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    過去&永禄&現在⑤

    ナレ:祥に相談を受けた翌日、講義の後、いつもの喫茶店でコーヒーにミルクと砂糖を入れて必要以上にスプーンでグルグル混ぜている尊に、
    裕:「なぁ、どうした」
    尊:「ん」
    裕:「まさか、恋の悩みか?」
    尊:「えっ!」
    ナレ:自分の声に周りを見て頭を下げた。
    裕:「・・・図星か?」
    尊:「図星って言えばそうだけど、でも、僕の事じゃないよ」
    裕:「違うなら、誰だよ、俺の知ってる人?」
    尊:「言えないよ」
    裕:「俺とお前さんの仲じゃんか。それともお前さんと親友だと思ってたのは俺の勘違いかぁ」
    ナレ:あからさまに噓泣きと分かる姿に尊は苦笑い。
    尊:「分かった。裕さんの知ってる人。それだけで勘弁して」
    裕:「俺も知ってる。ん~、大学関係、いや違うな・・・分かった、祥さん」
    尊:「えっ!」
    裕:「てことは当りだな」
    尊:「此処だけの話だから」
    裕:「分かってるって。で、相手は京都木さんと居た女性、確かさちこさんか」
    ナレ:裕の勘の鋭さに驚き、返事も出来なかった。
    裕:「やっぱりそうなんだ」
    尊:「でも、どうしてそう?」
    裕:「あの時、祥さんが彼女を見ている感じが、もしかしてって思ったんだよ。祥さんも分かりやすい人だよね。俺みたいな者にもさとられるんだから。ははっ」
    尊:「そ、そうだね」
    裕:「で、俺の推理だと、相談されたがどうしたものかと悩んでいるってところ」
    尊:「え・・・そ、そうなんだ。見てた?」
    裕:「そんなわけないじゃん・・・じゃ、俺を使えよ」
    尊:「えっ?」
    裕:「俺をダシに使えって事だよ」
    尊:「だし?」
    裕:「そっ」
    尊:「でも、どうやって?」
    裕:「話す前に、クリームソーダ奢って」
    尊:「それぐらいいいよ。追加で野菜サンドは?」
    裕:「それはまた今度で。で、あの彼女さん、えっと幸せの子?」
    尊:「そうだよ」
    裕:「別に言う事も無かったから言ってないけど俺の母親もさちこ。平仮名でこは子供の子」
    尊:「そうだったんだ」
    裕:「運命を感じるねぇ。で、俺の事は京都木さんも気づいてくれていると思うんだ。でも、言わないだろうから、まぁ、知り合った縁でって事で、ごはん食べませんかって祥さんから誘うんだよ。で、その時、幸子さんも」
    尊:「大丈夫かな?」
    裕:「だってさぁ、彼女だけ誘っても、相手が遠慮したら計画おじゃんになるだろ。そうだろ?」
    尊:「そうかな」
    裕:「幸子さんだって京都木さんと一緒なら来やすいんじゃないかなって。で、その時、二人っきりにして話をさせるとかって事でさ」
    ナレ:裕の提案を話す価値はあると思った。
    尊:「分かった、その案で相談してみるよ。もし、それでって事になったら裕さんも勿論」
    裕:「あたぼうよ。結構いい出汁出るかもよ。祥さんの為にもな・・・ん?さっきから、俺の名前さん付けだよなぁ」
    尊:「あぁ」
    裕:「もぉ」
    ナレ:約束通り裕の分も支払い、家に戻り覚と美香子に伝えた。
    覚:「そんな感じであれば幸子さんも参加しやすいだろうな」
    ナレ:夕飯の後、尊は祥に電話を掛け伝えた。でも、裕が言っていた二人っきりにさせる話は言わなかった。
    祥:《そうだったら、来てくれると思うよ》
    尊:「うん。あとは」
    祥:《そうだな。ここまでやってくれたんだから、俺も頑張らないとな》
    尊:「ん・・・」
    祥:《どうした?》
    ナレ:孝の事を話した方が良いかと考えていると、電話の向こうから佳津子が、
    佳:《祥、スマホ鳴ってるわよ》
    祥:《わかった。じゃ、やっぱり日曜とかの方がいいよな。決まったら連絡するよ》
    尊:「あっ、うん」
    祥:《ごめん、じゃ、また》
    ナレ:電話が切れた。受話器を持ったままの尊に、
    美:「孝君のこと言うタイミング逃したようね」
    尊:「うん」
    覚:「祥君、どう思うかな」
    美:「そうね」
    ナレ:美香子は如古坊を思い浮かべて、
    美:「もし、この場に如古坊さんが居たらどうだったかな」
    覚:「そんな事考えたら、こっちが切なくなるからさ。やめようよ」
    美:「そうね、ごめん」
    ナレ:如古坊だったら、きっと祥を応援するのだろうと三人は思った。

    ナレ:祥が電話に出ると仲間の一人で、付き合っていた彼女と三か月後に式を挙げるから招待状を送るとの連絡だった。祥は出席の意思を伝え電話を切った。
    佳:「誰?」
    祥:「もちっとが結婚するんだってさ」
    佳:「持田君。そうなの」
    と:「先月は、確か、六田君だったよな」
    祥:「りくか・・・そうだったな」
    ナレ:祥の仲間が続々と結婚していることを知る両親の気持ちは十分に分かっている。前の事もあるから、幸子の事を話して上手くいかなかったら、また、ガッカリさせてしまうのではないかと。
    佳:「それと、尊君と何話してたの?」
    ナレ:京都木夫妻を誘って食事会をと提案してきたことを伝えた。
    と:「京都木さんと?」
    祥:「ん。彼も京都木さんもどちらも同じ思いだと思うけど言葉にはしないから、また会わせてあげたいって」
    佳:「そうなの。どちらも優しいわね。私も彼に会ってみたいわね」
    祥:「うん。で、あの時、一緒に居た幸子さんもって尊が」
    ナレ:祥は心の中で謝り、尊を強調して言った。
    佳:「さちこさんって牧合さんの所の?」
    祥:「そう」
    佳:「尊君が?」
    祥:「おばさんが最近知り合った友達が幸子さんだったって尊が」
    佳:「そうなの。縁ってあるのね。それにさちこさんも京都木さんの?」
    ナレ:京都木明子が幸子の屋敷で働いていたことを説明した。
    と:「しょうじって、小さい道路の路?」
    祥:「声に出すだけでどんな字を書くのかは知らないよ。幸子さんの漢字も分かったばかりだし」
    と:「そうか。もし、そうだったら、親父さんの名前は亮二じゃないかとな」
    祥:「もぉ、だから、会ったの3回だし、ましてや、父親の名前までは」
    と:「それもそうだな」
    佳:「お父さん?」
    と:「もし、私が知っている人なら、中学の同級生。学力ではビリを競い合う仲だった奴かなと思ってな」
    佳:「ビリ?」
    と:「そっ、高校受験まじかになってから必死に勉強して、お互いどうにか志望校に合格」
    佳:「そうそう、お義母さんに聞いたわ。やれば出来る子なのに、言ってもやらなかった子が急に勉強し始めて、心配していた高校にも入れて赤飯炊いて喜んだって」
    と:「きっかけは、あいつの親父さんが一時期、具合が悪くなって。過労で大事を取って入院してた時に、父親を心配するならば、大学卒業したら私の元で社長に成るべく修業をしなさいって言われたそうだよ。亮二が養子になって5年後に弟が生まれて、卑下してたわけじゃないけど、実子の弟に会社を継がせるだろうと思っていて、ダラダラ過ごしていたって。でも、病室で言われて決心して、俺達、つるんでいた他の3人にも勉強を強要して一緒に」
    祥:「そんな事が。だから俺に勉強しろって言わなかったんだな」
    と:「私の子だしな。ははは」
    佳:「もぉ、二人して。もし、その方のお子さんだったら?」
    と:「もしそうなら、今の様子を聞きたいな。中学卒業してお互い高校生活で、それぞれに友達も出来て、仲違いってわけじゃないけど疎遠になってな」
    ナレ:としをの話を聞いていて、
    佳:「じゃ、お店決まっていないのなら、此処で良いんじゃないの?」
    祥:「此処って、うち?」
    佳:「そうよ」
    祥:「でも、結構な人数になるよ」
    佳:「料理教室まで通っていても、腕を振るう場が無いじゃない。目いっぱい料理を作ってみたいのよ」
    ナレ:佳津子は腕まくり。佳津子に強く言われ会場は神山家に決まった。その事を尊に連絡した。
    祥:《そう言う事で、我が家でやる事になったんだ》
    尊:「ご迷惑では?」
    祥:《お袋がやる気になってて、やめると嫌味言われそうだから。で、京都木さんに予定聞くけど、一応来週の日曜と考えているんだ》
    尊:「裕さんも僕も大丈夫だと思うけど・・・まぁ」
    祥:《どうした、何か不都合?》
    尊:「あっ、いえ」
    祥:《そっか、じゃ、はっきりしたら、連絡する》
    ナレ:尊は電話を切った後、覚に話した。
    覚:「神山さんだけに任せては申し訳ないから、僕も何品か作るよ」
    尊:「ダブって多くなってもと思うけど」
    覚:「あれは大丈夫だと思うけど」
    尊:「あれ?」
    美:「そうね、レンコンのはさみ揚げは大丈夫じゃないの」
    尊:「そっか。そうだね、じゃ、お願い」
    覚:「任せとけ」
    ナレ:覚は腕まくり。祥は京都木に連絡した。
    祥:「夜分すみません」
    明:《大丈夫ですよ。どうしました?》
    祥:「実は、うちでおしゃべり会をしようという話になりまして」
    明:《おしゃべり会?》
    祥:「はい。お二人と、先日の裕君も誘って、みんなで」
    明:《あの方?》
    祥:「そうです。それから、都合がつきましたらご一緒していました幸子さんもどうかなと」
    明:《幸子さんも・・・はい、聞いてみますね。あの、もし大丈夫でしたら一人子供の参加もよろしいでしょうか?》
    祥:「お子さん?」
    明:《はい》
    祥:「大丈夫ですよ。賑やかになります」
    明:《ありがとうございます》
    祥:「来週の日曜日と考えていますが、ご都合は?」
    明:《私と主人は大丈夫ですが、明日、幸子さんに聞いてからお返事しますね》
    祥:「分かりました。では、おやすみなさい」
    明:《では、失礼いたします》
    ナレ:電話が切れた後も祥は受話器を握りしめていた。
    祥:「可笑しかったかな?」
    ナレ:唐突に幸子の名を出して怪しまれなかったかと今更だがドキドキしていた。
    佳:「どうしたの、そんな恰好で。終わったなら受話器置きなさいよ」
    祥:「あっ、あぁ・・・風呂入れる?」
    佳:「今、お父さんが入ってるから」
    祥:「そっ、じゃ、出たら呼んで」
    ナレ:祥は二階に駆け上がった。翌日、明子から日程も大丈夫だし、幸子も参加すると連絡があり、その時も子供も一人参加すると聞いた。祥は京都木夫妻の孫なのかと思い、その子については聞かなかった。そして子供ぬ喜びそうなメニューも入れてもらえるようにと佳津子に伝えた。

    過去&永禄&現在⑥へつづく

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    振り返ります四人の現代Days、44から117まで

    no.1067の続きです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    44、no.901、プライスレス
    45、no.902、選択せよ
    46、no.903、以心伝心
    47、no.904、戦うあなたが
    48、no.905、呼んだ?
    49、no.906、贈ります
    50、no.907、狙ってる
    51、no.908、溶ける~
    52、no.909、星だけが見ていた
    53、no.910、忖度します┅┅┅

    念願のクリスマスイブデート。色々過ごし方はあるでしょうが、私は終わりがけをとことん甘~くしました。唯が、物足りないって言い出さないように。デートプランなんて制約がなければいくらでも考えつきますが、一緒に居られて安全が確保されていれば、何してても楽しいんでしょうね。

    54、no.911、画伯!
    55、no.912、サービス!
    56、no.913、さりげなく
    57、no.914、説明せよ
    58、no.915、甘酸っぱい
    59、no.916、春遠からじ┅┅┅

    公式掲示板で読んだのかな違うかな…ドラマで瀕死の若君を丸投げされた翌朝、尊が両親に説明する際、ひじをテーブルに乗せ両手を口元に寄せて組みます。これが、アニメ新世紀エ〇〇〇ゲリオンの登場人物がよくやるポーズなんで、尊はそのアニメのファンなんだよと教わりまして。55話で用語をほんの少し盛り込みました。
    キラキラのイルミネーション。ソワソワしてる瑠奈に気づかない尊。いつか同じ場所でちゃんとデートさせてあげたいと思います。

    60、no.917、とりあえず
    61、no.918、全て泡とならぬよう
    62、no.919、説法!
    63、no.920、ルーティンです┅┅┅

    前回の振り返りで触れるのを忘れていましたが、ドラマの中では一切出てこない源三郎の氏、話を組み立てるにあたりどうしても必要でしたので、調べまして原作から引用致しました。

    64、no.921、一枚から三枚
    65、no.922、蛍が飛ぶように

    66、no.924、満席でございます
    67、no.925、翼を広げて

    68、no.926、本領発揮

    69、no.928、衝撃的!
    70、no.929、想像するに┅┅┅

    若君の実際の墓は、きっと立派な物が造られている。今回旧緑合の地に出向いていたらそれに出合ったかもしれないですが、もし没年が彫ってあったりしたらさすがにショックでしょうから、訪れる機会はこれからもないと思います。

    71、no.932、Xデー到来
    72、no.937、想い出の場所
    73、no.940、ハラハラ!
    74、no.941、ドキドキ!
    75、no.943、月推しです

    76、no.946、引き継ぎます
    77、no.952、誘惑わくわく
    78、no.953、一歩進む
    79、no.954、天にも昇る心地
    80、no.957、密談です┅┅┅

    瑠奈とみつき。皆様に好かれる子達であって欲しいと願い、セリフや仕草を熟考したつもりです。時々暴走はするけれど愛らしい、ふわっとした雰囲気の瑠奈と、物怖じせず凛とした、でも幼なじみの彼にはとことん一途なみつき。どちらも好きですね。自分が作ったキャラなので何とでも出来るってのもありますが、もっともっと描いていたい彼女達です。

    81、no.959、幸せな初夢
    82、no.960、匂わせません

    83、no.962、ムクムクと
    84、no.964、着々と準備

    85、no.966、未踏の地へ
    86、no.967、幕開きです
    87、no.969、辿ります
    88、no.971、はなむけの
    89、no.972、二歩進んだ
    90、no.974、ゴールいやスタート
    91、no.976、振り返りは大切┅┅┅

    唯は若君に一目惚れでしたね。対比でもないですが、尊にはゆっくりと恋に目覚めてもらいました。なんで僕?と疑いながらもまんざらではなかったはず。嫌だったら、元旦のLINE攻撃にマジうぜえ!の一喝で、はい終了~だったでしょ。

    92、no.978、野望?
    93、no.980、父の思い
    94、no.982、母の思い
    95、no.984、大人への階段

    96、no.986、そーっとね
    97、no.991、ハレの日
    98、no.993、祝福します
    99、no.994、昔も今も
    100、no.995、霧が晴れた┅┅┅

    吉田城ですが、ドラマSPスタート3分30秒後に出てくるロールプレイングゲーム風の地図には表示されていません。吉田城自体が話の流れに関係ないのでそうなったんだと思いますが、右下、黒羽城の東に森のような場所があるのでその辺りと推測しました。
    源トヨ二人で一部屋を与えられた初日。トヨが二階に上がってくるのを、実は首を長くして待っていた源三郎。子供用の図鑑でないと、内容がさっぱり頭に入ってこなかったのです。

    101、no.996、尊い!
    102、no.997、プチ旅行です
    103、no.998、初めての

    104、no.999、気遣いの人
    105、no.1000、健やかなる時を
    106、no.1002、ととのう?
    107、no.1003、触れてごらん

    108、no.1004、環境問題
    109、no.1005、事件発生!
    110、no.1006、臨機応変です
    111、no.1007、その線でいこう
    112、no.1008、出番が来た
    113、no.1009、一息ついて
    114、no.1010、間一髪?
    115、no.1011、慌てます
    116、no.1012、恐縮です
    117、no.1013、奏でていてね┅┅┅

    覚お父さん。若武者達の恋愛相談にも気さくに応じ、押しつけがましくもない。息子の彼女がぐずっても、相手に寄り添い交渉もしてくれ頼りになる。さりげないカッコ良さを表現したつもりです。
    「好き」の伝え方なんですが。唯は結局直接告白はしてませんよね。若君の切ない嘘で現代に帰された時は「大好きなんですぅ」は届いてないし。「超好き!」は二回ありますが、どちらかと言うと心の声が口をついて出た感じで。
    長澤城にて。唯 心の声(こんな状況でも余裕で笑えるなんて…)
    小垣城にて。唯 心の声(こんな夫がいる女子高生なんて私だけ!)
    若君の方がはっきり言っていて「お前を思う」と山寺で話の流れの中サラっと告げる。そりゃ「本当に?」って聞き返すよなぁ。
    で、尊の場合。まだ付き合い始めて5日です。瑠奈ちゃんに言いたい。私の事好き?って質問は危険です。好き以外の答えが選べないから相手の負担になるだけなんで。とは言え尊の腹は決まっていた(*^^*)ので、照れで遠回しな表現にはなったけれど渾身の告白は成功しました。

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    振り返ります現代Days(仮)&四人の現代Days1から43まで

    通し番号、投稿番号、サブタイトルの順です。 どんな話だったっけ?と遡って投稿を探したい時、サブタイトルを掲示板の記事検索欄(板の下の方にあります)に入力すると、ページを戻っていくより早いと思います。

    今回も長い(´д`|||)ので、かなりかいつまんでの振り返りといたします。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    現代Days(仮)への道

    1、no.818、出ました!
    2、no.823、勝ち目ないので
    3、no.825、歴史のおさらい
    4、no.827、よもやそんな
    5、no.828、悩みが尽きぬ
    6、no.829、食の全国制覇
    7、no.830、助けられるものなら
    8、no.831、心が絶不調
    9、no.832、動く!
    10、no.833、思い立ったが吉日
    11、no.834、それでいいのか?
    12、no.835、負けない!
    13、no.836、特等席です
    14、no.837、いざ!
    15、no.839、着いたー!
    16、no.841、任せます
    17、no.842、どうなる?
    18、no.843、深夜に咲く花
    19、no.844、のるかそるか
    20(終)、no.845、絆の輪です┅┅┅

    センター試験は、尊の受けたこの年が最終の実施でした。今は、大学入学共通テストが行われていますね。
    13話の、ぷにぷにの唯と尊のまぁ可愛らしい事。まだ言葉もたどたどしい唯と、歌うように愛娘に語りかける母の会話は、描いててとても楽しかったです。
    現代と永禄で何が起こったか。速川家の決断からの若君の決断と、かなり濃い内容のミニシリーズになりました。

    四人の現代Days

    1、no.847、いらっしゃいませ
    2、no.848、大騒ぎです
    3、no.849、まだ早い
    4、no.850、それが理由です┅┅┅

    何やかやで無事四人到着。着いてすぐに、戻ったら3分後だよと源トヨには説明してるんですが…目の前の事柄を理解するのに精一杯で、色々曖昧になった模様です(137話)。

    5、no.851、so cute!
    6、no.852、入れ過ぎ注意
    7、no.853、事も無げに
    8、no.854、遠乗りじゃ
    9、no.855、後押しします
    10、no.856、夜襲?

    11、no.857、職人あらわる
    12、no.858、姫にお似合いです
    13、no.859、ヘルプ!

    14、no.860、内密に願います
    15、no.861、熱唱!
    16、no.862、美声!
    17、no.863、針のむしろ┅┅┅

    実は16話17話を描いている時点では、この女子高生2の瑠奈が尊の彼女になるなんて全く予想だにしておりませんでした。何がどう転ぶかわかりません。クラスメートから彼女になるまでかかった日数は、三週間(90話)。

    18、no.864、水上の戦い
    19、no.865、あなたしか見えない
    20、no.866、召し上がれ
    21、no.867、チャンス!

    22、no.869、誰かのために
    23、no.870、二人並んで
    24、no.871、郷に入っては
    25、no.872、懐が深い┅┅┅

    ヘアドネーション。この話を描いた当時は、容易く取り上げて良い物かと考えたのですが、その後今までに私の周りで二人も寄付していて、事業として浸透しているのを実感しました。

    26、no.873、ステップアップ
    27、no.874、時速何キロ?

    28、no.875、てんこ盛りです
    29、no.881、アポ取ります

    30、no.884、丸投げですか?!
    31、no.886、きってきって
    32、no.887、思ってたんと違う┅┅┅

    31話で父が咄嗟にひねり出した、戦国戦隊シュツジンジャー。せっかくなんでちょこっと書いてみました↓

    敵に囲まれているシュツジンジャー5人。

    シュツジンジャー1号タダキヨ「謀りおったな!」

    シュツジンジャー2号ユイ「憎ったらしい!このサカグチめ!」

    サカグチ「ふふん。ノコノコ現れおって」

    カーット!

    ユイ「へ?」

    監督「おい、すり変わってるぞ!3号コヘイタはどこに行ったんだ!」

    ユイ「うわ。じい、何やってんのよ!」

    いつの間にか、コヘイタの衣装を着てじいがちゃっかり並んでいた。

    じい「何ゆえわしを仲間に入れぬぅ」

    ユイ「はぁ?ちょっと、小平太はどこよ?!」

    じい「小平太には、今日は撮影はなしと言っておいたわ」

    ユイ「なにそれ!小平太も、どうしてその話を信じるのよ~」

    タダキヨ「じい、それは…ならぬ」

    ユイ「どう考えてもじいはメンバーには入んないし。おかしいでしょ!」

    じい「良いではないかぁ。お、何じゃ?離せ、離すのじゃ!」

    両脇を掴まれ、捕らえられた宇宙人状態で引きずられていくじい。

    シュツジンジャー4号ゲンザブロウ「信茂様、御免」

    シュツジンジャー5号アクマル「連れていく」

    ユイ「ホントにもー。じいは今度から出禁にしとかないと」

    頑張れ、戦国戦隊シュツジンジャー。

    33、no.888、羽を休めて
    34、no.889、ほろほろと
    35、no.891、竹刀を持て!
    36、no.892、滲み出る

    37、no.893、熱が入るよ
    38、no.894、トロットロ
    39、no.895、浮っき浮き
    40、no.896、迫る!┅┅┅

    何度かスモア作ってみたんですけど、マシュマロってあっという間に焦げるんですよね。でも熱でいい感じにチョコが溶けると、よっしゃーとほくそ笑んでいます。

    41、no.897、ハンコください
    42、no.898、宣言します
    43、no.899、根回しばっちり┅┅┅

    日記に名前がない話は、木村先生との会話でもほんの一瞬しか触れていません。それをちゃんと覚えていた若君。きっと、シールを貼る時も姿勢良くペタリと(149話)。

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    過去&永禄&現在④

    ナレ:翌日、祥は尊にLINEを。しばらくして尊から電話が。
    尊:《稲賀君に話します。で、場所は?》
    祥:「城址公園でどうかなと」
    尊:《じゃ、石垣から見える遊具の所で彼と話している姿を見てもらうのは?》
    祥:「そうだな。じゃ、いつにしようか?」
    ナレ:相談して来週の日曜日の午後2時と決めた。尊が店の方は大丈夫かと聞くと、その時間帯の予約を受け付けないから心配ないと。そして尊は講義が終了した後、いつもの喫茶店で裕を公園へ誘う話を。
    裕:「来週の日曜に城跡の公園、黒羽城?」
    尊:「そっ」
    裕:「なんで?」
    尊:「えっと・・・僕はあの場所が好きなんだ、大切な人との思い出もあるし」
    裕:「彼女?」
    尊:「違うよ」
    裕:「ふ~ん、でもなんで?」
    尊:「ん・・・稲賀君も大切な人の中の一人だから、本当だよ」
    裕:「別に疑ってはいないけど。分かったよ。じゃぁさぁ、大切だって思うんなら、だいぶ経つけど、その稲賀君は止めてくんない?」
    尊:「あっ、ごめん、そうだよね、同級生でも年上の人に君付けは良く無かったよ・・・ですね」
    裕:「も~、そうじゃなくて、裕って呼び捨てにしてくんないかねぇ。俺だって尊って呼んでるじゃんかぁ」
    尊:「そうだね、じゃ、裕君」
    裕:「君って、まぁ、それでいいや。で、何時?」
    尊:「2時に遊具の所で待ってるから」
    裕:「分かった」
    ナレ:裕は何か意味ある様な気もしていたが聞かずにいつもの野菜サンドを食べていた。尊は裕と別れた後、祥にLINEした。祥もその晩、京都木に連絡をして待ち合わせ時間も2時20分前と伝えた。裕が来る前に打ち合せする時間も必要だろうと。

    ナレ:尊は昼食を取り城址公園に向った。早めに出て来たのでまだ誰も来ていなかった。石垣にもたれて、忠清と来た時の事を思い出してながら待っていると三人連れが、
    尊:「えっ」
    ナレ:祥が話していた夫婦と思われる二人の隣に幸子の姿が。
    尊:「どうして?」
    ナレ:尊は美香子が言った『偶然』に驚いた。三人に近づいて行くと脇道から祥が来た。
    祥:「えっ?」
    ナレ:祥も幸子の姿に驚いていた。
    祥:「しょうじさんがどうして?」
    尊:「ご無沙汰しています」
    幸:「ご無沙汰してしまい申し訳ございません」
    ナレ:尊に頭を下げる幸子の様子を見て、
    祥:「尊?」
    尊:「祥さんも?」
    ナレ:二人の様子を見てどちらにも関わりがある幸子が説明した。京都木の妻は明子で、幸子の幼い頃からお手伝いとして小路家に勤めていた。明子に、尊は親身になってくれた速川家の人。祥と会ったのは社長の葬儀の時だったと話した。
    祥:「それぞれに縁があったとは驚きです」
    明:「幸子お嬢様は」
    幸:「その言い方はもうやめてね」
    明:「はい。幸子さんは娘に優しくしてくれていまして」
    幸:「お二人は私の事ご存じなの。だからはっきり言っても。我が儘だった私にも明子さん同様に優しくも厳しくしてくれていて、年下だったけれど。この度の事を明子さんから伺って、二人と同じ思いで、私もその方に会ってみたいとお願いして一緒に」
    祥:「そうでしたか。でも」
    幸:「分かっています」
    ナレ:話し込んでいて時間よりも早めに来た裕が近づいている事に気づかなかった。段取りとしては遠くで姿を見る事だったが、
    裕:「尊」
    尊:「えっ、どうして?」
    裕:「何さ?」
    尊:「何でもないんだ」
    裕:「祥さんも、ってか、何してるんですか?」
    祥:「えっ、あっ」
    裕:「何を慌てて・・・あ~、そう言う事」
    尊:「そう言う事って?」
    裕:「そこの女性が祥さんの彼女で、お二人が彼女さんのご両親で・・・でも、尊は?」
    尊:「違うよ・・・この方たちは・・・ご家族で城跡を見に来ているところで声を掛けられて」
    裕:「そぉ・・・でも、祥さんは?」
    祥:「俺は・・・体力づくりのマラソン」
    ナレ:明らかに運動をするような恰好ではない。
    裕:「良く分からないけど、そう言う事にしておきますか・・・でも、祥さんとお似合いだなぁつて思ったんだけど」
    ナレ:先に声にしたのは幸子だった。
    幸:「この方に失礼かと。私より年下・・・でしょうから」
    裕:「お若く見えますけど?」
    幸:「今年30歳になります」
    ナレ:その答えに尊と祥は驚きの声を上げた。
    裕:「二人とも?」
    ナレ:話をしていても幸子の年齢までは聞いていなかった尊。祥は同い年位だと思っていた。
    尊:「何でもないんだ」
    明:「楽しそうな方ね」
    裕:「はい、よく言われます。昔・・・親に五月蝿いってよく言われます」
    尊:「ご両親だけじゃないと思うけど」
    裕:「何だとぉ、年上だぞぉ」
    尊:「年上扱いするなって言ってるのに」
    裕:「いいじゃん。俺、稲賀って言うんですけど、母方の伯父さんが秋田の人で酔うと、悪い子はいねがぁって俺にまとわりつくんですよ。あははは」
    ナレ:幸子と祥と尊の表情は変わらなかったが、明子と夫は声をあげて笑った。
    裕:「この話すると大概、へって感じの顔されますけど、お二人が笑ってくれて、今日は来てよかったなんてね。あのぉお名前を伺ってもいいですか?」
    京:「構いませんよ。京都に木と書いてきょうつぎと申します」
    裕:「珍しいお名前ですね」
    京:「あなたもそうですね」
    裕:「そう言えばそうですね。あははは」
    京:「私たちもあなたに会えて良かった。楽しかったですよ」
    裕:「それは良かった」
    京:「我々はもう帰ろうか?」
    明:「そうね。楽しかったわ」
    幸:「では、失礼いたします」
    ナレ:三人はお辞儀をして歩いて行った。
    祥:「俺も戻るよ。じゃ」
    ナレ:駐車場の方へ歩いて行った。
    裕:「久し振りに遊具に乗るってのもいいなぁ」
    ナレ:裕はパンダにまたがり、尊は馬に。
    裕:「なぁ」
    尊:「なに?」
    裕:「京都木さんの連絡先、祥さんに聞いておいて。祥さんの知り合いなんだろ」
    尊:「えっ?・・・あっ、まぁ」
    裕:「俺が結婚する時に招待したいって思ってさ」
    尊:「どうして?」
    裕:「何となく・・・って事かな」
    尊:「ん・・・祥さんに話しておくよ」
    ナレ:裕は胸に手を当てた。二人を目の前にした時に心臓がドクンと大きく波打った。裕の中でその意味が分かった。尊も裕の想いを感じ取った。
    尊:「うちに寄る?」
    裕:「今日は・・・父さんと母さんと外で食べようって誘う事にするわ。バイト代入ったし」
    尊:「そうだね」
    裕:「尊も親孝行しろよ。じぁな」
    尊:「うん。じゃ、気を付けて。今日はありがとう」
    裕:「あぁ、明日な」
    ナレ:裕は駐車場に行きバイクで帰って行った。

    ナレ:戻った頃、裕の事を尊から聞いて、京都木夫妻と同じ思いだったことを知り自分の中ではこれで良かったのだと思った。だが、もう一つの祥の中のモヤモヤがさらに大きくなっていた。
    佳:「どうしたの、箸持ったまま考え事?消化に悪いわよ」
    ナレ:夕飯時に、お椀を持ったままジッとしている祥に話しかけたが、聞こえていないよう。
    と:「おい、祥!」
    祥:「えっ、あっ、なに?」
    佳:「考え事しながらで、お味噌汁溢すわよ」
    祥:「あっ、ごめん、ご馳走様」
    ナレ:箸を置き、席を立ち、自分の部屋に行く息子の後姿に、
    と:「あいつ、どうしたんだ?、京都木さんの事で何かあったのか?」
    佳:「それはいい方向に済んだらしいけど。まぁ、他に思い当たる節はあるんだけど」
    と:「なんだ?」
    佳:「牧合さんのところの従業員さんで、ほら形見の品を持って来てくれたって話したでしょ」
    と:「あぁ」
    佳:「その時に来た女性に会ってから、あの子の様子が・・・と思うんだけど」
    と:「まさか?それだけで?」
    佳:「時間じゃないでしょ。母の勘としてはそうなのかなって思うけど、いつもなら、何でも話す子なのに」
    と:「まぁ、あいつも27、秋には28になるんだし。前みたいなわけにはいかないんだろう。しばらくは、そっとしておいた方が」
    佳:「そうね」
    ナレ:佳津子は祥のほとんどてうぃ付けていない食器をかたずけて、おにぎりを2つ握り部屋の前に行きドア越しに、
    佳:「夜中お腹すくでしょうから、食べなさいね。此処に置いておくわよ」
    ナレ:ドアの向こうから、
    祥:「ありがと」
    ナレ:祥は自分でもどうしたら良いのか分からなかった。ただ頭から幸子の存在が消えない事だけは分かった。
    祥:「あっ、そうだ、尊」
    ナレ:幸子と知り合いの尊に相談してみようかと考えたが、そうなれば自分のモヤモヤした気持ちを話さなくてはいけない。唸りながら頭を掻きむしり髪型がクシャクシャ。祥は意を決し、翌日速川家を訪ねた。

    ナレ:夕飯が思ったと思う時間帯に、速川家の玄関ドアの前で深呼吸をして呼鈴を押した。モニター越しに名乗る声がうわずった。
    尊:「今開けます・・・祥さん、どうしたんだろう?」
    ナレ:両親の顔を見た。玄関へ行きドアを開けた。
    尊:「いらっしゃい」
    祥:「夜分にごめんな」
    尊:「大丈夫ですよ。あがって」
    ナレ:尊の後ろから歩く姿は背の高い祥が背中を丸めて静々と。
    覚:「さっ、此処に」
    ナレ:覚が椅子を引き座らせた。
    祥:「すみません」
    美:「どうしたの?」
    祥:「あ・・・あのぉ・・・そのぉ・・・」
    覚:「祥君らしくないよ、あのそのって」
    祥:「はい・・・あの、助けてもらいたくて」
    美:「何を?」
    祥:「実は、俺、さちこさんの事でモヤモヤしてて」
    ナレ:三人は揃って驚きの声を上げた。
    祥:「そこまで」
    美:「そりゃぁ驚くわよ。モヤモヤって幸子さんを好きになったって事でしょ」
    祥:「まぁ」
    覚:「まぁって、そうですって」
    祥:「やっぱり、そうですよね」
    美:「やっぱりって、他人事みたいに」
    祥:「はぁ、すみません・・・昔に見かけた時はどうって言うか逆に付き合いたくないなぁって思ってたんですけど、再会して」
    美:「ビビッときたのね」
    祥:「そう言う事だと。でも、俺だって付き合った女性は居ますけど、今回は、なんか、どうしたらッて、考えてしまって」
    美:「佳津子さん達には話したの?」
    祥:「まだ、言っていません」
    美:「珍しいわね、何でも話す仲なのに」
    祥:「俺もそう思います。でも、今回は言えなくて」
    覚:「もしかして心の中で、二人をガッカリさせてしまうかもって思ってるんじゃないか?」
    祥:「そうかも知れません。前の事もあるから」
    尊:「でも、言わないと何も進まないと思うんだけど」
    美:「そうよね。もしかして幸子さん新し彼が出来ているかもしれないから」
    ナレ:覚達は幸子がシングルマザーだと知っているが自分たちが言っていいものかとこの場合は言わずにいた。祥も独り身だと考えていたから美香子の『新しい』についても付き合っていた人が居るのだろうと疑問は持たなかった。
    祥:「そうですよね」
    尊:「居るかどうかは分からないけど。まぁ、兎に角、話してみる事はした方が良いと思うな」
    覚:「そうだな。話して、相手が居るなら祥君もきっぱり諦めがつくだろうし」
    祥:「はい。さちこさんが幸せなら俺は」
    美:「そうね。名前も幸せが付くから、名前通りになって欲しいわね」
    祥:「幸せに子と書くんですか?」
    美:「そうよ」
    祥:「素敵な名前ですね」
    覚:「本人に言ってあげれば」
    祥:「それはぁ」
    ナレ:覚達は祥にも幸せになって欲しいと思うがどうなるかは分からない。はっきりさせなくてはとも考えるが、どう切り出していいのか分からなかった。
    祥:「すみません」
    美:「私たちも方法を考えるから、時間頂戴」
    祥:「はい・・・宜しくお願いします。では、失礼します」
    ナレ:祥を見送った。
    覚:「どうしたら良いのかねぇ」
    美:「そうね。でも、孝君の事を言わなくて良かったのかしら?」
    覚:「あぁ、祥君の顔を見ていたら言えなかった。言った方が良かったよな。やっぱり」
    尊:「方法が見つかった時に話して、祥さんがどう判断するかは、祥さんに任せるしかないと思うけど」
    覚:「そうだな」
    ナレ:しかし、その晩、案は浮かばなかった。

    過去&永禄&現在⑤につづく

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    過去&永禄&現在③

    =過去 2020年 夏=

    ナレ:サークル仲間とのキャンプの計画があり、夏休み前に髪をカットしに祥の所へ。
    祥:「大学生活はどうだ?」
    尊:「楽しいですよ。勉強にはどうにかついて行けてますし、サークルは特に裕さんがムードメーカーで、先輩達は昔の事を聞いていても、それを全く感じさせない五月蝿い奴って言ってます」
    祥:「楽しそうで良いじゃないか」
    尊:「タイプは違うけど、姉に似ているって思う時もあるんです」
    祥:「そうか。で、唯から連絡あるのか?」
    尊:「まぁ・・・元気にしているようですよ」
    祥:「そっか。あの性格だから、何処でも生きていけると思うよ。ははは」
    尊:「そう思います」
    祥:「で、あの後、彼の事を思い出した。あの時は顔も白くて線の細い子だった。でも、尊と一緒に居る姿見て、心から嬉しかった。でさ、祖父の代から贔屓にしてくれているお客さんが居てね、四年前だったかな、ご病気で亡くなった娘さんの三回忌に参列したんだけど、詳しくは言えないけど、やっと気持ちも部屋も整理できたと言ってね、その時、お父さんが移植した人からの手紙を見せてくれて、その手紙の文面に、共に生きていきますと書いてあって、その時は気づかなかったけど、今思えば彼かなと」
    尊:「裕さん?」
    祥:「だと思うんだ。その方にも言えないけど、もしそうなら、今の彼を見たら」
    尊:「きっと、喜んでくれると思うな」
    祥:「そうだな・・・」
    尊:「祥さん?」
    祥:「・・・ん、色々決りはあると思うけど」
    尊:「それって、会わせたいって?」
    祥:「まぁ。彼には言わずに遠くから姿を見るだけでも。そうさせたいって思ったんだけどさ」
    尊:「僕もそう思うかな。でも、その方が会いたくないと言ったら?」
    祥:「まぁ、その時はその時で。でも、本当に彼なのかは、はっきりしていないから、その事も話して、それでもいいと言ったら」
    尊:「分かりました。その方が姿を見たいと言ったら、協力します」
    祥:「ありがと。連絡してみる。で、もう一つ思い出したことがあって」
    尊:「ん?」
    祥:「おばさんと居た女性の事。でも、本当にその人か確証は無いんだけど、似ていたんでさ」
    尊:「はぁ?」
    ナレ:祥はレジ下の抽斗から何か持ってきて尊に見せた。
    祥:「俺が高校の仲間と湘南に遊びに行って、友人が海の家でバイトしてて、売り上げ協力って事でさ。で、そこに、取り巻きって分かる男性の中に髪の長い女性が居て、遠目に見てても、その彼女があれこれって指図すると周りの男が動いててさ。まぁ、彼女の事知らないけどさ、女王様気取りって感じで、正直いけ好かないって思った女性に似ていたんだけど、おばさんと一緒に居る女性はそんな感じが全くしないから、まぁ、他人の空似なんだろうけど。その時に写したのに写ってたんだ」
    ナレ:仲間の後ろに写る女性。尊は祥の話を聞きながらその姿を見て、間違いなく幸子だと思った。幸子と孝にはクリスマス会以降会う事は無かった。
    祥:「もしこの彼女が眼の前に現れても、ごめんだなって思ったんだよね」
    尊:「そうなんだ」
    ナレ:それ以上の事は言えなかった。尊は夕飯の時に祥が昔の幸子を見かけたと伝えた。
    美:「祥君が。話には聞いているけど、私たちは今の幸子さんしか知らないから」
    覚:「そうだな。今の幸子さんに会ったら、どうなるんだろうな」
    美:「まぁ、偶然でもない限り会う事は無いんじゃない。ご両親から手紙を貰ったきり会う事も無いし。でも、それでいいとお父さんも思っているしね」
    覚:「そうだな。二人とも元気で暮らしているって話だし」
    ナレ:幸子の両親から世話になったと娘から聞いたと礼状が届いた。孝は小学校に元気に通い、幸子は前々から勤めていた工場の正社員となり頑張っていると書かれてあった。お礼の品としてワインが送られてきた。

    ナレ:尊に話した翌々日、祥は母の佳津子の同級生の通夜に伴い出掛けた。その同級生は牧合板金の経営者。祥が子供の頃に毎年お年玉を貰った事もあり、店にも度々来ていた。その縁もあり二人で焼香に。受付に行き、香典袋を置き、お悔やみの言葉を述べ顔を上げると目に前に幸子が居た。
    祥:「あっ」
    佳:「祥?」
    祥:「何でもない、行こう」
    ナレ:幸子に頭を下げ中へ。幸子の隣で受付をしていた従業員の根元洋子が、
    洋:「幸子さん、あの人お知り合い?」
    幸:「いいえ、知らない人です。誰かに似ていたのでしょう」
    洋:「そうね。で、明日の告別式、子供の用で来れ無いんだけど」
    幸:「大丈夫です。私の時も色々都合してもらっているのですから。遠慮しないで下さい」
    洋:「ありがとう。でも、さっきの人、素敵じゃない。亭主が居なかったら」
    ナレ:軽く笑ってしまい、不謹慎だったわねと神妙な顔に戻した。祥たちは焼香が終わり、お清めの席に案内された。祥は運転だからとウーロン茶。佳津子は知り合いと清めに酒を飲んでいた。手伝いをしている幸子を横目にウーロン茶を飲んでいた。そして、帰る事にして葬儀社の関係者から香典返しを受け取り、家に戻った。

    ナレ:葬儀から三日経った。店舗横の母屋から呼鈴が何度か聞こえて来た。
    祥:「どうした?」
    ナレ:祥は表に出ると、葬儀の時に受付に居た幸子が立っていた。
    祥:「あなたは?」
    幸:「こんにちは。あの、お母様はお留守でしょうか?」
    祥:「出掛ける時は顔を出すけど、今日は無いから、昼寝でもしてるのかも。待っていて下さい」
    ナレ:祥は店側から母屋に戻り鍵を開けた。
    祥:「お待たせしました。どうぞ」
    ナレ:客間に通し、勝子を探しに奥へ。するとトイレから出て来た。
    佳:「は~便秘解消」
    ナレ:そう言いながら腹を擦って、
    佳:「呼鈴鳴ってても、出るに出られなかったけど、お客さん?」
    祥:「牧合社長の葬儀の時に受付に居た女性が」
    佳:「牧合さんの所の?」
    ナレ:客間に行くと、部屋の隅で立っていた幸子が、
    幸:「お邪魔しております。わたくし、小路幸子と申します。奥様から神山さんへお渡しする物がございまして、本来であれば自身が伺わなくてはいけないのですが、色々と片付けもあるとの事でわたくしが」
    佳:「大丈夫よ。大変だものね。ご苦労様、お座りになって」
    ナレ:幸子が風呂敷包みから霧箱を2つ出し、座卓の上に置いた。
    幸:「社長の形見分けです。神山さんに受け取って頂きたいと仰せつかりました」
    佳:「私にまで。有難うございます」
    ナレ:それは九谷焼と有田焼の抹茶碗だった。学生時代に佳津子は茶道部に在籍していた。そこへ、担任に無理矢理連れて来られた牧合宗也。のちの牧合板金の社長。学校もサボりがち、たまに来ても喧嘩。見かねた担任が少しは心が落ち着くだろうと茶道部に連れて来た。宗也自身も自分でも何をやっているんだと思ってはいたが、気持ちを何処にぶつけたら良いのか分からない状態であった。そして、茶道部の顧問が宗也の前に点てた抹茶を差し出し、作法は気にしないで好きなように飲みなさいと言った。宗也は片手でグイッと飲んだ。周りの女子生徒は苦いと文句を言うのだろうと身構えていたが、その予想を反し『美味い』と言った。それからは何故か授業をサボる事はあっても茶道部に顔を出した。佳津子以外は初めの頃はビビッて話しかけられなかったが、佳津子はどんな生徒だと知っていたが、怖いもの知らずの性格なので初めから話しかけていた。サバサバした性格の佳津子に打ち解けていき、何でも話す仲になっていたが、恋愛にはならなかった。お互いに所帯を持った時に恋愛に発展しなかったことが不思議だったと。その事について宗也の妻が前世は兄弟だったのではと言った事に二人は納得していた。そして茶道にはまった宗也は名のある作家の抹茶碗を何点も集めていた。
    幸:「この2点は、社長が特に大切にしていた物なので神山さんに受け取って欲しいと」
    佳:「私の様な物にまで、では有難くお受けいたします」
    幸:「では、私はこれで」
    佳:「ごめんなさいね、お構いもしませずに」
    幸:「いえ、では失礼します」
    ナレ:玄関まで戻った時に祥が、
    祥:「あの、失礼な事うかがいますが」
    幸:「はい?」
    祥:「9年くらい前でsyが、湘南でお見かけしたような・・・」
    ナレ:幸子は昔の姿を知っている人が目の前に居て驚いた。
    祥:「あのぉ、まぁ、人違いですね」
    幸:「いいえ、それは私ですね・・・では、失礼します。お邪魔しました」
    ナレ:挨拶して出て行った。祥は聞いてはいけない事だったのではと反省したと、同時に祥は胸にモヤッと感。それが何なのかは分からなかった。
    佳:「どうしたの?」
    祥:「何でもいな」
    ナレ:祥は店舗に戻った。しばらくして店の電話から掛けた。
    祥:「きょうつぎさんのお宅でしょうか?」
    京:《はい、京都木です》
    祥:「神山です」
    京:《祥さんね。ご無沙汰しています。あの、主人に何か?》
    祥:「あのぉ、お二人にでして」
    京:《私も?》
    祥:「はい。確証も無い事なので申し訳ないのですが」
    京:《はい?》
    祥:「私の知り合いの友人が心臓移植をした青年でして」
    京:《えっ》
    祥:「時期が同じ頃と言うだけなのですが、彼はとても元気に過ごしていて、会うことは出来ませんがその姿を」
    ナレ:どう言っていいのか言葉に詰まると、
    京:《もし、その方だとして、主人に聞いてみないと分かりませんが、私は姿を見たいと思います》
    祥:「そうですか。でも確証は」
    京:《大丈夫です。もし違う方であっても、同じように娘も何処かで元気にしている事が分かる気がしますので。主人に話してみます》
    祥:「分かりました。では」
    ナレ:電話を切った後、祥は良かったのだろうかと、話してしまった後も後悔していた。翌日の夜、京都木の夫から連絡が来た。
    京:《妻に聞きました。正直複雑な思いも有りますが、妻が言ったように、その方でなくても、元気にしているのだろうとその方を通して知れるのではないかと考えました。お手数ですがお願いできますか?》
    祥:「はい。決まりましたらご連絡差し上げます」
    ナレ:挨拶をして電話を切った。ダイニングに戻って来た祥に、
    佳:「どなただったの?」
    ナレ:祥は事情を説明した。父のとしをは、
    と:「そんなことして、本当に良かったのか?」
    祥:「まぁ」
    ナレ:言葉が見つからずうな垂れる祥の背中を擦り、
    佳:「最近考え事をしているようだったけど、その事だったのね。私もお父さんと同じように思うわ。まぁ、もう話してしまったのだから、お節介と言っていいのか分からないけど」
    祥:「ん」
    ナレ:二人の話す言葉を聞きながら反省と、モヤッと感が頭の中で渦巻いていた。

    過去&永禄&現在④につづく

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    返信
    すみません

    夕月かかりてさん
    カマアイナさん
    皆様
    ありがとうございます。
    この先は脇道にそれたストーリーになってしまいますが、お読みいただければと思います。
    再度書きますが、今後の内容では、そりゃあ無理あるだろうって事が出てきますが、お許しください。
    では、引き続き書かせていただきます(^-^)

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    返信
    ぷくぷくさんへ

    暫く寂しくなるだろうなと思っていたら、間髪を入れずにぷくぷくさんの新作、大変嬉しく読ませていただきました。尊もいよいよ大学生ですね。受験も済んだ今、発明にも思い切り時間が割けるようになるのではと期待しています。今後は裕君とのコラボも出てくるのでしょうか。

    ぷくぷくさんさんの創作は、いつもほのぼの感満載で、読んでいるだけで頬がほころんできます。まだ続きがあるそうで、楽しみです。
    本当にありがとうございます。

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    返信
    ご声援ありがとうございます

    梅とパイン様。新作は絶賛挫折中ですか。誰と誰だったか気になります~。上手くお話が導き出せれば良いですね。ニューヒーロー&ヒロイン、いつか誕生するといいなぁ。

    カマアイナ様。これはイマイチって回もあったでしょうに、いつも手放しで喜んでくださり、こんなに持ち上げていただいて良いのかしらと私こそ感謝しております。

    ぷくぷく様。新作お待ちしておりました。雑談掲示板でのお知らせから音沙汰なく、どうされたかと心配していましたが、私の長い話が終わるのを待たれていらしたのですか?だとすると申し訳ないです。まだ振り返りとかやりますので、私が割り込む形になりますが、ご容赦くださいませ。

    で、通し番号・投稿番号・サブタイトルを載せた現代Daysの振り返り、また何回かに分けて行いますので、総評もその中に盛り込みます。それでもやたらと幅をとってしまい恐縮ですが。だってサブタイトル並べるだけで170行も…何とかコンパクトにまとめます。

    その後、今後の予定をお伝えします。

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    返信
    今までの四人の現代Days、番号とあらすじ、118から(終)まで

    no.1014の続きです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    118no.1015、1/10、一緒に登校しよう。唯はなぜ逃げる

    119no.1016、1/10、出会ったのは美沙

    120no.1017、1/10、別れる前に和解せよ

    121no.1018、1/10、無礼の訳を話せ

    122no.1019、1/10、諭される唯

    123no.1020、1/10、電話をかけよう。尊と瑠奈は何歩進んだか

    124no.1021、1/10、電話にもて遊ばれる若君

    125no.1022、1/10、買い物は令和風でいこう

    126no.1023、1/10、尊は何を憂う

    127no.1024、1/10、トヨの手腕で眠らない覚

    128no.1025、1/11、最後の朝も早起きできない唯

    129no.1026、1/11、尊の懸念が見えてこない

    130no.1027、1/11、未来は遠くないと諭される尊

    131no.1028、1/11、何気に尊に圧をかける若君

    132no.1029、1/11、エリと芳江からプレゼント

    133no.1030、1/11、尊の授業。エリと芳江に別れの挨拶

    134no.1031、1/11、ボーリング場へGO

    135no.1032、1/11、ゲームを戦の代わりにしたい

    136no.1039、1/11、はさみ揚げの活躍に期待

    137no.1040、1/11、戻る時間を理解していなかった源トヨ

    138no.1041、1/11、家族で遊ぶ時間を捻出

    139no.1042、1/11、駄菓子争奪大トランプ大会

    140no.1043、1/11、源三郎の意外な秘密

    141no.1044、1/11、レジ袋は人気ブランド

    142no.1045、1/11、土産の山と共に帰った

    143no.1046、1/11、かつての名言に熱い返歌

    144no.1047、1/12、じいを撹乱する若君

    145no.1048、1/12、じいに問う。頑張れ小平太

    146no.1049、1/13、源三郎とトヨの祝言始まる

    147no.1050、1/13、祝言無事終了

    148no.1052、1/14、悩めるトヨを諭す唯

    149no.1053、1/14、日記の謎解きや如何に

    150(終)no.1054、1/15、美香子の夢に現れたのは

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    (訂)過去&永禄&現在②

    =過去 2020年4月初め=

    ナレ:4月2日の入学式から2日経った大学の構内。部やサークル勧誘の中、運動以外の部やサークルかまだ決まっていない尊は差し出されたチラシを受け取るだけ。校門を出る前に声を掛けられた。尊と同じ工学部の学生。たまたま尊の席の近くに居た男子の稲賀裕という名だった。
    尊:「確か、いねが君だったよね」
    裕:「俺の名前覚えてくれてたんだ、嬉しいねぇ」
    尊:「だって、隣に来てわざわざ説明してくれたでしょ」
    ナレ:『自分は、いながと読まれること多いけど、これでいねがって読むんだ』と。
    裕:「なぁ、え~」
    ナレ:裕は尊の名前は憶えていなかった。
    尊:「速川尊です。じゃ」
    裕:「そうそう、そうだったね。因みに、はやは日に十の方?」
    尊:「速度の速に川で速川」
    裕:「そっちね。あはは」
    ナレ:調子のいい男だなと尊は思った。離れようとすると腕を掴まれた。
    裕:「速川君、俺とサークル作らない?」
    尊:「はぁ?」
    裕:「何処か決まってるなら諦めるけど」
    尊:「運動以外で考えてはいるけど、まだ決まってないよ」
    裕:「じゃ、俺と一緒に良いでしょ。此処のサッカー部は強豪らしいけど、そこは俺は無理だから」
    尊:「無理?で、サッカー?」
    裕:「フットサルの方」
    尊:「フットサルってサッカー経験者がするイメージだけど、君、中高とかサッカー部だったの?」
    裕:「いいや、俗に言う帰宅部」
    尊:「へっ?」
    ナレ:どう言った事でそうなるのか尊には理解出来なかった。
    裕:「サッカー見るのは好きなんだよ。でも、目茶苦茶練習ってのは嫌いでさ。でも、何もしないってのもね。で、見て知ってるフットサル。人数も5人だし、声掛ければ集まる人数だと思ってさ。野球だと場所とか道具が要るじゃん。でも、ボール一つで出来るし」
    ナレ:捲し立てるように言った。尊は真剣にサッカーやフットサルに向き合っている人達に失礼だと思い、その気持ちが自然と表情に現れたようで、
    裕:「もしかして、怒ってる?」
    尊:「怒ってはいないけど、呆れてる」
    裕:「・・・」
    ナレ:初対面の相手も怒ったかなと思っていると、裕は大笑い。
    尊:「稲賀君?」
    裕:「はっきり言ってくれて、君が気に入った、親友第一号だ」
    ナレ:豪快に笑っていた。裕が半ば強引に最近では珍しい喫茶店に行く話になった。尊は自転車、裕は原付バイク。それぞれ押しながら歩いて行った。尊自身、自分の行動は不思議だった。挨拶しただけの相手とこうして今いる事に。店内でサークルを作るにあたってのルールなどを検索して、
    尊:「顧問や活動方針を決める事から始めないと」
    裕:「もっと簡単に出来るのかと思ってた、色々大変なんだな」
    尊:「じゃ、やめる?」
    裕:「ん・・・俺さ」
    尊:「何?」
    ナレ:あんなにしゃべっていた裕が黙って天井を見上げた。
    尊:「どうしたのさ?」
    裕:「速川君、君は親友第一号なんだ。まぁ、友達は居るけど、ズバッと言ってくれる友達は居なかったんだ」
    尊:「ん?」
    裕:「俺って健康そのものって感じに見えるだろ」
    尊:「どちらかと言えばそう言うタイプ。ガキ大将って感じ」
    裕:「嬉しいなぁ・・・でも、成長した頃に心臓に欠陥が判明して入退院を繰り返していたんだ」
    尊:「えっ?」
    裕:「小学校の頃は何度か学校に行く事は出来たけど、先生もみんなも知ってるから、はれ物に触るみたいに、運動も、友達と喧嘩もした事なくてさ」
    尊:「そうだったんだ。でも、今は」
    裕:「15歳になる前に移植して、この通り。でも、正直怖かったんだ。まだ、どうなるか分からない頃に、院内で理容学校の生徒が実習を兼て、俺達の髪を切る事があって、みんな優しい人達だったけど、俺の髪を切ってくれた男の人も優しくてさ、怖い気持ちを話したんだ。守秘義務ってでも自分で話すから良いかなって。そしたら、その人が、その人の心臓を貰うんじゃなくて、その人の命と共に君は生きていくって事じゃないかなってさ。俺そんな風に考えた事なかったから。一緒に生きていくんだって」
    尊:「そうだったんだ。その胸の人、君がこんなにいい加減な人だとは思わないんじゃないかな」
    裕:「何だよぉ。ははっ、で、俺、本当は君より一つ上」
    尊:「そうだった・・・ですか」
    裕:「やめてくれよ。本当は医学部に入って、俺みたいな子を治せる医者になりたいって考えて医学部受けたけど無理だった。でも、学生生活を満喫したいからさ、まぁ、医学部は諦めて、人の役に立てるマシーンを作ろうと考えて、浪人してこの大学受けた。で、君に会えた」
    ナレ:尊は最初の印象と変わった。
    裕:「高校でも心配性の両親に言われて運動部には入らなかった。大丈夫だと言ってたんだけど。随分心配かけたから言う事聞いて。で、大学に入ったら、運動しても良いって許しが出てさ。でも、無理はしないでって言われてさ。自分たちで作ったサークルなら無理しなくても出来るかなって思ってさ」
    尊:「そうなんだ」
    裕:「速川君はなんでこの大学?」
    尊:「家から自転車で通えるって言うのが一番の理由だけど。僕は・・・何年掛かってもいいからタイムマシーンを作りたい」
    ナレ:尊は何故か会ったばかりの裕に思いを素直に言えた。そんな夢物語と笑われるかと思ったが裕は、
    裕:「凄い事考えてんだなぁ」
    ナレ:尊は驚いた。
    尊:「あのぉ、笑わないの?」
    裕:「笑うわけないじゃんか夢は大きくって事。で、どの時代に行きたいんだ。過去、未来?」
    尊:「室町時代かな」
    裕:「その頃って戦国時代じゃなかったっけ」
    尊:「そうだよ」
    裕:「俺はヤダねぇ、怖いじゃん。何でそんな時代に?」
    尊:「会いたい人達が居るんだ・・・会えないんだけどね」
    裕:「ふ~ん、歴史好きなんだ」
    尊:「まぁ・・・もしタイムマシーンが有ったら、稲賀君は何処に行きたい?」
    裕:「そうだなぁ・・・小さい頃かな」
    尊:「どうして?」
    裕:「父さんと母さんに会って・・・心配しなくても、俺はこんなに元気になるから安心しなって言ってあげたい・・・かな」
    ナレ:尊は両親への想いを知り目頭が熱くなった。
    裕:「何だよぉ、この話はもう終わり」
    尊:「ん。で、その理容の人とは会ったの?」
    裕:「それ以来は会ってないな」
    尊:「君の今の姿をみたら喜ぶんじゃないかな」
    裕:「そうだな・・・えっ?」
    尊:「どうしたの?」
    裕:「まさか・・・でも、でも、そうだよ」
    ナレ:裕は窓の外を見ながら、
    裕:「奇跡が起きた」
    尊:「えっ?」
    ナレ:外で軽く手を振る男性。
    尊:「祥さん」
    ナレ:祥は店員にコーヒーを頼み尊の隣に座った。
    祥:「大学の友達?」
    尊:「そうだよ」
    ナレ:驚いている様子の裕に理容を思い出し、
    尊:「もしかして、さっき話してた人?」
    裕:「うんうんうん、絶対そう」
    祥:「二人してどうしたんだ?」
    尊:「彼、同じ学部の稲賀雄さん。祥さんとは昔会った事あるみたいよ」
    祥:「えっ、何処で?」
    裕:「7年前に、藤野﨑病院に来たことありますよね。患者の髪を切りに来てくれた」
    祥:「とうのさき?・・・そう言えば行った事あるけど」
    ナレ:裕がその時の話をしていく内に祥も思い出してきた。
    祥:「そうか、あの時の男の子か。そうか、そうか、良かったね」
    ナレ:祥の嬉しそうな表情に尊が涙ぐんだ。
    裕:「何で、君が泣くんだよ」
    尊:「そうだよね。稲賀君、奇跡の再会に号泣」
    裕:「そんな風に言ったら泣けるわけないだろうがよ」
    祥:「まだ、会ったばかりなんだろ。なのに昔からの友達みたいだな」
    裕:「速川君と会うのも運命だったのかも」
    尊:「まぁ、そうだと言っておきますか」
    裕:「何だよ、その言い方ぁ。ははは」
    祥:「元気になって良かったね」
    裕:「はい」
    尊:「で、祥さん、どうして此処に?」
    祥:「うちのコーヒーメーカーが壊れてさ。もう、口がコーヒーになってて飲みに来たの」
    尊:「でも、此処って家から離れているけど?」
    祥:「コーヒー飲みに行くって言ったら、お袋がついで頼んでさ。で、こっちの方に出てきて」
    裕:「じゃ、しょうさんと会うのも運命だったんですね」
    祥:「そうかもな。ははっ・・・そう言えば三吉さん元気?」
    尊:「はい」
    裕:「ねぇ、みつよしさんって?」
    尊:「姉の知り合いの知り合いで、今、僕の家で過ごしてて」
    裕:「知り合いの知り合いねぇ」
    祥:「君も会えば好きになるよ。一緒に居て和むような人なんだ」
    裕:「男性ですよね」
    祥:「そうだよ。そう思える人に出会えるのって素敵な事だと思うよ」
    裕:「そうですね。しょうさんや速川君に会えた事も同じかなって」
    ナレ:尊と祥は嬉しそうに笑った。
    祥:「尊、そう言えば、2月初めの日曜日におばさんと他に二人連れを駅前で見かけたんだけど」
    ナレ:尊は如古坊の事で美香子と聡子と幸子が会っていた日の事だと分かった。
    尊:「女友達とでランチ」
    祥:「そう。若い感じの女性を何処かで見た事がある様な気がしてたんだけど」
    ナレ:幸子の事だと思ったが何も言わずにいた。
    祥:「まぁ、似た人かも知れないし。覚えている人と感じは違うし、人違いかな」
    ナレ:コーヒーを飲み干し、
    祥:「じゃ、行くよ」
    ナレ:尊たちの分のオーダー表も持って席を立った。
    尊:「祥さん」
    祥:「奇跡の再会におごらせて。じゃ、ごゆっくり」
    ナレ:二人は礼を言った。祥はさわやかに挨拶して店を出た。
    裕:「悪かったよね」
    尊:「まぁ」
    ナレ:野菜サンドの皿を見て、
    裕:「じゃ、もっと食べておけば良かったかな。ははは」
    尊:「もぉ」
    ナレ:呆れるように言ったが、裕とは友達になれると思った。それから、本当にフットサルのサークルを立ち上げようかと大学を調べたら、既にそのサークルは現存していたことを知り、とりあえず善は急げと店を出て見学に行った。先輩も優しい人達で、裕も身体の事を話した。上級生は遊び半分、試合もあるが日本一を目指すほどでもなく、運動不足にならない為にとサークルを立ち上げたOBの言葉を聞かせ、二人を快く歓迎してくれた。

    ナレ:裕と別れ、帰る途中、書店に立ち寄りフットサル関係の本を買った。尊は夕食を摂りながら裕の話をした。
    如:「現代の医学は素晴らしいですね」
    美:「今でも進化を続けていますからね」
    如:「現代の医療が戦国の世に存在したならばと思います」
    覚:「そうですね」
    尊:「僕が凄い発明をして、病院ごと戦国時代に飛ばせたらなんて思うよ」
    覚:「凄い事考えるなぁ」
    美:「その時は私も医師として行ってみたいわね」
    如:「お母さんが来てくれたら、私も唯も心強いだろうな」
    覚:「唯は嫌がるんじゃないかな」
    尊:「どうして?」
    覚:「吉乃様とお母さん、二人も口うるさい母親が居るのはってさ」
    美:「そうかも、ふふっ」
    如:「私はお母さんと唯が話す姿を見ていませんので何とも言えませんが。でも、嬉しいと思いますよ」
    美:「そうだったわね」
    覚:「テレビで見た事あるでしょう。まるで漫才ですよ」
    如:「それならば尚更見てみたいですね。ははっ」
    尊:「ほんと。あはは」
    ナレ:いつの間にか裕の話題から変わっていた。だが、祥が幸子を見かけた事は言えなかった。

    過去&永禄&現在③に続く

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    過去&元禄&現在①

    創作倶楽部2⃣ №983 2022.10.28 如古坊の楽しくも○○○思い出=15のラストに続く

    =過去 2020年 4月28日=

    ナレ:如古坊が無事に戻れたと信じて家に戻った。写真をテーブルに置き、
    覚:「やっぱり、未来の尊だったんじゃないか?」
    美:「じゃ、何故、如古坊さんを連れて来たの?」
    覚:「そうだな・・・メッセージは?」
    尊:「裏に晴忠7歳、かくたかって読むのかな?覚高1歳しか書いてないし」
    美:「二人の子供よね、一緒に写っているのだから」
    覚:「そうだな。でも、下の子の名前って僕の字が使われているのかな?」
    美:「そうかも。良かったわね」
    尊:「木村先生に頂いた巻物に書いてあったな。それと関係あるのかな?」
    覚:「そうかも知れないな」
    美:「ピースサインなんてして、あの子、母親になっても変わらないわね」
    覚:「そうだな。だが、唯が母親になぁ」
    美:「しっかり母親してるのかしらね」
    覚:「そうだな」
    尊:「大丈夫だよ。だって若君も吉乃様もみんなも居る事だしね」
    美:「そうね・・・」
    尊:「どうしたの?」
    覚:「ん・・・僕たちにとっては孫なんだなぁってお母さんも思ったんだろう」
    美:「えぇ」
    ナレ:覚と美香子の寂しそうな表情に、
    尊:「あと何年もしたら、抱かせてあげられるよ」
    覚:「そうだな」
    美:「楽しみね。でも、やっぱり、未来の尊じゃないの?尊が此処に行って写してきた」
    尊:「僕だったとして、戻れるタイミングは幾らでもあったと思うんだけど、どうして1年だったのかもさ分らないな。でも、未来の僕だったとして、どうしてメッセージも無く写真だけを。それに如古坊さんの事も」
    覚:「ん~そうだよな。僕たちの前に現れないとしても、何らかのメッセージは残すだろうし」
    ナレ:三人は考えたが答えは出なかった。そこに電話が。
    木:《今晩は、木村です。どうでした?》
    覚:「はい。戻れたようです」
    木:《それは良かった。ですが、なんだか寂しいですね》
    覚:「はい。時が経つのは早いと言いますが、やはり1年は長かった。色んな思い出が」
    木:《そうでしょう》
    覚:『でも、それもすぐに慣れるでしょう」
    木:《はぁ》
    覚:「これからも、来てください。一緒に思い出話をしましょう」
    木:《そうですね。では、また》
    ナレ:覚は電話を切った後、夕飯の支度をした。皿にレンコンのはさみ揚げの山。
    美:「皆さん、喜んでくれたわよね」
    覚:「そうだな。そうだったら嬉しいけどな」
    尊:「若君達も好きだって言ってくれてたけど、小平太さんが一番食べていたよ」
    覚:「そうだったな・・・ん」
    美:「どうしたの?」
    覚:「こうなるんだったら、唯に料理を教えておけば良かったなぁって思ってね」
    尊:「こう言っちゃなんだけど、それは無理な話だと思うよ。お姉ちゃんだってこうなるなんて思ってもみなかっただろうけど。でも、現代の調理器具が無いからね」
    覚:「そうだな」
    尊:「それに将来の為だから教えるって言われても、なんだかんだで逃げてただろうし」
    美:「そうでしょうね。なにせ、私の娘だから、ははっ」
    ナレ:覚は苦笑い。

    =過去 2020年 6月=

    ナレ:速川家はいつもの生活に戻ったが、最初の頃、尊は目覚めると横を見て、もう居ないんだとつぶやく事があった。朝食を摂りながら、尊はフットサル入門の本を見ていた。
    覚:「でもなぁ、お前がフットサル部に入るとはなぁ」
    尊:「部じゃなくてサークルだよ」
    覚:「はいはい。でも食べながらじゃ、消化に悪いんじゃないか?」
    尊:「うん」
    ナレ:本を閉じて食べるのに専念。尊は大学に入り、長く付き合う事となる男子と出会った。

    過去&元禄&現在②へ続く

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    夕月かかりてさんへ

    お疲れ様でした。
    速川家の皆さん、特に源三郎さんとトヨさんの幸せについては、私の妄想の中には無かったのでとても新鮮でした。ありがとうございました。
    妄想作家のサガでしょうね、きっとこの度の作品を書いている際も、次の創作内容が浮かんで案を練っておられる事でしょう。
    そんな中で申し訳ございませんが失礼して、しばらく私も此処の登場させていただきます。しばらくの間、夕月かかりてさん、創作作家の皆様もお茶して、ゆっくりして頂ければと思います(^-^)
    では、よろしくお願い申し上げます。

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    返信
    夕月かかりてさんへ

    驚きの速川家訪問からの新展開、大変楽しく読ませていただきました。
    アシガールを見た時は、トヨにはほとんど関心もなく、どんな顔かもよく思い出せなかったのですが、速川家の心温まる愛情にひたり、たった1ヶ月で、結婚も両親もいっぺんに手にすることができましたね。夕月かかりてさんのおかげで、源三郎もトヨもグッと身近に感じられるようになりました。

    本当に長期にわたる大作ご苦労様でした。おかげ様でアシガールの余韻をここまで引き伸ばして楽しむ事ができました。ありがとうございます。

    これから寂しくなることはいななめませんが、今後も尊の発明のおかげで、現代との行き来は、どこかで維持されるだろうと、勝手に期待しています。

    少なくとももうすぐ始まる大河ドラマ、「ひかる君へ」は内田ゆきさん統括で、冬野ゆみさんの音楽とのこと、ガラリと物語は違うとはいえ、どこかでアシガールのエッセンスを彷彿とさせるのではと、今から期待しています。
    できることならアシ紫カフェならぬ、雑談コーナーでもあったらアシガールロスも和らぐのではなんて、勝手に思ってしまいます。

    美香子さんの夢では、若君と唯は子供達に囲まれ幸せなエンディングの様子。
    もしアシガールに続きがあるなら、150年後ではなく、若君と唯が、その後をどう生きたのか知りたいですね。それほど主人公2人と、速川家を筆頭に彼らを取り巻く人物、ストーリーが魅力に溢れていたということですね。

    御多分に洩れず、私も昨日、一昨日とWBCのドラマに酔いしれて、感想が遅くなりましたが、夕月かかりてさんへの心からの感謝の気持ちには変わりありません。
    ありがとうございました。

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    返信
    夕月かかりて さん

    反応が遅くて 申し訳ありません(>_<)。
    まずは お疲れさまでした m(__)m。
    なかなかの大作を 長く(無料で♪)楽しませて頂き、本当にありがとうございました (^o^)。すごく面白かったです♪← 感想文 苦手で すみません (^^;)

    そしてそして、お詫びとお礼だなんて 滅相もございません (*_*)。
    組み合わせとしては 私が考えた「源三郎&トヨ」ですが、こんなに素敵なカップルに育ててもらって すごく嬉しく思っております 本当に (^^)v。
    私に関して言えば 書きにくくなったのではなくて、ちょっと ふざけ過ぎたゆえに 単に行き詰まっただけの自業自得ですからね(笑)。お気になさらないで下さいませ😌。
    実は「源・トヨ」を お任せしている間に、もう1組の男女の物語を 考えていたんですけど 全然上手く まとまらなくて… (>_<)。そのうち ご披露しようと思っていましたが、絶賛挫折中でございます (-_-;)。

    夕月かかりて さんは、新作の構想はありますか? 楽しみに待ってますので、どうぞよろしくお願い致します (^^)。

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    返信
    梅とパイン様へ

    総評などはまた後日として、まずは梅パ様にお詫びとお礼を申し上げます。

    大人気の、関西弁炸裂の源ちゃんトヨちゃんシリーズ。私が現代Daysに二人を登場させたばっかりに、書きにくくなってしまったのではないですか?一応お許しを得て始めたとはいえ、申し訳なく思っておりました。

    源トヨの二人に与えられた設定にのっかる形で進み、私の話の中では夫婦になりました。でもそれはそれ、パラレルワールドの内の一つと捉えていただき、どうかまた、楽しいあのシリーズをお願いいたします。

    自由にさせてくださいまして、本当にありがとうございました。

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    四人の現代Days150(終)~15日水曜5時、夢で逢えたら

    妄想家系図は、一番下、マスター様のブログ記事内の「御月家の家系図からわかること」をご参照ください。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    男「美香」

    美香子 心の声(…ん、呼んだ?)

    ムクッと起き上がった美香子。ここは令和の速川家。覚と美香子の寝室。

    美香子「え。夢?」

    隣のベッドで、覚がスヤスヤと眠っている。

    美 心(確かに聞こえたけど、美香子じゃなくて美香だから私ではないか。でもあの声は)

    再び横になった美香子。

    美 心(彼だわ。これは夢の続きを見るしかないわね)

    目を閉じる。すると、景色がゆっくりと浮かび上がってきた。

    美 心(時代劇に出てくるような、武家屋敷?)

    屋敷の中には、着物姿の女の子達。

    美 心(小学校の中学年位?が二人。で、小さい子が一人。二、三歳ってところね。三姉妹なのかしら…あらっ?あれってもしかして!)

    一番幼い女の子。髪が両耳の上辺りで二つ結びになっているのだが、

    美 心(あの赤いリボン、私が唯にあげたヘアゴムに付いていた物じゃない?…うん、間違いないわ。と言う事は、このお嬢ちゃん達!)

    泣いてぐずる妹を、姉二人があやしている。

    美 心(唯にも忠清くんにもよく似てるわ。はぁ~。孫、孫なのね。泣けてきちゃう…こんなにも可愛らしくて)

    打掛姿の女性が現れた。

    唯「美香~。お待たせぇ。はい、もう泣かなーい!」

    美 心(唯~!まぁ~。話し方はあまり成長が感じられないけれど、すっかりお母さんの顔になって)

    母の貫禄さえ感じ、大垂髪もすっかり様になっていた唯。

    長女「あ、直ってるぅ」

    二女「すごぉい。良かったねっ、美香」

    美 心(あちゃー。娘達の口調は、完全に母の影響)

    三女・美香「さんた、さんた!」

    唯の持つ人形に、小さな手を伸ばす美香。

    美 心(サンタ?あっ!クリスマスイブデートで唯が引いた福引の、景品のサンタ人形!格好の遊び道具になってたのね)

    唯「トヨに頼んで大正解。はいどーぞ」

    美 心(トヨちゃんも元気で居るのね。孫のお人形まで面倒みてくれるなんて。唯は裁縫は全くできないままだったから、助かるわ)

    唯「あ、お帰りぃ。早かったね」

    若君「うむ。ん?美香」

    美 心(来た。あの声の主の登場ね)

    庭から現れた若君。

    美 心(う~ん。いい意味で、もう若君ではないか。年齢を重ねて、益々の威厳、でも気高さはそのままに。生やした髭の効果もあるだろうけど、持って生まれたものが大きいわよね~)

    若「何じゃ、泣いておったのか?よしよし」

    そう言いながら美香を抱き上げ、顔を近づけようとしたのだが、

    三「いやっ」

    露骨に顔を背けられた。

    二「パパまたやってる」

    長「懲りないよねぇ」

    美 心(ぷっ。どの時代も娘は父親に冷たい)

    唯「だからー。すぐ顔くっつけようとする。ヒゲが当たれば、嫌がるに決まってるっしょ」

    若「そうか…。剃り落とすべきか?」

    唯「そこ、違うから。マジでヘコむのやめてくんない?」

    美 心(忠清くん、なんて顔してるの!あはは~でも家族の平和な日常ね。いい物見せてもらったわ)

    …ここで目が覚めた。そのまま起き上がった美香子。

    美「残念。終わっちゃった。よし!忘れない内に書き留めておきましょ」

    その日の夜。食卓に両親と尊。

    尊「一日かけてわざわざ作成したの?」

    美「今日はお休みだったしね。これが、作っててとっても楽しかったのよ~」

    覚「服装とかも、ネットで調べて母さんが夢で見たままを忠実に描いたんだ。お陰でな、僕も一緒に見たような気になれたよ」

    今朝の夢を、絵と文章で再現していた両親。

    尊「僕の作った妄想家系図の設定に、だいぶ引っ張られてない?」

    美「それだけ信憑性が高いって事よ」

    覚「いい出来だぞ」

    尊「それはありがとうございます」

    美「長女ちゃんと二女ちゃんの名前がわからなかったのは惜しかったな。ねぇ尊」

    尊「何」

    美「名前、降臨してない?」

    尊「してないよ。残念ながら」

    美「美香ちゃんの時みたいに」

    尊「あれはね、今でもよくわからないんだ。ここにこの名が入る、書けと言われた気がしたんだよ」

    覚「あのさ」

    美香子&尊「はい」

    覚「聞いてくれないか?僕の推理なんだけど」

    美「あら。どんなかしら」

    尊「伺います」

    覚「妄想家系図によると、唯の子供は7人だよな。母さんの名は、そもそも末っ子に付けるつもりだったんじゃ」

    美「どうして?」

    覚「締めというか」

    美「シメって何よ」

    覚「何となく」

    美「説明になってないわよ」

    尊「わかる気がするようなしないような」

    覚「美香ちゃん、歳がちょっと下だっただろ」

    美「ん?そうね。お姉ちゃん達に比べると」

    覚「どうして間が空いたかはわからないが、二女から数年後に念願の三女が生まれ、二人の中で、よしここまでと、ようやく美香と名付けたんじゃないかと。どう、どう?」

    美「はあ」

    尊「そういう事にしておきますか。仮に答え合わせできたとしても相当先の話だし」

    覚「中々いいだろ?思うにさー、僕も久々に誕生した末娘なら溺愛しちゃうかも。忠清くんの気持ちはわかるよ」

    尊「ふーん。父親ってそんなモンなんだ」

    美「今回、上の男の子達やトヨちゃん源三郎くんには逢えなかったのよねー。次回の上映を楽しみに待つわ」

    尊「そう上手くいくかな」

    美「いいじゃない。願うのに損はなし」

    覚「僕も見せてもらえるよう、願っとく」

    尊「ははは~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    四人の現代Days、これにて終了です。お読みくださった皆様に、心から感謝いたします。

    長い間、ありがとうございました。

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    四人の現代Days149~14日21時、犯人は

    和紙と墨って最強。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    こちら、令和の速川家。尊がリビングに顔を出した。

    覚「何だ、勉強してたんじゃないのか。もう休憩か?」

    美香子「喉でも渇いた?」

    尊「木村先生からメールが来たんだよ。早く教えたくて下りてきた」

    覚「メール?」

    食卓の席についた三人。

    美「先生もこの時期お忙しいでしょうに、わざわざメールくださったの?」

    尊「先に僕から送ってたんだよ。その返事をもらえた」

    覚「尊が先?何書いたんだ」

    尊「姉は土曜日に帰りました、その後例の日記はどこまで読み解けてますか、って感じ」

    美「そんな内容なの?せめてセンター試験終わってから、今週末以降で連絡すれば良かったじゃない」

    尊「お姉ちゃんが戻ったのを伝えときたかったし、進捗状況が気になっちゃって」

    美「今じゃなくても~」

    尊「でも、メールして正解だったんだよ」

    美「えぇ?」

    覚「んー良くわからんが。先生からは何て?」

    尊「読み上げるね。そうか、帰省が終わったか。ご両親も淋しかろうな。しかし僕にメールくれるなんて相当余裕じゃないか?気は抜かないようにな。でもこのタイミングで連絡くれて、少し有り難かったよ。ちょっとグチりたかったんだ」

    美「グチ?」

    尊「解読はボチボチやってるよ。あれから10日分位進んだが、その中に目新しい内容があってな。近習の婚儀を予定通り執り行え」

    覚&美香子「あ」

    尊「安堵したと。家臣の話なんて珍しい。初めてじゃないか」

    覚「忠清くん、凄いな。ちゃんとこちらと同時になるよう、やりこなしたんだ」

    美「どう褒めても褒め足りないわねぇ」

    尊「それでその日付の前後辺りなんだが、少々腹が立った事があってなー」

    覚「腹が立つ?」

    尊「イタズラされたような跡があって」

    美「イタズラ。あら大変」

    尊「四角い形状の何かが貼り付いていたようなんだ。その部分だけ色が変わって毛羽だっていたり、接着剤らしき跡が残っていたりしてな。何箇所か」

    覚「ん?」

    尊「これか?と思われる紙らしき破片は出てくるんだが、何が印刷されていたかとかは消えてしまっていてわからなかった。ゆくゆくは貴重な資料となるかもしれないこの日記に、後世の者がシールでも貼りやがったんじゃないかと思うんだ」

    覚「んん?」

    尊「怒れちゃってさー。誰かにグチりたかったところ、調査の事情を知ってる君から連絡が来たから、渡りに船と、チラっとつぶやかせてもらったよ。気分転換にもならない話で済まなかったね。では少し長くなってしまったが、試験の健闘を祈るよ。木村」

    黙り込んだ両親。しばらくして、

    覚「…それって」

    美「確か持って帰った…」

    尊「そう。多分、というか間違いなく、忠清シールだと思うんだ」

    美「イタズラなんでしょ。って事は…唯がやらかした?!」

    覚「え、でもさ、シールあげる話した時、唯に勝手に取り出されないような場所にしまった方がいいぞって言ったら、しかと心得ましたって頷いてたんだが」

    尊「兄さんなら、言い付け通りちゃんと隠してあったと思うよ」

    美「じゃあ誰が、って忠清くんしか居ないじゃない。それは有り得なくない?」

    尊「それが有り得るんだよ」

    美「嘘ぉ」

    尊「木村先生と初めて話した時に聞いたんだけど、あの日記さ、書いた人物の名前が入ってなくて著者不明なんだよ」

    覚「あー」

    尊「で、これは推測なんだけど、お姉ちゃんと兄さんが木村先生に会いに行ってるじゃない。その時にも名がないって話が出たんじゃないかと」

    覚「名前か、なら」

    美「ちょうど手元にいい物があるから貼っておこうか、って?えー!」

    尊「兄さんは、イタズラするつもりじゃなくて好意で貼ったんじゃないかなあ。450年前の日記、和紙が残るならシールも残るだろうって思うのは、わかる気がするよ」

    覚「でも現代の紙は思いの外脆かった」

    尊「そんなに厚い紙で作らなかったし?」

    覚「うん。どちらにせよ、和紙とは丈夫さでは比べ物にならんのだろうな。結果、ほぼ残ってないし」

    美「まさか木村先生を困惑させるとは思わなかったのね」

    尊「でも兄さん、お茶目だよね。書けば済むのにペタっとやったんだから。案外、シールたる物を貼ってみたかったのだ、なんてオチかもしれないね」

    覚「その答え合わせも、いつ出来るかは尊次第だしな」

    尊が座ったまま伸びをした。

    尊「はぁ~。最後はそこかー。ホント、プレッシャーが甚だしいよ」

    覚「何年かかってもいいさ」

    尊「そう?」

    美「でも私達が元気な内がいいわねぇ」

    覚「そりゃそうだ」

    尊「結局答えは変わらず。はいはい、もう少ししたら頑張らせていただきます」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    14日のお話は、ここまでです。

    次回、最終回。

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    四人の現代Days148~14日火曜7時、助言します

    大切な女友達だから。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯の居室にトヨが来た。

    トヨ「え!」

    唯「おはよっ」

    ト「もう起きていらっしゃるんですか!まさか寝ていないとか?」

    唯「そんなに驚くー?ゆうべあの後すぐ寝たからさ」

    ト「はあ」

    唯「たまにはね。たーくんとラブラブで、ラジオ体操もしてきたよ!」

    ト「おやまあ」

    唯「じいの姿は見かけなかったんだよね。なんで居なかったんかはわかんない」

    ト「うーん。察するところ、私が天野のお屋敷を出る頃に酒宴が始まっておりましたので、まだお休みではなかろうかと」

    唯「え。それって、源三郎もじい達に巻きこまれちゃったの?」

    ト「いえご心配なく。信茂様信近様有山様のお三人だけでした」

    唯「良かったねぇつかまらなくて。実はさ、トヨといろいろ話したいコトあるんだ。たーくんとも相談したんだけど、今朝のうちに言っておこうと思って」

    ト「お話。ですか」

    向かい合って座った二人。

    唯「まずは」

    また立ち上がり、棚から何かを持ってきた。

    ト「芳江さんとエリさんの連鶴ですね」

    唯「これあげる!もらって」

    ト「えっ」

    唯「令和の母二人、でしょ?」

    ト「とても良くしていただいたので、その通りではあります。でも」

    唯「たーくんも、トヨが持ってる方がいいって言ってたの。だからどーぞ」

    ト「よろしいのですか?」

    唯「うん」

    ト「嬉しい。ありがとうございます。大切にいたします!」

    唯「でさ。昨日同じ時間に、速川の家でも同じように祝言ぽい事やってたみたいなんだよ」

    ト「そうなんですか?!」

    唯「たぶん。宴会とかとごちゃ混ぜにしてなければ。特にお父さん」

    と「どうしてそんな事ができたんですか」

    唯「たーくんが、この時間にやるからぜひ共にって尊に頼んどいたんだって」

    ト「え?待ってください。という事は…若君様は日にちと時間を、信茂様のお許しが出る前にお決めになっていらしたと?」

    唯「うん」

    ト「…」

    唯「たーくん、神だから」

    ト「神業の神ですか」

    唯「そーなの?」

    ト「で、よろしいかと。驚きました…」

    唯「頼りになるよね~」

    ト「はい。若君様の下でお仕えできる喜びを、噛みしめたく存じます」

    唯「でね。ここからが肝心な話なの。はっきり言うよ」

    ト「はい」

    唯「子作りに、励め!」

    ト「それは…私はそこまで若くありませんので、授かれるものなら早うとは思っておりますが」

    唯「でも、できれば私が先に産んで欲しいって思ってるよね」

    ト「勿論です。切望され、それで苦しい思いをされておられるのを間近で見ておりますので」

    唯「悩んでない?」

    ト「…少し悩んでおります」

    唯「おふくろさまには打ち明けたんでしょ」

    ト「…はい」

    唯「やっぱりね。私、何も聞いてないから。そうじゃないかなと思ったんで、カマかけてみたんだ」

    ト「え?」

    唯「おふくろさまは、人から聞いた事をすぐチクったり…んー、隠しときたい秘密をしゃべったりしないよ。そんな人じゃないのは知ってるでしょ」

    ト「はい、それはもう。でしたら何故」

    唯「カン?」

    ト「勘が働いたと」

    唯「言われたのは、トヨが城をいつ下がるか、あやふやではなくちゃんと話のすりあわせをしなさいって、それだけ」

    ト「そうでしたか」

    唯「早めに決めようよ。次の女中頭を誰にするかとか私の世話係はとか…いや、この際世話係はもうなしにしない?」

    ト「なりません」

    唯「ちぇ。まだ誰かにガミガミ言われるんだ」

    ト「言われぬよう、奥方様には自覚を持っていただかないと」

    唯「へーい。で、トヨが源三郎と赤井家の事だけを考えられるようにして、励んでもらうと」

    ト「ありがとうございます。私の周りは、昨日初めて事の次第を知った者ばかりですので、いきなり去るのも少し心苦しいのですが、引き継ぎは早う進めて参ります」

    唯「さみしくはなるけど、いつでも会えるし」

    ト「そうですね」

    唯「あのさ、前にどうやら三人目?の赤ちゃん産んだ夢見たって言ったじゃない。トヨが大きいお腹で娘ちゃん連れててって」

    ト「覚えております」

    唯「夢に出てきたのがその時に居た子供全員かはわかんないんだけどね、御月家の長男に当たる男の子より、トヨが連れてた女の子の方が大きかったんだよ」

    ト「歳が上という事ですか」

    唯「たぶんね。だからきっと、私より先に赤ちゃんに会える」

    ト「すみません…」

    唯「気にしなーい。私は私、トヨはトヨの人生だもん。あ、今、ちょっとカッコいいコト言った?」

    ト「お気遣いが心に染みました。ありがとうございます」

    唯「えへへ。言いたかったのはここまでだよ」

    ト「はい」

    唯「あー、急にお腹空いてきたんだけどぉ」

    ト「ふふっ。ではお運びいたします」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    最終回のお知らせ

    長々と続けて参りました四人の現代Days。「現代Days(仮)」からスタートしたのはちょうど一年前の今日でした。

    皆様のご愛顧に大感謝しつつの全150回となります。(仮)も合わせると170回。よくもそんなに描いたもんだ。

    この後のお話を含め、あと3回です。

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    四人の現代Days147~13日18時、一件落着

    結構な歳のおじさん達が大騒ぎ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    一段と凛々しい源三郎が奥に進んでいる。すると、唯の傍らに置かれた品々に気が付いた。

    源三郎「あっ、これは…」

    破顔一笑し、その場で深く一礼する。

    小平太パパ「何をしておるのじゃ?」

    次に、吉乃の導きでトヨが入ってきたのだが、

    唯「顔が固まってる!笑って~」

    極度の緊張で、唯の声かけも聞こえていない。

    有山の妻女の囁き「なんと初々しい。あら?」

    有山の囁き「ん?どうした」

    有 妻 囁き「二人共、一輪ずつ梅が咲いております。源三郎は若葉の様な色で」

    有 囁き「おぉ、これは気が利いておるのう。此方は白梅か」

    美香子と源トヨの三人で行った組紐の店。押し問答は少しあったが、結局プレゼントされていたのは、梅の花を型どった色違いのブローチだった。

    有 妻 囁き「春の訪れでございますね」

    有 囁き「まさしく。良いな」

    三三九度の準備をしている。

    源三郎の囁き「トヨ、大丈夫か」

    トヨの囁き「何とか…」

    源 囁き「令和に居られる皆様も、見守ってくださっておる。お前、気付いていないだろう」

    ト 囁き「え?」

    源 囁き「奥方様の隣」

    ト 囁き「…あっ」

    唯の傍らで、ちょこんと五羽の折鶴達が参列していた。覚、美香子、尊、エリと芳江がそれぞれの手で折った物だ。

    トヨ「なんて…唯様、ありがとうございます」

    ピースサインで応える唯。一方、微笑む若君。

    若君「皆、晴れ姿を見届けておるゆえ」

    源三郎&トヨ「はい!」

    ┅┅

    さて。こちらは令和の速川家。

    尊「それが、トヨさんセレクトの帯締め?」

    美香子「そうなのよ~。せっかくだから出してきたの。やっぱり着物で参列した方が良かったかしら」

    尊「兄さんは、この時間だけ共に願いたい、って言ってただけだから」

    覚「気持ちは正装だぞ。ははは」

    永禄と同時刻に、リビングに座布団を並べ座る三人。

    美「可愛いい分身ね。小さくても、一羽ずつ座布団にのせるとそこに本人が居るみたいで」

    覚「そうだな。いかにも祝言に立ち合ってる雰囲気が出てる」

    ひな壇に当たる位置に座布団が二枚並び、源三郎とトヨが折った鶴がそれぞれ置かれている。源三郎側の参列者として若君と唯の折鶴が一羽ずつ置かれた座布団二枚。トヨ側に両親と尊が整列して座っている。

    尊「向こうもこんな感じなのかな。並び方とかは正解がわからないから違うだろうけど」

    美「きっと素敵なお式よ~。でもどうして今日この時間なのかしら。ピンポイントで忠清くんが指定したのよね?ぜひ同時にって」

    尊「平日だとさ、クリニック終わりからだと夜遅くなるし時間が不安定じゃない」

    覚「それはわかるが。いきなり今日で大丈夫だったんかな」

    尊「いつ何が起こるかわからないから、早めに設定したんだと思うよ。それにね、何か今日は一粒万倍日だからって言ってたよ」

    美「あら」

    覚「一粒の籾が何倍にも成長して大きな利益をもたらすってヤツだな。だから結婚式か」

    美「あの時カレンダー見ながらそんな事考えてたなんて。忠清くんってホント偉いわ~」

    尊「さてと。そろそろ終わりかな。30分はかからないって兄さん言ってたから」

    覚「よし!なら最後は一本締めだ」

    美「あらま」

    尊「それ…絶対向こうではやんないって」

    覚「いいからいいから。さ、やるぞ。お手を拝借。よーぉっ!」

    ┅┅

    戻って、永禄。祝言が終わって間もなく。

    若君の囁き「源三郎」

    源 囁き「はい」

    若 囁き「余興じゃ」

    源 囁き「余興、でございますか?」

    若君が立ち上がり、源トヨの目の前、真ん中の広い所へ出た。

    若「じい、信近。此処へ」

    小パ「はっ!」

    じい「ははぁ」

    胸元から、何やら書状のような物を出す若君。

    じ「おぉ」

    小パ「いよいよか」

    半分程開く。イラストになった、じいの姿がチラリと見えた。

    じ「んん?」

    小パ「絵か?」

    ト「あ」

    源「此処でお出しになられるとは」

    なぜか、一旦引っ込める若君。

    じ「むむっ」

    若「実はのう、じいの姿を絵にしたのじゃ」

    小パ「なんと。絵を嗜まれるなど初耳」

    次に、全部開いた若君。高い位置で掲げた。つられて立ち上がろうとするじいと信近。

    じ「よう見えぬ」

    小パ「若君様、お戯れを」

    有山「何事じゃ?わしにも見せてくだされ」

    右に掲げれば右に動き、左に掲げれば左に動く家臣三人。源トヨと有山の妻は笑いを堪えるのに必死だが、唯は大笑いしている。

    唯「あははは!たーくん、ウケる~!」

    散々若君に弄ばれた後、ようやく絵を受け取ったじい。信近と有山も覗き込む。

    じ「何やら奇天烈な」

    有「南蛮渡来の装束か?」

    小パ「それにしても、随分と質の良い紙じゃ」

    やたらと感心している三人を横目に、源トヨの前に腰を下ろした若君。

    若「源三郎。トヨ。末永う幸せにの」

    源「はい!」

    ト「ありがとうございます」

    若「では唯。帰るぞ」

    唯「えー、もう?」

    若「早う二人きりにしてやらねばの」

    唯「確かに」

    源トヨが床に擦る程頭を下げる。まだ騒いでいる家臣達。

    唯「また明日ね」

    唯と若君は、その場を後にした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    13日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days146~13日月曜14時、佳き日

    この頃、ちょうど蕾が膨らんできています。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    自室に戻ろうとしている唯。源三郎が声をかけた。

    源三郎「奥方様」

    唯「あ、源三郎~」

    唯に駆け寄り、跪いた源三郎。

    唯「結婚式、もうすぐだね!」

    源「はい。奥方様には、お気遣い心より御礼申し上げます」

    唯「へ?私なんかやったっけ?はさみ揚げを冷めないようにはしたけど」

    源「それが効いたと伺いました」

    唯「ちょっとだけだよ」

    源「その様な。ご謙遜を」

    唯「ふふっ。珍しいでしょ、走る以外で役に立つなんて」

    源「い、いえ!」

    唯「たーくんのお手柄だって。話をどう持ってくかとかさ、上手なんだよ」

    源「はい。それはもう…まさかご同席くださるとは思わず」

    唯「同席?ってなに」

    源「え、お聞きになられておられぬ?」

    唯「知らなーい」

    源「昨日、天野様のお許しを得たと伺い、永季様にお話をと急ぎ向かおうとしたところ、わしも共に参ると仰せられ」

    唯「へー。その方が話早いもんね。だからトントン拍子なんだ。良かったね」

    源「はい」

    唯「たーくんさ、自分がしてやったみたいなコトは私にも言わないから」

    源「頭が下がります」

    唯「さっきね、おふくろさまとトヨが話してたよ。また泣きそうになってた」

    源「左様でございましたか」

    唯「夕方楽しみにしてるね!」

    源「ははっ」

    天野の屋敷。もうすぐ、現代の時間で夕方6時、酉の正刻。

    若君「よう似合うておる」

    源「痛み入ります」

    朽葉色の直垂を身に付けた源三郎。くすんだ色合いではあるが、顔立ちをとても引き立てている。

    若「それか。贈られた品は」

    源「はい。トヨと、祝言の折にはこの品を必ず身に付けようと約束しまして」

    若「花としては見ぬ色味じゃな」

    源「お母さんは、あなた達の時代にはなかった色かもしれないと仰せられましたが、わたくしが気に入りました故」

    若「そうか。まさに春じゃ」

    源「はい」

    こちらは、トヨが支度中。白装束になっている。

    唯「おじゃましまーす!あ、おふくろさま」

    吉乃「唯。何をうろついておるのです」

    唯「えへ。怒られるかなーとは思ったけど、早く花嫁さんを見たくって。もう準備できた?」

    トヨ「あと、これを付けたいのですが。吉乃様、よろしいでしょうか」

    唯「あ、ブローチ。同じ白だからいいよね!」

    吉「花飾りか?まあ良いでしょう」

    唯「じゃあ私が付けてあげる」

    ト「ありがとうございます」

    帯のすぐ上、脇の方に留められた。

    吉「それは」

    ト「はっ!はい」

    吉「もしや、唯のお国の品ではあるまいか?」

    ト「あっ、その…」

    唯「そーでーす。私のお母さんが、トヨと源三郎にってプレ…贈ってくれたんです」

    トヨの囁き「唯様、良いのですか?そのようなお話をされても」

    唯の囁き「いいのいいの。おふくろさまには、たーくんの矢傷を治した隠れ屋に、両親と尊が居るって言ってあるし」

    吉「やはり。家臣の婚儀にまで気を配られるとは。梅か?美しい細工がほどこされて」

    ト「はい。とても気に入っております」

    吉「それは何より。さあ、唯はそろそろ行きなされ」

    唯「はーい。待ってまーす」

    酉の正刻となった。祝言に立ち合う者はごく僅かだ。

    小平太パパ「何故、夫婦が離れて座っておるのじゃ」

    向かって右、源三郎側に若君。その後列に有山とその妻女。トヨ側に唯。その後列にじいと信近。

    じい「若君がこうお決めになったのじゃ。源三郎は若君の近習であるし、トヨはむじなの世話をしておるし。まぁ良いではないか」

    小パ「唯之助の脇には何やら置かれておるし」

    じ「文句ばかり垂れるでない。ほれ、始まるぞ」

    源三郎が入ってきた。

    唯「カッコいい~」

    有山「感慨無量」

    じ「おぉ。ええ婿じゃ」

    小パ「小平太には見せられん。ちょうど警固の番で良かったわい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days145~12日9時、踊らされます

    どこまでが策なのか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    天野の屋敷。部屋に通された若君。三人揃った姿に少し驚いた様子だ。

    若君「小平太」

    小平太「はっ」

    若「まだ起きておったか」

    小「若君がお越しとあれば。居てはなりませんでしたか」

    若「話す手間は省けるが。気を落とさぬ様」

    小「気を落とす?何事でございましょう」

    若「まあ良かろう」

    じいの前に腰を下ろした若君。傍らのタッパーがじいの視線を釘付けにしているが、構わず話し出した。

    若「旅立って、じき二年になるか」

    じい「旅?あぁ、元次でございますか。若君に未だ気にかけていただけるなど、奴も本望でござろうの」

    若「竹馬の友が居らぬと、張りもなかろう」

    じ「なんのなんの」

    若「そうか?」

    じ「いざ戦となれば、先陣を切りますぞぉ」

    小平太パパの囁き「は?!またそのような戯れ言を」

    小平太の囁き「少しは歳を考えて頂かぬと」

    若「いや…じいは出陣ではのうて、城を守り通して貰いたい。無論、戦にならぬようこれからも努めて参るがの」

    じ「そうでござりますか?んにゃ、若君の仰せならば承知仕る。ふぉっふぉっ」

    小パ 囁き「有難い。わしらの説得には耳を貸さぬからのう」

    若「話が逸れたが」

    じ「おぉ、これはご無礼をば。何でございましょう」

    若「元次とは、隠居後も多少の小競り合いはあったであろうが」

    小パ 囁き「小競り合い!然り」

    若「仲違い程ではなかったな?」

    じ「それは、まぁ。共に幾度も出陣した、同士でもござるしのう」

    若「ならば、天野と千原の結び付きをより強固に致すのも構わぬな?」

    じ「結び付き?若君は何を仰せか」

    若「両家のせがれと娘が婚儀を行うなど」

    じ「なぬぅ?!」

    それを聞き、うろたえ始めた小平太と父信近。つい声が大きくなる。

    小平太パパ「小平太に縁組の話?!」

    小「え!」

    若「あぁ済まぬ。小平太にではない。驚かせたの」

    思わず立ち上がりかけた三人。すぐに下がり座り直した。

    小「さ、左様でございますか」

    小パ「違う、と」

    じ「ならば若君は、誰の話をしておいでじゃ」

    小「もしや」

    小パ「何じゃ」

    小「源三郎に縁組でございますか。されど、天野には娘は」

    小パ「小平太の姉は既に嫁いでおりますし」

    若「源三郎は合うておる」

    じ「はあ」

    若「で、じい。良いか?両家の確執などなかろう?」

    じ「それは…末代までいがみ合うつもりもござらぬし」

    若「うむ」

    じ「御意のままに」

    若「そうか」

    じ「で、婚儀の相手は…」

    小パ「誰…」

    若「よし。小平太」

    小「は、はっ」

    若「母君はどちらに?」

    小「母上でございますか。呼んで参ります」

    小平太が、心なしか肩を落としつつ部屋を出ていった。

    若「そういえば。待たせたの。じいにと唯からじゃ」

    じ「ぬはは!漸くレンコンにありつけようぞ」

    吉乃「若君様。お呼びでございますか」

    吉乃が現れた。

    若「頼みがあっての」

    吉「はい。何なりとお申し付けくださいませ」

    若「明晩酉の正刻、源三郎の婚儀を執り行う」

    吉「まぁ。祝言とは喜ばしい。わたくしは何を致せば宜しいでしょうか」

    若「源三郎もではあるが、トヨの身支度をしては貰えぬか」

    吉乃「畏まりました」

    小パ「トヨ?!」

    小「確かに、天野の者でございますが。え?」

    吉「何をそこまで驚かれる。仲睦まじゅう隠れて話し込む姿はよう見かけておりました。ご存じない?」

    小「まさか」

    小パ「知らなんだ」

    吉「まこと、天野の男衆は色恋沙汰に疎うございます」

    若「ハハハ。どちらの屋敷で行うかは、これから有山と話すが」

    じ「若君ぃ。ならば此処を使われよ」

    若君が振り向くと、じいがいたくご機嫌で、はさみ揚げを頬張っていた。

    小パ「朝餉が済んだばかりだというのに」

    若「良いのか?」

    じ「んにゃ。年明け早々祝い事など縁起が良うござる。ぬははは」

    若「そうか。ならば頼む」

    若君が立ち上がり、早々に出て行こうとする様子に、信近がかなり驚いている。

    小パ「若君、あっあの」

    若「何じゃ」

    小パ「書状は…」

    若「あぁ、忘れておったな。うむ…婚儀の席で披露すると致す」

    小パ「急ぎ何かではない、と」

    若「全く以て」

    小パ「そうですか…」

    若「では、此れにて」

    若君は、屋敷を後にした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    12日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days144~12日日曜6時30分、匂わせます

    妙な擬音が多い、じいの百面相をお楽しみください。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    穏やかな朝を迎えた。若君が一人、自室前の庭でラジオ体操を始めようとしている。

    若君 心の声(そろそろか)

    じいが現れるのを待っている。

    若 心(姿を見たら、蓋を開ける)

    タオルでくるんだじい宛のはさみ揚げは、まだ温かかった。その理由は…

    ┅┅回想。昨夜、源三郎とトヨが唯の居室を出た後┅┅

    若君「朝方には、はさみ揚げも冷めるのう」

    唯「いっくらタオルで巻いといてもそれは仕方ないかも。なんで?」

    若「あまり匂わぬ」

    唯「ふーん。あったかいと、ほ~れウマそうだろ~ってニオイで猛アピールするもんね。あーもしかして、なんか策ありってヤツ?」

    若「じいに、此処にお好みの品がある、と分かり易うできればと思うての」

    唯「企んでるねぇ。だったらじいにあげる分だけでも保温しとく?」

    若「保温。どのように致すのじゃ」

    唯「これ用に余分にもらっとけば良かったなー。でも源三郎とトヨのために、じいはできるだけゴキゲンにしときたいよねー」

    荷物の中から、使い捨てカイロを出した唯。袋を開けて振る。

    唯「どーんと2つ使おっ。これを、タッパーの上と下に仕込む」

    若「ほぅ。器は、熱で傷んだりはせぬか?」

    唯「たぶん大丈夫。チンできる入れ物だし」

    若「チン。電子レンジじゃな」

    唯「おっ、覚えたね」

    若「電子レンジ、は物体の中にある水の分子、を振動させ熱を出す。そうではなく、鉄の粉が空気に触れ酸化、すると出る熱で器を温めると」

    唯「たーくん…今ちょっとイラっとした」

    ┅┅回想終わり┅┅

    遠くから、聞き覚えのある声が近付いて来た。

    じい「若君ぃ~」

    若 心(よし)

    縁側の隅に置いたタッパー。タオルをめくり、蓋を少し開けた。

    じ「体操、体操を」

    若「うむ。始めるぞ」

    じ「ややっ?何やら香ばしい。これは嗅いだ覚え、いや食した覚えがあるような」

    いい匂いが辺りに漂っている。鼻をクンクンさせるじい。

    若「何じゃ。体操はせぬのか」

    じ「おほ?あいや滅相もない!」

    匂いに気を取られながら、体を動かすじい。

    じいの囁き「むむぅ。あの包みが怪しい」

    若「何か申したか?」

    じ「いえ?雀でございましょう」

    若「一羽も居らぬがの」

    体操が終わった。

    若「じい。朝餉の後屋敷へ参る。待つように」

    じ「は?信近でございますか、それとも小平太にござりますか」

    若「じいに話がある」

    じ「なんと?!ははっ、わかり申した」

    中に入る際、タッパーをひょいと手に取った若君。じいが鼻の下を目一杯伸ばしながら、穴が開きそうな程、若君の手元を見つめている。

    若「どうかしたか?」

    じ 囁き「さては…アレじゃな」

    若「この品も携えていく。楽しみにしておれ」

    じ「おぉぉ。レンコンもでござるか」

    源三郎も準備を始めていた。有山の所在を確かめている。

    源三郎 心の声(正午までには片をつける、と、忠…若君様は仰せになった。天野様のお許しが出次第、馳せ参じねば)

    源三郎「ん?」

    源 心(正午、か。午の正刻を令和でもそう申すと教わった。すっかり言葉が馴染んだようだな。若君様共々)

    時は進み、そろそろ天野の屋敷に若君が現れる。

    小平太パパ「父上に用、と?」

    じ「その様じゃ。今朝方、幾らでも話せた筈。それをせなんだとなれば、折り入って何かしらあるのやもしれん」

    小パ「うーん。身構えておらねば」

    じ「何じゃ小平太。警固上がりじゃろ。まだ休んでおらんのか」

    小平太「若君様のお成りとなれば、寝てなどおれません。あ、お姿が」

    じ「おっ」

    若君登場。手にはタッパーの包み、そして胸元の合わせから何かがチラリと見えている。

    じ「おぉぉレンコン~」

    小「書状をお持ちの様です」

    小パ「これは、心して聞かねばならぬ」

    天野家三世代、座して頭を下げた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days143~11日23時55分、文詠みます

    超理系と思いきや、文系もイケる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊の部屋。

    尊「どうだろ」

    スマホを取り出して操作する。

    尊「あ。起きてた。じゃあ」

    次にパソコンを操作し始めると、すぐに画面が開いた。

    瑠奈『わぁ!尊!』

    尊「お待たせしました。ちゃんと繋がったね。良かった」

    瑠『うん。練習で、お父さんのパソコンと通話してみたからばっちりだよ。嬉しい!画面大きいから、尊が目の前に居るみたい!』

    お互いの部屋のパソコン越しに、ビデオ通話を始めた二人。

    瑠『家に帰ったの遅かったんだね。お姉さん達の飛行機、最終の便だった?』

    尊「うん」

    尊 心の声(そういう事にしておいてください)

    瑠『寂しくなるね』

    尊「7人居たのが3人に一気に戻ったからさ。両親は少し気落ちしてる」

    瑠『そうなるよね。尊のお父さんお母さん、すっごく優しいしお話も楽しかった。また会えるといいな』

    尊「だったら、大学合格したら、また家に遊びに来なよ」

    瑠『ホント?!いいの?』

    尊「来てくれれば両親も喜ぶと思うし」

    瑠『行く行く!今度は、ちゃんと尊の家に行くって親に言うよ』

    尊「ははは。うん、ぜひ」

    瑠『ねぇ、今日満月なんだよ。知ってた?』

    尊「うん。見たよ」

    瑠『うふふ』

    尊「満月観ると、あ、誕生日来たって感じ?」

    瑠『月の周期で?えー、12倍速で歳取ってくのは困る』

    尊「ははは」

    瑠『そっか!毎月尊にバースデープレゼントをもらえるんだ?』

    尊「ヤベっ、墓穴掘った」

    瑠『キャハハ』

    尊 心(癒される。気落ちしてるのは僕もだったから)

    屈託のない瑠奈の笑顔に、顔がほころぶ尊。

    尊 心(あ。そうだ)

    何かを思いついた。

    尊 心(あの言葉、言ってみたい。どうかな。わかってくれるかな)

    瑠『あー、楽しい~』

    尊「あの、さ」

    瑠『なに?』

    尊「月が綺麗だね」

    瑠『月?』

    窓の外を窺おうとする瑠奈。が、すぐに動きが止まった。

    瑠『あ。もしかして…』

    尊 心(気づいた?)

    瑠奈が、居ずまいを正した。それに倣う尊。

    瑠『たけるん。もう一度言って欲しい』

    尊 心(さすが。わかったっぽい)

    尊「月が、綺麗ですね」

    瑠『尊…。あ』

    尊「へ?」

    瑠『えーっと、メモ!私どこにしまった~?』

    しきりに、机の引き出しを開けたりノートをめくったりしている。

    尊「何か探し物?」

    瑠『見つかった!もー、あまりにも出番がないから』

    尊「ん?」

    瑠『あのね、聞いてください』

    尊「はい」

    瑠『君はいかで、月にあらそうほどばかり、めぐり逢いつつ影を並べん』

    尊「…西行の和歌ですか」

    瑠『ヤだ、尊。なんでわかるの?天才!』

    尊「天才なんかじゃないよ。この問いにどんな答えがあるのか調べてあっただけ。瑠奈こそリサーチ済みでさすがだね」

    瑠『月関係には敏感ですから』

    尊「そっか」

    瑠『うふふ』

    尊「予想してた答えの中では一番…」

    瑠『だって、ずっと一緒に居られたら幸せだもん』

    尊「それは僕も同じだよ。って、わー照れる」

    瑠『すっごく嬉しい!月が入る愛の言葉だから、いつか誰か言ってくれないかなって、返答の見本をメモしておいたの。今まではこんな事全然なくて、やっぱり尊だったなって。ありがとう』

    尊「痛み入ります」

    瑠『ふふっ。あー、直接会ってる時じゃなかったのだけうらめしい。がっつりホールド、からのギューがしたいのに!』

    尊「そんな大技かけられたら骨折しちゃうよ」

    瑠『もー、どんな怪力だと思ってるの?でも、そうなったら付きっきりで介抱してあげる』

    尊「ははは」

    時間はあっという間に過ぎる。

    尊「名残惜しいけど、そろそろ」

    瑠『うん。明日もこうしてしゃべりたいな』

    尊「そうしようね。ではおやすみなさい」

    瑠『おやすみ、たけるん』

    暗く沈んだ画面をぼんやり眺める尊。

    尊「あ。今まで何で気づかなかったんだろ」

    尊 心(直接行き来するタイムマシンに拘っていたけど、こうやって、現代と永禄でリアルタイムに話ができるのもアリじゃないか?)

    尊「そっちの線も考えてみるか…」

    呟きながらパジャマに着替え、ベッドにもぐりこんでいった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    和歌の訳ですが、

    月は毎晩空に浮かぶ。同じくらい、大好きなあなたと絶えず会って、寄り添っていたい。

    といった感じです。

    11日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days142~11日23時40分、帰省終わります

    さよならは言わない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    土産のあまりの多さに、四人でも上手く抱えきれず、未だ出発できていない。

    美香子「えーと、どこかしら体がくっついてないと、飛べないのよね」

    唯「いろいろもらい過ぎた?」

    美「実家に寄った時なんて、大体こんなものよ。何とかしましょ」

    覚「レジ袋を腕にかけて、隣同士腕をからめてから風呂敷を持つ。どうだ?」

    尊「綺麗な着物にレジ袋。すごい光景だよ。これぞ奇天烈」

    唯「起動スイッチどうしよう」

    若君「荷はわしが粗方持つゆえ、唯が抜け」

    四人とも両手が塞がった状態で、なんとか円陣を組んだ。

    若「お父さん。お母さん。このようななりで済みませぬが、世話になり申した」

    覚「僕らこそありがとな」

    美「楽しかったわ」

    源三郎「心より礼を申します。この日々は、一生の宝と致す所存でございます」

    トヨ「本当に、本当にありがとうございました」

    尊「元気で居てくださいね。僕も…頑張ります。いろいろと」

    唯「尊ぅ」

    尊「何」

    唯「そこでー、あのセリフっしょ」

    尊「セリフ?」

    唯「だからこれからもきっとある!」

    尊「あー。うん」

    若「…では。此れにて。唯」

    唯「はい」

    起動スイッチが引き抜かれ、四人の姿が消えていった。

    覚「ふう」

    美「はぁ」

    尊は、パソコンを確認している。

    尊「うん、ちゃんと3分後に着いたよ。OKって出てる」

    覚「良かった」

    美「一安心ね」

    美香子が、深呼吸をしている。

    美「すー、は~」

    覚「何してんだ」

    美「余韻を、ね」

    覚「そうか。すー、は~~」

    尊「ほぼ揚げ物臭だけど」

    そして三人は、まだ温もりの残る実験室を後にした。

    唯「…着いた?着いた?」

    若「戻れたようじゃな」

    源「おぉ。何もかもそのままで」

    ト「永禄はここまで暗かったのですね」

    永禄。唯の居室に無事到着した四人。安堵の表情の、唯と源トヨ。

    唯「荷物さ、今日はここに置いてったら?」

    ト「よろしいのですか?」

    唯「いいよん。隅っこに寄せよっ」

    ゴソゴソ動き出す唯達。

    若「待て」

    唯「待て、って?」

    若「しばし動くな。源三郎もトヨもじゃ」

    唯「なんで?」

    若「シッ。静かに」

    そう言うと、若君は襖を開け表へ出た。三人が静止してその場にかがむ。するとすぐ、外から声がした。

    男「若君様!」

    唯の囁き「あ、小平太だ」

    小平太「ひどく屋敷が揺れました。怪我などされてはおられませぬか?」

    若「あぁ。今、唯の無事も確かめた所じゃ」

    小「左様で」

    若「大事ない。戻れ」

    小「はっ」

    小平太の気配が消えた頃、若君が中に戻ってきた。

    唯「もう動いて大丈夫?」

    若「うむ。尊が参った折も相当揺れたゆえ、此度もそうであったのではと思うての。やはり小平太が飛んで来た」

    源「思い出しました。あの日の揺れは、尊殿が此方に来られたしるしであったのですね」

    若「フフ、源三郎」

    源「はっ?」

    若「あの日とは?まだ昨日の話じゃ」

    源「え」

    唯「だって3分後だもん」

    源「そう…でございますか」

    唯「そゆコト」

    ト「尊様と初めてお会いしてから、一日しか経っていないと」

    源「これはややこしい」

    唯「またいつもの生活が始まるってワケ。でもね!明日は、たーくんががんばるからさ」

    若「赤井家の荷は此処に預かっておく。今宵は、早う互いの寝所へ戻り体を休めよ。明日も早かろう」

    源「はっ」

    ト「わかりました」

    変わって、令和の速川家リビング。

    美「なーんか、部屋が広ーく感じるわ」

    覚「食卓が倍の大きさなのがまた、寂しさも倍増だな」

    尊「そんな物悲しい事ばかり言わないでよ。このテーブル、どうする?」

    覚「源三郎くん達が使ってた予備室に持っていくか。明日にでも」

    尊「そっか。じゃあ、僕もう部屋に行くね。おやすみなさい」

    覚&美香子「おやすみ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    11日のお話、もう少し続きます。

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    四人の現代Days141~11日23時20分、レア物です

    大喜びでパクつきそうだから、危ない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美香子「代わるわ」

    覚「ん」

    四人はまだ二階。揚げ物担当を父から母に交代した。

    覚「風呂敷包みじゃ足りんな。紙袋でも用意するか」

    唯達が持ち帰る荷物の山の前に、覚と尊。

    尊「紙袋なの?」

    覚「土に還る方がいいだろ」

    尊「もうキリがなくない?あげた駄菓子、全部ビニールで包装してあるし」

    覚「それもそうだな。なら、せっかくだから」

    尊「せっかく?」

    キッチンの作業台下をゴソゴソ探す覚。

    覚「よし、いい物出てきたぞ」

    尊「は?レジ袋じゃない。最近エコバッグばかりでしょ。取ってあったの?」

    覚「何となくな。ほら、このロゴ見ろよ」

    尊「いつも行くスーパーのだ」

    覚「これで持ち帰ってもらえば、喜ばないか?向こうでも使えそうだし」

    尊「えー、喜ぶかな」

    四人が二階から下りてきた。

    若君「お待たせ致しました」

    覚「おー。武士の一団、だな」

    若「その、手にされておるのは?袋、ですか」

    覚「風呂敷や新聞紙だけじゃ心許ないだろ」

    唯「なんでレジ袋~」

    若「ん?これはもしや」

    トヨ「あの、よく訪れた」

    源三郎「スーパー、の名では?」

    若「このような品があると。名入りとは!いただけるのですか?」

    覚「使ってくれ。何枚でもあるぞ」

    若「うんうん、よう見慣れた店の名じゃ。有り難い」

    ト「買い物をした日々が思い出されます」

    源「大切に致します」

    尊「まさかの反応。人気のロゴだったとは」

    唯「なにげに丈夫だけどさぁ」

    はさみ揚げも用意できた。

    美「大きいタッパーは皆さんで。タオルでくるんである小さい方が、天野のじい様へね」

    若「布で巻いたのは、何ゆえでしょうか」

    美「少しでも温かいまま、渡せるといいなと思って」

    覚「ちなみに、高齢者用に蓮根には隠し包丁をしてある。噛み切りやすいようにな」

    若「おぉ、それはわしも案じておりました。喉に詰まらせぬかと」

    源「なんというお心遣い」

    ト「素晴らしいわ」

    若「ところで尊」

    尊「はい?」

    若「ちと話がある」

    リビングの隅に呼ばれた尊。若君が耳打ちしている。

    尊の囁き「え、そうなんですか。僕達は休みの日だし大丈夫ですけど、間に合いますか?」

    若君の囁き「間に合うよう進めておく」

    尊 囁き「カッコいい。わかりました。酉の正刻ですね」

    荷物の再確認も終わった。

    覚「最後、写真撮るから並んで」

    唯「はーい。ビフォーアフター的な?」

    7人でカメラに収まった。

    覚「さて、実験室に移動するか」

    美「荷物、少し持つわ」

    ト「すみません」

    あと30分程で日付が変わる。実験室は、人と荷物であふれていた。

    覚「じゃあな」

    美「元気でね」

    若「お父さん。くれぐれも、怪我には用心してくだされ」

    覚「本当に。忠清くんが慌てて飛んで来ないよう、気を付けるよ」

    源三郎とトヨは、何か言いたげな顔はしているのだが、

    源「まこと…筆舌に尽くし難く」

    ト「胸がいっぱいで、言葉が出ません」

    二人の肩をポンポンと叩く両親。

    覚「会えて良かったよ」

    美「あなた達から教わる事も、たくさんあったわ」

    源「そのような。身に余る光栄でございます」

    トヨがまた泣きそうになっている。

    美「駄目よ泣いちゃ。もう女中頭のトヨちゃんに戻るんだから。堪えなさい」

    母も、涙を堪えている。

    ト「はっ、はい」

    そんな中、ケロっとしている唯。

    唯「感動の場面だねぇ。うん、マジ連れて来て正解だった」

    尊「さっぱりしてんなぁ」

    唯「また来るもん。尊、よろしくぅ」

    尊「はぁ。あいも変わらず、わかってない」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    飛ぶのは次回ですが、まだまだ続きます。

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    四人の現代Days140~11日22時30分、男子の会話

    寡黙な分、話の中身が濃い。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トランプ大会、真っ最中。

    唯「今度は夏に来よう!」

    尊「は~。簡単に言ってくれるよな」

    唯「だって、また海やプールに行きたいもん!トヨや源三郎とさぁ」

    トヨ「あの、お写真のようにですか?」

    リビング奥に飾ってある、唯と若君と尊の水着姿の写真に、視線を向けたトヨ。

    唯「ぜーったい、楽しいってぇ」

    ト「唯様。私は良いのですが」

    なぜか、源三郎が申し訳なさそうに下を向いている。

    唯「え?なに」

    若君「唯。わしが申す」

    唯「はあ」

    若「源三郎はのう、戦となれば、鎧を身に付けておろうが川でも沼でも飛び込むが」

    唯「うん」

    若「水は些か苦手じゃ」

    唯「え、そうなの?知らなかった!」

    尊「びっくり」

    覚「それはまた」

    美香子「意外だわ」

    源三郎「恥ずかしながら、仰せの通りでございます。幼き頃、川辺で遊んでおりましたら、山に降った雨により水嵩があっという間に増し、流されそうになりまして」

    美「あら大変」

    源「騒ぎを聞きつけた父上と永季殿に、すんでのところで助けられました」

    覚「それは危なかったね」

    源「以来、水辺はつい、怯んでしまいます」

    尊「だからかー。あの水着の写真がらみで、源三郎さんに海とかプールの話をした時、いまいちノリが悪いなぁって思ってたんですよ」

    源「はい…覚えております。波が立ったり勢いよく流れると聞き、どうにも顔が強張ってしまいました」

    尊「苦手な物は仕方がないですよ」

    覚「今になって知る話もあるんだな。よしわかった。今度夏に来た時の為に、流れないプール、探しておくよ」

    尊「ちょっと!お父さんまで。プレッシャーの嵐だよ~」

    23時になった。

    美「お菓子、満遍なく行き渡った感じね」

    覚「そうだな…」

    一瞬、7人居るとは思えない程、シーンと静まりかえった。

    若「…わかりました。それでは、着替えて参ります」

    覚「あぁ、うん。じゃあ、はさみ揚げ用意するよ」

    美「お着物ね、唯とトヨちゃんのは唯の部屋、忠清くんと源三郎くんのは源三郎くんの部屋の前に置いたから、それぞれで着替えて。唯の着付けは、トヨちゃんにお願いして良かったのよね?」

    ト「はい。お任せください」

    唯「行ってきます」

    美「行ってらっしゃい…」

    四人が階段を上がっていった。

    尊「いよいよか…」

    美「尊、揚げ物手伝って」

    尊「あ、はい」

    二階。源三郎とトヨの部屋に若君が入る。

    若「もぬけの殻じゃの。閨の跡形もない」

    源「はい」

    若「如何であった?」

    源「こちらの世の暮らしでございますか?それはもう夢のような」

    若「違う。新婚生活、と申す物じゃ」

    源「新婚?」

    若「唯が、婚儀間もない夫婦をそう呼ぶと」

    源「あ、あぁ。それはもう夢のような」

    若「ハハ、答えは同じか」

    源三郎が、急にモジモジし始めた。

    若「ん?どうした」

    源「あの」

    若「何じゃ」

    源「可憐、の意味が漸くわかりました」

    若「可憐?」

    源「忠清様がそのように喩えられ」

    若「ほぅ…ほぅ!そうか、そうか」

    源「わたくしには、可憐より妖艶、でした」

    若「そこまで申さずとも良いが」

    源「明る過ぎる、と、すぐ灯りを消されておりましたが」

    若「ハッハッハ、そうか。源三郎と、斯様な話が出来るとは感慨無量」

    源「これまた夢のようでございます」

    若「小平太とは、いつになれば出来るのやら」

    源「わたくしからは何も申せません」

    若「フフフ。じいであるが」

    源「はい」

    若「任せておけ。吉報を待つのみ」

    源「ははっ!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days139~11日21時、興が乗る

    まだ食うか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君と尊、入浴中。

    若君「しばらく、瑠奈殿に会えぬのであろう」

    尊「あー、まぁ。よく知ってますね」

    若「三連休、と聞いた」

    尊「はい。明後日まで学校、クリニックもですけどお休みです」

    若「淋しかろう」

    尊「今は受験勉強が最優先ですから」

    若「淋しかろう?」

    尊「畳みかけますね。ご心配なく。電話もLINEも、なんだってありますから。それに今日は、兄さん達を見送る日だからって伝えてありますんで」

    若「そうか」

    入れ替わりで覚と源三郎が風呂に。若君が、カレンダーの前に佇んでいる。美香子が近くを通ると、

    若「お母さん」

    美香子「ん?どした~?」

    若「暦の此処に、一粒万倍日、とありますが、何でござろうか」

    美「あー、これはね。籾、あるじゃない」

    若「米のですか」

    美「そう。その小さな一粒が成長して立派な稲穂になるのにあやかって、何かを始めるのにいい日って言われてるのよね」

    若「ほぅ。それは縁起が良いですね」

    美「だから、お祝い事にも最適なのよ。お店を新しく出す時とか、結婚式とか」

    若「結婚式。そうですか…」

    覚と源三郎、入浴中。

    源三郎「お父さんのお力添えでトヨを娶る事が出来、改めまして心より御礼申し上げます」

    覚「僕はアドバイス…進言しただけだから。いやぁでも良かったよ。忠清くん、かなり心配してたんだぞ?」

    源「はい。わたくし如き者にここまで心を砕いていただき、一層の精進と、身を尽くす所存でございます」

    覚「これで一家の主だな」

    源「はい」

    覚「ずっと赤井を名乗る?それはわからないかー」

    源「そうですね」

    覚「今は知り合いにも居ないけどさ、いずれ、旧緑合出身の赤井さんなーんて人に現代で出会ったら僕、感動しちゃうだろうな。有り得るだろ?家が続けば」

    源「そう願います」

    覚「気持ちを強く持って」

    源「はい。子孫繁栄。その為には」

    覚「子作りだな」

    源「はい…」

    覚「声が小さい」

    源「はっ!励みます!」

    覚「おー、風呂場の外まで響く勢いだな。いいぞ、ははは~」

    全員揃った。

    覚「では、大トランプ大会を始める」

    唯「やったー、ヒューヒュー!」

    覚「勝者には景品を用意した」

    尊「景品!」

    唯「なに!」

    美香子が、ダンボール箱を運んできた。中を見せる。

    美「お菓子よ~。どっちかというと、駄菓子かな」

    唯「わぁ、わさわさ入ってるぅ」

    尊「駄菓子。子供会の行事?」

    美「いいじゃないの。一回ゲーム勝つ度に、一つ選ばせてあげる」

    唯「へー。じゃあ勝てたら、もらったお菓子を見せびらかしなから食べていいんだ」

    覚「持ち帰る前提だったが、まぁそれもいいだろ。今食いたいなら」

    唯「食いたい」

    尊「勝ってから言って」

    唯「よーし!勝つぞ~」

    尊「姉はこう言ってますが、源三郎さんトヨさん、頑張ってくださいね」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「兄さんは…頑張ってもお姉ちゃんにかすめ取られそうだもんな」

    唯「たーくん、よろしくぅ」

    若「いや、渡さぬ」

    唯「なぬ!」

    尊「おっ、強気だ」

    若「朝方、中々起きぬ唯の鼻先にちらつかせ、起こすのに使う」

    唯「うぅっ」

    尊「ウケる」

    美「状況が目に浮かぶわ~」

    覚「そんなんされなくても起きろよな。はい、まずはババ抜きからだ」

    22時。かなり盛り上がっている。

    尊「兄さんの一人勝ちと思いきや、源三郎さんが健闘してる」

    源「然程でもございませぬ」

    唯「駄菓子に目がくらんで?」

    尊「お姉ちゃんじゃあるまいし」

    源「敵を惑わせる術は、身に付けて損はないと思いまして」

    覚「ほー。何事にも無駄がないよ」

    美「偉いわねぇ」

    尊が勝者になった時、

    尊「僕の分、トヨさんに差し上げます」

    トヨ「えっ」

    尊「好きなお菓子選んでください」

    ト「そんな、困ります、尊様への褒美でございます」

    尊「いいんですよ、僕はいつでも手に入るんで。もらってください」

    覚「おー、優しいなー。ジェントルマン、紳士だ」

    尊「ジェントルマンね。やっぱり僕ってそうなのかな」

    唯「やっぱり?なにそれ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days138~11日20時、お好みはどれ

    手を尽くしてくれたから、劇的に回復。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「そろそろ風呂沸くぞ」

    美香子「あら、もう?ならトヨちゃん、座って。リムーバー持ってくるわ」

    トヨ「はい。お願いいたします」

    美香子がトヨの手を取り、マニキュアを落とし始めた。

    唯「ねぇねぇ、女子は三人一緒にお風呂のつもりだけど、男子も四人ギューギュー詰めで入るの?」

    覚「それはさすがに厳しい。コミュニケーションもいいが、ゆったり入って欲しいしな。せいぜい二人ずつだ」

    唯「どうすんの」

    尊「どういう組み合わせでもいいけど」

    若君「わしも構わぬ」

    唯「源三郎が決めたら?」

    源三郎「え」

    若「そうせよ」

    唯「誰と一緒がいい?」

    源「あの…」

    唯「いいよゆっくり考えれば」

    源「お父さんの、お背中を流させていただけるならば、この上ない喜びでございます」

    覚「おー、そうかいそうかい。嬉しいよ」

    尊「決まりだね。じゃあ僕は兄さんと」

    若「うむ」

    美「はい、お疲れ様~」

    マニキュアオフ完了。

    ト「ありがとうございました、お母さん」

    美「なーんか、さっぱりしちゃったわねぇ」

    ト「すっかり元通りです」

    美「元通りではないわよ?来た頃と違って、指先まで傷もない」

    ト「そうですね…ひとえにお母さんのお陰です」

    尊「治療した?」

    美「そこまで大々的ではなかったけど、私ができる限りは。寝る時に手袋はめてもらったりもしたわね。あれから一月も経つのねぇ」

    覚「飾ってなくても、綺麗な指先だ」

    ト「ありがとうございます…」

    覚「風呂、女性陣が先でいいぞ」

    美「そう?ありがと。じゃ、行きましょ」

    唯「はーい」

    ト「はい」

    三人はリビングを出ていった。

    尊「お父さん」

    覚「ん?」

    尊「なんか、晩ごはんも早めだったし、予定前倒し的な感じ?急いでるの?まさか、早く帰そうとか」

    覚「違う。みんな風呂から出たら、大トランプ大会やろうと思ってな」

    尊「大会!」

    若「そのような意図が」

    源「風呂の後は、即戻る支度をせねばと思うておりました」

    覚「飽きるまで遊んでもらう」

    尊「ははは」

    若君と源三郎が、ほっとした顔になった。

    覚「で、そうだな、11時過ぎ頃に着替えに行ってもらう」

    尊「何でその時間?」

    覚「あまり遅く戻って、翌朝からの仕事に影響するといけないからな。唯はともかく、三人は忙しい身だから」

    尊「なるほどね」

    覚「その間に、僕は土産のはさみ揚げを用意すると」

    尊「だからか。さっき、着物に着替えてる時位に揚げるって言ってたじゃない。なんでお風呂の間でない?と思ってたんだよ」

    覚「天野のじい様に渡すのが明日だとしても、少しでも出来立てに近い方がいいしな。二人とも、急いで帰りたかったかい?」

    若「いえ!」

    源「滅相もないです!」

    覚「な、まだまだ夜は長いぞ~」

    洗面所。風呂を出た女性陣。この後の予定は、美香子が二人に知らせていた。

    ト「お母さん。この下着、なんですが」

    美「ブラとショーツ?」

    ト「持ち帰るのを、お許しいただけませんでしょうか」

    美「いいわよ~。全部?」

    ト「いえ。もしも、また訪れる機会があったならば、その折にお母さんを慌てさせてもいけませんので」

    美「ふふっ。さすが気遣いのプロ。というか残すのは、おまじないも入ってない?」

    ト「まじない。そうですね」

    美「必ず戻って来れますように、って」

    ト「はい」

    唯「持ってって、向こうで使う?」

    ト「眺めて楽しみます」

    唯「かわいい下着は気分がアガるって言ってたもんね。あ、違うか」

    ト「え?」

    唯「源三郎が気に入ってるのにするんかな~?なーんて。いやん」

    ト「あの、その」

    唯「え?まさかの図星?!」

    ト「お恥ずかしい」

    美「あらん。そんな話聞いたら、お風呂出てるのにのぼせそうよ。はい、ドライヤー持って行って。二人とも髪は、リビングで乾かしなさい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days137~11日19時、遠慮のかたまり

    醒めたくない夢って、ある。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    晩ごはんが済んだ。

    唯「お母さん特製のスモア、みんな楽しみにしてるからさ、お願いしまーす!」

    美香子「わかりました。さて、どうするかな。バーベキューの時と違って、コンロの前に群がるってのもねぇ」

    覚「それに直火は焦げやすいしな。オープントースターでやるか?」

    美「そうしよっか。ビスケットにマシュマロのせて入れちゃえばいいもの」

    覚「でもトースターの前に群がるんなら、コンロと同じだしな…ん、よし!トースター本体をテーブルに運んじゃおう。な、いい考えだろ?えーっと延長コードはと」

    尊「話、早っ」

    デザートの準備をし始めた両親。

    美「誰が作っても同じになりそうだけど、これでも母の味になる?」

    若君「はい、勿論です」

    唯「お母さんが作れば、どんなんでも母の味だよ」

    美「そお?」

    食卓にオープントースターがセットされた。手際良く次々と作り始める母。

    美「材料、何か多くない?誰がこんなに食べるのよ」

    唯「どーんと買ったから。いいじゃなーい」

    美「唯に買い物させるとこうなるか。でも、これでしばらく甘い物も中々口にできないでしょうから、今夜、心ゆくまで食べてもらうってのもいいかもね」

    唯「でしょー」

    美「ホントにそこまで考えてた?はい、源三郎くんトヨちゃんお待たせ。熱いから気をつけてね」

    源三郎「頂戴致します」

    トヨ「ありがとうございます」

    唯「甘い物かぁ。あ、そういえば、まだ大根アメ残ってるわ」

    美「それは薬として尊に持たせたんだけどね。どっちにしろあまり日持ちはしないから、帰ったら三日以内位には食べておきなさいよ」

    それを聞いた源トヨが、怪訝そうに顔を見合わせている。

    唯「あれ、どした?二人とも」

    トヨの囁き「源ちゃん、言って」

    源「あ、あぁ。畏れながら申し上げます」

    唯「なに?」

    源「日持ちがしないのであれば、戻った折には時すでに遅し、ではありませぬか?もう一月も経っております」

    唯「へ?だって戻るのは、飛んだ3分後だし」

    源「三分?」

    ト「三分…」

    若「唯。その辺りの仕組み、子細を話してはおらぬ」

    唯「そうだった?」

    源トヨが頷いた。

    唯「えー、なんも聞かれないから、たーくんがしゃべったと思ってたー」

    若「わしは、あれやこれや立て続けに話しては狼狽するばかりと思うておる内に、期を逸したと申すか」

    唯「言うの忘れてたんだ」

    美「唯~。人のせいにしないの」

    唯「マジすかー」

    若「マジ、だ」

    唯「あれ私、あん時なんて言ったっけ?えーっと」

    若「三分間、夢のような夢ではない時間を過ごさぬか、と誘うておった」

    ト「三分は百八十数える内、と伺いました。今では三分がどれ程かはわかりますが、こちらの世で百八十数えても、何も変わりませんでしたので訳がよくわからず」

    唯「それしか言ってなかったからか。ごめーん」

    源「いえ、あえてわたくし共からお尋ねも致しませんでしたし」

    若「今、あえてと申したな」

    源「はい。トヨとも話しておりましたが、子細を伺ってしまうと、この夢から醒めてしまうのではないかと思い」

    唯「夢じゃないんだけど」

    ト「あの、それほど夢のような楽しい時を過ごさせていただいておりましたので」

    唯「そっか。そんな風に思っててくれたなら、連れてきてホント良かったよ。じゃあ、詳しくは尊から説明しまーす」

    尊「は?」

    唯「よろしくぅ」

    尊「いきなり丸投げかよ!話すけどさ。あの、要はですね、永禄では三分間だけ四人が居なくなってるんです」

    ト「こちらにこんなに長く居りますのに?」

    源「うーん」

    尊「夜遅くに発ったじゃないですか。それは、日中に急に四人も居なくなると周りが騒ぐから考慮したんですよね?兄さん」

    若「然り」

    尊「こちらに、満月から満月の間ほぼ一か月居たとしても、戻った時には3分、180数えた位しか経ってないんです。そういう機能…というか乗り物なんですよ。だから大根アメも無事と」

    源「わかったようなわからぬような」

    ト「やっぱりわからないような」

    唯「わかったつもりで行こー」

    尊「雑だな」

    美「ねぇ、もっと焼いてもいいの?まだ食べられる?」

    唯「じゃんじゃん作って!みんな遠慮して、欲しいって絶対言わないから」

    若君と源トヨがそっと微笑んだ。

    尊「珍しく正論」

    美「了解~」

    スモアパーティーもそろそろ終わり。

    美「最後一つ、源三郎くん食べて」

    源「はっ、それではいただきます」

    美「はい、おしまい。休憩したらお風呂ね」

    唯「まだまだ盛りだくさんだ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days136~11日18時30分、用意周到

    そんなに固くはないが、かと言って。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    帰宅し、晩ごはんの準備をしている。

    唯「はっさみっ揚げ~!」

    覚「あい変わらず口しか出さないな。チョロチョロしてるだけなら、あっち行ってろ」

    唯「へーい」

    尊「叱られ方が小学生並みだ」

    美香子「持ってく荷物の確認は終わったの?」

    唯「だいたいは」

    美「この後は、ご飯食べてお風呂入ってお着物に着替えてだから、忙しいわよ?今の内にちゃんと見ておきなさいよ」

    唯「はいはい」

    美「ホントにもう~」

    尊「叱られ方、以下同文」

    リビングの隅に、持ち帰る荷物の山が二つできている。

    尊「御月家と赤井家ね。このでっかい新聞紙の包みは何?」

    唯「レトルトいっぱい持ってくから」

    尊「あー、なるほど」

    唯「バラけるといけないから一度包んである。ビニール袋とかより燃やせるモノがいいって、お父さんが言うから」

    尊「へー。いい考えだけど、燃やすのは勿体ないよ。だってこれ、日付入ってるじゃない。いつこっちに来てたかわかるよ」

    唯「そう言えばそうだ。…あ、だったらさ、ねー、お母さーん」

    美「何?」

    唯「今日の新聞ちょうだい」

    美「今日の。どうするの」

    唯「この日までここに居たって、記念に持っていきたい」

    美「あー」

    唯「あれ?ダメ?」

    美「お父さんは朝一番に読んでるからいいけど、私まだだったわ」

    唯「えー、じゃあ今読んでよ」

    美「うーん。連載小説は読んでおきたいわね。じゃあ支度の手も足りてるみたいだし、ちょっと失礼して目を通しておこうかしら。唯、このふきん持って」

    唯「ふきん?」

    美「私の代わりにテーブル拭く、はい」

    唯「えー。仕方ないなー。やるか」

    美「そんなにトーン下げない~」

    ソファーに移動し、新聞を広げ読み始めた美香子。唯はすぐに食卓を拭き終わり、新しい方のテーブルをじっと見ていた。

    唯 心の声(たーくん達が作ったこのテーブル、大活躍だったな)

    唯「お母さん」

    顔を上げた母。

    美「何?」

    唯「このテーブル、明日には片付ける?」

    美「ん~。まだ考えてないけど、三人だけなら二卓も要らないものね」

    唯「だよね」

    食卓を離れ、今度はテレビ台に近付いた唯。芳江やエリも交え全員で1羽ずつ折った、折り鶴が9羽並んでいる。

    唯 心(なにげにそれぞれ個性出てて、かわいい)

    しばらく眺めていたが、

    唯「…あ。ねぇ、お母さん」

    美「えぇ?今度は何。そんなに呼ばれると、全然読み進められないわねぇ」

    唯「ごめんごめん。この鶴だけどさ、持ってってもいい?」

    美「持ってく?あら。無機質なテレビ周りが華やかになって気に入ってたけど、そうしたいならどうぞ」

    唯「全部じゃないから。私とたーくんと源三郎とトヨが折ったのは、置いてく。残りの五人分だけ欲しい」

    美「…そう。それ、ちょっと嬉しいわ」

    唯「でしょ」

    美「翼が広げてあるから、たたんだ方がいいわよね。やれそう?」

    唯「厚めの紙で作ってあるから多分できる。連鶴だけ難易度高いけど…いいよ、新聞読んでてくれれば」

    美「はいはい」

    その頃のキッチン。

    若君「お父さん。この量を一度に、ですか?」

    あとは粉をまぶすだけの、はさみ揚げ予備軍が大量に用意されている。

    覚「こっちはね、晩ごはんにじゃなくて手土産用だよ。後で、君達が着物に着替えてる時位に揚げるよ」

    若「そうでしたか。毎度のお気遣い、痛み入ります」

    尊「揚がったヤツ、運ぶよ」

    トヨ「では私もこちらを」

    覚「頼むね。んと。忠清くんさ、わかるかなー」

    若「何でございましょう」

    覚「はさみ揚げ、あの天野のじい様は食べた事あるかな」

    若「それは…わしはわかりかねますが」

    源三郎「わたくしも存じ上げませぬが、トヨでしたらわかるかと。おい、トヨ」

    ト「はい、お父さん。信茂様はお召し上がりになられています」

    覚「さすがトヨちゃん。ありがとう」

    ト「はさみ揚げの入っていた籠を、空になっても尚、匂いをかぎながら抱えておられました。それを私が受け取り、洗いました次第」

    若「ハハハ。何と申すか、情景がありありと浮かぶのう」

    ト「かなりお気に召したと思います。三つは食したと仰せられていましたので」

    若「それはまた」

    尊「で、それがどんな関係があるの?」

    覚「源三郎くん達二人の、結婚のお許しを貰う相手だろ」

    若「そう…ですね」

    尊「え、まさかの袖の下?」

    覚「忠清くんが、明日にも話をするって言うからさ。少しでも手助けになればいいなって。気に入ってくれてるなら好都合。天野様用は分けて用意するよ」

    ト「お父さん…」

    源「そこまでお考えいただいたとは」

    覚「まあまあ。さぁ、そろそろ飯にしような」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    ありがとうございます

    てんころりんさん、そうなんです!再考の時間もたっぷり取りたいのにそれも難しく。
    この隙?に、他の作家の皆さんで、ここが賑わうと良いななんて思ったりします。

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    夕月かかりてさん

    もう二年以上、二日に一度のペースを保って来られて本当にお疲れ様でした。👏👏
    努力の賜物だと感心してました。
    長い間に状況が変わりますね、私もです。
    でも書くことに手を抜けないですね。
    準備期間を自由に取られて、これからもどうぞよろしくお願いします。🤗

    ぷくぷくさん☆妖怪千年おばばさん

    毎度楽しく読ませて頂いてます。🥰
    コメントしてなくてすみません。
    何事にも時がある… ⏳
    えっ今?とか言われそうですが(笑)
    後からまた読んだり、まとめて読んだりしてます。
    マイペース返信お許し下さいね! 🙏

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    頑張ります

    カマアイナさん、早速の励ましのお言葉、ありがとうございます。

    息切れしないよう、続けて参ります。

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    夕月かかりて(愛知)さん

    先ほどは、自分の名前を入れ忘れて、失礼しました。

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    夕月かかりて(愛知)さん

    御察しの通り、隔日の投稿をいつも楽しく読ませて頂いております。
    お仕事のお忙しさをぬって、続けてくださって感謝しかありません。
    どうぞご無理のないように。それにあと1、2回で終了だろうなと思っていたので、まだ続くとのこと、嬉しいですね。有難うございます。

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    投稿間隔を変更いたします

    本日も、こうして目を通していただき、心から感謝しております。

    実を申しますと、ここ最近私自身が、創作・投稿活動に時間を費やすのが難しい状態が続いております。

    大変恐縮ですが、四人の現代Days、現在投稿を一日おきに続けているところ、三日…遅くとも五日に一度程に切り替えたいと存じます。

    二日に一度のお楽しみ、にしてくださっている方には心苦しい限りですが、あと1話2話で最終回なんて事はなく、まだまだゆるゆると続きますので、ご理解の程よろしくお願い申し上げます。

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    四人の現代Days135~11日17時、未来は明るい!

    掬われないよう、救いたい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    家族全員でボーリングを楽しんでいる。

    唯「曲がれぇ~曲がれぇ~!ちぇっ」

    尊「念じても無理。球は曲がらない」

    唯「うるさいなー。信じるモノはなんとかって言うじゃない。はい次、たーくんどうぞ」

    尊「救われる?ピンが倒せる方向に球を投げればすむ話でしょ」

    唯「ムカつく!そう言うアンタだって、ガターやらかしてるクセに!」

    尊「いいんだよ、何年かに一回しかやらないのに上手くできる訳ないんだから。みんなで楽しめれば」

    若君は、すぐに投球のコツを掴んだようだ。

    尊「うわっ、兄さん、しれっとスペアとってる!」

    若君「二度投げる内に、全て的を倒せば良いのであろう?」

    尊「そうですけど。集中力が凡人とは違うんだろうな」

    唯「あーあ。今だけ、お父さんと腕チェンジできないかなー」

    尊「しつこいな。そんな事ばっかり言ってると、掬われるのは足だ」

    若「ハハ。尊、上手いの」

    レーンは二つ使っている。隣は…

    トヨ「ああっ!またしくじってしまいました」

    覚「あー。ボトっと落とした感じだね。いいよいいよ。真っ直ぐには転がってるから、ピンも倒れてるし」

    ト「床を傷めないよう、そっと置かねばなりません。次こそは何とか」

    覚「メンテナンス側を心配か」

    満喫している様子の、若君と源トヨ。源三郎は特に、

    源三郎「ハハハッ!」

    覚「おっ、ストライク出た」

    ト「源ちゃん、やるじゃない」

    源「お父さん、的が全て倒れました!」

    覚「源三郎くんも筋がいいねー。初めてとは思えないよ」

    美香子「もっと早く、連れて来てあげれば良かったわね。とっても楽しそうだし」

    唯「源三郎があんなに笑ってる」

    若「うむ」

    唯「甲斐が、あった?」

    若「ハハ、そうじゃな」

    3ゲーム終える頃には、皆そこそこの点数を取っていた。

    覚「トヨちゃんも、100点超えたか」

    ト「お父さんのご指南の賜物でございます」

    覚「忠清くんと源三郎くんは、いい感じの点の取り合いだったな」

    源「力が入り、つい競り合うてしまいました」

    若「構わぬ。手加減は無用」

    美「いいわよね。こんな戦い方は平和そのものだもの」

    若「…」

    帰り道。覚の車に、唯と若君と尊。若君が、外に流れる夜景を静かに眺めている。

    唯「たーくん?なんか考えてる?」

    若君「…戦は、ないに越した事はない」

    唯「うん」

    若「率いる兵の命、ひいては民の命を粗末にはしとうない。刀同士の鍔迫り合いではなく、先程のボーリングの様に、運も少しはあるが技量力量で争えば、血を流さず命を落とさずに済む」

    唯「…そうだね」

    若「敵陣にも有能な御仁は居る。無闇に殺めるのでなはく、手を取り合ってゆけるならば、より良き国造りが出来る筈」

    覚「よく考えてるな…」

    唯「…」

    唯は、若君と初めて二人きりで話した、寺での夜を思い出していた。

    ┅┅回想。ドキドキの夜┅┅

    若「戦は勝たねばならぬ。そうでなくては城の者も領民も、心安んじて暮らしていく事ができぬ。だが…命を落とした者も、逃げ落ち延びる敵方の兵も、我らのようにただ、安らかに暮らしたい者たちではなかったか…」

    ┅┅回想終わり┅┅

    唯 心の声(戦国は、たーくんが心を痛める場所。でもたーくんの本当の幸せは、この現代じゃなくあの場所にしかないから…守るよ、ずっと)

    若「尊」

    尊「は、はい」

    若「わしらが永禄に戻っても、戦乱はまだ続くか?」

    尊「…続きます。残念ながら」

    若「そうか。ならば生き抜くより他なし」

    尊「兄さん、大丈夫。絶対大丈夫だから」

    若「それはつまり」

    尊「はい?」

    若「後の世がどうなってゆくか、わかっておるからじゃな」

    尊「あの、えっと、僕からは何も」

    若「どうなろうとも、日々粛々と生きる。それは、先を知ろうが知らまいが、変わらぬ」

    尊「…はい」

    若「ふう。令和の暮らしも残す所あと僅か。まだまだ楽しまねばの」

    唯「そうだよ。晩ごはんのはさみ揚げ、楽しみだしぃ」

    尊「毛色がガラッと変わってるし」

    覚「よし、そうだな!今夜は、ますます腕によりをかけちゃうよ~」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days134~11日15時30分、大きくなったね

    光るのは、塗ってあるオイルも要因では?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トヨ「お待たせを致しました」

    リビングに戻ってきたトヨは、目元に赤みは残るが、すっかり元のキリリとした姿になっていた。

    ト「洗い物も済んでしまいましたか?すみません!後片付けが出来ず」

    美香子「そんなの気にしない。人手は足りてるからね。さあ、じゃあそろそろ、出かけちゃおっか?」

    唯「出かけるー!ボーリング!」

    覚「よし、運動するぞー」

    尊「運動。まぁそうだね」

    唯「へぇ。いざ勝負!じゃないんだ」

    覚「三人は初めてだから、真剣勝負はしない。なんなら、僕と唯で点取り競争するか?」

    唯「やだ」

    覚「即答か」

    唯「負けるとわかってる戦はしないのだ」

    覚「おっ、それって、僕は上手いと思ってくれてるんだな?」

    唯「まーねー」

    覚「おほー。そうかそうか」

    尊「ゴキゲンだ」

    車2台に分乗。美香子車に、源トヨ。

    ト「お母さん」

    美「なぁに?」

    ト「この、爪の飾りを、永禄に帰りますまでに取り去りたいのですが」

    美「あー、マニキュアその他諸々。いよいよ女中頭のトヨちゃんに戻る準備ね。唯はあのままでいいけど、あなたはねぇ。勿体ないとは思いつつ」

    ト「奥方様と女中は、違って当然です」

    美「わかりました。じゃあ夜お風呂入る前に、取ってあげるわ」

    ト「ありがとうございます」

    美「手だけよね?足は、塗ったままでいいわよね?」

    ト「足も…」

    源三郎「残します」

    ト「え?」

    美「あらん」

    源「炊事、洗濯に支障ない。そのままにしておけ。誰も困りはせぬ」

    ト「わかったわ。なら残します」

    源「色味を気に入っておったようだしな」

    美「そうなのね~」

    ト「はい。先に手に施していただきましたが、何度も眺めてうっとりしている私を見て、唯様が是非足にもこのお色を、と」

    美「うふふ。だって確か、源三郎くんが選んだ色だったわよね?」

    源「そうではありますが、元はお母さんが選ばれた色でございます」

    ト「忠清様が、夕映えの色と仰られ」

    美「聞いた聞いた。いっそのこと、売り場にそう書いておいたらって思ったもの」

    ト「まあ」

    源「ハハッ」

    美「あ、源三郎くんが笑った」

    源「え」

    美「声上げて笑うなんて、中々なかったじゃない。仕える身、が染みついてるのもあるとは思うけど」

    源「そう…ですね」

    美「これから行く所ね、大声で笑っても叫んでも、全然大丈夫なの」

    ト「賑やかな場なんですね」

    美「だから、大いに笑って騒いで楽しんで欲しいな。旅立つ前に」

    源「はい。お母さんのご要望とあらば」

    美「ふふ、受け答えの真面目さは変わんないな。それが源三郎くんのいい所ね」

    ボーリング場に到着。

    唯「靴借りるよ。はい、こっち」

    若君「履きかえるのか」

    使うレーンが決まり、座席に上着や荷物を置いていると、ズラリと並ぶレーンを見ながら、若君と源トヨがしきりに感心している。

    源「なんと美しい床であろうか」

    ト「輝いてるわ。どれほど手入れをすれば、このようになるのかしら」

    若「そうか。このように、板敷の床が光る程磨かれた舞台に上がるには、それ相当の履物が要るのじゃな」

    唯「靴ってそんな理由だっけ?」

    覚「まぁ、そうしとこう」

    尊「そんなんでいいの?」

    唯「いいんじゃな~い?たーくん、球取ってこよっ」

    若「球?あぁ」

    ボール置き場で選んでいる唯と若君。

    唯「指が入る物を選ぶ。でもって、転がすからさ、持ち上がらないほど重いのは止めとくんだよ」

    若「うむ」

    源トヨは、尊に選び方を教わっていた。

    源「指で上げられれば、良いのですね」

    尊「はい。重過ぎて、足の上なんかに落としたりしたら大変なんで」

    ト「どうしましょう。やはりこちらかしら」

    源「無理するな」

    尊「源三郎さんの言う通りですよ。重ければいい訳じゃないんで」

    7人のボールが集まった。

    唯「尊」

    尊「何」

    唯「アンタの球はどれ?」

    尊「は?僕のはこれだけど」

    唯「わー、めっちゃ差つけられた!」

    球のポンド数が随分と違い、尊はかなり重い球を選んでいた。

    尊「悪い?ちゃんと持てるから」

    唯「中学生の時は、同じ重さの球だったのに」

    尊「当たり前でしょ」

    唯「ふふーん。オトナになったのう」

    尊「それ、重さで決まるモノ?そりゃ僕だって少しは」

    唯「へー。少しは、ね」

    尊「うるさいよ」

    尊 心の声(こんなバカ話…あと何回できるのかな)

    美「はいはい。まず三人に説明するわね。それから始めましょ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days133~11日13時30分、刻みます

    別れは辛いけど。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    9人で昼ごはん。

    エリ「とても美味しい。ニョッキも作ったんですか?」

    若君「はい」

    芳江「あらら。私、柔らかめの水とんかと思ってました」

    覚「水とん。まあ、似てますわな」

    美香子「もしかして」

    覚「何だ?」

    美「これを、再現しようと永禄で作るとするじゃない。それが後世になって、水とんの由来だったりして?」

    覚「ほほー。なるほど」

    尊「こういう、各地域で自然発生的に出来たであろう食べ物はさ、実際わかんないよね」

    覚「そうなるかもしれないし、書き残してあるとは限らないからわからんな」

    尊「だから、向こうでどう工夫して作ってもらっても、歴史を変えるまでにはなりませんから」

    若「ふむ」

    源三郎「心得ました」

    トヨ「はい」

    美「ところで尊、あなたのんびり食べてる場合?」

    尊「わかってるよ。ちゃんと話す内容は書き起こしたから、大丈夫」

    芳「何かあるんですか?」

    尊「あの、食後、少しだけ時間ください」

    美「羽木一族の存亡の話をするのよ」

    芳「羽木?」

    エ「若君でも源三郎さんでもなく、尊くんがですか?」

    覚「学校で、クラスメートにしゃべる機会があったんだそうです。じゃあ僕らにも、話して貰おうと」

    芳「まあ。それは、私達も是非聞かせていただきたいですね」

    エ「きっと、話もお上手にまとめられてるんですよね」

    唯「それで彼女もゲットしたし」

    尊「それはいいから」

    食後。お茶を飲みながら、尊の説明を全員で聞いている。

    尊「お姉ちゃん?所々、しかめっ面で聞いてるけど、何だよ」

    唯「ちょいちょい、難しい言葉出てくるからだってば。まあまあわかってるから」

    尊「まあまあかよ。兄さん、源三郎さん。今のところ話、合ってますか?」

    若「合うておる」

    源「分かりやすく語られておられますし」

    尊「良かった。じゃあ続けます。それでですね…」

    15時近くになった。玄関で、帰るエリと芳江を唯達四人で見送る。

    唯「じゃあねっ」

    エ「どうか、お元気で」

    若「お二方も、体を厭われよ」

    芳「はい。ありがとうございます」

    源「わたくし共こそ、心より礼を申します…おい、トヨ?」

    ト「…」

    唯「わー!」

    声をころし、はらはらと涙を流していたトヨ。唯が走っていき、ティッシュの箱を抱えて戻ってきた。

    唯「使って」

    ト「すみません。唯様」

    エリと芳江も、言葉にはならない様子だ。

    ト「…あの、朝のコーヒーの時間、お話にお付き合いいただきありがとうございました」

    芳「毎朝楽しみにしていましたよ」

    エ「えぇ。勿論私も」

    ト「髪を切りに行く前に、優しくお声掛けいただいた事は、一生忘れません」

    エ「何も特別にはしていませんよ」

    芳「可愛い娘ですもの」

    源「…」

    唯と若君も、静かに見守っている。

    芳「幸せになってね」

    ト「はい」

    エ「源三郎さん、頑張ってくださいよ?」

    源「ははっ!」

    エリと芳江は帰っていった。立ったまま動かない、トヨの背中をさする唯。

    唯「ちゃんと、言えてたよ」

    ト「そうですか」

    唯「うん。伝わってた。あのさ」

    ト「はい」

    唯「ずっとさ、トヨは強いなって思ってたんだけど、案外泣き虫でびっくりだった」

    ト「私は、強くなんかないです」

    唯「ねぇたーくん」

    振り向いて、若君に問いかける唯。

    若「心を委ねられる、母君二人に此処で出会うたのじゃ」

    唯「安心できる?」

    若「うむ。わしは今、令和の世に連れて参った甲斐があったと、心から思うておる。のう、源三郎」

    源「はい…」

    若「唯」

    唯「あ、はい」

    目配せをした若君。まだ下を向いているトヨから唯がそっと離れ、さする役割を源三郎にバトンタッチした。

    若「落ち着くまで傍らに居れ」

    源「はい」

    唯「先に戻ってるね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days132~11日11時、肌身離さず

    ちょうど手のひらサイズだし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    キッチンに、覚と若君。

    覚「さて」

    若君「よろしくお頼み申します」

    覚「芋を茹でる。これはジャガイモね。鍋に水入れて」

    若「はい」

    唯「今日はなにー」

    覚「ニョッキだ」

    唯「にょきにょき?」

    尊「言うと思った」

    ジャガイモが茹であがった。

    覚「つぶすよ。熱いから気を付けてな」

    小麦粉、塩を混ぜ、こねる。

    トヨ「芋なら、何でもよろしいのでしょうか」

    覚「やった事はないけど、向こうで手に入る物で試してみたらどうだい。粉もさ、ある物で。でも失敗して、食べ物を粗末に扱っても何だな」

    ト「少しの量で試してみます」

    棒状に伸ばし、小さく切り分けている。

    唯「粘土みたーい」

    覚「はい、これ持って」

    唯「なに?フォーク?」

    覚「切り分けたこれを楕円形にまとめる。で、フォークを軽く押し当てて筋をつける」

    唯「へー。やるやる!」

    一つ作ってみた唯。

    唯「なんか」

    尊「何」

    唯「さなぎみたい。セミとかの」

    ト「さなぎ?」

    尊「うへぇ」

    唯「ねっ、そう思わない?源三郎」

    源三郎「似てはおります」

    尊「わー、それにしか見えなくなる!しかも大量だし!」

    唯と尊が大騒ぎし、源トヨと四人で成形している横で、野菜や肉を煮込み始めた若君。

    若「この中にニョッキ、が入ると」

    覚「うん、あれはもう一度茹でてからだけどね。母さん達が来る頃にちょうど仕上がるだろう」

    13時過ぎ。クリームシチューが出来上がった。

    美香子「お待たせ~。お二人もすぐみえるわよ」

    覚「よしよし」

    器に盛り付けていると、エリと芳江が現れた。

    エリ「こんにちは」

    芳江「お招きありがとうございます」

    尊「お疲れ様でした」

    唯「どーぞー。座って座って」

    9人が席についた。

    美「ちょっと待ってね。いただきますの前に」

    覚「何だ?」

    芳「あの、ささやかなんですが」

    エ「プレゼントをお持ちしました。はなむけの」

    美「今日戻る四人に、用意してくださったって」

    唯「えー!」

    若「それは忝ない」

    一つずつラッピングされた小さな包みが、二人からそれぞれに渡された。

    源「わたくしにまで」

    ト「どうしましょう」

    唯「開けていい?」

    芳「どうぞ」

    唯「ん?これ、定期入れ?あ、なんかついてる」

    尊「リール付きだ」

    唯「え?電車もバスも乗んないけど」

    エ「芳江さんのアイデアなんですよ」

    唯「うん?」

    芳「はい。お写真って、何枚か持ち帰られますよね」

    唯「そうだね」

    尊「はい。今回も用意してます」

    芳「こんな事はない方が良いですけど、どこかへお出ましにならなければならない際などに…」

    若「戦でしょうか」

    芳「そう、ですね。勿論普段から使ってもらってもいいんですが、身に付けて持ち歩けるようにと思いまして」

    唯「定期入れなのはどうして?」

    芳「普通の入れ物も考えたんですが、これですとリールの先にフックがついてますよね。落とす心配がないかなって」

    尊「腰の辺りに引っ掛けても、長さがあるから近くで見れるね」

    若「理に敵っておる」

    芳「アイデアは私でしたが、エリさんと一緒に選んだんですよ」

    エ「種類が多くて。楽しく選べました」

    唯「ありがとう!大事にするね!」

    若「ありがとう、ございます」

    源「大切に、使わせていただきます」

    ト「とても嬉しくて。勿体なくて…使えるかしら」

    唯「そこは使おうよ」

    ト「はい!」

    覚「ではそろそろ、いただくか。忠清くん渾身の作だ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days131~11日10時、期待してます

    尊なら、プレッシャーをプレジャーに変えられる、から?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    実験室の若君と尊。

    若君「もう、気に病まんで良い」

    尊「いいんですか」

    若「大学に入った後、どうしていくかは、よう考えておけ。ただその中で、タイムマシンの進み具合は勘案するな」

    尊「はい」

    若「瑠奈殿との時間を、大切に過ごされよ」

    尊「ありがとうございます。あの」

    若「何じゃ」

    尊「もう一つ、兄さんに意向を聞きたかったんです」

    若「申せ」

    尊「今夜、永禄に帰ると、起動スイッチの燃料が空になります」

    若「で、あろうの」

    尊「少しですが、僕が貯めておいた燃料があります。補給しますか?それとも、僕がいつか必ず完成させるタイムマシンのために、取っておきますか?」

    若「…取っておけ。いつの日か、尊が現れるのを待とう」

    尊「わー、プレッシャー。でも、兄さんの期待は励みにして、頑張ります」

    若「うむ」

    実験室からリビングに戻ってきた二人。

    唯「おかえりぃ」

    源三郎&トヨ「おかえりなさいませ」

    若「おぉ、布団が片付いておる。これはしたり。お父さん、済みませぬ」

    覚「いいんだよ、手は足りてるからね」

    若「わしは何を手伝えば」

    覚「まだいい。今は、次の洗濯の洗い上がりを待ってるところだよ」

    若「あと何れ程でしょう」

    覚「15分位かな」

    若「15分、か…ならば今の内に。尊よ」

    尊「はい」

    若「預けておいた、例の物をくれぬか」

    尊「わかりました。部屋にありますんで。ここに持ってきますか?」

    若「いや、上で受け取る。唯」

    唯「なに?」

    若「共に参れ」

    唯「なになに?」

    二階に上がってきた三人。尊の部屋の前で待つ若君と唯。

    尊「はい、どうぞ。傾けないように気を付けてくださいね」

    若「世話をかけた。ありがとう」

    尊「いえいえ。では」

    ダンボール箱を渡された若君。尊は、そのままリビングに戻っていった。

    唯「なになになに!」

    若「部屋で見せる。扉を開けてくれ」

    唯の部屋。箱を開けると、

    唯「あ、お花の写真立て!」

    夏に二人で令和に来た時に、若君が唯にプレゼントした花束。永禄に帰った後、覚と尊でその花をプリザーブドフラワーに加工。今回、若君と尊で木箱と写真立てを繋ぎ、子供達五人で加工した花を木箱に埋め込んで、写真立てを完成させた。

    唯「四つだったね」

    若「一つは、下に持っていく」

    箱から出して机に置いたが、その内一つを脇へ寄せた。

    唯「着いてすぐに、七人全員で撮った写真を入れたんだね。私の着物姿も貴重だし?」

    若「これは、奥の棚に置いていただこうと思うておる」

    唯「ふぅん」

    三つは、まだ裏を向いている。

    唯「あとは、なに入れたの?」

    若「まぁ待て」

    まず一つ目を表に返す。

    唯「ん?私?」

    お母さんから受け取った、母の膝で眠る唯の写真。

    唯「こんな写真初めて見たよ」

    若「お母さんにいただいた。やはり知らなんだか」

    唯「なんでこれなの?」

    若「これは、唯の知らぬ、かつての写真」

    唯「ふん?」

    次に、二つ目を表に返した。

    唯「あ、コスプレ」

    写真館で撮った、軍服の若君と並ぶ、はいからさんの装束。

    若「これは、唯の知らぬ時代の、今の写真」

    唯「はあ。珍しくて悪くないとは思うけど、なんでこれ?」

    若「最後は、こうなる」

    三つ目を表に向けたが、

    唯「なんも入ってないよ」

    若「これは、唯がまだ知らぬ、未来の写真が入る」

    唯「知らぬシリーズってのがあんの?よくわかんないけど、たーくんがそうしたいならそれでいいけど」

    若「いつか、また此処に参れた暁に、写真が入る」

    唯「そう。ふーん。なんやかや言ってさ」

    若「ん?」

    唯「たーくんが尊に一番プレッシャーかけてない?」

    若「プレッシャー。先程も尊にそう言われた。意味は?」

    唯「え!さっき聞かなかったの?!えーと、えーっと…そうだ!圧が強いってヤツ」

    若「重荷になると」

    唯「そー、そんな感じ。尊には、三つ目に写真入れない理由は言ったの?」

    若「空けておくと申したのみじゃ」

    唯「あっそう。だったら、ヤベぇめっちゃ待ってる!とは思わないかな。でも尊、気づいてんじゃない?」

    若「そうか…まぁ、良かろう。ハハハ」

    唯「笑ってるし」

    廊下で足音がする。

    若「洗い上がったようじゃ。干すのを手伝わねば」

    唯「ん。参りますか~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days130~11日9時30分、道に迷う

    彼なりの信条がある訳で。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊「親のスネをかじり続ける生活しか念頭になかったのを、今、すごく恥じています」

    若君「一つ、問うても良いか」

    尊「はい」

    若「大学に入るのは、甘えではなかろう?」

    尊「…微妙です」

    若「ん?お父さんが、大学とは広く浅くではなく、より突き詰めて勉学に励む地と申されておったが」

    尊「その通りなんですけど…」

    若「口ごもっておるな」

    尊「タイムマシンの制作や研究は、もっともっと突き詰めたいです。でも大学では教われません。全て独学なんで」

    若「尊は、己の才覚一つで何事も為せるからのう」

    尊「前にもそう言ってくれましたね。僕は…僕は、全然成長していません。期待に応えられない、ダメな奴なんです」

    若「んむ…。ならば、何ゆえ通おうと?」

    尊「あの…何と言うか、まぁ大学なんて、行って当たり前じゃね?位にしか考えてなかったんです」

    若「それが、スネをかじる、と」

    尊「はい」

    若「両親がそれを良しとした。そしる謂れはない」

    尊「でも、このままじゃダメで」

    若「何がある?」

    尊「現代では、何をするにもお金がかかります」

    若「そうじゃな」

    尊「高校では、学校行っても真っ直ぐ帰宅。貰っている小遣いを使う機会はあまりありませんでした。たまに寄り道して買い物するにしても、タイムマシンに使う具材とかで。だから、大学に行ってもそんな生活を続けるつもりだったんです。今までは」

    若「そこで瑠奈殿か」

    尊「ただ会うだけじゃなくて、一緒にどこかに出掛けたり、食事したりプレゼントしたりしたい。兄さんも、イブにお姉ちゃんと行きましたよね。何となくわかりませんか?」

    若「わかる」

    尊「大学生にもなって、その資金まで親に出させる訳にはいきません。僕自身が働いて稼がないと。アルバイトって言うんですけど。何かしら始めなければと思ってます」

    若「大学に通う合間にか。それは忙しい」

    尊「そうなると、作業に使える時間は益々削れていきます」

    若「それが、見通せなんだに繋がるのか」

    尊「瑠奈の存在がなくても、本来気付くべきでした。いつまでも、外の世界を知らない甘えた子供でいてはいけないって。この日常はずっと変わらない、変わる筈なんてないと、高を括っていたんです」

    若「永禄には思いを馳せるが、より先の世に、己がどうなっておるかは読めなかったと」

    尊「情けないです」

    若「そこまで申さずとも。わしに顔向け出来ぬ、とは?」

    尊「前回サシで話をした時、新型タイムマシンが完成したら迎えに行きます、と豪語しました。しかも、5人以上乗せますって野望まで付け加えて」

    若「覚えておるぞ」

    尊「先が見えなくなりました。いつできるかは未定ではありますけど、例えば二年でできた筈が五年かかるとか」

    若「何年かかろうとも、完成そのものに驚くが」

    尊「今回兄さん達が使った起動スイッチ2号は、未来の僕が全て作り、未来の僕がバージョンアップ…えーっと」

    若「何となくわかる」

    尊「すいません。その未来の僕がいつの僕なのか、全く見えてこなくなって」

    若「つまり」

    尊「はい」

    若「瑠奈殿に出会うたが故に、未来とやらが遠のいたと申したいのか?それで先程から謝っておると」

    尊「結果的には」

    若「尊。それは違うておるぞ」

    尊「あっ、本家…」

    若「新型を完成させた尊の傍らには、瑠奈殿が居る」

    尊「まさか」

    若「居る筈がないと、どうして言い切れる?」

    尊「僕の秘密を、打ち明ける前提ですよね」

    若「瑠奈殿は尊を、尊敬に値すると申した。何を恐れている?彼の君が、尊の偉業を言いふらすとでも?」

    尊「…」

    若「どうじゃ」

    尊「それは…瑠奈なら、ないと思います」

    若「会うたのは一度きりであるし、短くしか話してはおらぬが、わしもそうは思えぬ。才気ありと見てとれたが」

    尊「確かに、よく気がつくし、頭の回転は速いです」

    若「良き片腕になるのではないか?かえって、早う完成するやもしれぬ」

    尊「それは…考えが及びませんでした」

    若「一つ話しておこう。忘れられぬ、尊の言葉がある」

    尊「何でしょうか」

    若「相当信用の置ける人物でないと、家の事情が話せぬと」

    尊「言いましたね。好きな子は居ないのかって、突然お姉ちゃんに聞かれて」

    若「無理に事情を話せとは申さぬが、それを聞き、尊が心を開ける者がいつか現れるのを、切に願っていた」

    尊「心配かけてごめんなさい」

    若「それが瑠奈殿であろう」

    尊「そう…思いますか」

    若「出会うて日が浅い。疑うのも頷けるが」

    尊「兄さんのお眼鏡にかなったんなら、確かですよ。何より…たかだか18年しか生きてませんけど、こんなに全力で慕ってくれる女性に、今後出会えるとは思えません」

    若「フフ、慕われれば誰でも良いのか」

    尊「いえ!」

    若「瑠奈殿がどう接してくるかではない。尊の存念は如何に」

    尊「身を焦がすような恋に落ちるなんて思ってもみなかった。離したくない。大好きだから、僕をもっと理解して欲しいです」

    若「熱いのう」

    尊「自分でも驚きです…わかりました。話せる時期が来たら、話したいと思います」

    若「急がずとも良いが」

    尊「…はい」

    若「何か、足枷になっておるのか?」

    尊「もっと、自分に自信がついたらって…」

    若「自信。鍛え始めたのは、それもあるのか」

    尊「そうです。もう少し体力をつけて、瑠奈に見合うと、自分が思える男になりたいんです」

    若「あれだけ慕われておれば、充分であろうに」

    尊「一緒に電車に乗ってると」

    若「うん?」

    尊「この子の相手がお前?って顔、よくされるんですよ」

    若「そんな輩は構うでない」

    尊「もう少し堂々とできたら、とは思うんです。だから頑張ります」

    若「そうか。フッ」

    尊「え、何ですか?」

    若「ゆくゆくはお姫様抱っこ、じゃな」

    尊「あー、それ…はぁ。出るのは溜め息ばかりです。できるようになる前に、嫌われないといいですけど」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days129~11日8時30分、忸怩たる思い

    こんな悩みを抱える日が来るなんて。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    モーニングコーヒーをクリニックに配り終え、戻ってきた源トヨ。

    源三郎「お二方共、忠清様の料理を心待ちにされておるご様子でした」

    若君「それは一層、腕によりをかけねばのう」

    トヨ「こちらにお出ましになるのは、1時頃では、との仰せでございました」

    覚「そんなモンだろうな」

    若「お父さん。わしはどの時分から、飯の支度を始めれば良いでしょうか」

    覚「11時頃かな」

    若「わかりました」

    尊「今さらだけど、トヨさんも現代の時間の言い方で通じるんだ」

    ト「読み解ける方が、暮らしやすうございますので」

    尊「偉いなぁ」

    若「ならば尊」

    尊「はい。お願いします。ちょっと、兄さんと二人で話してくるから」

    唯「はいはい」

    若「実験室か?」

    尊「そうですね」

    若君と尊は、外に出ていった。

    唯「さてと。なにしてよっかなー」

    覚「仕事ならあるぞ」

    唯「仕事かー。ウソウソ。なにすればいい?」

    覚「珍しくいい返事だな」

    唯「たまには」

    覚「最終日にしてようやくか。隅に寄せてある布団を全部干したい。洗濯の続きもしたい」

    唯「ん、わかったー」

    源「ならば布団は、わたくしが運びましょう」

    ト「洗い上がっている物を、干して参ります」

    唯「手分けしてやりますか~」

    実験室。

    若「入るのは、参った日以来じゃ」

    尊「そうですね。今回は」

    若君がゆったりと腰を下ろした。尊も正面に座ったのだが、

    若「何やら硬いが」

    正座をし、握り拳を両膝に乗せ、ずっと下を向いている。

    若「急にどうした」

    尊「兄さんに、見せる顔がないんです」

    若「何かしたのか?」

    尊「これから迷惑をかけるんで」

    若「これから?」

    尊「僕は…」

    若「…」

    尊「見通しが全然できてなかったんです」

    若「見通し?」

    尊「甘えがありました」

    若「そうは見えぬぞ」

    尊「兄さんに申し訳なくて」

    若「謝られる由がわからぬが。まぁ良い。申してみよ」

    尊「…僕がタイムマシンを完成させたのは、お姉ちゃんが永禄に飛ぶ少し前でした」

    若「見上げたものと思うておる。よう作ってくれた」

    尊「作れて当然だったんです」

    若「そう、なのか?」

    尊「その頃の僕は、学生なのに学校に行かず、家に引きこもっていました」

    若「話には聞いた。辛い事柄があり、それを避けるのに、通わぬ道を選ぶのが最良と考えたのじゃろ。尊も両親も」

    尊「今となればですけど」

    若「時間は潤沢にあったゆえ、作れたと?」

    尊「はい。朝昼晩食事が用意され安全な生活。他事を何もせず、四六時中タイムマシンの事だけ考えて没頭していたので」

    若「そっと見守っていただいた両親に、感謝せねば」

    尊「はい」

    若「それで?」

    尊「今は学校もちゃんと通ってますし、春からは大学に行きます。少しは環境が変わりますが、それでも家に帰れば作業をする、受験準備前と変わらずできると思ってたんです。でも」

    若「でも?」

    尊「瑠奈に出会いました」

    若「良き出会いであったの」

    尊「最初は、押しも強いし、何で僕を選んだんだろうという思いが先行して、自分の気持ちがよくわからない状態が続いていました」

    若「あれよあれよ、か」

    尊「でも日を追う毎にどんどん惹かれていき、あっという間に、瑠奈の存在が僕の中で大きくなったんです。自分でも、展開が早いと思うんですけど」

    若「フフ。歩みを止めず突き進むは唯も同じ。やはり姉弟じゃの」

    尊「今は、瑠奈の事ばかり気になって。勿論今は、受験勉強が一番ではありますけど」

    若「良いではないか。尊は一体、何を案じておるのじゃ?」

    尊「怖いんです」

    若「怖い?」

    尊「このまま、この恋に溺れていってしまいそうで…」

    膝上の拳が、より固く握られた。

    若「それも良しと思うが」

    尊「他の事が手につきません。きっと、タイムマシンも。ごめんなさい」

    かすかに震えている尊。

    若「…続けよ」

    尊「僕は、一生恋愛なんて縁がないと思っていました」

    若「決めつけんでも良かろうに。尤も、わしも唯に出会う前は似た様なものであったがの。ハハハ」

    尊「今は、どうしようもなく、瑠奈が好きなんです」

    若「瑠奈殿に、尊の存念は伝えたか?」

    尊「ちゃんと伝えました。態度でも」

    若「応えてくれたか」

    尊「はい。とても喜んでくれました」

    若「幸せを噛み締めておると。それで?」

    尊「必ず大学に入り、春からは、勉学に励みつつも、できるだけ一緒の時間を過ごしたいんです」

    若「デート、もしたいと」

    尊「はい。でも見通しが甘過ぎて」

    若「そこが、ようわからぬのじゃが…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days128~11日土曜6時、ホットほっと

    今年もよろしくお願いいたします。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ウォームアップ完了。一人を除いて。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    令和最終日の朝。キッチンで両親とトヨが、朝食の支度をしている。

    トヨ「朝から、こちらをお使いになられるのですね」

    食卓に、ホットプレートが置かれた。

    覚「これでパンを焼くよ」

    ト「そうですか」

    覚「パンを食べるのもこれで最後だね。あー、今回はって意味だよ」

    ト「今回は。はい。お心遣い、ありがとうございます」

    美香子「彼らも、一段と熱が入ってるわね」

    庭では、若君と源三郎が、体から湯気が立ち上らんばかりに稽古に励んでいる。

    ト「お野菜も随分と刻みましたし、チーズ、も山盛りに用意しました。これは?」

    覚「ピザトーストを、銘々で好みの具をのせて作って貰おうと思ってな。ピザは何回か食べてるからわかるよね」

    ト「はい」

    覚「尊がさ」

    ト「尊様が?」

    覚「最後の朝はこれがいい、ってリクエスト…要望したんだ」

    ト「何か意図がお有りなのでしょうか」

    美「そうね。なるほど、って感じかな。ところで」

    昨夜リビングに並べて敷いた布団は、ほぼ片付けられており、まだ起きようとしない唯を残すだけとなっている。

    美「唯~。そろそろ観念しなさい!」

    唯「キャー!」

    体にぐるりと巻き付けていた布団を、母にベロンと剥がされた唯。勢いで、コロコロとリビングの入口まで転がっていった。

    覚「漫画みたいだな。おー、お帰り」

    尊「ただいまー。わ、何?!」

    唯「ギャー!!」

    外から帰って来た尊。転がってきた唯につまずき、蹴飛ばしてしまっていた。

    唯「痛いぃ」

    尊「何だよ、まだ寝てたのかよ、そんなんじゃ全員でラジオ体操できないだろ」

    唯「うるさいな、今起きるところですー。なにアンタ、朝帰り?」

    尊「はあ?早起きして、走ってきたんだよ」

    唯「走る。尊が?!」

    尊「体を鍛えるんだ」

    唯「マジ?試験前なのに?」

    尊「頭も冴えるから、うってつけなんだよ。ほら立って」

    唯「はあ」

    尊が伸ばした手に支えられ、唯が立ち上がる。そこに、若君と源三郎が庭から戻ってきた。

    若君「尊」

    源三郎「尊殿、お帰りなさいませ」

    尊「ただいま戻りました。神社まで行って、階段の昇り降りをしてきましたよ」

    唯「階段!」

    若「そうか」

    唯「なに張り切ってんの」

    尊「鍛えるって言ったじゃない」

    唯「いきなりワケわかんないー」

    若「一日で終わらぬようにの。何事も、続けてこそじゃ」

    尊「はい。これからも頑張ります」

    美「はいはい、そろそろ始まるわよ~」

    テレビを点け、7人全員で体操を始めた。

    美「ん~、いい!」

    覚「永禄でも、できそうかい?」

    ト「はい」

    源「是非にと思うております」

    唯「たーくんと一緒にやろうとすると、もれなくじいがついてくるけど」

    源「それは、それで」

    若「フフ」

    朝ごはんがスタートした。ホットプレートにパンを並べ、焼き始めている。

    唯「コーン盛り盛りがいい!」

    美「こぼれてる方が多いわよ」

    唯「落ちたのも焼けるからいい。そうだ!こぼれた方にもチーズかければ」

    覚「カリカリになって、それはそれで美味そうだな」

    ト「尊様」

    尊「はい?」

    ト「この献立は、尊様が望まれたと伺いました」

    尊「そうなんですよ。原点に戻ろうと思って」

    ト「原点?ですか」

    尊「先月1日。朝ごはんに出たピザトーストを食べながら読んだ新聞記事から、今回の全てが始まったんで」

    若「わしの日記と、木村殿か」

    尊「はい」

    美「あの時は、二週間後には7人で食卓を囲むなんて、夢にも思わなかったわ」

    覚「3人から、5人ではなく一気に7人だったからな。嬉しかったな~」

    ト「わたくしも、このように団欒に加えていただけるなど、この上ない喜びでした」

    源「家族同様に接していただき、感謝しております」

    唯「チッチッ。それは違うておるぞ」

    尊「出た!戦国言葉」

    唯「同様じゃないよ。マジ家族だもんね」

    覚「そうだ」

    美「そうよ」

    源「…有り難き幸せでございます」

    ト「はい…」

    美「トヨちゃん~、涙ぐむのはまだ早い」

    ト「すみません」

    唯「いい感じに焼けた~。カリカリ~。ホットプレート最高!」

    美「唯に負けないよう、どんどん食べてね」

    ト「はい!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days127~10日20時30分、団欒

    本年も、私の拙い創作話に目を留めていただきまして、感謝ばかりです。ありがとうございました。

    来年も、ゆるゆると続きます。宜しければ、今しばらくお付き合いくださいませ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    一見、抑揚のない日常こそ、かけがえのないもの。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    母が仕事を終え、居酒屋に到着した。

    美香子「こんばんは~」

    店主「いらっしゃい」

    カウンターの客1「美香子先生じゃないですか!」

    カウンターの客2「先生、ご無沙汰しております」

    美「あらお揃いで。こんばんは。その後お二人共、具合はいかが?」

    客1「はい、いたって平穏です」

    客2「痛みのぶり返しもなく」

    美「それは何より。私にしょっちゅう会ってるようではね。ご無沙汰はいい傾向よ」

    客1「何かあればまた診てもらいます」

    美「何かがないように、健康管理してくださいね」

    客2「ははは。そうですな」

    美「では、失礼します」

    座敷で手招きしていた唯。

    唯「人気者だねぇ。お疲れ~」

    尊「お疲れ様」

    美「お待たせ。あら、まだ起きてる」

    覚「話に花が咲いてな」

    美「いつも咲いてるわよ。お父さんが勝手に寝始めるだけでしょ。今日は、トヨちゃんが向かいに座ってるから、上手く操縦してもらえてるのね」

    トヨ「いえ、私は何も。お父さんのお話が楽しくて」

    美「いい娘を持ったわ」

    尊「お母さん、ビール来たよ」

    美「待ってました~。それでは」

    7人揃って、乾杯~。

    唯「ねぇお母さん」

    美「あー美味しい。ん~?」

    唯「明日の午後、どこに遊びに行くの?」

    美「うん、それね。じゃあ、発表しちゃおうかな」

    唯「おーっ」

    美「それでは」

    尊「お願いします」

    美「お父さんの捻挫も、完治しました」

    唯「あ、そう言えば」

    尊「忘れてた」

    若君「お父さん。もう、何処も差し障りはございませぬか?」

    覚「うん。お陰様でな。先生もあぁ言ってるしさ、はは。心配かけて済まなかったね」

    美「という事で。ボーリングに行くわよ~!」

    唯「ボーリング!」

    尊「治ったにしても画期的だ。そう来たか。でも楽しそう!」

    若「ボーリング?」

    尊「兄さんには動画を見せてますよ。覚えてるかなー。去年結婚指輪作った時。大きくて重い球を転がすんです」

    若「的が何本もあり、玉を当て、なぎ倒しておった。あれか」

    尊「そう、それです」

    源三郎「指輪、と」

    ト「大玉?」

    尊「お姉ちゃんの指のサイズ調べるのに、参考にしたんです。って、どう繋がるんだ?ですよね」

    唯「まぁ、そのウラ話はまたしてあげるよ。どうやって遊ぶかは、行けばすぐわかるから」

    覚「張り切り過ぎて、帰ってから筋肉痛…は、君らにはないよな」

    美「ないない。点を競うとなるとついつい熱が入っちゃうかもしれないけど」

    ト「競う?」

    美「ゲームだけどね。誰かが一番になり誰かが七番になるわ。この前遊んだトランプもそうでしょ」

    源「争いではない、と」

    美「そうよ。家族全員が揃って楽しむのに、意義があるの」

    唯「何か話、デカくなってない?」

    尊「いいじゃない。会話を丁寧に拾ってるんだよ」

    若「フフ。心待ちに致します」

    その後も歓談は続き、時刻は22時を回った。

    尊「奇跡だ。お父さんが寝てない」

    覚「あんまり皆が言うから。かえって目が冴えたよ」

    尊「飲み足りないの?」

    覚「いや。充分堪能した」

    美「それこそ、トヨちゃんの才能ね」

    ト「そんな、お恥ずかしい」

    美「担がなくてすむだけでもホント助かるわ。そろそろ帰りましょうか」

    帰宅しても、イベントは続く。

    唯「ギリ、布団並んだ!」

    美「合宿みたいな風情ね」

    覚「修学旅行だろ」

    尊「戦国時代にない言葉ばかり並べないでよ」

    覚「おっ、並べるにかけて?」

    尊「浮かれてるなぁ」

    リビングに布団が7組。部屋を暗くしてからも、会話は続く。

    唯「千原じい、ヒドイよね」

    若「急に何じゃ。話を蒸し返すのか」

    唯「天野系の姫は妻にするななんてさ。関係ないじゃん!そー思わない?源三郎もさぁ」

    源「それは…恩義もございますし」

    唯「そんなんに縛られてたなんて、千原じい、のろってやろうかな」

    尊「物騒だな。ちょっと待って、もうあの世の人じゃないの?」

    唯「そうだけど。なんか今さらだけど怒れてきちゃって」

    若「唯がどう思うておろうとも、トヨが気にかけておるか否かじゃろ」

    唯「まあね」

    ト「唯様」

    唯「あい?」

    ト「私、その話を聞いても、怒りはありませんでした」

    唯「そうなの?」

    ト「忠義が素晴らしくて…源ちゃんを惚れ直しました」

    唯「あー。はいはいごちそうさま。おやすみっ」

    尊「なんだよ、話振っといて」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    10日のお話は、ここまでです。

    さて。新年ですが、勝手ながら投稿は4日から再スタートさせていただきます。ご容赦くださいませ。

    それでは皆様、よいお年を。

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    四人の現代Days126~10日17時30分、春からのビジョン

    それでも、かなり生活環境は変わる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「そろそろ出かけるか」

    唯「はーい」

    その声に、反応していない尊。どこか上の空でソファーに座ったままでいる。

    トヨ「尊様、お支度を」

    尊「あ、ごめんなさい」

    六人で家を出た。すっかり暗くなった道を歩く。

    唯「おやじさんの作る煮物が、超ウマなの!」

    ト「それは教えを乞いたいですね」

    覚「今日は人数も多いからさ、遠慮せず色々注文してくれよ」

    源三郎「はい」

    若君と尊は、最後尾で並んで歩いていた。

    若君「勉学には、励んでおれているか?」

    尊「はい。バッチリです。ちゃんと大学に入りますから」

    若「尊ならば、余裕綽々であろうが」

    尊「そう…ですね」

    若「ハハッ、大きく出たのう」

    尊「どこでも行けそうだったんですけど」

    若「選び放題か」

    尊「家から通いたかったんで、通える範囲では一番難しい学校にしました」

    若「ほぅ」

    尊「せっかくなら、もっといい大学にすればとは言われましたけど。僕がそんなに学歴とか気にしてないんで」

    若「学歴。どの大学に入るかで、その良し悪しが決まるのか?」

    尊「世間的には。でも学校の先生達と違って、父も母も強くは言わなかったので、最終的には自分で決めました」

    若「瑠奈殿も、大学には行くのであろう。同じ学び舎なのか?」

    尊「いえ、違います。瑠奈は女子大、おなごだけが通う大学に行くんです」

    若「それは、尊にとっては好都合じゃの」

    尊「校内に男子が居ないからですか?でも通学時間が長くなります。それは僕もですけど」

    若「様々言い寄って来そうな男衆から、守れそうか?」

    尊「うわぁ、ツッコみますね。喧嘩で大立ち回りなんてのは無理ですけど、もっと自分に自信が持てて心も強くなれるよう、体力作りに励みます。あ、でも通学、半分位は彼女と同じ経路なんです」

    若「そうか。それは楽しみじゃの」

    尊「はい」

    若「瑠奈殿は、心より尊を慕うておるのが、手に取るようにようわかる」

    尊「恐縮です」

    若「大切にせよ」

    尊「はい!」

    若「離れて暮らさぬのを決めたのは、お父さんお母さんが淋しがらぬようにとの心遣いもあるのではないか?」

    尊「あ、まぁ」

    若「まこと親思いよのう」

    尊「それもありますけど…」

    若「他に訳があると?」

    尊「タイムマシンを完全に操れる、未来の僕に少しでも早く近づきたいんで、家は離れられません」

    若「より研鑽を積むと」

    尊「春からは、またコツコツ作業を進めます。そのつもりです…」

    若「ん?どうした。顔がみるみる曇っておるが」

    居酒屋が見えてきた。尊が立ち止まる。それに合わせて、若君も歩みを止めた。

    尊「兄さん」

    若「うむ」

    尊「今回も、帰る前に二人だけで話がしたいです。時間もらえませんか」

    若「…そうか。それは構わぬが、今宵は難しかろう。明日の朝方は如何じゃ?」

    尊「わかりました。よろしくお願いします」

    深々と頭を下げた尊。

    覚「おーい、二人共何してる?早く入んな」

    若「参るぞ」

    尊「はい!」

    座敷に通された六人。

    おかみ「唯ちゃん、ちょっと見ない内にすっかり大人っぽくなって」

    唯「でしょでしょでしょ~」

    尊「中身は見た目程変わってないです」

    お「尊くんも、大きくなったわね~」

    唯「コイツ最近、同級生のかわゆーい彼女ができてー」

    尊「いいよ、そんな事言わなくても」

    お「あら。だったら、お酒が飲める年齢になったらぜひ、連れて来てね。おばちゃん、楽しみに待ってるわ」

    覚「あと二年あるな。頑張れよ、尊」

    尊「目標にします…」

    キンキンに冷えたジョッキに注がれた生中が、4杯出された。唯と尊にはジュース。

    ト「この量ですか?!」

    覚「多分トヨちゃんなら大丈夫だよ」

    若「これじゃこれじゃ」

    源「喉が鳴ります」

    乾杯!

    覚「あ゛ー」

    若「くーっ」

    源「うまい!」

    尊「みんな美味しそうに飲むなぁ。何かさ、ビールのCMみたいだね」

    唯「言える。トヨ、どう?」

    ト「この苦味、嫌いじゃないです」

    唯「大人だねぇ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days125~10日16時30分、時代時代で

    事情を知らないと、色々疑問がわく。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    スーパーに到着した四人。

    唯「お菓子、お菓子~」

    若君「ハハハ。それはちと違うておるぞ」

    カゴをサッと取り、歩き出した若君。慌てて、源三郎が追いかける。

    源三郎「忠清様」

    若「何じゃ」

    源「カゴは、わたくしが持ちます」

    若「ん。良い」

    源「されど、荷をお運びいただくなど、畏れ多く」

    若「源三郎」

    源「はっ」

    若「この令和の世も、残すはあと一日となった」

    源「は、はい」

    若「永禄に戻ったら、幾らでも持ってもらう。今はまだ良い」

    源「戻りましたら、でございますか」

    唯「えー、たーくん何言ってるの~?スーパーもレジもないのにぃ」

    若「物のたとえじゃ」

    唯「たとえ?」

    若「家臣に完全に戻るのは、もう少し後で良かろう」

    唯「ふーん?」

    若「下がっておれ」

    唯「だってさ、源三郎。たーくんにまかせとけば?」

    源「…心得ました」

    唯と若君が、売り場を仲良く進む。やや離れてついて行く源トヨだが、

    源「これが令和の世、なのであろうな」

    トヨ「そうね」

    周りを観察する二人。夕方の早い時間ではあるが、カップルが揃って買い物をする姿をちらほら見かける。

    ト「忠清様、こうして拝見すると、周りととても馴染んでいらっしゃるわ」

    源「そうだな。何より、楽しんでおられるのがよくわかる」

    ト「今は控えて。控えるのも得意でしょ」

    源「あぁ。任せろ」

    さて。こちらは、速川家。

    覚「はいはいはい、電話か。また忠清くんか?違うな、尊か。もしもし」

    尊の電話『もしもし、お父さん』

    覚「おー、どうした?おいおい、まさかまたトラブったのか~?」

    尊 電話『ううん、今日は大丈夫。ちょっと遅くなっちゃったから電話した。今黒羽駅に着いたけど、お店って、何時に予約してたんだっけ?』

    覚「母さんは仕事終わり次第合流だから、6時位には行きますって伝えてあるが」

    尊 電話『そっか、良かった。ちょっと焦ってた』

    覚「だから慌てなくていいぞ。唯達も、今スーパーに行ってるし」

    尊 電話『そうなの?!家に居ないんだ。もう帰ってくる?』

    覚「いや、4時前位に、ようやく今から向かうって連絡あったから、もう少しかかるんじゃないか?」

    尊 電話『そうなんだ、わかった、じゃあ急いで帰るよ』

    電話はすぐに切れた。

    覚「何を急ぐんだ。それに、どう連絡してきたのかって、なぜツッコミが入らない?僕の感動した話を、聞いてくれよ~」

    程なくして、尊が帰宅した。

    尊「ただいま」

    覚「おーお帰り。ん?」

    リュックをドサっと床に置くと、下を向いたまま、急いで洗面所に入っていった尊。

    覚「手洗いうがいか?」

    やがて出てきたのだが、

    覚「相当念入りにしてたな」

    尊「あー」

    覚「ん?前髪ビショビショじゃないか」

    尊「顔洗ったんで。着替えてくるよ」

    二階に消えていった。

    覚「行動に謎が多いな」

    唯「ただいま~」

    覚「こっちも帰ったか」

    唯達も帰宅。

    若「お父さん。先程は、話を途絶えさせてしまい」

    覚「いいのいいの。公衆電話には有りがちなんだよ。小銭でかけてると特に。いい経験だったね」

    若「はい!」

    覚「最初、何を言ってるのかわからなかったけど。あれか、戦で名乗る時は、あぁ始まるのかい?」

    若「そうです。驚かせてしまいましたか」

    覚「大丈夫だよ。声の抑揚が、まんま忠清くんだったから、すぐわかった」

    若「そうでしたか」

    尊が着替えを済ませ、下りてきた。

    尊「お帰りなさい。買い物行ってたんだね」

    唯「あれぇ?今日は一人~?」

    尊「基本一人です」

    唯「どっかに隠してない?」

    尊「ない。そこ、引っ張らなくていいから。なんだよ、買い物しっぱなしで、トヨさん達に片付けさせて」

    唯「あー。ごめんごめーん」

    ト「いいんですよ。お話しててください」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days124~10日15時45分、もしもーし

    どこにどう当てたのか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今では珍しくなった、駅の公衆電話に群がっている唯達。

    若君「10円、はどれほど要るのじゃ?」

    唯「電話してる長さで変わるの」

    若「長さか」

    唯「100円でもいいんだけど、40円もあるし。たーくんも10円玉、持ってたりする?」

    若「コーヒーの支払いで使うてしもうた」

    唯「そっか。まぁ大丈夫っしょ」

    若「この箱に支払うと」

    唯「そうだよ。ではいってみよう!じゃあね、まずこれ耳に当てて」

    受話器を若君に持たせたのだが、

    唯「違うぅ」

    若「違う?」

    唯「端っこの、丸くてプツプツ穴開いてるトコに当てて」

    若「こうか」

    唯「もう一つの丸いのがちょうど口のあたりにくるでしょ。あー、そっちは離れててよくて…そうそう、それでいい」

    若「こう持つと、収まりが良いのか」

    唯「でね、上の丸いのから声が聞こえるから、下のそこに向かってしゃべってね。じゃあお金入れるよ」

    源三郎「忠清様とあろう御方が、少々手こずっておられる」

    トヨ「どうなるのかしら」

    若「何やら音がする。お父さんがもう話されておるのか?」

    唯「まだ。待って、今電話番号のボタン押してるから。お父さんが出たら、名前言ってね」

    若「名乗るのか。ん?音が変わった」

    覚の電話『はい、もしもし。速川です』

    若「おぉ、お父さんの声じゃ」

    唯「聞こえた?ならしゃべって」

    若「うむ。ならば」

    唯「ためるなぁ」

    若「我こそは、緑合の国の住人、御月…」

    唯「へ、なんで?!そこからじゃなくていい!名前だけで!」

    若「それでは名乗りにはならぬ」

    覚 電話『もしかして、その声は、忠清くんかい?』

    若「はい!お父さん。忠清です」

    覚 電話『いやぁ、びっくりしたよ。まさか、君と電話で話せるなんてなあ。何かあった?』

    若「膝を詰め、皆で話をしておりました。急ぎ買い物に向かいますが、戻るのが遅くなりますゆえ、一言お伝えしたく」

    覚 電話『そうか。わざわざありがとな。いいよ、ゆっくりで。まだ尊も帰ってないし』

    若「痛み入ります」

    覚 電話『何か食べときたい菓子とかあったら、買ってきて貰ってもいいぞ』

    若「菓子、ですか」

    覚 電話『心残りがあってもイカンからな。好きに買ってお…』

    ツー、ツー。

    若「ん?何じゃ?声が急に聞こえぬように!お父さんに一大事では?!もしや、倒れたのではなかろうか?!」

    唯「電話切れたからね」

    受話器を若君から受け取り、戻した唯。

    唯「はい、おしまい」

    若「お父さんは、無事なのか?!」

    唯「うん。全然大丈夫」

    若「ならば良いが」

    唯「まっ、気にしないで」

    若「話の腰を折るなど、とんだ無礼を働いてしもうた」

    唯「いいでしょ、言いたいコトは言えたんだし。お父さん、なんて?」

    若「所望の菓子があれば、買って良いと申された」

    唯「ふーん。それどーみても、私への伝言じゃないな」

    スーパーに向かい、歩きだした四人。

    唯「これもう一回食べときたい!ってお菓子、ある?」

    若「そうそうは思い出せぬが。源三郎、トヨはあるか?」

    トヨ「うーん…」

    源三郎「お言葉に甘えて宜しいのでしょうか」

    唯「あるなら言ってよ?これで頼まれた物しか買っていかなかったら、逆にお父さんガッカリすると思うし」

    源「あの、バーベキューの終わりに、お母さんがお焼きになった」

    唯「焼いた?」

    若「あぁ。あれはわしも気に入った。唯が焼くと焦がしよるが」

    唯「どーせそうですよぅ。スモアだね」

    源「はい。温かく、甘く、あの何とも言い表せぬ口当たりが忘れられませぬ」

    唯「そうなんだ」

    ト「いいですね。私もあのお菓子は、賑やかに過ごした情景と共に、優しいお味が思い出されます」

    唯「へー。ひそかに人気のスイーツってヤツ?だったら、私が腕をふるって、焼いてしんぜよう!」

    微妙な顔をして黙る、若君と源トヨ。

    唯「…ってもう、わかってますって。お母さんが作ったのが食べたいんでしょ?」

    三人が顔を見合わす。

    若「そうじゃな。母の味じゃからの。唯が焼いてはならぬとは申さぬが」

    唯「顔がダメって言ってたけど」

    若「そうか?」

    唯「材料どーんと買っとこ。どっかで、焼いてもらえる時間くらいあるっしょ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days123~10日15時30分、挑戦と再挑戦

    願いを叶えたいからこそ、直接言葉にしないの。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    喫茶店の四人。

    若君「すっかり遅うなってしもうた」

    唯「たーくんの話が長いから~」

    トヨ「唯様」

    唯「すんません」

    若「日が落ちる迄に家に戻れると良いが。ひとまず此処を出よう」

    若君が会計をした後、外に出た。

    若「急ぎ買い物に参ろう」

    唯「んー、あのさたーくん」

    若「何じゃ」

    唯「帰るのが遅くなるって、お父さんに言っとこうよ」

    若「それが出来得るならば、一先ず安心ではあるが。されどどう伝える?」

    唯「電話、かけてみない?」

    若「電話。されど唯の持つその板は、使えぬのであろう?」

    唯「うん、もう契約してないからかけるのはできない。でもね、一回だけスマホ家に忘れちゃった時にやったコトあるんだけど、公衆電話使えばいいんだよ」

    若「他にも電話があると。ならば使いたいが、何処にある?」

    唯「これから探す」

    若「探す?」

    唯「公園ならどっかにありそうだけど、駅の方が間違いないから、行ってみようよ」

    若「そうか。わかった」

    変わって、ここは尊と瑠奈の通う高校の教室。

    みつき「バイバーイ!瑠奈、センセ」

    瑠奈「バイバイ、みつきー」

    尊「また来週」

    下校時刻になり、皆帰っていく。

    尊 心の声(今日は比較的、はけるのが早いな。試験も近付いてきたからか)

    あと、尊と瑠奈と、男子生徒数人を残すのみになっている。

    瑠「そろそろ帰ろっか」

    尊「うん」

    教室を出て廊下を歩いていると、さっきまで残っていた男子達が、相次いで二人を追い抜いていった。

    尊 心(あ。…教室が空になった)

    急に立ち止まる尊。下を向き、考え込んでいる。

    瑠「尊?」

    尊「…」

    瑠「どうしたの?」

    尊「あの…」

    瑠「なに?」

    尊「教室に、戻ろうかな…いや、まだ早過ぎる。しかもこんな時期に」

    瑠「え?戻るのに早い遅いが関係あるの?何か忘れ物?」

    尊「忘れ物というか…何と言うか…誰も居なさそうだし…」

    瑠「歯切れが悪いね。忘れ物なら、私ここで待ってようか?」

    その返事に、尊の表情が一瞬曇った。

    瑠「あ」

    それを見逃さなかった瑠奈。何かを察した。

    瑠「…ねぇ、たけるん」

    尊「はい」

    瑠「それ、私もついて行くと、イイ事が起こるかな」

    尊「イイ事…」

    瑠「…」

    尊「イイ事と思ってもらえると、嬉しい」

    瑠「そう。じゃあ、少しだけ遠回しに聞くよ」

    尊「珍しい」

    瑠「もー。言うと思った。昨日のあれ、気にしてた?」

    尊「…うん」

    瑠「尊のタイミングが、今?」

    尊「…はい。いや、でも早過ぎる。僕はどうかしてるんだ、ごめんなさい、帰ろう」

    瑠「…」

    瑠奈が、尊のブレザーの袖口をそっとつまみ、うつむく。

    瑠「早くない、よ」

    尊「そう、かな」

    瑠「連れてって、ください」

    尊「…いいの?」

    瑠「だって、来てくれるんでしょ」

    尊「はい」

    瑠奈が顔を上げると、そこには尊の真剣な眼差しが。

    尊「…」

    瑠「…」

    そのまま二人、廊下を戻っていった。

    唯「見ーっけ」

    若「これが、電話?」

    源三郎「随分と大きい」

    ト「色も鮮やかで」

    戻って、黒羽駅の四人。公衆電話を発見。

    唯「お父さんの番号は、私のスマホに入ってるからそれ見てかけよう。ちなみにー」

    電話の下にある棚から、分厚い電話帳を取り出した唯。ページをパラパラとめくる。

    唯「えーと、あった!ほら、速川クリニックの広告!」

    若「これは…大きく書かれておる」

    源「おぉ」

    ト「まぁ」

    唯「いいでしょ。前やっちまった時は、これ見てクリニックの方にかけたの。エリさんがびっくりしてたな」

    若「ほほぅ」

    唯「では、がんばってみよう!えーと、10円玉はと」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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