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    続現代Days尊の進む道102~1月中旬

    気心知れた仲間だから積極的に参加。
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    僕「あれ、珍しい」

    夜。部屋でビデオ通話の準備中に、祐也さんからLINEが届いた。

    祐也の投稿『こんばんは』

    こんばんは、と送信。なんだろ。

    祐 投稿『急な話で悪いんだけど』

    祐 投稿『来月の11日12日ってもう予定立ってる?』

    祐 投稿『良かったらみつきと瑠奈ちゃんと四人で旅行に行かない?』

    え!なになに!即レス!

    僕の投稿『用事なんて解読の手伝いくらいで』

    僕 投稿『全然空いてます』

    僕 投稿『ぜひ行きたいです!』

    絶対楽しい!

    祐 投稿『今って電話しても大丈夫?』

    おっと。大丈夫だけど、まずは瑠奈に通話スタート時間を遅らせる連絡をしなきゃ。…ん?

    瑠奈の投稿『ちょっとみつきとしゃべりたい』

    瑠 投稿『スタートは15分後でお願いします』

    さては女子側でも同じ話題が進行中?よし、祐也さんにOKの返事をしてと。

    僕「かかってきた…もしもし、こんばんは」

    祐也『こんばんは、尊くん。いきなりな話でごめんね』

    僕「全然大丈夫ですよ」

    祐『僕の勤め先、福利厚生の一環で高級な宿もリーズナブルに泊まれたりするんだけど』

    僕「いいですね」

    祐『今は旅行のオフシーズンで、もっと安く利用できてね。この機会にどうかなって思ったんだ。大学は春休み中なのに、平日でなくて悪いけど』

    僕「いえそんな。いいんですか?ミッキーさんと二人じゃなくて」

    祐『二人で利用した事もあるよ。みつき曰く、スイートルームばりの広い部屋に泊まってみたい、だったら人数多い方がいいってね』

    僕「へー」

    祐『実は君達の返事を聞いてすぐ、ホテルのネット予約は完了させたんだ』

    僕「早っ。女子側でも話してたんですね」

    祐『いくら閑散期でも、ぼやぼやしてると埋まっちゃうからね』

    なぜか祐也さん、普段にも増して落ち着き払っているように感じる。

    僕「あのう、なんか…あります?」

    祐『ん?急に言い出すから?』

    僕「気のせいならいいんですけど、心なしか、淋しそうで」

    祐『ハハ。さすが尊くん。図星』

    僕「え」

    祐『まだ決定ではないんだけど、いよいよ四月から遠方へ転勤になりそうで』

    僕「マジっすか!」

    うわー。

    祐『悪い話ではないんだ。ただ…』

    僕「ミッキーさんですか。大学卒業が結婚の条件みたいになってましたよね。それで言うとあと一年残ってる」

    祐『うん。既に大騒ぎしてるよ。正式に決まったらどうなることやら。でもまだ赴任先で一緒に住む訳にもいかないし、転勤を一年延ばしてくれとも言えないし』

    僕「悩ましいところですね」

    祐『地元を離れる不安も多少はあるけど、いずれはこうなるってわかってて入った会社だから、その辺は腹を括ってるよ』

    僕「全国に事業所があるんですよね。人事異動の発表はいつごろなんですか?」

    祐『大体は二月の中旬。ちょうど旅行から帰ったあたりだね』

    そっか…

    僕「旅行は想い出作りもありますか」

    祐『そうだね。君や瑠奈ちゃんにも、今まで程会えなくなるから』

    電話を切った後、少し放心状態になっていた。パソコンから瑠奈に呼び掛けられ、我に返る。

    瑠奈『たけるん、お待たせぇ』

    僕「あ、うん」

    瑠『旅行の話、祐也さんに聞いたよね?私、みつきから聞いて思わず飛び上がっちゃった。すっごく楽しみ~』

    僕「うん。僕も楽しみだよ」

    瑠『来年度もしかして、の話も聞いた?』

    僕「聞いた。ミッキーさん、大丈夫だった?」

    瑠『大丈夫じゃない』

    僕「やっぱりな」

    瑠『仕事にケチはつけられない。でも傍に居ない生活なんて考えられない!って半泣き。正式に決まったら一波乱ありそう。でも気持ちはすごーくわかる!』

    僕「うん」

    瑠『たけるん。ずっと傍に居てね』

    僕「はい。そのつもりだから安心して」

    ビデオ通話が終わってスマホを確認すると、今度はミッキーさんからLINEが来ていた。

    みつきの投稿『バルコニーにあるジャグジーからの眺めが最高らしいよ!アガる~』

    僕に対しては何ら変わらない態度なところが、かえって健気だなと思った。

    僕「あ、今度は祐也さんから」

    宿泊予定のホテルのWebページのURLが貼り付けてあった。どのタイプの部屋かも書いてくれている。

    僕「良かったら予習しておいて、か。了解しました」

    よし、公式ホームページの画像で確認、と…

    僕「オーシャンビューの部屋だ!やったー!なになに、ジャグジーは水着着用でご利用ください?へー…デカっ!四人でも余裕じゃね?水着は納得。バルコニーもすげぇ広くて、夏なら外でパーティーもできそうだもんな。これは確かにアガる!真冬なんで穴場だったんだ」

    離れてしまうかも云々は少し隅に置いといて、折角与えてもらった機会、まずは大いに楽しむべきだな。

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    次回、旅行記です。

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    続現代Days尊の進む道101~2023年1月7日土曜

    お父さんの丁寧な仕事は、ドラマ1話にて。
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    瑠奈「はさみ揚げ、家でトライしてみたんですけど、出来映えがこちらでいただくのと比べて何か違うんです」

    覚「見た目の話?」

    瑠「はい。だからコツがあれば教えていただきたくて」

    覚「そうだなー。衣って、どうやって付けてるんだい?」

    瑠「粉を敷いたバットの上で転がして、軽くトントンとふるってます」

    覚「で、そのまま揚げる?」

    瑠「はい」

    覚「それだ。僕はね、粉が均等に薄く付くよう一つ一つ細かく指で払い落として、くっつかないように並べてから揚げてるんだ」

    瑠「一つずつ?!そうなんですか!丁寧なお仕事だからこその仕上がりなんですね」

    覚「今日は工程を全部見せるから、良かったら参考にしてくれな。ははは」

    瑠「はい!」

    美香子「もうお父さん、張り切っちゃって~」

    今日は満月。ちょうど土曜なので、正月の挨拶という体で夕食に瑠奈を招いている。で、永禄との通話まで突入するといった案配。

    覚「母さん、ご飯のおかわりは?」

    美「ください。ねぇ尊」

    僕「何」

    美「今日って、ネオ1号と、2号も改めて飛ばすのよね?」

    僕「ううん。2号のバージョンアップはデータで更新するから、飛ばすのはネオ1号だけ」

    令和元年12月7日に、起動スイッチ1号はネオ1号に切り替わり、同時に、永禄にある2号の機能もアップしていた事が判明。

    覚「瑠奈ちゃんはお茶だね。はい、どうぞ」

    瑠「ありがとうございます」

    覚「しかし、未来って案外近いモンだなー」

    美「ホントよねー。こんなに早く出来上がるなんて」

    ネオ1号と、2号の新プログラムを無事完成させた僕です!

    瑠「あの、私思うんですが」

    ん?

    美「なぁに?瑠奈ちゃん」

    瑠「天才は時空を操れるじゃないですか」

    美「そうね」

    覚「だな」

    僕「何その、どこか普通じゃない会話」

    瑠「なので、遠くにあった未来も、グッとその神の手でたぐり寄せたんだと思いますよ」

    美「そっか」

    覚「納得」

    僕「すんなり受け入れてるし」

    永禄との通話前に、今回は三人立ち合いの下、この2つを送り出す。てな訳で、20時45分の実験室。

    美「まだ時間いいわよね。尊に質問あり」

    僕「どうぞ」

    美「ここにネオ1号の新品がある。でも棚の上にも同じネオ1号が存在する。これってアリなの?」

    覚「あー」

    僕「同じ空間にどうして二つ存在するかって?それは、今日送り出すネオ1号は、ネオ1号に見えてネオ1号ではないからだよ」

    顔を見合わせる両親。瑠奈は、仕組みをわかっているのもあり黙って動向を見守っている。

    美「…今のわかった?」

    覚「説明して。できれば日本語で」

    僕「はは。簡単なんだよ。これは、令和元年の実験室に飛んだと同時に、既存の1号と融合する。あくまでもパーツの一部。だって、でないと飛んだ先で二つになっちゃうじゃない」

    覚「まぁそうだな」

    美「ふーん。なら、飛んだ時に棚の1号を凝視していたら、合体する様子が見られた訳ね」

    僕「そうだね。あの時は絶賛落胆中だったから棚なんて目に入っていなかったし、その瞬間は電気消えてたし。じゃ、そろそろやるよ」

    パソコンの前に座る。三人が取り囲む。

    僕「では、カウントダウンお願いします」

    覚&美香子&瑠奈「3!2!1!」

    僕「GO!」

    Enterキー押下。ゆっくりとネオ1号…になる部品は消えていった。そして、

    覚「…ん?何だ、今データが飛んだってか?」

    美「画面に花火が上がってる!」

    僕「ビジュアル的にわかりやすい方がいいでしょ。2号は更新完了したら画面展開するようにしておいたんだ」

    美「へぇー」

    覚「余裕だな」

    瑠「ふふっ。お疲れ様」

    そして9時、永禄と繋がった。晴忠ちゃんの歯が生えたよ!って話題で盛り上がったのだが、

    覚「唯があい変わらずだったな」

    美「無茶してたわね~」

    僕「乳歯を見せたいからって、我が子の口に指突っ込むか?あの後きっと大泣きだよ」

    本日の行事は全て無事終了。さぁ、瑠奈を家まで送ってくるか。…その頃、永禄では。

    トヨ「晴忠様が早く泣き止まれて良かったわ。もう、一時はどうなるかと」

    源三郎「若君様も、咄嗟の事で止めようもないご様子じゃったな」

    通話後、屋敷を出た赤井家の三人。すると、

    源「これは小平太殿」

    見回り中の小平太さんと遭遇。

    小平太「…」

    源「何でござろうか」

    小「このような夜更けに、子を連れ歩くとは如何なものか」

    源「満月に導かれまして」

    小「…若君様の命か」

    源「左様」

    腑に落ちぬと顔に書いたまま、小平太さんは去っていった。

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    次回、久々に祐也氏登場。

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    今までの続現代Days尊の進む道、番号とあらすじ、66から100まで

    通し番号、投稿番号、描いている日付(これは毎回の副題と同じ)、大まかな内容の順です。
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    66no.1164、2022年1月1日土曜、一期一会のカウントダウン。瑠奈に怒られるわ翻弄されるわ

    67no.1165、1月10日月曜、成人式。姿を見せたかった人達とそうでもなかった相手

    68no.1166、1月18日火曜20時、エリさん芳江さんと共に通話スタート

    69no.1167、1月18日21時、通話の感想。唯がすぐそこに居るように話す両親

    70no.1168、1月18日21時その2、里芳ちゃんの言葉に歓喜。若君も子育ての今後を考える

    71no.1169、3月上旬、両親の不在にかこつけ内緒のお泊まりしよう

    72no.1170、3月20日日曜6時、3号動かす最良の時間帯は。お泊まりバレてた模様

    73no.1171、3月20日19時、二人で居酒屋に

    74no.1172、3月20日21時から21日月曜10時、公園でいちゃつく。瑠奈が向かった先は

    75no.1173、3月21日10時30分、御月忠清の墓で出会ったのは

    76no.1174、7月14日木曜、クーハンですやすや眠る晴忠ちゃん

    77no.1175、8月12日金曜、3号完成

    78no.1176、9月10日土曜6時、3号を手に旅立つ尊

    79no.1177、9月10日6時25分、着いたのは赤井の屋敷。亡くなったのは誰

    80no.1178、9月10日6時25分その2、源トヨの長男が旅立った

    81no.1179、9月10日6時25分その3、ジェンガの名に思いを馳せる

    82no.1180、9月10日6時25分その4、唯達合流。熟慮し令和に向かうと決めた若君

    83no.1181、9月10日6時28分、もう皆が来るからと急かす尊

    84no.1182、9月10日6時50分、バタバタしながらも3号起動

    85no.1183、9月10日6時58分、小平太の憂い。唯達令和に到着

    86no.1184、9月10日7時5分、トイレ問題は重要。10人着席はいい眺め

    87no.1185、9月10日7時40分、寿司事情の違い

    88no.1186、9月10日8時30分、公園を一番楽しんでるのは

    89no.1187、9月10日9時30分、瑠奈とホームセンターへ。自己肯定感が高くならない尊

    90no.1188、9月10日11時、高齢者に人気の唯

    91no.1189、9月10日13時、唯に買い物を任せるな

    92no.1190、9月10日13時30分、大量のファーストフード。かつての自分に思いを馳せる

    93no.1191、9月10日16時、庭遊びに興じる

    94no.1192、9月10日19時、彼女は独占したい。電話の主は

    95no.1193、9月10日22時、若君が飲みに誘う

    96no.1194、9月10日22時30分、相思相愛の瑠奈と里芳

    97no.1195、9月10日23時、小さいわ中途半端だわと失礼が過ぎる唯

    98no.1196、9月10日23時30分、尊は令和で輝いて欲しい

    99no.1197、9月11日日曜0時、寝ていたのは昔と何ら変わらない姉

    100no.1199、9月11日7時から11月23日水曜、未来に向け唯の部屋を整理。2号完成し平成30年に飛ばした

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    ご心配おかけしております

    てんころりん様。いつも励ましのお言葉ありがとうございます。

    投稿間隔は3~5日、投稿時間は19時~22時頃といった理想は掲げているんですが、最近はなかなか時間を割けません。できる時に、時間に囚われずアップしておりますので深夜だったりもしますが、もうすぐ投稿時間のタイムリミット、急がなきゃ!と焦らなくなった今が、無理のない状態でございます。

    でもある程度期限を決めないとダラダラと遅くなるばかりで、これまた理想と程遠くなるばかり。頑張り過ぎないよう、頑張ります。

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    速川家の間取り了解!

    夕月かかりてさん、いつもありがとうございます。楽しませて頂いてます。

    速川家の間取りは、物語を書くかたは考えますよね~。
    ハマったドラマの家の間取りは、私も想像したりします… 🙄
    速川家はねぇ‥ 夕月さんが書かれてるように、諸条件に矛盾あり悩ましいですねぇ‥ 🤔

    二階の間取りと唯の部屋の方角は東南に決定〜納得しました!
    私は病院の建物が母屋(住宅)の北側と決め込んでましたが、住宅と庭の南の敷地で、西寄りに建ってるのもありですかね。
    それなら唯の部屋の窓から病院前の道にズラッと東方向へ並んでる女子高生が見えるかな‥ 住宅の玄関は東側にある‥😅

    あー、 住宅側と病院側、南北両側に道があるとも考えられますが…
    ロケ地のクリニック全景が、左に広〜い畑が見えるので、私は、道は病院側だけに思えて…
    あ、病院と住宅が同じ道に横に並んで建ってるのもあり?😵
    何通りも考えられますね。

    夕月さん、タイムマシンの起動スイッチ問題も回収しようとされていて大変です、興味深いです。
    この頃アップの時間が深夜や早朝の日があり、無理されてないでしょうか。
    日数の間隔はどうぞ気になさらず、これからもよろしくお願いします。

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    続現代Days尊の進む道100~9月11日7時から11月23日水曜

    小さな事から…のネタにピンとこない、平成生まれの尊。
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    リビングに戻ってきた。

    美香子「また静かになっちゃって」

    広く空いた食卓が、淋しさを増幅させている。

    覚「まあ座れ」

    並んで腰かけた両親。その正面に座った。

    美「唯と話したのよ。速川家のこれからについて、どうしていくか」

    僕「デカい話だね」

    覚「そうでもないぞ。小さな事からコツコツとって言うだろ」

    僕「ふうん?」

    美「でね、手始めとして、そろそろ部屋の片付けをしようと思って。唯の」

    僕「片付け…」

    覚「部屋数も限られているから、結婚して家を出た娘の部屋を、ずっとそのまま手付かずにしてはおけない」

    僕「一般的な話ではあるかな」

    覚「これから家族の形や人数も変わっていくだろ。な?」

    それは…叶えていきたい未来。

    僕「そのつもりは、ある」

    覚「よしよし。それが前提だからな」

    美「ゆくゆくは空けるわよって伝えたら、快諾してくれて。で昨夜、処分して構わない物を一緒に見てもらったの」

    僕「へえ」

    なんか…完全に、娘が旅立った状況を受け入れたって感じる。

    美「メンバーが変われば使い方も変わるわ。あの部屋、結婚前は私が使ってたのよ」

    僕「だろうね。南向きで日当たり良いし、一人娘にあてがう部屋として妥当」

    覚「女の子の部屋は、風水的に東南が良いって言うからな。男の子は北とか東。だから尊の部屋は北東の角なんだ。窓は北側しかないが」

    美「もしかして、部屋が南向きじゃないから損してると思ってたとか」

    僕「別に?北向きの窓は一定の柔らかい光が入るから落ち着くし、本棚の本も日に焼けにくいし、自分の部屋は気に入ってるよ」

    美「そっか。良かった。今更だけど」

    僕「その片付けって、一気にやる感じなの?」

    美「仕分けから始めなきゃだから、ぼちぼちとね。大切に保管する物もあるし、里帰りした時にあった方がいい物だってあるし」

    覚「家具の移動だったり、できる時に少しずつやっていこうと思ってるから、その時は手伝ってくれ」

    僕「わかった」

    ┅┅

    姉の部屋の片付けは、ゆっくりと進んでいた。母が主導だからできる時も限られてるし、色々なグッズ、例えば図工の時間に描いた絵とかが出てくると、手を止めて見入っているんだ。

    僕「全部とっておくつもり?」

    美「どうしよう。唯は捨てちゃえばぁって言ってたけど」

    覚「いざとなると、あれもこれも惜しくてな」

    僕「気持ちはわかるけど、キリがないよ?写真に撮ってデータで残したら?」

    覚「なるほどな」

    美「それがいいわね」

    撮影時も、アングルはこうだとか、騒がしくも楽しそうな両親だった。

    ┅┅

    さて。例の起動スイッチですが、作業が粛々と進み、本日勤労感謝の日を迎えました。実験室に三人。

    覚「粋だな」

    僕「どうせなら、日付合わせようと思って」

    まずは2号。未来の尊、である今日の僕が、見事完成させました!

    僕「では、おさらいします」

    平成30年11月23日に僕が赤ペンで書きこんだ、両親のメモが登場。

    美「出た出た。懐かしい。と言ってもまだたったの四年前なのね」

    僕「読み上げます。一、二人同時に移動可能」

    覚「うんうん」

    僕「ニ、いちばん最初の到着日時は満月の一日前」

    美「だったわね。どのスイッチも動きが違うからこんがらがるけど」

    僕「三、時空への影響は最上限に。四、省エネで性能もアップ」

    覚「いいだろう。内容は実証済みだし」

    僕「では、この通りのタイムマシンが完成したら平成30年11月23日の僕に送る、到着時間13時15分、実行します」

    あの日と同じ風景になるように、作業台に2号を乗せる。両親が見守る中、パソコンを操作。

    覚「おおぉ」

    美「消えていく…」

    今頃、四年前の僕達と姉は歓喜に沸いている事だろう。完全に消えたのを確認し、拍手。

    覚「お疲れ」

    美「頑張ったわね」

    僕「どうも。それでさ、ネオ1号もあと少しで完成なんだけど、どうしようかと思ってて」

    美「どうしようって?」

    僕「2号を今飛ばしたけどさ、結局今は、回り回って永禄で燃料がカラの状態。ネオ1号はいつでも未来の僕が飛ばせるんだから、先に今兄さんが持ってる2号に燃料を入れた方がいいんじゃないかと思って」

    覚「ネオ1号はそれこそ一年後でも数年後でも飛ばせるが、また使うかもしれない2号に燃料を優先させるってか」

    美「燃料だけ飛ばせたりはしないの?」

    僕「それはちょっと難しいし、一旦メンテナンスもしたいから」

    覚「あー。たった今新品だった物が、永禄7年には、それなりにガタがきてるかもしれないからか」

    僕「うん。どっちがいいと思う?」

    話し合う両親。そして、父が口を開いた。

    覚「順番通りにやってく方に賛成だ。だからまずはネオ1号を完成させて、令和元年12月7日の尊に送る。で今に至るように」

    ネオ1号は、目の前の棚の上にある。送る作業をしても、見た目は全く変わらない。燃料だってエコ仕様だからほとんど減っていないし。

    美「時空を行ったり来たりでも、そこは時系列に沿った方がいいと思うわ」

    覚「こちらに来るとしても、今や3号があるからな。24時間限定でも充分だろ」

    僕「わかった。じゃあネオ1号、完成させて燃料もそっちに先に入れるよ」

    2号を使って1か月来なければならない事情なんて、今のところ思い当たらない。でもいつかのために、燃料は継続的にプールしていこう。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、年が明けていよいよ2023年、永禄は8年となります。

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    速川家の間取り

    ドラマと、私の創作話が混ざりますので、ここでお話します。

    ┅┅

    速川家の一階LDKと庭、外観はロケ地で実際の建物ですね。アシガール掲示板no.3072で、てんころりんさんが聖地巡礼なさっています。

    お話したいのは、階段及び二階についてです。

    ドラマ2話で、お風呂上がりの唯が自室に入っていきます。その階段②部分からドアと、唯の部屋はスタジオ撮影と思われます。

    一方、DVDとBlu-ray(青)の特典映像Episode3「戦国を遠く離れて」で、唯が一階に駈け下りる際の階段①は、ロケ地のものです。

    ①は直線型で二階の突き当たりはガラスの扉
    ②は上りきる間際で90度曲がり窓もない

    見た目が全く違いますが、きっと同じ建物内に①②とも存在するのでしょう。となると、速川家は

    階段①を上がった突き当たりは実はまだ途中で、折り返してまだ上がる。上がり切ると階段②になる

    …と無理無理に考え、私が展開しているDaysシリーズでの二階の間取りを考えました。

    一階に個室がない分、二階に部屋は数要るだろうと思い、

    ・廊下は二階の中心を東西に貫いている。階段は東端

    ・階段を上がって右に飾り棚。左、南側が唯の部屋。窓は東と南にある

    ・唯の部屋の向かい、北側に尊の部屋

    ・廊下を進んで尊の部屋のすぐ西側が予備室

    ・予備室の隣も和室、廊下の突き当たりが両親の部屋。襖を開けると二間続きになる

    ・廊下の奥左手から両親の部屋の南側に向けて広いバルコニー。唯の部屋からは出られない

    といった感じで…想像できますかね?お気づきでしょうがかなりの広さです。ドラマ6話で二階の外観が映りますが、植栽で所々隠れていてもだいぶ違う…大目に見てやってください。

    ┅┅

    これに至る前、映像から唯の部屋はどの方角に面しているかも迷っていました。

    若君が初めて平成に来た時。城跡を散策した帰りに女子高生達に後をつけられ、門の外で群がっていました。尊がベッドの左にある窓を開けますが、その時いかにも西日といった太陽に照らされます。

    その角度から推測すると、唯の部屋は北西の角になります。窓を開けて門が見えるなら、リビングが南に面しているとして、クリニックは母屋の北東方向にあるから有り得なくはない。

    でも、北に向いてるにしてはかなり明るい。夕方を感じさせるための赤みがかった光を強調したくて、方角は曖昧にした?

    それに他方で、平成30年の元旦に同じ場所から唯が朝日に手を合わせます。だったら北東の角?

    悩みましたが、もうこの際は!と、この後のお話にも出てくる風水からの観点と明るさから、東南の角として進める事にし、間取りを考えた次第です。

    ┅┅

    一度説明をせねばと思っていましたが、読みにくくて長い文章になってしまいました。

    最近投稿のテンポがスローですみませんが、続現代Days尊の進む道、まだまだ続きます。よろしければこれからもお付き合いください。

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    続現代Days尊の進む道99~9月11日日曜0時

    便所サンダル履いて草むらに転がってた時と同じ寝姿。あの運命の日からこのお話の日まで、5年と4か月経ってます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕「いつからこの状態?」

    帰宅しました。飲みに出かける前には既に、リビングに人数分の布団を並べてあったんだけどさ。晴忠ちゃんと里芳ちゃんがかわいい寝姿でスヤスヤ眠ってるのは良しとして…

    覚「朝早かったんだってば!ってな」

    美香子「尊達が出かけてしばらくは起きてたのよ」

    布団に大の字になり、爆睡していた姉。丸二日間眠らないで、小垣城まで山道を走ったヒトと同一人物か?

    僕「うへぇ。ピクリともしないし」

    若君「まぁ良かろう。主の帰りを起きて待つ筋合いもない」

    さすがに兄さんも苦笑している。

    僕「だって、せっかく親娘の時間を作るべく、気を回してもらったのに」

    美「重要な話もしたわよ。それなりに」

    僕「そう?だったらいいけど」

    美「お風呂行ってらっしゃい。あと尊だけだから」

    僕「わかった」

    風呂上がりの僕が、戦国時代の皆さんから注目されている。

    トヨ「御髪が」

    源三郎「これは摩訶不思議な」

    パーマをかけてある前髪が濡れて、巻きが強くなりくるんくるんしてるのに興味津々。

    若「洗う度に形が変わるのか?」

    僕「濡らすと本来の姿に戻るんです」

    若「真っ直ぐ伸びるのが元来の姿であろう?」

    僕「薬を二種類使って、巻いた形を留めるようにしてあるんです」

    若「ほう…未だ知らぬ技は多々あるのう」

    パーマしてるのは家でも僕だけだしな。で、それからも明かりを消したリビングで、姉を除きずっとみんなで静かに話し込んだ。晴忠ちゃんと里芳ちゃんはホント手がかからないわ~と母が言ってたな。ようやく眠りについたのは2時頃だった。

    里芳「かつん、かつん!」

    僕「あー、木刀を打ち鳴らす音か。そうだね、カツンカツン言ってるね」

    朝5時30分。6時59分がタイムリミットだから、色々前倒しで進んでいる。両親に似て早起きな里芳ちゃんを膝に乗せながら、庭で朝稽古する兄さんと源三郎さんに見入っていた。

    僕「爽やかな朝だ。いい眺め」

    両親とトヨさんは、朝ごはんの支度中。そして姉は、珍しく起きてはいるのだが、兄さんに似て早起きな晴忠ちゃんをあやして…いると思いきや、

    唯「…」

    僕「座ったまま寝てるし」

    あ、稽古終わった。

    僕「お疲れ様でした」

    若「尊」

    僕「はい?」

    若「子守りが堂に入っておる」

    僕「えー、そうですか?」

    覚「二人ともお疲れ。これ、冷たいおしぼり」

    源「忝のうございます」

    美「ごはんできたわよ、みんな座って。唯~、はい、起きる!」

    唯「んあ?…ごはん。ごはーん!」

    僕「お子様の反応だよ」

    それからは忙しかった。朝ごはん後は、片や着物に着替え、片や持たせる手土産の確認をし、あっという間に6時25分。

    僕「これはリアタイしたいんだ。ホント好きだよなぁ」

    テレビの前に集合。しっかり体操の時間は確保されていた。

    唯「ねー尊、紙おむつ、定期的に送ってくんない?」

    僕「何だよそれ」

    唯「だって布よりこっちの方が絶対楽だもん。令和は紙っしょ」

    美「何グチグチ言ってるの。今でも布おむつ使われるお母さんは居るわよ」

    と言いつつ、ダンボール箱一つ分持たせる優しい親だ。しかも運びやすいよう持ち手までつけてさ。

    若「お父さん。お母さん。尊。此度も世話になり申した」

    6時50分の実験室。もうお別れの時間だ。

    覚「また、たまには顔見せてくれ」

    若「はい。孫の成長した姿もお見せしとう存じます」

    美「元気でね」

    唯「うん」

    晴忠「キャッ、キャッ」

    晴忠ちゃんはパパに抱っこされてゴキゲンな様子。

    源「ありがとうございました」

    僕「またね、里芳ちゃん。バイバイ」

    ト「里芳、ご挨拶して」

    里「…にーにー、ばいばい!」

    にーにーと呼ばれてる僕です。次回は、もっとお子様達とも意思疎通できるんだろう。その頃には人数も増えてるかな?

    若「では、またいずれ」

    ちょっとかさ張る手土産と共に、6人は消えていった。

    覚「一抹の淋しさはあるな。どうしても」

    美「またおもナビくんで話せるわよ」

    覚「まぁな」

    美「尊」

    僕「ん?」

    美「何時に出発するの」

    僕「8時過ぎに出られればいいけど」

    今日は夕方まで解読の手伝いに行くんだ。

    覚「ならまだ話せるな。じゃ、続きはリビングで」

    何?

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    あと少し続きます。

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    続現代Days尊の進む道98~9月10日23時30分

    親になって、痛い程わかる親の気持ち。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    酒に強いとは言え、少しは普段より饒舌になってるっぽい。

    若君「じいは、あの歳にしては勘もよう働く。凝り固まった考えも持ち合わせてはおらぬ」

    源三郎「そうですね、受け入れるのも早かろうと存じます」

    永禄の皆さんの誰が令和でも馴染むか、って話をしてる。

    僕「前に似顔絵描いた人ですよね」

    若「うむ。その絵じゃが」

    僕「はい」

    若「相当気に入ったとみえて、掛軸に仕立てよった」

    僕「マジっすか!」

    若「フフフ」

    和紙でもないしプリントだし。すぐに褪せてこないかな。ちょっと心配。

    トヨ「天野の家ですと、信近様と小平太様ですが」

    若「トヨはどう考える」

    ト「信近様は難しいのではないかと。理屈に合わぬとすぐ頭に血が上るお方ですし…」

    僕「そんなに怒りっぽいんだ。小平太パパって姉が呼んでる人ですよね」

    ト「そうです。唯様にもしばしば強く当たられております」

    パワハラが激しいって言ってたな。昔気質な感じだと令和ではちょっとね。

    源「小平太殿は…うーん」

    僕「微妙な感じですか」

    源「信近様をよう諫めておられますが」

    僕「親子揃って怒りっぽくはないんだ。制止してくれるなんていいじゃないですか。あ、でも僕と瑠奈が永禄に飛んだ時、障子越しに話してるのを聞きましたけど、姉には随分辛辣な態度を取ってましたね」

    若「唯には半ば呆れておるゆえ」

    僕「その気持ちはよーくわかります」

    若「ハハハ。小平太は中々の堅物でのう」

    僕「へえ」

    若「妻を娶り、じきに子も生まれるゆえ、変わってもゆくであろうが」

    僕「そうなんですね」

    家臣にも目を配る。気にしなきゃならない事が多くて大変そう。でもそれができるからこそ、人の上に立てるんだろう。

    僕「逆に、この人なら永禄でも余裕でやっていけるな、と思うのは誰になります?」

    若「そうじゃな。まずは、おぬし」

    僕「僕?!いや、それは」

    若「尊の作った様々の品で、幾度となく救われてきた」

    僕「それは、現代で材料も揃っているからで」

    若「機知に富む尊ならば、永禄でもその才覚を発揮するであろう」

    僕「えー!」

    若「難があるとすれば」

    僕「はいっ」

    若「今一つ踏ん切りがつかず、二の足を踏む所じゃな」

    僕「はあぁ。仰せのとおりでございます」

    若「その点において、尊よりも優っておるのが瑠奈殿」

    僕「あー」

    源三郎さんもトヨさんも、顔で然りと言っている。そんなにすぐわかりましたか。

    僕「確かに、無茶はしないが思い切りがいい。決断するのも早いです」

    若「誰が筆頭か、となると、瑠奈殿じゃな」

    僕「なるほど」

    ト「あの」

    トヨさんがそっと手を挙げた。

    若「トヨ。此処は令和。遠慮は要らぬ」

    ト「畏れ入ります。瑠奈様ですが、私共の知る四人、を足したような姫様であると考えます」

    若「ほう。申してみよ」

    ト「決断力及び行動力の高さは、唯様」

    僕「似過ぎても困りますけど」

    ト「とても賢しくていらっしゃる所は、尊様」

    僕「恐縮です。瑠奈は頭の回転はホント早いです」

    ト「朗らかで、母性愛に溢れていて、それでいて子に手をかけ過ぎない所は、お母さん」

    僕「へえ…」

    分析の鋭さに感心した。母は、僕がかつて不登校だった頃も、どうしましょうなんて鬱々ともせず、放任し過ぎでもなく口うるさくもなく、明るく変わらない態度で自由にさせてくれたから。

    ト「ね、源ちゃん。子守りがとてもお上手でいらっしゃるから助かったわよね」

    源「うん。子が居らぬとは俄に信じ難いほど手練れであらせられたし、里芳もよう懐いておった」

    若「フフ。良き母になろうぞ」

    僕「そうですか」

    ト「残る一人は、尊様はご存じない姫で申し訳ないのですが」

    僕「構わないですよ」

    ト「三国一の手弱女に挙げられる美貌でいらっしゃいます。また醸し出す柔らかい雰囲気が、阿湖姫と重なるのです」

    僕「阿湖姫。兄上の成之さんの妻になった方ですね」

    若「それはそれは仲が睦まじゅうての。今は子も二人」

    僕「そっか。阿湖姫さんも、姉に運命を翻弄された内の一人ですね」

    若「…羽木が滅びておったら、別の生きる道があったであろう姫じゃな」

    僕「今幸せに暮らしてるんなら、結果オーライですよ」

    若「うむ。唯が運命をと申したが、ひいては尊の手柄。唯尊共に居らなんだら、我々はとうに消え去っておるゆえ」

    源三郎さんとトヨさん。静かに耳を傾け何度も頷いている。

    僕「いえいえ、戦国用グッズをちゃんと使いこなした姉の手柄ですよ。…あれっ」

    若「いかがした?」

    僕「もしかして、僕も戦国に来させようとしてます?なーんて」

    若「…」

    酔った勢いで、冗談っぽく聞いてしまった。でも兄さん真顔…ヤバい事言った?!

    若「それは決して、ない」

    僕「そうなんですか?」

    若「居ってくれれば頼もしい。有り難い。じゃが、お父さんお母さんから大切な家族を引き離し、淋しい思いをさせとうない。これ以上」

    僕「…」

    引き離す形にはなったよ?でもそれは姉自身の意志でもあるし…

    源「ありがとうございます」

    え?

    源「速川の皆様には感謝しかありませぬ。大切なご家族である唯様には、これからも全力でお仕え致します」

    ト「わたくしも、尊様にはこの令和でのご活躍を祈念申しあげます」

    僕「ありがとう、ございます…」

    若「フフ。さて、そろそろ帰るか」

    僕「あ、はい」

    若「二人ももう良いか?」

    ト「はい」

    源「充分堪能致しました」

    僕「なら、会計してきますね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道97~9月10日23時

    総領の妻たる者、世間を知らねばならぬ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君「お父さんお母さんと飲んだビール、も無論美味かったが、此方の店のビールはまた格別に美味い」

    源三郎「まことに」

    トヨ「はい」

    母から軍資金を受け取った時に聞いた。帰宅する僕を待って再び酒宴をするのなら、この店に行けばいいと父が提案したと。お金の問題を気にしたのもあったらしいけど、三人して床に手をついてお礼を言うもんだからやめてやめてって慌てて止めたのよ~って言ってたな。

    若「尊、減りが遅いの」

    僕「いやぁ…」

    三人とも、酒強いんだよな。晩ごはんの時もかなりの量いってたけど、全然ケロッとしてたしさ。

    僕「永禄では、飲める時は毎晩とかなんですよね?」

    若「まぁ、そうじゃな」

    僕「僕が対等に渡り合うなんて、到底無理な話ですって」

    若「フフフ。そうか?酒が入るとすぐ寝てしまうのか?」

    僕「いや、それはないですけれど」

    若「尊はそこそこ飲めると教わっておるが」

    僕「えー。ヤな事前情報」

    源「忠清様」

    若「ん?」

    源「忠清様がかつて、和睦に尽くしてくださった、野上家の元丞殿」

    野上。聞いたコトある。確か…

    若「うむ。随分と古い話に感ずるのう」

    ト「四年前にございますね」

    若「もうそんなに経ったか」

    源「その折に、宴で相当飲まれたと聞いております」

    若「あぁ」

    源「如古坊が、ご両所倒れるまで杯を交わしたと申しておりました」

    僕「倒れる!」

    若「宴とは申せど、その先どうなるかは、かの時点ではわからなんだ」

    源「はい」

    若「浴びる程飲みはしたが」

    僕「ほえー」

    若「何を話したかは全て覚えておる」

    僕「スゲぇ。酒宴に対する心構えがそもそも違うんだな」

    若「和睦が間に合うて、何よりであった」

    源三郎&トヨ「はい」

    話の内容もあり、いかにも総領、の顔になっていた兄さんだったが、すぐによく知る優しい忠清兄さんの顔付きに変わった。

    若「尊」

    僕「はい」

    若「わからぬ話で済まなんだの」

    僕「いえいえ。僕その顛末、チラっと聞いてますんで」

    若「そうか?」

    僕「兄さんは小垣城、羽木の皆さんは黒羽城で高山と相賀に立ち向かっていた時ですよね」

    若「じゃな」

    僕「実は、ちょっと気になってた事があって。兄さんと源三郎さんに聞いてもいいですか」

    若「ほう」

    源「何でございましょう」

    僕「城からどう退却するか云々とかじゃない、何じゃそれって内容なんですけど…あまりにも姉の説明の仕方が妙だったんで」

    若「申してみよ」

    源「伺います」

    僕「軍議の最中に、源三郎さんがその如古坊さん?ともう一人、野上の総領を連れてきたそうですね」

    源「はい。野上元良殿ですな。見張りを立てておらぬ城の北門外にて目を光らせておったところ、前方より如古坊が現れ、野上の総領をお連れしたと申し」

    僕「あの、その人…小柄、体が小さかったって聞いて」

    そこ?って顔の二人。ですよねー。

    源「わたくしも上背がある方ではございませぬが、そうですね、わたくしよりも若干背は低かったかと」

    若「元良殿にも会うてはおるが。うむ…如古坊と共に参ったとなれば、小そう見えても致し方あるまい。如古坊はわしとほぼ変わらぬ背丈ゆえ」

    僕「そのお坊さんは背が高いんだ。だからですよね…」

    源「唯様は何と、仰っていたのですか?」

    僕「小さくて色白で、ヒゲが顔を一周してる男が来てぇ」

    源「…」

    ト「一周?」

    若「フフッ。それで?」

    僕「中途半端でさぁ、偉いヒトには全っ然見えなかったけど、総領だって言うのー。総領ってフツーは小さい男がなる?くまも小さかったしさぁ」

    ちょっとだけモノマネ入れてみました。

    ト「似ていらっしゃいます」

    僕「恐縮です」

    若「宗熊殿は…トヨ程の背丈じゃな」

    ト「私でございますか」

    僕「それは小柄な男性ですね」

    若「わかった。ならば」

    僕「へ?」

    若「唯がこの先勘違いをせぬように致そう」

    僕「勘違い…それはどんな風にですか」

    若「城に総領が訪ねて来るような折あらば、同席は難しいが、どのような人物か見られるように致す」

    僕「なるほど。わかりました。ちゃんと学習させて、失礼な発言をしないようにですね」

    若「ハハハ」

    おかみ「はい、生中ね~」

    ト「ありがとうございます」

    前にジョッキが置かれてびっくり。

    僕「え、頼んでない…」

    ト「そろそろ空くと思いまして」

    気を遣わせてしまった。少し残っていたぬるいビールをグッと飲み干し、冷え冷えのジョッキを手に取る。

    僕「では、乾杯!」

    若「尊。乾杯は、幾度でも良いのか?」

    僕「え?あ、はい」

    若「ならば、乾杯」

    源&ト「乾杯!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今回登場する人物の身長ですが。尊176cm、若君179cm、源三郎172cm、トヨと宗熊160cm、如古坊178cm、野上元良170cm、唯162cm。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道96~9月10日22時30分

    大物だもの。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    こちら速川家。

    美香子「そうそう、そこ!効くぅ~」

    母の肩を揉む姉。

    唯「お客さん、コってますねぇ」

    美「働き者だからね~」

    唯「はいはい、ごもっともっす」

    美「あー、ありがとう。ほぐれたわ。次、お父さんにもやってあげて」

    唯「ラジャ」

    覚「うほほ、いいのかい?ではお言葉に甘えて」

    お子様二人はすやすやお眠り中。

    美「ホント、手のかからない子達よね」

    唯「りほうちゃん、補助便座気に入ったらしいじゃん」

    覚「上手に使ってるって、瑠奈ちゃんが言ってたな」

    美「持ち帰ってもらってもいいけどね」

    唯「え?買ったの?クリニックのトイレの備品を横流ししたんじゃなくて?」

    美「そんな訳ないでしょ、人聞きの悪い事言わない。新品よ」

    唯「そりゃ失礼をば」

    子供達のタオルケットをかけ直す姉。おっ、母っぽい!

    唯「しかしぱるるもよく寝てるなぁ」

    美「赤ちゃんなら当然でしょう」

    唯「だったらいいけど」

    美「だったらって?」

    唯「たーくんが昔、戦場では眠りが浅くてすぐ目が覚めるって言ってたの。ぱるるもそうなっちゃうのかな、って」

    覚「それは…戦ありきの発言だな」

    美「そう。忠清くんも源三郎くんも、ぐっすり眠れる世であり続けて欲しいわ」

    覚「だな。あ」

    唯「りほうちゃんが」

    目を覚ました。パパもママも居ないけど、泣き出したりしない?

    覚「源三郎くんは夜の警固で居ない機会も多いからまだいいと思うが」

    美「一人で寝かせる時もある、とはトヨちゃん言ってたけれど」

    ゴロンとうつ伏せの体勢になった里芳ちゃん。頭をもたげ、キョロキョロしている。ママか!それかパパか?!

    里芳「ねーねー」

    覚「うわっ」

    美「あらら」

    里「ねーねー、どこ?」

    唯「そう来たか!」

    ねーねー。里芳ちゃんは瑠奈をこう呼んでいるんだ。姉上、がまだ話せないから…

    里「どこ?どこ?ねーねー…うわーん!」

    唯「あちゃー。泣き出しちゃった。ほら、ねーねーだよ~って、私ではなぁ」

    覚「帰ってった時はちょうど眠ってたしな。困ったぞ。どうする?」

    美「どうしましょ…よし、こんな夜更けに申し訳ないけれど、瑠奈ちゃんにLINEしてみるわ」

    すぐに返信が来た。

    美「良かったら電話しましょうかって言ってくれてる」

    唯「ビデオ通話で頼んで!」

    母のスマホに、瑠奈の顔が映し出された。

    美「瑠奈ちゃん、ごめんなさいね。しゃべってて大丈夫?」

    瑠奈『はい。母はお風呂で、父はヘッドホン着けて音楽鑑賞中なんで、グッドタイミングなんです。里芳ちゃん、泣いてるんですか?』

    美「そうなのよ~。上手くいくかはわからないけど、そちらから呼び掛けてくれる?」

    スマホを、泣きじゃくる里芳ちゃんに見せる。ちょっとびっくりしてるけど、戦国時代の子供とは言え、おもナビくんを何回か観てるのが功を奏し、反応が早い。目をパチクリさせながら覗きこんでいる。

    瑠『里芳ちゃーん』

    里「…」

    瑠『お別れの挨拶ができなくってごめんねー』

    里「ねーねー、ねーねー!」

    泣き止んだ。まずは一安心。画面の向こうで、瑠奈が何とかあやそうと頑張っている。

    里「おは」

    瑠『はーい?』

    里「おはよお、ごじゃい、ます!」

    おおぉ。

    瑠『わぁ!もう挨拶できるんだ!お利口さんだねー!』

    覚「ちゃんと文章を話せてるのが凄いな」

    美「優秀ね。持って生まれた資質もあると思うけど、躾が行き届いてるんだわ」

    唯「今朝も言ってたけどさ、これって、寝て起きたからおはようなんかな」

    美「それもあるとは思うけど、これを言うと褒めてもらえるって理解してるのよ。きっと」

    唯「ほえー」

    すっかりご機嫌が直り、手を伸ばして画面をペタペタと触っている。あまりの可愛らしさに、慌ててタブレットを取り出し、動画撮影を始めた父。

    覚「こりゃいい」

    瑠『また一緒に遊ぼうね!』

    コクコクと首を縦に揺らす里芳ちゃん。理解力の高さが素晴らしい。

    瑠『じゃあね、バイバーイ!』

    里「ばい!ばい!」

    唯「教えたバイバイをモノにしてる!」

    瑠奈が手を振る、里芳ちゃんも振るまではいかないけど、手をぶんぶんさせている。可愛いにも程があります!

    美「瑠奈ちゃん、ありがとう。助かったわ」

    瑠『いつでも呼んでください』

    覚「ありがとなー」

    瑠『では失礼します。おやすみなさい』

    この一連の騒ぎの最中も、晴忠ちゃんはすやすやと眠っていた。この辺りは、姉譲りに違いないな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、居酒屋チームの様子です。

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    続現代Days尊の進む道95~9月10日22時

    それも令和のお楽しみ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕「兄さんと電話で話せるなんて!」

    あれ?返事がない。遠くで話し声が聞こえるので、傍に父が居るんだろう。アドバイスを受けながら操作してるようだ。

    若君「尊よ」

    僕「はい、聞こえてますよ」

    若「瑠奈殿はいかがした?」

    僕「今送り届けたところです」

    若「そうか」

    僕「急にどうしたんですか?」

    若「わしに策があっての」

    僕「はい?」

    若「皆に話したところ、それは是が非でも行くべきと。お父さんが手配もしてくださり」

    僕「手配が要る話なんだ。何だろ」

    若「戻り次第、わしと飲みに行かぬか?」

    僕「え!」

    うっそ、マジで?!

    僕「行く行く、行きます!」

    若「件の店。ビール、と飯が美味い」

    僕「はいはい、駅前のですね」

    若「お父さんが、今から行くと伝えてくれておる」

    僕「予約まで!そうなんだ!」

    ん?スマホがゴソゴソ言っている。

    覚「尊、電話代わった。僕だ」

    僕「あー、お父さん」

    覚「思ったより早かったな」

    僕「どういう意味だよ。速やかに確実に完了しました」

    覚「帰ってきたらすぐ出発な」

    僕「え?先に出かけてもらえばいいよ。後から追っかけるから」

    覚「いや、全員一度に出た方が安全なんだ」

    僕「そうなの?どうして?」

    覚「行くメンバー、現代人はお前だけだから」

    は?

    僕「兄さんと…」

    覚「まぁいい、早く帰ってこい」

    切られた。少なくとも、両親も姉も行かないって意味だよな。お子様達は連れて行かないから、お世話する人間が要るからか。とにもかくにも、急いで家路に着いた。

    僕「ただいま」

    美香子「お帰り、尊。ちょっと来なさい」

    僕「何?」

    リビングから廊下に逆戻りすると、そっと封筒を渡された。中身を確認する。

    僕の囁き「会計担当ね。わかった」

    美香子の囁き「楽しんできて。四人で」

    僕 囁き「四人。て事は」

    僕の引率を待っていたのは、兄さん源三郎さんトヨさんの三人だった。

    僕「お待たせしました」

    若「急かせて悪かったの。では参ろう」

    源三郎「はっ」

    トヨ「お願いいたします」

    唯「行ってらっしゃーい」

    四人で夜道を歩き出す。

    ト「すみません、尊様。何ゆえわたくしまでとお思いでしょうが」

    僕「いえ。ちょっとだけ意外でしたけど、トヨさんもイケる口ですもんね」

    若「わしが是非来られよと申したのじゃ」

    僕「へぇ。えっと、まずお姉ちゃんが居ないのは、晴忠ちゃんが居るし、完全に乳離れするまではお酒はダメだからでしたよね」

    若「そもそも、酒はあまり好かんようじゃ」

    僕「里芳ちゃんも居るけど…」

    源「お父さんお母さんが、任せなさいと仰られまして」

    僕「パパママの姿が見えなくて大泣き、ってのは里芳ちゃんにはなさそうではある」

    ト「そう仰っていただいても尻込みしていたのですが、はたと気付きまして」

    僕「何でしょう」

    ト「わたくしがこちらに参りますと、幼な子は二人居りますが、親娘三人で過ごす時間を差し上げられるんです」

    僕「なるほど」

    若「左様。だからじゃ」

    僕「そうだったんだ。ありがとうございます、両親もすごく喜んでると思います」

    店に到着。

    僕「こんばんは」

    店主「いらっしゃい」

    おかみ「まあ~、皆さんお揃いで。席、用意してありますよ」

    僕「遅い時間にすいません」

    お「いいのよ~。帰省中って聞きましたよ。唯ちゃんは元気?」

    僕「はい、とても。えっと」

    兄さん達は先に座ってもらって、カウンター越しに、スマホで姉と晴忠ちゃんの写真をお二人に見せる。

    お「あら~、唯ちゃんと言うより唯さんって呼びたくなるわ。すっかり大人の女性ね~。赤ちゃんも可愛らしいわ~。ほらお父さん、よく見て!」

    店「ん。フフ」

    喜んでくれてる。洋服姿で撮っといて良かったー。

    僕「では皆様ジョッキを掲げてもらって。乾杯の発声は兄さん、お願いします」

    若「うむ。乾、杯!」

    僕「はやっ」

    全員「乾杯ー!」

    美味しそうに生ビールを飲むの図。今頃家では何してるかな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    居酒屋で何が話されるか。は置いといて、次回はまず速川家の様子からお送りします。

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    続現代Days尊の進む道94~9月10日19時

    たっぷりと。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    晩ごはんは手巻き寿司。

    唯「うまーい!」

    覚「そんなにガツガツ食うんじゃない。誰も盗らん」

    美香子「源三郎くん!缶ビール、いくらでもあるから。遠慮しないでね」

    源三郎「はっ、はい」

    覚「それ、中身もう空だろ?何本か持ってきてやろう」

    源「いえ、そのように手数をかけるなど」

    覚「いいから。座って待ってな」

    サッと席を立ったが、申し訳なさそうに戻った源三郎さん。かわってこちらでは、兄さんが不思議そうに僕を見ていた。

    若君「尊」

    僕「はい?」

    若「酒は好まんのか。飲んでおらんようじゃが」

    僕「あー、普段は飲みますよ。今日はこの後、瑠奈を家まで送っていくので」

    若「瑠奈殿は今宵は此処に泊まらぬと」

    瑠奈「はい。ごめんなさい」

    若「謝らずとも良い。屋敷まで送り届けるのと、酒とどう繋がるのじゃ?」

    僕「お酒を飲んだら、しばらく車を運転してはいけないんですよ」

    若「なんと」

    僕「だから今はお預けなんです」

    若「そうであったか…。ようやく尊とも盃を交わせると思うておったが」

    そんな会話に、瑠奈が僕の顔を覗きこむ。

    瑠「私、電車で帰ってもいいよ?」

    僕「ダメダメ。ちゃんと家まで乗せてくから。朝早くから支度して来てくれたんだもの、それくらいさせてよ」

    瑠「でもせっかくの機会なのに」

    若「瑠奈殿。済まぬ」

    瑠「え?」

    若「事の次第がわからず口を挟み、気を揉ませてしもうた」

    瑠「そんな。いいんです」

    若「尊がしかと屋敷まで送り届けるゆえ、時間の許す限りゆるりと過ごされよ」

    瑠「はい」

    まぁ、僕も兄さん達と一緒にお酒飲めたらなとは思ったけど、今後いくらでもチャンスはあるだろうし。そして食事は和やかに進み、

    覚「8時半か。そろそろやっとくか?花火」

    唯「やるやる!」

    先に、蚊取り線香に火が点けられた。

    唯「うずまきが大量」

    美「小さい子は特に刺されやすいからよ」

    唯「そっか」

    そして、プチ花火大会スタート。弾ける火花に驚く里芳ちゃんに、トヨさんが優しく手ほどきをしている。

    トヨ「これはね、花火。は、な、び」

    里芳「は、な。おはな?」

    ト「そうね。お花の花ね」

    里「おはな、しゅーしゅー!」

    僕「シューシュー。確かに言ってる」

    辺りに漂う火薬と線香の香り。夏の夕暮れはこれでしょと郷愁を感じさせる。

    美「寝ちゃったわ」

    覚「周りはまあまあ騒がしいがな。さすがに大物だ。布団に寝かせてやるか」

    眠る晴忠ちゃんを連れて、リビングに戻っていった両親。何て事ない光景だけど、幸せ溢れる感じが、いい。永禄の皆さんが花火に大喜びしてるのも、いい。

    瑠「これで失礼します」

    唯「いっぱいお手伝いしてくれて、ありがとねー」

    瑠奈とお別れの時間になった。

    僕「ちゃんとお礼言った。成長してる」

    唯「うるさいよ。素直にホメたらどーなの」

    美「朝早くからホントありがとね」

    覚「今夜はゆっくり休んで、明日の用事に備えてくれな」

    唯「はい」

    ト「ずっと里芳の世話をしてくださり、大変助かりました。ありがとうございました」

    瑠「いえいえ。私こそとっても楽しい時間が過ごせました」

    僕「じゃ、送ってくるよ」

    兄さんとトヨさん、そして遊び疲れてすやすやと眠る里芳ちゃんを抱いた源三郎さんは、揃って大きく会釈をし、見送ってくれた。では、出発。

    僕「次回には、腹決めますんで」

    瑠「ふふっ。大袈裟だなぁ」

    皆残念がっていたけど、瑠奈のお泊まりについては、瑠奈側の理由で今夜は無理って話にしといたんだ。でも実は違って、なんつーか、僕のわがままというか…。だってさ、今夜も恒例行事として全員でリビングに布団並べて寝るって親が言うからさ、

    瑠「前に公式で泊まった時に同じ事してるじゃない。おじさまは既に見てるんじゃ?」

    僕「公式!笑える。そうかもしれないけど」

    瑠「たけるんがそんなに独占欲強かったなんて意外だった」

    瑠奈の寝顔を他の男性陣に見せたくなくて。

    瑠「大切にされてる?」

    僕「当たり前でしょ」

    瑠「嬉しい!もぅ、たけるんったらかわゆいんだからぁ」

    僕「何とでも言ってください」

    あっという間にマンションに到着。シートベルトを外すと、僕に近づき目を閉じた彼女。可愛いおねだりにドギマギしていると、

    僕「あ。電話」

    画面には父の表示。いいや、そのまま鳴らしておく。

    瑠「出なくていいの?」

    僕「運転中ってコトで」

    おねだりにたっぷりと応え、最後はエントランスに入って行く所まで見送った。

    僕「さて。今の内にかけとくか」

    と思ったら再び呼び出し音が。

    僕「そんなに急ぎ?はいはい…もしもし」

    若「尊」

    僕「…へ?!その声は、兄さん!」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道93~9月10日16時

    適材適所。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈「里芳ちゃーん、行くよぉ、それぇ!」

    里芳「…!」

    源三郎「おぉ」

    トヨ「まぁ」

    里「キャーー!」

    日はまだまだ高いけど、子供達も起きたので庭遊びを始めた。シャボン玉が舞う。里芳ちゃんも戸惑ったのは最初だけで、すぐに大はしゃぎしている。

    覚「おー」

    美香子「捕まえられそうだもん、追っかけるわよね~」

    ト「七色に輝くとは…」

    源「何ともはや美しく」

    瑠「交代しましょうか?」

    源「瑠奈様。宜しいのですか」

    瑠「どうぞぉ。ここを持って…そう、で、これを引くんです。ほら」

    源「ほぅ…おぉ!」

    美「ねぇ瑠奈ちゃん、このバトンというかスティック、これもシャボン玉ができるの?」

    瑠「はい。振ると出てきますよ」

    美「そうなの?…あらま!」

    スティックの先端から泡が。

    美「魔法使いになった気分だわ~」

    覚「母さん、トヨちゃんが興味津々だ。渡してやりな」

    ト「いえ、そんな」

    美「いいのよ~。はいどうぞ」

    ト「ありがとうございます。わぁ、綺麗…」

    源三郎さんとトヨさんが堪能してくれている。前回来た時はこんな遊び、しなかったからな。

    晴忠「あー、あー」

    若君「フフ。手を伸ばしよる」

    兄さんに抱っこされた晴忠ちゃんも、光を集めてキラキラの大きな泡に身を乗り出している。そんな平和な光景の中…

    唯「勝負じゃ!」

    僕「ふっ。ここで会ったが100年目」

    唯「なにそれ、意味わかんない」

    僕「違うな、今年でもう463年目だ」

    唯「ちょっとー、計算速っ。腹立つ~」

    姉と僕、武器を携え対峙した。ミニサイズの水鉄砲だけど。

    唯「えーい、これでもくらえ~!」

    僕「それはこっちのセリフだ!」

    水の撃ち合いがスタート。

    唯「キャー、冷たい!」

    僕「うわ、見えねっ、顔は反則だって!」

    覚「いい歳して何やってんだ」

    若「ハハハ。おっと」

    姉の飛ばした水が兄さんをかすめた。

    唯「ごめんたーくん!」

    僕「隙有り!」

    唯「ギャー!くっそ、私の方が戦慣れしてるのに!」

    若「物騒な自慢じゃな」

    つい本気出してしまった。お互い水を出し切ったので終了。

    美「もう何してるの。子供用でしょ?こんなにびしょ濡れになって」

    僕「すいません」

    唯「では私が勝ちってコトで」

    僕「何言ってんの。僕よりビショビショのクセして」

    妙な勝利宣言を残し、さっさと姉は里芳ちゃんと遊び始めている。僕はウッドデッキに座っていた瑠奈の隣に腰を下ろした。

    瑠「お疲れさま。めっちゃ濡れてる~」

    僕「暑いからすぐ乾くよ」

    一息ついていると、晴忠ちゃんを両親に託した兄さんが、僕達に近づいてきた。

    若「尊。ようやってくれた。礼を申す」

    僕「いえいえ」

    それだけ言うと軽く会釈をしてその場を去り、里芳ちゃんを見守る源三郎さん達の輪に入っていった兄さん。

    僕「兄さんにさ」

    瑠「うん?」

    僕「お姉ちゃんの相手をしてやってくれと。ストレス解消かな。仰せつかったんだ」

    瑠「そうだったの!」

    僕「今お姉ちゃん、さすがに城で暴れたりはしないんだってさ。昔は屋敷の中を走り回ったりしてたらしいんだけど」

    瑠「屋内を?まあまあの衝撃…」

    僕「元源ちゃんの事もあって、最近はちょっとおとなしかったと」

    瑠「おとなしいと心配されるんだね」

    僕「そこで対等に渡り合える僕に白羽の矢が。源三郎さんやトヨさんにその役目は可哀想じゃない。彼らは遠慮が先に立つから」

    瑠「なるほどね。そう言えば買い物中、絶対僕が標的になるって言ってたね」

    僕「うん。おもちゃのエサをちらつかせたらやっぱり挑んできた」

    瑠「エサって言わない!お見込みの通りではあったと。それで小さい水鉄砲。納得」

    僕「そっ。なんせ僕には遠慮なんてしないからね」

    瑠「あはは。お兄さんにすごく信頼されてるんだね」

    僕「それは誇らしいと思ってる」

    瑠「それに、嫌々には見えなかった。たけるんも楽しそうだったよ?」

    僕「楽しかった。うん、すごく楽しかった」

    姉弟で過ごす時間も与えてくれた兄さんに感謝だ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道92~9月10日13時30分

    賢いだけでは越えられない壁。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「揃ったな。うん、皆いい笑顔だ。では始めよう」

    全員「いただきます」

    運動部の差し入れみたいな昼ごはん。晴忠ちゃんには勿論、並んでるメニューとは全然違う食事が用意されていたけど、里芳ちゃんにはどうするのかな。

    里芳「もっと、食べりゅ」

    源三郎「気に入ったようじゃ」

    トヨ「お肉が柔らかいからかしらね」

    チキンナゲットの衣を外して細かくほぐし、食べさせている。なるほど、幼児に与えても大丈夫な部分を取り分けているんだ。

    瑠奈「バンズも小さく切りましょうか?」

    ト「ありがとうございます。手慣れていらっしゃるのですね」

    瑠「甥っ子が里芳ちゃんくらいの頃に、食事を手伝った経験があるんです」

    もう一方のテーブル。

    晴忠「んま、んまん」

    美香子「ゴキゲンねぇ」

    覚「そうかそうか~。じいちゃんが作ったごはんはそんなに美味いか~」

    唯「そんな意味か?」

    若君「お父さんの作る飯は紛う方なく美味い」

    結婚した娘達が、子供を連れて実家を訪れるの図。これが帰省ってヤツか。一番ゴキゲンなのは、紛う方なく両親だ。

    覚「おほー、嬉しい事言ってくれるねぇ」

    かつての自分を思い出す。タイムマシンを初めて完成させた頃。僕は実にひねくれ者で親不孝な息子だった。でも、不登校をガミガミ言うでもなく、心底明るく寄り添ってくれた両親。

    晴「ぶぶぶぶ」

    唯「うわ、よだれスゴっ」

    姉とケンカしたあの日。

    ┅┅回想。平成29年5月。もう一度タイムマシンで永禄に飛び、若君を助けたいと懇願された実験室┅┅

    僕「戦国に戻ってその先どうするつもり?その人を助けたいって言うけどさ、素性の知れない人間の言う事お城の若君が聞くと思う?」

    唯「やってみなくちゃわからないじゃない」

    僕「どうやって近づくの?どうやって仲良くなるの?そのためのビジョンあるワケ?」

    唯「だったらあんたは未来のビジョンつうのが見えてるワケ?ちゃんとそのとおりに生きてるワケ?じゃないから不登校かましてんだろうが~!」

    自分に批判的な人間は排除。姉を突き飛ばし、実験室から追い出した。図星なのがくやしかった。

    ┅┅回想終わり┅┅

    姉の意見は行き当たりばったりで無謀そのものだったけど、あの時、あのくらいそしられる必要があったと今は思う。正論が正解とは限らないから。

    若「ハハハ。どれ、少し拭いてやろう」

    唯「たーくんありがと」

    姉が赴いたから、兄さんも源三郎さんもトヨさんもこうして生きて幸せを掴んでいる。

    美「もうすぐ歯が生えるのね~」

    唯「そーなの?!さっすが小児科のプロ」

    美「それ言うなら母親のプロよ。なーんてね」

    タイムマシンやまぼ兵くんやでんでん丸は造ったよ?でも使いこなしたのは姉だ。おまけに、未だ未来へのビジョンは…怪しい。

    若「尊。いかがした」

    僕「…はい?あ、あー。親孝行ができて良かったね」

    若「尊のおかげじゃ。なぁ唯」

    唯「そだね。ありがとうねぇ、尊く~ん」

    僕「いやに素直。気色悪っ」

    唯「なんだとー」

    姉には一生敵わないんだろう。

    美「はぁ~。天使の寝顔ね~」

    覚「ずっと見ていられるな」

    食後、お子ちゃま達はお昼寝タイムに突入。

    覚「ちょっと早いが、晩飯の支度始めるか。酢飯も用意せなならんからな」

    瑠「おじさま、お手伝いします」

    ト「わたくしも」

    覚「ありがとう。もう少ししたらお願いするから、まだゆっくりしててくれな。おい、唯」

    唯「あ~?」

    覚「手伝え」

    唯「えー?実家に遊びに来た娘って、フツーはこき使わないんじゃないの?」

    覚「普段何でもやっている人ならそうだ。唯は違うだろ?ここでは働け」

    唯「マジかー」

    若「ハハハ」

    僕「親孝行できて良かったね。を再び贈る」

    唯「ちぇっ」

    ブツブツ文句を垂れながらも、仲良くキッチンに立っていた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道91~9月10日13時

    あんたの金でもないし、は平成Days3no.338で展開してます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    草むしり後の片付けをしている間に、先に姉が戻ってきていた。のだが。

    僕「晴忠ちゃんはまだ向こう?」

    唯「うん。エリさんと芳江さんが交代しながら抱っこしてくれてるんで、まかせちゃった」

    僕「喜んでたでしょ」

    唯「うん。すごーく」

    僕「で、健康体のお墨付きが出たと」

    唯「日頃の行いがイイんで」

    僕「行いねー。お付きの皆さんの管理がイイんでしょ。で、こっちでしか食べられないモノをと?」

    唯「そっ」

    お昼ごはんの用意、どうやら姉が好き勝手放題やったらしく…

    僕「だからと言って、こんなに注文するか~?人の金だと思って」

    唯「あんたの金でもないし。いいじゃん」

    食卓の上が、ファーストフードで埋めつくされていた。

    僕「前にも似たような会話をした気がする。洋食で宅配って言うから、てっきりピザだと思ってた」

    唯「今は何でもデリバリーできる時代なのだ。遅れてるねー」

    僕「永禄から来たヒトに言われるとは」

    覚「さすがにちょっと多くないか?」

    唯「大丈夫っしょ。たーくんも源三郎もあんまり言わないけどさ、実はかなりお好みだったりするんだよ」

    僕「そうなんだ。だったらまぁ…」

    並ぶのは、初デートの日に昼ごはんを食べた店のメニューだった。あれから一緒に何回も口にしてるけど、なんかやっぱ特別感がある。瑠奈とアイコンタクトすると、にっこり笑ってくれた。

    唯「へへー。あっついうちにー」

    そんな僕達の様子には全く気付かず、フライドポテトをつまみ食いする姉。

    僕「ちょっと!ったく、子供じゃあるまいし」

    覚「皆が揃うまで待てんのか」

    唯「ん~、この細めのポテトがイイ!」

    瑠奈「私も好きです。ここのポテト」

    唯「やっぱそーだよね!どーぞおひとつ」

    瑠「ありがとうございます。後でいただきますね」

    唯「そお?」

    僕「悪の道に引きずりこもうとしないでよ」

    唯「ちぇっ」

    瑠「ふふっ。あ、おばさま」

    白衣姿の母登場。

    美香子「唯、芳江さん達そろそろ帰られるからもう一度顔出しなさい」

    唯「ん、わかったー」

    母と娘はクリニックに戻って行った。

    覚「お二人にな」

    僕「うん?」

    覚「昼ごはんも一緒にいかがですかとお誘いしたんだが、丁重に断られたんだと」

    僕「それは残念。忙しいんだろうね」

    覚「いや」

    僕「違うの?」

    覚「今回、唯達がこちらに居るのは24時間だけじゃないか」

    僕「うん。ひと月、ではない」

    覚「だったら貴重な食事時間、家族水入らずでどうぞって遠慮なさったらしい」

    僕「それは…でも今後は、こういう訪れ方が増えると思うよ?」

    覚「あらかじめ、今日来るかもしれないと伝えておいた上でお二人がそう決めたんだ。強くは言えん。次回があってご都合が合えば、参加していただくさ」

    僕「そうだね」

    瑠「あの…」

    僕「どうしたの」

    瑠「ご家族でとのお気遣いで遠慮なさってるのに、私が参加は」

    覚「ん?昼も夜もよろしく頼むよ」

    瑠「いいんですか」

    覚「家族水入らずだから。な?瑠奈ちゃん」

    瑠「…」

    当然だ、といった振る舞いの父の言葉に、瑠奈は感極まっていた。

    唯「たっだいま~!お腹空いたー」

    僕「うるさいのが帰って来た」

    若君「おぉ」

    源三郎「これは」

    トヨ「あらまぁ」

    ザ・現代食の山に、かなり驚いている。

    唯「ほらたーくん、ハンバーガーだよ~」

    若「うむ…」

    戸惑う兄さん。さてはさっきの姉の話はガセネタか?

    僕「お好みってのは間違ってたんですね」

    若「いや、それは合うておるが。些か、面食らった」

    僕「ですよね」

    母も戻って来た。

    美「お待たせ~。あらま何、すごい量。始めましょうか」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道90~9月10日11時

    そんな物言いもファンにとっては喜び。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    僕「ただいま」

    瑠奈「ただいま戻りました」

    覚「おー、お疲れ」

    若君「尊。瑠奈殿。手数をかけたの」

    兄さん達は居たが、姉と晴忠ちゃんの姿はなかった。

    僕「お姉ちゃん達、もう待合室に移動した?」

    覚「あぁ。なんかな、アイドルかの如く周りに人垣が出来てるらしいぞ」

    僕「晴忠ちゃんに?」

    覚「いや、唯にだ」

    僕「え」

    へー。様子を確認しようと、その足でクリニックに向かい、待合室をそっと覗いてみた。すると、

    女性1「唯ちゃん、髪伸びたわね~。ツヤツヤでとっても綺麗」

    唯「なんかよくわかんない油つけられてるからかなー」

    わかんないって…椿油とかじゃないの?

    女性2「あい変わらず細くってねぇ」

    唯「でも最近は全然走ってないよー」

    そりゃそうだろ。放っておくと、晴忠ちゃんを抱っこしていようが走り出しそうだもんな。兄さんも禁止令を出してるに違いない。

    唯「お菓子ほとんど食べてなくてー。だからヤセてるのかな」

    さっきの買い物リスト、お菓子の名前がずらっと並んでた。せっかくだから土産に持たせたい親心はわからんでもなかったから購入してきたけどさ…ヤバくね?永禄に戻ったらしこたま食べて、ブクブク太り出すんじゃなかろうか。

    唯「つーかさぁ、ウチが土曜開いてるのは、働いてて平日来れない人用なんだよ?なんで毎日家に居てヒマしてる、ジジイババアが今日来てんのよ」

    なんつー乱暴な言い方!開院日のいつが誰向けとかはさ、一概には言えないんじゃない?

    男性1「畑もやっとるしよぉ」

    唯「そんなん理由になるか~?」

    女1「アッハッハ」

    女2「唯ちゃんらしいわねぇ」

    男1「お母ちゃんになっても、あい変わらず元気じゃの~」

    受け入れられてる。

    僕「そう言えば」

    去年、姉の成人式の頃、袴姿の写真を診察に来たご近所さんに披露してたって聞いた。ずっと姉の成長を見守っていてくれたんだ。

    女2「可愛いわねぇ」

    女1「ホントにそう」

    孫みたいなモノなんだろう。ジジイババアとか言わず感謝しろよ、と呟きながらそっとその場を後にした。リビングに戻ってくると、

    僕「あれ、みんなどこ行った?」

    キッチンに立つ父と、床にペタンと座る里芳ちゃんと、その隣に瑠奈、の三人しか居ない。

    瑠奈「お帰り。さっき、いっぱい花火買ってきたじゃない」

    僕「うん」

    瑠「それを見せたら皆さん喜んだんだけど、忠清さんがチラッと庭を見て、ならば草取りをいたす、って出て行かれたの」

    僕「庭?あー」

    外に目をやると、兄さん源三郎さんトヨさんの三人が、タオルほっかむり姿で雑草と戦っていた。

    覚「先週刈っておいたんだがな、まだ今の時期成長が早くて。里芳ちゃんが思ったより動ける子だったから気にはなったんだが、もう少し整えます、って」

    瑠「私もやりますって言ったら止められて、里芳ちゃんを見ててくれってお願いされたの」

    僕「そうだったんだ」

    覚「尊。わかってるよな」

    父が僕の肩を叩く。手にはタオルと軍手。出たっ。

    僕「暑そう…行ってきます」

    覚「ん」

    瑠「頑張って。行ってらっしゃい」

    四人がかりだったので、数分もするとさっぱりとした風景に。我が家ながら芝生が美しい。

    若「皆の者、大義であった」

    僕「お疲れ様でした」

    若「尊。巻き込んでしまい、済まんかったの」

    源三郎「買い物をしていただいた上に」

    トヨ「済みません」

    僕「いえいえ、自分の家ですから。こちらこそありがとうございました」

    リビングのサッシが開く。

    覚「お~いみんな、そろそろ診察できるらしいぞ」

    若「もうそのような時間でしたか」

    覚「今、先に里芳ちゃんを連れて行ってもらったよ。瑠奈ちゃんに」

    ト「まぁ、でしたら直ちに代わって差し上げないと…あ、でも」

    若「トヨは先に出よ。後は抜いた草を集めるのみゆえ」

    源「やっておくから」

    ト「はい。では」

    覚「いいからいいから、三人とも戻ってきな。残りと後片付けは尊がやる」

    ここで嫌な顔はできません。

    僕「どうぞ、行ってください。後は任せて」

    若「良いのか?尊」

    僕「はい。芳江さんとエリさんも待っててくれてると思うんで」

    若「そうであったな。ならば、御免」

    三人はリビングに戻って行った。さてと、もうひと頑張りするか~。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道89~9月10日9時30分

    聞こえてたとしても、空耳と見なされそう。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    買い物をすべく、家を出た僕と瑠奈。車を走らせている。

    瑠奈「ホームセンターで揃うよ。3歳とかになってればともかく、5ヶ月と1歳9ヶ月ではまだそんなに複雑な遊びはできないし、凝った物じゃなくていいと思う」

    赤ちゃんグッズならその道の専門店の方がいいんだろうなとは思ったんだ。でもそんなお店の敷居を跨ぐのがちょっと恥ずかしくて行こうと言い出せずにいたら、車に乗りこむ時に瑠奈がこう言ってくれたんだ。

    僕「そう?」

    瑠「うん。お姉ちゃんも言ってた」

    ここでのお姉ちゃんですが、瑠奈のお兄さんの奥さんを指します。お子さんは上が男の子、下が女の子で、姪っ子ちゃんは里芳ちゃんのひと月後に誕生してます。

    僕「聞いておいてくれたんだ。どうしてそんな事を今って言われなかった?」

    瑠「小さな子の居るお宅にホームパーティーに呼ばれて。みんなで手土産に外遊び用のおもちゃ買おうと思うんだけどどうかな、って話にしておいたの」

    僕「そっか。ありがとう。助かるよ」

    瑠「いーえー。後学のためにもなるし」

    僕「後学…」

    瑠「うん。後々私達の時に役に立つじゃない」

    僕「わ!わたっ」

    瑠「違うとでも?」

    僕「ち、違わない、と思います…」

    外堀を埋められている?!いや、互いに他の相手と仮定しているかもしれないし、とこの期に及んで邪推してしまう。心拍数がグッと上がったに違いない、発車前の出来事だった。ほどなくホームセンターに到着。

    瑠「水鉄砲なんかいいと思うな」

    僕「そうだね。小さいサイズで」

    瑠「大きい、ウォーターガンみたいな物もあるよ?大人が遊ぶのも悪くなくない?」

    僕「一人節操のないヤツが居るから、そんなんに渡したら大変なんで」

    瑠「あぁ。はは…」

    僕「あとは、と」

    その時、若い女性が瑠奈に駆け寄ってきた。

    女性「瑠奈~!」

    瑠「あれ?おはよう~!こんな所で会う~?」

    同い年くらい?女性が来た方向に、山盛りのカートを押す男性の姿があった。僕も彼女達の邪魔にならないよう、少し離れて待機する。

    瑠「どしたの?買い出し?」

    女「うん。聞いて、私ね、彼氏ともうすぐ同棲するんだ」

    瑠「えー!そうなの!」

    女「お金はまだそんなにかけられないから、棚とか自分達で組み立てようと思って、材料買いに来た」

    瑠「へぇー。いいなぁ同棲、羨ましい」

    羨ましい…ごめんなさい。すると、女性が瑠奈に耳打ちした。

    女性の囁き「彼氏、カッコいいね」

    瑠「でしょ!もぅ最高の彼なの!」

    瑠奈がすごくニコニコしてたけど、館内放送に紛れて、女性の小声は聞こえていなかった。

    女「瑠奈こそここで何してるの、彼とキャンプでも行く?違うか、グランピング?」

    瑠「あはは。ここ、外遊びグッズのコーナーだもんね。彼氏の家に今、お姉さん達家族が帰省してるの。ちっちゃい子も居るから、喜んでもらえそうなおもちゃ探してて」

    女「え!彼氏の家族なんだよね?自分じゃなくて。家にはフツーに行ってたりするの?」

    瑠「うん、何回か。でも甥っ子姪っ子は初めてで」

    女「スゴっ。仲良いんだね。すっかり瑠奈も彼氏の家族の一員になってるんだ~」

    そうですね。

    女「じゃ、もう行くね。バイバーイ」

    瑠「うん、また学校でー。…お待たせ、たけるん」

    僕「全然。同じ大学の人?」

    瑠「うん。ゼミが一緒なの」

    僕「ふーん」

    瑠「今の聞こえた?」

    僕「何が?」

    瑠「たけるんカッコいいって言ってたよ」

    えぇ?

    僕「またまたー。聞こえてないのをいいコトにガセネタ言われても」

    瑠「嘘じゃないよぉ」

    僕「はいはい」

    瑠「もー!」

    プリプリ怒ってたけど、そんなセリフ有り得ないし、無理やり盛り立ててもらうのも何だからスルーした。

    瑠「あ、ねぇ!シャボン玉作るのなんてどうかな」

    僕「いいね。へー。電動で大量に放出するのも思ったより種類豊富。どれにする?」

    瑠「どうしよう。あれ?」

    僕「ん?」

    瑠「ウォーターガンはアウトで、バブルガンはセーフなんだ」

    僕「当たっても痛くないから」

    瑠「えー、わざと当てたりするかな」

    僕「うん」

    瑠「ぷっ。それ、特定のヒトへの危険人物扱いが甚だしくない?」

    僕「実際危険だから。絶対、僕が標的になる。なんとなくわかるでしょ?」

    瑠「…想像できてしまう自分がコワい」

    こうして安全な玩具を仕入れ、次にスーパーへ移動した。父に託されたメモを見ながらとは言え、一緒に食材を選ぶなんてさ、もう照れちゃって照れちゃって何とか任務完了。

    僕「10時半を回ったか」

    瑠「そろそろ公園から戻ってみえるかな」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道88~9月10日8時30分

    令和に居れば行うであろう事柄を一つずつ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    お子ちゃま達、急激な環境の変化に対応できたかなって少し心配だったけど、

    晴忠「んば、ば、ぶー」

    覚「ジイジとは言ってくれんかなー」

    唯「まだっしょ。ゴギゲンなのは助かるけど、わー、よだれが止まんない」

    瑠奈「タオル変えましょうか、どうぞ」

    若君「済まぬの。瑠奈殿はよう気が利く」

    里芳「キャッ、キャッ」

    僕「走り回ってる。楽しそう」

    源三郎「敷物で床が柔らかでございますゆえ」

    僕「あー、カーペットが。お屋敷は基本、板の間ですもんね」

    源「足への当たりが優しく、気に入っておるのではなかろうかと」

    お出かけ準備中。

    瑠「うわぁ、ちっちゃーい」

    トヨ「外を歩かせるやもと思い、持って参りました」

    覚「靴はな、悩んだんだけど実際に履かせてみないとなって止めておいたんだ。さすがトヨちゃんだ」

    里芳ちゃん用ミニサイズのわらじが登場。

    覚「君達は前来た時に使ってたスニーカーがあるから良いが、令和の道は硬過ぎてわらじ向きではない。道中は抱っこして、公園着いたら好きに遊ばせなさい」

    ト「はい。そのつもりでございます」

    覚「麦わら帽子かぶってくか?っと言っても人数分ないな。子供用もないし」

    唯「いらない。かわりにタオル貸して」

    覚「そんなんでいいのか?」

    唯「首に巻いてく」

    パパママ達は全員、Tシャツにジーンズ姿だから、まぁ似合わなくはないな。

    唯「汗も拭けるし、頭熱いってなったら、ほっかむりできるし」

    髪型は、兄さんが上半分だけ結んだハーフアップ、源三郎さんは襟足の辺りで一つ結び、姉とトヨさんは長い前髪も全てまとめたポニーテールになっている。ほっかむり姿を想像…

    僕「おかしくはないけど妙な団体様だ」

    なぜか兄さんが、含み笑いをしている。

    若「唯」

    唯「なに?」

    若「頬被り。人目を忍ぶ頼み事があるのか?」

    唯「人目…あっ、やっだぁもう!たーくんったら!」

    若「い、痛い」

    バシバシ叩かれている兄さん。なんか二人だけのいい想い出でもあるんだろうな。かくして、団体様6人、出かけていった。

    覚「…そうだ、尊」

    僕「ん?」

    覚「スーパー行く前に、ホームセンター寄ってきてくれんか」

    僕「ホームセンター?」

    覚「子供が庭遊びできるグッズ、色々見繕ってきてくれ」

    僕「グッズ。何でもいいの?」

    覚「あぁ。二人に任せる」

    瑠「楽しそうですね!わかりました」

    覚「未来の予行練習、な」

    僕「えぇ?」

    なーに言ってんだよー!またニヤケそうになったのを何とか押さえた。でも瑠奈を見たら、頬を赤らめていたのでその様子に結局ニヤニヤしてしまった。さて、ところ変わって…

    唯「みんなでぞろぞろ歩くのさぁ、久しぶりだねー」

    公園に向かっている姉達。お子ちゃまは二人ともパパの腕の中。

    若「甘い魚を食した帰り道じゃな」

    唯「たい焼きね」

    後ろを振り向き、源三郎さん家族を見る姉。

    唯「あの頃は、なーんか二人してぎこちない感じでさ」

    源三郎&トヨ「すみません」

    唯「ふふっ」

    公園に到着。まずは城跡から。

    若「変わらぬの」

    源「はい」

    若「有り難い。歴史、は繋がっておると肌で感じられるゆえ」

    その後、ブランコなど遊具がある場所に移動。土曜日だがまだ朝早いので、子供達の姿はなかった。源三郎さんが里芳ちゃんを下ろす。土の感触を確かめるように立つやいなや…

    里「キャー!」

    大喜びで走り出した。緑合って山あいだし、永禄ではこんなに広くて安全な所はまずないんだろうな。

    唯「りほうちゃーん、こっちおいでー」

    滑り台の前で姉が呼ぶ。これ、赤青黄に塗り分けられていてとてもカラフルなんだ。傾斜が緩やかなので、支えてあげれば里芳ちゃんでも遊べそう。

    源「里芳、ほれ、唯様が」

    現代の子供と違い、年齢の割に足腰がしっかりしてるんだろうな。中々捕まらない。

    若「そうそう動きは止まらんじゃろ」

    唯「来ないか。じゃあ私がためしに」

    ト「え?」

    ササッと滑り台の頂上に駆け上がり、

    唯「ヒュー!」

    だからー、どうしてアンタが滑る!

    若「ハハハ。幼子が三人じゃな」

    一人で占領しないでよ?

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    帰り道、は現代Days21no.867にて。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道87~9月10日7時40分

    永禄とは比べ物にならない残暑。それでも朝方ならまだまし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    さっきの実験室よりずっと、ドラマチックな再会のシーンだった。

    唯「まだ泣いてるー」

    トヨ「胸が一杯で」

    美香子「じゃあそろそろ行くわ。唯」

    唯「ん?」

    美「あなたは、晴忠ちゃん連れて11時頃には待合室に来なさい」

    唯「早めに待ってろって?」

    芳江「あ、確かその時間は」

    エリ「ご近所の皆さんがちらほら、いらっしゃいますね」

    唯「ふーん」

    美「いい機会だから、元気な姿と晴忠ちゃんをみせてさしあげるのよ」

    唯「わかったー」

    母と看護師さん達はお仕事へ。

    覚「さて。昼と夜は何が食べたい?」

    唯「用意してないの?」

    覚「今日来るのがさっき確定したからな」

    唯「みんな、何がいい?」

    若君「令和は何を食しても上手いからのう」

    兄さんがそんなだから、源三郎さんトヨさんも何も言わない。

    唯「私さー、まともなお寿司が食べたい」

    僕「は?何その、まともなって」

    若「あー」

    覚「思い当たる節があるみたいだな」

    若「永禄では、活きのいい魚はまず口にしませぬ。唯がまともでないと申すは、鮒寿司を指しておろう?」

    唯「それそれ!もー、絶対ムリ~」

    覚&瑠奈「あー」

    僕「え、知らない。瑠奈は食べた事あるの?」

    瑠奈「頂き物を一口だけ。唯さん達の時代の物よりうんと食べやすくなってるんだろうけど、ちょっと私はダメだった」

    覚「かなり発酵させてるからな。郷土料理は、万人受けはしない物もある」

    唯「マグロとかイカとか、パリッとした海苔で食べたーい!」

    覚「だったら、手巻き寿司にするか。夜に」

    若「手巻き寿司か。良いの。初めて食したのは確か…四年近く前じゃ」

    覚「赤井家の皆さんもそれでいい?」

    源三郎&トヨ「はい」

    覚「里芳ちゃんには魚介類はまだ早いから、ちゃんと別メニュー作るからな」

    ト「手間をかけてしまい、すみません」

    覚「何言ってるんだい。ちっちゃい子が居る家庭なら当たり前の話。晴忠ちゃんの離乳食と里芳ちゃんの幼児食。久々に腕が鳴るよ~」

    瑠奈がサッと手を挙げた。何?

    瑠「おじさま、でしたら私と尊くんで買い出し行ってきます」

    僕「ほぇ?」

    覚「あー、そうだね。頼むよ」

    源三郎「そのような。急に押しかけた身、恐縮でございます。わたくしとトヨで」

    瑠「私達空いてるし。ねっ、尊。いいよね?」

    僕「そうだね」

    覚「じゃ、そんな手筈で。で、昼はどうする」

    唯「夜が和食だから昼は洋食で、アレがいい。宅配してくれる」

    僕「宅配か」

    唯「ねー、それでさあ。買い物頼んどいて何なんだけどぉ、私やってみたいコトがあって、お出かけしたいんだよねー」

    覚「お出かけ。何時頃だ」

    唯「なんなら今から」

    僕「今から?!どこ行くの、11時には帰って来れる所なの?」

    唯「子供連れて、公園デビューってヤツを」

    覚「へえ」

    僕「今から黒羽城公園なら、余裕で行き帰りできるか」

    唯「たーくんも忙しくてさ、一緒にプラプラお散歩もできなくて」

    僕「令和の平和を満喫したいと」

    唯「アンタ、ちょっと上手いコト言ったって思ってるでしょ」

    若「そうじゃな。久々に城跡など見たい。源三郎達もいかがじゃ」

    唯「滑り台なんか、りほうちゃん大喜びじゃなーい?」

    ト「どうする源ちゃん。行く?」

    源「うん。ではお言葉に甘えまして、わたくし共も公園まで参ります」

    覚「だな。せっかく来たんだ。ささやかではあるが、貴重な一日を充分楽しんできな」

    予定がトントン拍子に埋まってく。有意義に使って欲しいからな。悪くない。…ここで、ふと我に返った。ん?瑠奈と買い出し?なんか、新婚さんみたいじゃない?へ、でへへ。

    唯「尊ぅ」

    僕「へへ…あ、呼んだ?」

    唯「変な笑い方。キモっ」

    僕「なんだとー」

    と言いつつやっぱニヤケてしまうのであった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    手巻き寿司パーティーは、平成Days4no.346の辺りで展開。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道86~9月10日7時5分

    お子様ファーストで動いております。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美香子「おむつ替える時間が惜しい程、一刻も早く、って急いでくれたの?」

    若君「はい」

    美「しっかり抱えてきたのね。忠清くんのお着物、ちょっと湿っちゃってる。濡れるまではいってないけど」

    兄さんってつくづく出来た人だと思う。唯が起動スイッチを抜いてしまい、なんて一言も口にしないからな。

    覚「すぐ洗濯してやろう」

    若「あい済み…すみません」

    覚「着替えは唯の部屋に置いてあるから。源三郎くん達の着替えも、前使ってた予備室に用意してあるからなー」

    僕「晴忠ちゃんや里芳ちゃんの分もあるの?」

    美「勿論よ~」

    唯「サンキュー!助かるぅ」

    若「ありがとう、ございます」

    覚「気に入ってもらえるかはわからんがな」

    源三郎「わざわざお支度いただいたのですか」

    トヨ「何とお礼を申せば良いのやら」

    覚「選ぶのが、これまた楽しくてなー」

    そんなセリフを言いつつも、父は大喜びでずっと里芳ちゃんを抱っこしている。

    僕「ねぇ、着替えてもらうんじゃないの?」

    覚「もう少し抱っこさせてー」

    僕「着替えた後でもできるでしょ?」

    瑠奈「おじさまかわいい」

    晴忠ちゃんのおむつを手際よく交換した母。

    美「はい、終了」

    唯「おーっ。ぱるるー、すっきりしたねぇ」

    美「紙おむつは用意しておいたけど、ちゃんと替えを持参してたのは偉いわ」

    唯「まーねー。紙おむつだと楽なのになーってあっちでもずっと言ってんだけどさー。洗わなくていいし」

    美「唯が洗う時ある?お世話される方々に任せきりじゃない?おむつ交換もちゃんと自分でやってるの?」

    唯「やらないコトはない」

    美「ホントかしら」

    僕「侍女の皆さんが居る身分で良かった」

    里芳ちゃんがぐずり始めた。

    覚「うわ、じいちゃんは嫌かい?」

    ト「それはなかろうかと。これは…厠ですね」

    美「もうおむつしてないものね」

    ト「はい」

    覚「この前の録画を見直しててさ、早いなもう取れてるって話してたんだよ。里芳ちゃんは、よくできた子でちゅねー」

    僕「語尾!」

    ようやくトヨさんにバトンタッチした父。ママが娘の手を引く。

    ト「おトイレを使わせていただけますか」

    美「どーぞー、遠慮なんかしないでどんどん使って。ちゃんと里芳ちゃん用に用意しておいたから、補助便座」

    僕「あー、トイレに置いてあるあれ」

    ト「補助、便座?」

    瑠「トヨさん、私使い方わかります。一緒に行きましょうか」

    ト「宜しいのですか?すみません、お手間をかけます」

    トイレ問題解決。着替えも終わり、ようやく全員が落ち着いたのは、到着してから30分も経った頃だった。

    僕「席、埋まったね」

    再び、テーブルを二つ繋げた食卓。やっぱ、いい。キッチンに一番近い席に父、その隣に兄さん、瑠奈、端にトヨさん。父の向かいに母、隣に姉、僕、源三郎さんと並び、晴忠ちゃんは姉が抱っこしてるけど、

    源「よう考えられた椅子でございますな」

    ト「子の世話がしやすくて」

    一番奥の真ん中、通称誕生日席。里芳ちゃん用に、ベビーチェアっていうの?テーブルに引っ掛けて使う椅子も用意してあったんだ。

    覚「はい、コーヒーお待たせ。淹れたてをアイスコーヒーにしたからな。里芳ちゃんにはこっち」

    源「これは?」

    覚「子供用の麦茶だよ」

    美「コーヒーは勿論ダメだし、ジュースでもいけなくはないんだけど、ここで甘ーい味を覚えちゃうと、戻ってからねだられてもかえって困るでしょ。だからこれで堪忍ね」

    源「それは…助かります」

    ト「お気遣いを有り難く頂戴します」

    晴忠ちゃんは、水色の、ロンパースっていうらしいつなぎの服を、里芳ちゃんは、袖と裾にフリルの付いたピンクのワンピースを着こなしている。

    唯「サイズぴったりでびっくりしたー」

    美「だてに母親と小児科医やってないわよ」

    唯「言うね~」

    小児科医、のセリフに兄さんが動いた。

    若「お母さん。参ってすぐは些か取り乱しており、申し遅れてしまいましたが」

    覚「取り乱してるようには見えなかったが」

    美「聞いてるわよ忠清くん。晴忠ちゃんと里芳ちゃんを診察するんでしょ?」

    若「はい。願わくばと思うた次第ですが、お頼み申しても宜しいでしょうか」

    美「いいわよ。でも条件あり」

    唯「受けるのにハードルあんの?」

    若「条件。何なりとお申し付けくだされ」

    美「あなた達も診察します。6人全員ね」

    若「えっ」

    唯「マジすか」

    源三郎さんトヨさんも驚いてるけど、それすごくいい提案だよ。

    美「一番最後ね。来院された方々が終わってからよ」

    若「それは、お母さんの手を煩わせるばかりでは」

    美「いいのよー。エリさんと芳江さんにはもう伝えてあってね。二人とも快諾されてるの」

    兄さんが席を立った。

    美「あ、最敬礼はいらないから」

    戸惑っている兄さん。図星だったみたい。その時、玄関の呼鈴が鳴った。

    美「お二人、みえたんじゃないかな。出勤したらウチに一度顔出してって連絡しといたから。忠清くん、そのまま迎えに行ってくれない?」

    若「わかりました」

    やがて、玄関から、お二人の歓声が聞こえてきた。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道85~9月10日6時58分

    小、の字が多くて読みづらいかもしれません。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    赤井邸でドタバタが繰り広げられている頃、城では。

    小平太パパ「ん?」

    小平太さんが心なしか、フラフラと歩いている。

    小パ「何をぼんやりとしておる」

    小平太「…」

    小パ「小平太」

    小「は?はっ、これは父上」

    小パ「若君様と唯の方と晴忠様なら、元源殿の墓に参りに行かれたぞ」

    小「先程お見かけしました」

    小パ「そうか。よう見たら何じゃ、辛気臭い顔をして」

    小「元よりこの顔立ちでございます。父上に似た」

    小パ「一言も二言も多い」

    小「ふう。若君様は何ゆえ」

    小パ「若君様がどうした?直々に言付けなさらずにお出かけになられたからか」

    小「そうではありませぬ」

    小パ「なら何が気に食わぬ。まあ座れ」

    近くの縁に腰掛けた父子。

    小「源三郎とは」

    小パ「源三郎?」

    小「幼き頃から、同じ近習として若君様にお仕えし」

    小パ「あぁ。思い起こすに、かつて殿が御月家のあるこの地緑合へ発つと仰せられた折に、黒羽城で屈辱に耐える若君様を置き去りにする位なら自刃する、と共に申しておったのう。志も同じ、同士じゃ」

    小「何が違うのか」

    小パ「違うとは?」

    小「よう、互いの屋敷を行き交う姿を見かけ」

    小パ「行き交う。少なくとも若君様は遊びに行っているのではあるまい。まさか、若君様が小平太より源三郎を贔屓、などと申すか?」

    小「…」

    小パ「たわけた事を。決してそのような御方ではあらせられぬのは、おぬし自身がようわかっておろうに。考えが浅ましいぞ!」

    小「…申し訳ありませぬ」

    小パ「小平太らしくない。若君様は、此度の不幸に、いたく心を痛められておられるのであろう。今まであの唯の方でさえ大人しく訪れずにおった。妻同士も仲が良いからのう。止められておった分、今になり足繁く通い始められたのでは」

    小「ならば某の妻も身の上は同じ」

    小平太さん、結婚してるんだ。同じって?

    小パ「唯の方の世話をしていた、つゆを見初めておるからか。つゆも、唯の方の扱いは上手かった。トヨの方ほど厳しく当たるでもなく、柔よく剛を制すと申すか。唯の方とつゆが仲良う話しておるのもよう見かけたな」

    つゆさんって名前なんだ。二人とも、姉のお世話係出身。あの姉に音を上げず相手してたんなら、相当出来た女性なんだろうなー。

    小パ「憂うほどでもない。考え過ぎておる。選り好みなどなく広き心で接してくださるのが若君様。それに、じき子が産まれた折には、里芳姫と同じく、大層喜んでくださるであろう。顔を見に、天野の屋敷に訪れていただけるやもしれぬぞ」

    もうすぐ家族が増えるんだ。おめでとうございます。今回は真夜中とか早朝とか、あまりに移動も頻繁で怪訝に思うのも無理ないとは思いますが、タイムマシンに乗るっていう特殊事情なだけなんです。心配ご無用ですから。

    小「楽しみじゃな、とはお声かけくださいました」

    小パ「そうじゃろ。ただ、元源殿の事もある。我々も目を配らねばのう。産殿を整える位しか出来る事はないが」

    小「毎日、拭き上げ清めております」

    小パ「そうか。ん?まさかおぬしがか?」

    小「妻と産まれ来る子を、疫病など罹らぬ様、守らねばなりませぬ。当然の事」

    小パ「ハハ」

    小「何か?」

    小パ「澄ました顔で愛を語りおってからに」

    元気な赤ちゃんが産まれますように。さて、お待たせしました。ところかわって、こちらは令和。4人で実験室に入ってはみたものの…

    僕「二人はお子ちゃまとはいえ、全部で10人か。すげぇ人口密度」

    里芳ちゃんがつまずいたりしないように、足元の配線とかをできるだけ隅によけたら、立ち位置がかなり狭くなりまして。

    美香子「もう来るんでしょ?だったらここで出迎えてあげたいもの」

    瑠奈「あの、人で溢れて大変なら私、外で待ちましょうか」

    覚「いや、朝から残暑とは言えんくらい厳しい暑さだ。外は止めなさい」

    美「瑠奈ちゃんもここに居なさいね。ねぇ、ホントにすぐ唯達、現れるのよね?」

    僕「来るって」

    その時、天井が光った。

    覚「おっ」

    美「まあっ」

    瑠「すごい」

    僕「ほらね」

    かくして6人、現れました。兄さんが一歩前へ出て、一人一人に挨拶をする。

    若君「お父さん。お母さん。瑠奈殿。尊。一日ではござるが、世話になり申す」

    全員でお辞儀をするが、やっぱ狭いな。

    美「嬉しいわー。晴忠ちゃんも里芳ちゃんも、よく来てくれたわねー。ん?」

    覚「ん?何か臭うな」

    唯「バレた?」

    美「あ、もしかして」

    晴忠ちゃんを抱く兄さんに近づき、鼻をクンクンさせる母。

    美「やっぱり!漏れてきてるじゃない!この時代おむつカバーなんてないから!忠清くん、急いで行きましょ!」

    若「忝のうございます…」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    無事?到着。続きます。

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    続現代Days尊の進む道84~9月10日6時50分

    姪っ子にメロメロの尊叔父さん。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    永禄では、順調に出発準備が進められていた。

    唯「じいもゴキゲンで帰ってったコトだし。行こっかぁ、ぱるる」

    晴忠ちゃんを抱き上げた姉。

    唯「はぁ~。向こうはアッツいだろうなぁ」

    若君「暑い。うむ。九月も十日となれば暦では白露であるが」

    唯「なにそれ」

    二十四節気だよ。

    若「秋も真っ只中という意味じゃ」

    唯「そーなの!」

    若「初めて先の世に参った折、永禄に戻る頃には九月になっておったが、随分と暑く感じたのは覚えておる。あれから…早五年か」

    唯「5年も前になるかぁ」

    若「そうじゃな」

    唯「永禄の夏ってさー、そんなにアツくないから楽なんだよ。現代って鬼アツじゃん、ありえなくない?」

    若「フフ」

    唯「なに?笑うトコあった?」

    若「唯の話には、よう鬼が出よる」

    唯「は?だって鬼ヤバいし」

    若「ハハハ。どれ、晴忠はわしが」

    唯「あ、抱っこしてくれる?よろしくー」

    三人で城門を出る。すると背後から声がした。

    小平太「若君様!」

    唯「うげ、見つかった」

    立ち止まり、振り向く兄さん。

    若「何じゃ小平太」

    小「言付けもなく、どちらにお出ましでございますか」

    この人が小平太さんか。実直そうな人だな。姉との相性はイマイチみたいだけど。

    若「信近には伝えたがのう。源三郎の子の墓に参る」

    小「…」

    若「どうした」

    小「昨晩も赤井の屋敷に出向かれ」

    若「墓参りは夜更けより朝方が良かろう」

    小「御子も再びお連れになってですか」

    唯「なによ。文句ある?」

    若「辰の正刻には、警固の引き継ぎであろう?源三郎と」

    小「はい」

    若「すぐ戻る」

    小「…はっ」

    何か言いたげではあったが、小平太さんはそのまま城内に戻っていった。そうか、源三郎さんは8時には出勤しなきゃいけないんだ。だから兄さん、今の時間なら動けると思ったんだな。よく考えられてるよ。

    唯「こんなに早くぱるるを連れて行けるなんてさ。ナイス尊!だよ」

    若「労わねばならぬ」

    痛み入ります。赤井邸は、徒歩で…いや、徒でも5分かからない距離だった。

    唯「おっはよー!」

    トヨ「お早うございます」

    源三郎「ようこそお越しくださりました」

    若「娘御も起きておるのう」

    唯「りほうちゃん、おはよっ」

    里芳ちゃん、朝から何事かと思ってるのかな。ママにつかまって、つぶらな瞳をパチパチさせている。

    ト「ほれ、挨拶は」

    一瞬、キョトンとした後、姉達の方を向いた里芳ちゃん。

    里芳「おはよお、ごじゃい、ます!」

    おおぉ、かーわいーい!しかし、ここまで挨拶できるなんてすごいな。躾の賜物と、里芳ちゃんのポテンシャルの高さだな。

    唯「もうスタート時間になるかなあ」

    かくして、真夜中に僕が現れた部屋に、大人4人と子供2人の計6人が集まった。

    若「丁度良い時分であろう」

    唯「じゃっ、行きますかー」

    起動スイッチを握るのは姉。いざ、行かん!

    若「…んっ」

    なぜか兄さんが戸惑っている。

    唯「どしたのたーくん」

    若「晴忠のむつきが重うなった。もしや」

    唯「げっ」

    ト「若君様、失礼致します」

    晴忠ちゃんのお尻の辺りを触るトヨさん。

    ト「そうですね。お見込みの通りでございます」

    唯「えー、このタイミングでぇ」

    出ちゃいましたか。

    ト「むつきを換えましょう」

    源「ならばお寝かせする敷物を」

    晴忠ちゃんがぐずり始めた。

    唯「いや、いい!このまま行く!」

    若君&源三郎&トヨ「ええっ」

    マジか!ほら、泣きそうだよ?

    唯「着くのは現代だし。向こうでなんとでもなるから」

    若「そうではあるが」

    唯「はい、みんなくっついて!行きまーす!」

    三人が呆気にとられる中、姉は半ば強引に3号を起動したのであった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道83~9月10日6時28分

    守役がお守りされる方に。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    実験室。戻ってきた僕の目の前に居たのは…

    瑠奈「たけるん!」

    僕「あー。ただいま」

    顔の前で手を組み、祈るように待っていてくれた瑠奈。

    瑠「お帰りなさい!」

    そう言うと、ぴょん!と僕に抱きついてきた。ちょ、ちょっと親の前でそれは…って、よく見ると瑠奈しか居ない。

    瑠「お二人は、朝の支度の続きをする、って戻られたんだよ」

    僕「そう?怪しいけど」

    瑠「今回、お香の匂いあまりしないね」

    僕「源三郎さん家に飛んだからかな。そこまで長居もしてないし。でさ、このまま抱きしめていたいのは山々なんだけど、この後皆が来る予定なんだよ。だから詳しい話はリビングでしたいから、行こうか」

    瑠「今日来るの決定なの?わぁ」

    実験室を出たのは6時30分だった。外からリビングの様子が見えるが、ほら、やっぱり。

    僕「ラジオ体操してるし」

    瑠「あ。ホントだ」

    僕「信頼されてるのかただ呑気なのか」

    家の中へ。

    覚「おー」

    美香子「お帰りー」

    僕「瑠奈一人放置して。朝のルーティンがしたかっただけじゃん」

    美「28分に実験室が光らなかったら、慌てて見に行ったわよ。どうだった?みんな元気だった?」

    僕「んー」

    覚「何だ、何かあったのか」

    僕「あのさ、話す事がたんまりあるんだよ。何にも支度してないんならほら、体操はいつでもできる、テレビ消す、時間ないから座って!」

    美「口調が唯に似てきたわね」

    体操をストップさせ、食卓に集合した。

    覚「そこまで急ぐのか」

    美「もうすぐ唯達、来るからなの?」

    僕「一つずつ簡潔に話すよ。まずは」

    元源ちゃん誕生とその後。一旦は三人とも歓喜の声をあげたが、話していくうちに、父はうなだれ、母は沈痛な表情、瑠奈は涙ぐんだ。

    僕「で、それもあって、今日この後6人で現れる予定」

    三人とも、手放しで喜べない複雑な心境と見てとれる。

    僕「満面の笑顔で迎えてよ?親子三人で行けるのが楽しみだって、兄さんも源三郎さんも言ってたんだから」

    覚「ん…。だな。素直に喜ばないとな」

    美「初めて孫も抱っこできるしね。よし!気持ち切り替えるわ」

    覚「それもあって、って言ったな」

    僕「うん。関連して、兄さんがお母さんに頼みがあるんだって。今回来るのは、久しぶりに直接会いたいのは勿論だけど、そっちをメインに考えてるみたいだよ」

    覚「へえ」

    美「何かしら」

    僕「晴忠ちゃんと里芳ちゃんを診察して欲しいって。二人ともスクスクと育ってるけど、重大な疾患とかないか、令和の医療を受けたいからぜひお願いしたいと」

    美「そうなの。元源ちゃんの事があったからよね。お安い御用よ」

    僕「慌ただしくても今日に決めたのは、来月だと日曜祝日に当たるのも大きかったみたい。クリニックが休みで令和の母達も居ないし」

    美「私は休みであろうが診てあげるけど、エリさん芳江さんには会いたいものね」

    僕「といった流れ。何時になった?45分か。今の内にササッと着替えてくるよ。永禄仕様の作務衣のままだと、お姉ちゃんに普段着か!って言われそうだし」

    覚「おいおい、尊」

    美「ねぇ、どうしてそんなに急ぐの?ぴったり6時59分に到着はしないでしょ。分単位がわかる時計がない時代から来るのに」

    僕「それが存外、今の時間だと割と正確にわかるらしいんだよ」

    覚「そんな事あるのか?」

    美「ははーん。唯が、時間が来るまで何度も起動スイッチを抜き差しするんだ?」

    僕「それ、僕も思ったし、お姉ちゃんならやりがちだけど違うんだな。じゃあ着替えてくる」

    瑠「行ってらっしゃい」

    覚「仕組みがわからんが、もう到着するなら、皆のために早めにコーヒー淹れるか」

    美「私もお化粧始めるわ」

    なぜ正確な時間がわかるのかは、永禄での作戦会議に遡ります。

    ┅┅回想┅┅

    若君「明朝、晴忠を伴い三人で此処に参る。良いな、唯」

    唯「はぁい」

    源三郎「なんと!いや、私共が参じます」

    トヨ「ご足労いただくなど、畏れ多く」

    唯「いいんだよ。だって、たーくんがそっちの方がいいと思ったんでしょ?」

    若「然り」

    源「左様で、ございますか」

    若「辰の初刻迄にはと考えておる」

    唯「たつのしょこく。早っ。まっ、そーなるよね」

    源「心得ました」

    ト「里芳共々身支度を済ませ、お待ち申し上げます」

    僕「辰の初刻って…」

    若「朝の7時、じゃな」

    僕「え!そこまで時間厳守じゃなくても。いいんですか?そんなに早くて」

    若「早朝ならば所用もない」

    僕「あ、そっか。朝っぱらから家臣が主君の屋敷に子連れで行くなんて、非常識だって源三郎さんを咎める人も出てきそうですけど、逆ならさすがに誰も文句言いませんものね」

    若「フフ。尊とは話が早う進む」

    唯「たーくんあれでしょ、6時半のヤツが居る内にトヨ達が来ちゃうとさ、説明すんのがめんどくさい。片づけてから家出ればちょうどいい時間になるし」

    若「片付けとは申さぬが」

    僕「へ?会話の中に現代語がスルッと入ってない?何その、6時半のヤツって」

    唯「じいが来やがるのよ」

    僕「言い方!」

    唯「毎日そんくらいの時間に。たーくんと体操がしたくてさぁ」

    僕「体操。もしやラジオ体操ですか」

    若「そうじゃ。未だ、令和でテレビを観ておった時間は身に付いておっての。その時分に庭へ出ると姿を見せるのじゃ。わしも、と」

    僕「なんかかわいい」

    唯「じじいは朝が早いから」

    僕「言い方!6時半を早いと思うのは永禄ではお姉ちゃんくらいでしょうが」

    若「じいの体力に合わせ、ゆるりと、第一、第二とやっておる」

    僕「二種類とも毎朝。しかも邪魔されてる感がありあり。時間かかりません?」

    唯「10分くらいだよね」

    若「終えてから支度し、徒にて参れば丁度良い時分になろう」

    僕「ちゃんと相手してからなんて。優しい」

    ┅┅回想終わり┅┅

    そろそろ源三郎さん達と合流したかな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    体操&じいは現代Days144no.1047にて。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道82~9月10日6時25分その4

    若君の存念や如何に。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    現れたのは姉夫婦のみで、晴忠ちゃんの姿はなかった。

    唯「さっき来た時は一緒だったんだけど、すやすや寝てるのを起こすのはかわいそーだったから、頼んできた」

    若君「取り急ぎ出て参ったゆえ。済まぬ、尊。会わせてやれず」

    僕「いいんですいいんです」

    唯「それでそれで?できたんだよね!おニューのタイムマシン!だから来たんでしょ?」

    僕「うん、3号完成した。じゃあ早速」

    資料資料、と手提げ袋をゴソゴソしていると、

    若「尊」

    僕「はい?」

    若「何ゆえ急くのじゃ。日を跨ぎ次第、急ぎ戻らねばならぬ用でもあるのか?」

    僕「なぜかは、話の中でわかりますから」

    すぐに説明をスタートした。大人四人を前に講義っぽく。学校の先生になった気分だ。黄経差180度が満月なんて話はわかりにくいと思ったから、あらかじめ図面まで作って持参したし。そして最後、

    僕「これが、望の瞬間と、その日は何時から何時まで行き来できるかの表です」

    若「ほう…」

    唯「るなちゃんにもらったのに似てる」

    僕「うん。前に渡した満月の表に書き足す形で作り直してくれた」

    唯「ひょえー。アンタ、人使い荒くね?」

    僕「3号完成は瑠奈との共同作業だったし」

    兄さんが、笑みを湛えて頷く。よっしゃ!

    僕「永禄では分まで刻める時計がないから、ここまで細かく書く必要はなかったけど、参考にはなるでしょ」

    若「この時間の内であれば使えると」

    僕「はい。もう動ける範囲に入ったな、と思ったら鞘から引き抜いてくれればいいです。そもそもその時間以外は作動しないプログラムにしてあるし」

    源三郎「いやはや」

    トヨ「言葉もございませぬ」

    若「尊、ようやった」

    僕「へへっ」

    時間の表をじっと見続けている兄さん。姉が話しかけてもピクリともしないので、皆で何だろうと固唾を呑んで待っていた。しばらくすると顔を上げ、

    若「尊。この後、おぬしが令和に戻るのはいつの時分になる?」

    僕「9月10日の朝6時28分、です」

    若「6時28分…ここに、明日の始まりの時刻が6時59分とある。動いても構わぬのか?間を空けずとも良いのか?」

    僕「動けます。大丈夫なんです」

    場がどよめく。

    僕「今日って、八月二十一日ですよね。明日二十二日が満月」

    若「うむ」

    僕「今回だと、八月二十二日の朝、例えば朝7時30分にこちらを出ると令和に着くのは9月10日の朝7時30分です。帰りは明日11日の朝6時59分までに令和を出てもらうんですが、朝6時に出たとしても、永禄に着くのは八月二十二日の朝7時33分、出発した時刻の3分後です」

    唯「そこは3分ルールのまんまなんだ」

    若「そうか。今日は土曜か…。日曜の朝まで居れるのじゃな」

    瑠奈の作った表には曜日も表示されている。何曜日に来るかわかった方がいいでしょ?と彼女は言っていた。瑠奈!グッジョブ!

    若「ふむ…。次の機は」

    僕「10月の望の時刻は10日月曜の朝5時55分なので、来れる範囲は9日日曜夕方5時55分から10日夕方5時55分までですね」

    若「日曜から月曜。ん?祝とあるな」

    僕「はい。10日は祝日なんです」

    唯「わかった!」

    僕「びっくりした、何だよ」

    唯「体育の日だ!」

    僕「惜しい」

    唯「惜しいってなによ。ちゃんと覚えてたでしょ?」

    僕「2年前から名称が、スポーツの日に変わったんだ」

    唯「そーなの?!知らんし」

    僕「知らなくて当たり前だから正解だよ」

    唯「へっへー」

    ト「あの」

    僕「はい、どうぞトヨさん」

    ト「その日ですと、休診日なのでエリさんと芳江にはお会いできないんですね」

    僕「そうなります」

    兄さんはまだ熟慮している様子だ。

    僕「人数なら、心配いりません。6人でも」

    若「うむ。尊よ」

    僕「はい」

    若「急いておったのは、尊の気遣いであったのじゃな。遅ければ遅い程、わしらが床についておる時間が少のうなるゆえ」

    僕「まぁ、そうですね」

    それ、この後令和に来ようと考えてます?

    若「お父さんお母さんは何と?」

    僕「すぐ来てもいいよう、準備はできてます。クリニックは普通に昼までありますから、母はそっちに行きますが。あと看護師さん達には、僕が今日永禄に飛ぶ話はしてあります」

    若「あいわかった」

    兄さんが居ずまいを正す。僕らもきちんと座り直した。

    若「明朝、出立いたす」

    唯「ははーっ」

    なんだよそのノリ。足軽に戻ってないか?源三郎さんと、里芳ちゃんを抱っこしたままのトヨさんは深く頭を下げていた。

    若「そこで尊」

    僕「はい!」

    若「お母さんに頼みたき儀があっての。おぬしの存念を聞かせてくれぬか」

    僕「何でしょう」

    兄さんが話す。僕は、大きく頷きながら聞いていた。

    若「いかがじゃ」

    僕「すごくいい考えで、母も快く引き受けると思いますよ。来るまでに言っておきますね」

    若「改めて、直々にお頼み申すと伝えてくれ」

    その後。どこで集まるかなど作戦会議が始まった。僕も参加。いつここを出ても、同じ6時28分に令和に到着するしね。

    僕「それでは。お待ちしてます」

    若「うむ。後程」

    唯「のちほどー」

    粗方決まったところで、僕は令和に帰っていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道81~9月10日6時25分その3

    心にも刻んだ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    目の前の箱を、恭しく、そっと開けさせてもらう。

    僕「あ、ジェンガのブロック」

    木片が一つ。何か書いてある。名前だな多分。

    トヨ「若君様が、お父さんと作られたとお聞きしました」

    僕「そうなんですよ。父は今でも、二人で木片を磨いたあの作業はいい思い出だ、って嬉しそうに言います」

    ト「尊様も手伝われたと」

    僕「はい。兄さんの、縁の人々の名前を入れたいって要望に応えました」

    じゃあ、この名は…

    ト「若君様が、嫡男もとよし、の名を入れてくださいました。どうぞお手に取って」

    僕「いいんですか」

    しげしげと見る。

    僕「あい変わらずの達筆だ」

    ト「令和では、このような書き方は致しませんからわかりづらいでしょうね」

    僕「もとよし。嫡男だから、二文字目は源三郎さんの源だな、うん。一文字目は偉い人とか主君からいただいてるはず。この字は何だろう。ひらがなの、え、にしか見えない。でも、もとと読む。そうか、元気の元か!…あ」

    トヨさんが笑っている。

    僕「失礼しました」

    ト「いえいえ」

    知識の引き出しを開けまくり、つい熱が入ってしまいベラベラとしゃべってしまった。

    ト「その文字で合うておりますよ」

    僕「当たりですか。いや!ごめんなさい!大切な息子さんの名前で遊んでるみたいで」

    ト「お気になさらず。やはり尊様は何でもお出来になる。名付けの流儀まで精通されて」

    僕「元、は誰の由縁なんですか」

    ト「千原元次様でございます」

    僕「なるほど」

    ト「お許しを得る事はもはや叶いませんが、有山様とも話をし、いただくに至ったと聞きました」

    僕「そうなんですね」

    ト「頂戴したいきさつをお話しします」

    僕「はい。お願いします」

    ト「元源が産まれてすぐ、この品に若君様が名を刻まれ、しばらく他のお品と共に仕舞われていたそうです」

    僕「兄さん、喜んで書いてただろうな。様子が目に浮かぶ」

    ト「天に召された後ですが、しばらくはお目通り叶いませんでした。若君様も唯様にも」

    僕「兄さんが忙しいのはわかります。でも姉ならすっ飛んできそうなのに。どうしてだろ」

    ト「赤井の屋敷に疫病が蔓延しているやもしれぬ、みだりに出かけてはなりませぬ、子を持つ母なのだから、と周りのお付きの者達が止めまして」

    僕「えっ。ホントに疫病だったんですか?」

    ト「違いますが、言葉を遮る程強くは申せません。私が今も唯様のお世話をしていたら、やはり同じように案じますので」

    僕「よく姉が黙ってましたよね」

    ト「そこは若君様が」

    僕「それでも来ちゃうのが姉ですけど」

    ト「ふふふ。唯様は、わしと共に参ろうって言うから待ってた、と」

    僕「兄さんの操り方が上手くなってる」

    ト「若君様は、夫には声をかけてくださっていました」

    僕「忙しくても、源三郎さんには会いますもんね」

    ト「その折に、産まれて間もない別れゆえ形見と言える物がなく、と呟くように口にしたらしいんですが」

    僕「あ、わかった。だからですね」

    ト「はい。生きた証じゃ、と私共に」

    僕「兄さんらしいなぁ」

    ト「今宵の来訪に合わせこのような美しい箱まで誂えていただき、若君様には感謝してもしきれません。大切にしたいと存じます」

    僕「良かったですね」

    ブロックを箱に戻し、蓋を閉める。そして、合掌した。

    僕「安らかにお眠りください、元源ちゃん」

    こんな事しかできなくてごめんね、と心で呟きながら、箱を棚に戻した。

    ト「元源ですが」

    僕「はい」

    ト「唯様は、げんげん、とお呼びでした」

    僕「はあ…いかにも姉が考えそうな」

    ト「ご自身のお子様にも、違う名を付けてお呼びになっていますよ」

    僕「え、晴忠ちゃんにまで!なんて?」

    ト「ぱるる、と」

    僕「ぶっ!ゴホッゴホッ、はあぁ?!」

    ト「可愛いでしょ、と仰せで」

    僕「ふざけてる」

    ト「どうやら、忠、が読みにくいようでして」

    僕「うーん。確かに、忠清様ぁ!なんて姉の口から聞いたコトないです」

    ト「私もです」

    二人して笑った。

    僕「あ、忘れてました。お土産です。いつものはさみ揚げ」

    まだ温かいタッパーを二つとも袋から出す。

    僕「えーっと、こっちのタッパーが赤井家用です」

    ト「違いがあるのですか?」

    僕「里芳ちゃんは生まれて初めてのはさみ揚げだろうから、小さく揚げた物も入れたって言ってました」

    ト「まぁ。その通りです。なんと細やかなお心遣いでしょう」

    その時、外から話し声が聞こえてきた。到着したな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ジェンガのくだりは、平成Days28no.456に。

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道80~9月10日6時25分その2

    欲は出て当然。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トヨさんと二人残された。どうしよう、僕から話を切り出すのもおかしいし…すると、どこからか子供の泣き声が聞こえてきた。

    トヨ「すみません尊様、少し失礼します」

    立ち上がり、声のする方へ向かったトヨさん。すぐに戻ってきたが、

    僕「あ、里芳ちゃん!」

    ママに手を引かれて登場した。二人目の無事を確認!

    僕「起きちゃったんですね」

    ト「一旦は寝付きましたが」

    僕「げ、もしかして…さっき屋敷が大きく揺れませんでしたか?」

    ト「揺れておりましたね」

    僕「わー、起きたのって僕のせいじゃないですか!ごめんね、里芳ちゃん」

    そのまま母子は部屋に入り、トヨさんは里芳ちゃんを抱っこして僕の前に座った。て事は?まさか!亡くなったのって…

    ト「先月。息子が産まれました。ですが」

    聞くのが怖い!

    ト「程なくして、天に召されました」

    やっぱりか…。新生児の死亡率がとても高かった時代なのはわかってても、こう目の当たりにすると、身近過ぎて辛いよ。

    ト「丈夫な体に産んでやれず」

    僕「…」

    何て声をかけてあげるのが正解なんだろう。でも絶対トヨさんのせいじゃない!と思い、首をぶんぶんと横に振った。そんな姿が滑稽だったのかな、微笑んでくれたトヨさん。そしてゆっくりと話し出す。

    ト「…泣き続けた夜もありましたが、今は気を持ち直しております。里芳も育て上げねばなりませぬし」

    僕「乗り越えたんですね。そんなところ、トヨさんらしいです」

    ト「そうお感じになられますか」

    僕「はい」

    ト「ありがとうございます。でしたら尚更、前を向いていかねば」

    ここまでの心境に至るのに、どのくらいの時間がかかったのかな。

    ト「此度の別れは、致し方なかったとは思うのです。でも命の火が消える寸前に、もし叶うならばと願ったのが」

    何だろ。

    ト「美香子お母さんに診察していただきたかった。令和の優れた医療を受けさせてやりたかった、と」

    僕「そっか…」

    戦国時代でしか暮らしていなければ、悲しみに暮れながらもこれも運命と受け止めるんだろう。後の世の進んだ医療体制を知った以上、令和なら助かる命だったかもしれないと思うと、悔やまれるよな。でもこれって僕が…

    僕「ごめんなさい」

    ト「何を仰います。尊様が謝るなど筋違い」

    僕「今日訪れたのは、念願の新しいタイムマシンが完成したからなんです。もっと早く持って来ていれば」

    黙って首を振るトヨさん。

    ト「先程、夫婦で飛び起きました。揺れに驚いたのではありません。すぐに、尊様!何と早いお出まし!と」

    僕「…」

    ト「尊様は義理堅いお方。次にお越しになる折には、必ず若君様に約束された品を携えておられる筈。ですので今宵お目にかかれる、もう出来上がったのか!と、あまりの早さに度肝を抜かれました。決して遅くなどございません」

    僕「ホントですか」

    ト「はい。ですので、我が家にお越しなら若君様唯様をお通ししたこの部屋に違いないと、直ちに夫が参りました次第です」

    僕「曲者と疑わず、僕の到着一択だったんだ。だからか、刀を構えていなかった」

    ト「ふふ、仰せの通りです。尊様」

    僕「はい?」

    ト「学業やお勤めもされる中、日々ご苦労なさり完成にこぎつけたと存じます。心よりお祝い申し上げます」

    僕「ありがとうございます」

    ト「若君様唯様が来られましたら、詳しくお聞かせください」

    僕「わかりました。あの」

    ト「はい」

    僕「さっきの話ですけど、僕は…どう弔えばいいですか」

    おずおずと尋ねた僕。トヨさんの表情は、とても穏やかだった。

    ト「墓にお連れできると良いのですが、難しかろうと思います」

    そして、ようやく眠った里芳ちゃんを抱えながら立ち上がろうとしているので、

    僕「待ってください、起きちゃいますって。僕にできる事なら代わりにやりますから」

    ト「お気遣い、痛み入ります。ならば、その上の棚を開けてくださいますか」

    僕「棚。左のですか?」

    ト「はい。漆塗りの箱がございますので、そのまま出してください」

    僕「了解です」

    棚の引き戸を開ける。片手に乗るくらいの小さめな、蓋付のツヤツヤと美しい箱が鎮座していた。取り出してトヨさんの前に差し出す。

    ト「先程、若君様から頂戴したばかりでございまして」

    僕「へぇ。綺麗な箱ですね」

    ト「開けてみてください」

    僕「触っちゃっていいんですか?」

    ト「ええ。中に入っているお品は、尊様もよくご存じですよ」

    僕「ご存じ?」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道79~9月10日6時25分

    慣れが出始める頃。高を括ってはなりませぬ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    永禄に無事到着した僕。いや、無事なのか?

    僕「暗っ」

    人の気配がない部屋。襖がキッチリ閉まっており外の様子が全くわからない。そこそこの広さはあるみたいだけど…

    僕「想定外だ。どうしよう」

    てっきりお姉ちゃんか兄さんの居場所に飛ぶと思っていた。万が一に備えて懐中電灯は持ってきたんだけど、焦りもあり、手提げ袋の中でタッパーに引っ掛かってなかなか出せない。モタモタしていると、

    僕「うっ」

    外に人の気配を感じた。そして、迫ってくる。え、ここもしかして他人の屋敷だったりする?かなりヤバい状況?プログラムの処理、ミスった?!

    僕「!」

    襖の前で人が止まったようだ。マズい、だけど緊張で体が硬直してしまい動けない!うわ、襖が開く!ひゃー!神様仏様!

    男「御免」

    ば、万事休す!!!

    源三郎「おぉ、やはり」

    僕「え?あっ!は、はあぁぁぁ」

    源「尊殿でございましたか」

    僕「源三郎さぁん!」

    ロウソクを手に立つ源三郎さん。ううう、良かった、助かったー!

    源「ここまで暗くては心細うもなります。しばしお待ちを」

    なんとも腑抜けな声をあげてしまった僕を優しくフォローしてくれた。燭台に火が移され、周りが照らされていく。同時に、心も照らされるような。点け終わると、源三郎さんは僕の前に腰を下ろした。

    源「よくぞおいでくださいました」

    僕「こんばんは…あの、ココって」

    源「赤井の屋敷にございます」

    僕「あ、あー」

    源「尊殿の驚き様ですと、こちらに降り立つおつもりではなかった?」

    僕「機械が最良な場所を自動的に探すプログラムにしたんです。だからどこに着くかわからなくて。あ、プログラムは」

    源「わかります。仕組みですね」

    僕「さすが源三郎さん。何でも意欲的に勉強してたから」

    源「いやいや。さすが、は尊殿こそでございます。造られたタイムマシンまで、細やかな配慮がお出来になる」

    僕「それは褒め過ぎですよ。だったら、ここに飛んできたのはどうしてって話で」

    源「わたくしには頷けますが」

    僕「えー。何ゆえに、ですか?」

    源「先程まで、こちらに若君様と奥方様がおいででした」

    僕「うっそ、マジっすか!」

    源「マジ、でございます」

    僕「あ」

    源「フフ、まこと尊殿は、奥方様とよう似ていらっしゃる」

    僕「なんかすいません。用事があって来てたんですか?」

    源「そう、ですね。前々から気にしていただいておったのですが、若君様もお忙しく、本日ようやくといったところでした」

    僕「へえ」

    源「それで。尊殿」

    僕「はい?」

    源「若君様が、明日は満月じゃ、尊が参るやもしれぬと仰せになり、間に合うようお二方は帰られまして」

    僕「うわ、そうなんですね」

    源「こちらにお越しになったと、急ぎ伝えて参ります」

    僕「ごめんなさい、御月の屋敷に最初から飛べば済んだのに」

    源「いえ」

    体勢を改め、跪く形になった源三郎さん。何事でしょう?!

    源「頷けると申しましたが」

    僕「はい」

    源「あえて我が屋敷を選んでいただいたのだ、タイムマシンには血が通っておるのだと、感服するばかりです」

    僕「なぜそう思うんですか?」

    源「此度、尊殿に弔っていただけるなど、至極光栄に存じ」

    弔、う?

    僕「お墓参りですか」

    源「…いえ」

    僕「だったら、誰か、亡くなったんですか。最近」

    源「…」

    えっ?そういえば、トヨさんにも里芳ちゃんにもまだ会えてない!源三郎さんの沈黙が怖くて頭の中がパニクっていると、再び襖が開いた。

    トヨ「尊様。こんばんは」

    僕「こん、ばんは」

    まず一人、無事を確認!

    ト「こちらにお越しいただけるなんて。嬉しい限りでございます。源ちゃん、早くお伝えにあがらないと」

    源「そ、そうだな」

    ト「尊様には私からお話しするわ」

    源「良いのか?」

    ト「ええ。行って」

    源「…わかった」

    僕「…」

    一礼し、源三郎さんは部屋を出ていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道78~9月10日土曜6時

    乗り物が違うだけで見送りには違いない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日は満月。早朝から忙しくしている。僕は永禄に飛ぶべく実験室で最終確認中。父は土産のはさみ揚げを準備。母が駅まで瑠奈を迎えに行った…なぜこんなに慌ただしいのか?説明の代わりに、前回の続きをお送りします。

    ┅┅回想。8月12日の夜。母の仕事終わりを待って、再び4人で会議スタート┅┅

    僕「瑠奈と考えてたんだけどさ、やっぱり来月に3号を届けようと思う」

    覚「わかった」

    美香子「うん」

    僕「ネックがちょっとだけあって。来月行くとなると、僕が出発する時間、相当早くしないといけないんだ」

    覚「ほう。来月の満月は?10日か」

    美「ちなみにその日だと、向こうに着くのはいつになるの?」

    僕「永禄七年八月二十一日の23時。二十二日が満月だから」

    美「もう永禄も七年まで来たのね。10日の望は?」

    瑠奈「18時59分です」

    美「だと…3号で動けるのは、当日の6時59分から11日の6時59分。合ってる?」

    僕「ご名答。永禄側からすると、二十一日の子の初刻、23時に僕がやって来て、二十二日の多分深夜の内には帰っていく。同じ日の6時59分から3号で現代に来れるんだ。だからさ、じゃあすぐにでも現代に来たいなんて話になる可能性なくない?」

    美「そんなに急いで来るかしら?」

    覚「どうだろうな~。向こうの細かい状況はわからんだろ。忠清くんがどう決断するかにかかるんじゃないか」

    美「でも、一日だけなら割と気楽だから、赤ちゃんを連れて来てくれるかもしれないわね!人数的にはどうなの?」

    僕「10人くらいまでは大丈夫。抱っこしてきてくれれば、今までと同じでもっと燃料もエコにできる」

    覚「会える人数が多いのは嬉しいな」

    僕「そうなると、僕がこちらを出発するのが6時55分より前である必要があるんだ」

    覚「ネオ1号、こちらは満月の日の何時に出発してもいいが、戻ってくるのは出発時間の3分後だったな。戻るのが6時58分でギリギリだからか」

    美「え?その24時間内に動けるってだけで、例えば二十二日の朝10時に唯達が出発してもいいのよね?」

    僕「そうだけどね。でも来るなら、早い時間からな気はする。永禄の皆さんはみんな朝に強いから。お姉ちゃん以外」

    美「言えるわね」

    僕「あと、再来月にしないのは、時間がちょっと勿体ないからなんだ。10月の満月は10日で、望は5時55分。3号の動ける範囲は9日の17時55分から10日の17時55分だから、僕が9日23時に飛ぶとさ」

    覚「残り時間のカウントダウン真っ最中だからか。確かに、すぐこちらに来たいという気持ちがあっても少し勿体ないな」

    美「それで?総合的に言うと?」

    僕「9月10日決行。出発は遅くとも6時半くらいにはと」

    覚「もっと早くてもいいんじゃないのか」

    美「えぇ?起きられないからとかなの?」

    僕「違うよ。これには理由があって」

    瑠奈がそっと手を挙げた。

    美「はい?瑠奈ちゃんどうぞ」

    瑠「あの、私も尊くんを見送りたくて」

    覚&美香子「あー」

    瑠「10日は土曜日なので、両親には、空港に友達を見送りに行くなんて理由にしておいて、黒羽駅まで来ようと思ったんです」

    僕「当日は、家まで迎えに行くほど僕も余裕はないから」

    瑠「始発が朝5時台にあるのでそれに乗って、駅から歩いてこちらには6時10分くらいには着けると思います」

    美「だったら前日に泊まる?ウチに」

    僕「そこまでしなくていいって僕が言ったんだよ。時間的に朝でも大丈夫だろうから」

    覚「そうか。二人で話がついてるなら。じゃあ黒羽駅までは迎えに行こう」

    美「私が行く。そんな時間なら開院準備に支障ないし。だってお父さんはほら、いつものアレ作らないと」

    覚「あ、はさみ揚げが。そうだな、アツアツを持たせたいしな」

    僕「決まりだね」

    ┅┅回想終わり┅┅

    瑠「おじさま、おはようございます」

    覚「おー、瑠奈ちゃんおはよう。尊は実験室だが一旦は戻ってくるからさ、ここで待っててくれな」

    瑠「お手伝いします」

    覚「いいよいいよ。あとタッパーに詰めるだけだから」

    6時20分になった。4人で実験室に移動。いよいよだ。

    僕「手提げ袋で持っていける量で良かった」

    覚「はさみ揚げのタッパー2つだけだからな」

    僕「まぁ、早ければ今日中にここに皆さん現れるしね」

    美「曲者じゃ!ってならないのを祈るわ」

    僕「それだけどさ、プログラムに学習させて、安全で最良の場所に飛ぶようにしておいた」

    覚「そりゃ心強い」

    美「もしかして、AI搭載しちゃった?」

    僕「そんなモンだね。お父さん自分で言ってたじゃない」

    覚「へ?」

    僕「僕覚えてるよ」

    覚「何言った?いつの話だ?」

    僕「大丈夫だ!未来の尊を信じろ。唯を一番安全な場所へ送ってくれるはずだ!って」

    覚「それは…未来の尊、否、今の尊が2号を平成30年に送ってくれた時か」

    僕「今までいつどの場所で1号が作動したか、おもナビくんもどこで電源が入ったかを全て入力したよ」

    美「だから唯が初めて2号を使った時も、山の中ではあったけど、夜営している皆さんの前に降り立つ事ができたのね。感心するわ~」

    瑠「たけるん」

    僕「ん?」

    瑠「ご武運を、祈ります」

    僕「はは、ありがとう。では行ってきます」

    6時25分。出発しました。僕が消えた後。

    瑠「…」

    美「瑠奈ちゃん」

    瑠「…あ、ごめんなさい、はい」

    美「いつも尊をあぁやって呼んでるのね」

    瑠「え?…あっ!やだ、恥ずかしい」

    美「私達よりも心配してくれて。気が気じゃないからつい出たのよね。可愛い」

    覚「いい関係性だ、ってよくわかったよ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、永禄で何が起こった?!

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    続現代Days尊の進む道77~8月12日金曜

    若君の予言は、現代Days130no.1027にて。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    その瞬間がやって来た。

    瑠奈「こっちのパソコンも、画面切り替わったよ。確認お願い」

    僕「了解」

    ここは実験室。3号の作業、地道にコツコツと進めた結果、ようやくゴールが見えてきたんだ。そして今日は満月。一気に終わりそうな予感がしたので、瑠奈とも相談し、デート返上で朝から一緒に作業をしてもらっている。

    僕「ふう。よし」

    瑠「完了な感じ?」

    僕「うん。できた。できたよ3号」

    瑠「ホントに?やったぁ、おめでとう!」

    以前兄さんに、新型タイムマシンを完成させた僕の傍らには瑠奈が居る、と言われた。まさかそんな夢みたいな話と思ってたけど…つーか、やっぱ兄さん、先見の明がある。すげぇや。

    僕「10時38分か…」

    瑠「あれ、もしかして今日の望の時刻って」

    僕「10時36分」

    瑠「そうなの!やっぱり関連してるんだね」

    僕「月の女神様のお陰だよ」

    瑠「え~?」

    すぐに父に伝えたが、詳しくは母の昼休憩時に話す事にした。そして。昼ごはん後、食卓に4人。

    美香子「1号と2号を足して2で割ったようなデザインね」

    3号起動スイッチ。柄の色は紫。黄色のニコちゃんマーク、今回はウインクしてます。

    僕「まず、満月とは何かを説明します」

    美「そこからスタート?」

    覚「まあ聞こうか」

    僕「月と太陽の黄経差が180度の時に、地球から見える月」

    覚「コウケイ。初めて聞いたな」

    僕「もっと簡単に言うと、地球を挟んで、月と太陽が真逆の方向にある時。月、地球、太陽と並ぶ感じ」

    美「一列に並ぶのね」

    僕「おおよそ一列ね。地球だけちょっとズレてるから。それは後で説明する。で、月って太陽に照らされて輝くじゃない。自身では発光しない天体だから」

    美「うん」

    僕「180度の位置、つまり真正面から光が当たると、全体が輝く。それを地球から見るから真ん丸の月、満月」

    覚「うむ」

    僕「逆に、太陽、月、地球と並ぶと黄経差0度なんだけど、太陽に照らされてるのは月の裏側で、地球に向いている側は暗いから見えない。よって新月となる」

    美「わかった、90度の位置にある時は、半分しか照らさないから半月なのね」

    僕「そう。で、さっきの話、ピタッと一列には滅多に並ばない。月の公転軌道は地球の公転軌道に対して5度位傾いてるから。だってさ、毎回重なるように並んだら」

    覚「そうか、太陽が照らす地球の影に月が隠れるから、月食が起こるんだな」

    僕「正解。そもそも満月の状態にならない」

    美「たまには重なる時があるから、月食や日食が起こるのね」

    僕「そういうコト。で3号なんだけど」

    覚「ようやく本題か」

    僕「一日で行き帰り可能にするため、今までのとはちょっと動かし方を変えたんだよ」

    覚&美香子「へー」

    僕「太陽ってすごくデカい天体。直径は月の400倍」

    美「そんなに大きいの!」

    僕「でも、地球と月との距離を1とすると、地球と太陽の距離は400だから、ほぼ同じ大きさに見えてるんだ」

    覚「同じ400」

    僕「偶然だけどね。そんなデカい天体だから、タイムマシンの作動に少なからず影響してるかもしれないとふと考えたんだ。そこで、一番影響しないであろう瞬間、イコール一番太陽から遠ざかっている瞬間はいつかと言うと、179度でも181度でもなく180度の距離の瞬間じゃない。それは月が一番丸く見える瞬間でもあって。用語としては望って言うんだ」

    覚「ボウ?それも初めて聞いたな」

    僕「希望の望って書くんだよ」

    美「わかったわ!そう、そうなの~。だから満月を望月って言ったりするのね」

    覚「なるほど。今日は色々勉強になるな」

    僕「1号も2号も満月の日の0時00分から23時59分に動く設定だった。と言いつつ、実際には日が跨いでも満月が空に確認できる時間帯なら動けたけど。ネオ1号も基準の時間は一緒。3号はより安全に動かすため、望の瞬間を中心に前後12時間で動くようにした。望が正午ぴったりにならない限り、必ず日を跨ぐ」

    覚「ほー」

    僕「例えば今日だと、望は10時36分。昨日の22時36分から今日の22時36分までが動かせる時間。その時間内に行って戻れる」

    美「瑠奈ちゃん」

    瑠「はい?」

    美「どう?こんな彼氏」

    僕「いきなり何…」

    瑠「素敵過ぎます」

    覚「だな。ウルウルの目で尊を見てるもんな」

    僕「恥ずかしいよ」

    瑠「少しでもお手伝いしようと、この先の望の時刻を表にしてました。3号を運ぶ時に、永禄の皆さんに渡してもらおうと思ってます」

    覚「て事は、今回は尊一人で行くつもりか」

    僕「うん」

    美「いつ?まさか、今日?」

    僕「そこまでは。微調整もしたいし。早くて来月かな」

    覚「そうか」

    瑠奈が僕の顔を覗きこむ。

    瑠「ねぇ、あの話はしない?ネオ1号とかの」

    僕「あー。話しとこうか」

    美「何?」

    僕「ある意味、こっちの方が重大発表かもしれない」

    覚「何だ何だ?」

    僕「3号を造るべく、パソコンにいろんなアプローチをしたからかな。なんと」

    覚&美「なんと?」

    僕「ネオ1号も、2号も、もう造れると判明したんだ。燃料さえ貯まればだけど」

    美「え!じゃあ未来の尊って」

    僕「平成30年11月23日に2号を送ったのも、令和元年12月7日にネオ1号を送ったのも、今のこの僕」

    覚「おほー。すごい進化だな…」

    美「何十年も後の尊じゃなかったのね。でも機能は?望の時刻しばりとかはしない?」

    僕「しない。その時点でのニーズに応えた物にする」

    覚「もっと進化したタイムマシンを造れてるけど、送るのはこのレベルです、って?」

    僕「意地悪してるんじゃないよ。そこで機能を変えたら、未来がまた変わるでしょ」

    美「なるほどねー」

    覚「それさえも余裕な発言だな」

    瑠「カッコいい」

    僕「照れるって」

    浮かれてばかりもいられない。もうひと頑張りするぞ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、永禄へお届け物です。

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    続現代Days尊の進む道76~7月14日木曜

    ドラマには出てきませんので、子の幼名、なしで進めます。ご容赦ください。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ここは永禄。勢揃いして、令和と繋がる時間を待っている。

    トヨ「この籠、良いですね」

    唯「でしょでしょでしょー!」

    ト「誂えなさったのですか」

    唯「あつらえ、ってなに」

    ト「どなたかにお願いして作らせましたか?」

    唯「うん。千吉さんに」

    ト「そうでしたか。仕上げも美しくて丁寧」

    唯「最初頼んだ時はヘンな顔されてー。こうやって使うモノなんだけどって説明したら、なんとありがたきお役目を!って大喜びしちゃってさー、張り切って作ってくれたの。悪丸や伊四郞も手伝ってくれたみたい」

    ト「ふふ。微笑ましいですね」

    唯「次貸してあげる」

    ト「宜しいのですか?」

    唯「もっちろん」

    若君「ほれ、そろそろじゃ」

    今回も無事にスタート。

    美香子『元気~?』

    若「はい。変わらず平穏に暮らしております」

    唯「あ、るなちゃんも居る」

    瑠奈『こんばんは』

    覚『おほー、里芳ちゃん、大きくなったなー』

    源三郎パパの横に立って袖につかまり、こちらを不思議そうに見ている里芳ちゃん。

    源三郎「お陰様でこのように」

    美『じっとしていられるなんて、お利口さんねー。さすが源三郎くんとトヨちゃんの娘』

    覚『そうかそうか。ところ、で?』

    美『で?』

    唯「わかってますって」

    立ち上がった姉がおもナビくんに近づく。手に取ったらしく、画面がグラリと動いた。

    僕「うわ、酔う」

    目の前にあった籠にカメラが迫る。中には…

    唯「ジャジャーン!」

    覚『おー!』

    美『まあ!』

    唯「予定どおり、3月に産まれましたー」

    すやすやと眠る赤ちゃんが!可愛い!

    若「嫡男、晴忠にございます」

    唯「天気の晴れに、たーくんの忠だよ」

    覚『そうかそうか』

    僕の妄想家系図でも長男は晴忠なんだけど、さすがに御月家の嫡男の名は資料が残ってるからわかるので、そこまで驚きはない訳で。

    美『あ!忠清くん、いい、いいから!』

    兄さんが赤ちゃんを抱き上げようとしていたのを、母が止めた。

    若「顔がよう見えぬのでは。先程までは起きておったのですが」

    美『寝顔も可愛いわよ』

    覚『これで充分だから、そのままにしといてやりな』

    若「忝のう存じます」

    美『クーハンに寝かせてるのね』

    唯「くーはん。そうそう!それ!全然名前思い出せなくって!誰も教えてくんないし」

    僕『そりゃそうだろ』

    美『もう四か月くらいよね。クーハンはそろそろ卒業かな。次はトヨちゃんが使うのよね?』

    唯「え、さっきの話聞いてた?うん、使ってもらうー」

    美『ちゃんと貸す約束してるならいいけど。トヨちゃん』

    ト「はい」

    美『予定はいつ頃?』

    アップで映ったトヨさん。お腹が大きくなっていた。わぁ、おめでた!

    ト「来月には産まれます」

    美『そう~。楽しみね。あら大変、時間が』

    覚『あと5秒だぞ』

    唯「うっそぉ!みんなで映れない?寄って寄って!はい、ピース!」

    スマホの自撮りじゃないんだから…最後、画面の半分は姉の顔状態で通話は終了した。母親になってもバタバタさ加減は変わらずと。さて、その後の様子、まずは令和から。

    美「美男子だったわね~」

    覚「性格も、忠清くんのDNAが優位だといいがな」

    僕「親がそれ言うか」

    瑠「トヨさんが臨月で、晴忠ちゃんをクーハンで運んだんでしょ。今日は赤井家のお屋敷からの中継だったんじゃないかな」

    僕「あ。かもしれないね」

    ビデオを再生。

    美「確かに、お部屋のしつらいとかがやや質素な感じ」

    覚「ん?今何かチラッと後ろに見えたぞ。ちょっと巻き戻してくれ」

    僕「巻き戻しとは言わないんだけど。早戻し」

    覚「まあそう言うな。ほら!今!」

    美「あー、連鶴!」

    瑠「折鶴ですか?」

    僕「エリさんと芳江さんの合作なんだ。全部で5羽永禄に持ち帰ったのはお姉ちゃんの発案なんだけど、他の鶴が近くに飾ってない事を考えると、この2羽だけ赤井家にあってもおかしくない。令和の母二人だから」

    瑠「大切に飾られてるんだ」

    僕「それは間違いないね」

    美「尊、どんどん遅くなっちゃうから」

    僕「だね。じゃあそろそろ瑠奈を送ってくる。行こうか」

    瑠「うん」

    次に、永禄の様子を。

    源「奥方様。輿の支度が整いました」

    唯「ありがと」

    若「うむ。では帰ると致す」

    ト「申し訳ありません。本来はわたくし共が伺うべきところ」

    唯「いいってコトよ~。ごめんねー、りほうちゃん、帰るねぇ」

    里芳ちゃんは、じっとクーハンの中を興味深く覗いていた。源三郎さんが抱き上げると、イヤイヤとグズり始めてしまったのだが、

    若「済まぬのう。里芳」

    兄さんがあやすとすぐに泣き止んだ。すげぇ、ちっちゃい子も、この人の言う事は聞かなくちゃって感じるのかな。そして姉と晴忠ちゃんは輿に、兄さんは疾風に乗り、帰っていった。

    源「具合はどうだ?」

    ト「うん。今は楽。大丈夫」

    夜は静かに更けていった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、とうとう3号が。

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    続現代Days尊の進む道75~3月21日10時30分

    空に手を伸ばすが如く佇んでいます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    階段を上がりきると、そこには高さのある木がほとんどなく、とても開けていました。

    瑠奈「あとちょっと」

    道の先には頂上。石垣が組んでありその上にお墓が建っているので高さがあり、しかも塔みたいな造りです。下からチラッと見えてたのは、塔からスッと伸びた、相輪と呼ばれる部分でした。先程のお父様のお墓とは打って変わって、シュッとしてるというか。

    瑠「背の高いお兄さんとイメージが重なる」

    没後も領地を見渡せるよう、この場所が選ばれたのかな。現代に何度か訪れているから、もしかしたら墓の造りなど、存命中に家臣に指示されていたかもしれません。

    瑠「不思議な感覚」

    知っている人、会って話したことのある人のお墓という点では、史跡探訪よりお墓参りに近い気はします。でも半年毎に現代と繋がるからそれもなんか違って、今を生きている人のお墓がここに?って思っちゃうんですよね。

    瑠「お掃除されてる」

    女性が一人、竹箒で周りを掃いていました。

    瑠「入ってもいいかな」

    歩いていくと、その方は私に気付き、顔を上げたんですが…

    瑠「!」

    えっ、えっ?!

    女性「お越しいただきありがとうございます」

    その女性は、親よりも年上に見えたので60代位でしょうか。サラサラのグレイヘアーが素敵な方なんですが、

    女「どうかなさいました?」

    おばさまに、瓜二つだったんです!!こんなに似てる人、居る?!

    瑠「あ…ごめんなさい、友達のお母さんによく似ていたのでびっくりして」

    女「あら、そうなんですか。自分に似ている人は三人居るっていいますものね。学生さんかしら?」

    瑠「はい」

    女「そう。こんなにお若い方に来ていただけるなんて、ご先祖様も喜んでいますよ」

    先祖…?

    瑠「あの、御月家末裔の方でいらっしゃるんですか?」

    女「えぇ。結婚して出てるので、御月は名乗っていないんですけれど」

    えーっ!てコトはつまり、唯さんの子孫、だからおばさまの子孫。だから似てるの?!

    女「今日は春分の日で、お彼岸の中日でしょ。実家と婚家の墓はもうお掃除済ませたので、ならご先祖のお墓をと思って来てみたの」

    瑠「そうなんですか」

    女「このお墓、すっくと立って素敵でしょう。気に入ってるんです。十三重塔って様式なんですよ」

    じゅうさんじゅうのとう。後で調べてみよう。

    女「お父上の墓はもう行かれました?」

    瑠「はい、さっき」

    女「どうぞゆっくりご覧になってくださいね」

    瑠「ありがとうございます」

    その女性はニコッと微笑むと、また別の場所を掃き始めました。はぁ。妙に緊張しちゃった。気を取り直して。ここにも案内板があったので読もうと近づくと、カバンの中のスマホがブルッと震えました。たけるんからだ。

    尊の投稿『11時には出ます』

    あと15分かぁ。ちょっと急ごう。えーっと。

    瑠「御月忠清。生年、あっ」

    思わず、案内板の一部を手で隠してしまいました。没年が書いてあったんです。さすがに見たくなくて。調べればすぐわかるとは言え、知らずに済むならその方がいいじゃないですか。隠したまま読み進めます。すると、最後に…

    瑠「最愛の妻も共に眠る」

    複雑な気持ちにはなります。でも嬉しさが勝るかな。文面には戦で命を落としたとは書いてないので、きっと、お二人共長生きされたんでしょう。さてと、戻らなきゃ。先程の女性はどこかな…あ、見っけ。

    瑠「帰ります。ありがとうございました」

    女「お気を付けて」

    今日の史跡探訪、たけるんには内緒にしておきます。見たい知りたいと思えた時に、私からの伝聞でなく自分の目で確かめて欲しいので。女性に会ったのは偶然の産物ですけどね。

    瑠「お疲れ様ぁ」

    語り部、たけるんに戻ります。

    僕「色々回ったの?」

    瑠「プラプラお散歩してただけー」

    尊です。瑠奈は多くを語らず。僕に遠慮してるんだろな。気遣ってくれた気持ちを汲んで、それ以上は聞きませんでした。その後はデートを楽しみ…夕方帰宅すると、もう両親の姿あり。

    僕「ただいま、つーかお帰り」

    美香子「ただいま~。どうだった?」

    僕「どうって何が」

    美「またまた~」

    僕「何だよ」

    口を割ろうとしてるな?

    覚「おー、どうだった?」

    僕「また同じ質問」

    覚「ピザトースト、気に入ってたか?」

    僕「気に…」

    危ねっ。

    僕「美味しかったよ」

    覚「そうか、また振る舞わないとな」

    僕「何にも言ってないでしょうが」

    超ハッピーな二日間でした。言わないけど。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回、通話三回目です。永禄はどうなっているでしょう。

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    続現代Days尊の進む道74~3月20日21時から21日月曜10時

    今回、語り部が途中で交代します。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    店主「また来な」

    おかみ「ありがとね~。気を付けて帰って」

    いい感じの酔い具合で満腹。店を後にし、歩き出した。

    瑠奈「すっごく美味しかったぁ。また一緒に来ようね」

    僕「うん」

    明日はもう春分の日とは言え、夜はまだまだ冷える。の、はずなんだけど。

    瑠「暑ーい」

    僕「暑い?」

    瑠「コート着れない、脱ぐ」

    僕「そんなに?!」

    黒羽城公園まで戻って来た。前を行く瑠奈は夜風で涼んでいる。代謝がいいんだな。あー、こんな時例えばさ、瑠奈が寒いなんて呟いたら、そっと肩を抱く…なーんて出来るんだけど。今なら誰も見てないし。

    瑠「たけるん、寒い?」

    僕「あ?あー、ちょっとだけ」

    瑠「あっためてあげる!」

    僕「へ?」

    駆け寄る瑠奈。正面から、ギューっと抱きついてきた!

    瑠「誰も見てないしぃ」

    僕「はは」

    今夜の月は低い位置で輝いている。さっきまで建物の陰だったが、公園まで来て空が広くなりようやく顔を出した様子は、見てますよ、と覗かれているみたいだ。

    瑠「夜はこれから」

    僕「これからなんだ」

    瑠「違うの?」

    僕「違わない」

    今頃尊と瑠奈ちゃんは、なんて、両親に想像されてるであろう後ろめたさも多少はある。でもいい。それに勝る、甘々なひとときにどっぷりと浸からせてもらう。…そして。濃くて長ーい夜を過ごし、少しの睡眠で目覚めた翌朝。

    瑠「トースターに二枚並ぶね。二人同時に食べ始められるよう、わざわざ小さめの食パン用意されたんじゃない?」

    僕「そこまで計画的だったか…」

    今後ピザトーストを食べる度、色々思い出してニヤニヤしてしまいそう。

    瑠「美味しーい」

    僕「うん」

    柔らかな光が差し込む食卓。揃いのパジャマ姿でいただく朝ごはん。

    僕「こういう朝、いいな」

    瑠「…」

    あれ、黙っちゃった。同意が得られない?マズいコト言った?

    瑠「それ、プロポーズだったりする?」

    僕「え!」

    そ、そんなつもりは!いや、そのつもりはあります、いずれは!うーわ、不意討ち過ぎて!

    瑠「まだだったかぁ」

    僕「あ、あの…言う時は、ちゃんとはっきり言いますので」

    瑠「ふふっ、うん。待ってるね」

    ここで、そうだよと言える程の度量は僕にはありません。焦った…。さて。用事は早めに済ませようと、食後すぐに家を出た。

    僕「ホントにいいの?木村先生に色々頼まれちゃったりして、すぐには出てこれないかもしれないよ?」

    瑠「うん」

    車を走らせ、会館に向かっている。

    瑠「ゆっくりで大丈夫だよ。この辺り、史跡が多いみたいだから散策してるね」

    そう。御月家ゆかりの地なので、会館の周りには、お墓とかが点在している…らしい。

    瑠「たけるんは、見に行ったコトないんだよね?」

    僕「うん」

    屋敷跡なんかはともかく、兄さんやお姉ちゃんの実際のお墓を目の当たりにするのはやっぱり精神的にキツいので、未だにどの史跡も訪れていない。

    瑠「私が行くのは構わない?」

    僕「構わないよ。時間潰してもらわないといけないし。出られるメドついたらLINEするね」

    会館の前で車を降りた瑠奈。そのまま目的地へ歩き出した。

    瑠「この先にあるのが御月忠髙の墓。唯さんの義理のお父さん、お兄さんのお父さん」

    すみません、ここからは語り部を瑠奈にチェンジします。

    瑠「ふうん」

    瑠奈です。その墓は会館から目と鼻の先にありました。重厚な趣の、ゴツいーって感じのお墓です。案内板があったので一読しました。

    瑠「ここにも、御月晴永の姪孫とは書いてないなぁ。実子の扱いで通したんだ」

    次に向かったのは。

    瑠「御月忠清。お兄さんのお墓…」

    ネットでこの地域の史跡を検索すると、ちゃんと出てくるんです。たけるんはそれさえ見てないみたい。でもその気持ちはわかるので、さっきもどこに行くとかあえて伝えませんでした。

    瑠「ここかな」

    数分程歩くと、小高い丘が現れました。

    瑠「上にあるみたい」

    緩やかな階段を上ります。少しずつ形が見えてきました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

    語り部は、瑠奈のままで始まります。

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    続現代Days尊の進む道73~3月20日19時

    約束、は現代Days126no.1023にて。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    とっぷりと日も暮れた。歩いて居酒屋に向かっている。

    瑠奈「おじさまは、お酒は好きだけどちょっと弱め。逆におばさまは嗜む程度だけどかなり強いよね。自分はどっち似だと思う?」

    僕「んー。ちょうど中和されて平均値なんじゃないかな。嫌だよ?瑠奈は強い方だからさ、飲み比べなんかしないからね?」

    店に到着。少し緊張しながら引き戸を開けた。

    僕「こんばんは…」

    店主「おう」

    おかみ「いらっしゃい尊くん!座敷用意してありますよ」

    瑠「こんばんは」

    お「まあ~。どうぞ、入って入って」

    瑠奈と向かい合って座る。

    お「よく来てくれたわね~。何にしましょうね」

    僕「ここで、ジョッキの生ビールを飲むのが夢だったんです」

    お「あら、嬉しい事言ってくれるわ~。中でいい?二つ?」

    瑠「はい。お願いします」

    僕「あと、好きなの頼んでくれていいよ。カウンターの上のお惣菜も、どれも間違いなく美味しいから」

    悩む~と言いつつもササッと注文を済ませた瑠奈。僕の周りの女性陣、姉もしかり、決断が早い人が多いんだよな。おー、お通しの切り干し大根、いい色してる。ビールが運ばれるのをじっと待つ。

    瑠「さっき、夢だったって言ってたね」

    僕「うん。前にさ、兄さんや源三郎さんがここですっごく美味しそうにビールを飲んでて。その姿がカッコ良くて、いつか僕もって思ってたんだよ」

    瑠「20歳になってすぐにでも来れたでしょ。今まで延ばしてたのはどうして?」

    僕「そんなにすぐでは、まだ美味さとかわからないと思ったから。それに」

    お「はい、お待たせね~」

    目の前に待望のジョッキが!

    瑠「それに、なに?」

    僕「…酒が飲める年齢になったら、瑠奈を連れて来るって約束したんだ。おかみさんと」

    瑠「そうだったの!」

    お「はい、里芋とイカの煮物。そうですよ。おばちゃん首を長~くして待ってたわ~」

    僕「覚えててくれて嬉しいです」

    瑠「良かったぁ、一緒に来れて!ねぇ、乾杯しよっ」

    ジョッキをカチンと合わせ、プチ宴会がスタートした。

    瑠「壁とか趣あって素敵」

    僕「だね。でも最初からここで店開いてた訳じゃないんだよ」

    瑠「移転してきたの?」

    僕「お店は、ウチの近所でスタートしたって聞いてる」

    瑠「そうなの?えーっとぉ」

    僕「何が言いたいかはわかる。ウチの周り田んぼや畑が多いもんね。その当時はもっと何もなかったんじゃないかな。最初は、農作業終わりの農家さん達とか近所の人相手に、ご自宅の離れで始めたらしいよ。ゆくゆくは駅前に店舗を出したくて、資金をお二人懸命に貯めてたのよってお母さんが言ってた」

    瑠「どのくらい前の話なの?」

    僕「どのくらいだろ…」

    お「店として始めてから、そうね」

    僕「おっと、いいタイミングでフレームイン」

    お「かれこれ25年になるわねえ。串盛りどうぞ。ここに移ってからは21年ね。そうそう、その頃尊くん、お母さんのお腹の中で」

    瑠「そうなんですか!」

    お「この子が生まれたらしばらく無理だからって、開店してすぐ、美香子先生大きなお腹を抱えてわざわざ来てくださったの。ご主人がまだ0歳の唯ちゃんをおんぶしてね。あの頃は大先生もまだお元気で。懐かしいわ~」

    瑠「おお先生?」

    僕「僕のおばあちゃん。母の母。速川クリニックの創業者だよ」

    瑠「え、初耳」

    僕「だね。わざと黙ってた訳じゃないけど」

    瑠「いいよ。彼氏とはいえ、ヒトの家の話を根掘り葉掘りはしないし。教えてくれてありがとう」

    僕「こちらこそありがとう。1962年開業だから、今年で60年なんだ」

    瑠「すごく老舗じゃない!あれ、でもおばあさまって?」

    僕「亡くなって10年かな。祖父はもっと前に既に」

    瑠「そっか…」

    僕「母は、祖母が40歳の時にようやく生まれた一粒種の娘」

    瑠「そうなんだ。今日は初めて知る事がいっぱいだよ」

    僕「祖父は普通にサラリーマンだった。祖母は30歳の時に開院して、バリバリ働き、でも子宝には恵まれず。諦めかけた頃母を出産。そして母が一人前の医師になったのを見届けて旅立った、って感じの歴史です」

    黙って頷く瑠奈。

    僕「看護師のお二人、エリさんと芳江さんて方がみえるんだけど、在籍は母より古いんだ。祖母がメインの頃から来ていただいてる」

    瑠「ベテラン中のベテランさんだね」

    僕「いつか紹介するよ。背が高い方がエリさんで小柄な方が芳江さん」

    瑠奈の囁き「あの日応対してくださったのは、芳江さんの方なんだ」

    僕「え?何?」

    瑠「ううん、なんにも」

    僕「実は祖母の部屋、一階にあったんだ。今はリビングと繋げちゃったけど。一部、壁が不自然だと思わない?」

    瑠「え?…あ、ソファーの後ろの壁?確かに飛び出てる感じはあるね」

    僕「そう。以前はその端から窓に向かってもう一枚壁があってさ。仕切ると6畳の部屋だったんだよ。名残、よく見るとわかるよ」

    瑠「ふーん。帰ったら探してみるね」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道72~3月20日日曜6時

    おっさんではないので、酒の前に甘い物はちょっと、とは言わない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「明日の朝飯用にピザトーストを作っておいた。あとトースターで焼くだけにしてある」

    僕「はい。ありがとう」

    覚「小さめの食パンなんで、二枚で一人前な。チルド室に入れておくから」

    僕「わかった」

    お泊まりが悟られないかヒヤヒヤしてるから、父がニヤニヤしてるように見えて仕方がない。気持ちの高ぶりをおさえて、何とかクールにやり過ごしたつもり。

    美香子「行ってきます」

    覚「留守番頼んだぞ」

    僕「任せて。行ってらっしゃい」

    早朝に家を出た両親。

    僕「さてと」

    いい天気に恵まれた。濃密な二日間を予想させる。瑠奈は昼近くに駅で拾う予定なので、それまでは身を入れて作業に打ち込むべく実験室に籠る。

    僕「やっぱり、望の瞬間を中心に考えるべきだな」

    3号。5人以上乗せるという条件はスムーズにクリアできた。帰還を一か月待たずにすぐとなると、やはり満月の日一日の内に移動させたい。なんだけど、

    僕「0時00分から23時59分の枠で動かすより、そっちの前後12時間の方が安全そう」

    説明のために例を出します。今月は18日が満月で、一番月が丸く見える望の時刻は16時18分でした。その時刻を中心に、永禄との行き来を18日の朝4時18分から19日の4時18分の間にした方がベターという意味です。来月だと満月は17日で望の時刻は3時55分なので、16日の15時55分から17日の15時55分の間に動く形になります。正午ぴったりに望にならない限り、必ず日をまたぐ訳です。

    僕「この線で進めよう」

    動ける範囲を最大24時間にしたい、でも安全第一だからより良い方法を選ばないと。あ、もうこんな時間!慌てて部屋に戻り、着替えて家を出た。

    瑠奈「お待たせー」

    僕「いえいえ。今日はさすがにキャリーバッグじゃないか」

    瑠「うん。友達の家仕様だから逆に大袈裟にはできないよ。ねぇ、お昼何食べたい?」

    昼ごはん後はショッピングだ。何を買いに行くかというと、

    瑠「いかにも寝間着って物と、部屋着にもできる物とどっちがいい?」

    僕「どうしよう」

    二人きりで過ごす夜にはお揃いのパジャマでしょ、とのコメント。

    僕「ジャージっぽい方かな」

    瑠「だったらー。こんなのどう?」

    僕「へー、着やすそう。ってさっきから、僕の意見ばかり聞いてるじゃない」

    瑠「一緒に寛ぐ時間に着るんだもん。旦那様には聞くよぉ」

    僕「だ、だっ、だんな?!」

    瑠「赤くなってる。かわいいー」

    またしても翻弄されながら買い物終了。

    瑠「この後どうする?」

    僕「あの…」

    瑠「なに?」

    僕「布団って、3時くらいには取り込まないといけないんだよね?」

    瑠「うん。そうだね。干してきたんだ?」

    僕「瑠奈が来るしと思って…」

    瑠「そうなの!わざわざ?ふふっ」

    僕「な、何」

    瑠「たけるんったら、肉食なんだから」

    僕「どうしてそうなる」

    瑠「だったらもう帰ろっか。おウチでゆっくりおやつにしない?ケーキ買おうよ」

    僕「わかりました。ごめんね、急がせて」

    程なく帰宅。まずはふかふかの布団を取り込んで、二人でシーツをかけた。こんな共同作業、照れる。そのまま使ってしまいそうな衝動を何とか抑え、リビングに戻った。

    瑠「お皿とフォーク出していい?」

    僕「お願いします。飲み物さ、アイスコーヒーならすぐ出るんだけど。昨夜淹れた残りを冷やしてあって」

    瑠「それでいいよ。早く飲まないと風味が落ちちゃうでしょ」

    冷蔵庫からコーヒーのボトルを出した。あ、そういえば明日の朝ごはんが入ってるって言ってたな。チルド室見てみるか…え、えーっ!

    僕「うーわ…」

    瑠「たけるん?ダメだよ、冷蔵庫開けたままにしてちゃ」

    僕「…」

    瑠「だからー」

    茫然とする僕の代わりに、ドアを閉めてくれた瑠奈。

    瑠「どしたの」

    僕「あの、どうやら…バレてたみたい」

    瑠「バレてた?」

    僕「見透かされてたというか。見ればわかるよ」

    チルド室から皿を二皿出す。

    瑠「あ」

    一皿にピザトーストが二枚のせてあり、それぞれラップがかけられていた。そして、

    瑠「楽しい週末を、ってフセンが付いてる」

    僕「でしょう。確か、二枚で一人前って言ってて。で二皿だから二人前」

    瑠「明日の朝と昼の、たけるん一人分じゃないの?」

    僕「朝飯用とも言ってたんだよ」

    瑠「ふーん」

    僕「そうか、父親がニヤニヤしてるように見えたのは、本当にニヤついてたんだ。やられた~」

    瑠「そろそろケーキ食べよっか」

    僕「え?この話スルーなの?!」

    瑠「ホントにお泊まりなんだもん。気付いてみえたとしても、頭ごなしにダメだと言われてないでしょ。許してくださってるなら、コソコソしなくていいんだってわかったし」

    僕「あ、いや、これも罠だ、罠なんだきっと。からかわれてるだけかもしれない」

    瑠「くよくよしないの。ご両親は、たけるんに楽しい週末を過ごして欲しいと願ってるよ」

    僕「…そうだね」

    瑠「満喫しよっ。ね。いただきまーす」

    僕「うん、わかった、そうするよ。ではいただきます」

    真意は謎だけど、謎のままでいいや。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道71~3月上旬

    筆遣いが巧みなので。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今度の連休に、両親が旅行に行く。

    僕「夫婦水入らずでゆっくり骨休めしてきて」

    21日月曜が春分の日で祝日だから、日月でって話。土曜から行けばと思うけど、仕事終わりすぐではせわしないからこの日程らしい。

    覚「20日が、永禄だと3月の頭だ。そろそろだな」

    美香子「そうねぇ」

    壁のカレンダーを確認する両親。実は満月の日毎に、永禄ではいつに当たるか書き入れるようにしたんだ。だから他の日も、指折り数えればその日が向こうで何月何日に当たるかわかるって訳で。これ、対応する日をネットで調べたとかではない。

    美「木村先生は何かおっしゃってた?」

    僕「気付いてないみたい。兄さんの書き方がさりげないしね」

    この前永禄に飛んだ際兄さんに、日記、満月の日には何かしるしを付けてくれるとわかりやすいんだけどってお願いしたら、それからは日付の隅に点が打たれるようになったんだ。

    覚「そりゃまさか、元の資料が変化してるとは思わんわな」

    解読はもっと先まで進んでいるので、先々まで向こうのリアルな満月の日がわかる案配となっている。

    美「忠清くんは後世に記録を残すつもりで始めたのに、そのやりとり聞くと、尊と忠清くんの時空を超えた交換日記みたいよね」

    覚「交換日記か…甘酸っぱいな」

    美「へー、誰としてたのかしら~?」

    覚「中学生の時だよ。時空を超えた思い出だ」

    僕「昭和も永禄も時空の彼方ですか。そろそろ出かけるよ」

    その日はデートだった。

    瑠奈「旅行はお二人でよく行かれるの?」

    僕「ううん。お母さんも何やかやで忙しいし」

    瑠「そうなの。了解しました。しばらくお待ちください」

    僕「お待ち、ください?」

    そして夜。

    瑠『報告です。20日ね』

    僕「うん?」

    瑠『大学の友達の家に泊まりに行く』

    僕「そうなんだ」

    瑠『コトにしておきました』

    僕「は?」

    瑠『たけるん、夜一人じゃ淋しいでしょ』

    僕「まさか」

    瑠『当日、私達も旅行しない?』

    僕「…」

    そんな展開はさ、チラッとは妄想したよ?

    瑠『ダメ?』

    僕「いや…どうしよう、21日の午前中に解読の手伝いに行く約束してて」

    瑠『えー』

    僕「でも、何時でもいいしちょっとの時間でもいいはいいんだよ」

    瑠『ホント?』

    僕「最近木村先生になかなか会えなくて、その時は来れるって話だったから、じゃあ僕も合わせますって返事しちゃったんだ。だから」

    瑠『そうだったの』

    僕「ごめんなさい」

    瑠『なら、行ってる間待っててあげる』

    僕「え、そこまでしてくれるの?」

    瑠『そこまでしても、たけるんと一緒に居たいんだもん』

    僕「でも悪いよ。あまり遠くへ遊びにも行けないし、今から宿泊予約とか間に合うかわからないし」

    瑠『…たけるんは私と居たくないんだ』

    僕「違うよ、それこそ瑠奈と水入らずで一晩過ごせたらこの上ない幸せだよ」

    瑠『だったら…あ』

    僕「ほえ?」

    瑠『またたけるん家に泊めさせてもらうってのはどう?』

    僕「えぇっ!」

    瑠『旅行にはこだわらないし』

    僕「それは…」

    瑠『厚かましいかな。ダメ?』

    上目遣いでお願いしないでー!冷静になれないよ!落ち着け尊!…ふう。でもそれは…いいかも。客用布団とか使わなければバレないよね?使わない…使わない!ひ、一つのベッドで?!うわ、シーツや枕カバーを洗いたてにしないと!へ、へへっ。

    瑠『OKみたいだね』

    僕「…え?」

    瑠『顔がゆるんでますよぉ。でろーんって』

    僕「あうっ。…失礼しました。はい。仰せの通りです。ぜひ来てください」

    瑠『やったぁ』

    僕「よろしくお願いします」

    瑠『ねぇ、その日、晩ごはん作ってあげよっか?』

    僕「あ、あぁ。うーん」

    瑠『あれ、反応がイマイチ』

    僕「すごく嬉しいんだけど、お前普段料理やらないのに台所使ってあるな、一人じゃなかったのか?ってすぐバレそうだから、気持ちだけいただきます」

    瑠『そっか。わかりました』

    あ。そうだ!

    僕「あのさ。黒羽駅近くに、居酒屋なんだけど料理がすごく美味しいお店があるんだ。良かったらそこに行かない?」

    瑠『へー。え?たけるんの行きつけ?』

    僕「速川家の行きつけ」

    瑠『あはは、そうなの。行く行くー』

    予約しとこうかな。まだ早過ぎるか。かつての約束、ようやく果たせそうだ。おやじさんとおかみさん、きっと喜んでくれる。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、その当日のお話です。

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    続現代Days尊の進む道70~1月18日21時その2

    教育論。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    若君「源三郎と比べるに、祐也殿は腕や肩がより屈強と見受けられる」

    トヨ「重い荷物をサッと運ばれていた、と瑠奈様が仰られていましたね」

    源三郎「見習わねばなりませぬ」

    若「フフ、そうじゃの。…唯?」

    録画を二回観終えた三人。後ろを振り向くと、姉が何やら里芳ちゃんに…仕込んでいた。

    唯「ちちうえは、パパ。パーパ。ははうえは、ママ。マーマ!」

    床にペタンとお座りしている里芳ちゃん。当然ながら、キョトンとしている。

    若「何をしておる」

    唯「言葉を教えてるー」

    若「それは、現代語ではなかろうか」

    唯「いいじゃん」

    トヨの囁き「クリニックにあったポスターによく出てきたわ。パパとママ」

    源三郎の囁き「コーヒーを運んだ後トヨがよく見ていた、大きな紙の案内にか」

    若「唯。ならぬ。幼な子に無理に強いるなど」

    すると、

    里芳「んまま、ぱっぱ」

    若「おぉ」

    ト「まあ!」

    源「何と!」

    慌てて立ち上がり、娘の前に座った源三郎さんとトヨさん。

    唯「ぷぷ。盛り上がってきたねぇ」

    ト「ママ、ママよ~」

    源「パ、パパじゃ」

    若「おぬしらまで…」

    里「…」

    唯「どう出る!」

    パパとママを交互に見比べた里芳ちゃん。まず源三郎さんを見て、

    里「ぱ」

    源「おぉ」

    次にトヨさんを見て、

    里「ま」

    ト「あら」

    若「違いはわかっておるのじゃな。里芳は賢しい童よのう」

    唯「もう一声!」

    小さい手がトヨさんに向かって伸びる。

    里「ま、ま」

    ト「…里芳~!」

    抱き上げて娘に頬ずりをしたトヨさん。ちょっと残念そうな源三郎さん。しかし里芳ちゃんはこれで終わらなかった。次に源三郎さんを指差しながら笑って、

    里「ぱ、ぱ」

    源「おぉぉ!」

    パパとママは大喜びだ。

    唯「大成功っす」

    若「うむ…」

    唯「りほうちゃんならできると思ったんだー」

    若「幼いながら忖度が働いておった様な」

    源三郎さん達は、上機嫌で帰っていった。

    唯「ふう。急に静かになったなぁ」

    若「じゃな。唯も観るか?」

    唯「ううん。今日はもういいや。チラチラ見えてたし、声は聞こえてたし」

    若「…疲れたか」

    唯「んー。子供って最強だね。すっごくパワーを吸いとられるけど、同時にパワーをくれる。あ、ごめん、パワーは力ね。大丈夫かな私ー、もうすぐ自分もなのに」

    若「…幼き子らは、お母さんの院にもよう来ておった」

    唯「小児科もやってるからね」

    若「傍らで見守るのは乳母や世話する者でなくまことの親と聞き、驚いた覚えがある」

    唯「あー。そりゃ親が子供の面倒見るのは当たり前だし…ってごめん、たーくんは違ったか。身分の高いヒトだし」

    若「大丈夫か、という問いは、己にも向けられておる様じゃ」

    唯「たーくんは、そんなに育児に参加しなくていいんじゃ…」

    若「院には父らしき者も付き添っておった」

    唯「らしきって。そこはホントのパパでないとコワいけど」

    若「父に可愛がられた記憶はない。何事にも厳しかった。それは当然でもあるのだが」

    唯「ふーん…じゃあ令和風でやってみる?」

    若「令和風。そうじゃな。考えておく」

    唯「うわ、楽しみ!だったらさ、アレ作ってもらおうよ」

    若「何をじゃ」

    唯「抱っこ紐!たーくんも似合うと思うな~」

    若「…形から入ると申すか。フフ」

    唯「なによぅ」

    若「悩んでおったと思いきや、何ら変わりないのが有難い」

    唯「それ、褒めてる?」

    若「勿論じゃ。ではそろそろ休むか。ゆ…ではのうて」

    唯「ん?」

    若「ママ」

    唯「えっ…は、はーい!パパ!」

    さて。令和の僕達に戻りまして。

    美香子「半年前に、それっぽい話聞いといて良かったわ」

    覚「だな。今日初耳だったらそれに終始してしまって、トヨちゃん達と話す時間も取れなかっただろう」

    美「ねぇ、出産祝い、何がいいかしら~」

    僕「ゲ。持って行けって言うの?」

    美「言わない。空想して楽しむのよ~」

    僕「はあ」

    覚「おー、だったら、抱っこ紐はどうだ?」

    美「あら。すぐには使わないけど実用的でいいかも」

    僕「兄さんも似合いそうだけどそれさー、絶対お姉ちゃん、トヨさんにねだってるって」

    覚&美香子「言える」

    全員「ハハハ~」

    半年後、今まで以上に待ち遠しくなった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は3月のお話になります。ちなみに、永禄の様子は出てきません。あしからずご了承ください。

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    続現代Days尊の進む道69~1月18日21時

    おもナビくんの操作は、お手の物なんで。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    トヨさんが前に出る。画面いっぱいに里芳ちゃんの姿が映った。へー、赤ちゃんって半年でこんなに成長するんだ。お、笑ってる!手をぶんぶんと振る様子も愛らしい。

    里芳『キャッ、キャッ』

    芳江「あらら~」

    エリ「ゴキゲンね~」

    トヨ『お会いできる時間が近づくと、何故か泣き止むんですよ』

    美香子「そうなの!」

    覚「よくできたお嬢ちゃんだな~」

    こちらのじいちゃんばあちゃん達の騒ぎっぷりが何とも微笑ましい。

    源三郎『歩き始めてもおりまして』

    美「順調ね」

    エ「私達の名を入れてくれたなんて、二人で感激してたんですよ」

    芳「本当にありがとう」

    源『お礼を申し上げるのは、わたくし共の方でございます』

    ト『嬉しいです。このように娘の元気な姿をお見せできる日が来るなんて』

    うわ、あと20秒!

    若君『皆の者。時間が迫っておる』

    美「あら大変!唯、出産予定日はいつ頃?」

    唯『3月くらいだって話』

    覚「次回は会えるな」

    唯『だね』

    美「体に気をつけて。皆さんもね」

    唯『りほうちゃん、はい、バイバイ、バイバーイやって!』

    お姉ちゃんが手を振ると、真似して?里芳ちゃんが手を上げた…所で通話が終わった。

    美「はぁ。終わっちゃったわ~」

    エ「楽しい時間はあっという間ですね」

    芳「それにしても、里芳ちゃんの可愛らしさといったら」

    すぐに録画を再生してあげた。皆大喜びで観ているので、結果三回再生。たった2分だもんね。違うな、1分45秒だ。

    美「最初の15秒くらい、時間勿体なかったわね。唯の着物しか映ってなくて」

    覚「4号って、触らなくても自動で動き出すんだよな?」

    僕「うん。この前はこっちと向こうの時間帯がずれてたからスイッチ入れる方式にしたけど、今回からは勝手に録画も始まるようにしといたんだよ」

    美「それ、説明したのよね?」

    僕「したよ。お姉ちゃんだと怪しいから兄さんに」

    覚「正解だな」

    芳江さんとエリさん、苦笑してる。

    僕「思うにさ。さっき見えてた感じだと、おもナビくんは部屋の中央辺りに据えられてた。きっと兄さんが、距離を微調整しやすいようにそうしたんだよ」

    美「それを唯があちこち触ったのね、きっと。しかも動かせって忠清くんに命令して」

    覚「バック!って言ってたぞ、唯の奴」

    美「言ってた。まんま現代語だった」

    覚「忠清くんは意味がわかったようだが」

    僕「わかったとは思うけど、多分ジェスチャーもしたんじゃない?それも雑な」

    美「あー。想像できる。手をシッシッ、と追いやるように振る姿が」

    覚「お腹が大きくなって、さすがに唯も機微には動けんのだろう。忠清くんに、あれやこれやと指図ばかりしてそうだ」

    美「それも想像できるわ」

    エリ&芳江「あの…」

    美「あらごめんなさい、つい盛り上がっちゃって」

    芳「そろそろおいとまさせていただきますね」

    エ「ありがとうございました」

    美「こちらこそありがとう、遅くまで付き合ってくださって」

    エ「尊くん、とても楽しいひとときでした」

    僕「まあまあ上手くいって良かったです」

    芳「はさみ揚げも、トライしてみますね」

    覚「すぐにモノにできますよ」

    お二人は帰っていった。…さて。その頃、永禄では。

    若「直ちに屋敷に戻るか?夜も更けておる。里芳も寝かしつけねばならぬし」

    源「いえ。急ぎませぬ。このような機会は半年に一度しかございませんし」

    ト「娘は、夜に備えて昼寝をたんとさせましたので」

    若「そうか。折角じゃ、二度三度と観たかろうと思うての」

    源「それはもう」

    ト「はい」

    若「よし、ならば」

    唯「ねぇ、じゃあさ、集中してみれるように私が子守りしててあげるよ」

    ト「でもそれでは唯様が」

    唯「私はいつでもみようと思えばみれるしさ」

    ト「わかりました。でしたらお頼み申します」

    唯「まかせて!はーい、りほうちゃん、遊ぼうね~」

    源「若君様、操作はわたくしが」

    若「構わぬ。下がっておれ。このボタン、を押すと。よし始まった。…ん?」

    若君&源三郎&トヨ「…」

    若「皆、覗き込んでおったのか」

    源「しかも、一様に訝しげな顔をなされて」

    ト「何が起こっているか、わからなかったのでしょう」

    若「うむ。まさか唯の腹から始まるとは思わぬよのう。ハハハ」

    唯「はいはい、だからごめんってぇ」

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回ももう少し、永禄の様子をお送りします。

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    続現代Days尊の進む道68~1月18日火曜20時

    夫使いの荒い妻。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    本日、永禄との通話二回目にトライする。

    エリ「蓮根のサクッとした食感と、中の具のジューシーさが絶妙ですね」

    覚「ありがとうございます。そこはこだわってる所なんですよ」

    芳江「レシピを教えていただきたいわ~。でも同じようには作れないかしら」

    接続は夜9時のため、先にお二人のゲストを交え晩ごはん中。

    美香子「彼女何て言ってた?」

    僕「里芳ちゃんの成長が楽しみ。いっぱい映ってるといいなって」

    瑠奈は今日は不参加だ。他に用ができた体になっているが、実は…

    ┅┅回想。数日前の夜、ビデオ通話中┅┅

    瑠奈『あのね、提案なんだけど』

    僕「うん」

    瑠『18日、私行くの止めとくよ』

    僕「え!どうして」

    瑠『看護師さん達、お仕事終わりにそのまま残って参加されるでしょ。帰宅されるのがすごく遅くなるから今後も毎回とはいかないだろうって言ってたじゃない。特に今日は初参加でマゴマゴしちゃうかもしれない。だから、参加人数一人でも少ない方が顔も大きく映せるし話もしやすいと思って』

    僕「そんな。確かにその通りではあるけれど。だって、里芳ちゃんに会いたいって」

    瑠『録画を鬼リピするよ。次回また呼んで。ねっ』

    僕「わかった。なら今回は、お言葉に甘えさせていただきます」

    ┅┅回想終わり┅┅

    僕「本日分の兄さんの日記に大きな動きは書かれてなかったから、繋がったら4号の前に誰も居ませんでしたにはならないと思う。充電状況で2分フルに話せるかはわからないけど」

    あと10分となった。全員で実験室へ移動。お二人は初めて入室するので、感心しきりであちこちキョロキョロしている。

    芳「ここで数々の発明品が生み出されてきたんですねぇ」

    エ「まさしく秘密基地ですね」

    あと3分。お二人にパソコンの前に並んで座ってもらった。後ろに僕達家族三人が立つ。

    覚「写真、デカくしたな~」

    僕「この位大きくしとかないと、画面で判別できないからさ」

    エ「やはりどことなく源三郎さんと雰囲気が似ていらっしゃいます。贔屓目でしょうか」

    芳「トヨちゃんにも似てないかしら」

    11月にウチで祐也さんと一緒に撮った写真。それをA4版に拡大した物を用意したんだ。4号が接続してあるおもナビくんにデータ送信すれば?と突っ込まれそうだが、永禄の機械をできるだけエコに使いたいので、ここは超アナログな方法を採用した次第。

    美「あと30秒!」

    芳「ドキドキしちゃうわ」

    覚「我々もまだ二回目なんでハラハラですよ」

    エ「どんな映像が観られるでしょうね」

    僕「充電満タンになってますように!」

    9時!自動で電源が入った!…ん?

    覚「何だ?」

    画面が…なんか暗い。

    芳「何やらゴソゴソ聞こえますね」

    エ「見えてるのは、お着物かしら?」

    美「みたいね。こんなにどアップで?」

    画面の向こうで騒いでいるようだ。不具合があったのかな?残り時間が刻々と迫っているが、しっかり2分、フル充電はされていた。

    唯『だからおもナビくんをもっとバックだって!』

    若君『こうか?』

    唯『あ、見えた見えた』

    美「唯!」

    覚「おぉ」

    さっきズームアップされていたのはお姉ちゃんの着物だったらしい。おもナビくん自体を下げたらしく、ようやく全体が映し出された頃には15秒のロスだった。

    若『忝のう存じます。唯があちらこちら触っておりましたら、おもむろに電源が入り』

    僕「またお姉ちゃんが余計なコトしたんですね。映ってますか?こちらにお二人みえてますよ」

    唯『見えてるー。エリさーん、芳江さーん、元気~?』

    看護師さん達は頷きながら涙ぐんでいた。それは何故かと言うと…こちらに映し出されている映像には、兄さん、源三郎さん、トヨさんの膝に里芳ちゃん、そして…

    唯『見て!赤ちゃん、来てくれましたー!』

    大きなお腹をさする姉の姿。これはビッグニュースだ!

    覚「そうか、そうか」

    美「良かったわ…良かったわね、忠清くん」

    若『はい。長らくご心配をおかけ致しました』

    僕「そっか…いけね、時間ない!源三郎さん、トヨさん!末裔の写真用意できました、見てください!」

    唯『何これデカくない?あ、バーベキューしてんじゃん。いーなー』

    源三郎『おぉ、こちらの御仁が』

    トヨ『尊様、ありがとうございます』

    若『源三郎の面影が有る様に思えるが』

    源『左様にございますか』

    あ。エリさんも芳江さんもまだ一言も発してないのに、ついシャシャリ出てしまった!

    僕「すみません、お二人を差し置いて。どうぞ声かけてあげてください」

    芳「いいのよ尊くん。お嬢さんがとても愛くるしくてね、ずっと見てたの」

    エ「ホントに可愛らしい。ねぇトヨちゃん、もっと里芳ちゃんを近くで見たいわ」

    ト『はいっ、ただいま』

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道67~1月10日月曜

    昔も今も、見守ってくれる人が居る。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    本日成人式が開催される黒羽市市民会館は、家から少し距離がある。

    美香子「車で行くの?」

    僕「案内に、公共交通機関でお越しくださいとは書いてなかったし」

    覚「子供の数が減ってるからな。駐車場の収容台数の範囲内なんだろ」

    美「お天気が悪くなくて何よりね」

    覚「そろそろ出かけるだろ?玄関で撮るぞ」

    三人で写真に収まった。

    美「こんなに背が高かったかしら」

    感慨深く僕を見上げる母。

    僕「猫背にならないよう頑張ってるから」

    覚「いい傾向だ。今日久々に会う同級生も居るだろ、今の尊を堂々と見せてやれ」

    僕「わざわざ見せはしないけど」

    美「彼、誰?えーっ速川くん!って女子の間で話題になるかもよ~」

    僕「ならないと思う。じゃ、行ってきます」

    僕の車を見送ってくれた両親。

    覚「喜んでくれるジジババも居ないしな」

    美「そうね…」

    僕の祖父母は全員この世を去っている。父には兄が居るが、国際結婚して海外に住んでいるので連絡もほぼ皆無。母は一人っ子だ。だから僕は物心ついた頃から、親戚の集まりという行事を経験していない。だがこの状況は、お姉ちゃんの話をしなくて済むという点で、僕達家族にとってありがたい話ではあった。

    僕「朝早く仕入れして…この時間、まだ準備してるといいけど」

    そんな僕にも一箇所、立ち寄っておきたい場所があるんだ。できれば今日の僕の姿を見せたい人達が。ダメ元で訪れてみようと、近くのコインパーキングに停め、歩き出した。

    僕「店先にいっぱい箱が積んであるな…あ、居た!おかみさーん!」

    おかみ「あら!尊くんじゃない!まあ~」

    家族でよく来ていた、そして永禄の面々とも訪れた居酒屋だ。

    僕「もしかしたら会えるかなって思って」

    お「わざわざ?ありがとうねー。散らかってるけど入って入って。ちょっとお父さん!尊くんよ!今日成人式の」

    僕「おはようございます」

    店主「おう」

    僕「すみません、忙しい時間に」

    店「式は午前中か」

    お「お父さん~もっと言い方あるでしょう、そんなぶっきらぼうに。折角来てくれたんだから褒めてあげなさいよ。尊くん、紺のスーツがビシッとしてとても似合ってる。立派になって。おばちゃん嬉しいわ~」

    僕「ありがとうございます」

    おやじさん、口数少ないのは知ってるし。目は笑ってるから喜んでくれてるってわかる。

    お「ご家族皆さん変わりなく?前に大所帯で来てくれたわよね」

    僕「全員元気です。その後中々来れなくて、ごめんなさい」

    お「いいのいいの。また元気な顔見せて」

    僕「はい!ではそろそろ、失礼します」

    深々とお辞儀をし、その場を後にした。この店、引きこもりだった頃にも両親に連れられて来てたんだ。幼い頃から通っているここなら、僕がイヤな顔をしなかったから。当時…速川クリニックの息子不登校らしいぞ、って噂は立ってたと思う。実際店で食事していると、僕を見てヒソヒソ話をする人は居たから。おやじさんもおかみさんも知っていただろう。

    僕「少しだけ恩返しができたかな」

    でも腫れ物に触るような扱いもせず、普通に接してくれたのは今でも感謝している。もっともウチの母は、僕が生まれる前、まだこの店が駅近くになかった頃からの付き合いらしいからそのよしみもあっただろうけどね。その詳しい経緯は、またいずれ話します。

    僕「人だらけだ」

    市民会館に到着。受付が済んでも皆そこかしこで立ち話をしてるから、ロビーはごった返していた。その脇をすり抜けて中に入る。自由席だったので、隅の方に座った。

    男1「速川!元気だったかー?」

    女1「ウッソ、マジで速川?」

    意外だったが、何人かに声をかけられた。案外見つかっちゃうモノだな。差し障りのない会話で何とか凌ぐ。そして式典がスタート、粛々と進んだ。人生の一区切りか。ちゃんと大人に成りきれるかな。

    男2「お?オマエ、速川じゃん!」

    式典が終わり、帰ろうとしていたら、一人の男に呼び止められた。…誰?

    男2「俺のクラスのマドンナの瑠奈ッチと、いつの間にか付き合ってたんだよコイツー」

    男3「マドンナ?そんなに可愛かったんか」

    男2「おー、かわゆいしナイスバディだし!」

    瑠奈ッチって。アイドル並みに人気があると、ファンにあだ名を付けられるってヤツ?てコトはこの男は同じクラスだったのか。もう一人は違う高校みたいだな。

    男2「なーなー、瑠奈ッチともう別れた?」

    何だよそれ。そういえば以前、ミッキーさんが言ってたな。瑠奈を狙ってる連中は山ほど居たって。

    僕「別れてない。今も付き合ってる。ラブラブで。じゃ」

    勝利宣言をしてサッサと逃げた。もらい事故みたいだったな。早々に帰宅すると、両親は少しガッカリしていた。すみません、友人関係を再構築もできず。晩ごはんはそれはそれは豪華だった。そして、

    瑠奈『んー、そんな名前で呼ばれたコトあったようななかったような』

    ビデオ通話。

    瑠『で?同じクラスの男子なんでしょ?』

    僕「わからない。思い出せない」

    瑠『…たけるんってさぁ、ホント興味ないコトは一切覚えないよね』

    僕「記憶の引き出しに余力を残してるんで」

    瑠『それ。合理的って言うのかなぁ』

    僕「でも成人式も済んだし。ここで考え方を変えようと」

    瑠『どんな風に?』

    僕「今後は覚えるようにします。コイツ誰だろってずっとモヤモヤしてると、脳ミソ使うし時間がもったいないし」

    瑠『…変わります宣言、してるようなしてないような』

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    さて。そろそろ二回目の通話、繋ぎます。

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    続現代Days尊の進む道66~2022年1月1日土曜

    レコードで聴いてそうなイメージ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    神社の駐車場。入口が混み合っていたので思いの外停めるのに時間がかかり、車を降りる頃には年明けまであと3分と迫っていた。

    瑠奈「鳥居くぐる前に新年かな」

    参道に向かっていると、前を行く20代後半くらい?の男性グループが、

    グループ全員「残り60秒!59、58」

    歩きながらカウントダウンをし始めた。

    僕「数え始めるの早くない?」

    瑠「でもそんなに大声で騒いでないし。なんかかわいい」

    近くを歩いていたカップルや親子連れを巻き込んで、カウントダウンの輪がどんどん大きくなってきている。へぇ。こういうの、やりたい人はやりたいんだろうな。

    瑠「たけるん、私たちも入れてもらお!」

    僕「え?!」

    マジか!知らない人ばかりの輪に?

    瑠「だって、ニューイヤーカウントダウンなんて一年に一回だけだし」

    僕「そんな、若い奴みたいな真似」

    瑠「なんですと?」

    僕「行きます、行きます」

    残り10秒で輪に飛び込んだ。

    輪の全員「9、8、7、」

    みんな笑顔だ。

    輪「3、2、1、0ー!ハッピーニューイヤー!イェー!」

    皆でハイタッチした。初めて会った人同士とは思えないほど大盛り上がりで。最後は拍手でお開きとなった。

    瑠「お疲れ様。たけるんはこういうの苦手、ってのはわかってたんだけど」

    僕「ううん。楽しかったよ」

    瑠「良かった。一皮剥けて、ますますイイ男だね」

    僕「褒め殺しですか?」

    いよいよ境内へ。鳥居に一礼すると、すぐに腕を絡ませてきた瑠奈。

    瑠「やっぱり人出、多いね」

    僕「うん」

    先程の話ですが。実はその場に居たほとんどの男達が、瑠奈とハイタッチしたくて順番待ちになっていたんだ。ちょっとモヤっとしたけど、終われば即僕に駆け寄ってきたんでそれ以上何もなく、事なきを得ていた。

    僕「離れちゃダメだよ」

    瑠「はぁい」

    いや。待てよ?瑠奈にとって誰が一番の男かは彼女が決めるんだし。いくら僕自身が頑張ったところで。もっと素敵な男性なんて五万と居るじゃないか。タイムマシンの秘密を共有してしまったのが、面倒見させてるみたいでかえって足枷になってはいないか?

    僕「…」

    瑠「たーけるん、どしたの」

    僕「…もっとぴったりな男性が居るかもしれないって出会いを、僕が妨げているんではないだろうか」

    キョトンとする瑠奈。そして、

    瑠「聞こえないなぁ」

    雑踏の中に居るから聞こえにくいか。

    僕「僕以外の男…」

    瑠「なんにも聞こえませーん!」

    僕「え」

    瑠「ずっとたけるんとラブラブでいられますように、って神様にお願いする」

    怒ってる!

    僕「ごめんなさい」

    瑠「もぉ。この話はこれでおしまい、ね」

    僕を見上げてニッコリ笑ってくれた。ごめん、こんなフラフラした奴で本当にごめん。今日もそうだけど、人と擦れ違う度に二度見ばかりされてると、どんどん弱気になってしまうんだ。自信がまるでなかった過去の自分とは、オサラバしたよ?でも自信持った上での行動が最良かはわからないじゃないか。特に瑠奈に対しては。あー、きっとこれからも、時折ぶり返して悩んでしまうんだろう。

    瑠「賽銭箱に永遠に辿り着けないかと思っちゃったぁ」

    僕「人垣がずっと続いてたもんね。では次の目的地へ出発しますか」

    僕が瑠奈を幸せにできますように。神様にも、主語がポイントです!お願いします!と手を合わせた令和4年のスタートだった。

    瑠「周り一面、オレンジ色~」

    僕「最近できたトンネルだと照明は白色が主流になってきてるけど、ここは違うね」

    瑠「オレンジのトンネルの中は、横顔がネガのようだわ」

    僕「何?小説のワンフレーズ?」

    初日の出を海越しに拝もうと、車は高速道路を走行中。

    瑠「歌詞。お母さんが好きでよく聴いてて、覚えちゃった」

    僕「へぇ。ウチの母親もしょっちゅう昭和歌謡を口ずさんでるけど」

    瑠「親はカラオケ行かない派なの。曲はオリジナルが一番だからって」

    寝たりせずちゃんと会話をしてくれるからとても助かる。瑠奈のサポートのお陰で車は無事に初日の出スポットに到着した。そして…

    瑠「わぁ、眩しい」

    同じく見に来ていた人達からも歓声があがる。雲は多かったが、切れ間から顔を覗かせた姿はどこか神々しく。遠方まで来て良かったよ。

    瑠「そろそろ、お弁当食べない?」

    僕「いただきます。ちょうど朝ごはんだね」

    ようやくお腹も準備万端だし。蓋が開いた。おっ、美味そう!

    瑠「食べさせてあげるね」

    瑠奈の箸が鶏の唐揚げをつまむ。あーんして、ですか?!ドキドキ!すると、それを自分の口に運んだ瑠奈。ん?

    僕「えぇぇ」

    唐揚げをくわえたまま顔が近づく。く、口移しなの?!

    瑠「お味はどうかなぁ」

    僕「とろけそうです…」

    もう、いくらでも翻弄しちゃってください。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、成人式当日の様子をお送りします。

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    今までの続現代Days尊の進む道、番号とあらすじ、33から65まで

    通し番号、投稿番号、描いている日付(これは毎回の副題と同じ)、大まかな内容の順です。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    33no.1129、12月23日水曜、クリスマスパーティー今年は三人で

    34no.1130、12月24日木曜10時、父はプレゼントに息子は鍛えた成果に感激

    35no.1131、12月24日12時、クリスマスを共に過ごす初めての彼になった

    36no.1132、12月24日15時、夢見心地のテーマパーク

    37no.1133、12月30日水曜、若君に会いたかった吉田くん

    38no.1134、12月31日木曜から2021年1月3日日曜、家族三人の平穏な年越し

    39no.1135、1月5日火曜から11日月曜、練習バッチリも考えもの。成人式に姉を想う

    40no.1136、2月27日土曜12時、みつきの彼は実は

    41no.1137、2月27日20時、赤井家の新情報

    42no.1138、5月26日水曜12時、4号完成したが一悶着

    43no.1139、5月26日22時30分、瑠奈父の後押しなるか。真実を話す時が近付いている

    44no.1140、6月6日日曜9時30分、告白の瞬間が訪れる

    45no.1141、6月6日13時、説明し終えた。さあ今後は

    46no.1142、6月6日15時、瑠奈も一緒に行くと決まる

    47no.1143、6月6日16時、いつ飛ぶかは制作者でなく周りに決定権

    48no.1144、7月24日土曜10時、両親の期待と大荷物を手に出発した二人

    49no.1146、7月24日16時(永禄六年七月五日子の初刻)、無事着いたが瑠奈の様子が。唯節全開

    50no.1147、7月24日16時その2、説明しつつ4号組み立て開始

    51no.1148、7月24日16時その3、赤井家長女の名は。姉弟の口ゲンカも微笑ましく

    52no.1149、7月24日16時その4、令和と永禄が2分だけ繋がった

    53no.1150、7月24日16時その5、今後の日程は要相談。楽しい時間はあっという間

    54no.1151、7月24日16時その6、夜空の思い出を語るもそろそろ帰る頃合い

    55no.1152、7月24日16時3分、無事帰還。早速設定します

    56no.1153、7月24日16時30分、色々と振り返る。懐かしい香りを纏う瑠奈

    57no.1154、7月24日21時、みつきの彼と会う事に。瑠奈に迫られどうしよう

    58no.1155、7月25日日曜、速川家のルーティン。祐也は気さくな男性

    59no.1156、8月2日月曜から6日金曜、結婚への展望はまだと言いつつほぼ確定

    60no.1157、8月7日土曜、四人で海に。曇りと言えど日焼けには注意

    61no.1158、9月4日土曜、瑠奈の告白に驚く美香子

    62no.1159、11月3日水曜、BBQしながら聞く天野家子孫の話

    63no.1160、11月下旬、二人で成人式の前撮りに

    64no.1161、12月24日金曜、子供達に大人気の折り紙の先生

    65no.1162、12月31日金曜、3号未完成の訳。年越しデートは満腹でスタート

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    続現代Days尊の進む道65~12月31日金曜

    日中よく働いたとは言え、許容量ってあるし。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    覚「お前、自分の部屋は?」

    僕「まだ掃除してない」

    覚「だったら今からやっとけ。台所もあとは片付けするだけだし」

    僕「わかった」

    美香子「窓も開けるのよ~」

    大掃除中、そう言われて自室に戻ってきた。ドアにストッパーをかけ、窓を開け放つ。

    僕「あー、涼しい」

    サーッと風が抜ける。軽く汗をかいていたのでクールダウンにちょうど良かった。窓枠に肘をのせ、外をぼんやりと眺めていたら、

    僕「!」

    見慣れた風景がスクリーンに変わり、今年の出来事が一気に映し出された。ここんトコ毎年、怒涛の一年だったって感想言ってる気がするけど、それでも大晦日には振り返りなさいってか?

    僕「来年は3号完成するかな…」

    未だ完成に至らない。それには色々と理由がありまして。一つは、永禄で瑠奈が、

    瑠奈「5人以上乗れて、且つ今日みたいにすぐ行き帰りができる物を造ります」

    と宣言しちゃってるので、頑張って機能アップを図っているから。もう一つの理由が…海に遊びに行く少し前だったかな、親に言われて。

    ┅┅回想。8月の頭。リビングにて┅┅

    覚「空き時間は全てタイムマシンの作業という生活は、望ましくない」

    僕「もうそこまでする必要はない?4号で話ができるようになったしね」

    覚「休息時間も確保しつつ、今後はどんどん外へ出る方向に力を入れるべし。それで完成が遅くなるならそれはそれ。忠清くんも、無理はするなって言ってくれたんだろ?」

    僕「うん」

    覚「瑠奈ちゃんと出かけたりして見聞を広めるのもいい。地域の行事にも機会があれば参加させたい。籠るばかりでなく人との繋がりも大切にして欲しいと思っているんだ」

    美「頭がいいのはよーくわかってる。でもそれだけの人間にはなって欲しくないのよね」

    僕「お姉ちゃんほど、逞しく世渡りはできそうにないよ?」

    美「唯ほど突っ走らなくていい。ただ、人として薄っぺらにはならないで、と願ってるわ」

    ┅┅回想終わり┅┅

    だから、この前のクリスマス会で折り紙の先生になったのも、いい傾向だとすごく褒められた訳で。

    僕「睡眠時間が増えたから、体調はすこぶる良い。やっぱ無理してたかなー」

    ただですね。タイムマシン、組み立てにかける時間はセーブしてるけど、飛ぶための燃料はコツコツと貯めているのでご安心ください。

    僕「今年は、祐也さんと知り合えたのも大きかったな」

    大学では未だに友人と言える人物は居ない。同い年の男は…いや、女子ならイイって訳でもないんだけど、いじめられた経験がどうしても頭を過り心から打ち解けられない。

    僕「浴衣デートでリベンジしたし、そんな人間じゃない方が大多数ってわかっていてもさ」

    今でも躊躇する。こんな僕にいつも柔らかい口調で接してくれる祐也さんに感謝だ。ん、その前にミッキーさんに大感謝だな。でも。これから社会に出ていくとなれば、ウダウダ弱気な発言ばかりしていてはいけないとも自覚している。

    僕「身近な師匠、唯大明神に手を合わせるか。ははは」

    姉を見習い、自分の人生は自分で切り開かないとな。…っといけね、そろそろ掃除スタートしないと。

    僕「自分の部屋は自分で、誰も代わりにキレイにしてはくれない、と」

    掃除を終えてリビングに下りてきたら、鏡餅も飾られ、すっかり新年の準備が整っていた。

    美「お疲れ様。夜は何時頃出てく?」

    僕「10時かな。瑠奈を拾って年が明けるまでには神社に行きたいから」

    覚「じゃあ、年越しそばは食べられるな」

    二年前、家族7人で訪れ、ミッキーさんと祐也さんにも出会った、大きい神社。今年は瑠奈と二人でお詣りするんだ。

    美「去年は瑠奈ちゃん帰省してたもんね。楽しみね~」

    覚「あそこは特に参拝客が多いからな。はぐれるなよ」

    そうこうする間に、夜10時。瑠奈を迎えに行くべく車に乗り込んだんだけど、

    僕「晩ごはんプラス、そば二人前は多過ぎるって…」

    夜中に腹が鳴ったら恥ずかしいだろ?と言いくるめられ、何とか食べ切ってきたんだ。

    僕「とんだ試練だった」

    マンションに到着すると、瑠奈はエントランスの外で待っていてくれた。

    瑠「たけるーん、お迎えありがとう」

    僕「寒かったでしょ。お待たせしました」

    瑠「全然大丈夫ー。もう、居ても立ってもいられなくって!」

    僕「僕も待ち遠しかったよ」

    瑠「ホント?でね、実はぁ」

    僕「何?」

    よく見たらバッグ二個持ち。ん?

    瑠「たけるんが朝までにお腹空くといけないから、頑張ってたーくさん作ってきたの!」

    僕「何、を?」

    瑠「お弁当!」

    うぷっ。

    僕「あ…そう、それは嬉しいな」

    瑠「後で食べてね!」

    僕「うん。後でね」

    かなり後からでお願いします…

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    続きます。

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    続現代Days尊の進む道64~12月24日金曜

    飲み食いばかりがパーティーじゃない。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ホールの外から、扉が開くのを待ちわびる子供達の賑やかな声が聞こえてくる。

    木村「その箱空いたら、こっちな」

    僕「わかりました」

    椅子を整える人あり、誘導用のコーンを並べる人あり。大勢の人達があちらこちらで準備をしている。

    女性1「このイベントは初めて?」

    僕「初めてです」

    女1「毎年楽しみにしてる子、結構居るのよ。頑張ってね」

    僕「はい」

    御月家ゆかりの地に建つ会館。解読作業で会議室を一部屋無償で借り続けているのもあり、何かイベントがある時には協力している。今日はホールで毎年恒例の行事、クリスマス会が開催されるので、木村先生を筆頭にサポートスタッフとして参加中。去年は、瑠奈とのクリスマスイブデートを優先してしまって…実はちょっと肩身が狭かったんだ。今年は、倍働く所存でございます。

    女性2「速川君、本屋の店員っぽい」

    僕「そうですか?」

    スタッフは全員、揃いのエプロンを着用している。

    木「だな。普段は黙々と棚を整理している。だが欲しい本の在処を尋ねられるや否や、脳内の全データを検索。たちどころに案内可能、といった風情だ」

    僕「見たんですか?書店かー。好きですけど、最近どんどん減ってきてますよね」

    木「時代の流れだろう。なぁ、俺のエプロン姿はどう見える?」

    僕「えーっと。そうですね…近所のスーパーに新しく配属された、雇われ店長?的な」

    女2「ウマイ!見える見える!」

    木「あくまでもサラリーマン、だと」

    もうすぐメインの行事が始まる。サンタクロースがバルーンアートをするらしい。このイベント、入場に年齢制限はないみたいだけど、小学生以下の子達がほとんどだな。冬休み入ってすぐだし無料だし。そりゃ集まるよなあ。

    僕「ふーん」

    次の仕事まで時間があるので、会場をプラプラしてみた。細々とブースが配置されていて、輪投げのコーナーでは歓声が上がっている。

    僕「工作してるな」

    動もあれば静もある。壁飾りを作りましょうのコーナーだ。画用紙や柄の入った包装紙、モールとかも置いてあって、なるほど、ここでクリスマス用のタペストリーを作って持ち帰り、夜のおウチでのパーティーを彩るんだな。

    僕「折り紙がある。懐かしいな、千羽鶴」

    あの時は兄さんと永禄の平和のために頑張ったよ。この前行ったお姉ちゃんの部屋にもまだ飾ってあったな…そう感慨に耽っていると、

    僕「ん?」

    誰かにエプロンを引っ張られた。見ると、小さい女の子が手に折り紙を持って、僕を見上げている。え?

    女の子1「おにいちゃん」

    何?!お子様は正直あまり得意じゃないんだけど…落ち着け尊!深呼吸!

    僕「はい」

    女子1「サンタさんつくって」

    僕「サンタ…サンタクロースを?」

    なぜ僕を指名?でも無下には断れない。だけど折り方わからないしなと困っていたら、ここの担当の人が、

    女性3「折り紙の本、ありますよ」

    と渡してくれた。女の子はじーっと僕を見上げたまま。よっしゃ、任せて!本を開いて挑戦する。

    僕「できた。どう?」

    女子1「わぁ、ありがとうおにいちゃん!」

    女の子は大喜びで自分の席に戻っていった。ふう。役に立てて一安心。すると今度は、

    男の子1「ペンギンが作れないよ」

    違うヘルプが舞い込んだ。その子はちゃんと本を見ながら作ってたんだけど、立体的なデザインでちょっと難易度高めだったようだ。ならばと一緒に一折りずつやってみたら無事完成。

    男子1「やったあ!できた、できた!」

    僕「良かったね」

    成功体験って大切だからな。だけどこのペンギン、自立するんだ!かわいい!つい、頼まれてもいないのに、次から次へと何羽も折ってしまう僕。

    女3「もうそんなに作った!手早いですね。折角だから、ペンギンのコロニーにしちゃいましょうか?」

    青い色紙の上に丸く切った白い画用紙を貼ってくれた。氷の島を表現してくれたんだ。そこにペンギンをワサワサと乗せて…おぉ、いい!悦に入っていると、いつの間にか周りに子供達が増えていた。バルーンアートのステージが終わったんだな。

    男子1「すごい!すいぞくかんみたい!」

    男の子2「ぼくも作りたい!先生おしえて!」

    僕「先生って…」

    女3「すっかり人気者ですね」

    そろそろ次の仕事に行かなくちゃいけないんじゃ?顔を上げると、子供達の輪の向こうで、木村先生が笑いながらいいよいいよと手を振っていた。すみません。書店員から新米保育士に成り代わり、ここで任務を全うします…

    美香子「このサンタ帽、風船で出来てるの?」

    僕「そう。パフォーマーさんが練習で作って、残ってたのを被らされた」

    帰宅しました。ペンギンのコロニーと、大勢の子供達と撮った笑顔の写真と共に。

    美「帽子はどうしたの。割れちゃった?」

    僕「最初にナンパしてきた女の子にあげた」

    美「なるほどね。尊よ」

    僕「何」

    美「成長した姿に母は喜んでいます」

    僕「お陰様で」

    覚「チキン焼けたぞ~。そろそろ始めよう」

    今日出会った全ての子供達の笑顔を思い出しながら、メリークリスマス!とクラッカーを引いた夜だった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は大晦日。ようやくの年越しデートです。

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    続現代Days尊の進む道63~11月下旬

    はたちの集い、などに式典名が変更されるのはこの翌年から。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    ここは写真館。成人式の前撮りに来ている。まずは、バーベキュー前日の会話を遡ります。

    ┅┅回想。11月2日金曜夜、ビデオ通話中┅┅

    瑠奈『明日、楽しみー』

    僕「買い出しよろしくお願いします。あと、日焼け対策は万全にだよ。屋根はあるけど基本ずっと庭に居るし」

    瑠『うん。成人式までまだ日数あるって油断しちゃダメだよね。わかった』

    僕「そういえば聞いたよ。かなり早い時期に、当日の写真撮影の予約したって」

    瑠『たけるんにまでしゃべった?お父さん、張り切ってて。プロの知り合いに頼んだ、家族三人で撮りに行くぞって言ってた』

    僕「気合い入ってるなぁ。自慢の娘だもんね」

    瑠『たけるんは撮りに行ったりしないの?』

    僕「予定はないよ。当日玄関先で、くらいはするかもしれないけど。男はそんなモンだよ。晴れ着じゃないし」

    瑠『ふーん…』

    僕「何?どしたの」

    瑠『…たけるんとも、一緒に撮影できたらいいなぁって』

    僕「え?だって日程が違うじゃない」

    実は成人式、黒羽市は1月10日月曜、成人の日当日に開催するけど、小垣町は前日の9日日曜に開催なんです。これは毎年同じ流れみたいで。

    瑠『いいコト思いついちゃった』

    僕「はい?何でしょう」

    瑠『先に一回、たけるんと一緒に撮りに行く!良くない?』

    僕「…マジで言ってる?」

    瑠『言ってる』

    僕「それ、僕はスーツだから割と気軽にOKって言えるけど、振袖って着付けとかに時間もお金もかかるんじゃないの?」

    瑠『当日までに一度着ておけば、立ち居振舞いの練習になるし。帯の結び方とか髪型を変えれば二倍楽しめるもん!』

    僕「簡単に言うけど。大変じゃない?」

    瑠『嫌なの?』

    僕「嫌なワケない。瑠奈さえ良ければ一緒に撮りたいよ。うーん…ならさ、家族でよく行く写真館があって、確か案内が届いてた気がするから親に聞いてみるよ」

    ┅┅回想終わり┅┅

    で、その後父が手配してくれて、七五三のピークが終わったこの時期に、滑り込みで無事予約が取れたという顛末でした。

    僕「まあまあ見られるかな」

    待合室の姿見に映る僕。両親が、スーツも流行りがあるから、と式典のために新調してくれたんだ。本当は、体に筋肉がついてパツパツだから買い替えしなきゃ、なーんて理由が良かったけど。

    僕「時間かかってるな…」

    肝心の瑠奈さんですが。着付けもヘアセットも済んだ状態でこちらに来たんだけど、僕の車から降りる時に髪を引っかけたらしく、かんざしはポロっと落ちるし、ちょっとセットも崩れちゃって。どうしよう!と慌てて受付の人に伝えたら、直しますよと館内の美容室に連れて行ってくれたんだ。…あ、来たかな?

    瑠「ごめんたけるん、お待たせしました」

    僕「お帰り。大丈夫だった?」

    瑠「うん。完璧に直してもらえたよ。もー、焦ったぁ」

    つい、まじまじと見てしまう。ミッキーさんの家は今も呉服店を営んでいるので、そこで振袖は反物選びからオーダーしたらしい。黒地に煌びやかな絵柄が施され、素人の僕でも高額なのがわかる代物。でも、そんな豪華な着物を纏っていても全く見劣りしない、一段と美しい瑠奈にも見惚れていた。…と、ここで、

    店員「速川様。撮影室にご移動をお願い致します」

    僕「わかりました。行こうか」

    瑠「うん」

    えーと、ここで確か兄さんが…

    僕「…」

    瑠「え?やだ、そんなサービス?」

    僕「いいから!」

    瑠奈の手を取り、姫を導くように歩き出す。兄さんのようにスマートにはできない。転んだら大変だからなんだと自分に言い聞かせ、顔から火が出そうになりながら撮影室に入った。中にはカメラマンが既にスタンバイ。あれ?この人って?

    カメラマン「速川さん。お久しぶりですね」

    僕「あ!覚えててくださったんですか?」

    カ「あんなに着物姿の佇まいが素晴らしい方には、未だお目にかかっていませんので」

    お姉ちゃん達の婚礼写真を撮ってくれたカメラマンさんだった。盛り上げ方が上手だったんでよく覚えてる。兄さんのコト絶賛してたんだよなー、本物の武士みたいだって。そりゃそうですよ?産地直送ですから。

    僕「姉夫婦は、変わらず仲良いです」

    カ「そうですか。ここでは節目節目にお客様とお会いできるので、家族の変遷を間近に拝見できるのが醍醐味で」

    僕「変遷ですか。あの」

    カ「はい?」

    僕「あれから3年経ってるんですが、僕、少しは変わってますか?」

    カ「そんなご質問を受けるとは。変わってますよ」

    僕「ホントですか!」

    カ「はい。少年から、お相手をエスコートなさる素敵な青年に」

    僕「ありがとうございます!」

    瑠「ふふっ。たけるん、ニヤケ過ぎ~」

    後から考えれば、これは撮影中の笑顔を引き出すリップサービスだったかもしれない。いいんだ、例え泳がされたとしても、できあがった写真は大満足の仕上がりで、互いの両親にも大好評だったから。

    美香子「はぁ~。瑠奈ちゃん、なんて綺麗なの。待受にしたいわ」

    僕「ダメ。眺めるだけにして」

    美「えー」

    覚「ははは」

    二人の記念写真が、飾り棚に仲間入りしました。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    このカメラマンは、平成Days12no.368と13no.371に登場しています。

    次回、クリスマスパーティー。どこで誰と?

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    続現代Days尊の進む道62~11月3日水曜

    そりゃ調子に乗る子孫だって居るだろ。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    美香子「この澄んだ青空~。絶好のバーベキュー日和よね~」

    今日は、祐也さんと約束していたバーベキューの日。祝日なので、両親も揃っており万全の態勢で臨んでいる。

    美「タープ張るのは、皆さんみえてからでいいのね?」

    僕「うん。やってみたいから残しといてって言われた」

    覚「確認だが、みつきちゃんも20歳になってるんだよな?」

    僕「うん。全員お酒飲める年齢。そろそろ迎えに行ってくるよ」

    だから今日は三人とも電車に乗ってくるんだ。参加する6人全員、飲む気満々ってワケ。片道くらいは楽をしてもらおうと黒羽駅で車を停め待っていると、手に手にエコバッグを持った、瑠奈、ミッキーさん、祐也さんが現れた。

    僕「おはようございます…何かすげぇ量」

    瑠奈「奮発しちゃったぁ」

    みつき「残ったらセンセん家に寄贈しまーす。帰りは手ぶらで歩きたいんで」

    僕「モリモリ消費してくださいよ。じゃあ、積んで。うわ、これまた重そうな袋」

    祐也「ビールとかチューハイとか、取り混ぜて選んできたよ」

    買い出しは自分達でしてくると言うので、三人にお任せしてたんだ。でもウチの親も、足りないといけないからってかなり食材用意してるんで、とんでもないコトになるんじゃ?腹ペコ小僧の姉は居ませんよ?

    覚「いらっしゃい」

    美「どうぞ~」

    こうして、賑やかにバーベキューが始まったのだった…さて。実は今、自分の部屋に居てもう夜なんです。まぁ、楽しかったのはご想像通りですよ。一部をかいつまんでお送りします…

    覚「手際がいい。ご自宅でもやったりするのかい?」

    祐「家ではしませんが、友人によく誘われますので」

    美「いい体格していらっしゃるけど、何かスポーツなさってるの?」

    祐「学生の頃はハンドボール部でしたが、今は時々走る程度です」

    美「そうなの~」

    み「ご両親にモテモテじゃん」

    瑠「ふふっ」

    祐也さんに興味津々過ぎる。源三郎さんやトヨさんに通じる所がないか、探りたい気持ちはわかるけどさ。

    み「ひろくん、例の話!今したら?」

    祐「だね」

    覚「お、何かな」

    祐「先週、中学の頃からの友人と久しぶりに飲んだんですよ」

    美「あらー。それはさぞかし、話に花が咲いたでしょ」

    祐「はい。そいつが最近、大学時代の友人に頼まれて合コンに行ったらしいんです。彼女は今居ないけど他は知らない奴ばかりだし、そこまで乗り気でもなかったようで」

    美「ふんふん」

    祐「そうしたら当日参加者の中に、俺の先祖を辿ると戦国時代に名を馳せた御月家に当たるんだぞ、と豪語するかなりウザい男が居たそうなんです」

    僕「え」

    祐「でもよくよく聞いたら、名前が天野で」

    覚&美香子「あー」

    僕「はいはい」

    祐「さすが。オチがわかるんですね。地元の連中は、僕の影響もあるかもしれませんが、御月家には詳しくて」

    み「確か中学校でも習うよね」

    小垣町では、羽木家は小学校で、御月家は中学校で教わるんだ。へー。瑠奈も頷いている。

    祐「なのでシレッと言ってやったと。素晴らしいご先祖だね、天野家は代々それはそれは優秀な家臣だったと伝わってるからって。そいつ、サッと顔色が変わって急に黙ったそうで」

    覚「お殿様が全てじゃない。家臣だって立派な職務だ。その天野くんは、どうしてそう大きく出たんだろうな」

    美「そんな話をするとちやほやされる。少しはいい目にもあっていたんじゃない?」

    僕「ハッタリにも聞こえはするけど、あながち嘘ではないよ。ほら、天野家の養女が嫁入りしてるじゃない。養女だから…連れ子?血筋的には天野の本筋ではないけど」

    み「ねー。センセ、マジで歴史強くね?」

    祐「知識の豊富さに感服するよ」

    現代に残る歴史的資料では、お姉ちゃんじゃなく本当の天野の姫が、その後御月家に輿入れしたなどという形跡はないからな。だから祐也さんのお友達の勝ちではある。

    祐「余談ですが、そのやりとりを聞いてた中で一人、歴史通って素敵!って話が弾んで、満更でもないからちょっと進展しそうな女性が居るって言ってました」

    み「ひひ、どっかで聞いた話に似てるねぇ」

    瑠「ふふっ、似てる。だってホントにカッコいいんだもん、当然だよ」

    一斉に皆が僕を見る。恥ずかしかったよ…思い出してたら喉が渇いたんで、リビングに下りてきた。母は風呂かな?父だけが居る。

    僕「お茶欲しい」

    覚「ん。温かいのでいいのか?」

    僕「うん」

    あ、そういえば。

    僕「バーベキューいつにするか相談した時さ、絶対に11月3日がいいぞって言ってたじゃない。それで話進んだから良かったけど、どうしてそんなに推してたの?」

    覚「皆さんの都合もあるから、雨で延期になりにくい日がいいだろうと思ってな」

    僕「へ?どんな理屈?」

    覚「文化の日ってな、晴れの特異日で有名なんだ。正解だったろ?」

    僕「知らなかった。あ、あとさ、さっき瑠奈から伝言受けた。写真館の予約ありがとうございましたって両親が言ってましたって」

    覚「はは。なんてったってウチはお得意様だからな。楽しみにしてるよ」

    そう。近々、成人式の前撮りを二人でしてくるんだ。振袖姿の瑠奈が見られると思うと、今から楽しみで仕方がないんだよ!

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、その前撮りの日です。

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    続現代Days尊の進む道61~9月4日土曜

    今回は美香子さんが語ります。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    午前11時を回りました。今日も外はかなり暑そうです。クリニックの受付には芳江さん。すると、女性が一人入ってきました。

    芳江「こんにちは」

    女性「こんにちは…」

    芳「今日はどうされました?」

    女「…」

    若いその女性はずっと下を向いています。でもここは体調がすぐれない方がみえる場所ですから、珍しくはありません。

    芳「こちらには初めていらっしゃた?」

    女「はい」

    芳「では問診票を書いてください。保険証は持ってみえる?」

    女「あります」

    問診票と交換で保険証を受け取った芳江さん。その名前を見てアラ?となり、事業所名称で確信すると、私の所へ飛んできました。

    芳「先生」

    美香子「どうしました?」

    芳「お顔は、一度お写真拝見しただけでうろ覚えなんですが」

    芳江さんの説明を受け、驚いた私はそっと待合室を覗きます。

    美「ホントに瑠奈ちゃんだわ。来ちゃいけないとは言わないけど」

    芳「どこが調子悪いかも答えてくださらなかったので、もしかしたら先生と直接お話がしたいのかもしれません。尊くんは一緒ではなさそうです」

    美「彼女、昨日誕生日で」

    芳「あらら、そこまでは気付きませんでした」

    美「尊がお祝いデートするんだって張り切ってたのよ。晩ごはんの時間には帰宅してたけど、すごく喜んでくれたって言ってたの。んー、どうしたのかしら。尊、解読の手伝いで今日は夕方遅くにしか帰らない。居ないの知ってて来てるのよね」

    芳「内緒でわざわざこちらに?それはますます何かありそうですね」

    美「ちょっと聞いてくるわ」

    待合室に出た私。そっと声をかけるとビクッと反応した彼女。隅に呼びました。

    美「どしたの急に。具合が悪い?」

    瑠奈「…」

    顔色は特に問題なさそう。いつもの朗らかさがないのが気になるわ。

    美「ウチはね、外科と内科と小児科。あなたの受けたい科はどれかしら」

    瑠「…その中には、ありません」

    美「そっか。今日は医師としての私に用?それとも、尊の母としての私に用?」

    瑠「…両方です」

    美「母であるのを踏まえて医師の見解も聞きたいのね。わかった」

    彼女が手にしたままだった問診票を引き上げ、預かっていた保険証を返し、

    美「このまま待てる?診療時間が終わってからゆっくり聞いてあげる。それでいい?時間大丈夫?」

    瑠「はい」

    美「お父さんに言っとくわ。三人で昼ごはんよって」

    瑠「すみません…わかりました」

    何か精神的な物なのかしら。そして昼過ぎ。クリニックを閉めた後一緒に自宅に戻りました。

    美「ただいま」

    覚「お帰り。瑠奈ちゃん、よく来たね」

    瑠「おじさま、こんにちは。お邪魔します」

    あ、笑った。少しは落ち着いたかしら。

    覚「瑠奈ちゃんと昼飯なんて、急にプレゼント貰えたみたいだったよ~」

    美「棚ボタ的なね。さぁ、まずはお昼にしましょうね」

    瑠「はい」

    覚「座って座って」

    食事中はそれほど変わった様子は見受けられませんでした。食後、温かいお茶を淹れ直したところで、

    覚「ちょっと出かけてくる」

    お父さんがその場を離れます。私は瑠奈ちゃんの正面に座り直しました。よし、聞くわよ。

    美「昨日は楽しく過ごせた?」

    瑠「はい」

    美「今日は、うってかわって何かお悩み?」

    瑠「あの、あまりにも遅くて…どうしちゃったのかなって…生理、が来ないんです」

    美「…そうなの。心配ね。どの位遅れてる?」

    瑠「一週間から十日くらいです」

    美「今までも遅れる時はあった?」

    瑠「私、初潮の頃から周期は比較的きちんとしてたので、初めての経験なんです」

    美「心当たりは、ある?」

    瑠「…」

    まさか。もしかして、もしかするの?!これはもう、聞くしかない。

    美「…尊が、失敗した?」

    瑠「それはないと思うんですけど…」

    美「ある、かもしれないのね」

    瑠「でもいつもすごく慎重なので」

    ふーん、慎重。前から思っていたけど、瑠奈ちゃんって素直というか何も隠さないのよね。

    美「周期としては、25日から38日なら正常な範囲なの。それはどう?前回始まった日から数えて。カレンダーで確認する?」

    立ち上がり、壁に掛けたカレンダーを一緒に指差しながら数えたら、まだ範囲内でした。ひとまず安心して席に戻ります。

    美「もう少しだけ様子みましょうね」

    瑠「はい。おばさまにお願いがあります」

    美「何?」

    瑠「LINE、交換したいです」

    美「あら!いいの~?」

    瑠「無事始まったらすぐお伝えしたくて」

    早速交換しました。嬉しいわ~。

    美「でも瑠奈ちゃん。この程度の知識ならスマホでもわかるわよね。私にわざわざ会いに来たのはどうして?」

    瑠「それは…唯さんがどうだったか知りたかったからなんです」

    美「え?ここで唯が出てくる?」

    瑠「調べたら、周期の乱れはホルモンバランスの崩れやストレスが原因とありました。そこで考えたんです。ここ最近で私に起こった大きな出来事と言えば、タイムマシン」

    美「あー」

    瑠「唯さんって、何度か永禄と現代を行き来されてますよね。もし生理の問題で悩まれてたのなら、私もそれが理由かもしれないって思ったんです」

    美「そっか。有り得る話だわ。でもごめんなさいね、唯に関しては一概に言えないのよ」

    瑠「そうなんですか」

    美「あの子、元々生理不順でね。それに加えて中学生から陸上始めて。かなり食べるんだけどしっかり練習もしてるから体脂肪率が低い。だから変わらずそのままで…今となってはちゃんと手を打たなかったのを後悔してるのよ。中々妊娠に結びつかなかったから」

    瑠「でも、ようやくって」

    美「あと四か月半後にははっきりしてるだろうから、会えるのを楽しみにしてるわ」

    瑠「そうですね。あの通話の後、お兄さんが唯さんのお腹を優しくさすってたんですよ」

    美「あらん。いい話」

    このタイミングで、お父さんが帰宅。

    覚「ただいまー。ケーキ買ってきたぞ。一日遅れだけど」

    箱の中から、るなちゃん20歳おめでとうと描かれた誕生日ケーキが登場しました。

    瑠「わぁ…嬉しい!ありがとうございます!」

    美「予約した?」

    覚「午前中、来るって聞いてすぐにな」

    お祝い会が終わる頃にはいつもの瑠奈ちゃんに戻ってくれて、まずは一安心。帰りは黒羽駅まで車で送りました。家まで行くって言ったのに聞かなくて。そして、夜になり…

    瑠奈の投稿『先ほど始まりました』

    瑠 投稿『お騒がせしてすみませんでした』

    良かったわ~。でもね、孫の顔も見たかった、なーんてちょっと思ったのも事実です。スマホを閉じると、尊がお風呂から出てきました。

    尊「何、ジロジロ見て」

    美「いろんな意味で、罪な男よね」

    尊「は?」

    アンタも愛妻のお腹をさすってあげる優しい旦那になんなさいよ、と心でハッパをかけた夜でした。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は、11月のお話です。

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    続現代Days尊の進む道60~8月7日土曜

    ムキムキまではいかない位のイメージでお願いします。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    瑠奈「グミ食べない?好きなの選んで」

    みつき「サンキュ。ひろくんの分ももらうね」

    瑠「はい、たけるんも」

    僕「ありがとう」

    祐也さんの車で海水浴場に向かっている。

    み「空ちょっと曇ってるけど、日に焼けないから逆にいいかもね~」

    僕「甘い…」

    瑠「ごめん、好みの味じゃなかったかな」

    僕「あ?いや、違うんだ。グミじゃなくてミッキーさんの今の話」

    み「私?」

    僕「曇りの日でも、紫外線は晴れの日の6割から8割は降り注ぐ」

    み「そんなにー?!」

    僕「紫外線には3種類あるんだ。一番危険なUVーCはオゾン層と空気中の酸素に吸収されて地表には届かないから今のところはカウントしなくていい。日焼けをもたらすUVーBは地表には届くけど雲に吸収されやすいから、今日みたいな日はジリジリと焼けはしないとは思う。ただし、雲も窓ガラスも通過するUVーAは肌の奥深くにダメージを与えるから、結果紫外線対策は怠るべからず」

    み「さすがセンセ。1言ったら10返ってきた」

    祐也「尊くん凄いね」

    僕「いえ」

    バックミラー越しに祐也さんの笑顔が覗く。一歩引いた感じとか雰囲気は、やっぱり源三郎さんに似ていると思う。

    ┅┅回想。2019年12月下旬のとある夜┅┅

    僕「整然としてますね。服も綺麗に畳んであって、武士の居室って感じです」

    源三郎「使わせていただいておる身ですし」

    一度じっくり話がしたくて、源三郎さんにお願いし、一人で寝起きしている予備室を訪れた。現代についての質問も数多く受けたけど、永禄での話を興味深く聞いていた。

    源「成之様に続き、足軽を二人従えておりました。成之様が不穏な動きに気が付かれてすぐ、後ろを歩いていた足軽が撃たれました。高山の伏兵の仕業です。十人程に囲まれ、もう一人の足軽が槍に倒れ」

    僕「四人居たのに、あっという間に二人になったんだ。怖いな…」

    源「応戦は致しましたが数では敵わず最早と思うたところに、忠清様、供の悪丸、成之様懇意の僧であった如古坊が現れ、無事全て討ち取る事ができました」

    僕「兄さんは鎧もなくですよね」

    源「左様にございます」

    僕「やっぱり強いんだ」

    源「兄君は強い御仁ですよ。戦も、心根も」

    ┅┅回想終わり┅┅

    瑠「たけるん、たけるん?」

    僕「…え?あぁ、忝ない」

    み「また武士になってるよ」

    僕「失礼しました。でもミッキーさんもさ、たまに武士言葉使ってない?」

    み「まーねー」

    僕「祐也さんの影響なの?」

    み「違うよ。ひろくんは逆に全然」

    僕「そうなんだ」

    祐「みつきが面白がって使ってるんだよ」

    み「でもー、ひろくんが家臣の方の末裔で良かったよ。殿の方だと面倒だもん、名前が」

    僕「確かに。フルネーム書いてもフリガナふってるみたいになるよね」

    み「でしょ。速川瑠奈、っていいよね」

    瑠「でしょ!」

    僕はこの場合どんな顔をしてれば…と思う間もなく会話は進む。

    瑠「でも、苗字が御月になったとしても、結婚ヤダなんて絶対に言わなくない?」

    み「その通り!わかってるね~」

    浜辺はまあまあの混み具合だった。僕が家から持参した、パラソル、シート、浮き輪2つと…

    僕「ジュースもお茶もありますよ」

    祐「こんなに用意してくれたの?ありがとう」

    クーラーボックスが大活躍している。女子達は水際ではしゃいでいた。その姿をぼんやりと見ている男子達。

    僕「徹底して海には入らないんですね」

    祐「今日はね。みつきと二人の時はこんなに避けはしないけれど」

    僕「水着似合ってますよ。ガッチリした体格、憧れます」

    祐「大したことないよ。あとパラソルもシートもありがとう。僕が一番使わせてもらってる。おウチには何でも揃ってるんだね」

    僕「父がこういう事に凝るタイプで。レジャーグッズは一通りありますね」

    祐也さんとは不思議と会話が弾む。素直に心を開ける感じなんだ…あ。いいコト思いついてしまった。

    僕「あの、良かったらなんですが、今度僕の家で一緒にバーベキューしませんか?ご招待しますよ」

    こんな話を自分から持ちかけているなんて数年前には考えられなかった。でも、絶対楽しいって想像できたんだ。瑠奈とミッキーさんと祐也さん。親もきっと喜ぶ。

    僕「バーベキューコンロも2つあるんですよ」

    祐「へぇ、大人数に対応してるんだ。ありがとう。みつきと相談するよ。二つ返事だとは思うけれど」

    僕「はい。また日にちは擦り合わせましょう」

    瑠「たけるーん、ここ空いてるよぉ。来て」

    二人用の浮き輪の中に体を入れ、手招きしている。祐也さんに会釈をして、瑠奈の元に向かった。海に入ると案の定…

    み「よっ!ヒューヒュー!」

    瑠「キャー!」

    僕「ゲホッ、うわ、塩辛っ!」

    ミッキーさんからバシャバシャ攻撃を受けた。でも楽しい!若さを満喫しているってヤツ?さっき日焼けがどうのと忠告はしたけど、そんな事も気にならなくなる程、夕方までたっぷり遊んだ一日だった。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は9月のお話。なんですが、語り部は特別バージョンで美香子さんがお送りします。

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    続現代Days尊の進む道59~8月2日月曜から6日金曜

    よっ、モテ男!
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    今日は昼からバイトに来ている。昨日日曜は、瑠奈にお揃いのビーチサンダルが欲しいと言われて買い物デートだった。今週末は海か。楽しみだ。最近の瑠奈だが、これまで以上に僕に甘えてくる感じだ。頼られてる?永禄に連れて行ったから、株が少し上がったのかな。

    僕「?」

    部長…瑠奈の父の席はまあまあ離れているのだが、先程からずっとこちらを見ているような気がしてならない。実際、顔を上げた際に目が合った。何か用かな。仕事の話?だったらすぐに声かけられるしな。

    社員「午後の会議は、2時から2時半に変更となりました」

    瑠奈の父「そう。わかりました」

    あれ?もしかして、瑠奈関係?えっ、まさか、ミッキーさんと旅行は嘘でウチに泊まったのがバレちゃったとか?!どうして?瑠奈が話す訳ないし、どこかで見て…神社?それはないか。あ、カラオケ?!いや、いくら小垣町内とはいえ、そんなに近所じゃないぞ。でも誰かに目撃されて?有り得なくはない。何かすげぇ不安になってきた…。

    僕「ふう」

    頭を冷やそうと、自販機コーナーでアイスコーヒーを購入。その場でプルタブを引き、一気に喉に流し込んだ。今後どう転ぶかはわからないが、まずは仕事に集中しないと。

    瑠父「尊くん」

    僕「えっ…ひゃあ!」

    部長!いや、名前で呼ばれてる、おじさま!

    瑠父「そんなに驚かれるとは」

    僕「す、すみません。おじさまこそ、どうされたんですか」

    瑠父「会議のスタートが延びたんで先に休憩しようと思ったら、君がフロアを出るのが見えてね」

    僕「そう、ですか」

    瑠父「あのね」

    僕「は、はいっ」

    瑠父「率直に君に聞きたいんだが」

    来たっ!こ、怖い!

    瑠父「もしかして、瑠奈にプロポーズしてくれたのかい?」

    僕「…え?」

    想定外の質問に言葉が出ない。なんか、目が輝いてるし!

    瑠父「違ったか。ったく、瑠奈の奴」

    僕「ごめんなさい…」

    瑠父「謝る必要はないよ。最近の瑠奈が事ある毎に宣言しててね」

    僕「宣言?」

    瑠父「尊の妻に、私はなる!って。海賊王にでもなりそうな勢いなんだよ。だから言ってくれたのかと思ったんだ」

    僕「…」

    初耳です…

    僕「すみません。僕はまだ、未熟者なんで」

    瑠父「まだ。なら、いつかはと思ってくれてるのかな?」

    僕「…はい。それは。良ければですが」

    瑠父「勿論大歓迎だよ。良かった、今日はその言葉が聞けただけで満足だよ。妻も喜ぶ」

    僕「本当ですか」

    瑠父「以前あんな事があったから心配するのも無理はない。もう何のしがらみもないよ。安心してくれ」

    僕「ありがとうございます」

    大きく一礼して、その場を後にした。そんな展開になってたなんて。こんな男とは思わなかったなんて幻滅されないよう、甘んじる事なく、これからも日々精進せねばと心が引き締まった一件だった。

    ┅┅

    木曜日。朝から解読の手伝いだ。今日は木村先生も来ている。

    木村「何の暗号だ?」

    解読済みの資料を見返していた先生。

    僕「どれがですか」

    木「この、丸いの」

    日付の脇に小さく丸がうってある。永禄六年七月五日?これ、この前訪れた日だ。

    僕「その日の天候とかじゃないですか?」

    木「他の日についてないのは謎だが」

    前に見た時はそんなマークついてなかった。僕らの訪問を受けて兄さんが書き足したから、現代で浮かび上がってきたんだ!すごい!

    僕「それか月の満ち欠けとか」

    木「おー、月か。なるほどな。ヒントありがとう。調べてみるよ」

    その日は満月の一日前だから、調べても混乱するだけかも。ごめんなさい先生、ヒントになってません。しかしこれも、兄さんのお茶目な面が垣間見える。楽しい!

    ┅┅

    明日はいよいよ海に遊びに行く。夜、瑠奈とビデオ通話中。

    僕「祐也さんの車で、ミッキーさん、瑠奈と拾って最後が僕?」

    瑠奈『うん。それが一番スムーズだからって』

    僕「そっか。せっかくのお休みに負担かけて申し訳ないな。どこかで運転替わらないと」

    瑠『私は嬉しい。だってたけるんが運転しないから、後部座席でくっついて座れるもん』

    僕「くっつく?ダメだよ、後部座席もシートベルトは義務」

    瑠『たけるんの意地悪』

    僕「だって義務は義務でしょ」

    瑠『それでもできるだけそばがいいの!わかってよぉ』

    僕「あはは。はい」

    プリプリ怒る姿も愛らしい。瑠奈にとってずっと魅力的な男と感じてもらうために、まだまだ心も体も鍛えないとな。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    次回は海へGO。

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    続現代Days尊の進む道58~7月25日日曜

    あなた達も出演してます。
    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    朝6時のリビングに、父登場。

    瑠奈「おじさま、おはようございます」

    覚「おっ、もう起きてたか。ちゃんと落ち着いて寝られたかい?」

    瑠「はい!」

    僕「シーツって剥がして洗濯機でいい?」

    覚「手前のカゴに入れといてくれ」

    僕「了解。布団、すぐ干す?」

    覚「もう少し日が高くなったらな」

    僕「だったら予備室に戻しとくよ」

    覚「頼む」

    瑠「私も運ぶね」

    そう。ゆうべはここリビングに二人並んで休みました。あの後すぐに布団を運んで。一緒の部屋で寝る、には違いないんで、瑠奈も喜んでくれたから良かった。ちなみに。二組用意してあったのは、なんとなく、だったらしい。なんだよその曖昧な理由!人騒がせな…。

    瑠「おばさま、おはようございます」

    美香子「おはよう瑠奈ちゃん。クーラーつけてなかったけど暑くなかった?」

    瑠「とても快適でした。この扇風機すごくいいですね。まるでうちわであおいでもらってるみたいで」

    僕「そういうコンセプトで売ってたからね」

    美「NHKに出演した事もあるのよ」

    瑠「え?」

    僕「出演って。これじゃないし」

    美「三年前位かしら。主人公が扇風機作るって話の朝ドラでね。出来上がった品物が大きく映ったら、あらウチのと一緒!って」

    瑠「市販品をモチーフにしたんですね。だったらまだ売ってるかな…」

    僕「あるんじゃない?」

    瑠「家のが一つ壊れかけてて。ちょうど良かった。親に薦めてみるね」

    6時24分。食卓のセッティングを手伝っていた瑠奈。

    瑠「きゃっ!」

    背後のテレビが突然映り、かなりの音量でリビングに響き渡る。

    美「ごめんね~びっくりさせちゃったわね。毎日この時間に体操してるからなのよ」

    瑠「タイマーかけてあったんですね」

    僕「音デカくない?寄る年波ってヤツか」

    美「失礼な。部屋が広いと言いなさい」

    覚「おーい、始まるぞ。尊も瑠奈ちゃんもやるぞ、ほれ」

    朝のルーティンに巻き込まれるのもまぁ、親孝行?朝ごはんの後、神社デートに行った。真夏に長い階段はちょっとキツかったけど、二人でワイワイ言いながらだったし、達成感も多いにあったから満足。ぷらぷらと散策して、家に戻ると11時を回った頃だった。

    僕「もうお昼の支度?」

    両親がキッチンに立っている。できたら運べと言われたので、食卓で瑠奈と待機。

    瑠「5時には小垣駅に行かなくちゃだから、早めに動かれてるのかな」

    僕「違うよ。自分達がたっぷり歌う時間とりたいからだって」

    午後、四人でカラオケに行くんだってさ。

    瑠「尊の十八番は?」

    僕「ないない。普段からオブザーバーに徹しております」

    瑠「オーディエンスじゃなくて?観客でもなくてただの傍観者?えー」

    居るだけでも居ないよりは良かろうと思ってもらわないと。昼ごはん後すぐ、父の車でカラオケ店に向かった。高校生の頃、瑠奈と遭遇した思い出の場所でもある。

    瑠「ここで出会ったから、相当歌い込んでると思ってた。ホントに居るだけなんだ」

    僕「まぁね。瑠奈さえ楽しければいいよ」

    美「あとあなたに~、会えれば~、もぉ~、一足、早い夏~」

    覚「イェーイ!」

    両親はいつも通り盛り上がっている。瑠奈も臆せず流行りのJーPOP?を歌う。互いの曲調が全く違って相容れない気もするけど、仲良くやってるからいいか。そんな三人を眺めつつ、この後に控える本日のメインイベントに今からそわそわしている。ミッキーさんの彼はどんな男性なんだろう。お見込みの通り、僕は人見知りが激しい方なんで、ちゃんと話せるかも心配している。

    覚「4時半だな」

    美「そろそろ出ましょうか」

    瑠「はい」

    もうそんな時間か。いよいよだ!店を後にし、小垣駅で車を降りた。

    瑠「緊張してるの?」

    僕「うん」

    瑠奈の手が伸び、僕の髪を整えてくれた。そしてニコっと微笑む。

    瑠「イイ男だよ」

    僕「ありがとう」

    みつき「はーい、ラブラブなトコ悪いねー!お邪魔するよー」

    こちらもキャリーバッグをゴロゴロさせて、ミッキーさん達が登場。

    瑠「みつきお帰りー」

    僕「お久しぶりです」

    み「センセ久しぶり。では早速紹介するね。私のダーリン、ひろくんです!」

    祐也「初めまして。赤井祐也と申します」

    ひろやさん。だからひろくんか。

    み「はいお土産」

    瑠「ありがとう~!どうだった?旅行」

    み「めっちゃ楽しかった!瑠奈は?」

    瑠「尊と一晩一緒に居れて超幸せだった」

    み「いいじゃーん!」

    女子の会話が始まってしまった。困った、初対面の彼氏さんと置き去りにされている。どうしよう、何話したらいいんだ!

    祐「女の子の会話って、始まると長いよね」

    あ、同じ事思ってた!ちょっと親近感。

    僕「そうですね」

    祐「みつきって、高校の時もあんな感じだった?」

    僕「はい」

    祐「騒がしかったんじゃない?」

    僕「そんな事ないですよ」

    ウチにもっと騒がしいのが居ましたから。

    僕「姉御肌で、いつも引っ張ってってもらってます」

    祐「暴走してたら止めてね」

    そんな、姉に比べれば全然大人しいですよ。

    祐「来月よろしくお願いします、尊くん。で、合ってるよね?」

    僕「はい。覚えてくださったんですね」

    祐「僕が君をセンセと呼ぶとちょっとおかしいでしょう。だから聞き出しておいたんだ」

    僕「ありがとうございます」

    祐「僕も名前で呼んでくれていいから。あと敬語もなしね。三つしか違わないし」

    すごく落ち着いていて、話しやすい!僕の周りって兄さんといい祐也さんといい、年齢以上に出来上がってるな。やっぱ武士の血筋?

    み「もう仲良くなってる」

    瑠「良かったね、尊」

    僕「うん」

    祐「じゃ、僕は知り合いに会わない内に先に行くよ。みつきはゆっくりしゃべってて」

    み「夜電話するね」

    祐「うん。尊くん、瑠奈ちゃん、来月楽しみにしてます。それでは」

    会釈をし、彼は去っていった。素敵な人だな。姿が見えなくなったのを確認すると…

    僕「ちょっと!何してんだよ!」

    美「どんな方か見たくって」

    覚「車はちゃんと駐車場に入れたぞ」

    二人立ってるのが視線の先にずっと見えていたんだ。もうどうリアクションすればいいかと。瑠奈もずっと笑いをこらえていたようで、

    瑠「もう、おっかしくって~」

    み「センセのご両親なんだ。こんにちはー」

    覚&美香子「こんにちは~」

    み「ユーモア溢れる親御さんですなぁ」

    僕「痛み入ります」

    こんなオチとはね。してやられたよ。

    ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅

    扇風機の話ですが。

    朝の連続テレビ小説「半分、青い」は、アシガール本編の半年後の放送でしたが、モチーフとなった市販品は既に販売されていたため、小道具として元々保管してあったのでしょう。
    私この話題、この掲示板で見て知ったと思ってたんですが、どう検索しても出てこないので本家の掲示板で見たのかもしれません。いや、私が元ネタ!と仰る方いらしたら是非手を挙げてくださいませ。

    次回は、海行きの前週の様子をお送りします。

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