の帳が下りているので、周りには所々電灯があるが、その辺りはほの暗い。

    若「姫、此処へ」

    唯「…」

    促され、壁に背中をつける唯。

    唯「はは…こんなオプション、聞いてないんですけどっ」

    若君が右の掌で壁にもたれ、壁ドンの体勢に。

    唯 心(わぁ。なんか、くすぐったい)

    しばらく見つめ合っていたが、ゆっくりと顔が近づいてきた。

    唯「えっ」

    思わずうつむいた唯。横目でチラリと右を見る。

    唯 心(えっと、右、誰もいない)

    次に左方向をチラリ。

    唯 心(左も、よし。これで安心。って、なんで私が確認しなきゃいけないのー!)

    若「唯」

    呼ばれて反射的に顔を上げる。

    唯 心(キャー!近いよ!ちかいちかいち…)

    唇が重なった。

    唯 心(…)

    静寂に包まれている。

    唯 心(頭ぐるぐるする、甘い、甘すぎる、溶けちゃいそう)

    熱い時間が続く。若君の右腕は、肘まで壁についた。

    唯 心(攻めすぎだよぉ、濃いぃよぉ。あ、もうダメ、限界。溶けた)

    唯「はぁ…」

    若「唯?」

    膝から崩れるように、ズルッと下がり、へなへなとへたり込んだ唯。さすがの若君も、その様子に慌てている。

    若「どうした!具合が悪いのか?!」

    唯「イチコロですぅ」

    若「イチコロ?」

    唯「ノックアウトっす」

    若「ますますわからぬ」

    唯「わかってよぅ。具合は悪くない。力が抜けて立てないの」

    若「それは、一大事じゃな」

    唯「…なに気づいてニヤケてんの」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    デート終わりまであと少し。

    続きます。

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    四人の現代Days50~24日17時30分、狙ってる

    肖像権はどうなってるんだ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君「そろそろ、この地を出ようと思うておるが、良いか?」

    唯「うん。良いよん。自転車、私がこいであげよっか?」

    若「いや」

    唯「遠慮しなくってもー」

    若「ならぬ。そのような短い丈の…」

    唯「そうでした」

    出口に向かっていると、吹き抜けのある広いスペースに出た。随分と賑わっている。

    呼び込みの店員「ただいま福引をやっておりまーす!お買い上げレシートをご確認くださ~い!」

    唯「なになに?」

    近くの立看板を見る。どうやらモール内の全店舗対象で、合計購入金額が多い程、何回も引けるらしい。

    唯「パンケーキと指輪、金額足すと一回引けるなぁ」

    若「ならば行って参れ」

    唯「もう帰るからこれ以上増えないもんね。ではちょっくら」

    若君を置いてその場を離れようとした唯だが、ふと周りの様子に気がついた。

    唯 心の声(うわ、マジか!)

    唯「ねぇ」

    若「何じゃ、戻りおって」

    唯「たーくんも行こっ。ていうか、来てっ」

    若「一人では引けぬのか?ハハハ」

    若君の手を引っ張る唯。すると、周りに居た女子達の何台かのスマホが、スーッと引っ込んだ。

    唯 心(一体なに?一緒に写真撮ってくださいなの?!ううん、写真だけで済まなかったかも。怖っ、油断も隙もないっ。たーくんを守らないと!)

    ようやく抽選会場に並び、一回引いた唯。

    店「おめでとうございまーす、4等です!この中からお一つお選びください」

    唯「たーくん4等だって!5等のティッシュよりはいいかな?あっ、かわいい!これもらいまーす」

    会場を後にし、歩き出す。

    若「それは?」

    唯「サンタクロースのお人形~」

    赤い帽子赤い服、白髭のサンタクロースが、手のひらサイズで可愛らしく作ってある。

    若「サンタ、クロース?」

    唯「サンタさんの事だよ」

    若「サンタ、はサンタクロースが生来の名か」

    唯「うん。ごめん、私ずっとサンタさんって言ってたかも」

    若「忠清が、九八郎忠清のようにか?」

    唯「えっ?!それは、たぶん違う…」

    建物の外へ出た。

    唯「いよいよ?」

    若「駅前の通り、じゃな」

    唯「うん!この前木村先生と会った喫茶店から、ずっと行った所ね。楽しみっ」

    自転車をこぐ若君。通りが見えてきた。

    若君 心の声(おぉ…木々が輝いておる)

    唯「到着~。ねっ、キレイでしょ?」

    若「うむ」

    真っ直ぐ伸びる道の両側、街路樹がライトで装飾され、光の道になっている。

    若「この道を連れ立って歩くのが、夢じゃったと?」

    唯「うん!」

    照らされた歩道を、手を繋いで歩きだした。

    唯「一人で毎年見てた景色。たーくんと一緒に見たかったの。やっと、やっと~」

    若「来れて良かった」

    唯「えへっ」

    若「明かりが枝一本一本に、巻き付けてあるのう」

    唯「そうだね」

    若「細工が大変そうじゃ」

    唯「裏方の気持ち?」

    しばらくそぞろ歩いた。

    若「少し風が出てきたか」

    唯「ホントだ。でも寒くないよ」

    若「…そうか」

    唯「ん?ねぇ、それって寒いって言うとイイ事ある?」

    若「寒くはないのであろう」

    唯「えー。寒い寒いぃ。あっためてくれないと、こごえちゃうよ」

    若「フフッ」

    立ち止まる若君。唯の方を向く。

    唯「…え!」

    急に、強く抱き締められた。

    唯 心(キャーー!不意討ち!!街のみなさん、バカップルでごめんなさいっ。今、今だけだから許して)

    少し腕を緩めた若君。唯が見上げると、優しく微笑んでいる。

    若「冷えてはおらぬか?」

    唯「うん…」

    若「よし」

    再び、歩き出した。

    唯 心(はぁ~びっくりした。ドキドキだよぅ。このままキスされるのかと思った…ちょっと期待しちゃったけど、イカンイカン、ここは公共の場ですからっ)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days49~24日16時45分、贈ります

    優しい旦那様。たまにツッコミが入る。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    変わって、速川家リビング。ケーキその他を受け取り帰宅した、覚と尊と源トヨ。

    覚「ここに置いてくれる?ん、ありがとな」

    源三郎「お父さん、あとは何をお手伝いすれば」

    トヨ「何なりとお申し付けください」

    覚「まだ時間あるからゆっくりやるよ。尊、例の話、しといてくれ」

    尊「はーい」

    尊が、部屋の隅に置いたビニール袋から、クラッカーを取り出した。

    尊「えーとですね。パーティー始める時に、これをこう引っ張るんですけど、大きい音がしますから、そのつもりでいてくださいね」

    源「そうなんですか」

    ト「それは、ご親切にありがとうございます」

    尊「兄さんが、驚かないよう説明しておいて欲しいって言ってたんで」

    覚「さすがにポップコーンで驚かせ過ぎたと思ったか?わからんが」

    尊「どんな風になるかは、後のお楽しみにしますね。今やると、掃除が大変なんで」

    ト「掃除!」

    源「掃除。わかりました」

    戻って、唯と若君。ウィンドウショッピング継続中。

    唯「アクセサリー屋さん、見てもいい?」

    若君「あぁ」

    店に入っていく唯。鏡がそこかしこにあり、映る唯が二人三人と増えていく。

    若君 心の声(唯が三人か。…手強い)

    唯「かわいいなー」

    一つ一つ顔を近付けて眺める唯。ライトに照らされ、表情も輝く。

    若 心(麗しい)

    唯「わぁ、この指輪、超かわいい!」

    手に取り、左手の薬指にはめてみる。

    唯「ねー、かわいくない?」

    若「これは、蝶が花にとまる様を模しておるのじゃな」

    唯「そーそー」

    一通り楽しんだ後、外そうとするが…

    唯「ヤ、ヤバい」

    若「いかがした?」

    唯「取れないの」

    ぐるぐると回してみるが、一向に関節を通過しない。ギューギュー引っ張る唯。

    唯「指むくんじゃったのかなあ。あとちょっとなのに!」

    若「これ、無茶はならぬ。指先の色が変わってきておるではないか」

    唯の手を取り、指輪を指の付け根に戻しつつ、優しくさする若君。

    若「痛々しい」

    唯「でも、どうしよう」

    若「そうじゃな…」

    若君が値札を確認する。

    若「うむ。これも何かの縁。買うてやろう。ならばこのまま身に付けておれるであろう?」

    唯「えっ、そんな!いいよ、だったら自分のおこづかいで買う」

    若「手持ちで足りるゆえ」

    唯「えぇぇ、悪いよぉ」

    若「一度、プレゼントなる物を買うてみたかった。この品を気に入ったならばそうしたい」

    唯「そりゃあ、もらえたらすっごく嬉しいけど…」

    若「ならば決まりじゃ」

    唯「なんか、ごめんなさい」

    若「謝らんで良い。よう似合うておるしの」

    唯「ホント?ありがとう」

    レジに向かった。若君が支払う。

    唯「あの、このままはめて帰っても…」

    店員「どうぞ。今日はそんなお客様多いです。気に入ったからこのままでって」

    唯「そうなんですか」

    唯 心の声(そんなラブラブな気持ちオンリーで、買って欲しかったなぁ)

    店「こちらお釣りとレシートです」

    若「はい」

    店「そのイヤリング素敵ですね。ついアクセサリーには目がいっちゃいます」

    唯「え、これですか!手作りで」

    店「まあ。とても器用でいらっしゃるんですね」

    唯「は、はは…」

    若「ありがとう。それでは」

    店「ありがとうございました~」

    無事購入完了。

    唯「ごめん。固まっちゃって、ちゃんとたーくんが作ってくれたって言えなかった」

    若「良い。細かい説明など要らぬ」

    左手をしげしげと見る唯。

    唯「プレゼントありがとう!大切にする!永禄にも持って帰るね」

    若「良い土産ができたのう」

    唯「もうちょっとがんばれば抜けそうなんだけど。パンケーキ、たーくんの分まで食べたからむくんだかなぁ」

    若「それはわからぬ」

    唯「もう人の分まで食べない、と」

    若「フッ」

    唯「鼻で笑ったな?」

    若「できぬ話をするからじゃ」

    唯「うっ」

    若「違うたか?」

    唯「違わない」

    若「であろうの」

    唯「ちぇー」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days48~24日16時15分、呼んだ?

    日常会話のように愛を囁く。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    パンケーキ店を出た。

    唯「この後はなに~?」

    若君「プラプラと、歩く」

    唯「ぷらぷら?」

    若「ここぞと思う店に、好きな様に立ち寄れば良い」

    唯「ウィンドウショッピングだね。わかったー」

    ゆっくり歩き出した二人。やはり若君はここでも目を惹く。

    女性1「見て、あの人超イケメン!」

    女性2「イブにあんな素敵な男性とデートなんて、羨まし過ぎる~」

    それを聞き、繋いでいた手をほどいて若君の腕にしがみつく唯。

    若「いかがした?」

    唯「たーくんが他の女に捕られないように」

    若「ハハ、有り得ぬ。愛する妻は、生涯唯ただ一人」

    唯「サラっとすごいコト言った!」

    一方、若君には違う会話が耳に入ってきていた。

    男性1「あの、腕組んでる子さ、すんげぇ可愛いいな」

    男性2「イブまでに、あんな綺麗な子、ゲットしときたかったなあ」

    傍らの唯に目をやる若君。

    唯「なぁに?」

    若「わしは、幸せ者じゃな」

    唯「やーん。そんなに口説いてどうすんの?」

    若「ハハハ」

    じゃれ合いながら歩いていると、

    唯「あれ?こんな店あったっけ。新しく入ったのかな。キャー!かーわいい!」

    ショーウィンドウに釘付けになる唯。そこは、ペットショップだった。

    若「随分と高価じゃのう」

    唯「目の前のかわいい猫じゃなくて、そっち先見る?」

    若「命の値段か」

    唯「…学校の授業みたい」

    ずっと動物達を眺めていたが、唯が壁のポスターに気付いた。

    唯「ねぇ」

    若「ん?」

    唯「これ、おかしいと思わない?ワンちゃんネコちゃん大集合って」

    若「それは、どのように」

    唯「だって、ワンは鳴き声でネコは種類。バラバラだよ。イヌちゃんネコちゃんか、ワンちゃんニャンちゃんが正しくない?」

    若「ほぅ。鳴き声」

    唯「そう思うなー」

    若「…ならば唯ならさしずめ」

    唯「え、私?」

    若「シャッちゃん、じゃな」

    唯「やだ、なにそれー、嬉しくなーい!」

    店を出た。唯が、あ!という顔をする。

    唯「ねぇねぇ、たーくぅん」

    若「何じゃ」

    唯「唯ちゃん、って呼んでみて」

    若「なんと」

    唯「ねー、一回くらいいいでしょ~、言って欲しいなぁ~」

    立ち止まる。

    若「ならば」

    咳払いする若君。

    若「…唯、ちゃん」

    唯「えー?」

    若「唯ちゃん」

    唯「ん、ごめん、やっぱ違うな。ありがと」

    若「何じゃ、頼んでおきながらその言い草は」

    唯「だから、ごめんって~」

    若「まあ良かろう。ところで」

    唯「なに?」

    若「牛は、ウッシッシちゃん、なのか?」

    唯「え!急になんの話?」

    若「バーベキューで聞いたが。肉を見て唯が申した」

    唯「…お願いだから忘れてくんないかな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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