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    四人の現代Days122~10日15時、陳述します

    姉も線を引いていました。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯「お弁当一緒に食べてただけだし」

    若君「それを、仲が良いと申すのでは」

    唯「美沙とマユとれいなは、いつも三人一緒なんだよ。そこに私が入った感じ」

    トヨ「ご一緒されるようになられた、きっかけは何だったのですか?」

    唯「同じクラスになってすぐの、体育の授業で走ったの。軽くだったけど。そしたら、足速いねって声かけられて」

    ト「そこからですか。お話も沢山されたのでしょう?」

    唯「さっきの授業で先生が~とかはしゃべってたけど、恋バナなんかされても、前は興味もなかったしわかんなかったし、そんなに参加してない。お弁当の時間は超超楽しみで、食べるのに集中してたから」

    ト「それにしても」

    唯「私自転車通学だったから、朝も一人だし、三人は部活もしてなかったから、帰りの時間も違ったし。つーか、部活やってる方が珍しかったかも。吉田も帰宅部だったもん」

    若「吉田殿、か。帰宅、部?」

    唯「あ、ごめん。ただ帰ってくだけのヒトをそう言うの」

    若「…源三郎」

    源三郎「は、はい」

    若「眉間に皺が寄っておるぞ」

    ト「源ちゃん、どうしたの」

    源「唯様は、陸上部、で励んでおられたと伺いました」

    唯「うん」

    源「ならば帰宅部、とは、粛々と滞りなくそれぞれの屋敷に戻れるよう、身を正し足並みを揃え、全力を尽くす者達が集う場…であるのかと思うてしまいました」

    若「そうなのか?唯」

    唯「違う」

    源「済みませぬ、差し出口を致しました」

    若「構わぬ。先の世の言葉は奥が深い」

    唯「マジで言ってるトコが、源三郎っぽくていい。でもちょっとウケる~。全力で帰宅部がんばってます!って、みんなが整列しながら帰ってくの想像しちゃった。今月の活動目標、寄り道は1か所まで!なーんて」

    若「唯。そろそろ話を戻そうか」

    唯「ちぇー。はいはい」

    若「昼飯のみであれ、共に過ごしておったのであれば、細かく話せぬとはいえ、別れの挨拶はしておくべきではなかったか。最低限の嗜みとして」

    唯「なんかさ」

    若「何じゃ」

    唯「どーでもいいって思ったというか。わー!怒らないで!」

    若「続けよ」

    唯「明日から美沙達に会わなくなっても、淋しくないなって思ったんだよ。なんでって言われても困るけど、私がね、そんなに大事に思ってなかったんだな。つーか、私に友達って居たんかなって。クラスでもそんなんだし、部活の子達とも、タイムが上がったとかで盛り上がりはしたけど、部活終わりでどっか行くとかもあんまりなかった。友達とキャーキャーとかも覚えがない。なんとなーく毎日過ごしてた感じ。それなりに楽しかったけど。でもね!いきなり戦国時代に飛ばされて、たーくんに会えて、そっからはもー、毎日ドキドキでワクワクで、もちろん危険な時もあったけど、もー絶対たーくんを守る!って、それこそ目標ができたっていうか、人生これっきゃないって」

    若「俄に、饒舌になっておるの」

    唯「え?そーかな~」

    若「余程、友の話に触れて欲しくはなかったと見える」

    唯「気のせい気のせい」

    若「話の本質が見えにくくなりそうじゃ。もっとも、それが狙いであろうが」

    唯「ギク」

    若「ならばこうしよう。これから、わしの問いに答えよ」

    唯「…はぁい」

    若「順を追って尋ねる。昨年、此処を発った折は、そのように、美沙殿らに対しおざなりな態度であったと。ならば夏に、お父さんに二人の来訪を聞いて、どう思うた?」

    唯「わざわざ来てくれたんだ、悪かったな、でも美沙は来てないんだ」

    若「…続ける。先程の美沙殿に対しては、どう思うた?」

    唯「心配してないから来なかったんじゃないんだ」

    若「そうか。源三郎」

    源「はっ」

    若「美沙殿は大層憤慨されておったが、その様子や話しぶりを見て、どう思うた」

    源「…ご立腹も当然である、と感じました。至極真っ当なお話をされておられましたので」

    若「トヨはいかがじゃ?」

    ト「ご自分の仰りたい事は、きちんと話されていたと感じました。煮え切らない唯様の態度に怒ってみえたのが気の毒で、何度尻をひっぱたきしゃべらせようと思ったか」

    唯「私ばっか悪いみたいじゃない」

    若「さよう」

    唯「わー、味方ゼロ?!」

    若「わしは、美沙殿にハッとさせられたのじゃ。蓋し名言であった」

    唯「えぇ?」

    若「自分勝手に去っておきながら、家に様子を見に来なんだと拗ねるとは何事じゃ。この期に及び、構って欲しいなど言語道断」

    唯「うぅ、痛いトコ突かれた」

    若「構って欲しかったのじゃろ?だが美沙殿にとっては、何も事の次第がわからぬ。つい怒りを含めた口調になってしまったのは否めぬ。それを逆に責めるなど以ての外」

    唯「確かに、もっと心配して欲しかった、のかも。でもなにも説明なしで行っちゃったから、申し訳ないと言うか…あー、すっごくワガママでお子さまだったんだよ、ごめんなさい!」

    若「思うに」

    唯「なによ、まだあんの?」

    若「とどのつまり、そのような我が儘で無礼で甘えた態度が通ると思うてしまう程、美沙殿らに心を許していたのじゃ」

    唯「え」

    若「気づいてはおらぬ様だが」

    唯「…」

    若「先程駅では、別れの挨拶は出来たのじゃろ?」

    唯「うん」

    若「なら良い。誰しも、人として、完璧ではない」

    唯「たーくんはカンペキだと思うけど」

    若「いや。完璧であれば、こう拗れる前にどうすべきか、話が出来よう」

    唯「そうかな」

    若「未だお子様だ、と申しておったが、それはわしも、同じ」

    唯「ウソだ~」

    若「人の痛みがわかる者になれるよう、共に精進して参ろう」

    唯「あのぅ」

    若「ん?」

    唯「このお裁き、お咎めは、なし?」

    若「充分、心に刻んだじゃろ。もう良い」

    唯「ありがと…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days121~10日14時30分、ここはお白洲

    何でそうなった?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    再び走って、道端で待つ、若君達の元に戻ってきた唯。

    唯「ただいまっ」

    若君「無事、話せたようじゃの」

    唯「うん!」

    若「うむ。では参るか」

    来た道を戻り始める若君。

    唯「たーくん?どこ行くの」

    若「公園に戻る」

    唯「は?」

    若「正しくは、公園の脇の店じゃ。この近くでは、そこしか知らぬゆえ」

    唯「脇。って喫茶店?」

    若「さよう」

    唯「はあ?」

    若「唯の腹の内を探りとうての」

    唯「げげ!お裁きが始まるの?!つるし上げっすか?!」

    若「やましい思いがあるのであれば、そうもなろう」

    唯「ヤバっ、墓穴掘った」

    CafeMARGARETにやって来た四人。

    唯「たーくんがお茶しようなんて言うの、意外すぎる。あ、お金って」

    若「案ずるな。手持ちはある。わしのおごり、じゃ」

    唯「マジでぇ~!」

    店に入り、席についた。

    トヨ「いい香りがするわ」

    源三郎「コーヒー、ですか?」

    若「そうじゃ。この店では、お父さんが淹れるコーヒーとはまた違った、風味でいただけるであろう」

    源「それはまた」

    ト「楽しみです」

    店員「いらっしゃいませ」

    若「温かいコーヒーを四杯、頼みます」

    唯「ミルクと砂糖、いっぱい持ってきて!」

    店「かしこまりました」

    運ばれてきたコーヒーをいただく。

    若「いかがじゃ?」

    源「同じコーヒーでも、香りや味が随分と違いますね。これもまた良しです」

    ト「落ち着くわ~。って、いつもの如く、唯様だけまるで別の飲み物だわ」

    唯「ミルク砂糖たっぷりバージョン。飲んでみる?」

    ト「はあ。では、一口…ん、んー。まぁ、これもまた良し」

    唯「どーせお子ちゃまですよぅ」

    若君が切り出した。

    若「ならば、聞かせて貰おうか」

    唯「来たっ」

    若「何ゆえ、美沙殿を避けた?わしらの身の上を明かせぬのはわかる。されど挨拶もままならぬとは、到底見過ごせぬ」

    唯「うん…まあ、いろいろ」

    若「訳はあるのじゃな」

    唯「あのさ、話が下手っぴで、あっちこっち飛ぶかもしんないけど、いい?」

    若「良かろう」

    唯「去年学校やめた時さ。あ、えっと、どこから説明しなきゃいけないんだっけ」

    若「学校については、わしは夏に参った折に、お父さんに子細を伺った」

    ト「私共も存じ上げております」

    唯「そーなの?」

    源「はい。尊殿に。学校とは何か、唯様も通っておられたのかなど尋ねたところ、お辞めになった話まで一通り教えてくださいました」

    唯「いつの間にー」

    ト「こちらに参り間もなくでした。朝方、唯様が起きられる前に、時間をかけ」

    唯「ふーん。私の朝寝坊も役に立つねぇ」

    若「偶々じゃ」

    唯「なら、知ってる体で話す。でね、そん時、永禄でたーくんをこれからも守っていくんだ!って気持ちでいっぱいで、あいさつしとこうとか、ぜーんぜん考えてなくて」

    ト「それはまた…」

    唯「コーチだけ、退学の手続きした後、荷物を部室から出してたらばったり会っちゃって。しかたないから、ちょっとだけしゃべった」

    若「仕方ないなどと…コーチ殿は、学校にて唯の走りを指南されていたお方じゃ」

    ト「部活、ですね?」

    源「そこで、唯様の走る力が培われたと」

    唯「話、早っ。それも尊から?」

    源「はい」

    唯「便利だなアイツ」

    若「木村殿にも、会わず仕舞いであったと」

    唯「まあね。だってさ、ホントの事はなにも言えないじゃない。聞かれても答えらんないし、どうウソつくか考えてもさー、いつかボロがでるよ?」

    若「うむ…。美沙殿や仲睦まじくしておった者達にも、旅立つ前に話さなんだのは、それが所以か?」

    唯「そう、そう」

    唯の目がかすかに泳いだ。それを見逃さなかった若君。

    若「違うておると」

    唯「うへぇ、一緒だって~」

    若「ならぬ。つまびらかにせよ」

    唯「やだ、絶対怒られるもん。お裁きが下るってヤツ」

    若「まずは聞く。裁く裁かぬは後回しじゃ。何ゆえ美沙殿に、あのような無礼を働いたのか」

    唯「うぅ」

    ト「やはり後ろめたさがあったのですね」

    唯「ひぃ」

    若「申せ」

    唯「だって、だってそう思っちゃったんだもん…友達なんか居ない、って」

    ト「え?」

    源「先程は、てっきり言葉の綾だと」

    若「なんと…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days120~10日14時15分、後悔先に立たず

    今出来る事は今、ただやる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    口元をへの字に曲げ、押し黙っている唯。

    美沙「いやんなっちゃう。久しぶり~ってなって、熱いハグとかする流れでもいいのに」

    唯「…」

    美「あと二人は誰なの?」

    唯「…家族だよ」

    美「旦那さんの?」

    唯「うん」

    美「そう」

    大きく溜め息をつく美沙。

    美「あのさぁ。私もちょっと言い過ぎたけど、何が嫌なの?黙ってちゃわかんない」

    唯「…ごめん」

    美「それじゃ堂々巡りでしょ」

    唯「私が悪いんだよ」

    美「だから何って話よ?」

    唯「…」

    美「ふう。らち明かないし。もういい!電車の時間あるから、行く」

    キャリーバッグを引いて去っていく美沙。唯に駆け寄る若君と源トヨ。

    若君「唯」

    唯「ごめん。ザワザワして」

    若「唯らしからぬ。どうしたのじゃ。久方ぶりに会うた友ではないか」

    唯「…」

    若「旅立つまで仲睦まじゅうしておった三人の内の、残りの一人であろう?」

    唯「…よく覚えてるね」

    若「わしらが此処に居たが為に、本来蟠りなく終わった逢瀬を妨げたのじゃな」

    唯「違うよ、違う」

    若「されど、喧嘩別れの様になってしもうた」

    唯「いいんだよ、友達じゃないから」

    若「唯…」

    トヨ「唯様。そのような事を申してはなりません。大切な友でしょう?今からでも、追いかけて」

    唯「いいの」

    源三郎「唯様」

    ここで、源三郎が前に出た。唯の正面に立ち、頭を下げる。

    唯「え」

    源「畏れながら申し上げます。喧嘩別れは悲しゅうございますゆえ、電車に乗られてしまう前に和解を」

    唯「なんで?」

    源「どうかこの通り」

    唯「源三郎には関係ないじゃない」

    源「相手が居れば、仲直りのすべもあります。向き合える内にどうか」

    若「…そうか。喧嘩をし、その後二度と会えなくなった友もおったと」

    トヨ「戦、で?」

    源「あぁ。何故もっと歩み寄れなかったのかと、悔いばかりが残っておる」

    唯「…」

    若「唯」

    唯「はい」

    若「わかったであろう。走れ。そなたの脚なら間に合う」

    唯「なによ、普段は走るなって言うクセに」

    若「許す」

    唯「だって、うまく言えるか自信ない」

    若「言わずに後悔するより良かろう。行け」

    唯「…はい」

    唯は、駅に向かって走って行った。

    若「源三郎。よう申してくれたの」

    源「いえ」

    ト「忠清様。お尋ねしたいのですが」

    若「申せ」

    ト「唯様は身を隠すように歩いておいででした。あえてお声をかけられたのは、何ゆえでございますか?」

    源「それはわたくしも知りとう存じます。随分と嫌がられておられましたし」

    若「…幾度もこちらの世に参っておるが、唯のおなごの知り合いに初めて会うた」

    ト「まぁ!それは驚きです」

    若「これまで、会おうする素振りもなく、気に掛かっておったのじゃが、居たか、ようやく会えたかと。それで、安堵したのもあり」

    ト「そうでございましたか…」

    源「なるほど」

    若「されど、何ゆえあぁも拗れてしもうたのか…解せぬ」

    源「確かに」

    ト「唯様らしからぬ振る舞いでございました」

    若「うむ…。戻ったら、腹の内を問うか…」

    黒羽駅。美沙が改札を抜けようとした時、

    唯「美沙!」

    美「え」

    無事追いついた。

    唯「電車の時間、まだいい?」

    美「えぇ?…大丈夫だけど」

    唯「あのね、謝ってばっかだけどさ」

    美「うん…」

    唯「たーくんの話は、うまく説明できなくて」

    美「たーくん。旦那さん?」

    唯「あ、うん」

    美「言えないのは、旦那さん側の事情?」

    唯「…うん。だから」

    美「そっか。色々あるんだ?」

    唯「ごめん」

    美「はあ、そういう事。わかったようなわかんないような。ふふっ」

    唯「笑える?」

    美「訳わかんないところが唯だなって。うん、まあいいや。走ってきてくれてありがと。さすが、脚力は健在」

    唯「今の方が速いよ」

    美「えー、そうなの?」

    腕を広げる唯。

    美「何?」

    唯「ご希望の、ハグを」

    美「はは」

    ギュっと抱き締めあった二人。

    美「なんか唯、前ほど体カリカリじゃない」

    唯「太ったかな」

    美「そこまで言わないけど。じゃ、そろそろ行くよ」

    唯「うん」

    改札を抜け、振り向いた美沙。

    美「じゃあね、唯!」

    唯「バイバイ!美沙!」

    手をぶんぶん振った唯。美沙も、手を振りながら去っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days119~10日14時、一触即発

    まさか、根に持っていたとか?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    駅前の通りで、立ち話をしている。

    唯「これからどっか行くの?…美沙は」

    美沙「週末、三連休だから旅行行く」

    唯「三連休。あー、そうだったっけ」

    美「はい?今頃何言ってんの」

    唯「カレンダー、使わないんで」

    美「は?変わんないな、チョコチョコ訳分かんない。それより!急に学校やめて忽然と消えて、いったい、どこ行ってたの?!」

    唯「ごめん」

    美「ごめん、って」

    唯「だからごめんなさい」

    美「ごめん、だけじゃわからないけど?」

    押し問答のように話が進まない。源三郎とトヨが心配そうに見ているが、若君はどっしり構えて動かない。

    源三郎の囁き「助け舟は要りませぬか?」

    若君の囁き「要らぬ。唯がこちらの世の者に、何も語らず去ったのはまことの話ゆえ、責めるのは頷ける」

    唯「いいでしょ、今こうして元気でいるんだから」

    美「みんな、心配してたんだよ?」

    唯「みんな、ね」

    美「何その言い方」

    唯「美沙も入ってる?」

    美「えぇ?」

    唯「家に、見に来なかったでしょ」

    美「…」

    はたと、何かに気付いた若君。

    若君 心の声(あの話、此処に繋がるのか)

    ┅┅回想。昨年夏、令和に来て間もなく┅┅

    速川家リビング。仕事中の美香子以外、揃ってお茶を飲んでいる。

    覚「前回、クリスマス前に帰ってさ。退学も手続きして」

    唯「うん」

    覚「結局、先生や友達に何も説明しなかったみたいだな」

    唯「まあ、ね」

    覚「急に居なくなった形だっただろ。三学期が始まってすぐ、女の子が二人、様子を見に家に訪ねて来てくれたんだよ」

    唯「二人?」

    覚「同じクラスって言ってたぞ」

    唯「…三人じゃなくて?」

    覚「うん。せっかく心配して来てくれたけど、説明は曖昧にした。ごめんね、って謝っておくのが精一杯だったな」

    唯「どんな感じの子だった?」

    覚「背が高くてショートカットの子と、ロングヘアの子」

    唯「ロングヘア…前髪は?」

    覚「前髪?おでこは出てたな。名前聞いてあるから、えーとメモメモ」

    奥の棚をゴソゴソ探す覚。

    尊「気になるよね。誰が心配してくれてたか。でもさ、もしかして」

    唯「なによ」

    尊「思ってたメンバーというか、仲良くしてた友達とは、違うの?」

    唯「違わないけど…」

    覚「あったあった。うーんと、マユちゃんと、れいなちゃんだ」

    唯「…そうなんだ。それっきり?誰も?」

    覚「そうだな」

    唯「ふーん…」

    覚「わざわざ来てくれたんだぞ?もっと喜ばないと」

    唯「うん…」

    若君「唯」

    唯「んー?」

    若「礼を欠いて旅立ったのにも拘わらず、身を案じ訪ねてくれたなど、有り難いばかりではないか」

    唯「ん、そうだね」

    若「腑に落ちぬ顔をしておるの。どうした」

    唯「なんでもない」

    答えながら、席を立つ唯。

    若「唯、何処へ行く」

    唯「トイレ!」

    若「…」

    言葉通り、トイレに入っていった。

    尊「思うに」

    若「ん?」

    尊「さっきお姉ちゃん、三人じゃないのかって言ってましたよね」

    若「申したな」

    尊「仲良くしてた人が、一人入ってないのかもしれません」

    若「そうか…」

    尊「お姉ちゃんは、女同士のドロドロした人間関係とかなさそうですけど、ちょっと繊細な問題なんで、あまり細かく聞かない方がいいと思います」

    若「わかった」

    ┅┅回想終わり┅┅

    美「ねぇ、噂で、結婚したって聞いたんだけど」

    それを聞き、若君が歩み寄る。え?と驚く美沙。

    若「こんにちは。妻が、世話になっております」

    美「あ、どうも…うっそ、マジで?!」

    唯「マジだよ」

    美「いつの間に…あれ?何か旦那さんに初めて会った気がしない。もしや、前世で結ばれなかった、とか~?」

    唯「その辺で見ただけじゃないの?それよりさ、話、そらしたね」

    嫌そうな顔をした美沙。

    美「はいはい、確かに、マユ達と一緒には行かなかった!」

    唯「…」

    美「心配してなかったんじゃない、怒れただけ。何も言わずに学校やめたら、あっそ、相談もなし、そういう事?ってなる。冷たいって言いたいの?冷たいのは唯の方でしょ!」

    唯「言い方、きっつ」

    美「勝手に逃げといて、かまって欲しいなんて、おかしくない?」

    唯「う…。違う、逃げたんじゃない!」

    美「ウソばっかり。今だって、隠れてたじゃない!」

    源三郎「どうすべきか…」

    トヨ「唯様…」

    止めに入りそうなトヨと源三郎を、後ろ手で制止している若君。

    若「まぁ待て」

    ト「でも」

    若「唯が、怒りの種を蒔いたのじゃ。片は己でつけねばならぬ」

    源三郎&トヨ「…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days118~10日金曜7時30分、再会

    冬の朝なのに、ホットスポット。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    いつもより、かなり早く家を出た尊。

    尊 心の声(御触書の説明、小さいよ)

    小垣駅で一旦下車し、ロータリーにある立看板を見ていた。

    尊 心(もっと吉田城跡を前面に出して、大きく作って欲しいな。これは見逃すよ)

    ロータリーから離れ、駅の入口に立った。

    尊 心(時間的にはそろそろだけど…あ、来た)

    駅に向かって、瑠奈とみつきが歩いてくる。

    みつき「あー?ちょっと、瑠奈!」

    瑠奈「声が大きいよ。どうしたの」

    み「約束してたんなら、そう言ってよ~」

    瑠「約束?あっ、尊!どうして?」

    み「え?してないの?」

    三人が合流した。

    尊「おはよう、ミッキーさん、瑠奈」

    瑠「おはよう…」

    み「おはよセンセ。あのさ、思うんだけど、みつきよりミッキーさんの方が名前長くなってるじゃない。呼びにくくないの?」

    尊「キャラに合ってると思うから」

    み「いいけどさ。それより何、今朝はサプライズっすか?昨日、事件勃発したから?」

    尊「それは、丸く収まったからいいんだよ」

    み「まぁいいや。王子様のお出ましとなれば、私は去るべしなんで。じゃ!お先に~」

    瑠「ごめんねー」

    尊「また教室で」

    みつきは、改札を駆け抜けていった。

    瑠「どうしたの?わざわざ、早く家出てくれたの?」

    尊「うん、まあ。ミッキーさんと、しゃべっていたかった?」

    瑠「ううん、みつきとはいつでも、お弁当食べながらでも話せるもん」

    尊「何となくさ」

    瑠「うん?」

    尊「周りを刺激してみたくなったというか」

    瑠「…」

    尊 心(立看板を確認しておきたかった、のもあるけど。それは内緒で)

    瑠「ラブラブを見せつけちゃうの?」

    尊「ははは」

    瑠「悪いコだ」

    尊「悪いコは、困りますか?」

    瑠「困りませーん。ふふっ」

    変わって、昼前の速川家リビング。

    唯「買い物、要る?」

    覚「ちょっと食材が心細い。実は、忠清くんの料理用の分も鍋に使ってさ」

    唯「そりゃヤバい。明日の昼までに行かないと!」

    若君「ならば、今日の内に済まそうではないか。お父さん、四人で行って参ります」

    覚「頼もうかな。もう今日明日だけだし、ついでにプラプラしてきたらどうだ。黒羽城公園とかさ」

    唯「そうしよっか~」

    昼過ぎ。買い物メモを渡された唯。

    唯「散歩してからスーパーに行くよ。帰るのゆっくりめでもいい?」

    覚「いいぞ」

    まずは公園に到着。城跡の姿を目に焼きつけた後、若君の墓を訪れた。

    トヨ「忠清様の名のお墓に、手を合わせるのもいかがかとは思うのですが」

    源三郎「つい、拝んでしまいます」

    若「いや、それはわしも同じじゃ。合掌しとうなる」

    唯「なんかヘンだけどさ。私も拝んどこー」

    公園を抜け、駅前の通りを臨む。

    唯「夜行く店、ここをずっと行ったトコにあるんだよ」

    ト「そうなんですね」

    唯「では、スーパーに向かいますか~」

    駅を背に歩き出した。すると前方から、ガラガラとキャリーバッグを引きながら、女性が一人こちらに向かって来る。

    源「何やら音がいたします」

    若「あのおなごが引く荷車であろう。空港と申す、羽ばたかぬ大きな鳥が空を行き交う為の巣に、唯と参った折によう見掛けた」

    なぜか、唯の様子がおかしい。

    唯「うわ…会わずに済むと思ってたのに」

    他の三人の陰に隠れるように歩いていたが、その女性が、唯に気付いた。

    女性「…もしかして、唯?」

    唯「うっ」

    女「ちょっと!マジで唯なの?!」

    唯「…」

    明らかに避けている唯に、若君が声をかける。

    若「唯。呼ばれておるぞ」

    唯「わー!なんで!そこは拾わないで!スルーしてよ~!」

    女「やっぱ唯じゃん。びっくり!イメージ変わってて、一瞬わかんなかったけど」

    唯「…」

    トヨの囁き「出来れば会いたくなかった方みたいだけど」

    源三郎の囁き「いかがされたのであろう」

    若「…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    今までの四人の現代Days、番号とあらすじ、92から117まで

    no.977の続きです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    92no.978、1/5、若君が尊をお姫様抱っこ

    93no.980、1/5、トヨのドレスに覚感涙

    94no.982、1/5、撮影開始。唯と若君はコスプレ

    95no.984、1/5、衣装の深淵な意図

    96no.986、1/6、エリお手製の結婚式グッズ

    97no.991、1/6、尊が見たのは白昼夢か予知夢か

    98no.993、1/6、源トヨの結婚式を粛々と

    99no.994、1/6、トヨの決心と吉田城の謎解き

    100no.995、1/6、木村先生は苦悩していた

    101no.996、1/7、みつきとの舌戦はいつも完敗

    102no.997、1/7、小垣駅へGO

    103no.998、1/7、カフェで満腹。待った者には褒美を取らす

    104no.999、1/8、覚は修行僧になれるか

    105no.1000、1/8、美香子と源トヨで買い物へ。今が最良の寛ぎ時間

    106no.1002、1/8、サウナで賑やかに

    107no.1003、1/8、仙人だって腹は減る。最終日はどこに遊びに行こう

    108no.1004、1/9、レトルトを活用しよう。尊のSOS

    109no.1005、1/9、瑠奈がこじれている

    110no.1006、1/9、バタつきながらも招く準備

    111no.1007、1/9、家族形態も色々ある

    112no.1008、1/9、父が瑠奈母の説得を試みる

    113no.1009、1/9、瑠奈をすぐ帰さずに済んだ

    114no.1010、1/9、未遂に終わる

    115no.1011、1/9、唯がズバリと斬り込む

    116no.1012、1/9、羽木家のお陰でカップル誕生

    117no.1013、1/9、声も惚れられている尊

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    四人の現代Days117~9日21時、奏でていてね

    お疲れ様。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    父に呼ばれた。

    覚「おーい、尊、瑠奈ちゃん。おいで」

    尊「行こう」

    瑠奈「うん」

    唯「じゃあね、るなちゃん」

    瑠「ありがとうございました」

    瑠奈は唯達四人に会釈をし、尊と玄関に向かっていった。

    トヨ「ふう、一件落着かしら。って、唯様何してるんですか」

    唯「どうなってるか気になるー」

    廊下をチラチラと覗いている唯。

    唯「はいはいなるほど!わかり申した!ねぇ、こっちこっち」

    ト「何ですか?」

    トヨの手を引っ張り、部屋の隅へ連れて行く唯。

    唯の囁き「なんで、るなちゃんがたーくんにキャーキャー言わなかったか、わかったよ」

    トヨの囁き「それはまたどうして?」

    唯 囁き「るなちゃんのお父さん、超イケオジなんだよ!あんなカッコいいパパが家に居たら、たーくんにはそんなに驚かないのかもって。お母さんも、超キレイなの!」

    ト 囁き「へぇ、気になる…」

    唯 囁き「トヨもチラっと見てみたら?」

    ト 囁き「少しだけ、拝顔させていただこうかしら」

    二人で再び廊下を覗く。

    唯「ねっ!」

    ト「確かに。お母様も、とてもお美しい方でいらっしゃるわ~」

    小声ではしゃぐ姿に、若君と源三郎がキョトンとしている。

    若君「何を騒いでおるのか」

    源三郎「さあ…」

    瑠奈と両親は、帰っていった。リビングに戻ってきた三人。

    美香子「はーい、お疲れお疲れ~」

    覚「まあ、良かった良かった」

    美「でもびっくりしたわ~。ご両親が、俳優さんと女優さんかしらと思う程、美形で」

    覚「彼女の両親だからな。頷ける」

    尊「お兄さんもそうだよ。前に写真見せてもらったけど」

    美「そうなの~。美男美女一家なのね」

    ト「お茶いかがですか」

    覚「ありがとう」

    美「今、お菓子いただいたのよ。早速開けましょうか」

    再び、お茶の時間となった。

    覚「そういえば尊、制服のままだったな」

    尊「うん。まぁ、お風呂までこのままでいいよ」

    立ち上がった尊。

    美「何?」

    尊「今日は、いろいろごめんなさい」

    一礼する。

    覚「こんな事もあるさ」

    尊「兄さん達も、言葉を選んで話をしてくれて」

    若「まずまずの出来と思うたが、いかがじゃ」

    尊「バッチリでしたよ。それに良かった、居酒屋さんに明日は行けそうで」

    覚「また、瑠奈ちゃんの機嫌を損ねなければな」

    尊「うへぇ。頑張ります」

    美「そうそう!提案、というかほぼ決めちゃったんだけどね」

    唯「なんすか」

    美「明日の予定だった、忠清くんの料理の機会が今浮いてるじゃない。それ、土曜の昼にしましょうよ。ていうか、して」

    覚「いいんじゃないか。どう?忠清くん」

    若「はい。それは是非ともお願いしとう存じます」

    美「土曜の昼が、芳江さんとエリさん、会うの最後じゃない」

    覚「そうだな」

    美「昼ごはん、ご一緒しませんかって誘ってたんだけど、それが忠清くんの料理だったらもっと喜んでくれるから」

    若「おぉ」

    唯「いいねー」

    覚「お二人は何て?」

    美「最初は、家族水入らずがいいんじゃないですかって二人とも遠慮されてたの。夜もあるからいいのよって言ってたんだけど、さっき、シェフが忠清くんになるかもって話したら、ちょっと目の色が変わって」

    覚「ははは。僕の料理はいつでも振る舞えるからな」

    美「おウチと相談はするけど、多分参加できる、って。二人とも」

    唯「やったね」

    さて。その頃の瑠奈と両親。帰りの車内。

    瑠奈の父「彼、尊くんさ」

    瑠「うん」

    瑠父「前に、声が聞きたいって電話してたじゃないか。確かに、魅力的ないい声してる」

    瑠奈の母「それは私も思ったわ。どちらかというと高い声だけど、響くような」

    瑠「いいでしょ。私は、聞いてて気持ちいい。ゾクゾクしちゃう」

    瑠父「そうだな、マリンバを奏でるような」

    瑠「マリンバ?」

    すぐに演奏する動画を探す瑠奈。

    瑠「うん、うん!わかる~」

    瑠母「あまり彼を困らせると、話をして貰えなくなって、声が聞けなくなるわよ」

    瑠「はぁい。気を付けます」

    戻って、速川家。

    尊「トヨさんも、すっかり姉になってましたね」

    ト「そうですか?上手く事が運んだなら、何よりです」

    尊 心の声(瑠奈は、トヨさんを両親どっちの娘だと思ったんだろうな。聞くのも変だし。あーでも、無事に済んで良かった)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    9日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days116~9日20時45分、恐縮です

    彼女をゲットできたのは、尊の実力。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈の発言を待っている。

    瑠奈「私」

    唯「うんうん」

    瑠「尊くんを、すごく尊敬してるんです」

    唯「尊敬。そんなにコイツ、立派だっけ?」

    美香子「唯~。いい話じゃないの。尊敬から憧れ、そして恋に発展したパターンかな」

    瑠「地元の歴史への造詣の深さに、とても感動して」

    覚「地元?」

    瑠「立て板に水だったんです」

    美「何か説明でもしたのかしら?」

    瑠「え、聞かれた事ないんですか?」

    尊「うわ」

    美「その反応は何」

    瑠「えー、絶対聞くべきだと思います!すごかったんですよ、羽木一族の存亡についての話」

    唯「え」

    一瞬、周りが静まりかえる。その様子には気付かない瑠奈。話を続ける。

    瑠「流暢で分かりやすい説明で、とっても素敵だったんです」

    美「いつ、どこで聞いたの?」

    瑠「学校のホームルームで、えーっと…先月の18日です。ほれぼれするほど、かっこ良かったんですよ!先生の話に、それは間違いです!って、すっくと立って発言して」

    美「あら」

    覚「それはまた」

    瑠「それで、続きが知りたい人だけ、放課後残って話を聞きました」

    美「18日。回転寿司に行った日ね」

    覚「その日確か、クラスメートとおしゃべりしてて、帰りが遅かったんじゃないか?」

    唯「あー、あの日」

    覚「大学の話だけしてたと思いきや。ははは、やるなぁ、尊」

    尊「…どうも」

    唯「尊さぁ」

    尊「なんだよ」

    唯「アンタ、なにげにいろいろやってたんだ。それで、るなちゃんをゲットしてさ。これは、羽木家に感謝しないとねー」

    尊「うん。それは、その通り」

    源三郎とトヨが、顔を見合わせて微笑んでいる。

    若君「尊」

    離れて静観していた若君が、ゆっくりと近づいてきた。唯の隣、尊の正面に当たる位置に座る。

    尊「兄さん…あの」

    若「その存亡話、興味がある」

    尊「ですよね」

    若「また、じっくりと聞かせてくれないか。感銘を受ける程であれば尚更、知りたい」

    尊「かしこまりましたっ」

    瑠「ふふふ。殿と家臣みたいだね」

    唯 心の声(家臣までいかない。小姓)

    瑠「尊、本が書けると思う。話すだけじゃもったいないよ。残しとくべき」

    美「うん。なんやかやで、話を一番まとめられるのは、尊よね。書いちゃう?」

    尊「はあ」

    若「手伝おうか?」

    唯「うわ、ぜーたく」

    尊「いやいや!畏れ多いです」

    覚「ははは。宴もたけなわだが、そろそろご両親、おみえにならないか?」

    美「あらホントだ」

    トヨが、瑠奈のブレザーを持ってスタンバイしている。

    トヨ「はい瑠奈さん、上着どうぞ」

    瑠「ありがとうございます。お姉さん」

    いつの間にか庭に出ていた、源三郎が戻ってきた。

    源三郎「お父さん、今、車が入られました」

    覚「寒いのに見に行ってくれてありがとう。いやぁ、この目の配り方には感心だなー」

    美「忘れ物はない?」

    瑠「はい」

    そして、玄関の呼鈴が鳴った。

    覚「まずは僕と母さんで行ってくるから」

    尊「うん」

    リビングの出口に立って、呼ばれるのを待つ尊と瑠奈。玄関から、両親同士が話す声が聞こえてくる。

    瑠奈の父「この度は、娘が大変ご迷惑をおかけ致しました」

    覚「いえいえ~。楽しい時間を過ごさせていただきましたよ」

    瑠奈の母「こちら、皆さんでお召し上がりください」

    美「そんな、気にしていただかなくても。わざわざすみません」

    緊張している瑠奈。尊の腕を掴んでいる。

    ト「大丈夫ですよ。頭ごなしに怒られるなんてありません。お父さんお母さんが間に入ってますからね」

    瑠「はい」

    尊「ありがとう、トヨ姉さん」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days115~9日20時、慌てます

    スペシャル鍋、イケメンの給仕付き。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに下りてきた尊と瑠奈。

    美香子「初めまして、瑠奈ちゃん。尊の母です」

    瑠奈「こんばんは。初めまして、おばさま。お邪魔しています」

    美「あらん。おばさま。いいわ~。いつ、お母さんに変わるかしらね」

    瑠「えっ」

    尊「お母さん、何言ってるの!」

    美「こんなに可愛らしくて、話のきちんと出来るお嬢さんが、娘ならいいわねぇって」

    尊「時々暴走するけどね」

    美「少しはフォローしなさいよ。あら!真っ赤になっちゃって」

    瑠「…」

    尊「ごめんね。母が調子に乗って」

    瑠「ううん。…そうなったら、いいな」

    尊「えっ」

    唯が、ニヤニヤしながら近づいてきた。尊の顔をジロジロ見ている。

    尊「な、何だよ姉ちゃん」

    唯「あれ~?キラキラじゃなーい」

    尊「はあ?」

    唯「くちびるが」

    尊「…うるさいよ」

    唯「えー、してないのぅ?」

    尊「ほっといて」

    唯「つまんなーい!」

    尊「もういいから、あっち行って!」

    鍋は、二つ用意されていた。

    尊「味違い?」

    覚「8人なら鍋二つ要るから、どうせならって豆乳鍋とチゲにした。じゃあ、始めるか」

    晩ごはんが始まった。

    尊「もう一個の鍋、遠いよね。取ってきてあげるよ」

    瑠「ありがとう。あ」

    若君「尊、瑠奈さん。器を。取りましょう」

    尊「すいません、兄さん」

    瑠「ありがとうございます、お兄さん」

    手際良く盛り付け、二人に渡す若君。

    若「どうぞ。熱いので、気を付けて」

    瑠「はい」

    尊「ありがとう」

    その受け渡しの様子を、じっと見ていた唯。

    唯の囁き「やっぱありえない。たーくんこんなにカッコいいのに反応なし。なんで?」

    トヨの囁き「そんなにキャーキャー言って欲しいの?人それぞれでいいのに」

    唯 囁き「謎過ぎるんだってば」

    晩ごはん終了。

    瑠「私、運びます」

    美「あら、いいのに。って行っちゃったわ」

    瑠「こちらを…」

    トヨ「あら、ありがとう瑠奈さん」

    唯「置くトコないからもらっとくー」

    瑠「お兄さん達が、片付けてる…」

    若君と源三郎が、洗い物をしていた。

    唯「だって土鍋って重いし」

    若「重くなくてもやる」

    唯「まーねー。るなちゃん、ありがと」

    瑠「はい」

    ペコリとお辞儀をして、瑠奈は戻っていった。

    唯「はー」

    ト「今度は何」

    唯「一つしか歳違わないのに。あの胸、うらやましい」

    ト「はあ」

    食卓が綺麗に片付いた。

    覚「紅茶にするか」

    ティーカップに注いでいると、瑠奈のスマホが鳴った。

    瑠「もしもし。はい。わかった。伝えるね」

    尊「何時頃着くって?」

    瑠「今から出るから、あと15分くらいだそうです」

    美「そう。ならお茶する時間はあるわね」

    唯「あと15分?ヤバいヤバい」

    美「何よ唯」

    唯「私、るなちゃんに聞きたい事あってさ。どいてどいて」

    瑠「はい?」

    座っていた母を押しのけ、瑠奈の前の席に陣取る唯。

    尊「ヤな予感」

    唯「ねぇ、いったい、尊のドコがいいワケ?」

    瑠「どこ…」

    尊「わー!」

    唯「なによ、照れてんの?」

    尊「いや、理由で一部…」

    若君の方をチラっと見る尊。

    若「?」

    尊「その…」

    唯「なによウダウダして。ねっ、るなちゃん、教えて~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days114~9日19時30分、間一髪?

    はいどうぞ!って言われても、焦る。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊の部屋に尊と瑠奈。

    尊「どうして謝るの?」

    瑠奈「なんとなく、他に彼女居ないってわかったし、家族とすごく仲良しなのもわかった」

    尊「それは、疑いが晴れて良かったよ」

    瑠「ごめんね。私…邪魔なんだね」

    尊「は?」

    尊 心の声(一難去ってまた一難?!今度は何!)

    瑠「尊には、やりたい事や究めたい事が多くって、きっと時間があればそれに没頭したいよね」

    尊「…」

    瑠「私が、付き合ってってワガママ言ったから、その時間を割いてくれてるんでしょ」

    尊「それは…」

    瑠「そうじゃない?」

    尊「…」

    尊 心(鋭いな。よく見てる。でも、気を遣わせてしまってはいけないんだ。タイムマシンの話は…ずっと出来ないかもしれないけれど、気持ちは隠さず正直に伝えたい)

    尊「一度も思わなかったかと言われると…」

    瑠「やっぱり。ごめんね、一緒に居ちゃ」

    尊「でも今は違う」

    瑠「違うの?」

    尊「没頭している時間は、それなりに楽しかった。でもそれは、いわばモノトーンの世界」

    瑠「…」

    尊「そんな僕に、瑠奈が嵐を起こしながら現れて。最初は、なるようになればいいって感じだったけど」

    瑠「強引だったよね」

    尊「自分の世界が、徐々に色付いていくのがわかったんだ。とても華やかな、経験のない」

    瑠「…」

    尊「こんな世界があったんだ、なんて心地よいんだって思った」

    瑠「嫌じゃない?」

    尊「うん」

    瑠「じゃあ、好き?あっ」

    尊「ん?」

    瑠「面倒な女だと思ってるよね」

    尊「あれ、気付いてるんだ」

    瑠「ひどーい。頭の片隅にはあるんだよ、一歩手前で止めとけって。でもつい、つい動いちゃうの」

    尊「で、ジタバタしてるんだ」

    瑠「ごめんなさい」

    尊「あはは」

    瑠「笑っちゃヤだ」

    尊「いいよ」

    瑠「いいよ、って?」

    尊「…ジタバタしてる月の女神、好きだよ」

    瑠「…」

    尊 心(うわ、渾身の告白、玉砕ですか?!)

    瑠「尊って、どうしてそんなに優しいの?」

    尊「え、どうして?それは…僕、尊敬する人が居てさ」

    尊 心(兄さんに追いつくのは一生無理だけど)

    尊「その人なら、こんな時どうするかな、って考えてから行動するようには心掛けてる」

    瑠「そっか。とっても素敵な人なんだね。だから、落ち着いて一歩引いて動けるんだ」

    尊 心(思考回路、最大限に使ってますから)

    尊「だから、ワガママなんかじゃないし、邪魔なんてこれっぽっちも思ってない。何も気にしなくていいよ」

    瑠「すっごく嬉しい。ありがとう」

    尊「わかってもらえて安心したよ」

    瑠「うん、うん」

    尊「僕の方こそ、ありがとう」

    瑠「え?」

    尊「今日は家まで来てくれて」

    瑠「…え!たけるん、素敵過ぎる!」

    笑顔の瑠奈が、尊に近づく。

    尊 心(わー、何?!あれ、止まった)

    かなりの至近距離に立っているが、それ以上近寄っては来ない。

    瑠「たけるん。私がおととい言った言葉、覚えてる?」

    尊「え…何だっけ」

    瑠「私、来てもらう方がいいの」

    尊「あ、あー」

    尊 心(それはまさしくアレ、アレですね?!あー、瞳に吸い込まれそうだ。このまま…はっ!待て、落ち着いて考えろ!だってまだ何日も経ってないよ?ここまで早過ぎない?!いいの?って、わー、めっちゃ待ってるよー!行くしかないって?!え、えーっと)

    おずおずと、両手で瑠奈の肩を包んだ尊。

    尊 心(わーっ!!女の子って、なんでこんなに柔らかいんだ!どうしよう、動けないよ!)

    その時、部屋の外で声がした。

    美香子「尊~、瑠奈ちゃーん、ご飯用意出来たから、下りてらっしゃいね」

    母の気配はすぐに消えた。

    尊「…はっ!ご飯、できたって」

    瑠「今の、お母さん?お仕事終わったんだね」

    尊「じゃ、じゃあ行きますか」

    尊 心(お約束のオチってホントにあるんだ。何というか…)

    ゆっくりと、瑠奈の肩から手を離した尊。瑠奈が、上目遣いで微笑む。

    瑠「奪っちゃえば、良かったかな」

    尊「ええっ!」

    瑠「ウソウソ。尊のタイミングでいいよ」

    尊「すいません…」

    瑠「待ってるからねー、たーけるん」

    尊「は、はい…」

    二人、階段を下りていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days113~9日19時、一息ついて

    お父さん、大活躍。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚と、瑠奈の母との電話が続いている。

    覚「こんな不安定な状態のお嬢さんを、このまま帰らせるのは僕も気が引けますし」

    尊 心の声(お父さん、頑張って)

    覚「これは提案なんですが、よろしければ、お嬢さんに晩ごはん召し上がってって貰えればと思いますが。母親の仕事終わりを待ちますんで、もう少し後の時間のスタートなんですがね…いやいや、お気になさらず。賑やかな方が楽しいですし、我が家は7人家族なんで、人数増えても全く問題ありません」

    唯「…どしたの、二人とも」

    源三郎とトヨが、涙ぐんでいる。

    トヨ「七人家族、なんて。嬉しいわ」

    源三郎「しかも、何の躊躇もなくさらりと話された。欣快の至りでございます」

    唯「きんかいの…それ、武士言葉?」

    若君「それはわからないが、言いかえるならば」

    唯「うん」

    若「超嬉しい、だ」

    唯「へー。ならそう言ってよぅ」

    源「ちょ、超嬉しい、です」

    若「フフフ」

    しばらく電話が続いたが、

    尊「え、終わり?」

    覚「はい、ありがとうね」

    スマホを瑠奈に返した覚。

    覚「私の一存では決められないからと、ご主人に相談してから、またかけてきてくださるそうだ」

    瑠奈「はい。わかりました。ありがとうございました」

    覚「どういたしまして」

    尊「じゃあ待つしかないね」

    ト「待つ間、お茶もう一杯入れようかしら」

    唯「今度は全員分にして」

    ト「そうね」

    覚「おーい、立ったままも何だから、こっちで座って飲みな」

    全員、静かにお茶をすすっていると、瑠奈のスマホが着信した。

    瑠「出ます」

    覚「うん」

    瑠「もしもし。…うん、うん。いいの?」

    尊「いい感触みたい」

    瑠「うん。…あの、母が代わってくださいって」

    覚「はい、代わりました。…あー、そうですか?こちらから行きますのに…ご主人もお疲れのところ帰ってすぐでは大変ですんで、晩ごはんはゆっくり済ませてからにしてくださいね。えぇ、いいんですよ。ウチ、分かりますか?はい、速川クリニックでナビを入力していただければ。門を開けておきますので、そこからお入りください。はい、でしたら、またご連絡お待ちしています。いえいえ。お嬢さんに代わります」

    瑠「うん…うん。わかった。はい」

    電話終了。

    瑠「父の帰宅後、母と一緒に車で迎えに来るそうです。9時頃になりそうだけど、家を出る時連絡するって言ってました」

    覚「良かった良かった。ちゃんと晩ごはん、食べてきてくださるかなー。慌てて来て貰ってもね」

    瑠「食べてくると思います。先生のお仕事に合わせてるのなら、あまり早く行ってお食事中でもいけないからって言ってました」

    覚「そうかそうか。その分尊と長く一緒に居られる訳だ。良かったな、尊」

    尊「あ、うん」

    瑠「おじさま」

    覚「おじさま?!」

    席を立ち上がる瑠奈。

    瑠「ありがとうございました」

    深々とお辞儀をした。

    覚「いやいや、えへへ。おじさまなんて、言われたことないから照れるよ」

    ト「では、支度の続きを始めましょうか」

    唯「ラジャ!」

    ぞろぞろとキッチンへ向かう唯達。

    瑠「あの、私もお手伝いします」

    覚「いいんだよ。四人も居て手は足りてるからさ。座ってて」

    瑠「はい…」

    覚「座ってて、も何だな。尊」

    尊「なに」

    覚「部屋を案内したら。支度できたら、呼んでやるから」

    尊「え」

    覚「何だ?見られて困る物でもあるのか?」

    尊「ないよ。ないない」

    覚「じゃあ、行ってきな。瑠奈ちゃん、また後でね」

    瑠「はい!」

    覚「元気になって良かったよ」

    二人、階段を上がっていった。

    覚「ふう。やれやれ」

    唯「お父さん、いいの?二人きりなんかにしちゃってさ」

    覚「忠清くん達の緊張がピークに達してたから、ちょっと舞台からはけて貰ったよ」

    唯「あー。確かに。ボロが出ないように、みんながんばってたもんね。ひとまずお疲れ~かな」

    変わって、尊と瑠奈。部屋のドアを開ける。

    尊「どうぞ」

    瑠「うん。失礼します…」

    尊 心(うわ。この見慣れた風景に瑠奈が居るなんて)

    瑠「わぁ、本がたくさんある」

    尊「うん」

    瑠「歴史の本が見当たらない…え?もしかしてあの話、全部頭に入ってるの?!」

    尊「そうなるね」

    瑠「尊、すごい!ますます尊敬しちゃう!」

    尊「褒めてくれてありがとう。それほどでもないよ」

    瑠「天文学の本とか、力学の本が多いね。学者さんみたい」

    尊「たまたまね」

    尊 心(何を造ってるかまでは、想像できないはず)

    瑠「あ!私のあげた御守!机の真ん中に置いてくれてるの?嬉しい!」

    尊「当然でしょ」

    瑠「ありがとう」

    ぐるっと部屋の隅々まで見渡した瑠奈。急に下を向き、黙りこくった。

    瑠「…」

    尊「どうしたの?」

    瑠「ごめんなさい」

    尊「電話、何とかなったじゃない。気にしないで」

    瑠「違うの」

    尊「え?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days112~9日18時、出番が来た

    頼れるぅ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    何度も、瑠奈のスマホがブルブルと振動しては止まるを繰り返している。

    尊「電話、出ない?」

    瑠奈「…」

    覚「うーん。ちょっと話を整理しようか。相手はお母さん?自宅にいらっしゃるのかな」

    瑠「はい」

    覚「親子の仲って…」

    尊「それは、かなりいい方だと思うよ」

    覚「だったら、怒ってみえるのは、連絡せずに遅くなってるからか。どう?」

    瑠「それも少しはありますけど…」

    覚「じゃあ、何に一番怒ってみえる?」

    瑠「大事な試験の前なのに、家に遊びに行くなんて何考えてるのって…」

    尊「…」

    鍋の準備をしながら、離れて様子を窺う唯達四人。

    唯の囁き「だよねー。センター試験来週だから、フツーはこんな時に来ないかも」

    若君の囁き「唯」

    唯 囁き「なに」

    若 囁き「尊の学びを最も妨げているのは、僕らに他ならないと思うぞ」

    唯 囁き「言われてみれば」

    若 囁き「瑠奈さんを、悪くは言えない」

    唯 囁き「たーくん」

    若 囁き「ん?」

    唯 囁き「現代語、がんばってるぅ」

    若 囁き「当然だ」

    戻って、瑠奈と覚。

    覚「で、何て仰ってるの?」

    瑠「さっさと電車乗って帰って来なさい、って…」

    瑠奈の目が、みるみる潤んできた。

    尊「わー、ハンカチ!えっと二枚目どこに入れたっけ?あった!はい瑠奈、使って」

    瑠「ごめんなさい」

    覚「そうか…。お母さんのお気持ちはわかる。でも、まだ尊の傍に居たいんだよね」

    コクリと頷く瑠奈。

    唯 囁き「尊、めっちゃ愛されてない?」

    トヨの囁き「一途ね。すがるような目で尊さんを見てるところなんか」

    唯 囁き「いったい尊のどこ…」

    ト 囁き「静粛に」

    瑠奈が、ハンカチを尊に返す。

    瑠「ありがとう」

    尊「ううん」

    覚「お母さんも、厳しいね。帰る時は、ちゃんと車で送ってあげるから、心配しなくていいよ」

    瑠「あの、母は車の免許持ってないんです」

    覚「そうなんだ。だから自力で帰ってこい、なんだな。お父さんは、いつも何時頃帰宅されるの?」

    瑠「8時とかです」

    覚「晩ごはんは、お父さんが帰られてからなのかな?」

    瑠「はい。あまり遅くならない限り」

    覚「そうか。んー」

    尊&瑠奈「…」

    覚「よし」

    尊「よし?」

    また、瑠奈のスマホが鳴り出した。

    覚「瑠奈ちゃん、電話に出て。でもって、僕に代わってくれる?」

    瑠「…はい。わかりました」

    唯 囁き「説得するんかな」

    若 囁き「母君は随分と気が立っておられるようだが、お父さんなら上手く事を運ばれるであろう」

    瑠「…もしもし。もー、説教はいいから!尊のお父さんが、電話代わって欲しいって。ホントだって!代わるよ」

    スマホをキュキュッと拭いて、覚に差し出した。

    瑠「お願いします」

    覚「はい」

    皆で固唾をのんで見守る。

    覚「もしもし。初めまして、尊の父です…いえいえ!いいんですよお母さん、そんなに謝っていただかなくても」

    不安そうにしている瑠奈に、話しかける尊。

    尊「きっとお父さんが、上手く話をしてくれるよ」

    瑠「うん」

    瑠奈が、尊の腕をギュっと掴む。

    尊 心の声(わぁ、家族の前なんでちょっと…めっちゃギャラリーに見られてるし!)

    そのまま、尊の顔を見上げた瑠奈。

    瑠「もう帰んなきゃ、ダメかなぁ」

    尊「多分大丈夫だよ。あ、そうか」

    瑠「?」

    尊「確認したいんだもんね。僕の素行調査」

    瑠「…意地悪」

    尊「えぇ?また悪者扱い?」

    瑠「それもあるけど、まだ尊と離れたくない。もっと一緒に居たいの。いつも、駅で別れるのがすごく淋しかった。尊は、違うの?」

    尊「違わないよ」

    瑠「ホントに?嬉しい」

    笑顔を見せ、尊に体を寄せた瑠奈。

    尊 心(可愛いいな。いや、浮かれている場合じゃない。周りの空気が明らかにおかしいんだよ…やっぱり!)

    唯とトヨが、口元を押さえ、体をよじりながら悶絶している。若君と源三郎も、何ともいえない顔をしながら視線を合わせようとしない。

    尊 心(は、はは…ちょっといたたまれないかも。恋愛モード全開で、何かすみません。もうあちこち気になって、電話の顛末が耳に入ってこないよ~)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days111~9日17時30分、その線でいこう

    だったら尚更、幸せ家族に見える。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    緊張の面持ちで、尊と瑠奈が入ってくるのを待つ四人。

    唯「がんばろっ」

    無言で頷く、若君と源三郎とトヨ。

    覚「はい、どうぞ入って」

    瑠奈「こんばんは。お邪魔します…」

    尊「ただいま。わぁ、整列してるし」

    四人の前に進む尊と瑠奈。瑠奈が、少し戸惑っている。

    尊「こんな風に並んでたら、びっくりしちゃうよね。僕の家族だよ」

    瑠「あの、初めまして、瑠奈です」

    尊「紹介するね。右から、下の姉の唯、下の姉の旦那さんの忠清さん、上の姉の旦那さんの源三郎さん、上の姉のトヨだよ」

    唯「こんばんは!」

    若君「こんばんは」

    源三郎「こんばんは」

    トヨ「こんばんは。お会いできて嬉しいわ。寒かったでしょう?お茶入れますから、座ってくださいね」

    尊「ありがとう。トヨ姉さん」

    覚「ささ、どうぞ。あ、その前に上着預かろうか」

    尊「うん」

    二人がブレザーを脱ぐ。覚が受け取り、ハンガーに掛けた。食卓に並んで座った二人。唯達四人は、キッチンに移動した。

    唯の囁き「ねぇねぇ」

    トヨの囁き「何?」

    唯 囁き「るなちゃんって、目悪いのかな」

    ト 囁き「えぇ?どうしてそう思うの」

    唯 囁き「だって、超美形のたーくん見ても、反応が薄いから」

    ト 囁き「もっと騒ぐ筈、って?」

    唯 囁き「だから見えてないんかと」

    ト 囁き「そんな、見えにくそうな感じは窺えなかったけれど」

    唯 囁き「じゃあ源三郎タイプが好みかと思いきや、そっちも反応なしだし。尊にコクるくらいだから、好みが変わってるのかもな」

    ト 囁き「口が過ぎるわね」

    唯 囁き「だってぇ。たーくんにキャーキャー言わない女子が居るなんて、ある意味ありえなくない?って、ト…お姉ちゃん、お菓子、これ出すの?」

    ト 囁き「お茶に合わせて、甘味を」

    唯 囁き「女子高生、きんつば食べるかな」

    ト 囁き「え?駄目?」

    その頃の尊と瑠奈。

    瑠「上のお姉さんとは、だいぶ歳が離れてるみたいだね」

    尊「あ、うん…」

    瑠「すごく大人の女性って感じで、素敵」

    尊「ありがとう。姉も喜ぶよ」

    瑠「そんなに顔は似てないね」

    尊「え。そ、そう?」

    瑠「いろんな家族の形や事情があるもんね」

    尊「事情?」

    瑠「ステップファミリーとかさ。尊の家がそうだとは言ってないよ。これ以上詳しくは聞かないから、心配しないでね」

    尊「えっと…ありがとう」

    尊 心の声(そうか!トヨさんと歳が離れてるのは、両親が再婚したからだと思ったんだ!だったら、僕やお姉ちゃんと顔が似てなくてもそんなにおかしくはないし。いい方向に勘違いしてくれて、辻褄が合って結果オーライというか。ちょっと気が楽になったかな)

    唯「お待たせぇ」

    ト「お茶どうぞ。お菓子も召し上がってね」

    瑠「わぁ、きんつば!和菓子大好きなんです、嬉しい」

    ト「喜んで貰えて良かったわ」

    唯「正解だったか。あ、ねぇ、るなちゃん」

    瑠「はい」

    唯「視力って、いい?」

    瑠「視力ですか。裸眼で左右とも1.5あります」

    唯「えー、そうなんだー」

    尊「なんだよ姉ちゃん、その質問」

    唯「初対面のヒトには聞くコトにしてるから」

    尊「はあ?また訳のわからない事を…ごめんね、変な姉で」

    瑠「ふふっ。ううん」

    笑顔を見せ、お茶とお菓子で落ち着いてきた風情の瑠奈。話しかけるタイミングを図る覚。

    覚「あのさ、瑠奈ちゃん」

    瑠「はい」

    覚「おウチには、ここに来てるって連絡したかい?」

    瑠「して…ません」

    覚「そうか。帰りが遅いと心配されるよ。電話しておいたら?」

    瑠「…はい」

    尊「電話、しづらいの?」

    瑠「めっちゃ怒られるのが目に見えてるから」

    尊「でも、しなきゃ」

    瑠「うん…」

    瑠奈が電話をかける。

    瑠「もしもし。…だから連絡遅くなってごめんって…今、尊の家に来てる…は?時期?それはそうだけど…はあ?もー、ギャンギャンうるさい!もういい!」

    尊「え」

    切ってしまった。

    尊「お母さんだった?ケンカしちゃったの?」

    瑠「…」

    覚「おやおや。困ったね」

    唯「なんか大変そう」

    ト「大丈夫かしら」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days110~9日17時10分、臨機応変です

    技量が試される。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    概略を唯達に説明した覚。

    覚「といった訳だ」

    唯「なにそれ!」

    若君「唯」

    唯「超迷惑!」

    若「口を慎め」

    唯「…」

    覚「あと15分位で瑠奈ちゃんが来る。落ち着かせてから家まで車で送って、それから店へ出発、となると…」

    若「お父さん。今日は止めと致すが良かろうと存じます」

    源三郎「畏れながら、わたくしもそうなさるがよろしいかと」

    トヨ「私もそう思います」

    唯「えー」

    覚「それがいいな。時計ばかり見て気もそぞろな状態で迎えるのは良くない。店はまだ金曜も、何なら土曜もチャンスはあるし」

    唯「明日はたーくんの料理じゃないの?土曜はいつものはさみ揚げでしょ。いつ行くの」

    若「唯。わしらにも関わる一大事じゃ」

    唯「だって、みんな楽しみにしてたのに」

    覚「その辺はまた考えよう。ひとまず、お店にキャンセルの連絡と、あと母さんに言わないとな。今の時間話せるかなー」

    ト「お父さん、私共に何か出来る事はございませんか?」

    覚「ん。じゃあさ、お茶と菓子の準備してくれる?」

    ト「はいっ」

    源「直ちに」

    覚「よろしく」

    覚は、クリニックに走っていった。

    若「唯」

    唯「ん?んー」

    若「予定、とは、得てして変わったり無くなったりするものじゃ」

    唯「はあ。まぁなんていうかさ、るなちゃんの気持ちもちょっとはわかるなって思うのよ」

    若「それはあれか」

    唯「なに?」

    若「乙女心と申す」

    唯「そうだね。はいっ!もうね、気持ちは切りかえたよ。今、何をしとくべきか考えてる」

    若「それでこその唯じゃの」

    唯「ん、よーし」

    若「いかが致す?」

    唯「呼び方決めよう!」

    若「呼び方、とは?」

    唯「名前の。だって、私のお姉ちゃんがトヨで、旦那さん二人でしょ。言い方で怪しまれたら、ヤバくない?」

    それを聞き、トヨと源三郎がキッチンから戻ってきた。

    ト「どうさせていただくのが良いでしょう」

    唯「今、紙に書くよ。お姉ちゃんさ」

    ト「え?は、はい」

    唯「妹には、敬語は使わないでね」

    ト「わかったわ」

    源「飲み込みが早い…」

    ト「だって、これで瑠奈様…瑠奈さんの前で完璧にこなせたら、尊、さん、にご恩が返せるでしょう?」

    源「それもそうだ」

    唯「たーくんや源三郎…さんは、あんまりしゃべんなくていいとは思うけど」

    若「いや、念には念を入れよう」

    唯「えーっと、呼び方変えるのが、私がお姉ちゃん源三郎さん、たーくんがトヨさん源三郎さん、源三郎が唯さん尊さん忠清さん、トヨが尊さん忠清さん、唯って感じかな。はい、書いたから」

    若「これは、各々読み上げて覚えねば」

    唯の書いたメモを覗き込み、ブツブツと復唱し始めた三人。そこへ、覚が戻ってきた。

    覚「何だ、どうした?」

    唯「準備してる。名前の呼び方の」

    覚「あー。主従関係が露呈しないようにか」

    唯「お母さん、なんて言ってた?」

    覚「そんな事もあるわよ、ってな。明日にずらせそうなら、店にそうお願いしてと」

    唯「なんかあっさりしてるな」

    覚「ちょっと考えてた風ではあったぞ」

    唯「へぇ。なんかいいコト思いついたのかな。明日、席空いてるといいね」

    覚「急いで電話してくる…ん?尊からLINEだ」

    唯「なにって?」

    覚「30分頃到着予定です、か。これは助かる。今何時だ?20分か。よし、まずは電話」

    リビングの隅で、何度もお辞儀をしながら電話する覚。

    唯「あ、たーくん。もうカンペキ?」

    若「任せてくれ。話し言葉も、使いこなしてみせる」

    唯「おっ。なにげに現代風になってる」

    覚の電話が終わった。

    覚「ふう。ギリギリに電話したのに、明日の晩に快く変更してくださったよ」

    唯「良かったぁ」

    覚「唯ちゃんと尊くんに会えるのを楽しみにしてます、っておかみさんが」

    唯「ホント?わぁ、ますます楽しみ!ねぇ、それはいいけど」

    覚「何だ」

    唯「結局、晩ごはんはどうすんの?」

    覚「思ったんだけどさ、瑠奈ちゃんに晩ごはん食べてって貰ってもいいんじゃないか。勿論、親御さんと話をしてからだが」

    唯「なるほどね。って、それだと急に人数増えるじゃない。困んない?」

    覚「だからさ、もしそうなってもいいように、鍋にしようかと思う」

    唯「ほー」

    若「名案ですね」

    ト「でしたら、ある程度、入れる食材を見繕っておきましょうか」

    覚「そうだね」

    唯「お姉ちゃん」

    ト「なに?唯」

    唯「私も手伝うよ」

    ト「じゃあ、いらっしゃい」

    覚「いい、いい感じだ~。あ、尊に居酒屋明日になったってLINEしとかないと」

    数分後。玄関で物音がした。

    尊「ただいまー」

    瑠奈「こんばんは…」

    唯「来たっ!」

    覚「じゃあ、僕が迎えに行ってくる」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days109~9日17時、事件発生!

    あーあ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚と尊、電話中。

    覚「で、どうしたんだ」

    尊の電話『さっきなんだけど…』

    ┅┅回想。高校の最寄り駅のホーム┅┅

    尊と瑠奈が、帰りの電車を待っている。

    尊「で、昨日で三回行ったけど、二度目の岩盤浴だったんだ」

    瑠奈「いいなぁ。私も尊と岩盤浴行きたいな」

    尊「そうだね。試験終わったら、行こうよ」

    瑠「すぐじゃないんだね」

    尊「それはそうでしょ」

    瑠「わかってる、それはわかってるんだけど…」

    尊「じゃあ何?」

    瑠「…ホントに家族と行ったの?」

    尊「へ?そうだよ。姉夫婦が帰省してるって言ったでしょ」

    瑠「帰省、長くない?」

    尊「え。そうかな?」

    瑠「怪しい」

    尊「怪しい…って、何が?」

    尊 心の声(マズい、あまりお姉ちゃん達の話は深掘りしないでおきたいけど)

    瑠「百歩譲って、クリスマスにばったり会った時はそうだったかもしれない」

    尊「譲らなくてもそうだって」

    瑠「女でしょ」

    尊「は?」

    瑠「他に彼女が居て、隠してるんだね」

    尊「はあ?」

    瑠「私だけじゃないんだ。悲しい…」

    尊「えぇ?!なんでそんな展開になるの?」

    瑠「だって、めちゃめちゃ楽しそうに話すじゃない。家族と出掛けてるヒトの話し方には思えない」

    尊「それは…」

    瑠「その女じゃなくて、私と居る時も、いっぱい笑って欲しいのに」

    尊 心(そっか、ごめん。気がついてなかったけど、これは僕が悪いよな)

    尊「他に女性なんて居ないけど、あまり笑ってないように見えてたならごめんなさい。瑠奈と一緒に居て、すごく楽しいと思ってるよ」

    瑠「…そうは思えない」

    尊「本当に楽しいよ。嘘なんかついてないから、安心してください」

    尊 心(隠し通さなきゃいけない事情は、山ほどあるけど)

    瑠「…」

    尊「え!なんで」

    瑠「…」

    尊「そんな、泣かないで」

    尊 心(わー!メンドくせぇバージョン、発動してる!困った、周りの視線が痛いよ)

    尊「電車、来たよ」

    瑠「…」

    車内で、扉の脇に立つ二人。瑠奈は、尊の腕にしがみついたまま、ずっと黙って下を向いている。

    尊 心(あーどうしよう、焦る。これは、何か言ってあげないとダメなんだろうな。こっ恥ずかしいけど、頑張るしかないか…)

    尊「あの、さ」

    瑠奈が顔を上げた。瞳は涙で潤み、濡れた睫毛の一本一本が光を弾いている。その艶めいた姿に、目を奪われる尊。

    尊 心(……はっ!思わず見とれてしまった)

    尊「えぇっと、聞いてくれる?」

    瑠「うん」

    尊「他に彼女なんて有り得ないから。僕はそんな器用じゃない。瑠奈しか居ないから」

    尊 心(ひゃー、我ながらなんてセリフ。でも、僕を思ってくれて泣いてるんだし)

    瑠「…ホントに?」

    尊「ホントだよ。ね、だからもう泣かないで」

    瑠「でも」

    尊「信じてください。ほら、もう着くよ。降りなきゃ」

    小垣駅に着いた。電車のドアが開くが、瑠奈は離れようとしない。小さく溜め息をつく尊。

    尊「じゃあ、僕もここで一緒に降りるね」

    瑠「いい」

    尊の腕を引っ張り、動こうとしない瑠奈。

    瑠「降りない」

    尊「え?」

    瑠「降りないったら降りない」

    尊「なんで…あっ」

    ドアは閉まり、電車は動き出した。

    瑠「確かめるまで帰らない」

    尊「確かめるって、何を」

    瑠「だって、私が電車降りた後、尊がどうしてるかわからないもん」

    尊「ついて来るって、事?」

    瑠「ちゃんと家族と一緒だった、他に彼女なんて居ないって証拠が見たい」

    尊「…」

    尊 心(マジかよー!!)

    ┅┅回想終わり┅┅

    尊 電話『と、いう経緯です』

    覚「今は、やむなく黒羽駅のホームに居るんだな。彼女はどこに?」

    尊 電話『家に電話するからってなだめて、少し離れたベンチに座らせてる』

    覚「そうか…」

    尊 電話『お父さん、どうするといいと思う?』

    覚「うーん」

    尊 電話『…』

    覚「よしわかった。ひとまず、瑠奈ちゃん連れて、帰って来い」

    尊 電話『いいの?』

    覚「このまま駅に居ても、彼女は納得しないだろ。この後の話はしたのか?」

    尊 電話『してない』

    覚「そうか。いいか尊、嫌そうな顔は絶対にするなよ。予定があったなんて悟られないようにな」

    尊 電話『はい。迷惑かけてごめんなさい。でも、お姉ちゃんはともかく兄さん達はどうするの?』

    覚「考える。あまり待たせるとまた疑われるぞ。こっちは何とかするから、ゆっくりめに歩いて来てくれ」

    尊 電話『わかった。連れて帰るよ』

    電話を切った覚。隣で聞いていた、唯の目が点になっている。

    唯「え?尊が彼女連れて帰ってくるの?なんで?」

    覚「忠清くん、源三郎くん、トヨちゃんも集まってくれ。今から、緊急家族会議だ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days108~9日木曜11時、環境問題

    資源回収もないし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    玄関の呼鈴が鳴る。

    若君「行って参ります」

    覚「よろしくな」

    朝から頻繁に荷物が届き、リビングと玄関の往復ばかりしている若君。

    若「これまた、ずしりと重い」

    また何か届いた。

    唯「お父さーん、嫌がらせみたいにピンポンピンポン鳴ってるけど?」

    覚「全部今日の午前中指定にしたからな。宅配業者が同じなら一度に届くと思うが、業者が違うとどうしてもな」

    唯「まだ来る?」

    覚「いや、これで終わりだ。別に通販の受け取りは忠清くん専属の仕事ではないんだが、ありがとな。お疲れさん」

    若「いえ」

    唯「中身はみんなおいしそうだけどさ」

    若「全て、湯で温めれば食せると」

    レトルト食品のオンパレードになっていた。

    源三郎「まるで山のように」

    唯「ねっ、分けよっ。どれ持ってく?」

    トヨ「私共の為に、ここまで揃えていただいたのですか」

    覚「手軽に買えるもんだから、ちょっと買い過ぎたかなー。無理に全部持って行かなくてもいいけどな」

    唯「えー、欲しいよ」

    覚「それは勿論構わんが。ところでこれ、いつ食うつもりなんだ?」

    唯「お腹すいた時」

    若「それは…」

    覚「毎日だろ、って言いたげだな」

    唯「わかった!戦に持ってって、陣で食べる。どう?ナイスアイデア!」

    覚「自分達だけ食べる訳にはいかないだろ。足軽の皆さんは、細々とした食事でしのぐだろうに」

    若「仰せの通りですね」

    唯「すんません」

    若「穀物が不作の年や、何かしらの天変地異の折に、民に分け与えられると良いのじゃが」

    覚「話が大きくなってきたな」

    ト「炊き出しが必要となった時、例えば大鍋に、カレーを調味料として足すなどいかがでしょう」

    唯「超うっすい、カレーっぽい汁ってコト?おいしいかなー」

    源「油が入っておりますので、多少腹持ちも良くなります。良い考えかと」

    覚「でも賞味期限はあるから。じゃあさ、有事の際に取っておいて、期限が近づいたら君達で食べな」

    若君&源三郎&トヨ「はい」

    唯「えー」

    若「唯。全てそうせよとは申しておらぬ」

    唯「ちょっとは先に食べる?」

    若「良かろう」

    唯「わーい。いっぱい持って帰ろ!」

    若「赤井家もじゃ。時折食し、こちらの世に思いを馳せるも良し」

    源「心得ました」

    ト「はい」

    覚「あと、思ったんだけどさ。このパウチの袋のゴミ、そっちではどうするんだ?」

    唯「そっか」

    ト「確かに」

    若「これは、埋めたら土に還りますか?」

    覚「還らないんだ」

    源「燃やせるのでしょうか?」

    覚「うーん。やった事はないけど、熔けるんじゃないか。その時代にない物は、処分に困るよな」

    若「考えます」

    唯「あ」

    覚「何だ?」

    唯「前に持ってったお菓子の袋、どうしたっけか」

    覚「菓子?」

    唯「三之助たちにあげたら、毒って言って食べてくれなかったの」

    若「それは知らなんだ」

    覚「いつの話だ?」

    唯「梅谷村に居た頃だから。そのまんま残ってるかも」

    覚「後世に、こりゃ何だ?ってなるパターンだな」

    夕方になった。

    唯「何時出発?」

    覚「6時位に出るか。母さんの仕事終わりは待たないから。後から来てもらう」

    唯「わかったー」

    その時、覚のスマホが鳴り出した。

    覚「おっとっと。ん?尊じゃないか。はい、もしもし」

    尊の電話『もしもし?お父さん?』

    覚「随分と騒がしいな。駅のホームか?」

    尊 電話『ねぇ、どうしよう!』

    覚「何だ、どうした?」

    尊 電話『瑠奈が』

    覚「瑠奈ちゃん?瑠奈ちゃんに何かあったのか?!」

    尊 電話『離してくれない』

    覚「…」

    尊 電話『もしもし、聞こえてる?』

    覚「お前、凄いセリフ吐いてるって自覚はあるか?」

    尊 電話『は?』

    覚「よもや尊の口から、そんな官能的にもとれるセリフを聞く日がこようとは」

    尊 電話『お父さん!こっちは真剣に話してるのに!』

    覚「すまんすまん」

    尊 電話『今日、出かけられないかも…』

    覚「そんなおおごとなのか?」

    唯「?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days107~8日19時、触れてごらん

    いよいよ、カウントダウン。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    全員で岩盤浴エリアに移動してきた。

    美香子「頑張っちゃった?」

    尊「何事も、一歩進まないとって思って」

    自動販売機の前の椅子に座り、スポーツドリンクを飲みながら、ぼんやりしている尊。

    美「連れて来てる私達も私達だけど、この時期無理しちゃうと」

    尊「そこまでだるいとかないから」

    美「そう」

    尊「大丈夫だよ。僕は、強くなれるなら頑張れる」

    美「強く、か。ふふ」

    尊「おかしい?」

    美「ううん、立派」

    尊「じゃあ何で笑うの」

    美「瑠奈ちゃんとの交際が、順調のようだから」

    尊「え。あ、まぁ」

    唯と若君。沢山ある岩盤浴のブースの前で思案中。

    唯「どこに入ろっかな。もう、全身つるんつるんなんだけどね~」

    若君「ほぅ」

    唯「確かめる?触っていいよぉ、はいどーぞ」

    腕を若君の前に出した唯。

    若「どれ」

    すると、若君は唯の正面に立った。

    唯「ほぇっ?」

    唯の両頬を掴み、むにーと引っ張り、手を離す若君。

    若「ふむ」

    唯「そんな確認のしかた?」

    若「ようわからぬ」

    唯「ひどっ」

    源トヨは、並んで横になり、岩盤浴を楽しんでいた。

    源三郎「熱風渦巻く中、お父さんは微動だにせず」

    トヨ「そうなの。修業を積まれておいでなのね」

    源「忠清様も、此度は業を為し遂げた」

    ト「源ちゃんもでしょう。良かったわね」

    源「あぁ。これで大抵の苦難は乗り越えられる自信がついた。尊殿が、少し辛そうにされていたのが気にかかったが」

    ト「さっきお母さんが、様子を尋ねてみえたわよ」

    源「そうだな。お任せしよう。お前も、違うサウナの間に入ったんだよな」

    ト「うん。そんなに熱くは感じなくて。塩が山盛りに置いてあり、汗をかいた肌に乗せると効能が色々あるって教えていただいたわ」

    源「塩か。痛くはなかったか?」

    ト「全然」

    源「体ではないぞ、手だぞ。こちらの世に参る前、そこらじゅう切れておっただろ」

    ト「あ、そう言えば。あら」

    トヨの手を取り、しげしげと見た源三郎。

    源「…傷が治る程、日が経ったんだな」

    ト「そうね…。得難い経験を、こんなにさせていただいて」

    源「そうだな。有難い」

    ト「あ、あのね。お塩でお肌がつるんつるんになるって伺ったの」

    源「へぇ」

    ト「撫でてみない?腕」

    源「な、何言ってる」

    ト「源ちゃんから手を握ってきたんじゃない。試しに、ね」

    源「ま、そうだが…う、うん。心なしか、よう滑るような」

    ト「そんなにそうっとじゃ、くすぐったいわよ~」

    20時。7人、フードコートにある、晩ごはんメニューの写真パネルの前に集まっている。

    唯「ごはん、ごはん。なにこれ!お肉がモリモリ!」

    覚「ステーキ丼か。うん、スタミナ回復には効きそうだ。僕それにしようかな」

    美「サウナで無の境地に入ったんでしょ。仙人って、確か霞しか食べなかったんじゃないかしら?」

    覚「からかってるだろ。覚仙人は、俗世間に戻って来たから腹が減っている」

    美「ただの寝起きの人ね」

    全員メニューも決まり、食事がスタートした。

    美「あー楽しい。こういう、イベントっぽい、遊びに来てる感じはいいわね」

    覚「皆で出掛けるのは、あと明日の晩だけか」

    美「そうよねー。…ねぇ、もう一回位、全員でどこかにお出かけしない?」

    若「おぉ」

    唯「大賛成!」

    覚「僕も賛成だが、いつだ。あと時間が取れるって言ったら…帰る当日、土曜の午後か」

    尊「今までに行った所へ、もう一度?」

    美「うーん。この期に及んでではあるけれど、初体験のイベントもいいかも」

    覚「クリニック終わってからだから、幾ら日付変わるまでに帰ればいいって言っても、そんなに遠くへは行けんぞ?」

    美「ちょっと考えさせて。折角だから、思い出は多い方がいいもの。ね?」

    唯「やったっ」

    源「痛み入ります」

    ト「お気を遣わせるばかりで、すみません」

    美「気にしなくていいのよ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    8日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days106~8日17時、ととのう?

    妖怪千年おばば様、新作お待ちしています。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今回、首から上しか映像化できない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    スーパー銭湯に向かうべく車2台で出発した。途中、尊を駅で拾う覚。

    尊「ただいまー。急な話でびっくりした」

    覚「今日は学校の用事は良かったんだな?」

    尊「うん。それは昨日だけ」

    唯「ねぇ、昨日遅かったのはさー、るなちゃんとラブラブしてたからじゃないのぉ?」

    尊「違うよ。…違う」

    全員で、まずは湯を楽しんでいる。男湯の中にあるサウナ室の前に、若武者が二人。

    若君「…」

    源三郎「…」

    尊「二人ともどうしたんですか?悩む位なら入らない方がいいんじゃ」

    若「参るぞ」

    源「はっ」

    扉の小窓から中を覗くと、覚がピースサインをして座っている。

    尊「止めた方が良くないですか?だってここに、もうすぐロウリュウタイムって書いてありますよ?えーと、ロウリュウはですね」

    若「老いた龍か?」

    源「龍?」

    尊「そう来たか…」

    方々に鋭い視線を送り始める、若君と源三郎。

    尊「あの、龍は出ません。それに危機管理して目を配る様子はさすがですけど、その…丸腰にも程があるし」

    若「では、何が始まるのじゃ?」

    尊「中で熱してる石に水をかけて蒸気を発生させます。その状態で人が来て、大きいタオルや団扇であおいで、熱風を体に直撃させます」

    若「ほぅ…それは、何ともはや」

    源「手厳しい」

    尊「多分お父さんは、この時間を狙って入ってますけどね」

    若「そうか。ならば、倣って挑むより他無し」

    源「お供致します」

    尊「サウナに入る前のやりとりとは思えない。あ、準備が始まった。もうすぐですね。行ってらっしゃい」

    若「尊」

    尊「はい。…ヤな予感」

    若「おぬしは?」

    尊「来たっ」

    若「尊も、もののふならば…」

    尊「わー、その台詞には弱い。はい、では僕も強い男になるべく、兄さん達に倣って、頑張ります…」

    代わって、女湯。

    トヨ「雪、ですか?」

    唯「ううん。塩」

    ト「塩?!」

    ミストサウナルーム。三人が座っている目の前に、こんもりと塩の山が築かれている。

    美香子「食用じゃないからね。汗が出てきたら体に乗せていって」

    唯「お肌つるんつるんになるよ!」

    ト「つるんつるん。良いですね」

    美「ちょっと唯、顔にはつけない!」

    唯「全身ピッカピカにしたいもーん」

    美「ダメよ!刺激が強過ぎるから」

    唯「大丈夫だっ…痛っ!目に入った!」

    美「はぁ~。当たり前でしょ、手で触らない!ホント世話の焼ける…」

    美香子が唯の顔を覗きこんでいると、

    ト「お母さん、離れてください」

    美「え?はい」

    ト「参ります」

    バッシャーン!

    美「あらお見事」

    唯「ケホ、ケホッ」

    ト「どうですか、目の痛みは」

    唯「うひゃ~、びっくりした。でも今の一撃で取れたよ。ありがとトヨ」

    手桶に汲んだ湯を、唯の顔にぶっかけていたトヨ。

    美「さすがトヨちゃん。目元に狙い撃ちもお手の物」

    ト「塩まみれの手で擦るよりかは良いかと。幸い、端に座っておられたので、多少手荒でも他の方のご迷惑にはならないと思いまして」

    美「ちょっと驚いたけど、正解よ。ありがとうトヨちゃん」

    ト「いえ。すみません」

    美「何で謝るの」

    ト「咄嗟とはいえ、出過ぎた真似をいたしました」

    美「ううん。永禄での二人の関係が垣間見えた感じで良かったわよ。これからもビシビシとよろしくね…って、違う違う」

    ト「ふふふ」

    唯「これじゃお世話係をいつまでも卒業できないわねぇ。トヨちゃん、今度からは唯が何かしでかしても、見て見ぬ振りしてね」

    ト「はい。では出来得る限りそういたします」

    唯「えー、塩対応っすか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    やっぱりふきちゃんが好き

    ふきちゃんの物語を
    練り直していたら、
    詩が浮かびました。
    ご披露~。m(__)m

    ・・・・・・・・・

    ふみを待ち
    月と太陽が入れ替わる

    ときめいて 一夜
    ゆらめいて 二夜

    三夜めは ため息

    伏し目がちに 四夜
    うつむいて 五夜

    六夜めに 一粒涙をのみ
    七夜めで 天を仰ぐ

    上る月は白々として虚しい
     

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    四人の現代Days105~8日14時、健やかなる時を

    心と体に、芯から、じんわりと。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美香子の車に、源三郎とトヨ。とある店に着いた。

    トヨ「紐…ですか?」

    美香子「ここね、組紐の専門店なの」

    源三郎「よくお越しになられるのですか?」

    美「たまーに。お父さん以外の人と来たのは初めてよ」

    源「忠清様も唯様も、ですか?」

    美「そうね。たまたま機会がなくて」

    既に、商品に釘付けになっているトヨ。

    源「おい、お母さんの話聞いてるか?」

    ト「あっ、すみません!」

    美「いいのよ~」

    運んできたバッグを広げる美香子。中には着物と帯が入っていた。

    美「これに合わせる帯締めが欲しくてね。あなた達の時代にはまだなかった物だから、わかりにくいかもしれないけれど。どれがいいかしらね」

    ト「えーと…。え!いえ、私が決めては」

    美「トヨちゃんの見立てでいいから。可愛いい娘に選んで貰ったわって。唯はね、こういう類いは全くダメなのよ。お城でもあまり興味なさそうでしょう?」

    ト「それは…そのようにはお見受けいたしますが」

    美「ね、だから是非お願いしたいわ」

    ト「そうですか。唯様の代わりは、到底務まりませんが」

    トヨが、棚を丹念に見始める。源三郎が、近くに並ぶ商品に気がついた。

    源「お母さん、これはもしや」

    美「ブローチね。紐を編んで作った」

    源「ブローチ。安全ピン、で留まるのですか?」

    美「その通り!よく覚えたわね、偉いわ~。って、あらごめんなさい、子供をあやすみたいな言い方になっちゃった」

    源「いえ…」

    源三郎が、はにかみながらブローチをじっと見ている。

    美「気に入ったなら買ってあげるわ」

    源「えっ?いやいや!」

    美「いいじゃない、小さくてお値段も張らないし。トヨちゃんと色違いでどう?」

    源「滅相もない事でございます!」

    美「いいのいいの、忠清くんと唯には内緒よ。あ、トヨちゃん、決めてくれた?」

    ト「こちらのお品が、色味も合ってよろしいかと存じます。いかがでしょうか」

    美「あ、いいわね~ありがとう。ではそれと、はい、こっちも色選んでね」

    ト「え?いえ、お気持ちだけで結構でございます!」

    源「お母さん、いただけませぬ」

    美「そう言わずに~」

    源三郎達がすったもんだをやっている、その頃の速川家。

    覚「ふう。しかし」

    食卓で覚と若君がお茶を飲んでいる。唯はというと、

    覚「よくあんなに寝られるもんだ」

    ソファーで、くるまった毛布から首だけを出し、スヤスヤと眠っている。

    若君「フフッ」

    覚「忠清くんさ」

    若「はい」

    覚「君こそ、どこか行きたい所とかなかったかい?」

    若「こちらの世も四度参っておりますゆえ、充分に楽しんでおります」

    覚「だからこそ、ってのもあるだろ」

    若「広い風呂も、酒と料理が美味い店も、丁度行きたかった地です」

    覚「そう?遠慮しなくてもいいんだぞ?」

    若「お父さん。何処かへ参るのは、無論楽しゅうございます。されど、今此のひととき全てが最良に他ならないのです」

    覚「今?」

    若「唯と穏やかに過ごせる此の時が」

    覚「こっちの生活全部か。いろんな重圧から解き放たれてるもんな」

    若「だからと言って、戦場に身を置くやも知れぬ永禄に、戻りたくないと申しておるのではなく」

    覚「わかるよ。心のデトックスだろ」

    若「デト?」

    覚「あーごめんごめん。どう言えばいいだろう。ん~、浄化、かな」

    若「浄められると。それは、腑に落ちます」

    覚「唯みたいに、ダラダラ過ごすのも悪くない訳だ。ははは。どうだい、君も唯と一緒に一寝入りしたら?」

    若「それは…もう、お手伝いする事はございませぬか?」

    覚「大丈夫だよ」

    若「わかりました」

    席を立ち、使った湯飲み茶碗などを洗って片付けた若君。そのままソファーに向かう。

    若「唯」

    唯「…ん。え、もう出かける~?」

    若「いや、まだ良い。わしも混ぜてくれ」

    唯「混ぜる?」

    横になっていた唯の体を抱き起こし、隣に座った。

    唯「一緒にお昼寝?」

    若「嫌か」

    唯「いいに決まってるでしょ。はい、半分こ」

    毛布を二人で分け合うようにかけ直し、若君にもたれた唯。すぐに寝息が聞こえ始めた。

    若君 心の声(心地好い…)

    窓の外に広がる冬の庭を眺め、温もりを感じながら、まどろむ若君だった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days104~8日水曜6時40分、気遣いの人

    座禅でも組んでいたのか?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ラジオ体操が終わったところで、覚が源三郎に声をかけた。

    覚「ちょっと、いいかな」

    源三郎「はい」

    部屋の隅に移動する。

    源「いかがなされました。言い付けでしたら、何なりとお受け致します」

    覚「いやいや、そんなんじゃないんだ。あのさ」

    覚が、メモ用紙とボールペンを取り出す。

    覚「あと今日入れて、残り四日だ」

    源「はい…お名残惜しゅうございます」

    覚「今まで色々こちらで体験してきてさ、これはもう一度やりたいな、行きたいなってのないかい?」

    源「それは、無きにしも非ずですが」

    覚「望み全部は難しいかもしれないけど、聞かせてくれないか?第一希望と、第二希望位教えて」

    メモを取ろうとしている覚。少し戸惑う様子の源三郎。

    源「あの、忠清様や唯様にはもうお尋ねになられたのでしょうか」

    覚「いや?そもそも、君とトヨちゃんにしか聞くつもりはないよ」

    源「それは、何ゆえでございますか」

    覚「仕える身である君達の、意見を優先する場があってもいいだろ。まあまあ、そう固く考えずに。な?」

    源「はい…ならば、風呂が幾つもあった地の」

    覚「スーパー銭湯か。ふんふん」

    源「お父さんが悠々とこなされていた、地獄の板敷の間に、今一度挑めたらと」

    覚「板の間?それって、サウナの事か?」

    源「灼熱を物ともせず座しておられたお父さんのお姿は、正にもののふでありました」

    覚「こんな事で褒められるとは思わなかったな。ちょっと気分いいぞ」

    源「早々に音を上げた不甲斐ないわたくしではございましたが、もし次があるのならと思うておりました」

    覚「なるほど。よしよし。もう一つ、聞こうか」

    源「お父さん忠清様と三人で、腹を割って話したあの店に、今一度参れるのであれば」

    覚「居酒屋だね。わかった。考えとくよ、ありがとな。おーいトヨちゃん、ちょっといい?」

    昼過ぎになった。

    覚「それでは、今後の大まかな予定を発表する」

    唯「あーい」

    覚「今日の夜は、スーパー銭湯に行くぞ」

    唯「おっ、岩盤浴!良かったね、トヨ」

    トヨ「良いのですか?お父さん」

    覚「君も源三郎くんも、一番行きたいって言ってたからさ。夕方尊を駅で拾う。晩飯もそこで済ませるよ」

    唯「たーくんもリベンジできるね。サウナ、お父さんみたいに長く入れたらって言ってたじゃない」

    覚「へぇ、そうだったのかい」

    源「忠清様も、でございましたか」

    若君「修行を終えサウナの間を出た後の、悟りを開いたかのようなお父さんのお顔が、今でも目に焼き付いております」

    覚「二人ともよく見てるなぁ」

    美香子「その後は、休憩室でグースカ寝てたけどね」

    覚「今日は、グダグダにならないよう、修行僧並に頑張るよ」

    美「無理はしないでよ~?帰りの運転に支障がないようにね」

    覚「大丈夫。酒は呑まないし。美味い酒は、翌日のお楽しみにとっとくから」

    美「嫌よ、また潰れちゃ」

    唯「てコトは?」

    美「明日の夜は、今度は家族全員で、例の居酒屋に行きましょうね。歩いて」

    若「おぉ。それは、わしも楽しみじゃ」

    源「お気遣いいただき、済みませぬ」

    ト「良かったわね、源ちゃん」

    唯「おかみさんとおやじさんに会うの、めっちゃ久しぶりだー」

    覚「明後日は、金曜だからまた忠清くん、料理頑張ろうな」

    若「はい!」

    美「で、金曜が最後の夜になるから、恒例の」

    唯「恒例。わかった!え、布団全部並ぶ?」

    覚「多分、イケるだろ」

    源「布団、ですか?」

    若「左様。発つ前の晩は、このリビングに布団を並べ、皆一同に休むとしておっての」

    ト「まぁ…心温まる習わしだこと」

    唯「今回さー、旅行行ってないから、雑魚寝なんて最初で最…ん、言わないでおこ」

    美「楽しみね。でね、今日この後だけど、トヨちゃんと源三郎くんに、私の買い物に付き合って欲しいのよ。いい?」

    ト「はい!お供いたします」

    源「喜んで」

    美「トヨちゃんが、私との買い物が忘れられなくて是非って聞いて」

    ト「えっ、それでわざわざお時間を」

    美「ううん。ちょうど、着物関係のグッズで欲しい物があるのよ。トヨちゃんに一緒に見立てて貰えると私も嬉しいわ」

    ト「なんて有り難きお言葉…」

    美「あなた達さえ良ければ、もう出掛けてもいいけど。そのお店、ちょっと距離あるのよ」

    ト「わかりました」

    源「では、上着を取って参ります」

    二階に上がっていった二人。

    若「お父さん、お母さん。色々と気を回していただき、ありがとうございます」

    覚「いやいや~、元は君の発案だし」

    美「彼らの望みを叶えてやって欲しいって言う忠清くんの気持ちが素晴らしくて。私達はそれに乗っただけ」

    唯「たーくん、神だわ」

    若「神?」

    唯「え。えーっと、神様仏様的な?」

    若「仏?崇められる程ではないが」

    唯「あがめるってなに?」

    美「あー、話が続かないったら」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    8日のお話は、続きます。

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    四人の現代Days103~7日12時、初めての

    よく噛み、時間をかけ食せば、少しの量でも腹は満たされるのじゃ。という心の声。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    カフェでランチ中の四人。唯の食い意地が勝るかと思いきや、

    唯「カフェっぽい!めっちゃ映える!」

    やたらと写真を撮っている。

    若君「精が出るのう」

    唯「だって、撮っとかないとどんな料理かわかんないもん。帰ったら親に聞こうと思って」

    若「運ばれてくる度に、店の者が料理名を申すではないか」

    唯「カタカナいっぱいだからよくわかんない」

    若「カタカナ、であるのはわかると」

    食事終了。デザートも出され、寛ぐ四人。

    唯「どうだった?源三郎、トヨ」

    源三郎「美味しくいただきました」

    トヨ「どのお料理もお色味がとても鮮やかで、食が進みました」

    唯「映え映えだったよね~。来て良かったぁ」

    若「美しく盛られ見栄えのする料理の数々であったが、唯の腹には足りたか?」

    唯「足りたー。写真撮りながら休み休み食べてたのに、なんでかな。お腹いっぱい」

    若「フッ」

    唯「なんでそこで笑うの」

    若「それは、尚更来た甲斐があった」

    唯「んん?なーんか引っかかるような。ま、いっか。そろそろ帰る?」

    店を出た四人。もう一度、吉田城跡のロータリー前に佇む。

    唯「残してくれた人に感謝しなくちゃね」

    若「あぁ」

    さて。夕方になった。変わってここは、尊の高校。

    尊「西日がようやく眩しくなくなったな」

    放課後、教室に尊が一人自習している。すると扉がガラリと開き、瑠奈が入ってきた。

    瑠奈「はぁ。えっ、尊!」

    尊「お疲れ。先生の呼び出し、何だったの?」

    尊に駆け寄る瑠奈。座ったまま見上げる尊。

    瑠「冬休み前に提出した書類に、訂正が必要な箇所があるって…ねぇ、それより、待っててくれたの?!」

    尊「約束したじゃない。帰りは一緒って」

    瑠「そうだけど、急に呼ばれて行ったし、すごく待たせちゃった。ごめんね、ホントにごめんなさい」

    尊「そんなに謝らなくても」

    瑠「だって、試験前の尊の貴重な時間が」

    尊「ここで勉強してたから。気にしなくていいよ」

    瑠「ありがとう。いつも優しいね。私感動しちゃった。絶対、帰ったって思ってたの。もぅ、すっごい嬉しい!」

    尊「喜んでくれて僕も嬉しいよ。じゃあ、帰りますか」

    瑠「うん…」

    机の上の参考書や文房具を片付け始めた尊。その様子を、隣に立ったままじっと見つめている瑠奈。

    尊「どうしたの。鞄取ってきたら?」

    瑠「私、尊にお礼がしたい」

    尊「お礼?いいよそんなの」

    荷物を入れるため、リュックを取ろうと尊が横を向いたその時、

    尊「ん?」

    頬に柔らかな感触が。

    瑠「さぁ、帰りましょうね~」

    尊「え?」

    瑠奈が鞄を取りに行く。訳がわからない尊が、頬を指で触ってみると…

    尊「えええー!」

    指先に付いたリップグロスが、キラキラしている。瑠奈が鞄を持ち戻ってきた。

    瑠「あ、ごめん。ついちゃったね」

    尊「いやいやいや!」

    瑠「こんなの礼にはなんねぇよ、って?」

    尊「そうじゃなくて!あの、ふ、不意討ちは、卑怯なり」

    瑠「ふーん?そう。なら、名乗りを上げればいいんだ」

    尊「え」

    瑠奈がサッと手を挙げた。

    瑠「瑠奈、チューしまーす!はい、もう一回」

    尊「わー!」

    瑠「ねぇ、今度はどこにして欲しい?」

    尊「え!」

    瑠「くちびる?」

    尊「ひっ」

    瑠「あー。でもくちびるなら、自分からしに行くより来てもらう方がいいな」

    尊「ええっ」

    瑠「来てもらう方が、いい」

    尊「あの、近い、近いです…」

    瑠「えー。仕方ないな、だったら今日はほっぺまでにしといてあげる」

    尊「は、はぁ」

    瑠「あはは。たけるん、かわいいね」

    尊「たけるん?!」

    尊 心の声(手のひらの上で転がされた!口から心臓が出そうだよ。手練れJK、恐るべし…)

    尊「じゃあ、帰りますか…」

    席を立つ尊。教室を出ようとするのだが、

    瑠「たーけるんっ」

    尊「わー!」

    尊の腕に、べったりと絡みつく瑠奈。

    尊「そ、そんなにくっつかないで!」

    瑠「えー、これでも遠慮してるのに。腕くらいいいでしょ」

    尊「随分と豪快な遠慮…」

    尊 心(僕は、押しの強い女性に翻弄される運命なんだ…)

    瑠「何か言った?」

    尊「いえ、何も…わー、だから!」

    大騒ぎしながら、教室を出て行った。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    7日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days102~7日10時、プチ旅行です

    面影は多少あるみたい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    キッチンに居る覚に、唯が話しかけている。

    唯「お昼、外食してきてもいい?いい感じのカフェがあるって尊が言ってたから、行ってみたい」

    覚「いいぞー。カフェでランチなんて現代ならではだろ。これも経験だ。皆で行ってこい」

    唯「わーい」

    唯達四人、小垣駅に向かう準備が整った。

    覚「はい、昼飯代と電車代。楽しんできな」

    唯「ありがとー」

    若君「忝のう存じます」

    源三郎&トヨ「行って参ります」

    歩いて黒羽駅にやってきた。

    唯「たーくん、切符の券売機はお初だね」

    トヨ「電車には、既にお乗りになられてるんですよね?」

    若「前に乗った折には、小さき板をお母さんにいただいた。入口に当てるだけで、あの門が開いたのじゃ」

    源三郎「妖力…でございますか?」

    唯「どうして動くかは、尊に聞いて」

    若「その板には、月が微笑んでおっての。そう、これじゃ」

    券売機の画面に、ICカードのデザインが表示されている。グレーの地に黄色くて丸いキャラクターがついているのだが、

    唯「あ、たーくん、指さすだけにして。タッチパネルだから、画面に触るとどんどん動いてっちゃうの」

    若「済まぬ」

    源「お父さんがお持ちの、大きい板のような物ですか」

    唯「うん。そうだね」

    切符を買い、いよいよ自動改札を通る。

    唯「この切符を、この細く開いてる口に入れると、門が開くの。切符は向こう側にピョコって出てるから、忘れず取るんだよ。失くすと大変だから、ちゃんと持っててね。ではお手本行きます」

    唯が切符を投入する。即座に改札の扉が開き、一瞬の内に切符が頭を出して、通過しながら抜くと扉がまた閉まった。

    源「おぉ」

    ト「一人ずつ通るようになってるんですね」

    若「切符を取らねばならぬのが、昨年との違いか」

    唯「では、行ってみよう!」

    改札一箇所をほぼ占領する形で一人一人ゆっくり進み、無事全員通過。

    唯「あ、もうすぐ電車来る。急ごっ」

    ホームに着くと、すぐに電車が入ってきた。興味津々で乗り込む源トヨ。

    源「景色が飛んでいく」

    ト「速いですね」

    唯「各駅停車の電車だから、そこまで速くはないんだけどね」

    黙って外を眺めている若君。

    唯「あんなに木があったのに、って?」

    若「あぁ。開墾は、さぞや苦労したであろう」

    線路沿いは、すっかり住宅地になっている。

    若「時の流れを感ずる」

    唯「ここは、人が住みやすい、いい場所なんだよ」

    若「そうじゃな」

    小垣駅に到着。早速ロータリーに向かう。

    唯「あれかな?確かにいきなり和、だ」

    若「ふむ」

    ロータリーといっても、バス停もタクシー乗り場もなく、停車する車もなかったため、目の前まで安全に近付けた。

    ト「ここに何か書いてあります」

    唯「どこ?あ、あるね」

    御触書のような形の小さな立看板がある。かつてここには武家屋敷があり、その前は吉田城があった旨も書かれていた。

    源「見つかった」

    ト「良かったわ」

    若君は、ロータリーをぐるっと一周していた。

    若「唯」

    唯「はーい?」

    若「此処へ」

    唯「なになに?」

    ぞろぞろと移動。

    若「正面は此処じゃ」

    唯「あ、そうなんだ。松、大きいね」

    江戸時代に植えられたと思われる松が、見事な枝ぶりをしていた。若君が右上の方向を指差す。

    若「矢は、あの辺りから放たれた」

    唯「やだぁ、痛い痛い!思い出すの、嫌じゃないの?」

    若「射られねば速川の家族に会えなんだであろう?」

    唯「そうだけどね。たーくん、強いわ」

    若「唯程ではない」

    唯「言うねー」

    11時30分になった。尊が瑠奈に告白されたカフェにやってきた四人。通された席で、メニューの写真に釘付けになっている唯。

    唯「どれもおいしそう!どうするどうする?」

    ト「これは…迷いますね」

    唯「たーくんどうする?」

    若「任せる。ようわからぬゆえ」

    唯「源三郎は?」

    源「それはもう、お任せいたします」

    唯「困ったな。あ、これなんかどう?」

    シェフのおまかせランチ、2名様より注文可とある。

    ト「大きい器に盛られて、銘々で取り分けるようですね。良いと思います」

    唯「決まり!」

    注文完了。

    唯「あー、一気にお腹空いてきた」

    ト「四人分で足りますかしら?」

    唯「うーん、微妙」

    若「フフッ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    交通系ICカードは、manacaをイメージしてください。この板no.526にも若干説明があります。

    続きます。

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    四人の現代Days101~7日火曜8時30分、尊い!

    元旦にあれだけしゃべってるのに、今更?って思われてるよ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日から高校は三学期。尊が教室に向かっていると、廊下に女子が二名。

    みつき「おはよ、センセ」

    瑠奈「おはよぉ、尊」

    尊「おはようございます。こんな所で立ち話してるの?」

    み「センセを待ってた」

    尊「え、僕を?まさか説教…」

    み「なんでよ。という訳で、はい、瑠奈は教室に入って」

    瑠「えー、もう?なんかね、みつきがどうしてもサシで話したいんだって。じゃあね尊」

    尊「うん」

    瑠奈は手を振って教室に入っていった。

    尊「話って?瑠奈に聞かれたくはないんだ?」

    み「あのね」

    みつきが深々とお辞儀をした。

    尊「いきなり何!困る、恥ずかしいよ」

    み「センセありがとう。瑠奈の彼氏になってくれて」

    尊「は、はあ。それはどうも」

    み「まずはお礼が言いたくって」

    尊「いつから保護者に」

    み「それでね、ここからは瑠奈情報を話しとこうと」

    尊「そうなんだ。では伺います」

    み「あの子、モテるのよ」

    尊「だろうね。わかります」

    み「あんなにかわいいのに、お高くとまってなくて」

    尊「そうだね」

    み「巨乳だし」

    尊「うっ」

    み「何よ。見ればわかるでしょ」

    尊「えーと」

    み「あ、もう触って確かめた?」

    尊「えええ何言ってるの!!」

    み「まだなの?彼氏の特権でしょ」

    尊「そんな」

    み「まだなの?」

    尊「だって」

    み「まだなの?」

    尊「まだだよ」

    み「ふーん。楽しみだね」

    尊「うわっ、口車に乗せられて、まだとか言ってしまった…予定があるみたいじゃないか。断じて違うから」

    み「でさ」

    尊「怖ぇ。弁解も聞いてもらえない」

    み「そんなだから、付き合う時は男から言われてってパターンばっかなのよ、いつも。瑠奈は最初、相手を何とも思ってないところからスタート」

    尊「なるほど」

    み「で、瑠奈ってメンドくせぇじゃない」

    尊「はい」

    み「もう実感しちゃったか。言い寄られて、いいかもって思った頃に嫌がられる。だから恋愛は、始まるのも早いけど終わるのも早いんだよね。続かない」

    尊「なんか気の毒な話だな。僕はそうならないでって、お願いですか?」

    み「私は、瑠奈とセンセは長く続くと確信してるから、お願いはしない」

    尊「その自信はどこから…」

    み「センセさ、今までなんとなく流されてきてるでしょ。瑠奈の猛烈なアプローチに」

    尊「それは否めませんが」

    み「私は喜んでる。なぜならほとんど初めてに近いくらい、瑠奈が自分から好き!って行動してるから」

    尊「よく見てるんだね」

    み「でもセンセは、好き好き攻撃をちゃんと受けとめてくれる器がある」

    尊「褒め過ぎじゃないの」

    み「うっとーしくても、嫌じゃないでしょ。どう?」

    尊「まぁ、そうだね」

    み「瑠奈の見た目だけじゃなく、中身をちゃんと見てくれてるからだよね」

    尊「あ、うん。それはその通りだよ。僕に足りない所を補ってくれると思う」

    み「さっすが~。瑠奈がね、尊の名の漢字はソンケイのソン!ぴったり!って言ってた。事実マジ尊敬してるし。もちろん私もだよ」

    尊「恐縮しちゃうよ」

    み「見込んだ通りのセンセで良かった。ありがとう」

    尊「へ?」

    み「これからもよろしくね。センセにお任せしとけば間違いない」

    尊「すごいな。友達思いなんだね。羨ましい」

    み「羨ましいって何。私は瑠奈の味方だけど、センセの味方でもある。二人は相性がいいってピンとはきたけど、センセが嫌がるなら勧めなかった」

    尊「そうなの?」

    み「友達の嫌がる事はしたくない」

    尊「友達。僕が?」

    み「他に誰が居るの。当たり前でしょ」

    尊「…ありがとう」

    み「って長くなっちゃったけど、今朝は直接お礼と、瑠奈の恋愛もろもろを話しときたかったの。ご静聴ありがとうございました」

    尊「いえいえ」

    み「そろそろチャイム鳴るから」

    尊「うん」

    尊 心の声(やっぱり僕は、自分から線を引いていたんだな)

    二人、教室に入っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days100~6日21時、霧が晴れた

    律儀な一族。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊が、メールの続きを読み上げる。

    尊「城は、火災の影響もあり取り壊されたが、庭は、武家屋敷があった頃もあしらいはそのままだった」

    若君「…」

    尊「戦国時代の植栽は残っていないが、時代時代で趣を残しながら植え替えられ、今は小垣駅前のロータリーの中に一部が残る」

    唯「ロータリー!」

    若「ロータリー、とは?」

    尊「車やバスをぐるっと一方通行させるように丸く道が作ってある所というか。戦国時代の人に説明するのは難しいな。あの、僕この前これ、小垣駅前で見たんだよ」

    美香子「瑠奈ちゃんと一緒の時に?」

    尊「うん。そこだけいきなり和風で、なんでだろうと思ってたんだ」

    唯「ねぇ、明日行ってみようよ!それこそさ、電車乗って」

    覚「源三郎くんとトヨちゃんは、電車初体験だよな。いいんじゃないか?」

    尊「行ってらっしゃい。僕明日から学校だから」

    唯「そうだった。じゃあ四人でね!源三郎、トヨ」

    源三郎「電車は、図鑑、で見ました。一度に多くの物や人を運び、車より速う動くと」

    トヨ「楽しみです」

    若「明日は、外をよう見ておかねばのう」

    美「それにしても、先生よくご存じね」

    尊「この後、どうして詳しいかわかるよ」

    美「そうなんだ」

    尊「では、続きを。もう一つの質問、木村政秀の末裔ではないかとの指摘だが、よくわかったね?相当調べないと出てはこない名なんだが。答えは、その通りだ」

    若「やはりそうであったか」

    唯「早く言ってよ~」

    尊「この質問、もう少し前にされていたら、答えられなかった。返事に窮するというかな」

    唯「え?なんで?」

    尊「最近まで、羽木家は永禄2年に滅亡していたと伝えられていた。木村政秀は羽木家の家臣。戦に敗れれば、例え生き延びていたとしても切腹は免れない筈。なぜ末裔が存在するのか。主を裏切り、逃げたとも考えられる」

    若「木村は、せがれは戦で討たれておるが、嫁に出した娘が居た。唯が現れずそのままわしらが滅亡していたとしても、案ずるまでではないと思うが」

    覚「でも、もしかしてを考えたんじゃないか?先生は」

    尊「羽木家は黒羽の地で長く親しみを持たれ愛されている。ここで木村の末裔と語るのは憚られた。なので今まで口を閉ざしてきたんだ」

    美「勿体ない感じね」

    尊「だが、調査が進み、滅亡の時期及び滅亡したのかも曖昧になっている。僕はね、それを知って、心からありがたいと思った。木村も生きながらえていて当然だったなら、肩の荷が下りる」

    覚「歴代の末裔の皆さんが、悩んでたみたいだな」

    尊「小垣城の発掘がほぼ終わり、近々資料館が竣工する。そこで僕は、腹を決めた」

    唯「腹を決めた、って流行ってんの?」

    尊「代々受け継がれてきた、小垣地域の歴史が書かれた書物。吉田城の顛末も含む。と、高校の自分の控え室にある、木村政秀の甲冑一式を、寄贈する」

    若「残されておるのか!」

    美「だからこんなに詳しいのね。唯、先生に色々教えてもらった時に、甲冑は見てたんじゃないの?」

    唯「あったかな。あったかもしんない」

    尊「いい加減だな。いくら歴史の先生で、そこにあって不思議じゃなくてもさ、見れば驚かない?」

    唯「だっていつも先生には用があったけど、鎧には用がなかったから」

    覚「唯らしいな」

    尊「最後まで読むよ。今僕は、実に晴れやかな気分なんだ。木村政秀は、きっと穏やかな余生を送ったに違いない。そう信じられる。といったところだ。答えになったかい?ではまたいずれ」

    美「こうしてみると、唯は木村先生にも影響を与えてたのね。ちょっと唯、聞いてる?」

    唯「今さ、鎧の顔んトコに先生の写真はりつければ良くない?って思ってたー。チョビヒゲ描いてさぁ。ぐふふ」

    尊「少しは先生の告白に感動しろよ。それに現代の人にはわかんないよ?こんな感じなんかな~位で」

    唯「そっくりですby羽木九八郎忠清って、たーくんがサインしとくとか」

    若「許されるものなのか?」

    美「忠清くん、まともに聞いちゃダメよ」

    そうこうする内に、夜も更けてきた。唯とトヨが、風呂を済ませ、階段を上がってくる。

    唯「明日はね、切符買うトコから教えるね。たーくんも、それは初めてなんだよ」

    ト「そうなんですね」

    唯「じゃーねー、おやすみ」

    ト「おやすみなさいませ」

    唯が自室に入った。トヨが一人、廊下を進む。

    ト「ふぅ」

    源三郎の部屋、今夜からは二人の部屋の前で立ち止まるトヨ。すると、扉が中から開いた。

    源「…風呂、最後だったのか」

    ト「うん。唯様と一緒にね」

    二組並ぶ布団が見える。

    トヨ 心の声(ちょっと、生々しいんですけど…あら?)

    布団の横に、少し大きめの本が置いてある。

    ト「尊様にお借りしたの?」

    源「電車をもう少し学ぼうと思い。尊殿が幼き頃に、よう読んでいたそうだ」

    子供向けの図鑑だった。微笑むトヨ。

    ト「一緒に読みたいわ」

    源「じゃあ、入れ」

    ト「うん」

    静かに扉が閉まった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    6日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days99~6日20時30分、昔も今も

    何駅か分、走って向かったんだよね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    帰る芳江とエリを見送る、美香子と源トヨ。

    美香子「遅くまで付き合ってくださって、ありがとう」

    源三郎「ありがとうございます」

    トヨ「お気をつけて、お帰りくださいませ」

    芳江「いいお式でしたよ」

    エリ「立ち会えて良かったです」

    三人がリビングに戻ると、食卓はケーキや写真が片付き、晩ごはんの支度が始まっていた。

    ト「お手伝いしなくては。お父さん、何をいたしましょう」

    覚「おっ、ピッカピカの若奥様の初仕事だな」

    美「なりたてだもんね。あー眩しいわ」

    トヨの手が止まった。

    美「あら、言い方が悪かったかしら」

    覚「気に障っちゃった?」

    ト「いえ!滅相もないです。心から感謝するばかりでございます。あの」

    その場に正座し、手を揃えて床についたトヨ。いきなりの動きに戸惑う両親。何事かと皆もやってきた。

    美「どうしたの。そんなにかしこまって」

    ト「私」

    覚&美香子「はい」

    ト「お母さんが勧めてくださいました時は、躊躇するばかりでしたが、腹を決めました」

    若君「腹を」

    唯「決めた?」

    ト「今夜から寝所を移します」

    美「…源三郎くんと同じ部屋で休む?」

    ト「はい」

    源「え」

    美「いいの?あなたの意に反するなら、無理はしないで欲しい」

    ト「いえ。本意です。私、前に自ら申し上げました。忠清様が唯様と寝所を同じくされた時に、やはり夫婦は共にがよろしいですので、と」

    美「そっか」

    覚「源三郎くん。トヨちゃんはこう言ってるけど」

    源「はい。畏れながら…より早い日でとお気遣いいただいた、エリさん芳江さんのお気持ちを汲みたいと存じます」

    唯「おっ」

    若「うむ」

    覚「じゃあ今から、布団とか移動してきな。晩ごはんの支度の手は足りてるからさ」

    美「行きましょ。源三郎くんも」

    源「わかりました」

    ト「はい」

    三人は二階に上がっていった。

    若「唯、この碗を」

    唯「あーい。運びまーす」

    覚「尊も手伝ってくれ」

    尊「あ、うん」

    唯「あんた、さっきからスマホばっか見てるじゃない。さては、るなちゃんとラブラブしてんな?」

    尊「違うんだ、木村先生からメールが来たんだよ。質問の返事」

    唯「そうなの!」

    若「おぉ。何と?」

    尊「思わず読みふけっちゃって。じっくり皆に聞いて欲しいから、ご飯の後で発表するよ」

    そして、晩ごはん後。

    尊「では、木村先生からの返信メールを読み上げます」

    若「頼む」

    尊「返事が遅くなり済まなかった。質問は二つだったね。まずは、かつてあった筈の吉田城はどうなったかだが、城主有山永季が城を明け渡した後すぐ、半焼したらしい。失火か、戦によるものかはわからない」

    若「…」

    尊「城はやがて取り壊されたが、敷地は転々と持ち主が代わり、江戸時代には武家屋敷があった。そして最終的に土地を手に入れたのは、鉄道会社」

    唯「鉄道?」

    尊「鉄道を引く計画が持ち上がったからだ。開通の際、黒羽駅は黒羽城跡に近いのでその名が付けられる。そこから東に伸びる道沿いに線路が敷かれ、そして旧吉田城跡地に駅が出来た。駅名だが、吉田城があった事を知る者はほとんどなく、地名も小垣が広く使われていた為、小垣駅となった」

    覚「それは知らなかったな~」

    唯「ねぇ、ちょっとストップ!地図見せて」

    タブレットで近隣の地図を表示。

    唯「ここが黒羽城公園。でこれが駅で線路。東にまっすぐ伸びてる」

    若「永禄から通じておる道沿いに、線路はあるのう」

    唯「やっぱり?!私、たーくんが吉田城に和議に行ったって知って、危ない!すぐ行かなくちゃ!って行き方聞いたら、伊四郎さんが、門を出て東へまっすぐじゃ!って教えてくれて一目散に向かったの。その道だったんだ!」

    若「わしが輿に乗り、通ったのもこの道じゃ」

    尊「へぇ。兄さんもお姉ちゃんも通ったその道に、今は電車が走ってるんだね」

    覚「そんなに由緒ある場所だったんだ」

    美「歴史は繋がってる、って実感するわね」

    尊「続き、読むよ。地図見ながらでいいからさ」

    唯「うん」

    尊「実は、今でも吉田城を偲べる場所が小垣駅にあるんだ。ほとんど知られてはいないがな」

    若「何と」

    覚「えぇ?僕随分探したのに見つからなかったけど、見落としてた?」

    唯「どこ?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days98~6日20時、祝福します

    心配ご無用。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    食卓には、昨日撮った源三郎とトヨの晴れ姿の写真が、コラージュのようにしてあり何枚か飾ってある。

    覚「手作り感がいいな」

    唯「でしょっ。イイ仕事したー」

    尊「ほとんど兄さんが貼り付けてたけど」

    そこへ、美香子とエリと芳江が登場。

    美香子「ただいま~」

    エリ「本日は、おめでとうございます」

    芳江「この佳き日にお招きいただき、ありがとうございます」

    源三郎とトヨが二人に駆け寄る。

    源三郎「お疲れのところ、恐縮至極でございます」

    トヨ「エリさん、このような美しいお品を…」

    エ「とてもよく似合ってるわ~。私が勝手に作ったんだから、お礼なんていいんですよ」

    芳「あらら、泣くのはお式始まってからじゃないと」

    唯「はいはい、トヨこれで拭いて」

    尊「ハンカチと思いきや、ティッシュ…」

    覚「トヨちゃん、大丈夫かい?」

    ト「はい。すみません」

    覚「じゃあ、時間制限有りだからそろそろ始めような」

    源トヨはリビングの外へ。残りの全員は花道を作るように並び、尊はカメラをスタンバイ。

    覚「それでは、新郎新婦の入場です」

    源三郎がトヨの手を取り、リビングに入って来る。参列者が各々手に握っていた何かが、花道にひらひらと舞い始めた。

    唯「おめでとー!わーい!」

    尊「おめでとう!」

    芳「華やかね~」

    エ「コンフェッティシャワーですね」

    唯「コン?」

    エ「結婚式で紙吹雪を撒く演出ですよ」

    折り紙を小さく刻んだお手製の紙吹雪が舞う中、写真を飾った食卓の手前まで進み、振り返って一礼する二人。

    覚「はい、拍手~」

    若君「拍手?」

    若君だけ、拍手のテンポが違う。

    尊「あー。そうか、そうなるんだ」

    美「はくしゅというか、かしわで、なのね」

    拍手が止み、静かになった。

    美「お父さん、お父さん?」

    覚「…あ」

    美「次は何」

    覚「すまん、感無量で段取り忘れた」

    美「あらま」

    覚「えーと、何か僕しゃべるんだったかな。まぁいいや。では、指輪の交換に入ります」

    美「え、指輪?いつの間に」

    尊「昼から急遽。3Dプリンターで作ったから樹脂だけど」

    美「話がバタバタ決まったから、用意できないと思ってた」

    尊「こんなんで良ければ是非いかがですかって伝えたら、僕の時間も労力も費用もかからないならばって、二人に言われたから早速サイズ測ってさ」

    美「良かったわ~」

    指輪の交換スタート。

    芳「何度見てもいいわ~」

    エ「緊張して入らないと、結果自分で押し込むんですよね」

    芳「あら綺麗に入った」

    尊「素材が素材なんで、その点は柔らかくて正解だったかも」

    再び拍手に包まれる。

    覚「では、夫婦初めての共同作業、ウェディングケーキ入刀です」

    美「二段で正解ね」

    食卓に鎮座したケーキに、ナイフを入れた。尊が盛んにカメラのシャッターを切っている。再び一礼した二人に拍手。

    覚「ふう」

    美「ここまで?」

    覚「途中手順があやしかったけど、ここまでだな。あとは、お二人から今後の抱負を聞こうか。まずはトヨちゃん、どうだい?」

    ト「はい。本日は、私共の為にこのようにお集まりいただき、まことにありがとうございました。赤井の家に入りましたらば、源ちゃん…殿を生涯支えて参る所存でございます」

    唯「かたいなー」

    尊「お姉ちゃんがダラダラしてるだけでしょ」

    覚「では源三郎くん」

    源「はっ。己一人では、この佳き日を迎えられませんでした。皆々様に、心より御礼を申し上げます」

    美「うんうん」

    源「トヨのこの短うなった髪が」

    エリ&芳江「あら」

    源「背丈を越え床を擦り白髪となるまで、共に生き抜いて参ります」

    芳「生き抜く。現代に生きる私達には到底考えられない、厳しい世界ですよね…」

    エ「お二人とも、勿論唯ちゃんと若君にも、辛いばかりの未来になりませんように。幸多かれと強く願います」

    覚「皆さん、お疲れ様でした。早速、ケーキ切り分けますから」

    食卓の席が全て埋まる。

    美「いい眺めね」

    エ「このお写真のドレス、とても似合ってるわ。源三郎くんも一段と素敵」

    ト「ありがとうございます」

    源「痛み入ります」

    芳「あの、質問なんですが、トヨちゃんは戻ってもすぐにはお城から下がれないんですよね?重要なお仕事についているから」

    尊「そもそも結婚するって誰も知らないし」

    ト「もし、もしですね、無事祝言をあげられたとしても、しばらくは今まで通りのつもりです」

    源「ゆくゆくは、とは思うておりますが」

    美「まずは結婚のお許しからよね」

    源&ト「はい…」

    唯「それって、たーくんの腕次第?」

    若「ん?」

    唯「どう?いけそう?」

    若「フフフ」

    覚「お!策有りかい」

    若「考えております」

    芳「なら、絶対大丈夫ですね。大船に乗った気持ちで」

    エ「本当、頼もしいわ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    狸塚

    桜と薔薇 様
    そうです、そうです。ムジナズカ!
    ありましたよね!!!
    今でも地名変更していなければ、
    いいですね!
    邑楽町だったんですか?!
    館林から太田方向に向かう途中だったので、
    私は、館林のはずれの地名だとばかり
    思ってました。(;^_^A
    茂林寺の”分福茶釜”の影響ですかね。笑

    館林あたりに、
    テーマパーク的なムジナランド
    いつかできると楽しいですね。
    ロケ地の深谷からはちょっと遠いけれど。

    ご両親の介護に
    通われていらしたんですね。
    大変でしたね。

    姉のバイト先は”大越”ではない方です。
    うどんを食すのに、今回は、
    ”花山うどん”、”館林うどん”と、
    なぜか、”丸亀製麺”で迷いました。
    (;^_^A

    リクエストは、もうしばらく
    お待ちくださいな。
    (^_^)vm(__)m

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    四人の現代Days97~6日19時、ハレの日

    最近は、登場人物が皆、着飾っている。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    年明け初日だけあって、クリニックはまだ終わっていない。

    覚「いつでも始められるように、支度はしとこうな」

    唯「ベール、着けてあげるね」

    トヨ「お願いします」

    昨日と同じくお団子ヘアのトヨ。唯が、ベールの花部分に付いた櫛をお団子に差し込む。

    唯「ふわふわ~。いい!はい、手鏡どーぞ」

    ト「ありがとうございます。まぁ…」

    唯「昨日はシンプルに、ティアラだけだったもんね」

    尊が、源三郎の着ているパーカーの胸元にブローチを付けている。

    尊「こうやってですね」

    若君「布に刺した針が隠れる、と」

    尊「はい。危なくないんで、安全ピンって名前なんですよ」

    若「ほほぅ」

    源三郎「これで花が落ちぬのですね」

    尊が顔を上げると、トヨと唯が楽しげに話している。

    尊 心の声(花嫁の完成だね。ん…ん?!)

    その瞬間、尊の目の前の景色が全て消えた。

    尊 心(は?!)

    そして、何やら別の世界が広がっている。

    尊 心(あれ?何がどうなった!)

    なぜか、グレーのタキシードに衣装チェンジしている尊。

    尊 心(なんでタキシード…白昼夢?え、ここどこ!)

    ステンドグラスから太陽光が降り注ぐ、チャペルの中に立っていた。そして、バージンロードの先に居たのは…

    瑠奈「尊」

    尊「え」

    ウェディングドレス姿の瑠奈が微笑んでいる。戸惑いながらもゆっくりと近付いていく尊。

    尊「…」

    レース仕立てのベールが、軽く巻かれた髪を覆う。少し肩が出たオフショルダーの襟元は、純白の花で埋め尽くされており、花畑から生まれ出でたかの風情。キュッとくびれたウエストは、豊かな胸元との対比でより細く見える。スカート部分はふんわりと丸く膨らんでおり、ブーケを持つ姿はおとぎ話に出てくる妖精のようだ。

    瑠「この日を、ずっと待ってた」

    尊「とても綺麗だよ、瑠奈」

    尊 心(セリフが勝手に出てくるー!勿論ものすごく綺麗だけど、いきなり結婚式は、飛躍し過ぎじゃない?!)

    白昼夢の中で考える。

    尊 心(そうか。そうだな。要は、僕は浮かれてるんだ。あれよあれよと瑠奈が彼女になって。だからこんな想像しちゃうんだな)

    分析しながらも、瑠奈の美しさにデレデレしている尊。

    瑠「尊…」

    尊「瑠奈…」

    その時、誰かが尊の肩をバシバシ叩いた。

    唯「おーい!起きろー!」

    若「尊、いかがした?」

    尊「…はっ!」

    映像が全て消え、現実に戻ってきた尊。

    尊「あ、終わっちゃった」

    唯「なに立ったままヘラヘラしてんのよ」

    尊「はあ。失礼しました」

    若「うーむ」

    唯「どしたのたーくん」

    若「どこぞで、今の尊のような顔付きを見たのじゃが…何処であったか…あぁ、思い出した」

    唯「なに?」

    若「山中で、唯が食うてはならぬ茸に手を出したゆえ、抜いて即座に捨てたが、同じ顔をしておった」

    唯「あー、それ?!それねー、ちょいとばかり思い出しまして。…わかったぁ!!」

    尊「何だよ、うるせーなー」

    唯「今、るなちゃんとの結婚式を想像してたんでしょ!このこの~」

    尊「あぁ」

    唯「あー?冗談で言ったんだけど…マジでそうなの?」

    尊「もっと見ていたかったな」

    唯「ゲゲっ。やだ、やめてよ、調子狂う!」

    廊下から足音がする。

    美香子「ごめーん、あら、トヨちゃんよく似合ってるわよ」

    ト「ありがとうございます」

    覚「おー、お疲れ」

    美「あと10分位で三人とも来れると思う。もうちょっとだけ待っててね」

    源三郎&トヨ「はい」

    またバタバタと戻っていった母。

    覚「さてと。なら、ケーキを箱から出すか。手伝ってくれ」

    唯「はーい。崩さないようカンペキに運んだよ~」

    尊「お姉ちゃんは持ってないけど」

    唯「たーくんと尊が運んだ、血と汗と涙の結晶ってヤツね」

    尊「スポ根じゃねぇし」

    若「…」

    尊「兄さん?どうかしました?」

    若「この、苺、が血を模して…」

    尊「違います」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    な、な、なんと

    ぷくぷくさん

    大作、読ませていただきました。お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。

    桜と薔薇も○○○は切ないだと思いました。

    でも、ただ切ないではなくて、幸せとないまぜになった切ないかな。

    生まれてこのかた、一筋縄ではいかない辛酸を舐めるようにして生きてきた(桜と薔薇はそう思っているのですが)如古坊にとって、
    幸子さんという大切な人に出会えて、孝くんとホンノ少しでも擬似親子のようなひとときも過ごすことができましたね。

    だから、幸せで切ない かな?
    幸子さんの名前はそういう意味もあったのでは?と 勝手に思っています。

    だけど、如古坊ってちゃんと得度を受けたお坊さんですか?

    寺で育ったというし、山中の寺で修行?していたし、それらしい名前だけれど。
    山伏姿で登場したことも。

    まあ、寺院が僧兵をかかえているような戦国時代ですから受戒も得度もグサグサだったのかもしれません。

    ところで
    ぷくぷくさん
    妖怪千年おばばさん

    な、な、なんと—は

    館林

    です。

    桜と薔薇は、学生時代に数年間館林に住んでいました。

    大学で親元を離れて以来、ずっと東京に住んでいますが
    数年前に二親の最後の一人が旅立つまで定期的に通っていました。

    花山はツツジの盛りは二度くらいしか行っていません
    ぷくぷくさん、地元民あるあるですよね。だって、車は渋滞だし、花山も混んで混んで。 

    だから、その二回も誰かを案内して仕方なく–だったでしょうか。

    麦落雁の老舗はあっちの店かな!こっちの店かな?

    うどんの 本丸。

    車じゃないと行かれないじゃないですか。駅から遠くて。

    残った親の暮らしが怪しくなってきた晩年の数年間は、月に数回行っていました。

    東北道を飛ばして館林インターて下り、用事を済ませて逆コースで帰って来る。

    インター近くの農協直売所ぽんぽこに寄って、新鮮な野菜を山ほど買って。

    親の衰え様、変わり様に打ちのめされた日は
    高速に上がる前に、アゼリアモールのタリーズで甘〜いお茶をして深く長いため息を吐いて。
    そんなことを思う自分自身に嫌気が差すこともありました。

    ぷくぷくさんとおばばさんのおかげで色々と思い出して少しセンチになってしまいました。
    でも、お二人がすごく近く感じられて嬉しいです。

    そういえば、

    お隣の邑楽町には

       狸塚(むじなづか)

    っていう地名がありましたっけ。

    おばばさん
    物語の芽か大きく育ちますように❗️桜と薔薇のリクエストも忘れないでくださいね。

    ぷくぷくさん
    ひと休みしてまたアンテナが回り始めたら新しい物語を紡いでください❗️

    楽しみにしています。

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    タヌキとナマズ

    皆様
    こちらの板で良いのかと思いつつ、
    話の流れで、失礼します。
    m(__)m

    ぷくぷく様
    館林にお住まいだったのですね。
    実は、姉が館林の近くに嫁いで
    おります。
    昔、姉は麦落雁の老舗で
    アルバイトをしておりました。

    今回は、知人のお仲間が九州から
    茂林寺駅近くに引っ越し、
    館林で演奏会をすると言う連絡が有り、
    伺いました。

    知人もそのお仲間も音楽家で、
    お仲間の方が、館林周辺の情景を
    作詞作曲されまして。
    板倉町と、お隣の県の足利市出身の
    声楽家とピアニストの方が、
    作品を演じられました。

    私の知人はギタリストですが、
    なかなか関東での演奏会の機会がなく、
    大変、喜んでいました。
    翌日は、茂林寺周辺を散策したようで、
    タヌキに沢山出会ったと、
    楽しそうでした。(*^^)v
    また、演奏会がある様でしたら、
    他の板でお知らせしますね。
    よろしければ是非!
    m(__)m

    以前は、”花山”の敷地内にあった、
    つつじが丘パークインという
    市営のホテルを利用していたのですが、
    閉館になってしまって残念です。

    ナマズのてんぷらを食べるのを
    今回は逸したので、
    次回は館林うどんの直営店”本丸”で、
    食べたいと思っています。

    ナマズを食べると義兄から
    聞いたときは、びっくりしたのですが、
    白身魚のてんぷらと似たお味で、
    美味しいですよね。
    (^_^)v

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    物語について

    夕月かかりてさん
    カマアイナさん
    妖怪千年おばばさん
    皆様
    お読み下さいましてありがとうございます。
    お察しの通り【切ない】です。
    初めに考えた題は【如古坊の思い出】としましたが、あっさり感がありました。
    初めからラストは【悲しみ】などをテーマに考えました。如古坊にとっては悲しい出来事ではありますが、幸子と孝の幸せを知る事が出来た嬉しさもある中で、胸が締め付けられるような気持ち【切ない】としました。【悲しみ】より寂しさが表現されたかなと思います。【如古坊の楽しくも切ない思い出】としようと思いましたが、お読みいただいて、想像力豊かな皆様なので、読み始めてから起こる事が容易に想像できるのではと考え、ちょっとだけ、その切ないテーマを先延ばしにしようと考え【○○○】としました。

    妖怪千年おばばさん館林に何度も足を運ばれておったのですね(^-^)
    市内に住んでいた頃はあまり足を運ぶことはありませんでしたね(-_-;)
    城跡も、それにつつじも有名なんですが、前に書きましたがバスガイドをしていてその時期は公園の送迎で何十回と行きましたが、中に入ったのは覚えている限りで3回くらいです(-_-;)
    住んでいると以外と行かない、地元民ってそんな感じじゃないかなって思います。
    狸は市内に茂林寺がありまして、そこは昔話の【ぶんぶく茶釜】の舞台になった所です。逸話なのかどうか分かりませんが、狸が化けた茶釜が残っていると聞いた事はあります。それで至る所に狸があります。某銀行の前とか他にも。茂林寺の狸はリアルっぽいし、一体一体が結構の大きさなのでちょっと怖いかも。置物は可愛い物もありますよ(^-^)
    茂林寺の思い出は、小学生の授業で写生に行って、生徒が書いている間、先生は銀杏拾いをしていたことです(^-^)
    つつじの時期に観光で来られる方のコースは、つつじが岡公園→茂林寺。又は茂林寺→つつじが岡公園です。(^-^)

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    ぷくぷく様へ

    お疲れさまでした。
    大作、ありがとうございます。
    にょこさんが現代へ!
    斬新な発想ですね。
    素晴らしい!

    少し前に群馬に行き、
    館林城を散策しました。
    初めてではなかったのですが、
    大きな城だったのだと、
    再認識。
    そして、そこに
    新たな物語の種が。

    今は、静かに発芽をまってます。
    ご披露できる日が、
    来ると良いのですが。

    館林に行くと、
    タヌキの置物が
    出迎えてくれます。
    お時間ありましたら、
    是非、行ってみて下さいな。
    (^_^)v

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    四人の現代Days96~6日月曜13時、そーっとね

    備えをしとくに越した事はない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    昼ごはん中。

    美香子「もう読破した?」

    唯「まだ。私はあとちょっとだけど、たーくん、トヨ、源三郎の順で回してるから」

    源三郎「わたくしが2冊目に入った所です」

    母に、昨日話題となった漫画の単行本を借り、全巻をリレー方式で読んでいた四人。

    美「そっか。なら夜までには全員読み終えるかな」

    覚「じゃあそろそろ」

    美「今晩の予定を発表~」

    唯「待ってました!」

    若君「いよいよじゃな」

    トヨ「何かあるんですね。では読書の手を止めお手伝いしないと」

    美「源三郎くんとトヨちゃんは、何もしなくていいの」

    源三郎&トヨ「え?」

    尊「では、発表をお願いします」

    覚「うん。今夜、源三郎くんとトヨちゃんの結婚式を執り行う」

    源&ト「え!」

    美「参列者は、私達に加えエリさんと芳江さん。だから、仕事終わった後になるんで時間はちょっと未定」

    ト「そんな、今日は朝から忙しくされていらっしゃるのに」

    美「お二人のご意向で今日に決まったのよ。早い方がいいし、夜だけど一応、日柄が良い日だし、とも話しててね」

    唯「今日、そうなの?」

    美「大安よ。大安吉日」

    唯「へー」

    尊「さすがにお姉ちゃんでもわかるか」

    唯「いろんな物使い始める時、大安だ仏滅だってよく言ってたじゃない」

    覚「で、芳江さんエリさんはお食事はされないが、ケーキだけは召し上がっていただく」

    唯「入刀するヤツだよね!」

    覚「そうだ」

    唯「今日はドレスではないけど」

    美「まぁ、そのままの格好よね。でもね~」

    美香子が足元から紙袋を出した。中から…

    美「見て!素敵でしょう。エリさんが、この話を聞いてすぐ、サプライズで作ってくださってたの」

    唯「かーわいい!花嫁さんのベール?」

    たっぷりとしたチュール生地で出来ており、髪に装着する部分には造花があしらわれている。

    美「花婿さん用に、お揃いのお花のブローチもあるのよ」

    唯「このお花、布で出来てるんだ。リアル~」

    美「プラスチックよりは布よねって、市販品を探されたらしいわ」

    尊「エリさんすごいな。だって話してからそんなに日が経ってないよね?」

    唯「ほぼ一日とかじゃない?すごーい」

    美「それがね、もうワクワクで、探すのも作るのも、楽しくて仕方なかったからあっという間だったって。着けている二人を想像してね」

    源「言葉が…ありません」

    ト「貴重なお休みの日をお使いいただき…」

    美「勝手に作っちゃいましたとは仰ってたけど、嬉しいわよね。今夜お礼言ってあげて」

    夕方。

    覚「そろそろ、ケーキ受け取りの時間だな」

    尊「今日はどこに頼んだの?」

    覚「駅前商店街の店」

    若「ならば歩いてゆけますゆえ、受け取りに行って参ります」

    覚「おー。ならお願いしようかな」

    唯「私も行くー!」

    覚「じゃあ、何かあった時の為に尊もついてってくれ」

    尊「三人でね。わかった」

    源「痛み入ります」

    尊「二人とも、漫画あとちょっとですよね。ゆっくり読み進めててください」

    ト「はい」

    覚「あー、風呂敷持ってけ」

    尊「エコバッグじゃないんだ?」

    唯と若君と尊で、ぼちぼちと歩き出した。

    若「尊」

    尊「はい」

    若「あの漫画、に、館も激しく揺るがす程の大きな災いが描かれておった」

    尊「地震ですか?大正時代の話だから…関東大震災かな。そう?お姉ちゃん」

    唯「うん、確かそんな名前」

    若「戦もいつ始まるともわからぬが、そのような天変地異にも備えが要ると思うての」

    尊「さすが兄さん。永禄時代に天災がいつあったか、難しいとは思いますけど調べときましょうか?」

    若「頼めるならば」

    尊「わかりました」

    洋菓子店に着いた。すぐに注文したケーキが出てきたのだが、

    唯「デカっ!」

    尊「わー、奮発したんだ」

    ウェディングケーキは、二段重ねだった。箱を風呂敷に包み、ゆっくりと歩き始める。

    尊「車で取りに来てたら、揺れ過ぎて崩れてたかもね」

    唯「だから風呂敷なワケ?」

    尊「袋だと、サイズが合わないと中で動いちゃうからね」

    若「理にかなっておる」

    唯「さすが風呂敷!」

    尊「お父さんじゃなくて、そっちかーい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    ぷくぷくさん

    楽しくも、切ない大作をほんとうにありがとうございました。
    毎回どう展開するのだろうと、ワクワクでしたが、もう終わりかと思うと、如古坊同様、私も切なくなります。如古坊の話し方が、いつの間にやら現代語に変わっているなんて、よく自然に仕上げましたね。これだけのものを書き上げるのは、さぞ大変だったことでしょう。 本当にご苦労様でした。

    やはり私も夕月かかりてさん同様、OOOは切ないが浮かびます。
    ありがとうございました。

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    四人の現代Days95~5日12時、大人への階段

    ぷくぷくさん、お疲れ様でした。私だったら、「切ない」かな。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
    もうそんな年齢になるのです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    源三郎とトヨは、覚と美香子にアドバイスを受けながら、様々なポーズをとっていた。それを横目に見ながら、隅に寄り小声で話し始めた唯と若君と尊。

    尊「お姉ちゃん達が来るちょっと前にさ。晩ごはんの時に」

    唯「うん」

    尊「お母さんがボソっと呟いたんだ。広告とか増えてきたから気付いたのかな」

    唯「なんて?」

    尊「来年の今頃、唯に市から、成人式の案内が来るわねって」

    唯「あ…」

    尊「兄さんに説明すると」

    若君「いや、話を進めよ。後で詳しく聞く」

    尊「わかりました。で、今回来た時さ、綺麗な打掛着てたじゃない。あれ、両親すごく喜んでたんだよ。振袖姿並に華やかだったから」

    唯「知らなかった。あれ、なら今日なんで振袖じゃないの?」

    尊「結婚してるでしょ」

    唯「あ、結婚してたら振袖NGだったっけ」

    尊「一般的には」

    唯「袴なのはなんで?」

    尊「これはその時にお父さんが言ってたんだけど、お姉ちゃんさ、兄さんに出会ってなかったら、短大くらい行ってたんじゃない?」

    唯「進路とか全然考えてなかったけど、それもアリだったかも」

    尊「で、来年は短大に進学してたら卒業の時期」

    唯「あー」

    尊「卒業式とか謝恩会でさ、女子の皆さん、袴姿になってるじゃない。その時期は電車内がやたら華やかだよ」

    唯「そうだったね」

    尊「袴もいいな、って二人とも言ってた」

    唯「そっか…」

    尊「だから、袴姿は親孝行なんだよ」

    唯「わかった」

    尊「あのさ、都合良く成人式の時期に来られないか、とか思ってない?」

    唯「ちょっと」

    若「唯、それは」

    尊「そもそも今はタイムマシンの作業してないから。一応受験生なんで。だからごめん、無理」

    唯「すんません」

    若「今の唯を、よう見て貰え」

    唯「うん」

    尊「ところで、兄さんのその衣装ですけど」

    若「ん?」

    尊「その登場人物は兄さんに通ずる所があるって、母は言ってました。だからお仕着せではありますけど、ある意味兄さんにピッタリみたいですよ」

    若「そうなのか」

    尊「漫画に描かれた時代の軍服なんで。ざっくり言えば、国を守る人が着る服です」

    若「なるほど」

    美香子が駆け寄ってきた。源トヨが会釈をしている。

    美香子「ごめんねー、お待たせ~」

    源三郎「お待たせを致しました」

    トヨ「すみません」

    唯「おっ、順番が来たね。じゃあ撮りますかー。たーくん、言い忘れてたけど」

    若「何じゃ」

    唯「超カッコいいよ」

    若「ハハ。唯も実に麗しい」

    唯と若君の撮影が始まった。

    美「漫画から抜け出たみたいね~」

    カメラマン「この衣装、よく撮りますよ」

    美「そうなんですか!」

    カ「一定以上の年齢の方に人気ですね。っと、これは失礼しました」

    美「いえいえ、昔の作品ですから当然です」

    カ「この衣装で、こんなにお若い方を撮るのは久々です」

    美「え、って事は」

    カ「私は、ご夫婦でお召しになるのを撮る機会が多いですね」

    美「ご夫婦…私達位の?」

    カ「それもありますね」

    覚の顔を見る美香子。

    美「…」

    覚「ん?」

    美「ううん、やっぱり忠清くんの方が断然いいわ」

    覚「断然。だよな」

    美「だってお父さんだと、捕虜っぽい」

    覚「おいおい」

    最後は、家族7人全員で。

    カ「弟さん、もう少しお姉さんの方に。ドレスの裾に乗らない程度に寄りましょうか」

    唯の囁き「トヨの弟が尊。うんうん」

    若君の囁き「良いの」

    撮影完了。

    唯「お疲れ~。トヨ、着替えに行こっ」

    着替え中。

    ト「こんなに良くしていただくなど、畏れ多くて」

    唯「たぶんさ、尊が永禄に持って帰れるように写真集作ってくれると思うよ。いつでも見れるように」

    ト「至れり尽くせりですね。…どうかしましたか?」

    唯が、着替えの手を止め、何か考えている。

    唯「私、たーくんと永禄で生きてくって決心した時にね、両親に、今まで育ててくれてありがとうって言ったの」

    ト「…はい」

    唯「それからもう2回も戻ってきてるけどね、ちゃんと娘の成長を見守ってくれてるんだなって」

    ト「それは当然です。今回も、唯様の溌剌とした笑顔が見られて、大変喜んでらっしゃいますよ」

    唯「いつか、私も親になる時が来たら、もっとわかるかな」

    ト「はい。そして、必ず、授かれると思います」

    唯「夢で見たしね。トヨも私もね」

    ト「心待ちにいたしましょう」

    唯「そうだね。楽しみは後からやって来る!」

    ト「ふふっ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    5日のお話は、ここまでです。

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    如古坊の楽しくも○○○思い出=15

    ナレ:如古坊はチョコを一つ口に入れ、蓋をして忠清の前に置いた。
    如:「残しておかないと唯に何を言われるか。ははっ」
    若:「ん、ふっ」
    如:「それに幸子さんの写真の時も」
    若:「その折も如古坊は何か思うておる様に見えたのでな」
    如:「ふっ」
    若:「何じゃ?」
    如:「成之に聞いたのだが、お主・・・久し振りにお主と言った。お主は唯をおなごと気づくのは遅かったと」
    若:「出会うた場でも気づかなんだ。小僧と申したからの」
    如:「小僧。その時、レディとは言わなかったか?」
    若:「れでい?・・・それは?」
    如:「いや、こっちの事。で?」
    若:「半信半疑であったのだがの、和議の話をした折に、やはりおなごだと。だが、その場ではお前はおなごであろうとは言えなんだ」
    如:「何故?」
    若:「わしが思うに、おなごだと知られたら、わしの側に居る事は出来ぬと思うたのではと」
    如:「そうかも知れんな。だが、成之は初めて見た時に既におなごだと気づいたそうだ」
    若:「のちに兄上に聞きました。ははっ」
    如:「そうか。実は孝君の父親になりたいと。幸子さんも少なからず私を思ってくれていて、事情を知らない彼女が何かを感じたのか、私とは一緒になれないと言ったのだと聞いた」
    若:「唯が申しておった、おなごの勘は鋭いとな」
    如:「そうだな。怪しいと言われたからな。私は幸子さんと孝君には感謝をしている。このような想いを抱かせてくれた事に」
    若:「この世では辛い思いを皆は持ち出陣し戦うておる。わしは戦で敵味方関わりのう命を落とす者を思い悲しみ、だが、死に急ぐ者には情けをかける事は無いと思っておった」
    如:「それは致し方ない事だ」
    若:「ん。それが戦国の世に生きる者の定めなのだと。その思いだけで生きておったが、わしは唯と出会うて、唯が兄上の元に居った折に、これまでに感じた事も無い感情が芽生えた。民を守る事は大切な事ではあるが、それ以上に唯を守りたい、放しとうないとな」
    ナレ:唯が庵で悪巧みを聞き、戻って来た唯に酒を飲ませた時の事だと気づいた。
    若:「如古坊、如何した?」
    如:「いや・・・忠清は意外と情熱的なのだな。ははは」
    ナレ:笑って誤魔化した。
    若:「ん。唯と共に居り、そう思う気持ちが、ことに大きいと考えるようになった。小垣で唯を守る為、平成に戻るように申した折は、まこと、辛かったのだ。だが、わしは今こうして唯と共に居る事が出来ておるが、如古坊、そなたは」
    如:「あぁ、共に暮らしたいと考えた事も。だが出来ぬ事と。クリスマス会以降は幸子さんに会わずに。二人にこの先、家族が出来たとして、その姿は見たくないと思う。忠清が成之を前にして思った感情と同じだ。まことは今一度、会いたいと思っていたが、会ったとならば私の・・・寂しい気持ちだけが残り、この世に戻ってからも思いが残るだろう。会わずに戻った事は私にとっては良かったのだと今は思う」
    若:「だが、如古坊、寂しいとのその気持ちをも忘れなくとも良いのでは無いか」
    如:「そうか・・・熊田さんの奥さんもその様な事を言っていた」
    若:「如古坊が現代に行ったわけは、わしにも分らぬが、その者との善き思い出は如古坊にとっての宝物じゃ」
    如:「あぁ。だが、この話を唯にすれば、からかわれると思うての」
    若:「それは・・・そうかもしれぬの」
    如:「忠清と話していて、現代での話し方とこの世の話し方がゴチャゴチャになっている」
    若:「話している内に戻るのであろう」
    如:「お父さんもそう言っていた。朱に交われば赤くなると。戻ったと言う事なのだな」
    ナレ:寂しそうな表情の如古坊に、
    若:「であろうが、間違いなく如古坊は平成、令和を生きてきたのだ」
    如:「そうだな。そうだ、宗鶴殿の瓜二つの幸助さんに頂いたオセロゲーム、忠清が言っていたそうだな、このゲームで陣取りが出来たならばと」
    若:「あぁ、その様な戦であったれば、穏やかな暮らしが出来るのであろうと思うたのだ」
    如:「一年過ごし、穏やかな里が良く分かった。私もあの場所で生きていけたならと思ったからな」
    若:「そうじゃの」
    如:「そうだな。それに、お父さんが心配していた高山親子が熊田さん親子のように、高山と羽木も仲良くなったことを喜んでいたよ。私は自分のしてきた事は言えなかった」
    若:「そうか。だが、それで良い。唯も父上、母上には高山との仲違いの話はしておったが、兄上や如古坊の関りは申してはおらぬ」
    如:「唯は、我らの先が見えていたのかもしれないとな。まぁ、それは無いだろうが、唯には感謝している。それに尊は唯を尊敬していると言っていたが、尊に口止めされた」
    若:「わしも聞いたが、唯は褒められるとつけあがるからと申しておったな」
    如:「そう言う事だ」
    若:「だが」
    如:「どうした?」
    若:「何故、その」
    ナレ:肉食系フテ猫Tシャツを指した。自分が気に入ったが着られないので別を尊が見つけて注文してくれたと説明した。
    如:「元のTシャツは尊が唯に贈った物だが、何故、この絵だったのか聞いたか?」
    若:「尋ねてはおらぬが」
    如:「私は気になり聞いた。尊がこの絵を偶然見た時に唯にそっくりだと思ったのだと」
    若:「唯に?」
    如:「あぁ。ソファに寝転んで漫画を読んでいた唯に尊が声を掛けると、面倒臭そうに返事をしたその姿と同じだと思って、洒落のつもりで買ったが結局、唯が着る事は無かったのだと」
    ナレ:如古坊の説明で、忠清はその姿を想像して大笑い。夜中だったと両手で口を塞いだ。
    如:「はははっ」
    若:「のう、如古坊」
    如:「ん?」
    若:「如古坊とさしでこうして話したことは無かったと思うての」
    如:「そうだな・・・いつか、成之と三人で穏やかに話が出来る日が来ればいいの」
    若:「そうじゃの・・・では、そろそろ休むとするかの」
    如:「あぁ」
    ナレ:如古坊が立ち上がるとよろけ、忠清が腕を持ち支えた。
    如:「椅子だったから、こうして長く座っている事も無かったからな・・・あっ」
    若:「さようか」
    如:「あぁ」
    若:「ん?・・・如古坊」
    如:「思い出した」
    若:「ん?」
    如:「逃げて転びそうになった時に誰かに今のように支えられたように身体に触れられた・・・そんな感じがしたが」
    若:「そうであったか。だが、分からぬの」
    如:「そうだな・・・では休むとするか」
    ナレ:それぞれの閨へ。部屋に向かいながら如古坊は支えられた感触を思い出し、戻る時にも同じような感触だった事に気づき、
    如:「本当に未来の尊・・・だったのか?」
    ナレ:部屋でジャケットを脱ぐと、ポケットに白い封筒が。速川家の誰かが入れたのだと思った。
    如:「何だろう?」
    ナレ:畳まれたメモを開き驚いた。そこには【木村三吉様 ありがとうございました 神山孝】と書かれてあり、写真が2枚。
    如:「これは・・・孝君?」
    ナレ:スーツ姿の青年の胸元には如古坊が贈ったネクタイ。もう一枚は隠し撮りの様な写真で、消防士の制服を着た青年が仲間と談笑している。
    如:「どうして・・・本当に?」
    ナレ:覚えのある苗字【神山】
    如:「まさか、祥さん?」
    ナレ:本当に祥だとして、祥の優しさは知っているから、祥と別れる時に奥さんになる人も幸せだと言った言葉を思い出し如古坊は複雑だった。
    如:「そうなのか・・・なれば、おめでとうと言わねばならないのだろう。ふっ」
    ナレ:寂しく笑った。写真についても未来の尊なのかどうかも確かめる方法は無い。如古坊は消防士姿の孝に無事で居てくれと祈り、孝の成長を見られ嬉しい気持ちもある中で、大切な物を失ってしまった感情に涙が零れた。翌朝、忠清を呼び、昨夜の自分の感情は隠し、その写真を見せた。
    若:「これは・・・まさか」
    如:「私にも分からない・・・だが、やはり未来の尊であるのだと」
    若:「手立てはないがの、わしもそうなのではと。だが、この事は唯や他の者にも言わずに。それが良かろう」
    如:「そうだな・・・ことにこの青年の事を唯が聞いてきそうだからな」
    若:「であろうの・・・のぉ」
    如:「なんだ?」
    若:「まこと、尊であったれば・・・」
    如:「どうした?」
    若:「・・・いや」
    ナレ:未来の尊であれば、敵から助けたのだと理解できるが、現代に連れて行った事で如古坊と幸子が出会い、それにより二人に辛い思いを抱かせた事に。先の事も分かっていたはずの尊の行動が忠清には理解できなかった。そう考えている時に尊と話したことを思い出した。唯と二人で永禄に戻る許しをもらった翌日に将棋に誘われた。実験室で将棋の一試合が終わった後、装置を見ていた忠清に、
    尊:『僕は自分の為にこれを作りました』
    若:『過去や未来に行き、その者たちの定めが見られるとは、まこと、大した物じゃ』
    尊:『運命か』
    若:『わしは己の行く末は見とうない。だが、唯がわしと共に居っては・・・』
    尊:『分かります。でも、お姉ちゃんは望んで戦国に行くと決めているんですから。今の言葉を聞いたら、私を置いて行くなんて許しませんって鬼のように怒りますよ。お姉ちゃん怒ると怖いですよ』
    若:『では、唯を怒らせる真似はせんようにしないとな』
    尊:『お姉ちゃんは誰から見ても、若君を想っている事が分かります。でも、僕には誰かが誰かを好きになる瞬間は分かりません』
    若:『科学とやらでも人の心は分からぬのか?』
    尊:『分かる方法の機械はあるようです』
    若:『そうか・・・想い人は居らぬのか?』
    尊:『えっ、あっ、いえ、今は居ません』
    若:『いずれ尊の前にも現れるであろう。ならば、このたいむましんで尊の未来が見てみたいの』
    尊:『それは、遠慮しておきます・・・でも、このタイムマシーンが、お姉ちゃんと羽木の皆さんの運命、歴史を変えたと分かっています』
    若:『それは、我らが生きながらえて居る事』
    尊:『はい・・・さっきの話ですけど、人の心は科学で分かっても、奥底にある物は科学でも分からないんじゃないかって思うんです。人の心は複雑で、相手を怒っていても内心は逆とか、優しくしていても本当は悪いとか。昔から口車に乗ってって言葉もありますが正直、今の僕にはその判断は難しいです。厳しい事を言いますが、誰かが幸せになると誰かが悲しむ。そう言った事は世間ではよくある事だと思うんです。若君の時代の戦もそうですが』
    若:『そうじゃの』
    尊:『でも、悲しみを体験した時に、悲しむ人が前を向けるかどうかで、その人の運命が変わるんじゃないかなって・・・あれ、僕、何が言いたかったんだか』
    ナレ:忠清はその時の事を思い出し、目の前に居る如古坊がこの先どう生きていくのかと考えた。
    如:「どうした?」
    若:「ん・・・如古坊」
    如:「なんだ?」
    若:「如古坊は現代に参り幸せであったか?」
    如:「急になんだ・・・あぁ、わしはあの場に居って幸せ・・・だった」
    若:「ん?」
    如:「いや、善き思い出じゃ」
    若:「そうか、お前は前を向いておるのだな」
    如:「はぁ?・・・なんじゃそれは?」
    若:「何も。これは唯に見つからぬようにの」
    如:「あっ、あぁ」
    ナレ:如古坊は懐に仕舞いその場を離れ、歩いて行きながら、忠清の質問の意味が分からず首を傾げた。その後姿を見ながら、
    若:「尊、この場の様子を見ておるのならば、わしにそなたの思いを聞かせてはくれまいか」
    ナレ:尊の声ではなく、忠清を呼ぶ信茂と唯の声が聞こえてきた。
    若:「わしは、幸せ者じゃ。ふっ」
    ナレ:信茂と唯は我先にと前後交互に動きながら忠清の側に来て、忠清の腕に両側から抱き着き、
    じい:「このむじながのぉ、邪魔だてしおって」
    唯:「むじなって言わないでよ」
    若:「して、どうしたのじゃ?」
    唯:「あれっ・・・じい、何だっけ?」
    じい:「そうじゃ、あははは」
    ナレ:二人して用件を忘れた。
    若:「お主らは幸せ者じゃのぉ、あはは」
    ナレ:先に行く若君の後を着いて行きながら、
    唯:「思い出した。お袋様が食事の用意が出来ましたから呼んで来てって」
    ナレ:忠清はその言葉にまた笑った。如古坊は閨に戻り、みんなには見せなかった写真盾に入った写真。みんなが見たクリスマス会の写真の他にメンバーは同じだが、孝が如古坊の膝の上に座っての写真。尊に頼みそれをUSBには入れず、プリントアウトして写真盾に入れてもらった。裏板を外し、写真2枚も中に入れた。
    如:「これくらい持っていても祥さんは許してくれるだとう、ふっ」
    ナレ:寂しく笑った。すると表から、
    唯:「如古坊、起きて、朝ご飯出来たよ」
    如:「あぁ。今行く」
    ナレ:唯の足音が遠のき、
    如:「お父さん、お母さん、尊、今日も唯は元気ですよ」
    ナレ:そして、みんなの待つ部屋へ行った。

    ナレ:唯はせんた君を使っていて、
    唯:「濯ぎの水換えは面倒だなぁ。ホースがあったら良かったかも。改良が必要だね。戻ったら尊に言わなくっちゃ」
    ナレ:そう言いながら洗濯をしていた。それから、覚達が想像した通り、せんた君とスタート君は信茂のおもちゃとなった。唯と吉乃が使用していない時は、信茂が手拭いを入れてグルグル回して楽しんでいた。あまり激しくすると壊れると小平太に注意され、優しく回していた。スタート君も自分が掃除すると言ってスイッチを入れ動くスタート君を追いかけまわし遊んでいた。それに、信茂には渡さない方が良いと言っていた胡椒玉の拳銃を偶然に信茂が見つけてしまった。中にまだ4つ入っていた。ただのおもちゃだと言ったが、引き金を引いてしまった。それも自分に向けて。信茂はしばらく痛みとクシャミが止まらなかったが、知ってしまった信茂はニヤリと不敵な笑みを。如古坊は嫌な予感がした。それはしばらくして起こった。忠清と見回りから戻った小平太めがけて信茂は引き金を引いた。顔に命中してその場で痛がっているしクシャミも涙も。小平太はクシャミしながら信茂を追いかけ、捕まえるとクシャミしながら怒った。そして取り上げられた。シュンとなった信茂は縁側でシャチのぬいぐるみを隣に置き、ピンクの靴下を履いた足をブラブラさせながら、如古坊に貰ったボールペンで小平太の似顔絵を描き、
    じい:「面白さが分からんとは、堅物は誰に似たのじゃ」
    ナレ:小平太の顔に如古坊がされていた様に目の周りに丸、頬にバツを書き大笑い。その頃、信近は胡椒玉とは関係無い所で派手なクシャミをした。

    =現代=

    ナレ:風が止んだ、顔を上げると如古坊の姿は無かった。
    尊:「行っちゃったね」
    美:「無事に戻れたかしら」
    覚:「大丈夫さ。でも、如古坊さんが此処に来た意味は結局分からなかったな」
    美:「そうね」
    尊:「そうだね」
    美:「あっ」
    覚:「どうした?」
    美:「如古坊さんに、ラジオ体操の第二を教えるのを忘れてたわ」
    尊:「何それ?」
    美:「こっちの話よ。ふっ」
    ナレ:覚と尊が顔を見合わせ首を傾げた。すると、紙が飛んで来て尊の足元に落ちた。
    尊:「何だろう?」
    ナレ:驚きの声を上げた。覚も美香子もその紙を見た。それは写真だった。そこに写っていたのは少し大人びた忠清と唯。そして二人の間に緊張気味の表情の男の子と唯の腕に子の姿、唯は空いている手でピースサイン。

    お読みいただき有難うございました。
    皆様が○○○の中にどのような言葉を当てはめたのでしょうか?
    その様な事を考え【如古坊の楽しくも○○○思い出】を終了いたします。

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    四人の現代Days94~5日11時30分、母の思い

    二つの作品を、コラボレーションしました…勝手ながら。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    源三郎の前に進んだトヨ。

    トヨ「源ちゃん」

    源三郎「…」

    美香子「あまりの美しさに声も出ない?はい、唯と忠清くんは移動開始よ」

    唯「えー」

    若君「行って参ります」

    カメラの準備も整い、源三郎とトヨのウェディングフォトを何枚か撮り始めた。

    尊の囁き「うーん。二人とも戦国時代の人とは思えない」

    美「しっかり源三郎くんの背筋も伸びてるし」

    覚「いい、いいよ~」

    自分のスマホでもバシャバシャ撮る覚。しばらくすると、カメラマンが振り向いた。

    カメラマン「ご両親も、ご一緒にいかがですか?」

    美「両親!あら~。撮ってもらう?」

    覚「おほー。それはお願いしようかな」

    美「尊は?」

    尊「僕は後でいいよ。まずはトヨ姉さん達と、4人で撮れば?」

    美「そうしよっか」

    トヨの囁き「トヨ姉さん…」

    源三郎の囁き「有難いな」

    ト 囁き「うん…」

    その後、尊も入れて5人で撮影。一段落した所に、唯と若君が衣装に着替えて戻ってきた。

    尊「へぇ」

    美「あらん、いい!いいわ~」

    唯「お母さん、これかわいいんだけど、なんのコスプレ?」

    美「ほれぼれしちゃうわ~。二人ともよく似合ってる」

    唯「だからこれなにって」

    美「忍さんと紅緒ちゃん」

    唯「は?」

    美「はいからさんよ~。唯の前髪が眉辺りでパツンと切ってあって、後ろ髪が長くなってたから、これだ!って思って。忠清くんの髪、ちょっと長めだけど、少尉もそんなに短髪ではなかったから」

    唯は、紫に白の矢絣柄の着物に海老茶色の袴。若君は榛色の軍服。帽子も靴も揃っており、サーベルまで持っている。

    覚「確か、大正時代を描いた少女漫画だったよな?まさしく大正浪漫って感じだ」

    唯「マンガのコスプレ?」

    美「家に全冊あるんだけど。読んでないの?あー、少女漫画全然興味なかったものね」

    尊「ちょっと!話は後にしなよ、待たせてるよ!」

    尊の後ろで、源三郎とトヨが立ったまま待っていた。

    美「あらごめんなさい。どうする?もう少し二人で撮る?今回ね、急遽だったからチャペルとかには移動できないのよね」

    唯「そうなんだ。じゃあ、もっといろんなポーズで撮ったら?」

    尊「なら、あれはどう?」

    美「何?」

    尊「源三郎さんなら、お姫様抱っこも軽々とできるんじゃないかな」

    覚「おっ!」

    美「あらん。見たいわ~。出来そう?って聞くのも失礼かしら」

    唯「見たいー」

    若「どうじゃ源三郎」

    源「…はい。では仰せの通りに」

    ト「え、きゃっ」

    ふわりと、トヨの体が持ち上がった。

    美「トヨちゃん、カッチカチになってる」

    撮影小物で手にしているブーケを両手で握ったまま、固まっている。

    ト「源ちゃん…恥ずかしい」

    源「俺もだから。暫く辛抱しろ」

    美「トヨちゃん。源三郎くんの首に両腕を回すと、抱える側が少し楽になると思う。ブーケ持っててあげるわ」

    ト「え!それは近付き過ぎではないですか」

    覚「まあまあ」

    そんな様子を眺めている、唯と若君と尊。

    唯「キレイだな、トヨ」

    尊「お姉ちゃんも、女学生って感じで悪くないよ」

    唯「ほめてくれるの?珍しい」

    尊「お母さんのリクエストに応えるってのは、いい」

    唯「えー?ムチャ振りじゃないの」

    なぜかここで、尊が溜め息をついた。

    若「どうした、尊」

    尊「お姉ちゃんが、やっぱりいつも通りだなって」

    唯「は?」

    若「それはつまり、この装束には深淵な意図があると?」

    尊「少なくともその袴姿には、込められた意味があります」

    唯「そうなの?んー、それって、今聞いてもいい?」

    若「口止めは、されておらぬか?」

    尊「されてません。お姉ちゃんは知っておくべきだと思うし」

    唯「じゃあ教えて。あっちが盛り上がってる内に」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    如古坊の楽しくも○○○思い出=14

    ナレ:如古坊が①のUSBをまぼ兵くんにセット。翌日もその場所に行ったが戻れず、次に期待し、みんなに見せる為にと覚、美香子、木村先生、尊と如古坊で写した。
    信:「若君様に伺っておりましたが、まこと、木村殿に似ております」
    如:「先生は木村様の子孫だと」
    唯:「やっぱり、そうだったのね、納得」
    ナレ:家の手伝いをしている様子。城跡の写真を見せると、その場に行かなかった信茂達は黙ってしまった。
    若:「初めこそ驚いたがの。だが、我々が生きた証が現代にも残されている。そうではないか」
    小:「さようですね」
    源:「ですが、これ程までの立派な石垣が城内に?」
    信:「さよう。何故?」
    じい:「考える事は無かろうて、我らの子孫がこの先、館を築いたのじゃよ」
    唯:「そうだね。若君と私の・・・いやぁん」
    小:「何を申しておる」
    唯:「いいじゃん」
    若:「じいの申す通りだとわしも思うぞ。尊の書物に戦国の世が終わり、太平の世が訪れ、我らの子孫が生き残り、城壁も整えたのやも知れんからの」
    吉:「わたくしもその様に存じます」
    唯:「私たちの未来は明るい!」
    若:「そうじゃの」
    ナレ:その後、祥の代わりにコテージに泊まった時の写真。ステーキに真っ先に食いついたのは唯。
    唯:「え~、如古坊いいなぁ。凄く贅沢してんじゃん」
    如:「これは祥さんの方で用意をしたんだ」
    唯:「へぇ。でも凄いね」
    ナレ:祥の失恋話は言わずにいた。もし現代に来ることが出来たとして、唯なら祥に根掘り葉掘り聞くだろうと美香子は分かっていたので口止めされていた。
    唯:「でも、どうして代わりに行ったの?」
    ナレ:聞かれた如古坊は困ってしまった。そこで忠清が助け船を。
    若:「あの場に向かう林に似ておるではないかの」
    唯:「そうかも、似ていますよね」
    ナレ:話が逸れた。如古坊は唯に見えないように忠清に頭を下げた。その次はソフトクリームを食べている写真。着ぐるみと一緒の写真。クリスマス会の用意の写真からクリスマス会の様子。
    如:「宗之さんが信茂様を大好きだと言っていましたよ」
    じい:「わしも宗之殿が好きじゃよ。宗熊と同じにのぉ」
    如:「それにこの上着はテーラーに勤めている宗之さんが私にと作ってくれました」
    信:「てら?」
    唯:「洋服を作る人?店?って事ですかね」
    信:「良く分からんが、そうか」
    じい:「着ても良いか」
    如:「はい」
    ナレ:袖を腕に巻くようにしてジャケットを着たが大きかった。
    唯:「なんかお父さんの上着を着た子供みたい。あはは」
    じい:「笑うては・・・もう良い」
    ナレ:脱いで如古坊に返した。
    吉:「唯、その様に申してはなりませんよ」
    唯:「は~い。ごめんね、じい」
    ナレ:信茂は現代で覚えたあっかんべぇをした。
    唯:「何それ」
    ナレ:唯も同じことを。周りのみんなは呆れ顔。
    吉:「唯・・・ふぅ・・・して、如古坊殿の隣に居るおなごとお子は?」
    如:「この親子は・・・熊田さんの知り合いで」
    吉:「さようですか。優しそうなお方ですね」
    如:「はい、優しいですし、この子孝君はとても母親想いで」
    唯:「ねぇ、若君」
    若:「ん?」
    唯:「あの人、ふきさんに似ていない?」
    若:「ふき殿?」
    小:「さようです、ふき殿に似ております」
    如:「ふきとは?」
    小:「若君様の側室にとお迎えしたお方でしたが・・・あっ」
    信:「どうした?」
    ナレ:今まで全く気付かずにいた小平太は、あの時のおなごが唯であることに気づき唯の顔を見た。見られた唯は小平太が気付いたと分かり、言わないでと言わんばかりに首を振った。だが、あの時は唯だったと気づいても、ふきが帰った事と唯の事を結び付けられるまでには至らなかった。
    小:「あっ・・・ですが、何故?」
    ナレ:忠清も二人の様子に小平太も気づいたのだと分かった。
    若:「・・・私に愛想を付かれたのであろう」
    信:「殿に伺いましたが、ふき殿はそのように申してはおりませんでしたぞ。わたくしには勿体のうございますと」
    若:「良いではないか。過ぎた事」
    唯:「そっ、そうですよ・・・・でも、この人、如古坊に寄り添ってない?」
    如:「た・・・たまたまだ」
    唯:「なんかその言い方、怪しいなぁ」
    如:「あっ、いや」
    若:「唯、終わったようじゃ。取り換えてはくれまいか?」
    ナレ:丁度①が終わったので好感を唯に頼んだ。如古坊はチラッと忠清を見た。忠清は軽く会釈。
    ②をセットした。正月飾りの初詣での様子。年明けから怒涛の誕生日会。1月23日は尊。1月31日が唯。2月5日が美香子で3月4日が覚。如古坊は生まれた日を知らないと答えたが、美香子が2月5日と決めた。理由は[にょ]が[2]、[こ]が[5]。尊が坊はと聞くとそれはいいじゃんとなり、2月5日に美香子と一緒に誕生日を祝った。
    唯:「私が居なくても誕生日会してくれたんだ。でも、お母さん、ダジャレで決めるなんて」
    如:「そうだろうが、私は嬉しかった」
    唯:「そっか」
    ナレ:そして、尊の大学合格の話を聞いた後、ステーキを食べる如古坊の姿にまた唯が、
    唯:「え~なんでぇ・・・またぁ・・・戻ったら絶対ステーキ食べるからね」
    吉:「そなたの気持ちも分かりますが、ここは尊殿の合格とやらを祝うのでは」
    唯:「あっ、まぁ・・・尊、おめでとう」
    ナレ:笑顔の尊に向かって言った。それから順番は違うが、水族館の写真が映し出された。
    じい:「如古坊、水族館は楽しいじゃろう」
    如:「はい。とても。信茂様の気に入れたシャチのショーも見ました。迫力に驚きました」
    じい:「そうじゃろう」
    源:「如古坊殿は現代の者と何ら変わりのう様に見受けられます」
    唯:「みんなみたいにカツラ被らないからそう見えるんじゃないかな」
    吉:「そうですね」
    源:「まことに、尊殿とも変わらず」
    如:「でも、この頃はまだ見聞きする事にドキドキしていたんですよ」
    信:「であろうの。だが、良い顔をしておる」
    如:「ありがとうございます」
    ナレ:次の写真に皆が爆笑。正月遊びの羽根つきでの敗者の顔。如古坊は墨で目の周りに丸、頬にバツ。
    如:「羽子板が思う様に振れず、負けてばかりでした。お父さんも負けて口の周りに書かれたのに、それは撮らせ無いと逃げ回って」
    ナレ:その時の様子を思い出して如古坊が笑った。如古坊の嬉しそうな姿に皆も笑顔。そして次の写真に、
    じい:「坂口殿!」
    信:「まことに」
    如:「造園業、植木職人でありました。私も顔を見た時は驚きました」
    唯:「作業しているの見た事あるけど、おっさんに似た人はいなかったと思うけど」
    如:「それもそのはずさ。この業者に頼むようになったのはこの3年くらいだそうだ。唯が戻っている時は頼んでいなかったからな」
    唯:「そうだったんだ・・・でも」
    若:「唯?」
    唯:「カメラで写してるものは端に日付が入っているから、日付が無い物も私でも写した時期は何となく分かるから尊にしちゃ珍しいなって思ったの。」
    小:「何がじゃ?」
    唯:「写真は写した順に並べるんじゃないかなって。1と2がバラバラだなぁって」
    如:「それは・・・尊がUSBに入れるデータを整理していた時に、試しに私に捜査してみないかと。で、何処をどうしたのか、慌ててまた何かしてしまったようで、並べられていた写真がゴチャゴチャになって…でも、尊はこれはこれで面白いと許してくれて」
    若:「そうであったか・・・ふっ、如古坊の慌てふためく様子が容易に想像できるの。ははは」
    唯:「ほんと。あはは」
    ナレ:反論も出来ない如古坊だった。そして、最後に映像が。
    覚:『皆さん、お元気ですか。如古坊さんから写真を見たと聞きまして、無事に戻られたことにみんな喜びました。僕たちにも如古坊さんはこの時代に来た理由は分かりません。それでも皆さんのお仲間の如古坊さんと過ごせた事も僕たちの宝物になりました』
    美:『この映像を皆さんが如古坊さんと一緒に見てくれていると信じています』
    覚:『大丈夫さ』
    尊:『お姉ちゃん、若君、皆さんは僕たちの生涯の友達です』
    唯:「私もその中って変じゃない」
    尊:『あっ、ごめんね。怒んないでね』
    唯:「タイミング良いんじゃん、わざとだなぁ、ははっ」
    覚:『如古坊さんは不安の中で過ごしていたことは分かります。一年はやっぱり長かった。この映像は3月24日に撮影しています。4月28日に戻れると信じて、この映像が無駄にならないことを祈っています』
    尊:『如古坊さんは、僕たちにも、とても優しかった』
    じい:「も?」
    如:「・・・さぁ」
    覚:『若君をはじめ皆さんと会えたことをこれからも僕たちの宝物として生きていきます。楽しい時間を有難うございました』
    ナレ:三人が手を付き頭を下げた。見ているみんなも同じ様に。
    唯:「私にはコメント無し」
    如:「寂しいか?」
    唯:「別に」
    如:「私は一年あの家で過ごして、お前、唯がどれほどみんなに愛されているかが良く分かった。そのあたたかい家で一年も暮らせたことは私にとっても宝物だよ。お父さんたちは何も言わなくても唯、お前は三人の気持ちは分かっていると思っているんじゃないか」
    唯:「まぁね。まっ、お父さんたちが褒められてるみたいで嬉しいな」
    ナレ:尊に口止めされていた尊敬していると言う事を迷った末に言わずにいた。
    如:「私は現代に行った理由もいまだに分かりませんが、行けて良かったと思います」
    唯:「何だったんだろうね・・・まさか、未来の尊の仕業」
    小:「仕業とは」
    唯:「あっ、いえ、悪い意味じゃないよ」
    如:「お父さんもそんなこと言っていたが、尊は違うんじゃないかって」
    唯:「ふ~ん・・・ふぁ~・・・ごめん」
    ナレ:唯は大あくび。吉乃が目をこする唯を立ち上がらせ、
    吉:「夜も更けておりますゆえ」
    若:「そうじゃの。また明日」
    信:「さようですな」
    ナレ:横を見ると小平太に寄り掛かりいつの間にか色紙の飾りを掛けたまま信茂は眠っていた。小平太が信茂を抱え閨へ。唯もフラフラと閨へ。忠清がまぼ兵くんからUSBを抜き取り如古坊に渡し、
    若:「如古坊も難儀したのだな」
    如:「いいえ、とても楽しく過ごせました」
    若:「そうか。お袋殿、すまぬが、ちと湯を沸かしてはくれまいか?」
    吉:「はい」
    若:「お袋殿、この物を使うて」
    ナレ:手動式マッチを渡した。
    吉:「唯より先に使うては」
    若:「構わぬ」
    ナレ:如古坊は仕組みを伝えた。
    若:「こおひいをの」
    如:「眠れなくなるのでは?」
    若:「父上に聞いたのか?」
    如:「あぁ、色々教えてもらっての。私も付き合います」
    若:「良いのか?」
    如:「はい」
    ナレ:吉乃は幕を片付けて、湯を沸かしに襖をあけ部屋を出た。開けた時に風が。
    若:「平成もこの世も風は同じじゃの」
    如:「そうだな。だが匂いが違う」
    若:「ん?」
    如:「此処は草の匂いだが、あの地では時より何処からかカレーの香りがした事もあった。ははっ」
    若:「さようか。父上のかれいも美味であったの。食したか?」
    如:「あぁ、何度も」
    若:「さようか」
    ナレ:如古坊の何度もの言葉に一年という時間を感じた。沢山持たせてくれたレンコンのはさみ揚げも残り五個。
    若:「皆、夕餉を済ませておったのに、よう食べたの」
    如:「そうだな。私は夕飯代わりだったが、あまり食べられなかったな」
    若:「ならば、残りは」
    ナレ:しばらくして、吉乃が湯と湯飲みを二つと、椀に飯を入れ持ってきた。
    吉:「如古坊殿、夕餉はまだなのではと存じますが」
    如:「お分かりで。ありがとうございます」
    ナレ:保温は無いから勿論飯は冷めていたが、吉乃の優しさが嬉しかった。
    吉:「容易に火を熾すことが出来ました」
    若:「さようか。お袋殿も」
    吉:「わたくしは休みます。あっ素頂戴いたします。ではおやすみなさいませ」
    ナレ:吉乃は閨へ。如古坊は飯を食べる前に、瓶の蓋に粉を湯飲みに入れ湯を注いだ。
    若:「香ばしい香りじゃ」
    ナレ:忠清はコーヒーを飲み、如古坊は飯を食べ、そして自分もコーヒーを。
    若:「父上のこおひいとはちと違うが、これもまた美味じゃの。添て、木村先生と会うたのはわしの墓の前だと申したの」
    如:「あぁ。木村先生は忠清の事を知ってから、たびたび手を合わせに行っていたと」
    若:「そうであったか」
    如:「一度、墓の前に案内されたが、私は手を合わせなかった」
    若:「何故?」
    如:「何故も何も・・・確かに450年も経てば、それは分かっている。だが、忠清はこうして私の前に居る。共に生きているとの思いが強くての、手を合わせる気にはならなかった。それを先生に話したら、そうですねと言ってくれた」
    若:「さようか」
    ナレ:如古坊の気持ちを嬉しく思った。
    如:「尊に命を全うするように、自ら命を絶つことはしないでと言われた。私は、勿論、全うすると約束した」
    ナレ:その言葉を聞いた時に忠清は小垣城で、唯が『生きて』と言った事を思い出していた。
    如:「忠清?」
    若:「そうじゃの、唯や尊が我らの命を長らえてくれたのだからの。我らは全うしなくてはの」
    如:「あぁ。そうだ、忠清、芳江さんの事を聞きました」
    若:「芳江殿」
    如:「あぁ、忠清の助言で心を決めて嫁がれたと」
    若:「そうであったか。唯とわしが永禄に戻る前にの、芳江殿が崛起糸申し菓子をこしらえて持ってきてくれたのだが、よう笑う者であるに、何やら仔細があるように思えての話を聞き、わしの思いを話したまでじゃ」
    如:「それが良かったそうだ。それから嫁ぎ先のメロンを私は食べたが、甘くて美味かった」
    若:「ん?・・・めろん」
    如:「果物です。翌日に戻れるのであれば持ち帰る事も。だが、時期が違って」
    若:「さようか、残念じゃの」
    如:「唯の好物だと。だからそれを言えば何を言われるか分からないからな」
    若:「そうじゃの、わしも黙っておこう」
    ナレ:忠清は唯の閨の方角を見て微笑んだ。如古坊はもう一杯飲もうと湯を注いだ。
    如:「祥さんの時にも話を逸らしてくれて」
    若:「申せない事のように思えての」
    如:「お母さんから口止めされていて」
    若:「さようか」
    如:「忠清は口が堅いから。祥さんは結婚を決めた女性にフラれてしまって、予約も用意も整っていたので、行ってくれないかと頼まれたんだ」
    若:「そうであったか」
    如:「あぁ。その者は優しい人で、いい人が現れると信じています」
    若:「そうじゃの」
    ナレ:忠清ももう一杯と湯を注いだ。

    如古坊の楽しくも○○○思い出=15へ続く
    予告の際は14回で終わるはずでしたが、なんやかんやと増えて、1回追加となり
    次の15がラストとなります。

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    四人の現代Days93~5日11時、父の思い

    血が繋がっていても、いなくても。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    写真館へ、車二台で出発。

    唯「お母さん、ワンピースなんだ」

    美香子「車運転するしね。トヨちゃんの衣装を一緒に選びたいから、着替える時間が惜しくて着物はやめたわ」

    到着後、女性陣が早速、ドレスの衣装部屋に入る。

    トヨ「目が眩む程の…」

    美「悩むわよね~」

    唯「急に言われて決めろって困るよね。壁にいっぱい写真が貼ってあるから見てみたら?」

    ト「はい」

    モデルが着用する写真を見ていくトヨ。

    ト「あら、これは」

    唯「いいのあった?あー、なるほど!」

    美「トヨちゃん、そのスカート気に入ってくれてるものね。その形なら、あっちにコーナーあるわよ」

    何着か見繕っていたが、

    ト「このお衣装が気になります」

    唯「だったら着てみよう!」

    早速試着するトヨ。

    美「あらぁ。すごくいい!自分に何が似合うかを、よくわかってるのね~」

    唯「なんか、トヨ!って感じ」

    ト「お恥ずかしい」

    美「他を試す?」

    ト「いえ。こちらをとても気に入りましたので」

    美「そうね。ホントによく似合ってるわよ。何て言うか、こう表現するとトヨちゃんは嫌がるかもしれないけれど、充分大人の女性が着るからこそ、しっくりくるドレス」

    唯「うん、わかるぅ~」

    ト「今のわたくしだから良いのですね。嬉しい」

    その頃、男性陣はタキシードを選んでいた。

    覚「忠清くんの時みたいに白とか、あとグレーとか色あるけどな」

    源三郎「このように煌びやかないでたちなど…」

    尊「じゃあ黒?」

    源「まだそれでしたら…」

    覚「遠慮がちだね。照れてるのかい?君も主役だよ?」

    若君「何事も経験じゃ」

    覚「その通り。じゃ、着てみような」

    覚と尊で選んだ、黒のタキシードを試着した源三郎。

    若「なかなか良いぞ」

    源「お恥ずかしい限りでございます」

    覚「どうした、背筋が伸びてないぞ?隣に立つトヨちゃんは、きっと目を見張る程美しいと思うから、ちゃんとエスコートしないと」

    源「エスコート、ですか?」

    尊「えーと、付き添うとか、守るとかかな」

    若「それは、源三郎が最も得意とする所ではないか」

    覚&尊「確かに」

    そこに、美香子が様子を見にやってきた。

    美「あら、いいわね。こちらもよく似合ってる」

    覚「トヨちゃんの方はどうだ?」

    美「決めたわよ。今アクセサリー選んでる」

    尊「え、もう?」

    若「やはりトヨは仕事が早い」

    美「なーんか、背中が丸いわね」

    源「華やいでおるのは、分不相応でございますゆえ」

    美「まぁ、ドレス姿のトヨちゃん見れば、背筋もピーンと伸びる筈よ」

    覚「おー、そんなにか」

    美「楽しみにしてて。支度完了なら撮影室に来てね」

    いよいよ源トヨの撮影に入る。源三郎は既に待機しており、トヨの支度待ち。

    唯「源三郎、ネクタイもベストもすっごくいい感じ。王子様みたい!カッコいい!」

    源「褒めていただくなど…」

    美「いいわねぇ。あ、二人揃ったら、唯と忠清くんは着替えに行くわよ」

    唯「えー、撮る所見れないの?」

    美「全員の写真も後で撮るから。あ、来たかな?」

    店員「花嫁様、入られます」

    覚「おー」

    尊「わぁ」

    若「うむ」

    源「…」

    ゆっくり入ってきたトヨ。ドレスの襟元は少し立ち上がったスタンドカラー。袖も長くほとんど肌が出ていない。細身に作られてはいるが、全体に豪華な刺繍が施されている。そのスカート部分が…

    尊「今日穿いてたスカートに似てるね」

    覚「大人の女性、だな」

    美「いいでしょ、このマーメイドライン」

    太もも辺りからくびれて細くなり、膝下からは潤沢に布地が使われ、裾まわりは波打つ程になっている。

    覚「綺麗だ。うんうん…」

    美「え、お父さん、泣いてる?!」

    覚「娘をもう一人嫁に出すかと思ったら、こみ上げるものが」

    ト「お父さん…」

    覚「わー、そんな風に声かけられたら、涙が止まらないよ」

    尊「源三郎さんを差し置いて感動しまくってる。いい話だけどさ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    如古坊の楽しくも○○○思い出=13

    ナレ:駐車場からあの場所に向かい、時を待った。
    如:「その時がいつ来るのか分かりませんから・・・この一年、本当にお世話になりました。楽しく過ごせたのも皆さんのおかげです。先生にもお世話になりました。本当にありがとうございました」
    覚:「僕たちも、如古坊さんと過ごせたことが・・・こちらこそ、ありがとう。元気で。皆さんによろしくお伝え下さい。気を付けて」
    美:「如古坊さんとの思い出も私たちは忘れないから。身体に気を付けてね」
    尊:「如古坊さんも知っているように、これからも戦はある。でも、命を全うするまで生きて・・・絶対に自らなんて事はしないで」
    如:「尊・・・約束する、どんな事があっても生き抜くと・・・本当にありがとうございました」
    ナレ:四人が頭を下げた。すると挨拶が終わるのを待っていたかのように突風でみんなが顔を伏せた。そして風がやみ、覚と美香子と尊が顔を上げるとそこに如古坊の姿は無かった。

    =永禄=

    ナレ:如古坊は目を開けると暗闇。
    如:「戻れた・・・だが」
    ナレ:見渡すと敵に追われた場所と変わりはない。
    如:「同じ場所?・・・時間は?」
    ナレ:如古坊は自分が戻った時の場所について聞いたことがあった。唯の場合は戦国から平成に飛んだ場所と戻ってきた場所は違ったと聞いていたと尊から話を。
    如:「どうなんだ?」
    ナレ:すると、草を踏み音が聞こえ振り向くと、
    男:「何奴!」
    如:「えっ、過去?」
    ナレ:兎に角逃げたが追いつかれそうになった時、ポケットから拳銃を出し構えた。隠れていた月が出てきて、その月明りで男は自分に何かを向けているのが見え止まった。引き金を引いた。至近距離だった為か顔の前ではなく額に命中して胡椒が飛び出した。
    男:「なっ、痛い!痛い!・・・ハクション、ハクション」
    ナレ:痛みとクシャミが止まらず男はその場にうずくまる。その隙にその場から逃げ黒羽城へ一目散。
    如:「尊、ありがとう」

    ナレ:その頃、唯は信茂のスウェットを洗っていた。夕飯前に外に居た信茂が通り雨に濡れ、お気に入りのピンクのスウェットに着替えたが、食事中に小平太にちょっかいを出し、その弾みで汁を溢してしまった。唯が吉乃に命じられ洗濯していたのだった。
    唯:「なんで私が・・・明日だって。お湯じゃないし、冷たいし、はぁ、洗濯機が恋しい。しょうがないけど、もぉ」
    ナレ:文句を言いながら洗っていた。すると表で音がした。
    唯:「なに?」
    ナレ:戸口の側に行き、様子を見ていると人影が。
    唯:「誰?」
    如:「唯、私だ」
    唯:「私って?」
    ナレ:近づいてくる姿を見て、
    唯:「えっ?・・・にょ・・・如古坊?・・・でも、その格好・・・え~!」
    ナレ:そこへ忠清が来て、
    若:「唯、洗濯は済んだのか。支度が出来たのだが」
    ナレ:唯は外と忠清の顔を交互に見て、
    唯:「わっわっ・・・若君様」
    ナレ:草履を履き、唯の横に来て、
    若:「如何した。ん・・・如古坊?」
    じい:「唯、まだかのぉ。支度が出来たのだがの・・・どうしたのじゃ?」
    ナレ:戸口に側に来た如古坊を見て、
    じい:「・・・え~!」
    ナレ:信茂の声に小平太達が。普段から冷静である源三郎も驚きの声を上げた。常に冷静な吉乃は、
    吉:「話は奥で」
    若:「そっ、そうじゃの」
    ナレ:如古坊の周りを囲むように奥へ。
    唯:「若君様、あのTシャツ」
    若:「ん。ならば如古坊も」
    唯:「うちにって事ですよね」
    若:「そうであろうの」
    ナレ:二人も奥へ。如古坊の前に並んで座ったが、どう話を切り出していいのか分からずにいた。
    如:「何から話したら・・・私も唯の家、速川家で一年過ごしました」
    じい:「えっ!一年じゃと!」
    如:「はい」
    若:「如古坊、それは?」
    如:「はい」
    ナレ:敵方に見つかり逃げている途中でタイムスリップして平成に。木村先生に出会い速川の家に連れて行ってもらった。そして何度も戻る事に挑戦したが戻れず一年を過ごした。そして一年後の同じ日に戻ることが出来たと説明した。
    若:「速川家に居った事はその身なりで分かるが、たいむましんは?」
    如:「尊はタイムマシーン出はないだろうと言っていましたが、結局のところ原因は分かりません。戻るこ事も掛けでした」
    小:「そうであったか。で、如古坊」
    如:「はい?」
    小:「その袋から香ばしい匂い、もしや」
    如:「はい、そうでした。お父さんが皆さんに召し上がってもらいたいと」
    ナレ:リュックからペンギンのぬいぐるみを出してその後、タッパーを2つ出した。
    じい:「そのぬいぐるみは、ぺんぎんとか申した物ではないか。可愛いのぉ、わしにか?」
    如:「いいえ、これは私が気に入りましたので買ってもらいました」
    じい:「如古坊には似合わんぞ、わしにくれ」
    如:「お断りします」
    じい:「良いではないかぁ」
    小:「おじい様、その様な事を申してはなりません。おじい様にはしゃちがございましょう」
    信:「父上、さようです」
    ナレ:手を伸ばした信茂の両腕を信近と小平太が掴んだ。
    じい:「放すのじゃ!」
    ナレ:その様子を見て如古坊は笑い出した。
    吉:「如古坊殿どうされた?」
    如:「速川の皆さんが、このぬいぐるみを見た信茂様が欲しがり、お二人が止めるだろうと話していたので、本当にそうなったので可笑しくなって」
    若:「父上らにはお見通しであったのだな」
    ナレ:そう言われた信茂はシュンとなった。如古坊はリュックのポケットから小さな紙袋を出して、
    如:「これはお父さんが信茂様にと」
    じい:「ん?・・・・なんじゃ」
    ナレ:ペンギンとシャチのキーホルダーだった。
    唯:「キーホルダーね」
    じい:「これはどの様にするものじゃ?」
    ナレ:唯がつまみを外し、信茂の法被の結び目に引っ掛けた。
    唯:「此処を外すと取れるから」
    ナレ:信茂は二つを見て、
    じい:「これも、可愛いのぉ」
    ナレ:信茂の機嫌が直った。タッパーの側の袋の中身を唯が出した。
    唯:「靴下?・・・なんで?」
    ナレ:基本色とその色の濃淡の3足セットだった。
    如:「お母さんが、戦国に持ち帰った物もあるけれど、新しい靴下も必要だろうと。成之と阿湖姫の分もあります」
    ナレ:吉乃は残った物で良いと。先に信茂が持ったのがピンク系だった。
    唯:「だと思った」
    じい:「ん・・・如古坊?」
    如:「構いませんよ」
    じい:「ほれぇ」
    ナレ:唯の顔を見た。
    唯:「はいはい」
    若:「わしも残った物で良い」
    ナレ:小平太と信茂は緑系、源三郎は黄色系。唯がチェック柄の赤系は阿湖姫で、同じチェック柄の紫系を成之にと選んだ。残ったは茶系と青系が2組。吉乃は茶系を取り、青系を忠清と唯の前に置いた。
    唯:「若君とおそろっ」
    若:「唯?」
    唯:「お揃いって事ですよ」
    若:「さようか。お袋殿はその色で良いのか?」
    吉:「はい」
    唯:「お袋様良いの?」
    ナレ:そう聞きながらも唯はしっかり青系の靴下を握っていた。
    小:「唯、申しておる事と行動が伴っておらぬように見えるが」
    唯:「そんな事ないですよぉ。寒い時にはこっと・・・時代劇で見てると足袋履いてる人も居るけど、裸足が多いじゃん。こっちに来て本当だって思ったし、みんな我慢強いなぁって思っててのよね」
    如:「私も、常に裸足であったから、靴下を初めて履いた時は暑く感じた。でも、今は思わなくなった」
    じい:「そろそろ、ほれっ」
    如:「そうでした」
    ナレ:みんなは懐かしい匂いに笑顔になった。
    吉:「ただいま箸を」
    若:「このままでよい」
    ナレ:最初に忠清が手にして一口。
    若:「父上のレンコンのはさみ揚げは美味い」
    ナレ:みんなも食べていた。
    源:「唯様は召し上がらないのですか?」
    唯:「ちょっと、あの時の事を思い出してて」
    吉:「唯?」
    唯:「好きだけど結構食卓に出ててね。ちょっとだけ飽きた時期があって。でも、初めてこの時代に来て、その後、平成に戻った時は、満足に食べられなかったから、むさぼるように食べたけど・・・あっ」
    ナレ:吉乃の顔を見た。
    吉:「唯がこの世の料理と違う物を食していた事を知りましたから。気にする事な無いのですよ」
    唯:「お袋様」
    じい:「そうじゃの。色々知らぬものを食べた。まことに美味かった。ぴざとやらも美味かった。
    そうじゃ、餅も美味かったの。如古坊も食べたのかの?」
    如:「残念ながら、餅つき機が壊れていたので」
    じい:「さようか。のぉ、まだ袋に入っておるようだが」
    如:「そうでした。唯」
    唯:「なに?」
    如:「尊が作った物だ」
    ナレ:手動式マッチ、手動式洗濯機と掃除機を私、使い方を説明した。
    唯:「へぇ、そう。名前にひねりが無いなぁ」
    如:「ふっ」
    唯:「なに?」
    如:「お父さんも同じ事を言っていた。やはり親子だなぁと」
    唯:「そっ。でも、マッチは一つだとなぁ」
    如:「きっと唯は言うだろうと尊も分っていて」
    ナレ:別の袋から本体に装着出来る様に替え用5個を出し、戻るまでの間に時々作っていたと説明した。
    唯:「尊ありがとう」
    ナレ:それから覚と美香子からだとお徳用マッチ10箱、鍋掴みのセットと唯愛用のシャンプーと詰め替え用。
    源:「この大きな袋なのは、このように様々な品が入っておるからなのですね」
    如:「初めの頃は、もう少し小さな物でしたが、皆さんが特に唯を思って、このように」
    若:「唯、父上、母上、尊に感謝せねばの」
    唯:「うん。みんな有難う・・・でもさ、如古坊」
    如:「ん?」
    唯:「如古坊の話し方、家で話してるみたいで」
    如:「その事は皆さんに言われたよ。初めの頃はいつも通り話していたけれど、テレビの内容も分かるようになってから変わったのかもしれない。お父さんに言われて改めて気づいたくらいだから、自然にそうなっていたんだろうな」
    唯:「そうだったんだ」
    じい:「如古坊」
    小:「おじい様?」
    じい:「それが欲しいと申すのではない・・・わしらが唯と尊により危のう目から逃れる事が出来た。だが、それもたいむましんとやらがあっての事。平成に参った折も、戻れる手立てを尊が探してくれた。望みがあった。だが、如古坊は戻れる手立てが見つかぬまま、一年と長い年月を過ごした。戻れる手立ても無いままにの・・・どれほど」
    若:「そうじゃの。話す事もこの世とは違う物にならざるを得ない事態に立つ如古坊の不安はいかばかりか。我らには想像も出来ぬ事じゃの」
    如:「確かに不安はありました。でも、速川の皆さん、木村先生たちが親身になって下さり過ごした一年は私にとって掛け替えのないものになりました。木村先生も皆さんによろしくと言っていました」
    唯:「先生にもみんなを会わせてあげたかったなぁ」
    若:「そうじゃの」
    吉:「如古坊殿は、以前とは顔つきが違うように見受けられますね」
    如:「理容室に行きさっぱりしたからでしょうね。ははっ」
    唯:「祥んとこ?」
    如:「そうだ。友達が出来た。来ることがあったらまた来てくれと言われて」
    唯:「そうだったんだ」
    ナレ:唯はせんた君を持って、
    唯:「尊は分かってるよね。明日から使う。でも自動が良かったなぁ」
    ナレ:それを聞いて如古坊は笑った。
    唯:「なによ?」
    如:「尊もそう言うだろうって。でも、何か遭って感電したらって安全性を考えて手動に」
    唯:「そうなのねぇ。でも」
    吉:「良いではないか」
    唯:「まぁ」
    じい:「わしも洗濯するぞ」
    ナレ:如古坊は笑い、それも速川家では想像していたと。
    信:「父上の行動は読まれておるのですね。ははは」
    ナレ:信茂はふくれっ面。
    如:「そうでした」
    ナレ:如古坊はリュックの大きなポケットからクラッカーと畳まれた色紙の飾りを出し、
    如:「信茂様に」
    唯:「じいはうちの家族に随分気に入られてるのね」
    若:「じいの人徳であろう」
    唯:「人徳って言うか、じい自体が面白人間だからじゃないの」
    じい:「むじな、それは褒めておるのか?」
    唯:「またぁむじなって・・・そうですよ、褒めているんですよ。じいはみんなのマスコットだからね」
    じい:「ますこと?・・・なんじゃそれは?」
    唯:「可愛いって事ですよ。このぬいぐるみと同じです」
    じい:「さようか。ははっ」
    ナレ:信茂は色紙の飾りを首にかけ上機嫌。
    如:「その飾りは私が作ったのです」
    じい:「お主が。奇麗じゃよ」
    如:「ありがとうございます。それから唯と忠清に」
    若:「わしらに?」
    なれ:如古坊は雑誌のページを開き見せた。
    唯:「え~!若君じゃん」
    若:「まこと似ておるの」
    唯:「若君にもこんな格好させて、デートしたかったなぁ」
    ナレ:みんなも忠清そっくりな人物に驚いていた。その後、巾着袋からアーモンドチョコの箱を出して唯に渡した。唯は早速一つ口に。
    唯:「あま~い。また食べられるなんて」
    ナレ:若君は知っているが、食べる機会のなかった他のメンバーに如古坊がアーモンドの事を話してから食べさせた。
    源:「甘くて美味ですね。色々食べさせて頂きましたが、その中で、けえきとはまた違う甘さでございますね」
    信:「そうじゃの。これもまた美味い」
    ナレ:みんなチョコが気に入った。次にインスタントコーヒーの瓶を出して、
    如:「コーヒーも好きになりまして持たせてもらいました」
    若:「さようか。父上の淹れてくれたこおひいも美味だが、その物も?」
    如:「忠清が飲んだ物とは違うが、これも美味い」
    ナレ:忠清はその瓶を手に取り、
    若:「楽しみじゃの」
    ナレ:信茂がそれを持ちたいと言ったので忠清が渡すと、何故かもう一瓶を持ちマラカスのようにシャカシャカと音を立てて楽しんでいた。唯は何でもおもちゃにする天才だと思った。そして、リュックのポケットからUSBを2本。写真が入っている事は知っているが、2本を目の前にして、長い時を如古坊が過ごしたのだと言葉が出なかった。みんなの気持ちが分かり、
    如:「私は大丈夫です。さぁ、見ませんか?・・・でも、もう幕が?」
    小:「おじい様がまた写真を見たいと申されて、そこに如古坊が戻ったのだ」
    如:「そうですか。丁度良かった。では、皆さん見て下さい。それから唯」
    唯:「何?」
    如:「私が平成に行った三日後に元号が令和になって」
    唯:「れいわ?・・・そう言えば行った時そんなこと言ってたような」
    ナレ:如古坊はボールペンでキーホルダーの入っていた袋に令和と書いて見せた。
    唯:「これで令和ね。そっか、帰る?戻る?まっいっか。令和になるんだ。ねっ、若君」
    若:「そうじゃの」
    ナレ:現代に行く手立ても無いがそう返事をした。

    如古坊の楽しくも○○○思い出=14へ続く

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    四人の現代Days92~5日日曜5時45分、野望?

    尊は、もう少し体重があってもいいんじゃないか?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに下りてきた若君。

    若君「ん?おぉ、尊。早いの」

    尊「兄さん、おはよう」

    源三郎&トヨ「おはようございます」

    食卓に、尊と源三郎とトヨが座っていた。

    若「いかがした?」

    尊「僕、体を鍛えたいんです。源三郎さんとトヨさんに、兄さんが来るまで相談にのっててもらいました」

    若「ほぅ。瑠奈殿に関わる話か?」

    尊「わかっちゃいますよね。はい。実は昨日、彼女が転んだ時に支えきれず、一緒に倒れてしまって」

    若「それはならぬの。大事なかったか?」

    尊「はい、大丈夫でした。そこで、特に体幹、体の芯を鍛えるにはどうすればいいかなって」

    若「源三郎は、どう答えた?」

    源三郎「何事も満遍なくなさるが良かろう、と進言させて頂きました」

    若「わしも同感じゃな」

    尊「そうですか。わかりました」

    若「さては」

    尊「へ?」

    若「いずれは瑠奈殿を」

    そう言いながら、両手で下から抱え上げるような仕草をする若君。

    尊「えっ、お姫様抱っこですか?!」

    若「何処へ拐おうと?」

    尊「いえいえ!そんな予定はありません!」

    若「フフフ」

    源トヨが、キョトンとしている。

    源「瑠奈様が姫で?」

    トヨ「抱っこ?」

    尊「あ、そっか。説明が要りますね。と、言いつつ僕はまだできないし…兄さん、やって見せてもらえませんか?」

    若「良かろう。ならば尊、立て」

    尊「やっぱり僕?そうですよね、ではお願いします」

    若君が、尊をひょいとお姫様抱っこした。

    源「あぁ、あの。公園でくるりと回った折の」

    ト「くるくる、と仰っていたので、てっきりそう呼ぶと思っておりました。…いいですね」

    尊「兄さん、さすが。全然芯がブレてない」

    そこに、覚が下りてきた。

    覚「ん、ん?朝っぱらから何だ?!」

    尊「今後の展望についての話し合い」

    覚「抱えられながら答えるなよ。今朝の稽古は終わったのかい?」

    若「今からいたします。この尊姫と共に」

    尊「あ。はぁい、頑張りまぁす」

    覚「だから何の真似なんだ」

    朝ごはん後。写真館へ出かける為、それぞれ支度をしているのだが、なぜか美香子だけがバタバタと忙しそうに動いていた。

    唯「着てく服って、これでいいの?」

    美香子「あ、うん、いい。トヨちゃんも前開きのを着てるわよね」

    ト「はい」

    唯「お父さんも尊もスーツなのに?」

    唯と若君と源トヨは、ほぼ普段着に近い。

    美「トヨちゃん、髪まとめるから座って。その次は唯ね」

    唯「もしかして、なにか衣装着るの?」

    美「そうよ」

    唯「見に行ってないけど」

    美「唯と忠清くんのは、私があらかじめ決めといた。もうサイズもわかるしね」

    唯「へー?」

    美「源三郎くんとトヨちゃんのは、向こう行ってから決めるの。急遽お願いしたら、予約時間より早く行けば選ばせてくれるって話でね」

    話している間に、トヨの髪形が完成。

    唯「お団子になってる。小さく作ったね」

    ト「お母さん、ありがとうございます」

    美「はい、唯座って」

    唯「はいはい。あー?なんか見えてきた、見えてきたぞっ」

    ト「見える?」

    唯「ねぇお母さん、トヨの衣装って、ウェディングドレスじゃない?」

    美「当たり」

    唯「わーぉ!」

    美「明日の話が決まった時、そうだちょうどいい機会だわって思いついてね。はい、唯も出来た」

    唯の髪は、後ろ上半分を結び、頭頂部に少し高さを作ったハーフアップだった。

    唯「あ、たーくんとおソロだ」

    美「はい、次はお化粧するから、洗面所へ移動!」

    唯「忙しいな」

    洗面所に三人。お化粧スタート。

    ト「あの、伺ってもよろしいでしょうか。わたくしは、何を着せていただけるのですか?」

    美「あー、ウェディングドレスの説明が要るわね」

    唯「結婚式に花嫁さんが着る、キレイな衣装だよ!」

    ト「えっ…唯様の、あの飾られたお写真のような?」

    美「そうね」

    ト「まあ!」

    美「時間はあまりないけど、気に入ったドレスがあるといいわね。勿論、源三郎くんもタキシードよ」

    ト「それは…それなりにお代がかかるのではないですか?」

    美「もう、つつましいと言うか。家族写真だからみんなひっくるめてよ。唯達も衣装は着るし、トヨちゃんと源三郎くんの晴れ姿を是非見たくて。だから気にしない!」

    ト「わかりました。お気持ち、ありがたくいただきます」

    唯「二人とも、絶対似合うー。ところで、私とたーくんは何着るの?」

    美「現地でのお楽しみ」

    唯「へぇ?ま、いいや。トヨのドレス姿超楽しみだし」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    今までの四人の現代Days、番号とあらすじ、66から91まで

    no.923の続きです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    66no.924、12/28、忘年会は素敵な自宅レストランで

    67no.925、12/28、忘年会終盤。納得の理由と折り鶴

    68no.926、12/29、大掃除。ラブラブカップルが羨ましいトヨ

    69no.928、12/30、若君の墓に驚く源トヨ

    70no.929、12/30、墓についての見解

    71no.932、12/31、文明の利器で外回りの大掃除も捗る

    72no.937、12/31、両親の想い出話で後押しできるか

    73no.940、12/31、見守り隊は三人

    74no.941、12/31、プロポーズ完了。尊に新展開

    75no.943、12/31深夜、みつきは瑠奈推し

    76no.946、1/1、トヨの雑煮は時を超える

    77no.952、1/1、一歩踏み出してみた尊

    78no.953、1/1、尊の初デートの日程決まる

    79no.954、1/1、瑠奈のジタバタを観察

    80no.957、1/1、令和でもぜひ結婚式を

    81no.959、1/2、何人目でもいい唯が息災ならば

    82no.960、1/2、永禄と現代の匂い考

    83no.962、1/3、おせちもいいけどパンケーキもね

    84no.964、1/3、駅名は城が由来

    85no.966、1/4、準備がはかどり過ぎ。近隣の城の今は

    86no.967、1/4、心動かされながらデートスタート

    87no.969、1/4、城跡巡り。瑠奈の兄はイケメン

    88no.971、1/4、尊と唯の優しさがかいま見えた

    89no.972、1/4、やっぱり尊の女神なのかも

    90no. 974、1/4、リスペクトからのカップル誕生

    91no.976、1/4、木村と吉田の謎は解けるか

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    四人の現代Days91~4日16時、振り返りは大切

    学校行ってる内に聞いとけよ、って話。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    カフェのたけるな。ドリンクは、それぞれもう三杯目になっていた。

    瑠奈「はぁ。そろそろ帰んないといけないなぁ。名残惜しい~」

    尊「そうだね」

    瑠「同じ気持ち?」

    尊「うん」

    瑠「ふふっ。良かった」

    尊「あのさ、家にパソコンってある?」

    瑠「パソコン?私の部屋にあるよ」

    尊「比較的新しい?」

    瑠「お兄ちゃんのお古を、去年買い替えたばっかりだけど全然使ってない。どうして?」

    尊「ビデオ通話ができるんじゃないかな」

    瑠「え、それって、尊と大きい画面で顔見ながら話せるの?!」

    尊「うん。詳しいやり方は教えるよ」

    瑠「わぁ。尊って、パソコンにも強いんだ。どうしよう、知れば知る程好きになる」

    尊「照れるよ。大した事じゃないのに」

    瑠「お願いがあるの」

    尊「何?」

    瑠「通学時間、朝は急行乗ってもらっていいけど、帰りだけは一緒がいいな」

    尊「あー。いいよ」

    瑠「大事な時期だから、あまり尊の時間を取り上げたくない。帰り、ちょっとだけゆっくりになるけど」

    尊「気遣ってくれてありがとう。まぁ何と言うかさ、今は周りを刺激しない方がいいんじゃないかな」

    瑠「こっちは勉強で頭一杯なのに、お前ら朝からベタベタくっつきやがって、みたいな?」

    尊「ははは、そうだね」

    瑠「じゃあ、日中も我慢する」

    尊「それがいいと思う。ではそろそろ。暗くなる前には家に着いて欲しいし」

    小垣駅のホーム。電車がやって来た。

    尊「見送ってくれてありがとう」

    瑠「当然でしょ。今日は超幸せだった。あー、電車のドアが二人を分かつのね」

    尊「今生の別れじゃないからさ」

    ドアが閉まった。尊が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた瑠奈。

    尊 心の声(三日後にはまた会えるってわかってても、こんなに切なく感じるんだ。…二度と会えないってわかってて、お姉ちゃんを現代に送り出した時の兄さん、どれだけ辛かったか。今なら痛い程わかる)

    ぼんやりと、流れる景色を眺める。

    尊 心(恋愛は超初心者でからきしだけど、こうやって学んでいけるんだな…)

    尊「ただいまー。うぇっ」

    帰宅した尊に、一斉に視線が集中。皆、何か言いたそうな顔をしている。

    唯「どうだったどうだったどうだった!」

    尊「当たりが強いな。楽しかったよ」

    唯「るなちゃんとはこれからどうすんの?」

    尊「あー、付き合う事になった」

    一瞬、全ての音が静まった。

    唯「なにぃ~!尊のクセにあんなかわゆい子が彼女なんて、ありえない!」

    尊「クセにって。はいはい、そうですね」

    美香子「よ、良かったじゃない。ジェットコースター的な展開でちょっとびっくりだけど」

    唯「ねー、自分からコクったの?」

    尊「いや、向こうから」

    唯「うっそぉ!ますますありえない!」

    尊「ひでぇな。少しは肯定しろよ」

    唯「で、OKしたんだ。ヒューヒュー!ねぇ、なにが決め手だったの?」

    尊「決め手というか、兄さんが…」

    唯「は?なんでたーくんが出てくんの」

    それを聞き、騒ぎを遠巻きに見ていた若君が近付く。

    若君「わしが、いかがした?」

    尊「来た波には乗れば良い、って言ってたのを思い出したから」

    若「…吉田殿か」

    尊「そうです。ありがたい訓話の中で」

    覚「あの時か。そうかそうか。そうやって自分の身に置き換えられるのは、それだけ尊が成長した証拠だ。いやぁ、良かった良かった」

    唯「話が見えない。吉田?」

    尊「お父さんか兄さんに聞いて。鞄置いてくる」

    唯「あ、ねぇねぇ!頼みがあるんだけど」

    尊「何だよ」

    唯「違う吉田の話」

    尊「へ?」

    吉田城跡の話をする唯。

    唯「木村先生に、メールで聞いて欲しい」

    尊「わかった」

    若「尊、もう一つ、木村殿に尋ねて欲しいのじゃが」

    尊「何でしょう」

    若「語られてはおらぬが、木村政秀の末裔ではござらぬか、と」

    尊「あー。そっくりだって言ってましたね。わかりました。早速連絡しますね」

    美「あ、尊、あとね」

    6日の式の話を耳打ちした。

    尊「了解~」

    尊は二階に上がっていった。

    源三郎「写真を拝見した限りではございますが、お二方は瓜二つ」

    トヨ「私も驚きました」

    美「もし先生が武将の末裔だったなら、歴史を教えていらっしゃるみたいだし、アピールすればいいのにね」

    唯「なーんにも言ってなかったんだよね。聞いてもいないけど」

    若「語られぬ由があるのやも知れぬ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ありがたい訓話は、令和Days54no.658にて。

    4日のお話は、ここまでです。

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    如古坊の楽しくも○○○思い出=12

    ナレ:戻れなかった3月24日からもう直ぐひと月経つ。今の如古坊にとっても、いつもの生活を過ごしていた。夕飯が終わり夫婦仲良くソファに座りテレビを見ていた。尊と如古坊はオセロをしている。如古坊は次何処に置くか考えていたがふと思った。
    如:「尊」
    尊:「はい?」
    如:「この世に来て一年経つが、向こうの世界は同じ時間が流れているのだろうか?」
    尊:「タイムマシーンなら設定は1分だけど結果3分だった。例えば12ヶ月だから向こうの時間は36分くらいになるだろうけど、あくまでもタイムマシーンでの計算だから、同じ時間が流れているかもしれないし、全然時間が経っていないかもしれないし、過去に戻っているかもしれないし・・・ごめんなさい、僕には」
    如:「謝る事では」
    尊:「うん」
    ナレ:如古坊が黒の駒を置くと次から次へと黒に変わり如古坊の勝ち。
    尊:「だいぶ強くなったね」
    如:「そうか。だが、お母さんには勝てないよ」
    美:「年季が違うからね。あはっ」
    如:「そうですね。尊もう一番」
    尊:「うん。あっ、その前に」
    ナレ:尊は実験室へ行った。
    覚:「どうしたんだ?」
    ナレ:少しして戻って来た。
    尊:「渡そうと思っていた物。これも持って行って」
    美:「拳銃って、そんな物騒な物」
    尊:「違うよ。元はBB弾ピストル。それを改良したんだ」
    覚:「それを唯に?」
    尊:「これは如古坊さんに」
    如:「私に?」
    尊:「そう。もし同じ場所、同じ時間に戻ったとして、如古坊さんがこっちに来る切っ掛けになった敵と会ったらこれを使う様に」
    美:「どう使うの?」
    尊:「此処に胡椒玉が入っている。で、相手の顔めがけて引き金を引くと胡椒玉が顔の前で破裂して、目つぶしにもなるし、敵がクシャミできっと身動きできないだろうからその隙に逃げるって事」
    覚:「そう言う事か。で、その名前は?」
    尊:「ん~、今回は浮かばなかったんだ」
    ナレ:覚は思った。この作者、手抜きしたなと。
    如:「胡椒は私も経験したが、しばらく大変だった」
    ナレ:食卓に焼きそばが出された。みんなが胡椒をかけるので真似て、胡椒を吸い込んでしまいクシャミが止まらなかった。
    如:「だが」
    尊:「何か問題?」
    如:「大いなる問題。もしこれを信茂様が知ったらと思って」
    美:「教えない方が良いんじゃないかしら」
    尊:「そうかも。見つからないようにして」
    ナレ:もし信茂が知った場合は、特に小平太が被害に遭うのだろうと思った。そして、風呂に入る前に、もう一番。今度は尊が勝った。

    ナレ:4月26日の夕飯時に、
    如:「最後にもう一度、祥さんに髪を」
    美:「そうね。いいんじゃない。でも明日は月曜だから、お父さん乗せて行って」
    覚:「そうだな。予約は?」
    ナレ:美香子が佳津子に連絡して予約をお願いした。
    美:「2時なら大丈夫だって」
    覚:「分かった」
    如:「すみません」
    覚:「一人で大丈夫ですよね。送ったら僕はちょっと買い物に」
    如:「大丈夫です」
    ナレ:この一年で色々覚え、一人でも不安は無かった。
    如:「私は自分でも現代の者のように思います。お父さんと行ったスーパーも初めはキョロキョロしているだけでしたが、今は普通に買い物もできます。便利な物と思っていた物も今は特別にとも思わず使います」
    尊:「そうだね。でも、戻ると、如古坊さん戻るんじゃないでしょうか」
    覚:「そうだな。仕事で標準語で話していても地元に戻るとその土地の言葉になるとか聞くからな。如古坊さんも」
    如:「そうかも知れませんね」
    美:「祥さんに居なくなること話すの?」
    如:「そのつもりです。挨拶したいので」
    美:「そうね。もし、もしもの話だけど、戻れなかったとしたら、延期したとか適当に言えばいいだろうしね」
    覚:「そうだな」
    ナレ:如古坊は食器を持ち流し台に行き洗い始めた。
    覚:「僕がやりますから」
    如:「いいえ、洗わせて下さい。初めは驚きながらこの場に立っていましたが、今はスポンジに洗剤をたらし洗う、この作業も普通に思えています」
    覚:「そうですね。皆さんに話を聞いていたとはいえ、驚きもありましたよね」
    如:「はい」
    覚:「後は、僕が。如古坊さん、お風呂に」
    如:「すみません。じゃ、先に入ります」
    ナレ:風呂の用意をして湯船につかると、この広い風呂に入る事は無いのだなぁと。そして最初に入った時の事を思い出していた。
    如:「あ~あれから・・・一年。何度この風呂に入ったのだろう」
    ナレ:そう言って、すくい上げた湯を顔にバシャと。

    ナレ:翌日朝食の後、如古坊を祥に見せに送った。
    祥:「いらっしゃい。どうぞ。で、今日は?」
    如:「お任せします」
    祥:「ではシャンプー台へ」
    ナレ:洗髪を受けながら、もう人の手で洗ってもらう事は無いのだなと思っていた。鏡の前に戻り、
    如:「実は、旅に出るので」
    祥:「そうなんですか。仲良くなれたのに残念です・・・旅かぁ」
    如:「はい」
    祥:「宛ては?」
    如:「気ままな旅です」
    ナレ:聞かれたらそう答える様にと覚に言われていた。
    祥:「いいですねぇ。私も、そんな旅がしてみたいですよ」
    ナレ:如古坊はどう答えて良いのか分からず黙っていた。
    祥:「気を付けて下さいね。で、またこっちに来る事があったら、此処に来てくださいね」
    如:「ありがとうございます」
    ナレ:鏡に映る如古坊の顔が少し寂しい表情に見えたので話を変えた。
    祥:「この間、母にお見合いをしたらって言われまして」
    如:「おみあい?」
    ナレ:如古坊が意味を聞いたのだが祥はそのまま続けた。
    祥:「はい。私も、お見合いが嫌がって事じゃないんですけど、大恋愛ってなんて夢もあるので・・・可笑しいですか?」
    如:「いいえ」
    祥:「まぁね、ドラマみたいな」
    如:「ドラマ?」
    祥:「例えば、出会った時は最悪だったのに、その二人が愛し合う様に・・・ヒャ~、自分で言ってあぁ恥ずかしい。今の事は忘れて下さい」
    如:「はい、聞かなかったことに」
    祥:「まぁ、そんな事があるとは思えませんが」
    如:「夢を見る事はいけない事ではないと思いますよ」
    祥:「そうですよね。ほんと三吉さんって、良い人ですよね。一緒に居て和みます」
    如:「そう言ってもらえて嬉しいです。祥さんの奥さんになる人も幸せだと思いますよ」
    祥:「ありがとうございます。もう少し夢を見ようと思います・・・はい、今日も色男に出来ましたよ」
    ナレ:支払い方法も覚えた如古坊は支払いながら、現代の金をもう使う事は無いんだなと思った。札をジッと見ていた如古坊を心配して声を掛けた。
    如:「いえ」
    祥:「そう・・・三吉さん、元気で」
    如:「はい。祥さんも」
    ナレ:ドアノブに手を掛けると、
    祥:「あれっ、おじさん迎えに来ないの?」
    如:「道も分かりますので、歩いて行こうかと。一年居た場所を見ておこうと思いまして」
    祥:「そうですか。じゃ、気を付けて」
    ナレ:祥は表に出て見送った。
    祥:「三吉さんって不思議な人だったなぁ」
    ナレ:自分でもどこがと言う事ではないがそんな気がした。如古坊はゆっくり歩いて景色を見ていた。
    如:「もう、此処に来ることは無い。そうでなくてはいけないんだな」
    ナレ:しばらく歩くと消防署が見えてきた。消防士が作業をしているのを見ていた。消防士が主役のドラマを見たことがあった。
    如(心の声):(人の為に命をかけて、本当に大変な仕事だな)
    ナレ:すると見覚えのある車が如古坊の横で停まった。
    覚:「祥君に如古坊さんが歩いて帰ったって連絡をもらってね」
    如:「そうでしたか。すみません」
    覚:「いいんですよ。乗ってください」
    如:「はい。では・・・城跡を見たいので連れて行ってもらえますか?」
    覚:「いいですよ、行きましょう」
    ナレ:城跡へ向かい、駐車場に停めて二人は石垣まで歩いて行った。
    如:「忠清が450年の時の流れを痛感したと言っていました。話を聞くに私もそう感じましたが、忠清は我々の生きた証が此処に残っているとも。この世で一年暮らして感じたのですが、我々が滅びた後のこの姿を見る者が居る。それを私も生きた証と喜ばしく思えるのだと」
    覚:「そうですね。歴史とは人生。誰かの人生をまたその先の人が見るんです。歴史は続くって、誰かが言ってたな。誰だったっけ?」
    如:「お父さん?」
    覚:「いえ。じゃ、戻りますか」
    如:「はい」
    ナレ:如古坊は振り返り、石垣に向かい深々と頭を下げた。

    ナレ:27日の夕飯の後に荷物の整理をしていた。
    如:「尊」
    尊:「はい?」
    如:「明日、学校を休ませる事になって」
    尊:「大丈夫ですよ。気にしないで下さい」
    美:「そうよ。一日くらい構わないって」
    如:「それに、お母さんにも」
    美:「大丈夫よ。明日は午後の診察時間短縮したから。スタッフも患者さんも優しいから。今回だけだし、最後だからね」
    如:「はい」
    覚:「荷物になって申し訳ないんだが、レンコンのはさみ上げを持って行ってもらいたいんだけどな」
    如:「そうですね、みんなも喜びます」
    尊:「喜んでもらえるだろうけど、あまり作り過ぎない方が良いと思うよ。お姉ちゃんがお米の袋とか持って行った時のリュックくらいの大きさになると逃げる時に大変だよ」
    覚:「そうだね、加減するから」
    如:「沢山作って下さい。大丈夫です、体力には自信がありますから。唯が持てたのであれば、そのくらい私も持って走れますから」
    覚:「はい。じゃ、明日は朝から頑張るから」
    美:「それはいいけど、私たちの食事は忘れないでね」
    覚:「大丈夫さ。あはは」
    ナレ:そこに木村先生から電話が。
    木:《夜分すみません》
    覚:「大丈夫です。どうしました?」
    木:《明日は、見送りに行けないので、如古坊さんにご挨拶を》
    覚:「そうでしたか。如古坊さん、木村先生が」
    如:「今晩は」
    木:《今晩は。とうとう明日だね》
    如:「はい」
    木:《大丈夫、戻れるから》
    如:「信じています。先生にもお世話になりました」
    木:《いえ、私は何も。でも、素敵な経験が出来ました。あなたに会えたことが》
    如:「ありがとうございます。先生、身体に気を付けて下さい」
    木:《ありがとう、君も気を付けて。じゃ、明日は会えないけれど、君の事は生涯忘れないよ。ありがとう》
    如:「礼を言うのは私の方です。先生の事も忘れません。戻りましたら先生の事も唯や忠清たちに話します」
    木:《ありがとう。では、皆さんにもよろしくとお伝えください》
    如:「はい。では、失礼します」
    ナレ:電話を切り、木村先生の言葉を伝えた。
    覚:「先生には本当にお世話になったな・・・お母さん?」
    美:「先生、遠慮してくれたのかもしれないわね」
    覚:「遠慮?」
    美:「出来るだけ立ち会ってくれていた先生が、最後とした日に見送れないって事は無いんじゃないかなって」
    覚:「う~ん」
    美:「最後だから、私たち水入らずでって考えてくれたのかもなぁって思ったのよ」
    覚:「そうかも知れないな」
    如:「私もその様に思います」
    ナレ:みんなは電話機の方を見ていた。お休みと挨拶をして尊の部屋に。本棚の古い本を手にして、
    如:「忠清に聞いたのだが、歴史を知る本があったと。これ?」
    尊:「そうです。若君に先に起こる事態を知り天下でも取るのかと聞いたら、そんな事は考えていなくて、みんなの為に先に起こる事を知り、みんなを守るのだって」
    如:「忠清らしい。穏やかな世の中にしたいと言っていた」
    尊:「若君が戦国に戻る前に、この穏やかな里で暮らせたらって」
    如:「忠清の気持ちは良く分かる。私もこの世を知らなければ思う事も無かっただろう。でも、一年暮らしていて、ならば自分もこの世界で生きていたいと思ったのだから」
    尊:「まぁ、当然かな」
    如:「だが、私は戦国時代の人間だ・・・私は、此処での暮らしは生涯忘れません」
    尊:「僕たちも忘れません。だって、如古坊さんとの思い出が多いですから」
    如:「そうだな。でも、信茂様がその言葉を聞いたら、肩を落とし残念がるだろうな。私に色々なは事を話してくれた。とても嬉しそうに」
    尊:「そうかも知れませんね・でも、それだけ此処の生活を楽しんでくれた事、僕たちは嬉しいです。じゃ、休みましょうか」
    如:「あぁ。おやすみなさい」
    ナレ:尊が灯りを消した。

    ナレ:決戦の日。朝食、昼食と忘れず覚は用意をして、その後レンコンのはさみ揚げを黙々と作っていた。如古坊を祥の店に送り届けた後、大きめのリュックを買ってきていた。前回のリュックから入れ替えていた。ぬいぐるみは道具やタッパーにつぶされるだろうと最後に入れる事にした。診察を終えて戻ってきた美香子が、
    美:「コーヒーはこの前より賞味期限の遅い物に。これをね」
    ナレ:前回は1瓶だったが、2瓶用意した。
    如:「ありがとうございます。これでしたら当分飲めますね」
    美:「若君も好きだったしね。インスタントだけどね。でも楽しみね」
    尊:「お母さん?」
    美:「この雑誌を唯が見たらって思ったら」
    尊:「そうだね。はしゃぐ姿が目に浮かぶよ」
    如:「そうだな」
    ナレ:如古坊がリュックに胡椒玉のピストルを入れようとした。
    尊:「これはポケットに入れていた方が良いよ。鉢合わせでもしたら直ぐに使える様に」
    如:「そうだな。これがあるから安心だよ」
    ナレ:如古坊がチョコの箱を入れようとしたが、揚げ物と一緒だと溶けてしまうからと尊が巾着袋を作りその中に入れて、リュックのフックに掛けた。タッパー2つ。
    尊:「随分作ったね」
    覚:「入りきらない分は夕飯に・・・用意が出来たら行きましょうか」
    如:「はい」
    ナレ:如古坊は家の中を見回し深々と頭を下げた。如古坊はこの時、二度とこの家には戻らないとそう感じていた。今度こそ戻れるような。でも、それは三人には言わずにいた。

    如古坊の楽しくも○○○思い出=13へ続く

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    四人の現代Days90~4日14時、ゴールいやスタート

    相当、騒がしかっただろうな。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    こちら、速川家のリビング。

    美香子「唯、ちょっと」

    唯「なに?」

    隅に呼び、小声で話す母。

    美香子の囁き「源三郎くんとトヨちゃんの結婚式、6日の夜にするから」

    唯の囁き「ラジャ。芳江さんもエリさんも、それでいいの?」

    美 囁き「さっき連絡したらね、是非参列したいし、そういう理由なら一日でも早い方がいいって、お二人とも言ってくださったの」

    唯 囁き「そうなんだ。年明け初日で疲れてるのに悪いね。その分、パーっとやろうよ」

    美 囁き「忠清くんにこっそり言っておいて。尊には帰ったら伝えるわ」

    戻って、たけるなの二人。電車に乗っている。

    瑠奈「小垣で降りてくれるの?」

    尊「うん、どこかいい所ある?」

    瑠「みつきとかとよく溜まってるカフェがあるの。そこでいいかな」

    尊「わかりました」

    小垣駅。改札を抜け、歩き始めた。

    尊「ここだけ、和、だね」

    駅前に、立派な生け垣がある。

    瑠「うん。代々小垣に住んでる父親が言ってたけど、これは由緒正しいお庭なんだって」

    尊「へー」

    カフェは、駅から3分程の距離にあった。

    尊「お洒落なお店だね」

    瑠「でしょ。この辺りにしては」

    外を眺められる、窓際の横並びの席についた。

    瑠「向かい合わせより、こっちの方が尊には良さそう」

    尊「お気遣いありがとう」

    ドリンクで少し落ち着いた後、尊が話を切り出した。

    尊「あのさ。どうして、僕、なのかなって」

    瑠「質問というより、疑問?」

    尊「どこがそんなに気に入ってもらえたのか、わからなくて」

    瑠「そうなの?ふーん。では、時系列に沿って説明します」

    尊「お願いします」

    瑠「クラスメートの一人という認識だった尊の存在が気になり出したのは、12月15日。カラオケでばったり会った時ね。その時にも言ったけど、気遣いができるジェントルマンだなーって。話しやすくてびっくりしたし」

    尊「うん」

    瑠「決定的になったのが、18日のホームルーム」

    尊「あぁ、あの。あれは先生が悪いんだよ。羽木一族が滅びたのは、備えが足りなかったんだ、お前らはそうなるな、なんて、根も葉もない話を軽くするから、つい手を挙げて」

    ┅┅回想。その時の尊┅┅

    尊「先生、それは違います。近年継続中の調査で、滅びた時期も、滅びたかどうかも未確定に変わっています。なので、備えが足る足らないは引き合いに出せなくないですか?当時は皆、波乱の時代を一所懸命に生きていたんです。羽木一族に謝ってください。羽木家は…」

    ┅┅回想終わり┅┅

    瑠「まるで身内を庇うみたいだったよ。そこで、尊が黒羽市に住んでるって知って、地元愛が素晴らしいなって」

    尊 心の声(身内は庇うよ。つい、でしゃばっちゃったけど)

    瑠「その後の、尊のよどみなく出てくる知識がすごかったから、先生オロオロしながら謝ってたね。尊すっごく輝いてた。で、続きを聞きたいメンツだけ、放課後残って話聞いたじゃない。聞いててもう、尊敬の一言しかなくて、そのままキューンって、心をわしづかみにされたの」

    尊「尊敬なんて、おこがましいよ」

    瑠「地元の歴史ってさ、受験に関係ないじゃない。なのに尊、あんなに詳しくて、それでもって熱く語って…もぅ、たまらなくかっこ良かったよ」

    尊「なんか、恥ずかしいな」

    瑠「日を追う毎に、私の中で尊の存在が大きくなっていったの。クリスマスは、会えて超超嬉しかったんだけど、突然、本物が目の前に居る!って、訳わかんなくなっちゃって、平静を装うのが精一杯だった」

    尊「そうだったんだ。気付いてなかった」

    瑠「で、元日はバタバタしちゃったけど、ちゃんと気持ちを汲み取ってくれて、感動しっぱなしだったよ。そして今日一緒に居て、いっぱい尊を知れて、楽しくて仕方ないの」

    尊「僕はそんな立派な人間じゃないよ。瑠奈を支えられる体力もないし」

    瑠「ムキムキとか貧弱とか、関係ないレベルの話だよ。もう、私の頭の中では、このヒトだ!って鐘が鳴ってる」

    尊「鐘?ゴーン、って、お寺の?」

    瑠「…ぷっ」

    尊「え?違った?」

    瑠「違うー、教会で鳴らす、リンゴーンって方!もー、尊ったらぁ」

    尊「そっか、失礼しました」

    瑠「あは、あはは」

    尊「そんなに笑わないで」

    瑠「やだもう、じわじわ来る。あははは!尊、面白ーい!」

    尊「面白い…」

    笑い転げる瑠奈を見つめる尊。

    尊 心(はっ!兄さん、僕…)

    笑顔の瑠奈が、外の光にも照らされ、輝いている。

    尊 心(兄さんが言ってた面白いの意味、わかったような気がします)

    瑠「ふう。笑い過ぎちゃってごめんなさい。あのね」

    体ごと、尊の方に向いた瑠奈。尊も、瑠奈の方に体を向けた。

    瑠「わかってくれたかな。尊をすっごく尊敬してて…もう、散々言ってるからわかるよね?すっごく好きなの」

    尊「ありがとう。まだ信じられないけど、嬉しい」

    瑠「大事な時期だし、黙っていようと思ったけど、無理だった。私の恋愛の師匠はみつきだしさ」

    尊「あぁ。はい」

    瑠「私の事、嫌じゃなかったら、付き合ってください」

    尊「…」

    瑠「…嫌、かな」

    尊「嫌じゃないよ。なんで僕?って未だに思うだけ」

    瑠「じゃあ…」

    尊「僕で良ければ、よろしくお願いします」

    瑠「ホントに?!…うっ、うっ」

    尊「えっ」

    瑠「うわーん!嬉しいよー!」

    尊「わー、そんな豪快に泣かないで!えーと」

    鞄からハンカチを出し、瑠奈に渡した。

    瑠「これ、は?」

    尊「お母さんが、ハンカチは二枚持ってけって…だから、使って」

    瑠「尊、かっこ良過ぎる~、うえーん!」

    尊「三枚必要だったかな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    もう少し続きます。

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    如古坊の楽しくも○○○思い出=11

    ナレ:聡子は速川家に立ち寄った。
    覚:「熊田さんも有難うございました」
    聡:「私は何も」
    尊:「お母さん」
    ナレ:美香子は幸子の気持ちと孝の事と自分達の思いを話した。
    覚:「そうだったんだな。如古坊さんの雰囲気を読み取ったのかもね。熊田さんが仰るような事を孝君も思ったと僕も思います。だから、会って間もないのに此処に来たんだと。如古坊さんの中に父親を感じたのだと思います」
    美:「そうね。それで、プレゼント喜んでくれてね、大切にしますと伝えてって。でも、どうしてネクタイだったの?」
    如:「孝君の大人になった姿を想像して、きっと立派な大人になるだろうと。お父さんから、ネクタイは武士でいう刀みたいな物だと聞いて」
    覚:「何が良いかと聞かれていた時、ニュースでサラリーマンが映っていて、ネクタイはどうかって。就職した時に使えるって。で、そう説明したんだ」
    美:「そう言う事ね。孝君がネクタイ締めた姿見てみたいわね」
    覚:「そうだな」
    ナレ:無理だと分かっていたが否定する言葉は言えなかった。
    聡:「私は幸子さんも如古坊さんも会ったのも数回だけど、似た者同士だなって思ったわ。二人のの気持ち。寂しい事だけど」
    如:「叶わないと知りつつ、孝君の父親になんてことも」
    覚:「二人を引き合わせた神様に文句が言いたいよ。幸子さんは幸せな思い出だと。でも、こんな悲しい思い出が二人に。それをした神様をね」
    如:「お父さん、有難うございます。でも、私は二人に会えた事、本当に良かったと思っているんですよ。私はこの世に来なければ生涯、誰かに好意を持ち共に過ごしたいと思う女性は現れなかったと思っています。生きていた中にその様な方に出会えた事を私は神様に感謝しています」
    覚:「僕が女だったら、一緒に戦国に行って良いって思いますよ」
    尊:「お父さん、キモイよ」
    覚:「親に向かってキモイは無いだろうぉ」
    尊:「ごめん、ごめん。でも、きっと如古坊さんも戦国に戻ったら素敵な女性が現れますよ」
    美:「そうね。でも、如古坊さん」
    如:「はい?」
    美:「添い遂げようと思う女性が現れても絶対、幸子さんと比べてはいけないわよ、その人に失礼になりますからね」
    聡:「そうかも知れない。でも、酷な言い方になるけど、幸子さんを封印と決めつけると、それがずっと心に残るからふとした時に、その名前が出てしまうんじゃないかしら」
    美:「それは?」
    聡:「まぁ、これは実体験なのね。主人が私と出会う前に大恋愛してね、結婚まで考えていたけども、ドラマみたいな話だけど、彼女の親が会社の為に結婚してくれって頼まれて、両親の事を思って主人と別れたのよ。その後、私と付き合うようになった時に決して彼女の事は私に知られないようにって決めたって。こっちにすれば余計な事だって思うんだけど、主人は勝手にそう決めたって。でも、言わないように出さないようにすればするほど出てしまう事ってあるでしょ、案の定、新婚旅行の時に呼んだら、振り向いた彼が言ったのは私名前じゃなくて、自分で分かったんでしょうね動きが止まって」
    美:「えっ」
    聡:「私も、えって言ったわ。慌てて誤魔化しているから問い詰めて聞き出したわ。私だってお付き合いした人達は居たわよ。憎くて別れたわけじゃない彼とは今も友達よ。主人も初めは戸惑っていたけど、今はその彼とゴルフに行く仲よ。で、主人は彼女の事は絶対心の中に仕舞って置こうって決めたって。でも、それって、言い換えれば、ずっと心の中に彼女が居るって事でしょ」
    美:「そうよね」
    聡:「だから、私は、如古坊さんが出会った人がどんな人かは分からないけれど、話せる範囲でその人に話した方が良いと思うの。タイムスリップの事は言えないでしょうけど。私はそう思うのね。まぁ、判断するのは如古坊さん自身だけど」
    如:「私には難しい課題ですが、熊田さんの話を聞いて、思い出さないようにする事は幸子さんにも失礼かと。相手の方には話して幸せな思い出を共有し、そして、その方とも幸せな思い出が作れるようにします」
    覚:「やっぱり、惚れちゃうねぇ。あはは」
    ナレ:如古坊の困り顔にみんなが笑った。

    ナレ:問題の日。3月24日の朝を迎えた。朝食を摂っている時に、如古坊が着ていたカーディガンのから見えるTシャツを見て、
    覚:「そのTシャツにあの素敵なジャケットってどうかと思うんだけどな」
    ナレ:ジャケットはテーラーに勤めている熊田宗之が仕立てた物。記念にと作ってくれた。
    如:「私はこのふてぶてしい猫が気に入りました。尊に聞きましたが忠清も着ていたと」
    覚:「そうですけど」
    美:「いいじゃない。もしかしてお父さん」
    覚:「僕が欲しいって事じゃないよ」
    尊:「そう言えば、若君がTシャツ着てたのって、どうして?」
    美:「若君がMRIを撮って戻ったら、病室じゃなくて唯の部屋にと考えて、前の番片付けしてた時に、タンスの奥に袋があって見たらタグもついていて。で、若君が戻って来て横になりたいって言ったから、丁度いいと思って」
    尊:「そうだったんだ。お姉ちゃん着てくれなかったからね。でも、戻ってきた時に若君が着ていたって話したら着る様になって」
    如:「そうだったのか」
    覚:「でも、ちょくちょく洗ってたけど、なんかそれって新しいように見えるけど」
    尊:「如古坊さんに話してきてもらったけど、首の所がヨレってなってたから探してみたら、出展されてて、それを買ったんだ」
    美:「他に持っていた人が居たなんてね」
    尊:「うん」
    覚:「でも、本当にいいんですか?」
    如:「私は気に入りましたので。ははっ」
    ナレ:その後、昼食を摂り、時間的に夕飯代わりの弁当を作り持たせた。ふぁ之助君と手動洗濯機の名前はせんた君。それを聞いた覚が何処かで聞いた事あるような名前だと笑った。そして若君そっくりなモデルの載っていた雑誌とペンギンのぬいぐるみ、写真データ、幸助からのオセロゲーム。唯と羽K気味が好きなアーモンドチョコとインスタントコーヒーを入れてパンパンのリュックを背負い、服装はジーパンと肉食系フテ猫のTシャツにジャケット。
    美:「私の用事も今日は無いから見送りに行けて良かったわ」
    ナレ:毎回、美香子も着いて行ったのだが一度だけ、どうしても外せない用事が出来て見送りに行けない事があった。
    美:「じゃ、行きましょうか」
    如:「はい」
    ナレ:如古坊は家の中をぐるりと見てから、深々と頭を下げ、
    如:「お世話になりました。名残惜しいですが、此処へは戻らず・・・行きましょうか」
    ナレ:車に乗り込み、あの場所へ。木村先生も待っていた。そして時を待ったが、しばらく経ってもなのも起らなかった。
    如:「駄目のようですね」
    木:「やはり、4月28日なのでしょう。きっとそうですよ」
    覚:「そうですね・・・帰りましょ」
    如:「はい」
    ナレ:駐車場に戻り、木村先生と別れた。
    覚:「夕飯何処かで食べて行きますか?」
    如:「私は、お父さんが作ってくれた弁当が食べたいです」
    覚:「そうですか」
    美:「私たちはある物で良いわよ」
    覚:「じゃ、このまま戻りますか」
    ナレ:何処にもよらずに戻った。如古坊は玄関に入り頭を下げた。
    如:「しばらくお世話になります」
    ナレ:三人は黙って見ていた。来月には必ず帰れると信じて。それから尊は勉強の合間に実験室で何か作業していた。そして、尊は大学に合格。お祝いにと豪華な食事のリクエストに尊は如古坊が気に入っていたブランド牛肉のステーキをリクエストした。如古坊は尊の祝いなのにと恐縮していたが、その好意を素直に受け頬張った。その姿を三人は笑顔で見ていた。そして食後に尊が黒い塊を持ってきた。
    美:「何?」
    覚:「洗濯機とは違うようだけど」
    尊:「今度は掃除機。お姉ちゃん掃除苦手だったから。戦国でもそうだろうなぁって思って」
    如:「私は唯が掃除をしている姿を見ていないので分かりませんが」
    美:「そうね。その、掃除機かけさせても丸くしてたわね」
    如:「丸く?」
    覚:「部屋には大概、角がありますよね」
    如:「そうですね・・・あっ」
    覚:「そう言う事です」
    美:「で、それを・・・楕円形ね」
    尊:「亀をイメージして作ったんだ。背中の甲羅みたいなものはソーラーパネルで、電気はここからでOKにすると自動的に動く。本家と同じ様に物が有れば避ける様にセンサーが付いてる。でも、自分で元に戻る為の場所の設置だとソーラーだけだと無理だから、戻る装置は無いくて、止まるまで動いてる」
    覚:「それだけでも凄いよ。うち用も作って欲しいな」
    尊:「完璧に出来るまで待って。で、ごみはお腹の部分に蓋が付いているからそこから出して捨てて。太陽に当てないと充電は出来ないから。でも、この大きさだから満タンでも一回の操作は5分くらい」
    覚:「五分もあれば意外と掃除できるから大丈夫だろう」
    尊:「そうなんだね」
    美:「これの名前は?」
    尊:「ジャジャジャジャーン・・・スタート君」
    覚:「えっ?・・・なんで?・・・で、ひねりあるか?」
    尊:「亀はタートルって言うのよく聞くけど、それはウミガメを指すらしくって」
    覚:「よく聞くな。で?」
    尊:「他にトータスともいうんだけど、それはリクガメの事らしいから、この場合はリクガメって」
    美:「それは分かったけど」
    尊:「トータスを後ろから読んでスタート・・・やっぱり・・・かなぁ」
    覚:「もう一つひねりがなぁ」
    美:「別にいいんじゃない。覚え易いし」
    覚:「まぁ・・・そうだな」
    ナレ:覚は思った。これまでのネーミングについてこの作者のセンスはこの程度かと。
    如:「すたぁと・・・聞いた事があるが」
    尊:「始まりとかで使われますね」
    如:「始まりか。良いではないか。唯は喜ぶだろう・・・だが」
    美:「如古坊さんが考えてること分るわ。これも信茂様のおもちゃになるだろうって」
    如:「分かりますか。ははは」
    ナレ:信茂の追いかけている姿が浮かびみんなは同じタイミングで笑った。

    如古坊の楽しくも○○○思い出=12へ続く

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    四人の現代Days89~4日11時30分、二歩進んだ

    たけるなペア、三歩目に進むか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    参道を歩いている、尊と瑠奈。

    尊「砂利って、歩きにくいよね」

    瑠奈「ヒールの靴よりは、ブーツで正解だったけど。参道、長いよ」

    尊「気をつけて」

    瑠「うん。きゃあ!」

    尊「え、わー!」

    石に足をとられ、ずるっと滑ってしまった瑠奈。尊の方によろけてきたのだが、

    尊「痛っ…」

    瑠「ごめんなさい!大丈夫?!」

    尊は支えきれず一緒に倒れてしまい、尻もちをついていた。

    尊「大丈夫。手袋もしてるし。瑠奈こそケガとかしてない?」

    瑠「うん。どこもなんともない」

    尊「ごめんね。支えられなくて」

    瑠「謝んないで。とっさの事だもん、仕方ないよ」

    尊 心の声(僕はなんて非力なんだ。兄さんなんか、お姉ちゃんがぴょんと飛びついてもびくともしない。体幹を鍛えないと…)

    神社を後にした。

    瑠「お昼って…」

    尊「一緒に食べるつもりだったけど。軍資金も貰ってるし」

    瑠「わぁ、ホントに?嬉しい!どこに行こうかな…あっ」

    前方に、ファーストフード店を発見。

    尊「あ、ちょうどいいところに。知らないお店だとよくわからないから、あそこでもいい?」

    瑠「ジャンクフード的な物だけど、いいの?」

    尊「ファーストフードは食べるよ」

    瑠「そうなんだ、じゃあ行きまーす」

    注文した品をトレイで運び、席についた。二人ともコートを脱ぐ。

    尊 心(中はそんな感じだったんだ)

    瑠奈は、鮮やかなサーモンピンク色の、Vネックのセーターを着ていた。

    尊 心(シャケの切り身ってこんな色だよな)

    瑠「どうしたの?服、派手かな」

    尊「あ、いや、美味しそうだなって」

    瑠「…」

    尊「え?」

    瑠奈が、悪戯っぽく微笑む。

    瑠「私を、食べたい?」

    尊「…わぁ!そうか、そう聞こえるよね、ごめんなさい!失言です」

    瑠「失言なの?えー私、尊なら…いいのに」

    尊「いい。…いい?!えっ、あっ、その」

    瑠「焦ってるぅ。かーわいい!」

    向かい合って座り、食事を始めたのだが、

    尊 心(あー、まだ心臓バクバクする。それに、目のやり場に困るよ。顔を見ると恥ずかしいし、かといって視線を落とすと…)

    瑠奈は、かなり豊かな胸の持ち主だった。

    尊 心(もっと恥ずかしい)

    瑠「尊~、どうしてこっち見てくれないの?」

    尊「ごめんなさい、距離の取り方がわからなくて」

    瑠「そんな理由?」

    尊「僕、友達も居ないから、こういうの慣れてないんだよね」

    瑠「えぇ?言ってる意味がわからない。友達?クラスの子は、みんな友達じゃない」

    尊「それは、瑠奈はそうかもしれないけど」

    瑠「友達か、そうじゃないかの線引きって要るの?それってさ、尊が自分から周りに線引いてるんでしょ」

    尊「…瑠奈にはわからないよ」

    瑠「ほら!そうやって、私にも線引いてる」

    尊「…あっ」

    瑠「気付いてなかったんだね」

    尊「ごめんなさい」

    瑠「尊がそうしなければならない程、かつてどう辛かったかは、私はわからない。それはこちらもごめんなさいだよ。でも今の尊には友達、仲間がたくさん居る。ちゃんと周りを見て欲しい」

    尊「…」

    瑠「一人ぼっちじゃない。自分から、わざわざ孤立しなくてもいいでしょ」

    尊「はい」

    瑠「ねっ。でもね、尊は、私に言わせれば孤立や孤独というよりは、孤高って感じだけどね。かっこいい」

    尊「はは、ありがとう」

    瑠「ふふっ。どういたしまして」

    尊 心(瑠奈は…こんな僕を変えてくれるのかもしれないな)

    尊「あの、実は」

    瑠「なぁに?」

    尊「質問が二つあって」

    瑠「私に?えー、なにかな」

    尊「一つ目。名前ってさ、やっぱり月が由来なの?」

    瑠「あー。うん。私ね、満月の夜に産まれたんだって」

    尊「えっ、満月?!」

    尊 心(やはりこれは、運命なのか?!)

    瑠「そんなに驚く?でね、空に浮かぶ丸い月があまりに美しくて、他の候補だった名前を全部なしにして、月の女神の名前からとったんだって。漢字は両親が考えてね」

    尊「そうなんだ…」

    瑠「だからね、満月の夜は、必ず空見ちゃう」

    尊「僕も、満月の日は気になって見上げるよ」

    尊 心(空だったり、実験室の天井だったりするけれど)

    瑠「そうなの?!わぁ、またお揃い、嬉しいな。で、二つ目は?」

    尊「二つ目は…もう少し後で聞くよ」

    瑠「やだ、嬉し過ぎる。まだ一緒に居られるんだね」

    尊「あ、うん。そうだね」

    瑠「わぁ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    まだまだ続きます。

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    四人の現代Days88~4日11時、はなむけの

    みつき大明神、と呼ぼう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    神社は、賑わっていた。

    瑠奈「はい、合格祈願の御守、プレゼント!」

    尊「もらっちゃっていいの?」

    瑠「約束したもん」

    尊「ありがとう」

    瑠「恋愛成就のも買おうか悩んだけど、混んでて。尊を待たせちゃ悪いと思って、やめた」

    尊「そ、そう」

    瑠「御守なんかなくても、願いが叶うといいなー」

    尊「…」

    尊 心の声(あ、そうか。相手が誰かはわからない。自分だと思うなんて、自惚れもいいトコだ)

    瑠「ねっ、尊」

    尊「あ、はい」

    尊 心(えー、これはわからない…)

    瑠「でもね、下手に恋愛成就の御守持つより、みつきを拝んでた方が御利益ありそうなんだよねー」

    尊「そうなの?」

    参道を歩きながら話し出す瑠奈。

    瑠「みつきと彼ね、幼なじみなの。彼が三つ上。みつきとは中学校から一緒だけど、その時にはもう彼氏彼女になっててね」

    尊「へぇ、中一の時に高一の彼か」

    瑠「みつき、小さい頃から彼が好きだったんだって。それでね、ずっと心に秘めていたんだけど、彼が中学校に上がる年に考えたらしいの。小学校と中学校に分かれてしまうから、目が行き届きにくくなる」

    尊「他の小学校からも来るしね」

    瑠「よくさ、好きな人が知らない女と仲良くしてるのを物陰から見て、悶々としてるシチュエーションとかあるじゃない。主にドラマだけど」

    尊「うん」

    瑠「みつきはそんな子じゃないのは、なんとなくわからない?」

    尊「わかる」

    瑠「だからね、断られたらどうしようとか、今後気まずくなったらどうしようとかは杞憂だ!って、彼が中学校上がる春休みに、付き合ってくださいって告白したんだって」

    尊「え、って事は、小四になる年に?!それはミッキーさん、すごいや」

    瑠「で、やっぱり杞憂は杞憂で正式にお付き合いが始まったと。だから長いよー。もうね、みつきっていつもは強気なのに、彼氏にはメロメロなんだよ。かわいいでしょ」

    尊「わかるよ。元旦の初詣の時、ミッキーさんの彼が来るまで一緒に待ってたんだけど、会えた途端、顔つきがガラッと変わったからさ」

    瑠「え…?ちょっと待って、みつきの彼が来るまで?」

    尊「うん。一人にしとくと危ないじゃない」

    瑠「尊、家族と来てたんじゃないの?」

    尊「家族に、一緒に居てあげなさいって言われたし、僕もその方がいいと思ったし。確かに優しそうな彼氏さんだった。無事見届けてから、家族とはすぐに合流したよ」

    瑠「えっ。ちょっと、こっち来てくれる?」

    瑠奈が、かなり驚いた顔をしながら、参道の脇に尊を呼ぶ。

    尊「どうしたの」

    瑠「そんな話、今初めて聞いたからじっくり聞きたくて」

    尊「ミッキーさん、言ってなかった?」

    瑠「言ってたかな…あっ、そうか。私あの時、動画観て頭に血がのぼり過ぎて、言い訳はいらない!ってLINEした…」

    尊「それは…ミッキーさんに同情するなぁ」

    瑠「わー、後でみつきに平謝りしとく。っていうか!尊!」

    尊「矛先が変わったぞ」

    瑠「なんで黙ってたの!」

    尊「えぇっ、僕が怒られるの?!」

    瑠「もー、かっこ良過ぎるでしょ!ますます、惚れ直しちゃったぁ」

    尊「あの、心の声的なモノが、丸々聞こえてますが…」

    尊 心(ミッキーさんも瑠奈も、なんでこうもストレートに正面からぶつかってくるんだろう。心臓がもたないよ)

    さて。変わって速川家。城跡巡りから帰ってきた。

    源三郎「つくづく、車とはなんと速い乗り物、でしょうか」

    若君「山越えをせなんだとはいえ、あぁも速く、小垣に着くとはのう」

    覚「まぁ、道路も整備されてるしね。さて、昼ごはん作るか」

    トヨ「お手伝いいたします」

    美香子「あ、しまった!」

    若「お母さん、どうされた」

    美「尊に、二人分の昼ごはん代、お小遣いで渡そうと思ってて忘れてたわ」

    唯「あー。それならゆうべ、はい軍資金!って渡しといたよ」

    覚&美香子「え?!」

    唯「ちょっとぉ、それ驚き過ぎじゃない?」

    若「確かに、渡しておりました」

    美「そうなの?」

    唯「だってさー、一生に一度、最初で最後かもしんないから」

    美「そんな縁起でもない事言わない~。でも、ありがとね、唯。さすがお姉ちゃん!」

    唯「えっへん」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    如古坊の楽しくも○○○思い出=10

    ナレ:金曜日の夜、木村先生が訪ねてきた。
    木:「すみません」
    覚:「いいえ、どうぞ上がって下さい」
    木:「お邪魔します」
    ナレ:覚に木村先生の落ち込んでいる様子が分かった。
    木:「夜分にすみません。もう一つすみません」
    ナレ:四人に頭を下げた。
    覚:「先生?」
    木:「古文書を見ていただきましたが、それが・・・実は別の場所でした」
    美:「別?」
    木:「はい。それが蝦夷で」
    覚:「蝦夷って、北海道の?」
    木:「そうです」
    ナレ:如古坊以外は全くの違うのだと分かった。
    如:「尊?」
    ナレ:尊がスマホで地図を表示して北海道を指した。
    尊:「これが北海道・・・で、如古坊さんたちはこの辺りです」
    如:「離れているな」
    木:「はい。申し訳なくて。日にちだけで・・・すみません」
    如:「謝る事では」
    覚:「そうですよ。色々調べてくれて、我々は感謝しかありませんから」
    木:「そう言っていただけて」
    美:「まぁ、日にちが同じなのも何か繋がりがあるのかも」
    覚:「そうだな。最近思うんだけど、未来の尊が助けてくれたのかも知れないと」
    尊:「未来の僕も無理な様な事言ってたから、それは無いと思うんだけど」
    美:「取り敢えず、3月24日と4月28日に賭けてみない?」
    覚:「そうだな」
    木:「はい・・・すみませんお邪魔しました」
    如:「先生、ありがとうございます」
    木:「いえ。では、失礼します」
    ナレ:木村先生は恐縮しながら帰った。
    覚:「本当に未来の尊が関わっていたとして、どうして」
    如:「私をという事ですか?」
    覚:「はい」
    尊:「分からないことだよね」
    美:「でも、色々研究して、方法を見つけたとも考えられるんじゃないのかな」
    覚:「まぁ、無い事も無いな。天才だし」
    尊:「そんな買い被らないでよ。未来の僕だという保証は無いんだからね」
    覚:「まぁ、取り敢えず夕飯にしよう」
    ナレ:夕飯を摂った後は皆、静かに夜を過ごした。

    ナレ:普段の生活に戻り、尊が学校から帰った後、夕食までの時間や休日は受験勉強で部屋に籠る事が多かった。その日は朝食が終わり、尊が学校へ行った後、如古坊が掃除をして、掃除機を片付けてきて庭で洗濯物を干している覚に話しかけた。
    如:「尊は時間あれば勉強で、現代の子供は大変だなと」
    覚:「如古坊さんの時代も若い人が戦に行きますから、形は違えども子供はいつの時代も大変なんですよ」
    如:「そうですね・・・でも」
    覚:「如古坊さん?」
    如:「私はこの時代を過ごしていて思う事が。この世は苦労してもその先に明るい未来があると」
    覚:「まぁ、一概に言えないこともありますが。でも、僕には一生分からない事なのかもしれません」
    如:「ん?」
    覚:「人はいつか・・・自分の人生が幸せだったのかを実感できるかどうかです」
    如:「それは私にも。ですが、人は最期に幸せだったと思うために一生懸命に生きているのだと思います」
    覚:「そうなのかも知れませんね。如古坊さんは哲学者みたいですね」
    如:「てつがくしゃ?」
    覚:「難しい事が考えられる人って事でしょうか・・・すみません、うまく説明できませんね」
    如:「いえ」
    ナレ:覚は洗濯物を干し終わり、昼飯用のパンを焼くため準備を始めた。
    如:「お父さんの作るパンも美味しい」
    覚:「そうですか。昔はパンは店で買っていましたけど、ちょっとしたパンなら家でも出来るようになりました。今日はブドウパンにしますね」
    如:「干しブドウが入っているパンですね」
    覚:「はい。久し振りですね」
    ナレ:如古坊に色んな物を食べて欲しいとパンも焼いて食べさせた。その中にブドウパンもあった。最初に食べた時は驚いていた如古坊もブドウパンは気に入った。
    如:「楽しみです」
    ナレ:パンの種をパン焼き機に入れた後、今度は湯飲み茶碗3つにお茶を淹れて、急須と菓子皿にせんべいを入れてお盆に乗せた。
    如:「それは?」
    覚:「造園業者に表の木の剪定をお願いしているんですよ。で、これを」
    ナレ:説明していると電話が鳴った。
    覚:「すみません、それを表にテーブル出してありますからそこに。で、ご苦労様と言って置いてきて下さい」
    如:「はい」
    ナレ:覚は電話に出て、如古坊は表に持って行った。庭の大きな木の側に脚立を立てて剪定していた。
    如:「お疲れ様です。どうぞお茶を」
    ナレ:植庄と書かれた法被を着た若い男性が近づいてきて、
    浩:「ありがとうございます」
    如:「どうぞ」
    ナレ:若い男性が父親を呼んだ。
    植:「すみませんね。浩、良夫さんを呼んできな」
    浩:「分かった・・・どうしました?」
    ナレ:如古坊は驚いた顔をしていた。
    浩:「親父の顔イカツイから、ははっ」
    如:「あっ、いえ」
    浩:「怖い顔ですけど、中身は結構乙女なんですよ」
    植:「余計なこと言ってないで、ほら。バカ息子がすみませんね」
    如:「あっ、いえ、どうぞ」
    ナレ:如古坊は頭を下げ中へ。
    覚:「如古坊さん?」
    如:「あっ、あの」
    覚:「どうしたんですか?」
    如:「驚いたので」
    覚:「何を?」
    如:「似た人が居る事は分かっていますが、また、そっくりな人が現れるとは」
    覚:「えっ?」
    如:「父親という方と、私が知る方に良く似ていたのです」
    ナレ:植庄の屋号で造園業を営んでいる植田啓治が坂口に瓜二つだった。
    覚:「それは驚きましたね」
    如:「はい。でも、その者を知っている唯が何も言っていなかったような」
    覚:「唯が居た頃は別の業者に頼んでいましたが、三年くらいかな、そこが廃業したので今の植庄さんにお願いするようになったんですよ。でも、唯が戻って来ている時には作業は頼まなかったからその方を見ていないので」
    如:「そうですか、だから」
    覚:「では、土産に写真を撮りましょう」
    如:「えっ?」
    ナレ:困惑する如古坊を横目にカメラを持って外へ。如古坊は追いかけた。
    覚:「ご苦労様です。お願いがあるんですが」
    植:「どうしたんですか?」
    覚:「写真を撮らせてもらえないかと」
    植:「どうして?」
    覚:「最近カメラに凝っていましてね、モデルになってください」
    植:「私たちで?」
    覚:「はい。にょ・・・三吉さんも何なら一緒に」
    ナレ:覚は無理矢理に啓治の横に如古坊を立たせて写した。その後、
    覚:「皆さんも入って」
    ナレ:息子と良夫も入れて写した。
    覚:「お仕事中すみませんでしたね。続けて下さい」
    ナレ:さっと撮って家の中へ入る覚を三人は不思議そうに見ていた。
    植:「旦那さん、面白い方だったんですね」
    如:「はい。お騒がせしました」
    ナレ:如古坊も中へ。夕食の時に昼間の話をした。
    美:「凄いわね。近くにそっくりな人が居たなんて」
    尊:「本当だね、不思議だね」
    如:「顔を見た時は本当に驚きました。でも、その者と別れた時は穏やかな気持ちでいましたのでこの世でも会えたことが嬉しくなりました」
    覚:「そうだったんですか。良かったですね」
    如:「はい」
    覚:「土産がまた一つ増えましたね」
    ナレ:如古坊は嬉しそうに頷いた。
    尊:「その写真もデータに」
    ナレ:唯たちのように、如古坊がこれまでに体験した事、日常の生活の写真もUSBに入れて持たせようと尊は纏めていた。

    ナレ:日曜日。お洒落をした美香子。
    尊:「今日だよね」
    美:「そう」
    ナレ:美香子と聡子は幸子の気持ちを確かめるために会う事になっていた。駅前のホテルのレストランでランチをしながら。
    如:「お母さん、あの、これを幸子さんと孝君に」
    ナレ:如古坊はお年玉で貰った金を使い、スカーフとネクタイを買った。
    美:「でも、これは、直接」
    如:「お願いします」
    ナレ:如古坊は会って渡したい気持ちはあるが、会わずにいた方がと考えていた。その気持ちが分かった美香子は、
    美:「じゃ、確かに」
    ナレ:美香子がホテルのロビーで待っていると聡子が先に来た。その後、幸子が。エレベーターが来るのを待って、降りてきたエレベーターに乗り込んだ。
    美:「今日はありがとうね。で、孝君も来るのかと」
    幸:「孝は、実家に」
    ナレ:事情を聞いていた美香子は驚いた。
    聡:「速川さん?」
    美:「いえ」
    ナレ:最上階に着きレストランへ。席を案内され、最上階なので眺めが良い窓際を。
    美:「たまにわいいわね」
    聡:「そうですね。頼みましょう」
    ナレ:三人は各々にオーダーし、料理が運ばれてくるのを待っていた。
    美:「さっき、ご実家って・・・でも」
    幸:「はい。今年に入って、母から連絡が来まして、父が倒れたと」
    美:「えっ」
    幸:「大丈夫です。仕事が忙しくて疲れが出たのだとお医者様が言っていたそうです。でも、父も思う所が有ったのか、私と孝に会いたいと。孝は生まれて一度も両親に会う事は無かったので」
    聡:「えっ?」
    ナレ:聡子の驚きようで自分の事は知らないのだと分かり、自分の事を正直に話した。美香子はそこまで話すのかと驚いていた。
    聡:「そんな事が。でも、今は素敵なお母さんね」
    幸:「ありがとうございます・・・連絡をもらった時は正直やめようかと思いました。でも、孝がお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会いたいと言って」
    美:「本当に孝君って大人のようね」
    聡:「私も一度しか会っていないけど、そう思うわね。凄くしっかりしているって」
    幸:「ありがとうございます」
    美:「それで、聞いてもいい?」
    幸:「はい。両親に会って、随分老けたように見えました。孝を目の前にして私たちに頭を下げてくれて驚きました。私に出て行けと言った時の顔とは別人の様で。孝は父と母にきちんと挨拶して、母が、私たちの子育てはあなたの反面教師になったのね、あなたは立派な母親よと」
    美:「そうだったの」
    幸:「両親はここで一緒に暮らさないかと言ってくれましたが、私は断りました」
    聡:「どうして?」
    幸:「意地とかではなくて、私もまだ頑張りどころだと思っていて。でも、金銭的にピンチの時は甘えさせてと言いましたら、母が、ちゃっかりしてるわねと笑って」
    美:「親は子供に甘えて欲しいものよ。ご両親も嬉しかったんじゃないかしら」
    幸:「ずっと親身になっていてくれた明子さんに話しましたら、涙を流して喜んでくれました。両親にはいつでも顔を見せるからと。今日も孝と遊びたいと母から連絡があったので」
    聡:「明子さんと言う方も報われたと思ったのかもしれないわね」
    ナレ:和やかな時間の中でゆったり食事を堪能して、食後のデザートのケーキとコーヒーを頼み、そして、肝心の話を聞くために、
    美:「あの、今日お誘いしたのわね」
    幸:「そうでしたね。もしかして、三吉さんの事では」
    ナレ:二人は驚いた。
    美:「孝君の事もそうだけど、もしかしてそう言う能力あるんじゃないの?」
    幸:「それは。ただ、あの日、クリスマス会で私が三吉さんにプレゼントを渡した時に、皆さんの顔が心配しているような表情に見えたもので」
    美:「そうだったのね。そうなのよね。幸子さんの気持ちを確かめたくて今日は」
    幸:「三吉さんは素敵な方だと。会って間もなく三吉さんの事も知らないのに、孝の父親にと考えたことがあります。でも、どう言えば伝わるのか」
    美:「何を?」
    幸:「三吉さんは遠い存在の様に感じて。このまま一緒には居られないような、何となくですがそう感じました。ですから、お礼にとマフラーを」
    ナレ:幸子が本能で何かを感じ取ったのだと二人は思った。
    美:「そうなのね、事情は話せないけど、もう直ぐ旅に出る事になっているのよ」
    幸:「そうだったのですね。でも、幸せな思い出になりました」
    聡:「きっとにょ・・・三吉さんもそう思っているわよ」
    幸:「ありがとうございます。三吉さんには二度と会わずにいようと思いました」
    美:「えっ、そう、でもどうして?」
    幸:「私の気持ちが揺らぐ心配が。孝にも正直に話しました。どうしてと聞かれましたが上手く伝えることが出来ませんでした。でも、私がそう話しながら涙を流したことで、孝は私の気持ちを理解してくれたのだと思います。会わないと言ってくれました」
    ナレ:そう話すと幸子は涙を流した。
    美:「孝君はなんて親思いなの。この場に居たら思いきり抱き締めてあげたいわ」
    聡:「私もよ・・・きっと孝君の中にもにょ・・・三吉さんがお父さんだったらって考えたんじゃないかしら・・・だから、そうだから、あなたの気持ちを受け止めたのね」
    ナレ:二人は幸子と孝と如古坊の想う心が一緒だと思った。
    美:「それでね、三吉さんに頼まれた物があって、三吉さんも幸子さんと孝君にお礼の品を渡してほしいと」
    ナレ:如古坊は覚に付き合ってもらい選んだ。如古坊は目が肥えているようで質の良い品を選んだので、足りない分は覚が二人の為と援助してくれた。
    幸:「開けてもいいですか?」
    美:「えぇ」
    ナレ:如古坊が幸子をイメージして選んだ淡いピンクのスカーフ。
    美:「孝君の箱にはネクタイ」
    幸:「そうですか。孝も喜びます」
    聡:「スカーフは幸子さんのイメージ通りだけど、なぜネクタイ?」
    美:「にょ・・・三吉さんが孝君の成人した姿を想像して」
    幸:「そうですか。では、大事に仕舞って、成人式の時に身に着ける様に。スカーフも大切な日に使いたいと思います。大切にしますとお伝えください」
    美:「はい」
    ナレ:美香子と聡子は幸子と孝の幸せを願い別れた。

    如古坊の楽しくも○○○思い出=11へ続く

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