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    続現代Days尊の進む道9~3月中旬から下旬

    18歳成人は2022年4月1日からなので、この頃尊はまだ未成年です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    自動車学校に通い始めた。なんやかやで、しょっちゅう瑠奈と過ごしている。

    僕「で、看護師さん達がすごく喜んでくれたんだ。格段に入力がしやすくなったって」

    瑠奈「そんなパソコンのデータシステムまでササッと直せるの?尊ってやっぱり天才!」

    僕「プログラム位は。今まで、苦労してるのに気付いてあげられなかったのが逆に申し訳なくてさ」

    瑠「ふぅん…」

    何か言いたげなのが気にはなったが、その場はここまでだった。そして翌日。

    瑠「あのね。勝手に話をしちゃってごめんなさいなんだけど」

    僕「何?」

    瑠「ウチのお父さんがね、プログラムの話、一度詳しく聞きたいって言ってるの」

    僕「へ?お父さん?」

    瑠「働いてる会社にIT部門があって、お父さんそこに居るんだけどね。尊があっという間にプログラム修正したんだよってしゃべったら、興味津々で」

    僕「はあ」

    瑠「名刺預かってきたから、電話だけでもしてくれるかなぁ」

    僕「いただきます…うわ、部長って書いてある。直接話せばいいの?瑠奈経由じゃなくて」

    瑠「これはビジネスだからって言われた」

    僕「え、そうなの。わかった。ひとまず連絡してみるね」

    早速電話する。

    瑠奈の父『尊くん、電話くれてありがとう。すぐこちらからかけ直すよ』

    僕「はい」

    作成に至る経緯や手順、かかった日数などを聞かれたけれど…何だろう。

    瑠父『よくわかったよ。あのさ尊くん』

    僕「はい」

    瑠父『唐突な話で申し訳ないんだけれどね、一度こちらまで来て貰えるとありがたいと思っている。その折にはご両親のどちらかも是非ご足労願いたい』

    僕「会社にですか。保護者同伴という事は、重要な話なんですね」

    瑠父『さすがに勘がいいね。君の為にもなると思うから、検討してくれるかい?』

    帰ってから両親に話をした。よくわからないがまず話は聞こう、だったら3月中がいいだろうと、後日父と訪れると決まった。

    ┅┅

    その当日。

    僕「ビル、デカっ」

    大きい乗り換え駅から徒歩圏内の場所にその会社はあった。着いてすぐ、小さな応接室に通されたんだけど…緊張で、体ガチガチだー。

    瑠父「お待たせしました、速川さん。いつも娘がお世話になっております。本日はお時間をいただきまして」

    覚「いえいえ、車で楽に来れましたし。駅近なのに駐車場の台数も確保されてて、素晴らしい社屋ですね」

    瑠父「ありがとうございます。では早速ですが本題に入らせてください。この度、速川尊さんと契約を結びたく、お父様にもご承諾を頂戴したいと、お越しいただいた次第なんです」

    覚「契約?!」

    僕「え?」

    瑠父「弊社のIT部門では、各種アプリだけでなく業務用システムも取り扱っております。力を入れてはいますが、他社との競争は激しさを増しており、頭一つ抜き出るには?足りないのは何か?ずっと悩みどころでした」

    覚「差別化は難しいですな」

    瑠父「そんな時に耳にした、尊くんの優しさ溢れる行動が、私の腹にストンと落ちたのです。これだったんだ、と」

    覚「業務システムをシニア仕様にシフトしたのがですか?」

    瑠父「はい。長年ご利用いただいているお客様には、世代交代がない所もある。見慣れた画面表示も、若い頃は何でもないが歳を重ねれば見にくくなる。パソコン利用者の年齢層には幅があるとわかっていたのに、なぜ今まで業務用に手を付けていなかったのか。深く反省もしました」

    覚「ウチのクリニックのように少人数でやっていたり、家族のみで経営だと年齢層は上がる一方で、年々目や体の負担は増えますね。そうですか…尊、意見はあるか?」

    僕「あ、えーと」

    まだ体固まってるけど、話さなきゃ。

    僕「僕気付いたんです。昔はできていたから頑張ろうと、看護師さん達は無理してたって。パソコン利用者をサポートするサービスありますよ?いやそういうのではない、中身も手順もわかるんだから。でも見にくい、で体に支障をきたす。そこで僕は、導入部分だけ楽にすればいいと思いました。あとは機械が全部やりますよってシステムは逆に違和感があったので」

    瑠父「見えない?できないんではなくて?と利用されている方の尊厳を傷つけるケースも発生しかねない所、尊くんはそうではなかった。その相手を立てるリスペクトの精神にも、感動を覚えました」

    僕「そんな、立派じゃないです」

    瑠父「では、ここからはビジネスの話をさせてください。弊社には既存の業務システムが幾つかあります。それを、尊くんにシニア仕様にバージョンアップしていただきたい」

    覚「それなら、貴社の社員さんでもできますよね。あえて尊なのはなぜですか」

    瑠父「アイデアは尊くんですから。今お使いになってみえる看護師の皆様の、貴重なご意見もふまえていただきたいですし。得手勝手に情報のみ搾取など致しません」

    覚「それは…ありがとうございます」

    瑠父「完成した折には弊社の販売ルートにのせます。売れた分だけ、何パーセントか尊くんに入るよう、契約をさせていただけませんか」

    僕「あのぅ」

    覚「どうした」

    僕「先に、アイデアの買い取りでおしまい、という選択肢もありますよね。会社の損得勘定的にそれでいいんですか?」

    瑠父「さすが頭の回転が速いね。大切な事に気付かせて貰えたお礼もありますし、この方が成果を実感できるでしょう?システム改修を取っ掛かりに、他の商品の売り上げも伸びると踏んでいますし。また今後、新たなプログラム作成をお願いするかもしれませんしね」

    覚「気を遣っていただいたとは。恐縮です」

    瑠父「いえ。何より尊くん」

    僕「はい」

    瑠父「いずれ息子になるかもしれない君と、円満な関係で居たいと思っているんだよ」

    僕「えっ」

    覚「ええー!それって」

    瑠父「すみません、いきなりなお話で。恋愛となるとどうにも暴走しがちな娘でご迷惑もおかけしているのですが、熱の入り方がそれはもう今までになくと言いますか。今日はどうだったあぁだったと、我が家で尊くんが話題に上らない日はありません」

    覚「それはありがたい話です。お嬢さんにはとても良くしていただいて、愚息には勿体ないと思っていますよ。な、尊」

    僕「恥ずかしいよ」

    そりゃ、願ったり叶ったりな話だよ。でも僕達まだ高校卒業したばっかだし…早過ぎない?

    瑠父「不束な娘で恐縮ですが、これからもよろしくお付き合いいただければと思っております」

    覚「こちらこそ、是非ともよろしくお願いします。良かったな~、尊」

    僕「うん…あ、ごめんなさい、はい!」

    軽くパニクってるけど、嬉しい。

    瑠父「ありがとうございます。それでは、契約内容について進めさせてください」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道8~3月14日土曜

    理容室は、この創作倶楽部no.951に登場するあのお店かも?
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    両親が大騒ぎしている。

    美香子「あら~!いい、すごーく似合ってて、カッコいいわよ~。さすが瑠奈ちゃん、見立てが完璧!」

    覚「こなれ感って言うのか?今度から服選びもお願いしたらどうだ。トータルでプロデュースしてもらいな」

    話は朝に遡る。

    僕「ホワイトデーってどうすればいいかわからなかったから、プレゼントじゃなくてご飯やスイーツをご馳走しようとは思ってたんだ」

    覚「で、考えたプランが?」

    僕「まず眼鏡を買いに行く。視力検査とかあるけど1時間みておけばいいかなと。その後早めのランチ」

    覚「ん」

    僕「13時に理容室。ラストに今日の労いも兼ねてどーんとスイーツ三昧してもらう」

    覚「忙しいな。でも悪くない」

    僕「恋愛マスター的には及第点ですか」

    瑠奈と待ち合わせて、まずは黒羽駅前の眼鏡店からスタートした。

    瑠奈「フレームはね、考えたけどオーバルよりはスクエアなんだよね」

    僕「楕円より長方形ですか。細身だね。見た目インテリっぽくなったりしない?」

    瑠「しない。尊は、インテリ風じゃなくて本当に超賢いんだからこれでいいの」

    1時間程で受け取れるらしい。ラッキー。なのですぐランチに向かった。

    僕「ごめんね、急がせて」

    瑠「全然大丈夫だよ。まだ11時だけど、ランチやってる店近くにあるの?」

    僕「リサーチ済みです」

    瑠「さすがぁ」

    とは言っても、あのCafeMARGARETなんだけど。木村先生と来た時に、ランチメニューが充実してるなって思ってたんだ。

    瑠「パスタでカルボナーラかな。美味しそう」

    僕「僕オムライスにするよ」

    瑠奈が、食べている僕をじっと見ている。

    僕「どうしたの?」

    瑠「もうすぐ、新生たけるんに会えると思うとウキウキする」

    僕「しかと見届けてください」

    瑠「うん!」

    その後、眼鏡を受け取った。いい感じだ。理容室は小垣駅が最寄りなので、電車に乗って向かった。

    店主の母「いらっしゃい!尊くん。彼女さん、お母さんに聞いていた通りの美少女ね~」

    瑠奈と店主が、持参した写真を見ながら話し合っている。何かくすぐったい感じだ。

    店主「前髪は、この辺りまで動きをつけるよ」

    僕「はい」

    瑠「うふふ」

    プロにお任せだ。だって口出しできるほどわかってないし。何も分からぬ時は全て分かる顔で何も言わぬのじゃ。なーんて。瑠奈には待たせるばかりで申し訳ないと思いつつ、楽しんでくれてるようでありがたい。そして…

    瑠「イメージ通り!素敵!」

    僕「確かに新生」

    何かふわっとしてる。これは巷で聞く、髪を遊ばせるってヤツ?!でも全体じゃなくて頭頂部から前髪だけだから、僕でもキープできるらしい。襟足が短いのは瑠奈の好みだな。

    店「前髪は下ろす形にはしてあるけど、額を出しても決まるよ。やってみて」

    僕「はい」

    腕を出して前髪をかきあげてみた。そのしぐさに、瑠奈の目が輝いている。

    僕「なるほど。少し巻いてあるから、下を向いても髪が落ちてこないんですね」

    店「どうかな?彼女さん。リクエストどおりになってる?」

    瑠「はい、とっても!ありがとうございます!尊超カッコいい~。うっとりしちゃう~」

    店母「こんなに手放しで褒めてくれるなんて、尊くん大好きっ子なのねー。ちょっとアンタも、いつまでも独り身で居ないで」

    店「そこで俺に矛先かよ」

    僕「ははは」

    スイーツタイムは、フルーツいっぱいのタルトにご満悦だった。あちこち引っ張り回しちゃって悪かったけど、終始ゴキゲンだったし、堪能はしてもらえたんじゃないかな…。で、購入した眼鏡をかけて帰宅したところ、冒頭の反応だったと言う訳だ。

    僕「僕の話はもういいから。お母さん、頼みがあるんだけど」

    美「何」

    僕「クリニックのパソコン、少し触ってもいいかな」

    美「触るって?」

    僕「エリさんと芳江さんが楽に仕事できるようにしたくて。具体的には文字を大きくするとか入力欄を広げるとか」

    美「え?そんなのすぐにできるの?」

    僕「粗方考えてあるから。個人のデータとかは鍵かけてあるでしょ?」

    美「勿論」

    僕「その方が僕も安心だし。晩ごはん後に使わせてくれる?」

    美「それはいいけど」

    覚「いつの間に準備してたんだ?」

    僕「お二人が目ショボショボさせて辛そうだったから一刻も早くって思って、試験後すぐに考え始めた」

    美「はぁ~驚きね。お手並み拝見するわ」

    調整は週明けに間に合った。使い勝手が良くなってるといいけれど。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は3月も後半になります。

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    続現代Days尊の進む道7~3月11日昼から夕方

    ご招待にはそのような深淵な意図が。
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    覚「よし、昼飯にするか」

    四人で食卓を囲む。このメンバー、馴染んでて違和感ない気がするのは僕だけかな。

    瑠奈「わぁ、このはさみ揚げ美味しい!」

    僕「こっちのカレー味も食べてみて」

    瑠「うん…おじさま、こちらもとっても美味しいです!」

    覚「おほー。そうかいそうかい」

    美香子「はさみ揚げファンがまた増えたわね。瑠奈ちゃん、制服も良かったけど私服もいいわ~。ブラウスとかカーディガンとか」

    瑠「嬉しいです。ありがとうございます」

    美「女の子!って感じがいい。うんうん」

    覚「だな。家の中が華やかになる」

    両親がこんなに喜ぶのは、勿論彼女の魅力に他ならない。でも、雰囲気は随分違うけど歳が一つ違いの彼女に、今家に居たらこんな感じかと姉の姿を投影してるんじゃないかな。だからこれからも、ちょくちょく会わせてあげたいとは思うんだ。

    美「次はいつ来てくれるのかしら」

    僕「あれ、展開早いぞ」

    瑠「え…」

    僕の顔色を窺っている。

    僕「いいよいつでも。瑠奈さえ良ければ来て」

    瑠「わぁ。ありがとう」

    覚「嬉しいねぇ」

    美「ホントに。この後は、大学や自動車学校の書類作成を二人でするんだったわよね」

    僕「うん」

    瑠「私ね、写真も持ってきたよ。新しいヘアスタイル候補、プリントアウトしたんだ」

    僕「そうなの?ありがとう、考えてくれて」

    美「あら。至れり尽くせりね」

    覚「春にはイメチェンか」

    食事終了。食卓が片付いたところで、

    美「瑠奈ちゃん、今日の為にエプロン買ってくれたんでしょ。良かったら置いていって」

    瑠「いいんですか?でもお洗濯しないと」

    覚「洗濯は洗濯機がやるから気にしない。しかし感心するよ。よそのお宅の娘さんって、こんなに気遣いができるんだな」

    僕「よそのお宅ね。言える」

    各種書類を片っ端から作成中。

    瑠「大学、サークルとかどうする?」

    僕「入らないよ」

    瑠「そうなの?」

    僕「えーと、瑠奈との時間をできるだけ作りたいし」

    覚「おっ」

    美「あら」

    瑠「えー?嬉しいけど、実際にはやりたいことや究めたい事があるからでしょ」

    僕「まぁ、なきにしもあらず」

    瑠「だよね」

    僕「…何かは、聞かない?」

    瑠「尊が話す気になったら聞くよ」

    僕「ありがとう」

    両親が、このやり取りにかなり驚いているのが見て取れた。そうなんだよ、こういった、人の思いに立ち入り過ぎない所はホント尊敬する。そして、書類作成は順調に進んだ。

    僕「よし、終わった」

    美「見せて。…ふんふん、いいでしょう。瑠奈ちゃんの分は、親御さんに点検してもらってね」

    瑠「はい」

    ケーキと紅茶が出された。両親は、髪型候補の写真に見入っている。

    覚「いい感じじゃないか」

    美「ホントよね。瑠奈ちゃんセンスいい。尊、理容室行く当日はついてきて貰いなさい。二人で行くからよろしく、って予約の電話してあげるわ」

    僕「え!そんなの恥ずかしいよ」

    覚「何が恥ずかしい。自慢の彼女だろ。いいじゃないか、母さんの友人の店だし融通きかせてくれそうだ」

    美「だって尊。写真があるとはいえ、一人で説明できる自信あるの?」

    僕「ない」

    美「でしょ。えーっと明日明後日は手続きとか行くわよね。瑠奈ちゃん、土曜は空いてる?」

    瑠「土曜ですか」

    僕「わっ。その日はホワイトデーだから、一応デートのつもりだったんだけど」

    瑠「いいですよ、おばさま。その行きつけのお店の予約が取れるなら私、ついて行きます」

    僕「えぇぇ」

    美「何絶句してるのよ。デートプランでも練ってたの?」

    僕「いや、特には…」

    美「決まりね。まだ空いてるかしら~」

    僕「話早過ぎだって」

    電話をかけに、その場を離れた母。すぐに戻って来た。

    美「13時に取れたわよ。楽しみにしてるわ、って言ってたわ」

    僕「それはお母さんの方でしょ。切るのは息子だよ」

    美「尊の成長を喜んでるのよ。あと、眼鏡も作り直すじゃない。それもその日に行っちゃいなさい。瑠奈ちゃん、尊に似合うフレーム見てあげてくれないかしら」

    瑠「はい。わかりました」

    僕「いいの?勝手に決められてるけど」

    瑠「行くよ。というか行きたい。尊が変身していく過程が見られるもん」

    美「デートの機会が増えて一石二鳥」

    覚「素直に嬉しいって言いな」

    僕「はっ、祝着至極に存じます」

    瑠「ぷっ、あはは。尊って、時々口調が武士っぽくなるね」

    夕方、母の車で瑠奈の家まで送っていった。その帰り道。

    美「尊。お父さんとも前に話したんだけど」

    僕「ん?」

    美「彼女になら、唯やタイムマシンの秘密が明らかになってもいいわねって」

    僕「あー。さっき驚いてたよね。信用できるから?」

    美「うん。ホントいい子だし」

    僕「実は兄さんにも、いずれ一緒にタイムマシン造るだろうって言われてたんだ」

    美「そうだったの。忠清くんのお墨付きなら間違いなしね。でもまぁ、そうならざるを得ない時が来たらでいいとは思う」

    僕「うん…」

    そんな機会、来るのかな…。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回はホワイトデー当日です。

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    続現代Days尊の進む道6~3月6日金曜から11日水曜昼

    師匠と弟子二人?それとも。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ご報告です。本日発表があり、大学に無事合格しました。余裕と言いつつ一安心。ふぅ。

    覚「奮発したぞー」

    晩ごはんはすき焼き!やった~。

    僕「このお肉美味しい!」

    覚「だろ?」

    美香子「ご褒美よ。そうそう、エリさんと芳江さんね、心配は全くしてなかったって言ってたわよ~」

    僕「危ねっ。これで落ちてたら見せる顔がなかった」

    美「唯達にも…教えてあげたいわね」

    僕「あー」

    覚「話してなかったけどな、以前源三郎くんに聞かれててさ」

    僕「何を?」

    覚「大学は、入れなかったらどうなるのでしょうかって。行きたい気持ちがあるなら一年後に再挑戦するんだよって言ったら、もの凄く驚いてた」

    美「だったら今頃、心配で仕方ないんじゃないかしら」

    僕「うん…僕さ、思ったんだ。前にお姉ちゃんが言ってたじゃない。無事だったら知らせる、どうにかして絶対知らせるから、って」

    覚「言ってたな」

    僕「自分に置き換えてさ、こちらから何とかできないかって」

    美「それって…電話?メール?なーんて」

    覚「電報とかか?」

    僕「電報!サクラサク、って?それお姉ちゃんが理解できるかは微妙だよ」

    美「こっちも満開~とか言いそう。有り得る」

    覚「すまんすまん、ちょっと脱線したな。って事は?」

    僕「うん。瑠奈とほぼ毎晩パソコンでビデオ通話してるんだけど、これを永禄相手にできないかなって考え始めてる。月イチとかせめて年イチとか」

    美「ホントに?!新型タイムマシンの前に?」

    僕「作業は平行でやってくつもり」

    覚「ほー。夢がある話だが、大学行く時間あるか?アルバイトもするんだろ」

    僕「やれるだけやってみる。近頃、体力ついてきた感じだし」

    美「それでも、体壊すようでは本末転倒よ」

    僕「無理はしないようにするよ。で、話変わるけどさ、瑠奈がウチに来るって話、いよいよ遂行しようと思って」

    覚「おっ。いつでも大歓迎だぞ。昼飯をふるまうんだよな?」

    僕「そのつもり。お母さん、来週の水曜って忙しい?」

    美「諸々の用は午前中には終わる筈。平日よ?瑠奈ちゃんはその日でいいの?」

    僕「うん。クリニックは水曜休みって伝えたから。11日水曜で仮押さえにしてある」

    美「そうなの。だったらいいわよ」

    覚「了解。楽しみだな」

    僕「来てもらうのは土日でも良かったんだけどさ、実は思うところがありまして」

    覚&美香子「何」

    僕「今度の満月、10日じゃない」

    美「そう…ね。はいはい」

    覚「ちゃんとマークしたぞ」

    兄さんもよく眺めていた、月めくりの壁掛けカレンダー。父が、全ての満月の日付に黄色の丸いシールを貼りつけていた。

    僕「満月の日の献立ははさみ揚げでしょ。一日ずらしてもらって、月に一度の渾身の料理、是非瑠奈に食べさせてあげたいと思って」

    覚「二日連続でもいいぞ?」

    僕「新鮮に、一緒に味に感動したいから」

    覚「嬉しい事言ってくれる」

    僕「じゃあ、11日に決定って伝えるよ」

    美「そうね。これ最後のお肉。食べちゃって」

    僕「うん」

    ┅┅

    そして11日。瑠奈を駅まで迎えに行っていた。

    僕「ただいま」

    瑠奈「お邪魔します。こんにちは!おじさま」

    覚「おー。瑠奈ちゃん、いらっしゃい。ごめんな、車で迎えに出られずに」

    瑠「そんな、いいんです。あの、これ皆さんでどうぞって母が」

    覚「手土産なんかいいのに。ありがとう。いただくよ」

    僕「お母さんは、まだ?」

    覚「飯の時間には間に合うって言ってたぞ。瑠奈ちゃんさ」

    瑠「はい」

    覚「カレー味でちょっとスパイスきかせてるのは、苦手じゃないかい?」

    瑠「大丈夫です」

    僕「もしかして、忠清スパイス?」

    覚「へへ、使っちゃうよ~」

    瑠「おじさま、お手伝いします」

    覚「いいよ?お茶も出してなくて悪いね。座ってて」

    瑠「あの」

    鞄から何かを取り出した瑠奈。

    瑠「お手伝いするつもりで、エプロン持ってきたんです」

    覚「へー!」

    これには僕も驚いた。

    覚「若いのに。出来た娘さんだよ」

    瑠「可愛いいのがいいね、って母と買いに行きました」

    覚「わざわざかい?尊…お前、幸せ者だな」

    僕「仰せの通りです」

    その後三人でご飯の支度をしたけれど、瑠奈のエプロン姿が眩しくて。父は終始ご機嫌だし、僕はずっとニヤニヤしてた気がする。

    美「ごめんね~。遅くなりました」

    レンコンを揚げ始めた頃に、母が帰宅した。

    瑠「おばさま、こんにちは」

    美「瑠奈ちゃんいらっしゃい。あら!エプロン姿!もうお嫁に来てくれたの~?」

    ゲゲ!何言い出すの!下向いちゃったじゃないか!

    覚「母さん。からかうなよ、可哀想だろ。尊を選ぶかなんて決まってないんだから」

    美「それもそうね」

    瑠奈がクスっと笑った。えー、それ、どう捉えればいいの?

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道5~2月29日昼から3月2日月曜

    健やかに育ってくれるだけで、親孝行ではある。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    昼ごはんタイム。さすがに14時だと、フードコートの席も余裕があった。

    瑠奈「あ、そういえばね」

    僕「うん?」

    瑠「地元の小垣山にね、昔お城があったんだって。その跡地に資料館ができたの」

    僕「知ってる。つーか完成したんだ」

    小垣山。そのまんまの名前。そりゃそうか。

    瑠「さすが歴史通!町の広報に載ってたの。私も読んだけど、お母さんが尊くん知ってるかしらって言ってて」

    僕「いつ開館するかは知らないよ」

    木村先生には、もう少ししたら大学の合否、もちろん合格の報告がいいけど。を連絡しようと思っていた。

    瑠「確か4月19日、日曜って書いてあったはずだよ」

    僕「ありがとう。親に言っとくね」

    瑠「家族全員歴史好きなの?すごーい」

    好きというか、城跡見に行ってるし、木村先生のメールも読んだし。お姉ちゃんが関わる話は親も興味あるよ。

    僕「岩盤浴は満喫できた?」

    瑠「うん。一緒の時間も満喫できたし」

    僕「それは僕も同感です」

    瑠「ふふっ。良かったぁ」

    最後は瑠奈の自宅、というかマンションの入口まで送り、甘い一日が終わった。

    ┅┅

    3月。2日、高校の卒業式を迎えた。

    美香子「色々あった三年間よねぇ」

    僕「ホントだよ」

    覚「終了後は、クラスメートや瑠奈ちゃんとどこか行ったりするのか?」

    僕「ううん。写真はいっぱい撮ろうって話はしたけど、瑠奈はその後女子会するって言ってたし、特にイベントはなし」

    覚「そうか」

    僕「僕は、ミッションをこなすのみ」

    覚「ミッション?」

    美「何それ」

    僕「帰ったらね。じゃ、行ってきます」

    式はつつがなく進んでいた。僕はこの三年で、少しは成長できたかな。きっと、きっとできていると信じたい。兄さんに出会い、学んだ事は数知れず。源三郎さんもトヨさんも同じだ。勿論お姉ちゃんにも。あんなにひねくれてた自分が…いや、これも僕の歴史。糧になってるよね。

    クラスの男子「注目~!はい、バター」

    みつき「ちょっとそれ昭和~」

    教室に戻り、撮影大会が始まった。

    瑠「尊、こっちこっち。撮るよぉ」

    僕「はい。え、どのスマホ見ていいかわからないよ」

    み「どれもくまなく見てニッコリ笑う!」

    バッシャバッシャと撮りまくっている輪の中に自分が居るのがなんか不思議。今になって青春してる?そうしている内に、人がまばらになってきた。

    瑠「ごめんね尊、そろそろ行くよ。また夜話そうね」

    み「センセまたね~」

    僕「うん、また」

    瑠奈達を見送った後、教室を出た。廊下をゆっくり歩き、校門を出た所で振り返って校舎を臨んだ。お世話になりました、と呟いた。

    僕「ただいま」

    覚「おーお帰り」

    そのまま帰宅。食卓の席につくと、父はお茶を煎れてくれた。

    覚「思ったよりは遅かったな」

    僕「まあね」

    覚「あれ?筒は?」

    僕「筒って何。卒業証書ならこれだよ」

    リュックから厚手の二つ折りのホルダーを出した。

    覚「最近はこんな形なのか。へぇ~」

    僕「中、見ないの?」

    覚「母さんが仕事終わるまで、楽しみにとっておく。夜に恭しく拝見するよ」

    僕「贈呈式ね」

    晩ごはん後。

    僕「それでは」

    覚&美香子「はい」

    卒業証書を開いた。

    覚「おぉ」

    美香子「神々しいわ」

    しげしげと見つめて喜んでいる両親。

    美「ところで、今朝言ってたミッションって」

    覚「そうそう」

    僕「ミッションはね、これ。無事高校を卒業して、卒業証書を持ち帰る」

    美「へ?」

    覚「それだけ?」

    僕「そうだよ。お姉ちゃんが持ち帰らなかった卒業証書。だから僕は必ず見せてあげよう、とずっと思ってたんだ」

    美「…」

    覚「高校のはそうだな。確実に家まで運び、僕らが見る所までがミッションか」

    僕「うん」

    母が涙ぐんでいる。

    美「ありがとう、尊」

    僕「喜んでくれて嬉しいよ」

    覚「これ、壁にかけて飾っとくか?」

    僕「それは止めて」

    最後は三人で大笑いした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    案ずるまでもありませんが、次回は試験の結果発表からです。

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    続現代Days尊の進む道4~2月29日土曜朝から昼

    先日の台風、私は大きくは影響ありませんでしたが、皆様お変わりないでしょうか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    とことんじゃれ合っていただきます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    父が今日のデートコースを不思議がっている。

    覚「高校生カップルが昼間っからスーパー銭湯でまったり、ってのも何だが」

    僕「7人で行ったじゃない。それをあんまり楽しそうに僕が話すから、羨ましかったって言ってた」

    覚「そうか。送迎バスは小垣駅からも出てるんだよな?」

    僕「うん。だから小垣で待ち合わせ。9時半のバスに乗るつもりだからそろそろ行くよ。夕方には帰るね」

    覚「楽しんできな」

    小垣駅に到着。ロータリーにマイクロバスが停まっていて、その前で瑠奈が小さく手を振っていた。吉田城跡を横目にバスに乗り込む。

    瑠奈「このバスにも乗った事あるの?」

    僕「うん、黒羽駅に来る方に。もう一年以上前だけどね。懐かしいな」

    お姉ちゃんと兄さんと乗ったなぁ。

    瑠「尊の話聞いてると、このスパ銭行くのが速川家の一大イベントみたい」

    僕「あー。そうかも。みんな好きだからね」

    瑠「お姉さん達家族も?」

    僕「うん」

    あ、話逸らした方がいいな。

    僕「でも一番記憶に残ってるのは、サウナの中で無の境地になってたお父さん。仙人みたいでさ」

    瑠「おじさまが?想像できるかも。あはは~」

    ふぅ。セーフセーフ。

    瑠「ねぇ、眼鏡曇ってるよ。見えてる?」

    僕「何とか」

    到着後ササッと風呂に入り、お望み通りの岩盤浴真っ最中。

    僕「暑っ。一度休憩したいけど、もうすぐ12時か…お腹って空いてる?」

    瑠「ううん。でも私も暑さは限界間近」

    僕「フードコートは今の時間混んでるから、昼ごはんは後回しで、まず涼みに行こうか」

    瑠「はーい」

    休憩エリアに移動してきた。

    瑠「尊?どこまで行くの?」

    目指す場所に向かう。

    僕「ラッキー。今日はお客さん多いからどうかなと思ったけど」

    よくお姉ちゃんと兄さんがイチャついていたカップルシートが、運良く空いていた。

    瑠「…」

    こんな所に連れてきて、ドン引きしたかな。

    瑠「この微妙な隠れ加減…」

    僕「誤解しないで。僕は使った事ない。お姉ちゃん達がよくね」

    瑠「ホントかな」

    僕「ホントだよ。僕がこの場所を使う日がくるなんて、夢にも思わなかった。瑠奈に感謝しなきゃね」

    瑠「ふぅん…」

    僕「疑ってる?」

    瑠「言う事聞いてくれるなら、不問にする」

    僕「わかりました。お望みは何でしょう」

    瑠「先に入って寝転んで」

    僕「はい」

    言われるがまま、シートというよりミニベッドに滑り込んだ。

    瑠「片腕を横に出して、伸ばして」

    僕「はい…」

    これはまさかの…腕枕?!

    瑠「わぁい!」

    僕「うわっ」

    すぐさま、大喜びの表情で飛び込んできた!

    瑠「ごめぇん。ちょっと勢い余っちゃった。どこもぶつけたりしてない?」

    僕「大丈夫です…」

    いや、それよりですね、近い、近いんですよ瑠奈さん!そこ、腕というより肩だし!

    瑠「うふふ。たけるんの腕枕だぁ」

    僕「あの…」

    瑠「なに?」

    僕「僕、汗臭くない?すごく心配なんだけど」

    瑠「全然匂わないよ」

    良かった。まずは一安心。

    瑠「あっ!つい飛びついちゃったけど、私こそ匂ってる?」

    僕「ううん。甘い香りがする」

    酔ってしまいそう。

    瑠「たけるん…なんかいやらしい」

    僕「何でだよ。事実を述べたまでです」

    瑠「クサくないなら安心。ねぇ、眠くなっちゃった。少し眠ってもいい?」

    え。って事は、しばらくこの状態?マジすか!違う汗かきそう。緊張するけど、ここは落ち着け落ち着け。

    僕「僕の隣で良ければどうぞ。冷えるといけないから、タオルかけておくよ」

    瑠「優しーい。たけるん、おやすみぃ」

    僕「おやすみなさい」

    僕は眠るなんて無理!目が冴えまくり!しばらくは瑠奈姫を守ります。しかし、やかましい姉が帰った後で良かった。こんな姿見られようものなら、収拾つかなかったよ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君シャトルバスに乗る、のお話は、平成Days17no.388にて。

    続きます。

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    カマアイナさんへ

    ご自宅に直接の被害はなかったんですね。何よりです。

    日本の気象情報をよくご存知でいらっしゃいますね。仰せのとおり、私の住む東海地方近辺に台風接近中です。粗方の準備は済ませました。無事にやり過ごせるといいですが。

    尊くん、そうですね。大人への階段は登り始めたばかりです。そっと見守っていただければと思います。

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    夕月かかりてさんへ

    ご心配いただきありがとうございます。
    この島も2〜3山火事というよりは、海岸沿いの野原火事が起こりましたが、運良く人家への被害は無しで済みました。それにしてもハリケーンが1、000マイルも離れて通過したにもかかわらず、反対側の高気圧とに挟まれたせいで、あんなにも強風が吹きまくるとは知りませんでした。プルメリアもハイビスカスも沢山飛ばされていて、ちょっと壮観でした。普段飛び交っている鳥も、どこに隠れたのか1羽も見かけませんでしたし、夜中も暴風が吹き荒れて、さすがに延焼を少しは心配しました。
    マウイ島は、まだまだ被害者の特定が済んでないようで、今後も死者の数が増えそうだとニュースでは伝えています。気候変動で、色々な災害が頻度も強度もまして増加するそうですので、今後はハリケーンの直撃が無いように祈るばかりです。

    嵐が去った後は、いつもの爽やかな偏西風がそよいでいて、猛暑の日本に送ってあげたいです。また、東海、近畿には台風も接近しているとのことですので、皆様の住んでいらっしゃる所も大雨の被害など起こらないように祈っております。

    いよいよ尊も大学生ですね。どんな新しい生活が待っているのか、とても楽しみです。

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    続現代Days尊の進む道3~2月15日から27日木曜

    カマアイナさん。ハワイの山火事のニュースを見る度に案じております。お住まいはホノルル近郊ではなかったと認識しておりますが、生活に支障など出ていらっしゃいませんか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    画面に虫眼鏡当てたくなる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝のクリニック。エリさんと芳江さんがコーヒーを口にしているのだが、

    僕「お疲れですか」

    二人とも、頻りに眉間を押さえたり肩を上げ下げしているのが気になった。

    美香子「私がこき使っちゃってるのよね」

    芳江「いえいえ、そんな滅相もない」

    エリ「寄る年波に勝てないだけですよ~」

    芳「最近はね、特に目にきますね」

    エ「私も。ここ一年位でガタっと」

    僕「大変そう」

    美「うーん。人を増やすってのも考えたんだけどねぇ」

    母がチラっと僕の顔を見た。

    僕「何?」

    美「タイムマシンとか唯が家に居ない理由とかをね、これ以上他の人に知られる機会が少ない方がいいかしら、って思って求人を躊躇しちゃって」

    僕「それって…風が吹けば桶屋が儲かる的な話で、僕がタイムマシン造ったから芳江さんやエリさんが大変な思いをしてるの?それはごめんなさい」

    エ「いえいえ、尊くんは何も悪くないですよ」

    僕「お二人が辛そうにしてるのは、見てて僕も辛いです」

    芳「ほとんどのお仕事は全然大丈夫なんですけどね」

    エ「私達が苦手というか手こずっているのは、パソコンです」

    僕「パソコン。ですか」

    エ「何と言いますか、こういう業務系のシステムって、文字が小さいとか欄が狭いとかで、シニア世代には優しくないんですよ」

    僕「そうなんだ」

    芳「休み休みやりますし、メガネ型の拡大ルーペも買いましたし」

    エ「私も買いました。何とかやっていきますから、心配無用ですよ」

    美「私もできるだけ二人に負担かけないようにするわ」

    僕「僕、入力とか手伝おうか」

    美「要らない」

    僕「そうなの?」

    美「気持ちだけ貰っておくわ。尊は春からの新生活に全力投球しなさい」

    エ「そうですよ。尊くんはやらなければならない事が沢山ありますからね」

    芳「気にしないでくださいね」

    僕「はい…」

    リビングに戻って来た。

    覚「おー、お使いありがとな」

    僕「うん…」

    覚「何だ、今度は考え事か?」

    僕「ちょっとね。もう部屋に行くよ」

    覚「ん」

    部屋に戻ってからも、考えていた。

    僕「お二人の力になりたい。パソコン問題なら何とかなりそうだから、最終試験終わったら手をつけよう」

    決意表明をして、それからは勉強に打ち込んだ。

    ┅┅

    2月26日に最終試験が終わった。その翌日。

    瑠奈「ねぇねぇ、岩盤浴いつ行く?」

    僕「岩盤浴?」

    瑠「試験終わったら一緒に行こう、って言ってくれたでしょ」

    そんな約束したっけ?あー、話した話した!瑠奈が家に来た日に。

    僕「そうだったね」

    瑠「楽しみにしてたんだよぉ」

    危ねっ。機嫌を損ねるところだった。

    僕「だったら今週末はどう?土曜日とか」

    瑠「土曜ね。了解でーす。わぁ!久々のデート!」

    僕「そうだね。僕も楽しみだよ」

    クールに装ってるけど、デート、デート…かなり喜んでます。

    瑠「来週は、月曜日が卒業式で金曜日が合格発表でしょ。だから怒涛の一週間の前にデトックスはちょうどいいかも」

    僕「すっきりさっぱりとね」

    そうそう、もう一つの約束は覚えてるよ。

    僕「それもだけど、無事合格したら家に遊びに来るよね」

    瑠「うん、行きたい」

    僕「親に話したらお父さんがノリノリでさ、料理何にするか今から考えてるんだよ」

    瑠「待っててもらえてるの?嬉しい」

    僕「また日にち決めようね」

    瑠「うん!今度はちゃんとアポイントメントとります」

    僕「ははは」

    大学決まったような話してるけど、今更あーだこーだもないし。でも来月って、かなり慌ただしいよな。入学準備、自動車学校通学に向けて眼鏡作り直せって言われてるし、髪も切るんだった。でも生活がガラリと変わるんだから、こんなものなんだろうな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、岩盤浴デートからスタートです。

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    続現代Days尊の進む道2~2月14日金曜から15日土曜

    てんころりんさん、カマアイナさん。ご声援ありがとうございます。
    しばらく、ゆるゆる物語にお付き合いくださいませ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    遅れてやって来た青春恋愛模様なら、尚更満喫して欲しいと思うのです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    受験生にも恋愛系イベントはやってくる。今日はバレンタインデーだ。

    みつき「来た来た」

    瑠奈「たけるーん!」

    僕「え」

    朝。登校すると、校門に瑠奈とミッキーさんが居て驚いた。

    僕「おはよう、ございます」

    瑠「おはよぉ」

    み「おはよう、センセ」

    僕「寒いのに、ここで待ってたの?」

    瑠「そんなに待ってないよ」

    み「センセの登校時間は把握してるし」

    僕「それにしても」

    み「はい、どうして今朝私達がここに居るのかはわかるでしょ。教室だと目立つからさ。いつもお世話になってまーす!」

    お辞儀をしながら紙袋を渡された。

    僕「あ、ありがとう」

    み「悪いけど、彼氏のとは差つけたから」

    僕「当然だよ」

    み「小さいチョコの詰め合わせ的な物。勉強の合間につまめるように」

    僕「それは、お気遣い痛み入りまする」

    み「そう来たか。うむ、苦しゅうないぞ」

    僕「ははは」

    み「では私はここで。お先に!さらばじゃ~」

    ミッキーさんは颯爽と駆け出して行ってしまった。

    僕「動きに無駄がないな」

    瑠「たけるん」

    僕「あ、はい」

    瑠「これ私から。受け取ってください」

    僕「ありがとう」

    今開けた方がいいのかな。でもこの綺麗なラッピング、元通りに戻せる自信ないな…。

    瑠「尊の部屋に、天文学の本があったの思い出して」

    僕「うん?」

    瑠「惑星みたいな柄の、真ん丸でツヤツヤなチョコがあったから、それにしたの」

    僕「へぇ、そんなのあるんだ。これ、今開けずに持ち帰ってもいいかな」

    瑠「いいよ」

    僕「楽しみは家までとっておくね。じゃあそろそろ、教室に行こっか」

    チョコの包み二つをリュックにしまった。歩き出そうとすると、

    瑠「お願いがあるの」

    僕「お願い。何でしょう」

    瑠「手、繋ぎたい」

    僕「…朝から?」

    帰りはいつも繋いでるけど。すみません、恋愛を謳歌してます。

    瑠「朝からがいい」

    周りを見渡すと、あちこちでチョコの受け渡しが行われていて、この辺りだけ何と言うかラブ全開!な感じではある。

    瑠「ダメ?悪いコかな。困る?」

    僕「悪いコじゃないし困らないよ。はい」

    手を差し出すと、満面の笑みで駆け寄ってきた。な、なんて可愛らしいんだ。

    瑠「うふふ」

    手を取り歩き出す。途中、クラスの男子に冷やかされたけど、それさえも心地よい。高校生活最後の最後で訪れたこんな日々。瑠奈には感謝するばかりだし、できるだけ望みは叶えてあげたい。ん?これって…

    ┅┅回想。実験室で若君と将棋対局中┅┅

    若君「唯が望み喜ぶ事を、何なりと叶えてやりたい」

    僕 心の声(しぇ~!お姉ちゃん、愛されてる!)

    ┅┅回想終わり┅┅

    兄さんに一歩近づいたかな。近づくなんて、おこがましいか~。

    ┅┅

    翌日は土曜日だった。朝ごはんの後、そのまま食卓でぼんやり椅子に座っていた。

    覚「ちゃんと寝たのか?ポーっとして」

    僕「寝たよ」

    ゆうべ。ミッキーさんに貰ったチョコは、原産国が様々で多くの種類が入っており、一つ一つ包み紙を眺めて楽しんでいた。瑠奈に貰ったチョコは、チョコ自体が目を見張る程美しかったので、同じく机に並べてずっと眺めていた。要は、初めてのバレンタインデーに浮かれてて、今も夢心地という訳だ。

    覚「まだここでウダウダしてるなら、これ持って行ってくれよ」

    僕「あ、うん。わかった」

    クリニックにコーヒーを運ぶ役目を仰せつかった。

    僕「おはようございます」

    美香子「あら珍しい」

    僕「試験勉強はもう少し後で始めるから」

    エリ「おはようございます、尊くん。お久しぶりですね」

    芳江「おはようございまーす。あらら尊くん忙しいでしょうに」

    後から思い返すと、この時エリさんと芳江さんに会っておいて本当に良かった。お役にも立てたし、その後の僕にも大きく影響したし。人生どう転ぶかわからないものだと痛切に感じた一件だった。それが何かは、またおいおい話します。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    夕月かかりてさんへ

    あのぷくぷくさんの大作を最後にもう次の連載は出てこないのではと、とても寂しく思っていました。何故か8月1日の尊目線での連載の発表を見過ごしてしまい、今日になって初回を読ませていただきました。数行読み出しただけで、速川家の面々が想起させてくれる雰囲気が心に戻って来て、もうあの一家の醸し出す暖かさに包まれるようです。途中どこかで唯や若君のその後にも触れることが出来るのかなと、淡い期待も抱きながら、今後の展開を楽しみにしています。
    連載の再開、本当にありがとうございます。

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    お久しぶりです👋😄

    夕月かかりてさん、お待ちしてました!
    またよろしくお願いします。
    お話は2020年まで来たのですね!
    ドラマのSPを見た後、こんな風に戦国との交流が続いていくことを願ってました。

    私が原作を読んだのは放送後1年経ってから、更に〈新婚編〉を読んだのはつい最近です😅
    アシガール Season2… 今暫く読まずにいようと思います。

    原作から見れば、ドラマのアシガールはパラレルワールドでした。
    創作倶楽部の皆さんの物語もまたパラレルワールドです!🌐🧳🕰️
    楽しみに読ませて頂きます!

    ブロックごとに目次のような投稿Noの案内と、最後に振り返りやまとめを書いて頂いて本当に助かりました。
    後から探しやすく思い出しやすくなります。ありがとうございます。

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    (新)続現代Days尊の進む道1~2020年1月16日木曜から2月初旬

    今回のシリーズは、一話に何日分かまとまるケースが多くなります。
    あと、尊目線なので、セリフ前の表記が尊→僕に変わっております。

    では尊くん、よろしくお願いします。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕「ふーん」

    美香子「中々いいわね~」

    1月16日。家の二階、源三郎さんとトヨさんが使っていた予備室。兄さんと源三郎さんが組み立てたテーブルが既に運びこんであったのだが、せっかくだからとその上に、父が写真をずらりと並べていた。

    覚「下には置ききれないしさ」

    僕「確かに。兄さんの意向でお花の写真立てはリビングにあるけど、それでも今回随分増えたもんね」

    美「…」

    覚「どうした?」

    美「この部屋に来れば…ね、と思って」

    覚「ん…」

    わかる。こんなに四人に見つめられて。賑やかだけど、かえって淋しいよね。でも淋しいと口にしてしまうと、もっと淋しくなるからだ。

    僕「ここでいつでも笑顔に会えるよ」

    覚「そうだな。毎日拝むか」

    美「うん。そうする。部屋の前通る度に」

    僕「え、一日一回じゃなくて毎回なの?」

    美「何とかの一つ覚えみたいな物よ」

    僕「別にいいけどさ」

    美「伝統芸能、ね」

    僕「あぁ。…懐かしいな」

    覚「ははは」

    三人で笑いながら、そっと部屋のドアを閉めた。

    ┅┅

    18日、土曜日。

    覚「頑張ってこいよ」

    美「余裕だ、なんて気を緩めちゃ駄目よ」

    僕「うん。行ってくるね」

    いよいよセンター試験が始まる。気を引き締めないとな。電車で会場に向かっていると、瑠奈からLINEが届いた。

    瑠奈の投稿『春からは朝も一緒の電車で通学したいな』

    そうだね。

    瑠 投稿『いっぱい念を送るから!』

    念?画面いっぱいに、ハートがめっちゃ飛びまくってますけど。ははは。

    瑠 投稿『がんばってね』

    はい。心して挑みます。

    ┅┅

    そして、まずは二日間の日程が終了した。その夜、晩ごはんの後。

    覚「まだ全部終わってはいないんだが、話をしておく」

    僕「うん?」

    覚「早い内に、車の免許取っときな」

    僕「免許!はぁ」

    美「あって損はないでしょ」

    僕「そう…だね」

    美「瑠奈ちゃんと、ドライブデートできちゃうわよ~?」

    僕「あー、まぁ」

    覚「彼女はその辺りどうしてるんだ?推薦で、日程に余裕があっただろ」

    僕「何も聞いてない」

    覚「一度話してみな」

    僕「わかった」

    早速、部屋でビデオ通話中に聞いてみた。

    瑠奈『免許は、大学入ってしばらくしたら取りに行こうかなぁくらいに思ってた。早く行きなさいって言われてるの?』

    僕「うん。何かアルバイトに行くにしても、車には乗れた方がいいだろって。3月中には通い始められるよう、準備しようかと思ってる」

    瑠『そっか。私も一緒に通おっかな』

    僕「そうする?」

    瑠『うん』

    結果としてこの選択は大正解だった。あれこれ考えたり後回しにしたりせず、ただやる、ってのも悪くない。

    ┅┅

    2月に入った。月末に最終試験を控えているので何となく足元がフワフワした感じだけど、少しずつ春は近づいている気がする。

    瑠「それ、好き」

    僕「好き?」

    瑠「前髪かきあげるしぐさ」

    帰りの電車内。髪がだいぶ伸びてきたから、そろそろ切りに行かなくてはと思っていたところだった。

    僕「髪は長めがお好みなの?」

    瑠「襟足が長いのは好きじゃないよ」

    僕「そうなんだ」

    瑠「だけど尊は、前髪はもう少し伸ばしてふわっとさせても似合うと思う」

    僕「へぇ」

    瑠「うん」

    僕「僕そういうの全然わからないから。瑠奈が考えてくれるなら、新しい髪型に挑戦してもいいけど」

    瑠「え、いいの?」

    僕「もうすぐ春だし。それもいいかなって」

    瑠「尊にしては珍しい発言」

    僕「言うね。まぁ、たまにはさ」

    瑠「だったら、大学はニューヘアスタイルでデビュー?」

    僕「そうなるね」

    瑠「わぁ、責任重大じゃない!…ううん、さてはモテモテになって出会った他の女と仲良くなろう、なんて」

    僕「またそんな事言う。有り得ないから」

    瑠「尊のキャンパスには女子がいっぱい居るもん。素敵!って言い寄られて」

    僕「ないない」

    瑠「どうしてそう言えるの?」

    僕「瑠奈以上の女性は居ないから目移りなんてしないよ」

    瑠「…」

    え、何?

    瑠「そんなセリフ、真顔でサラっと言うなんて。ドキドキしちゃう」

    あー。そんなキザなセリフだなんて気づいてなかった。マジでそう思ってるからだろうな。

    瑠「嬉しい」

    僕「どういたしまして」

    瑠「では安心して、髪型を熟考させていただきまーす」

    僕「よろしくお願いします」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、バレンタインデーからのスタートです。

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    新連載のお知らせ

    皆様、ご無沙汰しております。夕月かかりてでございます。

    お知らせの前に、まずはぷくぷく様。大巨編の感想が大変遅くなりました。アシガール本家超えの時空跨ぎ!感服いたしました。今自分がどこに居るかわからなくなりそうでした。ぷくぷくさんのお話と比べ私の創作話など、近所をウロウロしてるようなモノでございます。

    そんなウロウロしかできない私ですが、以前お伝えした現代Daysの続きを始めたく、戻って参りました。またしばらくこちらにお邪魔させてください。

    今回はマイナーチェンジしまして、語り部は尊です。お話の最初と最後の説明は作者がいたしますが、文中は彼の目線で進みます。パラレルワールド全開。原作で新シーズンが始まっていますが、勝手ながらこのまま突っ走ります。

    ほぼ全編現代でのお話となりますが、永禄の面々もいずれは…相当先ですが登場しますので、今しばらくお待ちください。

    数日後にスタートします。投稿間隔は、変わらず3~5日に一度の予定です。

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    幸せな世界

    てんころりんさん
    カマアイナさん
    皆様
    楽しんでいただけているご様子
    有難うございます。
    創作中、脳内で撮影をして一人、続編を楽しんでおりました(^-^)
    現実は殺伐とした事の多い世の中ですが
    創造(妄想)の世界は幸せがあふれた世界であって欲しいと言う思いからか、
    創造作家さんや私もそうですが皆、自然と幸せがあふれる物語になるのではないかと考えます。
    ですがそれはひとえに、【アシガール】のドラマの世界観が戦の時代の話であっても、そこに優しさや幸せと思える場面がある。それが、ずっと皆様の心の中に残っているのではと思います。
    携わった方々の努力により出来上がった幸せな世界に出会えた事を感謝しています。
    勿論、好き勝手に物語を書かき、それを載せて下ったマスターさんにも感謝しております。

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    ぷくぷくさんへ

    お礼が遅くなり大変失礼いたしました。
    壮大なタイムスケールのお話で、読みながらこちらの心もすっ飛びました。
    読み返して見ましたが、よくこれだけの数世代に及ぶ繋がりを紡いだものだと感心してしまいました。本当に、これだけの大作をご苦労様でした。
    どうぞ、ゆっくりお休みになって、また気の向く事があったらいつか、他の主人公を軸にでも、また創作に戻ってください。
    誠にありがとうございました。

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    取り急ぎ…

    と言いながらもう2日、とにかく一言でも、タイムリーな内に書くことにします。

    ぷくぷくさん、本当に 大変 大変 お疲れ様でした。👏👏👏👏👏
    公式掲示板の“隙間/妄想脚本”から、アシカフェの“長編”シリーズものへと、ぷくぷくさんの世界を見せてくださいました。
    ありがとうございました。💐 ☕🍮
    アシガールのドラマ続編として、多分ご自身でイメージされたことを書き抜かれたのかなと思ってます。

    NHK掲示板の時から 5年を過ぎ、私の場合も、身辺環境の変化あり、年は争えず体力面は落ち、出たら直ぐ読み、すぐ準備して(感想と言わせて頂ければ)すぐ書いて‥ とは行かなくなりました。
    自分のテーマで書いている投稿も以前より時間が掛かります。
    マイペースに読んで遅れて書くようなことで、作家の皆さまには大変失礼して、申し訳ありません。

    実は今回ぷくぷくさんの前作『如古坊の楽しくも切ない思い出』と合わせて読み進んでました。
    時間が経ち忘れていて、微妙に絡み合ってるので、読み直しましたがまだ終えていません。
    そんな訳で私自身が中途半端ですが、ぷくぷくさんがアシガールの登場人物、皆の幸せを願い書かれたこと伝わります。

    私の注文に応じて高山の坂口殿の立つ瀬も作ってくださり、感謝です。
    高山宗熊の恋は成就して、如古坊も現代を体験!
    “幸子”に“鐘ヶ江ふき”を重ねたのも、ふきの幸せを思われてかなぁと。
    後の尊の研究成果や、タイムマシン研究の後継者も現れ… この人がキーパーソンでしたね。
    糸を紡ぎ、経糸に緯糸を通す創作は、本当に大変な作業だと思います。

    筆を置くと書かれてますが、期限なく休まれ、思い立った時、可能な時がありましたら、ショート作品で、またよろしく。🥳 他の部屋(板?)でもお話できたら嬉しいです。

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    発明品

    先日ニュースで有名企業が通信や色々をゴーグル型の発明品で体験できると。
    私の妄想の中での発明品の眼鏡型の通信やインターネットを見られるなんて考えましたが、やはり考える方は居て、考えだけではなくそれを形にする。
    やっぱり頭のいい人は凄い事を考えるなぁ(^-^)
    頭のいい人達が色々考え、形にしてくれる世の中は、妄想の中の尊のセリフで「安全が広まる」
    そんな世の中になればいいなぁと思う今日この頃です(^-^)

    失礼しました((^-^))

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    永久不変

    勝手に完結させた文章で申し訳ございません。
    今回の作品を持ちまして創作(妄想)作家の筆をおく事となりました。
    有難うございました。
    ですが(ドラマ)アシガールは私の中で永久に変わる事のないこの上ない作品であります。
    皆様と願いは同じで、同じメンバーでのシーズン2または2時間のSPです。
    いつか叶う日が来ることを祈っています。
    作家活動は無いですが、マスターさんが作ってくださったこの場所は私の拠り所でありますからチョクチョク覗きに来ます(^-^)

    これからもよろしくお願いします。

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    過去&永禄&現在⑳

    =現在 2170年=

    ナレ:元の世界に戻って来た理樹弥は翌日、妻を黒羽城址公園に行こうと誘った。
    妻:「どうしたの急に?」
    理:「ん。たまにはってさ」
    妻:「まぁいいけど。久し振りね、あなたと出掛けるのって」
    理:「そうでもないだろ、買い物の荷物持ちしてるだろ」
    妻:「それはそれ。デートは随分していなかったじゃないの」
    理:「そうだったか、言ってくれれば」
    妻:「あなたは部屋に籠って何かしてるから、誘い難かったのよ」
    理:「そうだな、すまない」
    妻:「まぁ、今に始まった事じゃないし、承知で一緒になったんだしね」
    理:「そうだな」
    ナレ:妻は素直に車に乗り込んだ。今の世も悲しいかな犯罪は起こる。だが100年前に自動車の安全装置普及率100%になる頃から車の故障事故はあっても、車による死亡事故は毎年ゼロ。自転車本体にも安全装置が義務づけられ、自転車道も整備され、150年前に違反についても定められ事故は少ない。理樹弥は流れる景色を見ていて、忠清や唯、尊にも見せてあげたいと考えていると車中に警告音が鳴り響いた。脇に寄せ停車した。
    妻:「あなた今、考え事してたでしょ。気を付けてよ」
    理:「すまない」
    ナレ:理樹弥は音を止める為、OFFのボタンを押した時にもしやと驚いた。気付かなかったがボタンの下に小さくローマ字で【HAYAKAWA】と。理樹弥の考え通りその装置も尊が開発した物だった。尊が若い頃には居眠り運転防止は開発されていた。尊が運転中に考え事をして気づくと交差点を超えていたことがあった。無意識に運転している時間があった。何事もなく過ぎたがもし何か遭ってはと考えた尊は、昔から存在する人の視線で分かる事をデータ化している機関に出向き、話を聞き研究し、考え事をしている時に作動するシステムを開発した。尊は昔から特許申請はしていないのでそのシステムを形にする企業に譲渡した。その企業も尊の功績に敬意を表しその装置を【HAYAKAWA】と名付けた。
    妻:「今まで作動していなかったから有難みは分からなかったけど、凄いわよね、まるで人の考えている事が分かるみたいで」
    理:「そうだな。作動しないように気を付いけないとな」
    ナレ:周りを確認して発進。城址公園の駐車場に到着した。妻が先に資料館の中へ。世の中がどんなに進化していても〔古き良き物は残す〕その精神は昔と変わらない。
    妻:「この資料館に来たのって、いつ振りかしら」
    ナレ:そう言いながら妻は展示品を見ていた。その後姿を見て理樹弥は、本当に良い人を妻に出来たと笑顔に。すると妻が振り向き、
    妻:「何よニヤけて、此処に来ることがそんなに嬉しいの?」
    理:「あぁそうだよ」
    妻:「変な人」
    ナレ:尊の元に行った時、チェストの上に置かれた写真の数々の中に海を背に写した写真があった。尊が写る人を説明してくれた。
    理:「まさか600年後にあの人とそっくりな女性が妻になるとはほんと、不思議だね」
    妻:「突っ立って、どうしたの?」
    理:「何でもない」
    ナレ:妻の後を歩いて行った。妻はあの写真に写る吉乃に似ていた。尊が吉乃の事も聞かせてくれていたが目の前に居る妻も吉乃と同じような人だと知った。
    妻:「羽木忠清ってどんな人だったのかしら」
    理:「えっ?」
    妻:「何を驚いてるのよ」
    理:「何でもないよ。そうだな、きっと素敵な人だったんじゃないか」
    妻:「そうかもね。この黒い鎧もカッコイイから、これを着こなせるんだからね」
    理:「そうだな」
    ナレ:羽木が生き延び、立派な天守閣や櫓を。天災により一部破損した天守閣も修復され、小規模だった資料館も大きな建物に建替えられていた。唯が永禄に行った辺りから、現代では資料が見つかり、それらが展示されていた。忠清の着物や刀、鎧などが。特に小平太が被っていた兜が戦隊モノに出ている様な形なので昔から子供に人気だった。
    妻:「本当これって変わった形よね。ほら、彰浩が小さい頃に来て、これが欲しいってダダをこねてたわね」
    理:「そうだったな。今は二十歳で月日が経つのは早いねぇ」
    妻:「何それ?」
    理:「なんでもない」
    妻:「あれ、これ?前に来た時は無かったわね」
    理:「そうだな」
    ナレ:展示物の中に色褪せているが尊の作った【まぼ兵くん】と【でんでん丸】が有った。30年前に天守閣の修復の際に手つかずだった内部を調査した時に発見された。展示名・説明書きは無い。添えられた解説には【いつの時代の物か解明できていない。だが、ロマンとするならば室町時代の物と思いたい。だが、何の為の物か、プラスチックが存在したのかなどの解明は出来ていない。専門家は戦国時代に現代の仕組みや同じと思われる素材が存在していたならば羽木家に計り知れない能力を持つカラクリ職人が存在したのではないかと思われる】と。
    妻:「この解説した人は、なんか随分これに思入れが有るみたいって思うわよねぇ」
    理:「そうかもな」
    妻:「何もわからないって。でも、これって、本当にこの時代に有った物なの?」
    理:「えっ?」
    妻:「何驚いてるのよ?」
    理:「別に」
    妻:「何かの時に紛れたとかって普通は考えると思うのよねぇ」
    理:「まぁ。でも、他の品物と一緒に見つかったんだから、そうなんじゃないかな」
    理:「まぁねぇ」
    ナレ:妻は次の展示物を見ていた。
    理:「此処に速川尊作と入れたいですね。速川さん・・・ふっ」
    妻:「あなた何か言った?」
    理:「いいや、何も・・・えっ?」
    ナレ:視線の先に展示物の移動をしている資料館の者だろう。その人物を見て理樹弥は驚いた。
    妻:「どうしたの?」
    ナレ:その人物が理樹弥に気づいて近づいてきた。
    忠:「どうされました?」
    理:「いえ、あの、この資料館の方ですよね」
    忠:「はい。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。私は御月忠直と申します」
    理:「御月?」
    忠:「はい。父が21代目で、私は22二代目になります。長男は必ず忠の文字が名前に使われていまして」
    理:「そうでしたか。年表の空白の年代が有りますね」
    忠:「はい。羽木家の資料も出てきてはいますが、10代前当りの羽木忠清などの記述は家臣の手記が発見されており判明している事もありますが、羽木から御月になった経緯は残されておりません。未だにその理由は分かっていないのです」
    理:「そうですか。あの羽木忠清には妻が居たかと」
    忠:「はい。よくご存じで。ですが、詳しくは分からないのです。家臣の手記にも羽木家の前に突然現れらたと。そして、その者を守り神だと言う者も居たと記されておりましたが、それ以外は。それも空白の年代の資料でも出てくれば、もっと詳しく分かるのではないかと」
    理:「そうですか」
    ナレ:理樹弥は自分がその頃の事を知ったとしても、もう歴史を変えてはならないと思った。
    忠:「どうしました?」
    理:「何でもありません?」
    妻:「では、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか?」
    忠:「はい。どう言った事を?」
    ナレ:さっき見て来た説明のつかない物の事を聞いてみた。
    忠:「はい。よく質問を受けます。確かに解明できなく」
    妻:「そう言った物を何故、展示しているのかなぁって」
    忠:「私もあの品物を見たのはここに勤める様になってからでして、倉庫を整理している時に見つけて、理由は分かりませんが、とても気になりまして、反対を押して展示しています」
    妻:「もしかしてあの説明はあなたが?」
    忠:「はい。やはりおかしいでしょうか?」
    理:「そんな事ないですよ。世の中には不思議な事が起こりますから。あれもきっとあの時代に存在していたのだと私も思いますよ」
    忠:「ありがとうございます」
    ナレ:忠直が遠くで呼ばれた。
    忠:「ごゆっくり」
    理:「はい」
    妻:「忠清ってあの鎧の?」
    理:「そうだよ。きっと忠清という人もあの忠直さんのような人だったんじゃないかなぁって」
    妻:「そうね。で、何を驚いたの?」
    理:「えっ、忘れた。お茶しようか?」
    ナレ:理樹弥は忠直が忠清に瓜二つだったことに驚いた。まぼ兵くんとでんでん丸についての妻が言っていた『思い入れ』に納得した。そして忠直は忠清の生まれ変わりなのではないかと。もっと前に忠直の存在を知っていたならば尊に話せただろうと思っていた。妻の美香は歩いて行く忠直の後姿を見ていた。
    理:「お前こそどうした?」
    妻:「ん~、あの人、何処かで見た事ある様な気がして」
    理:「前にここに来たことあるからその時じゃないか」
    妻:「それは無いわ。だって最後に来たのは7、8年前よ」
    理:「そうか、今とは違うだろうからな。で、何処で?」
    妻:「ん~、幼稚園か小学校に上がる頃か。でも、会った事ある様な気がするのよねぇ。あの人だけじゃなくて女の人も居たような・・・はぁ、思い出せないわ」
    理:「一先ず、コーヒーでも飲んでさ」
    妻:「そうね」
    ナレ:そして、資料館の敷地内の喫茶コーナーへ。運ばれてきたコーヒーを一口飲み、
    妻:「でね、昔の記憶の中で、でも、嫌な記憶じゃない事は分かるのよ。でも、何処だったか。その頃、私ぜんそくで入院していたのね」
    理:「聞いた事あるね」
    妻:「その頃だと思うのよ。でも、夢だったのかも」
    理:「思い出せる?」
    ナレ:しばらく考えていたが、やはり思い出せないと。理樹弥は突拍子もない事が脳裏に浮かんだ。妻の美香が病床で何らかのことによってタイムスリップしてあの場所に。そして尊に見せてもらった御月家の家系図に、何らかの理由で自分の名前をあの巻物に書いたのではと。いや、そんなはずはないと理樹弥は頭を振った。
    妻:「あなた、どうしたの?」
    理:「何でもないよ。まぁ、無理に思い出さなくても、嫌な事ではなかったんだろうから」
    妻:「そうね」
    理:「たまにはデートもいいかもな」
    妻:「なにそれ」
    理:「いいだろ」
    ナレ:カップを口元に運び横目に大きな窓から天守が見え、理樹弥は過去に行ったことは誰にも言わないと決めた。

    =過去&永禄&現在  完=

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    過去&永禄&現在⑲

    ナレ:尊の実験室も大掛かりな研究を辞めた頃にログハウス風に建替えられていた。両親にタイムマシーンの装置を失くしても良いのかと聞かれたが、今の自分の技術では装置が有っても時空を超える事は到底出来ないと、希望は薄れてはいないが現実的に叶わないのだと自分に言い聞かせるように言った。それでも技術開発を続けられたのは、忠清と共に城跡に行き、これから起こり得ることを本の中から知った忠清と話していた時に、忠清が『己の才覚一つで、何事もなせよう』と力づけてくれた事がずっと心の奥にあったから。理樹弥が消えて、しばらくすると呼鈴が聞こえて来たので、その部屋に取り付けてあるモニターを見るとクマのぬいぐるみが。
    尊:「何?・・・どなたですか?」
    裕:《熊の裕ですよ》
    ナレ:起動装置を抽斗に戻し、玄関に行きドアを開けると裕の前のぬいぐるみに分かっていても驚いた。
    尊:「どうしたんですか?」
    裕:「孫のリクエスト。大きな熊のぬいぐるみが欲しいって」
    尊:「それは分かりましたが何故、私の所に?」
    ナレ:尊はぬいぐるみについて尋ねたのだがスルーされた。
    裕:「たまにはお前さんの元気な顔を見ないとね。奥さんは出掛けてるのか?」
    尊:「曾孫の学校は自由らしくて、スクールカバンをランドセルにするかどうか選びに嫁たちと」
    裕:「昔はランドセルって決まってたけどな。そういう時代なんかね。それに相変わらず嫁姑の仲が良いんだねぇ」
    尊:「おかげさまで。奥方と息子の嫁と孫の嫁、三世代仲良しですよ」
    裕:「亭主にとっては女性たちが仲良いのが一番だ。ちょいと上がらせてくれ」
    ナレ:勝手知ったる家とばかりに上がり込んで尊が先ほどまで居た部屋のドアノブに手を掛けた。
    尊:「裕さん」
    裕:「何?誰か居るのか?へへっ」
    尊:「いやらしい笑い方しないで下さい。誰も居ませんよ」
    裕:「じゃぁ、いいだろう」
    ナレ:尊は先に入ってぐるりと見まわした。
    裕:「あれっ?」
    尊:「えっ」
    裕:「何驚いているのさ」
    尊:「あっ、いえ。で、何ですか?」
    ナレ:裕は如古坊の写った写真を手にして、
    裕:「前に来た時、こんな写真あったか?」
    尊:「片付けで見つけて。ほら、昔、祥さんが言っていた三吉さんって人ですよ」
    裕:「あぁ、そう言えばお前さんと出会った頃にそんなこと言っていたな。確か1年居候していたって」
    ナレ:運命が変わる前も尊と裕は大学構内で出会い仲良くなった。そして、裕の記憶にも如古坊の存在が上書きされていた。
    尊:「えぇ」
    裕:「でも、いつ来ても此処は良いよなぁ。書斎以上の部屋でさぁ、羨ましいよ」
    尊:「妻には自分で掃除してと言われていますから、あまりに広いのも考え物ですね」
    裕:「そうかもな」
    尊:「はい。でも何か用があって来られたのでは?」
    裕:「そうそう」
    ナレ:ぬいぐるみと一緒に持っていた袱紗から祝儀袋を出して、
    裕:「お前さんの可愛い曾孫の忠清ちゃんの入学祝。うちの孫の高校の祝いを貰ったからね。でもさ、お前さんのあの小説に出てくる若君だっけ、その人物と同じ名前を付けるとはって思ってたんだよね」
    尊:「書くとき考えた名前ですけど、我ながらいい名前だと思っているので」
    裕:「そっか」
    ナレ:尊は若いうちに結婚し、孫も早い結婚だった為、曾孫を抱くことが出来ている。名前は若君の名前を付けた。いつかは【忠清】と命名したいと考えていた。自分の子供たちはお互いの両親が命名した。それからも夫婦で相談したりして、尊が考えている名前を言い出せずにいたが、自分が生きている内にと孫に提案して承知してもらい決まった。若君の様に聡明な男子に育って欲しいと言う願いを込めて。
    尊:「でも、これは」
    裕:「まぁ、長い付き合いだからな。遠慮する仲でもないだろう今更」
    尊:「では、有難く頂戴します」
    裕:「あぁ。そうそう、昨日な、去年結婚した孫から連絡があって、俺の曾孫ちゃんと来年4月には会えるんだってよ」
    尊:「おめでとうございます」
    ナレ:裕は話していた通り結婚する時に京都木夫妻も式に招待した。如古坊の事が無くても裕と尊が喫茶店で話している時の祥と出会った運命は変わっていなかった。そこで祥と知り合い、京都木夫妻とも出会っていた。
    裕:「隣の工事、随分進んできたな」
    ナレ:速川医院の敷地の隣の土地を購入して病棟を建てていたが、規模拡大の為に建て替え中。大学4年の頃、尊と裕は大学院に進むことが決まっていたので、きっと今以上に忙しくなるだろうと裕の提案で、裕が最初に受けた大学の医学部の女子との合コンをセッティングした。嫌々参加した尊と意気投合したのが妻となった高山夢子だった。1回目のデートで城址公園に誘った。デート前に裕に伝えたらあきられたが、夢子は自分は歴女だからと一緒に城跡を見て回った。夢子の苗字を[こうやま]と読むことで何かあるのかと尋ねると、先祖の中に戦国時代の城主が居る事を知り、実家は長沢市だと。尊は唯から高山宗熊の話を聞いていたので自分は羽木家を昔から調べている中に高山家もあると夢子に話すと、実家に現存する家系図を見せてくれた。そして本当に関係している事が分かった。その縁に尊は驚いた。そして夢子は速川医院を継ぎ、二人の間に誕生した息子二人も医師になり、母親の跡を二人で継いでいる。
    尊:「はい。息子たちも頑張っていますし、孫も大学病院を辞めて戻ってくるので」
    裕:「良い事だ。お前さんだけが医者にならなかったんだな」
    尊:「まぁ。両親は私の好きなようにと応援してくれましたから」
    裕:「っそうか。それによってお前さんも凄い発明したしな」
    尊:「それ程の事では」
    ナレ:裕は壁に掛けられている賞状を見ていた。そこには何枚も貢献した賞状や感謝状が。尊はタイムマシーンの夢は諦めてはいなかったが、確実なまでの結果は出せずにいた。その中でも世の中のためになればと開発をしていた。大学院時代からの研究によって、防犯や介護に関する開発。車椅子に取り付けた雨感知装置にてカバーが出て雨を防げる。それに安全装置とGPSを設置し帰巣本能の機能も取付け、万が一離れた場合にも座って居る人物を登録している場所に自動的に戻らせることが出来、スピーカーから介護士の声を聞かせることも出来るシステムを開発。
    裕:「お前さんのおかげで、うちも助かったし」
    ナレ:尊が初めに防犯カメラの開発の技術研究に着手した。尊が生まれる前から防犯グッズは世に出ていたが、その中でも自分なりの研究で、見掛けは電灯でその中に内蔵される防犯カメラ。開発は既に世に出ている映像をスマホやタブレットに転送の設定はもとより、カメラは180度移動可能、鮮明なカラー映像録画、音声録音も出来る。そして極小の防犯カメラも開発し、その物をセットにした防犯装置も開発。その頃に裕の方で新築計画があり、尊の開発した装置の実験に使ってくれと提案してきた。
    尊:「そうでしたね。でも、まだ認定もされていない物でしたから、申請届や試験などで大変でした」
    裕:「そうだな。何が遭っても俺が責任取るとか言ったけど、そう言う問題じゃないって一蹴さ。まぁ、1年以上かかったな。正直言えばお前さんより俺の方が焦ったよな」
    尊:「すみませんでした」
    裕:「いやいや。だが、それがあったから被害に遭わずに済んだんだから」
    ナレ:裕は必ず許可が出ると信じて、家族、設計事務所、建設会社に頼み込み工事開始を延期してもらった。家族には大丈夫なのか、別にそれは付けなくてもいいのではと言われたが裕は待った。そして許可が出て、先に電源元となるソーラーパネルを設置した。このシステムはあの頃、唯の為に作った【でんでん丸】と【まぼ兵くん】をヒントにした装置。それは風等の振動では作動しないが、侵入者が窓ガラスやサッシのクレセント錠や窓のどの部分でも一度叩いただけで、枠の何処を触っても身体に危険が及ばない程度の電流が流れ失神を促す。仲間が居た場合でも他の窓も連動させ電流が流れる。内側は電流が流れない仕組み。そして電流の流れと共に警備会社に通報。電源は外出中と就寝時にONにする。外出中はスマホに。就寝時は寝室のモニターに映し出される。下見の行為の時に軒下に極小の防犯カメラを設置。勿論ダミーの大きなカメラも設置されているがダミーだとバレた方が侵入者は油断するだろうと。それは裕の提案だった。サーモグラフィで人か猫や犬の小動物かを判断し、人間の場合はカメラに切り替わり映像を録画。それをスマホで確認出来、スマホに専用のアプリを入れて作動させると、予め登録していた住人の姿がカーテンに映し出され、スマホから声掛けも出来る。設置前に使ってみない事にはどれだけの電気が必要か、大きさによって変わるのではないかと理工学部卒の裕の妻からの提案もあり、パネル以外に自転車型蓄電装置を作ってくれと頼まれた。理由は蓄電が第一だが、ダイエットも出来る機械をと。
    裕:「新築祝いしてひと月もしないうちに泥棒に入られそうになって、あのシステムが作動したから、家族みんな無事だった。本当に助かったよ」
    尊:「裕さんのおかげです」
    裕:「まっ、女房の提案のあれは俺の肥満防止に大いに役立ったしな。あはは」
    尊:「お役に立てて。それから、色々研究も出来たので」
    裕:「俺んとこは何人も研究所に居るのに、お前さん、一人なのは凄いなぁって思ってたんだよ」
    尊:「独り好きって事もありますから。でも、資金援助を裕さんの口添えで。私の方が助かっています」
    ナレ:装置を型にする時は自前の3Dプリンターがあるが、大掛かりな装置製作は家では無理なので裕の研究所の施設を利用させてもらっていた。
    裕:「まぁ、お互い様って事だしな。でも、お前さんの研究の中で実現しなかった開発はいつか本当に実現すると良いなって思うよ」
    尊:「いくつも考えているのでどれの事かと?」
    裕:「訪問者が物騒な物を持っていないかの察知装置とか」
    尊:「それは、先月認可がおりて、間もなく世に出るかと」
    裕:「そっか。それは良かった。でもこれは無理だって言ってたな。電話の」
    尊:「それは、はい」
    ナレ:裕の中でも残念だと思うシステムは、詐欺の電話を受けた場合のシステムだった。万が一に詐欺と思われる電話を受けてしまった場合、本人は疑っていないとしても家族が必ず設置してある機械の①を押すようにと伝えておく。登録している身内の携帯電話に即時に繋がり、身内がその相手と通話。詐欺だと確信がある場合はボタン②でそのまま警察に転送され、対応した警察官の声が、事前に登録している家主の声に変換され、怪しい電話と通話し、詐欺と分かった時点で騙された振りをして接触し逮捕するシステム。諸々の事柄が通信と警察との対応に問題があると許可が出ずにお蔵入りとなった。
    尊:「そうですね。私ではなくても未来に被害に遭われる人達が居なくなる発明があるでしょう。それを期待しています」
    裕:「そうだけどさ。さっき認可が下りたとか、世に出ている他の技術もお前さんは特許も取らずに、似たような物が出てるけどなぁ。取得していれば、お前さんももっと」
    尊:「もっと?」
    裕:「言わずともわかるだろぉ」
    尊:「えぇ。ですが、特許取得しない方が世間に安全が広まるでしょう」
    裕:「まぁなぁ」
    尊:「でも確か、裕さんは研究は人の為で、金ではないとかって昔そんな事言っていませんでしたか?」
    裕:「そうだったか。忘れた」
    尊:「そう言えば裕さんの研究の方はどうですか?」
    裕:「あぁ、それな、俺も80になってまだまだ元気だけどな、もうそろそろ引退してもいいだろと。研究所も小路さんの家が今も尚、出資してくれているからその辺りの心配も無いしな。若い者に任せようかと考えていてな。だが、お前さんはまだまだ頑張れ」
    ナレ:裕は医者になることは出来なかったが様々な課題に直面し、共同研究により、声を発することが叶わなくなった人の声を取り戻す研究をした。構想を描くまで年数は掛からず出来たが、研究により資金の問題が出て来た。付き合いの続いている尊に相談し、祥から幸子の父の小路亮二に資金援助を願い出た。交渉の末、援助を受けることが出来、研究が進められたが、それでも完成までに20年の歳月が。裕は50歳に手が届く歳になっていた。完成した物は言語中枢に関わる後頭葉のブローカ野を小型ヘッドホン式の仕組みで微量の電流により刺激を与え発声の促す作用が可能な機械を開発。その当時、記者会見をした。技術開発責任者として会見に臨んだ裕は、開発の経緯とその成果の試験結果内容を説明した。記者の質疑応答に対応していたが、駆け出しの記者と思える若者が質問した。
    記:『この技術開発成果によって、あなた方にはそれ相応の金が入るんでしょうね』
    ナレ:周りの記者はなんて質問するんだと思った。でも、裕は笑顔を見せ、
    裕:『我々は金よりも、そのシステムを使い、前向きになる人が一人で増えることを願って開発しています。私は子供の頃にある方に助けていただきました。その方のご家族にも笑顔になって貰いたいと努めてきました。我々の研究で笑顔になってもらいたいと思っています』
    記:『そんな風に言っても、やっぱり金の為でしょう』
    裕:『まぁ、生きていくためには我々も金が必要ですが、それ以上のものもあります』
    記:『ふっ、偽善者』
    ナレ:周りの記者が一斉にその記者を見た。隣の記者が『そう言う言い方は無いだろう』と言ったが止めずに、
    記:『僕は、あなたが、あなた方が金の為じゃないって言う事が信用できません』
    ナレ:その記者の言葉を黙っていた裕が、
    裕:『あなたは偽善を漢字で書けますか?』
    記:『書けますけど』
    裕:『そうですか。偽善者とは人の為に善い方法を考える者だと私は考えています。それ以外意味は無いと、そう思うのです』
    記:『ふん』
    裕:『あなたは今笑いましたね・・・私は、あなたの今後が心配になりました・・・出て行ってください』
    記:『はぁ?』
    裕:『聞こえなかったんですか・・・出て行きなさいと申し上げたのですよ』
    ナレ:裕は優しい口調で言った。それに対して、
    記:『あぁ、図星言われたから怒ったんですね。はっ、分かりました。今の事も書かせてもらいますよ!』
    裕:『構いません、面白おかしく書いてください・・・ただ、今直ぐ私の前から消えて下さい!』
    ナレ:温厚に対応していた裕が大きな声を上げた。その記者は出て行った。中継で見ていたテレビの前の尊。翌日、飲みに誘った。
    尊:『大変でしたね』
    裕:『若いって事だろ。あの後、あの記者の上司から詫びの連絡が来たよ』
    尊:『そうだったんですか』
    裕:『まぁ、考えや思う事は人それぞれって事だからな』
    尊:『そうですね。人の心の内は難しいですね』
    裕:『どんなに科学が進歩してもそれだけは解明できないだろうな。お前さんが俺に抱く恋心とかな。あはは』
    尊:『それは無いですけど。はは』
    裕:『そんなツレないこと言うなよなぁ』
    ナレ:そんな事があったなと尊は思い出していた。
    裕:「どうしたんだ?」
    尊:「いいえ。でも、裕さんもまだまだ引退は」
    裕:「まぁ、まだまだ必要とする人の為の開発はしていかなければならないと思うからな。でもな、孫たちにお前のじいじは結構凄いんだぞって自慢できることがあるからな。あとは、若いもんにな。じゃ、また来るよ。風邪引くなよ」
    尊:「お互いに」
    ナレ:尊がお持ちに出て見送ると、運転席から裕の息子の和樹が挨拶して、先に大きなぬいぐるみを乗せ、裕も乗り込み走り去った。
    尊:「そうだな、まだまだ頑張るぞ」
    ナレ:青い空を見上げて伸びをした。

    過去&永禄&現在⑳ラストへつづく

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    過去&永禄&現在⑱

    =過去 2083年 夏=

    ナレ:初めて尊に会いにこの時代に来て話を聞き、戦国時代に行き、出会った如古坊を現代に連れてきたり、その後に戦国でもう一度如古坊に会い、そして唯たちと会い、尊の元へ戻ってきたが、それは尊と初めて会った時からの時間の経過は10分だけだった。勿論、尊の記憶も上書きされていたが、尊は書き換えられる前の記憶も残っていた。唯たち家族を写した写真を渡し、唯のリクエストを伝えた。
    尊:「昔もそう、姉は何も分かっていない。それが姉らしいのか。でも、姉さんが母親に。ふっ」
    理:「速川さん?」
    尊:「両親が知ったら心配するだろうな。あの子が母親で大丈夫かと」
    理:「少しの時間でしたが、しっかり母親をしているように見えました。それから届けの事は気にしていないからと」
    尊:「そうですか」
    理:「前で緊張気味の男の子が晴忠様、もう直ぐ7歳、抱かれている子は覚高様、もう直ぐ1歳だそうです」
    尊:「はるただ、かくたか?」
    理:「嫡男でも有りましたので忠を。晴は生まれたと知らせを受けた忠清様が空を見て晴天だったからだと。弟君はお互いの父親の名を付けて覚高としたそうです」
    尊:「そう言う事だったのですね」
    理:「えっ?」
    ナレ:尊は抽斗から巻物を取り出し広げた。
    尊:「名前は納得しましたが、私には分らない事がありまして、羽木家ではなく、ここ御月家と書かれてありまして」
    理:「これは?」
    尊:「発見された時に大切な資料に落書きがあるから資料にはならないと、考古学者が木村先生に話されて、内情を知っている先生が私の元に。このあことわたしは姉が書いた文字だと思うのですが、この美香は調べてはいませんが姉とは筆跡が違う様に見えるのです」
    理:「はぁ・・・心当たりがないと?」
    尊:「母の名前は美香子ですから似てはいますが」
    理:「そうですか。関係は無いと思いますが私の妻の名も美香で、同じ字を書きます」
    尊:「そうですか」
    理:「我々にも分らない事はありますから」
    尊:「そうですね」
    ナレ:尊は巻物を抽斗に戻した。
    理:「私はお姉さんたちに会いに行って良かったと思います。速川さんのお姉さんも明るい方ですし、忠清様も優しそうな方で、だから、子供たちがもう少し成長した時にまた会いたいですね」
    尊:「・・・あなたの時代に戻られたらもう、飛ばない方が」
    理:「何故ですか?」
    尊:「時空を超える事はやはり体力的に負担が掛かるのだろうと考えたのです」
    理:「負担?」
    尊:「そうです。姉が平成から戦国に戻った時は、その場で目を覚ましたと。眠った状態で戦国に。姉に聞き、それは体力を奪われているのではないかと。姉が戦国と現代を行き来していた頃、回を重ねるごとに姉が瘦せて行くように感じました。やはり、負担は掛かるのだと」
    理:「思い違いでは?・・・私の体系は変わっていないようですが」
    尊:「そう仰いますが・・・あなたにも家族が居るのですから」
    理:「はい。子供も二人おります」
    尊:「尚更の事、研究を続けることは賛成しますが、ご自身が飛ぶ事はもうやめた方が良いでしょう」
    理:「ご心配ありがとうございます。分かりました。私自身が移動することは止めますが、これからも研究は続けます。身体に負担が掛からない方法を探します」
    尊:「そうですね」
    理:「お姉さんの元へ行く前に如古坊さんに会ってきました。そして如古坊さんを平成に連れて行った事を話しました」
    尊:「そうですか。あなたが如古坊さんを連れてきて、偶然に木村先生が居た事で私の記憶も変わったのですね」
    理:「はい、そうです」
    尊:「楽しい思い出です。初めの記憶では両親が祥さんの結婚式に呼ばれていますが、幸子さん達とは会っていませんでした。友人の結婚式の時には京都木夫妻は居ましたが」
    理:「そうですね」
    尊:「孝君が高祖父だと言っていましたね。あなたが如古坊さんを我々の前に連れてくる前にはもう孝君は神山の姓でしたね」
    理:「はい。孝の母親の幸子の会社の社長夫人が見合いをすすめて結婚したと。初めの生い立ちにはそう書いてありました」
    尊:「それは、如古坊さんの事が無かったとしても祥さん達は家族になっていたのだと?」
    理:「そうですね。そのあたりは運命は変わっていなかったのではないかと考えます」
    尊:「そうですね。その事を如古坊さんには?」
    理:「伝えてはいません。聞かれそうな雰囲気になったので話を変えました。如古坊さんには申し訳ないと思いましたが」
    尊:「そうですか。酷な様にも思いますから、それで良かったのでしょう・・・家族か」
    ナレ:尊は理樹弥に渡された写真を見ていた。
    理:「もっと先のお姉さんもと」
    尊:「十分です」
    ナレ:そして覚、美香子の事を考え、
    尊:「やめておいた方がと言っておきながら」
    理:「はい?」
    尊:「申し訳ない事ですが、私はこうして見ることが出来ましたが、父と母にも姉の元気な姿を見せてあげたいので、もう一度だけ私たちが如古坊さんを見送ったあの時に」
    理:「大丈夫です。姿は現わさない方が良いと思うのでそっと渡してきます」
    尊:「ありがとう。あの時、手にした私が両親の元にと自分で願ったとは。ふっ」
    理:「メッセージは?」
    ナレ:そう言った後、この写真に書くと尊の元に残らないと考えた理樹弥は、
    理:「このタブレットに書いて下さい。もう一枚写真を用意してメッセージを書き入れますから」
    尊:「そうですか。では」
    ナレ:タブレットに二人の名前と年齢を書き入れた。
    理:「これだけで?他にメッセージは?」
    尊:「これでいい」
    理:「そうですか。それから前回お会いした時に聞くのを忘れていて、最後にお聞きしたいのですが」
    尊:「何を?」
    理:「この本の題名に白い月に想うと付けたのかと」
    尊:「若君が現代に来た時に、昼間の空に見える月が白く見えて、若君が夜空に輝く月も美しいが、この白い月も美しいと言う表情が切なく見えて。きっと戦国に居る姉たちの事を想っていたのかと。この本は昔からの付き合いの友人が居まして、彼は私がタイムマシーンを作りたいと言っても笑う事なく話を聞いてくれましてね。その頃、私が夢物語を彼に話していまして、勿論本当の事だとは思ってもいないですから、その彼がその物語を小説にしたらと言ってきまして、若い頃だったので本にすることはありませんでしたが、50を過ぎた頃ふと自分の思い出を執筆してみようかと考えて、まぁ私もそこそこ業界では名が知れるようになっていましたので、伝で出版社を紹介してもらいまして少しだけ出版してもらったんですよ。その友人は、発売日に書店で購入して、その足で私の元へ来てサインをしてくれと。サインなんてありませんから普通に名前を書きましてね」
    理:「素敵な方ですね」
    尊:「はい。題は若君の想いを付けました」
    理:「そうですか。美しい題名だと思います」
    尊:「ありがとう・・・あなたも元気で」
    理:「はい。私に喜びを与えて下さり、本当にありがとうございました」
    ナレ:二人は握手をして、理樹弥は尊の目の前から消えた。尊は抽斗から起動装置の刀2本をデスクの上の写真盾、如古坊も一緒に写したクリスマス会の写真の側に置いた。資料が見つかってきた中に2本の玩具の刀が出て来た。木村先生は尊から話を聞いていたので、それを尊の元に持ってきた。考古学者も玩具が紛れ込んだのだろうと疑わない為、難なく貰い受けた。
    尊:「腕時計型一つで移動できるとは彼は凄い研究者だな。あの頃、彼が居たなら本当に病院ごと戦国に移動できたかもしれないな」
    ナレ:尊が完成させた柄が赤い装置と、未来に託され作った青い柄の装置。唯が忠清と平成に来た時に聞かれた。赤の理由と笑顔のマークと青の理由と笑顔が違うマークになっている理由を。尊は答えた。
    尊:『理由?』
    唯:『そっ。何かあるのかなぁって』
    尊:『ん~、赤って、明るいとか前向きな感じでしょ』
    唯:『まぁ』
    尊:『僕がタイムマシーンを作った理由、覚えているよね』
    唯:『いじめた奴を戦国時代に飛ばすとかって』
    尊:『そう。それって僕にとっては明るいニュース。で、笑顔って事でそれを付けたんだ』
    唯:『なんかねぇ、弟だけど、どこまでねじ曲がってるのかって。あっ、でも、今は全然思ってないからね』
    尊:『分かってる。で、こっちは・・・若君をイメージしたんだ』
    唯:『分かる気がする。で、このマーク、よくよく見ると若君に似てるかも。そっか』
    ナレ:その会話を思い出していた。
    尊:「私は嘘つきだね。青の方は、当時の私が作ったわけでもないのに理由が良く出て来たよ。でも、なんで姉さん納得したんだろう。不思議だね。しかし、未来の私が作った時、どうしてそうしたのか・・・思い出せないな、ボケたかな。ふっ・・・だが、楽しい人生だった」
    ナレ:理樹弥は過去に戻り、如古坊を見送った三人の元に写真を。尊は理樹弥の研究のきっかけになった本を手にして改めて読み返し、如古坊との一年が加わっていた。
    尊:「彼のおかげで私のも楽しい思い出が加わったんだな。有難う・・・これを読む人が居たなんて。そうか、いつかこの本も古本屋に。まぁ、そうなるのもこの本の運命なんだろうな。ふっ」
    ナレ:尊はその本を本棚の一番目立つ場所に置いた。

    過去&永禄&現在⑲へつづく

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    過去&元禄&現在⑰

    =永禄13年=

    ナレ:理樹弥は屋敷の庭に現れた。驚いた男の子が尻餅をついた。
    晴:「どっどこ・・・何処から参った!」
    理:「私は」
    晴:「くっ曲者!」
    理:「いや、怪しい者ではありません」
    ナレ:この世では怪しすぎるYシャツにスラックス。男の子が木刀を構え向かってきた。必死によけた。
    理:「決して、怪しい者ではないので、やめてもらえませんか」
    ナレ:そこへ忠清が、
    若:「晴忠、如何した、その様に大きな声など出・・・ん?・・・誰じゃ・・・いや、未来の?晴忠やめるのじゃ」
    理:「すみません」
    ナレ:忠清も見た事ある姿に驚きながら理樹弥の側に来た。
    若:「そなたは?」
    理:「あっ、はい。私は神山理樹弥と申します。600年後から来ました」
    若:「かみやま・・・600年」
    理:「はい。あなた様は羽木忠清様ですね」
    若:「さよう。わしを存じておるのか?」
    理:「はい。速川尊さんに伺いました」
    若:「尊とな」
    理:「はい。私は速川尊さんの本を読み興味を持ったことでこうして時空を超えてあなた様に会う事が出来ました」
    ナレ:経緯を掻い摘んで説明した。
    理:「ですが、幸子さんの事までは、私が確認出来ずに如古坊さんに辛い想いをさせてしまいました。如古坊さんには幸せな時だったと言って下さいました」
    若:「如古坊に会うたのか?」
    理:「今から8年くらい前の時代に行き会いました」
    若:「あぁ、そうであった。その様に申しておったな。そなたであったか。だが、何故此処に?」
    理:「速川さんがお姉さんの事を気にかけていましたので、ならば、姿を写真にと思い来ました」
    若:「そうであったか。では、此処に・・・ならば、子等もの。晴忠、母上を呼んで参れ」
    晴:「はい」
    ナレ:晴忠は不審に思っていたが父が親しく話しているので悪い者ではないのだと思い唯を呼びに。
    晴:「母上、父上がお呼びです」
    唯:「若君様が」
    ナレ:妻となってもなお若君と呼ぶ。忠清は初めこそ名前をと言っていたが、どうも訂正されず、諦めて、そのまま呼ぶことを承諾した。
    唯:「どうしたの?」
    晴:「奇態な形の男が現れました」
    唯:「奇態ななり?」
    ナレ:晴忠に手を引かれ忠清の元へ。尊に唯が来るまで今いた子供ともう一人の子供の事を話してくれと。理樹弥から尊の事を聞き、研究で名のある人物になった事に感心していた。しばらくして唯がやって来た。
    唯:「えっ?」
    理:「速川尊さんのお姉さんですね」
    唯:「そう・・・そうだけど。若君?」
    若:「尊と同じにたいむましんで来たのだそうだ」
    唯:「へぇそうなの。凄い・・・で?」
    ナレ:自分が晩年の尊に会い、尊が心配していたので、元気な姿を見せたいと思いやって来たと説明した。
    唯:「そうだったんだ。で、お父さんとお母さんと尊は元気?」
    理:「すみません、ご両親にはお会いしていないので」
    唯:「そうなんだ。まぁ、みんな元気にしてるだろうから」
    理:「尊さんは曾孫もいらして」
    唯:「へぇ、そうなんだ。会えないけど会いたいねぇ。で、あなたは何年前から来たの?」
    理:「この時代からですと、600年後の未来からです」
    唯:「スゴ!じゃ、私の知らない未来も見ているのね」
    理:「はい。今は宇宙にも昔ほど高価ではなく行ける様になりました。友人は宇宙ステーションに1週間ほど」
    唯:「へぇ、確か、ひとり何億もかかるようなこと聞いたけど。そうなんだ、科学は進歩しているんだ。凄いね、若君」
    若:「そうじゃの」
    理:「そうですね。昔の映像でバイクや車が空を飛ぶのを見た事ありますが」
    唯:「あっそれ、私も見た事がある、どっかの国で映画みたいな研究でって。今はそうなの?」
    理:「今私の居る時代は、確かに科学は進んでいますが、日本では航空法の問題も有りますし、今でも価格は高いですね。宇宙へ行くよりも」
    唯:「そうなんだ」
    理:「それにAI]
    唯:「それ知ってる。支配されるような映画も有ったっけ」
    理:「映画の中ではそうですが、進歩して人間がAIに支配されると言う話題も有りましたが、人は支配されることは無く、共存とでも言いましょうかしょうか。やはり人間は偉大だと思います」
    唯:「そうだね。映画な中だけだと思ってるし」
    若:「お主の世での戦は?」
    理:「この戦国時代の事も現代の事も昔の資料で知っています。それまでは色々あった国々の主導者も代替わりを繰り返し、科学が進歩していく中でも過去の悲惨な事柄を繰り返す事をしてはならないと国際条約の内容が事細かに策定されて、情報を共有し、問題点は全世界に配信し、その上で世界平和を掲げて、それでも人ですから、小競り合いがある事も。でも、それを武力で制するのではなく話し合いでという様に世の中が少しずつ変わっています」
    唯:「ごめん、途中から話の内容が」
    若:「わしも、よぉ分からぬ言葉もあるが、安泰な世になっておると申しておるのであろう。まるでおせろの様じゃの」
    唯:「そっか」
    理:「オセロ?」
    ナレ:唯が理樹弥に説明した。
    理:「そうですね」
    唯:「あなたの居る時代は、あなたの場所はどんな感じ?」
    理:「お姉さんの居る時代から風景はそんなに変わっていないと思いますよ。自然も有りますしね」
    唯:「小学生とかその頃、美術の授業で未来の風景って描いた事あったな。車が空を飛ぶとか宇宙に届くほどの建物とか」
    理:「科学の進歩は有りますが、そこまでにはなっていませんね。空は飛びませんが、車は電気かハイブリットか水素で、昔の様にガソリンだけで走る車は無くなりましたね」
    唯:「そうなんだ。昔、何処でもドアみたいに別の所に行ければ、遅刻しないだろうなって考えた事あったけど」
    理:「昔のアニメですね。移動は出来ませんが、通信は身近な物でありますね。色んな研究がなされ、離れた場所でも物の感触や匂いや味も感じることが出来ます」
    唯:「味もなんだ。それも凄いね。ほんと、私からすれば凄い近代的な世界なんだね」
    理:「ですが、私は近代的にならなくてもと思います。都会には400m級のビルが建ち並んでいますが」
    唯:「スゴ!・・・そう言えばこっちで暮らしてて思ったんだけど、夏はそんなに暑くないのよねぇ。気温計が無いから何度か分からないけど。オゾン層とかって随分言ってて、その為に気温が上昇してとか、北極だっけ?氷が解けてるとかってニュースで見たけど。150年も経ってると、気温めっちゃ高くて暑いんじゃないの?」
    理:「世界でもオゾン層の事は長年の問題でしたが、お姉さんが居た時代から何年も経たずに、二酸化炭素削減も進み、気温上昇の要因の一つにもなっています道路は遮熱対策をしています。気温上昇も昭和の初め頃の気温とさほど変わらなくなり、私の居る時代での最高気温は35度くらいですよ。昔の資料の40度を超えると言う事は無くなりましたね」
    唯:「へぇ」
    理:「化学や技術が進んできた事で便利な物も有りますが、SFの世界の様にはなっていませんね。世の中が進化を突き詰めた先に見えた物は、昔の様になる事が必要だと考える方達が増えて」
    唯:「どういうこと?」
    理:「お姉さんが居る頃は森が消えたり海を埋め立てたりと開発が進んで、それ故に自然での問題も数々。そう言った事で森を生き返らせる活動が全世界で行われ、日本でも自然と共存する動きがなされて、林業など後継者問題が昔はありましたが、機械化も進み、人型に近い機械が伐採や植林を。災害が起こる事を防いでいます。海も」
    唯:「それっ、ゴミとかが海の生き物に影響が出てるとかって、サンゴ礁もってニュースで見た事があるなぁ」
    理:「そうでしたね。それも今は改善されてきていますよ。お姉さんの時代から有る海上の清掃船もより良いシステムが導入され、他のロボットも開発され、それに上空から特殊カメラで海面を写し、異物を発見するシステムも開発され」
    唯:「凄いねぇ」
    理:「ですが、繋がっている海ですから色々な漂着物が流れてきますから、それを回収して処理する施設を海沿いの各自治体に建設され、漂着物を特殊な機械でドロドロに分解し、成分とその土地の土を混ぜた物で土を作ります」
    唯:「へぇ」
    理:「コンクリートのように固まらせることも出来ますが、草も生えさせられることも出来ます。それらを用いて、昔の景色になり、土砂崩れ防止にも、海や河川の護岸に使われています。至る所での不法投棄も監視カメラ設置により減りましたし。自然を守る事こそが生活を良いものにする。その為に機械だけではなく人も活動していますしね」
    唯:「凄いね。みんなの努力って事なんだね」
    理:「はい。他に質問は?」
    ナレ:理樹弥と唯の会話を晴忠は不思議顔で見ていた。
    若:「ちと、よいか?」
    理:「あっ、はい」
    ナレ:忠清は唯たちから離れた所へ理樹弥を連れて行き、
    若:「そなたが発明したそのたいむましんで、如古坊の様に唯を現代に連れて行く事は出来るのであろうか?」
    理:「えっ・・・あの場合は出来ましたが正直、確実に出来るかどうかは私にも分かりません。すみません」
    若:「さようか。今申した事は忘れてくれ」
    ナレ:二人が戻ると唯が忠清の前に立ち、
    唯:「若君、私を現代に連れて行ってくれとかって言ってたんでしょ」
    若:「あっ」
    唯:「やっぱり。若君の考えている事は全てお見通しなのよ。確かにあの頃は思う事もあったけど。でも、私は逃げないって決めたし、私はここで若君様と子供たちと、ついでにじい達と暮らして行く事を決めたんだから、そんな事は金輪際言わない考えない。いいわね!」
    若:「すまぬ。もう申さぬのでな許してくれ」
    晴:「母上、父上を叱らないで下さい」
    若:「母上は、私を叱っておるのではないぞ」
    唯:「そうよ。私は優しい妻であり母でしょ」
    ナレ:晴忠は返答無し。
    唯:「え~、晴忠ったらぁ」
    ナレ:抱いていた子を忠清に預け、唯は晴忠をギュッとした。
    晴:「母上、お放し下さい。母上はお優しいです」
    唯:「許す・・・あっ、今の事は尊に言わないでね」
    理:「はい。では、皆さんの写真を」
    ナレ:理樹弥が掛けていた眼鏡のフレームの端を押した。
    唯:「カメラは?」
    理:「これです」
    ナレ:理樹弥は眼鏡を外し、唯に見せた。
    唯:「これが、カメラ?」
    理:「これは眼鏡型のスマホの様な物です」
    唯:「スマホも?」
    理:「この横のボタンで通話したり、インターネットで調べる事も出来ますし、カメラにもなります」
    唯:「みんなそれを持ってるの?」
    理:「全員ではありませんが。他に腕時計型から進化したりしています」
    唯:「凄いねぇ。で、調べたものがそのレンズの部分に写るの?それじゃ、見え難いんじゃないの」
    理:「映像は視線の先の空間に投影されますから」
    唯:「へぇ~凄い。ありがとう」
    ナレ:理樹弥が用意をし、唯は抱いていた我が子も顔が見える様に抱き替え、二人の前に晴忠が立ったが、
    晴:「父上、大事ございませぬか?」
    若:「ん。案ずるな」
    ナレ:忠清は優しく肩を抱き自分の前に立たせた。緊張している晴忠に、
    理:「笑って」
    ナレ:そう言われても笑えなかった。
    唯:「私達は見る事出来ないの?」
    ナレ:理樹弥はポケットから小さな板を出し、操作して唯たちに見せた。
    理:「このタブレットに。データを送信し、紙で出てきます。私はやはり写真は紙で手にした方が趣がありますから」
    ナレ:写した物を晴忠に見せると、己の姿が小さな板の中にあり驚いていた。すると理樹弥の腕時計からピピッと音が聞こえた。
    理:「5分前の合図です」
    唯:「それがもしかして起動装置?」
    理:「そうです」
    唯:「凄すぎて、映画観てるみたい」
    若:「そうじゃの」
    理:「では、皆さんの事を伝えます。この写真も」
    唯:「そう、じゃ、ソーラーパネルで充電できる自動洗濯機をお願いと。まぁ、こっちに来ることが出来たらで良いけど」
    理:「あっ、はい、分かりました」
    若:「難儀な事であろうが伝えてくれ」
    唯:「若君様ぁ」
    若:「ふっ」
    理:「はい、伝えます・・・それから」
    若:「如何した?」
    理:「はい・・・お姉さんに伝えて欲しいと言われていた事がありまして」
    唯:「私に?」
    理:「はぁ」
    唯:「なんか言い難い事?」
    理:「あっ、はい・・・あの、ご存じかと思いますが、失踪届けが7年後に受理されて」
    唯:「失踪・・・あぁ、私ね」
    若:「唯?」
    唯:「居なくなって7年経つと・・・私は亡くなった事になるの」
    若:「ん?」
    唯:「だって、戸籍上も大変じゃない。ねぇ、神山さん」
    理:「はぁ、そうですね」
    若:「現代ではその様な事が起こるのだな」
    理:「はい」
    唯:「でも、私はこの通り生きてる。それだけでいいじゃん。神山さん、尊には全然気にしてないって言っておいて」
    理:「はい。伝えます。皆さんお元気で。失礼します」
    ナレ:目の前で理樹弥が消えたので、晴忠は眼をパチクリパチクリ、両親の顔を見た。
    若:「奇態な事じゃのぉ・・・だが、まことのじゃ」
    ナレ:その晩、忠清は信茂達に尊の事、理樹弥の事を話した。その時、晴忠が唯が言っていた『ついでにじいたちも』の部分を話した。信茂は『むじなはそのように申して、わしは悲しい』と笑いながら『むじな』を連呼していた。唯は反論しないでおこうと聞き流していた。それを忠清と吉乃はその姿に苦笑い。みんなは理樹弥を一目見たかったと話していた。

    過去&永禄&現在⑱へつづく

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    過去&永禄&現在⑯

    =永禄6~12年の出来事=

    ナレ:戦も無く平穏な日々を過ごしていた。唯は今でも若君を守る意志は消えていない。みんなその思いを分かっているからこそ身重の唯が戦なんて言語道断。だから戦が起こらないことを祈っていた。そして、無事男子が誕生。名は晴忠。晴忠がもう直ぐ3歳になろうかという時にその時は来た。しばらくの間、大人しくしていた織田信長が上洛を企て、勢力を強めるべく、高山も織田勢に加える事となり、宗鶴とは同士だと思っていた相賀一成が高山を久方振りに訪ねたが、宗鶴は既に隠居しており、宗熊と妻ゆめの間に誕生した息子と娘を可愛がり楽しく暮らしていた。織田の加勢の提案を宗熊が断固として断った。織田の陣に戻り、断られたことを伝えると、ならばもう用は無いと。不吉な予感に宗熊は八次郎に織田の動きを探らせ、高山攻めの情報を得た。宗熊は己の陣のみで立ち向かう事にしたが、宗熊を案じた八次郎の一存で忠清に伝えた。
    唯:「若君」
    若:「わしは宗熊殿に恩義がある。宗熊殿を高山を守らねばならぬ・・・案ずるな」
    唯:「分かってます。熊は大切な友達だから。でも」
    若:「大事ない。わしらにはまぼ兵くんもでんでん丸もあるのだからな。千人力じゃ」
    唯:「充電出来るようになってパワーアップしたのは分かるけど。いつ帰れるか分からないんでしょ。私も行きます」
    若:「ならぬ・・・唯」
    唯:「何?」
    ナレ:唯をギュッと抱き締め、
    若:「そなたの、えねるぎい注入」
    唯:「エネルギーって」
    若:「わしは無事に戻って参る。そなたは、わしの帰りを待っていてくれ。良いな」
    唯:「若君様・・・はい、晴忠と待っていますから、無事に戻って来て下さいね」
    若:「ん」
    ナレ:羽木勢は長沢城へ向け出陣。宗熊の軍は織田の兵の多さに苦戦していたが、忠清達が到着して、小平太がまぼ兵を作動させた。かたや忠清は馬にまたがったまま先陣を切り敵陣に入り、でんでん丸で敵を倒していた。宗熊は忠清の姿を見て、八次郎をいさめるのではなく、黙って頭を下げた。味方も増えたが広範囲での戦い、敵味方の負傷者が大勢。戦場に来て2日目の夜、闇の中で傷を負った家臣の姿を見ていて忠清は、
    若:「無用な戦など・・・もぉ、終わらせねば」
    ナレ:手立ての見つからないまま宗熊の所へ。
    若:「宗熊殿」
    熊:「忠清殿、申し訳ござらぬ」
    若:「致し方ない事です。ただ、もうこれ以上は無理は出来ませぬ」
    熊:「宗熊殿」
    若:「和議などと甘い考えはございません。織田の勢力があれば良いのではなかろうかと。お聞きおよび下さらないであろうが、進言するだけでも」
    熊:「忠清殿・・・この戦の火種は我にございます。断りをした事で織田の怒りを買った事は。私がひとりが参ります。さよう、初めからその様にすればよかったのですね」
    若:「宗熊殿、私とあなたは親友ではございませぬか、わしも共に」
    熊:「忠清殿」
    ナレ:二人で乗り込む覚悟を。忠清は心の中で唯と晴忠に謝った。すると、表で騒ぐ声が。二人が出て行くと、馬上の男が大声を張り上げていた。鎧も兜も身に着けていない。囲む者らはあまりにも堂々としたその姿にたじろんで刀や槍を構えるだけ。
    成:「高山宗熊殿は居られるか!私は相賀成之、まかりこしました」
    熊:「相賀・・・成之殿か」
    若:「もしや、相賀の弟と申す」
    熊:「さよう」
    ナレ:二人は成之の元に走り、宗熊は家臣を制し、成之を中へ。相賀成之は二人に土下座した。
    熊:「お手を挙げて下され。いったい?」
    成:「兄上が殿にどのように申されたかは存じませんが、私は今の織田の勢力で十分だと。無用な戦をし、兵を減らす事こそが愚かな事だと申し上げました」
    若:「それは。ですが、その様に申されて、そなた、相賀殿が窮地に」
    成:「お目通りはございませんでしたが、羽木忠清様でございますな。宗熊殿よりあなた様の事は聞いております。宗熊殿は私の友だと思うております。忠清様も同様に」
    熊:「相賀殿」
    成:「私より一歳下の殿とは幼き頃より共に学問も剣術も。私は宗熊殿に会うて話すまでは友について深く思う事もございませんでしたが、宗熊殿が羽木忠清様の事を心より案じているお姿を目の当たりにし、幼き頃を思い出しました。殿は気性も幼き頃とは変わってしまわれましたが、これまでもこれより先も進言しないと申し上げ、此度の愚かさを伝え、時は掛かりましたが、私の言葉を聞き入れて下さり、その足で参りました。我々はこれにて引き揚げます」
    ナレ:もう一度手を付き詫びた。言葉通り成之は織田軍を引き連れこの場から去った。
    熊:「まことなのですね」
    若:「あの様なお方が居ったとは・・・では、我々も」
    ナレ:忠清達は黒羽へ戻った。唯たちに知らせが入り、忠清の姿を見るべく急いで表に出た。忠清が馬から降りて唯の側へ来たが、唯は動こうとしない。
    若:「唯、如何した?」
    ナレ:唯は何も言わず踵を返した。
    若:「唯?」
    ナレ:唯は忠清の後から歩いてくる負傷した家臣の姿を見て、初めて参加した戦場で見た光景を思い出した。忠清が後を追い部屋に入ると唯は眠る晴忠を抱えて泣いていた。初めての光景に忠清は驚いた。
    若:「唯、如何した?」
    唯:「私」
    ナレ:唯は子を抱いたまま行李の中から起動装置を取り出し抜いたが、何も変わらない。
    唯:「どうして使えないのよ!尊!」
    ナレ:起動装置を放り投げた。その声に驚いて晴忠が目を覚ました。忠清は起動装置を行李に戻したが、言葉を掛けられる状態ではなく部屋を出て行った。
    吉:「ようご無事で」
    若:「ん」
    吉:「如何なされました?唯が走っていきましたのに。その唯は?」
    若:「分からぬ・・・唯が先の世に戻りたいと」
    吉:「えっ?」
    若:「しばし、このままで」
    吉:「仰せの通りに」
    ナレ:夕餉の支度が終わっても部屋から出て来ない唯の元に飯を運び、暗い部屋の灯りを点け、唯に、
    吉:「お食べなさい」
    唯:「食べたくない」
    ナレ:晴忠が泣き出した。
    吉:「晴忠様も腹が空いているのですよ」
    唯:「お袋様」
    ナレ:唯の中で何か起こって気持ちに余裕が無いのだろうと考え、吉乃は晴忠を連れて部屋を出た。
    若:「唯はどうじゃ?」
    吉:「変わりのう・・・あの子の中で何かがあったのであろうことは分かりますが、それが何かは」
    若:「ん・・・ならば、一先ず、何処かへ」
    吉:「よろしいのですか?」
    若:「その方が良かろう。緑合にでも」
    吉:「ならば、梅谷村などは?」
    若:「そうじゃの、それも良かろう」
    吉:「ですが」
    若:「のちに戦になろう折も、梅谷村の者を呼び寄せる事はせぬ」
    吉:「さようですか。では」
    ナレ:翌日に支度をし、大八車に布団やら何やら積み、三郎兵衛に梅谷村まで三人を送るように伝えた。
    若:「三郎兵衛、頼みましたぞ」
    三:「はい。かしこまりました」
    ナレ:見送りに信茂も立ち会った。
    じい:「唯は、どうしたと申すのかのぉ」
    若:「ん」
    じい:「あやつは、元気に笑っておるのが一番じゃよ」
    若:「そうじゃの」
    ナレ:信茂は忠清の背中を優しく擦っていた。

    ナレ:梅谷村に到着してみんなに歓迎されたが、元気のない唯を心配していた。その夜はみんなが持ち寄った食材で夕飯を作り食べていた。
    吉:「この様に、皆様に感謝ですね」
    唯:「そうだね」
    ナレ:唯が晴忠に零さないように器をしっかり持たせ食べさせている姿を吉乃は微笑ましかった。食事も終わり、囲炉裏の炎の灯りの中、晴忠はスヤスヤと寝息を立てていた。
    吉:「唯」
    唯:「・・・」
    吉:「どうしたのですか?・・・若君様も案じておるのですよ」
    唯:「分かってる・・・けど」
    吉:「そなたの想いを申してみては?」
    ナレ:しばらく唯は手もとを見ていた。そして手の甲に涙がおちだ。吉乃が優しく抱きしめて、
    吉:「申せば心も晴れますよ」
    唯:「うん・・・お袋様も知ってるけど、私、若君様と出会った頃からずっと、若君を守るって決めてたの」
    吉:「存じておる」
    唯:「うん・・・でも、この前の戦で、若君も無事に戻って来たけど、家来の人たちが怪我をしていて、私が初めて戦に出て、そこで・・・」
    吉:「唯?」
    唯:「そこで・・・沢山の人が・・・亡くなっていて、生まれて初めて見た光景で、恐ろしくて」
    吉:「先の世で見る事も無かろうて」
    唯:「うん。それでも、若君を守りたいから戦にも行った。でも、自分がその場に居なかったのに、怪我をしている人たちを観たら・・・恐ろしくなって・・・この時代から逃げ出したいって思って」
    ナレ:その意味の分かる吉乃は、
    吉:「わたくしが唯の立場でもそのように思うでしょう」
    唯:「うん・・・この場から逃げたいって…でも、出来ない。こんな思いは初めてだから、若君にもお袋様にも心配されて・・・私はずっと若君を守るって決めてたのに」
    ナレ:吉乃はもう一度、唯を抱きしめて、
    吉:「それはのぉ、そなたが母だからです」
    唯:「えっ?」
    吉:「これまでは、唯は忠清様お一人をお守りすることに力を注いで参ったのです。ですが今は、そなたには晴忠様が居ります。母として子を守る事により、恐れる事、戦の世から逃げ出したいと思われることは致し方ない事だと」
    唯:「お袋様」
    吉:「何も恥じる事は無いのですよ」
    唯:「お袋様」
    ナレ:唯は自分の気持ちを話し、少し落ち着いてきた。その夜、晴忠の横で眠る唯が寝言で「若君様」と。その言葉を聞いて吉乃は、布団から出た唯の腕をそっと戻し、
    吉:「あの日、わたくしの前にせがれと現れ、おなごと知り、共に暮らし、知り得る事のない物事を知り、不思議な事ですね。私はそなたと出会うて幸せですよ。これよりもそなたを守りますからね」
    ナレ:吉乃は唯の頬を優しく撫でた。翌日、朝餉の後、吉乃は忠清の元に向った。唯には足りないものがあったと言って。

    ナレ:忠清に唯の気持ちを話した。
    吉:「唯も母として子を守りたい、その気持ちよう分かります」
    若:「そうじゃの」
    ナレ:唯の気が枯れるまで梅谷村に居るように言った。
    吉:「よろしいのですか?」
    若:「わしは、唯の笑う顔が好きなのじゃ」
    吉:「らぶでございますな」
    若:「そうじゃの。ふっ」
    ナレ:唯は吉乃が忠清に会いに行ったのだと気づいていたが自分からは何も聞かなかった。ただ、また同じ風景を見る事になってはと恐怖心は拭えないでいた。誰も戻ろうとは言わずに二年近く経っていた。その間も様子を確認しに三郎兵衛が来ていたが、唯にはその姿は見せずにいた。それは落ち着いてきたとの報告があったが、三郎兵衛の姿を見て戦を連想させるのは酷だと忠清の優しさだった。時が経ち、子供心に母を想いつつ、父の事は言わずに来たが、とうとう晴忠が父上に会いたいと言葉にするようになった。唯は覚悟を決めた。そして城に戻った。迎えに出た忠清の姿が見えると、晴忠を吉乃に託し、唯は忠清めがけて走った。忠清も両手を広げ、ジャンプしてきた唯をしっかり受け止めた。晴忠も走っていきたかったが母親の気持ちを想いその場に立っていた。その姿に吉乃は、
    吉:「母上様は晴忠様より幼子のようでございますね」
    ナレ:晴忠は吉乃の言っている事も分かるので、何と言っていいのか返答に困っていると、
    吉:「晴忠様はお父上に似てお優しいですね」
    ナレ:吉乃は晴忠を抱きしめた。そして二年後、覚高が誕生した。

    過去&永禄&現在⑰へつづく

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    過去&元禄&現在⑮

    =永禄6年=

    ナレ:夕焼け空の下、如古坊はひとり丘に登り岩に腰かけ、クリスマス会と成長した姿の孝の写真を見ていた。すると後ろでカサッと音が聞こえ振り向き驚いた如古坊は岩から滑り落ちた。
    如:「えっ?」
    理:「お怪我はありませんか?」
    如:「大事ないが」
    理:「良かった」
    如:「あぁ」
    理:「姿を見せていませんでしたので初めましてですね。私は神山理樹弥と申します」
    如:「はぁ?・・・かみやま・・・りきや?・・・神山?」
    ナレ:如古坊は目の前の不思議な光景に驚くだけ。
    理:「あなたの知る孝は私の高祖父です。あなたが孝と出会った頃の150年後から来ました」
    如:「こうそふ・・・150年?」
    ナレ:理樹弥は岩に腰かけた。
    理:「座りませんか?お話しします」
    如:「あっ、あぁ」
    ナレ:如古坊は座り直して理樹弥の方に身体を向けた。
    如:「わけは?」
    理:「はい・・・何処から・・・初めにこれを見て下さい」
    ナレ:リュックから取り出した物を如古坊に渡した。大学ノートで表紙に【神山孝】の名が。
    如:「これは?」
    理:「神山孝が自分の生い立ちを記した物です。代々残されていたノートで、私が子供の頃に見つけて読んでいました」
    ナレ:ページをめくっていくとそこに【木村三吉】が記載されて驚いた。
    理:「私が見つけて読んでいた頃にはこの名前はありませんでした」
    如:「それは、私が孝君の前に現れたからこの内容が変わったと?」
    理:「そうです。それから」
    ナレ:古い本を渡した。
    如:「これは?・・・あっ」
    ナレ:表紙に【速川尊著】と。
    理:「その本も子供の頃に見つけました。あなたが現代に行っている頃もそうですが、紙による本の需要が減り、書店が減少されていく時期もありましたが、一時期から本が見直されるようになりまして、書店の減少も止まりまして、父は新作や古本屋をめぐるのが趣味で、私も父の影響で本が好きになり良く父と出向いていました。ある店でたまたま私の目線にあるこの本が気になり、難しい漢字は読めませんが買ってもらいました」
    ナレ:題は【白い月に想う】。子供が興味を抱くような題ではないので父親が他の本にと言ったがどうしても欲しいと買ってもらった。
    理:「パソコンで調べることも出来ましたが、私はあえて辞書片手に読みました。内容はフィクションです」
    如:「ふくしょん?」
    理:「作り話と言う事です。でも、私はそれが本当の事なのではと強く思う様になりました」
    ナレ:理樹弥は内容を掻い摘んで説明した。主人公がタイムマシーンを作り、自分の代わりに主人公の姉が戦国時代に行ってしまい、そこで出会った若君に恋をした。そして矢傷を負った若君を現代によこし治療を。そして若君が戻ってから、その後、敵方から逃れるため姉と若君が現代に来た。それに姉と出会った人たちも現代に来て色々な事を知り帰って行った。だが、何度も過去と現代を行き来させたことで確実に時空が歪み、主人公も戦国に戻った姉たちに会いたいと研究したが過去へ行く事は出来なかったと言う物語だと。
    如:「ほぉ・・・だが、あなたは?」
    理:「私は子供心にタイムマシーンへの興味が強くなりました。速川尊という方に会ってみたいと思いました。それから研究に必要な事もそうですが本業の勉強も親が驚くほどに励みました。タイムマシーンを研究している事は秘密にしたかったので研究には全く関係のない会社に就職して研究を続け、結婚してからも高価な本を買ったりと妻にも苦労を掛けましたが」
    如:「では、奥さんは」
    理:「内容は話していませんから、まさかタイムマシーンだとは思ってもいないでしょう。それが収入にならない夢にと普通は怒るでしょうね」
    如:「あぁ」
    理:「私は付き合い始めた頃から夢の為に研究をしていると話しました。駄目なら別れるだけです。でも、妻は他所で悪さするより良いかもと笑って」
    如:「申し訳ないが、変わった方ですね」
    理:「謝らなくても。そうですね、私みたいな者に二十五年も着いてきてくれていますので。いい妻です」
    如:「お会いしていなくても分かる気がします」
    理:「えっ?」
    如:「ん?」
    理:「いえ・・・ありがとうございます。内容を聞かれる事も無く有難いので、猫アレルギーの妻ですが猫が好きなので良く動画を見ているので猫のロボットを作りました。遠めには猫そっくりに出来て妻も喜んでいます」
    如:「そうですか。きっと、運命の方なのですね」
    理:「そう思います。研究を続けて、人が乗るような装置では歪んだ時空をすり抜けることは出来ません。この本にも起動装置で人が過去へ飛んだことは書かれてありますが、乗り物が存在したのかも分かりません」
    如:「だが、こうして」
    理:「はい・・・時空の歪みを変えられないのなら、その隙間を通り抜ける方法があるのではと考えました」
    ナレ:もう一度本をめくっていった。姉にもう一度戦国に行きたいと言われ、未来の主人公に託し、
    そして未来の主人公が35歳の時に過去からのメモを大事に持っていて、その頃は歪みが初期段階であったが、飛べなくなる可能性もある中で起動装置の質力を高めることに成功して同時に二人が移動できるように。その後、9人という大人数を助けるために一か八かに賭けた。過去の主人公も努力して9人を戦国に戻すことが出来たが、35歳の主人公のデータでは完全に歪みが生じた事が分かったと。そう説明して最後のページを見せた。
    理:「本の終わりの白紙の部分に手書きで数式が書かれていました。この本が手元に届いた後に書いた物の様です。この数式を解読しても全部は理解できませんでしたが、質力を高める為に太陽電池を利用する事も書いてあり、そして私も起動装置が出来ました。実際に起動するのか半信半疑でした。10分前、10分後と少しずつ時間を伸ばし、その後は昨日明日と1日だけ移動しました。現在に戻ることが出来ましたので、次のステップとして10年前に設定して移動したと思いましたが現在に引き戻され、歪みの隙間を通らない限り過去に行く事も無理だと。それから完成まで10年かかりました。私は今55歳です。私は構想から40年近くかかりました。この作者の速川さんは15歳で完成させています」
    如:「だが、凄い事だ」
    理:「ありがとうございます。自分の研究成果について意見が聞きたくなり速川さんに会いに行きました。速川さんにあなたの本を読み、そして未来から来たことを話しましたら、やはり経験者ですね驚かれる事も無く優しく歓迎して下さいました。そして内容は事実であると聞きました。速川さんはお独りで研究や技術開発もされて業界では名が知られています。晩年は子供たちにロボット制作の教室をされていました」
    ナレ:尊のその後が知れて嬉しかった。80歳近くなっても尚、精力的に子供たちに教えているのは、いつかタイムマシーンを作る子供が出てくることを内心願っていると笑って理樹弥に話した。そして、自分の本を読んで本当にタイムマシーンを完成させた人物が目の前に現れた事を喜んだ。
    理:「その時に、速川さんが楽しい思い出だとその頃の話を聞かせてくれて、速川さんは出来るのなら姉たちの様子を見に行きたかったと。私もその方達に会ってみたいと思って、速川さんに会いに行きますと伝えました。そしてこの時代に」
    如:「そうであったか。もしや、わしを平成に連れて行ったのは?」
    理:「はい。私です」
    ナレ:未来の尊ではなかったのだと。
    如:「だが、関わりの無いわしをどうして?」
    理:「速川さんの話の中で如古坊さんの名は聞いていましたが、どの様な方かは分かりませんでしたので、あの時のあなたがとは全く。私も正直分かりませんが、追いかけられているあなたが悪い人には思えませんでしたので、転びそうになったあなたを抱きかかえました」
    ナレ:あの時の感触は理樹弥だったのかと。
    理:「あなたを数分後に移動させなかったかは今でも謎です。私も無我夢中でそこまで考える余裕は無かったのかも知れません。一人用ですから600年先まで一気に飛ぶのは無理だと判断して、速川さんから忠清様の墓の事も聞いていましたので、平成のあの地に一旦降り立ち、私だけ一度戻りエネルギーを補充して、遅くても1分後くらいまでには戻るつもりでした」
    如:「だが」
    理:「直ぐに平成に戻る為に早く充電できる方法は無いかと速川さんの本を読み返しましたら、あなたが物語の中に現れていて驚きました」
    如:「では、尊の運命も変わったと」
    理:「そうです」
    如:「そうか。だが、あなたに礼を。わしを助けてくれてありがとう」
    理:「いえ」
    如:「あの折、光が見えたのだが」
    理:「私にもはっきりした原因は分かりませんが、私が通った事で摩擦の様な状態が生じたのかも知れません。その光だったのではないかと」
    如:「難しいのぉ」
    理:「ですが直ぐに戻っていたら」
    如:「尊たちに会う事は無かったと」
    理:「はい。速川さん一家が楽しんでいることを知りましたので、あの時に戻る事はせずにしばらくはこのままにと。でも、返ってあなたに辛い想いをさせてしまったようで」
    如:「案ずるな。あなたのおかげで楽しく過ごす事が出来ました。速川家での生活は楽しかった。それに幸子さんと孝君の事なら気にすることは無い。わしにとってこの上ない幸せな時だったからの」
    理:「そう言っていただいて」
    如:「尊も申しておったが、何故すぐに戻れなかったのだ?」
    理:「やはり450年はエネルギー消耗が激しく、私の研究はまだまだでした。戻ってみて装置はしばらく使える状態ではありませんでした。修理とその後のエネルギーを蓄えるのにゆうに半年かかりました」
    如:「そうだったのか・・・この、写真の事を話してくれないか?」
    理:「はい。孝の成人の日に設定して向いました。少しの間であれば歴史は変わらないと思いましたので」
    ナレ:木村三吉からネクタイを貰い、それを成人式で結んだと書かれてあった。その姿を如古坊に見せてあげたいと考えた理樹弥は孝の前に現れた。
    理:『すみません、神山孝さんですか?』
    孝:『そうですが、あなたは?』
    理:『か・・・川崎と申します。実は、木村三吉さんの知り合いでして』
    孝:『えっ、本当ですか?』
    理:『はい。木村さんは遠くに居りまして日本に来ることは出来ませんが、あなたの成人した姿を見せてあげたくて写真を』
    孝:『そうですか。あの、三吉さんはお元気ですか?』
    理:『はい。では、1枚よろしいでしょうか?』
    孝:『はい。そうぞ』
    ナレ:孝はカメラの前で姿勢良く。そして、理樹弥に加味は無いかと聞いた。理樹弥が胸ポケットから手帳を出し丁寧に破いて、
    理:『これで良いですか?』
    孝:『はい』
    ナレ:孝はペンを出して何かを書き理樹弥に渡した。
    孝:『本当は色々書きたいんですが。これを三吉さんに渡してもらえますか。それと、連絡先を』
    理:『すみません、それは出来なくて』
    孝:『あっ、そうですか。でも、元気だと聞いて嬉しかったです。私も元気ですと』
    理:『はい。伝えます』
    ナレ:孝は誰かに呼ばれ挨拶してその場を去った。
    理:『すみません』
    ナレ:理樹弥はその後姿に深く頭を下げた。直ぐに現在に戻らず孝が歩いて行く方へ進むと、成人式の会場から少し離れた場所に消防署が。孝はその建物の中へ。しばらくして制服姿の孝が出て来た。仲間に成人式の事を話している姿が見え、その姿を写した。
    如:「そうだったのか。孝君の元気そうな姿を見ることが出来て。ありがとう」
    理:「孝は署長までになりました。晩年は消防活動にも率先して参加していました。ブロックで出来た色あせた消防車の写真も残っていました」
    ナレ:覚達が送った物だと分かった。
    如:「それから」
    理:「はい?」
    如:「あっ、いや、何でもない」
    理:「それから速川さんが言っていました。今でも満月の日は父親のレシピのレンコンのはさみ揚げが食卓に出されるのだそうです」
    如:「わしも好きだった。尊の家族は?」
    理:「はい。速川さんは大学院」
    如:「大学院?」
    理:「大学の次の学校とでも言いましょうか」
    如:「やはり、尊は勉強が好きなのだな」
    理:「その頃の事も書いてありました。医学部の女子と合コンで知り合った人と」
    如:「ごうこん?」
    理:「合同コンパと言って男女で話をする場ですね。そこで知り合った女性と結婚して速川医院はその方が継いだそうです」
    如:「そうか。では、お母さんも安心したのだな。良かった」
    ナレ:如古坊はみんなが写る写真を見て嬉しそうな表情。
    理:「では、私はそろそろ。あなたに会えて良かったです」
    如:「わしもだ。そなたも達者での」
    理:「はい。では」
    ナレ:如古坊の前から消えた。
    如:「聞けなかった」
    ナレ:孝が神山の姓になった理由を聞くことが出来なかった。

    =現在 2170年=

    ナレ:理樹弥は元の場所に戻った。そして、唯の元へ向かうため、また半年掛けエネルギー充電し、
    時を待った。

    過去&永禄&現在⑯へ続く

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    過去&元禄&現在⑭

    =過去 2021年 1月15日=

    ナレ:神山家の食卓は朝昼のおかずは1品。夕飯は10品。
    祥:「凄いね」
    佳:「当り前よ」
    祥:「でもさ、毎回この品数だと思ったら幸子さんプレッシャーにならないかね」
    佳:「日頃の様子も話すから」
    祥:「そっ」
    ナレ:祥から孝の様子を聞いていた佳津子は、
    佳:「お前次第ね」
    祥:「急に何?」
    佳:「孝君とこの先、生まれてくるであろう子を分け隔てなく育てることが出来るかどうか」
    祥:「正直分からないよ。子育てした事ないし」
    佳:「まぁ、そうだけど。孝君の命も人生もあなたがこの先、守らなくちゃいけないのよ。今更だけど、その覚悟がないなら、諦める事ね」
    祥:「変なこと言うなよ。俺は幸子さんも孝君もみんな守る覚悟は出来ているんだから」
    ナれ:そこへ、としをが帰って来た。
    と:「ただいま。聞こえたけどな、覚悟って義務みたいに言うなよな。子育ては確かに責任もあるがな、絶対こうしなくちゃならないって肩肘張って考えていると、何か遭った時、冷静に判断出来ないと思うんだよ。要は肩の力を抜いて柔軟にな」
    佳:「あなたの言っている事、分かるような分からないような」
    と:「私も何が言いたいのか分からなくなった。あははは」
    祥:「俺の理想の父親像は父さんだから」
    と:「そうか」
    祥:「子育てに力が入っていない感じが良い」
    と:「お前なぁ」
    祥:「だから、俺、反抗期も無かっただろ」
    佳:「そうね、そう言えば」
    と:「そうか、私のおかげだな。ははは」
    ナレ:そこに呼鈴が。祥が迎えに出た。
    祥:「いらっしゃい。どうぞ上がって下さい」
    幸:「ありがとうございます。孝」
    孝:「お兄ちゃんごめんなさい」
    祥:「俺にデリカシーが無かったんだから、孝君が謝る事は無いんだよ。それで、ごはん食べたら大きい風呂に行こうね」
    ナレ:孝は照れた表情で頷いた。
    佳:「いらっしゃい。で、大きい風呂って聞こえたけど?」
    祥:「言ってなかったっけ?孝君と竹の湯へ行こうと思って」
    佳:「夕飯の事は言ってたけど。でもね、竹の湯さんとこ今週は改装で休みよ」
    祥:「えっ、そうだったんだ」
    と:「孝君、狭いけどうちの風呂で我慢してくれるかな」
    佳:「そうね。息子の確認不足でごめんなさいね」
    幸:「いえ」
    祥:「じゃ、うちの狭い風呂に入ろうか」
    と:「私が狭いと言うのは当然だが、お前がそれを言うな」
    祥:「事実じゃん」
    佳:「ごめんなさいね。うちの男共は子供だから」
    ナレ:そう言われて返事のしようもなく幸子は苦笑い。話はまとまり神山家の風呂に入る事にした。食事前に風呂掃除を祥に指図。普段ならブツブツ言うところだが素直に風呂場へ。食事も終わり二人は風呂場へ。
    祥:「背中洗うから後ろを向いて」
    ナレ:優しく背中を洗ってあげながら、
    祥:「お母さんに聞いたよ、そのお友達の事と自分を重ね合わせて考えてしまったんだってね」
    孝:「うん」
    祥:「孝君が心配するのも当然だと俺も思うよ。正直に話すけど、俺は子育てをした事はないから、どんな父親になるのかは分からない。だから、孝君が悲しむようなことをしてしまうかもしれない」
    孝:「・・・」
    祥:「で、孝君は俺の先輩だ」
    孝:「えっ?」
    祥:「俺も昔は子供だった。でも、今の子供の事は分からない。孝君の事も孝君の友達の事も、将来、孝君に弟か妹が生まれてきて、俺には分らない事が沢山あるから、子供の側から、俺に色々教えて欲しいんだ。いいかな?」
    孝:「いいよ」
    祥:「ありがと」
    ナレ:湯をかけ泡を流した。
    孝:「今度は僕がお兄ちゃんの背中を洗うよ」
    祥:「お願い」
    ナレ:祥もとしをと一緒に風呂に入っていたが、いつから一緒に入らなくなったかと考えていた。
    孝:「お兄ちゃん?」
    祥:「ん、父さんといつまで入っていたかなって考えてたんだ」
    孝:「何年生まで入ってたの?」
    祥:「はっきり覚えてないけど、四年か五年かな。孝君だったらどうかな?」
    孝:「分かんない」
    祥:「そっか。分かんないよなぁ」
    ナレ:泡を流した後、二人同時に湯船に入りお湯が滝のように流れた。

    ナレ:祥と孝が仲良く風呂に入っている頃、食後のデザートでみかんを食べていた。
    佳:「このみかん、主人の親戚が毎年送ってくれてね、結婚してからみかん買う事ないのよ」
    幸:「そうですか。美味しいですね」
    佳:「沢山あるから、持って行って」
    幸:「ありがとうございます」
    と:「幸子さんが此処へ来たと言う事は、祥との事を真剣に考えてくれているって事かな」
    幸:「はい」
    佳:「親の欲目でって事でもないけど、私たちにとっては祥は自慢の息子」
    幸:「はい、分かります」
    と:「祥は、あなたと孝君を裏切るようなことはしないと思います。もし、何か遭ったら、私たちが祥を懲らしめます」
    佳:「そうよ。ボッコボコにするから。あはは」
    幸:「それはぁ」
    と:「妻は本気です。ははは」
    佳:「冗談はさておき、あの子は真剣に考えていますから、それだけは分かって下さい」
    ナレ:佳津子はとしをに合図して、ダイニング横の座敷に行き、手を付き、
    佳:「祥の事よろしくお願いします」
    幸:「その様な真似をして頂いては」
    ナレ:幸子も移動して同じ様に。
    幸:「わたくしの事をご存じなうえに、孝まで受け入れて下さる皆様に感謝してもしきれません。私と孝共ども宜しくお願い致します」
    ナレ:そこへ湯上りの二人が戻って来て三人の様子に、
    祥:「みんなして何?」
    と:「いいから、お前もこっちに」
    ナレ:隣に来た祥の頭を押さえ、
    と:「こんな不束な男ですが、よろしくお願いします」
    ナレ:状況が飲み込めた祥も手を付き、
    祥:「末永くお願いします」
    ナレ:孝は大人の行動が理解できていないが同じようにしていた。
    と:「まだ説明していませんでしたが、祥には一つ上の姉が居りまして、今は所帯を持ちアメリカに居ます」
    幸:「そうですか」
    祥:「姉は母に性格が似ているので、幸子さんと孝君とも仲良くできると思いますよ」
    佳:「そうね、そうかも。早く会わせたいわね」
    幸:「私もお会いしたいです」
    ナレ:後日、改めて小路家に挨拶に行き快諾してくれた。その夜、祥は姉の未咲に連絡した。
    祥:「久し振り。みんな元気?」
    未:《みんな元気よ。で、お母さんに聞いたわよ、あんた相手出来たんだって》
    祥:「相変わらずだね」
    未:《何よ?》
    祥:「別に。で、母さん話してたんだ」
    未:《まぁ、上手くいけばいいなぁって言ってたけどね。滅多に連絡してこないあんたがって事は》
    祥:「ん。おかげさまで結婚決まったから」
    未:《そう、良かったわね。なんでも、息子さんはあんたより出来た子だって自慢してたわよ》
    祥:「そっ。母さんの中では本決まりになってたんだな」
    未:《あんたが煮え切らないからヤキモキしてたらしいわよ》
    祥:「まぁ」
    未:《もし、あんたが踏み出さなかったらお父さんとお母さんに代わって、私がどうにかしようって考えてたのよね》
    祥:「ありがと」
    未:《あら、随分素直》
    祥:「もぉ。じゃ、日取りとか決まったら連絡するよ」
    未:《待ってるわ。まぁ、せいぜい二人に嫌われないようにする事ね。アハハ。じゃぁね》
    ナレ:祥が反論する前に切れた。尊から話を聞いた裕は自分の予言が当たったと喜んだ。その半年後の6月に結婚式を挙げた。式には速川家の三人と裕が招待された。

    過去&永禄&現在⑮へつづく

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    過去&永禄&現在⑬

    ナレ:祥は幸子に連絡をして、孝と二人きりで話がしたいと銭湯に誘った。
    幸:《銭湯ですか?》
    祥:「はい。孝君は銭湯に行った事は有りますか?」
    幸:《一度もありません。アパートの近くに以前は在りましたが、私たちが越した頃に廃業したので行く機会はありませんでした》
    祥:「そうですか。うちの近くに在るので、男同士裸の付き合いで腹を割って話したいと」
    幸:《そうですか。ですが、今の状態で行くとは考えられません》
    祥:「手強いですね。でも、俺は二人を幸せにしたいと、孝君の頑固には勝てるつもりです」
    幸:《分かりました。話してみます》
    祥:「はい。宜しくお願いします」
    ナレ:その日は日曜日、翌日も休みなので、孝と幸子は泊りがけで実家に来ていた。孝と亮二がテレビゲームをしていた。孝はいつものように元気だった。母紗千江に祥の提案を話した。
    紗:「そうなの。でも、あなたから聞いていた孝君の様子、此処ではいつもと変わらないのには驚いたわ」
    幸:「そうね。私も驚いたわ。私とは話さないのに」
    紗:「それだけ、気を使う子なのよ」
    幸:「私の責任ね」
    紗:「あなただけじゃないわ。私達の責任の方が重いわよ。だから尚更、孝君には幸せになって欲しいと思うのよ。祥さんであれば二人を幸せにしてくれるとお父様も言っていたわ」
    幸:「そうね。私もそう思うわ。でも」
    紗:「此処は祥さんにお任せして」
    幸:「えぇ」
    ナレ:ゲームが一段落した時に孝を呼んだが幸子の側に来ようとしない。紗千江は幸子の耳元で、
    紗:「この頑固さはあなたに似たのね」
    幸:「そうかしら?」
    紗:「そうよ。孝君、お母さんが話があるそうよ」
    亮:「孝が考えていることをお母さんに言わないと、お母さんだって分からないんだぞ。お前は男だ、女性を泣かせることをしちゃいけないんだよ」
    紗:「あなた、そう言っても」
    亮:「まぁそうだが、孝は分かってくれるよ。なっ、孝」
    ナレ:亮二に背中を押されゆっくり幸子の元へ歩いて行った。
    幸:「孝は何を怒っているの?」
    孝:「怒ってない」
    幸:「私には怒っているようにしか見えないのよ。怒っていないのなら、孝が思っていることを話してくれないかな?」
    孝:「・・・・・」
    亮:「孝だって言いたい事あるのに言えなくて苦しいんじゃないか?」
    紗:「そうよ、お母さんも孝君の言いたい事を受け止めてくれるから」
    孝:「・・・・・」
    幸:「孝、何でも良いのよ言って。もし、祥さんとの結婚が嫌なら、嫌と言ってくれていいのよ。三吉さんにはもう会えないと話したでしょ。それでも孝の心の中に三吉さんが居る事も祥さんは分かっているから」
    孝:「・・・お母さんとお兄ちゃんが結婚したら・・・僕・・・要らないんでしょ」
    幸:「えっ?」
    紗:「何を言っているの孝君。要らないわけないじゃないのよ」
    幸:「そうよ。どうしてそんな事を?・・・あっ」
    紗:「幸子?」
    幸:「あの話を理解していたの孝?」
    亮:「何だね?」
    ナレ:幸子が理由を話した。孝が小学校に上がる頃、幼稚園の同じ組の男の子の母親が再婚した。昨年、再婚相手の間に子供が生まれた。その頃から息子が反抗的になったとその母親から相談を受けた話を孝も側で聞いていた。母親の話では生まれたばかりの妹の側にも寄り付かず、何か頼んでも言う事を聞かない。赤ちゃん返りの様子もない。
    幸:「息子さんが言っていた事、妹のなっちゃんが可愛いんだ僕なんか要らないんだと言って、彼女は息子さんの頬を叩いてしまったと話していたの」
    紗:「その子、寂しかったのね」
    幸:「分かっていたはずなのに手を挙げてしまったと。もしかして、孝、あなたもそう思うの?弟か妹が出来て、自分が要らないと思うの?」
    孝:「だって」
    幸:「私は正直どうなるか分からないけれど、祥さんは孝を大事にしてくれると思うのよ」
    紗:「あなたったら」
    幸:「孝に目を向けられない事も」
    亮:「ここは祥さんに任せてみないか?・・・丸投げって事じゃにからな」
    紗:「分かってるわよ。私も、それが良いと思うから」
    幸:「孝、祥さんが男同士手で話がしたいと言ってくれているの、お受けしてもいいわよね」
    孝:「・・・うん」
    ナレ:早速、祥に連絡した。孝の様子の理由を伝えた。
    祥:《そうだったんだ。理由が分かれば、話しやすいから。じゃ、善は急げで今週の金曜日の夜に連れて行っていいですか?》
    幸:「はい。お願いします」
    祥:《じゃ、うちで夕飯食べてからって事で》
    幸:《分かりました。では、仕事終わりに伺います」
    祥:《待ってます。ご両親によろしくとお伝えください》
    ナレ:電話を切った後、祥は金曜の夜に二人が来ることを話した。
    亮:「本当に、神山にそっくりな男だな。仲間内では一番優しい男だよ。私も安心だよ・・・あっ」
    幸:「お父様?」
    亮:「孫の取り合いになるって話していたんだ」
    幸:「お父様ったら」
    ナレ:亮二は孝を抱き上げ、
    亮:「神山のお祖父ちゃんと遊ぶのを10回なら、私とは100回遊ぼうな」
    ナレ:孝は一先ず頷いた。
    紗:「あなたったら、孫に気を使わせて呆れましたわ」
    ナレ:幸子も苦笑い。

    過去&永禄&現在⑭へつづく

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    過去&元禄&現在⑫

    =過去 2021年 正月=

    ナレ:眠っていた祥を文字通り叩き起こし、
    佳:「いつまで寝ているのよ、新しい年になったんだから、あなたも新しくなりなさいよ!」
    祥:「新しくって、意味わかんない」
    佳:「正月なのよ、正月早々寝坊なんて1年の始まりなのよ、起きなさい!」
    ナレ:佳津子は掛け布団をはがした。
    祥:「分かったよ、起きるよ」
    ナレ:嫌々起きた祥はパジャマのままで1階に。テーブルにはお節料理のお重とお屠蘇セットが。二人は着物姿。
    と:「休みだからってなぁ、パジャマは無いだろうよ」
    祥:「誰も見ていないんだし、まぁ、いつもの事だし」
    と:「まぁ。じゃ、来年からは着物とは言わないが、パジャマは無しにしろよな」
    祥:「わかったよ」
    ナレ:着かえず椅子に座り、
    祥:「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
    ナレ:挨拶して手酌で酒を注ぎ飲んだ。
    佳:「呆れたわね。で、今年はどうするの?」
    祥:「どうするって何を」
    ナレ:そう聞いた祥だが要件は分かっている。孝の誕生日会の日の夜、砕けちゃうかもと言っていたにもかかわらず、どうなったのか何も言ってこない息子にヤキモキしている事を。当の祥も行動できずに立ち止まっていた。幸子から何も言ってこない事で、それが答えなのかと考えた祥は幸子にLINEすら出来ずにいた。
    祥:「あぁ、砕けちゃったかもな」
    と:「私から小路に聞いてもいいんだぞ」
    祥:「子供じゃないんだから、それはやめてくれよ」
    と:「ん。明子さんが言っていたが、彼女の心に誰か居るって、お前がグズグズしているのは、もしかして、その相手お前知っているのか?」
    祥:「グズグズって。まぁそうだけど。それに相手の事も俺も知ってるし、もう会えない人だし」
    佳:「何それ、意味わからないわよ」
    祥:「もぉ良いじゃん、俺、見合いする」
    ナレ:投げやり気味に言った祥に、
    と:「情けない男だよ」
    祥:「正月早々、そんなこと言われたかないよ。自分が一番分かってるんだからさ」
    ナレ:その言葉に二人は何も言えなかった。いつも明るい正月が今年は静かな元日となった。しばらくして、
    祥:「父さん、母さん、ごめん」
    ナレ:としをはニコニコしながら祥の頭をなでた。
    佳:「じゃ、これから初詣に行きましょ。そこで神頼み」
    祥:「分かった」
    ナレ:三人揃って出掛けた。

    ナレ:近くの寺でお参りを済ませ、家に戻った祥は意を決し幸子にLINEを。【明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします】
    祥:「シンプル過ぎたかな。イラストとかにした方が良かったかな」
    ナレ:着信に喜んだが別の人物。イラストオンリーの内容。相手は仲間内の横瀬だった。独身は祥とこの横瀬だけ。
    祥:「俺とこいつだけか。は~」
    ナレ:年頭の挨拶を返信して直ぐ既読でまた着信。【年初めの飲み会、他の連中、奥さんの用事で来月にしないかって言ってきたけど なら、二人で飲むか?】
    祥:「そうだったな。暇なのは俺と横瀬だけなんだな」
    ナレ:返信で【了解  お前の方で日程、店は決めて良いよ あとで教えてくれ】。直ぐに動く絵文字が返って来た。ノックがの音がして佳津子が顔を出した。
    佳:「お汁粉食べる?」
    祥:「食べる。餅二つね」
    ナレ:佳津子の後から部屋を出ようとした時にLINEの着信の音。横瀬だろうとゆっくりスマホを見ると相手は幸子だった。
    祥:「えっ!」
    ナレ:そこには年頭の挨拶と富士山をバックに小路亮二達との写真が貼り付けてあった。
    祥:「富士山か」
    ナレ:祥は直ぐに返信した【楽しまれていますね。皆様にもよろしくお伝えください】。直ぐに【有難うございます。伝えます】。祥は今はこれだけで幸せな気持ちになった。

    =過去 2021年 1月4日=

    ナレ:祥は正月明け5日からの営業の為、店で用意をしていた。元日に幸子からのLINEはあったがそれっきりだった。
    祥:「旅行かぁ、そう言えば家族旅行っていつ行ったっけ?」
    ナレ:祥の祖父、としをの父親が昔、この場所で理髪店を営んでいた。としをは理容の道には進まず会社勤め。祥は小さい頃から祖父の事が好きで、仕事姿の祖父を見ていて、祥も祖父と同じ道に。祖父は祥が専門学校に通っている頃に他界した。理容学校を卒業して、直ぐに独り立ちをしないで他の店で修業するようにと、としをに勧められ、祖父の弟子だった人の店で3年働き、戻って休業していた店を再開した。再開してからも休日返上で腕を上げる為、勉強に励んでいた。たまには友達と飲むことはあったが旅行は無かった。
    祥:「二人とも、何も言わなかったな。今度、何処かに連れて行くか」
    佳:「なに?」
    ナレ:急に顔を出したので驚いた。
    祥:「驚かすなよ」
    佳:「別に驚かせて・・・やっぱり驚くかな」
    祥:「意味わかんない」
    佳:「いいから来なさい。お客さんよ」
    祥:「誰?」
    佳:「いいから」
    ナレ:祥の腕を引き母屋へ。
    祥:「えっ!」
    佳:「ほら、驚いたでしょ」
    ナレ:そこには幸子と孝が居た。
    幸:「明けましておめでとうございます」
    祥:「あっ、はい。明けましておめでとうございます」
    佳:「お土産を頂いたのよ」
    祥:「ありがとうございます」
    ナレ:正月の用意をしている時に小路亮二は思い立ち、山梨に行くと言い出した。その場に居た明子にも声を掛けたが、やはり急の事も有り都合がつかないと断った。
    佳:「京都木さんは家族水入らずと遠慮なさったのかも」
    幸:「そうだと思います」
    ナレ:幸子は物心がついた頃から両親と年末年始をゆっくり過ごす事は無かった。紗千江の実家は山梨で姉夫婦がワイナリーを営んでいる。紗千江も行事以外は実家に出向く事は無かった。ワインは送ってくれている。亮二の提案に心配をかけていた詫びとワインの礼の為に行くのは良いだろうとみんなは承知した。早速、紗千江が連絡をすると姉は驚いていたが喜んでくれた。
    と:「飲み会の時に言っていたな、国内外のワインを飲んでいるが、妻の実家のワインが一番、自分に合っていると」
    幸:「父もそう申しておりまして、ご無沙汰しているのにと言いましたら苦笑いを」
    と:「そうですか。でも、小路は嬉しかったと思いますよ」
    幸:「はい」
    佳:「じゃ、そのワイナリーに行ってみたいわね」
    幸:「では、母に伝えておきます。いつでも仰って下さい」
    佳:「ありがとうね」
    幸:「伯母の家にお泊り頂いて、ゆっくり観光なさったら良いかと」
    佳:「まぁ、日帰りになると思うから」
    幸:「いえ、遠慮なさらずに」
    佳:「いえ、良いのよ。だって、この子にご飯作らないと」
    ナレ:祥の顔を見て笑った。
    祥:「別に、どうにでもなるよ。ゆっくり旅行も出来なかったから、お言葉に甘えて。勿論お礼はしますから」
    と:「そりゃぁ、当然だろう」
    ナレ:祥は日ごろの感謝に自分が負担するからと言った。
    と:「じゃ、贅沢させてもらおぅかな」
    祥:「あのぉ、限度ってのが有るんだからね、そこんとこは分かってよ」
    と:「はいはい」
    ナレ:二人のやり取りを笑顔で見ていた。
    祥:「ほら、幸子さんが呆れてるだろ」
    幸:「いえ。私は素敵なご家族だと」
    と:「あなただって、幸せでしょ」
    幸:「はい。少し前までは不幸は自分が蒔いた種だと諦めていました。ですが、ある方に出会って、私と孝が幸せの方へを歩いて行けたように思います」
    佳:「えっ?」
    幸:「いえ」
    ナレ:祥はその相手が如古坊の事だと分かっていた。
    幸:「あの、祥さんにお話があって」
    祥:「俺に?」
    幸:「はい」
    祥:「では、店の方で」
    ナレ:その様子に佳津子が、
    佳:「暖房点けて無いから、此処でね。ねぇ、孝君、前に食べたケーキ屋さんが今日から営業なのね、ケーキ買いに行かない?」
    と:「私もたまにはいいかな。孝君行こう」
    ナレ:三人は出掛けた。
    祥:「話って?」
    幸:「両親に三吉さんの事を話しました。孝が父親になって欲しいと願っていたことも。そして会えない事も」
    祥:「そうですか。で、ご両親は?」
    幸:「もう会えないと知って驚いていましたが、私が生涯その人を想っている事も知った上で、私を受け止めてくれる人が居ると話しました」
    祥:「えっ」
    幸:「父も母も直ぐに神山さんの息子さんだと、祥さんだろうと」
    祥:「お見通しだったんだな」
    幸:「父が、祥さんはお前がその人を想う事を承知で受け止めてくれる。その言葉に甘えているのか。甘えているのならば祥さんに失礼じゃないかと」
    ナレ:祥は話の流れで、もしかして承知してくれていないのかと。
    祥:「でも、俺はそれでも構わないって話したのでしょう?」
    幸:「話しました。父も母も、私の気持ちが変わらないのあればお断りした方が良いと」
    祥:「それは分かりますが・・・幸子さんは?」
    幸:「私は・・・私は、数日だけの人ですが今でも心に思いが残っています」
    祥:「それは俺だって、何度か店に来てくれただけですが、今でも俺の中に彼が居ます。それは幸子さんと同じだと思っています。そうでしょ」
    幸:「はい」
    ナレ:そう返事した後、二人とも何も言わず時間が過ぎた。すると突然、祥は立ち上った。その反動で椅子が倒れた。幸子は驚いて立ち上がると、祥が幸子を抱きしめた。思いもよらない行動に驚き離れようとした幸子を、祥はギュッと強く抱きしめた。
    祥:「俺は幸子さんの過去も想い出も全部受け止める覚悟は出来ています。だから、俺と結婚して下さい」
    幸:「神山さん・・・良いのですか?」
    祥:「良いも何も、きっと運命なんです。そうです、俺と出会うのが運命なんです。幸子さんと孝君と家族になる事が俺の生まれた意味なんです。運命なんです」
    ナレ:変に思われたかなと思っていたが、幸子が自分の腕を祥の背中に回し抱き締めた。
    祥:「幸子さん・・・ん?」
    ナレ:横を見るととしをと佳津子がニコニコしていた。二人は離れた。
    祥:「あっ、えっ、いつから?」
    都:「過去も思い出もから」
    佳:「キザな事を言ってたわねぇ。運命連呼で。ははは」
    祥:「ただいまくらい言ってよ」
    佳:「言ったわよ」
    ナレ:だが孝は複雑な表情。
    幸:「孝?」
    孝:「帰ろうよ」
    ナレ:孝は幸子の腕を引いた。
    祥:「孝君?」
    ナレ:孝は返事すらしない。
    幸:「孝、お返事は?」
    孝:「・・・」
    祥:「良いんですよ」
    佳:「ケーキ持って帰ってね」
    ナレ:箱を幸子に渡した。
    幸:「すみません。お邪魔しました。神山さん」
    祥:「はい?」
    幸:「連絡します。では、失礼します」
    ナレ:二人は帰った。
    佳:「子供には刺激が強かったかしらね」
    祥:「声掛けてくれれば良かったんだろうに」
    と:「ただいまって言ったぞ」
    祥:「あぁ、まっ」
    佳:「ショックだったのね」
    と:「そうかもな」
    ナレ:その夜、幸子から連絡が来た。
    祥:「孝君の様子は?」
    幸:《車の中も、夕食の時も一言も話してくれません。先程やすみましたが、おやすみも言わずに寝ました》
    祥:「そうですか。お母さんを取られるようだと思ったのかも知れませんね」
    幸:《そうなのかどうかは、私にも分かりません。いっそ、怒ってくれた方が》
    祥:「そうですね。あの場でも俺に怒ってくれた方がとも思います。孝君、どんな気持ちなんだろう」
    幸:《はい。しばらくは、そっとしておいた方がと思うのですが》
    祥:「そうですね」
    ナレ:電話を切った後、佳津子たちに話した。
    佳:「孝君って大人びているのは、きっと育った環境で、自分の気持ちを押し殺す術を覚えてしまったのかも知れないわね」
    と:「そうだったら、寂しくないか?」
    佳:「そうね。で、あなたはどうするつもり?」
    祥:「取り敢えず、様子を見る事にしようって。方法を俺も考える時間が欲しいけど。まぁ、長くならない様には考えてるけど」
    と:「そうだな」
    ナレ:一週間は行動を起こさず過ごした。その間、幸子から報告はあったが何ら変わりない様子だと。幸子は孝が此処まで頑固だと思わなかったと。祥は考えた方法を実行するため行動に出る事にした。

    過去&永禄&現在⑬へつづく

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    過去&元禄&現在⑪

    =過去 2020年12月24日=

    ナレ:亮二達は22日に祝いたかったが、幸子にわざわざ早退させず冬休みになってからと言われその通りにした。支度が出来た頃、幸子と孝が到着。ツリー下のリボン付きの箱の山。
    幸:「お父様」
    亮:「今までの分。今回だけだ許してくれ」
    ナレ:両親の気持ちも分かるが苦笑い。今回だけだと許した。そこへケーキの箱を運んできた明子に、
    幸:「すみません」
    明:「いいえ。この様な・・・お嬢様と孝君の・・・嬉しゅうございます」
    ナレ:明子は感激していた。
    幸:「明子さん、有難うございます」
    ナレ:幸子の言葉を聞いて亮二と紗千江も明子に頭を下げた。
    明:「旦那様も奥様もその様な事なさらないで下さい」
    ナレ:お互いに頭を下げている姿に孝が、
    孝:「おじいちゃんたち何してるの?」
    亮:「ありがとうって事だよ」
    ナレ:そこへ呼鈴が鳴り、明子が玄関へ。あの頃、幸子と明子がこの屋敷から居なくなった後、一人お手伝いを雇ったが長続きせず、亮二達はどれほど明子が優秀なお手伝いであったか身に染みて感じていた。それから誰も雇う事はせず、雑用は運転手の森園に頼むようにしていた。幸子が両親と会うようになった頃にその話を聞いた明子が時々だが手伝うようになっていた。
    祥:「京都木さん」
    明:「いらっしゃいませ。しばらく前からはまた働かせて頂いておりまして」
    祥:「そうですか」
    明:「お待ちしておりました。どうぞ」
    ナレ:中へ通され、祥は幸子がお嬢様だとは知っていたが、屋敷の大きさやリビングの調度品の豪華さに驚いていた。幸子が側に来て、
    幸:「今日はありがとうございます。父と母です」
    ナレ:豪華な物が凄すぎて両親の顔を見るまでにはなっていなかった祥が二人を見て驚いた。
    亮:「あなたは」
    祥:「あの時の・・・幸子さんのご両親でしたか」
    ナレ:亮二が祥と会った時の話をした。
    亮:「神山のご子息で・・・面接の」
    祥:「面接?」
    亮:「いえ、こちらの事です。どうぞお座り下さい」
    ナレ:みんなが揃い、誕生日とクリスマスパーティーが始まった。隅にあるプレゼントの山を見た祥は驚きながらも、孫の初めての誕生日をとても楽しみにしていたことが読み取れ、微笑ましく思い、車に置き忘れたプレゼントを持って来なくて良かったと思っていた。帰り際に渡せばいいかなと考え、取りに戻る事はしないでいた。
    亮:「プレゼントは全部、孝にだよ」
    ナレ:孝は箱を二つ抱え戻って来た。
    孝:「ありがとう」
    紗:「孝ちゃん、遠慮しなくてもいいのよ。みんな孝ちゃんのプレゼントだから」
    孝:「僕、これとこれが欲しいんだ」
    亮:「だが、箱だけでは中身が分からないからな、みんな開けて良いんだよ」
    孝:「ううん、おじいちゃんとおばあちゃんが僕にくれる物はみんな好きな物だから」
    ナレ:としをがその様子を見ていて、
    と:「孝君は、本当、祥より大人だと思うよ」
    祥:「まぁ、否定できないけど。俺だったら全部貰うかな」
    亮:「本当に良いのかい?」
    孝:「うん」
    ナレ:孝は幸子に開けて良いかと聞いてから丁寧に包み紙をはがして箱を出した。有名なゲーム機とゲームソフトだった。
    孝:「お母さん」
    紗:「ゲームは好きじゃなかったかしら?」
    幸:「好きとか嫌いとかではなくて、孝はまだこういったゲームをした事が無くて」
    紗:「そうだったのね。他に何か?」
    幸:「大丈夫よ」
    と:「じゃ、お前、一緒にやってあげたらどうだ」
    祥:「えっ、あっ、そうだね。孝君、今度一緒にやろうね」
    孝:「うん」
    ナレ:もう一つの箱にはヒーローのフィギュアが3体入っていた。
    幸:「孝、良かったわね」
    孝:「うん」
    亮:「喜んでくれるか?」
    幸:「孝はこのアニメが好きなので」
    亮:「良かった」
    ナレ:その後は孝も祥も豪華な料理を頬張っていた。そして、孝が目をこすり始めた。
    幸:「孝、眠くなった?」
    孝:「うん」
    ナレ:孝をソファで横になるよう促した。孝は横になると程なく寝息を立てた。
    幸:「はしゃいでいたから疲れたのね」
    ナレ:祥は孝のはしゃぐ姿は一般的に子供がはしゃぐの半分にもならないと思いクスッと。
    と:「どうした?」
    祥:「何でもない」
    幸:「お父様、私、明日も仕事なのでそろそろ」
    亮:「あっ、そうか。だが、今夜は泊まるかと。だったら、明日早く出掛ければ良いじゃないか」
    幸:「早番なのよ」
    亮:「眠っているのを起すのはかわいそうだ。ならば、孝だけでもこのまま」
    幸:「ごめんなさい。孝もお友達のお宅でクリスマス会があるの。今日は帰ります。また今度、泊まりに来ますから」
    亮:「そうか。では、送らせよう。明子さん、森園を呼んでくれ」
    ナレ:亮二は幸子の都合も聞かず泊まらせるつもりで森園に迎えに行かせたので、幸子自身の車は無い。
    と:「良かったら、息子に送らせますよ」
    幸:「それでは」
    亮:「そうだな。送ってもらいなさい。祥さん、よろしくお願いしますね」
    祥:「あっ、はい。送り届けたら迎えに来るよ。それまで父さん待っていてくれ」
    亮:「神山は我が家の車で遅らせるから心配しなくてもいいよ。もう少し話していたいからね」
    と:「そうだよ。気を付けてな。あれ、忘れずにな」
    祥:「あぁ。では父の事、よろしくお願いします」
    ナレ:祥は眠っている孝を負んぶして表に。紗千江と明子が折詰めした料理を幸子に渡した。明子が孝のプレゼントを持ち、車に積み三人を見送った。
    亮:「では、続きを」
    ナレ:としをの空いたグラスにワインを注いだ。
    亮:「合格だな」
    と:「ん?」
    亮:「神山が言っていただろう。私は祥君なら幸子と孝を幸せにしてくれると思ったよ」
    紗:「主人の言う通りです。私も彼なら」
    と:「そう言っていただけるのは嬉しいのですが、私が言っては息子に叱られますが、優柔不断な所が有りますからね」
    明:「そうですか。私は頼りになる息子さんだと思いますよ。お二人を大切にして下さると」
    と:「なんだか私が照れますね」
    明:「ですがこの場で賛成していても、当のお二人が」
    と:「そうですね。出会って時間も経って、息子も当たって砕けるとか言っていても、一向に砕けにも行かないで、妻とヤキモキしているのでね。見守るしかないのかと嘆いています」
    明:「ですが」
    紗:「どうしたの?」
    明:「はっきりとは。ですが、幸子お嬢様には誰か心に秘めた方が居られるようです」
    紗:「好きな人が?」
    明:「私はそう感じました」
    亮:「誰なんだね?」
    明:「どなたなのかは皆目」
    亮:「そうか・・・やはり、見守るしかないのかね。だが、孝も欲が無い」
    ナレ:残されたプレゼントの山を見た亮二に紗千江は、
    紗:「私たちの元で育ったならば、全て自分の物にしていたかもしれませんね。ふっ」
    ナレ:その笑いに亮二は苦笑い。
    明:「では、旦那様、寄付をなさったらどうかと」
    亮:「それも良かろう。手続きを頼んでもいいか」
    明:「はい。では」
    ナレ:明子は片付けを始めた。
    紗:「私が片付けておくから良いわよ」
    明:「ですが」
    紗:「あの頃の私とは違うのよ。支度もテキパキと出来ていた方でしょ。ふふっ」
    ナレ:昔は、身の回りの事も明子に任せていて、出掛けることが多かった。でも、それも亮二の為だと分かっていた明子は文句ひとつ言わず働いていた。幸子が我が儘になっていたのも明子が両親の苦労を話さずにいた事だと後悔していた。少し前にとしをに父親の事を聞いたと聞かされた明子は、その時、幸子にも謝った。幸子は両親に自分の我が儘を謝り、亮二達は一時の感情で幸子と明子を追い出したことを謝った。
    明:「そうでした。お任せします。では、私もそろそろお暇致します。お正月の用意もございますので明日も参ります」
    紗:「ありがとう」
    ナレ:明子は夫用に料理をタッパーに詰めて持ち帰った。
    亮:「うまくいけば、神山と親戚かぁ」
    と:「そうなるなぁ。まぁ、それも二人次第だけどな。だが」
    亮:「どうした?」
    と:「小路と孫の取り合いになりそうだな。あははは」
    亮:「そうだな。あははは」
    ナレ:側で紗千江はニコニコしていた。飲み慣れないワインに自分でも、そろそろヤバいかなと思ったとしをは、
    と:「私も、そろそろ。楽しかった。これからもよろしくな」
    亮:「今までの分も取り返す気持ちで、飲もうな」
    と:「そうだな」
    ナレ:亮二は森園を呼び、としをを送り届けるよう伝えた。

    ナレ:アパートに到着して、孝を寝かせた。
    幸:「お茶を淹れますね」
    祥:「すみません」
    ナレ:祥の前に湯吞茶碗を置き、相向かいに座った。
    祥:「楽しかったですね」
    幸:「そうですね」
    ナレ:そう言った後、お互いに黙ってしまった。隣の座敷で孝が寝返りを打ち、布団がはだけた。幸子が布団を掛け直しに。そして、祥にも幸子があの写真を見た事も分かった。戻って来た幸子に、
    祥:「幸子さんの中に今でも三吉さんが居る事は分かっています。勿論、俺の中にも彼が居ます。酷な事を言いますが、彼はもう幸子さん、孝君、俺の前に現れる事はありません」
    幸:「・・・・・」
    祥:「俺はあなたにも孝君にも三吉さんを忘れて欲しいとは言えません。ですが、あなたも先に進むべきだと思います」
    幸:「・・・・・」
    祥:「俺が・・・俺が全部・・・全部受け止めたいと考えています。三吉さんを想う気持ちも全部。二人を幸せにしたいと思っています・・・返事は直ぐでなくてもいいです。俺は待つのは慣れていますから。でも、断るのであれば早めにお願いします」
    幸:「・・・・・」
    祥:「では、帰ります。ご馳走様でした。お邪魔しました。これを孝君に」
    ナレ:プレゼントを置いて出て行く時に、
    祥:「孝君にゲームの相手が欲しいと言われたら手伝わせてください。では」
    ナレ:幸子は頷くだけだった。祥は直ぐには発進できずにいた。幸子の心深くに如古坊が居る事が良く分かったから。
    祥:「砕けちゃうかなぁ。ふ~」
    ナレ:エンジンをかけ家に向った。

    ナレ:戻ると、としをは酔いつぶれて既に寝息を立てていた。
    佳:「お帰り」
    祥:「ただいま。父さんは?」
    佳:「さっき帰って来たけど、玄関の前で運転手さんに支えられてね。その方に手伝ってもらってベッドに放り投げたわよ」
    祥:「放りって。そんなに。俺が帰る前まではそんなに飲んでなかったみたいだけど」
    佳:「運転手さんの話だと、帰る前に、何か、孫の取り合いで盛り上がってたらしいのね。で、ワイン飲んだって。飲みつけないから回りが早かったんじゃないの」
    祥:「孫・・・そう言う事。で、母さん」
    佳:「なに?」
    祥:「やっぱり、砕けるかも」
    佳:「えっ・・・あぁ、そう。お風呂入って寝なさい」
    祥:「あぁ。おやすみ」
    ナレ:二階に上がる息子の後姿に、
    佳:「祥に幸あれ・・・あっ、今、上手いこと言った。ははっ」
    ナレ:誰も聞いていないが笑い、そして、息子が幸せになる事を願った。

    過去&永禄&現在⑫へつづく

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    過去&元禄&現在⑩

    =過去 2020年 12月初め=

    ナレ:幸子と祥はLINEのやり取りはしていたが、本当に他愛のない会話ばかりだった。その中で幸子の見合い話が無くなった事については祥にとって吉報ではあったが、だからと言って先に進めずにいた。神山家で夕食を摂っていた。
    祥:「あれ? 父さん出掛けてるの?」
    佳:「言わなかった?」
    祥:「何?」
    佳:「小路さんの所で昔の仲間と集まって飲み会」
    祥:「あぁ、そんなこと言ってたね」
    佳:「そう言えば、幸子さんとはどうなったの?」
    祥:「どうって、LINE友達のまま・・・期待しない方が良いかも」
    佳:「お前はもっと肉食系だと思ってたんだけど」
    祥:「肉食って、そんな事ないだろ。知ってるだろうに」
    佳:「まぁねぇ」
    祥:「・・・ごめんよ」
    佳:「別に謝る事でもないでしょ。食べたらお風呂入っちゃって、お父さん午前様だろうし」
    祥:「分かった」
    ナレ:祥も分かっている。自分が此処迄何も出来ない男だったのかと。寝付けずにいると表で車のドアの閉まる音がした。枕元のスマホで時間を確認した。
    祥:「1時前か。随分、盛り上がったんだな」
    ナレ:ムクっと起き上がり下へ。
    祥:「お帰り」
    と:「あ~ご子息どの~」
    祥:「随分酔っぱらって、楽しかったんだな」
    と:「目茶苦茶楽しかった~。何十年も会っていなかったのにな、直ぐにあの頃に戻って、先生の悪口で盛り上がって~」
    祥:「先生も気の毒だね」
    ナレ:その内、としをがその場で眠ってしまった。
    佳:「お願い」
    祥:「あぁ」
    ナレ:としをを担いで寝室へ運んだ。
    祥:「父さんってこんなに軽かったっけ?」
    佳:「あなたが大きくなったって事でしょ」
    祥:「そうだね」
    ナレ:ベッドに横たわらせ布団を掛け、
    祥:「父さんが此処迄酔っぱらう姿初めてかも」
    佳:「私もよ。楽しかったんでしょうね」
    祥:「そうだね。じゃ、おやすみ」
    ナレ:祥は部屋に戻り、しばらくして眠りについた。

    ナレ:朝食を摂っていた祥が、
    祥:「父さんどう?」
    佳:「案の定、二日酔いで頭痛いって」
    祥:「あんなに酔ってたんだから、そうなるだろうね」
    ナレ:祥が食後のお茶を飲んでいるところへ、としをがフラフラと歩いてきた。
    祥:「おはよう」
    と:「あぁ、頭痛い」
    ナレ:佳津子はとしをの前に蜆の味噌汁を出した。
    と:「すまない」
    ナレ:味噌汁を少しずつ飲んで一息。
    祥:「上機嫌だったね」
    と:「あぁ、楽しかった。小路以外は年賀状とかでの繋がりはあったけどな、会う事も無かった五人だけどな、直ぐに騒いでいた頃に戻って、昔話で盛り上がった」
    祥:「先生の悪口とかって言ってた夕べ」
    と:「そっ、いつも竹刀持っていた先生がいてな、ケツをバシッてやられた事もあった。まぁ、私たちが悪さしたからだけどな。でも、楽しかったんだよ」
    祥:「そう」
    と:「そう言えば、孝君の誕生日が今月だって、確か22日とか言ってたな。孫の初めての誕生日会を盛大にするから来てくれって誘われたんだよ」
    佳:「初めて?」
    ナレ:祥も昔の話をすることは無かったので佳津子は深く知らなかった。
    と:「まぁ、色々あったらしいがな。でも、それは過去の事だからな」
    佳:「そう」
    ナレ:としをにそう言われた佳津子は過去の事なら聞く必要も無いだろう、今の幸子が佳津子は気に入っているのだからと。
    と:「祥も行くだろ」
    祥:「いやぁ、俺は、どうかな」
    佳:「お父さんの付き添いで行けばいいじゃないのよ」
    と:「そうだぞ。幸子さんとは友達なんだろ」
    祥:「まぁ」
    ナレ:どうしたら良いかと考えながら店舗へ。歳をは頭をコツコツ叩きながら、
    と:「私が言う事でもなかったんだが」
    佳:「何を?」
    と:「他の奴らが帰って、亮二とサシで飲んでいる時に幸子さんの結婚の事を聞いてみたんだよ」
    佳:「そうなの」
    と:「孝君の父親の事を私に聞かせようとしたけど、私達にはそれは関係ないから」
    佳:「そうね」
    と:「あぁ。で、亮二は幸せにしてくれる人が居るならと言って。親としては相手がどんな人か心配になるよな」
    佳:「当然でしょうね。で?」
    と:「私の息子なんてどうかなって」
    佳:「えっ?」
    と:「酒も入っていたし、私も祥の事が気掛かりだったから、そう聞いてみたんだ」
    佳:「そう」
    と:「じゃぁ、面接するかって笑っていたよ」
    佳:「そう。じゃ、面接に行かせないと」
    と:「あぁ」
    ナレ:祥が怖気づいても引っ張ってでも連れて行こうと話し合った。そんな話になっているとは知らない祥は、
    祥:「いくら親友の息子だって言っても」
    ナレ:先に進もうとしない祥はそれから何も変わらず過ごして1週間前となった。
    佳:「孝君のプレゼント買ったの?」
    祥:「まだって言うか、俺が行かなくても」
    佳:「何言ってんのよ、まったくぅ。べつにお嬢さんをくださいって言いに行くわけじゃないのよ。孝君の誕生日会に行くのよ」
    祥:「そうなんだけど・・・分かった。プレゼント買いに行くから」
    佳:「嫌々行かれてもねぇ」
    祥:「嫌々じゃないから」
    ナレ:定休日に祥はデパートに出掛けた。甥や姪には好みがそれぞれだから結局のところ現金を渡している。身内でもないから入学祝とかそう言う事でない場合はどうだろう。やっぱり品物の方が良いだろうなと考えながら店内を覗いていた。小学生は何を喜ぶのか、何を買ってあげたら良いのか分からずウロウロ。決まらず休憩でレストランに入りコーヒーを注文して、スマホで小学生欲しい物ランキングを見ていた。ゲーム関係が上位。
    祥:「孝君はゲームするのかな?」
    ナレ:祥のテーブルの一つ先の席に夫婦らしき二人。その席に口まで箱が見える大きな袋が見えた。祥は随分買い物してる夫婦だなぁと見ていた。コーヒーを飲み干し席を立つと、ほぼ同時にその夫婦も席を立ち、男性が持ち上げた袋の手提げ部分がちぎれ中身が散乱。祥はその場に行き店員と一緒に袋に戻した。
    夫:「申し訳ない」
    祥:「いいえ。お帰りでしたら車まで運びますよ」
    妻:「いえ、それは」
    祥:「遠慮しないで下さい。力だけは有り余ってますから」
    夫:「そうですか。では、お願いします」
    祥:「地下駐車場ですか?」
    夫:「はい」
    ナレ:三人はレジに行くと妻が祥の分も支払うと言った。祥は遠慮したが、運んでもらう駄賃としてと妻は支払った。
    祥:「では、ご馳走様です」
    ナレ:エレベーターに乗り込んだ。
    祥:「失礼ですが、随分と買われたようですが」
    夫:「孫の誕生日会でクリスマスも兼て、色々見ていましたら、あれもこれもと。娘に叱られるでしょうね・・・でも、そうしたくて」
    祥:「そうですか」
    ナレ:祥は男性の言い方に何かあるのだろうと思いそれ以上の事は聞かなかった。地下駐車場に行くと祥でも高級車と分かる車から白い手袋をした男性が降りてきて、祥が持っていた袋を受け取り荷物をトランクに。
    ド:「お帰りなさいませ社長」
    祥:「社長・・・でしたか」
    夫:「まぁ。本当に助かりました」
    祥:「いえ。では、お気を付けて」
    ナレ:挨拶をしてエレベーターに向った。そして、プレゼント選びの続きをウロウロと。考えている時にふとあの写真が浮かんだ。孝の手に消防車のブロックのおもちゃ箱を。
    祥:「もしかして消防車が好きとか・・・あっ、そうだ」
    ナレ:幸子との他愛のないやり取りの中に、孝が社会科見学で消防署を訪れたその感想を楽しそうに話していたと書かれてあった。
    祥:「好きなんだな消防車。じゃ」
    ナレ:おもちゃ売り場に行き、消防車のプラモデルを購入した。

    過去&永禄&現在⑪へつづく

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    過去&永禄&現在⑨

    ナレ:三時半過ぎて、幸子が店を訪ねた。
    祥:「お呼び立てしてすみません」
    幸:「遅くなってしまい申し訳ございません」
    祥:「気にされることは無いです。どうぞ」
    ナレ:椅子に座らせて、相向かいより少しずれた位置に座った。
    祥:「お気づきかも知れませんが、俺・・・いや、私はあなたの事を」
    幸:「すみません、気が付かなくて」
    祥:「いえ、こちらこそすみません。でも、私は真剣にと、それだけは分かって下さい」
    幸:「はい。それは。私の様な者を有難うございます。でも」
    ナレ:祥は幸子の「でも」の言葉で、やはり三吉の事があるのだと思った。
    祥:「失礼を承知でお聞きしますが」
    幸:「はい?」
    祥:「小路さんは本当に良いんですか?」
    幸:「はぁ?」
    祥:「小路さん、いえ、幸子さんは三吉さんの事を今でも。でも、お見合いを」
    ナレ:幸子は驚いていたが軽く頭を振り、
    幸:「もう過ぎた事ですから・・・ですから、お見合いもお受けしました」
    祥:「本当に良いんですか?」
    幸:「いいも悪いも、もう三吉さんは居ませんから」
    ナレ:語尾が少し強めだった。まるで自分に言い聞かせているようだと祥には思えた。
    祥:「私、俺は自分の気持ちに正直に生きています。今も、一目惚れしたあなたの事が好きです。あなたの心の中に三吉さんが居ると分かっていても。幸子さんの正直な気持ちを聞かせて下さい」
    ナレ:幸子は手元をジッと見ていた。店の時計のカチカチの音だけが響いていた。そして、
    幸:「私は自分の事が嫌いでした。我が儘を言っていた自分も。先日お父様からお聞きして父の事を知り尚更、自分の行いを後悔しました。でも、孝を授かった事だけは私の幸せです。孝と二人で暮らしていても泣き言は言いたくないと生きてきました。そんな中で三吉さんの優しさが心に沁みましたそれで・・・それだけの事と思われるでしょうね」
    祥:「いいえ。何も不思議な事では無いですよ。現に俺だって、三吉さんに会ったのも数回だけでしたけど、俺の心に三吉さんの存在は今でも。幸子さんと俺の好みは同じだったんですよね」
    幸:「そうですね・・・神山さんもお優しい人だと分かります。でも」
    祥:「深く想いがある事は忘れなくても。もし、俺に時間をくれるのなら待ちます。あっ」
    幸:「あの?」
    祥:「幸子さん、お見合いするんでしたよね」
    幸:「はい・・・私は自分に嘘をついていたことを今は恥じています」
    祥:「なにも恥じる事は無いです」
    幸:「有難うございます。お会いしてからではお相手の方に失礼ですからお断りします」
    祥:「大丈夫ですか?」
    幸:「はい。奥様からお話を頂いた時に、奥様にも心に想い人が居るのであれば、お相手に失礼だからお断りした方が良いと言われていました」
    祥:「そうですか」
    ナレ:見合いを断っても自分に望みがあるのかと言えば分らない事だった。
    幸:「私にも時間を下さい」
    祥:「えっ?」
    幸:「ですが」
    祥:「大丈夫です。友人関係でも俺は嬉しいですから。心配しないで下さい。失恋には慣れていますから。あはは」
    ナレ:幸子がクスッと。
    祥:「笑ってくれた事で、話して良かったとそう思います。今日はよく眠れそうですよ」
    幸:「あの、一つ伺っても?」
    祥:「なんなりと」
    幸:「神山さんは三吉さんが何処の居られるかご存じですか?」
    ナレ:ふいに聞かれ驚く祥に、
    幸:「聞いてはいけないことを聞いてしまいました。ご存じだからと言って、どうにもならないのに。可笑しいですね」
    祥:「そんな事は無いです。でも、すみません。俺も旅に出たとしか聞いていないので分からないんです」
    幸:「そうですか。何処かで元気に暮らしているのでしょうね」
    祥:「そうでしょう」
    ナレ:本当の事を言うのは酷だと考え、祥は墓場まで持って行こうと決めた。
    祥:「友達としてお願いが」
    幸:「はい?」
    祥:「LINE友達登録してもらってもいいですか?」
    幸:「あっ、はい、構いません」
    ナレ:お互いに登録した。
    祥:「既読スルーしても構いません。既読が付くだけで嬉しいので。ははっ」
    幸:「それは。神山さんもスルーして下さっても構いませんよ。ふふっ」
    祥:「じゃ、早速」
    慣れ:祥は〔今日はありがとうございました〕。幸子も〔こちらこそ、有難うございました〕と、お互いに送った。そして、幸子は帰って行った。祥はその後姿に、
    祥:「如古坊さん、これで良かったんですよね。気持ちは伝えました。この先どうなるか分かりませんが、幸子さんと孝君が幸せになるように俺は協力していきます」
    ナレ:ふと、この場に居たら如古坊はどんな言葉を言うのか考えて、
    祥:「恋のライバルかな。ふっ」
    ナレ:そこへ佳津子が店舗に顔を出した。
    佳:「どうだった?」
    ナレ:気持ちを伝えた事。幸子が見合いを断ると言った事を伝えた。
    佳:「じゃ、祥と?」
    祥:「それは分からない。もしかして、友達関係で終わるかも」
    佳:「そう。幸子さんの気持ちは聞いていないって事ね」
    祥:「そう言う事。でも、LINE登録はしてもらったから」
    佳:「良かったわね」
    ナレ:そう言って佳津子は母屋へ。廊下を歩きながら何処までお人好しなのだと、優しいのは良いけどもう一押しが。誰に似たのかと思っていた。

    ナレ:幸子はその足で真知子の元へ。
    真:「どうしたの?」
    幸:「お世話になっておきながら申し訳ない事なのですが、お見合いのお話をお断りいただきたいのです。無責任な事だと分かっています。それに奥様にもご迷惑が掛かる事も重々承知の上で・・・申し訳ございません」
    真:「幸子さんが私に我が儘を言ったの初めてね」
    幸:「すみません」
    真:「怒っているのじゃないのよ。幸子さんが我が儘を言ってくれたことが嬉しいのよ。私も主人もあなたを娘の様に思っているの、でもあなたは。しょうがない事だけど。でも、もっと我が儘を言って、頼ってほしいと思っていたから」
    幸:「有難い事ではありますが。この場合は非常識な事をお願いしていると」
    真:「お話を受けた時、あなたには想う人が居るのだと感じていたのよ」
    幸:「はい」
    真:「それでも見合いを受けると言った事で、その想い人とは一緒になれないのだと私も分かったわ。でも今、断ると言う事はその人か、別の人が現れたって事かしら?」
    幸:「私の中の人は心の中だけにしています。その方もそれを知っています。でも、その方とはまだ」
    真:「そうなの。複雑でしょうね」
    幸:「えっ?」
    真:「その人はあなたの心の人の事を知っていながら告白したんでしょうね」
    幸:「はい」
    真:「何処のどなたか知らないけれど、私はその彼があなたを孝君を受け止めてくれるって気がするのよね。そして、あなたも少なからずそう思う気持ちが芽生えたんじゃないの?」
    幸:「えっ?」
    真:「自分では気づかないって事もあるわよ。だから、見合いを断りたいと言った。私にはあなたが幸せな道を歩き始めたって、その道が見えるわ」
    幸:「えっ?」
    真:「この先はあなたが考える事。私は断る事がこれからの事ね」
    幸:「すみません」
    ナレ:幸子は手を付き頭を下げた。
    真:「実の母は居るけど、私もあなたの母親のつもりよ。こんな時はごめんねで良いのよ」
    幸:「・・・ごめんなさい」
    真:「後は任せなさい。じゃ、早速、先方に行ってくるわ」
    幸:「では、私も」
    真:「私の演技力を見せたいところだけど私一人で」
    ナレ:支度をして出掛けた。途中、菓子折りを買い、店舗脇の駐車場に向かう時に歩道脇に停車していた車が目に留まった。そして見合いを断る口実が目の前に。助手席から出てきた女性が、
    女:「私は絶対産むから」
    ナレ:運転席から出て来た男が、
    男:「そんなこと言うなよ・・・えっ?」
    ナレ:男は真知子の姿を見て動きが止まった。その男が幸子の見合い相手だった。真知子は黙ってお辞儀をして車に乗り込み、その男の家に向った。
    男:「一先ず送るから、ゆっくり話そう」
    ナレ:男は両親にバレる事を恐れ、声がオドオド。
    女:「何なのよ。あなたとは別れます。この子は私一人で立派に育てますから、ご心配なく!」
    ナレ:女性は持っていたバッグで車のボディを叩き、カツカツとヒールのかかとを鳴らし男の前から去った。
    男:「ヒールはやめた方がぁ」
    女:「分かってるわよ!・・・さようなら!」
    ナレ:男に向ってあっかんべ―。

    ナレ:真知子は先方に到着し、座敷に通された。菓子折りを渡し、差し出された座布団をずらして手を付き、
    真:「申し訳ございませんが、お話を頂いておりましたご子息とのご縁談、お断りさせていただきたく、まかりこしました」
    父:「まかり・・・牧合さん、理由を話していただけませんか?」
    真:「それはご子息にお聞きいただければ。ですが、お付き合いはこれまで同様に願います」
    ナレ:二人は何が何やらと困惑していた。そこへ息子が帰って来た。真知子が先ほどの事を両親に話しているのだと思っていた。玄関ドアの音で帰って来たと両親が部屋から出て来た。
    父:「牧合さんが見合いを断りに来た。理由はお前だと。何が遭ったんだ?」
    息:「それは」
    ナレ:その後がゴニョゴニョとはっきり聞こえない。
    母:「はっきり言いなさい!」
    ナレ:そこへ、真知子が部屋から出てきて、
    真:「では、私はこれにて失礼いたします」
    ナレ:息子にも深々と頭を下げて出て行った。その後、両親が息子を問い詰め、以前から付き合っていた女性が居たが、親の言いなり状態で見合いをすることにしたが、その女性との間に子供が出来たと。その事を真知子が知ったと話した後、父親のグーの拳が息子の頬にヒット。だが、その事実を知った真知子の行動の早さに三人は考える余地も無かった。両親は相手の女性を連れて来させ、彼女の前で土下座し、嫁に来て欲しいと懇願した。承知した彼女の家に行き同じように謝り、相手の両親にも許しを貰った。息子は蚊帳の外状態のまま話が進み入籍。それも3日間の出来事だった。

    ナレ:夕食を一緒にと幸子と孝を誘った。その時、真知子が見合いはキャンセルしたからと。幸子が自分も挨拶にと言ったが、『行く必要はない』とだけ。幸子にも理由は話さず引き止めた。幸子は真知子の言う通りにした。

    過去&永禄&現在⑩へつづく

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    過去&永禄&現在⑧

    =過去 2020年 晩秋=

    ナレ:もう直ぐ冬が訪れようとしている頃の神山家の食卓。
    佳:「ねぇ、祥」
    祥:「何?」
    佳:「何って。あの日、砕けに行くって言ってたんじゃないの」
    ナレ:覚悟を決めておきながら祥は行動に起こすことも出来ずふた月も経っていた。祥自身も何やってるんだと分かっているが何も出来ず時間ばかり過ぎていた。
    佳:「裏の木も秋から冬になろうとしているのよ」
    祥:「情緒あるみたいな言い方して・・・俺だって分かってるんだよ。分かってるんだけどさ・・・情けないって分かってるんだよ」
    と:「分かってるを連呼してるだけじゃな」
    祥:「う~」
    佳:「もしかして、このふた月で相手が出来てたらどうするのよ」
    祥:「えっ!」
    佳:「あり得る事よ」
    と:「そうだな。あるかも」
    祥:「父さんも」
    ナレ:祥は「分かってる」を繰り返しながら店舗へ。その後姿にとしをと佳津子は深いため息。

    ナレ:切っ掛けは突然来た。牧合の妻の真知子が神山家に町内の婦人旅行の土産を持って。会社は息子が継ぎ、真知子が関わっていた仕事は嫁が引き継いだことで時間が出来たと佳津子に話していた。そこへコーヒーを入れに来た祥が挨拶した。真知子が、
    真:「うちで働いてくれている、主人の遺品を頼んだ小路幸子さんが来週お見合いするのよ」
    祥:「えっ?」
    真:「祥君?」
    祥:「いえ」
    ナレ:話を聞きたいがその場に居るのは不自然だと考え佳津子に合図。佳津子も頷いて見せた。
    佳:「そうなの。良さそうなお嬢さんだったから」
    真:「そうなのよ。本当に真面目でね、女手一つで息子さんを育てていてね。正直に話してくれた時は驚いたけど、彼女の誠実さが分かって働いてもらっているんだけど。主人の葬儀の時に幸子さんの働きぶりを見ていた方が息子の嫁にどうかと話を持ってきてね。幸子さんも承知してくれて」
    佳:「そうだったの。見ている人は見ているのね。幸せになって欲しいわね」
    ナレ:そう言いながらも佳津子は祥の落ち込み様を考え表情が曇った。
    真:「どうしたの?」
    佳:「何でもないのよ」
    ナレ:真知子は長居したと挨拶して帰って行った。佳津子は店舗に行き真知子の話を伝えた。
    佳:「幸子さんに幸せになって欲しいって私もそう思う」
    祥:「俺だって・・・それは俺じゃないって」
    佳:「祥」
    祥:「何?」
    佳:「こうなったら玉砕してきなさい。あなたが先に進むためにも。その方が良いと思うわよ」
    祥:「そうだろうけどぉ。でもさ、幸子さんが俺の気持ち聞いて、申し訳ないって思うんじゃないか。彼女ならさ」
    佳:「そうかも知れない。でも、親としては息子がこのままって事の方が辛いわよ」
    祥:「分かってる」
    佳:「善は急げ。幸子さんの連絡先分かる?」
    祥:「あぁ、孝君預かった事あったろ、その時、店に掛かってきた番号は控えてる」
    佳:「そう。で、これまでの間に一度も掛けてないの?」
    祥:「あぁ」
    佳:「あぁって」
    ナレ:佳津子はここまでの男とは思わなかったとため息。
    祥:「ん?」
    佳:「何でもないわよ。いいからあなたも、そろそろ覚悟決めなさい」
    ナレ:祥はスマホを手に眺めるだけ。佳津子は背中を叩いて母屋に戻った。時間的に仕事中だと、夜掛ける事に。祥は思いっきり頬を叩いた。

    ナレ:夕飯の後、祥は自分の部屋に戻り、幸子に連絡した。
    幸:《はい》
    祥:「小路さんの携帯でしょうか?」
    幸:《はい、そうです》
    祥:「神山、神山祥です」
    幸:《神山さん。ご無沙汰しております》
    祥:「こちらこそ」
    幸:《神山さん、何か?》
    祥:「あっ、えっ、あの、牧合さんから聞きました。さ・・・小路さん、お見合いをすると」
    幸:《あ、はい、そうです》
    ナレ:幸子の返事の後は祥の次の言葉が出なくしばらく沈黙。
    幸:《神山さん?》
    祥:「すみません。あの、お願いがあるんですが」
    幸:《はい?》
    祥:「お忙しいと思いますが、お会いしてお話ししたい事が」
    幸:《そうですか。では、明日の午後でしたら時間取れますが》
    祥:「分かりました。ありがとうございます。場所は・・・」
    ナレ:2時に予約入っていることを思い出し、
    祥:「すみませんが、3時半に店の方に来ていただけませんか。それでは遅いようでしたら、あの」
    聡:《大丈夫です。その頃に伺います》
    祥:「すみません。ありがとうございます」
    ナレ:お互い挨拶して電話を切った。

    ナレ:翌日の午後、予約客の天野の対応をしていた。
    祥:「天野さん、久し振りですね」
    天:「歳のせいかね、髪の伸びも遅くなってね」
    祥:「それは分かりませんが、天野さんは元気ですよね」
    天:「今年で80になるよ」
    祥:「お若いですよね」
    天:「ありがとう。じいさんも親父も長生きでね。ご先祖様もみんな長生きだとね」
    祥:「そうなんですね」
    天:「戦国の世でも90の長生きのご先祖様も居てね。昔話しただろう、そのご先祖様が黒羽城の家臣だったって」
    ナレ:子供の頃に聞いていたが忘れていた。幸子の事で尊から話を聞いた中に天野という家臣が居た事を思い出し驚きの声を上げた。
    天:「祥君、どうしたんだね」
    祥:「いえ。そうでしたね」
    天:「ご先祖様に会ってみたいねぇ」
    祥:「えっ」
    天:「どうした?」
    祥:「そうですか」
    天:「人生100年時代、私もまだまだ元気」
    祥:「俺にもその元気分けて下さい」
    ナレ:天野は祥が何か決意しているように感じ取り、力を与える様に祥の手をギュッと握り、
    天:「エネルギー注入。あははは」
    祥:「ありがとうございます。元気出ました。じゃ、今日も色男完成です」
    天:「では、ナンパしに城下に繰り出すかね、ははは」
    ナレ:元気な天野を見送った。
    祥:「城下って。ふっ、尊が言っていたな、楽しい人だったと。きっと天野さんみたいな人だったんだろうな。そ~言えば似てるかも」
    ナレ:見せてもらった信茂の姿を思い浮かべ、髪を白髪にして白くなったアゴ髭を重ねてみた。
    祥:「やっぱり似てるな」
    ナレ:尊にLINE下。[天野という人の子孫だと思う人が、うちの常連に居る。元気で面白い人だよ。それに顔も似ている]。尊はその事を覚と美香子に話すと二人は会ってみたいと。

    過去&永禄&現在⑨へつづく

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    過去&永禄&現在⑦

    ナレ:速川家から戻った佳津子が店に顔を出すと、ダラリとした格好で座る祥の姿を見てため息。
    佳:「しっかりしなさいよ!」
    ナレ:祥の肩を叩いた。
    祥:「痛いなぁ。しっかりしてないわけじゃないよ。さっき、久し振りの塚本さんが帰ったから、休憩してただけだよ」
    佳:「そうは見えなかったけど」
    祥:「はいはい。で、何か食べるのある?」
    佳:「はいはい。その前にちょっといい?」
    祥:「なに?」
    佳:「あなたの心の中に居る幸子さん、シングルマザーだそうよ」
    祥:「えっ?」
    ナレ:大げさに驚き、椅子から滑り落ちた。ゆっくり座り直す表情は喜んでいる風には見えない。
    佳:「どうしたの?」
    祥:「幸子さんが独り身だと分かっても、俺がって言い出せない気が」
    佳:「どうして?」
    祥:「俺の勘だけど、彼女の心の中に誰か居るような気がするんだ」
    佳:「孝君の事じゃないの?」
    祥:「子供に対してってのとは違うと思う・・・そんな気がする」
    佳:「そうなの・・・そうね」
    ナレ:祥に言われて佳津子もそんな気がしてきた。祥の肩をポンと叩き、
    佳:「じゃ、何か作るわね。出来たら呼ぶから」
    祥:「あぁ、お願い」
    ナレ:それからも、祥は行動に起こせずにひと月経った。その間に幸子の事を知る尊に話を聞く事もせず。すると、幸子から孝のカットの予約の連絡が。
    祥:「では、お待ちしております」
    ナレ:祥は事務的な対応で変に思ったかなと思っていた。そして翌日、幸子と孝が来店。シャンプーをしている時に幸子のスマホに着信が。表に出ようとした幸子に、
    祥:「他に居ませんからここで構いませんよ」
    幸:「すみません・・・はい、小路です・・・えっ!」
    ナレ:驚いた幸子は祥の顔を見た。
    祥:「どうしました?」
    幸:「あっ、はい。会社の近くで火事が。念の為、書類を社長宅に移動することにしたと。私も」
    祥:「ご心配なく。孝君はうちで待ってもらいますから」
    幸:「はい、今行きます・・・すみません。孝、神山さんの言う事を聞いてね。終わったら直ぐ来るから」
    祥:「小路さんも気を付けて」
    幸:「はい」
    ナレ:出て行く姿を孝が心配顔で見ていた。
    祥:「大丈夫さ。念の為って事だから」
    孝:「うん」
    ナレ:カットも終わった孝を母屋に連れて行き、佳津子に説明した。
    佳:「大事に至らなければいいけど。孝君、此処で待っていましょうね」
    孝:「はい」
    佳:「ほんと、孝君は偉いわよねぇ」
    祥:「はいはい。曽井さんが時期に来るから店に居るね。何かあったら呼んで」
    佳:「何もないわよねぇ。じゃ、孝君、ケーキ屋に行きましょ」
    祥:「土産忘れないでよ」
    佳:「はいはい。じゃ、行こう」
    ナレ:佳津子も母の心配を少しでも和らげられたらと孝を誘った。夕飯時になっても連絡がない。
    心配する孝に夕飯を食べさせた。食後、孝はウトウトし始めた。
    祥:「お母さんが戻ってきたら起こすから寝ていて大丈夫だよ」
    と:「隣に布団敷いて」
    ナレ:隣の座敷に客用の布団を敷き孝を寝かせた。しばらくして、店の電話の呼鈴が聞こえた。
    祥:「はい。神山バーバーです」
    幸:《すみません、遅くなってしまって》
    祥:「気にしないで下さい。で、会社の方は?」
    幸:《消火の途中で風向きも変わり、工場の方は大丈夫だったのですが、火元の工場の持ち出した書類を倉庫に運ぶ手伝いをしていて、ようやく落ち着きましたので。これから迎えに伺います》
    祥:「お宅は会社から近いですか?」
    幸:《あっ、はい》
    祥:「孝君、夕飯の後、眠ってしまいましたので、俺が送ります」
    幸:《ご迷惑では》
    祥:「遠慮しないで下さい。それと、さ・・・小路さん夕食は?」
    幸:《それは。それどころではなくて、コンビニで何か買いますので》
    祥:「残り物になりますが、弁当に詰めて持って行きますので」
    幸:《すみません》
    ナレ:住所を聞いて、佳津子に弁当を頼み出来た頃、孝を負ぶさり車に乗せた。
    と:「気を付けてな」
    祥:「うん」
    ナレ:アパートに向った。表で幸子が待っていた。
    幸:「ありがとうございます」
    ナレ:後部座席で眠っている孝を幸子が起こそうとしたので、
    祥:「大丈夫ですよ、俺が」
    ナレ:孝を抱え幸子の後ろをついて行った。部屋に入り座敷に布団を敷き、祥が孝を横に。そして、タンスの上の写真が目に留まった。
    祥:「あれ、三吉さん?速川さん達も」
    幸:「速川さんの宅でのクリスマス会に参加させてもらいまして」
    祥:「そうですか。三吉さんともお知り合いなんですね」
    ナレ:祥が幸子に話しかけたが、写真の方も見ずに、
    幸:「まぁ・・・お茶煎れますね」
    祥:「あっ、いえ、もう遅いですから帰ります。じゃ」
    ナレ:祥は車に乗り込んだが直ぐには発信しなかった。
    祥:「もしかして、幸子さんの心の中のって、三吉さん」
    ナレ:鈍感な祥でもそう確信したが、どうすることも出来ない。家に戻って風呂に入りベッドに横たわったまま、寝付けず朝を迎えた。

    ナレ:体ではなく心にダルさを感じ、起きるのも億劫なほど。だが、下から「ご飯よ」の声。のっそりと起きて食卓に着いた。上の空の祥に、
    佳:「ほらっ、溢すわよ」
    祥:「あっ、うん」
    ナレ:味噌汁を飲み干し、食器をシンクに置き、店の方に歩いて行く。
    佳:「祥、その格好で仕事するの?」
    祥:「えっ?」
    ナレ:祥は寝間着の格好のまま。着替えに二階へ。
    と:「あいつ、どうしたんだ?」
    佳:「幸子さんの事だと思うんだけど」
    ナレ:シングルマザーである事をとしをに話した。
    と:「そうだったのか。でも、あの様子じゃ、彼女に相手が居るんじゃないか」
    佳:「そうなのかも知れないわね」
    ナレ:二人は見守る事しか出来なかった。当の祥は、幸子の部屋で見た写真を思い出していた。どう見ても幸子が三吉の如古坊に寄り添っているように見えた。
    祥:「そうなんだろうなぁ・・・はぁ」
    ナレ:予約客の相手を務めて普段通りに対応したが、一人になると落ち込む姿を見ていた佳津子は、
    佳:「幸子さんの何を悩んでるのか知らないけど、一人で悩んでたってしょうがないでしょうよ」
    祥:「そんなこと言ったって・・・本人に聞く勇気があったらとっくに聞いてるよ」
    佳:「もぉ、本人に聞けないんだったら、幸子さんを知る速川さんに聞くとか」
    祥:「えっ?」
    佳:「一先ず、その方法しかないんじゃないの」
    祥:「まぁ」
    ナレ:佳津子の助言で祥は尊にLINEをして夜に会う約束を。夕飯を済ませた後に祥は速川家を訪ねた。
    祥:「夜分にすみません」
    覚:「大丈夫だよ。コーヒー淹れたからどうぞ」
    尊:「こっちに来てください」
    ナレ:祥に連絡を貰った時、幸子の好きな相手の事を聞きたいと。そう考えた理由は分からないが、真実を伝えた方が良いのだろうと尊が二人に言った。祥が信じてくれると信じて。
    祥:「離れがあるのは知ってたけど、機械だらけには驚いたな」
    尊:「此処に案内するのは身内以外は祥さんだけです」
    祥:「光栄だね。で、ごめんな」
    尊:「大丈夫ですよ。祥さんから連絡を貰って僕たちも覚悟しましたから」
    祥:「えっ?」
    尊:「幸子さんの事を話さなくてはと思っていましたから」
    祥:「偶然、クリスマス会の写真を見て、もしかしてって」
    尊:「そうだったんですね」
    祥:「やっぱり、幸子さんは、三吉さんの事を」
    尊:「はい。孝君は三吉さんに父親になって欲しかったと言う思いも知っています」
    祥:「・・・そうだったんだ。きっと、三吉さんも」
    尊:「はい。彼も同じ想いでした」
    祥:「両想いなら何故、彼は旅に出たんだ?・・・想いがあるなら一緒になる事も出来たんだろう」
    尊:「想いだけではどうにもならなかったんです」
    祥:「どういう意味?」
    ナレ:尊はタイムマシーンの下に行き見上げて、
    尊:「長くなりますが、今から話す事は真実です。それを祥さんが信じるかは分かりません」
    祥:「話してみなけりゃ分らないよ」
    ナレ:尊は如古坊が来る前の時に忠清達みんなで写した写真を何枚か見せながら、タイムマシーンを完成させ唯が戦国に行った事から説明して、その仲間の如古坊が現代に来て幸子と知り合った事を一気に話した。最初は祥も相槌を。だが途中からは驚き過ぎて息をするのも忘れていたかのように話が終わると大きく息を吐いた。
    尊:「驚きましたよね」
    祥:「あぁ。じゃ、三吉、いやにょこぼうさんは戦国時代の人だったんだ」
    尊:「そうなんです」
    祥:「その事を幸子さんは知っているのかい?」
    尊:「本当の事は知らないでしょう。でも、一緒になれないと言ったそうです。祥さんが母と一緒に居るところを見た日に。何処かで遠い存在の人だと分かっていたかのようだったと母たちは言っていました」
    祥:「母たち?」
    ナレ:同席していた聡子の事も掻い摘んで話した。
    祥:「不思議な事があるんだな。でも幸子さん本能で感じていたんだな・・・なんか、切ないな」尊:「はい」
    祥:「幸子さんの中にも気持ちが残っているんだな・・・入る余地なんて無いいんだろう」
    尊:「そう考えるのは違うと思います」
    祥:「えっ?」
    尊:「如古坊さんは自分が二人を幸せに出来ない事も十分に分かっていて、幸子さんと孝君の幸せを一番に考えていました。僕は、祥さんが幸子さんと孝君を幸せにしたいと思う気持ちを胸を張って言えるのであれば、行動に起こした方が良いと思います。それが、如古坊さんの為になると思うから」
    祥:「俺は同じ人を好きになった者として、にょこぼうさんの気持ちが分かるよ。本当は誰にも渡したくないってね」
    尊:「僕はそこまで誰かを好きになった事はありませんから、酷な事が言えるのかもしれません」
    祥:「なに?」
    尊:「この今の世界に居るのは祥さんなんですよ。二人の側に居られるのは祥さんだけなんですよ」
    祥:「・・・ん、分かった。そうだな、俺がにょこぼうさんの分も二人を幸せに出来るんだ・・・分かった。でも、玉砕するかもしれない」
    尊:「えっ?」
    祥:「言わないで後悔するより、言って後悔する方がよっぽど気持ちがいいから。幸子さんに言うよ」
    尊:「そう。頑張って」
    祥:「駄目だった時は慰めてくれよな」
    尊:「それは・・・でも」
    祥:「彼の事は黙っているよ。勿論、今聞いた話も誰にも言わないよ」
    尊:「ありがとう」
    祥:「じゃ、帰るよ。本当の事話してくれてありがとう」
    尊:「ううん」
    ナレ:祥は覚と美香子に元気よく挨拶して帰って行った。
    美:「話したのね」
    尊:「うん。全部。信じてくれたし誰にも言わないって。で、幸子さんに気持ちを話すって。もしし、駄目だったら慰めてって」
    覚:「そうか。でも、祥君なら二人を幸せにしてくれると信じてる。きっと、その気持ちは幸子さんに通じると思うよ」
    美:「そうね。この先どうなるか分からないけど、佳津子さんだったら嫁姑問題も無さそうだしね」
    覚:「そうだな」
    美:「私は、ちょっとバチバチってやってみたいわねぇ、嫁姑で」
    ナレ:尊を見た。
    尊:「そんな、先の話しないで」
    覚:「あれっ、前に、何年もしたらって、そんな先の話じゃないような言い方してたじゃないか」
    尊:「そうだったっけ」
    ナレ:将来の尊の嫁を想像して二人は笑っていた。祥は家に着いて店舗の椅子に座り、
    祥:「唯がねぇ、驚いたな。でも、この時代そんな事があったなんて・・・約束したしな・・・さぁ、これからどうするかだな」
    ナレ:椅子にもたれて考えていると佳津子がやって来た。
    佳:「戻ってたの。こっちで物音がするから泥棒かと思って」
    ナレ:佳津子の手にはゴルフのアイアンが握られていた。
    祥:「母さんが強いのは分かるけど、泥棒だったら危険だから、そういう時は出て来ない事だよ」
    佳:「強いは余計だけど。息子が心配してくれるのは嬉しいわね。で、私たちの心配についてはどうなの?」
    祥:「私達?」
    佳:「幸子さんの事よ」
    祥:「決めた、当たって砕けるで」
    佳:「そう言う事ね。駄目だったらお父さんと二人で慰めてあげるから、一応頑張りなさい」
    祥:「一応って・・・ありがと、頑張るよ」
    佳:「風呂空いてるから入って」
    祥:「わかった」
    ナレ:祥は着替えを持って風呂場へ。

    過去&永禄&現在⑧へ続く

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    振り返ります四人の現代Days、150(終)まで

    no.1068の続きです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    118、no.1015、再会
    119、no.1016、一触即発
    120、no.1017、後悔先に立たず
    121、no.1018、ここはお白洲
    122、no.1019、陳述します
    123、no.1020、挑戦と再挑戦
    124、no.1021、もしもーし
    125、no.1022、時代時代で
    126、no.1023、春からのビジョン
    127、no.1024、団欒┅┅┅

    永禄で生きる決心をする前から、時空を行ったり来たりでちょくちょく長期に学校を休んでいた唯が、学校の友達にどう説明したのか。絶対してないよなと思い、こうなりました。

    128、no.1025、ホットほっと
    129、no.1026、忸怩たる思い
    130、no.1027、道に迷う
    131、no.1028、期待してます
    132、no.1029、肌身離さず
    133、no.1030、刻みます
    134、no.1031、大きくなったね
    135、no.1032、未来は明るい!
    136、no.1039、用意周到
    137、no.1040、遠慮のかたまり
    138、no.1041、お好みはどれ
    139、no.1042、興が乗る
    140、no.1043、男子の会話
    141、no.1044、レア物です
    142、no.1045、帰省終わります
    143、no.1046、文詠みます┅┅┅

    ボーリングですが。表記としてはボウリングが正解ですね。掘削しませんものね。大分前に気づきましたが、Daysシリーズではこのままにします。で、ボーリング初登場は遡って平成Days14話(no.375)。この時のエピソードと対になったのが134話です。

    144、no.1047、匂わせます
    145、no.1048、踊らされます┅┅┅

    じいは若君の守役だったので、幼い頃からよーく知っている。逆に考えると、共に過ごした時間の長さだけ、若君もじいをよーく知っている。じいが千原じいの話にどのようにのってくるかはお見通しだったので、勝ち戦も同然だったのです。

    146、no.1049、佳き日
    147、no.1050、一件落着┅┅┅

    梅を調べてて知ったのですが、「紅梅」「白梅」って、花の色でなく、材木にした時赤いか白いかで決まるらしいですね。木の内部が赤いのが紅梅、白いのが白梅。だから白い花を咲かせる紅梅もあると。ちょっとややこしい。
    緑の梅ですが、緑萼梅という種類が、花びらは白、中が緑、萼(がく)も緑でした。
    お父さん、一本締めだと言ってますが、あの様子だと手をパンと一回だけ叩きそう。それ一丁締めだって!と総ツッコミされてると思います。

    148、no.1052、助言します
    149、no.1053、犯人は

    150(終)、no.1054、夢で逢えたら┅┅┅

    長女二女がもう少し小さい頃は、唯も参戦して忠清パパの取り合いをしてたとは思いますが。かつて令和Days69話(no.686)、妄想してデレデレしたように。でも時の流れは残酷で。唯にも突っ込まれ放題で。パパ頑張って~。

    ┅┅

    発表する度に長くなっていくお話。お付き合いいただきありがとうございました。
    ひと月って長いような短いような。今回は遠出もさせてませんし、話が持つのかと思いきや、源トヨとたけるなの二組のカップルが色々話題を作ってくれました。感謝せねば。
    到着した当初、若君が両親に語った願いは全て叶い、胸を撫で下ろしております。

    今後の予定です

    四人の現代Days。余韻なくあっさり終わったと思われませんでしたか?

    本当は、最後は「続きます。」でした。描きたい欲が勝りまして。現代Daysの続き、主に尊のその後のお話を考えております。

    ただですね、以前自分自身が口にした話がずっと引っ掛かっておりまして↓

    ┅┅私、令和Daysを描いた時に、自分でかけた枷がありまして。「コロナ禍になってから二人を飛ばさない」┅┅

    続きとなるといよいよその時期に突入です。止めようかとも思いましたが、それを踏まえた上で進めてみようと、話を練り始めておりました。
    でも。速川クリニックはその頃大波真っ只中。中途半端に話を起こしては、かえって医療機関に従事されている方々に失礼に当たると考え、悩んだあげく…コロナ禍は描かない事にいたしました。
    でも自分の中では、できればその時期に当たる日付に唯と若君を飛ばしたくないので、また考えます。
    という訳で振り出しに戻っておりますので、今は手付かずの状態です。

    いつスタートするか、どのくらいの量になるかは全く未定でございます。

    メドがつきましたら、お知らせします。

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    過去&永禄&現在⑥

    ナレ:日曜日の朝から祥はソワソワ。
    佳:「何なの?」
    祥:「何?」
    佳:「何って、動物園の熊じゃないんだから、うろうろって」
    祥:「熊に失礼だよ」
    佳:「はっ?面白くない返答ね」
    祥:「別にいいじゃん。用意は良いの?」
    佳:「着々と進んでるわよ」
    ナレ:料理も支度も出来た頃、尊が覚の手料理持参で裕と神山家に到着。
    裕:「よっ。祥さんが自力でって言ってたけど、もし、無理そうだったら助け舟出してやろうな」
    尊:「そうだね」
    ナレ:佳津子が迎え出た。中に通され、2つ並べたテーブルの上に料理が。
    尊:「おばさん、父からです」
    佳:「ありがとうね。で、新入さんね」
    裕:「はい。稲賀裕です。いながと読みますがいねがです。今日はお招き有難うございました。あのこれは母からです」
    ナレ:裕が持参した袋から箱を出し、その中に色んな味付けのクッキーが入っていた。
    裕:「母はお菓子作りが趣味で、まあまあな味なので宜しかったら召し上がって下さい」
    ナレ:先に祥が一つ取り、
    祥:「いただきます・・・裕君、まあまあってレベルじゃないじゃん、美味いよ」
    裕:「母に伝えます」
    ナレ:上機嫌でもう一つ頬張る祥の姿を見て、ウキウキの理由はみんなの知る所だった。すると呼鈴が。祥が出迎えに出た。
    京:「お招き有難うございました」
    祥:「今日はお越しくださいまして有難うございました。どうぞ上がって下さい」
    ナレ:幸子の隣に男の子が居た。
    幸:「お邪魔致します。ご挨拶して」
    孝:「小路孝です」
    祥:「しょう・・・あっ、幸子さんのお子さんですか?」
    幸:「はい」
    ナレ:結婚していたのだと驚きで祥の動きが止まった。美香子の新しい相手の言葉など頭になかった。ただただショックで。
    明:「祥さん、どうしたの?」
    祥:「あっ、いえ、どうぞ」
    ナレ:四人を中へ通した。さっきまで無駄にテンションの高かった祥が玄関から戻るとドッと落ち込んでいる。佳津子に子供も一人参加すると話を聞いていたので孝だと分かっていた尊は、もっと前に話しておくべきだったと反省していた。
    佳:「祥?」
    祥:「何でもないよ」
    ナレ:幸子が孝に自己紹介させた事で息子の落ち込みを理解した。先に案内して京都木夫妻も幸子も品数の多さに驚いていた。
    裕:「俺、子供の頃は、特にピーマンと椎茸も嫌いで、他にも色々。嫌いなんて言わずに何でも食べなさいって母に叱られていました。でも、ある事で、何でも食べられるようになって、今は何でも食べます。偉いでしょ、ははっ」
    明:「偉いわね」
    孝:「どうしてなの?僕もピーマン食べられないんだ」
    裕:「そっかぁ、昔ね、お兄ちゃんの夢の中にもったいない神様が現れてね、もったいないことするなよ、そんなことするとシッペだぞって。ははは」
    と:「そうか、祥にも現れて欲しいね。未だに人参とピーマンは食べられないんだよ。他にも色々ね。ははは」
    祥:「父さん、わざわざ言わなくてもいいだろうに。もぉ」
    佳:「祥は放っておいて、孝君、どんどん食べてね」
    ナレ:目の前の料理をみんな笑顔で食べていた。祥以外は。ことに裕は京都木夫妻に安心してもらえたらと元気よく食べていた。
    明:「裕さん、しっかり食べて大きくなってね」
    裕:「はい。2m目指して。ハハハッ。なんかお母さんに言われてるみたいで、照れくさいなぁ」
    ナレ:裕の言葉に明子が目頭を押さえた。佳津子も同じ母として明子の気持ちが分かった。
    佳:「明子さん、大丈夫?」
    明:「はい、ワサビを付けすぎて」
    ナレ:この場の雰囲気を壊してはいけないと誤魔化し、注がれた烏龍茶を飲んだ。としをは幸子に父親の名前を尋ねた。
    幸:「父はの名は亮二ですが。あの?」
    と:「やっぱり。中学の時の同級生なんですよ」
    ナレ:その頃の事を幸子に話した。でも、子供の頃は父親も忙しくしていたので、ゆっくり話す事も無かったと話した。
    と:「そうだったんだな。あいつも大変だったんだな」
    ナレ:としをの説明で父親が会社を継ぐ経緯を聞いた幸子は、父親が養子であることを初めて知った。
    幸:「お恥ずかしいのですが、その話を初めて知りました」
    と:「そうだったのか。私が話してしまってすまない。まぁ、それもあいつの優しさだと思って欲しい」
    幸:「はい」
    と:「私には分らない世界だが、君の父親は必死だったんじゃないかなとね」
    幸:「はい」
    ナレ:幸子は両親に放っておかれていたのだと思っていたが、それは父親が自分の代で会社を潰すわけにはいかないと頑張っていたんだ。母もそうだったのだと。二人の気持ちも知らずに我が儘放題の自分を反省していた。
    と:「幸子さん?」
    幸:「今日は伺ってよかったと」
    ナレ:としをは幸子の想いは分からないが、父親に対する気持ちの変化を察した。
    と:「それは良かった。で、弟さんが居たはずだが?」
    幸:「はい。叔父は父が会社を継いでから、好きなカメラで生計を立てています」
    と:「カメラマン?」
    幸:「はい。専門は自然ですので国内外飛び回っています」
    と:「作品は?」
    幸:「何冊か出版されています」
    と:「凄いね。名前は確か正憲さんとかじゃなかったかな」
    幸:「そうです。ローマ字表記で活動しています」
    佳:「あなた、書店に行きましょ」
    と:「そうだな」
    祥:「パソコンとかスマホで見れるんじゃないの」
    佳:「そうかも知れないけど、情緒が無いわね。やっぱり作品は本で、髪の状態で見たいのよ」
    祥:「まぁ」
    ナレ:普段の祥を知らない裕でさえ気づいた。裕は尊にトイレを案内させるためその場を離れた。
    裕:「なぁ、祥さん、あの孝君の事を知らなかったって事だよな」
    尊:「うん、言うタイミング逃して」
    裕:「そっか」
    尊:「祥さん頑張るって言っててけど。駄目なら僕たちでって、でも無理だよね」
    裕:「無理とかそういう問題じゃないだろぉよ。旦那が居るなら子供の事の前に話す・・・じゃないか」
    尊:「幸子さん独身、シングルマザー」
    裕:「そっ、そうなのか。でも、それが分かった所であの雰囲気じゃ、祥さん行動しないだろうし、俺たちの作戦も無理だろ」
    尊:「そうだね。他を考えるとしようか」
    裕:「そうだな。今は俺が盛り上げるから」
    尊:「頼みます」
    裕:「じゃ、俺はトイレ」
    ナレ:トイレに入る裕。

    ナレ:賑やかな食事会も終わり、みんなが笑顔で帰って行った。ただ一人、祥は複雑な顔で見送った。お礼にと明子と幸子が洗い物をしてくれていた。佳津子は覚の差し入れの器を洗っていた。
    佳:「裕君が盛り上げてくれたから良かったけど。ホストのあなたがあれじゃ・・・まぁ、分からなくもないけど」
    と:「母さん?」
    佳:「幸子さんの事でしょ」
    と:「あ~、あぁ」
    佳:「幸子さんが人妻だったからでしょ。告白もしてないのに失恋」
    祥:「母さん」
    ナレ:誰もシングルマザーの事は言わなかった。本人も敢えて話すことは無いと。だから神山家の三人は人妻だと思っていた。
    祥:「俺、見合いするよ」
    佳:「急にどうしたの?」
    祥:「そうして欲しかったんだろ」
    佳:「まぁ、そうだけど」
    ナレ:そう言われてしまうと返って頼む気にはなれない佳津子だった。祥は片付けが終わると店舗に行き椅子にドサッと座り、深いため息をついた。
    と:「本当に幸子さんの事」
    佳:「一目惚れでしょうね」
    と:「こればっかりはなぁ」
    ナレ:二人は店の方を向きため息。

    ナレ:翌日、佳津子が容器を持って速川家を訪ねた。
    佳:「昨日はありがとうございました。本当に美味しかったわ。特にレンコンのはさみ揚げが。レシピ教えて下さい」
    覚:「はい。こちらとしても尊と稲賀君がお世話になりましたから」
    佳:「稲賀君が盛り上げてくれて助かったわ。うちの祥は使い物にならなかったし」
    ナレ:そう言いながら尊を見た。
    尊:「まぁ」
    美:「尊?」
    尊:「幸子さんが結婚しているものだと思ってしまって」
    佳:「えっ、その言い方?」
    美:「周りからあえて言う事も無いと思っていたみたいだし、尊に様子を聞いたけど、幸子さんも身の上話をする場では無かったと判断したのかも。実は、幸子さんはシングルマザーなの。でも、孝君の父親とはちゃんと話して連絡も取り合ったし、二人が別れた後に相手の方も結婚しているし」
    佳:「事情があるのね。でも、それを知った所で、あの子にチャンスがあるのかどうかも分らないし」
    ナレ:覚達三人は幸子の中にも孝の中にも如古坊の存在がある事は分かっているので、今は何とも言えないと口をつぐんだ。佳津子は帰った。
    美:「佳津子さんの為にも祥君の為にもいい方法ないかしらね」
    覚:「そうだな。如古坊さんだって、二人が幸せになってくれたらって思っているだろうし」
    尊:「そうかな」
    美:「それもあるかもしれないけど、こればっかりはどうしようもない事だから」
    尊:「分かってる。それに僕たちが此処で言っていても何も始まらないって事も」
    ナレ:佳津子は親としては一番に息子の幸せを望んでいる。どうにかならないかと考えながら家路についた。

    過去&永禄&現在⑦につづく

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    過去&永禄&現在⑤

    ナレ:祥に相談を受けた翌日、講義の後、いつもの喫茶店でコーヒーにミルクと砂糖を入れて必要以上にスプーンでグルグル混ぜている尊に、
    裕:「なぁ、どうした」
    尊:「ん」
    裕:「まさか、恋の悩みか?」
    尊:「えっ!」
    ナレ:自分の声に周りを見て頭を下げた。
    裕:「・・・図星か?」
    尊:「図星って言えばそうだけど、でも、僕の事じゃないよ」
    裕:「違うなら、誰だよ、俺の知ってる人?」
    尊:「言えないよ」
    裕:「俺とお前さんの仲じゃんか。それともお前さんと親友だと思ってたのは俺の勘違いかぁ」
    ナレ:あからさまに噓泣きと分かる姿に尊は苦笑い。
    尊:「分かった。裕さんの知ってる人。それだけで勘弁して」
    裕:「俺も知ってる。ん~、大学関係、いや違うな・・・分かった、祥さん」
    尊:「えっ!」
    裕:「てことは当りだな」
    尊:「此処だけの話だから」
    裕:「分かってるって。で、相手は京都木さんと居た女性、確かさちこさんか」
    ナレ:裕の勘の鋭さに驚き、返事も出来なかった。
    裕:「やっぱりそうなんだ」
    尊:「でも、どうしてそう?」
    裕:「あの時、祥さんが彼女を見ている感じが、もしかしてって思ったんだよ。祥さんも分かりやすい人だよね。俺みたいな者にもさとられるんだから。ははっ」
    尊:「そ、そうだね」
    裕:「で、俺の推理だと、相談されたがどうしたものかと悩んでいるってところ」
    尊:「え・・・そ、そうなんだ。見てた?」
    裕:「そんなわけないじゃん・・・じゃ、俺を使えよ」
    尊:「えっ?」
    裕:「俺をダシに使えって事だよ」
    尊:「だし?」
    裕:「そっ」
    尊:「でも、どうやって?」
    裕:「話す前に、クリームソーダ奢って」
    尊:「それぐらいいいよ。追加で野菜サンドは?」
    裕:「それはまた今度で。で、あの彼女さん、えっと幸せの子?」
    尊:「そうだよ」
    裕:「別に言う事も無かったから言ってないけど俺の母親もさちこ。平仮名でこは子供の子」
    尊:「そうだったんだ」
    裕:「運命を感じるねぇ。で、俺の事は京都木さんも気づいてくれていると思うんだ。でも、言わないだろうから、まぁ、知り合った縁でって事で、ごはん食べませんかって祥さんから誘うんだよ。で、その時、幸子さんも」
    尊:「大丈夫かな?」
    裕:「だってさぁ、彼女だけ誘っても、相手が遠慮したら計画おじゃんになるだろ。そうだろ?」
    尊:「そうかな」
    裕:「幸子さんだって京都木さんと一緒なら来やすいんじゃないかなって。で、その時、二人っきりにして話をさせるとかって事でさ」
    ナレ:裕の提案を話す価値はあると思った。
    尊:「分かった、その案で相談してみるよ。もし、それでって事になったら裕さんも勿論」
    裕:「あたぼうよ。結構いい出汁出るかもよ。祥さんの為にもな・・・ん?さっきから、俺の名前さん付けだよなぁ」
    尊:「あぁ」
    裕:「もぉ」
    ナレ:約束通り裕の分も支払い、家に戻り覚と美香子に伝えた。
    覚:「そんな感じであれば幸子さんも参加しやすいだろうな」
    ナレ:夕飯の後、尊は祥に電話を掛け伝えた。でも、裕が言っていた二人っきりにさせる話は言わなかった。
    祥:《そうだったら、来てくれると思うよ》
    尊:「うん。あとは」
    祥:《そうだな。ここまでやってくれたんだから、俺も頑張らないとな》
    尊:「ん・・・」
    祥:《どうした?》
    ナレ:孝の事を話した方が良いかと考えていると、電話の向こうから佳津子が、
    佳:《祥、スマホ鳴ってるわよ》
    祥:《わかった。じゃ、やっぱり日曜とかの方がいいよな。決まったら連絡するよ》
    尊:「あっ、うん」
    祥:《ごめん、じゃ、また》
    ナレ:電話が切れた。受話器を持ったままの尊に、
    美:「孝君のこと言うタイミング逃したようね」
    尊:「うん」
    覚:「祥君、どう思うかな」
    美:「そうね」
    ナレ:美香子は如古坊を思い浮かべて、
    美:「もし、この場に如古坊さんが居たらどうだったかな」
    覚:「そんな事考えたら、こっちが切なくなるからさ。やめようよ」
    美:「そうね、ごめん」
    ナレ:如古坊だったら、きっと祥を応援するのだろうと三人は思った。

    ナレ:祥が電話に出ると仲間の一人で、付き合っていた彼女と三か月後に式を挙げるから招待状を送るとの連絡だった。祥は出席の意思を伝え電話を切った。
    佳:「誰?」
    祥:「もちっとが結婚するんだってさ」
    佳:「持田君。そうなの」
    と:「先月は、確か、六田君だったよな」
    祥:「りくか・・・そうだったな」
    ナレ:祥の仲間が続々と結婚していることを知る両親の気持ちは十分に分かっている。前の事もあるから、幸子の事を話して上手くいかなかったら、また、ガッカリさせてしまうのではないかと。
    佳:「それと、尊君と何話してたの?」
    ナレ:京都木夫妻を誘って食事会をと提案してきたことを伝えた。
    と:「京都木さんと?」
    祥:「ん。彼も京都木さんもどちらも同じ思いだと思うけど言葉にはしないから、また会わせてあげたいって」
    佳:「そうなの。どちらも優しいわね。私も彼に会ってみたいわね」
    祥:「うん。で、あの時、一緒に居た幸子さんもって尊が」
    ナレ:祥は心の中で謝り、尊を強調して言った。
    佳:「さちこさんって牧合さんの所の?」
    祥:「そう」
    佳:「尊君が?」
    祥:「おばさんが最近知り合った友達が幸子さんだったって尊が」
    佳:「そうなの。縁ってあるのね。それにさちこさんも京都木さんの?」
    ナレ:京都木明子が幸子の屋敷で働いていたことを説明した。
    と:「しょうじって、小さい道路の路?」
    祥:「声に出すだけでどんな字を書くのかは知らないよ。幸子さんの漢字も分かったばかりだし」
    と:「そうか。もし、そうだったら、親父さんの名前は亮二じゃないかとな」
    祥:「もぉ、だから、会ったの3回だし、ましてや、父親の名前までは」
    と:「それもそうだな」
    佳:「お父さん?」
    と:「もし、私が知っている人なら、中学の同級生。学力ではビリを競い合う仲だった奴かなと思ってな」
    佳:「ビリ?」
    と:「そっ、高校受験まじかになってから必死に勉強して、お互いどうにか志望校に合格」
    佳:「そうそう、お義母さんに聞いたわ。やれば出来る子なのに、言ってもやらなかった子が急に勉強し始めて、心配していた高校にも入れて赤飯炊いて喜んだって」
    と:「きっかけは、あいつの親父さんが一時期、具合が悪くなって。過労で大事を取って入院してた時に、父親を心配するならば、大学卒業したら私の元で社長に成るべく修業をしなさいって言われたそうだよ。亮二が養子になって5年後に弟が生まれて、卑下してたわけじゃないけど、実子の弟に会社を継がせるだろうと思っていて、ダラダラ過ごしていたって。でも、病室で言われて決心して、俺達、つるんでいた他の3人にも勉強を強要して一緒に」
    祥:「そんな事が。だから俺に勉強しろって言わなかったんだな」
    と:「私の子だしな。ははは」
    佳:「もぉ、二人して。もし、その方のお子さんだったら?」
    と:「もしそうなら、今の様子を聞きたいな。中学卒業してお互い高校生活で、それぞれに友達も出来て、仲違いってわけじゃないけど疎遠になってな」
    ナレ:としをの話を聞いていて、
    佳:「じゃ、お店決まっていないのなら、此処で良いんじゃないの?」
    祥:「此処って、うち?」
    佳:「そうよ」
    祥:「でも、結構な人数になるよ」
    佳:「料理教室まで通っていても、腕を振るう場が無いじゃない。目いっぱい料理を作ってみたいのよ」
    ナレ:佳津子は腕まくり。佳津子に強く言われ会場は神山家に決まった。その事を尊に連絡した。
    祥:《そう言う事で、我が家でやる事になったんだ》
    尊:「ご迷惑では?」
    祥:《お袋がやる気になってて、やめると嫌味言われそうだから。で、京都木さんに予定聞くけど、一応来週の日曜と考えているんだ》
    尊:「裕さんも僕も大丈夫だと思うけど・・・まぁ」
    祥:《どうした、何か不都合?》
    尊:「あっ、いえ」
    祥:《そっか、じゃ、はっきりしたら、連絡する》
    ナレ:尊は電話を切った後、覚に話した。
    覚:「神山さんだけに任せては申し訳ないから、僕も何品か作るよ」
    尊:「ダブって多くなってもと思うけど」
    覚:「あれは大丈夫だと思うけど」
    尊:「あれ?」
    美:「そうね、レンコンのはさみ揚げは大丈夫じゃないの」
    尊:「そっか。そうだね、じゃ、お願い」
    覚:「任せとけ」
    ナレ:覚は腕まくり。祥は京都木に連絡した。
    祥:「夜分すみません」
    明:《大丈夫ですよ。どうしました?》
    祥:「実は、うちでおしゃべり会をしようという話になりまして」
    明:《おしゃべり会?》
    祥:「はい。お二人と、先日の裕君も誘って、みんなで」
    明:《あの方?》
    祥:「そうです。それから、都合がつきましたらご一緒していました幸子さんもどうかなと」
    明:《幸子さんも・・・はい、聞いてみますね。あの、もし大丈夫でしたら一人子供の参加もよろしいでしょうか?》
    祥:「お子さん?」
    明:《はい》
    祥:「大丈夫ですよ。賑やかになります」
    明:《ありがとうございます》
    祥:「来週の日曜日と考えていますが、ご都合は?」
    明:《私と主人は大丈夫ですが、明日、幸子さんに聞いてからお返事しますね》
    祥:「分かりました。では、おやすみなさい」
    明:《では、失礼いたします》
    ナレ:電話が切れた後も祥は受話器を握りしめていた。
    祥:「可笑しかったかな?」
    ナレ:唐突に幸子の名を出して怪しまれなかったかと今更だがドキドキしていた。
    佳:「どうしたの、そんな恰好で。終わったなら受話器置きなさいよ」
    祥:「あっ、あぁ・・・風呂入れる?」
    佳:「今、お父さんが入ってるから」
    祥:「そっ、じゃ、出たら呼んで」
    ナレ:祥は二階に駆け上がった。翌日、明子から日程も大丈夫だし、幸子も参加すると連絡があり、その時も子供も一人参加すると聞いた。祥は京都木夫妻の孫なのかと思い、その子については聞かなかった。そして子供ぬ喜びそうなメニューも入れてもらえるようにと佳津子に伝えた。

    過去&永禄&現在⑥へつづく

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    振り返ります四人の現代Days、44から117まで

    no.1067の続きです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    44、no.901、プライスレス
    45、no.902、選択せよ
    46、no.903、以心伝心
    47、no.904、戦うあなたが
    48、no.905、呼んだ?
    49、no.906、贈ります
    50、no.907、狙ってる
    51、no.908、溶ける~
    52、no.909、星だけが見ていた
    53、no.910、忖度します┅┅┅

    念願のクリスマスイブデート。色々過ごし方はあるでしょうが、私は終わりがけをとことん甘~くしました。唯が、物足りないって言い出さないように。デートプランなんて制約がなければいくらでも考えつきますが、一緒に居られて安全が確保されていれば、何してても楽しいんでしょうね。

    54、no.911、画伯!
    55、no.912、サービス!
    56、no.913、さりげなく
    57、no.914、説明せよ
    58、no.915、甘酸っぱい
    59、no.916、春遠からじ┅┅┅

    公式掲示板で読んだのかな違うかな…ドラマで瀕死の若君を丸投げされた翌朝、尊が両親に説明する際、ひじをテーブルに乗せ両手を口元に寄せて組みます。これが、アニメ新世紀エ〇〇〇ゲリオンの登場人物がよくやるポーズなんで、尊はそのアニメのファンなんだよと教わりまして。55話で用語をほんの少し盛り込みました。
    キラキラのイルミネーション。ソワソワしてる瑠奈に気づかない尊。いつか同じ場所でちゃんとデートさせてあげたいと思います。

    60、no.917、とりあえず
    61、no.918、全て泡とならぬよう
    62、no.919、説法!
    63、no.920、ルーティンです┅┅┅

    前回の振り返りで触れるのを忘れていましたが、ドラマの中では一切出てこない源三郎の氏、話を組み立てるにあたりどうしても必要でしたので、調べまして原作から引用致しました。

    64、no.921、一枚から三枚
    65、no.922、蛍が飛ぶように

    66、no.924、満席でございます
    67、no.925、翼を広げて

    68、no.926、本領発揮

    69、no.928、衝撃的!
    70、no.929、想像するに┅┅┅

    若君の実際の墓は、きっと立派な物が造られている。今回旧緑合の地に出向いていたらそれに出合ったかもしれないですが、もし没年が彫ってあったりしたらさすがにショックでしょうから、訪れる機会はこれからもないと思います。

    71、no.932、Xデー到来
    72、no.937、想い出の場所
    73、no.940、ハラハラ!
    74、no.941、ドキドキ!
    75、no.943、月推しです

    76、no.946、引き継ぎます
    77、no.952、誘惑わくわく
    78、no.953、一歩進む
    79、no.954、天にも昇る心地
    80、no.957、密談です┅┅┅

    瑠奈とみつき。皆様に好かれる子達であって欲しいと願い、セリフや仕草を熟考したつもりです。時々暴走はするけれど愛らしい、ふわっとした雰囲気の瑠奈と、物怖じせず凛とした、でも幼なじみの彼にはとことん一途なみつき。どちらも好きですね。自分が作ったキャラなので何とでも出来るってのもありますが、もっともっと描いていたい彼女達です。

    81、no.959、幸せな初夢
    82、no.960、匂わせません

    83、no.962、ムクムクと
    84、no.964、着々と準備

    85、no.966、未踏の地へ
    86、no.967、幕開きです
    87、no.969、辿ります
    88、no.971、はなむけの
    89、no.972、二歩進んだ
    90、no.974、ゴールいやスタート
    91、no.976、振り返りは大切┅┅┅

    唯は若君に一目惚れでしたね。対比でもないですが、尊にはゆっくりと恋に目覚めてもらいました。なんで僕?と疑いながらもまんざらではなかったはず。嫌だったら、元旦のLINE攻撃にマジうぜえ!の一喝で、はい終了~だったでしょ。

    92、no.978、野望?
    93、no.980、父の思い
    94、no.982、母の思い
    95、no.984、大人への階段

    96、no.986、そーっとね
    97、no.991、ハレの日
    98、no.993、祝福します
    99、no.994、昔も今も
    100、no.995、霧が晴れた┅┅┅

    吉田城ですが、ドラマSPスタート3分30秒後に出てくるロールプレイングゲーム風の地図には表示されていません。吉田城自体が話の流れに関係ないのでそうなったんだと思いますが、右下、黒羽城の東に森のような場所があるのでその辺りと推測しました。
    源トヨ二人で一部屋を与えられた初日。トヨが二階に上がってくるのを、実は首を長くして待っていた源三郎。子供用の図鑑でないと、内容がさっぱり頭に入ってこなかったのです。

    101、no.996、尊い!
    102、no.997、プチ旅行です
    103、no.998、初めての

    104、no.999、気遣いの人
    105、no.1000、健やかなる時を
    106、no.1002、ととのう?
    107、no.1003、触れてごらん

    108、no.1004、環境問題
    109、no.1005、事件発生!
    110、no.1006、臨機応変です
    111、no.1007、その線でいこう
    112、no.1008、出番が来た
    113、no.1009、一息ついて
    114、no.1010、間一髪?
    115、no.1011、慌てます
    116、no.1012、恐縮です
    117、no.1013、奏でていてね┅┅┅

    覚お父さん。若武者達の恋愛相談にも気さくに応じ、押しつけがましくもない。息子の彼女がぐずっても、相手に寄り添い交渉もしてくれ頼りになる。さりげないカッコ良さを表現したつもりです。
    「好き」の伝え方なんですが。唯は結局直接告白はしてませんよね。若君の切ない嘘で現代に帰された時は「大好きなんですぅ」は届いてないし。「超好き!」は二回ありますが、どちらかと言うと心の声が口をついて出た感じで。
    長澤城にて。唯 心の声(こんな状況でも余裕で笑えるなんて…)
    小垣城にて。唯 心の声(こんな夫がいる女子高生なんて私だけ!)
    若君の方がはっきり言っていて「お前を思う」と山寺で話の流れの中サラっと告げる。そりゃ「本当に?」って聞き返すよなぁ。
    で、尊の場合。まだ付き合い始めて5日です。瑠奈ちゃんに言いたい。私の事好き?って質問は危険です。好き以外の答えが選べないから相手の負担になるだけなんで。とは言え尊の腹は決まっていた(*^^*)ので、照れで遠回しな表現にはなったけれど渾身の告白は成功しました。

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    振り返ります現代Days(仮)&四人の現代Days1から43まで

    通し番号、投稿番号、サブタイトルの順です。 どんな話だったっけ?と遡って投稿を探したい時、サブタイトルを掲示板の記事検索欄(板の下の方にあります)に入力すると、ページを戻っていくより早いと思います。

    今回も長い(´д`|||)ので、かなりかいつまんでの振り返りといたします。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    現代Days(仮)への道

    1、no.818、出ました!
    2、no.823、勝ち目ないので
    3、no.825、歴史のおさらい
    4、no.827、よもやそんな
    5、no.828、悩みが尽きぬ
    6、no.829、食の全国制覇
    7、no.830、助けられるものなら
    8、no.831、心が絶不調
    9、no.832、動く!
    10、no.833、思い立ったが吉日
    11、no.834、それでいいのか?
    12、no.835、負けない!
    13、no.836、特等席です
    14、no.837、いざ!
    15、no.839、着いたー!
    16、no.841、任せます
    17、no.842、どうなる?
    18、no.843、深夜に咲く花
    19、no.844、のるかそるか
    20(終)、no.845、絆の輪です┅┅┅

    センター試験は、尊の受けたこの年が最終の実施でした。今は、大学入学共通テストが行われていますね。
    13話の、ぷにぷにの唯と尊のまぁ可愛らしい事。まだ言葉もたどたどしい唯と、歌うように愛娘に語りかける母の会話は、描いててとても楽しかったです。
    現代と永禄で何が起こったか。速川家の決断からの若君の決断と、かなり濃い内容のミニシリーズになりました。

    四人の現代Days

    1、no.847、いらっしゃいませ
    2、no.848、大騒ぎです
    3、no.849、まだ早い
    4、no.850、それが理由です┅┅┅

    何やかやで無事四人到着。着いてすぐに、戻ったら3分後だよと源トヨには説明してるんですが…目の前の事柄を理解するのに精一杯で、色々曖昧になった模様です(137話)。

    5、no.851、so cute!
    6、no.852、入れ過ぎ注意
    7、no.853、事も無げに
    8、no.854、遠乗りじゃ
    9、no.855、後押しします
    10、no.856、夜襲?

    11、no.857、職人あらわる
    12、no.858、姫にお似合いです
    13、no.859、ヘルプ!

    14、no.860、内密に願います
    15、no.861、熱唱!
    16、no.862、美声!
    17、no.863、針のむしろ┅┅┅

    実は16話17話を描いている時点では、この女子高生2の瑠奈が尊の彼女になるなんて全く予想だにしておりませんでした。何がどう転ぶかわかりません。クラスメートから彼女になるまでかかった日数は、三週間(90話)。

    18、no.864、水上の戦い
    19、no.865、あなたしか見えない
    20、no.866、召し上がれ
    21、no.867、チャンス!

    22、no.869、誰かのために
    23、no.870、二人並んで
    24、no.871、郷に入っては
    25、no.872、懐が深い┅┅┅

    ヘアドネーション。この話を描いた当時は、容易く取り上げて良い物かと考えたのですが、その後今までに私の周りで二人も寄付していて、事業として浸透しているのを実感しました。

    26、no.873、ステップアップ
    27、no.874、時速何キロ?

    28、no.875、てんこ盛りです
    29、no.881、アポ取ります

    30、no.884、丸投げですか?!
    31、no.886、きってきって
    32、no.887、思ってたんと違う┅┅┅

    31話で父が咄嗟にひねり出した、戦国戦隊シュツジンジャー。せっかくなんでちょこっと書いてみました↓

    敵に囲まれているシュツジンジャー5人。

    シュツジンジャー1号タダキヨ「謀りおったな!」

    シュツジンジャー2号ユイ「憎ったらしい!このサカグチめ!」

    サカグチ「ふふん。ノコノコ現れおって」

    カーット!

    ユイ「へ?」

    監督「おい、すり変わってるぞ!3号コヘイタはどこに行ったんだ!」

    ユイ「うわ。じい、何やってんのよ!」

    いつの間にか、コヘイタの衣装を着てじいがちゃっかり並んでいた。

    じい「何ゆえわしを仲間に入れぬぅ」

    ユイ「はぁ?ちょっと、小平太はどこよ?!」

    じい「小平太には、今日は撮影はなしと言っておいたわ」

    ユイ「なにそれ!小平太も、どうしてその話を信じるのよ~」

    タダキヨ「じい、それは…ならぬ」

    ユイ「どう考えてもじいはメンバーには入んないし。おかしいでしょ!」

    じい「良いではないかぁ。お、何じゃ?離せ、離すのじゃ!」

    両脇を掴まれ、捕らえられた宇宙人状態で引きずられていくじい。

    シュツジンジャー4号ゲンザブロウ「信茂様、御免」

    シュツジンジャー5号アクマル「連れていく」

    ユイ「ホントにもー。じいは今度から出禁にしとかないと」

    頑張れ、戦国戦隊シュツジンジャー。

    33、no.888、羽を休めて
    34、no.889、ほろほろと
    35、no.891、竹刀を持て!
    36、no.892、滲み出る

    37、no.893、熱が入るよ
    38、no.894、トロットロ
    39、no.895、浮っき浮き
    40、no.896、迫る!┅┅┅

    何度かスモア作ってみたんですけど、マシュマロってあっという間に焦げるんですよね。でも熱でいい感じにチョコが溶けると、よっしゃーとほくそ笑んでいます。

    41、no.897、ハンコください
    42、no.898、宣言します
    43、no.899、根回しばっちり┅┅┅

    日記に名前がない話は、木村先生との会話でもほんの一瞬しか触れていません。それをちゃんと覚えていた若君。きっと、シールを貼る時も姿勢良くペタリと(149話)。

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    過去&永禄&現在④

    ナレ:翌日、祥は尊にLINEを。しばらくして尊から電話が。
    尊:《稲賀君に話します。で、場所は?》
    祥:「城址公園でどうかなと」
    尊:《じゃ、石垣から見える遊具の所で彼と話している姿を見てもらうのは?》
    祥:「そうだな。じゃ、いつにしようか?」
    ナレ:相談して来週の日曜日の午後2時と決めた。尊が店の方は大丈夫かと聞くと、その時間帯の予約を受け付けないから心配ないと。そして尊は講義が終了した後、いつもの喫茶店で裕を公園へ誘う話を。
    裕:「来週の日曜に城跡の公園、黒羽城?」
    尊:「そっ」
    裕:「なんで?」
    尊:「えっと・・・僕はあの場所が好きなんだ、大切な人との思い出もあるし」
    裕:「彼女?」
    尊:「違うよ」
    裕:「ふ~ん、でもなんで?」
    尊:「ん・・・稲賀君も大切な人の中の一人だから、本当だよ」
    裕:「別に疑ってはいないけど。分かったよ。じゃぁさぁ、大切だって思うんなら、だいぶ経つけど、その稲賀君は止めてくんない?」
    尊:「あっ、ごめん、そうだよね、同級生でも年上の人に君付けは良く無かったよ・・・ですね」
    裕:「も~、そうじゃなくて、裕って呼び捨てにしてくんないかねぇ。俺だって尊って呼んでるじゃんかぁ」
    尊:「そうだね、じゃ、裕君」
    裕:「君って、まぁ、それでいいや。で、何時?」
    尊:「2時に遊具の所で待ってるから」
    裕:「分かった」
    ナレ:裕は何か意味ある様な気もしていたが聞かずにいつもの野菜サンドを食べていた。尊は裕と別れた後、祥にLINEした。祥もその晩、京都木に連絡をして待ち合わせ時間も2時20分前と伝えた。裕が来る前に打ち合せする時間も必要だろうと。

    ナレ:尊は昼食を取り城址公園に向った。早めに出て来たのでまだ誰も来ていなかった。石垣にもたれて、忠清と来た時の事を思い出してながら待っていると三人連れが、
    尊:「えっ」
    ナレ:祥が話していた夫婦と思われる二人の隣に幸子の姿が。
    尊:「どうして?」
    ナレ:尊は美香子が言った『偶然』に驚いた。三人に近づいて行くと脇道から祥が来た。
    祥:「えっ?」
    ナレ:祥も幸子の姿に驚いていた。
    祥:「しょうじさんがどうして?」
    尊:「ご無沙汰しています」
    幸:「ご無沙汰してしまい申し訳ございません」
    ナレ:尊に頭を下げる幸子の様子を見て、
    祥:「尊?」
    尊:「祥さんも?」
    ナレ:二人の様子を見てどちらにも関わりがある幸子が説明した。京都木の妻は明子で、幸子の幼い頃からお手伝いとして小路家に勤めていた。明子に、尊は親身になってくれた速川家の人。祥と会ったのは社長の葬儀の時だったと話した。
    祥:「それぞれに縁があったとは驚きです」
    明:「幸子お嬢様は」
    幸:「その言い方はもうやめてね」
    明:「はい。幸子さんは娘に優しくしてくれていまして」
    幸:「お二人は私の事ご存じなの。だからはっきり言っても。我が儘だった私にも明子さん同様に優しくも厳しくしてくれていて、年下だったけれど。この度の事を明子さんから伺って、二人と同じ思いで、私もその方に会ってみたいとお願いして一緒に」
    祥:「そうでしたか。でも」
    幸:「分かっています」
    ナレ:話し込んでいて時間よりも早めに来た裕が近づいている事に気づかなかった。段取りとしては遠くで姿を見る事だったが、
    裕:「尊」
    尊:「えっ、どうして?」
    裕:「何さ?」
    尊:「何でもないんだ」
    裕:「祥さんも、ってか、何してるんですか?」
    祥:「えっ、あっ」
    裕:「何を慌てて・・・あ~、そう言う事」
    尊:「そう言う事って?」
    裕:「そこの女性が祥さんの彼女で、お二人が彼女さんのご両親で・・・でも、尊は?」
    尊:「違うよ・・・この方たちは・・・ご家族で城跡を見に来ているところで声を掛けられて」
    裕:「そぉ・・・でも、祥さんは?」
    祥:「俺は・・・体力づくりのマラソン」
    ナレ:明らかに運動をするような恰好ではない。
    裕:「良く分からないけど、そう言う事にしておきますか・・・でも、祥さんとお似合いだなぁつて思ったんだけど」
    ナレ:先に声にしたのは幸子だった。
    幸:「この方に失礼かと。私より年下・・・でしょうから」
    裕:「お若く見えますけど?」
    幸:「今年30歳になります」
    ナレ:その答えに尊と祥は驚きの声を上げた。
    裕:「二人とも?」
    ナレ:話をしていても幸子の年齢までは聞いていなかった尊。祥は同い年位だと思っていた。
    尊:「何でもないんだ」
    明:「楽しそうな方ね」
    裕:「はい、よく言われます。昔・・・親に五月蝿いってよく言われます」
    尊:「ご両親だけじゃないと思うけど」
    裕:「何だとぉ、年上だぞぉ」
    尊:「年上扱いするなって言ってるのに」
    裕:「いいじゃん。俺、稲賀って言うんですけど、母方の伯父さんが秋田の人で酔うと、悪い子はいねがぁって俺にまとわりつくんですよ。あははは」
    ナレ:幸子と祥と尊の表情は変わらなかったが、明子と夫は声をあげて笑った。
    裕:「この話すると大概、へって感じの顔されますけど、お二人が笑ってくれて、今日は来てよかったなんてね。あのぉお名前を伺ってもいいですか?」
    京:「構いませんよ。京都に木と書いてきょうつぎと申します」
    裕:「珍しいお名前ですね」
    京:「あなたもそうですね」
    裕:「そう言えばそうですね。あははは」
    京:「私たちもあなたに会えて良かった。楽しかったですよ」
    裕:「それは良かった」
    京:「我々はもう帰ろうか?」
    明:「そうね。楽しかったわ」
    幸:「では、失礼いたします」
    ナレ:三人はお辞儀をして歩いて行った。
    祥:「俺も戻るよ。じゃ」
    ナレ:駐車場の方へ歩いて行った。
    裕:「久し振りに遊具に乗るってのもいいなぁ」
    ナレ:裕はパンダにまたがり、尊は馬に。
    裕:「なぁ」
    尊:「なに?」
    裕:「京都木さんの連絡先、祥さんに聞いておいて。祥さんの知り合いなんだろ」
    尊:「えっ?・・・あっ、まぁ」
    裕:「俺が結婚する時に招待したいって思ってさ」
    尊:「どうして?」
    裕:「何となく・・・って事かな」
    尊:「ん・・・祥さんに話しておくよ」
    ナレ:裕は胸に手を当てた。二人を目の前にした時に心臓がドクンと大きく波打った。裕の中でその意味が分かった。尊も裕の想いを感じ取った。
    尊:「うちに寄る?」
    裕:「今日は・・・父さんと母さんと外で食べようって誘う事にするわ。バイト代入ったし」
    尊:「そうだね」
    裕:「尊も親孝行しろよ。じぁな」
    尊:「うん。じゃ、気を付けて。今日はありがとう」
    裕:「あぁ、明日な」
    ナレ:裕は駐車場に行きバイクで帰って行った。

    ナレ:戻った頃、裕の事を尊から聞いて、京都木夫妻と同じ思いだったことを知り自分の中ではこれで良かったのだと思った。だが、もう一つの祥の中のモヤモヤがさらに大きくなっていた。
    佳:「どうしたの、箸持ったまま考え事?消化に悪いわよ」
    ナレ:夕飯時に、お椀を持ったままジッとしている祥に話しかけたが、聞こえていないよう。
    と:「おい、祥!」
    祥:「えっ、あっ、なに?」
    佳:「考え事しながらで、お味噌汁溢すわよ」
    祥:「あっ、ごめん、ご馳走様」
    ナレ:箸を置き、席を立ち、自分の部屋に行く息子の後姿に、
    と:「あいつ、どうしたんだ?、京都木さんの事で何かあったのか?」
    佳:「それはいい方向に済んだらしいけど。まぁ、他に思い当たる節はあるんだけど」
    と:「なんだ?」
    佳:「牧合さんのところの従業員さんで、ほら形見の品を持って来てくれたって話したでしょ」
    と:「あぁ」
    佳:「その時に来た女性に会ってから、あの子の様子が・・・と思うんだけど」
    と:「まさか?それだけで?」
    佳:「時間じゃないでしょ。母の勘としてはそうなのかなって思うけど、いつもなら、何でも話す子なのに」
    と:「まぁ、あいつも27、秋には28になるんだし。前みたいなわけにはいかないんだろう。しばらくは、そっとしておいた方が」
    佳:「そうね」
    ナレ:佳津子は祥のほとんどてうぃ付けていない食器をかたずけて、おにぎりを2つ握り部屋の前に行きドア越しに、
    佳:「夜中お腹すくでしょうから、食べなさいね。此処に置いておくわよ」
    ナレ:ドアの向こうから、
    祥:「ありがと」
    ナレ:祥は自分でもどうしたら良いのか分からなかった。ただ頭から幸子の存在が消えない事だけは分かった。
    祥:「あっ、そうだ、尊」
    ナレ:幸子と知り合いの尊に相談してみようかと考えたが、そうなれば自分のモヤモヤした気持ちを話さなくてはいけない。唸りながら頭を掻きむしり髪型がクシャクシャ。祥は意を決し、翌日速川家を訪ねた。

    ナレ:夕飯が思ったと思う時間帯に、速川家の玄関ドアの前で深呼吸をして呼鈴を押した。モニター越しに名乗る声がうわずった。
    尊:「今開けます・・・祥さん、どうしたんだろう?」
    ナレ:両親の顔を見た。玄関へ行きドアを開けた。
    尊:「いらっしゃい」
    祥:「夜分にごめんな」
    尊:「大丈夫ですよ。あがって」
    ナレ:尊の後ろから歩く姿は背の高い祥が背中を丸めて静々と。
    覚:「さっ、此処に」
    ナレ:覚が椅子を引き座らせた。
    祥:「すみません」
    美:「どうしたの?」
    祥:「あ・・・あのぉ・・・そのぉ・・・」
    覚:「祥君らしくないよ、あのそのって」
    祥:「はい・・・あの、助けてもらいたくて」
    美:「何を?」
    祥:「実は、俺、さちこさんの事でモヤモヤしてて」
    ナレ:三人は揃って驚きの声を上げた。
    祥:「そこまで」
    美:「そりゃぁ驚くわよ。モヤモヤって幸子さんを好きになったって事でしょ」
    祥:「まぁ」
    覚:「まぁって、そうですって」
    祥:「やっぱり、そうですよね」
    美:「やっぱりって、他人事みたいに」
    祥:「はぁ、すみません・・・昔に見かけた時はどうって言うか逆に付き合いたくないなぁって思ってたんですけど、再会して」
    美:「ビビッときたのね」
    祥:「そう言う事だと。でも、俺だって付き合った女性は居ますけど、今回は、なんか、どうしたらッて、考えてしまって」
    美:「佳津子さん達には話したの?」
    祥:「まだ、言っていません」
    美:「珍しいわね、何でも話す仲なのに」
    祥:「俺もそう思います。でも、今回は言えなくて」
    覚:「もしかして心の中で、二人をガッカリさせてしまうかもって思ってるんじゃないか?」
    祥:「そうかも知れません。前の事もあるから」
    尊:「でも、言わないと何も進まないと思うんだけど」
    美:「そうよね。もしかして幸子さん新し彼が出来ているかもしれないから」
    ナレ:覚達は幸子がシングルマザーだと知っているが自分たちが言っていいものかとこの場合は言わずにいた。祥も独り身だと考えていたから美香子の『新しい』についても付き合っていた人が居るのだろうと疑問は持たなかった。
    祥:「そうですよね」
    尊:「居るかどうかは分からないけど。まぁ、兎に角、話してみる事はした方が良いと思うな」
    覚:「そうだな。話して、相手が居るなら祥君もきっぱり諦めがつくだろうし」
    祥:「はい。さちこさんが幸せなら俺は」
    美:「そうね。名前も幸せが付くから、名前通りになって欲しいわね」
    祥:「幸せに子と書くんですか?」
    美:「そうよ」
    祥:「素敵な名前ですね」
    覚:「本人に言ってあげれば」
    祥:「それはぁ」
    ナレ:覚達は祥にも幸せになって欲しいと思うがどうなるかは分からない。はっきりさせなくてはとも考えるが、どう切り出していいのか分からなかった。
    祥:「すみません」
    美:「私たちも方法を考えるから、時間頂戴」
    祥:「はい・・・宜しくお願いします。では、失礼します」
    ナレ:祥を見送った。
    覚:「どうしたら良いのかねぇ」
    美:「そうね。でも、孝君の事を言わなくて良かったのかしら?」
    覚:「あぁ、祥君の顔を見ていたら言えなかった。言った方が良かったよな。やっぱり」
    尊:「方法が見つかった時に話して、祥さんがどう判断するかは、祥さんに任せるしかないと思うけど」
    覚:「そうだな」
    ナレ:しかし、その晩、案は浮かばなかった。

    過去&永禄&現在⑤につづく

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    過去&永禄&現在③

    =過去 2020年 夏=

    ナレ:サークル仲間とのキャンプの計画があり、夏休み前に髪をカットしに祥の所へ。
    祥:「大学生活はどうだ?」
    尊:「楽しいですよ。勉強にはどうにかついて行けてますし、サークルは特に裕さんがムードメーカーで、先輩達は昔の事を聞いていても、それを全く感じさせない五月蝿い奴って言ってます」
    祥:「楽しそうで良いじゃないか」
    尊:「タイプは違うけど、姉に似ているって思う時もあるんです」
    祥:「そうか。で、唯から連絡あるのか?」
    尊:「まぁ・・・元気にしているようですよ」
    祥:「そっか。あの性格だから、何処でも生きていけると思うよ。ははは」
    尊:「そう思います」
    祥:「で、あの後、彼の事を思い出した。あの時は顔も白くて線の細い子だった。でも、尊と一緒に居る姿見て、心から嬉しかった。でさ、祖父の代から贔屓にしてくれているお客さんが居てね、四年前だったかな、ご病気で亡くなった娘さんの三回忌に参列したんだけど、詳しくは言えないけど、やっと気持ちも部屋も整理できたと言ってね、その時、お父さんが移植した人からの手紙を見せてくれて、その手紙の文面に、共に生きていきますと書いてあって、その時は気づかなかったけど、今思えば彼かなと」
    尊:「裕さん?」
    祥:「だと思うんだ。その方にも言えないけど、もしそうなら、今の彼を見たら」
    尊:「きっと、喜んでくれると思うな」
    祥:「そうだな・・・」
    尊:「祥さん?」
    祥:「・・・ん、色々決りはあると思うけど」
    尊:「それって、会わせたいって?」
    祥:「まぁ。彼には言わずに遠くから姿を見るだけでも。そうさせたいって思ったんだけどさ」
    尊:「僕もそう思うかな。でも、その方が会いたくないと言ったら?」
    祥:「まぁ、その時はその時で。でも、本当に彼なのかは、はっきりしていないから、その事も話して、それでもいいと言ったら」
    尊:「分かりました。その方が姿を見たいと言ったら、協力します」
    祥:「ありがと。連絡してみる。で、もう一つ思い出したことがあって」
    尊:「ん?」
    祥:「おばさんと居た女性の事。でも、本当にその人か確証は無いんだけど、似ていたんでさ」
    尊:「はぁ?」
    ナレ:祥はレジ下の抽斗から何か持ってきて尊に見せた。
    祥:「俺が高校の仲間と湘南に遊びに行って、友人が海の家でバイトしてて、売り上げ協力って事でさ。で、そこに、取り巻きって分かる男性の中に髪の長い女性が居て、遠目に見てても、その彼女があれこれって指図すると周りの男が動いててさ。まぁ、彼女の事知らないけどさ、女王様気取りって感じで、正直いけ好かないって思った女性に似ていたんだけど、おばさんと一緒に居る女性はそんな感じが全くしないから、まぁ、他人の空似なんだろうけど。その時に写したのに写ってたんだ」
    ナレ:仲間の後ろに写る女性。尊は祥の話を聞きながらその姿を見て、間違いなく幸子だと思った。幸子と孝にはクリスマス会以降会う事は無かった。
    祥:「もしこの彼女が眼の前に現れても、ごめんだなって思ったんだよね」
    尊:「そうなんだ」
    ナレ:それ以上の事は言えなかった。尊は夕飯の時に祥が昔の幸子を見かけたと伝えた。
    美:「祥君が。話には聞いているけど、私たちは今の幸子さんしか知らないから」
    覚:「そうだな。今の幸子さんに会ったら、どうなるんだろうな」
    美:「まぁ、偶然でもない限り会う事は無いんじゃない。ご両親から手紙を貰ったきり会う事も無いし。でも、それでいいとお父さんも思っているしね」
    覚:「そうだな。二人とも元気で暮らしているって話だし」
    ナレ:幸子の両親から世話になったと娘から聞いたと礼状が届いた。孝は小学校に元気に通い、幸子は前々から勤めていた工場の正社員となり頑張っていると書かれてあった。お礼の品としてワインが送られてきた。

    ナレ:尊に話した翌々日、祥は母の佳津子の同級生の通夜に伴い出掛けた。その同級生は牧合板金の経営者。祥が子供の頃に毎年お年玉を貰った事もあり、店にも度々来ていた。その縁もあり二人で焼香に。受付に行き、香典袋を置き、お悔やみの言葉を述べ顔を上げると目に前に幸子が居た。
    祥:「あっ」
    佳:「祥?」
    祥:「何でもない、行こう」
    ナレ:幸子に頭を下げ中へ。幸子の隣で受付をしていた従業員の根元洋子が、
    洋:「幸子さん、あの人お知り合い?」
    幸:「いいえ、知らない人です。誰かに似ていたのでしょう」
    洋:「そうね。で、明日の告別式、子供の用で来れ無いんだけど」
    幸:「大丈夫です。私の時も色々都合してもらっているのですから。遠慮しないで下さい」
    洋:「ありがとう。でも、さっきの人、素敵じゃない。亭主が居なかったら」
    ナレ:軽く笑ってしまい、不謹慎だったわねと神妙な顔に戻した。祥たちは焼香が終わり、お清めの席に案内された。祥は運転だからとウーロン茶。佳津子は知り合いと清めに酒を飲んでいた。手伝いをしている幸子を横目にウーロン茶を飲んでいた。そして、帰る事にして葬儀社の関係者から香典返しを受け取り、家に戻った。

    ナレ:葬儀から三日経った。店舗横の母屋から呼鈴が何度か聞こえて来た。
    祥:「どうした?」
    ナレ:祥は表に出ると、葬儀の時に受付に居た幸子が立っていた。
    祥:「あなたは?」
    幸:「こんにちは。あの、お母様はお留守でしょうか?」
    祥:「出掛ける時は顔を出すけど、今日は無いから、昼寝でもしてるのかも。待っていて下さい」
    ナレ:祥は店側から母屋に戻り鍵を開けた。
    祥:「お待たせしました。どうぞ」
    ナレ:客間に通し、勝子を探しに奥へ。するとトイレから出て来た。
    佳:「は~便秘解消」
    ナレ:そう言いながら腹を擦って、
    佳:「呼鈴鳴ってても、出るに出られなかったけど、お客さん?」
    祥:「牧合社長の葬儀の時に受付に居た女性が」
    佳:「牧合さんの所の?」
    ナレ:客間に行くと、部屋の隅で立っていた幸子が、
    幸:「お邪魔しております。わたくし、小路幸子と申します。奥様から神山さんへお渡しする物がございまして、本来であれば自身が伺わなくてはいけないのですが、色々と片付けもあるとの事でわたくしが」
    佳:「大丈夫よ。大変だものね。ご苦労様、お座りになって」
    ナレ:幸子が風呂敷包みから霧箱を2つ出し、座卓の上に置いた。
    幸:「社長の形見分けです。神山さんに受け取って頂きたいと仰せつかりました」
    佳:「私にまで。有難うございます」
    ナレ:それは九谷焼と有田焼の抹茶碗だった。学生時代に佳津子は茶道部に在籍していた。そこへ、担任に無理矢理連れて来られた牧合宗也。のちの牧合板金の社長。学校もサボりがち、たまに来ても喧嘩。見かねた担任が少しは心が落ち着くだろうと茶道部に連れて来た。宗也自身も自分でも何をやっているんだと思ってはいたが、気持ちを何処にぶつけたら良いのか分からない状態であった。そして、茶道部の顧問が宗也の前に点てた抹茶を差し出し、作法は気にしないで好きなように飲みなさいと言った。宗也は片手でグイッと飲んだ。周りの女子生徒は苦いと文句を言うのだろうと身構えていたが、その予想を反し『美味い』と言った。それからは何故か授業をサボる事はあっても茶道部に顔を出した。佳津子以外は初めの頃はビビッて話しかけられなかったが、佳津子はどんな生徒だと知っていたが、怖いもの知らずの性格なので初めから話しかけていた。サバサバした性格の佳津子に打ち解けていき、何でも話す仲になっていたが、恋愛にはならなかった。お互いに所帯を持った時に恋愛に発展しなかったことが不思議だったと。その事について宗也の妻が前世は兄弟だったのではと言った事に二人は納得していた。そして茶道にはまった宗也は名のある作家の抹茶碗を何点も集めていた。
    幸:「この2点は、社長が特に大切にしていた物なので神山さんに受け取って欲しいと」
    佳:「私の様な物にまで、では有難くお受けいたします」
    幸:「では、私はこれで」
    佳:「ごめんなさいね、お構いもしませずに」
    幸:「いえ、では失礼します」
    ナレ:玄関まで戻った時に祥が、
    祥:「あの、失礼な事うかがいますが」
    幸:「はい?」
    祥:「9年くらい前でsyが、湘南でお見かけしたような・・・」
    ナレ:幸子は昔の姿を知っている人が目の前に居て驚いた。
    祥:「あのぉ、まぁ、人違いですね」
    幸:「いいえ、それは私ですね・・・では、失礼します。お邪魔しました」
    ナレ:挨拶して出て行った。祥は聞いてはいけない事だったのではと反省したと、同時に祥は胸にモヤッと感。それが何なのかは分からなかった。
    佳:「どうしたの?」
    祥:「何でもいな」
    ナレ:祥は店舗に戻った。しばらくして店の電話から掛けた。
    祥:「きょうつぎさんのお宅でしょうか?」
    京:《はい、京都木です》
    祥:「神山です」
    京:《祥さんね。ご無沙汰しています。あの、主人に何か?》
    祥:「あのぉ、お二人にでして」
    京:《私も?》
    祥:「はい。確証も無い事なので申し訳ないのですが」
    京:《はい?》
    祥:「私の知り合いの友人が心臓移植をした青年でして」
    京:《えっ》
    祥:「時期が同じ頃と言うだけなのですが、彼はとても元気に過ごしていて、会うことは出来ませんがその姿を」
    ナレ:どう言っていいのか言葉に詰まると、
    京:《もし、その方だとして、主人に聞いてみないと分かりませんが、私は姿を見たいと思います》
    祥:「そうですか。でも確証は」
    京:《大丈夫です。もし違う方であっても、同じように娘も何処かで元気にしている事が分かる気がしますので。主人に話してみます》
    祥:「分かりました。では」
    ナレ:電話を切った後、祥は良かったのだろうかと、話してしまった後も後悔していた。翌日の夜、京都木の夫から連絡が来た。
    京:《妻に聞きました。正直複雑な思いも有りますが、妻が言ったように、その方でなくても、元気にしているのだろうとその方を通して知れるのではないかと考えました。お手数ですがお願いできますか?》
    祥:「はい。決まりましたらご連絡差し上げます」
    ナレ:挨拶をして電話を切った。ダイニングに戻って来た祥に、
    佳:「どなただったの?」
    ナレ:祥は事情を説明した。父のとしをは、
    と:「そんなことして、本当に良かったのか?」
    祥:「まぁ」
    ナレ:言葉が見つからずうな垂れる祥の背中を擦り、
    佳:「最近考え事をしているようだったけど、その事だったのね。私もお父さんと同じように思うわ。まぁ、もう話してしまったのだから、お節介と言っていいのか分からないけど」
    祥:「ん」
    ナレ:二人の話す言葉を聞きながら反省と、モヤッと感が頭の中で渦巻いていた。

    過去&永禄&現在④につづく

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    すみません

    夕月かかりてさん
    カマアイナさん
    皆様
    ありがとうございます。
    この先は脇道にそれたストーリーになってしまいますが、お読みいただければと思います。
    再度書きますが、今後の内容では、そりゃあ無理あるだろうって事が出てきますが、お許しください。
    では、引き続き書かせていただきます(^-^)

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    返信
    ぷくぷくさんへ

    暫く寂しくなるだろうなと思っていたら、間髪を入れずにぷくぷくさんの新作、大変嬉しく読ませていただきました。尊もいよいよ大学生ですね。受験も済んだ今、発明にも思い切り時間が割けるようになるのではと期待しています。今後は裕君とのコラボも出てくるのでしょうか。

    ぷくぷくさんさんの創作は、いつもほのぼの感満載で、読んでいるだけで頬がほころんできます。まだ続きがあるそうで、楽しみです。
    本当にありがとうございます。

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    返信
    ご声援ありがとうございます

    梅とパイン様。新作は絶賛挫折中ですか。誰と誰だったか気になります~。上手くお話が導き出せれば良いですね。ニューヒーロー&ヒロイン、いつか誕生するといいなぁ。

    カマアイナ様。これはイマイチって回もあったでしょうに、いつも手放しで喜んでくださり、こんなに持ち上げていただいて良いのかしらと私こそ感謝しております。

    ぷくぷく様。新作お待ちしておりました。雑談掲示板でのお知らせから音沙汰なく、どうされたかと心配していましたが、私の長い話が終わるのを待たれていらしたのですか?だとすると申し訳ないです。まだ振り返りとかやりますので、私が割り込む形になりますが、ご容赦くださいませ。

    で、通し番号・投稿番号・サブタイトルを載せた現代Daysの振り返り、また何回かに分けて行いますので、総評もその中に盛り込みます。それでもやたらと幅をとってしまい恐縮ですが。だってサブタイトル並べるだけで170行も…何とかコンパクトにまとめます。

    その後、今後の予定をお伝えします。

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    今までの四人の現代Days、番号とあらすじ、118から(終)まで

    no.1014の続きです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    118no.1015、1/10、一緒に登校しよう。唯はなぜ逃げる

    119no.1016、1/10、出会ったのは美沙

    120no.1017、1/10、別れる前に和解せよ

    121no.1018、1/10、無礼の訳を話せ

    122no.1019、1/10、諭される唯

    123no.1020、1/10、電話をかけよう。尊と瑠奈は何歩進んだか

    124no.1021、1/10、電話にもて遊ばれる若君

    125no.1022、1/10、買い物は令和風でいこう

    126no.1023、1/10、尊は何を憂う

    127no.1024、1/10、トヨの手腕で眠らない覚

    128no.1025、1/11、最後の朝も早起きできない唯

    129no.1026、1/11、尊の懸念が見えてこない

    130no.1027、1/11、未来は遠くないと諭される尊

    131no.1028、1/11、何気に尊に圧をかける若君

    132no.1029、1/11、エリと芳江からプレゼント

    133no.1030、1/11、尊の授業。エリと芳江に別れの挨拶

    134no.1031、1/11、ボーリング場へGO

    135no.1032、1/11、ゲームを戦の代わりにしたい

    136no.1039、1/11、はさみ揚げの活躍に期待

    137no.1040、1/11、戻る時間を理解していなかった源トヨ

    138no.1041、1/11、家族で遊ぶ時間を捻出

    139no.1042、1/11、駄菓子争奪大トランプ大会

    140no.1043、1/11、源三郎の意外な秘密

    141no.1044、1/11、レジ袋は人気ブランド

    142no.1045、1/11、土産の山と共に帰った

    143no.1046、1/11、かつての名言に熱い返歌

    144no.1047、1/12、じいを撹乱する若君

    145no.1048、1/12、じいに問う。頑張れ小平太

    146no.1049、1/13、源三郎とトヨの祝言始まる

    147no.1050、1/13、祝言無事終了

    148no.1052、1/14、悩めるトヨを諭す唯

    149no.1053、1/14、日記の謎解きや如何に

    150(終)no.1054、1/15、美香子の夢に現れたのは

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    (訂)過去&永禄&現在②

    =過去 2020年4月初め=

    ナレ:4月2日の入学式から2日経った大学の構内。部やサークル勧誘の中、運動以外の部やサークルかまだ決まっていない尊は差し出されたチラシを受け取るだけ。校門を出る前に声を掛けられた。尊と同じ工学部の学生。たまたま尊の席の近くに居た男子の稲賀裕という名だった。
    尊:「確か、いねが君だったよね」
    裕:「俺の名前覚えてくれてたんだ、嬉しいねぇ」
    尊:「だって、隣に来てわざわざ説明してくれたでしょ」
    ナレ:『自分は、いながと読まれること多いけど、これでいねがって読むんだ』と。
    裕:「なぁ、え~」
    ナレ:裕は尊の名前は憶えていなかった。
    尊:「速川尊です。じゃ」
    裕:「そうそう、そうだったね。因みに、はやは日に十の方?」
    尊:「速度の速に川で速川」
    裕:「そっちね。あはは」
    ナレ:調子のいい男だなと尊は思った。離れようとすると腕を掴まれた。
    裕:「速川君、俺とサークル作らない?」
    尊:「はぁ?」
    裕:「何処か決まってるなら諦めるけど」
    尊:「運動以外で考えてはいるけど、まだ決まってないよ」
    裕:「じゃ、俺と一緒に良いでしょ。此処のサッカー部は強豪らしいけど、そこは俺は無理だから」
    尊:「無理?で、サッカー?」
    裕:「フットサルの方」
    尊:「フットサルってサッカー経験者がするイメージだけど、君、中高とかサッカー部だったの?」
    裕:「いいや、俗に言う帰宅部」
    尊:「へっ?」
    ナレ:どう言った事でそうなるのか尊には理解出来なかった。
    裕:「サッカー見るのは好きなんだよ。でも、目茶苦茶練習ってのは嫌いでさ。でも、何もしないってのもね。で、見て知ってるフットサル。人数も5人だし、声掛ければ集まる人数だと思ってさ。野球だと場所とか道具が要るじゃん。でも、ボール一つで出来るし」
    ナレ:捲し立てるように言った。尊は真剣にサッカーやフットサルに向き合っている人達に失礼だと思い、その気持ちが自然と表情に現れたようで、
    裕:「もしかして、怒ってる?」
    尊:「怒ってはいないけど、呆れてる」
    裕:「・・・」
    ナレ:初対面の相手も怒ったかなと思っていると、裕は大笑い。
    尊:「稲賀君?」
    裕:「はっきり言ってくれて、君が気に入った、親友第一号だ」
    ナレ:豪快に笑っていた。裕が半ば強引に最近では珍しい喫茶店に行く話になった。尊は自転車、裕は原付バイク。それぞれ押しながら歩いて行った。尊自身、自分の行動は不思議だった。挨拶しただけの相手とこうして今いる事に。店内でサークルを作るにあたってのルールなどを検索して、
    尊:「顧問や活動方針を決める事から始めないと」
    裕:「もっと簡単に出来るのかと思ってた、色々大変なんだな」
    尊:「じゃ、やめる?」
    裕:「ん・・・俺さ」
    尊:「何?」
    ナレ:あんなにしゃべっていた裕が黙って天井を見上げた。
    尊:「どうしたのさ?」
    裕:「速川君、君は親友第一号なんだ。まぁ、友達は居るけど、ズバッと言ってくれる友達は居なかったんだ」
    尊:「ん?」
    裕:「俺って健康そのものって感じに見えるだろ」
    尊:「どちらかと言えばそう言うタイプ。ガキ大将って感じ」
    裕:「嬉しいなぁ・・・でも、成長した頃に心臓に欠陥が判明して入退院を繰り返していたんだ」
    尊:「えっ?」
    裕:「小学校の頃は何度か学校に行く事は出来たけど、先生もみんなも知ってるから、はれ物に触るみたいに、運動も、友達と喧嘩もした事なくてさ」
    尊:「そうだったんだ。でも、今は」
    裕:「15歳になる前に移植して、この通り。でも、正直怖かったんだ。まだ、どうなるか分からない頃に、院内で理容学校の生徒が実習を兼て、俺達の髪を切る事があって、みんな優しい人達だったけど、俺の髪を切ってくれた男の人も優しくてさ、怖い気持ちを話したんだ。守秘義務ってでも自分で話すから良いかなって。そしたら、その人が、その人の心臓を貰うんじゃなくて、その人の命と共に君は生きていくって事じゃないかなってさ。俺そんな風に考えた事なかったから。一緒に生きていくんだって」
    尊:「そうだったんだ。その胸の人、君がこんなにいい加減な人だとは思わないんじゃないかな」
    裕:「何だよぉ。ははっ、で、俺、本当は君より一つ上」
    尊:「そうだった・・・ですか」
    裕:「やめてくれよ。本当は医学部に入って、俺みたいな子を治せる医者になりたいって考えて医学部受けたけど無理だった。でも、学生生活を満喫したいからさ、まぁ、医学部は諦めて、人の役に立てるマシーンを作ろうと考えて、浪人してこの大学受けた。で、君に会えた」
    ナレ:尊は最初の印象と変わった。
    裕:「高校でも心配性の両親に言われて運動部には入らなかった。大丈夫だと言ってたんだけど。随分心配かけたから言う事聞いて。で、大学に入ったら、運動しても良いって許しが出てさ。でも、無理はしないでって言われてさ。自分たちで作ったサークルなら無理しなくても出来るかなって思ってさ」
    尊:「そうなんだ」
    裕:「速川君はなんでこの大学?」
    尊:「家から自転車で通えるって言うのが一番の理由だけど。僕は・・・何年掛かってもいいからタイムマシーンを作りたい」
    ナレ:尊は何故か会ったばかりの裕に思いを素直に言えた。そんな夢物語と笑われるかと思ったが裕は、
    裕:「凄い事考えてんだなぁ」
    ナレ:尊は驚いた。
    尊:「あのぉ、笑わないの?」
    裕:「笑うわけないじゃんか夢は大きくって事。で、どの時代に行きたいんだ。過去、未来?」
    尊:「室町時代かな」
    裕:「その頃って戦国時代じゃなかったっけ」
    尊:「そうだよ」
    裕:「俺はヤダねぇ、怖いじゃん。何でそんな時代に?」
    尊:「会いたい人達が居るんだ・・・会えないんだけどね」
    裕:「ふ~ん、歴史好きなんだ」
    尊:「まぁ・・・もしタイムマシーンが有ったら、稲賀君は何処に行きたい?」
    裕:「そうだなぁ・・・小さい頃かな」
    尊:「どうして?」
    裕:「父さんと母さんに会って・・・心配しなくても、俺はこんなに元気になるから安心しなって言ってあげたい・・・かな」
    ナレ:尊は両親への想いを知り目頭が熱くなった。
    裕:「何だよぉ、この話はもう終わり」
    尊:「ん。で、その理容の人とは会ったの?」
    裕:「それ以来は会ってないな」
    尊:「君の今の姿をみたら喜ぶんじゃないかな」
    裕:「そうだな・・・えっ?」
    尊:「どうしたの?」
    裕:「まさか・・・でも、でも、そうだよ」
    ナレ:裕は窓の外を見ながら、
    裕:「奇跡が起きた」
    尊:「えっ?」
    ナレ:外で軽く手を振る男性。
    尊:「祥さん」
    ナレ:祥は店員にコーヒーを頼み尊の隣に座った。
    祥:「大学の友達?」
    尊:「そうだよ」
    ナレ:驚いている様子の裕に理容を思い出し、
    尊:「もしかして、さっき話してた人?」
    裕:「うんうんうん、絶対そう」
    祥:「二人してどうしたんだ?」
    尊:「彼、同じ学部の稲賀雄さん。祥さんとは昔会った事あるみたいよ」
    祥:「えっ、何処で?」
    裕:「7年前に、藤野﨑病院に来たことありますよね。患者の髪を切りに来てくれた」
    祥:「とうのさき?・・・そう言えば行った事あるけど」
    ナレ:裕がその時の話をしていく内に祥も思い出してきた。
    祥:「そうか、あの時の男の子か。そうか、そうか、良かったね」
    ナレ:祥の嬉しそうな表情に尊が涙ぐんだ。
    裕:「何で、君が泣くんだよ」
    尊:「そうだよね。稲賀君、奇跡の再会に号泣」
    裕:「そんな風に言ったら泣けるわけないだろうがよ」
    祥:「まだ、会ったばかりなんだろ。なのに昔からの友達みたいだな」
    裕:「速川君と会うのも運命だったのかも」
    尊:「まぁ、そうだと言っておきますか」
    裕:「何だよ、その言い方ぁ。ははは」
    祥:「元気になって良かったね」
    裕:「はい」
    尊:「で、祥さん、どうして此処に?」
    祥:「うちのコーヒーメーカーが壊れてさ。もう、口がコーヒーになってて飲みに来たの」
    尊:「でも、此処って家から離れているけど?」
    祥:「コーヒー飲みに行くって言ったら、お袋がついで頼んでさ。で、こっちの方に出てきて」
    裕:「じゃ、しょうさんと会うのも運命だったんですね」
    祥:「そうかもな。ははっ・・・そう言えば三吉さん元気?」
    尊:「はい」
    裕:「ねぇ、みつよしさんって?」
    尊:「姉の知り合いの知り合いで、今、僕の家で過ごしてて」
    裕:「知り合いの知り合いねぇ」
    祥:「君も会えば好きになるよ。一緒に居て和むような人なんだ」
    裕:「男性ですよね」
    祥:「そうだよ。そう思える人に出会えるのって素敵な事だと思うよ」
    裕:「そうですね。しょうさんや速川君に会えた事も同じかなって」
    ナレ:尊と祥は嬉しそうに笑った。
    祥:「尊、そう言えば、2月初めの日曜日におばさんと他に二人連れを駅前で見かけたんだけど」
    ナレ:尊は如古坊の事で美香子と聡子と幸子が会っていた日の事だと分かった。
    尊:「女友達とでランチ」
    祥:「そう。若い感じの女性を何処かで見た事がある様な気がしてたんだけど」
    ナレ:幸子の事だと思ったが何も言わずにいた。
    祥:「まぁ、似た人かも知れないし。覚えている人と感じは違うし、人違いかな」
    ナレ:コーヒーを飲み干し、
    祥:「じゃ、行くよ」
    ナレ:尊たちの分のオーダー表も持って席を立った。
    尊:「祥さん」
    祥:「奇跡の再会におごらせて。じゃ、ごゆっくり」
    ナレ:二人は礼を言った。祥はさわやかに挨拶して店を出た。
    裕:「悪かったよね」
    尊:「まぁ」
    ナレ:野菜サンドの皿を見て、
    裕:「じゃ、もっと食べておけば良かったかな。ははは」
    尊:「もぉ」
    ナレ:呆れるように言ったが、裕とは友達になれると思った。それから、本当にフットサルのサークルを立ち上げようかと大学を調べたら、既にそのサークルは現存していたことを知り、とりあえず善は急げと店を出て見学に行った。先輩も優しい人達で、裕も身体の事を話した。上級生は遊び半分、試合もあるが日本一を目指すほどでもなく、運動不足にならない為にとサークルを立ち上げたOBの言葉を聞かせ、二人を快く歓迎してくれた。

    ナレ:裕と別れ、帰る途中、書店に立ち寄りフットサル関係の本を買った。尊は夕食を摂りながら裕の話をした。
    如:「現代の医学は素晴らしいですね」
    美:「今でも進化を続けていますからね」
    如:「現代の医療が戦国の世に存在したならばと思います」
    覚:「そうですね」
    尊:「僕が凄い発明をして、病院ごと戦国時代に飛ばせたらなんて思うよ」
    覚:「凄い事考えるなぁ」
    美:「その時は私も医師として行ってみたいわね」
    如:「お母さんが来てくれたら、私も唯も心強いだろうな」
    覚:「唯は嫌がるんじゃないかな」
    尊:「どうして?」
    覚:「吉乃様とお母さん、二人も口うるさい母親が居るのはってさ」
    美:「そうかも、ふふっ」
    如:「私はお母さんと唯が話す姿を見ていませんので何とも言えませんが。でも、嬉しいと思いますよ」
    美:「そうだったわね」
    覚:「テレビで見た事あるでしょう。まるで漫才ですよ」
    如:「それならば尚更見てみたいですね。ははっ」
    尊:「ほんと。あはは」
    ナレ:いつの間にか裕の話題から変わっていた。だが、祥が幸子を見かけた事は言えなかった。

    過去&永禄&現在③に続く

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    過去&元禄&現在①

    創作倶楽部2⃣ №983 2022.10.28 如古坊の楽しくも○○○思い出=15のラストに続く

    =過去 2020年 4月28日=

    ナレ:如古坊が無事に戻れたと信じて家に戻った。写真をテーブルに置き、
    覚:「やっぱり、未来の尊だったんじゃないか?」
    美:「じゃ、何故、如古坊さんを連れて来たの?」
    覚:「そうだな・・・メッセージは?」
    尊:「裏に晴忠7歳、かくたかって読むのかな?覚高1歳しか書いてないし」
    美:「二人の子供よね、一緒に写っているのだから」
    覚:「そうだな。でも、下の子の名前って僕の字が使われているのかな?」
    美:「そうかも。良かったわね」
    尊:「木村先生に頂いた巻物に書いてあったな。それと関係あるのかな?」
    覚:「そうかも知れないな」
    美:「ピースサインなんてして、あの子、母親になっても変わらないわね」
    覚:「そうだな。だが、唯が母親になぁ」
    美:「しっかり母親してるのかしらね」
    覚:「そうだな」
    尊:「大丈夫だよ。だって若君も吉乃様もみんなも居る事だしね」
    美:「そうね・・・」
    尊:「どうしたの?」
    覚:「ん・・・僕たちにとっては孫なんだなぁってお母さんも思ったんだろう」
    美:「えぇ」
    ナレ:覚と美香子の寂しそうな表情に、
    尊:「あと何年もしたら、抱かせてあげられるよ」
    覚:「そうだな」
    美:「楽しみね。でも、やっぱり、未来の尊じゃないの?尊が此処に行って写してきた」
    尊:「僕だったとして、戻れるタイミングは幾らでもあったと思うんだけど、どうして1年だったのかもさ分らないな。でも、未来の僕だったとして、どうしてメッセージも無く写真だけを。それに如古坊さんの事も」
    覚:「ん~そうだよな。僕たちの前に現れないとしても、何らかのメッセージは残すだろうし」
    ナレ:三人は考えたが答えは出なかった。そこに電話が。
    木:《今晩は、木村です。どうでした?》
    覚:「はい。戻れたようです」
    木:《それは良かった。ですが、なんだか寂しいですね》
    覚:「はい。時が経つのは早いと言いますが、やはり1年は長かった。色んな思い出が」
    木:《そうでしょう》
    覚:『でも、それもすぐに慣れるでしょう」
    木:《はぁ》
    覚:「これからも、来てください。一緒に思い出話をしましょう」
    木:《そうですね。では、また》
    ナレ:覚は電話を切った後、夕飯の支度をした。皿にレンコンのはさみ揚げの山。
    美:「皆さん、喜んでくれたわよね」
    覚:「そうだな。そうだったら嬉しいけどな」
    尊:「若君達も好きだって言ってくれてたけど、小平太さんが一番食べていたよ」
    覚:「そうだったな・・・ん」
    美:「どうしたの?」
    覚:「こうなるんだったら、唯に料理を教えておけば良かったなぁって思ってね」
    尊:「こう言っちゃなんだけど、それは無理な話だと思うよ。お姉ちゃんだってこうなるなんて思ってもみなかっただろうけど。でも、現代の調理器具が無いからね」
    覚:「そうだな」
    尊:「それに将来の為だから教えるって言われても、なんだかんだで逃げてただろうし」
    美:「そうでしょうね。なにせ、私の娘だから、ははっ」
    ナレ:覚は苦笑い。

    =過去 2020年 6月=

    ナレ:速川家はいつもの生活に戻ったが、最初の頃、尊は目覚めると横を見て、もう居ないんだとつぶやく事があった。朝食を摂りながら、尊はフットサル入門の本を見ていた。
    覚:「でもなぁ、お前がフットサル部に入るとはなぁ」
    尊:「部じゃなくてサークルだよ」
    覚:「はいはい。でも食べながらじゃ、消化に悪いんじゃないか?」
    尊:「うん」
    ナレ:本を閉じて食べるのに専念。尊は大学に入り、長く付き合う事となる男子と出会った。

    過去&元禄&現在②へ続く

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    返信
    夕月かかりてさんへ

    お疲れ様でした。
    速川家の皆さん、特に源三郎さんとトヨさんの幸せについては、私の妄想の中には無かったのでとても新鮮でした。ありがとうございました。
    妄想作家のサガでしょうね、きっとこの度の作品を書いている際も、次の創作内容が浮かんで案を練っておられる事でしょう。
    そんな中で申し訳ございませんが失礼して、しばらく私も此処の登場させていただきます。しばらくの間、夕月かかりてさん、創作作家の皆様もお茶して、ゆっくりして頂ければと思います(^-^)
    では、よろしくお願い申し上げます。

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    返信
    夕月かかりてさんへ

    驚きの速川家訪問からの新展開、大変楽しく読ませていただきました。
    アシガールを見た時は、トヨにはほとんど関心もなく、どんな顔かもよく思い出せなかったのですが、速川家の心温まる愛情にひたり、たった1ヶ月で、結婚も両親もいっぺんに手にすることができましたね。夕月かかりてさんのおかげで、源三郎もトヨもグッと身近に感じられるようになりました。

    本当に長期にわたる大作ご苦労様でした。おかげ様でアシガールの余韻をここまで引き伸ばして楽しむ事ができました。ありがとうございます。

    これから寂しくなることはいななめませんが、今後も尊の発明のおかげで、現代との行き来は、どこかで維持されるだろうと、勝手に期待しています。

    少なくとももうすぐ始まる大河ドラマ、「ひかる君へ」は内田ゆきさん統括で、冬野ゆみさんの音楽とのこと、ガラリと物語は違うとはいえ、どこかでアシガールのエッセンスを彷彿とさせるのではと、今から期待しています。
    できることならアシ紫カフェならぬ、雑談コーナーでもあったらアシガールロスも和らぐのではなんて、勝手に思ってしまいます。

    美香子さんの夢では、若君と唯は子供達に囲まれ幸せなエンディングの様子。
    もしアシガールに続きがあるなら、150年後ではなく、若君と唯が、その後をどう生きたのか知りたいですね。それほど主人公2人と、速川家を筆頭に彼らを取り巻く人物、ストーリーが魅力に溢れていたということですね。

    御多分に洩れず、私も昨日、一昨日とWBCのドラマに酔いしれて、感想が遅くなりましたが、夕月かかりてさんへの心からの感謝の気持ちには変わりありません。
    ありがとうございました。

    投稿フォームへ

    返信
    夕月かかりて さん

    反応が遅くて 申し訳ありません(>_<)。
    まずは お疲れさまでした m(__)m。
    なかなかの大作を 長く(無料で♪)楽しませて頂き、本当にありがとうございました (^o^)。すごく面白かったです♪← 感想文 苦手で すみません (^^;)

    そしてそして、お詫びとお礼だなんて 滅相もございません (*_*)。
    組み合わせとしては 私が考えた「源三郎&トヨ」ですが、こんなに素敵なカップルに育ててもらって すごく嬉しく思っております 本当に (^^)v。
    私に関して言えば 書きにくくなったのではなくて、ちょっと ふざけ過ぎたゆえに 単に行き詰まっただけの自業自得ですからね(笑)。お気になさらないで下さいませ😌。
    実は「源・トヨ」を お任せしている間に、もう1組の男女の物語を 考えていたんですけど 全然上手く まとまらなくて… (>_<)。そのうち ご披露しようと思っていましたが、絶賛挫折中でございます (-_-;)。

    夕月かかりて さんは、新作の構想はありますか? 楽しみに待ってますので、どうぞよろしくお願い致します (^^)。

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    返信
    梅とパイン様へ

    総評などはまた後日として、まずは梅パ様にお詫びとお礼を申し上げます。

    大人気の、関西弁炸裂の源ちゃんトヨちゃんシリーズ。私が現代Daysに二人を登場させたばっかりに、書きにくくなってしまったのではないですか?一応お許しを得て始めたとはいえ、申し訳なく思っておりました。

    源トヨの二人に与えられた設定にのっかる形で進み、私の話の中では夫婦になりました。でもそれはそれ、パラレルワールドの内の一つと捉えていただき、どうかまた、楽しいあのシリーズをお願いいたします。

    自由にさせてくださいまして、本当にありがとうございました。

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