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[no.629] 2021年6月9日 19:34 夕月かかりて(愛知)さん 返信
二人の令和Days26~31日水曜9時、労います
一家に一人欲しい。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅食卓の上が、沢山の折り紙で色とりどりになっている。
唯「では、唯お姉さんと楽しく工作!のお時間でーす」
若君「今日は、唯が師匠か。よろしく頼む」
唯「えへ、師匠だって!気分いい~」
尊「では始めてください、師匠」
唯「はーい。ではまず折り紙を、裏が見えるようにテーブルに置きます」
若「真っ直ぐにか?」
唯「うん。次に、左下の角と、右上の角が重なるように折ります」
尊「三角形になって表が見えてればいいよね」
唯「で、開きます。すると、左上から右下に斜めに線が入ります」
若「折り目をつけると」
唯「折り紙の下の端と、今折った線を、ぴったり合わせるように折ります。同じく、右の端もその線に合わせて折ります」
尊「端同士がくっついて、右下が尖ればいいんだよね?」
唯「たーくんわかる?」
若「わかる。凧を傾けたような形じゃな」
唯「順調だね。で、左上のまだ裏が見えてる三角形の部分を、裏が見えなくなるように今折った部分に重ねて折ります」
尊「二等辺三角形になった。あ、今折った所に、紐を通すんだね」
唯「そっ。あとは糊づけすれば、できあがり~」
若「これが、どうなるのじゃ?」
唯「いっぱいつなげて、飾りにするよ」
若「華やかじゃの。さぞかし、お二方も喜ばれるであろう」
唯「じゃあたーくん、どんどん折っていって。尊は糊づけ、私は紐に通してくよ」
尊「了解」
若「承知つかまつった」
作業中。
覚「珍しく、黙々とやってるな」
唯「心をこめて作ってるんだよ」
覚「いい心がけだ。お二人な、4時頃にはみえるから」
唯「わかったー。これ、昼までにはできると思う」
若「では、昼過ぎに屋根を張りますか?」
覚「そうだね」
尊「お母さんはいつもの片付け中?」
覚「今日は書類の整理だけだから、昼前には終わるって言ってたな」
若「お母さんは、休みでも忙しくされておるのう」
覚「地域の皆さんに、お陰様で親しんでいただいてるからな。まっ、たまには労ってやってくれ」
若「わかりました」
11時。ガーランドが、ほぼ完成。
唯「かーわいい。どこに付けよう」
尊「タープの屋根からぶら下げるとか、固定するワイヤーに沿わせるとか」
唯「おっ、いいねー」
美香子がクリニックから戻って来た。
美香子「あー、疲れた。まあ!綺麗に出来てるじゃない」
食卓の自分の席に座り、腕をぐるぐる回している。
覚「麦茶、入れるよ」
若君が尊に何やら囁いている。
尊「わかった、任せて」
若「よろしく頼む」
尊「お母さん、お疲れ様。肩揉んであげるよ」
美「あら?どういう風の吹きまわし?ありがとう」
尊が美香子の肩を揉み始めた。目を閉じて満喫する母。
美「はぁ~極楽極楽」
唯「出たっ極楽」
美「あー気持ちいい。尊こんなにマッサージ上手だった?」
うとうとしかけている。
尊「お父さん、僕にも麦茶ちょうだい」
覚「あいよ」
声に反応して目を開けると、尊はキッチンに居る。
美「あれっ?ちょっと待って、尊がそっちに居る…え?」
母が驚いて振り向くと、
美「まぁ!」
手を止めた若君が、優しく微笑んでいた。
若「初めからわしでは、お母さんも遠慮されると思うて」
美「うん、そりゃそうだけど。びっくり~」
唯「良かったねお母さん、かわいい息子に揉んでもらえて」
若「按摩の心得があるわけではないので、恐縮ですが」
美「そんな、ありがとう忠清くん~。こちらが恐縮しきりよ~。すっごく気持ち良かったわよ。なんと言うか、包まれてる感じで、安心感があったのよ」
若「心を込めましたゆえ、伝わったのは嬉しい限りです」
覚「いいなー」
若「では、お父さん、こちらへお掛けください」
覚「え、僕もいいの?へへっ、ありがとう忠清くん」
唯「さっすがたーくん、優しーい」
尊「繁盛しそうだね」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
体と心の、両方に効きそうです。
[no.628] 2021年6月9日 06:34 妖怪千年おばばさん 返信星降る夜に ~月食 続編~
はじめに
“月食”の続編を書きました。。
まずは、この曲をどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=BqFftJDXii0~~~~~~
それは、若君が唯を平成に
送り返した翌朝の事。「源三郎。」
「は?」
「様子が常と
異なる様じゃが?」言われた源三郎は、慌てた。
うかつにも、夕べの事を、
悟られたのだろうか?「いえ、その様な事は。」
「なれど、この鉢の蕾は、
みな、固う閉じた
ままに見えるが。 」それを聞いて、
源三郎は胸を撫で下ろす。“月下美人の事であったか。”
改めて、鉢を見ると、
確かに、蕾はどれもまだ固い。一輪咲いた鉢を、
若君にお持ちするのが、
習わしであるのに、
何とした事。「こ、これは!」
「確かに昨夜、咲いたのを
見届けたのじゃな?」源三郎は、うろたえる。
花びらが開く瞬間は、
見ていなかったのだ。「あ、は、はい。
あ、いや、
鉢を取り違えました。
只今、替えまする。」源三郎は、言葉を濁して
部屋を辞そうとする。若君は、怪訝な顔で、なおも尋ねた。
「源三郎らしゅうもない。
如何した?」「そ、それがそのう。
昨夜、にわかには、
信じがたい事が。」「もしや、ぬしも見たのか?」
「では、若君様も?」
「うむ。では、あれは、
夢では無かったのだな。」「私も、幻かと。
まさか、あの様な。」「さよう。
まさか、月が消えるとは。」「月。。。」
“そちらであったか。“
源三郎は、小さく息を吐いた。
若君の見たものは、月隠れ。
どんぎつねでは無いと知り、
源三郎は、何故か、ほっとした。
そして、取り違えた鉢を
下げようとする。すると、若君がそれを止めた。
「それは、そのままで良い。
じきに咲くであろう。」「はっ。
では、咲いた鉢をすぐに。」若君の部屋を退出し、
源三郎は、薬草園に向かって
走り出した。「源三郎さん。」
女子の声に呼び止められて、
立ち止まる。
すると、仄かな香りとともに、
どんぎつねが現れた。源三郎は、咄嗟に、
どんぎつねの肩を押し、
塀の影に隠れる。「よう、ここまで
来れたの。」「はい。塀を伝って。」
「塀を?
まるで、軽業師じゃ。」どんぎつねは、
クスッと笑うと、
月下美人の鉢を差し出した。「はい。これ。」
「これは、忝ない。
持って来てくれたのか。」つい先ほどの、薬草園での事。
鉢が違うと、
直ぐに気付いたどんぎつねは、
何度も源三郎を呼んだ。しかし、源三郎は、上の空。
足元が覚束ない様にも見える。どんぎつねは、
呼び止めるのをやめ、
咲いた鉢を抱えて、
後を追う事にしたのだ。「よかった。お渡しできて。」
源三郎は、すぐに若君の元へ
戻ろうと、一旦は背を向けたが、
やはり気がかりで、振り返った。「ぬしはこれから如何する?」
「唯さんの所へ行こうかと。」
「いや、しかし、唯之助は
生れ故郷に帰ったはずじゃが。」「え?」
「先程、若君様が
そう申されておった 。」「そんな。。。」
途方にくれるどんぎつね。
「兎に角、そのなりでは
人目につく。
急ぎ、薬草園に戻り、
待っておれ。」源三郎は、そう言い残すと、
若君の元へと急いだ。
花を届けると、踵を返し、
自室に戻る。
そして、頭巾と袴を取り出すと、
布にくるんで、薬草園に向かった。「どんぎつね殿、
何処におられる?
どんぎつね殿!」源三郎は、月下美人の棚の前で、
どんぎつねを呼ぶが、返事がない。あちらこちらを探してみたが、
一向に姿が見えなかった。“いったい、何処に?
もしや、花園か?“花園は、薬草園の隣にある。
どんぎつねは、花園の入口に
ある松の木の下にいた。
無邪気に松ぼっくりを拾っている。源三郎は、そっと近付く。
気配に気付いて、
どんぎつねが振り返った。源三郎は、はっとして立ち尽くす。
どんぎつねは、慌てて、
頬に伝わる涙を拭った。「あ、あの。
薬草園で待っていたら、
お坊さんの姿が見えたので、
こちらに。」どんぎつねは、
ぎこちない笑顔を作る。「薬師堂の小僧であろう。
見られなかったのであれば、
それで良い。
兎に角、これを。」「これは?」
「耳と尻尾を隠せば、人目を
憚らずに歩けよう。」「ありがとうございます。
ええっと。」どんぎつねは、あたりを
キョロキョロ見回す。源三郎は、それを訝しげに
見ていたが、ふと思い当たり、
どんぎつねを花園の中にある
東屋に連れて行った。「あのう、これはどうすれば?」
東屋の外で後を向いていた源三郎は
遠慮がちに東屋に入り、
頭巾をどんぎつねに被せる。そして、袴を手に取り、
その場にかがむと、
肩につかまる様に促した。
源三郎は、おどけて言う。「姫君、おみ足をお上げ下され。」
どんぎつねは言われるまま、
源三郎に袴もはかせてもらう。「これで良い。男子に見える。」
源三郎は、微笑むと
ゆっくりと東屋を出た。「戻られるのですか?」
「いや、今日は、非番じゃ。
寝ずの番の明け故。」そう言った後、
源三郎は顔を赤らめた。
昨夜の事を思い出したのだ。野草園の見回りは、城勤めの若手に
割り振られている。
薬草は、高く売れるので。
不埒な盗人から、
守らなければならない。それに加えて、昨夜は忠清が
大切にしている、月下美人が
咲くかもしれない夜だった。そんな大切な役目の夜に、
源三郎は、気を失って
しまったのだ。どんぎつねを薬草園に
連れてきた唯之介は、
見慣れぬ椀を押し付けると、
どこかに走り去った。
どんぎつねが、開花を
見たいというので、
月下美人の鉢の前に案内した。
しばらく、蕾を眺めていたが、
ふいに、どんぎつねは、
その椀のものを、食すように勧めた。
そして、驚いた事に、
袖から取り出した箸で
夜空の月をつまみ、
椀に入れたのだその後の事は、覚えていない。
気が付いた時には、なんと、
どんぎつねの尻尾を枕にしていた。
目に映ったのは、
心配そうに覗き込む、
どんぎつねの大きな瞳。跳ね起きた源三郎は、
すぐに、夜空を振り仰ぐ。
そこには、消えたはずの月が、
浮かんでいた。“月が戻っている。
だが、今宵は満月のはず。
なぜ、欠けているのじゃ?“源三郎は、この状況を
受け止めきれぬまま、
夜空を見つめ続けた。欠けた月は徐々に丸みを
取り戻して行く。ふと、どんきつねに目をやると、
なにやら、姿がぼやけていた。「源三郎さん、
お願いがあるんです。
これを、一口、
食べてくれませんか?」「これを?」
どんぎつねはうなずく。
「食さぬとどうなるのだ?」
「消えます。」
「消える?」
「食べて貰えないと、私、
ここにはいられないんです。」源三郎は、差し出された箸の先の
油揚げの切れ端を口に入れ、
急いで飲み込んだ。すると、薄くなっていた
どんぎつねの姿が、また、
くっきりと闇に浮かんだ。
まるで、姿を取り戻した
満月の様に。
いや、むしろ、月より輝いて。「ありがとう。
これで、暫く、居られます。」源三郎と、どんぎつねは、
その時、やっと
月下美人の香りに気づいた。「あ、花が!」
「咲いておる!」
そうして、そのまま日が昇るまで、
肩を並べ、香る花を眺めて
過ごしたのだった。~~~~~~
袴姿のどんぎつねを連れ、
源三郎は、花園の中を
そぞろ歩く。藤袴や女郎花を見つけるたびに、
どんぎつねは、足を止めて見入る。
萩が群生する一角では、
歓声を上げた。「ここは、この季節では
一番の見所じゃ。
庭師が特に力を入れて、
世話をしておる。
“萩”の名が、
“羽木”に通ずる故。」「羽木?」
「この城の、御当主一族の
御名じゃ。」どんぎつねは、その萩に
魅入られた様に、
離れようとしない。源三郎は、小刀で枝の先を切り、
どんぎつねの頭巾を取ると、
耳の横にそれを差してやった。どんぎつねの耳の先が動く。
その愛らしさに、源三郎は、
微笑まずにはいられなかった。東屋に戻った源三郎は、
どんぎつねを座らせた。「腹が減っておろう。
これを食すと良い。」源三郎は、懐から取り出した
握り飯を二つ、差し出した。
寝ずの番を終えた者に、
渡される朝飯を、食べずに
持って来たのだ。どんぎつねは、それを素直に
一つ手に取ると、
うつむきながら口に含む。
ほんのりと塩味がした。源三郎の心使いが、身に染みて、
また涙がこみ上げて来た。源三郎は、気づかぬふりをし、
横を向いて咳ばらいをすると、
残った握り飯にかぶりつく。
そして、どんぎつねが
食べ終わるのを待ち、
切り出した。「何か、子細があるようじゃが。
語ってみぬか?
力になれるやもしれぬ。」どんぎつねは、しばらくの間、
迷っていた。
やがて、ぽつり
ぽつりと、話し始めた。恋人だと思っていた人が、
突然、他の女性と結婚する事になり、
落ち込んでいる事。
些細な事でやきもちを焼いて、
山に戻っていたのだが、
戻ってみたら、彼の部屋に、
絵本が残されていた事。
この絵本に描かれている事が、
自分の記憶と違うので、
混乱している事を。「その絵本とは、どのような。」
どんぎつねは、着物の袖から、
小さなタブレットを取り出すと、
源三郎に見せた。
https://www.youtube.com/watch?v=cZaBAN-Xj1w「私には、この記憶しか無いの。」
https://www.youtube.com/watch?v=cJL9KWzJXwY源三郎は、見た事も無い、動く絵と
奇妙な板を見せられて、
仰天したが、努めて平静を装う。「その“源”とやらの妻となる
女子は、ぬしの見知った者か?」「会ったことは無いの。
会いたかったけど、
間違えてゆいさんの所に
来てしまって。
その方は、源さんと
お仕事をご一緒されて
いたんです。」どんぎつねは、タブレットを操作し、
彼女の写真を見せる。源三郎はそれを眺め、こう言った。
「心なしか、ぬしに似ておるの。」
「えっ???」
それから、かなり長い間、
二人は黙っていた。日は高く昇り、
辺りを明るく照らしている。
とこからか、
もずの鳴き声が聞こえてきた。「源殿に、恩返しに来たとは、
言わなかったのじゃな?」「わざわざ言ったりしたら、
恩着せがましいでしょう?」「源殿は、その幼き日を
思い出したのではないかの。
そして、幼かったとはいえ、
とんでもない事を
願ってしまったと、
悔いたのでは。」「悔いた?どうして?」
「うむ。
ぬしがポンなんとやらであれば、
術は使えぬはず。
なれど、こうして女子に化けた。
どの様な事があったのかは
分からぬが、
その苦労は、並大抵では
無かったはずじゃ。」「苦労なんて、源さんの
笑顔一つで、忘れます。
第一、そんな覚え、無いし。」「そうじゃの。
だが、ぬしは、拗ねて
山に帰ったのであろう?
己の思いが満たされぬ故。」「それは、そうです。」
「ポンなんとやらであろうが、
キツネであろうが、
帰る所があるのなら、
そこで暮らすが一番と、
源殿は思い至ったのでは
ないかの。
ぬしを思った上での事と、
わしには思えてならぬが。」「でも、追いかけて来て
欲しかった。
探しに来て欲しかったの。
あの時みたいに。」
https://www.youtube.com/watch?v=6PHJkZP8aO0「気持ちは分からぬでは無いが。」
「甘えてたんですね。私。」
「恩返しであれば、
すでに果たしたのでは。」「果たした?」
「源殿の孤独は癒された。
ぬしによって、もう充分に。
そして、ぬしの面影を宿す、
“人”の女子と結ばれる。
晴れて、男になったのじゃ。
一人前のな。」「私の役目は、もう終わり?」
「源殿は、幸せになろう。
それは全て、ぬしのお蔭じゃ。
そうよ。
ぬしの手柄じゃ。
胸を張って、誇れば良い。
そして、次は、ぬしが
幸せをつかむのじゃ。」「今度は、私が。。。」
それから、源三郎とどんぎつねは、
また、長い間、黙っていた。夕日が西の空を赤く染め始めた。
「昨夜は、ぬしも眠っておらぬ。
疲れておろう?
今宵はゆるりと休まねば。
もし、障りが無ければ、
屋敷に来ぬか?」「屋敷に?源三郎さんの?」
「わしの親代わりの方の屋敷じゃ。」
「でも、ご迷惑では。
何処かにお稲荷さんのお社は
ありませんか?
私は、そこで。」「稲荷神社はあるにはあるが、
高山との国境の山の奥。
今から向かうは、あまりにも無謀。
山には、熊もおる。
もっと恐ろしいのは、熊打ちじゃ。
今は収穫の時。
畑を荒らすきつねやむじなでさえ、
あやつらは容赦せぬ。
ぬしのみごとな尻尾をみれば、
必ず、狙うであろう。
その様な所へ、行かせる訳には
いかぬ。」熊打ちと聞いて、
震えあがったどんぎつねは、
源三郎に付いて行く事にした。源三郎は、久方ぶりに、
旧友が旅の途中に立ち寄ったと、
当主の千原元次に伝え、
どんぎつねを自室に通した。
自ら、夕餉の膳を運び、振る舞う。
どんぎつねは、膳のものを
美味しそうに残さず食べた。そこへ、元次が酒を手に
やって来た。
どんぎつねは、咄嗟に几帳の陰に
隠れる。源三郎は、冷や汗をかきながら、
迎えた。「これば、これは。
如何なされましたか?」「いや、ぬしの友なれば、
一献、進ぜようと思うての。
おや、何処におられる?」元次は、遠慮もせずに、
部屋を覗き込む。「長旅の途中にて、
大層疲れておる様で、
すでに、床につきまして
ございまする。」「さようか。」
いささか、不服そうな元次を、
源三郎はさりげなく、
外廊下に誘い出す。「されば、それは、私が
頂戴いたしましょう。
今宵は、満天の星。
庭の虫の音に耳を澄ますのも、
一興にて。」元次は、源三郎の誘いに、
気を取り直し、外廊下に座ると、
盃を酌み交わし、星を眺めた。「こうして虫の音を聞いておると、
昔の事ばかりが、思い出される。」「それは、どの様な。」
「やはり、子らの事かの。
しかし、今はこうして
ぬしがおる。
ありがたき事よ。」「この源三郎、肝に銘じて、
励みまする。」「若き頃には、妻と共に、
よう星を眺めた。」「奥方様は、私の様な者にも、
良うして下さいました。」「あれには、苦労をさせた。
優しい言葉の一つも
かけなんだのが、悔やまれる。」「何を申されます。
睦まじい夫婦と評判の仲で
あられたものを。」「左様であったかの。」
元次は、まんざらでもない様子で、
盃を重ねる。やがて、なにやらそわそわと、
落ち着かない源三郎の様子に、
こう言いつつ、腰を上げた。「これは、したり。
長居をした。許せ。
ぬしも早う、良き
嫁御を迎えねばのう。」“良き嫁”
その言葉に、思わず、しなやかな
尻尾を思い浮かべてしまい、
源三郎は、それを払うように
激しく頭を振りながら、
部屋に戻った。そっと、几帳の陰を覗くと、
どんぎつねは、膝を抱えて丸くなり、
小さな寝息を立てていた。”きつねと聞けば、
確かにそうじゃ。
そう、この者はきつねじゃ。”源三郎は、己にそう言い聞かせる。
しかし、知らず知らずのうちに、
頬は緩んでしまうのだった。几帳を部屋の中程に移し、
その横に夜具を延べる。
抱え上げたどんぎつねを、
その上にそっと下し、
薄手の綿入れを掛けると
また、外廊下に出て、
部屋の障子を閉めた。まだ秋とはいえ、夜半は冷え込む。
源三郎は、夜具を体に巻き付け、
柱に寄りかかって目を閉じた。屋敷の者も、皆、寝静まった頃、
源三郎は、苦しそうなうめき声で、
目を覚ました。
それは、障子越しに聞こえて来る。
源三郎は、迷うことなく
部屋に入った。「如何なされた、どんぎつね殿」
どんぎつねは、苦悶の表情で、
唇を噛みしめ、低く唸っている。
手足を縮め、耳は硬直し、
豊かな尻尾の毛が、針の様に
鋭く尖り、逆立っている。
何よりも驚いたのは、
膨れ上がった、尾の先が、
裂け始めている事だ。“これは、どうしたことじゃ!
何故、このような事が!“「どんぎつね殿!
どんぎつね殿!」血のにじみむ唇から、
悲し気な声が漏れる。「来ないで。
私から、離れて。
そっと、そのまま後ろに
下がって。
背中を見せちゃ、駄目。
でないと、私、
貴方を噛みこ・・」その時だった、この刻限には
見えるはずのない天の川が、
夜空に現れたかと思うと、
それは、源三郎に向かい
流れ下りてきた。
そして、たちまちのうちに、
どんぎつねを飲み込むと、
一瞬のうちに消えてしまった。星屑のような光の中に、
源三郎は、白狐の鋭く光る眼を見た。「どんぎつね殿!!!」
源三郎は必死で叫ぶが、
それは声にならない。
まるで、魔術にかかった様だ。
源三郎は、足の力を奪われ、
追いかける事も出来ず、
崩れる落ちる様に、
その場に倒れ込んだ。~~~~~~
「源三郎、早いの。
何処へ行くのじゃ?」「若君の朝のお世話に。」
「早すぎはせぬか?」
源三郎は、思い詰めたまなざしで
立っている。「いや、留め立てはせぬが。
されど、客人は?
誰ぞに接待を
申し付けたのか?」「すでに、旅立ちまして
ございまする。」「なんと。」
「元次様に、ご挨拶も
致しませず、
私が代わりに御詫び
申し上げまする。」「まあ、よい。」
青白い顔の源三郎を見て、元次は、
深くは尋ねずにおいた。“久しぶりに会うたと聞いたが、
仲違いでもしたのであろうか?“気になりながらも、元次は、
屋敷の奥に戻った。源三郎は、とても自室で
過ごす気にはなれなかった。たった二日間ではあるが、
信じがたい事が立て続けに起こり、
己を保つ事すら、危うい。特に、昨夜の一件は凄まじかった。
明け方、吹き込んだ風の冷たさに、
我に返った源三郎は、
几帳を見つめ、己に言い聞かせた。“あれは、夢じゃ。“
この向こうには、
愛らしいどんぎつねが、
すやすやと眠っておる。
必ずおる。両頬を叩きながら、
我が身を奮い立たせ、
几帳を外した。
だか、そこに有ったのは、
蝉の脱け殻の様な、
夜具だけだった。枕元に何かが落ちている。
源三郎は、それを、
そっと、拾い上げた。
それは、昨日、花園で
どんぎつねに差してやった
萩の小枝だった。源三郎は、その小枝に頬を寄せた。
涙が一粒、朝露の様に
花を濡らした。昨夜の出来事が、繰り返し、
思い出される。
若君の部屋の外廊下に坐した後も、
源三郎は、悔やみ続けた。どんぎつねが思いを
断ち切る為には、
壮絶な苦しみに
耐えねばならなかったのだ。それを、昨夜、まざまざと
見せつけられた。あまりにも、”もののけ”と
いうものを知らなかった
自分を責めた。外廊下に、朝の光が強く差し込む。
若君の起床の刻限がせまっていた。源三郎は、我に返り、
障子越しに声をかける。「若君様、お着替えを。」
「入れ。」
若君は、部屋の中央に
座っていた。源三郎は、水を張った手洗を
その前に置く。
洗顔を終えた若君から、
手拭いを受けとり、
面を上げた若君を見て、
源三郎は、驚いた。「如何なされました?
お目が腫れて。」「そう言うお前も、
眼が赤いが?」実は、若君も、眠れぬ夜を
過ごしていたのだ。
ただじっと、
唯の写真だけを見つめて。
”今頃は、腹を立てておろうの。
わしのたばかりを。”後一度しか使えない
タイムマシンの起動スイッチを
二度使えると言い、忠清は
唯を平成へ帰したのだった。忠清は、月下美人を
寝所に入れ、まるで共寝を
するように、その香りに
包まれて眠るが常であった。ところが、その鉢は、
次の間に置かれたままだ。「何事があった?」
「若君様には、
如何されましたか?」「この世の不思議を・・・」
「この世の不思議を・・・」同じ言葉に、二人は、
顔を見合わせる。
しかし、それ以上は
言葉にできず、ただ、
その場に座っていた。どれ程、経っただろうか。
小平太が、足音を立てながら、
やって来た。「若君様、見まわりの刻限に
ございまする。」部屋の中をみて、小平太は、
声を張り上げた。
若君は、まだ、髪さえ
結い上げていない。「何をしておるのじゃ、
源三郎!
早う、整えて差し上げよ。」その夜、若君は、夕餉を
源三郎、小平太と共に
摂る事にした。三人で酒を酌み交わす。
小平太は、一人、
高山との戦の備えを語っていた。
若君と、源三郎は
静かに盃を傾けながら、
夜空を見上げる。清らかな瞳の様な、
大きな星が一つ、
尾を引きながら、
流れて消えた。[no.627] 2021年6月7日 20:17 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days25~30日火曜14時、もてなします
ゆる~く進む平和な日常を楽しんで欲しい。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅リビングに唯と尊。
唯「明日ってさ、バーベキューパーティーじゃん」
尊「うん。何の確認?」
唯「パーティーならさ、飾り付けしなきゃじゃない?」
尊「あ、そうか。お二人をご招待だから、おもてなししなくちゃだね」
唯「前回の手巻き寿司パーティーの時はさ、ご招待を聞いたのがその日だったから、何も準備できなかったし」
尊「特にお姉ちゃんは、プレゼントもらってるしね。そりゃあ張り切って用意しないと」
唯「えー、手伝ってよぅ」
尊「勿論手伝うけど。今回外でやるからなー。どうやって飾ろう?」
覚が食卓で、明日用の買い物リストを作成中。若君が、隣で説明を聞いている。
覚「肉はね、塊を用意して、じっくり焼くんだ」
若君「なるほど。丸いコンロでですね?」
覚「そう。焼く時間も、前回を参考にやるよ」
若「お父さんの手順、学ばせて頂きます」
唯がスマホで検索している。
唯「あのさ、よくテントとかに付けてある、三角がいっぱいつながってるヤツ、良くない?」
尊「あー、運動会ではためいてるヤツみたいな?」
唯「うん。ヤツの名前がわからないけど」
尊「テント、三角、飾りで見てみたら?」
唯「わかった。…へー、ガーランドって名前なんだ」
尊「どれどれ。ほー、いい感じ。作り方載ってる?」
唯「うん。えーっと」
覚がやって来た。
覚「おーい、今から明日のパーティー用に、仕入れに出かけるぞ」
唯「あ、はーい。尊、なんかね、折り紙と紐さえあれば良さげだよ」
尊「その二つならスーパーにも売ってるから、今一緒に買えばいいよね」
唯「決まり!それでいこー」
若「何やら話し合うておったの」
唯「たーくんは、料理をがんばる。私と尊は、飾り付けをがんばるのだー」
覚「もてなそうという気持ちは、中々いいぞ」
スーパーで買い物中。
唯「お肉が大きい、しかも幾つもあるぅ!」
覚「たくさん用意しないと、唯に食われちゃってお客様に回らないからな」
唯「うっ」
尊「お上品には程遠いから」
唯「ううっ」
若「そういえば、芳江さんもエリさんも、唯はいつでも姫であって欲しい、と申されておったのう」
唯「うううっ」
尊「大袈裟だなあ。人並みに食べてれば済む話じゃん」
唯「人並みがわからない」
尊「これだから。やっぱり、帰る頃にはかなり太ってるよ」
唯「やだー。あんまり太ると」
若「なんじゃ?」
唯「お姫様抱っこしてもらえなくなる」
尊「なんでそこだけ、姫を強調なんだよ」
カートが、2台になった。
覚「買い忘れはないかな。メモはと」
尊「すごい、なんかバラエティ豊かだね」
若「折り紙が入っておる。また、工作をするのか?」
唯「うん。前回のとはまた違うからね」
若「ほぅ」
尊「あれ?お父さんが居ない」
唯「ホントだ。どこ行った?」
若「思い出した物でも、あったのかのう」
覚「あーごめんごめん、ただいま」
唯「え?それ生クリームだよね。お菓子でも作るの?」
覚「母さんに用意するよう頼まれてたのに、メモし忘れてたんだ。危なかったな~」
尊「生クリーム指定で?」
覚「あー。あとの材料は家にあるから。なんかな、芳江さんが、アイスクリームを作るグッズを持って来てくださるらしいんだ」
唯「やったあ!アイス~」
尊「グッズ、ってなんだろう。アイスクリーム製造機的な?」
覚「母さんによると、楽しみにしてて、とはおっしゃってたらしい」
唯「へー」
覚「そうだ尊」
尊「何?」
覚「今日は、日焼け止めは買わなくていいか?」
尊「うわっ、まだ在庫あるんで…」
覚「ハハハ。じゃあ会計するか」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
明日も朝から忙しそう。
30日のお話は、ここまでです。
[no.626] 2021年6月5日 20:12 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days24~29日月曜8時、君はプリンセス
娘同様にかわいいのでしょう。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅覚と子供達三人、庭で朝の涼しい内に、昨日使ったバーベキューグッズの片付けの続きや手入れをしている。
覚「明後日すぐ使うにしても、ある程度は綺麗にしとかないと」
若君「準備も兼ねてですね」
唯「あっまだゴミがあった」
尊「タープは隅にまとめとけばいい?」
覚「あぁ」
家の中から声がする。
美香子「唯~」
唯「え?なに」
美「ちょっとクリニックに来てー」
唯「へ?」
唯がクリニックに入ると、エリと芳江がニコニコ顔で待っていた。
唯「おはようございまーす」
エリ「おはよう、唯ちゃん。朝からお手伝いしてるのに、呼びつけてごめんなさいね」
唯「ううん」
エ「唯ちゃんにプレゼントしたい物があるの。喜んで貰えると嬉しいけれど」
唯「えっ?今日ってなんか記念日だった?なに?」
手にはワンピース。二着ある。
エ「僭越ながら、作らせていただきました」
唯「えーっ!」
美「素晴らしいわよね」
唯「えっ、なんで?」
エ「若君が、料理を頑張っているのに感化されて。久々に趣味の洋裁をやろうと思ったんですけどね、何作ろうかしらと考えた時に、せっかくだから若君つながりで、彼が喜びそうな物にしよう、唯ちゃんに夏のドレスはどうかしらって」
美「私がね、相変わらず色気のない服ばっかりで、って少し愚痴ったのを覚えててくださってたのよ」
唯「でもオムレツ作ってから、そんなに日にち経ってないよ?」
エ「二着とも同じ形だから早く出来たの。大した物じゃなくてごめんなさいね」
唯「大した物だよー、すごーい」
二着ともノースリーブで膝下位の丈。裾に向かってAラインにふんわり広がっている。一枚は白無地で所々レースがあしらわれている。もう一枚は同じく白地だが、全体に大きいヒマワリの柄入り。
唯「順番に着てくる!」
空いている病室に駆け込み、サッと着替えた。まずはレースの方。
唯「すごいお上品~」
美「ハイジの下着みたいでかわいい」
唯「ハイジ?この形だとリトルミイでしょ。赤くはないけど」
もう一枚のヒマワリ柄。
唯「こっちもかわいいー。夏って感じ!」
エ「お似合いで良かったわ。唯ちゃんって、私のイメージはヒマワリなの。だからこの柄にしました」
芳江「それでね、唯ちゃん」
唯「はい」
芳「私からもプレゼントがあるの」
唯「え!なにその大盤振る舞い!」
芳「実は、布はエリさんと一緒に選びました。で、私は服作りは無理だから、出来上がりを想像して、似合いそうなこれを」
手にした箱から、サンダルが出てきた。
唯「キャー!超かわいい!今履いていい?」
美「ちょっと忠清くん呼んで来るわね」
真っ白で華奢なデザイン。ベルトにラインストーンが付いており、光に煌めく。そして若君が登場。
若「失礼します、おはようございます。あっ」
唯「たーくん!エリさんと芳江さんにもらっちゃった!」
若「おぉ」
唯「可愛いかろ?」
若「あぁ。唯が綺麗に咲いておる」
エ「咲くだなんて、さすが若君ね~」
芳「こちらがうっとりしちゃうわ~」
唯「やーん、これでばんばんデートに行かなくっちゃ!まずはあさって?」
美「いや、それは止めて。バーベキューは汚れてもいい、いつもの格好で」
唯「わかった。ん、ちょっと待て、いつもの格好はいい加減だって言ってる?」
美「それは残念ながらその通り。だから、母心でワンピースを頂けたのよ。唯がもっとオシャレな子だったら、こんな事は思われない」
唯「複雑だなぁ」
エ「唯ちゃんは今でも充分可愛らしいけれど、母心としては、よりかわいらしい姿を見たいとは思います」
芳「あちらでは、お姫様でしょう?是非こちらでもお姫様で居てね」
唯「はぁい」
若「唯、そろそろ開院じゃ。邪魔になる。参ろう」
唯「そうだね。たーくん、もう一着あるの。向こうで見せるね!エリさん芳江さん、ありがとうございました!」
若「ありがとうございました」
エ&芳「いえいえ~」
二人が出ていった。
美「あーあ、サンダル履いたままで」
芳「ふふっ、一応新品ですから」
エ「しかし、今日もいい表情見せてもらいました。若君には」
芳「今日は何と書いてありました?私は、ドキドキ…かな?」
エ「私はキュンキュン、と読みました」
美「お二人とも、もしかして忠清くんのその表情が見たくてご用意頂いた?」
エ&芳「はい」
美「ふふっ、どこまでも一番人気ね、忠清くん」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
29日のお話は、ここまでです。
[no.625] 2021年6月3日 19:25 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days23~28日日曜11時、屋根まで飛んだ
つい、目で追ってしまう。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅覚「ペグは、斜め下に向かって打ち込むんだぞ」
尊「うん。あれ、全然入っていかない」
唯「非力過ぎるー」
若君「尊、代わろう」
尊「すみません。兄さんお願いします」
昼ごはんは、水曜の予行練習を兼ねてバーベキュー。まずはタープを設置して日陰を作った。
唯「たーくんお疲れさま。日陰はやっぱ必要だねー」
覚「炎天下ではな。暑さは少しでもしのがないと」
唯「まっ、家に一歩入れば涼しいけど」
美香子「そういう逃げ道は基本的にナシよ」
尊「そういえば兄さん。令和の夏って、永禄より断然暑くないですか?」
若「暑いのう。それは前に参った折も、そう思うておった」
尊「気温も低かったみたいだけど、昔はもっと緑が多かったし」
美「そうよね。今はエアコンの熱とかアスファルトの道路とかで、気候以上に暑いわよね」
唯「もうさぁ、すっかり体が現代の暑さ忘れててさぁ、ダラダラしちゃうよ~」
覚「ダラダラは今に始まった事じゃないがな」
蝉の合唱の中、バーベキュースタート。金網の上が色とりどりになっている。
尊「野菜も肉も、こうして串に刺さってるのがいかにもバーベキューだし、より美味しく感じるね」
美「パプリカも玉ねぎも甘いわよ~。ウィンナーももう良さげよ」
唯「焼きとうもろこしどうかな?この醤油の焦げ具合がなんとも…いいっ!いただきまーすっ」
覚「はぁ~ビールがうまい。忠清くん、遠慮してると唯に全部食われちゃうぞ」
若「この戦では、唯には到底勝てませぬ」
覚「ハハハ、最初から白旗か。量は充分用意したから大丈夫だけどな」
テーブルの上にカセットコンロ。鍋が置かれた。
覚「汁物もないとな」
唯「中身なにー?」
覚「餃子のスープ」
若「あの餃子が汁に、ですか」
美「ワンタン風?」
覚「そうだ。もうすぐ出来るから」
丸型のバーベキューコンロから、いい匂いがしてきた。
尊「これが気になってしょうがない、絶対美味しいのが入ってる」
覚「そろそろいいだろ。開けてみろ」
中から、こんがり焼けた肉の塊が登場。
唯&尊「やったー!」
若「おぉっ」
覚「今切るから。おっ、いい感じに中まで火が通ったな。時間もこのくらい、だな。よしよし」
美「予行練習にしては豪華ね」
覚「当日失敗したくないからな」
唯「毎日予行練習がいいなー」
スープ出来ました。
美「忠清くんの作品が見事変身ね」
唯「あっついよー」
覚「暑い時こそ熱い物だ」
若「お父さん、とても美味しいです」
覚「上手に作ったモチモチの皮が活きてるよ」
鉄板の上が、焼きそばの山に。豪快に炒められていく。
尊「そういえば昨日食べたばっかりだね」
覚「だから醤油味にしたんだ」
唯「さっすが~、考えてるぅ」
すっかり食べ終わりました。
覚「は~、極楽極楽」
美「ほろ酔いね」
唯「ウチの家族って、すぐ極楽って言うなあ」
美「そう思えるって幸せよ」
尊「そういう事」
唯「そうだ、そろそろアレやろっ」
尊「あー、シャボン玉?」
美「あら懐かしい。昔ながらのストロー式のと、この輪っかは…あぁ、液に浸けて大きいのを作るのね」
唯「売場には、バズーカみたいにババーっと出るのもあったけど」
覚「今はそんななのか。それはついていけない。このストローのが風情があっていい」
唯「じゃあお父さんにそれあげる。私輪っかのでやるから」
覚「おっ、ありがとな。何十年振りだろう」
若「花火と共に買うた物か?」
唯「うん、そう。じゃあたーくん行くよ!ご覧あれ~」
シャボン液に浸した輪っかを大きく振る唯。軌道に乗って、無数のシャボン玉が飛び出し、ふわふわと舞う。
若「これはなんと美しい…一瞬にして生まれるとは」
美「綺麗ね~」
唯「わー、楽しーい!」
尊「お姉ちゃん貸して、僕もやりたい!」
覚の吹くシャボン玉と尊の振るシャボン玉。全てが太陽の強い光を反射して、虹色に煌めく。庭全体が夢の世界のように。
美「極楽浄土って、こんな感じかしら」
若「…」
尊「兄さんもどうぞ」
若「あ、あぁ。良いのか?」
刀を抜くように振る若君。シャボン玉は屋根に向かっていく。
唯「おっ、いい感じ~」
若「随分飛ぶ物よのう」
美「お父さん、そのシャボン玉吹く姿、なかなかかわいいわよ」
覚「そうか?おーい、こっちのストローのは、僕だけやってていいのか~?」
尊「いいよ、だって酒臭いでしょ」
覚「あ、そうか。ハハハ」
暑さを忘れるひとときでした。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
平和の象徴のよう。
28日のお話は、ここまでです。
[no.624] 2021年6月1日 20:34 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days22~27日土曜18時、あの頃の私と僕
遅くなりましたが、アシカフェ2周年おめでとうございます!
投稿されている_〆(・ω・。)皆様にも、こっそり?(/ω・\)閲覧を楽しまれている皆様にも、ずっと心安らぐ地でありますようにと願います。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅初めて観ても郷愁を誘う、それが祭。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅美香子「町全体がウキウキしてるのを肌で感じながらそぞろ歩くって、いいわね~」
今日は、地元のお祭り。商店街で開催されるため、家族全員プラプラ歩いて移動中。
覚「まだまだ暑いなー」
美「あ、唯、もしかして浴衣着たかった?」
唯「ううん。毎日着てるようなもんだし」
尊「確かに」
唯「そういえば尊は持ってるじゃん、浴衣。いかにも旅館の備品な感じの」
尊「うぇっ」
覚「なんだその反応は」
唯「私が初めてタイムマシン使った時、自分が飛ぼうと思ってたみたいで、そんな変なカッコしてた」
若君「そのような支度をしておったのか」
尊「僕は、心の底から、あの時戦国に飛ばなくて良かったと思ってる」
唯「ホントだよー。尊があんな所に行ってたら…」
美「そうね…戻る事なく、こちらは何で尊が行方不明かわからないままで」
尊「戻れないって決めつけられてるけど、まぁきっとそうだったんだろな」
唯「怖っ。第一、それじゃたーくんに会えないしさぁ。ホント、飛ぶ前に止めて良かったよ」
若「ん?」
唯「なに?」
若「止めたいきさつはわかったが、では何ゆえ唯が刀を抜いたのじゃ?」
尊「それはですねぇ、お姉ちゃんの制服の袖のボタンに僕の脱いだセーターが引っかかりまして、起動スイッチを小刀だと勘違いしたお姉ちゃんが、セーターを切ろうとしたからなんです」
若「そうであったか。いや?どうして引っかかるのじゃ」
尊「そういえばそうだ。床に置いといたのに」
唯「それでスマホの画面拭いたから」
尊「げっ!人の服で?知らなかった!ホントやる事なす事めちゃくちゃだよなあ」
若「何ともはや…。それに、もし切れておればセーターに穴が空くではないか」
尊「その状況からして、お姉ちゃんがそんな事、気にすると思います~?」
若「…うつけ者じゃ」
尊「うつけ者。正解!そういえば織田信長も、確かそう呼ばれてたなあ。一緒じゃん、お姉ちゃん」
唯「やだ、嬉しくなーい!」
商店街に着きました。人出が多く、賑わっている。
美「この夕暮れの雰囲気がまたいいわね~。わくわくする」
覚「祭と聞くと血が騒ぐ、か?」
美「DNAに組み込まれてるのよ。いや、楽しいのはそれだけが理由じゃないわよ」
覚「家族で来てるからか?」
美「そうよー。まさか子供達がこんなに大きくなってから、一緒に来るなんて思ってもみなかったでしょ?」
覚「唯は友達と出かけてしまうし、尊は家から出なかったからな。確かにそうだ」
お神輿が、ワッショイ!ワッショイ!のかけ声と共に次々と通っていく。
若「勇壮じゃの」
唯「あー、これ見ると本格的に夏だなって感じー」
若「これは、五穀豊穣を願ってであろう?」
尊「そうですね」
若「里の者達が、一つになっておるのが良い」
法被を着た子供達が、横をすり抜けて行く。
若「子らも何かを?」
唯「うん、子供のお神輿もあるの」
若「ほう」
唯「町の子供たちは大抵一度は参加するよ。私や尊も、小さい頃に一緒にかついだ事あるんだよ」
尊「僕はすごく嫌だったけど」
若「何ゆえ?」
尊「ウチの子供が~って、親が張り切って応援するのが恥ずかしくて。両親見てると、なんとなくわかりません?」
若「ハハハ。かわいい娘と息子の晴れ舞台じゃからの。お父さんお母さんの様子が目に浮かぶ」
尊「その時の写真、アルバムになってるんで、帰ったら見ますか?」
若「それは是非に」
神輿が神社に入って行き、祭も佳境に。
唯「お腹空いてきたなぁ」
覚「食べてくか?」
唯「食べたい物買って、家で食べようよ」
美「へー。今すぐじゃなくていいなんて」
唯「早いトコたーくんを隔離したいから」
尊「あー。お神輿の次くらいに視線を集めてる気はするね」
覚「じゃあ、忠清くんの安全のために、どーんと買い込んで帰るか」
若「それで良いのか?」
唯「知り合いに会うと説明が面倒だし。全然OKだよ」
帰宅しました。お好み焼きやら焼きそばやらが食卓に並ぶ。
尊「兄さん、これがお神輿かついだ時のアルバムです」
若「おぉ、早速済まぬのう」
小さくてかわいい唯と尊の写真が続く。
若「実に愛らしい」
唯「それ見て~、尊の微妙な顔!」
美「写真をお箸で指さない!」
尊「恥ずかしいのに、すごく近くから撮ってたからかな」
唯「よいしょ。たーくん、はい、あーんして~。あっ」
美「唯~、もう!」
覚「焼きそばそんなに掴んだら、落ちるに決まってるだろ?」
若「唯、食事は写真を見終わってからでよい」
唯「そぉ?」
尊「ホントやりたい放題だよ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
食べ物は大切にしましょう。
27日のお話は、ここまでです。
[no.623] 2021年5月30日 18:49 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days21~26日金曜14時、イケメンシェフ再び
腕はメキメキ上がる。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅スーパーに、覚と子供達三人で来ている。
唯「あー涼しい」
覚「涼む場所じゃないぞ」
唯「わかってるけど気持ちいいもん」
カートには、野菜が既に入っている。
尊「ニラか…。わかった!今夜、餃子?」
覚「おー、さすが勘がいいな」
若君「餃子…食した覚えがあるような」
覚「忠清くんは筋がいいから、ちょっと高度な事に挑戦してもらうよ」
若「高度、ですか」
粉物売場。カートに入れていく。
唯「小麦粉?何個も?」
覚「ざっくり言えばそうだが、種類が違う」
唯「へー」
帰宅しました。
覚「まずは、野菜やキノコを細かく切ろう」
若「はい」
順調に、餃子のたねが準備されていく。
覚「唯、尊」
唯&尊「はーい」
覚「これ全部混ぜて、こねてくれ」
尊「わー、たくさんあるね」
唯「わかったー」
覚「忠清くんは次の作業な。餃子の皮を作ってもらう」
若「皮、をですか」
薄力粉と強力粉と塩を混ぜ、練って、生地を寝かせる間にスープの用意をして。
若「お父さんは、これを毎度一人で仕切っておられるとは」
覚「皮は毎回作らないから。でもなんとかなるもんだよ」
若「感服致します」
皮が一枚ずつ出来上がりつつある。たね再登場。
覚「ほれ、お前達座って。包み始めろ」
唯「わかった。わぁ、皮伸びるー」
尊「なんかすごい量になりそうだけど、今日全部食べるの?」
覚「いや、残りは冷凍する。日曜のバーベキュー分だ」
唯「そうなんだー、やったぁ」
覚「だから今日食べきらないようにな、唯」
唯「なんで指名~」
尊「当然でしょ」
若「ハハハ」
そろそろ晩ごはん始まります。
美香子「まぁ~。忠清くん頑張ったのね、すごい量」
若「お父さんのお力添えのお陰です」
尊「ホットプレート、温め始めていい?」
覚「いいぞ」
全員席に着きました。ホットプレートが単独で仕事中。
覚「蓋開けるぞ」
若「皮が破れていなければ良いですが」
覚「破れるのは、包み担当の腕だから気にしないで」
餃子完成。
唯「うわぁ、めっちゃ美味しそう~」
美「皮がツヤツヤに光ってる。綺麗ね」
若「確かに、輝いております」
尊「もう食べていい?」
覚「いいぞー」
いただきまーす。
唯&尊「うまい!」
美「美味しい!中身も勿論だけど、皮がすっごいモチモチよ」
覚「忠清くん、食べてみてどう?」
若「美味しいです。されど味付けはお父さんの指南通りでしたし、混ぜたのは唯ですし、わしの腕ではありません」
覚「皮は忠清くんの独壇場だったよ」
若「上手く出来て嬉しいです」
美「忠清くん…また来週も料理、楽しみにしてていい?」
若「はい、勿論です」
美「嬉しい。ね、お父さん」
覚「あぁ。前回、また来週も作ってねが言えなくて、少し淋しかったんだ」
若「そうでしたか」
尊「毎週金曜は兄さんシェフの日、でいいんじゃない?あと二回はあるし」
唯「おーっ」
覚「ちゃんと手伝えよ?」
唯「うん。週一くらいなら」
若「いや、手伝うのは毎日じゃ」
尊「見事なツッコミ~」
覚「尊も手伝えよ」
尊「はーい」
美「うふふ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
団欒って、いい。
26日のお話は、ここまでです。
[no.622] 2021年5月30日 14:29 梅とパインさん 返信[no.621] 2021年5月29日 15:44 妖怪千年おばばさん 返信月食 ~ドラマ・満月よ、もう少しだけ 番外編~
スーパー月食は
見られませんでしたが
こんな物語を妄想しました。
梅とパイン様
源三郎さん、お借りします。
(*^^)v m(__)m
********************
お袋様の言葉に力を貰い、
先走り過ぎた自分を悔やみつつ、
唯は若君の元へ向かった。
忠清の部屋の障子は、
閉じられている。“もう開くことは無いのかな。”
不安に苛まれ、唯は、
直ぐには声をかけられない。“怒髪衝天“
四文字熟語は得意じゃない。
でも、今はこの言葉が、
くっきりと頭に浮かび、
ぐるぐる回る。まさに、夕べの若君そのものだ。
部屋の様子を伺う唯の足裏に、
尖った小石が突き刺さった。
草鞋を履く間も惜しんで、
飛び出してきた唯だったが、
小石一つの事で、
心が折れそうになる。「痛!」
唯は、思わず声を上げた。
すると、突然、障子が開いた。姿を見せた忠清に
話しかけようとするが、
緊張のあまり、喉はカラカラ。
舌も固まって動かない。“私がこれから伝える事は、
確実に若君様を傷つける。
でも、言わなきゃ。
今、直ぐに。“唯の葛藤には気づきもせず、
昨夜、声を荒らげた事を詫び、
若君は、その場を去ろうとする。“待って!
大切な話が!
実は、、、成之様が。。。“~~~~~~~~~~
「おや、泣いたからすは、
もう笑うたようじゃの。」戻って来た唯に、
お袋様はそう言って微笑みかけた。「夕べは寝ておらんのであろう?
城へは三之助を使いに出した故、
しばし、横になりなされ。」言われるままに、唯は、
敷かれた夜具に潜り込む。兄の陰謀を予見していたのか、
高山と成之のたくらみを知っても
若君は動じなかった。むしろ、意外だったのは
若君の言葉の方だ。“今一度、女子姿を
見せてはくれまいか。“平成に戻る唯を見送ろうと
言ってくれた若君の、
まさかのリクエスト。その言葉に心が沸き立つ。
まるで、台風の後の
青空の下にいるようだ。
唯は、なかなか寝つけず、
寝返りばかりを繰り返した。暫くして、
三之助が戻ってきた。寝落ちした唯之助の顔を
覗き込み、笑い出す。「唯之助が涎を
垂らしておる!」「これ、その様に笑うでない。」
三之助を諌めながら、
吉乃もつい笑みをこぼす。「甜瓜をもろうた夢でも
見ておるのかのう。」それを聞いた孫四郎が、
唯の枕元で囃し立てた。ま、ま、まくわうり、
そっちのうりは、苦いぞ、
こっちのうりは、あまいぞ~♪その時、夢の中で、唯は
しとやかに若君の後を
歩いていたのだが、
振り向いた若君の顔が
大きな甜瓜だったので、
ビックリ飛び起きるやいなや、
“まくわうり!”
と絶叫する唯を見て、
三之助と孫四郎の笑いが爆発した。まだ明るい空には、うっすらと
甜瓜色の月が浮かんでいる。
まるで賑かな離れ座敷を
温かく見守るかの様に。~~~~~~~~
翌日、暗いうちから
起き出した唯は、厨に立ち、
お袋様や三之助たちの
朝餉を整えた。
平成に戻る前に、少しでも
感謝の気持ちを伝えたかった。粥が炊き上がると、
一口だけ味見をし、厩へ向かう。いつもなら気の重い馬糞の始末さえ、
今日は、軽々とこなせる。「唯之助ではないか。
もう、 具合は良いのか?」馬番頭が声をかけてきた。
「はい。もうすっかり。
昨日の分まで働きます!」「良い心がけじゃ。」
「颯の寝藁を替えて来ますね。」
ぐったりした唯之助が、成之様に
抱えられていたと噂に聞き、
馬番頭は、内心、案じていたのだ。
それを見た若君様が激怒したとか。にもかかわらず、今朝の唯之助は、
いつもより溌剌として見える。
その後ろ姿を、
頭は、目を細めて見送った。厩の仕事に追われ、気が付けば、
日が傾きはじめていた。「いけない。
早くあやめ姐さんの所へ
行かなくちゃ。」唯は、足軽の衣しか持っていない。
おふくろ様に相談すれば、
用意してくれたかもしれないが、
女子姿で、小垣の寺に
忍び込んだ事は、
知られたくなかった。そこで、城下にある
芝居小屋の衣装を、また
借りる事にしたのだ。
衣装選びに、着付けにお化粧。
女子姿には何かと時間がかかる。
ふと、体についた馬の匂いが
気になった。
湯浴みは出来なくても、
せめて、汗は拭いておきたい。“ウェットティッシュ、
残ってたかな。“直ぐにも城下に
駆け出したかったが、
唯は、一旦、居候中の
天野家の離れ座敷に戻る事にした。平成から持ってきた
リュックの底を探る。
目当ての汗拭きティッシュは
干からびていた。“まあ、濡らせば、使えるかも。”
もう一つ無いかと、動かした指先に
何かが当たった。“ん?”
直ぐに取り出す。
出てきたのはなんとも意外なもの。“どん兵衛きつねうどん?!”
これ、入れたっけ?
あ、もしかして、尊が?途端に、唯のお腹が大きく鳴った。
そう言えば、
今日食べたのは、粥一口。
あやめさんの所で着付けした後に、
戻って夕餉をとる時間は無い。
それに、女子姿は、
若君だけにしか見せたくなかった。厨の棚の影で湯を注ぎ、三分待つ。
出汁の匂いが食慾をそそる。
そっと蓋をあけ、立ち上る湯気に
思わず頭を下げた。“尊~、ありがとう~!”
頭を上げた唯の目に、
何かが写った。“えっ?何?”
二つの耳の先が、ピクピク動く。
“もしや、むじな?”
「いえ、きつねです。
ゆいさんですか?」「は?あ、はい。
確かに私、ゆいですけど。」目を擦りつつ、唯は、
突然現れた影を、
まじまじと見つめた。“どこかで、見たことある様な。
あ、もしかして、ど!“「そうです。
どんぎつねです。」“な、何故、ここに!
ここは、ドラマでCMじゃない!“「突っ込むとこ、そこですか?」
「あ、あはは。そうだよねえ・・・
じゃなくて、心、読めるの?
てか、何故、アシガール?」「えっ?アシ?
“逃げ恥”じゃ無いんですか?「“逃げ恥”?
ちがう、ちがう~。
それに、どんぎつねって、
源さんに憑いてるはずじゃ。」「そうなんです。
実は、実はね。。。。」涙ぐむどんぎつね。
唯は、時間が気になり、
そわそわしつつも、話を聞いた。
https://www.youtube.com/watch?v=ogb2RLj9j4s「そうなんだ~。
つい意地を張って、
山に帰った隙にねえ。
うん。うん。
でも、逃げた男、
追ってもしょうがないでしょ。
あんまり、逃げ足、
早そうじゃないから、
捕まえられるとは思うけど。
また、こんなことしてみる?
https://www.youtube.com/watch?v=tlvk6jHoq9oでも、黙秘権発動されて
終わりかも。
それに、お相手に会ってみた所で
虚しくなるだけじゃない?
それにしても、ねえ。
随分、動揺してたのね。
“ゆい”と“ゆいな”を
間違えるなんて。」「ゆいなさんは、
役名もゆいで。
ウチナンチューだし。
でも、良く考えてみれば、
あちらのゆいさんが、
食べるのは、
チキンラーメンだけかも。」「だよね~。」
相槌を打って笑う唯を、
どんぎつねは、ちょっと睨んだが、
その悪気の無い笑顔を見て、
つられて微笑む。「そうだ!
ここにも、源さんいる!」「え?ここに?」
「源は源でも、源三郎だけどね。
真面目そうな所は、似てるかな。
今日は、たしか、
薬草園の見回りに出てるはず。」唯は、どん兵衛のカップを
持ったまま、薬草園に向かった。
その後を、どんぎつねが追う「待って!
待ってくださ~い!」~~~~~~~~
「あ、いたいた。
源三郎さああああん!」薬草園の入り口で、
唯は、大きく手を振る。
どんぎつねは、
どん兵衛カップを持ったまま、
唯の上げた腕の下から、
おそるおそる覗き込む。“思ってた人と違う~。。。
でも、控えめそうな雰囲気は、
ちょっとだけ似てるかも。“どんぎつねがそう思った瞬間、
唯は源三郎に猛ダッシュ。「時間、無いんで。」
言うなり、源三郎の袖を
つかんで引っ張る。「ちょっとこっち来て。」
源三郎は、訳が分からない。
「どんぎつね、何処?」
唯に呼ばれて、
スイカズラの繁みに隠れていた
どんぎつねが、
おずおずと出てきた。源三郎は、驚きを隠せない。
“何故、耳としっぽが?”
でも、もっと驚いたのは、
その愛らしさだ。「唯之助、このお方は?」
「どんぎつね。
いろいろあって、
ちょっと凹んでるの。
なぐさめてやって。」唯は、どんぎつねに預けた
どんカップを、今度は
源三郎の前に突き出す。「これ、あげるから。
後はよろしく。」「え、ちょ、まてよ!」
“ん?なんで、そこでキムタク?!”
思わず振り返って、
突っ込もうかと思ったが、
これ以上時間をとられたら、
若君のリクエストに
答えられなくなる。唯は、どんぎつねに、
“平成の事は内緒で”
とささやき、二人、いや、
一人と、一なんとかを
薬草園に残し、城下へと走った。
ところで、もののけを
数える単位って何?後に残された源三郎と、
どんぎつねは、しばらくの間、
お互いをちらちらと盗み見た。やがて、どんぎつねが訊ねた。
「源三郎さんは、
いつも此処に?」「いや、そういう訳では。
今日は、当番での。
それに、若君様が
大切になさっている
“月下美人”が、
そろそろ咲く頃なのじゃ。
蕾が一つ開くと、次々に開くゆえ
一つ咲いたら、すぐに
若君の元にお持ちせねば。」「まあ、私も見てみたい。」
「花が咲くのは、真夜中での。
女子が見るには遅すぎる。
蕾で良いなら、案内しよう。」「はい。」
どんぎつねの尻尾が
ゆらゆら揺れる。
嬉しい時の印だ。
源三郎は、どんカップを
両手に乗せたまま、
薬草園の奥へと進んだ。いつの間にか、陽が落ち、
あたりは夕闇に包まれていた。甘い香りが漂って来る。
「やはり、今宵の様じゃ。」
「え?何故わかるんです?」
「蕾が開く前には、
香りが強うなる。」「それなら、
なおさら、見たいです。」「しかし、女子を真夜中まで
留め置く事は出来ぬ。」「今夜は、帰りたくないの。」
「えっ?!」
源三郎は、思わずどんカップを
取り落としそうになった。
カップの中の汁が揺れて、
良い匂いが鼻をくすぐる。源三郎は、さっきの唯の言葉を
思い出した。
その言葉に、どんぎつねの
言葉が繋がる。“なぐさめてやって+帰りたくない=
もしや、??“「今は、何も聞かないで。
花を見たら、
元気になれそうだから。」心を読まれ、源三郎はうろたえた。
ざわつく胸を押さえようと、、
大きく息を吸い込む。
そして、小さくうなずくと、
月下美人の鉢が並んでいる棚の
前に進んだ。
そして向かいの石に腰かける。
どんぎつねは、遠慮がちに
その横に座った。
二人は黙って蕾を見つめる。空には月が、明るく輝いていた。
「食べないんですか?それ。」
「しかし、これは唯之助の。」
「ゆいさん、さっき
言ってたじゃないですか。
あげるって。」「そうだったかの。」
「こうすれは、
もっと美味しくなりますよ。」どんぎつねは、着物の袖から
割り箸を取り出すと、
いたずらっぽく微笑んで、
源三郎の目の前でパチンと割った。そして、その箸を空にかざすと、
月をつまみ、掛け声をかけ、
どんカップに入れた。「えいっ!」
「なんと!」
源三郎は、どんカップに浮かんだ
黄金に輝く小さな月を見て、
腰を抜かす。「危ない!」
どんぎつねは、片手でどんカップ、
片腕で源三郎を支えた。どんぎつねの耳越しに
見上げた夜空は暗く広がるばかり。「月が、消えた?!」
そして、源三郎は、気を失った。
「源三郎さんかわいい!」
どんぎつねは、腕の中の源三郎を
いつまでも見つめ続けた。
月下美人が、さらに香りを強め、
静かに咲いたのにも気づかずに。~~~~~~~~~~
同じ頃、唯は若君と、
思い出の場所にいた。
初デートで、若君から貰った
菓子の色が、瞼に蘇る。
あの時、若君は言ったのだ。“兄上もお誘いすれば良かった。”
今はどうなの?そして昨日はこう言った。
“兄上の事は、考えておる。”
って、いったい何を?若君の先を歩いていた唯は、
訊ねようとして、振り返った。若君は、何故か、
空を見上げたまま、固まっている。「これは、なんとしたことじゃ!
月が無い。
消えておる。」見上げた唯は、ふと、
前に見たCMを思い出した。“はは~ん。どんぎつね。
アレをやったな。”
https://www.youtube.com/watch?v=m_C5KfhObpUどんぎつねがくれた暗闇。
唯は、忠清に寄り添うと、
そっとその手に指を絡ませる。
憧れの恋人繋ぎ。唯は、見えない月に祈った。
“お願い、満月よ。
隠れてて、もう少しだけ。”[no.620] 2021年5月28日 19:13 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days20~25日木曜6時30分、いっちにーさんし!
夏だけ取り上げられがちだけど、年中放送してるから。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅若君の朝稽古が終わった。
覚「昨日だいぶ疲れただろうに、忠清くんは立派だよ」
若君「いえ、褒めて頂く程のものではありません」
覚「今日も暑くなるかな?何℃位まで上がるだろ。天気予報…忠清くん、テレビつけてくれる?」
若「わかりました」
テレビ体操の番組が画面に現れた。
覚「あ、ちょうどこの時間か。たまには体操するかー」
若「え?」
母が洗面所から出てきた。
美香子「あら、この時間にテレビなんて珍しい。まぁ!ラジオ体操やってる。じゃあ私も」
若「え?え?」
テレビに合わせて体操を始める両親。
若「動きが、身に付いておるのですね。ピタリと同じに動かれて」
覚「音楽と号令聞くと、体が勝手に動くんだよ」
美「同じ時間に近所の神社で、小学生を集めて体操してるわよ」
若「あ、外の道を、子らが走って行くのはそのような所以でしたか」
覚「すぐ覚えられるから、忠清くんもやってみな」
若君は見よう見まねで、三人で体操。最後は深呼吸して終了。
若「なるほど、清々しいです」
覚「毎朝この時間に放送してるから」
若「では、明日からここまでを稽古と致します」
覚「ハハハ。あ、天気予報観るんだった」
9時。唯と尊が、リビングでダラダラしている。
尊「あ~、扇風機が気持ちいい」
唯「やっぱりちょっと焼けてるよ、尊」
尊「いいよ。今回は日焼け止めのお陰で程良く焼けたから、ヒリヒリしなかったし」
唯「で、また海で焼くと」
尊「僕って見分けつくかな?」
唯「つくつかないより、焼いた事実に驚かれるっしょ」
覚「二人は、あい変わらずダラダラしてるなあ」
若「昨日随分と動きましたので」
覚「それは忠清くんも同じじゃないか。なんていうか、心構えの違いだな」
若「ハハハ。ところでお父さん」
覚「何?」
若「また、料理の指南をお願い致します」
覚「忠清くんは、留まる所を知らないね。感心するよ。いいよ、実はもう考えててね」
若「それは嬉しいです。で、何をいたしますか?」
覚「明日作るメニューは決めてある。で、今日はその練習として、ハンバーグを作ろうと思うんだが」
唯「昨日昼に食べたー。ハンバーガーだけど」
覚「あっ、そうなの?」
若「お父さん、是非お願いします。以前オムレツを作った際には、ずっとオムレツばかり食しておりましたゆえ、構いません」
覚「そうだったね。じゃあ早速仕込むか」
作業台の上、怪しい物体が水に浸かっている。
尊「ハンバーグ作るんだよね?これどう見ても高野豆腐だけど」
覚「そうだ。いつもハンバーグに入ってるんだぞ?」
唯「え!知らなかった!だからジェンガと間違える程、ストックしてたんだ?」
尊「なんで入れるの?」
覚「肉汁を含ませるんだ。栄養がある割にはヘルシーだしな」
尊「なるほど!だからいつもジューシーなんだね」
若「お父さんの工夫ですか?」
覚「うん、色々試してね」
若「さすが師匠」
昼ごはんは、ミニハンバーグ。
美「夜が本番?」
覚「今日はな。明日がホントの本番だ」
美「ハンバーグが予行練習って、何?」
覚「明日のお楽しみだ」
夜ごはん。普通サイズも上手に出来ました。
唯「美味しーい!」
若「良かった」
覚「明日また買い物に行こうな。で、明日は唯や尊にも手伝ってもらうから」
唯「手伝う?」
覚「また明日な」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
25日のお話は、ここまでです。
[no.619] 2021年5月26日 22:00 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days19~24日17時、近う寄りたい
本日の天体ショーは、肉眼では無理でした。今は朧に浮かんでいます。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅親密度は、より増すかな。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅プール出口で待つ子供達に、お迎えが来ました。
唯「お父さん、お母さん、ありがとー」
若君「お迎えありがとうございます」
尊「ただいまー。ちょっと違うか」
覚「おー、みんな少し焼けてないか?」
尊「え、困る」
唯「女子か!」
美香子「夢中で遊んでたのね」
回転寿司店にもうすぐ着きます。
若「寿司が、回るとは…」
尊「回るというか巡るというか。練り歩く、が近いかな?」
若「早う食せと?」
尊「あ、それ近いかも」
席に通され、注文スタート。
若「確かに皿が練り歩いておる」
覚「どんどん注文してくれよー。忠清くんも遠慮するなよ」
若「はい、ありがとうございます」
レーンに一番近い所に陣取った唯と尊が、タッチパネルで注文していく。
唯「もうすぐ来るから」
若「来る?」
高速レーンに、数皿運ばれてきた。席の前でピタリと止まる。
若「どこから参った?!」
尊「はい、どうぞー。どんどん降ろすよ」
空になった乗り物が、自動で戻っていく。
若「どこに参る?!」
唯「厨房。たーくんどんどん食べてね」
若「この先の世は、色々とうまく出来ておるのう」
満腹です。
美「忠清くん、ちゃんと量食べた?」
若「はい。お気遣いありがとうございます」
美「そんな丁寧じゃなくていいのよ、家族なんだから」
帰りの車中。
唯「二人でさあ、今日だけで日焼け止め一本使い切ったんだよ?!ありえなくなーい?」
覚「凄いな。若君も尊も真っ白だったんじゃないか?」
美「尊、若君にはちゃんと正しい情報を伝えなきゃダメよ」
尊「うん、気をつけるよ」
若君が考え込んでいる。
唯「たーくん、どしたの?」
若「…あの」
唯「ん?」
若「お父さん、お母さん」
覚&美「はい?」
若「折り入って、お願いしたき儀が」
覚「え、何!身構えちゃうよ」
美「なぁに?忠清くん」
若「わしは、家の外では、忠清と名で呼んで貰うております」
美「そうね。若君、だと現代じゃかえって不自然だから」
若「恐れながらお頼み申したい。家でも全て、名で呼んで頂けぬでしょうか?わしも、お父さんお母さんと呼ばせて頂きたく」
車内が静かになる。
覚「…それは構わないが。どうしたんだい?」
若「永禄では、家族には名で呼ばれております」
唯「あー、お父さん…殿も、兄上さんもそうだね。あとの人達は若君か若君様。あ、熊は名前で呼んでるか」
若「宗熊殿は友じゃからの」
唯「そうだね」
若「名を呼ばれると、家族じゃな、と大層心地好く感じます。先の世の生活に合わせたく、わしも父上母上から変えたいと思うております。何卒」
覚「そうか、わかった」
美「そうね、だって忠清くんは娘のお婿さんだもの。普通に考えても、忠清くんと呼ぶのが正解よね。わかりました。そうさせてもらうわね」
若「ありがとうございます。尊」
尊「はい」
若「尊には」
尊「はい、兄さんですね。承知いたしました。なんか嬉しいな、兄さんがホントに兄さんになったみたいで」
唯「兄には間違いないじゃない」
尊「いや、なんというか、気分の問題?」
唯「気分が上がるなら良し」
若「ハハハ。あと、より現代語を習得出来るよう励みます。これから、出かける機会も多かろうと思いますので」
美「無理はしなくていいのよ」
若「随分と忘れておりますので。お父さんお母さんに迷惑がかからぬようにはしたいです」
覚「そんな、迷惑だなんて。ホント忠清くんは勉強熱心だなー」
唯「いい息子を持ちました」
尊「確かに。って、なんでお姉ちゃんが言うんだよ」
唯「唯母さんだから」
尊「あ、そうだったね」
美「なに?それ。面倒見ますって?」
全員「ハハハ~」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
24日のお話は、ここまでです。
[no.618] 2021年5月24日 19:06 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days18~24日13時、口どけ優しく
尊の願いはみんなの願い。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅まだ食事中。
唯「お迎えが5時で、それまでに外に出てなきゃいけないから、4時30分ちょい前には着替え始めなきゃだね」
尊「そうだね。この後どうする?」
唯「ちょっと遊んでおやつ食べてまた遊んで」
尊「計画におやつタイム入ってるし」
若君「その前に」
唯「なに?」
若「日焼け止めを塗らねばの」
尊「そうだった!さすが兄さん」
唯「微妙に赤くなってる気はするけど」
尊「げっ!それヤバいよ」
今度は白くありません。
唯「良かった、スケキヨじゃなくて」
尊「今からどれに行く?」
唯「三人一緒に乗れるのにしない?浮き輪は更衣室に置いといてさ」
長い時間並び、複数人でボートに乗って滑り降りる巨大アトラクションへ。
唯「ひゅ~、きゃははー!」
尊「あはははー」
若「ハハハー」
三人とも、ハイテンションで降りてきた。
唯「あー、超超楽しかった!」
尊「夏満喫!って感じだねー」
若「実に貴重な経験じゃった」
唯「さてと。今何時?」
尊「えーと…もうすぐ3時。あれ、そんなに経ってたんだ」
唯「では、おやつタイムにしまーす」
またまた売店の前。
尊「あんまり食べると、お寿司入んないよ」
唯「大丈夫、考えてる。かき氷にしない?」
尊「なるほど。カロリーは少なめだ」
若「氷?」
唯「うん。あ、冬に池が凍るのとは違うから」
尊「さすがにわかるよー。兄さんが一人で来た時に家で食べてるもん」
唯「あ、そうなの。あんなデカいのだった?」
バレーボール位はあるか。シロップやアイスや色々てんこ盛りでかなり大きい。
尊「デカっ!三人で一つで良くない?」
唯「そうしよっか」
仲良く氷を三人ですくっている。
若「このような味わいじゃったかのう」
尊「口どけはこちらの方が断然いいですから」
唯「家のかき氷機で作った?」
尊「うん。だってあの頃は、兄さんほとんど家を出てなかったから」
若「ほとんど床に臥せっておったしの」
唯「あー良かった!」
尊「なんだよ急に」
唯「あの頃、たーくん帰って来なくてどうしちゃったかと、すっごく心配したり辛かったりしたけどさ」
若「その節は、済まなかった」
唯「ううん、たーくんは悪くない。頑張って我慢したから、もー今日なんか最高に楽しい!ごほうびもらえた!」
尊「うっかり、スイッチ起動したくせに」
唯「それはすいません。来ない方が良かった?」
尊「無事来れて良かった、でしょ。もちろん来てくれて嬉しいよ」
唯「ありがと。あーあ、しょっちゅう行き来できればいいのになー」
尊「ダメ」
唯「ダメかー」
若「唯。我らはこのひと時を、思う存分楽しめば良い」
唯「そうだね。さて、氷もごちそうさまだし、また流れとく?」
若「まだ一周しておらぬしの」
唯「そこ、こだわる所なんだ」
また浮き輪二つで、流れに身をまかせる三人。
尊「極楽極楽」
唯「お風呂みたいな言い方だし」
尊「自分こそそうでしょ」
浮き輪の中で、最初から若君に抱きついている。
唯「いいでしょ、さっきは満喫できなかったもん」
尊「兄さんが良ければいいけど。ダメなんて言う訳ないか」
若「唯が望むままで良い」
尊「お姉ちゃんの言う事なら、なんでも聞きそうだなぁ」
若君にもたれる唯。
若「いかがした?」
唯「ん~?たーくんの鼓動を感じてるの」
若「そうか」
唯「なんか…」
若「なんじゃ?」
唯「生きているって、素晴らしい」
若「どうしたのじゃ」
唯「そう思ったから…それだけ」
唯の体を支える腕に力をこめる若君。付かず離れずで様子を見ていた尊。
尊 心の声(こんな、楽園みたいな場所で思う事じゃないけど…どうか、どうか永禄に戻っても無事でいてくれますように)
太陽が明るく降り注いでいた午後でした。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
切に願う。
[no.617] 2021年5月24日 19:02 夕月かかりて(愛知)さん 返信ありがとうございます
梅とパインさん、ボケた私の為に(^_^;)源トヨ話に、村名を入れていただき、ありがとうございました。
原作に手を出さないのは…私がドラマだけで満足している、ってのが大きいです。いずれ触手が伸びるかもしれませんが、ひとまず今は令和Daysの執筆を、頑張りますo(・ω・o)
[no.616] 2021年5月23日 01:14 梅とパインさん 返信大丈夫 (^^)v
夕月かかりて さん、
違和感なく 楽しんで読ませて頂いておりますよ。
私はドラマからの原作ファンなんですが、ドラマも原作も どちらも本当に本当に 大好きです♪
出来たら 原作も読んでみて頂きたいとも思いますが、そこは個人の自由なので… (^^)。
「令和Days」を読んでいて 原作のキャラクターが浮かぶのは、アシラバのひとり さんも仰ったように「なぜか」です。
強いて言えば、原作の 唯ちゃんの方が ドラマ以上に 元気いっぱいでコミカルなので、令和で イキイキしている感じが そちらに近く感じるのかも知れませんね。
それでは また おとなし~く 続きを楽しみにしていますので、よろしくお願い致します (^-^)/。☆ 妖怪千年おばば さん、コメントをありがとうございました。
おばば さん的には、日清カップル(カップヌードルの略みたい?)は どんぎつねさん の方が良かったんですね。 CM、いい感じですもんね (^.^)。★ 「源・トヨ」、ちょっと分かりにくかったようなので 苗字を村名にして 追加しておきました (^_^;)。
[no.615] 2021年5月22日 19:26 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days17~24日12時、結末変えます!
唯姫は、忠清王子に必ず愛されるから、泡となり消え去る事などない。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅滑り台も様々な種類がある。別の場所に移動してきた。
唯「浮き輪全部持っててあげるから、尊も滑ってきなよ。たーくんと」
尊「え、お姉ちゃんは?」
唯「さっきハラハラし過ぎて疲れちゃったー。浮き輪の番しててあげるからさ」
尊「いいの?やったー。じゃあ兄さん、目の前の行っときます?」
若君「そうじゃな。唯、良いのか?」
唯「うん。休憩中でーす」
若「ハハッ、藁の布団で休むのか?」
唯「そっ」
尊「暗号?」
唯「素敵な思い出なのじゃ」
尊「そうなんだ。じゃ、行ってくるねー」
若「行って参るが…唯、大事ないか?」
唯「ありがとたーくん。そこまでじゃないから」
歓声がこだましている中、若君達が上がっていった、滑り台の出口付近に座る唯。
唯 心の声(なんか夢みたいな時間だなあ。ガッツリ遊んじゃってるけど、ここに戦国武士一人居ます!って誰が信じる?)
空を見上げる。
唯 心(久しぶりに空見たなあ。青空も雲もこんなにキレイ。総領の妻たる者、こういう心の余裕がないとダメなんだろなあ。ひゃー、道は険しい~)
若「待たせたの、唯」
若君がまた、水も滴るイイ男で帰ってきた。
唯「お帰りたーくん。尊はこの後?」
若「すぐ参る。順番を待つ間にの、尊にまた一つ言葉を教えて貰うた」
唯「どんな?」
若「唯は、マーメイド」
唯「いきなり英語だし」
若「唯が水に戯れる姿は、どんな姫じゃと尋ねたら、こうだと」
唯「なるほどね」
尊も降りてきた。
尊「あー楽しかった!お姉ちゃんお待たせ」
唯「尊」
尊「何?」
唯「人魚姫ってさ、確か最後は悲しい結末じゃなかったっけ?」
尊「お姉ちゃん、今まで歴史を塗り替えまくってきたから、おとぎ話くらい結末変えるでしょ?」
唯「ハッピーエンドに?」
尊「でしょ」
若「悲しい結末など、ない」
唯「たーくん…」
若「唯と共にならば」
唯「やーん嬉しい!」
若君に抱きつく唯。
尊「お腹空いてきたね」
唯「あ、そうだよ、お昼ごはん食べよー」
尊「切り替え早っ!」
若「これぞ唯じゃな。ハハハ」
唯「えー」
尊「ハハハー」
売店近くに来た。
唯「晩ごはんはお寿司だから、寿司以外のメニューで」
尊「あまりプールサイドでお寿司出してないと思うけど」
唯「たーくん、食べたい物ある?」
若「そうじゃな…」
唯「ん、ちゃんと考えてる。よしよし」
若「前に一度食した、ハンバーガーとやらはあるかの」
尊「あっちの店にありますよ。へー、食べた事あるんだ」
唯「学校帰りに小腹が空いて」
尊「初耳。ん?それって、家帰ったら普通に晩ごはん食べたんでしょ」
唯「うん」
尊「食べ過ぎでしょ」
唯「たまには」
尊「たま、ねぇ。兄さんとは一回だけなんだね」
ハンバーガーショップで昼ごはん。
尊「兄さんがハンバーガーかぶりついてるの、新鮮」
若「そうか?」
唯「たーくん、ほっぺたにソース付いてる」
若「ん?」
唯が指で拭った。
唯「かわいいー」
尊「なんかさー、ここに戦国武士一人居ます!って誰が信じる?」
唯「あはは」
尊「おかしい?」
唯「ううん、尊は弟だなって」
尊「はあ?」
若「紛うことなく姉弟じゃ。言葉や動きがよう似ておる」
唯&尊「えー、そうかなー?…あっ」
若「ハハハ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
ポテトもどうぞ。
[no.614] 2021年5月22日 19:22 夕月かかりて(愛知)さん 返信励みになります!
梅とパインさん、アシラバのひとりさん、貴重なコメントをありがとうございました。
私は原作を読んでおりませんので、想像するのは全て、演じられた俳優さんのお顔です。なので、原作で想像していただけるなんて、違和感なく受け入れてもらえているのかな、と少し安堵いたしました。ありがとうございます。
プールはあとちょっとです。令和Daysのテーマが、現代の平和な夏をぜひ楽しんでもらいたい!なので、今後も二人には大いに遊んでもらいます。
想い出が見え隠れしてますか?さてどこまでが実話でしょう。フフフ。いや、ほぼ理想論ですので(^_-)
本など恐れ多いですが、その前に、この投稿をする度に、敏腕な編集者さんに見ていただきたい…。何度も推敲で、最早原型をとどめないのでは。そして、本など戯れ言!と一蹴されるのであります。
源&トヨ、超タイムリーな話題がモチーフだったとは、妖怪千年おばばさんの投稿を見るまで気づいておりませんでした(×_×;)
源トヨのカップルも可愛らしいので、ぜひ令和Daysにも登場していただきたい所ですが、出番が見つかりません(*_*)[no.613] 2021年5月22日 09:11 妖怪千年おばばさん 返信そういえば、ゆい様でしたね!
梅とパイン様
タイムリーな源・トヨ物語
楽しかった♡
どんぎつねさんのライバル、
チキンラーメンのあのお方は、
確かに”ゆい”様。
ガッキーの愛称が強すぎて、
忘れてました。(;^_^A
ありがとうございます!(^_^)v[no.612] 2021年5月22日 01:40 梅とパインさん 返信久々の 源・トヨ です
裏門の横の木に 赤い糸が結んであると「お昼にいつもの草むらで待ってます」の合図。
源三郎が行ってみると、いつになく暗い顔のトヨ。
源「トヨ、どうした?」
ト「源ちゃん、聞いたよ。どういうつもりよ」
源「ん?」
ト「まさか、まさか源ちゃんが…」涙ぐむトヨ。
源「え?え?」
ト「ゆい様と…ゆい様と… うう…」
源「トヨ、落ち着け。俺と ゆい様が何だって?」
ト「…結婚するの?」
源「え、ええ~! 知らん!知らん!」
ト「だって 皆 その話で大騒ぎしてる…」ポロポロ溢れる涙。
源「ん? あ! 違うぞ トヨ。違う!」
ト「何が?(グスッ)」
源「あれはな、遠くの星野村の 源 という若者と 新垣村の 結衣 という名の娘のことだよ。なんでも二人とも役者をやっていて、たいそう人気者なんだそうだ」
ト「え、そうなの?」
源「うん、それに考えてみろ。あの唯様が 若君様以外の男に 目移りすると思うか?」
ト「あ…そうか、そうだよね」
源「そうだよ」
ト「そうよね、そうよね、ましてや 源ちゃんにねぇ。ふ、ふふふ、あはははは」笑い出す。
源「おい!無礼だぞ」
トヨは 笑いが止まらない。
源「もう知らん!城に戻る」
咄嗟に源三郎の腕を掴み
ト「ごめん、ごめん源ちゃん。なんか安心して笑っちゃった。ほんと ごめんなさい」
源「まぁ いいけど…。それに俺にはトヨがいるから…」
ト「え?」
源「え! あ! いや、その…いや…」
その時、遠くから 小平太の「トヨ、トヨはおらぬか?」の声。
ト「あ、呼ばれてる、行かなきゃ」
源「そうか、じゃあまた…」
ト「じゃあ…」
少し歩いて振り返り「私もよ。じゃあね!」と大きく手を振って 走り去るトヨ。
驚いた顔が みるみるデレ~ッとなる源三郎であった。………とさ。(ここでは 小平太くんが お邪魔虫役です 笑)
- この返信は3年、 10ヶ月前に梅とパインが編集しました。理由: 村名を追加しました
[no.611] 2021年5月21日 19:48 アシラバのひとり(東京)さん 返信[no.610] 2021年5月20日 21:43 梅とパインさん 返信プール楽しそう♪
夕月かかりて さん、いつもありがとうございます。毎回 ニヤニヤしながら 読ませて頂いてます (^.^)。
登場人物は、ドラマではなく原作の方で想像しています。原作ファンでもあるので 楽しいです。
そして、合わせて 夕月かかりて さんの思い出話を聞いているような気がして 更にニヤニヤしてしまいます (^q^)。
まだまだ続きがあるんですよね。楽しみにしてますので、よろしくです♪もうね、夕月かかりて さんも ぷくぷく さんも 妖怪千年おばば さんも、本を出しちゃっても いいかも知れない (^^)d。
[no.609] 2021年5月20日 19:50 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days16~24日11時、レッツトライ!
攻撃はしてこないけど、強敵は強敵かも。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅休憩中。
唯「私さあ、昼ごはんの前に、あの超高くてストンと落ちる系の滑り台行っときたいんだよね~」
尊「まさか、あれ?」
最も高い所は、何階建てのビルの高さか。かなりの急勾配で、真っ直ぐ降りてくる滑り台。
尊「マジで?!嫌だよ、一緒になんか行かないよ?」
唯「一人で行ってくるから大丈夫。たーくんと待ってて」
尊「珍しい。兄さんと離れてもいいなんて」
唯「刺激が強過ぎるから、無理に連れて行けないもん」
若君「滑り台?公園でよう幼子が遊んでおる物か?」
尊「それのプール版で特殊な物です。どんなのか近くで見ますか?」
巨大滑り台の下に来た。
若「高いの」
尊「見てるだけで怖いよ」
若「降りてきた者達は、一様に楽しそうじゃが」
唯「そりゃ楽しいからね」
尊「そう思える人しかやらないからね」
唯「じゃあ行ってくる。順番待ちで時間かかるだろうから、どっかで遊んでていいよ」
唯が行こうとすると、
若「唯」
唯「え?なにたーくん」
若「わしも共に参る」
尊「は?!」
唯「え、たーくん怖くない?平気なの?」
若「唯が平気な物であれば、怖くなかろう」
尊「その論理、合ってるような、合ってないような…」
唯「そぉ?無理しなくていいよ?」
若「中々の敵にも見えるが、羽木家総領たる者、どのような困難にも立ち向かう」
尊「変な所でやる気に火がついちゃったな」
唯「んーまぁ何事も経験だし。じゃあ行こっか~」
若「尊、一人待たせるが済まんの」
尊「いーえー。下から勇姿見てますね」
浮き輪二つ抱え、二人を見送る尊。
尊 心の声(度胸試し?こっちの世が平和過ぎて、体がなまってきたのかな)
女性ばかりのグループが、二人とすれ違った。そのまま尊の方に歩いて来る。
女性1「ねぇねぇ、今のお兄さん、超イケメンじゃなかった?!」
女性2「うん、超カッコ良かった~!でもキレイな彼女居たもん、お似合いの」
女性3「すっごく細くてスタイル良かったよねー。うらやまし過ぎるー」
尊 心(へー。一般論って、こうなんだ)
滑り台頂上への階段を、軽快に登りきった唯と若君。
唯「到着ー。あ、あそこに尊いるよ!おーい!」
若「おぉ」
尊が、手を振っている。
唯「浮き輪人間になってるから、見つけやすいね」
若「そうじゃな」
見上げる尊。
尊 心(こうして見ると、なかなかの美男美女カップルなんだな。たまには俯瞰で見ろって事かー。あ、俯瞰で見てるのはあっちか)
二人の順番が来た。
唯「たーくんが先ね。一人ここに残るよりいいから」
若「わかった」
係員が声をかける。
係員「あ、彼女さんビキニですねー。滑る衝撃で、ブラの後ろのホックが外れる事がありますから、気をつけてくださいねー」
唯「え、嘘っ!」
若「それは…全て落ちる事はなかろうが」
唯「そりゃそうだけど~」
若「やめた方が良いのでは?」
唯「うーん。いや、やりたい!がんばって落ちないように押さえるよ」
若「既に、形が変わる程押さえつけてお…」
唯「それ以上、言わなくていいから」
係「彼氏さん先で正解ですー。取れてたら即、留めてあげてくださいねー」
若「わかりました」
唯「えー、なにそれっ」
いよいよ。
係「はい、いいですよー」
若「それでは唯、下で待つ」
唯「なによその余裕。こっちはもし取れたらどうしようかって…笑ってるし!」
下の尊。
尊「あ、来た来た」
若君が水しぶきをあげながら到着。
尊「お疲れ様ー。おぉっ、カッコいい~」
水から上がり、髪をかきあげる姿は、そこだけスローモーションになったよう。水も滴る超イイ男の登場に、周りの視線が集まる。
若「おー、尊。中々楽しかったぞ?」
尊「ホントですか~?」
若「体がふわりと浮いた折は、肝が潰れそうになったがの」
尊「やっぱり。あれ、お姉ちゃん来るのをこんな近くで待ちます?」
若「どうやらこの滑りで水着の上が外れる事があるらしく、救わねばならぬゆえ」
尊「え!そんな罠があるんだ。あ、来た」
キャーキャー言いながら降りてきた。
唯「ひゃー。ねえねえ、大丈夫?後ろ外れてない?」
尊「あー、大丈夫だよ」
若「平気と言いつつ、随分騒がしかったの」
唯「取れたらどうしようって、そっちの方が怖くってー」
尊「なるほどね」
唯「あー、こんなに怖いモノだったとは」
尊「なんだそれ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
それこそスリル満点でした。
[no.608] 2021年5月18日 20:04 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days15~24日10時、幻滅はイヤなの
なぜ流れてるかなんて考えた事ない。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅流れるプールの中。
若君「随分と流れが早いの。足元がおぼつかぬ」
唯「じゃあたーくん、この浮き輪の穴に一緒に入って」
若「こうか?」
浮き輪の中に二人で入ると、唯の背中が若君の胸元にピタッと密着。
唯「やーん、いい感じぃ。たーくん、足離していいよ。ちゃんと浮くから」
若「まことか?」
尊「大丈夫ですよ」
唯「では参るぞ~」
流れるプールでプカプカ流れる三人。
若「この輪で浮かんでおれば、勝手に押されるように流れていくのじゃな」
唯「うん」
若「どこまで行くのじゃ?」
唯「一周回って元の場所に戻る」
若「回るだけと?」
尊「そうですね」
若「それが楽しいと」
唯「うん。細かい事は気にしないで」
若「景色は変わるがの」
急に、唯が真下に潜った。
若「え?」
唯「ぷはー!」
浮き輪の中に、若君の方を向いて上がってきた。
唯「あー気持ちいい、プール最高!もっとくっついちゃおーっと」
ここぞとばかり抱きつく唯。
若「なんと」
尊「やりたい放題だなあ。だけど、周りも似たようなもんだしな」
辺りを見回す若君。抱き合って流れているカップルが、かなり居る。
若君 心の声(この先の世の者達は、随分と行いが大胆じゃな…)
唯「たーくん」
若「…あぁ、なんじゃ?」
唯「よそ見はダメっ」
若「余所見などせぬ。わしには唯しかおらぬ」
尊「愛の囁きが板についてきてる」
唯「嬉しーい!もっとギュっとしちゃお!」
音楽が聞こえてきた。
尊「あ、お姉ちゃんそこまでだよ」
唯「えー、もう?いいトコだったのにぃ」
尊「上がるよ」
若「上がる?何ゆえ?」
尊「お客の健康面の安全のために、一時間に一回、プールから必ず出て10分休憩しなさいって決まってるんです」
若「ほぅ、色々考えられておるのう。では出よう」
唯「ちぇー」
上がった後、売店の前を歩いている。
尊「なんか飲む?」
唯「うん、何にしよっかな」
タピオカドリンクが売られている。
尊「流行りものだ。お姉ちゃんはとっくに飲んでるよね?」
唯「うん」
尊「兄さんと?」
唯「ううん」
尊「まだって事?」
唯の声が小さくなる。
唯「たーくんには飲んで欲しくなくて」
尊「へ?なんで?」
唯「だいぶ前の話だけど、ドリンク店の前にカップルが居て、仲良く飲んでて」
尊「なに語りだしてんの、じっくり聞く話?兄さん、ちょっとだけごめんなさい」
若「良いぞ」
若君に聞かれないよう、少しだけ離れた。
唯「そのカップルの彼氏さんがね、イケメンだったの。たーくんとは比べものにならないけど」
尊「うん」
唯「いいなぁ、いつかたーくんとあぁやってデートしたいなって。離れてる時だったから。で、うらやましくてじーっと見てて」
尊「うん。でも今ならできるじゃん…あ、ごめん、話続けて」
唯「タピオカって、最後下に残っちゃってなかなか吸いきれないんだよ。で、その彼氏さんが一生懸命吸ってたんだけど、その吸ってる顔とか様子が超イケてなくて~」
尊「あぁ。ほっぺたがギュンと引っ込んだり、ズゴゴとか音させたりして?」
唯「たーくんのあんな姿は見たくないなぁって。それで一緒に行ってないの」
尊「へ、そんな理由?王子様はずっとカッコ良くいて欲しい?」
唯「うん」
尊「超純粋な乙女じゃん」
唯「え?」
尊「お姉ちゃん、かわいい」
唯「やだもぅ!」
バシバシ叩かれる尊。
尊「痛っ!痛いって!」
若「これ唯、どうした?狼藉を働くでないぞ」
二人に割って入る若君。
唯「尊がからかうからっ」
尊「兄さんが超愛されてるからですよ」
若「…話が見えぬ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
イケてなくても許してあげて欲しい。
[no.607] 2021年5月16日 19:33 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days14~24日水曜9時、過ぎたるは…
どんなイケメンでも、さすがに引くかも。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅今日も暑くなりそう。プールに出かける準備中。
覚「ちゃんとグッズ全部持ったか?」
唯「たぶん大丈夫」
美香子「夕方は、二人で迎えに行くからね」
尊「あ、そうなんだ」
覚「晩ごはんは外食にしようと思ってな」
唯「え!そうなの、何食べに行くの~?」
美「回転寿司なんかどう?」
唯&尊「やったー!」
若君「回転、寿司…」
尊「普通くっつかない言葉だから、びっくりだよね」
唯「たーくん、楽しみにしてて~」
若「わかった」
美「じゃ、行ってらっしゃい」
覚&唯&若&尊「行ってきまーす」
車中。
覚「極力、三人一緒に居ろよ」
唯「うん」
覚「特に、若君を一人にしないように」
尊「うん」
覚「迷子にはならないと思うが。若君は目立つから、その点は見付けやすいな」
尊「大勢の女子に囲まれて?」
唯「やだっ!指一本触れさせないっ!」
尊「せいぜい頑張って」
唯「あんたもだよ」
尊「もちろん」
若「なにやら、済まぬのう」
唯&尊「全然OKっす!」
プール入口。車から降りる子供達。
覚「じゃ、楽しんできて」
唯「ありがとお父さん」
若「また夕方、よろしくお願いします」
尊「行ってきまーす」
更衣室の前。
唯「じゃ、10分後に集合ね」
尊「わかった。じゃあ行きましょう、兄さん」
若「参ろう」
男子更衣室。着替え完了で、日焼け止めを塗り始める二人。
若「これを体にと」
尊「はい。まんべんなくで」
若「尊…いやに白うなっておるのう」
尊「ヒリヒリしたくないんで」
若「そうか」
集合時間になりました。
唯「ちょっと…二人とも、どうしたらそうなるのよ!」
白塗り状態の男子達。
唯「怖い~。忠清じゃなくてスケキヨになってる…」
若「尊が、こうした方が良いと」
唯「犯人はあんたか!」
尊「お姉ちゃんみたいに地黒じゃないもん、焼くと赤くなるから、しっかり塗らないと嫌なんだよ」
唯「失礼なっ。私もこれでも日焼け止めちゃんと塗ってきたんだよ?」
尊「嘘だー」
唯「最近の日焼け止めって、塗っても白くなんないのが普通だから、あんた達相当こってり盛ったよね。もー!これじゃプールに入れてもらえないよ?」
明らかに白過ぎる部分を、頑張って塗り込んだ。
唯「ふぅ。ようやくヒトらしくなったよ。世話がかかる~。日焼け止めはね、こってり塗るんじゃなくて、こまめに塗り直すのが効果があるんだから!」
尊「そうなんだ。よく知ってるね」
唯「お母さんによく聞かされた」
尊「へー。ありがと、唯母さん」
唯「は?!」
若「お母さん、か。なるほど。ありがとう唯お母さん」
唯「ちょっと!兄弟でふざけないでっ」
若&尊「ハハハー」
唯「もぉ~」
前を歩く女性の水着は、ワンピースだ。
若「覆う所が多い者も居るのう」
尊「そうですね」
唯「えっ、まだ怒ってる?」
若「案ずるな。唯はその水着、よう似合うておるし、尊の申した通り、この場所に似つかわしい姿じゃと思うておる」
かなり際どいビキニパンツを着た男性が、横切っていく。
若「おぉ、ほぼ丸裸じゃの」
尊「…お姉ちゃーん?なんだよその顔」
唯「やだぁ困る、でも見たいっ」
尊「何一人で悶えてんの」
唯「えっ?!えっと、たーくんがピッチピチで着てるのを想像しちゃって…ヤバい、セクシー過ぎる、たまらん、じゃなくてっ」
尊「妄想が甚だしい」
尊 心の声(うっかり選びそうだった事は、黙っておこう)
ようやくプールのそばに来ました。
唯「尊にはこちらを授けよう」
二つのドーナツ状の浮き輪の内、小さい方を渡した。
尊「いいの?一個もらっちゃって」
唯「うん。だってこっち、カップル用だもん」
尊「ホントだ。真ん中の穴が大きい。しっかり選んでるね~」
唯「当然でしょ~」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
なんやかやで超楽しそう。
[no.606] 2021年5月14日 21:16 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days13~23日火曜12時30分、ふるまいます
腕は落ちていなかった模様。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅クリニックの昼休み。
芳江「今日は先生も、こちらでお昼を召し上がる?」
美香子「ええ。お二人とも、お弁当少なめ、玉子料理なしで来てくださったかしら?」
エリ「はい。実は、少しワクワクしてます」
芳「もしや、ご馳走が?なんて」
美「ホントは、昼ごはん全部と言いたい所だったんですけどね。シェフに負担がかかるので一品でご勘弁を」
エ「ご主人が?」
美「ふふふ」
覚「はい、失礼するよー」
折り畳み式のテーブルを運んできた。
唯「お邪魔しまーす」
両手にお皿。設置されたテーブルに置く。
芳「あらぁ、綺麗なオムレツ!」
エ「唯ちゃんが作ったの?」
唯「いや、私には無理っす。もうすぐ最後の一皿が来ますから」
廊下を見る芳江とエリ。すると、
若君「失礼します」
エプロン姿で、フライパンと皿を持って現れた。
芳&エ「えーっ!」
若「今、盛り付け致します」
綺麗にフライパンから滑り降り、オムレツが皿に。
若「お待たせ致しました。どうぞお召し上がりくだされ」
エ「まぁー素敵!」
芳「頂く前から、美味しいってわかるわ~」
若「いや、褒めていただくのは、ご賞味の後で結構です」
お昼ごはんスタート。
芳「美味しい!お世辞じゃないですよ」
エ「ふわっとろっ、が絶妙で、勿論お味もとても美味しいです」
若「良かった。ありがとうございます」
美「サプライズは成功ね。一安心。お二人には黙ってたんだけど、実は前回来た時何回か作ってくれてて」
芳「そうだったんですか」
美「ここを去る直前だったから、お二人に食べてもらえる機会がなかったの。だから黙っててごめんなさいね」
エ「そうなんですか。良かったわ~頂く機会が出来て」
若「はい、わし…あ、僕も嬉しいです」
そろそろ午後の診察の準備に。一旦戻っていた唯と若君が、片付けにやってきた。
芳「ごちそうさまでした。片付けまでありがとう」
エ「ごちそうさまでした。料理は、若君の趣味になるのかしら?」
若「趣味、とは?」
美「興味があって、楽しくできる事、かな?」
若「あぁ、ならば料理は、趣味です」
芳「いいご趣味ね」
エ「あー、私も久々に、趣味の洋裁しようかしら」
唯「へー、エリさん、服とか作るの?」
エ「ええ。昔はよく、子供の服や自分の服も作ってたのよ」
唯「すごーい」
芳「若君に感化され、俄然やる気が出ました?」
エ「出ました~」
美「ふふっ。若君って、いろんな人を幸せにする天才ね」
若「いや、何もしておりませぬゆえ」
唯「そこが良いのじゃー」
芳「唯ちゃんは、全然変わらないわね。小さい頃のままだわ」
唯「えーちょっとは大人になってない?髪もちょっと伸びてるしー」
美「伸びてはいるけど」
唯「最近、ポニーテールができるようになってきたんだよー。たーくんとお揃い!」
美「向こうでやってたの?」
唯「いや、勝手にやるとシメられる…」
若「城の奥に指導する者がおりまして」
美「必要ね」
唯「えー!」
美「親の顔が見たいとか思われてないかしら?唯への色々な指導、ビシビシお願いしたいわ」
若「ハハハ」
エ「若君が唯ちゃんに指導するなら、ちょっと甘そうね」
若「え?そう…かもしれません」
全員「ハハハ~」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
美香子さん、ずっと黙ってたのも辛かったでしょう。
23日のお話は、ここまでです。
[no.605] 2021年5月12日 22:43 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days12~22日月曜14時、買い込みます
大きいお肉…今回は魚介類ではない模様。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅覚と子供達三人、ホームセンターに向かう車中。
覚「あさってな、行きもプールまで乗せてってやるから」
唯&尊「やったー!」
若君「父上、良いのですか?」
覚「いいよー。任せて」
若「ありがとうございます」
覚「あとな、8日、花火大会も乗せてってやるから」
唯「やったっ」
尊「良かったですね、若君」
若「それは…世話ばかりかけ済みませぬ」
覚「当日の詳細は、また考えるよ」
ホームセンターに着きました。
唯「では、花火などもろもろ探して参る!さらばじゃ!」
ぴゅ~っと走って消えていった。
覚「おーい、ってもう居ない」
尊「兄さん置いてかれてるし」
若「ハハハ。重い物は運びますゆえ、わしはこちらに居ります」
尊「今日は何買うの?」
覚「七人でコンロ一つじゃ心もとないから、もう一つ買おうと思う」
アウトドアグッズ売場で、丸型の蓋が付いているタイプを選んだ。
尊「へー、いろんな種類があるんだね」
覚「忠清くん、大きい肉をドーンと焼いてあげるよ」
若「さすが料理の師匠。お父さん、また手ほどきをお願いします」
覚「あぁ、勿論だよ。あ、そういえば料理の話で、母さんが忠清くんにお願いしたい事がある、って今朝チラッと言ってたな」
若「わしに、ですか?」
覚「うん。帰ったら確認するよ」
コンロや着火材などでカートは一杯に。
尊「あ、思い出した。日焼け止めも買わなきゃ。ちょっと行ってくるよ」
尊が離れる。
若「日焼け、止め?日に焼けなくなる術があるのですか?」
覚「そうだよ。迂闊に焼いてしまって、ヒリヒリしちゃ痛いだろ?」
若「はい」
覚「あと、永禄に戻った時にさ、やたら焼けてたら周りが驚くよ?3分後の顔で戻らないと」
若「なるほど。お父さん」
覚「何だい?」
若「大層中身が濃く、心地の良い3分を過ごしております」
覚「そう思ってもらえて、嬉しいよ」
尊が両手に何本も、日焼け止めを抱えて戻って来た。
覚「随分多いな」
尊「お母さんが、肌の老化は二十歳前から始まるって脅すから」
覚「まあホントの事だろうし」
尊「僕、焼くと赤くなっちゃうから。ヒリヒリは嫌だし」
唯「お待たせ~!」
カゴに山盛り詰め込んで、唯が合流。
若「お帰り、唯。それが花火、か?」
尊「なんかそうじゃないのも混じってるな。あ、浮き輪!二つあるし」
唯「要るでしょ」
尊「要る。さすが遊びに関しては、よく気が付くなあ」
唯「地味に失礼な気がする」
尊「あとは?あ、シャボン玉作るやつだ!」
唯「そっ。いいトコに目を付けたと思わなーい?」
尊「そうだね。懐かしいし、兄さんには新しいし」
若「まだまだ知らぬ物があると?」
唯「うん。楽しみにしててねー」
帰宅しました。
覚「コーヒー運びがてら、母さんに、若君に何の用か聞いてくるよ」
若「お願いします」
マグカップ三つを運ぶ覚。ほどなく美香子と戻る。
尊「え?今いいの?」
美香子「ちょうど今患者さん居なくて。若君、あのね」
若「はい」
唯「なになにー」
リビングでひそひそ会議。
美「…と、言う訳なんだけど、頼んでもいい?」
若「上手く出来るでしょうか」
尊「朝、練習したら?」
若「良いですか?父上」
覚「いいよ~」
美「じゃ、戻るわね」
唯「じゃあ、今からスーパーに?」
覚「そうなるな。材料が心細い」
唯「行く行くー」
覚「今度は何をねだるんだ」
唯「バレた?アイス買ってー」
尊「小学生か!」
唯「じゃああんたはナシね」
尊「それとこれとは話が別」
唯「なにそれ」
若「ハハハ」
早速皆でスーパーへ出かけました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
さて、何が始まるのでしょう。
22日のお話は、ここまでです。
[no.604] 2021年5月10日 20:16 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days11~21日15時30分、色っぽいね
かわいい妻。見せびらかしたい派か、しまっときたい派かなら、きっとしまっときたい派。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅男子二人を見送ると、早速物色。
美香子「ビキニがいいんだって?」
唯「うん」
美「忠清くんを悩殺したいとか?」
唯「うん!」
美「彼はそのままの唯が好きなんだから、それこそスクール水着でもいいと思うけど」
唯「もー!なんで親子で同じ事言うのっ」
美「あ、尊も言ってた?」
唯「言ってた。かわいいの着たいもん!選ばせてよ~」
美「はいはい」
三着選んだ。美香子がチェック。
美「なんと言うか、この胸パッドの、えげつない程の入り方が…」
唯「胸小さめ女子の救世主でしょ」
美「半分以上パッドが占めてるじゃない。胸の形が崩れるから、あまりオススメできないんだけどねー」
唯「いーのー。これでガッツリ、谷間を作るのだー!」
美「忠清くん、中身知ってるから、なんか怪しいなと思うわよ」
唯「えー、あくまでも、たーくんの味方?」
美「まあ、まずは試着してみなさいな」
次々と試着。
美「んーどれも悪くないけど、強いて言うなら黄色いのかな」
唯「やっぱり?私もそう思った!もう一回着てみるね」
再度着替え中。
尊「お母さーん」
美「あ、おかえり。決まった?」
若君「お母さん、見てください」
美「ふむふむ、青色の濃淡がグラデーションに入ってるのね。あら!尊は黒の濃淡の色違い?合わせたの?」
尊「偶然の一致」
美「まあ!そうなのー。仲良し兄弟ね」
尊「思わず、喜びのハイタッチしたよ」
美「へー。尊、優しいわね」
尊「え?」
美「ハイタッチの思い出を、いい方に塗り替えてあげたのね」
尊「うわっ」
若「そうなのか?尊」
尊「えーっと…えへへ」
若君が手を差し出した。尊もそっと出す。
若「ありがとう、尊」
尊「いえいえ」
固い握手。
美「ん~兄弟愛。いい眺めだわー」
唯「ねぇちょっとぉ、私の事忘れてない?」
試着室のカーテンが開いた。
唯「ジャーン!どお?どお?たーくん」
若「唯…」
レモン色のビキニ。ショーツはシンプルだが両脇にリボン、ブラは肩紐は細く、胸の中央でリボンを結んだようなデザインで、動くとリボンが揺れる。
若「よう似合うておるぞ。…ん」
不自然に盛り上げられた胸元を、不思議そうに見ている。
若「何やら普段と違うておる」
唯「やだー、気のせいだってぇ」
尊「ウソにも程がある」
若「この先の世では、これを良しとすると?」
唯「あれぇ?なんかノリが悪いー」
尊「時代が違えば、価値観も違うでしょ」
若「良しとするのならば」
唯「ならば?OK?」
若「他の男に色目を使うのか」
唯「えっ?!まさかっ!」
尊「ヤバい展開だな」
若「無念じゃ」
唯「違う、違うってば!」
美「拗ねてる…」
尊「お母さん、シーッ」
美「あ、ごめん、つい」
唯「たーくん、そんなんじゃないから!」
若「…わしは、有るがままの唯で良いのじゃが」
美「あー。ほらね、言った通りでしょ?唯」
尊「やっぱ僕らの方が理解してる」
唯「えー、これダメ?」
若「駄目とまでは申さぬ。気に入ったのであればそれで良い。何より似合うておるし」
尊「もろ手を挙げて賛成ではないが、まあ良かろう?」
美「忠清くん、少しでもあなたの気を引きたかった乙女心に免じて、許してやって」
若「ほぅ。乙女心、とはそういう物なのですね。ならば、唯」
唯「はいっ」
若「許す」
唯「ありがと~。きょ、きょうえつ…なんだっけ?」
尊「言えないなら言わない」
水着三着お買い上げ。そろそろ帰ります。
唯「あー、無事決まって良かったぁ。早くプール行きたいなー」
美「プール。確かにいきなり海水浴よりはいいかも。いつ行くの?」
唯「まだ考え中」
美「今週の水曜にしたら?行きはまだ約束できないけど、帰りは迎えに行ってあげるわよ」
唯「え、いいの?」
若「それは有り難きお言葉じゃ」
尊「やったー!」
美「ご機嫌ね。なんせペアルックだもんね」
尊「楽しみー」
唯「乙女か!」
全員「ハハハ~」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
楽しい予定続々。
21日のお話は、ここまでです。
[no.603] 2021年5月8日 19:38 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days10~21日15時、まるで買い物デート
ふんどしも、際どいからダメ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅水着売場の前。
美香子「この売場は、時代が移ってもカラフルさは同じね~」
唯「キャー!かわいいのがいっぱーい」
尊「派手~。一人だったら絶対入れないよ」
若君「全ての色を集めたような処じゃな」
美「あい変わらず綺麗な表現ね、忠清くん」
唯「あ」
尊「外出時は令和ライフ、始動だね。了解」
若「わかりました、お母さん」
売場内に突入。
美「メンズ物は向こうにあるから、自由に決めてらっしゃい。何かあれば呼んで。どうせこちらは時間かかるだろうから」
尊「はーい。行きましょう、兄さん」
若「わかった。お母さん、行って参ります」
売場の隅にメンズコーナー。
尊「こちらは選択肢が少ないから、かえって助かりますよね」
若「それでも随分とある」
尊「あっ、それはちょっと…」
若「いやに小さいのう」
手に取ったのはビキニパンツ。
尊「それ選んだら、お姉ちゃんに際どいのはダメって言えないです」
若「どのように身に付けるのじゃ?ほぅ、伸びるのか」
尊「兄さん、売り物なんであまり伸ばさないでくださいね」
若「あ?そうか、済まない」
尊 心の声(そんなん選んだら、お母さんだけが異常に喜ぶよ)
尊「無難に、サーフパンツ系にしましょう」
若「色々、模様が入っておるのう」
しばらく、二人それぞれ黙って選んでいた。
若「これなど如何であろうか」
尊「決まりました?僕も選びましたから、試着しましょうか。あっ」
若「おっ」
同じ柄の色違いを手にする二人。
尊「わー、嬉しい!あとはサイズが合えばいいけど。兄さん、ちょっと見せてください」
若君の選んだ水着のタグを見る尊。
尊「サイズは大丈夫そう。じゃ、着てみましょうか」
試着室。まずは若君。
若「どうじゃ?」
尊「わー、想像通りよく似合う。えーどうしよう、僕似合わなかったら」
若「そんな事はなかろう」
尊「いや、容貌の完成度の違いが如実なので…」
若「その言葉、いつぞや聞いたな」
尊、着替えました。
若「何も申し分なかろう」
尊「良かった~」
選択完了。
尊「あの、もしかして僕に気を遣って同じのにしたとかないですか?」
若「いや、それはない。わしも面食らった位じゃ。されどかわいい弟と、センスが同じで嬉しかった」
尊「センス、ちゃんと覚えてますね。さすが忠清兄さん」
若「此度も、様々な言葉を覚えようと思うておる。尊、よろしく頼む。…そうじゃ、早速尋ねたいのじゃが」
尊「なんですか?」
若「先程唯と吉田殿が、再会の折に手を叩き合うておった。あれは何か合図や決め事なのであろうか。あとクラスメート、とは何じゃ?」
尊「あー、ハイタッチ。えーと軽い挨拶でもやるし、上手くいったねおめでとうって時もやるし。お姉ちゃんの様子だと、会えばいつもあぁしてたんじゃないかな。クラスメートは、同じ教室で勉強してた仲間です」
若「そうか。仲良うしていたのは相違ないと」
尊「多分お姉ちゃん、誰にでもやってますよ。だから心配要りませんから」
若「そうか?」
尊「はい。…あ、そういえばハイタッチって、今この状況でもやりますよ」
若「それは何ゆえ?」
尊「一緒の選んだじゃん、二人通じあってるよな!って」
尊が右手を挙げる。若君も同じく右手を挙げた。
尊「イェーイ!」
若「イ、イェーイ」
パシッ!といい音でハイタッチ。
若「おぉ、なにやら、より通じ合うた気がするのう」
尊「良かった。じゃあ、これからは時々やりましょう」
若「そうじゃな」
尊「もう決まったかな~?お姉ちゃん達の所に行きましょうか」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
実に微笑ましい兄弟。
[no.602] 2021年5月8日 19:34 夕月かかりて(愛知)さん 返信ぷくぷく様・妖怪千年おばば様
まずぷくぷく様へ。
お返事が遅くなり大変失礼致しました。先程ようやく以前の作品を再度拝読しましたが、変わった?そうかな?という感想です。謝っていただくなど恐れ多いです。
それでしたら、私の「」の使い方は、ぷくぷくさん寄りですので、こちらが恐縮でございます。お二人へ。
私が現代のお話を描いているのは、戦国言葉をうまく扱えないからです。もっと励まないといけませんが(*_*)。お二人の言葉の操り方、大変尊敬致しております。
てんころりん様
投稿の間隔が空くのですね(ToT)淋しくなります。
色々ご事情もあると思いますので、サイトが見られない、という環境でないのであれば、アシカフェの動向を見守っていてくださいね。
[no.601] 2021年5月8日 00:58 てんころりん(東京)さん 返信ぷくぷくさん
『宗熊の決意』前章から時間があいたし、途中からの方もいるし 解説は助かります。
no.566「これからの事を」
no.574「今日はぽかぽか」(第一章登場人物)
no.575「第一章あらすじ」no.577「第二章へ」★【土産 その1, 2 】4/6 no.567_ 4/7 no.570
ぷくぷくさんの“爺様”はいつでもどこでも愛されキャラです。
高山親子にそっくりな熊田親子から、爺様がもらった日光の木彫りの三猿が、戦国でどんな働きをするか楽しみでした。
速川家がある黒羽市が、ぷくぷくさんの地元になってませんか?
小学校の遠足で日光へ… 近場の日光へ一泊旅行… あれ? もしやと。
それって楽しいし. とても良いですよね。
創作倶楽部なんだから自由に ??★【宗熊の決意 第二章 ①~⑤】
4/14 no.578~4/21 no.586高山の坂口が、悪役を一手に引き受けますね。
坂口は宗鶴から許されて、独自に調略の仕事をする、組織に属さない人だった。
これ、マスター·我が家の伝統芸能さんの公式時代の投稿(坂口について)を思い出して書いてます。
確か調略という言葉をお使いでした。
坂口が成之と仕組んだ謀はことごとく失敗?!ぷくぷくさんの物語では、坂口が宗鶴に嘘の報告をして忠高を憎むよう仕向け、追放されて高山を逆恨みし、宗熊に矢を射る❗
あちゃ~ 悪い奴じゃのう ??
爺様から渡された???に命を救われ、亀裂が入った木彫りを見せて宗熊が笑うところ、戦国武将らしく格好良かった❣️で、ぷくぷくさんにお願いがあります。
坂口(演者の山本龍二さん)のお顔が浮かびます。
真の悪人は登場しないアシガール、機会があったら、坂口の名誉回復してあげて下さい。?宗鶴 忠高を和解させる為、宗熊は大活躍。
年上でバツ1の“ゆめ” 気丈で素敵な女性の心も得ちゃいました。
そして今回の影の主役は八次郎ですね❣️
羽木の間者と宗熊に見抜かれ、宗熊の人柄に触れて忠義を誓う。
これ、山本周五郎「樅の木は残った」を思い出しました。私が高校生の時、平幹二朗さん主演で大河ドラマにもなりました。
江戸時代の話なので、戦はなく.調略ばかりの抗争です。敵方の間者だった人物が、平さんを守り命を落とします?。八次郎は宗熊を主とする事、忠高から許されましたが、高山と羽木が再び敵対する事もないとは言えず、両親と兄·三郎兵衛に別れの挨拶をするのが切ないです。
両殿の和解は、八次郎が運んだ宗熊の手紙と忠高の返事で、実際はほぼ解決していたのでしょうか。
両殿は思い出の場所で会い、旧友相和しました。
両家の橋渡し(連絡役)に高山は八次郎、羽木は三郎兵衛が選ばれ、一先ず.めでたしですね ?。
戦国では、この平和がいつまで続くか分からない。
宗鶴が「今宵祝言を」熊とゆめを急かすのは、阿湖(唯)と熊の時と同じで笑いました?。
でも時代がそうなんだと思い直しました。【追記】
戦国に帰り着いて、全員が唯を一緒に連れて来て
良かったか?とふと思う… 印象的でした。
ぷくぷくさんの次回作も楽しみにしてますね。☆皆さんの作品に共通する事ですが、長いので、一部についてしか書けずにすみません。
作者ご本人が力を入れた所とズレる可能性があり、おっかなびっくり、しかし私にはこれしか書けないという気持で出しています。
☆夕月かかりてさん、新作期待してます。
☆妖怪千年おばばさん、始まりましたね。私、アシカフェ自体を暫くお休みします。
アシガール板の誕生日リストの投稿位しか、書き込み出来ないと思います。
感想は先になりますが、よろしくお願いします。- この返信は3年、 11ヶ月前にてんころりん(東京)が編集しました。理由: 追記あり
[no.600] 2021年5月7日 10:56 妖怪千年おばばさん 返信楓 ~「十三夜」続編~ 第一景
「さあ、お仕度を。」
侍女の言葉に、
三の姫は素っ気なく答える。「私は、参りませぬ。」
「その様に申されましても、
これは、御屋方様の
お指図にて。」「何を騒いでおるのじゃ?」
鐘ヶ江久政の妻が部屋に入って来た。
「まだ、その様な成りでおるのか。」
「何故、私なのです?
お仕えするのは、
ふきのはずでは?」「ふきは未だ、女の童じゃ。
お子は望めぬ。
さあ、早う湯殿で
身を清めなされ。」母にせかされ、三の姫は
固い表情で部屋を後にした。「逆ろうた事など、一度たりとも
無かった三の姫が、
何故あの様に。」黒羽城の若君、忠清の初陣が
決まったと、知らせを受けたのが
二日前の夜更けの事。初陣の夜のお世話をと、
鐘ヶ江家の娘に白羽の矢が立った。当主の隠子として
松ヶ枝村で育ったふきは、
七歳で父の屋敷に引き取られた。
男子に恵まれぬ鐘ヶ江家にとって、
できる事ならば、若君の側室にと、
望みを託しての事だ。しかし、此度のお召しは残念な事に
ふきにはいささか早かった。
一方で、久政とその妻は、
この好機を逃す訳にはいかない。そこで、若君よりも年上ではあるが、
三の姫をと決めたのだ。娘の衣装を整えている所へ、
当の三の姫が湯殿から戻って来た。
その姿を一目見るなり、
久政の妻は声を荒げた。「如何したのじゃ!?
凍えておるではないか。」三の姫の桃の様な頬は
血の気が引き、唇も手足の爪も
紫色になっている。侍女は、声を震わせながら、
答えた。「お止めしたのです。
なれど、姫様は、戦勝と、
鐘ヶ江家繁栄祈願
の為とおっしゃいまして
湯殿にあった手桶の水を
全てお浴びになり。」「何という事を!
早う、熱い湯を持て!
体を暖めねば!」外廊下にいて、
その一部始終を見ていたふきは、
急ぎ厨にむかうと、土瓶を整えた。
それを三の姫の元へ運ぼうとして、
ふと思い立ち、自室に入ると、
しまっておいた和三盆を取りだし、
土瓶の中に落とす。義母の怒りが、
やや静まったのを見定め、
ふきは、庭から三の姫の部屋に
その土瓶を差し入れた。「お体が温まります故。」
侍女が、添えられた茶碗に
土瓶の湯を注ぐと、
生姜の香りが立ち上る。
ほんのりと甘い匂いもした。「生姜湯かえ?」
義母の尖った声に、
首をすくめたふきを見て、
三の姫が声をかけた。「ふき、こちらへ運んで。」
三の姫は奥の間で、
夜具を掛けられ臥せっている。ふきは、おずおずと、
部屋に上がった。
すると、その中庭に、
下男が駆け込んできた。「御屋方様からの
急な知らせにございます。
姫様の今宵のお勤めは
無用との事。」「何じゃと。それは誠か。」
「はっ。若君様は、
“手弱女に、戦場は
相応しゅう無い。
また、改めて。“
と仰せられたと。」「何と、十三にして、
その様なお心遣いをなさるとは。
して、戦況は?」「羽木軍の圧勝にございます。
若君様は、四天王が
四方を固めてお守りし、
ご無事。
御屋方様も、無傷にて、
明後日には、お戻りに
なられましょう。」「お父上はご無事なのですね。」
娘たちは、喜びの声を上げる。
久政の妻は、安堵と落胆の
入り交じった深い溜息をつくと、
二人の娘を交互に見据えた。「それに引き換え、
お前たちときたら。」それから、たっぷりと一刻の間、
家臣の娘として生まれた者の
心構えを、二人は母親から
延々と聞かされたのだった。義母の退出を見届けて、
ふきが、思わず声にする。「此度は、いつもの倍は
ございましたなあ。
お義母様のお説教。」「ふきには、とんだ
災難であったの。」「いえ。その様な。
なれど、何故、
水ごりなど?」「それはの。」
三の姫は、ためらいがちに、
言葉を続けた。「お前の想うお方の寵を、
私がお受けする
訳にはいかぬからじゃ。」「姉上様、それは。」
ふきは、慌てた。
“誰にも覚られてはおらぬと
思うておったのに。“「初めてじゃの。
お前が姉と呼んでくれたのは。
常には、三の姫としか
呼ばぬものを。」夜具の中から手を伸ばすと、
三の姫は、ふきの指を握った。「暫く前の事じゃ。
お前は、侍女のつると菊を
摘みに行き、帰るなり
幾日か臥せったであろう。」「あ、あれは。。。」
「その折、つるから
聞いたのじゃ。
若君様が通られた故、
菊は摘まずに戻ったと。」「左様にございまする。」
「その日より、お前の心に
若君様のお姿が焼き付き、
去らぬのであろう?」「姉上様。」
ふきは、頬を染めながら、
小さな声で応えた。「お察しの通りに
ございまする。
なれど、この胸に、
そのお姿が宿りましたのは、
それ以前の事にて。」ふきは、語った。
松ヶ枝村の外れ、栗の木の上で見た
白い馬に跨り、
すすきヶ原を駆け抜ける、
青い着物の男子の事を。「その様に、長き間。
なれば、なおの事じゃ。」「なれど、かような事を
なさらずとも。」三の姫の水ごりは、
己を思っての事と知り、
ふきは、身の置き場が無い。「では、もし、お前が私で
あったなら、如何する?」「私であれば?」
ふきは、しばし思案した後、
こう応えた。「私ならば、朝餉に、
豆や芋をたんと食します。」「豆や芋?何故?」
「はい。
さすれば、寝所に
上がる頃には、腹が張り、
おのずと・・・」ふきは、その後の事を
三の姫の耳元で、
ひそひそと伝える。それを聞いた三の姫は、
夜具を頭までひき被り、
声が漏れぬ様にして笑った。ふきは得意気に、なおも語る。
「つるがおれば、
とんだそそうをと、
その身に引き受けましょう。
なれど、閨にまでは
付いて参りませぬ。
私が殿御であれば、
鼻を塞がずにはおられぬ
女子など、すぐに下がらせ、
二度と召しませぬ。」大真面目な顔のふきを、
夜具の間から覗いた三の姫は、
笑いが止まらず、体をよじる。笑い転げ、体が火照った三の姫は、
夜具を払い、体を起こした。
その頬には、赤みが戻っている。
それを見て、ふきは
ほっと胸を撫で下ろした。「良うございました。
いつもの三の姫様に
お戻りで。」「ふきのお陰じゃ。
先程の生姜湯には、
お前が大切にとっておいた、
和三盆を入れたのであろう?
その礼に、
良いものをやろう。」三の姫は侍女を呼ぶと、
棚から巻物を取らせた。侍女はそれをふきの前に広げる。
「姉上様、これは?」
「私が写した、落窪物語じゃ。」
「その様な大切な物、
頂くわけには参りませぬ。
私は、拝見できればそれで。
如何様なお話なのでしょう?」「それはの。
継母から苛められている姫が、
頼もしき貴公子と廻り合い、
幸を得る話じゃ。」「まあ、その様な。」
「お前も辛い事が多かろう?」
「いえ。私は苛められた事など
ございませんので。
ただ・・・」「ただ?」
「かか様に会いとうなる事は
まれにございまする。」ふきは、ニの姫の
流鏑馬披露の日を思い出した。
母の胸に飛び込んだ時、
その粗末な衣の感触に
胸を突かれた。幼き頃には、
何も思わずにいた。
それが当たり前の事であった。
しかし、柔らかな絹に馴染んだ身に、
洗いざらしの麻布は、
切なく肌に当たった。“せめて一枚の衣だけでも贈りたい。
生み育ててくれた、かか様に。“「お前、確か、茜色の端切れを
集めておったの。」「はい。
縫うてみたいものが
ございまして。」「もしや、かか様のものか?」
ふきは小さく首肯く。
「村の冬は寒うございまして。
せめて、肌着をと。」それを聞いた三の姫は
慰めるように言った。「若君様のお側に上がれば、
衣も、髪飾りも思いのままと聞く。
たとえ、それが、
かか様のものであろうとな。」・・・・・・・・
その後、鐘ヶ江久政の妻は
ニの姫の縁談にかかりきりとなり、
ふきにとっては、穏やかな日々が
過ぎて行った。一の姫の和歌の指南は、
相変わらず手厳しいが、
三の姫と水菓子を分けあいながら、
語るのは、楽しい。ある日、三の姫がぽつりと言った。
「女子の幸せとは、
嫁いで子を成す事だけ
なのであろうか?」「三の姫様?」
家臣の姫と生まれたからには、
お城の奥に上り、
お世継ぎを生む事こそ、至上の誉。母の口真似をし、頭を振ると、
三の姫は溜息をつく。「これは、何の写しに
ございまするか?」その溜息には気付かぬふりをし、
ふきは訊ねた。「更級日記じゃ。」
「もう、写し終えられて?」
「それがの。
なかなか筆が進まぬ。」「何故に?」
「書いたお方のお気持ちが、
よう分かり過ぎて。」「それは、如何様な?」
「これを書かれた姫君は、
下総の侘住いであった。
ある日、乳母から、源氏物語の
粗筋を聞き。読みたいと思うが、
ままならぬ。
そこで、京の都の本邸に戻りたいと
父上に頼むのじゃ。
本を手に入れる為にの。」「京の都へ。」
「その父上は、お役人での。
もともと都人であった故、
上申し、京に戻る事になる。」「良うございました。
願いが叶うて。」「確かに、姫の願いは叶う。
私とは、違うての。」「もしや、三の姫様も、
都へ上がるのをお望みで?」答える変わりに、三の姫は立ち上り、
遠い空を眺めた。「都で無うても良い。
心が浮き立つ様な
景色を見てみたい。
そして、皆の心に残る様、
それを書き記したい。」「なれば、お記しになれば?」
「記す?何をじゃ?」
「旅人にとりましては、この地も
珍しき景色なのでは?」「確かに、左様ではあろうが、
日頃、見慣れた景色では、
興が乗らぬ。」「私には、鈴鳴神社の水占いなど
大層、面白く思われますのに。」「水占い?」
「流鏑馬披露の際には、
吉を引き当て、二の姫様も、
見事、勝ちを手にされました。
まずは、鈴鳴の縁起など、
綴られては如何でしょう?
守り人となられるニの姫様に
お願いすれば、参拝の方々に
読んで頂く事も出来ましょう。
縁起を知れば、
訪れる方の信仰も、
より深まりまする。」「ふき、それは良いの。
小次郎殿とニの姫の
縁を結ばれた神じゃ。
詣でれば良縁を得ると聞けば、
参拝の方も増すであろう。
さすれば、小垣は今より
栄えるやも知れぬ。」三の姫は、ふきの手を取り、
目を輝かせた。「お励みあれ。」
ふきは、三の姫の晴れやかな顔を見て
微笑んだ。ふきは思う。
己の出自を振り返れば、
このお屋敷暮らしに不平など、
思いもよらぬ事。
なれど、この屋敷で生まれ育った
三の姫には、満足の行かぬ
ものらしい。
ふきは、早速、硯に向かう三の姫を、
いつまでも見つめていた。・・・・・・・・・・
それから、二年程が過ぎた。
三の姫が書き上げ、神社に奉納した
物語は、次第に評判となり、
求める人も多くなった。
今では、社務所の横に仮小屋が建ち、
参拝者はそこで物語を写していく。
その噂は、黒羽城の
奥方の耳にも届いた。「その鈴鳴の縁起物語とは、
如何様な物かの?」「大層、趣があるとか。
禰宜殿に頼み、
届けさせましょうか?」「誰ぞ使いに出し、
写させては?」「それなれば、まずは、私が。」
「いえ。私が。」
「いえいえ、私におまかせを」
奥女中たちは、我も我もと
名乗りを上げる。「まあ。今まで、役目の取り合い
など無い事であったのに。」奥方は、呆れながらも、
声を立てて笑うのだった。奥女中が交代で書き写して来た
物語は、三部に分かれていた。「祠」、「鳶」、「縁」
季節の移ろいも美しく、
登場する人々も、生き生きと、
まるで、その場にいる様に
描かれている。読み終えた黒羽城の奥方は、
その余韻に浸りながら、呟いた。「この見事な物語を記されたのは、
如何なる方であろう。」すかさず、
まだうら若い奥女中の一人が答える。「鐘ヶ江殿の三の姫様と
伺っておりまする。」「ほう。鐘ヶ江殿の。
一度、会うて見たいものじゃ。」「なれば、歌会に召されては?」
「それは、良いの。
鈴鳴の青紅葉も美しい頃じゃ。
皆も参りたいであろう?」奥方の言葉に、写本に行けなかった
若い奥女中たちが、色めき立つ。「神社にて歌会を?
ならば、早う、禰宜殿に
お伝えせねば。
梅雨の長雨の前にとな。」その歌会の知らせは、
間もなく鐘ヶ江家にも届いた。「三の姫、喜びなされ。
黒羽城の奥方様から、
歌会へのお召しじゃ。
くれぐれも、そそうの無き様に。」「まあ、私が?
我が家の歌の名手は、一の姫。
お人違いでは?」「奥方様はの、鈴鳴縁起を
お読みになり、お前に会うて
みたいと仰せなのじゃ。」「それは、有り難き幸せ。
なれど、鈴鳴の縁起を綴る様、
勧めてくれたのは、ふきにて。
ふきも共にとお願いできぬ
ものでしょうか?」「ふきも?
三の姫、あの者の歌は、
お前も良う存じておろう?
大恥をかく事になりまするぞ。」「なれど、母上。
ふきを奥に上げるにも、
奥方様とのお目通りは叶うた方が
宜しいのでは?」「左様ではあるが、歌会では・・・」
「今なれば、お題は新緑かと。
先に、一の姫に御手本を
詠んで頂き、それをふきに
覚えさせては?」久政の妻は、考えあぐねていたが、
しぶしぶ、三の姫の申し出を
承知したのだった。・・・・・・・
慌ただしくも浮き立つ様な日々の後、
鈴鳴神社は、歌会当日を迎えた。それは、今までにない趣向を凝らした
ものであった。招かれた人々は、順に、見晴らし台に
案内される。
その見晴らし台は、
黒羽城主が寄贈した建物で、
裏山の斜面に立てられた唐風の
東屋だった。鮮やかな朱塗りの手摺りを辿り、
階段を上がりきると、
晴れやかな景色が広がる。右手の山肌には、
岩の間を落ちる小さな滝が涼やかな
音を立てていた。
その流れは、幾重にも折れ曲がり、
せせらぎへと姿を変える。
そのせせらぎを覆う様に、
青紅葉が枝を伸ばしていた。振り向けば、国境の山々と、
その麓に広がる草原と村々が、
一望のもとに見渡せる。
手前の山の上には、小垣城。
遠目にも羽木の旗印が見て取れた。義母と三の姫と共に、その東屋に
上ったふきは、真っ先に、自分の
生まれ育った松ヶ枝村を見つけ、
歓声を上げた。‘’いつもの母上なれば、
はしたないと、
ふきを咎めるはずなのに。“三の姫は、訝しげに母を見る。
その母の眼は、
小垣城に向けられたまま、
全く動かない。「お席も整いました頃にて。」
案内の奥女中にうながされ、
階段を下り始めた三の姫は、
母の小さなつぶやきを耳にした。「小垣城の楓も繁っておろうか。」
・・・・・・・
歌会には、主だった家臣の奥方と
その娘たちが招かれた。
ただし、筆頭家老の天野家は、
当主の妻が亡くなり、
後添えも迎えていないので、
特別に隠居の信茂と、
他家に嫁いだ長女が参上した。
また、次席家老の千原家からは、
当主の親族である、
若君付き小姓・源三郎の母が
参会していた。皆が揃った所へ、
あでやかな打掛を纏った
羽木の奥方が、上段の座に着いた。宮家縁の家柄からか、流石に
その立ち居振る舞いの優雅さは、
際立っている。天野信茂が一同を代表して、
招待の礼を述べた。奥方は、柔らかな声で、信茂に
ねぎらいの言葉をかける。「この歌会は、
表立った儀式では無い。
この爽やかな一日を存分に味わい、
歌に詠み、心遊ばせて
過ごされよ。」奥女中が、硯箱と短冊を、運び込む。
先に観賞した見晴らし台からの風景が
この歌会のお題であった。
墨を擦る音が聞こえ始め、
広間は静かな熱気に
満たされていった。やがて、それぞれの短冊が集められ、
奥方の前に置かれた。
奥方は、それを別室に控えている文人
の元に運ばせる。その間、参会者には茶菓が供され、
皆、くつろいだひと時を過ごした。
口々に、自作の出来栄えを語り合い、
文人の評価を推し量る。やがて、選ばれた歌の短冊が、
盆に乗せられて運ばれて来た。まずは、十首が、作者本人の前に
置かれ、自身の声で順に披露された。
詠じる声には、おのずと誇らしさが
溢れる。
歌の余韻の後には、参会者の賞賛の
声が上がる。他、三首が選ばれ、それは、
選者の文人より、詠じられ、
講評も加えられる。
それは、詠み手にとって、
大変、栄誉な事であった。
特選ではないかと噂されていた、
天野と千原の作品は、
この中にあった。最後に、特選が披露された。
「本日の特選は、
初参の方の作にて。」奥女中の声に、場内がざわめく。
「鐘ヶ江久政殿の三女、花梨殿
これへ。」名を呼ばれ、三の姫は驚きのあまり、
その場に固まってしまった。石のように動かない娘を、
母親が促す。「早う、奥方様の前へ。」
声も出せない娘を、ふきと共に
両脇から支え、奥方の前に座らせる。平伏する三名に、微笑みを浮かべ、
奥方が声をかける。「面を上げられよ。」
次に、特選の歌を、文人が朗々と
二度繰り返し吟じた。「まこと、瑞々しき歌じゃ。」
奥方にお褒め頂き、
三の姫は、か細い声で、
御礼の言葉を絞り出す。
その横で、褒美の品を受け取った
ふきが、義母と姉の退出より遅れて
立ち上がった。
すると、その時、ふきの袖口から、
ひらりと一枚、紙切れが落ちた。「これは・・・。」
拾い上げた若い奥女中が、
思わず吹き出す。「何事?」
「遊び歌にございましょう。」
「これへ。」
ふきは、慌てて、捧げ持っていた
褒美の品を義母に押し付けると、
平伏した。「お許しを。お目汚しにて・・・」
ふきの言葉に、奥方の笑い声が被る。
居並ぶ一同も、
楽し気な奥方の様子に、
訳も分からぬまま、笑い出した。・・・・・・
- この返信は3年、 11ヶ月前に妖怪千年おばばが編集しました。
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[no.599] 2021年5月7日 10:23 妖怪千年おばばさん 返信[no.598] 2021年5月6日 18:51 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days9~21日14時30分、そっと見てました
あい変わらずな親子です。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅本屋を出て、急いで歩き出す尊。
尊 心の声(あそこの角を曲がれば、水着売場はすぐだな)
角を曲がった所で、思わずバックした。
尊 心(わ、おっと!え、誰と居る?僕出てっていいのかな?様子を見るか)
唯達三人に遭遇。少し離れた所から覗く事に。
美香子「ふむー」
尊「わっ!お母さん!いつから後ろに居たの?」
美「尊こそ、いつから覗いてんのよ」
尊「ハイタッチから」
美「私もそこから。あの子達、というか唯だけど、相当プラプラしながらゆっくりと売場に向かってたのね」
尊「若君固まってるよね。大丈夫かな」
美「どっちの言葉をしゃべればいいか、わかんなくなってるんじゃない?」
尊「あ、そっか。目上の人には現代語、僕やお姉ちゃんは戦国言葉でいいけど、現代語の方が無難そうな同年代、って今まで経験ないもんね」
美「唯がほったらかしにしてるのは気になるけど。なんか思考停止してる感じで口も開いちゃってるしね。若君の瞳って、黒目がちじゃない。まるで…」
尊「埴輪みたいになっちゃってる?」
美「はに丸王子みたいになっちゃってる」
尊「またわかんない事言うー。なんかのキャラ?」
美「ただの埴輪よりはかわいいわよ。お供の馬もいるの。若君と一緒でしょ。はい、わからなければ検索!」
尊「後で見るよ。お母さんってさあ」
美「何」
尊「ただ勉強して頭イイだけの人じゃなくて、ちゃんとそういうテレビや漫画とか?も押さえてるからすごい」
美「お勉強が出来れば医者にはなれるけど、それでは人としてはペランペランだもの。視野が広いのは大事よ」
尊「なるほど。そんな美香子先生が人気で、我が速川クリニックは安泰だと。僕もそういうの必要なのかな…あれ、お姉ちゃん達どうなった?」
唯と吉田がしゃべりまくる隣で、黙って若君が聞いている構図のまま。
美「そろそろ助けに行こっか」
尊「え、行くの?」
美「だってあの男の子、ウチの患者さんだもの」
尊「知ってるんだ」
美香子と尊、歩き出す。
吉田「お前がしゃべり過ぎるから、旦那さんがしゃべる隙がないんだろ?」
唯「違うよ~」
吉「…あっ、美香子先生!こんにちはー」
美「こんにちは、吉田くん。最近お腹の調子はどう?」
吉「はい、最近は大丈夫です。先生に、病は気からと言われてからは」
唯「そういえばコイツ、潔癖症で人の握ったおにぎり食べられないんだったー」
美「あらそんな事があったの。でも今は大丈夫ね。ハイタッチしてる位だから」
唯「そんな前から見てたの?」
若君 心の声(長い間見ておったと?…母上、早く止めていただきたかった)
吉「先生も来てたんだ。あっ、弟くん?あの超エリート高に通ってるっていう」
尊「こんにちは」
美「唯達が里帰りしてくれたから、家族みんなでお出かけしてるのよ」
吉「へー。じゃあ僕は、お邪魔なんでそろそろ消えます。今日は先生に会えて、嬉しかったです」
唯「ちょっとー、そこは私じゃないの?」
吉「お医者さんは、普通は病んでる時だけ会う人だろ。今日は元気な時に会えたからさ」
若君「なるほど」
尊「さすが人気の先生だ」
美「ふふふ、ありがとう吉田くん」
吉「では、失礼します!」
美「さよなら~」
唯「バイバーイ」
ひとまず、小さな嵐が去りました。
尊「へー、これがはに丸王子」
美「見つかった?ひんべえも居るでしょ」
尊「この馬?ふーん」
唯「なに検索してんの」
尊「ん?まあいいから」
美「若君」
若「はい、母上」
美「あの子、ただの友達だからね」
若「そう…ですか?随分親しげでしたが」
美「唯は小さい頃から、男友達が多い子だったから」
若「なぜそれを、わしに申されるのですか?」
美「すごく嫉妬してたように見えたから」
若「…」
唯「え!たーくんが嫉妬!なんで?」
美「唯が吉田くんと楽しそうにしてたからでしょ」
唯「えー?たーくん以外は目もくれないし」
若「まことか?」
唯「うん。ごめんねー、久々だったからいっぱいしゃべっちゃった」
美「じゃ、そろそろ行きましょ」
唯が、若君と手をつなごうと左手を出した。すると、
若「こちらじゃ」
逆側に回り、唯の右手を取った。
美「ふふっ、かわいいわね若君」
尊「あー、右手はわしのモノだと?」
若「然り」
唯「えー、しばらくこのネタ引っ張られそうー」
いよいよ、水着売場へ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
心配しなくても、全部若君のモノでしょ。
[no.597] 2021年5月4日 20:07 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days8~21日日曜14時、静かにパニック
まさかの伏兵、登場。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅母の運転で、ショッピングモールに到着。
美香子「車停めてくるから、先に行ってて」
唯&若君&尊「はーい」
三人、入口手前で車から降りた。
尊「お姉ちゃん、ちょっと本屋寄りたいから」
唯「了解、先に行ってる~」
唯と若君の二人で、水着売場へ向かい始めた。
唯「久しぶりだね~ショッピングモール」
若「相変わらず、床が柔らかい」
唯「またそれ~?そろそろ違う覚え方にしようよ~」
二人が歩いていると、通路の向こう側から、こちらをいぶかしげに見ながら若い男性が近づいてくる。
男「あれ?速川?」
唯「あれ?あー!」
唯、若君とつないだ手を離して、急に駆け出した。
若「唯?え?」
取り残される若君。
唯「吉田~!」
吉田「やっぱ速川かー!」
唯と吉田、お互い右手を挙げた。
唯「うぇーい」
吉「うぇーい」
パシッとハイタッチ。
若君 心の声(なっ、なんと!)
唯「久しぶりー元気?今日は買い物?」
吉「久しぶり。お前は間違いなく元気だな。ちょっと本屋に行ってた」
唯「優等生ってみんな本屋に行くなぁ」
吉「誰でも行くだろ。あれ?お前確か、デキたから学校辞めたんじゃなかったっけ?デキ婚って聞いた気が」
唯「デキ婚…はぁ。デキて欲しいのにぃ」
一気にトーンダウンし、顔が曇る。
吉「え、俺なんか地雷踏んだ?あっ…デキてたけどダメだったとか?ごめん速川、事情がわからなくて」
唯「いーよ。元々デキてないから。それガセネタだよ」
吉「そう?デリケートな話だからさ、傷つけたら悪かったなって」
唯「ありがと。結婚したのはホントだけど」
吉「ソコはマジなんだ、天変地異~。あれが旦那さん?置いてきてどうすんだよ」
若 心(唯…一体、何者と話しておるのじゃ)
若君、ようやく近くまで来た。
吉「何が起こると、こんなすんげぇイケメンとお前がくっつくんだ?」
唯「私の魅力で」
吉「自信満々に言ってんなー。俺にはわかんねー。…あ、こんにちは!高校で速川のクラスメートだった、吉田と言います」
若「こんにち、は…」
唯「マイダーリンのたーくんだよ」
吉「こいつの、ドコがいいんすか?」
若「え」
唯「もー!変な事聞かないで!」
若 心(この男、随分と親しく話しておる。クラスメート、がわからぬが、学校に関わる人物か?しかもあの、手を叩き合う仕草は何じゃ?かなり心通じておるような…)
若君、考えを巡らせ過ぎて、うつろな表情になっている。
吉「足が速いのが好みとか?」
唯「止めてよー。それは褒められたけど、馬には負けちゃうし」
吉「なんでそこで馬なんだよ。お前は飛脚か?それか足軽?」
唯「え!なんでわかった?さすが優等生!」
吉「何だよソレ。話がとっ散らかって、訳わかんねーよ。ねぇ、旦那さん」
若「え?あぁ…」
若 心(現代語を話さねばならぬようだが、とても使いこなせそうにない。ここは黙って、頷くより他ない)
吉「なんか、寡黙でカッコいいな。歳は幾つ違い?」
唯「え!えっと…二つくらい?」
吉「また訳わかんねぇ事言う。あー、誕生日の関係?」
唯「そ、そう」
吉「すげぇ大人っぽい。わかった!いつもお前がしゃべり過ぎるから、旦那さんがしゃべる隙がないんだろ?」
唯「違うよ~」
若 心(話はいつまで続くのか。唯、そなたの楽しげな顔、これ以上見ておるのは…)
その時、尊と美香子がこちらに向かって来るのが見えた。
若 心(おぉ、助かった!)
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
次回、この場面を別の角度からお送りします。
[no.596] 2021年5月2日 19:46 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days7~20日16時、目白押しです
もしや、水に入るのにトラウマあり?
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅実験室に三人。
唯「ねぇ、花火の後に調べたい物がある」
尊「あー、そう。まずは花火…えっと、家で今度やろうとしてるのは、こんな感じです」
線香花火などの画像や動画を観る若君。
若君「ほぅ、まさしく火の花じゃな。美しいのう」
尊「で、こちらが打ち上げ花火です。これは家では無理なんで、やってる所に見に行ったりするんですけど」
動画が、夜空を彩る、迫力の大輪の花火に。
若「なんと!闇に花が咲いておる!しかも咲いては消え、また違う花が咲き」
唯「たーくんは言い方がいつもキレイ」
尊「少しは見習ったら?」
唯「身に付くモノなら、とっくに身に付いておるのじゃ」
尊「ソッコー諦めたと」
唯「似合わないコトはしない」
尊「似合うよう努力しなよ」
唯「いーのー。たーくん、打ち上げ花火キレイでしょ。あーどっかで、生で観らんないかな~」
尊「花火大会ね、探すよ…あ、8日にあるよ」
唯「他には?」
尊「お姉ちゃん達が帰る日の辺りが多くて」
唯「お盆だもんね。わかった、ありがと」
尊「どうする?」
唯「木曜だもんね…お父さんに相談してみる」
若「空一面に、咲くのが観られると?」
唯「観たいよね。ちょっと返事待っててね」
尊「で、何調べるの?」
唯「そうそう、水着を見たくて。ビキニがいいな~。明日買いに行く前に予習する」
尊「ふーん」
唯「なによ」
尊「いかにして、若君を悩殺するか?いやーそりゃ無理でしょ」
唯「失礼なっ。そりゃボンキュッボンではないけどっ」
若「ボン…」
唯「あ、なんでもないから」
尊「若君は、そのままのお姉ちゃんが好きなんだから、水着なんか何でもいいんじゃないの」
唯「んーそっか。って違う!しかもなんで尊に言われる?」
若「尊。水着とは、なんじゃ?」
尊「あ、理解がそんな前で止まってたんだ。ごめんなさい若君。えーと、泳ぐ時に着る物です。水着のカタログはと」
画像が出た。ビキニの女性やマネキンが、ポーズをとっている。
若「なっ!こ、これは…」
尊「やっぱり刺激が強いよね」
若「覆う所が少な過ぎはしないか?」
唯「そーかなー」
尊「若君もそう言ってるし、もうスクール水着にしといたら」
唯「やだっ、かわいいのが着たいっ!」
尊「で、悩殺したいからビキニ?」
唯「着てみたいんだよぅ」
尊「若君、ちょっと刺激は強いかもしれませんが、これが海やプールに行くと映えるんですよ」
若「こういう物なのか。先の世はわからぬ。唯、あまり際どい物は着てはならぬぞ。所で、プールとは何じゃ?」
尊「あ、この写真の後ろに写ってる場所です。泳いだり、水遊びをしたりするために、水を溜めてあります。水がキレイな池や沼?ちょっと違うか」
若「沼…底なしではないか?」
尊「いや、それはかえって作るのが難しいです。なんか嫌な思い出でもあるんですか?」
唯が投げ捨ててしまった、タイムマシンの起動スイッチを拾いに、沼に入った事を思い出す若君。
若「いや、何程でもない」
尊「足、着きますから」
唯「そんな話してると、プール行きたくなる~」
尊「行く?」
唯「まさかあんたの口から出るなんて」
尊「いきなり海よりは、若君も良くない?」
唯「確かに。いつにする?」
カレンダーを確認。
尊「いつでも行けると言えば行けるけど。あ、来週土曜はお祭りだから。地元の」
唯「あー、あのお神輿出るヤツ?」
尊「うん」
唯「じゃあ、来週のどっかの平日かなー」
若「盛り沢山じゃな」
尊「なんかさ」
唯「なに?」
尊「楽しい予定で、カレンダーが埋まってくって、いい」
唯「夏休み終わった時にさ、あんただけ真っ黒に日焼けしててさ、周りが何してた?!って思うんじゃない?」
尊「それさえも僕は後悔しない」
唯「カッコいい事言ってると思いきや、遊びに真剣なだけだし」
若「約束したからの。後に励むと」
尊「うん、今は満喫する」
唯「若君との夏、をでしょ」
尊「お姉ちゃんも入ってるから、ちゃんと」
唯「ちゃんと入ってて、良かったよ」
全員「ハハハ~」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
おでかけの予定、続々。
20日のお話は、ここまでです。
[no.595] 2021年4月30日 20:33 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days6~20日土曜14時、食欲旺盛です
人の倍はいかがなものか。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅尊の夏休みスタート。美香子の仕事終わりに合わせ、五人全員で、遅めの昼ごはん。
覚「思ったんだけどな」
美香子「何を?」
覚「ご招待の日だが」
唯「わぁ、なになに?」
覚「庭でバーベキューやろうか?夏だし」
唯&尊「やったー!」
尊「えー、いつぶりだろ?」
美「バーベキューコンロ、錆びたりしてないかしら?」
覚「あーどうかな」
若君「なにやら楽しそうじゃ」
尊「えーと、説明しますと、庭で火をおこして、肉や野菜を焼いたりして食べるんです」
若「わざわざ、外で?」
尊「確かに」
唯「そこで話終わんないでよ」
若「野外で食するとは…戦の折はそうじゃが」
覚「そうか。若君にとっては、何をわざわざ不便な事を、ってなるよな」
唯「気が乗らない?」
若「いや、皆がそこまで喜ぶゆえ、その不便が楽しいのであろうの」
唯「正解!」
覚「じゃあ、今から点検するか」
一式、ウッドデッキに並べた。
若「この、袋に入った長い物は、何ですか?」
覚「あぁ、タープだね。出してみようか」
金属製の骨組が畳まれている。広げた上にシートを被せ、ポールを立てる。屋根が出来た。
覚「日差しや雨よけだね。これは簡単に設営できて楽なんだ」
若「これは…良いですね」
唯「たーくん、戦に持って行きたいって思ったんでしょ?」
若「思うた」
覚「雨を制する者は戦を制するか」
尊「そんな格言あったっけ」
覚「中々いいだろ?」
美「自画自賛ね。でも、夜だからよっぽど使わないんじゃない?」
唯「えー使おうよ」
美「雨天決行って事?」
唯「じゃなくて、昼にもやろうよ。予行練習で」
覚「あー、悪くないな。ご招待しておいて、お粗末な物お出ししても何だしな」
尊「いつにする?」
覚「やるなら日曜しかないから…明日は買い物だろ?来週だな。ご招待日の直前にはなるが」
唯「わーい!食べるぞぉ~」
覚「何だ?向こうでは、あまり食べられなかったのか?」
若「父上、そんな事はありません。いつもの如く、人より多く食しておりました」
唯「たーくん、そこは黙ってて~」
若「まことの話じゃ」
美「どうせ、ばんばん産むからとか言って人の倍食べてたんでしょ。現代よりカロリー少ないお食事だろうから、いいようなものの」
尊「来月、ぶっくぶくに太って帰るんじゃない?」
唯「そんな事ないもん!」
覚「百年の恋も冷めるぞ」
唯「ひー!」
若「家の手伝いなどして、体を動かせば済む話じゃ」
美「それいいわね~、一石二鳥」
唯「太った私は嫌?たーくん」
尊「そこ、論点違うし」
若「容姿は何も申さぬが、働かざる者食うべからずじゃからの。わしも励みますゆえ、以後、何なりと申し付けくだされ。父上、母上」
覚「わかった。三人ともな」
唯&尊「はぁい」
美「若君に先頭に立ってもらえると、色々スムーズだわ~」
若「お役に立てて、嬉しいです」
覚「ひとまず、点検の続きー」
全員「はーい」
点検、終了。
覚「何とか全部いけそうだ。燃料は買わないとな。月曜にでも行くか」
唯「行く行くー!」
覚「ホームセンターだぞ?いやに乗り気だな」
唯「夜、みんなで花火やりたーい!いいでしょ?いっぱい買おうよ」
美「なるほどね」
尊「わー、いいね!」
若「花火?」
尊「あ、説明…よりも、今から映像見ますか?実験室で」
若「よろしく頼みたいが。父上、もう手伝いはありませぬか?」
覚「大丈夫だよ。ありがとな」
唯「じゃあ、実験室へGO~」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
初めて平成に一人で来た時は、ほとんど寝込んでたもんね。
[no.594] 2021年4月28日 22:31 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days5~19日金曜7時30分、ほんのり甘く
城下にもよく売りに来てましたね。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅玄関。
尊「では一学期最終日、行ってきます!お昼には帰りますね」
若君「行ってらっしゃい、尊」
若君がリビングに戻ると、唯が麦茶をガブ飲みしている。
若「腹を壊すぞ」
唯「現代の夏って、こんなに暑かったかなー」
若「確かに朝稽古の時分から日差しは強いが。唯は、一歩も外に出ておらぬではないか」
覚「若君、もっと言ってやってくれ。ダラダラされるだけではたまらん」
若君が呆れていると、風呂敷を抱えて美香子が現れた。
美香子「お父さん、31日になったわ」
覚「おー、そうか。良かった」
カレンダーに予定を書き込む。
唯「なに?31日って」
覚「また、芳江さんとエリさんを、晩ごはんにご招待しようと思ってな」
唯「わぁ!そうなんだ~」
美「今回土曜は、旅行も行くし、お二人の都合がつかなかったから、水曜なんだけど」
若「それは楽しみじゃ」
唯「この包みなに?」
美「あー、これね。芳江さんにいただいたの」
風呂敷をほどくと、二人が見覚えのある、黄色い果実がゴロゴロっと出てきた。
唯「あーっ!瓜!」
若「おぉ、この先の世にもあるのじゃな」
覚「マクワウリだな」
唯「マクワウリ、って名前なの?」
美「おうちで、おじいさんが育ててみえるらしくて。今年はいっぱい採れたからって、くださったの」
覚「向こうで、食べたのか?」
唯「うん、おふくろさまが切ってくれた。すっごく甘かったよ」
覚「これ自体は甘さは控えめだが、戦国時代なら、かなり甘く感じるだろうな。早速冷やして、昼にいただこう」
唯「わー、楽しみっ」
バケツに水を張り、凍った保冷剤とマクワウリを沈めた。じっと見つめる唯。
若「吉乃殿が、とならば、まだ梅谷村に居た頃か?」
唯「うん。まだ全然、たーくんに会えてなかった頃」
若「声は、幾度も聞いた気がするがの」
唯「あはは、わりと叫んでたからね」
若「唯とわかっておれば、馳せ参じたが」
唯「ホントに~?その頃は、おなごと心通じ合わなくて良かったんじゃなかったぁ?」
若「うっ、それは」
唯「ははは。あーあの頃は、超働いたな~」
覚「今も、働いてもらっていいんだぞ」
唯「えー」
若「父上、ならば今から、庭の草取りをいたします。唯と」
覚「あー、それは助かる。よろしく頼むね」
唯「げっ!」
若「ほれ、行くぞ」
唯「はぁい」
一仕事、終了。
覚「あー、綺麗になった。ありがとう、若君、唯」
若「いえ、朝稽古でよく、草に足を取られておりましたので」
唯「自分のためかーい」
覚「よくぞ気付いてくれたと言え。はい、お疲れ様。麦茶どうぞ」
唯「わーい、あーおいしい」
若「このようにいただくのが本来じゃ」
唯「えへ、失礼いたしましたぁ」
家族全員で昼ごはん。マクワウリも切りました。
尊「へー、450年前もこれ食べたの?」
唯「いただきまーす!あ~懐かしいっ。確かに、今食べるとそこまで甘くないけど、おいしい!」
覚「若君、変わらない?」
若「はい、同じです」
美「変わらないってのも、ある意味すごいわよね」
覚「そんな物もあっていいだろ」
唯「ねえねえ、31日は何作るか決めた?」
覚「まだだ。考えておく」
尊「イベント、もっと増えるといいなぁ」
唯「受験生のセリフじゃないし」
尊「三倍頑張るから」
唯「はいはい」
全員「ハハハ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
イベントは、まだまだ増える予定。
19日のお話は、ここまでです。
- この返信は3年、 11ヶ月前に夕月かかりて(愛知)が編集しました。
[no.593] 2021年4月26日 21:41 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days4~18日20時、時間無制限です
確かにそう言ってました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅まだ晩ごはん中。
覚「で、これは提案なんだが。若君に」
若君「わし、にですか?」
覚「海、見るだけじゃなくて、泳いでみないか?」
若「泳ぐ…」
唯「海水浴?!行く行くー!」
覚「今度行く所、近くに海水浴場があるんだけど、砂浜が白くて綺麗でね。ぜひ楽しんでもらいたくてさ。良ければ当日は、早朝にここを出発する」
尊「え、土曜でしょ、お母さんは?」
美香子「仕事終わってから、車で宿に直接向かうわ」
唯「いいの?お母さんだけ一人だよ?」
美「いいわよ~この歳で海なんて、日焼けが心配だし。そこ、ホントに綺麗なのよ。昔はよくお父さんと行ったの」
若「思い出の場所なのですね。では、是非朝からお願い致します」
覚「よし、じゃあ楽しみにしてて」
唯「水着買わなくちゃ!」
美「そうね。じゃあ日曜に買いに行きましょ。四人で」
尊「四人…」
美「尊、入ってるわよ」
尊「海水浴かー、こんな事でもないと絶対行かない」
美「でしょ。良かったわね、夏の思い出が増えるわよ」
尊「うん!」
覚「だな。ところで、若君お待たせ。話ってなんだい?」
若「あっ、ありがとうございます」
若君が箸を置く。
若「前に二人でこの先の世に参った折、寝所は別でした。その所以は、唯がまだ高校生だから、という事でした」
覚「うん、そうだったね」
若「もう高校生ではありません。去る時に辞めはしましたが、今は既に卒業した歳に相当と、唯に聞きました」
覚「はい」
若「寝所を、唯と同じ部屋にしていただけぬでしょうか」
若君が頭を下げる。
覚「わかった。今日から唯の部屋で。面会時間の制限もなしにする」
唯「わー、嬉しい!良かったね、たーくん!」
若「誠に忝のう存じます」
ずっと頭を下げている。
美「若君、実はそれ、こちらからお願いしようかと思ってたの」
若「え、そうなのですか?」
驚いて顔を上げた。
美「遊ぶ気満々だけど、尊は一応受験生だから。夜部屋で勉強する時に、いつまでも電気付けたりしてると、若君も居心地が悪いかなって思ってね」
若「そうですか。わしも、尊の邪魔はしとうありません」
尊「時間制限ないって事はさ、例えば若君が夜12時まで僕と一緒に居て、それから寝に行ってもいいわけだよね」
唯「なんでそうなる」
尊「亥の初刻のシンデレラじゃなくなると、前半一緒か後半一緒か、配分が変わるだけじゃん」
唯「そんな事ない。夜一緒は大きい。じゃあ毎日、晩ごはん食べ終わったらすぐ部屋に行って、朝までたーくんとずっと一緒に居よっと」
尊「なんでそうなる」
美「うふふ、なんか、若君の取り合いになる様相ね」
覚「人気者だ」
若「痛み入ります」
9時。ゆうべ尊の部屋に敷いた若君の布団一式を、唯の部屋に移動。
若「尊、済まなかったの」
尊「いーえー。僕このままお風呂行ってくるよ」
唯「ありがとね」
唯のベッドに沿わせて布団を敷いた。
唯「うー、嬉しいっ!もぉこっちの布団でばっかり寝ちゃうかも」
若「で、わしが唯のベッドで寝るとな」
唯「あー、そんな意地悪言う?」
若「ハハハ」
若君が何か考え込んでいる。
唯 心の声(目の前に布団。今二階には二人だけ…キャー!ちょっと待って、い、いま腹を)
若「…尊とは、歳は一つ違いであったな」
唯「は?!あ、うん、そうだよ。急になに」
若「となれば、昨年此処に居た折、唯は、受験生ではなかったのか?」
唯「え!えーと、受験って、それを目指してるから受験生なんで、私は勉強もしてなかったから…」
若「違うたか」
唯「受験は全然考えてなかったよ。どうしてそう思ったの?」
若「唯の夢ややりたい事の、芽を摘んだかと思うての。尊は、発明家になる為、今受験生だと聞いたゆえ」
唯「私の夢ややりたい事は、叶ってるよ」
若「そうなのか?」
唯「やりたい事は、たーくんを守る事。今回は、急に令和に連れて来ちゃってごめんなさいだけど。夢は、たーくんのお嫁さんになる事」
若「そうか。ならば良いが」
唯「うふふ」
若「喉が乾いたの。下に行くか?」
唯「あっ、はい」
若「どうした?」
唯「ううんなんにも。行こっ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
残念でした。なのか?
18日のお話は、ここまでです。
[no.592] 2021年4月24日 19:39 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days3~18日12時、兄の激励
きっと約束は守られる。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅昼ごはんの時間です。
覚「お疲れ~」
美香子「ありがとね。あ~、いいわね、四人って」
全員「いただきます」
若君は、今朝唯に頼まれた話をいつ切り出そうか、機会を伺っていた。
美「あら?若君どうかした?」
若君「いえ、お気遣いなく」
美「…そうだ、ゆうべ検査がどうとか言ってた話だけどね」
唯「あ、そうそう!」
美「まだ出来ない、なんて嘆かなくていいから」
唯「ホントに?!私の体がどうかしてるんじゃなくって?」
美「ないない。2年3年経ってるならだけど。あんまり焦るのは、迎える気持ちとしても良くないから。ね、若君」
若「案ずるな、と。ありがとうございます…助かります」
美「ほらー、唯、若君もあんまり言われて、相当堪えてたみたいよ」
唯「そっか。ごめんねたーくん」
覚「若君、さっきから何か言いたそうなんだが、それ、晩飯の時でもいいかい?」
若「えっ?あっ、はい」
唯「えー」
覚「唯の指図か」
唯「ん?なんのコトかなー」
覚「旅行の話、今の内に母さんと相談したいから」
唯「えっ!やったぁ!待つ待つ!」
覚「やっぱり黒幕はお前か」
晩ごはん。
唯「わーい、蓮根のはさみ揚げ!」
尊「二日連続」
唯「え?そうなの?」
美「満月の夜は、はさみ揚げって決めててね」
唯「そうだったんだ」
若「済みませぬ、父上」
覚「いいよ~食べたかっただろ?」
若「はい!」
全員「いただきまーす」
久々の家族団欒です。
覚「ところで、宿、取れたぞ」
唯&尊「やったー!」
唯「ん?なによ尊」
尊「は?」
唯「一応、受験生なのに」
尊「旅行なんか行ってる場合じゃないって?」
唯「心配してあげてるんだよ」
覚「五人で行くぞ。尊もそうしたいって言ったし」
唯「大丈夫なの?」
尊「僕は、決心したんだ」
唯「え、改まってなに」
尊「この夏、多分受験勉強三昧なんだろうな、とは、お姉ちゃん達が帰ってくるまでは思ってた」
唯「うん」
尊「でも、まるでプレゼントのように二人が現れて」
美「プレゼント。そうね」
尊「このひと月は、お姉ちゃんと若君と、がっつり楽しむ事にした。こんな夏休みと同時期なんて機会ないし、できるだけ一緒に居たいし」
若「尊、それで良いのか?将来に関わるのではないのか?」
尊「大丈夫です。二人が帰ったら、倍、頑張りますから」
若「無理はしないで欲しいが」
尊「家族五人の時間は貴重だから。後で振り返った時、このひと月を言い訳にはしないと、若君に誓います」
若「そうか」
若君が、尊に手を差し出す。尊も慌てて手を出した。食卓の上で、二人はがっちり手を組んだ。
若「ご武運を祈る」
尊「わー、これで三倍頑張れる!」
パチパチパチ。
尊「え?なんで拍手?」
唯「なんとなく。ねっねっ、で、いつどこに行くの?」
覚「来月3日4日で、また海の近くに」
唯「海!海だって、たーくん!」
若「同じ場所ですか?」
覚「いや、前回は太平洋側だったんで、今回は日本海側だよ」
若「?」
尊「後で、地図見せますね」
覚「で、何とか取れた宿だから、温泉はあるけれど、今回は部屋に露天風呂はない。あと、五人一部屋だからな」
美「イチャイチャできなくてごめんね、若君」
若「あっ、いえ」
尊「そこ、お姉ちゃんじゃなくて若君なんだ」
美「だって、今、唯より明らかにがっかりしてたもの」
唯「えー、かわいい~」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
そろそろ切り出したら?若君。続きます。
[no.591] 2021年4月23日 06:28 妖怪千年おばばさん 返信感想、ありがとうございます!
てんころりん様
いつも細かくコメントを下さり、
感謝してます。
投稿したものの、意図するところが
きちんと伝わっているのか、
書き手はとても気になりますから。
若君が嘘をついてまで
平成に唯を帰した、
その理由の一つを書いてみたくて。
もちろん、命を助けてくれた
唯の家族との約束を守る為
という事で充分かもしれない
とは思うのですが、
唯の未来に、自分自身の、
平和を求める気持ちを重ねる
シーンをより具体的に書いて
みたかったんです。
”富士山に向かって爆走する唯”
箱根駅伝の最も風光明媚な3区が
演じている結奈ちゃんにも、
良く似合うと思いました。
”蝉の声”には、コーチの姿を
投影しました。只今、次回作を書いてます。
またよろしく
お願いしますね~(^^♪[no.590] 2021年4月22日 20:20 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days2~18日木曜8時、急いで検索!
家から通える距離で、進学でしょうか。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅朝。尊は学校に。若君が玄関で見送る。
尊「もう若君に見送ってもらう事なんてないと思ってたから、ちょっと感動してる」
若君「そうか。いくらでも見送るぞ」
尊「いえ、明日終業式だから、今日入れて二回なんだけど」
若「学校へ行かぬと?」
尊「夏休みになるんで、基本ずっと家に居ますよ」
美香子「普通は、高三の夏なんて忙しい筈なんだけどね~」
母が通りかかった。
尊「大学は…まあ行ける所に行くし」
美「まっ、入れない大学は尊にはないしね」
若「賢いからですね」
美「発明家の道をひた走るのよね」
尊「うん」
若「医者には、ならぬと?」
美「やりたい事をやって、極めてくれるならそれでいいと思ってるの」
尊「若君に、起動装置刀、の注文受けてるしね」
若「わしの所為で?」
尊「いえいえ、タイムマシン完成した時から、家は継がないと決めてましたから、ご安心を」
唯がやって来た。
唯「あれ?なかなかたーくん戻って来ないと思ったら。まだいいの?」
尊「あ、そろそろ行かなきゃ」
美「じゃ、行ってらっしゃい」
唯「行ってらっしゃーい」
若「行ってらっしゃい、尊」
尊「わー、嬉しい!」
半分泣きそうな顔で、尊は出て行った。
美「さて、私も準備。あ、二人とも、エリさんと芳江さんに、顔見せてあげて」
唯「わかったー。帰って来たって言った?」
美「言ってない。サプライズでよろしく~」
若「心得ました」
クリニックに入る。中から、少し間を置いて、歓声が上がった。
覚「おー、盛り上がってるな」
キッチンで片付けの終わった、覚の耳にも届いた。
若「お二方共、腰を抜かさんばかりであったのう」
唯「化けて出た的な?でもすっごく喜んでくれて、良かったね」
若「そうじゃな」
二人、リビングに戻り、ソファーに並んで座った。
唯「ねぇたーくん、あのね」
若「なんじゃ?」
唯「あっ…お父さん来ちゃったから、小さい声で話すね」
覚は、食卓でタブレットを操作し始めた。
若「…そうか。うむ…」
唯「ねぇ、たーくんから、これは解せぬ、って言って~」
若「されど、家長には従わねば」
唯「だーってぇ、もう高校生じゃないし、ちゃんと結婚式もしたのにぃ。たーくんだって、その方がいいでしょ?」
若「それは、叶えば喜ばしいが」
しきりに説得している。
覚「おーい、何企んでるか知らんが、ちょいちょい聞こえてるぞー」
唯「なんでもないよぉ~」
若「唯、ならば昼に、父上母上に話してみる」
唯「うん、そうして。お願いします」
唯はソファーから立ち上がり、覚の元へ。
唯「ところで、お父さんなにやってるの?」
覚「せっかく二人が帰って来たから、どこか旅行に行こうと思ってな」
唯「きゃー!嬉しい!どこ、どこ行くの?」
覚「今からの予約はかなり厳しいからな。取れる日付、取れる所にだ」
若「父上、手間をかけ済みませぬ」
唯「あー、取れるといいなあ。でも珍しい、尊じゃなくてお父さんが探してるなんて」
覚「尊は今学校だから、早くて夕方しか探せないだろ。電話急げって言うからな」
唯「…それ、もしかして、善は急げ?」
覚「おっ、唯でもわかったか」
唯「あ、ディスってる!もー!」
若「その言葉はそう使うのじゃな」
覚「ん?若君、ディスるがわかるのか?」
若「はい。以前、唯の部屋にあった胡乱な書物に載っておりました」
覚「…若君、あい変わらず凄いな」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
あまり年長者を驚かせると、体に悪いよ。
[no.589] 2021年4月22日 20:17 夕月かかりて(愛知)さん 返信まずはめでたい\(^o^)/
今日投稿するならこの話題に触れないと!祝復活!皆さんに教えていただけたので、早速NHKオンデマンドのお気に入りに再追加しました!鬼リピします(ToT)
実は8か月
前回の令和Days1内で、唯が「もう、7か月も経つんだよ?」と言いますが、永禄四年の月計算としては、この日現在8か月経っています。
管理人様のブログ記事”戦国時代に使われていた旧暦とは”に、ご説明がありますが、この時代の暦には「閏月」という制度が使われており、一年が13か月ある年が、19年に7回のペースで存在しました。
永禄四年はこの年に当たります。一月差し込まれたのは、3月の後ろでした。よってこの年は、1月―2月―3月―閏3月―4月―5月―6月―7月…と進んでいました。今月は3月で来月は閏3月だと聞かされたであろう唯は、相当驚いてさすがに覚えていたでしょうから、間違えて7か月と言う事はない筈です。平成Daysから続けてお読みくださっている皆様に分かりやすくするために、8か月ではなく7か月と表現しました。
二人が結ばれたのは平成30年12月15日の深夜でこの日が令和元年7月17日だから、7か月後だよねと考えた方がわかりやすいと思いましたので、唯にも若君にも7で話してもらった次第です。
[no.588] 2021年4月22日 11:30 てんころりん(東京)さん 返信妖怪千年おばばさん
3/14 no.542「9月の蝉 前編」
4/1 no.555, 4/2 no.558「9月の蝉 後編その1·2」今回は若君が吉田城で負傷し、現代で治療した時の物語ですね。
一度20年くらい遡りますか?
結婚前の美香子と高2だった陸上部コーチ (演者のお名前から尾関くん)の出会いが(no.542)語られて‥??ほ~ぅ
そして現在で再会、レストランでコーチと話した帰り、美香子さんは吉田城の石垣に触れて唯を思う‥ (-ω-。
勘ぐって.ちょっと心配してる覚さん‥?(no.555)
コーチは箱根駅伝100年記念で女子選手を走らすプロジェクトに、唯を参加させたいのでした!
?よく思い付かれましたね!正月の箱根を男女混合チームとか、女子チームも走るようになったら嬉しいですねぇ。
実際は難しさが幾つもあって、全日本大学女子駅伝や富士山女子駅伝が始まったらしいですね。
でもここはフィクション‼️
唯が正月の箱根を声援を受けて走る?♀️姿が、若君が見たように見えました。
風を駆ける? 聞こえそう!若君が唯を現代に帰した理由に、箱根駅伝は大きかった.と思えるストーリーでした。
若君は黒羽城を火災から守る算段して、戦国でスプリンクラーを作った。面白かったです(no.558)
全てのシーンで蝉の声が聞こえる設定はお洒落でした。☆ぷくぷくさん「宗熊の決意 第二章」完結ですね!後日改めます。
[no.587] 2021年4月22日 09:28 ぷくぷく(群馬)さん 返信[no.586] 2021年4月21日 17:21 ぷくぷく(群馬)さん 返信=宗熊の決意 第二章=⑤
それぞれの城に戻った。
***********
ナレ:長沢城に戻り、諸橋を部屋に呼んだ。宗鶴は難しい顔をしている。諸橋は話がこじれたのではないかと心臓バクバク状態。急に宗鶴が笑い出したので驚き後ろに倒れて、宗熊の顔を見た。
諸:「若君?」
鶴:「何を驚いておる」
諸:「いえ・・・あの」
鶴:「此処へ、わしを羽交い絞めにしおった者を連れて参れ」
ナレ:そう言われても諸橋には誰の事だか分からない。
熊:「八次郎じゃ」
ナレ:諸橋はその名を聞き、間者とバレたのではと思った。不安を抱えながら八次郎を呼びに。
熊:「八次郎を呼ばれ、どうされるおつもりでしょうか?」
鶴:「何れ分る・・・して、宗熊」
熊:「はい?」
鶴:「わしはこの通りまだまだ元気じゃ、お前にはまだ家督は譲らん」
熊:「はい」
鶴:「お前はまだ弱い。強うならねばならぬぞ」
熊:「はい。精進いたします」ナレ:八次郎を呼びに行った諸橋は、
諸:「八次郎、殿がお呼びじゃ」
八:「お殿様が」
諸:「殿を羽交い絞めにしおったそうじゃな」
八:「はい」
諸:「そうか。だがわしは殿に間者だと知られたのではないかと」
ナレ:間者だった事には変わりはないが、今は間者として此処に居るのではない。しかし、お咎めを受ける覚悟で宗鶴の前に座った。
八:「申し訳ございません」
熊:「父上、命じたのは私にございます」
ナレ:二人は手を付き謝った。すると宗鶴は八次郎の前に移動して、
鶴:「あの場にお前ひとりを伴にした事は、宗熊がお前を信じておるからだと・・・これより先もこの頼りのう男を支えてくれまいか」
八:「えっ・・・はい。わたくしは宗熊様を生涯お守りいたします」
鶴:「頼もしいのぉ・・・諸橋」
諸:「はい!」
鶴:「何じゃその様な大声で」
諸:「申し訳ございません・・・で?」
鶴:「この者を羽木との橋渡しの役目をの。何かの折にはわしの言葉を伝えに参る様に・・・八次郎」
八:「あっ、はっ、はい」
鶴:「どうした?」
八:「いえ、承知いたしました」
鶴:「それにのう、宗熊の事も頼んだぞ」
八:「この様なわたくしに、有り難き幸せ・・・では、わたくしは」
ナレ:八次郎は座敷を出て行った。諸橋は間者とバレていない事にホッとした。
諸:「ですが・・・何故その様な真似を」
鶴:「わしの決めた事に異論を唱えると申すのか?」
諸:「いえ、滅相もございません」
鶴:「羽木に探りを入れておる者に伝えよ。間者としての役目を解くとな」
諸:「宜しいのでございましょうか?」
鶴:「良いのじゃ」
諸:「かしこまりました。直ちに伝えます」
鶴:「さて、宗熊」
熊:「はい」
鶴:「今一人、此処へ連れて参れ」
熊:「誰ぞの事でありましょうか?」
鶴:「ははっ、何を惚けておる、お前の心に居る娘の事じゃよ」
ナレ:その言葉に宗熊よりも先に諸橋が驚きの声をあげたので宗鶴が諸橋の方を見た。
鶴:「どうしたのじゃ?」
熊:「父上が申された娘は、実は、諸橋の娘御のゆめ殿にございます」
鶴:「お主の?」
諸:「さようにございます・・・申し訳ございません」
鶴:「何を詫びておるのだ。良いから連れて参れ」
諸:「はい!ただいま!」
ナレ:二人も見た事のない速さで諸橋は走って行った。諸:「ゆめ、殿がお前を連れて参れと」
ゆ:「お殿様が・・・分かりました」
ナレ:二人は連れ立って宗鶴の前に座った。
鶴:「幼き頃はよう宗熊の相手をしてくれておったのぉ」
ゆ:「はい」
鶴:「確かお前は」
ゆ:「はい。宗熊様より歳は上にございますし、先達てまで嫁いでおりました」
ナレ:ゆめの言葉を聞きながら宗鶴は腕組して黙っていた。宗熊は反対されるのかなと心配になっていた。すると、ゆめの前に座り直し、
鶴:「ゆめ」
ゆ:「はい」
鶴:「宗熊は弱い男じゃよ、わしに怒鳴られると小さくなりよって、わしに口答えもせぬ、その様に弱い者でも良いのか」
ナレ:宗熊は何度も弱いと言われ背中を丸めていた。
鶴:「ほれ、このような姿の者に、着いて参る事は出来ようか?」
ゆ:「お殿様、お言葉ですが」
鶴:「ん?」
ナレ:諸橋は娘が何を言い出すのかハラハラしていた。
ゆ:「宗熊様はお強いお方です。わたくしは、お殿様がどう申されようとも宗熊様について参りたいと存じます」
諸:「これっ、ゆめ、殿に向かって無礼な事を申すでない」
ナレ:諸橋は冷や汗が出た。すると宗鶴が立上り宗熊の耳元で小さく、
鶴:「ゆめはあの唯に似ておるのかのぉ、ははっ」
ナレ:宗熊は頷いた。そして宗鶴は上座に座り直し、
鶴:「諸橋」
諸:「ヒィ~」
鶴:「なんじゃ?」
諸:「いえ、何用にございますか?」
鶴:「宗熊がゆめに逃げられぬ内に今宵、祝言をの。支度をせい!」
熊:「では、父上」
鶴:「ゆめ、断るのであれば今の内じゃよ。あははは!」
ナレ:宗熊とゆめは顔を見合せ微笑んだ。諸橋は急いで女中に知らせに行った。宗鶴の笑い声が屋敷に響いた。聞こえた者はその笑い声を温かく感じていた。ナレ:黒羽城に到着してすぐ忠高は、忠清、成之、木村、信近、信茂、小平太、源三郎。そして、三郎兵衛を己の前に座らせた。
若:「父上?」
殿:「三郎兵衛」
三:「はい」
殿:「お前の弟に高山と我が羽木との伝達の役目をの」
三:「えっ?」
殿:「宗鶴が八次郎に命じると信じておるのでな」
若:「父上?」
ナレ:忠高は宗鶴は八次郎にその役目を与えると確信していたが、万が一に違う者に役目を与えたとしても、長沢城に行けば、八次郎と会えるのではと考えていた。
信:「殿、申されておる事が分かりません」
ナレ:忠高は宗鶴と話したことを。間者ではなく両家の橋渡しの者をと話したことを伝えると、みんなは驚いていた。
小:「その様な事を、信じても宜しいのでしょうか?」
殿:「案ずるな」
木:「殿のお決めになられた事には異論はございません。ですが」
殿:「ん・・・木村の申したい事も良う分かる。己の甘い考えであることもの」
木:「殿」
殿:「ひと時でも、穏やかに暮らしたいと思うてしまっての。ははは」
ナレ:忠高は忠清の顔を見た。忠清は以前、忠高に言った事を思い出していた。
若:「木村、わしも、宗鶴殿を信じても良いと思う。わしも父上と同じ甘い考えをしておるのは良う分かっておる」
木:「若君」
じい:「良いではござらぬか。わしはあの親子を信じて見ようと思うておるのじゃよ」
殿:「信茂」
成:「先の世の様になればと思うております。私も父上の子にございますから」
ナレ:木村と信近、小平太は心配しているが、三人が高山宗鶴を信じると言っているので従う事にした。
殿:「では、三郎兵衛」
三:「はい」
殿:「頼みましたぞ」
三:「恐れ多い事にございます。必ずやご期待に沿えるよう務めます」
ナレ:この役目につけば八次郎に会う事が出来るからと、三郎兵衛は忠高の思いが分かり感謝した。そして、相賀や織田が攻めてくる気配も無いので足軽達は一先ず忠高、木村、成之、三郎兵衛と共に緑合へ戻る事にして、天野一家と忠清と唯と連絡係として源三郎が残る事に。
信:「吉乃、そなたも殿と共に緑合への」
吉:「わたくしも、このままこの場に居ります。女手が無いと唯一人では心もとなく存じます」
信:「であろうが、三之助、孫次郎の側に」
吉:「案ずることはございませぬ。わたくしが居らぬとも二人は大事ございませぬ。心を強有持つようにと育てて参りました」
信:「だが」
小:「母上がその様に育てておった事はよう分かります。ですが、まだ幼子」
じい:「そうじゃよ。唯一人でも、わし等が居るのでの」
吉:皆様のお気持ち有難く存じます。ですが、大事ございませぬゆえ」
ナレ:吉乃は確かに二人の事を心配はしているが、強い子に育てたという自負がある。実のところ、成之から緑合へ行ってからの様子を聞いていた。だが、その事はみんなには話さないようにと成之に頼んだ。成之は吉乃の気持ちを汲み話さずにいる。
小:「母上がその様に申されるのであれば、私は戻られよとは申しません。ならば、二人に文を書くのはどうかと」
信:「そうじゃの、それが良かろう」
吉:「さようでございますね。そう致しましょう」
ナレ:二人宛と久宛の文を書き成之に預けた。そして忠高たちは緑合へ。ナレ:見送った後、門の前で唯と忠清だけが残り話していた。
唯:「若君」
若:「ん?」
唯:「お殿様は何も言っていなかったけど、どうだったんですか?見ていたのでしょ?」
ナレ:唯には三郎兵衛の事は話していなかった。いずれ話す事にして。
若:「わしも分からぬ、だがのぉ、宗熊殿と宗鶴殿を見ておったらの、あの熊田親子の様に見えたのじゃ」
唯:「どんな風に?」
若:「宗鶴殿が宗熊殿に」
ナレ:そう言ってから忠清は宗鶴が宗熊にしたように後ろから唯の首元に腕を回して軽く締めた。
唯:「何するんですかぁ、これってプロレスの技みたい。えっ?もしかして、あの親熊が」
若:「そうじゃよ。楽し気にの」
唯:「そうなんだぁ」
ナレ:忠清は首から腕を放し、そのままバックハグ。
唯:「若君」
若:「唯」
唯:「なぁにっ」
若:「どの様な事態になろうともわしは、お前を守る」
唯:「若君様」
若:「お前が、わしを信じて着いてきてくれたからの・・・後悔はさせぬ」
唯:「後悔って、私がするわけないじゃないですか、私の辞書には後悔という文字は無い」
若:「何じゃそれは?」
ナレ:ナポレオンは不可能だったが、その説明は面倒なので省いた。
唯:「まっ、良いじゃないですか」
ナレ:忠清はジッと唯の顔を見て、
若:(唯、ありがとう)
唯:「ん?どうしたんですか?」
若:「何も」
唯:「そっ、風邪引いたらいけないから、中に入りましょ」
若:「そうじゃの」
ナレ:すると忠清は唯をお姫様抱っこ。
唯:「若君様~」
ナレ:唯は首に腕を回し、ちょっと締めた。
若:「唯、苦しい」
唯:「さっきのお返しですよっ」
若:「唯、落としても良いのか」
唯:「え~やめてぇ、あはは」
若:「では、しっかり掴まって居れ」
ナレ:忠清は唯を抱っこしたまま走りだした。二人は笑いながら屋敷に入って行った。迎えたみんなはキョトン顔。=完=
[no.585] 2021年4月20日 19:32 夕月かかりて(愛知)さん 返信(新)二人の令和Days1~2019年7月17日水曜20時、短気は損気?
唯は強運の持ち主だから。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅ここは戦国。永禄四年、緑合の城。閨に唯と若君。二人、白の寝間着姿で、布団の上に向かいあって座っている。
唯「…」
若君「泣くな」
唯「だって、今月もダメだった」
若「何を急いておる。何年かかっても良い」
唯「私が、女の出来損ないなんだよ」
若「違う」
唯「早く、若君…たーくんを喜ばせてあげたいのに」
若「これはその…先の世で、タイミング、と申す物が、少し合わぬだけじゃ。それか、所以はわしにあるのであろう」
唯「違うよ」
若「いずれにせよ、子を成す成さぬは、我らがどう憂いても、天に任せるより他ない」
唯「もう、7か月も経つんだよ?」
若「まだ七月しか経っておらぬ」
唯「…検査とかした方がいいのかな」
若「検、査?」
唯「お母さんは医者だから」
若「何を気のふれた事を。此処は永禄じゃ。…まさか、先の世に帰りたいと申すか?」
唯「家として、跡継ぎが必要でしょ?もっと、ばんばん産んでくれる側室を…」
若「唯!たわけた事を申すな。この忠清、命を全うするまで、愛するのはそなただけじゃ」
唯「でも、今はこうして平和な夜だけど、いつまた戦があるかわからないし、早くって気持ち、わかってよ」
若「だからと言って、戯れ言を申すでない」
唯「戯れ言って…私、真剣に話してるのに!どうしてわかってくれないの?!ひどい!もういい!」
唯は立ち上がり、奥で何かを探し始めた。
若「唯、何をしておる…あっ、それは」
手に、タイムマシンの起動スイッチ2号。
若「唯、落ち着くのじゃ、旅立つ折に尊が、二度と使うなと申したではないか!」
唯「いざとなったら、これで!」
若「ああっ!」
唯は、刀を抜いて起動させてしまった。若君は、慌てて唯を掴んで引き寄せ、抱き締める。
若「唯…」
唯「えっ?なに?だって若君がわかってくれないから、ちょっとフリしただけだよ。だって今日、満月じゃないし」
若「…今宵は、満月じゃ」
唯「えっ?またぁ、嘘でしょ?」
若「嘘など申さぬ」
唯「マジで?!え、間違えた?…ちょっと待って今日何日?え、この前の満月っていつだった?思い出せない…そういえば最近いつ月見た?あーどうしよう!どこかとんでもない世界に飛ぶの?それとも生きていられないの?!」
混乱して暴れる唯を押さえながら、若君は優しく語りかける。
若「唯。あれほど満月を気にしておったのに、空を見上げていなかったと?」
事の大きさに呆然としながらも、なんとか若君の問いに答える唯。
唯「…うん。とてもそんな気分になれなくて…全然見てなかったの」
優しく唯の髪をなでる若君。
若「そうであったか…。月も見上げられぬ程、気に病んでおったのか。そこまで辛い思いをしておったのじゃな。わかってやれず、済まなかった」
唯「ううん、若君が悪いんじゃないのに、当たっちゃってごめんなさい。ホントにごめんなさい!…あっ」
二人の体が、消えかかっている。
唯「どうしよう…どうしよう!」
若「もう良い。一蓮托生じゃ。しっかり、つかまっておるのだぞ」
唯「はい…ごめんなさい…」
そして、閨には、誰も居なくなった。
┅┅┅
その頃、現代の尊の実験室。
尊「あれ、こっちのファイルじゃなかったか」
パソコンと格闘中。その時、天井が光った。
尊「え?!タイムマシン、何で動いてるの?!」
恐る恐る振り向くと、そこには、唯と若君の抱き合う姿が。
尊「わっ、白いっ、お化け?!えーっ!えーっ!」
飛び退いて、腰を抜かしている。
唯「あぁ、尊がいる…帰ってこれたんだ」
若「良かった、無事戻って参った」
尊「なんで?なんで?危険だから、使わないでって言ったのに」
唯「若君が私の気持ちわかってくれないから、つい…」
尊「なんでだよ、ケンカの小道具じゃないよ?無事に着いたから良かったものの」
唯「ごめんなさい。反省してます。来ちゃったからにはしょうがないけど、この起動スイッチ2号、一月後に使うと、永禄では一月後の、一日前に着くんだよね?」
尊「使うならね。そりゃ、帰ってもらわないと困るから、使ってもらうけど」
唯「って事は、約一月、私達、永禄で行方不明になるよね…ごめんなさい、若君!どうしよう…」
若「こうなったからには、致し方ないではないか」
尊「…それ、飛んだ永禄時間の3分後に着けば、丸く収まるよね?」
唯「そりゃそうだけど、どうするの?」
尊「えっと、この前永禄に飛んだ時は、敵に囲まれた中に戻るのも危険だったから、翌月の満月の一日前に戻ったんだけど、原理的には、3分後に戻る方が安全なんだ」
唯「そうなの?」
尊「んー簡単に言うと、一度作った道を通った方が、改めて道路を作るより楽と言うか」
若「その説明はわかりやすいの」
尊「ありがとう若君。だから、今回帰る時は、3分後に戻れるように設定を変えとくよ」
唯「そんな簡単にできるの?」
尊「未来の僕だけが頑張るんじゃなくて、今の僕も頑張らないとな、って思ったからさ、研究済み。だから一月後、安全に帰れますから」
若「尊。我らがおらぬ間にそのような…大儀であったの。さすが師匠じゃ」
唯「ありがとう~!尊ー!」
ドアを叩く音。
覚「尊ー、さっきかなりこの中が光ってたが、大丈夫かー?」
美香子「怪我とかしてないー?」
尊「ははは、さすがに、二人が帰って来たとは思ってないね。開けていい?」
唯&若「はい」
ドアを開けた。
覚「爆発はしてないな。あっ!」
美「まあ…なんてこと」
唯「お父さん、お母さん、ただいま!」
若「父上、母上、ただいま戻りました」
覚「どうしたんだ、体は無事か?」
唯「うん、大丈夫」
若「ご心配には及びませぬ」
美「唯…大分髪が伸びたわね。また、次の満月まで?」
唯「うん。よろしくね」
若「よろしくお頼み申します」
美「そう…。ひとまず、リビングへ移動する?」
覚「おー、じゃあコーヒーでも淹れるか」
唯「うん!」
若「また、平成ライフ、が始まるのですね」
両親と尊、首を振る。
若「え?」
尊「若君、元号が変わって、今は令和って言うんです」
唯「あ、そんな変わるってニュース、前に聞いたような…」
若「では、令和ライフの始まりじゃな」
尊「さすが若君、順応性が高い!」
覚「じゃあ、行こうか」
土産話は、夜中まで続きました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
二人の夏物語、スタートです。
[no.584] 2021年4月20日 19:28 夕月かかりて(愛知)さん 返信新シリーズのご説明と創作の経緯について
ぷくぷくさんのお話が佳境の所、失礼いたします。
70話分にもなってしまった、私の創作話「平成Days」は、2018年11月23日から12月23日の、ドラマのSPで、唯と若君が平成に来た時のお話を過大に膨らませた物語です。この平成Daysを描いている時から、私には、どうしても二人に楽しんでもらいたい季節がありました。
それは、夏です。二人にとって、二年に渡り辛い事が多かった季節です。
2017年は、当初こそ初デートもありましたが、若君は襲撃され最後には感染症。唯はおたずね者で野宿で高熱。2018年は、若君は戦続き。唯は一人傷心の日々。若い女子が、夏中悶々と過ごすなんて、かわいそ過ぎます。
そんな二人に、現代の平和な夏をぜひ楽しんでもらいたい!と考え、今回の創作となりました。原作からは当然かけ離れているし、ドラマとも違うし、なにこれ?!と思われるのは承知の上で、お送りしたいと思っております。設定は平成Daysの続きのままで進めます。
もし、よろしければですが、またお付き合いくださるならば幸いです。
[no.583] 2021年4月19日 15:02 ぷくぷく(群馬)さん 返信=宗熊の決意 第二章=➃
忠高の文を持ち八次郎は長沢城に到着
***********
ナレ:八次郎は忠高からの返事と、忠清も来ることを伝えた。文を読んだ後の宗熊に八次郎は羽木の間者のお役目を解かれた事を話した。
熊:「八次郎?」
八:「わたくしはこれより高山宗熊様にお仕えし、お役に立ちとう存じます」
熊:「だが」
八:「里の親も兄も羽木のお殿様にもお許し頂きました。皆様、宗熊様をお守りするのだと申されておりました」
熊:「羽木の方々が・・・そうか、そなたは決意をしたのだな。ならば、わしもこれよりお前に助けを請う事になろう・・・頼む」
八:「恐れ多い事を。では、お許し願えますか?」
熊:「あぁ、わしこそ頼んだぞ・・・では、わしも」
ナレ:宗熊は宗鶴の部屋に行った。熊:「父上、羽木忠高殿がご承知下さいました。父上もお覚悟を」
鶴:「余計な真似を・・・分かった。して、この場に参ると申すのか?」
ナレ:宗熊は会う場所は諸橋に聞いた昔待ち合わせていた場所に指定した。忠高の返事にもその場所の事は覚えていると書かれてあった。
熊:「父上は、覚えておられますか?忠高殿と会うた場所を」
鶴:「ん~あ~」
ナレ:宗鶴も忘れてはいなかったが、覚えているとは言いたくなかったので誤魔化した。ナレ:忠高は木村を従え黒羽に戻った。
若:「父上」
殿:「大事無いか?」
若:「皆、無事にございます」
殿:「ん。唯」
唯:「はい」
若:「何故、お前は足軽の形をしておるのだ?」
唯:「これは、いつ攻められても良いようにです」
殿:「忠清」
若:「私は唯の思うように」
殿:「そうか」
ナレ:忠高は奥へ。信茂はシャチのぬいぐるみを忠高に見せたいと言ったが吉乃に止められた。宗熊は誤魔化しに成功したが、忠高相手に誤魔化す事が出来るとは限らないから、ここは一先ず平成から持って帰った物は見せない方がい言われた。
じい:「残念じゃがのぉ、致し方ない事じゃの」
ナレ:信茂は普段通りの格好で忠高を迎えた。ナレ:待ち合わせの時刻に合わせて忠清と忠高は出掛ける支度を。
木:「わたしも伴に」
若:「わしが参るのでな、木村は此処で待っておれ」
木:「ですが」
若:「大事無い」
唯:「そうですよ。ここでじいの相手して待って居ましょ。熊を信じて」
木:「はぁ」
殿:「唯の申す通りじゃ」
木:「では、そう致します」
ナレ:みんなに見送られ二人は待ち合わせの場所へ向かった。その頃、宗鶴は宗熊にせかされ支度をしていた。
熊:「父上、刻限に遅れますぞ」
鶴:「別に良いではないか、待たせようが」
熊:「その様に申して宜しいのでしょうか?」
鶴:「構わぬであろう・・・ふぅ」
ナレ:乗り気でない気持ちが支度の手を遅くしていた。宗熊は支度を手伝い、腕を引いて表に出て、支度させていた馬にお尻を押して乗せた。
諸:「私もお伴致します」
熊:「大事無い・・・では行って参る」
諸:「お気を付けて」
ナレ:諸橋は、大丈夫だろうかと心配になった。宗鶴の歩はのろい。
熊:「父上、しっかと手綱を握っておらねば落馬いたしますぞ」
鶴:「五月蝿い!」
ナレ:その勢いで宗鶴は馬を走らせた。宗熊からの文では二人だけで話をさせたいので、忠清と宗熊は少し離れた所で見ている手はずにした。ナレ:忠高は懐かしそうに見ていて、川の畔まで進み馬を降り横たわる大木に腰かけた。
若:「では、父上、私はこの先に居ります」
殿:「ん」
ナレ:少し離れた所で待機していると宗鶴と宗熊がやって来た。遠くから忠清が手を振り合図した。
熊:「では、父上ごゆるりと」
鶴:「フン」
ナレ:そっぽを向く宗鶴の身体越しに見えた忠高に深々と頭を下げた。忠高も黙って頷いて見せた。
宗熊は忠清の側に。
熊:「忠清殿、まことに忝のう存じます」
若:「その様な。此度の事で二人の誤解が解けるとようございますが」
熊:「さようでございますな」
若:「宗熊殿、狙われたと八次郎から聞きましたが」
熊:「そうでしたか。信茂殿は私の命の恩人にございます」
若:「じいも宗熊殿のお役に立てた事、喜んでおりました。して、誰ぞに?」
熊:「さぁ、分かりませぬ。直ぐにその場を立ち去りましたのでな」
ナレ:忠清も知っている羽木成之と関わりのあった坂口の名は伏せた。ナレ:二人は話乍ら様子を見ているが、宗鶴は馬から降りはしたが端に座り、忠高に近づかず顔も見ようとしない。
殿:「宗鶴殿、久方振りじゃのぉ。歳をとったのぉ」
鶴:「フン!お互い様じゃ!」
殿:「そうじゃの・・・のぉ、宗鶴」
鶴:「何じゃ!」
殿:「その様に喧嘩腰に申さなくとも良いではないか」
鶴:「はっ!・・・呑気じゃのぉ、戦を仕掛けておいて良くも来れたものじゃのぉ」
ナレ:度重なる奇襲の中で、宗鶴が関わる事の無かった戦もあったのだろうと宗熊の様子で、
殿:「(やはりそうか)・・・良いではないか」
鶴:「フン!」
ナレ:すると急に忠高が笑った。宗鶴はどうしたのかと忠高を見た。
殿:「ようやく」
鶴:「フン・・・何故笑った!」
殿:「怒るでない。何時ぞやことを思い出したのでな」
鶴:「ん?・・・なんじゃ?」
殿:「共に釣りをした事があったであろう」
鶴:「さぁな」
殿:「わしが餌を垂らして程なく釣れたが、このように大きな魚であった」
ナレ:忠高は両腕を広げて宗鶴に見せた。
鶴:「偽りを申すでない、これほどの大きさであったぞ」
ナレ:20㎝くらいの幅を見せ笑った。
殿:「覚えておるではないか」
鶴:「あっ」
殿:「その折、主がわしに申した事を覚えておるか?」
鶴:「さぁ」
殿:「わしがその魚を焼いて食うたならば美味いであろうとそう申したらば、主は、直ぐに川に放すのだと」
鶴:「ん?」
殿:「覚えてはおらぬか?・・・この魚をわしらが食うたならば、この川で漁を生業にしておる者が難儀するのだとな。一匹でも多くその者が獲物を捕らえる事が出来たならば、少しでも暮らしぶりは良くなるであろうから、我らが捕えてはその者の邪魔だてになるとな。なれば、主が先に釣ったとして、主は直ぐに放してたであろうの。釣りをするとわしが申したから、付き合うてくれたのだと思うておる」
鶴:「どうであったかなどは覚えておらぬ」
殿:「主は、領民の暮し振りを案じておったのだ」
ナレ:宗鶴は何となく思い出してきたが、
鶴:「その様に甘い考えを、わしはこの川に捨てたのだ!」
殿:「暮らしぶりを案ずることは決して甘い考えなどでは無いと思うのだが。主の心根は宗熊殿に伝わっておる」
鶴:「あやつは、わしの様な強さが足らん」
殿:「わしはそうは思わぬ。宗熊殿は強いお心の持ち主、主に似ておる。この戦乱の世で申す事ではあるまいが、心根の優しさがわしは強みとなると、そう思うのだが」
ナレ:話乍ら忠高は宗鶴の隣に移動した。宗鶴は驚きはしたが動かずそのまま。離れて見ていた二人は驚いた。
熊:「忠高殿は何を話されておるのか」
若:「私にも分かりませぬ。我らの歳の頃はあの様に話されておったのっだと」
熊:「さようですね」ナレ:宗鶴は川の畔まで歩いて行く。忠高も宗鶴の隣に。
鶴:「我らは戦から逃れられぬ」
殿:「そうじゃの」
鶴:「わしはの、幼き頃は戦のない世をと思うておった事があるのじゃよ・・・この様なわしでもの」
殿:「さようか」
鶴:「何故であろうか、わしは主に刃を向ける事になんの躊躇も持たなんだ。この場に来るまでは事あらばお主をとそう思っておった・・・この通り」
ナレ:離れて見ていた宗熊は驚いた。あれ程の傲慢ともとれる父親が、遺恨を持っていた相手に頭を下げて居る姿に。
熊:「忠清殿?」
若:「どうなさったのか、私にも分かりませぬ」
ナレ:忠高も驚いていた。
殿:「主が頭を下げるとは驚きじゃ」
鶴:「己でも、驚いておる」
ナレ:二人は豪快に笑った。
鶴:「あの折もそうじゃ、主の鼻を明かそうと松丸の姫をさらう様な事をした。だが、わしの思惑は」
殿:「そうであったの」
ナレ:忠高は宗鶴からの文に笑った事は黙っていた。
鶴:「だが、今となっては人違いであった事が良かったのではと思うておる」
殿:「ん?」
鶴:「宗熊はいつの時もわしの言いなりに動いておった。だが、あの娘と会うた頃よりの、わしに歯向かうようになっておっての、その折は宗熊の行いに腹を立てておったが、違うのだな」
殿:「家臣がの、唯はわしらの守り神だと申しておっての」
鶴:「そうか・・・主は守り神が居って良いの」
殿:「何を申す、お主にも守り神が居るではないか」
鶴:「ん?」
殿:「宗熊殿じゃ」
鶴:「ははっ、わしの守り神になるにはのぉ、まだまだじゃ・・・はははっ・・・だが、宗熊も少しは強うなれたとは思うておるが、その事は言わずにおろう、ははっ」
殿:「宗熊殿が強うなられるのも、想われるお方が・・・あっ」
鶴:「ん?・・・どういう事じゃ?」
殿:「口が滑りおったの。すまぬ、宗熊殿が申させる事であったの、今、申した事は聞かなかった事にしてくれ」
鶴:「そうか・・・そうであったか、ははは」
ナレ:宗鶴が豪快に笑った後に厳しい表情になり忠高を見た。
殿:「如何した?」
鶴:「わしは、こうして昔の様に主と穏やかに話せたことをこれより先も望む。だが、織田や他の武将がこう後、攻めて参るであろう、我らが共に立ち向かう事の出来ればよいのだが」
殿:「対峙する事になるやもしれぬの」
鶴:「ん」
殿:「我らは領民を守りべき戦をせねばならぬ、対峙する事となってもの」
鶴:「そうじゃの」
殿:「命が永らえた折は、またこの場で釣りをしようではないか」
鶴:「そうじゃの」
殿:「その折に釣れた魚は焼いて食べたいのぉ」
鶴:「ん?・・・放せと申した事を根に持っておるのかぁ、あははは」
殿:「ははっ、わしだけ釣れても主にはやらんぞぉ、ははは」
鶴:「のぉ、主も指図しておろう」
殿:「ん?」
鶴:「間者をのぉ」
殿:「あぁ・・・だが」
鶴:「致し方ない事じゃ、我らとて羽木に忍ばせておるからの。だが、その者に新たな命を与えようかと思うのだが」
殿:「新たな?」
鶴:「ん。間者としてではなく、我らの意を伝える役目をの」
殿:「それは良い考えではないか」
ナレ:その時、忠高は八次郎の顔が浮かんだ。
殿:「なれば、宗熊殿らの信用に値する者としたならばどうじゃ」
鶴:「そうか」
ナレ:宗鶴も八次郎が浮かんだ。
殿:「羽木はその兄」
鶴:「ん?」
殿:「いや、あの者に、家臣に伝え、良き者に役目を与える事とな」
ナレ:忠高はその役目を三郎兵衛にと考えた。ナレ:楽しそうな光景を見ていた忠清と宗熊は顔を見合せ首を傾げた。すると宗鶴が手招きした。
二人は側に行き馬から降りる宗熊を宗鶴は後ろから腕を回し、プロレス技のスリーパーホールドを仕掛けながら笑った。
熊:「ち・・・父上・・・く・・・苦しいです」
ナレ:忠高は忠清の隣に行き、
殿:「宗熊殿の想われるお方の事を話してしもうての」
若:「父上・・・ですが、宗鶴殿は嬉しそうです」
殿:「そうじゃの・・・宗鶴、宗熊殿、では、我らは此処で」
鶴:「忠清殿」
若:「あっ、はい?」
鶴:「あの娘、唯殿に宜しゅうな」
若:「はい」
鶴:「わし等も戻るぞ」
熊:「忠清殿」
若:「宗熊殿」
ナレ:二人はお互いにお辞儀をして馬に乗り、それぞれの元に帰って行った。
若:「父上、どのような話をされておられたのか」
殿:「昔話じゃよ・・・ははっ」
ナレ:忠清は父親同士の思い出話に踏み込んではいけないような気がして、その後は聞く事は無かった。つづく
[no.582] 2021年4月16日 17:00 ぷくぷく(群馬)さん 返信=宗熊の決意 第二章=③
八次郎は宗熊に託された文を持ち黒羽城に向かった。
***********
ナレ:黒羽城に到着し、文を忠清に渡した。そして宗熊に口止めされていたが襲われた事と置物が助けてくれたことを話した。
じい:「そうか。良かったのぉ。やはり縁起物であったの」
八:「宗熊様は守り神だと申され大切にされておられます」
ナレ:二人が話している間に忠清は文を読んでいた。
唯:「若君、熊は何て?」
若:「宗熊殿は御父上の宗鶴殿と我が父を会わせたいと」
唯:「えっ!・・・大丈夫なのあの親熊だと、お殿様負けちゃうんじゃないの?」
若:「ん・・・だが、昔は仲良うして居ったという事だからの、信じようではないか」
唯:「若君がそう言うなら」
じい:「わしも覚えておるぞ、二人で遠駆けしておった。不思議に思うておったのじゃが、あの様に仲良うしておった宗鶴殿が何故、奇襲をとな」
ナレ:宗熊は宗鶴が持った遺恨の理由は書かなかった。
若:「して、父上には?」
八:「これより緑合へ参ります」
若:「気を付けて参るのだぞ」
八:「はい。では」
ナレ:唯たちは八次郎を見送った。
唯:「他に何て?ゆめさんの事とか書いてない?」
若:「それは無い。ただ、父上同士が会う場にわしも共に居って欲しいとな」
唯:「なにか遭った時の為って事かな?」
若:「そうかも知れぬが。何事も無い事を望むが」
じい:「案ずることは無かろうて」
若:「そうじゃの」
ナレ:すると成之が家臣、足軽を引き連れて黒羽城に入って来た。成之はまぼ兵くんとでんでん丸には有る程度の人数に匹敵する力があるだろうからと少人数で。
成:「領内に入りましたが・・・いったい?」
ナレ:忠清は掻い摘んで説明した。
成:「その様な事が」
ナレ:宗熊の考えを聞かせされた成之は驚いた。そして入れ違いに八次郎が緑合へ向かった事も話した。
成:「我らが居らぬ内に事が動いていたのですね」
若:「良き方へと向かえば宜しいのですが」
唯:「じいも言ってたじゃん、案ずるなって」
若:「そうじゃの・・・皆も休まれよ。唯、お袋殿に伝えよ」
唯:「はい」
ナレ:奥へ行き、食べる物を用意させた。ナレ:急ぎ忠高の元へ向かい、宗熊からの文を渡した。
殿:「ご苦労であった」
ナレ:忠高は宗熊よりの文を読む横で木村が声を掛けた。
木:「殿?」
殿:「宗熊殿はわしに宗鶴と会うてくれんかとな」
木:「会う?・・・その様な事をされて、大事ございませぬか?」
殿:「ん・・・宗熊殿は、戦を仕掛けておった事を詫びておるが・・・」
ナレ:木村は忠高が黙った事に不思議に思い声を掛けた。
殿:「何ほどでもない」
ナレ:忠高は成之から羽木攻めを企てていた事を知っていたから、その幾度の戦の中でも宗熊本人が関わっていない戦もある事は知っていたが、木村にはその事は話さずにいた。
殿:「宗熊殿に返事を書くのでな、それまで父に会って参れ」
初:「はい。では」
ナレ:八次郎は父親の元に。三郎兵衛は成之と共に黒羽に行っていたので、父と母が居た。
父:「どうしたのだ?」
ナレ:宗熊からの文を届けた事を話した。
父:「そうであったか」
八:「父上、母上、申し上げたき事がございます」
ナレ:八次郎が手を付き頭を下げた。
父:「八次郎?」
八:「わたくしは、兄の代わりに高山へ間者として探っておりました」
父:「ん」
八:「わたくしは、高山宗熊様に羽木の間者だと見破られ」
母:「えっ」
八:「ですが、宗熊様はわたくしを間者と知りながら、わたくしを信じ、大切なお役目のお供も致しました」
ナレ:間者の八次郎にと。二人は驚いていた。
八:「宗熊様はお優しくお強いお方です。父上」
父:「何じゃ?」
八:「わたくしは羽木の間者としてではなく、これより先も宗熊様のお側でお仕えしたいと存じます」
ナレ:両親は驚き過ぎて言葉が出なかった。
八:「お許しください」
ナレ:床につくくらいに頭を下げた。その姿を見て父は、
父:「この旨は、宗熊様はご存知か?」
八:「いいえ、申し上げてはおりません。宗熊様であれば、許しを貰うておらねば、お許しにはなられないかと存じます」
父:「高山宗熊様はその様なお方なのであろうか?」
八:「はい」
母:「殿には何と?」
八:「父上、母上に伝えてからと・・・殿にはこれから」
ナレ:父は腕を組みして目をつむっている。
母:「その様な真似を・・・お許しになられるとは思いませぬ・・・八次郎」
八:「はい」
母:「その様な事となれば、父にも母にも再び会う事が叶わぬ事と・・・分かりますか?」
八:「はい」
父:「・・・分かった・・・これよりお前を勘当致す。もう我が家とは関わり無い事に」
母:「旦那様・・・その様な」
父:「良いのじゃ・・・良いな、八次郎」
八:「・・・はい」
ナレ:母親は顔を手で覆い泣き出した。
八:「母上・・・お許しください」
父:「私が間者として長沢城に居った頃、まだ幼き高山宗熊様を存じておるが、大きゅうなられたお姿は見ておらん。お前がそこまで惚れ込んだお方となっておったのだな」
八:「父上」
父:「己の進む道を見付けたお前を頼もしく思うぞ」
八:「父上・・・忝けのう存じます」
父:「ん・・・兄にはお前から伝えよ。成之様の伴にて黒羽城へ出向いておる」
八:「はい・・・では、父上、母上、お身体大切に」
父:「お前もの・・・八次郎殿」
ナレ:八次郎は深々と頭を下げ部屋を出て行った。
父:「泣くでない・・・八次郎はわし等の自慢の倅じゃ」
ナレ:夫の言葉も分かるし、我が子の成長も嬉しいが、会えないと思うとまた涙が零れた。ナレ:宗熊への返事が書き終わった頃、八次郎を呼んだ。
殿:「これを宗熊殿にの」
八:「承知いたしました・・・殿」
殿:「何じゃ?」
ナレ:八次郎は間者としてではなく宗熊の家臣としてこれから生きていくとの決意を伝えると、勿論の事、忠高と側に居た木村は驚いた。
殿:「家の者には伝えたのか?」
八:「はい。許しを頂きました。兄には黒羽にて伝えます」
殿:「そうか。決めたのじゃの」
八:「はい」
殿:「ならば、わしがとやかく申す事でもない。お主の決めたようにするが良い。宗熊殿をお守りする事も大切な務めだが、己の身も守るのだぞ」
八:「はい」
殿:「ん。では、宗熊殿に承知したと伝えるのじゃ」
八:「かしこまりました」
ナレ:宗熊へ宛てた文を八次郎に託した。そして黒羽城へ。
木:「殿、あの様に申して良いのでありましょうか?」
殿:「あの者の目を見たであろう。強い決意をわしは感じ取った。意志を強う持った者にはわしも太刀打ち出来ぬわ」
木:「ですが」
殿:「案ずるな・・・八次郎、宗熊殿を信じようではないか」
木:「この世で、敵方を信じる事は」
殿:「木村の申したい事も良う分かる。あの日、忠清が成之に家督を譲り、己は戦のない世をと申しておった事が、今は、分かる様な気がするのぉ」
木:「はぁ・・・殿がその様にお考えならば、私はもう何も申しません」
ナレ:忠高は宗熊との約束を必ず守らねばと思っていた。ナレ:その頃、戦にならないのであれば、緑合へ引き返すかどうするかと話していた。そして容易く退いた事を不思議に思う成之だった。
唯:「だから、そんなに深刻にならなくっても、こう言っちゃなんだけど、きっとあののっぺり顔のあいつはまた懲りずに来るんじゃないの?」
若:「そうかもしれぬ」
成:「唯の申す通りだと」
唯:「まっ、しばらくは様子見で、此処に居たらどうかな。ねっ、若君」
若:「そうじゃの」
ナレ:そういう事で、しばらくは黒羽城に滞在する事にした。その事を三郎兵衛が忠高に知らせに行こうと言ったが、忠清は必ず宗熊の頼みを受け入れると信じていた忠清は、五日後には会う約束をしているので、忠高も緑合を発つであろうからここで待てと。そして、八次郎が黒羽城に到着し、会う事を承諾したと伝えた。
若:「やはり」
八:「はい。わたくしは高山へ戻ります」
ナレ:出立前に八次郎は休憩している三郎兵衛に、高山宗熊にこれからも仕える事を話した。やはり驚いていた。
三:「父上、母上は、どう申しておった?」
八:「勘当すると」
三:「えっ!」
八:「父上は、わたくしの意思を尊重して下さました。母上は泣いておられました」
三:「そうであろう‥お前はもう決めておるのだな」
八:「殿にもお許しを」
三:「そうか・・・そうなれば、対峙する事になるやも知れんが・・・その覚悟は?」
八:「ございます」
三:「・・・」
ナレ:言葉にならなかった三郎兵衛は八次郎を抱きしめた。
八:「兄上」
ナレ:八次郎も強く抱きしめた。お互いにもう会えないであろうと思っていた。待ち合わせの時刻に合わせて忠清も出掛けることを八次郎に伝えた。八次郎はその足で長沢城に戻った。
信:「三郎兵衛、八次郎と抱き合うておったが何故じゃ?」
ナレ:信近に聞かれた三郎兵衛は八次郎が間者を辞して宗熊の家臣になる事を話すと、みんなは驚いた。
唯:「じゃ、八次郎さんは、もう羽木には戻らないって事?」
三:「さようです」
若:「そうであったか。力強い目をしておった。その様な事であったか」
じい:「三郎兵衛」
三:「はい?」
じい:「何処に居ってもお前の弟じゃよ、八次郎の無事を祈ろうぞ」
三:「信茂様」
ナレ:信茂は三郎兵衛の肩を抱き、酒を飲もうと誘い屋敷の中へ。
唯:「でも、すっごい決断したね」
若:「ん」
ナレ:忠清は思っていた。
若:(唯、お前も八次郎と同じ様に決断をしたのじゃな)
唯:「ん?若君?」
若:「何ほどでもない。わしも支度をせねばの」
ナレ:忠清も中へ。
唯:「兄上さん、若君どうしたのかな?」
成:「そうじゃの」
ナレ:そう返事をしたが、成之には忠清の考えている事が分かったが唯には言わなかった。つづく
[no.581] 2021年4月15日 22:34 ぷくぷくさん 返信[no.580] 2021年4月15日 15:48 ぷくぷく(群馬)さん 返信=宗熊の決意 第二章=②
宗熊の腹に矢が刺さった。
***********
ナレ:八次郎は馬を降り、宗熊の元に行くと、
熊:「八次郎、参るぞ」
八:「ですが」
ナレ:かすかだが「坂口様」と宗熊に聞こえた。諸橋の言っていた坂口であれば羽木に遺恨が有る事は知っているが、自分を追放した高山をも恨んでの仕業だと考えた。宗熊は腹に刺さった矢を抜き捨てて、
熊:「参るぞ!」
八:「あっ、はい!」
ナレ:馬に戻り、先を行く宗熊を追いかけた。
男:「えっ?」
坂:「間違いなく刺さったであろうに。何故じゃ?」
男:「さぁ?」
ナレ:何が何だか分からない二人。しばらく走ってから止まった宗熊の側に駆け寄り、
八:「早う手当てをせねば!」
熊:「ふっ、大事無い」
ナレ:宗熊は懐からあの置物を出して八次郎に見せた。日光の文字の間に亀裂が。
熊:「あの者の腕は確かじゃのぉ。あははは!」
ナレ:宗熊の笑い声が木々に響き坂口たちにも聞こえた。それは恐ろしい声に聞こえた男は怖くなり逃げ出した。
坂:「わしを置いて行くな!」
ナレ:坂口も逃げた。
熊:「信茂殿がわしの命を助けてくれたのじゃな」
八:「さようですね」
熊:「これからは、この物がわしの守り神となろう」
ナレ:宗熊は懐に戻し走り出した。ナレ:長沢城に到着すると、諸橋が出迎えた。
諸:「ようご無事で」
熊:「心配を掛けたの」
八:「では、わたくしは厩へ」
ナレ:八次郎は二頭の手綱を持ち厩へ。
熊:「して、父上は?」
ナレ:怒って顔を真っ赤にして諸橋達に当たり喚き散らしているのだろうと想像した。
熊:「顔を赤うしておったであろうの」
諸:「あっ、はい、さようで」
熊:「すまないのぉ」
諸:「あっ、いえ、殿は途中、雨に降られ身体を濡らし、熱を出され顔が赤うなっておられ、すぐさま、床に入られております」
熊:「雨・・・そうであったか」
諸:「若君もご存知の通り、殿は強うお姿にございますが、気を張られたり雨に濡れたりなさると直ぐに熱を出されますから」
熊:「そうであったの。あの和議の折ものぉ」
諸:「若君はお身体が丈夫で何よりにございます」
熊:「それはわしが強う見えぬと申しておるのか?」
諸:「いえ、決してその様な事は」
熊:「ははっ、気にするでない」
ナレ:笑った時に鎧の腹の辺りが切れているのが見えた。
諸:「若君、どうされたのでございますか?」
熊:「戻る途中で狙われての。矢が刺さっての」
諸:「え~!では、手当てを」
ナレ:怪我をしている割にはしっかりしているし、側に居た八次郎は何も言っていなかった。
諸:「若君?」
ナレ:宗熊は懐から置物を出して、
熊:「これがわしの命を救ってくれたのじゃ」
諸:「はぁ」
熊:「天野信茂殿に貰うた物じゃ」
諸:「えっ?」
熊:「父上には内密にの。知れたならば燃やされてしまうからの。これはわしの守り神じゃ」
諸:「はぁ。殿には申しません」
熊:「うん・・・では、父上の様子を見て参る」ナレ:襖の前で声を掛けると弱弱しい声で返事があった。
熊:「失礼いたします。父上、お加減は?」
鶴:「お・・・お前という奴は・・・何を」
ナレ:起き上がろうとしたが熱でうまく起き上がれない。
熊:「明日、お話がございます」
ナレ:宗鶴が声を掛ける前に宗熊は部屋を出た。
鶴:「何を考え・・・ゴホンゴホン」
ナレ:咳き込む声が聞こえたので諸橋が水を持ってきた。
鶴:「宗熊は何か申しておった・・・か?」
諸:「わたくしは何も聞いてはおりません」
鶴:「何を考えておるのだ・・・はぁ・・・やすむ」
ナレ:宗鶴は布団を頭まで覆い被り、しばらくしていびきをかき始めた。諸橋は宗鶴の方、出て行った宗熊の方を何度も見て、
諸:(どうなるのであろうか・・・襲われた事は黙っておいても良いのであろうか?だが一先ず伏せて)
ナレ:諸橋は静かに襖を閉めて、深い溜息をついた。宗熊はその足でゆめの所へ。
ゆ:「宗熊様、ご無事でようございました」
熊:「ん・・・ゆめ殿」
ゆ:「はい?・・・ここでは、奥へ」
熊:「良いのじゃ・・・わしは明日、父上にわしの思いを申す事にしておる。そののち、わしが父の元を離れる事となった折は、申した事を忘れてはくれまいか?」
ゆ:「えっ?」
熊:「わしから妻になってくれと頼んでおきながら、身勝手な真似を。だが。わしが高山を去るとなれば、そなたに苦労を掛ける事となる」
ゆ:「宗熊様!」
熊:「えっ?」
ナレ:ゆめは宗熊の前に立ち、手を握った。背の高いゆめは上から睨むように宗熊を見た。
熊:「ゆめ殿・・・い・・・如何した?」
ゆ:「わたくしは、宗熊様について参るとあの折、心に決めたのでございます。宗熊様とならば苦労もいとまぬ覚悟にございます。わたくしをお捨てになるのでございますか?」
熊:「あっ、いやっ、その様な・・・良いのか?」
ゆ:「はい、地の果てまでも着いて参ります。握った手が痛いと申されても離しは致しませぬ」
ナレ:そう言っていると本当に手に力が入ってしまった。
熊:「ゆ・・・痛い」
ゆ:「あっ、申し訳ございませぬ・・・力の強い・・・嫌われますね」
熊:「その様な事は無い。頼もしいぞ・・・あっ、おなごに申す事では無いの」
ゆ:「その様な事はございませぬ。では、何かの折に宗熊様を抱え走る事の出来る様、身体を強う致しましょう」
ナレ:宗熊はそこまでしなくてもと思ったが、ゆめが自分を信じてくれることが嬉しかった。唯に似ていないような事を思ったが、意外と唯とゆめは似ているのかもしれないと改めて思った。ゆめの存在が心強いと感じた。ちなみに、和議の後、成之が忠清と宗熊はおなごの好みが同じだと言っていた。ナレ:翌朝、宗熊は覚悟を決め宗鶴の部屋の前に。
熊:「父上」
鶴:「入れ」
ナレ:宗鶴は布団に座り怖い顔をしていた。いつもの元気な時の様に。
熊:「お加減は?」
鶴:「寝ておられるはずは無かろう・・・お前は何を考えておる?」
熊:「父上は羽木、羽木忠高殿に敵意をむき出しにされ、度重なる戦を仕掛け」
鶴:「仕掛けとは、忠高めが、こちらに仕掛けておるのだぞ!・・・何を申しておるのだ!」
ナレ:ご説明いたします。奥方の事があり間者を忍ばせる事と致しましたが、その頃は近隣での戦も落ち着いていた時期の為、戦にはならず平穏に暮らしていましたが、ある時を境に戦を仕掛ける事となったのです。それは羽木成之と坂口が仕向けた事でした。坂口は人を使い宗鶴の耳には羽木が戦支度をしていると嘘の情報を。既に心は憎しみに支配されていた宗鶴は怒りで奇襲を。だが宗鶴も把握していない戦があった。唯が平成に戻った後に忠清が戦の無い世を願っていた時期の二つの奇襲については宗熊も知らなかった。
熊:「父上は偽りを信じていおる為、度々無用な戦を。その為にどれほどの民が命を落とす事となり、私は心を痛めておりました」
鶴:「何を弱い事を申しておる、戦はこの世のならいじゃ」
熊:「さようでございましょうが、私が申したいのは、領民を守るために挑まれた戦に立ち向かう、それは戦乱の世に生まれし者の宿命と思うております」
鶴:「分かっておるようだが」
熊:「しかしながら、父上が羽木家への遺恨でなさる戦は、無用なものにすぎませぬ」
鶴:「わしに楯突くきか!」
熊:「はい!」
鶴:「う゛」
熊:「私は領民を守るために、決意致しました」
鶴:「何じゃ!」
熊:「父上、隠居なさり、私を領主とお認め願いたい」
鶴:「あ゛!・・・わしに退けと‼」
熊:「はい!」
鶴:「わしは隠居などせぬ!・・・お前のような弱い男に任せられるか!・・・わしの目の黒い内は断固としてお前に家督は譲らん!」
熊:「分かりました」
鶴:「へっ?」
ナレ:あっさり諦めたので宗熊は拍子抜け。
鶴:「お・・・お前?」
熊:「ならば、お願がございます」
鶴:「ん?・・・なんじゃ?」
熊:「父上には羽木忠高殿と会うていただきとう存じます」
鶴:「あ゛」
熊:「父上は偽りを信じ、そして憎しみを持ち今まで過ごされておりました。私は、その偽りの訳を知り、このままではならぬと考えたのでございます」
鶴:「それゆえ、わしに忠高めに会えと?」
熊:「はい」
鶴:「その様な頼み受けるわけなかろう。駄目じゃ!」
熊:「さようでございますか。父上は忠高殿が怖いのでありますな」
鶴:「恐れるはずは無かろう!あのような青二才」
ナレ:ずっと相対する事が無かったので、宗鶴の浮かぶ忠高は忠清を少し大人にした感じの姿しか分からないので。宗熊には青二才の意味が分からなかった。
熊:「やはり、父上は恐れておいでなのですね」
鶴:「何とでも言え!・・・わしは会わぬ!」
熊:「では、家督を譲るか、忠高殿と会われるか、二つに一つにございます」
鶴:「何じゃそれは!・・・比べようもない事では無いか!」
熊:「私には同じ重さにございます。どちらも領民を守る事にございます」
鶴:「あ゛?」
熊:「昔は戦の折は助けおうておったと聞きました。この戦乱の世で戦う事は逃れられない事に存じます。ですが、昔の様に助け合う事が出来たならば、領民も守る事が出来ると・・・父上はお強いお方です。お心も。なればこそ領民の為に忠高殿とお会い下さい」
ナレ:宗熊は自分で話しておきながら良く分からなくなっていたが気持ちを押し通す事に。宗熊の中では領主よりも忠高と会う事を強く願っていたから。だから、どうにか会う方向へ進めるべく必死だった。宗鶴も宗熊が何を言いたいのか良く分からなくなっていたが誘導されるように、
鶴:「わ・・・分かった・・・あやつに会おう」
熊:「父上!」
鶴:「だが、あやつが事を仕掛け様なら、わしはその場で手打ちに致す」
熊:「私は、父上を信じます。では、文を出します。手はずが整いましたら・・・お逃げにならないで下さい」
鶴:「に・・・あやつが恐れをなし会わぬと申しかも知れんぞ」
熊:「きっと会って下さると信じております」
鶴:「お前が分からなくなった・・・やすむ」
ナレ:宗熊は布団をかぶりふて寝。
熊:「では、父上」
ナレ:部屋を出た宗熊は和議と決めたあの夜の様にだんだん笑顔になった。早速、文をしたためた。忠高宛と忠清宛に。そして八次郎に託した。八次郎は先に忠清の元へ。つづく