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    続現代Days尊の進む道24~8月4日17時

    四の五の言わず!
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    プールを大満喫し、ミッキーさんを家まで送ってきた。

    僕「はい。お疲れ様でした」

    みつき「センセありがとー!楽しかった!」

    瑠奈「みつき、今日はありがとね」

    み「どういたしまして。じゃあ瑠奈」

    瑠「うん?」

    み「グッドラック!」

    瑠「うん!」

    僕「?」

    み「またねー」

    僕「ではまた。さよなら」

    瑠「バイバーイ」

    僕「さてと。じゃあ次は瑠奈の家に」

    再び出発しようとしていると、

    瑠「ねぇたけるん」

    僕「ん?」

    瑠「家まで、ちょっとの間だけど運転代わってあげる」

    僕「そんな。大丈夫だよ。疲れてないから」

    瑠「この車運転してみたいの。ね、お願い」

    僕「へぇ、そう。わかりました」

    お望み通り、運転席と助手席を交代した。

    僕「ではお願いします」

    瑠「うん…」

    車が走り出した。

    僕「あの」

    瑠「はい」

    僕「方角って…」

    瑠「いいの。わざと遠回りしてるの」

    僕「はは、練習?」

    景色が、随分と華やかになってきた。ラブホテルが林立している。この道通らなきゃダメなのかな…。

    僕「へ?」

    ウインカーを出した瑠奈。その中の一箇所に…入ろうとしていた!

    僕「え、嘘!ちょっ、ちょっと待って!!」

    入る直前で、路肩に寄せて車が止まった。ハザードランプが点滅している。

    僕「ふう。落ち着け、落ち着くんだ…」

    瑠「…」

    僕「あ。あーなんだそうか、僕をからかってみたんだ。ね?」

    瑠「からかってません」

    僕「えぇぇ」

    瑠「大好きな尊と、もっと一緒に居たい。もっと近くで尊を感じたいと思ったから」

    僕「あ、ありがとう。嬉しいよ。でもそれにしたって…」

    瑠「嫌なの?」

    僕「一緒には居たいよ」

    瑠「一つ教えてください」

    僕「え?は、はい」

    瑠「私を欲しいって思ってくれた事、ある?」

    僕「それは…」

    瑠「…」

    僕「…はい。僕も一応男性の機能はあるから」

    瑠「一応って。そっか、良かったぁ。私に興味ないのかと思ってた」

    僕「興味はすごくあるよ」

    瑠「ホント?」

    僕「でも僕、何もわからないし…その…きっと幻滅させると思うんだ」

    瑠「そんなの、してみなきゃわからない」

    僕「してみないと。して、みないと?!」

    瑠「たけるん。懺悔します」

    僕「懺悔?」

    瑠「私、尊が初めてじゃない」

    僕「でしょうね」

    瑠「あのね。今まで彼氏はそれなりに居たけど、尊が誰より一番なの。今も尊敬してるし大好きだよ」

    僕「いつも褒めてくれてありがとう。光栄です」

    瑠「だから、初めても尊とが良かったなって思ったりするんだよね」

    僕「…」

    瑠「尊?」

    僕「あの、さ」

    瑠「はい?」

    僕「答えたくなかったら答えなくていいんだけど」

    瑠「何かな」

    僕「その、初めての時とかって、辛かったり、思い出したくないとかなの?」

    瑠「え。そんな事はないよ。当時一番好きな人とだったし嫌な思いはしてない」

    僕「そう。良かった」

    瑠「心配してくれたの?」

    僕「うん」

    瑠「嬉しい。ありがとう」

    僕「それもあるんだけど、嫌じゃなかったんなら、思い出を上書き保存なんてしなくてもいいんじゃないかな。きっと、元彼さんもいい思い出になってるだろうし」

    瑠「…尊って」

    僕「ん?」

    瑠「人間として完成してる。素敵」

    僕「そんなんじゃないよ。僕は瑠奈が初めての彼女で経験値が全くないから、口ばっかり達者でさ。ごめんなさい」

    瑠「やだ。謝んないで」

    僕「ならお礼を」

    瑠「お礼?」

    僕「こんな未熟な僕を選んでくれて、ありがとう。感謝してるよ」

    瑠「尊…」

    僕「本当に」

    瑠「感謝、感謝なんて…感動!」

    車を動かし始める瑠奈。

    僕「えっ!マジ?!もう?!」

    瑠「だって早く尊とイチャイチャしたい」

    僕「まだ、心の準備が」

    瑠「体の準備はできてるもんね」

    僕「ギク」

    瑠「ジーンズだったら目立たなかっただろうけど」

    僕「あぁっ、いや、その…」

    瑠「出発しまーす!」

    僕「うわー!」

    車は、ホテルの中に吸い込まれていった。やはり満月の日には、何かが起こる。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は。もうすぐお盆、の頃です。

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    続現代Days尊の進む道23~8月4日13時

    その滑りは見ものだ。
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    ここのプール、遊具とかの数は多いけれど、去年来た時はあれもこれもとは遊んでいない。海へ行く前の慣らし運転みたいなものだったし、お姉ちゃんなりに兄さんをあまり連れ回しちゃいけないって気遣ったんだろうな。そのお陰で僕は体力的に楽だった。でも今日は、様相がまるで違う訳で。

    みつき「ねぇねぇ、流れるプールそろそろ出ない~?くっついてるトコ悪いけど」

    瑠奈「えー。ウソウソ、出よっか」

    僕「うん」

    プールから上がった。

    瑠「次、どれにする?」

    み「んー。片っ端から行く」

    僕「片っ端!パワフルだなぁ。僕待ってるよ、二人で色々回ってきたら?」

    み「何その発言。遠慮してんの?」

    瑠「尊も一緒に行こうよぉ」

    僕「だってほら、浮き輪2つもあるし」

    み「は?センセ自分で言ってたじゃない。ここの充填機、一瞬で空気入るんでしょ?だったら一度抜いて畳んで、また使う時エアー注入でいいでしょうが」

    僕「ゲゲ」

    み「言うんじゃなかったって顔しない!」

    瑠「尊~、行けば絶対楽しいって」

    嫌ではないんだ。ペースの速さについていけるか心配なのと、あと一つ。

    僕「うん…でも、あの超高い直滑降のだけは勘弁して欲しい」

    み「あーあれね、はいはい。いいよ、了解」

    瑠「私もそれは苦手だから。あとは大丈夫?」

    僕「はい」

    み「決定!行くよ~」

    行くぞと腹を決めればそりゃ楽しい。そこそこ混んでいるのでどれも待ち時間があり、その間に休憩できてありがたいし。多少の罠は潜んでいるけれど。

    僕「ゲホッ、ゴホッ、あ゛ー」

    瑠「やだ!尊、大丈夫?」

    僕「あーびっくりした。鼻から水入った」

    み「傾斜ゆるいしって余裕かましてると、危ないよ~」

    僕「気を付けます」

    遊び方も学習しないとな。次に、ずらっとレーンが横一列に並んでいる滑り台にやってきた。何人も同時に滑れるんだな。

    瑠「せーのでスタートできるね。三人で競争する?」

    み「賛成~」

    先に滑ってる人を観察。途中平らになる所で止まりがちなんだな。ふむ。滑降スピードを上げるには、空気抵抗をできるだけ少なくする。接地面を少なくして摩擦を少なくする。これは理論より実践だな。よし、試してみよう。

    み「用意、スタート!」

    瑠「キャー!」

    み「ヒュ~!え、センセ速っ!」

    ゴール地点のプールに、猛スピードでダイブした。周りから歓声が起こっている。注目集めちゃった?

    み「ちょっとー、やるな!センセ」

    瑠「すごーい。リュージュの選手みたいだったよ」

    僕「力学的に考えた結果です」

    み「学習の成果を遊びで生かすとはね~」

    瑠「ねぇ、見て!後ろで待ってた子達、みんな尊の真似して下りてくる!」

    僕「へ?」

    み「あはは、ホントだ~」

    子供達が滑り台をわらわらと下りてきた。と思ったら、僕の周りに集まってきたぞ?わわっ、何!

    子供1「お兄ちゃん!お兄ちゃんみたいにしたらぼくもはやくすべれた!」

    子供2「とちゅうで止まんなかった!」

    子供3「すごーい!ありがとうお兄ちゃん!」

    僕「そうなんだ。役に立てて良かったよ」

    子供達は歓声を上げながら、再び順番待ちの列に走っていった。

    瑠「かーわいい」

    み「さすがセンセ、瑠奈だけでなくキッズまで虜にしてさ」

    僕「いやいや」

    昼ごはんの後も、次!はい次!と精力的に行動するお嬢さん方だ。でもついて行くのがそんなに苦じゃない。体力、備わってきている模様。

    み「ちょっと待たせちゃうけどごめん」

    僕「どうぞ。行ってる間に、浮き輪復活させとくよ」

    み「悪いね、よろしく~」

    瑠「行ってらっしゃーい」

    例の、高層ビル並みの高さから直滑降する大きい滑り台にトライすべく、一人喜び勇んで走っていったミッキーさん。

    瑠「尊、ちょっと顔が赤いかも」

    僕「あー。日焼け止めの効果以上に外に居たから仕方ないかな。瑠奈も少し赤くなってるような気がするよ」

    瑠「そっか。焼けちゃったかな。…後で尊に全身じーっくり見てもらお」

    僕「え?ごめん、聞こえなかった」

    瑠「何でもなーい」

    僕「?」

    ラストは、特大プールで波に揺られている。こっち使ってと小さい方の浮き輪を渡されたので、真ん中部分にお尻をスポンと入れ、空を見上げ一人プカプカと浮いていた。

    瑠「尊~」

    み「イェーイ!」

    バシャバシャと、超楽しそうに僕の前を横切っていくのを眺めている。こんな、夏を堪能してる風景の中に自分が居るなんてさ。なーんてぼんやりしていたら…

    僕「痛っ!」

    大きい浮き輪が飛んできた。そして、

    み「捕獲完了。時計回りでよろしく!」

    瑠「了解でーす」

    僕「へ?わー!」

    無防備に浮かぶ僕を、二人がかりでぐるぐると回転させ始めた!ひぇ~!

    み「センセ今、ほぼ意識飛んでたっしょ~」

    瑠「寛ぎ過ぎだってぇ。起きた?」

    僕「起きた起きた!目が回る!酔うって!」

    文句を垂れつつも楽しさが勝る。真夏の午後の気だるさを吹き飛ばすように、思い切りはしゃぐひとときだった。

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    そろそろ帰る、かな?

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    続現代Days尊の進む道22~8月4日11時

    ヘソ出しだったからか。
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    流れるプールのプールサイド。

    みつき「では私がこのシングル用の浮き輪でゆったりと。君達はカップル用でべったりと」

    僕「女性同士で使ってもらってもいいよ?」

    み「何遠慮してるの。はいはい、二人とも輪っかに入る!センセは後ろから瑠奈を支えるように!」

    瑠奈「はーい」

    僕「頑張ります…」

    流れに身を任せる。

    瑠「キャハハ~」

    み「あははは!たーのしーい!」

    僕「おっとっと、ははは~」

    最初は、僕達二人とも進行方向に体を向けていたのだが、

    瑠「あれ、いつの間に。みつきがあんな遠くに行ってる」

    僕「もうすぐ流れが急な箇所に差し掛かるんだよ。ほら」

    瑠「え、怖い!キャー!」

    僕「えっ」

    流れの速さに驚いた瑠奈。振り向いたと思ったら…わー!正面から抱きつかれた!

    瑠「…」

    僕「瑠奈、もう通り過ぎたよ。大丈夫」

    瑠「うん」

    僕「どうしたの?」

    瑠「このままがいい」

    僕「…」

    胸、めっちゃ当たってるし!!

    瑠「たけるん」

    顔を上げた瑠奈。唇が触れそうな程近い。誰も周りに居なければ、嬉しいシチュエーションなんだけど…どうにも恥ずかしい。

    僕「はい」

    瑠「一面の青空だね」

    空を仰ぐ。眩しい。

    僕「そうだね」

    目の前はもっと眩しいよ。

    瑠「夏のバカンス、最高!」

    再び僕の胸元に顔を埋めた。背中に回された両腕が、より一層キュ~っと締まる。ヤベぇ、平常心ではいられない!夏のバカンス、危険極まりないよ!

    み「お取り込み中ごめーん」

    急にミッキーさんが、流れに逆らいながら浮き輪を手に近寄ってきた。

    み「ちょっと上がる、浮き輪よろしく!」

    僕「どうしたの?」

    み「お腹の調子が。お手洗い行かせて」

    瑠「大変!すぐ行って!」

    そのまま三人ともプールから上がり、僕と瑠奈はトイレの前で待っていた。

    み「ごめんねー、お待たせ」

    瑠「大丈夫?」

    み「うん、もう大丈夫」

    僕「良かった」

    み「二人も今行っとく?」

    瑠「そうしようかな」

    僕「どうぞお先に」

    み「いいよセンセも。一人で待つから」

    僕「浮き輪、かさばるんで」

    み「確かに…私一人では持ちにくいかも」

    ミッキーさんと二人になった。

    み「ねぇねぇ、ちょうど瑠奈も居ないし、ぶっちゃけるけど」

    僕「何でしょう」

    み「プールサイドを歩いてた時の、瑠奈とセンセを見る、周りの男衆の視線の動きが一様に同じでさ」

    僕「あー、それ…僕もちょっと気づいてた」

    み「まず瑠奈を見て、抜群のスタイルと可愛いさにデレっとなる。でも瑠奈はセンセにベタ惚れでぴったりくっついてるから、次にセンセの顔見て」

    僕「何でオマエが相手?って顔するよね。ごもっともです」

    み「失敬な!って言ってやりな。で、そいつらは視線を下げて、股間で止まる」

    僕「うっ」

    み「どんなモノを持ってるんだと」

    僕「わー、モノ、ってそんな」

    み「もっとはっきり言った方がいい?」

    僕「いえ!結構です。そうなんだよ、やたらと見られてる。何にも持ってません。瑠奈と釣り合わなくてごめんなさい」

    み「思い出したんだよ。卒業間近の頃にさ」

    僕「はい?」

    み「センター試験直前に二人付き合いだしたじゃない。まさかこの時期!って、瑠奈を狙ってた男子達が後から悔しがっててさ。そいつらが似たような事言ってたんだよね」

    僕「え、どんな?」

    み「まさか速川に持っていかれるとは。絶対、すんげぇテクニックと立派なブツをお持ちに違いない」

    僕「そ、そんな」

    み「失礼だよねー。若造はそんな事しか考えないから」

    僕「は、はは…」

    み「あ、超絶テクとすんごいブツをお持ちではない、って言ってるんじゃないよ?そこは瑠奈の判断」

    僕「いやいやいや!判断も何も…」

    そこへ瑠奈が戻って来た。

    瑠「尊、お待たせ」

    僕「お帰り。では僕も急いで行ってきます」

    み「ごゆっくりー」

    瑠「行ってらっしゃーい」

    み「…瑠奈、さっきはマジごめん!いい雰囲気だったのに私のお腹のせいで」

    瑠「ううん、気にしないで。でね、みつき。私決めたの」

    み「決めた?」

    瑠「今日、尊との距離をゼロにする」

    み「…とうとう仕掛けちゃう?」

    瑠「うん」

    み「そっかー」

    みつきの囁き「さっきはタイムリーな話題だったか」

    瑠「え?」

    み「ううん、なんでもない」

    瑠「今日満月なんだよ。それもあって」

    み「満月、か。瑠奈にとっては特別な日だもんね。あ、帰ってきた。そんなに急がなくてもいいのに」

    僕「お待たせしました」

    瑠「お帰りぃ。じゃあ、流れるプールに戻ろうよ。行こっ、たけるん!」

    僕「うわぁ」

    み「入る前から抱きついてるし。果敢に攻めてんな~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道21~8月4日火曜9時

    速川家も中々の資産家だと思いますが。
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    いよいよ、プールの日。

    美香子「尊と瑠奈ちゃんと、もう一人女の子の三人なの?」

    僕「うん。瑠奈の親友で、元旦に彼氏と合流するまで神社前で一緒に待ってた子と」

    覚「あのお嬢さんか。安全運転でお二人をエスコートするんだぞ」

    僕「頑張るよ」

    美「その子はどんな子なの?」

    僕「潔いって形容詞がぴったり。僕にとってはお目付け役かな。今日は彼氏さんに快諾された上で参加。瑠奈に寄ってくる悪い虫を私が追い払う!って意気込んでる」

    覚「へぇ。姉御肌なんだな。尊にも色々ビシっと言ってくれるのか?」

    僕「うん。スパッと斬られてる」

    美「そうなの~。有難いわねぇ。そんな友人は貴重よ。大切にしなさい」

    僕「はい」

    覚「はさみ揚げは明日でいいんだよな?」

    僕「うん、ごめん。二人が今日都合良かったんで。約束してから満月の日って気付いて」

    覚「晩飯もいらないなら連絡くれ。お嬢さん達に合わせればいいぞ」

    僕「わかった」

    まずは瑠奈のマンションに車を走らせた。到着すると、エントランスから…天使が現れた!

    瑠奈「おはよっ!たけるん」

    僕「おはよう…」

    真っ白でボリュームのあるブラウスに、足元も真っ白なスニーカー。で、脚、脚が短パン、違う?ショートパンツって言うの?太ももから足首まで、全部丸出し…否、あらわで眩しい!

    瑠「脚が気になる?」

    僕「え」

    瑠「出かける前にもね、お母さんに脚出し過ぎじゃない?って言われたの。でも尊が車で送り迎えしてくれるしみつきも一緒って言ったら、ならいいわよって」

    僕「そうなんだ」

    脚だけじゃなく全身が輝いてる感じだよ。背中に天使の翼、隠してない?

    瑠「そのパンツ、今日デビュー?」

    僕「うん。ジーンズと違ってゴワゴワしてなくて、着てて涼しいね」

    瑠「でしょ~。でも着方が尊!だね」

    僕「すいません」

    前に一緒に買い物した時に購入した薄手のチノパン。何か、足首を出すようにロールアップしてなんて店員にも瑠奈にも言われたけど、長いまんま穿いてきました。オシャレじゃなくて、ごめんなさい。

    瑠「運転、辛くなったら代わってあげるね」

    僕「ありがとう。多分大丈夫だよ」

    次にミッキーさんの家に。車で数分の距離だった。瑠奈もミッキーさんも、かなり裕福な家庭のお嬢様なんだよな。到着した家の門、お城の入り口ってこんな感じかと思う程のデカさ!怖じ気づいていると、脇の通用口が開いた。

    僕「純和風の扉からトロピカルな人出てきた」

    瑠「ぷっ。みつきね、今日をすっごく楽しみにしてたんだよ」

    僕「わかりやすいな」

    みつき「ハ~イ!お待たせ~」

    麦わら帽子をかぶって登場。後で聞いたらカンカン帽って言うらしい。派手めの柄のシャツを前でギュっと結んで…ヘソ出しってヤツですか!で、ショートパンツにサンダル履き。

    み「センセ、お迎えありがとう」

    僕「どういたしまして」

    み「お、瑠奈はそうきたか。いいよん」

    瑠「みつきもリゾートな感じでいいよ。あのね尊、今日はショートパンツだけ揃えようねって決めてて」

    僕「そうだったんだ」

    ふーん…女子ってよくわからない。

    み「ドレスコードはショーパンっす。では、後部座席を占領させていただきまーす。センセ、運転よろしくぅ」

    僕「了解しました」

    プールに到着した。着替えを済ませ、浮き輪2つに空気を入れる。更衣室を出た所で待ち合わせなので戻ってくると、なぜかミッキーさんだけが外に立っていた。

    み「あ、浮き輪もう空気入れてくれたんだ。ありがとう~」

    僕「いえいえ。ここのエアー充填機、一瞬で入るから」

    ミッキーさんの水着は、黒地にロゴなど入っているビキニだった。ビーチバレーの選手みたいな?キャラに合っていてカッコいい。

    み「水着、モノトーンのグラデなんだ。似合ってるよ」

    僕「光栄です」

    み「あ、日焼け止め全身に塗ってる?」

    僕「当然だよ。後でヒリヒリしたら嫌だから」

    み「めっちゃ美容男子!」

    僕「そうかな」

    み「体もさ、言う程じゃないよ?ちゃんと鍛えた成果出てる。自信持っていい」

    僕「ありがとう」

    み「瑠奈まだかな。ちょっと見てくるよ」

    僕「支度に時間かかってるの?」

    み「髪結んでたからさ。あ、来た来た」

    思わず息を呑む僕。先に聞いてたよ?ビキニでしょ?白地に水彩画みたいな花柄でしょ?想像するとどうかなりそうだったよ。だからある程度心の準備はしてたんだ。髪がポニーテールになってる。それは聞いてない!色白の肌、うなじにかかる後れ毛が清楚でいて色っぽくて。

    瑠「尊、どう?」

    僕「とても、いいと思います」

    瑠「ホントに?やったぁ」

    動くと揺れる髪が、ますます金魚っぽいと言うか。その姿に心揺さぶられてます。

    み「センセ、眼鏡外してるけど見えてるんだよね?」

    僕「見えてるよ。まあまあ」

    瑠「いいの。今日は私が尊の眼になってあげるから」

    早速腕を絡ませてきた瑠奈。そ、そんなに近いとですね、魅力的な胸元を上から見下ろすような角度でですね、その…。

    み「心ゆくまでくっついててちょーだい。どこから行く~?」

    暑い、いや熱い一日になりそうだ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道20~7月25日夜

    辻褄合わせは綻びも出てくる。
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    二人揃って帰宅した。

    僕「ただいま」

    瑠奈「こんばんは~」

    覚「いらっしゃい瑠奈ちゃん。おっ!いいねいいね~。よーく、似合ってる」

    美香子「う~ん、いい!可愛らしいわ色っぽいわで、尊には勿体ない」

    僕「はいはい」

    瑠奈が来ると、テンション爆上がりの両親だ。

    覚「少しは何か口にしたのか?」

    僕「飲み物だけは」

    美「だったらお腹空いてるでしょう。買った物温め直す?」

    僕「お好み焼きだけチンするよ」

    美「いいわよ、座ってて。食べ始めなさい」

    覚「冷たい麦茶出そう」

    瑠「ありがとうございます」

    花火の箱は、もう窓際に置いてある。

    僕「準備万端だなあ。お楽しみの前にさ、子供神輿の写真、瑠奈に見せたい」

    美「あら、そうなのね。ならアルバム出しておくわ」

    僕はこの後、激しく後悔の念に駆られる。いくらでも理由は考えられたのに、すっぽりと頭から抜けてたんだ…。

    瑠「わぁ、ちっちゃーい!こんな頃から眼鏡かけてたんだね」

    僕「そうだね。年季、入ってます」

    食事後、アルバムを見せている。

    瑠「かわゆーい。でもどうしてこんなに苦々しい顔してるの?」

    僕「カメラ近寄り過ぎでさ。恥ずかしかったんだよ。望遠で撮ればいいのに」

    瑠「そんな理由?あはは。あれ、めくれない」

    僕「ん?くっついてる?」

    ペリペリと音を立ててページを開くと、何かでシミになっている。

    美「んもう!唯の仕業ね。あの子、そこに焼きそば落としたでしょ。きちんと拭いてなかったのよ。ホント、いい加減だわ~」

    覚「全く唯ときたら困ったモンだ。ほれ、布巾濡らしてきたぞ」

    僕「はい。ちょっと失礼…よし取れた。これでOK。残ってない」

    最後まで見終わり、アルバムを閉じた瑠奈。なぜか戸惑っているように見える。

    僕「どうかした?」

    瑠「ん…うん。上のお姉さんがどこにも写ってなかったなって思って」

    しまった!と思ったのは、まさしく後の祭り。

    僕「トヨ姉さん。えーっと」

    美「トヨちゃん!そ、そうね、夏休みに入ってたからお友達のお宅に泊まりに行ってたかしら?」

    覚「それか、親戚の家か。うん、トヨちゃんはたまたま写ってないんだよ」

    慌て方がかえって怪しいよ…。

    瑠「ですよね。ごめんなさい、変な事言って」

    覚&美香子「いえいえ」

    両親の顔の固まり方が尋常でなかった。

    僕「さて!じゃあ、プチ花火大会としますか」

    瑠「うん!」

    上手く流せたかな?四人で庭に出る。

    僕「もしかして、草刈りした?」

    覚「おー。草ボーボーでは防火上も見た目も良くないだろ?」

    僕「こっちも準備万端だったか」

    花火スタート。シューっと音を立て手元が明るくなる度に、家族の顔も照らされる。瑠奈の笑顔も浮かび上がる。綺麗だ。僕は花火よりそちらばかり眺めていた。

    瑠「線香花火はね、点火すると火の玉がふるふる震えて丸くなってくでしょ。その過程が好きなの」

    僕「火花が出てからじゃなくて?」

    瑠「弾ける準備頑張ってます、って感じが健気だと思わない?」

    浴衣と線香花火。情緒があるなあ。何より絵になる。イイ物見せてもらいました。

    覚「帰りは僕が乗せてくよ」

    僕「お願いします」

    瑠「ありがとうございます」

    覚「ちょっとだけ待っててくれるかい?」

    瑠「はい」

    二人で座って待つ。母は花火後のバケツを片付けに行っていた。

    瑠奈の囁き「さっき、お姉さんの話してごめんね。おじさまおばさまに悪い事しちゃった」

    あちゃー。その話、続きますか!

    僕の囁き「いいよ、気にしないで」

    瑠 囁き「お二人とも上のお姉さんに気を遣ってるよね。前に家族の事情は聞かないって言っておきながら蒸し返しちゃって、反省してる」

    僕 囁き「気を遣う?どの辺りが?」

    瑠 囁き「だって下のお姉さんも尊も名前は呼び捨てなのに、上のお姉さんはちゃん付けって呼んでるから」

    うへー!やっちまったー。

    僕 囁き「あ、ま、それは…」

    瑠 囁き「ごめんね、もう聞かないから」

    覚「お待たせ」

    僕「あ、うん。行こうか」

    瑠「はい。よろしくお願いします」

    瑠奈を無事送り届け、帰宅した。即三人で反省会だ。

    僕「トヨさんの立ち位置を怪しむというより、家族の内情を知ってしまってごめんなさいって感じだった。あー、僕は何てバカなんだ」

    覚「唯達はあの日、ちゃんと名前の呼び方まで決めてたのに僕らは手付かずのままでなあ。かえって気を煩わせて申し訳なかった」

    美「瑠奈ちゃん、いつも深入りはせず一歩引いてくれるのね…」

    ずっと秘密にし続けるか、いつか告白するかはわからない。なぜ?と問わない瑠奈の優しさに心が痛むよ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回はみつきと三人でプールへGO。

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    続現代Days尊の進む道19~7月25日土曜夕方

    飛ばす予定だった一人か。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今夜は地元のお祭りだ。浴衣姿で瑠奈を駅まで歩いて迎えに行った。

    瑠奈「尊、お待たせ~!わぁ、カッコいい!似合ってる!」

    僕「瑠奈もよく似合ってるよ」

    髪型が普段と違って、うなじが見えるようにまとめてある!いい!

    瑠「尊、何か着こなしがこなれてない?」

    僕「父親の持ってる帯と下駄を借りたんだ。この下駄全然足痛くならなくてさ。だからじゃないかな」

    瑠「素敵~!」

    会場になっている商店街までゆっくり歩く。浴衣の人は多いけど、瑠奈はやはり目を引く。そんな彼女と手を繋ぐ僕。一緒に居ると目立って当然なんだと、最近ようやく割り切れるようになった。幾分虚勢は張っているが、堂々と歩くよう心掛けている。

    瑠「お神輿、子供用もあるんだね」

    僕「この辺りの子供は一度は担ぐよ」

    瑠「尊もそうだった?」

    僕「うん」

    瑠「見たーい!写真残ってる?」

    僕「残ってるよ。あ、そうそう。晩ごはんだけどさ、ここで食べるか屋台で買って持ち帰って僕の家で食べるって選択肢があるんだけど、どうしたい?」

    瑠「ここで食べてて、うっかり浴衣汚したらショックだし…いいの?急にお邪魔しても」

    僕「急じゃないよ。両親が手ぐすね引いて待ってる」

    瑠「手ぐすねって。そうなの?」

    僕「実はさ、去年大量に通販で購入した花火がまだ残ってて。瑠奈も呼んでプチ花火大会やりたいって言ってるんだ」

    瑠「ホントに?!嬉しい、浴衣で花火ができるんだぁ」

    僕「写真もその時公開します。でね、最後父か母が家まで送るから」

    瑠「すごーい。至れり尽くせり~」

    何基もの神輿が、目の前を躍動感たっぷりに通り過ぎていく。

    瑠「お祭りっていいな。わくわくする」

    僕「だよね。この後神社に入って行くんだ。移動しようか?」

    瑠「うん、見たい」

    並ぶ提灯の明かり。時折吹き抜ける涼風。屋台から漂う香ばしい匂い。神輿の担ぎ手のかけ声に、僕達の下駄のカランコロンと鳴る音…去年は家族5人、今年は2人だけ。でもなぜか感覚が研ぎ澄まされて、もっと全身でお祭りを感じられる。瑠奈と一緒だからなのかな。

    瑠「オムそば、買ってもいい?」

    僕「いいよ」

    瑠「もうすぐ焼き上がるらしいの」

    僕「お好み焼きは買ったしオムそば買うし。じゃああと、あっちの屋台でたこ焼き調達してくるよ」

    そろそろ帰るし、すぐ近くだから少し油断してたんだ。だって目を離したのは2分もないよ?戻ると、いつの間にか男が三人も現れ、やたらと瑠奈に話しかけている。ゲゲ!ナンパ?!

    屋台のおじさん「もうすぐ焼けるよ~」

    瑠「はーい、待ってまーす」

    そこまで心配には及ばないようだ。察するに、瑠奈にとってナンパなんて日常茶飯事なんだろう。男達を軽くあしらっている。でもこのままではいけない!前髪をガッとかきあげ、胸を張る。よし、行くぞ!

    瑠「あ~、たけるんお帰りぃ。買えた?」

    ここが踏んばりどころだ。男達を一瞥し、歩み寄る。

    僕「ただいま。うん、この通り」

    瑠奈はニッコリ笑い、僕に体を寄せた。男達がチッと舌打ちするのが聞こえたが、フン、ざまあみろだ。ん?

    男1「アッ」

    男2「何だよ」

    男3「知り合いか?」

    僕「…」

    男1は見覚えのある顔だった。オメェかよ!僕は思い切り睨みつけてやった。相手は怯んでいる。いい気味だ。

    屋「お嬢ちゃん、待たせたね」

    瑠「あ、ありがとう。わぁアツアツ~」

    男1は何か言いたげだったが、男2と3を促してその場から去っていった。僕達も歩き出す。

    僕「大丈夫だった?」

    瑠「うん、全然大丈夫。屋台のおじさんも気にしてくれてたし」

    僕「そっか。でもごめんね、一人にして」

    瑠「いいよぉ。尊すごく睨んでたね。あんなに怒ってる顔を初めて見たからびっくり」

    僕「あいつに積年の恨みがあったから」

    瑠「え?えっ、それってどういう…」

    僕「あの男、僕をバカにしてた奴らの内の一人だったんだ」

    瑠「…」

    僕「昔の話だからさ」

    瑠「そ…う?」

    僕「瑠奈が居てくれて良かったよ」

    瑠「良かった。私何もしてないのに?」

    僕「はい残念でした、とっとと失せな、って鼻を明かしてやれたから。完全勝利した気分」

    瑠「そうだったんだ…。尊すごくカッコ良かったよ!うん、無言の勝利!」

    今夜はよく眠れそうだ。

    僕「ありがとう。あと、ちょっとでも瑠奈と離れたら危ないってよくわかったよ」

    瑠「ずっと離れない?」

    僕「うん」

    瑠「一生?」

    僕「え!あ、あの…」

    試されてる?!

    瑠「…」

    僕「はい。希望としては」

    瑠「ふふっ」

    とびきりの笑顔で僕を見上げると、肩にもたれてきた。はぁ。ドキドキが止まらない。抜き打ちテスト、多くない?やっぱり今夜は眠れないかも。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    大量に購入した花火のお話は、現代Days65no.922にて。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道18~6月30日火曜

    体がどのようにできあがったら完成なんだ?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    夜。自分の部屋に居ると、珍しくミッキーさんからLINEが届いた。

    みつきの投稿『センセ、時間ある時に話したいんだよね』

    何?今でもいいよと送ると、すぐに電話がかかってきた。

    みつき『センセ久しぶりー』

    僕「お久しぶりです、ミッキーさん」

    み『ねぇ、早速本題だけどさ、一緒にプール行こうよ!瑠奈と三人で!』

    僕「え?いきなり!しかも三人、ですか」

    み『海も捨てがたいけどまずはプール!瑠奈と二人だけはNGで、私と行ってきなって話なら、間を取って三人で』

    僕「それ、間かな」

    み『まーまー。行こうよ。絶対楽しいよ』

    僕「ちょっと待って。彼氏さんは?」

    み『ちゃんと話はしたよ。三人で行っておいでって言ってくれた』

    僕「嘘っ」

    み『理解ある彼氏なんで』

    僕「俄には信じ難いけど、信頼関係の賜物なんだろうな」

    み『いつにする?』

    僕「既に決定事項ですか」

    み『何が嫌なの』

    僕「嫌なんじゃなくて…何と言うか…」

    み『モゴモゴしない!はっきり言う!』

    僕「すいません。その、自分の体に自信がないんだよ」

    み『どこが』

    僕「貧弱だから。最近ようやく、あばら骨が見えなくなってきたんだ」

    み『だったら問題ない』

    僕「そう思う?」

    み『向こうが透けて見えなければいい』

    僕「さすがにそれは。はは…ありがとう。あと、ずっと不安に感じてる事があって。ちょうどいい機会だからミッキーさんには言うけど」

    み『ご指名ありがとう。何でしょう』

    僕「僕はまだまだひ弱で強い男ではない。いざとなった時、瑠奈を守れるかどうかっていつも悩むんだ」

    み『ふーん…へ?ちょっと待った、それおかしくない?だって今回さ、私と瑠奈二人で行ってこいって話だったでしょ。女子二人が安全だって言うの?』

    僕「ミッキーさんは無敵だから」

    み『まぁね。って違うだろ!いいけど。あのさ、そういう気持ちは正義感に溢れてて素晴らしいと思う。だけど誰しもヒーローじゃない。そこまで心配しなくても。何か起こってしまった時、即座にSOS出すのも守る内に入るよ』

    僕「そうかな」

    み『すっごく瑠奈を大切にしてるのは、よくわかった』

    僕「大切だよ!とても」

    み『即答で断言。いいねぇ。瑠奈もねー、センセに関してはどこか自信なさげだから、同じ穴のむじなだとは思うんだよね』

    僕「むじな!久々に聞いた。自信ないの?どうしてだろ」

    み『すぐ、他の女が居るんじゃないかって疑うし。めっちゃ愛されてるって、端から見てても丸わかりなのにさー』

    僕「僕が悪いのかな」

    み『悪くはない。でもさ、一歩進んでみない?まっ、二歩でも三歩でも最後まででもいいけど』

    僕「はあ?」

    み『プール平日の方が空いてるよね、いつならいい?ちなみに、瑠奈の都合いい日はもう聞いてあるよ』

    僕「働くなぁ」

    み『本人たってのご希望なんで。かわゆい彼女のお願い断るなんて、相当だったんだね』

    僕「すいません」

    み『センセってさ』

    僕「はい?」

    み『瑠奈よりももっと守りたい物があって、それに合わせて行動してるようにも見受けられるんだよねー』

    僕「え」

    み『別に女隠してるとは思ってないから』

    僕「瑠奈しか居ないし他には考えられないよ。大切にしてるのは…家族だよ」

    み『なるほどね。お姉さんが二人、遠くで暮らしてるんだったよね?』

    僕「うん」

    み『瑠奈はあい変わらずメンドくせぇけどさ、何とか安心させてあげて』

    僕「はい」

    み『で、いつ?』

    僕「えーと」

    大学はもうすぐ夏休みだから、バイトの予定表を確認。何日か提示した。

    み『えーと、この日は私が周期的にヤバいし…じゃあ、ちょっと先だけど8月4日でどう?』

    僕「8月4日。わかりました。よく考えたら贅沢な取り合わせだよね。男1に女性2なんて。僕、大丈夫かな…」

    み『二人の邪魔はしないから。と言うより、邪魔者を撃退するために私が居る』

    僕「どういう意味?」

    み『瑠奈のビキニ姿を想像してみよ』

    僕「ビ、ビキニなんだ」

    み『今時珍しくないでしょ。白地に水彩画みたいな花柄でね。売場で一目惚れで購入したの』

    僕「一緒に買い物したんだったね」

    み『想像できた?超魅力的でしょ。いいよ、ヨダレ垂れてても見えないから』

    僕「ズッ。は、はい」

    み『で、そんな瑠奈に有象無象な輩が寄ってくるのよ、どうしても』

    僕「有象無象って。でも大変だ、どうしよう」

    み『私が阻止してあげるから』

    僕「どこかで聞いたような話だ」

    み『瑠奈の事だから、センセにくっついて離れないだろうし、まず大丈夫だけどねー』

    僕「それは…ますますどうしよう」

    み『あ、プール後に瑠奈を拐うなら、先に愛車で私を家に送ってからにしてね』

    僕「拐うって。僕の車で行くのも決定してると」

    み『世の中は上手いコトできているのだ』

    僕「ははは。いいよ。浮き輪ってある?」

    み『ない。持ってる?』

    僕「一人用のと、真ん中の穴が大きい二人用のが家にあるから、積んでくよ」

    み『カップル用?!センセにそんな甘い思い出が』

    僕「姉のだって」

    み『そうすか』

    僕「そうです」

    み『ふーん。じゃ、また連絡するね!バイバーイ』

    僕「はい。ではまた。失礼します」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、まずは浴衣デートです。

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    続現代Days尊の進む道17~6月28日夕方から29日月曜

    まだそんなには回数を重ねていない模様。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ショッピングモール内を一回りし終えたところで、コーヒーショップに入った。二人分購入して席に持っていくと、瑠奈はスマホを凝視している。

    瑠奈「ありがとう」

    僕「どういたしまして」

    さっきの失言、怒ってるんじゃない?おずおずとドリンクを差し出す。

    瑠「浴衣デートどこ行こう。花火大会とかいいなとは思うけど、浴衣着て車の運転はダメだよね。調べてもやっぱりNG」

    僕「うん。それで運転は危ないよ。どうしても花火大会に行きたい?」

    瑠「ううん。すっごい人出だし、そういう大会は動画もすぐにあがるからこだわらないよ。近場でなにかイベントないかなぁ」

    僕「だったら、確か…」

    今度は僕のスマホで検索。

    僕「毎年7月の終わりの土日に、地元の祭があるんだ。駅からも割と近くて、神輿とか出るんだよ」

    瑠「え、そうなの?じゃあ今年は」

    僕「25日土曜の夜。良かったらその日に、一緒に浴衣着て見に行こうよ」

    瑠「わぁ。行く行く!嬉しい!楽しみ~」

    少しは起死回生できたかな…。

    瑠「思ったより、周りの車居なくなってる」

    僕「そうだね」

    立体駐車場に戻ってきた。帰りも安全運転で行きますよ。車に乗り込みドアを閉めた。

    瑠「待って。まだシートベルトしないで」

    僕「え?」

    じっと僕を見ている。じーっと見ている。も、もしや、アレですか?!そうか、車だとこんな事ができるんだ。この場所特にほの暗いし。車の外に人の姿がないのを確認し、ゆっくり顔を近づけると、彼女は目を閉じた。

    瑠「…たけるん」

    僕「は、はい」

    瑠「いつでも奪ってね」

    いつでも!奪って!ど、動揺が。超超慎重運転で帰ります…。

    ┅┅

    翌日。小垣駅近くのカフェに女子二人。

    瑠「みつきー、ここー!」

    みつき「居た居た~。わざとこんな隅っこの席選んだ?急に会いたいって言うからびっくりしたよ。今日はどうしたの」

    瑠「うん。みつきに相談したくて」

    み「相談。ヤバい話?まさかセンセと何かあったとか」

    瑠「尊とは何の波風も立ってないよ」

    み「ずっとラブラブ。平和で結構じゃない。それで?」

    瑠「もうすっかり夏じゃない。尊に海とかプールに行きたいなって言ったの。そしたら、ミッキーさんと行ってきたらって」

    み「そうなの?私の彼も渋々一緒に行ってくれる系だけど。苦手なんかな」

    瑠「ううん。だって見たもん!尊の家のリビングに、家族で海行った時の水着写真飾ってあるんだよ?楽しそうだった」

    み「へー。何でかな」

    瑠「他の女と…」

    み「ないない」

    瑠「理由は見当つくんだよ。尊ね、自分の体に自信がないみたいで隠したがるの。昨日一緒にお買い物して確信した」

    み「そんなに変か~?センセの思うレベルが高過ぎるんじゃない?」

    瑠「私、全然気にならないんだけどな」

    み「よしわかった!私が聞いてあげる、つーか誘ってみるよ、一緒にプール行かない?って」

    瑠「ホント?でも、みつきの彼にもお伺いを立てないと」

    み「話すけど、多分行っておいでって言うよ。大丈夫、そんなんゴタゴタ言う人じゃない」

    瑠「信頼関係が羨ましい。他にも誘う?」

    み「んー。三人で良くない?」

    瑠「三人。いいね、楽しそう!」

    み「高2ん時さ、二人でビキニ新調したじゃない。去年はさすがに海もプールも我慢したからさ、今年は着ようよ。で、センセを囲むと」

    瑠「そうだね。行けるといいな」

    み「任せといて!」

    瑠「ありがと。…あとね」

    み「何、急にヒソヒソ話?」

    瑠「尊とはラブラブだけど、どうしてその先がないんだろ、って…。どう思う?」

    み「先?って」

    瑠「尊はすっごく優しい」

    み「それはよくわかる」

    瑠「優しくハグしてくれる」

    み「うん」

    瑠「優しくキスしてくれる」

    み「うん」

    瑠「でもその先がない」

    み「それかー。兆しもない?それっぽい雰囲気になるとか」

    瑠「全然。昨日もね、車だし、踏み込んでくれるかななんて、ちょっと迫ってみたけど」

    み「マジか!で?どうだったの」

    瑠「キスまでだったし家まで真っ直ぐ送ってくれた」

    み「棒読みが過ぎる。まぁそこはさすがセンセというか」

    瑠「私に興味ないのかな…」

    み「ンなワケない。大事にされてるんだよ」

    瑠「でも今までの彼は、いつもその先、最後までだったよ?」

    み「エッチまでセットじゃないのかって話?」

    瑠「うん」

    み「はぁ。そういうモンだと思ってるなら否定まではしない。ただ言い方悪いけどさ、そもそも今までの奴らは初めから体狙いだっただろうし。どいつもこいつも、ホントさっさと別れて良かったよ」

    瑠「尊、他の女と…」

    み「断言する。センセに限ってそれはない」

    瑠「そう…だよね」

    み「疑うなんてセンセに同情するけど。心配なら、なんとなーくそうなってもOKだよ的な感じにもう少し持ってってみたら?」

    瑠「そうしようかな…」

    み「焦んなくてもいいんじゃない?」

    瑠「嫌がられるかな」

    み「よっぽど大丈夫だとは思うけど」

    瑠「大好きな尊との距離をゼロにしたい。それだけなんだけどな」

    み「なるほど。純粋な気持ちからだと」

    瑠「おかしいかな」

    み「ううん。恋に全力、いいと思う。だったら応援する。気持ちが伝わるといいね」

    瑠「ありがとう」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、久々に尊とみつきの舌戦です。

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    続現代Days尊の進む道16~6月28日14時

    一口ちょうだいイベントはあったんだろうか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕「何食べよう」

    瑠奈「悩む~」

    一気に買い物をしたので、もう時計は昼をとっくに回っていた。飲食店一覧を見ている。

    瑠「トンカツいいかも」

    僕「へぇ。珍しい」

    瑠「ガッツリ系過ぎる?」

    僕「そんな事ないよ。かなり歩いたし僕もお腹空いてる」

    所望のメニューがある店で食事。

    瑠「尊の家の近所のラーメン屋さんも、また行きたいな」

    僕「気に入ってくれたんだ。美味しいよね」

    瑠「うん。油少なめにできるし」

    僕「少なめ、ね」

    瑠「あー、カツ食べてる口が何言う?って思ってるんでしょ」

    僕「ちょっと」

    瑠「もー。それはそれ、これはこれなの!」

    僕「ははは」

    くるくる変わる表情が愛らしい。肉でパワーチャージできたし、さぁ店を出るか。しかし、我ながら景気良く買ったなー。

    瑠「買い物袋、半分持ってあげる」

    僕「え?いいよ、僕の荷物ばかりだし」

    瑠「でもぉ」

    僕「?」

    瑠「尊の両手が塞がってると、くっついて歩けないもん…」

    僕「…」

    か、か、可愛い過ぎるぞ!

    僕「あ…あ、じゃあさ、一度荷物を車に積んでこようかな」

    瑠「うん!行くー」

    荷台に積み終えて歩き出すと、すぐに腕を絡ませ肩にもたれてきた。神様仏様、僕はこんなに幸せでいいんでしょうか?甘さにノックアウトされそうになりながら、まだ見ていないエリアを散策し始めた。

    瑠「うわぁ、日本の夏だね~」

    僕「ホントだ」

    特設会場に、浴衣がずらりと並んでいる。割と手頃な値段で一式揃うんだ。へー。

    瑠「尊は浴衣持ってる?」

    僕「一応」

    お姉ちゃんに、いかにも旅館の備品って言われたのがあるよ。浴衣を着たあの日が、全ての始まり。

    瑠「そっか。私も持ってはいるんだけど」

    僕「うん?」

    瑠「お互いに選び合った浴衣着て、デートできたらいいなって想像しちゃった」

    僕「浴衣デート、ですか」

    しぇ~!そんなん実現したら、舞い上がり過ぎて僕、宙に浮いてるかもよ?

    僕「はは。新しく選んでもらうのは全然構わないよ」

    瑠「ホント?」

    僕「でも僕が瑠奈のを選ぶのは…」

    瑠「えー、尊が決めてくれたのが着たい」

    僕「そっか。わかりました。自信ないけど期待に沿えるよう頑張るよ」

    瑠「やったぁ。私も尊にぴったりなのを探すね!」

    とは言いつつ、女性用浴衣の圧倒的な量ったらない。気合い入れないと。しゃっ、だな。

    僕「さてと。あれ、もう居ない」

    もう男性用浴衣のコーナーに移っていた。順番に見てたかと思いきや急に切り返したりして、時々動きが小動物。動く度にスカートがふわりと揺れてこれもまた良し。まるで…

    瑠「これに決めたよ~」

    僕「もう?絶対数が少ないから当然か」

    茶系の淡色の縞模様。派手過ぎず地味過ぎない所がいい感じ。さすが。

    僕「あと少し時間ください」

    瑠「ゆっくりでいいよ。手に持ってるのが候補?全部金魚の柄なんだね」

    君が金魚のようで。なーんて言って微妙な顔されてもなんだから黙っておく。スカートが水中で広がる尾びれ。人懐っこく駆け寄り、僕の周りでひらひらと舞い踊る姿。そしてつやつやでぷるんとした唇。

    僕「決めたよ。こちらでいかがでしょう」

    瑠「かーわいい!」

    水面に見立てた薄い水色の地に、様々な色柄の金魚が自由に泳ぐ様があしらわれている。良かった、喜んでくれて。肩の荷が下りたよ。そして二人ともお買い上げ完了した。

    僕「持つよ。二袋持っても片手は空くから」

    瑠「ありがと。優しーい」

    カツの効果もあって、活力漲ってますから。

    瑠「あ、こっちも夏~」

    少し歩いたら、今度は水着が売っていた。そういえば、去年もここが売場だった気がする。

    瑠「おととしね、みつきと水着買いに行ったんだよ。ここではないけど」

    僕「そうなんだ…」

    水着姿。想像すると鼻血が出そうだ。いやそれより僕の水着姿はどうなんだ?去年は…体はもっと貧弱だったけど、お姉ちゃんや兄さんを楽しませる為に海もプールも行った。でも家族とだしそんなに恥ずかしいとは思わなかった。今は…まだまだ鍛えないと、とても彼女にお見せできるような段階じゃないんだよな。

    瑠「尊?聞いてる?」

    僕「え?あ、ごめんなさい」

    瑠「海やプールに行きたいなぁ」

    出た!やっぱそうなるよね。でも…

    僕「えーっと」

    瑠「何?」

    僕「ミッキーさんと行けば」

    しまった、すげぇ冷たい言い方しちゃった!ヤバい!

    瑠「ふーん…。あ、あそこのペットショップ見たい!行こっ」

    瑠奈はそれ以上何も言わなかった。機嫌を損ねたかと思ったけど、その後の態度はなんら変わらず。でもあんな言い方はないよな。ごめんなさい!

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    旅館の備品、は令和Days22no.624にて。そして、前年の唯達の水着購入の様子は、同じく8no.597から11no.604にて。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道15~6月28日11時

    尊の遺伝子なら、お目目ぱっちりでしょ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    小垣城資料館を出て、次の目的地に向かっている。

    瑠奈「よく行くの?」

    僕「ううん、全然」

    水着買いに行った時以来じゃないか?

    瑠「私は3か月に一度位かな。親が連れてってくれないと、車でしか行けないじゃない」

    そう。どちらの家からもまあまあ距離がある。でも兄さんは、クリスマスイブにお姉ちゃん乗せて自転車漕いで行った。それは基礎体力の違いだな。

    僕「店はいっぱいあるよね。だからそこでいいかなって」

    瑠「服にこだわりとかないの?」

    僕「あるように見える?」

    瑠「えーとぉ」

    僕「ごめん、言葉を選ばせて。お任せします」

    瑠「はい。頑張りまーす」

    到着したのは、ショッピングモール。

    瑠「まあまあの混み具合だね」

    僕「うん。平面駐車場はほぼ満車だし」

    話を整理します。僕もいよいよお給料を貰える身になり、今後は車の購入費諸々を親に払っていくんだけれど、服も自費で購入していこうと決めて。でも自分で選ぶと似たような物ばかりになる。だから瑠奈に見立てて貰おうと思ったんだ。そんな話を両親にしたら、今朝家を出る時なんかもう…。

    美香子「買い物デートか~。尊、やるわね」

    僕「そう?」

    美「彼氏の服を選ぶなんて、瑠奈ちゃんノリノリでしょ」

    僕「うん。すごく楽しみにしてる」

    覚「ここでクイズだ。ジャージャン!」

    僕「は?」

    覚「流れで彼女の服も選んでいると、これどう思う?と目の前に提示された。さて、どう答える?チッ、チッ、チッ」

    僕「それは…懸命に僕なりの答えを出す」

    覚「おっ」

    僕「女性のファッションなんて全くわからないけど、求められてるならできるだけ応えてあげたい」

    覚「ほほー。どれでもいいとは言わんのだな」

    僕「うん。よくお姉ちゃんが困ってたの見てたから」

    美「あ、思い出したわ。それおととしの話でしょ。忠清くんにアドバイスしたのよね」

    覚「へー。それは初耳だ」

    僕「そう?あ、確かお父さん、その時お姉ちゃん達がクリスマスイブイブイブデートに持ってくお弁当作ってたよ」

    覚「はいはい。あん時か」

    僕「で、どう?僕の回答は」

    覚「合格だな。でもその答えの理由、聞かれたとしても簡潔に。くどくど言うのは禁物」

    僕「わかった」

    美「車に積めるだけ積んできたら~?」

    僕「どんだけ買わせる気だよ。行ってきます」

    さて。無事駐車し、モール内を散策し始めた。

    瑠「風船配ってるんだ」

    イベントスペースが子供達で賑やかだ。こういう場所は家族連れにうってつけなんだろうな。子供か。僕に似たら微妙だけど瑠奈に似たら可愛いいだろうなー…なんて妄想が止まらない。

    瑠「ね、この店見てみよっ」

    僕「あ、はい」

    繋いだ手をグッと引っ張られ、我に帰った。妄想は、一緒に居ない時限定にしないとな。

    瑠「私、尊のTシャツ姿って見た事ないかも。綿シャツとか今日みたいなフーディーとか多いよね。嫌いなの?」

    僕「うーん。生地が薄いのはちょっと」

    瑠「そっか。こだわりはやっぱりあるんだね。いいよ、厚めで探してあげる」

    Tシャツはね、笑っちゃう程似合わないんだ。例の肉食系Tシャツも然り。薄手だと体のラインが如実に出るから、貧弱なのがバレバレで外に出るのが恥ずかしいんだよ。この呟きは聞かせられないけど、瑠奈ならきっと上手く欠点を隠せる品を選んでくれる筈だ。

    瑠「ねぇねぇ、これとこれ試着してみない?」

    僕「はい」

    いくらでも着せ替え人形になりますよ。

    僕「いいよ、カーテン開けて」

    瑠「失礼しまーす。あ、こっちも似合ってる。どう?さっき着たのと比べて」

    僕「どっちもいい感じだよ」

    瑠「両方ともやや大きめで、体の線を拾わないもんね」

    やっぱりな。気にしてる所、バレてました。

    瑠「どうする?」

    僕「2枚とも買うよ。値段も含めて瑠奈の見立て完璧だし」

    瑠「いいの?!たけるん太っ腹~」

    ショップの袋はどんどん増えていく。見て、着て、検討して、また戻ったりして。こんなに歩いてても疲れを感じないのは、瑠奈が上機嫌でずっと笑顔を見ていられるからだな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    両親との会話中、「困ってた」は平成Days37no.489、「アドバイス」は同じく45no.516に出てきます。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道14~6月28日日曜9時

    ドラマ1話で小垣城に攻め入った高山の軍勢は2,000人。資料館の甲冑がのべ2,000人の来場者を迎えるのはいつ頃かと考えると、決して少なくはない数。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    車での初デート。瑠奈の住むマンションに到着した。豪華なエントランスの少し手前で停車すると、瑠奈がすぐ現れて僕の車に駆け寄って来た。

    瑠奈「わぁ!」

    車をくまなく見てはしゃいでいる。そんなに喜んでくれると買った甲斐があるよ。スカートがふんわりしてて、ドレスを纏ったお姫様みたいだな。あ、だったら…

    僕「おはよう瑠奈」

    瑠「おはよぉ、尊」

    急いで車を降りた僕。助手席のドアを開けた。

    僕「お待たせしました、姫。どうぞ」

    瑠「あはは。どしたの、サービスいい~。そのフーディー、カッコいいね」

    僕「フーディー?」

    瑠「パーカの事。紺色がいい感じだよ」

    僕「そうなんだ、ありがとう。ファッション用語はてんで不案内で」

    瑠「うふふ。では運転お願いしまーす」

    よし、出発。まずは小垣城資料館に向かう。一度は行っておいて欲しいと伝えたら、じゃあ今日一緒に行きたい、となったんだ。間もなく到着した。

    瑠「ここ、発掘調査の前は公園だったんだよ。小さい頃はよく来たの」

    僕「へぇ」

    開館してすぐの時間なので、駐車場に車はほとんどなかった。家の敷地以外で駐車するのは初だから、申し分ないシチュエーションでラッキーだ。

    瑠「すごーい、一回ですんなり枠内にとめた。上手~」

    練習の成果あり!心でガッツポーズ。機嫌良く入口に向かっていると、入れ違いで人が出てきたのだが、

    僕「あっ、木村先生!」

    木村「お?おー!尊くんか!」

    僕「おはようございます」

    木「おはよう。随分と風貌が大学生っぽくなったな。最初誰かわからなかったよ」

    僕「へへ、そうですか」

    木「用が済んで帰るところでな。あれ、君って確か、ここには講演会当日に来てたんじゃなかったか?」

    僕「はい。二度目です。今日は案内しようと思って」

    木「彼女をか」

    僕「はい」

    僕らに遠慮して少し離れていた瑠奈を呼んだ。

    瑠「おはようございます、先生。私小垣に住んでるんです。今日はしっかりお勉強したいと思います」

    木「そうかそうか、ありがとな。尊くん、二度目の君に朗報だ。実はさっき展示を一部変えたところなんだよ」

    僕「え、変更!まだ開館間もないのにですか」

    木「僕が話をした中でさ、聴衆の反応が良かった話題があったの、覚えてるかい?」

    それって…

    僕「もしかして、羽木の若君の祝言ですか」

    木「そう!手記に記されているんだが、それは今まで展示してなかったから、問い合わせも多かったらしくてな。そんなに盛り上がるならって、町が動いてさ。2か月で変更だよ。今日から公開の運びで、今最終確認してきたんだ。実にグッドタイミングだったな」

    僕「本当ですね。今日で良かった」

    木「じゃ、これで。デート楽しんでくれ」

    僕「ありがとうございます。新しい展示の感想も、またメールします」

    手を上げ去っていく先生の後ろ姿に、二人でお辞儀をした。

    瑠「あの先生が、武将の末裔なんだね」

    僕「そう。木村先生はお知り合いになれてマジで良かったと思ってるよ」

    展示室へ入る。仄かな灯りに照らされた、厳かな雰囲気がいい。

    瑠「こういう場所のね、凛とした空気感って好きなの」

    僕「あ、それ僕も。落ち着くよね」

    瑠「わかるー!あ、声響いちゃった、ごめんなさぁい」

    ゆっくりと進み、じっくり見学している瑠奈。好感が持てるなぁ。

    僕「これか」

    新しい展示。手記のその箇所が開かれ、大きい解説パネルが設置してあった。力入れたなー。全体的にもレイアウトがかなり変わった印象だ。吉田城跡の工事完了も楽しみだし、講演がきっかけになって、色々羽木家寄りの方向に変わっていくのは嬉しい。先生に感謝。

    瑠「満月の日だったんだ」

    僕「え?どうしてわかるの」

    瑠「ほらここに」

    解説には書かれていないが、古文書中の満月の文字は僕でも何とか読み取れた。

    瑠「私も満月の日にしてもらおうかな。参列者のために休日と重なる時を選んで。ねっ、尊」

    僕「へっ?…あ、あの、はい、いい提案だと思います…」

    そんな話をサラっと無邪気に言う?はぁ。そうしようね、なーんて返せると男っぷりも上がるんだろうけど、未熟者なんでまだ無理…。

    瑠「ねぇ尊」

    僕「うん?」

    瑠「鎧兜が飾ってあるけど、手が届く位置でショーケースにも入ってない。いいのかな」

    僕「これ長い間、先生の勤める高校に置いてあったんだって。カバーも何もなく、はたきでパタパタやってたらしいよ。だから触るのを禁止にしなかったって先生言ってた」

    瑠「生徒にも触らせてたんだ。いい話だね。感触からも当時に思いを馳せられるもの」

    触り放題でも、姉はずっとスルーだったらしいけどさ。一般的な高校生に比べれば、特に珍しくもない見慣れた品ではあるとは言え。さて、これにて見学終了。

    僕「お疲れ様。わー、外は暑いな」

    瑠「来て良かった~。すっごく勉強になった。今度親連れて来る!ありがとう尊」

    僕「どういたしまして。じゃあ移動しますか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊が着ているフーディーは、青DVD&Blu-rayに収録されている「アシガール番外編Episode2平成の馬平成の小姓」内で、若君の自転車を追いかけている場面に出てきます。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道13~6月27日土曜

    ナンパとしては昔ながらのやり方。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    本日、納車しました。販売店に行ったのは僕と父と瑠奈の三人だけだったので、母は初めて実物と対面する。

    美香子「思ってた以上にピカピカだったわ」

    覚「走行距離が短かったからな」

    僕「うん。ほとんど新車」

    中古の軽自動車。

    僕「お母さん、黄色好きでしょ」

    美「確かに黄色系。クリーム色。違うわね」

    僕「は?」

    美「そんな理由で買ったんじゃないわよね~。瑠奈ちゃんの評価は?」

    僕「初デートの時の」

    美「お正月の?」

    僕「僕が着てたセーターの色だねって…」

    美「あー、似てる。それが購入の決め手ね」

    僕「は、はは」

    覚「そんな彼女が、今日都合つかなかったのは残念だったな」

    僕「だって日柄を優先だったでしょ、今日が大安だからって。瑠奈は明日会うから」

    美「初運転は明日のデートで?」

    僕「いきなりだとまごつきそうだから、今から少し走らせようと思ってる」

    美「ふうん」

    僕「乗る?」

    美「あらん。若い男の子に誘われるなんて、何十年ぶりかしら~」

    僕「何それ」

    覚「僕が誘った以来だといいが」

    美「残念ながら、そうなのよ~」

    覚「残念は余分だぞ」

    僕「はいはい。で、どうすんの」

    覚「僕も乗せてくれよ。いきなり三人だとヘビーか?」

    僕「いいよ。土曜の午後だからそうなると思ってたし」

    美「息子の運転でドライブなんて嬉しいわー。どこに乗せてってくれる?」

    僕「どこって…どうしよう」

    覚「プランなしか。目的地は決めた方が」

    美「じゃ、あそこ。小垣駅前というか吉田城跡というか。距離的に良くない?」

    覚「あー、そうだな」

    僕「二人ともまだ行ってなかった?いつでも行けると思うとつい後回しだよね」

    美「では、吉田城跡までよろしく~」

    僕「はい。心得ました」

    覚「頼むよ。じゃないな、お頼み申す。お、キーホルダーはそれにしたのか。いい感じだ」

    クリスマスプレゼントとして兄さんが作ってくれた、レジンで様々なパーツを閉じこめたキーホルダー。花はあえて入れてもらわなかったので、割とシンプルでクールな仕上がりだ。

    僕「使うのがもったいないと思いながらも、使わないともったいないなって」

    美「わかるわ~」

    両親とドライブに出発した。

    美「いつの日か、唯達も乗せてあげられるといいわね」

    僕「うん…予定は全くの未定」

    覚「実際今、かなり忙しいだろ。タイムマシンの作業もそんなに進んでないよな」

    僕「でもアルバイトがさ、場所は定期券の範囲内だし得意分野でやらせてもらってるし」

    瑠奈のお父さんの会社には、週に2~3日、大学終わりで行けるようにシフトを組んでもらっていた。

    美「ありがたいわよね。待遇がすごく良くて」

    覚「部長の娘さんの彼氏、ってのは皆さん知ってるのか?」

    僕「全然。あの進学校出てるんだ、とは社員さんに声かけられたけど。娘の存在自体を隠してるみたいだよ。瑠奈も、バイト上がりの僕を会社の前で待ち伏せなんてするなよ、って釘刺されてるらしい」

    美「彼女なら喜んで待ってそうだもんね。良かったじゃない。勿論照れもあるでしょうけど、そこの社員さんは若い男性が多いんでしょ?下手に娘さんが顔出したら、面倒な事になるってわかってみえるのよ」

    僕「それこそナンパ?ひぇー」

    覚「そりゃ父親としては心配だ」

    僕「頷ける?」

    覚「うん。僕にはそんな機会ないまま、行っちまったけどな…」

    美「あー…」

    愛車初運転の僕に助手席や後部座席を窺う余裕はなかった。だけど、きっとこの時両親は切ない表情をしてたと思う。しんみりとした空気が流れそうになった頃、小垣駅前に到着した。

    僕「ここで待ってるから見てきなよ」

    ロータリーから少し離れた隅に停めた。両親は一周見た後、なぜか駅に入っていく。ん?

    僕「お帰り。さっきはどうしたの」

    美「立看板あるじゃない。その周りに柵がしてあったから、工事でもするんですかって駅員さんに聞きに行ったのよ」

    僕「え、わざわざ?」

    覚「もしや撤去されるのかって心配になってさ。そうしたら、もうすぐ看板が大きくなるって話で」

    僕「へー!」

    美「木村先生の講演でも、ここの話題されてたじゃない。それで見学者が増えたみたいなの。で、町としてももう少し吉田城跡をアピールしようとなったんだって。ロータリーの周りにぐるりと歩道っぽく色を付けて、安全に渡れるように小さい横断歩道もできるらしいわ」

    僕「すごい。先生には、これからどんどん情報を発信してもらいたいね」

    美「そうね。今まで遠慮されてた分」

    覚「地元を見直せるからな」

    注目されつつあって良かったね、源三郎さん、兄さん。さぁ、安全運転で帰るとするか~。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君がプレゼントを作るくだりは、現代Days13no.859にて。

    次回、初ドライブデート。

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    続現代Days尊の進む道12~6月上旬

    青田買い的な?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ここは、瑠奈の家。

    瑠奈の父「また呼んでいただいたって?」

    瑠奈「うん。日曜のお昼に尊の家に行く。楽しみ!」

    瑠奈の母「運転免許証取得おめでとう、のランチですってよ」

    はい。二人とも、無事取れたんで。

    瑠父「こちらも、尊くんを招かないといけないなあ」

    瑠「気にしないでって言われたよ。おじさまが料理のレパートリーを披露したいんだって。だから何度でも来ればいいんだよって」

    その通り。もっと言うと、この会食、両親が恒例行事にしようと目論んでいる。

    瑠母「甘えさせて貰うばかりで申し訳ないわ。せめて手土産を奮発しましょうか」

    瑠父「だな。あと…折角伺うんなら、俺ちょっと資料作るわ」

    瑠「資料?あ、尊の仕事関係の?」

    瑠父「そう。当日持って行けるよう用意しておくよ」

    ┅┅

    そのランチ会食当日。瑠奈には黒羽駅まで来てもらったのだが、

    瑠「尊が運転してきたの?」

    僕「うん。口うるさい教官も居てごめん」

    美香子「うるさいって何よ。的確な指示と言いなさい~」

    駅まで車で迎えに行ってみました。母の車、助手席に監視付きだけど。

    美「運転はまあまあの出来。でもね、クリニックの駐車場で夜に練習してるから、駐車のテクニックは上達してるのよ」

    僕「お母さんの車をぶつけたり擦ったりしないよう、毎回ヒヤヒヤでさ」

    瑠「ふふっ。お出かけの準備ばっちりだね」

    美「はい、じゃあ私は後部座席に移るから、瑠奈ちゃんは尊の隣に」

    瑠「わぁ、ありがとうございます。嬉しい!」

    僕「ほんの少しの距離だけど。どうぞ」

    美「ランデブーね~いいわね~」

    僕「外野がやかましいな」

    安全運転で帰宅。出迎えた父の姿に、瑠奈が仰天している。

    瑠「おじさま…」

    着物をまとい、たすき掛けまでしていて。張り切り方がわかりやすい。

    覚「へへ。腕を振るうのにちょっと気合い入れたくてね」

    瑠「素敵。お似合いです!ちょうど良かった、今日は和菓子をお持ちしたんです。おじさまにぴったり!」

    覚「そうなの?いやぁ、瑠奈ちゃんはおじさんを転がすのが上手だな~。ささ、上がって」

    一番転がされてるのは僕ですが。まぁ、そんなこんなでランチは和やかに進んだ。

    覚「いただいた和菓子は、すっかり夏の風情だなー」

    僕「透き通ってる!」

    瑠「今朝父が買ってきました。我が家の夏の定番なんです」

    美「老舗の品ね。これ、お高いのよ~」

    僕「マジ?こんなに綺麗だから当たり前か」

    夏到来かー。今年は何が起こるんだろうな。

    瑠「免許証、私のはこれです。どうぞ」

    覚「見せてくれるの?お、いいね~」

    美「可愛いい子って、座っていきなり撮られても可愛いいのね。尊なんか、ぽやーんとした顔で写ってるのに」

    僕「免許証あるあるじゃないの」

    瑠「あと私、父の会社の資料を預かってきたんです」

    覚「資料?」

    瑠「尊くんのご両親にご覧いただくようにって、システム改修とか、尊が新規で作ったアプリなどの売り上げ推移を」

    美「あらご丁寧に。それ、社外秘じゃないのかしら?」

    瑠「OKな物だけみたいです」

    美「尊はもう聞いてるの?」

    僕「詳しい数字とかは知らない」

    覚「そうか。じゃあ食卓に広げてくれる?」

    その資料には、グラフや数字が細かく記載されていた。

    美「こんなに詳しく書いていただいて。わかりやすい」

    覚「売り上げが右肩上がりじゃないか。やるなぁ尊。違うか、会社の皆さんや周りの支えがあってこそだな」

    僕「うん」

    瑠「父が驚いていました。こういうシステム系って、大体は営業マンが個別に回って売り込むかメールが来るケースが多いらしいんですけど、今回は電話や手紙がくるって」

    美「手紙ねー。画面が見づらい方々で年齢層も高いからそうなるかしら」

    覚「うむ」

    美「知り合いの眼科医の奥様に、息子が関わった物があるんで良かったらってオススメしたの。その方、パソコンどころかずっとそろばんを使ってみえて」

    覚「そりゃまたレトロだな。でも慣れてる道具がいいんだろうな」

    美「苦手なパソコンシステムの導入は避けてみえたらしいけれど、私の言葉に心動いたみたいで。もう会社に連絡はされてると思うわ。もしかして手紙の方かも。芳江さんもエリさんも、吹聴しまくってるって言ってたし」

    瑠「すごーい。ネットの口コミなんかじゃなくて、本当の口伝えで広がってるんですね。あ、尊」

    僕「ん?」

    瑠「もう1つ書類預かってる。はい」

    僕「え?」

    速川尊様と書いてある、会社名の入った封筒を渡された。

    瑠「手紙らしいよ」

    僕「は?」

    覚「何だ」

    美「何て?」

    中を読み進める。

    僕「社長さんの名前で、多大なる貢献に心より感謝致します、ってお礼が書いてある」

    覚「そんな大ごとに!」

    僕「ご卒業後は弊社も選択肢としてご検討いただければ幸いでございます」

    美「入学したばかりよ」

    僕「もう1枚入ってる。こっちは瑠奈のお父さんの名前だ」

    瑠「うん。言ってた」

    覚「そちらは何だって?」

    僕「システム開発の契約とは別に、アルバイトで来て貰えませんか。週に1日2日でも構いません。君のような優秀な人材を会社一丸で求めています」

    美「あらー。びっくりし過ぎて、口が塞がらないわ」

    瑠「尊、天才なのがすぐにバレちゃったね」

    なんだか生活がどんどん変わっていきそうだ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、いよいよ車がやってきます。

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    続現代Days尊の進む道11~4月26日日曜

    大学生男子で一日両親と一緒に過ごすなんて、孝行息子。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    木村先生の講演日。早めに昼ごはんを済ませ、先に小垣城資料館にやって来た。19日に来たかったけど、混んでて資料がよく見えないと嫌だから今日まで我慢してたんだ。

    美香子「この中のどれかに、忠清くんや唯について書かれてあったりしないかしら」

    僕「だといいよね」

    ショーケースの中に並ぶ古文書。毎度の事ながら、読めない。

    覚「へー、ほほぅ」

    父が、小垣城の備品とされる燭台にやたらと興味を示している。

    覚「これは灯明皿でもいいし蝋燭でも使えるのか。2WAYなんだな。こっちは白い燭台か。珍しくないか?」

    美「お父さん。まさかこんなの家に欲しいとか言い出さないわよね」

    覚「ん?へへ~」

    美「すぐにハンガーが掛かるわよ。ここで見せていただくだけにして」

    覚「やっぱり?」

    僕「却下早ぇ」

    展示をじっくり見ているが、

    美香子の囁き「御月の名はどこにも出てこないわね」

    覚の囁き「だな」

    年表も、一部ぽっかり空いている。ちょうど木村政秀氏が御月家に仕えているだろう頃。

    僕の囁き「完全秘匿事項だったんだよ、きっと。兄さん達が追われる身にならないように」

    覚 囁き「そんなに上手くいくか?」

    美 囁き「でも木村先生もご存知なかったじゃない。羽木家にだけ仕えてきたように資料が残してあるなら、忠義ってそういうものじゃないの」

    奥まで進むと、ひっそりと甲冑が佇んでいた。

    覚「確か、唯が永禄で初めて出会った武将だったよな」

    僕「うん」

    美「感慨深いわ。この甲冑が、戦国時代も現代も唯に関わってるなんて」

    僕「450年以上の時を超えてね」

    ついつい興味深く見てしまい、小垣町民体育館に到着したのは開演時間ギリギリだった。何とか三人並べる場所を見つけ、着席した。

    美「普段から教壇に立ってみえるから、まんま歴史の授業な感じね」

    覚「だな」

    壇上の先生は、水を得た魚のようだ。興味深く聴かせてもらってたけど、そろそろ話もまとめに入る頃かな。

    木村「断腸の思いで小垣城を去る事となった政秀ですが、城代最後の夜を羽木の若君の祝言で飾れたと、後日手記に残しています」

    出た~!あったんだ!

    聴衆「おぉ…」

    どよめきがあり、拍手をする人も居た。この地域でも、羽木家は小学校で習うと瑠奈に聞いてはいたけど、反応が良くてちょっと嬉しいな。

    木「俄仕立てではあったが、微笑ましい婚儀で、この上ないはなむけになったと」

    微笑ましい、ねー。この辺は兄さんにも詳しくは聞いてないけど、

    僕「お姉ちゃんが色々やらかしたに違いないよね?あ、ごめん」

    両親は、一言一句聴き逃すまいと耳をそばだてていた。話しかけてすみません。

    木「夜明け前には若君が妻女を安全な場所へ逃がした、と記されておりますが、詳細はわかりかねます」

    だよね。会場の雰囲気的には、上手く逃がせて良かったね、さすが羽木の若君だといった感じに捉えられているみたい。

    覚「あの時は大変だったな」

    美「ホント」

    でも僕達は、その後お姉ちゃんが現代に帰されて起こる、人が変わったように落ち込んでいた半年に渡るあの顛末を思い出してしまう。その頃…木村先生、お姉ちゃんに会ってるな。随分と羽木家に執着する奴だと思ってただろうな。

    木「ご静聴ありがとうございました」

    終わりました。拍手。貴重な講演というか講義、聴けて良かった。

    美「もう先生にメールした?」

    僕「うん、今送った。ちゃんとお父さんお母さんの感想も書いといたよ」

    帰宅しお茶タイム中。母は資料館の小さいパンフレットを眺めている。父が、なぜかタブレットを取り出した。

    覚「ところで車、どうするつもりだ?」

    僕「いきなり?どうするって何」

    覚「こんなのが好み、とかないのか。探してやるぞ」

    僕「ないね。4人は乗れて荷物運べればいい」

    覚「ざっくりだな」

    僕「維持費や税金がかからない方がいいから、軽自動車かな」

    覚「軽かー。悪くはないが」

    美「いいんじゃない?家で3台目だもの」

    覚「なんつーかさ、今の若い兄ちゃん達ってあまり車に興味ない傾向なんだよな。瑠奈ちゃんはどうするって?」

    僕「ほぼ用途は身分証のみで、すぐには買わないみたいだよ」

    美「あら。お母さん、免許持ってらっしゃらないんじゃなかった?」

    僕「うん。それでも、家族で出かける時お父さんと運転代われればいい位に思ってるみたい。元々急いで取ろうとしてなかったし」

    覚「なるほどね」

    僕「僕としては、中古の軽でもいいよ」

    覚「欲がないなー。あ、まさか色々カスタムしたいとかか?」

    僕「しないよ。ちゃんと走りさえすればいい。それにさ、僕にカスタム許したら、もはや車じゃなくなると思うよ」

    覚&美香子「言える」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    小垣城の燭台ですが。ドラマSP内にて、2WAYは「持っていたのじゃ~!」、白いのは「唯様お入りになられまする」から「腹も決まった。よし!」辺りで確認できます。

    次回は、6月に入ります。

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    続現代Days尊の進む道10~3月下旬から4月中旬

    叩かれてすぐ口元を押さえてたけど、ケガもなかったようで良かった。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美香子「随分と思い切ったパーセンテージじゃない?」

    覚「今まで売れ行きが芳しくなかったらしい。起死回生を狙っていると見たぞ。上手くいけば会社の信用度が爆上がりだもんな」

    契約書類を母に見せている。

    美「尊のニヤつきが止まらないのは、違う理由よね。この幸せ者~」

    僕「は、はは」

    すいません。前に白昼夢で見た、瑠奈のウェディングドレス姿がチラついてまして。

    美「会社には何回か通うのよね?」

    僕「そんなには行かないよ。今月中には終わる予定」

    美「仕事が速いわね~。これで収入、少しは確保できそうだから、アルバイトは探さない?」

    僕「何とも言えないけど、いつお呼びがかかるかわからないから、しばらくはやらないつもりだよ」

    覚「思ったんだけどさ。得た収入の使い道」

    美「もう?先走りし過ぎじゃない?」

    覚「免許が取れた暁には車がもう1台あった方がいい。その資金にするとかどうだ」

    僕「あー。まぁ当面、一番高額な買い物だね」

    美「いつまで経ってもプラモデルさえ買えないかもしれないのに?」

    覚「ひとまず車は早めに購入して、それを出世払いでどうだ」

    僕「出世払い。了解しました。全然メドが立たなかったら、他でも働けと」

    覚「どう展開するか楽しみだな」

    ┅┅

    怒涛の3月が過ぎ、4月を迎えた。いよいよ大学に入学だ。

    覚「入学式は、前に買ったスーツで良さそうか?」

    僕「残念ながら」

    美「何が残念なのよ。新品を買えって?」

    以前、写真館でお姉ちゃんと兄さんの婚礼写真を撮った際に新調したスーツを着てみたのだが、

    僕「頑張って鍛えてるつもりなのに、スーツがキツくなくて」

    覚「前よりはしっくりきてるけどな。大人に近づいてるんだ」

    美「うん。着られてる感もないし」

    僕「そっか。少しは成長したかな」

    ┅┅

    大学生活は順調だ。車校も行きつつ、瑠奈との時間も作りつつ、タイムマシン関係も細々と作業を進めていて、忙しくしている。そんな中、木村先生からメールが届いた。

    美「合格おめでとうメール以来?」

    覚「4月なんかお忙しいだろうに。何て?」

    僕「19日に小垣城資料館が開館するじゃない。その関連でなんと、木村先生の講演が26日にあるんだって。講演名が、小垣城代末裔が紐解く地元の歴史。これは行かないと」

    覚「へぇ~」

    僕「入場無料だから良かったら皆さんで来てください、場所は小垣町民体育館で午後2時からですと」

    美「それは是非伺いたいわね」

    覚「三人で行くか。小垣なら、瑠奈ちゃんにも声かけたらどうだ」

    僕「そうしてみるよ」

    早速いつものビデオ通話で聞いてみた。

    瑠奈『26日は、法事があって家族で出かけるんだよね』

    僕「そっか、残念」

    瑠『ごめんね。戦国武将の末裔なんだ。有名な先生なの?』

    僕「違う歴史の話題で新聞に載った事あるよ」

    瑠『へー。よくそんなローカル情報、ゲットできたね』

    僕「先生から直接連絡あったから」

    瑠『直接!知り合い?』

    僕「姉の母校の先生なんだよ」

    瑠『それだけで?お姉さん達今地元に居ないのに?』

    あの話をしよう。そんなに影響はないだろうし。

    僕「以前、先生が不良に囲まれてた現場に僕と兄さんが偶然出くわしてさ、兄さんが見事成敗したんだ」

    瑠『えーっ!お兄さんってどっちの』

    僕「え。あ、下の姉の旦那さん」

    瑠『あー、背が高い方のお兄さんだね。覚えてるよ。何かスポーツやってた人なの?』

    僕「武術全般を」

    瑠『すごーい。だから臆せずに立ち向かえるんだね』

    僕「超イケメンでケンカも強いなんて、天は二物を与えてるよね」

    瑠奈がキョトンとしている。

    僕「へ?僕何か変な事言った?」

    瑠『お兄さん、確かに顔立ちは整ってたけど』

    僕「でしょ。一瞬、顔見てなかったかと思ったよ」

    瑠『尊だって二物を与えられてるじゃない。超賢くて超カッコいいもん』

    僕「それは褒め過ぎだって。僕なんか全然カッコ良くない」

    瑠『え?大好きな彼が世界で一番カッコいいに決まってるでしょ』

    わわ、ド直球!

    僕「あ、ありがとう。話戻すよ。先生に姉が教わっていたのは、後から知ったんだけどね」

    瑠『そこからの縁なんだー。ねぇ、尊はそのケンカの時どうしてたの?』

    僕「どうも何もほとんど兄さんが倒したし。一人だけビンタはしたけど」

    瑠『えっ。ケガはなかった?』

    僕「顔をはたかれたけど、かすった程度だったから」

    瑠『…』

    僕「どうしたの?」

    瑠『尊が勇敢過ぎて、ますますキュンです』

    僕「流れでそうなっただけだよ」

    瑠『でも、ケンカはできればしないで欲しい』

    僕「しないしない。たまたま兄さんが一緒だったからで、僕一人では何もできないし。心配しなくて大丈夫です」

    瑠『約束だよぉ』

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊のスーツ、は平成Days11no.364に登場します。

    次回は、講演日当日です。

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    続現代Days尊の進む道9~3月中旬から下旬

    18歳成人は2022年4月1日からなので、この頃尊はまだ未成年です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    自動車学校に通い始めた。なんやかやで、しょっちゅう瑠奈と過ごしている。

    僕「で、看護師さん達がすごく喜んでくれたんだ。格段に入力がしやすくなったって」

    瑠奈「そんなパソコンのデータシステムまでササッと直せるの?尊ってやっぱり天才!」

    僕「プログラム位は。今まで、苦労してるのに気付いてあげられなかったのが逆に申し訳なくてさ」

    瑠「ふぅん…」

    何か言いたげなのが気にはなったが、その場はここまでだった。そして翌日。

    瑠「あのね。勝手に話をしちゃってごめんなさいなんだけど」

    僕「何?」

    瑠「ウチのお父さんがね、プログラムの話、一度詳しく聞きたいって言ってるの」

    僕「へ?お父さん?」

    瑠「働いてる会社にIT部門があって、お父さんそこに居るんだけどね。尊があっという間にプログラム修正したんだよってしゃべったら、興味津々で」

    僕「はあ」

    瑠「名刺預かってきたから、電話だけでもしてくれるかなぁ」

    僕「いただきます…うわ、部長って書いてある。直接話せばいいの?瑠奈経由じゃなくて」

    瑠「これはビジネスだからって言われた」

    僕「え、そうなの。わかった。ひとまず連絡してみるね」

    早速電話する。

    瑠奈の父『尊くん、電話くれてありがとう。すぐこちらからかけ直すよ』

    僕「はい」

    作成に至る経緯や手順、かかった日数などを聞かれたけれど…何だろう。

    瑠父『よくわかったよ。あのさ尊くん』

    僕「はい」

    瑠父『唐突な話で申し訳ないんだけれどね、一度こちらまで来て貰えるとありがたいと思っている。その折にはご両親のどちらかも是非ご足労願いたい』

    僕「会社にですか。保護者同伴という事は、重要な話なんですね」

    瑠父『さすがに勘がいいね。君の為にもなると思うから、検討してくれるかい?』

    帰ってから両親に話をした。よくわからないがまず話は聞こう、だったら3月中がいいだろうと、後日父と訪れると決まった。

    ┅┅

    その当日。

    僕「ビル、デカっ」

    大きい乗り換え駅から徒歩圏内の場所にその会社はあった。着いてすぐ、小さな応接室に通されたんだけど…緊張で、体ガチガチだー。

    瑠父「お待たせしました、速川さん。いつも娘がお世話になっております。本日はお時間をいただきまして」

    覚「いえいえ、車で楽に来れましたし。駅近なのに駐車場の台数も確保されてて、素晴らしい社屋ですね」

    瑠父「ありがとうございます。では早速ですが本題に入らせてください。この度、速川尊さんと契約を結びたく、お父様にもご承諾を頂戴したいと、お越しいただいた次第なんです」

    覚「契約?!」

    僕「え?」

    瑠父「弊社のIT部門では、各種アプリだけでなく業務用システムも取り扱っております。力を入れてはいますが、他社との競争は激しさを増しており、頭一つ抜き出るには?足りないのは何か?ずっと悩みどころでした」

    覚「差別化は難しいですな」

    瑠父「そんな時に耳にした、尊くんの優しさ溢れる行動が、私の腹にストンと落ちたのです。これだったんだ、と」

    覚「業務システムをシニア仕様にシフトしたのがですか?」

    瑠父「はい。長年ご利用いただいているお客様には、世代交代がない所もある。見慣れた画面表示も、若い頃は何でもないが歳を重ねれば見にくくなる。パソコン利用者の年齢層には幅があるとわかっていたのに、なぜ今まで業務用に手を付けていなかったのか。深く反省もしました」

    覚「ウチのクリニックのように少人数でやっていたり、家族のみで経営だと年齢層は上がる一方で、年々目や体の負担は増えますね。そうですか…尊、意見はあるか?」

    僕「あ、えーと」

    まだ体固まってるけど、話さなきゃ。

    僕「僕気付いたんです。昔はできていたから頑張ろうと、看護師さん達は無理してたって。パソコン利用者をサポートするサービスありますよ?いやそういうのではない、中身も手順もわかるんだから。でも見にくい、で体に支障をきたす。そこで僕は、導入部分だけ楽にすればいいと思いました。あとは機械が全部やりますよってシステムは逆に違和感があったので」

    瑠父「見えない?できないんではなくて?と利用されている方の尊厳を傷つけるケースも発生しかねない所、尊くんはそうではなかった。その相手を立てるリスペクトの精神にも、感動を覚えました」

    僕「そんな、立派じゃないです」

    瑠父「では、ここからはビジネスの話をさせてください。弊社には既存の業務システムが幾つかあります。それを、尊くんにシニア仕様にバージョンアップしていただきたい」

    覚「それなら、貴社の社員さんでもできますよね。あえて尊なのはなぜですか」

    瑠父「アイデアは尊くんですから。今お使いになってみえる看護師の皆様の、貴重なご意見もふまえていただきたいですし。得手勝手に情報のみ搾取など致しません」

    覚「それは…ありがとうございます」

    瑠父「完成した折には弊社の販売ルートにのせます。売れた分だけ、何パーセントか尊くんに入るよう、契約をさせていただけませんか」

    僕「あのぅ」

    覚「どうした」

    僕「先に、アイデアの買い取りでおしまい、という選択肢もありますよね。会社の損得勘定的にそれでいいんですか?」

    瑠父「さすが頭の回転が速いね。大切な事に気付かせて貰えたお礼もありますし、この方が成果を実感できるでしょう?システム改修を取っ掛かりに、他の商品の売り上げも伸びると踏んでいますし。また今後、新たなプログラム作成をお願いするかもしれませんしね」

    覚「気を遣っていただいたとは。恐縮です」

    瑠父「いえ。何より尊くん」

    僕「はい」

    瑠父「いずれ息子になるかもしれない君と、円満な関係で居たいと思っているんだよ」

    僕「えっ」

    覚「ええー!それって」

    瑠父「すみません、いきなりなお話で。恋愛となるとどうにも暴走しがちな娘でご迷惑もおかけしているのですが、熱の入り方がそれはもう今までになくと言いますか。今日はどうだったあぁだったと、我が家で尊くんが話題に上らない日はありません」

    覚「それはありがたい話です。お嬢さんにはとても良くしていただいて、愚息には勿体ないと思っていますよ。な、尊」

    僕「恥ずかしいよ」

    そりゃ、願ったり叶ったりな話だよ。でも僕達まだ高校卒業したばっかだし…早過ぎない?

    瑠父「不束な娘で恐縮ですが、これからもよろしくお付き合いいただければと思っております」

    覚「こちらこそ、是非ともよろしくお願いします。良かったな~、尊」

    僕「うん…あ、ごめんなさい、はい!」

    軽くパニクってるけど、嬉しい。

    瑠父「ありがとうございます。それでは、契約内容について進めさせてください」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道8~3月14日土曜

    理容室は、この創作倶楽部no.951に登場するあのお店かも?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    両親が大騒ぎしている。

    美香子「あら~!いい、すごーく似合ってて、カッコいいわよ~。さすが瑠奈ちゃん、見立てが完璧!」

    覚「こなれ感って言うのか?今度から服選びもお願いしたらどうだ。トータルでプロデュースしてもらいな」

    話は朝に遡る。

    僕「ホワイトデーってどうすればいいかわからなかったから、プレゼントじゃなくてご飯やスイーツをご馳走しようとは思ってたんだ」

    覚「で、考えたプランが?」

    僕「まず眼鏡を買いに行く。視力検査とかあるけど1時間みておけばいいかなと。その後早めのランチ」

    覚「ん」

    僕「13時に理容室。ラストに今日の労いも兼ねてどーんとスイーツ三昧してもらう」

    覚「忙しいな。でも悪くない」

    僕「恋愛マスター的には及第点ですか」

    瑠奈と待ち合わせて、まずは黒羽駅前の眼鏡店からスタートした。

    瑠奈「フレームはね、考えたけどオーバルよりはスクエアなんだよね」

    僕「楕円より長方形ですか。細身だね。見た目インテリっぽくなったりしない?」

    瑠「しない。尊は、インテリ風じゃなくて本当に超賢いんだからこれでいいの」

    1時間程で受け取れるらしい。ラッキー。なのですぐランチに向かった。

    僕「ごめんね、急がせて」

    瑠「全然大丈夫だよ。まだ11時だけど、ランチやってる店近くにあるの?」

    僕「リサーチ済みです」

    瑠「さすがぁ」

    とは言っても、あのCafeMARGARETなんだけど。木村先生と来た時に、ランチメニューが充実してるなって思ってたんだ。

    瑠「パスタでカルボナーラかな。美味しそう」

    僕「僕オムライスにするよ」

    瑠奈が、食べている僕をじっと見ている。

    僕「どうしたの?」

    瑠「もうすぐ、新生たけるんに会えると思うとウキウキする」

    僕「しかと見届けてください」

    瑠「うん!」

    その後、眼鏡を受け取った。いい感じだ。理容室は小垣駅が最寄りなので、電車に乗って向かった。

    店主の母「いらっしゃい!尊くん。彼女さん、お母さんに聞いていた通りの美少女ね~」

    瑠奈と店主が、持参した写真を見ながら話し合っている。何かくすぐったい感じだ。

    店主「前髪は、この辺りまで動きをつけるよ」

    僕「はい」

    瑠「うふふ」

    プロにお任せだ。だって口出しできるほどわかってないし。何も分からぬ時は全て分かる顔で何も言わぬのじゃ。なーんて。瑠奈には待たせるばかりで申し訳ないと思いつつ、楽しんでくれてるようでありがたい。そして…

    瑠「イメージ通り!素敵!」

    僕「確かに新生」

    何かふわっとしてる。これは巷で聞く、髪を遊ばせるってヤツ?!でも全体じゃなくて頭頂部から前髪だけだから、僕でもキープできるらしい。襟足が短いのは瑠奈の好みだな。

    店「前髪は下ろす形にはしてあるけど、額を出しても決まるよ。やってみて」

    僕「はい」

    腕を出して前髪をかきあげてみた。そのしぐさに、瑠奈の目が輝いている。

    僕「なるほど。少し巻いてあるから、下を向いても髪が落ちてこないんですね」

    店「どうかな?彼女さん。リクエストどおりになってる?」

    瑠「はい、とっても!ありがとうございます!尊超カッコいい~。うっとりしちゃう~」

    店母「こんなに手放しで褒めてくれるなんて、尊くん大好きっ子なのねー。ちょっとアンタも、いつまでも独り身で居ないで」

    店「そこで俺に矛先かよ」

    僕「ははは」

    スイーツタイムは、フルーツいっぱいのタルトにご満悦だった。あちこち引っ張り回しちゃって悪かったけど、終始ゴキゲンだったし、堪能はしてもらえたんじゃないかな…。で、購入した眼鏡をかけて帰宅したところ、冒頭の反応だったと言う訳だ。

    僕「僕の話はもういいから。お母さん、頼みがあるんだけど」

    美「何」

    僕「クリニックのパソコン、少し触ってもいいかな」

    美「触るって?」

    僕「エリさんと芳江さんが楽に仕事できるようにしたくて。具体的には文字を大きくするとか入力欄を広げるとか」

    美「え?そんなのすぐにできるの?」

    僕「粗方考えてあるから。個人のデータとかは鍵かけてあるでしょ?」

    美「勿論」

    僕「その方が僕も安心だし。晩ごはん後に使わせてくれる?」

    美「それはいいけど」

    覚「いつの間に準備してたんだ?」

    僕「お二人が目ショボショボさせて辛そうだったから一刻も早くって思って、試験後すぐに考え始めた」

    美「はぁ~驚きね。お手並み拝見するわ」

    調整は週明けに間に合った。使い勝手が良くなってるといいけれど。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は3月も後半になります。

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    続現代Days尊の進む道7~3月11日昼から夕方

    ご招待にはそのような深淵な意図が。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「よし、昼飯にするか」

    四人で食卓を囲む。このメンバー、馴染んでて違和感ない気がするのは僕だけかな。

    瑠奈「わぁ、このはさみ揚げ美味しい!」

    僕「こっちのカレー味も食べてみて」

    瑠「うん…おじさま、こちらもとっても美味しいです!」

    覚「おほー。そうかいそうかい」

    美香子「はさみ揚げファンがまた増えたわね。瑠奈ちゃん、制服も良かったけど私服もいいわ~。ブラウスとかカーディガンとか」

    瑠「嬉しいです。ありがとうございます」

    美「女の子!って感じがいい。うんうん」

    覚「だな。家の中が華やかになる」

    両親がこんなに喜ぶのは、勿論彼女の魅力に他ならない。でも、雰囲気は随分違うけど歳が一つ違いの彼女に、今家に居たらこんな感じかと姉の姿を投影してるんじゃないかな。だからこれからも、ちょくちょく会わせてあげたいとは思うんだ。

    美「次はいつ来てくれるのかしら」

    僕「あれ、展開早いぞ」

    瑠「え…」

    僕の顔色を窺っている。

    僕「いいよいつでも。瑠奈さえ良ければ来て」

    瑠「わぁ。ありがとう」

    覚「嬉しいねぇ」

    美「ホントに。この後は、大学や自動車学校の書類作成を二人でするんだったわよね」

    僕「うん」

    瑠「私ね、写真も持ってきたよ。新しいヘアスタイル候補、プリントアウトしたんだ」

    僕「そうなの?ありがとう、考えてくれて」

    美「あら。至れり尽くせりね」

    覚「春にはイメチェンか」

    食事終了。食卓が片付いたところで、

    美「瑠奈ちゃん、今日の為にエプロン買ってくれたんでしょ。良かったら置いていって」

    瑠「いいんですか?でもお洗濯しないと」

    覚「洗濯は洗濯機がやるから気にしない。しかし感心するよ。よそのお宅の娘さんって、こんなに気遣いができるんだな」

    僕「よそのお宅ね。言える」

    各種書類を片っ端から作成中。

    瑠「大学、サークルとかどうする?」

    僕「入らないよ」

    瑠「そうなの?」

    僕「えーと、瑠奈との時間をできるだけ作りたいし」

    覚「おっ」

    美「あら」

    瑠「えー?嬉しいけど、実際にはやりたいことや究めたい事があるからでしょ」

    僕「まぁ、なきにしもあらず」

    瑠「だよね」

    僕「…何かは、聞かない?」

    瑠「尊が話す気になったら聞くよ」

    僕「ありがとう」

    両親が、このやり取りにかなり驚いているのが見て取れた。そうなんだよ、こういった、人の思いに立ち入り過ぎない所はホント尊敬する。そして、書類作成は順調に進んだ。

    僕「よし、終わった」

    美「見せて。…ふんふん、いいでしょう。瑠奈ちゃんの分は、親御さんに点検してもらってね」

    瑠「はい」

    ケーキと紅茶が出された。両親は、髪型候補の写真に見入っている。

    覚「いい感じじゃないか」

    美「ホントよね。瑠奈ちゃんセンスいい。尊、理容室行く当日はついてきて貰いなさい。二人で行くからよろしく、って予約の電話してあげるわ」

    僕「え!そんなの恥ずかしいよ」

    覚「何が恥ずかしい。自慢の彼女だろ。いいじゃないか、母さんの友人の店だし融通きかせてくれそうだ」

    美「だって尊。写真があるとはいえ、一人で説明できる自信あるの?」

    僕「ない」

    美「でしょ。えーっと明日明後日は手続きとか行くわよね。瑠奈ちゃん、土曜は空いてる?」

    瑠「土曜ですか」

    僕「わっ。その日はホワイトデーだから、一応デートのつもりだったんだけど」

    瑠「いいですよ、おばさま。その行きつけのお店の予約が取れるなら私、ついて行きます」

    僕「えぇぇ」

    美「何絶句してるのよ。デートプランでも練ってたの?」

    僕「いや、特には…」

    美「決まりね。まだ空いてるかしら~」

    僕「話早過ぎだって」

    電話をかけに、その場を離れた母。すぐに戻って来た。

    美「13時に取れたわよ。楽しみにしてるわ、って言ってたわ」

    僕「それはお母さんの方でしょ。切るのは息子だよ」

    美「尊の成長を喜んでるのよ。あと、眼鏡も作り直すじゃない。それもその日に行っちゃいなさい。瑠奈ちゃん、尊に似合うフレーム見てあげてくれないかしら」

    瑠「はい。わかりました」

    僕「いいの?勝手に決められてるけど」

    瑠「行くよ。というか行きたい。尊が変身していく過程が見られるもん」

    美「デートの機会が増えて一石二鳥」

    覚「素直に嬉しいって言いな」

    僕「はっ、祝着至極に存じます」

    瑠「ぷっ、あはは。尊って、時々口調が武士っぽくなるね」

    夕方、母の車で瑠奈の家まで送っていった。その帰り道。

    美「尊。お父さんとも前に話したんだけど」

    僕「ん?」

    美「彼女になら、唯やタイムマシンの秘密が明らかになってもいいわねって」

    僕「あー。さっき驚いてたよね。信用できるから?」

    美「うん。ホントいい子だし」

    僕「実は兄さんにも、いずれ一緒にタイムマシン造るだろうって言われてたんだ」

    美「そうだったの。忠清くんのお墨付きなら間違いなしね。でもまぁ、そうならざるを得ない時が来たらでいいとは思う」

    僕「うん…」

    そんな機会、来るのかな…。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回はホワイトデー当日です。

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    続現代Days尊の進む道6~3月6日金曜から11日水曜昼

    師匠と弟子二人?それとも。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ご報告です。本日発表があり、大学に無事合格しました。余裕と言いつつ一安心。ふぅ。

    覚「奮発したぞー」

    晩ごはんはすき焼き!やった~。

    僕「このお肉美味しい!」

    覚「だろ?」

    美香子「ご褒美よ。そうそう、エリさんと芳江さんね、心配は全くしてなかったって言ってたわよ~」

    僕「危ねっ。これで落ちてたら見せる顔がなかった」

    美「唯達にも…教えてあげたいわね」

    僕「あー」

    覚「話してなかったけどな、以前源三郎くんに聞かれててさ」

    僕「何を?」

    覚「大学は、入れなかったらどうなるのでしょうかって。行きたい気持ちがあるなら一年後に再挑戦するんだよって言ったら、もの凄く驚いてた」

    美「だったら今頃、心配で仕方ないんじゃないかしら」

    僕「うん…僕さ、思ったんだ。前にお姉ちゃんが言ってたじゃない。無事だったら知らせる、どうにかして絶対知らせるから、って」

    覚「言ってたな」

    僕「自分に置き換えてさ、こちらから何とかできないかって」

    美「それって…電話?メール?なーんて」

    覚「電報とかか?」

    僕「電報!サクラサク、って?それお姉ちゃんが理解できるかは微妙だよ」

    美「こっちも満開~とか言いそう。有り得る」

    覚「すまんすまん、ちょっと脱線したな。って事は?」

    僕「うん。瑠奈とほぼ毎晩パソコンでビデオ通話してるんだけど、これを永禄相手にできないかなって考え始めてる。月イチとかせめて年イチとか」

    美「ホントに?!新型タイムマシンの前に?」

    僕「作業は平行でやってくつもり」

    覚「ほー。夢がある話だが、大学行く時間あるか?アルバイトもするんだろ」

    僕「やれるだけやってみる。近頃、体力ついてきた感じだし」

    美「それでも、体壊すようでは本末転倒よ」

    僕「無理はしないようにするよ。で、話変わるけどさ、瑠奈がウチに来るって話、いよいよ遂行しようと思って」

    覚「おっ。いつでも大歓迎だぞ。昼飯をふるまうんだよな?」

    僕「そのつもり。お母さん、来週の水曜って忙しい?」

    美「諸々の用は午前中には終わる筈。平日よ?瑠奈ちゃんはその日でいいの?」

    僕「うん。クリニックは水曜休みって伝えたから。11日水曜で仮押さえにしてある」

    美「そうなの。だったらいいわよ」

    覚「了解。楽しみだな」

    僕「来てもらうのは土日でも良かったんだけどさ、実は思うところがありまして」

    覚&美香子「何」

    僕「今度の満月、10日じゃない」

    美「そう…ね。はいはい」

    覚「ちゃんとマークしたぞ」

    兄さんもよく眺めていた、月めくりの壁掛けカレンダー。父が、全ての満月の日付に黄色の丸いシールを貼りつけていた。

    僕「満月の日の献立ははさみ揚げでしょ。一日ずらしてもらって、月に一度の渾身の料理、是非瑠奈に食べさせてあげたいと思って」

    覚「二日連続でもいいぞ?」

    僕「新鮮に、一緒に味に感動したいから」

    覚「嬉しい事言ってくれる」

    僕「じゃあ、11日に決定って伝えるよ」

    美「そうね。これ最後のお肉。食べちゃって」

    僕「うん」

    ┅┅

    そして11日。瑠奈を駅まで迎えに行っていた。

    僕「ただいま」

    瑠奈「お邪魔します。こんにちは!おじさま」

    覚「おー。瑠奈ちゃん、いらっしゃい。ごめんな、車で迎えに出られずに」

    瑠「そんな、いいんです。あの、これ皆さんでどうぞって母が」

    覚「手土産なんかいいのに。ありがとう。いただくよ」

    僕「お母さんは、まだ?」

    覚「飯の時間には間に合うって言ってたぞ。瑠奈ちゃんさ」

    瑠「はい」

    覚「カレー味でちょっとスパイスきかせてるのは、苦手じゃないかい?」

    瑠「大丈夫です」

    僕「もしかして、忠清スパイス?」

    覚「へへ、使っちゃうよ~」

    瑠「おじさま、お手伝いします」

    覚「いいよ?お茶も出してなくて悪いね。座ってて」

    瑠「あの」

    鞄から何かを取り出した瑠奈。

    瑠「お手伝いするつもりで、エプロン持ってきたんです」

    覚「へー!」

    これには僕も驚いた。

    覚「若いのに。出来た娘さんだよ」

    瑠「可愛いいのがいいね、って母と買いに行きました」

    覚「わざわざかい?尊…お前、幸せ者だな」

    僕「仰せの通りです」

    その後三人でご飯の支度をしたけれど、瑠奈のエプロン姿が眩しくて。父は終始ご機嫌だし、僕はずっとニヤニヤしてた気がする。

    美「ごめんね~。遅くなりました」

    レンコンを揚げ始めた頃に、母が帰宅した。

    瑠「おばさま、こんにちは」

    美「瑠奈ちゃんいらっしゃい。あら!エプロン姿!もうお嫁に来てくれたの~?」

    ゲゲ!何言い出すの!下向いちゃったじゃないか!

    覚「母さん。からかうなよ、可哀想だろ。尊を選ぶかなんて決まってないんだから」

    美「それもそうね」

    瑠奈がクスっと笑った。えー、それ、どう捉えればいいの?

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道5~2月29日昼から3月2日月曜

    健やかに育ってくれるだけで、親孝行ではある。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    昼ごはんタイム。さすがに14時だと、フードコートの席も余裕があった。

    瑠奈「あ、そういえばね」

    僕「うん?」

    瑠「地元の小垣山にね、昔お城があったんだって。その跡地に資料館ができたの」

    僕「知ってる。つーか完成したんだ」

    小垣山。そのまんまの名前。そりゃそうか。

    瑠「さすが歴史通!町の広報に載ってたの。私も読んだけど、お母さんが尊くん知ってるかしらって言ってて」

    僕「いつ開館するかは知らないよ」

    木村先生には、もう少ししたら大学の合否、もちろん合格の報告がいいけど。を連絡しようと思っていた。

    瑠「確か4月19日、日曜って書いてあったはずだよ」

    僕「ありがとう。親に言っとくね」

    瑠「家族全員歴史好きなの?すごーい」

    好きというか、城跡見に行ってるし、木村先生のメールも読んだし。お姉ちゃんが関わる話は親も興味あるよ。

    僕「岩盤浴は満喫できた?」

    瑠「うん。一緒の時間も満喫できたし」

    僕「それは僕も同感です」

    瑠「ふふっ。良かったぁ」

    最後は瑠奈の自宅、というかマンションの入口まで送り、甘い一日が終わった。

    ┅┅

    3月。2日、高校の卒業式を迎えた。

    美香子「色々あった三年間よねぇ」

    僕「ホントだよ」

    覚「終了後は、クラスメートや瑠奈ちゃんとどこか行ったりするのか?」

    僕「ううん。写真はいっぱい撮ろうって話はしたけど、瑠奈はその後女子会するって言ってたし、特にイベントはなし」

    覚「そうか」

    僕「僕は、ミッションをこなすのみ」

    覚「ミッション?」

    美「何それ」

    僕「帰ったらね。じゃ、行ってきます」

    式はつつがなく進んでいた。僕はこの三年で、少しは成長できたかな。きっと、きっとできていると信じたい。兄さんに出会い、学んだ事は数知れず。源三郎さんもトヨさんも同じだ。勿論お姉ちゃんにも。あんなにひねくれてた自分が…いや、これも僕の歴史。糧になってるよね。

    クラスの男子「注目~!はい、バター」

    みつき「ちょっとそれ昭和~」

    教室に戻り、撮影大会が始まった。

    瑠「尊、こっちこっち。撮るよぉ」

    僕「はい。え、どのスマホ見ていいかわからないよ」

    み「どれもくまなく見てニッコリ笑う!」

    バッシャバッシャと撮りまくっている輪の中に自分が居るのがなんか不思議。今になって青春してる?そうしている内に、人がまばらになってきた。

    瑠「ごめんね尊、そろそろ行くよ。また夜話そうね」

    み「センセまたね~」

    僕「うん、また」

    瑠奈達を見送った後、教室を出た。廊下をゆっくり歩き、校門を出た所で振り返って校舎を臨んだ。お世話になりました、と呟いた。

    僕「ただいま」

    覚「おーお帰り」

    そのまま帰宅。食卓の席につくと、父はお茶を煎れてくれた。

    覚「思ったよりは遅かったな」

    僕「まあね」

    覚「あれ?筒は?」

    僕「筒って何。卒業証書ならこれだよ」

    リュックから厚手の二つ折りのホルダーを出した。

    覚「最近はこんな形なのか。へぇ~」

    僕「中、見ないの?」

    覚「母さんが仕事終わるまで、楽しみにとっておく。夜に恭しく拝見するよ」

    僕「贈呈式ね」

    晩ごはん後。

    僕「それでは」

    覚&美香子「はい」

    卒業証書を開いた。

    覚「おぉ」

    美香子「神々しいわ」

    しげしげと見つめて喜んでいる両親。

    美「ところで、今朝言ってたミッションって」

    覚「そうそう」

    僕「ミッションはね、これ。無事高校を卒業して、卒業証書を持ち帰る」

    美「へ?」

    覚「それだけ?」

    僕「そうだよ。お姉ちゃんが持ち帰らなかった卒業証書。だから僕は必ず見せてあげよう、とずっと思ってたんだ」

    美「…」

    覚「高校のはそうだな。確実に家まで運び、僕らが見る所までがミッションか」

    僕「うん」

    母が涙ぐんでいる。

    美「ありがとう、尊」

    僕「喜んでくれて嬉しいよ」

    覚「これ、壁にかけて飾っとくか?」

    僕「それは止めて」

    最後は三人で大笑いした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    案ずるまでもありませんが、次回は試験の結果発表からです。

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    続現代Days尊の進む道4~2月29日土曜朝から昼

    先日の台風、私は大きくは影響ありませんでしたが、皆様お変わりないでしょうか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    とことんじゃれ合っていただきます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    父が今日のデートコースを不思議がっている。

    覚「高校生カップルが昼間っからスーパー銭湯でまったり、ってのも何だが」

    僕「7人で行ったじゃない。それをあんまり楽しそうに僕が話すから、羨ましかったって言ってた」

    覚「そうか。送迎バスは小垣駅からも出てるんだよな?」

    僕「うん。だから小垣で待ち合わせ。9時半のバスに乗るつもりだからそろそろ行くよ。夕方には帰るね」

    覚「楽しんできな」

    小垣駅に到着。ロータリーにマイクロバスが停まっていて、その前で瑠奈が小さく手を振っていた。吉田城跡を横目にバスに乗り込む。

    瑠奈「このバスにも乗った事あるの?」

    僕「うん、黒羽駅に来る方に。もう一年以上前だけどね。懐かしいな」

    お姉ちゃんと兄さんと乗ったなぁ。

    瑠「尊の話聞いてると、このスパ銭行くのが速川家の一大イベントみたい」

    僕「あー。そうかも。みんな好きだからね」

    瑠「お姉さん達家族も?」

    僕「うん」

    あ、話逸らした方がいいな。

    僕「でも一番記憶に残ってるのは、サウナの中で無の境地になってたお父さん。仙人みたいでさ」

    瑠「おじさまが?想像できるかも。あはは~」

    ふぅ。セーフセーフ。

    瑠「ねぇ、眼鏡曇ってるよ。見えてる?」

    僕「何とか」

    到着後ササッと風呂に入り、お望み通りの岩盤浴真っ最中。

    僕「暑っ。一度休憩したいけど、もうすぐ12時か…お腹って空いてる?」

    瑠「ううん。でも私も暑さは限界間近」

    僕「フードコートは今の時間混んでるから、昼ごはんは後回しで、まず涼みに行こうか」

    瑠「はーい」

    休憩エリアに移動してきた。

    瑠「尊?どこまで行くの?」

    目指す場所に向かう。

    僕「ラッキー。今日はお客さん多いからどうかなと思ったけど」

    よくお姉ちゃんと兄さんがイチャついていたカップルシートが、運良く空いていた。

    瑠「…」

    こんな所に連れてきて、ドン引きしたかな。

    瑠「この微妙な隠れ加減…」

    僕「誤解しないで。僕は使った事ない。お姉ちゃん達がよくね」

    瑠「ホントかな」

    僕「ホントだよ。僕がこの場所を使う日がくるなんて、夢にも思わなかった。瑠奈に感謝しなきゃね」

    瑠「ふぅん…」

    僕「疑ってる?」

    瑠「言う事聞いてくれるなら、不問にする」

    僕「わかりました。お望みは何でしょう」

    瑠「先に入って寝転んで」

    僕「はい」

    言われるがまま、シートというよりミニベッドに滑り込んだ。

    瑠「片腕を横に出して、伸ばして」

    僕「はい…」

    これはまさかの…腕枕?!

    瑠「わぁい!」

    僕「うわっ」

    すぐさま、大喜びの表情で飛び込んできた!

    瑠「ごめぇん。ちょっと勢い余っちゃった。どこもぶつけたりしてない?」

    僕「大丈夫です…」

    いや、それよりですね、近い、近いんですよ瑠奈さん!そこ、腕というより肩だし!

    瑠「うふふ。たけるんの腕枕だぁ」

    僕「あの…」

    瑠「なに?」

    僕「僕、汗臭くない?すごく心配なんだけど」

    瑠「全然匂わないよ」

    良かった。まずは一安心。

    瑠「あっ!つい飛びついちゃったけど、私こそ匂ってる?」

    僕「ううん。甘い香りがする」

    酔ってしまいそう。

    瑠「たけるん…なんかいやらしい」

    僕「何でだよ。事実を述べたまでです」

    瑠「クサくないなら安心。ねぇ、眠くなっちゃった。少し眠ってもいい?」

    え。って事は、しばらくこの状態?マジすか!違う汗かきそう。緊張するけど、ここは落ち着け落ち着け。

    僕「僕の隣で良ければどうぞ。冷えるといけないから、タオルかけておくよ」

    瑠「優しーい。たけるん、おやすみぃ」

    僕「おやすみなさい」

    僕は眠るなんて無理!目が冴えまくり!しばらくは瑠奈姫を守ります。しかし、やかましい姉が帰った後で良かった。こんな姿見られようものなら、収拾つかなかったよ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君シャトルバスに乗る、のお話は、平成Days17no.388にて。

    続きます。

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    カマアイナさんへ

    ご自宅に直接の被害はなかったんですね。何よりです。

    日本の気象情報をよくご存知でいらっしゃいますね。仰せのとおり、私の住む東海地方近辺に台風接近中です。粗方の準備は済ませました。無事にやり過ごせるといいですが。

    尊くん、そうですね。大人への階段は登り始めたばかりです。そっと見守っていただければと思います。

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    夕月かかりてさんへ

    ご心配いただきありがとうございます。
    この島も2〜3山火事というよりは、海岸沿いの野原火事が起こりましたが、運良く人家への被害は無しで済みました。それにしてもハリケーンが1、000マイルも離れて通過したにもかかわらず、反対側の高気圧とに挟まれたせいで、あんなにも強風が吹きまくるとは知りませんでした。プルメリアもハイビスカスも沢山飛ばされていて、ちょっと壮観でした。普段飛び交っている鳥も、どこに隠れたのか1羽も見かけませんでしたし、夜中も暴風が吹き荒れて、さすがに延焼を少しは心配しました。
    マウイ島は、まだまだ被害者の特定が済んでないようで、今後も死者の数が増えそうだとニュースでは伝えています。気候変動で、色々な災害が頻度も強度もまして増加するそうですので、今後はハリケーンの直撃が無いように祈るばかりです。

    嵐が去った後は、いつもの爽やかな偏西風がそよいでいて、猛暑の日本に送ってあげたいです。また、東海、近畿には台風も接近しているとのことですので、皆様の住んでいらっしゃる所も大雨の被害など起こらないように祈っております。

    いよいよ尊も大学生ですね。どんな新しい生活が待っているのか、とても楽しみです。

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    続現代Days尊の進む道3~2月15日から27日木曜

    カマアイナさん。ハワイの山火事のニュースを見る度に案じております。お住まいはホノルル近郊ではなかったと認識しておりますが、生活に支障など出ていらっしゃいませんか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    画面に虫眼鏡当てたくなる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝のクリニック。エリさんと芳江さんがコーヒーを口にしているのだが、

    僕「お疲れですか」

    二人とも、頻りに眉間を押さえたり肩を上げ下げしているのが気になった。

    美香子「私がこき使っちゃってるのよね」

    芳江「いえいえ、そんな滅相もない」

    エリ「寄る年波に勝てないだけですよ~」

    芳「最近はね、特に目にきますね」

    エ「私も。ここ一年位でガタっと」

    僕「大変そう」

    美「うーん。人を増やすってのも考えたんだけどねぇ」

    母がチラっと僕の顔を見た。

    僕「何?」

    美「タイムマシンとか唯が家に居ない理由とかをね、これ以上他の人に知られる機会が少ない方がいいかしら、って思って求人を躊躇しちゃって」

    僕「それって…風が吹けば桶屋が儲かる的な話で、僕がタイムマシン造ったから芳江さんやエリさんが大変な思いをしてるの?それはごめんなさい」

    エ「いえいえ、尊くんは何も悪くないですよ」

    僕「お二人が辛そうにしてるのは、見てて僕も辛いです」

    芳「ほとんどのお仕事は全然大丈夫なんですけどね」

    エ「私達が苦手というか手こずっているのは、パソコンです」

    僕「パソコン。ですか」

    エ「何と言いますか、こういう業務系のシステムって、文字が小さいとか欄が狭いとかで、シニア世代には優しくないんですよ」

    僕「そうなんだ」

    芳「休み休みやりますし、メガネ型の拡大ルーペも買いましたし」

    エ「私も買いました。何とかやっていきますから、心配無用ですよ」

    美「私もできるだけ二人に負担かけないようにするわ」

    僕「僕、入力とか手伝おうか」

    美「要らない」

    僕「そうなの?」

    美「気持ちだけ貰っておくわ。尊は春からの新生活に全力投球しなさい」

    エ「そうですよ。尊くんはやらなければならない事が沢山ありますからね」

    芳「気にしないでくださいね」

    僕「はい…」

    リビングに戻って来た。

    覚「おー、お使いありがとな」

    僕「うん…」

    覚「何だ、今度は考え事か?」

    僕「ちょっとね。もう部屋に行くよ」

    覚「ん」

    部屋に戻ってからも、考えていた。

    僕「お二人の力になりたい。パソコン問題なら何とかなりそうだから、最終試験終わったら手をつけよう」

    決意表明をして、それからは勉強に打ち込んだ。

    ┅┅

    2月26日に最終試験が終わった。その翌日。

    瑠奈「ねぇねぇ、岩盤浴いつ行く?」

    僕「岩盤浴?」

    瑠「試験終わったら一緒に行こう、って言ってくれたでしょ」

    そんな約束したっけ?あー、話した話した!瑠奈が家に来た日に。

    僕「そうだったね」

    瑠「楽しみにしてたんだよぉ」

    危ねっ。機嫌を損ねるところだった。

    僕「だったら今週末はどう?土曜日とか」

    瑠「土曜ね。了解でーす。わぁ!久々のデート!」

    僕「そうだね。僕も楽しみだよ」

    クールに装ってるけど、デート、デート…かなり喜んでます。

    瑠「来週は、月曜日が卒業式で金曜日が合格発表でしょ。だから怒涛の一週間の前にデトックスはちょうどいいかも」

    僕「すっきりさっぱりとね」

    そうそう、もう一つの約束は覚えてるよ。

    僕「それもだけど、無事合格したら家に遊びに来るよね」

    瑠「うん、行きたい」

    僕「親に話したらお父さんがノリノリでさ、料理何にするか今から考えてるんだよ」

    瑠「待っててもらえてるの?嬉しい」

    僕「また日にち決めようね」

    瑠「うん!今度はちゃんとアポイントメントとります」

    僕「ははは」

    大学決まったような話してるけど、今更あーだこーだもないし。でも来月って、かなり慌ただしいよな。入学準備、自動車学校通学に向けて眼鏡作り直せって言われてるし、髪も切るんだった。でも生活がガラリと変わるんだから、こんなものなんだろうな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、岩盤浴デートからスタートです。

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    続現代Days尊の進む道2~2月14日金曜から15日土曜

    てんころりんさん、カマアイナさん。ご声援ありがとうございます。
    しばらく、ゆるゆる物語にお付き合いくださいませ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    遅れてやって来た青春恋愛模様なら、尚更満喫して欲しいと思うのです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    受験生にも恋愛系イベントはやってくる。今日はバレンタインデーだ。

    みつき「来た来た」

    瑠奈「たけるーん!」

    僕「え」

    朝。登校すると、校門に瑠奈とミッキーさんが居て驚いた。

    僕「おはよう、ございます」

    瑠「おはよぉ」

    み「おはよう、センセ」

    僕「寒いのに、ここで待ってたの?」

    瑠「そんなに待ってないよ」

    み「センセの登校時間は把握してるし」

    僕「それにしても」

    み「はい、どうして今朝私達がここに居るのかはわかるでしょ。教室だと目立つからさ。いつもお世話になってまーす!」

    お辞儀をしながら紙袋を渡された。

    僕「あ、ありがとう」

    み「悪いけど、彼氏のとは差つけたから」

    僕「当然だよ」

    み「小さいチョコの詰め合わせ的な物。勉強の合間につまめるように」

    僕「それは、お気遣い痛み入りまする」

    み「そう来たか。うむ、苦しゅうないぞ」

    僕「ははは」

    み「では私はここで。お先に!さらばじゃ~」

    ミッキーさんは颯爽と駆け出して行ってしまった。

    僕「動きに無駄がないな」

    瑠「たけるん」

    僕「あ、はい」

    瑠「これ私から。受け取ってください」

    僕「ありがとう」

    今開けた方がいいのかな。でもこの綺麗なラッピング、元通りに戻せる自信ないな…。

    瑠「尊の部屋に、天文学の本があったの思い出して」

    僕「うん?」

    瑠「惑星みたいな柄の、真ん丸でツヤツヤなチョコがあったから、それにしたの」

    僕「へぇ、そんなのあるんだ。これ、今開けずに持ち帰ってもいいかな」

    瑠「いいよ」

    僕「楽しみは家までとっておくね。じゃあそろそろ、教室に行こっか」

    チョコの包み二つをリュックにしまった。歩き出そうとすると、

    瑠「お願いがあるの」

    僕「お願い。何でしょう」

    瑠「手、繋ぎたい」

    僕「…朝から?」

    帰りはいつも繋いでるけど。すみません、恋愛を謳歌してます。

    瑠「朝からがいい」

    周りを見渡すと、あちこちでチョコの受け渡しが行われていて、この辺りだけ何と言うかラブ全開!な感じではある。

    瑠「ダメ?悪いコかな。困る?」

    僕「悪いコじゃないし困らないよ。はい」

    手を差し出すと、満面の笑みで駆け寄ってきた。な、なんて可愛らしいんだ。

    瑠「うふふ」

    手を取り歩き出す。途中、クラスの男子に冷やかされたけど、それさえも心地よい。高校生活最後の最後で訪れたこんな日々。瑠奈には感謝するばかりだし、できるだけ望みは叶えてあげたい。ん?これって…

    ┅┅回想。実験室で若君と将棋対局中┅┅

    若君「唯が望み喜ぶ事を、何なりと叶えてやりたい」

    僕 心の声(しぇ~!お姉ちゃん、愛されてる!)

    ┅┅回想終わり┅┅

    兄さんに一歩近づいたかな。近づくなんて、おこがましいか~。

    ┅┅

    翌日は土曜日だった。朝ごはんの後、そのまま食卓でぼんやり椅子に座っていた。

    覚「ちゃんと寝たのか?ポーっとして」

    僕「寝たよ」

    ゆうべ。ミッキーさんに貰ったチョコは、原産国が様々で多くの種類が入っており、一つ一つ包み紙を眺めて楽しんでいた。瑠奈に貰ったチョコは、チョコ自体が目を見張る程美しかったので、同じく机に並べてずっと眺めていた。要は、初めてのバレンタインデーに浮かれてて、今も夢心地という訳だ。

    覚「まだここでウダウダしてるなら、これ持って行ってくれよ」

    僕「あ、うん。わかった」

    クリニックにコーヒーを運ぶ役目を仰せつかった。

    僕「おはようございます」

    美香子「あら珍しい」

    僕「試験勉強はもう少し後で始めるから」

    エリ「おはようございます、尊くん。お久しぶりですね」

    芳江「おはようございまーす。あらら尊くん忙しいでしょうに」

    後から思い返すと、この時エリさんと芳江さんに会っておいて本当に良かった。お役にも立てたし、その後の僕にも大きく影響したし。人生どう転ぶかわからないものだと痛切に感じた一件だった。それが何かは、またおいおい話します。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    夕月かかりてさんへ

    あのぷくぷくさんの大作を最後にもう次の連載は出てこないのではと、とても寂しく思っていました。何故か8月1日の尊目線での連載の発表を見過ごしてしまい、今日になって初回を読ませていただきました。数行読み出しただけで、速川家の面々が想起させてくれる雰囲気が心に戻って来て、もうあの一家の醸し出す暖かさに包まれるようです。途中どこかで唯や若君のその後にも触れることが出来るのかなと、淡い期待も抱きながら、今後の展開を楽しみにしています。
    連載の再開、本当にありがとうございます。

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    お久しぶりです👋😄

    夕月かかりてさん、お待ちしてました!
    またよろしくお願いします。
    お話は2020年まで来たのですね!
    ドラマのSPを見た後、こんな風に戦国との交流が続いていくことを願ってました。

    私が原作を読んだのは放送後1年経ってから、更に〈新婚編〉を読んだのはつい最近です😅
    アシガール Season2… 今暫く読まずにいようと思います。

    原作から見れば、ドラマのアシガールはパラレルワールドでした。
    創作倶楽部の皆さんの物語もまたパラレルワールドです!🌐🧳🕰️
    楽しみに読ませて頂きます!

    ブロックごとに目次のような投稿Noの案内と、最後に振り返りやまとめを書いて頂いて本当に助かりました。
    後から探しやすく思い出しやすくなります。ありがとうございます。

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    (新)続現代Days尊の進む道1~2020年1月16日木曜から2月初旬

    今回のシリーズは、一話に何日分かまとまるケースが多くなります。
    あと、尊目線なので、セリフ前の表記が尊→僕に変わっております。

    では尊くん、よろしくお願いします。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕「ふーん」

    美香子「中々いいわね~」

    1月16日。家の二階、源三郎さんとトヨさんが使っていた予備室。兄さんと源三郎さんが組み立てたテーブルが既に運びこんであったのだが、せっかくだからとその上に、父が写真をずらりと並べていた。

    覚「下には置ききれないしさ」

    僕「確かに。兄さんの意向でお花の写真立てはリビングにあるけど、それでも今回随分増えたもんね」

    美「…」

    覚「どうした?」

    美「この部屋に来れば…ね、と思って」

    覚「ん…」

    わかる。こんなに四人に見つめられて。賑やかだけど、かえって淋しいよね。でも淋しいと口にしてしまうと、もっと淋しくなるからだ。

    僕「ここでいつでも笑顔に会えるよ」

    覚「そうだな。毎日拝むか」

    美「うん。そうする。部屋の前通る度に」

    僕「え、一日一回じゃなくて毎回なの?」

    美「何とかの一つ覚えみたいな物よ」

    僕「別にいいけどさ」

    美「伝統芸能、ね」

    僕「あぁ。…懐かしいな」

    覚「ははは」

    三人で笑いながら、そっと部屋のドアを閉めた。

    ┅┅

    18日、土曜日。

    覚「頑張ってこいよ」

    美「余裕だ、なんて気を緩めちゃ駄目よ」

    僕「うん。行ってくるね」

    いよいよセンター試験が始まる。気を引き締めないとな。電車で会場に向かっていると、瑠奈からLINEが届いた。

    瑠奈の投稿『春からは朝も一緒の電車で通学したいな』

    そうだね。

    瑠 投稿『いっぱい念を送るから!』

    念?画面いっぱいに、ハートがめっちゃ飛びまくってますけど。ははは。

    瑠 投稿『がんばってね』

    はい。心して挑みます。

    ┅┅

    そして、まずは二日間の日程が終了した。その夜、晩ごはんの後。

    覚「まだ全部終わってはいないんだが、話をしておく」

    僕「うん?」

    覚「早い内に、車の免許取っときな」

    僕「免許!はぁ」

    美「あって損はないでしょ」

    僕「そう…だね」

    美「瑠奈ちゃんと、ドライブデートできちゃうわよ~?」

    僕「あー、まぁ」

    覚「彼女はその辺りどうしてるんだ?推薦で、日程に余裕があっただろ」

    僕「何も聞いてない」

    覚「一度話してみな」

    僕「わかった」

    早速、部屋でビデオ通話中に聞いてみた。

    瑠奈『免許は、大学入ってしばらくしたら取りに行こうかなぁくらいに思ってた。早く行きなさいって言われてるの?』

    僕「うん。何かアルバイトに行くにしても、車には乗れた方がいいだろって。3月中には通い始められるよう、準備しようかと思ってる」

    瑠『そっか。私も一緒に通おっかな』

    僕「そうする?」

    瑠『うん』

    結果としてこの選択は大正解だった。あれこれ考えたり後回しにしたりせず、ただやる、ってのも悪くない。

    ┅┅

    2月に入った。月末に最終試験を控えているので何となく足元がフワフワした感じだけど、少しずつ春は近づいている気がする。

    瑠「それ、好き」

    僕「好き?」

    瑠「前髪かきあげるしぐさ」

    帰りの電車内。髪がだいぶ伸びてきたから、そろそろ切りに行かなくてはと思っていたところだった。

    僕「髪は長めがお好みなの?」

    瑠「襟足が長いのは好きじゃないよ」

    僕「そうなんだ」

    瑠「だけど尊は、前髪はもう少し伸ばしてふわっとさせても似合うと思う」

    僕「へぇ」

    瑠「うん」

    僕「僕そういうの全然わからないから。瑠奈が考えてくれるなら、新しい髪型に挑戦してもいいけど」

    瑠「え、いいの?」

    僕「もうすぐ春だし。それもいいかなって」

    瑠「尊にしては珍しい発言」

    僕「言うね。まぁ、たまにはさ」

    瑠「だったら、大学はニューヘアスタイルでデビュー?」

    僕「そうなるね」

    瑠「わぁ、責任重大じゃない!…ううん、さてはモテモテになって出会った他の女と仲良くなろう、なんて」

    僕「またそんな事言う。有り得ないから」

    瑠「尊のキャンパスには女子がいっぱい居るもん。素敵!って言い寄られて」

    僕「ないない」

    瑠「どうしてそう言えるの?」

    僕「瑠奈以上の女性は居ないから目移りなんてしないよ」

    瑠「…」

    え、何?

    瑠「そんなセリフ、真顔でサラっと言うなんて。ドキドキしちゃう」

    あー。そんなキザなセリフだなんて気づいてなかった。マジでそう思ってるからだろうな。

    瑠「嬉しい」

    僕「どういたしまして」

    瑠「では安心して、髪型を熟考させていただきまーす」

    僕「よろしくお願いします」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、バレンタインデーからのスタートです。

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    新連載のお知らせ

    皆様、ご無沙汰しております。夕月かかりてでございます。

    お知らせの前に、まずはぷくぷく様。大巨編の感想が大変遅くなりました。アシガール本家超えの時空跨ぎ!感服いたしました。今自分がどこに居るかわからなくなりそうでした。ぷくぷくさんのお話と比べ私の創作話など、近所をウロウロしてるようなモノでございます。

    そんなウロウロしかできない私ですが、以前お伝えした現代Daysの続きを始めたく、戻って参りました。またしばらくこちらにお邪魔させてください。

    今回はマイナーチェンジしまして、語り部は尊です。お話の最初と最後の説明は作者がいたしますが、文中は彼の目線で進みます。パラレルワールド全開。原作で新シーズンが始まっていますが、勝手ながらこのまま突っ走ります。

    ほぼ全編現代でのお話となりますが、永禄の面々もいずれは…相当先ですが登場しますので、今しばらくお待ちください。

    数日後にスタートします。投稿間隔は、変わらず3~5日に一度の予定です。

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    幸せな世界

    てんころりんさん
    カマアイナさん
    皆様
    楽しんでいただけているご様子
    有難うございます。
    創作中、脳内で撮影をして一人、続編を楽しんでおりました(^-^)
    現実は殺伐とした事の多い世の中ですが
    創造(妄想)の世界は幸せがあふれた世界であって欲しいと言う思いからか、
    創造作家さんや私もそうですが皆、自然と幸せがあふれる物語になるのではないかと考えます。
    ですがそれはひとえに、【アシガール】のドラマの世界観が戦の時代の話であっても、そこに優しさや幸せと思える場面がある。それが、ずっと皆様の心の中に残っているのではと思います。
    携わった方々の努力により出来上がった幸せな世界に出会えた事を感謝しています。
    勿論、好き勝手に物語を書かき、それを載せて下ったマスターさんにも感謝しております。

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    ぷくぷくさんへ

    お礼が遅くなり大変失礼いたしました。
    壮大なタイムスケールのお話で、読みながらこちらの心もすっ飛びました。
    読み返して見ましたが、よくこれだけの数世代に及ぶ繋がりを紡いだものだと感心してしまいました。本当に、これだけの大作をご苦労様でした。
    どうぞ、ゆっくりお休みになって、また気の向く事があったらいつか、他の主人公を軸にでも、また創作に戻ってください。
    誠にありがとうございました。

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    取り急ぎ…

    と言いながらもう2日、とにかく一言でも、タイムリーな内に書くことにします。

    ぷくぷくさん、本当に 大変 大変 お疲れ様でした。👏👏👏👏👏
    公式掲示板の“隙間/妄想脚本”から、アシカフェの“長編”シリーズものへと、ぷくぷくさんの世界を見せてくださいました。
    ありがとうございました。💐 ☕🍮
    アシガールのドラマ続編として、多分ご自身でイメージされたことを書き抜かれたのかなと思ってます。

    NHK掲示板の時から 5年を過ぎ、私の場合も、身辺環境の変化あり、年は争えず体力面は落ち、出たら直ぐ読み、すぐ準備して(感想と言わせて頂ければ)すぐ書いて‥ とは行かなくなりました。
    自分のテーマで書いている投稿も以前より時間が掛かります。
    マイペースに読んで遅れて書くようなことで、作家の皆さまには大変失礼して、申し訳ありません。

    実は今回ぷくぷくさんの前作『如古坊の楽しくも切ない思い出』と合わせて読み進んでました。
    時間が経ち忘れていて、微妙に絡み合ってるので、読み直しましたがまだ終えていません。
    そんな訳で私自身が中途半端ですが、ぷくぷくさんがアシガールの登場人物、皆の幸せを願い書かれたこと伝わります。

    私の注文に応じて高山の坂口殿の立つ瀬も作ってくださり、感謝です。
    高山宗熊の恋は成就して、如古坊も現代を体験!
    “幸子”に“鐘ヶ江ふき”を重ねたのも、ふきの幸せを思われてかなぁと。
    後の尊の研究成果や、タイムマシン研究の後継者も現れ… この人がキーパーソンでしたね。
    糸を紡ぎ、経糸に緯糸を通す創作は、本当に大変な作業だと思います。

    筆を置くと書かれてますが、期限なく休まれ、思い立った時、可能な時がありましたら、ショート作品で、またよろしく。🥳 他の部屋(板?)でもお話できたら嬉しいです。

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    発明品

    先日ニュースで有名企業が通信や色々をゴーグル型の発明品で体験できると。
    私の妄想の中での発明品の眼鏡型の通信やインターネットを見られるなんて考えましたが、やはり考える方は居て、考えだけではなくそれを形にする。
    やっぱり頭のいい人は凄い事を考えるなぁ(^-^)
    頭のいい人達が色々考え、形にしてくれる世の中は、妄想の中の尊のセリフで「安全が広まる」
    そんな世の中になればいいなぁと思う今日この頃です(^-^)

    失礼しました((^-^))

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    永久不変

    勝手に完結させた文章で申し訳ございません。
    今回の作品を持ちまして創作(妄想)作家の筆をおく事となりました。
    有難うございました。
    ですが(ドラマ)アシガールは私の中で永久に変わる事のないこの上ない作品であります。
    皆様と願いは同じで、同じメンバーでのシーズン2または2時間のSPです。
    いつか叶う日が来ることを祈っています。
    作家活動は無いですが、マスターさんが作ってくださったこの場所は私の拠り所でありますからチョクチョク覗きに来ます(^-^)

    これからもよろしくお願いします。

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    過去&永禄&現在⑳

    =現在 2170年=

    ナレ:元の世界に戻って来た理樹弥は翌日、妻を黒羽城址公園に行こうと誘った。
    妻:「どうしたの急に?」
    理:「ん。たまにはってさ」
    妻:「まぁいいけど。久し振りね、あなたと出掛けるのって」
    理:「そうでもないだろ、買い物の荷物持ちしてるだろ」
    妻:「それはそれ。デートは随分していなかったじゃないの」
    理:「そうだったか、言ってくれれば」
    妻:「あなたは部屋に籠って何かしてるから、誘い難かったのよ」
    理:「そうだな、すまない」
    妻:「まぁ、今に始まった事じゃないし、承知で一緒になったんだしね」
    理:「そうだな」
    ナレ:妻は素直に車に乗り込んだ。今の世も悲しいかな犯罪は起こる。だが100年前に自動車の安全装置普及率100%になる頃から車の故障事故はあっても、車による死亡事故は毎年ゼロ。自転車本体にも安全装置が義務づけられ、自転車道も整備され、150年前に違反についても定められ事故は少ない。理樹弥は流れる景色を見ていて、忠清や唯、尊にも見せてあげたいと考えていると車中に警告音が鳴り響いた。脇に寄せ停車した。
    妻:「あなた今、考え事してたでしょ。気を付けてよ」
    理:「すまない」
    ナレ:理樹弥は音を止める為、OFFのボタンを押した時にもしやと驚いた。気付かなかったがボタンの下に小さくローマ字で【HAYAKAWA】と。理樹弥の考え通りその装置も尊が開発した物だった。尊が若い頃には居眠り運転防止は開発されていた。尊が運転中に考え事をして気づくと交差点を超えていたことがあった。無意識に運転している時間があった。何事もなく過ぎたがもし何か遭ってはと考えた尊は、昔から存在する人の視線で分かる事をデータ化している機関に出向き、話を聞き研究し、考え事をしている時に作動するシステムを開発した。尊は昔から特許申請はしていないのでそのシステムを形にする企業に譲渡した。その企業も尊の功績に敬意を表しその装置を【HAYAKAWA】と名付けた。
    妻:「今まで作動していなかったから有難みは分からなかったけど、凄いわよね、まるで人の考えている事が分かるみたいで」
    理:「そうだな。作動しないように気を付いけないとな」
    ナレ:周りを確認して発進。城址公園の駐車場に到着した。妻が先に資料館の中へ。世の中がどんなに進化していても〔古き良き物は残す〕その精神は昔と変わらない。
    妻:「この資料館に来たのって、いつ振りかしら」
    ナレ:そう言いながら妻は展示品を見ていた。その後姿を見て理樹弥は、本当に良い人を妻に出来たと笑顔に。すると妻が振り向き、
    妻:「何よニヤけて、此処に来ることがそんなに嬉しいの?」
    理:「あぁそうだよ」
    妻:「変な人」
    ナレ:尊の元に行った時、チェストの上に置かれた写真の数々の中に海を背に写した写真があった。尊が写る人を説明してくれた。
    理:「まさか600年後にあの人とそっくりな女性が妻になるとはほんと、不思議だね」
    妻:「突っ立って、どうしたの?」
    理:「何でもない」
    ナレ:妻の後を歩いて行った。妻はあの写真に写る吉乃に似ていた。尊が吉乃の事も聞かせてくれていたが目の前に居る妻も吉乃と同じような人だと知った。
    妻:「羽木忠清ってどんな人だったのかしら」
    理:「えっ?」
    妻:「何を驚いてるのよ」
    理:「何でもないよ。そうだな、きっと素敵な人だったんじゃないか」
    妻:「そうかもね。この黒い鎧もカッコイイから、これを着こなせるんだからね」
    理:「そうだな」
    ナレ:羽木が生き延び、立派な天守閣や櫓を。天災により一部破損した天守閣も修復され、小規模だった資料館も大きな建物に建替えられていた。唯が永禄に行った辺りから、現代では資料が見つかり、それらが展示されていた。忠清の着物や刀、鎧などが。特に小平太が被っていた兜が戦隊モノに出ている様な形なので昔から子供に人気だった。
    妻:「本当これって変わった形よね。ほら、彰浩が小さい頃に来て、これが欲しいってダダをこねてたわね」
    理:「そうだったな。今は二十歳で月日が経つのは早いねぇ」
    妻:「何それ?」
    理:「なんでもない」
    妻:「あれ、これ?前に来た時は無かったわね」
    理:「そうだな」
    ナレ:展示物の中に色褪せているが尊の作った【まぼ兵くん】と【でんでん丸】が有った。30年前に天守閣の修復の際に手つかずだった内部を調査した時に発見された。展示名・説明書きは無い。添えられた解説には【いつの時代の物か解明できていない。だが、ロマンとするならば室町時代の物と思いたい。だが、何の為の物か、プラスチックが存在したのかなどの解明は出来ていない。専門家は戦国時代に現代の仕組みや同じと思われる素材が存在していたならば羽木家に計り知れない能力を持つカラクリ職人が存在したのではないかと思われる】と。
    妻:「この解説した人は、なんか随分これに思入れが有るみたいって思うわよねぇ」
    理:「そうかもな」
    妻:「何もわからないって。でも、これって、本当にこの時代に有った物なの?」
    理:「えっ?」
    妻:「何驚いてるのよ?」
    理:「別に」
    妻:「何かの時に紛れたとかって普通は考えると思うのよねぇ」
    理:「まぁ。でも、他の品物と一緒に見つかったんだから、そうなんじゃないかな」
    理:「まぁねぇ」
    ナレ:妻は次の展示物を見ていた。
    理:「此処に速川尊作と入れたいですね。速川さん・・・ふっ」
    妻:「あなた何か言った?」
    理:「いいや、何も・・・えっ?」
    ナレ:視線の先に展示物の移動をしている資料館の者だろう。その人物を見て理樹弥は驚いた。
    妻:「どうしたの?」
    ナレ:その人物が理樹弥に気づいて近づいてきた。
    忠:「どうされました?」
    理:「いえ、あの、この資料館の方ですよね」
    忠:「はい。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。私は御月忠直と申します」
    理:「御月?」
    忠:「はい。父が21代目で、私は22二代目になります。長男は必ず忠の文字が名前に使われていまして」
    理:「そうでしたか。年表の空白の年代が有りますね」
    忠:「はい。羽木家の資料も出てきてはいますが、10代前当りの羽木忠清などの記述は家臣の手記が発見されており判明している事もありますが、羽木から御月になった経緯は残されておりません。未だにその理由は分かっていないのです」
    理:「そうですか。あの羽木忠清には妻が居たかと」
    忠:「はい。よくご存じで。ですが、詳しくは分からないのです。家臣の手記にも羽木家の前に突然現れらたと。そして、その者を守り神だと言う者も居たと記されておりましたが、それ以外は。それも空白の年代の資料でも出てくれば、もっと詳しく分かるのではないかと」
    理:「そうですか」
    ナレ:理樹弥は自分がその頃の事を知ったとしても、もう歴史を変えてはならないと思った。
    忠:「どうしました?」
    理:「何でもありません?」
    妻:「では、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか?」
    忠:「はい。どう言った事を?」
    ナレ:さっき見て来た説明のつかない物の事を聞いてみた。
    忠:「はい。よく質問を受けます。確かに解明できなく」
    妻:「そう言った物を何故、展示しているのかなぁって」
    忠:「私もあの品物を見たのはここに勤める様になってからでして、倉庫を整理している時に見つけて、理由は分かりませんが、とても気になりまして、反対を押して展示しています」
    妻:「もしかしてあの説明はあなたが?」
    忠:「はい。やはりおかしいでしょうか?」
    理:「そんな事ないですよ。世の中には不思議な事が起こりますから。あれもきっとあの時代に存在していたのだと私も思いますよ」
    忠:「ありがとうございます」
    ナレ:忠直が遠くで呼ばれた。
    忠:「ごゆっくり」
    理:「はい」
    妻:「忠清ってあの鎧の?」
    理:「そうだよ。きっと忠清という人もあの忠直さんのような人だったんじゃないかなぁって」
    妻:「そうね。で、何を驚いたの?」
    理:「えっ、忘れた。お茶しようか?」
    ナレ:理樹弥は忠直が忠清に瓜二つだったことに驚いた。まぼ兵くんとでんでん丸についての妻が言っていた『思い入れ』に納得した。そして忠直は忠清の生まれ変わりなのではないかと。もっと前に忠直の存在を知っていたならば尊に話せただろうと思っていた。妻の美香は歩いて行く忠直の後姿を見ていた。
    理:「お前こそどうした?」
    妻:「ん~、あの人、何処かで見た事ある様な気がして」
    理:「前にここに来たことあるからその時じゃないか」
    妻:「それは無いわ。だって最後に来たのは7、8年前よ」
    理:「そうか、今とは違うだろうからな。で、何処で?」
    妻:「ん~、幼稚園か小学校に上がる頃か。でも、会った事ある様な気がするのよねぇ。あの人だけじゃなくて女の人も居たような・・・はぁ、思い出せないわ」
    理:「一先ず、コーヒーでも飲んでさ」
    妻:「そうね」
    ナレ:そして、資料館の敷地内の喫茶コーナーへ。運ばれてきたコーヒーを一口飲み、
    妻:「でね、昔の記憶の中で、でも、嫌な記憶じゃない事は分かるのよ。でも、何処だったか。その頃、私ぜんそくで入院していたのね」
    理:「聞いた事あるね」
    妻:「その頃だと思うのよ。でも、夢だったのかも」
    理:「思い出せる?」
    ナレ:しばらく考えていたが、やはり思い出せないと。理樹弥は突拍子もない事が脳裏に浮かんだ。妻の美香が病床で何らかのことによってタイムスリップしてあの場所に。そして尊に見せてもらった御月家の家系図に、何らかの理由で自分の名前をあの巻物に書いたのではと。いや、そんなはずはないと理樹弥は頭を振った。
    妻:「あなた、どうしたの?」
    理:「何でもないよ。まぁ、無理に思い出さなくても、嫌な事ではなかったんだろうから」
    妻:「そうね」
    理:「たまにはデートもいいかもな」
    妻:「なにそれ」
    理:「いいだろ」
    ナレ:カップを口元に運び横目に大きな窓から天守が見え、理樹弥は過去に行ったことは誰にも言わないと決めた。

    =過去&永禄&現在  完=

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    過去&永禄&現在⑲

    ナレ:尊の実験室も大掛かりな研究を辞めた頃にログハウス風に建替えられていた。両親にタイムマシーンの装置を失くしても良いのかと聞かれたが、今の自分の技術では装置が有っても時空を超える事は到底出来ないと、希望は薄れてはいないが現実的に叶わないのだと自分に言い聞かせるように言った。それでも技術開発を続けられたのは、忠清と共に城跡に行き、これから起こり得ることを本の中から知った忠清と話していた時に、忠清が『己の才覚一つで、何事もなせよう』と力づけてくれた事がずっと心の奥にあったから。理樹弥が消えて、しばらくすると呼鈴が聞こえて来たので、その部屋に取り付けてあるモニターを見るとクマのぬいぐるみが。
    尊:「何?・・・どなたですか?」
    裕:《熊の裕ですよ》
    ナレ:起動装置を抽斗に戻し、玄関に行きドアを開けると裕の前のぬいぐるみに分かっていても驚いた。
    尊:「どうしたんですか?」
    裕:「孫のリクエスト。大きな熊のぬいぐるみが欲しいって」
    尊:「それは分かりましたが何故、私の所に?」
    ナレ:尊はぬいぐるみについて尋ねたのだがスルーされた。
    裕:「たまにはお前さんの元気な顔を見ないとね。奥さんは出掛けてるのか?」
    尊:「曾孫の学校は自由らしくて、スクールカバンをランドセルにするかどうか選びに嫁たちと」
    裕:「昔はランドセルって決まってたけどな。そういう時代なんかね。それに相変わらず嫁姑の仲が良いんだねぇ」
    尊:「おかげさまで。奥方と息子の嫁と孫の嫁、三世代仲良しですよ」
    裕:「亭主にとっては女性たちが仲良いのが一番だ。ちょいと上がらせてくれ」
    ナレ:勝手知ったる家とばかりに上がり込んで尊が先ほどまで居た部屋のドアノブに手を掛けた。
    尊:「裕さん」
    裕:「何?誰か居るのか?へへっ」
    尊:「いやらしい笑い方しないで下さい。誰も居ませんよ」
    裕:「じゃぁ、いいだろう」
    ナレ:尊は先に入ってぐるりと見まわした。
    裕:「あれっ?」
    尊:「えっ」
    裕:「何驚いているのさ」
    尊:「あっ、いえ。で、何ですか?」
    ナレ:裕は如古坊の写った写真を手にして、
    裕:「前に来た時、こんな写真あったか?」
    尊:「片付けで見つけて。ほら、昔、祥さんが言っていた三吉さんって人ですよ」
    裕:「あぁ、そう言えばお前さんと出会った頃にそんなこと言っていたな。確か1年居候していたって」
    ナレ:運命が変わる前も尊と裕は大学構内で出会い仲良くなった。そして、裕の記憶にも如古坊の存在が上書きされていた。
    尊:「えぇ」
    裕:「でも、いつ来ても此処は良いよなぁ。書斎以上の部屋でさぁ、羨ましいよ」
    尊:「妻には自分で掃除してと言われていますから、あまりに広いのも考え物ですね」
    裕:「そうかもな」
    尊:「はい。でも何か用があって来られたのでは?」
    裕:「そうそう」
    ナレ:ぬいぐるみと一緒に持っていた袱紗から祝儀袋を出して、
    裕:「お前さんの可愛い曾孫の忠清ちゃんの入学祝。うちの孫の高校の祝いを貰ったからね。でもさ、お前さんのあの小説に出てくる若君だっけ、その人物と同じ名前を付けるとはって思ってたんだよね」
    尊:「書くとき考えた名前ですけど、我ながらいい名前だと思っているので」
    裕:「そっか」
    ナレ:尊は若いうちに結婚し、孫も早い結婚だった為、曾孫を抱くことが出来ている。名前は若君の名前を付けた。いつかは【忠清】と命名したいと考えていた。自分の子供たちはお互いの両親が命名した。それからも夫婦で相談したりして、尊が考えている名前を言い出せずにいたが、自分が生きている内にと孫に提案して承知してもらい決まった。若君の様に聡明な男子に育って欲しいと言う願いを込めて。
    尊:「でも、これは」
    裕:「まぁ、長い付き合いだからな。遠慮する仲でもないだろう今更」
    尊:「では、有難く頂戴します」
    裕:「あぁ。そうそう、昨日な、去年結婚した孫から連絡があって、俺の曾孫ちゃんと来年4月には会えるんだってよ」
    尊:「おめでとうございます」
    ナレ:裕は話していた通り結婚する時に京都木夫妻も式に招待した。如古坊の事が無くても裕と尊が喫茶店で話している時の祥と出会った運命は変わっていなかった。そこで祥と知り合い、京都木夫妻とも出会っていた。
    裕:「隣の工事、随分進んできたな」
    ナレ:速川医院の敷地の隣の土地を購入して病棟を建てていたが、規模拡大の為に建て替え中。大学4年の頃、尊と裕は大学院に進むことが決まっていたので、きっと今以上に忙しくなるだろうと裕の提案で、裕が最初に受けた大学の医学部の女子との合コンをセッティングした。嫌々参加した尊と意気投合したのが妻となった高山夢子だった。1回目のデートで城址公園に誘った。デート前に裕に伝えたらあきられたが、夢子は自分は歴女だからと一緒に城跡を見て回った。夢子の苗字を[こうやま]と読むことで何かあるのかと尋ねると、先祖の中に戦国時代の城主が居る事を知り、実家は長沢市だと。尊は唯から高山宗熊の話を聞いていたので自分は羽木家を昔から調べている中に高山家もあると夢子に話すと、実家に現存する家系図を見せてくれた。そして本当に関係している事が分かった。その縁に尊は驚いた。そして夢子は速川医院を継ぎ、二人の間に誕生した息子二人も医師になり、母親の跡を二人で継いでいる。
    尊:「はい。息子たちも頑張っていますし、孫も大学病院を辞めて戻ってくるので」
    裕:「良い事だ。お前さんだけが医者にならなかったんだな」
    尊:「まぁ。両親は私の好きなようにと応援してくれましたから」
    裕:「っそうか。それによってお前さんも凄い発明したしな」
    尊:「それ程の事では」
    ナレ:裕は壁に掛けられている賞状を見ていた。そこには何枚も貢献した賞状や感謝状が。尊はタイムマシーンの夢は諦めてはいなかったが、確実なまでの結果は出せずにいた。その中でも世の中のためになればと開発をしていた。大学院時代からの研究によって、防犯や介護に関する開発。車椅子に取り付けた雨感知装置にてカバーが出て雨を防げる。それに安全装置とGPSを設置し帰巣本能の機能も取付け、万が一離れた場合にも座って居る人物を登録している場所に自動的に戻らせることが出来、スピーカーから介護士の声を聞かせることも出来るシステムを開発。
    裕:「お前さんのおかげで、うちも助かったし」
    ナレ:尊が初めに防犯カメラの開発の技術研究に着手した。尊が生まれる前から防犯グッズは世に出ていたが、その中でも自分なりの研究で、見掛けは電灯でその中に内蔵される防犯カメラ。開発は既に世に出ている映像をスマホやタブレットに転送の設定はもとより、カメラは180度移動可能、鮮明なカラー映像録画、音声録音も出来る。そして極小の防犯カメラも開発し、その物をセットにした防犯装置も開発。その頃に裕の方で新築計画があり、尊の開発した装置の実験に使ってくれと提案してきた。
    尊:「そうでしたね。でも、まだ認定もされていない物でしたから、申請届や試験などで大変でした」
    裕:「そうだな。何が遭っても俺が責任取るとか言ったけど、そう言う問題じゃないって一蹴さ。まぁ、1年以上かかったな。正直言えばお前さんより俺の方が焦ったよな」
    尊:「すみませんでした」
    裕:「いやいや。だが、それがあったから被害に遭わずに済んだんだから」
    ナレ:裕は必ず許可が出ると信じて、家族、設計事務所、建設会社に頼み込み工事開始を延期してもらった。家族には大丈夫なのか、別にそれは付けなくてもいいのではと言われたが裕は待った。そして許可が出て、先に電源元となるソーラーパネルを設置した。このシステムはあの頃、唯の為に作った【でんでん丸】と【まぼ兵くん】をヒントにした装置。それは風等の振動では作動しないが、侵入者が窓ガラスやサッシのクレセント錠や窓のどの部分でも一度叩いただけで、枠の何処を触っても身体に危険が及ばない程度の電流が流れ失神を促す。仲間が居た場合でも他の窓も連動させ電流が流れる。内側は電流が流れない仕組み。そして電流の流れと共に警備会社に通報。電源は外出中と就寝時にONにする。外出中はスマホに。就寝時は寝室のモニターに映し出される。下見の行為の時に軒下に極小の防犯カメラを設置。勿論ダミーの大きなカメラも設置されているがダミーだとバレた方が侵入者は油断するだろうと。それは裕の提案だった。サーモグラフィで人か猫や犬の小動物かを判断し、人間の場合はカメラに切り替わり映像を録画。それをスマホで確認出来、スマホに専用のアプリを入れて作動させると、予め登録していた住人の姿がカーテンに映し出され、スマホから声掛けも出来る。設置前に使ってみない事にはどれだけの電気が必要か、大きさによって変わるのではないかと理工学部卒の裕の妻からの提案もあり、パネル以外に自転車型蓄電装置を作ってくれと頼まれた。理由は蓄電が第一だが、ダイエットも出来る機械をと。
    裕:「新築祝いしてひと月もしないうちに泥棒に入られそうになって、あのシステムが作動したから、家族みんな無事だった。本当に助かったよ」
    尊:「裕さんのおかげです」
    裕:「まっ、女房の提案のあれは俺の肥満防止に大いに役立ったしな。あはは」
    尊:「お役に立てて。それから、色々研究も出来たので」
    裕:「俺んとこは何人も研究所に居るのに、お前さん、一人なのは凄いなぁって思ってたんだよ」
    尊:「独り好きって事もありますから。でも、資金援助を裕さんの口添えで。私の方が助かっています」
    ナレ:装置を型にする時は自前の3Dプリンターがあるが、大掛かりな装置製作は家では無理なので裕の研究所の施設を利用させてもらっていた。
    裕:「まぁ、お互い様って事だしな。でも、お前さんの研究の中で実現しなかった開発はいつか本当に実現すると良いなって思うよ」
    尊:「いくつも考えているのでどれの事かと?」
    裕:「訪問者が物騒な物を持っていないかの察知装置とか」
    尊:「それは、先月認可がおりて、間もなく世に出るかと」
    裕:「そっか。それは良かった。でもこれは無理だって言ってたな。電話の」
    尊:「それは、はい」
    ナレ:裕の中でも残念だと思うシステムは、詐欺の電話を受けた場合のシステムだった。万が一に詐欺と思われる電話を受けてしまった場合、本人は疑っていないとしても家族が必ず設置してある機械の①を押すようにと伝えておく。登録している身内の携帯電話に即時に繋がり、身内がその相手と通話。詐欺だと確信がある場合はボタン②でそのまま警察に転送され、対応した警察官の声が、事前に登録している家主の声に変換され、怪しい電話と通話し、詐欺と分かった時点で騙された振りをして接触し逮捕するシステム。諸々の事柄が通信と警察との対応に問題があると許可が出ずにお蔵入りとなった。
    尊:「そうですね。私ではなくても未来に被害に遭われる人達が居なくなる発明があるでしょう。それを期待しています」
    裕:「そうだけどさ。さっき認可が下りたとか、世に出ている他の技術もお前さんは特許も取らずに、似たような物が出てるけどなぁ。取得していれば、お前さんももっと」
    尊:「もっと?」
    裕:「言わずともわかるだろぉ」
    尊:「えぇ。ですが、特許取得しない方が世間に安全が広まるでしょう」
    裕:「まぁなぁ」
    尊:「でも確か、裕さんは研究は人の為で、金ではないとかって昔そんな事言っていませんでしたか?」
    裕:「そうだったか。忘れた」
    尊:「そう言えば裕さんの研究の方はどうですか?」
    裕:「あぁ、それな、俺も80になってまだまだ元気だけどな、もうそろそろ引退してもいいだろと。研究所も小路さんの家が今も尚、出資してくれているからその辺りの心配も無いしな。若い者に任せようかと考えていてな。だが、お前さんはまだまだ頑張れ」
    ナレ:裕は医者になることは出来なかったが様々な課題に直面し、共同研究により、声を発することが叶わなくなった人の声を取り戻す研究をした。構想を描くまで年数は掛からず出来たが、研究により資金の問題が出て来た。付き合いの続いている尊に相談し、祥から幸子の父の小路亮二に資金援助を願い出た。交渉の末、援助を受けることが出来、研究が進められたが、それでも完成までに20年の歳月が。裕は50歳に手が届く歳になっていた。完成した物は言語中枢に関わる後頭葉のブローカ野を小型ヘッドホン式の仕組みで微量の電流により刺激を与え発声の促す作用が可能な機械を開発。その当時、記者会見をした。技術開発責任者として会見に臨んだ裕は、開発の経緯とその成果の試験結果内容を説明した。記者の質疑応答に対応していたが、駆け出しの記者と思える若者が質問した。
    記:『この技術開発成果によって、あなた方にはそれ相応の金が入るんでしょうね』
    ナレ:周りの記者はなんて質問するんだと思った。でも、裕は笑顔を見せ、
    裕:『我々は金よりも、そのシステムを使い、前向きになる人が一人で増えることを願って開発しています。私は子供の頃にある方に助けていただきました。その方のご家族にも笑顔になって貰いたいと努めてきました。我々の研究で笑顔になってもらいたいと思っています』
    記:『そんな風に言っても、やっぱり金の為でしょう』
    裕:『まぁ、生きていくためには我々も金が必要ですが、それ以上のものもあります』
    記:『ふっ、偽善者』
    ナレ:周りの記者が一斉にその記者を見た。隣の記者が『そう言う言い方は無いだろう』と言ったが止めずに、
    記:『僕は、あなたが、あなた方が金の為じゃないって言う事が信用できません』
    ナレ:その記者の言葉を黙っていた裕が、
    裕:『あなたは偽善を漢字で書けますか?』
    記:『書けますけど』
    裕:『そうですか。偽善者とは人の為に善い方法を考える者だと私は考えています。それ以外意味は無いと、そう思うのです』
    記:『ふん』
    裕:『あなたは今笑いましたね・・・私は、あなたの今後が心配になりました・・・出て行ってください』
    記:『はぁ?』
    裕:『聞こえなかったんですか・・・出て行きなさいと申し上げたのですよ』
    ナレ:裕は優しい口調で言った。それに対して、
    記:『あぁ、図星言われたから怒ったんですね。はっ、分かりました。今の事も書かせてもらいますよ!』
    裕:『構いません、面白おかしく書いてください・・・ただ、今直ぐ私の前から消えて下さい!』
    ナレ:温厚に対応していた裕が大きな声を上げた。その記者は出て行った。中継で見ていたテレビの前の尊。翌日、飲みに誘った。
    尊:『大変でしたね』
    裕:『若いって事だろ。あの後、あの記者の上司から詫びの連絡が来たよ』
    尊:『そうだったんですか』
    裕:『まぁ、考えや思う事は人それぞれって事だからな』
    尊:『そうですね。人の心の内は難しいですね』
    裕:『どんなに科学が進歩してもそれだけは解明できないだろうな。お前さんが俺に抱く恋心とかな。あはは』
    尊:『それは無いですけど。はは』
    裕:『そんなツレないこと言うなよなぁ』
    ナレ:そんな事があったなと尊は思い出していた。
    裕:「どうしたんだ?」
    尊:「いいえ。でも、裕さんもまだまだ引退は」
    裕:「まぁ、まだまだ必要とする人の為の開発はしていかなければならないと思うからな。でもな、孫たちにお前のじいじは結構凄いんだぞって自慢できることがあるからな。あとは、若いもんにな。じゃ、また来るよ。風邪引くなよ」
    尊:「お互いに」
    ナレ:尊がお持ちに出て見送ると、運転席から裕の息子の和樹が挨拶して、先に大きなぬいぐるみを乗せ、裕も乗り込み走り去った。
    尊:「そうだな、まだまだ頑張るぞ」
    ナレ:青い空を見上げて伸びをした。

    過去&永禄&現在⑳ラストへつづく

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    過去&永禄&現在⑱

    =過去 2083年 夏=

    ナレ:初めて尊に会いにこの時代に来て話を聞き、戦国時代に行き、出会った如古坊を現代に連れてきたり、その後に戦国でもう一度如古坊に会い、そして唯たちと会い、尊の元へ戻ってきたが、それは尊と初めて会った時からの時間の経過は10分だけだった。勿論、尊の記憶も上書きされていたが、尊は書き換えられる前の記憶も残っていた。唯たち家族を写した写真を渡し、唯のリクエストを伝えた。
    尊:「昔もそう、姉は何も分かっていない。それが姉らしいのか。でも、姉さんが母親に。ふっ」
    理:「速川さん?」
    尊:「両親が知ったら心配するだろうな。あの子が母親で大丈夫かと」
    理:「少しの時間でしたが、しっかり母親をしているように見えました。それから届けの事は気にしていないからと」
    尊:「そうですか」
    理:「前で緊張気味の男の子が晴忠様、もう直ぐ7歳、抱かれている子は覚高様、もう直ぐ1歳だそうです」
    尊:「はるただ、かくたか?」
    理:「嫡男でも有りましたので忠を。晴は生まれたと知らせを受けた忠清様が空を見て晴天だったからだと。弟君はお互いの父親の名を付けて覚高としたそうです」
    尊:「そう言う事だったのですね」
    理:「えっ?」
    ナレ:尊は抽斗から巻物を取り出し広げた。
    尊:「名前は納得しましたが、私には分らない事がありまして、羽木家ではなく、ここ御月家と書かれてありまして」
    理:「これは?」
    尊:「発見された時に大切な資料に落書きがあるから資料にはならないと、考古学者が木村先生に話されて、内情を知っている先生が私の元に。このあことわたしは姉が書いた文字だと思うのですが、この美香は調べてはいませんが姉とは筆跡が違う様に見えるのです」
    理:「はぁ・・・心当たりがないと?」
    尊:「母の名前は美香子ですから似てはいますが」
    理:「そうですか。関係は無いと思いますが私の妻の名も美香で、同じ字を書きます」
    尊:「そうですか」
    理:「我々にも分らない事はありますから」
    尊:「そうですね」
    ナレ:尊は巻物を抽斗に戻した。
    理:「私はお姉さんたちに会いに行って良かったと思います。速川さんのお姉さんも明るい方ですし、忠清様も優しそうな方で、だから、子供たちがもう少し成長した時にまた会いたいですね」
    尊:「・・・あなたの時代に戻られたらもう、飛ばない方が」
    理:「何故ですか?」
    尊:「時空を超える事はやはり体力的に負担が掛かるのだろうと考えたのです」
    理:「負担?」
    尊:「そうです。姉が平成から戦国に戻った時は、その場で目を覚ましたと。眠った状態で戦国に。姉に聞き、それは体力を奪われているのではないかと。姉が戦国と現代を行き来していた頃、回を重ねるごとに姉が瘦せて行くように感じました。やはり、負担は掛かるのだと」
    理:「思い違いでは?・・・私の体系は変わっていないようですが」
    尊:「そう仰いますが・・・あなたにも家族が居るのですから」
    理:「はい。子供も二人おります」
    尊:「尚更の事、研究を続けることは賛成しますが、ご自身が飛ぶ事はもうやめた方が良いでしょう」
    理:「ご心配ありがとうございます。分かりました。私自身が移動することは止めますが、これからも研究は続けます。身体に負担が掛からない方法を探します」
    尊:「そうですね」
    理:「お姉さんの元へ行く前に如古坊さんに会ってきました。そして如古坊さんを平成に連れて行った事を話しました」
    尊:「そうですか。あなたが如古坊さんを連れてきて、偶然に木村先生が居た事で私の記憶も変わったのですね」
    理:「はい、そうです」
    尊:「楽しい思い出です。初めの記憶では両親が祥さんの結婚式に呼ばれていますが、幸子さん達とは会っていませんでした。友人の結婚式の時には京都木夫妻は居ましたが」
    理:「そうですね」
    尊:「孝君が高祖父だと言っていましたね。あなたが如古坊さんを我々の前に連れてくる前にはもう孝君は神山の姓でしたね」
    理:「はい。孝の母親の幸子の会社の社長夫人が見合いをすすめて結婚したと。初めの生い立ちにはそう書いてありました」
    尊:「それは、如古坊さんの事が無かったとしても祥さん達は家族になっていたのだと?」
    理:「そうですね。そのあたりは運命は変わっていなかったのではないかと考えます」
    尊:「そうですね。その事を如古坊さんには?」
    理:「伝えてはいません。聞かれそうな雰囲気になったので話を変えました。如古坊さんには申し訳ないと思いましたが」
    尊:「そうですか。酷な様にも思いますから、それで良かったのでしょう・・・家族か」
    ナレ:尊は理樹弥に渡された写真を見ていた。
    理:「もっと先のお姉さんもと」
    尊:「十分です」
    ナレ:そして覚、美香子の事を考え、
    尊:「やめておいた方がと言っておきながら」
    理:「はい?」
    尊:「申し訳ない事ですが、私はこうして見ることが出来ましたが、父と母にも姉の元気な姿を見せてあげたいので、もう一度だけ私たちが如古坊さんを見送ったあの時に」
    理:「大丈夫です。姿は現わさない方が良いと思うのでそっと渡してきます」
    尊:「ありがとう。あの時、手にした私が両親の元にと自分で願ったとは。ふっ」
    理:「メッセージは?」
    ナレ:そう言った後、この写真に書くと尊の元に残らないと考えた理樹弥は、
    理:「このタブレットに書いて下さい。もう一枚写真を用意してメッセージを書き入れますから」
    尊:「そうですか。では」
    ナレ:タブレットに二人の名前と年齢を書き入れた。
    理:「これだけで?他にメッセージは?」
    尊:「これでいい」
    理:「そうですか。それから前回お会いした時に聞くのを忘れていて、最後にお聞きしたいのですが」
    尊:「何を?」
    理:「この本の題名に白い月に想うと付けたのかと」
    尊:「若君が現代に来た時に、昼間の空に見える月が白く見えて、若君が夜空に輝く月も美しいが、この白い月も美しいと言う表情が切なく見えて。きっと戦国に居る姉たちの事を想っていたのかと。この本は昔からの付き合いの友人が居まして、彼は私がタイムマシーンを作りたいと言っても笑う事なく話を聞いてくれましてね。その頃、私が夢物語を彼に話していまして、勿論本当の事だとは思ってもいないですから、その彼がその物語を小説にしたらと言ってきまして、若い頃だったので本にすることはありませんでしたが、50を過ぎた頃ふと自分の思い出を執筆してみようかと考えて、まぁ私もそこそこ業界では名が知れるようになっていましたので、伝で出版社を紹介してもらいまして少しだけ出版してもらったんですよ。その友人は、発売日に書店で購入して、その足で私の元へ来てサインをしてくれと。サインなんてありませんから普通に名前を書きましてね」
    理:「素敵な方ですね」
    尊:「はい。題は若君の想いを付けました」
    理:「そうですか。美しい題名だと思います」
    尊:「ありがとう・・・あなたも元気で」
    理:「はい。私に喜びを与えて下さり、本当にありがとうございました」
    ナレ:二人は握手をして、理樹弥は尊の目の前から消えた。尊は抽斗から起動装置の刀2本をデスクの上の写真盾、如古坊も一緒に写したクリスマス会の写真の側に置いた。資料が見つかってきた中に2本の玩具の刀が出て来た。木村先生は尊から話を聞いていたので、それを尊の元に持ってきた。考古学者も玩具が紛れ込んだのだろうと疑わない為、難なく貰い受けた。
    尊:「腕時計型一つで移動できるとは彼は凄い研究者だな。あの頃、彼が居たなら本当に病院ごと戦国に移動できたかもしれないな」
    ナレ:尊が完成させた柄が赤い装置と、未来に託され作った青い柄の装置。唯が忠清と平成に来た時に聞かれた。赤の理由と笑顔のマークと青の理由と笑顔が違うマークになっている理由を。尊は答えた。
    尊:『理由?』
    唯:『そっ。何かあるのかなぁって』
    尊:『ん~、赤って、明るいとか前向きな感じでしょ』
    唯:『まぁ』
    尊:『僕がタイムマシーンを作った理由、覚えているよね』
    唯:『いじめた奴を戦国時代に飛ばすとかって』
    尊:『そう。それって僕にとっては明るいニュース。で、笑顔って事でそれを付けたんだ』
    唯:『なんかねぇ、弟だけど、どこまでねじ曲がってるのかって。あっ、でも、今は全然思ってないからね』
    尊:『分かってる。で、こっちは・・・若君をイメージしたんだ』
    唯:『分かる気がする。で、このマーク、よくよく見ると若君に似てるかも。そっか』
    ナレ:その会話を思い出していた。
    尊:「私は嘘つきだね。青の方は、当時の私が作ったわけでもないのに理由が良く出て来たよ。でも、なんで姉さん納得したんだろう。不思議だね。しかし、未来の私が作った時、どうしてそうしたのか・・・思い出せないな、ボケたかな。ふっ・・・だが、楽しい人生だった」
    ナレ:理樹弥は過去に戻り、如古坊を見送った三人の元に写真を。尊は理樹弥の研究のきっかけになった本を手にして改めて読み返し、如古坊との一年が加わっていた。
    尊:「彼のおかげで私のも楽しい思い出が加わったんだな。有難う・・・これを読む人が居たなんて。そうか、いつかこの本も古本屋に。まぁ、そうなるのもこの本の運命なんだろうな。ふっ」
    ナレ:尊はその本を本棚の一番目立つ場所に置いた。

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    過去&元禄&現在⑰

    =永禄13年=

    ナレ:理樹弥は屋敷の庭に現れた。驚いた男の子が尻餅をついた。
    晴:「どっどこ・・・何処から参った!」
    理:「私は」
    晴:「くっ曲者!」
    理:「いや、怪しい者ではありません」
    ナレ:この世では怪しすぎるYシャツにスラックス。男の子が木刀を構え向かってきた。必死によけた。
    理:「決して、怪しい者ではないので、やめてもらえませんか」
    ナレ:そこへ忠清が、
    若:「晴忠、如何した、その様に大きな声など出・・・ん?・・・誰じゃ・・・いや、未来の?晴忠やめるのじゃ」
    理:「すみません」
    ナレ:忠清も見た事ある姿に驚きながら理樹弥の側に来た。
    若:「そなたは?」
    理:「あっ、はい。私は神山理樹弥と申します。600年後から来ました」
    若:「かみやま・・・600年」
    理:「はい。あなた様は羽木忠清様ですね」
    若:「さよう。わしを存じておるのか?」
    理:「はい。速川尊さんに伺いました」
    若:「尊とな」
    理:「はい。私は速川尊さんの本を読み興味を持ったことでこうして時空を超えてあなた様に会う事が出来ました」
    ナレ:経緯を掻い摘んで説明した。
    理:「ですが、幸子さんの事までは、私が確認出来ずに如古坊さんに辛い想いをさせてしまいました。如古坊さんには幸せな時だったと言って下さいました」
    若:「如古坊に会うたのか?」
    理:「今から8年くらい前の時代に行き会いました」
    若:「あぁ、そうであった。その様に申しておったな。そなたであったか。だが、何故此処に?」
    理:「速川さんがお姉さんの事を気にかけていましたので、ならば、姿を写真にと思い来ました」
    若:「そうであったか。では、此処に・・・ならば、子等もの。晴忠、母上を呼んで参れ」
    晴:「はい」
    ナレ:晴忠は不審に思っていたが父が親しく話しているので悪い者ではないのだと思い唯を呼びに。
    晴:「母上、父上がお呼びです」
    唯:「若君様が」
    ナレ:妻となってもなお若君と呼ぶ。忠清は初めこそ名前をと言っていたが、どうも訂正されず、諦めて、そのまま呼ぶことを承諾した。
    唯:「どうしたの?」
    晴:「奇態な形の男が現れました」
    唯:「奇態ななり?」
    ナレ:晴忠に手を引かれ忠清の元へ。尊に唯が来るまで今いた子供ともう一人の子供の事を話してくれと。理樹弥から尊の事を聞き、研究で名のある人物になった事に感心していた。しばらくして唯がやって来た。
    唯:「えっ?」
    理:「速川尊さんのお姉さんですね」
    唯:「そう・・・そうだけど。若君?」
    若:「尊と同じにたいむましんで来たのだそうだ」
    唯:「へぇそうなの。凄い・・・で?」
    ナレ:自分が晩年の尊に会い、尊が心配していたので、元気な姿を見せたいと思いやって来たと説明した。
    唯:「そうだったんだ。で、お父さんとお母さんと尊は元気?」
    理:「すみません、ご両親にはお会いしていないので」
    唯:「そうなんだ。まぁ、みんな元気にしてるだろうから」
    理:「尊さんは曾孫もいらして」
    唯:「へぇ、そうなんだ。会えないけど会いたいねぇ。で、あなたは何年前から来たの?」
    理:「この時代からですと、600年後の未来からです」
    唯:「スゴ!じゃ、私の知らない未来も見ているのね」
    理:「はい。今は宇宙にも昔ほど高価ではなく行ける様になりました。友人は宇宙ステーションに1週間ほど」
    唯:「へぇ、確か、ひとり何億もかかるようなこと聞いたけど。そうなんだ、科学は進歩しているんだ。凄いね、若君」
    若:「そうじゃの」
    理:「そうですね。昔の映像でバイクや車が空を飛ぶのを見た事ありますが」
    唯:「あっそれ、私も見た事がある、どっかの国で映画みたいな研究でって。今はそうなの?」
    理:「今私の居る時代は、確かに科学は進んでいますが、日本では航空法の問題も有りますし、今でも価格は高いですね。宇宙へ行くよりも」
    唯:「そうなんだ」
    理:「それにAI]
    唯:「それ知ってる。支配されるような映画も有ったっけ」
    理:「映画の中ではそうですが、進歩して人間がAIに支配されると言う話題も有りましたが、人は支配されることは無く、共存とでも言いましょうかしょうか。やはり人間は偉大だと思います」
    唯:「そうだね。映画な中だけだと思ってるし」
    若:「お主の世での戦は?」
    理:「この戦国時代の事も現代の事も昔の資料で知っています。それまでは色々あった国々の主導者も代替わりを繰り返し、科学が進歩していく中でも過去の悲惨な事柄を繰り返す事をしてはならないと国際条約の内容が事細かに策定されて、情報を共有し、問題点は全世界に配信し、その上で世界平和を掲げて、それでも人ですから、小競り合いがある事も。でも、それを武力で制するのではなく話し合いでという様に世の中が少しずつ変わっています」
    唯:「ごめん、途中から話の内容が」
    若:「わしも、よぉ分からぬ言葉もあるが、安泰な世になっておると申しておるのであろう。まるでおせろの様じゃの」
    唯:「そっか」
    理:「オセロ?」
    ナレ:唯が理樹弥に説明した。
    理:「そうですね」
    唯:「あなたの居る時代は、あなたの場所はどんな感じ?」
    理:「お姉さんの居る時代から風景はそんなに変わっていないと思いますよ。自然も有りますしね」
    唯:「小学生とかその頃、美術の授業で未来の風景って描いた事あったな。車が空を飛ぶとか宇宙に届くほどの建物とか」
    理:「科学の進歩は有りますが、そこまでにはなっていませんね。空は飛びませんが、車は電気かハイブリットか水素で、昔の様にガソリンだけで走る車は無くなりましたね」
    唯:「そうなんだ。昔、何処でもドアみたいに別の所に行ければ、遅刻しないだろうなって考えた事あったけど」
    理:「昔のアニメですね。移動は出来ませんが、通信は身近な物でありますね。色んな研究がなされ、離れた場所でも物の感触や匂いや味も感じることが出来ます」
    唯:「味もなんだ。それも凄いね。ほんと、私からすれば凄い近代的な世界なんだね」
    理:「ですが、私は近代的にならなくてもと思います。都会には400m級のビルが建ち並んでいますが」
    唯:「スゴ!・・・そう言えばこっちで暮らしてて思ったんだけど、夏はそんなに暑くないのよねぇ。気温計が無いから何度か分からないけど。オゾン層とかって随分言ってて、その為に気温が上昇してとか、北極だっけ?氷が解けてるとかってニュースで見たけど。150年も経ってると、気温めっちゃ高くて暑いんじゃないの?」
    理:「世界でもオゾン層の事は長年の問題でしたが、お姉さんが居た時代から何年も経たずに、二酸化炭素削減も進み、気温上昇の要因の一つにもなっています道路は遮熱対策をしています。気温上昇も昭和の初め頃の気温とさほど変わらなくなり、私の居る時代での最高気温は35度くらいですよ。昔の資料の40度を超えると言う事は無くなりましたね」
    唯:「へぇ」
    理:「化学や技術が進んできた事で便利な物も有りますが、SFの世界の様にはなっていませんね。世の中が進化を突き詰めた先に見えた物は、昔の様になる事が必要だと考える方達が増えて」
    唯:「どういうこと?」
    理:「お姉さんが居る頃は森が消えたり海を埋め立てたりと開発が進んで、それ故に自然での問題も数々。そう言った事で森を生き返らせる活動が全世界で行われ、日本でも自然と共存する動きがなされて、林業など後継者問題が昔はありましたが、機械化も進み、人型に近い機械が伐採や植林を。災害が起こる事を防いでいます。海も」
    唯:「それっ、ゴミとかが海の生き物に影響が出てるとかって、サンゴ礁もってニュースで見た事があるなぁ」
    理:「そうでしたね。それも今は改善されてきていますよ。お姉さんの時代から有る海上の清掃船もより良いシステムが導入され、他のロボットも開発され、それに上空から特殊カメラで海面を写し、異物を発見するシステムも開発され」
    唯:「凄いねぇ」
    理:「ですが、繋がっている海ですから色々な漂着物が流れてきますから、それを回収して処理する施設を海沿いの各自治体に建設され、漂着物を特殊な機械でドロドロに分解し、成分とその土地の土を混ぜた物で土を作ります」
    唯:「へぇ」
    理:「コンクリートのように固まらせることも出来ますが、草も生えさせられることも出来ます。それらを用いて、昔の景色になり、土砂崩れ防止にも、海や河川の護岸に使われています。至る所での不法投棄も監視カメラ設置により減りましたし。自然を守る事こそが生活を良いものにする。その為に機械だけではなく人も活動していますしね」
    唯:「凄いね。みんなの努力って事なんだね」
    理:「はい。他に質問は?」
    ナレ:理樹弥と唯の会話を晴忠は不思議顔で見ていた。
    若:「ちと、よいか?」
    理:「あっ、はい」
    ナレ:忠清は唯たちから離れた所へ理樹弥を連れて行き、
    若:「そなたが発明したそのたいむましんで、如古坊の様に唯を現代に連れて行く事は出来るのであろうか?」
    理:「えっ・・・あの場合は出来ましたが正直、確実に出来るかどうかは私にも分かりません。すみません」
    若:「さようか。今申した事は忘れてくれ」
    ナレ:二人が戻ると唯が忠清の前に立ち、
    唯:「若君、私を現代に連れて行ってくれとかって言ってたんでしょ」
    若:「あっ」
    唯:「やっぱり。若君の考えている事は全てお見通しなのよ。確かにあの頃は思う事もあったけど。でも、私は逃げないって決めたし、私はここで若君様と子供たちと、ついでにじい達と暮らして行く事を決めたんだから、そんな事は金輪際言わない考えない。いいわね!」
    若:「すまぬ。もう申さぬのでな許してくれ」
    晴:「母上、父上を叱らないで下さい」
    若:「母上は、私を叱っておるのではないぞ」
    唯:「そうよ。私は優しい妻であり母でしょ」
    ナレ:晴忠は返答無し。
    唯:「え~、晴忠ったらぁ」
    ナレ:抱いていた子を忠清に預け、唯は晴忠をギュッとした。
    晴:「母上、お放し下さい。母上はお優しいです」
    唯:「許す・・・あっ、今の事は尊に言わないでね」
    理:「はい。では、皆さんの写真を」
    ナレ:理樹弥が掛けていた眼鏡のフレームの端を押した。
    唯:「カメラは?」
    理:「これです」
    ナレ:理樹弥は眼鏡を外し、唯に見せた。
    唯:「これが、カメラ?」
    理:「これは眼鏡型のスマホの様な物です」
    唯:「スマホも?」
    理:「この横のボタンで通話したり、インターネットで調べる事も出来ますし、カメラにもなります」
    唯:「みんなそれを持ってるの?」
    理:「全員ではありませんが。他に腕時計型から進化したりしています」
    唯:「凄いねぇ。で、調べたものがそのレンズの部分に写るの?それじゃ、見え難いんじゃないの」
    理:「映像は視線の先の空間に投影されますから」
    唯:「へぇ~凄い。ありがとう」
    ナレ:理樹弥が用意をし、唯は抱いていた我が子も顔が見える様に抱き替え、二人の前に晴忠が立ったが、
    晴:「父上、大事ございませぬか?」
    若:「ん。案ずるな」
    ナレ:忠清は優しく肩を抱き自分の前に立たせた。緊張している晴忠に、
    理:「笑って」
    ナレ:そう言われても笑えなかった。
    唯:「私達は見る事出来ないの?」
    ナレ:理樹弥はポケットから小さな板を出し、操作して唯たちに見せた。
    理:「このタブレットに。データを送信し、紙で出てきます。私はやはり写真は紙で手にした方が趣がありますから」
    ナレ:写した物を晴忠に見せると、己の姿が小さな板の中にあり驚いていた。すると理樹弥の腕時計からピピッと音が聞こえた。
    理:「5分前の合図です」
    唯:「それがもしかして起動装置?」
    理:「そうです」
    唯:「凄すぎて、映画観てるみたい」
    若:「そうじゃの」
    理:「では、皆さんの事を伝えます。この写真も」
    唯:「そう、じゃ、ソーラーパネルで充電できる自動洗濯機をお願いと。まぁ、こっちに来ることが出来たらで良いけど」
    理:「あっ、はい、分かりました」
    若:「難儀な事であろうが伝えてくれ」
    唯:「若君様ぁ」
    若:「ふっ」
    理:「はい、伝えます・・・それから」
    若:「如何した?」
    理:「はい・・・お姉さんに伝えて欲しいと言われていた事がありまして」
    唯:「私に?」
    理:「はぁ」
    唯:「なんか言い難い事?」
    理:「あっ、はい・・・あの、ご存じかと思いますが、失踪届けが7年後に受理されて」
    唯:「失踪・・・あぁ、私ね」
    若:「唯?」
    唯:「居なくなって7年経つと・・・私は亡くなった事になるの」
    若:「ん?」
    唯:「だって、戸籍上も大変じゃない。ねぇ、神山さん」
    理:「はぁ、そうですね」
    若:「現代ではその様な事が起こるのだな」
    理:「はい」
    唯:「でも、私はこの通り生きてる。それだけでいいじゃん。神山さん、尊には全然気にしてないって言っておいて」
    理:「はい。伝えます。皆さんお元気で。失礼します」
    ナレ:目の前で理樹弥が消えたので、晴忠は眼をパチクリパチクリ、両親の顔を見た。
    若:「奇態な事じゃのぉ・・・だが、まことのじゃ」
    ナレ:その晩、忠清は信茂達に尊の事、理樹弥の事を話した。その時、晴忠が唯が言っていた『ついでにじいたちも』の部分を話した。信茂は『むじなはそのように申して、わしは悲しい』と笑いながら『むじな』を連呼していた。唯は反論しないでおこうと聞き流していた。それを忠清と吉乃はその姿に苦笑い。みんなは理樹弥を一目見たかったと話していた。

    過去&永禄&現在⑱へつづく

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    過去&永禄&現在⑯

    =永禄6~12年の出来事=

    ナレ:戦も無く平穏な日々を過ごしていた。唯は今でも若君を守る意志は消えていない。みんなその思いを分かっているからこそ身重の唯が戦なんて言語道断。だから戦が起こらないことを祈っていた。そして、無事男子が誕生。名は晴忠。晴忠がもう直ぐ3歳になろうかという時にその時は来た。しばらくの間、大人しくしていた織田信長が上洛を企て、勢力を強めるべく、高山も織田勢に加える事となり、宗鶴とは同士だと思っていた相賀一成が高山を久方振りに訪ねたが、宗鶴は既に隠居しており、宗熊と妻ゆめの間に誕生した息子と娘を可愛がり楽しく暮らしていた。織田の加勢の提案を宗熊が断固として断った。織田の陣に戻り、断られたことを伝えると、ならばもう用は無いと。不吉な予感に宗熊は八次郎に織田の動きを探らせ、高山攻めの情報を得た。宗熊は己の陣のみで立ち向かう事にしたが、宗熊を案じた八次郎の一存で忠清に伝えた。
    唯:「若君」
    若:「わしは宗熊殿に恩義がある。宗熊殿を高山を守らねばならぬ・・・案ずるな」
    唯:「分かってます。熊は大切な友達だから。でも」
    若:「大事ない。わしらにはまぼ兵くんもでんでん丸もあるのだからな。千人力じゃ」
    唯:「充電出来るようになってパワーアップしたのは分かるけど。いつ帰れるか分からないんでしょ。私も行きます」
    若:「ならぬ・・・唯」
    唯:「何?」
    ナレ:唯をギュッと抱き締め、
    若:「そなたの、えねるぎい注入」
    唯:「エネルギーって」
    若:「わしは無事に戻って参る。そなたは、わしの帰りを待っていてくれ。良いな」
    唯:「若君様・・・はい、晴忠と待っていますから、無事に戻って来て下さいね」
    若:「ん」
    ナレ:羽木勢は長沢城へ向け出陣。宗熊の軍は織田の兵の多さに苦戦していたが、忠清達が到着して、小平太がまぼ兵を作動させた。かたや忠清は馬にまたがったまま先陣を切り敵陣に入り、でんでん丸で敵を倒していた。宗熊は忠清の姿を見て、八次郎をいさめるのではなく、黙って頭を下げた。味方も増えたが広範囲での戦い、敵味方の負傷者が大勢。戦場に来て2日目の夜、闇の中で傷を負った家臣の姿を見ていて忠清は、
    若:「無用な戦など・・・もぉ、終わらせねば」
    ナレ:手立ての見つからないまま宗熊の所へ。
    若:「宗熊殿」
    熊:「忠清殿、申し訳ござらぬ」
    若:「致し方ない事です。ただ、もうこれ以上は無理は出来ませぬ」
    熊:「宗熊殿」
    若:「和議などと甘い考えはございません。織田の勢力があれば良いのではなかろうかと。お聞きおよび下さらないであろうが、進言するだけでも」
    熊:「忠清殿・・・この戦の火種は我にございます。断りをした事で織田の怒りを買った事は。私がひとりが参ります。さよう、初めからその様にすればよかったのですね」
    若:「宗熊殿、私とあなたは親友ではございませぬか、わしも共に」
    熊:「忠清殿」
    ナレ:二人で乗り込む覚悟を。忠清は心の中で唯と晴忠に謝った。すると、表で騒ぐ声が。二人が出て行くと、馬上の男が大声を張り上げていた。鎧も兜も身に着けていない。囲む者らはあまりにも堂々としたその姿にたじろんで刀や槍を構えるだけ。
    成:「高山宗熊殿は居られるか!私は相賀成之、まかりこしました」
    熊:「相賀・・・成之殿か」
    若:「もしや、相賀の弟と申す」
    熊:「さよう」
    ナレ:二人は成之の元に走り、宗熊は家臣を制し、成之を中へ。相賀成之は二人に土下座した。
    熊:「お手を挙げて下され。いったい?」
    成:「兄上が殿にどのように申されたかは存じませんが、私は今の織田の勢力で十分だと。無用な戦をし、兵を減らす事こそが愚かな事だと申し上げました」
    若:「それは。ですが、その様に申されて、そなた、相賀殿が窮地に」
    成:「お目通りはございませんでしたが、羽木忠清様でございますな。宗熊殿よりあなた様の事は聞いております。宗熊殿は私の友だと思うております。忠清様も同様に」
    熊:「相賀殿」
    成:「私より一歳下の殿とは幼き頃より共に学問も剣術も。私は宗熊殿に会うて話すまでは友について深く思う事もございませんでしたが、宗熊殿が羽木忠清様の事を心より案じているお姿を目の当たりにし、幼き頃を思い出しました。殿は気性も幼き頃とは変わってしまわれましたが、これまでもこれより先も進言しないと申し上げ、此度の愚かさを伝え、時は掛かりましたが、私の言葉を聞き入れて下さり、その足で参りました。我々はこれにて引き揚げます」
    ナレ:もう一度手を付き詫びた。言葉通り成之は織田軍を引き連れこの場から去った。
    熊:「まことなのですね」
    若:「あの様なお方が居ったとは・・・では、我々も」
    ナレ:忠清達は黒羽へ戻った。唯たちに知らせが入り、忠清の姿を見るべく急いで表に出た。忠清が馬から降りて唯の側へ来たが、唯は動こうとしない。
    若:「唯、如何した?」
    ナレ:唯は何も言わず踵を返した。
    若:「唯?」
    ナレ:唯は忠清の後から歩いてくる負傷した家臣の姿を見て、初めて参加した戦場で見た光景を思い出した。忠清が後を追い部屋に入ると唯は眠る晴忠を抱えて泣いていた。初めての光景に忠清は驚いた。
    若:「唯、如何した?」
    唯:「私」
    ナレ:唯は子を抱いたまま行李の中から起動装置を取り出し抜いたが、何も変わらない。
    唯:「どうして使えないのよ!尊!」
    ナレ:起動装置を放り投げた。その声に驚いて晴忠が目を覚ました。忠清は起動装置を行李に戻したが、言葉を掛けられる状態ではなく部屋を出て行った。
    吉:「ようご無事で」
    若:「ん」
    吉:「如何なされました?唯が走っていきましたのに。その唯は?」
    若:「分からぬ・・・唯が先の世に戻りたいと」
    吉:「えっ?」
    若:「しばし、このままで」
    吉:「仰せの通りに」
    ナレ:夕餉の支度が終わっても部屋から出て来ない唯の元に飯を運び、暗い部屋の灯りを点け、唯に、
    吉:「お食べなさい」
    唯:「食べたくない」
    ナレ:晴忠が泣き出した。
    吉:「晴忠様も腹が空いているのですよ」
    唯:「お袋様」
    ナレ:唯の中で何か起こって気持ちに余裕が無いのだろうと考え、吉乃は晴忠を連れて部屋を出た。
    若:「唯はどうじゃ?」
    吉:「変わりのう・・・あの子の中で何かがあったのであろうことは分かりますが、それが何かは」
    若:「ん・・・ならば、一先ず、何処かへ」
    吉:「よろしいのですか?」
    若:「その方が良かろう。緑合にでも」
    吉:「ならば、梅谷村などは?」
    若:「そうじゃの、それも良かろう」
    吉:「ですが」
    若:「のちに戦になろう折も、梅谷村の者を呼び寄せる事はせぬ」
    吉:「さようですか。では」
    ナレ:翌日に支度をし、大八車に布団やら何やら積み、三郎兵衛に梅谷村まで三人を送るように伝えた。
    若:「三郎兵衛、頼みましたぞ」
    三:「はい。かしこまりました」
    ナレ:見送りに信茂も立ち会った。
    じい:「唯は、どうしたと申すのかのぉ」
    若:「ん」
    じい:「あやつは、元気に笑っておるのが一番じゃよ」
    若:「そうじゃの」
    ナレ:信茂は忠清の背中を優しく擦っていた。

    ナレ:梅谷村に到着してみんなに歓迎されたが、元気のない唯を心配していた。その夜はみんなが持ち寄った食材で夕飯を作り食べていた。
    吉:「この様に、皆様に感謝ですね」
    唯:「そうだね」
    ナレ:唯が晴忠に零さないように器をしっかり持たせ食べさせている姿を吉乃は微笑ましかった。食事も終わり、囲炉裏の炎の灯りの中、晴忠はスヤスヤと寝息を立てていた。
    吉:「唯」
    唯:「・・・」
    吉:「どうしたのですか?・・・若君様も案じておるのですよ」
    唯:「分かってる・・・けど」
    吉:「そなたの想いを申してみては?」
    ナレ:しばらく唯は手もとを見ていた。そして手の甲に涙がおちだ。吉乃が優しく抱きしめて、
    吉:「申せば心も晴れますよ」
    唯:「うん・・・お袋様も知ってるけど、私、若君様と出会った頃からずっと、若君を守るって決めてたの」
    吉:「存じておる」
    唯:「うん・・・でも、この前の戦で、若君も無事に戻って来たけど、家来の人たちが怪我をしていて、私が初めて戦に出て、そこで・・・」
    吉:「唯?」
    唯:「そこで・・・沢山の人が・・・亡くなっていて、生まれて初めて見た光景で、恐ろしくて」
    吉:「先の世で見る事も無かろうて」
    唯:「うん。それでも、若君を守りたいから戦にも行った。でも、自分がその場に居なかったのに、怪我をしている人たちを観たら・・・恐ろしくなって・・・この時代から逃げ出したいって思って」
    ナレ:その意味の分かる吉乃は、
    吉:「わたくしが唯の立場でもそのように思うでしょう」
    唯:「うん・・・この場から逃げたいって…でも、出来ない。こんな思いは初めてだから、若君にもお袋様にも心配されて・・・私はずっと若君を守るって決めてたのに」
    ナレ:吉乃はもう一度、唯を抱きしめて、
    吉:「それはのぉ、そなたが母だからです」
    唯:「えっ?」
    吉:「これまでは、唯は忠清様お一人をお守りすることに力を注いで参ったのです。ですが今は、そなたには晴忠様が居ります。母として子を守る事により、恐れる事、戦の世から逃げ出したいと思われることは致し方ない事だと」
    唯:「お袋様」
    吉:「何も恥じる事は無いのですよ」
    唯:「お袋様」
    ナレ:唯は自分の気持ちを話し、少し落ち着いてきた。その夜、晴忠の横で眠る唯が寝言で「若君様」と。その言葉を聞いて吉乃は、布団から出た唯の腕をそっと戻し、
    吉:「あの日、わたくしの前にせがれと現れ、おなごと知り、共に暮らし、知り得る事のない物事を知り、不思議な事ですね。私はそなたと出会うて幸せですよ。これよりもそなたを守りますからね」
    ナレ:吉乃は唯の頬を優しく撫でた。翌日、朝餉の後、吉乃は忠清の元に向った。唯には足りないものがあったと言って。

    ナレ:忠清に唯の気持ちを話した。
    吉:「唯も母として子を守りたい、その気持ちよう分かります」
    若:「そうじゃの」
    ナレ:唯の気が枯れるまで梅谷村に居るように言った。
    吉:「よろしいのですか?」
    若:「わしは、唯の笑う顔が好きなのじゃ」
    吉:「らぶでございますな」
    若:「そうじゃの。ふっ」
    ナレ:唯は吉乃が忠清に会いに行ったのだと気づいていたが自分からは何も聞かなかった。ただ、また同じ風景を見る事になってはと恐怖心は拭えないでいた。誰も戻ろうとは言わずに二年近く経っていた。その間も様子を確認しに三郎兵衛が来ていたが、唯にはその姿は見せずにいた。それは落ち着いてきたとの報告があったが、三郎兵衛の姿を見て戦を連想させるのは酷だと忠清の優しさだった。時が経ち、子供心に母を想いつつ、父の事は言わずに来たが、とうとう晴忠が父上に会いたいと言葉にするようになった。唯は覚悟を決めた。そして城に戻った。迎えに出た忠清の姿が見えると、晴忠を吉乃に託し、唯は忠清めがけて走った。忠清も両手を広げ、ジャンプしてきた唯をしっかり受け止めた。晴忠も走っていきたかったが母親の気持ちを想いその場に立っていた。その姿に吉乃は、
    吉:「母上様は晴忠様より幼子のようでございますね」
    ナレ:晴忠は吉乃の言っている事も分かるので、何と言っていいのか返答に困っていると、
    吉:「晴忠様はお父上に似てお優しいですね」
    ナレ:吉乃は晴忠を抱きしめた。そして二年後、覚高が誕生した。

    過去&永禄&現在⑰へつづく

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    過去&元禄&現在⑮

    =永禄6年=

    ナレ:夕焼け空の下、如古坊はひとり丘に登り岩に腰かけ、クリスマス会と成長した姿の孝の写真を見ていた。すると後ろでカサッと音が聞こえ振り向き驚いた如古坊は岩から滑り落ちた。
    如:「えっ?」
    理:「お怪我はありませんか?」
    如:「大事ないが」
    理:「良かった」
    如:「あぁ」
    理:「姿を見せていませんでしたので初めましてですね。私は神山理樹弥と申します」
    如:「はぁ?・・・かみやま・・・りきや?・・・神山?」
    ナレ:如古坊は目の前の不思議な光景に驚くだけ。
    理:「あなたの知る孝は私の高祖父です。あなたが孝と出会った頃の150年後から来ました」
    如:「こうそふ・・・150年?」
    ナレ:理樹弥は岩に腰かけた。
    理:「座りませんか?お話しします」
    如:「あっ、あぁ」
    ナレ:如古坊は座り直して理樹弥の方に身体を向けた。
    如:「わけは?」
    理:「はい・・・何処から・・・初めにこれを見て下さい」
    ナレ:リュックから取り出した物を如古坊に渡した。大学ノートで表紙に【神山孝】の名が。
    如:「これは?」
    理:「神山孝が自分の生い立ちを記した物です。代々残されていたノートで、私が子供の頃に見つけて読んでいました」
    ナレ:ページをめくっていくとそこに【木村三吉】が記載されて驚いた。
    理:「私が見つけて読んでいた頃にはこの名前はありませんでした」
    如:「それは、私が孝君の前に現れたからこの内容が変わったと?」
    理:「そうです。それから」
    ナレ:古い本を渡した。
    如:「これは?・・・あっ」
    ナレ:表紙に【速川尊著】と。
    理:「その本も子供の頃に見つけました。あなたが現代に行っている頃もそうですが、紙による本の需要が減り、書店が減少されていく時期もありましたが、一時期から本が見直されるようになりまして、書店の減少も止まりまして、父は新作や古本屋をめぐるのが趣味で、私も父の影響で本が好きになり良く父と出向いていました。ある店でたまたま私の目線にあるこの本が気になり、難しい漢字は読めませんが買ってもらいました」
    ナレ:題は【白い月に想う】。子供が興味を抱くような題ではないので父親が他の本にと言ったがどうしても欲しいと買ってもらった。
    理:「パソコンで調べることも出来ましたが、私はあえて辞書片手に読みました。内容はフィクションです」
    如:「ふくしょん?」
    理:「作り話と言う事です。でも、私はそれが本当の事なのではと強く思う様になりました」
    ナレ:理樹弥は内容を掻い摘んで説明した。主人公がタイムマシーンを作り、自分の代わりに主人公の姉が戦国時代に行ってしまい、そこで出会った若君に恋をした。そして矢傷を負った若君を現代によこし治療を。そして若君が戻ってから、その後、敵方から逃れるため姉と若君が現代に来た。それに姉と出会った人たちも現代に来て色々な事を知り帰って行った。だが、何度も過去と現代を行き来させたことで確実に時空が歪み、主人公も戦国に戻った姉たちに会いたいと研究したが過去へ行く事は出来なかったと言う物語だと。
    如:「ほぉ・・・だが、あなたは?」
    理:「私は子供心にタイムマシーンへの興味が強くなりました。速川尊という方に会ってみたいと思いました。それから研究に必要な事もそうですが本業の勉強も親が驚くほどに励みました。タイムマシーンを研究している事は秘密にしたかったので研究には全く関係のない会社に就職して研究を続け、結婚してからも高価な本を買ったりと妻にも苦労を掛けましたが」
    如:「では、奥さんは」
    理:「内容は話していませんから、まさかタイムマシーンだとは思ってもいないでしょう。それが収入にならない夢にと普通は怒るでしょうね」
    如:「あぁ」
    理:「私は付き合い始めた頃から夢の為に研究をしていると話しました。駄目なら別れるだけです。でも、妻は他所で悪さするより良いかもと笑って」
    如:「申し訳ないが、変わった方ですね」
    理:「謝らなくても。そうですね、私みたいな者に二十五年も着いてきてくれていますので。いい妻です」
    如:「お会いしていなくても分かる気がします」
    理:「えっ?」
    如:「ん?」
    理:「いえ・・・ありがとうございます。内容を聞かれる事も無く有難いので、猫アレルギーの妻ですが猫が好きなので良く動画を見ているので猫のロボットを作りました。遠めには猫そっくりに出来て妻も喜んでいます」
    如:「そうですか。きっと、運命の方なのですね」
    理:「そう思います。研究を続けて、人が乗るような装置では歪んだ時空をすり抜けることは出来ません。この本にも起動装置で人が過去へ飛んだことは書かれてありますが、乗り物が存在したのかも分かりません」
    如:「だが、こうして」
    理:「はい・・・時空の歪みを変えられないのなら、その隙間を通り抜ける方法があるのではと考えました」
    ナレ:もう一度本をめくっていった。姉にもう一度戦国に行きたいと言われ、未来の主人公に託し、
    そして未来の主人公が35歳の時に過去からのメモを大事に持っていて、その頃は歪みが初期段階であったが、飛べなくなる可能性もある中で起動装置の質力を高めることに成功して同時に二人が移動できるように。その後、9人という大人数を助けるために一か八かに賭けた。過去の主人公も努力して9人を戦国に戻すことが出来たが、35歳の主人公のデータでは完全に歪みが生じた事が分かったと。そう説明して最後のページを見せた。
    理:「本の終わりの白紙の部分に手書きで数式が書かれていました。この本が手元に届いた後に書いた物の様です。この数式を解読しても全部は理解できませんでしたが、質力を高める為に太陽電池を利用する事も書いてあり、そして私も起動装置が出来ました。実際に起動するのか半信半疑でした。10分前、10分後と少しずつ時間を伸ばし、その後は昨日明日と1日だけ移動しました。現在に戻ることが出来ましたので、次のステップとして10年前に設定して移動したと思いましたが現在に引き戻され、歪みの隙間を通らない限り過去に行く事も無理だと。それから完成まで10年かかりました。私は今55歳です。私は構想から40年近くかかりました。この作者の速川さんは15歳で完成させています」
    如:「だが、凄い事だ」
    理:「ありがとうございます。自分の研究成果について意見が聞きたくなり速川さんに会いに行きました。速川さんにあなたの本を読み、そして未来から来たことを話しましたら、やはり経験者ですね驚かれる事も無く優しく歓迎して下さいました。そして内容は事実であると聞きました。速川さんはお独りで研究や技術開発もされて業界では名が知られています。晩年は子供たちにロボット制作の教室をされていました」
    ナレ:尊のその後が知れて嬉しかった。80歳近くなっても尚、精力的に子供たちに教えているのは、いつかタイムマシーンを作る子供が出てくることを内心願っていると笑って理樹弥に話した。そして、自分の本を読んで本当にタイムマシーンを完成させた人物が目の前に現れた事を喜んだ。
    理:「その時に、速川さんが楽しい思い出だとその頃の話を聞かせてくれて、速川さんは出来るのなら姉たちの様子を見に行きたかったと。私もその方達に会ってみたいと思って、速川さんに会いに行きますと伝えました。そしてこの時代に」
    如:「そうであったか。もしや、わしを平成に連れて行ったのは?」
    理:「はい。私です」
    ナレ:未来の尊ではなかったのだと。
    如:「だが、関わりの無いわしをどうして?」
    理:「速川さんの話の中で如古坊さんの名は聞いていましたが、どの様な方かは分かりませんでしたので、あの時のあなたがとは全く。私も正直分かりませんが、追いかけられているあなたが悪い人には思えませんでしたので、転びそうになったあなたを抱きかかえました」
    ナレ:あの時の感触は理樹弥だったのかと。
    理:「あなたを数分後に移動させなかったかは今でも謎です。私も無我夢中でそこまで考える余裕は無かったのかも知れません。一人用ですから600年先まで一気に飛ぶのは無理だと判断して、速川さんから忠清様の墓の事も聞いていましたので、平成のあの地に一旦降り立ち、私だけ一度戻りエネルギーを補充して、遅くても1分後くらいまでには戻るつもりでした」
    如:「だが」
    理:「直ぐに平成に戻る為に早く充電できる方法は無いかと速川さんの本を読み返しましたら、あなたが物語の中に現れていて驚きました」
    如:「では、尊の運命も変わったと」
    理:「そうです」
    如:「そうか。だが、あなたに礼を。わしを助けてくれてありがとう」
    理:「いえ」
    如:「あの折、光が見えたのだが」
    理:「私にもはっきりした原因は分かりませんが、私が通った事で摩擦の様な状態が生じたのかも知れません。その光だったのではないかと」
    如:「難しいのぉ」
    理:「ですが直ぐに戻っていたら」
    如:「尊たちに会う事は無かったと」
    理:「はい。速川さん一家が楽しんでいることを知りましたので、あの時に戻る事はせずにしばらくはこのままにと。でも、返ってあなたに辛い想いをさせてしまったようで」
    如:「案ずるな。あなたのおかげで楽しく過ごす事が出来ました。速川家での生活は楽しかった。それに幸子さんと孝君の事なら気にすることは無い。わしにとってこの上ない幸せな時だったからの」
    理:「そう言っていただいて」
    如:「尊も申しておったが、何故すぐに戻れなかったのだ?」
    理:「やはり450年はエネルギー消耗が激しく、私の研究はまだまだでした。戻ってみて装置はしばらく使える状態ではありませんでした。修理とその後のエネルギーを蓄えるのにゆうに半年かかりました」
    如:「そうだったのか・・・この、写真の事を話してくれないか?」
    理:「はい。孝の成人の日に設定して向いました。少しの間であれば歴史は変わらないと思いましたので」
    ナレ:木村三吉からネクタイを貰い、それを成人式で結んだと書かれてあった。その姿を如古坊に見せてあげたいと考えた理樹弥は孝の前に現れた。
    理:『すみません、神山孝さんですか?』
    孝:『そうですが、あなたは?』
    理:『か・・・川崎と申します。実は、木村三吉さんの知り合いでして』
    孝:『えっ、本当ですか?』
    理:『はい。木村さんは遠くに居りまして日本に来ることは出来ませんが、あなたの成人した姿を見せてあげたくて写真を』
    孝:『そうですか。あの、三吉さんはお元気ですか?』
    理:『はい。では、1枚よろしいでしょうか?』
    孝:『はい。そうぞ』
    ナレ:孝はカメラの前で姿勢良く。そして、理樹弥に加味は無いかと聞いた。理樹弥が胸ポケットから手帳を出し丁寧に破いて、
    理:『これで良いですか?』
    孝:『はい』
    ナレ:孝はペンを出して何かを書き理樹弥に渡した。
    孝:『本当は色々書きたいんですが。これを三吉さんに渡してもらえますか。それと、連絡先を』
    理:『すみません、それは出来なくて』
    孝:『あっ、そうですか。でも、元気だと聞いて嬉しかったです。私も元気ですと』
    理:『はい。伝えます』
    ナレ:孝は誰かに呼ばれ挨拶してその場を去った。
    理:『すみません』
    ナレ:理樹弥はその後姿に深く頭を下げた。直ぐに現在に戻らず孝が歩いて行く方へ進むと、成人式の会場から少し離れた場所に消防署が。孝はその建物の中へ。しばらくして制服姿の孝が出て来た。仲間に成人式の事を話している姿が見え、その姿を写した。
    如:「そうだったのか。孝君の元気そうな姿を見ることが出来て。ありがとう」
    理:「孝は署長までになりました。晩年は消防活動にも率先して参加していました。ブロックで出来た色あせた消防車の写真も残っていました」
    ナレ:覚達が送った物だと分かった。
    如:「それから」
    理:「はい?」
    如:「あっ、いや、何でもない」
    理:「それから速川さんが言っていました。今でも満月の日は父親のレシピのレンコンのはさみ揚げが食卓に出されるのだそうです」
    如:「わしも好きだった。尊の家族は?」
    理:「はい。速川さんは大学院」
    如:「大学院?」
    理:「大学の次の学校とでも言いましょうか」
    如:「やはり、尊は勉強が好きなのだな」
    理:「その頃の事も書いてありました。医学部の女子と合コンで知り合った人と」
    如:「ごうこん?」
    理:「合同コンパと言って男女で話をする場ですね。そこで知り合った女性と結婚して速川医院はその方が継いだそうです」
    如:「そうか。では、お母さんも安心したのだな。良かった」
    ナレ:如古坊はみんなが写る写真を見て嬉しそうな表情。
    理:「では、私はそろそろ。あなたに会えて良かったです」
    如:「わしもだ。そなたも達者での」
    理:「はい。では」
    ナレ:如古坊の前から消えた。
    如:「聞けなかった」
    ナレ:孝が神山の姓になった理由を聞くことが出来なかった。

    =現在 2170年=

    ナレ:理樹弥は元の場所に戻った。そして、唯の元へ向かうため、また半年掛けエネルギー充電し、
    時を待った。

    過去&永禄&現在⑯へ続く

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    過去&元禄&現在⑭

    =過去 2021年 1月15日=

    ナレ:神山家の食卓は朝昼のおかずは1品。夕飯は10品。
    祥:「凄いね」
    佳:「当り前よ」
    祥:「でもさ、毎回この品数だと思ったら幸子さんプレッシャーにならないかね」
    佳:「日頃の様子も話すから」
    祥:「そっ」
    ナレ:祥から孝の様子を聞いていた佳津子は、
    佳:「お前次第ね」
    祥:「急に何?」
    佳:「孝君とこの先、生まれてくるであろう子を分け隔てなく育てることが出来るかどうか」
    祥:「正直分からないよ。子育てした事ないし」
    佳:「まぁ、そうだけど。孝君の命も人生もあなたがこの先、守らなくちゃいけないのよ。今更だけど、その覚悟がないなら、諦める事ね」
    祥:「変なこと言うなよ。俺は幸子さんも孝君もみんな守る覚悟は出来ているんだから」
    ナれ:そこへ、としをが帰って来た。
    と:「ただいま。聞こえたけどな、覚悟って義務みたいに言うなよな。子育ては確かに責任もあるがな、絶対こうしなくちゃならないって肩肘張って考えていると、何か遭った時、冷静に判断出来ないと思うんだよ。要は肩の力を抜いて柔軟にな」
    佳:「あなたの言っている事、分かるような分からないような」
    と:「私も何が言いたいのか分からなくなった。あははは」
    祥:「俺の理想の父親像は父さんだから」
    と:「そうか」
    祥:「子育てに力が入っていない感じが良い」
    と:「お前なぁ」
    祥:「だから、俺、反抗期も無かっただろ」
    佳:「そうね、そう言えば」
    と:「そうか、私のおかげだな。ははは」
    ナレ:そこに呼鈴が。祥が迎えに出た。
    祥:「いらっしゃい。どうぞ上がって下さい」
    幸:「ありがとうございます。孝」
    孝:「お兄ちゃんごめんなさい」
    祥:「俺にデリカシーが無かったんだから、孝君が謝る事は無いんだよ。それで、ごはん食べたら大きい風呂に行こうね」
    ナレ:孝は照れた表情で頷いた。
    佳:「いらっしゃい。で、大きい風呂って聞こえたけど?」
    祥:「言ってなかったっけ?孝君と竹の湯へ行こうと思って」
    佳:「夕飯の事は言ってたけど。でもね、竹の湯さんとこ今週は改装で休みよ」
    祥:「えっ、そうだったんだ」
    と:「孝君、狭いけどうちの風呂で我慢してくれるかな」
    佳:「そうね。息子の確認不足でごめんなさいね」
    幸:「いえ」
    祥:「じゃ、うちの狭い風呂に入ろうか」
    と:「私が狭いと言うのは当然だが、お前がそれを言うな」
    祥:「事実じゃん」
    佳:「ごめんなさいね。うちの男共は子供だから」
    ナレ:そう言われて返事のしようもなく幸子は苦笑い。話はまとまり神山家の風呂に入る事にした。食事前に風呂掃除を祥に指図。普段ならブツブツ言うところだが素直に風呂場へ。食事も終わり二人は風呂場へ。
    祥:「背中洗うから後ろを向いて」
    ナレ:優しく背中を洗ってあげながら、
    祥:「お母さんに聞いたよ、そのお友達の事と自分を重ね合わせて考えてしまったんだってね」
    孝:「うん」
    祥:「孝君が心配するのも当然だと俺も思うよ。正直に話すけど、俺は子育てをした事はないから、どんな父親になるのかは分からない。だから、孝君が悲しむようなことをしてしまうかもしれない」
    孝:「・・・」
    祥:「で、孝君は俺の先輩だ」
    孝:「えっ?」
    祥:「俺も昔は子供だった。でも、今の子供の事は分からない。孝君の事も孝君の友達の事も、将来、孝君に弟か妹が生まれてきて、俺には分らない事が沢山あるから、子供の側から、俺に色々教えて欲しいんだ。いいかな?」
    孝:「いいよ」
    祥:「ありがと」
    ナレ:湯をかけ泡を流した。
    孝:「今度は僕がお兄ちゃんの背中を洗うよ」
    祥:「お願い」
    ナレ:祥もとしをと一緒に風呂に入っていたが、いつから一緒に入らなくなったかと考えていた。
    孝:「お兄ちゃん?」
    祥:「ん、父さんといつまで入っていたかなって考えてたんだ」
    孝:「何年生まで入ってたの?」
    祥:「はっきり覚えてないけど、四年か五年かな。孝君だったらどうかな?」
    孝:「分かんない」
    祥:「そっか。分かんないよなぁ」
    ナレ:泡を流した後、二人同時に湯船に入りお湯が滝のように流れた。

    ナレ:祥と孝が仲良く風呂に入っている頃、食後のデザートでみかんを食べていた。
    佳:「このみかん、主人の親戚が毎年送ってくれてね、結婚してからみかん買う事ないのよ」
    幸:「そうですか。美味しいですね」
    佳:「沢山あるから、持って行って」
    幸:「ありがとうございます」
    と:「幸子さんが此処へ来たと言う事は、祥との事を真剣に考えてくれているって事かな」
    幸:「はい」
    佳:「親の欲目でって事でもないけど、私たちにとっては祥は自慢の息子」
    幸:「はい、分かります」
    と:「祥は、あなたと孝君を裏切るようなことはしないと思います。もし、何か遭ったら、私たちが祥を懲らしめます」
    佳:「そうよ。ボッコボコにするから。あはは」
    幸:「それはぁ」
    と:「妻は本気です。ははは」
    佳:「冗談はさておき、あの子は真剣に考えていますから、それだけは分かって下さい」
    ナレ:佳津子はとしをに合図して、ダイニング横の座敷に行き、手を付き、
    佳:「祥の事よろしくお願いします」
    幸:「その様な真似をして頂いては」
    ナレ:幸子も移動して同じ様に。
    幸:「わたくしの事をご存じなうえに、孝まで受け入れて下さる皆様に感謝してもしきれません。私と孝共ども宜しくお願い致します」
    ナレ:そこへ湯上りの二人が戻って来て三人の様子に、
    祥:「みんなして何?」
    と:「いいから、お前もこっちに」
    ナレ:隣に来た祥の頭を押さえ、
    と:「こんな不束な男ですが、よろしくお願いします」
    ナレ:状況が飲み込めた祥も手を付き、
    祥:「末永くお願いします」
    ナレ:孝は大人の行動が理解できていないが同じようにしていた。
    と:「まだ説明していませんでしたが、祥には一つ上の姉が居りまして、今は所帯を持ちアメリカに居ます」
    幸:「そうですか」
    祥:「姉は母に性格が似ているので、幸子さんと孝君とも仲良くできると思いますよ」
    佳:「そうね、そうかも。早く会わせたいわね」
    幸:「私もお会いしたいです」
    ナレ:後日、改めて小路家に挨拶に行き快諾してくれた。その夜、祥は姉の未咲に連絡した。
    祥:「久し振り。みんな元気?」
    未:《みんな元気よ。で、お母さんに聞いたわよ、あんた相手出来たんだって》
    祥:「相変わらずだね」
    未:《何よ?》
    祥:「別に。で、母さん話してたんだ」
    未:《まぁ、上手くいけばいいなぁって言ってたけどね。滅多に連絡してこないあんたがって事は》
    祥:「ん。おかげさまで結婚決まったから」
    未:《そう、良かったわね。なんでも、息子さんはあんたより出来た子だって自慢してたわよ》
    祥:「そっ。母さんの中では本決まりになってたんだな」
    未:《あんたが煮え切らないからヤキモキしてたらしいわよ》
    祥:「まぁ」
    未:《もし、あんたが踏み出さなかったらお父さんとお母さんに代わって、私がどうにかしようって考えてたのよね》
    祥:「ありがと」
    未:《あら、随分素直》
    祥:「もぉ。じゃ、日取りとか決まったら連絡するよ」
    未:《待ってるわ。まぁ、せいぜい二人に嫌われないようにする事ね。アハハ。じゃぁね》
    ナレ:祥が反論する前に切れた。尊から話を聞いた裕は自分の予言が当たったと喜んだ。その半年後の6月に結婚式を挙げた。式には速川家の三人と裕が招待された。

    過去&永禄&現在⑮へつづく

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    過去&永禄&現在⑬

    ナレ:祥は幸子に連絡をして、孝と二人きりで話がしたいと銭湯に誘った。
    幸:《銭湯ですか?》
    祥:「はい。孝君は銭湯に行った事は有りますか?」
    幸:《一度もありません。アパートの近くに以前は在りましたが、私たちが越した頃に廃業したので行く機会はありませんでした》
    祥:「そうですか。うちの近くに在るので、男同士裸の付き合いで腹を割って話したいと」
    幸:《そうですか。ですが、今の状態で行くとは考えられません》
    祥:「手強いですね。でも、俺は二人を幸せにしたいと、孝君の頑固には勝てるつもりです」
    幸:《分かりました。話してみます》
    祥:「はい。宜しくお願いします」
    ナレ:その日は日曜日、翌日も休みなので、孝と幸子は泊りがけで実家に来ていた。孝と亮二がテレビゲームをしていた。孝はいつものように元気だった。母紗千江に祥の提案を話した。
    紗:「そうなの。でも、あなたから聞いていた孝君の様子、此処ではいつもと変わらないのには驚いたわ」
    幸:「そうね。私も驚いたわ。私とは話さないのに」
    紗:「それだけ、気を使う子なのよ」
    幸:「私の責任ね」
    紗:「あなただけじゃないわ。私達の責任の方が重いわよ。だから尚更、孝君には幸せになって欲しいと思うのよ。祥さんであれば二人を幸せにしてくれるとお父様も言っていたわ」
    幸:「そうね。私もそう思うわ。でも」
    紗:「此処は祥さんにお任せして」
    幸:「えぇ」
    ナレ:ゲームが一段落した時に孝を呼んだが幸子の側に来ようとしない。紗千江は幸子の耳元で、
    紗:「この頑固さはあなたに似たのね」
    幸:「そうかしら?」
    紗:「そうよ。孝君、お母さんが話があるそうよ」
    亮:「孝が考えていることをお母さんに言わないと、お母さんだって分からないんだぞ。お前は男だ、女性を泣かせることをしちゃいけないんだよ」
    紗:「あなた、そう言っても」
    亮:「まぁそうだが、孝は分かってくれるよ。なっ、孝」
    ナレ:亮二に背中を押されゆっくり幸子の元へ歩いて行った。
    幸:「孝は何を怒っているの?」
    孝:「怒ってない」
    幸:「私には怒っているようにしか見えないのよ。怒っていないのなら、孝が思っていることを話してくれないかな?」
    孝:「・・・・・」
    亮:「孝だって言いたい事あるのに言えなくて苦しいんじゃないか?」
    紗:「そうよ、お母さんも孝君の言いたい事を受け止めてくれるから」
    孝:「・・・・・」
    幸:「孝、何でも良いのよ言って。もし、祥さんとの結婚が嫌なら、嫌と言ってくれていいのよ。三吉さんにはもう会えないと話したでしょ。それでも孝の心の中に三吉さんが居る事も祥さんは分かっているから」
    孝:「・・・お母さんとお兄ちゃんが結婚したら・・・僕・・・要らないんでしょ」
    幸:「えっ?」
    紗:「何を言っているの孝君。要らないわけないじゃないのよ」
    幸:「そうよ。どうしてそんな事を?・・・あっ」
    紗:「幸子?」
    幸:「あの話を理解していたの孝?」
    亮:「何だね?」
    ナレ:幸子が理由を話した。孝が小学校に上がる頃、幼稚園の同じ組の男の子の母親が再婚した。昨年、再婚相手の間に子供が生まれた。その頃から息子が反抗的になったとその母親から相談を受けた話を孝も側で聞いていた。母親の話では生まれたばかりの妹の側にも寄り付かず、何か頼んでも言う事を聞かない。赤ちゃん返りの様子もない。
    幸:「息子さんが言っていた事、妹のなっちゃんが可愛いんだ僕なんか要らないんだと言って、彼女は息子さんの頬を叩いてしまったと話していたの」
    紗:「その子、寂しかったのね」
    幸:「分かっていたはずなのに手を挙げてしまったと。もしかして、孝、あなたもそう思うの?弟か妹が出来て、自分が要らないと思うの?」
    孝:「だって」
    幸:「私は正直どうなるか分からないけれど、祥さんは孝を大事にしてくれると思うのよ」
    紗:「あなたったら」
    幸:「孝に目を向けられない事も」
    亮:「ここは祥さんに任せてみないか?・・・丸投げって事じゃにからな」
    紗:「分かってるわよ。私も、それが良いと思うから」
    幸:「孝、祥さんが男同士手で話がしたいと言ってくれているの、お受けしてもいいわよね」
    孝:「・・・うん」
    ナレ:早速、祥に連絡した。孝の様子の理由を伝えた。
    祥:《そうだったんだ。理由が分かれば、話しやすいから。じゃ、善は急げで今週の金曜日の夜に連れて行っていいですか?》
    幸:「はい。お願いします」
    祥:《じゃ、うちで夕飯食べてからって事で》
    幸:《分かりました。では、仕事終わりに伺います」
    祥:《待ってます。ご両親によろしくとお伝えください》
    ナレ:電話を切った後、祥は金曜の夜に二人が来ることを話した。
    亮:「本当に、神山にそっくりな男だな。仲間内では一番優しい男だよ。私も安心だよ・・・あっ」
    幸:「お父様?」
    亮:「孫の取り合いになるって話していたんだ」
    幸:「お父様ったら」
    ナレ:亮二は孝を抱き上げ、
    亮:「神山のお祖父ちゃんと遊ぶのを10回なら、私とは100回遊ぼうな」
    ナレ:孝は一先ず頷いた。
    紗:「あなたったら、孫に気を使わせて呆れましたわ」
    ナレ:幸子も苦笑い。

    過去&永禄&現在⑭へつづく

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    過去&元禄&現在⑫

    =過去 2021年 正月=

    ナレ:眠っていた祥を文字通り叩き起こし、
    佳:「いつまで寝ているのよ、新しい年になったんだから、あなたも新しくなりなさいよ!」
    祥:「新しくって、意味わかんない」
    佳:「正月なのよ、正月早々寝坊なんて1年の始まりなのよ、起きなさい!」
    ナレ:佳津子は掛け布団をはがした。
    祥:「分かったよ、起きるよ」
    ナレ:嫌々起きた祥はパジャマのままで1階に。テーブルにはお節料理のお重とお屠蘇セットが。二人は着物姿。
    と:「休みだからってなぁ、パジャマは無いだろうよ」
    祥:「誰も見ていないんだし、まぁ、いつもの事だし」
    と:「まぁ。じゃ、来年からは着物とは言わないが、パジャマは無しにしろよな」
    祥:「わかったよ」
    ナレ:着かえず椅子に座り、
    祥:「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
    ナレ:挨拶して手酌で酒を注ぎ飲んだ。
    佳:「呆れたわね。で、今年はどうするの?」
    祥:「どうするって何を」
    ナレ:そう聞いた祥だが要件は分かっている。孝の誕生日会の日の夜、砕けちゃうかもと言っていたにもかかわらず、どうなったのか何も言ってこない息子にヤキモキしている事を。当の祥も行動できずに立ち止まっていた。幸子から何も言ってこない事で、それが答えなのかと考えた祥は幸子にLINEすら出来ずにいた。
    祥:「あぁ、砕けちゃったかもな」
    と:「私から小路に聞いてもいいんだぞ」
    祥:「子供じゃないんだから、それはやめてくれよ」
    と:「ん。明子さんが言っていたが、彼女の心に誰か居るって、お前がグズグズしているのは、もしかして、その相手お前知っているのか?」
    祥:「グズグズって。まぁそうだけど。それに相手の事も俺も知ってるし、もう会えない人だし」
    佳:「何それ、意味わからないわよ」
    祥:「もぉ良いじゃん、俺、見合いする」
    ナレ:投げやり気味に言った祥に、
    と:「情けない男だよ」
    祥:「正月早々、そんなこと言われたかないよ。自分が一番分かってるんだからさ」
    ナレ:その言葉に二人は何も言えなかった。いつも明るい正月が今年は静かな元日となった。しばらくして、
    祥:「父さん、母さん、ごめん」
    ナレ:としをはニコニコしながら祥の頭をなでた。
    佳:「じゃ、これから初詣に行きましょ。そこで神頼み」
    祥:「分かった」
    ナレ:三人揃って出掛けた。

    ナレ:近くの寺でお参りを済ませ、家に戻った祥は意を決し幸子にLINEを。【明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします】
    祥:「シンプル過ぎたかな。イラストとかにした方が良かったかな」
    ナレ:着信に喜んだが別の人物。イラストオンリーの内容。相手は仲間内の横瀬だった。独身は祥とこの横瀬だけ。
    祥:「俺とこいつだけか。は~」
    ナレ:年頭の挨拶を返信して直ぐ既読でまた着信。【年初めの飲み会、他の連中、奥さんの用事で来月にしないかって言ってきたけど なら、二人で飲むか?】
    祥:「そうだったな。暇なのは俺と横瀬だけなんだな」
    ナレ:返信で【了解  お前の方で日程、店は決めて良いよ あとで教えてくれ】。直ぐに動く絵文字が返って来た。ノックがの音がして佳津子が顔を出した。
    佳:「お汁粉食べる?」
    祥:「食べる。餅二つね」
    ナレ:佳津子の後から部屋を出ようとした時にLINEの着信の音。横瀬だろうとゆっくりスマホを見ると相手は幸子だった。
    祥:「えっ!」
    ナレ:そこには年頭の挨拶と富士山をバックに小路亮二達との写真が貼り付けてあった。
    祥:「富士山か」
    ナレ:祥は直ぐに返信した【楽しまれていますね。皆様にもよろしくお伝えください】。直ぐに【有難うございます。伝えます】。祥は今はこれだけで幸せな気持ちになった。

    =過去 2021年 1月4日=

    ナレ:祥は正月明け5日からの営業の為、店で用意をしていた。元日に幸子からのLINEはあったがそれっきりだった。
    祥:「旅行かぁ、そう言えば家族旅行っていつ行ったっけ?」
    ナレ:祥の祖父、としをの父親が昔、この場所で理髪店を営んでいた。としをは理容の道には進まず会社勤め。祥は小さい頃から祖父の事が好きで、仕事姿の祖父を見ていて、祥も祖父と同じ道に。祖父は祥が専門学校に通っている頃に他界した。理容学校を卒業して、直ぐに独り立ちをしないで他の店で修業するようにと、としをに勧められ、祖父の弟子だった人の店で3年働き、戻って休業していた店を再開した。再開してからも休日返上で腕を上げる為、勉強に励んでいた。たまには友達と飲むことはあったが旅行は無かった。
    祥:「二人とも、何も言わなかったな。今度、何処かに連れて行くか」
    佳:「なに?」
    ナレ:急に顔を出したので驚いた。
    祥:「驚かすなよ」
    佳:「別に驚かせて・・・やっぱり驚くかな」
    祥:「意味わかんない」
    佳:「いいから来なさい。お客さんよ」
    祥:「誰?」
    佳:「いいから」
    ナレ:祥の腕を引き母屋へ。
    祥:「えっ!」
    佳:「ほら、驚いたでしょ」
    ナレ:そこには幸子と孝が居た。
    幸:「明けましておめでとうございます」
    祥:「あっ、はい。明けましておめでとうございます」
    佳:「お土産を頂いたのよ」
    祥:「ありがとうございます」
    ナレ:正月の用意をしている時に小路亮二は思い立ち、山梨に行くと言い出した。その場に居た明子にも声を掛けたが、やはり急の事も有り都合がつかないと断った。
    佳:「京都木さんは家族水入らずと遠慮なさったのかも」
    幸:「そうだと思います」
    ナレ:幸子は物心がついた頃から両親と年末年始をゆっくり過ごす事は無かった。紗千江の実家は山梨で姉夫婦がワイナリーを営んでいる。紗千江も行事以外は実家に出向く事は無かった。ワインは送ってくれている。亮二の提案に心配をかけていた詫びとワインの礼の為に行くのは良いだろうとみんなは承知した。早速、紗千江が連絡をすると姉は驚いていたが喜んでくれた。
    と:「飲み会の時に言っていたな、国内外のワインを飲んでいるが、妻の実家のワインが一番、自分に合っていると」
    幸:「父もそう申しておりまして、ご無沙汰しているのにと言いましたら苦笑いを」
    と:「そうですか。でも、小路は嬉しかったと思いますよ」
    幸:「はい」
    佳:「じゃ、そのワイナリーに行ってみたいわね」
    幸:「では、母に伝えておきます。いつでも仰って下さい」
    佳:「ありがとうね」
    幸:「伯母の家にお泊り頂いて、ゆっくり観光なさったら良いかと」
    佳:「まぁ、日帰りになると思うから」
    幸:「いえ、遠慮なさらずに」
    佳:「いえ、良いのよ。だって、この子にご飯作らないと」
    ナレ:祥の顔を見て笑った。
    祥:「別に、どうにでもなるよ。ゆっくり旅行も出来なかったから、お言葉に甘えて。勿論お礼はしますから」
    と:「そりゃぁ、当然だろう」
    ナレ:祥は日ごろの感謝に自分が負担するからと言った。
    と:「じゃ、贅沢させてもらおぅかな」
    祥:「あのぉ、限度ってのが有るんだからね、そこんとこは分かってよ」
    と:「はいはい」
    ナレ:二人のやり取りを笑顔で見ていた。
    祥:「ほら、幸子さんが呆れてるだろ」
    幸:「いえ。私は素敵なご家族だと」
    と:「あなただって、幸せでしょ」
    幸:「はい。少し前までは不幸は自分が蒔いた種だと諦めていました。ですが、ある方に出会って、私と孝が幸せの方へを歩いて行けたように思います」
    佳:「えっ?」
    幸:「いえ」
    ナレ:祥はその相手が如古坊の事だと分かっていた。
    幸:「あの、祥さんにお話があって」
    祥:「俺に?」
    幸:「はい」
    祥:「では、店の方で」
    ナレ:その様子に佳津子が、
    佳:「暖房点けて無いから、此処でね。ねぇ、孝君、前に食べたケーキ屋さんが今日から営業なのね、ケーキ買いに行かない?」
    と:「私もたまにはいいかな。孝君行こう」
    ナレ:三人は出掛けた。
    祥:「話って?」
    幸:「両親に三吉さんの事を話しました。孝が父親になって欲しいと願っていたことも。そして会えない事も」
    祥:「そうですか。で、ご両親は?」
    幸:「もう会えないと知って驚いていましたが、私が生涯その人を想っている事も知った上で、私を受け止めてくれる人が居ると話しました」
    祥:「えっ」
    幸:「父も母も直ぐに神山さんの息子さんだと、祥さんだろうと」
    祥:「お見通しだったんだな」
    幸:「父が、祥さんはお前がその人を想う事を承知で受け止めてくれる。その言葉に甘えているのか。甘えているのならば祥さんに失礼じゃないかと」
    ナレ:祥は話の流れで、もしかして承知してくれていないのかと。
    祥:「でも、俺はそれでも構わないって話したのでしょう?」
    幸:「話しました。父も母も、私の気持ちが変わらないのあればお断りした方が良いと」
    祥:「それは分かりますが・・・幸子さんは?」
    幸:「私は・・・私は、数日だけの人ですが今でも心に思いが残っています」
    祥:「それは俺だって、何度か店に来てくれただけですが、今でも俺の中に彼が居ます。それは幸子さんと同じだと思っています。そうでしょ」
    幸:「はい」
    ナレ:そう返事した後、二人とも何も言わず時間が過ぎた。すると突然、祥は立ち上った。その反動で椅子が倒れた。幸子は驚いて立ち上がると、祥が幸子を抱きしめた。思いもよらない行動に驚き離れようとした幸子を、祥はギュッと強く抱きしめた。
    祥:「俺は幸子さんの過去も想い出も全部受け止める覚悟は出来ています。だから、俺と結婚して下さい」
    幸:「神山さん・・・良いのですか?」
    祥:「良いも何も、きっと運命なんです。そうです、俺と出会うのが運命なんです。幸子さんと孝君と家族になる事が俺の生まれた意味なんです。運命なんです」
    ナレ:変に思われたかなと思っていたが、幸子が自分の腕を祥の背中に回し抱き締めた。
    祥:「幸子さん・・・ん?」
    ナレ:横を見るととしをと佳津子がニコニコしていた。二人は離れた。
    祥:「あっ、えっ、いつから?」
    都:「過去も思い出もから」
    佳:「キザな事を言ってたわねぇ。運命連呼で。ははは」
    祥:「ただいまくらい言ってよ」
    佳:「言ったわよ」
    ナレ:だが孝は複雑な表情。
    幸:「孝?」
    孝:「帰ろうよ」
    ナレ:孝は幸子の腕を引いた。
    祥:「孝君?」
    ナレ:孝は返事すらしない。
    幸:「孝、お返事は?」
    孝:「・・・」
    祥:「良いんですよ」
    佳:「ケーキ持って帰ってね」
    ナレ:箱を幸子に渡した。
    幸:「すみません。お邪魔しました。神山さん」
    祥:「はい?」
    幸:「連絡します。では、失礼します」
    ナレ:二人は帰った。
    佳:「子供には刺激が強かったかしらね」
    祥:「声掛けてくれれば良かったんだろうに」
    と:「ただいまって言ったぞ」
    祥:「あぁ、まっ」
    佳:「ショックだったのね」
    と:「そうかもな」
    ナレ:その夜、幸子から連絡が来た。
    祥:「孝君の様子は?」
    幸:《車の中も、夕食の時も一言も話してくれません。先程やすみましたが、おやすみも言わずに寝ました》
    祥:「そうですか。お母さんを取られるようだと思ったのかも知れませんね」
    幸:《そうなのかどうかは、私にも分かりません。いっそ、怒ってくれた方が》
    祥:「そうですね。あの場でも俺に怒ってくれた方がとも思います。孝君、どんな気持ちなんだろう」
    幸:《はい。しばらくは、そっとしておいた方がと思うのですが》
    祥:「そうですね」
    ナレ:電話を切った後、佳津子たちに話した。
    佳:「孝君って大人びているのは、きっと育った環境で、自分の気持ちを押し殺す術を覚えてしまったのかも知れないわね」
    と:「そうだったら、寂しくないか?」
    佳:「そうね。で、あなたはどうするつもり?」
    祥:「取り敢えず、様子を見る事にしようって。方法を俺も考える時間が欲しいけど。まぁ、長くならない様には考えてるけど」
    と:「そうだな」
    ナレ:一週間は行動を起こさず過ごした。その間、幸子から報告はあったが何ら変わりない様子だと。幸子は孝が此処まで頑固だと思わなかったと。祥は考えた方法を実行するため行動に出る事にした。

    過去&永禄&現在⑬へつづく

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    過去&元禄&現在⑪

    =過去 2020年12月24日=

    ナレ:亮二達は22日に祝いたかったが、幸子にわざわざ早退させず冬休みになってからと言われその通りにした。支度が出来た頃、幸子と孝が到着。ツリー下のリボン付きの箱の山。
    幸:「お父様」
    亮:「今までの分。今回だけだ許してくれ」
    ナレ:両親の気持ちも分かるが苦笑い。今回だけだと許した。そこへケーキの箱を運んできた明子に、
    幸:「すみません」
    明:「いいえ。この様な・・・お嬢様と孝君の・・・嬉しゅうございます」
    ナレ:明子は感激していた。
    幸:「明子さん、有難うございます」
    ナレ:幸子の言葉を聞いて亮二と紗千江も明子に頭を下げた。
    明:「旦那様も奥様もその様な事なさらないで下さい」
    ナレ:お互いに頭を下げている姿に孝が、
    孝:「おじいちゃんたち何してるの?」
    亮:「ありがとうって事だよ」
    ナレ:そこへ呼鈴が鳴り、明子が玄関へ。あの頃、幸子と明子がこの屋敷から居なくなった後、一人お手伝いを雇ったが長続きせず、亮二達はどれほど明子が優秀なお手伝いであったか身に染みて感じていた。それから誰も雇う事はせず、雑用は運転手の森園に頼むようにしていた。幸子が両親と会うようになった頃にその話を聞いた明子が時々だが手伝うようになっていた。
    祥:「京都木さん」
    明:「いらっしゃいませ。しばらく前からはまた働かせて頂いておりまして」
    祥:「そうですか」
    明:「お待ちしておりました。どうぞ」
    ナレ:中へ通され、祥は幸子がお嬢様だとは知っていたが、屋敷の大きさやリビングの調度品の豪華さに驚いていた。幸子が側に来て、
    幸:「今日はありがとうございます。父と母です」
    ナレ:豪華な物が凄すぎて両親の顔を見るまでにはなっていなかった祥が二人を見て驚いた。
    亮:「あなたは」
    祥:「あの時の・・・幸子さんのご両親でしたか」
    ナレ:亮二が祥と会った時の話をした。
    亮:「神山のご子息で・・・面接の」
    祥:「面接?」
    亮:「いえ、こちらの事です。どうぞお座り下さい」
    ナレ:みんなが揃い、誕生日とクリスマスパーティーが始まった。隅にあるプレゼントの山を見た祥は驚きながらも、孫の初めての誕生日をとても楽しみにしていたことが読み取れ、微笑ましく思い、車に置き忘れたプレゼントを持って来なくて良かったと思っていた。帰り際に渡せばいいかなと考え、取りに戻る事はしないでいた。
    亮:「プレゼントは全部、孝にだよ」
    ナレ:孝は箱を二つ抱え戻って来た。
    孝:「ありがとう」
    紗:「孝ちゃん、遠慮しなくてもいいのよ。みんな孝ちゃんのプレゼントだから」
    孝:「僕、これとこれが欲しいんだ」
    亮:「だが、箱だけでは中身が分からないからな、みんな開けて良いんだよ」
    孝:「ううん、おじいちゃんとおばあちゃんが僕にくれる物はみんな好きな物だから」
    ナレ:としをがその様子を見ていて、
    と:「孝君は、本当、祥より大人だと思うよ」
    祥:「まぁ、否定できないけど。俺だったら全部貰うかな」
    亮:「本当に良いのかい?」
    孝:「うん」
    ナレ:孝は幸子に開けて良いかと聞いてから丁寧に包み紙をはがして箱を出した。有名なゲーム機とゲームソフトだった。
    孝:「お母さん」
    紗:「ゲームは好きじゃなかったかしら?」
    幸:「好きとか嫌いとかではなくて、孝はまだこういったゲームをした事が無くて」
    紗:「そうだったのね。他に何か?」
    幸:「大丈夫よ」
    と:「じゃ、お前、一緒にやってあげたらどうだ」
    祥:「えっ、あっ、そうだね。孝君、今度一緒にやろうね」
    孝:「うん」
    ナレ:もう一つの箱にはヒーローのフィギュアが3体入っていた。
    幸:「孝、良かったわね」
    孝:「うん」
    亮:「喜んでくれるか?」
    幸:「孝はこのアニメが好きなので」
    亮:「良かった」
    ナレ:その後は孝も祥も豪華な料理を頬張っていた。そして、孝が目をこすり始めた。
    幸:「孝、眠くなった?」
    孝:「うん」
    ナレ:孝をソファで横になるよう促した。孝は横になると程なく寝息を立てた。
    幸:「はしゃいでいたから疲れたのね」
    ナレ:祥は孝のはしゃぐ姿は一般的に子供がはしゃぐの半分にもならないと思いクスッと。
    と:「どうした?」
    祥:「何でもない」
    幸:「お父様、私、明日も仕事なのでそろそろ」
    亮:「あっ、そうか。だが、今夜は泊まるかと。だったら、明日早く出掛ければ良いじゃないか」
    幸:「早番なのよ」
    亮:「眠っているのを起すのはかわいそうだ。ならば、孝だけでもこのまま」
    幸:「ごめんなさい。孝もお友達のお宅でクリスマス会があるの。今日は帰ります。また今度、泊まりに来ますから」
    亮:「そうか。では、送らせよう。明子さん、森園を呼んでくれ」
    ナレ:亮二は幸子の都合も聞かず泊まらせるつもりで森園に迎えに行かせたので、幸子自身の車は無い。
    と:「良かったら、息子に送らせますよ」
    幸:「それでは」
    亮:「そうだな。送ってもらいなさい。祥さん、よろしくお願いしますね」
    祥:「あっ、はい。送り届けたら迎えに来るよ。それまで父さん待っていてくれ」
    亮:「神山は我が家の車で遅らせるから心配しなくてもいいよ。もう少し話していたいからね」
    と:「そうだよ。気を付けてな。あれ、忘れずにな」
    祥:「あぁ。では父の事、よろしくお願いします」
    ナレ:祥は眠っている孝を負んぶして表に。紗千江と明子が折詰めした料理を幸子に渡した。明子が孝のプレゼントを持ち、車に積み三人を見送った。
    亮:「では、続きを」
    ナレ:としをの空いたグラスにワインを注いだ。
    亮:「合格だな」
    と:「ん?」
    亮:「神山が言っていただろう。私は祥君なら幸子と孝を幸せにしてくれると思ったよ」
    紗:「主人の言う通りです。私も彼なら」
    と:「そう言っていただけるのは嬉しいのですが、私が言っては息子に叱られますが、優柔不断な所が有りますからね」
    明:「そうですか。私は頼りになる息子さんだと思いますよ。お二人を大切にして下さると」
    と:「なんだか私が照れますね」
    明:「ですがこの場で賛成していても、当のお二人が」
    と:「そうですね。出会って時間も経って、息子も当たって砕けるとか言っていても、一向に砕けにも行かないで、妻とヤキモキしているのでね。見守るしかないのかと嘆いています」
    明:「ですが」
    紗:「どうしたの?」
    明:「はっきりとは。ですが、幸子お嬢様には誰か心に秘めた方が居られるようです」
    紗:「好きな人が?」
    明:「私はそう感じました」
    亮:「誰なんだね?」
    明:「どなたなのかは皆目」
    亮:「そうか・・・やはり、見守るしかないのかね。だが、孝も欲が無い」
    ナレ:残されたプレゼントの山を見た亮二に紗千江は、
    紗:「私たちの元で育ったならば、全て自分の物にしていたかもしれませんね。ふっ」
    ナレ:その笑いに亮二は苦笑い。
    明:「では、旦那様、寄付をなさったらどうかと」
    亮:「それも良かろう。手続きを頼んでもいいか」
    明:「はい。では」
    ナレ:明子は片付けを始めた。
    紗:「私が片付けておくから良いわよ」
    明:「ですが」
    紗:「あの頃の私とは違うのよ。支度もテキパキと出来ていた方でしょ。ふふっ」
    ナレ:昔は、身の回りの事も明子に任せていて、出掛けることが多かった。でも、それも亮二の為だと分かっていた明子は文句ひとつ言わず働いていた。幸子が我が儘になっていたのも明子が両親の苦労を話さずにいた事だと後悔していた。少し前にとしをに父親の事を聞いたと聞かされた明子は、その時、幸子にも謝った。幸子は両親に自分の我が儘を謝り、亮二達は一時の感情で幸子と明子を追い出したことを謝った。
    明:「そうでした。お任せします。では、私もそろそろお暇致します。お正月の用意もございますので明日も参ります」
    紗:「ありがとう」
    ナレ:明子は夫用に料理をタッパーに詰めて持ち帰った。
    亮:「うまくいけば、神山と親戚かぁ」
    と:「そうなるなぁ。まぁ、それも二人次第だけどな。だが」
    亮:「どうした?」
    と:「小路と孫の取り合いになりそうだな。あははは」
    亮:「そうだな。あははは」
    ナレ:側で紗千江はニコニコしていた。飲み慣れないワインに自分でも、そろそろヤバいかなと思ったとしをは、
    と:「私も、そろそろ。楽しかった。これからもよろしくな」
    亮:「今までの分も取り返す気持ちで、飲もうな」
    と:「そうだな」
    ナレ:亮二は森園を呼び、としをを送り届けるよう伝えた。

    ナレ:アパートに到着して、孝を寝かせた。
    幸:「お茶を淹れますね」
    祥:「すみません」
    ナレ:祥の前に湯吞茶碗を置き、相向かいに座った。
    祥:「楽しかったですね」
    幸:「そうですね」
    ナレ:そう言った後、お互いに黙ってしまった。隣の座敷で孝が寝返りを打ち、布団がはだけた。幸子が布団を掛け直しに。そして、祥にも幸子があの写真を見た事も分かった。戻って来た幸子に、
    祥:「幸子さんの中に今でも三吉さんが居る事は分かっています。勿論、俺の中にも彼が居ます。酷な事を言いますが、彼はもう幸子さん、孝君、俺の前に現れる事はありません」
    幸:「・・・・・」
    祥:「俺はあなたにも孝君にも三吉さんを忘れて欲しいとは言えません。ですが、あなたも先に進むべきだと思います」
    幸:「・・・・・」
    祥:「俺が・・・俺が全部・・・全部受け止めたいと考えています。三吉さんを想う気持ちも全部。二人を幸せにしたいと思っています・・・返事は直ぐでなくてもいいです。俺は待つのは慣れていますから。でも、断るのであれば早めにお願いします」
    幸:「・・・・・」
    祥:「では、帰ります。ご馳走様でした。お邪魔しました。これを孝君に」
    ナレ:プレゼントを置いて出て行く時に、
    祥:「孝君にゲームの相手が欲しいと言われたら手伝わせてください。では」
    ナレ:幸子は頷くだけだった。祥は直ぐには発進できずにいた。幸子の心深くに如古坊が居る事が良く分かったから。
    祥:「砕けちゃうかなぁ。ふ~」
    ナレ:エンジンをかけ家に向った。

    ナレ:戻ると、としをは酔いつぶれて既に寝息を立てていた。
    佳:「お帰り」
    祥:「ただいま。父さんは?」
    佳:「さっき帰って来たけど、玄関の前で運転手さんに支えられてね。その方に手伝ってもらってベッドに放り投げたわよ」
    祥:「放りって。そんなに。俺が帰る前まではそんなに飲んでなかったみたいだけど」
    佳:「運転手さんの話だと、帰る前に、何か、孫の取り合いで盛り上がってたらしいのね。で、ワイン飲んだって。飲みつけないから回りが早かったんじゃないの」
    祥:「孫・・・そう言う事。で、母さん」
    佳:「なに?」
    祥:「やっぱり、砕けるかも」
    佳:「えっ・・・あぁ、そう。お風呂入って寝なさい」
    祥:「あぁ。おやすみ」
    ナレ:二階に上がる息子の後姿に、
    佳:「祥に幸あれ・・・あっ、今、上手いこと言った。ははっ」
    ナレ:誰も聞いていないが笑い、そして、息子が幸せになる事を願った。

    過去&永禄&現在⑫へつづく

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    過去&元禄&現在⑩

    =過去 2020年 12月初め=

    ナレ:幸子と祥はLINEのやり取りはしていたが、本当に他愛のない会話ばかりだった。その中で幸子の見合い話が無くなった事については祥にとって吉報ではあったが、だからと言って先に進めずにいた。神山家で夕食を摂っていた。
    祥:「あれ? 父さん出掛けてるの?」
    佳:「言わなかった?」
    祥:「何?」
    佳:「小路さんの所で昔の仲間と集まって飲み会」
    祥:「あぁ、そんなこと言ってたね」
    佳:「そう言えば、幸子さんとはどうなったの?」
    祥:「どうって、LINE友達のまま・・・期待しない方が良いかも」
    佳:「お前はもっと肉食系だと思ってたんだけど」
    祥:「肉食って、そんな事ないだろ。知ってるだろうに」
    佳:「まぁねぇ」
    祥:「・・・ごめんよ」
    佳:「別に謝る事でもないでしょ。食べたらお風呂入っちゃって、お父さん午前様だろうし」
    祥:「分かった」
    ナレ:祥も分かっている。自分が此処迄何も出来ない男だったのかと。寝付けずにいると表で車のドアの閉まる音がした。枕元のスマホで時間を確認した。
    祥:「1時前か。随分、盛り上がったんだな」
    ナレ:ムクっと起き上がり下へ。
    祥:「お帰り」
    と:「あ~ご子息どの~」
    祥:「随分酔っぱらって、楽しかったんだな」
    と:「目茶苦茶楽しかった~。何十年も会っていなかったのにな、直ぐにあの頃に戻って、先生の悪口で盛り上がって~」
    祥:「先生も気の毒だね」
    ナレ:その内、としをがその場で眠ってしまった。
    佳:「お願い」
    祥:「あぁ」
    ナレ:としをを担いで寝室へ運んだ。
    祥:「父さんってこんなに軽かったっけ?」
    佳:「あなたが大きくなったって事でしょ」
    祥:「そうだね」
    ナレ:ベッドに横たわらせ布団を掛け、
    祥:「父さんが此処迄酔っぱらう姿初めてかも」
    佳:「私もよ。楽しかったんでしょうね」
    祥:「そうだね。じゃ、おやすみ」
    ナレ:祥は部屋に戻り、しばらくして眠りについた。

    ナレ:朝食を摂っていた祥が、
    祥:「父さんどう?」
    佳:「案の定、二日酔いで頭痛いって」
    祥:「あんなに酔ってたんだから、そうなるだろうね」
    ナレ:祥が食後のお茶を飲んでいるところへ、としをがフラフラと歩いてきた。
    祥:「おはよう」
    と:「あぁ、頭痛い」
    ナレ:佳津子はとしをの前に蜆の味噌汁を出した。
    と:「すまない」
    ナレ:味噌汁を少しずつ飲んで一息。
    祥:「上機嫌だったね」
    と:「あぁ、楽しかった。小路以外は年賀状とかでの繋がりはあったけどな、会う事も無かった五人だけどな、直ぐに騒いでいた頃に戻って、昔話で盛り上がった」
    祥:「先生の悪口とかって言ってた夕べ」
    と:「そっ、いつも竹刀持っていた先生がいてな、ケツをバシッてやられた事もあった。まぁ、私たちが悪さしたからだけどな。でも、楽しかったんだよ」
    祥:「そう」
    と:「そう言えば、孝君の誕生日が今月だって、確か22日とか言ってたな。孫の初めての誕生日会を盛大にするから来てくれって誘われたんだよ」
    佳:「初めて?」
    ナレ:祥も昔の話をすることは無かったので佳津子は深く知らなかった。
    と:「まぁ、色々あったらしいがな。でも、それは過去の事だからな」
    佳:「そう」
    ナレ:としをにそう言われた佳津子は過去の事なら聞く必要も無いだろう、今の幸子が佳津子は気に入っているのだからと。
    と:「祥も行くだろ」
    祥:「いやぁ、俺は、どうかな」
    佳:「お父さんの付き添いで行けばいいじゃないのよ」
    と:「そうだぞ。幸子さんとは友達なんだろ」
    祥:「まぁ」
    ナレ:どうしたら良いかと考えながら店舗へ。歳をは頭をコツコツ叩きながら、
    と:「私が言う事でもなかったんだが」
    佳:「何を?」
    と:「他の奴らが帰って、亮二とサシで飲んでいる時に幸子さんの結婚の事を聞いてみたんだよ」
    佳:「そうなの」
    と:「孝君の父親の事を私に聞かせようとしたけど、私達にはそれは関係ないから」
    佳:「そうね」
    と:「あぁ。で、亮二は幸せにしてくれる人が居るならと言って。親としては相手がどんな人か心配になるよな」
    佳:「当然でしょうね。で?」
    と:「私の息子なんてどうかなって」
    佳:「えっ?」
    と:「酒も入っていたし、私も祥の事が気掛かりだったから、そう聞いてみたんだ」
    佳:「そう」
    と:「じゃぁ、面接するかって笑っていたよ」
    佳:「そう。じゃ、面接に行かせないと」
    と:「あぁ」
    ナレ:祥が怖気づいても引っ張ってでも連れて行こうと話し合った。そんな話になっているとは知らない祥は、
    祥:「いくら親友の息子だって言っても」
    ナレ:先に進もうとしない祥はそれから何も変わらず過ごして1週間前となった。
    佳:「孝君のプレゼント買ったの?」
    祥:「まだって言うか、俺が行かなくても」
    佳:「何言ってんのよ、まったくぅ。べつにお嬢さんをくださいって言いに行くわけじゃないのよ。孝君の誕生日会に行くのよ」
    祥:「そうなんだけど・・・分かった。プレゼント買いに行くから」
    佳:「嫌々行かれてもねぇ」
    祥:「嫌々じゃないから」
    ナレ:定休日に祥はデパートに出掛けた。甥や姪には好みがそれぞれだから結局のところ現金を渡している。身内でもないから入学祝とかそう言う事でない場合はどうだろう。やっぱり品物の方が良いだろうなと考えながら店内を覗いていた。小学生は何を喜ぶのか、何を買ってあげたら良いのか分からずウロウロ。決まらず休憩でレストランに入りコーヒーを注文して、スマホで小学生欲しい物ランキングを見ていた。ゲーム関係が上位。
    祥:「孝君はゲームするのかな?」
    ナレ:祥のテーブルの一つ先の席に夫婦らしき二人。その席に口まで箱が見える大きな袋が見えた。祥は随分買い物してる夫婦だなぁと見ていた。コーヒーを飲み干し席を立つと、ほぼ同時にその夫婦も席を立ち、男性が持ち上げた袋の手提げ部分がちぎれ中身が散乱。祥はその場に行き店員と一緒に袋に戻した。
    夫:「申し訳ない」
    祥:「いいえ。お帰りでしたら車まで運びますよ」
    妻:「いえ、それは」
    祥:「遠慮しないで下さい。力だけは有り余ってますから」
    夫:「そうですか。では、お願いします」
    祥:「地下駐車場ですか?」
    夫:「はい」
    ナレ:三人はレジに行くと妻が祥の分も支払うと言った。祥は遠慮したが、運んでもらう駄賃としてと妻は支払った。
    祥:「では、ご馳走様です」
    ナレ:エレベーターに乗り込んだ。
    祥:「失礼ですが、随分と買われたようですが」
    夫:「孫の誕生日会でクリスマスも兼て、色々見ていましたら、あれもこれもと。娘に叱られるでしょうね・・・でも、そうしたくて」
    祥:「そうですか」
    ナレ:祥は男性の言い方に何かあるのだろうと思いそれ以上の事は聞かなかった。地下駐車場に行くと祥でも高級車と分かる車から白い手袋をした男性が降りてきて、祥が持っていた袋を受け取り荷物をトランクに。
    ド:「お帰りなさいませ社長」
    祥:「社長・・・でしたか」
    夫:「まぁ。本当に助かりました」
    祥:「いえ。では、お気を付けて」
    ナレ:挨拶をしてエレベーターに向った。そして、プレゼント選びの続きをウロウロと。考えている時にふとあの写真が浮かんだ。孝の手に消防車のブロックのおもちゃ箱を。
    祥:「もしかして消防車が好きとか・・・あっ、そうだ」
    ナレ:幸子との他愛のないやり取りの中に、孝が社会科見学で消防署を訪れたその感想を楽しそうに話していたと書かれてあった。
    祥:「好きなんだな消防車。じゃ」
    ナレ:おもちゃ売り場に行き、消防車のプラモデルを購入した。

    過去&永禄&現在⑪へつづく

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    過去&永禄&現在⑨

    ナレ:三時半過ぎて、幸子が店を訪ねた。
    祥:「お呼び立てしてすみません」
    幸:「遅くなってしまい申し訳ございません」
    祥:「気にされることは無いです。どうぞ」
    ナレ:椅子に座らせて、相向かいより少しずれた位置に座った。
    祥:「お気づきかも知れませんが、俺・・・いや、私はあなたの事を」
    幸:「すみません、気が付かなくて」
    祥:「いえ、こちらこそすみません。でも、私は真剣にと、それだけは分かって下さい」
    幸:「はい。それは。私の様な者を有難うございます。でも」
    ナレ:祥は幸子の「でも」の言葉で、やはり三吉の事があるのだと思った。
    祥:「失礼を承知でお聞きしますが」
    幸:「はい?」
    祥:「小路さんは本当に良いんですか?」
    幸:「はぁ?」
    祥:「小路さん、いえ、幸子さんは三吉さんの事を今でも。でも、お見合いを」
    ナレ:幸子は驚いていたが軽く頭を振り、
    幸:「もう過ぎた事ですから・・・ですから、お見合いもお受けしました」
    祥:「本当に良いんですか?」
    幸:「いいも悪いも、もう三吉さんは居ませんから」
    ナレ:語尾が少し強めだった。まるで自分に言い聞かせているようだと祥には思えた。
    祥:「私、俺は自分の気持ちに正直に生きています。今も、一目惚れしたあなたの事が好きです。あなたの心の中に三吉さんが居ると分かっていても。幸子さんの正直な気持ちを聞かせて下さい」
    ナレ:幸子は手元をジッと見ていた。店の時計のカチカチの音だけが響いていた。そして、
    幸:「私は自分の事が嫌いでした。我が儘を言っていた自分も。先日お父様からお聞きして父の事を知り尚更、自分の行いを後悔しました。でも、孝を授かった事だけは私の幸せです。孝と二人で暮らしていても泣き言は言いたくないと生きてきました。そんな中で三吉さんの優しさが心に沁みましたそれで・・・それだけの事と思われるでしょうね」
    祥:「いいえ。何も不思議な事では無いですよ。現に俺だって、三吉さんに会ったのも数回だけでしたけど、俺の心に三吉さんの存在は今でも。幸子さんと俺の好みは同じだったんですよね」
    幸:「そうですね・・・神山さんもお優しい人だと分かります。でも」
    祥:「深く想いがある事は忘れなくても。もし、俺に時間をくれるのなら待ちます。あっ」
    幸:「あの?」
    祥:「幸子さん、お見合いするんでしたよね」
    幸:「はい・・・私は自分に嘘をついていたことを今は恥じています」
    祥:「なにも恥じる事は無いです」
    幸:「有難うございます。お会いしてからではお相手の方に失礼ですからお断りします」
    祥:「大丈夫ですか?」
    幸:「はい。奥様からお話を頂いた時に、奥様にも心に想い人が居るのであれば、お相手に失礼だからお断りした方が良いと言われていました」
    祥:「そうですか」
    ナレ:見合いを断っても自分に望みがあるのかと言えば分らない事だった。
    幸:「私にも時間を下さい」
    祥:「えっ?」
    幸:「ですが」
    祥:「大丈夫です。友人関係でも俺は嬉しいですから。心配しないで下さい。失恋には慣れていますから。あはは」
    ナレ:幸子がクスッと。
    祥:「笑ってくれた事で、話して良かったとそう思います。今日はよく眠れそうですよ」
    幸:「あの、一つ伺っても?」
    祥:「なんなりと」
    幸:「神山さんは三吉さんが何処の居られるかご存じですか?」
    ナレ:ふいに聞かれ驚く祥に、
    幸:「聞いてはいけないことを聞いてしまいました。ご存じだからと言って、どうにもならないのに。可笑しいですね」
    祥:「そんな事は無いです。でも、すみません。俺も旅に出たとしか聞いていないので分からないんです」
    幸:「そうですか。何処かで元気に暮らしているのでしょうね」
    祥:「そうでしょう」
    ナレ:本当の事を言うのは酷だと考え、祥は墓場まで持って行こうと決めた。
    祥:「友達としてお願いが」
    幸:「はい?」
    祥:「LINE友達登録してもらってもいいですか?」
    幸:「あっ、はい、構いません」
    ナレ:お互いに登録した。
    祥:「既読スルーしても構いません。既読が付くだけで嬉しいので。ははっ」
    幸:「それは。神山さんもスルーして下さっても構いませんよ。ふふっ」
    祥:「じゃ、早速」
    慣れ:祥は〔今日はありがとうございました〕。幸子も〔こちらこそ、有難うございました〕と、お互いに送った。そして、幸子は帰って行った。祥はその後姿に、
    祥:「如古坊さん、これで良かったんですよね。気持ちは伝えました。この先どうなるか分かりませんが、幸子さんと孝君が幸せになるように俺は協力していきます」
    ナレ:ふと、この場に居たら如古坊はどんな言葉を言うのか考えて、
    祥:「恋のライバルかな。ふっ」
    ナレ:そこへ佳津子が店舗に顔を出した。
    佳:「どうだった?」
    ナレ:気持ちを伝えた事。幸子が見合いを断ると言った事を伝えた。
    佳:「じゃ、祥と?」
    祥:「それは分からない。もしかして、友達関係で終わるかも」
    佳:「そう。幸子さんの気持ちは聞いていないって事ね」
    祥:「そう言う事。でも、LINE登録はしてもらったから」
    佳:「良かったわね」
    ナレ:そう言って佳津子は母屋へ。廊下を歩きながら何処までお人好しなのだと、優しいのは良いけどもう一押しが。誰に似たのかと思っていた。

    ナレ:幸子はその足で真知子の元へ。
    真:「どうしたの?」
    幸:「お世話になっておきながら申し訳ない事なのですが、お見合いのお話をお断りいただきたいのです。無責任な事だと分かっています。それに奥様にもご迷惑が掛かる事も重々承知の上で・・・申し訳ございません」
    真:「幸子さんが私に我が儘を言ったの初めてね」
    幸:「すみません」
    真:「怒っているのじゃないのよ。幸子さんが我が儘を言ってくれたことが嬉しいのよ。私も主人もあなたを娘の様に思っているの、でもあなたは。しょうがない事だけど。でも、もっと我が儘を言って、頼ってほしいと思っていたから」
    幸:「有難い事ではありますが。この場合は非常識な事をお願いしていると」
    真:「お話を受けた時、あなたには想う人が居るのだと感じていたのよ」
    幸:「はい」
    真:「それでも見合いを受けると言った事で、その想い人とは一緒になれないのだと私も分かったわ。でも今、断ると言う事はその人か、別の人が現れたって事かしら?」
    幸:「私の中の人は心の中だけにしています。その方もそれを知っています。でも、その方とはまだ」
    真:「そうなの。複雑でしょうね」
    幸:「えっ?」
    真:「その人はあなたの心の人の事を知っていながら告白したんでしょうね」
    幸:「はい」
    真:「何処のどなたか知らないけれど、私はその彼があなたを孝君を受け止めてくれるって気がするのよね。そして、あなたも少なからずそう思う気持ちが芽生えたんじゃないの?」
    幸:「えっ?」
    真:「自分では気づかないって事もあるわよ。だから、見合いを断りたいと言った。私にはあなたが幸せな道を歩き始めたって、その道が見えるわ」
    幸:「えっ?」
    真:「この先はあなたが考える事。私は断る事がこれからの事ね」
    幸:「すみません」
    ナレ:幸子は手を付き頭を下げた。
    真:「実の母は居るけど、私もあなたの母親のつもりよ。こんな時はごめんねで良いのよ」
    幸:「・・・ごめんなさい」
    真:「後は任せなさい。じゃ、早速、先方に行ってくるわ」
    幸:「では、私も」
    真:「私の演技力を見せたいところだけど私一人で」
    ナレ:支度をして出掛けた。途中、菓子折りを買い、店舗脇の駐車場に向かう時に歩道脇に停車していた車が目に留まった。そして見合いを断る口実が目の前に。助手席から出てきた女性が、
    女:「私は絶対産むから」
    ナレ:運転席から出て来た男が、
    男:「そんなこと言うなよ・・・えっ?」
    ナレ:男は真知子の姿を見て動きが止まった。その男が幸子の見合い相手だった。真知子は黙ってお辞儀をして車に乗り込み、その男の家に向った。
    男:「一先ず送るから、ゆっくり話そう」
    ナレ:男は両親にバレる事を恐れ、声がオドオド。
    女:「何なのよ。あなたとは別れます。この子は私一人で立派に育てますから、ご心配なく!」
    ナレ:女性は持っていたバッグで車のボディを叩き、カツカツとヒールのかかとを鳴らし男の前から去った。
    男:「ヒールはやめた方がぁ」
    女:「分かってるわよ!・・・さようなら!」
    ナレ:男に向ってあっかんべ―。

    ナレ:真知子は先方に到着し、座敷に通された。菓子折りを渡し、差し出された座布団をずらして手を付き、
    真:「申し訳ございませんが、お話を頂いておりましたご子息とのご縁談、お断りさせていただきたく、まかりこしました」
    父:「まかり・・・牧合さん、理由を話していただけませんか?」
    真:「それはご子息にお聞きいただければ。ですが、お付き合いはこれまで同様に願います」
    ナレ:二人は何が何やらと困惑していた。そこへ息子が帰って来た。真知子が先ほどの事を両親に話しているのだと思っていた。玄関ドアの音で帰って来たと両親が部屋から出て来た。
    父:「牧合さんが見合いを断りに来た。理由はお前だと。何が遭ったんだ?」
    息:「それは」
    ナレ:その後がゴニョゴニョとはっきり聞こえない。
    母:「はっきり言いなさい!」
    ナレ:そこへ、真知子が部屋から出てきて、
    真:「では、私はこれにて失礼いたします」
    ナレ:息子にも深々と頭を下げて出て行った。その後、両親が息子を問い詰め、以前から付き合っていた女性が居たが、親の言いなり状態で見合いをすることにしたが、その女性との間に子供が出来たと。その事を真知子が知ったと話した後、父親のグーの拳が息子の頬にヒット。だが、その事実を知った真知子の行動の早さに三人は考える余地も無かった。両親は相手の女性を連れて来させ、彼女の前で土下座し、嫁に来て欲しいと懇願した。承知した彼女の家に行き同じように謝り、相手の両親にも許しを貰った。息子は蚊帳の外状態のまま話が進み入籍。それも3日間の出来事だった。

    ナレ:夕食を一緒にと幸子と孝を誘った。その時、真知子が見合いはキャンセルしたからと。幸子が自分も挨拶にと言ったが、『行く必要はない』とだけ。幸子にも理由は話さず引き止めた。幸子は真知子の言う通りにした。

    過去&永禄&現在⑩へつづく

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    過去&永禄&現在⑧

    =過去 2020年 晩秋=

    ナレ:もう直ぐ冬が訪れようとしている頃の神山家の食卓。
    佳:「ねぇ、祥」
    祥:「何?」
    佳:「何って。あの日、砕けに行くって言ってたんじゃないの」
    ナレ:覚悟を決めておきながら祥は行動に起こすことも出来ずふた月も経っていた。祥自身も何やってるんだと分かっているが何も出来ず時間ばかり過ぎていた。
    佳:「裏の木も秋から冬になろうとしているのよ」
    祥:「情緒あるみたいな言い方して・・・俺だって分かってるんだよ。分かってるんだけどさ・・・情けないって分かってるんだよ」
    と:「分かってるを連呼してるだけじゃな」
    祥:「う~」
    佳:「もしかして、このふた月で相手が出来てたらどうするのよ」
    祥:「えっ!」
    佳:「あり得る事よ」
    と:「そうだな。あるかも」
    祥:「父さんも」
    ナレ:祥は「分かってる」を繰り返しながら店舗へ。その後姿にとしをと佳津子は深いため息。

    ナレ:切っ掛けは突然来た。牧合の妻の真知子が神山家に町内の婦人旅行の土産を持って。会社は息子が継ぎ、真知子が関わっていた仕事は嫁が引き継いだことで時間が出来たと佳津子に話していた。そこへコーヒーを入れに来た祥が挨拶した。真知子が、
    真:「うちで働いてくれている、主人の遺品を頼んだ小路幸子さんが来週お見合いするのよ」
    祥:「えっ?」
    真:「祥君?」
    祥:「いえ」
    ナレ:話を聞きたいがその場に居るのは不自然だと考え佳津子に合図。佳津子も頷いて見せた。
    佳:「そうなの。良さそうなお嬢さんだったから」
    真:「そうなのよ。本当に真面目でね、女手一つで息子さんを育てていてね。正直に話してくれた時は驚いたけど、彼女の誠実さが分かって働いてもらっているんだけど。主人の葬儀の時に幸子さんの働きぶりを見ていた方が息子の嫁にどうかと話を持ってきてね。幸子さんも承知してくれて」
    佳:「そうだったの。見ている人は見ているのね。幸せになって欲しいわね」
    ナレ:そう言いながらも佳津子は祥の落ち込み様を考え表情が曇った。
    真:「どうしたの?」
    佳:「何でもないのよ」
    ナレ:真知子は長居したと挨拶して帰って行った。佳津子は店舗に行き真知子の話を伝えた。
    佳:「幸子さんに幸せになって欲しいって私もそう思う」
    祥:「俺だって・・・それは俺じゃないって」
    佳:「祥」
    祥:「何?」
    佳:「こうなったら玉砕してきなさい。あなたが先に進むためにも。その方が良いと思うわよ」
    祥:「そうだろうけどぉ。でもさ、幸子さんが俺の気持ち聞いて、申し訳ないって思うんじゃないか。彼女ならさ」
    佳:「そうかも知れない。でも、親としては息子がこのままって事の方が辛いわよ」
    祥:「分かってる」
    佳:「善は急げ。幸子さんの連絡先分かる?」
    祥:「あぁ、孝君預かった事あったろ、その時、店に掛かってきた番号は控えてる」
    佳:「そう。で、これまでの間に一度も掛けてないの?」
    祥:「あぁ」
    佳:「あぁって」
    ナレ:佳津子はここまでの男とは思わなかったとため息。
    祥:「ん?」
    佳:「何でもないわよ。いいからあなたも、そろそろ覚悟決めなさい」
    ナレ:祥はスマホを手に眺めるだけ。佳津子は背中を叩いて母屋に戻った。時間的に仕事中だと、夜掛ける事に。祥は思いっきり頬を叩いた。

    ナレ:夕飯の後、祥は自分の部屋に戻り、幸子に連絡した。
    幸:《はい》
    祥:「小路さんの携帯でしょうか?」
    幸:《はい、そうです》
    祥:「神山、神山祥です」
    幸:《神山さん。ご無沙汰しております》
    祥:「こちらこそ」
    幸:《神山さん、何か?》
    祥:「あっ、えっ、あの、牧合さんから聞きました。さ・・・小路さん、お見合いをすると」
    幸:《あ、はい、そうです》
    ナレ:幸子の返事の後は祥の次の言葉が出なくしばらく沈黙。
    幸:《神山さん?》
    祥:「すみません。あの、お願いがあるんですが」
    幸:《はい?》
    祥:「お忙しいと思いますが、お会いしてお話ししたい事が」
    幸:《そうですか。では、明日の午後でしたら時間取れますが》
    祥:「分かりました。ありがとうございます。場所は・・・」
    ナレ:2時に予約入っていることを思い出し、
    祥:「すみませんが、3時半に店の方に来ていただけませんか。それでは遅いようでしたら、あの」
    聡:《大丈夫です。その頃に伺います》
    祥:「すみません。ありがとうございます」
    ナレ:お互い挨拶して電話を切った。

    ナレ:翌日の午後、予約客の天野の対応をしていた。
    祥:「天野さん、久し振りですね」
    天:「歳のせいかね、髪の伸びも遅くなってね」
    祥:「それは分かりませんが、天野さんは元気ですよね」
    天:「今年で80になるよ」
    祥:「お若いですよね」
    天:「ありがとう。じいさんも親父も長生きでね。ご先祖様もみんな長生きだとね」
    祥:「そうなんですね」
    天:「戦国の世でも90の長生きのご先祖様も居てね。昔話しただろう、そのご先祖様が黒羽城の家臣だったって」
    ナレ:子供の頃に聞いていたが忘れていた。幸子の事で尊から話を聞いた中に天野という家臣が居た事を思い出し驚きの声を上げた。
    天:「祥君、どうしたんだね」
    祥:「いえ。そうでしたね」
    天:「ご先祖様に会ってみたいねぇ」
    祥:「えっ」
    天:「どうした?」
    祥:「そうですか」
    天:「人生100年時代、私もまだまだ元気」
    祥:「俺にもその元気分けて下さい」
    ナレ:天野は祥が何か決意しているように感じ取り、力を与える様に祥の手をギュッと握り、
    天:「エネルギー注入。あははは」
    祥:「ありがとうございます。元気出ました。じゃ、今日も色男完成です」
    天:「では、ナンパしに城下に繰り出すかね、ははは」
    ナレ:元気な天野を見送った。
    祥:「城下って。ふっ、尊が言っていたな、楽しい人だったと。きっと天野さんみたいな人だったんだろうな。そ~言えば似てるかも」
    ナレ:見せてもらった信茂の姿を思い浮かべ、髪を白髪にして白くなったアゴ髭を重ねてみた。
    祥:「やっぱり似てるな」
    ナレ:尊にLINE下。[天野という人の子孫だと思う人が、うちの常連に居る。元気で面白い人だよ。それに顔も似ている]。尊はその事を覚と美香子に話すと二人は会ってみたいと。

    過去&永禄&現在⑨へつづく

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    過去&永禄&現在⑦

    ナレ:速川家から戻った佳津子が店に顔を出すと、ダラリとした格好で座る祥の姿を見てため息。
    佳:「しっかりしなさいよ!」
    ナレ:祥の肩を叩いた。
    祥:「痛いなぁ。しっかりしてないわけじゃないよ。さっき、久し振りの塚本さんが帰ったから、休憩してただけだよ」
    佳:「そうは見えなかったけど」
    祥:「はいはい。で、何か食べるのある?」
    佳:「はいはい。その前にちょっといい?」
    祥:「なに?」
    佳:「あなたの心の中に居る幸子さん、シングルマザーだそうよ」
    祥:「えっ?」
    ナレ:大げさに驚き、椅子から滑り落ちた。ゆっくり座り直す表情は喜んでいる風には見えない。
    佳:「どうしたの?」
    祥:「幸子さんが独り身だと分かっても、俺がって言い出せない気が」
    佳:「どうして?」
    祥:「俺の勘だけど、彼女の心の中に誰か居るような気がするんだ」
    佳:「孝君の事じゃないの?」
    祥:「子供に対してってのとは違うと思う・・・そんな気がする」
    佳:「そうなの・・・そうね」
    ナレ:祥に言われて佳津子もそんな気がしてきた。祥の肩をポンと叩き、
    佳:「じゃ、何か作るわね。出来たら呼ぶから」
    祥:「あぁ、お願い」
    ナレ:それからも、祥は行動に起こせずにひと月経った。その間に幸子の事を知る尊に話を聞く事もせず。すると、幸子から孝のカットの予約の連絡が。
    祥:「では、お待ちしております」
    ナレ:祥は事務的な対応で変に思ったかなと思っていた。そして翌日、幸子と孝が来店。シャンプーをしている時に幸子のスマホに着信が。表に出ようとした幸子に、
    祥:「他に居ませんからここで構いませんよ」
    幸:「すみません・・・はい、小路です・・・えっ!」
    ナレ:驚いた幸子は祥の顔を見た。
    祥:「どうしました?」
    幸:「あっ、はい。会社の近くで火事が。念の為、書類を社長宅に移動することにしたと。私も」
    祥:「ご心配なく。孝君はうちで待ってもらいますから」
    幸:「はい、今行きます・・・すみません。孝、神山さんの言う事を聞いてね。終わったら直ぐ来るから」
    祥:「小路さんも気を付けて」
    幸:「はい」
    ナレ:出て行く姿を孝が心配顔で見ていた。
    祥:「大丈夫さ。念の為って事だから」
    孝:「うん」
    ナレ:カットも終わった孝を母屋に連れて行き、佳津子に説明した。
    佳:「大事に至らなければいいけど。孝君、此処で待っていましょうね」
    孝:「はい」
    佳:「ほんと、孝君は偉いわよねぇ」
    祥:「はいはい。曽井さんが時期に来るから店に居るね。何かあったら呼んで」
    佳:「何もないわよねぇ。じゃ、孝君、ケーキ屋に行きましょ」
    祥:「土産忘れないでよ」
    佳:「はいはい。じゃ、行こう」
    ナレ:佳津子も母の心配を少しでも和らげられたらと孝を誘った。夕飯時になっても連絡がない。
    心配する孝に夕飯を食べさせた。食後、孝はウトウトし始めた。
    祥:「お母さんが戻ってきたら起こすから寝ていて大丈夫だよ」
    と:「隣に布団敷いて」
    ナレ:隣の座敷に客用の布団を敷き孝を寝かせた。しばらくして、店の電話の呼鈴が聞こえた。
    祥:「はい。神山バーバーです」
    幸:《すみません、遅くなってしまって》
    祥:「気にしないで下さい。で、会社の方は?」
    幸:《消火の途中で風向きも変わり、工場の方は大丈夫だったのですが、火元の工場の持ち出した書類を倉庫に運ぶ手伝いをしていて、ようやく落ち着きましたので。これから迎えに伺います》
    祥:「お宅は会社から近いですか?」
    幸:《あっ、はい》
    祥:「孝君、夕飯の後、眠ってしまいましたので、俺が送ります」
    幸:《ご迷惑では》
    祥:「遠慮しないで下さい。それと、さ・・・小路さん夕食は?」
    幸:《それは。それどころではなくて、コンビニで何か買いますので》
    祥:「残り物になりますが、弁当に詰めて持って行きますので」
    幸:《すみません》
    ナレ:住所を聞いて、佳津子に弁当を頼み出来た頃、孝を負ぶさり車に乗せた。
    と:「気を付けてな」
    祥:「うん」
    ナレ:アパートに向った。表で幸子が待っていた。
    幸:「ありがとうございます」
    ナレ:後部座席で眠っている孝を幸子が起こそうとしたので、
    祥:「大丈夫ですよ、俺が」
    ナレ:孝を抱え幸子の後ろをついて行った。部屋に入り座敷に布団を敷き、祥が孝を横に。そして、タンスの上の写真が目に留まった。
    祥:「あれ、三吉さん?速川さん達も」
    幸:「速川さんの宅でのクリスマス会に参加させてもらいまして」
    祥:「そうですか。三吉さんともお知り合いなんですね」
    ナレ:祥が幸子に話しかけたが、写真の方も見ずに、
    幸:「まぁ・・・お茶煎れますね」
    祥:「あっ、いえ、もう遅いですから帰ります。じゃ」
    ナレ:祥は車に乗り込んだが直ぐには発信しなかった。
    祥:「もしかして、幸子さんの心の中のって、三吉さん」
    ナレ:鈍感な祥でもそう確信したが、どうすることも出来ない。家に戻って風呂に入りベッドに横たわったまま、寝付けず朝を迎えた。

    ナレ:体ではなく心にダルさを感じ、起きるのも億劫なほど。だが、下から「ご飯よ」の声。のっそりと起きて食卓に着いた。上の空の祥に、
    佳:「ほらっ、溢すわよ」
    祥:「あっ、うん」
    ナレ:味噌汁を飲み干し、食器をシンクに置き、店の方に歩いて行く。
    佳:「祥、その格好で仕事するの?」
    祥:「えっ?」
    ナレ:祥は寝間着の格好のまま。着替えに二階へ。
    と:「あいつ、どうしたんだ?」
    佳:「幸子さんの事だと思うんだけど」
    ナレ:シングルマザーである事をとしをに話した。
    と:「そうだったのか。でも、あの様子じゃ、彼女に相手が居るんじゃないか」
    佳:「そうなのかも知れないわね」
    ナレ:二人は見守る事しか出来なかった。当の祥は、幸子の部屋で見た写真を思い出していた。どう見ても幸子が三吉の如古坊に寄り添っているように見えた。
    祥:「そうなんだろうなぁ・・・はぁ」
    ナレ:予約客の相手を務めて普段通りに対応したが、一人になると落ち込む姿を見ていた佳津子は、
    佳:「幸子さんの何を悩んでるのか知らないけど、一人で悩んでたってしょうがないでしょうよ」
    祥:「そんなこと言ったって・・・本人に聞く勇気があったらとっくに聞いてるよ」
    佳:「もぉ、本人に聞けないんだったら、幸子さんを知る速川さんに聞くとか」
    祥:「えっ?」
    佳:「一先ず、その方法しかないんじゃないの」
    祥:「まぁ」
    ナレ:佳津子の助言で祥は尊にLINEをして夜に会う約束を。夕飯を済ませた後に祥は速川家を訪ねた。
    祥:「夜分にすみません」
    覚:「大丈夫だよ。コーヒー淹れたからどうぞ」
    尊:「こっちに来てください」
    ナレ:祥に連絡を貰った時、幸子の好きな相手の事を聞きたいと。そう考えた理由は分からないが、真実を伝えた方が良いのだろうと尊が二人に言った。祥が信じてくれると信じて。
    祥:「離れがあるのは知ってたけど、機械だらけには驚いたな」
    尊:「此処に案内するのは身内以外は祥さんだけです」
    祥:「光栄だね。で、ごめんな」
    尊:「大丈夫ですよ。祥さんから連絡を貰って僕たちも覚悟しましたから」
    祥:「えっ?」
    尊:「幸子さんの事を話さなくてはと思っていましたから」
    祥:「偶然、クリスマス会の写真を見て、もしかしてって」
    尊:「そうだったんですね」
    祥:「やっぱり、幸子さんは、三吉さんの事を」
    尊:「はい。孝君は三吉さんに父親になって欲しかったと言う思いも知っています」
    祥:「・・・そうだったんだ。きっと、三吉さんも」
    尊:「はい。彼も同じ想いでした」
    祥:「両想いなら何故、彼は旅に出たんだ?・・・想いがあるなら一緒になる事も出来たんだろう」
    尊:「想いだけではどうにもならなかったんです」
    祥:「どういう意味?」
    ナレ:尊はタイムマシーンの下に行き見上げて、
    尊:「長くなりますが、今から話す事は真実です。それを祥さんが信じるかは分かりません」
    祥:「話してみなけりゃ分らないよ」
    ナレ:尊は如古坊が来る前の時に忠清達みんなで写した写真を何枚か見せながら、タイムマシーンを完成させ唯が戦国に行った事から説明して、その仲間の如古坊が現代に来て幸子と知り合った事を一気に話した。最初は祥も相槌を。だが途中からは驚き過ぎて息をするのも忘れていたかのように話が終わると大きく息を吐いた。
    尊:「驚きましたよね」
    祥:「あぁ。じゃ、三吉、いやにょこぼうさんは戦国時代の人だったんだ」
    尊:「そうなんです」
    祥:「その事を幸子さんは知っているのかい?」
    尊:「本当の事は知らないでしょう。でも、一緒になれないと言ったそうです。祥さんが母と一緒に居るところを見た日に。何処かで遠い存在の人だと分かっていたかのようだったと母たちは言っていました」
    祥:「母たち?」
    ナレ:同席していた聡子の事も掻い摘んで話した。
    祥:「不思議な事があるんだな。でも幸子さん本能で感じていたんだな・・・なんか、切ないな」尊:「はい」
    祥:「幸子さんの中にも気持ちが残っているんだな・・・入る余地なんて無いいんだろう」
    尊:「そう考えるのは違うと思います」
    祥:「えっ?」
    尊:「如古坊さんは自分が二人を幸せに出来ない事も十分に分かっていて、幸子さんと孝君の幸せを一番に考えていました。僕は、祥さんが幸子さんと孝君を幸せにしたいと思う気持ちを胸を張って言えるのであれば、行動に起こした方が良いと思います。それが、如古坊さんの為になると思うから」
    祥:「俺は同じ人を好きになった者として、にょこぼうさんの気持ちが分かるよ。本当は誰にも渡したくないってね」
    尊:「僕はそこまで誰かを好きになった事はありませんから、酷な事が言えるのかもしれません」
    祥:「なに?」
    尊:「この今の世界に居るのは祥さんなんですよ。二人の側に居られるのは祥さんだけなんですよ」
    祥:「・・・ん、分かった。そうだな、俺がにょこぼうさんの分も二人を幸せに出来るんだ・・・分かった。でも、玉砕するかもしれない」
    尊:「えっ?」
    祥:「言わないで後悔するより、言って後悔する方がよっぽど気持ちがいいから。幸子さんに言うよ」
    尊:「そう。頑張って」
    祥:「駄目だった時は慰めてくれよな」
    尊:「それは・・・でも」
    祥:「彼の事は黙っているよ。勿論、今聞いた話も誰にも言わないよ」
    尊:「ありがとう」
    祥:「じゃ、帰るよ。本当の事話してくれてありがとう」
    尊:「ううん」
    ナレ:祥は覚と美香子に元気よく挨拶して帰って行った。
    美:「話したのね」
    尊:「うん。全部。信じてくれたし誰にも言わないって。で、幸子さんに気持ちを話すって。もしし、駄目だったら慰めてって」
    覚:「そうか。でも、祥君なら二人を幸せにしてくれると信じてる。きっと、その気持ちは幸子さんに通じると思うよ」
    美:「そうね。この先どうなるか分からないけど、佳津子さんだったら嫁姑問題も無さそうだしね」
    覚:「そうだな」
    美:「私は、ちょっとバチバチってやってみたいわねぇ、嫁姑で」
    ナレ:尊を見た。
    尊:「そんな、先の話しないで」
    覚:「あれっ、前に、何年もしたらって、そんな先の話じゃないような言い方してたじゃないか」
    尊:「そうだったっけ」
    ナレ:将来の尊の嫁を想像して二人は笑っていた。祥は家に着いて店舗の椅子に座り、
    祥:「唯がねぇ、驚いたな。でも、この時代そんな事があったなんて・・・約束したしな・・・さぁ、これからどうするかだな」
    ナレ:椅子にもたれて考えていると佳津子がやって来た。
    佳:「戻ってたの。こっちで物音がするから泥棒かと思って」
    ナレ:佳津子の手にはゴルフのアイアンが握られていた。
    祥:「母さんが強いのは分かるけど、泥棒だったら危険だから、そういう時は出て来ない事だよ」
    佳:「強いは余計だけど。息子が心配してくれるのは嬉しいわね。で、私たちの心配についてはどうなの?」
    祥:「私達?」
    佳:「幸子さんの事よ」
    祥:「決めた、当たって砕けるで」
    佳:「そう言う事ね。駄目だったらお父さんと二人で慰めてあげるから、一応頑張りなさい」
    祥:「一応って・・・ありがと、頑張るよ」
    佳:「風呂空いてるから入って」
    祥:「わかった」
    ナレ:祥は着替えを持って風呂場へ。

    過去&永禄&現在⑧へ続く

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    振り返ります四人の現代Days、150(終)まで

    no.1068の続きです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    118、no.1015、再会
    119、no.1016、一触即発
    120、no.1017、後悔先に立たず
    121、no.1018、ここはお白洲
    122、no.1019、陳述します
    123、no.1020、挑戦と再挑戦
    124、no.1021、もしもーし
    125、no.1022、時代時代で
    126、no.1023、春からのビジョン
    127、no.1024、団欒┅┅┅

    永禄で生きる決心をする前から、時空を行ったり来たりでちょくちょく長期に学校を休んでいた唯が、学校の友達にどう説明したのか。絶対してないよなと思い、こうなりました。

    128、no.1025、ホットほっと
    129、no.1026、忸怩たる思い
    130、no.1027、道に迷う
    131、no.1028、期待してます
    132、no.1029、肌身離さず
    133、no.1030、刻みます
    134、no.1031、大きくなったね
    135、no.1032、未来は明るい!
    136、no.1039、用意周到
    137、no.1040、遠慮のかたまり
    138、no.1041、お好みはどれ
    139、no.1042、興が乗る
    140、no.1043、男子の会話
    141、no.1044、レア物です
    142、no.1045、帰省終わります
    143、no.1046、文詠みます┅┅┅

    ボーリングですが。表記としてはボウリングが正解ですね。掘削しませんものね。大分前に気づきましたが、Daysシリーズではこのままにします。で、ボーリング初登場は遡って平成Days14話(no.375)。この時のエピソードと対になったのが134話です。

    144、no.1047、匂わせます
    145、no.1048、踊らされます┅┅┅

    じいは若君の守役だったので、幼い頃からよーく知っている。逆に考えると、共に過ごした時間の長さだけ、若君もじいをよーく知っている。じいが千原じいの話にどのようにのってくるかはお見通しだったので、勝ち戦も同然だったのです。

    146、no.1049、佳き日
    147、no.1050、一件落着┅┅┅

    梅を調べてて知ったのですが、「紅梅」「白梅」って、花の色でなく、材木にした時赤いか白いかで決まるらしいですね。木の内部が赤いのが紅梅、白いのが白梅。だから白い花を咲かせる紅梅もあると。ちょっとややこしい。
    緑の梅ですが、緑萼梅という種類が、花びらは白、中が緑、萼(がく)も緑でした。
    お父さん、一本締めだと言ってますが、あの様子だと手をパンと一回だけ叩きそう。それ一丁締めだって!と総ツッコミされてると思います。

    148、no.1052、助言します
    149、no.1053、犯人は

    150(終)、no.1054、夢で逢えたら┅┅┅

    長女二女がもう少し小さい頃は、唯も参戦して忠清パパの取り合いをしてたとは思いますが。かつて令和Days69話(no.686)、妄想してデレデレしたように。でも時の流れは残酷で。唯にも突っ込まれ放題で。パパ頑張って~。

    ┅┅

    発表する度に長くなっていくお話。お付き合いいただきありがとうございました。
    ひと月って長いような短いような。今回は遠出もさせてませんし、話が持つのかと思いきや、源トヨとたけるなの二組のカップルが色々話題を作ってくれました。感謝せねば。
    到着した当初、若君が両親に語った願いは全て叶い、胸を撫で下ろしております。

    今後の予定です

    四人の現代Days。余韻なくあっさり終わったと思われませんでしたか?

    本当は、最後は「続きます。」でした。描きたい欲が勝りまして。現代Daysの続き、主に尊のその後のお話を考えております。

    ただですね、以前自分自身が口にした話がずっと引っ掛かっておりまして↓

    ┅┅私、令和Daysを描いた時に、自分でかけた枷がありまして。「コロナ禍になってから二人を飛ばさない」┅┅

    続きとなるといよいよその時期に突入です。止めようかとも思いましたが、それを踏まえた上で進めてみようと、話を練り始めておりました。
    でも。速川クリニックはその頃大波真っ只中。中途半端に話を起こしては、かえって医療機関に従事されている方々に失礼に当たると考え、悩んだあげく…コロナ禍は描かない事にいたしました。
    でも自分の中では、できればその時期に当たる日付に唯と若君を飛ばしたくないので、また考えます。
    という訳で振り出しに戻っておりますので、今は手付かずの状態です。

    いつスタートするか、どのくらいの量になるかは全く未定でございます。

    メドがつきましたら、お知らせします。

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    過去&永禄&現在⑥

    ナレ:日曜日の朝から祥はソワソワ。
    佳:「何なの?」
    祥:「何?」
    佳:「何って、動物園の熊じゃないんだから、うろうろって」
    祥:「熊に失礼だよ」
    佳:「はっ?面白くない返答ね」
    祥:「別にいいじゃん。用意は良いの?」
    佳:「着々と進んでるわよ」
    ナレ:料理も支度も出来た頃、尊が覚の手料理持参で裕と神山家に到着。
    裕:「よっ。祥さんが自力でって言ってたけど、もし、無理そうだったら助け舟出してやろうな」
    尊:「そうだね」
    ナレ:佳津子が迎え出た。中に通され、2つ並べたテーブルの上に料理が。
    尊:「おばさん、父からです」
    佳:「ありがとうね。で、新入さんね」
    裕:「はい。稲賀裕です。いながと読みますがいねがです。今日はお招き有難うございました。あのこれは母からです」
    ナレ:裕が持参した袋から箱を出し、その中に色んな味付けのクッキーが入っていた。
    裕:「母はお菓子作りが趣味で、まあまあな味なので宜しかったら召し上がって下さい」
    ナレ:先に祥が一つ取り、
    祥:「いただきます・・・裕君、まあまあってレベルじゃないじゃん、美味いよ」
    裕:「母に伝えます」
    ナレ:上機嫌でもう一つ頬張る祥の姿を見て、ウキウキの理由はみんなの知る所だった。すると呼鈴が。祥が出迎えに出た。
    京:「お招き有難うございました」
    祥:「今日はお越しくださいまして有難うございました。どうぞ上がって下さい」
    ナレ:幸子の隣に男の子が居た。
    幸:「お邪魔致します。ご挨拶して」
    孝:「小路孝です」
    祥:「しょう・・・あっ、幸子さんのお子さんですか?」
    幸:「はい」
    ナレ:結婚していたのだと驚きで祥の動きが止まった。美香子の新しい相手の言葉など頭になかった。ただただショックで。
    明:「祥さん、どうしたの?」
    祥:「あっ、いえ、どうぞ」
    ナレ:四人を中へ通した。さっきまで無駄にテンションの高かった祥が玄関から戻るとドッと落ち込んでいる。佳津子に子供も一人参加すると話を聞いていたので孝だと分かっていた尊は、もっと前に話しておくべきだったと反省していた。
    佳:「祥?」
    祥:「何でもないよ」
    ナレ:幸子が孝に自己紹介させた事で息子の落ち込みを理解した。先に案内して京都木夫妻も幸子も品数の多さに驚いていた。
    裕:「俺、子供の頃は、特にピーマンと椎茸も嫌いで、他にも色々。嫌いなんて言わずに何でも食べなさいって母に叱られていました。でも、ある事で、何でも食べられるようになって、今は何でも食べます。偉いでしょ、ははっ」
    明:「偉いわね」
    孝:「どうしてなの?僕もピーマン食べられないんだ」
    裕:「そっかぁ、昔ね、お兄ちゃんの夢の中にもったいない神様が現れてね、もったいないことするなよ、そんなことするとシッペだぞって。ははは」
    と:「そうか、祥にも現れて欲しいね。未だに人参とピーマンは食べられないんだよ。他にも色々ね。ははは」
    祥:「父さん、わざわざ言わなくてもいいだろうに。もぉ」
    佳:「祥は放っておいて、孝君、どんどん食べてね」
    ナレ:目の前の料理をみんな笑顔で食べていた。祥以外は。ことに裕は京都木夫妻に安心してもらえたらと元気よく食べていた。
    明:「裕さん、しっかり食べて大きくなってね」
    裕:「はい。2m目指して。ハハハッ。なんかお母さんに言われてるみたいで、照れくさいなぁ」
    ナレ:裕の言葉に明子が目頭を押さえた。佳津子も同じ母として明子の気持ちが分かった。
    佳:「明子さん、大丈夫?」
    明:「はい、ワサビを付けすぎて」
    ナレ:この場の雰囲気を壊してはいけないと誤魔化し、注がれた烏龍茶を飲んだ。としをは幸子に父親の名前を尋ねた。
    幸:「父はの名は亮二ですが。あの?」
    と:「やっぱり。中学の時の同級生なんですよ」
    ナレ:その頃の事を幸子に話した。でも、子供の頃は父親も忙しくしていたので、ゆっくり話す事も無かったと話した。
    と:「そうだったんだな。あいつも大変だったんだな」
    ナレ:としをの説明で父親が会社を継ぐ経緯を聞いた幸子は、父親が養子であることを初めて知った。
    幸:「お恥ずかしいのですが、その話を初めて知りました」
    と:「そうだったのか。私が話してしまってすまない。まぁ、それもあいつの優しさだと思って欲しい」
    幸:「はい」
    と:「私には分らない世界だが、君の父親は必死だったんじゃないかなとね」
    幸:「はい」
    ナレ:幸子は両親に放っておかれていたのだと思っていたが、それは父親が自分の代で会社を潰すわけにはいかないと頑張っていたんだ。母もそうだったのだと。二人の気持ちも知らずに我が儘放題の自分を反省していた。
    と:「幸子さん?」
    幸:「今日は伺ってよかったと」
    ナレ:としをは幸子の想いは分からないが、父親に対する気持ちの変化を察した。
    と:「それは良かった。で、弟さんが居たはずだが?」
    幸:「はい。叔父は父が会社を継いでから、好きなカメラで生計を立てています」
    と:「カメラマン?」
    幸:「はい。専門は自然ですので国内外飛び回っています」
    と:「作品は?」
    幸:「何冊か出版されています」
    と:「凄いね。名前は確か正憲さんとかじゃなかったかな」
    幸:「そうです。ローマ字表記で活動しています」
    佳:「あなた、書店に行きましょ」
    と:「そうだな」
    祥:「パソコンとかスマホで見れるんじゃないの」
    佳:「そうかも知れないけど、情緒が無いわね。やっぱり作品は本で、髪の状態で見たいのよ」
    祥:「まぁ」
    ナレ:普段の祥を知らない裕でさえ気づいた。裕は尊にトイレを案内させるためその場を離れた。
    裕:「なぁ、祥さん、あの孝君の事を知らなかったって事だよな」
    尊:「うん、言うタイミング逃して」
    裕:「そっか」
    尊:「祥さん頑張るって言っててけど。駄目なら僕たちでって、でも無理だよね」
    裕:「無理とかそういう問題じゃないだろぉよ。旦那が居るなら子供の事の前に話す・・・じゃないか」
    尊:「幸子さん独身、シングルマザー」
    裕:「そっ、そうなのか。でも、それが分かった所であの雰囲気じゃ、祥さん行動しないだろうし、俺たちの作戦も無理だろ」
    尊:「そうだね。他を考えるとしようか」
    裕:「そうだな。今は俺が盛り上げるから」
    尊:「頼みます」
    裕:「じゃ、俺はトイレ」
    ナレ:トイレに入る裕。

    ナレ:賑やかな食事会も終わり、みんなが笑顔で帰って行った。ただ一人、祥は複雑な顔で見送った。お礼にと明子と幸子が洗い物をしてくれていた。佳津子は覚の差し入れの器を洗っていた。
    佳:「裕君が盛り上げてくれたから良かったけど。ホストのあなたがあれじゃ・・・まぁ、分からなくもないけど」
    と:「母さん?」
    佳:「幸子さんの事でしょ」
    と:「あ~、あぁ」
    佳:「幸子さんが人妻だったからでしょ。告白もしてないのに失恋」
    祥:「母さん」
    ナレ:誰もシングルマザーの事は言わなかった。本人も敢えて話すことは無いと。だから神山家の三人は人妻だと思っていた。
    祥:「俺、見合いするよ」
    佳:「急にどうしたの?」
    祥:「そうして欲しかったんだろ」
    佳:「まぁ、そうだけど」
    ナレ:そう言われてしまうと返って頼む気にはなれない佳津子だった。祥は片付けが終わると店舗に行き椅子にドサッと座り、深いため息をついた。
    と:「本当に幸子さんの事」
    佳:「一目惚れでしょうね」
    と:「こればっかりはなぁ」
    ナレ:二人は店の方を向きため息。

    ナレ:翌日、佳津子が容器を持って速川家を訪ねた。
    佳:「昨日はありがとうございました。本当に美味しかったわ。特にレンコンのはさみ揚げが。レシピ教えて下さい」
    覚:「はい。こちらとしても尊と稲賀君がお世話になりましたから」
    佳:「稲賀君が盛り上げてくれて助かったわ。うちの祥は使い物にならなかったし」
    ナレ:そう言いながら尊を見た。
    尊:「まぁ」
    美:「尊?」
    尊:「幸子さんが結婚しているものだと思ってしまって」
    佳:「えっ、その言い方?」
    美:「周りからあえて言う事も無いと思っていたみたいだし、尊に様子を聞いたけど、幸子さんも身の上話をする場では無かったと判断したのかも。実は、幸子さんはシングルマザーなの。でも、孝君の父親とはちゃんと話して連絡も取り合ったし、二人が別れた後に相手の方も結婚しているし」
    佳:「事情があるのね。でも、それを知った所で、あの子にチャンスがあるのかどうかも分らないし」
    ナレ:覚達三人は幸子の中にも孝の中にも如古坊の存在がある事は分かっているので、今は何とも言えないと口をつぐんだ。佳津子は帰った。
    美:「佳津子さんの為にも祥君の為にもいい方法ないかしらね」
    覚:「そうだな。如古坊さんだって、二人が幸せになってくれたらって思っているだろうし」
    尊:「そうかな」
    美:「それもあるかもしれないけど、こればっかりはどうしようもない事だから」
    尊:「分かってる。それに僕たちが此処で言っていても何も始まらないって事も」
    ナレ:佳津子は親としては一番に息子の幸せを望んでいる。どうにかならないかと考えながら家路についた。

    過去&永禄&現在⑦につづく

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