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    四人の現代Days150(終)~15日水曜5時、夢で逢えたら

    妄想家系図は、一番下、マスター様のブログ記事内の「御月家の家系図からわかること」をご参照ください。
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    男「美香」

    美香子 心の声(…ん、呼んだ?)

    ムクッと起き上がった美香子。ここは令和の速川家。覚と美香子の寝室。

    美香子「え。夢?」

    隣のベッドで、覚がスヤスヤと眠っている。

    美 心(確かに聞こえたけど、美香子じゃなくて美香だから私ではないか。でもあの声は)

    再び横になった美香子。

    美 心(彼だわ。これは夢の続きを見るしかないわね)

    目を閉じる。すると、景色がゆっくりと浮かび上がってきた。

    美 心(時代劇に出てくるような、武家屋敷?)

    屋敷の中には、着物姿の女の子達。

    美 心(小学校の中学年位?が二人。で、小さい子が一人。二、三歳ってところね。三姉妹なのかしら…あらっ?あれってもしかして!)

    一番幼い女の子。髪が両耳の上辺りで二つ結びになっているのだが、

    美 心(あの赤いリボン、私が唯にあげたヘアゴムに付いていた物じゃない?…うん、間違いないわ。と言う事は、このお嬢ちゃん達!)

    泣いてぐずる妹を、姉二人があやしている。

    美 心(唯にも忠清くんにもよく似てるわ。はぁ~。孫、孫なのね。泣けてきちゃう…こんなにも可愛らしくて)

    打掛姿の女性が現れた。

    唯「美香~。お待たせぇ。はい、もう泣かなーい!」

    美 心(唯~!まぁ~。話し方はあまり成長が感じられないけれど、すっかりお母さんの顔になって)

    母の貫禄さえ感じ、大垂髪もすっかり様になっていた唯。

    長女「あ、直ってるぅ」

    二女「すごぉい。良かったねっ、美香」

    美 心(あちゃー。娘達の口調は、完全に母の影響)

    三女・美香「さんた、さんた!」

    唯の持つ人形に、小さな手を伸ばす美香。

    美 心(サンタ?あっ!クリスマスイブデートで唯が引いた福引の、景品のサンタ人形!格好の遊び道具になってたのね)

    唯「トヨに頼んで大正解。はいどーぞ」

    美 心(トヨちゃんも元気で居るのね。孫のお人形まで面倒みてくれるなんて。唯は裁縫は全くできないままだったから、助かるわ)

    唯「あ、お帰りぃ。早かったね」

    若君「うむ。ん?美香」

    美 心(来た。あの声の主の登場ね)

    庭から現れた若君。

    美 心(う~ん。いい意味で、もう若君ではないか。年齢を重ねて、益々の威厳、でも気高さはそのままに。生やした髭の効果もあるだろうけど、持って生まれたものが大きいわよね~)

    若「何じゃ、泣いておったのか?よしよし」

    そう言いながら美香を抱き上げ、顔を近づけようとしたのだが、

    三「いやっ」

    露骨に顔を背けられた。

    二「パパまたやってる」

    長「懲りないよねぇ」

    美 心(ぷっ。どの時代も娘は父親に冷たい)

    唯「だからー。すぐ顔くっつけようとする。ヒゲが当たれば、嫌がるに決まってるっしょ」

    若「そうか…。剃り落とすべきか?」

    唯「そこ、違うから。マジでヘコむのやめてくんない?」

    美 心(忠清くん、なんて顔してるの!あはは~でも家族の平和な日常ね。いい物見せてもらったわ)

    …ここで目が覚めた。そのまま起き上がった美香子。

    美「残念。終わっちゃった。よし!忘れない内に書き留めておきましょ」

    その日の夜。食卓に両親と尊。

    尊「一日かけてわざわざ作成したの?」

    美「今日はお休みだったしね。これが、作っててとっても楽しかったのよ~」

    覚「服装とかも、ネットで調べて母さんが夢で見たままを忠実に描いたんだ。お陰でな、僕も一緒に見たような気になれたよ」

    今朝の夢を、絵と文章で再現していた両親。

    尊「僕の作った妄想家系図の設定に、だいぶ引っ張られてない?」

    美「それだけ信憑性が高いって事よ」

    覚「いい出来だぞ」

    尊「それはありがとうございます」

    美「長女ちゃんと二女ちゃんの名前がわからなかったのは惜しかったな。ねぇ尊」

    尊「何」

    美「名前、降臨してない?」

    尊「してないよ。残念ながら」

    美「美香ちゃんの時みたいに」

    尊「あれはね、今でもよくわからないんだ。ここにこの名が入る、書けと言われた気がしたんだよ」

    覚「あのさ」

    美香子&尊「はい」

    覚「聞いてくれないか?僕の推理なんだけど」

    美「あら。どんなかしら」

    尊「伺います」

    覚「妄想家系図によると、唯の子供は7人だよな。母さんの名は、そもそも末っ子に付けるつもりだったんじゃ」

    美「どうして?」

    覚「締めというか」

    美「シメって何よ」

    覚「何となく」

    美「説明になってないわよ」

    尊「わかる気がするようなしないような」

    覚「美香ちゃん、歳がちょっと下だっただろ」

    美「ん?そうね。お姉ちゃん達に比べると」

    覚「どうして間が空いたかはわからないが、二女から数年後に念願の三女が生まれ、二人の中で、よしここまでと、ようやく美香と名付けたんじゃないかと。どう、どう?」

    美「はあ」

    尊「そういう事にしておきますか。仮に答え合わせできたとしても相当先の話だし」

    覚「中々いいだろ?思うにさー、僕も久々に誕生した末娘なら溺愛しちゃうかも。忠清くんの気持ちはわかるよ」

    尊「ふーん。父親ってそんなモンなんだ」

    美「今回、上の男の子達やトヨちゃん源三郎くんには逢えなかったのよねー。次回の上映を楽しみに待つわ」

    尊「そう上手くいくかな」

    美「いいじゃない。願うのに損はなし」

    覚「僕も見せてもらえるよう、願っとく」

    尊「ははは~」

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    四人の現代Days、これにて終了です。お読みくださった皆様に、心から感謝いたします。

    長い間、ありがとうございました。

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    四人の現代Days149~14日21時、犯人は

    和紙と墨って最強。
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    こちら、令和の速川家。尊がリビングに顔を出した。

    覚「何だ、勉強してたんじゃないのか。もう休憩か?」

    美香子「喉でも渇いた?」

    尊「木村先生からメールが来たんだよ。早く教えたくて下りてきた」

    覚「メール?」

    食卓の席についた三人。

    美「先生もこの時期お忙しいでしょうに、わざわざメールくださったの?」

    尊「先に僕から送ってたんだよ。その返事をもらえた」

    覚「尊が先?何書いたんだ」

    尊「姉は土曜日に帰りました、その後例の日記はどこまで読み解けてますか、って感じ」

    美「そんな内容なの?せめてセンター試験終わってから、今週末以降で連絡すれば良かったじゃない」

    尊「お姉ちゃんが戻ったのを伝えときたかったし、進捗状況が気になっちゃって」

    美「今じゃなくても~」

    尊「でも、メールして正解だったんだよ」

    美「えぇ?」

    覚「んー良くわからんが。先生からは何て?」

    尊「読み上げるね。そうか、帰省が終わったか。ご両親も淋しかろうな。しかし僕にメールくれるなんて相当余裕じゃないか?気は抜かないようにな。でもこのタイミングで連絡くれて、少し有り難かったよ。ちょっとグチりたかったんだ」

    美「グチ?」

    尊「解読はボチボチやってるよ。あれから10日分位進んだが、その中に目新しい内容があってな。近習の婚儀を予定通り執り行え」

    覚&美香子「あ」

    尊「安堵したと。家臣の話なんて珍しい。初めてじゃないか」

    覚「忠清くん、凄いな。ちゃんとこちらと同時になるよう、やりこなしたんだ」

    美「どう褒めても褒め足りないわねぇ」

    尊「それでその日付の前後辺りなんだが、少々腹が立った事があってなー」

    覚「腹が立つ?」

    尊「イタズラされたような跡があって」

    美「イタズラ。あら大変」

    尊「四角い形状の何かが貼り付いていたようなんだ。その部分だけ色が変わって毛羽だっていたり、接着剤らしき跡が残っていたりしてな。何箇所か」

    覚「ん?」

    尊「これか?と思われる紙らしき破片は出てくるんだが、何が印刷されていたかとかは消えてしまっていてわからなかった。ゆくゆくは貴重な資料となるかもしれないこの日記に、後世の者がシールでも貼りやがったんじゃないかと思うんだ」

    覚「んん?」

    尊「怒れちゃってさー。誰かにグチりたかったところ、調査の事情を知ってる君から連絡が来たから、渡りに船と、チラっとつぶやかせてもらったよ。気分転換にもならない話で済まなかったね。では少し長くなってしまったが、試験の健闘を祈るよ。木村」

    黙り込んだ両親。しばらくして、

    覚「…それって」

    美「確か持って帰った…」

    尊「そう。多分、というか間違いなく、忠清シールだと思うんだ」

    美「イタズラなんでしょ。って事は…唯がやらかした?!」

    覚「え、でもさ、シールあげる話した時、唯に勝手に取り出されないような場所にしまった方がいいぞって言ったら、しかと心得ましたって頷いてたんだが」

    尊「兄さんなら、言い付け通りちゃんと隠してあったと思うよ」

    美「じゃあ誰が、って忠清くんしか居ないじゃない。それは有り得なくない?」

    尊「それが有り得るんだよ」

    美「嘘ぉ」

    尊「木村先生と初めて話した時に聞いたんだけど、あの日記さ、書いた人物の名前が入ってなくて著者不明なんだよ」

    覚「あー」

    尊「で、これは推測なんだけど、お姉ちゃんと兄さんが木村先生に会いに行ってるじゃない。その時にも名がないって話が出たんじゃないかと」

    覚「名前か、なら」

    美「ちょうど手元にいい物があるから貼っておこうか、って?えー!」

    尊「兄さんは、イタズラするつもりじゃなくて好意で貼ったんじゃないかなあ。450年前の日記、和紙が残るならシールも残るだろうって思うのは、わかる気がするよ」

    覚「でも現代の紙は思いの外脆かった」

    尊「そんなに厚い紙で作らなかったし?」

    覚「うん。どちらにせよ、和紙とは丈夫さでは比べ物にならんのだろうな。結果、ほぼ残ってないし」

    美「まさか木村先生を困惑させるとは思わなかったのね」

    尊「でも兄さん、お茶目だよね。書けば済むのにペタっとやったんだから。案外、シールたる物を貼ってみたかったのだ、なんてオチかもしれないね」

    覚「その答え合わせも、いつ出来るかは尊次第だしな」

    尊が座ったまま伸びをした。

    尊「はぁ~。最後はそこかー。ホント、プレッシャーが甚だしいよ」

    覚「何年かかってもいいさ」

    尊「そう?」

    美「でも私達が元気な内がいいわねぇ」

    覚「そりゃそうだ」

    尊「結局答えは変わらず。はいはい、もう少ししたら頑張らせていただきます」

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    14日のお話は、ここまでです。

    次回、最終回。

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    四人の現代Days148~14日火曜7時、助言します

    大切な女友達だから。
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    唯の居室にトヨが来た。

    トヨ「え!」

    唯「おはよっ」

    ト「もう起きていらっしゃるんですか!まさか寝ていないとか?」

    唯「そんなに驚くー?ゆうべあの後すぐ寝たからさ」

    ト「はあ」

    唯「たまにはね。たーくんとラブラブで、ラジオ体操もしてきたよ!」

    ト「おやまあ」

    唯「じいの姿は見かけなかったんだよね。なんで居なかったんかはわかんない」

    ト「うーん。察するところ、私が天野のお屋敷を出る頃に酒宴が始まっておりましたので、まだお休みではなかろうかと」

    唯「え。それって、源三郎もじい達に巻きこまれちゃったの?」

    ト「いえご心配なく。信茂様信近様有山様のお三人だけでした」

    唯「良かったねぇつかまらなくて。実はさ、トヨといろいろ話したいコトあるんだ。たーくんとも相談したんだけど、今朝のうちに言っておこうと思って」

    ト「お話。ですか」

    向かい合って座った二人。

    唯「まずは」

    また立ち上がり、棚から何かを持ってきた。

    ト「芳江さんとエリさんの連鶴ですね」

    唯「これあげる!もらって」

    ト「えっ」

    唯「令和の母二人、でしょ?」

    ト「とても良くしていただいたので、その通りではあります。でも」

    唯「たーくんも、トヨが持ってる方がいいって言ってたの。だからどーぞ」

    ト「よろしいのですか?」

    唯「うん」

    ト「嬉しい。ありがとうございます。大切にいたします!」

    唯「でさ。昨日同じ時間に、速川の家でも同じように祝言ぽい事やってたみたいなんだよ」

    ト「そうなんですか?!」

    唯「たぶん。宴会とかとごちゃ混ぜにしてなければ。特にお父さん」

    と「どうしてそんな事ができたんですか」

    唯「たーくんが、この時間にやるからぜひ共にって尊に頼んどいたんだって」

    ト「え?待ってください。という事は…若君様は日にちと時間を、信茂様のお許しが出る前にお決めになっていらしたと?」

    唯「うん」

    ト「…」

    唯「たーくん、神だから」

    ト「神業の神ですか」

    唯「そーなの?」

    ト「で、よろしいかと。驚きました…」

    唯「頼りになるよね~」

    ト「はい。若君様の下でお仕えできる喜びを、噛みしめたく存じます」

    唯「でね。ここからが肝心な話なの。はっきり言うよ」

    ト「はい」

    唯「子作りに、励め!」

    ト「それは…私はそこまで若くありませんので、授かれるものなら早うとは思っておりますが」

    唯「でも、できれば私が先に産んで欲しいって思ってるよね」

    ト「勿論です。切望され、それで苦しい思いをされておられるのを間近で見ておりますので」

    唯「悩んでない?」

    ト「…少し悩んでおります」

    唯「おふくろさまには打ち明けたんでしょ」

    ト「…はい」

    唯「やっぱりね。私、何も聞いてないから。そうじゃないかなと思ったんで、カマかけてみたんだ」

    ト「え?」

    唯「おふくろさまは、人から聞いた事をすぐチクったり…んー、隠しときたい秘密をしゃべったりしないよ。そんな人じゃないのは知ってるでしょ」

    ト「はい、それはもう。でしたら何故」

    唯「カン?」

    ト「勘が働いたと」

    唯「言われたのは、トヨが城をいつ下がるか、あやふやではなくちゃんと話のすりあわせをしなさいって、それだけ」

    ト「そうでしたか」

    唯「早めに決めようよ。次の女中頭を誰にするかとか私の世話係はとか…いや、この際世話係はもうなしにしない?」

    ト「なりません」

    唯「ちぇ。まだ誰かにガミガミ言われるんだ」

    ト「言われぬよう、奥方様には自覚を持っていただかないと」

    唯「へーい。で、トヨが源三郎と赤井家の事だけを考えられるようにして、励んでもらうと」

    ト「ありがとうございます。私の周りは、昨日初めて事の次第を知った者ばかりですので、いきなり去るのも少し心苦しいのですが、引き継ぎは早う進めて参ります」

    唯「さみしくはなるけど、いつでも会えるし」

    ト「そうですね」

    唯「あのさ、前にどうやら三人目?の赤ちゃん産んだ夢見たって言ったじゃない。トヨが大きいお腹で娘ちゃん連れててって」

    ト「覚えております」

    唯「夢に出てきたのがその時に居た子供全員かはわかんないんだけどね、御月家の長男に当たる男の子より、トヨが連れてた女の子の方が大きかったんだよ」

    ト「歳が上という事ですか」

    唯「たぶんね。だからきっと、私より先に赤ちゃんに会える」

    ト「すみません…」

    唯「気にしなーい。私は私、トヨはトヨの人生だもん。あ、今、ちょっとカッコいいコト言った?」

    ト「お気遣いが心に染みました。ありがとうございます」

    唯「えへへ。言いたかったのはここまでだよ」

    ト「はい」

    唯「あー、急にお腹空いてきたんだけどぉ」

    ト「ふふっ。ではお運びいたします」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    最終回のお知らせ

    長々と続けて参りました四人の現代Days。「現代Days(仮)」からスタートしたのはちょうど一年前の今日でした。

    皆様のご愛顧に大感謝しつつの全150回となります。(仮)も合わせると170回。よくもそんなに描いたもんだ。

    この後のお話を含め、あと3回です。

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    四人の現代Days147~13日18時、一件落着

    結構な歳のおじさん達が大騒ぎ。
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    一段と凛々しい源三郎が奥に進んでいる。すると、唯の傍らに置かれた品々に気が付いた。

    源三郎「あっ、これは…」

    破顔一笑し、その場で深く一礼する。

    小平太パパ「何をしておるのじゃ?」

    次に、吉乃の導きでトヨが入ってきたのだが、

    唯「顔が固まってる!笑って~」

    極度の緊張で、唯の声かけも聞こえていない。

    有山の妻女の囁き「なんと初々しい。あら?」

    有山の囁き「ん?どうした」

    有 妻 囁き「二人共、一輪ずつ梅が咲いております。源三郎は若葉の様な色で」

    有 囁き「おぉ、これは気が利いておるのう。此方は白梅か」

    美香子と源トヨの三人で行った組紐の店。押し問答は少しあったが、結局プレゼントされていたのは、梅の花を型どった色違いのブローチだった。

    有 妻 囁き「春の訪れでございますね」

    有 囁き「まさしく。良いな」

    三三九度の準備をしている。

    源三郎の囁き「トヨ、大丈夫か」

    トヨの囁き「何とか…」

    源 囁き「令和に居られる皆様も、見守ってくださっておる。お前、気付いていないだろう」

    ト 囁き「え?」

    源 囁き「奥方様の隣」

    ト 囁き「…あっ」

    唯の傍らで、ちょこんと五羽の折鶴達が参列していた。覚、美香子、尊、エリと芳江がそれぞれの手で折った物だ。

    トヨ「なんて…唯様、ありがとうございます」

    ピースサインで応える唯。一方、微笑む若君。

    若君「皆、晴れ姿を見届けておるゆえ」

    源三郎&トヨ「はい!」

    ┅┅

    さて。こちらは令和の速川家。

    尊「それが、トヨさんセレクトの帯締め?」

    美香子「そうなのよ~。せっかくだから出してきたの。やっぱり着物で参列した方が良かったかしら」

    尊「兄さんは、この時間だけ共に願いたい、って言ってただけだから」

    覚「気持ちは正装だぞ。ははは」

    永禄と同時刻に、リビングに座布団を並べ座る三人。

    美「可愛いい分身ね。小さくても、一羽ずつ座布団にのせるとそこに本人が居るみたいで」

    覚「そうだな。いかにも祝言に立ち合ってる雰囲気が出てる」

    ひな壇に当たる位置に座布団が二枚並び、源三郎とトヨが折った鶴がそれぞれ置かれている。源三郎側の参列者として若君と唯の折鶴が一羽ずつ置かれた座布団二枚。トヨ側に両親と尊が整列して座っている。

    尊「向こうもこんな感じなのかな。並び方とかは正解がわからないから違うだろうけど」

    美「きっと素敵なお式よ~。でもどうして今日この時間なのかしら。ピンポイントで忠清くんが指定したのよね?ぜひ同時にって」

    尊「平日だとさ、クリニック終わりからだと夜遅くなるし時間が不安定じゃない」

    覚「それはわかるが。いきなり今日で大丈夫だったんかな」

    尊「いつ何が起こるかわからないから、早めに設定したんだと思うよ。それにね、何か今日は一粒万倍日だからって言ってたよ」

    美「あら」

    覚「一粒の籾が何倍にも成長して大きな利益をもたらすってヤツだな。だから結婚式か」

    美「あの時カレンダー見ながらそんな事考えてたなんて。忠清くんってホント偉いわ~」

    尊「さてと。そろそろ終わりかな。30分はかからないって兄さん言ってたから」

    覚「よし!なら最後は一本締めだ」

    美「あらま」

    尊「それ…絶対向こうではやんないって」

    覚「いいからいいから。さ、やるぞ。お手を拝借。よーぉっ!」

    ┅┅

    戻って、永禄。祝言が終わって間もなく。

    若君の囁き「源三郎」

    源 囁き「はい」

    若 囁き「余興じゃ」

    源 囁き「余興、でございますか?」

    若君が立ち上がり、源トヨの目の前、真ん中の広い所へ出た。

    若「じい、信近。此処へ」

    小パ「はっ!」

    じい「ははぁ」

    胸元から、何やら書状のような物を出す若君。

    じ「おぉ」

    小パ「いよいよか」

    半分程開く。イラストになった、じいの姿がチラリと見えた。

    じ「んん?」

    小パ「絵か?」

    ト「あ」

    源「此処でお出しになられるとは」

    なぜか、一旦引っ込める若君。

    じ「むむっ」

    若「実はのう、じいの姿を絵にしたのじゃ」

    小パ「なんと。絵を嗜まれるなど初耳」

    次に、全部開いた若君。高い位置で掲げた。つられて立ち上がろうとするじいと信近。

    じ「よう見えぬ」

    小パ「若君様、お戯れを」

    有山「何事じゃ?わしにも見せてくだされ」

    右に掲げれば右に動き、左に掲げれば左に動く家臣三人。源トヨと有山の妻は笑いを堪えるのに必死だが、唯は大笑いしている。

    唯「あははは!たーくん、ウケる~!」

    散々若君に弄ばれた後、ようやく絵を受け取ったじい。信近と有山も覗き込む。

    じ「何やら奇天烈な」

    有「南蛮渡来の装束か?」

    小パ「それにしても、随分と質の良い紙じゃ」

    やたらと感心している三人を横目に、源トヨの前に腰を下ろした若君。

    若「源三郎。トヨ。末永う幸せにの」

    源「はい!」

    ト「ありがとうございます」

    若「では唯。帰るぞ」

    唯「えー、もう?」

    若「早う二人きりにしてやらねばの」

    唯「確かに」

    源トヨが床に擦る程頭を下げる。まだ騒いでいる家臣達。

    唯「また明日ね」

    唯と若君は、その場を後にした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    13日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days146~13日月曜14時、佳き日

    この頃、ちょうど蕾が膨らんできています。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    自室に戻ろうとしている唯。源三郎が声をかけた。

    源三郎「奥方様」

    唯「あ、源三郎~」

    唯に駆け寄り、跪いた源三郎。

    唯「結婚式、もうすぐだね!」

    源「はい。奥方様には、お気遣い心より御礼申し上げます」

    唯「へ?私なんかやったっけ?はさみ揚げを冷めないようにはしたけど」

    源「それが効いたと伺いました」

    唯「ちょっとだけだよ」

    源「その様な。ご謙遜を」

    唯「ふふっ。珍しいでしょ、走る以外で役に立つなんて」

    源「い、いえ!」

    唯「たーくんのお手柄だって。話をどう持ってくかとかさ、上手なんだよ」

    源「はい。それはもう…まさかご同席くださるとは思わず」

    唯「同席?ってなに」

    源「え、お聞きになられておられぬ?」

    唯「知らなーい」

    源「昨日、天野様のお許しを得たと伺い、永季様にお話をと急ぎ向かおうとしたところ、わしも共に参ると仰せられ」

    唯「へー。その方が話早いもんね。だからトントン拍子なんだ。良かったね」

    源「はい」

    唯「たーくんさ、自分がしてやったみたいなコトは私にも言わないから」

    源「頭が下がります」

    唯「さっきね、おふくろさまとトヨが話してたよ。また泣きそうになってた」

    源「左様でございましたか」

    唯「夕方楽しみにしてるね!」

    源「ははっ」

    天野の屋敷。もうすぐ、現代の時間で夕方6時、酉の正刻。

    若君「よう似合うておる」

    源「痛み入ります」

    朽葉色の直垂を身に付けた源三郎。くすんだ色合いではあるが、顔立ちをとても引き立てている。

    若「それか。贈られた品は」

    源「はい。トヨと、祝言の折にはこの品を必ず身に付けようと約束しまして」

    若「花としては見ぬ色味じゃな」

    源「お母さんは、あなた達の時代にはなかった色かもしれないと仰せられましたが、わたくしが気に入りました故」

    若「そうか。まさに春じゃ」

    源「はい」

    こちらは、トヨが支度中。白装束になっている。

    唯「おじゃましまーす!あ、おふくろさま」

    吉乃「唯。何をうろついておるのです」

    唯「えへ。怒られるかなーとは思ったけど、早く花嫁さんを見たくって。もう準備できた?」

    トヨ「あと、これを付けたいのですが。吉乃様、よろしいでしょうか」

    唯「あ、ブローチ。同じ白だからいいよね!」

    吉「花飾りか?まあ良いでしょう」

    唯「じゃあ私が付けてあげる」

    ト「ありがとうございます」

    帯のすぐ上、脇の方に留められた。

    吉「それは」

    ト「はっ!はい」

    吉「もしや、唯のお国の品ではあるまいか?」

    ト「あっ、その…」

    唯「そーでーす。私のお母さんが、トヨと源三郎にってプレ…贈ってくれたんです」

    トヨの囁き「唯様、良いのですか?そのようなお話をされても」

    唯の囁き「いいのいいの。おふくろさまには、たーくんの矢傷を治した隠れ屋に、両親と尊が居るって言ってあるし」

    吉「やはり。家臣の婚儀にまで気を配られるとは。梅か?美しい細工がほどこされて」

    ト「はい。とても気に入っております」

    吉「それは何より。さあ、唯はそろそろ行きなされ」

    唯「はーい。待ってまーす」

    酉の正刻となった。祝言に立ち合う者はごく僅かだ。

    小平太パパ「何故、夫婦が離れて座っておるのじゃ」

    向かって右、源三郎側に若君。その後列に有山とその妻女。トヨ側に唯。その後列にじいと信近。

    じい「若君がこうお決めになったのじゃ。源三郎は若君の近習であるし、トヨはむじなの世話をしておるし。まぁ良いではないか」

    小パ「唯之助の脇には何やら置かれておるし」

    じ「文句ばかり垂れるでない。ほれ、始まるぞ」

    源三郎が入ってきた。

    唯「カッコいい~」

    有山「感慨無量」

    じ「おぉ。ええ婿じゃ」

    小パ「小平太には見せられん。ちょうど警固の番で良かったわい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days145~12日9時、踊らされます

    どこまでが策なのか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    天野の屋敷。部屋に通された若君。三人揃った姿に少し驚いた様子だ。

    若君「小平太」

    小平太「はっ」

    若「まだ起きておったか」

    小「若君がお越しとあれば。居てはなりませんでしたか」

    若「話す手間は省けるが。気を落とさぬ様」

    小「気を落とす?何事でございましょう」

    若「まあ良かろう」

    じいの前に腰を下ろした若君。傍らのタッパーがじいの視線を釘付けにしているが、構わず話し出した。

    若「旅立って、じき二年になるか」

    じい「旅?あぁ、元次でございますか。若君に未だ気にかけていただけるなど、奴も本望でござろうの」

    若「竹馬の友が居らぬと、張りもなかろう」

    じ「なんのなんの」

    若「そうか?」

    じ「いざ戦となれば、先陣を切りますぞぉ」

    小平太パパの囁き「は?!またそのような戯れ言を」

    小平太の囁き「少しは歳を考えて頂かぬと」

    若「いや…じいは出陣ではのうて、城を守り通して貰いたい。無論、戦にならぬようこれからも努めて参るがの」

    じ「そうでござりますか?んにゃ、若君の仰せならば承知仕る。ふぉっふぉっ」

    小パ 囁き「有難い。わしらの説得には耳を貸さぬからのう」

    若「話が逸れたが」

    じ「おぉ、これはご無礼をば。何でございましょう」

    若「元次とは、隠居後も多少の小競り合いはあったであろうが」

    小パ 囁き「小競り合い!然り」

    若「仲違い程ではなかったな?」

    じ「それは、まぁ。共に幾度も出陣した、同士でもござるしのう」

    若「ならば、天野と千原の結び付きをより強固に致すのも構わぬな?」

    じ「結び付き?若君は何を仰せか」

    若「両家のせがれと娘が婚儀を行うなど」

    じ「なぬぅ?!」

    それを聞き、うろたえ始めた小平太と父信近。つい声が大きくなる。

    小平太パパ「小平太に縁組の話?!」

    小「え!」

    若「あぁ済まぬ。小平太にではない。驚かせたの」

    思わず立ち上がりかけた三人。すぐに下がり座り直した。

    小「さ、左様でございますか」

    小パ「違う、と」

    じ「ならば若君は、誰の話をしておいでじゃ」

    小「もしや」

    小パ「何じゃ」

    小「源三郎に縁組でございますか。されど、天野には娘は」

    小パ「小平太の姉は既に嫁いでおりますし」

    若「源三郎は合うておる」

    じ「はあ」

    若「で、じい。良いか?両家の確執などなかろう?」

    じ「それは…末代までいがみ合うつもりもござらぬし」

    若「うむ」

    じ「御意のままに」

    若「そうか」

    じ「で、婚儀の相手は…」

    小パ「誰…」

    若「よし。小平太」

    小「は、はっ」

    若「母君はどちらに?」

    小「母上でございますか。呼んで参ります」

    小平太が、心なしか肩を落としつつ部屋を出ていった。

    若「そういえば。待たせたの。じいにと唯からじゃ」

    じ「ぬはは!漸くレンコンにありつけようぞ」

    吉乃「若君様。お呼びでございますか」

    吉乃が現れた。

    若「頼みがあっての」

    吉「はい。何なりとお申し付けくださいませ」

    若「明晩酉の正刻、源三郎の婚儀を執り行う」

    吉「まぁ。祝言とは喜ばしい。わたくしは何を致せば宜しいでしょうか」

    若「源三郎もではあるが、トヨの身支度をしては貰えぬか」

    吉乃「畏まりました」

    小パ「トヨ?!」

    小「確かに、天野の者でございますが。え?」

    吉「何をそこまで驚かれる。仲睦まじゅう隠れて話し込む姿はよう見かけておりました。ご存じない?」

    小「まさか」

    小パ「知らなんだ」

    吉「まこと、天野の男衆は色恋沙汰に疎うございます」

    若「ハハハ。どちらの屋敷で行うかは、これから有山と話すが」

    じ「若君ぃ。ならば此処を使われよ」

    若君が振り向くと、じいがいたくご機嫌で、はさみ揚げを頬張っていた。

    小パ「朝餉が済んだばかりだというのに」

    若「良いのか?」

    じ「んにゃ。年明け早々祝い事など縁起が良うござる。ぬははは」

    若「そうか。ならば頼む」

    若君が立ち上がり、早々に出て行こうとする様子に、信近がかなり驚いている。

    小パ「若君、あっあの」

    若「何じゃ」

    小パ「書状は…」

    若「あぁ、忘れておったな。うむ…婚儀の席で披露すると致す」

    小パ「急ぎ何かではない、と」

    若「全く以て」

    小パ「そうですか…」

    若「では、此れにて」

    若君は、屋敷を後にした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    12日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days144~12日日曜6時30分、匂わせます

    妙な擬音が多い、じいの百面相をお楽しみください。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    穏やかな朝を迎えた。若君が一人、自室前の庭でラジオ体操を始めようとしている。

    若君 心の声(そろそろか)

    じいが現れるのを待っている。

    若 心(姿を見たら、蓋を開ける)

    タオルでくるんだじい宛のはさみ揚げは、まだ温かかった。その理由は…

    ┅┅回想。昨夜、源三郎とトヨが唯の居室を出た後┅┅

    若君「朝方には、はさみ揚げも冷めるのう」

    唯「いっくらタオルで巻いといてもそれは仕方ないかも。なんで?」

    若「あまり匂わぬ」

    唯「ふーん。あったかいと、ほ~れウマそうだろ~ってニオイで猛アピールするもんね。あーもしかして、なんか策ありってヤツ?」

    若「じいに、此処にお好みの品がある、と分かり易うできればと思うての」

    唯「企んでるねぇ。だったらじいにあげる分だけでも保温しとく?」

    若「保温。どのように致すのじゃ」

    唯「これ用に余分にもらっとけば良かったなー。でも源三郎とトヨのために、じいはできるだけゴキゲンにしときたいよねー」

    荷物の中から、使い捨てカイロを出した唯。袋を開けて振る。

    唯「どーんと2つ使おっ。これを、タッパーの上と下に仕込む」

    若「ほぅ。器は、熱で傷んだりはせぬか?」

    唯「たぶん大丈夫。チンできる入れ物だし」

    若「チン。電子レンジじゃな」

    唯「おっ、覚えたね」

    若「電子レンジ、は物体の中にある水の分子、を振動させ熱を出す。そうではなく、鉄の粉が空気に触れ酸化、すると出る熱で器を温めると」

    唯「たーくん…今ちょっとイラっとした」

    ┅┅回想終わり┅┅

    遠くから、聞き覚えのある声が近付いて来た。

    じい「若君ぃ~」

    若 心(よし)

    縁側の隅に置いたタッパー。タオルをめくり、蓋を少し開けた。

    じ「体操、体操を」

    若「うむ。始めるぞ」

    じ「ややっ?何やら香ばしい。これは嗅いだ覚え、いや食した覚えがあるような」

    いい匂いが辺りに漂っている。鼻をクンクンさせるじい。

    若「何じゃ。体操はせぬのか」

    じ「おほ?あいや滅相もない!」

    匂いに気を取られながら、体を動かすじい。

    じいの囁き「むむぅ。あの包みが怪しい」

    若「何か申したか?」

    じ「いえ?雀でございましょう」

    若「一羽も居らぬがの」

    体操が終わった。

    若「じい。朝餉の後屋敷へ参る。待つように」

    じ「は?信近でございますか、それとも小平太にござりますか」

    若「じいに話がある」

    じ「なんと?!ははっ、わかり申した」

    中に入る際、タッパーをひょいと手に取った若君。じいが鼻の下を目一杯伸ばしながら、穴が開きそうな程、若君の手元を見つめている。

    若「どうかしたか?」

    じ 囁き「さては…アレじゃな」

    若「この品も携えていく。楽しみにしておれ」

    じ「おぉぉ。レンコンもでござるか」

    源三郎も準備を始めていた。有山の所在を確かめている。

    源三郎 心の声(正午までには片をつける、と、忠…若君様は仰せになった。天野様のお許しが出次第、馳せ参じねば)

    源三郎「ん?」

    源 心(正午、か。午の正刻を令和でもそう申すと教わった。すっかり言葉が馴染んだようだな。若君様共々)

    時は進み、そろそろ天野の屋敷に若君が現れる。

    小平太パパ「父上に用、と?」

    じ「その様じゃ。今朝方、幾らでも話せた筈。それをせなんだとなれば、折り入って何かしらあるのやもしれん」

    小パ「うーん。身構えておらねば」

    じ「何じゃ小平太。警固上がりじゃろ。まだ休んでおらんのか」

    小平太「若君様のお成りとなれば、寝てなどおれません。あ、お姿が」

    じ「おっ」

    若君登場。手にはタッパーの包み、そして胸元の合わせから何かがチラリと見えている。

    じ「おぉぉレンコン~」

    小「書状をお持ちの様です」

    小パ「これは、心して聞かねばならぬ」

    天野家三世代、座して頭を下げた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days143~11日23時55分、文詠みます

    超理系と思いきや、文系もイケる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊の部屋。

    尊「どうだろ」

    スマホを取り出して操作する。

    尊「あ。起きてた。じゃあ」

    次にパソコンを操作し始めると、すぐに画面が開いた。

    瑠奈『わぁ!尊!』

    尊「お待たせしました。ちゃんと繋がったね。良かった」

    瑠『うん。練習で、お父さんのパソコンと通話してみたからばっちりだよ。嬉しい!画面大きいから、尊が目の前に居るみたい!』

    お互いの部屋のパソコン越しに、ビデオ通話を始めた二人。

    瑠『家に帰ったの遅かったんだね。お姉さん達の飛行機、最終の便だった?』

    尊「うん」

    尊 心の声(そういう事にしておいてください)

    瑠『寂しくなるね』

    尊「7人居たのが3人に一気に戻ったからさ。両親は少し気落ちしてる」

    瑠『そうなるよね。尊のお父さんお母さん、すっごく優しいしお話も楽しかった。また会えるといいな』

    尊「だったら、大学合格したら、また家に遊びに来なよ」

    瑠『ホント?!いいの?』

    尊「来てくれれば両親も喜ぶと思うし」

    瑠『行く行く!今度は、ちゃんと尊の家に行くって親に言うよ』

    尊「ははは。うん、ぜひ」

    瑠『ねぇ、今日満月なんだよ。知ってた?』

    尊「うん。見たよ」

    瑠『うふふ』

    尊「満月観ると、あ、誕生日来たって感じ?」

    瑠『月の周期で?えー、12倍速で歳取ってくのは困る』

    尊「ははは」

    瑠『そっか!毎月尊にバースデープレゼントをもらえるんだ?』

    尊「ヤベっ、墓穴掘った」

    瑠『キャハハ』

    尊 心(癒される。気落ちしてるのは僕もだったから)

    屈託のない瑠奈の笑顔に、顔がほころぶ尊。

    尊 心(あ。そうだ)

    何かを思いついた。

    尊 心(あの言葉、言ってみたい。どうかな。わかってくれるかな)

    瑠『あー、楽しい~』

    尊「あの、さ」

    瑠『なに?』

    尊「月が綺麗だね」

    瑠『月?』

    窓の外を窺おうとする瑠奈。が、すぐに動きが止まった。

    瑠『あ。もしかして…』

    尊 心(気づいた?)

    瑠奈が、居ずまいを正した。それに倣う尊。

    瑠『たけるん。もう一度言って欲しい』

    尊 心(さすが。わかったっぽい)

    尊「月が、綺麗ですね」

    瑠『尊…。あ』

    尊「へ?」

    瑠『えーっと、メモ!私どこにしまった~?』

    しきりに、机の引き出しを開けたりノートをめくったりしている。

    尊「何か探し物?」

    瑠『見つかった!もー、あまりにも出番がないから』

    尊「ん?」

    瑠『あのね、聞いてください』

    尊「はい」

    瑠『君はいかで、月にあらそうほどばかり、めぐり逢いつつ影を並べん』

    尊「…西行の和歌ですか」

    瑠『ヤだ、尊。なんでわかるの?天才!』

    尊「天才なんかじゃないよ。この問いにどんな答えがあるのか調べてあっただけ。瑠奈こそリサーチ済みでさすがだね」

    瑠『月関係には敏感ですから』

    尊「そっか」

    瑠『うふふ』

    尊「予想してた答えの中では一番…」

    瑠『だって、ずっと一緒に居られたら幸せだもん』

    尊「それは僕も同じだよ。って、わー照れる」

    瑠『すっごく嬉しい!月が入る愛の言葉だから、いつか誰か言ってくれないかなって、返答の見本をメモしておいたの。今まではこんな事全然なくて、やっぱり尊だったなって。ありがとう』

    尊「痛み入ります」

    瑠『ふふっ。あー、直接会ってる時じゃなかったのだけうらめしい。がっつりホールド、からのギューがしたいのに!』

    尊「そんな大技かけられたら骨折しちゃうよ」

    瑠『もー、どんな怪力だと思ってるの?でも、そうなったら付きっきりで介抱してあげる』

    尊「ははは」

    時間はあっという間に過ぎる。

    尊「名残惜しいけど、そろそろ」

    瑠『うん。明日もこうしてしゃべりたいな』

    尊「そうしようね。ではおやすみなさい」

    瑠『おやすみ、たけるん』

    暗く沈んだ画面をぼんやり眺める尊。

    尊「あ。今まで何で気づかなかったんだろ」

    尊 心(直接行き来するタイムマシンに拘っていたけど、こうやって、現代と永禄でリアルタイムに話ができるのもアリじゃないか?)

    尊「そっちの線も考えてみるか…」

    呟きながらパジャマに着替え、ベッドにもぐりこんでいった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    和歌の訳ですが、

    月は毎晩空に浮かぶ。同じくらい、大好きなあなたと絶えず会って、寄り添っていたい。

    といった感じです。

    11日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days142~11日23時40分、帰省終わります

    さよならは言わない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    土産のあまりの多さに、四人でも上手く抱えきれず、未だ出発できていない。

    美香子「えーと、どこかしら体がくっついてないと、飛べないのよね」

    唯「いろいろもらい過ぎた?」

    美「実家に寄った時なんて、大体こんなものよ。何とかしましょ」

    覚「レジ袋を腕にかけて、隣同士腕をからめてから風呂敷を持つ。どうだ?」

    尊「綺麗な着物にレジ袋。すごい光景だよ。これぞ奇天烈」

    唯「起動スイッチどうしよう」

    若君「荷はわしが粗方持つゆえ、唯が抜け」

    四人とも両手が塞がった状態で、なんとか円陣を組んだ。

    若「お父さん。お母さん。このようななりで済みませぬが、世話になり申した」

    覚「僕らこそありがとな」

    美「楽しかったわ」

    源三郎「心より礼を申します。この日々は、一生の宝と致す所存でございます」

    トヨ「本当に、本当にありがとうございました」

    尊「元気で居てくださいね。僕も…頑張ります。いろいろと」

    唯「尊ぅ」

    尊「何」

    唯「そこでー、あのセリフっしょ」

    尊「セリフ?」

    唯「だからこれからもきっとある!」

    尊「あー。うん」

    若「…では。此れにて。唯」

    唯「はい」

    起動スイッチが引き抜かれ、四人の姿が消えていった。

    覚「ふう」

    美「はぁ」

    尊は、パソコンを確認している。

    尊「うん、ちゃんと3分後に着いたよ。OKって出てる」

    覚「良かった」

    美「一安心ね」

    美香子が、深呼吸をしている。

    美「すー、は~」

    覚「何してんだ」

    美「余韻を、ね」

    覚「そうか。すー、は~~」

    尊「ほぼ揚げ物臭だけど」

    そして三人は、まだ温もりの残る実験室を後にした。

    唯「…着いた?着いた?」

    若「戻れたようじゃな」

    源「おぉ。何もかもそのままで」

    ト「永禄はここまで暗かったのですね」

    永禄。唯の居室に無事到着した四人。安堵の表情の、唯と源トヨ。

    唯「荷物さ、今日はここに置いてったら?」

    ト「よろしいのですか?」

    唯「いいよん。隅っこに寄せよっ」

    ゴソゴソ動き出す唯達。

    若「待て」

    唯「待て、って?」

    若「しばし動くな。源三郎もトヨもじゃ」

    唯「なんで?」

    若「シッ。静かに」

    そう言うと、若君は襖を開け表へ出た。三人が静止してその場にかがむ。するとすぐ、外から声がした。

    男「若君様!」

    唯の囁き「あ、小平太だ」

    小平太「ひどく屋敷が揺れました。怪我などされてはおられませぬか?」

    若「あぁ。今、唯の無事も確かめた所じゃ」

    小「左様で」

    若「大事ない。戻れ」

    小「はっ」

    小平太の気配が消えた頃、若君が中に戻ってきた。

    唯「もう動いて大丈夫?」

    若「うむ。尊が参った折も相当揺れたゆえ、此度もそうであったのではと思うての。やはり小平太が飛んで来た」

    源「思い出しました。あの日の揺れは、尊殿が此方に来られたしるしであったのですね」

    若「フフ、源三郎」

    源「はっ?」

    若「あの日とは?まだ昨日の話じゃ」

    源「え」

    唯「だって3分後だもん」

    源「そう…でございますか」

    唯「そゆコト」

    ト「尊様と初めてお会いしてから、一日しか経っていないと」

    源「これはややこしい」

    唯「またいつもの生活が始まるってワケ。でもね!明日は、たーくんががんばるからさ」

    若「赤井家の荷は此処に預かっておく。今宵は、早う互いの寝所へ戻り体を休めよ。明日も早かろう」

    源「はっ」

    ト「わかりました」

    変わって、令和の速川家リビング。

    美「なーんか、部屋が広ーく感じるわ」

    覚「食卓が倍の大きさなのがまた、寂しさも倍増だな」

    尊「そんな物悲しい事ばかり言わないでよ。このテーブル、どうする?」

    覚「源三郎くん達が使ってた予備室に持っていくか。明日にでも」

    尊「そっか。じゃあ、僕もう部屋に行くね。おやすみなさい」

    覚&美香子「おやすみ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    11日のお話、もう少し続きます。

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    四人の現代Days141~11日23時20分、レア物です

    大喜びでパクつきそうだから、危ない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美香子「代わるわ」

    覚「ん」

    四人はまだ二階。揚げ物担当を父から母に交代した。

    覚「風呂敷包みじゃ足りんな。紙袋でも用意するか」

    唯達が持ち帰る荷物の山の前に、覚と尊。

    尊「紙袋なの?」

    覚「土に還る方がいいだろ」

    尊「もうキリがなくない?あげた駄菓子、全部ビニールで包装してあるし」

    覚「それもそうだな。なら、せっかくだから」

    尊「せっかく?」

    キッチンの作業台下をゴソゴソ探す覚。

    覚「よし、いい物出てきたぞ」

    尊「は?レジ袋じゃない。最近エコバッグばかりでしょ。取ってあったの?」

    覚「何となくな。ほら、このロゴ見ろよ」

    尊「いつも行くスーパーのだ」

    覚「これで持ち帰ってもらえば、喜ばないか?向こうでも使えそうだし」

    尊「えー、喜ぶかな」

    四人が二階から下りてきた。

    若君「お待たせ致しました」

    覚「おー。武士の一団、だな」

    若「その、手にされておるのは?袋、ですか」

    覚「風呂敷や新聞紙だけじゃ心許ないだろ」

    唯「なんでレジ袋~」

    若「ん?これはもしや」

    トヨ「あの、よく訪れた」

    源三郎「スーパー、の名では?」

    若「このような品があると。名入りとは!いただけるのですか?」

    覚「使ってくれ。何枚でもあるぞ」

    若「うんうん、よう見慣れた店の名じゃ。有り難い」

    ト「買い物をした日々が思い出されます」

    源「大切に致します」

    尊「まさかの反応。人気のロゴだったとは」

    唯「なにげに丈夫だけどさぁ」

    はさみ揚げも用意できた。

    美「大きいタッパーは皆さんで。タオルでくるんである小さい方が、天野のじい様へね」

    若「布で巻いたのは、何ゆえでしょうか」

    美「少しでも温かいまま、渡せるといいなと思って」

    覚「ちなみに、高齢者用に蓮根には隠し包丁をしてある。噛み切りやすいようにな」

    若「おぉ、それはわしも案じておりました。喉に詰まらせぬかと」

    源「なんというお心遣い」

    ト「素晴らしいわ」

    若「ところで尊」

    尊「はい?」

    若「ちと話がある」

    リビングの隅に呼ばれた尊。若君が耳打ちしている。

    尊の囁き「え、そうなんですか。僕達は休みの日だし大丈夫ですけど、間に合いますか?」

    若君の囁き「間に合うよう進めておく」

    尊 囁き「カッコいい。わかりました。酉の正刻ですね」

    荷物の再確認も終わった。

    覚「最後、写真撮るから並んで」

    唯「はーい。ビフォーアフター的な?」

    7人でカメラに収まった。

    覚「さて、実験室に移動するか」

    美「荷物、少し持つわ」

    ト「すみません」

    あと30分程で日付が変わる。実験室は、人と荷物であふれていた。

    覚「じゃあな」

    美「元気でね」

    若「お父さん。くれぐれも、怪我には用心してくだされ」

    覚「本当に。忠清くんが慌てて飛んで来ないよう、気を付けるよ」

    源三郎とトヨは、何か言いたげな顔はしているのだが、

    源「まこと…筆舌に尽くし難く」

    ト「胸がいっぱいで、言葉が出ません」

    二人の肩をポンポンと叩く両親。

    覚「会えて良かったよ」

    美「あなた達から教わる事も、たくさんあったわ」

    源「そのような。身に余る光栄でございます」

    トヨがまた泣きそうになっている。

    美「駄目よ泣いちゃ。もう女中頭のトヨちゃんに戻るんだから。堪えなさい」

    母も、涙を堪えている。

    ト「はっ、はい」

    そんな中、ケロっとしている唯。

    唯「感動の場面だねぇ。うん、マジ連れて来て正解だった」

    尊「さっぱりしてんなぁ」

    唯「また来るもん。尊、よろしくぅ」

    尊「はぁ。あいも変わらず、わかってない」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    飛ぶのは次回ですが、まだまだ続きます。

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    四人の現代Days140~11日22時30分、男子の会話

    寡黙な分、話の中身が濃い。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トランプ大会、真っ最中。

    唯「今度は夏に来よう!」

    尊「は~。簡単に言ってくれるよな」

    唯「だって、また海やプールに行きたいもん!トヨや源三郎とさぁ」

    トヨ「あの、お写真のようにですか?」

    リビング奥に飾ってある、唯と若君と尊の水着姿の写真に、視線を向けたトヨ。

    唯「ぜーったい、楽しいってぇ」

    ト「唯様。私は良いのですが」

    なぜか、源三郎が申し訳なさそうに下を向いている。

    唯「え?なに」

    若君「唯。わしが申す」

    唯「はあ」

    若「源三郎はのう、戦となれば、鎧を身に付けておろうが川でも沼でも飛び込むが」

    唯「うん」

    若「水は些か苦手じゃ」

    唯「え、そうなの?知らなかった!」

    尊「びっくり」

    覚「それはまた」

    美香子「意外だわ」

    源三郎「恥ずかしながら、仰せの通りでございます。幼き頃、川辺で遊んでおりましたら、山に降った雨により水嵩があっという間に増し、流されそうになりまして」

    美「あら大変」

    源「騒ぎを聞きつけた父上と永季殿に、すんでのところで助けられました」

    覚「それは危なかったね」

    源「以来、水辺はつい、怯んでしまいます」

    尊「だからかー。あの水着の写真がらみで、源三郎さんに海とかプールの話をした時、いまいちノリが悪いなぁって思ってたんですよ」

    源「はい…覚えております。波が立ったり勢いよく流れると聞き、どうにも顔が強張ってしまいました」

    尊「苦手な物は仕方がないですよ」

    覚「今になって知る話もあるんだな。よしわかった。今度夏に来た時の為に、流れないプール、探しておくよ」

    尊「ちょっと!お父さんまで。プレッシャーの嵐だよ~」

    23時になった。

    美「お菓子、満遍なく行き渡った感じね」

    覚「そうだな…」

    一瞬、7人居るとは思えない程、シーンと静まりかえった。

    若「…わかりました。それでは、着替えて参ります」

    覚「あぁ、うん。じゃあ、はさみ揚げ用意するよ」

    美「お着物ね、唯とトヨちゃんのは唯の部屋、忠清くんと源三郎くんのは源三郎くんの部屋の前に置いたから、それぞれで着替えて。唯の着付けは、トヨちゃんにお願いして良かったのよね?」

    ト「はい。お任せください」

    唯「行ってきます」

    美「行ってらっしゃい…」

    四人が階段を上がっていった。

    尊「いよいよか…」

    美「尊、揚げ物手伝って」

    尊「あ、はい」

    二階。源三郎とトヨの部屋に若君が入る。

    若「もぬけの殻じゃの。閨の跡形もない」

    源「はい」

    若「如何であった?」

    源「こちらの世の暮らしでございますか?それはもう夢のような」

    若「違う。新婚生活、と申す物じゃ」

    源「新婚?」

    若「唯が、婚儀間もない夫婦をそう呼ぶと」

    源「あ、あぁ。それはもう夢のような」

    若「ハハ、答えは同じか」

    源三郎が、急にモジモジし始めた。

    若「ん?どうした」

    源「あの」

    若「何じゃ」

    源「可憐、の意味が漸くわかりました」

    若「可憐?」

    源「忠清様がそのように喩えられ」

    若「ほぅ…ほぅ!そうか、そうか」

    源「わたくしには、可憐より妖艶、でした」

    若「そこまで申さずとも良いが」

    源「明る過ぎる、と、すぐ灯りを消されておりましたが」

    若「ハッハッハ、そうか。源三郎と、斯様な話が出来るとは感慨無量」

    源「これまた夢のようでございます」

    若「小平太とは、いつになれば出来るのやら」

    源「わたくしからは何も申せません」

    若「フフフ。じいであるが」

    源「はい」

    若「任せておけ。吉報を待つのみ」

    源「ははっ!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days139~11日21時、興が乗る

    まだ食うか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君と尊、入浴中。

    若君「しばらく、瑠奈殿に会えぬのであろう」

    尊「あー、まぁ。よく知ってますね」

    若「三連休、と聞いた」

    尊「はい。明後日まで学校、クリニックもですけどお休みです」

    若「淋しかろう」

    尊「今は受験勉強が最優先ですから」

    若「淋しかろう?」

    尊「畳みかけますね。ご心配なく。電話もLINEも、なんだってありますから。それに今日は、兄さん達を見送る日だからって伝えてありますんで」

    若「そうか」

    入れ替わりで覚と源三郎が風呂に。若君が、カレンダーの前に佇んでいる。美香子が近くを通ると、

    若「お母さん」

    美香子「ん?どした~?」

    若「暦の此処に、一粒万倍日、とありますが、何でござろうか」

    美「あー、これはね。籾、あるじゃない」

    若「米のですか」

    美「そう。その小さな一粒が成長して立派な稲穂になるのにあやかって、何かを始めるのにいい日って言われてるのよね」

    若「ほぅ。それは縁起が良いですね」

    美「だから、お祝い事にも最適なのよ。お店を新しく出す時とか、結婚式とか」

    若「結婚式。そうですか…」

    覚と源三郎、入浴中。

    源三郎「お父さんのお力添えでトヨを娶る事が出来、改めまして心より御礼申し上げます」

    覚「僕はアドバイス…進言しただけだから。いやぁでも良かったよ。忠清くん、かなり心配してたんだぞ?」

    源「はい。わたくし如き者にここまで心を砕いていただき、一層の精進と、身を尽くす所存でございます」

    覚「これで一家の主だな」

    源「はい」

    覚「ずっと赤井を名乗る?それはわからないかー」

    源「そうですね」

    覚「今は知り合いにも居ないけどさ、いずれ、旧緑合出身の赤井さんなーんて人に現代で出会ったら僕、感動しちゃうだろうな。有り得るだろ?家が続けば」

    源「そう願います」

    覚「気持ちを強く持って」

    源「はい。子孫繁栄。その為には」

    覚「子作りだな」

    源「はい…」

    覚「声が小さい」

    源「はっ!励みます!」

    覚「おー、風呂場の外まで響く勢いだな。いいぞ、ははは~」

    全員揃った。

    覚「では、大トランプ大会を始める」

    唯「やったー、ヒューヒュー!」

    覚「勝者には景品を用意した」

    尊「景品!」

    唯「なに!」

    美香子が、ダンボール箱を運んできた。中を見せる。

    美「お菓子よ~。どっちかというと、駄菓子かな」

    唯「わぁ、わさわさ入ってるぅ」

    尊「駄菓子。子供会の行事?」

    美「いいじゃないの。一回ゲーム勝つ度に、一つ選ばせてあげる」

    唯「へー。じゃあ勝てたら、もらったお菓子を見せびらかしなから食べていいんだ」

    覚「持ち帰る前提だったが、まぁそれもいいだろ。今食いたいなら」

    唯「食いたい」

    尊「勝ってから言って」

    唯「よーし!勝つぞ~」

    尊「姉はこう言ってますが、源三郎さんトヨさん、頑張ってくださいね」

    源三郎&トヨ「はい」

    尊「兄さんは…頑張ってもお姉ちゃんにかすめ取られそうだもんな」

    唯「たーくん、よろしくぅ」

    若「いや、渡さぬ」

    唯「なぬ!」

    尊「おっ、強気だ」

    若「朝方、中々起きぬ唯の鼻先にちらつかせ、起こすのに使う」

    唯「うぅっ」

    尊「ウケる」

    美「状況が目に浮かぶわ~」

    覚「そんなんされなくても起きろよな。はい、まずはババ抜きからだ」

    22時。かなり盛り上がっている。

    尊「兄さんの一人勝ちと思いきや、源三郎さんが健闘してる」

    源「然程でもございませぬ」

    唯「駄菓子に目がくらんで?」

    尊「お姉ちゃんじゃあるまいし」

    源「敵を惑わせる術は、身に付けて損はないと思いまして」

    覚「ほー。何事にも無駄がないよ」

    美「偉いわねぇ」

    尊が勝者になった時、

    尊「僕の分、トヨさんに差し上げます」

    トヨ「えっ」

    尊「好きなお菓子選んでください」

    ト「そんな、困ります、尊様への褒美でございます」

    尊「いいんですよ、僕はいつでも手に入るんで。もらってください」

    覚「おー、優しいなー。ジェントルマン、紳士だ」

    尊「ジェントルマンね。やっぱり僕ってそうなのかな」

    唯「やっぱり?なにそれ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days138~11日20時、お好みはどれ

    手を尽くしてくれたから、劇的に回復。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「そろそろ風呂沸くぞ」

    美香子「あら、もう?ならトヨちゃん、座って。リムーバー持ってくるわ」

    トヨ「はい。お願いいたします」

    美香子がトヨの手を取り、マニキュアを落とし始めた。

    唯「ねぇねぇ、女子は三人一緒にお風呂のつもりだけど、男子も四人ギューギュー詰めで入るの?」

    覚「それはさすがに厳しい。コミュニケーションもいいが、ゆったり入って欲しいしな。せいぜい二人ずつだ」

    唯「どうすんの」

    尊「どういう組み合わせでもいいけど」

    若君「わしも構わぬ」

    唯「源三郎が決めたら?」

    源三郎「え」

    若「そうせよ」

    唯「誰と一緒がいい?」

    源「あの…」

    唯「いいよゆっくり考えれば」

    源「お父さんの、お背中を流させていただけるならば、この上ない喜びでございます」

    覚「おー、そうかいそうかい。嬉しいよ」

    尊「決まりだね。じゃあ僕は兄さんと」

    若「うむ」

    美「はい、お疲れ様~」

    マニキュアオフ完了。

    ト「ありがとうございました、お母さん」

    美「なーんか、さっぱりしちゃったわねぇ」

    ト「すっかり元通りです」

    美「元通りではないわよ?来た頃と違って、指先まで傷もない」

    ト「そうですね…ひとえにお母さんのお陰です」

    尊「治療した?」

    美「そこまで大々的ではなかったけど、私ができる限りは。寝る時に手袋はめてもらったりもしたわね。あれから一月も経つのねぇ」

    覚「飾ってなくても、綺麗な指先だ」

    ト「ありがとうございます…」

    覚「風呂、女性陣が先でいいぞ」

    美「そう?ありがと。じゃ、行きましょ」

    唯「はーい」

    ト「はい」

    三人はリビングを出ていった。

    尊「お父さん」

    覚「ん?」

    尊「なんか、晩ごはんも早めだったし、予定前倒し的な感じ?急いでるの?まさか、早く帰そうとか」

    覚「違う。みんな風呂から出たら、大トランプ大会やろうと思ってな」

    尊「大会!」

    若「そのような意図が」

    源「風呂の後は、即戻る支度をせねばと思うておりました」

    覚「飽きるまで遊んでもらう」

    尊「ははは」

    若君と源三郎が、ほっとした顔になった。

    覚「で、そうだな、11時過ぎ頃に着替えに行ってもらう」

    尊「何でその時間?」

    覚「あまり遅く戻って、翌朝からの仕事に影響するといけないからな。唯はともかく、三人は忙しい身だから」

    尊「なるほどね」

    覚「その間に、僕は土産のはさみ揚げを用意すると」

    尊「だからか。さっき、着物に着替えてる時位に揚げるって言ってたじゃない。なんでお風呂の間でない?と思ってたんだよ」

    覚「天野のじい様に渡すのが明日だとしても、少しでも出来立てに近い方がいいしな。二人とも、急いで帰りたかったかい?」

    若「いえ!」

    源「滅相もないです!」

    覚「な、まだまだ夜は長いぞ~」

    洗面所。風呂を出た女性陣。この後の予定は、美香子が二人に知らせていた。

    ト「お母さん。この下着、なんですが」

    美「ブラとショーツ?」

    ト「持ち帰るのを、お許しいただけませんでしょうか」

    美「いいわよ~。全部?」

    ト「いえ。もしも、また訪れる機会があったならば、その折にお母さんを慌てさせてもいけませんので」

    美「ふふっ。さすが気遣いのプロ。というか残すのは、おまじないも入ってない?」

    ト「まじない。そうですね」

    美「必ず戻って来れますように、って」

    ト「はい」

    唯「持ってって、向こうで使う?」

    ト「眺めて楽しみます」

    唯「かわいい下着は気分がアガるって言ってたもんね。あ、違うか」

    ト「え?」

    唯「源三郎が気に入ってるのにするんかな~?なーんて。いやん」

    ト「あの、その」

    唯「え?まさかの図星?!」

    ト「お恥ずかしい」

    美「あらん。そんな話聞いたら、お風呂出てるのにのぼせそうよ。はい、ドライヤー持って行って。二人とも髪は、リビングで乾かしなさい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days137~11日19時、遠慮のかたまり

    醒めたくない夢って、ある。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    晩ごはんが済んだ。

    唯「お母さん特製のスモア、みんな楽しみにしてるからさ、お願いしまーす!」

    美香子「わかりました。さて、どうするかな。バーベキューの時と違って、コンロの前に群がるってのもねぇ」

    覚「それに直火は焦げやすいしな。オープントースターでやるか?」

    美「そうしよっか。ビスケットにマシュマロのせて入れちゃえばいいもの」

    覚「でもトースターの前に群がるんなら、コンロと同じだしな…ん、よし!トースター本体をテーブルに運んじゃおう。な、いい考えだろ?えーっと延長コードはと」

    尊「話、早っ」

    デザートの準備をし始めた両親。

    美「誰が作っても同じになりそうだけど、これでも母の味になる?」

    若君「はい、勿論です」

    唯「お母さんが作れば、どんなんでも母の味だよ」

    美「そお?」

    食卓にオープントースターがセットされた。手際良く次々と作り始める母。

    美「材料、何か多くない?誰がこんなに食べるのよ」

    唯「どーんと買ったから。いいじゃなーい」

    美「唯に買い物させるとこうなるか。でも、これでしばらく甘い物も中々口にできないでしょうから、今夜、心ゆくまで食べてもらうってのもいいかもね」

    唯「でしょー」

    美「ホントにそこまで考えてた?はい、源三郎くんトヨちゃんお待たせ。熱いから気をつけてね」

    源三郎「頂戴致します」

    トヨ「ありがとうございます」

    唯「甘い物かぁ。あ、そういえば、まだ大根アメ残ってるわ」

    美「それは薬として尊に持たせたんだけどね。どっちにしろあまり日持ちはしないから、帰ったら三日以内位には食べておきなさいよ」

    それを聞いた源トヨが、怪訝そうに顔を見合わせている。

    唯「あれ、どした?二人とも」

    トヨの囁き「源ちゃん、言って」

    源「あ、あぁ。畏れながら申し上げます」

    唯「なに?」

    源「日持ちがしないのであれば、戻った折には時すでに遅し、ではありませぬか?もう一月も経っております」

    唯「へ?だって戻るのは、飛んだ3分後だし」

    源「三分?」

    ト「三分…」

    若「唯。その辺りの仕組み、子細を話してはおらぬ」

    唯「そうだった?」

    源トヨが頷いた。

    唯「えー、なんも聞かれないから、たーくんがしゃべったと思ってたー」

    若「わしは、あれやこれや立て続けに話しては狼狽するばかりと思うておる内に、期を逸したと申すか」

    唯「言うの忘れてたんだ」

    美「唯~。人のせいにしないの」

    唯「マジすかー」

    若「マジ、だ」

    唯「あれ私、あん時なんて言ったっけ?えーっと」

    若「三分間、夢のような夢ではない時間を過ごさぬか、と誘うておった」

    ト「三分は百八十数える内、と伺いました。今では三分がどれ程かはわかりますが、こちらの世で百八十数えても、何も変わりませんでしたので訳がよくわからず」

    唯「それしか言ってなかったからか。ごめーん」

    源「いえ、あえてわたくし共からお尋ねも致しませんでしたし」

    若「今、あえてと申したな」

    源「はい。トヨとも話しておりましたが、子細を伺ってしまうと、この夢から醒めてしまうのではないかと思い」

    唯「夢じゃないんだけど」

    ト「あの、それほど夢のような楽しい時を過ごさせていただいておりましたので」

    唯「そっか。そんな風に思っててくれたなら、連れてきてホント良かったよ。じゃあ、詳しくは尊から説明しまーす」

    尊「は?」

    唯「よろしくぅ」

    尊「いきなり丸投げかよ!話すけどさ。あの、要はですね、永禄では三分間だけ四人が居なくなってるんです」

    ト「こちらにこんなに長く居りますのに?」

    源「うーん」

    尊「夜遅くに発ったじゃないですか。それは、日中に急に四人も居なくなると周りが騒ぐから考慮したんですよね?兄さん」

    若「然り」

    尊「こちらに、満月から満月の間ほぼ一か月居たとしても、戻った時には3分、180数えた位しか経ってないんです。そういう機能…というか乗り物なんですよ。だから大根アメも無事と」

    源「わかったようなわからぬような」

    ト「やっぱりわからないような」

    唯「わかったつもりで行こー」

    尊「雑だな」

    美「ねぇ、もっと焼いてもいいの?まだ食べられる?」

    唯「じゃんじゃん作って!みんな遠慮して、欲しいって絶対言わないから」

    若君と源トヨがそっと微笑んだ。

    尊「珍しく正論」

    美「了解~」

    スモアパーティーもそろそろ終わり。

    美「最後一つ、源三郎くん食べて」

    源「はっ、それではいただきます」

    美「はい、おしまい。休憩したらお風呂ね」

    唯「まだまだ盛りだくさんだ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days136~11日18時30分、用意周到

    そんなに固くはないが、かと言って。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    帰宅し、晩ごはんの準備をしている。

    唯「はっさみっ揚げ~!」

    覚「あい変わらず口しか出さないな。チョロチョロしてるだけなら、あっち行ってろ」

    唯「へーい」

    尊「叱られ方が小学生並みだ」

    美香子「持ってく荷物の確認は終わったの?」

    唯「だいたいは」

    美「この後は、ご飯食べてお風呂入ってお着物に着替えてだから、忙しいわよ?今の内にちゃんと見ておきなさいよ」

    唯「はいはい」

    美「ホントにもう~」

    尊「叱られ方、以下同文」

    リビングの隅に、持ち帰る荷物の山が二つできている。

    尊「御月家と赤井家ね。このでっかい新聞紙の包みは何?」

    唯「レトルトいっぱい持ってくから」

    尊「あー、なるほど」

    唯「バラけるといけないから一度包んである。ビニール袋とかより燃やせるモノがいいって、お父さんが言うから」

    尊「へー。いい考えだけど、燃やすのは勿体ないよ。だってこれ、日付入ってるじゃない。いつこっちに来てたかわかるよ」

    唯「そう言えばそうだ。…あ、だったらさ、ねー、お母さーん」

    美「何?」

    唯「今日の新聞ちょうだい」

    美「今日の。どうするの」

    唯「この日までここに居たって、記念に持っていきたい」

    美「あー」

    唯「あれ?ダメ?」

    美「お父さんは朝一番に読んでるからいいけど、私まだだったわ」

    唯「えー、じゃあ今読んでよ」

    美「うーん。連載小説は読んでおきたいわね。じゃあ支度の手も足りてるみたいだし、ちょっと失礼して目を通しておこうかしら。唯、このふきん持って」

    唯「ふきん?」

    美「私の代わりにテーブル拭く、はい」

    唯「えー。仕方ないなー。やるか」

    美「そんなにトーン下げない~」

    ソファーに移動し、新聞を広げ読み始めた美香子。唯はすぐに食卓を拭き終わり、新しい方のテーブルをじっと見ていた。

    唯 心の声(たーくん達が作ったこのテーブル、大活躍だったな)

    唯「お母さん」

    顔を上げた母。

    美「何?」

    唯「このテーブル、明日には片付ける?」

    美「ん~。まだ考えてないけど、三人だけなら二卓も要らないものね」

    唯「だよね」

    食卓を離れ、今度はテレビ台に近付いた唯。芳江やエリも交え全員で1羽ずつ折った、折り鶴が9羽並んでいる。

    唯 心(なにげにそれぞれ個性出てて、かわいい)

    しばらく眺めていたが、

    唯「…あ。ねぇ、お母さん」

    美「えぇ?今度は何。そんなに呼ばれると、全然読み進められないわねぇ」

    唯「ごめんごめん。この鶴だけどさ、持ってってもいい?」

    美「持ってく?あら。無機質なテレビ周りが華やかになって気に入ってたけど、そうしたいならどうぞ」

    唯「全部じゃないから。私とたーくんと源三郎とトヨが折ったのは、置いてく。残りの五人分だけ欲しい」

    美「…そう。それ、ちょっと嬉しいわ」

    唯「でしょ」

    美「翼が広げてあるから、たたんだ方がいいわよね。やれそう?」

    唯「厚めの紙で作ってあるから多分できる。連鶴だけ難易度高いけど…いいよ、新聞読んでてくれれば」

    美「はいはい」

    その頃のキッチン。

    若君「お父さん。この量を一度に、ですか?」

    あとは粉をまぶすだけの、はさみ揚げ予備軍が大量に用意されている。

    覚「こっちはね、晩ごはんにじゃなくて手土産用だよ。後で、君達が着物に着替えてる時位に揚げるよ」

    若「そうでしたか。毎度のお気遣い、痛み入ります」

    尊「揚がったヤツ、運ぶよ」

    トヨ「では私もこちらを」

    覚「頼むね。んと。忠清くんさ、わかるかなー」

    若「何でございましょう」

    覚「はさみ揚げ、あの天野のじい様は食べた事あるかな」

    若「それは…わしはわかりかねますが」

    源三郎「わたくしも存じ上げませぬが、トヨでしたらわかるかと。おい、トヨ」

    ト「はい、お父さん。信茂様はお召し上がりになられています」

    覚「さすがトヨちゃん。ありがとう」

    ト「はさみ揚げの入っていた籠を、空になっても尚、匂いをかぎながら抱えておられました。それを私が受け取り、洗いました次第」

    若「ハハハ。何と申すか、情景がありありと浮かぶのう」

    ト「かなりお気に召したと思います。三つは食したと仰せられていましたので」

    若「それはまた」

    尊「で、それがどんな関係があるの?」

    覚「源三郎くん達二人の、結婚のお許しを貰う相手だろ」

    若「そう…ですね」

    尊「え、まさかの袖の下?」

    覚「忠清くんが、明日にも話をするって言うからさ。少しでも手助けになればいいなって。気に入ってくれてるなら好都合。天野様用は分けて用意するよ」

    ト「お父さん…」

    源「そこまでお考えいただいたとは」

    覚「まあまあ。さぁ、そろそろ飯にしような」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    ありがとうございます

    てんころりんさん、そうなんです!再考の時間もたっぷり取りたいのにそれも難しく。
    この隙?に、他の作家の皆さんで、ここが賑わうと良いななんて思ったりします。

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    夕月かかりてさん

    もう二年以上、二日に一度のペースを保って来られて本当にお疲れ様でした。👏👏
    努力の賜物だと感心してました。
    長い間に状況が変わりますね、私もです。
    でも書くことに手を抜けないですね。
    準備期間を自由に取られて、これからもどうぞよろしくお願いします。🤗

    ぷくぷくさん☆妖怪千年おばばさん

    毎度楽しく読ませて頂いてます。🥰
    コメントしてなくてすみません。
    何事にも時がある… ⏳
    えっ今?とか言われそうですが(笑)
    後からまた読んだり、まとめて読んだりしてます。
    マイペース返信お許し下さいね! 🙏

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    頑張ります

    カマアイナさん、早速の励ましのお言葉、ありがとうございます。

    息切れしないよう、続けて参ります。

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    夕月かかりて(愛知)さん

    先ほどは、自分の名前を入れ忘れて、失礼しました。

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    夕月かかりて(愛知)さん

    御察しの通り、隔日の投稿をいつも楽しく読ませて頂いております。
    お仕事のお忙しさをぬって、続けてくださって感謝しかありません。
    どうぞご無理のないように。それにあと1、2回で終了だろうなと思っていたので、まだ続くとのこと、嬉しいですね。有難うございます。

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    返信
    投稿間隔を変更いたします

    本日も、こうして目を通していただき、心から感謝しております。

    実を申しますと、ここ最近私自身が、創作・投稿活動に時間を費やすのが難しい状態が続いております。

    大変恐縮ですが、四人の現代Days、現在投稿を一日おきに続けているところ、三日…遅くとも五日に一度程に切り替えたいと存じます。

    二日に一度のお楽しみ、にしてくださっている方には心苦しい限りですが、あと1話2話で最終回なんて事はなく、まだまだゆるゆると続きますので、ご理解の程よろしくお願い申し上げます。

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    四人の現代Days135~11日17時、未来は明るい!

    掬われないよう、救いたい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    家族全員でボーリングを楽しんでいる。

    唯「曲がれぇ~曲がれぇ~!ちぇっ」

    尊「念じても無理。球は曲がらない」

    唯「うるさいなー。信じるモノはなんとかって言うじゃない。はい次、たーくんどうぞ」

    尊「救われる?ピンが倒せる方向に球を投げればすむ話でしょ」

    唯「ムカつく!そう言うアンタだって、ガターやらかしてるクセに!」

    尊「いいんだよ、何年かに一回しかやらないのに上手くできる訳ないんだから。みんなで楽しめれば」

    若君は、すぐに投球のコツを掴んだようだ。

    尊「うわっ、兄さん、しれっとスペアとってる!」

    若君「二度投げる内に、全て的を倒せば良いのであろう?」

    尊「そうですけど。集中力が凡人とは違うんだろうな」

    唯「あーあ。今だけ、お父さんと腕チェンジできないかなー」

    尊「しつこいな。そんな事ばっかり言ってると、掬われるのは足だ」

    若「ハハ。尊、上手いの」

    レーンは二つ使っている。隣は…

    トヨ「ああっ!またしくじってしまいました」

    覚「あー。ボトっと落とした感じだね。いいよいいよ。真っ直ぐには転がってるから、ピンも倒れてるし」

    ト「床を傷めないよう、そっと置かねばなりません。次こそは何とか」

    覚「メンテナンス側を心配か」

    満喫している様子の、若君と源トヨ。源三郎は特に、

    源三郎「ハハハッ!」

    覚「おっ、ストライク出た」

    ト「源ちゃん、やるじゃない」

    源「お父さん、的が全て倒れました!」

    覚「源三郎くんも筋がいいねー。初めてとは思えないよ」

    美香子「もっと早く、連れて来てあげれば良かったわね。とっても楽しそうだし」

    唯「源三郎があんなに笑ってる」

    若「うむ」

    唯「甲斐が、あった?」

    若「ハハ、そうじゃな」

    3ゲーム終える頃には、皆そこそこの点数を取っていた。

    覚「トヨちゃんも、100点超えたか」

    ト「お父さんのご指南の賜物でございます」

    覚「忠清くんと源三郎くんは、いい感じの点の取り合いだったな」

    源「力が入り、つい競り合うてしまいました」

    若「構わぬ。手加減は無用」

    美「いいわよね。こんな戦い方は平和そのものだもの」

    若「…」

    帰り道。覚の車に、唯と若君と尊。若君が、外に流れる夜景を静かに眺めている。

    唯「たーくん?なんか考えてる?」

    若君「…戦は、ないに越した事はない」

    唯「うん」

    若「率いる兵の命、ひいては民の命を粗末にはしとうない。刀同士の鍔迫り合いではなく、先程のボーリングの様に、運も少しはあるが技量力量で争えば、血を流さず命を落とさずに済む」

    唯「…そうだね」

    若「敵陣にも有能な御仁は居る。無闇に殺めるのでなはく、手を取り合ってゆけるならば、より良き国造りが出来る筈」

    覚「よく考えてるな…」

    唯「…」

    唯は、若君と初めて二人きりで話した、寺での夜を思い出していた。

    ┅┅回想。ドキドキの夜┅┅

    若「戦は勝たねばならぬ。そうでなくては城の者も領民も、心安んじて暮らしていく事ができぬ。だが…命を落とした者も、逃げ落ち延びる敵方の兵も、我らのようにただ、安らかに暮らしたい者たちではなかったか…」

    ┅┅回想終わり┅┅

    唯 心の声(戦国は、たーくんが心を痛める場所。でもたーくんの本当の幸せは、この現代じゃなくあの場所にしかないから…守るよ、ずっと)

    若「尊」

    尊「は、はい」

    若「わしらが永禄に戻っても、戦乱はまだ続くか?」

    尊「…続きます。残念ながら」

    若「そうか。ならば生き抜くより他なし」

    尊「兄さん、大丈夫。絶対大丈夫だから」

    若「それはつまり」

    尊「はい?」

    若「後の世がどうなってゆくか、わかっておるからじゃな」

    尊「あの、えっと、僕からは何も」

    若「どうなろうとも、日々粛々と生きる。それは、先を知ろうが知らまいが、変わらぬ」

    尊「…はい」

    若「ふう。令和の暮らしも残す所あと僅か。まだまだ楽しまねばの」

    唯「そうだよ。晩ごはんのはさみ揚げ、楽しみだしぃ」

    尊「毛色がガラッと変わってるし」

    覚「よし、そうだな!今夜は、ますます腕によりをかけちゃうよ~」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days134~11日15時30分、大きくなったね

    光るのは、塗ってあるオイルも要因では?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トヨ「お待たせを致しました」

    リビングに戻ってきたトヨは、目元に赤みは残るが、すっかり元のキリリとした姿になっていた。

    ト「洗い物も済んでしまいましたか?すみません!後片付けが出来ず」

    美香子「そんなの気にしない。人手は足りてるからね。さあ、じゃあそろそろ、出かけちゃおっか?」

    唯「出かけるー!ボーリング!」

    覚「よし、運動するぞー」

    尊「運動。まぁそうだね」

    唯「へぇ。いざ勝負!じゃないんだ」

    覚「三人は初めてだから、真剣勝負はしない。なんなら、僕と唯で点取り競争するか?」

    唯「やだ」

    覚「即答か」

    唯「負けるとわかってる戦はしないのだ」

    覚「おっ、それって、僕は上手いと思ってくれてるんだな?」

    唯「まーねー」

    覚「おほー。そうかそうか」

    尊「ゴキゲンだ」

    車2台に分乗。美香子車に、源トヨ。

    ト「お母さん」

    美「なぁに?」

    ト「この、爪の飾りを、永禄に帰りますまでに取り去りたいのですが」

    美「あー、マニキュアその他諸々。いよいよ女中頭のトヨちゃんに戻る準備ね。唯はあのままでいいけど、あなたはねぇ。勿体ないとは思いつつ」

    ト「奥方様と女中は、違って当然です」

    美「わかりました。じゃあ夜お風呂入る前に、取ってあげるわ」

    ト「ありがとうございます」

    美「手だけよね?足は、塗ったままでいいわよね?」

    ト「足も…」

    源三郎「残します」

    ト「え?」

    美「あらん」

    源「炊事、洗濯に支障ない。そのままにしておけ。誰も困りはせぬ」

    ト「わかったわ。なら残します」

    源「色味を気に入っておったようだしな」

    美「そうなのね~」

    ト「はい。先に手に施していただきましたが、何度も眺めてうっとりしている私を見て、唯様が是非足にもこのお色を、と」

    美「うふふ。だって確か、源三郎くんが選んだ色だったわよね?」

    源「そうではありますが、元はお母さんが選ばれた色でございます」

    ト「忠清様が、夕映えの色と仰られ」

    美「聞いた聞いた。いっそのこと、売り場にそう書いておいたらって思ったもの」

    ト「まあ」

    源「ハハッ」

    美「あ、源三郎くんが笑った」

    源「え」

    美「声上げて笑うなんて、中々なかったじゃない。仕える身、が染みついてるのもあるとは思うけど」

    源「そう…ですね」

    美「これから行く所ね、大声で笑っても叫んでも、全然大丈夫なの」

    ト「賑やかな場なんですね」

    美「だから、大いに笑って騒いで楽しんで欲しいな。旅立つ前に」

    源「はい。お母さんのご要望とあらば」

    美「ふふ、受け答えの真面目さは変わんないな。それが源三郎くんのいい所ね」

    ボーリング場に到着。

    唯「靴借りるよ。はい、こっち」

    若君「履きかえるのか」

    使うレーンが決まり、座席に上着や荷物を置いていると、ズラリと並ぶレーンを見ながら、若君と源トヨがしきりに感心している。

    源「なんと美しい床であろうか」

    ト「輝いてるわ。どれほど手入れをすれば、このようになるのかしら」

    若「そうか。このように、板敷の床が光る程磨かれた舞台に上がるには、それ相当の履物が要るのじゃな」

    唯「靴ってそんな理由だっけ?」

    覚「まぁ、そうしとこう」

    尊「そんなんでいいの?」

    唯「いいんじゃな~い?たーくん、球取ってこよっ」

    若「球?あぁ」

    ボール置き場で選んでいる唯と若君。

    唯「指が入る物を選ぶ。でもって、転がすからさ、持ち上がらないほど重いのは止めとくんだよ」

    若「うむ」

    源トヨは、尊に選び方を教わっていた。

    源「指で上げられれば、良いのですね」

    尊「はい。重過ぎて、足の上なんかに落としたりしたら大変なんで」

    ト「どうしましょう。やはりこちらかしら」

    源「無理するな」

    尊「源三郎さんの言う通りですよ。重ければいい訳じゃないんで」

    7人のボールが集まった。

    唯「尊」

    尊「何」

    唯「アンタの球はどれ?」

    尊「は?僕のはこれだけど」

    唯「わー、めっちゃ差つけられた!」

    球のポンド数が随分と違い、尊はかなり重い球を選んでいた。

    尊「悪い?ちゃんと持てるから」

    唯「中学生の時は、同じ重さの球だったのに」

    尊「当たり前でしょ」

    唯「ふふーん。オトナになったのう」

    尊「それ、重さで決まるモノ?そりゃ僕だって少しは」

    唯「へー。少しは、ね」

    尊「うるさいよ」

    尊 心の声(こんなバカ話…あと何回できるのかな)

    美「はいはい。まず三人に説明するわね。それから始めましょ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days133~11日13時30分、刻みます

    別れは辛いけど。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    9人で昼ごはん。

    エリ「とても美味しい。ニョッキも作ったんですか?」

    若君「はい」

    芳江「あらら。私、柔らかめの水とんかと思ってました」

    覚「水とん。まあ、似てますわな」

    美香子「もしかして」

    覚「何だ?」

    美「これを、再現しようと永禄で作るとするじゃない。それが後世になって、水とんの由来だったりして?」

    覚「ほほー。なるほど」

    尊「こういう、各地域で自然発生的に出来たであろう食べ物はさ、実際わかんないよね」

    覚「そうなるかもしれないし、書き残してあるとは限らないからわからんな」

    尊「だから、向こうでどう工夫して作ってもらっても、歴史を変えるまでにはなりませんから」

    若「ふむ」

    源三郎「心得ました」

    トヨ「はい」

    美「ところで尊、あなたのんびり食べてる場合?」

    尊「わかってるよ。ちゃんと話す内容は書き起こしたから、大丈夫」

    芳「何かあるんですか?」

    尊「あの、食後、少しだけ時間ください」

    美「羽木一族の存亡の話をするのよ」

    芳「羽木?」

    エ「若君でも源三郎さんでもなく、尊くんがですか?」

    覚「学校で、クラスメートにしゃべる機会があったんだそうです。じゃあ僕らにも、話して貰おうと」

    芳「まあ。それは、私達も是非聞かせていただきたいですね」

    エ「きっと、話もお上手にまとめられてるんですよね」

    唯「それで彼女もゲットしたし」

    尊「それはいいから」

    食後。お茶を飲みながら、尊の説明を全員で聞いている。

    尊「お姉ちゃん?所々、しかめっ面で聞いてるけど、何だよ」

    唯「ちょいちょい、難しい言葉出てくるからだってば。まあまあわかってるから」

    尊「まあまあかよ。兄さん、源三郎さん。今のところ話、合ってますか?」

    若「合うておる」

    源「分かりやすく語られておられますし」

    尊「良かった。じゃあ続けます。それでですね…」

    15時近くになった。玄関で、帰るエリと芳江を唯達四人で見送る。

    唯「じゃあねっ」

    エ「どうか、お元気で」

    若「お二方も、体を厭われよ」

    芳「はい。ありがとうございます」

    源「わたくし共こそ、心より礼を申します…おい、トヨ?」

    ト「…」

    唯「わー!」

    声をころし、はらはらと涙を流していたトヨ。唯が走っていき、ティッシュの箱を抱えて戻ってきた。

    唯「使って」

    ト「すみません。唯様」

    エリと芳江も、言葉にはならない様子だ。

    ト「…あの、朝のコーヒーの時間、お話にお付き合いいただきありがとうございました」

    芳「毎朝楽しみにしていましたよ」

    エ「えぇ。勿論私も」

    ト「髪を切りに行く前に、優しくお声掛けいただいた事は、一生忘れません」

    エ「何も特別にはしていませんよ」

    芳「可愛い娘ですもの」

    源「…」

    唯と若君も、静かに見守っている。

    芳「幸せになってね」

    ト「はい」

    エ「源三郎さん、頑張ってくださいよ?」

    源「ははっ!」

    エリと芳江は帰っていった。立ったまま動かない、トヨの背中をさする唯。

    唯「ちゃんと、言えてたよ」

    ト「そうですか」

    唯「うん。伝わってた。あのさ」

    ト「はい」

    唯「ずっとさ、トヨは強いなって思ってたんだけど、案外泣き虫でびっくりだった」

    ト「私は、強くなんかないです」

    唯「ねぇたーくん」

    振り向いて、若君に問いかける唯。

    若「心を委ねられる、母君二人に此処で出会うたのじゃ」

    唯「安心できる?」

    若「うむ。わしは今、令和の世に連れて参った甲斐があったと、心から思うておる。のう、源三郎」

    源「はい…」

    若「唯」

    唯「あ、はい」

    目配せをした若君。まだ下を向いているトヨから唯がそっと離れ、さする役割を源三郎にバトンタッチした。

    若「落ち着くまで傍らに居れ」

    源「はい」

    唯「先に戻ってるね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days132~11日11時、肌身離さず

    ちょうど手のひらサイズだし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    キッチンに、覚と若君。

    覚「さて」

    若君「よろしくお頼み申します」

    覚「芋を茹でる。これはジャガイモね。鍋に水入れて」

    若「はい」

    唯「今日はなにー」

    覚「ニョッキだ」

    唯「にょきにょき?」

    尊「言うと思った」

    ジャガイモが茹であがった。

    覚「つぶすよ。熱いから気を付けてな」

    小麦粉、塩を混ぜ、こねる。

    トヨ「芋なら、何でもよろしいのでしょうか」

    覚「やった事はないけど、向こうで手に入る物で試してみたらどうだい。粉もさ、ある物で。でも失敗して、食べ物を粗末に扱っても何だな」

    ト「少しの量で試してみます」

    棒状に伸ばし、小さく切り分けている。

    唯「粘土みたーい」

    覚「はい、これ持って」

    唯「なに?フォーク?」

    覚「切り分けたこれを楕円形にまとめる。で、フォークを軽く押し当てて筋をつける」

    唯「へー。やるやる!」

    一つ作ってみた唯。

    唯「なんか」

    尊「何」

    唯「さなぎみたい。セミとかの」

    ト「さなぎ?」

    尊「うへぇ」

    唯「ねっ、そう思わない?源三郎」

    源三郎「似てはおります」

    尊「わー、それにしか見えなくなる!しかも大量だし!」

    唯と尊が大騒ぎし、源トヨと四人で成形している横で、野菜や肉を煮込み始めた若君。

    若「この中にニョッキ、が入ると」

    覚「うん、あれはもう一度茹でてからだけどね。母さん達が来る頃にちょうど仕上がるだろう」

    13時過ぎ。クリームシチューが出来上がった。

    美香子「お待たせ~。お二人もすぐみえるわよ」

    覚「よしよし」

    器に盛り付けていると、エリと芳江が現れた。

    エリ「こんにちは」

    芳江「お招きありがとうございます」

    尊「お疲れ様でした」

    唯「どーぞー。座って座って」

    9人が席についた。

    美「ちょっと待ってね。いただきますの前に」

    覚「何だ?」

    芳「あの、ささやかなんですが」

    エ「プレゼントをお持ちしました。はなむけの」

    美「今日戻る四人に、用意してくださったって」

    唯「えー!」

    若「それは忝ない」

    一つずつラッピングされた小さな包みが、二人からそれぞれに渡された。

    源「わたくしにまで」

    ト「どうしましょう」

    唯「開けていい?」

    芳「どうぞ」

    唯「ん?これ、定期入れ?あ、なんかついてる」

    尊「リール付きだ」

    唯「え?電車もバスも乗んないけど」

    エ「芳江さんのアイデアなんですよ」

    唯「うん?」

    芳「はい。お写真って、何枚か持ち帰られますよね」

    唯「そうだね」

    尊「はい。今回も用意してます」

    芳「こんな事はない方が良いですけど、どこかへお出ましにならなければならない際などに…」

    若「戦でしょうか」

    芳「そう、ですね。勿論普段から使ってもらってもいいんですが、身に付けて持ち歩けるようにと思いまして」

    唯「定期入れなのはどうして?」

    芳「普通の入れ物も考えたんですが、これですとリールの先にフックがついてますよね。落とす心配がないかなって」

    尊「腰の辺りに引っ掛けても、長さがあるから近くで見れるね」

    若「理に敵っておる」

    芳「アイデアは私でしたが、エリさんと一緒に選んだんですよ」

    エ「種類が多くて。楽しく選べました」

    唯「ありがとう!大事にするね!」

    若「ありがとう、ございます」

    源「大切に、使わせていただきます」

    ト「とても嬉しくて。勿体なくて…使えるかしら」

    唯「そこは使おうよ」

    ト「はい!」

    覚「ではそろそろ、いただくか。忠清くん渾身の作だ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days131~11日10時、期待してます

    尊なら、プレッシャーをプレジャーに変えられる、から?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    実験室の若君と尊。

    若君「もう、気に病まんで良い」

    尊「いいんですか」

    若「大学に入った後、どうしていくかは、よう考えておけ。ただその中で、タイムマシンの進み具合は勘案するな」

    尊「はい」

    若「瑠奈殿との時間を、大切に過ごされよ」

    尊「ありがとうございます。あの」

    若「何じゃ」

    尊「もう一つ、兄さんに意向を聞きたかったんです」

    若「申せ」

    尊「今夜、永禄に帰ると、起動スイッチの燃料が空になります」

    若「で、あろうの」

    尊「少しですが、僕が貯めておいた燃料があります。補給しますか?それとも、僕がいつか必ず完成させるタイムマシンのために、取っておきますか?」

    若「…取っておけ。いつの日か、尊が現れるのを待とう」

    尊「わー、プレッシャー。でも、兄さんの期待は励みにして、頑張ります」

    若「うむ」

    実験室からリビングに戻ってきた二人。

    唯「おかえりぃ」

    源三郎&トヨ「おかえりなさいませ」

    若「おぉ、布団が片付いておる。これはしたり。お父さん、済みませぬ」

    覚「いいんだよ、手は足りてるからね」

    若「わしは何を手伝えば」

    覚「まだいい。今は、次の洗濯の洗い上がりを待ってるところだよ」

    若「あと何れ程でしょう」

    覚「15分位かな」

    若「15分、か…ならば今の内に。尊よ」

    尊「はい」

    若「預けておいた、例の物をくれぬか」

    尊「わかりました。部屋にありますんで。ここに持ってきますか?」

    若「いや、上で受け取る。唯」

    唯「なに?」

    若「共に参れ」

    唯「なになに?」

    二階に上がってきた三人。尊の部屋の前で待つ若君と唯。

    尊「はい、どうぞ。傾けないように気を付けてくださいね」

    若「世話をかけた。ありがとう」

    尊「いえいえ。では」

    ダンボール箱を渡された若君。尊は、そのままリビングに戻っていった。

    唯「なになになに!」

    若「部屋で見せる。扉を開けてくれ」

    唯の部屋。箱を開けると、

    唯「あ、お花の写真立て!」

    夏に二人で令和に来た時に、若君が唯にプレゼントした花束。永禄に帰った後、覚と尊でその花をプリザーブドフラワーに加工。今回、若君と尊で木箱と写真立てを繋ぎ、子供達五人で加工した花を木箱に埋め込んで、写真立てを完成させた。

    唯「四つだったね」

    若「一つは、下に持っていく」

    箱から出して机に置いたが、その内一つを脇へ寄せた。

    唯「着いてすぐに、七人全員で撮った写真を入れたんだね。私の着物姿も貴重だし?」

    若「これは、奥の棚に置いていただこうと思うておる」

    唯「ふぅん」

    三つは、まだ裏を向いている。

    唯「あとは、なに入れたの?」

    若「まぁ待て」

    まず一つ目を表に返す。

    唯「ん?私?」

    お母さんから受け取った、母の膝で眠る唯の写真。

    唯「こんな写真初めて見たよ」

    若「お母さんにいただいた。やはり知らなんだか」

    唯「なんでこれなの?」

    若「これは、唯の知らぬ、かつての写真」

    唯「ふん?」

    次に、二つ目を表に返した。

    唯「あ、コスプレ」

    写真館で撮った、軍服の若君と並ぶ、はいからさんの装束。

    若「これは、唯の知らぬ時代の、今の写真」

    唯「はあ。珍しくて悪くないとは思うけど、なんでこれ?」

    若「最後は、こうなる」

    三つ目を表に向けたが、

    唯「なんも入ってないよ」

    若「これは、唯がまだ知らぬ、未来の写真が入る」

    唯「知らぬシリーズってのがあんの?よくわかんないけど、たーくんがそうしたいならそれでいいけど」

    若「いつか、また此処に参れた暁に、写真が入る」

    唯「そう。ふーん。なんやかや言ってさ」

    若「ん?」

    唯「たーくんが尊に一番プレッシャーかけてない?」

    若「プレッシャー。先程も尊にそう言われた。意味は?」

    唯「え!さっき聞かなかったの?!えーと、えーっと…そうだ!圧が強いってヤツ」

    若「重荷になると」

    唯「そー、そんな感じ。尊には、三つ目に写真入れない理由は言ったの?」

    若「空けておくと申したのみじゃ」

    唯「あっそう。だったら、ヤベぇめっちゃ待ってる!とは思わないかな。でも尊、気づいてんじゃない?」

    若「そうか…まぁ、良かろう。ハハハ」

    唯「笑ってるし」

    廊下で足音がする。

    若「洗い上がったようじゃ。干すのを手伝わねば」

    唯「ん。参りますか~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days130~11日9時30分、道に迷う

    彼なりの信条がある訳で。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊「親のスネをかじり続ける生活しか念頭になかったのを、今、すごく恥じています」

    若君「一つ、問うても良いか」

    尊「はい」

    若「大学に入るのは、甘えではなかろう?」

    尊「…微妙です」

    若「ん?お父さんが、大学とは広く浅くではなく、より突き詰めて勉学に励む地と申されておったが」

    尊「その通りなんですけど…」

    若「口ごもっておるな」

    尊「タイムマシンの制作や研究は、もっともっと突き詰めたいです。でも大学では教われません。全て独学なんで」

    若「尊は、己の才覚一つで何事も為せるからのう」

    尊「前にもそう言ってくれましたね。僕は…僕は、全然成長していません。期待に応えられない、ダメな奴なんです」

    若「んむ…。ならば、何ゆえ通おうと?」

    尊「あの…何と言うか、まぁ大学なんて、行って当たり前じゃね?位にしか考えてなかったんです」

    若「それが、スネをかじる、と」

    尊「はい」

    若「両親がそれを良しとした。そしる謂れはない」

    尊「でも、このままじゃダメで」

    若「何がある?」

    尊「現代では、何をするにもお金がかかります」

    若「そうじゃな」

    尊「高校では、学校行っても真っ直ぐ帰宅。貰っている小遣いを使う機会はあまりありませんでした。たまに寄り道して買い物するにしても、タイムマシンに使う具材とかで。だから、大学に行ってもそんな生活を続けるつもりだったんです。今までは」

    若「そこで瑠奈殿か」

    尊「ただ会うだけじゃなくて、一緒にどこかに出掛けたり、食事したりプレゼントしたりしたい。兄さんも、イブにお姉ちゃんと行きましたよね。何となくわかりませんか?」

    若「わかる」

    尊「大学生にもなって、その資金まで親に出させる訳にはいきません。僕自身が働いて稼がないと。アルバイトって言うんですけど。何かしら始めなければと思ってます」

    若「大学に通う合間にか。それは忙しい」

    尊「そうなると、作業に使える時間は益々削れていきます」

    若「それが、見通せなんだに繋がるのか」

    尊「瑠奈の存在がなくても、本来気付くべきでした。いつまでも、外の世界を知らない甘えた子供でいてはいけないって。この日常はずっと変わらない、変わる筈なんてないと、高を括っていたんです」

    若「永禄には思いを馳せるが、より先の世に、己がどうなっておるかは読めなかったと」

    尊「情けないです」

    若「そこまで申さずとも。わしに顔向け出来ぬ、とは?」

    尊「前回サシで話をした時、新型タイムマシンが完成したら迎えに行きます、と豪語しました。しかも、5人以上乗せますって野望まで付け加えて」

    若「覚えておるぞ」

    尊「先が見えなくなりました。いつできるかは未定ではありますけど、例えば二年でできた筈が五年かかるとか」

    若「何年かかろうとも、完成そのものに驚くが」

    尊「今回兄さん達が使った起動スイッチ2号は、未来の僕が全て作り、未来の僕がバージョンアップ…えーっと」

    若「何となくわかる」

    尊「すいません。その未来の僕がいつの僕なのか、全く見えてこなくなって」

    若「つまり」

    尊「はい」

    若「瑠奈殿に出会うたが故に、未来とやらが遠のいたと申したいのか?それで先程から謝っておると」

    尊「結果的には」

    若「尊。それは違うておるぞ」

    尊「あっ、本家…」

    若「新型を完成させた尊の傍らには、瑠奈殿が居る」

    尊「まさか」

    若「居る筈がないと、どうして言い切れる?」

    尊「僕の秘密を、打ち明ける前提ですよね」

    若「瑠奈殿は尊を、尊敬に値すると申した。何を恐れている?彼の君が、尊の偉業を言いふらすとでも?」

    尊「…」

    若「どうじゃ」

    尊「それは…瑠奈なら、ないと思います」

    若「会うたのは一度きりであるし、短くしか話してはおらぬが、わしもそうは思えぬ。才気ありと見てとれたが」

    尊「確かに、よく気がつくし、頭の回転は速いです」

    若「良き片腕になるのではないか?かえって、早う完成するやもしれぬ」

    尊「それは…考えが及びませんでした」

    若「一つ話しておこう。忘れられぬ、尊の言葉がある」

    尊「何でしょうか」

    若「相当信用の置ける人物でないと、家の事情が話せぬと」

    尊「言いましたね。好きな子は居ないのかって、突然お姉ちゃんに聞かれて」

    若「無理に事情を話せとは申さぬが、それを聞き、尊が心を開ける者がいつか現れるのを、切に願っていた」

    尊「心配かけてごめんなさい」

    若「それが瑠奈殿であろう」

    尊「そう…思いますか」

    若「出会うて日が浅い。疑うのも頷けるが」

    尊「兄さんのお眼鏡にかなったんなら、確かですよ。何より…たかだか18年しか生きてませんけど、こんなに全力で慕ってくれる女性に、今後出会えるとは思えません」

    若「フフ、慕われれば誰でも良いのか」

    尊「いえ!」

    若「瑠奈殿がどう接してくるかではない。尊の存念は如何に」

    尊「身を焦がすような恋に落ちるなんて思ってもみなかった。離したくない。大好きだから、僕をもっと理解して欲しいです」

    若「熱いのう」

    尊「自分でも驚きです…わかりました。話せる時期が来たら、話したいと思います」

    若「急がずとも良いが」

    尊「…はい」

    若「何か、足枷になっておるのか?」

    尊「もっと、自分に自信がついたらって…」

    若「自信。鍛え始めたのは、それもあるのか」

    尊「そうです。もう少し体力をつけて、瑠奈に見合うと、自分が思える男になりたいんです」

    若「あれだけ慕われておれば、充分であろうに」

    尊「一緒に電車に乗ってると」

    若「うん?」

    尊「この子の相手がお前?って顔、よくされるんですよ」

    若「そんな輩は構うでない」

    尊「もう少し堂々とできたら、とは思うんです。だから頑張ります」

    若「そうか。フッ」

    尊「え、何ですか?」

    若「ゆくゆくはお姫様抱っこ、じゃな」

    尊「あー、それ…はぁ。出るのは溜め息ばかりです。できるようになる前に、嫌われないといいですけど」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days129~11日8時30分、忸怩たる思い

    こんな悩みを抱える日が来るなんて。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    モーニングコーヒーをクリニックに配り終え、戻ってきた源トヨ。

    源三郎「お二方共、忠清様の料理を心待ちにされておるご様子でした」

    若君「それは一層、腕によりをかけねばのう」

    トヨ「こちらにお出ましになるのは、1時頃では、との仰せでございました」

    覚「そんなモンだろうな」

    若「お父さん。わしはどの時分から、飯の支度を始めれば良いでしょうか」

    覚「11時頃かな」

    若「わかりました」

    尊「今さらだけど、トヨさんも現代の時間の言い方で通じるんだ」

    ト「読み解ける方が、暮らしやすうございますので」

    尊「偉いなぁ」

    若「ならば尊」

    尊「はい。お願いします。ちょっと、兄さんと二人で話してくるから」

    唯「はいはい」

    若「実験室か?」

    尊「そうですね」

    若君と尊は、外に出ていった。

    唯「さてと。なにしてよっかなー」

    覚「仕事ならあるぞ」

    唯「仕事かー。ウソウソ。なにすればいい?」

    覚「珍しくいい返事だな」

    唯「たまには」

    覚「最終日にしてようやくか。隅に寄せてある布団を全部干したい。洗濯の続きもしたい」

    唯「ん、わかったー」

    源「ならば布団は、わたくしが運びましょう」

    ト「洗い上がっている物を、干して参ります」

    唯「手分けしてやりますか~」

    実験室。

    若「入るのは、参った日以来じゃ」

    尊「そうですね。今回は」

    若君がゆったりと腰を下ろした。尊も正面に座ったのだが、

    若「何やら硬いが」

    正座をし、握り拳を両膝に乗せ、ずっと下を向いている。

    若「急にどうした」

    尊「兄さんに、見せる顔がないんです」

    若「何かしたのか?」

    尊「これから迷惑をかけるんで」

    若「これから?」

    尊「僕は…」

    若「…」

    尊「見通しが全然できてなかったんです」

    若「見通し?」

    尊「甘えがありました」

    若「そうは見えぬぞ」

    尊「兄さんに申し訳なくて」

    若「謝られる由がわからぬが。まぁ良い。申してみよ」

    尊「…僕がタイムマシンを完成させたのは、お姉ちゃんが永禄に飛ぶ少し前でした」

    若「見上げたものと思うておる。よう作ってくれた」

    尊「作れて当然だったんです」

    若「そう、なのか?」

    尊「その頃の僕は、学生なのに学校に行かず、家に引きこもっていました」

    若「話には聞いた。辛い事柄があり、それを避けるのに、通わぬ道を選ぶのが最良と考えたのじゃろ。尊も両親も」

    尊「今となればですけど」

    若「時間は潤沢にあったゆえ、作れたと?」

    尊「はい。朝昼晩食事が用意され安全な生活。他事を何もせず、四六時中タイムマシンの事だけ考えて没頭していたので」

    若「そっと見守っていただいた両親に、感謝せねば」

    尊「はい」

    若「それで?」

    尊「今は学校もちゃんと通ってますし、春からは大学に行きます。少しは環境が変わりますが、それでも家に帰れば作業をする、受験準備前と変わらずできると思ってたんです。でも」

    若「でも?」

    尊「瑠奈に出会いました」

    若「良き出会いであったの」

    尊「最初は、押しも強いし、何で僕を選んだんだろうという思いが先行して、自分の気持ちがよくわからない状態が続いていました」

    若「あれよあれよ、か」

    尊「でも日を追う毎にどんどん惹かれていき、あっという間に、瑠奈の存在が僕の中で大きくなったんです。自分でも、展開が早いと思うんですけど」

    若「フフ。歩みを止めず突き進むは唯も同じ。やはり姉弟じゃの」

    尊「今は、瑠奈の事ばかり気になって。勿論今は、受験勉強が一番ではありますけど」

    若「良いではないか。尊は一体、何を案じておるのじゃ?」

    尊「怖いんです」

    若「怖い?」

    尊「このまま、この恋に溺れていってしまいそうで…」

    膝上の拳が、より固く握られた。

    若「それも良しと思うが」

    尊「他の事が手につきません。きっと、タイムマシンも。ごめんなさい」

    かすかに震えている尊。

    若「…続けよ」

    尊「僕は、一生恋愛なんて縁がないと思っていました」

    若「決めつけんでも良かろうに。尤も、わしも唯に出会う前は似た様なものであったがの。ハハハ」

    尊「今は、どうしようもなく、瑠奈が好きなんです」

    若「瑠奈殿に、尊の存念は伝えたか?」

    尊「ちゃんと伝えました。態度でも」

    若「応えてくれたか」

    尊「はい。とても喜んでくれました」

    若「幸せを噛み締めておると。それで?」

    尊「必ず大学に入り、春からは、勉学に励みつつも、できるだけ一緒の時間を過ごしたいんです」

    若「デート、もしたいと」

    尊「はい。でも見通しが甘過ぎて」

    若「そこが、ようわからぬのじゃが…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days128~11日土曜6時、ホットほっと

    今年もよろしくお願いいたします。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ウォームアップ完了。一人を除いて。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    令和最終日の朝。キッチンで両親とトヨが、朝食の支度をしている。

    トヨ「朝から、こちらをお使いになられるのですね」

    食卓に、ホットプレートが置かれた。

    覚「これでパンを焼くよ」

    ト「そうですか」

    覚「パンを食べるのもこれで最後だね。あー、今回はって意味だよ」

    ト「今回は。はい。お心遣い、ありがとうございます」

    美香子「彼らも、一段と熱が入ってるわね」

    庭では、若君と源三郎が、体から湯気が立ち上らんばかりに稽古に励んでいる。

    ト「お野菜も随分と刻みましたし、チーズ、も山盛りに用意しました。これは?」

    覚「ピザトーストを、銘々で好みの具をのせて作って貰おうと思ってな。ピザは何回か食べてるからわかるよね」

    ト「はい」

    覚「尊がさ」

    ト「尊様が?」

    覚「最後の朝はこれがいい、ってリクエスト…要望したんだ」

    ト「何か意図がお有りなのでしょうか」

    美「そうね。なるほど、って感じかな。ところで」

    昨夜リビングに並べて敷いた布団は、ほぼ片付けられており、まだ起きようとしない唯を残すだけとなっている。

    美「唯~。そろそろ観念しなさい!」

    唯「キャー!」

    体にぐるりと巻き付けていた布団を、母にベロンと剥がされた唯。勢いで、コロコロとリビングの入口まで転がっていった。

    覚「漫画みたいだな。おー、お帰り」

    尊「ただいまー。わ、何?!」

    唯「ギャー!!」

    外から帰って来た尊。転がってきた唯につまずき、蹴飛ばしてしまっていた。

    唯「痛いぃ」

    尊「何だよ、まだ寝てたのかよ、そんなんじゃ全員でラジオ体操できないだろ」

    唯「うるさいな、今起きるところですー。なにアンタ、朝帰り?」

    尊「はあ?早起きして、走ってきたんだよ」

    唯「走る。尊が?!」

    尊「体を鍛えるんだ」

    唯「マジ?試験前なのに?」

    尊「頭も冴えるから、うってつけなんだよ。ほら立って」

    唯「はあ」

    尊が伸ばした手に支えられ、唯が立ち上がる。そこに、若君と源三郎が庭から戻ってきた。

    若君「尊」

    源三郎「尊殿、お帰りなさいませ」

    尊「ただいま戻りました。神社まで行って、階段の昇り降りをしてきましたよ」

    唯「階段!」

    若「そうか」

    唯「なに張り切ってんの」

    尊「鍛えるって言ったじゃない」

    唯「いきなりワケわかんないー」

    若「一日で終わらぬようにの。何事も、続けてこそじゃ」

    尊「はい。これからも頑張ります」

    美「はいはい、そろそろ始まるわよ~」

    テレビを点け、7人全員で体操を始めた。

    美「ん~、いい!」

    覚「永禄でも、できそうかい?」

    ト「はい」

    源「是非にと思うております」

    唯「たーくんと一緒にやろうとすると、もれなくじいがついてくるけど」

    源「それは、それで」

    若「フフ」

    朝ごはんがスタートした。ホットプレートにパンを並べ、焼き始めている。

    唯「コーン盛り盛りがいい!」

    美「こぼれてる方が多いわよ」

    唯「落ちたのも焼けるからいい。そうだ!こぼれた方にもチーズかければ」

    覚「カリカリになって、それはそれで美味そうだな」

    ト「尊様」

    尊「はい?」

    ト「この献立は、尊様が望まれたと伺いました」

    尊「そうなんですよ。原点に戻ろうと思って」

    ト「原点?ですか」

    尊「先月1日。朝ごはんに出たピザトーストを食べながら読んだ新聞記事から、今回の全てが始まったんで」

    若「わしの日記と、木村殿か」

    尊「はい」

    美「あの時は、二週間後には7人で食卓を囲むなんて、夢にも思わなかったわ」

    覚「3人から、5人ではなく一気に7人だったからな。嬉しかったな~」

    ト「わたくしも、このように団欒に加えていただけるなど、この上ない喜びでした」

    源「家族同様に接していただき、感謝しております」

    唯「チッチッ。それは違うておるぞ」

    尊「出た!戦国言葉」

    唯「同様じゃないよ。マジ家族だもんね」

    覚「そうだ」

    美「そうよ」

    源「…有り難き幸せでございます」

    ト「はい…」

    美「トヨちゃん~、涙ぐむのはまだ早い」

    ト「すみません」

    唯「いい感じに焼けた~。カリカリ~。ホットプレート最高!」

    美「唯に負けないよう、どんどん食べてね」

    ト「はい!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days127~10日20時30分、団欒

    本年も、私の拙い創作話に目を留めていただきまして、感謝ばかりです。ありがとうございました。

    来年も、ゆるゆると続きます。宜しければ、今しばらくお付き合いくださいませ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    一見、抑揚のない日常こそ、かけがえのないもの。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    母が仕事を終え、居酒屋に到着した。

    美香子「こんばんは~」

    店主「いらっしゃい」

    カウンターの客1「美香子先生じゃないですか!」

    カウンターの客2「先生、ご無沙汰しております」

    美「あらお揃いで。こんばんは。その後お二人共、具合はいかが?」

    客1「はい、いたって平穏です」

    客2「痛みのぶり返しもなく」

    美「それは何より。私にしょっちゅう会ってるようではね。ご無沙汰はいい傾向よ」

    客1「何かあればまた診てもらいます」

    美「何かがないように、健康管理してくださいね」

    客2「ははは。そうですな」

    美「では、失礼します」

    座敷で手招きしていた唯。

    唯「人気者だねぇ。お疲れ~」

    尊「お疲れ様」

    美「お待たせ。あら、まだ起きてる」

    覚「話に花が咲いてな」

    美「いつも咲いてるわよ。お父さんが勝手に寝始めるだけでしょ。今日は、トヨちゃんが向かいに座ってるから、上手く操縦してもらえてるのね」

    トヨ「いえ、私は何も。お父さんのお話が楽しくて」

    美「いい娘を持ったわ」

    尊「お母さん、ビール来たよ」

    美「待ってました~。それでは」

    7人揃って、乾杯~。

    唯「ねぇお母さん」

    美「あー美味しい。ん~?」

    唯「明日の午後、どこに遊びに行くの?」

    美「うん、それね。じゃあ、発表しちゃおうかな」

    唯「おーっ」

    美「それでは」

    尊「お願いします」

    美「お父さんの捻挫も、完治しました」

    唯「あ、そう言えば」

    尊「忘れてた」

    若君「お父さん。もう、何処も差し障りはございませぬか?」

    覚「うん。お陰様でな。先生もあぁ言ってるしさ、はは。心配かけて済まなかったね」

    美「という事で。ボーリングに行くわよ~!」

    唯「ボーリング!」

    尊「治ったにしても画期的だ。そう来たか。でも楽しそう!」

    若「ボーリング?」

    尊「兄さんには動画を見せてますよ。覚えてるかなー。去年結婚指輪作った時。大きくて重い球を転がすんです」

    若「的が何本もあり、玉を当て、なぎ倒しておった。あれか」

    尊「そう、それです」

    源三郎「指輪、と」

    ト「大玉?」

    尊「お姉ちゃんの指のサイズ調べるのに、参考にしたんです。って、どう繋がるんだ?ですよね」

    唯「まぁ、そのウラ話はまたしてあげるよ。どうやって遊ぶかは、行けばすぐわかるから」

    覚「張り切り過ぎて、帰ってから筋肉痛…は、君らにはないよな」

    美「ないない。点を競うとなるとついつい熱が入っちゃうかもしれないけど」

    ト「競う?」

    美「ゲームだけどね。誰かが一番になり誰かが七番になるわ。この前遊んだトランプもそうでしょ」

    源「争いではない、と」

    美「そうよ。家族全員が揃って楽しむのに、意義があるの」

    唯「何か話、デカくなってない?」

    尊「いいじゃない。会話を丁寧に拾ってるんだよ」

    若「フフ。心待ちに致します」

    その後も歓談は続き、時刻は22時を回った。

    尊「奇跡だ。お父さんが寝てない」

    覚「あんまり皆が言うから。かえって目が冴えたよ」

    尊「飲み足りないの?」

    覚「いや。充分堪能した」

    美「それこそ、トヨちゃんの才能ね」

    ト「そんな、お恥ずかしい」

    美「担がなくてすむだけでもホント助かるわ。そろそろ帰りましょうか」

    帰宅しても、イベントは続く。

    唯「ギリ、布団並んだ!」

    美「合宿みたいな風情ね」

    覚「修学旅行だろ」

    尊「戦国時代にない言葉ばかり並べないでよ」

    覚「おっ、並べるにかけて?」

    尊「浮かれてるなぁ」

    リビングに布団が7組。部屋を暗くしてからも、会話は続く。

    唯「千原じい、ヒドイよね」

    若「急に何じゃ。話を蒸し返すのか」

    唯「天野系の姫は妻にするななんてさ。関係ないじゃん!そー思わない?源三郎もさぁ」

    源「それは…恩義もございますし」

    唯「そんなんに縛られてたなんて、千原じい、のろってやろうかな」

    尊「物騒だな。ちょっと待って、もうあの世の人じゃないの?」

    唯「そうだけど。なんか今さらだけど怒れてきちゃって」

    若「唯がどう思うておろうとも、トヨが気にかけておるか否かじゃろ」

    唯「まあね」

    ト「唯様」

    唯「あい?」

    ト「私、その話を聞いても、怒りはありませんでした」

    唯「そうなの?」

    ト「忠義が素晴らしくて…源ちゃんを惚れ直しました」

    唯「あー。はいはいごちそうさま。おやすみっ」

    尊「なんだよ、話振っといて」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    10日のお話は、ここまでです。

    さて。新年ですが、勝手ながら投稿は4日から再スタートさせていただきます。ご容赦くださいませ。

    それでは皆様、よいお年を。

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    四人の現代Days126~10日17時30分、春からのビジョン

    それでも、かなり生活環境は変わる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「そろそろ出かけるか」

    唯「はーい」

    その声に、反応していない尊。どこか上の空でソファーに座ったままでいる。

    トヨ「尊様、お支度を」

    尊「あ、ごめんなさい」

    六人で家を出た。すっかり暗くなった道を歩く。

    唯「おやじさんの作る煮物が、超ウマなの!」

    ト「それは教えを乞いたいですね」

    覚「今日は人数も多いからさ、遠慮せず色々注文してくれよ」

    源三郎「はい」

    若君と尊は、最後尾で並んで歩いていた。

    若君「勉学には、励んでおれているか?」

    尊「はい。バッチリです。ちゃんと大学に入りますから」

    若「尊ならば、余裕綽々であろうが」

    尊「そう…ですね」

    若「ハハッ、大きく出たのう」

    尊「どこでも行けそうだったんですけど」

    若「選び放題か」

    尊「家から通いたかったんで、通える範囲では一番難しい学校にしました」

    若「ほぅ」

    尊「せっかくなら、もっといい大学にすればとは言われましたけど。僕がそんなに学歴とか気にしてないんで」

    若「学歴。どの大学に入るかで、その良し悪しが決まるのか?」

    尊「世間的には。でも学校の先生達と違って、父も母も強くは言わなかったので、最終的には自分で決めました」

    若「瑠奈殿も、大学には行くのであろう。同じ学び舎なのか?」

    尊「いえ、違います。瑠奈は女子大、おなごだけが通う大学に行くんです」

    若「それは、尊にとっては好都合じゃの」

    尊「校内に男子が居ないからですか?でも通学時間が長くなります。それは僕もですけど」

    若「様々言い寄って来そうな男衆から、守れそうか?」

    尊「うわぁ、ツッコみますね。喧嘩で大立ち回りなんてのは無理ですけど、もっと自分に自信が持てて心も強くなれるよう、体力作りに励みます。あ、でも通学、半分位は彼女と同じ経路なんです」

    若「そうか。それは楽しみじゃの」

    尊「はい」

    若「瑠奈殿は、心より尊を慕うておるのが、手に取るようにようわかる」

    尊「恐縮です」

    若「大切にせよ」

    尊「はい!」

    若「離れて暮らさぬのを決めたのは、お父さんお母さんが淋しがらぬようにとの心遣いもあるのではないか?」

    尊「あ、まぁ」

    若「まこと親思いよのう」

    尊「それもありますけど…」

    若「他に訳があると?」

    尊「タイムマシンを完全に操れる、未来の僕に少しでも早く近づきたいんで、家は離れられません」

    若「より研鑽を積むと」

    尊「春からは、またコツコツ作業を進めます。そのつもりです…」

    若「ん?どうした。顔がみるみる曇っておるが」

    居酒屋が見えてきた。尊が立ち止まる。それに合わせて、若君も歩みを止めた。

    尊「兄さん」

    若「うむ」

    尊「今回も、帰る前に二人だけで話がしたいです。時間もらえませんか」

    若「…そうか。それは構わぬが、今宵は難しかろう。明日の朝方は如何じゃ?」

    尊「わかりました。よろしくお願いします」

    深々と頭を下げた尊。

    覚「おーい、二人共何してる?早く入んな」

    若「参るぞ」

    尊「はい!」

    座敷に通された六人。

    おかみ「唯ちゃん、ちょっと見ない内にすっかり大人っぽくなって」

    唯「でしょでしょでしょ~」

    尊「中身は見た目程変わってないです」

    お「尊くんも、大きくなったわね~」

    唯「コイツ最近、同級生のかわゆーい彼女ができてー」

    尊「いいよ、そんな事言わなくても」

    お「あら。だったら、お酒が飲める年齢になったらぜひ、連れて来てね。おばちゃん、楽しみに待ってるわ」

    覚「あと二年あるな。頑張れよ、尊」

    尊「目標にします…」

    キンキンに冷えたジョッキに注がれた生中が、4杯出された。唯と尊にはジュース。

    ト「この量ですか?!」

    覚「多分トヨちゃんなら大丈夫だよ」

    若「これじゃこれじゃ」

    源「喉が鳴ります」

    乾杯!

    覚「あ゛ー」

    若「くーっ」

    源「うまい!」

    尊「みんな美味しそうに飲むなぁ。何かさ、ビールのCMみたいだね」

    唯「言える。トヨ、どう?」

    ト「この苦味、嫌いじゃないです」

    唯「大人だねぇ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days125~10日16時30分、時代時代で

    事情を知らないと、色々疑問がわく。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    スーパーに到着した四人。

    唯「お菓子、お菓子~」

    若君「ハハハ。それはちと違うておるぞ」

    カゴをサッと取り、歩き出した若君。慌てて、源三郎が追いかける。

    源三郎「忠清様」

    若「何じゃ」

    源「カゴは、わたくしが持ちます」

    若「ん。良い」

    源「されど、荷をお運びいただくなど、畏れ多く」

    若「源三郎」

    源「はっ」

    若「この令和の世も、残すはあと一日となった」

    源「は、はい」

    若「永禄に戻ったら、幾らでも持ってもらう。今はまだ良い」

    源「戻りましたら、でございますか」

    唯「えー、たーくん何言ってるの~?スーパーもレジもないのにぃ」

    若「物のたとえじゃ」

    唯「たとえ?」

    若「家臣に完全に戻るのは、もう少し後で良かろう」

    唯「ふーん?」

    若「下がっておれ」

    唯「だってさ、源三郎。たーくんにまかせとけば?」

    源「…心得ました」

    唯と若君が、売り場を仲良く進む。やや離れてついて行く源トヨだが、

    源「これが令和の世、なのであろうな」

    トヨ「そうね」

    周りを観察する二人。夕方の早い時間ではあるが、カップルが揃って買い物をする姿をちらほら見かける。

    ト「忠清様、こうして拝見すると、周りととても馴染んでいらっしゃるわ」

    源「そうだな。何より、楽しんでおられるのがよくわかる」

    ト「今は控えて。控えるのも得意でしょ」

    源「あぁ。任せろ」

    さて。こちらは、速川家。

    覚「はいはいはい、電話か。また忠清くんか?違うな、尊か。もしもし」

    尊の電話『もしもし、お父さん』

    覚「おー、どうした?おいおい、まさかまたトラブったのか~?」

    尊 電話『ううん、今日は大丈夫。ちょっと遅くなっちゃったから電話した。今黒羽駅に着いたけど、お店って、何時に予約してたんだっけ?』

    覚「母さんは仕事終わり次第合流だから、6時位には行きますって伝えてあるが」

    尊 電話『そっか、良かった。ちょっと焦ってた』

    覚「だから慌てなくていいぞ。唯達も、今スーパーに行ってるし」

    尊 電話『そうなの?!家に居ないんだ。もう帰ってくる?』

    覚「いや、4時前位に、ようやく今から向かうって連絡あったから、もう少しかかるんじゃないか?」

    尊 電話『そうなんだ、わかった、じゃあ急いで帰るよ』

    電話はすぐに切れた。

    覚「何を急ぐんだ。それに、どう連絡してきたのかって、なぜツッコミが入らない?僕の感動した話を、聞いてくれよ~」

    程なくして、尊が帰宅した。

    尊「ただいま」

    覚「おーお帰り。ん?」

    リュックをドサっと床に置くと、下を向いたまま、急いで洗面所に入っていった尊。

    覚「手洗いうがいか?」

    やがて出てきたのだが、

    覚「相当念入りにしてたな」

    尊「あー」

    覚「ん?前髪ビショビショじゃないか」

    尊「顔洗ったんで。着替えてくるよ」

    二階に消えていった。

    覚「行動に謎が多いな」

    唯「ただいま~」

    覚「こっちも帰ったか」

    唯達も帰宅。

    若「お父さん。先程は、話を途絶えさせてしまい」

    覚「いいのいいの。公衆電話には有りがちなんだよ。小銭でかけてると特に。いい経験だったね」

    若「はい!」

    覚「最初、何を言ってるのかわからなかったけど。あれか、戦で名乗る時は、あぁ始まるのかい?」

    若「そうです。驚かせてしまいましたか」

    覚「大丈夫だよ。声の抑揚が、まんま忠清くんだったから、すぐわかった」

    若「そうでしたか」

    尊が着替えを済ませ、下りてきた。

    尊「お帰りなさい。買い物行ってたんだね」

    唯「あれぇ?今日は一人~?」

    尊「基本一人です」

    唯「どっかに隠してない?」

    尊「ない。そこ、引っ張らなくていいから。なんだよ、買い物しっぱなしで、トヨさん達に片付けさせて」

    唯「あー。ごめんごめーん」

    ト「いいんですよ。お話しててください」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days124~10日15時45分、もしもーし

    どこにどう当てたのか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今では珍しくなった、駅の公衆電話に群がっている唯達。

    若君「10円、はどれほど要るのじゃ?」

    唯「電話してる長さで変わるの」

    若「長さか」

    唯「100円でもいいんだけど、40円もあるし。たーくんも10円玉、持ってたりする?」

    若「コーヒーの支払いで使うてしもうた」

    唯「そっか。まぁ大丈夫っしょ」

    若「この箱に支払うと」

    唯「そうだよ。ではいってみよう!じゃあね、まずこれ耳に当てて」

    受話器を若君に持たせたのだが、

    唯「違うぅ」

    若「違う?」

    唯「端っこの、丸くてプツプツ穴開いてるトコに当てて」

    若「こうか」

    唯「もう一つの丸いのがちょうど口のあたりにくるでしょ。あー、そっちは離れててよくて…そうそう、それでいい」

    若「こう持つと、収まりが良いのか」

    唯「でね、上の丸いのから声が聞こえるから、下のそこに向かってしゃべってね。じゃあお金入れるよ」

    源三郎「忠清様とあろう御方が、少々手こずっておられる」

    トヨ「どうなるのかしら」

    若「何やら音がする。お父さんがもう話されておるのか?」

    唯「まだ。待って、今電話番号のボタン押してるから。お父さんが出たら、名前言ってね」

    若「名乗るのか。ん?音が変わった」

    覚の電話『はい、もしもし。速川です』

    若「おぉ、お父さんの声じゃ」

    唯「聞こえた?ならしゃべって」

    若「うむ。ならば」

    唯「ためるなぁ」

    若「我こそは、緑合の国の住人、御月…」

    唯「へ、なんで?!そこからじゃなくていい!名前だけで!」

    若「それでは名乗りにはならぬ」

    覚 電話『もしかして、その声は、忠清くんかい?』

    若「はい!お父さん。忠清です」

    覚 電話『いやぁ、びっくりしたよ。まさか、君と電話で話せるなんてなあ。何かあった?』

    若「膝を詰め、皆で話をしておりました。急ぎ買い物に向かいますが、戻るのが遅くなりますゆえ、一言お伝えしたく」

    覚 電話『そうか。わざわざありがとな。いいよ、ゆっくりで。まだ尊も帰ってないし』

    若「痛み入ります」

    覚 電話『何か食べときたい菓子とかあったら、買ってきて貰ってもいいぞ』

    若「菓子、ですか」

    覚 電話『心残りがあってもイカンからな。好きに買ってお…』

    ツー、ツー。

    若「ん?何じゃ?声が急に聞こえぬように!お父さんに一大事では?!もしや、倒れたのではなかろうか?!」

    唯「電話切れたからね」

    受話器を若君から受け取り、戻した唯。

    唯「はい、おしまい」

    若「お父さんは、無事なのか?!」

    唯「うん。全然大丈夫」

    若「ならば良いが」

    唯「まっ、気にしないで」

    若「話の腰を折るなど、とんだ無礼を働いてしもうた」

    唯「いいでしょ、言いたいコトは言えたんだし。お父さん、なんて?」

    若「所望の菓子があれば、買って良いと申された」

    唯「ふーん。それどーみても、私への伝言じゃないな」

    スーパーに向かい、歩きだした四人。

    唯「これもう一回食べときたい!ってお菓子、ある?」

    若「そうそうは思い出せぬが。源三郎、トヨはあるか?」

    トヨ「うーん…」

    源三郎「お言葉に甘えて宜しいのでしょうか」

    唯「あるなら言ってよ?これで頼まれた物しか買っていかなかったら、逆にお父さんガッカリすると思うし」

    源「あの、バーベキューの終わりに、お母さんがお焼きになった」

    唯「焼いた?」

    若「あぁ。あれはわしも気に入った。唯が焼くと焦がしよるが」

    唯「どーせそうですよぅ。スモアだね」

    源「はい。温かく、甘く、あの何とも言い表せぬ口当たりが忘れられませぬ」

    唯「そうなんだ」

    ト「いいですね。私もあのお菓子は、賑やかに過ごした情景と共に、優しいお味が思い出されます」

    唯「へー。ひそかに人気のスイーツってヤツ?だったら、私が腕をふるって、焼いてしんぜよう!」

    微妙な顔をして黙る、若君と源トヨ。

    唯「…ってもう、わかってますって。お母さんが作ったのが食べたいんでしょ?」

    三人が顔を見合わす。

    若「そうじゃな。母の味じゃからの。唯が焼いてはならぬとは申さぬが」

    唯「顔がダメって言ってたけど」

    若「そうか?」

    唯「材料どーんと買っとこ。どっかで、焼いてもらえる時間くらいあるっしょ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days123~10日15時30分、挑戦と再挑戦

    願いを叶えたいからこそ、直接言葉にしないの。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    喫茶店の四人。

    若君「すっかり遅うなってしもうた」

    唯「たーくんの話が長いから~」

    トヨ「唯様」

    唯「すんません」

    若「日が落ちる迄に家に戻れると良いが。ひとまず此処を出よう」

    若君が会計をした後、外に出た。

    若「急ぎ買い物に参ろう」

    唯「んー、あのさたーくん」

    若「何じゃ」

    唯「帰るのが遅くなるって、お父さんに言っとこうよ」

    若「それが出来得るならば、一先ず安心ではあるが。されどどう伝える?」

    唯「電話、かけてみない?」

    若「電話。されど唯の持つその板は、使えぬのであろう?」

    唯「うん、もう契約してないからかけるのはできない。でもね、一回だけスマホ家に忘れちゃった時にやったコトあるんだけど、公衆電話使えばいいんだよ」

    若「他にも電話があると。ならば使いたいが、何処にある?」

    唯「これから探す」

    若「探す?」

    唯「公園ならどっかにありそうだけど、駅の方が間違いないから、行ってみようよ」

    若「そうか。わかった」

    変わって、ここは尊と瑠奈の通う高校の教室。

    みつき「バイバーイ!瑠奈、センセ」

    瑠奈「バイバイ、みつきー」

    尊「また来週」

    下校時刻になり、皆帰っていく。

    尊 心の声(今日は比較的、はけるのが早いな。試験も近付いてきたからか)

    あと、尊と瑠奈と、男子生徒数人を残すのみになっている。

    瑠「そろそろ帰ろっか」

    尊「うん」

    教室を出て廊下を歩いていると、さっきまで残っていた男子達が、相次いで二人を追い抜いていった。

    尊 心(あ。…教室が空になった)

    急に立ち止まる尊。下を向き、考え込んでいる。

    瑠「尊?」

    尊「…」

    瑠「どうしたの?」

    尊「あの…」

    瑠「なに?」

    尊「教室に、戻ろうかな…いや、まだ早過ぎる。しかもこんな時期に」

    瑠「え?戻るのに早い遅いが関係あるの?何か忘れ物?」

    尊「忘れ物というか…何と言うか…誰も居なさそうだし…」

    瑠「歯切れが悪いね。忘れ物なら、私ここで待ってようか?」

    その返事に、尊の表情が一瞬曇った。

    瑠「あ」

    それを見逃さなかった瑠奈。何かを察した。

    瑠「…ねぇ、たけるん」

    尊「はい」

    瑠「それ、私もついて行くと、イイ事が起こるかな」

    尊「イイ事…」

    瑠「…」

    尊「イイ事と思ってもらえると、嬉しい」

    瑠「そう。じゃあ、少しだけ遠回しに聞くよ」

    尊「珍しい」

    瑠「もー。言うと思った。昨日のあれ、気にしてた?」

    尊「…うん」

    瑠「尊のタイミングが、今?」

    尊「…はい。いや、でも早過ぎる。僕はどうかしてるんだ、ごめんなさい、帰ろう」

    瑠「…」

    瑠奈が、尊のブレザーの袖口をそっとつまみ、うつむく。

    瑠「早くない、よ」

    尊「そう、かな」

    瑠「連れてって、ください」

    尊「…いいの?」

    瑠「だって、来てくれるんでしょ」

    尊「はい」

    瑠奈が顔を上げると、そこには尊の真剣な眼差しが。

    尊「…」

    瑠「…」

    そのまま二人、廊下を戻っていった。

    唯「見ーっけ」

    若「これが、電話?」

    源三郎「随分と大きい」

    ト「色も鮮やかで」

    戻って、黒羽駅の四人。公衆電話を発見。

    唯「お父さんの番号は、私のスマホに入ってるからそれ見てかけよう。ちなみにー」

    電話の下にある棚から、分厚い電話帳を取り出した唯。ページをパラパラとめくる。

    唯「えーと、あった!ほら、速川クリニックの広告!」

    若「これは…大きく書かれておる」

    源「おぉ」

    ト「まぁ」

    唯「いいでしょ。前やっちまった時は、これ見てクリニックの方にかけたの。エリさんがびっくりしてたな」

    若「ほほぅ」

    唯「では、がんばってみよう!えーと、10円玉はと」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days122~10日15時、陳述します

    姉も線を引いていました。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯「お弁当一緒に食べてただけだし」

    若君「それを、仲が良いと申すのでは」

    唯「美沙とマユとれいなは、いつも三人一緒なんだよ。そこに私が入った感じ」

    トヨ「ご一緒されるようになられた、きっかけは何だったのですか?」

    唯「同じクラスになってすぐの、体育の授業で走ったの。軽くだったけど。そしたら、足速いねって声かけられて」

    ト「そこからですか。お話も沢山されたのでしょう?」

    唯「さっきの授業で先生が~とかはしゃべってたけど、恋バナなんかされても、前は興味もなかったしわかんなかったし、そんなに参加してない。お弁当の時間は超超楽しみで、食べるのに集中してたから」

    ト「それにしても」

    唯「私自転車通学だったから、朝も一人だし、三人は部活もしてなかったから、帰りの時間も違ったし。つーか、部活やってる方が珍しかったかも。吉田も帰宅部だったもん」

    若「吉田殿、か。帰宅、部?」

    唯「あ、ごめん。ただ帰ってくだけのヒトをそう言うの」

    若「…源三郎」

    源三郎「は、はい」

    若「眉間に皺が寄っておるぞ」

    ト「源ちゃん、どうしたの」

    源「唯様は、陸上部、で励んでおられたと伺いました」

    唯「うん」

    源「ならば帰宅部、とは、粛々と滞りなくそれぞれの屋敷に戻れるよう、身を正し足並みを揃え、全力を尽くす者達が集う場…であるのかと思うてしまいました」

    若「そうなのか?唯」

    唯「違う」

    源「済みませぬ、差し出口を致しました」

    若「構わぬ。先の世の言葉は奥が深い」

    唯「マジで言ってるトコが、源三郎っぽくていい。でもちょっとウケる~。全力で帰宅部がんばってます!って、みんなが整列しながら帰ってくの想像しちゃった。今月の活動目標、寄り道は1か所まで!なーんて」

    若「唯。そろそろ話を戻そうか」

    唯「ちぇー。はいはい」

    若「昼飯のみであれ、共に過ごしておったのであれば、細かく話せぬとはいえ、別れの挨拶はしておくべきではなかったか。最低限の嗜みとして」

    唯「なんかさ」

    若「何じゃ」

    唯「どーでもいいって思ったというか。わー!怒らないで!」

    若「続けよ」

    唯「明日から美沙達に会わなくなっても、淋しくないなって思ったんだよ。なんでって言われても困るけど、私がね、そんなに大事に思ってなかったんだな。つーか、私に友達って居たんかなって。クラスでもそんなんだし、部活の子達とも、タイムが上がったとかで盛り上がりはしたけど、部活終わりでどっか行くとかもあんまりなかった。友達とキャーキャーとかも覚えがない。なんとなーく毎日過ごしてた感じ。それなりに楽しかったけど。でもね!いきなり戦国時代に飛ばされて、たーくんに会えて、そっからはもー、毎日ドキドキでワクワクで、もちろん危険な時もあったけど、もー絶対たーくんを守る!って、それこそ目標ができたっていうか、人生これっきゃないって」

    若「俄に、饒舌になっておるの」

    唯「え?そーかな~」

    若「余程、友の話に触れて欲しくはなかったと見える」

    唯「気のせい気のせい」

    若「話の本質が見えにくくなりそうじゃ。もっとも、それが狙いであろうが」

    唯「ギク」

    若「ならばこうしよう。これから、わしの問いに答えよ」

    唯「…はぁい」

    若「順を追って尋ねる。昨年、此処を発った折は、そのように、美沙殿らに対しおざなりな態度であったと。ならば夏に、お父さんに二人の来訪を聞いて、どう思うた?」

    唯「わざわざ来てくれたんだ、悪かったな、でも美沙は来てないんだ」

    若「…続ける。先程の美沙殿に対しては、どう思うた?」

    唯「心配してないから来なかったんじゃないんだ」

    若「そうか。源三郎」

    源「はっ」

    若「美沙殿は大層憤慨されておったが、その様子や話しぶりを見て、どう思うた」

    源「…ご立腹も当然である、と感じました。至極真っ当なお話をされておられましたので」

    若「トヨはいかがじゃ?」

    ト「ご自分の仰りたい事は、きちんと話されていたと感じました。煮え切らない唯様の態度に怒ってみえたのが気の毒で、何度尻をひっぱたきしゃべらせようと思ったか」

    唯「私ばっか悪いみたいじゃない」

    若「さよう」

    唯「わー、味方ゼロ?!」

    若「わしは、美沙殿にハッとさせられたのじゃ。蓋し名言であった」

    唯「えぇ?」

    若「自分勝手に去っておきながら、家に様子を見に来なんだと拗ねるとは何事じゃ。この期に及び、構って欲しいなど言語道断」

    唯「うぅ、痛いトコ突かれた」

    若「構って欲しかったのじゃろ?だが美沙殿にとっては、何も事の次第がわからぬ。つい怒りを含めた口調になってしまったのは否めぬ。それを逆に責めるなど以ての外」

    唯「確かに、もっと心配して欲しかった、のかも。でもなにも説明なしで行っちゃったから、申し訳ないと言うか…あー、すっごくワガママでお子さまだったんだよ、ごめんなさい!」

    若「思うに」

    唯「なによ、まだあんの?」

    若「とどのつまり、そのような我が儘で無礼で甘えた態度が通ると思うてしまう程、美沙殿らに心を許していたのじゃ」

    唯「え」

    若「気づいてはおらぬ様だが」

    唯「…」

    若「先程駅では、別れの挨拶は出来たのじゃろ?」

    唯「うん」

    若「なら良い。誰しも、人として、完璧ではない」

    唯「たーくんはカンペキだと思うけど」

    若「いや。完璧であれば、こう拗れる前にどうすべきか、話が出来よう」

    唯「そうかな」

    若「未だお子様だ、と申しておったが、それはわしも、同じ」

    唯「ウソだ~」

    若「人の痛みがわかる者になれるよう、共に精進して参ろう」

    唯「あのぅ」

    若「ん?」

    唯「このお裁き、お咎めは、なし?」

    若「充分、心に刻んだじゃろ。もう良い」

    唯「ありがと…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days121~10日14時30分、ここはお白洲

    何でそうなった?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    再び走って、道端で待つ、若君達の元に戻ってきた唯。

    唯「ただいまっ」

    若君「無事、話せたようじゃの」

    唯「うん!」

    若「うむ。では参るか」

    来た道を戻り始める若君。

    唯「たーくん?どこ行くの」

    若「公園に戻る」

    唯「は?」

    若「正しくは、公園の脇の店じゃ。この近くでは、そこしか知らぬゆえ」

    唯「脇。って喫茶店?」

    若「さよう」

    唯「はあ?」

    若「唯の腹の内を探りとうての」

    唯「げげ!お裁きが始まるの?!つるし上げっすか?!」

    若「やましい思いがあるのであれば、そうもなろう」

    唯「ヤバっ、墓穴掘った」

    CafeMARGARETにやって来た四人。

    唯「たーくんがお茶しようなんて言うの、意外すぎる。あ、お金って」

    若「案ずるな。手持ちはある。わしのおごり、じゃ」

    唯「マジでぇ~!」

    店に入り、席についた。

    トヨ「いい香りがするわ」

    源三郎「コーヒー、ですか?」

    若「そうじゃ。この店では、お父さんが淹れるコーヒーとはまた違った、風味でいただけるであろう」

    源「それはまた」

    ト「楽しみです」

    店員「いらっしゃいませ」

    若「温かいコーヒーを四杯、頼みます」

    唯「ミルクと砂糖、いっぱい持ってきて!」

    店「かしこまりました」

    運ばれてきたコーヒーをいただく。

    若「いかがじゃ?」

    源「同じコーヒーでも、香りや味が随分と違いますね。これもまた良しです」

    ト「落ち着くわ~。って、いつもの如く、唯様だけまるで別の飲み物だわ」

    唯「ミルク砂糖たっぷりバージョン。飲んでみる?」

    ト「はあ。では、一口…ん、んー。まぁ、これもまた良し」

    唯「どーせお子ちゃまですよぅ」

    若君が切り出した。

    若「ならば、聞かせて貰おうか」

    唯「来たっ」

    若「何ゆえ、美沙殿を避けた?わしらの身の上を明かせぬのはわかる。されど挨拶もままならぬとは、到底見過ごせぬ」

    唯「うん…まあ、いろいろ」

    若「訳はあるのじゃな」

    唯「あのさ、話が下手っぴで、あっちこっち飛ぶかもしんないけど、いい?」

    若「良かろう」

    唯「去年学校やめた時さ。あ、えっと、どこから説明しなきゃいけないんだっけ」

    若「学校については、わしは夏に参った折に、お父さんに子細を伺った」

    ト「私共も存じ上げております」

    唯「そーなの?」

    源「はい。尊殿に。学校とは何か、唯様も通っておられたのかなど尋ねたところ、お辞めになった話まで一通り教えてくださいました」

    唯「いつの間にー」

    ト「こちらに参り間もなくでした。朝方、唯様が起きられる前に、時間をかけ」

    唯「ふーん。私の朝寝坊も役に立つねぇ」

    若「偶々じゃ」

    唯「なら、知ってる体で話す。でね、そん時、永禄でたーくんをこれからも守っていくんだ!って気持ちでいっぱいで、あいさつしとこうとか、ぜーんぜん考えてなくて」

    ト「それはまた…」

    唯「コーチだけ、退学の手続きした後、荷物を部室から出してたらばったり会っちゃって。しかたないから、ちょっとだけしゃべった」

    若「仕方ないなどと…コーチ殿は、学校にて唯の走りを指南されていたお方じゃ」

    ト「部活、ですね?」

    源「そこで、唯様の走る力が培われたと」

    唯「話、早っ。それも尊から?」

    源「はい」

    唯「便利だなアイツ」

    若「木村殿にも、会わず仕舞いであったと」

    唯「まあね。だってさ、ホントの事はなにも言えないじゃない。聞かれても答えらんないし、どうウソつくか考えてもさー、いつかボロがでるよ?」

    若「うむ…。美沙殿や仲睦まじくしておった者達にも、旅立つ前に話さなんだのは、それが所以か?」

    唯「そう、そう」

    唯の目がかすかに泳いだ。それを見逃さなかった若君。

    若「違うておると」

    唯「うへぇ、一緒だって~」

    若「ならぬ。つまびらかにせよ」

    唯「やだ、絶対怒られるもん。お裁きが下るってヤツ」

    若「まずは聞く。裁く裁かぬは後回しじゃ。何ゆえ美沙殿に、あのような無礼を働いたのか」

    唯「うぅ」

    ト「やはり後ろめたさがあったのですね」

    唯「ひぃ」

    若「申せ」

    唯「だって、だってそう思っちゃったんだもん…友達なんか居ない、って」

    ト「え?」

    源「先程は、てっきり言葉の綾だと」

    若「なんと…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days120~10日14時15分、後悔先に立たず

    今出来る事は今、ただやる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    口元をへの字に曲げ、押し黙っている唯。

    美沙「いやんなっちゃう。久しぶり~ってなって、熱いハグとかする流れでもいいのに」

    唯「…」

    美「あと二人は誰なの?」

    唯「…家族だよ」

    美「旦那さんの?」

    唯「うん」

    美「そう」

    大きく溜め息をつく美沙。

    美「あのさぁ。私もちょっと言い過ぎたけど、何が嫌なの?黙ってちゃわかんない」

    唯「…ごめん」

    美「それじゃ堂々巡りでしょ」

    唯「私が悪いんだよ」

    美「だから何って話よ?」

    唯「…」

    美「ふう。らち明かないし。もういい!電車の時間あるから、行く」

    キャリーバッグを引いて去っていく美沙。唯に駆け寄る若君と源トヨ。

    若君「唯」

    唯「ごめん。ザワザワして」

    若「唯らしからぬ。どうしたのじゃ。久方ぶりに会うた友ではないか」

    唯「…」

    若「旅立つまで仲睦まじゅうしておった三人の内の、残りの一人であろう?」

    唯「…よく覚えてるね」

    若「わしらが此処に居たが為に、本来蟠りなく終わった逢瀬を妨げたのじゃな」

    唯「違うよ、違う」

    若「されど、喧嘩別れの様になってしもうた」

    唯「いいんだよ、友達じゃないから」

    若「唯…」

    トヨ「唯様。そのような事を申してはなりません。大切な友でしょう?今からでも、追いかけて」

    唯「いいの」

    源三郎「唯様」

    ここで、源三郎が前に出た。唯の正面に立ち、頭を下げる。

    唯「え」

    源「畏れながら申し上げます。喧嘩別れは悲しゅうございますゆえ、電車に乗られてしまう前に和解を」

    唯「なんで?」

    源「どうかこの通り」

    唯「源三郎には関係ないじゃない」

    源「相手が居れば、仲直りのすべもあります。向き合える内にどうか」

    若「…そうか。喧嘩をし、その後二度と会えなくなった友もおったと」

    トヨ「戦、で?」

    源「あぁ。何故もっと歩み寄れなかったのかと、悔いばかりが残っておる」

    唯「…」

    若「唯」

    唯「はい」

    若「わかったであろう。走れ。そなたの脚なら間に合う」

    唯「なによ、普段は走るなって言うクセに」

    若「許す」

    唯「だって、うまく言えるか自信ない」

    若「言わずに後悔するより良かろう。行け」

    唯「…はい」

    唯は、駅に向かって走って行った。

    若「源三郎。よう申してくれたの」

    源「いえ」

    ト「忠清様。お尋ねしたいのですが」

    若「申せ」

    ト「唯様は身を隠すように歩いておいででした。あえてお声をかけられたのは、何ゆえでございますか?」

    源「それはわたくしも知りとう存じます。随分と嫌がられておられましたし」

    若「…幾度もこちらの世に参っておるが、唯のおなごの知り合いに初めて会うた」

    ト「まぁ!それは驚きです」

    若「これまで、会おうする素振りもなく、気に掛かっておったのじゃが、居たか、ようやく会えたかと。それで、安堵したのもあり」

    ト「そうでございましたか…」

    源「なるほど」

    若「されど、何ゆえあぁも拗れてしもうたのか…解せぬ」

    源「確かに」

    ト「唯様らしからぬ振る舞いでございました」

    若「うむ…。戻ったら、腹の内を問うか…」

    黒羽駅。美沙が改札を抜けようとした時、

    唯「美沙!」

    美「え」

    無事追いついた。

    唯「電車の時間、まだいい?」

    美「えぇ?…大丈夫だけど」

    唯「あのね、謝ってばっかだけどさ」

    美「うん…」

    唯「たーくんの話は、うまく説明できなくて」

    美「たーくん。旦那さん?」

    唯「あ、うん」

    美「言えないのは、旦那さん側の事情?」

    唯「…うん。だから」

    美「そっか。色々あるんだ?」

    唯「ごめん」

    美「はあ、そういう事。わかったようなわかんないような。ふふっ」

    唯「笑える?」

    美「訳わかんないところが唯だなって。うん、まあいいや。走ってきてくれてありがと。さすが、脚力は健在」

    唯「今の方が速いよ」

    美「えー、そうなの?」

    腕を広げる唯。

    美「何?」

    唯「ご希望の、ハグを」

    美「はは」

    ギュっと抱き締めあった二人。

    美「なんか唯、前ほど体カリカリじゃない」

    唯「太ったかな」

    美「そこまで言わないけど。じゃ、そろそろ行くよ」

    唯「うん」

    改札を抜け、振り向いた美沙。

    美「じゃあね、唯!」

    唯「バイバイ!美沙!」

    手をぶんぶん振った唯。美沙も、手を振りながら去っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days119~10日14時、一触即発

    まさか、根に持っていたとか?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    駅前の通りで、立ち話をしている。

    唯「これからどっか行くの?…美沙は」

    美沙「週末、三連休だから旅行行く」

    唯「三連休。あー、そうだったっけ」

    美「はい?今頃何言ってんの」

    唯「カレンダー、使わないんで」

    美「は?変わんないな、チョコチョコ訳分かんない。それより!急に学校やめて忽然と消えて、いったい、どこ行ってたの?!」

    唯「ごめん」

    美「ごめん、って」

    唯「だからごめんなさい」

    美「ごめん、だけじゃわからないけど?」

    押し問答のように話が進まない。源三郎とトヨが心配そうに見ているが、若君はどっしり構えて動かない。

    源三郎の囁き「助け舟は要りませぬか?」

    若君の囁き「要らぬ。唯がこちらの世の者に、何も語らず去ったのはまことの話ゆえ、責めるのは頷ける」

    唯「いいでしょ、今こうして元気でいるんだから」

    美「みんな、心配してたんだよ?」

    唯「みんな、ね」

    美「何その言い方」

    唯「美沙も入ってる?」

    美「えぇ?」

    唯「家に、見に来なかったでしょ」

    美「…」

    はたと、何かに気付いた若君。

    若君 心の声(あの話、此処に繋がるのか)

    ┅┅回想。昨年夏、令和に来て間もなく┅┅

    速川家リビング。仕事中の美香子以外、揃ってお茶を飲んでいる。

    覚「前回、クリスマス前に帰ってさ。退学も手続きして」

    唯「うん」

    覚「結局、先生や友達に何も説明しなかったみたいだな」

    唯「まあ、ね」

    覚「急に居なくなった形だっただろ。三学期が始まってすぐ、女の子が二人、様子を見に家に訪ねて来てくれたんだよ」

    唯「二人?」

    覚「同じクラスって言ってたぞ」

    唯「…三人じゃなくて?」

    覚「うん。せっかく心配して来てくれたけど、説明は曖昧にした。ごめんね、って謝っておくのが精一杯だったな」

    唯「どんな感じの子だった?」

    覚「背が高くてショートカットの子と、ロングヘアの子」

    唯「ロングヘア…前髪は?」

    覚「前髪?おでこは出てたな。名前聞いてあるから、えーとメモメモ」

    奥の棚をゴソゴソ探す覚。

    尊「気になるよね。誰が心配してくれてたか。でもさ、もしかして」

    唯「なによ」

    尊「思ってたメンバーというか、仲良くしてた友達とは、違うの?」

    唯「違わないけど…」

    覚「あったあった。うーんと、マユちゃんと、れいなちゃんだ」

    唯「…そうなんだ。それっきり?誰も?」

    覚「そうだな」

    唯「ふーん…」

    覚「わざわざ来てくれたんだぞ?もっと喜ばないと」

    唯「うん…」

    若君「唯」

    唯「んー?」

    若「礼を欠いて旅立ったのにも拘わらず、身を案じ訪ねてくれたなど、有り難いばかりではないか」

    唯「ん、そうだね」

    若「腑に落ちぬ顔をしておるの。どうした」

    唯「なんでもない」

    答えながら、席を立つ唯。

    若「唯、何処へ行く」

    唯「トイレ!」

    若「…」

    言葉通り、トイレに入っていった。

    尊「思うに」

    若「ん?」

    尊「さっきお姉ちゃん、三人じゃないのかって言ってましたよね」

    若「申したな」

    尊「仲良くしてた人が、一人入ってないのかもしれません」

    若「そうか…」

    尊「お姉ちゃんは、女同士のドロドロした人間関係とかなさそうですけど、ちょっと繊細な問題なんで、あまり細かく聞かない方がいいと思います」

    若「わかった」

    ┅┅回想終わり┅┅

    美「ねぇ、噂で、結婚したって聞いたんだけど」

    それを聞き、若君が歩み寄る。え?と驚く美沙。

    若「こんにちは。妻が、世話になっております」

    美「あ、どうも…うっそ、マジで?!」

    唯「マジだよ」

    美「いつの間に…あれ?何か旦那さんに初めて会った気がしない。もしや、前世で結ばれなかった、とか~?」

    唯「その辺で見ただけじゃないの?それよりさ、話、そらしたね」

    嫌そうな顔をした美沙。

    美「はいはい、確かに、マユ達と一緒には行かなかった!」

    唯「…」

    美「心配してなかったんじゃない、怒れただけ。何も言わずに学校やめたら、あっそ、相談もなし、そういう事?ってなる。冷たいって言いたいの?冷たいのは唯の方でしょ!」

    唯「言い方、きっつ」

    美「勝手に逃げといて、かまって欲しいなんて、おかしくない?」

    唯「う…。違う、逃げたんじゃない!」

    美「ウソばっかり。今だって、隠れてたじゃない!」

    源三郎「どうすべきか…」

    トヨ「唯様…」

    止めに入りそうなトヨと源三郎を、後ろ手で制止している若君。

    若「まぁ待て」

    ト「でも」

    若「唯が、怒りの種を蒔いたのじゃ。片は己でつけねばならぬ」

    源三郎&トヨ「…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days118~10日金曜7時30分、再会

    冬の朝なのに、ホットスポット。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    いつもより、かなり早く家を出た尊。

    尊 心の声(御触書の説明、小さいよ)

    小垣駅で一旦下車し、ロータリーにある立看板を見ていた。

    尊 心(もっと吉田城跡を前面に出して、大きく作って欲しいな。これは見逃すよ)

    ロータリーから離れ、駅の入口に立った。

    尊 心(時間的にはそろそろだけど…あ、来た)

    駅に向かって、瑠奈とみつきが歩いてくる。

    みつき「あー?ちょっと、瑠奈!」

    瑠奈「声が大きいよ。どうしたの」

    み「約束してたんなら、そう言ってよ~」

    瑠「約束?あっ、尊!どうして?」

    み「え?してないの?」

    三人が合流した。

    尊「おはよう、ミッキーさん、瑠奈」

    瑠「おはよう…」

    み「おはよセンセ。あのさ、思うんだけど、みつきよりミッキーさんの方が名前長くなってるじゃない。呼びにくくないの?」

    尊「キャラに合ってると思うから」

    み「いいけどさ。それより何、今朝はサプライズっすか?昨日、事件勃発したから?」

    尊「それは、丸く収まったからいいんだよ」

    み「まぁいいや。王子様のお出ましとなれば、私は去るべしなんで。じゃ!お先に~」

    瑠「ごめんねー」

    尊「また教室で」

    みつきは、改札を駆け抜けていった。

    瑠「どうしたの?わざわざ、早く家出てくれたの?」

    尊「うん、まあ。ミッキーさんと、しゃべっていたかった?」

    瑠「ううん、みつきとはいつでも、お弁当食べながらでも話せるもん」

    尊「何となくさ」

    瑠「うん?」

    尊「周りを刺激してみたくなったというか」

    瑠「…」

    尊 心(立看板を確認しておきたかった、のもあるけど。それは内緒で)

    瑠「ラブラブを見せつけちゃうの?」

    尊「ははは」

    瑠「悪いコだ」

    尊「悪いコは、困りますか?」

    瑠「困りませーん。ふふっ」

    変わって、昼前の速川家リビング。

    唯「買い物、要る?」

    覚「ちょっと食材が心細い。実は、忠清くんの料理用の分も鍋に使ってさ」

    唯「そりゃヤバい。明日の昼までに行かないと!」

    若君「ならば、今日の内に済まそうではないか。お父さん、四人で行って参ります」

    覚「頼もうかな。もう今日明日だけだし、ついでにプラプラしてきたらどうだ。黒羽城公園とかさ」

    唯「そうしよっか~」

    昼過ぎ。買い物メモを渡された唯。

    唯「散歩してからスーパーに行くよ。帰るのゆっくりめでもいい?」

    覚「いいぞ」

    まずは公園に到着。城跡の姿を目に焼きつけた後、若君の墓を訪れた。

    トヨ「忠清様の名のお墓に、手を合わせるのもいかがかとは思うのですが」

    源三郎「つい、拝んでしまいます」

    若「いや、それはわしも同じじゃ。合掌しとうなる」

    唯「なんかヘンだけどさ。私も拝んどこー」

    公園を抜け、駅前の通りを臨む。

    唯「夜行く店、ここをずっと行ったトコにあるんだよ」

    ト「そうなんですね」

    唯「では、スーパーに向かいますか~」

    駅を背に歩き出した。すると前方から、ガラガラとキャリーバッグを引きながら、女性が一人こちらに向かって来る。

    源「何やら音がいたします」

    若「あのおなごが引く荷車であろう。空港と申す、羽ばたかぬ大きな鳥が空を行き交う為の巣に、唯と参った折によう見掛けた」

    なぜか、唯の様子がおかしい。

    唯「うわ…会わずに済むと思ってたのに」

    他の三人の陰に隠れるように歩いていたが、その女性が、唯に気付いた。

    女性「…もしかして、唯?」

    唯「うっ」

    女「ちょっと!マジで唯なの?!」

    唯「…」

    明らかに避けている唯に、若君が声をかける。

    若「唯。呼ばれておるぞ」

    唯「わー!なんで!そこは拾わないで!スルーしてよ~!」

    女「やっぱ唯じゃん。びっくり!イメージ変わってて、一瞬わかんなかったけど」

    唯「…」

    トヨの囁き「出来れば会いたくなかった方みたいだけど」

    源三郎の囁き「いかがされたのであろう」

    若「…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    今までの四人の現代Days、番号とあらすじ、92から117まで

    no.977の続きです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    92no.978、1/5、若君が尊をお姫様抱っこ

    93no.980、1/5、トヨのドレスに覚感涙

    94no.982、1/5、撮影開始。唯と若君はコスプレ

    95no.984、1/5、衣装の深淵な意図

    96no.986、1/6、エリお手製の結婚式グッズ

    97no.991、1/6、尊が見たのは白昼夢か予知夢か

    98no.993、1/6、源トヨの結婚式を粛々と

    99no.994、1/6、トヨの決心と吉田城の謎解き

    100no.995、1/6、木村先生は苦悩していた

    101no.996、1/7、みつきとの舌戦はいつも完敗

    102no.997、1/7、小垣駅へGO

    103no.998、1/7、カフェで満腹。待った者には褒美を取らす

    104no.999、1/8、覚は修行僧になれるか

    105no.1000、1/8、美香子と源トヨで買い物へ。今が最良の寛ぎ時間

    106no.1002、1/8、サウナで賑やかに

    107no.1003、1/8、仙人だって腹は減る。最終日はどこに遊びに行こう

    108no.1004、1/9、レトルトを活用しよう。尊のSOS

    109no.1005、1/9、瑠奈がこじれている

    110no.1006、1/9、バタつきながらも招く準備

    111no.1007、1/9、家族形態も色々ある

    112no.1008、1/9、父が瑠奈母の説得を試みる

    113no.1009、1/9、瑠奈をすぐ帰さずに済んだ

    114no.1010、1/9、未遂に終わる

    115no.1011、1/9、唯がズバリと斬り込む

    116no.1012、1/9、羽木家のお陰でカップル誕生

    117no.1013、1/9、声も惚れられている尊

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    四人の現代Days117~9日21時、奏でていてね

    お疲れ様。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    父に呼ばれた。

    覚「おーい、尊、瑠奈ちゃん。おいで」

    尊「行こう」

    瑠奈「うん」

    唯「じゃあね、るなちゃん」

    瑠「ありがとうございました」

    瑠奈は唯達四人に会釈をし、尊と玄関に向かっていった。

    トヨ「ふう、一件落着かしら。って、唯様何してるんですか」

    唯「どうなってるか気になるー」

    廊下をチラチラと覗いている唯。

    唯「はいはいなるほど!わかり申した!ねぇ、こっちこっち」

    ト「何ですか?」

    トヨの手を引っ張り、部屋の隅へ連れて行く唯。

    唯の囁き「なんで、るなちゃんがたーくんにキャーキャー言わなかったか、わかったよ」

    トヨの囁き「それはまたどうして?」

    唯 囁き「るなちゃんのお父さん、超イケオジなんだよ!あんなカッコいいパパが家に居たら、たーくんにはそんなに驚かないのかもって。お母さんも、超キレイなの!」

    ト 囁き「へぇ、気になる…」

    唯 囁き「トヨもチラっと見てみたら?」

    ト 囁き「少しだけ、拝顔させていただこうかしら」

    二人で再び廊下を覗く。

    唯「ねっ!」

    ト「確かに。お母様も、とてもお美しい方でいらっしゃるわ~」

    小声ではしゃぐ姿に、若君と源三郎がキョトンとしている。

    若君「何を騒いでおるのか」

    源三郎「さあ…」

    瑠奈と両親は、帰っていった。リビングに戻ってきた三人。

    美香子「はーい、お疲れお疲れ~」

    覚「まあ、良かった良かった」

    美「でもびっくりしたわ~。ご両親が、俳優さんと女優さんかしらと思う程、美形で」

    覚「彼女の両親だからな。頷ける」

    尊「お兄さんもそうだよ。前に写真見せてもらったけど」

    美「そうなの~。美男美女一家なのね」

    ト「お茶いかがですか」

    覚「ありがとう」

    美「今、お菓子いただいたのよ。早速開けましょうか」

    再び、お茶の時間となった。

    覚「そういえば尊、制服のままだったな」

    尊「うん。まぁ、お風呂までこのままでいいよ」

    立ち上がった尊。

    美「何?」

    尊「今日は、いろいろごめんなさい」

    一礼する。

    覚「こんな事もあるさ」

    尊「兄さん達も、言葉を選んで話をしてくれて」

    若「まずまずの出来と思うたが、いかがじゃ」

    尊「バッチリでしたよ。それに良かった、居酒屋さんに明日は行けそうで」

    覚「また、瑠奈ちゃんの機嫌を損ねなければな」

    尊「うへぇ。頑張ります」

    美「そうそう!提案、というかほぼ決めちゃったんだけどね」

    唯「なんすか」

    美「明日の予定だった、忠清くんの料理の機会が今浮いてるじゃない。それ、土曜の昼にしましょうよ。ていうか、して」

    覚「いいんじゃないか。どう?忠清くん」

    若「はい。それは是非ともお願いしとう存じます」

    美「土曜の昼が、芳江さんとエリさん、会うの最後じゃない」

    覚「そうだな」

    美「昼ごはん、ご一緒しませんかって誘ってたんだけど、それが忠清くんの料理だったらもっと喜んでくれるから」

    若「おぉ」

    唯「いいねー」

    覚「お二人は何て?」

    美「最初は、家族水入らずがいいんじゃないですかって二人とも遠慮されてたの。夜もあるからいいのよって言ってたんだけど、さっき、シェフが忠清くんになるかもって話したら、ちょっと目の色が変わって」

    覚「ははは。僕の料理はいつでも振る舞えるからな」

    美「おウチと相談はするけど、多分参加できる、って。二人とも」

    唯「やったね」

    さて。その頃の瑠奈と両親。帰りの車内。

    瑠奈の父「彼、尊くんさ」

    瑠「うん」

    瑠父「前に、声が聞きたいって電話してたじゃないか。確かに、魅力的ないい声してる」

    瑠奈の母「それは私も思ったわ。どちらかというと高い声だけど、響くような」

    瑠「いいでしょ。私は、聞いてて気持ちいい。ゾクゾクしちゃう」

    瑠父「そうだな、マリンバを奏でるような」

    瑠「マリンバ?」

    すぐに演奏する動画を探す瑠奈。

    瑠「うん、うん!わかる~」

    瑠母「あまり彼を困らせると、話をして貰えなくなって、声が聞けなくなるわよ」

    瑠「はぁい。気を付けます」

    戻って、速川家。

    尊「トヨさんも、すっかり姉になってましたね」

    ト「そうですか?上手く事が運んだなら、何よりです」

    尊 心の声(瑠奈は、トヨさんを両親どっちの娘だと思ったんだろうな。聞くのも変だし。あーでも、無事に済んで良かった)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    9日のお話は、ここまでです。

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    四人の現代Days116~9日20時45分、恐縮です

    彼女をゲットできたのは、尊の実力。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈の発言を待っている。

    瑠奈「私」

    唯「うんうん」

    瑠「尊くんを、すごく尊敬してるんです」

    唯「尊敬。そんなにコイツ、立派だっけ?」

    美香子「唯~。いい話じゃないの。尊敬から憧れ、そして恋に発展したパターンかな」

    瑠「地元の歴史への造詣の深さに、とても感動して」

    覚「地元?」

    瑠「立て板に水だったんです」

    美「何か説明でもしたのかしら?」

    瑠「え、聞かれた事ないんですか?」

    尊「うわ」

    美「その反応は何」

    瑠「えー、絶対聞くべきだと思います!すごかったんですよ、羽木一族の存亡についての話」

    唯「え」

    一瞬、周りが静まりかえる。その様子には気付かない瑠奈。話を続ける。

    瑠「流暢で分かりやすい説明で、とっても素敵だったんです」

    美「いつ、どこで聞いたの?」

    瑠「学校のホームルームで、えーっと…先月の18日です。ほれぼれするほど、かっこ良かったんですよ!先生の話に、それは間違いです!って、すっくと立って発言して」

    美「あら」

    覚「それはまた」

    瑠「それで、続きが知りたい人だけ、放課後残って話を聞きました」

    美「18日。回転寿司に行った日ね」

    覚「その日確か、クラスメートとおしゃべりしてて、帰りが遅かったんじゃないか?」

    唯「あー、あの日」

    覚「大学の話だけしてたと思いきや。ははは、やるなぁ、尊」

    尊「…どうも」

    唯「尊さぁ」

    尊「なんだよ」

    唯「アンタ、なにげにいろいろやってたんだ。それで、るなちゃんをゲットしてさ。これは、羽木家に感謝しないとねー」

    尊「うん。それは、その通り」

    源三郎とトヨが、顔を見合わせて微笑んでいる。

    若君「尊」

    離れて静観していた若君が、ゆっくりと近づいてきた。唯の隣、尊の正面に当たる位置に座る。

    尊「兄さん…あの」

    若「その存亡話、興味がある」

    尊「ですよね」

    若「また、じっくりと聞かせてくれないか。感銘を受ける程であれば尚更、知りたい」

    尊「かしこまりましたっ」

    瑠「ふふふ。殿と家臣みたいだね」

    唯 心の声(家臣までいかない。小姓)

    瑠「尊、本が書けると思う。話すだけじゃもったいないよ。残しとくべき」

    美「うん。なんやかやで、話を一番まとめられるのは、尊よね。書いちゃう?」

    尊「はあ」

    若「手伝おうか?」

    唯「うわ、ぜーたく」

    尊「いやいや!畏れ多いです」

    覚「ははは。宴もたけなわだが、そろそろご両親、おみえにならないか?」

    美「あらホントだ」

    トヨが、瑠奈のブレザーを持ってスタンバイしている。

    トヨ「はい瑠奈さん、上着どうぞ」

    瑠「ありがとうございます。お姉さん」

    いつの間にか庭に出ていた、源三郎が戻ってきた。

    源三郎「お父さん、今、車が入られました」

    覚「寒いのに見に行ってくれてありがとう。いやぁ、この目の配り方には感心だなー」

    美「忘れ物はない?」

    瑠「はい」

    そして、玄関の呼鈴が鳴った。

    覚「まずは僕と母さんで行ってくるから」

    尊「うん」

    リビングの出口に立って、呼ばれるのを待つ尊と瑠奈。玄関から、両親同士が話す声が聞こえてくる。

    瑠奈の父「この度は、娘が大変ご迷惑をおかけ致しました」

    覚「いえいえ~。楽しい時間を過ごさせていただきましたよ」

    瑠奈の母「こちら、皆さんでお召し上がりください」

    美「そんな、気にしていただかなくても。わざわざすみません」

    緊張している瑠奈。尊の腕を掴んでいる。

    ト「大丈夫ですよ。頭ごなしに怒られるなんてありません。お父さんお母さんが間に入ってますからね」

    瑠「はい」

    尊「ありがとう、トヨ姉さん」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days115~9日20時、慌てます

    スペシャル鍋、イケメンの給仕付き。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに下りてきた尊と瑠奈。

    美香子「初めまして、瑠奈ちゃん。尊の母です」

    瑠奈「こんばんは。初めまして、おばさま。お邪魔しています」

    美「あらん。おばさま。いいわ~。いつ、お母さんに変わるかしらね」

    瑠「えっ」

    尊「お母さん、何言ってるの!」

    美「こんなに可愛らしくて、話のきちんと出来るお嬢さんが、娘ならいいわねぇって」

    尊「時々暴走するけどね」

    美「少しはフォローしなさいよ。あら!真っ赤になっちゃって」

    瑠「…」

    尊「ごめんね。母が調子に乗って」

    瑠「ううん。…そうなったら、いいな」

    尊「えっ」

    唯が、ニヤニヤしながら近づいてきた。尊の顔をジロジロ見ている。

    尊「な、何だよ姉ちゃん」

    唯「あれ~?キラキラじゃなーい」

    尊「はあ?」

    唯「くちびるが」

    尊「…うるさいよ」

    唯「えー、してないのぅ?」

    尊「ほっといて」

    唯「つまんなーい!」

    尊「もういいから、あっち行って!」

    鍋は、二つ用意されていた。

    尊「味違い?」

    覚「8人なら鍋二つ要るから、どうせならって豆乳鍋とチゲにした。じゃあ、始めるか」

    晩ごはんが始まった。

    尊「もう一個の鍋、遠いよね。取ってきてあげるよ」

    瑠「ありがとう。あ」

    若君「尊、瑠奈さん。器を。取りましょう」

    尊「すいません、兄さん」

    瑠「ありがとうございます、お兄さん」

    手際良く盛り付け、二人に渡す若君。

    若「どうぞ。熱いので、気を付けて」

    瑠「はい」

    尊「ありがとう」

    その受け渡しの様子を、じっと見ていた唯。

    唯の囁き「やっぱありえない。たーくんこんなにカッコいいのに反応なし。なんで?」

    トヨの囁き「そんなにキャーキャー言って欲しいの?人それぞれでいいのに」

    唯 囁き「謎過ぎるんだってば」

    晩ごはん終了。

    瑠「私、運びます」

    美「あら、いいのに。って行っちゃったわ」

    瑠「こちらを…」

    トヨ「あら、ありがとう瑠奈さん」

    唯「置くトコないからもらっとくー」

    瑠「お兄さん達が、片付けてる…」

    若君と源三郎が、洗い物をしていた。

    唯「だって土鍋って重いし」

    若「重くなくてもやる」

    唯「まーねー。るなちゃん、ありがと」

    瑠「はい」

    ペコリとお辞儀をして、瑠奈は戻っていった。

    唯「はー」

    ト「今度は何」

    唯「一つしか歳違わないのに。あの胸、うらやましい」

    ト「はあ」

    食卓が綺麗に片付いた。

    覚「紅茶にするか」

    ティーカップに注いでいると、瑠奈のスマホが鳴った。

    瑠「もしもし。はい。わかった。伝えるね」

    尊「何時頃着くって?」

    瑠「今から出るから、あと15分くらいだそうです」

    美「そう。ならお茶する時間はあるわね」

    唯「あと15分?ヤバいヤバい」

    美「何よ唯」

    唯「私、るなちゃんに聞きたい事あってさ。どいてどいて」

    瑠「はい?」

    座っていた母を押しのけ、瑠奈の前の席に陣取る唯。

    尊「ヤな予感」

    唯「ねぇ、いったい、尊のドコがいいワケ?」

    瑠「どこ…」

    尊「わー!」

    唯「なによ、照れてんの?」

    尊「いや、理由で一部…」

    若君の方をチラっと見る尊。

    若「?」

    尊「その…」

    唯「なによウダウダして。ねっ、るなちゃん、教えて~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days114~9日19時30分、間一髪?

    はいどうぞ!って言われても、焦る。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊の部屋に尊と瑠奈。

    尊「どうして謝るの?」

    瑠奈「なんとなく、他に彼女居ないってわかったし、家族とすごく仲良しなのもわかった」

    尊「それは、疑いが晴れて良かったよ」

    瑠「ごめんね。私…邪魔なんだね」

    尊「は?」

    尊 心の声(一難去ってまた一難?!今度は何!)

    瑠「尊には、やりたい事や究めたい事が多くって、きっと時間があればそれに没頭したいよね」

    尊「…」

    瑠「私が、付き合ってってワガママ言ったから、その時間を割いてくれてるんでしょ」

    尊「それは…」

    瑠「そうじゃない?」

    尊「…」

    尊 心(鋭いな。よく見てる。でも、気を遣わせてしまってはいけないんだ。タイムマシンの話は…ずっと出来ないかもしれないけれど、気持ちは隠さず正直に伝えたい)

    尊「一度も思わなかったかと言われると…」

    瑠「やっぱり。ごめんね、一緒に居ちゃ」

    尊「でも今は違う」

    瑠「違うの?」

    尊「没頭している時間は、それなりに楽しかった。でもそれは、いわばモノトーンの世界」

    瑠「…」

    尊「そんな僕に、瑠奈が嵐を起こしながら現れて。最初は、なるようになればいいって感じだったけど」

    瑠「強引だったよね」

    尊「自分の世界が、徐々に色付いていくのがわかったんだ。とても華やかな、経験のない」

    瑠「…」

    尊「こんな世界があったんだ、なんて心地よいんだって思った」

    瑠「嫌じゃない?」

    尊「うん」

    瑠「じゃあ、好き?あっ」

    尊「ん?」

    瑠「面倒な女だと思ってるよね」

    尊「あれ、気付いてるんだ」

    瑠「ひどーい。頭の片隅にはあるんだよ、一歩手前で止めとけって。でもつい、つい動いちゃうの」

    尊「で、ジタバタしてるんだ」

    瑠「ごめんなさい」

    尊「あはは」

    瑠「笑っちゃヤだ」

    尊「いいよ」

    瑠「いいよ、って?」

    尊「…ジタバタしてる月の女神、好きだよ」

    瑠「…」

    尊 心(うわ、渾身の告白、玉砕ですか?!)

    瑠「尊って、どうしてそんなに優しいの?」

    尊「え、どうして?それは…僕、尊敬する人が居てさ」

    尊 心(兄さんに追いつくのは一生無理だけど)

    尊「その人なら、こんな時どうするかな、って考えてから行動するようには心掛けてる」

    瑠「そっか。とっても素敵な人なんだね。だから、落ち着いて一歩引いて動けるんだ」

    尊 心(思考回路、最大限に使ってますから)

    尊「だから、ワガママなんかじゃないし、邪魔なんてこれっぽっちも思ってない。何も気にしなくていいよ」

    瑠「すっごく嬉しい。ありがとう」

    尊「わかってもらえて安心したよ」

    瑠「うん、うん」

    尊「僕の方こそ、ありがとう」

    瑠「え?」

    尊「今日は家まで来てくれて」

    瑠「…え!たけるん、素敵過ぎる!」

    笑顔の瑠奈が、尊に近づく。

    尊 心(わー、何?!あれ、止まった)

    かなりの至近距離に立っているが、それ以上近寄っては来ない。

    瑠「たけるん。私がおととい言った言葉、覚えてる?」

    尊「え…何だっけ」

    瑠「私、来てもらう方がいいの」

    尊「あ、あー」

    尊 心(それはまさしくアレ、アレですね?!あー、瞳に吸い込まれそうだ。このまま…はっ!待て、落ち着いて考えろ!だってまだ何日も経ってないよ?ここまで早過ぎない?!いいの?って、わー、めっちゃ待ってるよー!行くしかないって?!え、えーっと)

    おずおずと、両手で瑠奈の肩を包んだ尊。

    尊 心(わーっ!!女の子って、なんでこんなに柔らかいんだ!どうしよう、動けないよ!)

    その時、部屋の外で声がした。

    美香子「尊~、瑠奈ちゃーん、ご飯用意出来たから、下りてらっしゃいね」

    母の気配はすぐに消えた。

    尊「…はっ!ご飯、できたって」

    瑠「今の、お母さん?お仕事終わったんだね」

    尊「じゃ、じゃあ行きますか」

    尊 心(お約束のオチってホントにあるんだ。何というか…)

    ゆっくりと、瑠奈の肩から手を離した尊。瑠奈が、上目遣いで微笑む。

    瑠「奪っちゃえば、良かったかな」

    尊「ええっ!」

    瑠「ウソウソ。尊のタイミングでいいよ」

    尊「すいません…」

    瑠「待ってるからねー、たーけるん」

    尊「は、はい…」

    二人、階段を下りていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days113~9日19時、一息ついて

    お父さん、大活躍。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚と、瑠奈の母との電話が続いている。

    覚「こんな不安定な状態のお嬢さんを、このまま帰らせるのは僕も気が引けますし」

    尊 心の声(お父さん、頑張って)

    覚「これは提案なんですが、よろしければ、お嬢さんに晩ごはん召し上がってって貰えればと思いますが。母親の仕事終わりを待ちますんで、もう少し後の時間のスタートなんですがね…いやいや、お気になさらず。賑やかな方が楽しいですし、我が家は7人家族なんで、人数増えても全く問題ありません」

    唯「…どしたの、二人とも」

    源三郎とトヨが、涙ぐんでいる。

    トヨ「七人家族、なんて。嬉しいわ」

    源三郎「しかも、何の躊躇もなくさらりと話された。欣快の至りでございます」

    唯「きんかいの…それ、武士言葉?」

    若君「それはわからないが、言いかえるならば」

    唯「うん」

    若「超嬉しい、だ」

    唯「へー。ならそう言ってよぅ」

    源「ちょ、超嬉しい、です」

    若「フフフ」

    しばらく電話が続いたが、

    尊「え、終わり?」

    覚「はい、ありがとうね」

    スマホを瑠奈に返した覚。

    覚「私の一存では決められないからと、ご主人に相談してから、またかけてきてくださるそうだ」

    瑠奈「はい。わかりました。ありがとうございました」

    覚「どういたしまして」

    尊「じゃあ待つしかないね」

    ト「待つ間、お茶もう一杯入れようかしら」

    唯「今度は全員分にして」

    ト「そうね」

    覚「おーい、立ったままも何だから、こっちで座って飲みな」

    全員、静かにお茶をすすっていると、瑠奈のスマホが着信した。

    瑠「出ます」

    覚「うん」

    瑠「もしもし。…うん、うん。いいの?」

    尊「いい感触みたい」

    瑠「うん。…あの、母が代わってくださいって」

    覚「はい、代わりました。…あー、そうですか?こちらから行きますのに…ご主人もお疲れのところ帰ってすぐでは大変ですんで、晩ごはんはゆっくり済ませてからにしてくださいね。えぇ、いいんですよ。ウチ、分かりますか?はい、速川クリニックでナビを入力していただければ。門を開けておきますので、そこからお入りください。はい、でしたら、またご連絡お待ちしています。いえいえ。お嬢さんに代わります」

    瑠「うん…うん。わかった。はい」

    電話終了。

    瑠「父の帰宅後、母と一緒に車で迎えに来るそうです。9時頃になりそうだけど、家を出る時連絡するって言ってました」

    覚「良かった良かった。ちゃんと晩ごはん、食べてきてくださるかなー。慌てて来て貰ってもね」

    瑠「食べてくると思います。先生のお仕事に合わせてるのなら、あまり早く行ってお食事中でもいけないからって言ってました」

    覚「そうかそうか。その分尊と長く一緒に居られる訳だ。良かったな、尊」

    尊「あ、うん」

    瑠「おじさま」

    覚「おじさま?!」

    席を立ち上がる瑠奈。

    瑠「ありがとうございました」

    深々とお辞儀をした。

    覚「いやいや、えへへ。おじさまなんて、言われたことないから照れるよ」

    ト「では、支度の続きを始めましょうか」

    唯「ラジャ!」

    ぞろぞろとキッチンへ向かう唯達。

    瑠「あの、私もお手伝いします」

    覚「いいんだよ。四人も居て手は足りてるからさ。座ってて」

    瑠「はい…」

    覚「座ってて、も何だな。尊」

    尊「なに」

    覚「部屋を案内したら。支度できたら、呼んでやるから」

    尊「え」

    覚「何だ?見られて困る物でもあるのか?」

    尊「ないよ。ないない」

    覚「じゃあ、行ってきな。瑠奈ちゃん、また後でね」

    瑠「はい!」

    覚「元気になって良かったよ」

    二人、階段を上がっていった。

    覚「ふう。やれやれ」

    唯「お父さん、いいの?二人きりなんかにしちゃってさ」

    覚「忠清くん達の緊張がピークに達してたから、ちょっと舞台からはけて貰ったよ」

    唯「あー。確かに。ボロが出ないように、みんながんばってたもんね。ひとまずお疲れ~かな」

    変わって、尊と瑠奈。部屋のドアを開ける。

    尊「どうぞ」

    瑠「うん。失礼します…」

    尊 心(うわ。この見慣れた風景に瑠奈が居るなんて)

    瑠「わぁ、本がたくさんある」

    尊「うん」

    瑠「歴史の本が見当たらない…え?もしかしてあの話、全部頭に入ってるの?!」

    尊「そうなるね」

    瑠「尊、すごい!ますます尊敬しちゃう!」

    尊「褒めてくれてありがとう。それほどでもないよ」

    瑠「天文学の本とか、力学の本が多いね。学者さんみたい」

    尊「たまたまね」

    尊 心(何を造ってるかまでは、想像できないはず)

    瑠「あ!私のあげた御守!机の真ん中に置いてくれてるの?嬉しい!」

    尊「当然でしょ」

    瑠「ありがとう」

    ぐるっと部屋の隅々まで見渡した瑠奈。急に下を向き、黙りこくった。

    瑠「…」

    尊「どうしたの?」

    瑠「ごめんなさい」

    尊「電話、何とかなったじゃない。気にしないで」

    瑠「違うの」

    尊「え?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days112~9日18時、出番が来た

    頼れるぅ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    何度も、瑠奈のスマホがブルブルと振動しては止まるを繰り返している。

    尊「電話、出ない?」

    瑠奈「…」

    覚「うーん。ちょっと話を整理しようか。相手はお母さん?自宅にいらっしゃるのかな」

    瑠「はい」

    覚「親子の仲って…」

    尊「それは、かなりいい方だと思うよ」

    覚「だったら、怒ってみえるのは、連絡せずに遅くなってるからか。どう?」

    瑠「それも少しはありますけど…」

    覚「じゃあ、何に一番怒ってみえる?」

    瑠「大事な試験の前なのに、家に遊びに行くなんて何考えてるのって…」

    尊「…」

    鍋の準備をしながら、離れて様子を窺う唯達四人。

    唯の囁き「だよねー。センター試験来週だから、フツーはこんな時に来ないかも」

    若君の囁き「唯」

    唯 囁き「なに」

    若 囁き「尊の学びを最も妨げているのは、僕らに他ならないと思うぞ」

    唯 囁き「言われてみれば」

    若 囁き「瑠奈さんを、悪くは言えない」

    唯 囁き「たーくん」

    若 囁き「ん?」

    唯 囁き「現代語、がんばってるぅ」

    若 囁き「当然だ」

    戻って、瑠奈と覚。

    覚「で、何て仰ってるの?」

    瑠「さっさと電車乗って帰って来なさい、って…」

    瑠奈の目が、みるみる潤んできた。

    尊「わー、ハンカチ!えっと二枚目どこに入れたっけ?あった!はい瑠奈、使って」

    瑠「ごめんなさい」

    覚「そうか…。お母さんのお気持ちはわかる。でも、まだ尊の傍に居たいんだよね」

    コクリと頷く瑠奈。

    唯 囁き「尊、めっちゃ愛されてない?」

    トヨの囁き「一途ね。すがるような目で尊さんを見てるところなんか」

    唯 囁き「いったい尊のどこ…」

    ト 囁き「静粛に」

    瑠奈が、ハンカチを尊に返す。

    瑠「ありがとう」

    尊「ううん」

    覚「お母さんも、厳しいね。帰る時は、ちゃんと車で送ってあげるから、心配しなくていいよ」

    瑠「あの、母は車の免許持ってないんです」

    覚「そうなんだ。だから自力で帰ってこい、なんだな。お父さんは、いつも何時頃帰宅されるの?」

    瑠「8時とかです」

    覚「晩ごはんは、お父さんが帰られてからなのかな?」

    瑠「はい。あまり遅くならない限り」

    覚「そうか。んー」

    尊&瑠奈「…」

    覚「よし」

    尊「よし?」

    また、瑠奈のスマホが鳴り出した。

    覚「瑠奈ちゃん、電話に出て。でもって、僕に代わってくれる?」

    瑠「…はい。わかりました」

    唯 囁き「説得するんかな」

    若 囁き「母君は随分と気が立っておられるようだが、お父さんなら上手く事を運ばれるであろう」

    瑠「…もしもし。もー、説教はいいから!尊のお父さんが、電話代わって欲しいって。ホントだって!代わるよ」

    スマホをキュキュッと拭いて、覚に差し出した。

    瑠「お願いします」

    覚「はい」

    皆で固唾をのんで見守る。

    覚「もしもし。初めまして、尊の父です…いえいえ!いいんですよお母さん、そんなに謝っていただかなくても」

    不安そうにしている瑠奈に、話しかける尊。

    尊「きっとお父さんが、上手く話をしてくれるよ」

    瑠「うん」

    瑠奈が、尊の腕をギュっと掴む。

    尊 心の声(わぁ、家族の前なんでちょっと…めっちゃギャラリーに見られてるし!)

    そのまま、尊の顔を見上げた瑠奈。

    瑠「もう帰んなきゃ、ダメかなぁ」

    尊「多分大丈夫だよ。あ、そうか」

    瑠「?」

    尊「確認したいんだもんね。僕の素行調査」

    瑠「…意地悪」

    尊「えぇ?また悪者扱い?」

    瑠「それもあるけど、まだ尊と離れたくない。もっと一緒に居たいの。いつも、駅で別れるのがすごく淋しかった。尊は、違うの?」

    尊「違わないよ」

    瑠「ホントに?嬉しい」

    笑顔を見せ、尊に体を寄せた瑠奈。

    尊 心(可愛いいな。いや、浮かれている場合じゃない。周りの空気が明らかにおかしいんだよ…やっぱり!)

    唯とトヨが、口元を押さえ、体をよじりながら悶絶している。若君と源三郎も、何ともいえない顔をしながら視線を合わせようとしない。

    尊 心(は、はは…ちょっといたたまれないかも。恋愛モード全開で、何かすみません。もうあちこち気になって、電話の顛末が耳に入ってこないよ~)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days111~9日17時30分、その線でいこう

    だったら尚更、幸せ家族に見える。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    緊張の面持ちで、尊と瑠奈が入ってくるのを待つ四人。

    唯「がんばろっ」

    無言で頷く、若君と源三郎とトヨ。

    覚「はい、どうぞ入って」

    瑠奈「こんばんは。お邪魔します…」

    尊「ただいま。わぁ、整列してるし」

    四人の前に進む尊と瑠奈。瑠奈が、少し戸惑っている。

    尊「こんな風に並んでたら、びっくりしちゃうよね。僕の家族だよ」

    瑠「あの、初めまして、瑠奈です」

    尊「紹介するね。右から、下の姉の唯、下の姉の旦那さんの忠清さん、上の姉の旦那さんの源三郎さん、上の姉のトヨだよ」

    唯「こんばんは!」

    若君「こんばんは」

    源三郎「こんばんは」

    トヨ「こんばんは。お会いできて嬉しいわ。寒かったでしょう?お茶入れますから、座ってくださいね」

    尊「ありがとう。トヨ姉さん」

    覚「ささ、どうぞ。あ、その前に上着預かろうか」

    尊「うん」

    二人がブレザーを脱ぐ。覚が受け取り、ハンガーに掛けた。食卓に並んで座った二人。唯達四人は、キッチンに移動した。

    唯の囁き「ねぇねぇ」

    トヨの囁き「何?」

    唯 囁き「るなちゃんって、目悪いのかな」

    ト 囁き「えぇ?どうしてそう思うの」

    唯 囁き「だって、超美形のたーくん見ても、反応が薄いから」

    ト 囁き「もっと騒ぐ筈、って?」

    唯 囁き「だから見えてないんかと」

    ト 囁き「そんな、見えにくそうな感じは窺えなかったけれど」

    唯 囁き「じゃあ源三郎タイプが好みかと思いきや、そっちも反応なしだし。尊にコクるくらいだから、好みが変わってるのかもな」

    ト 囁き「口が過ぎるわね」

    唯 囁き「だってぇ。たーくんにキャーキャー言わない女子が居るなんて、ある意味ありえなくない?って、ト…お姉ちゃん、お菓子、これ出すの?」

    ト 囁き「お茶に合わせて、甘味を」

    唯 囁き「女子高生、きんつば食べるかな」

    ト 囁き「え?駄目?」

    その頃の尊と瑠奈。

    瑠「上のお姉さんとは、だいぶ歳が離れてるみたいだね」

    尊「あ、うん…」

    瑠「すごく大人の女性って感じで、素敵」

    尊「ありがとう。姉も喜ぶよ」

    瑠「そんなに顔は似てないね」

    尊「え。そ、そう?」

    瑠「いろんな家族の形や事情があるもんね」

    尊「事情?」

    瑠「ステップファミリーとかさ。尊の家がそうだとは言ってないよ。これ以上詳しくは聞かないから、心配しないでね」

    尊「えっと…ありがとう」

    尊 心の声(そうか!トヨさんと歳が離れてるのは、両親が再婚したからだと思ったんだ!だったら、僕やお姉ちゃんと顔が似てなくてもそんなにおかしくはないし。いい方向に勘違いしてくれて、辻褄が合って結果オーライというか。ちょっと気が楽になったかな)

    唯「お待たせぇ」

    ト「お茶どうぞ。お菓子も召し上がってね」

    瑠「わぁ、きんつば!和菓子大好きなんです、嬉しい」

    ト「喜んで貰えて良かったわ」

    唯「正解だったか。あ、ねぇ、るなちゃん」

    瑠「はい」

    唯「視力って、いい?」

    瑠「視力ですか。裸眼で左右とも1.5あります」

    唯「えー、そうなんだー」

    尊「なんだよ姉ちゃん、その質問」

    唯「初対面のヒトには聞くコトにしてるから」

    尊「はあ?また訳のわからない事を…ごめんね、変な姉で」

    瑠「ふふっ。ううん」

    笑顔を見せ、お茶とお菓子で落ち着いてきた風情の瑠奈。話しかけるタイミングを図る覚。

    覚「あのさ、瑠奈ちゃん」

    瑠「はい」

    覚「おウチには、ここに来てるって連絡したかい?」

    瑠「して…ません」

    覚「そうか。帰りが遅いと心配されるよ。電話しておいたら?」

    瑠「…はい」

    尊「電話、しづらいの?」

    瑠「めっちゃ怒られるのが目に見えてるから」

    尊「でも、しなきゃ」

    瑠「うん…」

    瑠奈が電話をかける。

    瑠「もしもし。…だから連絡遅くなってごめんって…今、尊の家に来てる…は?時期?それはそうだけど…はあ?もー、ギャンギャンうるさい!もういい!」

    尊「え」

    切ってしまった。

    尊「お母さんだった?ケンカしちゃったの?」

    瑠「…」

    覚「おやおや。困ったね」

    唯「なんか大変そう」

    ト「大丈夫かしら」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days110~9日17時10分、臨機応変です

    技量が試される。
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    概略を唯達に説明した覚。

    覚「といった訳だ」

    唯「なにそれ!」

    若君「唯」

    唯「超迷惑!」

    若「口を慎め」

    唯「…」

    覚「あと15分位で瑠奈ちゃんが来る。落ち着かせてから家まで車で送って、それから店へ出発、となると…」

    若「お父さん。今日は止めと致すが良かろうと存じます」

    源三郎「畏れながら、わたくしもそうなさるがよろしいかと」

    トヨ「私もそう思います」

    唯「えー」

    覚「それがいいな。時計ばかり見て気もそぞろな状態で迎えるのは良くない。店はまだ金曜も、何なら土曜もチャンスはあるし」

    唯「明日はたーくんの料理じゃないの?土曜はいつものはさみ揚げでしょ。いつ行くの」

    若「唯。わしらにも関わる一大事じゃ」

    唯「だって、みんな楽しみにしてたのに」

    覚「その辺はまた考えよう。ひとまず、お店にキャンセルの連絡と、あと母さんに言わないとな。今の時間話せるかなー」

    ト「お父さん、私共に何か出来る事はございませんか?」

    覚「ん。じゃあさ、お茶と菓子の準備してくれる?」

    ト「はいっ」

    源「直ちに」

    覚「よろしく」

    覚は、クリニックに走っていった。

    若「唯」

    唯「ん?んー」

    若「予定、とは、得てして変わったり無くなったりするものじゃ」

    唯「はあ。まぁなんていうかさ、るなちゃんの気持ちもちょっとはわかるなって思うのよ」

    若「それはあれか」

    唯「なに?」

    若「乙女心と申す」

    唯「そうだね。はいっ!もうね、気持ちは切りかえたよ。今、何をしとくべきか考えてる」

    若「それでこその唯じゃの」

    唯「ん、よーし」

    若「いかが致す?」

    唯「呼び方決めよう!」

    若「呼び方、とは?」

    唯「名前の。だって、私のお姉ちゃんがトヨで、旦那さん二人でしょ。言い方で怪しまれたら、ヤバくない?」

    それを聞き、トヨと源三郎がキッチンから戻ってきた。

    ト「どうさせていただくのが良いでしょう」

    唯「今、紙に書くよ。お姉ちゃんさ」

    ト「え?は、はい」

    唯「妹には、敬語は使わないでね」

    ト「わかったわ」

    源「飲み込みが早い…」

    ト「だって、これで瑠奈様…瑠奈さんの前で完璧にこなせたら、尊、さん、にご恩が返せるでしょう?」

    源「それもそうだ」

    唯「たーくんや源三郎…さんは、あんまりしゃべんなくていいとは思うけど」

    若「いや、念には念を入れよう」

    唯「えーっと、呼び方変えるのが、私がお姉ちゃん源三郎さん、たーくんがトヨさん源三郎さん、源三郎が唯さん尊さん忠清さん、トヨが尊さん忠清さん、唯って感じかな。はい、書いたから」

    若「これは、各々読み上げて覚えねば」

    唯の書いたメモを覗き込み、ブツブツと復唱し始めた三人。そこへ、覚が戻ってきた。

    覚「何だ、どうした?」

    唯「準備してる。名前の呼び方の」

    覚「あー。主従関係が露呈しないようにか」

    唯「お母さん、なんて言ってた?」

    覚「そんな事もあるわよ、ってな。明日にずらせそうなら、店にそうお願いしてと」

    唯「なんかあっさりしてるな」

    覚「ちょっと考えてた風ではあったぞ」

    唯「へぇ。なんかいいコト思いついたのかな。明日、席空いてるといいね」

    覚「急いで電話してくる…ん?尊からLINEだ」

    唯「なにって?」

    覚「30分頃到着予定です、か。これは助かる。今何時だ?20分か。よし、まずは電話」

    リビングの隅で、何度もお辞儀をしながら電話する覚。

    唯「あ、たーくん。もうカンペキ?」

    若「任せてくれ。話し言葉も、使いこなしてみせる」

    唯「おっ。なにげに現代風になってる」

    覚の電話が終わった。

    覚「ふう。ギリギリに電話したのに、明日の晩に快く変更してくださったよ」

    唯「良かったぁ」

    覚「唯ちゃんと尊くんに会えるのを楽しみにしてます、っておかみさんが」

    唯「ホント?わぁ、ますます楽しみ!ねぇ、それはいいけど」

    覚「何だ」

    唯「結局、晩ごはんはどうすんの?」

    覚「思ったんだけどさ、瑠奈ちゃんに晩ごはん食べてって貰ってもいいんじゃないか。勿論、親御さんと話をしてからだが」

    唯「なるほどね。って、それだと急に人数増えるじゃない。困んない?」

    覚「だからさ、もしそうなってもいいように、鍋にしようかと思う」

    唯「ほー」

    若「名案ですね」

    ト「でしたら、ある程度、入れる食材を見繕っておきましょうか」

    覚「そうだね」

    唯「お姉ちゃん」

    ト「なに?唯」

    唯「私も手伝うよ」

    ト「じゃあ、いらっしゃい」

    覚「いい、いい感じだ~。あ、尊に居酒屋明日になったってLINEしとかないと」

    数分後。玄関で物音がした。

    尊「ただいまー」

    瑠奈「こんばんは…」

    唯「来たっ!」

    覚「じゃあ、僕が迎えに行ってくる」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    四人の現代Days109~9日17時、事件発生!

    あーあ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚と尊、電話中。

    覚「で、どうしたんだ」

    尊の電話『さっきなんだけど…』

    ┅┅回想。高校の最寄り駅のホーム┅┅

    尊と瑠奈が、帰りの電車を待っている。

    尊「で、昨日で三回行ったけど、二度目の岩盤浴だったんだ」

    瑠奈「いいなぁ。私も尊と岩盤浴行きたいな」

    尊「そうだね。試験終わったら、行こうよ」

    瑠「すぐじゃないんだね」

    尊「それはそうでしょ」

    瑠「わかってる、それはわかってるんだけど…」

    尊「じゃあ何?」

    瑠「…ホントに家族と行ったの?」

    尊「へ?そうだよ。姉夫婦が帰省してるって言ったでしょ」

    瑠「帰省、長くない?」

    尊「え。そうかな?」

    瑠「怪しい」

    尊「怪しい…って、何が?」

    尊 心の声(マズい、あまりお姉ちゃん達の話は深掘りしないでおきたいけど)

    瑠「百歩譲って、クリスマスにばったり会った時はそうだったかもしれない」

    尊「譲らなくてもそうだって」

    瑠「女でしょ」

    尊「は?」

    瑠「他に彼女が居て、隠してるんだね」

    尊「はあ?」

    瑠「私だけじゃないんだ。悲しい…」

    尊「えぇ?!なんでそんな展開になるの?」

    瑠「だって、めちゃめちゃ楽しそうに話すじゃない。家族と出掛けてるヒトの話し方には思えない」

    尊「それは…」

    瑠「その女じゃなくて、私と居る時も、いっぱい笑って欲しいのに」

    尊 心(そっか、ごめん。気がついてなかったけど、これは僕が悪いよな)

    尊「他に女性なんて居ないけど、あまり笑ってないように見えてたならごめんなさい。瑠奈と一緒に居て、すごく楽しいと思ってるよ」

    瑠「…そうは思えない」

    尊「本当に楽しいよ。嘘なんかついてないから、安心してください」

    尊 心(隠し通さなきゃいけない事情は、山ほどあるけど)

    瑠「…」

    尊「え!なんで」

    瑠「…」

    尊「そんな、泣かないで」

    尊 心(わー!メンドくせぇバージョン、発動してる!困った、周りの視線が痛いよ)

    尊「電車、来たよ」

    瑠「…」

    車内で、扉の脇に立つ二人。瑠奈は、尊の腕にしがみついたまま、ずっと黙って下を向いている。

    尊 心(あーどうしよう、焦る。これは、何か言ってあげないとダメなんだろうな。こっ恥ずかしいけど、頑張るしかないか…)

    尊「あの、さ」

    瑠奈が顔を上げた。瞳は涙で潤み、濡れた睫毛の一本一本が光を弾いている。その艶めいた姿に、目を奪われる尊。

    尊 心(……はっ!思わず見とれてしまった)

    尊「えぇっと、聞いてくれる?」

    瑠「うん」

    尊「他に彼女なんて有り得ないから。僕はそんな器用じゃない。瑠奈しか居ないから」

    尊 心(ひゃー、我ながらなんてセリフ。でも、僕を思ってくれて泣いてるんだし)

    瑠「…ホントに?」

    尊「ホントだよ。ね、だからもう泣かないで」

    瑠「でも」

    尊「信じてください。ほら、もう着くよ。降りなきゃ」

    小垣駅に着いた。電車のドアが開くが、瑠奈は離れようとしない。小さく溜め息をつく尊。

    尊「じゃあ、僕もここで一緒に降りるね」

    瑠「いい」

    尊の腕を引っ張り、動こうとしない瑠奈。

    瑠「降りない」

    尊「え?」

    瑠「降りないったら降りない」

    尊「なんで…あっ」

    ドアは閉まり、電車は動き出した。

    瑠「確かめるまで帰らない」

    尊「確かめるって、何を」

    瑠「だって、私が電車降りた後、尊がどうしてるかわからないもん」

    尊「ついて来るって、事?」

    瑠「ちゃんと家族と一緒だった、他に彼女なんて居ないって証拠が見たい」

    尊「…」

    尊 心(マジかよー!!)

    ┅┅回想終わり┅┅

    尊 電話『と、いう経緯です』

    覚「今は、やむなく黒羽駅のホームに居るんだな。彼女はどこに?」

    尊 電話『家に電話するからってなだめて、少し離れたベンチに座らせてる』

    覚「そうか…」

    尊 電話『お父さん、どうするといいと思う?』

    覚「うーん」

    尊 電話『…』

    覚「よしわかった。ひとまず、瑠奈ちゃん連れて、帰って来い」

    尊 電話『いいの?』

    覚「このまま駅に居ても、彼女は納得しないだろ。この後の話はしたのか?」

    尊 電話『してない』

    覚「そうか。いいか尊、嫌そうな顔は絶対にするなよ。予定があったなんて悟られないようにな」

    尊 電話『はい。迷惑かけてごめんなさい。でも、お姉ちゃんはともかく兄さん達はどうするの?』

    覚「考える。あまり待たせるとまた疑われるぞ。こっちは何とかするから、ゆっくりめに歩いて来てくれ」

    尊 電話『わかった。連れて帰るよ』

    電話を切った覚。隣で聞いていた、唯の目が点になっている。

    唯「え?尊が彼女連れて帰ってくるの?なんで?」

    覚「忠清くん、源三郎くん、トヨちゃんも集まってくれ。今から、緊急家族会議だ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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