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    これが実物かー

    古本屋に、健太郎くんの写真集がありました。

    古本なんで中身も確認して、おー、きっとこの写真だな、皆さんが盛り上がってたのは~と推測もして(;^_^A

    で、誰かが手放したんだな、切ないねぇ…と思い、家に連れて帰りました。

    今ようやく手に入れたという事は、この板の私の創作話、平成Daysや令和Daysで、若君を散々脱がしておきながら(ノд<)、実物を知らなかった訳でして。

    妄想も甚だしく、描かせていただいております。

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    二人の令和Days63~8日19時30分、咲き誇ります

    めいっぱい楽しんで欲しい。
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    すっかり、空は夜の色に変わった。

    尊「あ、兄さん。大砲のようなかなり大きい音がしますけど、敵の襲来ではありませんからご安心を」

    若君「そうか。承知致した」

    花火大会、スタート。一斉に花火が打ち上がり、辺りが一気に明るくなる。

    唯「キャー!」

    若「おおっ」

    尊「わー、楽しい!」

    会場は横に長いので、左から右から打ち上がる。

    若「おぉ、せわしいのう」

    唯「首が疲れちゃうよぉ」

    尊「全体をなんとなく観てればいいじゃん」

    唯を真ん中に、三人並んで観ている。

    唯「たーくん、キレイだね」

    若「そうじゃな」

    若君にもたれかかる唯。唯の肩を抱き、引き寄せる若君。

    尊 心の声(夏の夜のデートだよねぇ。ま、どんどんくっついてくださいな)

    若「尊よ」

    尊「は?はいっ!」

    若「何じゃ?その驚き様は。声をかけただけじゃが」

    尊「いや、まさかその状態で呼ばれると思ってなかったんで、すみません」

    若「まあ良いが。花火が上がると、後から遅れて音が聞こえるように感ずるのじゃが」

    尊「あ、その通りです。光と音では伝わる速さが違って、音の方が断然遅いからなんです」

    唯「それ私もわかるー。雷も、ピカッからゴロゴロまで時間あると、遠いって言うでしょ」

    尊「お姉ちゃん、ご名答。どのくらい違うかは、また花火終わってから説明しますよ」

    若「遠雷と同じなのか。体では分かっておる事も、はっきり謂れがあり、此処ではつまびらかになるのじゃな」

    唯「でも、数字で言われても、わかんないよねぇ」

    尊「お姉ちゃんは聞けばわかるでしょ」

    唯「えー、だって難しそうだしぃ」

    若「ハハハ」

    花火が、何かを形作っている。

    唯「あー、カエルだぁ!」

    尊「凝ってるー。あ、次は猫だ」

    若「あれは…何であろうか」

    尊「えーっと何だろ…あ、キノコだ」

    若「茸。ハッハッハ」

    唯「あー、ヤな予感するー」

    若「唯が、山の茸を取って食おうとした事を思い出した」

    尊「そんな事があったんですか」

    唯「だってさー、2日間水だけで山道ずっと歩いてたんだよ、手も出るってモンよ?」

    尊「それって、もしかして兄さんも一緒で、同じく空きっ腹だったんじゃないの?」

    唯「まぁ、そうだけど」

    尊「鍛え方の違いだな。胃を小さくしといた方がいいんじゃないの?今も、結局完食してるしさあ」

    唯「お腹がふくれさえすれば、絶好調なの!」

    尊「燃費悪いなー」

    花火は、空高く打ち上がるのもあれば、湖面近くで花開くのもあり、それは距離が近い分、迫力が凄い。

    若「あれは…やっておる者達は、危なくはないのか?」

    尊「万全の態勢でやってるから、大丈夫だと思いますけど…総領だけに、目の配り方がさすがですね」

    若「皆が無事なのが何よりじゃからの」

    ラストに近づいて来た。尊がデジカメを構える。

    若「撮る、のか?」

    尊「はい。写真はちょくちょく撮ってましたけど、終わりにかけては一番豪華なんで、動画を撮りますね。お土産用に」

    唯「わぁ!ありがとう~」

    エンディング。これでもか!の大乱舞。

    若「おぉ…」

    唯「すごーい」

    最後、空一面を彩り、終了。

    唯「はぁ~。終わったぁ」

    尊「これで、良しと。また編集しますね」

    若「このような素晴らしき経験をさせて頂いた、お父さんに感謝せねばならぬ。付き合うてくれた尊にも、礼を申す」

    尊「そんな、痛み入ります。僕こそ、すごく久々で、こんな機会作ってくれた兄さん達に感謝ですよ」

    若「家で待ってくれておる、お母さんにも感謝じゃな」

    尊「あっ、お父さんからLINE…えっと、道が混んでるから、9時半位になるって」

    唯「じゃあ、シートはもう少しこのままにしよっか」

    周りは、家族連れの姿は減り、カップルばかりになっている。

    尊「これも、夏の夜って感じだな」

    唯「イチャイチャタイム?」

    尊「ま、そうでしょ。って、自分は一日中イチャイチャしてるじゃん」

    唯「悪い?」

    尊「いいよ。平和な時を楽しんでくれれば」

    唯「えー。なんか、尊すっごく物分かり良くなってない?」

    尊「悪い?」

    唯「いいよぉ」

    若「ハハハ。まことに仲の良い姉弟じゃ」

    お迎えまであと少し。

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    続きます。

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    二人の令和Days62~8日18時、ヒヤヒヤです

    武士であり、唯にとっては騎士。knightね。
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    花火大会の会場近くに到着した。車を降りる子供達。

    尊「じゃあ、9時前位にこの辺りで」

    覚「わかった。忠清くん」

    若君「はい」

    覚「楽しんできて」

    若「はい!」

    会場の公園。

    唯「だいぶ場所取りしてあるね。この辺りにしよっか」

    尊「そうだね」

    若「敷物を広げれば良いのか?」

    尊「はい。そっち持ってください」

    陣地が完成。

    唯「もっと人多くなると、戻った時に陣地がわかんなくなるから、今のうちになんか買ってくる!」

    ぴゅ~っと、唯が走っていった。

    尊「返事する前に行っちゃったよ」

    若「ハハハ」

    敷いたシートに座る若君と尊。湖のほとりの公園。花火は湖面に上がる。

    若「まだ昼の暑さは残っておるが、湖を渡る風が涼やかじゃの」

    尊「そうですね」

    若「この、目の前で花開くのか?」

    尊「はい。迫力ありますよ。僕も見に来るのは久しぶりなんで、楽しみです」

    若「そうか」

    唯の姿が見えた。

    尊「あ、戻って来た。ん?」

    なぜか、男性二人に挟まれて歩いている。

    若「知った者に会うたのか?」

    尊「それはわからないんですけど…」

    唯の様子を観察する。男達に、やたらと話しかけられているように見える。

    尊「あ」

    若「なんじゃ?」

    尊「お姉ちゃん、ナンパされてるんだ」

    若「ナンパ、とは?」

    尊「あっ、えっと」

    尊 心の声(どうしよう!成敗するって、前みたいに立ち回りが始まったら)

    若君と一緒に黒羽城公園に行った時の、不良達とのやり取りを思い出す尊。

    尊「あの、誘っているというか…」

    若「誘う?」

    尊「お茶しようよとか遊ぼうよとか…」

    若「何だと。危ない目に遭うておるのか?」

    若君の顔色が変わった。

    尊「見た所、危ないとまでは…あっ」

    止める間もなく、立ち上がり走り出す若君。

    尊「ひゃー!お願いだから、無茶はしないでー!」

    後ろ姿に何とか声をかけた。

    尊 心(大丈夫かな…いや、今の顔、まんま戦国武士だったしなあ。心配だ~)

    緊張しながら、唯達の様子をうかがう尊。

    尊 心(あ、思ったより穏便に終わりそう)

    男達は、若君が到着するとすぐ、散り散りに去っていった。

    尊 心(あんな迫力あるイケメンが走って来たら、勝てる訳ないもんな。そりゃそうなるよね)

    胸を撫で下ろす尊。唯と若君が戻って来た。

    唯「ただいまー」

    尊「なんか、緊張感ないなー」

    唯「たーくんがすごい顔して走って来たから、びっくりしたけど」

    尊「さっき一緒に居た人達、別に知り合いじゃないでしょ?」

    唯「知らない」

    尊「何しゃべってたの」

    唯「しゃべってないよ。なんか色々話しかけられたけど、よくわかんないから無視してた」

    尊「なんとかナンパをかわしたと」

    唯「ナンパ?え、私ナンパされてたの?!」

    尊「のんき過ぎる。兄さんの足元見てみなよ」

    唯「え?あっ、裸足…サンダル履いてない!」

    若「唯が危ない目に遭うておると思うての、そのまま駆け出したのじゃ」

    唯「えーっ!たーくぅん、嬉しい、ありがとう~!」

    尊「しっかし、なんかいっぱい買ってきたね」

    唯「見ると全部美味しそうで。で、ごめん、持ちきれなくて飲み物買ってない」

    尊「あっそう。じゃあ僕買って来るよ」

    若「わしが行こう」

    尊「いえ。兄さんは、お姉ちゃんを守っててください」

    若「そうか。わかった」

    唯「おおげさだなぁ」

    尊「何言ってんの。勝手に動いたりして、兄さんを心配させないように」

    唯「はぁい」

    尊「じゃあ、適当に買ってきます」

    若「よろしく頼む」

    尊 心(ふう。兄さんが居れば安心に決まってるのに、つい焦っちゃったな)

    日が暮れてきました。

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    瞬殺でしたね。

    続きます。

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    二人の令和Days61~8日木曜10時、コツコツと

    芳江さん。ドラマの新作でお会いする事はもう叶いませんが、創作物語ではずっと、キュートな笑顔で居ていただきます。
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    地味な作業ではある。
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    朝ごはん後、早速四人で鶴を折っている。

    覚「あまり、根を詰めるなよ」

    唯「うん。でも今日は夕方からメインイベントだから、あっつい昼間はこれやっててちょうどいいよ」

    尊「花火大会の会場辺りも、雨の心配はなさそうだね」

    唯「たーくん、いよいよ、おっきい花火観られるよ」

    若君「楽しみじゃ」

    昼ごはん。美香子がクリニックから戻る。

    美香子「順調?」

    若「はい」

    美「まだ封開けてない折り紙、一つ貸してね」

    唯「いいけど、折る時間なんて、なくない?」

    美「うん、ない。でもこれを見て、忠清くんも頑張ってるから私も仕事頑張る!ってモチベーションを上げようと思って。お盆休みまであとちょっとだし」

    尊「なるほど」

    午後のクリニック。

    エリ「折り紙ですか?」

    芳江「今は折る機会も中々ないですね。孫はゲームばっかりで」

    美「忠清くんが、千羽鶴作りたいって今頑張ってるの。永禄の平和を願ってね」

    エ「まあ、若君が。素晴らしいわ」

    芳「本当に。感心しきりです」

    その頃のリビング。引き続き四人で製作中。

    若「尊には、これではなく、勉学をして欲しいのじゃが」

    尊「いいんですよ。だってあと一週間だし。僕の心配はしなくていいです」

    若「済まない」

    唯「あと一週間かぁ。今日は夕方までこれやってればいいけど、やっぱデートやイベントも大事だよねぇ。お父さん、何時頃出発する?」

    覚「そうだな。花火は7時半からだけど、早目がいいよな。早過ぎても暑いし…5時に家出れば、まあ立ったまま観るような事はないんじゃないか?」

    唯「わかったー」

    尊「じゃ、作業は4時半位までだね」

    若「そうじゃな」

    覚「まずは、一旦休憩しな。はい、ジュースどうぞ」

    休憩中。

    唯「お父さん、花火大会の会場まで乗せてってくれて、帰りも拾ってくれるんだよね?」

    覚「そうだ」

    唯「その間はどうしてるの?」

    覚「そこからは離れて、夜のひとりドライブと洒落こむよ」

    若「それは…難儀をかけ、済みませぬ」

    覚「気にしなくていいから。あとさ、晩ごはんは、ホントに帰ってからでいいのか?」

    尊「いいよ。今日はお母さん置いてきぼりだし、食事はできるだけ五人でしようよ。軽くはつまんでおくし、どうせ一人空きっ腹のヒトは勝手に食べてるから」

    唯「いいじゃん、お祭りっぽくって」

    覚「まあ、とにかくはぐれないように。尊にしか連絡できないから」

    尊「そうだね」

    若「連絡出来ぬとは、どういう事でしょうか」

    唯「たーくん、言ってなかったけどね、私のスマホ、もう電話とかLINEとかできないの」

    覚「さすがにもう使わんだろうって、年明けに解約したんだよ。物が手元にあるから分かりにくいよなあ。どう説明すればいいだろう」

    若「電源、は入っておるようじゃが?」

    唯「うん。Wi-Fiが繋がれば使えるから、家の中なら、検索とかはできるんだよ」

    若「わ、わい?」

    尊「難しいですよね。機械としては使える時もある。でも連絡手段としては使えないんです」

    若「そうなのか」

    覚「だから、くれぐれも迷子にならないようにな」

    若「承知致しました」

    唯「三人一緒ね。あ、これが、えーと、さんみいったい、ってヤツ?」

    尊「この場合はちょっと違う」

    唯「えー、違うの?」

    若「ハハハ」

    そろそろ出かける時間。

    唯「今日は、どっちのワンピ着よっかな~」

    尊「ひまわりので」

    唯「なんで尊が答える?」

    尊「だって白無地だと、他の人と間違えそうだし人混みに紛れちゃうから」

    唯「そっか。安全策ね」

    支度ができました。

    覚「レジャーシートは持ったか?」

    尊「あるよー」

    唯「では」

    若「レッツ、ゴーじゃな」

    唯「正解!」

    いよいよ、花火大会に出かけます。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    夏の想い出も、ちゃんと作ろうね。

    続きます。

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    月文字様

    四太郎、よろしゅうござりまする!
    人気俳優さんが続々出演されているCMですから、いつか…は有り得た話ですね。
    与太郎も確認しました。1話のあの場面、結局誰が誰の何にあたるか、正解がわからずじまいで、その場に居ても混乱しそう。

    私の話、いつ寸止めじゃない場面が出るかと、ヒヤヒヤしながらご覧いただいているのですね。なんか、すみません。そういう方、多いのかな…。

    寸止めはしませんが(^_^;)悪者も出さないのがモットーでございます。その点は、安心して見ていただけるかなと思っております。

    黒羽城が復元なんかしちゃったら、櫓の上で月見がしたい!

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    四太郎ものがたり

    もしも某ケータイ会社のCM
    『三太郎ものがたり』に
    健太郎さんが登場したら……

    縁側で横になっている健太郎さん。

    浦島太郎「あ、今日も寝てる?」

    三之助「寝てる」

    木村様「たわけ!寝ておる時ではなかろう」

    桃太郎「しーっ。寝かせておいてあげようよ」

    金太郎「もう三年も寝てるらしいよ」

    目を覚ます。

    健太郎さん「三年…」
    (若君「三千…」的な)

    浦島太郎「おはよう、寝太郎」

    桃太郎「それ、あだ名だよね。で、まことの名は?」

    健太郎さん「私は け…、いえいえ、名乗るほどの あれじゃありません」

    阿湖姫「なんと奥ゆかしい」
    (織姫の辞書には無いであろう言葉)

    金太郎「じゃあ、寝太郎で」

    健太郎さん「寝てたんじゃないんです、考えてたんです。やっと…やっと…ひらめきました。わらじを作りましょう!」

    三之助「それなら、わらをようけ たたいておいた」

    唯「三之助~!ありがとう」

    三太郎「何、この展開」

    こうして、みんなで佐渡島へ行きましたとさ。(鬼ヶ島は登場せず)

    与太郎「わしも入れてくれ~」
    (アシガール1話に名前だけ登場する人物)

    参考:民話『三年寝太郎』

    ◇◇◇
    どうも、お邪魔しました。
    寸止めの美学を重んじる私は夕月さんの最初の説明に恐れをなして夕月さんのお話を読めておりません。
    なんちって。
    恐る恐る、ちゃっかり読んでます。
    若君の城郭めぐりを見ていると
    現代での黒羽城の復元を夢見ます。

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    二人の令和Days60~7日14時、千里の道も一歩から

    帰るまでの目標ができました。
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    お好み焼き店。鉄板前の五人。

    覚「熱々の出来たてが来るから、忠清くんは気を付けて」

    唯「私がフーフーしてあげる!」

    若君「冷ますという事か?己で出来るがの」

    唯「えぇぇぇ」

    若「…頼もうか」

    ふんわりと厚みのあるお好み焼きが、人数分運ばれてきた。

    覚「まさかこれで、足りないって事はないだろうが」

    唯「んー、たぶん」

    尊「多分かーい」

    目の前のお好み焼きを、若君がじっと見つめている。

    若「動いておる…」

    尊「何がですか?あー、かつお節が湯気で揺れてるんだ」

    覚「こういう、僕らではもう気にも止めない事に気付くのは、感性が素晴らしいな」

    唯「はい、たーくん、あーんしてぇ」

    若「……、…うまい」

    美香子「唯~、一口が大き過ぎ!」

    昼ごはん、終了。

    覚「じゃあ、ぼちぼちと帰るか」

    帰り道の車内。

    美「あー美味しかった」

    覚「中々、家ではふわっと出来ないからなあ」

    若「お父さんの腕をしても、ですか?」

    覚「ありがとねぇ。あそこまではならないんだ」

    尊「ホットプレートならさ、もんじゃ焼きの方が簡単にできるよね」

    覚「もんじゃかー、最近やってないなあ」

    唯「えー、久しぶりに食べたい!帰るまでに作ってー」

    覚「そうだな。わかった」

    若「もんじゃ。また変わった名の料理じゃ」

    美「見た目、ちょっと引くかもしれないわね。だけど美味しいから楽しみにしてて」

    若「わかりました」

    唯「ねぇねぇ、アイスクリームってまだあった?」

    覚「あったかなー」

    尊「ないよ。昨日最後の1個僕が食べた」

    唯「いつの間にー」

    尊「自分ら、デートしてたじゃん」

    唯「ま、そうだけど」

    覚「じゃあ、スーパーに寄ってくか。あと何か要る物あったかな?」

    若「お父さん」

    覚「お?何か買う物思い出した?」

    若「いや、お母さんにも、お訊ねしたき儀があるのですが」

    覚「おー、久々に聞いたなぁ」

    美「どんな事かしら?」

    若「先刻、神社で見た千羽鶴、あの鶴はわしでも作れますか?」

    美「うん、作れるわよ」

    尊「教えましょうか?」

    若「え?」

    唯「うん、私もできるよ」

    若「二人が答えるとは思わなんだ」

    唯「鶴は、折り紙の定番だから」

    若「そうなのか。すぐに習得出来るかのう」

    唯「大丈夫じゃなーい?え、もしかしてたーくん、千羽鶴作りたいの?」

    若「戦なき世を願うと聞いた。己で出来得る事があるのならば、是非成し遂げたいのじゃが」

    一瞬、車内が静かになった。

    尊「…そうなんだ。兄さんはやっぱすごいな。じゃあ、手伝います」

    覚「皆で手伝うよ。でも帰るまでに千羽できるかなー」

    美「千って、確か多いって意味よ。千羽折らなくてもいいと思う。もしどうしてもそうしたいなら、永禄に帰ってから続けたらいいわ。こちらに居る内に千羽は、ちょっと厳しいと思うし」

    若「そうですか」

    美「とても素晴らしい事だけど、空いた時間にだけコツコツやりなさい。忠清くんの事だから、何よりも優先してやっちゃいそうだもの。残りの現代の時間も、ちゃんと満喫して欲しいから。ね?」

    尊「さすが、可愛いい息子の事、よくわかってる」

    若「ありがとうございます。されど、出来得る限り、励みとう存じます」

    覚「じゃあ、折り紙も追加で」

    17時、スーパー経由で帰宅。

    尊「この折り紙が全部鶴になるんだね。さぞかし壮観だろうな」

    若「今まで見た紙より、小さいようじゃが」

    美「千羽鶴なら、小さめがいいから。でも練習するのは大きい方がいいわよね」

    唯「ガーランド作った時の残りが、ちょっとだけあるよ」

    美「じゃあまず、それでやってみようね」

    若「ありがとうございます、お母さん」

    若君は大きい折り紙で試作、教える母と唯達は小さい折り紙で、作り始めた。

    美「三角に二回折った所を、こう開くの」

    若「こうですか?」

    尊「…すごい、みんな黙々と折ってる」

    唯「集中してるんだよ。たーくんのために」

    覚「なにより、唯がアイスクリームをすぐに食べ始めなかったのが凄いな」

    唯「失礼なー。お風呂上がりの楽しみにするから今はいいの!」

    若「ありがとう、唯」

    唯「いーえー。って、さてはアイス優先だと思ってたな?」

    若「あぁ」

    唯「ひどっ」

    一つ一つ、出来上がっていきます。

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    無理はしないでね。

    7日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days59~7日12時、願い事はなに

    今日は、和、の日の模様。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    城内。どんどん上階へ。

    尊「ここが一番上かな?」

    唯「わー、すごい!」

    川沿いの崖に立つその城は、大変見晴らしが良い。

    唯「外に出られるよ。あ、川が見える!」

    美香子「この木製の手摺が低めで、ちょっとスリルがあるわね」

    外回廊。川からの風が心地良い。

    若君「…」

    覚「当時は、近くの他の城も見えてただろうな」

    若「お父さん」

    覚「何だい?」

    若「黒羽城は、どちらの方角でしょうか」

    覚「あ、あぁ。えーとね、ここから南西になるから、こっちだよ」

    二人で移動し、黒羽城がかつてあった方角を臨む。

    覚「距離的には、当時も見えはしなかったけどね」

    若「はい。良いのです」

    外を眺めながら佇む二人。

    覚 心の声(考えさせちゃう所にばかり、連れて来てるかな…)

    尊「あ、ここに居たんだね」

    唯「外、ぐるっと一周してきたよ~」

    若「…そうか」

    美「地上は暑いけど、ここは涼しくていいわね~」

    覚「確かにな」

    若「お父さん、ありがとうございました」

    覚「もう、いいの?」

    若「はい。良き城でした」

    城を出る。城下町まで下りる途中に、神社があった。

    覚「参拝してくか」

    鳥居をくぐり、参道を進む。

    美「お城もそうだけど、こういう和の場所って、なーんか心落ち着くわよね」

    賽銭箱の前。

    唯「ここにお金を入れるの」

    若「ほぅ。銭を供物とするのじゃな」

    唯「くもつ?」

    尊「はい、そうです。多分永禄の頃って、まだお米とかですよね」

    若「そうじゃな」

    唯「お米を賽銭箱に入れるの?」

    尊「違うー。ここに銭って書いてあるじゃん」

    覚「説明は後にしろ」

    美「静かにね」

    唯&尊「はぁい」

    お参りが済んだ。参道の脇に、絵馬が沢山掛かっている。

    若「お母さん、あれは、何ですか?」

    若君が指差す先に、色とりどりの、ある物。

    美「絵馬の事かしら?」

    若「絵馬は、分かります」

    美「あ、そうなのね。ごめんなさいね、何がいつから始まったとかわからなくて」

    若「いえ。絵馬と共に掛かる物が分かりませぬ」

    覚「ん?あー、千羽鶴だね」

    若「千羽、鶴…鶴を千羽も模したと?」

    美「少し近付いて見てみたら?」

    絵馬掛所の前に、皆で進む。

    若「これは…紙で出来ておるのですか?」

    美「そうよ」

    唯「この前三角に折ったでしょ、折り紙」

    尊「それと材料は一緒です」

    美「きっと、どなたかが祈願の為に奉納されたのね」

    若「祈願。どのような?」

    美「病気が治りますようにとか、試合に勝てますようにとか、平和な世の中になりますようにとか」

    若「平和…。戦のない世を願ってですか?」

    美「そうね。一つ一つ祈りながら折るって過程が大事だから、奉納せずに、家に置いてある事もあるわよ」

    若「そのような品ですか…わかりました」

    神社を出た。

    唯「昼ごはん何にするー?」

    尊「すぐに俗世間にまみれるなぁ」

    唯「お腹空いてないの?」

    尊「まだお腹空いてるの?」

    唯「いいじゃん。たーくん、何か食べたい物ある?」

    若「何かというか、家族皆で囲む食卓は、何でもうまいのじゃが」

    美「皆で囲む…あ、じゃあさ、お好み焼きはどう?」

    尊「お好み焼き?やったっ」

    唯「食べたーい!」

    覚「それはいいが、鉄板前は暑いぞ~」

    美「多少は暑いけど。忠清くん、いい?」

    若「はい。祭の夜に食した、半月型の物ですね」

    美「今日は、お店でいただくから満月型よ」

    若「そうなんですか」

    尊「店探すから、少々お待ちを」

    覚「予約もしちゃってくれ。五人だから、行って四人席しかないと困るから」

    尊「了解~」

    早速予約。

    覚「じゃ、移動するか」

    四人「はーい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days58~7日11時、安全な時代とは

    戦はないのが一番。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    城近くに到着。駐車場に停め、プラプラ歩き出す五人。

    覚「まずは見学を先にして、昼ごはんは後だな」

    唯「お腹空かない?」

    覚「先に食べると、階段がキツい」

    唯「そっか」

    整備された城下町に入ってきた。町並みに風情が残されており、店も多く、賑わっている。

    唯「わー、ワクワクするー!先に向こうまで行って見てくる!」

    美香子「あんまり遠く行っちゃダメよ~!」

    覚「小学生だな」

    若君と尊が、並んで歩いている。

    尊「格好はかわいくても、中身が変わんないから」

    若君「ハハハ。良いのじゃ」

    唯の弾むポニーテールを、目で追う若君。

    若「唯の、目を見張る程の姿は、永禄で幾度か見ておる」

    尊「はい」

    若「おなごの姿や、祝言の折や」

    尊「はい」

    若「だが、そのいずれもすぐに別れが訪れた」

    尊「そう…ですね。その二回、帰って来た時はしばらく目も当てられませんでした」

    若「今は、手を伸ばせばそこに居る。消えずにずっと居る。それが嬉しゅうての」

    尊「…」

    若「どうした?」

    尊「兄さんも辛かったんだな、って」

    若「唯にも家族にも、この先の世に帰すのが最も良き策と思うたゆえ、わしの存念など二の次であったからの」

    尊「これからは、姉とずっと一緒に居てください。二人ともそう望んでるんだから、そうすればいいんです」

    若「そうじゃな…唯が居ない世は最早考えられぬ。が、この先の世に留めおくのが良いのでは、と時折考えてしまう」

    尊「なぜですか?」

    若「永禄では明日もわからぬ身。できれば危ない目に遭わせとうない」

    尊「令和の現代は、安全だと思いますか?」

    若「そう思うておるが。違うと申すか?」

    尊「僕は行き来してないので、比べられません」

    若「にしては、違うかのような物言いであったが」

    尊「すみません」

    若「謝らずとも良いが、何やら含みがあるのう」

    道の奥に唯の姿が見えた。手を振っている。

    若「またの折に、尊の存念を聞かせてくれ」

    尊「はい」

    唯の手にはダンゴ。口をモグモグさせている。

    美「もう食べてる!」

    唯「ダンゴが呼んでたからー」

    覚「この分だと、走って先に行っては買い食い、僕らが追い付いたらまた走って先で食べ、じゃないか?」

    唯「あ、それいい」

    尊「やっぱ太って帰るんだよ。姫様お顔が丸うございます、って言われるよ」

    唯「えー」

    尊「兄さん、どう思います?」

    若「そういえば、最近は抱えると少し重く感ずるような」

    唯「やだ、抱えるって…なんてコト言うの!」

    引き続き、五人でプラプラ。

    美「永禄の城下町は、どんな感じなの?」

    若「道幅は、うんと狭いです」

    尊「ここは自動車も通るから広いよね」

    唯「下は土だよ」

    覚「それは聞かなくても分かる」

    城に着いた。木々の間から覗く天守をバックに、写真をパチリ。

    若「また趣が違うておる。これまた美しい」

    覚「入ろうか」

    石垣が目の前に。

    若「…」

    覚「急かしちゃいけないな」

    美「そうね」

    入城。巡っていると、殿用の控えの間があった。

    唯「たーくん座っても、全然違和感ないよ」

    若「それは、いかがなものか」

    階段では、やはりするすると軽やかな動きの若君。

    美「なるほどね。見事だわ」

    上がると、そこはかなり広かった。

    尊「城によって、だいぶ造りが変わるものなんですね」

    この前の城とは違い、天井が高く、吹き抜けのようになっている。

    若「わしが思うに」

    尊「はい」

    若「前の城は、防御を重きに置いていた」

    覚「あー、あちこちに矢狭間や鉄砲狭間があったね。あれでは城内に入る前にアウトだ」

    若「この城は、城内で戦わざるを得なくなった時に備え、天井が高いのだと思います。これなら、槍が使えますゆえ」

    尊「槍を振り回してもぶつからないために、高い天井。へー」

    唯「たーくんすごーい。勉強になるぅ」

    美「なるほどね。こうやって見知った知識で、いよいよ、お城を建てる準備を始めちゃう?」

    若「あ、いや、ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days57~7日水曜9時、男も女もなく

    イチャイチャが止まらない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日は家族全員で城ツアー。朝ごはん後、唯の部屋で着替え中。

    唯「たーくん、これが買ってもらった服!かわいいでしょ~」

    若君「おぉ。よう似合うておるぞ」

    唯「ありがと。この袖とか、見覚えない?」

    若「覚えておる。あの、皆で写真を撮った折の、装束に似ておるの」

    乳白色の半袖カーディガン。ボタンを首元まで全て留め、セーターとして着た。身頃全体に小花が付いている。袖が大きく膨らんでおり、少し透けている。下はジーンズを合わせた。

    唯「でしょでしょ!お母さんが見つけてくれたの~」

    若「幾度も着ないのに買うて頂くとは、ありがたいのう」

    唯「そうだね。ヘビロテするつもりだよ」

    若「蛇、露呈?」

    唯「急に蛇出たら怖い~。違うの、何回も着るって意味だよ」

    若「そうか。現代語、はやはり難しいのう」

    朝からかなり気温が上がっている。

    唯「暑いなー。今日は、髪結ぼうかなあ」

    若「ほぅ」

    母にもらった、赤いリボンの付いたヘアゴムで、髪を後ろで一つにまとめ始める唯。

    若「確かに今朝は一段と暑い。わしも今日は、髷にするかの」

    唯「その方が涼しいよね」

    若「その、対の残りを使おう。すると、唯と揃いになる」

    唯「おそろ?わぁ、嬉しい!え、でもリボン付いてるよ、いいの?」

    若「リボン。結び目を模したこれが付いておると、わしが使うてはならぬのか?」

    唯「結び目。確かに。そう言われればそう。男女関係ないと言えばない。だから女の子用と決めてはいけない…」

    若「何か、おかしな事を申したか?」

    唯「ううん。たーくんは正しいよ。すっごく正しい」

    若「大仰じゃの」

    唯「なんでもないよ。じゃあ今日はおそろで!やった~。ねーねー、たーくんの髪、結んでみたーい!」

    若「それは良いが、仕上がりはそのような?」

    唯自身のポニーテールが、かなり適当に結ばれている。

    唯「え?まぁ、これは。たーくんのは、もうちょっと丁寧にするからぁ」

    若「お手柔らかに頼む」

    まとめ始めるが、なかなか進まない。

    唯「はぁ、うっとりしちゃう~。ずーっと触ってたいっ。いっつもさ、起きるとたーくんもう居ないから、こんなん超貴重~」

    若「それは、唯が早う起きれば良いだけの事では?」

    唯「んー、聞こえない聞こえない」

    まあまあキレイにできあがった。

    唯「一丁上がり~」

    若「ご苦労であったの。では、代わろう」

    唯「代わる、ってなに?」

    若「その仕上がりでは…お母さんが嘆く。わしが直してやろう」

    唯「えー、たーくんが結んでくれるの?嬉しーい!おおざっぱだと、いい事あるなあ」

    若「ハハハ」

    恍惚の表情の唯。

    唯「髪ってさぁ、神経通ってないのに、なんで触られるとこんなに気持ちいいんだろ?」

    若「それは、想う相手なればこそであろう」

    唯「そんなモン?たーくんも、気持ち良かった?」

    若「良い心地であったぞ」

    唯「そっかぁ。これからは、がんばって早く起きてみようかなー」

    若「おぉ、良い心がけじゃの」

    綺麗なポニーテール、できあがり。

    唯「たーくんありがとう~。もうさ、朝からラブラブで、お出かけなんかどうでもいいような」

    若「それは本末転倒じゃろ。行くぞ」

    お揃いのヘアスタイルになり、ようやくリビングに下りてきた二人。

    唯「お待たせ~!」

    覚「おー、はいはい。それ、ウェディングドレスの上だな」

    尊「似た物があるもんだね」

    美香子「見つけた時は、もう嬉しくってね」

    唯「うふふ~」

    尊「兄さん、今日は髷なんですね。気温上がるらしいし、いいかも」

    若「唯と揃いじゃ。良かろう?」

    尊「あ、リボン付。お姉ちゃん何してんだよ」

    唯「たーくんがこれがいいって」

    尊「そうなんだ」

    若「怪訝そうじゃの。結び目が付いておるだけであろうに」

    尊「結び目。確かに」

    覚「そうか。うん、何というか、この中で一番先進的なのは、忠清くんだな」

    美「私もそう思う。よくお似合いよ、忠清くん」

    若「ありがとうございます」

    覚「よし。じゃ、そろそろ行こうか」

    ようやく出発。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days56~6日15時、昵懇の仲です

    互いにゾッコン、でもある。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    濡れたTシャツの裾を掴み、パタパタ空気を送って、早く乾かそうとしている唯。

    唯「もうちょっとで乾くから、待っててね」

    若君は微笑みながら、

    若君「何か、飲むか?」

    唯「あっ、うん。カフェオレの、甘めのがいいな」

    若「わかった」

    近くの自販機に歩いて行く。

    唯 心の声(キレイな背中…)

    若君は自分の財布を取り出し、買って戻って来る。一連の動きがしなやかだ。

    唯 心(夏の、王子様だ。はぁ。素敵過ぎる。見とれちゃう)

    若「姫、所望の品をお持ち致した」

    唯「ありがとう。たーくんのおごり?」

    若「おごり、とは?」

    唯「ごちそうしてくれるの?」

    若「勿論じゃ」

    唯「ありがと。たーくんも飲んでね」

    若「分け合うのじゃな。共有、が醍醐味と」

    唯「え?なんか難しいコト言ってる」

    仲良くカフェオレを分け合う。一層甘い。

    唯「だいぶ乾いたよ、もう透けてない。Tシャツ返すね」

    ふと触れた若君の体が、とても温かい。

    唯「たーくん、あったかい」

    若「温かい?それは唯が冷えておるのでは?」

    若君は立ち上がり、唯も立たせた。そして上半身裸のまま、唯を抱き締める。

    若「そこまで冷えてはおらぬの。良かった」

    唯「大丈夫だよ。心配させてごめんね」

    若「初めから、こうすれば良かったか?」

    唯「それはダメ」

    若「そうなのか」

    唯「気持ち良すぎて、離れられないから」

    若「ハハッ、そうか」

    腕を緩め、Tシャツを着る若君。

    若「おぉ、唯の匂いがする。良い香りじゃ」

    唯「やだ、恥ずかしい」

    見つめ合う二人。

    若「唯」

    唯「はい…」

    若君の手が、唯の顎をそっと持ち上げた。顔が近づいてくる。

    唯「…ダメ、ダメだよたーくん!」

    顔を背ける唯。

    唯「ごめんなさい、嫌だからじゃなくって」

    若「わかっておる。此処は公共の場、じゃからのう」

    唯「え、やだ、もしかしてわざとだったの?もー、たーくんの意地悪!」

    若「試したのではない」

    唯「そう?」

    若「さあ」

    唯「さあ?それ、穴だらけの言い訳だよ。もしや、隙あらばってヤツ?もろ、残念って顔してるもんね」

    若「あぁ、残念無念じゃ」

    唯「あれまぁ。あはは、素直でよろしい!」

    若「ハハハ」

    若君が、唯の髪を指ですく。

    若「こちらも乾いたの。良かろう。この後は、いかがいたす?」

    唯「久しぶりに、ボートに乗りたいでーす!」

    若「そうか、では参ろう」

    スワンボート乗り場。

    唯「ねぇねぇ」

    若「なんじゃ?」

    唯「今日はさ、別々に乗って、どっちが先に向こう岸に着くか競争しない?」

    若「ほぅ。ならば受けて立とうかのう」

    唯「なんか余裕だよね。ちょーっと、気にくわないなー」

    2艘に分かれ、用意、スタート。

    唯「キャー!」

    若「ハッハッハ~」

    バッシャバッシャと、漕ぎまくる二人。

    若「お、追い付いておるのう」

    唯「ムカつく~!」

    ちょっとの差で、若君の勝ち。

    若「大儀であったのう」

    唯「言ったなー、上から目線。旦那様の顔を立ててあげたの!」

    若「ハハハ~」

    たっぷり遊んで夕方。自転車に乗る。

    若「わしが前じゃ」

    唯「いいの?」

    若「お疲れの姫は後ろに」

    唯「優しーい。ありがと。ではよろしくお願いしまーす」

    若「しっかり掴まっておれ」

    唯「あー。はいっ!」

    若君の体にギュっと腕を絡ませて、帰ります。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    あなたがそばに居る幸せ。

    6日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days55~6日火曜14時、ふんわり守ります

    日付が、揃いました。ちょうど二年前は、こんなに自由に出歩けたな、と思いを馳せてしまいます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    どんな毛布よりも暖かい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯と若君が、出かける準備をしている。

    唯「今日は、少し曇ってるからそこまで暑くないよね」

    覚「一雨来るかもしれんぞ」

    唯「そーかなー」

    尊「何しに行くの?」

    唯「デート~」

    尊「ただ出かけると」

    唯「悪い?デートに理由などないのじゃ」

    尊「何しててもデートって事だな。いや、そのカッコで行くの?特別感が全くないけど」

    二人とも、Tシャツにジーンズ。

    唯「ペアルックと言ってっ」

    尊「普段着の延長でしょ。今日こそワンピースじゃないの?」

    唯「いいの、このカッコで」

    尊「アイロンかけるの面倒なだけでしょ」

    唯「ギクっ」

    二人の様子を、笑顔で見ている若君。

    若君「お父さん、久々に公園まで行って参ります。夕方には戻りますゆえ」

    覚「あー、気を付けて行っておいで」

    出発。自転車にまたがる唯。

    唯「たーくん、後ろに乗って。私の馬で、遠乗りへ参るのじゃー」

    若「後ろ、とな?ここに跨がれば良いのか?」

    唯「うん」

    若「重いじゃろう、わしが前に」

    唯「いーの、乗ってもいないのに重いとか言わない!」

    若「それもそうじゃの。ではよろしく頼む」

    唯「じゃあ行くよー」

    若君と二人乗りで、軽快に自転車をこぐ唯。

    若「おぉ、速い」

    唯「落ちないよう、しっかり掴まっておれ~」

    若「ハハハッ」

    唯 心の声(ちぇー、私にギュっ!とかしてくんないかなー)

    順調に走り、公園が見えてきた。が、

    唯「あ、ヤバっ、雨降ってきた!スピードアップ!」

    若「またそのような、唯ばかり濡れてしまうではないか」

    唯「いーの、あと少しだから行っちゃうよー!」

    本降りになった頃、到着。慌てて雨宿りする。

    唯「あー、焦ったぁ~」

    若「ひどく濡れてしもうておる」

    ベンチに座る二人。髪や腕の、雫を払う。

    唯「ハンカチじゃ全然追い付かないね」

    若「わしは良いのじゃが、唯が」

    唯「いいのいいの。もうちょっとだったのに惜しかったなー。…クシュン!」

    若「これは大変じゃ、体が冷えたのではないか?」

    唯「大丈夫、大丈夫」

    その時、若君は着ていたTシャツを脱いで上半身裸になり、そのTシャツで唯の髪や体を拭き始めた。

    唯「えっ!」

    若「背に腹はかえられぬ。幸いわしはそこまで濡れてはおらぬ、許せ」

    唯「やだ、ダメだよ、たーくんが風邪引いちゃう」

    若「わしの事はいい、じっとしておれ」

    おとなしく、拭いてもらう唯。

    唯 心(たーくんの匂いがする。あったかくて気持ちいいな…なんか安心する)

    拭いた後、一番濡れている胸元を隠すように、Tシャツを掛ける若君。

    唯「たーくん、ありがとう。返すよ」

    若「ならぬ。掛けておけ」

    唯「だって」

    若「ならぬ物はならぬ。その…」

    唯「なに?」

    若「見えて…」

    唯「見える?…あっ、やだっ!」

    胸元を確認すると、濡れたTシャツから、下着が透けてしまっている。

    若「さぞや冷たい思いをしたであろう。済まなかった」

    唯「そんな、私がムチャしたんだもん、たーくんは悪くないから」

    若「乾くまでそのままにせよ」

    唯「うん。わかった」

    若「大切な唯を、他の者に晒しとうない」

    唯「嬉しい。ありがとう」

    雨音が小さくなってきた。

    若「止みつつあるの」

    雲の切れ間から、空が見え始めた。

    若「夕立だったのじゃな」

    唯「良かった。もう大丈夫だね。あっ、虹見っけ!」

    若「おぉ」

    青空に、綺麗にかかっている。

    唯「なんかトクした気分ー。外に居たから見れたね!」

    若「濡れずに済めば尚良かったであろうが」

    唯「まっ、そりゃそうだ。あはは」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days54~5日11時15分、導きます

    若いけど、器量も徳もあるので。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君「所で、何を悩んでいる?」

    吉田「あ、はい。実は、留学の話が出てて」

    覚「へぇ、どこの国?」

    吉「イギリスです」

    尊の囁き「留学は、海の向こうの国に勉強に行く事。イギリスでは英語を話します」

    若「行きたくはないと?」

    吉「そんな事はないんですけど」

    若「英語、が不安なのか?」

    吉「微妙です。日常会話くらいは、なんとか」

    若「言葉は、お互いに相手が何を伝えようとしているかわかれば、何とでもなる」

    吉「あとは実践ですか」

    若「そうじゃな」

    尊 心の声(兄さんが、お姉ちゃんのハチャメチャな現代語に苦労した様子が、目に浮かぶよ)

    若「あとは?」

    吉「あとは…なんか、このまま流されていいのかなって。順調に進んでるんで」

    若「順調。良いではないか」

    吉「波に乗って、いいんでしょうか?」

    若「来た波には乗れば良い。波が砕けても、辿り着いた岸辺で、そのまま地に足を着け歩き出すのみ」

    尊 心(サーファー話の応用?)

    吉「なんか…全て前向きなんですね」

    若「前しか向かぬ。これは、唯に教わった」

    吉「あーあいつ、いつもそうですね。あっ、あいつなんて言ってすみません」

    階段から足音が。

    唯「あーよく寝た。え!吉田じゃん!何ウチでくつろいでんのよ!」

    吉「お前こそ、変な時間によくグースカ寝てられるよな」

    唯「で、なにしてんの」

    吉「忠清さんに、悩みを相談してた」

    唯「はあ。いきなり現れて?」

    吉「美香子先生に話したくて来たんだけど。でも先生には会えたし、悩みもなんだか解消したし」

    若「それは、手助けができて良かった」

    吉「僕今まで、大丈夫だよとか頑張れよとかしか言われてなくて。忠清さんには、特に励ましの言葉をかけられていないのに、一番背中を押してもらえた気がします」

    唯「たーくんは、色々苦労してるから」

    尊「生死の境を彷徨った事もありましたね」

    若「その際、助けてくれたのが、美香子先生だったのじゃ」

    吉「そうなんだ!へぇ、色々物語があるなぁ。忠清さんって、速川になってるから…医師を目指してるんですか?」

    若「あ?あぁそう…だね」

    吉「医師じゃなくても、カウンセラーとかもイケそう。僕、じっと見つめられて心が持ってかれそうになりましたから」

    唯「惚れそうになった?ダメだよ、あげないから!」

    覚「そうだね、さすが総領…あ、しまった」

    尊「お父さん~」

    吉「ははは、羽木家総領だけに、ですか?」

    覚「ははは~、賢い子は話が早いね」

    吉「では、大変お世話になりました。そろそろ帰ります」

    覚「え?良かったら昼ごはん食べていきなよ」

    唯「そうだよー」

    吉「昼の早い時間に用事があるんです。なのでこれで失礼します。ありがとうございました」

    廊下の途中、クリニック内で診療中の美香子に軽く会釈をして、玄関に向かった。

    吉「忠清さん、一つだけ質問していいですか?」

    若「苦しゅうない。申してみよ」

    吉「堂に入ってるなあ。あの、こいつのドコがいいんすか?」

    唯「うわっ!忘れてなかった!」

    若「ハハハ。唯はその、人となりそのものが、いわば生きる、生じゃ」

    吉「生。せい、ですか」

    若「生きる力が漲っており、周りにもその力を与える。時には命さえも皆に与える」

    吉「なるほど。確かに超前向きなんで、例えている意味はわかります」

    尊&覚 心の声(例えばかりでも、ない)

    若「また、雀の様に跳ね回る姿は実に愛らしい」

    吉「雀。かなりかわいい比喩ですね」

    覚&尊 心(愛の力だな)

    唯「もう!恥ずかしい、早く帰ってっ」

    吉「ははは。よくわかりました。本当に、今日はお世話になりました。ありがとうございました」

    若&覚&尊「いえいえ」

    唯「バイバーイ」

    リビング。

    尊「お疲れ様でした、兄さん」

    若「少しは、吉田殿の指針になったでしょうか」

    覚「なったよ、確実に」

    尊「一度は恋敵と思った人に、よく優しくできましたね」

    唯「そこ、大きく違うから!」

    若「いや、程なくして別の地に参るとの話であったので」

    尊「え!そんな事も思いながら話してたんですか。あい変わらずすごいなぁ」

    若「そうか?そういえば」

    尊「はい」

    若「カウンセラーとは、なんじゃ?」

    尊「あー、またそんな所で理解が止まってたんだ」

    全員「ハハハ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    救済完了。

    5日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days53~5日月曜11時、人生相談です

    悩める子羊、再登場。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    クリニック、診療時間中。

    芳江「先生、あの」

    美香子「はい?」

    芳「外に男の子がずっと立ってるんですが、入る気配がなくて。よく見たら、以前診察した唯ちゃんの同級生の子なんです。唯ちゃんを呼んできた方がいいですよね?」

    美香子が外を確認する。

    美「あら、吉田くんじゃない。どうしたのかしら?そうね、芳江さん悪いけど、彼をウチの玄関に案内してもらえない?」

    芳「わかりました」

    美香子が玄関に回った。ドアを開けるとそこには吉田くんが。

    吉田「美香子先生、こんにちは。すみません、突然来てしまって」

    美「それは構わないけど。唯を呼べばいい?」

    吉「いえ、実は先生に会いたくて来ました」

    美「え?」

    吉「僕、悩んでる事があって。どうしようもなく悶々としてたら、先生の顔が浮かんで…無茶は承知で、話を聞いていただけたらと思って、来てしまいました」

    美「まぁ、そうなの。気持ちは嬉しいけど、まだ診察中だしね」

    吉「そうですよね。すみませんでした!帰ります」

    美「…ううん、ちょっと待って」

    吉「え?」

    美「そういう話を聞いてくれる、うってつけの人物が今ウチに居るわ。頼んであげる。入って」

    吉「え、でも」

    美「いいのよ。きっとスッキリ帰れるから」

    玄関に入ると、声を聞きつけ、覚、若君、尊の三人がやってきた。

    美「どうぞー」

    覚「お客さん?」

    若君&尊「あ」

    覚「知り合い?」

    尊「この前、買い物途中で会ったんだ」

    美「唯の同級生の吉田くんよ」

    吉「お父さんですか?初めまして、吉田です。旦那さん弟さん、この前はどうも。すみません、お邪魔します」

    覚「どうぞー。お友達なんて久しぶりだな。お茶の用意してくるよ」

    美「お願いします。あれっ、唯は?」

    若「寝ております」

    美「は?」

    若「ソファーで眠そうにしておりましたので、部屋で寝るよう申しまして」

    尊「起こしてくるよ」

    美「いや、いい。唯に用じゃないし」

    尊「そうなの?」

    美「忠清くん」

    若「はい」

    美「彼、迷える子羊なの。悩んでる事があるらしくて、ぜひ話を聞いてあげてもらえない?」

    若「子羊?それは構いませんが」

    吉「旦那さん、にですか」

    美「忠清くんは若いけど、人生経験豊富だからね」

    尊「確かに適任だね」

    吉「そうなんですか」

    美「じゃ、どうぞー。私は戻るからゆっくりしていってね」

    吉「先生、お忙しい所、すみませんでした」

    食卓の、美香子の席に通される吉田くん。向かいに若君。尊は若君の隣に座った。尊が若君に囁く。

    尊「兄さん、もし吉田さんがわからない言葉を言ったら、すぐ教えますから」

    若「済まない」

    覚「はい、お茶どうぞ」

    吉「すみません」

    若「吉田くん、まだ名乗っていなかった。速川忠清と申します」

    吉「え!苗字速川なんだ、びっくり。あの…忠清って、羽木忠清と同じ忠清ですか?」

    若「そうだね」

    覚&尊 心の声(それを言うなら、羽木忠清と同じ、ヒト)

    吉「羽木家って、謎なんですよ。ずっと永禄2年には滅びたって習ってきたのに、最近どんどん歴史が書き換わってて」

    覚&尊 心(犯人、二階で寝てます)

    吉「でも忠清さん、もし羽木忠清が今の時代に居たら、こんな感じなのかなって思います。美香子先生が適任って言われたの、わかる気がします」

    覚&尊 心(さすが、勘がいい)

    若「そうか、では羽木九八郎忠清となって、話を聞こうか」

    尊 心(え?あ、でもうっかり戦国言葉入ってもイケるから、それいい考えかも)

    吉「あ、輩行名が入った。本格的だ」

    覚 心(九八郎って、はいこうめい、って言うんだ。賢い子達の話、ついていけるかなぁ)

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days52~4日18時30分、かけがえのない時間

    完全に、五人家族。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    女子チーム、帰宅。

    唯「ただいまー」

    美香子「遅くなりましたー」

    玄関に、男子チームお出迎え。

    唯「たーくん!ただいま!」

    若君「お帰り、唯。おおっ」

    ぴょーんと、若君に飛びついた。

    唯「会いたくてしょうがなかったよぉ!」

    若「そうか。わしもじゃ」

    唯「ホントに?嬉しーい」

    尊「熱いな。あ、こっちにもう一人居た」

    覚が、腕を広げて、よし来い!とばかりに待っている。

    美「お父さん。私には、そこまでの情熱はないです」

    覚「そうなのかー」

    美「後でね」

    尊「後とか言ってるし。買い物はできた?」

    唯「うんバッチリ」

    尊「なんでお姉ちゃんが答える」

    唯「私のも買ってもらったから。あ、たーくん、蚊取り線香入れ買ったからね」

    若「そうか。お母さん、香炉に要らぬ金を使わせてしまい、済みませぬ」

    美「大丈夫、三割引だったから」

    若「安く手に入れたと。買い物上手じゃのう」

    唯「当たりー!」

    美「うふふ、ホントね」

    若「?」

    覚「さ、じゃあ揃ったから、冷麦ゆで始めるよ」

    美「あ、そうなのね。お待たせしました」

    晩ごはん。

    美「しっかし、よく入るわねぇ、唯」

    唯「冷麦は別腹」

    尊「それ、メインが逆じゃね?何食べてきたの」

    唯「モリモリにデコった、パンケーキ~」

    それを聞いて、顔を見合わせる男子三人。

    覚「今日食べたんだ」

    唯「うん。悪い?」

    尊「悪かないけどさ」

    若君が、少し淋しそうな顔をしている。

    唯「ん?どしたの、たーくん」

    若「あ、いや。唯」

    唯「はい?」

    若「また、じきにそのような甘味処へ参ろう」

    唯「え、いいの?やーん、たーくんとなら何回でも行っちゃうよっ」

    若「そうか」

    笑顔になる若君に、ほっとする覚と尊。美香子も、経緯を悟った。

    覚&尊&美 心の声(良かった良かった)

    覚「あ、母さん。水曜、また違う城を皆で見に行こうと思うんだが」

    美「あら、そうなの。じゃあ、朝から行けるようにします」

    覚「済まないな」

    若「お母さん、済みませぬ」

    美「いいのよ~」

    唯「どこ行くの?」

    覚「ここだ」

    覚がタブレットを見せる。

    唯「へー、ここは行った事なーい」

    美「そこって、城下町が整備されて、食べ歩きとかできる所じゃない?」

    唯「食べ歩き!」

    尊「反応めちゃ速っ」

    美「で、今日はどうだった?忠清くん」

    若「はい、見応えのある良い城でした」

    尊「兄さんの、階段昇りの速さは見ものだったよ」

    唯「んー、まぁそうだろね。すっごく急でしょ」

    尊「うん。あ」

    唯「あ?」

    尊「お姉ちゃん、水曜そのワンピースは、オススメしないというか」

    若「確かに。エリさんには悪いが、ならぬぞ」

    美「あー、下から覗き放題になるからね」

    唯「それはイカン、止めとく。あ、やったぁ、じゃあ、今日買ってもらった服とジーンズにする!」

    美「そうね、ちょうどいいわ。私もスカートは止めるわね」

    若「服を、買うて頂いたのですか」

    美「ええ、忠清くんも喜ぶと思って」

    若「喜ぶ?」

    唯「うん!絶対。んー、お披露目は、当日のお楽しみにしまーす」

    尊「へー」

    覚「母さんの服は?」

    唯「よく似合ってたよぉ」

    覚「そうか。そのお披露目は大分先だな」

    美「あら、後で着て見せてあげようか?」

    覚「あ、いや、どうしようかなー。ん?」

    子供達三人が、どうするのどうするの?と言いたげなキラキラした瞳で、発言を待っている。

    覚「うわっ。僕も当日でいいです…」

    唯「え~?見せてもらえばいいのに」

    若「遠慮などせずとも良かろうに」

    尊「ラブラブなのは周知の事実なのに」

    覚「畳みかけられた!お前達、息ピッタリじゃないか」

    唯「んー、一心同体?」

    若「以心伝心じゃな」

    尊「三位一体でしょ」

    美「あはは、面白い!」

    全員「ハハハ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    4日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days51~4日16時30分、山盛りです

    スイーツ以上に甘い関係。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ワンピースの試着行脚スタート。

    唯「なんかイマイチー」

    美香子「確かに。着てみないとわからないものよね~」

    他のも試す。

    美「あ、中々良くない?」

    唯「悪くないけど、他のも着てみる?」

    決まりそう。

    唯「あ、めっちゃいいじゃん!マダム感出てる。でもすっごいシンプルだけどいいの?」

    美「似合ってるならいい。これは、ジャッキー風かな」

    唯「ジャッキー?」

    美「元アメリカ大統領の奥様で、品のあるお洒落で有名だったの」

    唯「へー。どおりでイイ女」

    美「あらぁ、嬉しいわ~」

    無事決まり、試着室を出る母。

    美「あのさ」

    唯「うん?」

    美「そのワンピース、可愛いいけど袖がないから、来週街中とかホテルだと、腕から冷えちゃうかもしれないわ」

    唯「そうかな?」

    美「カーディガン買おう」

    唯「え!それ嬉しいけど、そんなに着ないよぅ」

    美「さっき、唯と忠清くんが絶対喜びそうなの見つけたの」

    唯「へ?たーくんもって、どゆこと?」

    母が、白っぽい薄手の半袖カーディガンを手に取った。

    唯「あっ、見覚えのある形!」

    美「ね。上までボタンがあるから、普通にセーターとしても着られるし、前を開けて着れば、頂いたワンピースにも合うし」

    唯「着てみるー」

    試着。

    唯「かわいい!下はジーンズでもいいよね」

    美「そうね」

    唯「でも」

    美「いいのいいの、決まりね」

    レジに向かう。

    唯「ホントにいいの?」

    美「大丈夫。ここにイイ事書いてある」

    2点以上お買い上げで10%オフ、のポスターが貼ってある。

    唯「あっ、おトク情報!」

    美「ね、だから買っちゃおう!」

    唯「やったぁ」

    ワンピースとカーディガン、お買い上げ。

    唯「お母さん、ありがと~」

    美「いーえー。さてと、ちょっと休憩する?」

    唯「うん。ねっねっ、私、モリモリにデコったパンケーキが食べたいなぁ」

    美「またそんなカロリー高いのを。晩ごはん食べないつもり?」

    唯「食べる気マンマンだけど」

    美「聞くまでもなかったか。忠清くんとは、一緒に行ってないの?」

    唯「甘過ぎるスイーツは体に毒だと思ってるんだよ。顔が拒否ってたから、お店に入るのやめた事がある」

    美「永禄ではまず口にしないもんね。甘いって背徳よね~」

    唯「一生のお願い!」

    美「大袈裟な」

    唯「一皿を半分コでいいからぁ」

    美「私が半分も食べられるかだけど。ま、忠清くんが乗り気じゃないなら、代わりに一緒に行ってあげよう」

    唯「わーい!」

    店に入る。待望の、これでもか!とモリモリに飾られたパンケーキが運ばれて来た。

    唯「うー、嬉し過ぎるぅ」

    美「こんなビジュアルなら、彼が引いたのはわからなくもないな」

    唯「そっかぁ」

    美「まぁその辺は、現代も永禄も変わんないかな。さっ、召し上がれ」

    唯「いっただっきまーす!」

    帰り道の車内。

    美「他に、やり残したなって思う事があるなら、やっときなさいね」

    唯「うん。また思い出したら。でもね」

    美「ん?」

    唯「ずっと心の片隅に引っかかってても、20年後に叶うんだってのもすっごくロマンチックでいいなぁ。しかも二人して思ってたんでしょ?」

    美「そうね」

    唯「二人でいつか叶えようねってのがいいー。長ぁい約束もきっと待てる。どしたら、そう思える?」

    美「それは、あなたと彼なら同じように出来ると思うわよ」

    唯「どんなどんな?」

    美「お互いをずっと好きでいる」

    唯「サラっとすごいコト言った!うん、がんばる!たーくんに嫌われないように。あー、早くギューってしたいよ~」

    美「ドラマティックな帰宅風景になりそうね」

    愛する男子達が、家で待ってます。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    見覚えのある形って?は後日。

    続きます。

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    二人の令和Days50~4日16時、君の為に僕は

    そっと触れれば当時の息遣いを感じられるような、石垣も大切に残してあるし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    そろそろ城を出る。

    覚「忠清くん」

    若君「はい」

    覚「他の城も、見たくなったかい?」

    若「はい!」

    覚「後世に復元した城は沢山あるけどねー、それよりは、築城当時から現存してるのがいいよな」

    若「そうですね」

    覚「水曜、母さんの手が空き次第、もう一箇所出かけるか?」

    若「良いのですか?忝のう存じます」

    尊「やったー!どこ行くの?」

    覚「今日と同じ国宝で、まあまあ近くにあるからそこかなと」

    尊「調査済みなんだ。国宝の城で検索、と…あ、なるほどね」

    覚「尊、そこ、築城してどれくらい経つか調べて」

    尊「了解。えーと…480年位だね」

    若「なんと、わしが生を享ける前からかの。残る城は残るのじゃな」

    尊「お城って、後世になってから、取り壊しとか焼失とかの憂き目にあってる方が断然多いんですよ」

    若「そうなのか」

    覚「黒羽城公園は、きちんと整備されてお堀の面影も残ってるし、市民に親しまれているからね」

    若「それはそれで、良いのですね」

    17時。男子チーム帰宅。

    若「お父さん、運転ありがとうございました」

    覚「いやいやー。あ、そうだ、早速お願いしちゃってもいい?マッサージ」

    若「承知いたしました」

    尊「どんどん稼いでもらって」

    若「いや、そのようなつもりではない」

    覚「いいじゃないか。僕も嬉しい。忠清くんも自由に使える資金が増えるしさ」

    尊「どうせあの二人、おやつタイム有りだからしばらく帰って来ないよ。お父さん、倍の時間やってもらってさ、千円払ったら」

    覚「そうしようか」

    若「それはならぬ、倍など受け取れませぬ」

    覚「僕がいつもの倍疲れてるから、って事でいいんじゃないか?たっぷり頼むよ」

    若「わかりました。しかと、させて頂きます」

    至福の顔をする父。その様子を眺める尊。

    尊「お母さん達、何食べてると思う?」

    覚「パフェとかじゃないか?」

    尊「絶対スイーツ系だよね。兄さんは、一緒に食べてるんじゃないですか?」

    若「その、パフェとやらは口にした事があるがのう…」

    尊「あ、無理して食べた感じですか?」

    若「毒かと思う程甘かった」

    尊「ハハハ、確かに恐ろしく甘いですよね」

    覚「その時、唯はどんな様子だった?」

    若「顔に出ておったらしく、ごめん、と謝られました」

    覚「だよね。あのね、忠清くん」

    若「はい」

    覚「苦手なものを食べろとは言わない。これは僕の勘なんだけど、その後、いかにも甘そうなのは一緒に食べてないんじゃないか?」

    若「あ、はい。店の前まで行き、引き返した事はありましたが」

    尊「何の店だったんですか?」

    若「確か…パン、ケーキとあったような」

    尊「へぇ」

    覚「それね、君の顔色をうかがったんだよ」

    若「そう…ですね。残念そうな顔をしておりました」

    覚「そういう時は、店には入ってあげて、君は飲み物だけにする。で、唯が幸せそうに頬張る姿をただ眺めてなさい。かわいい妻にはご機嫌で居て欲しいだろ?」

    若「はい。そうですね。今後は、機会を作ってでも、是非そういたします」

    覚「まだ日数あるしな」

    尊「デートの指導してる。え、そういう時お父さんならどうするの?」

    覚「僕は、そこまで甘いのは苦手じゃないから、別の種類のを頼んで交換しながら食べる。女の子って、一口ちょうだい、とか好きだから」

    若「あ、それは行きました。ラーメンで」

    尊「あー、あの店ね」

    覚「色々共有したいんだよ。それがデートの醍醐味だから。でもできる範囲でいいからね」

    若「そのような意図であれを…女心はわからぬ、まだまだ不得手じゃ」

    覚「相手の喜ぶ顔が見たい、と思えば、自然に体は動くよ」

    若「愛情の深さゆえですね」

    覚「あとね、これはあくまでも僕の意見なんだが」

    若「はい」

    覚「言わなくてもわかる、なんてないから。愛する妻にはちゃんと愛してるって言う。事ある毎に、言い続ける」

    尊「わー。それ、僕なんかでも、ハードル高っ!て思うけど」

    覚「そう思ってるんだから、言うだけなんだけどな」

    尊「なんかカッコいいぞ。気負わないのが大事?」

    覚「美味しいと感じたら美味しいと言うのと同じ」

    尊「恋愛マスター?兄さん、どうですか?」

    若「続けておられるからこその夫婦円満ならば、倣うより外なかろう。精進いたす」

    尊「兄さんならできるかもな。なんか、濃いぃ講義だったなあ」

    若「早う、会いとうなりました」

    覚「そうだねー。帰ってきたら、ハグなんかしちゃう?」

    そうこうする内、マッサージ終了。

    覚「あー、ありがとう、生き返ったよ」

    若「痛み入ります」

    尊「晩ごはんは何にするの?」

    覚「冷麦にする。顔見てからゆで始めても、遅くなり過ぎないし」

    若「支度はいかがいたしましょう」

    覚「つゆは買ってあるから、ネギとショウガだけ用意しようかな」

    若「わかりました。手伝います」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、女子チーム篇に戻ります。

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    二人の令和Days49~4日14時30分、だって女子だもん

    正しい意味だと、その後の悲しい別れも思い出してしまうので、触れないでおきましょう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    女子ショッピングツアーの車内。

    唯「ねぇねぇ、なに買うの?」

    美香子「この機会に、服を新調したいなって」

    唯「あ、来週のお泊まり用?ヒューヒュー!よっ、お二人さんっ」

    美「お泊まり用って~」

    唯「だって初夜とか言ってたしぃ。でも、結婚式の日のリベンジできて、良かったね」

    美「ありがとう。思い出した?自分の時の事」

    唯「えっ?…えぇっ!やだもぅ!お母さん、何言い出すのー!」

    美「祝言の話よ?」

    唯「あ、そっちか」

    美「それに、そもそも初夜の意味をはき違えてる気がするけど?」

    唯「え?初めて…えっと…一つになった時じゃないの?」

    美「違うわよ」

    唯「え、あ、そうなの?!やーん、色々思い出しちゃった」

    美「そんな、初めての時の話なんか、聞く訳ないでしょう~」

    唯「母は娘のを確認するモンなのかー、と思って」

    美「なんでよ。心に秘めときなさい」

    唯「でも、その…次の日の朝、たーくんにすっごくからかわれたんだよぉ」

    美「自分から話したいの?まぁいいけど。それって確か、外風呂で大騒ぎしてたって時よね。年齢的にも学生カップルが戯れる感じね。微笑ましいわ~」

    唯「えー?いろいろ仕掛けられて、超焦ったりしたんだけどっ」

    美「唯が可愛くて仕方なかったのね。愛情表現よ」

    唯「えー?遊ばれてたとしか思えなかったけどなー。なんてヤツ…」

    美「ヤツとか言わない」

    どんどん高速道路を走る。

    唯「へ?どこまで行くの?」

    美「せっかく高速に乗ったから、アウトレットモールに行こうかなって」

    唯「わぁ!久しぶりだ~」

    到着。

    唯「お買い物、お買い物!」

    美「唯の物じゃあないけど」

    唯「わかってるよー、でも楽しい!」

    プラプラと、まずはウィンドウショッピング。

    唯「どんなのがいいの?」

    美「ワンピースにしよっかなー」

    唯「私みたいな?」

    美「その形は、唯の年齢だから似合うのよ」

    唯「大人げなのがいい?マダームって感じの」

    美「マダムな感じはいいわよね」

    何軒か回り、目を付けたが、途中雑貨店の前で立ち止まる母。

    美「あ、ちょっと覗いてみましょ」

    唯「へ?」

    何かを探している。

    美「あ、あったわ」

    唯「何が?」

    蚊取り線香ホルダーのコーナー。

    美「今の時季なら、あると思ったから」

    唯「へぇー。雑貨店だと、豚さんじゃなくてもかわいいのがあるね」

    美「和室に置いといても馴染むのがいいわよね。倒れにくいのも必須だし…これなんかどうかな?」

    金属製の黒い入れ物。蓋付きで、本体蓋とも、美しく透かし彫りがしてあり、煙の出口になっている。

    唯「引っ掛けるんじゃなくて、そのまま乗せるだけなんだ」

    美「脚があるから、畳の上に置いても大丈夫そうね。灰も蓋があるから散らばりにくいし。どう?」

    唯「持ち手もあるし、使いやすそう」

    美「じゃあ、お土産決定でいい?」

    唯「買ってくれるの?」

    美「勿論よ~。でも、三割引だったのは、忠清くんには内緒ね」

    唯「買い物上手じゃのう、って逆に喜ぶと思うよ」

    美「へー、そうなのね。さすが若奥様、わかってるわね~」

    唯「あらぁそれほどでもなくってよ、オホホ」

    美「十代の女の子のセリフではないわね」

    ワンピース探しに戻った。

    美「細く見えるのがいいな」

    唯「乙女心っすか」

    美「お父さんは、そのままの美香子でいいよ、って言ってくれるけど」

    唯「うっ!ラブラブ攻撃にやられた~」

    美「別にいいでしょ~」

    唯「あーそんな事言うから、たーくんにギュってしてもらいたくなっちゃったじゃない!会いたい~、もう、早く服決めて帰ろっ」

    美「え~。あ、昨日撮った、忠清くんの可愛いい寝顔見せてあげるから」

    唯「え!なにそれっ、聞いてない!…やーん、超かわいいー!はぁ~。忠清チャージ完了。ねぇ、この写真も土産に持ってきたい!」

    美「尊に頼んどくわね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    女子チーム篇、まだまだ続きますが、次回は男子チーム篇です。

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    二人の令和Days48~4日14時、瞼に浮かぶのは

    感じる空気感は同じなんでしょう。
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    男子城ツアーの車内。

    尊「このメンバーで出かけるの、初めてだね。なんかすごくワクワクする」

    覚「男だけってのがか」

    尊「女性陣が邪魔って言ってるんじゃないよ」

    若君「わかっておる。尊、そのワクワク、とは何じゃ?」

    尊「あ、えーと…心踊る、かな」

    若「そうか。ならばわしもワクワクしておる」

    覚「ははは。ご機嫌なのはいい事だ」

    城近くの駐車場に停めた。目の前のお堀に架かる橋を渡り、入城。

    若「まだ天守は見えぬの」

    尊「って事は、相当歩くと。こんなんだったかなー。あんまり覚えてないや」

    覚「これから大分登るぞ」

    天守へ続く道はやがて、階段道に変わった。急斜面をぐねぐねと登る。

    尊「お父さん、この階段サンダルだとキツいよ」

    覚「そうだなー、すまんすまん」

    尊「兄さんは全然平気そうだけど」

    若君が、坂をモノともせずスッスッと登って行く。

    若「ゆるりと参れ。お父さんも無理はなさらず」

    尊「体力の差が顕著だー」

    覚「ふぅ、お前の方が若いんだぞ」

    山の頂上に到着。造形が実に美しい天守を、目の前に臨む。

    覚「白い漆喰の壁が綺麗だろ。今日は天気がいいから特に映えるな」

    若「…」

    覚「ここ、国宝なんだよ」

    若「国の、宝と?!」

    覚「また色々考えちゃう?」

    若「いえ。ただただ感心しております」

    尊「写真撮ろう」

    城をバックに、パチリ。

    尊「年齢を重ねた兄さんが、築城されてすぐにここを訪れる、なんて未来もあるかもね」

    覚「訪れるか、攻めるか?」

    若「それは、和睦が良いですが」

    覚「んー、ホントに忠清くんは、戦国武士とは思えない程平和主義だね」

    若「親子兄弟夫婦が睦まじく、穏やかに暮らすが良いのです」

    城内は土足禁止。三人とも裸足になった。

    尊「おウチにお邪魔する感じだね」

    順路に沿って進む。

    覚「うわっ、随分急な階段だな。まるでハシゴだ」

    尊「このしつらいが、お城だよね。手すりちゃんと掴んで上がらなきゃ」

    言っているそばから、若君が滑らかな動きで、颯爽と急階段を上がって行く。

    尊「わー。さすがに慣れてる」

    観光客「まぁ、若いわね~」

    他の観光客も、感心して見ている。

    尊 心の声(若いのもあるけど、どっちかというと、勝手知ったる、なんだけどな)

    上がりきった所で覚と尊が一息ついていると、窓や矢狭間から涼しい風が入って来た。

    尊「ふんふん、ここから矢を射るとあの道の兵は一網打尽なんだ」

    覚「おー、いい風。生き返る。一休み一休み」

    若君は、壁や柱を感慨深く眺めている。

    覚「黒羽城を思い出す?」

    若「いえ…柱の色に、重ねた年月の長さを感じておりました」

    また階段が。またしてもスルスルと上る若君。

    尊「わー、速い、待ってー、若君!」

    覚「尊、呼び名が」

    尊「え?あ、つい」

    階段を上がる尊の前に、上から手が伸びてきた。

    若「尊、手を」

    尊「あ」

    尊を引き上げる若君。

    尊「ありがとう兄さん」

    続いて覚も。

    覚「あーありがとねぇ、忠清くん」

    尊「兄さん、ごめんなさい。さっきうっかり、若君って呼んじゃった」

    若「そうであったな」

    尊「なんか、身のこなし方がまるで、袴姿に見えて」

    若「ハハハ」

    天守の最上階。風は一層涼やかに吹き抜ける。

    覚「かなり上がったな」

    尊「いい眺め~」

    ふと若君を見ると、窓に向かい、腕を組み、風を浴びながら目を閉じている。

    尊「兄さん…」

    覚「そっとしといてやろう」

    しばらくすると、若君が振り向いた。

    若「お父さん、今日はこの城に連れて来て頂き、ありがとうございました」

    覚「いえいえ。堪能できたみたいだね」

    若「あっ」

    覚「あ?」

    階段を上がってくるお年寄りに駆け寄って手を取り、上がる手伝いをする若君。

    尊「なんて優しい」

    覚「実に出来る男だよ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、女子チームの様子をお送りします。

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    二人の令和Days47~4日8時、お見通しです

    城主が残したいと望んでも叶わない時はある。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝食。

    美香子「ん~、ザ・宿の朝ごはんよねぇ」

    尊「焼き魚とか?」

    美「生卵に海苔とか」

    尊「なんとなくわかるような。兄さんが釘付けになる、固形燃料も早速燃えてるし」

    若君「炎が美しゅうての」

    唯「旅館って感じだね」

    覚「では、いただこう」

    全員「いただきまーす」

    覚「食べながら聞いてくれ。まずゆうべは、すまなかったな」

    尊「あちこちぶつけたりしなくて良かったよ」

    覚「唯と忠清くんで一つの布団だったのは、思わずのけ反ったが」

    唯「安全第一でして」

    尊「予定通りだったんじゃないの」

    唯「はて?」

    覚「まあいいが。で、今日だが」

    美「はい」

    覚「午前中はドライブだ。景色のいい所へ行く。昼からなんだが、忠清くん」

    若「はい。お父さん、何でしょうか」

    覚「君さえ良ければ、連れて行こうと思う場所がある」

    若「どのような所ですか?」

    覚「帰り、少し寄り道すると、お城があるんだ。築城は黒羽城よりずっと後なんだが、今でも天守が残っててね」

    若「今も!この先の世にですか」

    尊「あー、あの城なら400年以上残ってますね」

    覚「行きたいかい?他の城なんて見るのは辛いなら止めるが」

    若「それは…是非お連れ頂きとう存じます」

    覚「そうか。じゃあ行こうか。尊は?」

    尊「僕も一緒に行きたい」

    覚「だな。唯はどうする?」

    唯「お母さんはどうするの?」

    美「んー、忠清くんとお城も捨てがたいけど、もし良ければ別行動で買い物に行きたいな」

    唯「じゃあそっちに付き合うよ」

    美「あら、ありがとう唯」

    尊「珍しい、兄さんと別行動でいいなんて」

    唯「だってあのお城でしょ?そこ地元の遠足や社会見学のド定番で、何回も行ってるもん。たーくんが来てって言うなら考えるけど」

    若「いや」

    唯「あちゃ、ちょっと残念」

    若「そのような意味合いではない。この折に、お母さんに親孝行せよ」

    唯「うん、わかった。今日はそうするね」

    覚「じゃあご飯食べて、もう一回温泉入って、出発するか」

    チェックアウト。出発する。

    唯「午前中は、お父さんの車に乗ろっかな。たーくんと」

    尊「じゃあ僕はお母さんの車に」

    車は山に登ってきた。

    唯「わぁー、すごーい!遠くまでよく見えるね」

    覚「かなり上がってきたからな」

    若「山も海も美しい」

    美「山頂はね、もっとキレイらしいの」

    尊「へぇー。大パノラマなんだ」

    昼頃、山頂の公園に到着。

    美「あー、気持ちいいわねー」

    覚「お疲れ~」

    散策した後、レストランに入り、昼ごはん。

    美「ここも眺望が素晴らしいわね~」

    尊「四方が見渡せるよ」

    覚「殿様になった気分って、こんなんかな?あ、黒羽城は高い所にないね。平城か」

    若「小垣城は山城でした。双方残ってはおりませぬが」

    覚「そう、だったね」

    若「なので、この先の世に残るとは、どのような城かと思うております」

    覚「そうか。楽しみにしてて」

    若「はい」

    覚 心の声(にしては、笑顔が淋しそうなんだよなあ。連れてくって言わない方が良かったかな)

    唯が動いた。若君の両頬を、横にむにーと引っ張る。

    美「唯!また急にそんな事して!」

    唯「いいの。たーくん」

    若「何、じゃ?」

    唯「前に言ったよ。ここは令和なんだから、今は笑ってて欲しい」

    尊「笑ってたじゃん」

    唯「無理してたもん。なーんか色々考えてたっぽいけど、この今のひと時を思う存分楽しもうって、たーくん自分で言ってたのにさ」

    若「そうであったの。済まなかった。お父さん」

    覚「はい」

    若「色々考えを巡らせてしまいましたが、楽しみにしておるのは本意です。この後、よろしくお頼み申します」

    覚「うん、よしよし、わかったよ」

    昼ごはん終了。いよいよ二手に分かれる。

    美「別れる事は辛いけど、仕方がないんだ若君のため」

    覚「またそんな古い歌を」

    美「うまいでしょ?」

    覚「まぁな。晩ごはんは、家にある物で済まそうと思うから、お互いメドとして19時には帰宅しような」

    美「わかりました」

    唯「じゃーねー、行ってらっしゃい、行って来まーす」

    尊「行ってらっしゃい、行って来ます」

    若「では、後程」

    唯「ふふっ、のちほど~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、まずは男子チームから。

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    二人の令和Days46~4日日曜7時、時間をプレゼント

    そう思える心が純粋で美しい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯が目覚めた。

    唯「ん…あれっ?」

    周りを見ると、寝ているのは自分だけで布団には誰も居ない。

    唯「へ?みんなどこ行った?」

    若君「おはよう、唯」

    声に振り向くと、窓際の椅子に、若君と尊が座っている。

    尊「お姉ちゃん、おはよ」

    唯「おはよ。どしたの、たーくんが早起きはわかるけど尊まで起きてるなんて」

    尊「なんとなく目が覚めたから」

    唯「お父さんとお母さんは?」

    若「散歩へ参ると」

    尊「8時5分前に、ゆうべご飯食べたトコに集合だってさ」

    唯「ふーん」

    若「折角じゃ、朝の海を間近で見たいのだが」

    尊「お姉ちゃん、まだ寝たいんなら兄さんと二人で行ってくるけど」

    唯「えー、なによ、男子二人でラブラブなんて許さないよ、私も行く!」

    尊「ちぇっ」

    唯「ちぇっ、だとぉ?」

    若「ハハハ。では着替えるとしよう」

    三人着替え完了。唯は、今日は白レースのワンピース。

    尊「黙ってりゃ姫だね」

    唯「少しは認めるんだな。よし。しゃっ!」

    若「それは、いわゆる姫君の口調ではないがのう」

    海までやって来た。

    唯「いい風~」

    若「そうじゃな」

    尊「朝からまぶしいね」

    遠くに、見覚えのある後ろ姿と日傘の二人が歩いている。

    尊「あ、お父さん達だ」

    唯「ホントだ。おーぃ…」

    若「待て」

    駆け出そうとする唯の腕を掴み、止める若君。

    唯「え?どして?」

    若「邪魔をしてはならぬ。折角二人だけの時を楽しんでおられるのに」

    尊「さすが兄さん、優しいな」

    よく見ると、腕を絡ませ、日傘は覚がさしてあげている。

    尊「一番ラブラブなのは、あの二人だな」

    唯「あい変わらず仲がいいよね」

    若君が、両親の姿を目で追っている。

    尊「兄さん?」

    若「あぁ。もしや、と考えての」

    唯「もしや?」

    若「我らが此度、この先の世に参った由を」

    尊「なぜか、って事ですか」

    若「両親に、このような一時を差し上げる為ではなかったかと」

    尊「なるほど。旅行に来なければ、まず浜辺は歩かないし」

    若「近々、積年の夢を叶えるとの事」

    尊「そうですね。すごく喜んでると思います」

    若「尊の学びは邪魔をしてしもうたが」

    尊「邪魔じゃないですよ。学習計画にメリハリがついたから、これでいいんです」

    若「そうか。ありがとう、尊」

    尊「ありがとうはこっちですよ」

    唯が、小枝で波打ち際に何か書いている。

    尊「静かだと思ったら。何、相合傘でも書いてんの?」

    唯「んー?海の神様にお願いしてんの。たーくんと、ずーーー」

    線を引きながら、走る唯。

    尊「ずーが長いな」

    若「ハハハ」

    唯「ーーっと、いっしょに!はい完成~」

    尊「よく見たら裸足じゃん。あー、あんな遠くに脱ぎ散らかして」

    若「わしが取って参る」

    若君がサンダルを拾い上げると、少し大きな波が来た。文字をさらってゆく。

    尊「あー、消えちゃった」

    唯「うん。いいんだよ」

    尊「砂にメッセージなんて、儚さの象徴なのに」

    唯「尊よ」

    尊「何」

    唯「それは違うておるぞ」

    尊「なんで戦国言葉なんだよ」

    唯「消えたんじゃないんだよ。海の神様がね、よしわかった聞き入れてやるって、砂の中に染み込ませたの」

    尊「ほー」

    唯「だから砂浜は、みんなの願いが詰まってるんだよ」

    尊「誰かに聞いたの?」

    唯「ううん。私が、そう思ってる。これで絶対叶うんだよ」

    尊「そうなんだ。お姉ちゃん、素敵だね」

    唯「えっ?!尊の口からそんな褒め言葉が出るなんて、びっくり」

    若「そう素直に申せる尊も、良き弟じゃ」

    尊「やったー。兄さんに褒められた」

    若「時間は、まだ良いか?」

    尊「えーと、7時45分。もう行かないとですね」

    若「ならばほれ、唯、履いて」

    唯「はーい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日も輝く一日が始まりました。

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    二人の令和Days45~3日22時、頭をフル回転

    実はムキになるタイプ?
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    唯「これ、全部裏向いてるけどね、中に同じ数字やアルファベットが書いてあるカードが4枚ずつあるの」

    若君「ほぅ」

    唯「2枚めくって、文字が同じなら取る。で、続けてまためくれるの。違ったら裏を向けて戻して次の人へ。めくられたカードの位置を覚えといて、順番来たら取っていけるように。最後一番多く取れた人の勝ちだよ」

    若「何となくはわかった」

    尊「ひとまずやってみようよ」

    賑やかに始まった。

    唯「あっ、さっきどっかで見たぞっ」

    若「見た。あっ」

    美香子「いただき~」

    尊「やられたー」

    盛り上がっていると、覚がモゾモゾ動いて歩きだした。

    美「お父さん、トイレ?」

    覚「うん…あ、痛っ」

    一番端の、入口近くに敷かれた布団につまずいている。

    美「あらら」

    唯「もー、危ないー」

    若「水を用意しますか」

    戻って来た覚に水を飲ませた。また横になり眠り始める。

    尊「あの位置の布団、夜中に起きたらまた引っ掛かるかも」

    美「寝てる所に、ヨロヨロのお父さんが降ってくるかもしれないわね。後で考えましょ」

    神経衰弱は、3回やった内、最後は若君の勝利だった。

    美「トランプに慣れてないし、文字も見分けにくかったでしょう。大健闘、というかさすがね」

    唯「勝って良かったよ。下手すると勝てるまで付き合わされそうだったもん」

    若「そこまでは申さぬ」

    唯「て言いながら、ニコニコだしさ」

    若「他にも遊び方はあるのか?」

    尊「ありますよ。何しよう?」

    唯「やっぱ超定番のババ抜き?」

    若「婆、抜き。また妙な名じゃ」

    美「カードに慣れたから、ちょっと教えれば大丈夫かも」

    尊「じゃあ、説明しますね」

    ババ抜きスタート。

    唯「これもさぁ、ある意味たーくん向きだよね」

    美「カード引く時、表情で惑わせる?」

    尊「そうだよ。僕、何度兄さんからジョーカーを引いた事か」

    若「ん?そうかのう。フフッ」

    美「不敵な笑いね。なんか新鮮」

    また盛り上がっていると、再び覚が起きてトイレへ。顔がスッキリしてきている。

    覚「ババ抜きやってるのか」

    若「お父さん、具合はいかがですか」

    覚「だいぶ酒も抜けたよ。心配かけて悪かったね。じゃ」

    布団にもぐりこむと、すぐ寝息が聞こえた。

    尊「明日は大丈夫そうだね」

    美「うん。良かった」

    もうすぐ日付が変わる。

    美「さてと。そろそろ寝る?」

    唯「朝ごはんは何時から?」

    美「8時よ」

    唯「じゃあ、そろそろかなー」

    若「布団はどういたしましょう」

    美「そうねぇ」

    唯「いい事考えたっ」

    美「何?」

    唯「いっそ、この端のは畳んじゃったら?誰が通っても暗がりだと引っ掛かりそうだから」

    尊「一人分どうすんの。あー?もしや」

    唯「たーくんと私は、二人で一つでいいよん。ぐふふ」

    若「なんと」

    美「いかにも唯が考えそうな。狭くない?」

    唯「くっついて寝るからいい」

    尊「兄さん、いいんですか?」

    若「苦しゅうない。皆が足元を気にせず動けるならば、尚更良かろう」

    尊「まっ、懸念があるとするなら、お父さんが夜中に見て腰抜かす位かな」

    美「じゃあ、片付けて寝る準備しようか」

    そして消灯。

    美「おやすみなさい」

    尊「おやすみなさーい」

    唯は若君の腕の中。

    唯「うふふ、おやすみ、たーくん」

    若「おやすみ、唯」

    また明日。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    3日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days44~3日21時、誰もが持つ宝物

    きっと器用に書くのでしょう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トランプを座卓に広げている。

    美香子「そういえば、ジェンガってどうなった?使ってる?」

    若君「はい、よう遊んでおり、名も書き足しております」

    唯「三之助が好きだよね」

    若「そうじゃな」

    美「確か天野の家の男の子よね」

    若「三之助にジェンガを見せ、遊び方を教えると大層喜び、頻繁に興じておりました」

    ┅┅回想。永禄、昼下がりの城┅┅

    若君の居室に、三之助と孫四郎と吉乃が来ている。唯も居る。

    吉乃「若君様の元へ参ると聞かず、何事かと思うておりました。子らに、このように付き合うてくださっていたとは」

    若「初めに訳も伝えず呼んだのはわしの方じゃ。構わぬ。いつでも参られよ」

    唯「だいぶグラグラしてるよぉ」

    三之助「わかっておる!唯之助は黙っておれ!」

    唯「はいはい」

    孫四郎「動いておるー」

    唯「あっ、触っちゃダメっ!」

    ジェンガが倒れた。

    三「あー!」

    唯「あーあ」

    若「ハハハ。孫四郎はまだようわからぬよのう」

    三之助が、プリプリ怒りながら崩れたジェンガを集めている。

    三「あれっ…?若君様ぁ!」

    若「何じゃ?」

    三「これは、三之助と書いてあるのでござりますか?」

    若「そうじゃ。よう読めたのう」

    ジェンガの名前は、尊が書体をゴシック体でプリントしたので、一見しただけでは永禄の者にはわかりにくかった。

    唯「にょんにょん字で印刷してもらえば良かったな…」

    若「それにはの、わしや唯の、大切な者の名が入っておるのじゃ」

    三「大切…?」

    驚き、頬を赤らめ、はにかむ三之助。ブロックを探り始めた。

    三「あ、孫四郎を見つけた!」

    孫「わぁー、かかさまぁー!」

    ブロックを受け取り、吉乃の元へ持っていく孫四郎。

    吉「どれ。ほぉ、このように…若君の、皆を大切にされるお気持ちのあらわれでございますのう」

    三「うーん?若君様、知らぬ名があります」

    首を傾げながら取り上げたブロックに、覚と書いてある。

    若「此処には居らぬ者もおるのじゃ」

    三「居らずとも、大切…」

    三之助が何か考えている。

    若「ん?そうか、三之助の大切な者達を思い起こしておるのじゃな」

    下を向き、モジモジし始めた。

    若「ん?…よし。どれ、まだ名を入れておらぬ木片が幾らでもあるゆえ、その名を書いてやろう。誰じゃ?」

    三「…父上と、兄者…」

    若「わかった。今支度をするからの。唯、硯箱を」

    唯「はーい」

    吉乃が驚いてにじり寄る。

    吉「若君様、それはなりませぬ」

    若「そもそも書き足してゆくつもりの品じゃ。お気に召さるな」

    吉「若君様や唯とは由縁なき者にございます」

    若「今も息災であれば、会うて語らう折もあったやもしれぬ」

    吉「そのような。若君に御目通り叶うなど…」

    若「吉乃殿。戦は、城を常日頃守る者だけでは成り立たぬ。領民の力あってこそじゃ」

    吉「はい」

    若「名を上げぬまま、ひっそりと命を落とす者も多い」

    吉「それは、致し方ございませぬ」

    若「その者達は、名も無き者などではなく、大切な名がそれぞれにある。全ての者が、名を呼ばれ、無事に帰るようにと祈られ、見送られておるであろう。吉乃殿も、そうではなかったか?」

    吉「…仰せの通りでございます」

    若「戦はできればしとうないが」

    吉「よう存じ上げております」

    若「関わった者全てに礼を申したいのは山々であるが、それはままならぬ。三之助の兄君は、小垣が落ちた折に、と聞いておるが」

    吉「左様にございます」

    若「せめてもの罪滅ぼし、にもならぬであろうが、ここにその名を刻みたい」

    吉乃は、少し考えていたが、顔を上げ、小さく頷いた後ゆっくりと頭を下げた。

    吉「お心持ち有り難く承りました。御意のままに」

    若「うむ。ならば三之助、父上の名は?」

    三「はいっ!孫兵衛にございます!」

    若「よし。今入れるからの」

    ┅┅回想終わり┅┅

    唯「あの時の三之助、緊張して体が固まってた。たーくんに、お兄ちゃんの名前を言った時なんか特に。孫四郎も真剣な顔してたし」

    美「吉乃様って、もしかして男の子4人のお母さんじゃない?」

    唯「え」

    若「その通りです」

    尊「兄さんが答えるとは意外。お姉ちゃんは知らなかった?」

    唯「聞けなかったんだよ。お兄ちゃんの代わりにもならない、急に現れた私としてはさ」

    若「名を書いた後、せがれはもう一人居らぬかと、秘かに聞いたのじゃ。したらば、産まれてすぐ亡くした子が居ると」

    美「やっぱり。孫四郎くんは四番目だなと思ったから」

    若「その名も書こうと申したが、己の心の内にのみ、留め置きたい、と」

    美「そっか…」

    尊「いい話だね。でもおかしいなぁ」

    唯「はぁ?」

    尊「少しの間でも、その吉乃様と一緒に暮らしたのに、その凛とした所とか、お姉ちゃん全然見習ってない気が」

    若「それもそうよのう」

    唯「えっ、ひどっ」

    美「吉乃様に、不束な娘ですみません、って伝えて」

    若「わかりました」

    唯「えー、私の味方はどこにいるの~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トランプ、やりますから。

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    二人の令和Days43~3日19時、会話がBGM

    仲良し家族。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    食事処。席に通される。

    唯「今回も豪華だねっ」

    若君「これは、何じゃ?」

    尊「サザエですね。こっちは岩ガキ」

    若「妙な形をしておる」

    尊「貝ですよ。シジミとかと同じ仲間」

    若「そうなのか」

    美香子「まだ飲むかー」

    覚「地酒を勧められるとな」

    美「色々理由はつけられるわね」

    覚「では」

    全員「いただきまーす!」

    箸が進む。

    唯「うまーい!」

    覚「酒もうまーい」

    美「酔っぱらい~」

    若「楽しそうじゃ」

    尊「あー、何食べても美味しいなぁ」

    美「よく動いた証拠ね。もちろん新鮮な魚介類が並んでるからだけど」

    唯「お刺身もコリコリしてるー。ウニもとろけるー」

    美「みんな食べっぷりが良くて、いいわ~」

    そろそろ食べ終わり。

    美「堪能した?」

    唯「したしたー」

    尊「あー満腹」

    若「どれも美味でした」

    美「お父さんは…寝てるわね」

    若「昼、眠っておられませぬので」

    美「そればっかりじゃないけどね。お父さん、寝るなら部屋でー」

    覚「んぁ?ん…もうごちそうさん、か?」

    四人「ごちそうさまでしたー」

    美「はい、部屋に戻りましょ」

    部屋には、布団が既に敷いてある。

    美「一番奥がお父さんでいいわね。はい、おやすみ~」

    覚「おやすみ…」

    尊「明日の朝、頭ガンガンなんじゃない?」

    美「だからもう寝てもらうわ。代わりに運転は今回無理だし」

    唯「明日は、チェックアウトの後どうするの?」

    美「海水浴は今日だけ、は言ったよね。お父さんには考えがあるみたいなんだけど、寝ちゃってるから明日の朝しか聞けないのよね」

    尊「車2台だから、別行動もあり?」

    美「それも含めて考えてるらしいわ。ごめんねぇ、これ!って言えなくて」

    唯「わかったー」

    尊がスマホをいじっている。

    尊「兄さん、これがサーファーです」

    若「ほぅ。随分と大きな波じゃな。のみ込まれそうじゃ」

    尊「こう、ボードで波に乗るんです」

    若「いずれ浜に着くであろう?」

    尊「そしたらまた、波を求めて沖へ漕ぎ出すんですよ」

    若「そのように楽しむのじゃな」

    唯「たーくんがサーファー…やだっ、超人気になっちゃう」

    尊「尋常じゃない数の女性達に囲まれるだろうね」

    美「有り得るわねぇ」

    唯「その中の美女と、いい感じで仲良くなって、私は捨てられるんだ。嫌だぁ~!」

    尊「頑張って自分磨きすれば?」

    唯「だって磨くなんて、どうやればいいかわかんない」

    美「自然児過ぎるからねぇ」

    尊「残念だったねぇ」

    唯「おいおい!えー、どうしよう~!」

    若「待たれよ。話が膨らみ過ぎており、ついてゆけぬ」

    クーラーボックスの中を確認する母。

    美「あら、まだチューハイが1本あったわ。あなた達もなんか飲む?お茶もジュースもまだあるわよ」

    唯「飲むー」

    尊「何がある?あ、兄さん先にどうぞ」

    若「済まぬのう」

    美「お菓子もまだ残ってるわね。珍しい、あまり食べなかったのね。はい、どうぞ」

    唯「ずっと遊んでたから。あ、勉強もしたよ」

    美「勉強?」

    尊「兄さんに、古式泳法教えてもらった」

    美「まあ素敵。今度私にも教えてね、尊」

    尊「どこで披露するんだよ」

    美「確かに」

    尊「あ、そういえば、トランプ持ってきたよ」

    唯「えー、何する?たーくんがわかるようなゲームじゃないと」

    美「神経衰弱はどう?」

    若「神経、衰弱…物騒な名じゃの」

    尊「名前はそうかも。多分兄さん得意だと思うな」

    美「じゃ、座卓の上に並べよっか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days42~3日17時、効能は

    若いから、すぐにはシミとかできないでしょ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    着替えて宿まで歩いてきた四人。

    美香子「あ、良かった。水着のままならどうしようかと思ってた」

    唯「普通に道路も歩くし、それはないよ~」

    若君「お母さん、お待たせ致しました」

    美「お帰りなさい。お部屋はこっちよ」

    部屋に入ると、窓が横長に大きくこの時間でも眩しいほど。坂を少し上がってきたので、連なる家々の屋根の奥に、海が見える。

    尊「ぎりオーシャンビューだ」

    覚「温泉もあるし、海までそう遠くないし。いいだろ?」

    尊「もちろん。宿、取れて良かったね」

    覚「あぁ」

    美「ありがとうね。晩ごはんはね、7時からよ」

    唯「じゃあ、ご飯前に温泉入るー」

    覚「そうだな、早速みんなで行くか」

    大浴場前。

    覚「では、ご飯の10分前にここに集合な」

    四人「はーい」

    男湯。

    覚「浮き輪ずっと使ってたから、ほぼ上半身が焼けてる感じだな」

    尊「ホントだ。しかも肩からグラデーションに薄くなってる?」

    若「日は上から当たるからのう」

    覚「あんまり擦るなよ、皮がめくれる」

    尊「そこまでではないけど、後でヒリヒリするかなぁ」

    覚「だからそっとしとけって。ここは美肌の湯だから、湯船に入ったら軽く撫でておけ」

    温泉に入る。

    若「前に入った温泉の湯とは、また違うような気がいたします」

    覚「そうだね。泉質が違う」

    尊「前の所は体を温める効果が高くて冬向きで、ここはさっぱりするんで夏向きなんです」

    覚「泉質で選べる程余裕はなかったけど、まぁ良かった。どっちも体にはいいよ」

    若「ほぅ。勉強になります」

    覚「忠清くん、その髪型で日焼けしてると、サーファーみたいだな。カッコいい」

    尊「確かに。兄さん、後で動画見せますね」

    若「そういう者がおると」

    覚「海は色々な楽しみ方があるって事だよ」

    女湯。

    唯「美肌の湯って書いてある!」

    美「私達にぴったりでしょ。男湯も同じだけどね」

    唯「やっぱしちょっと焼けてる?背中は?」

    美「背中の方がわかるかなー」

    唯「って事は、たーくんも焼けてるよね」

    美「顔、赤かったしね。いいんじゃない?精悍さが増して、より素敵でしょ」

    唯「たーくんはいつでもカッコいい」

    美「はいはい」

    唯「あ、でもスケキヨはイマイチだった」

    美「よっぽど強烈だったのね」

    女湯の更衣室。髪を乾かし終わる。

    美「髪、そのままだと湯上がりはちょっと暑いでしょ。結んであげる」

    唯「え、何も結ぶ物持ってないよ」

    美「さっき買っちゃった。売店で」

    手には赤いリボンが付いたヘアゴムが2つ。

    唯「かわいいー」

    美「後ろで分けて、二つ結びにするわね」

    浴衣にもよく似合う髪型に。やがて集合時間になった。

    覚「おっ、かわいいじゃないか」

    唯「えへ。たーくん、どぉどぉ?」

    若「愛らしい」

    唯「うっ、嬉しいっ。お母さん、ありがとう!」

    美「いえいえ」

    尊「これはあれだな、洋菓子店の前に立って首をグラグラさせてる、赤いオーバーオールを着て舌をペロッと出してるあの」

    唯「回りくどっ。言いたい事はわかった」

    食事処に向かう途中、窓から海が見えた。ちょうど日の入りの時間。

    美「まぁ!真っ赤で綺麗~」

    覚「グッドタイミングだったな」

    若「海に滲んでいくようじゃ」

    尊「カッコいいな。時々、ホントに兄さんと同じ風景見てんのかな僕、って思う」

    唯が黙っている。

    唯 心の声(昨日、夢で見た夕日?これはデジャブ?)

    尊「お姉ちゃん、行くよー」

    唯「あ、うん」

    若「どうした?」

    唯「昨日見た夢にも、夕日が出てきたの。キレイだったなって」

    若「という事は、夢の中のわしも見ておったと」

    唯「あ、そうだね。美しいってつぶやいてたよ」

    若「わしの事じゃ、唯共々美しいと思うておったに違いない」

    唯「え、そう?やーん嬉しい」

    若「参るぞ」

    唯「はぁい」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    弟は、照れ隠しですな。

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    二人の令和Days41~3日16時、アオハルしてます

    そりゃ、満喫してもらわないと。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君と尊が、浮き輪に身を任せプカプカ浮かんでいる。

    若君「そういえば」

    尊「なんですか?」

    若「日焼け止めを忘れておる」

    尊「あー、そうなんですよ。塗り直す事すっかり頭から抜けてて。ま、いっかって」

    若「赤うなっておる」

    尊「兄さんもです」

    若「そうであろうの」

    尊「あ、でも兄さんこそ、戻った時ヤバくないですか。なんで一晩でこんなに変わるんだって」

    若「知らぬ存ぜぬを決め込む。構わぬ」

    尊「さすが兄さん。…あ」

    若「どうした?」

    尊「一句、ひらめきました」

    若「ほぅ?申してみよ」

    尊「赤くない、黒くないよと、白を切る」

    若「おぉ、上手いの」

    尊「やったー」

    若「ハッハッハ」

    唯が、ジャブジャブと浅瀬を走って来た。

    唯「尊~、ちょうだい!」

    尊「何をだよ」

    唯「その浮き輪」

    尊「は?兄さんとくっついとくんじゃなかったの?」

    唯「こっちも使いたいもん。はい、どいて」

    尊「えー!僕どうすればいいんだよ」

    唯「たーくんの浮き輪に一緒に入れば?」

    尊「へ?」

    若「良いぞ。入るか?」

    尊「うわっ。今ちょっと、ときめいてしまった…」

    唯「乙女な尊ちゃんに貸してあげる」

    尊「所有物みたいに言うな」

    唯「嬉しいくせに。じゃ!」

    若「何処へ行く?」

    唯「私は自由なマーメイドなのだ~」

    奪い取った浮き輪でバシャバシャと、バタ足で泳ぎ、どんどん離れて行く。

    尊「お姉ちゃーん!ちょっと!」

    若「唯~、待たぬか!」

    唯「キャハハ~!」

    様子を見守る両親。

    覚「楽しそうだな」

    美香子「ホントにね。じゃあ私、先に宿でチェックインしとくわ」

    覚「悪いな」

    美「ずっと居ると焼けちゃいそうだもの。日焼けは禁物だから、若くないんで」

    覚「いつまでも若いよ、美香子さん」

    美「あらん。じゃ、ゆっくりでいいからね」

    その頃、海の中では追いかけっこが終わっていた。

    唯「えー、速~い」

    尊「地上なら絶対追いつかないけど」

    若「こちらは二馬力じゃからの」

    尊「はい、チェンジ。こっちに戻って」

    唯「あれ、もういいの?」

    尊「男二人じゃちょっと狭い」

    唯「超密着してたんだ。くっくっくっ」

    尊「自分が仕向けたんじゃないか。あ、嫌と言ってる訳ではないです、兄さん」

    若「ハハハ。確かにちと狭かったのう。では唯、おいで」

    唯「キャー!尊、どいてどいて!」

    尊「扱いが雑過ぎる。はいはい」

    大きい浮き輪の中で、また若君に抱きつく唯。

    唯「ん~、極楽ぅ」

    尊「自分も言ってるし」

    若「そろそろ戻らねばならぬのでは?」

    尊「あー、そうですね。晩ごはんの時間とか決まってるだろうし」

    唯「えー、くっついたばっかなのに」

    尊「いつでもできるでしょ」

    若「そういえば、胸元はまだ辛いのか?」

    唯「あ、えっと、キツいのは変わんない。だけど、お母さんが大きくなったんでしょ大丈夫って言うから」

    若「そう、なのか」

    唯「お母さんが、たーくんにお礼を言いなさい、って」

    若「え?」

    尊「それって…大きくしてくれてありがとう的な?うへぇ」

    唯「えっ…あっ、そういう意味?!」

    尊「今気付いたの?僕は聞いちゃいけない話だな。さよなら~」

    若「それはその、いよいよ」

    唯&尊「ん?」

    若「ボンキュッボン、だと」

    唯「うわっ、いつの間に!」

    若「お父さんに伺った」

    唯「んもー、覚えなくていい言葉だってあるのにさぁ」

    若「唯の望みを叶えてやれたなら、喜ばしい」

    唯「似たようなセリフ、どっかで聞いたような…」

    尊「なんか今、俗っぽい自分を反省したよ。さてと、そろそろ戻る?」

    唯「うん。くっつきたいのはずっとだから、キリがないし」

    若「ハハハ。では、お父さんも待たれておるし、戻ろう」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    めっちゃ焼けてると思う。

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    二人の令和Days40~3日14時、安心しておやすみ

    二人の未来に乾杯。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ランチ終わり。

    唯「なんか眠くなってきたー」

    尊「同感。昼寝しちゃう?」

    唯「しちゃうしちゃうー」

    覚「え?ここで?パラソルに入りきらんぞ?」

    唯「足は出ててもいいよ。ねっ、たーくんも」

    若君「言われれば、少し眠気を感ずるような」

    覚「ずっと日に当たってると疲れるもんだよ。一緒に休みなさい」

    若「わかりました。お父さんは?」

    覚「僕はずっとうとうとしてたようなモンだから。そろそろ母さんも着くかもしれないし。ささ、寝ちゃってー」

    子供達三人、川の字に並んでお昼寝。

    覚「中々いい眺めだ」

    しばらくすると、日傘をさした女性が近づいて来た。

    覚「あ、母さん」

    美香子「シーッ。みんなお昼寝中なのね」

    覚「お疲れさん。道、混んでたか?」

    美「ううん。空いてて順調だったし、快適なドライブだったわよ」

    寝顔を覗き込む。

    美「かーわいい。写真撮っちゃお。怒られるかな」

    覚「いや、このシーンは貴重だから」

    三人をパチリ。

    美「なんてかわいいのー。日に焼けて、鼻の上とか少し赤らんでるのがまたいいわ」

    覚「車、宿に停めたよな」

    美「うん」

    覚「じゃ、1本どうぞ」

    ビールを2本クーラーボックスから出して、1本を差し出す。

    美「あら、すっかり飲み切ったと思ってたら」

    覚「ちゃんと美香子さんの分も入ってる。二人で飲む為に」

    美「あらぁ。じゃあ、乾杯」

    その話し声で、若君が目覚めた。

    若「あっ、お母さん。もうお着きでしたか」

    美「お待たせしました。今、かわいい寝顔を見せてもらったわ」

    若「それはお恥ずかしい」

    美「そんな事ないわよー。撮ったの見せてあげる」

    スマホを見せる。

    若「ほぅ…」

    美「自分の寝顔なんか、見た事ないもんね」

    若「それは勿論ですが、その、思うていたより柔和な顔付きでした」

    美「ずっと優しい顔立ちよ?」

    若「いえ、この先の世で、家族の愛に包まれた者の顔になっております」

    美「まぁ、素敵!ありがとう忠清くん」

    覚「いくらでも愛情は注ぐよ~ビールの如く」

    美「酔っぱらいが、ちょっと調子に乗ってるわね」

    若「ハハハ」

    尊が目覚めた。唯を起こす。

    尊「お姉ちゃん、お母さん来たよ」

    唯「あ、おはよー、お母さん」

    美「しっかり遊んでるみたいね」

    唯「もう宿に行く?」

    美「まだいいわよ」

    尊「じゃあ、あとちょっとだけ。行きましょう、兄さん」

    若「そうじゃな」

    唯「あ、私お母さんに聞きたい事あるから、先に行って」

    尊「わかったー」

    若「では、今しばらく楽しんで参ります」

    美「行ってらっしゃい。…唯、何の質問?」

    唯「朝から胸がキツいの。着方が間違ってる?それか体がおかしい?」

    美「あら、そうなの。ねじれてるとか挟んでるってのはないわね。キツいのは今日だけ?」

    唯「実はプールの時、あれ?って思ったんだけど、今日着たらもっとキツい。水着縮んだのかな」

    美「それはないと思うけど。ふむ。ふーん、なるほどね」

    唯「なになに!」

    美「唯は、胸は大きくなれば嬉しいのよね。こちらでは栄養状態もいいし、多少大きくはなってるんだと思うわよ」

    唯「そうなんだ!やったー。でもたーくんは、大きさなんてどうでもいいみたいなんだよね。残念」

    美「それは、時代と価値観の違いだし、彼が紳士だからだと思う。でもお礼を言うとしたら忠清くんによ」

    覚「えーっ?!そんな、直接的な」

    美「お父さん。考え過ぎ。好きな人とずっと一緒に居られるだけで、女性ホルモン出まくりなのよ」

    唯「たーくんとラブラブだから、こうなった?」

    美「そういう事」

    唯「そっか、病気とかじゃないんだ、良かった~。じゃあ、合流してくるね!」

    美「行ってらっしゃーい」

    男子達の元へ、走って行った。

    覚「医者として、答えてないだろ」

    美「そんな事ないわよ~。女の先輩として、母としての方が大きいけど。でも、嬉しい」

    覚「頼られるのがか?」

    美「そうよ。一緒に居られる内に、沢山甘えて欲しいなと思う」

    覚「その、唯の成長にちょっと照れるよ」

    美「照れるのは、体の話だけじゃなくない?」

    覚「ん?あ、あぁ」

    美「めきめきと綺麗になってる。大人の女性に変わっていくのに立ち会えるなんて…そんな姿絶対見られないと思ってたから、本当に嬉しい。忠清くんに感謝するのは、私達の方だわ」

    覚「そうだな…」

    美「まだビールある?」

    覚「あるよ。祝杯か?」

    美「そうよ。今この瞬間と、輝く未来に、乾杯!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    もうちょっと波に揺られます。

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    二人の令和Days39~3日12時、視線にご注意

    頭の中に、知識の引き出しがいっぱい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚が2本目のビールを飲み終わった所に、唯達が戻って来た。

    唯「お父さーん、ん?だいぶ飲んでない?」

    覚「まだ2本だけだ~」

    尊「まだ午前中だけど?」

    唯「ジュースもらいに来たー。中見せて」

    クーラーボックスの中。数本のビールとお茶、ジュースが複数。

    唯「あ、ジンジャーエール見っけ!これにするー」

    覚「そんなに好きだったか?」

    唯「昨日は眺めただけで、実物は飲めなかったから」

    覚「実物?眺めた?ボックスのそばには立ててあったがな」

    唯「やっと飲めるー」

    覚「まぁ、セレクトが正解だったって事だな。忠清くんも、尊も持ってけよ」

    尊「それより、お腹がなんとなーく空いてきた気がする」

    覚「尊にしては珍しい」

    唯「尊にしては珍しく、運動したからだよ」

    若君「朝飯が、早かったからでは」

    覚「確かに。じゃあさ、お金渡すから、お昼ごはん適当に買ってきて」

    尊「わかったー。じゃ、行きましょうか兄さん」

    若「お父さん、缶を捨てて参ります」

    覚「えっ、ありがとう。なんて気の利く子なんだー」

    唯「ちょっと待ってー」

    覚「おいおい、炭酸を一気に飲むんじゃない!」

    お昼ごはんを買い込み、一旦陣地に戻った三人。

    唯「これじゃ足りないよね、もっと買ってくる!」

    尊「あっ、お箸もらい忘れてるよ。お姉ちゃーん!」

    二人して走って行った。

    覚「騒がしい連中だ」

    若「ハハハ」

    覚「どう?海水浴は。遊べてる?」

    若「はい、存分に。連れて来ていただき、ありがとうございます。僕達、だけ楽しんでおるようですみません」

    覚「いやいや~いいんだよ。こうやってボーっと夏の風景を眺めるのも乙なモンだし、時々、ボンキュッボンのお嬢さんが通ると心踊るしな」

    若「お父さん、あの」

    覚「あ?」

    若「そのボンキュッボンとは、どのような」

    覚「えっ!えーっと…清廉な忠清くんに説明するのは憚られるなぁ」

    若「前に、唯が自分から言い出しておきながら、教えて貰えず仕舞いでして」

    覚「そ、そうなの。それは気になってたよね。えーとね…」

    唯達の姿が見えてきた。

    覚「…と、いう意味だよ」

    若「なるほど。よくわかりました」

    唯「ただいま!」

    尊「お待たせしましたー」

    ランチスタート。

    尊「あ、兄さん、それできたてで熱いですから」

    若「そうか、ありがとう尊」

    唯「ピクニックみたいー」

    覚「確かにな」

    唯「超楽しい!たーくんは?」

    若「楽しんでおるぞ。浜の者達が、一様に笑顔なのも良い」

    尊「さすが、遊んでても周りが見えてるのは、いつもながらすごい。ただ」

    唯「ただ、なに?」

    尊「兄さんが視線を向けると、女子の皆さんがバッタバッタと射抜かれていく」

    唯「え!」

    尊「ように、見受けられる」

    覚「ま、そうだろうな。見ててもそんな感じだ」

    唯「危険危険!寄ってこられちゃ困るから、昼からはもっとたーくんとくっついとく!」

    若「何やらようわからぬが。おなごは浜にも沢山おる。されど興味はない」

    覚「あの、それってさー、えーと、うん。確か、好きの反対は無関心、ってヤツ?」

    尊「お父さん、それを言うなら、愛の反対は憎しみではなく無関心です、だよ」

    覚「そうだったか?さすが、すぐ訂正が入るな」

    若「尊…実に胸を打たれる言葉じゃの」

    尊「先人には学ぶ事が多いですから。あ、兄さんも、その中の一人ですよ」

    若「いや、わしは未熟者じゃ。中々達観できぬゆえ」

    覚「忠清くんが達観できてないなら、僕らは生まれ変わっても無理だな」

    尊「僕、ら、って言ったね。正解だけど」

    覚「浜辺がなんか高尚な場になったなー。いや、一人は違うが」

    尊「お姉ちゃ~ん。全然聞いてないでしょ」

    唯「ん?食事中は、食べるのに全力投球なのじゃ」

    尊「投球中だって、外から球が飛んできたらちゃんと受けようよ」

    覚「飛んで来てるとも思ってないんだろ」

    尊「そんなに食べたら、水着、はち切れるよ」

    唯「え!」

    若「それは困るのう」

    尊「ほら、兄さんもそう言ってる事だし」

    唯「うーん」

    覚「往生際が悪いな~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    マザー・テレサですね。

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    二人の令和Days38~3日10時、忠清先生の授業

    命に関わる、とも言えるし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    男子チーム。着替えて日焼け止めも塗った。

    若君「お父さんも、Tシャツの下は水着を召されたのですね」

    覚「海には入らないよ?お酒飲むから危ないからね。でも気分が違うし、周りとも馴染むしな」

    尊「お姉ちゃん遅いな。あ、来た」

    モゾモゾしながら唯登場。

    尊「何してんの?虫にでも刺された?」

    唯「なんか…胸がキツい」

    尊「キツい。さては太り始めのサイン?」

    唯「え!やだー。でも背中はキツくなくて、胸だけなんだけど」

    尊「胸だけ大きくなったとでも言いたい?」

    唯「だってぇ」

    若「痛いのか?」

    唯「痛くはない。そこまでじゃないよ」

    若「まさか押されて飛び出るなどと」

    唯「いや、それはないから!」

    覚「いろんな意味で、事故のないようにな」

    シートを敷き、クーラーボックスをドンと置いてビーチパラソルを開く。

    覚「じゃ、ここが速川の陣地だから」

    若「わかりました、殿」

    覚「殿!なんか偉くなったみたいだ。ありがとう」

    尊「よーし、行くぞー」

    覚「尊、眼鏡そのままか?」

    尊「あ、忘れてた。外す外す」

    クーラーボックスの上に置いた。

    覚「見えるのか?」

    尊「プールの時も、なしで何とかなったから」

    覚「度付きのゴーグルとか売ってただろ」

    尊「万が一、その形に日に焼けたら困るから」

    覚「女優か?海は広いぞ。まぁ常に三人かたまってるようにな」

    唯「気を付けるー。尊が変な人についてかないように」

    尊「失礼な。お姉ちゃんも兄さんも、動きや佇まいが独特だから間違えないよ」

    波打ち際に、三人並ぶ。

    唯「じゃあ、せーので足浸けるよ。せーの!」

    若「おおっ」

    尊「もっと冷たいかと思ったら、案外そうでもなかった」

    若「砂が波と共に、さらりと指の間を抜けていくのう」

    唯「ここですぐ遊びたいところだけど、ちょっと我慢する」

    若「ほぅ?珍しい」

    唯「言ったなー。では尊からどーぞ」

    尊「実は、兄さんに教えてもらいたい事があって」

    若「教える?わしがか?」

    尊「古式泳法、ってのが知りたいんです」

    若「なるほど」

    尊「身に付けておくと、何かと便利かと思って」

    唯「私も覚えたーい」

    若「良いぞ。ただ此処はちと浅過ぎるのう」

    唯「なら、もっと深い所へGO~」

    賑やかな三人の姿を眺める覚。

    覚 心の声(水着、わざわざ揃えたんじゃなく、ほぼ三人同時に選んだって言ってたな)

    唯はレモン色のビキニ、若君はブルーの濃淡をグラデーションに染めてあるサーフパンツ、尊は同じデザインのモノトーン。

    覚 心(尊と忠清くんは、同士という感じがするし、反対色を着る唯を、二人して引き立てている感じもするし。水着までもが、持ち場が決まってるんだな)

    クーラーボックスからビールを取り出し、燻製をつまみに飲み始める。

    覚 心(はぁ~。極楽極楽と)

    海の中の三人。浮き輪に掴まりバシャバシャと、少し深い所に移動してきた。

    唯「この辺でいい?ではたーくんよろしくっ」

    尊「お願いします」

    若「わかった。この泳ぎは、川を渡ったり、水の中で体を安定させる為であるゆえ、顔は水面から出ておる」

    若君が立ち泳ぎを始めた。肩から上が水面から出ている。

    唯「すごーい!涼しい顔して泳いでる?立ってる?」

    尊「涼しい顔はいつもだけど」

    唯と尊、潜って若君の足捌きを確認。

    尊「わかったような気もするけど難しそう」

    唯「やってみよー!」

    若「二人共、安全の為、浮き輪を首に掛けておくのが良かろう」

    数秒なら浮けるようになった。

    唯「ふー。疲れた。あ、たーくんもういいよ、ありがと。浮き輪に掴まってね」

    尊「甲冑を着てこれやるんだもんね、兄さんがタフなのは当然だなぁ」

    唯「あとは?」

    若「随分と熱心じゃのう」

    唯「だって、なんかの時、絶対役に立ちそうだもん」

    若君が横向きになった。

    尊「あ、浮けばいいんだね。少し楽かな」

    両手両足で水を押し出すように掻き、ゆっくり進んでいく。

    唯「たーくんがやると、なんでも優雅に見えるけど」

    尊「でも実際は甲冑着て…以下同文」

    唯「さっきのよりはできそう。がんばろっと」

    こちらはスムーズにマスターした。

    唯「ありがとうございましたー、忠清先生!」

    尊「とっても勉強になりました、忠清先生」

    若「何やら面映ゆいのう」

    授業、終わり。浮き輪に掴まり、浅瀬に戻っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    現代人にも必要だと思う。

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    二人の令和Days37~3日土曜7時、唯先生の授業

    初めてのお買い物。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日から旅行。早朝から準備中のリビング。

    覚「最後、クーラーボックス。重いよ」

    若君「はい」

    尊「積み込む荷物ってこれで全部ー?」

    唯「これもー!」

    唯がワンピースに着替えて下りてきた。

    唯「はい、たーくんと二人分の着替え」

    尊「はいよー。え、紙袋?雑だなー」

    唯「だってデカリュックはお城にあるもん」

    尊「あ、そっか。まぁ車だからいっか」

    覚「おー、それがエリさんの作品か。中々、似合ってるぞ」

    ヒマワリ柄のワンピース。

    唯「でしょでしょ?」

    尊「誰に褒められようと、基本、兄さんが気に入ればいいんだよな」

    若君が、微笑みながら唯を見つめている。

    尊「うわっ、その顔が全てを物語ってる。ごちそうさまです」

    美香子「あ、もう出かけられそうね。気を付けて行ってね」

    覚「悪いな、母さんだけ道中一人だが」

    美「いいのよ~キッチリ仕事終えてから行くわね」

    若「お母さん、先に参りますが、お二人の想い出の地、目の奥に焼き付けますゆえ」

    美「いい所だから、楽しんできてね。夕方には着く予定よ」

    覚「じゃ、忘れ物ないなー。では」

    唯&尊「では」

    覚「レッツゴー!」

    若「レ、レッツ…」

    唯「ちょっとー、いきなり、たーくんが知らない言葉使わないで!」

    車に移動。尊が唯の足元を見ている。ペディキュアが綺麗に塗ってあり、白いサンダルに映える。

    尊「うん、足元だけ見てたら、中身がこんなだとはバレないな」

    唯「なによぅ、いいでしょっ。自分なんか、またたーくんとお揃いでご機嫌なクセに」

    尊と若君の足元は、夏のお出かけ用に買ってもらった色違いのサンダル。

    尊「いいじゃんよー」

    若「尊」

    尊「はい?」

    若「先程から、面と向かい褒めるのは、苦手なようじゃの」

    尊「え!」

    唯「え、そうだったの?なんだぁ、超超キレイな絶世の美女なら、そう言えばいいのにー」

    尊「そこまでは申せません」

    美香子が手を振り見送る。

    美「行ってらっしゃーい」

    四人「行ってきまーす!」

    美「いい天気で良かったわ」

    順調に走り、高速道路のサービスエリアで休憩。

    唯「たーくん、財布持って来た?」

    若「持っておる」

    唯「お買い物の練習しない?自販機だけど」

    自販機コーナー。

    唯「お財布いくら入ってるんだっけ。ふーん、千円札1枚と五百円玉2枚ね。じゃあ、五百円玉をこの隙間に入れて」

    若「ここに差すと」

    唯「すると、入れたお金で買える飲み物のボタンが光るの。どれにする?」

    若「ほぅ、全て光っておる。ではこの、お茶を」

    唯「そのボタンを押して」

    ガコ、っと音がして落ちてきた。

    唯「で、取り出す。でね、このお茶150円なの。今入れたのが500円だから、引き算して350円戻って来なきゃいけない。この自販機は、おつりでもう出てきてる。その小さい窓の中から出して」

    若「おぉ、銭が小そうなって増えておる」

    唯「数えて」

    若「100と書いてある銭が3枚、50と書いてある銭が1枚。350、円、じゃな」

    唯「自販機の中には、何本も買えるようにまたボタンが光るのもある。その時はこの持ち手を下げると、おつりが出てくるからね」

    若「わかった」

    尊が合流。

    尊「あ、もしかして、初めてのお買い物?」

    若「おぉ、このお茶を買うたぞ」

    尊「へぇ、もうバッチリじゃないですかー」

    尊が右手を挙げる。若君がすぐに気付き、同じく右手を挙げた。

    尊「イェーイ!」

    若「イェーイ!」

    パシッ、とハイタッチ。

    唯「あれっ、私がジュース買ってる隙に、なんか仲良くやってるー」

    尊「うまくいったね、おめでとうだよ」

    唯「ふーん。たーくん私ともやる?」

    若「いや、唯とは、手はつなぐ方が良い」

    唯「やーん、やっぱり?」

    尊「はいはい、手つないでください。お父さんが待ってるからそろそろ戻ろう」

    10時。現地に到着した。車を宿に停め、歩いて海水浴場に。

    唯「ホントだ!砂浜が白ーい!キレーイ」

    若君「同じ海でも随分と違うのじゃな」

    尊「青い空、青い海、白い砂浜…絵に描いたような夏の風景だ」

    覚「じゃあ着替えて集合な」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    いよいよ。

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    二人の令和Days36~2日15時30分、柔らかくて温かい

    あの頃の唯は、超サバイバル生活だったので。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングで寝入ってしまった唯を抱き上げ、二階の部屋に連れてきた若君。

    若君 心の声(よう寝ておる)

    ベッドに寝かせ、タオルケットをそっと掛けた。

    若 心(さて)

    本棚の前に立つ。

    若 心(尊に倣い、わしも学ぶとするかの)

    少しではあるが、図録や参考書が並ぶ中、見覚えのない冊子を発見。

    若 心(初めて見るのう)

    手に取る。

    若 心(食べられる、野草?)

    パラパラとめくる。写真と解説が続く。

    若 心(今まで気が付かなんだが、これは是非一読せねば)

    唯が寝ているベッドにもたれるように床に座り、1ページずつ読み進める。

    若 心(よう見る草もあれば、見覚えのない草もある。これが450年の隔たりなのであろうか)

    読んでいると、後ろで唯が動いた。

    若 心(目覚めたかの)

    本を置き立ち上がり、唯の様子を確認。

    若 心(ん?何やら…面白い)

    口をとがらせ、突き出している。

    若 心(面白いと申しては、また機嫌を損ねるのう)

    ずっと突き出したままで動かない。

    若 心(ハハッ、これはねだっておるのか?かわいいよ、唯)

    そっと近づき、唇を重ねた。満足そうな寝顔に変わる。

    若 心(起きはせぬか。夢の中で、うまい物でも食しておるのかのう)

    続きを読み進める。しばらくすると、今度は廊下で足音が。

    若 心(お父さんが、下へ行かれたようじゃ)

    時計は17時を指している。

    若 心(教えを乞う為には、そろそろわしも行かねば)

    唯の様子を伺う。すると、

    若 心(何が起こったのじゃ!)

    唯が泣きながら眠っている。

    若 心(どうすれば良いのか…)

    心配で覗き込む若君。その時、唯が目覚めた。そして抱きつき、泣いた経緯を話す。

    若 心(良かった。夢の中のわしが、酷い仕打ちをしたのではなかった)

    若君「落ち着いたら、下りて参れ」

    唯「うん。わかった」

    キッチンに下りてきた若君。

    若「お父さん、遅くなり済みませぬ」

    覚「全然遅くなんかないよー。じゃあまずは、玉ねぎをみじん切りにしようか」

    若「微塵切り、ですね」

    覚「そうだ。華麗に斬っちゃってー」

    カニ缶を開け、炒めた玉ねぎ、パセリと昼作ったソースを混ぜる。

    覚「少し固まってるから、成型しやすいと思う。一口大の、俵型にして」

    若「俵。知っておる言葉はわかりやすいです」

    覚「あ、そうだね」

    衣をつけ、いよいよ揚げ始める。

    覚「しまった」

    若「え?」

    覚「ちょっと揚げ油が少なかったなー。忠清くん、鍋から離れて」

    若「離れる?はい」

    その時、ポン!とコロッケが爆発した。

    若「えっ」

    覚「やっちまったなー。ごめんな、びっくりしただろ?油かかってない?」

    若「大丈夫です。が、危険が未然にわかるのですね。さすが師匠です」

    覚「できる師匠なら爆発させないよー。他のは上手くやるからね」

    カニクリームコロッケ、完成です。

    尊「やったー」

    美香子「あら~、形も綺麗」

    唯「絶対うまいヤツだぁ」

    全員「いただきまーす!」

    若君がまた、すぐ箸をつけない。

    唯「どしたの?心配しなくても、おいしいよぉ~」

    若「いや、これも熱かろうと思うて」

    覚「ヤケドは嫌だよな。でもこれはよっぽど大丈夫だよ。みんなバクバク食べてるだろ?」

    若「そうですね。頂きます。あ、うまい」

    覚「今夜も大成功だ」

    尊「爆発以外はね」

    覚「それな。次回頑張ります」

    若「ハハハ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    2日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days35~2日15時、どうか醒めないで

    愛馬を操るが如く。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君が呼んでいる。

    若君「唯、出かけるぞ」

    唯「へ?出かけるって、どこに」

    若「海じゃ」

    唯「え?海は明日…」

    若「ドライブに行きたいのであろう?参るぞ」

    唯「え?ドライブ?馬で?」

    若「何をたわけた事を。車に決まっておるではないか」

    唯「はあ?」

    助手席のドアを開けてくれる若君。訳もわからず乗り込む唯。

    唯 心の声(うそっ、たーくんが運転するの?え?えーと、これは…うん、夢だ。夢を見てるんだな)

    出発した。ハンドルを握る若君。真っ白な半袖Tシャツから伸びる逞しい腕を、じっと見つめる。

    唯 心(ずっと眺めてたいなぁ。どうか、途中で目が覚めませんように!)

    若「良い天気じゃ」

    唯「そうだね」

    若「ドライブ日和じゃの」

    唯「うん」

    若「そう申しながら、外の景色でなく、わしの方ばかり見ておるようじゃが」

    唯「見える景色で、一番キレイだもん」

    若「外よりか?ハハハ」

    海が見えた。しばらく海岸線沿いを走る。水面に反射する太陽の光が眩しい。

    唯「すごい、キラキラしてる」

    若「海は今日も、美しいのう」

    唯 心(キラキラなのは、海だけじゃないよ)

    少し高台になっている駐車場に入って行く。海側を向いて車を停めた。

    唯「まぶしーい」

    若「まだ日が高いからの」

    車からすぐ降りずに、黙って海を見つめる二人。

    若「車は、良いのう」

    唯「そう思う?」

    若「二人きりになれる」

    唯「うん、嬉しい」

    唯 心(どうせ夢なんだからさぁ、自分の好きな展開に、アレンジしてもいいよね)

    唯「たーくん」

    若「ん?」

    若君に近づき、口をとがらせるそぶり。

    若「ねだっておるのか」

    唯「ダメ?」

    若「大歓迎じゃ」

    そっと唇が重なる。驚く程、感触が柔らかい。

    唯 心(夢じゃないみたい…)

    停めたのは、カフェの駐車場だった。店に入ると、案の定、若君に視線が集中。

    唯 心(ねっ、ねっ、超カッコいいでしょ!でも私がひとり占めなんだから!)

    ジンジャーエールが運ばれてきた。グラスの中のはじける泡が、光を集めて輝く。

    唯 心(夢のデート。嬉しすぎる!炭酸の泡と一緒にはじけちゃいたい!)

    会話をはずませていると、徐々に日が傾いてきた。

    若「そろそろ帰ろうかの」

    唯「うん」

    車に乗り、走り出した。夕日が、海に沈んでゆく。

    唯「すごーい、真っ赤」

    若「先程までとは、うって変わった姿よのう」

    信号待ち。若君が唯を見ると、唯と唯越しの夕日が並んでいる。

    若「実に美しい」

    よく見ると、唯が泣いている。

    若「なんと。どうしたのじゃ」

    慌てて、コンビニの駐車場に車を停める。

    唯「ごめん、ごめんね」

    若「いかがした?」

    唯「夢ってわかってるんだけど、夕日はキレイだし、たーくんは超カッコいいし、感動して」

    若「夢、か。わしは、唯が望み喜ぶ事を、何なりと叶えてやりたいと思うておる」

    唯「嬉しい。ありがとう」

    若「唯が望むなら、車にも乗る。心の何処か片隅で、望んではおらなんだか?」

    唯「思ってた…たーくんの運転でドライブなんて、絶対叶わないから言わなかったけど」

    若「そなたの喜ぶ顔が見られるなら、何だってする。まさか泣かれるとは思わなかったがの」

    唯「ごめんね。望みって、願えば叶うんだね」

    若「それを教えてくれたのは、そなたではないか」

    唯「あ…」

    若君が唯の頭を撫でる。

    若「乗っておるだけでも、疲れるであろう?帰りは寝ておれば良いぞ」

    唯「うん。ありがとう」

    帰り道、目を閉じた。車がゆりかごのよう。

    唯 心(たーくんは、最高のダーリンだ)

    ここで、目が覚めた。

    唯「あっ」

    周りを確かめる。自分のベッドに横になっている。まだ涙が残っている。そして、

    若「唯、一体どうしたというのじゃ」

    若君が心配そうに覗き込んでいる。

    唯「あー」

    手を伸ばし、若君に抱きつく。

    唯「良かった、起きてもちゃんとたーくんが居た」

    若「わしは何処へも行かぬ。いかがした?」

    唯「あのね、たーくんの夢を見てたの」

    若「今、泣いておったではないか。夢の中のわしが、何かしたのか?」

    唯「ううん、すっごく優しくてカッコ良かったよ」

    若「では何ゆえ涙を」

    唯「幸せ過ぎて、かな」

    若「そうなのか。良い夢であったのじゃな」

    唯の体を起こし、涙を拭う若君。

    若「そろそろ、晩飯の支度の時間じゃ」

    唯「あ、そんなに経ってたんだ」

    若「わしは先に行く。落ち着いたら、下りて参れ」

    唯「うん、わかった。このまま行ったら、たーくんが泣かしたみたいだもんね」

    若「ハハハ。それは構わぬが、お父さんが心配するからの」

    日常に、戻ります。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、唯が寝ている間、若君がどう過ごしていたかをお送りします。

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    この後のお話35について

    描かれているモチーフが、現実に起こった出来事を連想させ、若君にそんな事させるな、とのご意見もあるでしょう。

    唯ちゃんならこう願ったであろう、ならば喜んで欲しい。そして、心優しき若君ならこうするでしょう、とあえてお送りします。二人に経験させたい夢のひととき、何卒ご容赦くださいませ。

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    二人の令和Days34~2日14時、シエスタです

    一番暑い時間。ぼんやりしててもいいじゃない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    昼ごはん後、母以外の四人でまどろんでいる。

    覚「しまった!」

    唯「わっ!」

    尊「びっくりした!」

    覚「明日使う、大事な物を用意するの忘れてた、大変だ」

    唯「えー、なにを?」

    覚「ビーチパラソル」

    唯&尊「それ、大事!」

    若君「ビーチ、パラソル…」

    尊「あ、ビーチは砂浜、パラソルは傘です」

    覚「どこにしまったかなー」

    無事見つかりました。

    覚「お、開くな。使える。良かった」

    唯「あぶなかったー」

    若「随分と大きな傘じゃ」

    覚「海では、日陰がないからね。自分達で確保しないと」

    若「手に持ち、掲げるのですか?」

    覚「いや、それは重いからね。砂浜に置くというか、刺すんだよ」

    若「陣地の旗印としてですか?」

    覚「お、いい表現。合ってるよ」

    尊「というか、そもそもあとは何を準備してたの?」

    パラソルをたたんで、キッチンへ移動。

    覚「クーラーボックス。冷たい飲み物たくさん持ってくから」

    ボックスの隣に、缶やペットボトルが多数置いてある。

    尊「ビールも用意してあるね」

    覚「ビーチで昼間っから飲むのは、最高だからなー。あと、レジャーシート」

    若「おぉ、この敷物は見覚えがあります」

    唯「たーくん、覚えてたんだ」

    尊「あー、空港デートに持ってったヤツ?」

    若「羽ばたかぬ巨大な鳥が、何羽も居りました」

    唯「あーあの日のデートは…良かった、超幸せだった~」

    尊「こっちが羽ばたいて飛んできそうだな」

    覚「もう忘れ物はないと思うけどなー。ま、一安心だ」

    言いながら、首をコキコキと動かしている。

    覚「忠清くんに、頼んじゃおうかな?マッサージ」

    若「はい、喜んでさせて頂きます」

    唯「お父さーん、人使い荒くない?」

    覚「やっぱり?稼いでもらおうってのもあるからなー」

    若「お父さんのお役に立てるなら、何でもいたします」

    覚「嬉しいね~。いや、ちゃんと払うからね」

    マッサージ終了。

    覚「いやー、今日も気持ち良かったよ、ありがとう」

    若「喜んで頂けて嬉しいです」

    覚「ふぁ~。なんか気持ち良くて、眠くなっちゃったな。ちょっと昼寝でもしてこうかな」

    若「そうですか。ゆるりとお休みくだされ。休まれておる間、何かしておく事はありますか?」

    覚「感動だ」

    唯&尊「は?」

    覚「唯や尊の口からは到底出ない言葉を聞いて、感動してる」

    唯「気が利かなくてすいませんねぇ」

    尊「僕らが倍頑張っても、追い付かないよ、兄さんには」

    覚「倍か?」

    尊「もっとかー」

    覚「忠清くん、また夕方から頼むから、君も休んでて。じゃ」

    覚が二階に上がっていった。

    尊「僕も少し昼寝しようかな。15分くらいの昼寝って、かえってその後頭が働くんですよ」

    若「ほぅ。勉学に勤しむのに、丁度塩梅が良いと。そのような、体の仕組みまでもわかっておるとは」

    尊「試して、実際楽だったんで。兄さんの美味しい料理で英気を養ったんで、晩ごはんまで一頑張りしてきます」

    若「そうか」

    尊「…ありえない」

    若「え?」

    尊「お姉ちゃん、もう寝てます」

    椅子に座ったまま、寝落ちしている。

    若「いつの間に」

    尊「お姉ちゃん、そんな寝方したら体痛くなるよ」

    唯の体を揺する尊。

    唯「ん…」

    若「ハハハ。尊、では我らも二階に上がろうかの」

    尊「はい。お姉ちゃーん、起きてー」

    その時、若君が唯をひょいと抱き上げた。

    尊「あ」

    若「参ろうか」

    尊「はい。世話の焼ける姉でホントすいません」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    二人の令和Days33~2日金曜8時、働き者です

    朝から一汗、かいてます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝ごはん後、若君がまたカレンダーの前に立っている。

    若君「この、休とあるのは何ですか?」

    美香子「クリニックのお盆休みよ」

    若「11から14迄線が引いてあります」

    美「暦と元々の休診日の関係で、13日だけ休めば連休に出来たから。15日からまた始めるわ」

    若「まだ盆、の内では?」

    美「毎年こんな感じなのよ。そうね、一昨年居た時は忠清くん、寝込んでたから」

    若「その折は、造作をかけました」

    美「いいのよ~。でも、あなた達が来る前に今年の盆休みを決めたんだけど、結果オーライだったわ」

    若「オーライ?」

    美「あ、正解だったって意味よ。帰るのは15日じゃない。芳江さんとエリさんに最後の日に会えるから」

    若「タイミング、が良かったと」

    美「あら現代語。ちゃんと理解してるのね、ホント勉強熱心。じゃあそろそろ行くわね」

    若君は、クリニックに向かう美香子に会釈をし、キッチンで片付けの終わった覚の元へ。

    若「お父さん、今日は金曜です」

    覚「お、朝からやる気満々だね~」

    若「何をいたせば良いですか?」

    覚「今日はね、ちょっと目新しい事をやろうと思う」

    若「目新しい?」

    覚「このメニューに決定!じゃなくて、いろんな料理に使い分けができる、いわば料理の素みたいな」

    若「素、ですか」

    覚「ホワイトソースを仕込もうと思う。前にさ、グラタンでヤケドしそうになった事あったじゃない?」

    若「グラタン…あー、はい。中が思いの外熱く、慌てました」

    覚「あの白いソースだよ。沢山作って冷凍しておけば、忠清くんのお手製料理が長く楽しめるからね」

    若「長く。それは良いですね」

    リビングに居た、唯と尊が寄ってきた。

    尊「洋食のコースができる?カッコいいね」

    唯「じゃあ、今日の昼と夜はなに作るの?」

    覚「昼は…そうだな、まずドリアにするか」

    若「ドリア?」

    唯「グラタンの下に、ご飯が敷いてあるヤツだね」

    若「ほぅ」

    覚「夜は、忠清くんの腕なら多分大丈夫だし、カニ缶があるから…カニクリームコロッケにするか」

    唯&尊「やったー!」

    唯「で、買い物は行く?」

    覚「明日から二日間家を空けるから、食材を減らさなきゃいけないんで、行かないぞ」

    唯「そうなんだー」

    覚「ヒマなら、クリニックに患者さんが来られる前に、駐車場や入口に打ち水してこい。ほれ、尊も」

    唯&尊「はぁい」

    覚「忠清くんは、早速用意だよ」

    若「はい!」

    小麦粉と顆粒スープと塩を混ぜた物と、牛乳を、少しずつダマにならないよう、泡立て器で慎重に混ぜて、火にかける。

    覚「この過程が、実は肝心」

    若「はい」

    覚「実は最後まで基本的に、ひたすら混ぜ続けるから」

    若「頑張ります」

    クリームチーズと白胡椒が入った。ゴムべらに持ちかえて、まだまだ混ぜる。

    覚「ここで焦がすと、ソースが白じゃなくて茶色になるから。頑張れ」

    とろみがついてきた。

    覚「おっ、そんな所かな。火をとめて」

    若「はい」

    覚「これで終わったかと思うだろ?違うんだなー。いろんな料理に使おうと思うと、あと二周は必要だけど。どうする?」

    若「無論、やらせて頂きます」

    覚「だよね。コツが掴めただろうから、僕はドリアの具材の用意を始めるよ」

    結局、三回作りました。

    覚「お疲れ様。上手に出来てるよ。座って小休止して。はい、麦茶」

    若「ありがとうございます」

    唯「たーくん、腕疲れたでしょ。揉んであげるね」

    若「済まぬの。あっ」

    唯「へ?」

    若「支払いは…」

    唯「やだ、そんなんナシだから!」

    小休止後、昼ごはんの支度に入る。

    覚「お前達、出番だぞ」

    唯&尊「はーい」

    覚「唯はグラタン皿にバター塗って。尊は、その皿にご飯を敷いてくれ」

    尊「了解ー」

    唯「ねーねー、具はなに?」

    覚「玉ねぎ、ウィンナー、パプリカとブロッコリーだ」

    唯「色がキレイだね」

    覚「忠清くんがソースを色白に作ってくれたからな、赤や緑が映えるぞ」

    若「ご指南の賜物です」

    覚「さ、チーズを散らしてと。ラストスパートだ」

    綺麗な彩りのドリアが出来上がりました。

    美「まぁ、すごく鮮やかね」

    覚「忠清くんの腕がいいからな」

    若「痛み入ります」

    覚「では」

    全員「いただきまーす!」

    若君がすぐに食べない。

    唯「どしたの?」

    若「熱くないか?」

    唯「むちゃくちゃ熱くはないよ」

    若「そうか」

    唯「冷めるの待ってたの?かわいいー」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    夜も頑張ってね。続きます。

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    二人の令和Days32~1日8時、社会勉強です

    どの子にも、注ぐ愛情は同じ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「忠清くんに、渡す物があるんだ」

    真新しい財布が出てきた。

    唯「財布?」

    尊「誰の?」

    覚「忠清くんのだ」

    若君「え?」

    美香子「急に何、よね。忠清くん、もう三回もこちらに来てるのに、お金を扱う機会がなかったじゃない」

    若「はい。それは、由もありませぬゆえ」

    覚「で、忠清くんには今後、働いたお礼として随時支払いをしたいと思う」

    若「礼?」

    尊「お小遣いじゃなくて?」

    覚「普通、同居してるからといって、娘婿に小遣いはあげない」

    唯「働くって、家の手伝い?」

    覚「それは唯や尊もやるじゃないか。忠清くんにしか出来ない事に、支払う」

    若「それは、どのような?」

    美「超絶に気持ちいい、マッサージに。えーと、肩揉み、かな」

    若「肩揉み…わしは手練ではござらぬ。金を頂くなど出来ませぬ」

    美「あのね、忠清くん。あなたのマッサージって、優しさがにじみ出てて、とーっても癒されるの。自分では気付いてないでしょうけど」

    覚「充分、受け取る権利があると思うんだ」

    若「それは…大変恐れ多いのですが」

    覚「自分で自由に使えるお金は、あと半月暮らすのにも、あった方がいいと思うから。お節介かな?」

    若「そのような…。忝ない、わしにお気遣い頂いたのですね」

    唯「今、いくら入れてあるの?」

    覚「母さんと話して、一回500円にしようと。僕と母さんと一回ずつやってもらったから、1000円入ってる。忠清くん」

    若「はい」

    覚「受け取ってくれ。まだ少額でなんだけど、これはどう使うのも君の自由だ。唯とのデートも、しやすくなるよ」

    唯「ありがとう~、お父さんお母さん」

    若「わかりました。大切に使わせて頂きます」

    覚「これをダシにでもないんだけど、これからどんどんお願いするから」

    若「はい!精一杯、務めます」

    尊「これで兄さんも、経済活動に参加だね」

    若「経、済?」

    尊「世の中を回すって事です」

    美「この経験が、少しでもあなたの総領としての糧になるといいなと思う。大袈裟かな?」

    若「いえ、そこまで考えてくださったとは。心より御礼申し上げます」

    昼になった。クリニックの休診時間に合わせ、昼ごはん中。

    尊「昨日、買い物に行ったのって、兄さんの財布探しだったんだね」

    美「そうなの。ごめんね忠清くん、好みも聞かずに買っちゃって」

    若「いえ、大層気に入っておりますゆえ」

    美「昨日はね、ホントはもっと早く帰るつもりだったんだけど、コスメの売場でつい、長居しちゃって」

    唯「へー。化粧品?」

    美「実は、唯にと思って」

    唯「私?!えっ、私化粧なんてうまくできないよぉ」

    美「違うのよ。取ってくるわね」

    小さい袋だが、少し重い。

    唯「なに?なんかガラスの瓶がいっぱい入ってる…あ、マニキュア!」

    美「そうなの。現代に居る間くらい、指先のオシャレしてもいいんじゃないかと思って」

    唯「色、何色もあるよ?」

    美「もうすぐクリニックも盆休みになるし、都会にお出かけもするし。私もその間はキレイにしたいから、いっぱい買っちゃった」

    唯「うまく塗れるか自信がないー。お母さん、塗ってほしい」

    美「それが、私も久々過ぎてあやしいわよ?今日の午後、ゆっくりやってみなさい。塗る順番は書いといてあげるから」

    14時。リビングの床にペタンと座る唯。マニキュア&ペディキュアの準備に奮闘中。

    唯「えーと、ベースコートが乾いたら色を塗る、かあ。たーくん、どの色がいい?」

    若「これで爪を染めるとな。おなごの装いも様々じゃの。これはいかがじゃ?」

    唯「あぁ、桜色でキレイだね。少しパールも入っててキラキラしてるし。じゃあこれで。さぁー、頑張るぞ!」

    若「唯」

    唯「なに?」

    若「やってみても良いか?」

    唯「えっ!たーくんが塗ってくれるの?!」

    覚「そりゃ随分贅沢だなあ」

    若「唯を、より麗しく仕立てる手伝いが出来るならば」

    唯「なんて優しいのぉ、嬉しい~」

    覚「そうか。そこで、より、も付け加えるんだな。勉強になるなあ」

    唯「お父さん、なにメモってんの」

    若君が唯の手を取り、丁寧に塗りあげていく。

    唯「あ、そっか。超小さい筆みたいなモノだから、たーくんの方が上手なのは当たり前かも」

    覚「城の姫と小姓みたいだぞ」

    唯「やーん、たーくんが小姓なんて」

    若「これ、動くでない」

    唯「あ、ごめん」

    実験室に居た尊が戻って来た。ちょうどペディキュアに差し掛かった所。

    尊「わっ!なんて光景!お姉ちゃん、何兄さんにやらせてんだよ」

    若「わしが、やりたいと進言したのじゃ」

    尊「へ、へー。写真撮ってあげよっか?」

    唯「あー、撮って撮って~」

    足の爪に塗る様子を、パチリ。

    尊「こんな感じ」

    唯「やーん、いい!すっごくいい~」

    覚「どれ、見せてくれ。ほー」

    尊「ほー、でしょ?お父さん」

    覚「あぁ」

    唯「どういう意味よ」

    尊「写真にするとさ、二人の世界ができてて、部外者立入禁止!って感じなんだよ」

    唯「いいじゃなーい!」

    若「そうじゃな。尊も、塗るか?」

    尊「いや、ご遠慮させていただきます」

    唯「お母さんには、お父さんが塗ってあげたら?」

    覚「それ、いいな。じゃあ、唯の指で練習するか」

    唯「お断りします」

    覚「だよな。じゃあ、自分の指で練習するか」

    尊「それもおかしいでしょ」

    覚「だな。ハハハ」

    全員「ハハハ~」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    1日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days31~8月1日木曜7時30分、積年の夢

    そんなに待ったのなら、ぜひ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    もうすぐ朝ごはん。

    美香子「忠清くん」

    若君「はい、お母さん。何の御用でしょうか」

    美「今日から8月だから、カレンダーをめくるんだけどね。ちぎった7月のカレンダーを隣に貼りたいから、押さえててくれる?」

    若「貼る。わかりました」

    8月のカレンダーの左に、7月のカレンダーが並んだ。

    若「先月は貼っておらぬのに、今月は何ゆえこうされるのですか?」

    美「うん、あのね。忠清くん達が来てくれて、楽しい予定をいっぱい書き込んだじゃない」

    若「はい。プール、バーベキュー、などと書いてあります」

    美「捨てずに、思い出として取っておきたいのよね」

    若「そうなのですね。いつも、急に現れ申し訳ありません」

    美「何言ってるの~。ホントに忠清くんは自慢の息子だわ」

    若「いえ、褒めて頂くなど」

    唯がやってきた。

    唯「たーくん、なにカレンダー見てんの?」

    若「思い出と予定を」

    唯「へ?そう。今日から8月かあ。3日4日で海!もうすぐ!楽しみだな~」

    若「待ち遠しいのう」

    唯「ん?」

    若「なんじゃ?」

    唯「3日から4日に線が引いてあるのはわかる。泊まりで旅行だから。11日から12日にも線が引いてあるんだけど」

    若「二日間で何かあるのかのう」

    唯「だって、私もたーくんも知らないじゃん」

    若「そうじゃな」

    唯「それに怪しい暗号書いてあるし」

    若「怪しいとは?」

    唯「2✕2+1✕1って」

    若「ほぅ」

    尊が洗面所から出てきた。

    尊「二人で何つっ立ってんの?」

    唯「カレンダーの暗号を解読してるの」

    尊「は?」

    唯「ほら、このかけ算と足し算」

    尊「あぁ」

    唯「あっ、さてはあんた、答え知ってるな?」

    尊「答えは5でしょ」

    唯「違ーう!意味だってば」

    若「5…」

    唯「たーくん、わかったの?」

    若「人数かの。家族の」

    唯「え」

    尊「さすが兄さん」

    唯「人数だとなに?」

    覚「唯」

    唯「はぁい」

    覚「尊には、先に言う必要があったから知ってるんだ」

    唯「はあ」

    美「実はね、今日色々発表しようと思ってたのよ」

    若「今日、色々ですか」

    覚「ご飯後に言うから。はい、座って~」

    朝ごはん、ごちそうさまでした。

    覚「それでは発表する」

    唯&若「はい」

    覚「11日12日で、旅行に行く」

    唯「へ?はい、はいっ」

    尊「速川唯さん、ご発言ください」

    唯「海に行くの決まった時、取れる所で宿なんとか取ったって言ってた」

    覚「その通りだ」

    唯「2か所も取れたの?三連休だし、お盆も近くて、観光地なんて絶対無理じゃない?」

    覚「観光地ならな」

    唯「え?」

    覚「行くのはホテルだ。都会の高級ホテル」

    唯「都会…」

    覚「案外すんなり取れたんだ。みんなお盆には田舎に向かうからな」

    唯「なんで行こうって?」

    美「それはね。忠清くん、私達夫婦ね、結婚して20年になるの」

    若「それは、喜ばしい。おめでとうございます」

    美「唯達が来る前はね、尊が受験生だし、特に何も考えてなかったんだけどね」

    覚「二人が来て、旅行に行こうと思った時、この際前からやってみたかった事を実行しちゃおうか、ってな」

    美「それがね、夫婦で都会の高級ホテルに泊まる事だったの」

    若「一夜の宿をと」

    美「結婚した当日ね、式を挙げました、披露宴を行いました、そのまま二人で高級ホテルに泊まり初夜を迎え」

    唯「初夜…」

    美「翌日新婚旅行に出かける、ってのをやりたかったんだけど。高級ホテルの部分だけ入れ込めなくて、それぞれの実家に帰って、そこから新婚旅行に行ったのよ」

    若「それで此度、行うのですね。ならば、お二人だけ行かれても良かったのでは?」

    覚「君と唯は、きっと今後、こんな機会はないだろ?」

    若「それは…そうですが」

    尊「それでね、兄さん達にも体験してもらおうと。そうすると僕が余るからさ、一人部屋でもいいか?って聞かれて」

    若「なるほど」

    尊「いいよって。せっかくだもんね」

    唯「暗号は、二人部屋が2つ、一人部屋が1つって意味?」

    覚「そうだ。聞かずに進めたが、まぁ嫌とは言わないと思ったからな」

    唯「言わないよー。嬉しーい!たーくん、良かったね!」

    若「それは、楽しみじゃのう」

    覚「それでな、忠清くん」

    若「はい?」

    覚「君にはもう一つ、別件で話と提案があるんだ」

    若「別で、ですか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    別件は、次回をお待ちあれ。

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    二人の令和Days30~31日19時、光ほのかに

    バーベキューもいよいよ終盤。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    日の入りです。ようやく涼しくなりました。

    覚「花火、はもう少し暗くなってからだな。スイカ切ってくるか」

    若君「お父さん、手伝います」

    覚「いいのかい?さっきあんなに…」

    若「ご迷惑をおかけしたゆえ、是非手伝わせてください」

    美香子「忠清くんは、偉いわねぇ」

    覚「母さん」

    美「なに?」

    コソコソ話し出す。

    覚「どうしよう、切った時に忠清くんが卒倒でもしたら」

    美「まさか。なんで卒倒するの?」

    覚「だって、切ったら中が赤くて、赤い汁がタラリと…」

    美「嫌だ、リアルで怖い!でも、お父さんじゃああるまいし、彼はそんな弱い子じゃないから、心配いらないわよ」

    キッチンに覚と若君。

    覚「真っ二つに切って」

    若「はい」

    覚 心の声(大丈夫かなー)

    若「切れました。おぉ、これなら見覚えがあります」

    覚「そ、そう?思い出した?」

    若「はい、大層瑞々しく、甘かったと覚えております」

    覚「そうかー。良かった」

    切り分けて、みんなでいただきます。

    唯「冷たくておいしーい」

    若「うまい」

    尊「やっぱ夏はスイカだね」

    美「あー美味しい。あ、お二方、種は庭に落としていただいて結構よ」

    エリ「できるだけ落とさないようには致しますが、落ちたらごめんなさい」

    芳江「お庭のゴミになりますものね」

    覚「いや、気にしないでください」

    唯「ねーねー、落ちたスイカの種、ここで育ったりしないの?」

    覚「しない。種としては充分育つが、スイカの種蒔きは本来春にするから、今蒔いても上手く育たない」

    芳「よくご存知ですね」

    覚「小さい頃、同じ疑問を持ちまして、調べた事がありましてね。取って置いて春に植えれば、運が良ければ芽吹くらしいんですが、なんせ子どもの考える事、すぐ忘れまして」

    芳「まあ、かわいらしいこと」

    エ「でも、お庭広いですよね。野菜などはお作りにはなられないのですか?」

    覚「忠清くんが、朝稽古する場所が無くなりますので」

    若「お父さん、それは」

    覚「ハハハ。半分は冗談だから気にしないで。極めるとトコトンやる性分なんで、手を出してないだけだから」

    若「半分は、本当に考えて頂いておるのですね。済みませぬ」

    尊「兄さん、気の回し方がすご過ぎる」

    辺りが暗くなってきました。

    唯「花火、花火!」

    覚「わかったから。まず、金属のバケツに水汲んでこい」

    唯「はーい」

    若「唯、手伝おう」

    美「中身は…よしよし。手持ち花火ばかりね」

    エ「確かに。ロケット花火やネズミ花火みたいに、動く物が入ってないわ」

    芳「唯ちゃんなら喜んで選びそうですけれど」

    尊「その理由は、僕が説明します」

    エ&芳「あら。お願いします」

    尊「ロケット花火は、以前、飛ばした残骸が、屋根にしばらく乗っかったままになってしまいまして」

    エ「あら」

    尊「ネズミ花火は、駐車場でやってたんですが、お父さんの車の下に入っていってしまい、そこでパーンと弾けて燃え」

    芳「まあ」

    尊「以後、禁止となりました」

    エ&芳「よくわかりました」

    花火、スタートです。

    唯「たーくん、この先っぽに火を点けるの。はい」

    若「こうか?」

    シューという音と共に、火花が散る。

    若「おぉ、美しいのう」

    7人が一斉に火を放つ。明るい光に、ぼんやりと皆の顔が浮かぶ。

    若「綺麗じゃの」

    唯「それって花火が~?それとも私~?」

    若「双方、負けず劣らず美しい」

    唯「キャー!たーくんったら!」

    若「今、叩くのは止めよ。火を持っておるゆえ危ない」

    尊「的確に叱ってる」

    線香花火。

    覚「動と静なら、静だな」

    芳「この儚さがいいですよねぇ」

    エ「心落ち着きます」

    美「エリさんは、普段から落ち着いてらっしゃるじゃない」

    エ「いえいえ。でも、元気いっぱいの唯ちゃんが羨ましかったりしますよ」

    尊「元気にも、程度ってもんがあります」

    美「でも、忠清くんがブレーキをかけてくれるから安心なんです」

    唯「なになにー」

    美「忠清くんは、いい子ねって」

    唯「あれー?そんな事言ってたっけ」

    美「聞こえてたんじゃない。でも合ってるでしょ?」

    唯「大正解!」

    若「なにやら、痛み入ります」

    全員「ハハハ~」

    夜はゆっくりと更けていきました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    これで半分の日数、過ぎました。

    31日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days29~31日17時、香ってます

    揺すり続けないと、弾けず残るんだよね。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    風が凪いでおり、夕方でも蒸し暑い。

    唯「けむいー」

    覚「炭に油が落ちるしな」

    若君「香も焚いておるのですね」

    美香子「香?」

    若「辺りが香っておりますが」

    エリ「あー、蚊取り線香の事かしら」

    若「か、を取る?かは蚊ですか?」

    美「当たりよ。蚊を退治するの」

    若「ほぅ。それは重宝な」

    唯「帰る時に持ってこっか?」

    若「あ、いや」

    美「あら、持たせてあげるわよ」

    芳江「まあ、お優しい」

    尊「永禄では、虫とも戦ってたでしょ?少しでも持ってけばいいのに」

    若「頂戴してばかりでは、なりませぬゆえ」

    覚「匂いが好みじゃない?」

    若「いえ、良い香りです」

    覚「じゃあ、持ってきな。どんな理由でも気に入ったんならさ」

    若「そうですか。痛み入ります」

    唯「入れ物は?この豚さん?」

    若「これが香っておったのか」

    美「んー、考えとくわ」

    丸いコンロの大きいお肉がそろそろいい感じ。

    唯「うひょひょー」

    美「どんな喜び方なの」

    唯「美味しいモノには目がないのじゃー」

    美「色気のいの字もないわね」

    芳「色気。はともかく、健康的でいいと思いますよ。唯ちゃんって、かなりの美人さんだと思いますし」

    尊「ともかく、は入ると」

    美「まぁ、私の娘なんで美人よね」

    覚「あぁ」

    尊「はいはい」

    美「唯はねー、黙ってれば、確実に美人枠なんだけど」

    尊「黙ってないから、枠外だと」

    唯「なんだとー」

    エ「うふふ、若君のお顔に」

    若「え?」

    エ「黙ってなくても綺麗だよ、って書いてあります」

    唯「えー、ホントに?やだもぅ、たーくんったら!」

    服の上からでなく、腕を直接、バチバチと叩かれる若君。

    若「そこは痛い、唯」

    尊「枠外だから加減ってもんがない」

    18時、鉄板の焼きそばが食べ頃。

    唯「まだ入るけど、もうメニューはラストに近い?」

    覚「ご飯モノはな」

    尊「あとはデザート?」

    覚「いや、その前に。母さん、丸いコンロ空いたぞ」

    美「はいはーい」

    手には、アルミ箔で出来た手鍋のような、銀色の物体。

    美「お二方に、手土産で頂きました~。火にかけるわね」

    唯「わぁ、ありがとー。なに?」

    尊「中なんにも入ってないよ?」

    エ「入ってるんですよ」

    唯「え?そうなの?空でペッタンコだよ?」

    芳「今回、何をお持ちしようかと思いまして、食材もフルーツもご用意されると伺ったので」

    エ「せっかく炭火も点いてるし、もし作ってお腹一杯でも、残しておけるお菓子にしようと思いましてね。お高い物じゃなくて、ごめんなさいね」

    覚「いえいえ。わざわざすみません。小さい頃、よく作ってもらって食べましたよ」

    美「これ、アウトドアにも向いてるわね」

    若「菓子、アウト、ドア…」

    尊「兄さん、安心してください」

    若「あ?あぁ。わしはわからずとも当然だと?」

    尊「僕も姉さんも、わからないんです」

    若「そんな物も、あるのじゃな」

    唯「えー、なんだろ?あっ、ふくらんできた!」

    尊「なんかプスプス言ってるよ。わっ!」

    若「銃か?!兵が潜んで居ったのか?!」

    唯「えー、なにー!」

    鍋の中から、バババババ、パンパンパンとかなりの爆発音が連続で聞こえ、鍋の上部がムクムクと膨らんできた。

    唯「怖い!なんか生まれてる!」

    若「何奴…」

    尊「あ、もしかして、ポップコーン?」

    美「当たり~。作る過程はちょっと激しいけどね」

    若「敵の来襲かと用心してしもうた」

    覚「ハハハ。刀を抜きそうな勢いだったね」

    美「鍋が静かになったわね。よし、できあがり。はい、どうぞ」

    尊「わぁ、早速のおやつタイムだ」

    唯「いただきまーす」

    若「ほぅ、この者達が暴れておったのか。頂戴します、芳江さん、エリさん」

    芳&エ「どうぞ~」

    唯「できたてポップコーンなんてはじめて食べたけど、うまぁい!」

    尊「すごい、ちゃんと弾けてるし、バター風味?で、美味しいな」

    美「いくつか頂いたから、また作りましょ。どう?忠清くん」

    若「大変美味しいです。されど」

    尊「あ、出来上がる仕組みはなんとなくわかったんで、後で教えますね」

    若「なぜ言わんとせん事がわかるのじゃ?以心伝心じゃの」

    日が大分暮れてきました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    そろそろスイカも食べ頃。

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    二人の令和Days28~31日15時45分、製造中です

    子供のように、はしゃいでもいいのよ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ガーランドを飾り付けている。

    唯「そこ、そこで!」

    若君「ここで結ぶのじゃな」

    唯「そっ。かわいいー」

    尊「軽くワイヤーに巻こうかな」

    唯「風で揺れるくらいにして」

    尊「了解」

    唯「ん、いい感じい!」

    覚「お~、かわいらしく出来たな」

    その時、玄関のチャイムが鳴った。

    芳江「こんにちは。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

    エリ「こんにちは。お世話になります」

    美香子「いらっしゃいませ。貴重なお休みの日に、わざわざありがとうございます」

    エ「いえいえ、家の用事はちゃんとできましたから」

    芳「楽しみにしておりました~」

    美「じゃ、どうぞ~」

    芳&エ「お邪魔します」

    パーティー、賑やかに始まりました。

    エ「可愛らしく飾り付けてありますね」

    唯「えへへ~がんばりましたぁ」

    エ「日差しによく映えてますよ。とっても素敵です」

    唯「やったぁ!褒められた~」

    尊「嬉しいね」

    エ「暑い中支度してくださって、ありがとうございます」

    覚「いえいえ、楽しんでやってましたから」

    唯「でも火も点いたし、ホントあっついよねぇ」

    尊「夏だから」

    唯「当たり前過ぎるー」

    若「陽炎が現れそうじゃの」

    尊「さすが兄さん、表現がカッコいい」

    唯「かげろう、ってなに?」

    尊「そこから説明いるんかーい!」

    エ「うふふ、可愛らしい」

    家の中で、美香子が芳江の説明を聞いている。

    芳「…と、準備はそんな感じです」

    美「わかりました。お菓子作りというより、理科の実験ね。早速用意するわ。今の時間なら、こっちの方が子供達も喜ぶだろうし」

    芳「三人の喜ぶ顔が、楽しみです」

    火の番人、覚。

    覚「時間のかかる物からぼちぼち焼き始めるよ。忠清くん、丸いコンロに塊の肉乗せてって」

    若「わかりました」

    美香子と芳江が外に出てきた。バレーボール程の丸い物体を、重そうに抱えている。

    美「はーい、唯と尊はこれの面倒見て」

    唯「なになに?わあ、ボール?」

    尊「面倒見るって何?」

    芳「アイスクリームを作ってくださいね」

    唯「アイス!あ、これが製造機?え?」

    尊「どういう仕組みなんですか?」

    芳「このボール、中が二重構造でしてね。外側には今、氷と塩を入れました。内側にはアイスの材料が入ってます」

    尊「あ、急激に冷やすんですね。でも空気を含ませないとアイスは滑らかにならない…わかった!だからボールなんだ。転がして攪拌するんだね」

    美「さすが尊。10分は転がし続けないとって話。頑張れる?」

    唯「がんばる~!あ、重い、だから転がすのかー。よし、行くよー」

    尊「はい、わ、ホントに重い!はいっ、兄さん」

    若「おおっ、ほれ、唯」

    尊「兄さん」

    若「なんじゃ?」

    尊「今の話、後で仕組みを詳しく教えますから」

    若「済まぬのう。わからぬと、顔に書いてあったかの」

    唯「大丈夫、私もわかってない」

    尊「お姉ちゃんは、わかんなくても進むヒトだから、説明はしない」

    唯「聞いてもたぶんわかんない。はい、尊」

    尊「やっぱり。はいっ、兄さん」

    若「ハハハ。はい、 唯」

    10分経ちました。

    美「はい、じゃあまず手を洗ってらっしゃい」

    唯&尊&若「はーい」

    三人が戻ると、芳江とエリがアイスを器に盛り付けている。

    唯「わぁ、できてるー!すごーい」

    尊「なんか、やり切った感があるね」

    若「これだけ外にあったのに、中はこのように冷えておるとは。またしても術じゃな」

    上手に出来上がりました。

    唯「あー冷たい!おいしーい!」

    尊「あー生き返る」

    若「大変美味しいです、芳江さん」

    芳「あらぁ~若君にそう言われて嬉しい。孫から借りてきた甲斐があったわ~」

    エ「そうなんですね」

    芳「私が買ってあげた物だから、貸してとも言わず実はこっそり持ち出しました」

    エ「あらら」

    覚「僕も一口。おー、うまく出来るもんだね。こっちはね、そろそろ串焼き、いい感じだよー」

    美「じゃあ、どうぞお二人、召し上がってください」

    芳「私達からでいいんですか?」

    美「早くしないと、唯に追いつかれますから」

    尊「正解!」

    唯「お母さん、聞こえてますけど?どうぞ、お客様から召し上がれ」

    エ「では、いただきますね」

    芳「いただきます~」

    若「どうぞ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    まだまだ序盤。

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    二人の令和Days27~31日13時、ずしりと重く

    勝鬨の裏にあるもの。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    昼ごはんは軽く済ませた。

    美香子「じゃ、急いで行ってくる」

    覚「使い易そうな物にしてくれよ」

    美「うん、ポケットに入るサイズにするわね」

    尊「なんか足りない物でもあるの?」

    覚「今日要る物じゃないんだがな、今しか行ける時間がないから」

    尊「そうなんだ」

    覚「じゃあタープを張り始めるか」

    若君「お父さん、もう少しお待ち頂きたい。日焼け止めを」

    覚「あー」

    唯「白くしないでよ?」

    尊「わかってるよー」

    覚「大事な準備だな」

    四人、日射しの強さがピークに近い中、タープを完成させた。

    覚「はい、みんなお疲れさん、休憩するぞ。麦茶どうぞ」

    唯&尊「はーい」

    若「ありがとうございます。所でお父さん」

    覚「なんだい?」

    若「麦茶を朝から随分といただいておりますが、無くなりはしませぬか?」

    覚「忠清くんはよく気が付くね。ありがとう。沢山作ってあるから大丈夫だよ。その代わりね」

    若「はい」

    覚「他の食材もあるから冷蔵庫がいっぱいでさ、冷やしときたかった果物が入らなくてね」

    尊「果物…もしかして、スイカ?」

    覚「そうだ」

    唯「やったあ!」

    覚「大きいバケツで水には浸けてあるけど、バーベキュー始めたら冷蔵庫が空くから移すよ」

    若「スイカ?」

    覚「前、夏に居た時食べてるから、見れば思い出すよ」

    15時。母、帰宅。

    美「ごめんね、ほとんど準備やってもらっちゃって」

    覚「暑い中お疲れさん」

    美「そろそろいらっしゃるかも。遅くとも4時にはって言ってみえたから」

    覚「そうか。じゃあまず食材を冷蔵庫から出して、外に持ち出すにはまだ早いから食卓に並べるか。そうしたらスイカが入る」

    唯&尊「わかったー」

    若「運びます」

    食卓に、串に刺した野菜やら肉やらが入ったバットが並べられた。

    覚「忠清くん、これだよ」

    スイカが浮かぶバケツを運んできた。

    若「忝ない。思い出せませぬ」

    覚「あ、そうか。切って出してるから、こんな丸ごとのままではわからないんだな」

    美「じゃあ、はいタオル。忠清くん、バケツから出してくれる?」

    若「はい」

    タオルで拭きながら、スイカを持ち上げ抱える若君。

    唯「大きいね」

    覚「奮発したぞ」

    美「冷蔵庫の扉開けるから入れてくれる?」

    若「はい。ここで良いですか?」

    尊「バケツ片付けてくる」

    冷蔵庫の棚にスイカを乗せ、ドアを閉めた。

    若「…」

    唯「どしたの?たーくん」

    若「いや、何程でもない」

    覚「何も、って感じじゃないな。顔色が悪くないか?」

    美「えっ、もしかして体調が悪いのに無理してた?えーと…熱はなし。どこか辛い所はある?」

    若「いえ、大事ありませぬゆえ」

    尊が戻って来た。

    尊「なに?どうしたの?」

    唯「たーくんがすごく辛そうなの」

    尊「え?スイカ運んだだけだよね」

    若「心配をかけ済みませぬ、わしの事は放っておいてくだされば結構」

    尊「体調不良なのに、無理したとか?兄さんなら充分有り得る」

    若「いや、それはない」

    尊「じゃないなら…スイカの感触で、思い出した事があるとかですか?それもすごく嫌とか辛かったとか」

    若「…」

    唯「たーくん?」

    美「え?重さとか」

    覚「形や大きさとか?」

    若「…そうじゃな」

    尊「顔色が変わる位だから、きっとただならぬ物だよね。うーん…あっ」

    唯「なに」

    尊「僕、わかったかも…いや、でもな」

    覚「思い当たる物があるのか」

    尊「うん。ちょっと言いづらいけど、兄さんがそこまでになるならもしかして、って」

    美「何、なの?」

    尊「…兄さん、違ってたらごめんなさい。あの、もしかして、人の頭…首ですか」

    若「…尊はまことに賢いのう。その通りじゃ」

    唯「えっ!」

    美「首…」

    覚「そ、そうなんだ」

    尊「勝ち戦の宿命みたいなものですか。…あっ、ごめんなさい!僕なんかが軽々しく言う事じゃなかったです」

    若「いや、良い。合うておる。…その度毎に、命の重さを噛み締めておった」

    唯が、泣きそうになっている。

    唯「もし、戦に負けたら…たーくんが…怖い、やだ!絶対嫌!」

    若「唯。わしは此処に生きておる。泣くでない」

    唯「私、私必ずたーくんを守るから!」

    若「わかった。唯が待つ元へ必ず帰る、という強い決意で、これからも戦に臨むゆえ、大人しく待っておるのだぞ」

    尊「兄さん。戦国時代は歴史上、残念ながらまだまだ続くんです。見守るしかない僕らは、兄さん達の無事を強く強く願い続けますから」

    美「私も」

    覚「僕もだ。ごめんな忠清くん、辛い事を思い出させちゃって」

    若「いや、皆が楽しんでおるのに、わしが水を差し申し訳なく思うております」

    両親が、若君の肩や背中を優しくさする。

    美「辛い時、これからは教えて欲しい。できる事なら、一緒に考えてあげたいから。ね」

    覚「遠慮なんか、するんじゃないぞ」

    若「はい。ありがとうございます」

    唯「たーくん、ごめんなさい。戦が終わっても、いつも厳しい顔してたのって、そういう事だったんだね。私、全然わかってなかった」

    若「知らずに済めば良い事もある。気に病むでないぞ」

    覚「…じゃあ、支度の続きをしようか。火も起こさないと」

    尊「飾り付けもしなくちゃいけないから、急がないとね」

    唯「たーくん」

    若「…ん?」

    唯「ここは永禄じゃない。ね、今は笑っていてほしい」

    若「そうじゃな。わかった」

    覚「じゃ、外に出るか。暑いぞー」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は笑顔に戻ります。

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    二人の令和Days26~31日水曜9時、労います

    一家に一人欲しい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    食卓の上が、沢山の折り紙で色とりどりになっている。

    唯「では、唯お姉さんと楽しく工作!のお時間でーす」

    若君「今日は、唯が師匠か。よろしく頼む」

    唯「えへ、師匠だって!気分いい~」

    尊「では始めてください、師匠」

    唯「はーい。ではまず折り紙を、裏が見えるようにテーブルに置きます」

    若「真っ直ぐにか?」

    唯「うん。次に、左下の角と、右上の角が重なるように折ります」

    尊「三角形になって表が見えてればいいよね」

    唯「で、開きます。すると、左上から右下に斜めに線が入ります」

    若「折り目をつけると」

    唯「折り紙の下の端と、今折った線を、ぴったり合わせるように折ります。同じく、右の端もその線に合わせて折ります」

    尊「端同士がくっついて、右下が尖ればいいんだよね?」

    唯「たーくんわかる?」

    若「わかる。凧を傾けたような形じゃな」

    唯「順調だね。で、左上のまだ裏が見えてる三角形の部分を、裏が見えなくなるように今折った部分に重ねて折ります」

    尊「二等辺三角形になった。あ、今折った所に、紐を通すんだね」

    唯「そっ。あとは糊づけすれば、できあがり~」

    若「これが、どうなるのじゃ?」

    唯「いっぱいつなげて、飾りにするよ」

    若「華やかじゃの。さぞかし、お二方も喜ばれるであろう」

    唯「じゃあたーくん、どんどん折っていって。尊は糊づけ、私は紐に通してくよ」

    尊「了解」

    若「承知つかまつった」

    作業中。

    覚「珍しく、黙々とやってるな」

    唯「心をこめて作ってるんだよ」

    覚「いい心がけだ。お二人な、4時頃にはみえるから」

    唯「わかったー。これ、昼までにはできると思う」

    若「では、昼過ぎに屋根を張りますか?」

    覚「そうだね」

    尊「お母さんはいつもの片付け中?」

    覚「今日は書類の整理だけだから、昼前には終わるって言ってたな」

    若「お母さんは、休みでも忙しくされておるのう」

    覚「地域の皆さんに、お陰様で親しんでいただいてるからな。まっ、たまには労ってやってくれ」

    若「わかりました」

    11時。ガーランドが、ほぼ完成。

    唯「かーわいい。どこに付けよう」

    尊「タープの屋根からぶら下げるとか、固定するワイヤーに沿わせるとか」

    唯「おっ、いいねー」

    美香子がクリニックから戻って来た。

    美香子「あー、疲れた。まあ!綺麗に出来てるじゃない」

    食卓の自分の席に座り、腕をぐるぐる回している。

    覚「麦茶、入れるよ」

    若君が尊に何やら囁いている。

    尊「わかった、任せて」

    若「よろしく頼む」

    尊「お母さん、お疲れ様。肩揉んであげるよ」

    美「あら?どういう風の吹きまわし?ありがとう」

    尊が美香子の肩を揉み始めた。目を閉じて満喫する母。

    美「はぁ~極楽極楽」

    唯「出たっ極楽」

    美「あー気持ちいい。尊こんなにマッサージ上手だった?」

    うとうとしかけている。

    尊「お父さん、僕にも麦茶ちょうだい」

    覚「あいよ」

    声に反応して目を開けると、尊はキッチンに居る。

    美「あれっ?ちょっと待って、尊がそっちに居る…え?」

    母が驚いて振り向くと、

    美「まぁ!」

    手を止めた若君が、優しく微笑んでいた。

    若「初めからわしでは、お母さんも遠慮されると思うて」

    美「うん、そりゃそうだけど。びっくり~」

    唯「良かったねお母さん、かわいい息子に揉んでもらえて」

    若「按摩の心得があるわけではないので、恐縮ですが」

    美「そんな、ありがとう忠清くん~。こちらが恐縮しきりよ~。すっごく気持ち良かったわよ。なんと言うか、包まれてる感じで、安心感があったのよ」

    若「心を込めましたゆえ、伝わったのは嬉しい限りです」

    覚「いいなー」

    若「では、お父さん、こちらへお掛けください」

    覚「え、僕もいいの?へへっ、ありがとう忠清くん」

    唯「さっすがたーくん、優しーい」

    尊「繁盛しそうだね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    体と心の、両方に効きそうです。

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    星降る夜に ~月食 続編~

    はじめに
    “月食”の続編を書きました。。
    まずは、この曲をどうぞ。
    https://www.youtube.com/watch?v=BqFftJDXii0

      ~~~~~~
    それは、若君が唯を平成に
    送り返した翌朝の事。

    「源三郎。」

     「は?」

    「様子が常と
     異なる様じゃが?」

    言われた源三郎は、慌てた。
    うかつにも、夕べの事を、
    悟られたのだろうか?

     「いえ、その様な事は。」

    「なれど、この鉢の蕾は、
     みな、固う閉じた
     ままに見えるが。 」

    それを聞いて、
    源三郎は胸を撫で下ろす。

    “月下美人の事であったか。”

    改めて、鉢を見ると、
    確かに、蕾はどれもまだ固い。

    一輪咲いた鉢を、
    若君にお持ちするのが、
    習わしであるのに、
    何とした事。

     「こ、これは!」

    「確かに昨夜、咲いたのを
     見届けたのじゃな?」

    源三郎は、うろたえる。
    花びらが開く瞬間は、
    見ていなかったのだ。

    「あ、は、はい。
     あ、いや、
     鉢を取り違えました。
     只今、替えまする。」

    源三郎は、言葉を濁して
    部屋を辞そうとする。

    若君は、怪訝な顔で、なおも尋ねた。

    「源三郎らしゅうもない。
     如何した?」

     「そ、それがそのう。
       昨夜、にわかには、
      信じがたい事が。」

    「もしや、ぬしも見たのか?」

     「では、若君様も?」

    「うむ。では、あれは、
     夢では無かったのだな。」

     「私も、幻かと。
     まさか、あの様な。」

    「さよう。
     まさか、月が消えるとは。」

     「月。。。」

    “そちらであったか。“

    源三郎は、小さく息を吐いた。

    若君の見たものは、月隠れ。
    どんぎつねでは無いと知り、
    源三郎は、何故か、ほっとした。
    そして、取り違えた鉢を
    下げようとする。

    すると、若君がそれを止めた。

    「それは、そのままで良い。
     じきに咲くであろう。」

     「はっ。
      では、咲いた鉢をすぐに。」

    若君の部屋を退出し、
    源三郎は、薬草園に向かって
    走り出した。

     「源三郎さん。」

    女子の声に呼び止められて、
    立ち止まる。
    すると、仄かな香りとともに、
    どんぎつねが現れた。

    源三郎は、咄嗟に、
    どんぎつねの肩を押し、
    塀の影に隠れる。

    「よう、ここまで
     来れたの。」

     「はい。塀を伝って。」

    「塀を?
     まるで、軽業師じゃ。」

    どんぎつねは、
    クスッと笑うと、
    月下美人の鉢を差し出した。

     「はい。これ。」

    「これは、忝ない。
     持って来てくれたのか。」

    つい先ほどの、薬草園での事。
    鉢が違うと、
    直ぐに気付いたどんぎつねは、
    何度も源三郎を呼んだ。

    しかし、源三郎は、上の空。
    足元が覚束ない様にも見える。

    どんぎつねは、
    呼び止めるのをやめ、
    咲いた鉢を抱えて、
    後を追う事にしたのだ。

     「よかった。お渡しできて。」

    源三郎は、すぐに若君の元へ
    戻ろうと、一旦は背を向けたが、
    やはり気がかりで、振り返った。

    「ぬしはこれから如何する?」

     「唯さんの所へ行こうかと。」

    「いや、しかし、唯之助は
     生れ故郷に帰ったはずじゃが。」

     「え?」

    「先程、若君様が
     そう申されておった 。」

     「そんな。。。」

    途方にくれるどんぎつね。

    「兎に角、そのなりでは
     人目につく。
     急ぎ、薬草園に戻り、
     待っておれ。」

    源三郎は、そう言い残すと、
    若君の元へと急いだ。
    花を届けると、踵を返し、
    自室に戻る。
    そして、頭巾と袴を取り出すと、
    布にくるんで、薬草園に向かった。

    「どんぎつね殿、
     何処におられる?
     どんぎつね殿!」

    源三郎は、月下美人の棚の前で、
    どんぎつねを呼ぶが、返事がない。

    あちらこちらを探してみたが、
    一向に姿が見えなかった。

    “いったい、何処に?
    もしや、花園か?“

    花園は、薬草園の隣にある。
    どんぎつねは、花園の入口に
    ある松の木の下にいた。
    無邪気に松ぼっくりを拾っている。

    源三郎は、そっと近付く。
    気配に気付いて、
    どんぎつねが振り返った。

    源三郎は、はっとして立ち尽くす。

    どんぎつねは、慌てて、
    頬に伝わる涙を拭った。

    「あ、あの。
     薬草園で待っていたら、
     お坊さんの姿が見えたので、
     こちらに。」

    どんぎつねは、
    ぎこちない笑顔を作る。

    「薬師堂の小僧であろう。
     見られなかったのであれば、
     それで良い。
     兎に角、これを。」

     「これは?」

    「耳と尻尾を隠せば、人目を
     憚らずに歩けよう。」

     「ありがとうございます。
      ええっと。」

    どんぎつねは、あたりを
    キョロキョロ見回す。

    源三郎は、それを訝しげに
    見ていたが、ふと思い当たり、
    どんぎつねを花園の中にある
    東屋に連れて行った。

     「あのう、これはどうすれば?」

    東屋の外で後を向いていた源三郎は
    遠慮がちに東屋に入り、
    頭巾をどんぎつねに被せる。

    そして、袴を手に取り、
    その場にかがむと、
    肩につかまる様に促した。
    源三郎は、おどけて言う。

    「姫君、おみ足をお上げ下され。」

    どんぎつねは言われるまま、
    源三郎に袴もはかせてもらう。

    「これで良い。男子に見える。」

    源三郎は、微笑むと
    ゆっくりと東屋を出た。

     「戻られるのですか?」

    「いや、今日は、非番じゃ。
     寝ずの番の明け故。」

    そう言った後、
    源三郎は顔を赤らめた。
    昨夜の事を思い出したのだ。

    野草園の見回りは、城勤めの若手に
    割り振られている。
    薬草は、高く売れるので。
    不埒な盗人から、
    守らなければならない。

    それに加えて、昨夜は忠清が
    大切にしている、月下美人が
    咲くかもしれない夜だった。

    そんな大切な役目の夜に、
    源三郎は、気を失って
    しまったのだ。

    どんぎつねを薬草園に
    連れてきた唯之介は、
    見慣れぬ椀を押し付けると、
    どこかに走り去った。
    どんぎつねが、開花を
    見たいというので、
    月下美人の鉢の前に案内した。
    しばらく、蕾を眺めていたが、
    ふいに、どんぎつねは、
    その椀のものを、食すように勧めた。
    そして、驚いた事に、
    袖から取り出した箸で
    夜空の月をつまみ、
    椀に入れたのだ

    その後の事は、覚えていない。
    気が付いた時には、なんと、
    どんぎつねの尻尾を枕にしていた。
    目に映ったのは、
    心配そうに覗き込む、
    どんぎつねの大きな瞳。

    跳ね起きた源三郎は、
    すぐに、夜空を振り仰ぐ。
    そこには、消えたはずの月が、
    浮かんでいた。

    “月が戻っている。
    だが、今宵は満月のはず。
    なぜ、欠けているのじゃ?“

    源三郎は、この状況を
    受け止めきれぬまま、
    夜空を見つめ続けた。

    欠けた月は徐々に丸みを
    取り戻して行く。

    ふと、どんきつねに目をやると、
    なにやら、姿がぼやけていた。

     「源三郎さん、
      お願いがあるんです。
      これを、一口、
      食べてくれませんか?」

    「これを?」

    どんぎつねはうなずく。

    「食さぬとどうなるのだ?」

     「消えます。」

    「消える?」

     「食べて貰えないと、私、
      ここにはいられないんです。」

    源三郎は、差し出された箸の先の
    油揚げの切れ端を口に入れ、
    急いで飲み込んだ。

    すると、薄くなっていた
    どんぎつねの姿が、また、
    くっきりと闇に浮かんだ。
    まるで、姿を取り戻した
    満月の様に。
    いや、むしろ、月より輝いて。

     「ありがとう。
      これで、暫く、居られます。」

    源三郎と、どんぎつねは、
    その時、やっと
    月下美人の香りに気づいた。

     「あ、花が!」

    「咲いておる!」

    そうして、そのまま日が昇るまで、
    肩を並べ、香る花を眺めて
    過ごしたのだった。

       ~~~~~~

    袴姿のどんぎつねを連れ、
    源三郎は、花園の中を
    そぞろ歩く。

    藤袴や女郎花を見つけるたびに、
    どんぎつねは、足を止めて見入る。
    萩が群生する一角では、
    歓声を上げた。

    「ここは、この季節では
     一番の見所じゃ。
     庭師が特に力を入れて、
     世話をしておる。
     “萩”の名が、
     “羽木”に通ずる故。」

     「羽木?」

    「この城の、御当主一族の
     御名じゃ。」

    どんぎつねは、その萩に
    魅入られた様に、
    離れようとしない。

    源三郎は、小刀で枝の先を切り、
    どんぎつねの頭巾を取ると、
    耳の横にそれを差してやった。

    どんぎつねの耳の先が動く。
    その愛らしさに、源三郎は、
    微笑まずにはいられなかった。

    東屋に戻った源三郎は、
    どんぎつねを座らせた。

    「腹が減っておろう。
     これを食すと良い。」

    源三郎は、懐から取り出した
    握り飯を二つ、差し出した。
    寝ずの番を終えた者に、
    渡される朝飯を、食べずに
    持って来たのだ。

    どんぎつねは、それを素直に
    一つ手に取ると、
    うつむきながら口に含む。
    ほんのりと塩味がした。

    源三郎の心使いが、身に染みて、
    また涙がこみ上げて来た。

    源三郎は、気づかぬふりをし、
    横を向いて咳ばらいをすると、
    残った握り飯にかぶりつく。
    そして、どんぎつねが
    食べ終わるのを待ち、
    切り出した。

    「何か、子細があるようじゃが。
     語ってみぬか?
     力になれるやもしれぬ。」

    どんぎつねは、しばらくの間、
    迷っていた。
    やがて、ぽつり
    ぽつりと、話し始めた。

    恋人だと思っていた人が、
    突然、他の女性と結婚する事になり、
    落ち込んでいる事。
    些細な事でやきもちを焼いて、
    山に戻っていたのだが、
    戻ってみたら、彼の部屋に、
    絵本が残されていた事。
    この絵本に描かれている事が、
    自分の記憶と違うので、
    混乱している事を。

    「その絵本とは、どのような。」

    どんぎつねは、着物の袖から、
    小さなタブレットを取り出すと、
    源三郎に見せた。
    https://www.youtube.com/watch?v=cZaBAN-Xj1w

     「私には、この記憶しか無いの。」
    https://www.youtube.com/watch?v=cJL9KWzJXwY

    源三郎は、見た事も無い、動く絵と
    奇妙な板を見せられて、
    仰天したが、努めて平静を装う。

    「その“源”とやらの妻となる
     女子は、ぬしの見知った者か?」

     「会ったことは無いの。
      会いたかったけど、
      間違えてゆいさんの所に
      来てしまって。
      その方は、源さんと
      お仕事をご一緒されて
      いたんです。」

    どんぎつねは、タブレットを操作し、
    彼女の写真を見せる。

    源三郎はそれを眺め、こう言った。

    「心なしか、ぬしに似ておるの。」

     「えっ???」

    それから、かなり長い間、
    二人は黙っていた。

    日は高く昇り、
    辺りを明るく照らしている。
    とこからか、
    もずの鳴き声が聞こえてきた。

    「源殿に、恩返しに来たとは、
     言わなかったのじゃな?」

     「わざわざ言ったりしたら、
      恩着せがましいでしょう?」

    「源殿は、その幼き日を
     思い出したのではないかの。
     そして、幼かったとはいえ、
     とんでもない事を
     願ってしまったと、
     悔いたのでは。」

     「悔いた?どうして?」

    「うむ。
     ぬしがポンなんとやらであれば、
     術は使えぬはず。
     なれど、こうして女子に化けた。
     どの様な事があったのかは
     分からぬが、
     その苦労は、並大抵では
     無かったはずじゃ。」

     「苦労なんて、源さんの
      笑顔一つで、忘れます。
      第一、そんな覚え、無いし。」

    「そうじゃの。
     だが、ぬしは、拗ねて
     山に帰ったのであろう?
     己の思いが満たされぬ故。」

     「それは、そうです。」

    「ポンなんとやらであろうが、
     キツネであろうが、
     帰る所があるのなら、
     そこで暮らすが一番と、
     源殿は思い至ったのでは
     ないかの。
     ぬしを思った上での事と、
     わしには思えてならぬが。」

     「でも、追いかけて来て
      欲しかった。
      探しに来て欲しかったの。
      あの時みたいに。」
    https://www.youtube.com/watch?v=6PHJkZP8aO0

    「気持ちは分からぬでは無いが。」

     「甘えてたんですね。私。」

    「恩返しであれば、
     すでに果たしたのでは。」

     「果たした?」

    「源殿の孤独は癒された。
     ぬしによって、もう充分に。
     そして、ぬしの面影を宿す、
     “人”の女子と結ばれる。
     晴れて、男になったのじゃ。
     一人前のな。」

     「私の役目は、もう終わり?」

    「源殿は、幸せになろう。
     それは全て、ぬしのお蔭じゃ。
     そうよ。
     ぬしの手柄じゃ。
     胸を張って、誇れば良い。
     そして、次は、ぬしが
     幸せをつかむのじゃ。」

     「今度は、私が。。。」

    それから、源三郎とどんぎつねは、
    また、長い間、黙っていた。

    夕日が西の空を赤く染め始めた。

    「昨夜は、ぬしも眠っておらぬ。
     疲れておろう?
     今宵はゆるりと休まねば。
     もし、障りが無ければ、
     屋敷に来ぬか?」

     「屋敷に?源三郎さんの?」

    「わしの親代わりの方の屋敷じゃ。」

     「でも、ご迷惑では。
      何処かにお稲荷さんのお社は
      ありませんか?
      私は、そこで。」

    「稲荷神社はあるにはあるが、
     高山との国境の山の奥。
     今から向かうは、あまりにも無謀。
     山には、熊もおる。
     もっと恐ろしいのは、熊打ちじゃ。
     今は収穫の時。
     畑を荒らすきつねやむじなでさえ、
     あやつらは容赦せぬ。
     ぬしのみごとな尻尾をみれば、
     必ず、狙うであろう。
     その様な所へ、行かせる訳には
     いかぬ。」

    熊打ちと聞いて、
    震えあがったどんぎつねは、
    源三郎に付いて行く事にした。

    源三郎は、久方ぶりに、
    旧友が旅の途中に立ち寄ったと、
    当主の千原元次に伝え、
    どんぎつねを自室に通した。
    自ら、夕餉の膳を運び、振る舞う。
    どんぎつねは、膳のものを
    美味しそうに残さず食べた。

    そこへ、元次が酒を手に
    やって来た。
    どんぎつねは、咄嗟に几帳の陰に
    隠れる。

    源三郎は、冷や汗をかきながら、
    迎えた。

     「これば、これは。
      如何なされましたか?」

    「いや、ぬしの友なれば、
     一献、進ぜようと思うての。
     おや、何処におられる?」

    元次は、遠慮もせずに、
    部屋を覗き込む。

    「長旅の途中にて、
     大層疲れておる様で、
     すでに、床につきまして
     ございまする。」

    「さようか。」

    いささか、不服そうな元次を、
    源三郎はさりげなく、
    外廊下に誘い出す。

     「されば、それは、私が
      頂戴いたしましょう。
      今宵は、満天の星。
      庭の虫の音に耳を澄ますのも、
      一興にて。」

    元次は、源三郎の誘いに、
    気を取り直し、外廊下に座ると、
    盃を酌み交わし、星を眺めた。

    「こうして虫の音を聞いておると、
     昔の事ばかりが、思い出される。」

     「それは、どの様な。」

    「やはり、子らの事かの。
     しかし、今はこうして
     ぬしがおる。
     ありがたき事よ。」

     「この源三郎、肝に銘じて、
      励みまする。」

    「若き頃には、妻と共に、
     よう星を眺めた。」

     「奥方様は、私の様な者にも、
      良うして下さいました。」

    「あれには、苦労をさせた。
     優しい言葉の一つも
     かけなんだのが、悔やまれる。」

     「何を申されます。
      睦まじい夫婦と評判の仲で
      あられたものを。」

    「左様であったかの。」

    元次は、まんざらでもない様子で、
    盃を重ねる。

    やがて、なにやらそわそわと、
    落ち着かない源三郎の様子に、
    こう言いつつ、腰を上げた。

    「これは、したり。
     長居をした。許せ。
     ぬしも早う、良き
     嫁御を迎えねばのう。」

    “良き嫁”

    その言葉に、思わず、しなやかな
    尻尾を思い浮かべてしまい、
    源三郎は、それを払うように
    激しく頭を振りながら、
    部屋に戻った。

    そっと、几帳の陰を覗くと、
    どんぎつねは、膝を抱えて丸くなり、
    小さな寝息を立てていた。

    ”きつねと聞けば、
    確かにそうじゃ。
    そう、この者はきつねじゃ。”

    源三郎は、己にそう言い聞かせる。
    しかし、知らず知らずのうちに、
    頬は緩んでしまうのだった。

    几帳を部屋の中程に移し、
    その横に夜具を延べる。
    抱え上げたどんぎつねを、
    その上にそっと下し、
    薄手の綿入れを掛けると
    また、外廊下に出て、
    部屋の障子を閉めた。

    まだ秋とはいえ、夜半は冷え込む。
    源三郎は、夜具を体に巻き付け、
    柱に寄りかかって目を閉じた。

    屋敷の者も、皆、寝静まった頃、
    源三郎は、苦しそうなうめき声で、
    目を覚ました。
    それは、障子越しに聞こえて来る。
    源三郎は、迷うことなく
    部屋に入った。

    「如何なされた、どんぎつね殿」

    どんぎつねは、苦悶の表情で、
    唇を噛みしめ、低く唸っている。
    手足を縮め、耳は硬直し、
    豊かな尻尾の毛が、針の様に
    鋭く尖り、逆立っている。
    何よりも驚いたのは、
    膨れ上がった、尾の先が、
    裂け始めている事だ。

    “これは、どうしたことじゃ!
     何故、このような事が!“

    「どんぎつね殿!
     どんぎつね殿!」

    血のにじみむ唇から、
    悲し気な声が漏れる。

     「来ないで。
      私から、離れて。
      そっと、そのまま後ろに
      下がって。
      背中を見せちゃ、駄目。
      でないと、私、
      貴方を噛みこ・・」

    その時だった、この刻限には
    見えるはずのない天の川が、
    夜空に現れたかと思うと、
    それは、源三郎に向かい
    流れ下りてきた。
    そして、たちまちのうちに、
    どんぎつねを飲み込むと、
    一瞬のうちに消えてしまった。

    星屑のような光の中に、
    源三郎は、白狐の鋭く光る眼を見た。

    「どんぎつね殿!!!」

    源三郎は必死で叫ぶが、
    それは声にならない。
    まるで、魔術にかかった様だ。
    源三郎は、足の力を奪われ、
    追いかける事も出来ず、
    崩れる落ちる様に、
    その場に倒れ込んだ。

      ~~~~~~

    「源三郎、早いの。
     何処へ行くのじゃ?」

     「若君の朝のお世話に。」

    「早すぎはせぬか?」

    源三郎は、思い詰めたまなざしで
    立っている。

    「いや、留め立てはせぬが。
     されど、客人は?
     誰ぞに接待を
     申し付けたのか?」

     「すでに、旅立ちまして
      ございまする。」

    「なんと。」

     「元次様に、ご挨拶も
      致しませず、
      私が代わりに御詫び
      申し上げまする。」

    「まあ、よい。」

    青白い顔の源三郎を見て、元次は、
    深くは尋ねずにおいた。

    “久しぶりに会うたと聞いたが、
    仲違いでもしたのであろうか?“

    気になりながらも、元次は、
    屋敷の奥に戻った。

    源三郎は、とても自室で
    過ごす気にはなれなかった。

    たった二日間ではあるが、
    信じがたい事が立て続けに起こり、
    己を保つ事すら、危うい。

    特に、昨夜の一件は凄まじかった。

    明け方、吹き込んだ風の冷たさに、
    我に返った源三郎は、
    几帳を見つめ、己に言い聞かせた。

    “あれは、夢じゃ。“

    この向こうには、
    愛らしいどんぎつねが、
    すやすやと眠っておる。
    必ずおる。

    両頬を叩きながら、
    我が身を奮い立たせ、
    几帳を外した。
    だか、そこに有ったのは、
    蝉の脱け殻の様な、
    夜具だけだった。

    枕元に何かが落ちている。
    源三郎は、それを、
    そっと、拾い上げた。
    それは、昨日、花園で
    どんぎつねに差してやった
    萩の小枝だった。

    源三郎は、その小枝に頬を寄せた。
    涙が一粒、朝露の様に
    花を濡らした。

    昨夜の出来事が、繰り返し、
    思い出される。
    若君の部屋の外廊下に坐した後も、
    源三郎は、悔やみ続けた。

    どんぎつねが思いを
    断ち切る為には、
    壮絶な苦しみに
    耐えねばならなかったのだ。

    それを、昨夜、まざまざと
    見せつけられた。

    あまりにも、”もののけ”と
    いうものを知らなかった
    自分を責めた。

    外廊下に、朝の光が強く差し込む。
    若君の起床の刻限がせまっていた。

    源三郎は、我に返り、
    障子越しに声をかける。

      「若君様、お着替えを。」

    「入れ。」

    若君は、部屋の中央に
    座っていた。

    源三郎は、水を張った手洗を
    その前に置く。
    洗顔を終えた若君から、
    手拭いを受けとり、
    面を上げた若君を見て、
    源三郎は、驚いた。

      「如何なされました?
       お目が腫れて。」

    「そう言うお前も、
     眼が赤いが?」

    実は、若君も、眠れぬ夜を
    過ごしていたのだ。
    ただじっと、
    唯の写真だけを見つめて。
    ”今頃は、腹を立てておろうの。
    わしのたばかりを。”

    後一度しか使えない
    タイムマシンの起動スイッチを
    二度使えると言い、忠清は
    唯を平成へ帰したのだった。

    忠清は、月下美人を
    寝所に入れ、まるで共寝を
    するように、その香りに
    包まれて眠るが常であった。

    ところが、その鉢は、
    次の間に置かれたままだ。

    「何事があった?」

      「若君様には、
       如何されましたか?」

    「この世の不思議を・・・」
      「この世の不思議を・・・」

    同じ言葉に、二人は、
    顔を見合わせる。
    しかし、それ以上は
    言葉にできず、ただ、
    その場に座っていた。

    どれ程、経っただろうか。
    小平太が、足音を立てながら、
    やって来た。

     「若君様、見まわりの刻限に
     ございまする。」

    部屋の中をみて、小平太は、
    声を張り上げた。
    若君は、まだ、髪さえ
    結い上げていない。

     「何をしておるのじゃ、
      源三郎!
      早う、整えて差し上げよ。」

    その夜、若君は、夕餉を
    源三郎、小平太と共に
    摂る事にした。

    三人で酒を酌み交わす。
    小平太は、一人、
    高山との戦の備えを語っていた。
    若君と、源三郎は
    静かに盃を傾けながら、
    夜空を見上げる。

    清らかな瞳の様な、
    大きな星が一つ、
    尾を引きながら、
    流れて消えた。

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    二人の令和Days25~30日火曜14時、もてなします

    ゆる~く進む平和な日常を楽しんで欲しい。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    リビングに唯と尊。

    唯「明日ってさ、バーベキューパーティーじゃん」

    尊「うん。何の確認?」

    唯「パーティーならさ、飾り付けしなきゃじゃない?」

    尊「あ、そうか。お二人をご招待だから、おもてなししなくちゃだね」

    唯「前回の手巻き寿司パーティーの時はさ、ご招待を聞いたのがその日だったから、何も準備できなかったし」

    尊「特にお姉ちゃんは、プレゼントもらってるしね。そりゃあ張り切って用意しないと」

    唯「えー、手伝ってよぅ」

    尊「勿論手伝うけど。今回外でやるからなー。どうやって飾ろう?」

    覚が食卓で、明日用の買い物リストを作成中。若君が、隣で説明を聞いている。

    覚「肉はね、塊を用意して、じっくり焼くんだ」

    若君「なるほど。丸いコンロでですね?」

    覚「そう。焼く時間も、前回を参考にやるよ」

    若「お父さんの手順、学ばせて頂きます」

    唯がスマホで検索している。

    唯「あのさ、よくテントとかに付けてある、三角がいっぱいつながってるヤツ、良くない?」

    尊「あー、運動会ではためいてるヤツみたいな?」

    唯「うん。ヤツの名前がわからないけど」

    尊「テント、三角、飾りで見てみたら?」

    唯「わかった。…へー、ガーランドって名前なんだ」

    尊「どれどれ。ほー、いい感じ。作り方載ってる?」

    唯「うん。えーっと」

    覚がやって来た。

    覚「おーい、今から明日のパーティー用に、仕入れに出かけるぞ」

    唯「あ、はーい。尊、なんかね、折り紙と紐さえあれば良さげだよ」

    尊「その二つならスーパーにも売ってるから、今一緒に買えばいいよね」

    唯「決まり!それでいこー」

    若「何やら話し合うておったの」

    唯「たーくんは、料理をがんばる。私と尊は、飾り付けをがんばるのだー」

    覚「もてなそうという気持ちは、中々いいぞ」

    スーパーで買い物中。

    唯「お肉が大きい、しかも幾つもあるぅ!」

    覚「たくさん用意しないと、唯に食われちゃってお客様に回らないからな」

    唯「うっ」

    尊「お上品には程遠いから」

    唯「ううっ」

    若「そういえば、芳江さんもエリさんも、唯はいつでも姫であって欲しい、と申されておったのう」

    唯「うううっ」

    尊「大袈裟だなあ。人並みに食べてれば済む話じゃん」

    唯「人並みがわからない」

    尊「これだから。やっぱり、帰る頃にはかなり太ってるよ」

    唯「やだー。あんまり太ると」

    若「なんじゃ?」

    唯「お姫様抱っこしてもらえなくなる」

    尊「なんでそこだけ、姫を強調なんだよ」

    カートが、2台になった。

    覚「買い忘れはないかな。メモはと」

    尊「すごい、なんかバラエティ豊かだね」

    若「折り紙が入っておる。また、工作をするのか?」

    唯「うん。前回のとはまた違うからね」

    若「ほぅ」

    尊「あれ?お父さんが居ない」

    唯「ホントだ。どこ行った?」

    若「思い出した物でも、あったのかのう」

    覚「あーごめんごめん、ただいま」

    唯「え?それ生クリームだよね。お菓子でも作るの?」

    覚「母さんに用意するよう頼まれてたのに、メモし忘れてたんだ。危なかったな~」

    尊「生クリーム指定で?」

    覚「あー。あとの材料は家にあるから。なんかな、芳江さんが、アイスクリームを作るグッズを持って来てくださるらしいんだ」

    唯「やったあ!アイス~」

    尊「グッズ、ってなんだろう。アイスクリーム製造機的な?」

    覚「母さんによると、楽しみにしてて、とはおっしゃってたらしい」

    唯「へー」

    覚「そうだ尊」

    尊「何?」

    覚「今日は、日焼け止めは買わなくていいか?」

    尊「うわっ、まだ在庫あるんで…」

    覚「ハハハ。じゃあ会計するか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    明日も朝から忙しそう。

    30日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days24~29日月曜8時、君はプリンセス

    娘同様にかわいいのでしょう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚と子供達三人、庭で朝の涼しい内に、昨日使ったバーベキューグッズの片付けの続きや手入れをしている。

    覚「明後日すぐ使うにしても、ある程度は綺麗にしとかないと」

    若君「準備も兼ねてですね」

    唯「あっまだゴミがあった」

    尊「タープは隅にまとめとけばいい?」

    覚「あぁ」

    家の中から声がする。

    美香子「唯~」

    唯「え?なに」

    美「ちょっとクリニックに来てー」

    唯「へ?」

    唯がクリニックに入ると、エリと芳江がニコニコ顔で待っていた。

    唯「おはようございまーす」

    エリ「おはよう、唯ちゃん。朝からお手伝いしてるのに、呼びつけてごめんなさいね」

    唯「ううん」

    エ「唯ちゃんにプレゼントしたい物があるの。喜んで貰えると嬉しいけれど」

    唯「えっ?今日ってなんか記念日だった?なに?」

    手にはワンピース。二着ある。

    エ「僭越ながら、作らせていただきました」

    唯「えーっ!」

    美「素晴らしいわよね」

    唯「えっ、なんで?」

    エ「若君が、料理を頑張っているのに感化されて。久々に趣味の洋裁をやろうと思ったんですけどね、何作ろうかしらと考えた時に、せっかくだから若君つながりで、彼が喜びそうな物にしよう、唯ちゃんに夏のドレスはどうかしらって」

    美「私がね、相変わらず色気のない服ばっかりで、って少し愚痴ったのを覚えててくださってたのよ」

    唯「でもオムレツ作ってから、そんなに日にち経ってないよ?」

    エ「二着とも同じ形だから早く出来たの。大した物じゃなくてごめんなさいね」

    唯「大した物だよー、すごーい」

    二着ともノースリーブで膝下位の丈。裾に向かってAラインにふんわり広がっている。一枚は白無地で所々レースがあしらわれている。もう一枚は同じく白地だが、全体に大きいヒマワリの柄入り。

    唯「順番に着てくる!」

    空いている病室に駆け込み、サッと着替えた。まずはレースの方。

    唯「すごいお上品~」

    美「ハイジの下着みたいでかわいい」

    唯「ハイジ?この形だとリトルミイでしょ。赤くはないけど」

    もう一枚のヒマワリ柄。

    唯「こっちもかわいいー。夏って感じ!」

    エ「お似合いで良かったわ。唯ちゃんって、私のイメージはヒマワリなの。だからこの柄にしました」

    芳江「それでね、唯ちゃん」

    唯「はい」

    芳「私からもプレゼントがあるの」

    唯「え!なにその大盤振る舞い!」

    芳「実は、布はエリさんと一緒に選びました。で、私は服作りは無理だから、出来上がりを想像して、似合いそうなこれを」

    手にした箱から、サンダルが出てきた。

    唯「キャー!超かわいい!今履いていい?」

    美「ちょっと忠清くん呼んで来るわね」

    真っ白で華奢なデザイン。ベルトにラインストーンが付いており、光に煌めく。そして若君が登場。

    若「失礼します、おはようございます。あっ」

    唯「たーくん!エリさんと芳江さんにもらっちゃった!」

    若「おぉ」

    唯「可愛いかろ?」

    若「あぁ。唯が綺麗に咲いておる」

    エ「咲くだなんて、さすが若君ね~」

    芳「こちらがうっとりしちゃうわ~」

    唯「やーん、これでばんばんデートに行かなくっちゃ!まずはあさって?」

    美「いや、それは止めて。バーベキューは汚れてもいい、いつもの格好で」

    唯「わかった。ん、ちょっと待て、いつもの格好はいい加減だって言ってる?」

    美「それは残念ながらその通り。だから、母心でワンピースを頂けたのよ。唯がもっとオシャレな子だったら、こんな事は思われない」

    唯「複雑だなぁ」

    エ「唯ちゃんは今でも充分可愛らしいけれど、母心としては、よりかわいらしい姿を見たいとは思います」

    芳「あちらでは、お姫様でしょう?是非こちらでもお姫様で居てね」

    唯「はぁい」

    若「唯、そろそろ開院じゃ。邪魔になる。参ろう」

    唯「そうだね。たーくん、もう一着あるの。向こうで見せるね!エリさん芳江さん、ありがとうございました!」

    若「ありがとうございました」

    エ&芳「いえいえ~」

    二人が出ていった。

    美「あーあ、サンダル履いたままで」

    芳「ふふっ、一応新品ですから」

    エ「しかし、今日もいい表情見せてもらいました。若君には」

    芳「今日は何と書いてありました?私は、ドキドキ…かな?」

    エ「私はキュンキュン、と読みました」

    美「お二人とも、もしかして忠清くんのその表情が見たくてご用意頂いた?」

    エ&芳「はい」

    美「ふふっ、どこまでも一番人気ね、忠清くん」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    29日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days23~28日日曜11時、屋根まで飛んだ

    つい、目で追ってしまう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「ペグは、斜め下に向かって打ち込むんだぞ」

    尊「うん。あれ、全然入っていかない」

    唯「非力過ぎるー」

    若君「尊、代わろう」

    尊「すみません。兄さんお願いします」

    昼ごはんは、水曜の予行練習を兼ねてバーベキュー。まずはタープを設置して日陰を作った。

    唯「たーくんお疲れさま。日陰はやっぱ必要だねー」

    覚「炎天下ではな。暑さは少しでもしのがないと」

    唯「まっ、家に一歩入れば涼しいけど」

    美香子「そういう逃げ道は基本的にナシよ」

    尊「そういえば兄さん。令和の夏って、永禄より断然暑くないですか?」

    若「暑いのう。それは前に参った折も、そう思うておった」

    尊「気温も低かったみたいだけど、昔はもっと緑が多かったし」

    美「そうよね。今はエアコンの熱とかアスファルトの道路とかで、気候以上に暑いわよね」

    唯「もうさぁ、すっかり体が現代の暑さ忘れててさぁ、ダラダラしちゃうよ~」

    覚「ダラダラは今に始まった事じゃないがな」

    蝉の合唱の中、バーベキュースタート。金網の上が色とりどりになっている。

    尊「野菜も肉も、こうして串に刺さってるのがいかにもバーベキューだし、より美味しく感じるね」

    美「パプリカも玉ねぎも甘いわよ~。ウィンナーももう良さげよ」

    唯「焼きとうもろこしどうかな?この醤油の焦げ具合がなんとも…いいっ!いただきまーすっ」

    覚「はぁ~ビールがうまい。忠清くん、遠慮してると唯に全部食われちゃうぞ」

    若「この戦では、唯には到底勝てませぬ」

    覚「ハハハ、最初から白旗か。量は充分用意したから大丈夫だけどな」

    テーブルの上にカセットコンロ。鍋が置かれた。

    覚「汁物もないとな」

    唯「中身なにー?」

    覚「餃子のスープ」

    若「あの餃子が汁に、ですか」

    美「ワンタン風?」

    覚「そうだ。もうすぐ出来るから」

    丸型のバーベキューコンロから、いい匂いがしてきた。

    尊「これが気になってしょうがない、絶対美味しいのが入ってる」

    覚「そろそろいいだろ。開けてみろ」

    中から、こんがり焼けた肉の塊が登場。

    唯&尊「やったー!」

    若「おぉっ」

    覚「今切るから。おっ、いい感じに中まで火が通ったな。時間もこのくらい、だな。よしよし」

    美「予行練習にしては豪華ね」

    覚「当日失敗したくないからな」

    唯「毎日予行練習がいいなー」

    スープ出来ました。

    美「忠清くんの作品が見事変身ね」

    唯「あっついよー」

    覚「暑い時こそ熱い物だ」

    若「お父さん、とても美味しいです」

    覚「上手に作ったモチモチの皮が活きてるよ」

    鉄板の上が、焼きそばの山に。豪快に炒められていく。

    尊「そういえば昨日食べたばっかりだね」

    覚「だから醤油味にしたんだ」

    唯「さっすが~、考えてるぅ」

    すっかり食べ終わりました。

    覚「は~、極楽極楽」

    美「ほろ酔いね」

    唯「ウチの家族って、すぐ極楽って言うなあ」

    美「そう思えるって幸せよ」

    尊「そういう事」

    唯「そうだ、そろそろアレやろっ」

    尊「あー、シャボン玉?」

    美「あら懐かしい。昔ながらのストロー式のと、この輪っかは…あぁ、液に浸けて大きいのを作るのね」

    唯「売場には、バズーカみたいにババーっと出るのもあったけど」

    覚「今はそんななのか。それはついていけない。このストローのが風情があっていい」

    唯「じゃあお父さんにそれあげる。私輪っかのでやるから」

    覚「おっ、ありがとな。何十年振りだろう」

    若「花火と共に買うた物か?」

    唯「うん、そう。じゃあたーくん行くよ!ご覧あれ~」

    シャボン液に浸した輪っかを大きく振る唯。軌道に乗って、無数のシャボン玉が飛び出し、ふわふわと舞う。

    若「これはなんと美しい…一瞬にして生まれるとは」

    美「綺麗ね~」

    唯「わー、楽しーい!」

    尊「お姉ちゃん貸して、僕もやりたい!」

    覚の吹くシャボン玉と尊の振るシャボン玉。全てが太陽の強い光を反射して、虹色に煌めく。庭全体が夢の世界のように。

    美「極楽浄土って、こんな感じかしら」

    若「…」

    尊「兄さんもどうぞ」

    若「あ、あぁ。良いのか?」

    刀を抜くように振る若君。シャボン玉は屋根に向かっていく。

    唯「おっ、いい感じ~」

    若「随分飛ぶ物よのう」

    美「お父さん、そのシャボン玉吹く姿、なかなかかわいいわよ」

    覚「そうか?おーい、こっちのストローのは、僕だけやってていいのか~?」

    尊「いいよ、だって酒臭いでしょ」

    覚「あ、そうか。ハハハ」

    暑さを忘れるひとときでした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    平和の象徴のよう。

    28日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days22~27日土曜18時、あの頃の私と僕

    遅くなりましたが、アシカフェ2周年おめでとうございます!
    投稿されている_〆(・ω・。)皆様にも、こっそり?(/ω・\)閲覧を楽しまれている皆様にも、ずっと心安らぐ地でありますようにと願います。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    初めて観ても郷愁を誘う、それが祭。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美香子「町全体がウキウキしてるのを肌で感じながらそぞろ歩くって、いいわね~」

    今日は、地元のお祭り。商店街で開催されるため、家族全員プラプラ歩いて移動中。

    覚「まだまだ暑いなー」

    美「あ、唯、もしかして浴衣着たかった?」

    唯「ううん。毎日着てるようなもんだし」

    尊「確かに」

    唯「そういえば尊は持ってるじゃん、浴衣。いかにも旅館の備品な感じの」

    尊「うぇっ」

    覚「なんだその反応は」

    唯「私が初めてタイムマシン使った時、自分が飛ぼうと思ってたみたいで、そんな変なカッコしてた」

    若君「そのような支度をしておったのか」

    尊「僕は、心の底から、あの時戦国に飛ばなくて良かったと思ってる」

    唯「ホントだよー。尊があんな所に行ってたら…」

    美「そうね…戻る事なく、こちらは何で尊が行方不明かわからないままで」

    尊「戻れないって決めつけられてるけど、まぁきっとそうだったんだろな」

    唯「怖っ。第一、それじゃたーくんに会えないしさぁ。ホント、飛ぶ前に止めて良かったよ」

    若「ん?」

    唯「なに?」

    若「止めたいきさつはわかったが、では何ゆえ唯が刀を抜いたのじゃ?」

    尊「それはですねぇ、お姉ちゃんの制服の袖のボタンに僕の脱いだセーターが引っかかりまして、起動スイッチを小刀だと勘違いしたお姉ちゃんが、セーターを切ろうとしたからなんです」

    若「そうであったか。いや?どうして引っかかるのじゃ」

    尊「そういえばそうだ。床に置いといたのに」

    唯「それでスマホの画面拭いたから」

    尊「げっ!人の服で?知らなかった!ホントやる事なす事めちゃくちゃだよなあ」

    若「何ともはや…。それに、もし切れておればセーターに穴が空くではないか」

    尊「その状況からして、お姉ちゃんがそんな事、気にすると思います~?」

    若「…うつけ者じゃ」

    尊「うつけ者。正解!そういえば織田信長も、確かそう呼ばれてたなあ。一緒じゃん、お姉ちゃん」

    唯「やだ、嬉しくなーい!」

    商店街に着きました。人出が多く、賑わっている。

    美「この夕暮れの雰囲気がまたいいわね~。わくわくする」

    覚「祭と聞くと血が騒ぐ、か?」

    美「DNAに組み込まれてるのよ。いや、楽しいのはそれだけが理由じゃないわよ」

    覚「家族で来てるからか?」

    美「そうよー。まさか子供達がこんなに大きくなってから、一緒に来るなんて思ってもみなかったでしょ?」

    覚「唯は友達と出かけてしまうし、尊は家から出なかったからな。確かにそうだ」

    お神輿が、ワッショイ!ワッショイ!のかけ声と共に次々と通っていく。

    若「勇壮じゃの」

    唯「あー、これ見ると本格的に夏だなって感じー」

    若「これは、五穀豊穣を願ってであろう?」

    尊「そうですね」

    若「里の者達が、一つになっておるのが良い」

    法被を着た子供達が、横をすり抜けて行く。

    若「子らも何かを?」

    唯「うん、子供のお神輿もあるの」

    若「ほう」

    唯「町の子供たちは大抵一度は参加するよ。私や尊も、小さい頃に一緒にかついだ事あるんだよ」

    尊「僕はすごく嫌だったけど」

    若「何ゆえ?」

    尊「ウチの子供が~って、親が張り切って応援するのが恥ずかしくて。両親見てると、なんとなくわかりません?」

    若「ハハハ。かわいい娘と息子の晴れ舞台じゃからの。お父さんお母さんの様子が目に浮かぶ」

    尊「その時の写真、アルバムになってるんで、帰ったら見ますか?」

    若「それは是非に」

    神輿が神社に入って行き、祭も佳境に。

    唯「お腹空いてきたなぁ」

    覚「食べてくか?」

    唯「食べたい物買って、家で食べようよ」

    美「へー。今すぐじゃなくていいなんて」

    唯「早いトコたーくんを隔離したいから」

    尊「あー。お神輿の次くらいに視線を集めてる気はするね」

    覚「じゃあ、忠清くんの安全のために、どーんと買い込んで帰るか」

    若「それで良いのか?」

    唯「知り合いに会うと説明が面倒だし。全然OKだよ」

    帰宅しました。お好み焼きやら焼きそばやらが食卓に並ぶ。

    尊「兄さん、これがお神輿かついだ時のアルバムです」

    若「おぉ、早速済まぬのう」

    小さくてかわいい唯と尊の写真が続く。

    若「実に愛らしい」

    唯「それ見て~、尊の微妙な顔!」

    美「写真をお箸で指さない!」

    尊「恥ずかしいのに、すごく近くから撮ってたからかな」

    唯「よいしょ。たーくん、はい、あーんして~。あっ」

    美「唯~、もう!」

    覚「焼きそばそんなに掴んだら、落ちるに決まってるだろ?」

    若「唯、食事は写真を見終わってからでよい」

    唯「そぉ?」

    尊「ホントやりたい放題だよ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    食べ物は大切にしましょう。

    27日のお話は、ここまでです。

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    二人の令和Days21~26日金曜14時、イケメンシェフ再び

    腕はメキメキ上がる。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    スーパーに、覚と子供達三人で来ている。

    唯「あー涼しい」

    覚「涼む場所じゃないぞ」

    唯「わかってるけど気持ちいいもん」

    カートには、野菜が既に入っている。

    尊「ニラか…。わかった!今夜、餃子?」

    覚「おー、さすが勘がいいな」

    若君「餃子…食した覚えがあるような」

    覚「忠清くんは筋がいいから、ちょっと高度な事に挑戦してもらうよ」

    若「高度、ですか」

    粉物売場。カートに入れていく。

    唯「小麦粉?何個も?」

    覚「ざっくり言えばそうだが、種類が違う」

    唯「へー」

    帰宅しました。

    覚「まずは、野菜やキノコを細かく切ろう」

    若「はい」

    順調に、餃子のたねが準備されていく。

    覚「唯、尊」

    唯&尊「はーい」

    覚「これ全部混ぜて、こねてくれ」

    尊「わー、たくさんあるね」

    唯「わかったー」

    覚「忠清くんは次の作業な。餃子の皮を作ってもらう」

    若「皮、をですか」

    薄力粉と強力粉と塩を混ぜ、練って、生地を寝かせる間にスープの用意をして。

    若「お父さんは、これを毎度一人で仕切っておられるとは」

    覚「皮は毎回作らないから。でもなんとかなるもんだよ」

    若「感服致します」

    皮が一枚ずつ出来上がりつつある。たね再登場。

    覚「ほれ、お前達座って。包み始めろ」

    唯「わかった。わぁ、皮伸びるー」

    尊「なんかすごい量になりそうだけど、今日全部食べるの?」

    覚「いや、残りは冷凍する。日曜のバーベキュー分だ」

    唯「そうなんだー、やったぁ」

    覚「だから今日食べきらないようにな、唯」

    唯「なんで指名~」

    尊「当然でしょ」

    若「ハハハ」

    そろそろ晩ごはん始まります。

    美香子「まぁ~。忠清くん頑張ったのね、すごい量」

    若「お父さんのお力添えのお陰です」

    尊「ホットプレート、温め始めていい?」

    覚「いいぞ」

    全員席に着きました。ホットプレートが単独で仕事中。

    覚「蓋開けるぞ」

    若「皮が破れていなければ良いですが」

    覚「破れるのは、包み担当の腕だから気にしないで」

    餃子完成。

    唯「うわぁ、めっちゃ美味しそう~」

    美「皮がツヤツヤに光ってる。綺麗ね」

    若「確かに、輝いております」

    尊「もう食べていい?」

    覚「いいぞー」

    いただきまーす。

    唯&尊「うまい!」

    美「美味しい!中身も勿論だけど、皮がすっごいモチモチよ」

    覚「忠清くん、食べてみてどう?」

    若「美味しいです。されど味付けはお父さんの指南通りでしたし、混ぜたのは唯ですし、わしの腕ではありません」

    覚「皮は忠清くんの独壇場だったよ」

    若「上手く出来て嬉しいです」

    美「忠清くん…また来週も料理、楽しみにしてていい?」

    若「はい、勿論です」

    美「嬉しい。ね、お父さん」

    覚「あぁ。前回、また来週も作ってねが言えなくて、少し淋しかったんだ」

    若「そうでしたか」

    尊「毎週金曜は兄さんシェフの日、でいいんじゃない?あと二回はあるし」

    唯「おーっ」

    覚「ちゃんと手伝えよ?」

    唯「うん。週一くらいなら」

    若「いや、手伝うのは毎日じゃ」

    尊「見事なツッコミ~」

    覚「尊も手伝えよ」

    尊「はーい」

    美「うふふ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    団欒って、いい。

    26日のお話は、ここまでです。

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    キャー!

    源ちゃんが、ドンぎつねさんに狙われとる~ (*_*)。
    トヨちゃん、ピンチ!
    この三角関係 どうなるの?!
    結末は 妖怪千年おばば様に 一任致します m(__)m。

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    月食 ~ドラマ・満月よ、もう少しだけ 番外編~

    スーパー月食は
    見られませんでしたが
    こんな物語を妄想しました。
    梅とパイン様
    源三郎さん、お借りします。
    (*^^)v m(__)m
    ********************
    お袋様の言葉に力を貰い、
    先走り過ぎた自分を悔やみつつ、
    唯は若君の元へ向かった。
    忠清の部屋の障子は、
    閉じられている。

    “もう開くことは無いのかな。”

    不安に苛まれ、唯は、
    直ぐには声をかけられない。

    “怒髪衝天“

    四文字熟語は得意じゃない。
    でも、今はこの言葉が、
    くっきりと頭に浮かび、
    ぐるぐる回る。

    まさに、夕べの若君そのものだ。

    部屋の様子を伺う唯の足裏に、
    尖った小石が突き刺さった。
    草鞋を履く間も惜しんで、
    飛び出してきた唯だったが、
    小石一つの事で、
    心が折れそうになる。

    「痛!」

    唯は、思わず声を上げた。
    すると、突然、障子が開いた。

    姿を見せた忠清に
    話しかけようとするが、
    緊張のあまり、喉はカラカラ。
    舌も固まって動かない。

    “私がこれから伝える事は、
    確実に若君様を傷つける。
    でも、言わなきゃ。
    今、直ぐに。“

    唯の葛藤には気づきもせず、
    昨夜、声を荒らげた事を詫び、
    若君は、その場を去ろうとする。

    “待って!
    大切な話が!
    実は、、、成之様が。。。“

    ~~~~~~~~~~

    「おや、泣いたからすは、
     もう笑うたようじゃの。」

    戻って来た唯に、
    お袋様はそう言って微笑みかけた。

    「夕べは寝ておらんのであろう?
     城へは三之助を使いに出した故、
     しばし、横になりなされ。」

    言われるままに、唯は、
    敷かれた夜具に潜り込む。

    兄の陰謀を予見していたのか、
    高山と成之のたくらみを知っても
    若君は動じなかった。

    むしろ、意外だったのは
    若君の言葉の方だ。

    “今一度、女子姿を
    見せてはくれまいか。“

    平成に戻る唯を見送ろうと
    言ってくれた若君の、
    まさかのリクエスト。

    その言葉に心が沸き立つ。
    まるで、台風の後の
    青空の下にいるようだ。
    唯は、なかなか寝つけず、
    寝返りばかりを繰り返した。

    暫くして、
    三之助が戻ってきた。

    寝落ちした唯之助の顔を
    覗き込み、笑い出す。

     「唯之助が涎を
      垂らしておる!」

    「これ、その様に笑うでない。」

    三之助を諌めながら、
    吉乃もつい笑みをこぼす。

    「甜瓜をもろうた夢でも
     見ておるのかのう。」

    それを聞いた孫四郎が、
    唯の枕元で囃し立てた。

    ま、ま、まくわうり、
    そっちのうりは、苦いぞ、
    こっちのうりは、あまいぞ~♪

    その時、夢の中で、唯は
    しとやかに若君の後を
    歩いていたのだが、
    振り向いた若君の顔が
    大きな甜瓜だったので、
    ビックリ

    飛び起きるやいなや、
    “まくわうり!”
    と絶叫する唯を見て、
    三之助と孫四郎の笑いが爆発した。

    まだ明るい空には、うっすらと
    甜瓜色の月が浮かんでいる。
    まるで賑かな離れ座敷を
    温かく見守るかの様に。

    ~~~~~~~~

    翌日、暗いうちから
    起き出した唯は、厨に立ち、
    お袋様や三之助たちの
    朝餉を整えた。
    平成に戻る前に、少しでも
    感謝の気持ちを伝えたかった。

    粥が炊き上がると、
    一口だけ味見をし、厩へ向かう。

    いつもなら気の重い馬糞の始末さえ、
    今日は、軽々とこなせる。

    「唯之助ではないか。
    もう、 具合は良いのか?」

    馬番頭が声をかけてきた。

     「はい。もうすっかり。
      昨日の分まで働きます!」

    「良い心がけじゃ。」

     「颯の寝藁を替えて来ますね。」

    ぐったりした唯之助が、成之様に
    抱えられていたと噂に聞き、
    馬番頭は、内心、案じていたのだ。
    それを見た若君様が激怒したとか。

    にもかかわらず、今朝の唯之助は、
    いつもより溌剌として見える。
    その後ろ姿を、
    頭は、目を細めて見送った。

    厩の仕事に追われ、気が付けば、
    日が傾きはじめていた。

     「いけない。
      早くあやめ姐さんの所へ
      行かなくちゃ。」

    唯は、足軽の衣しか持っていない。
    おふくろ様に相談すれば、
    用意してくれたかもしれないが、
    女子姿で、小垣の寺に
    忍び込んだ事は、
    知られたくなかった。

    そこで、城下にある
    芝居小屋の衣装を、また
    借りる事にしたのだ。
    衣装選びに、着付けにお化粧。
    女子姿には何かと時間がかかる。
    ふと、体についた馬の匂いが
    気になった。
    湯浴みは出来なくても、
    せめて、汗は拭いておきたい。

    “ウェットティッシュ、
     残ってたかな。“

    直ぐにも城下に
    駆け出したかったが、
    唯は、一旦、居候中の
    天野家の離れ座敷に戻る事にした。

    平成から持ってきた
    リュックの底を探る。
    目当ての汗拭きティッシュは
    干からびていた。

    “まあ、濡らせば、使えるかも。”

    もう一つ無いかと、動かした指先に
    何かが当たった。

    “ん?”

    直ぐに取り出す。
    出てきたのはなんとも意外なもの。

    “どん兵衛きつねうどん?!”
     これ、入れたっけ?
     あ、もしかして、尊が?

    途端に、唯のお腹が大きく鳴った。
    そう言えば、
    今日食べたのは、粥一口。
    あやめさんの所で着付けした後に、
    戻って夕餉をとる時間は無い。
    それに、女子姿は、
    若君だけにしか見せたくなかった。

    厨の棚の影で湯を注ぎ、三分待つ。
    出汁の匂いが食慾をそそる。
    そっと蓋をあけ、立ち上る湯気に
    思わず頭を下げた。

    “尊~、ありがとう~!”

    頭を上げた唯の目に、
    何かが写った。

    “えっ?何?”

    二つの耳の先が、ピクピク動く。

    “もしや、むじな?”

     「いえ、きつねです。
      ゆいさんですか?」

    「は?あ、はい。
     確かに私、ゆいですけど。」

    目を擦りつつ、唯は、
    突然現れた影を、
    まじまじと見つめた。

    “どこかで、見たことある様な。
    あ、もしかして、ど!“

      「そうです。
       どんぎつねです。」

    “な、何故、ここに!
    ここは、ドラマでCMじゃない!“

     「突っ込むとこ、そこですか?」

    「あ、あはは。そうだよねえ・・・
     じゃなくて、心、読めるの?
     てか、何故、アシガール?」

     「えっ?アシ?
      “逃げ恥”じゃ無いんですか?

    「“逃げ恥”?
     ちがう、ちがう~。
     それに、どんぎつねって、
     源さんに憑いてるはずじゃ。」

     「そうなんです。
      実は、実はね。。。。」

    涙ぐむどんぎつね。
    唯は、時間が気になり、
    そわそわしつつも、話を聞いた。
    https://www.youtube.com/watch?v=ogb2RLj9j4s

    「そうなんだ~。
     つい意地を張って、
     山に帰った隙にねえ。
     うん。うん。
     でも、逃げた男、
     追ってもしょうがないでしょ。
     あんまり、逃げ足、
     早そうじゃないから、
     捕まえられるとは思うけど。
     また、こんなことしてみる?
    https://www.youtube.com/watch?v=tlvk6jHoq9o

     でも、黙秘権発動されて
     終わりかも。
     それに、お相手に会ってみた所で
     虚しくなるだけじゃない?
     それにしても、ねえ。
     随分、動揺してたのね。
     “ゆい”と“ゆいな”を
     間違えるなんて。」

     「ゆいなさんは、
      役名もゆいで。
      ウチナンチューだし。
      でも、良く考えてみれば、
      あちらのゆいさんが、
      食べるのは、
      チキンラーメンだけかも。」

    「だよね~。」

    相槌を打って笑う唯を、
    どんぎつねは、ちょっと睨んだが、
    その悪気の無い笑顔を見て、
    つられて微笑む。

    「そうだ!
     ここにも、源さんいる!」

     「え?ここに?」

    「源は源でも、源三郎だけどね。
     真面目そうな所は、似てるかな。
     今日は、たしか、
     薬草園の見回りに出てるはず。」

    唯は、どん兵衛のカップを
    持ったまま、薬草園に向かった。
    その後を、どんぎつねが追う

     「待って!
      待ってくださ~い!」

    ~~~~~~~~

     「あ、いたいた。
      源三郎さああああん!」

    薬草園の入り口で、
    唯は、大きく手を振る。
    どんぎつねは、
    どん兵衛カップを持ったまま、
    唯の上げた腕の下から、
    おそるおそる覗き込む。

     “思ってた人と違う~。。。
     でも、控えめそうな雰囲気は、
     ちょっとだけ似てるかも。“

    どんぎつねがそう思った瞬間、
    唯は源三郎に猛ダッシュ。

     「時間、無いんで。」

    言うなり、源三郎の袖を
    つかんで引っ張る。

     「ちょっとこっち来て。」

    源三郎は、訳が分からない。

     「どんぎつね、何処?」

    唯に呼ばれて、
    スイカズラの繁みに隠れていた
    どんぎつねが、
    おずおずと出てきた。

    源三郎は、驚きを隠せない。
    “何故、耳としっぽが?”
    でも、もっと驚いたのは、
    その愛らしさだ。

    「唯之助、このお方は?」

     「どんぎつね。
      いろいろあって、
      ちょっと凹んでるの。
      なぐさめてやって。」

    唯は、どんぎつねに預けた
    どんカップを、今度は
    源三郎の前に突き出す。

     「これ、あげるから。
      後はよろしく。」

    「え、ちょ、まてよ!」

    “ん?なんで、そこでキムタク?!”

    思わず振り返って、
    突っ込もうかと思ったが、
    これ以上時間をとられたら、
    若君のリクエストに
    答えられなくなる。

    唯は、どんぎつねに、
    “平成の事は内緒で”
    とささやき、二人、いや、
    一人と、一なんとかを
    薬草園に残し、城下へと走った。
    ところで、もののけを
    数える単位って何?

    後に残された源三郎と、
    どんぎつねは、しばらくの間、
    お互いをちらちらと盗み見た。

    やがて、どんぎつねが訊ねた。

      「源三郎さんは、
       いつも此処に?」

    「いや、そういう訳では。
     今日は、当番での。
     それに、若君様が
     大切になさっている
     “月下美人”が、
     そろそろ咲く頃なのじゃ。
     蕾が一つ開くと、次々に開くゆえ
     一つ咲いたら、すぐに
     若君の元にお持ちせねば。」

     「まあ、私も見てみたい。」

    「花が咲くのは、真夜中での。
     女子が見るには遅すぎる。
     蕾で良いなら、案内しよう。」

     「はい。」

    どんぎつねの尻尾が
    ゆらゆら揺れる。
    嬉しい時の印だ。
    源三郎は、どんカップを
    両手に乗せたまま、
    薬草園の奥へと進んだ。

    いつの間にか、陽が落ち、
    あたりは夕闇に包まれていた。

    甘い香りが漂って来る。

    「やはり、今宵の様じゃ。」

     「え?何故わかるんです?」

    「蕾が開く前には、
     香りが強うなる。」

     「それなら、
      なおさら、見たいです。」

    「しかし、女子を真夜中まで
     留め置く事は出来ぬ。」

     「今夜は、帰りたくないの。」

    「えっ?!」

    源三郎は、思わずどんカップを
    取り落としそうになった。
    カップの中の汁が揺れて、
    良い匂いが鼻をくすぐる。

    源三郎は、さっきの唯の言葉を
    思い出した。
    その言葉に、どんぎつねの
    言葉が繋がる。

    “なぐさめてやって+帰りたくない=
    もしや、??“

     「今は、何も聞かないで。
      花を見たら、
      元気になれそうだから。」

    心を読まれ、源三郎はうろたえた。
    ざわつく胸を押さえようと、、
    大きく息を吸い込む。
    そして、小さくうなずくと、
    月下美人の鉢が並んでいる棚の
    前に進んだ。
    そして向かいの石に腰かける。
    どんぎつねは、遠慮がちに
    その横に座った。
    二人は黙って蕾を見つめる。

    空には月が、明るく輝いていた。

     「食べないんですか?それ。」

    「しかし、これは唯之助の。」

     「ゆいさん、さっき
      言ってたじゃないですか。
      あげるって。」

    「そうだったかの。」

     「こうすれは、
      もっと美味しくなりますよ。」

    どんぎつねは、着物の袖から
    割り箸を取り出すと、
    いたずらっぽく微笑んで、
    源三郎の目の前でパチンと割った。

    そして、その箸を空にかざすと、
    月をつまみ、掛け声をかけ、
    どんカップに入れた。

     「えいっ!」

    「なんと!」

    源三郎は、どんカップに浮かんだ
    黄金に輝く小さな月を見て、
    腰を抜かす。

    「危ない!」

    どんぎつねは、片手でどんカップ、
    片腕で源三郎を支えた。

    どんぎつねの耳越しに
    見上げた夜空は暗く広がるばかり。

    「月が、消えた?!」

    そして、源三郎は、気を失った。

      「源三郎さんかわいい!」

    どんぎつねは、腕の中の源三郎を
    いつまでも見つめ続けた。
    月下美人が、さらに香りを強め、
    静かに咲いたのにも気づかずに。

    ~~~~~~~~~~

    同じ頃、唯は若君と、
    思い出の場所にいた。
    初デートで、若君から貰った
    菓子の色が、瞼に蘇る。
    あの時、若君は言ったのだ。

    “兄上もお誘いすれば良かった。”
      今はどうなの?

    そして昨日はこう言った。

    “兄上の事は、考えておる。”
      って、いったい何を?

    若君の先を歩いていた唯は、
    訊ねようとして、振り返った。

    若君は、何故か、
    空を見上げたまま、固まっている。

    「これは、なんとしたことじゃ!
     月が無い。
     消えておる。」

    見上げた唯は、ふと、
    前に見たCMを思い出した。

    “はは~ん。どんぎつね。
    アレをやったな。”
    https://www.youtube.com/watch?v=m_C5KfhObpU

    どんぎつねがくれた暗闇。
    唯は、忠清に寄り添うと、
    そっとその手に指を絡ませる。
    憧れの恋人繋ぎ。

    唯は、見えない月に祈った。

    “お願い、満月よ。
    隠れてて、もう少しだけ。”

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