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    土産 その2

    土産 その1
    じいがトイレに行きたいと唯のスマホにLINEが来た。
    *************
    ナレ:唯は隣の覚にそっとスマホを見せた。
    覚:「ちょっとすみません」
    ナレ:唯の袖を軽く引っ張った。美香子は唯にスマホを渡され見て驚いた。シンクの前に行き三人に背を向け、
    唯:「どうする?」
    ナレ:二階にトイレは無いし、階段を降りて、直ぐ側では無いとしても三人の後ろを通らないと行けない。
    唯:「お父さんと私が三人の後ろに立って見えないようにガードして、その隙に」
    覚:「だが」
    ナレ:広い面に三人は座れないので宗之は庭側に座って居る。横を向けば宗之に見られてしまう。どうするかと思案しているとまたLINEが。美香子が二人に見せた【限界】の文字。
    唯:「怪し過ぎるけど三人で横並びになるしかないよ」
    ナレ:三人がコソコソ話しているので、
    聡子:「あの、そろそろ私達おいとましますね」
    ナレ:今行かれたら、そこまで来ている信茂の姿が見えてしまう。
    美:「大丈夫よ」
    ナレ:腰を上げる聡子の両肩に手を当て座らせた。そして思い切り怪しい三人は横並びで廊下側に立ちLINEで【OK】と送った。信茂が出て来て廊下に向きを変えた時に肘を壁に打ち付けた。
    じい:「イタッ!」
    ナレ:その声に宗之が横を向き覚と唯のすき間から見える人物と目が合った。宗之の「あっ」との声に聡子と幸助も振り向いた。信茂の姿はいつも通り髪を結い、ピンクのスウェット。違和感あり過ぎの格好。時が止まった様に誰も動かない。だが状況を忘れた信茂は、
    じい:「宗熊殿じゃぁ」
    ナレ:抱き着いてしまった。覚、美香子、唯、尊は心の中で「あちゃ~」と言った。
    宗之:「あの、これ、あの、ど」
    ナレ:驚きで言葉にならない。
    唯:「じい、離れなさいよぉ」
    ナレ:覚と一緒に宗之から離した。
    じい:「すまなんだ、嬉しゅうて、忘れておった・・・この様な真似はお前が申しておったヤバイと申す事であったかのぉ」
    唯:「そうですよ。もぉ」
    ナレ:信茂はバツの悪そうに身を屈めた。
    幸助:「あのぉ、この方は役者さんですか?」
    ナレ:どう答えていいのか分からないで黙っていると、普通に居ても違和感のない格好の忠清が騒ぎに降りてきた。
    宗之:「君はあの時の」
    若:「はい」
    宗之:「あのぉ、この方はどう言った方なんですか?」
    ナレ:唯はみんなの顔を見て、
    唯:「この際」
    美:「唯?」
    唯:「皆さんがこのまま帰って話さないとしてもモヤモヤしてしまうでしょうし」
    幸助:「あの?」
    覚:「そうだな。皆さんを信じて」
    聡子:「どうしたんですか?」
    ナレ:唯は階段の下に行き、
    唯:「みんな降りて来てぇ」
    ナレ:帰った様子は無いので、みんなは大丈夫なのかと話乍ら降りてきた。三人は信茂の他にも同じような格好の人物に驚いていた。
    唯:「あの、今から私が話す事を信じられないと思いますが、誰にも話さないと誓って下さいますか?」
    ナレ:三人は頷いた。
    唯:「この方たちは、タイムスリップ、じゃなくてタイムマシーンで戦国時代からやって来たんです」
    幸助:「えっ、あっあの、それは本当なんですか?」
    じい:「まことの事じゃよ。この尊のこしらえた、ん?」
    尊:「タイムマシーン」
    じい:「そのたいむましんとやらに乗って参ったのじゃ」
    幸助:「はぁ。君が作ったの?」
    尊:「はい。今の僕と未来の僕で。でも、それももう一度使うとこの先は使えなくなるんです」
    宗之:「すごいね君は」
    尊:「ありがとうございます」
    唯:「じゃ、紹介しますね」
    ナレ:立って居た三人を座らせ紹介した。
    唯:「宗之さんと会った彼は若君様の羽木忠清様、私の夫です」
    宗之:「えっ?」
    唯:「私が弟の作ったタイムマシーンで偶然、戦国時代に行って知り合いました。私が16歳で若君が18歳の時だったから、現代でも結婚できますから」
    宗之:「そうですね」
    唯:「隣が若君のお兄さんで成之様、その隣が奥さんの阿湖様、じいの天野信茂様、その息子さんの信近様、その息子さんの小平太様、家臣の源三郎様、そして吉乃様。吉乃様は私が戦国に行った時に最初にお世話になった人です。お袋様と呼んでいます」
    ナレ:唯に紹介されるとみんなは笑顔で会釈していた。信茂はニヤニヤ。
    唯:「じい、何よ?」
    じい:「いやなぁ、お前がわし等に様を付けて呼んでおるのが可笑しゅうてのぉ」
    唯:「そんなこと言うなら、じいの事もう絶対、名前で呼ばないからねぇ」
    じい:「構わんよぉ、むじな」
    唯:「何それぇ、みんなの前で呼ばなくてもいいじゃん」
    覚:「唯も信茂様も、お客様の前で」
    美:「すみません」
    聡子:「いいえ、とても仲がよろしくて、微笑ましい光景ですよ」
    若:「わし等も、二人が居れば楽しゅうございます」
    唯:「もぉ、若君までぇ」
    宗之:「あの、先程、むねくまどのと」
    じい:「わしの友に高山宗熊と申す御仁が居っての、父もそなたの父によう似ておっての」
    幸助:「私もですか?」
    じい:「そうじゃよ、瓜二つにの、似ておっての」
    宗之:「そうなんですか」
    幸助:「じゃ、俺たちは前世も親子だったんだな。じゃ、来世も親子になるのかな」
    宗之:「え~、それは勘弁してほしいなぁ」
    幸助:「なんだとぉ」
    ナレ:幸助は後ろから宗之に抱き着き、
    幸助:「そんなこと言うなよぉ」
    宗之:「皆さんの前で恥かしい事しないでよ」
    聡子:「すみませんね。家には子供が三人」
    幸助:「ん?もしかして俺も入ってる?」
    聡子:「そうよ。時々、息子の方が父親かと思う事がありますから」
    宗之:「ほんとだよ」
    幸助:「なんだとぉ」
    ナレ:また抱き着いた。
    幸助:「信茂様」
    じい:「なんじゃ?」
    幸助:「戦国の親子も仲が良いんでしょうね」
    じい:「そなた達の様じゃよ」
    ナレ:真実を言う事も無いと思った。みんなも頷いて見せた。
    聡子:「あなた、そろそろ」
    幸助:「そうだな。お騒がせしました」
    覚:「こちらこそ」
    唯:「あの」
    宗之:「私達は楽しい夢を見たと思います。それだけの事です」
    若:「忝い」
    唯:「ありがとうございます」
    幸助:「では失礼します」
    ナレ:熊田家の三人を見送った。
    唯:「でも」
    吉:「あの者達を信じましょう」
    唯:「そうですね」
    ナレ:覚はみんなにお茶を淹れていた。信茂たちは甚五郎煎餅を食べていた。信茂が置物の入った箱を開けた。
    じい:「これは何じゃ?」
    覚:「この前テレビで見た日光の陽明門のある東照宮の厩だったか、そこに彫刻されている有名な三猿です。尊」
    尊:「ん?・・・あぁ、ちょっと待ってて」
    ナレ:尊は実験室からノートパソコンを持ってきて三猿の写真を出した。
    成:「まこと現代とは不思議な物が有るのぉ」
    若:「パソコンと申しての、色々な物が映し出されるのです」
    小:「尊がこしらえたのか?」
    尊:「これは、違います・・・で、これですね」
    じい:「ほぉ、似ておるのぉ」
    ナレ:握って居る姿を見て美香子が、
    美:「信茂様、気に入られたのであれば差し上げますよ」
    じい:「じゃが、これはそなた達が貰うた物であろう」
    美:「聡子さん達も喜びますよ」
    じい:「良いのか?」
    覚:「はい」
    じい:「忝いのぉ」
    小:「おじい様、また土産が出来ましたな」
    じい:「そうじゃの」
    ナレ:信茂は嬉しそうに置物を見ていた。
    唯:「ねぇ、じい」
    じい:「なんじゃ?」
    唯:「トイレに行きたかったんじゃないの?」
    じい:「あっ!・・・そうであった!」
    ナレ:信茂は慌ててトイレに駆け込んだ。
    唯:「じいったらぁ、あははは」
    ナレ:みんなも笑った。

    おしまい

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    今までの二人の平成Days、番号とあらすじ、51から最終話まで

    no.529の続きです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    51no.527、12/22、現代語と機転が完璧でコーチも納得

    52no.528、12/22、プレゼント決定。帰りの電車で戯れる

    53no.530、12/22、二人宛のDMが待ち遠しい

    二人のもしもDays2no.533、とある年の2月中旬、お手製雛飾りの前で祝言を再現

    54no.534、12/22、メッセージカード作成

    55no.535、12/22、爆笑テレビショッピング

    56no.536、12/22、涙涙でコメント聞けない

    57no.537、12/22、写真集見ながら姉弟コント

    58no.540、12/22、風呂あがりも超ラブラブ

    59no.544、12/22、布団五組並べて語り合う

    60no.545、12/16、好きが溢れる夜から朝

    61no.546、12/23、公園の案内板換えました

    62no.547、12/23、背中借りて決意の涙

    63no.548、12/23、ジェンガにそっくりなアレ

    64no.549、12/23、荷物確認。ハネムーンのようにレイを

    65no.551、12/23、呼び名戻す問題と餞の丸いケーキ

    66no.552、12/23、クリスマスパーティー。クラッカーに感心する若君

    67no.557、12/23、ケーキ入刀。若君の様子がおかしい

    68no.559、12/23、わかってるから隠さないで

    69(終)no.560、12/23、三人へのプレゼントを部屋のドアに。未来の展望を語る二人

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    ありがとうございました

    創作倶楽部が大賑わいでございます。

    梅とパインさん、ぷくぷくさん、てんころりんさん、ありがとうございます。

    全ての方に好まれて納得していただける物語、はそもそも無理です。お気に召さなかった回もあったと思いますが、その中で例え一話でも、心の琴線に触れるお話があったのなら、それだけで万々歳!恐悦至極に存じます。

    てんころりんさん、寸止め派。だと思いました。足早でも、読んでいただけて良かったです。

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    土産 その1

    登場人物(本編の人物以外)
    宗鶴にそっくりな 熊田幸助
    幸助の妻 熊田聡子
    宗熊にそっくりな 熊田宗之

    *************

    ナレ:数日で永禄に戻るある日の朝。
    尊:「行ってきます」
    若:「尊、励め」
    尊:「はい」
    ナレ:尊は学校へ。美香子は診察室へ。覚は片付け。吉乃は覚の手伝い。忠清は掃除。唯と他の面々は覚の淹れてくれたお茶をのんびり飲んでいた。
    小:「お前は何もせぬのか?」
    唯:「やる事ないし」
    覚:「唯」
    唯:「はぁい。私が明日掃除するから。若君、いいですよね」
    若:「承知した」
    覚:「その言い方もなんだかねぇ」
    じい:「わしは、お前の平成での暮らしぶりが、よう分かったぞ。ははは」
    覚:「良くお分かりで」
    唯:「もぉ」
    ナレ:いつもの様に膨れっ面。
    じい:「お前はムジナでのうて、あのフグの様じゃの。ははは」
    唯:「どっちも、やだなぁ」
    吉:「父上様も、唯も幼子の様です」
    信:「そうじゃの。ははは」
    ナレ:信茂と唯は頬を膨らませ信近を睨んだ。すると番組の中で日光の陽明門が映し出された。
    源:「これは、見事な物ですね」
    覚:「日光という場所にある東照宮の陽明門ですね」
    唯:「小学校の遠足で行ったこと有るけど、あんまり覚えてないなぁ・・・あっ、そうだ、お父さん」
    覚:「どうした?」
    唯:「水族館だけじゃなくて、他にも見せてあげたいんだけど、此処は?」
    覚:「それは無理だろうな」
    若:「父上の申す通りじゃ。わし等は唯のその気持ちだけで充分じゃ」
    唯:「そうだよね。何日もないだろうし」
    ナレ:そこへ美香子が戻ったきた。
    美:「どうしたの?」
    唯:「水族館だけじゃなくて、今、放送していた日光にも連れて行きたいなって話してたのよ。でも時間ないからって」
    美:「そうね。残念だけど」
    唯:「そうだよねぇ」
    源:「わたくしが余計な事を申してしまい」
    唯:「源三郎さんは悪くないから、ねっ」
    源:「申し訳ござらぬ」
    ナレ:恐縮する源三郎の肩に成之が優しく腕を回し、
    成:「源三郎、私もあのようめい門とやらを見てみたいと思うた」
    覚:「素晴らしい門なので、日が暮れるまで見ていられることから日暮の門とも言われているんですよ」
    唯:「へぇ、そうなんだ」
    覚:「お前なぁ・・・で、お母さん、どうした?」
    美:「そぅそぅ、昨日連絡があったのを忘れていて」
    唯:「何の?」
    美:「唯が産まれる前の事だけど、話したし、年賀状も。ここで働いていた看護師さんの事」
    唯:「うん、で?」
    美:「その方にお孫さんが産まれたからお祝い渡しててね、そのお礼と、地区の婦人部で旅行に行ってきたから土産を渡したいから明後日の午後に訪ねたいって言ってたから、どうぞって」
    唯:「えっ、でも」
    美:「そうなのよ、電話切った後に、そうだったって。でも、都合が悪いからって断るのもって、どうしよう」
    覚:「そうだな」
    唯:「じゃ、その間は、9人は実験室に・・・でも9人だと狭いか」
    覚:「何で9人何だ?」
    美:「もしかして唯、自分も人数に入れてる?」
    唯:「あっ」
    覚:「お前は居ていいだろう」
    唯:「そうだよね。でも狭いかな?」
    若:「唯、我らは尊と唯の部屋にて居れば良いのでは」
    覚:「そうだね。じゃ、すみませんが、その様にしてもらえますか」
    じい:「大事無いぞ」
    美:「ごめんなさいね」
    ナレ:美香子は診察室へ戻った。
    唯:「毎年年賀状くれる人だったよね、確か・・・熊田」
    ナレ:苗字を思い出した時に、あの時出会った高山親子にそっくりな親子、熊田という名前に、子供が生まれた事など共通点が。
    唯:「まさかね」
    覚:「どうした?」
    唯:「ほら、高山親子にそっくりな人に会ったって話したでしょ」
    覚:「そうだったな」
    唯:「その人が熊田さんで、子供が生まれたって、もしかしてその人たちかもって」
    吉:「その方であれば、縁とは不思議な物ですね」
    信:「そうですな。似ておるのであれば拝見したいが」
    唯:「無理ですねぇ」
    覚:「そうですね。では、その時は不自由をお掛けしますが」
    成:「不自由などと申さなくとも」
    若:「さようです。父上」
    覚:「はい」
    ナレ:その日は尊がみんなと二階に居て、何かの時は唯のスマホに連絡を入れる段取りとした。

    ナレ:土曜の午後、時間を見て、じい達は二階に。チャイムが鳴り唯が出てドアを開けると、目の前に高山親子と瓜二つの親子と上品そうな女性が居た。
    唯:「やっぱりあの時の」
    宗之:「あなたは。あの時は父が失礼しました」
    聡子:「宗之?」
    宗之:「ほら話したでしょ。里香が産まれた日に出会った人がいるって。父さん嬉しいからって初めて会った人にベラベラと」
    聡子:「先生のお嬢さんだったなんて、偶然ね」
    幸助:「そうだな。あの時は失礼しました」
    唯:「いえ、どうぞ」
    ナレ:美香子と覚が出迎えた。
    美:「ようこそ。さっ、こちらに。お嫁さんとお孫さんは?」
    宗之:「皆さんに顔をお見せしたかったのですが、妻の両親が来ることになりまして二人は留守番をしています」
    美:「そうなの」
    聡子:「写真を」
    ナレ:聡子は宗之のスマホのアルバムを開かせ三人に見せた。だが、殆ど抱いているのは宗之ではなく幸助だった。
    唯:「すごいですね」
    幸助:「あとから妻に叱られました」
    ナレ:幸助は頭を掻き乍ら宗之たちを見て苦笑い。
    宗之:「父は新生児室を食い入るように見ていたので、看護師さん達に怪しまれていたんですよ」
    ナレ:唯はその様子を想像して吹き出してしまった。
    覚:「唯」
    聡子:「構いませんよ。通報されなくて良かったと息子たちとも話していたのですから」
    ナレ:幸助は今度は両手で顔を隠し恥かしがっていた。唯は高山宗鶴を思い浮かべ、こんな姿は絶対にしないだろうなと思っていた。
    美:「唯?」
    唯:「何でもない」
    ナレ:覚が珈琲を淹れて三人の前に置いた。
    聡子:「あなた」
    幸助:「そうだった」
    ナレ:一つ目の袋から丁寧に梱包され熨斗に内祝と書かれた箱を美香子に渡した。
    美:「ご丁寧にありがとございます。頂戴いたします」
    ナレ:もう一つの袋から、梱包された大きな箱をテーブルに置いた。
    聡子:「家事もあるからゆっくり出発して翌日は夕方になる前に帰るという一泊の旅行で日光と鬼怒川に行ってきたの」
    ナレ:唯たちは日光と聞いて驚いた。
    宗之:「あの?」
    覚:「先日、日光に行ってみたいと話していたのでね」
    宗之:「そうだったんですか」
    聡子:「近いけど、一泊して、のんびりできました」
    美:「近場でも、たまには家事を忘れるのも良いわよねぇ」
    ナレ:美香子の言葉に覚と唯は顔を見合せ苦笑い。二人の様子に気付いた美香子は咳払い。三人は不思議そうに見ていた。
    唯:「あの、頂いても、食べても良いですか?」
    美:「唯」
    聡子:「食べて頂きたいから買ってきたので、どうそ」
    唯:「いただきます」
    ナレ:唯は甚五郎煎餅の缶を開けて一つ手に取り食べた。
    唯:「久し振りです。お父さん、お茶飲みたい」
    覚:「もぉ、飲みたけりゃ、自分で淹れなさい」
    唯:「は~い」
    ナレ:唯は煎餅を加えながらキッチンへ。
    美:「行儀が悪くてすみません」
    宗之:「いいえ。そういえばあの時、彼氏さんも居ましたけど」
    唯:「そうでしたね」
    宗之:「かっこいい人だったので、二人はモデルさんかと思いました」
    唯:「ありがとうございますぅ。お茶飲みます?」
    宗之:「あっ、はい、いただきます」
    ナレ:美香子も覚も苦笑い。他の箱も唯は了解を得てから開けた。日光の三猿の木彫りの置物と漬物。
    聡子:「定番の物ばかりで、すみません」
    美:「定番って、言いかえれば長年愛されてるという事じゃないですか?」
    幸助:「そうですね。ありがとうございます」
    美:「いえ」
    ナレ:孫の話を幸助が嬉しそうに話していると、唯のスマホにLINEが。中を見ると、信茂がトイレに行きたいと言い出したと。

    土産 その2に続く

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    返信
    これからの事を

    梅とパインさんもてんころりんさんも、そう私も気になっていました(^_^;)
    あの声だったら中に聞こえただろうにと。でも、信近&吉乃両名は何も無かったような態度。
    自分で書いておきながらですが納得(*^_^*)

    これより先の事ですが、毎度の事ながら、要点書き出し下手な為に分かり難い説明になってしまいますが、お許し下さい。

    【宗熊の決意 第二章】を書いた時に、重要な役どころの品物を登場させましたが、それがどうして登場したのかを考えて新たな物語(投稿名:11月24日~12月22日+αと無題の間の話)を作りました。

    ーこれからー
    ➀再度登場させる人物が最初に登場する場面を書きます。
    ②新規の物語を登場させる箇所を書きます。
    ③新規物語

    ***********

    SPの若君と相賀志津との婚儀を阻止したあと、未来の尊の助けで唯と若君が二人で平成に行った場面からの物語を20回にわたって書きました。
    投稿名:11月24日~12月22日+α
    アシガール掲示板 1001-2000  №1658~1862(2020.4.2~4.21)13回
    創作俱楽部 №10~121(2020.4.23~5.14)7回
    =あらすじ=
    二人で平成に行き、唯の苦手な期末テストが待ち受けていて、やる気を出すため若君が【褒美】を約束し、俄然やる気になりテスト期間を乗り越えた。そして、念願の制服デート、壁ドン、スワンボート、ラーメンと夢に見たデート。それから遊園地デート。唯の喜ぶ顔を見たいから絶叫マシーンも頑張った若君。家族みんなと水族館にも出かけた。

    創作俱楽部 №107(2020.5.18)
    若君のお気に入りの場所の450年後の姿を見せてあげたいと考え、尊に手掛かりを話し場所を探してもらった。そして二人で出掛け、現在の姿を見た帰り道で、高山親子にそっくりな親子と出会った。

    12月23日Xmasパーティ(アシガール掲示板 №1369 2019.12.24)をして永禄に戻った。


    創作俱楽部 №154~253(2020.6.8~8.29)32回
    投稿名:無題
    SPラスト ジャンピングハグの後の物語

    №172(2020.6.23)無題⑨より
    =あらすじ=
    相賀一成が婿と決めた忠清を取り返しに来た。忠清はみんなを助けるために相賀の元へ行こうとしたが、天の声、いや未来の尊の声で唯は大きな賭けに出た。タイムマシーンは二人用だが9人で平成に。
    唯、忠清、成之、阿湖、吉乃、信茂、信近、小平太、源三郎。
    平成に無事について、現代の生活を体験。

    №212(2020.7.15)無題㉑
    永禄に戻る手立てが見つからない中、信茂たちは変装して水族館に行った。シャチが気に入った信茂はぬいぐるみを買ってもらった。その帰りの電車のつり革広告を見て尊はアイデアが浮かんだ。


    №215(2020.7.21)無題㉒のラストから
    №216(2020.7.27)無題㉓の最初
    その間に新規の物語です。
    第二章を書いた後、その品物の物語を書いた場合に皆様に
    「あぁ、これはあの時の物か」
    そう思われるよりも、
    先に新規の物語を書き、
    「あぁ、あの時の物がここに」
    そう考えて頂く方がスムーズかと考えました。

    その後、第一章のあらすじを書きまして第二章に続けたいと考えています。
    それから【宗熊の決意 第二章】の中には決意した者が、宗熊だけでは無い事を此処にお伝えしておきます。

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    夕月かかりてさん㊗️二人の平成Days完結!

    ドラマではSPの現代で過ごした唯と若君、一月の物語、全70話!
    連載お疲れ様でございました。
    ?完成おめでとうございます!

    *~二人の平成Days 54(no.534)~69(no.560)について思い付くままに~*

    二人は家族にクリスマスプレゼントを買い(Days 51.52)、メッセージカードを書きましたが(Day54)、渡すシーンがなく、どうしたんだろうと実はずっと気になりました。
    戦国に発つ直前、最後にサンタのプレゼント風にドアノブに掛けてましたね(Day70)。
    あ~良かった?✌️

    平成Daysの映像を戦国でも見られる様に尊が考えた機械(Days 42.43.55.56)、おもナビくん (思い出ナビゲーション) ネーミングが巧い❗
    ミニ·ソーラーパネルとか? 太陽電池とか? 映像が浮かびました。面白い…
    他にも荷物が多いですね。
    ドラマに登場した黒のバカでかいリュック、セントバーナード犬1匹入りそうな、あれで持って行くんですね!
    持ち物確認、荷造り情景がねぇ、なんかホロッと来ました(Day64)。

    新生活=厳しい戦国に向かう新婚の二人を両親が温かく見守り、尊がクールに全員を見ている。
    家族愛は、今回のシリーズ中、最も好きだったところです。
    実は私「アシガール」では “寸止め”支持派です。
    他の作品でも “寸止め”が良いって お堅いタイプとは全く違いますが‥
    私自身の唯と若君のイメージと違い過ぎて最初は面食らい、ラブラブ??モードの二人のところは足早に通ってました。

    お風呂のシーン?♨️多いですね(笑)日常ですもんね。
    で. 旅立ち前夜の唯と若のお風呂(Day58)には. 泣けました。
    二人は可愛いし、両親が戦国に帰ってからの娘を案じて自分達の下で少しでも大人にさせようとしてる感じが…
    最後の夜はリビングに布団を5つ並べて寝る(Day59)、唯は両親の間に、若はお母さんの隣に、ここねぇウルウルしました。
    出発日は男女別れての家族風呂も温かくて良いですね(Days 65.66)。

    「別れが辛いのであろう. 家族に見せぬよう. ここで泣いておけ」唯に迫る若君(Day62)、
    「寂しいとか辛いとか隠さないで. 弱さを見せたって構わない」若君に迫る唯(Day68)、
    この二人「対」になってたんですね。
    二人が相手の気持ちを引き出した方法は、北風と太陽ほど違いますが、二人とも泣いてしまう。 良く理解し合ってますね。
    心に残るエピソードです。
    楽しませて頂きました。ありがとうございました。

    ☆妖怪千年おばばさん、3話出ましたね。
    感想は後日改めます。

    ☆ぷくぷくさん、良かった?!
    あのシーン、私も気になっておりました。
    若君が唯に怒っている時は障子が閉まって中が暗く、なぜ奥に?
    ですよね、きっと。
    信近パパは一緒になりたい訳だし (^^)b

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    きゃ♪

    ぷくぷくさん、お元気そうで良かったです。そして、隙間ストーリーを ありがとうございました (^^)。 わざわざ新しく作って下さったんですね。感謝 m(__)m!
    あの場面は ずっと気になっていたんです。
    私も お二方が 一旦 奥の方の部屋に入ったんだとは思ったんですけど、お世話になっている立場の おふくろ様が「もてなす」というのは ちょっと変な感じだし、信近殿が何故 上がり込んでいたのか… 何故 肝心の話を帰り際にしたのか… いろいろ「?」だったんです。
    ぷくぷくさんの お話で「そっかそっか なるほど~♪」となり、スッキリしました (^^)v。さすが!
    新作の妄想ストーリーも出来上がっているのですね。楽しみに待ってます (^.^)。

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    こんにちは

    夕月かかりてさん、妖怪千年おばばさん、皆様、お疲れ様でございます(^_^)

    湧き水の如く妄想が湧き、そして1つのテーマでもそれぞれの物語が出来る不思議なドラマです。
    私も頑張ります。後日、書き上げた物語がございますので書かせて頂きます(^_^)
    妄想は書けても、作家様の物語の感想の書けないタワケです、お許し下さい( ;∀;)

    【アシガール掲示板 №665 2019.8.1 投稿名:すみません】で、唯が平成に戻り、吉乃達が梅谷村へ戻った後から、信近と一緒になるまでの物語は書いていますが、梅とパインさんの仰る、
    その間の吉乃と信近の事は書いていませんでした(^_^;)

    若君が行った後から、唯の手を引いて戻るまでの時間はそんなに掛かっていないのではないかと思いましたし、唯たちが戻って来た時に、もしあの部屋に居たら、若君達の声に気付いて出て来るのではないかと。近くには居なかったのでは無いかと考えました。それに、唯が隠れている所での二人の会話で、吉乃が「やはり」そう言ったという事は、戻る話はその前にもしているという事だと。
    すみませんちょっと考えてみました。

    ********************************

    信近が若君の走っていく姿に、
    「わかぎみさま」
    そう言った後、吉乃に、
    「若君は何を慌てておるのかの?」
    吉乃は理由は分っていたが、
    「さぁ、わたくしにも分かりませぬ。では」
    吉乃が中へ戻ろうとしたので、
    「吉乃殿」
    「はい?」
    「あ・・・と・・・そのぉ」
    「如何なさいましたか?」
    「あ・・・あっ、子等はどうしておる?」
    「休んでおりますが、何か?」
    「そうか・・・」
    「信近様?」
    「吉乃殿、子等の寝顔を見ても良いか?・・・起こしはせぬのでな」
    「はぁ、構いませぬが。どうぞ」
    二人は三之助と孫四郎が寝ている部屋へ行った。

    その頃、急いで成之の部屋に行き、唯を連れ戻した。

    信近は三之助と孫四郎の枕元に座り、
    「小平太たちの幼き頃もこうして、寝顔を見たものだ」
    「さようでござりまするか。お優しい御父上様でございますな」
    信近は照れた。
    「子等が休んでおる内は、敵方が攻めて来ぬよういつも願っておった」
    「さようでございますな」
    信近は起こさないように二人の頭を優しく撫でていた。
    「信近様?」

    その頃、唯と若君は表で言い争いをし、若君は行ってしまい、唯は落ち込んでいた。

    部屋では、
    「このまま、子等と共に、此処に居らぬか?」
    「えっ?」
    「どうじゃ?」
    「かたじけのう存じますが、わたくしは梅谷村へ戻ろうかと」
    「だが」
    すると、三之助が寝返りを打ったので、起してしまうと思った信近は、
    「起してはならぬの、わしはそろそろ戻ろう」
    二人が寝ている部屋を出て、表に面するあの部屋に戻って来て、信近が障子を開け表に出て来た。

    二人の会話を唯が聞いてしまう。

    そんな感じではなかったのかなぁと思いました。

    失礼しました(*^_^*)

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    お疲れ様でした m(__)m

    夕月かかりて さん、ありがとうございました。長く楽しませて頂きました (^^)。25秒を70話分創作するって、すごいです!
    途中の感想を どうしようかと思いましたが、下手な文は かえって興醒めになりそうで遠慮しておりました f(^^;。 でも しっかり読んで 続きを楽しみにしていたんですよ (^^)。

    妖怪千年おばば さんも、以前には ぷくぷく さん(お元気ですか?)も、同じ「平成ライフ」でも 作者さんによって多種多様で 本当に面白いです。似たような場面でも 違った視点・想像力… 素晴らしい!
    皆さんの創作ストーリーを、これからも ドンドン発表して下さいね。感想文は 書けずとも 楽しんでいる者が ここにおりますので (^.^)。

    1つ、ぷくぷく さんに質問。
    唯が城に居たと聞いて若君が走り去った後 → 唯が庭先で凹んでいた時に 部屋から出て来た 天野信近様と おふくろ様、その間 お二方は どんな風に過ごしておられたか…… の 隙間ストーリー って、以前に創作されていましたっけ?

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    25秒の世界

    この度、無事に最終回まで辿り着けましたのも、温かく応援ならびに見守ってくださった皆様のお陰です。誠にありがとうございました。

    ドラマSPの、描かれなかった隙間を埋めたい。改めて結婚の許しを得た後から始めよう、終わりは実験室に五人居る直前に。途中どんな物語があったか、あって欲しいか。既に他の妄想作家様が書かれていたのは承知の上で、自分の解釈でやってみようと描き始めた次第です。なので、他の作家様が使われたモチーフや、連れて行ったデートスポットは極力避けたつもりです。

    SP、尊が若君に頭を下げた後から、パーティーでケーキ入刀終わるまで。これが、25秒でした。これを、長々と70話に伸ばし伸ばし。一話一話は、あえて短めに作ったつもりですが、それでも70回投稿してるんだから…。創作倶楽部があって良かったです。

    さて、これでしばらくお休み…なんて事はありません。今後の投稿予定ですが、まずは、最終回までの番号とあらすじの表を出します。そして、二人のもしもDaysを一つ出します。

    次に、最初から一話ずつ簡単?に振り返ります。番号とあらすじの表と同じに、三回に分けて説明いたします。今読むとなるとこっ恥ずかしいですが、書きっぱなしもなんですので、弁解・補足・込めた思いの説明などいたします。というかさせてください。

    その後は…文章が長くなりました。いずれ、お話ししますね(*^_^*)

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    二人の平成Days69(終)~23日23時、永遠に名を呼んで!

    笑って、笑って。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに下りてきた。三人が立ち上がり出迎える。

    覚「おー、おかえり。今、ホットミルクいれるからな。これでホッと、してくれ」

    美香子「お父さん~」

    唯「ふふっ、お父さんありがと」

    尊「お姉ちゃん、もう写真足しといたから。で、あと」

    唯「ありがとう~、尊~。でなに?」

    尊「葉書、ラミネート加工して入れといたよ。その方がいいと思って」

    唯「えー!超仕事早っ!」

    唯、尊に抱きつき、ギュー。

    尊「わあっ!なんでだよ!」

    唯「嬉しい~!ありがとね!」

    若君が、深く一礼する。

    若君「気を遣わせてしまい、誠に申し訳、ありませんでした」

    覚「いいんだよ。まぁ、良かった良かった」

    美「若君、私からは少し言わせてね。まず、唯の母としては」

    若「はい、母上」

    美「ウチの娘は、たわけたおなごではあるけれど」

    唯「あー」

    若「ハハッ…はい」

    美「ちゃんと若君を理解してますから。もう少し、唯に心を許して、隠し事のないようにしてくださいね」

    若「はい」

    美「忠清くんの母としては…もうこの子ったら、いじらしくって、かわいくって~!くちゃくちゃーってこねくりまわしたいわ~」

    若「こね、くり?」

    尊「ちょっとー、いい場面が変な方向に行ってるよー、台なしじゃん」

    唯「お母さんに揉みくちゃにされてる、たーくんも悪くないけど」

    美「えー?いいのー?」

    覚「そこ、ストーップ!ホットミルク全員分あるから、座って」

    最後の団欒でした。

    唯「そろそろ、着替えるよ」

    美「わかった。じゃ、行きましょ」

    着物の置いてある、両親の部屋へ。

    美「若君は、一人で大丈夫よね。私は、唯に着付けながら逆を向いてるから、気にせず着替えてね」

    若「はい、わかりました」

    唯「って事は、私からは丸見え…」

    美「まだそんな事言ってる。そうよ、若君からも、唯の着替えは丸見え。はい、脱いで脱いで」

    唯「ひぇ~」

    永禄仕様に、着替え完了。

    唯「ありがとう、お母さん」

    美「どういたしまして」

    唯「レイが、私の部屋にあるから取ってくるよ。お母さん、先に下行ってて」

    美「わかったわ。ゆっくりでいいわよ。三人でリビングで待ってるから」

    唯「ありがとう」

    若「ありがとうございます」

    唯達は、部屋を移動。母は、階段を下りていった。

    唯「よし、行ったね。じゃあたーくん、まず」

    ベッドの上のレイをそれぞれ首にかけた。そして、布団をめくる。そこには、プレゼントとメッセージを入れた、靴下型の巾着袋が三つ。

    唯「たーくん、尊の部屋のドアノブに、これ引っ掛けてきて」

    若「あいわかった」

    唯は、両親の部屋のドアノブに、同じく二つぶら下げた。

    唯「よし、完了。三人の驚く顔は、見れないけど」

    若「直々には渡さぬのだな」

    唯「サンタさんは、知らない内に現れて、プレゼント置いてくの」

    若「そうか」

    唯「うん。お父さん、お母さん、尊、一日早いけど…メリークリスマス」

    若「メリー、クリスマス」

    唯「あっ、ありがとう~」

    唯の部屋に戻る。しばらく、沈黙。

    唯「へへ、つい黙っちゃった。あっそうそう、昨日デパートで、コーチに会ったじゃない」

    若「あぁ。あのコーチ殿なら、良い形で唯の事を伝えて貰えるであろうの」

    唯「お母さんに、さっきお風呂でその話をしたの。そしたら、若君最高!って、めっちゃ褒めてたよ」

    若「そうか?」

    唯「周りでそういう話になったら、合わせといてくれるって」

    若「父上母上に、迷惑はかからぬのじゃな?」

    唯「うん、大丈夫。あ~今思い出しても、あの時のたーくん…いや若君は、カッコ良かったあ」

    若「ん?」

    唯「そろそろ戻そうと」

    若「そうか。閨ではそのままで良いぞ」

    唯「いやん。じゃあ、おじいちゃんになっても、たーくんで」

    若「…その歳ならば、お手柔らかに頼む」

    唯「ん?どゆこと?尊には聞…かない方が良さそうな話?」

    若「ハハハ」

    唯「この手もそろそろ終わりだね」

    若「…唯」

    唯「はい」

    若「愛してる」

    唯「えっ?やだ、不意討ちなんて、心の準備が~」

    若「日毎に、想いは募る」

    唯「えー。なんて嬉しいコト言うのぉ」

    若「なぜであろうか」

    唯「え?私に聞く?」

    若「フッ、問うてみただけじゃ」

    唯「なにそれ~また?」

    若「一向にわからぬゆえ、ずっと共に居り、探る」

    唯「えー、それって、答えがわかったらどうなるの?まさか飽きて捨てられる…やだやだ、怖っ!」

    若「それは、天に誓って、永遠にない」

    唯「そう?安心していいのかな」

    若「唯は、誠、面白い。これからも、輝くその姿でずっと、わしの傍で跳ねて欲しい」

    唯「跳ねる?」

    若「雀のようにの」

    唯「雀?んー?まっ、かわいいからいっか。でも、面白いに戻るんだ?」

    若「ハハハ」

    若君が写真立てに目をやった。唯がメダルをくわえる例の写真は、時空の旅を経て、ここに戻って来ている。

    若「平成ライフ、もそろそろ終わりじゃ」

    唯「あーその言い方、あったね~。懐かしい」

    若「これから旅立つが」

    唯「はい」

    若「唯の様々な決意を胸に、必ずや守り抜く」

    唯「ありがとう。これからも、若君を守ります。あっ違った」

    若「違った?」

    唯「若君と子供たちを守るよ」

    若「子供達、か。無論、男子が跡継ぎとして必要じゃが、もし女子が産まれたら」

    唯「うん?」

    若「嫁には出さぬ」

    唯「えぇ?そんなん、戦国武将っつーか、親としてどうなの」

    若「唯に瓜二つの娘など、手離せぬ」

    唯「あらら。今から親バカ…えっと、溺愛でどうするの?」

    若「そうか、ハハッ」

    唯「うふふ」

    若「ハハハ。…それでは、良いか」

    唯「はい」

    若君が唯の手を取った。

    若「唯、参るぞ」

    唯「はいっ!若君さま」

    三人の待つリビングへ、そして、五人で実験室へ入って行きました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    二人の未来は、幸しかない。

    ご覧いただいた、全ての方に感謝です。長い間、お付き合いくださいまして、本当にありがとうございました。

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    二人の平成Days68~23日21時、開いてみせて!

    良き妻じゃよ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯「ちょっとだけ、二人きりになりたい。いい?」

    覚「行ってこい」

    美香子「うん」

    若君「どうした?」

    唯「いいから」

    若君の手を引き、二階へ上がる。

    覚「若君、あのままではな」

    美「やっぱりそう思う?」

    尊「えっ、どうなっちゃうの?時間ないよ?」

    覚「そうだがな」

    尊「さっき、お風呂ですごく楽しそうだったのに。あんなに笑う若君、見たことないよ?」

    覚「だから余計にだろ」

    尊「そういう事か…」

    美「あまり、思い詰めて欲しくないけどね」

    覚「彼の中でどう消化できるかは、唯にかかってるな」

    唯の部屋。ドアを閉めるやいなや、

    唯「たーくん、なんで言わないの!」

    若「何を申せと」

    唯「もうすぐ永禄に帰れる。嬉しい?」

    若「嬉しいのう」

    唯「そうは見えない」

    若「そんな筈はない」

    唯「今から帰る。これは決まってる、変わらない。でも、気持ちとして、帰りたくないと思ってはいけない、なんてない」

    若「それは…ない」

    唯「どうして隠すの?」

    若「隠すなど…」

    唯が大きく息を吸った。怒りをあらわにする。

    唯「この、大たわけっ!!」

    若「どうしたというのじゃ」

    涙目になっている。

    若「なっ、何ゆえ」

    唯「私、たーくんと心が通じあったと思ってた」

    若「それは変わってはおらぬぞ」

    唯「私は、たーくんが何考えてるかわかった。でも、たーくんは私に心を開いてくれない!」

    若「…」

    唯「さみしいとか、離れるのが辛いとか、思ったっていいんだよ!心が揺れたっていいじゃない。ずっと強いたーくんでいなきゃいけないなんてない!でも、でもその気持ちは打ち明けて欲しかった…気持ちを分かち合うって、こんな時必要なんじゃないの?なんにも言ってもらえなくてすっごく悲しい、悔しい!こんなにそばに居るのに…うゎーん!」

    子供のように泣き出した。

    若「唯…」

    困惑し、立ち尽くす若君。

    唯「うっ、うっ…」

    若「済まぬ」

    唯「見抜かれた、って思ってるでしょ」

    若「思うておる。されど」

    唯「あー、いいから。羽木家総領たる者、たとえ妻であろうと弱みを見せてはいけない、違う?」

    若「唯がここまでわしをわかってくれておる事に、心及ばなかった。済まない」

    唯「さっきあんなに怒ったのも、私にじゃなくて自分にだったんじゃないの?もしかして」

    若「そう思われて然るべきじゃ。どう詫びても詫び切れぬ」

    若君が、指で唯の頬を拭った。

    若「泣かせて悪かった」

    唯「たーくんも、泣いとこっか?泣くってね、いろんなモヤモヤも流れていってすっきりするんだよ」

    若「強くは申さぬのじゃな。こんなわしであるのに」

    唯「泣けなんて怒鳴りはしません。優しい妻なので」

    若「そうじゃな。誠、最上級の」

    唯「あっ、嬉しい」

    落ち着きを取り戻し、笑顔を見せる唯。

    若「笑うてくれたの」

    唯「うん。じゃあ、背中貸そか?」

    若「ハハッ、いや、是非正面で頼む」

    唯「ふふっ。じゃあ~ギュ?」

    若「ギュ、じゃな」

    唯「あっ、ちょっと待って」

    首にかけていたレイを取り、そっと二人分ベッドに乗せた。

    唯「これで良しと」

    ふと、ベッド横の壁に掛かっている、襷などの陸上部グッズが目に入った。

    唯「…あ、思い出した」

    若「ん?」

    唯「えっと、手、広げてくれる?」

    若「手?」

    唯「たーくんにゴールしたい」

    若「ゴール?ようわからぬが、こうか?」

    若君が腕を広げて、待ち構える仕草に。

    唯 心の声(あ~、夢に見たたーくんだ…走って走って頑張った私を、ゴールで待っててくれたあの!)

    若「妙に嬉しそうじゃの。何がいつもとどう違う?」

    唯「えへ。違うんだなぁ~これが」

    若「そうなのか。では唯、此処へ」

    唯「はいっ!速川行きまーす!」

    若「おぉっ」

    ぴょーん、とゴール!からのギュー。

    唯「あのね、お父さんもお母さんも、多分気付いてる」

    若「そうか」

    唯「だから、気の済むまで時間かけていいから」

    若「…忝ない」

    静かに抱き合う二人。

    唯 心(私もまだまだ、良き妻には程遠いなぁ。せめて、たーくんがこんな時、プライドを傷つけないようにしてあげたいな)

    若「ズズッ、あー」

    唯「あ?」

    腕を離して、顔を見る。

    唯「えっ!めっちゃ泣いてた!ぐちょぐちょじゃない!」

    慌てて、ティッシュケースを差し出した。鼻をかんでいる。

    若「唯の優しさに、気が緩んでしもうた」

    唯「ちょっと予想外でびっくり」

    若「泣き納めじゃ」

    唯「そっか。でも、これから私には、たーくんの弱い所も見せてね」

    若「そうじゃな」

    唯「約束だよぉ」

    若「肝に銘じる」

    唯「ふふっ、良かろう」

    若「ふう、酷い顔になっておろう?」

    唯「ううん、大丈夫。真夏の撮影で着物なんか着せられちゃって、放送は冬なのに、やたら顔がほてってる俳優さんみたいになってるだけ」

    若「なんじゃ?その言い回しは」

    唯「なんにも。じゃ、みんな待ってるから、一旦下に戻ろうね」

    若「あぁ、謝らねばならぬしの」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、いよいよラストです。

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    9月の蝉 後編 その2

    平成での、二度めの満月が
    近づいたある日、
    忠清は、一人、
    黒羽城公園に向かった。

    案内板を眺める。
    初めて来た時は、
    尊に読んで貰ったのだが、
    今は何とか自分でも
    読める様になった。

    「永禄2年、羽木家滅亡」

    残酷な文字を声で辿る。

    “そうはさせぬ。“

    忠清は、唇を噛んで、
    本丸跡にある郷土資料館に向かった。

    展示コーナーを眺めていると、
    不意に後ろから、声がした。

    「おや?
     君は確か、あの時の。」

    立っていたのは、
    歴史教師の木村先生だ。

    しばらく前の事、
    数人の男に襲われて、
    カバンを奪われた木村を、
    尊と忠清が助けたのだ。

    「いやあ、あの時は、
     本当にありがとう。
     ここでまた、会うとは。
     君、郷土史に興味があるのかね?」

     「この城は、焼失したと言うが、
      炎上に至った訳を知りとうて。」

    「そう。
     実は、ちょうど、今、
     その話題が出てた所なんだ。」

    木村先生は、月に一度の、
    郷土史の研究会を終えた所だった。

    一般的な説は三つ。
    一つ目は、敵の火責め。
    二つ目は、城主の命による付け火と
         総自決。
    三つ目は、内部の裏切の証拠隠滅。

    「君は、どう思うかね?」

     「どれも有り得る。
      全てと言う事も。
      高山が仕掛け、それを合図に
      内通者が城内に火を放ち、
      反乱を起こす。
      加えて、北門から野上に
      攻め込まれれば、
      落ち延びるのは困難じゃ。」

    「そうなんだよ。
     君、なかなか詳しいね。
     戦記でなくとも、誰か家臣の
     日記でも残っていれば
     解明できるんだが。」

     「日記とな?
      それなれば、小垣の祥雲寺に
      何か残って居るやもしれぬ。」

    「祥雲寺?
     聞き覚えがありませんな。
     どこの寺です?」

     「鹿之原の先じゃ。
      鐘ヶ江家の菩提寺であるゆえ。
      久政が何事かの折に
      文書を託すとすれば、
      まずはそこであろう。」

    「ほう。あの辺りに寺が?
     そう言えば、私の生徒も
     気にしていましたな。
     鹿之原の事を。」

     「生徒?
      それは、もしや、唯の事では?」

    「おや?君は、速川を
     知っているのかね?
     いや、暫く前の事なんだが、
     千の兵で、三千の敵を
     倒すにはどうしたらいいか、
     なんて、突然、聞いてきてね。
     何の冗談かと思ったんだが、
     本人が余りにも真剣だったから、
     戦法を一つを教えたんだ。
     そうしたら、大喜びで、
     資料室を飛び出して行ってね。
     そうか、戦場の近くの古刹なら、
     再調査の価値はあるかもしれん。
     いや、君、ありがとう。」

    木村は、忠清に礼を言うと、
    まだ例会の会場にいる、
    小垣市の郷土史家の元に、
    戻って行った。

    その後、唯の部屋に戻った忠清は、
    ベッドに横になり、
    唯の写真に語りかけた。

    「唯、鹿之原の合戦前夜は、
     確か、満月であった。
     お前は、あの夜、平成に飛び、
     また戦場に戻ったのであろう。
     あの日の勝ちは、あの者の策。
     後の世の木村の手を
     借りておったとは。」

    目を閉じた忠清の瞼に、
    甲冑姿の正秀が浮かび、
    やがて消えた。

    ・・・・・・・・・・・・・

    永禄に戻り、平成へ唯を
    送り返した忠清は、
    毎日の様に城内を見回った。

    城の焼失の経緯は
    分からなかったが、
    火の備えはせねばならぬ。

    忠清は、陸上部のコーチに会った、
    あの日のグラウンドを
    思い出していた。

    生徒たちが休憩を
    とっている間の事。
    地面から、水が吹き上がり、
    クルクル回りながら、
    水を飛ばし始めたのだ。
    何人かの生徒は、
    わざわざその水を頭からかぶり、
    はしゃいでいる。

    スプリンクラーですよ。

    尊が言った。

    砂が舞い上がるのを防ぎ、
    暑さしのぎにもなるのだと。

    ”あれを作れものか。”

    忠清は、普請奉行を呼ぶと、
    図面を広げ、何日も思案を重ねた。

    「忠清は、何を始めたのじゃ?」

    奉行や匠を連れ、自ら城の屋根に
    登る我が子を見上げ、
    殿は筆頭家老の天野信近に訊ねた。

     「城の修繕の下見とか。
      火を防ぐ為の新たな策を
      考案された様で。」

    「新たな策?」

     「屋根に天水貯めを作り、
      火が出た際には、水を落として
      消し止めるおつもりらしく。
      塀の上には、樋を渡し、
      それより水を放つ仕掛けも
      作られるとか。
      これが大層、風変わりで。」

    「どの様に?」

     「蓮根を割ったような姿の
      口が付いておりまして、
      その先より
      水が吹き出します。」

    「ほう。」

     「戻られてからの若君は、
      まるで、知恵の泉。」

    「まだ、他にも有るのか?」

     「城内に井戸を新に掘りたいと。
      それは、多大な費用と時を
      要しますので、普請奉行が
      お止め申したのです。
      そこへ、庭師の頭が、
      池を広げられてはと。」

    「池を?」

     「早速、奥御殿の池の底をさらい、
      深く広くし、船で池から内堀へ、
      さらに、外堀へ抜けられる様に
      せよとの仰せ。
      いずれは、吉田川に通ずる
      水路造営もお考えの様に
      ございまする。」

    「成る程。
     攻められた折の、
     女子どもの退路の確保か。」

     「若君は、矢傷を癒されて
      おられた間も、城の守りを
      思案されておられたご様子、
      この信近、感服致しております。」

    「うむ。忠清の隠れ家とは、
     如何なる所かのう。」

    それから暫く経ったある日の午後、
    黒羽城の一同は、
    庭で固唾を飲んで
    本丸御殿を見上げていた。

    「いざ!」

    普請奉行の大音声を合図に、
    太鼓の音が鳴り響く。
    その中を、御殿の屋根の鯱が
    盛大に水を吹き上げた。
    水は大きく弧を描き、
    奥御殿や脇の御殿に降り注ぐ。
    それは、まさしく、
    晴天の驟雨であった。

    「おおお、あれを見よ!」

    「虹じゃ!
    虹の架け橋じゃ!」

    家臣たちが指差す先に、
    淡い七色の橋が、本丸と奥、
    二つの御殿を繋いでいる。

    「まこと、吉祥じゃ。
    天女が舞い降りそうじゃの。」

    殿の言葉に、誰もが首肯き、
    感嘆の言葉を口にする。

     「若君様は、
      神の御技をお持ちじゃ。」

    賞賛の声をよそに、
    忠清は、虹の彼方に、別の風景を
    思い描いていた。

    正面には、青空にくっきりと
    浮かぶ富士の高嶺。
    左手には、烏帽子岩が
    白い波がしらを立てている。
    海風に、沿道の観客が持つ小旗が
    揺れる中、波の音に合わせる様に、
    しなやかな足が地面を蹴る。
    一足ごとに短い髪が左右に揺れる。
    滴る汗を、日に焼けた手の甲が払う。
    息は荒い。
    それに反して、目には、
    輝きが溢れている。

    「唯、お前は、後の世で
     成すべき事を成せ。」

    忠清は、ひた走る唯の姿を夢想しながら、
    その場に立ち尽くした。

    虹の消えた城の屋根を、
    夏の終わりを惜しむ様に、
    蝉しぐれが包んでいた。

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    二人の平成Days67~23日19時、怒りの矛先は

    一人何を思う。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯が、ナイフに飾りを付けている。

    唯「へっへ~」

    尊「何それ?あー、ウェディングケーキ入刀風にね。いいんじゃない?」

    唯「披露宴するならぁ~、ケーキは全部食べられる大きいのがいいなー」

    美香子「あぁ、入刀する部分だけじゃなくて」

    唯「だっていっぱい食べたいじゃん」

    尊「そんな時まで、食い意地が始動!」

    美「唯、大きく勘違いしてるけど、花嫁はほとんど披露宴の食事は食べられないわよ?お色直しを全くしないとか、誰にもスピーチしてもらわないなら別だけど」

    唯「え!そうなの!やだー。だから教会で二人だけの式とかあるんだ?」

    尊「それは違うと思う」

    唯「ひとまず、この目の前のケーキは食べられる。たーくん、ケーキ切るからね、一緒にナイフ持ってぇ」

    若君「切るのみなら、早々に終わりそうなものじゃが」

    美「若君、全女子の夢を叶えてあげて」

    若「それは随分と大仰な?わかりました」

    入刀します。若君が手を添える。その様子をパチリと撮影。

    尊「あ、この写真も欲しいよね?後でプリントアウトしておくよ」

    唯「わー、ありがと~」

    覚「間に合うのか?」

    尊「余裕。お姉ちゃん達が着替えてる時間にやるよ」

    ケーキ切り分けました。

    若「おぉ、この形なら見覚えがあるのう。ケーキとは、初めは丸い物なのじゃな」

    美「最近はそうでないのもあるけどね」

    尊「若君にとっては、ここ数年なんか全部最近だよ」

    美「そうでした」

    パーティーもそろそろお開きです。

    唯「あー、お腹いっぱい」

    尊「さすがに?」

    唯「今度いつ、満腹になれるかわかんないもん、食べるよー」

    尊「確かに」

    若君が、スッと席を立った。後ろへ歩いていく。

    唯「…」

    奥の棚に歩み寄り、じっと見つめている。指輪もだが、家族五人の記念写真も、既に飾ってある。

    尊「ついて行かないんだ」

    唯「来るなオーラが出てるから」

    尊「そう?なんだ」

    覚「温かいお茶でもいれるか」

    覚がキッチンに向かう。若君の様子を少し覗くが、その顔がかなり驚いている。

    美「お父さん?」

    急須や茶筒を手に小走りに戻り、ひそひそ話し始める覚。

    美「何だったの?」

    覚「若君が、物凄い形相で壁を睨んでいるんだ」

    美「壁?指輪や写真じゃなくて?」

    覚「ああ。あれは、何かに怒っているというよりは」

    唯「何?」

    覚「自分自身に苛立ってる感じだな」

    若君が戻ってきた。いつもの柔和な表情。

    唯「たーくん」

    若「なんじゃ?」

    唯「さっきから、全然笑ってないね」

    若「そんな事はなかろう」

    唯「えーい!」

    若君の頬をむにーと伸ばす。

    美「まぁっ!唯、何するの!」

    若「ハハッ、いえ母上、良いのです」

    静かに微笑む若君。

    唯「…」

    トナカイの角や鼻を外しながら、唯はずっと考え込んでいる。

    覚「はい、お茶どうぞ」

    お茶を飲みながらも、全員の視線が若君に注がれている。

    若「皆、いかがされた?」

    美「若君、なんかさみしそうね」

    唯「さみしそう…さみしそう。たーくん」

    若「なんじゃ?」

    唯「もうすぐ永禄だね」

    若「そうじゃ」

    唯「何か言いたい事、ない?」

    若「言いたい事…月が高い内に行かねばの」

    唯「それだけ?」

    若「それだけ、とは?」

    唯「…わかったよ、たーくんが何考えてるか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    なかなか探せません

    妖怪千年おばばさん、NGワードを見つけるのはちょっと大変ですよね。
    でもそのお陰で安心して掲示板が使えるので、ありがたいと思います。

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    9月の蝉 後編 その1

    仕上げに細かく刻んだ
    オレンジピールをパラっと
    かけると、覚は、
    満足そうに言った。

    「よし。上出来だ。」

    そして、美香子を呼ぶと、
    粗めに挽いた深入りの
    コーヒー豆の上に、
    沸き立ての湯を丁寧に注ぐ。

    土曜日の午後は、
    外来診療は休みだ。
    電子カルテの確認を終えて、
    庭に出てきた美香子は、
    花柄プリントのクロスをかけた
    ガーデンテーブルを見て、
    歓声を上げた。

     「素敵~。どうしたの?」

    「この間、お母さんが
     テイクアウトして来てくれた、
     クレームダンジュが
     旨かったから、
     作って見たんだ。
     レシピは、
     意外にタンジュン。」

     「なあに、それ。
      ギャグのつもり?」

    「その分、味の決め手は、
     クリームチーズなんだけど、
     そこは、レストランには
     敵わないからさ。
     オレンジリキュールを
     入れてみた。」

     「流石~。
      でも、それって、
      トシさんから教えて
      貰ったんじゃない?
      ケーキ屋の。」

    「え?」

    言い当てられて、覚は頭を掻く。

    「なかなか、鋭いな~。」

     「そう言えば、尊と若君は?」

    「出かけた。
     若君に自転車の乗り方を
     教えるそうだ。」

     「そう。
      若君が来てから、
      明るくなったわね。尊。」

    「そうだな。
     で、何だったんだい?
     コーチの話って。」

    覚は、なるべくサラリと
    訊ねたつもりだった。
    が、声がうわずったらしい。

     「あら、やだ。
       何か、勘ぐってる?」

    「だって。
     あの日以来、妙に、
     機嫌がいいからさ。
     気になって。」

     「そりゃあね。
      唯を待ってるのは、
      私たちだけじゃないって
      分かったから。
      ちょっと、ホッとしたって
      言うか。」

    「まあ、家族は、どうしても
     感情的になるからな。
     相談できる第三者がいるのは、
     確かに助かるけど。」

     「けど?」

    「相談なら、学校でも、
     家でも良いんじゃないか?
     何も、高級レストラン
     じゃなくても。」

     「だから、それは、
      昔の約束を果たしただけって
      言ったじゃない。」

    「でも、君は忘れてたんだろ?
     コーチの作り話って事も
     無いとは限らん。」

     「あら、呆れた。
      そんな人じゃないわ。
      お父さんも、挨拶位は
      した事あるはずでしょ?
      ほら、去年の新人戦の時。
      宿題は忘れても、
      お弁当だけは忘れない子が、
      空のお弁当箱を
      持っていっちゃって。
      お父さんが届けたじゃない。
      おにぎりを。」

    「ああ。
     なかなかの男だった。
     だから、その、余計にだな。。。」

     「じゃあ、今度、
      相談する時は、
      お父さんも一緒ね?
      それなら、良い?」

    「まあ。それなら。
     で、何だって?」

     「唯の高校卒業後の事を
      聞かれたわ。
      学校への届けを
      馬の飼育の研修って事に
      したでしょう?
      将来、その道に進ませる
      つもりなのかって。」

    「苦し紛れだったよな~、
     あれは。
     若君から、馬番に
     取り立てたって聞いて
     思い付いたんだけど。
     でも、唯の将来とコーチと、
     何の関係が有るんだい?」

     「実はね。
      まだ、具体化はしていない
      らしいけど、尾関君、今、
      あるプロジェクトに
      携わっているんですって。
      箱根駅伝の100年記念の。」

    「箱根駅伝っていったら、
     大学生の大会だろ?
     しかも、男子の。
     何で高校の部活のコーチが、
     そんなビッグプロジェクトに?」

     「そう思うでしょ。
      でも、100年記念は
      2024年なのよ。
      つまりは、参加者は
      今の中・高校生が対象になるの。
      それに、彼、前は、
      スポーツ用品の営業マン
      だったから、その
      繋がりもあるらしくて。」

    「そうか。
     でも、2024年なら、
     順調に進学すれば、唯は、
     大学卒業してるはず。
     しかも、女だ。
     もともと出場資格がない。」

     「まあ、それは、
      そうなんだけど。
      今の成績では、一浪は覚悟
      しといた方が。留年もね。
      それにね、尾関君の狙いは、
      99回大会の方らしいの。
      100回大会をアピールする為の
      企画を練っているらしくて。」

    「もしかして、
     女子を走らせるとか?」

     「ビンゴ!その、まさか。」

    「それで、唯にどうしろって?」

     「兎に角、高校中退だけは、
      避けてくれないかって。
      できれば、大学進学は
      させて欲しいって。
      もちろん、本人の気持ち次第
      って答えておいたけど。」

    「企画が通った時の為に、
     出場資格獲得の可能性だけは、
     残しておくって事か?」

    「そうなるわね。」

    覚は、サーバーのコーヒーを
    クラッシュアイスが詰まった
    グラスに注ぐと、美香子に渡す。

    実は、その時、早めに帰宅した
    尊と若君が、リビングで
    二人の話を聞いていたのだが、
    覚も、美香子も全く
    気付かなかった。

    尊が二人に声を掛けようと
    したのだが、若君が止めたのだ。
    二人だけの寛いだ時間を
    邪魔したくなかった。

    午後の風が吹き込み、
    吊るしたばかりの風鈴が、
    風にゆれて、チリンと鳴った。

    ・・・・・・・・・・

    それから数日が過ぎた。

    戦国時代に戻るはずの前夜、
    感染症で倒れた忠清は、
    病室の窓ガラス越しに見える
    入道雲を眺めていた。

    警備は万全だったはずの吉田城。
    しかも、本城の黒羽に
    もっとも近い出城で、
    忠清は命を狙われた。
    それは、まぎれもなく
    城内に裏切者がいる事を
    白日の元にさらす事でも
    あったのだ。

    小平太は兄上を疑ごうておろう。
    早まった事をせねば良いが。
    源三郎は、寝食も忘れて、
    わしを探しておるはず。
    爺が騒いでおろうな。
    父上のご心労は、
    いかばかりであろうか。
    高山が、しらを切るのは、
    目に見えている。
    黒羽の内紛だと、
    言い逃れる腹であろう。
    いずれにせよ、和議は白紙。
    この機に乗じて、
    一気に攻め込むつもりか。
    わしの不在が長引けば、
    兄上擁立の話も出るであろう。
    しかし、天野は拒むはず。
    爺が、聞き入れるはずもない。
    動くとすれば、千原か。
    兄上が黒幕で、
    わしの座が狙いであれば、
    今は只、千原から
    近づいて来るのを、
    待てば良いのだ。
    しかし、それでは、
    家臣たちは分裂するであろう。
    もう少し先と思うていたが、
    その時が、来たのやもしれぬ。

    それは、兄、成之を
    城に招き入れると決めた時から、
    いずれはと考えていた事だった。

    兄に家督を譲る。
    それは、如何にしたら、
    成せようか?

    永禄に思いを巡らせていると、
    不意に病室の扉があいた。

    「あらあら、どうしたの?
     そんな難しい顔をして。」

    入ってきたのは、美香子だった。
    白衣を着た美香子は
    別人に見える。
    背筋がピンと伸びて、
    実に頼もしい。

    「眉間にシワを寄せていると、
     幸運の神様が逃げるわよ。」

    美香子はそう言って、笑った。
    忠清もつられて頬笑む。

    「そうそう。その調子。」

     「母上、わしは、次の満月には、
      永禄に戻れるであろうか?」

    「その前に、まずは唯の部屋に
     戻りましょうか。
     焦らずゆっくり
     体を慣らす事が肝心。
     永禄と平成では、
     環境が違うから。」

    美香子の言葉に、
    忠清は素直に頷いた。

    そして、早速、
    尊が貸してくれた、
    “肉食系のふて猫“が
    プリントされたTシャツに
    着替えると、若君は
    唯の部屋に向かった。

    中に入ると、
    すぐに写真を手に取る。
    そう。
    あの“金メダルをかじっている“
    写真を。

    唯、無事でおるか?
    今暫くの辛抱じゃ。

    そこへ、尊が入ってきた。

     「病室から戻ったって聞いて。
      少し、外に出てみます?」

    「そうじゃな。
     そう言えば、尊は、
     学問所には行かんのか?」

     「色々あって、
      今は家で勉強してますから。
      それに、もう夏休みだし。
      でも、もし、若君が
      行ってみたいなら、
      お連れしますけど。学校へ。
      気になってるんでしょ?
      この前の、陸上部のコーチの話。
      今なら、指導してるかも。
      僕なら、大丈夫。
      たぶん。。。」

    そして、二人は学校に向かった。
    忠清の自転車の練習もかねて。

    「のう、尊。
     箱根の駅伝とやらは、
     どの様なものなのじゃ?」

     「僕は、詳しくないのですが、
      二日に分けて、東京から、箱根の
      芦ノ湖まで往復するんです。
      距離は往復で220㎞。
      5区間づつ、合わせて10区間を
      10人で走ります。
      タスキを渡しながら。」

    「一人、五里程か。」

     「そうなりますね。
      開催が正月なので、
      凄く人気がありますよ。」

    「つまり、それを走るのは、
     栄誉な事なのじゃな。」

     「そうです。」

    学校の駐輪場に自転車を
    止めると、グラウンドに向かう。

    トラックを10人ほどが
    塊になって走っている。
    その手前のストレートコースでは、
    数人がスタート練習を
    繰り返していた。

     「やってますね。やっぱり。」

    「うむ。」

    二人は、隣接している体育館の
    外階段に腰を下ろした。

    グラウンドの脇の芝生で、
    一人の生徒に姿勢の指導を
    していたコーチが、二人に気づき、
    走って来た。

    「君達、見学者?
     入部希望かな?」

     「あ、いや、
      そう言う訳では。。。」

    尊が慌てて答える。
    尾関が、忠清のTシャツの
    ”猫”に目を留めた。

     “唯が弟にプレゼントした、
     Tシャツのイラストにそっくり“

    美香子の言葉が、
    尾関の頭をよぎる。

    「君、もしかして、速川の弟?」

      「あ、いや。
       弟は僕です。」

    忠清の代わりに、尊が答えた。

    忠清は、真っ直ぐに
    尾関を見つめる。

     「実は、ちと、お尋ねしたき
      儀が御座る。」

    それから、小一時間、忠清と尊は、
    尾関が語る“箱根愛“を
    聞く事になった。
    尾関はタブレットを持って来て、
    グーグルマップやストリートビュー
    を駆使し、駅伝の名勝負を
    解説してくれた。
    部員の一人が呼びに来なければ、
    尾関は陽が落ちても
    語り続けたに違いない。

    駆け競べを、あの様に
    熱く語る者があるとは。
    唯は、良い師を持って
    いるのじゃな。

    喜ばしい事のはずだった。
    なのに、心の隅に
    淋しさが忍びよる。

    今まで感じた事の無い、
    己の心の揺れに気付いて、
    忠清は、戸惑った。

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    投稿される方がいらっしゃいましたら、ご遠慮なく。

    では、後ほどm(__)m

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    楽しそうなパーティ

    夕月かかりて様
    楽しそうなパーティ、始まりましたね。
    若君も唯も、平成ライフを満喫している様子。
    暖かな速川家の団欒、目に浮かんできそうです。

    では、私もまた、投稿させて頂きますね~。

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    二人の平成Days66~23日18時、パーティー始めます

    刻一刻と迫るその時間。あ、クラッカーね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    男性陣、お風呂出ました。

    尊「あはははー」

    覚「あー、楽しかった。若君、ありがとう」

    若君「ハハハ、いえ」

    美香子「大騒ぎね」

    覚「いやー、いい時間だった。風呂はスーパー銭湯でもホテルでも一緒だったけど、家の風呂はまた一味違ってさ」

    美「どう違った?」

    覚「より親密になれる」

    美「あら~良かったわね。じゃあ私達も続いて入りましょ」

    唯「はーい」

    覚「ちょっと休憩したら、そろそろ揚げ物始めるよ」

    若「はい父上。手伝います、尊と」

    尊「あっ、はい若君」

    お風呂。

    唯「お母さん、私気になる事があって」

    美「どうしたの?」

    唯「たーくん、もうすぐ永禄に帰れるから、もっと嬉しい顔してもいいと思うんだけど」

    美「んー、そんなに気持ちが前面に出る子ではないけど、確かにそれは思うわね」

    唯「帰るまでに何か起きるかも」

    美「一応、気にしておくわね。逆に唯は、朝より心なしか顔がスッキリしてるわ」

    唯「えっ?そっかー。たーくんが、色々気にしてくれて、話もいっぱいしたからかな」

    美「まあ、そうなの。若君はホントに心配りが素晴らしいわね」

    唯「その分、自分の事は後回しにするから心配だよ」

    二人、出ました。

    美「ふぅ、いいお湯でした。あら大変、パーティーの支度が進んでる」

    覚「あと、はさみ揚げだけだ」

    若「他は、運びます」

    美「サラダ盛り付けるわね」

    唯「あー、一気にお腹空いてきたー。尊、何してるの?」

    尊「カーテン閉めたらそこが寂しいなと思って、飾り付けの続きを」

    唯「手伝うよ」

    いよいよ、パーティー始まります。

    唯「ぐふふ。クラッカー登場」

    尊「悪い女だよ。そうやって戦国でも、若君をいたぶるんだな」

    唯「ちょっと反応見たいだけ~」

    尊「それを悪女と言う」

    覚「はい、お待たせ~。じゃあクラッカー持って、若君」

    若「これは?」

    美「パーティーの景気づけというか。せーの、メリークリスマス!でこの紐引いてね。あっ、人には向けちゃダメだから」

    若「景気づけに、やや危ない物を?」

    唯「あっ少し勘づいた」

    尊「だーかーらー」

    覚「はい、では始めるぞ」

    美「せーの!メリークリスマス!」

    パパパ、パンパン!

    若「…」

    若君は、しばらく、手元と天井を交互に見ていた。

    尊「若君、大丈夫ですか?お姉ちゃんがどんな物が説明しないもんだから」

    若「いや、構わぬ。これは戦に使えそうじゃなと思うた」

    美「どうせ余るから、持っていって。早速リュックに入れとくわね」

    若「忝のう存じます」

    尊「お姉ちゃん、若君に言う事ないの?」

    唯「ん?かわいかった」

    尊「やっぱり悪い女だ」

    蓮根のはさみ揚げをくわえて、パチリと撮影。

    若「唯、そのなりは…」

    唯「赤鼻のトナカイ。あ、もう説明はしません。こういう物と理解せよ」

    若「あいわかった」

    尊「言いくるめられてる」

    唯「しっかし、カロリー全部足すとすごいよねぇ。はさみ揚げ、唐揚げ、フライドポテト、ピザ、ケーキ」

    尊「ザ・背徳のメニュー」

    美「サラダも食べなさいよ~」

    唯「少しはね。平成の野菜、味薄いんだよね」

    覚「若君、そうなのか?」

    若「それは、思うておりました」

    覚「そうか。今度来る時は、野菜頼むわ」

    若「ハハハ、承知つかまつりました」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    野菜持ち出す余裕あるかな?

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    二人の平成Days65~23日15時、バリアフリーです

    月もケーキも、今日はまんまる。
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    まだまだ飾り付け中。ツリーにオーナメントを下げ、サンタグッズをキッチンの作業台に並べる。

    唯「あぁぁぁ~、はぁ」

    尊「うるさいな。なんだよその、口から魂が出そうな溜息は」

    唯「もうすぐ、たーくんって呼べなくなる~」

    尊「なんだ、そんな事」

    若君「名など何でも良い」

    唯「つい、たーくんって呼んじゃったら、たわけたおなごって言われる~」

    若「唯なら有り得るであろうな」

    美香子「さすが、わかってる」

    唯「うっかり呼んでさあ、それを聞かれて」

    尊「お咎めを受ける?」

    唯「真似されたら嫌だし」

    尊「そっち?」

    美「そんな恐れ多い事、周りはしないでしょう?」

    唯「陰でならわかんないよー」

    若「陰ならこちらにわからぬままであるから、放っておけば良いだけの事」

    美「大人ね~」

    若「どう呼ばれても返事はする」

    唯「はぁい」

    美「あい変わらず、優しいわね~」

    若「母上、実の所、唯の声は何故か、どこに居ても耳に入るのです」

    美「あら、そうなの~。若君だけに聞こえるのかしらね」

    尊「愛だな、愛」

    若「いつもどこからか、呼ばれておるような気がしておりました」

    唯「だいたいは、ホントに叫んでたけど」

    若「夜の森とかであるぞ?」

    唯「居た居た」

    若「一人でか?」

    唯「うん、そんな時もあった」

    若「それは物騒じゃ。金輪際、してはならぬ」

    唯「わかったー」

    若「夜、出るならわしと、お洒落してデートじゃ」

    唯「うん!」

    美「いーなー」

    尊「お父さんと行って」

    美「そうするわ」

    覚「仕方なく、みたいに聞こえるぞ」

    美「気のせいよ~。さて、そろそろケーキ受け取りに行かなくちゃね」

    尊「わかった。じゃあお姉ちゃん達、続きよろしく」

    唯「行ってらっしゃーい」

    若「行ってらっしゃい、母上、尊」

    飾り付け、完成。

    唯「いい感じ~」

    若「煌びやかじゃな」

    覚「こっちも、あとは焼いたり揚げてくだけだ」

    唯「お疲れ様~」

    覚「そう言えば、風呂はいつ入る?これだけ腹に詰め込んだら、そうすぐには入れないから、晩飯前がいいんじゃないか?」

    唯「そうだよねぇ」

    若「いくら大飯食らいの唯でものう」

    唯「ちょっとぉ」

    若「ハハハ」

    お風呂、準備中。

    覚「今日も二人で入るか?」

    唯「え」

    若「いえ、昨日、父上母上のお気遣いで、充分堪能しましたゆえ」

    唯「堪能とか言ってる!」

    若「唯は、違うと申すか?」

    唯「うっ。違うと言いたいけど、はい、堪能しましたっ」

    覚「素直じゃないな」

    若「で、父上。もし良ければ父上と尊と、入りとう存じます」

    覚「えっ、いいの?」

    尊「ただいまー」

    唯「あっ、ケーキが帰ってきた!」

    若「それは違う」

    唯「えへ。とうとう、たーくんのツッコミが入るまでに成長」

    若「成長か?」

    尊「飾り付けだいたい完成したね、お疲れ様」

    若君が、箱の中を不思議そうに覗いている。

    若「尊、以前食したケーキと形が違うのう」

    尊「ホールケーキだから。あっ、切り分けずに大きいままだからです」

    若「そうか。餞に相応しい、立派な品なのじゃな」

    美「ただいま。あら、もうお風呂用意してる?」

    覚「あ、そうそう。若君が僕と尊と三人一緒に入りたいって、嬉しい事を言ってくれるんだ」

    美「あら~、じゃあ唯は、私と入る?」

    唯「あ、うん!」

    尊「若君、ありがとう。最…やめとこ」

    唯「たーくん、実はウチのお風呂、普通よりちょっと広めなの」

    若「そうなのか?普通、がわからぬゆえ」

    覚「介護しやすくなってるんだよ」

    美「歳をとっても入りやすい、入れてあげやすい仕様で作ってあるの」

    若「将来を見据えたと」

    美「さっすがウチの息子ね~。だから男性三人でも狭過ぎないのよ。で、唯、それがどうしたの?」

    唯「湯船が大きいから、一緒に入っても色々見えて困るー」

    美「まだ言ってる」

    唯「もっと狭かったら、たーくんとくっついて入れたのに」

    美「広くてもくっつくでしょ?贅沢ね。二人でアパートにでも引っ越しなさい!」

    お風呂、沸きましたよ。

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    お風呂の話題が多いのは、それも日常だからです。

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    最終話番号

    二人の平成Days、この後の投稿は、65話です。

    最終話は、69話です。今日入れて、あと5回となりました。

    5話が2つあるので、全70話となります。あと少し、お付き合いください。

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    二人の平成Days64~23日14時、蜜月

    指差し確認は必須。すぐには戻れないから。
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    唯「では、持ち物確認しまーす」

    若君「ジェンガはここに」

    尊「おもナビくんイヤホン付、太陽電池、写真集」

    美香子「それ、機械と付属品、何か袋に入れた方が良くない?ちょうど唯が部活の着替え入れてた巾着、洗ってここにあるし。入れちゃうわよ」

    唯「ありがとお母さん。で、前ポケットに、ICカード二人分、写真館からの葉書」

    若「…そうじゃ、唯、もう一つ良いか?」

    唯「ん?いいよ、何?」

    若「持って参る」

    二階へ上がって行く若君。

    覚「唯、若君が何を取って来るかわからないが、後で蓮根のはさみ揚げ持たせてやるから」

    唯「あー、ありがとー」

    本を手に戻った。

    唯「あ、私の日本史の教科書。うん、こちらではお役御免だし」

    若「何か役に立つやも知れぬ」

    唯「じゃ、後で参考書も入れとこかな」

    尊「重そう~」

    唯「大丈夫、米よりは軽い。リュックはひとまず置いといてと」

    飾り付けの材料、各種。

    尊「折り紙切って、輪っか繋げようか」

    唯「どうやって分担する?」

    尊「若君は、ハサミやカッター使った事ないよね」

    若「初めて見るのう」

    唯「今、切り傷なんか作ったら大変だから、私とたーくんは、糊づけ班にして」

    尊「わかった。じゃあ僕は、切ってく班で」

    唯「たーくんまずはお手本ね。この細長い紙の端に、これ、糊って言うんだけど、このベタベタしてる部分をこすりつけて」

    若「ほぅ」

    尊「スティック糊だから塗りやすいはず」

    唯「端と端を貼りつける。二個目からは、輪っかに紙を通して貼る。ね、これで輪を繋げてくの」

    若「鎖のようじゃ」

    唯「あー、そうそれ。いろんな色あるから、隣同士が違う色になるようにしてね」

    若「センスが問われるのじゃな」

    唯「そう、センスセンス」

    尊「学習してる」

    美「じゃあ、私は同じやり方でレイを作るわ」

    唯「よろしく。名前のシール貼ってね」

    尊「名前?って何」

    唯「アルファベットのシール売ってたから、それで名前作って、私の、尊のって作る」

    尊「ふーん。それ若君に説明してあげないと」

    美「そうよね。じゃあ書きましょ。この文字を並べて、若君の名前ならこうなるのよ。TADAKIYO。唯はYUI」

    若「この文字はよう見かけるが…これも、名前なのですか?」

    美「そうよ」

    若「カードは…」

    美「あれは、カタカナよね。これはアルファベット」

    若「うむ…」

    尊「難しいよね」

    若「母上。その名前の入るレイ、も頂戴して良いですか?」

    美「どうぞ~。まだ出来てないけど」

    唯「私も首にかけてこーっと」

    美「ハワイでハネムーン、みたいに?」

    唯「お母さん…いい、それいい~!もぉ絶対二人して首にかけてく!」

    尊「また説明がいる事しゃべるんだから。若君、ハワイは海の向こうにある異国の島々です。ハネムーンは新婚旅行」

    唯「新婚って私達の事だよぉ。ホヤホヤ、ラブラブな~」

    尊「だーかーら。結婚したばかりでまだアツアツな、って、あー同じような言葉だった、説明がこんがらがる!」

    若「尊、何とかわかる。では、父上母上も新婚か?」

    美「あら残念、私達は違うのよ」

    若「大変仲睦まじいので、そうかと」

    美「いや~ん、若君ったら嬉しい事言うんだから!」

    覚「何?僕らが新婚?そりゃーずっと新婚気分だぞ」

    尊「それは誰が見てもその通り」

    若「父上母上を、見習いとう存じます」

    唯「ずっと新婚みたいにラブラブ?きゃ~!嬉し過ぎるぅ」

    尊「飽きられないように」

    唯「うわっ、励みます」

    若「わしも、励まねばの」

    唯「はいはい、励め」

    尊「おいおい!」

    唯「ついつい~」

    若「良い良い 」

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    リュックは相当重い。

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    二人の平成Days63~23日12時、似て非なるもの

    重要な品なのに、しばらく隠れてました。
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    唯「ただいまー、あ~あったかーい」

    若君「ただいま帰りました」

    尊「おかえり、若君、お姉ちゃん」

    美香子「寒かったでしょう」

    唯「ううんそんなには。ご飯なに?」

    覚「こらこら、まずは帰ったら手洗いうがい!」

    お昼ごはんスタート。

    覚「はいお待たせ~、今日の晩ごはんは油分たっぷりだから、昼はさっぱりとな。でも魚介類総動員だぞ」

    唯「わあ、豪華海鮮鍋!」

    全員「いただきまーす!」

    覚「唯のリクエストも入ってるぞ」

    唯「え?私、何言った?」

    覚「つみれ、って」

    唯「そうだったっけ」

    覚「違ったか?元々入れる予定で、冷凍しといたんだけどな」

    唯「なあんだ」

    美「日本酒ひっかけたくなるわね」

    覚「ま、今日はやめとくけどな。いつか、若君と酒を酌み交わしたいなあ。あと一年?二年?」

    若「酒は…永禄では飲んでおりましたが」

    覚「聞かなかった事にする」

    尊「別にその時代は、法律違反じゃないから」

    覚「そうだな。こちらで飲んでいい年齢になったら。楽しみにしてる、と言っておくよ」

    若「父上、ありがとうございます。そんな日が参りましたら、是非、盃を交わしたいです」

    美「唯、何やってるの」

    唯「蟹の身が取れないー、あっ!」

    尊「わっ!飛ばすなよー!」

    美「もっと丁寧に、キレイに食べて~」

    若「ハハハ」

    ごちそうさまでした。お茶タイム。

    美「唯、持って行く荷物、忘れ物がないように確認しときなさいよ」

    唯「はーい」

    若「あっ、父上。以前の話で恐れ多いのですが」

    覚「何だい?」

    若「ジェンガを、結局片付けさせてしまい、すみませんでした」

    覚「あー、いいよいいよ。入れ物見繕っておくよって言ったのは僕の方だからね。で、ぴったりなのがあったんだよ」

    覚が席を立つ。若君もついていく。キッチン作業台の下をゴソゴソ。

    覚「これ、ちょうど良くってさ。入れといた」

    半透明の大きめタッパー。中身が少し透けて見える。

    若「父上、ありがとうございます」

    尊「へー、袋とかよりは個数も分かりやすくていいね」

    若「では、頂戴します。あ?」

    覚「何?」

    若「あの…もう少し重さがあったように思うのですが」

    覚「え?そう?あっ!間違えた、こっちだ!」

    唯「間違えた?」

    同じタッパーがもう一つ出てきた。見た目があまり変わらない。

    覚「ごめんごめん、若君開けて確かめて」

    若「わかりました。…はい、確かに作ったジェンガで、名も入っております」

    美「え?何と間違えたの?」

    全員ぞろぞろやってきた。

    覚「別にしとけば良かったなー。すまんすまん。こっちの中身はこれだ」

    開けると、薄茶色の四角い物体がきちんと収まっている。

    唯「え?なに?巨大ジェンガ?」

    美「あー。もうやだお父さん、これ高野豆腐じゃない」

    尊「高野豆腐!」

    唯「高野豆腐?え、最初はこんな、木みたいなんだー」

    覚「使う時に水で戻すからな」

    若「あの、宿の晩に出た物ですか?」

    美「そうそう。若君は勉強熱心よねー。ちゃんとこれは何か聞いてから食べてたもんね」

    唯「でも危なかった~。もう少しで違う物持ってくトコだった」

    尊「高野豆腐は、それなりに喜ばれるとは思うけど」

    唯「ダメだよ、名前書く計画なんだから」

    美「書く?」

    唯「子供や孫ができたら、まっさらなジェンガに名前書くんだよ。たーくんがそうしたいって。え?言ってなかったっけ?」

    覚「そんな壮大な計画だったとは」

    美「若君…凄いわ。唯、頑張ってね」

    唯「うん、ばんばん産む」

    若「励みます」

    尊「サラっとすごい事言ってるよ。慣れたけど」

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    二つ三つ、隙間に高野豆腐入れといたら。

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    二人の平成Days62~23日9時、心も支度します

    城跡だから、広い公園。
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    唯「まだお昼まで全然時間あるから、公園プラプラする?」

    若君「ゆるりと歩くのじゃな」

    一周、ぐるっと巡っている。

    唯「ここで壁ドン、あっちの池でスワンボート。あ~、思い出がいっぱい。この公園には」

    若「よく参った。朝日も眩しかった。おぉ、自転車もここで乗れるようになった」

    唯「あはは、子供みたーい。そうだね、ここは、二人の定番のデートスポット」

    若「と、申すのじゃな」

    若君が、唯の顔を見ていて、何かに気づいた。

    若君 心の声(これは…このまま帰す訳にはゆかぬ!)

    若「唯、こちらへ」

    唯「えっ?」

    腕を掴み、ぐいぐい引っ張っていく。

    唯「えっ、なに」

    人目に付きにくい、公園の隅にやってきた。手を離し、唯の正面に立つ若君。

    若「唯」

    唯「はい…」

    若「ここで、泣いておけ」

    唯「えっ」

    若「先程から、顔つきがうつろじゃ。やはり家族との別れが辛いのであろう?」

    唯「まさか、気のせいだよ。私全然、平気だよ」

    若「まだ昼まで時間はある。今、思いの丈に泣いておけ。我慢をするな」

    唯「なんで?そんな、永禄に戻るの、すっごく楽しみなだけ、だよ」

    若君の視線が鋭く変わった。

    若「なぜ聞かぬ!泣けと申すに!!」

    唯「キャー!」

    その剣幕に、唯は涙目になり震えている。

    唯「ひどい…そんなに怒鳴られたら、泣きたくなくても泣いちゃう」

    若「ここで思い切り泣き、家ではずっと笑うて居て欲しいのじゃ」

    口調はいつもの若君に戻っていた。頭を撫でる。

    若「済まぬ。怖がらせたの」

    唯「ううん、いい。言われた通りだし、私と家族を思って言ってくれてるのはわかるから」

    唯が大きく息を吸った。

    唯「ふぅ。じゃあ、たーくん」

    若「なんじゃ?」

    唯「背中、貸して」

    若「背中?」

    唯「泣くのは我慢するつもりだった。だから見られたくないの」

    若「幾度も、唯の泣く姿は見ておるのに?」

    唯「…決意の涙だから、見ないで欲しい」

    若「…そうか」

    背中を向ける若君。後ろから、抱きついた唯のすすり泣きが聞こえてきた。

    若 心(空は…今日も澄んでおる…)

    しばらくして、背中が静かになった。

    唯「たーくん、ありがとう」

    前に回り、すっきりとした笑顔を見せた。

    若「憑き物が取れたようじゃ。良かった」

    唯「たーくんはなんでもお見通しだね。心配させてごめんなさい」

    若君が唯を抱き締める。

    若「怖かったのは、わしの方じゃ」

    唯「そう…なの?」

    若「唯に背中を向けると、消え去ってしまうのではないかと不安になる」

    唯「あ…」

    若「辛さが甦る」

    唯「私、どこにも行かない、ちゃんとここに居るから」

    お互いの存在を確かめあうように、固く抱き合う二人。

    若「わしと唯が生を受け、今日まで」

    唯「はい」

    若「共に居ない時間の方が長かったのに、とは思う」

    唯「うん。私もそう思う。でもそれって、好きだから、でいいんじゃない?」

    若「超好き、じゃな」

    唯「ふふっ、そうそう。これからは、一緒の時間は長くなってくばっかだよね?」

    若「そうじゃ。嬉しい限りじゃ。ずっとこうしていたいが」

    唯「ん、そろそろ帰らないと、ね」

    公園の出口。さっきの立看板。

    唯「いつか、もっと未来に、またいい方向に書き換わってるといいね」

    若「そうじゃな、切に願う。そういえば」

    唯「なぁに?」

    若「今日のこれは、クリスマスイブイブデートと申すのではないか?」

    唯「あっ!そう、そうですぅ~」

    若「その顔を、三人に見せてやってくれ」

    手をつないで、帰ります。

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    城があった時も、ない今も、残るのは素敵な思い出。

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    二人の平成Days61~23日日曜7時、塗り替えました

    最後の朝です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君、朝稽古中。

    若君「いつもより身を入れて動いたら、冬とはいえど随分と温まるのう」

    唯「たーくんカッコいいっ」

    尊「ふぁ~、ん?あれっ、寝坊のプロがもう起きてる!」

    唯「なによそれ。戦国の朝は早いのじゃ」

    尊「慣らし運転?だったらもっと早い日から始めない?今日だけじゃん」

    唯「昨日も早かった」

    尊「二日だけじゃん」

    唯「最後まで寝坊よりはいいでしょ」

    尊「まあね。若君、おはようございます」

    若「おはよう、尊」

    覚「若君、冷たいお茶にしたよ。どうぞ」

    若「あっ、父上、忝ない」

    二階から母が下りてきた。

    美香子「あ、尊起きたわね。起きた早々で悪いけど、使った布団一式、二階へ持ってって」

    尊「はーい」

    美「じゃ、テーブル戻すわよ」

    若「母上、わしが持ちます」

    元通りにセッティング完了。

    覚「じゃあ、運んでー」

    朝ごはん。

    美「今日の予定は?」

    唯「えっと。たーくん、多分…行きたいよね」

    若「あぁ、墓と城跡には参りたい」

    唯「それ、午前中に行かない?で、昼ごはんからはずっと家に居ようよ」

    若「あいわかった。昼からは?」

    唯「工作する。パーティーの飾り付けとか」

    若「心得た」

    美「ケーキ注文してあるから、夕方に受け取りに行くわ。尊と」

    尊「崩さないよう、抱えて持ち帰るよ」

    覚「僕は、張り切ってごちそうづくり」

    美「お願いします」

    唯「じゃあたーくん、ちょっと休憩したら早速出かけよっか」

    若「そうじゃな」

    二人、着替えました。

    美「え?今日もそれ着てくの?」

    二人とも真っ赤。

    唯「せっかく買ってくれたしー、やっぱお揃いは着たいし。あっ、ゆうべちゃんとファブっといたから」

    美「そう?よっぽど臭わないとは思うけど」

    唯「内緒だけどぉ、たーくんのは、ファブる前に、クンクンしちゃったぁ」

    尊「聞こえてるよ」

    美「あら、呼んで欲しかったわ~」

    尊「おいおい!」

    覚「お前ら、自由過ぎるぞ」

    若「?」

    美「唯」

    唯「なに?」

    美「ありがとう、二回目があって嬉しいわ」

    唯「ううん、えへへ。じゃ、行ってきまーす」

    若「行って参ります」

    お墓に到着。

    唯「これって、私達が永禄に戻ったらどうなるのかな。ずっとあるのかなあ」

    若「生害と伝えられたままであれば」

    唯「その方が安全だよね?」

    若「然り」

    唯「えっ、現れない方がいいとか…」

    若「どう転ぶかはわからぬ」

    城跡。

    若「今宵戻れば、元の姿の筈ではあるが」

    唯「複雑?」

    若「いや、この姿も良い。なにより、この先の世に馴染んでおる」

    唯「そっか。きっとね、石垣も、この時代にまで会いに来てくれてありがとう、って思ってるよ」

    城跡を離れ、歩き出す。

    唯「たーくん、私見せたい物がある。こっち来て」

    若「見せたい物?」

    黒羽城公園の立看板前。

    唯「これなんだけどね。読んでみてくれる?特に最後の方」

    若「羽木家は滅亡したと考えられていたが、近年の発掘調査により、通説が覆りつつあり、現在も調査は続いている」

    唯「これね、私も最近気づいたんだけど、書き換わってるの」

    若「換わっておる?」

    唯「最初見た時は、羽木家は滅亡した、で終わってた」

    若「そうであったか…それは、一重に唯のお陰じゃな」

    唯「私、歴史を変えようなんて全く考えずに行動してたけど、あっ変えたのかもって。あとね」

    若君の正面に立つ。

    唯「実はこの、滅亡した、ってのを見て、たーくんを守らなきゃ!って決意したの」

    若「…」

    唯「その頃は、たーくん…死んじゃうって歴史になってて、絶対嫌、嫌だって」

    若「…わしや羽木の者達は全て、唯に出逢い命を長らえた。それだけではない。わしは、唯の傍で幸せを噛み締めておる」

    唯「私も幸せ。なにが幸せって、こーんなに好きになれるたーくんに出逢えたから!」

    ぴょん、と抱きついた。若君が、しっかりと抱き締め返す。

    若「唯。羽木家総領として、改めて礼を申す。速川忠清としては」

    唯「ん?」

    若「会いに来てくれて、心から、ありがとう」

    唯「えー、感動~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の平成Days60~16日日曜4時、ずっと熱いままです

    二人の平成Days24no.427温泉宿で結ばれた

    25no.437露天風呂で始まる朝

    この間、深夜から唯が起きてくるまでの、若君の様子をお送りします。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    宿の部屋。二人は布団の中、唯は若君の腕に抱かれている。さっきまで話をしていたが、

    唯「もうダメ、眠い、ごめんたーくん」

    と、すとんと眠りに落ちてしまっていた。

    若君 心の声(口が開いたままじゃの。幼子のようじゃ)

    微笑みながら寝顔を眺め、感慨にふける。

    若 心(長かった)

    唯と出逢ってからの様々な出来事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

    若 心(…漸く、此処まで)

    唯を抱き寄せ、目を閉じた。

    若 心(この静けさ、鼓動まで聞こえそうな)

    何時かはわからない。周りが静まり返る中、唯の寝息だけがかすかに聞こえる。

    若 心(そうじゃ)

    腕を緩め、唯の浴衣姿を確認し、そっと囁く。

    若君「唯、済まぬが、整えさせて貰う」

    布団をめくり、起こさないようにそっと、浴衣を裾まで真っ直ぐ伸ばし、脚をくるんで前の合わせを整えた。

    若 心(これで、片足だけ飛び出す事はない)

    ┅┅回想。3時、布団の中┅┅

    唯「やだ、なんで中にもぐってるの」

    若「んー?」

    唯「とぼけ方が怪しい。えっ、なに…キャー!」

    若「うっ!」

    唯「あわわ、うわぁっ、またやっちゃった…」

    唯の膝が、若君のみぞおちにクリーンヒット。

    唯「ご、ごめんたーくん」

    慌てて、蹴った所をさする唯。

    若「ゴホッ、あー、見事な膝蹴りじゃったの」

    唯「胡乱な動きなんかするからっ」

    若「胡乱とは、聞き捨てならぬ」

    唯「あっ開き直った!」

    若「近う寄りたいだけじゃ」

    唯「ホントにぃ?ごめんね、痛かったよね」

    若「もっと下を蹴られていたら、相当痛かったであろうが」

    唯「下?…あっ」

    若「まあ、蹴り上げてしまったならば、今と同じく、そっと優しくさすってくれれば良いだけの事」

    唯「…」

    若「何をじりじりと下がっておる?」

    唯「無理無理無理」

    若「申すのは一度で良い」

    唯「大事なコトは、三回言うのっ」

    若「まだ蹴られてはおらぬが」

    唯「いやぁ万が一ってあるしぃ、備えよ常にと申しましてぇ」

    若「今更何をうろたえておる」

    唯「い、いまさらとか言わないっ」

    若「布団から出てしまっておるではないか」

    唯「退陣で」

    若「敵となった覚えはない」

    唯「えー」

    若「近う参れ」

    唯「あー、その言葉は心が揺らぐー」

    若「たわけ。四の五の言わず、早う、此処へ」

    ┅┅回想終わり┅┅

    若 心(乱れを整えておけば、起きた時に慌てる事もなかろう)

    再び布団の中。肩に触れると、浴衣が少しひんやりしている。

    若 心(しまった、時間をかけ過ぎ、体を冷やしたか)

    温めようと、抱き寄せた。

    若 心(眠っておれば、逃げはせぬが)

    つい、腕に力が入り、きつく抱き締める。

    唯「ん…」

    唯がかすかに動いた。

    若「あぁ、痛かったか、済まぬ」

    腕を緩め、ふんわりと包みながら、目を閉じた。

    若 心(ん…雀、か)

    どれだけ経ったか、雀の鳴き声がし始めた。

    若 心(空が白んできたか)

    部屋の中も徐々に明るくなる。

    若 心(よう、眠れておるかの)

    唯の寝顔を覗く。

    若 心(消えてはおらぬ、此処に居る。共に朝を迎えられるのは、この上ない喜びじゃ)

    頬にかかる髪を、そっと払いのけた。

    若 心(そういえば)

    唯を仰向けに寝かせ直し、そっと布団から出た。

    若 心(海の様子は、如何ばかりか)

    外に出た。海を臨む位置に露天風呂がある。

    若 心(あれは、風呂か。そういえば隣にもあったのう)

    露天風呂に近づく。

    若「ん?…なんと!湯が沸いておるではないか」

    手を入れると、いい湯加減。

    若「ほぅ。まさしく、温かい泉じゃな。折角じゃ、入るとするか」

    早速、入浴する。湯船に体を沈めた。

    若「朝方の海もまた、格別じゃ」

    色を差し始めた海を眺め、時が経つのを忘れる。

    若「ふう」

    大分温まったので、湯船に腰掛けた。

    若「雀は、せわしく賑やかじゃの」

    あちらこちらで、チュンチュン、ちょこまかと跳ねる。眺めていると、背後で音がした。

    若「こちらの雀も、お目覚めか」

    振り向くと、ちょこまかと跳ね、表情をくるくると変えながら、唯が覗いていた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君の傍で跳ね回る姿が、愛らしい。

    いよいよ、次回から最終日のお話です。

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    二人の平成Days59~22日23時45分、川の字で

    夜が明けちゃうよ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美香子「ようやく勢揃いね」

    唯「お待たせしました」

    美「布団並べたけど、どこに誰が寝る?」

    唯「あぁ」

    若君「父上は、一番奥と決まっております」

    覚「え、そうなの?何で?」

    若「家長は上座にて」

    覚「えっ、そうなんだ」

    美「さすが若君ね~。ホント感心しちゃう」

    覚「ありがとう若君。この位置なら、朝ごはんの支度もしやすいし」

    唯「家長って…」

    尊「なにを言い出す?」

    唯「家事全般隊長?」

    尊「えー!また突拍子もない事言って」

    若「…ハッハッハッ!」

    唯「ひどーい、そんなに笑うなんて」

    若「いや、我が父忠高が、掃除機をかけておるのを思い描いての」

    唯「ぷっ。それは愉快じゃ。でもエプロン似合うよ、きっと」

    美「普通お殿様は掃除機かけないけど、ウチのスーパーお殿様は、なんでもこなすわよ」

    覚「戦に出ろ、と言われたら、逃げるけどな」

    尊「ははは、それは僕も。だから若君はすごいって思う」

    若「戦は無いのが一番じゃが」

    美「そうね…。で、残りはどうしよう?」

    尊「お父さんは決まったから、あと奥からお母さん、お姉ちゃん、若君、僕?」

    美「それが妥当かな」

    若「いや」

    尊「あ、若君に発言権を譲ります」

    若「本来は母上が次じゃが、奥から、唯、母上はいかがじゃ。わしと尊はどちらが端でも良いが」

    唯「え?たーくんと離ればなれ?」

    若「大袈裟じゃのう。今宵は、父上母上の傍らで休むが良い」

    美「若君…」

    若「最後、とは申しませぬが」

    覚「いやー、その心持ちに感動だよ」

    美「ありがとう、若君。もう一つお願い。私の隣の布団で寝てくれないかなー」

    尊「それがメインか?」

    美「違うわよ、多分」

    尊「いいよ。じゃあ、お父さん、お姉ちゃん、お母さん、若君、僕だね」

    若「両親と唯が仲良く休むゆえ、わしと尊は」

    尊「なに?」

    若「抱き合うて寝るか?」

    唯「キャー!やめてー!」

    尊「そ、それは勘弁してください、お姉ちゃんが恋のライバルとか、嫌です」

    唯「は?そっちかよ」

    若「ハハハ」

    美「若君に迫られたら、尊だってなびくわよねぇ」

    尊「うん」

    唯「おいおい!」

    覚「それだけ、若君が魅力的って事だ」

    美「ホントに。常識も礼儀もわきまえてて、しかも戦にも強い。安心して唯を託せます」

    若「それは…恐悦至極に存じます」

    唯「あ!私が殿の前でとっちらかったヤツ!」

    覚「そういう言葉が、サラっと言えるのも素晴らしいな」

    唯「思い出した、たーくん、殿の脇でなんとも言えない顔してた!」

    若「妙な事を思い出させてしもうたのう」

    唯「でも、その後助けに来てくれたから、許す」

    美「ふふふ、いい思い出なのね。場所も決まったし、布団入って。電気消すわよ」

    月明かりだけが灯る部屋になりました。

    唯「暗くなったら、あっという間に寝ちゃいそう」

    尊「一緒に寝る意味ないじゃん」

    唯「うっかり寝入っちゃうといけないから、」

    美「何?」

    唯「お父さん、お母さん、手、つないでいい?」

    覚「唯…」

    美「やだ、泣けちゃうわ」

    尊「もらい泣きしそう」

    若「そうじゃな…」

    三人、手つなぎ。

    覚「こんなの、小さい頃、動物園に行った時以来じゃないか?」

    美「そうね、こーんな小さい時。お父さんが尊を抱っこして、三人お手手つないで」

    唯「覚えてないよぅ」

    美「そうよね、でも親って、子供達との一日一日が、とっても大切なの」

    唯「そういえば、前にたーくんが毎日大切って言ってた」

    美「そうなの?」

    尊「誕生日は大切な日だ、って話したら」

    若「毎日誰かの誕生日ゆえ、毎日大切と申しました」

    美「まあ…」

    覚「若君は、どこまで僕らを感動させてくれるんだ?」

    若「そこまで喜ばれるとは」

    覚「また、サラっとカッコいい事言ってー。僕も抱き合って、唯と取り合いしようかな?」

    唯「やだっ、たーくんは誰にも渡さないっ!」

    若「わしも、唯以外は考えられぬ」

    覚&尊「あー、振られちゃったー」

    若「ハハハ」

    夜は、ゆっくり更けてゆきました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、最終日が目前ですが、一回日付が戻ります。

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    妖怪千年おばばさんへ

    どうぞお気遣いなく。私のお話のクライマックスは、もう少し先です。延びて延びて、4月入ってから、メリークリスマスって言ってる予定です。

    あれだけ名前を連呼するなら、役名知りたかったですよね。確かにコーチ、としか書いてありませんでした。
    ウェディングドレスでオペは、以前のお話と続いてたんですね。今回の美香子さんも、パワフルでした。

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    返信
    9月の蝉 前編

    はじめに。
    唯ママと陸上部コーチの意外な
    エピソードを書いてみました。
    設定は、若君が平成で療養中の間
    としました。
    お楽しみいただけましたら、
    嬉しいです。
    ~~~~~~~~~~~~~~~~
    蝉の声が聞こえる、ある日の午後。
    歴史資料室の扉が、突然、開いた。

    「木村先生。
      ちょっといいですか?」

    現れたのは、陸上部のコーチ。

    「おや、尾関君。何かね?」

     「二年の速川の事、
      何か、ご存知ですか。」

    「ああ、速川。
     今日、保護者の方が見えて、
     届を出されたそうですね。
     二学期まで、休むとか。

     「何故です?
      体調が悪そうには
      見えなかったんですが。
      むしろ、その逆。」

    「なんでも、馬の飼育の研修に
     行くとか。山村留学の様なもの
     でしょうかね。」

     「は?馬?
      速川は、今、一番
      大事な時なんですよ?
      で、校長は受理したんですか?」

    木村先生は、曖昧な表情で首肯く。

    「多様性の時代と言われて
     久しいですからな。
     生徒や保護者の価値観も様々です。
     我々も柔軟な対応が必要です。」

     「それにしても、
      何故この時期に。」

    「早目の夏休みって所でしょう。」

     「インターハイや、
      強化合宿もあるんですよ?」

    「インターハイ出場は、
     3年生が2名と聞いてます。
     速川は、出場しないのでは?」

     「確かに選手としては出ません。
      でも、サポートメンバーとして
      連れて行く予定だったんです。
      来年の為に。」

    「来年?」

     「そうです。大会の雰囲気を、
      経験させる為です。」

    「足だけは早いと、
     皆、認めてますが、
     そんなに有望なんですか?」

     「ええ。実は、私も入部当初は
      気づきませんでした。
      元気なヤツが来たなと
      思う程度で。
      ところが、去年の秋の新人戦で、
      度肝を抜かれました。」

    「ほう。」

     「あいつの本番の爆発力は、
       ハンパ無いです。」

    「では、何故、今年のインターハイ
     予選に出さなかったんです?」

     「出したかったですよ。
      でも、本人が、辞退したんです。
      三年生のラストチャンス
      だからって。
      そういうヤツなんです。」

    「そうでしたか。
     いや、実は私も残念なんです。
     速川は、少し前から、急に
     郷土史に興味を持ち始めましてね。
     夏休みには、黒羽城址の
     ボランティアガイドをすすめ様か
     と、思ってたんですよ。
     推薦で進学を考えるなら、
     郊外活動も、
     考慮されますからな。」

     ・・・・・・・・・・・

    尾関は自席に戻り、部員の
    写真ファイルの編集を始めた。
    コーチに就任してからというもの、
    三年生の送別会では、毎年、
    三年間の活動記録を
    スライドショーで披露している。
    パソコンのマウスを次々に
    クリックしていた尾関の手が、
    とあるファイルで止まった。
    それは、去年の新人戦のものだ。

    「コーチ!写真撮って~!」

    表彰式の後、
    そう言いながら駆け寄り、
    自分の目の前で
    金メダルを齧った唯の、
    満面の笑顔が蘇る。

    「いったい、
     どうしちまったんだ?
     速川。」

    尾関は、大きな溜め息をついた。
    木村先生の話では、唯はすでに
    自宅にはいないらしい。
    挨拶の一言位、有っても
    良さそうなものだが、担任すら、
    父親からの電話で初めて知った
    と言うから、何か、
    事情があるのだろう。
    納得できない自分を宥める様に、
    生ぬるいコーヒーを
    喉に流し込む。
    蝉の声が、ひときわ大きく
    なった様な気がした。

    そう言えば、あの日も、
    蝉が盛大に鳴いていた。
    夏合宿を終え、高2の尾関は
    一週間振りに、自宅に帰る
    途中だった。
    住宅街の、車の少ない抜け道を
    トレーニングと称し、
    チャリで爆走する。
    やがて、交差点の信号が
    見えてきた。
    緑の光が点滅し始める。

    “まだ、間に合う。“

    加速しようと、ペダルを強く
    踏み込んだ、その時、
    仔猫が並木の影から現れた。
    尾関は慌ててハンドルを切り、
    そのまま、道路に倒れこんだ。
    とっさに自転車からは
    飛び降りたが、
    足首を捻って転び、
    左側の骨盤を強打した。
    車が来なかったのは幸いだった。
    尾関は痛みに耐えながら、
    仔猫を探した。
    仔猫は、倒れた
    マウンテンバイクの
    後輪の脇で鳴いている。
    すぐ横の銀杏の木の根本に、
    底の広い紙袋が
    横倒しになっていた。
    辺りには、キャットフードが
    こぼれている。
    使い古したタオルも、
    紙袋の口から飛び出していた。

     「お前・・・
      捨てられたのか?」

    尾関は、猫に向かって言った。

    「どうしたの?大丈夫?」

    突然の声に、尾関の肩が
    ビクッと震えた。
    振り返ると、
    女の人が心配そうな顔で
    こちらを見ている。

     「いや、なんでもないっす。
      ちょっと、コケただけ。」

    その人は、自分のママチャリを
    歩道の脇に止めると、
    尾関の足首に触れた。

    「折れてはいないわね。
     念の為、レントゲン撮ろうか?
     私の勤め先、
     すぐそこだから。」

    美香子は、昼の休憩時間に
    コンビニで買い物をした
    帰りだった。
    通りの反対側に居たのだが、
    目の前で自転車ごと
    転んだ高校生を、
    放っては置けなかった。

     「え?
      もしかして、お医者さん?」

    「そう。
     らしくないでしょう?」

    美香子は笑いながらそう言うと、
    木の脇の紙袋を拾い上げた。
    中のタオルを取り出し、
    こぼれたキャットフードを包む。
    それを紙袋に戻し、鳴きながら
    震えている仔猫も袋に入れた。
    それをママチャリの籠の中に
    そっと置く。
    そして、倒れたマウンテンバイクを
    銀杏木に立て掛けると、
    尾関に言った。

    「これは、
     後から取りに来るとして、
     君はこっちに乗って。」

    美香子は自分の自転車の
    荷台を掌でたたいた。

     「あ、いや、全然、大丈夫。
      帰ります。家に。」

    立ち上がろうとして、尾関は何故か、
    尻餅をついてしまった。
    骨盤の左側に痛みが走る。
    足首に全く力が入らない。
    美香子は、尾関の腕をつかんで
    引き上げた。

    「全然、大丈夫じゃないでしょ。
     ほら、しっかりつかまって。」

    尾関はやっとの事で立ち上がると、
    仕方なく、ママチャリの荷台に
    跨がろうとする。
    すると、突然、
    目の前の自転車が
    グニャリとゆがみ、
    意識が飛んだ。

    気がつくと、そこは病院の
    ベッドの上だった。
    白いカーテンが開いて、
    名前を呼ばれた。
    看護婦に付き添われ、
    ドアを開けると
    白衣を来た女の人が振り向いた。

      「マジで、医者だったんだ。」

    「そうよ~。そこ、座って。」

    尾崎の顔色を確かめる様に
    見つめながら、美香子は尋ねた。

    「気分はどう?」

    女医とはいえ、大人の女性に
    まじまじと見つめられると、
    ドギマギする。
    尾関は、美香子の
    視線を外すように
    うつむくと、
    素っ気なく答えた。

      「ま、フツーかな。」

    「痛みは?」

      「有るけど、
       湿布して貰ったから
       大分、楽です。」

    「吐き気は、有る?」

      「いいえ。」

    「さっき転ぶ前に、
     目眩、しなかった?」

      「しなかったです。
       アイツが急に出てきて、
       ハンドル切って、それで。」

    「部活の帰り?」

      「合宿の帰りです。
       インターハイの強化合宿。」

    「種目は?」

       「3000メートル走。」

    美香子はうなずくと、
    小さなマイクに向かった。

    「尾関君のお母さんを
     呼んでください。」

    すぐに母親が不安げな顔で
    入って来た。

     「先生、お世話になりまして、
      ありがとうございます。
      こちらに連れてきて
      下さったのも、先生だとか。」

    「ちょうど、真向かいに
     いたものですから。」

    美香子はレントゲン写真を
    かざしながら言葉を続けた。

    「骨は、問題無さそうです。
     腰の内出血は、消えるまで
     暫くかかりますが、
     心配はありません。
     足首は軽い捻挫。
     腫れが退いて
     痛みが無くなるまで
     安静にして下さい。」

      「安静?
       これ位、何でもないっす。」

    「いいの?走れなくなっても。」

      「え?」

    美香子の言葉に、尾関が驚く。

    「お母さん、尾関君は、
     朝、顔色は良いですか?」

     「え?ええ。
      前より寝起きは
      悪くなりましたが、
      部活の練習で、
      疲れてるのかと。」

    「いつ頃からですか?」

     「高2になってから。
      春期大会の前位かしら。」

      「母ちゃん、余計な事、
       言うなよ。」

    尾関が、母の言葉を遮る。

    「分かりました。
     尾関君は、誰にも言わなかった
     かも知れませんが、
     時々、目眩があったはずです。
     スポーツ貧血ですね。」

      「え?」

    尾関が、息を飲む。
    母親は慌てて、美香子に聞く。

     「治りますか?」

    「ええ。今なら、
    食事療法で改善できます。」

      「食事?
       何食えばいいんですか?」

    「まずは、レバーね。
      ニラ炒めはどう?」

      「マジで?だっせえ。
       他に無いんすか?
       俺、苦手で。
       あの、ネチャッとした食感。」

    尾関は、今にも吐きそうな表情だ。

    「そうね。胡椒を効かせた
     レバカツなら、イケるんじゃない?
     良く焼いてタレにたっぷり浸した
     ヤキトリのレバーとか。
     レバーペーストのカナッペなら、
     お洒落よ。
     ワインに良く合う。
     って、まだ、飲めないか。」

      「おっさんメニューばっかり。」

    尾関が顔をしかめる。

    「そうね。でもフォアグラは、
     フランス料理の最高級食材
     なんだけど。」

    美香子は笑いながら、
    尾関の腕を軽く叩いた。

    「仔猫にお礼を言いなさい。
     早期発見は、あの子のお陰よ?」

      「そう言えば、アイツ、
       どこに?」

    「守衛室。」

    尾崎は、母親に言った。

      「飼ってもいいだろ?
       なんか、恩人みたいだからさ。
       俺の。」

      ・・・・・・・・・・・・

    結局、尾関のその年のインターハイの
    結果は散々だった。が、
    翌年は何とかメダルに手が届いた。
    尾関は、そのメダルを手に、
    あの病院に向かった。
    美香子に報告して、
    礼を言いたかった。

    受付の前に立つと、
    何故か自分の心臓が、
    バクバクし始めた。
    メダルを握りしめた手が
    汗ばんでいる。
    やっとの事で、声を絞り出す。

      「あのう。み、美香子先生に
       会いたいんですけど。」

     「美香子先生?」

      「そうです。
       去年、助けて貰って、
       そのお礼を言いに。」

     「あら、そうなの。
      でも残念ね。
      実は美香子先生、
      今日は御不在で。」

      「え?」

    その時だった。
    病院の入り口が開いて、
    誰かが飛び込んできた。
    白いレースをなびかせている。
    止める守衛の手を振り切り、
    ベールを脱ぎ捨て、
    その人が叫んだ。

    「これから、緊急オペ開始!」

       「美香子先生?!」

    受付の女性がつぶやく。

      「先生、今日、
       結婚式のはずなのに。」

       「けっ・・・こん。」

    尾関は、病院の外に出て、
    バス停のベンチに腰掛けた。
    淡い思いが、
    蝉の声に送られて、
    遅い夏の空に消えて行く。

       「それにしても、スゲー。
        結婚式放り出して、
        手術って、
        美香子先生、
        ぶっ飛んでる。」

    何故か、笑いがこみ上げて来た。

       「よっしゃー!
        俺も、頑張るぞ!」

      ・・・・・・・・・・・・

    「ああ、尾関君。
     ここにいたんですか?」

    体育教諭の声に、尾関は我に返った。

    「どうしたんです?
     ボンヤリして。」

     「あ、いや。
      陸上部の写真を整理していたら、
      色々思い出しまして。」

    「珍しいですね。
     らしくないなあ。
     それより、良い知らせです。」

     「え?」

    「今度、搬入されるはずの、
     トレーニング機器、
     陸上部に朝練時の使用許可が
     下りました。
     良かったですね。
     これまでの努力の賜物ですよ。
     インターハイの成果次第では、
     体育科の教師として正採用って
     事にもなるかもしれませんよ。
     君に教科を持って貰えるなら、
     私も嬉しい。」

     「あ、いや、まだそこまでは。」

    尾関は、大学卒業後、スポーツ用品の
    メーカーに就職したが、数年で退職。
    スポーツ生理学の分野では、
    よく知られた大学院を受験した。
    恋人もいたのだが、それを機に,
    彼女は次第に離れて行った。
    そのまま、会社に留まっていれば、
    結婚して、つつましいながらも幸せな
    家庭を築いていたかもしれない。
    でも、尾関には、学生時代に
    残した悔いが一つ、あった。

    尾関の出身大学は、
    箱根駅伝の常連校だ。
    入学すると、何の迷いもなく
    陸上部に入部し、起きて寝るまで
    すべて練習の寮生活を送った。
    一年生の頃は、その他大勢の部員の
    一人にすぎなかったが、
    二年の後半から、粘り強い勝負感が
    認められる様になり、
    控ではあるものの、
    選手の一人に名を連ねた。
    四年生でやっと、
    ビッグチャンスが訪れた。
    夢の箱根駅伝出場。
    しかも、走るのは花の2区。
    トップランナーが、
    ぶっちぎりのゴボウ抜きを
    披露する区間として
    知られている。
    地味な走りの自分が
    何故選ばれたのか、
    信じられなかった。
    監督はこう言った。

    派手なパフォーマーより、
    ここは、お前の様な、
    動じない勝負師に任せたい。

    監督の期待に答えようと、
    尾関は、いつも以上に練習を重ねた。
    ところが、それが裏目に出た。
    本番直前で、左足の中足骨の
    疲労骨折が判明したのだ。
    涙ながらに、監督に報告し、
    当日はサポートに回った。
    そして、卒業。

    就職して3年目の正月。
    箱根駅伝で、自分と同じように、
    疲労骨折で出場できなかった選手が
    いる事をニュースで知ったのだ。

    尾関は、常々思っていた。
    選手を育てるには、
    良いトレーナーが必要だと。
    ところが、今の状況は、
    選手育成の環境が整っていない。
    その思いが、押え込めない程、
    大きくなった。
    “誰かがやらなくちゃ。誰かが。
     でも誰かって、誰だ?“
    翌日、上司に相談した。
    そして、年度末の仕事を
    全てこなし、引き継ぐことで
    退職を了解して貰った。

    志高く、無事に大学院に入学、卒業
    したものの、その後、職を得るのは
    想像以上の厳しさだった。
    自分の研究成果を実践するには、
    できれば教育現場で働きたかったが、
    公立校の部活のコーチは、
    ほぼ、卒業生のボランティアだ。
    かろうじて、スポーツジムの
    トレーナーとして採用されたが、
    時給制で生活はカツカツ。
    大学院時代にしていた、
    予備校の講師の時給の方が、
    正直、高かった。
    そんな時、私立高の、スポーツ系
    部活のコーチ募集情報が入った。
    週3日の非常勤で、陸上以外の部活の
    基礎トレーニングも担当する。
    文武両道をモットーとする学園の
    周年事業の一環だった。
    尾関は、迷わず応募し、採用された。
    そして、出会ったのだ。
    速川唯に。

      ・・・・・・・・・・

    「そう言えば、速川ん家って、
     医者だったな。」

    尾関は、勢いよく立ち上がると、
    ロッカーに向かった。

    1時間後、尾関は速川医院の
    待合室にいた。

       「尾関さん、どうぞ~。」

    診察室に入ると、
    尾関は丸椅子に腰かけた。

    「今日は、どうされました?」

     「あ、古傷の状態を
      確かめておきたくて。」

    「古傷?どんな?」

     「中足骨の疲労骨折です。」

    答えながら、尾関は思った。

      “この声、どこかで
      聞いたような・・。”

    「何か、気になる症状が?」

     「いや。ただ、確認したくて。
      指導者が故障してtたら、
      仕事になりませんから。」

    「指導者?」

     「ええ、私、コーチなんです。
      この街の私立高校の陸上部の。」

    電子カルテに問診内容を
    打ち込んでいた手を止め、
    美香子が振り返った。

    「コーチ!
     これは、失礼しました。
     娘がお世話になりまして。」

     「あ、いや。
      突然、すみません。
      そのお嬢さんの事
      なんですが、日を改めて、
      お時間頂けません
      でしょうか?
      実は、ご相談したいことが
      有りまして。」

    「何でしょう?」

     「あ、今、
      ここではちょっと。」

    「そうですね。
     では、診察を。
     痛みはありますか?」

    答えながら、
    尾関は美香子から、
    目が離せない。
    蝉の声が、診察室にも
    響いていた。

    それから数日の後。
    隣町のレストランの
    窓際の席で、尾関は美香子と
    向き合っていた。

    「まさか、唯のコーチが
     尾関君だったなんてねえ。」

     「偶然というより、
      奇跡ですよね。
      僕は、いまでも、
      美香子先生は、
      あの病院にいると
      思ってましたから。」

    「そうね。
     まあ、色々とね。」

    そこへ、フォアグラのソテーが
    運ばれて来た。
    美香子が驚いて、目を丸くする。

    「大丈夫なの?
     こんな高級品!」

     「心配ないですよ。
      約束ですから。
      あのまま、会社に残ってたら、
      三ツ星のフレンチにご招待
      できたんですが。」

    「約束?」

     「したじゃないですか。
      僕が苦手なレバーを克服したら、
      二人でフォアグラ
      食べようねって。」

    「そうだったかなあ。
     そう言えば、あの猫、どうした?
     確か、尾関君が
     引き取ったのよね。」

    「母が飼ってくれました。
     僕が世話したかったんですけど、
     大学では寮だったので無理で。」

    「そうなんだ。」

     「母が甘やかして、
      こんなデブネコに
      なったんですよ。」

    尾関はスマホの写真を
    美香子に見せる。

    「あら。ホント。
     何だか、唯が弟にプレゼントした
     Tシャツのイラストにそっくり。
     で、相談て、何?」

     「実は・・・。」

    尾関の話を聞いて、
    美香子は、驚いた。
    自分の娘の才能を、
    見込んでくれる人が目の前にいる。
    その事自体が信じられなかった。

    「唯が、尾関君の期待に応えられるか
     どうかは分からないけれど、
     戻ってきたら、
     話してみるから。」

     「確かに、本人次第です。
      よろしくお願いします。」

    デザートの、ホイップした
    クリームチーズの最後の一匙を
    口に含むと、美香子は、
    優しく微笑みながら言った。

    尾関は、ホッとして微笑み返す。
    会計を済ませた所で、
    尾関に美香子が封筒を差し出す。

    「これ、私の分。」

     「え?いいですよ。
      ここは僕が。」

    「約束は、一緒に食べるって事
     だったんでしょう?
     フォアグラを。
     ご馳走になるとは
     言わなかったはずよ。」

    美香子は、自宅の最寄り駅で
    タクシーに乗った。
    車が城址公園の前を通りかかる。
    ふいに美香子はタクシーを止めると、
    運転手に少し待っていてくれる様に
    頼んだ。

    見上げた月はまだ、少し欠けている。

    「唯。今、どうしてるの?」

    美香子は、数百年の時を隔てた
    この場にいるかもしれない娘に
    話しかける。

    「ちゃんと、食べてる?
     ぐっすり眠れてる?
     全く、親に黙って、
     何やってんのよ!」

    美香子は思わず涙ぐみそうになる。
    心配で、心配でたまらなかった。

    でも、自分が落ち込んでいたら、
    尊を責める事になるかもしれない。
    引きこもりの尊が、家さえ
    居心地が悪くなったら、
    どこかに行ってしまうかも。
    尊までいなくなったら、
    悔やんでも悔やみ来れない。

    美香子の悩みは尽きない。

    正直な所、
    帰ってきてからの唯の事も、
    美香子は心配だった。

    「でも、唯の事を
     考えてくれている
     尾関君もいるんだから、
     きっと、大丈夫ね。」

    美香子は、気持ちを引き上げる様に、
    自分の頬を両手で叩く。
    そして、その手で、城址の石垣を
    そっと撫でると、
    タクシーに戻った。

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    返信
    お邪魔します~

    夕月かかりて様
    クライマックスの所、
    割り込みましてすみません。
    これから投稿させて頂きますね~。

    てんころりん様
    いつも感想有難うございます。
    陸上部コーチのお名前の件も、
    ありがとうございます。
    役名なしとのことでしたので、
    芸名を使わせて頂きました。

    投稿フォームへ

    返信
    二人の平成Days58~22日23時、多数決です

    逆に恥じらいがないのも困りものですが。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    戻ると、リビングに布団が五つ敷いてある。

    美香子「おかえり~」

    若君「母上、遅くなりました」

    唯「お父さん、はいお盆。ありがとね」

    覚「はいよ~」

    美「尊は?」

    唯「追加で作業頼んじゃった。もうすぐ来るよ」

    美「あーそう。お風呂入って欲しいんだけど。もう遅いし」

    唯「そっか、ごめん遅くなって」

    美「尊がまだなら唯でも若君でも、どっちが先でもいいけど。それか、一緒に入ってもらってもいいわよ~?」

    唯「えぇ?」

    美「どういう風でも。ねっ、お父さん」

    覚「まぁ、お前達の好きなようにでいいぞ」

    唯「…はいっ、私、先に入る!」

    美「なんで?」

    その瞬間、若君が、逃げようとする唯の腕を掴んだ。

    美「あ、捕獲した」

    唯「えーっ!」

    若「…」

    唯「ものすっごく、目が訴えてる!えー、うーん。じゃあ一緒に入る?」

    美「じゃあって何。初めてじゃないでしょう」

    唯「初めてみたいなもんだよ~」

    覚「行ってこい、若君が満面の笑みだ」

    唯「うへぇ」

    美「嫌なの?」

    唯「いや、ビビリなだけっす。じゃあたーくん、着替え取りに行こっか」

    若「父上母上、ありがとうございます」

    唯「私には?」

    若「ん?ハハハ」

    二人が階段を上がっていると、尊が実験室から出てきた。

    美「え、思ったより早い」

    覚「ややこしくなるから、止めるか」

    リビングから、二人で尊に向かって、身振り手振りで大きな✕を出した。

    尊「なになに?来るなって?」

    実験室に戻る尊。ほどなく、唯達が着替えを手に、浴室へ向かった。美香子が尊を呼びに行く。

    美「ごめんね尊」

    リビング。

    尊「何が起こったかと」

    美「ごめんごめん。お風呂にね、二人で入ってもらおうとしてて、唯が尊の顔見ちゃったら、男子二人で!って言いそうだったから」

    尊「また、けしかけたの?変な親」

    美「軽ーく、話振っちゃった」

    覚「振ったからには、ダメとは言えないしな」

    美「あら、ダメだった?」

    覚「いや、もう、どうもこうも言わない」

    美「寛大でよろしい。ウチのお風呂広めだから、二人でも全然余裕だし」

    覚「お前、そんな理由は後付けだろ」

    美「どうかしらね~」

    尊「え、でもお姉ちゃん良かったのかな。旅行の時は、完全に体隠して露天風呂だったらしいよ」

    美「えぇ?そんなややこしい事を。だから、初めてみたいなものって言ったのね。一瞬、嫌そ~な顔したし。結婚した、って自分で言ってるのにね」

    覚「なんかトゲがある言い方だな」

    美「事実、届を出すなんて話じゃないでしょ」

    尊「そんな超現実的な話する?」

    美「しないわよ、ファンタジーだから」

    尊「ファンタジー。確かに」

    覚「まあ、ファンタジーだな。ははは」

    美「ふふふ。まっ、いずれにせよ、今更お風呂になにを反対してるんだかって話よ」

    尊「僕は賛成」

    美「私も賛成」

    覚「僕も賛成だ」

    美「じゃあ、少なくとも8割が賛成なんで」

    尊「まあ、もう入ってるんだから全会一致だけど。ってかなんで多数決?」

    美「尊が言い出したからでしょ」

    お風呂の中は、二人の秘密なので解説はいたしません。お風呂あがりへ飛びます。

    唯「はぁ~。あっつーい」

    美「入る前も真っ赤だったけど、出ても真っ赤じゃない」

    唯「のぼせたー、いろんな意味で。ちょっと涼んでくる」

    外へ出て、ウッドデッキに腰掛けた。

    唯「わあー、今日が満月かと思うくらい、まんまる」

    空高く輝いている。

    唯「いよいよ明日かぁ」

    サッシが開く。

    若「唯、そのままでは風邪を引く」

    若君が、手に毛布を持って出てきた。

    唯「あー。たーくん、ちゃんと髪乾かした?もー、自分がまだびしょびしょなのに、私が先って聞かないんだから」

    若「唯に風を与えた事がなかったからの」

    唯「イケメン美容師だったよ。あ、美容師は髪切る人ね」

    若「そうか」

    隣に座り、毛布を広げ、二人一緒にくるまった。

    唯「私、涼もうと思って外に出たんだけど」

    若「すぐに冷えてしまうぞ」

    唯「また、ほてっちゃうよぉ」

    若「尊が風呂を出たら、中に入る。それまでは、しばし月見じゃ」

    唯「え?もう尊そこに居るよ」

    振り向くと、リビングに風呂上がりの尊。

    若「早いの」

    唯「ホントにー」

    尊、外からの視線に気づく。

    尊 心の声(うわっ、なに?!二人とも、なんでそんなに睨んでくる?)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ようやく、五人勢揃いかな。

    投稿フォームへ

    返信
    遅くなりました

    昨夜は投稿できず、一日おきのペースが崩れてしまい、失礼いたしました。もう遅れる事はないと思いますが、2日後以降になりそうな時は、一度ご連絡いたします。

    てんころりんさんへ

    優しく励ましてくださいまして、心より感謝いたします。

    ひろげ過ぎた大風呂敷、平成Days終了時にちゃんと畳めてるかは、皆さんのご判断におまかせです。ただ、二人には心晴れやかに気持ち良く旅立ってもらいたい、と切に願い、私自身納得がゆくまで、推敲は随時やっております。

    制作秘話なんて大それたものは、持ち合わせておりません(((^^;)。各話ごとに、この回はこれを伝えたかった!とか、このセリフが肝!とかはありますが。でもそれを始めると、またものすごい文章量に…投稿番号遡って読み直す皆様が続出で大変では。
    書く事自体は全く苦ではありませんので、それでよろしければ回を追って振り返らせていただきます。

    投稿フォームへ

    返信
    夕月かかりてさん

    お疲れ様です。読ませて頂いてます。
    出し続けるのは楽しいけれど本当に大変な事ですね。
    私は創作は無理ですが, “アシガール卒論” にしたいテーマがあり、アシガール掲示板に書いています。
    個々に別の投稿に見えると思いますが、テーマがあって結構力を入れており、出し続ける大変さは分かります。
    提出後も 卒業はしないと思いますけどね?。

    夕月さんは既に物語を書き上げている.とおっしゃってましたね。
    とは言え.たぶん手を入れて最終稿を出されてるかと。
    半端ない量です、その熱意と日々の努力に敬服します。
    平成の日付だと後1日、どう完結するのか楽しみです。

    この板では今、夕月さんだけでなく、ぷくぷくさんも 妖怪千年おばばさんも、続き物の形式をとって書かれています。
    そのため読者が感想を書き難い状況はあると思います。
    夕月さんの今回のシリーズはペースが速かったので、お一人の時がありますが???どうか気になさらず偉業達成まで頑張って下さいね。

    そして完成後は制作秘話など聞かせて頂けたら嬉しいです?。

    投稿フォームへ

    返信
    二人の平成Days57~22日22時15分、普通ってなに

    それぞれが個性的な音を奏でる、三重奏のようです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    上映会、終了。

    尊「じゃあ、また明日フル充電しとくよ」

    唯「よろしくー。さていよいよ写真集を」

    表紙をめくる。

    唯「いきなりこれからスタート?ほぼ最後じゃん」

    洋装姿でチャペル前のキスシーン。

    尊「せっかくだから、一番喜びそうなのをトップに」

    唯「えへへ~、ありがと」

    尊「あの頃は、許可制だったよね。それが今ではそこらじゅうでイチャイチャして」

    唯「悪い?」

    尊「限度はある」

    唯「え?嫉妬?」

    尊「なんでやねん」

    唯「なんで関西弁やねん」

    尊「お姉ちゃん達見てると、普通の恋愛ができそうにない」

    唯「なんで?」

    尊「ドラマチックじゃないと恋に落ちないかもしれない、どうしてくれる?」

    唯「いちゃもんつけてる!」

    若君「尊。普通、とは何じゃ?」

    尊「え?」

    若「わしはこれが普通じゃ。どう違うのかがわからぬが」

    尊「そう言われればそうかも」

    若「尊は、尊なりの頃合いで、愛しい姫に巡り逢うであろう。一瞬で落ちるかもしれぬ、いつの間にか心を占拠されておるやもしれぬ。始まっておらぬのに、憂う事はない」

    尊「そっか。はい、わかりました」

    唯「たーくんの言う事はすぐ聞くじゃん」

    尊「若君は、恋愛の師匠だから。心がさらわれた、なんて超カッコ良かった」

    唯「あ、それならもう返した」

    尊「は?返した?」

    唯「それは、二人は一つだからぁ」

    尊「さっきから同じ服着てくっついてるから、一つの物体に見えなくはないけど」

    唯「物体なんて、つまんない言い方~」

    若「通じあったのじゃ。心も体も一つにの」

    尊「へぇ、もう心なんてどっちが持ってる持ってないって話じゃないと。なるほど…」

    若「…尊?何か探しておるのか?」

    尊「恋愛の名言が出たら、書かなきゃと思ってメモを」

    若「ハハハ、自ずから出てくる言葉じゃないと、胸に響かぬぞ」

    尊「わっ!本物だ!」

    唯「ほらね、一心同体ですからぁ」

    尊「この姉、侮れない」

    唯「なにその早口言葉。さてはバカにしてたな?」

    若「あー、もう良い良い、全く写真を見ておらぬではないか」

    唯「ごめーん。この辺りは和装だね。たーくん素敵!新郎とか若君というよりすでに殿の風格だけど」

    若「いつまでも、若君、ではないからの」

    唯「え!そんな一気に老けちゃうの?!」

    尊「違うな」

    若「呼び名など変わりゆく」

    唯「そりゃそうだよね」

    若「唯には、全て見届けて貰う」

    唯「え、おじいちゃんおばあちゃんになるまで?」

    若「ハハッ、そうじゃ。良いな」

    唯「はい…」

    尊「キュン、だ」

    唯「キュンだよぉ。さぁ次は洋装。王子様だぁ」

    若「シンデレラの唯も、実に麗しい」

    尊「おっちょこちょいでとんちんかんだけどね」

    唯「とんちんかんなのは二人ともだけどね」

    尊「あ、やっぱそうなんだ」

    唯「そっ」

    若「?」

    見終わりました。

    唯「ねぇ、これって、ページ増やせる?」

    尊「できるよ。リクエストがあれば入れるよ」

    唯「んとね、私のスマホに入ってる写真、入れらんないかな」

    尊「あー、いいよ。え、見るのもはばかられるような、きわどいのとかはこっちが困るけど」

    唯「ないない、ラブラブなだけ。えっとリュックの中に…はいスマホ、お願いしまーす」

    尊「よし、これで、と。どれにする?」

    唯「えっとね~、これと…」

    尊「え、顔が妙な事になってるけどいいの?」

    唯「いいの、これはね~」

    若君 心の声(こんなに仲睦まじい姉弟を、離ればなれにさせるのは辛いのう…)

    尊「あとはプリントするだけだから、先に戻ってて」

    唯「わかったーよろしく。じゃ、たーくん行こっか」

    若「尊、済まぬの。両親も待ちわびておるじゃろうから、先に参る」

    尊「どーぞー」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    夜も大分更けましたが、ようやく家族の時間です。いや、どうかな。

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    返信
    二人の平成Days56~22日21時30分、優しいハーモニー

    親の気持ちを、ちゃんと受け止めているからこそ、です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    イルミネーションの映像が流れ始めた。

    唯「綺麗だったよね~」

    若君「そうじゃな」

    唯「もっと、色んな所でデートしたかったなー」

    若「また、遠乗りに参ろう」

    唯「うん。あ、今度はちゃんと乗せてくれる?」

    若「ハハ、乗せる」

    尊「え?乗せなかったってどういう事?」

    唯「疾風の後を走ってくんだよ」

    尊「え、罰ゲーム?ロマンスのかけらもないけど」

    若「唯はその時分、配下の者であったゆえ、そうなったが」

    唯「いや、そうじゃなくても走らされた気がする。だって、もっと早く走れ~って笑ってたもん!」

    若「そうだったかのぅ」

    唯「もー」

    尊「そもそも、もう走っちゃダメなんじゃないの?ジェンガに名前入れるんでしょう?」

    若「おぉ、その通りじゃ。さすが師匠殿」

    唯「お気づかい、痛み入りますぅ」

    海と朝日のタイムラプス。

    唯「すごい技だね。テレビでちょっと見た事はあったけど」

    若「絶景じゃ」

    尊「この映像の辺りで、大騒ぎが聞こえたね」

    唯「もぉーさぁー、脱がそうとするわ見えちゃうわで、大変だったんだから」

    尊「脱がす?風呂に服着て入ってたの?」

    若「完全武装じゃった。残念じゃ」

    唯「なにそれ」

    尊「ははは。お父さんに言っとくね」

    唯「お父さん?なんで」

    覚「一緒にお風呂、って聞いただけで倒れそうだったから」

    若「風呂は父上とも入ったが」

    唯「お父さんとお風呂なんて、もう十何年も入ってないよ?」

    尊「んー、そういうのとは、ちょっと違うんじゃないかなー」

    尊 心の声(僕が煙に巻かれてるのか、二人してとんちんかんなのか、どっちだ?)

    家族写真、スタートです。

    唯「なんか声聞こえるよ?!なになに?」

    尊「両親のコメント入り」

    唯「うっそぉ!いつの間にー」

    若「服を買うた日の夜だそうじゃ」

    唯「あ゛」

    尊「なにその渋い顔」

    唯「あの日は…結局たーくんは全っ然元気で」

    若「ん?確か…唯がどんな花を咲かせるのか、問うた覚えはあるが」

    尊「暗号?」

    唯「もー全然休んでなかった」

    尊「さっきから、そんな話ばっかりだな。ていうか、ちょっと待てぇー!」

    唯「なに」

    若「どうした尊」

    尊「ちゃんとこれ観てる?」

    唯「観てるよ。懐かしいな、たーくんカッコいいなって」

    尊「コメント、聞いてる?」

    唯「それが、聞けないんだよぉ」

    尊「どうして?」

    唯「さっきから、ちらほら会話が聞こえるんだけど、もう泣きそうで」

    尊「やっぱり?」

    唯「やっぱり…ってなに」

    尊「録音中、聞いてた僕も胸がジーンとして何度も泣きそうになって、で、鼻すするのとかマイクが拾ったらマズいと思って」

    若「どう切り抜けたのじゃ」

    尊「タイムマシンの燃料作る時の、防護マスクかぶってた」

    唯「そんな、尊が聞いてて泣けるなら、私なんて絶対まともに聞けないよぉ」

    若「ならば、音を消して観ようではないか」

    尊「若君…」

    若「わしも、心穏やかには聞けそうにない」

    唯「たーくんも?」

    若「然り」

    尊「わかりました。では消音、と」

    若「唯、永禄に戻ってから、共に聞こう」

    唯「うん、そうする。ねぇ、観終わったらこっちの写真集見ようよ」

    若「そうじゃな。わしもまだ見ておらぬゆえ」

    尊「あっ、映像の最後に両親の顔出しコメントがあるから」

    唯「えーダメダメ、号泣しちゃう」

    尊「その前で止めるね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    両親のコメントは、きっと私も泣いてしまうから、描きません。

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    返信
    二人の平成Days55~22日21時15分、お電話お待ちしています

    現代語の習得は、メディアの力も大きかったかも。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    晩ごはん後。

    唯「明日は、蓮根のはさみ揚げもある?」

    覚「あるぞ」

    唯「中がつみれ、って事はない?」

    覚「それがいいのか?」

    唯「いや、勘弁してー。お肉でお願いします」

    尊「ケーキも食べるし、脂だらけだね」

    唯「カロリーオーバー?」

    尊「それ、若君に説明がいるからあえて黙ってたのに」

    唯「あ、ごめん。たーくん、ひっくるめて、楽しく食べようって事で」

    若君「そうか」

    尊「まあ、そうだね」

    覚「お待たせ。はい、コーヒー持ってけ」

    唯「あーありがとう~」

    手にしたお盆に、マグカップ三つとミルクと砂糖。

    尊「じゃあ、行きますか」

    若「尊、よろしく頼む」

    唯「行ってきまーす」

    覚&美香子「ごゆっくりー」

    三人、実験室。目の前に機械。

    若「父上母上は?」

    尊「一緒には、恥ずかしいんだって。もう完成品は見せてあるんで」

    若「そうであったか」

    尊「それではお待たせしました。ジャジャーン!」

    唯「へー、画面付いてる。カーナビみたいだね」

    尊「あ、似てるかも。ってなんで知ってるの」

    唯「テレビショッピングでやってる」

    尊「そっか」

    唯「で、名前は?」

    尊「え?名前?あっ、付け忘れた」

    唯「珍しい」

    尊「昨日できたばっかりで」

    若「尊は忙しかったからの」

    唯「で、カーナビなの?」

    尊「違うけど。もしそうだったらいつ使うの」

    唯「そりゃそうだ」

    尊「ん?カーナビ…あっ、これで行くか」

    唯「へ?」

    若「何かひらめいたようじゃの」

    尊「皆様、本日ご紹介するこの商品」

    唯「あっなんか始まった」

    尊「まるでカーナビのようですが、ナビをするのは、道ではございません」

    唯「はあ」

    尊「ナビするのは、思い出でございます」

    唯「まー、素敵!」

    ノってきた。

    尊「その名も、おもナビくん」

    唯「ほー。って今付けてるし」

    尊「こちらのボタンで、操作します。今回、付属品として、こちらの太陽電池」

    唯「ほ?」

    尊「広げて、昼間日光に当て充電します。夜には本体に接続し、映像をお楽しみください」

    唯「すごーい」

    尊「そして、もう一品、特別ご奉仕にて、イヤホンをお付けします」

    唯「え、イヤホン?!やーん、超嬉しい~!」

    若「…何ゆえそこまで喜ぶ?」

    尊「そして、なんとなんと!今から30分以内のお電話で、こちらのミニ写真集もお付けします!」

    手には、一部プリントアウトした写真の束。

    唯「えー!欲しい欲しい!って、そのままくれるんじゃないんかい!あははは~ウケる~!」

    尊「こちら商売ですから~、ははははー!」

    唯と尊、お互いを指差しながら、ひとしきり大笑い。

    唯「あー、はぁ。涙でてきたよ~。…あ」

    尊「あ」

    若君が、静かに笑顔。

    唯「ごめーん、たーくん、訳分かんないよね。置いてけぼりにしちゃった」

    尊「ごめんなさい若君、勝手に盛り上がって」

    若「それは…」

    唯「わー、マジごめん」

    若「フリーダイアルに、電話すれば良いのじゃな?」

    尊「え」

    唯「え!なんでわかるの」

    若「テレビでよく観た」

    唯「あーそっか、平日の昼間なんて、そんなんばっかだよね。だからかー」

    若「尊、あっぱれであった」

    尊「へへ、褒められちゃった」

    若「名も、無事付いた事だし」

    唯「うん、めでたしめでたし。って、まだ観てなーい!」

    若「ハハハ」

    尊「では、上映会、始めます」

    唯&若「お願いします」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君、そういえば日中はテレビっ子だったわ。

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    二人の平成Days54~22日19時30分、感謝を形に

    まずは、結菜さん、おめでとうございます!
    ┅┅
    ほとんど、ひらがなで書いてない?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯の部屋。

    唯「では、デレデレメロメロのたーくんが攻めて来る前に」

    若君「ハハハ。攻めなどせぬ。期が熟すのを待つ」

    唯「え~?優しーい。やらなきゃならない事があるからね~」

    白紙のメッセージカードと、靴下の形の巾着袋が三つずつ出てきた。

    唯「靴下なんだよ、かわいいでしょ~」

    若「何ゆえ、この形なのじゃ?」

    唯「クリスマスのプレゼントは、靴下に入れるのである」

    若「答えになっておらぬが。ん、まあ良い、そういう物だと覚えれば良いのじゃな?」

    唯「うん、もう、そう納得して。尊には聞かないでね、あいつ勘がいいからバレちゃう」

    若「あいわかった」

    唯「…ん?言葉、戻してきてる?」

    若「少しは」

    唯「現代語、忘れちゃう?」

    若「それはない。朝、おはよう、とか行ってらっしゃい、とか言うてしまいそうじゃ」

    唯「ふふっ。夜、おやすみは言ってね」

    若「閨が同じなら、寝かさぬが」

    唯「はぁ?」

    若「あっ、す、済まぬ」

    唯「で、作業なんだけどね、この紙にね」

    若「え…いっそ詰られた方が気が楽じゃが」

    唯「はいはい。じゃ、お父さんお母さん尊あてのプレゼントに、それぞれ文を付けるよ。まずは尊に、はい、しゃべって」

    若「しゃべる?」

    唯「感謝の言葉とか、伝えときたい事とか話して。私がたーくんからの文として代わりに書くから。プレゼントと一緒に渡します」

    若「なるほど。それは良きはからいじゃ。ならば…師匠、大変世話になり申した」

    唯「ははは。…申した、はい」

    若「次は、師匠も永禄に来られる、起動装置刀を所望」

    唯「ふふっ、これ見てまた悶絶しそう。じゃあ次はお母さんに」

    若「母の愛とは、心の底から充たされる物だと知る事ができました。優しく抱き締められた事は生涯忘れませぬ」

    唯「え?!初耳なんだけど」

    若「筆が止まっておるぞ」

    唯「あ、あー。気になる~!」

    若「後ろより、そっとであったが」

    唯「そうなんだ。えー色々聞きたいけど、まずは書く。では最後、お父さん」

    若「父上、尊敬しております。料理の指南ありがとうございました」

    唯「…ございました」

    若「父上の様な、優しき父になれるよう励みます」

    唯「えっ、父!父…」

    若「また止まっておる」

    唯「ごめん、ちょっとウルウルしちゃった。…励みます。あ、追伸、品はわしが選びました、と」

    若「唯は書かぬのか?」

    唯「私は、ゆうべもう書いた。じゃ、それぞれ袋に入れて」

    プレゼント袋三つ完成。

    唯「じゃあ、これは、今日ここで寝ないからベッドに隠しとこっかな」

    若「この後使うが」

    唯「あ、そうだった。って、おいおいっ!」

    若「ハハハ。唯」

    唯「はい」

    若「その、服の」

    唯「ワンピースの?」

    若「中がどうなっておるのか、ずっと気になっており」

    唯「えっ?!ずっと?!もしかして朝から?」

    若「朝から」

    唯「やだ、一日そんな事考えてたの」

    若「エロ侍じゃからの」

    唯「ははは。名前気に入ってる?えー、涼しい顔してコーチとしゃべってたよね」

    若「その折は、別の理由でちと危なかったがの」

    唯「そうなの?全然そんな風に見えなかったよ」

    若「コーチ殿が、子が既に居るように仰せられるので、嬉しゅうて顔が緩みそうじゃった」

    唯「そっかあ。ふふっ、まだわかんないけどね。あー、自分で言ってて照れちゃう~」

    若「待ち遠しゅうてならぬ」

    唯「そうだね。一緒に待ってようね」

    若君は、唯を抱き上げ、ベッドに寝かせた。

    若「唯…」

    頬を撫で、顔を近づける。

    唯「たーくん…」

    若「おぉ、そうじゃ」

    唯「へ?」

    若「腹は、今宵も黙っておらぬかのう」

    唯「あー、それなら大丈夫。さっき、お饅頭つまんどいたから」

    若「ほぅ?いつの間に。ハハッ、相当腹が減っておったとみえる」

    唯「えぇまぁ、それは、そのような…」

    若「ん?いかがした?」

    唯「え?ううん、なんにも…」

    若「…もしや?まさかと思うが、この時を待ちわび…」

    唯「わー!聞こえない聞こえないっ」

    若「…そうか」

    唯「そうか?ってなに」

    若「いよいよ、花が咲くのじゃな」

    唯「え?花?えー、わかりません」

    若「ならば」

    唯「聞いてないし」

    若「しかと、見届ける」

    唯「し、しかと、って…」

    若「じっくりと」

    唯「じっくり?じっくりってなにー!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    時間いっぱいまで、ご自由に。

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    二人のもしもDays2、うれしいひなまつり篇

    今日は、「もしも」の方をお送りします。
    1とこのシリーズの説明は、no.510にあります。本来、二人が現代には居ない時季のお話となっております。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    2月中旬、水曜の夕方。速川家リビング。

    尊「ただいまー。わっ!何!」

    リビング入ってすぐのスペースに、背丈程もある何かを組み立て中で、入口が塞がっている。

    覚「おー、おかえり尊。ちょっとこの端押さえててくれ」

    尊「は?はぁ、わかった」

    若君が、逆側を押さえている。

    尊「若君も、手伝わされてるんですね」

    若君「母上の大切な品と聞いての。是非にと」

    覚「よし、傾いてないからいいな。留めてくか」

    階段状の骨組完成。

    尊「ところで何?これ。あっ、あ~」

    奥で美香子と唯が、大きな箱から、和紙にくるまれた色々な形大きさの物を、取り出し並べている。

    尊「雛人形?」

    美香子「おかえり尊。当たりよ」

    尊「え?だって奥にもうあるじゃん」

    リビング奥の棚の前に、男雛女雛二体のみの親王飾りが、綺麗に飾ってある。

    美「あれは、唯の。これは、私のよ」

    尊「へ?一人に一つなの?」

    美「そりゃそうよ~」

    尊「お母さんの、あったんだね。初めて見る気がするけど」

    美「ホントは良くないんだけどね、ずっと仕舞ってて。でも今年は、若君も居るから見せてあげようかなって」

    若「先程、あちらの雛飾りは唯の物と聞き、では母上のは?と尋ねたのじゃ」

    唯「で、出すなら一気にってね。でもわかるよー、出したくなかったの。すっごいアイテムが多くて細かーい!」

    尊「で、あれがもしや七段飾りとか言うヤツ?」

    さっきの骨組は、毛氈が敷かれて雛壇らしく変身。

    尊「着替えたら手伝うよ」

    豪華七段飾り、完成。リビング入口側のスペース中央に、庭を向いてどーんと鎮座。

    唯「場所ってここでいいの?もっと隅っこじゃなくて」

    美「雛飾りは、東向きか南向きと決まってるのよ。この部屋、北も西も壁がないから。そんなに邪魔じゃないでしょ」

    唯「うん。ドアにぶつかるよりいっか。久しぶりに箱の外に出られたから、お日さまの方に向けてあげたいしー」

    若「母上の雛飾りもこれまた美しい。お付きの者も多く、豪華じゃ」

    唯「私のが貧弱に見える?」

    若「双方立派じゃ」

    美「あい変わらず、優しいわね~」

    晩ごはん後。

    若「尊、後で実験室に行っても良いか?9時過ぎになるが」

    尊「あ、いいですよ」

    9時過ぎの実験室。

    若「尊に、折り入って頼みたき儀がある」

    尊「わー、儀。久しぶりに聞きました。若君、何でござろうか」

    若「雛飾りを見て、思い付いたのじゃが」

    尊「へー?なんだろ」

    若「わしと唯は、永禄で祝言をあげた」

    尊「はい。お姉ちゃん、今でもその話が出ると嬉しそうです」

    若「互いの姿は目に焼きついておるが、この先の世にある、写真、はない」

    尊「こんな感じだよ、がわかりづらいと」

    若「何とか、形に出来ぬか?よく、検索、と言いながら調べておる中に、そのものがあれば、尊にも伝わるかと思うての。できれば、雛のように飾れる形で」

    尊「平面じゃなくて、立体って事ですね。…割と簡単にできると思います。だって、若君のは前に着てたアレですよね?」

    若「色は瑠璃紺じゃ。あと烏帽子」

    尊「お姉ちゃんの装束と髪型がわかれば、楽勝ですよ」

    若「尊には雑作ばかりかけるが。今日は、何か作業があったのではあるまいか?」

    尊「いえ、ないです。若君と待ち合わせだ~って、ときめきながら待ってました」

    若「かわいい弟じゃ」

    二人、パソコンで検索したり、細かい部分は紙に描いたりで、作業は翌日も続いた。

    尊「さすがに、顔は表現できないんで、まっさらでいいですか?」

    若「構わぬ。笑顔にしか見えぬゆえ」

    尊「カッコいい~」

    深夜、3Dプリンターが動き出した。

    若「ここまで苦労かけたのう」

    尊「ようやく雛二体できたんで、明日、雛壇とか作りましょう」

    そのまた翌日、金曜の夜。

    尊「できたー」

    若「尊、大儀であった」

    若君が、尊をギュッと抱き締めた。

    尊「えー!」

    若「喜びや感謝を伝えるには、このようにするのではないのか?」

    尊「えっ、その」

    若「違うと申すか?唯がよく、こうするが」

    尊「い、いえ、間違ってはないです」

    若「合ってはおるのじゃな」

    尊「はい、充分、充分わかりましたから」

    ようやく体が離れた。

    尊 心の声(はぁ。若君ってホント素直だなー。でもかなり、罪作りだよ)

    若「して、これはいつ皆に披露する?」

    尊「明日の朝で、どうですか」

    翌朝。朝ごはん前。

    尊「発表します、ジャジャーン!」

    唯&覚&美「おーっ」

    屏風の前に、雛二体。右の若君男雛は瑠璃紺、左の唯女雛は純白で、烏帽子や扇子や刀も表現されている。

    唯「あー、ちゃんと髪型が、戦国姫結びになってる!」

    前髪と横を4か所、つまんで結んである。

    美「お顔はつるんとしてるけど、もう、笑顔にしか見えないわ~」

    唯「言えるー」

    若「そうであろうの」

    覚「これが、祝言の時のか」

    唯「うん、すごく再現してあるよー。尊、たーくん、遅くまでありがとう!」

    尊「作ってて楽しかったよね?若君」

    若「あぁ。喜ばれ嬉しい限りじゃ」

    美「どこに置こうかしら?」

    覚「そんなに大きくないから、唯の雛飾りの置いてある台に、一緒に並べるか」

    雛飾り、二つ並びました。

    覚「雛壇が三つもあって、まさしく、雛のお祭だな」

    美「ふふっ、うまくまとまった?じゃあそろそろ」

    全員「いただきまーす!」

    食後、唯は出来上がった雛飾りの前にぺたんと座り、ずっと見入っていた。若君は、ソファーに座りその様子を見守っている。

    唯「なんか…色々思い出しちゃう」

    若「そうじゃな」

    唯「楽しい思い出ばかりじゃないのが、ちょっと切ないけどね」

    若「…今が平穏ならば、それで良い」

    唯「そうだね」

    その時、二人同時に何か思い付いた。

    若「そうじゃ」

    唯「あっ」

    顔を見合わす。

    若「なんじゃ?唯、申してみよ」

    唯「ううん、たーくんの方が早かったから、先に言って」

    若「そうか」

    キッチンで覚が作業しているのが気になる模様で、様子を覗く若君。

    若「父上には、聞かれないようにしたいが」

    唯「わかったぁ」

    座る若君に近付き、耳を寄せて聞く。

    唯「…えっ!やだ~!たーくんったらもーもーもー!」

    聞いた途端、若君の肩や胸を、バシバシ叩き始めた。

    若「痛い、それは強い、唯」

    覚「おーい、唯?若君をいじめるなよ~」

    覚が、作業したまま声だけかけた。唯が、若君の隣に座り、叩いた所を撫でる。

    唯「ごめんね、痛かったね。たーくん…あのね、あのね私も、同じ事考えてたの!」

    若「そうであったか。やはり我らは通じあっておるのう」

    唯「超嬉しい~」

    肩にもたれる唯。若君も顔を寄せる。

    若「ならば、支度をせねばならぬの」

    唯「うん!あ~でも、色々動くとバレちゃうから」

    若「そのような折は」

    唯「困った時の尊頼み~。これも意見は一致だねっ」

    若「ハハハ。師匠には頭が上がらぬわ」

    その日の晩ごはん後。

    尊「はーい、ではイベントの準備しまーす」

    若「あいわかった」

    唯「はーい」

    美「え?何?」

    覚「何だ?」

    三人が動く。テーブルをソファーの近くまで移動し、できたての雛飾りを上に置いた。座布団を五枚運び、テーブル前に二枚、その向かい、母の雛飾りの手前に三枚並べた所へ、尊が両親を呼ぶ。

    尊「ここに座って、待ってて」

    覚&美「はい?」

    唯と若君が洗面所に入って行った。尊は二階からお盆を持って来た。

    美「甘酒?と」

    覚「盃?いつの間に」

    唯達が現れた。唯の髪は戦国姫結び、若君は髷にした後軽くピンでまとめてある。座布団に座る。

    尊「お待たせしました。それでは、これより小垣城での祝言の、再現を始めます」

    覚&美「えっ…」

    唯「お父さん、お母さん、もっと早く見せてあげれば良かったけど、遅くなってごめんね。服もこんなままでごめん。後ろのお雛様のカッコしてると思って、見てて」

    覚&美「…」

    尊の手で、盃に甘酒が注がれる。再現スタート。

    覚&美「…」

    粛々と進む。

    美「若君の所作、とっても流麗で素敵…直垂着てるようにしか見えないわ」

    覚「そうだな」

    最後、若君が飲み干す場面で、盃が上下するのに合わせて、首を動かしながらじっと見とれる唯。

    覚「あはは、実際こうだったんだろうな」

    美「きっとそうね」

    終了。二人、前を見て微笑む。

    尊「以上です。皆さん、お疲れ様でした」

    覚「…ありがとう、ありがとう、凄く、良かったよ」

    両親とも涙目。

    美「本当にありがとう。すごく嬉しいわ。これは、どっちの発案なの?」

    若「二人、時を同じくして、です」

    美「えっ、そうなの?一心同体ね」

    唯「うん!」

    若「尊、色々世話をかけ、済まなかった」

    尊「ううん。このミッション、すごく楽しかった。僕も見てみたかったし。若君、超カッコ良かったです」

    唯「私もかわいかったでしょ?」

    尊「超好き!って気持ちは、よくわかったよ」

    唯「ん、まぁ合ってるからよしとする」

    若「ハハハ」

    覚「甘酒、飲みたくなったな。温めて、生姜入れてやるか」

    唯「賛成~。じゃあ、テーブル元に戻そっ」

    美「まずお雛様戻して」

    唯「はーい」

    家族団欒と温かい甘酒に、心も体も暖まった夜でした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    切ない思い出が、温かい思い出に変わりました。

    次回、通常の平成Daysに戻ります。

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    久々の来訪者に喜びました

    てんころりんさん、今回もご感想をいただきありがとうございました。

    しばらくこの板、私以外の投稿がなかったので、少しさみしい思いをしておりました。
    そりゃアンタが一日おきに頻繁に来とるからじゃろ、心をグワングワンと揺さぶり、感想を言わずにはおれない、なんて話作ってから言え、って話ではあります。精進します。

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    感想:2/1~2/28

    作家さん自ら、前の投稿の案内を時々書いて頂けたら理想的と思い、お願いしました。
    私はNo毎に感想書くのは止めて月1ペースに致します。

    夕月かかりてさん

    No.497『二人の平成Days41_フェイドアウト』~No.530『二人の平成Days53_新居に届きます』まで14話

    12/23永禄に帰るまで後3日ですね。
    唯が退学届を出した終業式の日、父娘の車中の会話にしんみり。
    永禄で平成Daysのスライドショーを見られるようにした尊、兄弟愛ですね。若君は目を輝かせ、読む方も色々思い出します。

    唯が赤いデート服に買ったアクセサリーは雪だるまの様な白いイヤリング。
    若君がお母さんが用意した中からラメ入りのタイツを選ぶ理由が詩人!
    綺麗で可愛い唯が見えました。
    12/22、2日早いクリスマスイブデートは飛行場へ行ったんですね!
    『二人のもしもDays』で海外へ行くとか? (*^^*)

    赤のペアルックで緑の芝生の上に寝転ぶ2人、ほのぼのします。
    唯は、こういう時間は 今度いつ手に入るかな‥と思うのであった(ノ_・、)
    若君がICカードmanacaをほしがったのは速川忠清の名前の記念 デザイン良いですね!

    プレゼントを買いにデパートに立ち寄り、陸上部のコーチに会った!
    その話しっぷり、コーチ役·尾関伸次さんの声が聞こえました。?
    若君が養子のふりする機転は流石!

    速川家で過ごす最後の夜ですね。
    写真館から2人の宛名で届いたDMの話、良かったです。

    ぷくぷくさん

    No.502『悪丸』

    名前の由来と、駆け比べに出るまでのお話、興味深かったです。
    友蔵と六助は、唯之助の場合の勘兵衛さんやお袋さまと同じで、悪丸の未来を拓き、大切な事を教えてくれた恩人ですね。
    画次郎さん登場!☺️
    駆け比べの後 梅谷村の入口で、唯「帰れ!」悪丸「家 遠い. 海の向こう」
    ここ.唯の表情… 悪丸同じ身の上だものね。

    妖怪千年おばばさん

    No.520『兎角この世は_その5 尊編』

    唯と若君が速川家で過ごした日々の物語。
    唯は陸上部コーチに小垣まで走った3日のコースを自主練の記録として提出!なるほど~
    コーチと木村先生が、唯に進学して大学駅伝を薦める辺り、凄い現実感!あるある.
    相変わらず私、若君のバイト関係のエピソードに付いて行けてません?‍♀️
    長澤店に反応する若君? 同級生マユ登場!☺️
    両親と唯が尊に “次世代家族対応型” 新起動スイッチを依頼しました!
    そうそう やはりそこ!??ですね。
    尊が若君の代役で撮影したプロジェクションマッピング映像に 唯が将来 “嫉妬”って気になるぅ。
    尊編のタイトルはこの辺からでしょうか?

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    二人の平成Days53~22日19時、新居に届きます

    尊、休む暇なし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯「ただいま~!」

    若君「ただいま帰りました」

    覚「おー、おかえり~。今お茶いれるから」

    尊「おかえりなさい。楽しかった、よね?聞くまでもないか」

    若「尊に尋ねたい事が、数多あっての」

    尊「お姉ちゃんが、答えられずに?」

    唯「だって聞いた方が早いもん」

    尊「それも明日までだよ」

    唯「ギリギリまで聞きまくる」

    尊「聞いた内容は、ちゃんと覚えててよ?」

    唯「たーくんが覚える」

    尊「はあ」

    若「ハハハ」

    覚「はい、お茶。長旅お疲れさんでした」

    美香子「あ、お父さん、8時30分スタートで決定で」

    覚「了解」

    若「父上、あの、ありがとうございました」

    覚「いいよ~」

    美「で、カードだけど、唯のも持って行ってね」

    唯「二つともいいの?」

    美「二人はセットでしょ」

    唯「うん!良かったね、たーくん」

    若「ありがとうございます、大切にします」

    美「でね、追加でこれもって思って」

    葉書を差し出した。印刷がカラフルだ。

    若「葉書、じゃ」

    美「あら、良くご存じ。宛先を見て」

    唯「ウチの住所と…あっ!速川忠清様、唯様って書いてある!」

    若「なんと!何ゆえ、この名で」

    美「写真館から届いてたの。案内というか、広告だけどね。ちょっと嬉しくて、取っといたのよ」

    唯「なんか、ここにたーくんと二人で住んでるみたーい。やーん、感激っ」

    若「そうじゃな。これは嬉しい文じゃ。母上、この葉書も頂戴して良いのですか?」

    美「どうぞ。これってね、それこそ今後、季節毎に届くと思うの」

    尊「そうだね、DMってそういう物だし」

    美「受け取る度に、そうよ二人は今ここに居るのよ、って思えるわ。二人の新居に配達される葉書ね。楽しみよ」

    唯「なんか、じわっときた…」

    若「それは…わしも嬉しゅう思います」

    唯「ありがとう、お母さん」

    美「いいえ~」

    尊「いい話だね」

    覚「でも、あんまり行かないと、届かなくなるぞ?」

    美「じゃあ、孫の七五三とか、撮りたいわ~」

    唯「わあ!夢みたいだね」

    若「そうじゃな。叶うと良いとは思うが」

    一斉に尊に視線が集中。

    尊「わっ、今の僕では無理なんで、長い目で待ってください…」

    覚「最短でも三年後だろ」

    尊「えっ、だってタイムマシン2号も、いつの時代から未来の僕が送ったかわからないし」

    若「尊、済まないとは思うておるが、許せ、頼む。気長に待つゆえ」

    尊「うへー」

    尊を残して、四人、大笑い。

    唯「さてと。たーくん、今から部屋には行くけど、まだ色々やる事あるからね」

    若「心得た」

    唯「ずっとニヤけてるし。なんかー、こんなに現代になじんちゃって、ちゃんと立派な総領に戻れるか心配になってきた」

    美「大丈夫でしょ。唯に甘えてるだけよ」

    若「そうですね。今は、唯と、家族に甘えさせて貰うております」

    覚「速川の家族、じゃなく、家族、ってところが嬉しいなあ」

    美「そうね。だから唯、心配無用」

    唯「そっか、わかった。じゃあ、ちょっくら行ってきます」

    尊「では、後程」

    唯「のちほど…」

    若「後程、懐かしいのう」

    尊「あっ、なんか秘密の会話だ」

    二階へ上がって行きました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    そう、夜は今日が最後だから。

    次回、平成Daysは一回お休みして、「もしも」シリーズの第2回を挟む予定です。

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    今までの二人の平成Days、番号とあらすじ、26から50まで

    no.503の続きです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    26no.443、12/16、海鮮市場。父が茶を吹く

    27no.449、12/16、ホームセンター。両親車内で語る

    28no.456、12/17、ジェンガに名を書きたい若君。達筆で読めない

    29no.461、12/17、完成したジェンガを前に永禄の仲間達を回想

    30no.467、12/17、若君と尊は仲良し兄弟

    31no.472、12/18、デート服がない唯とシェフデビューが決まった若君

    32no.476、12/19、朝から料理の特訓

    33no.477、12/19、両親の溢れる愛情に感涙

    34no.481、12/19、デート服を買いに行く。校門近くで車内に潜む若君

    35no.484、12/19、ペアルック購入。若君がときめき過ぎ

    36no.486、12/19、若君の体調を心配してるのか別の意図があるのか

    37no.489、12/20、唯と尊のしゃべくり漫才

    38no.490、12/20、料理披露

    39no.492、12/20、年賀状書きます

    40no.493、2019/1/1、年賀状届きました

    41no.497、12/21、唯は退学。オムレツ作って帰りを待っていた若君

    42no.500、12/21、尊が若君に機械の説明

    43no.504、12/21、収録内容確認。no.486の意図がわかる

    二人のもしもDays1no.510、とある年の2月上旬の日曜、バレンタイン直前でチョコ味の唯

    44no.515、12/18、イヤリング購入。唯の雪の思い出

    45no.516、12/22、デート当日。母から色々貰える

    46no.517、12/22、芳江とエリに挨拶。若君自動改札初体験

    47no.522、12/22、電車と飛行機。公共の場ではラブ自粛

    48no.523、12/22、貴重な写真を激写。人生の未来図を語る唯

    49no.524、12/22、公園ランチ後のラブラブタイム

    50no.525、12/22、土産に欲しい物有り。三人へのプレゼント買いに行く

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    二人の平成Days52~22日15時30分、まるわかりです

    早く決めないと、自由時間が減ります。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    雑貨売場で、睨みをきかせ、仁王立ちの唯。

    若君「唯、贈る品を選んでいる姿には到底見えぬぞ」

    唯「悩む、悩み過ぎて訳分からなくなってきた」

    若「ハハハ、気持ちは分かるがの」

    唯「はあ。ねぇ、たーくんなら何にする?」

    若「そうじゃな…」

    若君が、手にすっぽり入るサイズの、スノードームを手に取った。

    若「これは、どういった物じゃ?」

    唯「これはね、一旦逆さにするの、そうすると」

    中で雪が舞う。

    若「なるほど、雪の風景になるのじゃな」

    唯「スノードームかぁ。家にあるのはもっと大きいし、このサイズならかわいくていいかも。いろいろ、中の風景も種類あるし」

    若「小さいは、小さいのう」

    唯「よし、たーくん三つ選んで」

    若「わしがか?それで良いのか?」

    唯「たーくんが選んだとなったら、みんな喜ぶから」

    若「そうか。責任重大だが、選ぶとする」

    三つ決まりました。お会計。

    唯「ふう。任務完了。ありがとね」

    若「どういたしまして、じゃ」

    駅まで来た。地元へ戻る電車を、ホームで待っている。唯が足元をじっと見ている。

    若「いかがした?何かあるのか?」

    唯「うん。思い出した事があって」

    電車に乗り込んだ。座ろうと思えば座れるが、二人は立っている。

    唯「このブーツね、たーくんのお墓が見つかったって聞いて、慌てて見に行った時に履いててね」

    若「うん」

    唯「もう、悲しくて悲しくて、お墓の前で泣いて泣いて」

    若君が唯の肩を抱く。

    唯「で、涙がポタポタ落ちて、今でもシミになってるの」

    爪先の辺り、数か所色が変わっている。

    若「そうか。しかしわしは生きておる。もう泣かずとも良い」

    唯「うん。あの頃は、ずっと暗黒の世界で。何をする気にもなれなくて、実は髪も切らずにそのままだったの。小垣城で撫でてもらった時から、切れなくて」

    若「そう、だったのか」

    唯「まっ、そんな事もありましたって話。永禄に戻ったら、また髪は切らずに伸ばしてくね。本格的に、姫にならないと」

    若「どんな姿でも唯は姫じゃが」

    唯「えへへ。でも、暴れガッパのままじゃ、なんだしさぁ」

    若「暴れガッパ?唯は、河童でなくとも暴れるであろ…ふひ」

    唯「もーっ!どの口が言うのじゃ~?」

    若君が、両頬を横にむにーと伸ばされている。

    唯「ふふっ」

    若「ふう。してやられたのう、ハハハッ」

    駅では、母が待っていた。

    美香子「おかえり~、二人とも。楽しかった?」

    唯「うん!」

    若「お迎え、ありがとうございます」

    車内。

    若「母上、あの」

    美「はい」

    若「カードですが、母上のお気持ちに心を打たれました。謹んで頂戴します」

    美「いいえ~、そんなに喜んでくれたなんて嬉しい。こちらこそありがとう。それでね、追加で渡したい物があるから」

    若「物?」

    美「きっと喜んでくれると思う。後でね。ところで唯」

    唯「なに?」

    美「この後の予定は?」

    唯「帰って、晩ごはんまでを二人の自由時間にしようって、たーくんと決めた。食後に尊の作品発表会、その後は家族全員一緒に過ごす」

    美「うん。って事は、ごはんが遅いと、自由時間が増えるわよね」

    唯「それはそうだけど、晩ごはんは8時位って、朝ごはんの時に聞いたよ」

    美「それが、8時30分に変更はどう?ってお父さんが。遅過ぎても何だから、プラス30分で手を打たないか~って」

    唯「へ?それは嬉しいけど、なんで?」

    美「今朝見送った時、あまりにも若君がデレデレのメロメロで、これはプラスの時間が欲しいだろうって」

    若「えっ!わし、が」

    唯「たーくん、そんな顔してたの~?気づかなかったー、もっと見とけば良かったあ」

    美「唯はもっと分かりやすかったからね」

    唯「あ、そーすか」

    美「もうすぐ7時だから…まあまあ時間あるかな?」

    唯「うん。嬉しい!良かったね、たーくん」

    若「そうじゃな。父上に、礼を申さねばの。されど…」

    唯「なに?」

    若「顔に出たとは不覚じゃ」

    美「え?ダダ漏れよ?エリさん達なんか、可愛かった可愛かったって、仕事中ずっと言ってたわよ」

    若「こ、これはしたり」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    あんなに泣いた時もあった、と過去形で言えるのは、今が幸せだから。

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    二人の平成Days51~22日15時、守り抜きます

    誠実さは、初対面でも伝わるよね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    デパートで、プレゼント物色中。

    唯「どうしよっかな~」

    若君「どういった類いの品を、探しておるのじゃ?」

    唯「心がこもっていれば、どんなのでもいいんだけど、基本的に小さい物」

    若「小さい?何ゆえ?」

    唯「私のリュックに、三つ入れて帰るから。明日まで隠しておきたいから、たーくんが持ってる方には入れられないの」

    若「なるほど。その品に込めた存念は、物の大小に関わらぬ。それで良い」

    唯「ありがと、たーくん」

    誰かが、駆け寄って来た。

    男「速川、速川じゃないか?」

    唯「あっ、コーチ!」

    若「コーチ?」

    唯「うん、えっと、学校の陸上部で、指導してくれた」

    コーチ「珍しい所で会ったな。なんかいつもと全然イメージが違うから、最初わからなかったぞ。デートか?」

    唯「うん。コーチこそ、プレゼントでも買いに来たの?」

    コ「あぁ。娘も小学生にもなると、リクエストが具体的で、デパートまで探しに来た」

    唯「だから、こんな所でバッタリなんだね」

    コ「それより、速川。退学とは…驚いたぞ。昨日は、報告だけして逃げるように行ってしまって。今日会えて良かった」

    唯「はい。ごめんなさい」

    コ「かなりの有望株だったから、残念だけどな。まぁ、お前にも事情があるんだよな?」

    唯「はい」

    コ「どうしたんだ?」

    唯「あの、えっと…」

    若「失礼します」

    若君が、困っている唯の前に出た。

    コ「君は…そういえば以前、速川が超イケメンと帰って行くって、部員が騒いでたな。君だったのか」

    若「初めまして、コーチ。速川忠清と申します。唯が、お世話になっております」

    深々と一礼。

    コ「え?速川?え?」

    若「僕達、結婚したんです」

    コ「え?!結婚?!えっ、お婿さん?ずいぶんと若く見えるけど」

    若「早い、とお思いでしょうが」

    コ「急ぐ理由…えっ!まさか妊娠…もしや、それマタニティドレス?えーっ!」

    唯 心の声(うまい事進んでる。たーくん、がんばって!)

    若「事情は、お察しください」

    コ「は、はあ」

    若「暫く、僕の故郷に連れて帰るんです」

    コ「そ、そうなんだ。速川を名乗ったって事は、いずれ家を継ぐのかな?確か、実家のお母さんは医者だったよな?」

    唯「はい」

    若「故郷にて、精進して参ります」

    コ「それは、医師免許取得に向けて?」

    若「そう…ですね」

    コ「そうか、よーくわかった。速川!」

    唯「はい、コーチ」

    コ「お前は、恋愛などせず、走りを極めるのかと思っていたが」

    唯「まっ、そう見えてましたよね」

    コ「こんな、若いのに凄くしっかりした旦那さんに出会えていたとは。良かったな。おめでとう」

    唯「ありがとうございます。私、幸せになりますから」

    コ「そうか。うんうん」

    唯「私、みんなに何も言わず辞めちゃったんで、コーチから、今日の事言ってもらってもいいですよ」

    コ「そうなのか?」

    若「皆様に、よろしくお伝え願います」

    唯「速川は、最上級の素敵な旦那をゲットしたってね」

    コ「そうだな。じゃあ、これで。幸せになれよ」

    唯「はい!」

    若「ありがとうございました」

    若君は、また深々と礼。

    唯「…もうコーチ見えなくなったよ。顔上げて」

    若「そうか」

    唯「たーくぅん、ありがとう~!もぉ聞かれた時は、やばっ!マジで~?って焦った~」

    若「上手く勘違いもされたようだし、無事に事が運んで良かったの」

    唯「現代語、完璧だったよ」

    若「そうか?」

    唯「すっごくカッコ良かった。ますます惚れ直したでござるよぉ」

    若「それは嬉しい。全ては唯を守る為じゃ。守れておったか?」

    唯「うん!」

    若「あ、ここも公共の場じゃな」

    唯「そうなの~ざんねーん、私も。ふふっ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    此度の嘘は、誰も傷つけてはおらぬ。

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    時空を超えるICカード

    前回の平成Daysで、若君は、速川の名前のカードに感激していましたが、きっとそのカードのデザインも気に入ってくれたと思うんです。イメージした交通系ICカードは、マナカです。

    https://manaca.jp/type/index.html

    まるで…。交通事業者によると、無名のキャラクターで、月とは関係ないんですが。

    no.491の考察でもお話ししましたが、唯達が住む黒羽市は、三重県北勢地方の推測です。実はこの辺りを通る鉄道会社の路線では、ICカードを導入していません。
    でも、このエピソードを入れたかったので、今回は使える物としちゃいました。実際は使えないでしょ!とか言わないでね(;^_^A

    勝手に何もかもリンクさせてますが、大企業を敵にまわすつもりは、毛頭ありません…。関係者の方々がご覧になりましたら、人気のキャラクター御用達、にしましたので、売上に直結はしませんが、御容赦くださいますようお願い致します。

    このカードをお使いのアシラバの皆様!おめでとうございます、若君&唯とお揃いです!妄想の域を出ませんが。

    私の定期もお揃いです~。こんな些細な事でも、生活が少し潤うようです。自分で設定しておいて何なんですが。

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    二人の平成Days50~22日14時、手のひらに想い出

    唯、なんやかやで願いが少しずつ叶ってます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    建物内に戻りました。

    若君「暑いのう…」

    唯「うん、外もだいぶ暖かかったから。上着脱いで」

    脱ぐのを手伝う唯。

    唯「上着は、邪魔になるからおなかに巻いとけばいいよ」

    若「そうか」

    若君が上着の袖を、体の前で結んでいる姿に、

    唯 心の声(ん?なんか普通の人と違う…あ、そっか!おなかじゃなくて、腰骨の上で結んでるから、ビシっと決まってるんだ。んもぉ無駄にカッコいいんだから~。あっそうそう!)

    唯「たーくぅん、袖もまくって~」

    若「こうか?」

    唯大好物の、腕まくり姿。

    唯「へ、へへへ~」

    若「姫がおかしな事になっておる」

    土産物屋の前を通過中。

    若「色々売っておるようじゃの」

    唯「そうだね。何か欲しい物ある?」

    若「いや…」

    唯「あ?それって、なんかあるとみたぞぉ」

    若「永禄に持ち帰りたい物は、ある」

    唯「えーそうなんだ、なんだろ?」

    若「母上に許しを乞わねばならぬが」

    唯「えっ?それって、もしかして…」

    若君が、ICカードを出した。

    唯「すごく気に入ったんだね。やっぱ名前入りだから?」

    若「わしが、この先の世に居た証じゃからの」

    唯「そっかぁ。なんか私も嬉しい~。きっと喜ぶと思うけど、お母さんに今聞いてみるね」

    若「頼む」

    LINEでパパっと送信。即返信あり。

    唯「ふふっ。見て、これ」

    若「おぉ」

    号泣しているスタンプと、OKマークのスタンプが連続して来た。

    唯「良かったね、たーくん」

    若「あぁ。帰ったら、母上に礼を申す」

    駅の改札前。

    唯「そろそろ移動するよ。もう飛行機は堪能した?」

    若「良いぞ。実にこの、技術や人々の努力には、目を見張るばかりであった」

    唯「もし、もしいつか機会があったら…飛行機、乗ろうね」

    若「そうじゃな。いつか」

    唯「もしかしたら、その頃にはもーっと遠くまで行ける乗り物に、乗れるかもしんない」

    若「遠く?」

    唯「月にとか」

    若「月?!」

    唯「もしかしたら、ね」

    若「それは、どのように」

    唯「あ、えーっと…」

    若&唯「帰ったら尊に聞く」

    唯「わー、どうしよう。もうすぐこの手使えなくなる」

    若「ハハハ」

    電車内。

    若「この後はどうするのじゃ?」

    唯「さっき人がいっぱい居た駅の所で、デパートに行くよ。あのね、お父さん達にクリスマスプレゼント買いたいの」

    若「買い物に行くのじゃな。しかしその場所には、色々な呼び名があるのう」

    唯「そうだね。スーパーはわかるよね?」

    若「米など買う処」

    唯「うん、合ってる。あとは?」

    若「ショッピングモールは、床が柔らかい。ホームセンターは、じいの大きいカートが有り、手軽で楽チン」

    唯 「…他に覚え方なかったの」

    下車し、デパートに向かっている。都会は、そこかしこに、イルミネーションやツリーがある。

    若「昼間から眩いのう。綺麗じゃな」

    唯「あ」

    若「ん?いかがした」

    唯「ううん、綺麗だね。えへへ~」

    若「ようわからぬが、唯がご機嫌なら良かろう」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    じい、居ないのに登場回数が多い。

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    二人の平成Days49~22日13時、風を纏って

    お母さん、あの選択、グッジョブでした。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    公園ランチ、そろそろ終わり。

    若君「なんと、茶がまだ熱い」

    唯「なにげにすごいでしょ~」

    冬にしては、暖かい日だ。飛行機が置いていく風も、心なしか柔らかい。

    若「よい風じゃ」

    唯「ホントだ。…ふふっ懐かしい」

    若「そうじゃな」

    空を見上げる若君。真上を、大迫力で飛行機が行き交っている。

    若「羽ばたきもせず、なぜ飛ぶのかの…」

    唯「私に聞いてる?」

    若「帰ったら尊に聞く」

    唯「それが正解~」

    若君は、シートから降りた。芝生の上に寝転び、空を仰ぐ。

    若「草の匂い、土の匂いじゃ」

    弁当箱や水筒を片付ける唯。

    唯 心の声(セーターの赤色が、芝生に映えて綺麗)

    若君は、眠ったようだ。時折、額にかかる前髪が風に揺れる。

    唯 心(無防備な寝顔が、かーわいい)

    シートも片付け、隣に座った。

    唯 心(こういう時間、今度はいつ手に入るかな…)

    いつの間にか、若君に見つめられている。

    唯「わぁ!起きてたんだ」

    手を伸ばしてきた。

    若「おいで」

    唯「えー」

    若「ん?」

    唯「そう言えば、絶対来ると思ってるでしょ」

    若「思うておる」

    唯「否定しないし~」

    若「来ないのか?」

    唯「どーしよっかなー?…えいっ!」

    寝転ぶ若君に、ダイブ!なかなかの衝撃。

    若「うっ、く、苦しい…」

    唯「えー?なにぃ?だって来いって言ったもーん」

    若君の胸元に顔をうずめていたが、

    唯 心(ダメダメ、このままじゃイヤリングがセーターに引っ掛かっちゃう)

    体を起こした。すると、

    若「…唯の向こうに、広がる空は」

    唯「空?」

    若「永禄も、この先の世も変わらず、一面澄んでおる」

    唯「450年変わらないかぁ。あっ、でも飛行機は飛んでない」

    若「ハハ、そうであったの」

    若君が、唯を乗せたまま体を起こした。

    若「そう言えば…まだ、遠いか?」

    唯「え?」

    若「体が境界線で近づけぬ、と申しておった」

    唯「うん。もっとそばに、もっとって思って。あー?たわけたおなごが無茶言ってる、って思ってるんでしょ」

    若「いや、構わぬ。唯の全てを慈しんでおるゆえ」

    唯「…難しい。帰ったら尊に聞く」

    若「ハハハ。もう、境はなかろう?」

    唯「うん。今はもうない。なんでだろ、いつの間にか消えてた感じ」

    若「宿の夜に消えたのであろう」

    唯「…」

    若「そのような意味合いではない」

    唯「うん、わかるよ。心も一つになったって事だね。たーくんもそう思う?」

    若「思う。今もそうであるし」

    唯「今?」

    若君が、視線を下に落とす。

    唯「え?わかんない」

    若「二人は一つじゃ」

    唯「え?あ、あーっ!ホントだぁ」

    同じセーターを着ているので、重なった部分で二人が一続きになっているように見える。

    唯「一つになってる、境目がなーい」

    若「そうじゃ。望み通りであろう?」

    唯「よく気がついたね!すごーい、感動しちゃったぁ」

    若「ハハハ」

    唯「たーくんと私は、一心同体~」

    また抱きついた。

    若「そうじゃな」

    唯「ふふっ。はぁ~、なんか幸せ過ぎて、溶けちゃいそう」

    若「溶ける?それはならぬ」

    唯「えぇ?」

    若「決して消えてはならぬぞ」

    唯「そっか~。あはは~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    聞いているのは、風だけ。

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    二人の平成Days48~22日11時、告白します

    撮ろうと思って撮れるものじゃないから、超貴重。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    建物内に戻ってきた。

    唯「クリスマスツリーだ~、あっ、雪だるま見っけ!」

    大きなツリーの足元に、雪だるまのオブジェがある。

    若君「大きいのう。我ら程もある」

    唯「写真撮ろっと」

    まずは雪だるまをバックに、二人並んで自撮りでパチリ。

    唯「ポーズ変えよっ。え?たーくん何してるの」

    唯の背後に回っていて、顔を近付け、両手を肩に乗せている。

    若「良いぞ」

    唯「あぁ、前後にね。では、はい、ポー…」

    その瞬間、若君の両手が唯の両頬をつまみ、横にむにーっと引っ張った。パチリ。

    唯「ふひっ、あーっ!ちょーっとー!たーくん!」

    若「ハッハッハッ、愉快じゃ」

    唯「もーーっ!!ひどーい!」

    逃げる若君、追う唯。本気で逃げてない若君と、マジで追う唯なので、あっという間に捕獲完了。

    唯「かわいく撮りたいのに~!もーっ」

    若「かわいいではないか。見てみるが良い」

    撮れた写真を確認。

    唯「あ、かわいい…」

    若「で、あろう?」

    唯 心の声(たーくんが、超かわいい!)

    そこには、悪戯を企んで、瞳が子供のようにキラキラと輝いている若君が写っていた。

    唯「えへへ」

    若「掌を返したように、ご機嫌じゃの」

    空港併設の、公園に来た。芝生の上。

    唯「ごはん、ごはん、お腹空いたでしょ」

    若「唯ほどではない」

    唯「どーせ食い意地が張ってますよっ」

    レジャーシートを広げて座り、弁当箱と水筒もろもろを出した。

    唯「それでは~」

    唯&若「いただきます」

    唯「見て見て、おにぎりこんなに大きいよ」

    若「父上の愛情の大きさじゃな」

    唯「そうかも?はい、たーくん、あーんして」

    パクリ。

    唯「うふふ、かわいい~」

    若「そういえば、唯の手料理は、食しておらぬままじゃのう」

    唯「ギクッ。そ、それは」

    若「言うてみただけじゃ」

    唯「へ?」

    若「それを言うたら、母上のも尊のも食しておらぬからの」

    唯「ん?これはからかわれてるのか?まぁいいや。他の事を、今後がんばりますのでお許しを」

    若「ほぉ。例えばどのような?」

    唯「え?えーっと…」

    若「ん?何を恥ずかしがっておる」

    唯「あの、たーくんの子供、いっぱい産みます」

    若君の動きが止まった。

    若「そ、それは」

    唯「ジェンガに子や孫の名前書くって聞いて、感動したの、だから」

    若「…ありがとう、唯。一応尋ねるが、戦は?」

    唯は、若君の前に座り直し、正座した。若君も、体を唯の正面に向けた。

    唯「戦には、もう出ません」

    若「そうか。それは安心じゃ」

    唯「私、赤ちゃんに早く会いたくて」

    若「えっ」

    唯「戦は他の足軽でもできる。でも赤ちゃんは私しか産まないよね?」

    若「そうじゃ、愛するのは唯のみじゃ。側室など要らぬ」

    唯「お腹に居るかもしれないのに、無理に戦に出て何かあったら…たーくんも私も悲しいでしょ」

    若「…」

    唯「私は、私にしかできない事をがんばる。これからは、たーくんと、子供と、全部守るから」

    若「…唯!」

    唯の細身の体が折れてしまいそうな程、強く抱き締める若君。

    若「ありがとう、唯…」

    唯「いつか言おうと思ってたから。でも早く言って良かった。こんなに喜んでくれて」

    若「唯、ここも公共の場であろうが…」

    唯「あっ、あー。そうだけど、周りにあまり人居ないし…許します」

    熱いキスが続いた。

    若「唯」

    唯「はいっ」

    若「腹が鳴っておるの」

    唯「ひゃー!ごめんなさい~、だってぇ私まだ一口も食べてない」

    若「ハッハッハ。唯の腹は、恋路にも容赦ないのう」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    腹が減っては、戦もラブラブもできぬ。

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    二人の平成Days47~22日9時、エスコートします

    二人、羽根生えて飛んで行きそう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    地元の電車はかなり混んでいた。扉付近で立つ二人。

    唯 心の声(近い~。壁ドンなんか比べものになんないっ)

    壁にもたれる唯の前で、被さるように肘を壁に当てて立つ若君。

    若君「唯」

    唯「なに?」

    唯 心(見上げるともっと近いー)

    若「キスしとうなる」

    唯「えっ?!だめですっ」

    若「駄目なのか?」

    唯「だめなものは、だめ。ここは公共の乗り物の中だから、我慢してっ」

    若「…」

    唯「そんな顔してもだめっ」

    唯 心(ひゃ~!今されたら、私は瞬殺だし、周りのチラチラ見てる女子達も秒殺だよ~)

    大きな駅に到着した。乗り換えで移動する。

    若「平和な世の筈であるが、戦並みに人が行き交うのう」

    唯「乗り換え駅だから特にね」

    若「ここを進むのか?」

    唯「うん、がんばって行こー」

    雑踏を進む。唯が人にぶつかりそうになると、若君が肩を抱き、さっと引き寄せる。

    唯 心(守られてるー、感動~)

    乗り換え完了。今度の電車は、二人掛けの席に座る事ができた。窓際の若君が外に目をやる。

    若「速い、速いのう。先程は唯を隅々まで眺めていたゆえ、外に気付かず」

    唯「やだぁ。そうだね、今までたーくんが乗った乗り物の中では一番速いね」

    若「まだ速い馬があるのか?」

    唯「うん。今から行く所にね。私達が普通に乗れる乗り物ではそれが一番速いから、たーくんに見せてあげようと思って。馬というよりは、鳥だけど」

    若「鳥?!空を人が舞うのか?!」

    唯「そうなの。でもごめんね、乗るんじゃなくて見るだけだけど。近くで見たらきっと迫力あるから、腰抜かさないでね」

    若「そうか。心して見よう。なんと申す鳥じゃ?」

    唯「飛行機だよ。今、空港って場所に向かってるの」

    窓の外が一変した。空港島へ伸びる海上の線路を走行中。窓の外は海。反対側の窓の外も海しか見えない。

    若「なんと!我らは浮かんでおるのか?!」

    唯「ホントだ~なんか、天国への道、って感じ?」

    若「唯と共になら、いずこでも天国じゃが」

    唯「え~嬉しい。すっかり殺し文句がうまくなっちゃって、この子は」

    若「…母上にそっくりじゃの」

    唯「え?そう?」

    改札を抜けると、そこは空港。

    若「またここも、戦並みな」

    唯「年末近いから、人は多いかな」

    人種も様々。

    若「悪丸に似た者がおるの」

    唯「そうだね。私、悪丸にどこの国から来たの?って聞いた事あるんだけど」

    若「それで?」

    唯「すっかり忘れちゃいました~」

    若「ハハッ、そうであるか」

    唯「たーくん、そこから外に出られるから。いよいよ飛行機とご対面だね」

    デッキに出た。何機も並んでいる。

    若「これはなんと巨大な。しかも何羽も」

    滑走路近くのため、かなりの迫力と音。

    若「このような鋼の塊が、飛ぶとな」

    唯「うん。ほら、今、飛び立つよ」

    耳をつんざく音と共に、滑空していく。

    若「このような物を考え、形にした者が幾人も居るのじゃな」

    唯「そうだね。尊みたいなのがいっぱいね」

    若「感謝せぬとな」

    唯「未来の事まで感謝なんて、たーくん素敵!」

    若「そうか?」

    唯「大好き」

    若「わしもじゃ」

    唯「あっ、ここも公共の場だから」

    若「…読まれたのう。では代わりに」

    唯をお姫様抱っこで抱き上げた。

    唯「きゃっ」

    若「姫、くるくるか?」

    唯「うん!くるくる~」

    360度回転。

    唯「きゃー、えっ二周!」

    若「ハハハ~」

    唯「あはは~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君のそんな顔、それは唯にしか見せない顔。

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    10年ですか

    今回の地震は、先の震災を引き起こした地震の影響を受けて発生しているとの事。10年前のあの日、何をしていて何を考えていたかは、今でも鮮明に思い出されます。
    被害にあわれた地域の皆様に、早く平穏な日々が戻りますように。

    妖怪千年おばばさんへ

    お菓子タワーは子供の夢ですね。子供だけじゃないか?いくら好きなお菓子でも、いつまで経っても無くならないので、しばらく見たくなくなりそう。

    あまりにも、花男がわからないので、画像検索しました。なるほど、ピンクでした。若君似合いそうです。

    まゆちゃんは、クラスメート三人娘の、一番背の高い子ですね。やっぱり、地元のアイツ推しなんだ(^o^)

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