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    二人の令和Days11~21日15時30分、色っぽいね

    かわいい妻。見せびらかしたい派か、しまっときたい派かなら、きっとしまっときたい派。
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    男子二人を見送ると、早速物色。

    美香子「ビキニがいいんだって?」

    唯「うん」

    美「忠清くんを悩殺したいとか?」

    唯「うん!」

    美「彼はそのままの唯が好きなんだから、それこそスクール水着でもいいと思うけど」

    唯「もー!なんで親子で同じ事言うのっ」

    美「あ、尊も言ってた?」

    唯「言ってた。かわいいの着たいもん!選ばせてよ~」

    美「はいはい」

    三着選んだ。美香子がチェック。

    美「なんと言うか、この胸パッドの、えげつない程の入り方が…」

    唯「胸小さめ女子の救世主でしょ」

    美「半分以上パッドが占めてるじゃない。胸の形が崩れるから、あまりオススメできないんだけどねー」

    唯「いーのー。これでガッツリ、谷間を作るのだー!」

    美「忠清くん、中身知ってるから、なんか怪しいなと思うわよ」

    唯「えー、あくまでも、たーくんの味方?」

    美「まあ、まずは試着してみなさいな」

    次々と試着。

    美「んーどれも悪くないけど、強いて言うなら黄色いのかな」

    唯「やっぱり?私もそう思った!もう一回着てみるね」

    再度着替え中。

    尊「お母さーん」

    美「あ、おかえり。決まった?」

    若君「お母さん、見てください」

    美「ふむふむ、青色の濃淡がグラデーションに入ってるのね。あら!尊は黒の濃淡の色違い?合わせたの?」

    尊「偶然の一致」

    美「まあ!そうなのー。仲良し兄弟ね」

    尊「思わず、喜びのハイタッチしたよ」

    美「へー。尊、優しいわね」

    尊「え?」

    美「ハイタッチの思い出を、いい方に塗り替えてあげたのね」

    尊「うわっ」

    若「そうなのか?尊」

    尊「えーっと…えへへ」

    若君が手を差し出した。尊もそっと出す。

    若「ありがとう、尊」

    尊「いえいえ」

    固い握手。

    美「ん~兄弟愛。いい眺めだわー」

    唯「ねぇちょっとぉ、私の事忘れてない?」

    試着室のカーテンが開いた。

    唯「ジャーン!どお?どお?たーくん」

    若「唯…」

    レモン色のビキニ。ショーツはシンプルだが両脇にリボン、ブラは肩紐は細く、胸の中央でリボンを結んだようなデザインで、動くとリボンが揺れる。

    若「よう似合うておるぞ。…ん」

    不自然に盛り上げられた胸元を、不思議そうに見ている。

    若「何やら普段と違うておる」

    唯「やだー、気のせいだってぇ」

    尊「ウソにも程がある」

    若「この先の世では、これを良しとすると?」

    唯「あれぇ?なんかノリが悪いー」

    尊「時代が違えば、価値観も違うでしょ」

    若「良しとするのならば」

    唯「ならば?OK?」

    若「他の男に色目を使うのか」

    唯「えっ?!まさかっ!」

    尊「ヤバい展開だな」

    若「無念じゃ」

    唯「違う、違うってば!」

    美「拗ねてる…」

    尊「お母さん、シーッ」

    美「あ、ごめん、つい」

    唯「たーくん、そんなんじゃないから!」

    若「…わしは、有るがままの唯で良いのじゃが」

    美「あー。ほらね、言った通りでしょ?唯」

    尊「やっぱ僕らの方が理解してる」

    唯「えー、これダメ?」

    若「駄目とまでは申さぬ。気に入ったのであればそれで良い。何より似合うておるし」

    尊「もろ手を挙げて賛成ではないが、まあ良かろう?」

    美「忠清くん、少しでもあなたの気を引きたかった乙女心に免じて、許してやって」

    若「ほぅ。乙女心、とはそういう物なのですね。ならば、唯」

    唯「はいっ」

    若「許す」

    唯「ありがと~。きょ、きょうえつ…なんだっけ?」

    尊「言えないなら言わない」

    水着三着お買い上げ。そろそろ帰ります。

    唯「あー、無事決まって良かったぁ。早くプール行きたいなー」

    美「プール。確かにいきなり海水浴よりはいいかも。いつ行くの?」

    唯「まだ考え中」

    美「今週の水曜にしたら?行きはまだ約束できないけど、帰りは迎えに行ってあげるわよ」

    唯「え、いいの?」

    若「それは有り難きお言葉じゃ」

    尊「やったー!」

    美「ご機嫌ね。なんせペアルックだもんね」

    尊「楽しみー」

    唯「乙女か!」

    全員「ハハハ~」

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    楽しい予定続々。

    21日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days10~21日15時、まるで買い物デート

    ふんどしも、際どいからダメ。
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    水着売場の前。

    美香子「この売場は、時代が移ってもカラフルさは同じね~」

    唯「キャー!かわいいのがいっぱーい」

    尊「派手~。一人だったら絶対入れないよ」

    若君「全ての色を集めたような処じゃな」

    美「あい変わらず綺麗な表現ね、忠清くん」

    唯「あ」

    尊「外出時は令和ライフ、始動だね。了解」

    若「わかりました、お母さん」

    売場内に突入。

    美「メンズ物は向こうにあるから、自由に決めてらっしゃい。何かあれば呼んで。どうせこちらは時間かかるだろうから」

    尊「はーい。行きましょう、兄さん」

    若「わかった。お母さん、行って参ります」

    売場の隅にメンズコーナー。

    尊「こちらは選択肢が少ないから、かえって助かりますよね」

    若「それでも随分とある」

    尊「あっ、それはちょっと…」

    若「いやに小さいのう」

    手に取ったのはビキニパンツ。

    尊「それ選んだら、お姉ちゃんに際どいのはダメって言えないです」

    若「どのように身に付けるのじゃ?ほぅ、伸びるのか」

    尊「兄さん、売り物なんであまり伸ばさないでくださいね」

    若「あ?そうか、済まない」

    尊 心の声(そんなん選んだら、お母さんだけが異常に喜ぶよ)

    尊「無難に、サーフパンツ系にしましょう」

    若「色々、模様が入っておるのう」

    しばらく、二人それぞれ黙って選んでいた。

    若「これなど如何であろうか」

    尊「決まりました?僕も選びましたから、試着しましょうか。あっ」

    若「おっ」

    同じ柄の色違いを手にする二人。

    尊「わー、嬉しい!あとはサイズが合えばいいけど。兄さん、ちょっと見せてください」

    若君の選んだ水着のタグを見る尊。

    尊「サイズは大丈夫そう。じゃ、着てみましょうか」

    試着室。まずは若君。

    若「どうじゃ?」

    尊「わー、想像通りよく似合う。えーどうしよう、僕似合わなかったら」

    若「そんな事はなかろう」

    尊「いや、容貌の完成度の違いが如実なので…」

    若「その言葉、いつぞや聞いたな」

    尊、着替えました。

    若「何も申し分なかろう」

    尊「良かった~」

    選択完了。

    尊「あの、もしかして僕に気を遣って同じのにしたとかないですか?」

    若「いや、それはない。わしも面食らった位じゃ。されどかわいい弟と、センスが同じで嬉しかった」

    尊「センス、ちゃんと覚えてますね。さすが忠清兄さん」

    若「此度も、様々な言葉を覚えようと思うておる。尊、よろしく頼む。…そうじゃ、早速尋ねたいのじゃが」

    尊「なんですか?」

    若「先程唯と吉田殿が、再会の折に手を叩き合うておった。あれは何か合図や決め事なのであろうか。あとクラスメート、とは何じゃ?」

    尊「あー、ハイタッチ。えーと軽い挨拶でもやるし、上手くいったねおめでとうって時もやるし。お姉ちゃんの様子だと、会えばいつもあぁしてたんじゃないかな。クラスメートは、同じ教室で勉強してた仲間です」

    若「そうか。仲良うしていたのは相違ないと」

    尊「多分お姉ちゃん、誰にでもやってますよ。だから心配要りませんから」

    若「そうか?」

    尊「はい。…あ、そういえばハイタッチって、今この状況でもやりますよ」

    若「それは何ゆえ?」

    尊「一緒の選んだじゃん、二人通じあってるよな!って」

    尊が右手を挙げる。若君も同じく右手を挙げた。

    尊「イェーイ!」

    若「イ、イェーイ」

    パシッ!といい音でハイタッチ。

    若「おぉ、なにやら、より通じ合うた気がするのう」

    尊「良かった。じゃあ、これからは時々やりましょう」

    若「そうじゃな」

    尊「もう決まったかな~?お姉ちゃん達の所に行きましょうか」

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    実に微笑ましい兄弟。

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    返信
    ぷくぷく様・妖怪千年おばば様

    まずぷくぷく様へ。

    お返事が遅くなり大変失礼致しました。先程ようやく以前の作品を再度拝読しましたが、変わった?そうかな?という感想です。謝っていただくなど恐れ多いです。
    それでしたら、私の「」の使い方は、ぷくぷくさん寄りですので、こちらが恐縮でございます。

    お二人へ。

    私が現代のお話を描いているのは、戦国言葉をうまく扱えないからです。もっと励まないといけませんが(*_*)。お二人の言葉の操り方、大変尊敬致しております。

    てんころりん様

    投稿の間隔が空くのですね(ToT)淋しくなります。

    色々ご事情もあると思いますので、サイトが見られない、という環境でないのであれば、アシカフェの動向を見守っていてくださいね。

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    ぷくぷくさん

    『宗熊の決意』前章から時間があいたし、途中からの方もいるし 解説は助かります。
    no.566「これからの事を」
    no.574「今日はぽかぽか」(第一章登場人物)
    no.575「第一章あらすじ」no.577「第二章へ」

    ★【土産 その1, 2 】4/6 no.567_ 4/7 no.570

    ぷくぷくさんの“爺様”はいつでもどこでも愛されキャラです。
    高山親子にそっくりな熊田親子から、爺様がもらった日光の木彫りの三猿が、戦国でどんな働きをするか楽しみでした。
    速川家がある黒羽市が、ぷくぷくさんの地元になってませんか?
    小学校の遠足で日光へ… 近場の日光へ一泊旅行… あれ? もしやと。
    それって楽しいし. とても良いですよね。
    創作倶楽部なんだから自由に ??

    ★【宗熊の決意 第二章 ①~⑤】
      4/14 no.578~4/21 no.586

    高山の坂口が、悪役を一手に引き受けますね。
    坂口は宗鶴から許されて、独自に調略の仕事をする、組織に属さない人だった。
    これ、マスター·我が家の伝統芸能さんの公式時代の投稿(坂口について)を思い出して書いてます。
    確か調略という言葉をお使いでした。
    坂口が成之と仕組んだ謀はことごとく失敗?!

    ぷくぷくさんの物語では、坂口が宗鶴に嘘の報告をして忠高を憎むよう仕向け、追放されて高山を逆恨みし、宗熊に矢を射る❗
    あちゃ~ 悪い奴じゃのう ??
    爺様から渡された???に命を救われ、亀裂が入った木彫りを見せて宗熊が笑うところ、戦国武将らしく格好良かった❣️

    で、ぷくぷくさんにお願いがあります。
    坂口(演者の山本龍二さん)のお顔が浮かびます。
    真の悪人は登場しないアシガール、機会があったら、坂口の名誉回復してあげて下さい。?

    宗鶴 忠高を和解させる為、宗熊は大活躍。
    年上でバツ1の“ゆめ” 気丈で素敵な女性の心も得ちゃいました。
    そして今回の影の主役は八次郎ですね❣️
    羽木の間者と宗熊に見抜かれ、宗熊の人柄に触れて忠義を誓う。
    これ、山本周五郎「樅の木は残った」を思い出しました。私が高校生の時、平幹二朗さん主演で大河ドラマにもなりました。
    江戸時代の話なので、戦はなく.調略ばかりの抗争です。敵方の間者だった人物が、平さんを守り命を落とします?。

    八次郎は宗熊を主とする事、忠高から許されましたが、高山と羽木が再び敵対する事もないとは言えず、両親と兄·三郎兵衛に別れの挨拶をするのが切ないです。
    両殿の和解は、八次郎が運んだ宗熊の手紙と忠高の返事で、実際はほぼ解決していたのでしょうか。
    両殿は思い出の場所で会い、旧友相和しました。
    両家の橋渡し(連絡役)に高山は八次郎、羽木は三郎兵衛が選ばれ、一先ず.めでたしですね ?。
    戦国では、この平和がいつまで続くか分からない。
    宗鶴が「今宵祝言を」熊とゆめを急かすのは、阿湖(唯)と熊の時と同じで笑いました?。
    でも時代がそうなんだと思い直しました。

    【追記】
    戦国に帰り着いて、全員が唯を一緒に連れて来て
    良かったか?とふと思う… 印象的でした。
    ぷくぷくさんの次回作も楽しみにしてますね。

    ☆皆さんの作品に共通する事ですが、長いので、一部についてしか書けずにすみません。
    作者ご本人が力を入れた所とズレる可能性があり、おっかなびっくり、しかし私にはこれしか書けないという気持で出しています。
    ☆夕月かかりてさん、新作期待してます。
    ☆妖怪千年おばばさん、始まりましたね。

    私、アシカフェ自体を暫くお休みします。
    アシガール板の誕生日リストの投稿位しか、書き込み出来ないと思います。
    感想は先になりますが、よろしくお願いします。

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    楓 ~「十三夜」続編~ 第一景

      「さあ、お仕度を。」

    侍女の言葉に、
    三の姫は素っ気なく答える。

     「私は、参りませぬ。」

      「その様に申されましても、
       これは、御屋方様の
       お指図にて。」

    「何を騒いでおるのじゃ?」

    鐘ヶ江久政の妻が部屋に入って来た。

    「まだ、その様な成りでおるのか。」

     「何故、私なのです?
      お仕えするのは、
      ふきのはずでは?」

    「ふきは未だ、女の童じゃ。
     お子は望めぬ。
     さあ、早う湯殿で
     身を清めなされ。」

    母にせかされ、三の姫は
    固い表情で部屋を後にした。

    「逆ろうた事など、一度たりとも
     無かった三の姫が、
     何故あの様に。」

    黒羽城の若君、忠清の初陣が
    決まったと、知らせを受けたのが
    二日前の夜更けの事。

    初陣の夜のお世話をと、
    鐘ヶ江家の娘に白羽の矢が立った。

    当主の隠子として
    松ヶ枝村で育ったふきは、
    七歳で父の屋敷に引き取られた。
    男子に恵まれぬ鐘ヶ江家にとって、
    できる事ならば、若君の側室にと、
    望みを託しての事だ。

    しかし、此度のお召しは残念な事に
    ふきにはいささか早かった。
    一方で、久政とその妻は、
    この好機を逃す訳にはいかない。

    そこで、若君よりも年上ではあるが、
    三の姫をと決めたのだ。

    娘の衣装を整えている所へ、
    当の三の姫が湯殿から戻って来た。
    その姿を一目見るなり、
    久政の妻は声を荒げた。

    「如何したのじゃ!?
     凍えておるではないか。」

    三の姫の桃の様な頬は
    血の気が引き、唇も手足の爪も
    紫色になっている。

    侍女は、声を震わせながら、
    答えた。

      「お止めしたのです。
       なれど、姫様は、戦勝と、
       鐘ヶ江家繁栄祈願
       の為とおっしゃいまして
       湯殿にあった手桶の水を
       全てお浴びになり。」

    「何という事を!
     早う、熱い湯を持て!
     体を暖めねば!」

    外廊下にいて、
    その一部始終を見ていたふきは、
    急ぎ厨にむかうと、土瓶を整えた。
    それを三の姫の元へ運ぼうとして、
    ふと思い立ち、自室に入ると、
    しまっておいた和三盆を取りだし、
    土瓶の中に落とす。

    義母の怒りが、
    やや静まったのを見定め、
    ふきは、庭から三の姫の部屋に
    その土瓶を差し入れた。

       「お体が温まります故。」

    侍女が、添えられた茶碗に
    土瓶の湯を注ぐと、
    生姜の香りが立ち上る。
    ほんのりと甘い匂いもした。

    「生姜湯かえ?」

    義母の尖った声に、
    首をすくめたふきを見て、
    三の姫が声をかけた。

     「ふき、こちらへ運んで。」

    三の姫は奥の間で、
    夜具を掛けられ臥せっている。

    ふきは、おずおずと、
    部屋に上がった。
    すると、その中庭に、
    下男が駆け込んできた。

       「御屋方様からの
        急な知らせにございます。
        姫様の今宵のお勤めは
        無用との事。」

    「何じゃと。それは誠か。」

       「はっ。若君様は、
        “手弱女に、戦場は
        相応しゅう無い。
        また、改めて。“
        と仰せられたと。」

    「何と、十三にして、
     その様なお心遣いをなさるとは。
     して、戦況は?」

       「羽木軍の圧勝にございます。
        若君様は、四天王が
        四方を固めてお守りし、
        ご無事。
        御屋方様も、無傷にて、
        明後日には、お戻りに
        なられましょう。」

      「お父上はご無事なのですね。」

    娘たちは、喜びの声を上げる。

    久政の妻は、安堵と落胆の 
    入り交じった深い溜息をつくと、
    二人の娘を交互に見据えた。

    「それに引き換え、
     お前たちときたら。」

    それから、たっぷりと一刻の間、
    家臣の娘として生まれた者の
    心構えを、二人は母親から
    延々と聞かされたのだった。

    義母の退出を見届けて、
    ふきが、思わず声にする。

     「此度は、いつもの倍は
      ございましたなあ。
      お義母様のお説教。」

    「ふきには、とんだ
     災難であったの。」

     「いえ。その様な。
      なれど、何故、
      水ごりなど?」

    「それはの。」

    三の姫は、ためらいがちに、
    言葉を続けた。

    「お前の想うお方の寵を、
     私がお受けする
     訳にはいかぬからじゃ。」

     「姉上様、それは。」

    ふきは、慌てた。

     “誰にも覚られてはおらぬと
     思うておったのに。“

    「初めてじゃの。
     お前が姉と呼んでくれたのは。
     常には、三の姫としか
     呼ばぬものを。」

    夜具の中から手を伸ばすと、
    三の姫は、ふきの指を握った。

    「暫く前の事じゃ。
     お前は、侍女のつると菊を
     摘みに行き、帰るなり
     幾日か臥せったであろう。」

     「あ、あれは。。。」

    「その折、つるから
     聞いたのじゃ。
     若君様が通られた故、
     菊は摘まずに戻ったと。」

     「左様にございまする。」

    「その日より、お前の心に
     若君様のお姿が焼き付き、
     去らぬのであろう?」

     「姉上様。」

    ふきは、頬を染めながら、
    小さな声で応えた。

     「お察しの通りに
      ございまする。
      なれど、この胸に、
      そのお姿が宿りましたのは、
      それ以前の事にて。」

    ふきは、語った。
    松ヶ枝村の外れ、栗の木の上で見た
    白い馬に跨り、
    すすきヶ原を駆け抜ける、
    青い着物の男子の事を。

    「その様に、長き間。
     なれば、なおの事じゃ。」

     「なれど、かような事を
      なさらずとも。」

    三の姫の水ごりは、
    己を思っての事と知り、
    ふきは、身の置き場が無い。

    「では、もし、お前が私で
     あったなら、如何する?」

     「私であれば?」

    ふきは、しばし思案した後、
    こう応えた。

     「私ならば、朝餉に、
      豆や芋をたんと食します。」

    「豆や芋?何故?」

     「はい。
      さすれば、寝所に
      上がる頃には、腹が張り、
      おのずと・・・」

    ふきは、その後の事を
    三の姫の耳元で、
    ひそひそと伝える。

    それを聞いた三の姫は、
    夜具を頭までひき被り、
    声が漏れぬ様にして笑った。

    ふきは得意気に、なおも語る。

     「つるがおれば、
      とんだそそうをと、
      その身に引き受けましょう。
      なれど、閨にまでは
      付いて参りませぬ。
      私が殿御であれば、
      鼻を塞がずにはおられぬ
      女子など、すぐに下がらせ、
      二度と召しませぬ。」

    大真面目な顔のふきを、
    夜具の間から覗いた三の姫は、
    笑いが止まらず、体をよじる。

    笑い転げ、体が火照った三の姫は、
    夜具を払い、体を起こした。
    その頬には、赤みが戻っている。
    それを見て、ふきは
    ほっと胸を撫で下ろした。

     「良うございました。
      いつもの三の姫様に
      お戻りで。」

    「ふきのお陰じゃ。
     先程の生姜湯には、
     お前が大切にとっておいた、
     和三盆を入れたのであろう?
     その礼に、
     良いものをやろう。」

    三の姫は侍女を呼ぶと、
    棚から巻物を取らせた。

    侍女はそれをふきの前に広げる。

     「姉上様、これは?」

    「私が写した、落窪物語じゃ。」

     「その様な大切な物、
      頂くわけには参りませぬ。
      私は、拝見できればそれで。
      如何様なお話なのでしょう?」

    「それはの。
     継母から苛められている姫が、
     頼もしき貴公子と廻り合い、
     幸を得る話じゃ。」

     「まあ、その様な。」

    「お前も辛い事が多かろう?」

     「いえ。私は苛められた事など
      ございませんので。
      ただ・・・」

    「ただ?」

     「かか様に会いとうなる事は
      まれにございまする。」

    ふきは、ニの姫の
    流鏑馬披露の日を思い出した。
    母の胸に飛び込んだ時、
    その粗末な衣の感触に
    胸を突かれた。

    幼き頃には、
    何も思わずにいた。
    それが当たり前の事であった。
    しかし、柔らかな絹に馴染んだ身に、
    洗いざらしの麻布は、
    切なく肌に当たった。

     “せめて一枚の衣だけでも贈りたい。
      生み育ててくれた、かか様に。“ 

    「お前、確か、茜色の端切れを
     集めておったの。」

     「はい。
      縫うてみたいものが
      ございまして。」

    「もしや、かか様のものか?」

    ふきは小さく首肯く。

     「村の冬は寒うございまして。
      せめて、肌着をと。」

    それを聞いた三の姫は
    慰めるように言った。

    「若君様のお側に上がれば、
     衣も、髪飾りも思いのままと聞く。
     たとえ、それが、
     かか様のものであろうとな。」

    ・・・・・・・・

    その後、鐘ヶ江久政の妻は
    ニの姫の縁談にかかりきりとなり、
    ふきにとっては、穏やかな日々が
    過ぎて行った。

    一の姫の和歌の指南は、
    相変わらず手厳しいが、
    三の姫と水菓子を分けあいながら、
    語るのは、楽しい。

    ある日、三の姫がぽつりと言った。

    「女子の幸せとは、
     嫁いで子を成す事だけ
     なのであろうか?」

     「三の姫様?」

    家臣の姫と生まれたからには、
    お城の奥に上り、
    お世継ぎを生む事こそ、至上の誉。

    母の口真似をし、頭を振ると、
    三の姫は溜息をつく。

     「これは、何の写しに
      ございまするか?」

    その溜息には気付かぬふりをし、
    ふきは訊ねた。

    「更級日記じゃ。」

     「もう、写し終えられて?」

    「それがの。
     なかなか筆が進まぬ。」

     「何故に?」

    「書いたお方のお気持ちが、
     よう分かり過ぎて。」

     「それは、如何様な?」

    「これを書かれた姫君は、
     下総の侘住いであった。
     ある日、乳母から、源氏物語の
     粗筋を聞き。読みたいと思うが、
     ままならぬ。
     そこで、京の都の本邸に戻りたいと
     父上に頼むのじゃ。
     本を手に入れる為にの。」

     「京の都へ。」

    「その父上は、お役人での。
     もともと都人であった故、
     上申し、京に戻る事になる。」

     「良うございました。
      願いが叶うて。」

    「確かに、姫の願いは叶う。
     私とは、違うての。」

     「もしや、三の姫様も、
      都へ上がるのをお望みで?」

    答える変わりに、三の姫は立ち上り、
    遠い空を眺めた。

    「都で無うても良い。
     心が浮き立つ様な
     景色を見てみたい。
     そして、皆の心に残る様、
     それを書き記したい。」

     「なれば、お記しになれば?」

    「記す?何をじゃ?」

     「旅人にとりましては、この地も
      珍しき景色なのでは?」

    「確かに、左様ではあろうが、
     日頃、見慣れた景色では、
     興が乗らぬ。」

     「私には、鈴鳴神社の水占いなど
      大層、面白く思われますのに。」

    「水占い?」

     「流鏑馬披露の際には、
      吉を引き当て、二の姫様も、
      見事、勝ちを手にされました。
      まずは、鈴鳴の縁起など、
      綴られては如何でしょう?
      守り人となられるニの姫様に
      お願いすれば、参拝の方々に
      読んで頂く事も出来ましょう。
      縁起を知れば、
      訪れる方の信仰も、
      より深まりまする。」

    「ふき、それは良いの。
     小次郎殿とニの姫の
     縁を結ばれた神じゃ。
     詣でれば良縁を得ると聞けば、
     参拝の方も増すであろう。
     さすれば、小垣は今より
     栄えるやも知れぬ。」

    三の姫は、ふきの手を取り、
    目を輝かせた。

     「お励みあれ。」

    ふきは、三の姫の晴れやかな顔を見て
    微笑んだ。

    ふきは思う。
    己の出自を振り返れば、
    このお屋敷暮らしに不平など、
    思いもよらぬ事。
    なれど、この屋敷で生まれ育った
    三の姫には、満足の行かぬ
    ものらしい。
    ふきは、早速、硯に向かう三の姫を、
    いつまでも見つめていた。

    ・・・・・・・・・・

    それから、二年程が過ぎた。

    三の姫が書き上げ、神社に奉納した
    物語は、次第に評判となり、
    求める人も多くなった。
    今では、社務所の横に仮小屋が建ち、
    参拝者はそこで物語を写していく。
    その噂は、黒羽城の
    奥方の耳にも届いた。

    「その鈴鳴の縁起物語とは、
     如何様な物かの?」

     「大層、趣があるとか。
      禰宜殿に頼み、
      届けさせましょうか?」

      「誰ぞ使いに出し、
       写させては?」

     「それなれば、まずは、私が。」

        「いえ。私が。」

       「いえいえ、私におまかせを」

    奥女中たちは、我も我もと
    名乗りを上げる。

    「まあ。今まで、役目の取り合い
     など無い事であったのに。」

    奥方は、呆れながらも、
    声を立てて笑うのだった。

    奥女中が交代で書き写して来た
    物語は、三部に分かれていた。

    「祠」、「鳶」、「縁」

    季節の移ろいも美しく、
    登場する人々も、生き生きと、
    まるで、その場にいる様に
    描かれている。

    読み終えた黒羽城の奥方は、
    その余韻に浸りながら、呟いた。

    「この見事な物語を記されたのは、
     如何なる方であろう。」

    すかさず、
    まだうら若い奥女中の一人が答える。

       「鐘ヶ江殿の三の姫様と
        伺っておりまする。」

    「ほう。鐘ヶ江殿の。
     一度、会うて見たいものじゃ。」

      「なれば、歌会に召されては?」

    「それは、良いの。
     鈴鳴の青紅葉も美しい頃じゃ。
     皆も参りたいであろう?」

    奥方の言葉に、写本に行けなかった
    若い奥女中たちが、色めき立つ。

     「神社にて歌会を?
      ならば、早う、禰宜殿に
      お伝えせねば。
      梅雨の長雨の前にとな。」

    その歌会の知らせは、
    間もなく鐘ヶ江家にも届いた。

    「三の姫、喜びなされ。
     黒羽城の奥方様から、
     歌会へのお召しじゃ。
     くれぐれも、そそうの無き様に。」

     「まあ、私が?
      我が家の歌の名手は、一の姫。
      お人違いでは?」

    「奥方様はの、鈴鳴縁起を
     お読みになり、お前に会うて
     みたいと仰せなのじゃ。」

     「それは、有り難き幸せ。
      なれど、鈴鳴の縁起を綴る様、
      勧めてくれたのは、ふきにて。
      ふきも共にとお願いできぬ
      ものでしょうか?」

    「ふきも?
     三の姫、あの者の歌は、
     お前も良う存じておろう?
     大恥をかく事になりまするぞ。」

     「なれど、母上。
      ふきを奥に上げるにも、
      奥方様とのお目通りは叶うた方が
      宜しいのでは?」 

    「左様ではあるが、歌会では・・・」

     「今なれば、お題は新緑かと。
      先に、一の姫に御手本を
      詠んで頂き、それをふきに
      覚えさせては?」

    久政の妻は、考えあぐねていたが、
    しぶしぶ、三の姫の申し出を
    承知したのだった。

          ・・・・・・・

    慌ただしくも浮き立つ様な日々の後、
    鈴鳴神社は、歌会当日を迎えた。

    それは、今までにない趣向を凝らした
    ものであった。

    招かれた人々は、順に、見晴らし台に
    案内される。
    その見晴らし台は、
    黒羽城主が寄贈した建物で、
    裏山の斜面に立てられた唐風の
    東屋だった。

    鮮やかな朱塗りの手摺りを辿り、
    階段を上がりきると、
    晴れやかな景色が広がる。

    右手の山肌には、
    岩の間を落ちる小さな滝が涼やかな
    音を立てていた。
    その流れは、幾重にも折れ曲がり、
    せせらぎへと姿を変える。
    そのせせらぎを覆う様に、
    青紅葉が枝を伸ばしていた。

    振り向けば、国境の山々と、
    その麓に広がる草原と村々が、
    一望のもとに見渡せる。
    手前の山の上には、小垣城。
    遠目にも羽木の旗印が見て取れた。

    義母と三の姫と共に、その東屋に
    上ったふきは、真っ先に、自分の
    生まれ育った松ヶ枝村を見つけ、
    歓声を上げた。

     ‘’いつもの母上なれば、
      はしたないと、
      ふきを咎めるはずなのに。“ 

    三の姫は、訝しげに母を見る。
    その母の眼は、
    小垣城に向けられたまま、
    全く動かない。

     「お席も整いました頃にて。」

    案内の奥女中にうながされ、
    階段を下り始めた三の姫は、
    母の小さなつぶやきを耳にした。

    「小垣城の楓も繁っておろうか。」

    ・・・・・・・

    歌会には、主だった家臣の奥方と
    その娘たちが招かれた。
    ただし、筆頭家老の天野家は、
    当主の妻が亡くなり、
    後添えも迎えていないので、
    特別に隠居の信茂と、
    他家に嫁いだ長女が参上した。
    また、次席家老の千原家からは、
    当主の親族である、
    若君付き小姓・源三郎の母が
    参会していた。

    皆が揃った所へ、
    あでやかな打掛を纏った
    羽木の奥方が、上段の座に着いた。

    宮家縁の家柄からか、流石に
    その立ち居振る舞いの優雅さは、
    際立っている。

    天野信茂が一同を代表して、
    招待の礼を述べた。

    奥方は、柔らかな声で、信茂に
    ねぎらいの言葉をかける。

    「この歌会は、
     表立った儀式では無い。
     この爽やかな一日を存分に味わい、
     歌に詠み、心遊ばせて
     過ごされよ。」

    奥女中が、硯箱と短冊を、運び込む。
    先に観賞した見晴らし台からの風景が
    この歌会のお題であった。
    墨を擦る音が聞こえ始め、
    広間は静かな熱気に
    満たされていった。

    やがて、それぞれの短冊が集められ、
    奥方の前に置かれた。
    奥方は、それを別室に控えている文人
    の元に運ばせる。

    その間、参会者には茶菓が供され、
    皆、くつろいだひと時を過ごした。
    口々に、自作の出来栄えを語り合い、
    文人の評価を推し量る。

    やがて、選ばれた歌の短冊が、
    盆に乗せられて運ばれて来た。

    まずは、十首が、作者本人の前に
    置かれ、自身の声で順に披露された。
    詠じる声には、おのずと誇らしさが
    溢れる。
    歌の余韻の後には、参会者の賞賛の
    声が上がる。

    他、三首が選ばれ、それは、
    選者の文人より、詠じられ、
    講評も加えられる。
    それは、詠み手にとって、
    大変、栄誉な事であった。
    特選ではないかと噂されていた、
    天野と千原の作品は、
    この中にあった。

    最後に、特選が披露された。

      「本日の特選は、
       初参の方の作にて。」

    奥女中の声に、場内がざわめく。

      「鐘ヶ江久政殿の三女、花梨殿
       これへ。」

    名を呼ばれ、三の姫は驚きのあまり、
    その場に固まってしまった。

    石のように動かない娘を、
    母親が促す。

       「早う、奥方様の前へ。」

    声も出せない娘を、ふきと共に
    両脇から支え、奥方の前に座らせる。

    平伏する三名に、微笑みを浮かべ、
    奥方が声をかける。

    「面を上げられよ。」

    次に、特選の歌を、文人が朗々と
    二度繰り返し吟じた。

    「まこと、瑞々しき歌じゃ。」

    奥方にお褒め頂き、
    三の姫は、か細い声で、
    御礼の言葉を絞り出す。
    その横で、褒美の品を受け取った
    ふきが、義母と姉の退出より遅れて
    立ち上がった。
    すると、その時、ふきの袖口から、
    ひらりと一枚、紙切れが落ちた。

     「これは・・・。」

    拾い上げた若い奥女中が、
    思わず吹き出す。

    「何事?」

     「遊び歌にございましょう。」

    「これへ。」

    ふきは、慌てて、捧げ持っていた
    褒美の品を義母に押し付けると、
    平伏した。

    「お許しを。お目汚しにて・・・」

    ふきの言葉に、奥方の笑い声が被る。

    居並ぶ一同も、
    楽し気な奥方の様子に、
    訳も分からぬまま、笑い出した。

        ・・・・・・

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    またまた、お邪魔します~

    氷が解けて行くように、少しずつ
    アシラバにとっては嬉しい事が
    続いていますね。
    これから、新作を投稿させて
    頂きます~。

    ぷくぷく様
    書式は、誰かの物という訳では無い
    ですから、自由にお書き下さいね。
    大人になって行く宗熊君、
    読み手も嬉しくなる物語でした。
    ありがとうございます。

    夕月かかりて様
    ますます、楽し気な夏のバカンス。
    仲良し速川家、
    楽しませて頂いてます。

    では、投稿作業にうつりまする。

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    返信
    二人の令和Days9~21日14時30分、そっと見てました

    あい変わらずな親子です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    本屋を出て、急いで歩き出す尊。

    尊 心の声(あそこの角を曲がれば、水着売場はすぐだな)

    角を曲がった所で、思わずバックした。

    尊 心(わ、おっと!え、誰と居る?僕出てっていいのかな?様子を見るか)

    唯達三人に遭遇。少し離れた所から覗く事に。

    美香子「ふむー」

    尊「わっ!お母さん!いつから後ろに居たの?」

    美「尊こそ、いつから覗いてんのよ」

    尊「ハイタッチから」

    美「私もそこから。あの子達、というか唯だけど、相当プラプラしながらゆっくりと売場に向かってたのね」

    尊「若君固まってるよね。大丈夫かな」

    美「どっちの言葉をしゃべればいいか、わかんなくなってるんじゃない?」

    尊「あ、そっか。目上の人には現代語、僕やお姉ちゃんは戦国言葉でいいけど、現代語の方が無難そうな同年代、って今まで経験ないもんね」

    美「唯がほったらかしにしてるのは気になるけど。なんか思考停止してる感じで口も開いちゃってるしね。若君の瞳って、黒目がちじゃない。まるで…」

    尊「埴輪みたいになっちゃってる?」

    美「はに丸王子みたいになっちゃってる」

    尊「またわかんない事言うー。なんかのキャラ?」

    美「ただの埴輪よりはかわいいわよ。お供の馬もいるの。若君と一緒でしょ。はい、わからなければ検索!」

    尊「後で見るよ。お母さんってさあ」

    美「何」

    尊「ただ勉強して頭イイだけの人じゃなくて、ちゃんとそういうテレビや漫画とか?も押さえてるからすごい」

    美「お勉強が出来れば医者にはなれるけど、それでは人としてはペランペランだもの。視野が広いのは大事よ」

    尊「なるほど。そんな美香子先生が人気で、我が速川クリニックは安泰だと。僕もそういうの必要なのかな…あれ、お姉ちゃん達どうなった?」

    唯と吉田がしゃべりまくる隣で、黙って若君が聞いている構図のまま。

    美「そろそろ助けに行こっか」

    尊「え、行くの?」

    美「だってあの男の子、ウチの患者さんだもの」

    尊「知ってるんだ」

    美香子と尊、歩き出す。

    吉田「お前がしゃべり過ぎるから、旦那さんがしゃべる隙がないんだろ?」

    唯「違うよ~」

    吉「…あっ、美香子先生!こんにちはー」

    美「こんにちは、吉田くん。最近お腹の調子はどう?」

    吉「はい、最近は大丈夫です。先生に、病は気からと言われてからは」

    唯「そういえばコイツ、潔癖症で人の握ったおにぎり食べられないんだったー」

    美「あらそんな事があったの。でも今は大丈夫ね。ハイタッチしてる位だから」

    唯「そんな前から見てたの?」

    若君 心の声(長い間見ておったと?…母上、早く止めていただきたかった)

    吉「先生も来てたんだ。あっ、弟くん?あの超エリート高に通ってるっていう」

    尊「こんにちは」

    美「唯達が里帰りしてくれたから、家族みんなでお出かけしてるのよ」

    吉「へー。じゃあ僕は、お邪魔なんでそろそろ消えます。今日は先生に会えて、嬉しかったです」

    唯「ちょっとー、そこは私じゃないの?」

    吉「お医者さんは、普通は病んでる時だけ会う人だろ。今日は元気な時に会えたからさ」

    若君「なるほど」

    尊「さすが人気の先生だ」

    美「ふふふ、ありがとう吉田くん」

    吉「では、失礼します!」

    美「さよなら~」

    唯「バイバーイ」

    ひとまず、小さな嵐が去りました。

    尊「へー、これがはに丸王子」

    美「見つかった?ひんべえも居るでしょ」

    尊「この馬?ふーん」

    唯「なに検索してんの」

    尊「ん?まあいいから」

    美「若君」

    若「はい、母上」

    美「あの子、ただの友達だからね」

    若「そう…ですか?随分親しげでしたが」

    美「唯は小さい頃から、男友達が多い子だったから」

    若「なぜそれを、わしに申されるのですか?」

    美「すごく嫉妬してたように見えたから」

    若「…」

    唯「え!たーくんが嫉妬!なんで?」

    美「唯が吉田くんと楽しそうにしてたからでしょ」

    唯「えー?たーくん以外は目もくれないし」

    若「まことか?」

    唯「うん。ごめんねー、久々だったからいっぱいしゃべっちゃった」

    美「じゃ、そろそろ行きましょ」

    唯が、若君と手をつなごうと左手を出した。すると、

    若「こちらじゃ」

    逆側に回り、唯の右手を取った。

    美「ふふっ、かわいいわね若君」

    尊「あー、右手はわしのモノだと?」

    若「然り」

    唯「えー、しばらくこのネタ引っ張られそうー」

    いよいよ、水着売場へ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    心配しなくても、全部若君のモノでしょ。

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    二人の令和Days8~21日日曜14時、静かにパニック

    まさかの伏兵、登場。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    母の運転で、ショッピングモールに到着。

    美香子「車停めてくるから、先に行ってて」

    唯&若君&尊「はーい」

    三人、入口手前で車から降りた。

    尊「お姉ちゃん、ちょっと本屋寄りたいから」

    唯「了解、先に行ってる~」

    唯と若君の二人で、水着売場へ向かい始めた。

    唯「久しぶりだね~ショッピングモール」

    若「相変わらず、床が柔らかい」

    唯「またそれ~?そろそろ違う覚え方にしようよ~」

    二人が歩いていると、通路の向こう側から、こちらをいぶかしげに見ながら若い男性が近づいてくる。

    男「あれ?速川?」

    唯「あれ?あー!」

    唯、若君とつないだ手を離して、急に駆け出した。

    若「唯?え?」

    取り残される若君。

    唯「吉田~!」

    吉田「やっぱ速川かー!」

    唯と吉田、お互い右手を挙げた。

    唯「うぇーい」

    吉「うぇーい」

    パシッとハイタッチ。

    若君 心の声(なっ、なんと!)

    唯「久しぶりー元気?今日は買い物?」

    吉「久しぶり。お前は間違いなく元気だな。ちょっと本屋に行ってた」

    唯「優等生ってみんな本屋に行くなぁ」

    吉「誰でも行くだろ。あれ?お前確か、デキたから学校辞めたんじゃなかったっけ?デキ婚って聞いた気が」

    唯「デキ婚…はぁ。デキて欲しいのにぃ」

    一気にトーンダウンし、顔が曇る。

    吉「え、俺なんか地雷踏んだ?あっ…デキてたけどダメだったとか?ごめん速川、事情がわからなくて」

    唯「いーよ。元々デキてないから。それガセネタだよ」

    吉「そう?デリケートな話だからさ、傷つけたら悪かったなって」

    唯「ありがと。結婚したのはホントだけど」

    吉「ソコはマジなんだ、天変地異~。あれが旦那さん?置いてきてどうすんだよ」

    若 心(唯…一体、何者と話しておるのじゃ)

    若君、ようやく近くまで来た。

    吉「何が起こると、こんなすんげぇイケメンとお前がくっつくんだ?」

    唯「私の魅力で」

    吉「自信満々に言ってんなー。俺にはわかんねー。…あ、こんにちは!高校で速川のクラスメートだった、吉田と言います」

    若「こんにち、は…」

    唯「マイダーリンのたーくんだよ」

    吉「こいつの、ドコがいいんすか?」

    若「え」

    唯「もー!変な事聞かないで!」

    若 心(この男、随分と親しく話しておる。クラスメート、がわからぬが、学校に関わる人物か?しかもあの、手を叩き合う仕草は何じゃ?かなり心通じておるような…)

    若君、考えを巡らせ過ぎて、うつろな表情になっている。

    吉「足が速いのが好みとか?」

    唯「止めてよー。それは褒められたけど、馬には負けちゃうし」

    吉「なんでそこで馬なんだよ。お前は飛脚か?それか足軽?」

    唯「え!なんでわかった?さすが優等生!」

    吉「何だよソレ。話がとっ散らかって、訳わかんねーよ。ねぇ、旦那さん」

    若「え?あぁ…」

    若 心(現代語を話さねばならぬようだが、とても使いこなせそうにない。ここは黙って、頷くより他ない)

    吉「なんか、寡黙でカッコいいな。歳は幾つ違い?」

    唯「え!えっと…二つくらい?」

    吉「また訳わかんねぇ事言う。あー、誕生日の関係?」

    唯「そ、そう」

    吉「すげぇ大人っぽい。わかった!いつもお前がしゃべり過ぎるから、旦那さんがしゃべる隙がないんだろ?」

    唯「違うよ~」

    若 心(話はいつまで続くのか。唯、そなたの楽しげな顔、これ以上見ておるのは…)

    その時、尊と美香子がこちらに向かって来るのが見えた。

    若 心(おぉ、助かった!)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、この場面を別の角度からお送りします。

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    二人の令和Days7~20日16時、目白押しです

    もしや、水に入るのにトラウマあり?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    実験室に三人。

    唯「ねぇ、花火の後に調べたい物がある」

    尊「あー、そう。まずは花火…えっと、家で今度やろうとしてるのは、こんな感じです」

    線香花火などの画像や動画を観る若君。

    若君「ほぅ、まさしく火の花じゃな。美しいのう」

    尊「で、こちらが打ち上げ花火です。これは家では無理なんで、やってる所に見に行ったりするんですけど」

    動画が、夜空を彩る、迫力の大輪の花火に。

    若「なんと!闇に花が咲いておる!しかも咲いては消え、また違う花が咲き」

    唯「たーくんは言い方がいつもキレイ」

    尊「少しは見習ったら?」

    唯「身に付くモノなら、とっくに身に付いておるのじゃ」

    尊「ソッコー諦めたと」

    唯「似合わないコトはしない」

    尊「似合うよう努力しなよ」

    唯「いーのー。たーくん、打ち上げ花火キレイでしょ。あーどっかで、生で観らんないかな~」

    尊「花火大会ね、探すよ…あ、8日にあるよ」

    唯「他には?」

    尊「お姉ちゃん達が帰る日の辺りが多くて」

    唯「お盆だもんね。わかった、ありがと」

    尊「どうする?」

    唯「木曜だもんね…お父さんに相談してみる」

    若「空一面に、咲くのが観られると?」

    唯「観たいよね。ちょっと返事待っててね」

    尊「で、何調べるの?」

    唯「そうそう、水着を見たくて。ビキニがいいな~。明日買いに行く前に予習する」

    尊「ふーん」

    唯「なによ」

    尊「いかにして、若君を悩殺するか?いやーそりゃ無理でしょ」

    唯「失礼なっ。そりゃボンキュッボンではないけどっ」

    若「ボン…」

    唯「あ、なんでもないから」

    尊「若君は、そのままのお姉ちゃんが好きなんだから、水着なんか何でもいいんじゃないの」

    唯「んーそっか。って違う!しかもなんで尊に言われる?」

    若「尊。水着とは、なんじゃ?」

    尊「あ、理解がそんな前で止まってたんだ。ごめんなさい若君。えーと、泳ぐ時に着る物です。水着のカタログはと」

    画像が出た。ビキニの女性やマネキンが、ポーズをとっている。

    若「なっ!こ、これは…」

    尊「やっぱり刺激が強いよね」

    若「覆う所が少な過ぎはしないか?」

    唯「そーかなー」

    尊「若君もそう言ってるし、もうスクール水着にしといたら」

    唯「やだっ、かわいいのが着たいっ!」

    尊「で、悩殺したいからビキニ?」

    唯「着てみたいんだよぅ」

    尊「若君、ちょっと刺激は強いかもしれませんが、これが海やプールに行くと映えるんですよ」

    若「こういう物なのか。先の世はわからぬ。唯、あまり際どい物は着てはならぬぞ。所で、プールとは何じゃ?」

    尊「あ、この写真の後ろに写ってる場所です。泳いだり、水遊びをしたりするために、水を溜めてあります。水がキレイな池や沼?ちょっと違うか」

    若「沼…底なしではないか?」

    尊「いや、それはかえって作るのが難しいです。なんか嫌な思い出でもあるんですか?」

    唯が投げ捨ててしまった、タイムマシンの起動スイッチを拾いに、沼に入った事を思い出す若君。

    若「いや、何程でもない」

    尊「足、着きますから」

    唯「そんな話してると、プール行きたくなる~」

    尊「行く?」

    唯「まさかあんたの口から出るなんて」

    尊「いきなり海よりは、若君も良くない?」

    唯「確かに。いつにする?」

    カレンダーを確認。

    尊「いつでも行けると言えば行けるけど。あ、来週土曜はお祭りだから。地元の」

    唯「あー、あのお神輿出るヤツ?」

    尊「うん」

    唯「じゃあ、来週のどっかの平日かなー」

    若「盛り沢山じゃな」

    尊「なんかさ」

    唯「なに?」

    尊「楽しい予定で、カレンダーが埋まってくって、いい」

    唯「夏休み終わった時にさ、あんただけ真っ黒に日焼けしててさ、周りが何してた?!って思うんじゃない?」

    尊「それさえも僕は後悔しない」

    唯「カッコいい事言ってると思いきや、遊びに真剣なだけだし」

    若「約束したからの。後に励むと」

    尊「うん、今は満喫する」

    唯「若君との夏、をでしょ」

    尊「お姉ちゃんも入ってるから、ちゃんと」

    唯「ちゃんと入ってて、良かったよ」

    全員「ハハハ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    おでかけの予定、続々。

    20日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days6~20日土曜14時、食欲旺盛です

    人の倍はいかがなものか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    尊の夏休みスタート。美香子の仕事終わりに合わせ、五人全員で、遅めの昼ごはん。

    覚「思ったんだけどな」

    美香子「何を?」

    覚「ご招待の日だが」

    唯「わぁ、なになに?」

    覚「庭でバーベキューやろうか?夏だし」

    唯&尊「やったー!」

    尊「えー、いつぶりだろ?」

    美「バーベキューコンロ、錆びたりしてないかしら?」

    覚「あーどうかな」

    若君「なにやら楽しそうじゃ」

    尊「えーと、説明しますと、庭で火をおこして、肉や野菜を焼いたりして食べるんです」

    若「わざわざ、外で?」

    尊「確かに」

    唯「そこで話終わんないでよ」

    若「野外で食するとは…戦の折はそうじゃが」

    覚「そうか。若君にとっては、何をわざわざ不便な事を、ってなるよな」

    唯「気が乗らない?」

    若「いや、皆がそこまで喜ぶゆえ、その不便が楽しいのであろうの」

    唯「正解!」

    覚「じゃあ、今から点検するか」

    一式、ウッドデッキに並べた。

    若「この、袋に入った長い物は、何ですか?」

    覚「あぁ、タープだね。出してみようか」

    金属製の骨組が畳まれている。広げた上にシートを被せ、ポールを立てる。屋根が出来た。

    覚「日差しや雨よけだね。これは簡単に設営できて楽なんだ」

    若「これは…良いですね」

    唯「たーくん、戦に持って行きたいって思ったんでしょ?」

    若「思うた」

    覚「雨を制する者は戦を制するか」

    尊「そんな格言あったっけ」

    覚「中々いいだろ?」

    美「自画自賛ね。でも、夜だからよっぽど使わないんじゃない?」

    唯「えー使おうよ」

    美「雨天決行って事?」

    唯「じゃなくて、昼にもやろうよ。予行練習で」

    覚「あー、悪くないな。ご招待しておいて、お粗末な物お出ししても何だしな」

    尊「いつにする?」

    覚「やるなら日曜しかないから…明日は買い物だろ?来週だな。ご招待日の直前にはなるが」

    唯「わーい!食べるぞぉ~」

    覚「何だ?向こうでは、あまり食べられなかったのか?」

    若「父上、そんな事はありません。いつもの如く、人より多く食しておりました」

    唯「たーくん、そこは黙ってて~」

    若「まことの話じゃ」

    美「どうせ、ばんばん産むからとか言って人の倍食べてたんでしょ。現代よりカロリー少ないお食事だろうから、いいようなものの」

    尊「来月、ぶっくぶくに太って帰るんじゃない?」

    唯「そんな事ないもん!」

    覚「百年の恋も冷めるぞ」

    唯「ひー!」

    若「家の手伝いなどして、体を動かせば済む話じゃ」

    美「それいいわね~、一石二鳥」

    唯「太った私は嫌?たーくん」

    尊「そこ、論点違うし」

    若「容姿は何も申さぬが、働かざる者食うべからずじゃからの。わしも励みますゆえ、以後、何なりと申し付けくだされ。父上、母上」

    覚「わかった。三人ともな」

    唯&尊「はぁい」

    美「若君に先頭に立ってもらえると、色々スムーズだわ~」

    若「お役に立てて、嬉しいです」

    覚「ひとまず、点検の続きー」

    全員「はーい」

    点検、終了。

    覚「何とか全部いけそうだ。燃料は買わないとな。月曜にでも行くか」

    唯「行く行くー!」

    覚「ホームセンターだぞ?いやに乗り気だな」

    唯「夜、みんなで花火やりたーい!いいでしょ?いっぱい買おうよ」

    美「なるほどね」

    尊「わー、いいね!」

    若「花火?」

    尊「あ、説明…よりも、今から映像見ますか?実験室で」

    若「よろしく頼みたいが。父上、もう手伝いはありませぬか?」

    覚「大丈夫だよ。ありがとな」

    唯「じゃあ、実験室へGO~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    初めて平成に一人で来た時は、ほとんど寝込んでたもんね。

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    二人の令和Days5~19日金曜7時30分、ほんのり甘く

    城下にもよく売りに来てましたね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    玄関。

    尊「では一学期最終日、行ってきます!お昼には帰りますね」

    若君「行ってらっしゃい、尊」

    若君がリビングに戻ると、唯が麦茶をガブ飲みしている。

    若「腹を壊すぞ」

    唯「現代の夏って、こんなに暑かったかなー」

    若「確かに朝稽古の時分から日差しは強いが。唯は、一歩も外に出ておらぬではないか」

    覚「若君、もっと言ってやってくれ。ダラダラされるだけではたまらん」

    若君が呆れていると、風呂敷を抱えて美香子が現れた。

    美香子「お父さん、31日になったわ」

    覚「おー、そうか。良かった」

    カレンダーに予定を書き込む。

    唯「なに?31日って」

    覚「また、芳江さんとエリさんを、晩ごはんにご招待しようと思ってな」

    唯「わぁ!そうなんだ~」

    美「今回土曜は、旅行も行くし、お二人の都合がつかなかったから、水曜なんだけど」

    若「それは楽しみじゃ」

    唯「この包みなに?」

    美「あー、これね。芳江さんにいただいたの」

    風呂敷をほどくと、二人が見覚えのある、黄色い果実がゴロゴロっと出てきた。

    唯「あーっ!瓜!」

    若「おぉ、この先の世にもあるのじゃな」

    覚「マクワウリだな」

    唯「マクワウリ、って名前なの?」

    美「おうちで、おじいさんが育ててみえるらしくて。今年はいっぱい採れたからって、くださったの」

    覚「向こうで、食べたのか?」

    唯「うん、おふくろさまが切ってくれた。すっごく甘かったよ」

    覚「これ自体は甘さは控えめだが、戦国時代なら、かなり甘く感じるだろうな。早速冷やして、昼にいただこう」

    唯「わー、楽しみっ」

    バケツに水を張り、凍った保冷剤とマクワウリを沈めた。じっと見つめる唯。

    若「吉乃殿が、とならば、まだ梅谷村に居た頃か?」

    唯「うん。まだ全然、たーくんに会えてなかった頃」

    若「声は、幾度も聞いた気がするがの」

    唯「あはは、わりと叫んでたからね」

    若「唯とわかっておれば、馳せ参じたが」

    唯「ホントに~?その頃は、おなごと心通じ合わなくて良かったんじゃなかったぁ?」

    若「うっ、それは」

    唯「ははは。あーあの頃は、超働いたな~」

    覚「今も、働いてもらっていいんだぞ」

    唯「えー」

    若「父上、ならば今から、庭の草取りをいたします。唯と」

    覚「あー、それは助かる。よろしく頼むね」

    唯「げっ!」

    若「ほれ、行くぞ」

    唯「はぁい」

    一仕事、終了。

    覚「あー、綺麗になった。ありがとう、若君、唯」

    若「いえ、朝稽古でよく、草に足を取られておりましたので」

    唯「自分のためかーい」

    覚「よくぞ気付いてくれたと言え。はい、お疲れ様。麦茶どうぞ」

    唯「わーい、あーおいしい」

    若「このようにいただくのが本来じゃ」

    唯「えへ、失礼いたしましたぁ」

    家族全員で昼ごはん。マクワウリも切りました。

    尊「へー、450年前もこれ食べたの?」

    唯「いただきまーす!あ~懐かしいっ。確かに、今食べるとそこまで甘くないけど、おいしい!」

    覚「若君、変わらない?」

    若「はい、同じです」

    美「変わらないってのも、ある意味すごいわよね」

    覚「そんな物もあっていいだろ」

    唯「ねえねえ、31日は何作るか決めた?」

    覚「まだだ。考えておく」

    尊「イベント、もっと増えるといいなぁ」

    唯「受験生のセリフじゃないし」

    尊「三倍頑張るから」

    唯「はいはい」

    全員「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    イベントは、まだまだ増える予定。

    19日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days4~18日20時、時間無制限です

    確かにそう言ってました。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    まだ晩ごはん中。

    覚「で、これは提案なんだが。若君に」

    若君「わし、にですか?」

    覚「海、見るだけじゃなくて、泳いでみないか?」

    若「泳ぐ…」

    唯「海水浴?!行く行くー!」

    覚「今度行く所、近くに海水浴場があるんだけど、砂浜が白くて綺麗でね。ぜひ楽しんでもらいたくてさ。良ければ当日は、早朝にここを出発する」

    尊「え、土曜でしょ、お母さんは?」

    美香子「仕事終わってから、車で宿に直接向かうわ」

    唯「いいの?お母さんだけ一人だよ?」

    美「いいわよ~この歳で海なんて、日焼けが心配だし。そこ、ホントに綺麗なのよ。昔はよくお父さんと行ったの」

    若「思い出の場所なのですね。では、是非朝からお願い致します」

    覚「よし、じゃあ楽しみにしてて」

    唯「水着買わなくちゃ!」

    美「そうね。じゃあ日曜に買いに行きましょ。四人で」

    尊「四人…」

    美「尊、入ってるわよ」

    尊「海水浴かー、こんな事でもないと絶対行かない」

    美「でしょ。良かったわね、夏の思い出が増えるわよ」

    尊「うん!」

    覚「だな。ところで、若君お待たせ。話ってなんだい?」

    若「あっ、ありがとうございます」

    若君が箸を置く。

    若「前に二人でこの先の世に参った折、寝所は別でした。その所以は、唯がまだ高校生だから、という事でした」

    覚「うん、そうだったね」

    若「もう高校生ではありません。去る時に辞めはしましたが、今は既に卒業した歳に相当と、唯に聞きました」

    覚「はい」

    若「寝所を、唯と同じ部屋にしていただけぬでしょうか」

    若君が頭を下げる。

    覚「わかった。今日から唯の部屋で。面会時間の制限もなしにする」

    唯「わー、嬉しい!良かったね、たーくん!」

    若「誠に忝のう存じます」

    ずっと頭を下げている。

    美「若君、実はそれ、こちらからお願いしようかと思ってたの」

    若「え、そうなのですか?」

    驚いて顔を上げた。

    美「遊ぶ気満々だけど、尊は一応受験生だから。夜部屋で勉強する時に、いつまでも電気付けたりしてると、若君も居心地が悪いかなって思ってね」

    若「そうですか。わしも、尊の邪魔はしとうありません」

    尊「時間制限ないって事はさ、例えば若君が夜12時まで僕と一緒に居て、それから寝に行ってもいいわけだよね」

    唯「なんでそうなる」

    尊「亥の初刻のシンデレラじゃなくなると、前半一緒か後半一緒か、配分が変わるだけじゃん」

    唯「そんな事ない。夜一緒は大きい。じゃあ毎日、晩ごはん食べ終わったらすぐ部屋に行って、朝までたーくんとずっと一緒に居よっと」

    尊「なんでそうなる」

    美「うふふ、なんか、若君の取り合いになる様相ね」

    覚「人気者だ」

    若「痛み入ります」

    9時。ゆうべ尊の部屋に敷いた若君の布団一式を、唯の部屋に移動。

    若「尊、済まなかったの」

    尊「いーえー。僕このままお風呂行ってくるよ」

    唯「ありがとね」

    唯のベッドに沿わせて布団を敷いた。

    唯「うー、嬉しいっ!もぉこっちの布団でばっかり寝ちゃうかも」

    若「で、わしが唯のベッドで寝るとな」

    唯「あー、そんな意地悪言う?」

    若「ハハハ」

    若君が何か考え込んでいる。

    唯 心の声(目の前に布団。今二階には二人だけ…キャー!ちょっと待って、い、いま腹を)

    若「…尊とは、歳は一つ違いであったな」

    唯「は?!あ、うん、そうだよ。急になに」

    若「となれば、昨年此処に居た折、唯は、受験生ではなかったのか?」

    唯「え!えーと、受験って、それを目指してるから受験生なんで、私は勉強もしてなかったから…」

    若「違うたか」

    唯「受験は全然考えてなかったよ。どうしてそう思ったの?」

    若「唯の夢ややりたい事の、芽を摘んだかと思うての。尊は、発明家になる為、今受験生だと聞いたゆえ」

    唯「私の夢ややりたい事は、叶ってるよ」

    若「そうなのか?」

    唯「やりたい事は、たーくんを守る事。今回は、急に令和に連れて来ちゃってごめんなさいだけど。夢は、たーくんのお嫁さんになる事」

    若「そうか。ならば良いが」

    唯「うふふ」

    若「喉が乾いたの。下に行くか?」

    唯「あっ、はい」

    若「どうした?」

    唯「ううんなんにも。行こっ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    残念でした。なのか?

    18日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days3~18日12時、兄の激励

    きっと約束は守られる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    昼ごはんの時間です。

    覚「お疲れ~」

    美香子「ありがとね。あ~、いいわね、四人って」

    全員「いただきます」

    若君は、今朝唯に頼まれた話をいつ切り出そうか、機会を伺っていた。

    美「あら?若君どうかした?」

    若君「いえ、お気遣いなく」

    美「…そうだ、ゆうべ検査がどうとか言ってた話だけどね」

    唯「あ、そうそう!」

    美「まだ出来ない、なんて嘆かなくていいから」

    唯「ホントに?!私の体がどうかしてるんじゃなくって?」

    美「ないない。2年3年経ってるならだけど。あんまり焦るのは、迎える気持ちとしても良くないから。ね、若君」

    若「案ずるな、と。ありがとうございます…助かります」

    美「ほらー、唯、若君もあんまり言われて、相当堪えてたみたいよ」

    唯「そっか。ごめんねたーくん」

    覚「若君、さっきから何か言いたそうなんだが、それ、晩飯の時でもいいかい?」

    若「えっ?あっ、はい」

    唯「えー」

    覚「唯の指図か」

    唯「ん?なんのコトかなー」

    覚「旅行の話、今の内に母さんと相談したいから」

    唯「えっ!やったぁ!待つ待つ!」

    覚「やっぱり黒幕はお前か」

    晩ごはん。

    唯「わーい、蓮根のはさみ揚げ!」

    尊「二日連続」

    唯「え?そうなの?」

    美「満月の夜は、はさみ揚げって決めててね」

    唯「そうだったんだ」

    若「済みませぬ、父上」

    覚「いいよ~食べたかっただろ?」

    若「はい!」

    全員「いただきまーす」

    久々の家族団欒です。

    覚「ところで、宿、取れたぞ」

    唯&尊「やったー!」

    唯「ん?なによ尊」

    尊「は?」

    唯「一応、受験生なのに」

    尊「旅行なんか行ってる場合じゃないって?」

    唯「心配してあげてるんだよ」

    覚「五人で行くぞ。尊もそうしたいって言ったし」

    唯「大丈夫なの?」

    尊「僕は、決心したんだ」

    唯「え、改まってなに」

    尊「この夏、多分受験勉強三昧なんだろうな、とは、お姉ちゃん達が帰ってくるまでは思ってた」

    唯「うん」

    尊「でも、まるでプレゼントのように二人が現れて」

    美「プレゼント。そうね」

    尊「このひと月は、お姉ちゃんと若君と、がっつり楽しむ事にした。こんな夏休みと同時期なんて機会ないし、できるだけ一緒に居たいし」

    若「尊、それで良いのか?将来に関わるのではないのか?」

    尊「大丈夫です。二人が帰ったら、倍、頑張りますから」

    若「無理はしないで欲しいが」

    尊「家族五人の時間は貴重だから。後で振り返った時、このひと月を言い訳にはしないと、若君に誓います」

    若「そうか」

    若君が、尊に手を差し出す。尊も慌てて手を出した。食卓の上で、二人はがっちり手を組んだ。

    若「ご武運を祈る」

    尊「わー、これで三倍頑張れる!」

    パチパチパチ。

    尊「え?なんで拍手?」

    唯「なんとなく。ねっねっ、で、いつどこに行くの?」

    覚「来月3日4日で、また海の近くに」

    唯「海!海だって、たーくん!」

    若「同じ場所ですか?」

    覚「いや、前回は太平洋側だったんで、今回は日本海側だよ」

    若「?」

    尊「後で、地図見せますね」

    覚「で、何とか取れた宿だから、温泉はあるけれど、今回は部屋に露天風呂はない。あと、五人一部屋だからな」

    美「イチャイチャできなくてごめんね、若君」

    若「あっ、いえ」

    尊「そこ、お姉ちゃんじゃなくて若君なんだ」

    美「だって、今、唯より明らかにがっかりしてたもの」

    唯「えー、かわいい~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    そろそろ切り出したら?若君。続きます。

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    感想、ありがとうございます!

    てんころりん様
    いつも細かくコメントを下さり、
    感謝してます。
    投稿したものの、意図するところが
    きちんと伝わっているのか、
    書き手はとても気になりますから。
    若君が嘘をついてまで
    平成に唯を帰した、
    その理由の一つを書いてみたくて。
    もちろん、命を助けてくれた
    唯の家族との約束を守る為
    という事で充分かもしれない
    とは思うのですが、
    唯の未来に、自分自身の、
    平和を求める気持ちを重ねる
    シーンをより具体的に書いて
    みたかったんです。
    ”富士山に向かって爆走する唯”
    箱根駅伝の最も風光明媚な3区が
    演じている結奈ちゃんにも、
    良く似合うと思いました。
    ”蝉の声”には、コーチの姿を
    投影しました。

    只今、次回作を書いてます。
    またよろしく
    お願いしますね~(^^♪

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    二人の令和Days2~18日木曜8時、急いで検索!

    家から通える距離で、進学でしょうか。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝。尊は学校に。若君が玄関で見送る。

    尊「もう若君に見送ってもらう事なんてないと思ってたから、ちょっと感動してる」

    若君「そうか。いくらでも見送るぞ」

    尊「いえ、明日終業式だから、今日入れて二回なんだけど」

    若「学校へ行かぬと?」

    尊「夏休みになるんで、基本ずっと家に居ますよ」

    美香子「普通は、高三の夏なんて忙しい筈なんだけどね~」

    母が通りかかった。

    尊「大学は…まあ行ける所に行くし」

    美「まっ、入れない大学は尊にはないしね」

    若「賢いからですね」

    美「発明家の道をひた走るのよね」

    尊「うん」

    若「医者には、ならぬと?」

    美「やりたい事をやって、極めてくれるならそれでいいと思ってるの」

    尊「若君に、起動装置刀、の注文受けてるしね」

    若「わしの所為で?」

    尊「いえいえ、タイムマシン完成した時から、家は継がないと決めてましたから、ご安心を」

    唯がやって来た。

    唯「あれ?なかなかたーくん戻って来ないと思ったら。まだいいの?」

    尊「あ、そろそろ行かなきゃ」

    美「じゃ、行ってらっしゃい」

    唯「行ってらっしゃーい」

    若「行ってらっしゃい、尊」

    尊「わー、嬉しい!」

    半分泣きそうな顔で、尊は出て行った。

    美「さて、私も準備。あ、二人とも、エリさんと芳江さんに、顔見せてあげて」

    唯「わかったー。帰って来たって言った?」

    美「言ってない。サプライズでよろしく~」

    若「心得ました」

    クリニックに入る。中から、少し間を置いて、歓声が上がった。

    覚「おー、盛り上がってるな」

    キッチンで片付けの終わった、覚の耳にも届いた。

    若「お二方共、腰を抜かさんばかりであったのう」

    唯「化けて出た的な?でもすっごく喜んでくれて、良かったね」

    若「そうじゃな」

    二人、リビングに戻り、ソファーに並んで座った。

    唯「ねぇたーくん、あのね」

    若「なんじゃ?」

    唯「あっ…お父さん来ちゃったから、小さい声で話すね」

    覚は、食卓でタブレットを操作し始めた。

    若「…そうか。うむ…」

    唯「ねぇ、たーくんから、これは解せぬ、って言って~」

    若「されど、家長には従わねば」

    唯「だーってぇ、もう高校生じゃないし、ちゃんと結婚式もしたのにぃ。たーくんだって、その方がいいでしょ?」

    若「それは、叶えば喜ばしいが」

    しきりに説得している。

    覚「おーい、何企んでるか知らんが、ちょいちょい聞こえてるぞー」

    唯「なんでもないよぉ~」

    若「唯、ならば昼に、父上母上に話してみる」

    唯「うん、そうして。お願いします」

    唯はソファーから立ち上がり、覚の元へ。

    唯「ところで、お父さんなにやってるの?」

    覚「せっかく二人が帰って来たから、どこか旅行に行こうと思ってな」

    唯「きゃー!嬉しい!どこ、どこ行くの?」

    覚「今からの予約はかなり厳しいからな。取れる日付、取れる所にだ」

    若「父上、手間をかけ済みませぬ」

    唯「あー、取れるといいなあ。でも珍しい、尊じゃなくてお父さんが探してるなんて」

    覚「尊は今学校だから、早くて夕方しか探せないだろ。電話急げって言うからな」

    唯「…それ、もしかして、善は急げ?」

    覚「おっ、唯でもわかったか」

    唯「あ、ディスってる!もー!」

    若「その言葉はそう使うのじゃな」

    覚「ん?若君、ディスるがわかるのか?」

    若「はい。以前、唯の部屋にあった胡乱な書物に載っておりました」

    覚「…若君、あい変わらず凄いな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    あまり年長者を驚かせると、体に悪いよ。

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    まずはめでたい\(^o^)/

    今日投稿するならこの話題に触れないと!祝復活!皆さんに教えていただけたので、早速NHKオンデマンドのお気に入りに再追加しました!鬼リピします(ToT)

    実は8か月

    前回の令和Days1内で、唯が「もう、7か月も経つんだよ?」と言いますが、永禄四年の月計算としては、この日現在8か月経っています。

    管理人様のブログ記事”戦国時代に使われていた旧暦とは”に、ご説明がありますが、この時代の暦には「閏月」という制度が使われており、一年が13か月ある年が、19年に7回のペースで存在しました。
    永禄四年はこの年に当たります。一月差し込まれたのは、3月の後ろでした。よってこの年は、1月―2月―3月―閏3月―4月―5月―6月―7月…と進んでいました。

    今月は3月で来月は閏3月だと聞かされたであろう唯は、相当驚いてさすがに覚えていたでしょうから、間違えて7か月と言う事はない筈です。平成Daysから続けてお読みくださっている皆様に分かりやすくするために、8か月ではなく7か月と表現しました。

    二人が結ばれたのは平成30年12月15日の深夜でこの日が令和元年7月17日だから、7か月後だよねと考えた方がわかりやすいと思いましたので、唯にも若君にも7で話してもらった次第です。

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    妖怪千年おばばさん

    3/14 no.542「9月の蝉 前編」
    4/1 no.555, 4/2 no.558「9月の蝉 後編その1·2」

    今回は若君が吉田城で負傷し、現代で治療した時の物語ですね。
    一度20年くらい遡りますか?
    結婚前の美香子と高2だった陸上部コーチ (演者のお名前から尾関くん)の出会いが(no.542)語られて‥??ほ~ぅ
    そして現在で再会、レストランでコーチと話した帰り、美香子さんは吉田城の石垣に触れて唯を思う‥ (-ω-。
    勘ぐって.ちょっと心配してる覚さん‥?(no.555)
    コーチは箱根駅伝100年記念で女子選手を走らすプロジェクトに、唯を参加させたいのでした!
    ?よく思い付かれましたね!

    正月の箱根を男女混合チームとか、女子チームも走るようになったら嬉しいですねぇ。
    実際は難しさが幾つもあって、全日本大学女子駅伝や富士山女子駅伝が始まったらしいですね。
    でもここはフィクション‼️
    唯が正月の箱根を声援を受けて走る?‍♀️姿が、若君が見たように見えました。
    風を駆ける? 聞こえそう!

    若君が唯を現代に帰した理由に、箱根駅伝は大きかった.と思えるストーリーでした。
    若君は黒羽城を火災から守る算段して、戦国でスプリンクラーを作った。面白かったです(no.558)
    全てのシーンで蝉の声が聞こえる設定はお洒落でした。

    ☆ぷくぷくさん「宗熊の決意 第二章」完結ですね!後日改めます。

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    お詫び

    ~最近の妄想物語の次につながる書き出しの最初の区切りについて~
    妖怪千年おばばさんや夕月かかりてさんの手法を真似てしまいました( ;∀;)
    申し訳ございません(;_;)

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    =宗熊の決意 第二章=⑤

    それぞれの城に戻った。
    ***********
    ナレ:長沢城に戻り、諸橋を部屋に呼んだ。宗鶴は難しい顔をしている。諸橋は話がこじれたのではないかと心臓バクバク状態。急に宗鶴が笑い出したので驚き後ろに倒れて、宗熊の顔を見た。
    諸:「若君?」
    鶴:「何を驚いておる」
    諸:「いえ・・・あの」
    鶴:「此処へ、わしを羽交い絞めにしおった者を連れて参れ」
    ナレ:そう言われても諸橋には誰の事だか分からない。
    熊:「八次郎じゃ」
    ナレ:諸橋はその名を聞き、間者とバレたのではと思った。不安を抱えながら八次郎を呼びに。
    熊:「八次郎を呼ばれ、どうされるおつもりでしょうか?」
    鶴:「何れ分る・・・して、宗熊」
    熊:「はい?」
    鶴:「わしはこの通りまだまだ元気じゃ、お前にはまだ家督は譲らん」
    熊:「はい」
    鶴:「お前はまだ弱い。強うならねばならぬぞ」
    熊:「はい。精進いたします」

    ナレ:八次郎を呼びに行った諸橋は、
    諸:「八次郎、殿がお呼びじゃ」
    八:「お殿様が」
    諸:「殿を羽交い絞めにしおったそうじゃな」
    八:「はい」
    諸:「そうか。だがわしは殿に間者だと知られたのではないかと」
    ナレ:間者だった事には変わりはないが、今は間者として此処に居るのではない。しかし、お咎めを受ける覚悟で宗鶴の前に座った。
    八:「申し訳ございません」
    熊:「父上、命じたのは私にございます」
    ナレ:二人は手を付き謝った。すると宗鶴は八次郎の前に移動して、
    鶴:「あの場にお前ひとりを伴にした事は、宗熊がお前を信じておるからだと・・・これより先もこの頼りのう男を支えてくれまいか」
    八:「えっ・・・はい。わたくしは宗熊様を生涯お守りいたします」
    鶴:「頼もしいのぉ・・・諸橋」
    諸:「はい!」
    鶴:「何じゃその様な大声で」
    諸:「申し訳ございません・・・で?」
    鶴:「この者を羽木との橋渡しの役目をの。何かの折にはわしの言葉を伝えに参る様に・・・八次郎」
    八:「あっ、はっ、はい」
    鶴:「どうした?」
    八:「いえ、承知いたしました」
    鶴:「それにのう、宗熊の事も頼んだぞ」
    八:「この様なわたくしに、有り難き幸せ・・・では、わたくしは」
    ナレ:八次郎は座敷を出て行った。諸橋は間者とバレていない事にホッとした。
    諸:「ですが・・・何故その様な真似を」
    鶴:「わしの決めた事に異論を唱えると申すのか?」
    諸:「いえ、滅相もございません」
    鶴:「羽木に探りを入れておる者に伝えよ。間者としての役目を解くとな」
    諸:「宜しいのでございましょうか?」
    鶴:「良いのじゃ」
    諸:「かしこまりました。直ちに伝えます」
    鶴:「さて、宗熊」
    熊:「はい」
    鶴:「今一人、此処へ連れて参れ」
    熊:「誰ぞの事でありましょうか?」
    鶴:「ははっ、何を惚けておる、お前の心に居る娘の事じゃよ」
    ナレ:その言葉に宗熊よりも先に諸橋が驚きの声をあげたので宗鶴が諸橋の方を見た。
    鶴:「どうしたのじゃ?」
    熊:「父上が申された娘は、実は、諸橋の娘御のゆめ殿にございます」
    鶴:「お主の?」
    諸:「さようにございます・・・申し訳ございません」
    鶴:「何を詫びておるのだ。良いから連れて参れ」
    諸:「はい!ただいま!」
    ナレ:二人も見た事のない速さで諸橋は走って行った。

    諸:「ゆめ、殿がお前を連れて参れと」
    ゆ:「お殿様が・・・分かりました」
    ナレ:二人は連れ立って宗鶴の前に座った。
    鶴:「幼き頃はよう宗熊の相手をしてくれておったのぉ」
    ゆ:「はい」
    鶴:「確かお前は」
    ゆ:「はい。宗熊様より歳は上にございますし、先達てまで嫁いでおりました」
    ナレ:ゆめの言葉を聞きながら宗鶴は腕組して黙っていた。宗熊は反対されるのかなと心配になっていた。すると、ゆめの前に座り直し、
    鶴:「ゆめ」
    ゆ:「はい」
    鶴:「宗熊は弱い男じゃよ、わしに怒鳴られると小さくなりよって、わしに口答えもせぬ、その様に弱い者でも良いのか」
    ナレ:宗熊は何度も弱いと言われ背中を丸めていた。
    鶴:「ほれ、このような姿の者に、着いて参る事は出来ようか?」
    ゆ:「お殿様、お言葉ですが」
    鶴:「ん?」
    ナレ:諸橋は娘が何を言い出すのかハラハラしていた。
    ゆ:「宗熊様はお強いお方です。わたくしは、お殿様がどう申されようとも宗熊様について参りたいと存じます」
    諸:「これっ、ゆめ、殿に向かって無礼な事を申すでない」
    ナレ:諸橋は冷や汗が出た。すると宗鶴が立上り宗熊の耳元で小さく、
    鶴:「ゆめはあの唯に似ておるのかのぉ、ははっ」
    ナレ:宗熊は頷いた。そして宗鶴は上座に座り直し、
    鶴:「諸橋」
    諸:「ヒィ~」
    鶴:「なんじゃ?」
    諸:「いえ、何用にございますか?」
    鶴:「宗熊がゆめに逃げられぬ内に今宵、祝言をの。支度をせい!」
    熊:「では、父上」
    鶴:「ゆめ、断るのであれば今の内じゃよ。あははは!」
    ナレ:宗熊とゆめは顔を見合せ微笑んだ。諸橋は急いで女中に知らせに行った。宗鶴の笑い声が屋敷に響いた。聞こえた者はその笑い声を温かく感じていた。

    ナレ:黒羽城に到着してすぐ忠高は、忠清、成之、木村、信近、信茂、小平太、源三郎。そして、三郎兵衛を己の前に座らせた。
    若:「父上?」
    殿:「三郎兵衛」
    三:「はい」
    殿:「お前の弟に高山と我が羽木との伝達の役目をの」
    三:「えっ?」
    殿:「宗鶴が八次郎に命じると信じておるのでな」
    若:「父上?」
    ナレ:忠高は宗鶴は八次郎にその役目を与えると確信していたが、万が一に違う者に役目を与えたとしても、長沢城に行けば、八次郎と会えるのではと考えていた。
    信:「殿、申されておる事が分かりません」
    ナレ:忠高は宗鶴と話したことを。間者ではなく両家の橋渡しの者をと話したことを伝えると、みんなは驚いていた。
    小:「その様な事を、信じても宜しいのでしょうか?」
    殿:「案ずるな」
    木:「殿のお決めになられた事には異論はございません。ですが」
    殿:「ん・・・木村の申したい事も良う分かる。己の甘い考えであることもの」
    木:「殿」
    殿:「ひと時でも、穏やかに暮らしたいと思うてしまっての。ははは」
    ナレ:忠高は忠清の顔を見た。忠清は以前、忠高に言った事を思い出していた。
    若:「木村、わしも、宗鶴殿を信じても良いと思う。わしも父上と同じ甘い考えをしておるのは良う分かっておる」
    木:「若君」
    じい:「良いではござらぬか。わしはあの親子を信じて見ようと思うておるのじゃよ」
    殿:「信茂」
    成:「先の世の様になればと思うております。私も父上の子にございますから」
    ナレ:木村と信近、小平太は心配しているが、三人が高山宗鶴を信じると言っているので従う事にした。
    殿:「では、三郎兵衛」
    三:「はい」
    殿:「頼みましたぞ」
    三:「恐れ多い事にございます。必ずやご期待に沿えるよう務めます」
    ナレ:この役目につけば八次郎に会う事が出来るからと、三郎兵衛は忠高の思いが分かり感謝した。そして、相賀や織田が攻めてくる気配も無いので足軽達は一先ず忠高、木村、成之、三郎兵衛と共に緑合へ戻る事にして、天野一家と忠清と唯と連絡係として源三郎が残る事に。
    信:「吉乃、そなたも殿と共に緑合への」
    吉:「わたくしも、このままこの場に居ります。女手が無いと唯一人では心もとなく存じます」
    信:「であろうが、三之助、孫次郎の側に」
    吉:「案ずることはございませぬ。わたくしが居らぬとも二人は大事ございませぬ。心を強有持つようにと育てて参りました」
    信:「だが」
    小:「母上がその様に育てておった事はよう分かります。ですが、まだ幼子」
    じい:「そうじゃよ。唯一人でも、わし等が居るのでの」
    吉:皆様のお気持ち有難く存じます。ですが、大事ございませぬゆえ」
    ナレ:吉乃は確かに二人の事を心配はしているが、強い子に育てたという自負がある。実のところ、成之から緑合へ行ってからの様子を聞いていた。だが、その事はみんなには話さないようにと成之に頼んだ。成之は吉乃の気持ちを汲み話さずにいる。
    小:「母上がその様に申されるのであれば、私は戻られよとは申しません。ならば、二人に文を書くのはどうかと」
    信:「そうじゃの、それが良かろう」
    吉:「さようでございますね。そう致しましょう」
    ナレ:二人宛と久宛の文を書き成之に預けた。そして忠高たちは緑合へ。

    ナレ:見送った後、門の前で唯と忠清だけが残り話していた。
    唯:「若君」
    若:「ん?」
    唯:「お殿様は何も言っていなかったけど、どうだったんですか?見ていたのでしょ?」
    ナレ:唯には三郎兵衛の事は話していなかった。いずれ話す事にして。
    若:「わしも分からぬ、だがのぉ、宗熊殿と宗鶴殿を見ておったらの、あの熊田親子の様に見えたのじゃ」
    唯:「どんな風に?」
    若:「宗鶴殿が宗熊殿に」
    ナレ:そう言ってから忠清は宗鶴が宗熊にしたように後ろから唯の首元に腕を回して軽く締めた。
    唯:「何するんですかぁ、これってプロレスの技みたい。えっ?もしかして、あの親熊が」
    若:「そうじゃよ。楽し気にの」
    唯:「そうなんだぁ」
    ナレ:忠清は首から腕を放し、そのままバックハグ。
    唯:「若君」
    若:「唯」
    唯:「なぁにっ」
    若:「どの様な事態になろうともわしは、お前を守る」
    唯:「若君様」
    若:「お前が、わしを信じて着いてきてくれたからの・・・後悔はさせぬ」
    唯:「後悔って、私がするわけないじゃないですか、私の辞書には後悔という文字は無い」
    若:「何じゃそれは?」
    ナレ:ナポレオンは不可能だったが、その説明は面倒なので省いた。
    唯:「まっ、良いじゃないですか」
    ナレ:忠清はジッと唯の顔を見て、
    若:(唯、ありがとう)
    唯:「ん?どうしたんですか?」
    若:「何も」
    唯:「そっ、風邪引いたらいけないから、中に入りましょ」
    若:「そうじゃの」
    ナレ:すると忠清は唯をお姫様抱っこ。
    唯:「若君様~」
    ナレ:唯は首に腕を回し、ちょっと締めた。
    若:「唯、苦しい」
    唯:「さっきのお返しですよっ」
    若:「唯、落としても良いのか」
    唯:「え~やめてぇ、あはは」
    若:「では、しっかり掴まって居れ」
    ナレ:忠清は唯を抱っこしたまま走りだした。二人は笑いながら屋敷に入って行った。迎えたみんなはキョトン顔。

    =完=

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    (新)二人の令和Days1~2019年7月17日水曜20時、短気は損気?

    唯は強運の持ち主だから。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ここは戦国。永禄四年、緑合の城。閨に唯と若君。二人、白の寝間着姿で、布団の上に向かいあって座っている。

    唯「…」

    若君「泣くな」

    唯「だって、今月もダメだった」

    若「何を急いておる。何年かかっても良い」

    唯「私が、女の出来損ないなんだよ」

    若「違う」

    唯「早く、若君…たーくんを喜ばせてあげたいのに」

    若「これはその…先の世で、タイミング、と申す物が、少し合わぬだけじゃ。それか、所以はわしにあるのであろう」

    唯「違うよ」

    若「いずれにせよ、子を成す成さぬは、我らがどう憂いても、天に任せるより他ない」

    唯「もう、7か月も経つんだよ?」

    若「まだ七月しか経っておらぬ」

    唯「…検査とかした方がいいのかな」

    若「検、査?」

    唯「お母さんは医者だから」

    若「何を気のふれた事を。此処は永禄じゃ。…まさか、先の世に帰りたいと申すか?」

    唯「家として、跡継ぎが必要でしょ?もっと、ばんばん産んでくれる側室を…」

    若「唯!たわけた事を申すな。この忠清、命を全うするまで、愛するのはそなただけじゃ」

    唯「でも、今はこうして平和な夜だけど、いつまた戦があるかわからないし、早くって気持ち、わかってよ」

    若「だからと言って、戯れ言を申すでない」

    唯「戯れ言って…私、真剣に話してるのに!どうしてわかってくれないの?!ひどい!もういい!」

    唯は立ち上がり、奥で何かを探し始めた。

    若「唯、何をしておる…あっ、それは」

    手に、タイムマシンの起動スイッチ2号。

    若「唯、落ち着くのじゃ、旅立つ折に尊が、二度と使うなと申したではないか!」

    唯「いざとなったら、これで!」

    若「ああっ!」

    唯は、刀を抜いて起動させてしまった。若君は、慌てて唯を掴んで引き寄せ、抱き締める。

    若「唯…」

    唯「えっ?なに?だって若君がわかってくれないから、ちょっとフリしただけだよ。だって今日、満月じゃないし」

    若「…今宵は、満月じゃ」

    唯「えっ?またぁ、嘘でしょ?」

    若「嘘など申さぬ」

    唯「マジで?!え、間違えた?…ちょっと待って今日何日?え、この前の満月っていつだった?思い出せない…そういえば最近いつ月見た?あーどうしよう!どこかとんでもない世界に飛ぶの?それとも生きていられないの?!」

    混乱して暴れる唯を押さえながら、若君は優しく語りかける。

    若「唯。あれほど満月を気にしておったのに、空を見上げていなかったと?」

    事の大きさに呆然としながらも、なんとか若君の問いに答える唯。

    唯「…うん。とてもそんな気分になれなくて…全然見てなかったの」

    優しく唯の髪をなでる若君。

    若「そうであったか…。月も見上げられぬ程、気に病んでおったのか。そこまで辛い思いをしておったのじゃな。わかってやれず、済まなかった」

    唯「ううん、若君が悪いんじゃないのに、当たっちゃってごめんなさい。ホントにごめんなさい!…あっ」

    二人の体が、消えかかっている。

    唯「どうしよう…どうしよう!」

    若「もう良い。一蓮托生じゃ。しっかり、つかまっておるのだぞ」

    唯「はい…ごめんなさい…」

    そして、閨には、誰も居なくなった。

    ┅┅┅

    その頃、現代の尊の実験室。

    尊「あれ、こっちのファイルじゃなかったか」

    パソコンと格闘中。その時、天井が光った。

    尊「え?!タイムマシン、何で動いてるの?!」

    恐る恐る振り向くと、そこには、唯と若君の抱き合う姿が。

    尊「わっ、白いっ、お化け?!えーっ!えーっ!」

    飛び退いて、腰を抜かしている。

    唯「あぁ、尊がいる…帰ってこれたんだ」

    若「良かった、無事戻って参った」

    尊「なんで?なんで?危険だから、使わないでって言ったのに」

    唯「若君が私の気持ちわかってくれないから、つい…」

    尊「なんでだよ、ケンカの小道具じゃないよ?無事に着いたから良かったものの」

    唯「ごめんなさい。反省してます。来ちゃったからにはしょうがないけど、この起動スイッチ2号、一月後に使うと、永禄では一月後の、一日前に着くんだよね?」

    尊「使うならね。そりゃ、帰ってもらわないと困るから、使ってもらうけど」

    唯「って事は、約一月、私達、永禄で行方不明になるよね…ごめんなさい、若君!どうしよう…」

    若「こうなったからには、致し方ないではないか」

    尊「…それ、飛んだ永禄時間の3分後に着けば、丸く収まるよね?」

    唯「そりゃそうだけど、どうするの?」

    尊「えっと、この前永禄に飛んだ時は、敵に囲まれた中に戻るのも危険だったから、翌月の満月の一日前に戻ったんだけど、原理的には、3分後に戻る方が安全なんだ」

    唯「そうなの?」

    尊「んー簡単に言うと、一度作った道を通った方が、改めて道路を作るより楽と言うか」

    若「その説明はわかりやすいの」

    尊「ありがとう若君。だから、今回帰る時は、3分後に戻れるように設定を変えとくよ」

    唯「そんな簡単にできるの?」

    尊「未来の僕だけが頑張るんじゃなくて、今の僕も頑張らないとな、って思ったからさ、研究済み。だから一月後、安全に帰れますから」

    若「尊。我らがおらぬ間にそのような…大儀であったの。さすが師匠じゃ」

    唯「ありがとう~!尊ー!」

    ドアを叩く音。

    覚「尊ー、さっきかなりこの中が光ってたが、大丈夫かー?」

    美香子「怪我とかしてないー?」

    尊「ははは、さすがに、二人が帰って来たとは思ってないね。開けていい?」

    唯&若「はい」

    ドアを開けた。

    覚「爆発はしてないな。あっ!」

    美「まあ…なんてこと」

    唯「お父さん、お母さん、ただいま!」

    若「父上、母上、ただいま戻りました」

    覚「どうしたんだ、体は無事か?」

    唯「うん、大丈夫」

    若「ご心配には及びませぬ」

    美「唯…大分髪が伸びたわね。また、次の満月まで?」

    唯「うん。よろしくね」

    若「よろしくお頼み申します」

    美「そう…。ひとまず、リビングへ移動する?」

    覚「おー、じゃあコーヒーでも淹れるか」

    唯「うん!」

    若「また、平成ライフ、が始まるのですね」

    両親と尊、首を振る。

    若「え?」

    尊「若君、元号が変わって、今は令和って言うんです」

    唯「あ、そんな変わるってニュース、前に聞いたような…」

    若「では、令和ライフの始まりじゃな」

    尊「さすが若君、順応性が高い!」

    覚「じゃあ、行こうか」

    土産話は、夜中まで続きました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    二人の夏物語、スタートです。

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    新シリーズのご説明と創作の経緯について

    ぷくぷくさんのお話が佳境の所、失礼いたします。

    70話分にもなってしまった、私の創作話「平成Days」は、2018年11月23日から12月23日の、ドラマのSPで、唯と若君が平成に来た時のお話を過大に膨らませた物語です。この平成Daysを描いている時から、私には、どうしても二人に楽しんでもらいたい季節がありました。

    それは、夏です。二人にとって、二年に渡り辛い事が多かった季節です。

    2017年は、当初こそ初デートもありましたが、若君は襲撃され最後には感染症。唯はおたずね者で野宿で高熱。2018年は、若君は戦続き。唯は一人傷心の日々。若い女子が、夏中悶々と過ごすなんて、かわいそ過ぎます。

    そんな二人に、現代の平和な夏をぜひ楽しんでもらいたい!と考え、今回の創作となりました。原作からは当然かけ離れているし、ドラマとも違うし、なにこれ?!と思われるのは承知の上で、お送りしたいと思っております。設定は平成Daysの続きのままで進めます。

    もし、よろしければですが、またお付き合いくださるならば幸いです。

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    =宗熊の決意 第二章=➃

    忠高の文を持ち八次郎は長沢城に到着
    ***********
    ナレ:八次郎は忠高からの返事と、忠清も来ることを伝えた。文を読んだ後の宗熊に八次郎は羽木の間者のお役目を解かれた事を話した。
    熊:「八次郎?」
    八:「わたくしはこれより高山宗熊様にお仕えし、お役に立ちとう存じます」
    熊:「だが」
    八:「里の親も兄も羽木のお殿様にもお許し頂きました。皆様、宗熊様をお守りするのだと申されておりました」
    熊:「羽木の方々が・・・そうか、そなたは決意をしたのだな。ならば、わしもこれよりお前に助けを請う事になろう・・・頼む」
    八:「恐れ多い事を。では、お許し願えますか?」
    熊:「あぁ、わしこそ頼んだぞ・・・では、わしも」
    ナレ:宗熊は宗鶴の部屋に行った。

    熊:「父上、羽木忠高殿がご承知下さいました。父上もお覚悟を」
    鶴:「余計な真似を・・・分かった。して、この場に参ると申すのか?」
    ナレ:宗熊は会う場所は諸橋に聞いた昔待ち合わせていた場所に指定した。忠高の返事にもその場所の事は覚えていると書かれてあった。
    熊:「父上は、覚えておられますか?忠高殿と会うた場所を」
    鶴:「ん~あ~」
    ナレ:宗鶴も忘れてはいなかったが、覚えているとは言いたくなかったので誤魔化した。

    ナレ:忠高は木村を従え黒羽に戻った。
    若:「父上」
    殿:「大事無いか?」
    若:「皆、無事にございます」
    殿:「ん。唯」
    唯:「はい」
    若:「何故、お前は足軽の形をしておるのだ?」
    唯:「これは、いつ攻められても良いようにです」
    殿:「忠清」
    若:「私は唯の思うように」
    殿:「そうか」
    ナレ:忠高は奥へ。信茂はシャチのぬいぐるみを忠高に見せたいと言ったが吉乃に止められた。宗熊は誤魔化しに成功したが、忠高相手に誤魔化す事が出来るとは限らないから、ここは一先ず平成から持って帰った物は見せない方がい言われた。
    じい:「残念じゃがのぉ、致し方ない事じゃの」
    ナレ:信茂は普段通りの格好で忠高を迎えた。

    ナレ:待ち合わせの時刻に合わせて忠清と忠高は出掛ける支度を。
    木:「わたしも伴に」
    若:「わしが参るのでな、木村は此処で待っておれ」
    木:「ですが」
    若:「大事無い」
    唯:「そうですよ。ここでじいの相手して待って居ましょ。熊を信じて」
    木:「はぁ」
    殿:「唯の申す通りじゃ」
    木:「では、そう致します」
    ナレ:みんなに見送られ二人は待ち合わせの場所へ向かった。その頃、宗鶴は宗熊にせかされ支度をしていた。
    熊:「父上、刻限に遅れますぞ」
    鶴:「別に良いではないか、待たせようが」
    熊:「その様に申して宜しいのでしょうか?」
    鶴:「構わぬであろう・・・ふぅ」
    ナレ:乗り気でない気持ちが支度の手を遅くしていた。宗熊は支度を手伝い、腕を引いて表に出て、支度させていた馬にお尻を押して乗せた。
    諸:「私もお伴致します」
    熊:「大事無い・・・では行って参る」
    諸:「お気を付けて」
    ナレ:諸橋は、大丈夫だろうかと心配になった。宗鶴の歩はのろい。
    熊:「父上、しっかと手綱を握っておらねば落馬いたしますぞ」
    鶴:「五月蝿い!」
    ナレ:その勢いで宗鶴は馬を走らせた。宗熊からの文では二人だけで話をさせたいので、忠清と宗熊は少し離れた所で見ている手はずにした。

    ナレ:忠高は懐かしそうに見ていて、川の畔まで進み馬を降り横たわる大木に腰かけた。
    若:「では、父上、私はこの先に居ります」
    殿:「ん」
    ナレ:少し離れた所で待機していると宗鶴と宗熊がやって来た。遠くから忠清が手を振り合図した。
    熊:「では、父上ごゆるりと」
    鶴:「フン」
    ナレ:そっぽを向く宗鶴の身体越しに見えた忠高に深々と頭を下げた。忠高も黙って頷いて見せた。
    宗熊は忠清の側に。
    熊:「忠清殿、まことに忝のう存じます」
    若:「その様な。此度の事で二人の誤解が解けるとようございますが」
    熊:「さようでございますな」
    若:「宗熊殿、狙われたと八次郎から聞きましたが」
    熊:「そうでしたか。信茂殿は私の命の恩人にございます」
    若:「じいも宗熊殿のお役に立てた事、喜んでおりました。して、誰ぞに?」
    熊:「さぁ、分かりませぬ。直ぐにその場を立ち去りましたのでな」
    ナレ:忠清も知っている羽木成之と関わりのあった坂口の名は伏せた。

    ナレ:二人は話乍ら様子を見ているが、宗鶴は馬から降りはしたが端に座り、忠高に近づかず顔も見ようとしない。
    殿:「宗鶴殿、久方振りじゃのぉ。歳をとったのぉ」
    鶴:「フン!お互い様じゃ!」
    殿:「そうじゃの・・・のぉ、宗鶴」
    鶴:「何じゃ!」
    殿:「その様に喧嘩腰に申さなくとも良いではないか」
    鶴:「はっ!・・・呑気じゃのぉ、戦を仕掛けておいて良くも来れたものじゃのぉ」
    ナレ:度重なる奇襲の中で、宗鶴が関わる事の無かった戦もあったのだろうと宗熊の様子で、
    殿:「(やはりそうか)・・・良いではないか」
    鶴:「フン!」
    ナレ:すると急に忠高が笑った。宗鶴はどうしたのかと忠高を見た。
    殿:「ようやく」
    鶴:「フン・・・何故笑った!」
    殿:「怒るでない。何時ぞやことを思い出したのでな」
    鶴:「ん?・・・なんじゃ?」
    殿:「共に釣りをした事があったであろう」
    鶴:「さぁな」
    殿:「わしが餌を垂らして程なく釣れたが、このように大きな魚であった」
    ナレ:忠高は両腕を広げて宗鶴に見せた。
    鶴:「偽りを申すでない、これほどの大きさであったぞ」
    ナレ:20㎝くらいの幅を見せ笑った。
    殿:「覚えておるではないか」
    鶴:「あっ」
    殿:「その折、主がわしに申した事を覚えておるか?」
    鶴:「さぁ」
    殿:「わしがその魚を焼いて食うたならば美味いであろうとそう申したらば、主は、直ぐに川に放すのだと」
    鶴:「ん?」
    殿:「覚えてはおらぬか?・・・この魚をわしらが食うたならば、この川で漁を生業にしておる者が難儀するのだとな。一匹でも多くその者が獲物を捕らえる事が出来たならば、少しでも暮らしぶりは良くなるであろうから、我らが捕えてはその者の邪魔だてになるとな。なれば、主が先に釣ったとして、主は直ぐに放してたであろうの。釣りをするとわしが申したから、付き合うてくれたのだと思うておる」
    鶴:「どうであったかなどは覚えておらぬ」
    殿:「主は、領民の暮し振りを案じておったのだ」
    ナレ:宗鶴は何となく思い出してきたが、
    鶴:「その様に甘い考えを、わしはこの川に捨てたのだ!」
    殿:「暮らしぶりを案ずることは決して甘い考えなどでは無いと思うのだが。主の心根は宗熊殿に伝わっておる」
    鶴:「あやつは、わしの様な強さが足らん」
    殿:「わしはそうは思わぬ。宗熊殿は強いお心の持ち主、主に似ておる。この戦乱の世で申す事ではあるまいが、心根の優しさがわしは強みとなると、そう思うのだが」
    ナレ:話乍ら忠高は宗鶴の隣に移動した。宗鶴は驚きはしたが動かずそのまま。離れて見ていた二人は驚いた。
    熊:「忠高殿は何を話されておるのか」
    若:「私にも分かりませぬ。我らの歳の頃はあの様に話されておったのっだと」
    熊:「さようですね」

    ナレ:宗鶴は川の畔まで歩いて行く。忠高も宗鶴の隣に。
    鶴:「我らは戦から逃れられぬ」
    殿:「そうじゃの」
    鶴:「わしはの、幼き頃は戦のない世をと思うておった事があるのじゃよ・・・この様なわしでもの」
    殿:「さようか」
    鶴:「何故であろうか、わしは主に刃を向ける事になんの躊躇も持たなんだ。この場に来るまでは事あらばお主をとそう思っておった・・・この通り」
    ナレ:離れて見ていた宗熊は驚いた。あれ程の傲慢ともとれる父親が、遺恨を持っていた相手に頭を下げて居る姿に。
    熊:「忠清殿?」
    若:「どうなさったのか、私にも分かりませぬ」
    ナレ:忠高も驚いていた。
    殿:「主が頭を下げるとは驚きじゃ」
    鶴:「己でも、驚いておる」
    ナレ:二人は豪快に笑った。
    鶴:「あの折もそうじゃ、主の鼻を明かそうと松丸の姫をさらう様な事をした。だが、わしの思惑は」
    殿:「そうであったの」
    ナレ:忠高は宗鶴からの文に笑った事は黙っていた。
    鶴:「だが、今となっては人違いであった事が良かったのではと思うておる」
    殿:「ん?」
    鶴:「宗熊はいつの時もわしの言いなりに動いておった。だが、あの娘と会うた頃よりの、わしに歯向かうようになっておっての、その折は宗熊の行いに腹を立てておったが、違うのだな」
    殿:「家臣がの、唯はわしらの守り神だと申しておっての」
    鶴:「そうか・・・主は守り神が居って良いの」
    殿:「何を申す、お主にも守り神が居るではないか」
    鶴:「ん?」
    殿:「宗熊殿じゃ」
    鶴:「ははっ、わしの守り神になるにはのぉ、まだまだじゃ・・・はははっ・・・だが、宗熊も少しは強うなれたとは思うておるが、その事は言わずにおろう、ははっ」
    殿:「宗熊殿が強うなられるのも、想われるお方が・・・あっ」
    鶴:「ん?・・・どういう事じゃ?」
    殿:「口が滑りおったの。すまぬ、宗熊殿が申させる事であったの、今、申した事は聞かなかった事にしてくれ」
    鶴:「そうか・・・そうであったか、ははは」
    ナレ:宗鶴が豪快に笑った後に厳しい表情になり忠高を見た。
    殿:「如何した?」
    鶴:「わしは、こうして昔の様に主と穏やかに話せたことをこれより先も望む。だが、織田や他の武将がこう後、攻めて参るであろう、我らが共に立ち向かう事の出来ればよいのだが」
    殿:「対峙する事になるやもしれぬの」
    鶴:「ん」
    殿:「我らは領民を守りべき戦をせねばならぬ、対峙する事となってもの」
    鶴:「そうじゃの」
    殿:「命が永らえた折は、またこの場で釣りをしようではないか」
    鶴:「そうじゃの」
    殿:「その折に釣れた魚は焼いて食べたいのぉ」
    鶴:「ん?・・・放せと申した事を根に持っておるのかぁ、あははは」
    殿:「ははっ、わしだけ釣れても主にはやらんぞぉ、ははは」
    鶴:「のぉ、主も指図しておろう」
    殿:「ん?」
    鶴:「間者をのぉ」
    殿:「あぁ・・・だが」
    鶴:「致し方ない事じゃ、我らとて羽木に忍ばせておるからの。だが、その者に新たな命を与えようかと思うのだが」
    殿:「新たな?」
    鶴:「ん。間者としてではなく、我らの意を伝える役目をの」
    殿:「それは良い考えではないか」
    ナレ:その時、忠高は八次郎の顔が浮かんだ。
    殿:「なれば、宗熊殿らの信用に値する者としたならばどうじゃ」
    鶴:「そうか」
    ナレ:宗鶴も八次郎が浮かんだ。
    殿:「羽木はその兄」
    鶴:「ん?」
    殿:「いや、あの者に、家臣に伝え、良き者に役目を与える事とな」
    ナレ:忠高はその役目を三郎兵衛にと考えた。

    ナレ:楽しそうな光景を見ていた忠清と宗熊は顔を見合せ首を傾げた。すると宗鶴が手招きした。
    二人は側に行き馬から降りる宗熊を宗鶴は後ろから腕を回し、プロレス技のスリーパーホールドを仕掛けながら笑った。
    熊:「ち・・・父上・・・く・・・苦しいです」
    ナレ:忠高は忠清の隣に行き、
    殿:「宗熊殿の想われるお方の事を話してしもうての」
    若:「父上・・・ですが、宗鶴殿は嬉しそうです」
    殿:「そうじゃの・・・宗鶴、宗熊殿、では、我らは此処で」
    鶴:「忠清殿」
    若:「あっ、はい?」
    鶴:「あの娘、唯殿に宜しゅうな」
    若:「はい」
    鶴:「わし等も戻るぞ」
    熊:「忠清殿」
    若:「宗熊殿」
    ナレ:二人はお互いにお辞儀をして馬に乗り、それぞれの元に帰って行った。
    若:「父上、どのような話をされておられたのか」
    殿:「昔話じゃよ・・・ははっ」
    ナレ:忠清は父親同士の思い出話に踏み込んではいけないような気がして、その後は聞く事は無かった。

    つづく

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    =宗熊の決意 第二章=③

    八次郎は宗熊に託された文を持ち黒羽城に向かった。
    ***********
    ナレ:黒羽城に到着し、文を忠清に渡した。そして宗熊に口止めされていたが襲われた事と置物が助けてくれたことを話した。
    じい:「そうか。良かったのぉ。やはり縁起物であったの」
    八:「宗熊様は守り神だと申され大切にされておられます」
    ナレ:二人が話している間に忠清は文を読んでいた。
    唯:「若君、熊は何て?」
    若:「宗熊殿は御父上の宗鶴殿と我が父を会わせたいと」
    唯:「えっ!・・・大丈夫なのあの親熊だと、お殿様負けちゃうんじゃないの?」
    若:「ん・・・だが、昔は仲良うして居ったという事だからの、信じようではないか」
    唯:「若君がそう言うなら」
    じい:「わしも覚えておるぞ、二人で遠駆けしておった。不思議に思うておったのじゃが、あの様に仲良うしておった宗鶴殿が何故、奇襲をとな」
    ナレ:宗熊は宗鶴が持った遺恨の理由は書かなかった。
    若:「して、父上には?」
    八:「これより緑合へ参ります」
    若:「気を付けて参るのだぞ」
    八:「はい。では」
    ナレ:唯たちは八次郎を見送った。
    唯:「他に何て?ゆめさんの事とか書いてない?」
    若:「それは無い。ただ、父上同士が会う場にわしも共に居って欲しいとな」
    唯:「なにか遭った時の為って事かな?」
    若:「そうかも知れぬが。何事も無い事を望むが」
    じい:「案ずることは無かろうて」
    若:「そうじゃの」
    ナレ:すると成之が家臣、足軽を引き連れて黒羽城に入って来た。成之はまぼ兵くんとでんでん丸には有る程度の人数に匹敵する力があるだろうからと少人数で。
    成:「領内に入りましたが・・・いったい?」
    ナレ:忠清は掻い摘んで説明した。
    成:「その様な事が」
    ナレ:宗熊の考えを聞かせされた成之は驚いた。そして入れ違いに八次郎が緑合へ向かった事も話した。
    成:「我らが居らぬ内に事が動いていたのですね」
    若:「良き方へと向かえば宜しいのですが」
    唯:「じいも言ってたじゃん、案ずるなって」
    若:「そうじゃの・・・皆も休まれよ。唯、お袋殿に伝えよ」
    唯:「はい」
    ナレ:奥へ行き、食べる物を用意させた。

    ナレ:急ぎ忠高の元へ向かい、宗熊からの文を渡した。
    殿:「ご苦労であった」
    ナレ:忠高は宗熊よりの文を読む横で木村が声を掛けた。
    木:「殿?」
    殿:「宗熊殿はわしに宗鶴と会うてくれんかとな」
    木:「会う?・・・その様な事をされて、大事ございませぬか?」
    殿:「ん・・・宗熊殿は、戦を仕掛けておった事を詫びておるが・・・」
    ナレ:木村は忠高が黙った事に不思議に思い声を掛けた。
    殿:「何ほどでもない」
    ナレ:忠高は成之から羽木攻めを企てていた事を知っていたから、その幾度の戦の中でも宗熊本人が関わっていない戦もある事は知っていたが、木村にはその事は話さずにいた。
    殿:「宗熊殿に返事を書くのでな、それまで父に会って参れ」
    初:「はい。では」
    ナレ:八次郎は父親の元に。三郎兵衛は成之と共に黒羽に行っていたので、父と母が居た。
    父:「どうしたのだ?」
    ナレ:宗熊からの文を届けた事を話した。
    父:「そうであったか」
    八:「父上、母上、申し上げたき事がございます」
    ナレ:八次郎が手を付き頭を下げた。
    父:「八次郎?」
    八:「わたくしは、兄の代わりに高山へ間者として探っておりました」
    父:「ん」
    八:「わたくしは、高山宗熊様に羽木の間者だと見破られ」
    母:「えっ」
    八:「ですが、宗熊様はわたくしを間者と知りながら、わたくしを信じ、大切なお役目のお供も致しました」
    ナレ:間者の八次郎にと。二人は驚いていた。
    八:「宗熊様はお優しくお強いお方です。父上」
    父:「何じゃ?」
    八:「わたくしは羽木の間者としてではなく、これより先も宗熊様のお側でお仕えしたいと存じます」
    ナレ:両親は驚き過ぎて言葉が出なかった。
    八:「お許しください」
    ナレ:床につくくらいに頭を下げた。その姿を見て父は、
    父:「この旨は、宗熊様はご存知か?」
    八:「いいえ、申し上げてはおりません。宗熊様であれば、許しを貰うておらねば、お許しにはなられないかと存じます」
    父:「高山宗熊様はその様なお方なのであろうか?」
    八:「はい」
    母:「殿には何と?」
    八:「父上、母上に伝えてからと・・・殿にはこれから」
    ナレ:父は腕を組みして目をつむっている。
    母:「その様な真似を・・・お許しになられるとは思いませぬ・・・八次郎」
    八:「はい」
    母:「その様な事となれば、父にも母にも再び会う事が叶わぬ事と・・・分かりますか?」
    八:「はい」
    父:「・・・分かった・・・これよりお前を勘当致す。もう我が家とは関わり無い事に」
    母:「旦那様・・・その様な」
    父:「良いのじゃ・・・良いな、八次郎」
    八:「・・・はい」
    ナレ:母親は顔を手で覆い泣き出した。
    八:「母上・・・お許しください」
    父:「私が間者として長沢城に居った頃、まだ幼き高山宗熊様を存じておるが、大きゅうなられたお姿は見ておらん。お前がそこまで惚れ込んだお方となっておったのだな」
    八:「父上」
    父:「己の進む道を見付けたお前を頼もしく思うぞ」
    八:「父上・・・忝けのう存じます」
    父:「ん・・・兄にはお前から伝えよ。成之様の伴にて黒羽城へ出向いておる」
    八:「はい・・・では、父上、母上、お身体大切に」
    父:「お前もの・・・八次郎殿」
    ナレ:八次郎は深々と頭を下げ部屋を出て行った。
    父:「泣くでない・・・八次郎はわし等の自慢の倅じゃ」
    ナレ:夫の言葉も分かるし、我が子の成長も嬉しいが、会えないと思うとまた涙が零れた。

    ナレ:宗熊への返事が書き終わった頃、八次郎を呼んだ。
    殿:「これを宗熊殿にの」
    八:「承知いたしました・・・殿」
    殿:「何じゃ?」
    ナレ:八次郎は間者としてではなく宗熊の家臣としてこれから生きていくとの決意を伝えると、勿論の事、忠高と側に居た木村は驚いた。
    殿:「家の者には伝えたのか?」
    八:「はい。許しを頂きました。兄には黒羽にて伝えます」
    殿:「そうか。決めたのじゃの」
    八:「はい」
    殿:「ならば、わしがとやかく申す事でもない。お主の決めたようにするが良い。宗熊殿をお守りする事も大切な務めだが、己の身も守るのだぞ」
    八:「はい」
    殿:「ん。では、宗熊殿に承知したと伝えるのじゃ」
    八:「かしこまりました」
    ナレ:宗熊へ宛てた文を八次郎に託した。そして黒羽城へ。
    木:「殿、あの様に申して良いのでありましょうか?」
    殿:「あの者の目を見たであろう。強い決意をわしは感じ取った。意志を強う持った者にはわしも太刀打ち出来ぬわ」
    木:「ですが」
    殿:「案ずるな・・・八次郎、宗熊殿を信じようではないか」
    木:「この世で、敵方を信じる事は」
    殿:「木村の申したい事も良う分かる。あの日、忠清が成之に家督を譲り、己は戦のない世をと申しておった事が、今は、分かる様な気がするのぉ」
    木:「はぁ・・・殿がその様にお考えならば、私はもう何も申しません」
    ナレ:忠高は宗熊との約束を必ず守らねばと思っていた。

    ナレ:その頃、戦にならないのであれば、緑合へ引き返すかどうするかと話していた。そして容易く退いた事を不思議に思う成之だった。
    唯:「だから、そんなに深刻にならなくっても、こう言っちゃなんだけど、きっとあののっぺり顔のあいつはまた懲りずに来るんじゃないの?」
    若:「そうかもしれぬ」
    成:「唯の申す通りだと」
    唯:「まっ、しばらくは様子見で、此処に居たらどうかな。ねっ、若君」
    若:「そうじゃの」
    ナレ:そういう事で、しばらくは黒羽城に滞在する事にした。その事を三郎兵衛が忠高に知らせに行こうと言ったが、忠清は必ず宗熊の頼みを受け入れると信じていた忠清は、五日後には会う約束をしているので、忠高も緑合を発つであろうからここで待てと。そして、八次郎が黒羽城に到着し、会う事を承諾したと伝えた。
    若:「やはり」
    八:「はい。わたくしは高山へ戻ります」
    ナレ:出立前に八次郎は休憩している三郎兵衛に、高山宗熊にこれからも仕える事を話した。やはり驚いていた。
    三:「父上、母上は、どう申しておった?」
    八:「勘当すると」
    三:「えっ!」
    八:「父上は、わたくしの意思を尊重して下さました。母上は泣いておられました」
    三:「そうであろう‥お前はもう決めておるのだな」
    八:「殿にもお許しを」
    三:「そうか・・・そうなれば、対峙する事になるやも知れんが・・・その覚悟は?」
    八:「ございます」
    三:「・・・」
    ナレ:言葉にならなかった三郎兵衛は八次郎を抱きしめた。
    八:「兄上」
    ナレ:八次郎も強く抱きしめた。お互いにもう会えないであろうと思っていた。待ち合わせの時刻に合わせて忠清も出掛けることを八次郎に伝えた。八次郎はその足で長沢城に戻った。
    信:「三郎兵衛、八次郎と抱き合うておったが何故じゃ?」
    ナレ:信近に聞かれた三郎兵衛は八次郎が間者を辞して宗熊の家臣になる事を話すと、みんなは驚いた。
    唯:「じゃ、八次郎さんは、もう羽木には戻らないって事?」
    三:「さようです」
    若:「そうであったか。力強い目をしておった。その様な事であったか」
    じい:「三郎兵衛」
    三:「はい?」
    じい:「何処に居ってもお前の弟じゃよ、八次郎の無事を祈ろうぞ」
    三:「信茂様」
    ナレ:信茂は三郎兵衛の肩を抱き、酒を飲もうと誘い屋敷の中へ。
    唯:「でも、すっごい決断したね」
    若:「ん」
    ナレ:忠清は思っていた。
    若:(唯、お前も八次郎と同じ様に決断をしたのじゃな)
    唯:「ん?若君?」
    若:「何ほどでもない。わしも支度をせねばの」
    ナレ:忠清も中へ。
    唯:「兄上さん、若君どうしたのかな?」
    成:「そうじゃの」
    ナレ:そう返事をしたが、成之には忠清の考えている事が分かったが唯には言わなかった。

    つづく

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    すみません(^o^;)
    第二章②の後半のところで
    拍子抜けしたのが
    宗熊と書いてしまいましたが
    宗鶴でした(^_^;)

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    =宗熊の決意 第二章=②

    宗熊の腹に矢が刺さった。
    ***********
    ナレ:八次郎は馬を降り、宗熊の元に行くと、
    熊:「八次郎、参るぞ」
    八:「ですが」
    ナレ:かすかだが「坂口様」と宗熊に聞こえた。諸橋の言っていた坂口であれば羽木に遺恨が有る事は知っているが、自分を追放した高山をも恨んでの仕業だと考えた。宗熊は腹に刺さった矢を抜き捨てて、
    熊:「参るぞ!」
    八:「あっ、はい!」
    ナレ:馬に戻り、先を行く宗熊を追いかけた。
    男:「えっ?」
    坂:「間違いなく刺さったであろうに。何故じゃ?」
    男:「さぁ?」
    ナレ:何が何だか分からない二人。しばらく走ってから止まった宗熊の側に駆け寄り、
    八:「早う手当てをせねば!」
    熊:「ふっ、大事無い」
    ナレ:宗熊は懐からあの置物を出して八次郎に見せた。日光の文字の間に亀裂が。
    熊:「あの者の腕は確かじゃのぉ。あははは!」
    ナレ:宗熊の笑い声が木々に響き坂口たちにも聞こえた。それは恐ろしい声に聞こえた男は怖くなり逃げ出した。
    坂:「わしを置いて行くな!」
    ナレ:坂口も逃げた。
    熊:「信茂殿がわしの命を助けてくれたのじゃな」
    八:「さようですね」
    熊:「これからは、この物がわしの守り神となろう」
    ナレ:宗熊は懐に戻し走り出した。

    ナレ:長沢城に到着すると、諸橋が出迎えた。
    諸:「ようご無事で」
    熊:「心配を掛けたの」
    八:「では、わたくしは厩へ」
    ナレ:八次郎は二頭の手綱を持ち厩へ。
    熊:「して、父上は?」
    ナレ:怒って顔を真っ赤にして諸橋達に当たり喚き散らしているのだろうと想像した。
    熊:「顔を赤うしておったであろうの」
    諸:「あっ、はい、さようで」
    熊:「すまないのぉ」
    諸:「あっ、いえ、殿は途中、雨に降られ身体を濡らし、熱を出され顔が赤うなっておられ、すぐさま、床に入られております」
    熊:「雨・・・そうであったか」
    諸:「若君もご存知の通り、殿は強うお姿にございますが、気を張られたり雨に濡れたりなさると直ぐに熱を出されますから」
    熊:「そうであったの。あの和議の折ものぉ」
    諸:「若君はお身体が丈夫で何よりにございます」
    熊:「それはわしが強う見えぬと申しておるのか?」
    諸:「いえ、決してその様な事は」
    熊:「ははっ、気にするでない」
    ナレ:笑った時に鎧の腹の辺りが切れているのが見えた。
    諸:「若君、どうされたのでございますか?」
    熊:「戻る途中で狙われての。矢が刺さっての」
    諸:「え~!では、手当てを」
    ナレ:怪我をしている割にはしっかりしているし、側に居た八次郎は何も言っていなかった。
    諸:「若君?」
    ナレ:宗熊は懐から置物を出して、
    熊:「これがわしの命を救ってくれたのじゃ」
    諸:「はぁ」
    熊:「天野信茂殿に貰うた物じゃ」
    諸:「えっ?」
    熊:「父上には内密にの。知れたならば燃やされてしまうからの。これはわしの守り神じゃ」
    諸:「はぁ。殿には申しません」
    熊:「うん・・・では、父上の様子を見て参る」

    ナレ:襖の前で声を掛けると弱弱しい声で返事があった。
    熊:「失礼いたします。父上、お加減は?」
    鶴:「お・・・お前という奴は・・・何を」
    ナレ:起き上がろうとしたが熱でうまく起き上がれない。
    熊:「明日、お話がございます」
    ナレ:宗鶴が声を掛ける前に宗熊は部屋を出た。
    鶴:「何を考え・・・ゴホンゴホン」
    ナレ:咳き込む声が聞こえたので諸橋が水を持ってきた。
    鶴:「宗熊は何か申しておった・・・か?」
    諸:「わたくしは何も聞いてはおりません」
    鶴:「何を考えておるのだ・・・はぁ・・・やすむ」
    ナレ:宗鶴は布団を頭まで覆い被り、しばらくしていびきをかき始めた。諸橋は宗鶴の方、出て行った宗熊の方を何度も見て、
    諸:(どうなるのであろうか・・・襲われた事は黙っておいても良いのであろうか?だが一先ず伏せて)
    ナレ:諸橋は静かに襖を閉めて、深い溜息をついた。宗熊はその足でゆめの所へ。
    ゆ:「宗熊様、ご無事でようございました」
    熊:「ん・・・ゆめ殿」
    ゆ:「はい?・・・ここでは、奥へ」
    熊:「良いのじゃ・・・わしは明日、父上にわしの思いを申す事にしておる。そののち、わしが父の元を離れる事となった折は、申した事を忘れてはくれまいか?」
    ゆ:「えっ?」
    熊:「わしから妻になってくれと頼んでおきながら、身勝手な真似を。だが。わしが高山を去るとなれば、そなたに苦労を掛ける事となる」
    ゆ:「宗熊様!」
    熊:「えっ?」
    ナレ:ゆめは宗熊の前に立ち、手を握った。背の高いゆめは上から睨むように宗熊を見た。
    熊:「ゆめ殿・・・い・・・如何した?」
    ゆ:「わたくしは、宗熊様について参るとあの折、心に決めたのでございます。宗熊様とならば苦労もいとまぬ覚悟にございます。わたくしをお捨てになるのでございますか?」
    熊:「あっ、いやっ、その様な・・・良いのか?」
    ゆ:「はい、地の果てまでも着いて参ります。握った手が痛いと申されても離しは致しませぬ」
    ナレ:そう言っていると本当に手に力が入ってしまった。
    熊:「ゆ・・・痛い」
    ゆ:「あっ、申し訳ございませぬ・・・力の強い・・・嫌われますね」
    熊:「その様な事は無い。頼もしいぞ・・・あっ、おなごに申す事では無いの」
    ゆ:「その様な事はございませぬ。では、何かの折に宗熊様を抱え走る事の出来る様、身体を強う致しましょう」
    ナレ:宗熊はそこまでしなくてもと思ったが、ゆめが自分を信じてくれることが嬉しかった。唯に似ていないような事を思ったが、意外と唯とゆめは似ているのかもしれないと改めて思った。ゆめの存在が心強いと感じた。ちなみに、和議の後、成之が忠清と宗熊はおなごの好みが同じだと言っていた。

    ナレ:翌朝、宗熊は覚悟を決め宗鶴の部屋の前に。
    熊:「父上」
    鶴:「入れ」
    ナレ:宗鶴は布団に座り怖い顔をしていた。いつもの元気な時の様に。
    熊:「お加減は?」
    鶴:「寝ておられるはずは無かろう・・・お前は何を考えておる?」
    熊:「父上は羽木、羽木忠高殿に敵意をむき出しにされ、度重なる戦を仕掛け」
    鶴:「仕掛けとは、忠高めが、こちらに仕掛けておるのだぞ!・・・何を申しておるのだ!」
    ナレ:ご説明いたします。奥方の事があり間者を忍ばせる事と致しましたが、その頃は近隣での戦も落ち着いていた時期の為、戦にはならず平穏に暮らしていましたが、ある時を境に戦を仕掛ける事となったのです。それは羽木成之と坂口が仕向けた事でした。坂口は人を使い宗鶴の耳には羽木が戦支度をしていると嘘の情報を。既に心は憎しみに支配されていた宗鶴は怒りで奇襲を。だが宗鶴も把握していない戦があった。唯が平成に戻った後に忠清が戦の無い世を願っていた時期の二つの奇襲については宗熊も知らなかった。
    熊:「父上は偽りを信じていおる為、度々無用な戦を。その為にどれほどの民が命を落とす事となり、私は心を痛めておりました」
    鶴:「何を弱い事を申しておる、戦はこの世のならいじゃ」
    熊:「さようでございましょうが、私が申したいのは、領民を守るために挑まれた戦に立ち向かう、それは戦乱の世に生まれし者の宿命と思うております」
    鶴:「分かっておるようだが」
    熊:「しかしながら、父上が羽木家への遺恨でなさる戦は、無用なものにすぎませぬ」
    鶴:「わしに楯突くきか!」
    熊:「はい!」
    鶴:「う゛」
    熊:「私は領民を守るために、決意致しました」
    鶴:「何じゃ!」
    熊:「父上、隠居なさり、私を領主とお認め願いたい」
    鶴:「あ゛!・・・わしに退けと‼」
    熊:「はい!」
    鶴:「わしは隠居などせぬ!・・・お前のような弱い男に任せられるか!・・・わしの目の黒い内は断固としてお前に家督は譲らん!」
    熊:「分かりました」
    鶴:「へっ?」
    ナレ:あっさり諦めたので宗熊は拍子抜け。
    鶴:「お・・・お前?」
    熊:「ならば、お願がございます」
    鶴:「ん?・・・なんじゃ?」
    熊:「父上には羽木忠高殿と会うていただきとう存じます」
    鶴:「あ゛」
    熊:「父上は偽りを信じ、そして憎しみを持ち今まで過ごされておりました。私は、その偽りの訳を知り、このままではならぬと考えたのでございます」
    鶴:「それゆえ、わしに忠高めに会えと?」
    熊:「はい」
    鶴:「その様な頼み受けるわけなかろう。駄目じゃ!」
    熊:「さようでございますか。父上は忠高殿が怖いのでありますな」
    鶴:「恐れるはずは無かろう!あのような青二才」
    ナレ:ずっと相対する事が無かったので、宗鶴の浮かぶ忠高は忠清を少し大人にした感じの姿しか分からないので。宗熊には青二才の意味が分からなかった。
    熊:「やはり、父上は恐れておいでなのですね」
    鶴:「何とでも言え!・・・わしは会わぬ!」
    熊:「では、家督を譲るか、忠高殿と会われるか、二つに一つにございます」
    鶴:「何じゃそれは!・・・比べようもない事では無いか!」
    熊:「私には同じ重さにございます。どちらも領民を守る事にございます」
    鶴:「あ゛?」
    熊:「昔は戦の折は助けおうておったと聞きました。この戦乱の世で戦う事は逃れられない事に存じます。ですが、昔の様に助け合う事が出来たならば、領民も守る事が出来ると・・・父上はお強いお方です。お心も。なればこそ領民の為に忠高殿とお会い下さい」
    ナレ:宗熊は自分で話しておきながら良く分からなくなっていたが気持ちを押し通す事に。宗熊の中では領主よりも忠高と会う事を強く願っていたから。だから、どうにか会う方向へ進めるべく必死だった。宗鶴も宗熊が何を言いたいのか良く分からなくなっていたが誘導されるように、
    鶴:「わ・・・分かった・・・あやつに会おう」
    熊:「父上!」
    鶴:「だが、あやつが事を仕掛け様なら、わしはその場で手打ちに致す」
    熊:「私は、父上を信じます。では、文を出します。手はずが整いましたら・・・お逃げにならないで下さい」
    鶴:「に・・・あやつが恐れをなし会わぬと申しかも知れんぞ」
    熊:「きっと会って下さると信じております」
    鶴:「お前が分からなくなった・・・やすむ」
    ナレ:宗熊は布団をかぶりふて寝。
    熊:「では、父上」
    ナレ:部屋を出た宗熊は和議と決めたあの夜の様にだんだん笑顔になった。早速、文をしたためた。忠高宛と忠清宛に。そして八次郎に託した。八次郎は先に忠清の元へ。

    つづく

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    振り返ります二人の平成Days、69(終)まで

    no.576の続きです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    51、no.527、守り抜きます┅┅┅

    自分の作品で好きな回ベスト3を挙げるなら、この回が1位です。困っている唯の前に歩み出る所なんか、SPで阿湖姫の前に出た成之のように、ときめく効果音入れたいです。
    夫は医学生です、速川の家を継ぐべく頑張ってますが、子供が出来ました、夫は遠方に住んでいて離ればなれもなんなので、しばらく実家は離れます…なら、近所で姿を見かけなくても辻褄が合います。此度の嘘は誰も傷つけてはおらぬのです。
    なによりも若君の誠実な対応が信憑性を増しました。見えなくなるまで頭を下げられていたら、コーチも、いい青年だったぞ!と太鼓判をおしてくれるでしょう。体が泳ぐ程の唯のセーターも、いい仕事しました。

    52、no.528、まるわかりです┅┅┅

    帰りの電車でいちゃつく姿、とても彼氏が戦国武士とは思えませんが、ここは平和な現代、大目に見てやってください。顔にメロメロと書いてある位なので(46話)。

    53、no.530、新居に届きます┅┅┅

    次に届くDMが待ち遠しい。写真館には、どんどん送ってもらいましょう。
    ここが新居…妄想の妄想ですが、もし、家を訪れてピンポーンと呼鈴を押したら、エプロン姿の若君と、子供を抱っこした唯が、はーいと出てきたら…そりゃあいいでしょう!

    54、no.534、感謝を形に┅┅┅

    クリスマスについて、若君はあまり説明してもらえなくなってます。でも唯はあんなに浮かれていた、わからぬがまあ良い、といった所です。
    急にしゃべってとか書き始めてもすぐ中断するわで、あい変わらず天衣無縫な感じの唯ですが、一方で、今日はお腹鳴らさないように!と小腹を満たしている辺り、やはり花が咲いたのかもしれません。

    55、no.535、お電話お待ちしています┅┅┅

    コントのような会話というか、完全に姉弟でコントやってます。テレビっ子(もう使わないか?)の若君は、理解していました。前回来た時、日本史の教科書は読破していた模様なので、勉強の合間にテレビ、かな?

    56、no.536、優しいハーモニー┅┅┅

    あえて両親のコメントを今聞かない、と決めたのは、最後の夜、家族笑って過ごしたいという気持ちの表れです。子供達三人、目を腫らしてリビングに戻って来たら、どうしてもしんみりしちゃいますので。両親に、また永禄でゆっくり観るねと言う様子が、ストーリー外で展開されたであろうと想像してください。

    57、no.537、普通ってなに┅┅┅

    唯と尊の言葉の応酬は、テンポ早めで読んでいただけるとより生き生きとします。そして、この釘引き抜きにくい的な、この姉侮れない、の早口言葉も生きます。で、唯は意味はわかっているよないないよな。ずっと会話はこんな感じの姉弟だったんだろうな、と推し量りました。
    全ての呼び名を見届けよ、イコール、一生共に居よ、は、さすがに唯も気付きました。

    58、no.540、多数決です┅┅┅

    一緒に風呂だと!!破廉恥な!とお叱りを受けそうですが、その部分はバッサリ抜けてます。風呂上がりのラブラブな様子で察してください。
    洗面所で、きっと大騒ぎしながら、唯は若君に髪を乾かしてもらいました。その時間に風呂に入っていたであろう尊も、なんか洗面所からハートマークが飛んでくる…と、いい迷惑だった事でしょう。でもって、急いで出たら早過ぎると二人に睨まれた。踏んだり蹴ったりです。
    二人の居ない所で、母の本音がちらりと覗きました。まあ、ファンタジーですから、いろんな現実的な話もバッサリ抜けます。
    これを話すとまた長くなるのですが…唯がこの22日23時40分頃「今日が満月かと思うくらいまんまる」と言います。実はそれは正解で、確かに翌日が満月なんですが、その満月になる瞬間は、23日の2時49分。翌日の夜実験室に入る前に見たであろう月より、唯がこの時間見上げた月の方がより丸かったのです。しかもこの22日は冬至だったので、一年で一番高い位置に月が輝いた日でした。

    59、no.544、川の字で┅┅┅

    美香子さんは若君を、息子としてもかわいいし、一人の男の子としてもかわいいと思っているのでしょう。でなきゃ隣の布団で、なんてリクエストはしない。
    家族五人の内、ずっと一人で寝起きしていたのは唯だけです。最後は両親とべったり仲良くおやすみなさい、でした。

    60、no.545、ずっと熱いままです┅┅┅

    自分の作品で好きな回ベスト3の3位です。
    好きとも言わずキスシーンもないのに、色々溢れ出ています。
    この翌朝(25話)で、朝一で唯が「浴衣は着てる…よし」と言っていますので、若君の着付け方が相当丁寧だったのでしょう。しかし、きちんと着付けられてる時点であれ?と思わないか?唯は、気づいていません。まあ、気づいたらまた大騒ぎでしょうが。
    この回のお気に入りは、ついギュっと抱き締めてしまい、唯がちょっと動いたら、あっきつ過ぎた?痛かったか?とちょっとオロオロする所です。

    61、no.546、塗り替えました┅┅┅

    看板がもう換わってるなんて、黒羽市の行政は素早い。それだけ市民の意識の中に浸透しているのでしょう。まだまだ変わりそう、変わって欲しい。
    若君のセーター、ファブる前にクンクンしたかった者は、正直に手を挙げましょう。

    62、no.547、心も支度します┅┅┅

    SPで唯が現代を去る時、両親に今まで育ててくれてありがとうとは言いましたが、悲しい顔はしていませんでした。今生の別れの可能性が高い中、どこかで負の気持ちを整理する瞬間があったのではないか、そうあって欲しいと願い、若君に促してもらいました。
    お願いすれば、いくらでも腕の中で泣かせてくれたでしょうが、唯は強い女の子、一人でカタをつけました。

    63、no.548、似て非なるもの┅┅┅

    ジェンガが出来た当日若君は、唯が欲しゅうなったと二階へ連れて行ってしまった(29話)ため、ちょっとほったらかしになっていた感はありますが、ちゃんと覚さんが入れ物を見繕ってくれていました。
    高野豆腐、私もストックしてありますが、思ったより賞味期限が短く3か月程なので、早めに使い切ってもらいたいです。
    父と息子が酒を酌み交わせるのは、いつになるでしょう。なんせ若君の年齢を証明できる物がないので、家呑み限定になりそうです。

    64、no.549、蜜月┅┅┅

    普段着の時かけてたレイを、最後着物に着替えてもかけてましたので、なぜわざわざそうなったかを考えて、私の話ではこうなりました。
    最後、言葉遊びで会話が成立。仲良し。

    65、no.551、バリアフリーです┅┅┅

    家族総出でパーティーの準備。美香子さんが割とゆる~い感じで会話をしてるのは、いいわね~こんな時間ずっと続くといいのにね~という気持ちの表れです。
    平成Days、唯は終始若君に対してタメ口です。最終話ダイブ!の続きではちゃんと丁寧語だったんですが。尊敬の念が薄れた訳でなく、現代のこのホームグラウンドでなし崩しにこうなっていたと言うか。たーくんと呼んじゃう心配よりも、同じ口調で話さないかが…「は?!何言ってんの?!」(29話)とか、絶対御法度だし。

    66、no.552、パーティー始めます┅┅┅

    やや危ない物と感じ取りましたので、若君は心の準備ができていた模様。音も火縄銃に近いから、戦で敵を惑わせるのに良かろうと思ったかも。

    67、no.557、怒りの矛先は┅┅┅

    今にして思えば、帰りたくないなどと思うてはならぬのじゃ決して、こんな弱くては…と自分に苛立っていたと。弱くはないと思いますが、自分を律し続けてきた若君ゆえの葛藤でした。
    SPのパーティーシーン、実際若君はほとんど笑っていません。クラッカーもケーキ入力も。はさみ揚げをかぶりついた所だけ笑顔。
    若君の来るなオーラ、唯が最初に見たのは、ドラマ4話でふくとなった時の、後ろ姿から放たれていたオーラでは。あの時は、切り崩そうとあれこれ頑張りましたね。今回はじっと観察しました。

    68、no.559、開いてみせて!┅┅┅

    唯の怒涛の勢いに、若君は言葉が出なかった。図星だったからですが、唯は言うだけ言って、それ以上なじる事なく、すぐに気持ちを切りかえています。この優しさに、若君は唯に母性愛を感じているんだと思う(5―2話)。結果、かなり大泣きした模様。すっきりした気持ちで旅立てたのは間違いないです。
    若君の泣き腫らした顔。唯がちょっと嫌味っぽく表現して、若君は当然わかっていませんでしたが、その…SPの旅立つ直前の健太郎くん、そんな風に見えたのは私だけかしら。なんか火照ってる感じでしたので。で、きっと心がからっぽになる程泣いた後なんだろう、と解釈させていただき、このように話を繋げました。

    69(終)、no.560、永遠に名を呼んで!┅┅┅

    唯は、家族の前で泣かないと決めていたので、プレゼントも直接手渡そうとは考えませんでした。
    名残を惜しむように語らう二人。今までは、あの時はこんなだったね~と過去を振り返る話もしていましたが、この回ではほぼ未来の話しかしていません。現実は厳しいかもしれませんが、今は夢いっぱいであって欲しいし、きっと唯なら、願えば叶います。
    唯に瓜二つの娘は嫁に出さない、それを聞いて少し前の唯なら、キャー嬉しい!となったと思いますが、ダメだよ~と諭します。ちょっと大人になったかな?
    最後、部屋を出る所で終わったのは、リビングも、外へ出た時も、言葉はなくアイコンタクトで進んだと考えたからでした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    投稿したからにはフォローも必要と思いましたが、長文失礼致しました。最後まで読んでいただきありがとうございます。

    次回作は…近日発表いたします。

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    =宗熊の決意 第二章=①

    宗鶴と相賀一成を退散させた後、宗熊と八次郎は黒羽城の門にやって来て小平太に声を掛けた。
    小平太は唯と忠清を呼びに行った。

    **********

    ナレ:唯と忠清が呼ばれ来てみるとそこに宗熊と八次郎が居た。
    唯:「熊だけ?・・・親熊とあののっぺり顔のあいつは?」
    熊:「父上と相賀殿は退散させました・・・ご迷惑をお掛け申した。この通り」
    ナレ:宗熊は唯達に頭を下げ、八次郎も同じに。
    若:「その様な真似はなさらずとも、此処では、どうぞ奥へ」
    ナレ:二人を伴い中へ行くと信茂達が出迎えた。
    じい:「宗熊殿、達者でなによりじゃぁ」
    熊:「信茂殿もお変わりなく・・・して、背に有る物は何ですかな?」
    ナレ:信茂はシャチのぬいぐるみを背負っていた。
    じい:「これはのぉ、しゃちと申す海の生き物じゃよ」
    熊:「生きておるのでしょうか?」
    じい:「いんにゃ~ぁ、ぬいぐるみと申す物での、この白は恐ろしい目の様に見えるがの、目でのぉての、この黒い球が目なのじゃよ」
    熊:「はぁ」
    じい:「抱いてみるかの?」
    ナレ:信茂はぬいぐるみを宗熊に渡した。
    熊:「肌触りが柔らこうて、温かい物ですな」
    じい:「そうじゃろ。だがそれはやらんぞ」
    吉:「父上様」
    じい:「吉乃に叱られてしもぉたぁハハハ」
    吉:「さっ、奥へ」
    ナレ:ひとり笑う信茂の横をぞろぞろと。
    じい:「置いていくでな~い」
    ナレ:みんなを追いかけた。座敷に通し、吉乃が二人の前に茶を置いた。
    熊:「忝い」
    信:「だが、不思議ではないかの」
    小:「父上?」
    信:「敵方の高山宗熊殿とこうして居る事がの」
    小:「さようですね」
    熊:「これもひとえに唯殿と忠清殿のお蔭なのです。お二人には良うしてもろうたのです」
    若:「我らこそ宗熊殿に世話になり申した」
    ナレ:側で信茂が自分を指してアピール。
    熊:「信茂殿にも良うしてもろうたのです」
    唯:「何よ、自分から言わせてるんじゃん」
    吉:「唯、その様な事を申すでない」
    唯:「はぁ・・・あっ、そうだ、熊の好きな人って誰?」
    吉:「唯」
    熊:「良いのです。文を読まれたのですね」
    若:「父上も兄上も宗熊殿の身を案じておりました。わたくし共も」
    熊:「忝のう存じます。唯殿はお会いしたことはございません」
    唯:「そうなんだぁ」
    熊:「名をゆめと申すのです」
    唯:「えっ、そうなんだ。名前も似てるから、私みたいな娘さんなんですね」
    小:「そなたと同じとは?」
    唯:「いやだもぉ、言わせるんですかぁ、おっしっとやっかって」
    熊:「・・・」
    唯:「なにそれぇ、テレビの無言の時の点点点みたいなリアクションは」
    熊:「て?り?」
    唯:「なんでもないですぅ」
    ナレ:宗熊の態度でみんなは唯とは正反対の娘だろうと察したが、信茂は敢えて、
    じい:「名が似ておるだけで、唯とは違うておしとやかなおなごなのであろうの、ハハハ」
    唯:「もぉ、じいったらぁ」
    若:「宗熊殿の前ですぞ、唯」
    じい:「若君にも怒られたぁ~キャハハハ」
    小:「おじい様!」
    唯:「ほらっ」
    ナレ:その様子を見ていた宗熊が笑った。
    信:「宗熊殿?」
    熊:「私は、この場が戦乱の世である事を忘れておりました」
    若:「この者等が居るからでは」
    唯:「若君までぇ」
    ナレ:頬を膨らませる唯。すると信茂が「そうじゃそうじゃ」と言いながら部屋を出て行った。程なく戻って来た信茂の手には色紙で作った飾りが。
    じい:「これを宗熊殿に差し上げよう」
    ナレ:信茂は宗熊と八次郎の首に掛けた。
    熊:「美しい色。これは?」
    じい:「屋敷の中を華やかに飾る物じゃよ。宗熊殿、貰うてくれるか?」
    熊:「はい。大切に致します」
    ナレ:吉乃が掛けていくにはとその色紙を丁寧に畳んだ。受け取った宗熊と八次郎は懐に仕舞った。
    若:「ちと尋ねますが」
    熊:「はい」
    若:「お父上と相賀殿をどのように退散させたのかと」
    熊:「私が・・・いや、大した事ではござらぬ。申せるような事では。ふふっ」
    唯:「なにそれぇ、意味ありげな笑い。企業秘密ってこと?」
    熊:「き?」
    唯:「何でもない・・・まっ、追っ払ってくれたんだから、良いんじゃないですか、若君」
    若:「ん、そうじゃの」
    ナレ:吉乃が冷めたお茶の代わりをと言い手を伸ばすと、それを制止するように、
    熊:「私はもう、お暇致します。暗くなる前に戻らねば」
    若:「ならばお泊まりいただいても」
    熊:「父上の小言を聞かねばなりません」
    じい:「難儀じゃのぉ」
    熊:「致し方ない事にございます。八次郎は残るが良い」
    八:「いいえ、わたくしもご一緒に」
    熊:「良いのか?」
    八:「はい」
    ナレ:するとまた信茂が何処かへ。そして戻って来た手には紙の箱が。
    じい:「宗熊殿にこれも差し上げようかと」
    ナレ:宗熊が箱を受け取り開けると木彫りの置物だった。
    熊:「信茂殿、これは?」
    じい:「三猿と申す縁起の良い置物じゃよ」
    熊:「さんざる・・・猿?」
    じい:「そうじゃよ」
    熊:「名を聞いた事はございますが姿を見た事はございませぬ。猿とはこのような姿にございますか?」
    ナレ:日光土産の三猿。ポップなデザインになっているので、唯は実物は違うんだけどと思っていたが言わずにいた。信茂は尊のパソコンで見た彫刻の写真と似ていたので、
    じい:「近からず遠からずといったところじゃの。謂れは何であったかの?、唯」
    唯:「確か、見ざる聞かざる言わざるって事で、悪い事を見ない聞かない言わないって事らしいわよ」
    熊:「この世では叶わぬ事じゃのぉ」
    信:「さようですな」
    じい:「であろうがのぉ。まぁ、貰うてくれ、旅の土産でのぉ、わしが貰うたのじゃが」
    ナレ:旅と言ってしまい唯に睨まれた。
    熊:「旅?」
    ナレ:唯は頭をフル回転。
    唯:「えっとぉ・・・そう、私が、ほらっ、小垣城から逃げ出した後にね、訪ねた村に有ったのを貰って、私がじいにあげたのよ」
    じい:「そ・・・そうじゃよ」
    熊:「どの村かの?」
    唯:「めっちゃ遠い所よ。私の足速いでしょ。結構遠い所まで逃げる事が出来て。そこで会った人に貰って。旅っちゃぁ旅って事ね」
    ナレ:周りのみんなはハラハラしていた。だが、宗熊は納得してくれた。
    熊:「さようですか・・・美しい」
    唯:「そういう場合は、可愛いよ」
    熊:「かわいい?」
    唯:「ん~そうだなぁ、例えるなら、お袋様が美しいで、私が可愛いって事ね」
    ナレ:信茂が大笑い。
    唯:「失礼ねぇ、笑う事ないでしょ。ねっ、熊は分るよね」
    熊:「分かり申した」
    小:「宗熊殿を困らせてはならぬぞ」
    唯:「小平太さんもぉ・・・若君助けてよ」
    若:「はははっ」
    唯:「もぉ、若君までぇ」
    ナレ:膨れる唯の頭を優しくポンポンと叩き慰めている信茂の顔も笑っていた。
    唯:「もぉ」
    熊:「名残惜しい事にございますが、そろそろ」
    若:「では、お気を付けて。宗熊殿、事あらばお助けいたす所存にございます」
    熊:「忝のう存じます」
    ナレ:みんなに見送られ門まで来ると、信茂が宗熊に抱き着き、
    じい:「親友!親友!」
    ナレ:平成で唯に教えてもらった言葉を連呼した。
    熊:「しんゆう?」
    じい:「大切な友と申す事じゃよ」
    熊:「さようですか。信茂殿と私はしんゆうにございますな」
    じい:「そうじゃ・・・達者での」
    熊:「はい。信茂殿も、皆様も・・・では」
    ナレ:馬に乗ろうとした八次郎に信近が、
    信:「宗熊殿を頼んだぞ」
    八:「はい」
    ナレ:八次郎も馬に乗り、宗熊の後を追いかけた。信茂は両腕を大きく振り二人を見送った。みんなが屋敷に戻ろうと歩き出した。
    唯:「若君」
    若:「ん?」
    ナレ:忠清が振り向くと信茂はその場から動かずに居る。二人が横に行くとさっきまで満面の笑顔だったが今は寂しそうな表情。
    若:「如何した?」
    じい:「は~、何故、わし等は戦乱の世で知り会うたのかのぉ。平成でのあの親子の様に平和な世で知り合うておったならばと思うてのぉ」
    唯:「そうだね」
    じい:「宗熊殿に二度と会えぬのではと思うてしまってのぉ」
    若:「わしにも、それは分らぬ」
    唯:「そんな言い方しなくっても、きっと、会えるよ」
    若:「唯」
    唯:「えっ?」
    若:「お前も分かっておろう」
    唯:「・・・そうだけど。分っているけど。でも、そう思っちゃ、思うだけでもダメ?」
    じい:「唯、お前の優しさは良う分かっておる、若君もの」
    唯:「まぁ」
    じい:「はぁはっ!・・・くよくよしても致し方ないのぉ、宗熊殿はわしが笑っておる方が喜ぶからのぉ・・・のぉ、むじな」
    唯:「え~、その呼び方やめてって言ったじゃん」
    じい:「むじなっむじなっ、ハハハ」
    ナレ:信茂は走り出し唯は追いかけた。その後ろ姿に忠清は、
    若:「お前をこの世に連れて参った事は、唯の為になったのであろうか。平成に居った方が」
    ナレ:声は聞こえていないが。二人がふいに振り向いたので忠清は驚いた。
    唯:「若君、なにしてるんですかぁ、はやくぅ」
    ナレ:唯が手招きをした。その様子を離れて見ていた吉乃が、
    吉:「まことに、唯を・・・」
    信:「吉乃の申したい事は分っておる」
    小:「さようです。母上の申されたい事を唯が聞いたならば、また頬を膨らませ怒るのでは」
    吉:「さようでございますな」
    ナレ:吉乃達の側に来た唯は吉乃の腕に抱き着いたままの格好で中へ。信茂も同じ様に小平太の腕を掴み、嫌がられながら中へ。

    ナレ:宗熊と八次郎は急ぎ高山領へ戻るべく走らせていたが途中、水しぶきがあがった。大きな水たまりが出来ていた。
    熊:「雨が降っておった様じゃの、馬の脚を取られぬように気をつけるのじゃよ」
    八:「はい」
    ナレ:止まって話していると何やら気配が。周りは薄暗いので目を凝らし見ていた。すると、サクッと草を踏む音、そしてシュッとの音の後、宗熊の腹に矢が刺さった。八次郎にも見えた。
    八:「宗熊様!」

    つづく

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    =宗熊の決意 第二章=へ

    第二章を書かせて頂きます。
    初めの方に唯のセリフで
    「熊の好きな人って誰?」
    とあります。
    その意味を先にご説明。
    創作俱楽部 №162 無題⑤(2020.6.12)
    宗鶴が今度こそ松丸の姫と宗熊を結婚させると言い出したが、
    阿湖姫を連れ去ろうとしたことを知っているだろうからと宗熊が言ったが、
    宗鶴はそれは羽木の仕組んだ事だと言えば良いとまで言い出した。
    宗熊はどうにか状況を変えたいと考えていた。
    そこで宗鶴に頼みどうにか了承され松丸へ宛てた手紙を書く事になったが、
    宗鶴には嘘を言い、羽木忠高へ今までの詫びと己で父を止める事を考えている事、
    そして自分には想い人が居る事を文に綴り伝えた。
    それを読んだ唯がその想い人の事を尋ねた。
    という事でした。

    では、毎度のことながら長文になりましたので、5回に分けて書かせて頂きます(^_^)

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    振り返ります二人の平成Days、26から50まで

    no.573の続きです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    26、no.443、磯の香り漂います┅┅┅

    覚さん、水を得た魚になったり、行いました報告にギャグのように慌てたり。そんな夫をかわいいでしょ?と美香子さん。ラブラブです。

    27、no.449、親子水入らず┅┅┅

    母と娘の時間を作ってあげようとそっと立ち去る、さすがの若君。考え方が大人。
    クラッカーのくだりの尊のセリフ「お姉ちゃんが、楽しみなだけじゃん」ホント、その通り。怒り出したかもしれなかったのにね。

    28、no.456、一つ一つ心をこめて┅┅┅

    いたって平和な日常です。父と息子が一緒に木片のヤスリがけ。微笑ましい。本人の意志に関係なく、巻き込まれてしまう尊も、若君の頼みとあらば別格の模様です。

    29、no.461、妬いちゃう!┅┅┅

    話は軽ーく展開していますが、唯はこの時、若君の子供を産み育て、守る!と決意しています(41話)。
    覚さんが、若君の今までを「諦め続ける人生だったんだな」と言いますが、そんな彼が出逢ったのが、諦めるなんて言葉、辞書にはない唯。惹かれて当然だと思います。
    この回のイチオシは、名を書くと言い出した若君が真っ先に書いたのが、速川の家族の名前だった所。走り書きとはいえ、これも大切に保管してある事でしょう。

    30、no.467、語り合おう┅┅┅

    お互いが尊敬の対象という、美しい兄弟愛です。生まれ変わっても、のくだりで、若君の答えに尊が驚いていましたが、これが唯に言わせると、とんちんかん(28話)なのでしょう。いや、これは心の純粋さゆえなんですが。

    31、no.472、腕が鳴るよ┅┅┅

    前段。一回しか着ない服を買わせるのは、と唯も若君も一旦遠慮します。いい子達です。しかし、二回目はありました(61話)。二人とも、二回目喜んで袖を通した事でしょう。
    後段。ひょんな事で、シェフデビューとなりました。観ていたのは、この日本当に放送されていたきょうの料理(no.491)。少しは、リアルを感じられたでしょうか。しかし鯛もあおさのりも、練習できる程買いこんでいたとは。覚さん、これがなかったら何を作ろうとしてたのでしょうか?

    32、no.476、泣けちゃう!┅┅┅

    しばらく若君は、両親を一人占めです。前回平成に来た時も、三人だけというシチュエーションはあった筈ですが、ここまでべったりではなかったでしょうね。懸命にモノにしようとする姿、そりゃあ頭も撫でたくなります。
    この回のお気に入りは、「微塵に、切る」。まるで刀に持ち替えたかのような、華麗なみじん切りが見られそう。

    33、no.477、笑顔を見せてね┅┅┅

    この日の美香子さん、午前の診察ちゃんと出来たのかと思う程、様子を見に来てます。
    覚さん、親の愛情は一方通行と言いました。実の息子ではない若君にも、惜しみなく注ぎます。

    34、no.481、伏せよ!┅┅┅

    車のドアを開けたら、体を頑張って小さくして潜んでた。びっくりだけどかわいい。
    若君のセーターの試着で、唯が腕まくりに興奮していましたが、腕フェチは間違いなく私です。ドラマの若君なら、5話、布団に横たわる姿を頭の方から足先に向けて映している時の、肩から腕のライン。ぼぉっとロウソクの光に浮かび上がっているのが良いです。あと、Blu-rayまたはDVD、SP版の映像特典の中の、クランクアップ集、美香子役の中島ひろ子さんの時、ちらっと映る、私服らしき白いパーカー姿。首の見え方もグッド。この白パーカーを、赤いセーターに脳内変換すると、私のイメージしたセーター姿に近づきます。

    35、no.484、腕の中で咲く花┅┅┅

    どれだけ唯がそこつ者でも、若君には花の蕾に見えるんだから愛の力はすごい。完璧な男性である若君、感性も豊かであって欲しいと思っております。

    36、no.486、行っちゃえ~┅┅┅

    あの手この手で、早いトコ唯と若君を二階に追いやりたかった三人。薄々怪しさに気づきながらも、理由がわからないので流されるように二階に行った二人。全ては録音のため(43話)でした。無事録れて良かった。

    37、no.489、絶妙な掛け合い┅┅┅

    自分の作品で好きな回ベスト3を挙げるとしたら、この回は2位です。唯と尊の言葉の応酬が大好きで、ずっとエンドレスに書いていられます。
    この中に、後に出てくる内容の伏線をいっぱい散りばめました。唯の願いが少しずつ叶っていきます。
    何かのインタビューで、結菜ちゃんが健太郎くんと、次に共演するなら20年後に倦怠期の夫婦役で、と言ってたのを見た覚えがあったので、関連させて入れ込みました。

    38、no.490、手さばきあざやか!┅┅┅

    無事シェフデビューを果たしました。どれも美味しそうです。来週も、と言えなかった両親がさみしそうですが、いつかきっと叶う筈。

    39、no.492、愛を届けます┅┅┅

    年賀状を書きました。このシステムに、唯よくぞ気付いた!しかし、部屋はそこらじゅう半紙だらけです。
    唯は、書かれた字を見て、読めないけど、素敵~と褒めてます。また書き終えた後、待てない若君が迫りますが、軽くいなしています。それぞれ徐々に大人な対応になってきています。

    40、no.493、時空を超えて┅┅┅

    受け取った年賀状を、喜びながらも読めなくて大騒ぎ。唯の願い通り、尊が気付いてくれました。いや、他に書ける所、あっただろと。←赤ペン瀧川さん風で

    41、no.497、フェードアウト┅┅┅

    高3の2学期終わりでの退学、余程の事情があるのだろうと、学校側は考えたでしょう。唯も覚もさみしそうだったし。若君は、朝父娘で出かけ昼過ぎても帰らない、またこの時持ち帰った唯の荷物など見て、ただならぬ雰囲気、どうやら…と感じ取ったのだと思います(46話)。

    42、no.500、お披露目です┅┅┅

    尊がかわいいのでしょう、やたらとからかわれています。まあ、若君に迫られたら、大抵の女子…男子もかも、は、落ちますよね。

    43、no.504、あの日の空と┅┅┅

    タイムラプス。最近はスマホでも撮れる機能がついていますが、2018年当時はそこまで普及していなかった模様なので、尊にデジカメを持たせました。
    オーディオコメンタリー。Blu-rayまたはDVD、本編版の音声特典で大人気でしたね。しゃべってる健太郎くんのお腹の鳴る音まで聞こえると。聞こえ過ぎて結菜ちゃんも呆れてましたね。私もイヤホン使用で聞こえました。今回、尊が鼻をすする音も、二人仲良くイヤホン使うと聞こえちゃうかも。

    44、no.515、冬に遊ぶ┅┅┅

    鏡の中の美しい若君にキュンキュンする唯。周りのアクセサリーが引き立ててました。だるまや雪だるまは江戸時代に登場したので、いくら唯が「歴史ありそうなのに」と思っても、わからなくて正解。
    彼氏が戦国武士である以外は、いたって普通なデートですが、これこそ唯が望んだ日常で貴重だと思います。

    45、no.516、ピッとね┅┅┅

    ICカードに馴染みのない方には分かりにくかったと思います。母心で名前まで入ってました。母心で言えば、唯に穿かせたいタイツを色々選んでいた時、きっと娘の可愛らしい姿を思い描いて、笑みがこぼれていた筈です。

    46、no.517、扉が開く┅┅┅

    唯のヘアスタイルが変わっていく様子をじっと観察。術だと目を見張っていましたが、綺麗に仕立てられていく様子にデレデレだったに違いないです。
    自動改札を、若君が恐る恐る通過した後に、何程でもないとサッサと通り抜けてくる唯が頼もしく、目立ちませんが守ってます。

    47、no.522、エスコートします┅┅┅

    この前の回もですが、公共の場ではしてはいけない事がある、と若君にちゃんと伝えないと、ラブシーンが展開されるので取り扱い注意です。
    混んだ電車内、「被さるように肘を壁に当てて立つ若君」は、Blu-rayまたはDVD、SP版の映像特典の中の、撮影現場メイキング「壁ドン撮影に密着!」内で、結菜ちゃんが冗談で、(どうせ壁ドンなら)これがいい!とやっていた仕草です。健太郎くんが笑いながら、ちっかー(近い)と言ってましたね。なんせ混み合う電車、あまり幅をとると人波に流されるかもしれないので、極力くっついてもらいました。

    48、no.523、告白します┅┅┅

    二人で写真を撮りながらじゃれあう姿、そっと物陰から見ていたい。
    キスシーンが出てきますが、平成Daysでは実はそんなに回数はありません。いや、多かったですかね?最終話ダイブ!の続き、7話、13話、15話、16話、この48話のみです。旅先で腹を決めた時でさえ、なかったのです実は。見ていない所でどうかは、知りません。

    49、no.524、風を纏って┅┅┅

    また、この世界に二人だけかのような展開です。空港そばですごくうるさいとは思うんですが、その分、より近づいて濃密な時間を過ごしています。
    芝生の話ですが、あれ?冬って枯れてない?と思ったので調べたら、夏芝・冬芝とあって、冬芝は冬でも緑色だそうなので、安心して二人を座らせました。

    50、no.525、手のひらに想い出┅┅┅

    若君は、カタカナは読めてない筈です。でも、これ名前なんだよと言われ、そうかと納得して喜んでいます。後にアルファベットも出てくるし(64話)、この先の世は名前一つでも覚える事が多くて大変、と思ったかもしれません。

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    =宗熊の決意 第一章=あらすじ

    宗熊はこのままではいけないと強く思ったが、変える手立てはまだ自分の中にも見えていない。
    一先ず、宗鶴の羽木忠高に対する憎しみ遺恨の理由を知りたいと諸橋に尋ねた。

    宗鶴、忠高の両名は幼い頃は遠駆けに出掛ける程に仲が良かった。昔は隣国での戦でも協力するような関係だった。
    忠高と一条家の姫との婚儀の話を知る前に宗鶴はその姫と出会い恋心を。
    婚儀の席に呼ばれて初めてその相手が自分の想っていた娘だと知った。だが、宗鶴は二人を祝福した。
    そして、忠清が産まれ、そののち母は亡くなってしまった。
    その話を聞いた宗鶴は会いに行くのを我慢して手紙を託した。それが間違いだった。

    その話を聞いた男がその役目を買って出た。その男こそ坂口だった。羽木に遺恨が有り、この機会に高山と羽木の仲を引き裂いてやろうと企んだ。手紙は届けず破り捨てた。

    奥方の死を悼む殿を初め城下の者も喪にふくしていたが、戻った坂口は仲介した男に嘘を話した。
    忠高は悲しんでおらず楽しげだったと。
    その話を聞いた宗鶴は初めこそ信じなかったが、留めは、側室と一緒に奥方を蔑ろにしていたと。
    それを聞き、純粋な心が一気に憎しみへと。それからは性格も変わってしまった。そして、間者を忍ばせる事になった。

    その間者の報告で、伝え聞いた事が嘘だったと諸橋が報告を受け、宗鶴に伝えたが、すでに心は憎しみに支配されている宗鶴は聞く耳も持たなくなっていた。
    諸橋の説明を聞いた宗熊は、嘘を信じた父の心をどうにか昔の様に出来ない者かと考えた。

    それと、諸橋の娘 ゆめに対する想いを告白しようと決めていた。
    ゆめは先達てまで嫁いでいたが、亭主は先の戦で亡くなり、亭主の両親はまだ若いゆめを案じて里に帰る様に勧めた。優しさがわかるゆめは言葉通りに里に戻った。
    そして宗熊は美しく成長した姿に恋心を抱いた。
    この先、どうなるか分からない身だが、妻になってくれと話、ゆめは承諾した。

    さぁこれからどうしようかという時に、相賀一成がやって来た。
    何時も強気な姿とは違って、弱弱しい姿に宗鶴も宗熊も驚いた。相賀は羽木を撃つ為、力を貸して欲しいと宗鶴に頼んだ。宗鶴は承知した。だが宗熊は行かないというと、来なくて良いと。
    宗熊はこの戦は止めないと、と考え、織田の陣に行く事を決めた。その時に伴には諸橋の次に信用のおける八次郎を従えた。宗鶴たちが出掛ける前に二人は急ぎ馬を走らせた。

    織田の陣に到着して、対応した男は相賀一成の弟の成之と名乗った。身の上も羽木成之に似ていて宗熊は驚いていた。
    そして、宗熊は相賀一成を止める手立てとして、高山、羽木いづれは松丸も己の手中に収め、織田信長公に謀反を企てていると真っ赤な嘘を言った。八次郎は驚いた。だが、成之は笑い出し、兄は口達者だが考えたとしても行動には起こせないと。そして宗熊の真意を聞き、二人を止めに行ってくれると約束してくれ、止めてくれた。両者はそれぞれの城に戻った。
    残った宗熊と八次郎は黒羽城へ行った。

    無題の物語のラスト2020.8.29 №253の場面と合流します。

    第二章の新たな登場人物は三郎兵衛と八次郎の両親です。

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    今日はぽかぽか

    妖怪千年おばばさんも、皆さんもお元気ですか~
    こちらはツツジが咲き始めています。結構有名な場所なんですよ(*^_^*)

    私の中では唯とじいはお笑い担当の名コンビだと思っているので、その関係性は変えたくないなぁと思います。

    【宗熊の決意 第二章】に書くにあたっては、第一章が昨年の暮れに書いたので、
    その前に第一章のあらすじを書きたいと思います。

    【宗熊の決意 第一章】(創作俱楽部 2020.11.26~12.7 №340~365の間 計7回)
    本編に登場する人物以外
    ゆめ:宗熊の想い人・諸橋の娘
    八次郎:本編最終回に登場した三郎兵衛の弟・間者として高山に忍び込んでいた。
    相賀成之:相賀一成の弟・一成とは母が違う

    では、第一章のあらすじを(^_^)

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    振り返ります二人の平成Days、25まで

    全70話プラス2話でお送りしてきました二人の平成Days、書きっぱなしもなんですし、1話ずつ簡単に振り返ります。いや、簡単じゃないかも…。私の投稿ばかり幅をとって申し訳ないとは思っております。

    通し番号、投稿番号、サブタイトルの順です。どんな話だったっけ?と遡って投稿を探したい時、サブタイトルとあと通し番号を、掲示板の記事検索欄(板の下の方にあります)に入力すると、ページを戻っていくより早いと思います。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ドラマ最終話ダイブ!の続き(通し番号なし)、no.329、~唯篇~&同じく、no.329、~若君篇~┅┅┅

    静かなひととき、ようやく訪れた二人だけの時間、いつまでも未遂では…個人の感想ですが。どうせなら、たっぷり満喫してもらわないとと思った次第です。あ、そういえば二人きりでなく、源三郎とトヨは見てましたね(no.336、梅とパインさんの作品)。
    若君篇の最後、この世界に二人だけかのような、と締めました。実際、頭に浮かんでいたフレーズは「We’re All Alone」です。曲もありますね。名曲です。
    この回の私のお気に入りは、唯篇の中で若君にもたれかかった唯が、若君の声を「声が体越しにも響いて、全身で若君を聴いているよう」と感じてる所です。唯だけに許される贅沢です。

    1、no.330、一日一日を大切に┅┅┅

    この回の肝はやはり、若君の語る「毎日誰かの誕生日、だから毎日大切」に尽きますが、若き人格者の彼だからこそ、生きた言葉になったなと実感しました。

    2、no.333、仲良きことは┅┅┅

    優しい若君は、じいをカートに乗せたいのですが、もし手に入ったとしても…

    じい「もっと早う走らせい!押せ!」

    小平太パパ「あまり早う走らせると、この道では腰にひびきますぞ」

    じ「いいから押せ!」

    小パ「はあ。知りませんよ、はい」

    じ「おっほ~。ん、ギャー!痛たたた!これ!早う止めんかぁぁ…」

    小パ「しまった、この道少し下っておったわ」

    …てな感じでしょう。

    3、no.338、おつかいできたかな┅┅┅

    ケーキ越しに若君なんて眼福もいいところ、店員さん達は超ラッキーです。漫画で背景に薔薇をしょって、でなくケーキをしょって?実際には米をしょって帰りました。

    4、no.346、賑やかな食卓┅┅┅

    もし若君が、エプロン姿で手巻き寿司作ってくれて渡してくれたら?そんなイベントあったら行列できそう。
    平成Days中、若君は唯の手料理を食べる事はありませんでした(48話)が、この時だけ、やたらデカくて具がはみ出まくっている手巻き寿司を食べさせられています。

    5-1、no.347、質問です┅┅┅

    落雁は、唯の甘~い思い出お菓子ですね。眺めていたい気持ちはわかる。そして、ただぼやっと過ごす事なく、何でも吸収しようとする若君に、言葉尻を捕らえられてしまいました。迂闊な事は言えません。真剣に聞いてますから。

    5-2、no.348、慈愛┅┅┅

    ドラマ本編やSPをご覧になっている皆さんに、ここまで事細かに経緯を伝える必要は、ホントはありません。この時点では、くどいなと感じられたと思います。でもこのあと、美香子さんは怒り心頭に発する(19話)ので、なぜそうなったかの伏線的な回でした。

    6、no.353、尊の指南┅┅┅

    尊が言えば若君が言う。オウム返し状態で、いかにも勉強してますといった風情の、かわいらしい相思相愛の兄弟の姿です。愛の囁きの言葉のほとんどを、尊が教えている事実。それこそ「面白い」。

    7、no.357、早起きは三文の徳┅┅┅

    朝からラブラブ過ぎたりして感情の起伏が激しかったので、この日の夜には、唯の体がおかしくなります(15話)。若君の中では、愛してる、は自分の想いを的確にとらえていて、腑に落ちたのでしょう。意味を理解していると言ってますし(16話)。しかし、伝え方が策士。

    8、no.358、速川家の婿殿┅┅┅

    この日、軽く転機を迎えます。若君の苗字を速川と書きました。こうやって、現代の生活に溶け込んでいきます。この時の美香子さんの機転が、後にICカード(50話)やDM(53話)に繋がりました。

    9、no.362、誓います┅┅┅

    SPの小垣城での別れの際の約束は、生き抜く、遠く離れていても、でした。この回で、傍らに居て、共に生き抜くと誓います。平成に飛ぶ直前、櫓の上で唯が「もう二度と離さないで」と呟きましたが、若君は微笑んだだけでした。彼が離さぬとはっきり告げるのはもっとずっと後(46話)ですが、この誓いを聞いて、唯は安心できたと思います。

    10、no.363、降臨!┅┅┅

    女子二名がキャーキャー選んでいます。これが母娘か、と微笑ましく思いながら相手を務める男子一名。一番大人しくて一番大人。

    11、no.364、親しみをこめて┅┅┅

    この日、大きい転機。呼び名が変わります。聞きなじみのない音の響きに、さぞかし戸惑ったでしょう。
    唯の事だから、彼氏っぽくって良くな~い?とか思ったに違いない。お慕いします若君、から一緒に居ようねたーくん!位の大転換。なれなれしいと言えばそうなんですが、現代では若君~と叫ぶ方が周りが驚きますから、たーくんで妥当だと思います。家族としても距離が縮まりました。

    12、no.368、本物だもの┅┅┅

    守ると決めたらトコトン守る。カメラマンに声をかけられても、一切若君に喋らせませんでした。世渡りも上手い唯。

    13、no.371、笑顔で完成┅┅┅

    ドタバタしながらも、順調に撮影。最後に指輪登場。きっとこの日一番の笑顔が撮れたと思います。

    14、no.375、家族の一員┅┅┅

    若君が、結婚指輪の意味や意義をどれだけ理解していたかはわかりません。唯が実際どう思ってたかの補足ですが、実は話の流れの関係で、除いたセリフがあります。

    覚「指輪、持って行きたいんじゃないのか?」

    唯「ううん。失くしたら立ち直れないから、置いてく」

    …ちゃんと納得の上でした。

    15、no.383、溢れるほどの┅┅┅

    一日色々あって、体調を崩したのでしょう。好きな女の子が目の前で大泣きしている。放っておく筈がない、と女の打算が働いたとは思いませんが、ちゃんとわがままを聞いてくれました。

    16、no.385、溢れたあとは┅┅┅

    ラブラブが展開されてる裏で、どこか調子っ外れな両親と、いつもツッコミ役に回らざるを得ない尊のコンビネーション。この対比が好きなので、所々出てきます。若君が頑張ってくれたおかげで、面会時間も一時間延びました。かなり自由度が増したと思います。

    17、no.388、邪魔しないで┅┅┅

    都合良く給湯器が壊れ、大きいお風呂の予行練習となりました。尊は、少しでも岩盤浴行ったのか?汗はかいたのか?行ってない気がします。

    18、no.392、ママ!┅┅┅

    この回で若君が、ありがとう、を使います。礼を申す、が良くない訳ではありませんが、彼なりにこうした方がいいんじゃないかと考えた結果の選択ではないかと。戦国言葉と現代語、二つを使い分ける、バイリンガル若君です。

    19、no.394、大事な息子┅┅┅

    親の心子知らずとしたモノで、ホントにこの子ったら!とかなり叱られてしまいました。唯もほとんど口を挟んでいません。そして口答えもせず素直に聞く。彼が知ったのは、唯が居る幸せプラス、実の子のように接してくれる両親や、慕ってくれる弟が居る幸せでした。

    20、no.395、歩み寄ります┅┅┅

    唯は完全浮かれモード。説明はほとんど、小姓の尊がしてます。with小姓…確かに柚子胡椒と似てる(2話)。呼ばれて返事をする時は、声を揃えると喜ばれるらしいと学習する若君。この回の中で変化していきます。

    21、no.404、願いは叶う┅┅┅

    イルミネーションと、夜の海。相反しますが、どちらの美しさにも感動。優しく見守る父と弟。そして、はしゃぐ女子二名。いくつになっても、女子にしといてあげてくださいな、覚さん。

    22、no.412、ひらめいた!┅┅┅

    ずーっと、考えていたんですねぇ。答えが出て良かった。豪華会席料理、旅行の醍醐味の一つですね。
    お気に入りは、若君が固形燃料が燃え尽きるのをじっと待ってるところ。松明やロウソクとはまた違う、揺らぐ炎。見入っちゃうのはわからなくもない。

    23、no.422、ショック!┅┅┅

    ジェンガ登場。見てる限り、若君は倒してばかりです。戦国の皆さんにお披露目する前に、猛特訓する筈。
    部屋割にグズグズする唯、この後の展開がわかっているから怖かったのかな。避けてひっぱたいてオロオロします。祝言あげたんじゃないのか!とツッコまないと。

    24、no.427、あなたの全て┅┅┅

    やっと、やっと…です。私のお話では無事?こうなりました。
    途中、おいで、と言っています。え、そこは、近う参れじゃないの?と思われたかも。どこで覚えたかですが、多分、覚さんが呼ぶ時に使ってたか、テレビで言ってたか。唯が、キュンとさせる作戦?と思いながらハマってるので、まあ良しとしてください。実際、目の前で言われたらドキッとするでしょうし。
    この回の肝は、唯が話す「言って」です。以前戦国にて、二人のお気に入りの場所で再会した時、唯が心で叫んだ言葉です。その時は、勿論どうしようもなかったけれど、欲しい答えは言ってもらえなかった唯。だから、流れでなんとなくでなく、どうしても若君の口から伝えて欲しかった。思っていた以上に優しく誠実に申し込んでくれて、感動していました。

    25、no.437、特別な朝┅┅┅

    終始、からかわれている唯です。ただ、この前の晩の話(60話)では、若君は好き好きモード爆発してます。唯はそれを知りませんが。愛する唯をとうとう手に入れて、安心した男の余裕、かもしれませんが、どちらかというと、好きな女子についちょっかい出しちゃう男子、に近いかな。

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    二人のもしもDays3、記憶に残るお花見篇

    初めてご覧になる方へ。私が僭越ながら描きました妄想物語、「二人の平成Days」の設定で、唯と若君が、本来現代に居ない時季に居たなら、どう季節のイベントを過ごしたかをお送りしています。

    今年は、桜前線が通り過ぎるのが早いですね。早春の風情を、少しでも感じていただけたら。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    3月下旬のある日、夜8時の実験室。

    若君「…」

    尊「…」

    男子二人は、将棋を指している。

    唯「…」

    唯は、3月4月のカレンダーの拡大コピーに、何やら書き込んでいる。

    尊「お姉ちゃん、さっきから黙って何やってんの?妙に静かで変だし」

    唯「…は?作業中だから、邪魔しないでよ」

    尊「わざわざここでやる意味あんの?」

    唯「いいじゃん、9時まではたーくんのそばに居ても」

    若「傍には居るが、ずっとこのような案配なのじゃ」

    尊「えーっと、この状況を整理しないと訳わかんないな。まず若君は、姉が構ってくれないので僕の所に来た。だけど、なぜか姉はついて来た。ほったらかしなくせに近くには居たいらしい。…いや、そもそもさ、若君がフラれたってどういう事?!前代未聞、空前絶後!どうした姉ちゃん!」

    唯「…」

    尊「聞いてる?」

    唯「え?私?」

    尊「若君がこんな、捨てられた子犬みたいな顔してるのに」

    唯「あー、悩むなー」

    尊「聞いてないな。一体何してんの」

    唯「いつ、花見に行こうかと」

    尊「花見?黒羽城公園だってまあまあ咲くよ?」

    唯「わかってる。せっかくだから、わさわさ~っていっぱい咲く名所に、たーくんを連れてってあげたいの」

    尊「ほー。そんなん、行く場所決めればすぐじゃん。何か所も行くの?」

    唯「たぶん一か所しか行かない」

    尊「じゃあ何でそんなに悩むの」

    唯「名所ってさ、たいてい桜祭りとかやるじゃない」

    尊「やるね。凄い人だよ。僕なら、桜より人が多い所は行きたくない」

    唯「桜は咲いてるけど、お祭りはやってない時に行きたいの」

    尊「へ?出店とかないよ?いいの?」

    唯「超イケメンのたーくんを、そんな人混みに連れてったら…」

    尊「囲まれそうで、守るのが大変?」

    唯「さらわれそうで、守るのが大変」

    尊「まさか、と言いたいところだけど、スカウト的なのは有り得るな」

    唯「だから、最新の開花状況と、いろんな名所のお祭りの日程を書き込んでんの」

    尊「なるほど、それはかなり複雑だ。…じゃあ、僕も考えるよ」

    唯「え、関係ないのにいいの?」

    尊「僕も一緒に行きたくなった。デートの邪魔はしないからさ」

    若「尊も共に?」

    唯「え?それは逆に、二人でたーくん守れるから安心だけど、なんで?」

    尊「人がそこまで居ないから、静かに花見ができそう」

    若「全く以て出るのは苦手、ではないのじゃな」

    尊「はい。若君と遠出もいいかなって」

    唯「私が邪魔みたいじゃない」

    尊「そうかも?ウソウソ、じゃあ将棋の続きはまたという事で。お姉ちゃん、考えとくからさ」

    唯「なに」

    尊「早く子犬拾ってあげて」

    唯「え?あ、お待たせ~たーくん、ごめんね~」

    尊がバイバイと手を振る。

    唯「ん?出てけって?」

    尊「制限時間が迫っていますどうぞお時間を有効にお使いください」

    唯「なによその棒読み~」

    若「ならば唯、部屋へ参ろう。尊、忝ない。また9時に戻るゆえ」

    尊「はい、お待ちしてますね」

    二人を見送る尊。

    尊「子犬かそれとも狼か。まぁ、どのようにでも」

    9時。若君が実験室に戻って来た。

    尊「お帰りなさい。大体、書き込みましたよ」

    表は、パソコンの中に作成済み。

    若「おぉ、さすがに尊、事が早いのう」

    尊「超体育会系の姉が考えるより、超理系の僕が考えた方が、早いは早いですね」

    若「その、超何系とやらは」

    尊「はい?」

    若「わしならば、どのように表す?」

    尊「あー。えっと、何か一つの分野が優れているとそう言うんです。僕だと、こういうのは得意ですけど、運動は全くダメですから。若君は、全てに優れているから、当てはまる物はないです」

    若「弱い分野、はあるぞ」

    尊「何ですか?」

    若「唯じゃ」

    尊「なるほど」

    若「ハハハ」

    ドアを叩く音。

    覚「おーい、また何か作ってるのか?コーヒー持って来たぞ」

    覚が、お盆片手に入って来た。

    尊「お父さん、ありがとう」

    若「痛み入ります」

    覚「将棋か。ん?何だこの、線だらけの紙は?」

    尊「お姉ちゃんが、若君と花見に行きたくて、日程を吟味してた跡」

    覚「花見?黒羽城公園もそろそろ咲くじゃないか」

    尊「やっぱりそう思うよねぇ。若君を、名所に連れて行きたいんだって。でも、お祭りとかやってない時がいいって言うから、どうずらすか日程をパソコンに入れ直してたんだよ」

    覚「どんな桜が見たいんだ?」

    尊「どんな?それは聞いてない。やっぱり満開なんだろうと思うけど」

    覚「オススメの、桜の名所があるんだがな。ただ、満開じゃなく、終わりかけがいいんだ」

    尊「散りかけって事?」

    覚「ああ。風情があるから、若君は気に入ると思うけどな。お前達さえ良ければ、車で乗せてくぞ」

    尊「え、いいの?って、お姉ちゃん居ないのに決められないか」

    若「父上がそう仰せられると、是非にとは思いますが」

    覚「一つだけ条件があるしな」

    尊「何?」

    覚「家を、朝3時頃に出発する」

    尊&若「えっ」

    翌日。

    唯「じゃあ、満開の桜は、いつもの公園で楽しめって?」

    覚「満開だけじゃないぞ。桜は、ちらほら咲き始める様子もいい。近いから頻繁に行って、そういう移り変わりも楽しめばいい」

    唯「そのオススメスポット、わさわさ~っていっぱい咲く?」

    覚「勿論だ。朝早く行くから、人は居ないし」

    唯「わかった。じゃあメインのお花見はそっちにするよ。いつ頃行くの?」

    覚「多分、4月始めのどこかだ。開花状況で変わるから、行くと決めた日の前の晩に言うからな」

    4月になりました。第一週。

    覚「明日、決行だ」

    唯「わかったー。今日は早く寝ないとね」

    尊「面会時間終わったら、すぐ寝ますか」

    若「そうじゃな」

    美香子「今年も行くのね」

    覚「行ける時はな。目測を誤って、シャッターチャンスを逃した年もあったが」

    唯「たーくん、お父さんね、実はカメラが趣味なの。あそこに並んでるでしょ」

    リビング奥の棚に、ずらりとカメラが並ぶ。

    若「あれは、使いもするのじゃな」

    唯「使うって?」

    若「父上が、よく磨いては戻されるので、ただ眺めて愛でる物かと」

    美「あら~。これはお父さん、ぜひいい作品撮影して、若君に見せてあげないと」

    覚「そうだなー」

    翌朝3時。まだ真っ暗。車に乗り込む四人。

    覚「では出発、じゃないな、出立いたす」

    唯&若&尊「ははっ」

    尊「お母さんも行きたかっただろうね」

    覚「平日だからな。渾身の一枚を土産にする。着いたら起こすから、寝てていいぞ」

    唯「おやすみー」

    尊「早っ」

    しばらく車内は静かだったが、

    若「父上」

    覚「え?あ、若君起きてたのか」

    若「父上が運転する中、眠るのは忍びなく」

    覚「そうか~。若君が優しい息子で嬉しいよ」

    若「遠方なのですね」

    覚「車で一時間位かな?あ、最寄り駅からそう遠くないから、電車でも行けるよ」

    若「そうですか」

    覚「もし、また行ける時があったら、な」

    若「はい」

    覚「桜はどう?永禄のとは全然違うだろうけど」

    若「城にも桜はありました」

    覚「そうなんだ」

    若「本数の多さにも驚きましたが、色が違います」

    覚「その当時は山桜かな。確か白いよね。今、主に咲いてるソメイヨシノは、もっと後の時代に生まれた品種だからね」

    若「唯が、これが桜色だと申しておりました。あと、一斉に咲くと聞き、どうしても解せぬのです」

    覚「あぁ、接ぎ木で増やすからね。全部が元の木の分身だから、咲く時期も同じ。クローンってヤツだ」

    若「それがわからぬのです」

    覚「尊には聞いた?」

    若「はい。ただ、詳しく尋ねようとしたら、唯が、そういう物と理解せよと」

    覚「変な横槍が入った?ごめんね、乱暴な娘で。また尊にこっそり聞くといいよ」

    若「ハハハ、はい」

    4時半頃到着。辺りはまだ暗い。現地は、比較的小さな川。川に架かる橋の上で三脚を立てる覚。

    覚「早く出た甲斐あって、いい位置に陣取れたよ。あ?これも戦っぽい言葉だな」

    両岸に、何キロにも渡り桜が植えられている名所。まだ点いている街灯に、所々照らされ、長く続く様が見える。

    唯「すごーい、左を見ても、右を見ても、奥までずーっと桜!」

    枝が競うように伸び、川の中央でクロスする所も多い。

    尊「桜のトンネルだね」

    唯「キレイ~。あっ、川の中見て!」

    若「おおっ」

    尊「わー、花びらで埋まってる。一面ピンク色だ!」

    覚「花筏って言うんだぞ。川面に浮かぶ花びらを、こう表現する」

    若「花筏…実に美しい」

    覚「黒羽城公園は、お堀だから水の流れがないが、ここはゆったりと流れるから、それがまた筏らしくていいんだ。満開過ぎてるからこその風景だな」

    唯「で、これがオススメスポットのオススメ?」

    覚「これもいいんだが、そろそろ日の出だから、もうすぐだ」

    唯「ふーん。充分キレイだけど、なんだろ」

    しばらく待っていると、ようやく日が差してきた。覚がカメラを準備する。

    尊「なんだろ?ワクワクするね、若君」

    若「そうじゃな」

    その時、一瞬、風がそよいだ。

    覚「よし、今だ」

    優しい風に背中を押されるように、大勢の花びら達が枝から一斉に飛び立ち、辺りに舞い降りる。朝の柔らかい光を纏いながら、はらはらと踊り、橋の上にもやってきた。

    唯「わぁ、すごい!待って、待って」

    尊「えいっ、あー、惜しい!」

    桜色の世界を逃さないよう、頻りにシャッターを切る覚。花びらを捕らえようとはしゃぐ唯と尊。

    若「なんと雅な…」

    桜の最後の姿に見惚れる若君。そこへ、

    唯「んん~!」

    花びら一枚くわえた唯が、見てーとばかりに走ってきた。

    若「ほぅ、見事に咥えたのう。手ではなく口、が、いかにも唯らしいが」

    唯の唇から、桜をそっとつまみ取った若君。

    唯「うまく捕まえたでしょ?」

    若「あぁ。ただ…」

    唯「なに?あっ」

    若君の顔が近づく。周りを気にしながらも、そのまま花びら舞う中で口づけた。

    若「…桜に先を越され、ちと気に食わぬがの」

    唯「え、花びらに嫉妬?たーくん、なんてかわいいの~」

    ひとしきり撮影した覚が、デジカメを取り出した。

    覚 心の声(子供達も撮っておこう)

    眩しさを増した朝日を浴びて、桜が煌めく中、三人の姿を遠巻きに撮影。

    覚 心(もう十年以上前になるな)

    唯と尊は忘れてしまっているが、二人が小さい時、家族四人でここには訪れている。

    覚 心(あの頃と同じはしゃぎ方だ)

    カメラを持つ手を下ろし、三人の姿を見つめ微笑む。

    覚 心(若君も…もしその頃一緒に居たら、きっと喜んでくれただろうな)

    小さくも凛々しかったであろう、若君の子供時代を想像し、思いを馳せた。目を閉じると、子供の姿で三人が駆け回る。

    若「父上?」

    覚「…あ、あー若君か。どう?この桜」

    若「はい。儚げな様に趣があり、大変気に入りました」

    覚「良かった。春の風って、昼過ぎると強いだろ?この、落とすか落とさないか、って位の風はやっぱり朝なんだよ。ここは川幅が狭いから、綺麗にカメラのフレームに収まってこれまたいいんだ。って、あっ、つい熱く語っちゃったな」

    若「ハハハ。それゆえ、今、此処、なのですね」

    唯と尊が戻って来た。

    尊「お父さん、時々花筏がボコっと動くんだけど、何か魚いるの?」

    覚「あー、ここは鯉も鮒もいる。あそこに階段見えるだろ、近くまで下りられるぞ」

    唯「行く行くー。たーくん、行こっ」

    川岸近くで魚を見つけ、はしゃぐ三人。

    覚 心(連れてきて良かった。なにより僕が癒される)

    そろそろ帰ります。車に乗り込む。

    尊「お姉ちゃん、黒羽城公園には毎日行ったんでしょ?」

    唯「うん、たーくんと観察した」

    尊「写真、撮ってるよね?」

    唯「撮った。なんで?」

    尊「後でスマホ貸して。パソコンに、この前作ったカレンダーそのまま残ってるから、日付の所に写真貼り付けて、桜カレンダー作ってあげるよ」

    唯「えー、ありがとう~」

    若「唯」

    唯「はい?」

    若「今後、花見に行くならば、祭りがある時分で構わぬ」

    唯「そう?なんで?」

    若「満開になる頃、公園に少しだが店が出ておった。祭りは、そのような店が多く出るのであろう?」

    唯「うん」

    若「片っ端から、全て買うて食しておったじゃろ。唯は、店がある方が良かろうと思うての。己の身は己で守るゆえ」

    尊「あはは~、食い意地を見透かされてるよ」

    唯「やだぁ。じゃあいつか、行こうね!どのお祭りに行こっかな~」

    若「ハハハ。…父上」

    覚「何?若君」

    若「この桜、生涯忘れませぬ」

    覚「ありがとう。連れて来た甲斐があったよ」

    朝8時。ただいま帰りました。

    唯「お母さん、ただいまー。あーお腹空いたぁ」

    美「おかえりなさい。朝ごはん、できてるわよ」

    尊「わー、お母さんのご飯、久しぶりだ」

    若「母上も、作られるのですね」

    美「ちゃーんと、作れるのよ?」

    若「ご無礼致しました」

    覚「ただいま。母さん済まない、クリニックの準備もあるのに」

    美「いいわよ~期せずして若君に、私の腕も披露できたし。じゃあ食べてね。準備しに行くわ」

    覚「ありがとな」

    四人を見届け、クリニックへの廊下を歩く美香子。何かに気付いた。

    美「まぁ~、可愛いお客様が」

    廊下に、体にくっついて来たらしい花びらが、点々と数枚落ちている。

    美「そのままにしときましょ」

    桜、の唄を口ずさみながら、クリニックに入っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ずっと、美しい自然でありますように。

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    お疲れ様です&おかえりなさい~

    夕月かかりて様
    長編、おつかれさまでした!
    でも、まだまだこれからって感じですね~。
    次も楽しみにしてますね。

    ぷくぷく様
    お待ちしてましたよ~。
    キャスト勢揃いの平成ライフ、
    また、じいのお茶目キャラが
    楽しめて嬉しいです。
    お元気そうでよかった(^^♪

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    土産 その2

    土産 その1
    じいがトイレに行きたいと唯のスマホにLINEが来た。
    *************
    ナレ:唯は隣の覚にそっとスマホを見せた。
    覚:「ちょっとすみません」
    ナレ:唯の袖を軽く引っ張った。美香子は唯にスマホを渡され見て驚いた。シンクの前に行き三人に背を向け、
    唯:「どうする?」
    ナレ:二階にトイレは無いし、階段を降りて、直ぐ側では無いとしても三人の後ろを通らないと行けない。
    唯:「お父さんと私が三人の後ろに立って見えないようにガードして、その隙に」
    覚:「だが」
    ナレ:広い面に三人は座れないので宗之は庭側に座って居る。横を向けば宗之に見られてしまう。どうするかと思案しているとまたLINEが。美香子が二人に見せた【限界】の文字。
    唯:「怪し過ぎるけど三人で横並びになるしかないよ」
    ナレ:三人がコソコソ話しているので、
    聡子:「あの、そろそろ私達おいとましますね」
    ナレ:今行かれたら、そこまで来ている信茂の姿が見えてしまう。
    美:「大丈夫よ」
    ナレ:腰を上げる聡子の両肩に手を当て座らせた。そして思い切り怪しい三人は横並びで廊下側に立ちLINEで【OK】と送った。信茂が出て来て廊下に向きを変えた時に肘を壁に打ち付けた。
    じい:「イタッ!」
    ナレ:その声に宗之が横を向き覚と唯のすき間から見える人物と目が合った。宗之の「あっ」との声に聡子と幸助も振り向いた。信茂の姿はいつも通り髪を結い、ピンクのスウェット。違和感あり過ぎの格好。時が止まった様に誰も動かない。だが状況を忘れた信茂は、
    じい:「宗熊殿じゃぁ」
    ナレ:抱き着いてしまった。覚、美香子、唯、尊は心の中で「あちゃ~」と言った。
    宗之:「あの、これ、あの、ど」
    ナレ:驚きで言葉にならない。
    唯:「じい、離れなさいよぉ」
    ナレ:覚と一緒に宗之から離した。
    じい:「すまなんだ、嬉しゅうて、忘れておった・・・この様な真似はお前が申しておったヤバイと申す事であったかのぉ」
    唯:「そうですよ。もぉ」
    ナレ:信茂はバツの悪そうに身を屈めた。
    幸助:「あのぉ、この方は役者さんですか?」
    ナレ:どう答えていいのか分からないで黙っていると、普通に居ても違和感のない格好の忠清が騒ぎに降りてきた。
    宗之:「君はあの時の」
    若:「はい」
    宗之:「あのぉ、この方はどう言った方なんですか?」
    ナレ:唯はみんなの顔を見て、
    唯:「この際」
    美:「唯?」
    唯:「皆さんがこのまま帰って話さないとしてもモヤモヤしてしまうでしょうし」
    幸助:「あの?」
    覚:「そうだな。皆さんを信じて」
    聡子:「どうしたんですか?」
    ナレ:唯は階段の下に行き、
    唯:「みんな降りて来てぇ」
    ナレ:帰った様子は無いので、みんなは大丈夫なのかと話乍ら降りてきた。三人は信茂の他にも同じような格好の人物に驚いていた。
    唯:「あの、今から私が話す事を信じられないと思いますが、誰にも話さないと誓って下さいますか?」
    ナレ:三人は頷いた。
    唯:「この方たちは、タイムスリップ、じゃなくてタイムマシーンで戦国時代からやって来たんです」
    幸助:「えっ、あっあの、それは本当なんですか?」
    じい:「まことの事じゃよ。この尊のこしらえた、ん?」
    尊:「タイムマシーン」
    じい:「そのたいむましんとやらに乗って参ったのじゃ」
    幸助:「はぁ。君が作ったの?」
    尊:「はい。今の僕と未来の僕で。でも、それももう一度使うとこの先は使えなくなるんです」
    宗之:「すごいね君は」
    尊:「ありがとうございます」
    唯:「じゃ、紹介しますね」
    ナレ:立って居た三人を座らせ紹介した。
    唯:「宗之さんと会った彼は若君様の羽木忠清様、私の夫です」
    宗之:「えっ?」
    唯:「私が弟の作ったタイムマシーンで偶然、戦国時代に行って知り合いました。私が16歳で若君が18歳の時だったから、現代でも結婚できますから」
    宗之:「そうですね」
    唯:「隣が若君のお兄さんで成之様、その隣が奥さんの阿湖様、じいの天野信茂様、その息子さんの信近様、その息子さんの小平太様、家臣の源三郎様、そして吉乃様。吉乃様は私が戦国に行った時に最初にお世話になった人です。お袋様と呼んでいます」
    ナレ:唯に紹介されるとみんなは笑顔で会釈していた。信茂はニヤニヤ。
    唯:「じい、何よ?」
    じい:「いやなぁ、お前がわし等に様を付けて呼んでおるのが可笑しゅうてのぉ」
    唯:「そんなこと言うなら、じいの事もう絶対、名前で呼ばないからねぇ」
    じい:「構わんよぉ、むじな」
    唯:「何それぇ、みんなの前で呼ばなくてもいいじゃん」
    覚:「唯も信茂様も、お客様の前で」
    美:「すみません」
    聡子:「いいえ、とても仲がよろしくて、微笑ましい光景ですよ」
    若:「わし等も、二人が居れば楽しゅうございます」
    唯:「もぉ、若君までぇ」
    宗之:「あの、先程、むねくまどのと」
    じい:「わしの友に高山宗熊と申す御仁が居っての、父もそなたの父によう似ておっての」
    幸助:「私もですか?」
    じい:「そうじゃよ、瓜二つにの、似ておっての」
    宗之:「そうなんですか」
    幸助:「じゃ、俺たちは前世も親子だったんだな。じゃ、来世も親子になるのかな」
    宗之:「え~、それは勘弁してほしいなぁ」
    幸助:「なんだとぉ」
    ナレ:幸助は後ろから宗之に抱き着き、
    幸助:「そんなこと言うなよぉ」
    宗之:「皆さんの前で恥かしい事しないでよ」
    聡子:「すみませんね。家には子供が三人」
    幸助:「ん?もしかして俺も入ってる?」
    聡子:「そうよ。時々、息子の方が父親かと思う事がありますから」
    宗之:「ほんとだよ」
    幸助:「なんだとぉ」
    ナレ:また抱き着いた。
    幸助:「信茂様」
    じい:「なんじゃ?」
    幸助:「戦国の親子も仲が良いんでしょうね」
    じい:「そなた達の様じゃよ」
    ナレ:真実を言う事も無いと思った。みんなも頷いて見せた。
    聡子:「あなた、そろそろ」
    幸助:「そうだな。お騒がせしました」
    覚:「こちらこそ」
    唯:「あの」
    宗之:「私達は楽しい夢を見たと思います。それだけの事です」
    若:「忝い」
    唯:「ありがとうございます」
    幸助:「では失礼します」
    ナレ:熊田家の三人を見送った。
    唯:「でも」
    吉:「あの者達を信じましょう」
    唯:「そうですね」
    ナレ:覚はみんなにお茶を淹れていた。信茂たちは甚五郎煎餅を食べていた。信茂が置物の入った箱を開けた。
    じい:「これは何じゃ?」
    覚:「この前テレビで見た日光の陽明門のある東照宮の厩だったか、そこに彫刻されている有名な三猿です。尊」
    尊:「ん?・・・あぁ、ちょっと待ってて」
    ナレ:尊は実験室からノートパソコンを持ってきて三猿の写真を出した。
    成:「まこと現代とは不思議な物が有るのぉ」
    若:「パソコンと申しての、色々な物が映し出されるのです」
    小:「尊がこしらえたのか?」
    尊:「これは、違います・・・で、これですね」
    じい:「ほぉ、似ておるのぉ」
    ナレ:握って居る姿を見て美香子が、
    美:「信茂様、気に入られたのであれば差し上げますよ」
    じい:「じゃが、これはそなた達が貰うた物であろう」
    美:「聡子さん達も喜びますよ」
    じい:「良いのか?」
    覚:「はい」
    じい:「忝いのぉ」
    小:「おじい様、また土産が出来ましたな」
    じい:「そうじゃの」
    ナレ:信茂は嬉しそうに置物を見ていた。
    唯:「ねぇ、じい」
    じい:「なんじゃ?」
    唯:「トイレに行きたかったんじゃないの?」
    じい:「あっ!・・・そうであった!」
    ナレ:信茂は慌ててトイレに駆け込んだ。
    唯:「じいったらぁ、あははは」
    ナレ:みんなも笑った。

    おしまい

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    今までの二人の平成Days、番号とあらすじ、51から最終話まで

    no.529の続きです。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    51no.527、12/22、現代語と機転が完璧でコーチも納得

    52no.528、12/22、プレゼント決定。帰りの電車で戯れる

    53no.530、12/22、二人宛のDMが待ち遠しい

    二人のもしもDays2no.533、とある年の2月中旬、お手製雛飾りの前で祝言を再現

    54no.534、12/22、メッセージカード作成

    55no.535、12/22、爆笑テレビショッピング

    56no.536、12/22、涙涙でコメント聞けない

    57no.537、12/22、写真集見ながら姉弟コント

    58no.540、12/22、風呂あがりも超ラブラブ

    59no.544、12/22、布団五組並べて語り合う

    60no.545、12/16、好きが溢れる夜から朝

    61no.546、12/23、公園の案内板換えました

    62no.547、12/23、背中借りて決意の涙

    63no.548、12/23、ジェンガにそっくりなアレ

    64no.549、12/23、荷物確認。ハネムーンのようにレイを

    65no.551、12/23、呼び名戻す問題と餞の丸いケーキ

    66no.552、12/23、クリスマスパーティー。クラッカーに感心する若君

    67no.557、12/23、ケーキ入刀。若君の様子がおかしい

    68no.559、12/23、わかってるから隠さないで

    69(終)no.560、12/23、三人へのプレゼントを部屋のドアに。未来の展望を語る二人

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    ありがとうございました

    創作倶楽部が大賑わいでございます。

    梅とパインさん、ぷくぷくさん、てんころりんさん、ありがとうございます。

    全ての方に好まれて納得していただける物語、はそもそも無理です。お気に召さなかった回もあったと思いますが、その中で例え一話でも、心の琴線に触れるお話があったのなら、それだけで万々歳!恐悦至極に存じます。

    てんころりんさん、寸止め派。だと思いました。足早でも、読んでいただけて良かったです。

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    土産 その1

    登場人物(本編の人物以外)
    宗鶴にそっくりな 熊田幸助
    幸助の妻 熊田聡子
    宗熊にそっくりな 熊田宗之

    *************

    ナレ:数日で永禄に戻るある日の朝。
    尊:「行ってきます」
    若:「尊、励め」
    尊:「はい」
    ナレ:尊は学校へ。美香子は診察室へ。覚は片付け。吉乃は覚の手伝い。忠清は掃除。唯と他の面々は覚の淹れてくれたお茶をのんびり飲んでいた。
    小:「お前は何もせぬのか?」
    唯:「やる事ないし」
    覚:「唯」
    唯:「はぁい。私が明日掃除するから。若君、いいですよね」
    若:「承知した」
    覚:「その言い方もなんだかねぇ」
    じい:「わしは、お前の平成での暮らしぶりが、よう分かったぞ。ははは」
    覚:「良くお分かりで」
    唯:「もぉ」
    ナレ:いつもの様に膨れっ面。
    じい:「お前はムジナでのうて、あのフグの様じゃの。ははは」
    唯:「どっちも、やだなぁ」
    吉:「父上様も、唯も幼子の様です」
    信:「そうじゃの。ははは」
    ナレ:信茂と唯は頬を膨らませ信近を睨んだ。すると番組の中で日光の陽明門が映し出された。
    源:「これは、見事な物ですね」
    覚:「日光という場所にある東照宮の陽明門ですね」
    唯:「小学校の遠足で行ったこと有るけど、あんまり覚えてないなぁ・・・あっ、そうだ、お父さん」
    覚:「どうした?」
    唯:「水族館だけじゃなくて、他にも見せてあげたいんだけど、此処は?」
    覚:「それは無理だろうな」
    若:「父上の申す通りじゃ。わし等は唯のその気持ちだけで充分じゃ」
    唯:「そうだよね。何日もないだろうし」
    ナレ:そこへ美香子が戻ったきた。
    美:「どうしたの?」
    唯:「水族館だけじゃなくて、今、放送していた日光にも連れて行きたいなって話してたのよ。でも時間ないからって」
    美:「そうね。残念だけど」
    唯:「そうだよねぇ」
    源:「わたくしが余計な事を申してしまい」
    唯:「源三郎さんは悪くないから、ねっ」
    源:「申し訳ござらぬ」
    ナレ:恐縮する源三郎の肩に成之が優しく腕を回し、
    成:「源三郎、私もあのようめい門とやらを見てみたいと思うた」
    覚:「素晴らしい門なので、日が暮れるまで見ていられることから日暮の門とも言われているんですよ」
    唯:「へぇ、そうなんだ」
    覚:「お前なぁ・・・で、お母さん、どうした?」
    美:「そぅそぅ、昨日連絡があったのを忘れていて」
    唯:「何の?」
    美:「唯が産まれる前の事だけど、話したし、年賀状も。ここで働いていた看護師さんの事」
    唯:「うん、で?」
    美:「その方にお孫さんが産まれたからお祝い渡しててね、そのお礼と、地区の婦人部で旅行に行ってきたから土産を渡したいから明後日の午後に訪ねたいって言ってたから、どうぞって」
    唯:「えっ、でも」
    美:「そうなのよ、電話切った後に、そうだったって。でも、都合が悪いからって断るのもって、どうしよう」
    覚:「そうだな」
    唯:「じゃ、その間は、9人は実験室に・・・でも9人だと狭いか」
    覚:「何で9人何だ?」
    美:「もしかして唯、自分も人数に入れてる?」
    唯:「あっ」
    覚:「お前は居ていいだろう」
    唯:「そうだよね。でも狭いかな?」
    若:「唯、我らは尊と唯の部屋にて居れば良いのでは」
    覚:「そうだね。じゃ、すみませんが、その様にしてもらえますか」
    じい:「大事無いぞ」
    美:「ごめんなさいね」
    ナレ:美香子は診察室へ戻った。
    唯:「毎年年賀状くれる人だったよね、確か・・・熊田」
    ナレ:苗字を思い出した時に、あの時出会った高山親子にそっくりな親子、熊田という名前に、子供が生まれた事など共通点が。
    唯:「まさかね」
    覚:「どうした?」
    唯:「ほら、高山親子にそっくりな人に会ったって話したでしょ」
    覚:「そうだったな」
    唯:「その人が熊田さんで、子供が生まれたって、もしかしてその人たちかもって」
    吉:「その方であれば、縁とは不思議な物ですね」
    信:「そうですな。似ておるのであれば拝見したいが」
    唯:「無理ですねぇ」
    覚:「そうですね。では、その時は不自由をお掛けしますが」
    成:「不自由などと申さなくとも」
    若:「さようです。父上」
    覚:「はい」
    ナレ:その日は尊がみんなと二階に居て、何かの時は唯のスマホに連絡を入れる段取りとした。

    ナレ:土曜の午後、時間を見て、じい達は二階に。チャイムが鳴り唯が出てドアを開けると、目の前に高山親子と瓜二つの親子と上品そうな女性が居た。
    唯:「やっぱりあの時の」
    宗之:「あなたは。あの時は父が失礼しました」
    聡子:「宗之?」
    宗之:「ほら話したでしょ。里香が産まれた日に出会った人がいるって。父さん嬉しいからって初めて会った人にベラベラと」
    聡子:「先生のお嬢さんだったなんて、偶然ね」
    幸助:「そうだな。あの時は失礼しました」
    唯:「いえ、どうぞ」
    ナレ:美香子と覚が出迎えた。
    美:「ようこそ。さっ、こちらに。お嫁さんとお孫さんは?」
    宗之:「皆さんに顔をお見せしたかったのですが、妻の両親が来ることになりまして二人は留守番をしています」
    美:「そうなの」
    聡子:「写真を」
    ナレ:聡子は宗之のスマホのアルバムを開かせ三人に見せた。だが、殆ど抱いているのは宗之ではなく幸助だった。
    唯:「すごいですね」
    幸助:「あとから妻に叱られました」
    ナレ:幸助は頭を掻き乍ら宗之たちを見て苦笑い。
    宗之:「父は新生児室を食い入るように見ていたので、看護師さん達に怪しまれていたんですよ」
    ナレ:唯はその様子を想像して吹き出してしまった。
    覚:「唯」
    聡子:「構いませんよ。通報されなくて良かったと息子たちとも話していたのですから」
    ナレ:幸助は今度は両手で顔を隠し恥かしがっていた。唯は高山宗鶴を思い浮かべ、こんな姿は絶対にしないだろうなと思っていた。
    美:「唯?」
    唯:「何でもない」
    ナレ:覚が珈琲を淹れて三人の前に置いた。
    聡子:「あなた」
    幸助:「そうだった」
    ナレ:一つ目の袋から丁寧に梱包され熨斗に内祝と書かれた箱を美香子に渡した。
    美:「ご丁寧にありがとございます。頂戴いたします」
    ナレ:もう一つの袋から、梱包された大きな箱をテーブルに置いた。
    聡子:「家事もあるからゆっくり出発して翌日は夕方になる前に帰るという一泊の旅行で日光と鬼怒川に行ってきたの」
    ナレ:唯たちは日光と聞いて驚いた。
    宗之:「あの?」
    覚:「先日、日光に行ってみたいと話していたのでね」
    宗之:「そうだったんですか」
    聡子:「近いけど、一泊して、のんびりできました」
    美:「近場でも、たまには家事を忘れるのも良いわよねぇ」
    ナレ:美香子の言葉に覚と唯は顔を見合せ苦笑い。二人の様子に気付いた美香子は咳払い。三人は不思議そうに見ていた。
    唯:「あの、頂いても、食べても良いですか?」
    美:「唯」
    聡子:「食べて頂きたいから買ってきたので、どうそ」
    唯:「いただきます」
    ナレ:唯は甚五郎煎餅の缶を開けて一つ手に取り食べた。
    唯:「久し振りです。お父さん、お茶飲みたい」
    覚:「もぉ、飲みたけりゃ、自分で淹れなさい」
    唯:「は~い」
    ナレ:唯は煎餅を加えながらキッチンへ。
    美:「行儀が悪くてすみません」
    宗之:「いいえ。そういえばあの時、彼氏さんも居ましたけど」
    唯:「そうでしたね」
    宗之:「かっこいい人だったので、二人はモデルさんかと思いました」
    唯:「ありがとうございますぅ。お茶飲みます?」
    宗之:「あっ、はい、いただきます」
    ナレ:美香子も覚も苦笑い。他の箱も唯は了解を得てから開けた。日光の三猿の木彫りの置物と漬物。
    聡子:「定番の物ばかりで、すみません」
    美:「定番って、言いかえれば長年愛されてるという事じゃないですか?」
    幸助:「そうですね。ありがとうございます」
    美:「いえ」
    ナレ:孫の話を幸助が嬉しそうに話していると、唯のスマホにLINEが。中を見ると、信茂がトイレに行きたいと言い出したと。

    土産 その2に続く

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    これからの事を

    梅とパインさんもてんころりんさんも、そう私も気になっていました(^_^;)
    あの声だったら中に聞こえただろうにと。でも、信近&吉乃両名は何も無かったような態度。
    自分で書いておきながらですが納得(*^_^*)

    これより先の事ですが、毎度の事ながら、要点書き出し下手な為に分かり難い説明になってしまいますが、お許し下さい。

    【宗熊の決意 第二章】を書いた時に、重要な役どころの品物を登場させましたが、それがどうして登場したのかを考えて新たな物語(投稿名:11月24日~12月22日+αと無題の間の話)を作りました。

    ーこれからー
    ➀再度登場させる人物が最初に登場する場面を書きます。
    ②新規の物語を登場させる箇所を書きます。
    ③新規物語

    ***********

    SPの若君と相賀志津との婚儀を阻止したあと、未来の尊の助けで唯と若君が二人で平成に行った場面からの物語を20回にわたって書きました。
    投稿名:11月24日~12月22日+α
    アシガール掲示板 1001-2000  №1658~1862(2020.4.2~4.21)13回
    創作俱楽部 №10~121(2020.4.23~5.14)7回
    =あらすじ=
    二人で平成に行き、唯の苦手な期末テストが待ち受けていて、やる気を出すため若君が【褒美】を約束し、俄然やる気になりテスト期間を乗り越えた。そして、念願の制服デート、壁ドン、スワンボート、ラーメンと夢に見たデート。それから遊園地デート。唯の喜ぶ顔を見たいから絶叫マシーンも頑張った若君。家族みんなと水族館にも出かけた。

    創作俱楽部 №107(2020.5.18)
    若君のお気に入りの場所の450年後の姿を見せてあげたいと考え、尊に手掛かりを話し場所を探してもらった。そして二人で出掛け、現在の姿を見た帰り道で、高山親子にそっくりな親子と出会った。

    12月23日Xmasパーティ(アシガール掲示板 №1369 2019.12.24)をして永禄に戻った。


    創作俱楽部 №154~253(2020.6.8~8.29)32回
    投稿名:無題
    SPラスト ジャンピングハグの後の物語

    №172(2020.6.23)無題⑨より
    =あらすじ=
    相賀一成が婿と決めた忠清を取り返しに来た。忠清はみんなを助けるために相賀の元へ行こうとしたが、天の声、いや未来の尊の声で唯は大きな賭けに出た。タイムマシーンは二人用だが9人で平成に。
    唯、忠清、成之、阿湖、吉乃、信茂、信近、小平太、源三郎。
    平成に無事について、現代の生活を体験。

    №212(2020.7.15)無題㉑
    永禄に戻る手立てが見つからない中、信茂たちは変装して水族館に行った。シャチが気に入った信茂はぬいぐるみを買ってもらった。その帰りの電車のつり革広告を見て尊はアイデアが浮かんだ。


    №215(2020.7.21)無題㉒のラストから
    №216(2020.7.27)無題㉓の最初
    その間に新規の物語です。
    第二章を書いた後、その品物の物語を書いた場合に皆様に
    「あぁ、これはあの時の物か」
    そう思われるよりも、
    先に新規の物語を書き、
    「あぁ、あの時の物がここに」
    そう考えて頂く方がスムーズかと考えました。

    その後、第一章のあらすじを書きまして第二章に続けたいと考えています。
    それから【宗熊の決意 第二章】の中には決意した者が、宗熊だけでは無い事を此処にお伝えしておきます。

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    夕月かかりてさん㊗️二人の平成Days完結!

    ドラマではSPの現代で過ごした唯と若君、一月の物語、全70話!
    連載お疲れ様でございました。
    ?完成おめでとうございます!

    *~二人の平成Days 54(no.534)~69(no.560)について思い付くままに~*

    二人は家族にクリスマスプレゼントを買い(Days 51.52)、メッセージカードを書きましたが(Day54)、渡すシーンがなく、どうしたんだろうと実はずっと気になりました。
    戦国に発つ直前、最後にサンタのプレゼント風にドアノブに掛けてましたね(Day70)。
    あ~良かった?✌️

    平成Daysの映像を戦国でも見られる様に尊が考えた機械(Days 42.43.55.56)、おもナビくん (思い出ナビゲーション) ネーミングが巧い❗
    ミニ·ソーラーパネルとか? 太陽電池とか? 映像が浮かびました。面白い…
    他にも荷物が多いですね。
    ドラマに登場した黒のバカでかいリュック、セントバーナード犬1匹入りそうな、あれで持って行くんですね!
    持ち物確認、荷造り情景がねぇ、なんかホロッと来ました(Day64)。

    新生活=厳しい戦国に向かう新婚の二人を両親が温かく見守り、尊がクールに全員を見ている。
    家族愛は、今回のシリーズ中、最も好きだったところです。
    実は私「アシガール」では “寸止め”支持派です。
    他の作品でも “寸止め”が良いって お堅いタイプとは全く違いますが‥
    私自身の唯と若君のイメージと違い過ぎて最初は面食らい、ラブラブ??モードの二人のところは足早に通ってました。

    お風呂のシーン?♨️多いですね(笑)日常ですもんね。
    で. 旅立ち前夜の唯と若のお風呂(Day58)には. 泣けました。
    二人は可愛いし、両親が戦国に帰ってからの娘を案じて自分達の下で少しでも大人にさせようとしてる感じが…
    最後の夜はリビングに布団を5つ並べて寝る(Day59)、唯は両親の間に、若はお母さんの隣に、ここねぇウルウルしました。
    出発日は男女別れての家族風呂も温かくて良いですね(Days 65.66)。

    「別れが辛いのであろう. 家族に見せぬよう. ここで泣いておけ」唯に迫る若君(Day62)、
    「寂しいとか辛いとか隠さないで. 弱さを見せたって構わない」若君に迫る唯(Day68)、
    この二人「対」になってたんですね。
    二人が相手の気持ちを引き出した方法は、北風と太陽ほど違いますが、二人とも泣いてしまう。 良く理解し合ってますね。
    心に残るエピソードです。
    楽しませて頂きました。ありがとうございました。

    ☆妖怪千年おばばさん、3話出ましたね。
    感想は後日改めます。

    ☆ぷくぷくさん、良かった?!
    あのシーン、私も気になっておりました。
    若君が唯に怒っている時は障子が閉まって中が暗く、なぜ奥に?
    ですよね、きっと。
    信近パパは一緒になりたい訳だし (^^)b

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    きゃ♪

    ぷくぷくさん、お元気そうで良かったです。そして、隙間ストーリーを ありがとうございました (^^)。 わざわざ新しく作って下さったんですね。感謝 m(__)m!
    あの場面は ずっと気になっていたんです。
    私も お二方が 一旦 奥の方の部屋に入ったんだとは思ったんですけど、お世話になっている立場の おふくろ様が「もてなす」というのは ちょっと変な感じだし、信近殿が何故 上がり込んでいたのか… 何故 肝心の話を帰り際にしたのか… いろいろ「?」だったんです。
    ぷくぷくさんの お話で「そっかそっか なるほど~♪」となり、スッキリしました (^^)v。さすが!
    新作の妄想ストーリーも出来上がっているのですね。楽しみに待ってます (^.^)。

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    返信
    こんにちは

    夕月かかりてさん、妖怪千年おばばさん、皆様、お疲れ様でございます(^_^)

    湧き水の如く妄想が湧き、そして1つのテーマでもそれぞれの物語が出来る不思議なドラマです。
    私も頑張ります。後日、書き上げた物語がございますので書かせて頂きます(^_^)
    妄想は書けても、作家様の物語の感想の書けないタワケです、お許し下さい( ;∀;)

    【アシガール掲示板 №665 2019.8.1 投稿名:すみません】で、唯が平成に戻り、吉乃達が梅谷村へ戻った後から、信近と一緒になるまでの物語は書いていますが、梅とパインさんの仰る、
    その間の吉乃と信近の事は書いていませんでした(^_^;)

    若君が行った後から、唯の手を引いて戻るまでの時間はそんなに掛かっていないのではないかと思いましたし、唯たちが戻って来た時に、もしあの部屋に居たら、若君達の声に気付いて出て来るのではないかと。近くには居なかったのでは無いかと考えました。それに、唯が隠れている所での二人の会話で、吉乃が「やはり」そう言ったという事は、戻る話はその前にもしているという事だと。
    すみませんちょっと考えてみました。

    ********************************

    信近が若君の走っていく姿に、
    「わかぎみさま」
    そう言った後、吉乃に、
    「若君は何を慌てておるのかの?」
    吉乃は理由は分っていたが、
    「さぁ、わたくしにも分かりませぬ。では」
    吉乃が中へ戻ろうとしたので、
    「吉乃殿」
    「はい?」
    「あ・・・と・・・そのぉ」
    「如何なさいましたか?」
    「あ・・・あっ、子等はどうしておる?」
    「休んでおりますが、何か?」
    「そうか・・・」
    「信近様?」
    「吉乃殿、子等の寝顔を見ても良いか?・・・起こしはせぬのでな」
    「はぁ、構いませぬが。どうぞ」
    二人は三之助と孫四郎が寝ている部屋へ行った。

    その頃、急いで成之の部屋に行き、唯を連れ戻した。

    信近は三之助と孫四郎の枕元に座り、
    「小平太たちの幼き頃もこうして、寝顔を見たものだ」
    「さようでござりまするか。お優しい御父上様でございますな」
    信近は照れた。
    「子等が休んでおる内は、敵方が攻めて来ぬよういつも願っておった」
    「さようでございますな」
    信近は起こさないように二人の頭を優しく撫でていた。
    「信近様?」

    その頃、唯と若君は表で言い争いをし、若君は行ってしまい、唯は落ち込んでいた。

    部屋では、
    「このまま、子等と共に、此処に居らぬか?」
    「えっ?」
    「どうじゃ?」
    「かたじけのう存じますが、わたくしは梅谷村へ戻ろうかと」
    「だが」
    すると、三之助が寝返りを打ったので、起してしまうと思った信近は、
    「起してはならぬの、わしはそろそろ戻ろう」
    二人が寝ている部屋を出て、表に面するあの部屋に戻って来て、信近が障子を開け表に出て来た。

    二人の会話を唯が聞いてしまう。

    そんな感じではなかったのかなぁと思いました。

    失礼しました(*^_^*)

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    お疲れ様でした m(__)m

    夕月かかりて さん、ありがとうございました。長く楽しませて頂きました (^^)。25秒を70話分創作するって、すごいです!
    途中の感想を どうしようかと思いましたが、下手な文は かえって興醒めになりそうで遠慮しておりました f(^^;。 でも しっかり読んで 続きを楽しみにしていたんですよ (^^)。

    妖怪千年おばば さんも、以前には ぷくぷく さん(お元気ですか?)も、同じ「平成ライフ」でも 作者さんによって多種多様で 本当に面白いです。似たような場面でも 違った視点・想像力… 素晴らしい!
    皆さんの創作ストーリーを、これからも ドンドン発表して下さいね。感想文は 書けずとも 楽しんでいる者が ここにおりますので (^.^)。

    1つ、ぷくぷく さんに質問。
    唯が城に居たと聞いて若君が走り去った後 → 唯が庭先で凹んでいた時に 部屋から出て来た 天野信近様と おふくろ様、その間 お二方は どんな風に過ごしておられたか…… の 隙間ストーリー って、以前に創作されていましたっけ?

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    25秒の世界

    この度、無事に最終回まで辿り着けましたのも、温かく応援ならびに見守ってくださった皆様のお陰です。誠にありがとうございました。

    ドラマSPの、描かれなかった隙間を埋めたい。改めて結婚の許しを得た後から始めよう、終わりは実験室に五人居る直前に。途中どんな物語があったか、あって欲しいか。既に他の妄想作家様が書かれていたのは承知の上で、自分の解釈でやってみようと描き始めた次第です。なので、他の作家様が使われたモチーフや、連れて行ったデートスポットは極力避けたつもりです。

    SP、尊が若君に頭を下げた後から、パーティーでケーキ入刀終わるまで。これが、25秒でした。これを、長々と70話に伸ばし伸ばし。一話一話は、あえて短めに作ったつもりですが、それでも70回投稿してるんだから…。創作倶楽部があって良かったです。

    さて、これでしばらくお休み…なんて事はありません。今後の投稿予定ですが、まずは、最終回までの番号とあらすじの表を出します。そして、二人のもしもDaysを一つ出します。

    次に、最初から一話ずつ簡単?に振り返ります。番号とあらすじの表と同じに、三回に分けて説明いたします。今読むとなるとこっ恥ずかしいですが、書きっぱなしもなんですので、弁解・補足・込めた思いの説明などいたします。というかさせてください。

    その後は…文章が長くなりました。いずれ、お話ししますね(*^_^*)

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    二人の平成Days69(終)~23日23時、永遠に名を呼んで!

    笑って、笑って。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに下りてきた。三人が立ち上がり出迎える。

    覚「おー、おかえり。今、ホットミルクいれるからな。これでホッと、してくれ」

    美香子「お父さん~」

    唯「ふふっ、お父さんありがと」

    尊「お姉ちゃん、もう写真足しといたから。で、あと」

    唯「ありがとう~、尊~。でなに?」

    尊「葉書、ラミネート加工して入れといたよ。その方がいいと思って」

    唯「えー!超仕事早っ!」

    唯、尊に抱きつき、ギュー。

    尊「わあっ!なんでだよ!」

    唯「嬉しい~!ありがとね!」

    若君が、深く一礼する。

    若君「気を遣わせてしまい、誠に申し訳、ありませんでした」

    覚「いいんだよ。まぁ、良かった良かった」

    美「若君、私からは少し言わせてね。まず、唯の母としては」

    若「はい、母上」

    美「ウチの娘は、たわけたおなごではあるけれど」

    唯「あー」

    若「ハハッ…はい」

    美「ちゃんと若君を理解してますから。もう少し、唯に心を許して、隠し事のないようにしてくださいね」

    若「はい」

    美「忠清くんの母としては…もうこの子ったら、いじらしくって、かわいくって~!くちゃくちゃーってこねくりまわしたいわ~」

    若「こね、くり?」

    尊「ちょっとー、いい場面が変な方向に行ってるよー、台なしじゃん」

    唯「お母さんに揉みくちゃにされてる、たーくんも悪くないけど」

    美「えー?いいのー?」

    覚「そこ、ストーップ!ホットミルク全員分あるから、座って」

    最後の団欒でした。

    唯「そろそろ、着替えるよ」

    美「わかった。じゃ、行きましょ」

    着物の置いてある、両親の部屋へ。

    美「若君は、一人で大丈夫よね。私は、唯に着付けながら逆を向いてるから、気にせず着替えてね」

    若「はい、わかりました」

    唯「って事は、私からは丸見え…」

    美「まだそんな事言ってる。そうよ、若君からも、唯の着替えは丸見え。はい、脱いで脱いで」

    唯「ひぇ~」

    永禄仕様に、着替え完了。

    唯「ありがとう、お母さん」

    美「どういたしまして」

    唯「レイが、私の部屋にあるから取ってくるよ。お母さん、先に下行ってて」

    美「わかったわ。ゆっくりでいいわよ。三人でリビングで待ってるから」

    唯「ありがとう」

    若「ありがとうございます」

    唯達は、部屋を移動。母は、階段を下りていった。

    唯「よし、行ったね。じゃあたーくん、まず」

    ベッドの上のレイをそれぞれ首にかけた。そして、布団をめくる。そこには、プレゼントとメッセージを入れた、靴下型の巾着袋が三つ。

    唯「たーくん、尊の部屋のドアノブに、これ引っ掛けてきて」

    若「あいわかった」

    唯は、両親の部屋のドアノブに、同じく二つぶら下げた。

    唯「よし、完了。三人の驚く顔は、見れないけど」

    若「直々には渡さぬのだな」

    唯「サンタさんは、知らない内に現れて、プレゼント置いてくの」

    若「そうか」

    唯「うん。お父さん、お母さん、尊、一日早いけど…メリークリスマス」

    若「メリー、クリスマス」

    唯「あっ、ありがとう~」

    唯の部屋に戻る。しばらく、沈黙。

    唯「へへ、つい黙っちゃった。あっそうそう、昨日デパートで、コーチに会ったじゃない」

    若「あぁ。あのコーチ殿なら、良い形で唯の事を伝えて貰えるであろうの」

    唯「お母さんに、さっきお風呂でその話をしたの。そしたら、若君最高!って、めっちゃ褒めてたよ」

    若「そうか?」

    唯「周りでそういう話になったら、合わせといてくれるって」

    若「父上母上に、迷惑はかからぬのじゃな?」

    唯「うん、大丈夫。あ~今思い出しても、あの時のたーくん…いや若君は、カッコ良かったあ」

    若「ん?」

    唯「そろそろ戻そうと」

    若「そうか。閨ではそのままで良いぞ」

    唯「いやん。じゃあ、おじいちゃんになっても、たーくんで」

    若「…その歳ならば、お手柔らかに頼む」

    唯「ん?どゆこと?尊には聞…かない方が良さそうな話?」

    若「ハハハ」

    唯「この手もそろそろ終わりだね」

    若「…唯」

    唯「はい」

    若「愛してる」

    唯「えっ?やだ、不意討ちなんて、心の準備が~」

    若「日毎に、想いは募る」

    唯「えー。なんて嬉しいコト言うのぉ」

    若「なぜであろうか」

    唯「え?私に聞く?」

    若「フッ、問うてみただけじゃ」

    唯「なにそれ~また?」

    若「一向にわからぬゆえ、ずっと共に居り、探る」

    唯「えー、それって、答えがわかったらどうなるの?まさか飽きて捨てられる…やだやだ、怖っ!」

    若「それは、天に誓って、永遠にない」

    唯「そう?安心していいのかな」

    若「唯は、誠、面白い。これからも、輝くその姿でずっと、わしの傍で跳ねて欲しい」

    唯「跳ねる?」

    若「雀のようにの」

    唯「雀?んー?まっ、かわいいからいっか。でも、面白いに戻るんだ?」

    若「ハハハ」

    若君が写真立てに目をやった。唯がメダルをくわえる例の写真は、時空の旅を経て、ここに戻って来ている。

    若「平成ライフ、もそろそろ終わりじゃ」

    唯「あーその言い方、あったね~。懐かしい」

    若「これから旅立つが」

    唯「はい」

    若「唯の様々な決意を胸に、必ずや守り抜く」

    唯「ありがとう。これからも、若君を守ります。あっ違った」

    若「違った?」

    唯「若君と子供たちを守るよ」

    若「子供達、か。無論、男子が跡継ぎとして必要じゃが、もし女子が産まれたら」

    唯「うん?」

    若「嫁には出さぬ」

    唯「えぇ?そんなん、戦国武将っつーか、親としてどうなの」

    若「唯に瓜二つの娘など、手離せぬ」

    唯「あらら。今から親バカ…えっと、溺愛でどうするの?」

    若「そうか、ハハッ」

    唯「うふふ」

    若「ハハハ。…それでは、良いか」

    唯「はい」

    若君が唯の手を取った。

    若「唯、参るぞ」

    唯「はいっ!若君さま」

    三人の待つリビングへ、そして、五人で実験室へ入って行きました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    二人の未来は、幸しかない。

    ご覧いただいた、全ての方に感謝です。長い間、お付き合いくださいまして、本当にありがとうございました。

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    二人の平成Days68~23日21時、開いてみせて!

    良き妻じゃよ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯「ちょっとだけ、二人きりになりたい。いい?」

    覚「行ってこい」

    美香子「うん」

    若君「どうした?」

    唯「いいから」

    若君の手を引き、二階へ上がる。

    覚「若君、あのままではな」

    美「やっぱりそう思う?」

    尊「えっ、どうなっちゃうの?時間ないよ?」

    覚「そうだがな」

    尊「さっき、お風呂ですごく楽しそうだったのに。あんなに笑う若君、見たことないよ?」

    覚「だから余計にだろ」

    尊「そういう事か…」

    美「あまり、思い詰めて欲しくないけどね」

    覚「彼の中でどう消化できるかは、唯にかかってるな」

    唯の部屋。ドアを閉めるやいなや、

    唯「たーくん、なんで言わないの!」

    若「何を申せと」

    唯「もうすぐ永禄に帰れる。嬉しい?」

    若「嬉しいのう」

    唯「そうは見えない」

    若「そんな筈はない」

    唯「今から帰る。これは決まってる、変わらない。でも、気持ちとして、帰りたくないと思ってはいけない、なんてない」

    若「それは…ない」

    唯「どうして隠すの?」

    若「隠すなど…」

    唯が大きく息を吸った。怒りをあらわにする。

    唯「この、大たわけっ!!」

    若「どうしたというのじゃ」

    涙目になっている。

    若「なっ、何ゆえ」

    唯「私、たーくんと心が通じあったと思ってた」

    若「それは変わってはおらぬぞ」

    唯「私は、たーくんが何考えてるかわかった。でも、たーくんは私に心を開いてくれない!」

    若「…」

    唯「さみしいとか、離れるのが辛いとか、思ったっていいんだよ!心が揺れたっていいじゃない。ずっと強いたーくんでいなきゃいけないなんてない!でも、でもその気持ちは打ち明けて欲しかった…気持ちを分かち合うって、こんな時必要なんじゃないの?なんにも言ってもらえなくてすっごく悲しい、悔しい!こんなにそばに居るのに…うゎーん!」

    子供のように泣き出した。

    若「唯…」

    困惑し、立ち尽くす若君。

    唯「うっ、うっ…」

    若「済まぬ」

    唯「見抜かれた、って思ってるでしょ」

    若「思うておる。されど」

    唯「あー、いいから。羽木家総領たる者、たとえ妻であろうと弱みを見せてはいけない、違う?」

    若「唯がここまでわしをわかってくれておる事に、心及ばなかった。済まない」

    唯「さっきあんなに怒ったのも、私にじゃなくて自分にだったんじゃないの?もしかして」

    若「そう思われて然るべきじゃ。どう詫びても詫び切れぬ」

    若君が、指で唯の頬を拭った。

    若「泣かせて悪かった」

    唯「たーくんも、泣いとこっか?泣くってね、いろんなモヤモヤも流れていってすっきりするんだよ」

    若「強くは申さぬのじゃな。こんなわしであるのに」

    唯「泣けなんて怒鳴りはしません。優しい妻なので」

    若「そうじゃな。誠、最上級の」

    唯「あっ、嬉しい」

    落ち着きを取り戻し、笑顔を見せる唯。

    若「笑うてくれたの」

    唯「うん。じゃあ、背中貸そか?」

    若「ハハッ、いや、是非正面で頼む」

    唯「ふふっ。じゃあ~ギュ?」

    若「ギュ、じゃな」

    唯「あっ、ちょっと待って」

    首にかけていたレイを取り、そっと二人分ベッドに乗せた。

    唯「これで良しと」

    ふと、ベッド横の壁に掛かっている、襷などの陸上部グッズが目に入った。

    唯「…あ、思い出した」

    若「ん?」

    唯「えっと、手、広げてくれる?」

    若「手?」

    唯「たーくんにゴールしたい」

    若「ゴール?ようわからぬが、こうか?」

    若君が腕を広げて、待ち構える仕草に。

    唯 心の声(あ~、夢に見たたーくんだ…走って走って頑張った私を、ゴールで待っててくれたあの!)

    若「妙に嬉しそうじゃの。何がいつもとどう違う?」

    唯「えへ。違うんだなぁ~これが」

    若「そうなのか。では唯、此処へ」

    唯「はいっ!速川行きまーす!」

    若「おぉっ」

    ぴょーん、とゴール!からのギュー。

    唯「あのね、お父さんもお母さんも、多分気付いてる」

    若「そうか」

    唯「だから、気の済むまで時間かけていいから」

    若「…忝ない」

    静かに抱き合う二人。

    唯 心(私もまだまだ、良き妻には程遠いなぁ。せめて、たーくんがこんな時、プライドを傷つけないようにしてあげたいな)

    若「ズズッ、あー」

    唯「あ?」

    腕を離して、顔を見る。

    唯「えっ!めっちゃ泣いてた!ぐちょぐちょじゃない!」

    慌てて、ティッシュケースを差し出した。鼻をかんでいる。

    若「唯の優しさに、気が緩んでしもうた」

    唯「ちょっと予想外でびっくり」

    若「泣き納めじゃ」

    唯「そっか。でも、これから私には、たーくんの弱い所も見せてね」

    若「そうじゃな」

    唯「約束だよぉ」

    若「肝に銘じる」

    唯「ふふっ、良かろう」

    若「ふう、酷い顔になっておろう?」

    唯「ううん、大丈夫。真夏の撮影で着物なんか着せられちゃって、放送は冬なのに、やたら顔がほてってる俳優さんみたいになってるだけ」

    若「なんじゃ?その言い回しは」

    唯「なんにも。じゃ、みんな待ってるから、一旦下に戻ろうね」

    若「あぁ、謝らねばならぬしの」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、いよいよラストです。

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    9月の蝉 後編 その2

    平成での、二度めの満月が
    近づいたある日、
    忠清は、一人、
    黒羽城公園に向かった。

    案内板を眺める。
    初めて来た時は、
    尊に読んで貰ったのだが、
    今は何とか自分でも
    読める様になった。

    「永禄2年、羽木家滅亡」

    残酷な文字を声で辿る。

    “そうはさせぬ。“

    忠清は、唇を噛んで、
    本丸跡にある郷土資料館に向かった。

    展示コーナーを眺めていると、
    不意に後ろから、声がした。

    「おや?
     君は確か、あの時の。」

    立っていたのは、
    歴史教師の木村先生だ。

    しばらく前の事、
    数人の男に襲われて、
    カバンを奪われた木村を、
    尊と忠清が助けたのだ。

    「いやあ、あの時は、
     本当にありがとう。
     ここでまた、会うとは。
     君、郷土史に興味があるのかね?」

     「この城は、焼失したと言うが、
      炎上に至った訳を知りとうて。」

    「そう。
     実は、ちょうど、今、
     その話題が出てた所なんだ。」

    木村先生は、月に一度の、
    郷土史の研究会を終えた所だった。

    一般的な説は三つ。
    一つ目は、敵の火責め。
    二つ目は、城主の命による付け火と
         総自決。
    三つ目は、内部の裏切の証拠隠滅。

    「君は、どう思うかね?」

     「どれも有り得る。
      全てと言う事も。
      高山が仕掛け、それを合図に
      内通者が城内に火を放ち、
      反乱を起こす。
      加えて、北門から野上に
      攻め込まれれば、
      落ち延びるのは困難じゃ。」

    「そうなんだよ。
     君、なかなか詳しいね。
     戦記でなくとも、誰か家臣の
     日記でも残っていれば
     解明できるんだが。」

     「日記とな?
      それなれば、小垣の祥雲寺に
      何か残って居るやもしれぬ。」

    「祥雲寺?
     聞き覚えがありませんな。
     どこの寺です?」

     「鹿之原の先じゃ。
      鐘ヶ江家の菩提寺であるゆえ。
      久政が何事かの折に
      文書を託すとすれば、
      まずはそこであろう。」

    「ほう。あの辺りに寺が?
     そう言えば、私の生徒も
     気にしていましたな。
     鹿之原の事を。」

     「生徒?
      それは、もしや、唯の事では?」

    「おや?君は、速川を
     知っているのかね?
     いや、暫く前の事なんだが、
     千の兵で、三千の敵を
     倒すにはどうしたらいいか、
     なんて、突然、聞いてきてね。
     何の冗談かと思ったんだが、
     本人が余りにも真剣だったから、
     戦法を一つを教えたんだ。
     そうしたら、大喜びで、
     資料室を飛び出して行ってね。
     そうか、戦場の近くの古刹なら、
     再調査の価値はあるかもしれん。
     いや、君、ありがとう。」

    木村は、忠清に礼を言うと、
    まだ例会の会場にいる、
    小垣市の郷土史家の元に、
    戻って行った。

    その後、唯の部屋に戻った忠清は、
    ベッドに横になり、
    唯の写真に語りかけた。

    「唯、鹿之原の合戦前夜は、
     確か、満月であった。
     お前は、あの夜、平成に飛び、
     また戦場に戻ったのであろう。
     あの日の勝ちは、あの者の策。
     後の世の木村の手を
     借りておったとは。」

    目を閉じた忠清の瞼に、
    甲冑姿の正秀が浮かび、
    やがて消えた。

    ・・・・・・・・・・・・・

    永禄に戻り、平成へ唯を
    送り返した忠清は、
    毎日の様に城内を見回った。

    城の焼失の経緯は
    分からなかったが、
    火の備えはせねばならぬ。

    忠清は、陸上部のコーチに会った、
    あの日のグラウンドを
    思い出していた。

    生徒たちが休憩を
    とっている間の事。
    地面から、水が吹き上がり、
    クルクル回りながら、
    水を飛ばし始めたのだ。
    何人かの生徒は、
    わざわざその水を頭からかぶり、
    はしゃいでいる。

    スプリンクラーですよ。

    尊が言った。

    砂が舞い上がるのを防ぎ、
    暑さしのぎにもなるのだと。

    ”あれを作れものか。”

    忠清は、普請奉行を呼ぶと、
    図面を広げ、何日も思案を重ねた。

    「忠清は、何を始めたのじゃ?」

    奉行や匠を連れ、自ら城の屋根に
    登る我が子を見上げ、
    殿は筆頭家老の天野信近に訊ねた。

     「城の修繕の下見とか。
      火を防ぐ為の新たな策を
      考案された様で。」

    「新たな策?」

     「屋根に天水貯めを作り、
      火が出た際には、水を落として
      消し止めるおつもりらしく。
      塀の上には、樋を渡し、
      それより水を放つ仕掛けも
      作られるとか。
      これが大層、風変わりで。」

    「どの様に?」

     「蓮根を割ったような姿の
      口が付いておりまして、
      その先より
      水が吹き出します。」

    「ほう。」

     「戻られてからの若君は、
      まるで、知恵の泉。」

    「まだ、他にも有るのか?」

     「城内に井戸を新に掘りたいと。
      それは、多大な費用と時を
      要しますので、普請奉行が
      お止め申したのです。
      そこへ、庭師の頭が、
      池を広げられてはと。」

    「池を?」

     「早速、奥御殿の池の底をさらい、
      深く広くし、船で池から内堀へ、
      さらに、外堀へ抜けられる様に
      せよとの仰せ。
      いずれは、吉田川に通ずる
      水路造営もお考えの様に
      ございまする。」

    「成る程。
     攻められた折の、
     女子どもの退路の確保か。」

     「若君は、矢傷を癒されて
      おられた間も、城の守りを
      思案されておられたご様子、
      この信近、感服致しております。」

    「うむ。忠清の隠れ家とは、
     如何なる所かのう。」

    それから暫く経ったある日の午後、
    黒羽城の一同は、
    庭で固唾を飲んで
    本丸御殿を見上げていた。

    「いざ!」

    普請奉行の大音声を合図に、
    太鼓の音が鳴り響く。
    その中を、御殿の屋根の鯱が
    盛大に水を吹き上げた。
    水は大きく弧を描き、
    奥御殿や脇の御殿に降り注ぐ。
    それは、まさしく、
    晴天の驟雨であった。

    「おおお、あれを見よ!」

    「虹じゃ!
    虹の架け橋じゃ!」

    家臣たちが指差す先に、
    淡い七色の橋が、本丸と奥、
    二つの御殿を繋いでいる。

    「まこと、吉祥じゃ。
    天女が舞い降りそうじゃの。」

    殿の言葉に、誰もが首肯き、
    感嘆の言葉を口にする。

     「若君様は、
      神の御技をお持ちじゃ。」

    賞賛の声をよそに、
    忠清は、虹の彼方に、別の風景を
    思い描いていた。

    正面には、青空にくっきりと
    浮かぶ富士の高嶺。
    左手には、烏帽子岩が
    白い波がしらを立てている。
    海風に、沿道の観客が持つ小旗が
    揺れる中、波の音に合わせる様に、
    しなやかな足が地面を蹴る。
    一足ごとに短い髪が左右に揺れる。
    滴る汗を、日に焼けた手の甲が払う。
    息は荒い。
    それに反して、目には、
    輝きが溢れている。

    「唯、お前は、後の世で
     成すべき事を成せ。」

    忠清は、ひた走る唯の姿を夢想しながら、
    その場に立ち尽くした。

    虹の消えた城の屋根を、
    夏の終わりを惜しむ様に、
    蝉しぐれが包んでいた。

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    二人の平成Days67~23日19時、怒りの矛先は

    一人何を思う。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯が、ナイフに飾りを付けている。

    唯「へっへ~」

    尊「何それ?あー、ウェディングケーキ入刀風にね。いいんじゃない?」

    唯「披露宴するならぁ~、ケーキは全部食べられる大きいのがいいなー」

    美香子「あぁ、入刀する部分だけじゃなくて」

    唯「だっていっぱい食べたいじゃん」

    尊「そんな時まで、食い意地が始動!」

    美「唯、大きく勘違いしてるけど、花嫁はほとんど披露宴の食事は食べられないわよ?お色直しを全くしないとか、誰にもスピーチしてもらわないなら別だけど」

    唯「え!そうなの!やだー。だから教会で二人だけの式とかあるんだ?」

    尊「それは違うと思う」

    唯「ひとまず、この目の前のケーキは食べられる。たーくん、ケーキ切るからね、一緒にナイフ持ってぇ」

    若君「切るのみなら、早々に終わりそうなものじゃが」

    美「若君、全女子の夢を叶えてあげて」

    若「それは随分と大仰な?わかりました」

    入刀します。若君が手を添える。その様子をパチリと撮影。

    尊「あ、この写真も欲しいよね?後でプリントアウトしておくよ」

    唯「わー、ありがと~」

    覚「間に合うのか?」

    尊「余裕。お姉ちゃん達が着替えてる時間にやるよ」

    ケーキ切り分けました。

    若「おぉ、この形なら見覚えがあるのう。ケーキとは、初めは丸い物なのじゃな」

    美「最近はそうでないのもあるけどね」

    尊「若君にとっては、ここ数年なんか全部最近だよ」

    美「そうでした」

    パーティーもそろそろお開きです。

    唯「あー、お腹いっぱい」

    尊「さすがに?」

    唯「今度いつ、満腹になれるかわかんないもん、食べるよー」

    尊「確かに」

    若君が、スッと席を立った。後ろへ歩いていく。

    唯「…」

    奥の棚に歩み寄り、じっと見つめている。指輪もだが、家族五人の記念写真も、既に飾ってある。

    尊「ついて行かないんだ」

    唯「来るなオーラが出てるから」

    尊「そう?なんだ」

    覚「温かいお茶でもいれるか」

    覚がキッチンに向かう。若君の様子を少し覗くが、その顔がかなり驚いている。

    美「お父さん?」

    急須や茶筒を手に小走りに戻り、ひそひそ話し始める覚。

    美「何だったの?」

    覚「若君が、物凄い形相で壁を睨んでいるんだ」

    美「壁?指輪や写真じゃなくて?」

    覚「ああ。あれは、何かに怒っているというよりは」

    唯「何?」

    覚「自分自身に苛立ってる感じだな」

    若君が戻ってきた。いつもの柔和な表情。

    唯「たーくん」

    若「なんじゃ?」

    唯「さっきから、全然笑ってないね」

    若「そんな事はなかろう」

    唯「えーい!」

    若君の頬をむにーと伸ばす。

    美「まぁっ!唯、何するの!」

    若「ハハッ、いえ母上、良いのです」

    静かに微笑む若君。

    唯「…」

    トナカイの角や鼻を外しながら、唯はずっと考え込んでいる。

    覚「はい、お茶どうぞ」

    お茶を飲みながらも、全員の視線が若君に注がれている。

    若「皆、いかがされた?」

    美「若君、なんかさみしそうね」

    唯「さみしそう…さみしそう。たーくん」

    若「なんじゃ?」

    唯「もうすぐ永禄だね」

    若「そうじゃ」

    唯「何か言いたい事、ない?」

    若「言いたい事…月が高い内に行かねばの」

    唯「それだけ?」

    若「それだけ、とは?」

    唯「…わかったよ、たーくんが何考えてるか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    なかなか探せません

    妖怪千年おばばさん、NGワードを見つけるのはちょっと大変ですよね。
    でもそのお陰で安心して掲示板が使えるので、ありがたいと思います。

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    9月の蝉 後編 その1

    仕上げに細かく刻んだ
    オレンジピールをパラっと
    かけると、覚は、
    満足そうに言った。

    「よし。上出来だ。」

    そして、美香子を呼ぶと、
    粗めに挽いた深入りの
    コーヒー豆の上に、
    沸き立ての湯を丁寧に注ぐ。

    土曜日の午後は、
    外来診療は休みだ。
    電子カルテの確認を終えて、
    庭に出てきた美香子は、
    花柄プリントのクロスをかけた
    ガーデンテーブルを見て、
    歓声を上げた。

     「素敵~。どうしたの?」

    「この間、お母さんが
     テイクアウトして来てくれた、
     クレームダンジュが
     旨かったから、
     作って見たんだ。
     レシピは、
     意外にタンジュン。」

     「なあに、それ。
      ギャグのつもり?」

    「その分、味の決め手は、
     クリームチーズなんだけど、
     そこは、レストランには
     敵わないからさ。
     オレンジリキュールを
     入れてみた。」

     「流石~。
      でも、それって、
      トシさんから教えて
      貰ったんじゃない?
      ケーキ屋の。」

    「え?」

    言い当てられて、覚は頭を掻く。

    「なかなか、鋭いな~。」

     「そう言えば、尊と若君は?」

    「出かけた。
     若君に自転車の乗り方を
     教えるそうだ。」

     「そう。
      若君が来てから、
      明るくなったわね。尊。」

    「そうだな。
     で、何だったんだい?
     コーチの話って。」

    覚は、なるべくサラリと
    訊ねたつもりだった。
    が、声がうわずったらしい。

     「あら、やだ。
       何か、勘ぐってる?」

    「だって。
     あの日以来、妙に、
     機嫌がいいからさ。
     気になって。」

     「そりゃあね。
      唯を待ってるのは、
      私たちだけじゃないって
      分かったから。
      ちょっと、ホッとしたって
      言うか。」

    「まあ、家族は、どうしても
     感情的になるからな。
     相談できる第三者がいるのは、
     確かに助かるけど。」

     「けど?」

    「相談なら、学校でも、
     家でも良いんじゃないか?
     何も、高級レストラン
     じゃなくても。」

     「だから、それは、
      昔の約束を果たしただけって
      言ったじゃない。」

    「でも、君は忘れてたんだろ?
     コーチの作り話って事も
     無いとは限らん。」

     「あら、呆れた。
      そんな人じゃないわ。
      お父さんも、挨拶位は
      した事あるはずでしょ?
      ほら、去年の新人戦の時。
      宿題は忘れても、
      お弁当だけは忘れない子が、
      空のお弁当箱を
      持っていっちゃって。
      お父さんが届けたじゃない。
      おにぎりを。」

    「ああ。
     なかなかの男だった。
     だから、その、余計にだな。。。」

     「じゃあ、今度、
      相談する時は、
      お父さんも一緒ね?
      それなら、良い?」

    「まあ。それなら。
     で、何だって?」

     「唯の高校卒業後の事を
      聞かれたわ。
      学校への届けを
      馬の飼育の研修って事に
      したでしょう?
      将来、その道に進ませる
      つもりなのかって。」

    「苦し紛れだったよな~、
     あれは。
     若君から、馬番に
     取り立てたって聞いて
     思い付いたんだけど。
     でも、唯の将来とコーチと、
     何の関係が有るんだい?」

     「実はね。
      まだ、具体化はしていない
      らしいけど、尾関君、今、
      あるプロジェクトに
      携わっているんですって。
      箱根駅伝の100年記念の。」

    「箱根駅伝っていったら、
     大学生の大会だろ?
     しかも、男子の。
     何で高校の部活のコーチが、
     そんなビッグプロジェクトに?」

     「そう思うでしょ。
      でも、100年記念は
      2024年なのよ。
      つまりは、参加者は
      今の中・高校生が対象になるの。
      それに、彼、前は、
      スポーツ用品の営業マン
      だったから、その
      繋がりもあるらしくて。」

    「そうか。
     でも、2024年なら、
     順調に進学すれば、唯は、
     大学卒業してるはず。
     しかも、女だ。
     もともと出場資格がない。」

     「まあ、それは、
      そうなんだけど。
      今の成績では、一浪は覚悟
      しといた方が。留年もね。
      それにね、尾関君の狙いは、
      99回大会の方らしいの。
      100回大会をアピールする為の
      企画を練っているらしくて。」

    「もしかして、
     女子を走らせるとか?」

     「ビンゴ!その、まさか。」

    「それで、唯にどうしろって?」

     「兎に角、高校中退だけは、
      避けてくれないかって。
      できれば、大学進学は
      させて欲しいって。
      もちろん、本人の気持ち次第
      って答えておいたけど。」

    「企画が通った時の為に、
     出場資格獲得の可能性だけは、
     残しておくって事か?」

    「そうなるわね。」

    覚は、サーバーのコーヒーを
    クラッシュアイスが詰まった
    グラスに注ぐと、美香子に渡す。

    実は、その時、早めに帰宅した
    尊と若君が、リビングで
    二人の話を聞いていたのだが、
    覚も、美香子も全く
    気付かなかった。

    尊が二人に声を掛けようと
    したのだが、若君が止めたのだ。
    二人だけの寛いだ時間を
    邪魔したくなかった。

    午後の風が吹き込み、
    吊るしたばかりの風鈴が、
    風にゆれて、チリンと鳴った。

    ・・・・・・・・・・

    それから数日が過ぎた。

    戦国時代に戻るはずの前夜、
    感染症で倒れた忠清は、
    病室の窓ガラス越しに見える
    入道雲を眺めていた。

    警備は万全だったはずの吉田城。
    しかも、本城の黒羽に
    もっとも近い出城で、
    忠清は命を狙われた。
    それは、まぎれもなく
    城内に裏切者がいる事を
    白日の元にさらす事でも
    あったのだ。

    小平太は兄上を疑ごうておろう。
    早まった事をせねば良いが。
    源三郎は、寝食も忘れて、
    わしを探しておるはず。
    爺が騒いでおろうな。
    父上のご心労は、
    いかばかりであろうか。
    高山が、しらを切るのは、
    目に見えている。
    黒羽の内紛だと、
    言い逃れる腹であろう。
    いずれにせよ、和議は白紙。
    この機に乗じて、
    一気に攻め込むつもりか。
    わしの不在が長引けば、
    兄上擁立の話も出るであろう。
    しかし、天野は拒むはず。
    爺が、聞き入れるはずもない。
    動くとすれば、千原か。
    兄上が黒幕で、
    わしの座が狙いであれば、
    今は只、千原から
    近づいて来るのを、
    待てば良いのだ。
    しかし、それでは、
    家臣たちは分裂するであろう。
    もう少し先と思うていたが、
    その時が、来たのやもしれぬ。

    それは、兄、成之を
    城に招き入れると決めた時から、
    いずれはと考えていた事だった。

    兄に家督を譲る。
    それは、如何にしたら、
    成せようか?

    永禄に思いを巡らせていると、
    不意に病室の扉があいた。

    「あらあら、どうしたの?
     そんな難しい顔をして。」

    入ってきたのは、美香子だった。
    白衣を着た美香子は
    別人に見える。
    背筋がピンと伸びて、
    実に頼もしい。

    「眉間にシワを寄せていると、
     幸運の神様が逃げるわよ。」

    美香子はそう言って、笑った。
    忠清もつられて頬笑む。

    「そうそう。その調子。」

     「母上、わしは、次の満月には、
      永禄に戻れるであろうか?」

    「その前に、まずは唯の部屋に
     戻りましょうか。
     焦らずゆっくり
     体を慣らす事が肝心。
     永禄と平成では、
     環境が違うから。」

    美香子の言葉に、
    忠清は素直に頷いた。

    そして、早速、
    尊が貸してくれた、
    “肉食系のふて猫“が
    プリントされたTシャツに
    着替えると、若君は
    唯の部屋に向かった。

    中に入ると、
    すぐに写真を手に取る。
    そう。
    あの“金メダルをかじっている“
    写真を。

    唯、無事でおるか?
    今暫くの辛抱じゃ。

    そこへ、尊が入ってきた。

     「病室から戻ったって聞いて。
      少し、外に出てみます?」

    「そうじゃな。
     そう言えば、尊は、
     学問所には行かんのか?」

     「色々あって、
      今は家で勉強してますから。
      それに、もう夏休みだし。
      でも、もし、若君が
      行ってみたいなら、
      お連れしますけど。学校へ。
      気になってるんでしょ?
      この前の、陸上部のコーチの話。
      今なら、指導してるかも。
      僕なら、大丈夫。
      たぶん。。。」

    そして、二人は学校に向かった。
    忠清の自転車の練習もかねて。

    「のう、尊。
     箱根の駅伝とやらは、
     どの様なものなのじゃ?」

     「僕は、詳しくないのですが、
      二日に分けて、東京から、箱根の
      芦ノ湖まで往復するんです。
      距離は往復で220㎞。
      5区間づつ、合わせて10区間を
      10人で走ります。
      タスキを渡しながら。」

    「一人、五里程か。」

     「そうなりますね。
      開催が正月なので、
      凄く人気がありますよ。」

    「つまり、それを走るのは、
     栄誉な事なのじゃな。」

     「そうです。」

    学校の駐輪場に自転車を
    止めると、グラウンドに向かう。

    トラックを10人ほどが
    塊になって走っている。
    その手前のストレートコースでは、
    数人がスタート練習を
    繰り返していた。

     「やってますね。やっぱり。」

    「うむ。」

    二人は、隣接している体育館の
    外階段に腰を下ろした。

    グラウンドの脇の芝生で、
    一人の生徒に姿勢の指導を
    していたコーチが、二人に気づき、
    走って来た。

    「君達、見学者?
     入部希望かな?」

     「あ、いや、
      そう言う訳では。。。」

    尊が慌てて答える。
    尾関が、忠清のTシャツの
    ”猫”に目を留めた。

     “唯が弟にプレゼントした、
     Tシャツのイラストにそっくり“

    美香子の言葉が、
    尾関の頭をよぎる。

    「君、もしかして、速川の弟?」

      「あ、いや。
       弟は僕です。」

    忠清の代わりに、尊が答えた。

    忠清は、真っ直ぐに
    尾関を見つめる。

     「実は、ちと、お尋ねしたき
      儀が御座る。」

    それから、小一時間、忠清と尊は、
    尾関が語る“箱根愛“を
    聞く事になった。
    尾関はタブレットを持って来て、
    グーグルマップやストリートビュー
    を駆使し、駅伝の名勝負を
    解説してくれた。
    部員の一人が呼びに来なければ、
    尾関は陽が落ちても
    語り続けたに違いない。

    駆け競べを、あの様に
    熱く語る者があるとは。
    唯は、良い師を持って
    いるのじゃな。

    喜ばしい事のはずだった。
    なのに、心の隅に
    淋しさが忍びよる。

    今まで感じた事の無い、
    己の心の揺れに気付いて、
    忠清は、戸惑った。

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