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[no.720] 2021年10月31日 22:04 夕月かかりて(愛知)さん 返信
二人の令和Days98~15日11時、他人のそら似
唯のクラスメートだった美沙ちゃんの先祖が、相賀の志津姫だったら、それはそれで一悶着ありそう。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅スーパーに移動。
唯「この大きさだよね」
若君「然り」
大きめの折り紙を、幾つかカゴに入れた。
唯「あとは、いい?」
若「そうじゃな」
買い物はすぐ終了。店を出ると、駐車場にキッチンカーが何台か並んでいた。
若「寄らずで良いのか?」
唯「え、なんで?」
若「唯が飛び付きそうな品揃えに思えるが」
タコスやクレープ、タピオカドリンクもある。
唯「タピオカ…ううん、いい」
若「そうか?わしの、おごり、でもか?」
唯「うん。あれはいらない。たーくんには、超絶カッコよく居て欲しいから」
若「ようわからぬが」
唯「なら、自販機でいいからジュースおごってくれる?」
若「うむ」
日陰に入り、ジュースを飲み始める二人。
若「格好良く、と申したが」
唯「うん」
若「唯には、情けない姿も晒しておるように思えるが」
唯「そんな事ないよ。たーくんってカンペキだもん」
若「いや、そうは思わぬ」
唯「どんなトコが?」
若「涙したり」
唯「いいじゃない。お父さんも、泣くのは恥ずかしくないって言ってたしさ」
若「そうであろうか」
唯「永禄で人前で、はちょっとヤバいよねぇ。令和に居るあいだに、わーっと泣いとく?」
若「今日の内にか?ハハハ」
唯「涙は、たーくんが優しい証拠だよ」
若「唯の方が優しかろう」
唯「えー?」
若「わしを守る、と出会うた頃から申しておった」
唯「それは、優しいって言うのかわかんないけど。ううん、やっぱたーくんの方だよ、だって民や兵を守るために、敵に下ったり…敵方の姫と結婚しようとするような総領だもん」
若「無用な戦は、避けねばならぬゆえ」
唯「そうではあるけど。あー、あの結婚式さぁ…なんかムカムカしてきたっ」
若「思い出してしもうたか」
唯「ぶち壊せて良かったけどさぁ。それにしても、あの相賀の姫、どっかで見たような顔してたんだよね~、今にして思えば。まぁいいけど」
若「あの婚儀においては、唯の怒りは頷ける。済まなかったの」
唯「ん、まぁいいよ。そんなに自分を犠牲にしてさ、なかなかできないよ?」
若「羽木に手出しはさせとうなかった。相賀に与すれば、皆の暮らしを守れたからの。当然の事をしたまでじゃ」
唯「偉いっ」
若「褒めてくれるのか」
唯「ちょっと頑固でわからんちんなトコあるけど」
若「…」
唯「あれ?怒った?」
若「ディスっておるのだな」
唯「うわっ!使いこなしてるっ」
若「ハハハ。そろそろ帰るか」
唯「はーい」
自転車置き場まで戻って来た。
唯「また後ろに乗っていい?」
若「勿論じゃ」
唯「ありがと」
若「これからは、疾風に乗せるゆえ」
唯「うん!」
唯は荷台に腰をかけ、腕をギュっと若君の体に絡ませた。
唯「うふふ、たーくんの背中~」
頬をスリスリ。その様子を、振り向いて見ていた若君。
唯「わっ、びっくりした!なぁに?」
若「唯が居る、と思うての」
唯「え?ちゃんと居るよぉ。消えたりしませんから~」
若「それは、良かった」
唯「なぁに?ヘンなの」
若君 心の声(今宵は満月。わしは…一人ではない)
唯の温もりと、そこに居る幸せを背中に感じながら、若君はペダルをこぎ始めた。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.719] 2021年10月29日 21:46 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days97~15日10時、輝き続けます
カバンに入りきるだろうか。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅若君「行って参ります」
唯「行ってきまーす!」
覚&尊「行ってらっしゃーい」
着替え完了。出かけていく二人。
尊「お姉ちゃん、何買うつもりなんだろ」
覚「土産とか?」
尊「え、戻るのは3分後だよ」
若君が運転。自転車に乗る。
唯「あのね、今から行く所、たーくんは初めての場所だから」
若「そうか。では道案内を頼む」
唯「スーパーの向かいだけどね」
若「ほぅ。ならば参ろうか」
無事到着。
若「ここは、何じゃ?」
唯「薬局だよ」
若「旅行の折に唯が居った所か?」
唯「そうそう」
店内に入る。
若「この、何とも言えぬ香りは…」
唯「あー、薬局だからかな。じゃあまず必需品から…あっ、たーくん偉い!ちゃーんと入口のカゴ取ったね」
若「何を買うのじゃ?」
絆創膏などのコーナーに来た。
唯「初めてまぼ兵くん使って、高山を撃退した時にさ」
若「ハハッ、あの時か」
唯「その時、たーくん手を擦りむいてて、私持ってた薬で消毒したんだけど」
若「勿論覚えておるぞ」
唯「で、そういう消毒液系を買い込もうと思って」
若「唯は、情け深いおなごじゃの」
唯「へ?」
若「戦は無いに越した事はないが、もしやの為に備えをしてくれるのじゃな」
唯「だって、診察してくれるお母さん居ないしさー、また木村殿にお酒ぶっかけられてもさー」
若「致し方ない。その頃は足軽小僧であったからのう。されど、速川家が永禄に居れば、戦に負ける気がせぬが」
唯「えーそれ、言い過ぎじゃない?」
若「お母さんは医師、として。尊は戦術を考え、お父さんは」
唯「体力的に、戦は無理だよ?」
若「飯炊きを」
唯「ぷっ」
若「三人共必要じゃろ」
唯「ははは」
消毒液や絆創膏の類いを、カゴにわんさか入れた。
唯「さー、次!」
若「唯、金は足りるのか?」
唯「余裕。ちゃんと貯めといたもん。さてと」
コスメのコーナー。
唯「あのね」
若「うん」
唯「たーくんにキレイって思われたいし」
若「充分麗しいがの。今も口元は輝いておるし」
唯「だって、ちょっと塗るだけで、喜んでくれるから」
若「唯が、より輝く」
唯「んもう、うまいコト言うんだから。でね、他の色も、と思ったのと、あと同じ物をお土産にしたくて」
若「土産。三分後に戻るが?」
唯「この際置いといて」
若「まあ、唯のする事じゃから、そこまでは驚かれぬが」
唯「阿湖姫に、買って帰りたいの。よりかわいくなって欲しいし、兄上さんも大喜びするんじゃない?」
若「そうか」
唯「ダメ?」
若「良かろう。そうか…兄上も、口元が輝くのじゃな」
唯「うわっ、なんかいやらしい。胡乱な考えじゃのー」
若「唯に言われとうない」
唯「なんだとぉ、口が過ぎようぞっ」
若「ハハハ」
じゃれ合いながら、品物を選んでいく二人。そうこうして、買い物終了。
唯「よーし、1つ目の任務完了!じゃあスーパーに移動ね」
若「わかった」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.718] 2021年10月27日 19:38 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days96~15日8時30分、浄化されます
おねだりが上手くなっている。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅尊「おかえりー。あれっ、兄さんなんか様子が…」
覚「どうしたんだ?」
唯「ひとまず、座る」
食卓のそれぞれの席についた四人。
覚「鶴を折ってくださったのか。そりゃ僕でも泣いて喜ぶな」
唯「全部で200あるんだって」
尊「え!それ、千羽鶴完成って事じゃん」
唯「そうなのー。だからこの状態、わかるでしょ?もー、かわいくってしょーがない」
若君「取り乱した。済まぬ」
唯「いいよぉ。だって、嬉しかったんでしょ?」
若「嬉しかったのもあるが、お二方の話の中で、それぞれ家族が出てこられた」
唯「うん」
若「芳江殿は大勢で賑やかな団欒、エリ殿は娘御とのかけがえのない時間が見えた。その様子に心を打たれたのじゃ」
唯「そっか」
覚「うんうん、そりゃ良かった。泣けるよね。泣くってな、体に良いんだぞ」
若「体に、良い?」
覚「泣く行為で、心も洗い流すというか、浄化されるんだ。ストレスも消える。だから必要。特に君には。何も恥ずかしくないよ」
若「そうですか。ありがとうございます」
唯「あ」
尊「あ?」
唯「それで、前回のBlu-ray、お涙ちょうだい状態にした?」
尊「いや、そこまで考えてない」
唯「そお?でも、向こうでたーくんが辛そうにしてたら、それ観て泣けばいいんだね」
尊「無理やり?」
唯「だってー、どうせすぐ色々我慢するもん。無理にでもデトックスだよ」
若「我慢などと」
覚「立場上仕方ない時だってあるだろ」
唯「みんなの前では立派な総領で居なきゃいけない、でも二人きりの時くらい楽にしてあげたい。リセットは大事でしょ?」
若「唯…」
覚「私の胸で泣かせてあげる、か。そういう活用方法は悪くないな」
唯「やーん、胸でなんてぇ」
尊「何くねくねしてんの。じゃあ、せっかく作ってもらったから、糸通し始めよっか」
若「そうじゃな。ぜひ完成した品を、お二方にご覧頂きたいしの」
唯「ん、了解~」
作業中。
尊「この箱が、芳江さんの方?」
唯「うん」
尊「皆さんで折ったのわかる。形がすごくバラエティ豊かで」
覚「微笑ましいな」
唯「みんなの力で、永禄を守れるね」
若「まことに有り難い」
千羽鶴、千羽の鶴で出来上がりました。
唯「やったー!終了!良かったね、たーくん」
若「あぁ」
覚&尊「おめでとう~」
唯「ねぇ、たーくん」
若「なんじゃ?」
唯「爪の塗り直しは後にしてさ、持ってきたいなーって物思い出したから、買い物に行っときたいんだけどぉ。昼には帰れるように、自転車でピューっと」
若「デート、の誘いか?」
唯「えへへ」
若「ならば、わしが乗せていってやろう」
尊「それって…見ようによっては、ただ足に使われてるような」
唯「気のせい気のせい」
若「そうじゃ、折り紙も、もう少しあった方が良いやもしれぬ」
覚「え?持たせるつもりで、買ってあるぞ?」
若「大きい紙を、持ち帰りたいのですが」
覚「あー。それはごめん、ないわ」
若「戻ったら、わしが皆に、お母さんに教えを乞うたようにしとう存じます」
覚「ふんふん、教えやすいように大きいのがいいんだね」
尊「みんな巻き込んでやるんだ。壮大になってきたなぁ」
唯「決まりっ。じゃあ着替えよーっと!どうしよっかな、今日は例のニットとジーンズにしよっかなー。たーくんそのままで行く?」
若「いや、このなりでは…」
朝稽古の格好のまま、上は白Tシャツだが、下はジャージ姿の若君。
尊「こなれてる感出てて、悪くないと思うけどなぁ」
覚「それにサンダル履きだと、ちょいワルっぽい感じだな。意外に似合うかも」
唯「たーくんはなんでも似合うけど」
若「ならぬ、これでは唯を伴えぬ。着替えて参る」
唯「そう?」
覚「さすが、紳士だな」
二人、2階へ上がって行った。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.717] 2021年10月25日 20:08 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days95~15日8時、心通じ合う
いろんな人の気持ちが、集まりました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅芳江「私達、若君にお渡ししたい物があるんです」
若君「え?」
二人、手に箱や紙袋を持っている。そこに唯がやって来た。
唯「呼んだ?なぁに、なんかイベント?」
エリ「押し付けがましくて、どうかと思ったんですけど」
芳「少しは、足しになればと思いまして」
それぞれ、中を見せる。カラフルな何かが入っていた。
唯「あっ、えっ!もしかして、折り鶴?!」
若「鶴!」
唯「いっぱいあるー」
エ「100羽ずつあります。二人で200ですね。少しはお助けできたかしら?」
若「…」
唯「200!たーくん、800作ってあるからちょうど1000…千羽鶴になったよ!ねぇ、ねぇ良かったね!」
エ「まあ!そうなんですか!」
芳「良かったわ~作った甲斐がありましたね」
若「これは…」
唯「お母さんが頼んだの?」
美香子「まさか。全然知らなくて。お二人のご厚意の賜物よ」
芳「勝手に、始めちゃいました」
若「勝手など、そのような…」
美「折り紙さ、ここにしばらく借りてたじゃない」
唯「うん。仕事のモチベーションあげるって言ってたね」
美「それをご覧になって、同じ物を買いに行かれたそうなの」
唯「わざわざ合わせてくれたの?!」
芳「若君の志に感動して、私達も出来る所まで頑張ってみましょう、できれば100羽ずつ、と約束しまして」
エ「でも、無事ノルマが達成できました」
若「それは…」
美「忠清くん」
若「は、はい」
美「お礼を言う前に、お二人のお話を聞いてあげて」
若「そうですか。わかりました。お聞かせ願えますか?」
唯「お母さん」
美「ん?」
唯「泣いてるの?」
美「え?私の事はいいから。さ、芳江さんからどうぞ」
芳「はい。私は、家で一人コツコツと折ってたんですが、息子達が帰省してきた日、うっかりやりかけの状態で出しっぱなしにしてまして」
若「はい」
芳「息子にこれ何と聞かれ、勤め先のお婿さんが今頑張ってるからって話をしたら、じゃあみんなでやれば早いじゃない、となりまして」
唯「へー、なんか楽しそう」
芳「楽しかったです。もうじいちゃんからお嫁さんから孫からてんやわんやで。で、あっという間に出来上がりました。それで、私は若君にお礼を申し上げたいんです」
唯「逆に?」
若「わしに、ですか?」
芳「折っている間は、テレビもスマホもゲーム機器もなく、手作業しながら語り合うだけの団欒の時間でした。孫に張り切って教えるおじいちゃんとか嬉しそうで…。若君のお陰でそんな時間がいただけました。ありがとうございました」
若「いえ、そのような…」
エ「私も、いいですか?」
若「あ、はい、お願い致します」
エ「私も一人コツコツと進めてまして。孫達が帰省した日も、夜、みんなが寝静まってからキッチンで折ってたんですが、嫁に行った娘が、何してるの?と顔を出しましてね」
唯「服作ってあげてた娘さん?」
エ「そうです。で、若君の話をしたら、じゃあ手伝うよとなりまして。一緒に仕上げました。私も、若君に感謝してるんですよ」
若「それは、何ゆえでしょうか」
エ「私の子育てが終われば娘の子育てが始まりで、二人きりでゆっくり話すなんて、いつ以来だったか。静かな夜、手仕事しながら色々話が出来て、とても穏やかで嬉しい時間だったんです。そんな機会を与えてくださって、本当にありがとうございました」
唯「なんか、いい話ばっかだね。お母さんは先に聞いてたんだね」
美「そうなのよ」
エ「余談なんですが、若君…ではなくもちろん私も、勤務先のお婿さんと言いましたけど、どんな人?と娘に聞かれたので、あの、バーベキューの際に、写真撮らせていただいたじゃないですか」
唯「エリさんも芳江さんも、たーくんと二人で撮ってたよね」
芳「宝物です~」
エ「私もです。で、それを見せたら、ちょっと!こんなイイ男が受け取ってくれるの?!って、俄然ヤル気が出たらしく、結果、その晩に完成した次第です」
唯「ははは~」
美「やっぱり、若君はいろんな人を幸せにする天才だと思うな」
若「いや…痛み入ります」
若君は、サッと床に座り、両手をついた。
エ「えっ」
芳「あららら」
慌てて正座するエリと芳江。唯と美香子も、同じく正座した。まず芳江の方に正対した若君。
若「芳江さん、家族の皆様共々、わしの為に時間を割いて頂き、心より礼を申します。ありがとうございました」
芳「いえいえ、そんな、恐縮です」
向き直り、エリと正対。
若「エリさん、心より礼を申します。娘殿にも直々に礼を申したい処ですが、くれぐれも宜しくお伝えください。まことに、ありがとうございました」
エ「そんなご丁寧に。娘に伝えますね」
床につく程深く頭を下げる若君。中々上がらない。
エ「まあ、お願いですから、もうお顔を上げてください」
芳「充分、お気持ちはわかりましたから」
ようやく顔を上げたが、
唯「あれっ、たーくん、涙目…泣きそう?」
美「あらら」
唯「あのさ、もう行こっか?お母さん達そろそろ準備あるし」
若「そうじゃの…」
唯「じゃ、エリさん芳江さん、ありがとうございました!鶴もらってくね」
美「うん」
唯と若君がクリニックを後にした。
美「あー危なかった。もう少しでもらい泣きする所だったわ」
芳「あんな若君、初めて拝見しました」
エ「驚きました」
美「実は彼、意外と涙もろいのよ」
芳&エ「そうなんですか?!」
美「うふふ。さっ、じゃあお仕事モードに戻りましょうか」
芳&エ「はい!」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.716] 2021年10月23日 19:35 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days94~15日木曜6時、新しい朝が来た
いよいよですが、明るく。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅庭の雀が、騒がしい。
若君 心の声(朝、か)
そっと瞼を開く。すると、
若君「なんと」
唯「おはよっ、たーくん」
腕の中の唯に、じっと見つめられていた。
若「起きておったのか」
唯「うん。へへー、たーくんより早く目が覚めたから、かわゆい寝顔を見てた」
若「そうか。それはちと片腹痛いのう」
唯「え!お腹痛いの?大丈夫?!」
若「いや、多分唯が思うておるような意味合いではないが…」
唯「調子悪いんじゃないんだね?後で尊に意味聞こっと。あのね」
若「ん?」
唯「すっごくよく眠れたよ。昨日とは全然違った。たーくんが守ってくれてたからかな」
若「それは良かった」
唯「安心、だった」
若「安心か。これから先も、唯がそう思えるよう励む所存じゃ」
唯「ありがと」
二人、起き上がる。
尊「片腹痛いはね、恥ずかしいって意味だよ」
唯「わっ、びっくりした!盗み聞き?」
尊「まあまあ大きな声でしゃべってたけど」
唯「そうだった?」
若「わしが最後に起きたのか。不覚じゃな」
尊「そんな時があってもいいんですよ。今朝は、雀の大合唱で起きちゃいました」
唯「確かにちょっとうるさいくらいだったね」
尊「あれが全部お姉ちゃんかと思ったら、うるさいのは納得だったよ」
唯「ちょっとー、たーくんはかわいいって意味で、私は雀みたいって言ってるんだから!」
若「ハハハ」
唯「え!もしかして、そっち?!」
若君の朝稽古も終わり、そろそろ体操の時間。五人揃った。
若「家族皆では、初めてじゃの」
美香子「嬉しいわ~」
覚「いい記念になるよ」
唯「よーし、張り切っていこー!」
尊「もっと早い内から、張り切るべきじゃなかったの」
体もすっかり目覚めた。朝ごはん。
唯「なんか、気分爽やか~」
覚「早起きの良さにようやく気づいたか」
唯「ご飯もおいしい!炊きたてのご飯、あったかい味噌汁、うーん幸せ」
若「そうじゃのう…」
美「あらら、考え込んじゃった。ごめんね、最後の朝なのに、私が仕事だからバタバタしてるけど」
若「いえ」
尊「今日は患者さんいっぱいで、忙しそうだよね」
美「そうね~。お昼ゆっくりは食べられないかも」
食後。
唯「そろそろ、落とさなきゃねー」
尊「あー」
マニキュアが塗られた指先を見つめる唯。
若「いや、そのままで良い。なんなら、塗り直してやろう」
唯「いいの?」
尊「3分後にしては、激変じゃないですか?」
若「構わぬ。唯に関しては、多少の変化は誰も驚かぬゆえ」
尊「急に居なくなったり現れたりするし?」
若「ハハハ、そうじゃな」
唯「マニキュアセット、向こうに持ってく?」
若「それは、どちらでも良いが」
唯「ふーん」
若「戻った後、唯の指先を見れば、この日々は夢ではなかった、と思えるからの」
尊「ある意味、お土産ですか」
若「そうとも言えるのう」
唯「そっか。じゃあ部屋から持ってくるね」
唯は2階に上がっていった。
覚「まだ8時だもんな。今朝は色々順調だ」
尊「そうだね。でも今日は一日長く過ごせる方がいいよ」
バタバタと足音がした。廊下を走って来た、白衣姿の美香子。
覚「何だ?どうした?」
美「忠清くん!」
若「はい、お母さん。どうされましたか」
美「ちょっと、いらっしゃい。唯は?」
尊「2階」
美「そう。戻ったら、クリニックに来るよう言って」
尊「うん。何慌ててるの?」
美「はい、さあさあ」
若「はい…?」
クリニックに入る若君。
若「おはよう、ございます」
芳江とエリが、笑顔で待っていた。
芳江「おはようございます」
エリ「おはようございます。あら、また一段と日に焼けてらっしゃらない?」
若「そう…ですか?お二方共、息災のようで何よりです」
芳「まぁー、気にかけていただいて」
エ「嬉しいわ~」
若「それ、で?何の御用でしょうか?」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.715] 2021年10月21日 20:43 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days93~14日21時、背中で語ります
お月見ミッション最終章。昨日の満月は、拝めました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅身を焦がすような恋に落ちたら、どうする?尊。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅家族全員で、スイカを食べている。
唯「尊」
尊「何」
唯「好きな人とか、いないの?」
尊「何だよ唐突に。居ないよ。もし居たとしても、ここで発表すると思う?」
美香子「え、居るの?」
尊「ないない。僕はその点、茨の道が待ってるんだ」
若君「何ゆえ?」
尊「相当信用の置ける人物じゃないと、家の事情が話せない。これは男女関係なくだけど」
覚「ふむ」
尊「まずタイムマシンの話を口外しない人。次に、お姉ちゃんがなぜここに居ないかも、同じく秘密に出来る人。前途多難でしょ。友達が出来たとしても、家には連れて来れないよ」
若「そうか。済まない」
尊「わっ、なんで。一番謝る必要のない兄さんが」
若「わしがこうして此処に居られるのも、そうした犠牲の上に成り立っておるゆえ」
覚「タイムマシンに関しては、出来た時点で、唯や忠清くんの事がなくても、情報管理は自己責任だ」
尊「そうだね。文句言ってる訳じゃないですから、兄さん」
若「そうか」
美「いいわねぇ、新婚旅行どこに行く?じゃなくて、どこの時代に行く?ができるんだ」
唯「えー、うらやましい~」
尊「何だよその、いろんな事を全部すっ飛ばした超楽観的な意見は」
全員「ハハハ~」
引き続き食卓で、ババ抜きがスタート。
尊「お父さん、兄さんの隣は手強いよ」
覚「そうなのか?攪乱させる?」
若「そうかのう」
美「戦術としてはさすがよね」
何回戦も行うが、
覚「しれっとジョーカーがやってくる」
尊「でしょ?」
唯「だって、たーくんすぐ引いてくんだもん」
尊「そっか、お姉ちゃんに回ってくると、兄さんはつい引いちゃうんだ。やっぱり妻には弱いと」
若「そうじゃな」
唯「えー?」
夜も更けてきた。
美「私、そろそろ寝るわね。明日に差し支えないように」
唯「じゃあもうおしまいにする?」
美「いいのよ、まだ遊んでてちょうだい。みんながワイワイやってるの聞いてたいし」
唯「そうなんだー」
美「では、お先に」
覚「悪いな。じゃ、おやすみ」
若「おやすみなさい」
唯&尊「おやすみー」
一番遠い位置の布団で眠った母。食卓では引き続き、神経衰弱がスタート。
唯「お父さん、全然取れないじゃん」
覚「記憶力って、こんなにないものなのか」
尊「年のせい?」
覚「それは言うな」
唯「お酒飲んどけば言い訳できたのに」
覚「それも言うな」
若「ハハハ」
覚「ん?なんだ、もう1時じゃないか。さすがにそろそろ寝るか」
唯「お父さん、一回も勝ってないけど。いいの?」
覚「いい。次にやるまでに、記憶力鍛えておくよ」
尊「前向きだなあ」
若「素晴らしき志じゃ」
唯「布団、どこが誰?」
覚「僕は決まってるだろ?キッチンに一番近い所」
尊「じゃあ真ん中の3枚だから…よし、僕がお父さんの隣、兄さん、お姉ちゃんだな」
覚「その心は?」
尊「二人はくっついて寝たいでしょ。でもラブラブが隣で繰り広げられたらお父さんには刺激が強いから、僕を挟む」
唯「たーくんが真ん中なのは?」
尊「兄さんがこちら側の方が、体の大きさから考えて、イチャイチャが見えにくい。お母さんからは丸見えだけど、どうせキャッキャ喜ぶだけだから」
唯「あんた、よく平気な顔で解説できるよね」
尊「平常心を保つ術を、僕は身に付けたのであった…」
若「尊が、戦で陣に居ると、良かろうにのう」
尊「え!いやいや、無理です!」
唯「すぐに失神とかして、くたばってると思うよー、使えないよー」
尊「うん、それは反論できない」
若「そうかのう」
覚「はいはい、よくわかったよ。その案採用する。さ、寝るぞ」
消灯。
覚「おやすみー」
唯&若&尊「おやすみなさい」
寝静まった深夜。ふと目覚めた尊が右を向くと、若君は唯側を向いており、背中だけが見える。
尊 心の声(ん、正解でした)
左向きに体勢を変え、尊は目を閉じた。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
明日は令和最終日。
14日のお話は、ここまでです。
[no.714] 2021年10月19日 19:34 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days92~14日17時、温もりも忘れない
先月の中秋の名月は、雨雲に阻まれ…
一昨日も今日も、美しい月を拝めたのに…
昨日の十三夜は、居場所さえわからない程全く見えず(T_T)
明日の満月は見られそう。期待します。┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
カウントダウンが、始まっています。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅唯「なにこの袋、めっちゃ重いー」
覚「スイカも買ってきた。半分だが」
唯「どおりで」
全員揃った。買い物袋の中身を食卓に並べている所に、別の袋が登場。
美香子「見て、これ。良くない?」
唯「ショルダーバッグ?大きいね」
美「これで荷物持ってって貰おうと思って。リュックの代わりね。紙袋では無粋だから、探したの」
唯「えーありがと~。蚊取り線香入れとか重たいもんね」
美「お坊さんが荷物入れるのに使う頭陀袋ってあるんだけど、それ風だから向こうでも使えるかなと思って。あ、千羽鶴は別で風呂敷に包んであげるから」
若君「ありがとうございます、お母さん」
美「そろそろ荷物、まとめ始めなさいね」
唯「うん」
食卓にホットプレートが鎮座した。
覚「そろそろ、肉も野菜もいいぞ」
全員「いただきまーす!」
美「あれ?お父さん、こんなメニューなのに、アルコールはいいの?」
覚「うん。僕今日、やりたい事が二つあってさ」
唯「二つ?」
覚「一つは、忠清くんにマッサージしてもらう事」
美「あ、それは私もお願いしたいわ」
若「喜んで承ります」
覚「お願いするのは今日で最後にするよ。明日帰る前に労働させても何だからな」
美「そうね」
若「そうですか」
尊「もう一つは?」
覚「海行った時さ、みんなトランプやってたよな?」
尊「うん。酔っぱらいの動向を気にしながら」
覚「帰る前に、僕も一緒にやりたい」
唯「へー。いいよぉ。やろうやろう!」
美「飲んでないから、布団につまずく心配もない?」
覚「まあ、そういう事だ」
美「じゃあ、ご飯食べ終わったら順番にお風呂ね。あ」
唯「なに?」
美「あなた達は、いいか」
唯「え?入る入る」
尊「顔のキラキラ消えてるよね」
唯「それは置いといて」
覚「ん、まぁいいんじゃないか?ハハハ~。じゃ、今日も男三人で行くか?」
若「はい」
唯「なんか、ゴキゲン?」
尊「実は飲んでるんじゃないの」
男子、風呂上がり。
覚「あ、悪かったな。布団敷いといてくれたんだ」
唯「掛布団出してないから、軽かったんで」
美「じゃ、女子はお風呂行ってきまーす」
尊「行ってらっしゃーい」
覚「さて、と」
若「では、早速」
覚「うん…」
若「お父さん?どうされましたか」
覚「あぁ。最後って思っちゃうと、こみ上げるものがあるよ。明るく振る舞わないと、ちょっとね」
尊「なるほど、そういう事だったんだね」
若「…」
覚「またいつか、頼むよ」
若「はい!では精一杯、させていただきます」
尊「じゃあ僕、残りの千羽鶴に糸通しとくよ」
若「済まぬ」
尊「いえいえ」
全員揃いました。
唯「尊、ありがと。手伝うよ」
若「では、お母さんどうぞ」
美「ありがとう。可愛いい息子とのスキンシップも、これで最後ね~」
尊「別の意味で残念がってるな」
美「尊、針と糸、よく似合ってるわよ」
尊「なんだよそれ。そうやって、雑巾でも縫わせようとしてない?」
美「バレたか」
全員「ハハハー」
マッサージ終了と同時に、糸通し完了。千羽鶴800羽分、十六束完成。
唯「拍手ー、パチパチ~」
尊「やったね」
美「おめでとう、忠清くん」
若「色々難儀をかけました。ありがとうございました」
覚「では、完了記念に」
唯「なに?」
覚「スイカ切るか」
唯「食べる食べるー!」
尊「トランプ取ってくるね」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.713] 2021年10月17日 20:58 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days91~14日13時、甘くていいのです
だって貴重な時間だもん。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅唯「ただいまぁ」
若君「ただいま戻りました」
尊「おかえり。わっ、お姉ちゃんが埋もれてる!」
美香子「お帰り~、まあ!なんて綺麗なの!」
覚「立派な花束だなー。素敵なプレゼントだ」
唯「うん!」
美「ホントね~。でもずっと外にあったからかな、ちょっとしなっとしてるわね。すぐ花瓶に移しましょ」
若「手伝います」
美「ありがとね。…あら」
若「何か?」
美「ううん。うふふ、とっても熱ーい時間を過ごしたのね」
唯「なにその、見てたかのような」
美「強く擦ると肌を痛めちゃうから、お風呂までそのままでいいわよ」
若「え?」
唯「なんの話してるの?」
尊「どれどれ。あ、あー」
美「尊、科学的に説明してあげて」
尊「え!科学的って。僕が言うの?!ハードル高いよ~」
唯と若君に、なになに?と見つめられる尊。
尊「うわっ。えーとですね、化粧品の成分って、色は比較的早く落ちるんだけど、光らせる成分は粒子が細かい物も多く、肌に浸透しやすくて」
唯「難しい」
尊「だって科学的にって言うから。だからさぁ、もうぶっちゃけ、兄さん、口のまわりがキラキラしてるんだよ」
若「そうなのか?」
唯「あ。よく見たらラメってる」
尊「そうなるって事は、はみ出る程激しく…わー、もう勘弁してください!」
若「なん、と…」
唯「そ、そんな甘いワナがあるなんて」
美「だから擦っちゃ駄目って。はい、花束ほどくわよ」
両親が昨日受け取ったのと、今日のと、二つ花瓶が並んだ。
唯「豪華~」
美「お花はいいわね~」
覚「はい、お待たせ、出来たぞ」
唯「わっ、なに今日の昼ごはん!めっちゃ映えてるじゃん!」
若「パン…ですか?」
覚「フレンチトーストにした。ゆっくり用意出来たしな。お洒落だろ?」
唯「うん、めっちゃオシャレ~」
覚「はい、座ってー」
昼ごはんスタート。
唯「甘くておいしーい」
覚「だろ?」
唯「で、夜ごはんはなに?」
覚「今聞くのか。このメニューを前に。まぁ、すっかり元気な証拠だな。焼肉にしようかと思ってる」
唯「焼肉!」
覚「ホットプレートでだけどな」
美「昼、ちょっとしたら買い物に行くわね」
唯「早くない?」
美「お肉以外に買いたい物あるのよ」
唯「そうなんだ。みんなで行く?」
美「ううん、お父さんと行ってくるから」
覚「尊はどうする?」
尊「ついてっていい?僕も買いたい物ある」
唯「へー」
尊「ちょうど二人きりになっていいだろうし。理解ある弟なんで、邪魔はしない」
唯「なによそれ~」
三人を玄関で見送る。
唯「帰りはどのくらい?」
美「4時は過ぎるかな」
唯「わかったー」
覚「じゃあ忠清くん、留守番、頼むね」
若「留守の番。承知つかまつりました」
ドアが閉まった。
唯「しばらく二人きりだねっ。うふふ」
若「うむ…」
若君が、立ったまま考え込んでいる。
唯「どしたの?」
若「家の何処に、控えておるのが良いのであろうか」
唯「はぁ?控えるって…居場所って事?どこでも好きな所に。え~私てっきり、このまま部屋にさらわれて…やーん」
若「唯は部屋に居れば良いが、わしは留守を守る為、下に居った方が良かろう」
唯「え、もしかして…ずっと家の中を見張ってるつもりなの?」
若「留守の番を任されたからには、全うせねばならぬ」
唯「え、えぇ~?!留守番って初めてじゃなくない?」
若「家に一人になった事はあれど、院は開いておったゆえ」
唯「あぁ、完全にお父さんもお母さんも尊も居ないのは初めてなのね。って、違う~!」
若「何が違うと申す」
唯「今、玄関の鍵かけたじゃない。そう簡単に誰も入って来ないから!」
若「それもそうじゃの」
唯「もちろん、侵入者には気をつけなきゃいけないし、例えば火事とかならないように注意はするけど、ずっと見張ってなきゃならん、とかないの。ねっ、だからなにしててもいいから」
若「そうか。わかった」
唯「あーびっくりしたっ。まっ、そういうトコがたーくんのイイ所だけどね」
若「…ならば」
唯「はい?」
若「まずは風呂に入るか」
唯「へ?!きゃっ」
ひょいと、あっという間に抱き上げられた唯。
唯「あのぅ…」
若「なんじゃ?」
唯「いきなりの展開、早くないすか?」
若「そうと決まれば、待てぬ」
唯「出た!今褒めたばっかなのにこのヒトっ」
若「4時過ぎには戻られるしの」
唯「そんな計算まで!」
若「嫌ならば降ろすが」
唯「やだー、降りません」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
夕方まで、ご自由に。
続きます。
[no.712] 2021年10月15日 21:05 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days90~14日11時、ゆらーりゆるーり
見上げる空は、どの時代も変わらない。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅自転車を引きながら、ゆっくり歩く唯と若君。
唯「スーパーは何度も行ったから、道わかったんだね」
若君「帰り、詰めが甘かったがの」
唯「まぁ無事会えたし。お花、買い方わかってた?」
若「昨日見たように、これだけで作って欲しいと所望した。財布にあるだけ出した」
唯「えっ!使い切っちゃったの?」
若「少しは残っておるが」
唯「この大きさだから、どーんと出したのはなんとなくわかる。そんなに稼いでたんだ…他になにか注文したの?」
若「花の名がわからず、唯がどの花が好みかもわからなかったゆえ、とり混ぜて入れてくれと申した」
唯「あー、だからこんなに色とりどりなんだね。お花畑みたいで、すっごく好き」
若「それは良かった。そういえば、店の者が申しておったな」
唯「なんて?」
若「おまけします、と」
唯「あはは、そうなんだ~。えー、どれがおまけかわかんなーい」
遊具のある場所まで来た。
唯「あっ珍しい、ブランコ空いてる。乗ろっ」
ブランコの前に自転車をとめた。
唯「たーくん、座って」
若「ここに腰掛けるのか」
唯「足ぶらーんってして」
若「ほぅ。揺れておるが」
唯「押しまーす、それぇー」
若「おぉっ」
ギーコギーコ、大きく揺らす唯。
若「中々楽しい物よのう」
唯「でしょ?私も乗るー」
隣でこぎ始める唯。
唯「ひゅ~」
若「自分でも動かせるのか。やってみる」
二人、同じくらいの高さまでこいでいる。
唯「たーくん、さっすがぁ。さてと」
ぴょーん、と飛び降りた。
若「なんと」
唯「あ、たーくんはやっちゃダメだよ。慣れてないから」
また、若君の後ろから押してやる唯。
唯「たーくん、帰ったらさ、また色々考えたり、背負ったりしなきゃいけないじゃない」
若「そう…じゃな」
唯「あとちょっとしかないけど、今くらい、こんな風にゆるーく過ごして欲しいな」
若「そうか。忘れている時間、も必要かのう」
唯「そゆこと」
若「ありがとう、唯」
若君は、揺られながらずっと空を見上げていた。やがて、ブランコが止まる。
唯「失礼しまーす」
若「ん?」
ブランコに座る若君を、後ろから包みこむように抱き締める唯。
唯「大丈夫、技かけたりしないから」
若「ハハハ」
公園の時計が、12時30分を指している。
若「そろそろ帰るか」
唯「はい」
若「しかしこの、ブランコと申す物、中々良いのう」
唯「作っちゃう?緑合って木に囲まれてるから、いい感じに伸びて丈夫な枝、いっぱいあるよ?」
若「そのような。登って確かめぬと、丈夫かはわからぬが」
唯「びくともしなかったけどね」
若「なんと!いつの間に。困った姫君じゃ」
立ち上がる若君。
唯「…ねぇ」
若「なんじゃ?」
唯「ちょうどお昼だからかなぁ、右見て誰も居ません、左見て誰も居ません」
若「それが何か?」
唯「えーとぉ」
若「公共の場で?」
唯「うっ。すいません、調子に乗りましたっ」
若「ハハハ」
唯のイヤリングに触れる。
若「懐かしいのう」
唯「今まで忘れてて。良かったよ、帰るまでに連れて来れて」
手が耳から顎へ。そのまま上を向かせ、そっと口づけた。
若「帰るぞ」
唯「はい!」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.711] 2021年10月13日 20:39 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days89~14日10時、止まらない!
眩しくて、直視できない。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅ひとり、途方に暮れる唯。
唯「はっ!たーくん、一人で行動した事なんてないじゃない!どこに行けるっていうの…家に帰った?電話してみる?…って、このスマホ電話できないんだった」
自転車が出て行った、公園入口の方をじっと見つめる。
唯「信じて待つしかないか…あぁでも、事故にでも遭ってたら、どうしよう!」
そのままベンチに座り続けていたが、
唯「ダメだ、待てない!」
公園入口まで、移動してきた。
唯「こんなに車が走ってる…大丈夫かなあ。どこに行ったの?」
その時、背後でブレーキの音がした。振り向くと、
若君「ここに居ったのか、探したぞ」
唯「たーくん!」
自転車を降りて走ってきた若君。駆け寄り、若君の体を叩いて怒り出す唯。
唯「バカ、バカっ、すっごく心配したんだから!」
若「済まない」
唯「居ても立ってもいられなくて、ここまで出てたの」
若「そうか」
唯「ベンチに居なかったのはごめんなさい。でもなんで、向こうから来たの?」
若「戻る時に、道に迷うて」
唯「えっ!」
若「わからず走っておったら、公園が見えた。近付いたら裏門であったゆえ」
唯「もうっ、無事着いたから良かったものの!いったい、どこに行ってたの?」
若「あ、あぁ」
自転車に戻り、手に何かを抱え、唯の元へ歩いてくる。
唯「…えっ!」
若「唯」
あまりの驚きに、目を丸くし固まった唯。若君が、前に跪く。
唯「…」
若「悲しませて、済まなかった」
唯「…」
若「受け取って、欲しい」
唯「あ、ありがとう…すごい、すごいキレイなお花…」
夏の王子様から、両腕いっぱいの花束を受け取った姫。
唯「いい香り…」
若「その顔じゃ」
唯「え?」
若「両親に買うた際、同じ顔をした」
唯「そうだった?」
若「愛らしゅうて、もう一度見たいと思うて。で、自分も欲しいと申しておったゆえ、買うて参った」
唯「嬉しい!それ、尊と話してる時のほんの一瞬の事だったよ?覚えててくれたんだ。でもなんで今?」
若「一刻も早う、笑うて欲しくて」
唯「そう、なんだ。もー、びっくりしたよ?」
若「淋しい思いもさせてしもうたしの」
唯「あ…」
若「両親に咎められた。強くは申されなかったが。鶴ばかりではならぬとな」
唯「…」
若「唯を大切に思うのは、今までもこれからも変わらぬ。済まなかった」
唯「たーくん…」
黒羽城公園と書かれた入口の石碑。唯は持っていた花束を、そっと立て掛けた。
唯「たーくん!」
立ち上がった若君に、駆け寄る唯。両手で顔を包んだ。
若君 心の声(また頬を引っ張るのか?あっ)
引き寄せられ、一瞬の内に、唇を奪われた。
若 心(!!)
しばらく続いたが、若君は、動揺が隠せない。
若「唯、此処は公共の…」
唯「ギュってして」
若「え?」
唯「ギューって、して!」
再び塞がれた唇。若君は、戸惑いつつも強く強く抱き締めた。
唯「…」
若「…」
抱き合ったまま、見つめ合う二人。
唯「ごめんね」
若「何を謝る」
唯「今まで、公共の場所だからダメって、ずっと避けてたのに」
若「そうじゃの。しかも此処は…往来じゃ」
すぐ近くで、車も人もひっきりなしに行き交っている。
唯「もうね、たーくんしか見えなかったの」
若「フフッ」
唯「え?」
若「それを申すなら、わしはとうの昔から、唯しか見えてはおらぬ」
唯「え。ふふっ」
若「ハハハ。このままでは目を引いてしまう。中に戻るか?」
唯「はいっ」
若「良い返事じゃ」
自転車の前カゴに花束を乗せ、二人は公園内に戻って行きました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.710] 2021年10月11日 20:07 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days88~14日9時、わかって欲しいのに
事実と向き合うと、そういう答えにはなる。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅美香子「鞄は、今日も私のを使うから」
小さめのショルダーバッグを斜めにかけて、完成。
若君「昼には、戻ります」
覚「弁当作りゃ良かったか?ゆっくりできたろうに」
唯「ううん、家で食べるから」
覚「帰るのは、1時位でいいからな」
唯「ありがと。じゃ、行ってきまーす!」
玄関のドアが閉まった。
覚「一件落着か」
美「なんとかね…ふぅ」
尊「ため息?」
美「んー。忠清くんも完璧じゃないな、って。折るのを何よりも優先しないでね、って最初に釘刺しといたんだけど」
覚「つい、力が入ったんだろ。戦のない世界は、彼の切なる望みだしな」
美「まぁ、丸く収まって良かったわ」
覚「彼自身が、ちゃんと気付けたからいいんだよ」
尊「そこは、さすが兄さんなんだな」
その頃。自転車に乗る二人。
若「遠乗りと言っても、いつもの公園じゃが」
唯「全然OKだよ」
若「では姫、後ろに」
唯「はぁい」
横向きにちょこんと座り、右腕を若君の体に巻きつけ、右頬を背中に押しあてた。
若「それでは、出立いたす」
唯「出立~」
黒羽城公園。
若「墓を見に行っても良いか?」
唯「あー。今の時期は墓参りね」
見つかった当時、ひっそりと竹林の隅にあった若君の墓は、今では周りが整備されている。
唯「たーくんのお墓は市の物だから、ちゃんと定期的にキレイにしてもらえるからね」
若「そのようじゃな」
公園内。日陰になるベンチに、並んで座った。
唯「雨宿り以来だね」
若「そうじゃな。何か飲むか?」
唯「ふふっ、まだいいよ。たーくん」
若「ん?」
唯「今朝は、ごめんね」
若「何を申す。わしこそ、守ってやれず済まなかった」
唯「気持ちだけで嬉しいよ。あのね」
若「うん」
唯「超、超、超好き」
若君が、唯の方に体の向きを変え、ふわりと巻いた髪に触れる。
若「わしも、心から想うておる」
唯「うん、嬉しい。令和に来てね、朝も、昼も、夜も、寝る時も、ずっと一緒じゃない。永禄では考えられないくらい一緒で」
若「あぁ。ここまで共に居れたのは、初めてじゃの」
唯「ずっと一緒過ぎて、飽きられたらどうしようって」
若「ハハハ、そのような。有り得ぬ」
唯「逆に私が、飽きたらどうしようって」
若「飽きて…しもうたのか?」
唯「ううん。ますます好きになったよ」
若「そうか。良かった」
唯「好きで、しかたなくて…」
涙が、一粒ポロリと落ちた。
若「なんと、なぜ泣くのじゃ」
慌てて拭う若君。
唯「もうすぐ帰る。ここまで一緒には居られないよね」
若「そうじゃな。戻ればまた、わしにはやらねばならぬ務めが山積じゃ。戦も、いつまた始まるやわからぬ」
唯「離れたくない」
若「それはわしも同じ」
唯「今朝の夢ね、たーくんが…あの」
若「命を落としたか?」
唯「うん…そう」
若「唯の様子で、そうではないかと思うておった」
唯「怖かった。絶対嫌って思った。私を、ひとりぼっちにしないでね」
若「あぁ。その為にも、戦なき世を求めたい」
唯「戦に出ても、絶対、絶対、帰って来てね」
若「うむ…その気持ちは強い。約束が出来ると良いのじゃが」
唯「え?」
若「負け戦の大将も、無事でと送り出されるのは、同じじゃ」
唯「…なんで、なんでそんな事言うの?」
若「必ず、とは申せぬ。そうなるやもしれぬという心持ちで居て欲しいのじゃ」
唯「…」
若「どうした?」
唯「約束くらいしてくれてもいいのに」
若「それは…」
唯「ひどい、私なんか、どうでもいいんだ!」
若「どうでもいいなど、微塵も思うてはおらぬ。落ち着いてくれ」
唯「言ってくれるだけでも安心できるのに!うわーん!!」
泣き始めてしまった。なだめる事ができず、途方に暮れる若君。
唯「うっ、うっ」
若「…唯」
唯「なにっ」
若「此処で、待っておれ」
唯「は、はあ?」
近くに置いた自転車に飛び乗った。
若「すぐ、戻るゆえ」
唯「はあ?!」
若君は行ってしまった。取り残された唯。
唯「えっ?なにが起こったの?ていうか、ひとりぼっちにしないでって言ってるのに、どうして勝手に居なくなるのよー!!」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
若君はいずこへ?
続きます。
[no.709] 2021年10月9日 19:21 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days87~14日8時、ウキウキです
やんわりと、諭される。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅何とか、食卓の席についた唯。
唯「ごめん、お待たせ」
美香子「すごく辛いとか、ない?」
唯「だいぶ戻ってきたから。ご飯食べれば大丈夫だよ」
覚「じゃあ、いただくか」
朝ごはん中。
美「食欲は、あるわね」
唯「うん」
尊「怖い夢って、どんなだったの?」
唯「無理。説明できない」
尊「そう。よっぽどだったんだね」
ずっと考え込んでいた若君が、箸を置いた。
若君「唯」
唯「はい?」
若「遠乗りへ、参ろう」
唯「え?」
若「…」
尊「お姉ちゃん、なにボーっとしてんだよ。せっかく兄さんがデートに誘ってくれてるのに」
唯「え?デート?だって、あとちょっと、できる限り鶴折りたいって言ってたよね」
美「あらまそんな事を」
若「まだ、体が辛いか?」
唯「ううん」
若「出掛けとうはないか?」
唯「ううん、そんなわけ、ないじゃない。そうなの…わぁ、嬉しい!」
若「ようやく、笑うてくれたの」
唯「この後、すぐ?」
若「行けるのであれば」
唯「わかった。あっ、でも、ベリー汗まみれだったから、シャワー浴びてもいい?」
若「支度は、どれだけかかっても良い」
尊「服どうすんの。ワンピース、アイロンかけてないでしょ」
唯「かけるかける!」
尊「デートの一言のパワー、すごいな」
食事が済み次第、元気に風呂場に直行した唯。
若「お父さん」
覚「ん?何だい?」
若「わしは、唯に我慢をさせていたのでしょうか」
覚「そう…だね。君の為に納得はしていたと思うが、鶴という女性にご執心なのを、淋しい思いで見ていたかもしれないね。夢との因果関係はわからないが」
美「今、千羽鶴どこまで進んでる?」
尊「ちょうど800いったかな。まだ糸は通してないけど」
美「じゃあ、忠清くん。ここまでで、作るのはおしまいにしましょうね」
若「承知致しました」
美「帰るまで、唯だけ見てあげてね」
若「はい!」
シャワー後も、アイロンをかけながら大騒ぎ。
唯「今日は、レースのワンピにするっ」
尊「勝負服?」
唯「そっ」
若「誰と戦うのじゃ?」
尊「兄さんと」
若「え?」
美「いかに綺麗とか可愛いいとか思ってもらえるか、頑張るのよ。おなごは」
若「そのままで充分じゃが…」
美「またまた~。よーし、見てらっしゃい。唯、それ終わったら、髪巻いてあげる」
唯「わー、ありがとう!」
尊「母まで参戦か」
ワンピースに着替えた。洗面所。
美「巻きました、グロスもつけました、よし」
唯「イヤリングもしようかな?」
美「あら、いいわねぇ。前に買ったあれ?」
唯「うん。変?」
美「全然。じゃあ、両耳が出るようにピンで留めてあげよう」
唯「わーい!」
毛先がふわふわに巻かれて登場。
覚「おっ、可愛いいな。出来上がりか?」
唯「あとちょっと~」
二階に駆け上がっていく。
尊「愛のパワーだ。さっきまでとは色んな意味で、別人」
若「そう、じゃの…」
下りてきた。
尊「あ、雪だるまのイヤリング。冬限定じゃないもんね。服にぴったり」
覚「うんうん、いいね」
唯「ありがと。たーくん、どぉ?」
若「とても綺麗じゃ、唯」
尊「あ、綺麗だよの応用バージョンだ」
唯「ありがとう。超うれしい!」
美「よっしゃあ!」
尊「こちらは勝利のガッツポーズですか」
唯「たーくんのためだもん」
若「尚更、嬉しい限りじゃ」
そろそろ出発。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.708] 2021年10月7日 18:49 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days86~14日水曜7時30分、夢でも嫌!
見ている方が、血の気が引く。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅薄暗い部屋。褥に、若君が寝かされている。その前に座る唯。
唯「え…何が起こった?私、足軽の格好してる…ここ、吉田城?」
目の前の若君が、ぴくりとも動かない。
唯「時間が戻ったの?…ううん、きっとまた夢、夢なんだ。でも」
若君の右肩に手をかけて、揺する。
唯「起きて!たー…若君!」
反応が全くない。
唯「えっ…嫌、嫌だ若君、ねえ、起きて!誰かっ!どうして誰も居ないの?!」
激しく揺する。
唯「そこは痛い、って、言って!」
動かない。
唯「…」
若君の首元に触れた。
唯「冷たい…えっ」
顔の血色が、みるみる内に失せていく。
唯「嫌、嫌っ、ねえ、ねえったら!あっ、起動スイッチは?…持ってないじゃん私!」
意を決して、掛布団をめくった。
唯「ひっ」
矢が、心の臓を捉えている。周りが真っ赤な血の海になっていた。
唯「キャアアアアアア!!」
ここで、目が覚めた。飛び起きる唯。
唯「はっ!夢…。自分の部屋だ…はぁっ、はぁ、はぁ」
呼吸が戻らない。
唯「はぁっ、ゴホッ、やだ…汗びっしょり。あぁっ、怖かった…昨日、矢じりなんか見たからかな」
時計は、7時45分を指している。
唯「たーくん下に居るよね、居るよね…うぅ、寒い。着替えないと…やだっ、腰が抜けて動けないよぅ」
階段を上がる足音。部屋のドアが開いた。
若君「唯、まだ寝ておるのか?じきに朝飯…なんと、どうしたのじゃ?!」
唯「たーくん…良かったぁ」
明らかにおかしい唯の様子に、駆け寄る若君。
若「いかがしたのじゃ?熱、でもあるのか?…そうではなさそうじゃの」
唯「怖い、夢を見たの」
若「どのような?」
唯「怖すぎて…説明できない」
若「そう、か。なんと…これは、着替えた方が良い」
唯「そうなんだけど、力が入らないの」
若「それは…待っておれ、拭く物を持って参る」
階段を駆け下りる若君。すぐに戻って来た。
若「タオルを湯で絞って参った。皆には伝えたから、ゆっくりで良いぞ」
タンスから、着替えを取り出した。
若「手伝うても、良いか?」
唯「お願いします」
着ていたびしょびしょのTシャツを脱がせ、温かいタオルで拭き始める若君。
若「こんなに冷とうては、震えて当然じゃ」
着替えさせた後、まだ小刻みに震える唯を、ギュっと抱き締めた。
若「何とか、温まって欲しい」
唯「ごめんね」
時間をかけ落ち着かせた後、手を貸す。
若「立てるか?」
唯「うん、たぶん。あっ」
よろけた唯をキャッチ。
若「おぶってやろう。さぁ、背中に」
唯「はい。ごめんなさい」
若「病、ではないのじゃな?」
唯「うん。それは違うよ」
若「腰が抜ける程、怖い夢とは。わしが助けに参らねばならなんだな?」
唯「はは…」
若「…」
若君におんぶしてもらい、一階へ下りていきました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.707] 2021年10月5日 19:10 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days85~13日15時、発掘は再会だ
今まで、相当奥に隠れていた模様。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅ケーキも美味しくいただき、談笑中。
唯「あれ?折り紙、鶴じゃないのが混じってる?」
ラッパのような形の物が何個かある。
美香子「あ、これね。千羽鶴の一番上の飾りにしようと思って、くす玉作ってたのよ」
覚「出来上がりは、こうだ」
タブレットを開いて画像を見せる。
尊「よく、七夕飾りの上に付いてるヤツ?」
美「そうそう。この折ったのをまとめて結んで、丸くするのよ」
唯「なんか、難しそう」
美「紙が一回り大きいし、きちんと折り目をつけて進めれば大丈夫よ。…ふふっ、忠清くんったら」
若君 「はい?」
美「早くやってみたい!って顔が、可愛いい」
若「これは、忝ない」
唯「えー、見たかったぁ」
早速全員で作り始めるが、
尊「一行程進む毎に、写真撮っとこうか。その方が、戻ってからおさらいしやすいでしょ」
唯「あんた、ホント賢いよね。よろしく~」
黙々と進む中、ふと、唯の手が止まり、若君をじっと見ている。
唯「たーくん…」
若「…」
唯「たーくん」
若「あ、済まぬ、何じゃ?」
唯「呼んだだけ」
美「なにそれ。集中してるんだから、邪魔しちゃ駄目よ」
唯「ごめん」
晩ごはん前に、まあるく完成。
唯「かわいい!鞠みたいだね」
若「お母さん、ありがとうございました」
美「いえいえ~楽しかったわ」
8時。晩ごはん後。
美「唯」
唯「なに?」
美「お風呂一緒に、どう?」
唯「あ、うん!行く行くー」
リビングに男三人。
尊「兄さん、あの」
若「何じゃ?」
尊「前に、僕の気持ち…存念を聞きたいって言ってましたよね」
若「あぁ。聞かせてくれるのか?」
尊「はい。今がチャンスかと。お父さん」
覚「ん?」
尊「僕達、実験室に行くよ。ごめん」
覚「サシで話したいんだろ?いいさ。あ、そういう事なら、唯にも内緒か?」
尊「うん。お風呂出たら、来るなって伝えてくれる?」
覚「了解~」
尊「後で、三人でお風呂入ろうよ」
覚「おっ。じゃあ待ってるよ」
尊「行きましょう、兄さん」
若「何やら大仰じゃのう」
尊「そんな事ないですよ」
唯達が風呂から出た。男子二人はまだ実験室。
唯「なんの話をしてるのやらー」
大人しく待つ唯。リビング奥の棚の前に立った。
唯「これは、たーくんが初めて折った大きい鶴。あと…写真、増えてるな」
海で撮った、水着姿ではしゃぐ三人の写真。
唯「うん、いい感じぃ。ん?なんか奥に…」
小さい入れ物を見つけた。
唯「なにこれ?指輪のケースはちゃんと二つあるし?」
開けてみる。中から、金属製の尖った物体が現れた。
唯「えっ?あっ、これ…キャー!」
美「どうしたの?!唯!」
叫んだ拍子に、中身が床に落ちてしまった。
唯「これ、これって…」
美「そう。忠清くんの体に刺さってた、矢じりよ」
唯「怖い、なんでここにあるの?!」
美「それはね」
覚「あー、待て。置いていきたいと言ったのは、忠清くんだ。なぜかは、彼の口から直接聞いた方がいい」
美「それもそうね。あ、ちょうど戻って来たわ」
尊「ただいまー」
若「お父さん、お待たせしました。ん?どうした、唯」
唯「たーくん、これ…」
若君が、拾い上げる。
若「残してくださっていたのですね」
唯「永禄に、持って行かなかったんだ」
若「それは…持ち帰れば、いずれまた誰ぞを殺めるやもしれぬゆえ」
唯「そう…なんだ」
美「取っておいたのはね、唯にとっては見たくもない物かもしれないけど、間違いなく、忠清くんと私達を繋いだ架け橋の品だからよ」
覚「これのお陰で、会えたからな」
若「そうですね」
唯「うん。まぁ、そうなるね」
若「解せぬ顔をしておるの。大切にして頂き、わしは有り難いと思うておるぞ」
唯の頭を、ポンポン。
唯「はぁい。わかりました」
尊「じゃ、お風呂行きます?」
覚「行くかー」
若「はい」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
尊と若君の秘密会談の中身は、後日。
13日のお話は、ここまでです。
[no.706] 2021年10月3日 18:47 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days84~13日14時、ギュっとね
相手を思う気持ちで、自然と体が動く。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅ケーキ店の前。
唯「あ」
尊「何?」
唯「あの、すいません」
店員「いらっしゃいませ」
唯「あのう、予約してないんですけど、今このホールケーキにメッセージ入れたりできますか?」
尊「あー」
店「出来ますよ。メッセージはチョコプレートに書いて乗せますが、よろしいですか?」
唯「良いですぅ。お願いします!」
店「文章はどのように?」
唯「結婚20年おめでとう、で」
店「かしこまりました」
尊「お姉ちゃん、ナイス。すっかりショートケーキ買ってくつもりだったよ。よく気が付いたね」
唯「ショーケースの中にあったから、ひらめいて…ダメ元で聞いたけど、良かったぁ」
若君「ケーキでも、両親を祝えるのか。それは良い」
尊「前回買った時は、一日早いクリスマスで、ケーキ入刀は兄さん達だったけどさ、今回は」
唯「もっちろん、二人にやってもらうよ~。わぁ、楽しみ!」
ケーキその他購入。
尊「贈呈式さ、大分やり方の予定変わるよね」
唯「うん。ケーキあるし、もう帰ってすぐ始める?」
尊「そうだね」
帰宅。
唯「二人を席に座らせとくから、後から入って来て」
尊「了解」
若「承知した」
唯「ただいまー!」
覚「お帰り。暑かったろ」
美香子「お帰り。あら、一人なの?」
唯「いいから、座って座ってー」
唯に誘導され、訳も分からず食卓の席につく両親。
覚「帰って早々、何をバタバタやってるんだ?」
美「何か企んでる?」
唯「たーくん、準備OK?」
若「良いぞ」
唯「尊は?」
尊「いいよー」
唯「では、いざ!」
突然、パンパンパン!と、子供達三人がクラッカーを鳴らした。
覚「わっ!」
美「キャー、何?!」
唯が花束を持って来た。
覚&美「え?え?」
唯「結婚20年、おめでとう!」
花束を受け取る両親。
覚「ありがとう。いやぁ、驚いた。なんか、照れるな」
美「ありがとう。サプライズしてくれたのね。まぁ、綺麗なお花~」
唯「たーくん、来て」
若「お父さん、お母さん。心ばかりの品でございますが」
覚「あ。ペアの…湯呑みか?」
若「わしが選びました」
美「まぁ…」
尊がカメラを構えている。
尊「準備いいよ。どうぞ存分に」
覚「何を?」
尊「8か月前、残念がってたじゃない」
覚「…あー」
若君が両親に近づき、両腕を広げた。
覚「そういう事か。よーし、じゃあ、2回分行くぞ!ありがとう、忠清くん!」
ギュー。
唯「たーくんがペチャンコになりそー」
美「私もいいの?」
若「勿論です」
美「ありがとう~」
ギュッ。からの、頭なでなで。
若「あっ…」
美「うふふ、赤くなった。あい変わらず可愛いい反応ね~」
唯「もーっ、たーくんで遊ばない!」
尊「はいはーい、ケーキ出すよ~」
覚「おっ、これもスペシャルだな」
唯「はい、ナイフ」
美「あらん。もしかして入刀?」
唯「どーぞ」
仲良くケーキ入刀。
美「ふう。なんか色々びっくりしちゃったわ」
覚「紅茶いれるよ。さあ、座って座って」
プチパーティーは、しばらく賑やかに続きました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.705] 2021年10月1日 19:51 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days83~13日9時、夏休みと言えば
遊びから学ぶ事もあるし。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅覚「じゃ、行ってくる。昼前には戻るから」
唯「ごゆっくり~」
美香子「デートじゃないから」
両親が、墓参りに出かけていった。
唯「さて、と。鶴がんばって折り折りするかなー」
尊「成長したねお姉ちゃん」
唯「は?」
尊「だって学生の頃さ、夏休みの宿題、今くらいの時期でも全然手付けてなかったじゃない。そんなお姉ちゃんが今や、せっせと」
唯「たーくんのためだもん」
尊「愛の力か。兄さん、お姉ちゃんね、その宿題を挙げ句の果てに僕にやらせようとしてたんですよ」
若君「それはならぬの」
唯「尊が問題解くと、全部正解になるから手抜いてって」
尊「ひどいでしょ?」
若「困った姉君よのう。ハハハ」
その時、ピンポーン。玄関の呼鈴が鳴った。
尊「あ、来た来た。僕行ってくるよ」
玄関に向かう尊。
唯「グッドタイミング。ちょうどお父さん達居ないし」
若「何じゃ?二人は何の話をしておる?」
唯「湯呑みがデパートから届いたんだよ」
若「なんと。来訪があるだけでそれがわかるとな」
尊「はーい、無事到着~」
段ボールを開ける。
唯「うん、いい感じ。やっぱたーくんセンスいいわ」
若「喜んで頂けるかのう」
尊「心配無用ですよ」
唯「たーくん、ハグの用意しとかないとね」
若「そうじゃな」
しばらくすると、今度は尊のスマホが鳴った。
尊「あれ、お母さんだ。…はい、うん、いや今はいいよ。昼から三人で出かけるから、その時買って来てもいい?ん、じゃそういう事で、じゃあね」
唯「お母さん、何って?」
尊「ケーキでも買って帰るかって言われたんだけど」
唯「あぁ。夕方、プレゼント贈呈式の時の方がいいよね」
尊「うん。だから自分達で買うって言っといたよ」
昼過ぎ。
唯「そろそろ出かける?」
尊「うん」
覚「暑いぞ?車、出すか?」
唯「ううん、大丈夫。ありがと」
美「帽子かぶって行きなさいね」
三人、麦わら帽子をかぶりプラプラ歩く。
唯「なんかさ、こんなカッコだと、小学生の時に神社に虫取りに行ったの思い出す」
尊「うん、あったあった。お姉ちゃんさー、鳴いてるセミ捕まえるから、もううるさくて仕方なかったからよく覚えてるよ」
唯「セミハンターの血が騒いで」
尊「何だよそれ」
若「ハハハ」
スーパーに到着。
唯「どうしよっかな。先にお花買う?」
尊「うん。本来の目的からで」
花屋の店頭。
若「色鮮やかじゃ。この、山の様にある中から選んでいくのか?」
唯「んー、それでもいいけど、おまかせにしちゃうよ」
若「任せる?」
尊「まぁ見ててください」
唯「すみませーん、予算これだけで、花束一つお願いしまーす」
店員「ご希望の花とかありますか?」
唯「どうしよっかな」
尊「お母さんて、黄色好きじゃない?マニキュアも薄い黄色にしてたし」
若「絽の召し物も、そうであったの」
唯「そういえば、前に見送りの時、黄色いサマーセーター着てた気がする。じゃあ、黄色多めで作ってください」
店「わかりました」
花束完成。店を後にする。
唯「お花いい香り~。フローラルぅ。でも思ったより重ーい」
若「わしが持とう」
唯「ありがと。うーん、たーくんが持つと…似合い過ぎる」
尊「自分が渡されたいんじゃない?」
唯「ホントだよ~。さて、ケーキケーキと」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.704] 2021年9月29日 20:28 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days82~13日火曜8時、活用します
完全に身に付くまでの、グッズ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅唯が目覚めた。あい変わらず、朝起きるのは遅い。
唯 心の声(早起きすると、たーくんの髪を結べるって特典がぶらさがってても、起きらんないんだよねー)
階段を下りる。下りきって、一歩リビングへ踏み出したのだが、
唯 心(ん?)
思わずバックして、階段に戻った。
唯 心(なに?なんか今…)
今度は、そーっと顔だけ出して様子を覗く。
唯 心(やーんなになに!たーくんが、現代男子になってる~!)
食卓で、若君と尊が談笑している。若君が、小さいプレイヤーを手にしており、耳からはイヤホンのコードが垂れている。
唯 心(いつの間に音楽に目覚めたの?軽ーくリズムなんか取っちゃって!J―POP?まさかの洋楽?!んもー、たーくんったらぁ!)
ようやく移動してきた。
唯「おはよっ」
若君「おはよう、唯」
尊「おはようお姉ちゃん」
唯「たーくん、なに聴いてるの?」
若「お、これか。唯にも聴かせてやろう」
イヤホンを外し、唯の耳へ。
唯「えー、なんだろ~ワクワク。…ん?」
若「どうじゃ、良かろうに」
唯「たーくん、これ…」
若「ん?」
唯「ラジオ体操第一じゃん」
若「良いじゃろ?」
唯「どんだけ好きなのよ。しかも、なんかプレイヤーがレトロな…カセットテープってヤツ?」
尊「そうだね」
唯「あんたが工作した?」
尊「違う。だって、兄さんに止められてるし」
覚「それ、僕があげたんだ」
キッチンでは、両親が仲良く朝ごはんの支度をしている。
唯「はあ?」
覚「戻ってからも体操を続けるって言うから。リズムとか確認しやすいように、プレイヤー、最新の小さいヤツ買ってあげるって言ったんだけど」
若「負担をかけとうないので、断ったのじゃ」
唯「ふーん。で、これは?」
覚「元々ある物ならいいだろって。古いけど、カセットテープにラジオを録音して、僕のもう使わないプレイヤーで再生してもらおうと。その大きさなら、懐に忍ばせながら運動できるし」
唯「電源は?」
覚「電池でもコンセントでも、どっちもいけるタイプだから」
尊「おもナビくんの、太陽電池使って充電してくれれば」
唯「はあ」
若「お父さん、大切に使わせて頂きます」
覚「プレイヤーも、忠清くんに使ってもらえて喜んでるよ」
唯「なんなのよ。私のトキメキを返して~」
美香子「はいはい片付けて、朝ごはんよ~」
朝ごはん中。
覚「今日、この後母さんと二人で墓参り行ってくるから、三人で留守番頼むな」
尊「ついてかなくていい?」
覚「ん、まぁいい」
唯「わかったー」
美「プレイヤーと言えば、おもナビくんだっけ?観てるの?」
唯「うん、観てる。ちゃんと動いてるよ」
尊「良かった」
唯「Blu-rayさぁ、一回全部通して観たんだけど」
若「お父さんお母さんの有り難きお言葉に、涙して観ました」
覚「そう?感動させちゃった?」
唯「夜こっそり観たんだけど、翌朝二人とも、泣き過ぎて目が腫れちゃって」
若「何事かと、少々騒ぎになりました」
美「そうなの~」
尊「太陽電池はどう?調子はいい?」
唯「うん大丈夫。なんだけどさぁ、あれ、灯籠に乗せると案外目立つんだよ。で、不審物扱いになりそうだったから」
美「うん」
唯「さわるな、忠清。ってたーくんに紙に書いてもらって、貼り出しといた」
美「ぷっ。何それ~」
尊「兄さんが、いいように使われてる…」
覚「誰の入れ知恵か、すぐバレるな」
唯「いいんだよ、だってたーくんの字だもん。文句は言われない」
若「これで周りに、力関係もつまびらかになりまして」
美「ホントよね」
尊「怖ぇ正室だと思われてるよ、きっと」
唯「えぇ?いいよ、たーくんにそう思われなければ」
若「唯ほど怖い物は、他にないが」
唯「やだー!それはやめて~」
若「ハハハ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.703] 2021年9月27日 19:40 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days81~12日13時、月に愛を誓います
寝不足で満腹なんて、よく起きていられたモンだ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅写真館を出た。車内。
覚「昼、何か食べたい物あるか?」
尊「朝あんなに食べたから、そうはお腹空いてないでしょ」
唯「まぁ、そうだね」
尊「兄さんもですよね」
若君「あぁ、当分は何も入りそうにない」
覚「じゃあ、どこも寄らずに、このまま帰るか?」
美香子「そうしましょ」
尊「いいの?ワンピースおニューなのに」
美「写真いっぱい撮ったし。いいわよ。やっぱり家が一番だしね」
尊「それ、旅行あるあるだな」
唯「昼はサラっと?また冷麦?」
覚「またとか言うな。なんなら、そうめんにするが」
唯「定番のもう一つ?出されても、どう違うかわかんないし」
覚「麺の太さが違う。そうめんの方が細い」
唯「へー、そうなんだぁ。って、聞いてもすぐ忘れそう」
美「ふふっ、なんか…いいわね」
覚「何が?」
美「この、何気ない日常会話が、いい」
尊「こんなしょーもない会話が?」
美「家族、って感じじゃない」
覚「そうだな、何も特別じゃないのがいいな。そうだ、唯、尊、忠清くん」
唯「なに?」
若「はい」
尊「何、改まって」
覚「昨日今日、僕と母さんに付き合ってくれて、ありがとな」
美「本当。ありがとうね」
唯「ううん、すっごく楽しかったから」
若「また新たに様々な経験もさせて頂きました。ありがとうございます」
尊「で、じきに結果がわかると」
美「そうね。神のみぞ知る」
尊「えっ?!やっぱりそうなの?!」
美「冗談よ。自分で話振っておいて、何よその驚き方は」
尊「え…」
全員「ハハハ~」
夜になった。9時のリビング。尊が風呂から出た。
尊「あれ?兄さん一人?お姉ちゃんは?」
若「先程、眠ったところじゃ」
尊「えっ、早っ。確かに、昼間鶴折りながらウトウトはしてたけど。ゆうべ寝るの遅かったんですか?…って、しまった、聞かなくてもいい事聞いちゃった」
若「いつ眠りについたかは、覚えてはおらぬ」
尊「そうですか。それ以上は聞きませんから」
若君が、夜空を見上げている。
若「今宵も、月が綺麗じゃのう」
尊「わぁ、嬉しい!」
若「嬉しい?…何ゆえに?」
尊「あの、この前吉田さんが家に来た時に、留学先では英語を話すって言いましたよね。覚えてます?」
若「勿論覚えておる」
尊「その英語で、アイラブユー、日本語に訳すと、私はあなたを愛しています、って言葉があるんですけど」
若「うむ」
尊「日本人はそんな直接的な言い方はしない、訳すなら、月が綺麗ですね、位にしなさいと諭したという、ある人の逸話がありまして」
若「ほぅ。それで喜んだと。まことに尊は、才覚がある」
尊「恐縮です」
若「実に風情があり、良い話じゃの」
尊「兄さんには必要ないですよね。だってお姉ちゃんが好き好き言ってるのを、うなずいて聞いてればいいんですから」
若「いや、わしはお父さんの弟子であるので」
尊「そうでした。じゃあ直接、愛の言葉を囁いてやってください。あ、この逸話、お姉ちゃん絶対知らないですから」
若「そうか」
尊「うわっ、しまった…すいません」
若「ん?なんじゃ?」
尊「こんな話、恋愛のレの字も知らない僕が言うのは、ちょっと図々しかったですね」
若「ハハハ。わしも唯に出会うまでは無頓着であったゆえ、構わぬ」
尊「ありがとう兄さん。あー、良かった」
若「良かった?」
尊「だって、兄さんが元々恋愛マスターだったら、お姉ちゃんの入る隙なく、結果僕達出会えてなかったんじゃないかな」
若「そうか。確かにそれは幸いじゃった」
尊「はい」
若「それにしても、つくづく月に縁があるのう。ハハハ~」
尊「ははは~」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
漱石ですね。
12日のお話は、ここまでです。
[no.702] 2021年9月25日 19:32 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days80~12日11時、可愛くて可愛くて
79話の前書きで、少し言葉が足りなかったのでここで訂正します。
創作意欲をかきたてるドラマに出逢えた、を改め、ドラマは勿論大好きでもっと先が観たくてつい創作意欲が湧く、です。失礼致しました。┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
何度も言うが、今は緩んでて良し。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅ホテルをチェックアウト後、写真館にやって来た。
若君「訪れるのは久々じゃのう」
尊「思ったより混んでるね」
覚「お盆は人が集まるから、この機会にってケースが多いらしいんだ」
唯「ふーん」
美香子「唯、ちょっといらっしゃい」
唯「なに?」
化粧室。
美「グロス、持ってる?」
唯「うん。これ」
美「白ワンピースだとこのままでもいいけど、今日はひまわりの柄に負けないよう、ちょっと赤みを足すわね」
口紅を薄く塗った上に、グロスを重ねた。
美「うん、綺麗」
唯「わぁ、すごい、ありがとうお母さん」
男性陣の元に戻ると、ちょうど順番が来て、撮影室に通された。
覚「おっ、いいじゃない」
尊「さすがにスッピンで撮影はね」
若「…おぉ」
若君は、一瞬ハッとした表情をした後、はにかんだような笑顔になった。
唯 心の声(喜んでくれてる…もっと早く、ちゃんとしとけば良かったな。ごめんね、たーくん)
撮影スタート。
唯「なんかさぁ」
尊「ん?」
唯「お父さんのはしゃぎ方が、朝から妙に激しくない?」
尊「確かに。あ、ゆうべいい事あった?」
美「それは置いとくけど」
尊「置いとかれたな」
美「ご機嫌なのは、これを身に付けてるからなのよね」
唯「なに?」
美香子の首元からチラリと見えていたネックレス。隠れていた下の方を引き出した。
若「それは、もしや」
尊「結婚指輪だ。そっか、ネックレスに通したんだね。今日はちゃんと連れて来たんだ」
美「はまんないからといって、お留守番も何だから。唯達の指輪だってお出かけしてるのにね」
尊「昨日は着物だったから、今日がお披露目なんだね」
覚「へへ~。いいだろう?」
唯「うん。みんな一緒に来れて、良かったね」
五人で撮った後、両親二人で。その後、唯と若君で撮り始めた。
カメラマン「お二人お若いので、もう少し動きのあるのを撮りましょうか」
唯「動く?」
カ「座るご主人の後ろから奥様がハグ、で行きましょう」
唯「えー」
準備完了。
唯「えーい!」
美「唯~!」
尊「あー」
若「く、苦しい…」
唯「ごめぇん」
覚「技かけてるんじゃないんだから。加減てのがあるだろう」
カ「微笑ましいですね。はい、では次は立っていただいて、逆にご主人が奥様を後ろからハグしてください」
チェンジ。
若「こう、でしょうか」
唯「え~恥ずかしい…」
カ「はい、とてもいいですよ~」
慈しむような、優しいバックハグ。
尊「兄さん、あんな顔するんだ」
覚「なんというか…なんというか、なんというかだな」
美「ひまわりを包む日の光?」
尊「そこまで考えて、シャツの色選んだの?」
美「ううん、偶然だけど…」
撮影終了。持ち帰る写真を選ぶ。
唯「やーん、これいい!あっ、これもいい~」
尊「うるさいなー、わかったから」
若「…」
美「照れちゃう?」
若「心の内も全て、晒しておるような」
覚「だね。いいんだよ、今はそれで」
尊「こんなトコでいい?」
美「いいわよ」
唯「永禄に、持って行ける?」
尊「余裕」
唯「やったー、家族写真も入れてねっ」
そろそろ帰ります。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.701] 2021年9月23日 20:34 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days79~12日8時、思案します
記念すべきアシガール第一回放送から4年ですか…金曜22時にしか出逢わなかった私は、超新参者でございますが、こうして本日も、創作が続いております。
創作意欲をかきたてるドラマに出逢えた幸せと、このアシカフェでほぼ野放し状態で自由に描かせていただける事に感謝感謝です。┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
それぞれの時代でできる事を。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅レストランへ移動中。
尊「お母さん、もしかして、みんなの服の色合わせた?」
母のワンピースは、ポートネックで肘近くまで袖があり、体のラインを拾うか拾わないか位の、細身の膝下丈。
尊「そのワンピースが深緑でさ、お姉ちゃんがひまわり柄でさ、僕と兄さんのシャツが、黄色だったり緑だったり」
尊は緑系のチェック、若君はクリーム色の無地。
唯「ボタンのあるシャツひさしぶりで、たーくん手こずってたから留めてあげた」
尊「で、お父さんは」
覚「いいだろ?」
白シャツに茶系のベスト。蝶ネクタイに緑色が入っている。
尊「コーヒー淹れるのが上手そう」
美香子「ワンピースはおニューだけど、後は元々ある物で考えてみたの。家族でトータルコーディネート、ね」
尊「写真仕様なんだね」
朝食は、バイキング形式。
唯「さー、行くぞぉ~!」
尊「食事となるとスイッチが入るな」
唯「たーくんあのね、食べたい物を好きなだけ取っていいんだよぉ」
美「取り過ぎて残してはダメよ」
若君「少なく取るのも、構わぬと」
尊「さすが。大人だ」
若「しかし、これは…」
食事が並ぶテーブルが、延々と続いている。
若「何が何やら…」
尊「わからない物は説明しますね。お姉ちゃん、もう遥か彼方に進んでってるんで」
若「世話をかける」
若君に付き添う尊。
尊「うーんと。卵だけでも、ゆでたまごもスクランブルエッグも温泉たまごもあるしなー。こりゃ僕だって迷うな」
若「…」
尊「ん?兄さん悩んでる?…いや、違うな。もしかして、永禄の皆さんに食べさせてあげたい、とか思ってます?」
若「それは、思う」
尊「ですよね」
若「思う事は、他にも数多ある」
尊「あー。こんなにいっぱい選択肢も量もあって、贅沢ですもんね。なんか、すいませんって思います」
若「いや。時代が違うゆえ、良い悪いは一様には申せぬ」
尊「比べられないと」
若「わしがすべきは、永禄を生きる民がひもじい思いをせず、平穏に過ごせるよう努める事じゃ。その為には、やはり戦はしとうない」
尊「それで、千羽鶴に願いをこめるんですね」
若「この先の世に居る内に、願掛けができるとは思わなんだからの」
尊「また、手伝いますね」
ようやく全員揃った。
全員「いただきまーす」
美「あら、尊も忠清くんも、お皿が色とりどりね
~」尊「兄さんが悩んじゃってたから、量少なめ種類多めにした。二人で分け合うよ」
若「残さぬように頂きます」
覚「偉いな二人とも。それでも、びっくりするような量ではないけどな。問題は」
一斉に唯に視線が集中。
唯「なに?あと一回おかわりして、最後はデザートが基本っしょ」
尊「お腹出てくるよ」
唯「そこはねー、エリさんのワンピ最高。いっくらでも入る。だってさー、こんな贅沢たぶんもう一生ないよぉ?」
尊「んー、まぁそうだね今んところ。でもそれ、一事が万事そうだから、キリがなくない?」
唯「おかわり行ってくるー」
尊「聞いてねーなー」
天井まで届く大きな窓から、レストラン全体に朝日が差し込んでいる。
美「いい朝よね…。さっき、こんな機会一生ないって言ってたけど」
覚「うん」
美「私は、一生なかったであろう様々な体験を、忠清くんにさせてあげられて嬉しいわ」
若「お母さん…」
美「あまり、特別な事できなくてごめんなさいね」
若「いえ、この日々、毎日特別と思うておりますゆえ」
覚「さすが、一日一日感謝して生きてるんだな。見習わないとな」
唯「なんの話~?」
尊「また盛り盛りになって戻ってきた。このヒトも、ある意味一日一日しっかり生きてる感じ」
若「そうじゃのう」
唯「みんな、しゃべってばっかだなぁ」
美「優雅に寛いでるのよ。ほら、今日も空はあんなに綺麗だし」
朝の柔らかな光に包まれながら、朝食タイムは、ゆっくりゆったりと過ぎていきました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.700] 2021年9月21日 19:43 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days78~12日月曜6時20分、リズムに合わせて
そんなに見つめないで~。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅静かな朝だ。若君が目覚める。
若君 心の声(そうか、ここでは鳥のさえずりは聞こえぬか)
傍らでスヤスヤ眠る唯。
若 心(ハハッ、やはり、褥の横幅を余す所なく使った寝姿じゃの)
起こさないようそっとベッドから抜ける。カーテンを開けた。
若 心(おぉ、下はこのような風景だったのか)
ビルや、ビルの隙間の家々が見える。
若 心(それぞれの暮らしが、そこにあるのじゃな。どの時代も変わらぬ)
時計が、6時25分を指している。
若 心(お、体操の時間じゃ)
テレビのリモコンを手に取るが、勝手がわからない。
若 心(家と違うてわからぬ…)
なんとか点け、チャンネルも合わせたが、音量の下げ方がわからない。
若 心(これで下げるのか、いや、上がっておる!)
時間になり、軽快な音楽が大音量で流れた。
唯「ひゃあ!なに!」
唯が飛び起きる。
唯「どしたのたーくん、あーうるさい!リモコン貸してっ!」
ようやく普通の音量に。
唯「あーびっくりした。おはよう」
若君「おはよう、唯。済まぬ、起こさぬよう努めたつもりが」
唯「いーよー。私も体操しよっと」
二人仲良く、ラジオ体操。
若「共にするのは初めてじゃの」
唯「そうだね。でもちゃんとできるんだよー」
若「両親が、皆できるものだと申されておったが、まことにそうであるな」
最後、深呼吸で終了。
唯「あー、動いたらお腹空いたっ」
若「朝飯は何時からじゃったかのう」
唯「8時からだから、7時50分に着替えて部屋の前に集合だよ」
若「そうか」
唯「ふぁ~。やっぱまだちょっと眠いかな」
若「唯は、また寝るのか?」
唯「え?」
若「寝てしまうのか?」
唯「それ、寝るなって言ってるのと一緒じゃん」
若「食事まで時間がある」
唯「ありますねぇ。えーと、いつの間にやら、ずいぶんと…お近くにいらっしゃいますねぇ」
若「…」
唯「もー、目で訴えるの、反則!」
7時50分。部屋の前。
美香子「おはよう~」
覚「おはよう、忠清くん、唯」
若「おはようございます」
唯「ふぁ~、おはよぉ」
覚「眠れてないのか」
美「ふーん」
唯「なによその、なんか言いたげな感じ!今朝は早く起きたからだよぅ」
若「そこまで早うはなかったがのう」
唯「私の話はいいから。あ、お母さんのワンピ、お披露目だねっ」
覚「どおどお?忠清くん、よく、似合ってると思わない?」
若「はい。よう似合うておられます」
美「ダメよ~お父さん、そんな誘導尋問しちゃ」
覚「ん?ははは」
唯「超ご機嫌じゃん」
若「尊が居らぬの」
唯「あれ、ホントだ。どうした?」
尊部屋のドアが開いた。
尊「お、おはよう。遅くなってごめんなさい」
覚「どうした。珍しいな」
尊「着替えなきゃいけないのを忘れてて」
美「おやまぁ。高級ホテルだからそこはね」
尊「あ、ワンピースそれなんだ。いい色だね」
美「あらありがと。じゃ、行きましょうか」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.699] 2021年9月21日 19:38 夕月かかりて(愛知)さん 返信今までの二人の令和Days、番号とあらすじ、36まで
中秋の名月…の筈が、こちらはガッツリ雨雲に隠れております(>д<)ご覧になれる地域の方は、どうぞお楽しみください。
さて、投稿し始めてから大分経ってしまいましたが、平成Daysの時と同じくあらすじを出します。
番号が36までなのは、描いている日付の区切り(今回は8月2日のお話まで)に合わせたためです。通し番号、投稿番号、描いている日付、大まかな内容の順です。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅二人のもしもDays3no.572、とある年の3月下旬、遠出して花見
二人の令和Days1no.585、2019/7/17、スイッチ起動させてしまった唯。若君と共に令和に登場
2no.590、7/18、何かを訴えている唯
3no.592、7/18、旅行先決定。尊は受験勉強後回しに
4no.593、7/18、無事同部屋&面会時間取っ払いに
5no.594、7/19、マクワウリを食べる
6no.595、7/20、バーベキューパーティー開催決定で準備。働かざる者食うべからず
7no.596、7/20、花火などを画像で説明。沼で拾い物は大変だった
8no.597、7/21、吉田君登場に気が気でない若君
9no.598、7/21、三人の様子を観察していた尊と美香子
10no.603、7/21、仲良く水着を選ぶ男子達
11no.604、7/21、ビキニ選びで大騒ぎ
12no.605、7/22、コンロや浮き輪など買い込む。美香子が若君に頼み事
13no.606、7/23、芳江とエリにオムレツを振る舞う
14no.607、7/24、プール。白過ぎる男子達
15no.608、7/24、タピオカドリンクは若君に飲ませない
16no.609、7/24、巨大滑り台に挑戦
17no.615、7/24、泡にはならない人魚姫
18no.618、7/24、生きてるって素晴らしい
19no.619、7/24、互いの呼び名を変更で親密度アップ
20no.620、7/25、急に体操する両親に戸惑う若君。高野豆腐入りのミニハンバーグ
21no.623、7/26、金曜は若君シェフの日。今日は餃子
22no.624、7/27、地元のお祭りを見に行く
23no.625、7/28、バーベキュー予行練習。シャボン玉で幻想的な世界
24no.626、7/29、エリにワンピース芳江にサンダルを貰う
25no.627、7/30、バーベキューパーティーの買い出し。人並みがわからない唯
26no.629、7/31、飾り付けの工作を着々と。若君が両親をマッサージ
27no.630、7/31、スイカの重さや大きさは
28no.631、7/31、バーベキューパーティースタート。アイスは転がして作る
29no.632、7/31、蚊取り線香と激しいポップコーン
30no.633、7/31、スイカを切り分け花火を楽しむ
31no.634、8/1、答えが5になる二回目の旅行発表
32no.635、8/1、今後は経済活動に参加する若君。マニキュアの手伝いも
33no.636、8/2、クリニックの休診日説明とホワイトソースの素作り
34no.637、8/2、昼寝をしに全員二階へ上がる
35no.639、8/2、夢で若君がドライブに誘う
36no.640、8/2、現実と夢がリンク。カニクリームコロッケ爆発
[no.698] 2021年9月19日 19:43 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days77~11日23時、地上に瞬く星
都会は、空もなかなか見えないけれど。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅若君「…」
唯「たーくん?」
外を眺めたまま、若君が話し出す。
若「こうではなかった時、を考えておった」
唯「どんな?」
若「唯が、永禄に来なければ、また、わしに出会わなければ」
唯「うん」
若「ここに座るのは、この先の世の男じゃ」
唯「ん?あぁ、でも私田舎もんだからさ、こんな所に連れて来てくれるヒトならだけどね」
若「珍しい」
唯「へ?」
若「普段なら、そんな事有り得ない、などと申すのに」
唯「今日は、じっくり話を聞いてあげる」
若「そうか。で、羽木は、とうに滅びておる」
唯「うん。他に戦に勝つ方法がなければね」
若「わしは、愛など知らぬまま」
唯「阿湖姫は、家同士で結婚の約束はしてたけど会ってないもんね。でもたーくんなら、どんな姫が相手でも優しくしてたと思うけど」
若「今日は随分と殊勝な」
唯「なによ。ちゃんと聞いてるでしょ?続きは?」
若「あぁ。唯は、この先の世の男と幸せに暮らすであろう」
唯「たーくんを知らないままなら、いつかは誰かとそうなるだろうね」
若「少なくとも、戦など知らずに済む」
唯「で?」
若「話はここまでじゃ」
唯「そっちが良くない?って、いつもの仮定の話?」
若「そう…じゃな。いつも申すが、唯の幸せを願っての事じゃ」
唯「ふーん」
若「またか、と思うておるのであろう?」
唯「ん?まあ。えーっと。…あのね、私の前には、たーくんに続く道だけがまっすぐ伸びてた」
若「…うん」
唯「永禄に飛んだのも、たーくんと出会ったのも、好きになったたーくんに振り向いてもらいたくて頑張ったのも、結果羽木を助けたのも、目の前の道をまっすぐ進んだだけ」
若「…必定であったと」
唯「まっしぐらに走って、たどり着いたゴールがたーくんでホントに幸せだよ。たーくんと一緒に居ない私は考えられない、存在しないんだよ」
若「わしも、唯が居ない世は考えられぬ」
唯「心配してくれるのは嬉しいよ。でもそろそろわかって欲しいんだけどな。ずっと一緒に居てくれる方が、何倍も、何万倍も嬉しい」
若「それは、わしもじゃ。なのに、つい考えてしまい…堂々巡りで済まぬ」
唯「あのね、前におふくろさまにね」
若「吉乃殿に?」
唯「お前のおりたい場所に力を尽くし、ただおればよい、って言われたの」
若「そうか…。吉乃殿が母上でおられる事に感謝せねばの」
唯「たーくんのお母さんでもあるじゃん。妻の母、でしょ?」
若「ん?そう、か。…ハハッ」
唯「え、なに?」
若「いや、信近に、父上と声をかけたらさぞや愉快であろうと」
唯「あはは~、それ、腰抜かしてしばらく動けなくなるって」
若「母上か…」
唯「でね」
若「あぁ、済まぬ」
唯「私のおりたい場所は、永禄とか令和とかそういうのじゃなくて、たーくんのそば、なの。それだけなの。だから、そばに居させてね」
若「…」
唯「離れるなんて、ぜぇーったい、イヤだからね!」
若「唯…」
唯「たーくん優しいから。もうね、もしこうだったら、なんて考えなくていいからね」
若「…心得ました」
唯「起動スイッチ抜いちゃった時、しっかり捕まえてくれたから、離れずにいられて嬉しかった。ありがとう。すごく危険だったのに」
若「唯とは、一心同体じゃからの」
唯「出たっ。うふふ」
若「ずっと共に」
唯「うん!」
若「いつまでも仲良う。両親のように」
唯「あの二人、特殊な気がするけどねー」
若「そうか?わしは見倣おうと思うておる」
唯「ずっとラブラブ?」
若「そうじゃ」
唯「やったっ」
唯の肩を抱き、引き寄せる若君。
若「さて」
唯「さて…とは?」
若「精もついたしの」
唯「なんか言ってるなー」
若「ハハハ。まだ眠りはせぬだけじゃ。このまま夜景を眺めるとしよう」
唯「夜景ね。キレイだもんね。ずっと見てられる」
若「眺めつつ」
唯「つつ…。えー、ど、どう続く?」
若「まっしぐらに、唯にゴールじゃ」
唯「あ?そう来たか~。うまいっ!」
若「ハハ…」
唯「あ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
夜はこれから。
11日のお話は、ここまでです。
[no.697] 2021年9月17日 19:57 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days76~11日21時、計画的に
特別感満載のお部屋。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅ようやく口を開く尊。
尊「あのさあ」
美香子「なに?」
尊「何企んでるの」
覚「企むって?」
尊「ベッドが、ダブル」
美「ダブルじゃないわよ、クイーンサイズよ?あ、唯達の部屋も同じだからね」
唯「へぇー、確かに大きーい」
若君「唯向きじゃの」
唯「どういう意味かなー」
美「僕も大きいベッドが良かったって?」
尊「違うよ。来年の春、無事に大学デビューしました、すぐに、小さい弟か妹の世話もデビューするって事?」
覚「え?」
尊「鰻も食べたしさ」
唯「どゆこと?尊が、私達の子供の世話してくれるの?」
若「違う。弟か妹と申しておるゆえ」
美「…えっ、えーっ!ヤダ、そんな訳ないでしょう!無理無理!」
唯「あー、やっとわかった」
覚「そういう事か、そうか…」
美「嫌だお父さん、考えないで!」
若「それはめでたい」
美「忠清くんまで!」
唯「それって、うまくいけば子と孫が同級生になる?」
尊「お姉ちゃん、いやに冷静だね」
唯「この夫婦ならありえるかもって」
尊「あ、誤解がないように言っとくけど、世話が嫌な訳じゃないから。という事で」
唯「という事で?」
尊「僕達は早々に引き上げるべきらしい」
若「退陣か」
唯「了解っ」
覚「ビール、もう少し減らせば良かったかな」
美「だからー!」
唯「お菓子と飲み物もらってくねー、じゃ!」
若「おやすみなさい、で良いのであろうか」
尊「休まないから違いますよ。お邪魔しました~」
美「ちょっとー!」
部屋が一気に静かになった。
美「ホントにもう…ふっ、ふふっ」
覚「ははは」
廊下の三人。
唯「さて、どうしよう」
若「もうしばらく、三人共に過ごそう」
唯「了解~」
尊「いいんですか?両親と同じ理由で、早く二人きりになりたいとかないですか?」
若「早々に一人では。折角家族で来ておるのに」
尊「わぁ、嬉しい。じゃあ、僕の部屋に来てください。確か、ツインの部屋をシングルで使うって言ってたから」
尊の部屋に入る。
唯「ホントだー、ベッドが二つあるぅ」
若「外の美しさは変わらぬ」
尊「なんなら今、火曜日どうするか打ち合わせします?」
若「そうじゃな」
唯「賛成~」
秘密の会議。
唯「じゃあ、そんな段取りでよろしくっ」
若「承知致した」
尊「じゃ、そろそろ行きなよ」
唯「もういいの?」
尊「鰻の効果がある内に」
若「効果…」
唯「いや、それどうなの」
尊の部屋を出て、ようやく自分達の部屋に入る二人。
唯「わーい!」
若「なんじゃ?」
荷物を置き、靴を脱ぎ捨て、ベッドにぴょーんと、うつ伏せにダイブする唯。
若「随分と跳ねるのう」
唯「さっきは尊の部屋だったから遠慮したけど、こういうトコのベッドは、ウチのとは違ってね」
若「そうなのか」
若君が、唯の寝転ぶ横に腰掛けた。
唯「ねえねえ、靴脱いで、ベッドにあがって」
若「ん?こうか?」
唯「ほら、びょーんびょーん!」
ベッドで飛び跳ねる唯。弾む動きに翻弄される若君。
若「な、何を揺らしておる!」
唯「へっへー」
若「これ、唯!」
唯「きゃはは~!えいっ!」
若君の胸元にダイブ。
唯「ふふっ、捕まえた」
顔を上げ、若君と見つめ合う。
唯 心の声(目をつぶる場面…ううん、それ以上?!)
しかしその瞬間、若君が視線をそらした。視線の 先には、夜景。
唯 心(え!夜景に負けた~。キレイだもんね、しかたないかぁ)
若君は立ち上がり、窓に向いてベッドの端に座り直した。夜景が正面に見える位置だ。
唯 心(ん?)
隣に座る唯。
唯「たーくん、どしたの?」
若「…」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
若君、どうした?
続きます。
[no.696] 2021年9月15日 19:36 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days75~11日18時45分、パワーチャージ!
会計もうなぎのぼり。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅鰻店に向かっている三人。アーケード街をプラプラ歩いている。
唯「あ、サングラス見っけ!ねー、たーくん絶対似合うと思うー、かけてみてっ」
若君「これか。どれ」
唯「やーん、やっぱ超カッコいい!」
尊「より無敵感が増してる」
若「なにやら暗いの。おぉそうか、これはあの、金の煙玉を使えば見えるように」
尊「ならないです」
若「ならぬのか」
唯「コントやってんの?キャハハ、ウケる~」
店に到着。
尊「どこだろ?あっ、居た」
覚「おーい」
美香子「こっちよー」
若「お待たせ致しました」
唯「お待たせー」
美「あら、唯、綺麗。いい色選んだわね」
唯「えへ。ありがと」
三人、席につく。
美「さっ、好きなの注文していいわよ」
尊「鰻屋で好きなのって、危険じゃない?予算的に」
唯「えー、私、ひつまぶしが食べたいっ」
覚「いいんじゃないか?」
美「私も一緒で」
唯「お父さんは?」
覚「うな丼。特上な」
尊「えっ、すごい、僕もそれがいい!」
唯「たーくんどうする?って言ってもわかんないよね」
美「いろんな食べ方があるのは、ひつまぶしよね」
唯「たーくん、私と同じのでいい?」
若「頼む」
尊「兄さん、僕には少し多いかもしれないんで、良かったら少し食べてくださいね」
若「おぉ、デートは共有が醍醐味であったな」
唯「まだデート続いてたんだ」
注文した。
唯「どうだった?美術館デート」
美「良かったわよ~。それに、どこも涼し過ぎる位でね」
尊「そこ重要だね」
覚「お前達は?炎天下、大丈夫だったか?」
唯「うん、途中デパートも寄ったし。ちょうど涼めた」
若「パンケーキ、も食しました」
覚「おっ。いいねぇ」
美「良かったわねー」
鰻のオンパレード。
全員「いただきまーす!」
唯「まず、おひつの中で四つに分けてね、そのまま食べるのと、薬味で食べるのと、だしをかけて食べるのと」
若「残りは?」
唯「お好きにどーぞ」
尊「兄さん、僕の一切れどうぞ」
唯「わー、もっと豪華になった」
覚「沢山食べて、精つけてな」
美「あらぁ、理解ある父ね~」
若「…そのような意味合いがあるのですね」
尊「応援してます」
唯「げっ、なにそれっ!」
晩ごはん終了。ホテルまで、夜の繁華街を歩く。
若「随分と、光が瞬いております」
美「いいの?お父さん、寄り道しなくても」
覚「いいに決まってるだろ。今大分ビール飲んだし」
尊「部屋って、上の方の階?」
美「そうね」
尊「じゃあ、きっと夜景が綺麗だね。兄さん、この景色を上から見られますよ」
若「上?」
唯「わぁ、楽しみ~」
ホテルに到着。
美「荷物は私達の部屋にあるから、持ってって」
唯「はーい」
部屋の扉が開いた。
唯「わぁー!すごい!キレイ!」
若「これは…美しい」
大きく開いた窓。眼下には、眩い程の光の絨毯が広がっている。
美「こんなに綺麗なのね~」
覚「いいね~。ん?尊、何て顔してるんだ」
ベッドの前で、なんとも言えない表情のまま、固まっている尊。
唯「どしたの?尊」
尊「…」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
尊、どうした?
続きます。
[no.695] 2021年9月13日 20:31 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days74~11日17時30分、めざめました
ちょっと足すだけで劇的に。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅電気街の中の店。様々な部品が、壁から迫るようにぶら下げられている。
唯「なんか、所狭しというか。こんなんで欲しい部品とか見つかるわけ?」
尊「見つかるんだなこれが」
唯「今回も、なんか作ってくれるの?」
尊「ううん」
唯「えー、そうなんだ」
若君「わしが止めた」
唯「そうなの?」
尊「僕は、また何か作ろうかなって思ったんだけど」
若「作る時間があるなら、勉学に充てよと」
唯「なるほどね。弟思いの優しいお兄ちゃんだなぁ」
尊「あ、新しい写真集とか、この前撮った花火の動画は、編集して持たせてあげるから」
唯「ありがと」
若「尊、これは何に使う品かのう」
尊「あ、これはですねぇ」
唯 心の声(二人して目を輝かせちゃってさ。たーくんも男の子なんだなあ。楽しそうで良かった)
今日の唯は、白レースのワンピース。カーディガンは手に持っている。
唯 心(服はかわいいけど…やっぱ化粧くらいしなきゃいけないんだよね。気付くの遅過ぎ?)
店の外に出た唯。ガラスに自分が映っている。
唯 心(身だしなみ、か。うーん…)
道の少し先に、大きい薬局を見つけた。
唯「あ。…ねぇ、尊~!」
尊「何~?」
唯「私、あそこの薬局に居る~」
尊「わかった~」
唯 心(えっと…どこかなぁ)
店に入り、何かを探す唯。
唯 心(あった。うぇっ、ここ、すっごくキラキラしてるんですけどっ!)
若い女性向けのコスメのコーナー。
唯 心(プチプラなのがいいよねぇ。いや!そんな事より…どうしよう、化粧品なんて買うの初めてだからわかんないよぅ)
自分の指先に目をやる。マニキュアやペディキュアは、最初に若君が塗ってくれたパール調の桜色のまま。
唯 心(たーくん、この色がいいって、あれから何度か塗ってるから…同じ感じがきっといいよね)
口紅の棚。リップグロスを物色する。
唯 心(試供品がある!あ、この白い紙に塗って試すんだ。これでイメージつかめるかなぁ)
片っ端から紙に色をのせていく。
唯 心(こんなモンかな…。これ以上、考えるのムリ~)
お買い上げ。店を出て、早速塗ろうとするが、
唯「あちゃー、そう言えば鏡も持ってないんだった!つくづく、女子失格だよね…」
スマホのインカメラを鏡代わりに、なんとか完了。
唯「うん。たぶんオッケー」
尊「お姉ちゃーん」
若「唯」
さっき居た店とは違う方向から、二人登場。
唯「え?もしかして、すっごい回った?」
尊「僕にとってのワンダーランドだからね」
唯「ちょっとしたテーマパークなんだ」
若「ん?唯、なにやら…」
尊「あ、唇がキラキラしてる。わかった!お店の試供品、塗りたくってきたんでしょ」
唯「なにっ、聞き捨てならぬ!ちゃんと買った!ほらっ!」
グロスを、男子達の目の前にどーんと出した。
唯「もーっ」
尊「で、いきなり化粧してどしたの」
唯「え?えっとぉ」
尊「周りの女性と比べて、焦った?」
唯「だってー」
若「唯」
唯「は、はい」
若「わしに、顔をよう見せてくれ」
唯「はいっ」
顔を上げた唯。若君の表情が緩んだ。
若「綺麗だよ、唯」
唯「わぁ、ホントに?…いや、ちょっと待て」
若「え?」
唯「たーくん、そのフレーズ、尊に教わったでしょ」
尊「確かに教えたけど」
唯「かわいいよ、もだけどさ、こう言えば喜ぶ的な暗号みたいに使ってない?」
若「唯が何を気に入らぬのかわからぬが…愛らしく麗しいと思うて話しておったがの」
尊「まさかお姉ちゃん、今の今まで、疑ってたの?」
唯「うん」
尊「ひでぇ!」
若「心がこもっておらぬように感じたか。それは、済まなかった」
尊「なんで兄さんが謝る展開?いやいやいや、おかしいって」
唯「そっか、わかってたんだ。ごめん疑って。あまりにもサラっと言ってくれるから…ねぇねぇ、愛してる、もそう?」
若「唯を、かけがえのないおなごと思うておるぞ」
唯「そっか、そっか、良かったぁ」
尊「そういうのは、もっと早くに確認しとくべきでしょ!」
唯「失礼しましたっ。もう街は堪能した?」
尊「うん。したよ。ありがと」
若「姫君を、一人にして済まなかったの」
唯「そろそろ鰻屋さんに移動する?」
尊「そうしよっか」
若「参ろう」
若君が、唯の手を取った。そして、
若「尊もじゃ」
尊「うわぁ。じゃ、今はお言葉に甘えまして」
三人、繋がりました。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.694] 2021年9月11日 18:56 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days73~11日15時、Go!ショッピング
徒歩圏内になんでもあるから、都会は便利。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅唯「尊、店選び正解。生クリームがそんなに甘くない」
尊「でしょ。兄さん、どうですか?」
若君「これなら、食べられそうじゃ」
唯「すごーい。じゃあ、一口ちょーだい!」
少し切って、唯の前に差し出す若君。
若「食せ」
唯「違うぅ」
若「違う?あぁ。あーん、して」
唯「わーい。うん、こっちも美味しい!」
尊「やらされてる感が否めないけど」
唯「えへへ。ラブラブカップルは、今どこに行ってるんだろうね」
尊「美術館巡りって言ってたよ」
唯「へー!そうなんだ。なら、着物も納得~」
唯がご機嫌で食べる姿を、優しい眼差しで見守る若君。
尊 心の声(元々何でも美味しそうに食べるお姉ちゃんだけど、永禄に戻っても、こういうシチュエーションがいっぱいあるのを願うよ)
三人、完食。店を出た。
尊「あー美味しかった。兄さん、良かったですね」
若「あぁ。ありがとう、尊」
唯「なにが?」
尊「男子の秘密」
唯「あっそう。あ、ねぇねぇ今さ、もらった小遣いで支払いしたじゃん」
尊「うん」
唯「もう使う予定なくない?」
尊「山分けしたいの?」
唯「違う。せっかくだからさぁ、両親に20周年おめでとう、しない?」
若「それは良いの」
尊「なるほど。早速検索…ふーん、結婚20年って磁器婚式って言うんだって。だからプレゼントは陶磁器とからしいよ。ペアのカップとか?」
唯「へー、そうなんだ。あとさ、花束もあると良くない?」
若「花を献上と」
尊「カップの値段がわからないけど、花もだとちょっと金額が足りないかも」
唯「喜んで出すよ」
若「わしも出す」
尊「え、いいんですか?」
若「自由に使いなさいと申された。二人の為に使えるなら尚更良い」
尊「じゃあ、デパートも近くにある事だし、今から探す?プレゼント」
唯「探すー。電気街はいいの?」
尊「まだ全然時間あるし」
デパートの売場。
唯「カップもいいけどー、なんか湯呑みも良くない?」
若「おぉ、これなどお父さんに似合いそうじゃ」
尊「どっしりしてるね。色違いもあるから、それにします?」
若「良いのか?」
唯「たーくんが選んだって聞いたら、倍喜ぶよ」
尊「そうそう。前に、クリスマスプレゼントでスノードームもらったじゃないですか」
若「あぁ。わしが選んだ小さき物じゃな」
尊「僕ももちろん超嬉しかったけど、二人、何で目の前に居ないんだ、抱き締めたかった~って大騒ぎだったんですよ」
唯「そうだったんだー。じゃあ今回は、直接ギューってしてもらおう」
若「ハハハ。喜んで頂けたのじゃな」
お買い上げ。
唯「これ、持ち運ぶの?バレバレになるし、重いよ?」
尊「ご心配なく。僕あてに家に配達してもらうから」
唯「へぇ、さっすがー。デキる男だねぇ」
デパートを後にする。
唯「お花はどうする?」
尊「そうだね。あと、一人千円ずつくらい足すとまあまあ大きい花束にできそう」
若「ならばそうしよう」
尊「湯呑みもちょうど届くだろうし…火曜日に買いに行く?」
唯「三人で行こうよ」
尊「よし、決まりだね」
電気街に到着。
尊「ミッションが確実に進んでる。よしよし」
唯「顔つきが変わってるよ。ニヤニヤしちゃってさー」
尊「兄さんとデートだもん、ニヤけずに居られるかって話」
若「デート。手でも繋ぐか?」
尊「い、いや、そこまではいいです」
唯「肩でも抱いたら?」
若「そうか」
尊「いや、マジ無理だから!」
唯「キュンキュンしちゃって?」
尊「そうだよ~」
若「ハハハ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
遠慮せずとも良かろうに。
続きます。
[no.693] 2021年9月9日 21:30 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days72~11日13時、実践中です
言われた事をきちんとこなします。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅母、着物姿で登場。
美香子「お待たせ~」
覚「う~ん、いいねぇ」
唯「きっちり着込んでるー。暑くない?」
美「訪問着だもの、そりゃあきっちりよ。これね、案外暑くないのよ」
若君「よう似合うておられる。麗しい」
美「まぁ〜。嬉しいわ~」
近寄って、生地をじっと見つめる若君。
若「これは、紗ですか?」
美「違うのよ。絽って言うの」
若「ろ?」
美「忠清くんなら聞いてくると思って調べたんだけど、まだあなたの時代にはない織り方だったのよね」
若「山吹の花を思わせる色の地に浮かぶ、縞が美しいです」
美「ありがとう。うーん、いい!持つべきは、お着物の話ができる息子ね~」
唯「この二人、日本語しゃべってる?シャとかロとか言ってるけど」
尊「着物の話してんだから日本語でしょ」
準備完了で出発。車内。
美「ねぇ、最後14日の夜、またリビングに布団敷いてみんなで一緒に寝たいんだけど」
唯「いいよー」
美「でも私翌日から仕事だから、話し込むとか出来ないかもしれないのよ。ただ居るだけになってもいい?」
覚「いいんじゃないか?お互いの気配を感じられるだけでもいいもんだろ」
唯「うん。良いよそれで」
尊「恒例行事って事で。了解一」
若「わかりました」
車窓の景色が、都会のビル群の光景に変わってきた。
若「ほう…天を突く程高く、地に刺したが如く細く鋭い屋敷の数々じゃのう…」
美「あら?初めて見る風景?前来た時に、デパート行ったって言ってなかった?」
唯「そこ、駅から直結だったから、ビルを見るのはほぼ初めてなんだよ」
そろそろ二手に分かれる。 車を降りる三人。
美「チェックインして、荷物も運んでおくわね」
唯「うん、よろしくー」
覚「尊、鰻店の場所は大丈夫か?」
尊「うん。地図確認したよ。7時に予約してあるんだよね」
覚「そうだ」
唯「デート、楽しんできて」
若「ごゆるりと」
尊「行ってらっしゃい」
美「ありがとう。じゃあね」
手を振りながら、両親は去って行った。
唯「さてと。パンケーキの店は目星付けた?」
尊「うん。あ、やっぱ一番に行く?」
唯「だって時間のメドがわかんないし、あんまり遅い時間だと、鰻入んないよ?」
尊「そうだね。じゃあ行こっか」
尊と若君が前を歩き、唯は後ろから付いて行っている。
尊「後ろでいいの?」
唯「デートの付き添いなんで。ついでに、たーくんに変なのが寄って来ないか見張ってる」
やはり若君は、道行く女性達の視線を集める。
女性1「超イケメン…モデル?それか俳優?」
女性2「絶対それ系だよね。あ、指輪してる。え一結婚してるんだー」
女1「イイ男って、残ってないよねー」
尊が振り向き、囁く。
尊「指輪効果出てるね」
唯「うん、サンキュー。助かってる」
尊「…」
唯「なによ。顔になんか付いてる?」
尊「街行く女性達と比べて、負けてる点があるとするなら」
唯「えっ、なに?」
尊「どスッピンな所。みんなきちんと化粧してるから。現代の街中なんだからさ、身だしなみ的に少しくらいしてくれば良かったのに」
唯「うわぁ、痛たたっ。それ、薄々感じてた」
パンケーキ店に到着。ほどなく席に通され、注文も完了。
尊「大ブームの頃なら、絶対来なかったよ。店の外にズラーって並んでる映像、よく見たから」
唯「それは言えるかも。ねぇ、たーくん、今さらなんだけどさぁ」
若「なんじゃ?」
唯「また店に行こうとは言ってくれてたけど、ホントに良かったの?」
若「勿論じゃ」
唯「無理してない?」
尊「兄さん向けに、めちゃめちゃ甘くはない系の店にはしたけどね」
若「唯が、この世の幸せ、と頬張る姿が見とうての」
唯「誰かの入れ知恵?」
尊「だとしても、兄さんがいいって言ってるんだからいいじゃない」
唯「ふぅん。お礼は、誰に言えばいいの?」
尊「お父さんに」
唯「えっ!意外な答えだった」
パンケーキが三皿運ばれて来た。モリモリと、生クリームがうず高く鎮座している。
唯「わーい!」
若「おお」
尊「壮観だなぁ。恋愛マスターは、食べるの見てるだけでもいいって言ってたけど」
若「一口ちょうだい、がやりたかろう?」
唯「いやに詳しく指導されてるなあ。でも嬉しい!だって、お父さんが師匠でたーくんが弟子なら、絶対甘くて優しいもん」
尊「同感です。では」
三人「いただきます!」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.692] 2021年9月8日 09:27 梅とパインさん 返信[no.691] 2021年9月8日 08:15 夕月かかりて(愛知)さん 返信[no.690] 2021年9月7日 23:09 妖怪千年おばばさん 返信追記しました~
先日、投稿した”稲荷”の
イメージソング ”夢の恋人”を
大変かわいらしく
ギターで弾き語りしている
動画を見つけました。
”稲荷”の最後に追記しましたので、
よろしければ、ご覧ください。梅とパイン様
今回の、”どんぎつね三部作”は、
源ちゃんトヨちゃんが、
ラブラブになる少し前のお話しとして
お許しくださいね。夕月かかりて様
ますます仲良しな速川家ですね。
夕月かかりてさんの、源トヨ登場を
待ってから、投稿しようかと
思っていたのですが、
まだまだ続きそうだったので、
割り込みまして、すみません。
楽しみにしてますね。- この返信は3年、 2ヶ月前に妖怪千年おばばが編集しました。
[no.689] 2021年9月7日 20:43 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days71~11日日曜9時、定番はどっち
千羽鶴ミッションも着々と進む。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅朝ごはん後、食卓に、折り鶴を色分けして入れた箱を並べた。
美香子「お待たせ、裁縫箱持ってきた。針と糸と、あとボタンね。一番下に付けて糸から鶴が抜け落ちないようにするの。プラスチックじゃ何だから木製にしたわ」
唯「いよいよ千羽鶴の形になるよ、たーくん」
若君「皆総出で済まない」
覚「何羽ずつにする?」
美「それもだけど、どうやって並べる?この箱の並びのまま、グラデーションにする?」
唯「グラデーション賛成。キレイだから」
尊「50羽ずつだとこの位の長さだよ」
美「いいんじゃない?」
尊「じゃあさ、箱の横にこの箱から何羽か取り出すか書こう。足して50になるように」
美「あー、それ楽ね。出して並べて、下になる色から糸で掬っていけばいいもんね」
若「手筈が整っていっておる…」
唯「黙って流れに乗るのが正解だよ」
あれよあれよという間に、束が出来上がっていく。
覚「順調だな。じゃあ、早めだけど昼ごはんの支度始めるよ」
唯「了解~」
若「実に美しい」
尊「50羽、糸通ったよ。上はどうすんの?」
美「そこにあるリングに、軽く結んでおいて」
11時。十束完成した。
美「旅行から帰ったら、また続きをしましょうね」
若「わかりました」
覚「はい、撤収してー。ごはんだぞ」
冷麦です。
唯「夏の定番だから今日もこれなの?」
尊「え、夏の定番はそうめんじゃない?」
唯「そうだった?どっち?」
覚「どっちもだろ」
美「お父さんは冷麦派よね」
覚「うん。そうめんはな、ゆで時間が短過ぎて、家事好きの僕としてはあっけなくてさ~」
唯「そんな理由なんだ。どおりでよく出る」
覚「今日はな、晩ごはんがスタミナ系だからこうした」
唯「スタミナ?お肉とか?」
覚「鰻食べに行く」
尊「うなぎ!」
唯「わぁ、ひっさびさだ!」
美「忠清くん、食べた事あった?」
若「いえ、初めて聞く名です。食した覚えはありませぬ」
唯「そっかぁ、じゃあ楽しみにしててー」
若「そこまで皆が喜ぶのであれば、楽しみじゃの」
昼ごはん後。
美「支度、ゆっくりでいいからね。じゃ」
唯「なに?」
覚「今日は、着物を着るって張り切ってるんだ」
唯「へー」
覚「まぁ本人がそうしたいって言ってるから」
唯「あー、デートだから特別ぅ?暑いのに大変だね~」
覚「永禄では年中着物だろ」
唯「まっ、そうだけど。だってまさかお母さん浴衣じゃないだろうし」
覚「浴衣じゃあないな」
若「お母さんが、着物を召されると」
唯「うん。絶対たーくんに聞いてくるから、褒める用意しておいて」
尊「褒める用意って。兄さんなら普通に素直に褒めるでしょ」
覚が、尊に手招きしている。二人で部屋の隅に。
尊「お父さん、何?」
覚「あのさあ、鰻、背開きか腹開きか、気にしなきゃいけなかったかな?どう思う?」
尊「え?あ、あー。腹開きだと切腹を連想させるからってヤツ?」
覚「店には聞いてないんだけど、地域的には両方あるらしい」
タブレットで検索する。
尊「んー兄さんの時代には、鰻はあっても開いてなかったみたいだね。て事は知らない料理なんだから、わざわざ、聞いた事のない言い伝え的な物を教えなくてもいいんじゃないかな。兄さんなら、聞いたとしても気にしないとは思うけど」
覚「そうだな。黙っておくよ」
唯「なにコソコソしゃべってんのー」
尊「今日の段取り」
唯「ふーん」
覚「あ、そうそう、今日な、僕と母さん自由にさせて貰うからさ、三人に小遣いをやるよ」
唯「マジで?やったぁ!」
尊「ラッキー!」
若「わしにもですか?」
覚「三人一括だけどな。はい」
唯「わっ、1万円だ」
尊「こんなにいいの?」
覚「まあ、お好きなように。残ったら、山分けしな」
唯「へー、ありがとー」
尊「ありがとう」
若「ありがとうございます」
覚「さ、じゃあ僕らもそろそろ出かける支度するか」
三人「はーい」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.688] 2021年9月5日 20:47 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days70~10日16時、これが目に入らぬか
あんまりカッコいいと、それでもチャレンジしてくる強者が居るかも。気をつけよう。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅看板は、ピカピカになった。
唯「カンペキ!たーくんお疲れさま」
若君「まだ何かする事はあるかのう」
唯「働き者だなぁ」
家に戻ると、母が出迎えた。
美香子「お帰り~。あ、脚立は玄関でいいわよ。もうね、掃除もほぼ終わりだから、お風呂一番に入っちゃってくれる?」
唯「いいの?やったー。じゃあ、どっちが先入る?」
美「何言ってるの」
唯「え、もしや」
若「わかりました」
唯「出た!」
美「みんな汗たっぷりかいてるもの。晩ごはん前に全員お風呂済ませたいからよ。はい、行ってらっしゃ~い」
18時。晩ごはんの支度が始まった。覚と若君はキッチンに。尊と入れ換わって最後、美香子が風呂に。唯は、ホットプレートがセット済みの食卓で、ぼーっとしている。
尊「あーさっぱりした。げっ!なんだよ姉ちゃん、その腑抜けな状態は。兄さんと一緒のお風呂で、湯あたりしたの?」
唯「してなぁい。お風呂は超ラブラブだったしぃ」
尊「成長してるな」
唯「…ああっ、そういえば!あ痛っ」
ガン!と音が。急に飛び起きた唯が、膝をテーブルにぶつけた。
唯「い、痛ぁい」
尊「あーあ。何いきなり覚醒してんだよ」
唯「ねぇ、どうしよう!都会で、たーくんが尋常じゃない数の女達に囲まれたら」
尊「カッコいいのは罪だな。でもそれ、そんなに心配するような事?」
唯「都会の女は怖い」
尊「歩いてる人のほとんどが、都会の人ではないと思うけど」
唯「えー。でもー」
尊「わかった。要は、兄さんを守れればいいんだよね?」
唯「うん」
尊「そんなん簡単だよ」
唯「うっそぉ」
尊「これ使えばいい」
リビング奥の棚から、ケースを一つ取り出す尊。
唯「あ!尊お手製の結婚指輪!」
尊「これはめてれば、そうそう近づいては来ないんじゃない?」
唯「そっか…そっか、結婚してますってアピールすればいいんだもんね!」
尊「そゆこと」
美「あー、いいお湯でした。あら、懐かしいグッズ出してるわね」
唯「どうしよう、指に入らなかったら…あ、入った。たーくぅん!」
若君の元へ指輪を持っていく唯。
若「おぉ、これは」
唯「ねっ、はめてみて!まだぴったり?」
若「ふむ。…ぴったりじゃな」
唯「わぁ、良かったぁ。たーくん、今から、慣れるためにそのままにしててね」
若「心得た」
覚「騒がしいな。はい、もんじゃ焼き作るよ、席について~」
具材を炒め、土手を作り、だしを流し入れ、なじませる。
若「これで固まるのか?」
唯「固まらないよ」
若「え?」
ホットプレートの上が、ふつふつ言い始めた。
覚「そろそろいいな」
美&尊「いただきまーす」
唯「はい、たーくんこのヘラ持ってね」
若「小さいのう。どう使うのじゃ?」
尊「見ててください。これをこうやって、隅からはがして押し付けて、ちょっと焼く」
若「ほぅ」
尊「これをこのままパクリと。あ、熱いですから気をつけてくださいね」
若「ほぅ…」
唯「はい、フーフーしたよ。あーんして」
若「うまい。わしもやってみよう。…はい、唯」
唯「キャー!私にくれるの?嬉しーい。ねぇねぇ、あーんして、って言ってぇ」
若「あーん、して」
尊「そ、総領の威厳が…まだ棒読みで良かったけど、永禄の皆さんには見せられないな」
唯「おいし~い!ふふっ」
若「お父さん、これは、どんな材料でも出来る物でしょうか?」
覚「そうだね。それっぽい物でいいなら、永禄でも作れなくはないと思うよ」
若「そうですか」
唯「作ってみちゃう?!すんごい野望~」
全員「ハハハ~」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
10日のお話は、ここまでです。
[no.687] 2021年9月5日 00:55 妖怪千年おばばさん 返信~稲荷~
https://www.youtube.com/watch?v=T1WW3TL2v0I
このCMを見て、つい、“かまたま” を
食してしまったおばばです。笑
日清、ずるい!
でも、かまたまならば、
やはり、麺は太麺のほうが良いですな。
食した後、以前投稿した、
“月食”、“星降る夜に”
の続編を書いてみました。梅とパイン様、
“トヨ”ちゃんお借りします~(^^♪
~~~~~~~~~~~~~いつもの様に、籠を携え、
部屋から出ようとした成之は、
不意に、忠清に呼び止められた。「兄上、どちらへ?」
「木の実を探しに。
花材にしようと思うての。」「これでは、足りませぬか?」
忠清は、摘んだばかりの草花が
入った手桶を差し出す。「野ぶどうか。尾花もあるの。」
鋭いまなざししか向けぬ成之が
僅かに見せた微笑みを、
忠清は見逃さなかった。「部屋へお待ちしましょう。」
「うむ。」
先に、外へ出ていた如古坊は、
その様子を、塀の陰から見ていたが、
やがて、城の裏門に向かって
歩き始めた。
源三郎が、その後を付けている事には
全く気付かずに。部屋に戻った成之は、
次の間の棚から、花器を一つ選ぶと、
庭に面した外廊下に運んだ。忠清は、その斜め後ろに座り、
兄を見つめる。
成之は、花を手桶から取り出すと、
広げた紙の上に、丁寧に並べ始めた。
桔梗を手にした成之は、
薄紫の花弁に、しばし目を止める。
そこへ、忠清が声を掛けた。「それは、茎が細すぎましょう。」
成之は、黙したまま、
桔梗を2輪、尾花に添えると、
短く切ったフキの茎に通す。
そして、それを花器の
中央に立てた。「ほう。これは、見事な。」
忠清は、言葉を続ける。
「兄上と私も、その桔梗の様に
有りたいものです。」「何を申される。
忠清殿は、すでに大木の風情。
このような小さな器には、
収まりきらぬ。」「私など、古木の枝の小さな
新芽にすぎませぬ。」「忠清殿が新芽であれば、
私は、さしずめ、
切り捨てられた小枝であろう。
たまたま拾われて、
僅かな水で命を
繋いだだけの。」「庭師の頭に問うた事が
ありまする。
古木に新たな力を与えるには、
どの様な策があるかと。」成之が、花を選ぶ手を止めた。
その肩に緊張が走る。
成之の顔色が変わったのが、
忠清には手に取るように分かった。「して、その答えは?」
成之が乾いた声で訊ねた。
忠清は、静かに息を吐く。「接ぎ木にございまする。
手法は幾通りかあるそうな。
日を改めて、より良い策を、
兄上と語りたいものです。」忠清が声を強めた。
「台木の切り所を見誤れば、
下から出た新芽の勢いで、
継いだ枝が枯れる事も
あるとか。」成之は、花器を見つめたまま、
野ふどうの葉をちぎる。
そして、血の気の引いた指先を、
その弦で隠した、「花材であれば、
花園に満ちておりまする。
されど、兄上は山に向かわれる。
それは、何故?」「花はの。
開いた場により、趣が異なる。
崩れ落ちそうな崖の中腹で、
凛と頭を上げる花もあれば、
藪の中で、うつむいて咲く
可憐な花もある。
その有り様を知り、
花器に写すのじゃ。」「兄上は、野趣を
好まれるのですね。」「山深い寺で育ったからの。
加えて申せば、
花園などに出向こうものなら、
あらぬ疑いをかけられよう。」「疑いとは?」
「知れた事。
花園は薬草園と続いておる故。」「目当ては、花ではないと?」
成之は、是も非も無く、
花器に向かう。忠清は、兄の背から眼を放さず、
なおも語りかける。「実は、本日は、礼を申し上げに
参ったのです。」「礼とは、何の事かの?」
「探索に奔走して下さったと
伺いました。
吉田城で姿を消した私の。」「確かに。
しかし、探し出せなんだ。
礼には及ばぬ。」「お気持ちが嬉しいのです。
宜しければ、これを。」忠清は、懐から包みを取り出した。
成之が、ゆっくりと振り返る。見慣れぬ透けた薄い紙の中には、
細い棒の先に留められた、
小さな風鈴が入っていた。
透明なガラスには、
赤とんぼが描かれている。それは、平成の黒羽城址の
売店にあった、
園芸用のピックだった。
羽木家滅亡を知った際、
忠清は食事もせず、唯の部屋に
籠ってしまったのだが、
忠清の気を晴らそうと、
尊が買って来てくれたのだ。永禄に戻る前、これを
兄への土産にしたいと尊に伝えた。
尊は、驚いた様だった。
忠清の命を狙った黒幕は、
兄の成之かもしれないのにと。
尊は、暫く考え込んでいたが、
それが、成之との対話の
きっかけになるのならと、
承知してくれたのだ。「ギヤマンか?」
「流石、兄上。ようご存じ。」
「これを手に入れたとなれば、
忠清殿の隠れ屋は、
堺辺りの、商家であったか。
医術に長ける伴天連も
おると聞くが。」「隠れ屋の事は、またあらためて。
この城の向後の事、兄上と
語りあり合いたいと、
私は心より願ごうて
おりまする。」手にした小さな風鈴を、
頭上にかざし、成之は、
その小さな音に耳を傾ける。無邪気に赤とんぼを追った、
幼い日の思い出が、うっすらと
成之の脳裏をよぎった。虫籠を持った母の声が蘇る。
「さあ、お城へ戻りましょう。」
「父上は喜んで
下さいましょうか?」「ええ、必ず。
素早い蜻蛉を、成之がその手で、
みごとに捉えたのですから。」空一面に広がる夕焼けが、
母の頬を染めていた。
幸せに包まれた、優しい微笑み。
成之の記憶の中の穏やかな母は、
ほどなく、床に臥せ、
苦悶する姿に変わった。
“あの笑みは、二度と戻らぬ。”懐かしい夕景を、
苦い思いが黒く塗り潰す。「兄上、もし宜しければ、
花園の東屋で
茶会を致しませぬか?
秋の七草も、
咲き揃うておりまする。」忠清の声で、我に返った成之は、
唇を強くかんだ。
“わしが探しておったのは、
お前の骸じゃ!“
今にも叫び出しそうな己を、
必死で押しとどめる。退出した忠清の足音が遠ざかり、
やがて消えた。成之の震える拳の中で、
小さな風鈴が砕ける。指の間から、血が滴る。
それは、まるで、赤とんぼの
涙の様だった。~~~~~~~~
裏門を抜けた如古坊は、
振り返りもせずに、山に向かった。
その道は、野上との国境を守る、
砦に続いている。源三郎は、柴を刈る村人の姿を装い、
少し後ろを歩いた。鬱蒼とした木々の間には、
村人が踏み固めた、
横道が幾つかあり、その一つに
如古坊は足を踏み入れる。この山には、至る所に
鳴子が仕掛けてあるのだが、
気に止める様子は全く無い。
どうやら、通い慣れているらしい。“このまま、後を追えば、
枯れ葉を踏む音で、気付かれる。“
源三郎が、ためらっていると、
不意に後ろから声がした。「そこで何をしておる!」
慌てて振り向いた源三郎の頬に、
細い人差し指が刺さる。
悪ふざけがまんまとはまり、
娘が、笑い声を立てた。
幼馴染のトヨだ。
素早くトヨの脇に
体を寄せた源三郎は、
その口を手で覆った。驚いたトヨが、もがく。
「静まれ!」
空いた片方の手で、
トヨの背を押すと、
足早に山道を上がる。「ここまで来れば、良かろう。」
やっと手を放した源三郎を、
トヨが睨んだ。「何の真似じゃ!」
「すまぬ。
ちと、子細があっての。
それより、ぬしの方こそ、
何故、ここに?」「薬師堂に参る途中じゃ。」
「薬師堂なれば、
下の道ではないか。」「下からでは、本堂までの
段がきつい。
この少し先の、脇道を
下る方が楽じゃ。「しかし、遠回りであろう?」
「薬師堂に下りる途中で、
ノアザミの葉を摘む。」「ノアザミ?」
「干して、煎じれば、
寝付の薬湯になる故。」「ほう。良う存じておるの。」
「薬師堂の御坊が
教えてくれたのじゃ。
若君様が、
行方知れずになった折にの。」「左様か。
では、その薬湯は天野の
信茂様の為か?
守役であられたお方じゃ。
御心痛は誰よりも
深かったであろう。
千原家の元次様も、夜も眠らず、
案じておられた。」「信茂様はの。
自害なさろうとして。
唯之助に止められたのじゃ。
未だ、眠りは浅い。
せめて、薬湯をと思うての。
誤って、他の葉が
混じっておらぬか、
必ず御坊に確かめて貰うのならと
ご当主の信近様が特別に
お許し下さった。」「忠義な事よ。
ぬしも、すっかり
天野家の者じゃの。」「下女ではあるがの。
して、源三郎の子細とは?」「今は、語れぬ。
それよりも、遅うなっては、
咎められよう。
早う行け。」源三郎はトヨを促し、踵を返す。
が、すぐにまた振り返った。「トヨ、手を出せ。」
源三郎は、懐から取り出した
手拭いの端を口に咥えると、
細く裂く。
それを手慣れた様子で
トヨの右手に巻き付けた。「これで良い。
ノアザミには棘がある故。」トヨが礼を言う間もなく、
源三郎は、来た道を駆け下りる。
そして木陰に身を隠し、
如古坊が戻って来るのを待ったが、
やがて諦めて、城に戻った。その夜、トヨが千原家を訪ねて来た。
元次も不眠と知った天野信茂が、
薬草を届けさせたのだ。
何かと張り合う元次と信茂だが、
数々の難局を、共に乗り越えて来た
“戦友”でもある。「これは、忝い。
元次様は、ここ暫く酒量が増し、
案じておったのじゃ。」「されば今宵はこれを
一服盛って、ころりと。」トヨは、おどけて男の様な
口振りで言う。「たわけたことを申すな。」
源三郎は、たしなめながらも、
思わず笑ってしまうのだった。「そう言えばの。
あの後、薬師堂で
見慣れぬ僧を見た。」「僧とな?
それは、如何様な?」「袈裟には似合わぬ、
がっしりとした体つきの。
まるで、
高野山におるという、、、」「僧兵の様な?」
トヨは、キッパリと頷いた。
“如古坊やもしれぬ。”
勢い込んだ源三郎は、
思わずトヨの両肩を掴んだ。「トヨ。
折り入って、頼みがある。」「頼み?」
トヨは、ぶっきらぼうに問い返す。
しかし、その目は少女の様に
輝いていた。
いつもなら、すぐに振り払うはずの
源三郎の手も、そのままにして。~~~~~~~
「源三郎さ~ん!」
聞き覚えのある微かな声に、
源三郎は足を止めた。
辺りを見回すが、誰もいない。
“空耳か、、、”
源三郎は石段を上がり、
稲荷の社に手を合わせた。
真新しい絵馬が、目の前に
置かれている。
何気なく手にすると、
子狐が描かれていた。
源三郎の口から
とある名がこぼれる。「どんぎつね殿」
「呼びました?」
思わず顔を上げると、
社の屋根の上に
愛らしく動く耳が見えた。
その上に、ふっくらとした尾が
揺れている。
“幻か?”
源三郎は、何度も己の目を擦った。どんぎつねは、社の裏から出て来て
源三郎の前に立つと、その手を握る。「幻じゃありませんよ。
此処に居ます。」「無事で・・・あったか。」
「はい。」
「あの夜、お前は天の川に、
飲み込まれたはず。」「驚きましたよね。
でも、あれは、私を
助けに来てくれた
白狐なんです、」「白狐とな?」
「はい、伏見稲荷の。」
「清少納言も参拝したと言う?」
「ええ、良くご存じですね。
伏見は、稲荷の総本宮。
白狐は、妖狐族の
総取締役でもあるんです。」源三郎は、どんぎつねの尾に
素早く目をやる。
どんぎつねは、その視線を追い、
訝し気に首を傾けたが、
直ぐに、あの夜、自分の尾が
裂けかけたのを、思い出した。「あ、大丈夫ですよ。ほら。」
どんぎつねは、ふさふさとした尾を
揺らす。「危うく、闇落ちしかけ
ましたけどね。
ぎりぎりの所で、
裂けた尾の先を、
白狐が切り落として
くれたんです。」「闇落ち?」
「あ、、、ええと。
“九尾の狐”はご存じですか?」「あの、殺生石として
封じられたという、狐の事か?
確か、美女に化けて
帝をたぶらかしたとか。
名は、確か、、、」どんぎつねは、目を伏せ、
小さな声で答えた。「“玉藻の前”です。
その前は、“妲己”でした。」「殷王朝を滅ぼしたという
傾国の美女も、九尾の狐?」「妲己の尾が幾つあったかは、
分かりません。
人に化けた狐の尾が裂けるのは
その狐の心の傷が、
引き金になるんです。」どんぎつねは語る。
裂けた尾の数は、妖狐が受けた
裏切りの数なのだと。「九尾の狐が哀れに思えるの。」
「源三郎さんは、優しい。
私は、源三郎さんの真心に
救われました。」「わしの真心?」
「はい。あの夜、源三郎さんが、
私の姿を恐れて逃げ出せば、
私は、貴方を餌食にしたはず。
闇落ちする妖狐は、
人の血を浴びて、
妖気を増すのです。
あの夜、せまる闇に抗うのに
私も必死でした。」「確かにお前は、苦しみながらも、
わしに、後姿を見せるな
と言った。」「そして、源三郎さんは
逃げなかった。
その一瞬の間に、微かに残る
私の正気を感じて、
白狐が助けに
来てくれたんです。」どんぎつねは、なおも語る。
総取締役の白狐でさえ、
人の血を浴びた妖狐の闇は、
祓えないのだと。
恨みを生み出すのは、
裏切られた者の深い悲しみ。
それは、狐も人も変わりはしない。気が付けば、どんぎつねは、
巫女の様な装束を身に着けていた。
その姿を見直して、源三郎が問う。「白狐の元におれば、ぬしは
二度と闇に落ちる事はあるまい。
何故に、戻った?」「源三郎さんに、
お礼を言いたかったの。
親切にして下さって、
本当にありがとうございます。
もし宜しければ、これを。」どんぎつねは、源三郎の手を離し、
何やら、モフモフしたものを
差し出す。それは、小さくはあるが、
どんぎつねの美しい尻尾に
瓜二つだ。「白狐が切り落とした、
私の尻尾の先です。」思わず後ずさりした源三郎を見て、
どんぎつねは悲しそうな顔をする。「やっぱり気持ち悪いですよね。
でもこれには、
妖力は有りません。
その代わり、
危険には敏感なので、
お守りになります。」「お守り?」
「はい。
殺気を感じると、
毛が逆立つのです。」源三郎は、恐る恐るその尻尾の先を
手に取った。薬草園で枕にした、
どんぎつねの尻尾の感触が蘇る。
源三郎は思った。
“むしろ、安らぐ気がするが。”「なれば、ありがたく。」
尻尾の根元には、
細い紐が付いている。
源三郎はそれを脇差の柄に下げた。どんぎつねは、満面の笑顔で、
尻尾をぐるぐる回す。「他に何か、
お役に立てる事は?」「いや。もう充分。
ぬしが無事でおったのが、
何よりじゃ。」その時だった。
源三郎の脇差に下げた尻尾が
急に揺れ始めた。「これは、何とした事!」
どんぎつねの耳が、
伏せ気味に尖る。「ただならぬ気配がします。」
~~~~~~~
やがて、馬のひずめの音が
聞こえてきた。
源三郎は、どんぎつねの手を取り、
社の裏手にある、
杉の御神木の陰に隠れる。走り去る馬上の人を見て、
源三郎は、目を見張った。
“あれは、成之様!”実はこの日も源三郎は、
如古坊の後を追っていたのだ。
高山との国境近くのこの山に入ると
すぐに、谷間を流れる川の淵に
馬を置いたまま、如古坊は
姿を消してしまった。かなりの距離を置き、
馬の足跡を頼りに
追っていたのだが、
すでに気付かれていたのかも
知れなかった。
“またしても見失のうたか。”源三郎は仕方なく、
引き返す事にしたのだが、
口惜しい思いは胸に増すばかり。
ふと、近くに稲荷神社があるのを
思い出し、気を鎮めようと、
立ち寄ったのだった。
どんぎつねを案じる思いもあった。そして、まさかの再会。
それは、源三郎に
思わぬ力を与えた。「どんぎつね殿、ちと訊ねるが、
鼻は効くか?」「もちろんです!
今、通ったお方は、
着物から白檀の香りが。」「その香りを、辿れ様か?」
「お任せ下さい。」
「では、頼む!」
社の裏に廻り、つないだ馬を
引きだそうとする源三郎を、
どんぎつねが止める。「馬は置いて行きましょう。
さほど遠くはなさそうです。」源三郎はどんぎつねの言葉に従い、
並んで歩き始めた。
どんぎつねの耳としっぽは
気になるものの、この際、
かまってなどいられない。「源三郎さん。あの方は?」
「羽木家惣領、忠清様の兄上じゃ。
腹違いではあるが。」その一言で、どんぎつねは
何かを悟ったらしい。「先程、ぬしが申した
ただならぬ気配とは?」「あの方は、濃い灰色の靄に
取り巻かれています。
あのままでは、危ない。」「危ない?
成之様が?」どんぎつねは、黙ったまま、
かすかな香りを追う。源三郎もそれ以上は訊ねず、
その横を歩きながら、
トヨが聞き出してくれた
薬師堂の小僧の話を思い返した。如古坊は、月毎に薬師堂を訪れ、
薬を受け取っては、何処かへ
届けているらしい。
しかも、時には貴重な
高麗人参まで携えて。源三郎はそれを聞いて、
腑に落ちた気がした。
如古坊は、鳴子の張り巡らされた
あの横道の先で、
人参を育てているに違いない。
“しかし、いったい何の為に?”「もうすぐです。
この道の奥。」どんぎつねがさす指の先に、
笹竹に囲まれた小屋の屋根が
小さく見えた。
“如古坊が姿を消した場所とは
まるで方向が違う。
やはり、気付かれていたか。“「よし。
わしが行って、探りを入れよう。
ぬしはここで、待っておれ。」「駄目です。それでは
靄の正体が分かりません。
私も行きます。」「しかし、、、」
「源三郎さんは、この藪の葉を
茎ごとたくさん切って、
持って来て下さい。」「何故?」
「カモフラージュです。」
「鴨?」
「ええっと。あ、、、隠れ蓑。
そう。隠れ蓑にするんです。」そう言い残すと、
どんぎつねは走り出した。
足音は全く立たない。
“唯之助にも劣らぬの。”
どんぎつねの見事な走りっぷりに、
源三郎は、舌を巻く。言われた通りに、源三郎は
藪の小枝を小刀で切り出した。
そして、それを小脇に抱え、
足音を忍ばせて、小屋に近づく。
笹竹の間で、手招きするように
どんぎつねの尾が揺れていた。
源三郎は、素早くその横に
体を滑り込ませる。広縁に人影が見えた。
話し声がかすかに聞こえる。「母上の容態は?」
「先ほど、手当は済ませた。
ほどなく落ち着かれよう。」「あれ程、出歩いてはならぬと、
申し伝えておいたものを。」「まあ、まあ、ここは。。。
お前の為に、山竜胆を
探そうとなされたのじゃ。」源三郎は、耳を疑った。
“母上?”「源三郎さん。
部屋の奥に黒い靄が
見えます。
成之様の物より、
もっと暗くて濃い。」「奥にいるのは、
成之様の母御らしい。」「母御?それは、
お母様の事ですね。
でも、何故、このような
山奥の小屋に?」「子細はわからぬ。
殿がご正室を迎える折に、
城から追われたと聞いておる。
成之様はすぐに寺に入られ、
母御のその後は、誰も語らぬ。」「ひどい!
それではお母様が
恨みの念を抱いても
仕方がないです。」「ううむ。何とか、姿を
確かめられぬものか。」小屋の奥を覗き込もうと、
源三郎が身を乗り出す。
そのはずみに、
笹竹がザワッと揺れた。
その音に驚いて、庭先の鶏が、
けたたましく泣き騒ぐ。
“あっ!!!”
源三郎が息を飲む。
どんぎつねの形相が
見る間に変わった。「この、チキンめが―――!」
飛び出そうとするどんぎつねの袖を
源三郎が咄嗟に抑えた。「どんぎつね殿!気を確かに!」
「え?あっ!
私ったら、つい私情が。」その時、如古坊の大音声が轟いた。
「誰じゃ、そこにおるのは?!」
「これは、したり!
逃げるぞ!」袖を引く源三郎の腕を、何故か、
どんぎつねの白い指が抑えた。「ここは、私の出番です!
源三郎さんはこの枝を被って
先に逃げて!」「ならぬ!」
「中にいる方を
確かめないと。
任せて!私、女優なんで。」そう言うやいなや、どんぎつねは、
笹竹の間をするりと抜け、
肩を怒らせている如古坊の
目の前に立った。不意に現れた巫女姿の女子に、
如古坊は一瞬、たじろぐ。「な、何者じゃ?」
「私は、伏見稲荷の
巫女にございます。」どんぎつねは、緋色の袴の両脇を
両手で広げ、膝を屈めて、
優雅にお辞儀をした。
まるで、ディズニー・プリンセス
の様に。
だが、しかし、悲しいかな、
ここは永禄。
プリンセスなんて、
だあれも知りゃしない。袴を思いっきり広げたのは
源三郎を隠す為だったのだが、
当の源三郎にはさっぱり伝わらず。
尻尾を払う様に動かして、
合図を送るが、
立ち去る気配は全く無かった。
“ん、もう!!!
こうなったら、仕方ない。
大切な非常食だけど。“どんぎつねは、
衣の袖に手を入れると、
スナック菓子を数粒、掌で握り、
粉々に砕いて、足元に落とした。
“関西限定、カール薄塩味。。。
やっと見つけたのにい!“そう。
“東京”では、今や幻の
スナック菓子なのだ。小屋の床下に逃げ込んでいた鶏が、
目ざとくそれを見つけて、
近寄ってくる。
“カールうすしお”のかけらを
ついばみ始めた所で、
どんぎつねは、ここぞとばかりに
鶏を蹴り上げた。
鶏は、羽をばたつかせ、
盛大に叫び声を上げながら、
小屋の屋根に吹っ飛ぶ。
“ナイス・シュート!!!”
そう。
それは、令和なら
ナデシコ・ジャパンから、
オファーが来るレベル。如古坊は、口をあんぐりと空け、
屋根を見上げた。
すかさず振り返り、どんぎつねは
源三郎を促す。「早く!今のうちに!」
どんぎつねの言葉に押され、
源三郎は、身をひるがえし、
笹竹の中から姿を消した。~~~~~~~
稲荷の社に戻った源三郎は、
なかなか、馬を引き出せずにいた。
早く城に戻って、若君に報告をと
思いつつ、やはり、
どんぎつねが気にかかる。やがて、日が暮れて、
辺りは闇に包まれた。
“遅い。遅すぎる。。。”
源三郎は焦った。
“如古坊に捕らえられたか?
なれば、助けに行かねば。
いやしかし、
伏見に戻ったのやもしれぬ。
それなれば良いが。
やはり、ここは確かめに。。。“暗闇の中で、隠れ蓑はいらぬはず。
なのに源三郎は、
袴に、長めの枝を差し込み
胸元まで葉で覆う。
社を出ようとした所で、
鳥居の下に、金色の星が二つ、
輝いているのが見えた。源三郎は、目をしばたく。
その星は、真っ直ぐに
こちらに向かって来る。
思わず目をつぶった源三郎の耳に、
柔らかな声が響いた。「今から、何処に行くの?」
目を開けると、そこにあったのは、
愛らしく動く狐の耳。「どんぎつね殿!」
源三郎は我を忘れて、どんぎつねを
抱きよせた。
笹の葉に鼻をくすぐられ、
どんぎつねが大きなくしゃみをする。
源三郎は、あわてて胸を引き、
どんぎつねを離した。「すまぬ。案じていた故、つい。」
その後、源三郎とどんぎつねは、
月明かりを頼りに、枯枝を集め、
焚火をしながら、夜を過ごした。
正しくは、源三郎の馬も一緒に。
源三郎は、枯葉を集め、
馬の寝床を作ってやり、
馬は前足を折って、
その上にじゃがみ込んだ。
源三郎は、優しく馬の首を撫でる。
馬が落ち着いたところで、
どんぎつねをそばに呼んだ。「この馬は大人しいゆえ、
ぬしが触れても暴れはせぬ。」源三郎は、どんぎつねの手を取ると、
首筋を触らせた。
どんぎつねは、馬のたてがみに、
頬を寄せる。
馬のぬくもりが心地良い。「これで、寒さはしのげよう。」
馬の体に上体を預けてくつろぐ
どんぎつねの姿に、なぜか源三郎の
心もほぐれて行くのだった。焚火が、時折小さく爆ぜて、
火の粉が舞い、炎が揺らめく。
馬とどんぎつねに背を向け、
源三郎は、焚火を見つめたまま、
どんぎつねの話に聞き入った。けたたましい鶏の声を聞きつけて、
顔を出した成之に、
狐の絵馬を渡した事。
病人の願い事と名前を書いて、
稲荷神社に奉納すれば、
病は癒えると伝えた事。「もし、お母様が私の話を
聞いておられたなら、
ご自身が、絵馬に願いを
託すかもしれません。
弱った者ほど、神仏に
すがりたくなるもの。」「お前の耳と尻尾をみて、
成之様や如古坊は
不審に思わなかったのか?」「狐が稲荷神の使いである事は、
皆様、良くご存じです。
伏見稲荷では、新たに神官を
迎える事になり、
その儀式の為の時別な衣装だと
伝えました。
ここに私が来たのは、
儀式に使う杉の葉を
取りに来たのだと。
通りがかりに、話し声が聞こえ、
なにやら困り事の様だと思い、
足を止めたと申し上げました。」
“平成の東京だったら、
振り向きもされないんだけど。
コスプレ天国だから。“「杉の葉?その御神木の?」
どんぎつねがうなづく。
「この稲荷神社は、伏見稲荷の
八百八十八番目の末社なのです。
八は末広がりで縁起が良いので、
この御神木が選ばれました。」どんぎつねの話は、
まんざら嘘でもないらしい。小さな火の中で、
また枯れ枝がはぜた。
その音が、だんだん遠くなる。
やがて、源三郎は、
浅い眠りに落ちて行った。夜明け前、
体が揺れるのに気付いた源三郎は、
思わずわが目を疑った。
いつの間にか、馬の背に乗っている。
馬は城を目指している様だ。源三郎は手綱を引き、
稲荷神社に戻ろうとするが、
馬は向きを変えようとしない。
まるで、何かに操られている様に。馬の鼻先に、小さな火が
おぼろに揺れている。
“あれは、もしや、狐火?”突然、源三郎の全身から力が抜ける。
手綱を取ろうとしても、
指に力が入らない。
源三郎は、なすすべもなく、
狐火に導かれる馬に、
その身をゆだねた。~~~~~~
「高山との国境の小屋で、
いったい、何をして
おられるのか。」若君と共に、源三郎の報告を聞いた
小平太が、成之への
不信感を露わにする。源三郎は、成之の母の事は、
この時はまだ、語らずにいた。「若君、直ぐに如古坊を
問いただしては?」思案を重ねていた忠清が、
やっと口を開いた。「小平太。早ってはならぬ。
今は、源三郎とともに、
花園での茶会の準備を進めよ。」忠清は思い返していた。
此度、源三郎が突き止めた小屋は、
唯が見たと言う、成之と高山の
坂口との密談の場であろう。
今思えば、大手柄であったのに、
逆上して唯を責めた。
忠清は、いまさらながら、
あの夜の己を、恥じた。
“それにしても、兄上が未だ、
あの小屋を使うておるとは。
わしに知られた事は、承知のはず。
何故じゃ?“若君の部屋を退出した後も、
小平太は不服な様子。「若君は、いったい何を
考えておられるのか!」一方で、源三郎はすぐにも
稲荷神社に戻りたかったが、
若君の言葉に従って納戸に向かい、
茶会の為の茶器を揃え始めた。さらに数日が過ぎた。
茶会を二日後に控え、花園の東屋で
会場を整えている源三郎のもとに、
何故か、トヨがやって来た。
小平太の使いだと言う。「小平太殿は、本日は参れぬ。」
「何故?」
「三之助と孫四郎を送って行く事に
なったのじゃ。
先に戻った、梅谷村の
おふくろ様の元への。」「天野の屋敷で、養うはずでは?」
「三之助がの、
母を守るは、自分の役目じゃと
言い張って聞かぬらしい。」「何と、けなげな事よ。」
「今日の務めを、
ぬし一人に任すは心苦しいが、
よろしく頼むと。」「承知した。伝言ご苦労。」
「それと。。。これを。」
トヨは真っ白な晒を源三郎に渡す。
手ぬぐいほどの大きさで、
端には千原家の家紋が
染められていた。「これは?」
「先日の礼じゃ。
薬師堂の小僧に、草木染の
手ほどきをうけての。」「薬師堂?では、この紋は、
ぬしが染めたのか?」しばらく前の事。
ノアザミの葉を摘むと言う
トヨの手に、手ぬぐいを巻いて
やったのを、源三郎は思い出した。「あのような事、
気にせずとも良いものを。
それに、わしはまだ
許されておらぬ。
千原を名乗る事は。」トヨは聞こえぬふりで言う。
「首に巻けば、汗止めになろう。
襟も汚れまい。」源三郎は、小さく頷くと、
うつむいたままそれを首に巻いた。
トヨは嬉しそうに、その様子を見て
いたが、源三郎が顔を上げると、
慌てたように後ろを向き、
走って行ってしまった。
“相変わらず、せわしい奴じゃ。”源三郎は、礼も言えぬまま、
トヨを見送る。
やがて、東屋の作業に戻った。明後日の茶会では、茶を味わう前に、
この東屋で、成之が花を立て、
披露する趣向になっている。
東屋の柱に朽ちた所が無いか、
源三郎は、その一つ一つを
掌でなぞって確かめた。その後、花器をしつらえる為の
花台を東屋に運び入れる。
布で丁寧に花台を拭き清めた所へ、
庭師の頭が、縁台の組み立てが
終わったと、報告に来た。「奥御殿の方々の御席には、
紗の天蓋をお付けする事に
なっているはずじゃが。」「抜かりございませぬ。
床の緋毛氈と、天蓋の紗は、
明日、運び込む手筈にて。」「左様であったの。ところで、
成之様の花器は決まったか?」「野点であれば、青銅の壺が
よろしかろうとの仰せ。」「左様か。
その壺の運び込みも
明日になろうの。
であれば、明日の夜も
わしが番を致そう。」「連夜のお役目では、
お身体に触りが。
今宵は、わしらが見張ります、
どうか、お屋敷にお戻りを。」「いや、大事無い。
野営は戦で慣れておる。」庭師らを帰し、東屋に戻る。
西に傾く夕日が目に染みる、
源三郎は、ふと思い出した。
“どんぎつね殿に、
袴をはかせたのも、
ここであった。“脇差に下げた小さな尻尾を、
指でそっと撫でる。
源三郎は、声に出してみた。「姫、おみ足をお上げ下され。」
「は~~い。」
驚いて振り向くと、
当のどんぎつねがおどけた顔で
片足を上げていた。「な、何故分かった?
わしがここにおると。」「だって、それ、
私の分身ですから。」「分身。。。」
「ずっと、お守りします。
源三郎さんが
持っていて下さる限り。」「それは、、、心強いの。」
どんぎつねは、満開の花の様な
笑顔を見せる。
源三郎は、眩しそうな顔で、
目をそらした。「源三郎さん?」
「あ、いや、その。
折角参ったのじゃ。
紅葉を見せてやろう。
今が、見ごろ故。」「あ、いえ、それよりも、
これを。」どんぎつねは、衣の袖から、
杉の葉に包まれたものを、
そっと取り出す。「これは、もしや。」
「はい。絵馬です。
今朝、社で見つけました。
これにも、黒い靄が
かかっていたので、
御神木の葉で封じています。」絵馬を受け取る源三郎の指が震える。
これを書いたのは、成之様か?
それとも母御か?
その願いとは、いったい。。。「ご覧になる時も、杉の葉は
付けたままにして下さい。
そして、その葉が枯れる前に、
稲荷の社に戻して。」「承知した。
早う若君にお届けせねば。
いや、しかし、これは困った。
わしは、明後日の朝まで、
ここを離れられぬ。」「少しの間でしたら、
私がここに。」「それは、ならぬ。
ぬしは、城の者では無い。」源三郎はため息をつき、天を仰ぐ。
空には一番星が瞬き始めた。
その時、どんぎつねの耳が
ピクリと動いた。「誰か来ます!」
源三郎が、どんぎつねを
花台の下に押し込む。
砂利を踏む音とともに
聞こえてきたのは、
良く知った声だ。「源三郎、ご苦労。」
「これは、小平太殿。
梅谷村へ参られたのでは?」「急ぎ戻ったのじゃ。
珍しき梅が枝を手に入れた故。
今、庭師の頭に預けて参った。」「梅?この季節に?」
小平太は、得意げに語る。
「それがの、咲いておったのじゃ。
滅多に見られぬ故、
若君様の茶会にと、
母上が申されての。」「母上?」
聞き返されて、小平太は慌てた。
「あ・・・いやその、
母上じゃ。三之助と、孫四郎の。」小平太の顔が、見る見るうちに
朱に染まる。
普段、生真面目で無骨な小平太の
思わぬ一面を見て、源三郎は驚く。
“?乃殿を慕っておられるのか。”小平太は、照れくさそうに
背を向けると、
今宵の番を代わると言う。
役目を放り出し、“おふくろ様”に
会いに行ったとは、
思われたくないらしい。
小平太は、茶会当日の警備役
なので、その前夜の番には、
付けぬ決まりになっていた。「なれば、ありがたく。」
引き継ぎはないかと問う小平太を、
刈込の足りない柴垣に案内しながら、
源三郎は、さりげなく東屋に
視線を送る。どんぎつねは、そっと花台の下から
這い出すと、源三郎に手を振り、
すぐにその姿を消した。~~~~~~
そして、茶会当日。
源三郎は、稲荷の社の前で、
手を合わせていた。「茶会に出なくて良いの?」
どんぎつねが、無邪気な顔で言う。
「わしは、列席を許される様な
身分ではない。」「身分?
それならば、その身分とかに、
感謝です。」「感謝?」
「はい。そのおかげで、
今日また、ここで
会えたんでしょう?」源三郎は、戸惑いを隠せない。
誰もが、立身出世を望むもの。
それなのに。。。どんぎつねは、屈託なく続ける。
「で、分かりました?
何が望みか。
絵馬を書いた人の。」
「いや。
ただ、“大願成就”とのみ
記されていた故。
つまびらかにはなっておらぬ。」「そうですか。
筆跡は?」「それは判明した。
成之様の母御のものと。
歌会の古い短冊が、
残っておっての。
照らし合わせたのじゃ。」「凄い!
源三郎さんって、
名探偵ですね。」「めい?」
「私ね。思うんです。
成之様は、冷静沈着に見えて、
お母様への思いは、
人一倍お強い。
そのお母様の暗い念が払えれば、
成之様にまとわりついている
暗い靄もきっと晴れます。」「しかし、どのようにすれば?」
「まずは、お母様の体を癒す事。
それから、過去に何があったのか、
慎重に調べて、こじれた原因を
洗い出すんです。」「お、おお。不思議じゃの。
ぬしの言葉を聞くと、その通りに
成せそうな気がする。」いつの間にか、辺りは
夕闇に包まれていた。
小さな火が、
一つ、また一つと、
稲荷の社を囲み始める。「どんぎつね殿、この火は?」
「白狐の迎えです。」
「迎え?
では、伏見稲荷へ戻るのか?」「はい。」
「急すぎるではないか。
留まれぬのか?ここへ。
つまりその・・・
こ、こ、このわしの・・・」思いもしなかった突然の別れに、
源三郎の頭は真っ白になる。
驚きのあまり舌がもつれる。
“妻”という文字が目の前に
浮かぶが、言葉に出来ない。「私、闇払いになる事に
したんです。」「闇払い?」
「はい。闇落ちする人を、
助けたいんです。
それには、白狐の元で
修行しないと。」「その修業とは、
ここでは成せぬのか?
救わねばならぬものが、
目の前におるではないか。
ここに納めた絵馬のお方の。
この稲荷の巫女となり、
その方の闇を払うが、
ぬしの役目では。」「成之様のお母様は、
まだ夜叉にまでは
落ちていません。
今なら、人の力で救えます。
たぶん夫であったお殿様なら。
お母様が救われれば、
成之様も救われます。」狐火がどんぎつねの周りを
ゆっくりと飛び始めた。「私、実は、“葛の葉”様に
憧れていました。
安倍晴明様のお母様の。」「篠田の森に消えたと言う?」
どんぎつねは、微笑みながら頷く。
「でも、私には無理だと
悟ったんです。
これからは、人に恋せず、
人を救う修行に励みます。」どんぎつねの決意は固い様だ。
源三郎の目の前から、
“妻”という言葉が消えて行く。
肩を落とす源三郎に、
どんぎつねは優しくこう言った。「源三郎さん、
気づいてないんですか?
あんなに慕われているのに。」「わしが?」
「その、首のものは?」
源三郎は、慌てて晒を首から外す。
「見ておったのか、花園で。
こ、これは、礼にと。
それにあれは、
妹の様なものじゃ。
あ、いや、時に、
姉の様でもあるが。」「妹?」
源三郎は語った。
故あって、源三郎はとある村で
生まれたのだが、急に母の乳が
出なくなり、困り果てた所へ、
見かねたトヨの母が、
乳を含ませてくれたのだと。「トヨさんって
おっしゃるんですね。
私だったら、肌に着けるものは
好きな人にしか
贈りませんけど。」「そのような事、申すでない。」
源三郎は、何とか話をそらそうと
躍起になる。「そうじゃ。
あれは見事じゃったの。
伏見稲荷の巫女は、
蹴鞠もたしなむのか?」「蹴鞠?」
「まさか、鶏があのように
宙に舞うとは。」「ああ、あれですか。
やりましたよね~。」どんぎつねが自慢げに
尻尾をぐるぐる回す。
それを見て、源三郎が笑った。「実は私。
あれから考えたんです。
私の前世はポンスキーで、
子供だった源さんと
ボールで遊んでたのかなって。」「ぼおるとは?」
「あ、鞠です。」
「その後に、狐に
生まれ変わったと。」「はい。」
「源殿も、罪な事をしたものじゃ。
人に生まれ変わるよう、
願えばよかったものを。」「源三郎さんは、そう願って
下さるんですか?」「願う。」
「良いんですか?
そんなこと言って。
ホントに、生まれ変わるかも。
例えば、源三郎さんと、
誰かさんの娘としてとか?」「誰かさんとは、誰であろう。」
源三郎が寂しそうな顔をする。
どんぎつねは、
慌てて言葉を添えた。「男の子として、
生まれたりして。」「男?いや、やはり娘が良い。」
「そう?
じゃあ、考えておいて下さい。
名前を。」「どんぎつねでは不服か?」
「不服では無いですけど。
折角なら、もっと、
娘らしいのが。」「心得た。」
「今、決めてもらえます?」
「何故に?」
「生まれ変わった時に、
思い出せるかも。
今日の事。」「承知した。」
腕組みをした源三郎の指が、
脇差に下げたモフモフに触れる。
やがて、どんぎつねを見つめて、
こう言った。「美緒」
どんぎつねの尻尾が、
嬉しそうに揺れる。「ぬしの尾は、美しい故。」
「えーーー?尻尾だけ?」
どんぎつねは嬉しさを隠して、
わざと口を尖らせる。「あ、いや。そういう訳では。」
どんぎつねは、思う。
“やっぱり源三郎さんカワイイ。”気が付けば、どんぎつねは
沢山の狐火に取り巻かれていた。夜空には美しい星が瞬いている。
どんぎつねは空を見上げた。「もう、行かなくちゃ。」
「もう。」
どんぎつねは、源三郎が左手の中に
丸めて持っている晒を
そっと自分の手に取ると、
静かに広げて、それを源三郎の
首に巻きなおした。「どうか、お幸せに。」
「美緒。」
源三郎が呟く。
狐火に導かれる様に、どんぎつねは
稲荷の社と御神木の周りを
ゆっくりと廻ると、やがて、
鳥居の向こうに消えて行った。“これを、“狐の嫁入”と
呼ぶのやもしれぬ。“白狐の元に戻るどんぎつねの、
美しい尾が、目の奥で揺れる。源三郎は、朝日が昇るまで、
その場に一人、
たたずんでいた。
https://www.youtube.com/watch?v=ZPsZj6_udmE[no.686] 2021年9月3日 20:08 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days69~10日14時、私のモノ!
ちょっと位、緩んでもいいよ。令和だもん。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅クリニックは盆休みに入った。そろそろお昼ごはんが終わる。
美香子「さあ、暑いけど、もうひと頑張りして大掃除するよ~」
若君「お母さん、その大掃除ですが」
美「はい?」
若「普段出来ぬ所を掃除すると聞きました」
美「うん、そうね」
覚「どこか、汚いなぁって所あった?」
若「相当汚れておる、とは申しませんが」
覚「うん。でも、気になったんだろ?」
若「表に掲げた、院の名が入った、夜に光る」
尊「あー、さっき兄さんが見てた、クリニックの看板ですね」
若「虫が集まるゆえ、所々黒うなっております」
美「あー。なんかすっごく恥ずかしいわ。それ、きちんと磨いた覚えないのよ」
覚「目につく所なのにな。ちゃーんと見てなきゃいけないな~。さすが忠清くんだ」
美「じゃあ忠清くん、そこ、あなたにお掃除お願いしてもいい?」
若「承知致しました」
唯「私も手伝うー」
尊「かなり暑いよ?」
唯「一緒がいいもん」
尊「そこは、愛の力が勝るんだ」
覚「高圧洗浄機位買っときゃ良かったなー。ブラシとバケツと雑巾と、あと脚立が要るから用意するよ」
外に出た。看板を見上げる若君と唯。
唯「これかー。確かにうす汚れてる」
若「始めるか」
若君が脚立に登った。雑巾で水を含ませながら、ブラシで擦る。みるみる内にバケツの水が真っ黒に。
唯「水、替えてくるね」
若「頼む」
一人黙々と擦っている若君。すると、
若君 心の声(何やら、視線を感ずる…ん?)
いつの間にか、門の外に小さい女の子が立っていた。脚立に乗る若君を下から見上げている。
若 心(近くの屋敷の娘御であろうか。年は孫四郎程か)
そのまま掃除を続けていると、またもや熱視線を感じた。見ると、
若 心(なんと!分身の術か?!)
一回り大きく、そっくりな顔で同じ服を着た女の子がもう一人増えて、二人に見つめられている。
若 心(これは、どうしたものか…)
若君が戸惑っていると、
男「あー、やっぱり里帰りしてたなー!」
若「…あっ、これは」
急いで脚立を降り、麦わら帽子を脱いで、現れた男性に近づく若君。
若「久方ぶり、です、コーチ」
コーチ「元気そうだね。速川は?あ、君も速川だったな」
若「水を汲みに行っておりまして」
唯「あー!コーチ!」
コ「おー、元気かー」
唯「え?なんでここに居るの?てか、もしかして娘ちゃん?二人?かーわいい!」
コ「ウチの娘だ。小2と年長」
若君の囁き「…何の話じゃ?」
唯の囁き「年は、7才と5才、って意味だよ」
コ「妻の実家がこの近くでな。ゆうべから来てるんだが、子供が飽きだしてさ、公園にでも行こうと思ったんだが、あーそう言えば速川の実家この辺りだったな、って様子を見に来てみたんだ。済まんな、娘達がじっと見ててびっくりしただろ?」
若「いえ」
上の娘「パパ、この人たち誰?」
コ「このお姉さんは、パパが教えてる高校の部活で頑張ってたんだ。で、このお兄さんと結婚したんだよ」
上娘「けっこん。あ、わたしがしょうらい、パパとすることだね」
唯&若「え」
下の娘「ちがうよ!あたしがしょうらい、パパとけっこんするんだもん!」
上娘「わたしだもん!」
下娘「あたしだもん!」
唯「か、かわい過ぎるっ。コーチ、めっちゃ愛されてるじゃん!」
コ「嬉しいんだが、いっつもこれでケンカが始まるんだ。さ、パパはまだお話があるから、先に公園に行ってなさい」
娘達は、走っていった。
コ「ふう。騒がせて悪かったな。君らも子供…あっ」
唯「あ、私、子供できてませんから。コーチが勘違いしただけだよ」
コ「そ、そうか。まだしばらくこちらには居るのか?」
唯「お盆の頃に、帰ります」
コ「そうか。じゃ、そろそろ行くよ。元気でな」
唯「うん。元気でねー」
若「では、これにて」
走って行くコーチ。後ろ姿を見送る唯と若君。
コーチ 心の声(速川、綺麗になったな…)
唯「あのさぁ」
若「ん?」
唯「さっき、ホンの一瞬だけど、とても永禄のみんなに見せらんない顔してたよ」
若「そう…やもしれぬ」
唯「デレッデレもいいトコだった」
若「唯に瓜二つな愛らしい娘達に、取り合いにされる様を思い浮かべての」
唯「ははは。でもそれ、ちょっと違うよ」
若「違う?」
唯「私も取り合いに参加するもん」
若「そうか、ハハハ」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.685] 2021年9月3日 20:03 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の現代Days(仮)か…
てんころりんさん、いつも感想をありがとうございます。心に染みまする。
なんせ「寸止めの美」がないので、いつイチャイチャしだすかと、ハラハラしながら御覧いただいてると思います。恐縮です。
今日のお話から、速川クリニックが盆休みに入りますので、家族五人の場面がちょっとは増えるかな。速川家は、両親を筆頭に今日も平和です。
題名の件ですが…そりゃあ現代で生活を営む二人は、私も見たいです。でもここで、超現実的な事案が頭をもたげ…若君は「登録」されてない人物だから、唯達と同じようには生活できないし…ファンタジーはどうなった!って話なんですが。
ひとまず、と言ってはなんですが、令和Days、満月の2019年8月15日以降のお話もちょっぴり描きますので、今しばらくお付き合いくださいませ。
[no.684] 2021年9月2日 23:31 梅とパインさん 返信ふふふ (^q^)
いつもは お誕生日のお知らせのお礼は直接言っていますが、他ならぬ 源ちゃんですからね (^.^)。 勝手ながら、てんころりん様のお名前を 出させて頂きました。お許しを… f(^^;。
[no.683] 2021年9月2日 20:37 てんころりん(東京)さん 返信夕月かかりてさん
2019年(令和元年)7月、ひょんなことから現代に戻って来た唯と若君でしたね。
8月の満月がもう少しで来てしまいます。
夏休みに実家へ里帰りした2人というイメージで読んでます。
また来てね~って(笑)そして夕月さんの令和Daysを読んでいると、現代で生きることを選んだ唯と若の物語が あっていいかなぁと思ってしまいます。
私は原作を全く知らずにドラマを見たので、初見の頃から、それは思いました。緑合に行った羽木には父上と兄上がいて、任せればよい。
父上も「我らは我らを生きる!」かっこよく言ってましたし。
父上は、若君と唯は相賀から逃れて、2人で生き延びて欲しかったのかな? なんて勝手に解釈します。色々なお話がありましたが、若君の孝行息子ぶりに好感あります。
大分前のお話ですが、海水浴で唯·若·尊が浮き輪をして、3人一緒に浮かんでいて、砂浜で覚さんがのんびりビールを飲む図、好きでした。平成Daysの続きで、ジェンガに書いた名前の話になり、美香子さんが孫四郎と三之助には、亡くなった弥之助の他にもう1人兄がいたのでは?と推理しますが、そうですよね。
私もそう思います。夕月さんの速川家のなかで、私、特にお父さんとお母さんのファンです。
古舘寛治さんと中島ひろ子さんの声が本当に聞こえますょ。[no.682] 2021年9月2日 20:31 てんころりん(東京)さん 返信わ~驚いた (笑)
★梅パさん、
源ちゃん トヨちゃんの ほんわかした会話、いつもかわいくて好きです❣️あら?天野の奥方様って誰?_吉乃さまかぁ。
え?これ誰?どこのお局様?_てんころりん? 私かぁ。(゚〇゚)ビックリ
有名な源ちゃんトヨちゃんシリーズに出てしまった!
ありがとうございました。[no.681] 2021年9月1日 21:30 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days68~10日土曜8時30分、気が利きます
郷に入っては郷に従う。いや、馴染み過ぎ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅朝ごはん後。
美香子「じゃあ、あと半日、頑張りまーす!」
四人「行ってらっしゃーい!」
覚「さて、と。昼からは大掃除だけど、午前中も色々やっとかないとなー」
若君「お父さん」
覚「何だい?」
若「掃除と、大掃除は、何が違うておるのですか?」
覚「あー。大掃除は、普段中々出来ない所だったり、大がかりにしか出来ない所だったり。いつもより念入りにって感じかな」
若「普段出来ぬ所ですか」
覚「どこか、ここやらないとって気付いた所あったら教えてな」
若「わかりました」
覚「まずは、気温が上がらない朝の内に、庭の草むしりだな。帰って来た早々に抜いてもらったが、もう大分伸びてるから」
若「わかりました。では早速三人でいたします」
唯「私と」
尊「あ、僕か」
覚「よろしく。日焼け止めも軍手も帽子もタオルも忘れずにな」
若「はい。では支度が出来次第、参るぞ」
唯&尊「ははっ」
草むしり中。
唯「どうせならさぁ、食べられる野草とか生えてきてくれれば一石二鳥なのにね」
若「そうじゃのう。この辺りの草は、まず無理であろう」
尊「それ、もしかして本読みました?」
若「あぁ。実に為になった」
唯「私が買った本でしょ」
尊「その本、しばらくお父さんが持ってたんだよ。僕はその時読んだ。多分今回帰ってくるちょっと前に、お姉ちゃんの部屋に戻してると思う」
若「おぉ、それで合点がいった。わしはこの前、初めて見たのじゃ」
尊「実際、永禄で役に立ったの?」
唯「立ったよ。ひもじい時にモグモグしてた」
若「いつの話じゃ?梅谷村に居った頃か?」
唯「まっ、そう…だね」
尊「お城入ってからもやってたら怖いよ」
庭の草むしりは終了。
若「先程、お父さんが、普段出来ぬ所を掃除すると申された」
唯「うん」
若「草はまだ、そこらに生えておるのだが」
クリニックの駐車場の隅を指差す若君。
尊「じゃあ、もうちょっと頑張りますか?」
唯「どしたの尊?やる気じゃん」
尊「だって、昼過ぎに頼まれたら、もっと暑い時にやんなきゃいけないんだよ?」
唯「なるほど。なら、やっちゃおー!」
建物近くから、門の辺りまで手分けして、草むしり続行。
覚「あれ?おー、感心感心」
クリニックの中からも三人の様子が見える。
美「あら、こんな所までやってくれるなんて。さすが忠清くん…いや、これは尊が主導かな」
芳江「草むしりの分析ですか?」
美「感情で動くのが唯。でも納得すればすんなり言う事を聞く。感情と理論のバランスがいいのが忠清くんだけど、今日の場合、多分忠清くんが提案して、理論で動く尊が、全員が納得するような答えを出して、こうなってると思うわ」
エリ「まあ。まるで会話をご覧になったかのようですね」
門の前まで来た。クリニックの看板をじっと見つめる若君。
尊「ふう、こんなトコかな。あれ、看板がどうかしました?」
若「うむ。後でお母さんに聞いてみようと思うての」
尊「そうですか」
敷地内全て、草むしり終了。抜いた草をゴミ袋に集め、覚の元へ。
唯「あー、あっつーい」
尊「ふう、重っ」
若「お父さん、これで宜しいでしょうか」
覚「あー、ありがとねぇ。ホント助かったよ。ごめんな、永禄なら周りが何でもやってくれる身分なのに、つい甘えちゃってさ」
若「いえ、此処は先の世ですので。何でも致します」
覚「みんなお疲れさん。麦茶飲んで、涼んで」
時計は、11時を指している。
覚「ありがとな。午前中はここまででいいぞ。また昼から頼むな」
若「わかりました」
覚「ところで、今日の晩だが、いよいよもんじゃ焼きにしようと思う」
唯「おーっ!」
尊「楽しみー!」
唯「具はなに?」
覚「明太チーズでどうだ」
唯「お餅も入れて~」
覚「了解」
唯「たーくん、できた所からどんどん食べてくんだよ。楽しみにしててね」
若「出来た所から?…少々解せぬが」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.680] 2021年9月1日 18:58 梅とパインさん 返信ハピバ♪
【いつもの場所】
トヨ「げ~んちゃん♪」
源三郎「おぅ!」
ト「はい これ」(差し出す 干菓子)
源「お、こんな贅沢な菓子を どうしたんだ?」
ト「天野の奥方様が 女中たちに下さったの。これは私の分だけど、今日 源ちゃんのお誕生日だから 持って来た」
源「覚えてくれてたんだ!」
ト「ううん 忘れてた、あはは…」
源「何だよ~。え… じゃあ何で?」
ト「てんころりん様が 教えて下さったのよ」
源「あぁ あの御方は いつも皆のことを よく覚えて下さって、有り難いことだよね」
ト「ほんと そう。梅パ…とかいう人とは違うよね」
源「そんなこと言っちゃダメだよ! あの人は 俺たちの…その…キューピッド…ってやつ…?」
ト「まぁそうだね。でも ただのキューピー体型って話もあるよ」
源「やめろ やめろ!」
ト「さ、食べて食べて♪」
源「うん、せっかくだから トヨもお食べ」
ト「うん♪ 源ちゃん お誕生日おめでとう!」
源「ありがとう♪」
二人の側の樹で ツクツクボウシが賑やかに鳴いてます。[no.679] 2021年8月30日 20:46 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days67~9日17時、恩返しします
尊は、これで三倍以上頑張れるに違いない。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅キッチンに四人集合。
覚「じゃあ忠清くん、始めるよ」
若君「はい!」
覚「今日は、色々同時進行だから、唯も尊もよろしくな」
唯&尊「はーい」
カレー作りスタート。ショウガ、ニンニクを炒めたところに、玉ねぎ投入。
覚「色が変わるまでじっくり炒めるよ。これで味が決まるからね」
ひき肉、スパイスを入れ、炒め続ける。隣では、野菜スープが出来上がった。
尊「ひき肉なんだ。わかった!キーマカレー作るんだね」
覚「そうだ。肉じゃがじゃないだろ?」
唯「お母さんに対抗してる?」
トマト、ヨーグルト、水、調味料を入れてしばらく煮る。その間に、トッピング用のピーマンやパプリカを細切りにして炒めている。
覚「ご飯は、炊いておいた。これだよ」
若「色が付いております!」
覚「ターメリックライスだから黄色だよ。おーい」
唯&尊「はーい」
覚「ご飯とスープ盛り付けてくれ」
唯&尊「はいはーい」
キーマカレー、出来上がり。
美香子「美味しそう!」
若「これで良かったのか、わかりかねます」
覚「大丈夫だよ。では」
全員「いただきまーす!」
心配そうに皆が食べるのを見ている若君。
唯「おいしい!」
尊「辛過ぎなくて、なんか爽やかで」
美「人となりが出てる感じね。美味しいわ」
覚「味がまとまってて、美味しいよ。食べてごらん」
若「はい。…なるほど」
覚「どう?」
若「これが、わし、なのですね」
覚「うまいだろ?」
若「はい。されど、人となりが出ておるとなると、身構えてしまいます」
覚「ははは、そうか。料理って、そんなもんだけどな。バッチリ大成功だからね」
食後。久々に、実験室に子供達三人集合。
唯「さて。旅行の話しよっか。親に隠れてこっそりと」
尊「まだあんまり考えてないけど、もう日にちないもんね」
唯「私、思ったんだけどさぁ」
尊「うん」
唯「尊が、たーくんと二人で出かけるとしたら、どうする?」
若「二人?」
尊「えっ!二人で?!えーっと…ホテルからちょっと歩くと、電気街があるんだ。今すぐ何か欲しいって訳じゃないけど、プラプラしたい」
唯「理系男子版ウィンドウショッピングだね。で?」
尊「その近くの商店街もプラプラ。アーケードだから、暑くないし」
唯「うん」
尊「で、僕もモリモリのパンケーキ食べてみたい」
唯「おっ」
尊「こんな機会でもないと、一生口にしない気がする。これは、お姉ちゃんも一緒じゃないとちょっと無理かな」
唯「わかった。それで行こー!」
尊「は?」
唯「大好きなお兄ちゃんとデート、良くない?二人で出かけるなんて、なかったでしょ」
尊「兄さん一人だけ来た時にはあったけど…だいぶ前だな」
若「此度は、ないのう」
唯「尊とたーくんのデートに、私が付いてく体でどう?邪魔はしないからさ~」
尊「え、いいの?やったー!」
唯「今回さ、受験勉強を後回しにしてくれてるから。そのお礼というか」
若「なるほど、それは良き計らいじゃ」
尊「わぁ、ありがとう、お姉ちゃん」
唯「ちゃんと、行く店やルート、決めといてよ?」
尊「うん!」
夜も更けてきた。唯の部屋。
若「心優しい姉君じゃ」
唯「そぉ?ありがと。たーくんも尊を気にしてくれてたからさ。あ、ごめんね、勝手に盛り上がって決めちゃって」
若「構わぬ。これで丁度、恩返しが出来るのじゃな」
唯「そうだね」
若「…今日は、眠くはないか?」
唯「眠くないよ。あはは~、なんか、狙ってる顔になってるよ」
若「狙っておるからじゃ」
唯「やっぱしか。えっ、もう?!」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
夜はいつまで続くかわかりませんが、9日のお話は、ここまでです。
[no.678] 2021年8月29日 10:06 梅とパインさん 返信[no.677] 2021年8月29日 07:35 妖怪千年おばばさん 返信[no.676] 2021年8月29日 00:19 夕月かかりて(愛知)さん 返信[no.675] 2021年8月29日 00:04 梅とパインさん 返信びっくりした~(笑)
さっき 気付きました (^-^;。
源ちゃんトヨちゃん、どうぞどうぞ使って下さいませ~♪ 逆に嬉しいです (*^^*)。
前には 妖怪千年おばばさんも 源ちゃんを出してくれたし、生みの親として(←違うぞ!) 嬉しいことです (^^)。連載を 楽しみにしてますので、よろしくお願いしますね (^^)d。
[no.674] 2021年8月28日 21:05 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days66~9日11時、成長しあうのです
人としては完成形、弱みは唯に対してだけ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅鶴を入れる箱を作っている。
唯「これでラスト?」
尊「できたね。じゃ、鶴を入れてこう」
唯「箱さぁ、どうせ並べるならグラデーションにしない?」
尊「そうだね。糸通す時にも楽だろうし」
リビングの隅に、整然と鶴の山が並んだ。
唯「いい感じ!」
尊「なんか、できあがりが見えてきたよね」
食卓に、覚と若君。
覚「さて、そろそろ忠清くんの嗅覚もリセットされただろ。ハーブのブレンド始めようか」
若君「はい!」
しばらくすると、
若「お父さん、いかがでしょうか」
覚「おっ、どれどれ…ん~、いいね!」
若「形になっておるでしょうか」
覚「勿論。じゃあ、早速お昼ごはんに使おう。キッチンへ移動な」
若「はい!」
尊「なんかさ、実の娘や息子より可愛がってるよね」
唯「甘えてこないのが、またいいんじゃなぁい?」
覚「なんかブツブツ言ってるな」
唯「なんでもないっす」
昼ごはん。
美香子「白身魚のフライ、衣にハーブ入ってる?」
覚「あぁ、忠清くんにブレンドしてもらった」
美「あれ、そんな予定だった?」
覚「メインは夜だ。カレーを作る」
美「あら、そうなのね~。忠清くん、とってもいい香りよ」
若「ありがとうございます」
昼下がり。四人で静かに鶴を折っている。
覚「そうそう、千羽鶴を繋ぐための糸や針なんかは、母さんが持ってるから。日曜の午前中に、ちょっとやってみるって言ってたから、忠清くん、もう少し待っててな」
若「わかりました。色々、造作をかけ済みませぬ」
尊「お姉ちゃんが、こんなに長い時間、黙って鶴折ってるなんて驚異」
唯「そりゃあ、たーくんのためだし、平和も願ってるし」
尊「模範解答じゃん。愛は永禄を救う、だね」
覚「お、3時になったな。休憩しようか」
若「はい」
唯「ふー。あーでも、さすがに体は固まるなぁ」
尊「確かに」
覚「あ、じゃあ二階の洗濯物、取り込んできてくれ」
唯「えー、暑いしヤダ」
覚「おやつは、いつもより高級なアイスだ」
唯「行ってきます」
尊「僕も行ってくる。体一旦温めたら、よりアイスがおいしくなるし」
二人、二階に上がっていった。
覚「なんなんだ、あいつらは」
若「ハハハ」
覚「でも、唯は君が黙々と頑張る姿に、感化されてるよ」
若「そうですか」
覚「ありがとうね」
若「え…いえ、そのような」
覚「君が、唯を成長させてくれている。親は、ある程度までしか寄り添えないからね」
若「わし…僕、は」
覚「うん」
若「お父さん、お母さん、尊に出会えた事、唯に感謝しております。三人には、学ぶ事ばかりで、少しは成長出来ておるのでは、と思うております」
覚「充分出来上がってるけどね。でも、嬉しいよ」
唯達が下りてきた。
唯&尊「アイス、アイス!」
覚「騒々しいなあ。はい、座ってー」
おやつタイム。
尊「今夜のカレーって、ゆうべと同じ具?」
覚「同じって?」
尊「だって、肉じゃがの中身って、ほぼカレーと一緒でしょ」
覚「そういうのじゃないな。まっ、この先は、後のお楽しみにしとけ」
唯「ふーん」
若「カレー、であって、カレーでない…」
覚「しまった、本人が一番考え込んでる」
おやつタイム終了。
覚「よし、今日はあとちょっと、キリのいい所までにしよう」
唯「え、じゃあ次の封を開けない感じ?」
覚「今日みんなかなり頑張ったからな。無理はしないでおこう。な、忠清くん」
若「無理しておるように見えましたか」
覚「そうだね。たまたま家に居るから作ってます、位でいこうよ。平和を願うのに、眉間にシワ寄せていてもね。あ、因みに明日は大掃除だから」
唯「大掃除?今?」
覚「明日の午後からクリニックが盆休みに入るから、この機会にしとくんだ」
尊「人手もちょうどあるし?」
若「わかりました。では明日、しかと掃除をさせて頂きます」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.673] 2021年8月28日 21:00 夕月かかりて(愛知)さん 返信梅とパイン様
突然、名指しの失礼をお許しください。
実は、お願いがございます。源三郎とトヨの仲良しカップルを、令和Daysに登場させたいので、お借りしたいのですm(_ _)m
急に仲が進む、なんて野暮な事はいたしません。今後の令和Days、永禄に戻った後のお話も少し描く事にしましたので、ぜひ源トヨにもお手伝いいただきたいのです。よろしいでしょうか?
[no.672] 2021年8月26日 20:47 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days65~9日金曜9時、色と香りに包まれて
子供達の自主性を重んじている、と言って。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅朝ごはん後。覚と若君はキッチンで後片付け、唯と尊は、食卓を拭いている。
尊「そういえば、今度の旅行の予定、聞いた?」
唯「聞いてない」
尊が唯に近づく。
唯「なになに!」
尊「シッ、静かに。なんかね、1日目、昼ごはん家で食べてから出発して、夜ごはんはホテルじゃなくどこかお店を予約したらしいんだけど」
唯「そーなんだー」
尊「現地着いてから晩ごはんまでの時間さ」
唯「うん」
尊「自由行動らしいよ。正確には、お父さん達は自分達で行きたい所にデートに行くから、僕らはほったらかし。言い方悪いけど」
唯「そっかあ。まあ今回は、ラブラブの二人がメインだからねぇ。好きなトコ行けばいいけど、お前ら考えろよ、か」
尊「三人は一緒に居ないといけないし」
唯「不満?」
尊「それ、お姉ちゃんのセリフじゃないの?」
唯「ううん。お母さん達が何も言ってこないから、ちょっと予感はしてた。まだ、現地集合!って言われないだけ良かったかなって」
尊「で、どうする?」
唯「ちょっと考えるよ。尊も、行きたい所あったらピックアップしといて。で、2日目は何するって?」
尊「家族写真をまた撮りに行くってさ」
唯「へー、そうなんだー。だからワンピース買ったのかなぁ」
キッチン。
若君「お父さん、今日は金曜です。料理の指南をお願い致します」
覚「うん、ちゃんと考えてるよ。今から準備するね。おーい、お前達」
唯「なにー」
覚「食卓拭いたか?今からそこ使うから」
尊「綺麗になってるよ」
覚「あーそうそう、鶴だが、折るのもいいが、色毎に仕分けした方が、後の作業がしやすいだろ。分け始めなさい」
唯「了解~」
尊「じゃあ、床に広げちゃおうか」
食卓に、覚が小瓶を並べていく。
尊「何?あ、スパイスか」
唯「いっぱいあるー」
覚「忠清くん、座って」
若「座る。はい」
覚「今日は、カレーを作ろうと思うんだ」
唯&尊「カレー!」
若「カレー。あの少々辛い料理ですね」
覚「これは、スパイス。香辛料だ。カレーを作る時、溶かすだけのルーを入れれば手軽だが、これを混ぜて作る事もできる」
若「はい」
覚「スパイスは、基本の調合はある。最低これをこの位ってね。でもあとは、応用だ。それをやって貰おうと思ってね」
若「好みで、作ると」
覚「そう。それでね、何をどれだけ入れたかをメモるから」
若「それは、何ゆえにですか?」
覚「調合の内容を残しておけば、今後、僕が作っても、忠清くんが作った物と同じ風味になる。忠清ブレンドとして残る。というか、残させてくれないか」
尊「いつまでも、兄さんが作った!って思えるんだ。いい考えだね」
覚「基本の調合は、この手前の入れ物の中。ピンときたのを足していって欲しいんだけど。時間かかっていいから、頑張って」
若「わかりました」
小瓶の中身の香りを、一つ一つ確かめていく若君。
唯「ソムリエ、的な?」
尊「それ大分違う。調合師だよ」
じっくり時間をかけていた若君が、顔を上げた。
若「お父さん、いかがでしょうか」
覚「どれどれ。うん、いいね。予想通り、とても爽やかな感じだ。メモもバッチリとったよ。お疲れ様」
若「香りの趣が違う物もあり、悩みました」
覚「あぁ、それはハーブだから。優しい香りが多いよね」
若「こちらだけでも、料理には使うのですか?」
覚「使うね。あ、ハーブだけでもブレンドしてみる?」
尊「別のミッションが始まる?」
覚「いや、実は昼からカレーだと、クリニックが匂いそうでどうしようかなと思ってて。ハーブ焼きとかなら、そう匂わないから」
若「是非お頼み申します」
覚「わかった。でもちょっと休憩しような。鼻がおかしくなっちゃうから」
若「麦茶なら、わしが入れます」
席を立つ若君。リビングの床の状態に気づく。
若「おぉ…いつの間にやら、鶴の花が満開ではないか」
床に、各色毎の折り鶴の山が出来ており、色とりどり。
唯「キレイだよね~」
尊「20色以上あるからね」
覚「はい、二人もこっち来て。休憩しな」
お茶タイム。
覚「しかし、ちょっと足の踏み場がないよな。新聞紙で、箱作って入れるか」
唯「箱?」
休憩後、半分に切った新聞紙を、パタパタ折り始める父。
覚「こんなモンでいいだろ」
唯「早ーい。もうできたー」
若「なんと…お父さんは、このような術も操られると」
覚「おっ、褒めてくれるの?嬉しいね。さ、こんだけ入れなきゃならないから、みんなで箱作るぞ」
三人「はーい」
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅
続きます。
[no.671] 2021年8月24日 19:49 夕月かかりて(愛知)さん 返信二人の令和Days64~8日22時、教えてあげたい
速川家、騒がし過ぎて、引かれるかもよ。
┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅ようやく父と合流した。
覚「花火どうだった?」
唯「すごかった~!デカいし、眩しいし、音はズン、って響くし」
若君「心にも、響きました」
尊「兄さん上手いな」
覚「音はな、かなり離れてても聞こえてたぞ」
唯「そーなんだー。ごめんねぇ、ウチらだけ楽しんじゃって」
覚「気にすんな。それより、腹減っただろ?」
尊「軽くは食べたから」
唯「晩ごはんなにー?」
尊「軽く食べてないヒトが何か言ってる」
覚「何だろうなあ」
唯「え?まだ決めてないの?」
覚「いや、実は、今日は母さんが作って待ってるんだ」
唯「え!お母さんの作る晩ごはんなんて、超超久しぶりなんだけど!」
尊「お昼は、そこそこあるけどね」
唯「たーくんなんて、初めてじゃない?」
若「晩ごはんは頂いた覚えがないのう」
覚「メニューは、聞けば教えてくれるんじゃないか?」
唯「いや、いい。楽しみにしとくよ」
22時30分、帰宅。
四人「ただいまー!」
母が玄関に出迎えに。
美香子「お帰りなさーい。楽しかった?」
唯「超楽しかったー!」
若「…」
美「あら忠清くん、どうかした?」
若「お母さんが、エプロンを身に付けておられる」
尊「確かにレアだ」
美「あ、これ~?珍し過ぎて、びっくりよねぇ」
若「いえ、よう似合うておられます」
美「あら、嬉しいわ~」
食卓に、おかずがズラリと並んでいる。全員、席についた。
覚「うまそうだ。では」
全員「いただきまーす!」
覚「肉じゃがにしたんだな」
美「うん。家庭料理って感じでしょ?お父さんには、ちゃんとおつまみも作ったわよ。運転お疲れ様でした。ビールどうぞ」
覚「ありがとな」
唯「お味噌汁の具はなに?豆腐と…なめこだ!」
尊「ここにもキノコだね」
美「ここにもって?」
唯「花火が、キノコの形になってたの」
美「あらそうだったの。私、先見の明があったわね」
若「お母さん、どれも大変美味しいです」
美「まー嬉しい!たまには腕を奮わなきゃね~」
唯「お味噌汁ってまだある?」
尊「え、もう?」
美「あるある。お鍋温めてくるわね」
席を立つ母。
覚「人気だな~。母さん、頼むからさ、僕の聖域を乱さないでくれよ?」
尊「焦ってるね」
唯「いいじゃん、いっそ受け持ち交代してさ、明日はお父さんが診察したら?」
若「えっ、お父さんが医師を?!」
覚「いや、忠清くん、それはないから。こら、唯!紛らわしい事言うんじゃない!」
唯「えへへっ」
美「あはは。お味噌汁お待たせ~」
賑やかな夕食も済み、唯の部屋。
若「唯」
唯「なーに?」
若「わしはの、速川の一員になれた事、この上なき幸せじゃと思うておる」
唯「それは、ウチの家族もそう思ってるよ。みんな、たーくん大好きだもん」
若「知る由もなかった、団欒、とはなんと素晴らしき物かを教えて貰うた」
唯「平和って、いいよね」
若「まことにの」
唯「たーくんが戦を避けたかった事、大殿に、いつか分かってもらえるかなぁ」
若「父上か…かつてのわしもそうであったが、戦乱の世しか知らず、穏やかな日々など知りようもないからのう。平和とは何か、は、速川家と共に過ごせば、すぐにでも分かるのじゃが」
唯「大殿と一緒にゴハンとか?!それ、すっごい野望だね」
若「前にお父さんが、父上に挨拶がしたいと申されておったしの」
唯「やっぱ、行き来が自由なタイムマシン、欲しいよね~」
若「そうは思わなくもないが、少なくとも今は、尊は勉学に勤しんで欲しいのじゃ。無理もさせとうない。くれぐれも、尊を急かしてはならぬぞ」
唯「はぁい」
ベッドに座る唯の傍らに、若君が腰かけた。
唯「…やだ」
若「ん?」
唯「なんか今、急にモーレツに眠気がっ」
若「ほぅ。そやつには早々に退散して貰うて、夫婦の時間をもうけたい所じゃが」
唯「超眠いー。どうしよう、たーくんなんとかしてぇ」
若「ハハハ。いや、夜もすっかり更けておるゆえ、もう眠るとしよう」
ベッドから立ち上がる若君の、腕を掴む唯。
唯「あの、すぐ寝落ちするかもだけど、たーくんと一緒がいい。ダメ?」
若「良いぞ」
唯を抱き上げ、自分の布団に寝かせた。電気を消して布団に戻ると、
若「なんと。もう眠っておる」
頭を撫でる。
若「おやすみ、唯。また明日、わしの傍らで笑うてくれ」
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8日のお話は、ここまでです。